関連審決 |
無効2019-800100 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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令和3ネ10007 特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
令和2行ケ10079 審決取消請求事件 令和2行ケ10083 審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
令和3行ケ10021 審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
令和2行ケ10077 審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
令和2行ケ10078 審決取消請求事件 令和2行ケ10082 審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
令和
2年
(行ケ)
10144号
審決取消請求事件
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原告 エイワイファーマ株式会社 同訴訟代理人弁護士 川田篤 井上義隆 被告 株式会社大塚製薬工場 同訴訟代理人弁護士 設樂隆一 佐藤慧太 松阪絵里佳 同訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹 吉住和之 今村玲英子 同訴訟復代理人弁理士 妹尾彰宏 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2021/11/16 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2019-800100号事件について令和2年10月29日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,進歩性及びサポート要件違反についての有無である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,平成14年1月16日,発明の名称を「含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤」とする発明について特許出願(特願2002-7821号)をし,平成20年8月15日,その設定登録を受けた(特許第4171216号。請求項の数11。以下「本件特許」といい,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。。 )(甲28) その後,被告は,原告による2度にわたる特許の無効審判請求を受ける形で,平成29年6月19日付け及び平成31年2月19日付けでそれぞれ訂正の請求をし(甲11,12,29),それらの請求に係る訂正をすべき旨の審決は,いずれも確定している。 (2) 原告は,令和元年11月22日,本件特許の特許請求の範囲の請求項1,2,10及び11に記載された発明についての特許の無効審判の請求(以下「本件審判請求」という。)をし(無効2019-800100号事件。甲24),被告は,令和2年2月10日付けで訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。本件訂正請求の内容は,平成31年2月19日付け訂正の請求の内容と同一である。)をした(甲38の1・2)。特許庁は,令和2年10月29日,本件審判請求について,本件訂正請求に係る訂正を認めた上で「本件審判の請求は,成り立たない。 とする審決 」 (以下「本件審決」という。)をし,本件審決の謄本は,同年11月10日に原告に送達された。その後,平成31年2月19日付け訂正の請求に係る訂正をすべき旨の審決が確定したものである。 2 本件特許に係る発明の要旨 本件訂正請求に係る訂正後(平成31年2月19日付け訂正の請求に係る訂正後)の本件特許の特許請求の範囲の請求項1,2,10及び11の記載は,次のとおりである(以下,各請求項に係る発明を請求項の番号に応じて「本件訂正発明1」などといい,本件訂正発明1,2,10及び11を併せて「本件訂正発明」という。。 )(甲28,38の1・2) 【請求項1】 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され,他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤であって, 前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり, 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており, 前記外袋内の酸素を取り除いた,輸液製剤。 【請求項2】 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され,他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤であって, 前記溶液は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり, 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されている,輸液製剤。 【請求項10】 複室輸液製剤の輸液容器において,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって, 前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり, 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており, 前記外袋内の酸素を取り除いた,保存安定化方法。 【請求項11】 複室輸液製剤の輸液容器において,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって, 前記溶液は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり, 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されている,保存安定化方法。 3 本件審決の理由の要旨 (1) 引用発明の認定 ア 甲1(特開平11-158061号公報)に記載された発明の認定 (ア) 甲1に記載された輸液製剤に係る発明(以下「甲1輸液製剤発明」という。) 「還元糖を含有する溶液(A),アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなる輸液であって,溶液(A)がビタミンB 1を含有し,溶液(B)が葉酸を含有し,溶液(C)がビタミンCを含有し,更にビタミンB2が溶液(B)又は溶液(C)に配合され,かつ溶液(A)がpH3.5〜4.5,溶液(B)及び溶液(C)がpH5.5〜7.5であり,連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室にそれぞれ溶液(A)及び溶液(B)が収容され,そのいずれか一方の室に溶液(C)を収容した容器が,用時連通可能に接続され, (C) 溶液を収容する容器が2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋であり,容器を脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器で包装する中心静脈投与用輸液」 (イ) 甲1に記載された輸液製剤の保存安定化方法に係る発明(以下「甲1輸液製剤の保存安定化方法発明」といい,甲1輸液製剤発明と併せて「甲1発明」という。) 「還元糖を含有する溶液(A),アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなる輸液であって,溶液(A)がビタミンB 1を含有し,溶液(B)が葉酸を含有し,溶液(C)がビタミンCを含有し,更にビタミンB2が溶液(B)又は溶液(C)に配合され,かつ溶液(A)がpH3.5〜4.5,溶液(B)及び溶液(C)がpH5.5〜7.5であり,連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室にそれぞれ溶液(A)及び溶液(B)が収容され,そのいずれか一方の室に溶液(C)を収容した容器が,用時連通可能に接続され, (C) 溶液を収容する容器が2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋であり,容器を脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器で包装する中心静脈投与用輸液の保存安定化方法」 イ 甲13(特開2002-702号公報)に記載された発明の認定 (ア) 甲13に記載された輸液製剤に係る発明(以下「甲13輸液製剤発明」という。) 「医療用液体を封入する樹脂製容器であって,袋状の樹脂製容器本体及び少なくとも1つのポート部材を備え,容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により複数の分室C1〜C4に区画され,糖,電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し,小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤を収容し,ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容し,接着部は,容器本体外部からの10〜40kgfの押圧力により剥離可能であり,接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通し分室内の液体が混合され,ポート部材は,閉鎖体,筒体及び保持具を備え,閉鎖体を貫通する連通具を介し容器本体内の液体を注出又は容器本体内へ液体を注入可能であり,ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面は,いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成される容器」 (イ) 甲13に記載された輸液製剤の保存安定化方法に係る発明(以下「甲13輸液製剤の保存安定化方法発明」といい,甲13輸液製剤発明と併せて「甲13発明」という。) 「医療用液体の保存安定化方法であって,袋状の樹脂製容器本体及び少なくとも1つのポート部材を備え,容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により複数の分室C1〜C4に区画され,糖,電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し,小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤を収容し,ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容し,接着部は,容器本体外部からの10〜40kgfの押圧力により剥離可能であり,接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通し分室内の液体が混合され,ポート部材は,閉鎖体,筒体及び保持具を備え,閉鎖体を貫通する連通具を介し容器本体内の液体を注出又は容器本体内へ液体を注入可能であり,ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面は,いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成される,医療用液体を封入する樹脂製容器を用いた保存安定化方法」 (2) 本件訂正発明と引用発明との対比 ア 本件訂正発明と甲1発明との対比 (ア) 本件訂正発明1と甲1輸液製剤発明との対比 (一致点) 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され,その一室に収容容器が収納されており,前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外袋内の酸素を取り除いた,輸液製剤」に関するものである点 (相違点A1-1) 本件訂正発明1においては,アミノ酸を含有する溶液が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり,該溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であるのに対して,甲1輸液製剤発明は,アミノ酸を含有する溶液(B)が特定されていない点 (相違点B1-1) 本件訂正発明1においては,アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に,「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されているのに対して,甲1輸液製剤発明では,脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている点 (イ) 本件訂正発明2と甲1輸液製剤発明との対比 (一致点) 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され,その一室に収容容器が収納されており,前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されている輸液製剤」に関するものである点 (相違点A2-1) 本件訂正発明2においては,アミノ酸を含有する溶液が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり,該溶液は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であるのに対して,甲1輸液製剤発明は,アミノ酸を含有する溶液(B)が特定されていない点 (相違点B2-1) 本件訂正発明2においては,アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に,「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されているのに対して,甲1輸液製剤発明では,脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている点 (ウ) 本件訂正発明10と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明との対比 (一致点) 「複室輸液製剤の輸液容器において,アミノ酸を含有する溶液を有している室を有し,いずれかの室に収容容器を収納した輸液製剤の保存安定化方法であって,前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外袋内の酸素を取り除いた,保存安定化方法」に関するものである点 (相違点A10-1) 本件訂正発明10においては,アミノ酸を含有する溶液が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり,溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であるのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は,アミノ酸を含有する溶液(B)が特定されていない点 (相違点B10-1) 本件訂正発明10は,アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に,「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」 「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納」するのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では,脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている点 (エ) 本件訂正発明11と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明との対比 (一致点) 「複室輸液製剤の輸液容器において,アミノ酸を含有する溶液を有している室を有し,いずれかの室に収容容器を収納した輸液製剤の保存安定化方法であって,前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されている,保存安定化方法」に関するものである点 (相違点A11-1) 本件訂正発明11においては,アミノ酸を含有する溶液が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり,該溶液は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であるのに対して,甲1輸液製剤の安定化方法発明は,アミノ酸を含有する溶液(B)が特定されていない点 (相違点B11-1) 本件訂正発明11は,アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に,「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納」するのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では,脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている点 イ 本件訂正発明と甲13発明との対比 (ア) 本件訂正発明1と甲13輸液製剤発明との対比 (一致点) 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され,他の室を有する輸液製剤」に関するものである点 (相違点A1-13) 本件訂正発明1においては,アミノ酸を含有する溶液が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり,該溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であるのに対して,甲13輸液製剤発明は,アミノ酸の薬液が特定されていない点 (相違点B1-13) 本件訂正発明1においては,アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に,「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されているのに対して,甲13輸液製剤発明では,アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されておらず,他の室の一つであるC3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が独立して収容されている点 (相違点C1-13) 本件訂正発明1においては,輸液容器が「ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外袋内の酸素を取り除いた」ものであるのに対して,甲13輸液製剤発明では,そのような特定のない点 (イ) 本件訂正発明2と甲13輸液製剤発明との対比 (一致点) 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され,他の室を有する輸液製剤」に関するものである点 (相違点A2-13) 本件訂正発明2においては,アミノ酸を含有する溶液が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり,該溶液は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であるのに対して,甲13輸液製剤発明は,アミノ酸の薬液が特定されていない点 (相違点B2-13) 本件訂正発明2においては,アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に,「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されているのに対して,甲13輸液製剤発明では,アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されておらず,他の室の一つであるC3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が独立して収容されている点 (相違点C2-13) 本件訂正発明2においては,輸液容器が「ガスバリヤー性外袋に収納されている」ものであるのに対して,甲13輸液製剤発明では,そのような特定のない点 (ウ) 本件訂正発明10と甲13輸液製剤の保存安定化方法発明との対比 (一致点) 「複室輸液製剤の輸液容器において,アミノ酸を含有する溶液を収容している室と別室を有する輸液製剤の保存安定化方法」に関するものである点 (相違点A10-13) 本件訂正発明10においては,アミノ酸を含有する溶液が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり,該溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であるのに対して,甲13輸液製剤の保存安定化方法発明は,アミノ酸の薬液が特定されていない点 (相違点B10-13) 本件訂正発明10においては,アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に,「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納」するのに対して,甲13輸液製剤の保存安定化方法発明では,アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に, 「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」 「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されておらず,他の室の一つであるC3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が独立して収容されている点 (相違点C10-13) 本件訂正発明10においては,輸液容器が「ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外袋内の酸素を取り除いた」ものであるのに対して,甲13輸液製剤の保存安定化方法発明では,そのような特定のない点 (エ) 本件訂正発明11と甲13輸液製剤の保存安定化方法発明との対比 (一致点) 「複室輸液製剤の輸液容器において,アミノ酸を含有する溶液を収容している室と別室を有する輸液製剤の保存安定化方法」に関するものである点 (相違点A11-13) 本件訂正発明11においては,アミノ酸を含有する溶液が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり,該溶液は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であるのに対して,甲13輸液製剤の保存安定化方法発明は,アミノ酸の薬液が特定されていない点 (相違点B11-13) 本件訂正発明11においては,アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に,「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納」するのに対して,甲13輸液製剤の保存安定化方法発明では,アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に, 「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」 「 が収納されておらず,他の室の一つであるC3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が独立して収容されている点 (相違点C11-13) 本件訂正発明11においては,輸液容器が「ガスバリヤー性外袋に収納されている」ものであるのに対して,甲13輸液製剤の保存安定化方法発明では,そのような特定のない点 (3) 無効理由1(甲1に基づく特許法29条2項違反)について ア 本件訂正発明1について (ア) 相違点A1-1について 甲1の段落【0015】の一般的羅列記載では,溶液(B)に配合されるアミノ酸としては,多数の必須アミノ酸,非必須アミノ酸の各種アミノ酸の例や,塩,エステル,N-アシル誘導体や,2種アミノ酸の塩,ペプチドの形態で用いることもできるという多数の各種形態の例が示されているだけである。そして,実施例として,アセチルシステインは使用されていない。 したがって,アミノ酸としてL-システインを選択した上で,各種形態の例の中からN-アシル誘導体を選択し,さらに,アシルをアセチルとすることで,結果として,アセチルシステインとすることは,ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供することを課題とする(甲1の段落【0009】)甲1輸液製剤発明において,何ら動機付けがなく,輸液の成分としてのアミノ酸として,アセチルシステインが別の文献においてたまたま例示されているからといって(甲13,甲17[特開昭59-16817号公報],甲18[特開平9-87177号公報]に例示自体はある。,当業者が容易になし得る技術的事項ではない。 ) よって,甲1輸液製剤発明において,相違点A1-1の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (イ) 相違点B1-1について a 甲1は,還元糖,アミノ酸及びビタミン類を含有し,全てのビタミン類を安定に含有する中心静脈投与用輸液に関する特許文献であり(甲1の段落【0001】, )各種ビタミン類の必要性と安定な保存の困難性の認識の下(同【0004】〜【0008】,同【0009】に記載の「ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈 )投与用輸液を提供する」ことを課題とするものである。 b 甲1には,同【0043】に記載されるように,相違点B1-1に係る本件訂正発明1の構成である「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素」に関しては,輸液製剤の特定の場所にあらかじめ収納するものではなく,輸液の投与時に,必要に応じて他の配合薬,例えば微量元素(鉄,マンガン,銅,ヨウ素など),抗生物質等を,配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することが示されているだけである。 c 甲1輸液製剤発明の認定の根拠となった甲1の【図5】の剥離開封可能な小袋は,脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容する容器として示されているものである(甲1の請求項1,9,段落【0039】。 ) d したがって,甲1輸液製剤発明において,脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている構成を,アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に, 「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」 「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成に変更することは,構成の変更の動機付けがないとともに,ビタミン毎に適切なpHや環境で保存するという甲1輸液製剤発明の本来の機能を失わせるものであるとさえいえる。 e よって,甲1輸液製剤発明において,相違点B1-1の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (ウ) 効果について 本件訂正発明1は,請求項1に特定された構成をとることにより,硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を有する輸液製剤において,銅イオン等の微量金属元素を安定化することができ(本件明細書の段落【0014】,含硫化合物と微量金属元 )素を含有する輸液製剤において,微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌による汚染を全く排除することができ,かつ,経時変化を受けることなく保存できる輸液製剤を提供することができるという(同【0066】)顕著な効果を奏するものであり,実施例と比較例の比較からその効果が認められる(同【0065】。 ) イ 本件訂正発明2について (ア) 相違点A2-1について 甲1には,段落【0015】の記載と同【0033】の記載とが別々の箇所にあるだけで,溶液(B)に配合されるアミノ酸としては,多数の必須アミノ酸,非必須アミノ酸の各種アミノ酸の例や,塩,エステル,N-アシル誘導体や,2種アミノ酸の塩,ペプチドの形態で用いることもできるという多数の各種形態の例が示されているだけである。そして,実施例としても,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩の組み合わせに着目して示されているわけではない。 したがって,アミノ酸としてシステインまたはその塩,エステルもしくはN-アシル体を選択した上で,さらに亜硫酸塩とを組み合わせて選択し,特定の組み合わせとすることは,組み合わせの可能性として示されているだけであって,他の相違点との有機的関係も考慮すると,ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供することを課題とする甲1輸液製剤発明においては,特にそのように特定する動機付けがなく,他の多数の成分と共にL-システインと亜硫酸水素ナトリウムを含む輸液がたまたま例示がされているからといって(甲17に例示自体はある。,当業者が容易になし得る技術的事項ではない。 ) よって,甲1輸液製剤発明において,相違点A2-1の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (イ) 相違点B2-1について a 甲1は,還元糖,アミノ酸及びビタミン類を含有し,全てのビタミン類を安定に含有する中心静脈投与用輸液に関する特許文献であり(甲1の段落【0001】, )各種ビタミン類の必要性と安定な保存の困難性の認識の下(同【0004】〜【0008】,同【0009】に記載の「ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈 )投与用輸液を提供する」ことを課題とするものである。 b 甲1には,同【0043】に記載されるように,相違点B2-1に係る本件訂正発明2の構成である「銅」に関しては,輸液製剤の特定の場所にあらかじめ収納するものではなく,輸液の投与時に,必要に応じて他の配合薬,例えば微量元素(鉄,マンガン,銅,ヨウ素など),抗生物質等を,配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することが示されているだけである。 c 甲1輸液製剤発明の認定の根拠となった甲1の【図5】の剥離開封可能な小袋は,脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容する容器として示されているものである(甲1の請求項1,9,段落【0039】。 ) d したがって,甲1輸液製剤発明において,脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている構成を,アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に, 「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」 「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成に変更することは,構成の変更の動機付けがないとともに,甲1輸液製剤発明の本来の機能を失わせるものであるとさえいえる。 e よって,甲1輸液製剤発明において,相違点B2-1の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 ウ 本件訂正発明10について (ア) 相違点A10-1について 前記ア(ア)と同様の理由で,アミノ酸としてL-システインを選択した上で,各種形態の例の中からN-アシル誘導体を選択し,さらにアシルをアセチルとすることで,結果として,アセチルシステインとすることは,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明において,何ら動機付けがなく,アセチルシステインが別の文献においてたまたま例示されているからといって,当業者が容易になし得る技術的事項ではない。 したがって,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明において,相違点A10-1の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (イ) 相違点B10-1について a 前記ア(イ)bのとおり,甲1には,相違点B10-1に係る本件訂正発明10の構成である「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素」に関しては,輸液の投与時に,必要に応じて他の配合薬,例えば微量元素(鉄,マンガン,銅,ヨウ素など),抗生物質等を,配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することが示されているだけである。 b その他,前記ア(イ)a及びcのとおりである。 c したがって,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明において,脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている構成を,アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に,「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納」する構成に変更することは,構成の変更の動機付けがないとともに,ビタミン毎に適切なpHや環境で保存するという甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の本来の機能を失わせるものであるとさえいえる。 d よって,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明において,相違点B10-1の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 エ 本件訂正発明11について (ア) 相違点A11-1について 前記イ(ア)と同様の理由で,アミノ酸としてシステインまたはその塩,エステルもしくは,ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供することを課題とする甲1輸液製剤の保存安定化方法発明においては,特にそのように特定する動機付けがなく,他の多数の成分と共にL-システインと亜硫酸水素ナトリウムを含む輸液がたまたま例示されているからといって,当業者が容易になし得る技術的事項ではない。 したがって,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明において,相違点A11-1の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (イ) 相違点B11-1について a 前記イ(イ)bのとおり,甲1には,相違点B11-1に係る本件訂正発明11の構成である「銅」に関しては,輸液の投与時に,必要に応じて他の配合薬,例えば微量元素(鉄,マンガン,銅,ヨウ素など),抗生物質等を,配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することが示されているだけである。 b その他,前記イ(イ)a及びcのとおりである。 c したがって,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明において,脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている構成を,アミノ酸を含有する溶液を「収容している室と別室」に,「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納」する構成に変更することは,構成の変更の動機付けがないとともに,ビタミン毎に適切なpHや環境で保存するという甲1輸液製剤の保存安定化方法発明の本来の機能を失わせるものであるとさえいえる。 d よって,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明において,相違点B11-1の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 オ 無効理由1のまとめ 以上のとおり,本件訂正発明は,甲1発明から当業者が容易に発明することができたものとはいえず,無効理由1には,理由がない。 (4) 無効理由2(甲13に基づく特許法29条2項違反)について ア 本件訂正発明1について (ア) 相違点A1-13について 甲13の段落【0021】の記載においては,各種のアミノ酸が例示されるとともに,配合されるアミノ酸として,遊離形態,塩,エステル形態とともに,N‐アシル誘導体等の種々の形態が示されているものの,最終的に具体的なアミノ酸の化合物としては,N-アセチル-L-システインが唯一の例として記載されている。 したがって,甲13輸液製剤発明において,アミノ酸を含有する溶液を唯一の具体例であるN-アセチル-L-システインを含むアミノ酸溶液とすること,つまり,アミノ酸輸液が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり,該溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液との構成とすること自体は,当業者が容易になし得る技術的事項であるといえる。 よって,甲13輸液製剤発明において,相違点A1-13の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるといえる。 (イ) 相違点B1-13について a 甲13の技術分野(段落【0001】 及び課題 【0007】 0008】, ) (同 , 【 )発明の実施の態様である多室容器の構造の記載(同【0018】)を前提とし,記載されている効果(同【0024】)を踏まえると,甲13の記載は,医療用液体を封入する樹脂製容器が,袋状の樹脂製容器本体及び複数のポート部材を備えることや容器本体が接着部により複数の分室C1〜C4に区画され,それぞれ医療用液体又は粉末等固形薬剤を収容可能であるとして,複数のポート部材や分室C1〜C4を利用して,医療用液体M1,2又は粉末等固形薬剤を収容可能にすることを技術思想とするもので,好ましい態様として,糖,電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し,小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤,ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容する経中心静脈栄養用キット製剤の形態が示されているだけであるといえる。 b 甲13輸液製剤発明は,アミノ酸を含有するC1もしくはC2以外の他の室の一つであるC3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が独立して収容されている形態が好ましいとして,図1に基づいて認定されたもので,発明として完成したものであるから,アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」をわざわざ,さらに収納される構成に変更する動機付けがない。 c さらに,甲13輸液製剤発明は,C3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が他の室の内容物と接することなく独立して収容されている形態によって,配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用等の各成分を容器内に長期間収容できるという効果を奏するという技術思想を有しているから,その収容形態を変更することは,甲13輸液製剤発明の本来の機能を失わせるものであるとさえいえる。 d 甲15(特開2001-252333号公報)は,甲15の段落【0001】に記載の技術分野において,同【0004】に記載の課題認識の下,甲15の図1に示されたような,甲15の【請求項1】記載の構成を採用したものであるところ,甲15の段落【0008】の記載も踏まえると,甲15において,吸湿や酸化による薬剤の変質を生じると認識している薬剤は,抗生剤,抗癌剤,ステロイド剤,血栓溶解剤,ビタミン剤などであって,相違点B1-13の構成に関連した,アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に, 「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」 「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成は,何ら示されていない。 したがって,甲13輸液製剤発明において,甲15に記載された技術的事項を参酌することには,動機付けがないとともに,仮に適用したとしても,相違点B1-13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。 e 甲1について,前記(3)ア(イ)a〜c(ただし, 「相違点B1-1」を「相違点B1-13」と読み替える。)によると,甲13輸液製剤発明において,甲1に記載された技術的事項を参酌することには,動機付けがないとともに,仮に適用したとしても,相違点B1-13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。 f よって,甲13輸液製剤発明において,相違点B1-13の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (ウ) 相違点C1-13について 甲13輸液製剤発明は,甲13に記載されるように,糖,電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し,小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤,ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容することで,配合変化する各成分を各区画室に隔離でき,各成分とくに配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用の各成分を容器内に長期間収容できたものであるから,各成分同士の配合変化による問題に着目しているものである。 そして,ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面を,ポリエチレン,ポリプロピレンではない,いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成することで,接着不良をすでに低減し,配合変化する各成分を各区画室に隔離でき,各成分とくに配合変化しやすい成分の品質劣化を抑制したものであるから,アミノ酸自体の酸素による酸化分解,着色あるいは沈殿を生じることに着目した甲16(「栄養輸液用複室バッグキットの開発とその課題」ファームテクジャパン16巻1号105〜113頁。平成12年1月1日)の110頁左欄下から8行目から右欄1〜5行目に記載の手段を,さらにあえて適用する動機付けがあるとはいえない。 したがって,甲13輸液製剤発明において,相違点C1-13の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (エ) 効果について 前記(3)ア(ウ)のとおりである。 イ 本件訂正発明2について (ア) 相違点A2-13について a 甲13には,段落【0021】の記載があるだけで,配合されるアミノ酸として,遊離形態,塩,エステル形態とともに,一部又は全部をN-アシル誘導体の形態とする例として,N-アセチル-L-システインが唯一の例として記載されている。また,亜硫酸塩については,全く記載がない。 b そして,システインからのH2Sの悪臭や亜硫酸塩によるアレルギー反応などの問題認識で,甲32(特開平4-210629号公報),甲33(「静脈経腸栄養年鑑2000 製剤・器具一覧 第2巻」株式会社ジェフコーポレーション16〜23頁。平成12年5月15日),甲8(特開平7-89856号公報),甲22(「医療薬 日本医薬品集 2001(第24版)」財団法人日本医薬情報センター編715〜733頁。平成12年11月2日[国立国会図書館受入日])に見られるように,亜硫酸塩又はシステインの少なくとも片方を輸液製剤に含有させないようにした例が多数存在している。 c 以上のことからみて,甲13輸液製剤発明において,アミノ酸輸液が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液であり,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であると特定の組み合わせの構成とすることは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 d よって,甲13輸液製剤発明において,相違点A2-13の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (イ) 相違点B2-13について a 甲13については,前記ア(イ)a〜cのとおりである。 b 甲15については,前記ア(イ)dのとおりであって,相違点B2-13の構成に関連した,アミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に, 「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」 「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されている構成は,何ら示されていない。 したがって,甲13輸液製剤発明において,甲15に記載された技術的事項を参酌することには,動機付けがないとともに,仮に適用したとしても,相違点B2-13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。 c 甲1について,前記(3)イ(イ)a〜c(ただし, 「相違点B2-1」を「相違点B2-13」と読み替える。)によると,甲13輸液製剤発明において,甲1に記載された技術的事項を参酌することには,動機付けがないとともに,仮に適用したとしても,相違点B2-13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。 d よって,甲13輸液製剤発明において,相違点B2-13の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (ウ) 相違点C2-13について 前記ア(ウ)に記載の理由により,甲13輸液製剤発明において,相違点C2-13の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (エ) 効果について 前記(3)ア(ウ)のとおり(ただし, 「本件訂正発明1」を「本件訂正発明2」と, 「請求項1」を「請求項2」とそれぞれ読み替える。)である。 ウ 本件訂正発明10について (ア) 相違点A10-13について 前記ア(ア)のとおり,甲13輸液製剤発明において,相違点A10-13の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるといえる。 (イ) 相違点B10-13について a 甲13については,前記ア(イ)a〜cのとおりである。 b 甲15については,前記ア(イ)dのとおり(ただし,「相違点B1-13」を「相違点B10-13」と読み替える。)である。 c 甲1について,前記(3)ア(イ)a〜c(ただし, 「相違点B1-1」を「相違点B10-13」と読み替える。)によると,甲13輸液製剤発明において,甲1に記載された技術的事項を参酌することには,動機付けがないとともに,仮に適用したとしても,相違点B10-13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。 d よって,甲13輸液製剤発明において,相違点B10-13の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (ウ) 相違点C10-13について 前記ア(ウ)のとおり(ただし,「甲13輸液製剤発明」を「甲13輸液製剤の保存安定化方法発明」と読み替える。,甲13輸液製剤発明の保存安定化方法発明にお )いて,相違点C10-13の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (エ) 効果について 前記(3)ア(ウ)のとおり(ただし,「本件訂正発明1」を「本件訂正発明10」と,「請求項1」を「請求項10」とそれぞれ読み替える。)である。 エ 本件訂正発明11について (ア) 相違点A11-13について 前記イ(ア)のとおり(ただし,「甲13輸液製剤発明」を「甲13輸液製剤の保存安定化方法発明」と読み替える。, )甲13輸液製剤の保存安定化方法発明において,相違点A11-13の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (イ) 相違点B11-13について a 甲13については,前記ア(イ)a〜cのとおりである。 b 甲15については,前記ア(イ)dのとおり(ただし,「相違点B1-13」を「相違点B11-13」と, 「甲13輸液製剤発明」を「甲13輸液製剤の保存安定化方法発明」と,それぞれ読み替える。)である。 c 甲1について,前記(3)イ(イ)a〜cのとおり(ただし, 「相違点B2-1」を「相違点B11-13」と読み替える。)である。 したがって,甲13輸液製剤の保存安定化方法において,甲1に記載された技術的事項を参酌することは,動機付けがないとともに,仮に適用したとしても,相違点B11―13の構成を当業者が容易に想到するとはいえない。 d よって,甲13輸液製剤発明において,相違点B11-13の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (ウ) 相違点C11-13について 前記ア(ウ)に記載の理由により(ただし,「甲13輸液製剤発明」を「甲13輸液製剤の保存安定化方法発明」と読み替える。 ,甲13輸液製剤の保存安定化方法発 )明において,相違点C11-13の構成をなすことは,当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。 (エ) 効果について 前記(3)ア(ウ)のとおり(ただし,「本件訂正発明1」を「本件訂正発明11」と,「請求項1」を「請求項11」とそれぞれ読み替える。)である。 オ 無効理由2のまとめ 以上のとおり,本件訂正発明は,甲13発明から当業者が容易に発明することができたものとはいえず,無効理由2には,理由がない。 (5) 無効理由3(特許法36条6項1号違反)について ア 本件訂正発明の課題 本件明細書の段落【0002】〜【0004】の【従来の技術】の記載,同【0005】の【発明が解決しようとする課題】の記載及び本件明細書全体の記載を参酌すると,本件訂正発明1及び2の課題は,微量金属元素が安定に存在している含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することにあり,本件訂正発明10及び11の課題は,該輸液製剤の保存安定化方法の提供にあるものと認められる。 イ 本件訂正発明1について (ア) 本件訂正発明1は,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器であることを前提に,その一室にアセチルシステインを含むアミノ酸輸液が充填されることと,他の室に,鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された熱可塑性樹脂フィルム製の袋である微量金属元素収容容器が収納されていることと,輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており,外袋内の酸素を取り除いたものであることを特定した輸液製剤である。 (イ) 本件明細書の発明の詳細な説明においては,発明の実施の形態としての輸液容器の構造や形成材料(本件明細書の段落【0012】【0013】 ,効果の記載 , )(同【0014】【0066】,硫黄原子を含む化合物や含硫化合物を含む溶液の , )例示(同【0015】【0016】 , )の記載,微量金属元素収容容器の収納方法,微量金属元素の例示の記載,微量金属元素収容容器を収納している室についての説明(同【0020】【0021】【0024】 , , )が一般的記載としてされた上で,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1の構造や材質に対応した輸液製剤の好ましい態様である【図1】について,具体的態様について構造の説明(同【0031】〜【0034】)やガスバリヤー性外袋と脱酸素剤に関して材質や使用形態の説明(同【0035】〜【0039】,微量金属元素収容容器を収納している室についての説明 )(同【0040】〜【0045】)が,それぞれ詳細に記載されている。 さらに,本件訂正発明1に該当する実施例1と該当しない比較例について,製造方法と溶液(A)〜(C)の成分組成の記載が示され(同【0062】〜【0064】,安定性試験として,着色確認と銅の安定性確認の結果(同【0065】 ) )が示されている。 (ウ) したがって,当業者であれば,上記請求項1に係る全ての特定事項について理解できるとともに,それらの特定事項を備えて,複数の室を有する輸液容器において,含硫化合物を含む溶液の充填された室と他の室に微量金属元素収容容器が収納され,さらに酸素を取り除いたガスバリヤー性外袋に収納する構成とすれば,微量金属の着色や銅の減少が生じず安定であることが裏付けをもって理解でき,本件訂正発明1の課題が解決できると認識できるといえる。 ウ 本件訂正発明2について (ア) 本件訂正発明2は,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器であることを前提に,その一室にシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液が充填されることと,他の室に,銅を含む液が収容された熱可塑性樹脂フィルム製の袋である微量金属元素収容容器が収納されていることと,輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されていることを特定した輸液製剤である。 (イ) 本件明細書の発明の詳細な説明においては,前記イ(イ)の一般的記載がされた上で,本件明細書の特許請求の範囲の請求項2の構造や材質に対応した輸液製剤の好ましい態様である【図1】について,具体的態様について構造の説明(本件明細書の段落【0031】〜【0034】)やガスバリヤー性外袋に関して材質や使用形態の説明(外袋に収納されていることで本件訂正発明の輸液製剤の成分の酸化分解を抑えることができる旨の記載もある。(同【0035】〜【0039】,微量金 ) )属元素収容容器を収納している室についての説明(同【0040】〜【0045】)が,それぞれ詳細に記載されている。 さらに,本件訂正発明2に該当する実施例2〜4と該当しない比較例について,製造方法と溶液(A)〜(D)の成分組成の記載が示され(同【0062】〜【0064】,安定性試験として,着色確認と銅の安定性確認の結果(同【0065】 ) )が示されている。 (ウ) したがって,当業者であれば,上記請求項2に係る全ての特定事項について理解できるとともに,それらの特定事項を備えて,複数の室を有する輸液容器において,含硫化合物を含む溶液の充填された室と他の室に微量金属元素収容容器が収納され,さらにガスバリヤー性外袋に収納する構成とすれば,微量金属の着色や銅の減少が生じず安定であることが裏付けをもって理解でき,本件訂正発明2の課題が解決できると認識できるといえる。 エ 本件訂正発明10について (ア) 本件訂正発明10は,複室輸液製剤の輸液容器であることを前提に,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液が充填している室と,別室に,鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された熱可塑性樹脂フィルム製の袋である微量金属元素収容容器が収納されていることと,輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており,外袋内の酸素を取り除いたものであることを特定した輸液製剤の保存安定化方法である。 (イ) 前記イと同様に,当業者であれば,本件明細書の特許請求の範囲の請求項10に係る全ての特定事項について理解できるとともに,それらの特定事項を備えて,複室輸液製剤の輸液容器において,含硫化合物を含む溶液の充填された室と別室に微量金属元素収容容器が収納され,さらに酸素を取り除いたガスバリヤー性外袋に収納する構成とすれば,微量金属の着色や銅の減少が生じず安定であることが裏付けをもって理解でき,本件訂正発明10の課題が解決できると認識できるといえる。 オ 本件訂正発明11について (ア) 本件訂正発明11は,複室輸液製剤の輸液容器であることを前提に,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液が充填している室と,別室に,銅を含む液が収容された熱可塑性樹脂フィルム製の袋である微量金属元素収容容器が収納されていることと,輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されていることを特定した輸液製剤の保存安定化方法である。 (イ) 前記ウと同様に,当業者であれば,本件明細書の特許請求の範囲の請求項11に係る全ての特定事項について理解できるとともに,それらの特定事項を備えて,複室輸液製剤の輸液容器において,含硫化合物を含む溶液の充填された室と別室に微量金属元素収容容器が収納され,さらにガスバリヤー性外袋に収納する構成とすれば,微量金属の着色や銅の減少が生じず安定であることが裏付けをもって理解でき,本件訂正発明11の課題が解決できると認識できるといえる。 カ 以上のとおり,本件訂正発明は,本件訂正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであって,発明の詳細な説明に記載された発明であるといえ,特許法36条6項1号に適合するものである。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(無効理由1に理由がないとした本件審決の誤り) 無効理由1についての本件審決の認定判断には,当業者の通常の理解に基づかない,@甲1発明及び相違点A1-1の認定の誤り,A相違点A1-1に関する容易想到性の判断の誤り,B相違点B1-1に関する容易想到性の判断の誤り,C顕著な効果に関する判断の誤りという一連の誤りがある。具体的には,次のとおりである。 (1) 取消事由1-1(本件訂正発明1に係るもの) ア 甲1発明及び相違点A1-1の認定の誤り (ア) 甲1の段落【0012】【0015】〜【0018】【0033】【003 , , ,4】【0039】における発明に係る記載や,段落【0045】 【0046】及び , ,【0049】 【表2】における実施例に係る記載をみると,これらの段落には, (遊 @離形態で換算された)その好ましい配合量とともに,L-システイン(以下,当事者の主張においては単に「システイン」と表記することがある。)がアミノ酸を含有する溶液(B)に含まれることが,Aシステインを遊離形態ではなく,塩,エステル,N-アシル誘導体の形態としても用いることができることが,B実際に,実施例1の溶液(B)には,1.0g/lのシステインが含まれていることがそれぞれ記載されている。また,Cその添加量の上限とともに,亜硫酸塩を安定化剤としてアミノ酸を含有する溶液(B)に配合できることや,D実際に,実施例1の溶液(B)には,50mg/lの(亜硫酸塩である)亜硫酸水素ナトリウムが含まれていることも記載されている。 この点,上記B及びDは,単に選択肢や可能性として羅列するにとどまらず,実際に,システイン及び亜硫酸塩(安定化剤)を溶液(B)に含む成分として具体的に開示したものである。 また,上記Aについて,システインのN-アシル誘導体として安定性があり,かつ,炭素鎖が短いものとして,アセチルシステイン(システインのアミノ基の水素(H) アシル基 が, (RO-)であるアセチル基(CH 3CO-)に置換されたもの。)は,その典型的なものである。この点,現時点ですら,実際の輸液製剤に使用されているシステインの別形態としては,塩の形態では,システイン塩酸塩水和物(例えば甲42)やリンゴ酸システイン(例えば甲22)N-アシル誘導体の形態では, ,アセチルシステイン(例えば甲42)程度にすぎない。 したがって,甲1発明について,アミノ酸を含有する溶液(B)は,葉酸のほか,少なくとも「システイン及び/又はアセチルシステイン並びに亜硫酸塩」を含有するものと認定すべきであるにもかかわらず,上記の認定をしなかった本件審決には誤りがある。 (イ) 本件審決が,甲1発明の構成を認定するに際し,甲1の特許請求の範囲の請求項1及び9,段落【0039】及び【0040】並びに【図5】のみを引用していることからすると,本件審決は,同【図5】に示される形状の輸液容器に係る甲1発明における溶液としては,同請求項9の連通可能な容器において同請求項1に記載されている程度の溶液しか認定することができないと判断したものと思われる。 しかし,甲1の段落【0034】の記載からすると,甲1記載の「本発明」に含まれる甲1の3通りの形状の輸液容器,すなわち甲1の【図2】【図4】及び【図 ,5】の輸液容器に収容する各溶液の成分は,同一のものとすることが当然に予定されている。 したがって,同【図5】の形状の輸液容器に係る甲1発明の構成を認定するに当たっては,上記3通りの形状の輸液容器に係る輸液成分に関して共通の記述をしている甲1の段落【0015】及び【0033】のほか,甲1記載の「本発明」に含まれる実施例1(輸液容器の形状は同【図2】)に関して記述している段落【0046】などを踏まえる必要がある。 なお,甲1の実施例の【図2】の輸液容器は,「溶液(C)」の収容容器の素材として「ガラス」を,その栓には「テフロンコーティングゴム栓」を用いているところ(甲1の段落【0047】,その理由は, ) 「ガラス」及び「テフロン」がビタミンDを吸着しない素材だからである(同【0037】。この点,同【0037】には, )「ガラス」及び「テフロン」以外の素材として, 「ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリアクリロニトリル,環状ポリオレフィン,ポリアミド(ナイロン等),ポリカーボネート」などの熱可塑性樹脂も挙げられており,輸液容器の素材という観点からも,甲1には,甲1発明の構成が具体的に開示されているといえる。 (ウ) 特許・実用新案審査基準における,刊行物に記載された発明の認定方法によると,刊行物が公開特許公報である場合,当該公報に基づいて認定することができる引用発明は,当該公報に記載された実施例に係る発明に限られるものではなく,当該公報に記載されている事項,更には記載されているに等しい事項(刊行物に記載されている事項に基づいて出願時の技術常識を参酌することにより当業者が導き出すことができる事項)から把握される発明を認定することができる。特許公報に開示された発明の認定については,技術常識をも踏まえつつ,請求項の記載のみならず,明細書の一般的記載,更には実施例に係る記載をも含めた公報の記載全体から総合的に判断されることが通常であるにもかわらず,同一の特許公報において明らかに関連性のある記載を分断している点において,本件審決には大きな誤りがある。上記段落【0034】の記載や,甲1記載の「本発明」の実施例1に,アミノ酸を含む溶液の成分として,システイン及び亜硫酸塩を含んだ組合せがひとまとまりに開示されていることからすると,それらはひとまとまりの技術思想として把握すべきものである。 (エ) 上記のように甲1発明の認定に誤りがある以上,相違点A1-1が相違点を構成するとの本件審決の判断にも誤りがある。 (オ) 相違点の一体化に関する被告の主張について 前記(エ)と異なり,本件審決が認定した相違点A1-1の存在を前提として,これを相違点B1-1とまとめ合わせるべきであるとする被告の主張は,その前提において失当である。 この点をおくとしても,相違点A1-1がアミノ酸輸液に配合される成分に関する相違点である一方,相違点B1-1は微量金属元素収容容器に収容される微量金属元素の成分と同容器の収納場所に関する相違点であるから,これらは技術的観点を異にしており,これをまとめ合わせて一つの相違点として認定すべき理由はない。 イ 相違点A1-1に関する容易想到性の判断の誤り 仮に,相違点A1-1が相違点を構成するとしても,次のとおり,相違点A1-1を解消することは極めて容易であり,これと異なる本件審決の判断には誤りがある。 (ア) アセチルシステインについて a 甲1の実施例1(輸液容器の形状は甲1の【図2】に係るもの)に収容される溶液(B)は,1.0g/lのシステインを含んでおり(甲1の段落【0046】及び【0049】,溶液(B)などの各溶液を収容する容器の形状は特に制限され )ないことが開示され(同【0034】,輸液容器の形状とは無関係に溶液(B)に )配合されるアミノ酸としてシステインが具体的に挙げられている 【0015】。 (同 )これらの記載から,甲1輸液製剤発明(輸液容器の形状は甲1の【図5】に係るもの)において,実施例1と同様,溶液(B)として,システインを含んだ構成とすることは,当業者が極めて容易になし得ることである。 さらに,甲1の段落【0015】には,溶液(B)に含まれるアミノ酸の成分として,N-アシル誘導体の形態で用いることもできることが記載されており,甲1は,その輸液容器の形状を限定することなく,甲1に開示された輸液容器からなる輸液製剤の溶液(B)にアセチルシステインを含めることも当然に予定している。 そして,アセチルシステインがシステインと等価なものとして輸液に使用されるアミノ酸であることは,@甲17(3頁右下欄9〜15行),A甲18(段落【0013】【0014】及び【表2】,B甲41(岡田正=井村賢治「小児外科とアミノ , )酸輸液」医薬ジャーナル26巻8号145頁右欄9〜末行。平成2年8月1日),C甲42(社団法人ドイツ連邦製薬産業連合会[Bundesverband der PharmazeutischenIndustrie e.V.] 「Rote Liste 1994」)といった公知文献の記載からも示されるとおり,技術常識である。 以上によると,甲1の記載は,甲1輸液製剤発明において,溶液(B)のアミノ酸の成分としてシステインを採用することを強く示唆しており,また,技術常識を踏まえると,当業者において,システインに代えてアセチルシステインとする構成とすることは極めて容易である。 b 上記に関し,システインもアセチルシステインも含硫アミノ酸であり,硫化水素を発生させ,微量金属元素である銅などを沈殿させるという本件訂正発明1の課題の原因となる点では同じであるから,当該課題との関係において,システインを用いるかアセチルシステインを用いるかは,技術的意義に乏しく,溶解度などの観点から選択される単なる設計的事項にほかならないというべきである。 (イ) 亜硫酸塩について 甲1の実施例1に収容される溶液(B)には,亜硫酸塩の一つである亜硫酸水素ナトリウムを50mg/l含むものとされており(甲1の段落【0046】,溶液 )(B)などの各溶液を収容する容器の形状は特に制限されないこと 【0034】, (同 )容器の形状とは関係なく,溶液(B)に添加する安定化剤として亜硫酸塩を添加できること(同【0033】)が,それぞれ記載されている。これらの記載は,甲1輸液製剤発明において,溶液(B)に亜硫酸塩を添加する構成を採用することを強く示唆しているから,当業者であれば,そのような構成を備えたものを極めて容易になし得る。 なお,アミノ酸を含有する溶液に亜硫酸塩を添加することは,後記2(2)イ(イ)のとおり,高カロリー輸液の技術分野における本件出願当時の技術常識である。 ウ 相違点B1-1に関する容易想到性の判断の誤り 次のとおり,甲1の記載から,当業者は, 「銅」などの微量元素を熱可塑性樹脂フィルム製の小袋に収容し,2室バッグの輸液容器が備える2室の輸液室のうち一方の室の内部に収容した構成とすることを示唆される。そして,含硫アミノ酸から発生する硫化水素の影響に係る技術常識を踏まえると,上記熱可塑性樹脂フィルム製の小袋の収容先としては,アミノ酸を含有する溶液が充填されていない室(糖・電解質液が充填された室)を選択せざるを得ない。したがって,相違点B1-1を解消することは極めて容易であり,これと異なる本件審決の判断には誤りがある。なお, 「容器の素材/形態」「収容物」「収納先」の各要素において選択可能な複数の , ,構成を組み合わせることは,当業者において実施可能な範囲において通常の技術的能力を発揮してなし得ることである。 (ア) 示唆について a 甲1には,甲1輸液製剤発明(輸液容器の形状は甲1の【図5】に係るもの)のほか,甲1の【図2】又は【図4】に示される形状の輸液容器からなる輸液製剤発明も開示されており,それらのいずれにおいても,溶液(C) (脂溶性ビタミンを含有する溶液)を収容した容器を,溶液(A) (還元糖を含有する溶液)を収容した室又は溶液(B) (アミノ酸を含有する溶液)を収容した室のいずれかの室に用時連通可能に接続した構成を採用しているところ(甲1の段落【0034】,このよう )な構成が採用されている理由は,?高カロリー輸液の患者は摂食によりビタミンを得ることができないため,あらかじめビタミンを輸液に配合しておかないと,比較的長期間に及ぶ投与において欠乏症の問題が生じ,ビタミンを併用することが不可欠であること(以下「理由?」という。,?安定性に欠けるため,あらかじめ配合 )しておくことが困難であり,用時に混注せざるを得ないこと(以下「理由?」という。,?従来,用時にビタミンを別の容器から基本的な輸液(糖・電解質液,アミ )ノ酸液)に混注する際には,細菌汚染のおそれがあり,かつ,混注の操作は煩雑であるため,看護師など担当者に多大な負担を強いていること(以下「理由?」という。)といった課題を解決するためである(同【0004】。 ) このように,甲1輸液製剤発明において, (C) 溶液 を収容した小袋を, (A) 溶液又は溶液(B)を収容した二つの室のいずれかの室の内部に収納した,いわゆるバッグインバッグの構成とし,2室バッグかつバッグインバッグの構成とした理由は,理由?,?及び?の問題を解決するためであるところ,これらの問題に係る甲1のビタミンに係る記載は,甲1においても用時混注することが記載されている銅などを含む微量元素を含有する溶液についても同様に妥当するから,同溶液をビタミンと同様の小袋に収容し,その小袋を2室バッグの輸液容器の一方の室の内部に収納し,2室バッグかつバッグインバッグの構成とすることが示唆される。 具体的には,理由?については,甲1の段落【0004】に,ビタミンのみならず銅などを含む微量元素についても,比較的長期間に及ぶ投与において欠乏症の問題が生じることが記載されている。なお,銅などの微量元素について欠乏症の問題が生じることは,甲4(高木洋治ほか「静脈栄養施行時の微量元素動態」JJPEN輸液・栄養ジャーナル」11巻4号512〜519頁。平成元年4月10日)においても指摘されており,本件明細書の段落【0003】にも従来の技術の説明として同様の記載がある。 また,理由?が銅などを含む微量元素についても同様に妥当することは,甲1輸液製剤発明の投与時に銅を含む微量元素を含有する溶液を混注することにより対応することが甲1の段落【0043】に記載されていることから明らかである。なお,本件明細書の段落【0003】においても,従来の技術に係る説明として,あらかじめ配合することにより品質劣化が生じることを理由として,微量元素について実際に混注操作がなされていることが記載されている。 さらに,理由?は,別の容器から混注するという操作の方法自体に伴う問題点であり,ビタミンに限られた問題ではない。ビタミンを別の容器から用時に混注する際におけると同様,銅などを含む微量元素を含有する溶液を別の容器から混注する場合であっても,理由?の問題が生じることは不可避である。 したがって,甲1輸液製剤発明において,ビタミンを含有する溶液(C)を収容した小袋を溶液(A)又は溶液(B)の室の内部に収納したバッグインバッグとし,2室バッグかつバッグインバッグとする構成を採用した理由である理由?,?及び?が,銅などを含む微量元素を含有する溶液にも同様に妥当することは,甲1の記載から明らかであるから,甲1の記載は,ビタミンを含有する溶液(C)を収容した小袋と同様,銅を含む微量元素を含有する溶液を収容した小袋をバッグインバッグとし,2室バッグかつバッグインバッグとする構成を採用することを強く示唆している,又は十分に動機付けるものであるというべきである。 b 甲1には,そこで指摘されながらも解決されないまま残された微量元素に関する課題が開示されているのであり,解決されたビタミンに関する課題のみが,甲1に開示されている課題であるとはいえない。なお,甲1の【図5】の小袋は,脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容する容器であるが,溶液(A) 溶液 , (B)という他の溶液と溶液(C)を混合した場合に,ビタミンの安定性が欠けてしまうことを防止するという観点から設けられた袋であるから,ビタミンと同様,他の溶液と混合した場合に安定性が欠ける微量元素についても, (別途用意した)小袋に収容してバッグインバッグ構成とすることを動機付けるものである。 c 他方,甲1輸液製剤発明がビタミンを収容した熱可塑性樹脂フィルム製の袋を備えることを前提として,微量元素を含む液を収容した熱可塑性樹脂フィルム製の袋を追加することが,ビタミン毎に適切なpHや環境で保存するという甲1輸液製剤発明の本来の機能を失わせるものであるなどとはいえない。 (イ) 容器の収容先について 輸液製剤の技術分野において,輸液製剤の製造時の加熱滅菌工程又は保存時において,含硫アミノ酸であるシステインやその誘導体であるアセチルシステイン等が分解することにより,硫化水素ガスが発生すること(以下「技術常識1」という。, )硫化水素ガスが熱可塑性樹脂フィルムを透過すること(以下「技術常識2」という。)及び硫化水素ガスが銅,鉄など金属と反応して硫化物を生成すること(水溶液中においては,黒色の沈殿を生成すること)(以下「技術常識3」という。)は,本件特許出願日時点において,当業者の技術常識であった。 このことは,別件の無効審判請求事件における被告の平成12年8月8日付け上申書(甲5の1)の記載(技術常識1〜3関係),被告の平成9年12月19日付け審判請求書(甲6)の記載(技術常識3関係) 甲7 , (特開平7-61925号公報)の段落【0002】及び甲8の段落【0008】の各記載(技術常識1〜3関係),甲9(渡辺啓=竹内敬人「総合力完成 化学」旺文社247頁。昭和58年2月25日)の記載(技術常識3関係),別件の無効審判請求事件における被告の平成29年6月19日付け審判事件答弁書(甲10)の記載(技術常識2関係)からも認められる。 したがって,甲1輸液製剤発明について,銅を含む微量元素を含む溶液を小袋に収容し,その小袋を2室バッグを構成するいずれかの室の内部に収納してバッグインバッグの構成とし,2室バッグかつバッグインバッグの構成を採用する際には,微量元素を含む溶液を収容した小袋を,硫化水素を発生させる含硫アミノ酸液を含めたアミノ酸を収容する室ではなく,他の室すなわち糖・電解質液を収容する室とすることは,技術常識に照らして必然的な事項である。熱可塑性樹脂フィルムを透過するという硫化水素の性質を認識している当業者は,微量金属元素を含む溶液を収容した熱可塑性樹脂フィルム製の小袋の収納先として,あえて硫化水素の発生源である含硫アミノ酸を収容した室とする構成を採用しないことはもちろん,当該小袋を熱可塑性樹脂フィルム製の空室に入れた構成のみでも十分ではないと考えることになり,結局,糖・電解質液を収容した室に熱可塑性樹脂フィルム製の小袋を収納する構成しか,選択肢としては残されていないことになるのである。 エ 顕著な効果に関する判断の誤り (ア) 本件審決は,本件訂正発明1が奏する効果について,実施例と比較例の比較からその効果が認められる(本件明細書の段落【0065】)と認定するが,そもそも同段落に記載された対比は,実施例という特定の構成を備えた輸液製剤を用いて行ったものにすぎないのであって,本件訂正発明1に含まれる全ての輸液製剤が当該特定の構成を備えた輸液製剤と同等の効果を奏することを前提とすることは誤りである。 なお,被告は,原告が提出した実験報告書(甲19)の「@実施例1の追試」について,本件明細書に記載された実施例1の追試ではないという点のみ争い(本件審判請求に係る答弁書[甲37]44頁11〜22行)「@実施例1の追試」に係 ,る特定の構成を備えた輸液製剤が本件訂正発明1に含まれることについては争っていない。この「@実施例1の追試」に係る特定の構成を備えた輸液製剤は,本件訂正発明1に含まれるものの,経時変化を受けることなく保存できるという本件明細書の段落【0065】に記載された効果を奏することができない輸液製剤である(甲19の10頁「表2」参照)。 (イ) 本件審決は,本件訂正発明1が,甲1輸液製剤発明との対比において,顕著な効果を奏しているとするが,進歩性判断における顕著な効果の有無は,特許発明の構成が奏する効果と当該構成から当業者が予測することができた効果との対比において判断されるべきものである。 オ 小括 以上のとおり,本件訂正発明1が甲1輸液製剤発明に基づき進歩性を欠くものとはいえないとした本件審決には誤りがある。 (2) 取消事由1-2(本件訂正発明2に係るもの) ア 甲1発明及び相違点A2-1の認定の誤り 甲1発明の認定の誤りは,前記(1)ア(ア)〜(ウ)のとおりである。したがって,相違点A2-1が相違点を構成するとの本件審決の判断にも誤りがある。 イ 相違点A2-1に関する容易想到性の判断の誤り 仮に,相違点A2-1が相違点を肯定するとしても,前記(1)イのとおり,相違点A2-1を解消することは極めて容易であり,これと異なる本件審決の判断には誤りがある。この点,甲1における実施例1の溶液(B)にはシステインが1.0g/l含まれているから,特に,システインに関する相違点は極めて容易に解消されるものである。 ウ 相違点B2-1に関する容易想到性の判断の誤り 前記(1)ウのとおり,相違点B2-1を解消することは極めて容易であり,これと異なる本件審決の判断には誤りがある。 エ 顕著な効果に関する判断の誤り 前記(1)エのとおり,本件訂正発明1が奏する効果についての本件審決の認定には誤りがある。 オ 小括 以上のとおり,本件訂正発明2が甲1輸液製剤発明に基づき進歩性を欠くものとはいえないとした本件審決には誤りがある。 (3) 取消事由1-10(本件訂正発明10に係るもの) 本件訂正発明10は本件訂正発明1と実質的に同一の発明であるから,前記(1)の取消事由1-1に関する主張は,本件訂正発明10にも同様に妥当する。 したがって,本件訂正発明10が甲1輸液製剤の保存安定化方法発明に基づき進歩性を欠くものとはいえないとした本件審決には誤りがある。 (4) 取消事由1-11(本件訂正発明11に係るもの) 本件訂正発明11は本件訂正発明2と実質的に同一の発明であるから,前記(2)の取消事由1-2に関する主張は,本件訂正発明11にも同様に妥当する。 したがって,本件訂正発明11が甲1輸液製剤の保存安定化方法発明に基づき進歩性を欠くものとはいえないとした本件審決には誤りがある。 2 取消事由2(無効理由2に理由がないとした本件審決の誤り) 無効理由2についての本件審決の認定判断には,当業者の通常の理解に基づかない,@甲13発明の認定の誤り,A相違点A2-13に関する容易想到性の判断の誤り,B相違点B1-13に関する容易想到性の判断の誤り,C相違点C1-13に関する容易想到性の判断の誤り,D顕著な効果に関する判断の誤りという一連の誤りがある。具体的には,次のとおりである。 (1) 取消事由2-1(本件訂正発明1に係るもの) ア 甲13発明並びに相違点A1-13及び相違点B1-13の認定の誤り (ア) 甲13の段落【0018】【0021】【0022】及び【0024】並び , ,に【図1】の記載をみると,これらの段落には,アミノ酸の薬液の成分として,遊離形態である必要はなく,N-アシル誘導体の形態でもよいことが記載されるとともに,N-アシル誘導体の形態の例としてN-アセチル-L-システインが記載されている。甲13は,アミノ酸の薬液の成分としては「従来より輸液として栄養補給を目的として利用されてきているアミノ酸製剤に配合されている各種アミノ酸」であること,N-アシル誘導体の形態でもよいこと及びN-アシル誘導体の形態としてアセチルシステインを典型的な例として記載しており,アセチルシステインやシステインを成分として含むことを当然の前提としているのであって,甲13には,アミノ酸の薬液に,遊離形態であるシステインや,N-アシル誘導体であるアセチルシステインを含める構成が開示されている。同じく,甲13には,微量元素の成分として,鉄(塩化第二鉄),マンガン(塩化マンガン),銅(硫酸銅),亜鉛(硫酸亜鉛),カリウム(ヨウ化カリウム)などが具体的に記載され,薬液にそれらを含める構成についても開示されている。 甲13は,選択肢や可能性として上記の成分を単に列挙するものでなく,それらの成分を含める技術思想を具体的に開示していることが明らかである。 したがって,甲13発明の構成として,アミノ酸の薬液が少なくとも「アセチルシステイン及び/又はシステイン」を含有し,微量元素(ミネラル)の水溶液が少なくとも「鉄,マンガン,銅」を含有するものと認定すべきであるにもかかわらず,これを認定しなかった本件審決には誤りがある。 (イ) 本件審決が,甲13発明の構成を認定するに際し,甲13の特許請求の範囲の請求項1,段落【0024】及び【図1】のみを引用していることからすると,本件審決は,各薬液に含まれる成分を具体的に記載している同【0021】及び【0022】に基づいて甲13発明の構成を認定することはできないと解しているものと思われる。 しかし,甲13の段落【0024】には, 「本発明の容器は,前記各成分の安定性を実質的に損なうことなく収容できる特徴を具備している。」と記載されているところ,この「前記各成分」が同【0021】〜【0023】で具体的に記載されている各成分を指していることは明らかである。それにもかかわらず, 「前記」という文言を無視し,同【0024】を同【0021】及び【0022】から切り離すという誤った理解に基づく本件審決の判断には誤りがある。 (ウ) 上記のように甲13発明の認定に誤りがある以上,相違点A1-13が相違点を構成するとの本件審決の判断と,相違点B1-13のうち甲13輸液製剤発明の小室C3に収容される微量元素(ミネラル)の水溶液又は固定薬剤の成分として「鉄,マンガン,銅」に係る特定がない点が相違点を構成するという部分についての本件審決の判断にも,誤りがある。 (エ) 相違点の一体化に関する被告の主張について 前記(ウ)と異なり,本件審決が認定した相違点A1-13及び相違点B1-13の存在を前提として,これらをまとめ合わせるべきであるとする被告の主張は,その前提において失当である。 この点をおくとしても,相違点A1-13がC1(又はC2)に収容するアミノ酸を含有する薬液の含有成分に関する相違点である一方,相違点B1-13はC3に収容する微量元素の成分に関する相違点であるから,これらは技術的観点を異にしており,これをまとめ合わせて一つの相違点として認定すべき理由はない。 イ 相違点B1-13に関する容易想到性の判断の誤り 仮に,相違点B1-13のうち,甲13輸液製剤発明の小室C3に収容される微量元素(ミネラル)の水溶液又は固定薬剤の成分として「鉄,マンガン,銅」に係る特定がない点が相違点を構成すると解した場合を含め,次のとおり,相違点B1-13を解消することは極めて容易であり,これと異なる本件審決の判断には誤りがある。 (ア) 銅などを微量元素として含む構成とすることは容易になし得ること 甲13発明における分室C3には,微量元素を含む薬液が収容されるところ,その成分として,甲13の段落【0022】には,鉄(塩化第二鉄),マンガン(塩化マンガン),銅(硫酸銅)などが具体的に記載されている。 また,甲13の段落【0039】には,輸液容器の形状につき,甲13の【図1】(甲13発明の輸液容器)とは異なり,同【図10】の形状からなる輸液容器(分室を3室とする輸液容器)の輸液製剤において,分室C3に収容する薬液に関して,「微量元素製剤(例として商品名:エレメンミック,味の素ファルマ社製)が収容されていることが好ましい」ことが記載されているところ,エレメンミックには,鉄,マンガン,銅などの微量元素が含まれている(甲22)。 そして,鉄,マンガン及び銅などの微量元素が不足した場合に欠乏症の問題が生じることは技術常識であり(甲4参照) 甲13発明における分室C3に収容される ,微量元素の薬液に,鉄,マンガン及び銅などが含まれないと解すべき理由は見当たらない。 したがって,甲13の記載内容及び技術常識に基づいて,甲13発明における分室C3に収容される微量元素の薬液に,鉄,マンガン及び銅などを含める構成とすることは,当業者において極めて容易である。 (イ) 分室C3を他の室(アミノ酸を含有する薬液が充填されていない室)に収納するバッグインバッグ構成とすることは容易になし得たこと a 銅などの微量元素の安定性という観点からみた場合,相違点B1-13の一部を構成するバッグインバッグ構成は,(a) 銅などの微量元素を含む溶液を収容した小袋を,含硫アミノ酸を含む輸液と「空間的な分離」を行う構成(小袋が含硫アミノ酸を含む輸液と接触しない構成とする部分) (以下「構成a」という。)と,(b)小袋を含硫アミノ酸を含む輸液を収容した室とは異なる「他の室への隔離」を行う構成(以下「構成b」という。)とに分けられる。 本件審決は,甲13輸液製剤発明に関し,構成aが備えられているため,銅などの微量元素の安定性という観点からは十分であるかのような判断を示しているが,そのような理解に従うと,銅などの微量元素の安定性という観点から技術的意義をもたらす構成の部分としては,構成aのみで足り,構成bは過剰なものとなる。 そうすると,本件訂正発明においても,微量元素を収容した小袋はアミノ酸を含む輸液との関係において構成aを備えているから,あえて構成bの「他の室への隔離」を行う必要はないことになるが,その場合,本件訂正発明の技術的意義は,構成aを備えた小袋について,単に構成bの「他の室への隔離」を行う部分にあるというより, 「糖・電解質液」を収容する「他の室」に隔離するという,まさに本件訂正発明の実施例が備える構成にあるといわざるを得なくなる。それゆえ,「他の室」が単なる「空室」であるならば,構成bの「他の室への隔離」をすることに技術的な意義はないこととなるところ, 「他の室」が単なる「空室」であるような構成をもその技術的範囲に含みかねないような特定をする本件訂正発明は,技術的意義のない構成をも含んでいることとなる。 このように,本件訂正発明における「他の室」が単なる「空室」を含む場合には,格別の技術的意義を認めることはできず,そのような格別の技術的な意義のない構成は,当業者において,適宜,変更し得る設計的事項にすぎない。 b 甲13発明において,分室C3に収容される銅などの微量元素の薬液について,構成aを採用するのみでは,分室C1(又は分室C2)に収容されるアセチルシステインなどの含硫アミノ酸から発生する硫化水素ガスによって銅などがなお不安定となる場合があるのであれば,ガス透過性を低下させて,その透過量を低下させるための周知の構成を適宜採用すれば足りる。そのような周知の構成として,例えば,@分室C3等を形成する樹脂フィルムの一層としてガス非透過性のバリアーフィルムからなる層を設ける構成(例えば,甲13の段落【0025】,甲15[特開2001-252333号公報]の段落【0011】に記載のようなもの),A分室C3を他の熱可塑性樹脂フィルムで覆うことによって多重包装状態とする構成(例えば,甲15の段落【0015】又は【図1】などに示される「被覆部材11」を用いた「多重包装」化されたもの),B分室C3に収容されている微量元素を含む液を,一旦,小袋に入れて,同小袋を分室C3に収納する構成(例えば,甲1の段落【0039】及び【図5】に記載のようなもの)が挙げられる。 そして,甲13輸液製剤発明に,含硫アミノ酸から発生する硫化水素ガスにより銅などがなお不安定となるという周知の課題を踏まえて,多少なりとも安定性を確保するために,周知の構成である上記A又はBを適用し,相違点B1-13に係る構成のうち,本件訂正発明1との関係において格別の技術的意義がない「空室」である「他の室」に小袋を入れたものに係る構成を備えた程度のものとすることは,当業者が,容易になし得ることができる程度の設計的事項にすぎない。 c この点,銅などの微量元素の「安定」は相対的な指標にすぎず,より高いレベルの安定性,例えば,本件明細書の段落【0065】の【表5】の実施例として記載されているレベルの安定性(「60℃-2週間」の加速試験でも開始時の「100.0%」から変化がほぼ認められないレベルの安定性)が求められる。このような周知の課題に応じて,周知の構成である上記bのAやBを適宜採用することが当然に動機付けられるというべきである。なお,それらの構成を適用することにより,甲13発明における溶液の安定性が阻害されるような事態は全く想定されるものではない。 ウ 相違点C1-13に関する容易想到性の判断の誤り 次のとおり,相違点C1-13を解消することは極めて容易であるから,これと異なる本件審決の判断には誤りがある。 (ア) 輸液容器を形成する熱可塑性樹脂フィルムはガスバリヤー性が低く,熱可塑性樹脂フィルムを透過した酸素がアミノ酸と反応し,これを酸化分解し,着色あるいは沈殿を生じさせてしまうことは技術常識である。このような課題を解決するために,ガスバリヤー性の外袋に輸液容器を収納することや,この輸液容器とガスバリヤー性の外袋の空間内に残る酸素を除去するために脱酸素剤を封入する構成は周知であった(甲1の段落【0040】 甲5の1及び2, , 甲16,43,45,46)。 このことは,別件の無効審判請求事件に係る被告の平成9年12月19日付け審判請求書(甲6)の記載からも明らかである。 したがって,甲13発明の輸液容器もまた熱可塑性樹脂フィルムにより形成(プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成)されており,また,分室C1(又は分室C2)にはアミノ酸を含む薬液を収容していることから,上記課題の原因であるアミノ酸と酸素が反応することがないように,ガスバリヤー性の外袋に輸液容器を収納し,かつ,脱酸素剤を封入することが当然に予定されている。 よって,相違点C1-13に係る構成を備えたものとすることは,当業者において容易になし得ることである。 (イ) 上記に関し,甲13発明の輸液容器の素材として「VICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体」が用いられている理由は, 「必要な透明度を備え,溶着不良が低く,且つ封入される医療用液体へのスチレン系のエラストマーによる環境ホルモンの溶出のない容器を提供する」ためであり(甲13の段落【0041】 ,酸素の透過をバリヤーすることを目的とするもので )はない。同素材製のフィルムでは酸素の透過をバリヤーできないから,甲13の段落【0031】には,ガス非透過性のバリアーフィルムからなる層を設けてもよい」 「ことも記載されている。 また,甲13発明が各溶液の品質劣化を抑制できる理由は,他の輸液製剤と同様,その輸液容器をガスバリヤー性の外袋に収納し,かつ,脱酸素剤を封入することが当然の前提となっているからである。ガスバリヤー性の外袋等に関する構成が甲13に言及されていないことをもって,これらの構成を備えていなくとも,甲13発明は各薬液の品質劣化を抑制できるとすることは,技術常識に反する。 エ 顕著な効果に関する判断の誤り 前記1(1)エのとおりである。 オ 小括 以上のとおり,本件訂正発明1が甲13輸液製剤発明に基づき進歩性を欠くものとはいえないとした本件審決には誤りがある。 (2) 取消事由2-2(本件訂正発明2に係るもの) ア 甲13発明の認定の誤り 甲13発明の認定の誤りは,前記(1)ア(ア)及び(イ)のとおりである。したがって,相違点A2―13のうち甲13輸液製剤発明のアミノ酸の薬液の成分として「アセチルシステイン及び/又はシステイン」に係る特定がないという点が相違点を構成するという部分についての本件審決の判断と,相違点B2-13のうち甲13輸液製剤発明における小室C3に収容される微量元素(ミネラル)の水溶液又は固定薬剤の成分として「鉄,マンガン,銅」に係る特定がないという点が相違点を構成するという部分についての本件審決の判断にも,誤りがある。 イ 相違点A2-13に関する容易想到性の判断の誤り 仮に,相違点A2-13のうち甲13輸液製剤発明のアミノ酸の薬液の成分として「アセチルシステイン及び/又はシステイン」に係る特定がないという点が相違点を構成すると解した場合を含め,次のとおり,相違点A2-13を解消することは極めて容易であり,これと異なる本件審決の判断には誤りがある。 (ア) 「アセチルシステイン」を含む構成とすることを当業者において容易になし得ることは,本件審決も相違点A1-13についての判断において認めるところである。 (イ) 「亜硫酸塩」については, 「アミノ酸は酸素による酸化分解,着色あるいは沈殿を生じるので,安定化剤として亜硫酸水素ナトリウムを配合させて…」とされる(甲16の110頁左欄)とおり,単なる安定化剤にすぎないし,また,システインやアセチルシステインを含むアミノ酸輸液にも使用される安定化剤であることから(甲17の5頁,甲18の4頁【表2】, ) 亜硫酸塩を添加する構成を備えたものとすることは,当業者であれば容易になし得ることである。 上記に関し,亜硫酸塩を添加しない構成が記載された若干の文献が存在すること(甲8,22,32,33)から,相違点A2-13の構成を備えたものを容易になし得るものでないとはいえない。 むしろ,亜硫酸塩をアミノ酸に添加することは,高カロリー輸液の技術分野において,本件出願当時の技術常識であった。すなわち,田辺製薬株式会社及びテルモ株式会社の「アミゼットB」を除いて,本件出願当時の高カロリー輸液においては,アミノ酸などの分解を防ぐための添加物として亜硫酸塩が配合されていないものを見受けない(なお, 「アミゼットB」は,平成2年頃,亜硫酸塩に対しアレルギー性反応を起こす患者がいるとの報告がされたこと[甲32]から開発されたもので,システインをリンゴ酸システインという形態で含有させるという特殊な構成を採用したものである。その後の田辺製薬株式会社及びテルモ株式会社の「ユニカリック」も亜硫酸塩を添加物として含有している[甲43,44]。被告の「アミノトリパ」のア )ミノ酸液にも亜硫酸水素ナトリウムが添加物として含有されており(甲45),味の素ファルマ株式会社の「ピーエヌツイン」にも亜硫酸水素ナトリウムが添加物として含有されている(甲46)。 なお,そもそも本件訂正発明2の効果との関係において,亜硫酸塩を添加することに格別の技術的意義がないことは,亜硫酸塩(亜硫酸水素ナトリウム)が添加されていない本件明細書の実施例1について,これが添加されている実施例2〜4と同様の効果が得られていることからも明らかである(本件明細書の段落【0065】の【表5】。このような技術的意義のない構成にすぎない亜硫酸塩の添加をもって, )本件訂正発明2の特許性を肯定することはできないというべきである。 ウ 相違点B2-13に関する容易想到性の判断の誤り 仮に,相違点B2-13のうち甲13輸液製剤発明における小室C3に収容される微量元素(ミネラル)の水溶液又は固定薬剤の成分として「鉄,マンガン,銅」に係る特定がないという点が相違点を構成すると解した場合を含め,前記(1)イのとおり,相違点B2-13を解消することは極めて容易であり,これと異なる本件審決の判断には誤りがある。 エ 相違点C2-13に関する容易想到性の判断の誤り 前記(1)ウのとおりである。 オ 顕著な効果に関する判断の誤り 前記1(1)エのとおりである。 カ 小括 以上のとおり,本件訂正発明2が甲13輸液製剤発明に基づき進歩性を欠くものとはいえないとした本件審決には誤りがある。 (3) 取消事由2-10(本件訂正発明10に係るもの) 本件訂正発明10は本件訂正発明1と実質的に同一の発明であるから,前記(1)の取消事由2-1に関する主張は,本件訂正発明10にも同様に妥当する。 したがって,本件訂正発明10が甲13輸液製剤の保存安定化方法発明に基づき進歩性を欠くものとはいえないとした本件審決には誤りがある。 (4) 取消事由2-11(本件訂正発明11に係るもの) 本件訂正発明11は本件訂正発明2と実質的に同一の発明であるから,前記(2)の取消事由2-2に関する主張は,本件訂正発明11にも同様に妥当する。 したがって,本件訂正発明11が甲13輸液製剤の保存安定化方法発明に基づき進歩性を欠くものとはいえないとした本件審決には誤りがある。 3 取消事由3(無効理由3に理由がないとした本件審決の誤り) (1) 取消事由3-1(本件訂正発明1に係るもの) 本件訂正発明1の発明特定事項は,次のとおり,出願時の技術常識に照らしても,当業者がその課題を解決できると認識できない範囲にまで,本件明細書の実施例1が備える具体的な構成からの抽象化がされているから,本件訂正発明1がサポート要件に適合するとした本件審決の判断には誤りがある。 ア 本件明細書の実施例1の効果,構成に関する当業者の認識 (ア) 本件特許の出願日時点における技術常識からすると,本件明細書の実施例1を対象として行われた「安定性試験」(本件明細書の段落【0065】の【表5】)に記載されている, 「開始時」と「60℃-2週間」「60℃-4週間」の「銅」の ,数値(ただし,どのような数値であるかは不明である。)に変わりがないとする結果が, 「第2室5」に含まれるアセチルシステインから発生した硫化水素ガスが銅などの微量金属元素を収容する小袋まで到達できなかった(又は,到達しても無視できる量にとどまった)ことにより得られたものであることは,明らかである。 前記1(1)ウ(イ)の技術常識1〜3(輸液製剤の製造時の加熱滅菌工程又は保存時において,含硫アミノ酸であるシステインやその誘導体であるアセチルシステイン等が分解することにより硫化水素ガスが発生すること,硫化水素ガスが熱可塑性樹脂フィルムを透過すること及び硫化水素ガスが銅,鉄など金属と反応して硫化物を生成すること[水溶液中においては,黒色の沈殿を生成すること])に照らすと,アセチルシステインから不可避的に発生する硫化水素ガスが,銅などの微量金属元素を収容する小袋まで到達してしまった場合には,小袋の内部に収容されている銅などと反応して黒色の沈殿が発生し, 「安定性試験」における「銅」の数値を減少させてしまうからである。 (イ) その上で,硫化水素ガスが微量金属元素を収容する小袋まで到達することを妨げた実施例1の構成(又は,到達しても無視できる量にとどめさせた実施例1の構成)について,当業者は,@小袋を収納する「第1室4」にブドウ糖を含む溶液(A)が充填されている構成(以下「構成@」という。 及びA外袋に ) 「脱酸素剤9」が封入されている構成(以下「構成A」という。)であると当然に理解する。 なぜなら,実施例1では,アセチルシステインから発生し,これを収容する「第2室5」の熱可塑性樹脂フィルムを透過した硫化水素ガスは,遮光性ナイロン多層袋(ガスバリヤー性外袋)から外部へ散逸できないため,遮光性ナイロン多層袋内に滞留し,そのように滞留し続ける硫化水素ガスは,平衡状態に至るまで「第1室4」の内部へと透過し,小袋まで不可避的に到達するところ,この到達を妨げることのできる実施例1の構成は,構成@及び構成Aのみであるからである。 (ウ) したがって,当業者は,実施例1は,これが備える構成@及び構成Aという具体的な構成により,本件明細書の段落【0065】に記載された「銅」などの微量金属元素の安定化を実現できたものと認識する。 イ 本件訂正発明1は構成@及び構成Aを備えない輸液製剤を含むこと (ア) 本件訂正発明1は,本件明細書の実施例1に対応した発明であるところ,本件訂正発明1と実施例1の具体的な構成との対応関係を検討すると,本件訂正発明1では,構成@に対応して,単に「他の室」という抽象化された発明特定事項による特定が行われているにすぎず,溶液の充填に関しては何ら限定がない。本件訂正発明1における「他の室」という発明特定事項が,実施例1の「室4」と異なり,何らの溶液も充填されていない態様の「室」を含むものとして抽象化されていることは,本件明細書の段落【0024】の記載から明らかである。 (イ) 次に,本件訂正発明1では,実施例1における構成Aに対応して,単に「外袋内の酸素を取り除いた」という抽象化された発明特定事項による特定が行われているにすぎず,脱酸素剤の封入に関しては何ら限定がない。本件訂正発明1における「外袋内の酸素を取り除いた」という発明特定事項が,実施例1の「脱酸素剤9」の封入と異なり,外袋内に不活性ガスを充填させる態様を含むものとして抽象化されていることは,本件明細書の段落【0035】の記載から明らかである。 (ウ) 以上のとおり,本件訂正発明1は,実施例1が備える構成@及び構成Aという具体的な構成を備えない輸液製剤を含んでいる。 ウ 当業者において本件訂正発明1の課題を解決できると認識できないこと (ア) 本件訂正発明の課題は,本件明細書全体の記載を踏まえると, 「通常入手し得る樹脂材料」を用いることを前提として,微量金属元素の安定性や用時混注による細菌汚染の排除を実現することにあるというべきである。この点,本件明細書の段落【0005】の記載は概括的なものにすぎず,本件訂正発明1などが解決しようとする本件明細書記載の従来技術などの課題を正確には捉え切れていないから,当該段落記載のみを根拠として,本件訂正発明1の課題を漫然と認定することは適切ではない。 その上で,前記アの当業者の認識からすると,構成@及び構成Aを備えることのない輸液製剤において,平衡状態に至っても硫化水素ガスが微量金属元素収容容器に到達しない状況がどのように実現されているかについて,当業者は全く理解することができない。本件訂正発明1においては,前記イのとおり,構成@及び構成Aという具体的な構成により特定がされておらず,これらの構成を抽象化した発明特定事項により特定されているにすぎないから,当業者は本件訂正発明1の課題を解決できるものと認識することができない。 (イ) 本件訂正発明1の課題の一つである微量金属元素の安定性を実現することに関し,そこにおける「安定」の意義は,本件明細書の段落【0065】の【表5】に記載されている「安定性試験」において,銅が「60℃-2週間」及び「60℃-4週間」の加速試験においても,開始時の「100%」がほぼ維持されているという結果に示されるような,開始時の濃度がほぼ維持されるという輸液製剤としての「絶対的安定」を意味するものというべきである。同【0005】の【発明が解決しようとする課題】の記載及び同【0066】の【発明の効果】の記載には, 「安定」の意義として,何らかの構成との比較において相対的に判断されるべきことを示唆するような記載はない。そもそも本件明細書が,輸液製剤及び輸液製剤の保存安定化方法に係る発明を開示しているのであって,これら発明により実現されるべき微量金属元素の安定性が,輸液製剤として使用可能な程度の安定性,すなわち「絶対的安定」を意味していることは当然のことである。 これに対し,被告は,微量金属元素収容容器の収納先を含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液が充填された室とする場合との比較から判断される「相対的安定」を意味していると主張するが,輸液製剤として使用可能な「絶対的安定」を実現することができていなくとも, 「安定」 なお であると強弁しているにすぎない。また, 「安定」であるか否かの比較対象として,微量金属元素収容容器の収納先を含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液が充填された室とする,当業者であればおよそ採用するはずのない構成を設定することも相当でない。技術常識に基づくと, (熱可塑性樹脂フィルムで形成された)微量金属元素収容容器の収納先を含硫アミノ酸が充填された室とする構成は,同容器に収容された微量金属元素の安定性が損なわれる最悪の構成であることが明らかである。 (ウ) なお,被告は,本件特許に係る別件の侵害訴訟において,輸液の充填や微量金属元素収容容器の収納位置に関する構成が実施例と異なることから,「安定性試験」と同等の結果を得ることができないと主張しており(甲14の48頁1行目〜49頁10行目),これらの構成を発明特定事項として特定することのない本件訂正発明1によりその課題を解決することができないことは,被告自身が認めるところである。 エ 被告の反論について (ア) 本件明細書の記載及び技術常識について 本件明細書には,当業者である被告ですら「思いがけない知見」で発明が得られたことが記載され(本件明細書の段落【0006】 ,微量金属元素が不安定となる )作用機序について全く記載がないまま,実施例に係る構成による安定性試験の開始時における「銅」の含量が「60℃-2週間」及び「60℃-4週間」の加速試験後においても,ほぼ100パーセントに近いまま維持されていたという結果が記載されているにすぎない(同【0065】。 ) これだけの記載のみでは,本件明細書をどのように踏まえても,本件訂正発明1において空室に微量金属元素収容容器を入れたような場合のみについてまで,その課題を解決できると当業者において認識できるとはいい難く,これは,技術常識を踏まえたとしても同様である。 また,本件明細書の段落【0014】では, 「銅イオン」を不安定化する原因物質が何であるかは特定されておらず,硫化水素以外の要因も排除されていないところ,外袋内に脱酸素剤も入れず,空室に小袋を入れたような構成については,本件明細書の記載のみからは,当業者において,技術常識を踏まえても,本件訂正発明の課題を解決できるものと認識することはできないというべきである。 (イ) 「三重に隔てられた壁」について 三重に隔てられた壁(室を形成する2つの壁及び微量金属元素収容容器の壁)によって,微量金属元素を含む液が硫化水素の影響を受けにくくなるといった被告の主張は,本件訂正発明1の課題である微量金属元素の安定が「絶対的安定」を意味しているにもかかわらず,1枚の壁との比較という「相対的安定」を問題としているにすぎない点において,その前提において失当である。 (ウ) 実験結果(甲36)について a 原告による実験結果(甲19,20及び23)においては,いずれも微量金属元素収容容器の収納先である「他の室」を空室とした場合には,微量金属元素の安定性を維持することができないことが実証されている。 被告による実験結果(甲36)において微量金属元素の安定性が維持された理由は,外袋のガスバリヤー性が低く,硫化水素が外袋を通じて外部に漏出したことにより,外袋内に硫化水素が滞留することによる微量金属元素収容容器内の微量金属への悪影響という本件訂正発明の課題が生じ得なかったことによると合理的に推察される。言い換えると,被告による実験において用いられたガスバリヤー性の低い外袋は本件訂正発明にいう「ガスバリヤー性外袋」には該当せず,本件訂正発明の実施に当たらず,その追試とはいえない可能性がある。 b また,原告による実験結果(甲19)によっても,脱酸素剤が2個の場合と20個の場合の銅含量(水分損失補正後)は大幅に異なっており,脱酸素剤2個当たりの脱酸素剤の安定性への影響は大きいといえる。 (エ) 実験報告書(乙1)について a 被告は,実験報告書(乙1)に基づき,構成@及び構成Aにかかわりなく,いわゆる「三重の壁」 (後記第4の3(1)イ(イ)a)で「銅」などの微量金属元素の安定性が実現されていると主張するが,同報告書については,@苛酷試験としての安定性試験に相当するといえる「滅菌処理」による「銅」含量への影響(各検体の対比からして,上記「三重の壁」の効果がみられないこと)と「安定性試験」による「銅」含量への影響との矛盾を説明することができないこと,A本件訂正発明の実施例の構成でもある「糖・電解質液」による効果がほとんど認められないこと,B本件訂正発明の実施例の構成でもある「脱酸素剤」について,ほとんど効果がないばかりか,かえって負の効果が認められることなどから,信用性を欠くものである。 b 実験報告書(乙1)において微量金属元素の安定性が維持された理由は,原告の実験報告書3(甲23)の「実施例1の変更例A-B」 (被告の製品の外袋を使用している。)におけると同様,外袋のガスバリヤー性が低く,硫化水素が外袋を通じて外部に漏出したことにより,外袋内に硫化水素が滞留することによる微量金属元素収容容器内の微量金属への悪影響という本件訂正発明の課題が生じなかったことによると推察され, 「実施例1の再現例」「実施例1の変更例その1」及び「実施 ,例1の変更例その2」に係るそれぞれの実験結果において, 「銅含量」がほぼ維持されているのは当然である。なお,ガスバリヤー性が乏しい外袋を用いたこと以外の理由として,被告が使用した「溶液B」すなわちアミノ酸液に含まれるアセチルシステインが硫化水素の発生を抑制するような状態にあった可能性もあるが,そのような場合においても,本件訂正発明の課題は生じないことになる。 (2) 取消事由3-2(本件訂正発明2に係るもの) 本件訂正発明2は,本件訂正発明1と実質的に同一の発明であり,前記(1)で述べたことが同様に当てはまるから,本件訂正発明2がサポート要件に適合するとした本件審決の判断には誤りがある。上記に関し,本件訂正発明2は,本件明細書の実施例2〜4に対応した発明であるところ,本件訂正発明2とそれらの実施例の具体的な構成との対応関係を検討すると,本件訂正発明2では,構成@(小袋を収納する「室4」にブドウ糖を含む溶液(A)が充填されている構成)に対応して,単に「他の室」という抽象化された発明特定事項による特定が行われているにすぎず,構成Aに対応する構成は全く特定されていないところである。 (3) 取消事由3-10(本件訂正発明10に係るもの) 本件訂正発明10は「安定化法」の発明である点以外は「輸液製剤」の発明である本件訂正発明1と同一であり,前記(1)で述べたことが同様に当てはまるから,本件訂正発明10がサポート要件に適合するとした本件審決の判断には誤りがある。 なお,前記(1)との差異は,本件訂正発明10の課題が「微量金属元素が安定に存在している含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤」の「保存安定化方法の提供」である点のみである。 (4) 取消事由3-11(本件訂正発明11に係るもの) 本件訂正発明11は「安定化法」の発明である点以外は「輸液製剤」の発明である本件訂正発明2と同一であり,前記(2)で述べたことが同様に当てはまるから,本件訂正発明11がサポート要件に適合するとした本件審決の判断には誤りがある。 なお,前記(2)との差異は,前記(3)で述べた差異と同じである。 |
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被告の主張
1 取消事由1(無効理由1に理由がないとした本件審決の誤り)について (1) 取消事由1-1(本件訂正発明1に係るもの)について ア 甲1発明及び相違点A1-1の認定の誤りについて (ア) 次のとおり,本件審決における甲1発明の認定に誤りはない。 a 甲1の段落【0015】及び【0016】には,溶液(B)に配合されるアミノ酸の例示として,L-システインが開示されるなどしているものの, 「アセチルシステイン」を含有する構成は甲1には具体的に記載されていない。そして,アセチルシステインは,アミノ酸の無数にある薬理学的に許容される塩,エステル,N-アシル誘導体や,2種アミノ酸の塩,ペプチドの形態のうちの一つであり,配合し得る成分の膨大な選択肢の一つにすぎないから,アセチルシステインを含有する構成を積極的,優先的に選択すべき事情はない。むしろ,輸液製剤で使用されるアミノ酸含有液は,アセチルシステインを含有しないものが大半である(甲33及び甲22の輸液製剤もアセチルシステインを含有していない。。 ) したがって,甲1から,溶液(B)に配合されるアミノ酸として, 「アセチルシステイン」を含有する発明を認定することはできない。 b 甲1の段落【0015】 【0017】及び【0033】は,配合成分の例を ,示したものにすぎず,それらの記載から「L-システイン」及び「亜硫酸塩」を,ひとまとまりの技術思想として抽出することはできない。 そして,甲1の実施例1は,あくまで,溶液(C)を充填した容器を容器(B)側の口部に両頭針を介して取り付けられたガラス容器に関する甲1の【図2】の輸液に関する具体例であり,これを,2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋を有する同【図5】の容器に置き換えた形態は,甲1に記載されていない。 甲1には,同図の容器について,抽象的な図が示されているのみで,同図の容器の各室に具体的にどのような組成の溶液を収容するのかについて実施例等の記載はない。したがって,収容する溶液の組成が明記されていない同図の容器の構成に,同【図2】についての実施例にたまたま記載されている溶液から特定の成分のみを部分的に取り出した組成を都合よく組み合わせて甲1発明を認定することは,恣意的な引用発明の認定であって誤りである。仮に,実施例を根拠に甲1発明を認定するのであれば,組成のみならず容器についても同図に記載のとおり認定すべきであり,同【図5】を根拠に甲1発明を認定するのであれば,収容する溶液の組成は請求項に記載されている内容以上には限定されていないものとして認定すべきである。 なお,甲1の段落【0034】の記載は,同段落の前に記載された,収容成分の組成が限定されない場合についての一般論にとどまるものである。具体的な実施形態である実施例は,各輸液容器の構造や各溶液への影響等も考慮して適切に溶液を各室に充填しているものであるから,同段落の記載は,上記の点を左右するものではない。 (イ) 前記(ア)のとおり,本件審決の相違点A1-1の認定に,原告の主張するような誤りはないが,相違点A1-1と相違点B1-1を分けて認定した点において,本件審決は相当でない。 特許発明と引用発明との間の相違点を認定するに当たっては,発明の技術的課題の解決の観点から,まとまりのある構成を単位として認定すべきであるところ,本件訂正発明が解決しようとする課題は,「微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供すること」(本件明細書の段落【0005】)である。そして,本件明細書の段落【0001】〜【0006】【0012】【0014】【0024】【0033】及び【0066】等の記 , , , ,載,特に,同【0004】及び【0006】の記載からすると,その課題解決原理は,複数の室を有する輸液容器に収容されている輸液製剤において,硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が収容されている室(空間)とは別の空間である他の室(別室)に,微量金属元素収容容器を収納することである。 したがって,本件訂正発明1と甲1輸液製剤発明との相違点は,審決のように相違点A-1と相違点B-1を分けて認定するのではなく,次の相違点P1として認定すべきである。 (相違点P1) 本件訂正発明1は,アミノ酸を含有する溶液が「アセチルシステインを含むアミノ酸輸液」である「含硫アミノ酸及び含硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」であり,当該溶液が充填されていない「他の室」に, 「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」 「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されているのに対し,甲1輸液製剤発明では,アミノ酸を含有する溶液(B)が特定されておらず,脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器のいずれか一方の室に用時連通可能に接続されている点。 イ 相違点A1-1に関する容易想到性の判断の誤りについて (ア) 相違点A1-1を含む相違点P1について,容易想到でないことは,次のとおりである。 a 甲1輸液製剤発明に接した当業者が本件訂正発明の課題の解決に思い至らないこと 本件訂正発明1が解決しようとする課題は,「微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供すること」(本件明細書の段落【0005】)である。 これに対し,甲1輸液製剤発明の目的は「ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供すること」(甲1の段落【0009】)である。そして,甲1には,アミノ酸を含有する溶液(B)に配合し得るものとして,多くのアミノ酸(同【0015】,ビタミン類(同【0023】〜【0027】 ,電解質(同【0 ) )029】〜【0032】,安定化剤(同【0033】 ) )が挙げられる一方で,「輸液の投与時には,必要に応じて他の配合薬,例えば微量元素(鉄,マンガン,銅,ヨウ素など) 抗生物質等を, , 配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することもできる。(同【0043】 」 )と記載されているように,微量元素は,溶液(A)〜(C)にあらかじめ配合するのではなく,輸液の投与時に必要に応じて,配合変化等が起こらない範囲で任意に添加するにすぎないものとして位置付けられている。 その上で,システイン等の含硫アミノ酸と微量元素が配合された高カロリー輸液において,システイン等の含硫アミノ酸の分解により発生する硫化水素が亜鉛,鉄,銅,マンガン等と反応して硫化物の着色沈殿を生成させることが本件特許出願前に技術常識であったこと(甲7の段落【0002】,甲8の段落【0008】)に照らすと,当業者は,甲1輸液製剤発明において,アセチルシステイン,L-システインのような含硫アミノ酸と微量金属元素とを組み合わせてあらかじめ輸液容器中に収容しようとは考えないから,甲1に接した当業者は,微量元素と含硫化合物の組み合わせに係る本件訂正発明1の上記課題の解決には思い至らない。 したがって,上記課題を解決しようとして,当業者が,上記目的のための甲1輸液製剤発明の技術手段を変更等する動機はない。 b 課題解決手段も知られていなかったこと 仮に,当業者が, 「含硫アミノ酸及び含硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」に係るアセチルシステインと微量金属元素を同時に輸液容器中に収容することを思いついたとしても,輸液の投与時に微量元素の配合変化等が起こらないように, 「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液」を, 「熱可塑性樹脂フィルム製の袋」からなる「微量金属元素収容容器」に収容することも,この容器をアミノ酸を含有する溶液が充填されていない「他の室」に収納することも,本件特許出願時の当業者に知られていたことではない。 そして,原告が主張するように,硫化水素ガスが熱可塑性樹脂フィルムを透過する性質を有することが周知であるというのであれば,当業者は「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液」 「熱可塑 を,性樹脂フィルム製の袋」からなる「微量金属元素収容容器」に収容しても意味がないと考えて,そのような構成を採ろうとはしない。 c 甲1には脂溶性ビタミンについてすら「他の室」に収納することによって安定化させることについて示唆がないこと 甲1が安定性を向上させるべきビタミンの収納場所について何の示唆も与えていないことからも,相違点P1に係る構成に到達することは当業者にとって容易ではない。 すなわち,甲1の比較例1及び比較例2の記載によると,比較例1では, (A) 溶液(ブドウ糖液)と,溶液(B)(アミノ酸液)及び溶液(C)(脂溶性ビタミン液)とをそれぞれ2室容器の各室に充填し,比較例2では,溶液(A)及び溶液(C)と,溶液(B)とをそれぞれ2室容器の各室に充填して,試験例1において,ビタミンの含量低下を試験したところ,比較例1の方が比較例2よりも含量低下率が激しいことが認められる(甲1の段落【0052】 【表3】。しかし,実施例において )は,甲1の【図5】に示された輸液バッグを用いた例は全く記載されておらず,実施例1及び実施例2では,同【図2】に示された輸液バッグを用い,実施例1では溶液(B)側の口部に溶液(C)を充填した容器を取り付け,実施例2では溶液(A)側の口部に溶液(C)を充填した容器を取り付け,試験したところ,実施例1と実施例2の間でビタミン含量の低下に差がなかったことが認められる 【0052】 (同【表3】。 ) したがって,甲1においては,比較例1,比較例2の対比から,脂溶性ビタミンはアミノ酸と配合する(比較例1)と,ブドウ糖と配合する(比較例2)よりも不安定となることが明らかになったにもかかわらず,甲1は,同【図2】に示された輸液容器を使用する場合について,脂溶性ビタミン溶液の収容容器をアミノ酸側の口に取り付けようが,ブドウ糖側の口に取り付けようが,安定性に差がないということを示して終わっている。このように,甲1は,同【図2】の容器を使用した場合についてすら,安定性を向上させるべき脂溶性ビタミンの収容場所を,アミノ酸側,ブドウ糖側のいずれにすべきかについて,何らの示唆も与えていないから,同【図5】の容器を使用する場合において,脂溶性ビタミン溶液の収容容器をアミノ酸液が収容された室に収納するよりもブドウ糖液が収容された室に収納した場合の方が安定であることは,甲1に全く示されていない。 したがって,仮に,当業者が,甲1輸液製剤発明において,アミノ酸を含有する溶液としてアセチルシステインを含むアミノ酸輸液を選択し,かつ,微量金属元素を熱可塑性樹脂フィルム製の袋に収容することを思いついたとしても,当業者としては,輸液容器内における微量金属元素の収容場所については,ビタミンの場合と同様に何の手掛かりもないのであるから,微量金属元素収容容器を,安定性向上のためにアミノ酸液が収容された室とは「他の室」に収納しようとは考えもしない。 (イ) 相違点A1-1に関する原告の主張について a 甲1について,多数のアミノ酸の中からシステインに着目して含有させること,さらに,システインに代えてそのN-アシル誘導体としてあえてアセチルシステインを選択して含有させることの動機付けは存在しない。前記ア(イ)のとおり,相違点A1-1と相違点B1-1はまとめて検討すべきところ,甲1には,微量元素は輸液の投与時に必要に応じて任意に配合可能(甲1の段落【0043】)との前提の発明が記載されているのであり,微量金属元素は含硫アミノ酸と一緒にすると不安定であることが知られていたから,当業者は,微量金属元素を輸液の構成成分とする場合には,アセチルシステインのような含硫アミノ酸を配合することを避けるのが普通である。 b 甲1の「安定化剤として亜硫酸塩及び/又は亜硫酸水素塩を添加することもでき」との記載(甲1の段落【0033】)は,あくまで微量金属元素は輸液容器中に存在せず投与時に任意に添加する 【0043】ことを前提としたものである。 (同 )そして,亜硫酸塩を含む輸液は,輸液中に存在する亜硫酸イオンによりアレルギー性反応を惹起するため,アミノ酸輸液製剤を「亜硫酸イオンフリー」 (甲32の2頁左欄17行目〜右欄11行目)とすること,抗酸化剤ないし安定化剤である「亜硫酸塩もしくは重亜硫酸塩」無添加(甲7の【請求項1】,段落【0004】【001 ,0】,実施例1〜8,甲8の【請求項1】,段落【0010】【0012】 , ,実施例1〜6)とすることが,本件出願時に知られていたから,甲1輸液製剤発明に,亜硫酸塩を必須成分として配合することも,当業者が容易に想到し得ることではない。 ウ 相違点B1-1に関する容易想到性の判断の誤りについて (ア) 前記イ(ア)のとおり,相違点B1-1を含む相違点P1について,容易想到ではない。 (イ) 相違点B1-1に関する原告の主張について a そもそも甲1輸液製剤発明として,「含硫アミノ酸及び亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種」を含む発明を認定することはできないから,微量金属元素を溶液(A)を収容する室に配合させても溶液(B)を収容する室に配合させても硫黄原子による影響を受けず,当業者においては,微量金属元素を配合するのであれば,それらいずれかの室に入れればよく,わざわざ微量金属元素収容容器に入れる必然性がない。溶液(B)に「含硫アミノ酸及び亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種」であるアセチルシステインが含まれる構成が容易想到であると仮定した場合に初めて,微量金属元素が含硫アミノ酸との関係で不安定であることが問題となるところである。 このように,原告は,まず,アセチルシステインが含まれる構成が容易想到であるとした上で,銅を含む微量元素を含有する溶液を収容した小袋をバッグインバッグとし,2室バッグかつバッグインバッグとする構成を採用することが容易であるとし,さらに,その上で,銅を含む微量元素を含む溶液を収容した容器の収容先を他の室とすることは必然的であると主張するもので,原告の主張は,相違点を三段階で仮定に仮定を積み重ねて容易想到とするもの(「容易の容易の容易」)であり相当でない。 b 甲1の段落【0004】〜【0006】及び【0008】におけるビタミンをあらかじめ配合しておくことの困難性といえる記載は,各ビタミンに特有の問題であって,他の種類のビタミンにすら妥当するとはいえず,ましてや,ビタミンと全く異なる問題を有する微量金属元素(鉄,マンガン及び銅)に妥当するなどとはいえない。特定のビタミンに特有の問題を「あらかじめ配合しておくことの困難性」と上位概念化して,微量金属元素にも特定のビタミンと同様の問題が必然的に生じるかのようにいう原告の主張は誤りである。 c 甲1は,脂溶性ビタミン及びビタミンCを含有する溶液(C)を収容した容器を,2室容器のいずれか一方の室に用時連結可能に接続することを記載しているのみで,微量金属元素については依然として用時混注することを記載しているから,甲1において,微量金属元素について用時混注の問題は認識されていないか,仮に認識されていたとしても,ビタミンと同様の解決手段を微量金属元素に対して適用することは困難であると考えられていたというほかはない。したがって,用時混注の問題点が微量金属元素にも妥当するともいえない。 エ 顕著な効果に関する判断の誤りについて (ア) 本件訂正発明における「安定」とは,アミノ酸輸液を一室に充填し,微量金属元素収容容器を同室に収容する場合とは異なって安定ということであって,実施例以外の態様であっても本件訂正発明に含まれるものは,実施例に示されたのと同様に「安定」である(甲36)。本件訂正発明における「安定」が,絶対的に,実施例に記載されている数値のような安定であると解する原告の主張は誤りである。 (イ) 本件訂正発明1の構成に当業者は容易に到達できなかった上,甲1にはビタミン溶液を充填した容器をブドウ糖液,アミノ酸液のいずれ側の口部に取り付けても安定性に差はなかったことが記載されているから,本件訂正発明1の構成について,微量金属元素収容容器を含硫アミノ酸液が充填された室に収納している場合と比較して安定となることは,当業者において予測できなかったといえる。 (2) 取消事由1-2(本件訂正発明2に係るもの)について 本件訂正発明2は,システイン, 「 またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含む」点以外は「アセチルシステインを含む」本件訂正発明1と同じ発明特定事項を有するから,前記(1)は,取消事由1-2にも同様に当てはまる。 (3) 取消事由1-10(本件訂正発明10に係るもの)について 本件訂正発明10は, 「安定化方法」の発明である以外は「輸液製剤」に係る本件訂正発明1と同じ発明特定事項を有するから,前記(1)は,取消事由1-10にも同様に当てはまる。 (4) 取消事由1-11(本件訂正発明11に係るもの)について 本件訂正発明11は, 「安定化方法」の発明である以外は「輸液製剤」に係る本件訂正発明2と同じ発明特定事項を有するから,前記(2)のとおり,前記(1)は,取消事由1-11にも同様に当てはまる。 2 取消事由2(無効理由2に理由がないとした本件審決の誤り)について (1) 取消事由2-1(本件訂正発明1に係るもの)について ア 甲13発明の認定の誤りについて (ア) 本件審決における甲13発明の認定に誤りはない。甲13の段落【0021】〜【0024】には,単に医療用液体に含有すべき成分として可能性がある成分が羅列されているだけであり,その中からあえて,「アセチルシステイン」及び「鉄,マンガン,銅」を積極的,優先的に選択する事情はない。甲13には, 「アセチルシステイン」及び「鉄,マンガン,銅」の組合せについて,ひとまとまりの技術思想として開示されているわけではなく,独立して記載された成分を都合よく組み合わせた発明を甲13発明として認定することは妥当でない。 (イ) 前記(ア)より,本件審決の相違点A1-13及び相違点B1-13の認定に,原告の主張するような誤りはないが,相違点A1-13と相違点B1-13を分けて認定した点において,本件審決は相当でない。前記1(1)ア(イ)の本件訂正発明1の技術的課題の解決原理からすると,まとまりのある構成を単位として,次の相違点X1として認定すべきである。 (相違点X1) 本件訂正発明1が,「アセチルシステインを含むアミノ酸輸液である」「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され」ており,この室とは他の室に「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」のに対し,甲13輸液製剤発明は, 「アミノ酸を含有する溶液」が「アセチルシステインを含むアミノ酸輸液」である「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」であること,及び他の室に「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されている」ことが特定されておらず,他の室の一つである小室(分室)C3に微量元素(ミネラル)の水溶液または固形薬剤が直接収容されている点 イ 相違点B1-13に関する容易想到性の判断の誤りについて (ア) 相違点B1-13を含む相違点X1について,容易想到でないことは,次のとおりである。 すなわち,甲13に,N-アセチル-システインと硫酸銅を選択して組み合わせた発明が記載されているとはいえないから,甲13輸液製剤発明に接した当業者は,N-アセチル-L-システイン等の含硫アミノ酸の有する課題や,N-アセチル-L-システインと硫酸銅と選択して組み合わせた場合の課題を認識することはない。 そして,甲13輸液製剤発明は, 「N-アセチル-L-システイン」 「塩化第二鉄, と塩化マンガン,硫酸銅」とを選択して組み合わせた発明ではない上に, 「ビタミンやミネラルの微量成分の変質を避けて投与直前に混合するために分室に収容保持し,必要なときに容易に混合することが可能」(甲13の段落【0008】)という目的を,アミノ酸,糖,微量元素(ミネラル),ビタミン類の各液をそれぞれ別の分室に収容することによって既に達成しているものである以上,甲13輸液製剤発明において,微量元素(ミネラル)の水溶液を熱可塑性樹脂フィルム製の袋に収容した上でアミノ酸の薬液を収容している分室ではない他の分室内に収容保持するという構成を,あえて採用する動機付けはない。また,かかる構成が,本件出願時に周知であるということも,当業者が適宜行うことができる設計事項であるということもできない。 したがって,甲13輸液製剤発明の一つの分室に収容された「電解質及びアミノ酸の薬液」に代えて,「アセチルシステインを含むアミノ酸輸液である」「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」を充填し,さらに,他の分室に, 「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」を収納し,「微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋」とすることは,当業者が容易に想到し得ることではない。 (イ) 相違点B1-13に関する原告の主張について a 原告は,本件審決の理解に従うと,構成aのみで足り,構成bは過剰なものとなり,本件訂正発明は, 「他の室」が単なる「空室」であるような技術的意義のない構成をもその技術的範囲に含んでいることになってしまう旨を主張するが,原告の主張は,本件審決が認定した甲13輸液製剤発明の技術思想を根拠に,これとは異なる発明である本件訂正発明の技術的意義を論じるものであり,失当である。本件訂正発明の技術的思想は,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供するために,複数の室を有する輸液容器に収容されている輸液製剤において,硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が収容されている室(空間)とは別の空間である他の室(別室)に,微量金属元素収容容器を収納することにあるのであって, 「他の室」が「空室」である場合についても技術的意義が存在することは明らかである。原告の主張は,本件訂正発明の技術的意義の誤った解釈を前提とするものであって理由がない。 b 原告は,甲13発明において,含硫アミノ酸から発生する硫化水素ガスによって銅などがなお不安定となる場合があれば,ガス透過性を低下させて,その透過量を低下させるための周知の構成を適宜採用すれば足りると主張する。 しかし,わずか一,二例の文献をもって周知の構成であると論じることは失当である。 また,@甲13の段落【0025】は,甲13輸液製剤発明において,微量元素(ミネラル)が収納されている小室C3に「ガス非透過性のバリアーフィルムからなる層を設ける」とする構成を採用することについての周知構成にはなり得ず,甲15の段落【0011】から,分室C3等を形成する樹脂フィルムの一層として「ガス非透過性のバリアーフィルムからなる層を設ける」構成が微量元素の不安定さを回避するために用いられる周知構成であるともいえない。そして,甲15の段落【0015】から,分室C3を他の「熱可塑性樹脂フィルム」で覆うことによって「多重包装」状態とする構成が,微量元素の不安定さを回避するために用いられる周知構成であるとはいえない。さらに,甲1は,微量元素を含む液を,一旦小袋に入れて,同小袋を分室C3に収容する構成を示すものではなく,同構成が微量元素の不安定さを回避するために用いられる周知構成であるとはいえない。原告が主張の根拠として指摘する文献は,全て微量元素の安定化とは無関係な課題を解決するための構成を開示したものであり,微量元素を安定化するための構成を開示するものとはいえない。 c 原告が,本件明細書の実施例として記載されているレベルの安定性をもって,周知の課題であるとする根拠は不明である。 ウ 相違点C1-13に関する容易想到性の判断の誤りについて 甲13の輸液容器では,微量元素(ミネラル)などの配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく長期間収容できる構成を有している以上,そこからさらに,ガスバリヤー性の外袋に輸液容器を収納したり,この輸液容器とガスバリヤー性の外袋の空間内に残る酸素を除去するために脱酸素剤を封入する構成としたりする動機付けはない。仮に,当業者がアミノ酸の酸化防止の課題に着目するのであれば,「直接容器に各種バリアー能を持たせて包装材料に起因する廃棄物量を減少させることは有意義なことと考えられる」 (甲16の111頁右欄下から5〜3行目)という記載に鑑みると,甲13の段落【0031】に記載されているとおり,容器本体に「ガス非透過性のバリアーフィルム」を設けた構成を採用するのが当然であって,やはり,上記のような動機付けはない。 エ 顕著な効果に関する判断の誤りについて 前記1(1)エのとおりである。 (2) 取消事由2-2(本件訂正発明2に係るもの)について ア 本件訂正発明2は, 「システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含む」点以外は「アセチルシステインを含む」本件訂正発明1と同じ発明特定事項を有するから,前記(1)は,取消事由2-2にも同様に当てはまる。 イ 上記に関し,相違点A2-13及び相違点B2-13についても,分けて検討するべきではない。したがって,原告のように,亜硫酸塩の配合のみの容易想到性を独立して論じることは妥当でない。 なお,相違点A2-13及び相違点B2-13に関する容易想到性について,亜硫酸塩を含む輸液は,輸液中に存在する亜硫酸イオンによりアレルギー性反応を惹起するため,アミノ酸輸液製剤を「亜硫酸イオンフリー」甲32の特許請求の範囲, (2頁左欄第17行目〜右欄第11行目)とすること,抗酸化剤ないし安定化剤である「亜硫酸塩もしくは重亜硫酸塩」無添加(甲7の【請求項1】,段落【0004】,【0010】,実施例1〜8,甲8の【請求項1】,段落【0010】【0012】 , ,実施例1〜6)とすることが,本件出願時に知られていたから,甲13輸液製剤発明に,亜硫酸塩を必須成分として配合することは,当業者が容易に想到し得ることではない。 したがって,甲13輸液製剤発明の一つの分室に収容された「電解質及びアミノ酸の薬液」に代えて, 「システイン,又はその塩,エステル,もしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液である」「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」を充填し,さらに,他の分室に,「銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器」を収納し, 「微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋」とすることは,当業者が容易に想到し得ることではない。 (3) 取消事由2-10(本件訂正発明10に係るもの)について 本件訂正発明10は, 「安定化方法」の発明である以外は「輸液製剤」に係る本件訂正発明1と同じ発明特定事項を有するから,前記(1)は,取消事由2-10にも同様に当てはまる。 (4) 取消事由2-11(本件訂正発明11に係るもの)について 本件訂正発明11は, 「安定化方法」の発明である以外は「輸液製剤」に係る本件訂正発明2と同じ発明特定事項を有するから,前記(2)のとおり,前記(1)は,取消事由2-11にも同様に当てはまる。 3 取消事由3(無効理由3に理由がないとした本件審決の誤り)について (1) 取消事由3-1(本件訂正発明1に係るもの)について ア 本件訂正発明が解決しようとする課題は,「微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供すること」本 (件明細書の段落【0005】)である。 そして,本件明細書の段落【0004】及び【0006】の記載のほか,同【0024】には, 「微量金属元素収容容器を収納している室」には,溶液が充填されていても良いし,充填されていなくてもよいとも記載されていること, 【0065】 同の【表5】に,実施例1〜4および比較例で製造された輸液製剤の「60℃-2週間」 「60℃-4週間」 及び 保存後の銅の安定性が示されていることを踏まえると,当業者は, 「一室に硫黄原子を含む化合物(アセチルシステイン等)を含有する溶液が収容され微量金属元素収容容器は他の室に収容」(同【0006】)された輸液製剤(実施例1)の微量金属元素が, 「含硫アミノ酸輸液を一室に充填し,微量金属元素収容容器を同室に収容」(同【0004】)した輸液製剤(比較例)の微量金属元素とは異なって安定であると理解する。 そうすると,本件訂正発明1は,発明の詳細な説明の記載により,当業者が「微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供すること」という発明の課題を解決できると認識できる範囲の発明であるというべきである。 イ 原告の主張について (ア) 原告は,実施例の記載をどこまで上位概念化できるかを問題にするが,サポート要件の有無は,実施例のみならず発明の詳細な説明の記載全体と出願時の技術常識を踏まえて判断すべきものである。 (イ) 当業者は,本件訂正発明における微量金属元素を含む液の「安定」は次のように達成されるから,原告のいう構成@及び構成Aを備えなくとも,安定が実現できると理解する。 a まず,微量金属元素収容容器を含硫アミノ酸を含有する溶液を収容する室(空間)に収納した場合には,含硫アミノ酸を含有する溶液と微量金属元素を含む液とが微量金属元素収容容器(熱可塑性樹脂製フィルムの袋)の壁1枚によって隔てられているのみであるため,混合前の輸液容器を保管しておくと,微量金属元素を含む液が,微量金属元素収容容器の壁を通り抜けて侵入してきた硫化水素の影響を受けることとなる。 他方で,微量金属元素収容容器を含硫アミノ酸を含有する溶液を収容する室(空間)とは別の空間である「他の室」 (別室)に収納した場合には,含硫アミノ酸を含有する溶液を充填した室の壁,微量金属元素収容容器が収納された「他の室」の壁,そして,微量金属元素収容容器の壁によって,三重に隔てられることとなる(以下,これらの三重に隔てる壁を総称して「三重の壁」ということがある。 。保管日数が )経過するに従い,熱可塑性樹脂からなる各壁を硫化水素ガスの一部が透過することになるが,通常の保管日数では,硫化水素の量は,三重の壁のそれぞれを透過する度に段階的に減少するため,硫化水素が微量金属元素を含む液に触れる量は少なくなる。したがって,三重の壁によって,微量金属元素を含む液が硫化水素の影響を受けにくくなり,混合前の輸液容器を長期にわたり保管しても,微量金属元素を含む液が安定となる。 b 本件訂正発明における「安定」とは,微量金属元素収容容器を,アミノ酸輸液を収容した室に収納した場合とは異なって安定(相対的安定)ということであり,それは,構成@のみならず,空室であっても当てはまるし,構成Aでなくても当てはまる。すなわち,構成@及び構成Aを備えなくとも,当業者は「銅」などの微量金属元素の安定性が実現できるものと認識できる。なお,構成@のみならず,他の室が空室であっても安定は実現できる(甲36)。 (ウ) 原告は,構成Aを備えなければ「安定」 (絶対的な安定)が実現できないとするが,本件訂正発明における「安定」については前記(イ)bのとおりであるところ,本件明細書の実施例及び比較例は,いずれも外袋内に脱酸素剤を封入している点で同じであるにもかかわらず, 「60℃-2週間」「60℃-4週間」後における銅の ,残存量に差が生じたのであるから,脱酸素剤封入の有無にかかわらず,硫化水素の微量金属元素収容容器への移動を妨げる三重の壁が,銅の残存量に大きく影響することは明らかである。 原告の提出する実験報告書(甲19)の実験結果を仮に前提としたとしても, 「@実施例1の追試」と「A比較例の追試」は,外袋内に脱酸素剤2個が封入されている点で共通するにもかかわらず,銅の残存量に大きな差が生じたことを示しており,脱酸素剤にかかわらず,三重の壁が銅の残存量に大きく影響することを裏付けるものといえる。また,上記実験報告書における,実施例1の変更例Aと変更例Bを比較すると,変更例Bでは,20個もの通常考えられない多数の脱酸素剤を入れることによってようやく,60℃4週間における水分損失補正後の銅含量90.2%を図ることができるものであるから,通常の脱酸素剤の量(1〜2個)を入れることによって硫化水素ガスを吸収するとしても,それは安定性には影響を与えないようなものにすぎないというべきである。 (エ) 構成@及びAが存在しない場合であっても,三重の壁によって微量金属元素の安定性が実現されていることは,実験報告書(乙1)における安定性試験の結果からも裏付けられている。この点,原告が実験報告書(乙1)の信用性が否定されるとして主張する点は,いずれも誤っている。むしろ,試験に当たっての輸液製剤の保存方法や,着色に関する写真の裏付けがないといった点で,原告の実験報告書(甲19,20)には疑問がある。 (2) 取消事由3-2(本件訂正発明2に係るもの)について 前記(1)が同様に当てはまる。 (3) 取消事由3-10(本件訂正発明10に係るもの)について 前記(1)が同様に当てはまる。 (4) 取消事由3-11(本件訂正発明11に係るもの)について 前記(1)が同様に当てはまる。 |
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当裁判所の判断
1 本件訂正発明について (1) 本件明細書の記載 本件明細書(甲28)には,以下の記載がある。 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,経時変化を受けることなく保存でき,使用時に細菌による汚染なく薬剤の配合を行うことができる複数の室を有する輸液容器に収容されている輸液製剤に関する。 【0002】 【従来の技術】 経口・経腸管栄養補給が不能または不十分な患者には,経静脈からの高カロリー輸液の投与が行われている。このときに使用される輸液製剤としては,糖製剤,アミノ酸製剤,電解質製剤,混合ビタミン製剤,脂肪乳剤などが市販されており,病態などに応じて用時に病院で適宜混合して使用されていた。 しかし,病院におけるこのような混注操作は煩雑なうえに,かかる混合操作時に細菌汚染の可能性が高く不衛生であるという問題がある。このため連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器が開発され病院で使用されるようになった。 【0003】 一方,輸液中には,通常,微量金属元素(銅,鉄,亜鉛,マンガンなど)が含まれていないことから輸液の投与が長期になると,患者の唇がひび割れたり,造血機能が低下したりする,いわゆる微量金属元素欠乏症を発症する。微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の原因となる。このため病院では,細菌汚染の問題をかかえながらも依然として輸液を投与する直前に微量金属元素が混合されているのが現状である。 【0004】 本発明者らは,かかる現状に鑑み,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用い,用時に細菌汚染の可能性なく微量金属元素を混入することができ,かつ,保存安定性にも優れた輸液製剤の創製研究を開始した。 本発明者らは,システインまたはシスチンなどの含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液と微量金属元素とを隔離して保存することを試みた。しかしながら,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,該アミノ酸輸液と微量金属元素とは隔離してあるにもかかわらず,微量金属元素を含む溶液が不安定であるという問題が生じることを知見した。上記室と微量金属元素収容容器を構成する材料を種々変更して検討したが,通常入手し得る樹脂材料である限り,微量金属元素溶液を安定化することはできなかった。 【0005】 【発明が解決しようとする課題】 本発明は,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを目的とする。 【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明者らは,上記目的を達成すべく鋭意検討した結果,連通可能な隔壁手段で区画されている複室からなる輸液容器において,その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が収容され,微量金属元素収容容器は他の室に収容することにより,微量金属元素を含む溶液が安定であるという思いがけない知見を得た。 本発明者らは,さらに検討を重ねて本発明を完成した。 【0007】 すなわち,本発明は, (1) 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填され,他の室に微量金属元素収容容器が収納されていることを特徴とする輸液製剤, (2) 硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が,含硫アミノ酸または/および亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり,微量金属元素が銅であることを特徴とする前記(1)に記載の輸液製剤, (3) 微量金属元素収容容器が収納されている第1室と,硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填されている第2室とが,連通可能な隔壁手段を介して隣接していることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の輸液製剤, (4) 微量金属元素収容容器を収納している室に,糖質輸液または/および電解質輸液が充填されていることを特徴とする前記(1) (3) 〜 に記載の輸液製剤,に関する。 【0008】 また,本発明は, (5) 第1室または第2室に,ビタミン収容容器が収納されていることを特徴とする前記(3)または(4)に記載の輸液製剤, (6) 微量金属元素収容容器またはビタミン収容容器と,それを収納している室とが,外部からの押圧によって連通可能であることを特徴とする前記(1)(5) 〜に記載の輸液製剤, (7) 第1室または第2室に充填されている溶液が,さらにビタミンを含有していることを特徴とする前記(3)〜(5)に記載の輸液製剤,に関する。 【0009】 また,本発明は, (8) 複数の全ての室および収容容器を,外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成が,ブドウ糖50〜400g/L,L-ロイシン0.8〜10.0g/L,L-イソロイシン0〜7.0g/L,L-バリン0.3〜8.0g/L,L-リジン0.5〜7.0g/L,L-スレオニン0.3〜4.0g/L,L-トリプトファン0.08〜1.5g/L,L-メチオニン0.2〜4.0g/L,L-フェニルアラニン0.4〜6.0g/L,L-システイン0.03〜1.0g/L,L-チロシン0.02〜1.0g/L,L-アルギニン0.5〜7.0g/L,L-ヒスチジン0.3〜4.0g/L,L-アラニン0.4〜7.0g/L,L-プロリン0.2〜5.0g/L,L-セリン0〜3.0g/L,グリシン0.3〜6.0g/L,L-アスパラギン酸0〜2.0g/L,L-グルタミン酸0〜3.0g/L,ナトリウム20〜80mEq/L,カリウム10〜40mEq/L,マグネシウム2〜20mEq/L,カルシウム2〜20mEq/L,リン2〜20mmol/L,塩素20〜80mEq/L,鉄2〜200μmol/L,銅0.5〜40μmol/L,マンガン0〜10μmol/L,亜鉛2〜200μmol/L,ヨウ素0〜5μmol/Lであることを特徴とする前記(1) (7) 〜に記載の輸液製剤,に関する。 【0010】 また,本発明は, (9) さらに,ビタミンB 10.4〜30mg/L,ビタミンB 20.5〜6.0mg/L,ビタミンB60.5〜8.0mg/L,ビタミンB120.5〜50μg/L,ニコチン酸類5〜80mg/L,パントテン酸類1.5〜35mg/L,葉酸50〜800μg/L,ビタミンC12〜200mg/L,ビタミンA400〜6500IU/L,ビタミンD0.5〜10μg/L,ビタミンE1.0〜20mg/L,ビタミンK0.2〜4mg/L,ビオチン5〜120μg/Lを含有することを特徴とする前記(8)に記載の輸液製剤,に関する。 【0011】 また,本発明は, (10) 複室輸液製剤において,含硫アミノ酸溶液を収容している室と別室に微量金属元素収容容器を収納することを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法, (11) 微量金属元素が,銅であることを特徴とする前記(10)に記載の輸液製剤の保存安定化方法,に関する。 【0012】 【発明の実施の形態】 本発明にかかる輸液製剤においては,連通可能な隔壁手段で区画されている複室からなる輸液容器を用いる。かかる輸液容器としては,特に限定されず,公知のものを用いてよい。具体的には,例えば,複数の室が弱シール部により区画され,輸液容器の一室を外部より押圧することにより当該室が隣接する他の室と連通する輸液容器が,好適な例として挙げられる。また,輸液容器を複数の室に区画する隔壁に破断可能な流路閉塞体が設けられている構造のものなども挙げられる。 【0013】 上記輸液容器における各室の形成材料としては,貯蔵する薬剤の安定性上問題のない樹脂であればよく,比較的大容量の室を形成する部分は,柔軟な熱可塑性樹脂,例えば軟質ポリプロピレンやそのコポリマー,ポリエチレンおよび/またはそのコポリマー,酢酸ビニル,ポリビニルアルコール部分ケン化物,ポリプロピレンとポリエチレンもしくはポリブテンの混合物,エチレン-プロピレンコポリマーのようなオレフィン系樹脂もしくはポリオレフィン部分架橋物,スチレン系エラストマー,ポリエチレンテレフタラートなどのポリエステル類もしくは軟質塩化ビニル樹脂など,またはそれらの内適当な樹脂を混合した素材,またナイロンなど他の素材も含めて前記素材を多層に成型したシートなどが利用可能である。 【0014】 本発明にかかる輸液製剤は,上述のような連通可能な隔壁手段で区画されている複室からなる輸液容器において,その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填され,他の室に微量金属元素収容容器が収納されていることを特長とする。 このようにすることにより,硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を有する輸液製剤において,微量金属元素,特に銅イオンを安定化することができる。 【0015】 上記「硫黄原子を含む化合物(本発明において,含硫化合物ともいう。」として )は,特に限定されないが,システインまたはシスチンなどの含硫アミノ酸が挙げられる。また,かかる化合物としては,安定化剤として用いられている亜硫酸塩なども挙げられる。前記亜硫酸塩としては,例えば,亜硫酸水素ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,ピロ亜硫酸ナトリウム,チオ亜硫酸ナトリウムまたはロンガリットなどが挙げられる。本発明の輸液製剤には,上記の含硫化合物が単独で含有されていてもよいし,2種以上の含硫化合物が含有されていてもよい。 上記含硫化合物の含有量は,特に限定されないが,含硫アミノ酸の場合,その含有量は約0.1〜10g/Lであることが好ましく,亜硫酸塩の場合,その含有量は約0.02〜0.5g/Lであることが好ましい。 【0016】 上記「含硫化合物を含む溶液」としては,上記含硫化合物を含めば,特に限定されないが,含硫アミノ酸または/および亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液が好適な例として挙げられる。 前記アミノ酸輸液としては,公知のものを用いてよい。例えば,アミノ酸輸液中に含有されるアミノ酸としては,必須アミノ酸,非必須アミノ酸および/またはこれらのアミノ酸の塩,エステルまたはN-アシル体などが挙げられる。より具体的には,例えば,L-イソロイシン,L-ロイシン,L-リジン,L-メチオニン,L-フェニルアラニン,L-スレオニン,L-トリプトファン,L-バリン,L-アラニン,L-アルギニン,L-アスパラギン酸,L-システイン,L-グルタミン酸,L-ヒスチジン,L-プロリン,L-セリン,L-チロシンまたはL-グリシンなどのアミノ酸が挙げられる。また,これらアミノ酸はL-アルギニン塩酸塩,L-システイン塩酸塩,L-グルタミン酸塩酸塩,L-ヒスチジン塩酸塩,L-リジン塩酸塩等の無機酸塩や,L-リジン酢酸塩,L-リジンリンゴ酸塩等の有機酸塩,L-チロシンメチルエスエル,L-メチオノンメチルエスエル,L-メチオニンエチルエステルなどのエステル体,N-アセチル-L-システイン,N-アセチル-L-トリプトファン,N-アセチル-L-プロリンなどのN-置換体,L-チロシル-L-チロシン,L-アラニル-L-チロシン,L-アルギニル-L-チロシン,L-チロシル-L-アルギニンなどのジペプチド類の形態でも良い。 【0017】 全ての溶液を混合した溶液中にアミノ酸は,以下の配合量(遊離形態で換算)で配合されていることが好ましい。 すなわち,L-ロイシン約0.8〜10.0g/L,好ましくは約2.0〜5.0g/L,L-イソロイシン約0〜7.0g/L,好ましくは約1.0〜3.0g/L,L-バリン約0.3〜8.0g/L,好ましくは約1.0〜3.0g/L,L-リジン約0.5〜7.0g/L,好ましくは約1.5〜4.5g/L,L-トレオニン約0.3〜4.0g/L,好ましくは約0.5〜2.0g/L,L-トリプトファン約0.08〜1.5g/L,好ましくは約0.2〜1.0g/L,L-メチオニン約0.2〜4.0g/L,好ましくは約0.5〜1.5g/L,L-フェニルアラニン約0.4〜6.0g/L,好ましくは約1.0〜2.5g/L, 【0018】 L-システイン約0.03〜1.0g/L,好ましくは約0.15〜0.5g/L,L-チロシン約0.02〜1.0g/L,好ましくは約0.05〜0.20g/L,L-アルギニン約0.5〜7.0g/L,好ましくは約1.5〜3.5g/L,L-ヒスチジン約0.3〜4.0g/L,好ましくは約0.5〜2.5g/L,L-アラニン約0.4〜7.0g/L,好ましくは約1.0〜3.0g/L,L-プロリン約0.2〜5.0g/L,好ましくは約0.5〜2.0g/L,L-セリン約0〜3.0g/L,好ましくは約0.5〜1.5g/L,グリシン約0.3〜6.0g/L,好ましくは約0.5〜2.5g/L,L-アスパラギン酸約0〜2.0g/L,好ましくは約0.1〜1.0g/L,L-グルタミン酸約0〜3.0g/L,好ましくは約0.1〜1.0g/Lとなるように配合するのが好ましい。 【0019】 上記アミノ酸輸液のpHは,通常のpH調整剤,例えば塩酸,酢酸,乳酸,リンゴ酸,クエン酸などの酸類や水酸化ナトリウムなどのアルカリを適宜用いて約2.5〜10,好ましくは約5〜8に調製するのが好ましい。 【0020】 本発明の輸液製剤において,微量金属元素を含有する液(以下, 「微量金属元素含有溶液」ともいう)を収容する微量金属元素収容容器は,含硫化合物を含有する溶液を充填する室と異なる室に収納されている。微量金属元素収容容器の収納方法としては,例えば室内の液中に微量金属元素収容容器を浮遊させてもよいが,微量金属元素収容容器の周縁シール部の端を,収納する室の周縁に挟み込んでシールすることにより,吊着するのが好ましい。この場合,シールをしやすくするために,微量金属元素含有溶液が収納されている室の素材を,微量金属元素収容容器の最内層の素材と同一にするのが一般的である。 また,微量金属元素収容容器は,それを収納している室と連通可能であることが好ましい。そのための手段としては,公知手段を用いてよく,具体的には,上述したように,微量金属元素収容容器とそれを収納している室が弱シール部または肉厚が約100μm以下の薄膜により区画され,微量金属元素収容容器を外部より押圧することにより当該容器がそれを収納している室と連通する構造となっていることが好ましい。また,微量金属元素収容容器は,それを収納している室との隔壁に破断可能な流路閉塞体を有していてもよい。 【0021】 上記微量金属元素としては,例えば銅,鉄,マンガン,亜鉛などが挙げられる。 微量金属元素収容容器内の微量金属元素は,微量金属元素もしくは微量金属元素を含む化合物またはそれらを含有する溶液もしくは懸濁液などであってよい。また,所望によって,その他の成分が微量金属元素収容容器内に存在していても良い。微量金属元素収容容器内において,鉄はコロイドとして,また銅,マンガン,亜鉛は水に溶解させて,微量金属元素収容容器に充填するのが好ましい。但し,マンガン,亜鉛は,アミノ酸含有溶液または糖含有溶液と混合して用いることもできる。 【0022】 微量金属元素含有溶液において,銅の供給源としては,例えば硫酸銅などが挙げられ,製剤中の全ての溶液を混合した溶液中に約0.5〜40μmol/L,好ましくは約1〜20μmol/Lとなるように配合するのが好ましい。 鉄の供給源としては,例えば塩化第二鉄,硫酸第二鉄などが挙げられ,製剤中の全ての溶液を混合した溶液中に約2〜200μmol/L,好ましくは約5〜100μmol/Lとなるように配合するのが好ましい。 マンガンの供給源としては,例えば塩化マンガン,硫酸マンガンなどが挙げられ,製剤中の全ての溶液を混合した溶液中に約0〜10μmol/L,好ましくは約0〜5μmol/Lとなるように配合するのが好ましい。 亜鉛の供給源としては,例えば塩化亜鉛,硫酸亜鉛などが挙げられ,製剤中の全ての溶液を混合した溶液中に約2〜300μmol/L,好ましくは約5〜150μmol/Lとなるように配合するのが好ましい。 【0024】 上記「微量金属元素収容容器を収納している室」には,溶液が充填されていてもよいし,充填されていなくてもよい。なかでも,前記室には,糖質輸液もしくは電解質輸液のいずれかまたはそれらの混合物が収納されていることが好ましい。 【0025】 上記糖質輸液は,公知のものを用いてよい。かかる糖質輸液中に含有される糖としては,従来から各種輸液に慣用されるものでよく,例えばブドウ糖,フルクトースなどの単糖類,マルトースなどの二糖類が例示される。その中でもブドウ糖,フルクトース,マルトースなどの還元糖が好ましく,特に血糖管理などの点で,ブドウ糖が好ましい。これらの還元糖は2種以上を混合して用いてもよく,更にこれらの還元糖にソルビトール,キシリトール,グリセリンなどを加えた混合物を用いてもよい。 【0026】 上記糖質輸液は,通常のpH調整剤,例えば塩酸,酢酸,乳酸,リンゴ酸,クエン酸などの酸類や水酸化ナトリウムなどのアルカリを適宜使用してpH約2〜6,好ましくは約3.5〜5に調製されていることが好ましい。 また,本発明の輸液製剤において全ての溶液を混合した溶液中にこれらの糖は,約50〜400g/L,好ましくは約100〜200g/Lとなるように配合するのが好ましい。さらに,上記糖質輸液は,下記する電解質が,下記する濃度で含有されていても良い。 【0027】 上記電解質輸液は,公知のものを用いてよい。かかる電解質輸液中に含有される電解質としては,例えば,ナトリウム,カリウム,マグネシウム,カルシウム,塩素,リンなど無機成分の水溶性塩,例えば塩化塩,硫酸塩,酢酸塩,グルコン酸塩,乳酸塩,グリセロリン酸塩などが挙げられる。 【0028】 ナトリウムイオン供給源としては,例えば塩化ナトリウム,酢酸ナトリウム,クエン酸ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸水素二ナトリウム,硫酸ナトリウムまたは乳酸ナトリウムなどが挙げられ,全ての溶液を混合した溶液中に約10〜160mEq/L,好ましくは約20〜80mEq/L,さらに好ましくは約30〜60mEq/Lとなるように配合するのが好ましい。 カリウムイオン供給源としては,例えば塩化カリウム,酢酸カリウム,クエン酸カリウム,リン酸二水素カリウム,リン酸水素二カリウム,硫酸カリウムまたは乳酸カルシウムなどがあげられ,全ての溶液を混合した溶液中に約5〜80mEq/L,好ましくは約10〜40mEq/L,さらに好ましくは約15〜30mEq/Lとなるように配合するのが好ましい。 【0029】 カルシウムイオン供給源としては,例えば塩化カルシウム,グルコン酸カルシウム,パントテン酸カルシウム,乳酸カルシウムまたは酢酸カルシウムなどが挙げられ,全ての溶液を混合した溶液中に約1〜40mEq/L,好ましくは約2〜20mEq/L,さらに好ましくは約2〜10mEq/Lとなるように配合するのが好ましい。 マグネシウムイオン供給源としては,例えば硫酸マグネシウム,塩化マグネシウムまたは酢酸マグネシウムなどが挙げられ,全ての溶液を混合した溶液中に約1〜40mEq/L,好ましくは約2〜20mEq/L,さらに好ましくは約2〜10mEq/Lとなるように配合するのが好ましい。 【0030】 リン供給源としては,リン酸二水素ナトリウム,リン酸水素二ナトリウムまたはグリセロリン酸カリウムなどが挙げられ,全ての溶液を混合した溶液中に約1〜40mmol/L,好ましくは約2〜20mmol/L,さらに好ましくは約3〜10mmol/Lとなるように配合するのが好ましい。 クロルイオン供給源としては,例えば塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムなどが挙げられ,全ての溶液を混合した溶液中に約10〜160mEq/L,好ましくは約20〜80mEq/L,さらに好ましくは約30〜60mEq/Lとなるように配合するのが好ましい。 【0031】 本発明に係る輸液製剤の好ましい態様として,微量金属元素収容容器が収納されている第1室と,硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填されている第2室とが,連通可能な隔壁手段を介して隣接している輸液製剤が挙げられる。 かかる輸液製剤の具体的態様を,図1を用いて説明する。図1は,本発明に係る輸液製剤を収納する輸液容器の平面図である。該輸液容器は,外袋2内に第1室(図中の符号4)と第2室(図中の符号5)を有する。第1室と第2室は連通可能部3が形成されており,第1室4または第2室5を押圧することにより,連通可能部3が剥離して薬剤が外気に触れることなく第1室4と第2室5が連通される。 【0032】 また,微量金属元素収容容器6が,第1室4内に吊着されており,外側から押圧することにより破袋され,第1室4と連通する。より具体的には,微量金属元素収容容器6の周縁シール部の端を,第1室4の周縁に挟み込んでシールすることにより吊着されている。また,用時に室の外側から押圧して破袋できるように,微量金属元素収容容器は,易開封性シールで第1室4と区画されているか,または肉厚約100μm以下の薄膜からなることが好ましい。 【0033】 本態様の輸液製剤では,図1に示す輸液容器の第1室4に,溶液が充填されていてもよいし,充填されていなくてもよい。なかでも,上述のように,前記第1室4には,糖質輸液または/および電解質輸液が充填されていることが好ましい。また,微量金属元素収容容器6には,上述したような微量金属元素の液が充填されている。 さらに,図1に示す輸液容器の第2室5には,上述したような含硫化合物を含有する溶液が充填されている。 【0034】 図1に示す輸液容器には,さらに,第2室5と連通する閉塞された薬液流出口8が設けられており,患者への内部薬液の注入のための輸液セットとの接続,さらにはシリンジなどを用いて他の薬剤を注入するために用いられる。 【0035】 本発明の輸液製剤を収納する輸液容器の各室は気体および液体を通さない性質の外袋2に収納されていることが好ましい。さらに,脱酸素剤9がガスバリヤー性外袋2に収納されているのが好ましい。このようにすることにより,本発明の輸液製剤の成分,特にアミノ酸などの酸化分解されやすい成分の酸化分解を抑えることができるという利点がある。脱酸素剤9を封入する代わりに,または脱酸素剤9を封入するとともに,所望により外袋2内に不活性ガスを充填してもよい。さらに,光分解性ビタミンなどの光安定性に乏しい成分を充填する場合には,外袋に遮光性をもたせるのが好ましい。 【0036】 上記外袋に適した材質としては,一般に汎用されている各種材質のフィルムもしくはシートを使用することができる。例えばエチレン ビニルアルコール共重合体, ・ポリ塩化ビニリデン,ポリアクリロニトリル,ポリビニルアルコール,ポリアミド,ポリエステルなどガスバリヤー素材のうち少なくとも1種を含むフィルムもしくはシートなどから適宜に選択し,使用することができる。また,上記外袋に遮光性をもたせる場合には,例えば上記フィルムまたはシートにアルミラミネートを施すことにより実施できる。 【0037】 上記外袋内に封入する脱酸素剤としては,例えば, (1)炭化鉄,鉄カルボニル化合物,酸化鉄,鉄粉,水酸化鉄またはケイ素鉄をハロゲン化金属で被覆したもの,(2)水酸化アルカリ土類金属もしくは炭酸アルカリ土類金属,活性炭と水,結晶水を有する化合物の無水物,アルカリ性物質またはアルコール類化合物と亜ニチオン酸塩との混合物, (3)第一鉄化合物,遷移金属の塩類,アルミニウムの塩類,アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含むアルカリ化合物,窒素を含むアルカリ化合物またはアンモニウム塩と亜硫酸アルカリ土類金属との混合物, (4)鉄もしくは亜鉛と硫酸ナトリウム・1水和物との混合物または該混合物とハロゲン化金属との混合物, (5)鉄,銅,スズ,亜鉛またはニッケル;硫酸ナトリウム・7水和物または10水和物;およびハロゲン化金属の混合物, (6)周期律表第4周期の遷移金属;スズもしくはアンチモン;および水との混合物または該混合物とハロゲン化金属との混合物, (7)アルカリ金属もしくはアンモニウムの亜硫酸塩,亜硫酸水素塩またはピロ亜硫酸塩;遷移金属の塩類またはアルミニウムの塩類;および水との混合物などを用いることができる。本発明においては,これら公知物の中から,所望により適宜に選択することができる。 【0038】 また,脱酸素剤としては,市販のものを用いることができ,かかる市販の脱酸素剤としては,例えばエージレス(三菱ガス化学社製),モデュラン(日本化薬社製)などが挙げられる。上記脱酸素剤としては,粉末状のものであれば,適当な通気性の小袋にいれて用いるのが好ましく,錠剤化されているものであれば,包装せずにそのまま用いてもよい。 【0039】 また,上記外袋内に不活性ガスを充填することで酸素を取り除いてもよく,そのような不活性ガスとしては,例えばヘリウムガス,窒素ガスなどが挙げられる。 【0040】 本発明に係る輸液製剤は,さらにビタミンを含むことができる。第1室または第2室にビタミンを溶解してもよいし,さらに,第1室または第2室に,ビタミン収容容器を収納させることができる。かかるビタミン収容容器は,それを収納している室と,外部からの押圧によって連通可能であることが好ましい。その手段は,上述のような公知手段を用いてよい。 より具体的には,図2または図3に示す輸液容器に収納されている輸液製剤が挙げられる。図2に示す輸液容器では,第1室4に,微量金属元素収容容器6とは別に,ビタミン収容容器(図中の符号7)が,上述した微量金属元素収容容器6の収納手段と全く同様にして収納されている。また,図3に示す輸液容器では,第2室5に,ビタミン収容容器(図中の符号7)が,上述した微量金属元素収容容器6の収納手段と全く同様にして収納されている。 【0041】 上記ビタミン収容容器に充填されているビタミン溶液としては,公知のものであってよい。具体的には,上記ビタミン収容容器に脂溶性ビタミン溶液を充填する場合が挙げられる。前記脂溶性ビタミンとしては,例えばビタミンA,ビタミンDまたはビタミンEが挙げられ,所望によりビタミンKを配合することもできる。 ビタミンAとしては,例えばパルミチン酸エステル,酢酸エステルなどのエステル形態が挙げられる。ビタミンDとしては例えばビタミンD 1,ビタミンD2,ビタミンD3(コレカルシフェロール)およびそれらの活性型(ヒドロキシ誘導体)が挙げられる。ビタミンE(トコフェロール)としては,例えば酢酸エステル,コハク酸エステルなどのエステル形態が挙げられる。ビタミンK(フィトナジオン)としては,例えばフィトナジオン,メナテトレノン,メナジオンなどの誘導体が挙げられる。 【0042】 これらの脂溶性ビタミンは,全ての溶液を混合した溶液中に,ビタミンAを約400〜6500IU/L,好ましくは約800〜4000IU/L,ビタミンD(コレカルシフェノールとして)を約0.5〜10μg/L,好ましくは約1.0〜6.0μg/L,ビタミンE(酢酸トコフェノールとして)を約1.0〜20mg/L,好ましくは約2.5〜12.0mg/L,ビタミンK(フィトナジオンとして)を約0.2〜4mg/L,好ましくは約0.5〜2.5mg/L,配合するのが好ましい。 【0043】 上記ビタミン収容容器には,上記脂溶性ビタミン溶液とともに,または脂溶性ビタミン溶液の代わりに,水溶性ビタミンを充填してもよい。かかる水溶性ビタミンとしては,例えばビタミンB1,ビタミンB2,葉酸,ビオチン,ビタミンC,ビタミン12[判決注:ビタミンB12の誤記と認める。, ] パントテン酸類,ビタミンB6,ニコチン酸類またはビタミンHなどが挙げられる。 かかるビタミンは誘導体であってもよく,具体的にはビタミンB1としては例えば塩酸チアミン,プロスルチアミンまたはオクトチアミンなどが挙げられる。ビタミンB2としては,例えばリン酸エステル,そのナトリウム塩,フラビンモノヌクレオチドまたはフラビンアデニンジヌクレオチドなどが挙げられる。ビタミンCとしては例えばアスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウムなどが挙げられる。パントテン酸類としては,遊離体に加え,カルシウム塩や還元体であるパンテノールの形態などが挙げられる。ビタミンB6としては,例えば塩酸ピリドキシンなどの塩の形態などが挙げられる。ニコチン酸類としては,例えば,ニコチン酸またはニコチン酸アミドなどが挙げられる。ビタミンB12としては,例えばシアノコバラミンなどが挙げられる。 【0044】 上記水溶性ビタミンは,全ての溶液を混合した溶液中に以下の配合割合で配合されるのが好ましい。ビタミンB1 (塩酸チアミンとして)を約0.4〜30mg/L,好ましくは約1.0〜5.0mg/L,ビタミンB 2 (リボフラビンとして)を約0.5〜6.0mg/L,好ましくは約0.8〜4.0mg/L,ビタミンB 6(塩酸ピリドキシンとして)を約0.5〜8.0mg/L,好ましくは約1.0〜5.0mg/L,ビタミンB12(シアノコバラミンとして)を約0.5〜50μg/L,好ましくは約1.0〜10μg/L,ニコチン酸類(ニコチン酸アミドとして)を約5〜80mg/L,好ましくは約8〜50mg/L,パントテン酸類(パントテン酸として)を約1.5〜35mg/L,好ましくは約3.0〜20mg/L,葉酸を約50〜800μg/L,好ましくは約40〜120μg/L,ビタミンC(アスコルビン酸として)を約12〜200mg/L,好ましくは約20〜120mg/L,ビオチンを約5〜120μg/L,好ましくは約10〜70μg/L,配合するのが好ましい。 【0045】 上記水溶性ビタミンは,ビタミン収容容器に限定されず,図1〜3に示す輸液容器の第1室または第2室に含有されていても良い。 【0046】 本発明の輸液製剤を患者に投与するに際して,外袋を破り,複数の室,すなわち,図1に示す輸液製剤においては,第1室,第2室および微量金属元素収容容器,図2または3に示す輸液製剤においては,第1室,第2室,微量金属元素収容容器およびビタミン収容容器を連通させることにより,各室の薬液を混合する。 本発明の輸液製剤においては,複数の全ての室および収容容器を外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成が,下記の組成であることが好ましい。 【0047】 すなわち,ブドウ糖約50〜400g/L,好ましくは約100〜200g/L,L-ロイシン約0.8〜10.0g/L,好ましくは約2.0〜5.0g/L,L-イソロイシン約0〜7.0g/L,好ましくは約1.0〜3.0g/L,L-バリン約0.3〜8.0g/L,好ましくは約1.0〜3.0g/L,L-リジン約0.5〜7.0g/L,好ましくは約1.5〜4.5g/L,L-トレオニン約0.3〜4.0g/L,好ましくは約0.5〜2.0g/L,L-トリプトファン約0.08〜1.5g/L,好ましくは約0.2〜1.0g/L,L-メチオニン約0.2〜4.0g/L,好ましくは約0.5〜1.5g/L,L-フェニルアラニン約0.4〜6.0g/L,好ましくは約1.0〜2.5g/L, 【0048】 L-システイン約0.03〜1.0g/L,好ましくは約0.15〜0.5g/L,L-チロシン約0.02〜1.0g/L,好ましくは約0.05〜0.20g/L,L-アルギニン約0.5〜7.0g/L,好ましくは約1.5〜3.5g/L,L-ヒスチジン約0.3〜4.0g/L,好ましくは約0.5〜2.5g/L,L-アラニン約0.4〜7.0g/L,好ましくは約1.0〜3.0g/L,L-プロリン約0.2〜5.0g/L,好ましくは約0.5〜2.0g/L,L-セリン約0〜3.0g/L,好ましくは約0.5〜1.5g/L,グリシン約0.3〜6.0g/L,好ましくは約0.5〜2.5g/L,L-アスパラギン酸約0〜2.0g/L,好ましくは約0.1〜1.0g/L,L-グルタミン酸約0〜3.0g/L,好ましくは約0.1〜1.0g/Lである。 【0049】 さらに,本発明の輸液製剤においては,電解質,微量金属元素として下記成分を含んでいる。すなわち,ナトリウム約20〜80mEq/L,カリウム約10〜40mEq/L,マグネシウム約2〜20mEq/L,カルシウム約2〜20mEq/L,リン約2〜20mmol/L,塩素約20〜80mEq/L,鉄約2〜200μmol/L,銅約0.5〜40μmol/L,マンガン約0〜10μmol/L,亜鉛約2〜200μmol/L,ヨウ素約0〜5μmol/Lである。 【0050】 本発明にかかる輸液製剤は,さらに,下記成分を下記濃度で含有することが好ましい。すなわち,ビタミンB1(塩酸チアミンとして)を約0.4〜30mg/L,好ましくは約1.0〜5.0mg/L,ビタミンB 2 (リボフラビンとして)を約0.5〜6.0mg/L,好ましくは約0.8〜4.0mg/L,ビタミンB 6(塩酸ピリドキシンとして)を約0.5〜8.0mg/L,好ましくは約1.0〜5.0mg/L,ビタミンB12(シアノコバラミンとして)を約0.5〜50μg/L,好ましくは約1.0〜10μg/L,ニコチン酸類(ニコチン酸アミドとして)を約5〜80mg/L,好ましくは約8〜50mg/L,パントテン酸類を約1.5〜35mg/L,好ましくは約3.0〜20mg/L,葉酸を約50〜800μg/L,好ましくは約40〜120μg/L,ビタミンC(アスコルビン酸として)を約12〜200mg/L,好ましくは約20〜120mg/L,ビタミンAを約400〜6500IU/L,好ましくは約800〜4000IU/L,ビタミンD(コレカルシフェノールとして)を約0.5〜10μg/L,好ましくは約1.0〜6.0μg/L,ビタミンE(酢酸トコフェノールとして)を約1.0〜20mg/L,好ましくは約2.5〜12.0mg/L,ビタミンK(フィトナジオンとして)を約0.2〜4.0mg/L,好ましくは約0.5〜2.5mg/L,ビオチンを約5〜120μg/L,好ましくは約10〜70μg/L,含有していることが好ましい。 【0052】 【実施例】 〔実施例1〕 注射用蒸留水にブドウ糖および電解質溶液を溶解し,酢酸でpHを4.4とした後,ろ過して,表1に示した組成の溶液(A)を調製した。 また,各結晶アミノ酸および電解質を注射用蒸留水に溶解し,酢酸でpHを6.5とした後,ろ過し,表2に示した組成の溶液(B)を調製した。 これとは別に,コンドロイチン硫酸ナトリウムの注射用蒸留水溶液に,塩化第二鉄の注射用蒸留水溶液と水酸化ナトリウムの注射用蒸留水溶液を交互に添加しながら,所定量の塩化第二鉄を添加した。この溶液に所定量の硫酸銅,塩化マンガンを添加した後,pHを水酸化ナトリウムまたは塩酸で5.3に調整し,注射用蒸留水で液量を調整し,表3に示した組成の溶液(C)を調製した。なお,コンドロイチン硫酸ナトリウムは濃度5.0g/Lとなるように添加した。 厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した小袋に,溶液(C)2mLを充填し,溶着した。この小袋を微量金属元素収容容器(図1の符号6)としてポリエチレン製容器第1室(図1の符号4)に予め挟着した。該第1室4と第2室(図1の符号5)のそれぞれに,溶液(A)の600mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し,密封した後,常法に従い,108℃で20分間,高温蒸気滅菌を行い,輸液を得た。これを,脱酸素剤(三菱瓦斯化学社製,商品名エージレス)と共に,遮光性ナイロン多層袋で包装した。このようにして,図1に示した輸液容器に収納された本発明に係る輸液製剤を製造した。 【0053】 〔実施例2〕 注射用蒸留水にブドウ糖および電解質水溶液を溶解し,酢酸でpHを4.4とし,糖電解質液を調製した。さらに,ビタミンB1(塩酸チアミン),ビタミンB6(塩酸ピリドキシン),ビタミンB12(シアノコバラミン),パンテノールおよびビオチンを注射用蒸留水に溶解し,これを上記の糖電解質液と混合後,ろ過して表1に示した組成の溶液(A)を調製した。 また,各結晶アミノ酸,ニコチン酸アミド,葉酸および電解質を注射用蒸留水に溶解し,酢酸でpHを6.0とした後,ろ過し,下記表に示した組成の溶液(B)を調製した。なお,溶液(B)には安定剤として亜硫酸水素ナトリウムを濃度200mg/Lとなるように添加した。 【0054】 これとは別に,ビタミンA(パルミチン酸レチノール),ビタミンD 3(コレカルシフェロール),ビタミンE(酢酸トコフェロール)およびビタミンK(フィトナジオン)を,ポリソルベート80(溶液(D)中の濃度10g/L),ポリソルベート20(溶液(D)中の濃度2g/L)およびマクロゴール400(溶液(D)中の濃度40g/L)に可溶化した後,注射用蒸留水に溶解した。ビタミンB 2(リン酸リボフラビンナトリウム),ビタミンC(アスコルビン酸)およびD-ソルビトール(溶液(D)中の濃度20g/L)を加え,水酸化ナトリウムでpH6とした後,ろ過して表4に示した組成の溶液(D)を調製した。 別に,実施例1と同様にして,表3に示した組成の溶液(C)を調製した。 【0055】 厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した2つの小袋に,それぞれ溶液(C)2mLおよび溶液(D)2mLを充填し,溶着した。これらの小袋を図2に示される微量金属元素収容容器(図2中の符号6)およびビタミン収容容器(図2中の符号7)のように,ポリエチレン製容器第1室(図2中の符号4)に挟着した。 該第1室4および第2室(図2中の符号5)に,溶液(A)の600mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し,密封した後,常法に従い,108℃で20分間,高温蒸気滅菌を行い,輸液を得た。これを,脱酸素剤(三菱瓦斯化学社製,商品名エージレス)と共に,遮光性ナイロン多層袋で包装した。このようにして,図2に示した輸液容器に収納された本発明に係る輸液製剤を製造した。 【0056】 〔実施例3〕 注射用蒸留水にブドウ糖および電解質水溶液を溶解し,酢酸でpHを4.4とし,糖電解質液を調製した。さらに,ビタミンB1(塩酸チアミン),ビタミンB6(塩酸ピリドキシン) ビタミンB12 , (シアノコバラミン)およびパンテノールを注射用蒸留水に溶解し,これを上記の糖電解質液と混合後,ろ過して表1に示した組成の溶液(A)を調製した。 また,各結晶アミノ酸,ニコチン酸アミド,葉酸および電解質を注射用蒸留水に溶解し,酢酸でpHを6.0とした後,ろ過し,下記表に示した組成の溶液(B)を調製した。なお,溶液(B)には安定剤として亜硫酸水素ナトリウムを濃度50mg/Lとなるように添加した。 【0057】 これとは別に,ビタミンD3(コレカルシフェロール),ビタミンE(酢酸トコフェロール)およびビタミンK(フィトナジオン)を,ポリソルベート80,ポリソルベート20,D-ソルビトールおよびマクロゴール400に可溶化した後,注射用蒸留水に溶解し,更にビタミンC(アスコルビン酸)を加え,水酸化ナトリウムでpH6とした後,ろ過して表4に示した組成の溶液(D)を調製した。 別に,実施例1と同様にして,表3に示した組成の溶液(C)を調製した。 【0058】 厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した2つの小袋に,それぞれ溶液(C)2mLおよび溶液(D)4mLを充填し,溶着した。これらの小袋を図2に示される微量金属元素収容容器(図2中の符号6)およびビタミン収容容器(図2中の符号7)のように,ポリエチレン製容器第1室(図2中の符号4)に挟着した。 該第1室4および第2室(図2中の符号5)に,溶液(A)の700mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し,密封した後,常法に従い,108℃で20分間,高温蒸気滅菌を行い,輸液を得た。これを,脱酸素剤(三菱瓦斯化学社製,商品名エージレス)と共に,遮光性ナイロン多層袋で包装した。このようにして,図2に示した輸液容器に収納された本発明に係る輸液製剤を製造した。 【0059】 〔実施例4〕 溶液(A)(B)(C)および(D)は,実施例3と全く同様にして調整した。 , , 厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した2つの小袋に,それぞれ溶液(C)2mLおよび溶液(D)2mLを充填し,溶着した。溶液(C)が入っている小袋を図3に示される微量金属元素収容容器(図3中の符号6)のように,ポリエチレン製容器第1室(図3中の符号4)に挟着した。また,溶液(D)が入っている小袋を図3に示されるビタミン収容容器(図3中の符号7)のように,ポリエチレン製容器第2室(図3中の符号5)に挟着した。該第1室4および第2室5に,溶液(A)の700mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し,密封した後,常法に従い,108℃で20分間,高温蒸気滅菌を行い,輸液を得た。これを,脱酸素剤(三菱瓦斯化学社製,商品名エージレス)と共に,遮光性ナイロン多層袋で包装した。このようにして,図3に示した輸液容器に収納された本発明に係る輸液製剤を製造した。 【0060】 〔比較例〕 溶液(A)(B)および(C)を,その組成を下記表のように変更した以外は, ,実施例1と全く同様にして調整した。但し,溶液(B)には安定剤として亜硫酸水素ナトリウムを濃度50mg/Lとなるように添加した。 厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した小袋に,溶液(C)2mLを充填し,溶着した。この小袋を微量金属元素収容容器(図4の符号6)としてポリエチレン製容器第2室(図4の符号4[判決注;原文ママ])に予め挟着した。該第1室4[判決注:原文ママ]と第2室(図4の符号5) [判決注:原文ママ]のそれぞれに,溶液(A)の600mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し,密封した後,常法に従い,108℃で20分間,高温蒸気滅菌を行い,輸液を得た。これを,脱酸素剤(三菱瓦斯化学社製,商品名エージレス)と共に,遮光性ナイロン多層袋で包装した。このようにして,図4に示した輸液容器に収納された輸液製剤を製造した。 【0061】 実施例1〜4および比較例における溶液(A)(B)(C)および(D)の組成 , ,を下記表に示す。 【0062】【表1】【0063】【表2】 【0064】 【表3】 【表4】 【0065】 〔安定性試験〕実施例1〜4および比較例で製造された輸液製剤を,60℃で2週間保存した。保存後の容器の外観を肉眼で観察したところ,比較例の輸液製剤においてのみ,微量金属元素収容容器に着色が見られた。 【表5】 【0066】 【発明の効果】 本発明によれば,含硫化合物と微量金属元素を含有する輸液製剤において,微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌による汚染を全くは[判決注: 「全く」の誤記と認める。]排除することができ,かつ,経時変化を受けることなく保存できる輸液製剤を提供することができる。 【図1】 【図2】 【図3】 【図4】 (2) 本件訂正発明の概要 前記第2の2の本件特許の特許請求の範囲の記載及び前記(1)の本件明細書の記載からすると,本件訂正発明について,次のとおり認められる。 ア 技術分野 本件訂正発明は,経時変化を受けることなく保存でき,使用時に細菌による汚染なく薬剤の配合を行うことができる複数の室を有する輸液容器に収容されている輸液製剤に関するものである(段落【0001】。 ) イ 従来の技術及び発明が解決しようとする課題 (ア) 経口・経腸管栄養補給が不能又は不十分な患者に対しては,経静脈からの高カロリー輸液の投与が行なわれ,その際に使用される輸液製剤は,病態などに応じて用時に病院で適宜混合して使用されていたが,病院における混注操作は煩雑な上に,混合操作時に細菌汚染の可能性が高く不衛生であるという問題があったため,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器が開発され病院で使用されるようになった(同【0002】。 ) 一方,輸液中には,通常,微量金属元素(銅,鉄,亜鉛,マンガンなど)が含まれていないことから輸液の投与が長期になると,いわゆる微量金属元素欠乏症を発症するが,微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の原因となるため,病院では,細菌汚染の問題がありながらも依然として輸液を投与する直前に微量金属元素が混合されているのが現状であった(同【0003】。 ) 発明者らは,そのような現状に鑑み,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用い,用時に細菌汚染の可能性なく微量金属元素を混入することができ,かつ,保存安定性にも優れた輸液製剤の創製研究を開始したが,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金属元素が隔離してあっても,微量金属元素を含む溶液が不安定であるという問題が生じることを知見し,上記室と微量金属元素収容容器を構成する材料を種々変更して検討したが,通常入手し得る樹脂材料である限り,微量金属元素溶液を安定化することはできなかった(同【0004】。 ) (イ) 本件訂正発明は,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを目的とするものである 【0 (同005】。 ) ウ 課題を解決するための手段 発明者らは,連通可能な隔壁手段で区画されている複室からなる輸液容器において,その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を収容し,微量金属元素収容容器は他の室に収納することにより,微量金属元素を含む溶液が安定であるという知見を得て,更に検討を重ねて,輸液製剤又はその保存安定化方法に関する発明である本件訂正発明を完成した(請求項1,請求項2,請求項10,請求項11,同【0006】【0007】【0011】。 , , ) エ 本件訂正発明の効果 本件訂正発明によると,含硫化合物と微量金属元素を含有する輸液製剤において,微量金属元素を,用時に輸液に混合する際に細菌による汚染を完全に排除することができ,かつ,経時変化を受けることなく保存できる輸液製剤を提供することができる(同【0066】。 ) 2 引用発明に係る文献の記載事項 (1) 甲1の記載事項 平成11年6月15日に公開された甲1は,発明の名称を「中心静脈投与用輸液」とする特許出願に係るもので,甲1には,次の記載がある。 【特許請求の範囲】 【請求項1】 還元糖を含有する溶液(A),アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなる輸液であって,溶液(A)がビタミンB 1を含有し,溶液(B)が葉酸を含有し,溶液(C)がビタミンCを含有し,更にビタミンB2が溶液(B)又は溶液(C)に配合され,かつ溶液(A)がpH3.5〜4.5,溶液(B)及び溶液(C)がpH5.5〜7.5であることを特徴とする中心静脈投与用輸液。 【請求項2】 溶液(A)が,更にパントテン酸誘導体を含有し,ビタミンB 2が溶液(C)に配合されている請求項1記載の中心静脈投与用輸液。 【請求項3】 溶液(B)が,更にビタミンB12を含有する請求項1又は2記載の中心静脈投与用輸液。 【請求項4】 溶液(A)が,更にビタミンB6 を含有し,溶液(B)が,更にニコチン酸誘導体を含有し,溶液(C)が,更にビオチンを含有する請求項1〜3のいずれか1項記載の中心静脈投与用輸液。 【請求項5】 溶液(A)が,更にビタミンB6,ビタミンB12,ニコチン酸誘導体,パントテン酸誘導体及びビオチンを含有する請求項1記載の中心静脈投与用輸液。 【請求項6】 溶液(C)中の脂溶性ビタミンが,界面活性剤により可溶化されている請求項1〜5のいずれか1項記載の中心静脈投与用輸液。 【請求項7】 溶液(C)が,少なくとも内壁がビタミンDを実質的に吸着しない材質からなる容器に封入されている請求項1〜6のいずれか1項記載の中心静脈投与用輸液。 【請求項8】 溶液(C)が,少なくとも内壁がガラス,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリアクリロニトリル,環状ポリオレフィン,ポリアミド,ポリカーボネート及びポリ弗化エチレンから選ばれる材質からなる容器に封入されている請求項7記載の中心静脈投与用輸液。 【請求項9】 連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室にそれぞれ容器(A) [判決注:溶液(A)の誤記と認める。]及び溶液(B)が収容され,そのいずれか一方の室に溶液(C)を収容した容器が,用時連通可能に接続されてなる請求項1〜8のいずれか1項記載の中心静脈投与用輸液。 【請求項10】 更に,電解質を溶液(A)及び/又は溶液(B)及び/又は溶液(C)に配合した請求項1〜9のいずれか1項記載の中心静脈投与用輸液。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,還元糖,アミノ酸及びビタミン類を含有し,全てのビタミン類を安定に含有する中心静脈投与用輸液に関する。 【0002】 【従来の技術】 消化器手術の術後患者等は,経口摂取が不可能な場合が多いので,このような患者の栄養管理は,一般に中心静脈からの高カロリー輸液(IVH)により行われている。IVHは,上記患者の栄養状態を改善し且つ良好に保つことにより,患者の回復,治癒を促進し,その効果は絶大なものであるので,今や外科治療の分野で広く普及している。 【0003】 IVHでは,通常,栄養源である糖質及びアミノ酸と,電解質が投与される。そして,IVH用の輸液製剤としては,これらを全て含んだものが開発されており,一般に,メイラード反応を起こすブドウ糖とアミノ酸を2室容器に分別収容したタイプの製剤が市販されている。 【0004】 ところで,IVHを施行する際,その期間が比較的長期になると,輸液製剤に含まれていない微量元素やビタミンの欠乏症が問題となってくる。特に,ビタミンB1は,糖代謝において消費されるために欠乏に陥り易く,それにより重篤なアシドーシスが惹起する。従って,IVHが短期間(1週間程度)で終わらない場合は,ビタミンを併用することが不可欠である。しかして,ビタミンは,安定性に欠けるため,専ら混合ビタミン剤や総合ビタミン剤の形態で単独に製剤化され,用事にIVH製剤に混注されている。しかし,混注操作は煩雑なうえに,操作時に細菌汚染の虞があるので,作業に効率性と慎重性の両方が要求され,担当者に多大な負担を強いているのが現状である。 【0005】 このため,上記のような混注作業を簡便にすべく,2室容器タイプのIVH製剤にビタミンを配合することが試みられている。例えば,2室の一方に脂肪と糖を,他方にアミノ酸と電解質を収容し,種々のビタミンをそれぞれどちらかに収容することが行われている(特開平6-209979号公報,特開平8-709号公報)。 しかして,ここで用いられる脂肪は重要な栄養源ではあるが,脂肪の投与は必ずしも全ての患者に許容されるものではなく,例えば高脂血症,肝障害,血栓症,糖尿病ケトーシス等の患者には,脂肪の投与は禁忌とされている。また,脂肪は患者によってその至適投与量が異なる場合があり,単独投与が望まれることもある。しかしながら,前記のような製剤では脂肪を配合することによって特定のビタミンが安定化されているため,脂肪を除いた場合には,ある種のビタミン(例えばビタミンB2)を安定に保持することは困難であった。 【0006】 また,水溶性ビタミンB類を安定に配合するために,輸液のpHを酸性にしたり亜硫酸イオンを配合しない試みがなされている(特開平8-143459号公報) し 。 かしながら,当該輸液においては,ビタミンB1は安定に配合されているが,他のビタミン類については具体的に示されていない。 【0007】 IVHにおいて,ビタミンB1の欠乏は上記の通り大きな問題であるが,他のビタミンの欠乏も決して無視できるものではない。例えば,病態によっては,ビタミンCの欠乏で粘膜など組織での出血が起こったり,ビタミンB 2の欠乏により口内炎,口角炎,舌炎等が発症する虞がある。更に,ビタミンB 12欠乏や葉酸欠乏による貧血等の合併症も報告されている。 【0008】 更に,ビタミンDは,ポリエチレンやポリプロピレン製容器に収容された薬液に添加してそのまま長期保存した場合,その含量が著しく低下してしまう。従って,患者にビタミンD欠乏によるカルシウム吸収障害や骨脆化を来たす虞も出てくる。 【0009】 【発明が解決しようとする課題】 従って,本発明の目的は,ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供することにある。 【0010】 【課題を解決するための手段】 かかる実情において,本発明者らは鋭意研究を行った結果,ビタミンB 1は特定のpHの還元糖液に安定配合可能なこと,葉酸は特定のpHのアミノ酸液中で長期安定であること,ビタミンC並びに脂溶性ビタミンであるビタミンA,ビタミンD及びビタミンEは,上記2液とは別にすれば一緒に配合して安定であることを見出し,本発明を完成した。 【0011】 すなわち,本発明は,還元糖を含有する溶液(A) アミノ酸を含有する溶液 , (B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなる輸液であって,溶液(A)がビタミンB1を含有し,溶液(B)が葉酸を含有し,溶液(C)がビタミンCを含有し,更にビタミンB2が溶液(B)又は溶液(C)に配合され,かつ溶液(A)がpH3.5〜4.5,溶液(B)及び溶液(C)がpH5.5〜7.5であることを特徴とする中心静脈投与用輸液を提供するものである。 【0012】 【発明の実施の形態】 本発明の中心静脈投与用輸液は,還元糖を含有する溶液(A),アミノ酸を含有する溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなり,用時に混合して使用されるものである。溶液(A)に配合される還元糖としては,ブドウ糖,フルクトース,マルトース等が挙げられ,血糖管理などの点で,特にブドウ糖が好ましい。また,これらの還元糖以外にキシリトール,ソルビトール,グリセリン等の非還元糖を配合することもできる。還元糖は,1種又は2種以上を組合わせて用いることができ,溶液(A)中に120〜450g/l,特に150〜300g/l配合するのが好ましい。 【0013】 溶液(A)には,更にビタミンB1が配合され,これらを安定にするために,溶液(A)はpH3.5〜4.5,好ましくはpH3.8〜4.2に調整される。pHの調整は,通常用いられる種々の有機酸,無機酸,有機塩基,無機塩基を適宜使用して行うことができる。 【0014】 ビタミンB1の配合量は, (A) 溶液 が半日〜1日分の投与量である場合, (A) 溶液中に1〜12mg,特に1.5〜8mg配合するのが好ましい。ビタミンB1 (チアミン)としては,塩酸チアミン,硝酸チアミン,プロスルチアミン,オクトオチアミン等を使用することができる。ビタミンB1を配合した溶液(A)中には,ビタミンB1が分解されるのを防ぐため,亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩を実質的に配合しないのが好ましい。 【0015】 また,溶液(B)に配合されるアミノ酸としては,必須アミノ酸,非必須アミノ酸の各種アミノ酸で,L-イソロイシン,L-ロイシン,L-リジン,L-メチオニン,L-フェニルアラニン,L-スレオニン,L-トリプトファン,L-バリン,L-アラニン,L-アルギニン,L-アスパラギン酸,L-システイン,L-グルタミン酸,L-ヒスチジン,L-プロリン,L-セリン,L-チロシン,グリシン等が挙げられる。これらのアミノ酸は,純粋結晶状アミノ酸であるのが好ましい。 また,これらのアミノ酸は,通常遊離アミノ酸の形態で用いられるが,特に遊離形態でなくてもよく,薬理学的に許容される塩,エステル,N-アシル誘導体や,2種アミノ酸の塩,ペプチドの形態で用いることもできる。 【0016】 これらのアミノ酸の溶液(B)における好ましい配合量(遊離形態で換算)は以下のとおりである。 【0017】 【表1】 【0018】 溶液(B)には,更に葉酸が配合され,pH5.5〜7.5,好ましくは6.0〜7.0に調整される。pHの調整は,通常用いられる種々の有機酸,無機酸,有機塩基,無機塩基を適宜使用して行うことができる。また,葉酸は,溶液(B)の半日〜1日投与分の液中に,0.1〜1mg,特に0.1〜0.7mg配合するのが好ましい。 【0019】 また,溶液(C)に配合される脂溶性ビタミンとしては,ビタンミンA[判決注:ビタミンAの誤記と認める。 ,ビタミンD,ビタミンEが挙げられ,必要に応じて ]ビタミンKを配合することもできる。ビタミンA(レチノール)としては,パルミチン酸エステル,酢酸エステル等のエステル形態であってもよく;ビタミンDとしては,ビタミンD1,ビタミンD2,ビタミンD3(コレカルシフェロール)及びそれらの活性型(ヒドロキシ誘導体)のいずれでもよく;ビタミンE(トコフェロール)としては,酢酸エステル,コハク酸エステル等のエステル形態であってもよく;ビタミンK(フィトナジオン)としては,メナテトレノン,メナジオン等の誘導体であってもよい。 【0020】 これらの脂溶性ビタミンは,溶液(C)の半日〜1日投与分の液中に,ビタミンAは1250〜5000IU,特に1400〜4500IU;ビタミンDは10〜1000IU,特に50〜500IU;ビタミンEは2〜20mg,特に3〜15mg;ビタミンKは0.2〜10mg,特に0.5〜5mg配合するのが好ましい。 【0021】 また,これら脂溶性ビタミンは,界面活性剤により,溶液(C)中に可溶化させるのが好ましい。ここで用いられる界面活性剤としては,例えばポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ツイーン80,ツイーン20等の市販品),ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(HCO60等の市販品),エチレングリコール・プロピレングリコールブロックコポリマー(プルロニックF68等の市販品)などが挙げられ,これらは通常10〜1000mg/lの濃度で使用される。 【0022】 溶液(C)には,更にビタミンCが配合され,pH5.5〜7.5,好ましくは6.0〜7.0に調整される。pHの調整は,通常用いられる種々の有機酸,無機酸,有機塩基,無機塩基を適宜使用して行うことができる。ビタミンC(アスコルビン酸)としては,ナトリウム塩等を使用することができ,溶液(C)中の半日〜1日投与分の液中に,20〜250mg,特に30〜150mg配合するのが好ましい。 【0023】 また,ビタミンB2は溶液(B)又は溶液(C)に配合される。ビタミンB2(リボフラビン)としては,リン酸エステル,そのナトリウム塩,フラビンモノヌクレオチド等を使用することができ,溶液(B)又は溶液(C)中の半日〜1日投与分の液中に,1〜10mg,特に2〜7mg配合するのが好ましい。ビタミンB2は,特に溶液(C)に配合するのが好ましい。 【0024】 本発明の輸液には,溶液(A)〜(C)のいずれにも,更に他のビタミン類を配合することができる。例えば,溶液(A)には,更にパントテン酸誘導体を配合することができる。このビタミンは,溶液(A)〜(C)のいずれにも配合可能であるが,安定性向上の点より溶液(A)に配合するのが好ましい。パントテン酸誘導体としては,遊離体に加え,カルシウム塩や還元体であるパンテノールの形態で用いることもでき,その配合量は,溶液(A)の半日〜1日投与分の液中に1〜30mg,好ましくは5〜20mgとするのが好適である。 【0025】 溶液(B)には,更にビタミンB 12を配合することができる。このビタミンも,溶液(A)〜(C)のいずれにも配合可能であるが,安定性向上の点より溶液(B)に配合するのが好ましい。特に,ビタミンB12は,ビタミンCとは別にするのが好ましい。ビタミンB12は,例えば溶液(B)の半日〜1日投与分の液中に,1〜30μg,好ましくは2〜10μg配合するのがよい。 【0026】 また,溶液(A)に更にビタミンB6を,溶液(B)に更にニコチン酸誘導体を,溶液(C)に更にビオチンを配合することもできる。これらのビタミンも, (A) 溶液〜(C)のいずれにも配合可能であるが,製造の簡便性等の点より,それぞれ上記溶液に配合するのが好ましい。ビタミンB6の配合量は,例えば溶液(A)の半日〜1日投与分の液中に,1〜10mg,好ましくは1.5〜7mgとするのがよい。ビタミンB6 (ピリドキシン)としては,塩酸ピリドキシン等の塩の形態であってもよい。 【0028】 一方,本発明輸液の別の好ましい例として,ビタミンB 6,ビタミンB12,ニコチン酸誘導体,パントテン酸誘導体及びビオチンを全て溶液(A)に配合することができる。この例では,安定性を大幅に犠牲にすることなく,製造を簡便にすることができる。この場合にも,各成分の配合量等は前記と同様である。 【0029】 本発明輸液には,更に電解質を配合することができ,当該電解質は溶液(A),溶液(B)及び溶液(C)のいずれにも配合することができる。かかる電解質としては,通常の電解質輸液などに用いられるものであれば特に制限されず,ナトリウム,カリウム,カルシウム,マグネシウム,リン,塩素,亜鉛等が挙げられ,例えば以下の化合物を,水和物,無水物を問わず使用することができる。 【0030】 ナトリウム源としては,塩化ナトリウム,酢酸ナトリウム,クエン酸ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸水素二ナトリウム,硫酸ナトリウム,乳酸ナトリウム等が挙げられ,溶液(A)〜(C)の3液の混合後に25〜70mEq/lとなるように配合するのが好ましい。カリウム源としては,塩化カリウム,酢酸カリウム,クエン酸カリウム,リン酸二水素カリウム,リン酸水素二カリウム,硫酸カリウム,乳酸カリウム等が挙げられ,混合後に15〜50mEq/lとなるように配合するのが好ましい。カルシウム源としては,塩化カルシウム,グルコン酸カルシウム,パントテン酸カルシウム,乳酸カルシウム,酢酸カルシウム等が挙げられ,混合後に3〜15mEq/lとなるように配合するのが好ましい。 【0031】 マグネシウム源としては,硫酸マグネシウム,塩化マグネシウム,酢酸マグネシウム等が挙げられ,混合後に3〜10mEq/lとなるように配合するのが好ましい。リン源としては,リン酸二水素ナトリウム,リン酸水素二ナトリウム,グリセロリン酸ナトリウム等が挙げられ,混合後に5〜20mmol/lとなるように配合するのが好ましい。塩素源としては,塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム等が挙げられ,混合後に25〜70mEq/lとなるように配合するのが好ましい。亜鉛源としては,塩化亜鉛,硫酸亜鉛等が挙げられ,混合後に0〜30μmol/lとなるように配合するのが好ましい。 【0032】 これらの電解質のうち,カルシウム塩及びマグネシウム塩はリン化合物と分離して,異なる溶液に配合しておくのが好ましい。その他の電解質は特に制限されず,溶液(A)〜(C)のいずれに配合してもよい。 【0033】 なお,溶液(B)には,安定化剤として亜硫酸塩及び/又は亜硫酸水素塩を添加することもでき,その場合,溶液(B)中に50mg/l以下配合するのが好ましい。 【0034】 本発明の輸液は,溶液(A),溶液(B)及び溶液(C)の3液からなり,これらを収容するための容器は特に制限されないが,例えば溶液(A)及び溶液(B)を連通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室に収容し,更にそのいずれか一方の室に溶液(C)を収容した容器を用時連通可能に接続したものが挙げられる。 (A) 溶液及び溶液(B)を収容するための容器としては,連通可能な隔壁で隔てられた2室容器であれば特に制限されず,例えば,隔壁が易剥離性溶着により形成されたもの(特開平2-4671号公報,実開平5-5138号公報等参照) 室間をクリップ ,で挟むことにより隔壁が形成されたもの(特開昭63-309263号公報等参照),隔壁に開封可能な種々の連通手段を設けたもの(特公昭63-20550号公報等参照)などが挙げられる。これらのうち,特に隔壁が易剥離性溶着により形成されたものが,大量生産に適しておりまた連通作業も容易であるので好ましい。 【0035】 また,上記容器の材質は,従来より医療用容器等に慣用されている各種のガス透過性プラスチックのいずれでも良く,例えばポリエチレン,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニル,架橋エチレン・酢酸ビニル共重合体,エチレン・α-オレフィン共重合体,これらのポリマーのブレンド,これらのポリマーの積層体などのいずれであってもよい。 【0037】 一方,溶液(C)を収容する容器としては,ビタミンDが吸着されてしまわないように,少なくとも内壁がビタミンDを実質的に吸着しない材質であるのが好ましい。そのような材質としては,例えばガラス,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリアクリロニトリル,環状ポリオレフィン,ポリアミド(ナイロン等),ポリカーボネート,ポリ弗化エチレン(テフロン等)などが挙げられる。溶液(C)は,上記材質の単層容器又は上記材質を内壁に有する多層容器(通常5ml程度の容積)に収容され,ゴム栓等で密封される(図1参照)。この場合,ゴム栓等の密封材も,ビタミンDが吸着されない物質(ポリ弗化エチレン等)でコーティングされているのが好ましい。 【0038】 そして,溶液(C)を収容する容器は,上記溶液(A)及び溶液(B)を収容する2室容器の一方の室に,用時連通可能に接続される。その手段としては,例えば図2に示すように,両頭針を介して2室容器の一方の口部に保持させる方法が挙げられる。このものは,図3に示すように,溶液(C)の容器を押すことにより,連通混合を行うことができる。 【0039】 また,溶液(C)を収容する容器の他の例としては,図4に示すような,2室容器の一方の口部内に小室を形成し,用時に針で刺通するようにしたものや,図5に示すような,2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋などを例示することができる。 【0040】 更に,上記のような容器に収容された本発明の輸液は,変質,酸化等を確実に防止するために,該容器を脱酸素剤と共にガス非透過性外装容器で包装するのがよく,とりわけ容器として,隔壁が易剥離性溶着により形成されたものを採用した場合は,外圧により隔壁が連通しないように該隔壁部にて折り畳まれた状態で包装するのが好ましい。また,必要に応じて不活性ガス充填包装等を行うこともできる。 【0041】 なお,包装に適したガス非透過性外装容器の材質としては,一般に汎用されている各種材質のフィルム乃至シートを使用することができ,例えばエチレン・ビニルアルコール共重合体,ポリ塩化ビニリデン,ポリアクリロニトリル,ポリビニルアルコール,ポリアミド,ポリエステル等及びこれらの少なくとも1種を含むフィルム乃至シートなどが挙げられる。また,外装容器に遮光性をもたせるとより好適であり,例えば上記フィルム乃至シートにアルミラミネートを施すことにより実施できる。 【0042】 また,脱酸素剤としては,公知の各種のもの,例えば水酸化鉄,酸化鉄,炭化鉄等の鉄化合物を有効成分とするものを利用でき,例えば「エージレス」 (三菱瓦斯化学社製)「モジュラン」 , (日本化薬社製)「セキュール」 , (日本曹達社製)等の市販品を使用することができる。 【0043】 なお,本発明の輸液の投与時には,必要に応じて他の配合薬,例えば微量元素(鉄,マンガン,銅,ヨウ素など),抗生物質等を,配合変化等が起こらない範囲で任意に添加配合することもできる。 【0044】 【発明の効果】 本発明の中心静脈投与用輸液は,ビタミン類を長期間安定に含有するものである。 【0045】 【実施例】 次に,実施例を挙げて本発明を更に説明するが,本発明はこれら実施例に限定されるものではない。 【0046】実施例1 注射用蒸留水にブドウ糖及び電解質を溶解し,酢酸でpH4として,糖電解質液を調製した。更に,ビタミンB1(塩酸チアミン) ビタミンB6 , (塩酸ピリドキシン),ビタミンB12(シアノコバラミン) ニコチン酸アミド, , パンテノール及びビオチンを注射用蒸留水に溶解し,これを上記糖電解質液と混合し,無菌濾過して,表2に示した組成の溶液(A)を調製した。また,各結晶アミノ酸及び電解質を注射用蒸留水に溶解し,酢酸でpH6とした後,葉酸を加えて無菌濾過し,表2に示した組成の溶液(B)を調製した。なお,溶液(B)には,安定化剤として亜硫酸水素ナトリウムを濃度50mg/lとなるように添加した。 (A) 溶液 の600ml及び溶液(B)の300mlを,それぞれ窒素置換下,ポリエチレン製2室容器の各室に充填し,密封した後,常法に従い高圧蒸気滅菌を行った。 【0047】 これとは別に,ビタミンA(パルミチン酸レチノール),ビタミンD 3(コレカルシフェロール),ビタミンE(酢酸トコフェロール)及びビタミンK(フィトナジオン)をポリソルベート80(溶液(C)中の濃度=33mg/l)により可溶化した後,注射用蒸留水に溶解し,更にビタミンB2(リン酸リボフラビンナトリウム)及びビタミンC(アスコルビン酸)を加え,水酸化ナトリウムでpH6とした後,無菌濾過して,表2に示した組成の溶液(C)を調製した。溶液(C)の4mlをガラス容器に充填し,テフロンコーティングゴム栓で密封した後,常法に従い高圧蒸気滅菌を行った。これを,上記2室容器の溶液(B)側の口部に,無菌室中にて両頭針を介して取付け(図2参照),本発明の中心静脈投与用輸液を得た。 【0048】実施例2 実施例1と同様にして,表2に示した組成の溶液(A) 溶液 , (B)及び溶液(C)を調製した。溶液(A)の600ml及び溶液(B)の300mlを,それぞれ窒素置換下,ポリエチレン製の2室容器の各室に充填し,溶液(A)側に,ポリエチレンテレフタレート製小室を備えたポリエチレン製口部材を熔着して,密封した。次に,上記口部材の小室中に溶液(C)の4mlを充填し,テフロンコーティングゴム栓で密封した後,常法に従い高圧蒸気滅菌を行い,本発明の中心静脈投与用輸液を得た。 【0049】【表2】 【0050】比較例1〜2 実施例1と同様にして,表2に示した実施例1と同一組成の溶液(A) 溶液 , (B)及び溶液(C)を調製した。溶液(A)の600mlと,溶液(B)の300mlに溶液(C)の4mlを添加した液と,それぞれ窒素置換下,ポリエチレン製2室容器の各室に充填し,密封した後,常法に従い高圧蒸気滅菌を行い,比較例1とした。また,溶液(A)の600mlに溶液(C)の4mlを添加した液と,溶液(B)の300mlとを,それぞれ窒素置換下,ポリエチレン製2室容器の各室に充填し,密封した後,定法に従い高圧蒸気滅菌を行い,比較例2とした。 【0051】試験例1 実施例1及び2,並びに比較例1及び2で得られた輸液について,滅菌後及び更に40℃で4カ月放置した後の各ビタミンの含量を,日本薬局方に準じるバイオアッセイ(ビタミンB12及びビオチン)又はHPLC(その他のビタミン)により測定した。含量低下をきたしたビタミンについて,結果を表3に示す。なお,表3には,配合量に対する割合を百分率で示す。 【0052】 【表3】 【0053】 表3の結果より,本発明の輸液では,13種類のビタミンの含量は,いずれも4カ月放置後も許容範囲内であった。これに対し,比較例1では,ビタミンB2及びビタミンCが溶液(A)中に配合されているので,その含量低下が著しい。また,比較例2では,ビタミンK及びビタミンCが溶液(B)中に配合されているので,その含量が許容範囲以上に低下している。更に,比較例1と2では,ビタミンDが容器への吸着により激減している。 【0054】実施例3〜4及び比較例3 実施例1と同様にして,表4に示す組成の溶液(A),溶液(B)及び溶液(C)を調製した。溶液(A)の600ml及び溶液(B)の300mlを,それぞれ窒素置換下,ポリエチレン製の2室容器の各室に充填し,溶液(A)側に,ポリエチレンテレフタレート製小室を備えたポリエチレン製口部材を熔着して,密封した。次に,上記口部材の小室中に溶液(C)の4mlを充填し,テフロンコーティングゴム栓で密封した。常法に従い高圧蒸気滅菌を行い,本発明の中心静脈投与用輸液を得た。 【0055】【表4】 【0056】試験例2 実施例3〜4及び比較例3で得られた輸液について,試験例1と同様にして,安定性試験を行った。結果を表5に,配合量に対する割合を百分率で示す。 【0057】 【表5】 【0058】 表5の結果より,本発明の輸液では,13種類のビタミンの含量は,いずれも4カ月放置後も許容範囲内であった。これに対し,比較例3では,ビタミンB 1が溶液(B)中に配合され,葉酸が溶液(A)中に配合されているので,それらの含量低下が著しい。 【図1】 【図2】【図3】 【図4】 【図5】 (2) 甲13の記載事項 平成14年1月8日に公開された甲13は,発明の名称を「医療用液体を封入する樹脂製容器及びポート部材」とする特許出願に係るもので,甲13には,次の記載がある。 【特許請求の範囲】 【請求項1】 医療用液体を封入する樹脂製容器であって,袋状の樹脂製容器本体及び少なくとも1つのポート部材を備え,容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により複数の分室に区画され,接着部は,容器本体外部からの10〜40kgfの押圧力により剥離可能であり,接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通し分室内の液体が混合され,ポート部材は,閉鎖体,筒体及び保持具を備え,閉鎖体を貫通する連通具を介し容器本体内の液体を注出又は容器本体内へ液体を注入可能であり,ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面は,いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成されることを特徴とする容器。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,医療用液体,例えば,静脈投与用輸液剤,液状栄養剤,腹膜透析液などを収容する可撓性容器に関し,特に2以上の成分を投与直前に混合可能に収容する多室の容器,及び可撓性容器に組込まれ溶着により生じる不要粒子を散逸させないポート部材に関する。 【0002】 【従来の技術】医療用液体,例えば人体に点滴により栄養を供給する輸液は,典型的には,ポート部材を備える樹脂製の可撓性容器に収容される。ポート部材は,中空針等の連通具で貫通可能な閉鎖体等の閉鎖体を備え,閉鎖体を貫通した連通具を介し,容器内へミネラル液等を注入することや容器内の液体を注出し点滴用チューブ内へ送ることが可能にされる。また,容器の相対する内壁面の一部を剥離可能に接着して形成される接着部により容器内を第1室及び第2室に仕切り,各室に異なる薬液を収容するもの(ダブルバッグ)が知られる。医療用液体を可撓性容器内へ充填する一般的方法は,液体を無菌的な不活性ガス雰囲気下で閉鎖体を外した注出口から容器内へ充填する段階,その後,注出口の外方端を閉鎖体により閉塞する段階から成る。 【0007】 【発明が解決しようとする課題】本発明の第1の目的は,医療用液体中に可塑剤の溶出の可能性がなく廃棄処理の問題のない多室形式の樹脂製容器を提供することである。本発明の他の目的は,ポート部材と容器本体の樹脂フィルムとの間の接着不良のない樹脂製容器を提供することである。本発明の別の目的は,ポート部材の筒体とキャップ状の保持具との間に滅菌加熱による容器内部の高圧に耐える十分な強度の溶着部を備えるポート部材を提供することである。本発明の更に別の目的は,筒体と保持具との間の溶着部の形成により生じるハミダシ(バリ)を散逸しないポート部材を提供することである。 【0008】本発明の更に別の目的は,容器本体を複数の分室に区画する剥離可能な接着部を容易に製造できる樹脂製容器を提供することであり,人体に点滴により投与される液状栄養剤を収容する樹脂製容器であって,ビタミンやミネラルの微量成分を変質を避けて投与直前に混合するため分室に収容保持し,必要なときに容易に混合することが可能な容器を提供することである。 【0009】本発明の更に別の目的は,第十三改正日本薬局方解説書一般試験法に記載されている115℃以上とりわけ121℃の滅菌を行っても容器の透明度が維持でき,容器内部の液体の様子が容易に観察できる透明度の高い樹脂製容器を提供することである。これにより,従来の透明度の低い容器では検知率が上がらなかったカメラ撮像による医療用液体を充填した樹脂製容器内の異物検査(特開平11-125604号公報)において,検知率を向上させることが可能となる。また,本発明の容器を採用することにより異物検査装置を製造・検査ラインに組み込むことができ,従来人による目視検査を行っていた場合に比べ省力化できる。さらに,医療用液体を充填した樹脂製容器のみならず,容器の製袋時において,また医療用液体充填工程に搬送される空容器共に異物検査がしやすくなり不良品を確実に排除できる。他方,医療用液体が輸液である場合,これを患者に投与する際,投与量を適切に制御するため,あるいは点滴終了の時期を確認するために液位を監視する必要がある。この際,容器内の液面の視認性が低いと輸液管理に支障をきたす。透明度の高い本発明の容器は,液位が見やすく前記輸液管理上優れた効果を奏する。本発明の其の他の目的及び利点は,図面及び以下の説明から明瞭にされる。 【0010】 【課題を解決するための手段】本発明の医療用液体を封入する樹脂製容器は,袋状の樹脂製容器本体及び少なくとも1つのポート部材を備え,容器本体内部が相対する内壁面の一部を液密に且つ剥離可能に接着して形成される接着部により複数の分室に区画され,接着部は,容器本体外部からの10〜40kgfの押圧力により剥離可能であり,接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通し分室内の液体が混合される。ポート部材は,ゴム栓等の閉鎖体,筒体及び保持具を備え,閉鎖体を貫通する中空針等の連通具を介し容器本体内の液体を注出又は容器本体内へ液体を注入可能であり,ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面は,いずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体により形成される。 【0011】本発明の医療用液体を封入する樹脂製容器は,次の構成を備えることができる。 (1)容器本体は,実質的にスチレンエラストマーを含有しない樹脂により形成される。本発明容器を例えば輸液容器とした場合,各種栄養剤を含む収容液が直接静脈内に投与される。従って,樹脂製容器は人体に対して毒性を発現しない樹脂で構成されなければならない。また,主原料となる樹脂のみならずそれに添加される各種のエラストマーも同様に毒性の有無についての配慮が必要である。そこで,本発明の容器及びポート部材は,好ましい実施態様において,環境ホルモンとしての作用が懸念されるスチレンエラストマーを実質的に含有しない樹脂により形成される。 【0012】 (2)容器本体は,プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体からなる単層の樹脂フィルムで形成される。 (3)容器本体は,プロピレン・α-オレフィンランダム共重合体からなる内層を備える多層の樹脂フィルムで形成される。 (4)筒体及び容器本体の内壁面を構成するプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体は,プロピレン-エチレンランダム共重合体である。 (5)容器の滅菌後の透明度が80%以上である。 【0013】本発明の医療用液体を封入する樹脂製容器に取付けられるポート部材は,閉鎖体,筒体及び保持具からなり,閉鎖体を貫通する連通具を介し容器本体内の液体を注出又は容器本体内へ液体を注入可能可能[判決注:原文ママ]であり,閉鎖体の周囲が筒体と保持具の間に挟持される。筒体は,容器本体内部に配置される内方端,容器本体を形成するフィルムに液密に接着される外周面,並びに閉鎖体及び保持具を支持する外方端を有し,筒体の外方端は,外方環状凸部,上部外周面,並びに上部外周面の下方に配置される大径部を有する。保持具は,キャップ状であり,環状の天板部分,及び天板部分外周から下方へ伸長する円筒部分を有し,筒体の外方環状凸部と保持具の天板部分又はその近傍の内面との間に溶着部が形成される。筒体の大径部と保持具の円筒部分の間に粒子封止部が形成される。 【0014】本発明の医療用液体を封入する樹脂製容器に取付けられるポート部材は,次の構成を有することができる。 (6)筒体の外方端は,外方環状凸部の端面と上部外周面が交叉し形成される環状角部を有し,保持具は,天板部分の内面外周部と円筒部分の内周面上端とを連結する円錐面部分を有し,溶着部は,筒体の環状角部が保持具の円錐面部分に超音波エネルギーにより加熱溶着されて形成される。 (7)外方環状凸部は,その端面から突出する断面三角形状の突起を有し,溶着部は,保持具の天板部分の内面と断面三角形状の突起の先端部分が超音波エネルギーにより加熱溶着されて形成される。 (8)筒体の上部外周面の大径部は,フランジ部により形成され,粒子封止部は,筒体のフランジ部が保持具の円筒部分の端面に係合されて形成される。 【0015】 (9)筒体の上部外周面の大径部は,下方へ向って直径が増加するテーパ部により形成され,粒子封止部は,筒体のテーパ部が保持具の円筒部分の端面付近に係合されて形成される。 (10)筒体の外方端は,同心状に配置される内方環状凸部及び環状溝部を更に有する。 (11)閉鎖体は,外方端付近の中空部を閉鎖する円板部分,円板部分の外周部から下方へ伸長する内方環状垂下部,外方端付近の筒体内周面に嵌合する外周面,外周面から半径方向外方へ伸長する環状板部,環状板部の外周から垂下する外方環状垂下部,環状板部の外周から上方へ伸長する外方環状凸部,外周面と外方環状垂下部の間に形成される下方環状溝,円板部分の外方と外方環状凸部との間に形成される上方環状溝を有する。 (12)筒体はその下方に縮径部を有し,縮径部の外周面が容器本体の樹脂フィルムに接着される。 【0016】本発明のポート部材を容器本体に接着する方法は,筒体の縮径部の外周面が溶着可能に予熱される工程,その後に容器本体を形成する樹脂フィルムの開口部へ当接し成形溶接する工程を含み,成形溶接する工程は,ダイを樹脂フィルムの外方から樹脂フィルムに当て,加熱しながら押圧し接着し成形する工程を含む。 【0017】本発明のポート部材は,その内部にビタミン類を有効成分とする凍結乾燥物を収容することができる。より具体的には,例えば特公平7-116022記載のビタミン類の凍結乾燥容器に用いられているバイアルに替え,本発明のポート部材を凍結乾燥用容器として用いることができる。そして,前記凍結乾燥物を収容するポート部材は常法によりピンホールなく容器本体へ溶着されることはもちろんである(特開平10-43272公報や特開平10-165480公報)。 【0018】 【発明の実施の態様】図面を参照し,本発明の実施例を説明する。図1は,本発明の医療用液体を封入する多室容器の実施例の概略平面図,図2は,図1の多室容器の概略側面図,図3は,図1の線T-Tに沿うポート部材付近の断面図である。 これらの図において,対応する部分には,同一の符号を付し,重複した説明を省略する。図1〜図3において,医療用液体を封入する樹脂製容器1は,袋状の樹脂製容器本体2及び3つのポート部材3,3を備える。容器本体2は,接着部18,19により複数の分室C1〜C4に区画され,それぞれ医療用液体M1,2又は粉末等固形薬剤を収容可能にされる。 【0019】容器本体内を複数の分室に区画する接着部18,19は,容器本体の相対する内壁面14,16の一部が液密に且つ剥離可能に接着して形成される。 接着部は,各分室C1〜C4に薬剤M1,M2,又は固形薬剤を収容した状態で容器外部から人手で10〜40kgfの押圧力F,-Fを加えることにより剥離され,それにより複数の分室C1〜C2に収容された医療用液体M1〜M2が混合される。 分室C1,C3,C4にポート部材3,3,3が設けられ,例えば,ポート部材の閉鎖体を貫通する中空針等の連通具4を介して容器内の液体を注出すること又は容器内へ液体を注入することが可能にされる。 【0020】図4〜図7は,ポート部材3を構成する保持具70,筒体40,ゴム栓からなる閉鎖体60,及び組立状態の断面図である。これらの図において,対応する部分には,同一の符号を付し,重複した説明を省略する。図4に示すように,保持具70は,環状の天板部分71,天板部分外周から下方へ伸長し端面78を備える円筒部分72,天板部分内周端74付近から下方へ伸長する環状凸部73,及び円筒部分72の内周面76の上端と天板部分内面75の外周部を連結する円錐面部分77を有する。 【0021】ここで本発明容器及び本発明容器を他の容器と組み合わせたキット製剤とした場合,収容可能な医療用液体又は固形薬剤に配合される成分としては,ブドウ糖,フルクトース,マルトース等の還元糖,従来より輸液として栄養補給を目的として利用されてきているアミノ酸製剤に配合されている各種のアミノ酸が挙げられる。なお,各アミノ酸は遊離形態である必要はなく,金属塩,有機酸塩等の薬理学的に許容される塩の形態でもよい。また,各アミノ酸は,生体内で加水分解され遊離アミノ酸に変換されるエステルの形態でもよい。さらに,上記各アミノ酸はそれ等の一部又は全部をN‐アシル誘導体の形態,例えばN‐アセチル‐L‐システインの形態としてもよい。 【0022】還元糖とアミノ酸以外の成分としては,栄養補給等を目的とした大豆油,綿実油,サフラワー油,トウモロコシ油,ヤシ油,シソ油,エゴマ油,アマニ油等の植物油,魚油,化学合成トリグリセリド,中鎖脂肪酸トリグリセリド,長鎖脂肪酸トリグリセリド等を挙げることができる。また,水溶性及び脂溶性の各ビタミン,例えばパルミチン酸レチノール,塩酸チアミン,リン酸リボフラビンナトリウム,塩酸ピリドキシン,シアノコバラミン,アスコルビン酸,コレカルシフェロール,酢酸トコフェロール,ニコチン酸アミド,パントテン酸カルシウム,葉酸,ビオチン,メナテトレノン,フィトナジオン等を,また電解質及び微量元素(ミネラル)として塩化ナトリウム,酢酸ナトリウム,硫酸マグネシウム,塩化マグネシウム,塩化カルシウム,リン酸二カリウム,リン酸一ナトリウム,グリセロリン酸カルシウム,塩化第二鉄,塩化マンガン,硫酸銅,硫酸亜鉛,ヨウ化カリウム等を挙げることができる。前記各成分の配合量は,投与される患者の要求量によって適宜決定される。 【0023】また,経腸成分栄養剤の場合は,デキストリン,カゼインナトリウム,卵白加水分解物,植物性蛋白質,乳清蛋白質,脱脂粉乳を前述の成分に加えることができる。各成分の輸液剤としての配合・調製には特別の制限はなく,適宜常法によることができる。 【0024】本発明の容器は,前記各成分の安定性を実質的に損なうことなく収容できる特徴を具備している。好ましい態様としては,糖,電解質及びアミノ酸の各薬液をC1もしくはC2にそれぞれ収容し,小室C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤,ポート部材もしくはC4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容する経中心静脈栄養用キット製剤の形態を挙げることができる。これにより,配合変化する各成分を各区画室に隔離でき,各成分とくに配合変化しやすい成分を品質劣化させることなく経中心静脈栄養用の各成分を容器内に長期間収容できる。同様に,経腸成分栄養剤についての前述の効果を奏する。 【0025】また,別の態様としては,ポート部材に連通具等の連通具(WO 95/00101公報)を取り付け,ビタミン入りのバイアル又はプレフィルドシリンジ(特表平5-501983,特表平7-501002)を接合した複数薬剤収容のキット製剤の形態としてもよい。この際,容器および連通具と連通具に連結されるバイアル又はプレフィルドシリンジは,連通操作が容易に行えるように剛性もしくは準剛性のトレーに収容される形態がより好ましい。更にビタミン類を前記キット製剤に収容する場合は,このトレーの全面,あるいは部分的に遮光フィルムが積層されていることが好ましい。また,トレーを形成する樹脂層の一つに水分非透過性,ガス非透過性のバリアーフィルムからなる層を設けてもよい。 【0026】更に,別の形態としては,前記バイアル,プレフィルドシリンジに替え固形薬剤の入った樹脂製の小袋を本発明の容器端部に,内層面が剥離することで対向する両室が連通可能となるよう連結したキット製剤としてもよい。なお,樹脂製小袋は,収容する薬剤の劣化を防止するための多重包装であってもよく,脱酸素剤,乾燥剤を包装内に収容しておくこともできる(WO92/08434公報)。 【0031】図8は,容器本体に使用可能な非PVC(非塩化ビニル)多層フィルム6の図解的な断面図である。多層フィルム6は,容器の内壁面14又は16を備える内層141,容器の外面を形成する外層144,及び中央層142,143を備える。内層141と外層144は,VICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体,好ましくは,プロピレン-エチレンランダム共重合体により形成される。中央層142,143は,プロピレン-エチレンランダム共重合体とエチレン・α-オレフィン共重合体の混合樹脂で形成される。 なお,中央層142,143は,3層若しくは4層であってもよく,その内の1層に水分非透過性,ガス非透過性のバリアーフイルムからなる層を設けてもよい。 【0032】容器本体は,図8の非PVC(非塩化ビニル)多層フィルム6に代えて,単層のVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体,好ましくは,プロピレン-エチレンランダム共重合体,例えば,三菱化学から販売されている商品名SPX8000番シリーズ,SPX9000番シリーズにより形成され得る。容器を形成する樹脂は,環境ホルモンとしての問題が懸念されるスチレン系エラストマーを含有しないものが適している。 【0033】また,容器を形成する樹脂は,VICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体,好ましくは,プロピレン-エチレンランダム共重合体を使用し,容器内部の液体を容器外部から充分観察できるように,滅菌工程後の透明度が80%以上であるようにされる。透明度は,試験片に対する標準光源からの光線の照射量と試験片を透過した光線の量の比であり,ヘイズ価とも呼ばれ,日本薬局方規格に規定される。 【0037】図9は,固形薬剤Nを収容するポート部材3の概略断面図である。 容器本体に収容される点滴用栄養剤又は経腸成分栄養剤に,安定性が悪く分解し易いビタミン類を含めるため,ビタミン類は,凍結乾燥され,層状の固形薬剤Nの形態において,ポート部材3の筒体40の内方中空部43に収容される。またビタミン類以外に,抗生物質等の薬剤が固形薬剤Nの形態で中空部43に収容され得る。 固形薬剤Nは,好ましくは,ポート部材3が容器本体の固着部21に熱溶着される前に筒体40内に収容される。またポート部材3が固形薬剤を収容する場合は,ポート部材の内方中空部に連通する容器本体の分室C4は,空室にされる。容器本体内の液体が人体へ投与するため容器外から押圧され接着部が剥離され混合されるとき,ポート部材に連通する分室の接着部も剥離され,分室及び固形薬剤の周囲へ液体が流入され固形薬剤が液体中へ溶解混合される。 【0038】図10Aは,薬剤バイアルが隣接されるポート部材の概略平面断面図であり,図10Bは,図10Aの線S-Sに沿う断面図である。薬剤バイアル32は,ビタミン,ミネラル,抗生物質,その他の薬剤成分を固形薬剤又は液状薬剤の形態で収容する。図10A及びBにおいて,薬剤バイアル32は,ポート部材3に一体に形成された円筒形ケース35の内部にケースの軸方向に摺動可能に支持される。連通具34が針先端をそれぞれポート部材3の閉鎖体60及び薬剤バイエルの閉鎖体33に隣接して配置される。薬剤バイエル32はプレフィルドシリンジにより置換することができる。 【0039】図10A,図10Bの例において,容器本体2は,C1〜C3の3区画(C3が小室)を有する経中心静脈栄養用キット製剤に係る容器であることができる。この場合において,容器C3に,薬剤バイアル32に収容された薬剤以外の成分が収容されることがのぞましい。例えば,薬剤バイアル32にビタミン類が収容される場合,容器C3には,微量元素製剤(例として商品名:エレメンミック,味の素ファルマ社製)が収容されることが好ましい。更に,C3室に前述の植物油等を有効成分とする脂肪乳剤を収容してもよい。薬剤バイアル32をプレフィルドシリンジに置換した場合は,プレフィルドシリンジの薬剤収容部を連通可能にゴム栓等の閉鎖体で2室に分離し2室にビタミン類と微量元素製剤をそれぞれ分離して収容する形態が好ましい。 【0040】図10Bに明瞭に示すように,薬剤バイエル32,ポート部材3及び容器本体2は,剛性又は準剛性のあるトレー80の凹部81に収容され,凹部81の開口部は,カバーフィルム83により覆われ密封される。薬剤バイアル32の底部に隣接するトレー80は,薬剤投与の際に指で薬剤バイアル32を貫通具34の方へ押圧するための隙間82を備える。薬剤バイアル32をポート部材3の方へ押圧し移動させると,連通具(この場合両頭針)34の各針先端が薬剤バイエル32の閉鎖体33及びポート部材の閉鎖体60をそれぞれ貫通し,薬剤バイエル32内部が連通具34を介し流体連通される。それ故,容器本体内の液体を人体へ投与するため,薬剤バイエル32を移動させて容器分室内と連通させ,容器外から容器内の液体を押圧し接着部を剥離させ分室の液体を混合させると,薬剤バイエル32内の薬剤が容器内の液体に混合される。この場合,ポート部材及び容器本体が剛性のあるトレーにより支持されるから,薬剤バイエルを容易に正確に摺動させることができる。 【0041】 【発明の効果】本発明の医療用液体を封入する樹脂製容器は,ポート部材を構成する筒体及び保持具並びに容器本体の内壁面がいずれもVICAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共重合体,好ましくは,プロピレン-エチレンランダム共重合体により形成され,スチレン系のエラストマーを含有しない故に,必要な透明度を備え,溶着不良が低く,且つ封入される医療用液体へのスチレン系のエラストマーによる環境ホルモンの溶出のない容器を提供することができる。本発明の樹脂製容器は,滅菌工程後の透明度が高く,容器本体,容器内部を良好に観察することができる。 【図1】 【図2】 【図3】 【図10】 3 取消事由1(無効理由1に理由がないとした本件審決の誤り)について (1) 取消事由1-1(本件訂正発明1に係るもの)について ア 甲1発明の認定について (ア) 前記2(1)の記載事項及び弁論の全趣旨によると,甲1には,前記第2の3(1)ア(ア)及び(イ)のように本件審決が認定したとおりの甲1輸液製剤発明及び甲1輸液製剤の保存安定化方法発明が記載されていると認められる。 (イ) 原告の主張について a 原告は,甲1には溶液(B)に含む成分としてL-システイン及び亜硫酸塩が具体的に開示されていること,甲1の段落【0034】によると,甲1の【図2】,【図4】及び【図5】の輸液容器に収容する各溶液の成分は同一のものとすることが当然に予定されているから,同【図5】の形状の輸液容器に係る甲1発明の構成を認定するに当たっては,甲1の段落【0015】及び【0033】並びに同【図2】に係る段落【0046】などを踏まえる必要があることなどを主張して,甲1発明の溶液(B)は,「システイン及び/又はアセチルシステイン並びに亜硫酸塩」を含有するものと認定すべきであると主張する。 b(a) しかし,甲1に記載された発明は,ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供することを目的とするものであるところ(甲1の段落【0009】,従来の技術の記載(同【0002】〜【0008】 ) )においてアミノ酸の種類は特に問題とされておらず,課題を解決するための手段の記載 【0010】 (同 ,【0011】)においても,アミノ酸を含有する溶液については,上記従来の技術の記載において欠乏に係る問題が指摘された葉酸やビタミンを含有する以外は,pHが問題とされているにとどまる。 そして,同【0015】〜【0017】は,溶液(B)に配合され得るアミノ酸について,18種を具体的に挙げてその一つとしてL-システインを挙げているものの,同【0015】では,それらのアミノ酸について,一括して,純粋結晶状アミノ酸であるのが好ましい,通常遊離アミノ酸の形態で用いられるが,特に遊離形態でなくてもよく,薬理学的に許容される塩,エステル,N-アシル誘導体や,2種アミノ酸の塩,ペプチドの形態で用いることもできるとして,一般的かつ広汎というべき記載がされているにとどまり,L-システインが溶液(B)に必ず含まれるべきことを窺わせるような記載はない。 以上の点を踏まえると,同【0015】〜【0017】の記載は,溶液(B)に配合されるアミノ酸の例を挙げたものにすぎないというべきであって,それら段落の記載から, 「システイン」を溶液(B)に含む成分とすることを含むひとまとまりの技術思想が甲1に開示されているということはできない。遊離形態で換算した好ましい配合量の記載があることも,上記判断を左右するものではない。 (b) 亜硫酸塩についても,前記(a)で指摘した甲1の従来の技術の記載や課題を解決するための手段の記載には,亜硫酸塩を安定に含有することに係る課題等は何ら示されていない。この点,甲1の段落【0033】には,なお書きとして,溶液(B)には安定化剤として亜硫酸塩や亜硫酸水素塩を添加することができる旨の記載があるが,これは,同【0014】において,ビタミンB 1を配合する溶液(A)には亜硫酸塩及び亜硫酸水素塩を実質的に配合しないのが好ましいとされていることと比較して,溶液(B)には,一定の範囲内では亜硫酸塩や亜硫酸水素塩を添加し得る旨を記載したものにすぎないものとみられ,溶液(B)にそれらを含めることを具体的に示すものとはいえない。 c また,甲1の段落【0038】【0039】【0045】〜【0049】【0 , , ,054】及び【0055】の記載からすると,溶液(C)を収容する容器の形態の差異に関し,甲1の実施例1は甲1の【図2】の容器に,実施例2〜4は同【図4】の容器にそれぞれ対応するものと認められる一方,同【図5】にどのような溶液を収容するのかについて実施例等の具体的な記載は見当たらない。それゆえ,同【図5】を踏まえて,溶液(C)を収容する容器が2室容器の一方の室内に固着した剥離開封可能な小袋であることを構成要素とする甲1発明を認定するに当たり,実施例1〜4についての溶液の組成の記載をもって,甲1発明の内容を特定することはできないというべきである。 上記に関し,原告は,甲1の段落【0034】の記載から,同【図2】【図4】 ,及び【図5】の輸液容器に収容する各溶液の成分が同一のものであると理解すべき旨を主張するが,同段落は,溶液(C)を収容する容器の構成について何ら触れるものではないから,溶液(C)を収容する容器の構成を特定する(同【0047】,【0048】及び【0054】)とともに溶液(A)〜(C)の組成の具体的な組成(同【0049】【表2】 【0055】 , 【表4】)を特定した実施例1〜4について,同【0034】の記載を根拠として,それら実施例に係る記載内容が同【図5】に係る発明の内容をも構成するという,ひとまとまりの技術思想が開示されているとはいえない。 d 以上によると,システインや亜硫酸塩を溶液(B)に含む成分とすることを含むひとまとまりの技術思想が甲1に開示されているというべき根拠はない。したがって,甲1に明記されず,システインのN-アシル誘導体に含まれるにすぎないアセチルシステインについては,なおさら,これを溶液(B)に含む成分とする旨が甲1に開示されているということはできない。 e 原告が主張するその他の点は,以上の認定判断を左右するものではない。 f よって,原告の前記aの主張を採用することはできない。 イ 甲1発明と本件訂正発明との対比について (ア) 前記ア(ア)の甲1発明と本件訂正発明とを対比すると,それらの間の一致点及び相違点は,本件審決が前記第2の3(2)ア(ア)〜(エ)のように認定したとおりであると認められる。 (イ) 相違点A1-1が相違点ではないとの原告の主張は,前記アのとおり,採用することができない。 (ウ) 被告は,相違点A1-1と相違点B1-1とを分けて認定すべきではないと主張するが,相違点A1-1は,アミノ酸を含有する溶液の組成に係る相違点である一方,相違点B1-1は,複数の室を有する輸液容器の一室に収納された容器に収容される対象及び当該容器の収納形態に係る相違点であって,両者は技術的観点を異にするものである。被告が上記主張の根拠とする点は,相違点A1-1及び相違点B1-1に係る本件訂正発明の構成が,一つの引用発明を構成するひとまとまりの技術思想に含まれるものとして把握されるべき根拠となる事情にとどまるものというべきであって,被告の上記主張を採用することはできない。 ウ 相違点A1-1に関する容易想到性について (ア) 前記ア(イ)b〜dで述べたところに照らすと,甲1は,溶液(B)に配合されるアミノ酸の18種の例のうちの一つとしてL-システインを挙げているにすぎない。そして,甲1の段落【0015】では,それらのアミノ酸について,一括して,純粋結晶状アミノ酸であるのが好ましい,通常遊離アミノ酸の形態で用いられるが,特に遊離形態でなくてもよく,薬理学的に許容される塩,エステル,N-アシル誘導体や,2種アミノ酸の塩,ペプチドの形態で用いることもできるとして,一般的かつ広汎というべき記載がされているところである。 そのような記載に接した当業者において,無数に存在する薬理学的に許容される塩,エステル,N-アシル誘導体や,2種アミノ酸の塩,ペプチドの形態の中から,まず18種のアミノ酸のうちのシステインに特に注目した上で,その誘導体の一種であるN-アシル誘導体に着目し,そのうちのアセチルシステインをあえて選択することが,示唆されたり,動機付けられたりするものとは認められない。その他,甲1に,アセチルシステインの選択の示唆や動機付けといえる記載はみられない。 したがって,甲1輸液製剤発明において,溶液(B)をアセチルシステインを含む構成とすることが容易想到であるとはいえない。 (イ) 原告の主張について 原告は,甲1の実施例1の溶液(B)がL-システインを含むことや,甲1の段落【0015】 【0034】 や 等の記載から,甲1輸液製剤発明において, (B) 溶液をシステインを含む構成とすることは,当業者が容易になし得ることであり, 【0 同015】の記載や,アセチルシステインがシステインと等価なものとして輸液に使用されるアミノ酸であることが技術常識であることからすると,甲1輸液製剤発明において,溶液(B)をアセチルシステインを含む構成とすることは,当業者が容易になし得ることであると主張するが,前記(ア)で指摘した点に照らし,採用することができない。上記技術常識に関し,原告は,証拠(甲17,18,41,42)を挙げるが,これらの文献等は,システインの各種誘導体のうち,N―アシル誘導体の例としてアセチルシステインが知られており,実際に輸液製剤に配合されている例があることを示すにすぎず,上記のような技術常識の存在をもって,前記(ア)で指摘したような甲1の記載にかかわらず,アセチルシステインを選択することが直ちに示唆されたり,動機付けられたりするものとみるには足りない。その他,原告が主張する点も,前記(ア)の判断を左右するものではない。 (ウ) したがって,亜硫酸塩に関して判断するまでもなく,本件審決における相違点A1-1に関する容易想到性の判断に誤りがあるとは認められない。 エ 相違点B1-1に関する容易想到性について (ア) 前記ア(イ)b(a)のとおり,甲1に記載された発明は,ビタミン類を長期間安定に含有する中心静脈投与用輸液を提供することを目的とするものであって(甲1の段落【0009】,従来の技術の記載(同【0002】〜【0008】 ) )や課題を解決するための手段の記載(同【0010】【0011】 , )の内容も,各種ビタミンの特性を踏まえた課題を中心とするものである。上記のうち, 【0004】 同 には,「微量元素やビタミンの欠乏症が問題となってくる」との記載があるが,その直後に, 「特に,ビタミンB1は」としてその欠乏の問題の重要性が指摘され,その後も「ビタミンを併用することが不可欠である」「しかして,ビタミンは,安定性に欠 ,けるため」などという記載がされた上で,同【0005】〜【0008】では専らビタミンに係る課題が指摘されているのであるから,上記各段落の記載に接した当業者においては,甲1でその解決が検討されている課題は,欠乏症が問題となる「微量元素やビタミン」のうちビタミンを対象とするものと理解するというべきである。 また,同【0043】は,「微量元素(鉄,マンガン,銅,ヨウ素など)」を挙げているものの,それらについては, 「輸液の投与時に」「配合変化等が起こらない範 ,囲で任意に添加配合することもできる」と記載されているのであって,そもそも輸液の投与前に微量元素を何らかの形で輸液容器の構成の中に組み込んでおくこと自体が想定されていないのであるから,同段落の記載が,微量元素を収容した容器をあらかじめ2室バッグの一方の室に収納することについて,示唆したり動機付けたりするものであるとはいえない。 そして,前記ア(イ)cで指摘した点からすると,同【図5】は,甲1輸液製剤発明における課題の対象であるビタミンとの関係ですら,そこにおけるバッグインバッグの構成が有する技術的意味を溶液の具体的な組成との関係では必ずしも明らかにしていないというべきであるから,同図から,上記のとおりビタミンと直ちに同様には取り扱うことができない微量元素について,その収容方法に関して何らかの示唆や動機付けがされるともいえない。 その他,甲1に,微量金属元素についてバッグインバッグの構成を採用することの示唆や動機付けがあるとみるべき事情は認められない。 他方で,甲1輸液製剤発明の溶液(C)を収容した容器に微量元素を収容する場合に,発明の目的に係るビタミン類の長期間の安定にどのような影響を与えるかも明らかでない。微量元素を収容するために溶液(C)を収容した容器と同様な容器を新たに加えるといった構成の変更を行うことを仮に想定したとしても,同様である。 (イ) 原告の主張について 原告は,甲1輸液製剤発明において,ビタミンを含有する溶液(C)を収容した小袋を,溶液(A)又は溶液(B)を収容する室に収納して,2室バッグかつバッグインバッグの構成を採用する理由となった課題は,ビタミンのみならず,微量金属元素についても同様に当てはまるものであって,甲1の段落【0004】【00 ,43】【図5】などから,微量金属元素についても2室バッグかつバッグインバッ ,グの構成を採用することが示唆され,又は動機付けられる旨を主張するが,甲1の上記段落等からそのような示唆等がされるといえないことは,前記(ア)のとおりであり,単に,輸液製剤に関し,ビタミンと微量金属元素との間に安定化に係る共通の課題があることをもって,前記(ア)の認定判断が左右されるものではない。 バッグインバッグの構成を採用することが容易であるとの上記主張を前提とした上で,微量元素を収容した小袋の収容先を他の室とすることも容易であるとする原告の主張は,いわゆる容易の容易の主張であって,採用することができない。 (ウ) 以上より,本件審決における相違点B1-1に関する容易想到性の判断に誤りがあるとは認められない。 オ 小括 以上によると,その余の点について判断するまでもなく,取消事由1-1は理由がない。 (2) 取消事由1-2(本件訂正発明2に係るもの)について ア 甲1輸液製剤発明及びそれと本件訂正発明2との対比は,前記(1)ア及びイ(ア)のとおりであって,甲1発明及び相違点A2-1の認定の誤りについての原告の主張を採用することはできない。 イ 前記(1)エからすると,相違点B1-1と実質的に同一である相違点B2-1について,容易想到であるとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,取消事由1-2は理由がない。 (3) 取消事由1-10(本件訂正発明10に係るもの)について 前記第2の2によれば,本件訂正発明10は,請求項1の輸液製剤の発明に対応した輸液製剤の安定化方法の発明であって,輸液製剤中の成分や各室の構成について,複数の室が外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されていることの特定があるかという点を除き,本件訂正発明1と同じ発明特定事項を有するものであるから,前記(1)のとおり,取消事由1-1が理由のないものというべき以上,それと同様の取消事由1-10は理由がない (4) 取消事由1-11(本件訂正発明11に係るもの)について 前記第2の2によれば,本件訂正発明11は,請求項2の輸液製剤の発明に対応した輸液製剤の安定化方法の発明であって,輸液製剤中の成分や各室の構成について,複数の室が外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されていることの特定があるかという点を除き,本件訂正発明2と同じ発明特定事項を有するものであるから,前記(2)のとおり,取消事由1-2が理由のないものというべき以上,それと同様の取消事由1-11は理由がない。 (5) よって,取消事由1は理由がない。 4 取消事由2(無効理由2に理由がないとした本件審決の誤り)について (1) 取消事由2-1(本件訂正発明1に係るもの)について ア 甲13発明の認定について (ア) 前記2(2)の記載事項及び弁論の全趣旨によると,甲13には,前記第2の3(1)イ(ア)及び(イ)のように本件審決が認定したとおりの甲13輸液製剤発明及び甲13輸液製剤の保存安定化方法発明が記載されていると認められる。 (イ) 原告の主張について a 原告は,甲13には,アミノ酸の薬液にアセチルシステインやシステインを含める構成や,微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤に鉄,マンガン,銅を含める構成がそれぞれ具体的に開示されていること,甲13の段落【0024】は,同【0021】 【0023】 〜 と併せて理解される必要があることなどを主張して,甲13発明のアミノ酸の薬液は, 「アセチルシステイン及び/又はシステイン」を含有し,微量元素(ミネラル)の水溶液は「鉄,マンガン,銅」を含有するものと認定すべきであると主張する。 b そこで検討するに,甲13に記載された発明は,医療用液体を収容する可撓性容器に関し,特に2以上の成分を投与直前に混合可能に収容する多室の容器及び可撓性容器に組み込まれ溶着により生じる不要粒子を散逸させないポート部材に関するもので(甲13の段落【0001】,その第一次的な目的は,医療用液体中に )可塑剤の溶出の可能性がなく廃棄処理の問題のない多室形式の樹脂製容器を提供すること,ポート部材と容器本体の樹脂フィルムとの間の接着不良のない樹脂製容器を提供することなどであり(同【0007】,その効果は,必要な透明度を備え, )溶着不良が低く,かつ封入される医療用液体へのスチレン系のエラストマーによる環境ホルモンの溶出のない容器であって,滅菌工程後の透明度が高く,本体や内部を良好に観察することができる容器を提供できるといったものである(同【0041】。 ) 他方で,甲13に記載された発明は,容器本体を複数の分室に区画する剥離可能な接着部を容易に製造できる樹脂製容器を提供することや,人体に点滴により投与される液状栄養剤を収容する樹脂製容器であって,ビタミンやミネラルの微量成分を変質を避けて投与直前に混合するため分室に収容保持し,必要なときに容易に混合することが可能な容器を提供することも目的とするものではあるが(同【0008】,発明が解決しようとする課題(同【0007】〜【0009】 ) )や課題を解決するための手段(同【0010】〜【0017】)における課題の指摘は,同【0008】における上記指摘を除き,専ら容器の素材や構造あるいは容器を原因とする内容物への悪影響に係るものであって,容器に収容される対象に係る課題についての具体的な指摘はない。 以上の点のほか,発明の実施の態様についても,まずは容器の構成が説明された上で(同【0018】〜【0020】, )「本発明容器及び本発明容器を他の容器と組み合わせたキット製剤とした場合」について,収容可能な医療用液体等の成分についての記載がされていること(同【0021】〜【0023】),その上で,発明に係る容器が成分の安定性を実質的に損なうことなく収容できる特徴を具備していること等が記載されていること(同【0024】)に加え,同【0021】〜【0023】における成分についての記載が少なからず一般的かつ網羅的で広汎なものというべきことに照らすと,それら段落における成分についての記載は,実施例である同【図1】の多室容器を含め,甲13に記載された発明に係る容器に収容可能な成分の例を挙げたものにすぎないというべきである。そして,甲13に,アミノ酸の薬液にアセチルシステイン又はシステインが必ず含まれるべきことや,微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤に鉄,マンガン又は銅が必ず含まれるべきことを窺わせるような記載はない。 そうすると,同【0021】〜【0024】の記載から,「アセチルシステイン」又は「システイン」をアミノ酸の薬液に含む成分とすることや, 「鉄,マンガン,銅」を微量元素(ミネラル)の水溶液に含む成分とすることを含む,ひとまとまりの技術思想が甲13に開示されているということはできない。 c よって,原告の前記aの主張を採用することはできない。 イ 甲13発明と本件訂正発明との対比について (ア) 前記ア(ア)の甲13発明と本件訂正発明とを対比すると,それらの間の一致点及び相違点は,本件審決が前記第2の3(2)イ(ア)〜(エ)のように認定したとおりであると認められる。 (イ) 相違点A1-13及び相違点B1-13の一部が相違点ではないとの原告の主張は,前記アのとおり,採用することができない。 (ウ) 被告は,相違点A1-13と相違点B1-13とを分けて認定すべきではないと主張するが,相違点A1-13は,アミノ酸を含有する溶液の組成に係る相違点である一方,相違点B1-13は,微量元素を含む液の収容形態に係る相違点であって,両者は技術的観点を異にするものである。被告が上記主張の根拠とする点は,相違点A1-13及び相違点B1-13に係る本件訂正発明の構成が,ひとまとまりの技術思想として把握されるべき根拠となる事情を超えるものではなく,被告の上記主張を採用することはできない。 ウ 相違点B1-13に関する容易想到性について (ア) 前記ア(イ)bのとおり,甲13に記載された発明は,医療用液体を収容する可撓性容器,特に2以上の成分を投与直前に混合可能に収容する多室の容器等に関するもので(甲13の段落【0001】,医療用液体中に可塑剤の溶出の可能性がな )く廃棄処理の問題のない多室形式の樹脂製容器を提供することなどを第一次的な目的とし(同【0007】, )「ビタミンやミネラルの微量成分を変質を避けて投与直前に混合する」ため分室に収容保持し,必要なときに容易に混合することが可能な容器を提供することも目的とするものではあるが(同【0008】,そのような一般 )的な記載を超えて,容器に収容される対象に係る課題について具体的な指摘はなく,同【0021】〜【0024】における容器に収容される対象の成分についての記載も,実施例である同【図1】の多室容器を含め,甲13に記載された発明に係る容器に収容可能な成分の例を挙げたものにすぎないというべきである。 上記の点に加え,同【0024】の記載内容に照らすと,同段落記載の好ましい態様における薬液等の収容方法は,甲13に記載された課題(特に同【0008】)の解決のための態様として記載されているのであり,そこから更に容器に収容される対象に関して別途の課題を解決する必要のあるものとして記載されているものではないと解される。 したがって,甲13から,当業者が,容器に収容される対象の成分に係る事情に基づいて,甲13輸液製剤発明における容器の構成を変更するよう示唆され,又は動機付けられるものとは解されない。この点,そのような事情に基づいて,甲13輸液製剤発明における容器の構成を変更すること,特に,既に分室C1及びC2と区画された小室C3に収容された微量元素(ミネラル)を,改めて容器に収容した上で分室の一つに収納したり,小室C3を分室C1又はC2に収納するといった構成変更を行うことは,甲13に記載された発明について指摘した上記の特徴の本質的な部分に影響する重要な変更であって,甲13から,当業者がそのような変更を示唆され,又は動機付けられるということはおよそ考え難い。 その他,相違点B1-13に係る構成が容易想到であるとみるべき事情は認められない。 (イ) 原告の主張について a 原告は,相違点B1-13に係るバッグインバッグ構成について,それが,「空間的な分離」を行う構成(微量元素を含む溶液を収容した小袋と含硫アミノ酸を含む輸液とが接触しない構成。構成a)及び「他の室への隔離」を行う構成(含硫アミノ酸を含む輸液を収容した室とは異なる室に当該小袋を収納するという構成。 構成b)から成るとした上で,@本件訂正発明の構成と関連し,異なる室が空室である場合には構成bは当業者において適宜変更し得る設計的事項にすぎない,A含硫アミノ酸から発生する硫化水素ガスにより,高いレベルの安定が求められる銅などがなお不安定となるという周知の課題を踏まえると,甲13輸液製剤発明について,構成aに加え,ガス透過性を低下させるための周知の構成(甲1,13,15参照)を適宜採用できるなどと主張する。 しかし,バッグインバッグの構成を前提に原告が主張する構成a及び構成bという区分自体が, 「小袋」という「室」への収納可能性を想定した形での「空間的な分離」を前提とするものであって相当とはいえない。 「空間的な分離」を行うという構成aに関しては,そもそもどのような態様で「空間的な分離」を行うかという問題が存在し,その態様が,分離した対象をどのような関係に置くかという問題とも密接に関わっているのであって,構成aが満たされたことから直ちに,そのように分離した対象をどこに収納するかという構成bに係る問題が生じるものではない。そして,前記(ア)のとおり,構成aについて分室という構成を採る甲13輸液製造発明について,容器を室に収納するという構成(分室を異なる室に収納する構成を含む。)を採ることが容易想到といえない以上,専ら構成bについていう原告の上記@及びAの主張は,いずれも前記(ア)の判断を左右するものではない。なお,甲13輸液製剤発明に関し,甲13には,微量元素(ミネラル)を小室C3に収容しても,なおその安定性が不十分であるいった課題は示されておらず,仮にそのような課題が存在したとしても,その解決のために,当業者が甲13に記載された発明の特徴の本質的な部分に影響する重要な変更を示唆されるなどするとはいえないことも,前記(ア)のとおりである。 b 原告が主張するその他の点も,前記(ア)の認定判断を左右するものではない。 (ウ) したがって,本件審決における相違点B1-13に関する容易想到性の判断に誤りがあるとは認められない。 エ 相違点C1-13に関する容易想到性について (ア) 前記ウ(ア)で指摘した点に照らすと,甲13から,当業者が,容器に収容される対象の成分に係る事情に基づいて,容器の外装の構成についての示唆や動機付けを得るものとは解し難い。 この点,原告の主張するように,輸液容器を熱可塑性樹脂フィルムで形成した場合に透過した酸素がアミノ酸と反応すること等が技術常識であり,かつ,ガスバリヤー性の外袋に輸液容器を収納して輸液容器とガスバリヤー性の外袋の空間内に脱酸素剤を封入する構成が周知であったとしても,前記ア(イ)bのように容器の素材や構造等に係る課題の解決を主眼とした発明に係る甲13の段落【0031】において,多層フィルムの層の「1層に水分非透過性,ガス非透過性のバリアーフイルムからなる層を設けてもよい」と記載されていることも踏まえると,同段落に記載された構成ではなく原告が主張する上記構成を採ることが,原告の主張する上記技術常識等から直ちに示唆されたり動機付けられたりするものとはいい難い。 その他,甲13輸液製剤発明について,相違点C1-13に係る本件訂正発明1の構成を容易に想到し得たとみるべき事情は認められない。 (イ) したがって,本件審決における相違点C1-13に関する容易想到性の判断に誤りがあるとは認められない。 オ 小括 以上によると,その余の点について判断するまでもなく,取消事由2-1は理由がない。 (2) 取消事由2-2(本件訂正発明2に係るもの)について ア 甲13輸液製剤発明及びそれと本件訂正発明2との対比は,前記(1)ア及びイ(ア)のとおりであって,甲13発明の誤りについての原告の主張を採用することはできない。 イ 相違点A2-13に関する容易想到性について (ア) 前記(1)ア(イ)b及び同ウ(ア)で述べたところに照らすと,甲13に接した当業者において,容器に収容される対象の具体的な成分について,甲13に明確に記載されたもの以外を含ませることの示唆や動機付けを得るものとはみ難いところ,甲13には亜硫酸塩についての記載はない。 この点,原告の主張するように,アミノ酸を含有する溶液について,安定化剤として亜硫酸塩を配合することが相応に一般的であるとしても(甲16〜18,43〜46) 他方で, , 輸液中に存在する亜硫酸イオンによりアレルギー反応を起こす者がいるとの理由等から亜硫酸塩を配合しない構成もあることが窺われる(甲7,8,32,33)から,原告の主張するような事情があることをもって,上記のような甲13に接した当業者に対し,亜硫酸塩をアミノ酸に含有させることが直ちに示唆されたり動機付けられたりするものとも解し難い。 その他,甲13輸液製剤発明について,相違点A2-13に係る本件訂正発明2の構成を容易に想到し得たとみるに足りる事情は認められない。 (イ) したがって,本件審決における相違点A2-13に関する容易想到性の判断に誤りがあるとは認められない。 ウ 相違点B2-13及び相違点C2-13に関する容易想到性について 前記(1)ウ及びエからすると,相違点B1-13と実質的に同一といえる範囲に含まれる相違点B2-13及び相違点C1-13と実質的に同一である相違点C2-13について,いずれも容易想到であるとは認められない。 エ したがって,その余の点について判断するまでもなく,取消事由2-2は理由がない。 (3) 取消事由2-10(本件訂正発明10に係るもの)について 前記第2の2によれば,本件訂正発明10は,請求項1の輸液製剤の発明に対応した輸液製剤の安定化方法の発明であって,輸液製剤中の成分や各室の構成について,複数の室が外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されていることの特定があるかという点を除き,本件訂正発明1と同じ発明特定事項を有するものであるから,前記(1)のとおり,取消事由2-1が理由のないものというべき以上,それと同様の取消事由2-10は理由がない。 (4) 取消事由2-11(本件訂正発明11に係るもの)について 前記第2の2によれば,本件訂正発明11は,請求項2の輸液製剤の発明に対応した輸液製剤の安定化方法の発明であって,輸液製剤中の成分や各室の構成について,複数の室が外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されていることの特定があるかという点を除き,本件訂正発明2と同じ発明特定事項を有するものであるから,前記(2)のとおり,取消事由2-2が理由のないものというべき以上,それと同様の取消事由2-11は理由がない。 (5) よって,取消事由2は理由がない。 5 取消事由3(無効理由3に理由がないとした本件審決の誤り)について (1) 取消事由3-1(本件訂正発明1に係るもの)について ア 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。 イ 本件訂正発明の課題について (ア) 前記1(2)によると,本件訂正発明は,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器が病院で使用されているところ,輸液中には通常微量金属元素が含まれていないことから投与が長期になると微量金属元素欠乏症を発症するが,微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると品質劣化が問題となるため,依然として輸液の投与直前に混合されているという現状に鑑み,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用い,用時に細菌汚染の可能性なく微量金属元素を混入することができ,かつ,保存安定性にも優れた輸液製剤の創製研究が開始されたものの,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填して微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金属元素が隔離してあっても微量金属元素を含む溶液が不安定であるという問題が生じることを知見し,その上で,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを目的とするものである。 (イ) 上記(ア)からすると,本件訂正発明1及び2は,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを課題とするものであるが,より具体的には,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用いて,あらかじめ微量金属元素を用時に混入可能な形で保存してある輸液製剤であって,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を提供することを課題とするものと解される。同様に,本件訂正発明10及び11の課題は,そのような輸液製剤の保存安定化方法を提供することを課題とするものである。 ウ 本件訂正発明1について (ア) 本件訂正発明の請求項1は,前記イの課題に関し, 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において」 「室 ,に・・・微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されて」いるとして,あらかじめ微量金属元素を用時に混入可能な形で保存することを特定しつつ,「一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され,他の室に・・・微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であ」り, 「前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり」「前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており」「前記外袋内の , ,酸素を取り除いた」ものであるとして,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している構成を特定しているものといえる。 (イ) 本件明細書の発明の詳細な説明をみると,段落【0006】及び【0007】で輸液製剤の大枠が示された上で,輸液容器の構造や材料(同【0012】【00 ,13】, ) 微量金属元素,特に銅イオンを安定化することができるという効果(同【0014】,硫黄原子を含む化合物及びこれを含む溶液の例示(同【0015】【0 ) ,016】, )微量金属元素を含有する液を収容する容器の具体的な収納方法や態様(同【0020】,微量金属元素の例示(同【0021】 ) )や,微量金属元素の組成(同【0022】,微量金属元素収容容器を収納している室の態様(同【0024】 ) )や当該室に充填され得る輸液やその組成等(同【0025】〜【0030】)が,それぞれ具体的に記載されている。 そして,本件訂正発明1に係る構造や材質に対応した輸液製剤の好ましい態様である本件明細書の【図1】について,その構造(段落【0031】)や,微量金属元素を用時に混入可能とする構成(同【0032】,輸液の充填の態様(同【003 )3】,ガスバリヤー性外袋や脱酸素剤の封入とそれらの材質等(同【0035】〜 )【0039】,投与時の混合の態様(同【0046】 ) )がそれぞれ詳細に記載されている。 (ウ) その上で,本件訂正発明1に該当する実施例1(同【0052】, 【図1】 と, )これに該当せず,含硫アミノ酸を含む溶液を充填した室に微量金属元素収容容器を収納した比較例(同【0060】, 【図4】 について, ) 具体的な製造方法や溶液(A)〜(C)の具体的な成分組成(同【0062】【表1】【0063】 , 【表2】【00 ,64】【表3】)が示され,実施例1と比較例の重要な差異が微量金属元素収容容器を収納する室の差異であることが示された上で, 「安定性試験」として,60℃で2週間保存した後の容器の外観を肉眼で観察したところ,比較例の輸液製剤においてのみ微量金属元素収容容器に着色がみられたこと(同【0065】, )「銅の安定性」について,開始時を「100.0%」とした場合,実施例1では,60℃で2週間保存した場合が「100.8%」,60℃で4週間保存した場合が「102.6%」であったのに対し,比較例では,60℃で2週間保存した場合が「88.8%」,60℃で4週間保存した場合が「69.8%」であったことが示されて(【表5】,最 )後に,発明の効果が記載されている(同【0066】)ところである。 なお,上記「安定性試験」に関し,輸液製剤の保存時において含硫アミノ酸であるシステインやその誘導体であるアセチルシステイン等が分解することにより硫化水素ガスが発生すること,硫化水素ガスが熱可塑性樹脂フィルムを透過すること及び硫化水素ガスが銅や鉄などの金属と反応して硫化物を生成する(水溶液中においては黒色の沈殿を生成する)ことは,技術常識である(甲7〜9,弁論の全趣旨)。 また,微量金属の定量分析法としては,ICP発光分光分析法が慣用技術であって,その測定法等は技術常識であると解される(甲34,35,弁論の全趣旨)。 (エ) 前記(ア)〜(ウ)によると,当業者は,本件訂正発明1の構成を採ることによって,同【0065】や【表5】に記載されているように,含硫アミノ酸を含む溶液を充填した室に微量金属元素収容容器を収納した場合と比較して,微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を得ることができると認識することができると解され,本件訂正発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。 したがって,本件訂正発明1がサポート要件を欠くものとはいえない。 (オ) 原告の主張について a 原告は,本件明細書の実施例1において,アセチルシステインから発生した硫化水素ガスが溶液(C)を充填した小袋に到達することを妨げることのできる実施例1の構成は,小袋を収納する「第1室4」にブドウ糖を含む溶液(A)が充填されているとの構成@及び外袋に「脱酸素剤9」が封入されているとの構成Aのみであり,当業者も構成@及び構成Aによるものであると当然に理解すると主張する。 しかし,本件訂正発明1の構成に係る本件明細書の実施例1では,アセチルシステインを含む溶液(B)が「第2室5」に充填された一方で,溶液(C)を充填した小袋は,それとは異なる室である「第1室4」に挟着されているのであって,同小袋を「第2室5」に収納した比較例の場合と比較すると,同小袋の外面が直接溶液(B)に触れることがないという点と,溶液(B)と溶液(C)との間に,同小袋の構成素材に加え, 「第2室5」の構成素材及び「第1室4」の構成素材とを介する状態となっている(被告のいう「三重の壁」となっている。)という点で,差異があることが明らかである。 そして,上記の差異が,アセチルシステインから発生する硫化水素ガスが溶液(C)を充填した小袋に到達することを妨げるに当たり,何らの作用を果たさないというべき技術常識その他の事情は認められないから(なお,被告の実験報告書[甲21,36,乙1]を排斥して専ら原告の実験報告書[甲19,20,23]の結果の信用性を認めるべき事情は見当たらない。,当業者の理解に係る原告の上記主張は採 )用することができない。 したがって,当業者において,本件明細書の実施例について専ら構成@及び構成Aにより微量金属元素の安定が図れたと理解することを前提とする原告の主張は,本件訂正発明1における「他の室」が空室である場合についての主張も含め,いずれも採用することができない。 b 原告は,本件訂正発明1の「外袋内の酸素を取り除いた」という部分について,甲1の実施例1では脱酸素剤が用いられているのみであることを主張するが,本件訂正発明1の構成の一部にすぎない上記部分を取り出してサポート要件の具備を判断することは相当とはいえず,また,本件明細書の段落【0035】に,脱酸素剤がガスバリヤー性外袋に収納されていることが好ましく,そのようにすることにより,輸液製剤の成分,特にアミノ酸などの酸化分解されやすい成分の酸化分解を抑えることができるという利点が記載され,不活性ガスの充填について併せて記載されていることに照らしても,原告の上記主張は前記(エ)の判断を左右するものではない。 c 原告は,本件訂正発明1の課題に係る微量金属元素の「安定」が,開始時の濃度がほぼ維持されているというような「絶対的安定」をいうと主張するが,前記イで本件訂正発明の課題について指摘した点に照らすと,上記「安定」が,輸液製剤として使用可能な程度の,かつ,微量金属元素を含硫化合物を含む溶液と同室に充填した場合と比較しての「安定」をいうものであることは明らかである。そして,本件訂正発明1の「他の室」を空室とした場合に,前記aで指摘したような差異及び原告のいう構成Aがなお存するにもかかわらず,本件訂正発明1の輸液製剤が上記意味での「安定」を欠くものとみるべき技術常識その他の事情は認められず(この点,被告の実験報告書[甲21,36,乙1]を排斥して専ら原告の実験報告書[甲19,20,23]の結果の信用性を認めるべき事情は見当たらず,また,原告の実験報告書中(甲19)にも,構成@を備えておらずとも, 「他の室」に収納することによって60℃で2週間又は4週間後に残存する銅含量が「比較例の追試」に比べて「実施例1の追試」及び「実施例1の変更例A」では多い結果が得られており,上記意味での「安定」を示す結果がみられる。,そのような「安定」を欠く )ものと当業者において理解するものともいえない。 d 前記イの認定と異なる本件訂正発明の課題をいう原告の主張は採用することができず,その他の原告の主張も,いずれも前記(エ)の判断を左右するものではない。 エ 小括 以上によると,取消事由3-1は理由がない。 (2) 取消事由3-2(本件訂正発明2に係るもの)について ア 本件訂正発明の課題は前記(1)イのとおりである。 イ 本件訂正発明2について (ア) 本件訂正発明の請求項2は,前記(1)イの課題に関し, 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において」,「室に・・・銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されて」いるとして,あらかじめ微量金属元素を用時に混入可能な形で保存することを特定しつつ,「一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され,他の室に・・・微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であ」り, 「前記溶液は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり」「前記輸液容器は,ガスバリ ,ヤー性外袋に収納されている」ものであるとして,含硫化合物を含む溶液を一室に充填した場合であっても微量金属元素が安定に存在している構成を特定しているものといえる。 (イ) 本件明細書の発明の詳細な説明について,前記(1)ウ(イ)は本件訂正発明1と共通である。なお,前記(1)ウ(オ)bのとおり,本件明細書の段落【0035】には,脱酸素剤がガスバリヤー性外袋に収納されているようにすることで,輸液製剤の成分,特にアミノ酸などの酸化分解されやすい成分の酸化分解を抑えることができることが記載されている。 (ウ) その上で,本件訂正発明2に該当する実施例2〜4(同【0053】〜【0059】【図2】【図3】 , , )と,これに該当せず,含硫アミノ酸を含む溶液を充填した室に微量金属元素収容容器を収納した比較例 【0060】 (同 , 【図4】 について, )具体的な製造方法や溶液(A) (C) 〜 の具体的な成分組成 【0062】 (同 【表1】,【0063】 【表2】【0064】 , 【表3】)が示され,実施例2〜4と比較例の重要な差異が微量金属元素収容容器を収納する室の差異であることが示された上で,安 「定性試験」として,60℃で2週間保存した後の容器の外観を肉眼で観察したところ,比較例の輸液製剤においてのみ微量金属元素収容容器に着色がみられたこと(同【0065】, )「銅の安定性」について,開始時を「100.0%」とした場合,実施例2では,60℃で2週間保存した場合が「102.9%」,60℃で4週間保存した場合が「103.2%」,実施例3では,60℃で2週間保存した場合が「100.0%」,60℃で4週間保存した場合が「97.2%」,実施例4では,60℃で2週間保存した場合が「100.9%」 60℃で4週間保存した場合が , 「100.5%」であったのに対し,比較例では,60℃で2週間保存した場合が「88.8%」,60℃で4週間保存した場合が「69.8%」であったことが示されて(【表5】, )最後に,発明の効果が記載されている(同【0066】)ところである。 (エ) 前記(ア)〜(ウ)によると,当業者は,本件訂正発明2の構成を採ることによって,同【0065】や【表5】に記載されているように,含硫アミノ酸を含む溶液を充填した室に微量金属元素収容容器を収納した場合と比較して,微量金属元素が安定に存在している輸液製剤を得ることができると認識することができると解され,本件訂正発明2は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえる。 したがって,本件訂正発明2がサポート要件を欠くものとはいえない。 (オ) 原告の主張について 原告は,本件訂正発明2では,外袋に「脱酸素剤9」が封入されているとの構成Aに対応する構成が全く特定されていないと主張するが,そのような本件訂正発明2の構成に含まれていない点の指摘により前記(エ)の判断が影響を受けるものではなく,また,前記(イ)の本件明細書の段落【0035】の記載からすると,ガスバリヤー性外袋に収納されていることのみによっても,酸化分解されやすい成分の酸化分解を一定程度抑えることができることは理解されるから,この点からも,原告の上記主張は前記(エ)の判断を左右するものではない。その他,前記(1)ウ(オ)のとおりである。 ウ 小括 以上によると,取消事由3-2は理由がない。 (3) 取消事由3-10(本件訂正発明10に係るもの)について 本件訂正発明の請求項10は,請求項1の輸液製剤に対応した輸液製剤の保存安定化方法であるから,本件訂正発明10のサポート要件については,前記(1)ア〜ウが同様に当てはまるといえる(ただし,輸液製剤の保存安定化方法の大枠は,本件明細書の段落【0011】に示されている。また,請求項1の「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器」と請求項10の「複室輸液製剤の輸液容器」の差異は,輸液の保存時における発明の解決に影響するものとは解されず,前記(1)ア〜ウの判断は左右されない。。 ) したがって,取消事由3-10は理由がない。 (4) 取消事由3-11(本件訂正発明11に係るもの)について 本件訂正発明の請求項11は,請求項2の輸液製剤に対応した輸液製剤の保存安定化方法であるから,本件訂正発明11のサポート要件については,前記(2)ア及びイが同様に当てはまるといえる(ただし,輸液製剤の保存安定化方法の大枠は,本件明細書の段落【0011】に示されている。また,請求項2の「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器」と請求項11の「複室輸液製剤の輸液容器」の差異は,輸液の保存時における発明の解決に影響するものとは解されず,前記(2)ア及びイの判断は左右されない。。 ) したがって,取消事由3-11は理由がない。 |
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結論
以上の次第で,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 本多知成 |
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裁判官 | 中島朋宏 |
裁判官 | 勝又来未子 |