関連審決 |
無効2020-800038 |
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事件 |
令和
3年
(行ケ)
10033号
審決取消請求事件
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5 原告キョーセー株式会社 同 訴訟代理人弁護士筒井豊 同 川上確10 同 訴訟代理人弁理士西教圭一郎 被告 アクワネクスト株式会社 同 訴訟代理人弁護士小林七郎15 同 村上弓恵 同 訴訟代理人弁理士古谷史旺 同 大橋剛之 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2021/12/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 202 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2020-800038号事件について令和3年1月5日に した審決を取り消す。 25 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。) 1 ? 被告は,平成26年5月21日,発明の名称を「内装用短尺コーナー材に よる施工方法」とする発明について特許出願(特願2014-105244。 以下「本件特許出願」という。)をし,平成28年10月28日,特許権の設 定登録(特許第6031065号。請求項の数2)を受けた(以下,この特 5 許を「本件特許」という。 。 ) ? 原告は,令和2年4月6日,本件特許を無効にすることを求めて審判の請 求をした。特許庁は,上記請求を無効2020-800038号事件として 審理を行った。 ? 被告は,令和2年7月10日付けで,本件特許の明細書を訂正する旨の訂10 正請求(以下「本件訂正請求」といい,これによる訂正を「本件訂正」とい う。)をした。特許庁は,令和3年1月5日,本件訂正請求を認めた上で, 「本 件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月20日原告 に送達された。 ? 原告は,令和3年2月16日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起15 した。 2 特許請求の範囲の記載 特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(以下請求項1に係る発明を 「本件訂正発明1」と,請求項2に係る発明を「本件訂正発明2」といい,包 括して「本件訂正発明」という。)。 20 「【請求項1】 市販のコーナー材よりも短尺に形成した内装用短尺コーナー材を,小型の 搬送用車両に横置き状態に積層して所定の作業場所まで搬送する第1工程 と,所定の作業場所の床側の幅木と天井との間に,少なくとも2本の前記内 装用短尺コーナー材を直線上にセットし,これらの内装用短尺コーナー材の25 オーバーラップ部分を切除する第2工程と,前記内装用短尺コーナー材の端 部を突き合わせる際に,オーバーラップ部分を切除したカット面を対峙しな 2 いように反転させ,少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端部のカット面 を対峙させないように接合する第3工程と,前記内装用短尺コーナー材を接 合した後に,内装用短尺コーナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上 げを行う第4工程とを有することを特徴とする内装用短尺コーナー材による 5 施工方法。 【請求項2】 前記内装用短尺コーナー材は,長さが1000〜1800mmの範囲の寸 法からなることを特徴とする請求項1に記載の内装用短尺コーナー材による 施工方法。」10 3 本件審決の理由の要旨等 ? 訂正要件について ア 本件訂正の訂正事項は,本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「訂 正前明細書」という。)の【0025】で,請求項1及び【0022】等 の「接合」と異なる「接続」という語が用いられていたのを,「接合」と15 訂正して表記を統一したものであって,不明瞭な記載の釈明を目的とした ものである。 イ 本件訂正において,特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の変更はな く,特許請求の範囲が拡張又は変更されるものでない。 ? サポート要件違反について20 ア 当業者は,本件訂正後の明細書(以下「訂正明細書」という。)の【0 008】の「(3)」において言及する「隙間」とは,「内装用短尺コー ナー材の端部のカット面を対峙させないように接合すること」によって 「発生を防止」することができる「隙間」であり,「内装用短尺コーナー 材の端部のカット面」 「対峙」 を させた場合に生じることが予想される「隙25 間」を意味すること,同所で言及する「十分な密着性を確保」は,「内装 用短尺コーナー材の端部のカット面」を「対峙」させた場合に比較して, 3 「十分な密着性を確保」することができる趣旨であると理解することがで きる。 イ 訂正明細書の【0008】に記載される「(4)」の効果は,「内装用 短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合」した後に 5 「内装用短尺コーナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを行 う」ことで得られる,「従来の施工と何ら遜色なく完成させることができ る」という効果であり,本件訂正発明が有する,「前記内装用短尺コーナ ー材の端部を突き合わせる際に,オーバーラップ部分を切除したカット面 を対峙しないように反転させ,少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端10 部のカット面を対峙させないように接合する第3工程」及び「前記内装用 短尺コーナー材を接合した後に,内装用短尺コーナー材の表面に通常のパ テ施工を含む内装仕上げを行う第4工程」という構成により,合理的に得 ることができる効果であると,当業者は理解することができる。 ? 明確性要件違反について15 本件訂正発明1は,「施工方法」の発明全体として見た場合,第三者の利 益を不当に害するほどに発明が不明確というものではない。 本件訂正発明2は,本件訂正発明1の構成を全て有した上で,用いる「内 装用短尺コーナー材」の長さの範囲を,具体的に数値で特定したものである から,本件訂正発明1と同様に,第三者に不測の不利益を生じさせるほどに20 発明が不明確なものではない。 ? 実施可能要件違反について 訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は,第1工程ないし第4工程を含む 実施例について具体的な説明を記載しているから,本件訂正発明について, 当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく発明の実施をすることがで25 きるだけの説明を記載したもので,実施可能要件に違反するものではない。 |
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当事者の主張
4 1 取消事由1(理由不備) ? 原告の主張 本件審決は,サポート要件違反,明確性要件違反及び実施可能要件違反の 判断に関し,実質的に理由を付していないに等しく,理由不備がある。 5 ? 被告の主張 原告の主張は争う。 2 取消事由2(訂正要件違反の判断の誤り) ? 原告の主張 ア 本件訂正は,誤記の訂正に当たらないことについて10 本件審決は,本件訂正の目的を用語の統一を図るためであると認定し, 内装用短尺コーナー材の形成の段階の「接続」と施工の段階の「接合」と に使い分けるものであるとする(以下「解釈@」という。)。 しかし,用語の統一を図るための訂正であれば,訂正前明細書の【00 25】のとおり,3本の内装用短尺コーナー材を使用する際,第1,第215 内装用短尺コーナー材の端面を「接続」して切除は行わず,第2内装用短 尺コーナー材に対して第3内装用短尺コーナー材のオーバーラップ部分 Gを「削除」して「接合」するように,すなわち,3本の内装用短尺コー ナー材のうち,切除しないか「削除」するかという操作で「接続」と「接 合」とを合理的に使い分けることもでき,この場合,本件訂正は必要では20 ない(以下「解釈A」という。)。 また,訂正前明細書の【0012】のとおり,図3の断面L字形状の内 装用短尺コーナー材1を形成する際に,熱によって溶融された合成樹脂 が,典型的には押出成形されて第1側面2と第2側面3とのそれぞれの基 端側端部2y,3y同士が一体化されて「接続」する構成(熱融着)と,25 訂正前明細書上,この熱融着のような具体的構成が開示されない「接合」 とで合理的に使い分けることもでき(以下「解釈B」という。),この場 5 合にも,本件訂正は必要ではない。 このように,訂正前明細書の【0025】の「接続」の意味を,解釈A 又はBのように,本件訂正なしで,「接続」とも「接合」とも合理的に理 解できるので,当業者であれば容易にその誤記に気付くことはなく,解釈 5 @は不当である。 したがって,本件訂正は誤記の訂正(特許法126条1項2号)に当た らない。 イ 本件訂正は不明瞭な記載の釈明に当たらないことについて 明瞭でない記載の釈明(特許法126条1項3号)のために訂正をする10 ことができるには,不明瞭な記載を正し,その本来の意味を明らかにする ものであることが必要である。 訂正前明細書の【0025】の「接続」の記載は,それ自体からみて不 明瞭ではなく,解釈A又はBのとおり整合し,合理的に理解できる。 他方,用語「接合」の具体的構成は,訂正明細書に開示されておらず,15 不明である。したがって,訂正前明細書の【0025】の「接続」を,具 体的構成が不明な「接合」に訂正することは,本来の意味を明らかにする 訂正であるとはいえない。 ウ 本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものであることについて 訂正前明細書の「接続」から具体的構成が開示されていない「接合」へ20 の訂正は,誤記の訂正でも明瞭でない記載の釈明でもないので,請求項1 の「接合」が「接続」とは異なる技術的意義を持つことになる。その結果, 特許請求の範囲の実質上の変更となる。 エ 小括 以上のとおりであって,本件訂正が訂正要件に適合するとした本件審決25 の判断には誤りがある。 ? 被告の主張 6 本件訂正は,訂正前明細書の【0025】に,請求項1及び【0022】 等の「接合」と異なる「接続」の表記を用いていた誤記の訂正と,当該表記 の不統一による不明瞭な記載の釈明を目的としたものである。 そうすると,本件訂正に係る訂正事項は,請求項1の内容を変更する結果 5 をもたらすものではない。 3 取消事由3(サポート要件の判断の誤り) ? 原告の主張 ア コーナー材の端部の形状について 訂正明細書の【0008】の効果のうち,「(3)内装用短尺コーナー10 材の端部のカット面を対峙させないように接合することによって,十分な 密着性を確保して隙間の発生を防止することができる。」という効果(以 下「効果(3)」という。),「(4)内装用短尺コーナー材を接合した 後に,内装用短尺コーナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを 行うため,従来の施工と何ら遜色なく完成させることができる。」という15 効果(以下「効果(4)」という。)を実現させるには,本件訂正発明1 の第3工程でコーナー材を反転させて,対向する端面同士をつぎ合わせ一 体化する実質的な接合をしなければならず,そのためには,コーナー材の カット面を除く残りの端部が,長手方向に垂直で,平面状,平坦でなくて はならない(以下このような端面を「平端面」という。)。 20 請求項1の記載は,コーナー材の端部の形状に関して何らの定義もない ため,コーナー材のカット面を除く残りの端部が平端面の場合だけでな く,@一方の端面は45°で,他方の端面は,それとは異なる30°で傾 斜して形成される場合や,コーナー材の両端部の各端面が,一平面ではな く,不規則な又は任意の形状を有する弯曲面又は凹凸面である構成である25 場合等,A孔部4の一部である切欠きが長手方向外方に臨む「切欠き端面」 である場合が本件特許請求の範囲の記載に基づく技術的範囲に属するこ 7 とになる。このように,本件訂正発明1は,効果(3),(4)を実現し ない構成を含むので,サポート要件に適合しない。 イ コーナー材の孔部の有無について 請求項1では,コーナー材の孔部4の有無が特定されておらず,孔部4 5 が形成されていないコーナー材も含む。 施工者が使用するコーナー材において,孔部4が形成されず,長手方向 の端部が平端面であり,その側面2,3の幅寸法が,訂正明細書の【00 12】及び図3にある27mmのような小さな値であれば,当業者は,本 件訂正発明の第2工程で,一方のコーナー材のオーバーラップ部分を,あ10 る程度の高い精度で,長手方向に垂直な平面状に切除することができるの で,切除したカット面を対峙しないように反転させる操作を必要とせず に,つぎ合わせて一体化する実質的な接合の構成を実現できる。そのため, 本件訂正発明1の第3工程,第4工程による効果(3),(4)に対応す る課題自体が存在しない。 15 ウ 相互に接合される各コーナー材の両端部における側面の幅寸法について 請求項1及び2において,内装用短尺コーナー材の断面L字形状をなす 第1側面と第2側面との幅寸法を相違させた場合について,接合箇所付近 で複雑な段差が生じるところ,効果(3),(4)を奏するために必要な 記載が不足している。 20 エ 3本以上のコーナー材を使用する場合について 本件訂正発明の第2工程は,オーバーラップ部分の形成の個所,切除の 個所が特定されていないので,上部にある第3コーナー材を削除せず,中 間にある第2コーナー材のオーバーラップ部分を削除する操作を含むし, また,上部にある第3コーナー材や下部にある第1コーナー材を削除せ25 ず,上部と下部とにある第3コーナー材及び第1コーナー材に対して,中 間にある第2コーナー材の両端部をそれぞれオーバーラップさせて,第2 8 コーナー材の2つの各オーバーラップ部分をそれぞれ削除する操作も含 む。これらの操作によれば,本件訂正発明の第3工程で,中間にある第2 コーナー材を反転させても,第2コーナー材の端部のカット面が,下部に ある第1コーナー材及び上部にある第3コーナー材の少なくとも一方の 5 端部に対峙する。 したがって,本件訂正発明の第2工程には,「少なくとも前記内装用短 尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合する第3工程」 を実行できず,効果(3),(4)が達成されない構成を含むので,サポ ート要件に適合しない。 10 オ 第3工程について 請求項1に記載された第3工程については,訂正明細書の発明の詳細な 説明中に,第3工程を必要とする理由並びに同工程を構成要件とする目的 及び効果に関する記載がないことを考慮すれば,サポート要件を充足しな い。 15 カ 小括 以上のとおり,訂正明細書の記載では,当業者は,本件訂正発明につい て,発明の課題が解決できると認識することができないから,本件審決の 判断には,誤りがある。 ? 被告の主張20 原告がサポート要件違反を主張する点は,いずれも失当であり,本件審決 の判断に誤りはない。本件訂正発明は,訂正明細書の記載や示唆,あるいは 出願時の技術常識に照らし,当業者において,当該発明の課題を解決でき, かつ効果を奏するものであると合理的に理解できるものである。 4 取消事由4(明確性要件の判断の誤り)25 ? 原告の主張 ア 用語「市販のコーナー材」,「短尺コーナー材」,「小型の搬送用車両」, 9 「横置き状態」,「通常のパテ施工」について これらの用語は,いずれも多義的であり,その意味する内容が明らかで なく,解釈も異なり得るし,明細書の記載を参酌しても,これらを明確に した記載は見当たらない。 5 イ 用語「接合」について 請求項 1 の「接合する」(つぎあわす)という工程は,十分に特定され ておらず,明細書及び図面の記載を考慮しても,当業者が請求項の記載か ら発明を明確に把握できない場合に該当する。 ウ 3本以上の内装用短尺コーナー材を用いる場合について10 本件訂正発明における第2工程及び第3工程について,3本以上のコー ナー材では,どのようにオーバーラップ部分を形成し,どこを切除して, どこをどのように接合するのか,特許請求の範囲にも発明の詳細な説明に も具体的に記載されていないから,本件訂正発明は明確でない。 エ その他15 前記3(1)ア,ウ及びオ記載の各事情に照らし,本件特許請求の範囲の記 載にはそれぞれ明確性要件違反がある。 オ 小括 以上のとおり,本件訂正発明には明確性要件違反があり,これと異なる 本件審決の判断には誤りがある。 20 ? 被告の主張 ア 用語「市販のコーナー材」,「短尺コーナー材」,「小型の搬送用車両」, 「横置き状態」,「通常のパテ施工」について (ア) 「市販のコーナー材」については,本件訂正発明の特許請求の範囲 の記載及び訂正明細書の【0004】,【0005】及び【0007】25 の記載を参酌すれば,長さが2500mm程度であり,日本家屋の床側 の幅木と天井との間にそのまま取り付けることができない長さの,従来 10 のコーナー材が想定されているものと,当業者であれば理解することが できる。 (イ) 「小型の搬送用車両」は,「搬送用車両」であって「小型」のもの であることが明らかである。また,訂正明細書の【0004】からは, 5 本件訂正発明における「小型の搬送用車両」としては,「長さが250 0mmのコーナー材」を「横置き状態に収容可能」である「1ボックス ワゴンタイプの車両やバンタイプの車両」に比較して,小型の車両が想 定されていると,当業者は理解することができる。 (ウ) 「横置き状態」については,搬送対象物である「内装用短尺コーナ10 ー材」を「小型の搬送用車両」で「搬送」するときの状態であることか らすれば,垂直方向に立て掛けた不安定な状態ではなく,横に寝かせた 安定な,かつ積層可能な状態とすることは,自然な選択である。 (エ) 「通常のパテ施工」でいう「パテ施工」が,「内装用短尺コーナー 材の表面」に「内装仕上げ」を施す「施工」のうち,「パテ」を用いた15 「施工」であることが明らかである。また,「通常」とは,「普通であ ること。なみ。通例。」(広辞苑第六版)という意味である。 イ 「接合」について 「接合」という用語自体は一般的な用語であり,不明確なものではない。 また,本件訂正発明における「接合」という構成は,請求項1の記載から,20 「内装用短尺コーナー材による施工方法」において,「内装用短尺コーナ ー材の端部を突き合わせる際」に行われる「接合」であり,かつ,「所定 の作業場所の床側の幅木と天井との間に,少なくとも2本の前記内装用短 尺コーナー材を直線状にセットし,これらの内装用短尺コーナー材のオー バーラップ部分を切除する第2工程」を経た上で,「オーバーラップ部分25 を切除したカット面を対峙しないように反転させ,少なくとも前記内装用 短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように」行われる「接合」 11 であるところ,これらの文脈において,「接合」という語が一般的な用語 とは異なる特異な意味となる事情はない。 ウ コーナー材の端部について 本件訂正発明において,「コーナー材の端部」が長手方向に垂直な平面 5 状の端面を有する平端面に限定されていないから,訂正明細書におけるコ ーナー材の端部に関する記載自体は,不明確なものではない。 エ 小括 原告が主張するその他の点も含めて,本件訂正発明には明確性要件に違 反する点はなく,本件審決の判断に誤りはない。 10 5 取消事由5(実施可能要件の判断の誤り) (1) 原告の主張 ア 「接合」による効果(3)の達成について 「接合」は冶金的接合,機械的締結,化学的接合に大別され,樹脂の主 な接合方法としては,@機械的締結,A接着,B溶剤接合及びC溶着によ15 る接合があり,「接合」には様々な態様がある(甲5)。 このような公知の技術的知見から考えれば,本件訂正発明の内装用短尺 コーナー材の端部を「接合」して,「つぎあわすこと」という結果と併せ て効果(3)を達成するためには,当業者がその実施をすることができる 程度に明確かつ十分に,何と何がどのような接合方法によって接合され,20 その効果として,何と何との「密着性」が達成され,及び何と何との「隙 間」の発生が防止されるかが明細書の発明の詳細な説明に記載されていな ければならないが,訂正明細書には,そのような記載はない。 イ 効果(4)について 訂正明細書では,効果(4)について,何が「遜色なく」であるのか,25 及び何を「完成させることができる」のかが記載されていない。 このため,当業者にとって,その具現すべき構成を出願時の技術常識に 12 基づいて理解することもできない。 ウ 抽象的な記載について 訂正明細書の発明の詳細な説明における発明の実施の形態は,請求項1 に記載される技術的手段として「市販のコーナー材」 「短尺コーナー材」 , , 5 「小型の搬送用車両」,「横置き状態」,「通常のパテ施工」の各用語を 用いて記載されているが,これらの用語の技術的意味に関する記載は,抽 象的又は機能的であるし,「市販」,「短尺」,「小型」,「横置き」, 「通常」の各用語自体もいずれも極めて抽象的であり,発明に係る機能, 特性,解決課題ないし作用効果との関係における技術的意味が示されてい10 ない。 上記の各用語によっては,本件訂正発明がいかなる発明であるかを正確 に把握することができず,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施 可能要件に反する。 エ 内装用短尺コーナー材の中間部位の幅寸法を異ならせた場合について15 内装用短尺コーナー材の中間部位の幅寸法を一部異ならせた構成では, 内装用短尺コーナー材1の側面2,3と壁面との間に段差が存在する。こ の中間部位で切除して内装用短尺コーナー材の端部を接合したとき,段差 は存在したままであり,なくなるわけではない。そのため,効果(3), (4)を達成できず,訂正明細書の記載に実施可能要件違反がある。 20 オ その他 前記3?ア,ウ及びオ並びに4(1)ア及びウ記載の各事情に照らし,訂正 明細書の記載にはそれぞれ実施可能要件違反がある。 カ 第3工程について 訂正明細書には,第3工程を必要とする理由並びに同工程を構成要件と25 する目的及び効果に関する記載がない。 キ 小括 13 以上のとおり,訂正明細書は,発明の詳細な説明の記載が当業者が発明 を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない から,実施可能要件を欠き,これと異なる本件審決の判断は誤りである。 (2) 被告の主張 5 ア 「接合」による効果(3)の達成について 効果(3)の「隙間」とは,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面 を対峙させないように接合すること」によって「発生を防止」することが できる「隙間」であり,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面」を「対 峙」させた場合に生じることが予想される「隙間」を意味するものと,当10 業者であれば理解することができる。効果(3)の「十分な密着性を確保」 についても,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面」を「対峙」させ た場合に比較して,「十分な密着性を確保」することができる趣旨である と,当業者であれば理解することができる。 イ 効果(4)について15 効果(4)は,内装用短尺コーナー材の端部を突き合わせる際に,所定 の作業場所においてオーバーラップ部分を削除した「カット面」を「対峙 させないように」することで達成できる「密着」及び「隙間」がないとい う効果について記載するものであり,オーバーラップ部分の削除と無関係 にコーナー材の端部の一部に形成されている切欠きの部分についてまで,20 コーナー材の端部を全面にわたって隙間なく密着させることを発明の効 果として記載するものではない。 ウ 小括 その他の原告の主張も失当であり,本件審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
25 1 訂正明細書等の記載事項について ? 訂正明細書の発明の詳細な説明には,別紙2の図面と共に,別紙1の記載 14 がある(甲10,20)。 ? 前記?の記載事項及び特許請求の範囲の請求項1によれば,本件訂正発明 に関し,次のような開示があることが認められる。 ア 建物の壁面を壁装材を貼り付けて仕上げをする場合に,あらかじめ下地 5 の壁面を平坦に先仕上げする作業があるが,先仕上げが困難な出隅部分に ついては,角部及び角部を挟んで両側にある2つの壁面に装着することに より,角部を平坦に先仕上げするコーナー材が提案されている。 このコーナー材は長さ2500mmと長尺であるため,搬送作業時には, これを横置き状態に収容可能な荷台スペースを有する1ボックスワゴンタ10 イプの車両やバンタイプの車両を使用する必要があり,搬送効率が低いと ともに,搬送コストが嵩み,経済的に不利であるという不都合がある。 また,一般的な日本家屋の場合,長尺なコーナー材をそのまま取り付け ることができず,メジャーによって所定の作業場所の床側の幅木と天井と の間の距離を測定した後に,この距離に合致するように長尺なコーナー材15 をカットする必要があり,測定作業という作業工程が増加し,作業効率が 悪いという問題があった(【0002】,【0004】,【0005】)。 イ 「本発明」は,内装用短尺コーナー材を使用することによって,搬送コ ストの低減及び搬送効率の向上,施工の際の作業効率の向上などを実現す ることを目的とする(【0006】)。 20 ウ 「本発明」は,特許請求の範囲記載の構成を採ることによって,以下の 効果を奏する(【0008】)。 (1)搬送を容易として,車両の準備費用や燃費などを含めた搬送コスト を低減することができるとともに,搬送効率を向上させることができる。 (2)メジャーを使用しなくとも,容易に施工することができ,作業効率25 を向上させることができる。 (3)内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合 15 することによって,十分な密着性を確保して隙間の発生を防止することが できる。 (4)内装用短尺コーナー材を接合した後に,内装用短尺コーナー材の表 面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを行うため,従来の施工と何ら遜色 5 なく完成させることができる。 2 取消事由1(理由不備)について 原告は,前記第3の1?のとおり,本件審決は,サポート要件違反,明確性 要件違反及び実施可能要件違反のいずれの争点についても実質的に審理判断し ていないに等しく,特許法157条2項4号に違反していると主張する。 10 しかし,前記第2の3?ないし?の本件審決の理由の要旨及び後記4以下に おいて判断するところに照らせば,本件審決はこれらの無効理由について実質 的に判断しているものと認められ,取消事由1は理由がない。 3 取消事由2(訂正要件違反の判断の誤り)について ? 本件訂正が誤記の訂正に当たるかについて15 ア 本件訂正前は,施工の段階である第3工程について,請求項1及び訂正 前明細書の【0022】に「接合」の語が用いられていたのに対し,訂正 前明細書の【0025】には,施工の段階について「このとき,第1,第 2内装用短尺コーナー材21-1,21-2の端面を接続して切除は行わ ず,・・・」とあり,同じ段階について「接合」と「接続」の2つの用語20 が用いられていたのであるから,本件訂正は用語の統一を図るものである といえ,誤記の訂正に当たる。 イ 原告は,前記第3の2?アのとおり,解釈A又は解釈Bのように,訂正 前明細書の【0025】の「接続」の意味を,本件訂正なしで,「接続」 とも「接合」とも合理的に理解できるので,当業者であれば容易にその誤25 記に気付くことはないと主張する。 しかし,解釈Bは,短尺コーナー材の成形の場面に関する記載である【0 16 012】の「接続」の記載と,成形が終わった短尺コーナー材で施工をす る段階である【0025】の「接続」の記載が同じ意味でなければならな いということに帰し,採り得ない。また,解釈Aも,同じ工程である【0 022】と【0025】の中に,切除していないコーナー材の端面をつぎ 5 合わせることをいう「接続」と,オーバーラップ部分を削除したコーナー 材の端面をつぎ合わせることをいう「接合」という用語の使い分けがされ ているというものであるが,訂正前明細書にそのような解釈を裏付ける記 載は何ら存在しない。 ? 本件訂正が不明瞭な記載の釈明に当たるかについて10 ア 本件訂正前は,同じ施工段階の作業について,請求項1には「接合」と, 訂正前明細書の【0025】には「接続」とあったのであるから,本件訂 正は不明瞭な記載の釈明に当たる。 イ 原告は,前記第3の2?イのとおり主張するが,その解釈の前提に誤り があることは前記?イのとおりであり,原告の主張は採用できない。 15 ? 本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものであるかについて 本件訂正により,特許請求の範囲の請求項1及び2の記載に変更はない。 また,請求項1に記載される「接合」の意味が,訂正前明細書の【0025】 における不統一な記載を請求項1における「接合」と整合させた訂正事項1 によって,訂正前より拡張されたり,訂正前とは変更された内容となったと20 考えるべき事情はない。 したがって,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものとはいえ ない。 ? 小括 よって,本件訂正について訂正要件違反は認められないから,取消事由225 は理由がない。 4 取消事由3(サポート要件の判断の誤り)について 17 ? 本件訂正発明の課題と効果について ア 本件訂正発明は,前記1?アのとおり,長さが2500mm程度の長尺 なコーナー材を用いると,@経済的に不利であること及びA一般的な日本 家屋の場合に長尺なコーナー材をそのまま取り付けることができず,カッ 5 トの際に測定が必要となり作業効率が悪くなるという課題があったのを 解決するためのものである。 イ(ア) 本件訂正発明の「市販のコーナー材よりも短尺に形成した内装用短 尺コーナー材を,小型の搬送用車両に横置き状態に積層して所定の作業 場所まで搬送する第1工程」という構成により,前記ア@の課題が解決10 され,かつ訂正明細書の【0008】に記載された(1)の効果が得ら れるものと,当業者は理解することができる。 (イ) 本件訂正発明の「所定の作業場所の床側の幅木と天井との間に,少 なくとも2本の前記内装用短尺コーナー材を直線上にセットし,これら の内装用短尺コーナー材のオーバーラップ部分を切除する第2工程」と15 いう構成により,前記アAの課題が解決され,かつ訂正明細書の【00 08】に記載された(2)の効果が得られるものと,当業者は理解する ことができる。 (ウ) 第2工程において,現場ではさみ等を使って内装用短尺コーナー材 を切断した上,カット面同士を対峙させて接合すると,カット面が直線20 的・平坦に形成できない場合があることから,接合時の端面間に隙間が 生じやすいという課題が新たに生じることは,発明の詳細な説明に明示 的な記載がなくても,現に作業をする当業者からは自明である。そうす ると,効果(3)にいう「隙間」とは,「内装用短尺コーナー材の端部 のカット面」を「対峙」させた場合に生じることが予想され,「内装用25 短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合すること」 によって「発生を防止」することができる「隙間」を意味するものであ 18 り,効果(3)にいう「十分な密着性を確保」についても,「内装用短 尺コーナー材の端部のカット面」を「対峙」させた場合との比較におい て,「十分な密着性を確保」することができる趣旨であると,当業者は 理解することができる。そして,効果(3)は,本件訂正発明が有する 5 「所定の作業場所の床側の幅木と天井との間に,少なくとも2本の前記 内装用短尺コーナー材を直線上にセットし,これらの内装用短尺コーナ ー材のオーバーラップ部分を切除する第2工程」によって切除した「カ ット面」について,「前記内装用短尺コーナー材の端部を突き合わせる 際に,オーバーラップ部分を切除したカット面を対峙しないように反転10 させ,少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙さ せないように接合する第3工程」という構成により,合理的に得ること ができる効果であると,当業者は理解することができる。 (エ) 効果(4)の記載は,効果(3)の記載に続くものであることから, 効果(3)で言及する「内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙15 させないように接合」した後に効果(4)で言及する「内装用短尺コー ナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを行う」ことによって 可能な効果として,「従来の施工と何ら遜色なく完成させることができ る」ことを示すものであると,当業者は文脈から十分に理解することが できる。そうすると,効果(4)は,本件訂正発明が有する「前記内装20 用短尺コーナー材の端部を突き合わせる際に,オーバーラップ部分を切 除したカット面を対峙しないように反転させ,少なくとも前記内装用短 尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合する第3工 程」及び「前記内装用短尺コーナー材を接合した後に,内装用短尺コー ナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを行う第4工程」とい25 う構成により,合理的に得ることができる効果であると,当業者は理解 することができる。 19 (オ) 以上のとおりであって,本件訂正発明は,本件訂正発明1が有する 「第1工程」ないし「第4工程」により,訂正明細書に記載され,又は 自明である発明の課題を解決することができ,かつ訂正明細書に記載さ れる発明の効果を奏するものであると,当業者が合理的に理解すること 5 ができるものであるから,発明の詳細な説明の記載により,当業者が当 該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。 本件審決はこれと同旨であって,誤りはない。 ? 原告の主張について ア コーナー材の端部の形状について10 原告は,前記第3の3?アのとおり,請求項1の記載は,本件訂正発明 の第3工程でコーナー材を反転させて,対向する端面同士をつぎ合わせて 一体化する実質的な接合が実現できず,効果(3),(4)を実現しない 構成を含むので,サポート要件に適合しない旨主張する。 しかし,上記主張は本件訂正発明にいう「接合」が「つぎ合わせて一体15 化する」ことを意味することを前提とするところ,そのように解すべき事 情は見いだせない。前記?イ(ウ)及び(エ)のとおり,効果(3)及び効果 (4)は,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面」を「対峙」させな いことにより,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面」を「対峙」さ せた場合との比較において「十分な密着性を確保」できること,及び,そ20 の上で通常のパテ施工を含む内装仕上げを行えば,従来と遜色ない内装仕 上げを完成できることを示すものであり,本件訂正発明の効果として,内 装用短尺コーナー材の端部の端面全体にわたって,密着しない箇所が全く 存在しないものとしなければならないことを示すような記載は,訂正明細 書中にない。 25 原告が前記第3の3?アの@で挙げる例は,通常のコーナー材の端部の 構造として想定し難いものであり,仮にそのようなコーナー材があったと 20 しても,本件訂正発明の技術的意義に照らせば,本件訂正発明におけるコ ーナー材がそのような構造のものを含むと解する余地はない。 また,原告が前記第3の3?アのAで挙げる切欠き端面についてみる と,L字型のコーナー材の両側面に設けられた「孔部」は,コーナー材を 5 壁面の出隅部分に貼り付けた際にコーナー材の両側面の内側内の空気を 排出して密着性を向上させる機能を有する一方,原材料の使用量の低減に も貢献するものであるが(【0011】),コーナー材を用いる目的が壁 面の出隅部分の角部を平坦に先仕上げするため(【0002】)であるこ とに照らせば,このような「孔部」を,原告が主張するように,コーナー10 材の長手方向に垂直な幅方向に細長く形成したり,必要以上に大きく形成 して,あえてコーナー材の側面と壁面との間に生じる段差を増大させる必 要性は認められないから,コーナー材の端部に,孔部の一部が露出した切 欠きが一定程度存在したとしても,それが効果(3)や効果(4)を妨げ るものになるという原告の主張は採用できない。 15 イ コーナー材における孔部の有無について 原告は,前記第3の3?イのとおり,施工者が使用するコーナー材に孔 部4が形成されず,その側面2,3の幅寸法が,小さな値であれば,本件 訂正発明の第3工程,第4工程による効果(3),(4)に対応する課題 自体が存在しない旨主張する。 20 しかし,当業者が,一方のコーナー材のオーバーラップ部分について, 工場出荷時と同等の垂直なカット面を形成し得るとの原告の主張は,証拠 に基づくものでなく,採用できないし,仮に,課題が生じない構造の場合 が限定的に生じ得るとしても,本件訂正発明の技術的意義に照らせば,本 件訂正発明におけるコーナー材がそのような課題が生じない構造のもの25 を含むと解するべきでないことは,前記アの場合と同様である。 ウ 相互に接合される各コーナー材の両端部における側面の幅寸法について 21 原告は,前記第3の3?ウのとおり,本件訂正発明の請求項1及び2に おいて,内装用短尺コーナー材の断面L字形状をなす第1側面と第2側面 との幅寸法を相違させた場合に段差が生じるが,それにもかかわらず効果 (3),(4)を達成するために必要な記載が不足している旨主張する。 5 しかし,内装用短尺コーナー材の断面L字形状をなす第1側面と第2側 面との幅寸法が相違している場合には,本件訂正発明の第2工程におい て,2本の短尺コーナー材のうちの一方を予め反転させて直線上にセット し,これらの短尺コーナー材のオーバーラップ部分を切除した後,第3工 程において,カット面が形成された方のコーナー材を反転させて,短尺コ10 ーナー材の端部を突き合せればよいことは,発明の詳細な説明に明示的な 記載がないとしても,当業者にとって自明のことであり,この場合,2本 の短尺コーナー材の幅寸法が同じ第1側面同士及び第2側面同士が突き 合せされることになり,原告が主張するような段差は発生しないから,原 告の主張は採用できない。 15 エ 3本以上のコーナー材を用いる場合について 原告は,前記第3の3?エのとおり,本件訂正発明には,3本以上の内 装用短尺コーナー材を用いる場合,オーバーラップ部分の形成及び切除を 行う個所や方法が特定されておらず,効果(3),(4)が達成されない 旨主張する。 20 しかし,本件訂正発明では,3本以上の内装用短尺コーナー材を用いる 場合にも,「少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対 峙させないように接合する第3工程」を行うのであるところ,3本以上の 内装用短尺コーナー材のうち中間部に配置する内装用短尺コーナー材に ついては,両端がいずれも他の内装用短尺コーナー材と対峙することとな25 るのであるから,「オーバーラップ部分を切除したカット面」を形成しな いこと,すなわち切除をしないことが明らかであって,原告の主張は採用 22 できない。 オ 第3工程について 原告は,前記第3の3?オのとおり,訂正明細書の発明の詳細な説明中 に,第3工程を必要とする理由等に関する記載がないとして,本件訂正発 5 明は,第3工程に関して,サポート要件を充足しない旨主張する。 しかし,現場ではさみ等を使って内装用短尺コーナー材を切断した上, カット面同士を対峙させて接合すると,工場出荷の際の端面同士を接合す る場合と比較して,接合時の端面間に隙間が生じやすいという課題がある ことは前記?イ(ウ)のとおり自明であり,本件訂正発明の「少なくとも前10 記内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合す る第3工程」に対応して効果(3)が生じ,それを前提に,「第4工程」 において,効果(4)が生じるものと当業者が理解することができること は前記?イ(ウ)及び(エ)のとおりであるから,原告の主張は採用できな い。 15 ? 小括 以上によれば,本件訂正発明は,発明の詳細な説明に記載された発明であ り,発明の詳細な説明の記載を踏まえると,当業者が発明の課題を解決する ことができると認識できる範囲のものであるということができ,サポート要 件(特許法36条6項1号)を充足するから,取消事由3は理由がない。 20 5 取消事由4(明確性要件の判断の誤り)について ? 明確性要件違反の有無について 本件訂正発明1は,第1工程ないし第4工程の4つの工程を有する施工方 法の発明であり,各工程において用いられている用語及び各工程の関係も, 平易なものであって特段不明確なものではない。そのため,本件訂正発明125 は,施工方法の発明全体として見た場合,第三者の利益を不当に害するほど に,発明が不明確というものではない。 23 また,本件訂正発明2は,本件訂正発明1の構成を全て有した上で,「内 装用短尺コーナー材」の長さの範囲を,具体的に数値で特定したものである から,本件訂正発明1と同様に,第三者に不測の不利益を生じさせるほどに 発明が不明確なものではない。 5 本件審決はこれと同旨であって,誤りはない。 ? 原告の主張について ア 用語「市販のコーナー材」,「短尺コーナー材」,「小型の搬送用車両」, 「横置き状態」,「通常のパテ施工」について(前記第3の4(1)ア) (ア) 「市販のコーナー材」について10 訂正明細書の【0004】,【0007】の記載を参酌すれば,請求 項1にいう「市販のコーナー材」は,長さが2500mm程度であり, 一般的には2000mm〜2300mm程度である日本家屋の床側の幅 木と天井との間にそのまま取り付けることができない長さのコーナー材 が想定されているものと,当業者であれば理解することができ,そこで15 問題となるのは長さであるから,具体的な材質や形状に関してまで記載 する必要はない。 (イ) 「小型の搬送用車両」について 訂正明細書の【0004】には「搬送作業時には,長さ2500mm のコーナー材を横置き状態に収容可能な荷台スペースを有する1ボック20 スワゴンタイプの車両やバンタイプの車両を使用する必要があった。」 と記載されているのであるから,本件審決が認定するとおり,本件訂正 発明における小型の搬送用車両としては,同所に例示されている車両に 比較して,小型の車両が想定されていると,当業者は容易に理解するこ とができる。 25 なお,原告は,道路運送車両法で規定する「軽自動車」や「小型自動 車」の概念と平仄が合わない場合がある旨主張するが,本件において「小 24 型の搬送用車両」に該当するか否かの問題を同法上の定義と整合させな ければならない理由はない。 (ウ) 「横置き状態」について 本件でいう「横置き状態」は,内装用短尺コーナー材を搬送用車両に 5 乗せて運搬する場面を想定したものであり,立て掛ける「縦置き」と対 比して,安定して相当数を運搬できる「横に寝かせて積層可能とした状 態」であることは明らかである。 (エ) 「通常のパテ施工」について 請求項1の「前記内装用短尺コーナー材を接合した後に,内装用短尺10 コーナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを行う」という記 載から,「通常のパテ施工」とは,「内装用短尺コーナー材の表面」に 「内装仕上げ」として行われる「パテ施工」であり,当該「パテ施工」 に「通常の」すなわち「普通の」という語が付記されていることが理解 できるのであり,第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確であ15 るとはいえない。 イ 用語「接合」について 原告は,前記第3の4?イのとおり,請求項 1 の「接合する」という工 程は,技術的に十分に特定されておらず,明細書及び図面の記載を考慮し ても,当業者が請求項の記載から発明を明確に把握できない旨主張する。 20 しかし,「接合」という用語は「つぎあわすこと」を意味する一般的な 用語で(広辞苑第七版,乙1),それ自体特段不明確なものではなく,ま た,本件訂正発明における「接合」という構成は,請求項1の記載上も, 一般的な意味とは異なる特異な解釈を要するような事情はない。 ウ 3本以上の内装用短尺コーナー材を用いる場合について25 原告は,前記第3の4?ウのとおり,本件訂正発明における第2工程及 び第3工程について,3本以上のコーナー材では,オーバーラップ部分の 25 形成方法,切除箇所,接合の場所及び方法について具体的に記載されてい ないから,明確でない旨主張する。 しかし,3本以上の内装用短尺コーナー材のうち,両端がいずれも他の 内装用短尺コーナー材と対峙することとなる,中間部に配置する内装用短 5 尺コーナー材については,「オーバーラップ部分を切除したカット面」を 形成しないことが明らかであることは前記4?エのとおりである。また, 床側又は天井側の端に配置する内装用短尺コーナー材についても,第3工 程においては「オーバーラップ部分を切除したカット面を対峙しないよう に反転」させることで「少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端部のカ10 ット面を対峙させない」ようにするのであるから,片方の端部のみに「オ ーバーラップ部分を切除したカット面」を形成することは,明らかである。 本件訂正発明において,「オーバーラップ部分を切除する第2工程」では, 「所定の作業場所の床側の幅木と天井との間に,少なくとも2本の前記内 装用短尺コーナー材を直線上にセット」した上で,「これらの内装用短尺15 コーナー材のオーバーラップ部分を切除する」ものであるから,3本以上 の内装用短尺コーナー材を用いる場合にも,「オーバーラップ部分」 「切 の 除」は,基本的に1本の内装用短尺コーナー材の1箇所で足り,「オーバ ーラップ部分」の「切除」を行う箇所を複数設ける必要がない。そして, 訂正明細書の【0025】及び【図6】には,3本の内装用短尺コーナー20 材を用いる場合について,オーバーラップ部分の切除が,2本の内装用短 尺コーナー材を用いる【図1】(a)の場合と同様に,1箇所のみで足り ることが,具体的に示されており,4本以上の内装用短尺コーナー材を用 いた場合にも,オーバーラップ部分の切除は,内装用短尺コーナー材を2 本用いる場合及び3本用いる場合と同様に,基本的に1箇所のみで足りる25 ことを,当業者であれば十分に理解することができる。また,3本以上の 内装用短尺コーナー材を用いた場合について,オーバーラップ部分をカッ 26 トしたカット面を対峙しないように反転させた接合を,2本の内装用短尺 コーナー材を用いた【図1】(b)の場合と同様に,行うことができるこ とも,当業者であれば十分に理解することができる。 エ 原告が主張するその他の点について,いずれもその前提を欠くものとい 5 うべきであり,採用し得ないことは,前記4の関係部分における説示から 明らかである。なお,原告の主張の多くは,同一の事項につき,サポート 要件違反,明確性要件違反,実施可能要件違反の各要件を正確に峻別する ことなく重ねて述べるものであり,また,当業者であれば想定しないよう な例外的場面,あるいは合理的な解釈により当然に理解可能な場面をとら10 えて,問題点を指摘するものであり,到底採用し得ないことを付言する。 ? 以上のとおり,本件訂正発明1及び2は,明確であり,明確性要件(特許 法36条6項2号)を充足するから,取消事由4は理由がない。 6 取消事由5(実施可能要件の判断の誤り)について ? 実施可能要件について15 本件訂正発明1は,第1工程ないし第4工程の4つの工程を有する施工方 法の発明であるところ,発明の詳細な説明の記載は,第1工程ないし第4工 程を含む実施例について具体的な説明を記載しているから,本件訂正発明1 について,当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく発明の実施をす ることができるだけの説明を記載したものである。 20 また,本件訂正発明2は,本件訂正発明1において,「内装用短尺コーナ ー材」の長さの範囲を具体的に数値で特定したものであるから,訂正明細書 における発明の詳細な説明の記載は,本件訂正発明1と同様に,本件訂正発 明2についても,当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく発明の実 施をすることができるだけの説明を記載したものである。 25 本件審決はこれと同旨であって,誤りはない。 ? 原告の主張について 27 ア 「接合」による効果(3)の達成について 前記5?イ及び4?イ(ウ)において説示したところに照らせば,前記第 3の5?アの主張に理由がないことは明らかである。 イ 効果(4)について 5 前記4?ア(エ)において説示したところに照らせば,前記第3の5?イ の主張に理由がないことは明らかである。 ウ 抽象的な記載について 原告は,前記第3の5?ウのとおり,訂正明細書の発明の詳細な説明に おける発明の実施形態について用いられている「市販のコーナー材」 「短 ,10 尺コーナー材」,「小型の搬送用車両」,「横置き状態」,「通常のパテ 施工」の各用語の技術的意味に関する記載は,抽象的又は機能的であり, 本件特許の発明がいかなる発明であるかを正確に把握することができな い旨主張する。 しかし,これらの用語の意味を当業者が明確に理解できることは前記515 ?アのとおりであり,原告の主張は前提を欠くものである。 エ 内装用短尺コーナー材の中間部位の幅寸法を異ならせた場合について 原告は,前記第3の5?エのとおり,内装用短尺コーナー材の中間部位 の幅寸法を一部異ならせた構成では,内装用短尺コーナー材1の側面2, 3と壁面との間に段差が存在し,この中間部位で切除して内装用短尺コー20 ナー材の端部を接合したとき,段差は存在したままであるので, (3) 効果 , (4)を達成できない旨主張する。 しかし,本件訂正発明において,内装用短尺コーナー材の接合を行うの は,内装用短尺コーナー材の端部であるから,内装用短尺コーナー材の中 間部位の幅寸法が一部変更されているか否かは,本件訂正発明における内25 装用短尺コーナー材の端部の接合には関わり合いがない。 仮に,本件訂正発明において,内装用短尺コーナー材の「オーバーラッ 28 プ部分を切除した」際に,内装用短尺コーナー材の幅寸法を一部変更した 中間部位が,「オーバーラップ部分を切除したカット面」となる場合があ るとしても,「オーバーラップ部分を切除したカット面」は,本件訂正発 明においては,「カット面を対峙しないように反転」させて,「カット面 5 を対峙させないように接合」を行うから,内装用短尺コーナー材の中間部 位の幅寸法の一部が変更されているか否かは,本件訂正発明における「内 装用短尺コーナー材」の端部の接合に,影響するものではない。 したがって,内装用短尺コーナー材の中間部位で幅寸法が一部変更され たとしても,効果(3),(4)に影響するものではなく,原告の主張は10 採用できない。 オ 原告が主張するその他の点について,いずれもその前提を欠くものとい うべきであり,採用し得ないことは,前記4の関係部分及び5?エにおけ る説示から明らかである。 ? 小括15 したがって,訂正明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件訂正発明を 実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえ,実施可 能要件(特許法36条4項1号)を充足するから,取消事由5は理由がない。 7 結論 以上のとおり,本件審決を取り消すべき違法は認められない。 20 したがって,原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし,主文の とおり判決する。 |