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関連審決 無効2000-35339
関連ワード 確実性 /  使用方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術分野の関連性 /  課題の共通性 /  着想 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  非容易 /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  混同 /  請求の範囲 /  拡張 /  不実施 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 423号 審決取消請求事件
原告 三菱電機株式会社
訴訟代理人弁護士 近藤惠嗣
同 窪田英一郎
被告 サンディスク株式会社
訴訟代理人弁護士 永島孝明
同 飯島紀昭
同 山本光太郎
同 丸山裕一
同復代理人弁護士 伊藤春國
訴訟代理人弁理士 伊藤高英
同 井ノ口壽
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/03/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
特許庁が無効2000-35339号事件について平成13年8月16日にし た審決を取り消す,との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 本件は特許を無効とした審決の取消しを求める事件であり,原告は下記(1)の特許(本件特許)の特許権者,被告は下記(2)の無効審判の請求人である。
(1) 本件特許 発明の名称 「ICカード」 登録番号 特許第2129071号 特許出願 昭和60年7月31日 設定登録 平成9年5月2日 (2) 無効審判 審判請求 平成12年6月26日 事件番号 無効2000-35339号事件 審決 平成13年8月16日 結論 「特許第2129071号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」 審決謄本送達 平成13年8月28日(原告につき) 2 本件特許の特許請求の範囲 (請求項1に係る発明を「本件発明」という。) 【請求項1】 ICとこれに電気的に接続される導体パターンとを有するカード本体と, 前記カード本体と別に構成される,読取装置側の電極端子を受け入れる受け入れ部を有し,該受け入れ部の内部に電極端子を有するコネクタと, 前記コネクタの電極端子と前記カード本体の導体パターンとが電気的に接続されていることを特徴とするICカード。 【請求項2ないし7】(記載略) 3 審決の理由の要旨 審決は,別紙審決書の理由欄記載のとおり,本件発明は,甲第5号証(実願昭57-85022号(実開昭58-187858号)のマイクロフィルム,審判甲5)に記載された発明及び甲第4号証(実願昭57-148702号(実開昭58-170097号)のマイクロフィルム,審判甲3)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当する,と判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
本件発明の進歩性について,審決が甲第5号証記載の発明に甲第4号証記載の 発明を組み合わせて本件発明に至ることが当業者には容易なことであるとした判 断は,以下の理由により,誤りである。
1 本件発明と甲第4号証記載の発明との技術分野の相違 本件発明は,「ICカード」に関する発明であり,従来のカードエッジ型といわれるICカードにおいて,電極が剥き出しとなっていることから生じる静電破壊の問題及びカードの着脱に伴う電気接触の不確実性を解決することを目的としたものである(本件明細書(甲2)の3欄14〜23行)。従来のICカードにおいて,上記の問題に当面した技術者が,甲第4号証記載の発明にたどり着いて容易にこれを甲第5号証記載の発明に適用し得たということはできない。
(1) ICカードは,特定の装置と一体となって意味を持つものではなく,多くの異なる装置に使用されることを前提とする。ICカードは,挿抜が繰り返されるため,容易に挿抜ができることが必要であり,また,読取装置も簡易な構造で読取りが可能なものであることが必要であった。ICカードに記録された情報を読み出すときには,カードを読取機に挿入することが当然の前提となっていた。その結果,カード側の端子が「おす」型であって,読取機側の「めす」型の端子に挿入されることも暗黙の前提となった。したがって,当時,ICカードの静電破壊の問題が意識されていたにもかかわらず,その対策は,保護回路を設けることや電極部分にシャッターを設けて電極を覆うこと等に終始し,「おす」と「めす」を逆転することには誰も想到しなかった。カードが読取機に挿入されるという常識の下で,コネクタ部分では,カードに読取機側の「おす」端子が挿入されるという逆転の発想は,極めて困難であったのである。
一方,甲第4号証記載の発明は,「シーケンス制御装置のメモリユニット」であり,プラントや工場の生産工程において用いられるシーケンス制御装置に使用されるものである。このようなメモリユニットには,工場の生産ライン等を制御するためのプログラムが書き込まれているため,メモリユニットと制御装置本体との間に信頼性の高い強い接合が要求されており,その着脱も頻繁に行われるものではない。また,メモリユニットの相手方となる制御装置本体は通常1つに限られる。
甲第4号証のメモリユニットと本件発明のICカードとは,本件特許出願当時,1)使用される場所が工場のラインか,店舗,事務所,家庭等か,2)使用する主体が工場の技術者か個人か,3)挿抜を繰り返すかどうか,4)異なる装置に使用されるものか否か,5)読取装置の構成,の各点においてまったく異なるものであった。このような用途の相違から,メモリユニットとICカードでは,開発担当者,研究者も全く異なった者になり,ICカードの静電破壊及び着脱に伴う電気的接触の不確実性の問題に直面した技術者が,甲第4号証記載の発明を参考にすることは,通常,考えられない。この意味において,本件発明と甲第4号証記載の発明とでは技術分野が異なり,当業者が甲第4号証記載の発明に基づいて本件発明を容易に想到し得たとは到底いえない。
(2) 上記(1)の1)ないし5)の理由を挙げて本件発明と甲第4号証記載の発明とでは技術分野が異なるとした原告の主張に対し,審決は,@ICカードもシーケンス制御装置のメモリユニットも,情報処理用の外付け機器であること,A静電破壊の防止という課題を共通にしていること,B産業用の技術と民生用の技術とは相互に転用されることが多いこと,を理由に,両者の間には技術分野の関連性があるとするが,これだけの理由で技術的分野の関連性を見いだすことは到底できない。
出願当時の当業者の認識のレベルでは,ICカードは,「情報処理用の外付け機器」とは考えられておらず,ICカードそのものが情報を携帯するための主たる機器であった。ICカードとシーケンス制御装置のメモリユニットに共通しているのは,静電破壊の防止という課題の共通性だけであり,家庭や事務所等で使用されるICカードの技術者が,工場で使用され,形状も使用目的も全く異なるメモリユニットを参考にするというのは極めて不自然であり,甲第4号証記載の発明を参考にする動機付けは全くない。
このことは,電気的接触を確実にしたいという課題に直面した場合も同じであって,挿抜の頻度が格段に多い(少なくとも5000回以上)ICカードの電気的接触を確実にするための参考として,挿抜を繰り返すことを前提にしていないメモリユニット(外す時のための「つまみ用つば」が必要なほど,がっちりとコネクタが結合されている。)を参照するはずがない。
審決は,「挿抜の頻度が異なるといえども程度の問題であり,しかも,本件発明は甲第4号証記載の発明と比較して頻度に応じた特段の技術的工夫があるともいえない。」とするが,的外れな判断である。本件発明は,挿抜回数を増加させるための技術的工夫を内容とするものでない。問題は,甲第4号証記載の発明のコネクタが挿抜を繰り返すような用途に適するものと考えられていたか否かである。
「シーケンス制御装置のメモリユニット」は,作動中に脱落したりすることのないように確実に装着し,電気的接触を確実に維持できることが必要であり,ICカードのコネクタとは,コネクタとしての性格が全く異なる。すなわち,ICカードは,簡単に挿抜ができ,小型であることが重要な性能であり,このような要求からすれば,当時の当業者がカードエッジ型を当然の前提としたことも無理はないのである。ところが,本件発明では,ICカード側がツー・ピース・コネクタの「めす」側であり,電気的接触は,「めす」側の端子の弾力で「おす」側の端子であるピンに圧力を加えて維持され,何千回という挿抜を繰り返しても確実に確保される。「頻度に応じた特段の技術的工夫」がないのに,挿抜を繰り返しても電気的接触が確実に確保されるからこそ,本件発明は大変な発明なのである。甲第4号証のメモリユニットでは,取り外すためのつばが必要なほど,がっちりとコネクタが結合されており,本件発明の出願前に当業者が甲第4号証をみれば,このようなものを挿抜が容易であることを必要とするICカードに使用することは思いつくはずがない。ICカードにツーピースコネクタの「めす」側を付けるということは,誰も思いつかなかったのである。
(3) 技術分野の関連性について審決がした判断には,2つの基本的な誤りが含まれている。
その1は,出願時の技術水準についての認識の誤りである。審決は,本件発明の容易性を判断するに当たって,本件特許の出願時の技術的水準に立つことを忘れ,本件発明以降,本件発明の貢献によって普及したICカードの現状を前提として,ICカードを「情報処理用の外付け機器」として位置づけるという誤りをおかしている。
その2は,着想の困難と製造の困難性との混同である。本件発明は,いわゆるツー・ピース・コネクタをICカードに使用することを内容とするものであるが,本件発明の困難性は,ツー・ピース・コネクタをICカードに使用するという着想の困難性にある。この着想が得られれば,特段の技術的工夫は不要である。審決は,技術的工夫が不要であることを本件発明の容易性の根拠としている節があるが,課題解決の必要性が長らく認識されていたにもかかわらず,それまで本件発明の組合せが存在しなかったという事実,さらには,本件発明後,本件発明を実施したICカードが飛躍的に普及し,それまであったカードエッジ型のICカードをほとんど駆逐してしまったという事実と合わせて考えれば,特段の技術的工夫が不要であったことは,かえって,本件発明の着想が困難であったことを証明している。
(4) 以上のとおり,審決は,技術分野の異なる甲第4号証記載の発明を基礎として進歩性を判断した点において明らかな誤りを犯している。
2 本件発明の顕著な効果 仮に本件発明が一種の転用だと考えたとしても,本件発明には当業者が予測し得なかったような格別顕著な効果があり,この点からも進歩性が認められるべきである。
(1) ICカードにおける静電破壊の問題は,種々の解決手段が試みられたが,成功したことはなく(後記3),本件発明の商業的成功(後記4)は,本件発明の効果が格別顕著なものであったことを示すものである。
また,ICカードに関する接触不良の問題を解決した点も本件発明の重要な効果である。本件発明では,ICカード型の電極端子11が読取機(リーダー)側の雄形電極端子11bを受け入れる構成が取られており,このようなコネクタを用いる構成では,ホコリ等のゴミが付着する可能性が少なく,仮に付着しても,雄形電極端子の嵌入させる際にゴミが移動あるいは落とされてしまい,端子同士が接触不良を起こす可能性は低い。また,端子同士は全体にわたって接触しており,接触は安定するとともに,腐食の可能性も低い。
本件発明は,ICカードにおける静電破壊の問題と接触不良の問題を同時に解決したものであって,ICカードの信頼性を飛躍的に向上させた。このような効果は当業者にとって予想外のことであり,進歩性の判断にあたって考慮されなければならない。
(2) 審決は,静電破壊の問題と接触不良の問題は甲第4号証記載の発明でも同じように解決されている(審決書6頁)というが,工場内で使用され,名刺入れや財布等に入れて携帯されることのないメモリユニットにおける課題は,ICカードにおける課題とは全く異なるのである。
3 当業者による本件発明の長期間の不実施ないし不想到 ICカードという名称ができる前のメモリ・カードにおいても静電破壊の問題の解決が試みられ,以後,ICカードにおける静電破壊の問題を扱う出願は数多く存在する。しかし,それらの中に本件発明のようなツーピースコネクタを採用しているものはない。その理由としては,コネクタは確固たる接触を維持するためのものと考えられていたため,挿抜の容易なコネクタは想到し難かったということが考えられる。
審決は,本件特許出願前からコネクタが挿抜の容易性のために広く一般的に用いられていたというが,これを裏付ける事実を何ら認定していない。
4 本件発明を実施した商品の商業的成功 本件発明には,上記3のような顕著な効果があるため,コネクタを用いたICカード(ツーピース型ICカード)は,JEIDAの規格に採用された。現在販売されているICカードのほとんどはツーピース型であり,カードエッジ型はほとんど製造販売されていない。
ツーピース型ICカードの高度の信頼性,挿抜頻度への耐用性から,ICカード全体の市場も飛躍的に増加し,当初考えられていた磁気カードに代わる使用方法だけでなく,パソコン向けへの需要が拡大した。本件発明を抜きにして,今日のICカードの隆盛は考えられなかった。
審決は,このような本件発明の商業的成功を看過し,結果的に本件発明が進歩性を有しないとした点で取消しを免れない。
被告の反論の要点
1 技術分野の相違の主張に対して (1) 用途以外の共通点に基づく技術分野の関連性 原告は,メモリユニットとICカードの用途にのみ依拠して,技術分野の関連性を議論しているが,技術分野の関連性は種々の観点から総合的に判断されるべきである。メモリユニットとICカードは,使用形態である用途以外に,構成部品,機能,使用態様,課題及び国際特許分類において次のような共通点を有しており,これらの共通性によって,当業者は,ICカードにおける課題を解決するために,甲第4号証記載の発明を参考にすることは明白である。
@ 主要な構成部品としてメモリICを使用すること(両発明ともE・P- ROMを使用することまで一致する。)。
A 外部記録媒体としての機能を有すること。
B 自らの端子を読取装置やシーケンス装置の端子に接触させて使用すること。
C 静電破壊の防止及び接触不良の回避という課題。
D 両者は国際特許分類上も,記録担体一般を示すG11に関連付けられていること。
本件発明の課題のうち,「静電気によって内部のICチップが破壊されてしまう。」というICカードの問題点は,「端子は露出しているので静電破壊されやすい。」というメモリユニットの問題点と一致する。また,「相互が当接されて接触するつき当て方式であるため,すべての接触部分で確実な電気的接触が得られるとは限らない」という問題点は,甲第4号証には直接記載されていないが,従来のメモリユニットの「ROMを装着したプリント板に金メッキ端子を設けシーケンス制御装置の本体の雌側コネクタで接続する」という接続構造が従来のICカードの接続構造と同一であること(甲2の12図b,13図及び14図)からすれば,メモリユニットにおいての確実な電気的接触が得られないという問題点は甲第4号証記載の発明においても自明といえる。原告は,ICカードにおける静電破壊の問題は,ICカードを名刺入れや財布に入れる等して,携帯することから起きるものであるのに対し,メモリユニットは工場で使用され,持ち歩くことはないから,両者は課題が異なると主張するが,本件発明の問題点は「電極が外部に露出して設けられており・・」という電極の構造に由来する問題点であり,甲第4号証に示される「端子は露出しているので静電破壊されやすい」というメモリユニットの課題と正に一致するものである。
また,本件発明の「電気的接触を確実にしたい」という課題は,従来技術が相互に当接されて接触するつき当て方式であるために,「すべての接触部分で確実な電気的接触が得られるとは限らないという問題」に端を発しており,挿抜の頻度とは全く関係がない。メモリユニットは,従来の接続構造が「ROMを装着したプリント板に金メッキ端子を設けシーケンス制御装置の本体の雌側コネクタで接続する」という「つき当て方式」であったから,「電気的接触を確実にしたい」という課題に接した当業者は,接続構造が「つき当て方式」を採用している技術分野を参考とするのである。しかも,メモリユニットは,ファミリーコンピュータ用のゲームカセットのように,頻繁に挿抜を繰り返す場合にも使用されるものであり,挿抜の頻度という点でも参考にされるのである。
(2) 用途における技術分野の関連性 両者は,用途に関しても関連する。
シーケンス制御は,本件特許出願当時,日常生活においても広範囲に利用されていたのであり,甲第4号証記載の発明を,「プラントや工場の生産工程において用いられるシーケンス制御装置」に用いられるメモリユニットに限定しようとする原告の主張は失当である。
甲第4号証記載の発明にはコネクタを用いたメモリユニットが挿脱容易なメモリユニットであることが明記されている。挿脱の容易性が求められるのは,メモリユニットの挿抜が頻繁に行われることを想定しているからである。メモリユニット(例えば,ファミリーコンピュータ用のゲームカセットもこれに含まれる。)が家庭において,頻繁に挿脱され,複数の接続端末に挿脱使用されたことは周知の事実である。甲第4号証記載の発明におけるつまみ用のつば(22)は,単に持ちやすさを改善しただけであり,コネクタの取り外しが困難であることを示すものではない。
また,原告は,ICカードは携帯性のものであるというが,甲第7号証にはICカードが「工場での工程管理や生産管理にも応用することができ(る)」ことが記載されており,ICカードの開発者,研究者が工程管理や生産管理において使用される技術を参考とする動機付けはあったというべきである。
2 効果の顕著性について 原告が主張する作用効果は,甲第4号証記載の発明に十分に開示されており,何ら格別のものではない。
3 長期間の不想到について コネクタはそもそも挿抜操作を頻繁かつ容易に行うために設置される。甲第4号証記載の発明にも,発明の目的及び効果として,挿脱容易性が明記されている。本件特許出願当時,コネクタ自体は挿抜の容易性のために広く一般的に用いられてきた(甲3,6)。
また,本件特許出願の5年前にメモリカードの静電破壊を防止するという課題は既に提示されており(甲14),本件特許出願の3年前の甲第4号証記載の発明によってICカードと技術的関連性を有するメモリユニットにおける静電破壊防止の発明の目的,構成,作用効果が既に開示されている。したがって,本件発明の出願時には,ICカードの静電破壊防止という課題は既に解決済みであったといえるのであり,「長期間の不想到」という主張は失当である。
また,原告は,本件発明のような実例がないことは着想非容易性を裏付けるというが,着想の容易性は,出願時の技術水準を基に当業者が容易に想到し得たか否かで判断されるべきで,現実に実例が存在していたか否かによって判断されるべきではない。
原告は,出願当時のICカードにおいては,カード側の端子が「おす」型,読取機側の端子が「めす」型という先入観があったので,おす,めすを逆転させる発想は着想困難であったというが,甲第4号証記載の発明も,メモリ側(おす)を制御装置側の「めす」型端子に接続するという従来の接続構造を「逆転」させた構造としており,原告の主張する逆転の発想は,甲第4号証記載の発明において既に実現されていたものである。
4 「商業的成功」について 商業的成功のような二次的考慮要因(非技術的要因)は,あくまでも,進歩性の一般的判断手法を補強し又は傍証的に利用することができるものにすぎず,技術的事項の判断において「容易である」と判断された後は,二次的考慮要因を参酌する必要はない。
また,原告の主張する「商業的成功」なるものが発明の特徴(効果)に起因することは何ら立証されていない。したがって,「商業的成功」の事実自体,認め難いものである。
当裁判所の判断
1 本件発明と甲第5号証に記載された発明とが審決の認定したとおりの一致点及び相違点を有すること,及び甲第4号証に記載されたシーケンス制御装置のメモリユニット(以下「甲第4号証のメモリユニット」ということがある。)のコネクタが相違点に係る本件発明の構成を備えていることは争いがない。本件の争点は,もっぱら,甲第4号証のメモリユニットにおけるコネクタの構成を,本件発明が対象としているICカードに採用することが,当業者にとって想到容易か否かという点に関わるものである。
2 本件発明について,本件特許公報(甲2)には以下の記載がある。
@「〔従来の技術〕 ここでICカードとは,従来の磁気ストライプ付カード等に代わって用いられるものであり,カードの基体内にメモリICやCPUその他の半導体片を内蔵し,従来の磁気ストライプ付カードに比べて数桁以上の大容量の記憶能力を持たせることができるほか任意の演算機能を持たせることができるものである。」 A「〔発明が解決しようとする問題点〕 上記のような従来のICカードにおいては,電極が外部に露出して設けられており,そのため該電極が人体及び設備装置などに直接接触し,それらから誘導される静電気によって内部のICチップが破壊されてしまうという問題点があった。更に,カード側の電極端子と読取装置側の電極端子とは,相互が当接されて接触するつき当て方式であるために,すべての接触部で確実な電気的接触が得られるとは限らないという問題点があった。本発明は上記のような問題点を解消するためになされたもので,簡単な構造で静電破壊を防止でき,更に高い嵌合精度が得られICカード側の電極端子と読取装置側の電極端子との確実な接触が実現できるICカードを提供することを目的とする。」 B「〔問題点を解決するための手段〕 この発明に係るICカードにおいては,カード本体に,ICとこれに電気的に接続される導体パターンとを有し,コネクタは,上記カード本体と別に構成され,読取装置側の電極端子を受け入れる受け入れ部を有し,その受け入れ部の内部に電極端子を有し,上記コネクタの電極端子と上記カード本体の導体パターンとが電気的に接続されている」 C「〔作用〕上記のように構成されたICカードにおいては,人体又は設備装置とICカード側の電極端子とが直接接触することがなく,更に,ICカード側の電極端子と読取装置側の電極端子とが的確に電気的接続される。」 D「〔発明の効果〕本発明は,以上説明したように構成されており,コネクタの受け入れ部の内部に電極端子を設けることにより,カード側の電極端子と人体又は設備装置が直接触れることなく,内部に実装されたICを静電気破壊から防ぐことができる。また,本発明は,コネクタをカード本体とは別に構成し,コネクタに読取装置側の電極端子を受け入れる受け入れ部と受け入れ部の内部に電極端子とを有するように構成したので,読取装置側の電極端子コネクタの電極端子とが圧入して電気的に接触でき,読取装置側の電極端子部の寸法にあわせて精度高くカード側の電極端子等を成形でき,挿入精度を高め,確実な電気的接続を可能とし,誤作動がなく,高信頼性のICカードを提供することができるものである。」 上記各記載によれば,本件発明は,従来技術のICカードにおいて,電極端子が外部に露出して設けられていることに起因して生ずる静電破壊の問題を解決すること,及びカード側の電極端子と読取装置側の電極端子とが相互に当接されて接触する「付き当て方式」であるために生ずる電気的接触の不確実性の問題を解決することを課題とするものであると認められる。
3 他方,審決が,本件発明と甲第5号証記載の発明との相違点に係る構成を備えるものとして引用した甲第4号証(実開昭58-170097号公報)には,以下の記載が認められる。
@「本考案は,シーケンス制御装置のメモリユニットに関し,その目的とするところは,静電気によるメモリの破壊を防止するとともに,ユニットの状態でメモリのプログラムの書き込み,消去,再書き込みが容易に行え,しかも装置本体に対する挿脱が容易なメモリユニットを提供することにある。」 A「従来におけるシーケンス制御装置のメモリユニットは,予めプログラムしたROMを差し換えることにより別のプログラムのシーケンス動作をさせるようにしてあり,ROMの端子は変形しやすいので取扱いが面倒でしかもその端子は露出しているので静電破壊されやすいものであった。
またROMをスプリング端子にしてシーケンス制御装置本体のプリント板に弾発接続させるものや,或はROMを装着したプリント板に金メッキ端子を設けシーケンス制御装置の本体の雌側コネクタで接続するものもあったが,いずれも静電破壊に弱いものであった。
本考案は上記従来の事情に着目してなされたものである。」 B「シーケンス制御装置は,第4図に示すように,装置本体Aにコントロールユニットとして,・・・入力端子(1),出力端子(6),入,出力回路(2),(4),両回路の動作表示灯Dと雄側のコネクタ(3)で構成したものであり,・・・このコネクタ(3)は装置本体Aと一体の囲壁中に収納されており,その接続ピンは突設されているが囲壁により保護され変形しない。」 C「(10)はメモリユニットで,ROMの一種であるE・P-ROM(11)・・・をメモリとしており,・・・ROMライタで新たなプログラムを書き込める。
コネクタ(3)は雌側なので装置本体Aの接続ピンを受ける刃受けばねが絶縁器体中に収納され外部から接触されないようになされ静電破壊から保護されている。・・・ケース(20)は,コネクタ(3)の挿脱時に扱いやすいようにつまみ用のつば(22)が設けてあり,・・・メモリユニット(10)は囲壁にガイドされて接続ピンを変形させることなくコネクトできる。」 D「本考案はROMのようなメモリと雌側コネクタとをケースに収納しケースに設けた開口部にメモリの上面と,コネクタの挿着口とを対応させたので,静電破壊を防止しかつ,ケースに収納したメモリがE・P-ROMのようなROMであればケースに収納したままでメモリの消去・再書き込みが容易に行えるものであり,更にケース外側面には挿脱時のつまみ用のつばを突設してあるので,メモリユニットを装置本体に対して挿脱する際につばを手でつまむことによって挿脱操作が容易となるという効果を奏する。」 また,第1ないし第3図及び第5図には,メモリユニットの構造及び要部回路が,第4図には,シーケンス制御装置のコントロールユニットが示されている。
4 以上の各記載及び図面によれば,甲第4号証のメモリユニットは,装置本体Aのコントロールユニットに雄側のコネクタを,メモリユニットに雌側のコネクタを,それぞれ形成し,雄側コネクタの接続ピンを雌側コネクタの刃受バネに受けることによって,装置本体のコントロールユニットとメモリユニットとが接続され,情報のやり取りが行われるようにしたものであって,その雌側コネクタは,接続ピンを受け入れる刃受けバネが絶縁器体中に収納され,外部から接触されない構造となっているものと認められる。
そして,同メモリユニットは,メモリIC(実施例では,メモリの消去,再書き込みが可能なE・P-ROM)を主要な構成部品とし,装置本体のコントロールユニットに接続されて,コントロールユニットとの間で情報のやりとりをすることができる記録媒体として機能するものであって,これらの点で本件発明と共通するということができる。
また,従来のメモリユニットに関する「シーケンス制御装置のメモリユニットは,予めプログラムしたROMを差し換えることにより別のプログラムのシーケンス動作をさせるようにしてあり,ROMの端子は変形しやすいので取扱いが面倒」との記述(上記3A)及び甲第4号証記載の考案の目的及びについての「ユニットの状態で書き込み,消去,再書き込みが容易に行え,しかも装置本体に対する挿脱が容易なメモリ」(同@),「コネクタ(3)の挿脱時に扱いやすいようにつまみようのつば(22)を設けてあり」(同C),「メモリユニットを装置本体に対して挿脱する際につばを手でつまむことによって挿脱操作が容易となる。」(同D)との記載によれば,甲第4号証記載のメモリユニットは,別のプログラムのシーケンス動作をさせる必要が生じる都度,差し換えて使用するもので,装置本体への挿脱操作をある程度の頻度で行うことを予定したものであるということができ,この点でも本件発明と共通する(なお,原告は,甲第4号証のメモリユニットは,取り外すのに「つば」が必要なほど,装置に確実に結合されるというが,「つば」が挿抜時の操作性,すなわち,挿抜時に単にメモリユニットをつまみやすくするために設けられていることは,甲第4号証中の上記説明から明らかである。「つば」の存在は,コネクタの取り外しが困難であることを示唆するものではない。)。
さらに,「その目的とするところは,静電気によるメモリの破壊を防止するとともに,・・・装置本体に対する挿脱が容易なメモリユニットを提供することにある。」(同@)との記載及び「コネクタ(3)は雌側なので・・・静電破壊から保護されている。」(前記B)との記載によれば,甲第4号証のメモリユニットは,端子が露出していることからくる静電破壊の問題を解決し,挿脱操作の容易性を実現することを課題とするものであって,この課題は,ICカードにおいて,電極端子がICカード側に設けられ外部に露出していることによって生じる静電破壊の問題を解決するという本件発明の課題と共通するものである。
以上のような,主要な構成部品,機能,使用態様,課題の共通性を考慮すると,甲第4号証記載のICメモリを備えたメモリユニットと本件発明のICメモリを備えた携帯型カードとは,互いに関連する技術的分野に属するものというべきである。
5 原告は,本件発明のICカードと甲第4号証記載のメモリユニットとでは,用途ないし使用方法が全く異なるから,ICカードにおける課題を解決するために当業者が甲第4号証記載の発明を参考にするということは通常考えられず,その意味で,両者は,技術分野が異なる旨主張する。
しかし,審決が主引用例とした甲第5号証(本件特許出願前の昭和57年に出願されたICカードの考案に係る公開実用新案公報)には,「従来情報カードとしては磁気カードが主体であったが,近年ICメモリを内蔵する電子式情報カードが提案されており,メモリ容量が大きいことや気密性の点で磁気カードに比べ用途が広く,将来の実用化が期待されている。」と記載され,また,甲第7号証(「’86集積回路ICガイドブック」。本件特許出願後の昭和61年に発行されたものであるが,本件特許出願時におけるICカードの一般的状況を示すものと認めることができる。)には,「近年ICの拡張された応用製品として注目を浴びているものの一つにICカードがある。キャッシュカード,クレジットカード等,普及のめざましい磁気カードに比して,さらにメモリ容量が大きく,またCPUを搭載していることからインテリジェンス機能をもっており,・・・メモリ容量が大きいことから,定期券・・・等多くの機能を盛り込むことができ,工場での工程管理や生産管理にも応用することができよう。」と記載されており,これらの記載に照らすと,ICカードは,当初は,キャッシュカードやクレジットカード等の携帯用の磁気カードに代わるものとして登場したものであるとしても,本件特許出願時には,既に,磁気カードにない広い用途に適用しうるものとして,携帯用カード以外の種々の用途への応用が検討されていた状況にあったことが明らかである。そうすると,ICカードと甲第4号証の考案が対象としているシーケンス制御装置のメモリユニットとの間に,技術分野の共通性がないということはできない。
しかも,甲第5号証には,「ICメモリを内蔵する電子式情報カード」について,「カードの入出力端子部分はカード面に露出しているため,よごれもしくはチリ,粉等による接触不良等が起こりやすく信頼性の面で大きな問題として提起されている。」として,ICカードの入出力端子がカード面に露出していることに起因する問題が指摘され,甲第14号証(特開昭56-157590号公報)には,集積回路の形の電子回路を備えた「メモリ・カード」(ICカード)について,「カードを構成するプラスチック材の表面とその内部に静電荷が発生し,また,この局所電荷は,・・・電子回路そのものにとっても有害な静電ポテンシャルを生じ,特にこの電子回路がMOS技術によって半導体で作られている場合には破壊されるおそれがある。故に本発明の目的は,このような静電ポテンシャルの出現と発展を防止する手段を備えた上述の種類のメモリ・カードである。」として,ICカードについて,静電破壊の問題が解決すべき課題として指摘されている。このように,携帯用カード以外の種々の用途への応用の途にあったICカードについて,端末が外部に露出していることに起因する接触不良の問題や,静電荷をもったICカードの端子が外部に触れたときに生じる静電破壊の問題が,ICカードの信頼性という観点から実用上問題視され,解決すべき課題として意識されていた状況の下で,当業者が,同じくメモリICを使用し,装置に挿入(接続)した状態では装置との間で情報のやり取りを行い,装置から抜き取った状態では持ち運びが可能なメモリユニットの技術を参照し,そこにICカードにおける上記課題の解決手段について着想を得ようと試みることは,自然なことというべきである。
したがって,甲第4号証に記載されたメモリユニットは,ICカードとは技術分野が異なり,本件発明の課題を解決するために甲第4号証を参考にして,そこに記載された解決手段を採用することはあり得ないという原告の主張は,採用することができない。
6 また,以上に検討したところによれば,甲第5号証記載のメモリカードに,甲第4号証記載のメモリユニットにおけるコネクタの構成,すなわち,「装置本体Aの接続ピンを受ける刃受けバネが絶縁器体中に収納され外部から接触されないようなされている」構成を採用して,相違点に係る本件発明の構成とすることも,当業者であれば容易に想到し得たことというべきである。
原告は,挿抜が頻繁に行われるICカードにコネクタを採用するという発想の困難性,さらには,カードが読取装置に挿入されるという常識の下で,コネクタの部分では,カード側の端子を「めす」型とし,そこに読取機側の「おす」型端子を挿入するという「逆転の発想」を得ることの困難性を主張する。しかし,ICカードも読取装置と接続され,装置との間で情報のやりとりをするものである以上,その接続手段としてコネクタを採用するという着想自体に困難があるとはいえない。原告は,ICカードは,異なる多くの機器に挿抜されて使用され,挿抜の頻度もメモリユニットに比べて格段に多いことを強調するが,甲第4号証のメモリユニットも,そのコネクタ自体の構造は,共通するコネクタ構造を持つ多くの機器に挿抜して使用することが可能で,しかも,挿抜が容易な構造と認められるから,これをICカードにおいて採用しようとすることを妨げる要因があるとはいえない。そして,ICカードにコネクタを採用しようとした場合に,カード側の端子を「めす」,「おす」のいずれとするかは,当業者が適宜決定し得る事項にすぎないというべきである。
原告は,さらに,ICカードにおける静電破壊の問題は,長期間にわたり解決すべき課題として意識されていたのに,本件発明のようにツーピースコネクタを採用することによって上記問題を解決したものがなかったこと(長期間にわたる不想到),及び本件発明の商業的成功等の事実を指摘し,これらの事実は,本件発明が当業者に想到容易なものでなかったことを示すものであると主張する。しかし,甲第4号証が本件発明と技術的分野の関連性を有することについては,既に示したとおりであるところ,同号証には,メモリユニット側にツーピースコネクタのメス側の端子を形成し,その端子を外部に露出させない構造とすることにより,静電破壊の問題を解決するという解決手段が示されており,その構成をICカードに採用することに,格別の支障や技術的困難があったとすべき事情も認められない。したがって,原告が主張する「長期間にわたる不想到」や商業的成功の事実は,その真否を問うまでもなく,本件発明の想到容易性についての上記判断を左右するものではない。
また,相違点に係る本件発明の効果は,甲第5,第4号証記載の技術から予測される程度のことというべきである。
7 以上のとおりであるから,本件発明は,甲第5号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて当業者が発明をすることができたものであるとした審決の判断に誤りがあるとはいえず,原告主張の取消事由は理由がない。
よって,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 古城春実
裁判官 田中昌利
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