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事件 |
令和
3年
(行コ)
10001号
手続却下処分取消等請求控訴事件
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控訴人ヴェニアム,インク 同特許管理人弁護士 千且和也 同特許管理人弁理士 矢口太郎 被控訴人国 同 指定代理人笠間那未果 石川健太 大江摩弥子 今福智文 尾ア友美 久保田貴雄 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2022/01/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。 2 特許庁長官が特願2018-553340号について令和元年8月15日 付けでした,平成30年6月12日付け提出の国内書面に係る手続の却下の 処分を取り消す。 1 |
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事案の概要(略称は,特に断りのない限り,原判決に従う。)
1 事案の要旨 本件は,米国法人である控訴人が,千九百七十年六月十九日にワシントンで 作成された特許協力条約に基づく外国語特許出願(特願2018-55334 0号。以下「本件国際特許出願」という。)につき,国内書面提出期間内に明 細書等翻訳文を提出することができなかったことについて,特許法(以下「法」 という。)184条の4第4項の「正当な理由」があるとして,国内書面提出 期間経過後に国内書面及び明細書等翻訳文の提出をしたが,特許庁長官から, 「正当な理由」があるとはいえず,本件国際特許出願は,同項の要件を満たし ていないため,同条3項の規定により取り下げられたものとみなされたとして, 上記提出手続(国内書面に係る手続)の却下処分(以下「本件却下処分」とい う。)を受けたため,その取消しを求める事案である。 原審は,控訴人が国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することがで きなかったことについて「正当な理由」があるものとは認められず,また,本 件国際特許出願について法184条の5第2項1号の補正命令を発せずにした 本件却下処分が憲法14条,22条及び31条に違反するということはできな いとして,控訴人の請求を棄却した。 そこで,控訴人が,原判決を不服として本件控訴を提起した。 2 前提事実及び争点 原判決の「事実及び理由」の第2の2及び3記載のとおりであるから,これ を引用する。 |
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争点に関する当事者の主張
1 争点1(正当な理由の有無)について 原判決8頁末行の「第1項」を「第4項」と改め,次のとおり当審における 控訴人の補充主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の第3の1記載 のとおりであるから,これを引用する。 2(当審における控訴人の補充主張) 法184条の4第4項の立法趣旨や立法経緯,特許庁のガイドライン(甲43,乙4)に鑑みると,期間徒過の原因となった事象が予測可能であるといえない場合は,当該事象により期間徒過に至ることのないように事前に措置を講じておくことを出願人等に求めるのは酷であることからすると,期間徒過の原因となった事象が出願人等の補助者の人為的ミスに起因するときは,ガイドラインの「相応の措置」 (状況に応じて必要とされるしかるべき措置)が採られたかどうか,すなわち,期間内に手続をすることができなかったことについて「正当な理由」があるかどうかは,監督者が個々具体的な人為的ミスを防ぐための措置を採っていたかではなく,当該補助者を使用する出願人等がガイドライン3.1.5(5)に規定するaからcの3要件を満たしているか否かによって判断されるべきである。 これを本件についてみるに,控訴人が本件国際出願及び国内移行手続を委任した本件特許事務所では,特許期限管理システム「IPマネージャー」を使用し,経験豊富な補助者(A,B及びC)を起用するなど期間徒過が生じることがないようにするための期限管理体制が採用されていたが,本件期間徒過は,平成28年9月22日の本件国際出願の期限前日である同月21日,本件国際出願の出願書類の準備と本件国際出願用の新たな期限管理ファイル(本件期限管理ファイル)作成の作業が並行して行われるという緊急事態が発生し,その状況下で,Aが錯誤により本件期限管理ファイルに本件国際出願の基礎出願の優先日を誤入力し,優先日の入力に対するB及びCによるダブルチェックが働かず,Aの誤入力が見過ごされた結果,IPマネージャーによって誤った優先日に基づいて誤った国内移行の移行期限が自動作成され,それに気づかなかったことが重なって偶発的に起きた事象であり,このような特殊な事態に起因する複数の補助者による偶発的な確認ミス等は予測可能であるといえないから,上記期限管理体制は, 「相応の措置」に該当し,本件期間徒過を回避することが 3 できなかったことについて「正当な理由」があるというべきである。 2 争点2(本件国際特許出願につき補正命令を発しなかったことが憲法に違反 するか否か)について 次のとおり当審における控訴人の補充主張を付加するほか,原判決の「事実 及び理由」の第3の2記載のとおりであるから,これを引用する。 (当審における控訴人の補充主張) 外国民は,一般的に外国に居住し,日本語を自国語とせず,日本語の選択肢 はないから,外国語特許出願は,専ら外国民に利用される制度であるのに対し, 内国民が外国語特許出願を行うことは非常にまれである。そして,企業活動に おいては,特許権取得可能性や事業化の検討をして翻訳文を提出しないという 選択をすることもあるため,外国語特許出願における国内書面の提出は,この ような検討期間として,国内書面提出の日から2か月の翻訳文提出特例期間(法 184条の4第1項)を得るための手続となっている,外国語特許出願の出願 人は,国内書面を提出するか否かの検討と,翻訳文を提出するか否かの検討と を別個に行い,それぞれの判断に基づいてそれぞれ提出するのが一般的であり, 国内書面を提出するか否かの判断基準は,日本語特許出願と外国語特許出願と の間で差はない。 しかるところ,日本語特許出願の場合,国内書面の提出期間を徒過しても, 法184条の5第2項の補正命令が発せられるため,国内書面の提出期限に細 心の注意を払う必要がないのに対し,外国語特許出願の場合,国内書面の提出 期間を徒過した場合,補正命令が発せられることなく,却下処分を受けること になるのであれば,国内書面の提出期限に細心の注意を払う必要があるから, 内国民と外国民の間に不平等がある。 したがって,本件国際特許出願について補正命令を発することなくされた本 件却下処分は違法である。 |
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当裁判所の判断
4 当裁判所も,本件却下処分に控訴人主張の違法があるとは認められず,控訴 人の請求は理由がないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1 争点1(正当な理由の有無)について 以下のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」第4の1記載のとおり であるからこれを引用する。 (1) 原判決23頁末行の「相当な注意を」から24頁2行目の「相当である。」 までを「期間不遵守の回避のために相当な注意を尽くしたことをいうものと 解するのが相当である。」と改める。 (2) 原判決28頁4行目の「?」を「?」と,29頁17行目の「?」を「?」 と改める。 (3) 原判決30頁22行目末尾に行を改めて次のとおり加える。 「エ 控訴人は,@法184条の4第4項の立法趣旨や立法経緯,特許庁の ガイドラインに鑑みると,期間徒過の原因となった事象が予測可能であ るといえない場合は,当該事象により期間徒過に至ることのないように 事前に措置を講じておくことを出願人等に求めるのは酷であることから すると,期間徒過の原因となった事象が出願人等の補助者の人為的ミス に起因するときは,ガイドラインの「相応の措置」 (状況に応じて必要と されるしかるべき措置)が採られたかどうか,すなわち,期間内に手続 をすることができなかったことについて「正当な理由」があるかどうか は,監督者が個々具体的な人為的ミスを防ぐための措置を採っていたか ではなく,当該補助者を使用する出願人等がガイドライン3. 5 1. (5) に規定するaからcの3要件を満たしているか否かによって判断される べきである,A本件特許事務所では,特許期限管理システム「IPマネ ージャー」を使用し,経験豊富な補助者(A,B及びC)を起用するな ど期間徒過が生じることがないようにするための期限管理体制が採用さ れていたが,本件期間徒過は,本件国際出願の期限前日である平成28 5年9月21日,本件国際出願の出願書類の準備と本件国際出願用の新たな期限管理ファイル(本件期限管理ファイル)作成の作業が並行して行われるという緊急事態の状況下で,Aが錯誤により本件期限管理ファイルに本件国際出願の基礎出願の優先日を誤入力し,優先日の入力に対するB及びCによるダブルチェックが働かず,Aの誤入力が見過ごされた結果,IPマネージャーによって誤った優先日に基づいて誤った国内移行の移行期限が自動作成され,それに気づかなかったことが重なって偶発的に起きた事象であり,このような特殊な事態に起因する複数の補助者による偶発的な確認ミス等は予測可能であるといえないから,上記期限管理体制は, 「相応の措置」に該当し,本件期間徒過を回避することができなかったことについて「正当な理由」があるというべきである旨主張する。 しかしながら,@については,ガイドラインは,期間徒過後の救済規定に関し,救済要件の内容,救済に係る判断の指針及び救済規定の適用を受けるために必要な手続を例示することによって,救済が認められるか否かについて出願人等の予見可能性を確保することを目的として,特許庁が作成したものであり(乙4の表紙から4枚目の「期間徒過後の救済規定に係るガイドラインの利用に当たって」 ,法令等の法規範性を有 )するものではなく,裁判所の法令の解釈やその判断を拘束するものではない。 次に,Aについては,前記?及び(3)によれば,IPマネージャーの期限管理ファイルの「基礎出願」欄に優先日として優先権を主張する基礎出願の出願日を正確に入力することは,控訴人から本件国際出願の委任を受けた本件特許事務所の基本的な業務であり,これを正確に入力する必要性が高いことは明らかであること,本件においては,国際出願手続及び各国への国内移行手続を担当するCから,ドケット管理部署に所属 6するAへの連絡が適切ではなかったこと,本件期限管理ファイルを作成したAは本件国際出願に係る優先日として米国特許仮出願1及び2のいずれの出願日を入力すべきであるかを十分に確認することなく誤った優先日を入力(本件誤入力)したこと,本件国際出願の際のD弁護士等によるチェック,本件国際出願後のBによるチェック及び本件国内移行期限管理ファイル作成の際のドケット管理部署による優先日の事後的なチェックがいずれも行われなかったか,不十分であったことによって本件期間徒過が発生したことが認められる。 また,本件国際出願の期限の前日に,本件国際出願の出願書類の準備と本件国際出願用の新たな期限管理ファイル(本件期限管理ファイル)作成の作業を並行して行うことが,緊急事態であるということも,特殊な事態であるということもできないし,本件国際出願を期限に余裕をもって行えば,このような事態に至ることを回避することも可能であったものである。 さらに,Aの本件誤入力は,本件期限管理ファイルへ優先日として米国特許仮出願1の出願日である「2015年9月22日」と入力すべきであったのに,米国特許仮出願2の出願日である「2015年12月16日」と入力したという単純なミスであり,D弁護士等,B又はドケット管理部署が,通常の注意力をもって,他の資料等と照合してダブルチェックを行えば,容易に発見することができたものと認められる そうすると,控訴人から委任を受けた本件特許事務所の担当弁護士や補助者事務員が本件期間徒過を回避するために相当な注意を尽くしたものと認められないから,控訴人において,本件期間徒過を回避することができなかったことについて「正当な理由」 (法184条の4第4項)があるものと認めることはできない。 したがって,控訴人の上記主張は理由がない。」 7(4) 原判決30頁23行目の「(5)」を「(6)」と改める。 2 争点2(本件国際特許出願につき補正命令を発しなかったことが憲法に違反 するか否か)について 原判決31頁20行目末尾に行を改めて次のとおり加えるほか,原判決「事 実及び理由」第4の2記載のとおりであるから,これを引用する。 「(3) 控訴人は,@外国民は,一般的に外国に居住し,日本語を自国語とせず, 日本語の選択肢はないから,外国語特許出願は,専ら外国民に利用される 制度であるのに対し,内国民が外国語特許出願を行うことは非常にまれで ある,A企業活動においては,特許権取得可能性や事業化の検討をして翻 訳文を提出しないという選択をすることもあるため,外国語特許出願にお ける国内書面の提出は,このような検討期間として,国内書面提出の日か ら2か月の翻訳文提出特例期間(法184条の4第1項)を得るための手 続となっており,外国語特許出願の出願人は,国内書面を提出するか否か の検討と,翻訳文を提出するか否かの検討とを別個に行い,それぞれの判 断に基づいてそれぞれ提出するのが一般的であることからすると,国内書 面を提出するか否かの判断基準は,日本語特許出願と外国語特許出願との 間で差はない,B日本語特許出願の場合,国内書面の提出期間を徒過して も,法184条の5第2項の補正命令が発せられるため,国内書面の提出 期限に細心の注意を払う必要がないのに対し,外国語特許出願の場合,国 内書面の提出期間を徒過した場合,補正命令が発せられることなく,却下 処分を受けることになるのであれば,国内書面の提出期限に細心の注意を 払う必要があるから,内国民と外国民の間に不平等があるとして,本件国 際特許出願について補正命令を発することなくされた本件却下処分は違 法である旨主張する。 しかしながら,本件国際特許出願について補正命令を発することなく本 件却下処分がされたのは,前記(1)のとおり,国内書面提出期間内に明細書 8 等翻訳文が提出されなかったため,法184条の4第3項の規定により, 本件国際特許出願が取り下げられたものとみなされた結果,国内書面の提 出に係る法184条の5第2項の補正命令を発する余地がなかったことに よるものであって,同項の適用においては,外国特許出願の出願人が内国 民であっても,外国民であっても変わるものではない。 また,外国語特許出願の場合,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文の 提出を求め,その期間が徒過した場合に,国際特許出願の取下げを擬制す る制度が不合理であるとはいえない。 したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。」3 結論 以上によれば,控訴人の請求は棄却されるべきものであり,これと同旨の原 判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 大鷹一郎 |
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裁判官 | 小林康彦 |
裁判官 | 小川卓逸 |