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関連審決 異議2019-701049
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事件 令和 3年 (行ケ) 10053号 特許取消決定取消請求事件

原告アテナ工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 三木浩太郎
同訴訟代理人弁理士 後藤憲秋 加藤大輝
被告特許庁長官
同 指定代理人久保克彦 平野崇 藤原直欣 青木良憲 冨澤美加
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2022/03/01
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2019-701049号事件について令和3年3月18日に した決定を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 1 ? 原告は,平成29年2月16日に出願した特許出願(特願2017-27 018号。優先日平成28年3月14日,優先権主張国日本)の一部を分割 して,平成30年3月20日,発明の名称を「電子レンジ加熱食品用容器の 製法」とする発明について,新たな特許出願(特願2018-52726号。
以下「本件出願」という。 をし, ) 令和元年6月14日,特許権の設定登録(特 許第6538225号。請求項の数1。以下,この特許を「本件特許」とい う。)を受けた(甲14,16)。
? 本件特許について,令和元年12月23日,Aから特許異議の申立て(異 議2019-701049号事件)がされた。
原告は,令和2年9月18日付けの取消理由通知(決定の予告) (以下「本 件取消理由通知」という。甲11)を受けたため,同年11月18日付けで, 本件特許の特許請求の範囲及び明細書を訂正する旨の訂正請求(以下「本件 訂正」という。甲13)をした。
その後,特許庁は,令和3年3月18日,本件訂正を認めた上で, 「特許第 6538225号の請求項1に係る特許を取り消す。」との決定(以下「本件 決定」という。)をし,その謄本は,同月26日,原告に送達された。
? 原告は,令和3年4月16日,本件決定の取消しを求める本件訴訟を提起 した。
2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下, 請求項1に係る発明を「本件発明1」という。下線部は本件訂正による訂正箇 所である。 。
) 【請求項1】 電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と,前記容器本体部の開 口部と嵌合する合成樹脂シートからなる蓋体部とを備えた蓋嵌合容器において, 前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気すると 2 ともに異物混入を抑制する排気部を,異物混入防止のための,当該排気部を被 覆又は包皮する部材を備えることなく形成した蓋体部を得るに際して, 前記蓋体部の蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時間(t 3)の経過 により貫通孔を形成しその後の作業時間(t 4)の経過により所定の長穴形状に まで拡張した後にレーザー光線の照射をオフにすることによって 幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気 部を形成する ことを特徴とする電子レンジ加熱食品用容器の製法。
3 本件決定の理由の要旨 ? 本件決定の理由は,別紙異議の決定書(写し)記載のとおりである。
その理由の要旨は,本件発明1は,本件出願の優先日前に頒布された刊行 物である引用文献1に記載された発明(以下「引用発明」という。 ,引用文 ) 献5に記載された事項及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をす ることができたものであるから,本件特許は特許法29条2項に違反してさ れたものであり,同法113条2号により取り消されるべきものであるとい うものである。
すなわち,本件決定は,次のとおり,引用発明,本件発明1と引用発明と の一致点及び相違点を認定した上で,引用発明において相違点1に係る本件 発明1の構成を備えたものとすることは容易想到である,相違点2は実質的 な相違点ではない旨判断して,本件発明1の進歩性を否定した。
ア 引用発明 電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体(2)と,前記容器本 体(2)の開口部と嵌合する合成樹脂シートからなる蓋(3)とを備えた 容器(1)において, 前記蓋(3)の蓋面部に,調理時に電子レンジにより強く加熱された場 合,発生する水蒸気により容器内部の圧力が異常に上昇するのを回避する 3 ための小孔を形成する, 電子レンジ加熱食品用容器の製法。
イ 本件発明1と引用発明の一致点及び相違点 (一致点) 「電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と,前記容器本体 部の開口部と嵌合する合成樹脂シートからなる蓋体部とを備えた蓋嵌合 容器において, 前記蓋体部の蓋面部には,前記容器本体部内に収容された食品から発生 する水蒸気を外部に排気する孔を形成する,電子レンジ加熱食品用容器の 製法。」である点。
(相違点1) 本件発明1は,「蓋体部」を得るに際して,「前記蓋体部の蓋面部にレー ザー光線の照射をオンして準備時間(t 3)の経過により貫通孔を形成しそ の後の作業時間(t 4 )の経過により所定の長穴形状にまで拡張した後にレ ーザー光線の照射をオフにすることによって 幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる 排気部を形成する」のに対し, 引用発明は, 「蓋」の「蓋面部」の「小孔」が,複数穿設することで「群」 からなる「排気部」を形成する「長孔」であるとは特定されていないし, どのように形成するかも特定されていない点。
(相違点2) 本件発明1の蓋体部は,「容器本体部内に収容された食品から発生する 水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する排気部を,異物混入 防止のための,当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成 した」のに対し, 引用発明の蓋は, 「調理時に電子レンジにより強く加熱された場合,発生 4 する水蒸気により容器内部の圧力が異常に上昇することを回避するため の小孔を形成する」ものではあるものの,この小孔が異物混入を抑制する ものであるか否かや,この小孔を被覆又は包皮する部材を備えるか否かは 特定されていない点。
ウ 相違点1についての判断 本件決定は,@引用発明の「小孔」の形状について,引用文献1には, 「円形」とする実施例が記載されているものの, 「小孔」の形状が「円形」 であることが必須である旨の記載や示唆もない,A電子レンジで加熱する 包装材料に蒸気を逃がすために形成する「孔」の形状を「楕円形」や「矩 形」とすること,蒸気を抜くための「孔」を長孔とし, 「群」として配置す ることは,周知の事項であること(例えば,引用文献3の【0005】な いし【0008】 引用文献4の図13) , からすると,引用発明における「小 孔」の形状や配置の決定は,孔から蒸気を逃がし暴発を防ぐ上で,当業者 が適宜行う設計的事項であり,その形状を「長孔」とし, 「長孔」の「群」, すなわち「長孔群」からなる「排気部」とすることは,蒸気を抜くための 「孔」として,周知の形状を採用したにすぎない,B「長孔」の幅を0. 15〜1mmとすることも,引用文献3の「短径1μm〜5cmの楕円形 の孔」 「一辺の長さが1μ〜5cm」の矩形の孔との記載からみて,蒸気 , を逃し,暴発を防ぐために,当業者が適宜採用する数値範囲にすぎない, C引用発明は,食品を収納する容器であるから(引用文献1の2頁左上欄 3行〜4行),当該「小孔」が大きすぎると,当該「小孔」を通して,虫が 侵入するといった不具合が生じることは当業者にとって自明であり,食品 を収納する容器に形成する孔の大きさを1mm以下の大きさとすると,容 器内への異物の混入が抑制できることは,従来周知の事項である(例えば, 引用文献2の5頁3行〜6行) D引用文献5には, , プラスチック構造体に, 微細孔の形成によって,フィルター機能を発揮せしめる(【0055】)た 5 めに,当該プラスチック構造体に対して, 「長径と短径とを有するような形 状を有している場合,その径としては,短径が200μm以下」 【002 ( 0】 の微小孔部を, ) パルス状のレーザーにて形成することが記載されてい る,ここでレーザー照射によりプラスチックを溶融させて貫通させた後, 次のライン8の形成に移るために,レーザー照射をオフにすることは明ら かであり,また,引用文献5のレーザー加工は,レーザー照射によりプラ スチックを溶融させて加工する以上,貫通するまでに,所定の時間,レー ザー照射しさらに,目標とする形状に加工が完了するまでにも,所定の時 間,レーザー照射を行う加工であることも明らかである,E引用発明の容 器の蓋も,引用文献5のプラスチック構造体も,ともに合成樹脂のシート を加工することで共通するから,引用発明に引用文献5記載の上記レーザ ー加工についての事項を採用して,相違点1で特定される「長孔群」を形 成することに格別の困難性は認められないとして,引用発明において,相 違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは,当業者が容易 に想到し得た事項である旨判断した。
エ 相違点2についての判断 本件決定は,@引用文献1には,引用発明の蓋が,小孔を被覆又は包皮 する部材を備えることの記載や示唆もない,A食品を収納する容器に形成 する孔の大きさを1mm以下の大きさとすると,容器内への異物の混入が 抑制できることは,従来周知の事項であること(前記ウC)を踏まえると, 「小孔」を備えた引用発明は, 「異物混入防止のため」の「排気部を被覆又 は包皮する部材」を備えずとも,容器内への異物の混入が抑制できる作用 を奏するもの,すなわち「小孔」は「水蒸気を外部に排気するとともに異 物混入を抑制するもの」であるといえるとして,相違点2は,実質的なも のではない旨判断した。
? 本件決定が引用した引用文献1ないし5は,次のとおりである。
6 引用文献1 特開平3-114418号公報(甲2) 引用文献2 実願平2-106124号(実開平4-62684号)のマ イクロフィルム(甲7) 引用文献3 特開2004-10156号公報(甲8) 引用文献4 特開2014-91542号公報(甲4) 引用文献5 特開2004-283871号公報(甲6)
当事者の主張
1 取消事由1(引用文献1を主引用例とする進歩性の判断の誤り) ? 原告の主張 ア 相違点1の容易想到性の判断の誤り (ア)a 本件訂正後の明細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。
甲13,14)の記載(【0004】【0005】【0009】ないし , , 【0011】 によれば, ) 本件発明1は,電子レンジ用容器において, 排気孔から膨張空気や水蒸気を容器外へ充分に排気しなが ら 容器 内の圧力を適切な範囲に止めなければならない という「良好な水蒸 気等の排気」の課題と,膨張空気や水蒸気を容器外へ排気するため に外部と連通する排気孔から虫,塵埃その他の異物が混入するのを 防止しなければならないという「異物混入抑制」の課題と,「穿孔 作業時間の短縮」の課題という三つの課題を解決することを前提と して,レーザー光線の照射をオンして準備時間(t 3 )の経過により 貫通孔を形成しその後の作業時間(t 4 )の経過により所定の長穴形 状にまで拡張した後にレーザー光線の照射をオフにすることによって, 「幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群か らなる排気部」を形成するため,異物混入防止のための別の構成部 材を付加せず,「排気長孔群」という一つの構成部材によって上記 課題を解決する点に技術的本質が存するものである。
7 他方,引用文献1(甲2)の記載(2頁左上欄9行〜19行,右上 欄8行〜12行,左下欄15行〜右下欄6行,3頁左上欄15行〜 右上欄16行,4頁右上欄2行〜11行)によれば,引用発明は, 電子レンジで加熱調理するための即席食入り容器において ,即席麺 等の固形即席食品を短時間で良好な食感に復元することができ,かつ 調理後に余分の湯を捨てる手間が不必要で簡易に調理できることを解 決課題とし,課題解決手段として小孔の蓋であって,該小孔の面積の 総計が容器本体の開放部面積の0.005〜1%に相当し,かつ,吸水 することによって復元し,喫食状態となる固形即席食品と該固形食品 の吸水量の100〜155重量%の水を収容することにより,容器内 の異常な圧力の上昇を防ぐとともに,容器内の蒸気密度及び雰囲気温 度を高く保ち,これにより即席食品を良好かつ短時間で復元調理でき るようにし,かつ余分の湯を廃棄する必要をなくすという技術思想を 有する。すなわち,引用発明は, 「容器内の異常な圧力の上昇防止, 容器内の蒸気密度及び雰囲気温度の保持」及び「余分な湯の廃棄不要」 という解決課題及び技術思想を有するものであり , 異物混入抑制」 「 という解決課題及び技術思想を有しない。
したがって,本件発明1と引用発明とは,解決課題及び技術思想 を互いに異にするものであって,そもそも「容器内の異常な圧力の 上昇防止,容器内の蒸気密度及び雰囲気温度の保持」及び「余分な湯 の廃棄不要」を解決課題とする引用発明から, 良好な水蒸気排気」 「 と「異物混入抑制」とを一つの構成手段によって(異物混入防止の ための部材を備えることなく,排気長孔群からなる排気部だけで) 実現するという本件発明1の解決課題は生じ得ない。
b 本件決定が周知例として挙げる引用文献2(甲7)及び引用文献3 (甲8)は,「良好な水蒸気排気」という課題を解決するものである。
8 また,本件決定が周知例として挙げる引用文献4(甲4)は, 「良好な 水蒸気排気」及び「異物混入防止」という課題を有するものではある が, 「異物混入防止」という課題を解決する手段は「リング状のシュリ ンクフィルム」であり,蓋に形成された「蒸気抜き部」は, 「良好な水 蒸気排気」という課題を解決するものであって, 「異物混入防止」とい う課題を解決するものではない。
そして,引用文献3記載の「直径1μ〜5cmの円形,多角形又は 星形の孔及び/又は短径1μ〜5cmの楕円形の孔及び/又は一辺の 長さ1μ〜5cmの正方形,矩形,三角形又は各種変形型の孔」,引用 文献2記載の「寿司等の成形された米飯包装容器」における,容器 外との通気性を有する「通気孔」,引用文献4記載の「蓋の蒸気抜き 部」は,いずれも容器内の蒸気等を外部へ排出する目的・機能を有す るにとどまるものであり, 「異物混入防止」の目的・機能を有しないも のである。
したがって,引用文献2ないし4記載の各技術は,いずれも本件発 明1とは解決課題及び技術思想を異にし,その孔の技術的意義を異に するものであるから,引用発明に引用文献2ないし4記載の各技術を 組み合わせて適用しても,相違点1に係る本件発明1の「幅0.15 〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気部」 の構成を得ることはできない。
c 以上によれば,引用発明から, 「良好な水蒸気排気」と「異物混入 抑制」とを一つの構成手段によって(異物混入防止のための部材を 備えることなく,排気長孔群からなる排気部だけで)実現するとい う本件発明1の解決課題は生じ得ないにもかかわらず,本件決定が, 引用発明において, 「異物混入抑制」という解決課題を想定した上で, その解決手段として,引用文献2ないし4記載の各技術を周知技術と 9 して適用することは容易であり,その適用により相違点1に係る本件 発明1の「幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長 孔群からなる排気部」の構成を容易に想到することができたと判断し たのは誤りである。
(イ) 前記(ア)のとおり,本件発明1の解決課題及び技術思想と引用発明 の解決課題及び技術思想は異なり,引用発明の「小孔」と本件発明1の 「幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からな る排気部」とは,その技術的意義を異にするから,引用発明に引用文献 5(甲6)記載の技術を組み合わせて適用しても本件発明1の「幅0. 15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気部」 の構成を得ることができないから,本件決定が,引用発明に引用文献5 記載のレーザー加工についての事項を採用して,相違点1で特定される 「長孔群」を形成することに格別の困難性は認められないと判断したの は誤りである。
(ウ) 以上によれば,本件決定が,引用発明において,相違点1に係る本 件発明1の構成を備えたものとすることは,当業者が容易に想到し得た 事項であると判断したのは誤りである。
イ 相違点2の判断の誤り 前記ア(ア)aのとおり,引用発明は, 「容器内の異常な圧力の上昇防止, 容器内の蒸気密度及び雰囲気温度の保持」及び「余分な湯の廃棄不要」と いう解決課題及び技術思想を有するものであって, 「異物混入抑制」という 解決課題及び技術思想を有するものではないから,引用発明の「小孔」は, 「異物混入抑制」という課題を解決する手段ではない。
また,本決定は,食品を収納する容器に形成する孔の大きさを「1mm 以下」の大きさとすると,容器内への異物混入が抑制できることは,従来 周知の事項であると述べるところ,引用文献1記載の実施例の「小孔」は, 10 「直径3.2mmの円形の開孔9」が「蓋の中央を中心として放射状に 8個」(5頁左下欄10行)設けられたものであって,本件決定がいう 容器内への異物混入が抑制できる孔の大きさの3倍以上で,しかも放射 状に8個も設けられているため ,容器内へ の異物混入を抑制するため には,「小孔」を被覆又は包皮する部材を備える必要があることは 明ら かである(例えば,引用文献4の図13では, 「長孔状の蒸気抜き部」の上 に「異物混入防止」のためにリング状のシュリンクフィルムが配されてい る。 。
) そうすると,引用発明の「小孔」は, 「異物混入防止のため」の「排気部 を被覆又は包皮する部材」を備えずとも,容器内への異物の混入が抑制で きる作用を奏するものとはいえないから,相違点2は,本件発明1と引用 発明の実質的な相違点である。
したがって,これと異なる本件決定の判断は誤りである。
ウ 小括 以上のとおり,本件決定における相違点1及び2の判断は誤りであるか ら,本件決定が,本件発明1は,引用文献1に記載された発明(引用発明), 引用文献5に記載された事項及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に 発明をすることができたと判断したのは誤りである。
? 被告の主張 ア 相違点1の容易想到性の判断の誤りの主張に対し (ア) 引用発明は,「蓋(3)の蓋面部に,調理時に電子レンジにより 強く加熱された場合,発生する水蒸気により容器内部の圧力が異常に 上昇するのを回避するための小孔を形成」したものであるから,その ような「小孔」を形成することの前提として,引用 発明においても「良 好な水蒸気排気」という課題が存することは明らかである。
また,食品用容器の「小孔」が大きすぎると ,虫の侵入といった不 11 具合が生じることは当業者にとって自明である こと,食品を収納する 容器に形成する孔の大きさを1mm以下の大きさとすると,異物の混 入を抑制できることは,従来周知の事項である こと(例えば,引用文 献2)からすると,当業者であれば,引用文献1記載の「小孔」が形 成された食品用容器においても「異物混入抑制」という解決課題が内 在することを,当然に理解し得る。
さらに,引用発明は, 「電子レンジ加熱食品用容器の製法」であり, 電子レンジ加熱食品用容器の製造数及び販売数が,膨大な数であるこ とに鑑みれば,当該「製法」において,より効率的に「電子レンジ加 熱食品用容器」を製造すること,すなわち,引用 発明の「小孔」の「形 成」についても,より効率的に穿孔する必要があることは,当業者に とって自明な事項であるから,引用発明において,「穿孔作業時間の 短縮」という課題が存することも,当業者にとって自明である。
以上のとおり,「良好な水蒸気排気」 「異物混入抑制」及び「穿孔 , 作業時間の短縮」という三つの課題は,引用発明が内在する課題であ るから,本件発明1の課題と引用発明の課題が異なるものではない。
(イ) 本件決定が,食品用容器に小孔を形成する技術文献である引用文献 2ないし4をそれぞれ周知例としたことに技術的な誤りはなく,上記周 知例から周知の事項を認定したことにも誤りはない。
食品用容器の「小孔」を矩形などの長孔とし,各孔を群とすることは, 食品用容器に孔を形成する上で,当業者が普通に採用し得る一般的な構 成の一つであり,また,引用文献1には, 「小孔」を「円形」とすること が必須である旨の記載はないから,引用発明の「小孔」を,長孔群とす ることに支障はない。特に, 「穿孔作業時間の短縮」という課題を踏まえ ると,引用発明の「小孔」については,食品用容器の穿孔に際し切削粉 末の出ないレーザー光線による穿孔とすることが通常であり(引用文献 12 3の【0007】 ,開口面積を増やすのであれば,一度の照射による円 ) 形等の穿孔貫通に加えて,横方向への移動による長孔とすることも,当 業者であれば,直ぐに思い至る手段である。
そして, 「長孔」の幅を「0.15〜1mm」とすることは,引用文献 3の「短径1μm〜5cmの楕円形の孔」 一辺の長さが1μ〜5cm」 , 「 の矩形の孔との記載からみて,蒸気を逃し,暴発を防ぐために,当業者 が適宜採用する数値範囲にすぎない。特に,引用発明にも「異物混入抑 制」という解決課題が内在すること,引用文献2の「…1mm以下の大 きさとすると,虫の侵入が防止できるので好ましい」との記載からみて, 引用発明において,相違点1に係る本件発明1の構成である「幅0.1 5〜1.0mmの排気長孔を備える」ものとすることに,当業者の格別 の創意工夫は要しないものといえる。また,1mmを超える2〜3mm の孔であっても,その孔の大きさを超える異物混入を抑制できる手段で あることは技術的に自明であり,小さい異物を想定するのであれば,そ の想定される異物に対応して小さな寸法の孔を採用するものであるから, 引用発明においても,従来周知の孔寸法へと変更することに,当業者の 格別の創意工夫は要しない。
加えて,引用文献5には,プラスチック構造体に対して, 「長径と短径 とを有するような形状を有している場合,その径としては,短径が20 0μm以下」【0020】 ( )の微小孔部を,パルス状のレーザーで形成す ることが記載されているから,当業者は,引用発明,引用文献5に記載 された事項及び周知の事項に基づき,相違点1に係る本件発明1の構成 を容易に想到し得たものである。
これと同旨の本件決定の判断に誤りはない。
イ 相違点2の判断の誤りの主張に対し 前記ア(ア)のとおり,引用発明において, 「異物混入抑制」は内在する課 13 題であるから,容器に形成される孔を必要以上に大きくすることは有り 得ず,むしろ排気可能な範囲内で多少の異物混入を防止できる程度の 孔とすることは当然である。
また,引用発明の「小孔」を小さくすることにより,異物の侵入を抑制 できるから,容器には, 「異物混入防止のための,当該排気長孔群を被覆又 は包皮する部材」が不要であることは当業者にとって明らかである。
したがって,相違点2は,本件発明1と引用発明の実質的な相違点でな いとした本件決定の判断に誤りはない。
ウ 小括 以上のとおり,本件決定における相違点1及び2の判断に誤りはなく, 本件発明1は,当業者が引用発明,引用文献5に記載された事項及び周知 の事項に基づいて,容易に発明をすることができたものであるから,原告 主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(手続違背) ? 原告の主張 本件取消理由通知記載の取消理由は,引用刊行物として引用文献1ないし 5を挙げ,本件発明1は,引用文献1,5に記載された事項及び従来周知の 事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから, 特許法29条2項の規定により特許を受けることができない というもの であったため,原告は,令和2年11月18日付け意見書(甲12)を提出 して,上記各引用刊行物について反論を行った。
しかるところ,本件決定は,引用文献1ないし5のほかに,新たに引用し た甲9(実願平2―71089号(実開平4-29977号)のマイクロフ ィルム)及び甲10(特開2014-227185号公報)の記載から, 「電 子レンジで加熱する容器においても,水蒸気を排出する孔から塵挨や虫など の異物が混入するおそれがあること」は本件出願の優先日前に周知の課題で 14 あり,原告が主張する「解決すべき技術的課題」が「斬新性」を有するとま ではいえないと結論付けたものあるから,新たに引用した甲9及び10をも って実質的に本件発明1の進歩性を否定したものといえる。
そうすると,本件決定は,原告に対して,甲9及び10に対する弁明の機 会を与えず,本件特許を取り消す旨の決定を行ったものと評価されるべきで あるから,本件の特許異議の申立ての手続には,特許法120条の5の規定 に反する手続違背があり,この手続違背は,本件決定の結論に影響を及ぼす ものである。
したがって,本件決定は取り消すべきものである。
? 被告の主張 甲9及び10は,原告が提出した令和2年11月18日付け意見書(甲1 2)記載の蒸気孔の「蒸気排気機能」を妨げることなく「異物混入抑制機能」 を両立して実現するという「課題」については,解決すべき技術的課題の斬 新性が認められる旨の主張を排斥するために示した周知例であって,本件決 定は,甲9及び10に示された技術的事項を引用発明と組み合わせて,本件 発明1の進歩性の判断に用いたものではない。
したがって,本件決定において甲9及び10を示したことは,本件決定の 結論に影響を及ぼす手続違背に該当するものとはいえないから,原告主張の 取消事由2は理由がない。
当裁判所の判断
1 本件明細書の記載事項について ? 本件明細書(甲13,14)には,次のような記載がある(下記記載中に 引用する図1ないし4,6ないし8については別紙1を参照)。
ア 【技術分野】 【0001】 15 本発明は電子レンジ加熱食品用容器に関し,特に蓋体部からの水蒸気の効率よい排気を可能とする容器の製法に関する。
【背景技術】【0002】 調理済み食品をコンビニエンスストア等の小売店にて販売する際の加熱調理または持ち帰った後の加熱調理に際し,これらの食品を包装する容器は容器本体部とその開口部と嵌合する蓋体部の組み合わせからなる。特に,食品の収容,陳列,販売等の1回のみの使用に用いられる使い切り容器であることから,極力簡素化した蓋嵌合構造である。そのため,現状,合成樹脂シートの成形品が容器の主流である。
【0003】 食品の加熱調理や温め直しには,通常電子レンジ(マイクロ波照射)が使用される。そこで,食品容器ごと電子レンジ内に入れられそのまま加熱された後に提供される。実際に販売される食品に着目すると,スープ類のように水分量の多い食品から,炒め物等のように重量当たりの水分量の少ない食品まで存在し,食品の種類は実に多用である。ここで問題となることは,電子レンジによる食品の加熱調理の際,容器内の食品から水蒸気が発生することである。
【0004】 蓋嵌合容器においては,容器本体と蓋体の嵌合を緩くすれば内部発生の水蒸気の排気は容易である。しかし,蓋体側の嵌合が緩い場合,製造,出荷,陳列の中間段階で蓋体が外れやすい等の問題から異物混入が懸念される。このため,食品の購入者からの評判は思わしくない。そこで,内部発生の水蒸気を容器外部に排気するための穴部を形成した蓋体が提案されている(特許文献1,2等参照)。特許文献1,2に代表される容器の蓋体によると,U字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部が蓋体に 16 形成されている。水蒸気はこの舌片状の開口部を通過して容器外部に放出 される。
【0005】 U字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部の排気効率は良 好である。ところが,水蒸気の排気が良好ということは,それだけ,舌片 状の開口部からの異物侵入のおそれも増す。そのために,この場合,舌片 状の開口部を塞ぐ封止テープが貼付されることがある。さらには,舌片状 の開口部を被覆するためのフィルム部材も別途必要により被せられる。例 えば,フィルム部材を被せる場合,舌片状の開口部の周りを取り囲む壁部 が蓋体側に設けられ,舌片状の開口部の周りに隙間が形成される。そして, この壁部にも水蒸気の通り道が形成される等,構造が複雑となっていた。
また,切れ込みによる舌片が折れて容器内部に落下すると,それ自体が異 物混入となる問題も内包している。
【0006】 上述のように,既存の水蒸気を排気する構造を採用した容器では本来の 食品包装にのみ必要な資材以外も必要となり,コスト上昇が否めない。加 えて,切れ込みによる舌片状の開口部の形状は一律であり,周辺構造の制 約も多い。
イ 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 一連の経緯から,発明者は,U字状またはV字状の切れ込みによる舌片 状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わる新たな排気構造を模索してき た。その中で容器の蓋体部に微細な長孔の排気部を設けた構造が有効であ ることを見出した。しかも,微細な長孔であることから,破損や異物混入 への耐性も良好であることが判明した。
【0009】 17 本発明は,前記の点に鑑みなされたものであり,従前のU字状またはV 字状の切れ込みによる舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わる新 たな排気構造を提案し,良好な水蒸気排気を可能とし,同時に封止性能改 善,異物混入抑制を実現し,併せて蓋体部の形状上の制約も少なく,資材 コストの軽減にも有利で,さらに円孔形状に比して穿孔作業時間が短縮で き作業効率が向上する排気長孔からなる排気部を形成した蓋体部を有す る電子レンジ加熱食品用容器の製法を提供する。
ウ 【課題を解決するための手段】 【0010】 すなわち,請求項1の発明は,電子レンジ加熱のための食品を収容する 容器本体部と,前記容器本体部の開口部と嵌合する合成樹脂シートからな る蓋体部とを備えた蓋嵌合容器において,前記容器本体部内に収容された 食品から発生する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する 排気部を,異物混入防止のための,当該排気部を被覆又は包皮する部材を 備えることなく形成した蓋体部を得るに際して,前記蓋体部の蓋面部にレ ーザー光線の照射をオンして準備時間(t 3 )の経過により貫通孔を形成し その後の作業時間(t 4 )の経過により所定の長穴形状にまで拡張した後に レーザー光線の照射をオフにすることによって幅0.15〜1.0mmの 排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気部を形成することを特 徴とする電子レンジ加熱食品用容器の製法に係る。
【発明の効果】 【0011】 請求項1の発明に係る電子レンジ加熱食品用容器の製法によると,電子 レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と,前記容器本体部の開口 部と嵌合する合成樹脂シートからなる蓋体部とを備えた蓋嵌合容器にお いて,前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排 18 気するとともに異物混入を抑制する排気部を,異物混入防止のための,当 該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成した蓋体部を得 るに際して,前記蓋体部の蓋面部にレーザー光線の照射をオンして準備時 間(t 3 )の経過により貫通孔を形成しその後の作業時間(t 4 )の経過に より所定の長穴形状にまで拡張した後にレーザー光線の照射をオフにす ることによって幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長 孔群からなる排気部を形成するため,従前のU字状またはV字状の切れ込 みによる舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わり,良好な水蒸気排 気及び封止性能改善,異物混入抑制を実現し,より効率よく水蒸気を排気 することができ,併せて蓋体部の形状上の制約も少なく,資材コストの軽 減も可能となる。しかも,簡便かつ迅速に蓋面部に排気長孔を穿設するこ とができ,円孔形状に比して穿孔作業時間が短縮でき作業効率が向上し生 産量がアップし,特に量産性に優れる。とりわけ,従来の針刺しやドリル 等の物理的な加工方法の場合,時間を多く要することに加え十分な加工精 度が得られない等の点が挙げられ,また,孔形成に際し微粉末の発生の問 題も払拭できず事後の洗浄の手間も必要となるのであるが,レーザー光線 の照射によればこのような問題は一挙に解決できる。
エ 【発明を実施するための形態】 【0013】 本発明の一実施形態の食品用容器1は,図1の分離状態の全体斜視図の とおり,容器本体部100と,この容器本体部100の開口部101と嵌 合する蓋体部10の組み合わせから構成される。特に,容器本体部100 の容器内部103に食品が収容され,蓋体部10が被せられた状態のまま 電子レンジのマイクロ波照射により加熱または加温される(加熱調理) そ 。
れゆえ,食品用容器1は「電子レンジ加熱食品用容器」である。
【0014】 19 蓋体部10の蓋面部11には,排気長孔21が形成されている。図示のように,排気長孔21は複数個備えられており,これらの排気長孔21が複数個集まって排気長孔群20からなる排気部が形成されている。電子レンジによる加熱または加温に際し,容器本体部100内に収容されている食品C(図3参照)から発生する水蒸気は,排気長孔21を通じて食品用容器1の外部に排気される。排気長孔21を複数個形成して排気長孔群20としているため,より効率よく水蒸気を排気することができる。本実施形態の蓋体部10において,蓋面部11の全体または一部に蓋面部11より適度に掘り下げた凹面部30が形成される。この凹面部30の中に排気長孔群20が形成される。また,図示では,凹面部30を取り囲むようにして蓋面上周壁部35が形成されている。
【0018】 食品用容器1(容器本体部100と蓋体部10の組み合わせ) 主に, は,コンビニエンスストア,スーパーマーケット,デパート,飲食店,惣菜専門店(デリカテッセン),喫茶店,サービスエリア等の店舗にて販売される弁当,惣菜,麺料理類,スープ料理,さらにはコーヒー,ココア,紅茶,緑茶,薬草茶等の各種飲料類を包含する食品の包装に用いられる容器である。主に想定される用途は,ワンウェイ(one-way)やディスポーザブル(disposable)等と称される1回のみの使用に用いられる使い切り容器(使い捨て容器)である。使い切り容器とすることにより,食品の衛生管理に都合よい。
【0019】 食品用容器1の用途は,主に使い切り容器としての利用である。そこで,蓋体部10は安価かつ簡便に量産して製造できる合成樹脂のシート(プラスチック樹脂シート)から形成される。具体的には,蓋体部10は,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,ポリエチレンテレフタレート 20 (PET樹脂)等の熱可塑性樹脂のシート(合成樹脂シート),さらにはポリ乳酸等の生分解性の熱可塑性樹脂のシートである。合成樹脂シートの厚さは適宜ではあるものの,概ね1mm以下の厚さであり,通常,200ないし700μmの厚さである。そして,合成樹脂シートは真空成形により成形される。合成樹脂シートを原料とした際,その成形時の量産性,加工精度等を考慮すると真空成形が簡便かつ最適である。また,後述するように,レーザー光線照射による加工も考慮されるためである。
【0021】 図2及び図3の部分断面図を用い,図示実施形態における容器本体部100と蓋体部10の嵌合部位,排気長孔群20(排気長孔21)について説明する。図2は蓋体部の分離状態であり,図3は蓋体部の嵌合(嵌着または合着)状態である。蓋体部10の断面視U字の周壁部15は,蓋密着壁部16,周溝底部17,及び内側壁部18から形成される。蓋密着壁部16の外縁にはフランジ部19が備えられる。これに対応する容器本体部100の開口部101では,外縁フランジ部109,開口周壁部106,その下端に開口段部107が形成される。
【0022】 さらに図3の状態から理解されるように,蓋体部10の周壁部15が容器本体部100の開口部101に嵌合されると,蓋密着壁部16は開口周壁部106と密着(合着)する。こうして,食品用容器1の内部の気密性は高まる。しかし,その分,食品用容器1の内部に収容された食品Cから発生する水蒸気の抜け道はなくなる。そこで,内部発生の水蒸気Vpは蓋体部10の蓋面部11に形成された排気長孔21から食品用容器1の外部に放出される。こうして,食品用容器1が異常に膨張し,蓋体部が変形したり不自然に開いたりする問題は回避される。
【0023】 21 蓋体部10の蓋面部11に排気長孔群20を構成する個々の排気長孔2 1に際し,蓋面部11にレーザー光線が照射され,同蓋面部11に排気長 孔21が穿設される。排気長孔21の形成に際し,例えば,針刺しやドリ ル等の物理的な加工方法の場合,時間を多く要することに加え,十分な加 工精度が得られない等の点が挙げられる。また,孔形成に際し,微粉末の 発生の問題も払拭できず,事後の洗浄の手間も必要となる。そこで,簡便 かつ迅速に蓋面部に排気長孔を穿設可能な点から,レーザー光線の照射が 用いられる。
【0024】 レーザー光線は加工出力,加工精度等を得ることができる種類であれば, 特段限定されず,炭酸ガスレーザー,YAGレーザー,半導体レーザー, アルゴンレーザー等の各種レーザーとそれらの照射装置が使用される。前 述のように,蓋体部の材質が合成樹脂のシートから形成されている場合, 排気長孔はレーザー光線照射により簡単かつ短時間で穿設される。特に量 産性に優れる。
オ 【0025】 個々の排気長孔21の形状は,正確には両端部分を半円状とする長方形 状である(図8参照) ただし, 。 両端部分の形状は誤差範囲として無視され, 単純に長方形として開孔面積は計算される。以降においても,排気長孔は 長方形として説明する。ここで,排気長孔群20を構成する排気長孔21 についてさらに詳述する。まず,個々の排気長孔21の幅(長方形の短辺 側)は0.15ないし1.0mmが例示される。より好ましい排気長孔2 1の幅は0.3ないし0.5mmである。
【0026】 排気長孔21の幅の下限は,電子レンジ加熱時に発生した水蒸気の排気 に十分な開口量を得るためである。幅の下限の0.15mmはおおよそ現 22 状の加工技術を考慮した値である。排気長孔21の幅が0.15mmを下回る場合,排気長孔は狭くなりすぎであり排気長孔21からの水蒸気の排気効率は低下すると考えられる。結果,容器本体部100に嵌合した蓋体部10が内圧により外れやすくなる。また,レーザー光線の照射装置の精度上の下限とも考えられる。
【0027】 加えて,合成樹脂シートから形成された蓋体部10にレーザー光線を照射すると,当該照射部位において樹脂シートが溶解して孔が開く。しかし,設定の幅が狭すぎる場合,レーザー光線照射の熱により溶解した樹脂が冷却して固化する時点で互いに接合するおそれがある。そうすると,照射部位に所望の適切な排気長孔が形成されず,十分な水蒸気排気が損なわれてしまう。そのため,不用意な再接合を生じにくくさせる便宜から,幅の下限は0.15mm,好ましくは0.3mmとしている。
【0028】 排気長孔21の幅の上限は,食品用容器1の内部への異物混入を有効に抑制するための大きさとするためである。例えば,一般に異物として認識される微小な昆虫等の場合,幅が1.0mmよりも小さいと,容器内部への侵入はほぼ阻まれる。そこで,幅の上限は1.0mm,より好ましくは0.5mmとしている。
【0029】 次に,排気長孔21の長さは1ないし12mmの範囲が例示され,好ましくは4ないし7mmの範囲である。排気長孔21の幅は前述のとおり微細である。それゆえ,内部発生の水蒸気の排気に有効であるため,適量な長さが必要とされる。長さの下限はおおよそ長孔として成立し得るとともに水蒸気の排気を考慮した量である。長さの上限は,蓋体部10自体の強度維持の必要性のためである。蓋体部10は合成樹脂シートから形成され 23 ている場合,排気長孔21の長さが長くなるほど,その排気長孔付近では撓み変形等が生じやすい。そうすると,前述のとおり排気長孔21の幅は狭められているにも係わらず,排気長孔21は紡錘形に開口しやすくなる。
そこで,このような不用意な排気長孔の変形に伴う開口を抑制するため,排気長孔の長さの上限は12mmが例示され,好ましくは7mmが望ましい。
【0030】 また,排気長孔21が複数個集まって形成される排気長孔群20(排気部)の開孔面積の合計,すなわち,蓋面部11上の全ての排気長孔21の開孔面積(すなわち,排気長孔の幅と長さの積である。)の合計は,0.3ないし100mm 2 の範囲が例示される。開孔面積の合計の最小量は,最小の排気長孔(幅:0.15mm,長さ:1mm)を2箇所形成したときの面積に相当する。むろん,当該面積量は極めて水蒸気発生量の少ない食品を対象とした値である。そこで,対応可能な食品の種類を考慮して,現実的な開孔面積の合計の下限は,0.5mm 2,さらには1mm 2 と考えられる。
【0031】 例えば,麺料理の場合,麺に加えて汁(つゆ)の量も多いことから食品用容器の容量も多くなる。そうすると,電子レンジによる加熱時間は長くなり,容器内全体で発生する水蒸気量も相対的に多くなる。この場合,排気長孔からの良好な水蒸気の排気を促すため,開孔面積の合計を大きくする必要がある。ただし,必要能力以上に排気長孔を増やしたとしても,穿設の手間が増したり蓋体部の強度が低下したりするおそれも懸念される。
そこで,開孔面積の合計の上限として100mm 2,より好ましい上限として80mm 2 が導き出される。排気長孔群の開孔面積の合計は前述の範囲であるため,電子レンジ加熱食品用容器(蓋体部)は市場にて流通する多 24 くの食品に対応できる。
カ 【0032】 これまでに説明した排気長孔21の形状を採用する大きな利点は,作業 時間の短縮になるためである。特に複数の排気長孔21から構成される排 気長孔群20を形成する際に有効である。実施形態においては,蓋体部1 0の蓋面部11に対して炭酸ガスレーザー等のレーザー光線が照射され, 排気長孔21は穿設される。この状況について,図4の作業タイムチャー ト(模式図)が想定される。図中の横軸は時間(t)である。
【0033】 図4の上段は,例えば,円孔形状の排気孔を形成する場合に相当する。
図中, 「_Π」の凹凸上の繰り返しは,レーザー光線の照射(ON:上側) とその停止(OFF:下側)を示す。その直下のS字と直線の組み合わせ からなる図形は,照射を受けて蓋体部に形成される孔の様子である。特に は,穿設量(深さ)と読み替えても良い。引き伸ばされたS字状部分は, レーザー光線の照射により蓋体部の樹脂シートを溶解している状態であ る。いわゆる照射直後からまだ貫通に至っていない準備状態であり,その 間の時間は「t 1 」として表される。平坦部分は,貫通して所定の大きさま で孔が発達している状態である。いわゆる実際の作業状態であり,その間 の時間は「t 2」として表される。そして,いずれでもない時間は,例えば, 別の孔へ移動する等の待機時間(t i)として表される。
【0034】 レーザー光線照射のON-OFF状態と穿設量のグラフからわかるよ うに,レーザー光線の照射時間の全てが実際に孔を広げている時間にはな らず,孔を掘り進めるための準備時間(t 1 )も発生する。円孔形状の排気 孔の場合,細かい孔を複数個形成するため,準備時間(t 1 )と作業時間(t 2 )が頻繁に繰り返される。そのため,不可避的に準備時間(t 1 )が累積 25 される。さらに,細かい孔を複数個形成するため,次々と別の場所へ照射位置は変更される。そうすると,その間の位置調節等は待機時間(t i)となり,否応なく当該時間も累積される。
【0035】 これに対し,図4の下段は,本発明にて開示する排気長孔を形成する場合に相当する。図中, 「_Π」の凹凸上の繰り返しは,レーザー光線の照射(ON:上側)とその停止(OFF:下側)を示す。ただし,排気長孔は長尺であるため,照射時間は長めに設定されている。その直下のS字と直線の組み合わせからなる図形は,照射を受けて蓋体部に形成される孔の様子であり,穿設量(深さ)と読み替えられる。上段と同様に,引き伸ばされたS字状部分は,レーザー光線の照射により蓋体部の樹脂シートを溶解している準備状態であり,その間の時間は「t 3」として表される。平坦部分は,貫通して所定の大きさ(長さ)まで孔が発達している実際の作業状態であり,その時間は「t 4 」として表される。本例においても,照射位置を変更する位置調節等の待機時間(t j )は生じる。
【0036】 長孔形成の場合であっても,準備時間(t 3 )及び待機時間(t j )を無くすことはできない。さらには,長孔の長さの分だけ余計に時間を要する場合もある。しかしながら,いったん準備時間(t 3 )により長孔が貫通してしまうと,あとは所定の長方形状にまで拡張するための作業時間(t 4)で済むと考えられる。そこで,図4の上下段の比較からわかるように,下段側の長孔の形成において,準備時間(t 3 )の累積量は相対的に上段よりも削減される。この結果から,同様の開孔面積量を得る場合,準備時間(t3 )の総量が少なくなり,時間短縮につながる。加えて,上段側では頻繁に照射位置が変化するため,その間の待機時間(t i )も多く累積される。これに対し,下段側では長孔形成であるため,上段側よりも照射位置の変更 26 回数は少なくなり,総じて待機時間(t j)の累積量は少なくなる。これら の対比から,時間当たりの処理数(生産個数)は増加するといえる。なお, 発明者の試行によると,時間当たりの生産数は約1.5倍に増加した。こ のように,本願の長孔に係る製法は,円孔形状に比して穿孔作業時間が短 縮でき作業効率が向上し生産量のアップという大きな利点を有する。
キ 【0038】 図6の各平面図は蓋体部10(蓋面部11)に形成される排気長孔群の 他の形態例を示す。図6(a)の排気長孔群20aは,個々の排気長孔2 1の向きを逐次斜めにした配置である。図示の凹面部30aは長方形状で ある。同(b)の排気長孔群20bは,排気長孔21の穿設によりほぼ円 形を形成するように形成される。図示の凹面部30bは円形状である。同 (c)の排気長孔群20cは,排気長孔21の穿設により,アルファベッ トの「A」の文字を模した形状に形成される。図示の凹面部30cは長方 形状である。すなわち,排気長孔群は平面図形として構成されている。平 面図形は図形のみならず,文字や記号も含まれる。
【0040】 これまでの説明にあるように,本発明の食品用容器(電子レンジ加熱食 品用容器)における排気長孔の大きさを勘案すると,極めて微細であるこ とから昆虫等の異物侵入を有効に抑制できる。そのため,本発明の食品用 容器では,従前の容器に見られた蓋体部の排気を担う穴を被覆したり包皮 したりするフィルム等の部材は,省略可能となる。従って,本発明の食品 用容器は,電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間も必要なく,包装 資材費の軽減にも貢献し得る。排気長孔の開孔面積の合計を考慮すること により,本発明の食品用容器は多種類の食品から発生する水蒸気量にも対 応可能な極めて好適な包装資材となる。さらに,排気長孔の配置いかんに より多様な排気長孔群を形成できることから,蓋体部の形状設計の制約は 27 少なくなることに加え,排気長孔群自体の形状の自由度も高まる。
ク 【実施例】 【0041】 [電子レンジ加熱食品用容器の作製] 電子レンジ加熱食品用容器は,容器本体部と蓋体部の組み合わせからな る物品とした。当該「電子レンジ加熱食品用容器の作製」は量の多い食品 の包装を想定した。蓋体部には,耐熱二軸延伸ポリスチレン(耐熱OPS) 樹脂のシート材を使用した。これを真空成形により円盤状の蓋体部に加工 した。蓋体部の最大直径は約175mm,蓋面部の最大直径は約135m mであった。蓋体部の材料厚みは0.3mmであった。容器本体部には, 耐熱発泡ポリスチレン製のシート材(ポリプロピレンフィルム被着品)を 使用した。これを真空成形により横断面円形の鉢状(椀状またはボウル状) の容器本体部に加工した。容器本体部の開口部直径(内径)は約160m m,深さは70mmとし,容器本体部の内容量(食品収容可能な容量)は 約800mLとした。
【0042】 [排気長孔群の形成] 排気長孔群の形成に際し,樹脂加工分野において一般に使用される公知 の炭酸ガスレーザーの照射装置を用い,前記の成形により得た蓋体部中央 部分に対し大きさ,個数の異なる9種類の排気長孔群を形成し,実施例1 ないし実施例9を作製した(表1及び表2参照) 表1及び表2において, 。
上から順に排気長孔の大きさ(実測値){幅(mm),長さ(mm) ,排気 } 長孔群の形態{排気長孔の配列(横×縦),排気長孔の個数(個) ,開孔面 } 積{排気長孔1個当たり(mm 2) 開孔面積合計 , (mm 2 ) の項目である。
} 【0043】 参考までに,図7は実施例6の蓋体部の排気長孔群を撮影した写真であ 28 る。図8は当該排気長孔群を構成する個々の排気長孔の拡大写真(倍率50倍)である。図8の上段は実施例1の排気長孔であり,同図下段は実施例6の排気長孔である。図示からわかるように,排気長孔は両端部分が丸まった長尺の長方形状であった。なお,排気長孔の幅と長さの数値は,実施例ごとの排気長孔を測定した数値の単純平均とした。また,開孔面積の算出に際し,両端部分の丸くなった部位形状は無視可能であり,長方形形状とみなして「最大幅」と「最大長さ」の積とした。
【0046】 [食品の電子レンジ加熱試験] 実際に販売される食品の種類は極めて多岐にわたる。そこで,発明者らは,水分量が多くしかも電子レンジ加熱に要する時間の長い食品として「カレーうどん」を選択した。いずれの容器本体部内にも当該カレーうどんを同量(全体で約620g)ずつ収容し,前記作製の各蓋体部(実施例1ないし9)を適切に嵌合した。そして,コンビニエンスストア等に導入されている高出力型の電子レンジを用いて加熱試験に供した。電子レンジにおける加熱条件は,通常使用の1500Wよりも出力を高めた高加熱の負荷条件を得るため1600Wの出力とした。当該出力条件において電子レンジ加熱時間は2分以上とし,2分30秒を上限に打ち切った。そして,2分経過時点で容器本体部と嵌合した蓋体部が内部発生の水蒸気圧力により外れたか否かを観察した。
【0047】 [電子レンジ加熱試験の結果と考察] 実施例1ないし9の蓋体部について,電子レンジ加熱が2分経過した時点において,いずれも容器本体部から蓋体部は外れなかった。図9は実施例6の蓋体部を使用して2分間経過した状態を撮影した写真である。
【0048】 29 前述のとおり開示の電子レンジ加熱試験は,通常実施される条件よりも加熱負荷を高めた試験である。当該条件下であっても,各実施例の排気長孔群は十分に内部発生水蒸気の排気性能を発揮した。また,実験に供した食品も容量,水分量ともに多く,加熱時間を多く必要とする。従って,これらの過酷条件においても水蒸気排気が良好であったことは,本発明の排気長孔の有効性を大きく肯定する。
【0049】 [排気長孔の大きさの範囲について] 実施例1ないし9の蓋体部を用いた試験結果から,好例な排気長孔に関する範囲は次のとおり導き出すことができる。前掲の表1及び表2より,排気長孔の最小幅は実施例7である。そこで,照射装置の加工精度と個数を加味して,幅の下限値を0.15mm,好ましくは0.3mmとした。
最大幅は実施例9であることから,1.0mmを上限とした。幅の上限を引き上げることは可能ではあるものの,異物混入防止の観点から1.0mmを上限とした。それゆえ,排気長孔の幅の範囲は0.15ないし1.0mm,好ましくは0.3ないし0.5mmとなる。
【0050】 表1及び表2より,排気長孔の最小長さは実施例7である。そこで,照射装置の加工精度と個数を加味して,長さの下限値を1mm,好ましくはその他の実施例を勘案して4mmとした。最大長さは実施例4より12mmとした。むろん,これ以上長くすることも可能ではある。しかし,排気長孔部分の強度確保や異物混入等を勘案すると,12mmが事実上の上限となる。それゆえ,排気長孔の長さの範囲は1ないし12mm,好ましくは他の実施例の長さを加味して4ないし7mmの範囲である。
【0051】 続いて,排気長孔の開孔面積の合計(蓋面部上の全ての排気長孔の開孔 30 面積の合計)について,当該実施例における試験結果からは概ね35ない し65mm 2 の範囲を導くことができる。この結果とともに,内容物である 食品の性状,容量等の多様性も考慮して,0.3ないし100mm 2,好ま しくは1ないし80mm 2 の範囲を規定した。
ケ 【産業上の利用可能性】 【0052】 以上のとおり,本発明の電子レンジ加熱食品用容器の製法は,従前のU 字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部を用いた水蒸気の排 気に代わり,良好な水蒸気排気及び封止性能改善を実現し,より効率よく 水蒸気を排気することができ,併せて蓋体部の形状上の制約も少なく,資 材コストの軽減も可能となり,しかも,簡便かつ迅速に蓋面部に排気長孔 を穿設することができ,特に量産性に優れる製法を提供できた。蓋体部に 適切な条件により形成された排気長孔を備えたことから,良好な水蒸気の 排気が実現でき,既存の切れ込み構造を備えた電子レンジ用の包装容器の 代替として極めて有効となる。
? 前記?の記載事項によれば,本件明細書には,本件発明1に関し,次のよ うな開示があることが認められる。
ア 蓋体に形成されたU字又はV字状の切れ込みによる舌片状の開口部を用 いて加熱調理の際に容器内の食品から発生する水蒸気を排気する構造を 採用した,食品を収容する容器本体部とその開口部と嵌合する蓋体部の組 合せからなる従来の電子レンジ加熱食品用容器においては,U字又はV字 状の切れ込みによる舌片状の開口部は排気が良好である反面,開口部から の異物侵入のおそれも増すため,開口部を塞ぐ封止テープを貼付したり, 開口部を被覆するためのフィルムを被せることがあるが,この場合,本来 の食品包装にのみ必要な資材以外も必要となるためコスト上昇が否めず, また,切れ込みによる舌片状の開口部の形状は一律であり,構造上の制約 31 も多いという問題があった(【0002】ないし【0006】 。
)イ 「本発明」は,従来のU字又はV字状の切れ込みによる舌片状の開口部 を用いた水蒸気の排気に代わる新たな排気構造を提案し,良好な水蒸気排 気を可能とし,同時に封止性能改善,異物混入抑制を実現し,併せて蓋体 部の形状上の制約も少なく,資材コストの軽減にも有利で,さらに円孔形 状に比して穿孔作業時間が短縮でき作業効率が向上する排気長孔からな る排気部を形成した蓋体部を有する電子レンジ加熱食品用容器の製法を 提供するものである(【0009】 。
) そして,請求項1の発明に係る電子レンジ加熱食品用容器の製法(本件 発明1)によると,電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と, 前記容器本体部の開口部と嵌合する合成樹脂シートからなる蓋体部とを 備えた蓋嵌合容器において,前記容器本体部内に収容された食品から発生 する水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑制する排気部を,異物 混入防止のための,当該排気部を被覆又は包皮する部材を備えることなく 形成した蓋体部を得るに際して,前記蓋体部の蓋面部にレーザー光線の照 射をオンして準備時間(t 3 )の経過により貫通孔を形成しその後の作業時 間(t 4 )の経過により所定の長穴形状にまで拡張した後にレーザー光線の 照射をオフにすることによって幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数 穿設して排気長孔群からなる排気部を形成するため,従前のU字状又はV 字状の切れ込みによる舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わり,良 好な水蒸気排気及び封止性能改善,異物混入抑制を実現し,より効率よく 水蒸気を排気することができ,併せて蓋体部の形状上の制約も少なく,資 材コストの軽減も可能となり,しかも,簡便かつ迅速に蓋面部に排気長孔 を穿設することができ,円孔形状に比して穿孔作業時間が短縮でき作業効 率が向上し生産量がアップし,特に量産性に優れるという効果を奏する (【0011】 。
) 32 2 取消事由1(引用文献1を主引用例とする進歩性の判断の誤り)について ? 引用文献1の記載事項 ア 引用文献1(甲2)には,次のような記載がある(下記記載中に引用す る第1図については別紙2を参照)。
(ア) 「2.特許請求の範囲 ? マイクロ波透過部材からなり上方に開放部を有する容器本体,該容 器本体の開放部を覆い容器本体内部を略密閉状態となし得る小孔付の 蓋であって,該小孔が該開放部を覆う位置に存在し,該小孔の面積の 総計が該開放部面積の0.005〜1%に相当し,かつマイクロ波透 過部材からなる蓋とから構成された容器の内部に,吸水することによ って復元し,喫食状態となる固形即席食品を収容し,該固形食品の吸 水量の100〜155重量%の水の存在下に,電子レンジで加熱調理 するための即席食品入り容器。 (1頁左欄) 」 (イ) 「〔産業上の利用分野〕 本発明は,即席焼そばや即席マカロニ等の固形即席食品を,電子レン ジで調理することによって短時間で良好な食感に復元でき,調理後に水 を捨てる手間のない,電子レンジ用即席食品入り容器に関するものであ る。 (2頁左上欄2行〜7行) 」 「〔従来の技術〕 従来,即席焼そばを調理する場合には,先づ多量の熱湯を加え,この 熱で加温して復元させ,復元後に余剰の湯を捨ててから,別添の調味用 液体又は粉末スープを添加することが行われている。従って,上記の形 態の即席食品の調理操作では,食品が復元した後に余剰の湯を捨てなけ ればならず煩雑であった。さらに,食品は単に熱湯の注加のみによって 加熱されるので,復元性が悪く,食品の食感も良好とはいえなかった。
従って,麺線の太い即席麺やスパゲティ等,こし” “ のある食感の麺等は, 33 一切調理することができなかった。
そこで,上記のような麺線の太い即席麺やスパゲティ等を調理する場 合には,なべ等の容器で麺をほぐしながら茹でる操作が必要であり,こ のために,湯を沸かす手間を含めて調理に少なくとも8〜15分程度の 時間を要し,また調理中に容器から茹湯が噴きこぼれる等,調理操作が 大変煩雑であった。 (2頁左上欄8行〜右上欄6行) 」(ウ) 「〔発明が解決しようとする問題点〕 本発明の目的は,即席麺等の固形即席食品を,短時間で良好な食感に 復元することができ,かつ調理後に余分の湯を捨てる手間が不必要で, 簡易に調理できる即席食品入り容器を提供することにある。 (2頁右上 」 欄7行〜12行)(エ) 「〔問題点を解決するための手段〕 本発明者らは,上記の目的を達成すべく鋭意研究した結果,以下のよ うな知見を得た。
l) 容器内部を略密閉状態となし得る容器に,固形即席食品と水とを 収容し,これを電子レンジで加熱することによって,容器内部が強 い沸騰状態となって沸騰水面が即席食品の上部にまでおよび,即席 食品を極めて短時間に,完全かつ均一に復元することができること。
2) また,上記の作用は,容器に収容する水の量が比較的少量であっ ても達成されること。従って,容器に収容する水の量を,即席食品 を喫食状態に復元するに充分な量とすることによって,水は加熱中 に即席食品にほぼ完全に吸収され,加熱後に水を捨てる必要がない こと。
3) また,蓋の構造は,加熱時に容器内圧が極端に高くなって容器が 破裂することを防止し,かつ,容器内圧を調圧するための小孔を容 器の蓋に設けることが効果的であって,この際,小孔の総面積を, 34 容器本体の上方開放部面積の特定の割合とすること。
本発明は,これらの知見に基づいてなされたものである。すなわち, 本発明は,マイクロ波透過部材からなり上方に開放部を有する容器本体, 該容器本体の開放部を覆い容器本体内部を略密閉状態となし得る小孔付 の蓋であって,該小孔が該開放部を覆う位置に存在し,該小孔の面積の 総計が該開放部面積の0.005〜1%に相当し,かつマイクロ波透過 部材からなる蓋とから構成された容器の内部に,吸水することによって 復元し,喫食状態となる固形即席食品を収容し,該固形食品の吸水量の 100〜155重量%の水の存在下に,電子レンジで加熱調理するため の即席食品入り容器を提供する。 (2頁右上欄13行〜右下欄6行) 」(オ) 「本発明で使用する容器は,内容物を出し入れするために上方に開 放部を有した容器本体と,上記開放部を覆い容器内部を略密閉状態とな し得る小孔付の蓋とから構成される。容器本体及び蓋は,マイクロ波を 透過し,かつ電子レンジの加熱に耐えうる耐熱性材料でつくる。マイク ロ波を透過する材料としては,例えば,ポリエチレン,ポリプロピレン, ポリカーボネート,ポリスルフォン,ポリフェニレンオキサイド,ポリ エステル,ナイロン,紙及びこれらのラミネート物等が好適に使用され る。 (2頁右下欄7行〜17行) 」 「容器の構造は,カップ状,トレイ状等いずれでもよい。また,容器の 形状も逆円錐台状,円柱状,角形状等とすることができる。そして,容 器本体と蓋との接合部の構造は,電子レンジによる加熱の際に,内容物 の噴きこぼれを防止し,容器内部に蒸気が充満されるように,容器内部 を略密閉状態となし得る構造とする必要がある。上記の構造としては, 例えば,ネジ込み式の螺合構造,着脱自存な嵌着構造或いは上記接合部 を取り囲む位置に熱収縮フィルムを設け,これが電子レンジでの加熱の 際に熱収縮して蓋を容器本体に固定する構造等を採用することができ 35 る。 (3頁左上欄3行〜14行) 」(カ) 「さらに,蓋には,容器開放部を覆う位置に,小孔を設ける。この 際,小孔の大きさを容器本体の上方開放部面積の0.005〜1%,好 ましくは,0.2〜0.8%とすることが望ましい。
このように蓋に小孔を設けるのは,本発明の容器が調理時に,電子レ ンジにより強く加熱された場合,発生する水蒸気により容器内部の圧力 が異常に上昇するのを回避するためであるが,一方,この小孔が一定の 値を越えて大きい場合,発生した蒸気が容器外に揮散して容器内に蒸気 が充満した雰囲気を達成できず,食品の加熱に蒸気が十分に作用しない ため,特に食品の上部が乾燥状態となって良好に復元されず,加熱復元 は不均一で不十分となる。
そこで,蓋に前記のような適切な大きさの小孔を開けることにより, 容器内の異常な圧力の上昇を防ぐとともに,容器内の蒸気密度及び雰囲 気温度を高く保ち,これにより即席食品を良好かつ短時間で復元調理で きるようにしたのである。 (3頁左上欄15行〜右上欄13行) 」(キ) 「前記の固形即席食品を内部に収容した本発明の即席食品入り容器 は,該食品の吸水量の100〜155重量%(以下%と略称する。)の水 の存在下で電子レンジを用いて加熱調理するために用いるものである。
ここで,水の代わりに湯を用いることも,又調味液を用いることもでき る。そして,水の量は,即席食品の吸水量の100〜155%,好まし くは100〜132%とされる。ここでいう水の量には,調味液の量も 含まれる。 (3頁右下欄11行〜19行) 」(ク) 「本発明の食品入り容器をこのような状態で,電子レンジを用いて 加熱すると,蓋の小孔により異常な圧力の上昇は防止され,一方,容器 は略密閉状態となっているので,容器内部で水の沸騰水面が即席食品の 上部にまでおよぶような強い沸騰状態となり,また容器内に蒸気が充分 36 に充満して,即席食品を短時間で,完全かつ均一に復元することができ る。つまり,容器内部に蒸気が充満するので,加熱効率が高く,加熱の 後半で,即席食品の吸水が進行し,沸騰水面が下がってきても即席食品 の上部を乾燥させずに,即席食品を均一に復元することができるのであ る。 (4頁左上欄15行〜右上欄6行) 」 「本発明の即席食品入り容器は基本的に上記の構成を有するものである が,本発明の範囲内で種々の変形を行うことができる。 (5頁左上欄1 」 8行〜20行)(ケ) 「〔発明の効果〕 本発明によれば,電子レンジで加熱するだけで容器破損の恐れのない, 簡易かつ迅速に調理した即席食品が得られ,かつ余分の湯を廃棄する必 要もないといった利点が発揮される。さらに,水を添加して調理できる ので,別に湯をわかしておく必要性がなく,取扱い性が極めてすぐれる ものである。これに加えて,調理された食品は該食品が本来有するすぐ れた品質を有するものとして復元されるので,種々の食品について幅広 く利用することができる。 (5頁右上欄1行〜11行) 」(コ) 「実施例1 以下,図面を参照して,本発明の実施例について説明する。第1図は 本発明の即席食品入り容器1の断面図を示すものであり,容器本体2と その上方開方部を覆う蓋3とから構成される容器内に乾燥即席食品4が 収容されている。
容器本体2及び蓋3は,容器の内部側がポリプロピレンで外側が紙で ある構造の0.5mmのラミネート材で形成されている。容器本体2の 上方開放部の径が120mm,内部底面の径が105mm,高さが64 mmの略逆円錐台形のものである。また,容器本体2の底部には,電子 レンジテーブル5に対して内容物を上方に保持する(h 1 =9mm)ため 37 に部材6が容器本体2に一体的に形成されている。蓋3は,外径122 mm,内径が121mmの円形板7と,その上部周縁から容器本体2の 側部に張り出した部分8(この部分の上下方向の距離h 2 は12mmで ある)から構成されている。また,蓋3には直径3.2mmの円形の開 孔9が,蓋3の中央を中心として放射状に8個設けられている(この場 合の開孔率は,容器本体2の上方開放部の面積の0.57%である)。
容器本体2の上部周縁の径と蓋3の円形板7の内径がほぼ等しいこと によって,図示の状態に繋合され,容器内部が密閉される。一方,容器 本体の側壁の一部がプロピレン層のみで構成されており,ここに添加す べき水の水準を示す標示(10,10)が設けられている。 (5頁右上 」 欄12行〜左下欄19行) 「以上の構成の即席食品入り容器に12の線まで水(常温水)を加えた。
この場合,水の量は130ml(乾燥即席食品4及び乾燥調味具11の 吸水量の約130重量%)であり,容器の内底から20mmの高さであ った。次に,容器本体2に蓋3を被せて容器を密閉し,これを電子レン ジの中に入れて5分間加熱(強加熱:500W)した。加熱終了後容器 を電子レンジから取り出して蓋3を外し,麺の状態を見たところ,添加 した水はすベて麺と調味具に吸収され,透明感のあるすぐれたものであ った。そして,液体ソース15gを加えて,麺と混ぜ合わせ,ふりかけ (青のり)0.5をかけて麺(焼そば)を食べたところ,焼そばは,麺 が充分にかつ均一に復元されており,本来の良好な食感を有するもので あった。 (5頁右下欄12行〜6頁左上欄6行) 」イ 前記アの記載事項によれば,引用文献1には,次のような開示があるこ とが認められる。
(ア) 「本発明」の目的は,即席麺等の固形即席食品を,短時間で良好な 食感に復元することができ,かつ調理後に余分の湯を捨てる手間が不必 38 要で,簡易に調理できるものを提供することにある(前記ア(ウ))。
(イ) 「本発明」は,前記目的を達成するため,マイクロ波透過部材から なり上方に開放部を有する容器本体,該容器本体の開放部を覆い容器本 体内部を略密閉状態となし得る小孔付の蓋であって,該小孔が該開放部 を覆う位置に存在し,該小孔の面積の総計が該開放部面積の0.005 〜1%に相当し,かつマイクロ波透過部材からなる蓋とから構成された 容器の内部に,吸水することによって復元し,喫食状態となる固形即席 食品を収容し,該固形食品の吸水量の100〜155重量%の水の存在 下に,電子レンジで加熱調理するための即席食品入り容器の構成を採用 した(前記ア(エ)) これにより「本発明」は,電子レンジで加熱するだけで容器破損の恐 れのない,簡易かつ迅速に調理した即席食品が得られ,かつ余分の湯を 廃棄する必要もないといった利点が発揮され,また,水を添加して調理 できるので,別に湯を沸かしておく必要性がなく,取扱い性が極めて優 れ,これに加えて,調理された食品は該食品が本来有する優れた品質を 有するものとして復元されるので,種々の食品について幅広く利用する ことができるという効果を奏する(前記ア(ケ))。
? 引用文献5の記載事項 引用文献5(甲6)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する 図1,2及び5については別紙3を参照)。
ア 【特許請求の範囲】 【請求項1】 孔部として,最小の径又は幅が200μm以下である貫通孔及び/又は陥 没孔を有するプラスチック構造体の製造方法であって,前記孔部を,多光 子吸収過程を利用したレーザー加工により形成することを特徴とする微小 孔部を有するプラスチック構造体の製造方法
39 【請求項7】 パルス幅が10 -9 秒以下の超短パルスのレーザーを,該超短パルスのレー ザーの照射方向に対して垂直な方向に且つプラスチック表面に対して平行 な方向に,超短パルスのレーザーの焦点を移動させながら照射する請求項 4〜6の何れかの項に記載の微小孔部を有するプラスチック構造体の製造 方法。
イ 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,微小孔部を有するプラスチック構造体の製造方法及び該製造方 法による微小孔部を有するプラスチック構造体に関するものである。
【0002】 【従来技術】 近年,プラスチック部品の高機能化,高性能化の要求が高くなってきてい る。それらの要求に対して,プラスチック材料自身をポリマーアロイ化し たり複合化したりする材料面での技術対応と,要求機能に合わせて機能部 位を付加する加工面での技術対応の二つの取り組みが行われている。プラ スチック部品の表面の高機能化・高性能化は,表面の濡れ性,接着性,吸 着性,制電性,水分やガスに対するバリアー性,表面硬さ,光反射性,光 散乱性,光透過性などの制御の必要性から,材料・加工両面から色々な技 術的な取り組みがされてきている。例えば,プラスチック部品に,微細孔 の形成によって,フィルター,メンブレン,セパレータなどの機能を付加 する際には,主に延伸,抽出,相分離などの方法が利用されている。
【0003】 一方,レーザー光源に関する技術進歩は著しく,特に,パルスレーザーは, ナノ(10 -9 )秒からピコ(10 -12 )秒と超短パルス化が進み,更に最 近では,チタン・サファイア結晶などをレーザー媒質とするフェムト(1 40 0 -15)秒パルスレーザーなどが開発されてきている。ピコ秒やフェムト 秒などの超短パルスレーザーシステムは,通常のレーザーの持つ,指向性, 空間的・時間的コヒーレンスなどの特徴に加えて,パルス幅が極めて狭く, 同じ平均出力でも単位時間・単位空間当りの電場強度が極めて高いことか ら,物質中に照射して高い電場強度を利用して誘起構造を形成させる試み が,無機ガラス材料を主な対象物として行われてきている。
ウ 【0006】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら,前記特開平10-118569号公報に記載のレーザーを 用いた微細粒子加工分級用フィルターの製造方法では,超短パルスレーザ ーの特有の効果が発揮されておらず,プラスチックに,微小径の孔部(特 に,最小の径又は幅が200μm以下である貫通孔及び/又は陥没孔から なる微小孔部)を形成することができない。
【0007】 従って,本発明の課題は,プラスチックに,微小径の孔部を容易に形成す ることができる微小孔部を有するプラスチック構造体の製造方法及び該 製造方法による微小孔部を有するプラスチック構造体を提供することに ある。
本発明の他の課題は,さらに,マスクが不要であり,しかも,優れた生産 性で微小な貫通孔及び/又は陥没孔を形成することができる微小孔部を 有するプラスチック構造体の製造方法及び該製造方法による微小孔部を 有するプラスチック構造体を提供することにある。
エ 【0008】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは,上記課題を解決するため鋭意検討した結果,プラスチック フィルムに,パルス幅が10 -9秒以下で且つ波長が可視光領域の超短パル 41 スのレーザーを照射すると,多光子吸収が生じることにより,プラスチックフィルムに精密な微小孔部を形成することができることを見出した。本発明は,これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0009】すなわち,本発明は,孔部として,最小の径又は幅が200μm以下である貫通孔及び/又は陥没孔を有するプラスチック構造体の製造方法であって,前記孔部を,多光子吸収過程を利用したレーザー加工により形成することを特徴とする微小孔部を有するプラスチック構造体の製造方法を提供する。
【0010】本発明の微小孔部を有するプラスチック構造体の製造方法では,孔部を形成する前の被加工プラスチック基材としては,プラスチックシート又はフィルムを好適に用いることができる。
【0011】微小孔部を有するプラスチック構造体としては,微小孔部を有するプラスチック構造体が,貫通孔を有し,且つフィルター機能,メンブレン機能,セパレータ機能,霧化機能,ガス拡散化機能,ノズル機能,または流路調整機能を有していることが好ましい。
【0012】多光子吸収過程を利用したレーザー加工としては,パルス幅が10 -9 秒以下の超短パルスのレーザーを用いたレーザー加工であってもよく,該パルス幅が10 -9 秒以下の超短パルスのレーザーとしては,紫外線波長領域〜近赤外線波長領域の波長を有する超短パルスのレーザーであってもよい。
このようなパルス幅が10 -9 秒以下の超短パルスのレーザーは,多光束干渉で照射することができる。また,パルス幅が10 -9 秒以下の超短パルスのレーザーを,該超短パルスのレーザーの照射方向に対して垂直な方向に 42 且つプラスチック表面に対して平行な方向に,超短パルスのレーザーの焦 点を移動させながら照射することが好ましい。
オ 【0015】 【発明の実施の形態】 以下,本発明の実施の形態を,必要に応じて図面を参照しつつ説明する。
なお,同一の部位又は部材には同一の符号を付している場合がある。
(微小孔部を有するプラスチック構造体) 本発明の微小孔部を有するプラスチック構造体は,孔部として,最小の径 又は幅が200μm以下である微小孔部を有するプラスチック構造体で あり,前記孔部が,多光子吸収過程を利用したレーザー加工により形成さ れている。このような微小孔部(単に「孔部」と称する場合がある)とし ては,一方の表面から他方の表面に貫通している形状の貫通孔,表面から 内部に陥没している形状の陥没孔のいずれであってもよく,貫通孔および 陥没孔が組み合わせられていてもよい。すなわち,微小孔部を有するプラ スチック構造体は,孔部として,最小の径又は幅が200μm以下である 貫通孔及び/又は陥没孔を有することができる。
【0016】 このような微小孔部を有するプラスチック構造体としては,例えば,図1 〜4に示されるような微小貫通孔や微小陥没孔を有するプラスチック構 造体が挙げられる。図1〜2は,それぞれ,微小貫通孔を有するプラスチ ック構造体の例を模式的に示す概略鳥瞰図である。具体的には, (a) 図1 は,微小貫通孔を有するプラスチック構造体の一例を模式的に示す概略鳥 瞰図であり,図1(b)は,図1(a)におけるX1-X1´線における 断面図である。また,図2(a)は,微小貫通孔を有するプラスチック構 造体の他の例を模式的に示す概略鳥瞰図であり,図2(b)は,図2(a) におけるX2-X2´線における断面図である。図1の微小貫通孔を有す 43 るプラスチック構造体は,プラスチックフィルム1の一方の表面から他方の表面に貫通して形成された貫通孔2aを複数個有している。また,図2の微小貫通孔を有するプラスチック構造体は,プラスチックフィルム1の一方の表面から他方の表面に貫通して形成された貫通孔2bを複数個有している。具体的には,貫通孔2aは,円筒状の形状を有している。貫通孔2bは,前記円筒状の貫通孔2aが複数連結した形状又はこれに類似する形状を有している。従って,貫通孔2bは,短径(幅)は微小であるが,微小ではない長径を有する構造の貫通孔となっている。
【0018】このように微小孔部を有するプラスチック構造体として,微小貫通孔2aや微小陥没孔2c等のような,プラスチック表面の形状が円形状となっている貫通孔や陥没孔(「単独孔部」と称する場合がある)が形成されたプラスチックや,微小貫通孔2bや微小陥没孔2d等のような,前記単独孔部が連結された形状又はこれに類似する形状の貫通孔や陥没孔(「連結孔部」と称する場合がある)が形成されたプラスチックを形成することができる。
【0019】前記微小孔部(微小貫通孔2a,2bや,微小陥没孔2c,2d)の径は,最小の径又は幅が200μm以下であればよく,例えば,0.05〜200μm(好ましくは0.05〜100μm,さらに好ましくは0.5〜50μm)の範囲から選択することができる。微小孔部が単独孔部である場合は,その径としては,直径(又は平均径)を意味しており,連結孔部である場合は,径としては幅を意味している。また,微小孔部の径は,プラスチック表面(又は該表面と同一の面)における径を意味している。
【0020】なお,微小孔部が,連結孔部の場合のように,長径と短径とを有するような形状を有している場合,その径としては,短径が200μm以下であれ 44 ばよく,長径の長さは特に制限されない。具体的には,微小孔部の径としては,例えば,短径が0.05〜200μmであり,長径が0.05μm以上(例えば,0.05〜100000μm)であってもよい。また,好ましい微小孔部の径としては,短径が0.05〜100μmであり且つ長径が0.1μm以上(例えば,0.1〜5000μm)であり,さらには,短径が0.5〜50μmであり且つ長径が0.1〜1000μmであることが好ましい。
【0024】微小孔部を有するプラスチック構造体としては,微小孔部を,1つのみ有していてもよく,図1〜4で示されるように複数有していてもよい。微小孔部を複数有する場合,隣り合った孔部間の間隔は,前記最小の径又は幅と同じかそれ以上であることが好ましい。隣り合った孔部間の間隔は,一定であっても,一定でなくてもよい。なお,隣り合った孔部間の間隔としては,孔部が単独孔部である場合,プラスチック表面の円形状の中心間距離を意味し,孔部が連結孔部である場合,プラスチック表面の幅方向における中心間距離を意味することができる。
【0025】(微小孔部を有するプラスチック構造体の形成)本発明の微小孔部を有するプラスチック構造体は,多光子吸収過程を利用したレーザー加工により形成することができる。多光子吸収過程を利用することにより,使用するレーザー光の波長が,孔部を形成する前の被加工プラスチック基材の素材(ポリマー成分)による吸収波長よりも長くても,前記被加工プラスチック基材に,最小の径又は幅が200μm以下である微小孔部を形成する加工を行うことができる。すなわち,多光子吸収過程を利用したレーザー加工により,微細加工を効率よく,しかも優れた精度で行うことができる。
45 【0027】このような多光子吸収過程を利用したレーザー加工方法としては,レーザーを照射して加工する際に,多光子吸収過程を利用して加工する方法であれば特に制限されず,例えば,パルス幅が10 -9 秒以下の超短パルスのレーザー(「超短パルスレーザー」又は「レーザー」と称する場合がある)を用いたレーザー加工方法を好適に採用することができる。このような超短パルスレーザーとしては,チタン・サファイア結晶を媒質とするレーザーや色素レーザーを再生・増幅して得られたパルス幅が10 -9秒以下のパルスレーザー,エキシマレーザーやYAGレーザー(Nd-YAGレーザー等)の倍波によるパルス幅が10 -9 秒以下のパルスレーザーなどを用いることができ,特に,チタン・サファイア結晶を媒質とするレーザーや色素レーザーを再生・増幅して得られたパルス幅が10 -12 秒〜10 -15 秒のフェムト秒のオーダーのパルスレーザー(フェムト秒パルスレーザー)を好適に用いることができる。もちろん,超短パルスレーザーにおけるパルス幅は,10 -9 秒以下であれば特に制限されず,例えば,10-9 秒から10 -12 秒のピコ秒オーダーや,10 -12 秒から10 -15 秒のフェムト秒のオーダー(好ましくは10 -12 秒から10 -15 秒のフェムト秒のオーダー)であり,通常は,100フェムト秒(10 -13 秒)程度である。このようなチタン・サファイア結晶を媒質とするレーザーや色素レーザーを再生・増幅して得られたパルス幅が10 -9 秒以下のパルスレーザーや,エキシマレーザーやYAGレーザー(Nd-YAGレーザー等)の倍波によるパルス幅が10 -9 秒以下のパルスレーザーなどの超短パルスレーザーを用いると,パルスエネルギーが高いので,多光子吸収過程を利用したレーザー加工を行うことができ,その尖塔のパワーにより波長より狭い幅の微細加工を行うことができるようになる。従って,超短パルスレーザーを用いて多光子吸収過程を利用したレーザー加工により,最小の径又は幅が200μm以 46 下である微小孔部[特に,短径が0.05〜200μmであり且つ長径が 0.05μm以上(例えば,0.05〜100000μm)である微小孔 部(なかでも,微小貫通孔)]を形成することができるようになる。なお, 長径が長い場合には直線状でなく,曲線,折れ曲がり線等の任意な形状で あっても良い。
カ 【0034】 多光子吸収過程を利用したレーザー加工により,微小孔部を有するプラス チック構造体を製造する方法の一例として,パルス幅が10 -9 秒以下の超 短パルスのレーザーを用いてレーザー加工する方法の例を下記に示すが, もちろん,このレーザー加工方法に限定されない。パルス幅が10 -9 秒以 下の超短パルスのレーザーを用いたレーザー加工方法としては,例えば, 図5で示されているように,孔部を形成する前の被加工プラスチック基材 の表面及び/又は内部に,パルス幅が10 -9 秒以下の超短パルスのレーザ ー(超短パルスレーザー)を照射することにより,被加工プラスチック基 材に最小の径又は幅が200μm以下である貫通孔及び/又は陥没孔を 形成する方法が挙げられる。図5は,微小孔部を有するプラスチック構造 体の製造方法の一例を示す概略鳥瞰図である。図5において,1はプラス チックフィルム,1aはプラスチックフィルム1の上面(表面),1bはプ ラスチックフィルム1の底面(裏面) Tはプラスチックフィルム1の厚さ, , 3はパルス幅が10 -9 秒以下である超短パルスレーザー,4はレンズ,5 はレーザー3の焦点である。また,6はレーザー3の照射方向であり,7 はレーザー3の焦点5の移動方向である。
【0035】 また,81,82,…,8n(nは1以上の整数である)はそれぞれレー ザー3の焦点5をライン状に移動させる際のラインである[以下,ライン (81,82, 8n) …, をライン8として総称する場合がある] 従って, 。
47 ライン8は,焦点5の移動方向7と平行又は同一の方向に延びている。ライン8は,焦点5をライン状に移動させる際のラインであるので,焦点5がライン状に移動した軌跡(「ライン状移動軌跡」と称する場合がある)に対応又は相当する。なお,ライン8としては,ライン81〜ライン8nまで単数ないし複数有しており,各ライン同士は平行な関係にある。
【0036】また,Lはライン8における隣接又は近接したライン(81,82,…,8n)間の間隔を示している。該間隔Lは,特に制限されず,ラインの移動速度で決定することができる。間隔Lとしては,通常,5〜10μm程度の範囲から選択される場合が多い。なお,超短パルスレーザーの照射装置にシャッターを設け,該シャッターを利用して,超短パルスレーザーによるレーザー光の光路を絶つことにより,ライン間隔を制御することができる。
【0037】図5では,レーザー3は,プラスチックフィルム1に向けて,照射方向6の向きで,すなわちZ軸と平行な方向で,照射している。なお,レーザー3はレンズ4を用いることにより焦点を絞って合わせることができる。また,プラスチックフィルム1はフィルム状の形態を有しており,該プラスチックフィルム1の上面はX-Y平面と平行な面(またはZ軸と垂直)となっている。なお,プラスチックフィルム1の厚みTは,レーザー3を照射方向6の向きに移動させずに照射しても(例えば,プラスチックフィルム1の表面に焦点を合わせて照射しても),貫通孔を形成することが可能な薄さを有しており,具体的には,例えば,0.1〜10000μm程度の厚さであってもよい。
【0038】また,レーザー3は,その焦点5を移動方向7の向き(すなわちY軸と平 48 行な向き)に,ライン状に移動させながら照射させている。従って,その結果として,焦点5をライン8上をライン状に移動方向7の向きに移動させながら,レーザー3が照射されていることになる。前記移動方向7は,照射方向6に対して垂直な方向であり,且つプラスチックフィルム1の表面1aに対して平行な方向である。従って,ライン8は,焦点5の移動方向7と平行であり,照射方向6とは垂直となっている。さらに,ライン8は,プラスチックフィルム1の表面1aに対して平行な方向となっている。
なお,レーザー3の焦点5を移動方向7にライン状に移動させる際の該焦点5の移動速度としては,特に制限されず,例えば,10〜1,000,000μm/秒(好ましくは100〜10,000μm/秒)程度の範囲から選択してもよい。
【0039】このように,プラスチックフィルム1に対してレーザー3を,照射方向6と垂直な方向である移動方向7に移動させながら照射することにより,独立孔部としての貫通孔(被加工プラスチック基材表面の形状が円形状となっている独立した微小貫通孔)が連結された形状又はこれに類似する形状の貫通孔(すなわち,連結孔部としての貫通孔)を形成することができる。
すなわち,短径と長径とを有する微小貫通孔を形成することができる。
【0050】なお,微小孔部間の間隔[例えば,複数のライン状に形成された微小孔部の隣接するライン上における微小孔部間の間隔(すなわち,ライン8が形成された方向に対して垂直な方向における間隔)や,1つのライン上における独立孔部や連結孔部間の間隔など],微小孔部の数(例えば,1つのライン上における独立孔部や連結孔部の数など)などは,特に制限されず,レーザーの照射条件や被加工プラスチック基材の素材等に応じて適宜選択することができる。
49 キ 【0055】 本発明の方法により製造された微小孔部を有するプラスチック構造体は, 表面や内部に精密に制御された微小な孔部(貫通孔や陥没孔)を有してい るので,前記精密に制御して形成された微小孔部を利用した各種機能を効 果的に発揮することができる。特に,微小孔部を有するプラスチック構造 体は,微小貫通孔を有している場合,フィルター機能,メンブレン機能, セパレータ機能,霧化機能,ガス拡散化機能,ノズル機能や流路調整機能 などを発揮することができる。
ク 【0061】 (実施例1) 0.025mm厚さのポリイミド(PI)フィルムの表面から裏面方向(他 の表面の方向または奥方向)に移動速度8000μm/sの条件で移動さ せながら,照射波長780nm,パルス幅140フェムト秒,繰り返し1 kHzのチタン・サファイア・フェムト秒パルスレーザーを,照射出力5 0mW,対物レンズの倍率10倍で,照射スポット約10μm径の条件で 照射し,その後,純水中で超音波洗浄を行ったところ,微小貫通孔を有す るプラスチックが得られた。この微小貫通孔を有するプラスチックを,光 学顕微鏡で観察したところ,5μm径の貫通孔が8μm間隔の等間隔で形 成していた。
【0062】 (実施例2) 0.15mm厚さで且つカーボンブラックが50重量%混合されているポ リテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム(2倍延伸品)に,実施 例1と同じパルスレーザーを,照射出力30mWで,移動速度500μm /sで走査させながら,1秒ごとにシャターの開閉を繰り返し行った。そ の後,純水中で超音波洗浄を行ったところ,微小貫通孔を有するプラスチ 50 ックが得られた。この微小貫通孔を有するプラスチックを,光学顕微鏡で 観察したところ,短径20μm幅,長径500μmの長溝状の貫通孔が等 間隔で形成していた。
? 本件出願の優先日当時の周知技術について ア 引用文献2の記載事項 引用文献2(甲7)には,次のような記載がある。
(ア) 「(イ)産業上の利用分野 本考案は,成形された米飯食品用包装容器に関し,特に,一個又は複 数個の成形された米飯食品を収容する成形された米飯食品の包装容器に 関する。また,本考案は,成形された米飯食品,即ち,握り飯及び寿司 を包装する箱型の包装容器に関し,特に,透明包装容器の壁を曇らせる ことなく寿司を包装容器内に収容することができる箱型の寿司包装容器 に関する。 (1頁11行〜19行) 」 (イ) 「(ニ)課題を解決するための手段 本考案は,寿司を包装容器に入れて,味及び匂いが変化することなく, また,寿司を包装容器に入れても,透明壁が曇ることないような寿司用 の包装容器を提供することを目的としている。
即ち,本考案は,内側の食品支持面に凹凸が形成されている台部と, 台部の側面に気密に接触する側部を有し,透明材料により形成されてい る蓋部を備える成形された米飯食品用包装容器において,蓋部に複数個 の孔が形成されていることを特徴とする成形された米飯食品用包装容器 にある。
本考案において,成形された米飯食品用,特に,寿司用の包装容器は, 蓋部と台部から形成されており,台部には,寿司の具から出るドリップ を収容するために,内側に凸部が形成され,蓋部には,包装容器の透明 壁が,飯からの蒸気の凝結によって曇らないように,孔が形成される。
51 孔が大きいと,曇りは防止されても,寿司の飯が乾燥して固くなり,ま た,虫が入り易くなって好ましくない。
そこで,本考案においては,成形された米飯食品用包装容器の蓋部に 形成される孔は,円形の孔,多角形の孔又はスリット状の孔などの適宜 の形状で,虫や塵埃が容易に入らないような大きさとされる。
また,孔の数は,包装容器内の相対湿度が,少なくとも10時間の間 95%以上に保たれるように,全孔の総開口面積により決定されるのが 好ましい。この場合,孔の総開口面積は,寿司を包装した後,室温で, 15分以下で蓋部に形成される結露による曇りが解消されるように,例 えば,約15mm 2 以上,好ましくは,約25mm 2 以上となるように形 成されるのが好ましい。また,保存庫の温度が低い場合,例えば冷蔵庫 内に保存する場合には,例えば,約30mm 2以上,好ましくは,約50 mm2以上となるように形成されるのが好ましい。複数の孔は,横に一列 に形成してもよいが,上下二段等に,複数段に形成されるのが,蓋部内 の水蒸気が,一様に逃散できるので好ましい。例えば,本考案において, 孔の大きさは,2mm以下の大きさとすることができる。しかし,1. 5mm以下,殊に,1mm以下の大きさとすると,虫の侵入が防止でき るので好ましい。 (3頁5行〜5頁6行) 」 イ 周知技術について 前記アの記載事項及び容器内に侵入のおそれがあるとされる異物の大 きさは,米飯食品用包装容器と他の用途の食品用包装容器とで差異はない ものと考えられることによれば,本件出願の優先日当時,食品用包装容器 の技術分野において,食品を収納する容器の蓋部に形成する孔の大きさを 1mm以下とすると,容器内への異物(虫や塵埃)の混入を抑制できるこ とは,周知であったことが認められる。
? 相違点1の容易想到性の判断の誤りについて 52 ア 相違点1の容易想到性について (ア) 引用文献1には,請求項1記載の「電子レンジで加熱調理するため の即席食品入り容器」の実施例(実施例1)として,上方開放部の径が 120mm,内部底面の径が105mmの容器本体2とその上方開方部 を覆う蓋3とから構成される容器内に乾燥即席食品4が収容され,蓋3 には直径3.2mmの円形の開孔9が,蓋3の中央を中心として放射状 に8個設けられ,その開孔率が容器本体2の上方開放部の面積の0.5 7%である構成を有する即席食品入り容器の記載がある(前記?ア(コ), 第1図)。
そして,引用文献1には, 「3)また,蓋の構造は,加熱時に容器内圧 が極端に高くなって容器が破裂することを防止し,かつ,容器内圧を調 圧するための小孔を容器の蓋に設けることが効果的であって,この際, 小孔の総面積を,容器本体の上方開放部面積の特定の割合とすること。」 は, 「発明者ら」が得た「本発明」の基礎となる知見の一つであること(前 記?ア(エ)) 「さらに,蓋には,容器開放部を覆う位置に,小孔を設け , る。この際,小孔の大きさを容器本体の上方開放部面積の0.005〜 1%,好ましくは,0.2〜0.8%とすることが望ましい。…そこで, 蓋に前記のような適切な大きさの小孔を開けることにより,容器内の異 常な圧力の上昇を防ぐとともに,容器内の蒸気密度及び雰囲気温度を高 く保ち,これにより即席食品を良好かつ短時間で復元調理できるように したのである。 (前記?ア(カ))との記載があることに照らすと,実施 」 例1の即席食品入り容器の「蓋3の中央を中心として放射状に8個設け られた直径3.2mmの円形の開孔9」は, 「容器内の異常な圧力の上昇 を防ぐとともに,容器内の蒸気密度及び雰囲気温度を高く保ち,これに より即席食品を良好かつ短時間で復元調理できるように」するために容 器の蓋に設けられた「小孔」に相当するものと理解できる。また,この 53 「小孔」(開孔9)の開孔面積は1個当たり約8.03mm 2(1.6m m×1.6mm×3.14)であるから,その開孔面積の合計は,約6 4.24mm 2(8.03mm 2 ×8)となることを読み取ることができ る。
加えて,引用文献1には,実施例1の即席食品入り容器において, 「小 孔」 (開孔9)を被覆又は包皮する部材を備えることを示す記載はないか ら,このような部材を備えていないものと理解できる。
一方で,引用文献1には,即席食品入り容器の蓋に設ける「小孔」の 形状を特定の形状に限定する記載や示唆はなく,また, 「小孔」を形成す る具体的な方法についての記載や示唆もない。
(イ) 次に,前記(2)の記載事項によれば,引用文献5には,@従来のレー ザーを用いた微細粒子加工分級用フィルターの製造方法では,超短パル スレーザーの特有の効果が発揮されておらず,プラスチックに,最小の 径又は幅が200μm以下である貫通孔及び/又は陥没孔からなる微 小孔部を形成することができないという問題があったこと(【000 6】 ,A「本発明」の課題は,プラスチックに,微小孔部を容易に形成 ) することができるプラスチック構造体の製造方法を提供することにあ り,その課題を解決するための手段として,最小の径又は幅が200μ m以下である貫通孔及び/又は陥没孔からなる孔部を,多光子吸収過程 を利用したレーザー加工により形成することを特徴とする微小孔部を 有するプラスチック構造体の製造方法の構成を採用したこと(【000 7】 【0009】 ,B多光子吸収過程を利用したレーザー加工方法の例 , ) として,パルス幅が10 -9 秒以下の超短パルスのレーザー3を用いて, 図5(別紙3)に示すように,プラスチックフィルム1に向けて,照射 方向6の向き(Z軸と平行な方向)で照射して,貫通孔を形成し,その 焦点5を移動方向7の向き(Y軸と平行な向き)にライン状に移動させ 54 ながら照射することによって,短径と長径とを有する連結孔部としての貫通孔を形成することができること(【0034】ないし【0039】 , )Cレーザー3の焦点5をライン状に移動させる際のラインとして,ライン81〜ライン8nまで単数ないし複数有しており,各ライン同士は平行な関係にあること(【0035】)の開示があることが認められる。
上記開示事項によれば,引用文献5には,プラスチック構造体に短径と長径とを有する連結孔部としての貫通孔である「小孔」を複数形成する方法として,幅200μm以下のレーザーを照射して貫通孔を形成し,そのレーザーを照射方向と垂直な方向に移動させながら,照射することによって上記形状の「小孔」を複数形成する方法が記載されていることが認められる。そして,レーザー加工がレーザー照射によりプラスチックを溶融させて加工するものである以上,貫通するまでに所定の時間(本件発明1の準備時間(t 3 )に相当)レーザーを照射すること,目標とする形状に加工が完了するまでの間(本件発明1の作業時間(t 4 )に相当),レーザーの照射を継続すること,複数の小孔を作成する際,次のラインの小孔の形成に移る間はレーザーの照射をオフにすることは,いずれも自明であるといえる。
しかるところ,引用文献1には,即席食品入り容器の蓋に設ける「小孔」の形状を特定の形状に限定する記載や示唆はなく,また, 「小孔」を形成する具体的な方法についての記載や示唆もないのに対し(前記(ア)),引用文献5には, 「本発明」の課題は,プラスチックに,微小孔部を容易に形成することができるプラスチック構造体の製造方法を提供することにあるとの記載があること(上記A) 電子レンジ加熱食品用容器におい ,て,加熱時に発生する水蒸気を逃すために設ける孔をいかなる形状にし,どの程度設けるかは,当業者が水蒸気の排出量を勘案して適宜選択する設計的事項であること,引用文献1記載の実施例1の即席食品入り容器 55 の「小孔」(開孔9)の開孔面積は1個当たり約8.03mm 2 で,その 開孔面積の合計は約64.24mm 2(8.03mm 2 ×8)であること (前記(ア))に鑑みると,引用文献1及び5に接した当業者においては, 引用文献1の実施例1記載の即席食品入り容器内に収容された食品から 発生する水蒸気を外部に排出するため,蓋に設けられた8個の円形の「小 孔」について,その形状を「長孔」とし,これを形成するために,プラ スチック構造体に対するレーザー照射による加工方法である,引用文献 5に開示された幅が200μm以下である貫通孔を形成する加工方法を 採用して,開孔面積の合計が約64.24mm 2 となるように,その「長 孔」の幅を200μm以下(0.2mm以下)に設定することを試みる 動機付けがあるものと認められるから,上記「小孔」を「幅0.15〜 1.0mm」の数値範囲の「排気長孔を複数穿設して排気長孔群からな る排気部」の構成とすることを容易に想到することができたものと認め られる。
したがって,当業者は,引用文献1及び5に基づいて,引用発明にお いて,相違点1に係る本件発明1の構成とすることを容易に想到するこ とができたものと認められる。
イ 原告の主張について 原告は,@本件発明1の解決課題及び技術思想と引用発明の解決課題及 び技術思想は異なり,引用発明の「小孔」と本件発明1の「幅0.15〜 1.0mmの排気長孔を複数穿設して排気長孔群からなる排気部」とは, その技術的意義を異にするから,引用発明から, 「良好な水蒸気排気」と 「異物混入抑制」とを一つの構成手段によって(異物混入防止のための 部材を備えることなく,排気長孔群からなる排気部だけで)実現すると いう本件発明1の解決課題は生じ得ない,A引用発明に引用文献5記載 の技術を組み合わせて適用しても「幅0.15〜1.0mmの排気長孔を 56 複数穿設して排気長孔群からなる排気部」の構成(相違点1に係る本件発 明1の構成)を得ることができないから,当業者が,引用発明において, 相違点1に係る本件発明1の構成とすることを容易に想到することがで きたものといえない旨主張する。
しかしながら,前記ア(イ)で説示したとおり,引用文献1には,即席食品 入り容器の蓋に設ける「小孔」の形状を特定の形状に限定する記載や示唆 はなく,また, 「小孔」を形成する具体的な方法についての記載や示唆もな いのに対し,引用文献5には, 「本発明」の課題は,プラスチックに,微小 孔部を容易に形成することができるプラスチック構造体の製造方法を提 供することの記載があることに照らすと, 「即席食品入り容器」の蓋の「小 孔」を容易に形成するために引用文献5記載のレーザー加工方法を採用す る動機付けがあるものと認められ,また,当業者は,引用文献1及び5に 基づいて,引用発明において, 「幅0.15〜1.0mmの排気長孔を複数 穿設して排気長孔群からなる排気部」の構成に容易に想到することができ たものと認められる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(5) 相違点2の判断の誤りについて ア 引用文献1及び5に接した当業者が,引用文献1の実施例1記載の即席 食品入り容器の蓋に設けられた8個の円形の「小孔」について,その形状 を「長孔」とし,その「長孔」の幅を200μm以下(0.2mm以下) に設定して, 「幅0.15〜1.0mm」の数値範囲の「排気長孔を複数穿 設して排気長孔群からなる排気部」の構成とすることを容易に想到するこ とができたことは,前記?アで説示したとおりである。
また,本件出願の優先日当時,食品用包装容器の技術分野において,食 品を収納する容器の蓋部に形成する孔の大きさを1mm以下とすると,容 器内への異物(虫や塵埃)の混入を抑制できることが,周知であったこと 57 は,前記(3)イ認定のとおりである。
上記周知の事項を踏まえると,引用文献1の実施例1記載の即席食品入 り容器の蓋に設けられた8個の円形の「小孔」の形状を「長孔」とし,そ の「長孔」の幅を200μm以下(0.2mm以下)に設定した構成のも のは,孔の大きさが1mm以下となるから,容器内への異物(虫や塵埃) の混入を抑制できることが認められ,また,異物混入防止のために, 「小孔」 を被覆又は包皮する部材を備える必要がないことは自明である。
そうすると,当業者は,引用文献1及び5,上記周知の事項に基づいて, 引用発明において,相違点2に係る本件発明1の構成とすることを容易に 想到することができたものと認められる。
イ この点に関し本件決定は,前記アの周知の事項を踏まえると, 「小孔」を 備えた引用発明は, 「異物混入防止のため」の「排気部を被覆又は包皮する 部材」を備えずとも,容器内への異物の混入が抑制できる作用を奏するも の,すなわち「小孔」は「水蒸気を外部に排気するとともに異物混入を抑 制するもの」であるといえるとして,相違点2は,実質的なものではない 旨判断したが,引用文献1には, 「小孔」の大きさが1mm以下であること をうかがわせる記載はないから,引用発明の「小孔」が「水蒸気を外部に 排気するとともに異物混入を抑制するもの」であるとする論理付けは不十 分であり,上記判断には誤りがある。
しかしながら,前記アのとおり,当業者は,引用文献1及び5,上記周 知の事項に基づいて,引用発明において,相違点2に係る本件発明1の構 成とすることを容易に想到することができたものと認められるから,本件 決定の上記誤りは,決定の結論に影響を及ぼすものではない。
(6) 小括 以上のとおり,当業者は,引用文献1及び5,本件出願の優先日当時の周 知の事項に基づいて,引用発明において,相違点1及び2に係る本件発明1 58 の構成とすることを容易に想到することができたものと認められる。
したがって,本件決定は,結論において相当であるから,原告主張の取消 事由1は理由がない。
3 取消事由2(手続違背)について 原告は,本件決定は,引用文献1ないし5のほかに,甲9及び10の記載か ら, 「電子レンジで加熱する容器においても,水蒸気を排出する孔から塵挨や虫 などの異物が混入するおそれがあること」は本件出願の優先日前に周知の課題 であり,原告が主張する「解決すべき技術的課題」が「斬新性」を有するとま ではいえないと結論付けたものあるから,新たに引用した甲9及び10をもっ て実質的に本件発明1の進歩性を否定したものであり,原告に対して,甲9及 び10に対する弁明の機会を与えず,本件特許を取り消す旨の決定を行ったも のと評価されるべきであるから,本件の特許異議の申立ての手続には,特許法 120条の5の規定に反する手続違背がある旨主張する。
しかしながら,本件決定は,本件発明1は,引用文献1(甲2)に記載され た発明(引用発明),引用文献5(甲6)に記載された事項及び引用文献2ない し4(甲4,7,8)を周知例とする周知の事項に基づいて容易に発明をする ことができたと判断したものであって,甲9及び10は,原告が令和2年11 月18日付け意見書で述べた解決すべき課題の斬新性の主張に対する応答に当 たって示したものにすぎず,これらを本件発明1の容易想到性の判断の論理付 けにおいて適用したものとは認められないから,原告の上記主張は前提を欠く ものである。
また,原告の主張は,甲9及び10に対する弁明の機会が与えられなかった ことによって,本件特許の特許請求の範囲,明細書について訂正をする機会を 奪われたことを述べるものではなく,原告に上記弁明の機会が与えられなかっ たからといって,原告に実質的な不利益が生じているものとは認められない。
したがって,原告の上記主張(取消事由2)は理由がない。
59 4 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件決定にこれ を取り消すべき違法は認められない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものであるから,主文のとおり判 決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 小林康彦
裁判官 小川卓逸