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関連審決 不服2019-4325
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事件 令和 2年 (行ケ) 10123号 審決取消請求事件

原告インテリジェント エナジー リミテッド
同訴訟代理人弁理士 澤田俊夫 宮田正昭 山田英治 佐々木榮二
被告特許庁長官
同 指定代理人長馬望 青木良憲 山田啓之 佐々木芳枝 関口哲生
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/10/07
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が不服2019−4325号事件に対して令和2年6月5日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨
事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩性についての認定判断の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,名称を「燃料電池システム」とする発明について,国際出願日を平成26年5月2日とする特許出願(特願2016-511135[パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成25年5月2日,英国]。以下「本願」といい,本願の際に添付された明細書をこれに添付された図面と併せて「本願明細書」という。)をし(甲2,乙1),平成30年6月19日に特許請求の範囲の全文を変更する手続補正をしたが(乙6),同年11月27日付けで拒絶査定を受けた(乙7)。そこで,原告は,平成31年4月3日,同拒絶査定に対する不服審判の請求(不服2019-4325号。以下「本件審判請求」という。)をし(乙8),同日付けで特許請求の範囲の全文を変更する手続補正(以下「本件補正」という。なお,補正後の請求項の数は23)をした(乙9)。
(2) 特許庁は,令和2年6月5日,本件補正は適法にされたものであると認めた上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(甲1。以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月23日に原告に送達された。
2 本願に係る発明 本件補正後の本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。(乙9) 「燃料電池システムであって, 第1の燃料電池スタックと, 前記第1の燃料電池スタックと直列の,第2の燃料電池スタックと, 前記第1の燃料電池スタックと並列の,第1の整流器と, 前記第1の燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するた めに,定期的に,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記第1の燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように構成される,制御装置と, を備える,前記燃料電池システム。」 3 本件審決の理由の要旨 (1) 甲3(特表2002-520779号公報。本件審決における「引用例1」)に記載された発明(以下「引用発明」という。)の認定 「燃料電池システムであって, 燃料電池が直列に電気的に接続された複数の前記燃料電池と, それぞれの前記燃料電池のアノードとカソードを電気的に結合する電界効果トランジスタと, 前記燃料電池の負の水和降下現象を防止するために,前記燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記燃料電池への燃料ガスの供給を停止する,短絡制御回路と, を備える,前記燃料電池システム。」 (2) 甲4(特開2004-47427号公報。本件審決における「引用例2」)に記載された事項の認定 「燃料電池本体171の出力電圧が低下した状態では,空気供給コンプレッサー176の作動を一旦停止させて,水分の蒸発を止めると共に,電解質膜に生成水を速やかに浸透させ,水分の蒸発抑制や生成水の電解質膜への浸透によって発電性能を迅速に回復させること。」 (3) 本願発明と引用発明との対比 本願発明と引用発明は,次の一致点で一致し,相違点1及び2で相違する。
(一致点) 「燃料電池システムであって, 第1の燃料電池スタックと, 前記第1の燃料電池スタックと直列の,第2の燃料電池スタックと, 前記第1の燃料電池スタックと並列の,第1の整流器と, 前記第1の燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために,所定条件で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記第1の燃料電池スタックを通る気体流動を調節するように構成される,制御装置と, を備える,前記燃料電池システム。」 (相違点1) 所定条件に関し,本願発明は,「定期的に」であるのに対し,引用発明は,「燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合」である点。
(相違点2) 気体流動の調節に関し,本願発明は,気体は空気であるのに対し,引用発明は,気体は燃料ガスである点。
(4) 相違点についての検討 ア 相違点1について (ア) 機器のメンテナンスには,当該機器の出力がメンテナンスが必要な閾値以上変化した際に行う方法と,過去のデータに基づいて,当該機器の出力がメンテナンスが必要な閾値以上変化するであろう使用頻度,使用時間が経過した際に,実際の出力が閾値以上変化しているか否かに関わらずメンテナンスを行う方法が一般的である。
(イ) また,燃料電池において,燃料電池外部の負荷の電流需要とは関係なく,空気流量を周期的に調節することによって燃料電池セルの保湿レベルを周期的に増加させることは,甲5(特表2009-528657号公報。特に【要約】並びに段落【0009】【0011】【0029】〜【0031】参照)にもみられるよう , ,に周知の事項である。
(ウ) したがって,引用発明において,制御装置を燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合に動作させることに換えて定期的に気体流動を調節することは,当業者が適宜なし得ることである。
イ 相違点2について (ア) 引用発明において,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる際,短絡制御部が燃料電池への燃料ガスの供給を停止しても,供給される空気が燃料電池の乾燥を招くから,これを止めるため,また,残留する燃料ガス・空気による発電を避けて再水和の効率を上げるため,甲4(引用例2)記載のもののように空気の供給を停止することは,当業者が容易に考えられることと認められる。
なお,甲3(引用例1)には空気流動の記載はなくても,上記のように甲4(引用例2)を適用する動機がある。また,甲4(引用例2)には, 「また,本実施の形態では,燃料電池本体の出力電圧等をモニターしながら,所定の出力特性回復動作を行う例について説明したが,これに限らず,タイマーなどによって自動的に所定の出力特性回復動作を行うことも可能であり」 (段落【0130】 との記載がある。
)また,上記ア(イ)のように,燃料電池外部の負荷の電流需要とは関係なく,空気流量を周期的に調節することによって燃料電池セルの保湿レベルを周期的に増加させることは,甲5にみられるように周知の事項である。
(イ) そして,本願発明の作用効果も,引用発明及び甲4(引用例2)記載の事項から当業者が予測できる範囲のものである。
(ウ) したがって,本願発明は,引用発明及び甲4(引用例2)記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
原告主張の取消事由
本件審決には,次のとおり,引用発明を主引用例とする容易想到性の判断に誤りがある。
1 引用発明の認定の誤り (1) 本件審決における引用発明の認定は,少なくとも, 「前記燃料電池の負の水和降下現象を防止するために」 「前記燃料電池への燃料ガスの供給を停止する,短絡 ,制御回路」という点において,誤っている。
(2) 引用発明において,短絡制御回路が燃料電池への燃料ガスの供給を停止する のは,燃料電池の負の水和降下現象を防止するためではなく,故障の可能性が高い燃料電池にそれ以上燃料を供給しても無駄であるからと考えられる。
この点,燃料電池に燃料ガスが供給されなくなると,アノード側でポリマー電解質膜(PEM)に水素イオン(プロトン)が供給されなくなるから,カソード側で水素イオンと酸素イオン(空気流)とが反応して水が生成されることがなくなり,水和が抑制される。したがって,燃料ガスの供給の停止は,燃料電池の負の水和降下現象を防止する方向ではなく,逆に,水和を少なくするように作用する。
(3) 甲3の段落【0023】の「ある燃料電池が,その出力電圧が約0.4Vより低くなるような場合である・・・第1の動作条件においては,短絡制御部122は,燃料電池10への燃料ガス105の供給を停止するような位置にバルブ104をすると同時に,電気的スイッチ124を閉鎖電気状態にし,こうすることにより,負の水和降下現象が発生したときに起こるであろう,燃料電池10への加熱に関連した損傷が生じることを実質的に防止するために,アノード52からカソード53への電流を短絡するものである」との記載は, 「電気的スイッチ124を閉鎖電気状態に」するとの原因によって,負の水和降下減少が発生したときに起こるであろう, 「燃料電池10への加熱に関連した損傷が生じることを実質的に防止するために,アノード52からカソード53への電流を短絡する」との結果が得られることが述べられているとみるべきこと等に照らし,短絡制御部122が,@燃料電池10への燃料ガス105の供給を停止するような位置にバルブ104をすることと,A電気的スイッチ124を閉鎖電気状態にし,こうすることにより,負の水和降下現象が発生したときに起こるであろう,燃料電池10への加熱に関連した損傷が生じることを実質的に防止するために,アノード52からカソード53への電流を短絡するものであることが並列的に記載されているもの「負の水和降下現象」 ( という部分は,専ら上記Aの部分に関連するものである。)と理解すべきである。
2 本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定の誤り (1) 「第1の整流器」に係る誤り 次のとおり,引用発明の「電界効果トランジスタ」は,本願発明の「第1の整流器」に相当せず, 「第1の整流器」に係る本件審決の一致点の認定には,誤りがある。
ア(ア) 整流器が電流を一方向にだけ流す(整流)作用を有する素子をいうのに対し,電界効果トランジスタは,ゲート電圧に応じてソース・ドレイン間のオン・オフを切り替えるもので,どのように使用するかによって,整流器として動作する場合もあれば,そうでない場合もある。
この点,電界効果トランジスタのゲートに正の電位を供給すると,それまでP型であった部分の一部がN型に変わり,ドレインとソースの間に連続的にN型半導体が構成され,ドレインからソースにも,ソースからドレインにも,どちらの方向にも電流が流れるのであり,電界効果トランジスタを電流制御素子としてゲート駆動してオン・オフ制御する場合には,整流器としての機能は予定されていない。
(イ) 引用発明では,燃料電池のアノード・カソード間電圧が0.4Vを下回るときに電界効果トランジスタをオンとするものであるところ,甲3の【図3】に示される電界効果トランジスタ(nチャネルMOSFET)においては,燃料電池10のカソード53に接続されたドレイン端子から燃料電池10のアノード52に接続されたソース端子の間の電圧が0.4Vを下回るときにゲートに制御信号を供給して電界効果トランジスタをオンにして,ドレイン端子からソース端子へと(同図の上側から下側の方向に)電流を流す。すなわち,燃料電池10の出力電圧が下がってきて0.4Vになったことを電圧センサが検出して電界効果トランジスタ124のゲートにオン信号を供給してそのドレイン及びソース間をオンにし,燃料電池10のカソード53及びアノード52の間を短絡させるとき,燃料電池10の出力電圧は0.4Vで,カソード53の電位の方がアノード52の電位に対して0.4Vだけ高いから,電流はカソード53から電界効果トランジスタ124のドレイン・ソース間を通じてアノード52に流れる。
それによって,電界効果トランジスタの電圧がゼロに近づいていき,わずかにマイナスになると,ソース端子とドレイン端子との間の寄生ダイオード(ボディーダ イオード,内部ダイオード)が順方向になり,ソース端子からドレイン端子へと(同図の下側から上側の方向に)電流が流れる。例えば,直列に接続された他の燃料電池の出力電圧が上昇したときには,電界効果トランジスタ124には,ソースからドレインに電流が流れるのである。
このように,引用発明の電界効果トランジスタは,一方向でなく,双方向に電流を流すものであって,整流器として機能することはない。電界効果トランジスタは,ゲートがオン駆動されないときには整流器として機能する可能性があるが,引用発明の構成では,そのような場合は想定されない。甲3には,引用発明の電界効果トランジスタが整流器として用いられることについて,何ら記載も示唆もない。
イ また,引用発明の電界効果トランジスタは,上記のとおり,ドレイン(燃料電池10のカソード53側)からソース(燃料電池10のアノード52側)へ流れる電流(甲3の【図3】の上側から下側に流れる電流)をオン・オフするのに対し,本願発明の整流器(ダイオード108)では,アノード(燃料電池スタック104のアノード側)からカソード(燃料電池スタック104のカソード側)に(本願明細書の【図1】の下側から上側に)電流が流れる。
このように,引用発明の電界効果トランジスタと本願発明の整流器とでは,流れる電流の向きが逆になっており,それらの作用効果は全く異なっている。すなわち,本願発明では,本願明細書の【図1】の下側から上側に整流器106を電流が流れ,他の燃料電池スタックからの電流を整流器(ダイオード108)でバイパスするのに対し,引用発明では,甲3の【図3】の上側から下側に電界効果トランジスタを電流が流れ,燃料電池のカソードからアノードに電流をバイパスするものである。
ウ 被告は,本願の特許請求の範囲の請求項1では,「第1の整流器」について,電流の流れる方向や素子の種類について何ら特定されていないと主張するが,「前記第1の燃料電池スタックと並列の,第1の整流器」が第1の燃料電池スタックのカソードからアノードに順方向電流を流す場合には,常時,第1の燃料電池スタックが短絡されて,有効に動作することはないことを考慮すると,第1の整流器が第 1の燃料電池スタックのアノードからカソードに順方向電流を流すことは明らかである。
エ なお,甲3の【図3】では,電界効果トランジスタ124のほかにダイオード127も燃料電池10に並列に接続されているが,電界効果トランジスタ124がオンになっているときに,ダイオード127は動作しない。すなわち,ダイオード127のアノード(同図の下側)がそのカソード(同図の上側)より高くなっていく場合には,電位が高いダイオード127のアノードに接続された電界効果トランジスタ124のソース(同図の下側)から,電位が低いダイオード127のカソードに接続された電界効果トランジスタ124のドレインに,その電位差に応じて電流が流れる(図の下側から上側に流れる。。ダイオード127は,順方向電圧降 )下分,ダイオード127のアノード(図の下側)がそのカソード(図の上側)より高くなければ,オンにならないところ,その前に電界効果トランジスタ124を介して電流が流れ,ダイオード127の両端電圧はほぼゼロになり,上昇することがなくなるため,ダイオード127がオンになることはない。
(2) 「制御装置」に係る誤り 次のとおり,引用発明の「短絡制御回路」は,本願発明の「制御装置」に相当せず,「制御装置」に係る本件審決の一致点の認定には誤りがある。
ア(ア) 前記1のとおり,引用発明の「短絡制御回路」は, 「燃料電池の負の水和降下現象を防止するため」のものではなく, 「燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するため」のものでもない。目的(特定の目的の有無)が相違する以上,引用発明の「前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」と,本願発明の「前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記第1の燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように構成される」とは,内容を異にするものと推定される。
(イ) 上記に関し,「再水和」は,「水和レベルを増加させる」ことであるところ,本願発明も引用発明も,水蒸気の強制供給による水分供給を想定しておらず,水素 と空気(酸素)との燃料電池反応による発電によって燃料電池のカソード(正極)に生じる水を利用して再水和を行うものである。
その上で,本願発明は,本願明細書の【図7】及び【図9】に示すように,燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔において,空気流動を抑えて,燃料電池スタック104に流れていた電流の一部を,少なくとも発電電流を含むスタック電流を維持したままで整流器108に迂回させ,発電による水分補給を維持しつつ,内部抵抗による発熱を抑え,もって水和レベルを向上させる。このように,本願発明は,燃料電池発電により生成する水を用いて水和レベルを上昇させるものである。本願発明では,空気の流動を調整するだけで,空気は依然として燃料電池スタックに供給されて発電化学反応が行われて水が生成され続けるから,再加水が可能である。
これに対し, 「負の水和降下現象」とは,水和レベルが小さくなることにより発熱が生じ,その発熱により更に水和レベルが小さくなり,これが繰り返されて相乗的に水和レベルが小さくなることであるから,引用発明の「負の水和降下現象を防止」とは,水和レベルが減少することを防止することである。そして,引用発明の構成においては, 「前記燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」ので,それ以降は,燃料ガスが供給停止され,発電が中止され,水が生成されず,再加水は不可能であり,水和のレベルは大きくならない。したがって,引用発明の負の水和降下現象の防止は,水和レベルの減少を抑えることにとどまり,水和レベルを増大させる再水和とは異なるものである。
以上のように,本願発明の再水和が高分子イオン交換膜の水和レベルを大きくするのに対し,引用発明の負の水和降下現象の防止は,水和レベルの減少を抑えるにとどまり,水和レベルを増大させないもので,両者は全く異なる。したがって, 「燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するため」という点で本願発明と引用発明が一致しているとの本件審決の判断は誤りである。水和レベル を上昇させることは,燃料電池(燃料電池スタック)にとって,適切な発電動作に必須のものであり,上記誤りは看過し得ない。
(ウ) 被告は,引用発明においては,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合に,燃料電池内の発熱を抑えていることから, 「燃料ガスによってイオン交換膜のアノード電極側から水が電池外へ取り去られること」というイオン交換膜の含水量が減少する原因の一つを取り除くことで,燃料ガスの供給を停止しない場合に比べ,薄膜電極アセンブリの含水量の減少量が小さくなっていると主張する。しかし,燃料ガスを供給しない限り,水素ガスと空気との間の燃料電池反応が起こらず,水が生成されず,再水和が行われないから,燃料ガスの供給の停止によって負の水和降下現象が緩和されることはあっても改善されることはなく,燃料電池の特性が改善されることはなく,燃料ガスの供給の停止に意味はない。
また,被告は,引用発明においては,上記のように燃料電池内の発熱を抑えていることから,「電気化学的反応や導電中に生成される高温が原因で起こる水の蒸発」というイオン交換膜の含水量が減少する原因の一つを取り除くことで,燃料ガスの供給を停止し,電気的スイッチ124を閉鎖電気状態(オン状態)にして短絡させることを行わない場合に比べ,薄膜電極アセンブリの含水量の減少量が小さくなっていると主張する。しかし,発熱量が抑えられるのは,燃料ガスの供給を停止するからではないから,上記主張は合理的でない。
さらに,被告は,引用発明においては,燃料電池内の発熱が収まることで,それまでの発電で生じた水や空気中に含まれる水蒸気が薄膜電極アセンブリに水分として保持されるようになって薄膜電極アセンブリの水和レベルが増加するとも主張するが,薄膜電極アセンブリの方が,冷却も行う空気より高温であるため,空気中の水蒸気が薄膜電極アセンブリに凝結することはない。そして,燃料ガスの供給停止により,発電は行われず,水は生じない。さらに, 「それまでの発電で生じた水」は,燃料ガスの供給の停止により新たに生じる現象ではない。したがって,被告の上記主張も合理的でない。
他方で,被告は,本願の実施例について,水素ガスと空気の反応による発電を停止させている点で引用発明と変わりがないと主張するが,本願の実施例では,空気流動がゼロになっても,電池を包囲する静的空気から酸素が電池に供給され,さほど高くないレベルであっても,水素と酸素とが反応して水を形成する燃料電池反応が行われており,発電を停止させていない。この点は,本願明細書の段落【0052】で説明されている。
イ 引用発明の「短絡制御回路」は, 「前記燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合, ・・・前記燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」もので,FETのソース・ドレイン間をオンに制御するものである。これに対し,本願発明の「制御装置」 「前記第1の燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を は,提供するために, ・・・前記第1の燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように構成される」ものであって,「短絡制御」を行うものではない。
ウ 引用発明の「供給を停止する」動作は,供給の停止・再開を定期的に繰り返すものではない。甲3の【図4】においては, 「欠陥は重大か?」を判定し,重大なときに「燃料電池への水素供給遮断及び当該電池の両端を永久的に短絡」するとされており,本願発明におけるように,繰り返し「流動を調節する」ものではない。
なお,引用発明の「短絡制御回路」が本願発明の「制御装置」の動作に相当する動作を行うことについて,甲3には何ら記載も示唆もない。
エ 引用発明の「前記燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合」は,「ガス供給を停止する」動作を行う契機となる条件であるのに対し,本願発明の「定期的に」は,空気流動の調節の態様・動作パラメータとなる条件であり,両者の「所定条件」は,内容を全く異にする。
3 相違点1に係る容易想到性の判断の誤り (1) 前記1のとおり,引用発明の「短絡制御回路」は, 「燃料電池の負の水和降下現象を防止するため」のものではなく,引用発明において,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合に制御装置を動作させるのは,燃料電池セルの保湿レ ベルを調整するためではない。
したがって,保湿レベルを調整する技術である甲5の技術思想を参照して, 「引用発明において,制御装置を燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合に動作させることに換えて定期的に気体流動を調節することは当業者が適宜なし得ること」であるとは認められない。
(2) 本願発明の「前記第1の燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために,定期的に, ・・・前記第1の燃料電池スタックを通る空気流動を調節する」とは,制御回路が,繰り返し,空気流を低減して「前記第1の燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供する」ことであり,定期的にメンテナンスを行うこととは全く異なる。
仮に,制御回路が繰り返し空気流を低減する動作がメンテナンスの一つであったとしても,また,メンテナンスを行うことが一般的であるとしても,メンテナンスとして制御回路が繰り返し空気流を低減する動作を採用することは,当業者が適宜なし得ることとは認められない。
(3) したがって,本件審決の相違点1に係る容易想到性の判断には誤りがある。
(4) 被告の主張について ア 被告は,甲3には,第1の動作条件として, 「約0.4Vより低い範囲に低下する場合」に換えて他のものを用いることができることが示唆されていると主張するが,そのような示唆があるからといって,引用発明において,制御装置を上記の場合に動作させることに換えて,定期的に」 「 気体流動を調節することとすることが,当業者において適宜なし得ることであるとはいえない。そもそも,そのように置き換える動機付けはない。また,本願発明は,引用発明,その他の公知技術と作用・効果が全く異なるものである。
イ 被告は,上記アに関連して,燃料電池の実際の出力電圧の変化にかかわらず,一定期間ごとに保湿レベルを増加させる制御を行う構成が周知の事項であると主張し,甲4及び甲5の記載を指摘する。
しかし,甲4は,起動後所定時間が経過した場合に,そのままでは乾燥して復旧が困難であるから,所定時間経過後,タイマーを用いて出力特性回復動作(負荷電流を増大,空気供給を抑制)を行うもので,この間は電力供給ができないものであり(甲4の段落【0128】,定期的に空気流動を調整することについて甲4に記 )載や示唆はない。この点,甲4の【要約】及び段落【0130】は,タイマーに基づいて空気流量を制御することを開示するものであり,このような動作が定期的に繰り返されることについて記載や示唆はない。
また,甲5の【要約】及び段落【0026】によると,加湿時間中は,燃料電池スタック31から外部負荷41に電力は供給されず(電力蓄積部39から外部負荷41に電流が供給される。,燃料電池スタック31自体は待機状態である。これに )対して,本願発明の燃料電池スタック104は,再水和間隔に少なくとも発電電流を外部に供給するのであり,甲5記載の燃料電池システムの発明とは全く異なっている。
4 相違点2に係る容易想到性の判断の誤り (1) 引用発明において, 「燃料ガスの供給を停止」するのは,燃料電池の再水和の効率を上げるためではない。「燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる」と,当該燃料電池と並列接続された電界効果トランジスタがオンになって,当該燃料電池は燃料電池システムから電気的に取り除かれるから,当該燃料電池の内部抵抗を小さくするために水和を維持すること自体不要となる。それゆえ,引用発明において,再水和の効率を上げるために空気の供給を停止することは,意味のないことである(なお,燃料電池システムから電気的に取り除かれた燃料電池には,もはや空気流を供給する必要がないが,そのまま供給し続けても何ら支障は生じない。。
) (2) したがって,再水和の効率を上げるために,空気の供給を停止することを当業者が容易に考えられるものとはいえず,本件審決の相違点2に係る容易想到性の判断には誤りがある。
(3) 被告は,引用発明の目的は,薄膜電極アセンブリの水和損失によって引き起 こされる燃料電池の内部要素への損傷を防ぐことであるから,引用発明において,薄膜電極アセンブリの乾燥を防ぐために,燃料電池への空気の供給を停止するようにする動機は十分認められると主張する。
しかし,本願発明における空気の供給の抑制は,発電を継続して水を供給しつつ,水の蒸発を抑えて,再加湿を行うものであり,引用発明における燃料ガスの供給の停止については,燃料ガスによる水の蒸発があるとしても,水和損失を緩和するのがせいぜいであり,燃料電池の負の水和降下現象を防止するものではなく,ましてや燃料電池の再加湿を行うものではない。水和損失を緩和することと再水和を行うこととは全く別のことであり,水和損失の緩和という目的のために採用される燃料ガスの供給の停止に換えて,それと異なる再水和を行うという目的を実現するための手段である空気の流動を調整する構成を採用することは,困難である。
さらに,被告は,より早く発電を停止させるために,燃料電池への燃料ガスの供給を停止するとともに,燃料電池への空気の供給を停止するようにする動機付けが十分認められると主張するが,燃料電池への空気の供給を停止しても,水素と静止状態の酸素(静止状態の空気)とが反応して発電が行われ,水が生成されるから,上記主張は誤っている。
5 本願発明の格別な効果の看過 (1) 本願発明の構成は,制御回路によって,第1の燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために,定期的に,第1の燃料電池スタックを通る空気流動を調節することにより,繰り返し,空気流量を減少させ,水和を増強させて,燃料電池スタックの内部抵抗を減少させて,当該燃料電池スタックが正常に動作するようにするものである。その一方で,空気流量の調整周期のうちの空気流量が多い時間では,水和量が減少して燃料電池スタックの内部抵抗が大きくなり,少なくとも二つの燃料電池スタックからなる燃料電池システム全体を流れる電流,当該燃料電池スタックのアノードからカソードに流れる電流により,当該燃料電池スタックのカソード・アノード間に負の電圧が生じようとするけれども,本願 発明の構成によると,上記電流が整流器を介して流れ,内部抵抗が大きな燃料電池スタックには流れないようになり,当該燃料電池が故障するのを防止する。
このように,本願発明によると,繰り返し,燃料電池スタックの空気流量を増減調整して,減少空気流のときには水和を増進して燃料電池スタックの内部抵抗を小さく抑える一方,空気流が比較的大きく,水和が減少して燃料電池スタックの内部抵抗が大きくなったとしても,整流器により,燃料電池スタックのアノード・カソード間を導通させて,燃料電池スタックに不要な電流が供給されないようにすることができる。このようにして,水和を増強するとともに,燃料電池スタックの内部抵抗の増大時には燃料電池スタックに並列接続された整流器を介して電流が流れ,燃料電池スタックには電流が流れないようにして燃料電池スタックの故障を回避することができる。
本願発明には,空気流量を繰り返し増減させる制御回路と簡単な整流器とを用いるだけで,水和を増強させ,その際に,燃料電池スタックを損傷させることがないという格別な効果があり,本願発明は,甲3〜5のいずれにも記載も示唆もない構成により,そのような格別な効果を実現するものである。
(2) 上記に関し,燃料電池スタック104に流れていた電流が,再水和間隔に,燃料電池スタック104を流れるスタック電流と整流器108を流れる迂回電流に分かれることは,甲3の【図7】及び【図9】の記載から明らかであり,整流器が順方向に駆動されるようになると,これによって,発電による水分補給を維持しつつ,内部抵抗による発熱を抑え,もって,水和レベルを向上させることができるのである。
(3) したがって,本願発明の効果は,甲3及び4の記載及び周知の事項から予測できるものではないから,この点においても,本件審決の判断には誤りがある。
被告の主張
1 引用発明の認定について 次のとおり,本件審決における引用発明の認定に誤りはない。
(1) 甲3の段落【0001】【0005】及び【0007】の記載から,引用発 ,明の目的は,薄膜電極アセンブリの水和損失によって引き起こされる燃料電池の内部要素への損傷を防ぐとともに,電池の電気パワー出力を増加させるためにも利用することができる電気回路を有した燃料電池を提供することと認められる。
その上で,同【0005】及び【0023】の記載からして,同【0023】にいう「負の水和降下現象」とは,薄膜電極アセンブリの水分が少なくなると,燃料電池の電気抵抗が増加し,その結果,より多くの熱が発生し,この増加した熱が更に薄膜電極アセンブリを乾燥させることで,ますます薄膜電極アセンブリの水分が少なくなり,上記事象が繰り返されることで,継続して薄膜電極アセンブリの水分が少なくなるという悪循環を繰り返す現象のことを指すものと解される。
(2) 燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合に,燃料電池への燃料ガスの供給を停止すると,燃料電池の発電が停止し,出力電圧が低下する。燃料電池の発電が停止すると,それまで発電によって発生していた熱が止まるので,燃料電池内の熱の発生を抑制することができ,燃料電池内で発生する熱に起因する薄膜電極アセンブリの水分が継続して少なくなるという悪循環を抑制することができるので,負の水和降下現象を防止することになる。
さらに,甲3の段落【0023】の記載によると, 「燃料電池10への燃料ガス105の供給を停止する」ことは,燃料電池の負の水和降下減少が発生したときに起こるであろう,燃料電池への加熱に関連した損傷が生じることを実質的に防止するための一連の第1の動作に含まれるものである。そして,同段落の「燃料電池10への加熱に関連した損傷が生じることを実質的に防止するために,アノード52からカソード53への電流を短絡する」という記載からも分かるように,電気的スイッチ124を閉鎖電気状態(オン状態)にして短絡させると,出力が低下した燃料電池の電圧が低下するに従い,燃料電池を流れていた電流が燃料電池を迂回するように流れるようになり,燃料電池の電圧がゼロになると,燃料電池を流れる電流はゼロとなって,電流が,燃料電池内部の増加した状態の電気抵抗を流れなくなるの で,電気抵抗による熱の発生を抑制することができ,負の水和降下現象を防止することになる。
(3) 上記(2)のように,燃料電池10への燃料ガス105の供給を停止すること及び電気的スイッチ124を閉鎖電気状態(オン状態)にして短絡させることの両者によって,負の水和降下現象を防止することができるものであるから,甲3には,短絡制御部が, 「燃料電池の負の水和降下現象を防止するために」, 「燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合」「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」 ,ことが記載されているといえる。
2 本願発明と引用発明の一致点及び相違点の認定について 次のとおり,原告の指摘する点のいずれについても,本件審決の認定に誤りはない。
(1) 「第1の整流器」について ア 次のとおり,「第1の整流器」についての本件審決の認定に誤りはない。
(ア) 本願発明の第1の整流器について 本願の特許請求の範囲の請求項1では,第1の整流器について,電流の流れる方向や素子の種類について何ら特定がされていない。この点,本願明細書を参照すると,本願発明の第1の整流器を流れる電流は,第1の燃料電池スタック102のアノード側からカソード側(甲3の【図1】の下側から上側)に流れるものである。
(イ) 引用発明の電界効果トランジスタについて a 甲3の【図3】には,電界効果トランジスタとして示されている電気的スイッチ124が,アノード52側からカソード53側(同図の下側から上側)に電流が流れる寄生ダイオードを有していることが記載されており,電気的スイッチ124を開放電気状態(オフ状態)にしたとき,電界効果トランジスタは,アノード52側からカソード53側に電流を流す整流器として機能することが明らかである。
b(a) また,甲3の段落【0023】の記載からして,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合に電気的スイッチ124を閉鎖電気状態(オン状態)に して電流を短絡したときにおいても,電流は,電界効果トランジスタをアノード52側からカソード53側に流れるものと認められる。
(b) この点,乙13(特開2003-163017号公報)の段落【0045】,【0046】及び【図6】 (第5実施形態)には,電気的に直列に接続された燃料電池セルスタック1aに対し,並列に接続されたダイオード3と,継電手段としてのMOSFET19を備え,MOSFET19は継電開始信号をゲートが受信すると,ソース・ドレイン間に電流を流すように動作し,対応する燃料電池セルスタック1aを短絡するような電流経路を形成する構成が記載されているところ,同【図6】で示される電気回路は,甲3の【図3】で示される電気回路と同等の構成である。
そして,乙13の段落【0048】【0049】及び【0051】の記載による ,と,乙13に記載されている電気回路は,燃料電池セルスタック1aが故障して,所定の電圧値だけ発電できなくなると,電流は燃料電池セルスタック1aではなくダイオード3のアノード側からカソード側(乙13の【図6】の下側から上側)へ流れ,MOSFET19のソース・ドレイン間を電流が通過するように新たな電流経路が形成されると,電流はダイオード3から上記電流経路を流れるようになり,上記電流経路を流れる電流の向きはダイオード3を流れる電流の向きと同じであることは明らかであるから,電流は,MOSFET19のソース・ドレイン間をアノード側からカソード側(同図の下側から上側)へ流れる。
また,乙13には,上記第5実施形態だけでなく,燃料電池セルスタック1aと並列に接続されたダイオード3を備えた第1実施形態も記載されているが(乙13の段落【0016】【0020】【図1】,上記第1実施形態と上記第5実施形態 , , )は,燃料電池セルスタック1aに対する迂回路の構成要素が異なるだけであり,上記第5実施形態のMOSFET19及びダイオード3は,上記第1実施形態のダイオード3と同等の機能を備えているから,MOSFET19を流れる電流は,上記第1実施形態のダイオード3と同様にアノード側からカソード側へ流れるといえる。
そうすると,乙13に記載される電気回路と同様に,甲3に記載される電気回路 においても,電界効果トランジスタを閉鎖電気状態(オン状態)にした場合,電流は,電界効果トランジスタ124(MOSFET)のアノード側からカソード側(甲3の【図3】の下側から上側)へ流れるはずである。
(c) また,燃料電池の電圧が所定の値を下回ったときに,燃料電池に逆電流が流れないようにするために,当該燃料電池を迂回する経路をMOSFETで形成して,電圧が低下した燃料電池以外の燃料電池で継続して電力を供給する燃料電池システムは,周知の技術である(例えば,乙13の段落【0003】〜【0005】【0 ,008】【0044】〜【0051】及び【図6】 , ,乙14[特開2004-303621号公報]の段落【0004】〜【0006】【0024】〜【0026】【0 , ,030】【0031】【図1】【図2】及び【図4】。したがって,原告が主張す , , , )るように,電界効果トランジスタにおいてソース端子からドレイン端子の方向(甲3の【図3】の上側から下側)に電流が流れるのではなく,電流は短絡した迂回路をアノード側からカソード側(同図の下側から上側)に流れていると考えるのが自然である。
(d) 甲3の段落【0021】の記載からすると,短絡制御部122が故障し,第1動作条件に対して短絡制御回路120を作動させることができないときに,バイパス電気回路が短絡制御回路120と等価の働きをするものと認められるところ,バイパス電気回路には,電流をアノード52側からカソード53側に流すダイオード127が設けられている。このことからも,短絡制御回路120に設けられている電界効果トランジスタは,電流をアノード52側からカソード53側(甲3の【図3】の下側から上側)に流す作用を奏するものと認められる。
c したがって,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合において,引用発明の電界効果トランジスタは,閉鎖電気状態(オン状態),開放電気状態(オフ状態)のいずれであっても,電流をアノード52側からカソード53側に流す整流器として機能するものと認められ,その電流の向きは,本願発明の第1の整流器を流れる電流の向きと同じであるから,引用発明の電界効果トランジスタは,本願 発明の第1の整流器と同等の作用効果を奏するものと認められる。
d 加えて,本願明細書の段落【0012】及び【0096】の記載から,本願発明の第1の整流器は,電界効果トランジスタ,MOSFETなどの能動的に制御されたスイッチを含むものと認められる。同【0105】の記載において,本願発明の第1の整流器については,いわゆる従来のダイオードよりも電界効果トランジスタ,MOSFETなどの能動的に制御されたスイッチの方が好ましいことが示唆されている。したがって,このことからも,引用発明の電界効果トランジスタは,本願発明の第1の整流器に相当するといえる。
イ 仮に,引用発明の電界効果トランジスタが本願発明の第1の整流器に相当するという対比が誤りであるとしても,甲3には,電流をアノード52側からカソード53側にのみ流すダイオード127が記載されており(甲3の段落【0021】及び【図3】, ) このダイオード127が,本願発明の第1の整流器に相当するから,上記誤りは結論に影響するものではない。
(2) 「制御装置」について 次のとおり,「制御装置」についての本件審決の認定に誤りはない。
ア(ア) 一般に,燃料電池において,イオン交換膜の含水量が減少する原因として,@燃料ガスによってイオン交換膜のアノード電極側から水が電池外へ取り去られること,A空気(酸化剤ガス)によってイオン交換膜のカソード側から水が電池外へ取り去られること及びB電気化学的反応や導電中に生成される高温が原因で起こる水の蒸発によることが知られている(乙10[特開平11-45733号公報]の段落【0005】〜【0008】,乙11[特表2004-516612号公報]の段落【0004】参照。。
) 引用発明においては,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合に,燃料電池への燃料ガスの供給を停止することから,上記@の原因を取り除くことで,燃料ガスの供給を停止しない場合に比べて,薄膜電極アセンブリの含水量の減少量が小さくなる。
また,前記1(2)のように,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合に,燃料電池への燃料ガスの供給を停止し,電気的スイッチ124を閉鎖電気状態(オン状態)にして短絡させると,燃料電池内の熱の発生を抑制することができ,負の水和降下現象を防止する。すなわち,引用発明においては,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合に,燃料電池内の発熱を抑え,上記Bの原因を取り除くことで,燃料ガスの供給を停止し,電気的スイッチ124を閉鎖電気状態(オン状態)にして短絡させることを行わない場合に比べて,薄膜電極アセンブリの含水量の減少量が小さくなる。また,燃料電池内の発熱が収まることで,それまでの発電で生じた水や空気中に含まれる水蒸気が薄膜電極アセンブリに水分として保持されるようになり,薄膜電極アセンブリの水和レベルが増加することは明らかである。
(イ) 本願発明について,本願明細書からは,具体的にどのようなメカニズムにより水和レベルが増加しているか明確に把握することはできないが,実施例(本件明細書の段落【0046】 【0055】 〜 及び【図3】 を参照すると, ) 本願発明では,再水和間隔は,時間t1で開始するものであり,時間t1で,第2の燃料電池スタックへの空気流動302をアクティブ値からゼロまで減少させ,空気流動302の除去後に,第2の燃料電池スタックの出力電圧306は,徐々に減少し,時間t2でゼロに達する。そして,時間t2において,出力電圧306がゼロに達したとき,第2の燃料電池スタックを通る電流308は減少し始め,時間t3において,電流308は最小値に達し,その後,一定のままである。第2の整流器を通る迂回電流310については,時間t2で増加し始め,時間t3で最大値まで増加している。
すなわち,本願発明も,再水和間隔が継続している間(時間t1以降),燃料電池スタックを通る空気流動をゼロにすることで,燃料電池の出力電圧が低下し,それに伴い,燃料電池を通る電流は減少してその後一定となり,それとともに,負荷を通る残りの電流は燃料電池を迂回している。
そうすると,本願の実施例で実行される制御と甲3の燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合において実行される制御は,燃料電池に対して,空気流動を ゼロに減少するか,燃料ガスの供給をゼロにするかにおいては異なるものの,どちらにおいても,水素ガスと空気との反応による発電を停止させていることには変わりがなく,それ以外の制御については,同様の制御を行っている。それゆえ,本願発明が,上記実施例で実行される制御によって,第1の燃料電池スタックの水和レベルを増加させるのであれば,引用発明も同様に,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合において実行される制御によって,燃料電池の水和レベルを増加させるということができる。
(ウ) したがって,負の水和降下現象を防止すると,その結果として,薄膜電極アセンブリの水和レベルが増加することは明らかであるから,「負の水和降下現象を防止する」とは,薄膜電極アセンブリの水和レベルを増加させるともいうことができ,引用発明の「前記燃料電池の負の水和降下現象を防止するために」は,本願発明の「前記第1の燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」に相当するから,引用発明の「短絡制御回路」の目的と本願発明の「制御装置」の目的が異なるものとは認められない。
イ 引用発明の「燃料ガスの供給」と本願発明の「空気流動」とは,ともに「気体流動」という上位概念で共通し,引用発明における「(燃料ガスの供給を)停止する」は,その作用に照らすと,(空気流動を)調節する」に含まれる。この点,本 「願明細書の段落【0010】には, 「第1の燃料電池スタックを通る空気流動の量をゼロまで減少させ」ることが記載されており,本願発明の「流動を調整する」は,供給を停止する動作も含むものである。また,甲3の段落【0023】の記載によると,引用発明も燃料ガスの供給を停止した後再開するものであるが,「定期的に」空気流動を調節する点については相違点1として認定しており,本件審決の判断に誤りはない。
ウ 引用発明が, 「燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合」という出力電圧の値を契機として燃料電池への燃料ガスの供給を停止するものである一方,本願発明は, 「定期的に」という一定時間の経過を契機として第1の燃料電池スタッ クを通る空気流動を調節するものである。これらは,制御を行う契機となるパラメータ(電圧値と経過時間)においては異なるものの,当該パラメータがある閾値に到達した時点,すなわち「所定条件」を満たした時点で制御を行う点で一致する。
そして,所定条件の具体的な条件の違いについては,相違点1として認定しており,本件審決の判断に誤りはない。
エ 本願発明の制御装置が短絡制御を行わないという点は,本願の特許請求の範囲の請求項1に記載されておらず,上記の点に係る原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。また,引用発明の「短絡制御回路」は,実行する制御内容については異なるものの,本願発明の「第1の燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」に相当する「燃料電池の負の水和降下現象を防止するために」制御を実行するという点において,本願発明の制御装置に相当するものであって,実行する制御内容については相違点2として認定しており,本件審決の判断に誤りはない。
3 相違点1に係る容易想到性について (1) 一般に, 「メンテナンス」とは,機械などにおいては,正常な状態が維持されるようにすることを意味する語として用いられる。英語のメンテナンス(maintenance)は, 「維持」「持続」「保守」「保全」などの意味をもつ語であり, , , ,特に,機械や建物,コンピュータシステムなどの設備について,故障や不具合が生じることなく正常な状態が維持されるように点検したり手入れをしたりすることを指すことが多い(乙12)。そして,機器のメンテナンスには,当該機器の出力がメンテナンスが必要な閾値以上変化した際に行う方法と,過去のデータに基づいて,当該機器の出力がメンテナンスが必要な閾値以上変化するであろう使用頻度,使用時間が経過した際に,実際の出力が閾値以上変化しているか否かにかかわらず行う方法が一般的である。
(2) 燃料電池の技術分野において,燃料電池の電解質膜の保湿レベルを適切に保ち正常な状態を維持することは,技術常識である(例えば,甲4の段落【0004】, 甲5の段落【0003】,乙10の段落【0005】 。
) そして,そのための技術のうち,燃料電池に供給する気体流量を調節することによって燃料電池セルの保湿レベルを調節する技術に関して,燃料電池の出力電圧がある閾値以上変化した場合に保湿レベルを増加させる制御を行う構成は,周知の事項である(例えば,甲4の段落【0094】及び【0095】。また,燃料電池の )実際の出力電圧の変化に関わらず,一定期間ごとに(「繰り返し」になることは明らかである。,保湿レベルを増加させる制御を行う構成も,周知の事項である(例え )ば,甲4の段落【0130】,甲5の段落【0030】及び【0031】。
) さらに,上記二つの周知の事項における保湿レベルを増加させる制御を行う条件(契機)が互いに置換可能であることも,当業者にとって明らかである(例えば,甲4の段落【0130】。
) (3) 甲3の段落【0005】には,薄膜電極アセンブリの水分が少なくなることで燃料電池内部に損傷が生じることが従来の技術の問題点として示されており,前記1のとおり,引用発明は,薄膜電極アセンブリの水分が少なくなるという負の水和降下現象を防止することを目的として,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合に,燃料電池への燃料ガスの供給を停止する技術である。ここで,薄膜電極アセンブリの水分が少なくなるという負の水和降下現象を防止すること,すなわち,薄膜電極アセンブリの水分を減らさないようにすることは,電解質膜の保湿レベルを適切に保つことであるといえる。したがって,上記(2)の技術常識を踏まえると,引用発明は,薄膜電極アセンブリの水分を減らさないようにすることに加え,薄膜電極アセンブリの水分を適切な量に調整することの動機付けを十分に備えていると認められる。
また,甲3の段落【0024】には,第1の動作条件として, 「約0.4Vより低い範囲に低下する場合」に換えて他のものを用いることができることが示唆されている。
(4) 以上によると,引用発明において,周知の事項を考慮して,制御装置を「約 0.4Vより低い範囲に低下する場合」に動作させることに換えて,一定期間ごと,すなわち, 「定期的に」気体流動を調節することとすることは,当業者が適宜なし得ることである。
4 相違点2に係る容易想到性について (1) 甲4には, 「燃料電池本体171の出力電圧が低下した状態では,空気供給コンプレッサー176の作動を一旦停止させて,水分の蒸発を止めると共に,電解質膜に生成水を速やかに浸透させ,水分の蒸発抑制や生成水の電解質膜への浸透によって発電性能を迅速に回復させること。」が記載されている。
(2) 甲3の段落【0018】に記載されているように,引用発明はカソード側に空気が供給される構成を備えるものであるところ,燃料電池に空気を供給すると電解質膜の水分が低下して乾燥を招くことは,技術常識である(例えば,甲4の段落【0005】,乙10の段落【0005】〜【0008】。
) (3) 前記1のように,引用発明の目的は,薄膜電極アセンブリの水和損失によって引き起こされる燃料電池の内部要素への損傷を防ぐことであるから,引用発明には,薄膜電極アセンブリの乾燥を防ぐために,燃料電池への空気の供給を停止するようにする動機付けが十分に認められる。
また,引用発明は,燃料電池への燃料ガスの供給を停止することで発電を停止させ,負の水和降下現象を防止するものと考えられることから,より早く発電を停止させるために,燃料電池への燃料ガスの供給を停止するとともに,燃料電池への空気の供給を停止するようにする動機付けも十分に認められる。
(4) したがって,引用発明において,甲4に記載されたように空気の供給を停止するようにすることは,当業者が容易に考えられることである。
5 本願発明の効果について (1) 前記3(2)のとおり,燃料電池に供給する気体流量を調節することによって燃料電池セルの保湿レベルを調節する技術において,燃料電池の実際の出力電圧の変化に関わらず,一定期間ごとに(繰り返し),保湿レベルを増加させる制御を行う 構成は,周知の事項である。原告が主張するとみられる本願発明の効果のうち,繰り返し,燃料電池スタックの空気流量を増減調整して,減少空気流のときに,水和を増進して燃料電池スタックの内部抵抗を小さく抑えるという効果は,上記周知の事項から得られる効果である。
(2) 原告が主張するとみられる本願発明の効果のうち,空気流が比較的大きく,水和が減少して燃料電池スタックの内部抵抗が大きくなったとしても,整流器により,燃料電池スタックのアノード・カソード間を導通させて,燃料電池スタックに不要な電流が供給されないようにして,燃料電池スタックの故障を回避することができるという効果は,引用発明が「それぞれの前記燃料電池のアノードとカソードを電気的に結合する電界効果トランジスタ」を備えることによって,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合に,電界効果トランジスタをオン動作させて,燃料電池のアノード・カソード間を短絡させて,負荷への電流が燃料電池を迂回するようにさせることにより得られる効果である。
(3) なお, 「前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記第1の燃料電池スタックを通る空気流動を調節する」構成による効果は,本願明細書の段落【0039】を参照すると,燃料電池システム上の外部電気負荷の急激な又は過渡の変化の影響を受けることなく制御を実行することができることであると推測されるが,引用発明も,燃料電池システム上の電流需要と独立して制御を行うものであり,上記効果は,引用発明の構成から得られる効果である。
(4) したがって,本願発明の効果は,甲3及び4の記載並びに周知の事項から予測できる効果であって格別のものではない。
当裁判所の判断
1 本願発明について (1) 本願明細書の記載 本願明細書(甲2,乙2)には,発明の詳細な説明として,以下の記載がある。
【技術分野】 【0001】 本開示は,燃料電池システム,より具体的には,水素が燃料電池のアノード側に供給され,酸素が燃料電池のカソード側に供給され,水副産物が燃料電池のカソード側で産生され,そこから除去される,プロトン交換膜型燃料電池に関する。
【背景技術】 【0002】 そのような燃料電池は,合わせて膜/電極接合体(MEA)を備える,2つの多孔質電極によって挟持された,プロトン交換膜(PEM)を備える。MEA自体は,従来, (i)MEAのカソード面に隣接する第1の面を有する,カソード拡散構造(カソードガス拡散層など)と, (ii)MEAのアノード面に隣接する第1の面を有する,アノード拡散構造(アノードガス拡散層など)との間に挟持される。アノード拡散構造の第2の面は,電流収集のための,及びアノード拡散構造の第2の面に水素を分散するための,アノード流体流動フィールド板と接触する。カソード拡散構造の第2の面は,電流収集のための,カソード拡散構造の第2の面に酸素を分散するための,及びMEAから過剰な水を抽出するための,カソード流体流動フィールド板と接触する。アノード及びカソード流体流動フィールド板は従来,それぞれが,反応性ガス(例えば,水素及び酸素)の送達,ならびに排出ガス(例えば,未使用の酸素及び水蒸気)の除去のための個々の拡散構造に隣接する表面中に,流体流動チャネルを有する,剛性,導電性材料を備える。
【0003】 そのような燃料電池の動作において重要な考慮事項は,MEA内の水の管理である。PEM燃料電池の動作中,水素と酸素との間の反応からの生成水は,MEAの触媒部位において形成される。この水は,酸素がMEAのカソード面に輸送されるのと同時に,カソード拡散構造を介してMEAから排出されなければならない。しかしながら,電池の内部電気抵抗が,許容限度内にとどまることを確実にするために,MEAが好適に水和された状態のままであることも重要である。MEA加湿の 制御ができないと,ホットスポット,ならびに潜在的な電池の故障及び/または不十分な電池の性能を引き起こす。
【0004】 水素と酸素との間の燃料電池電気化学反応中の主要な機能は,PEMを介したプロトン移動過程である。プロトン交換過程は,ソリッドステートPEMが十分に水和されたときのみ生じる。不十分な水が存在すると,膜の水抵抗特徴は,プロトン移動過程を制限し,電池の内部抵抗の増加をもたらす。PEMの過飽和によって,過剰な水がMEAの電極部分に「あふれ」 いわゆる三相反応界面へのガスの到達を ,制限する可能性がある。これらの事象の両方が,燃料電池の全体的な性能に悪影響を及ぼす。
【0005】 水は,燃料電池反応の一部としてカソードにおいて産生されるが,全MEAにわたって水分平衡を維持することが不可欠である。乾燥空気が電池に導入される場合,吸気ポート周囲の範囲が他の場所よりも乾燥しているように,膜にわたった不平衡の水分散の生成の傾向がある。最終的に,これは,膜に機械的に圧力をかけ,不均一な電流分布をもたらし得,それらの両方が,早期故障をもたらす。これに対応するために,空気流を,その燃料電池の活性部分への送達前に予め加湿することが既知である。これは,システムの複雑さを増大させ,多くの場合,一部の燃料電池用途に対して非実用的であり得る。
【0006】 開放カソード燃料電池において,カソード流体流動フィールド板は,周囲空気に開放されており,通常,ファンなどの低圧空気源によって補助され,それは,スタック冷却及び酸素供給の二重機能を提供する。これは,非常に単純な燃料電池システムが設計され,通常は加圧カソード及び加湿サブシステムを利用する燃料電池スタックと関連する,大きい寄生損失(すなわち,燃料電池サポートシステムの電力消耗)を回避することが可能である。しかしながら,空気流動の二重の目的(酸素 送達及び空冷の両方に対する)は,空気流動要件における矛盾をもたらす可能性がある。カソード電極にわたって非常に高い化学量論的空気流動が冷却のために必要とされ,周囲条件及びスタック温度に応じて,これは,低い膜の含水量(低い性能をもたらす) または極端な場合には, , 経時的な燃料電池スタックからの継続的な水の純損失をもたらす可能性があり,それは,最終的には,スタックの機能停止をもたらす。これは,スタック電力出力(電流密度)の設定レベルに対して,燃料電池ポリマー膜の含水量と,空気流動による水の除去速度との間で,平衡が達成されるためである。より低い電流,高い空気流動,及びより高温のスタックは,膜の含水量を低下させる傾向があり,逆に,より高い電流,より低い空気流動,より低温のスタックは,膜の含水量を増加させる。
【0007】 国際公開第WO2007/099360号は,燃料電池の水和レベルを増加させるために,再水和間隔中に,燃料電池アセンブリの外部の独立した電流需要に加えて,またはその代わりに,燃料電池スタックから引き出される電流を定期的及び一時的に増加させるための,スタック電力制御装置を有する,電気化学燃料電池アセンブリを開示する。
発明の概要】 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明の第1の態様によると, 第1の燃料電池スタックと, 第1の燃料電池スタックと直列の,第2の燃料電池スタックと, 第1の燃料電池スタックと並列の,第1の整流器と, 第1の燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために,燃料電池システム上の電流需要とは独立して,第1の燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように構成される,制御装置と, を備える,燃料電池システムが提供される。
【0009】 そのような燃料電池システムは,第1の整流器が第1の燃料電池スタックに対する迂回経路を提供するため,再水和間隔中に燃料電池スタックが燃料電池システムから分離されることを必要としない場合がある。燃料電池システムは,第1の燃料電池スタックがより良好に,かつより一貫して調整されることを可能にすることができ,それは,その性能及び寿命を改善することができる。また,第1の燃料電池スタックの信頼性は増すことができ,故障の数は低減され得る。
【0010】 制御装置は,定期的に第1の燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように構成されてもよい。制御装置は,アクティブ値から,第1の燃料電池スタックを通る空気流動の量を定期的に減少させ,次いで,所定の期間後,第1の燃料電池スタックを通る空気流動の量を増加させ,アクティブ値に戻すように構成されてもよい。
制御装置は,定期的に第1の燃料電池スタックを通る空気流動の量をゼロまで減少させ,次いで,所定の期間後,ゼロから,第1の燃料電池スタックを通る空気流動の量を増加させるように構成されてもよい。
【0011】 制御装置は,燃料電池システムの測定されたパラメータに応答して,第1の燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように構成されてもよい。
【0012】 第1の整流器は,アクティブダイオードであってもよい。そのようなアクティブダイオードは,再水和間隔が提供され得る効率性を改善することができる。
【発明を実施するための形態】 【0035】 本明細書に開示される実施例は,第1の燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために,第2の燃料電池スタックと直列である第1の燃 料電池スタックを通る空気流動を調節するための,制御装置を含む,燃料電池システムに関する。本システムはまた,その空気流動が十分に低減されたとき,第1の燃料電池スタックを自動的に迂回し,それにより外部負荷から第1の燃料電池スタックを外す必要性を回避し,燃料電池システムからの電力出力が維持されることを可能にするために,第1の燃料電池スタックと並列の整流器も含む。
【0036】 燃料電池スタックへの空気流動は,より高いスタック及びシステム効率性を達成するために,膜の含水量及び水除去速度の平衡(燃料電池スタックの既存の動作条件によって決定されるような)を一時的に乱すために,定期的に調節され得る。その手順は,短期間,燃料電池カソードにおいて過剰な水を産生し,続いてより高い性能でスタックを動作させると同時に,より低い含水量との平衡が徐々に再構築されることを伴う。その過程は,必要に応じてある特定の間隔の頻度で反復され得る。
【0037】 過剰な水が産生されるこれらの短期間は,本明細書において「再水和間隔」または「ファンパルス」と称され,それらの表現は,そうでなければ燃料電池上の外部電気負荷及び温度などのその環境動作条件に基づき有効であるレベルを超えて,水和レベルを合目的的に増加させるために,燃料電池アセンブリがその動作環境を能動的に制御する期間を示すことを目的とする。これらの再水和間隔は,燃料電池スタックの性能及び/または寿命を改善することができる。
【0038】 図1は,互いに直列の第1の燃料電池スタック102及び第2の燃料電池スタック104を含む,燃料電池システム100を示す。外部負荷112は,燃料電池スタック102,104の直列配列にわたって接続される。
【0039】 制御装置110は,第1及び第2の燃料電池スタック102,104を制御することが可能であるものとして,図1に概略的に示される。本実施例では,制御装置 は,燃料電池スタック102,104の水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために,燃料電池システム100上の電流需要とは独立して,第1及び第2の燃料電池スタック102,104を通る空気流動を調節するように構成される。この文脈において,表現「独立」は,燃料電池システム100上の外部電気負荷112の急激なまたは過渡の変化からの独立性を示すことを目的とする。
【0040】 空気流動のそのような調整はまた,ファンパルシングまたはカソードスロットと称されてもよく,燃料電池スタック102,104の水和レベルの増加に加えて,スタック102,104中の燃料電池のカソード側を洗浄することができる。
【0041】 燃料電池システムはまた,第1の燃料電池スタック102と並列に接続される,第1の整流器106と,第2の燃料電池スタック104と並列に接続される,第2の整流器108とを含む。すなわち,第1の整流器106の第1の端子は,第1の燃料電池スタック102の第1の端子に接続され,第1の整流器106の第2の端子は,第1の燃料電池スタック102の第2の端子に接続される。また,第2の整流器108の第1の端子は,第2の燃料電池スタック104の第1の端子に接続され,第2の整流器108の第2の端子は,第2の燃料電池スタック106(当裁判所注:「104」の誤記と解される。)の第2の端子に接続される。以下に記載されるように,第1及び第2の整流器106,108は,関連した燃料電池スタック102,104の水和間隔中に,迂回経路を提供する。
【0044】 図2aは,第1の燃料電池スタック202’の再水和間隔の図1の燃料電池システムを示す。この再水和間隔中,第2の燃料電池スタック204’は,正常に動作することができる。再水和間隔は,例えば,空気流動をゼロまで減少させることによって,第1の燃料電池スタック202’を通る空気流動を調節する,制御装置(図2aには図示されず)によって提供される。したがって,第1の燃料電池スタック 202’によって生成される電圧は,ゼロまで降下し,電流は,第1の燃料電池スタック202’の代わりに第1の整流器206’を通って流動し,それにより第1の燃料電池スタック202’を迂回する。対照的に,第2の整流器208’は,関連した第2の燃料電池スタック204’が出力電圧を生成している際に,逆方向バイアスされる。有意な量の電流を伝導していない部品は,図2a中,破線で示される。
【0045】 図2bは,第2の燃料電池スタック204’’の再水和間隔中の,図1の燃料電池システムを示す。再水和間隔は,図2aに関連して上記で考察されるものと同じ方法で,第2の燃料電池スタック204’’を通る空気流動を調節する,制御装置(図2bには図示されない)によって提供される。
【0046】 図3は,図2bに示されるような,第2の燃料電池スタックの再水和間隔中の,図1のシステムに対する種々の電流及び電圧波形の図表を示す。再水和間隔は,時間t1で開始する。
【0047】 図表302は,第2の燃料電池スタックへの空気流動を示す。空気流動は,図1の制御装置によって調節される。空気流動302は,初期値で開始し,それは,再水和間隔の間の「アクティブ値」と称されてもよい。アクティブ値は,電気負荷の要件に従って自動的に設定及び調節され得る。
【0048】 時間t1後,第2の燃料電池スタックへの空気流動302は,アクティブ値からゼロまで減少する。本実施例では,空気流動302の段階的変化が適用されるが,他の実施例では,空気流動302のより漸進的な減少が使用されてもよい。時間t1における空気流動302の変化は,空気流動がどのように調節され得るかの一実施例として, 「ファン付き」から「非ファン付き」への動作モードの変化によるもの であってもよい。
【0050】 空気流動302が再水和間隔の終了後にアクティブ値戻ることが理解されるが,これは,図3には示されない。
【0051】 第2の燃料電池スタックへの空気流動302の除去後に,第2の燃料電池スタックの出力電圧は,図表306によって示されるように,徐々に減少し,時間t2でゼロに達する。この時間の間,第1の燃料電池スタックの電圧は,図表304に示されるように,時間t1とt2との間で一定のままである。それは,第2の燃料電池スタックへの空気流動の変化による影響を受けない。
【0052】 第2の燃料電池スタックを通る電流は,図表308に示されるように,t2まで一定のままである。t2において,第2の燃料電池スタックの出力電圧306がゼロに達したとき,第2の燃料電池スタックを通る電流308は,減少し始める。t3において,第2の燃料電池スタック通る電流308は,その最小値に達し,次いで再水和間隔の継続時間にわたって,その最小値で一定のままである。本実施例では,燃料電池スタックが,非ファン付き動作モードであるファンパルス中,電池を包囲する静的空気から,より低いレベルの水素及び酸素を電気に変換することがなお可能であるため,第2の燃料電池スタックを通る電流の最小値はゼロではない。
【0053】 図表310は,第2の燃料電池スタックと並列である,第2の整流器を通る迂回電流を示す。迂回電流310が時間t3でゼロから最大値まで増加することが,時間t2とt3との間で見られる。迂回電流の増加は,2つの電流308,310の合計が一定になるように,第2の燃料電池スタックを通る電流308の減少と逆関係にある。これは,図表314からわかり,それは,負荷を通る電流が,再水和間隔の前及び間の両方において一定値であることを示す。
【0054】 しかしながら,負荷における電圧は,図表312に示されるように,再水和間隔に減少する。第2の燃料電池スタックの出力電圧の減少(図表306に示されるような)は,負荷312における対応する電圧の減少を引き起こす。本実施例では,第1及び第2の燃料電池スタックは,同数の燃料電池を有し,それらが完全に動作しているとき,同じ出力電圧を生成する。したがって,負荷312にわたる電圧は,再水和間隔中に50%減少する。
【0055】 図3は,単一の燃料電池スタック(第2の燃料電池スタック)に対する再水和間隔を示す。同じ燃料電池システム中の他の燃料電池スタックに対して同様に再水和間隔を提供するために,同じ制御装置が使用され得ることが理解されるであろう。
例えば,制御装置は,燃料電池システム中の第1及び第2の燃料電池スタックを通る空気流動を交互に調節するように構成される。いくつかの実施例では,第1及び第2の燃料電池スタックの再水和間隔が重複しないように,第1及び第2の燃料電池スタックが調節されることが有利であり得る。このようにして,燃料電池システムの負荷に供給される電流は,実質的に一定に保たれ得る。
【0066】 燃料電池スタックへの空気流動は,燃料電池システムの測定されたパラメータ,例えば,スタックの「健康」または状態を代表するパラメータに応答して,再水和間隔を提供するように調節され得る。そのようなパラメータは,スタック電圧及びスタック電流を含むことができ,それらは,分極情報,したがってスタックの「健康」を提供する。一実施例では,再水和間隔は,測定されたパラメータのうちの1つ以上が閾値に達すると開始され得る。
【0067】 あるいは,または加えて,再水和動作は,固定した定期ベースで自動的に実行され得る。再水和動作が行われない通常モードと,定期的及び一時的再水和動作が実 施される再水和モードとの間で,燃料電池システム100を切り替えるために,さらなる制御アルゴリズムが使用されてもよいことが理解されるであろう。再水和動作の周期性は,平均温度,湿度,電圧プロファイル,電流プロファイル,及び電力需要など,いくつかの測定可能なスタック動作パラメータに従って制御されてもよい。再水和間隔のデューティサイクルは,平均温度,湿度,電圧プロファイル,電流プロファイル,及び電力需要など,いくつかの測定可能なスタック動作パラメータに従って制御されてもよい。
【0095】 図6は,本明細書に開示されるような,再水和間隔の提供を試験するために使用した燃料電池システムを概略的に示す。図7は,関連した試験結果を示す。第1及び第2の燃料電池スタック602,604に対して,72個の電池スタックを含有する燃料電池モジュールを使用した。
【0096】 迂回能力を提供するために,第2の燃料電池スタック604にわたって並列にアクティブダイオード608を取り付けた。そのようなアクティブダイオード608はまた,理想ダイオードとも称され得る。アクティブダイオード608は,例示を簡単にするために,図6の従来のダイオードとして示される。しかしながら,アクティブダイオードは,整流器として挙動するために駆動される,電界効果トランジスタ(FET),任意にMOSFETなどの能動的に制御されたスイッチによって,具体化され得ることが理解されるであろう。
【0097】 負荷ユニット612を一定の負荷に設定し,第2の燃料電池スタックをファンパルス動作モードにし,その間,第2の燃料電池スタック604を通る空気流動を,それが定期的に,再水和間隔を開始するために減少し,再水和間隔を終了するために増加するように調節した。図6の左側の図面は,再水和間隔間の電流流路を示す。
図6の右側の図面は,第2の燃料電池スタック604の電位が0Vまで低下した時 点の,再水和間隔中の電流流路を示す。この時点で,アクティブダイオード608は, 「ハードオン」に駆動され,それは,25mVのみがアクティブダイオードにわたって降下されるように制御されるFETを伴い得る。
【0098】 図8に示されるように,両方の電流経路を通る電流を例示するために,0A〜30Aの負荷電流(それは,迂回電流及びスタック電流の合計である)に対して,試験を繰り返した。
【0099】 図7は,図6の燃料電池システムに対するオシロスコープ図を示す。具体的には,以下の値が示され,それらの全ては,図6で識別される:第2のスタック電位720(Vst2) ;迂回電流722(Ibypass) ;第2のスタック電流724(Ist2);及び負荷電流726(Iload)。
【0100】 本実施例では,再水和間隔に対して,第2の燃料電池スタックのカソードにわたる空気流を停止するために,ファンがスプールダウンされ,ルーバーが使用されるが,他の実施例では,これらの機構のうちの1つのみが使用されてもよい。いったんスタック電位720がゼロボルトまで低下すると,電流は,スタックを通るよりも迂回路を通って伝導し始める。スタックは,再水和間隔中に約10/11Aを提供し続け,それは,スタック周囲の空気量及び/またはスタックの状態によるものであり得る。しかしながら,スタック電圧がマイナスになっていないため,それはなお安全な領域で動作しており,スタックはなおうまく調整されている。
【0102】 図9は,図6の概略図に示されるものと同様であるが,アクティブダイオードの代わりに従来のシリコンダイオード(またはFETのボディダイオード)を使用するシステムに対する,オシロスコープ図を示す。そのような部品を用いて燃料電池スタックを迂回させることは,スタックが結局,電池に損傷効果をもたらす可能性 がある分極曲線の未知の領域に入る可能性があることを実証している。当該技術分野において既知の通り,燃料電池に対する分極曲線は,電池電圧を電流の関数として特徴付ける。
【0103】 図7と同じ方法で,図9は,以下の値を示す:第2のスタック電位920(Vst2) ;迂回電流922(Ibypass) ;第2のスタック電流924(Ist2) ;及び負荷電流926(Iload)。
【0105】 図7と図9との比較は, (スイッチまたは理想ダイオードよりも)従来のダイオードを使用することによって,それが,より多くの電流が再水和間隔中にスタックを通って流動し,電流を強制的にスタックに通すことによって,スタックにわたる電位が負になり,その分極図上の減少領域にスタックを配置させる可能性があり,それは,長期間の健康に対して有害であるため,不利であることを示す。また,図9は,迂回ダイオードが伝導し始めるのにかかる時間が,1秒を超えて長く,アクティブダイオードに対して必要とされるものよりも長いファンパルスをもたらすことを示す。より短いファンパルスは,スタックがより長く通常の動作モードで機能することを可能にし,それによりシステム全体の効率性を改善することが理解されるであろう。したがって,いくつかの用途において,アクティブダイオードまたはスイッチの使用は,特に有利であり得る。
【図1】 【図2A】 【図2B】 【図3】【図6】【図7】 【図9】 (2) 本願発明の概要 前記第2の2で認定した本願の特許請求の範囲の請求項1の記載及び前記(1)で認定した本願明細書の記載からすると,本願発明について,次のとおり認められる。
ア 背景技術等 (ア) 本願発明は,プロトン交換膜型燃料電池(PEM燃料電池)に関するものであるところ,PEM燃料電池の動作においては,膜/電極接合体(MEA)内の水の管理が重要な考慮事項であって,その動作中,水素と酸素との間の反応からの生成水をMEAから排出しなければならない一方で,電池の内部電気抵抗が許容限度内にとどまることを確実にするために,MEAが好適に水和された状態のままであることも重要である。(本願明細書の段落【0001】〜【0005】) (イ) 水は,燃料電池反応の一部としてカソードにおいて産生されるが,全MEAにわたって水分平衡を維持することが不可欠であるところ,乾燥空気が電池に導入 される場合には,不平衡の水分散の生成の傾向があって早期故障につながり得る。
これに対応するため,空気流を予め加湿することが既知であるが,システムの複雑さを増大させ,燃料電池用途によっては非実用的である。(同【0005】) (ウ) 開放カソード燃料電池においては,カソード流体流動フィールド板が周囲空気に開放されており,通常,ファンなどの低圧空気源によって補助され,スタック冷却及び酸素供給の二重機能が提供される。この場合には,非常に単純な燃料電池システムが設計され,大きい寄生損失を回避することが可能であるが,空気流動の二重の目的は,空気流動要件における矛盾をもたらす可能性がある。冷却のためには,カソード電極にわたって非常に高い化学量論的空気流動が必要とされるが,周囲条件及びスタック温度に応じて,膜の含水量の低下や,経時的な燃料電池スタックからの継続的な水の純損失,最終的にはスタックの機能停止をもたらし得る。より低い電流,高い空気流動,及びより高温のスタックは,膜の含水量を低下させる傾向があり,逆に,より高い電流,より低い空気流動,より低温のスタックは,膜の含水量を増加させる。(同【0006】) (エ) 燃料電池の水和レベルを増加させるために,燃料電池スタックから引き出される電流を定期的及び一時的に増加させるための制御装置を有する電気化学燃料電池アセンブリも開示されている。(同【0007】) イ 課題を解決するための手段及び本願発明の効果 (ア) 本願発明は,@第1の燃料電池スタックと,A第1の燃料電池スタックと直列の,第2の燃料電池スタックと,B第1の燃料電池スタックと並列の,第1の整流器と,C第1の燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために,定期的に,かつ燃料電池システム上の電流需要とは独立して,第1の燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように構成される制御装置とを備える,燃料電池システムを提供する。(同【0009】【0010】 , ,特許請求の範囲の請求項1) (イ) 上記(ア)の燃料電池システムによると,第1の整流器が第1の燃料電池スタ ックに対する迂回経路を提供するため,再水和間隔中に燃料電池スタックが燃料電池システムから分離されることを必要としない場合がある。燃料電池システムは,第1の燃料電池スタックがより良好に,かつ,より一貫して調整されることを可能にし,その性能及び寿命を改善することができるとともに,第1の燃料電池スタックの信頼性を増し,故障の数は低減され得る。(同【0008】〜【0009】) 2 引用発明について (1) 平成14年7月9日に公表された甲3は,発明の名称を「改良された燃料電池及びその制御方法」とする特許出願に係るもので,甲3には,次の記載がある。
発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,改良された燃料電池及び該電池を制御するための方法に関し,より詳しくは,一方で燃料電池が故障した際にその内部要素への損傷を防ぎ,他方で電池の電気パワー出力を増加させるためにも利用することができる電気回路を有した燃料電池に関する。
【0002】 【従来の技術】 燃料電池は,通常周囲の空気から供給される酸素と水素が反応し,電気と水を生成する電気化学装置である。
・・・燃料電池は種々の大きさの積層体に組み上げることができるので,広範囲の電気パワー出力レベルを提供するための電力システムが開発されており,・・・数多くの産業部門へ採用することができる。
【0003】 ・・・ポリマー電解質膜(PEM)燃料電池の場合,信頼性はこれまではあまり大きな関心事ではなく,発電容量のワット当りの設置コストの方がむしろ関心事であった。最近になって,ワット当りのPEM燃料電池コストを更に下げるために,電力出力を高めることに,より多くの注意が向けられてきた。
・・・非常に複雑な平 衡なシステムとなった結果,小さい容量の適用には容易にはスケールダウンできない。したがって,設置コスト,効率,信頼性,保守に要する出費は全て,小さい発電への適用では不都合に作用する。
【0004】 単体PEM燃料電池は,負荷が掛けられた状態で,約0.45〜約0.7Vの有効電圧を発生することがよく知られている。実際のPEM燃料電池プラントは,複数のセルを積層し,それらが電気的に直列に接続されるように従来は組立てられてきた。さらに,補助的な加湿が陽子交換薄膜(電解質)に施されると,PEM燃料電池は,より高いパワー出力レベルで動作し得ることが分かっている。
・・・近年における研究の中心は,稼動中,補助加湿なくして,パワー出力が増加的に改善された薄膜電極アセンブリ(MEA)を開発することであった。自己加湿されたときにMEAを動作させるようにすることが好ましい。なぜならば,関連したコストと共に衡平制御の複雑さを減少するからである。しかしながら,自己加湿は燃料電池を低い電流密度で動作させる結果となり,したがって次にこれは,所定のパワー量を発生させるためには,より多くのアセンブリを必要とする結果となる。
【0005】 各種設計によるPEM燃料電池・ ・は, ・ その有用性を損なう欠点も有していた。
例えば,PEM燃料電池電力装置は典型的には,相互に電気的に直列に接続されること(スタック構造)により出力電圧を増加させるための多数の個別燃料電池を有するものである。この構成では,スタック内の燃料電池の一つがもし故障すれば,もはや電圧と電力を提供することができない。そのようなPEM燃料電池電力装置のより一般的な故障の一つは,ある薄膜電極アセンブリ(MEA)の水和が,同一燃料電池スタック内の他のMEAより,より少なくなったところで起こる。この薄膜水和の損失は,有効に動作する燃料電池の電気抵抗を増加し,したがって,より多くの無駄な熱を発生させることになる。次に,この増加した熱は,薄膜電極アセンブリを乾燥させることになる。この状態は負の水和悪循環を形成することになる。
燃料電池の継続的な過熱は,最終的には有効であった燃料電池の極性を反転させ,その結果,スタック内の残りの燃料電池からの電力をここで消費するようになる。
もしこの状態が調整されないと,故障した燃料電池によって発生した過度の熱は,薄膜電極アセンブリを貫通させ,水素が漏洩するようになる。もしこの貫通が発生した場合には,燃料電池スタックは完全に分解され,修理されなければならない。
採用される燃料電池スタックの設計にもよるが,この修理又は交換は,コストが嵩み,そしてその作業には時間が掛かるものである。
【0006】 さらに,設計者は,自己加湿型PEM燃料電池内の電流密度を増強できると共に,同時にこれらの装置の衡平的要件を増やすことのないものを長い間望んでいた。
【0007】 したがって,従来技術の設計及び実例に関連して分かった問題点に注目すると共に,それら個々に関連した欠点を防ぐための,改良された燃料電池が本明細書に記載されている。
【0008】 【発明の概要】 本発明の一態様は,燃料電池に電気的に接続され,所定の動作条件のもとでは,燃料電池のアノードとカソードの間の電流を短絡する制御装置を有する燃料電池を提供することである。
【0009】 本発明の他の態様は,燃料電池に電気的に接続され,燃料電池のアノードとカソードの間の電流を短絡する制御装置を有し,該制御装置は,第1の条件のとき,所定の電圧及び電流を検出したことに応じて,一方で不良燃料電池セルへの燃料ガスの供給を停止すると共に,他方で同時に前記不良燃料セルのアノードとカソードの間の電流を短絡し,よってその不良燃料電池のための電流側路を設ける燃料電池を提供することである。
【0010】 本発明の他の態様は,燃料電池に電気的に接続され,所定の動作条件の間,燃料電池のアノードとカソードの間の電流を短絡する制御装置を有し,第2の条件のとき,燃料電池はデューティ及び動作サイクルを有し,そして,前記制御装置は,燃料電池のデューティサイクルの間,アノードとカソードの間の電流を周期的に短絡し,その結果,燃料電池の電力出力を増加させる燃料電池を提供することである。
【0013】 【好適実施例の説明】 本発明のこれら及び他の特徴を,以下詳細に説明する。
【0014】 本発明の改良されたポリマー電解質薄膜(PEM)燃料電池は,図2を参照することにより最も良く理解され,これは,参照番号10によって示されている。
・・・ 【0018】 更に詳しく図2に示されている通り,本発明のPEM燃料電池10は更に,電流コレクタ60のそれぞれと,それらの間に挟まれたMEA50に対して所定の力を与えるための個別力付与アセンブリ70を有する。この点に関し,個別力付与アセンブリは,水素供給フレーム11のそれぞれのキャビティを部分的に覆うカソードカバー71を有する。
・・・カソードカバーのそれぞれは,水素供給フレーム11によって画定された各キャビティ21〜24のうちの一つに,それぞれ入れ込まれるか,さもなければ,合致結合又は係合する。カソードカバーが好ましい状態で入れ込まれると,カソードカバーによって画定される個別の開口75は,薄膜電極アセンブリ50のカソード側に空気を循環させる通路76を画定する。各電流コレクタ60を関連したMEAに対して良好な抵抗電気接触を維持するために十分な所定の力を出させるために,留め具26が,各カソードカバーを通して,そしてカソードカバーによって挟まれた水素供給フレームを通して受け入れられる。・・・ 【0019】 ・・・PEM燃料電池10は, ・・・サブラックという方法により,複数の他の燃料電池(図3)に直列に電気的に接続されるようになっている。
・・・サブラック90の・・・背面壁上には,第1バルブ102及び第2バルブ103が設けられており, ・・・第1バルブ102は,水素源105(図3参照)と流体移動可能に接続される。
・・・燃料電池10は,図3に示すように第3バルブ104を有し,このバルブ104は,水素源105と第1バルブ102との間に流量計測可能な状態に設けられている。サブラック90はまた,空気供給装置(図示せず)を有し,これは,周囲空気を燃料電池10内を所定のパターンで移動させる。・・・ 【0020】 図3を参照すると,複数の燃料電池10が示されており,これらは,所定の電圧及び電流出力を有する電気を発生するために,直列に電気的に接続されている。短絡制御回路120が示されている。短絡制御回路120は,燃料電池の一つのアノード52とカソード53とを電気的に結合する電気通路121を有する。この電気回路は図3に示される燃料電池のそれぞれに設けられるか,さもなければ関連していると理解すべきである。すなわち,個別の短絡制御回路120が,直列に接続された燃料電池のそれぞれのアノードとカソードとを個別に電気的に結合するものである。しかしながら,図3では,簡略化のために,これら回路のうちの一つのみが示されている。短絡回路のそれぞれは,参照番号122で一般的に示されている単一の短絡制御部に電気的に接続されている。上に記した通り,短絡制御部は,一つだけの短絡制御回路に接続されているものとして図示されている。しかしながら,短絡制御部は,実際には,直列に接続された燃料電池のそれぞれに対応して,多数の短絡制御回路に接続されても良い。上に記した通り,図3は本発明を図示するために極めて簡略化して示したものである。
【0021】 短絡制御部122は,一組の電圧センサー123を含む多数の個別部品からなっており,その電圧センサー123は,各燃料電池10のアノード52とカソード5 3の電圧を検知するために,アノード52とカソード53に電気的に接続されている。さらに,短絡制御部は,ここでは従来技術の設計による電界効果トランジスタとして示されている,電気的なスイッチ124に電気的に接続されている。
・・・本願のための好ましい制御部122は, ・・・プログラム可能なマイクロコントローラチップである。このチップは,図4に示すようなプログラムロジックを実行するのに利用され且つプログラムされるものであり,また,以下に詳細に説明する通り,短絡制御回路を,燃料電池10の第1及び第2動作条件に反応させる。短絡制御部122は更に,燃料ガス105の供給に対して流量測定可能(“燃料ガス遮断制御”と図面内に記載)に設けられたバルブ104に対して制御可能に電気的に接続されている。短絡制御回路120は更に,各燃料電池のアノード52とカソード53を電気的に結合するバイパス電気回路126を有する。このバイパス電気回路はダイオード127からなる。電流センサー128は更に,燃料電池10に,そこを流れる電流を検出するために電気的に接続されている。電流センサーは短絡制御部122と一体的に構成されている。上に記した通り,短絡制御回路120は,図4に詳しく記載され,その図に参照番号130として示されているプログラムロジックによって制御される。バイパス電気回路は,短絡制御部122が故障したとき,燃料電池10のアノードとカソードの間の電流を短絡するように動作する。
【0022】 図3の検討により最も良く理解される通り,燃料電池10は,所定電流及び電圧出力の電気パワーを発生するアノード52とカソード53を有する。短絡制御部122は燃料電池10に電気的に接続され,所定動作条件のもとで,燃料電池のアノードとカソードの間の電流を短絡するように動作する。前に述べた通り,短絡制御部122は電圧センサー123と電流センサー128を有し,これらは,燃料電池10の電圧出力及び電流出力に対して,電圧検出及び電流検出可能に設けられると共に,更に,燃料電池10のアノード52とカソード53と電気的に接続されている。さらに,短絡制御部122は更に,ここでは電界効果トランジスタとして図示 されている電気的スイッチを有する。電界効果トランジスタ124は状態として,開放電気状態と閉鎖電気状態とを有する。以下において更に詳しく説明する通り,短絡制御部122は,電圧センサー123及び電流センサー128の手段により,燃料電池10の所定電圧及び電流を検出すると,燃料ガスの供給に関して,バルブ104を所定の燃料計測関係となるように調節する。さらに,短絡制御部122は,燃料電池10それぞれの所定特性パラメータに基づいて,電界効果トランジスタを“開放”又は“閉鎖”の電気状態に設定する。
【0023】 この点に関し,ある燃料電池が,その出力電圧が約0.4Vより低くなるような場合である,所定の特性,パラメータ及び期待値を下回って動作している第1の動作条件においては,短絡制御部122は,燃料電池10への燃料ガス105の供給を停止するような位置にバルブ104をすると同時に,電気的スイッチ124を閉鎖電気状態にし,こうすることにより,負の水和降下現象が発生したときに起こるであろう,燃料電池10への加熱に関連した損傷が生じることを実質的に防止するために,アノード52からカソード53への電流を短絡するものである。このことは,本明細書において既に述べた通りである。さらに,電気的スイッチ124がその後に開放状態にされれば,短絡制御部122は,バルブ104を,燃料電池に燃料ガスの供給をほぼ連続的に行う状態にするように動作する。
【0024】 ここで説明した第1及び第2の動作条件においては,個別の及び直列に電気的に接続された燃料電池10の所定の特性パラメータは,燃料電池10の選択された電流及び電圧出力からなる。これらの所定閾値特性パラメータは,限定的なものではないが,実験を含む種々の方法によって決定してもよく,その例として,動作履歴又は電気的な負荷によって決定することができる。さらに,第1の動作条件における所定特性パラメータには,例えば,所定期間を経て燃料電池の特性パラメータが単に又は概して低下するようなもの,約0.4Vより低い範囲に低下する場合,ま たは,当該燃料電池と直列に接続されている他の燃料電池10の動作特性に対して相対的に特性が低下又は劣化するようなものを含めることができる。可能性のあるパラメータのリストは,必ずしも全てを含む必要はなく,そしてその他の多くの物理的な特性パラメータを監視することもできる。こうすることにより,選択された燃料電池が故障しそうになっていること,そしてその欠陥が重大である場合には,修理又は交換のためにスタックから取り外すべきであること,または,他方で,燃料電池10が選択された所定の特性パラメータに回復できるか否かを決定するために,短絡を増加させることを示唆するものである。このことは,図4を参照することによって最も良く示されている。
【0025】 第2の動作条件においては,短絡回路120は,燃料電池20の結果としての電気パワー出力を増加させるように作動する。上で述べた通り,燃料電池10は,燃料電池10の選択された電流及び電圧出力を含む所定の特性パラメータを有する。
第2の動作条件においては,特性パラメータが単純に低下し,且つ最低閾値以下には低下していない場合,上で説明した通り,短絡回路120は,個々のそしてグループとしての燃料電池10が所定の特性パラメータにまで回復させるためのものとして用いられている。例えば,選択的又はグループとしての燃料電池10は,時間の経過で,その電圧及び電流出力が低下し始めるかも知れない。この低下は短絡制御部122によって検出されるので,短絡制御部122は,特性が劣化した燃料電池10のアノードとカソードの間の電流を,その燃料電池の所定特性パラメータを回復させるのに有効な個々に区別される速度で,直列に反復して短絡するように動作する。他の実施例では,特性パラメータが単に低下するような場合,短絡制御部122は,当該燃料電池の低下する特性パラメータを,その他の燃料電池の特性パラメータと比較し,その電気的特性を改善するように,参照することにより,個々の燃料電池10のデューティサイクルを調節することが有効的である。理解される通り,用語“デューティサイクル”は,ここでは,装置を動作させる時に占める“オ ンタイム”期間の1動作サイクルの全時間に対する比(パルス繰返し期間に対するパルス継続時間の比)を意味する。用語デューティサイクルを定義するもう一つの方法は,断続的に動作する装置においては,動作時間の全作動時間に対する比である。このデューティサイクルは,全動作サイクル時間の百分率として表わされる。
本発明においては,したがって,短絡制御部122は,選択した燃料電池に関して,その燃料電池が選択された所定の特性パラメータ以上に回復又は維持するように,短絡の持続時間と動作サイクル時間の双方を調節するように動作する。
【0026】 上に記した通り,我々発明者は,第2の動作条件において,燃料電池の特性強化が,燃料電池10のアノード52とカソード53の間の電流を調節的に繰返して直列に短絡することによって達成し得ることを発見した。この点,第2の動作条件においては,図4に参照番号130で示されるプログラムロジックが,燃料電池10のそれぞれに電気的に個別に接続され且つ関連する各電気的スイッチ124を,個別に調節的に且つ周期的に開放又は閉鎖するために,短絡制御部122によって利用される。これらの電気的スイッチ124は,要求される所定の電圧及び電流出力を得るために,任意のグループ又はパターンで,または如何なる方法において,個別に且つ直列的に活性化しても良い。この点に関し,好ましい動作サイクル時間は約0.01秒から約4分であると決められた。この周期的な短絡が実行された場合,燃料電池10の電圧出力は少なくとも約5%増加することが分かった。さらに,短絡制御回路120は,動作サイクルの約20%以下の期間,電流を短絡するように動作する。
【0027】 第2の動作条件の間,短絡制御部122は,バルブ104を,燃料電池10への燃料ガス105の実質的に連続的な供給を許容する状態に維持する。この繰返し且つ周期的な短絡は,燃料電池のそれぞれを“条件付け”されたものと推測され,即ち,そのような短絡は,MEA50に利用し得る水の量を増加し,これに応じてM EAの特性を向上させるものと思われる。短絡はまた,MEA上に設けられた拡散層から過剰な水を蒸発させるのに十分な熱消費の短時間増加をもたらすものと考えられる。この水の蒸発は,外気空気からより多くの酸素を,MEAのカソード側に利用可能なものとする。原因が何であれ,短絡が,MEAの陽子伝導性を高めるものと思われる。陽子伝導性のこの増加は,時間の経過によりゆっくりと消失する燃料電池のパワー出力の瞬間的な増加をもたらす。燃料電池10の電気パワー出力の全体増加は,個々の燃料電池10及びグループの燃料電池10を調節的に順次,且つ周期的な短絡によって制御されるので,全体が直列に接続された燃料電池のグループの,全体的パワー発生能力を増加させる結果となる。上に記した通り,それぞれの短絡制御回路120は,直列に接続された各燃料電池10と個別に作動的に接続されており,単一の燃料電池及びグループとしての燃料電池のために動作可能とすることができる。これに加えて,それぞれの燃料電池のデューティ及び動作サイクルは,個々の燃料電池の特性によりそれの特性を向上させること,または,任意グループの燃料電池又は個々の燃料電池の低下した特性を,ケース毎に違うが,安定させる目的で,如何なる数の異なる組み合わせ及びそれぞれ個別の期間に調節することができる。
【0028】 【作用】 本発明の,上に説明した実施例の動作は以下の説明で容易に明らかになるであろう。ここで,その動作を簡単に説明する。
【0029】 最も広い意味では,本発明は,アノード52とカソード53とを有すると共に,任意の電流及び電圧出力を有する電気パワーを発生する燃料電池10に関する。燃料電池10は制御部122を有し,該制御部122は燃料電池に電気的に接続されており,燃料電池のアノードとカソードの間の電流を短絡する。既に記した通り,制御部122は電圧センサー123と電流センサー128を有し,これらは,燃料 電池10の電気パワー出力に対して電圧及び電流検出可能な状態に設けられている。
制御部122は更に,開放及び閉鎖電気状態を有する電気的なスイッチを有する。
制御部122は,第1の動作条件において,電圧及び電流センサーによって燃料電池10の任意電気パワー出力を検出することに基づき,バルブ104を,燃料ガス105の供給に対して所定量の阻止関係となるようにする。この第1の動作条件においては,電気的スイッチは,燃料電池10の所定特性パラメータ如何によって,開放電気状態又は閉鎖電気状態の何れかに設定されれば良い。上に記した通り,第1の動作条件においては,特性パラメータが一致しない場合,制御部122はこれに応じて電気的スイッチを閉鎖する。この閉鎖されたスイッチは,燃料電池のアノードとカソードの間の電流を短絡する。これとほぼ同時に,制御部122は,この状態にあるときは,バルブ104を燃料電池への燃料ガスの供給を停止するようにする。既に記した通り,燃料電池10の電圧出力が約0.4Vより低いときは,電気的スイッチは閉鎖位置となり,アノードとカソードの間の電圧を短絡し,また同時に,バルブを燃料ガスの供給を停止するようにする。本願で既に説明した通り,負の水和降下は過度の熱を生じ,これはMEAへ損傷を与えることになる。第1の動作条件において,短絡制御回路120は,電流を短絡し,これによりこの損傷を防ぐように動作する。勿論,第1の動作条件の引き金となる特性パラメータには,特性パラメータの低下,または他の燃料電池によって達成されている特性パラメータとの比較による特性パラメータの低下が含まれる。ここに挙げられていない更に他のパラメータを用いることもできる。
【0030】 短絡制御回路120は,既に説明した通り,ダイオード127からなる受動バイパス電気回路126を有する。燃料電池が故障したことに伴って短絡制御回路121が故障した場合,バイパス電気回路は,短絡制御回路を,上に述べた損傷が起こらないようにさせる。選択されたダイオード127は,燃料電池10がパワーを発生しているときは,通常は逆バイアスとなっており,通常の動作条件のもとでは, 短絡制御回路121に何ら影響を与えない。しかしながら,燃料電池10が故障し,電圧出力が0に近づき,または負になると,ダイオード127は順方向バイアスとなる。電圧は燃料電池10に代わってダイオード127を通って流れることになる。
負電圧の最大値は,選択されるダイオードの形式によって異なる。型番85CNQ015として商業的に入手可能なショットキーバリアダイオードが好ましい。これらのダイオードは,約0.3Vで大きな電流を流すことができる。この電圧制限は,燃料電池の最大正負電圧を制限するものであり,これにより,過熱及びこれに伴う損傷を防止することができる。
【図2】 【図3】【図4】 (2) 上記(1)によると,甲3には,前記第2の3(1)のように本件審決が認定した,次の引用発明が記載されていると認められる。
「燃料電池システムであって, 燃料電池が直列に電気的に接続された複数の前記燃料電池と, それぞれの前記燃料電池のアノードとカソードを電気的に結合する電界効果トランジスタと, 前記燃料電池の負の水和降下現象を防止するために,前記燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記燃料電池への燃料ガスの供給を停止する,短絡制御回路と, を備える,前記燃料電池システム。」 (3) 引用発明における「負の水和降下現象」の防止について ア 原告は,引用発明について,少なくとも, 「前記燃料電池の負の水和降下現象を防止するために」 前記燃料電池への燃料ガスの供給を停止する, 「 , 短絡制御回路」という認定をすることは誤っていると主張し,その根拠として,引用発明において,短絡制御回路が燃料電池への燃料ガスの供給を停止するのは,燃料電池の負の水和降下現象を防止するためではなく,燃料ガスの供給の停止は,むしろ水和を少なくするように作用するなどと主張する。
イ(ア) 「負の水和降下現象」について,甲3の段落【0023】には, 「負の水和降下現象が発生したときに起こるであろう,燃料電池10への加熱に関連した損傷が生じることを実質的に防止する」との記載があるが,そこにいう「負の水和降下現象」の意味内容は,同段落の記載のみからは必ずしも明確ではなく,これを確定し得るような技術常識等も見当たらない。
(イ) そこで,甲3の他の箇所の記載を参照するに, 「負の水和」との文言を含む記載として,他に,段落【0005】及び【0029】がある。
このうち,段落【0005】には, 「この状態は負の水和悪循環を形成することになる。」との記載があるところ,同記載の直前には,相互に電気的に直列に接続され ること(スタック構造)により多数の個別燃料電池を有する典型的なPEM燃料電池電力装置の構成において,@ある薄膜電極アセンブリ(MEA)の水和が同一燃料電池スタック内の他のMEAより少なくなったときに,そのような薄膜水和の損失が,有効に動作する燃料電池の電気抵抗を増加し,より多くの無駄な熱を発生させることとなり,そのように増加した熱が,薄膜電極アセンブリを乾燥させることになることが説明されており,また,上記「この状態は負の水和悪循環を形成することになる。」との記載の直後には,A燃料電池の継続的な過熱が,最終的には有効であった燃料電池の極性を反転させ,スタック内の残りの燃料電池からの電力をそこで消費するようになり,その状態が調整されないと,故障した燃料電池によって発生した過度の熱が薄膜電極アセンブリを貫通させ,水素が漏洩するようになる(この貫通が発生した場合には,燃料電池スタックは完全に分解され,修理されなければならない。)ことが説明されている。
他方,段落【0029】には, 「本願で既に説明した通り,負の水和降下は過度の熱を生じ,これはMEAへ損傷を与えることになる」との記載があるが,同記載からすると,同段落における「負の水和降下」は,同段落より前に既に説明されている概念をいうものである。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の点に加え,燃料電池が故障した際にその内部要素への損傷を防ぐという引用発明の主たる目的の一つ(甲3の段落【0001】 も考慮すると, )引用発明にいう「負の水和降下現象」とは,上記(イ)の@(又は同@及びAからMEAの貫通の発生を除いた部分)をいうものと解するのが相当である(なお,上記の内部要素への損傷を防ぐという目的や甲3の段落【0029】の記載のほか,同@の後に「この状態は」負の水和悪循環を「形成する」として同Aが説明されていることを考慮すると,少なくとも, 「負の水和悪循環」については,同@及びAの両者の状態を含むものとみるのが合理的であるといえる。。
) そして,燃料ガスの供給を停止すると,燃料電池における発電が終息し,燃料電池内における熱の発生が抑制されるというべきであるから,そのような効果を持つ 燃料ガスの供給の停止は,上記の「負の水和降下現象」の防止に資するものということができる。
ウ したがって,引用発明の認定の誤りをいう原告の主張は採用できない。燃料ガスの供給の停止によって,燃料電池のカソード側での水の生成が止まることや,甲3の段落【0023】の解釈についての原告の主張は,上記イの判断を左右しない。また,上記イの認定と異なり, 「負の水和降下現象」の防止について,水和の回復を問題とする原告の主張は,その前提を誤るものであって採用できない。
3 甲4,5,乙10,11,13及び14の記載事項 (1) 甲4の記載事項 平成16年2月12日に公開された甲4は,発明の名称を「燃料電池装置及び燃料電池の制御方法」とする特許出願に係るもので,甲4には,次の記載がある。
発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は電解質を燃料電極と酸素電極で挟んで水素などの燃料を供給すると共に空気を供給して所要の起電力を発生させる燃料電池装置及このような燃料電池の制御方法に関する。
【0004】 【発明が解決しようとする課題】 燃料電池の1つの形式として,電解質膜等に対する湿度を保つための加湿装置を持たないタイプの燃料電池(以下,“自己加湿型の燃料電池”と呼ぶ。)がある。このような自己加湿型の燃料電池は,酸素側電極で生成される水分が電解質膜を湿潤させ,イオン交換を促進するように構成されている。燃料電池において,その水分の蒸発制御は燃料電池の発電性能そのものを制御することになり,出力電圧は発熱に直接影響し,出力電流は生成水に直接影響する。従って,自己加湿型の燃料電池は,出力電流に直接影響される生成水をバランス良く電解質膜を湿潤させるように 利用しながら,過剰な生成水が発生して酸素の供給路が閉ざされないように運転する必要がある。
【0005】 ところが,特に,上述の如き自己加湿型の燃料電池においては,運転中に負荷電流を低下させた場合や空気の供給量を増大させた場合では,電解質膜の水分が低下して乾燥化する。この乾燥化した燃料電池では電解質膜でのイオン交換特性が低下してしまい,当該燃料電池の出力そのものが大きく低下してしまう。また,運転中の負荷電流が低下してしまう場合に限らず,例えば燃料電池を長時間放置した場合にも,放置後の再始動時には電解質膜は乾燥化した状態にあり,その再始動後においては再度電解質膜を湿潤させることが容易ではなく,所要の定格出力が得られるように元の性能まで回復するまでには何日というような長時間が必要とされていた。
特に,このような電解質膜の乾燥化の問題は,空気の圧送を行わない大気開放型の燃料電池で顕著であり,運転後に放置するだけで乾燥化の問題が発生し,出力特性が短時間で低下すると言う問題がある。
【0006】 そこで,本発明は,上述の技術的な課題に鑑み,運転時や起動時の出力低下の問題を未然に防止できる燃料電池装置及び燃料電池の制御方法の提供を目的とする。
【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明の燃料電池装置は,酸素電極と,燃料電極と,前記酸素電極と前記燃料電極に挟持される電解質とからなる発電体を有する燃料電池において,燃料電池の出力電圧が第一の所定値以下になったときに,前記酸素電極と前記燃料電極を電気的に接続して電流を流すバイパス回路を有することを特徴とする。
【0008】 本発明によれば,バイパス回路を設けていることから,例えば,出力特性が酸素電極の乾燥化に起因して低下した場合,バイパス回路を作動させて燃料電池にかか る負荷電流をその出力状態に応じて可変に制御して,生成水の発生を意図的に多くさせることができる。ここで生成された水は酸素電極の乾燥化を抑制すると共に適正な湿潤状態を形成できる。本発明の一つの実施形態においては,第一の所定値は,発電体1つあたり,例えば0.01V以上,0.8V以下の範囲とされ,例えば通常の起電力の1%〜95%に設定される。また,通常の起電力から低下した割合で,第一の所定値を設定しても良い。
【0010】 前記燃料電池は,前記燃料電極に燃料が供給されている際に,前記酸素電極に空気が供給されることで電解質にはプロトンの伝導が発生する。この発生するプロトン伝導の量は当該燃料電池に接続される負荷電流に応じて変動し,この負荷電流の値が小さい場合,出力電圧が高くなり発熱は小さくなるが,逆に負荷電流が大きい場合,プロトン伝導の量が多くなって生成水の発生量が増加する。これは酸素電極における反応が活発化するためである。例えば,出力特性が酸素電極の乾燥化に起因して低下した場合,負荷制御部を作動させて燃料電池にかかる負荷電流をその出力状態に応じて可変に制御して,生成水の発生を意図的に多くさせることができる。
ここで生成された水は酸素電極の乾燥化を抑制すると共に適正な湿潤状態を形成できる。
【0013】 本発明の燃料電池装置は,電解質を燃料電極と酸素電極で挟んで燃料を前記燃料電極に供給すると共に空気を前記酸素電極に供給することで起電力を発生させる燃料電池と,前記燃料電池の酸素電極に供給される空気の供給量を該燃料電池の出力又は内部抵抗の状態に応じて可変とさせる空気供給制御部とを有することを特徴とする。
【0014】 前記燃料電池は,前記燃料電極に燃料が供給されている際に,前記酸素電極に空気が供給されることで電解質にはプロトンの伝導が発生する。この発生するプロト ン伝導の量は当該燃料電池に接続される負荷電流に応じて変動し,負荷電流が大きい場合,プロトン伝導の量が多くなって生成水の発生量が増加することになる。燃料電池の酸素電極に供給される空気の供給量は,例えば運転時において理想的には生成水の発生量と空気の供給量に依存する水分の蒸発量とが定常的に平衡化して運転されるものとされるが,空気供給制御部によって空気の供給量を変化させ,例えば,燃料電池表面の水分の蒸発量を抑制するように制御することで,酸素電極の乾燥化を抑制すると共に適正な湿潤状態を提供できることになる。
【0015】 また,本発明の燃料電池の制御方法は,燃料電池の出力特性又は内部抵抗の特性を監視する手順と,前記燃料電池の出力特性又は内部抵抗の特性が変化した場合に該燃料電池に供給される空気の供給量を常時に比べて小さくなるように制御する手順とを有することを特徴とする。
【0016】 前記燃料電池の出力特性又は内部抵抗の特性が変化した場合に該燃料電池に供給される空気の供給量を常時に比べて小さくなるように制御することで,燃料電池の酸素電極の乾燥化を抑制すると共に適正な湿潤状態を提供できることになるが,その必要性を燃料電池の出力特性又は内部抵抗の特性から直接監視することで発電に支障が生じた場合でも迅速な対応が可能である。なお,本明細書においては,起電力の測定は出力電流と燃料電池の内部抵抗,又はそれに類するパラメータを測定することにより計算することも含まれる。
【発明の実施の形態】 【0086】 [第5の実施の形態] 次に,本発明の燃料電池装置のより詳細な実施の形態について,図13から図15を参照しながら説明する。先ず,本実施の形態の燃料電池装置は,図13に示すように,例えば複数のMEAの如き発電体を積層した構造の燃料電池本体171を 有し,更に負荷の制御を行うための制御ユニット173と,燃料電池本体171に接続して該燃料電池本体171にかかる負荷の値を可変とする負荷制御部として,スイッチング素子178及び抵抗素子177からなる低抵抗化回路部と,ダイオード179及びフローティングバッテリー180からなる電源補償回路部とを有している。この負荷制御部を介して燃料電池本体171には当該燃料電池本体171で発生した起電力が供給される負荷装置175が接続され,更に燃料電池本体171には燃料流体を供給するための水素供給装置172が接続されている。また,燃料電池本体171には,空気を供給すると共に余分な水分を蒸発させるための空気供給制御部として空気供給コンプレッサー176が接続される。・・・ 【0088】 空気供給コンプレッサー176は,空気供給制御部として機能する装置であって,例えばファン,ポンプなどの気圧に変化を生じさせる機構からなり,燃料電池本体171の酸素側電極の表面に空気中に含まれる酸素を供給すると共に,その酸素側電極の表面に発生する水分を空気を送ることで蒸発させていくための装置である。
・・・空気供給コンプレッサー176は,空気導入管182を介して燃料電池本体171に接続し,この空気導入管182の流出口付近には燃料電池本体171の酸素側電極が配設される。酸素側電極が仮に水で覆われてしまった場合では,それ以上の酸素の取り込みが不能となり,発電特性が低下していくことになるが,空気供給コンプレッサー176を設けることで不要な水分が蒸発されて除去される。このため水分が酸素側電極で過剰になって出力低下を招くような問題は未然に防止される。また,燃料電池本体171では起動時や長時間の運転時に逆に燃料電池本体171が乾燥化してしまい,その結果,電解質膜におけるイオン交換の効率が低下するおそれがあるが,本実施の形態の燃料電池装置では,一時的に燃料電池本体171を送風停止状態にすることができるため,燃料電池本体171の乾燥状態を解決することも可能である。・・・ 【0090】 図13において,制御ユニット173は,燃料電池本体171の出力又は内部抵抗の状態をモニターしながら,次に説明する空気供給コンプレッサー176及び負荷制御部の低抵抗化回路部と電源補償回路部を制御するための装置である。燃料電池本体171の出力又は内部抵抗の状態は,燃料電池即ちMEAの出力端子からの信号化された情報によって監視される。図13の装置では,燃料電池本体171の出力又は内部抵抗の状態をモニターする方法を用いているが,これに限定されず,各電極や電解質膜の湿潤度を直接モニターするようにすることも可能であり,温度や気圧センサーなどを用いたり或いは出力センサーと併用したりすることも可能である。なお,制御ユニット173は,空気供給コンプレッサー176の運転状況を直接モニターすることも可能である。
【0091】 発電機能を回復させるために空気供給コンプレッサー176の作動を制御する場合においては,燃料電池本体171に電流を流して水を生成させる。すなわち,空気供給コンプレッサー176の作動を停止させることで水分の蒸発を止めることができ,同時に,電解質膜に生成水を速やかに浸透させることができる。この空気供給コンプレッサー176の送風停止は,比較的に短い期間で良く,発電性能を迅速に回復させることができる。・・・ 【0092】 このような空気供給コンプレッサー176の送風動作の制御に加えて,本実施の形態の燃料電池装置は,燃料電池本体171にかかる負荷電流の値を可変とする負荷制御部として,スイッチング素子178及び抵抗素子177からなる低抵抗化回路部と,ダイオード179及びフローティングバッテリー180からなる電源補償回路部とを有している。低抵抗化回路部を構成するスイッチング素子178と抵抗素子177は,前述の制御ユニット173からの信号に応じて作動する回路であり,例えばスイッチング素子178としては本実施形態におけるIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体素子 や,更にはリレーなどを使用しても良い。抵抗素子177は,負荷装置175と比べて極めて小さな抵抗値を有し,電流が流れた場合に両端で発生する電位差は小さい値にされる。燃料電池本体171の出力端子のプラス端子とマイナス端子の間にスイッチング素子178と抵抗素子177が直列に接続され,スイッチング素子178のゲート電極がオン側に制御されれば,スイッチング素子178が導通状態となって,燃料電池本体171の出力端子にかかる負荷電流が増加する。
【0094】 図14は図13の燃料電池装置の動作を説明するためのタイムチャートの一例であり,燃料電池の負荷電流一定時の出力電圧を乾燥状態のパラメータとして検出に使用した例である。横軸は時間tであり,縦軸は負荷電流一定時のセル電圧Vcellを示している。セル電圧Vcellが燃料電池本体171の出力電圧Voutに対応する。この燃料電池装置は,その燃料電池本体171の出力電圧低下が顕著になった場合に,制御ユニット173がその出力電圧低下を検知し,ある値(例えば図12のVth)以下と判断される場合には,制御ユニット173からの信号によって空気供給コンプレッサー176が送風停止状態に制御される。
【0095】 発電性能を回復させる際には,先ず,空気供給コンプレッサー176からの空気供給を制御する。例えば,燃料電池本体171の出力電圧が低下した状態では,空気供給コンプレッサー176の作動を一旦停止させて空気の供給を停止させる制御を行うことができる。このような空気供給コンプレッサー176の一旦停止によって,水分の蒸発を止めることができると共に,電解質膜に生成水を速やかに浸透させることができ,これら水分の蒸発抑制や生成水の電解質膜への浸透によって発電性能を迅速に回復させることができる。
【0096】 また,低抵抗化回路部の低抵抗化への遷移によって,燃料電池本体171はその出力端子間が低抵抗化若しくは短絡したかの如き状態に変化し,燃料電池本体17 1には大きな過電流が流れることになる。この燃料電池本体171を流れる過電流によって,酸素側電極においては活発に酸素原子が水素原子と結合して生成水が一時的に多量に発生し,出力低下が乾燥化による場合では電解質膜を速やかに湿潤状態に戻すために出力を瞬時に回復させることが可能である。
【0097】 燃料電池本体171への空気供給を停止した際には,出力端子の電位差即ちセル電圧Vcellも急激に小さくなることから,図14に示すように比較的に短い時間で所要の電圧(例えば図12の電圧Vs)を下回り,制御ユニット173はその出力電圧が所要の電圧よりも低下したことを検知して,通常の空気供給制御に遷移させる。すると,空気供給制御部は通常の状態に戻り,酸素側電極に空気を供給する。その結果,セル電圧Vcell即ち出力電圧Voutも反転して急激に高くなる。燃料電池本体171の出力電圧Voutが再び高くなることで,フローティングバッテリー180の電圧Vbを超えることとなり,燃料電池本体171から再び負荷装置175に対して電力の供給が行われる。この段階では,燃料電池本体171への空気供給を停止した際に生成水が多量に発生し,電解質膜が速やかに湿潤状態になることから,出力を瞬時に回復させることができる。
【0129】 なお,上述の実施の形態では,燃料電池本体に過電流を流すために一対の出力端子の間を電気回路で短絡させたり或いは低抵抗化させるように構成しているが,必ずしも出力端子の抵抗値を操作する方法に限定されず,MEA自体や集電体などに燃料側電極と酸素側電極の間を短絡又は低抵抗化する手段を形成しても良く,また,その短絡又は低抵抗化する手段は単数に限らず複数設けるようにしても良い。また,電解質膜で均一な機能回復処理を図るために,燃料電池本体に過電流を流すための専用の配線を施すことも可能である。
【0130】 また,本実施の形態では,燃料電池本体の出力電圧等をモニターしながら,所定 の出力特性回復動作を行う例について説明したが,これに限らず,タイマーなどによって自動的に所定の出力特性回復動作を行うことも可能であり,特に起動時などではタイマーを用いても良好な結果が得られることになる。また,燃料電池本体が複数の発電体からなる場合では,全部の発電体に一度に過電流処理を行うようにすることも可能であるが,過電流を印加させる発電体を時間的にずらすようにして順番に処理するようにすることも可能である。
【図13】 【図14】 (2) 甲5の記載事項 平成21年8月6日に公表された甲5は,発明の名称を「燃料電池の加湿」とする特許出願に係るもので,甲5には,次の記載がある。
【要約】 【課題】従来技術が抱える欠点の少なくとも一部を克服する,又は,少なくとも緩和するための,改良された燃料電池及び制御方式を提供することである。
【解決手段】加湿時間中に,装置内の燃料電池セルスタックからの電流出力やセルスタックへのエアフローのような1以上の動作パラメータを,燃料電池に対する燃料電池外部の負荷の電流需要とは関係なく,周期的に調節することによって燃料電池セルの保湿レベルを周期的に増加させる燃料電池を提供する。加湿時間中,外部負荷への電流供給は維持される。
発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,燃料電池に関する。特に,水素ガスが燃料電池の陽極に供給され,酸化剤が燃料電池の陰極に供給され,そして,燃料電池の陰極において,生成水が生じ,排水される,陽子交換膜型燃料電池に関する。
【発明の開示】 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明の他の態様によると,本発明は,電気化学燃料電池を提供するものであって,この電気化学燃料電池は, 燃料電池セルスタックとスタック制御部と維持手段とを含んでおり, 前記燃料電池セルスタックは,所定数の燃料電池セルと,電気的な出力部とを含み, 前記燃料電池セルは,膜電極接合体と,前記膜電極接合体に燃料及び酸化剤を供給するための流体フロープレートとを有し, 前記出力部は,前記燃料電池セルスタックからの出力電流を供給するためのものであり, 前記スタック制御部は,燃料電池に対する電流需要とは関係なく,周期的に前記 燃料電池セルスタックに流すエアフローを調節することによって,前記燃料電池セルの保湿レベルを増加させる加湿時間を設け, 前記維持手段は,前記加湿時間中,燃料電池外部の負荷の電流需要を支える。
【0011】 本発明の他の態様によると,本発明は,電気化学燃料電池の動作方法を提供するものであって,この電気化学燃料電池の動作方法は, 燃料電池セルスタックを有する電気化学燃料電池の動作方法であり, 前記燃料電池セルスタックは,所定数の燃料電池セルと,電気的な出力部とを含み, 前記燃料電池セルは,膜電極接合体と,前記膜電極接合体に燃料及び酸化剤を供給するための流体フロープレートとを有し, 前記出力部は,前記燃料電池セルスタックからの出力電流を供給するためのものであり, 燃料電池に対する電流需要とは関係なく,周期的に前記燃料電池セルスタックに流すエアフローを調節することによって,前記燃料電池セルの保湿レベルを増加させる加湿時間を設けるとともに, 前記加湿時間中,燃料電池外部の負荷の電流需要を支えるステップとを含む。
【発明を実施するための最良の形態】 【0029】 上述したように,一般的な見地から,スタック電力制御部38は,内部負荷36を用いて,加湿時間中に,燃料電池外部の独立した電流需要に加えて,又は,この電流需要に代わって,周期的かつ一時的に燃料電池スタックからの出力電流を増加させる。必要であれば,スイッチング時の大きな過渡電流を避けるために,パワーコントロールデバイスを用いて,制御に基づくスイッチングにより内部負荷36を接続してもよい。
【0030】 また,加湿時間は,燃料電池セルスタック31の陰極に流すエアフローを周期的に弱めることによって設けることもできる。すなわち,電力制御部38によって,加湿時間中に冷却用ファン34への供給電力を低下させればよい。好ましくは,加湿時間中に冷却用ファンのスイッチを切るのがよい。
【0031】 すなわち,一般的な見地から,スタック電力制御部38は,燃料電池セルスタックに対する電流需要とは関係なく,周期的に燃料電池セルスタック31に流すエアフローを調節することによって,燃料電池セルの保湿レベルを増加させる加湿時間を設ける。ここでいう「関係なく」という表現は,燃料電池30の外部負荷41の急な変化,又は一時的な変化とは無関係であることを示すものである。
【図3】 (3) 乙10の記載事項 平成11年2月16日に公開された乙10は,発明の名称を「固体高分子型燃料電池」とする特許出願に係るもので,乙10の【発明の詳細な説明】には,次の記載がある。
【0005】イオン交換膜1は,水を含むことによって有用なプロトン導電性を 示す。したがって,固体高分子型燃料電池が実用性能を発揮するためには,膜は常に水を含んだ状態,すなわち含水していることが必要である。しかし,固体高分子型燃料電池には,イオン交換膜1の含水量が変動する要因が以下のようにいくつか存在する。
【0006】 (1)アノード電極2からカソード電極3へイオン交換膜1中を移動するH+(プロトン)は,いくらかの水分子(H2O)を伴って移動する。
(2)カソード電極3では,酸素の還元により水が生成する。
(3)上記(1)(2)の水の一部(H2O)は,カソード電極3からアノード電 ,極2へ拡散する。
(4)燃料ガスによってイオン交換膜1のアノード電極2側から水が電池外へ取り去られる。
(5)酸化剤ガスによってイオン交換膜1のカソード電極3側から水が電池外へ取り去られる。
【0007】この中で(1)と(2)は電池の反応速度に依存し,膜のカソード電極3側の含水量が増す要因である。
(3)は(1)十(2)の一部であるから,膜のアノード電極2側の含水量は減る傾向にある。
【0008】 (4)(5)は共に膜の含水量が減る要因である。含水量が増す要因 ,もあるものの,実際の電池では流量にもよるが, (4)および(5)の影響が大きく,膜は短時間で乾燥し,結果として電池の特性は低下する。このような現象を解決するために,何等かの方法で予め燃料ガス,あるいは燃料ガスと酸化剤ガスの両方に水分を含ませて,すなわち加湿を行い,電極を通してイオン交換膜1に水分を供給する手段が既に採用されている。
(4) 乙11の記載事項 平成16年6月3日に公表された乙11は,発明の名称を「冷媒分配構造付きPEM燃料電池スタック」とする特許出願に係るもので,乙11には,次の記載がある。
発明の詳細な説明】 【0004】 カソードにおいて,生産水は電気化学反応で形成される。但し,それがカソード通路に入ると,特にカソードガス入口において,MEAから,かなりの水分が除去される。この水分の除去は,電気化学的反応や導電中に生成される高温が原因で起こる水の蒸発によって生じる。この影響は,水をアノードからカソードに輸送する水素-水化合物,例えばヒドロニウムイオンH(H2O)+の電気浸透輸送によってより強くなる。MEAが乾燥すると,プロトン伝導性の低下,ゆえにセル電圧,すなわち燃料電池効率が低下する。
(5) 乙13の記載事項 平成15年6月6日に公開された乙13は,発明の名称を「燃料電池発電システム」とする特許出願に係るもので,乙13には,次の記載がある。
発明の詳細な説明】 【従来の技術】 【0003】この燃料電池発電システムにおいて,燃料電池セルスタックの一部が故障して発電しなくなった場合,他の燃料電池セルスタックが発生する電力により,故障した燃料電池セルスタックに逆方向電流が流れてしまうことがある。
【0004】通常,燃料電池セルスタックは,水素極の水素と,酸素極の酸素との触媒反応によって酸素極が正極,水素極が負極となるような電気エネルギーを発生するとともに水を生成しているのであるが,一部の燃料電池セルスタックが故障して発電を行えなくなると,他の燃料電池セルスタックが発電した電圧が故障した燃料電池セルスタックに印加され,逆電流が流れることがある。
【0005】燃料電池セルスタックに,逆に電流が流れ込むと,その電流により生成した水の電気分解が開始され,水素電極に酸素ガスを,酸素電極に水素ガスを発生してしまい,電極が酸化され,劣化することがある。さらには,流れ込む電流が過大となれば,燃料電池セルスタックの内部で水素ガスと酸素ガスが混合して爆 発が起こる危険性がある。
【発明が解決しようとする課題】 【0008】そこで,本発明は上記事由に鑑みて為されたものであり,その目的は,一部の燃料電池セルスタックに欠陥が生じても,残りの燃料電池セルスタックで継続運転することにより,安定的に電力を供給することのできる燃料電池発電システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】 【0016】 【発明の実施の形態】 (第1実施形態)本発明における燃料電池発電システムの第1の実施の形態を図1を参照して以下に説明する。燃料電池発電システムは,燃料電池単位セルとしての燃料電池セルスタック1aが,複数直列に接続された燃料電池発電部1と,個々の燃料電池セルスタック1aに並列となるとともに,燃料電池セルスタック1aの負極側から正極側方向に流れる電流を制限する複数の電流制限手段としてのダイオード3と,燃料電池発電部1の出力電圧を検知する検知手段として電圧検知器6と,燃料電池発電部1の出力電圧を昇圧するとともに交流電力に変換する複数の電圧変換手段としてのプッシュプル型スイッチング電源7と,検知手段の検知値に応じて複数のプッシュプル型スイッチング電源7間の電気的な接続を直列又は並列に切替自在に形成された接続切替手段としての切替器5と,を備えている。
【0020】次に,この燃料電池発電システムの動作を説明する。燃料電池セルスタック1aがそれぞれ所定の電圧を出力して,正常に発電している場合,すなわち正常運転時では,切替器5において複数のプッシュプル型スイッチング電源7が全て直列に接続されている。ここで,例えば,1つの燃料電池セルスタック1aが故障して,燃料電池発電部1が,所定の第1しきい値以上の電圧を発電できなくなった場合,切替器5において,プッシュプル型スイッチング電源7の接続を1つだけ並列接続になるように切り替える。その際,正常に発電している燃料電池セルス タック1aから故障した燃料電池セルスタック1aに流れる電流は,ダイオード3をバイパスするように流れる。
【0044】 (第5実施形態)本発明に係わる第5の実施の形態について図6を参照して以下に説明する。本実施の形態では,第1の実施の形態と同じものには同じ符号を付すとともに,切替器5より右側,すなわち2次側は同じ構成である。
【0045】図6に示すように,本例においては,電気的に直列に接続された燃料電池セルスタック1aに対し,それぞれ電気的に並列となるよう接続された電流制限手段としてのダイオード3と,継電手段としてのMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)19に流れる電流を検知する検知手段としての電流検知器8を接続している。ダイオード3とMOSFET19は,ダイオード3のアノードにMOSFET19のソースが,ダイオード3のカソードにMOSFET19のドレインが,接続されている。MOSFET19のゲートは,切替器5の継電開始信号を受信できるよう電気的に切替器5と接続されている。
【0046】MOSFET19は,切替器5がプッシュプル型スイッチング電源7を切り替える際に切替器5から送出される継電開始信号をゲートが受信すると,ソース・ドレイン間に電流を流すように動作し,対応する燃料電池セルスタック1aを短絡するような電流経路を形成する。
【0047】本実施の形態における動作としては,燃料電池セルスタック1aが全て正常の場合には,プッシュプル型スイッチング電源7が全て直列となるよう切替器5で電気的に接続されている。
【0048】ここで,例えば,1つの燃料電池セルスタック1aが故障して,所定の電圧値だけ発電できなくなると,電流はダイオード3を通過する。その電流を電流検知器8が検知し,検知したことを示す検知信号を切替器5に出力する。
【0049】切替器5は,電流検知器8から検知信号を受信すると,プッシュプル型スイッチング電源7の接続を一部並列に切り替えて,低下した電圧分を補う。
この際,切替器5は,故障した燃料電池セルスタック1aに並列に接続されたMOSFET19に継電開始信号を送出する。この継電開始信号を受信したMOSFET19は,ソース・ドレイン間を電流が通過するよう,新たな電流経路を形成する。
これにより,故障した燃料電池セルスタック1aに流れる電流は,MOSFET19をバイパスするようにして流れる。
【0050】なお,本実施の形態においては,図7に示すように,継電手段として常開型の電磁リレー21を用いてもよい。この電磁リレー21は,切替器5からの継電開始信号を受信すると,電磁石により可動鉄片を移動させ,接点を閉めることにより,継電を行うようになっている。また,継電手段として,他にも半導体リレーや,フォトMOSリレー等を用いることもできる。
【0051】上記のように,ダイオード3に流れる電流を検知する電流検知器8を備えて,燃料電池セルスタック1aの故障を検知することができるので,安定して電力供給を行うことができるとともに,ダイオード3とMOSFET19により,故障した燃料電池セルスタック1aにかかる逆電流が阻止されるので,安全な燃料電池発電システムとなる。
【図1】 【図6】 (6) 乙14の記載事項 平成16年10月28日に公開された乙14は,発明の名称を「燃料電池保護回路および燃料電池」とする特許出願に係るもので,乙14には,次の記載がある。
発明の詳細な説明】 【0004】 【発明が解決しようとする課題】 このように,燃料電池スタックは,基本単位であるセルを電気的に直列に接続したものである(図20(a)参照)。正常な発電を行っている状態では,スタック全体の電圧は,1セルあたりの電圧にセルの段数をかけたものとほぼ等しくなる。図20は7段のスタックの例を示しており,1セルあたりの電圧をVとすると,スタックの電圧は正常時で7Vである(図20(b)参照)。
【0005】 しかしながら,例えば一時的な燃料不足等の原因によって,燃料電池スタックの電気的に直列に接続された一部のセルで発電不良が生じると,この発電不良の生じた異常なセルは他の正常なセルに対して抵抗として作用するため,全体の電圧は6V-IRとなる(図20(c)参照)。燃料不足等の原因が瞬時に解消されて異常なセルが正常なセルに復帰する場合もあるが,そうでないときは,異常セルでは電極間の電位差が正常時の逆になる(転極する)ため,MEA(膜・電極接合体)が破損してしまい,このように極性が転極することで一度破損したセルは,他の正常なセルに対して負荷になりつづけ,結果的にスタック全体の起電力を低下させることが避けられないという問題があった。
【0006】 本発明の課題は,上記従来のもののもつ問題点を排除して,異常が起きたセルの電極に対してバイパス経路を形成することで,スタックの電流をバイパスさせて異常セルを転極から保護することができ,それによりMEA(膜・電極接合体)の破損を防ぐことのできる燃料電池保護回路および燃料電池を提供することにある。
【発明の実施の形態】 【0024】 図1,図2には詳細に図示してないが,検出手段20は,単セルCのセル電極間または直列セル回路Bの両端電極間の電位差が,あらかじめ設定したしきい値を下回ったとき,発電不良(電位差不良)であることを検出するものである。また,検出手段20は少なくとも,単セルCが転極(セル電極の極性が反転)したとき,発電不良(電位差不良)であることを検出するものである。そのため,検出手段20は,少なくとも転極による発電不良(電位差不良)検出機能を有し,好ましくは電位差がしきい値を下回ることによる発電不良(電位差不良)検出機能を有する。
【0025】 また,図1には詳細に図示してないが,バイパス手段30は,検出手段20が電位差不良を検出したとき,その単セルCのセル電極間または直列セル回路Bの両端電極間を短絡させるものである。そのため,バイパス手段30は,単セルCのセル電極間または直列セル回路Bの両端電極間に並列に接続されたスイッチング回路を備え,正常時はこのスイッチング回路を開いておき,異常(電位差不良)時にこのスイッチング回路を閉じる機能を有する。
【0026】 また,図2には詳細に図示してないが,バイパス手段30は,検出手段20が電位差不良を検出したとき,その単セルCまたは直列セル回路Bを燃料電池スタックから電気的に切り離すものである。そのため,バイパス手段30は,単セルCのセル電極または直列セル回路Bの両端電極に直列に接続された第1スイッチング回路と,単セルCまたは直列セル回路Bと第1スイッチング回路との直列回路の両端間に並列に接続された第2スイッチング回路とを備え,正常時は第1スイッチング回路を閉じておくとともに第2スイッチング回路を開いておき,異常(電位差不良)時に第1スイッチング回路を開くとともに第2スイッチング回路を閉じる機能を有する。
【0030】 図4は,燃料電池保護回路10の第2の例を示す回路図であり,この場合の単セルCは,一方の電極が燃料電池スタックの接地電極(GND)となっている。そのため,この燃料電池保護回路12において,バイパス手段30は,単セルCのセル電極間に並列に接続されたパワーFETスイッチ素子(この場合はNチャネル)31を備えるが,図3に示す燃料電池保護回路11のような切り換え用レベル変換ドライバ32は不要であり,それだけ燃料電池保護回路11よりも簡単な構成である。
検出手段20はコンパレータIC21で構成され,また,システムコントローラ40は制御用マイクロコントローラ41で構成される。
【0031】 この燃料電池保護回路11は,単セルCが転極すると,コンパレータIC21がそれを検出して,制御用マイクロコントローラ41のINへロジックレベルの検出出力を伝える。制御用マイクロコントローラ41は,コンパレータIC21からINへの検出出力を受けて,OUTの出力レベルをハイ(High)からロー(Low)へ切り換える。このOUTの出力レベルの切り換えによって,パワーFETスイッチ素子31が低インピーダンスでオン(導通)することで単セルCのセル電極間を短絡し,燃料電池スタックの電流をパワーFETスイッチ素子31を通してバイパスさせる。
【図1】 【図2】 【図4】 4 本願発明と引用発明の一致点及び相違点について (1) 本件審決は,本願発明と引用発明を対比して,前記第2の3(3)記載の一致点を認定したところ,原告は,本件審決における引用発明の認定の誤りを述べるとと もに,特に「第1の整流器」及び「制御装置」の2点に関する一致点の認定において,本件審決の認定には誤りがある旨を主張するので,検討する。
(2) 本願発明の「第1の整流器」と引用発明の「電界効果トランジスタ」の対比 ア(ア) 本願発明の第1の整流器について,本願の特許請求の範囲の請求項1には,「第1の燃料電池スタックと並列の」ものであるというほかにこれを特定する記載がない。
そうすると,本願発明の第1の整流器については,第1の燃料電池スタックと並列に接続される,電流を一方向のみに流す作用を有する素子(このような素子としては,単純なダイオードのほか,MOSFETなどの能動的に制御された素子が用いられることが技術常識であるというべきである。本願明細書の段落【0012】,【0096】等参照)という特定がされているにとどまり,第1の燃料電池スタックと並列に接続される場合にどちらの方向に電流を流すものとして第1の整流器が接続されるかについては,特定されていないというほかない。
(イ) これに対し,原告は,第1の整流器が第1の燃料電池スタックのカソードからアノードに順方向電流を流す場合には,常時,第1の燃料電池スタックが短絡されて,有効に動作することはないから,第1の整流器が第1の燃料電池スタックのアノードからカソードに順方向電流を流すことは明らかであると主張するが,上記(ア)で指摘したように,整流器としてMOSFETなどの能動的に制御された素子が用いられ得ることは,技術常識であるというべきであり,本願明細書の段落【0012】, 【0096】及び【0105】等にもこれに沿う記載があるところである。
そうすると,常時,第1の燃料電池スタックが短絡されるということはできないから,それを前提とする原告の上記主張は採用できない。
イ 引用発明の「電界効果トランジスタ」は,甲3における「第1の条件」において, 「不良燃料セルのアノードとカソードの間の電流を短絡し,よってその不良燃料電池のための電流側路を設ける」もの(甲3の段落【0009】)であり,甲3の【図3】において,電気的なスイッチ124(nチャネルMOSFET)として示 されているもので,開放電気状態と閉鎖電気状態とを有する(同【0020】〜【0022】。そして,引用発明においては,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低 )くなるような場合に,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされる(同【0023】。
) この点,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた場合,ドレインからソース,ソースからドレインのいずれの方向にも電流が流れ得ることは,技術常識であるから,直ちに引用発明の電界効果トランジスタが整流器に相当するものとはいえない。
そこで,上記のように,引用発明の電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた場合の電流の流れについて検討すると,燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなるような状態となって電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた時点では,燃料電池のアノード,カソード間の電位差により,電界効果トランジスタでは,カソード53側からアノード52側へ電流が流れ,その後,燃料電池の電位差が低下することによって,アノード52側からカソード53側へ電流が流れるに至るものと解するのが相当である。そうすると,甲3において,好適実施例として記載されている【図3】の構成においても,電界効果トランジスタを流れる電流は一方向に限定されているものではない。
ウ 以上によると,本願発明における第1の整流器が飽くまで一方向にのみ電流を流すものであるのに対し,引用発明における電界効果トランジスタは,双方向に電流を流すものであるから,引用発明の電界効果トランジスタが本願発明の第1の整流器に相当するとはいえず,この点において,本件審決には誤りがある。
エ(ア) これに対し,被告は,引用発明においては,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた場合であっても,電流は電界効果トランジスタをアノード52側からカソード53側に流れると主張し,その根拠として,甲3の段落【0023】の記載を指摘する。
しかし,上記イのように,電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた時点で は,カソード53側からアノード52側へ電流が流れるとしても,その後,アノード52側からカソード53側へ電流が流れるに至るのであって,同段落の記載はそのような理解と矛盾するものとはいえない。甲3の段落【0001】【0005】 , ,【0008】及び【0009】の記載や, 【図4】 (上記各段落の記載内容に照らし,引用発明に係る甲3の「第1の条件」の際の動作は,同図の「欠陥は重大か?」に対する答えが肯定(Y)の場合の動作,すなわち同図の「燃料電池への水素供給遮断及び燃料電池の両端を永久的に短絡」という動作に当たるものと認められる。 を )踏まえると,段落【0023】は,引用発明において電界効果トランジスタが閉鎖電気状態とされた場合に最終的に至る,引用発明の構成においてより重要な電流の流れについてのみ記載したものと理解することができ,そこに至るまでに一旦電流が反対方向に流れることを否定するものとは解されない。
したがって,甲3の段落【0023】の記載は被告の上記主張の根拠とはならず,乙13(前記3(5))の記載や,燃料電池を迂回する経路をMOSFETで形成することに係る周知技術(乙13[前記3(5)],乙14[同(6)]参照)など,その他被告の主張する点は,いずれも上記認定判断を左右する事情ではない。
なお,被告は,本件第1回口頭弁論期日における技術説明会のための資料において,甲3の【図3】における電界効果トランジスタについて,ドレインとソースの表記が逆である旨を指摘するが(乙15の10頁),上記認定判断のとおり,同図の記載と段落【0023】の記載が直ちに矛盾しているとはいえず,相当とはいえない。
(イ) 被告は,引用発明の「電界効果トランジスタ」が本願発明の「第1の整流器」に相当するとの判断が誤りであるとしても,甲3の「ダイオード127」が本願発明の「第1の整流器」に相当するから上記誤りは結論に影響するものではないとも主張する。
しかし,甲3における「ダイオード127」により構成されるバイパス電気回路126は, 「電界効果トランジスタ」である電気的なスイッチ124の制御に係る短 絡制御部122が故障したときに機能するもので(甲3の段落【0021】 【00 ,22】【0030】【図3】, , , )「電界効果トランジスタ」が所定の動作をしないときに限り動作するものとみられるのであって,甲3に記載された発明においては, 「ダイオード127」ではなく,短絡制御部122により制御される「電界効果トランジスタ」が,その技術思想のより核心的な部分を占めるものといえる。そして,本願の出願審査から本件審決に至るまでの過程においても,本願発明の「第1の整流器」については,専ら甲3の「電界効果トランジスタ」(電気的なスイッチ124)のみが指摘され,引用発明についても「電界効果トランジスタ」に係る点のみが認定されたところである(甲1[本件審決],乙4〜8,弁論の全趣旨)。それにもかかわらず,本件訴訟に至って初めて, 「電界効果トランジスタ」に係る主張が認められない場合に被告が上記のような「ダイオード127」に基づく主張をすることは,許されないというべきである。
(3) 本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御回路」の対比 ア(ア) 本願発明の制御装置は,「燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」「燃料電池スタックを通る空気流動を調節するように ,構成される」ものである。
(イ) 本願発明の特許請求の範囲の請求項1の文言や本願発明が燃料電池に係るものであることのほか,前記1(2)の本願発明の概要からして,上記のうち「燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」については,燃料電池の良好な動作のために,膜/電極接合体(MEA)が好適に水和された状態とすべく,MEA内の水分量を積極的に増加させるという目的をいうものと解される。この点,本願明細書の段落【0036】及び【0037】には,「再水和間隔」が,燃料電池カソードにおいて過剰な水を産生して燃料電池における膜の水分量を増加させる短い期間であって,燃料電池上の外部電気負荷及び温度などのその環境動作条件に基づき有効であるレベルを超えて,水和レベルを増加させるために,燃料電池アセンブリがその動作環境を能動的に制御する期間である旨が記載されてい るところである。
そして, 「燃料電池スタックを通る空気流動を調節する」については,上記目的のために,膜の含水量の低下等をもたらし得る空気流動を調節することをいうものと解される。
イ 引用発明の短絡制御回路は,「燃料電池の負の水和降下現象を防止するために」「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」ものであるところ,このうち「負 ,の水和降下現象」の意味内容については,前記2(3)イで検討したとおりである。そして,その意味内容を踏まえると, 「負の水和降下現象を防止する」とは,基本的に,MEAにおける水和の損失が,熱の発生につながり,それが薄膜電極アセンブリの乾燥につながるといった状態を停止させる,又は抑制することをいうものと解される。
そして, 「燃料電池への燃料ガスの供給を停止する」については,上記目的のために,燃料電池の発熱につながる燃料ガスの供給を停止することをいうものと解される。
ウ(ア) 上記ア及びイによると,本願発明の「制御装置」と引用発明の「短絡制御回路」は,MEA内の水分量を積極的に増加させることを目的とするか,MEAにおける水和の損失等を停止させる,又は抑制することを目的とするにとどまるかといった点において異なるとともに,燃料電池のカソード側で水分の低下につながり得る空気流動を調節するか,アノード側で熱の発生につながる燃料ガスの供給を停止するかといった点においても異なっている。
(イ) もっとも,上記のうち後者の点については,本件審決は, 「空気流動を調節する」ことと「燃料ガスの供給を停止する」ことを「気体流動を調節する」とした上で,相違点2を認定しており,その認定判断に誤りがあるとはいえない。
エ 他方で,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路について, 「所定条件で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して」 気体流動を調節するよ ,うに構成される「制御装置」であるという点で一致するとした本件審決の判断に誤 りがあるとは認められない。
オ 以上によると,本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路が, 「水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」という点で一致しているとした点において,本件審決には誤りがある。
カ 原告は,本願発明の制御装置が短絡制御を行うものではない旨を主張するが,短絡制御の点は一致点として認定されておらず,原告の上記主張は当を得ないものである。また,原告は,引用発明における燃料ガスの供給の停止が「流動を調節する」に当たらないと主張するが,甲3の段落【0023】には,燃料電池10への燃料ガス105の供給を停止するような位置にバルブ104をすると同時に,電気的スイッチ124を閉鎖電気状態にする旨の記載がある一方,本願明細書の段落【0010】には空気流動をゼロまで減少させることについて記載があり,これらの記載も踏まえると,両者は,対象となる気体以外の点で実質的に相違するものとは認められず,いずれも気体流動の調整を行うとの概念の範囲で一致するものといえる。
さらに,原告は, 「所定条件」の内容が本願発明と引用発明とで全く異なる旨を主張するが,本件審決が認定した相違点1及び2のほか,前記ウ(ア)で指摘した本願発明の制御装置と引用発明の短絡制御回路の目的の相違があることに加え,別途,それらの動作に係る所定条件に関して相違点を認定すべきものとは認められない。
キ(ア) 被告は,燃料電池においてイオン交換膜の含水量が減少する一般的な原因について主張した上で,引用発明においても,薄膜電極アセンブリの水和レベルが増加することは明らかであると主張する。
しかし,被告の上記の主張のうち,単に薄膜電極アセンブリの含水量の減少量が小さくなることをいうにすぎないもの(含水量の積極的な増加を意図した制御を行っているものではない。)は,前記ウ(ア)の判断を左右するものではない。この点,被告は,燃料電池内の発熱が収まることで,それまでの発電で生じた水や空気中に含まれる水蒸気によって水和レベルが増加することも主張するが,当該主張を裏付ける証拠や,そのような技術常識を直ちに認めるに足りる証拠は見当たらない。
(イ) 被告は,本願発明における水和レベルの増加のメカニズムが明確でなく,本願の実施例で実行される制御で水和レベルが増加するのであれば,引用発明でも同様であるという旨を主張するが,本願発明における「燃料電池スタックの水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するために」の意味内容については,前記ア(イ)で認定判断したとおりであって,そのメカニズムが明確か否かという点は,直ちに本願発明と引用発明の一致点及び相違点の判断に影響を与えるものではない。
(4) まとめ ア 以上によると,本願発明と引用発明は,次の一致点で一致し,本件審決が認定した相違点1及び2のほか,次の相違点3及び4で相違するというべきである。
(一致点) 「燃料電池システムであって, 第1の燃料電池スタックと, 前記第1の燃料電池スタックと直列の,第2の燃料電池スタックと, 前記第1の燃料電池スタックと並列の,第1の電子部品と, 前記第1の燃料電池スタックの水和状態を調整するために,所定条件で,かつ前記燃料電池システム上の電流需要とは独立して,前記第1の燃料電池スタックを通る気体流動を調節するように構成される,制御装置と, を備える,前記燃料電池システム。」 (相違点1) 所定条件に関し,本願発明は,「定期的に」であるのに対し,引用発明は,「燃料電池の出力電圧が約0.4Vより低くなる場合」である点。
(相違点2) 気体流動の調節に関し,本願発明は,気体は空気であるのに対し,引用発明は,気体は燃料ガスである点。
(相違点3) 第1の電子部品に関し,本願発明は,電子部品は整流器であるのに対し,引用発 明は,電子部品は電界効果トランジスタである点。
(相違点4) 燃料電池スタックの水和状態を調整するために関し,本願発明は,水和レベルを増加させる再水和間隔を提供するためであるのに対し,引用発明は,負の水和降下現象を防止するためである点。
イ その上で,後記5の点も踏まえると,少なくとも相違点4の看過は,本件審決の取消事由に当たるというべきである。
5 容易想到性の判断について (1) 相違点1,2及び4は,いずれも本願発明の「制御装置」又は引用発明の「短絡制御回路」に関するもので,技術的構成として相互に関連するものといえるから,以下,一括して検討する。
(2)ア 前記4(3)イからすると,引用発明が「燃料電池の出力電圧が0.4Vより低くなる場合」に「燃料ガス」を調節する目的は,主として熱の発生を抑えることで「負の水和降下現象を防止する」ためであり,これは,甲3にいう「第1の動作条件」(甲3の段落【0024】)に係るものである。
他方で,甲3には, 「第2の動作条件」として,燃料電池の特性パラメータを回復させる構成が記載されている(甲3の段落【0025】〜【0027】 。
) このように,二つの条件に係る構成があることに加え,甲3の段落【0001】,【0009】【0023】【0029】及び【0030】の記載並びに【図4】に , ,照らし,上記「第1の動作条件」が,基本的に,「燃料電池が故障した際」(同【0001】【図4】にいう「欠陥は重大」である場合である。
。 )に係るものとみられることからすると,相違点1,2及び4に係る引用発明の構成は,燃料電池の故障を示すものとみ得る状態を具体的に検知し,負の水和降下現象を防止するために,燃料ガスの供給を停止して熱の発生を抑えるためのものと解するのが相当である。
イ 上記のような燃料電池の故障を示すものとみ得る状態を具体的に検知したとの引用発明に係る「燃料電池の出力電圧が0.4Vより低くなる場合」の動作につ いて,実際の出力が閾値以上に変化しているか否かにかかわらず,これを「定期的に」行うことを想到することが,当業者において容易であるとはいい難いというべきである。甲3に,引用発明に係る燃料ガスの供給の停止を定期的に行うこととする動機付けや示唆があるとは認められない。甲3の段落【0024】には,第1の動作条件について,約0. 「 4Vより低い範囲に低下する場合」以外の記載があるが,そこで挙げられている他の特性パラメータも,燃料電池の故障を示すものとみ得る状態の検知の範疇に止まるものである。燃料電池の保湿レベルを周期的に増加させることに係る周知の事項(甲4[前記3(1)],甲5[前記3(2)])を参照しても,上記判断は左右されない。
上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
ウ また,引用発明が,上記アのように,主として熱の発生を抑えることを目的としたものであることを考慮すると, 「気体流動を調節する」ことについて,引用発明から,燃料電池の乾燥につながり得る一方で冷却効果をも有する空気の流動(本願明細書の段落【0006】参照)を停止することを,当業者が容易に想到し得たということも困難である。甲3に,空気の流動を調節することの動機付けや示唆があるとは認められない。
上記判断に反する被告の主張は,いずれも採用することができない。
(3) 以上によると,相違点1,2及び4に係る本願発明の構成が引用発明に基づいて容易に想到できたものとは認められないから,相違点1及び2について容易想到と判断した点において,本件審決には誤りがあるというべきである。
6 まとめ 以上によると,取消事由に係る原告の主張の取消事由のうち,引用発明の認定の誤りは,理由がないが,一致点及び相違点の認定並びに容易想到性の判断の誤りは,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がある。
結論
よって,原告の請求は理由があるから,本件審決を取り消すこととして,主文の とおり判決する。
裁判長裁判官 本多知成
裁判官 中島朋宏
裁判官 勝又来未子
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