関連審決 | 無効2019-800073 |
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事件 |
令和
2年
(行ケ)
10142号
審決取消請求事件
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原告株式会社東海建商 同訴訟代理人弁護士 加藤洪太郎 夏目武志 同訴訟代理人弁理士 藤川敬知 被告 株式会社エヌ・エス・ピー 同訴訟代理人弁護士 川岸弘樹 同訴訟代理人弁理士 廣江武典 服部素明 中山公博 廣江政典 橋本哲 吉田哲基 谷口直也 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2021/07/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2019-800073号事件について令和2年10月29日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,サポート要件及び進歩性についての各認定判断の誤りの有無である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,平成19年5月29日,発明の名称を「基礎コンクリート形成用型枠の支持具」とする特許出願(特願2007-142255号)をし,平成22年1月29日,その設定登録を受けた(特許第4446127号。以下「本件特許」といい,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。甲21)。 (2) 原告は,令和元年9月25日,本件特許の特許請求の範囲の請求項1,2,4〜6に記載された発明についての特許の無効審判の請求(以下「本件審判請求」という。)をし(無効2019-800073号事件。甲22),特許庁は,令和2年10月29日, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,本件審決の謄本は,同年11月10日に原告に送達された。 2 本件特許に係る発明の要旨 本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,各請求項に係る発明を,それぞれ請求項の番号に応じて「本件発明1」などといい,本件発明1,2,4〜6を併せて「本件発明」という。。 ) 【請求項1】 基礎コンクリート(30)を形成するために使用される型枠(20)の位置を固定するための支持具(10)であって, 全体を薄板によって形成するとともに,前記型枠(20)の側端面に当接される基部(11)と,この基部(11)の外側端部に一体化されて前記型枠(20)の外側角部(21)に係止される外側係止部(12)と,前記基部(11)の内側端部に一体化されて前記型枠(20)の内側角部(22)に係止される内側係止部(13)と,前記基部(11)の内側端部に一体化されて,前記基礎コンクリート(30)に埋設されることになるアンカー部(14)とを備えたものとし, さらに,前記基部(11)とアンカー部(14)との間に,このアンカー部(14)から前記基部(11)を折り取るための折取部(15)を形成したことを特徴とする型枠(20)のための支持具(10)。 【請求項2】 前記内側係止部(13)を,前記型枠(20)の内側表面に弾発的に当接する弾性片としたことを特徴とする請求項1に記載の型枠(20)のための支持具(10)。 【請求項4】 前記アンカー部(14)の一部に,固化した前記基礎コンクリート(30)内での抵抗となるアンカー突起(14a)を形成したことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の型枠(20)のための支持具(10)。 【請求項5】 前記アンカー部(14)の一部に,アンカー穴(14b)を形成したことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の型枠(20)のための支持具(10)。 【請求項6】 前記基部(11)に,前記型枠(20)の側端面に形成してある連結ピンのための回避穴(11b)を形成したことを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の型枠(20)のための支持具(10)。 3 本件審決の理由の要旨等 (1) 無効理由1(サポート要件違反)について ア 本件発明の課題についてみると,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】【0007】【0008】【0010】及び【0012】の記載から , , ,みて,本件発明は, 「2度打ち」によって基礎コンクリートを形成するために使用される型枠の位置がズレないようにするための支持具に関し,従来の技術は,型枠そのものの価格を引き上げることになり,特に,型枠の高さが大きいものになると,上方部分に「型枠固定具3を装着させる」ことが困難になるだけでなく,型枠20の上方部分が外側に開くのを防止しきれない,という問題点を有していたところ,本件発明は, 「2度打ちする際の型枠の支持を確実に行うことができて,構造が簡単で安価に提供することのできる支持具を提案すること」を課題とするものである。 イ 本件発明1は,課題解決の手段として, 「全体を薄板によって形成するとともに,前記型枠(20)の側端面に当接される基部(11)と,この基部(11)の外側端部に一体化されて前記型枠(20)の外側角部(21)に係止される外側係止部(12)と,前記基部(11)の内側端部に一体化されて前記型枠(20)の内側角部(22)に係止される内側係止部(13)と,前記基部(11)の内側端部に一体化されて,前記基礎コンクリート(30)に埋設されることになるアンカー部(14)とを備えたもの」である。 ウ 本件発明の課題解決の手段に関して,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0015】〜【0017】及び【0019】によると,本件明細書には,@その全体が金属板等の薄板によって形成されるので,簡単に製造できて安価に提供でき,簡単な構造とすることにより取付け作業を簡単に行えること,A外側係止部及び内側係止部が,型枠の外側角部及び内側角部に係止されることにより,支持具は,基部,外側係止部及び内側係止部によって一つの型枠の側端面を包み込むようにしながら簡単に取り付けられること,B硬化したコンクリート中にアンカー部が埋設固定されることにより,型枠をベース部又は防湿部に対してしっかりと支持固定することが記載されていることを,当業者が理解することができる。 エ 上記ア〜ウによると,当業者は,発明の詳細な説明の記載に基づき,本件発明1の上記イの構成により,本件発明の課題を解決することができると認識することができる。 オ 原告は,本件発明の目的は,2度打ちする際の型枠の支持を確実に行うことができる支持具を提案することにあるので,支持具が型枠に対して取り付けた位置からずれないことが必要となるが,基部,外側係止部,内側係止部で型枠の側面に取り付けるのみでは確実な係止はされ得ないものと考えられるので,本件発明1は,外側角部及び内側角部に対する係止のための具体的手段が示されておらず,課題を解決するための手段が反映されていない旨主張する。 しかし,上記ウのとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,外側係止部及び内側係止部が,型枠の外側角部及び内側角部に係止されることにより,支持具は,基部,外側係止部及び内側係止部によって一つの型枠の側端面を包み込むようにしながら簡単に取り付けられることが記載されており,基部,外側係止部及び内側係止部により,支持具を型枠に取り付けられることが理解できる。 原告が主張するように,型枠に対して上下方向において規制されずに,移動自在であって,生コンクリートの流し込み等により下方にずれることが想定されるとしても,本件発明の支持具は,発明の詳細な説明の記載によると,硬化したコンクリート中にアンカー部が埋設固定されることにより,型枠をベース部または防湿部に対してしっかりと支持固定するものであるから,コンクリートの硬化前であれば,生コンクリートの流し込み等の作業の影響による移動を確実に規制されることまで求められておらず,ある程度の位置の精度で型枠に保持されていれば足りるものと認められる。そして,仮に,支持具が所定の距離以上移動したとしても,コンクリートの打設前であれば,元の位置に戻すこともできる。 したがって,本件発明の支持具は,その発明の課題において,下方に移動不可能な程度に確実に保持されること及びそのための構成が必須というものではなく,原告の上記主張は,採用することができない。 カ よって,本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2,4〜6は,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものであるから,特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たすものである。 (2) 無効理由2(進歩性欠如)について ア 甲1(実用新案登録第3119713号公報)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)の認定 「コンクリート基礎型枠1の縦長外枠2の傾倒を防止するために使用されるコンクリート型枠傾倒防止具8であって, 上記コンクリート基礎型枠1は,ベースコンクリートBCおよび該ベースコンクリートBC上に打設されるコンクリートCを収容保持すべく,地盤G上に型枠保持具Bを介して長手方向に複数の縦長外枠2が連続的に立設保持され,この縦長外枠2に対応して内枠4が所定間隔をもって上記ベースコンクリートBC上に立設保持されており, 上記各縦長外枠2の長手方向両端には,該縦長外枠2を折曲形成し,複数の連結孔5を縦方向に穿設した縦長フランジFを備えており, 隣接する縦長外枠2を連結するクランプ装置10は,金属板を折曲成型したものであって,縦長外枠2の縦長フランジFの連結孔5に挿入される連結片12と,隣接する縦長フランジFをクランプするためのクランプ部14とにより構成されており, 上記コンクリート型枠傾倒防止具8は,薄板鋼鈑で長手方向の一端側が幅広となる所定長さの台形状に形成された連結板9に,長手方向に3個の貫通孔6が穿設され, 幅狭に形成された連結板9の他端側は,隣接する縦長外枠の縦長フランジF間に挟持され,ベースコンクリートBCの外壁面から突出した該外壁面に対応する上下端縁に切断可能な切り欠き13a,13bが形成され,3個の貫通孔6のうち,幅広の連結板9の一端側の2個はベースコンクリートBCに埋設されており, ベースコンクリートBC上にコンクリートCが打設された際,コンクリートCの重量が縦長外枠2に外方に向けて作用するが,固設されたベースコンクリートBCにより一端側が保持された上記型枠傾倒防止具8により上記縦長外枠2の外側に向く傾倒が防止され, 打設されたコンクリートCが固化した状態で上記縦長外枠2を離脱した後は,ベースコンクリートBCの外壁面から突出した部位を切り欠き13a,13bから切断具(カッター)により切断することができる, コンクリート型枠傾倒防止具8。」 イ 甲2(特開2003-105971号公報)に記載された発明(以下「甲2発明」という。)の認定 「基礎コンクリートを打設する際に使用される一対の型枠を高低差をつけて支持するための段付き中間巾止め金具10であって, 段付き中間巾止め金具10は,金具本体11と,金具本体11の端部に設けられた挟着部12と,挟着部12に対して金具本体11の反対側の端部に設けられた支持部13とから構成され, 金具本体11は上下の端部を直角に折り曲げて補強用のリブ14を形成しており,これの挟着部12側の端部を規制部15とし, 挟着部12は金具本体11より薄板で形成され,金具本体11の端部にスポット溶接で一体に固着されて,隣接する第1の型枠3間に挟着されるもので,その巾寸法は,第1の型枠3の厚さに対応し,中央部には第1の型枠3の連結用3aに連通する穴16が形成され, また,挟着部12の端部には,L字状の規制部としての規制片17が溶着され, さらに,挟着部12の規制部15側の端部には,縦方向にミシン目状の分離部18が形成されており, 支持部13は,一対の立上り片13a,13bが形成されて全体として上部が開放するコ字状をなしており,この一対の立上り片13a,13bの間隔は,第2の型枠6の厚さ寸法に対応し,端部がリブ14の上端に溶接され,また,立上り片13aの近傍にはV字状の切り込みからなる分離部19が形成されており, 隣接する第1の型枠3間に中間巾止め金具10の挟着部12を挟み,穴16を,第1の型枠3の側面部に所定の間隔(h)で複数個形成された連結用の穴3aに連通させ,ピン7を貫通させて,隣接する第1の型枠3同士が連結され, この場合,規制片17及びリブ14側の規制部15が第1の型枠3に接し,挟着部12を挟んで隣接する第1の型枠3間をピン7により固定し,つぎに,支持部13の上に第2の型枠6を載置すれば,型枠が完成するので,そこで,コンクリートを打設し,コンクリートが固化したら,第1の型枠3及び第2の型枠6を取り外し,そして,コンクリートの外側に突出した支持部13の一対の立上り片13a,13bを分離部19から切り離し,さらに,挟着部12を分離部18から切り離す, 段付き中間巾止め金具10。」 ウ 無効理由2(その1) (甲1発明を主引用例とした進歩性欠如)について (ア) 本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点 本件発明1と甲1発明とは,次の一致点で一致し,次の相違点1及び2で相違する。 (一致点) 「基礎コンクリートを形成するために使用される型枠の位置を固定するための支持具であって, 全体を薄板によって形成するとともに,前記型枠の側端面に当接される基部と,前記基部の内側端部に一体化されて,前記基礎コンクリートに埋設されることになるアンカー部とを備えたものとし, さらに,前記基部とアンカー部との間に,このアンカー部から前記基部を取り除くための切断部を形成した型枠のための支持具。」 (相違点1) 本件発明1は,基部の外側端部に一体化されて前記型枠の外側角部に係止される外側係止部と,前記基部の内側端部に一体化されて前記型枠の内側角部に係止される内側係止部とを備えているのに対し,甲1発明は,そのような構成が設けられていない点。 (相違点2) 基部を取り除くための切断部について,本件発明1は,基部を折り取るための折取部を形成したのに対し,甲1発明は,切断具(カッター)により切断することができる切り欠き13a,13bを形成した点。 (イ) 相違点1に関する判断 a 甲1発明の縦長外枠2の縦長フランジFは,縦長外枠2の長手方向両端を折曲形成したものにすぎず,かつ,隣接する縦長フランジFは,クランプ装置10のクランプ部14によりクランプされることからみて,本件発明1の「外側角部」に相当する構成は備えていない。 そして,隣接する縦長フランジFは,クランプ装置10のクランプ部14によりクランプされるという構成を採用する以上,上記クランプの支障となる「外側角部」を新たに形成することは,当業者が容易になし得たことではない。 仮に, 「外側角部」に係止する「外側係止部」を形成することが周知又は公知技術であったとしても,上記のとおり「外側角部」を設けることが容易になし得たことではない以上, 「外側角部」に係止される「外側係止部」を形成することも,当業者が容易になし得たことではない。 したがって,甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことではない。 b 甲2発明の規制片17及び規制部15は,「第1の型枠3に接し」,「規制部15,17が型枠3の側面に衝止して中間巾止め金具10の倒れを防止できて支持部13の高さを一体に保持できる。(甲2の段落【0034】 」 )との機能を奏するものではあるが,規制部15及び規制片17が,第1の型枠3にどの程度係合するのか不明である。そして,甲2発明の狭着部16の「中央部には第1の型枠3の連結用3aに連通する穴16が形成され」ることで, 「狭着部12を挟んで隣接する第1の型枠3間をピン7により固定」しており,また,規制部15と規制片17の両方が備わっていなければならないものでもない(同【0038】)ことから,甲2発明の規制片17及び規制部15が,本件発明1の「型枠の外側角部に係止される外側係止部」及び「型枠の内側角部に係止される内側係止部」に相当するとは認められない。 c 甲4〜7に記載の保持具や金具と,甲1発明のコンクリート型枠傾倒防止具8とは,単に,型枠と保持具や金具との位置関係についてみれば似たものではあるが,甲1発明のコンクリート型枠傾倒防止具8は,型枠に固定支持されるのに対し,甲4〜7に記載の保持具や金具は,型枠同士の位置を維持するための金具であるから,固定されるもの及び固定対象が相違している。また,甲3に記載の接合具は,型枠の機能を有するパネル4a,4bに係止されているとの特定はない。 したがって,甲3〜7の記載事項から,相違点1に係る構成が,周知技術であるとはいえない。 d 上記b及びcのとおり,相違点1に係る構成は,甲2に記載されておらず,かつ,甲3〜7の記載事項からみて周知技術ともいえないから,甲1発明に甲2発明や甲3〜7の記載事項を適用したとしても,相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことではない。 (ウ) 相違点2に関する判断 コンクリートを打設した後の不要な部材を取り除くために,その部材を折り取るための折取部を形成することは,甲8〜11に記載されているように,本件特許の出願前に慣用的に用いられている手段であるから,甲1発明の切断可能な切り欠き13a,13bに代えて,上記の慣用手段を用いることにより,相違点2に係る本特許発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。 (エ) 小括 以上より,本件発明1は,甲1発明,甲2発明及び周知慣用手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (オ) 本件発明2,4〜6について 本件発明2,4〜6は,本件発明1の構成を全て含み,更に限定を加えた発明であるから,甲1発明,甲2発明及び周知慣用手段に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ 無効理由(その2)(甲2発明を主引用例とした進歩性欠如)について (ア) 本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点 本件発明1と甲2発明とは,次の一致点で一致し,次の相違点A〜Dで相違する。 (一致点) 「基礎コンクリートを形成するために使用される型枠の位置を固定するための支持具であって, 前記型枠の側端面に当接される基部を備え, 部材を取り除くための分離部を形成した型枠のための支持具。」 (相違点A) 本件発明1は,全体を薄板によって形成するのに対し,甲2発明は,そのような特定がない点。 (相違点B) 本件発明1は,前記型枠の側端面に当接される基部と,この基部の外側端部に一体化されて前記型枠の外側角部に係止される外側係止部と,前記基部の内側端部に一体化されて前記型枠の内側角部に係止される内側係止部とを備えるのに対し,甲2発明は,そのような特定がない点。 (相違点C) 本件発明1は,前記基部の内側端部に一体化されて,前記基礎コンクリートに埋設されることになるアンカー部とを備えたのに対し,甲2発明は,アンカー部を備えるかどうか不明な点。 (相違点D) 部材を取り除くための分離部について,本件発明1は,部材を折り取るための折取部であるのに対し,甲2発明は,部材を折り取るための折取部ではない点。 (イ) 相違点Aに関する判断 a 本件発明1の「全体を薄板によって形成する」との特定事項についてみると,その意味していることは必ずしも明確ではないが,本件明細書の段落【0015】及び【0016】の記載からみて,本件発明1の「全体を薄板によって形成する」は,「一枚の薄板で全体を構成する」ことを意味していると解される。 b 甲2発明の段付き中間巾止め金具10を「全体を薄板で形成する」ことが容易想到かどうかについて検討するに,甲2の段落【0026】において,段付き中間巾止め金具10を主に構成する支持具13,金具本体11及び挟着部12のうち,支持具13と金具本体11については,一体に製作することが示唆されているが,挟着部12を一体に製作することまでは示唆されていない。 挟着部12については,同【0034】の記載からみて, 「薄片」であって,第1の型枠間の隙間に配置されるような薄いものが用いられるのに対し,支持具13及び金具本体11は,板状のものであったとしても,薄板とは特定されておらず,かつ,甲2発明の段付き中間巾止め金具10は,一対の型枠を高低差をつけて支持するためのものであるから,支持すべき型枠の重量に対する強度を勘案すると,支持具13及び金具本体11に対して,隙間に配置される挟着部12ほどの薄いものを用いるとは考え難い。 したがって,支持具13及び金具本体11には,挟着部12の薄片よりも厚いものが用いられていると解することが自然である。 そうすると,支持具13と金具本体11に加えて,同じ厚み(薄さ)ではない挟着部12まで一枚の薄板で一体に製作することは困難を伴うから,甲2発明の段付き中間巾止め金具10を,一枚の薄板で全体を構成すること,すなわち,相違点Aに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことではない。 (ウ) 相違点Bに関する判断 a 上記ウ(イ)bのとおり,甲2発明の規制部15,規制片17が,第1の型枠3にどの程度接して係合するのか不明であり,また,規制部15と規制片17の両方が備わっていなければならないものでもないことから,規制部15と規制片17とが,第1の型枠3に係合するものとは認められない。 したがって,相違点Bに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことではない。 b 上記ウ(イ)c及びdのとおり,相違点Bに係る構成は周知技術とはいえず,甲3〜7に記載の事項に基づいて,相違点Bに係る本件発明1の構成を容易に想到し得たともいえない。 (エ) 相違点Cに関する判断 甲2発明の段付き中間巾止め金具10は,金具本体11と,金具本体11の端部に設けられた挟着部12と,挟着部12に対して金具本体11の反対側の端部に設けられた支持部13とから構成されるものであって,アンカー部を設けたとの特定はない。 そして,甲2発明の段付き中間巾止め金具10は,基礎コンクリートを打設する際に使用される一対の型枠を高低差をつけて支持するために用いるものであるから,取り外される型枠を支持する必要がなくなるコンクリートの硬化後に,段付き中間巾止め金具10をその硬化したコンクリート中に固定する必要はない。したがって,甲2発明にはアンカー部を設ける動機付けが見当たらない。 なお,甲1発明は,実質的にアンカー部を備えているが,甲2発明にアンカー部を設ける動機付けがない以上,甲1発明のアンカー部を適用することは,当業者が容易になし得たことではない。 したがって,甲2発明の段付き中間巾止め金具10にアンカー部を設けることにより,相違点Cに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことではない。 (オ) 相違点Dに関する判断 コンクリートを打設した後の不要な部材を取り除くために,その部材を折り取るための折取部を形成することは,甲8〜11に記載されているように,本件特許の出願前に慣用的に用いられている手段であるから,甲2発明の分離部18に代えて,上記の慣用手段を用いることにより,相違点Dに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。 (カ) 小括 以上のとおりであるから,本件発明1は,甲2発明,甲1発明及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでなない。 (キ) 本件発明2及び4〜6について 本件発明2及び4〜6は,本件発明1の構成を全て含み,更に構成を限定したものであるから,甲2発明,甲1発明及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 |
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原告主張の取消事由
1 取消事由1(無効理由1の判断の誤り) (1) 本件審決は,前記第2の3(1)オのとおり判断する。 (2) しかし,本件発明の支持具について,生コンクリートの流し込み等の作業の影響による移動が生じてしまった場合,「型枠20の外側への開きを防止する支持具とする」(本件明細書の段落【0011】)ことが実現できないことになる。そのような移動が生じてしまうことは,本件明細書の段落【0019】及び【0020】の記載とも矛盾する。 また,型枠が設置され,支持具が型枠に取り付けられた後,コンクリートの打設前に,作業員が型枠を足で跨いで現場を移動する際に型枠に靴等をぶつけて衝撃を与えることによって,支持具が下方に移動したり,型枠が外側に開いたりするなどの状況が生じ得る(建築の実際の現場において,作業員が型枠を足で跨いで移動するという場面や,その際に型枠に靴等がぶつかることは,日常的かつ頻繁にある。)が,その場合に,現場で多数(一般的な住宅基礎工事現場で40〜50個程度)使用される支持具を一つずつ元の位置に戻すことは,実際には困難と考えられる。 (3) 本件明細書には,発明の目的について,(コンクリートを)2度打ちする 「際の型枠20の支持を確実に行うことができて,構造が簡単で安価に提供することのできる支持具10を提案することにある。(段落【0012】 」 )と記載されているところ,支持具が下方に移動不可能な程度に確実に保持されることについては,本件発明と同一用途の保持具に係る公知技術である甲1発明において課題が十分に解決されている。 これに対し,上記(2)のような事情によって,支持具が下方に移動し,型枠における所定位置よりも下方に移動したままの状態で,ベース部の生コンクリートが打設されてアンカー部がコンクリート中に埋設固定された場合,所定位置で固定された場合と比較して,より大きな力のモーメントが支持具に対して加わることから,型枠の開き防止効果が不十分となり,布基礎となる生コンクリートが打設されると圧力で外側に開きやすくなる。 したがって,本件発明について,下方に移動不可能な程度に確実に保持されること及びそのための構成が必須のものではないと認定することは,支持具の下方への移動が規制される公知技術と比較して作用効果の点で著しく劣るもので,発明の課題を十分に解決していないものまで本件発明に含めるものであって,不合理である。 (4) 以上より,本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2,4〜6は,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲のものではなく,本件発明の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 2 取消事由2(無効理由2(その1)における本件発明1に係る相違点の認定及び容易想到性の判断の誤り) (1) 相違点1の認定の誤り ア 甲1発明は,外側係止部と内側係止部の構成を備えており,本件審決が認定した相違点1は,相違点ではない。 イ 次の[説明図1]は,甲1の【図3】 (縦長フランジFの斜視図)であり,[説明図2A]は,縦長フランジFの横断面図であり, [説明図2B]は,型枠の横断面形状として想定される別の例について[説明図2A]に相当する横断面図である(なお,本件明細書には型枠の横断面図が示されていないため,本件発明1の型枠の横断面形状が[説明図2A]に示すものであるか, [説明図2B]に示すものであるかは不明である。。 ) [説明図1] [説明図2A] [説明図2B] ウ 本件審決は,本件発明1においては,型枠が[説明図2B]のような形状であって「外側角部」が存在するのに対し,甲1発明の縦長外枠2は[説明図2A]のような形状であるから「外側角部」に相当する構成を備えていないと判断するものであるが,支持具との関係で, [説明図2B]と[説明図2A]との形状の差異に意味はない。支持具の「外側係止部」は, [説明図2B]の「外側角部」に係止することができるのはもとより, [説明図2A]に「外側角部」と記載した部分にも全く同様に係止することができるから,同部分も「外側角部」に相当する構成そのものというべきである。一般的な概念としても,同部分を「外側角部」と認識し,呼称することに問題はない。 また,甲1発明の縦長外枠2は,コンクリート型枠としての強度を確保できる一定の厚みの鋼板によって構成されているのであるから, [説明図2A]から明らかなとおり,折り曲げられた先端縁の縦長の角状部分は,形状としても「外側角部」を形成していることに疑いはない。 本件審決の認定は,全く本質的ではない型枠と外枠の形状の差異から,外側角部」 「の概念を誤って捉えたものである。 (2) 相違点1に係る容易想到性の判断の誤り ア 甲1発明の縦長フランジFについての判断の誤り 甲1発明の縦長フランジFについて,仮に,その外側端部を更に折り曲げて,その折り曲げた部分を「外側角部」としたとしても,その形状に適合するようにクランプ部14の形状を適宜変形したり,あるいは,甲1発明の【図4】に示す変形例のようにボルトとナットで締結したりすることで,当業者は, 「外側角部」がクランプの支障となることを容易に回避することができる。 したがって,甲1発明の縦長フランジFについて,クランプ装置10のクランプ部14によりクランプされるという構成を採用することから, 「外側角部」を新たに形成することが「クランプの支障となる」とはいえない。 イ 甲4又は甲5に記載された技術を適用する場合の判断の誤り (ア) 甲4又は甲5に記載された技術について a 甲4(特開平5-195623号公報)に記載され開示されている技術(以下「甲4技術」という。)は,「コンクリート型枠同士の間隔を保持する間隔保持具に係る技術のうち,間隔保持具と型枠との固定において,間隔保持具の外側規制片2と内側規制片3とで外側角部を有する型枠5を挟むようにした構成に係る技術」である。 b 甲5(特開平7-279425号公報)に記載され開示されている技術(以下「甲5技術」という。)は,「コンクリート基礎や立ち上がり部を形成するためのコンクリート型枠板の保持具に係る技術のうち,コンクリート外側係止片11と内側係止片12との間に外側角部を有するコンクリート型枠板2を差し込むようにした構成に係る技術」である。 c 甲4技術及び甲5技術について,(間隔)保持具の外側規制(係止)片及び内側規制(係止)片が(間隔)保持具と一体であること,外側規制(係止)片がコンクリート型枠の外側角部を規制し,内側規制(係止)片がコンクリート型枠の内側角部を規制していることからすると,甲4技術及び甲5技術は,本件発明1のうち「この基部(11)の外側端部に一体化されて前記型枠(20)の外側角部(21)に係止される外側係止部(12)」及び「この基部(11)の内側端部に一体化されて前記型枠(20)の内側角部(22)に係止される内側係止部(13)」という各構成を開示しているといえる。したがって,相違点1に係る構成は,周知技術である。固定されるもの及び固定対象が相違しているとして,これを否定することは,本質的ではない些末な相違に拘泥して判断を誤るものである。 (イ) 甲1発明に甲4技術又は甲5技術を適用することについて a 甲4技術は,型枠同士の間隔を保持する間隔保持具に係るもので,甲5技術は,コンクリート型枠板の保持具に係るものであって,いずれにおいても,固定具の外側規制(係止)片及び内側規制(係止)片で外側角部を有するコンクリート型枠を挟んで固定させるという技術的構成が開示されている。 b 甲1発明は,コンクリート型枠傾倒防止具に係る技術であり,甲4技術及び甲5技術は,いずれもコンクリート型枠を固定するための固定具に係る技術であるといえるところ,傾倒防止を含め,コンクリート型枠の固定が,事柄の性質上,一連の施工の様々な段階において常に求められる普遍的な要請であることに鑑みると,甲1発明と甲4技術又は甲5技術の技術分野は,互いに関連し,共通性を有するものというべきである。また,甲1発明,甲4技術及び甲5技術は,コンクリート型枠を固定具により固定させるという点において,その作用,機能を共通にするといえる。 したがって,甲1発明における型枠傾倒防止具8を縦長外枠2に固定するという技術につき,当業者において,甲4技術又は甲5技術で開示されているような,固定具の外側規制(係止)片及び内側規制(係止)片で外側角部を有するコンクリート型枠を挟んで固定させるという技術的構成を適用する動機付けがある。 (ウ) よって,甲1発明に甲4技術又は甲5技術を副引用例又は周知技術として適用することで,相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。 (エ) 被告の主張に対する反論 a 審理範囲について 審判において審理された公知事実に関し,審判の対象とされた発明との一致点・相違点について審決と異なる主張をすること,あるいは,複数の公知事実が審理判断されている場合にあっては,その組合せにつき審決と異なる主張をすることは,それだけで直ちに審判で審理判断された公知事実との対比の枠を超えるということはできないから,取消訴訟においてこれらを主張することが常に許されないとすることはできない(知財高裁平成29年1月17日判決[平成28年(行ケ)第10087号]。本件において,甲1発明を主引用例とし,審判段階で周知技術を示す )証拠の一つとして提出した甲4又は甲5に係る技術を副引用例として容易想到性について主張することは,認められるべきである。 b 甲4技術又は甲5技術について (a) 被告は,本件発明1の外側係止部及び内側係止部と,甲4技術又は甲5技術の外側規制(係止)片及び内側規制(係止)片とは,その目的と構造において相違すると主張する。しかし,それらは,外側規制(係止)片及び内側規制(係止)片が保持具と一体であること並びに外側規制(係止)片がコンクリート型枠の外側角部を規制し,内側規制(係止)片がコンクリート型枠の内側角部を規制していることという本質的な点において,共通しているのであり,被告は,非本質的な差異を強調しているにすぎない。 (b) 被告は,甲4技術又は甲5技術について, (間隔)保持具全体が大型の部材となるだけではなく,各規制(係止)片自体も大型で相応の厚みと強度を有することが必要であるなどと主張する。しかし,本件発明1の支持具も甲4技術又は甲5技術の(間隔)保持具も,同じコンクリート型枠に対し,固定具により固定をしていくというものであるから,サイズの差はさほどなく,型枠の幅に対する寸法という点では差がないのであって,程度問題にすぎず,本質的な違いではない。 現に,厚みのない薄い規制片の間隔保持具も,普通に販売されている(甲32〜34)。 (c) 被告は,甲4技術又は甲5技術の外側規制(係止)片と内側規制(係止)片が,それら規制(係止)片自体で挟み込むことによって,外側の型枠と内側の型枠を直立に固定・支持する役割を果たしているのに対し,本件発明1の外側係止部と内側係止部は,外側の型枠の側面に脱落しないように支持具を取り付ける役割を果たすものであり,それのみで外側の型枠と固定する役割を果たしているわけではないと主張する。しかし,相違点1の容易想到性を判断するに当たっては,前記(ア)a又はbの技術が開示されていることが認定でき,「外側規制片がコンクリート型枠の外側角部を規制し,内側規制片がコンクリート型枠の内側角部を規制している」という事実がそれぞれ認められれば十分であって,それのみで外側の型枠を固定する役割を果たしているか否かは重要でない。 (d) 被告は,原告が,甲4技術又は甲5技術の(間隔)保持具から一組の外側規制(係止)片及び内側規制(係止)片のみを恣意的に抽出している旨を主張する。しかし,ある要素が必須の構成である場合に,その要素を除外して抽出すると技術的な意味を有しないものになるといった事案であればともかく,本件のような場合に一部の要素の抽出が許されないとはいえない。被告の主張を前提とすると,引用発明について,常にクレームを一括した形でしか認定できないということになりかねないが,そのような考え方は,進歩性の判断方法として誤っている。 c 甲4技術又は甲5技術の適用について (a) 被告は,甲4技術について,掛止部9があることから,当業者が,型枠からの脱落防止のために,甲4技術における外側規制片及び内側規制片を甲1発明に適用することはない旨主張する。しかし,掛止部9があるからといって,甲4技術において,外側規制片がコンクリート型枠の外側角部を規制し,内側規制片がコンクリート型枠の内側角部を規制していることが左右されるものではない。 (b) 被告は,甲1,甲4又は甲5には,甲1発明に甲4技術又は甲5技術を適用したはずであるという示唆等が存在しないと主張する。しかし,示唆等については,必ずしも引用文献に明示的に記載されている必要はなく,出願時の技術水準から導き出せるものでもよい(甲35)ところ,当業者は,甲1発明において,コンクリート型枠を保持するため固定具を取り付けて固定させるという構成をとる以上,その固定のための手段について更に検討するとみるのが自然であり,相違点1に係る構成に到達したはずであるという程度の示唆は存在している。 (c) 被告は,甲1発明について,貫通孔6が設けられていること等を指摘して,甲4技術又は甲5技術を適用する上で阻害要因があると主張する。しかし,甲1発明に甲4技術又は甲5技術を適用しても甲1発明の目的に反するなどといったことはなく,阻害要因があるというべき場合には当たらない。 ウ 甲3〜7に記載された周知技術を適用する場合の判断の誤り (ア) 甲3〜7の周知例においては,固定具の外側規制(係止)片及び内側規制(係止)片で外側角部を有するコンクリート型枠を挟んで固定させるという技術的構成が開示されている。 (イ) 甲1発明は,コンクリート型枠傾倒防止具に係る技術であり,甲3〜7の周知例に記載された保持具や金具に係る技術とは,コンクリートを施工する際に型枠を固定するために使用される固定具に係る技術である点で共通する。そして,傾倒防止を含め,コンクリート型枠の固定が,事柄の性質上,一連の施工の様々な段階において常に求められる普遍的な要請であることに鑑みると,甲1発明と甲第3〜7の周知例の技術分野とは,互いに関連し,共通性を有するものというべきである。また,甲1発明も,甲3〜7の周知例も,コンクリート型枠を固定具により固定させるという点において,その作用・機能を共通にする。 したがって,甲1発明における型枠傾倒防止具8を縦長外枠2に固定するという技術につき,当業者において,甲3〜7の周知例で開示されている上記(ア)の技術的構成を適用する動機付けがある。 (ウ) よって,甲1発明に甲3〜7に記載の周知技術を適用することで,相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。 エ 甲2発明を副引用例として適用する場合の判断の誤り (ア) 甲2の【図1】に示されているように,甲2発明において,規制片17は,平面視L字状で縦方向に延び,かつ,規制部15は,金具本体11の上下端部を直角に折り曲げて形成されるものである。そして,規制片17及び規制部15は, 「第1の型枠3に接し」「規制部15,17が型枠3の側面に衝止して中間巾止 ,め金具10の倒れを防止できて支持部13の高さを一体に保持できる」(甲2の段落【0034】)との機能を奏するところ,支持部13が下がることを防止するためには,規制部17の少なくとも上部が型枠3の外側面に衝止し,かつ,規制部15の少なくとも下部が型枠3の内側面に衝止することが必要であり,この状態は,規制部17が型枠3の外側角部に係合し,かつ,規制部15が型枠3の内側角部に係合する状態であるといえるから,規制部17及び規制部15は,型枠3の外側角部及び内側角部に係合し得るものである。 したがって,甲2発明の規制片17及び規制部15は,本件発明1の「型枠の外側角部に係止される外側係止部」及び「型枠の内側角部に係止される内側角部」に相当する。 甲2の段落【0038】は,特許を受けようとする発明(特許請求の範囲に記載された発明)が,甲2の【図1】に示される第1の実施例の構成に限定されないことを確認的に述べるものにすぎず,規制部15と規制片17の両方が備わっているという構成を排除するものではない。それらの両方が備わっていない実施例があるからといって,甲2発明の規制片17と規制部15が本件発明1の「外側係止部」及び「内側係止部」に相当するとの判断が左右されるものではないというべきである。上記第1の実施例に特有の構成である規制片17及び規制部15の作用の認定に当たって,これとは構造の異なる甲2の【図6】〜【図8】に示される第4〜第6の実施例に関する記載を根拠として引用することには合理性はない。 (イ) 甲1に記載の型枠傾倒防止具8,8’と甲2に記載の段付き中間巾止め金具10は,本件発明1の支持具と同様に,基礎コンクリートを施工する際に型枠保持するために使用される保持具である点で共通し,かつ,当業者も同一であって,両者の技術分野は関連する。また,基礎コンクリートを形成するために使用される,型枠の位置を固定するために型枠間に挟持される支持具において,型枠の側端面の所定部位に対して正しい姿勢で位置決めし,かつ,位置決め状態を維持することは,当該支持具における自明の課題であり,甲1に記載の型枠傾倒防止具8,8’と甲2に記載の段付き中間巾止め金具10とは,共通の課題を有している。さらに,それらは,アンカー部が基礎コンクリート内に埋設されて型枠の傾倒を防止する点及び型枠の離脱後に基礎コンクリートの外壁面から突出した部位を取り除くことができ,コンクリート基礎壁面を突出物が存在しない平滑な壁面とすることができる点で,作用を共通にする。 したがって,甲1に記載の型枠傾倒防止具8,8’と甲2に記載の段付き中間巾止め金具10とは,技術分野,課題及び作用を共通とするものであるから,前者に後者を適用する十分な動機付けが存在する。 (ウ) よって,甲1発明に甲2発明を適用することで,相違点1に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。 (エ) 被告の主張に対する反論 a 技術分野について 被告は,甲1発明と甲2発明の技術分野等が共通しないと主張する。しかし,甲1発明及び甲2発明については,2度打ち工法か1度打ち工法かという相違点はあるものの,基礎コンクリートの施工に関する技術であるという点で共通し,当業者も同一である。技術分野の関連性は,本件審決でも問題とされておらず,甲1発明及び甲2発明の技術分野が関連するものであることに疑いを挟む余地はない。 b 課題について 被告は,甲1発明に甲2発明の規制片17及び規制部15を適用する動機付けとなり得る課題の関連性までは認められないと主張する。 しかし,前記(イ)のとおり,基礎コンクリートを形成するために使用される型枠の位置を固定するために型枠間に挟持される支持具において,型枠の側端面の所定部位に対して正しい姿勢で位置決めし,かつ,位置決め状態を維持することは,当該支持具における自明の課題である。また,より具体的にみても,甲1の段落【0040】に記載されているように, 「縦長外枠2の離脱後にベースコンクリートBCの外壁面から突出した部位」を「上記切り欠き13a,13bからベースコンクリートBCの外壁面と略同一面上で切断する」ためには,甲1発明の傾倒防止具8を型枠に取り付ける際,連結板9の上下端縁に形成された切り欠き13a,13bを,型枠の内側角部に合わせるように位置決めする必要があり,甲1の【図2】において,切り欠き13 a,13bの中心は,ベースコンクリートBCの外壁面を示す二点鎖線上に位置しており,位置決めの必要性について示唆があるから,甲1発明には,連結板9の型枠に対する姿勢を含む位置決めという課題がある。他方,甲2発明においても,中間巾止め金具10の倒れを防止するという課題,すなわち,中間巾止め金具10の型枠3に対する姿勢を含む位置決めという課題がある。 したがって,甲1発明と甲2発明には,共通の課題が存在する。 c 作用について 被告は,甲2発明の規制片17及び規制部15の作用は,本件発明1の外側係止部及び内側係止部の作用と異なる旨主張する。しかし,本件発明1の外側係止部及び内側係止部は,支持具を型枠に取り付けると同時に,基部10の側面を型枠の側端面に当接させ,かつ,アンカー部をベース部側に延出させるという,支持具の型枠に対する姿勢の位置決めという作用を有しているところ,甲2発明の規制片17及び規制部15は,上記bのとおり,中間巾止め金具10の型枠3に対する姿勢の位置決めという作用を有しており,両者は,少なくとも金具の型枠に対する姿勢の位置決めという点で,共通の作用を有している。 3 取消事由3(無効理由2(その2)における本件発明1に係る相違点の認定及び容易想到性の判断の誤り) (1) 相違点の認定の誤り ア 相違点Bの認定の誤り 前記2(2)エ(ア)で述べた点からして,本件審決が認定した相違点Bは,相違点ではない。 イ 相違点Cの認定の誤り 甲2発明における金具本体11は,基礎コンクリートに埋設されることになる部分であることが明らかである(甲2の【図2】。 ) そして,金具本体11は,挟着部12及び支持部13が分離された後も,硬化したコンクリート中に残存し,治具として型枠を支持する役割を終えた後も,コンクリート中に固定する必要の有無にかかわらず,硬化したコンクリート中に埋設されている点で,本件発明1のアンカー部と全く変わるところがない。 したがって,本件審決が認定した相違点Cは,相違点ではない。 (2) 相違点Aに係る容易想到性の判断の誤り ア 本件審決は,容易想到性の判断に当たり,本件発明のうち相違点Aに係る構成について, 「一枚の薄板で全体を構成する」ことを意味するものと誤って認定した。 特許出願に係る発明の要旨の認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきであり,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合に限って,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない(最高裁判所昭和62年(行ツ)第3号平成3年3月8日第二小法廷判決・民集45巻3号123頁)。 本件特許の請求項1には, 「全体を薄板によって形成するとともに」とのみ記載され,基部(1),外側係止部(12),内側係止部(13)及びアンカー部(14)が1枚の薄板から形成されることは特定されていないところ,「全体を薄板によって形成する」との特定事項によって,技術的意義を一義的に明確に理解することができる。したがって,本件発明1について,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌し,「一枚の薄板で全体を構成する」と限定的に解釈することはできない。 イ 甲2発明の段付き中間巾止め金具は,甲3〜7に記載された保持具や金具と,コンクリート型枠を固定するための固定具に係る技術である点で,共通性を有する。そして,保持具等の全体を一枚の薄板で構成する(甲3〜5,7)か,複数枚の薄板を接合して一体のものとする(甲6)かは,形状の複雑さや加工の難易度等に応じて当業者が適宜選択すべき事項にすぎない。甲3〜7に記載の保持具や金具は,使用目的や場面が異なる部材であるとしても,コンクリート型枠を固定するための固定具であるとともに同様の素材(金属板)で形成されるもので,必要に応じ,一枚の薄板か複数の薄板のいずれかを適宜選択して形成されている。 したがって,仮に,本件発明1の「全体を薄板によって形成する」が「一枚の薄板で全体を構成する」ことを意味していると解釈したとしても,相違点Aに係る構成は,コンクリート型枠を固定するための固定具に用いられる周知技術であり,そのような構成とすることは,当業者が容易になし得たものである。 (3) 相違点Bに係る容易想到性の判断の誤り 仮に,相違点Bが実質的な相違点であるとしても,相違点Bと同様の相違点1に係る構成について,前記2(2)ウで述べたとおり,相違点Bに係る構成は周知技術であり,当業者が容易に想到し得たものである。 (4) 相違点Cに係る容易想到性の判断の誤り 前記(1)イのとおり,甲2発明はアンカー部に相当する金具本体11を有しているから,甲2発明にはアンカー部を設ける動機付けが見当たらないという本件審決の認定は,意味をなさないものであり,相違点Cに係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得たことである。 4 取消事由4(本件発明2,4〜6に係る容易想到性の判断の誤り) 本件審決は,無効理由2(その1)及び(その2)について本件発明1の進歩性を誤って肯定した結果,本件発明1の構成を全て含み,更に限定した本件発明2,4〜6の進歩性を誤って肯定した。本件発明2,4〜6は,当業者が容易に発明をすることができたものである。 |
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被告の主張
1 取消事由1(無効理由1の判断の誤り)について (1) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1並びに本件明細書の段落【0013】〜【0024】及び【図1】〜【図3】に記載されているように,本件発明1の支持具は,型枠の側(端)面に取り付けて,あくまで外側の型枠(20)の傾きを防止することを目的とする。 本件発明1の支持具は,外側の型枠のみに取り付けられるもので,外側係止部(12)及び内側係止部(13)は,支持具を外側の型枠に取り付けることを目的とするものである。そして,外側の型枠(20)の傾き防止は,支持具のみによってではなく,支持具のうちアンカー部が基礎コンクリートに埋設され,固定されることによって達成される。 そのため,上記の両係止部は,型枠の側面に設置したとき,基礎コンクリートに埋設されるまでの間に型枠から脱落しない程度に固定される必要はあるが,それで足りる。支持具全体についても係止部についても,さほどの強度は必要とされず,むしろ,側面に脱落せずに取り付け可能なように,小型かつ薄型の部材とする必要があるものである。 (2) 本件発明1は,2度打ちする場合の型枠(20)の外側への開きを防止する支持具であって(本件明細書の段落【0011】,外側係止部や内側係止部によ )り型枠に取り付けられることによって,支持具が水平方向に固定され,アンカー部がベース部及び防湿部内に埋設固定されれば,型枠をベース部及び防湿部に対して固定することができ,たとえ型枠に外側に向けて力が働いても,アンカー部がベース部から抜けることがないことにより,型枠の外側への開きを防止することができる。 それゆえ,本件発明1の課題を解決する上では,支持具について,係止により水平方向の移動が規制されることが重要なのであり,上下方向(高さ方向)については全く移動しないよう完全に固定されている必要はない。支持具は,それ自体の自重等では容易に落下しない程度に型枠に取り付けられていれば足り,生コンクリートを流し込んだ際に,多少下方にずれたとしても,アンカー部がベース部に埋設されれば,支持具によって型枠を支持固定することができるという作用効果を奏する。 本件明細書中の実施例においても,上下方向についても移動不可能となるように完全に固定されるような構成にはなっていない。 (3) 当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明や出願時の技術常識を考慮すると,更に係止のための具体的な手段が示されていなくとも,支持具が金属板である薄板によって形成したもので,それ自体で弾性力を有しているものであること(本件明細書の段落【0022】)から,係止のための外側係止部及び内側係止部によって型枠を挟み込む力を適宜調節し,本件発明1がその作用効果を奏するように,支持具を型枠に適切に取り付けることが容易である。 (4) 原告の主張は,本件発明1について,支持具が係止により型枠に対し,水平方向のみならず上下方向にも完全に固定されなければならないということを前提とするものであって,誤りである。 型枠が外側に開くのは,型枠内にコンクリートを打設する際の圧力によるものであるから,そもそも打設前に型枠が外側に開くということは想定できない。また,本件発明1の支持具は,あくまでアンカー部が打設したコンクリート中に埋設固定されることで初めて型枠の外側への開きを防止する効果を生じさせるもので,外側係止部と内側係止部をもって型枠に取り付けるだけで型枠の開きを防止する効果はないから,コンクリート打設前の支持具のずれと型枠の開きとは関係がない。原告は,作業員が型枠に靴等をぶつける等した場合について主張するが,その場合に型枠が外側に開くのは,作業員が型枠に直接衝撃を加えたことによるもので,支持具の下方への移動とは関係がないし,仮にその際に支持具が下方に移動したとしても,当該箇所のみ,元に戻せば足りる。 本件発明1の作用効果は,公知技術との比較において何ら劣るものではないが,公知技術と比較して作用効果の点で劣るものが含まれることが不合理であるという原告の主張自体が誤っている。 2 取消事由2(無効理由2(その1)における本件発明1に係る相違点の認定及び容易想到性の判断の誤り)について (1) 相違点1の認定の誤りについて ア 甲1発明の外側型枠が「外側角部」に相当する構成を備えているか否かにかかわらず,甲1発明の型枠傾倒防止具は,本件発明1の支持具の外側係止部及び内側係止部に相当する構成を備えていない。 イ(ア) 本件審決は,コンクリート型枠傾倒防止具に関するものであって型枠に関するものではない甲1発明において,少なくとも具体的に開示されている型枠の構成は,あくまでフランジFを折曲形成されたにとどまるものであるがゆえに,開示されている限度で認定を行ったものにすぎず,本件審決に原告の主張するような誤りはない。 (イ) 甲1発明の型枠傾倒防止具は,外側型枠の端部付近に設けられた貫通孔にクランプ装置等の連結具10を挿通することによって,型枠に固定されている。 型枠への固定に当たり,型枠の端部を利用することは想定されておらず,当該部位は着目されない部位である。そして,上記(ア)のとおり,甲1発明があくまでコンクリート型枠傾倒防止具に関するものであることにも鑑みると,甲1発明の縦長フランジFの外側端部について,更に折り曲げた「外側角部」を形成することは,当業者が容易になし得たことではない。 (2) 相違点1に係る容易想到性の判断の誤り ア 甲4技術又は甲5技術を適用する場合の判断の誤りについて (ア) 周知技術としての適用について 甲4技術及び甲5技術は,周知技術ではなく,相違点1に係る構成も,周知技術ではない。 (イ) 審理範囲について 原告は,審判段階では,甲4及び5について,あくまで甲3〜7の周知技術の一つとして主張していたものにすぎず,これらを副引用例とした主張はしていなかった。それゆえ,本件審決においても,甲4及び5については,もっぱら相違点1に係る構成が周知技術といえるかどうかの観点から判断がされている。甲1発明を主引用例とし,甲4技術又は甲5技術を副引用例とする原告の主張は,審決取消訴訟において争うことができない無効理由を主張するものである。 もっとも,原被告間における本件特許に係る特許権侵害差止等請求訴訟の控訴審(知財高裁令和3年(ネ)第10010号)の審理の状況を踏まえ,原告の上記主張について本件訴訟で判断されることに積極的に異議を唱えるものではない。 (ウ) 副引用例としての適用についての予備的な反論 甲4及び5には,本件発明1の外側係止部及び内側係止部に相当する構成は開示されていない。そして,甲1発明と甲4技術及び甲5技術とは,解決しようとする課題や作用・機能が共通せず,甲1発明に甲4技術又は甲5技術を適用することの示唆等は存在せず,動機付けもなく,むしろ阻害要因がある。したがって,相違点1が,甲1発明に甲4技術又は甲5技術を適用することによって容易に想到することができたとはいえない。詳細は,次のとおりである。 a 間隔保持具について (a) 甲4技術及び甲5技術は,いずれもコンクリートの外側の型枠と内側の型枠との間隔を保持するための,間隔保持具又はセパレーターと呼ばれる部材に関する発明である。そのような製品として,例えば,「フラット巾止」(乙1の66頁)「フラットセパレーター」 , (乙2)「平セパ」 , (乙3の41頁)などがある。 (b) 間接保持具により,一対のコンクリート型枠間の間隔を保持できる仕組みは,次のとおりである。 【図1】は,一対のコンクリート型枠の上端及び下端に間隔保持具が取り付けられた状態を示しており, 【図2】 【図1】の上部の拡大図である(以下の説明は, は,コンクリート型枠の下端に取り付けられた間隔保持具の機能についても同様に当てはまる。。 ) 【図1】 【図2】 【図2】に示すように,一対のコンクリート型枠間にコンクリートを流し込んだ際に,各コンクリート型枠には,各コンクリート型枠を外側に押す力F1がコンクリートから働き,各外側規制片には,各コンクリート型枠から外向きの力f1が働く。ここで,一方の外側規制片に働く力f1と,他方の外側規制片に働く力f1とは反対向きであり,しかも,一方の外側規制片と他方の外側規制片とは本体によって繋がっているため,保持具に働く横方向の合力はゼロになり,保持具は横方向に移動しない。また,各コンクリート型枠には,外側規制片を押すことによる反作用として,力F1とは反対向きの力F2が働き,力F2と力F1とは釣り合うため,各コンクリート型枠は横方向に移動せず,一対のコンクリート型枠間の間隔が維持される。 なお,コンクリート型枠の設置時やコンクリートを流し込んだ際に,コンクリート型枠が傾くなどして,次の【図3】に示すように,コンクリート型枠が各内側規制片に力f2を及ぼすことがある。 【図3】 一対の内側規制片に働く力f2は互いに反対向きであり,また,一対の内側規制片は本体によって繋がっているから,保持具の横方向に働く合力はゼロになり,保持具は横方向に移動しない。また,コンクリート型枠には,内側係止片からの反作用力が働くことになるが,この反作用力,力F1及び力F2の合力がゼロになるため,コンクリート型枠の静止状態が維持され,一対のコンクリート型枠間の間隔が保持される。 (c) 以上のように,甲4技術及び甲5技術の間隔保持具においては,外側規制片及び内側規制片がそれぞれ一対存在し,しかも,一対の外側規制片及び一対の内側規制片がそれぞれ本体によって繋がっていて初めて一対のコンクリート型枠間の間隔が維持できるのであり,これらの部分(一対の外側規制片,一対の内側規制片及び本体)は,機能的にも連動しており,一体的に構成されているといえる。 b 甲4技術と本件発明1の比較 (a) 甲4技術について 甲4の特許請求の範囲の請求項1並びに段落【0001】〜【0004】及び【0007】〜【0009】の記載からすると,甲4技術の間隔保持具は,一対のコンクリート型枠の下端に取り付けられ,一対のコンクリート型枠の対向間隔を保持するものであるから,外側のコンクリート型枠用の外側規制片2及び内側規制片3だけでなく,内側のコンクリート型枠用の外側規制片2及び内側規制片3も必須の構成であり,また,外側規制片2及び内側規制片3は,コンクリート型枠の下端に当接する本体1から上方に延びており,一対の外側規制片2及び内側規制片3は,それ自体によって,型枠を直立に固定・支持するものである。 そのため,間隔保持具全体が大型の部材となるだけではなく,各規制片自体も大型で相応の厚みと強度を有することが必要であるし,下端に設置されるものであるため,そのような部材とすることが容易である。 (b) 甲4に本件発明1の外側係止部(12)及び内側係止部(13)が開示されていないこと 上記(a)に対し,本件発明1の外側係止部(12)と内側係止部(13)は,一対の型枠同士の間隔保持を目的とするものではない。 また,間隔保持具が「間隔保持具に型枠を取り付ける」ものであるのに対し,本件発明1の支持具は, 「外側の型枠に支持具を取り付ける」もので,外側の型枠のみに取り付けられる。 本件発明1の支持具は,外側のコンクリート型枠の側端面で,かつ,下端よりも上方に取り付けられ,外側のコンクリート型枠の外方への傾倒を防止するものであり,支持具(10)を外側のコンクリート型枠に取り付けるための外側係止部(12)及び内側係止部(13)を備え,外側係止部(12)及び内側係止部(13)は,コンクリート型枠の側端面に当接する基部(11)と一体化され,外側のコンクリート型枠を横方向から挟み込む。 そして,本件発明1において,外側の型枠の傾き防止は,支持具の上記の両係止部のみによってではなく,アンカー部が基礎コンクリートに埋設され,固定されることによって達成されるため,上記の両係止部は,外側型枠の側端面に「引っかかる」程度,基礎コンクリートに埋設されるまでの間に型枠から脱落しない程度に型枠に固定されれば足りる一方,支持具全体にも係止部にもさほどの強度は必要とされず,むしろ,側面に脱落せずに取り付け可能なように,小型かつ薄型の部材とする必要がある。 以上のように,甲4技術の外側規制片と内側規制片が,それら自体で挟み込むことによって外側の型枠と内側の型枠を直立に固定・支持する役割を果たしているのに対し,本件発明1の外側係止部と内側係止部は,外側の型枠の側面に脱落しないように支持具を取り付ける役割を果たすものであって,それのみで外側の型枠を固定する役割を果たしているわけでもない。本件発明1の外側係止部と内側係止部について,型枠の側端面から脱落しないように取付け可能であることが要請されることからすると,役割に決定的かつ本質的な差異があるというべきである。 したがって,甲4技術の外側規制片と内側規制片は,本件発明1の外側係止部と内側係止部と,その果たす機能・役割が全く異なっており,それが製品における部材全体や規制片あるいは係止部の大きさ等の違いとなっている。 それゆえ,甲4技術と本件発明1は,構成に係る技術として,別物であることが明らかであって,甲4に本件発明1の外側係止部(12)と内側係止部(13)が開示されているとはいえない。 (c) 原告の主張について 引用発明は,引用文献の記載に基づき,客観的かつ具体的に認定されなければならず,引用文献に記載された技術内容を抽象化したり,一般化したり,上位概念化したりすることは,恣意的な判断を容れるおそれが生じるため,許されない。また,引用発明の認定に当たっては,ひとまとまりの構成又は技術思想を認定するのが相当であり,ひとまとまりの構成又は技術思想の一部のみを抽出することは許されない。 甲4技術の間隔保持具は,一対のコンクリート型枠の下端に取り付けた場合に発生する課題を解決することを目的としているから,外側規制片2及び内側規制片3はコンクリート型枠のあくまで下端に位置すべきであるにもかかわらず,原告の主張は,本件発明1の支持具と当該間隔保持具の使用態様を無視した上で,外側規制片2及び内側規制片3とコンクリート型枠との位置関係について,恣意的に過度に抽象化又は上位概念化したものというほかない。 また,甲4技術の間隔保持具においても,外側規制片2及び内側規制片3はコンクリート型枠の下端に配置される本体1と一体形成され,本体1と外側規制片2及び内側規制片3とは一体不可分であるのみならず,一対のコンクリート型枠の対向間隔を保持するものであるから,外側のコンクリート型枠用の外側規制片2及び内側規制片3だけでなく,内側のコンクリート型枠用の外側規制片2及び内側規制片3も必要であり,全体として,本体1,これら2組の外側係止片2及び内側規制片3が機能的にも連動し,一体的に構成されている。それにもかかわらず,原告の主張は,甲4技術の間隔保持具から1組の外側規制片2及び内側規制片3のみを恣意的に抽出するものであって許されない。甲4の間隔保持具は,一対のコンクリート型枠間の間隔を保持することを目的としているから,外側コンクリート型枠用の外側規制片及び内側規制片,内側コンクリート型枠用の外側規制片及び内側規制片並びにそれら各規制片を接続する基部が一体であることが必須の構成であり,そのうちの外側コンクリート型枠用の各規制片のみでは,上記目的を達成できず,技術的意味を有しないものとなる。したがって,甲4から構成や技術思想を抽出する上では,外側コンクリート型枠用の外側規制片及び内側規制片,内側コンクリート型枠用の外側規制片及び内側規制片並びにそれら各規制片を接続する基部が一体として抽出されるべきである。 c 甲5技術と本件発明1の比較 (a) 甲5技術について 甲5の特許請求の範囲の請求項1並びに段落【0001】〜【0007】及び【0009】〜【0012】の記載からすると,甲5技術の保持具は,一対のコンクリート型枠を一定の間隔で保持するものであるから,外側のコンクリート型枠だけでなく内側のコンクリート型枠も固定対象としており,また,一対のコンクリート型枠の上端又は下端に取り付けられることを前提とするものである。 甲5技術の保持具は,一対のコンクリート型枠の上端又は下端に取り付けられ,一対のコンクリート型枠を一定の間隔で保持するものであるから,外側のコンクリート型枠用の外側係止片11及び内側係止片12だけでなく,内側のコンクリート型枠用の外側係止片11及び内側係止片12も必須の構成であり,また,外側係止片11及び内側係止片12は,コンクリート型枠の上端又は下端に当接する本体片10から下方又は上方に延びており,一対の外側係止片11及び内側係止片12は,それ自体によって,型枠を直立に固定・支持するものである。 そのため,保持具全体が大型の部材となるだけではなく,各係止片自体も大型で相応の厚みと強度を有することが必要であるし,上端又は下端に設置されるものであるため,そのような部材とすることが容易である。 (b) 甲5に本件発明1の外側係止部(12)と内側係止部(13)が開示されていないこと 上記(a)に対し,本件発明1の外側係止部(12)と内側係止部(13)については,前記b(b)のとおり,支持具全体にさほどの強度は必要とされず,むしろ,側面に脱落せずに取り付け可能なように,小型かつ薄型の部材とする必要がある。 本件発明1の支持具は,外側のコンクリート型枠の側端面で,かつ,下端よりも上方に取り付けられ,外側のコンクリート型枠の外方への傾倒を防止するものであり,支持具(10)を外側のコンクリート型枠に取り付けるための外側係止部(12)及び内側係止部(13)を備え,外側係止部(12)及び内側係止部(13)はコンクリート型枠の側端面に当接する基部(11)と一体化され,外側のコンクリート型枠を横方向から挟み込む。 以上のように,甲5技術の外側係止片と内側係止片が,それら自体で挟み込むことによって外側の型枠と内側の型枠を直立に固定・支持する役割を果たすものであるのに対し,本件発明1における外側係止部と内側係止部は,外側の型枠の側面に脱落しないように支持具を取り付ける役割を果たすものであって,それのみで外側の型枠を固定する役割を果たしているわけでもない。本件発明1の外側係止部と内側係止部について,型枠の側端面から脱落しないように取付け可能であることが要請されることからすると,役割に決定的かつ本質的な差異があるというべきである。 したがって,甲5技術の外側係止片と内側係止片と,本件発明1の外側係止部と内側係止部の果たす機能・役割は,全く異なっており,それが製品における部材全体や規制片あるいは係止部の大きさ等の違いとなっている。 それゆえ,甲5技術と本件発明1は,構成に係る技術として,別物であることが明らかであって,甲5に本件発明1の外側係止部(12)と内側係止部(13)が開示されているとはいえない。 (c) 原告の主張について 甲5技術の保持具は,一対のコンクリート型枠の上端又は下端に取り付けることを前提とする技術であるから,外側係止片11及び内側係止片12はコンクリート型枠の上端又は下端に位置すべきであるにもかかわらず,原告の主張は,本件発明1の支持具と当該間隔保持具の使用態様を無視した上,外側係止片11及び内側係止片12とコンクリート型枠との位置関係について,恣意的に過度に抽象化又は上位概念化したものというほかない。 また,甲5技術の保持具において,外側係止片11及び内側係止片12はコンクリート型枠の上端又は下端に配置される本体片10と一体形成され,本体片10と外側係止片11及び内側係止片12とは一体不可分であるのみならず,一対のコンクリート型枠を一定の間隔で保持するものであるから,外側のコンクリート型枠用の外側係止片11及び内側係止片12だけでなく,内側のコンクリート型枠用の外側係止片11及び内側係止片12も必要であり,全体として,本体片10,これら2組の外側係止片11及び内側係止片12は機能的にも連動し,一体的に構成されている。それにもかかわらず,原告の主張は,甲5の保持具から1組の外側係止片11及び内側係止片12のみを意図的に抽出したことを前提とするものであって許されない。前記b(c)で甲4について述べたのと同様に,甲5から構成や技術思想を抽出する上では,各係止片とそれらを接続する基部が一体として抽出されるべきである。 d 甲1発明と甲4技術及び甲5技術とは,課題,作用・機能が共通せず,動機付けもないこと (a) 甲1発明は,甲1の段落【0003】〜【0005】及び【0013】に記載のとおり,コンクリート基礎を2度打ちにより形成する際に発生する,外側のコンクリート型枠(縦長外枠2)の外方への傾倒を防止することを課題の一つとしている。甲1発明の型枠傾倒防止具は,外側のコンクリート型枠の側端面に取り付けられ,一部がベースコンクリート内に埋設されることで,外側のコンクリート型枠の傾倒を防止するものである。このように,甲1発明の型枠傾倒防止具は,外側のコンクリート型枠(縦長外枠2)のみを固定対象としており,かつ,このような傾倒防止具のみによって外側の型枠の傾きを防止する作用を有しているのではなく,傾き防止は,支持具の一部がベースコンクリートに埋設・固定されることによって達成され,外側の型枠と内側の型枠の間隔保持の役割も有していない。 (b) これに対し,甲4技術の間隔保持具においては,前記bのとおり,外側規制片と内側規制片自体が型枠を直立に固定 支持する作用を有しているため, ・保持具全体が大型の部材となるだけではなく,各規制片も大型で相応の厚みと強度を有することが必要であるところ,そのような大型の部材を型枠の側面に取り付けることは想定できず,甲4には,当該間隔保持具をコンクリート型枠の側端面に取り付け可能であるとの記載も示唆もない。また,甲4技術は,一対のコンクリート型枠の対向間隔の保持に主眼があり,甲4には,2度打ちによりコンクリート基礎を形成する際に特有の課題である外側コンクリート型枠の外方への傾倒を防止できるとの記載も示唆もない。型枠の基礎幅方向(横方向)への移動を防止し,外側型枠と内側型枠の間隔を保持するという目的を達成する上では,外側型枠と内側型枠がそれぞれ固定・支持されていることが大前提であって重要であり,甲4技術の外側規制片と内側規制片の主要な役割は,それ自体による外側型枠と内側型枠のそれぞれの支持・固定であるが,本件発明1の外側係止部(12)及び内側係止部(13)は,支持具自体を型枠に取り付けることを目的としており,互いに機能や役割が異なっている。さらに,甲4技術の間隔保持具は,甲4の段落【0002】〜【0004】及び【図1】によると,コンクリート型枠の下端に取り付けた際にコンクリート型枠から脱落することを防止するとともに,簡単な操作で確実にコンクリート型枠に掛止できる間隔保持具を提供することを目的としたもので,コンクリート型枠の下端に取り付ける場合に発生する課題を解決するものであるところ,当該課題は,コンクリート型枠の側端面に取り付けることを前提とする甲1発明では生じ得ない。 甲5技術の保持具についても,外側係止片と内側係止片の機能や役割が甲1発明の外側係止部(12)及び内側係止部(13)と異なっていることは,上記で甲4技術について述べたのと同様であり,前記cのとおり,甲4技術におけると同様,外側係止片と内側係止片は大型で相応の厚みと強度を有することが必要であるところ,そのような大型の部材を型枠の側面に取り付けることは想定できず,甲5には,当該保持具をコンクリート型枠の側端面に取り付け可能であるとの記載も示唆もない。また,甲5技術も,一対のコンクリート型枠の対向間隔の保持に主眼があり,甲5には,2度打ちによりコンクリート基礎を形成する際に特有の課題である外側のコンクリート型枠の外方への傾倒を防止できるとの記載も示唆もない。さらに,甲5技術の保持具は,甲5の段落【0002】〜【0006】及び【図2】によると,コンクリート型枠の上端又は下端に取り付けることを前提とし,外側係止片と内側係止片との間隔を可変することで一つの保持具で保持できるものを提供することを目的としているところ,甲1の段落【0003】及び【図5】には,従来技術として,甲5技術の保持具と同種の保持具を使用した型枠の保持方法が開示され,段落【0004】及び【0005】には, 【図5】に記載の型枠の保持方法であっても外枠302が外側に傾くという課題が生じると記載されており,甲1発明は,このような課題を解決するために考案されたものである。したがって,甲1発明を使用すれば,甲5技術の保持具を使用しても達成できないコンクリート型枠の固定を実現できるのであるから,甲1発明と甲5技術の保持具とは,コンクリート型枠を固定具により固定させるという点において,その作用,機能が共通しないというべきであり,むしろ,当業者は,甲1発明を使用したコンクリート型枠の固定と,甲5技術の保持具を使用したコンクリート型枠の固定では,その固定の意味合いが異なるものと認識するはずである。 (c) したがって,甲1発明と甲4技術又は甲5技術に係る間隔保持具とでは,解決しようとする課題も,作用・機能も異なるから,仮に 甲4技術又は甲5技術の各規制(係止)片を甲1発明に適用できたとしても,本件発明1には至らない。また,甲1発明に甲4技術又は甲5技術を適用する動機付けもない。 (d) 上記に関し,甲4技術については,外側規制片2が掛止部9付きのものであることからも,やはり作用・機能が異なり,動機付けはない。 甲4技術の間隔保持具は,外側規制片2の上部に設けられた掛止部9がコンクリート型枠の縁部に引っ掛かることで,コンクリート型枠からの脱落を防止できるというものであり(甲4の段落【0002】【0009】,間隔保持具において,型 , )枠からの脱落防止の役割を果たしているのは,外側型枠と内側型枠をそれぞれ支持・固定する役割に主眼を置く規制片ではなく,それらとは別に存在する掛止部9である。 そうすると,甲1発明に,支持具の外側の型枠からの脱落防止のために甲4技術を適用するとしても,甲4技術の外側規制片2及び内側規制片3のみでは脱落防止には不十分であり,さらに,掛止部9付き外側規制片2を適用しなければならず,これに対応して,外側のコンクリート型枠のうち,ベースコンクリートが打設される高さ位置に掛止部9を上方から係止できるような部分も必要になる。しかし,甲1発明の外側のコンクリート型枠を含め,一般的なコンクリート型枠において,ベースコンクリートが打設される高さ位置に掛止部9を上方から係止できるような部分は存在しない(乙1の47頁,乙3の9頁,乙8の11頁)。 したがって,甲1発明に甲4技術を適用しても,甲1発明の型枠傾倒防止具を,脱落せずに外側のコンクリート型枠に取り付けることはできない。そうであるならば,当業者において,甲1発明に,型枠からの脱落防止のために甲4に記載の外側規制片2及び内側規制片3を適用するはずがない。 仮に,掛止部9を上方から係止できるような部分を外側のコンクリート型枠に設けるとなると,それは,甲1発明に,甲4に記載の掛止部9付き外側規制片2を適用して初めて生じる課題である。しかし,主引用例に甲4技術を適用して初めて生じる課題を解決するために更なる変更を行う動機付けは認められない。 e 示唆等が存在しないこと 甲1発明に,甲4技術又は甲5技術を適用して本件発明1に想到したといえるためには,相違点1に係る構成に到達したはずであるという程度の示唆等が存在することが必要であるが,甲1発明に,甲4技術又は甲5技術を適用することの示唆等はなく,せいぜい,それらを適用することが可能であるというにとどまるものというべきである。 f 阻害要因があること (a) 甲1の実用新案登録請求の範囲の請求項1並びに段落【0014】,【0017】【0023】【0030】【0035】【0039】及び【0044】 , , , ,によると,貫通孔6を設け,その貫通孔6に,縦長外枠2同士を接続するための連結具10又はボルト18といった治具(以下,併せて単に「連結具」という。)を通すことで,縦長外枠2に型枠傾倒防止具を固定することができるとされている。 甲1発明は,従来からコンクリート型枠の連結用に使用されている連結具を,型枠傾倒防止具の固定にも利用することで,別の固定具を利用したり,あるいは,型枠傾倒防止具に複雑な固定用の部分を設けたりする必要もなくなり,ひいては甲1発明の課題の一つである「簡素な構成で且つ施工効率を向上することでコストを低減することができ」るという課題を解決できるというものである。 (b) 上記のように,甲1発明は,貫通孔6という,型枠傾倒防止具をコンクリート型枠に取り付けるための構成を既に有しているのであるから,甲1発明に,型枠傾倒防止具をコンクリート型枠に取り付けるための構成を更に加える必要はない。したがって,一体的に構成された甲4技術の間隔保持具から一組の外側規制片2及び内側規制片3のみを取り出して,又は一体的に構成された甲5技術の保持具から一組の外側係止片11及び内側係止片12のみを取り出して,甲1発明に適用する動機付けはない。 また,甲1発明は,従来から存在する,穴に挿入して使用されるタイプの連結具を利用することを目的として,貫通孔6という構成を採用したのであるから,課題と密接に関係する貫通孔6を,甲4技術の外側規制片2及び内側規制片3又は甲5技術の外側係止片11及び内側係止片12で置き換えることは,甲1発明において貫通孔6を設けた目的に反することになる。 さらに,既に述べたとおり,甲4技術及び甲5技術の間隔保持具は,規制片又は係止片を含め,相応の大きさ・厚さを有する部材であるところ,型枠の上端又は下端に設置されるものであるため,そのような部材であっても何ら問題はないが,甲1発明は,外側の型枠間に,型枠の中段かつ側面に取り付けられるものであるため,上記のような貫通孔なくして,甲4技術や甲5技術の規制片又は係止片を,脱落しないように側面に取り付けること自体が困難である。 したがって,本件発明1に到達するためには,甲1発明に,甲4技術又は甲5技術を適用した上で,コンクリート型枠の側面に脱落しない程度に取り付け可能となるように更に改変しなければならないところ,仮に,このような改変が容易であったとしても,このような論理付けは,いわゆる容易の容易に相当する。それゆえ,甲1発明に基づいて,相違点1に係る構成に想到することは,格別な努力を必要とするものというべきである。 (c) 以上のように,甲1発明に甲4技術又は甲5技術を適用するには,阻害要因がある。 イ 甲3〜7の周知技術を適用する場合の判断の誤りについて (ア) 技術分野が関連せず,目的が異なること 技術分野については,発明の特性(機能や作用,具体的な技術)などを考慮して判断すべきであるところ,甲1発明と甲3〜7の各技術とは,発明の機能・作用,具体的な技術において相違しており,技術分野が関連しない。そして,甲3〜7の各技術において,原告が本件発明1の外側係止部や内側係止部に相当すると主張する各構成を設けた目的も,次のとおり,本件発明における目的や甲1発明において貫通穴6を設けた目的とは,全く異なっている。 a 甲3において,接合舌片2a,2a',2b,2b'を設けた目的は,パネル4aとパネル4bとを接合するためである(甲3の6頁12行〜13行,7頁4行〜5行・12行〜13行,8頁1行〜2行・10行〜15行,第2図〜第8図)。 b 甲4技術において,外側規制片2及び内側規制片3を設けた目的は,型枠5を所定の対向間隔で保持するためである(甲4の段落【0007】。 ) c 甲5技術において,外側係止片11及び内側係止片12を設けた目的は,対向した型枠板2を一定の間隔をおいて保持するためである(甲5の段落【0012】。 ) d 甲6において,係止部3a,3bを設けた目的は,各コンクリート型枠1の横方向の位置を規制するためである(6頁10行〜12行)。 e 甲7において,第1縦垂直支持片13及び第1横垂直支持片15を設けた目的は,上型枠22を載置するためである(甲7の段落【0017】。 ) (イ) 作用・機能を異にすること a 次のとおり,甲3〜7の各技術は,いずれも甲1発明とは作用・機能を異にしており,一端側がコンクリート内部に埋設されて,他端側で型枠を保持するというような共通点を有しない。 (a) 甲3では,一端側がコンクリートの内部に埋設されてはいるものの,接合具の他端側はパネル4aとパネル4bとを接合しているだけで,そもそもパネルに係止されているともいえない。 (b) 甲4技術は,一端側及び他端側とも型枠の下端に位置することになるから,一端側及び他端側はコンクリート内部に埋設されない。甲4技術の間隔保持具は,型枠の下端に配置したときに,一端側及び他端側を除いた部分(すなわち,間隔保持具の真ん中部分)がコンクリート内部に埋設されるだけである。甲5技術や甲6についても同様である。 (c) 甲7の型枠支持金具は,コンクリート内部に一切埋設されない(甲7の段落【0018】。 ) b 甲4〜7の各技術は,型枠の上端又は下端に設置されるものであって,型枠の側端面に取り付けられるものではないから,その点でも,甲4〜7の各技術の作用は,本件発明1の外側係止部及び内側係止部の作用や甲1発明の貫通穴6の作用とは異なっている。 (ウ) 小括 以上のとおり,甲3〜7の各技術は,技術分野が異なる上,原告が本件発明1の外側係止部及び内側係止部に相当すると主張する部位は,その目的や作用・機能が全く別物であり,本件発明1の外側係止部及び内側係止部に相当する構成が開示されているとはいえないし,甲1発明の貫通穴6に代えて又は甲1発明の貫通穴6に加えて,甲3〜7発明の各構成を採用する動機付けはない。したがって,相違点1が,甲1発明に甲3〜7の技術を適用することで容易に発明することができたということはできない。 ウ 甲2発明を副引用例として適用する場合の判断の誤りについて 甲2発明には,本件発明1の外側係止部及び内側係止部に相当する構成は開示されていない。そして,甲1発明の型枠傾倒防止具と甲2発明の段付き中間巾止め金具とは,技術分野,課題及び作用が共通せず,動機付けも認められない。したがって,甲1発明を主引用例とし,甲2発明を副引用例として,本件発明1を容易に発明することができたということはできない。詳細は,次のとおりである。 (ア) 甲2発明には本件発明1の外側係止部(12)及び内側係止部(13)が開示されていないこと 甲2発明において,段付き中間巾止め金具10を型枠3に取り付けるために機能しているのは,穴16及びピン7,又は穴20であって,規制部17及び規制部15ではない。規制部17及び規制部15は,甲2発明における必須の構成ではない上に,型枠3に接することで,段付き中間巾止め金具10が倒れることを防止(すなわち,支持部13側が挟着部12側に対して相対的に下がることを防止)して,支持部13(型枠6)の高さを保持するための部分にすぎず,段付き中間巾止め金具10それ自体を型枠3に取り付けるための部分ではなく(甲2の段落【0034】,【0038】,そのような役割を果たしているわけではない。これらの部材の態様 )いかんでは係合することがあり得るとしても,甲2の記載からは型枠3にどの程度係合するかも不明である部材をもって,この点が重要な要素となる本件発明1の外側係止部(12)及び内側係止部(13)に相当するとはいえない。 また,甲2の段付き中間巾止め金具は,1度打ち工法の場合に外枠の型枠の内側に立ち上がり部の型枠(内枠)を浮いた状態で支持しなければならないことから,外枠と内枠の両型枠に跨がる形で使用されるもので,規制片17及び規制部15も,構造的にも自ずから相応の強度が必要であり,かつ大型の部材となる。 これに対し,本件発明1の金具は,2回打ち工法のみで使用され,外枠の型枠のみに装着されるものであって,アンカー部が打設されるコンクリート内に埋設固定されることと相まって当該型枠が外側に開くのを防止できれば足りるので,構造的にもさほどの強度が必要ではなく,比較的に小さな部材となる。 製品においても,1度打ちに使用される金具(甲14の70頁,乙1の78頁,乙8の11頁)と2度打ちに使用される金具(乙1の97頁,乙4〜6)とでは,その用途や役割の違いから,金具全体のみならず,原告が係止部あるいは規制部に該当すると主張する部位についても,大きさも含め,全く異なる部材である(乙9)。 したがって,甲2発明の規制片17及び規制部15は,本件発明1の外側係止部(12)及び内側係止部(13)に相当するとは認められない。 (イ) 甲1発明の金具と甲2発明の段付き中間巾止め金具とは,技術分野,課題,及び作用が共通せず,動機付けも認められないこと a 技術分野が関連しないこと (a) 技術分野の関連性については,発明の特性(機能や作用,具体的な技術)などを考慮して判断すべきものである。この点,近接した技術分野であるとしても,その機能,作用その他具体的技術において少なくない差異が認められる場合,構成の置換えが容易であるというためには,それなりの動機付けが必要であって,単に技術分野が近接しているというだけで置換えが容易であるとはいえない。 具体的な機能・作用,その他具体的技術に関して両者を対比した上で判断すべきである。 (b) 甲1発明の型枠傾倒防止具8,8’は,2度打ち工法でのみ使用されるもので,立ち上がり部のコンクリートを打設する際に,一端がベースコンクリートBC内に固設された型枠傾倒防止具8,8’によって縦長外枠2が保持されることにより,縦長外枠2の傾倒を防止できるという機能・作用を発揮するものとなっている(甲1の段落【0014】【0017】【0038】等) , , 。 これに対し,甲2発明の段付き中間巾止め金具10は,1度打ち工法でのみ使用され,規制部17及び規制部15が型枠3の側面に衝止することにより,段付き中間巾止め金具10の倒れを防止でき,支持部13(すなわち,内側の型枠6)の高さを保持できるという機能・作用を発揮する(甲2の段落【0034】など)。 このように,甲1発明と甲2発明とでは,それらが使用される工法だけでなく,それらの機能・作用も異なっている。 そして,甲1発明では,一端側に型枠(内枠4)を載せるわけではないため,型枠の質量によって一端側が下がるということはないから,甲1発明に,型枠傾倒防止具8,8'の倒れを防止するための規制部を設けるという技術思想が入り込む余地はなく,甲1発明と甲2発明との各技術分野が関連するとはいえない。 (c) 原告は,甲1発明も甲2発明も「型枠保持するために使用される保持具」である等として,技術分野の関連性がある旨主張するが, 「どの型枠」 「ど をのように」保持するのかによって,様々な技術的手段・方法があり得るのであるのであり,原告の主張は,甲1発明及び甲2発明の技術分野を過度に抽象化・上位概念化したものであって,許されるべきではない。 b 課題の関連性の程度等 (a) 上記aのとおり,甲1発明が外側型枠(縦長外枠)2の傾倒を防止するのに対し,甲2発明は内側型枠(第2の型枠)6の高さを保持するのであって,具体的な機能・作用や技術は異なる。 甲1発明の型枠傾倒防止具8,8’は,甲1の段落【0005】【0012】及 ,び【0013】並びに【図5】などによると,@立ち上がり部のコンクリートを打設する際に,縦長外枠2が外側に傾倒することでベースコンクリートBCとの間に隙間が生じ,その隙間に流れ込んだコンクリートCによってベースコンクリートBCの外壁上に段差ができるという課題及びA従来の型枠保持具は施工時において多くの手間が掛かるだけでなくコスト高であるという課題を解決することを目的としているところ,上記@は,2度打ち工法特有の課題である。 これに対し,甲2発明の段付き中間巾止め金具10は,甲2の段落【0010】及び【0012】などによると,従来の支持金具では,第2の型枠6を所定位置に支持できなくなるという,1度打ち工法特有の課題を解決することを目的とする。 したがって,甲1発明が解決しようとする課題と甲2発明が解決しようとする課題とは異なる。 (b) また,本件発明1において,外側係止部及び内側係止部を設けた目的は,支持具自体を型枠に取り付けるためであり(本件明細書の段落【0016】,【0019】など),甲1発明において,貫通孔6を設けた目的は,型枠傾倒防止具8,8’を縦長外枠2に取り付けるためである(甲1の段落【0026】【003 ,5】【0044】など) , 。 これに対し,甲2において,規制片17及び規制部15を設けた目的は,段付き中間巾止め金具10の倒れを防止して,支持部13の高さを保持するためであり(甲2の段落【0034】など),本件発明1及び甲1発明における上記の目的とは全く異なる。 (c) したがって,甲1発明と甲2発明には,甲1発明に甲2発明の規制片17及び規制部15を適用することが動機付けられるといえる課題の関連性までは認められず,甲1発明の貫通穴6に代えて又は甲1発明の貫通穴6に加えて,甲2発明の規制片17及び規制部15を採用する動機付けはない。 (d) 原告は,基礎コンクリートを形成するために使用される型枠の位置を固定するために型枠間に挟持される支持具において,型枠の側端面の所定部位に対して正しい姿勢で位置決めし,かつ,位置決め状態を維持することは,当該支持具における自明の課題である等と主張するが,どの型枠をどのように固定するかといった観点を全く取捨したそのような抽象的な主張は,甲1発明及び甲2発明の課題を過度に抽象化・上位概念化したものであって,許されない。 原告が主張する上記課題は,甲1にも甲2にも,課題として記載がなく,具体的な示唆があるともいえない。甲1の段落【0026】〜【0032】【0044】 ,に記載のとおり,甲1発明の型枠傾倒防止具は,連結具10又はボルト18及びナット20によって縦長外枠2に強固に固定するものである上,目印ともなるべき切り欠き13a,13bが存するから,型枠に対して水平に取り付けることが極めて容易であって,甲1発明においては,それ以上に,連結板9の型枠に対する姿勢を含む位置決めといった課題はそもそも存在せず,甲1にもその点が格別課題である旨の記載や示唆はない。また,甲2の段落【0030】には, 「穴16を穴3aに連通させ,ピン7を貫通させて連結する」と記載されており,段付き中間巾止め金具10を型枠3に取り付ける際には,使用者が段付き中間巾止め金具10を手で持って穴16を穴3aに連通させ,段付き中間巾止め金具10を手で持ったままの状態で,穴3a,16にピン7を貫通させると考えるのが自然である。そのように,段付き中間巾止め金具10を手で持ったままであれば,段付き中間巾止め金具10がずれることはないから,原告の主張するような課題は存在しないといえる。 仮に,上記課題が存するとしても,それは,基礎コンクリート工事施工後の防止具の撤去に関する不具合の解消に係るものにすぎないし,甲1発明,甲2発明のいずれにも記載されていない課題の解決のために,甲1発明に,別の課題解決を目的に設けられた甲2発明の規制片17及び規制部15を適用する動機付けは認められない。 c 作用の関連性等 (a) 本件発明1の外側係止部及び内側係止部は,支持具自体を型枠に取り付けるという作用を有する(本件明細書の段落【0016】, 【0019】など)。 また,甲1発明では,貫通孔6において,連結具10又はボルト18が挿入されることによって,型枠傾倒防止具8,8'を型枠に取り付けるという作用を有する(甲1の段落【0026】【0035】【0044】など) , , 。 これに対し,甲2発明の規制片17及び規制部15は,段付き中間巾止め金具10の倒れを防止して,支持部13の高さを保持するという作用を有する(甲2の段落【0034】など)。 このように,甲2発明の規制片17及び規制部15の作用は,本件発明1の外側係止部及び内側係止部の作用並びに甲1発明の貫通孔6の作用とは全く異なる。 (b) 原告は,アンカー部が基礎コンクリート内に埋設されて型枠の傾倒を防止する点で,甲1発明と甲2発明の作用が共通すると主張する。 この点,本件発明1及び甲1発明において外側の型枠の傾倒を防止できるのは,支持具又は型枠傾倒防止具8,8'の一部が埋設されたベースコンクリートが硬化しているからである。ベースコンクリートの硬化により支持具又は型枠傾倒防止具8,8'がベースコンクリート内に固定されているため,立ち上がり部のコンクリートを打設する際に外側に向けた力が型枠に働いても,支持具又は型枠傾倒防止具8,8'はベースコンクリートから抜けることがないから,型枠の傾倒を防止できるものである。 しかし,甲2発明の段付き中間巾止め金具10は,1度打ち工法に使用されることから,金具本体11はコンクリート内に埋設されるものの,当該コンクリートは,コンクリートの打設中,未硬化のままである。したがって,金具本体11はコンクリート中に固定されるわけではないから,甲2発明の段付き中間巾止め金具10は,コンクリートに埋設される結果として第1の型枠3の傾倒を防止するという作用を有するわけではない。 したがって,原告の上記主張は,甲2発明においても金具がコンクリート内に埋設されることにより型枠の傾倒を防止するという前提において,誤っている。 (c) また,原告は,型枠の脱離後に基礎コンクリートの外壁面から突出した部位を取り除くことができ,コンクリート基礎壁面を突出物が存在しない平滑な壁面とすることができる点で,甲1発明と甲2発明の作用が共通すると主張するが,それは,せいぜい甲2発明においては分離部18に関する作用であって,段付き中間巾止め金具10を型枠に取り付けるという作用とは無関係であり,当該作用の共通点は,甲1発明に,甲2発明の規制片17及び規制部15を適用する動機付けとはなり得ないものである。 3 取消事由3(無効理由2(その2)における本件発明1に係る相違点の認定及び容易想到性の判断の誤り)について (1) 相違点の認定の誤りについて ア 相違点Bの認定の誤りについて 甲2発明に本件発明1の外側係止部(12)及び内側係止部(13)が開示されているとはいえないことは,前記2(2)ウ(ア)で述べたとおりである。 イ 相違点Cの認定の誤りについて 「アンカー」 (錨・碇)とは,@船をとめおくために綱や鎖につけて海底に沈めるおもり,A碇のように作ったおもし,かぎなどの具を意味する(乙11)ところ,本件発明1におけるアンカー部は,当該部位が打設したコンクリート中に埋設固定されることで,初めて型枠の外側への開きを防止する効果を生じさせるものであり,外側型枠をとめおくための部分である。 これに対し,甲2発明の段付き中間巾止め金具10は,1度打ち工法に使用されることから,金具本体11はコンクリート内に埋設されるものの,当該コンクリートはコンクリートの打設中,未硬化のままであって,金具本体11は,コンクリート中に固定されるわけではなく,段付き中間巾止め金具10は,コンクリートに埋設される結果として型枠を支持するという作用を有するわけではない。金具本体11は,単に最終的にコンクリートに埋設されることがあるだけで,当該部位によって型枠の固定や支持がされているわけではないから,本件発明1のアンカー部とは作用が異なり,アンカー部であるとはいえない。 (2) 相違点Aに係る容易想到性の判断の誤りについて ア 相違点Aの実質的な認定の誤りについて 本件発明1の「全体を薄板によって形成する」との特定事項の意味していることは,必ずしも明確ではないから,特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解できない場合として,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌して技術的意義を解釈することに問題はない。 イ 容易想到性の判断の誤りについて (ア) 甲2発明は, 「一対の型枠を高低差をつけて支持するための」ものであるから,支持すべき型枠の重量に対する強度が必要なものであるとともに,部位によって厚みも異なり,立体的かつ複雑な形状となることも想定されるものである。 したがって,甲2発明において,全体を一枚の薄板によって形成することは当業者にとって容易になし得ることではない。 なお,仮に,本件発明1の「全体を薄板によって形成する」との特定事項が「一枚の薄板で全体を構成する」ものに限定されないものと解したとしても,上記のような部材の性質上,甲2発明においては,そもそも薄板で全体を構成すること自体が困難であるといえ,結論に変わりはない。 (イ) 甲3〜7に記載の保持具や金具は,単に,コンクリート型枠を固定するための固定具という,極めて広い抽象的な括りで共通性を有するにすぎず,使用目的や場面も全く異なる部材であって,これらの存在をもって周知技術に当たるともいえず,甲2発明に係る容易想到性の判断を左右するものではないというべきである。 (3) 相違点Bに係る容易想到性の判断の誤りについて 甲3〜7のいずれも,本件発明1の外側係止部や内側係止部に相当する構成を有しているとはいえず,相違点Bに係る構成が周知技術とはいえないことは,前記2(2)イで述べたとおりである。 (4) 相違点Cに係る容易想到性の判断の誤り 前記(1)イで述べたところからして,甲2発明には,アンカー部を設ける動機付けがない。 4 取消事由4(本件発明2,4〜6に係る容易想到性の判断の誤り) 本件発明2,4〜6は,本件発明1の構成を全て含み,更に構成を限定したものであるから,本件発明1に関して述べたのと同じ理由により,当業者が容易に想到し得たものではない。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件明細書の記載(甲21) 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,基礎コンクリートを形成するために使用される型枠の位置がズレないようにするための支持具に関し,特に,薄板によって形成するようにした支持具に関するものである。 【背景技術】 【0002】 家屋等の建築物を建てるためには,まず,コンクリートによって基礎を形成しなければならない。この基礎コンクリート30は,図2にも示すように,ベース部31と,その上の布基礎32と,近年では一般的になっているベース部31に一体的な防湿部33(所謂ベタ基礎)とからなっているものである。 【0003】 このような基礎コンクリート30をコンクリートによって形成するには,当然種々な施工方法があり,その施工方法に応じた型枠20が必要になるものである。 このような基礎コンクリート30を形成するための施工方法や型枠20としては,例えば特許文献1及び特許文献2に見られる。 【特許文献1】特開平6-146585号公報,要約,代表図 【特許文献2】特開平10-37207号公報,要約,代表図 【発明の開示】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 特許文献1に示された「布基礎コンクリート用型枠保持具」は, 「ベースコンクリート用型枠及び布基礎コンクリート用型枠を支持する保持具を安定して簡単に所定位置に設置する」ことを目的としてなされたもので,図5に示すように, 「縦ロッド2の下部に地中Eに埋設する挿入部2aを設け,縦ロッド2の中間部に水平位置決め板3を溶着固定し,その下面をベースコンクリート打設面4上に載置する。又,縦ロッド2の中間部には第1支持ロッド7を溶着固定し,その左右両側部にベースコンクリート用型枠8,9及び布基礎コンクリート用型枠13,9aを位置決めする位置決めピン10〜12を立設する。前記型枠保持具1は挿入部2aによって安定的に所定位置に保持される」ものである。 【0005】 この特許文献1の「布基礎コンクリート用型枠保持具」は, 「ベースコンクリート用型枠及び布基礎コンクリート用型枠を支持する保持具を安定して簡単に所定位置に設置する」ことができるものと考えられるが,ベースコンクリートと布基礎コンクリートとを別々に形成する「2度打ち」はできないものと考えられる。2度打ち」 「は,基礎コンクリート30を形成するにあたって,図2にも示すように,まずベース部31と防湿部33とを形成しておいて,固化したベース部31上に布基礎32を形成する,というものである。 【0006】 「2度打ち」によって基礎コンクリート30を形成するのは,例えば施工場所が住宅密集地であって,一気に型枠20を組めないこと,防湿部33の施工面積が非常に広いこと,あるいは軟弱地盤であるためにベース部31を大きくしなければならないこと等,基礎コンクリート30を一気に形成するのを阻害する種々な制約が存在している場合である。 【0007】 「2度打ち」によって基礎コンクリート30を形成する場合,当然,ベース部31が固化した後に,このベース部31の上に布基礎32となるべき生コンクリートを打設するのであるが,ベース部31が固化するまでの間に,布基礎32を形成すべき型枠20が外側に開いてしまうことがある。型枠20が開いてしまうことは,固化したベース部31と型枠20との間に,後に打設される生コンクリートの所謂「トロ」が侵入することを意味し,その結果,トロがベース部31外面を汚すだけでなく,当該ベース部31上に形成すべき布基礎32がベース部31とはズレて形成されてしまうこともある。このような,ベース部31の汚れや,ベース部31と布基礎32とのズレは避けなければならない。 【0008】 その点,特許文献2に記載された「基礎コンクリート型枠装置と型枠連結具及び型枠固定具」は「従来技術による型枠板を木杭によって固定支持する構造を改善する基礎コンクリート型枠装置と型枠連結具及び型枠固定具を提供する」ことを目的としてなされたものであるから,図6に示すように, 「型枠の組立て及び解体作業が容易で転用回数も多くなって経済的であると共に,地盤に対する型枠の固定支持力も向上する」ことができると考えられる。 【0009】 しかしながら,この特許文献2の技術では,図6に示すように, 「型枠板5の長さに適合する基礎地盤上の所定位置毎に型枠連結具2,4をそれぞれ設置し,型枠連結具2,4に設けた挿入溝に長手方向の両端部を嵌め込んだ状態で型枠板5が装着されると共に,型枠連結具2,4に設けた挿通孔を介して金属製のアンカー杭7を地盤中に打ち込み,基礎コンクリートを打設する型枠を連結し且つ基礎地盤上に固定支持し,型枠板5の長手方向の中間部には,地盤中に打ち込む金属製のアンカー杭7が挿通される挿通孔を設けた型枠固定具3を装着させる」ものであるから, 「型枠板5の長手方向の中間部に地盤中に打ち込む金属製のアンカー杭7が挿通される挿通孔を設けた型枠固定具3を装着」しなければならない。 【0010】 この特許文献2のように, 「型枠板5の長手方向の中間部に,地盤中に打ち込む金属製のアンカー杭7が挿通される挿通孔を設けた型枠固定具3を装着させる」ことは,型枠そのものの価格を引き上げることになって,施工上好ましくないと考えられる。特に,型枠20の高さが大きいものになると,上方部分に「型枠固定具3を装着させる」ことが困難になるだけでなく,型枠20の上方部分が外側に開くのを防止仕切れない,という虞も出てくる。 【0011】 そこで,本発明者等は,2度打ちする場合の型枠20の外側への開きを防止する支持具とするにはどうしたらよいか,について種々検討を重ねてきた結果,本発明を完成したのである。 【0012】 すなわち,本発明の目的とするところは,2度打ちする際の型枠20の支持を確実に行うことができて,構造が簡単で安価に提供することのできる支持具10を提案することにある。 【課題を解決するための手段】 【0013】 以上の課題を解決するために,まず,請求項1に係る発明の採った手段は,後述する最良形態の説明中で使用する符号を付して説明すると, 「基礎コンクリート30を形成するために使用される型枠20の位置を固定するための支持具10であって, 全体を薄板によって形成するとともに,型枠20の側端面に当接される基部11と,この基部11の外側端部に一体化されて型枠20の外側角部21に係止される外側係止部12と,基部11の内側端部に一体化されて型枠20の内側角部22に係止される内側係止部13と,基部11の内側端部に一体化されて,基礎コンクリート30に埋設されることになるアンカー部14とを備えたものとし, さらに,基部11とアンカー部14との間に,このアンカー部14から基部11を折り取るための折取部15を形成したことを特徴とする型枠20のための支持具10」である。 【0014】 すなわち,この請求項1に係る支持具10は,図2及び図3に示すように,各型枠20の位置を固定するために使用されるものであり,特に,基礎コンクリート30が2度打ちによって形成されるものである場合に使用されるものである。換言すれば,本発明に係る支持具10は,ベース部31と防湿部33とをまず形成しておいて,このベース部31の上に布基礎32を形成するという「2度打ち」によって基礎コンクリート30とする場合に使用される型枠20の位置を固定するものである。 【0015】 また,本発明に係る支持具10は,その全体が金属板等の薄板によって形成されるものである。この支持具10を薄板によって形成する必要があるのは,例えばプレス機の1回打ちによって簡単に製造できるようにして,安価に提供できるようにするとともに,簡単な構造とすることにより,当該支持具10の型枠20に対する取付作業をも簡単に行えるようにするためである。 【0016】 換言すれば,この支持具10は,図1に示すように,一枚の薄板によって,基部11,外側係止部12,内側係止部13,及びアンカー部14を備えたものであるが,これを使用する場合には,まず,基部11は,図2及び図3に示すように,型枠20の側端面であって,基礎コンクリート30の布基礎32を形成する部分より下側に当接される。このとき,基部11の外側端部に一体化された外側係止部12は,型枠20の外側角部21に係止されるとともに,基部11の内側端部に一体化された内側係止部13は,型枠20の内側角部22に係止される。つまり,この支持具10は,基部11,外側係止部12,及び内側係止部13によって一つの型枠20の側端面を包み込むようにしながら,これに簡単に取り付けられるのである。 【0017】 一つの型枠20の側端面であって,基礎コンクリート30の布基礎32を形成する部分より下側に取り付けられた支持具10は,図2に示すように,そのアンカー部14がベース部31または防湿部33側に延出することになる。この状態で,別の型枠20を,当該支持具10を取り付けた先の型枠20に当接させることにより,図3に示すように,当該支持具10は2枚の型枠20の間に挟み込まれて固定されることになる。なお,各型枠20は,別の金具や支持杭23等によって,位置決めや固定がなされる。 【0018】 以上の結果,基部11の内側端部に一体化されているアンカー部14は,上述したように,基礎コンクリート30の布基礎32以外の部分に埋設されることになるように,後に形成されるベース部31または防湿部33側に延出することになる。 また,各支持具10の外側係止部12は,図4に示すように,各型枠20の境界部分の外面にて露出することになる。 【0019】 以上のようにして組み立てた各型枠20の間に,まず,ベース部31及び防湿部33とすべき生コンクリートを打設して,その硬化を待つのである。このベース部31及び防湿部33となる生コンクリートが硬化することによって,本発明に係る支持具10のアンカー部14が硬化コンクリート中に埋設固定されることになる。 そして,この支持具10は,その外側係止部12や内側係止部13によって型枠20に取り付けてあるから,型枠20をベース部31または防湿部33に対してしっかりと支持固定することになるのである。従って,布基礎32となる生コンクリートが次に打設されるまでの間,支持具10は型枠20を外に広がらないようにそのまま保持し,各型枠20とベース部31あるいは防湿部33との間に「トロ」が侵入するような隙間を形成させることはない。 【0020】 以上の結果,布基礎32となるべき生コンクリートを打設しても,各型枠20が本発明に係る支持具10によってしっかりと保持あるいは支持されているから,布基礎32は,ベース部31または防湿部33上に位置ズレや「トロ」による汚れを発生させることなく形成されることになるのである。 【0024】 従って,この請求項1の支持具10は,まず第1に,2度打ちする際の型枠20の支持を確実に行うことができて,構造が簡単で安価に提供し得るものとなっているのである。 【0025】 また,この請求項1の支持具10については,基部11とアンカー部14との間に,このアンカー部14から基部11を折り取るための折取部15を形成してあった。 【0026】 すなわち,この支持具10は,図1の(a)及び図2に示すように,基部11とアンカー部14との間に,このアンカー部14から基部11を折り取るための折取部15を形成したものである。 【0027】 当該支持具10を使用して固定した型枠20によって基礎コンクリート30を形成した後に各型枠20を外せば,支持具10の型枠20を挟み込んでいた外側係止部12,基部11,及び内側係止部13が基礎コンクリート30の表面から露出することになるが,これは除去しなければならない。ところが,この支持具10は薄板によって形成したものであるから,金鋸等の工具を使用しないと除去できない。 【0028】 ところが,本請求項1の支持具10では,手や木槌等によって簡単に折り取れるようにした折取部15が形成してあるから,この折取部15の存在によって型枠20の支持に支障を来すことはないだけでなく,基礎コンクリート30から露出している部分を折取部15部分で簡単に折り取れるのである。 【0029】 従って,この請求項1の支持具10は,上記した第1の機能を発揮する他,基礎コンクリート30完成後の余分な部分の除去が簡単に行えるという第2の機能をも発揮し得るものとなっているのである。 【0030】 そして,上記課題を解決するために,請求項2に係る発明の採った手段は,上記請求項1に記載の型枠20のための支持具10について, 「内側係止部13を,型枠20の内側表面に弾発的に当接する弾性片としたこと」である。 【0031】 すなわち,この請求項2の支持具10では,上述してきた内側係止部13を,型枠20の内側表面に弾発的に当接する弾性片としたものである。 【0032】 内側係止部13が弾性片となっていれば,この内側係止部13が型枠20の内側表面に弾発的に当接することになるから,支持具10は全体として型枠20に弾力的に支持されることになる。このため,当該支持具10の型枠20の側端面に対する取付が簡単に行えるのである。 【0033】 従って,この請求項2の支持具10は,上記請求項1に記載の型枠20のための支持具10と同様な機能を発揮する他,内側係止部13が弾性片となっていることによって,取付作業や支持をより一層容易かつ確実に行えるものとなっている。 【0038】 また,上記課題を解決するために,請求項4に係る発明の採った手段は,上記請求項1〜請求項3のいずれかに記載の型枠20のための支持具10について, 「アンカー部14の一部に,固化した基礎コンクリート30内での抵抗となるアンカー突起14aを形成したこと」である。 【0039】 すなわち,この請求項4の支持具10は,図1の(b)及び図2に示すように,アンカー部14の一部にアンカー突起14aを形成したものであり,このアンカー突起14aは,固化した基礎コンクリート30内での積極的な抵抗となるものである。 【0040】 このアンカー部14のアンカー突起14aは,単なる薄板の折曲部であってもよいし,薄板の板面に対してどちらかに膨出させた突起であってもよいものである。 いずれにしても,このアンカー突起14aは,当該支持具10がベース部31や防湿部33から抜けようとする場合の抵抗,すなわち,文字通り「アンカー」の役割を果たすものである。 【0041】 従って,この請求項4の支持具10は,上記請求項1〜3のいずれかに係るそれと同様な機能を発揮する他,そのアンカー突起14aによってアンカー機能をより一層発揮させ得るものとなっているのである。 【0042】 上記課題を解決するために,請求項5に係る発明の採った手段は,上記請求項1〜請求項4のいずれかに記載の型枠20のための支持具10について, 「アンカー部14の一部に,アンカー穴14bを形成したこと」である。 【0043】 すなわち,この請求項5の支持具10は,図1の(a)に示すように,アンカー部14の一部にアンカー穴14bを形成したものであり,このアンカー穴14bの中に入った生コンクリートが固化した後には,支持具10を基礎コンクリート30と完全に一体化させるものであり,基礎コンクリート30内での積極的な抵抗となるものである。 【0044】 このアンカー部14のアンカー穴14bは,薄板に開けた単なる丸穴であってもよいが,この中に入って固化したコンクリートに,当該支持具10がベース部31や防湿部33から抜けようとする場合の抵抗,すなわち,文字通り「アンカー」の役割を果たさせることになるものである。 【0045】 従って,この請求項5の支持具10は,上記請求項1〜4のいずれかに係るそれと同様な機能を発揮する他,そのアンカー突起14aによってアンカー機能をより一層発揮させ得るものとなっているのである。 【0046】 さらに,上記課題を解決するために,請求項6に係る発明の採った手段は,上記請求項1〜請求項5のいずれかに記載の型枠20のための支持具10について, 「基部11に,型枠20の側端面に形成してある連結ピンのための回避穴11bを形成したこと」 である。 【0047】 すなわち,この請求項6の支持具10では,図1の(a)に示すように,基部11に回避穴11bを形成したものであり,この回避穴11bによって,型枠20の側端面に形成してある連結ピンを回避することになるものである。 【0048】 型枠20を使用して基礎コンクリート30のための生コンクリート打設空間を形成するにあたって,図3に示すように,複数の型枠20を連結することがなされるが,その連結のために型枠20の側端面には連結ピン(図示しない)が形成してある。この連結ピンが形成してある部分に,本発明に係る支持具10を取り付ける場合には,この連結ピンが邪魔になることがある。 【0049】 しかしながら,この請求項6に係る支持具10では,基部11に,型枠20の側端面に形成してある連結ピンのための回避穴11bが形成してあったから,この回避穴11b内に型枠20側の連結ピンを通すようにしてやれば,この連結ピンは全く邪魔になることはない。 【0050】 従って,この請求項6の支持具10は,上記請求項1〜請求項5のいずれかに記載の型枠20のための支持具10と同様な機能を発揮する他,回避穴11bによって型枠20側の連結ピンが邪魔になることなく型枠20に取り付けることができるものとなっている。 【発明の効果】 【0051】 以上説明した通り,本発明においては, 「基礎コンクリート30を形成するために使用される型枠20の位置を固定するための支持具10であって, 全体を薄板によって形成するとともに,型枠20の側端面に当接される基部11と,この基部11の外側端部に一体化されて型枠20の外側角部21に係止される外側係止部12と,基部11の内側端部に一体化されて型枠20の内側角部22に係止される内側係止部13と,基部11の内側端部に一体化されて,基礎コンクリート30に埋設されることになるアンカー部14とを備えたものとし, さらに,基部11とアンカー部14との間に,このアンカー部14から基部11を折り取るための折取部15を形成したこと」にその構成上の主たる特徴があり,これにより,2度打ちする際の型枠20の支持を確実に行うことができて,内側係止部13が弾性片となっていることによって,取付作業や支持をより一層容易かつ確実に行え,構造が簡単で安価な支持具10を提供することができるのである。 【発明を実施するための最良の形態】 【0052】 次に,上記のように構成した各請求項に係る発明を,図面に示した最良の形態に係る支持具10に基づいて説明する。また,この最良形態に係る支持具10は,いずれも,厚さ0.5〜2mmで,幅が10〜30mm,長さが70〜130mmの鉄製板材を,プレス機に掛けて一回のストロークで形成したものである。 【0053】 また,この支持具10が適用された型枠20によって形成される基礎コンクリート30は,図1にも示したように,ベース部31と,その上の布基礎32と,ベース部31に一体的な防湿部33とからなっているものである。この防湿部33は,近年では一般的になっているものであり,ベース部31と同時に形成されるものである。そして,本発明に係る支持具10が適用されて形成される基礎コンクリート30は,所謂「2度打ち」されるものであり,ベース部31と,このベース部31と一体的な防湿部33とを先に形成しておいて,これらのベース部31及び防湿部33が固化した後に,布基礎32となる生コンクリートをベース部31上に打設して形成されるものである。 【0054】 図1〜図4には,本発明の最良形態に係る支持具10が示してあるが,この支持具10は,図1に示すように,型枠20の側端面に当接される基部11と,この基部11の外側端部に一体化されて型枠20の外側角部21に係止される外側係止部12と,基部11の内側端部に一体化されて型枠20の内側角部22に係止される内側係止部13と,基部11の内側端部に一体化されて,基礎コンクリート30の布基礎32以外の部分に埋設されることになるアンカー部14とを備えたものである。 【0055】 この支持具10では,その基部11は,図1及び図2に示したように,型枠20の幅と同程度の長さを有していて,型枠20の側端面の一部に重なるものとしてある。 【0056】 この基部11には,主として図1の(a)に示したように,型枠20の外側角部21直近となる部分に棒材挿入穴11aが形成されることがある。この棒材挿入穴11aには,図1の(b)中の仮想線にて示したように,釘等の棒材40が挿入されるものであり,この棒材40が型枠20の外表面当接することにより,当該支持具10の型枠20に対する保持あるいは固定を行えるようにしてある。 【0057】 また,この基部11には,主として図1の(a)に示したように,回避穴11bが形成されることもある。この回避穴11bは,型枠20側に形成してある連結ピンを回避するためのものである。型枠20側の連結ピンは,型枠20同志をその側面にて連結する際に使用されるものである。 【0058】 この支持具10では,図1の(a)に示したように,基部11の外側辺からさらに外方に延出する補助基部12aを形成しておき,この補助基部12aの両側に外側係止部12を折り曲げ形成するようにしている。こうすることによって,2本の外側係止部12が型枠20の外側面に対して垂直に立った状態で当接することになって,保持強度が高くなる。それだけでなく,これら2本の外側係止部12が目立つ部分となるから,施工時における方向性がはっきりと分かり,当該支持具10の取付作業を容易にすることになる。 【0059】 また,内側係止部13については,図1の(a)及び(b)に示したように,上述した外側係止部12に向かうものとして形成したから,その弾性片としての機能を十分発揮し,外側係止部12との協働による型枠20の挟み込みを,より確実に行えるものとなっている。なお,本最良形態における内側係止部13は,図1の(b)に示したように,大部分は外側係止部12に向かうが,先端は外側係止部12とは反対側になるものとしてあるから,型枠20の挟み込みを容易に行えるものとなっている。 【0060】 アンカー部14は,文字通りアンカーとなる部分であり,周囲に生コンクリートが打設され,このコンクリート内に埋設されてしまう部分である。このアンカー部14には,図1の(a)及び図2に示したように,当該支持具10を基礎コンクリート30内にしっかりと固定するための,アンカー突起14aを形成したり,あるいはアンカー穴14bを形成したりする。 【0061】 そして,この支持具10では,その基部11とアンカー部14との間に,図1の(a)中の点線にて示したように,アンカー部14から基部11を折り取るための折取部15が形成される。この折取部15は,当該支持具10の材料である鉄板材を,手で折り曲げながら折ることができるようにしたものであり,例えば直線状に多数開けた「小さな穴」であってもよいし,その部分だけ肉厚を薄くするような「溝」であってもよいものである。 【0062】 以上のように構成した支持具10によって型枠20を固定した場合には,外から(生コンクリートが打設される側とは反対側)みたとき,図4に示したようになる。 つまり,各支持具10の外側係止部12が型枠20の外面に露出することになるのである。 【0063】 この支持具10を採用するにあたっては,各型枠20の繋ぎ部分の中間位置に1個であってもよいが,図4に示したように,必要に応じて2個以上採用するようにして実施てもよい(判決注: 「実施してもよい」の誤記と認める。 。使用する支持具 )10の数が多ければ,型枠20の支持を確実に行えるからである。 【図1】【図2】【図3】 【図4】【図5】 【図6】 (2) 本件発明の概要前記第2の2の本件特許の請求項1,2,4〜6及び上記(1)の本件明細書の記載からすると,本件発明は,次のようなものと認められる。 ア 技術分野 本件発明は,基礎コンクリートを形成するために使用される型枠の位置がズレないようにするための支持具に関し,特に,薄板によって形成するようにした支持具に関するものである(段落【0001】。 ) イ 背景技術 家屋等の建築物を建てるために形成する基礎コンクリートは,ベース部と,その上の布基礎と,近年では一般的になっているベース部と一体的な防湿部(いわゆるベタ基礎)とからなっているものであるところ,このような基礎コンクリートを形成するには,種々な施工方法があり,その施工方法に応じた型枠が必要になる(段落【0002】〜【0003】。 ) ウ 発明が解決しようとする課題 (ア) 従来技術の一つによると,ベースコンクリート用型枠及び布基礎コンクリート用型枠を支持する保持具を,安定して簡単に所定位置に設置することができると考えられるが,ベースコンクリートと布基礎コンクリートとを別々に形成する「2度打ち」 (基礎コンクリートを形成するに当たって,まずベース部と防湿部とを形成しておいて,固化したベース部上に布基礎を形成するという方法であり,基礎コンクリートを一気に形成するのを阻害する種々な制約が存在している場合に用いられる。)はできないと考えられる(段落【0004】〜【0006】【図5】。 , ) 2度打ちによって基礎コンクリートを形成する場合,ベース部が固化した後に,その上に布基礎となるべき生コンクリートを打設するが,ベース部が固化するまでの間に,布基礎を形成すべき型枠が外側に開いてしまうことがある。そうすると,固化したベース部と型枠との間に,後に打設される生コンクリートのいわゆる「トロ」が侵入することになり,その結果,トロがベース部の外面を汚すだけでなく,その上に形成すべき布基礎がベース部とはズレて形成されてしまうこともある。このような,ベース部の汚れや,ベース部と布基礎とのズレは避けなければならない。 (段落【0007】) (イ) この点,別の従来技術によると,型枠の組立て及び解体作業が容易で転用回数も多くなって経済的であるとともに,地盤に対する型枠の固定支持力も向上するものと考えられるが,当該技術では,地盤中に打ち込む金属製のアンカー杭が挿通される挿通孔を設けた型枠固定具を,型枠板に装着しなければならず,型枠の価格を引き上げることになって,施工上好ましくないと考えられる。特に,型枠の高さが大きいものになると,上方部分に型枠固定具を装着させることが困難になるだけでなく,型枠の上方部分が外側に開くのを防止しきれない,というおそれも出てくる。(段落【0008】〜【0010】【図6】 , ) (ウ) そこで,本件発明の目的は,2度打ちする際の型枠の支持を確実に行うことができて,構造が簡単で安価に提供することのできる支持具を提案することにある(段落【0011】〜【0012】。 ) エ 課題を解決するための手段等 (ア) 本件発明1が採った構成について,支持具10は,図2及び図3に示すように,各型枠20の位置を固定するために使用されるものであり,特に,基礎コンクリート30が2度打ちによって形成されるものである場合に使用されるものである(段落【0014】。 ) (イ) 本件発明に係る支持具は,その全体が金属板等の薄板によって形成される。それは,例えばプレス機の1回打ちによって簡単に製造できるようにして,安価に提供できるようにするとともに,簡単な構造とすることにより,支持具の型枠に対する取付け作業をも簡単に行えるようにするためである。段落 ( 【0015】) 支持具は,基部の外側端部に一体化された外側係止部及び内側端部に一体化された内側係止部によって,型枠の外側角部及び内側角部にそれぞれ係止され,基礎コンクリートの布基礎を形成する部分より下側において,基部,外側係止部及び内側係止部によって型枠の側端面を包み込むようにしながら,これに簡単に取り付けられる(段落【0016】。 ) そして,型枠の側端面に取り付けられた支持具のアンカー部は,ベース部又は防湿部側に延出することになり,この状態で,当該型枠に別の型枠を当接させることにより,支持具は2枚の型枠の間に挟み込まれて固定される(段落【0017】, 【0018】【図3】。 , ) (ウ) 組み立てた各型枠の間に,まず,ベース部及び防湿部とすべき生コンクリートを打設して,その硬化を待つと,硬化によって支持具のアンカー部が硬化コンクリート中に埋設固定され,支持具は外側係止部や内側係止部によって型枠に取り付けてあるから,型枠をベース部又は防湿部に対してしっかりと支持固定することになり,布基礎となる生コンクリートが次に打設されるまでの間,支持具は,型枠を外に広がらないようにそのまま保持し,各型枠とベース部又は防湿部との間に「トロ」が侵入するような隙間を形成させることはない(段落【0019】【0 ,020】。 ) (エ) 以上のように,本件発明1の支持具は,まず第1に,2度打ちする際の型枠の支持を確実に行うことができて,構造が簡単で安価に提供し得るものとなっている(段落【0024】。 ) (オ) また,本件発明1の支持具には,基部とアンカー部との間に,アンカー部から基部を折り取るための折取部を形成してあり,支持具を使用して固定した型枠によって基礎コンクリートを形成した後に各型枠を外した際に基礎コンクリートの表面から露出する外側係止部,基部及び内側係止部を,金鋸等の工具を使用することなく,手や木槌等によって,折取部において簡単に折り取ることができるので,基礎コンクリート完成後の余分な部分の除去が簡単に行えるという第2の機能をも発揮し得るものとなっている(段落【0025】〜【0029】。 ) (カ) 本件発明2,4〜6は,本件発明1について,内側係止部を型枠の内側表面に弾発的に当接する弾性片としたり,アンカー部の一部にアンカー突起やアンカー穴を形成したり,型枠の側端面に形成してある連結ピンのための回避穴を基部に形成したりすることで,取付け作業や支持を,より一層容易かつ確実にするものである(段落【0030】〜【0032】【0038】〜【0050】。 , ) オ 発明の効果 本件発明は,構成上の特徴により,2度打ちする際の型枠の支持を確実に行うことができて,取付け作業や支持をより一層容易かつ確実に行え,構造が簡単で安価な支持具を提供することができる(段落【0051】。 ) 2 甲1発明について (1) 平成18年3月9日に発行された甲1は,考案の名称を「コンクリート型枠傾倒防止具」とする実用新案に係るもので,甲1には,次の事項が記載されている。 【考案の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本考案は,ベースコンクリート上にコンクリートを打設してコンクリート基礎を形成する際に使用すべく所定間隔で対向配置される内枠と外枠から成る型枠の外方への傾倒を防止するコンクリート型枠傾倒防止具に関する。 【背景技術】 【0002】 従来より,コンクリート基礎を施工する際にベースコンクリート上にコンクリートを打設してコンクリート基礎を形成する際に使用すべく所定間隔で対向配置される内枠と外枠から成る型枠が使用されている。 【0003】 例えば,図5は従来のコンクリート基礎を形成する型枠保持具を示す断面図である。図5において,コンクリート基礎用型枠301は,地盤上に立設される縦長の外枠302と,該外枠302に対し所定間隔離間して対向配置すべくベースコンクリートBC上に立設される短尺の内枠304とから構築されており,上記外枠302の内側にベタ基礎となるベースコンクリートBCが打設された状態で,ベースコンクリートBC上に立設保持された内枠304と外枠302上部の間にコンクリートCが打設される。 【0004】 このように構成される型枠301では,ベースコンクリートBC上に打設されるコンクリートCの重量が縦長の外枠302の内側に作用することから,この外枠302の上端では垂直面に対し外側へδ1の傾倒が生じ,外枠302下方のベースコンクリートBC上面部位では更に少ない傾倒δ2が生じる。 【0005】 上記外枠302の傾倒によって,固化されているベースコンクリートBCの壁面を形成する外枠302の内壁と,ベースコンクリートBC上端側の外壁面との間に隙間(=傾倒δ2)が形成されるため,この隙間に打設されたコンクリートCが流れ込み,これが固化すると,上記外枠302を取外した際に流れ込んだコンクリートCがベースコンクリートBCの外壁面上に段差となって表出するため,コンクリート基礎壁面の外観が損なわれる問題を有していた。 【0006】 このような上記外枠の傾倒を防止するものとして,型枠保持具(例えば特許文献1参照)が提案されている。・・・ 【考案の開示】 【考案が解決しようとする課題】 【0012】 しかしながら,・・・従来の型枠保持具では,多数の構成部材から構成されるため,施工時において多くの手間が掛かるだけでなくコスト高になる問題を有していた。 【0013】 本考案は,このような問題点に着目してなされたもので,簡素な構成で且つ施工効率を向上することでコストを低減することができ,コンクリート基礎壁面の外観が損なわれることがなく型枠の傾倒を防止するようにしたコンクリート型枠傾倒防止具を提供することを目的とする。 【考案の効果】 【0016】 本考案は以下の効果を奏する。 【0017】 請求項1に記載の考案によれば,薄板鋼鈑で方形状に形成された型枠傾倒防止具の一端が互いに接続される縦長外枠端部の縦長フランジ間に挟着され,上記縦長外枠の内部に臨む型枠傾倒防止具の一端がベースコンクリートBC内に固設された型枠傾倒防止具により縦長外枠が保持されているので,簡素な構成で上記縦長外枠の傾倒を防止することができ,施工作業が単純化されて施工効率を向上することができ,延いてはコストの低減を図ることができる。 【0018】 請求項2に記載の考案によれば,縦長外枠の離脱後にベースコンクリートBCの外壁面から突出した部位が外壁面に対応する切り欠きから容易に切断することができるので,コンクリート基礎壁面の外観が損なわれることなく平滑な壁面を形成することができる。 【考案を実施するための最良の形態】 【0019】 本考案の実施例を以下に説明する。 【実施例1】 【0020】 図1および図2には,本考案の実施例が示されている。図1は本考案に係るコンクリート型枠傾倒防止具を使用して縦長外枠の傾倒を防止したコンクリート基礎型枠の断面図,図2は本考案に係るコンクリート型枠傾倒防止具の全体斜視図,図3は本考案に係るコンクリート型枠傾倒防止具の使用例を示す要部の部分斜視図である。 【0021】 図1において,1はコンクリート基礎型枠であって,このコンクリート基礎型枠1(以下型枠と称する)は,ベースコンクリートBCおよび該ベースコンクリートBC上に打設されるコンクリートCを収容保持すべく,地盤G上に型枠保持具Bを介して長手方向に複数の縦長外枠2が連続的に立設保持され,この縦長外枠2に対応して内枠4が所定間隔をもって上記ベースコンクリートBC上に立設保持されている。 【0022】 上記各縦長外枠2の長手方向両端には,該縦長外枠2同士を接続すべく後述する連結具を挿通するための複数の連結孔5を縦方向に穿設した縦長フランジFを備えている。 【0023】 図2において,8はコンクリート型枠傾倒防止具を示し,このコンクリート型枠傾倒防止具8(以下型枠傾倒防止具と称する)は,薄板鋼鈑で長手方向の一端側が幅広となる所定長さの台形状に形成された連結板9に,長手方向に複数(実施例では3個)の貫通孔6が穿設されている。 【0024】 そして,上記連結板9の幅狭となる他端側には,ベースコンクリートBCの外壁面から突出した該外壁面に対応する上下端縁に切断可能な切り欠き13a,13bが形成されている。 【0025】 これにより,打設されたコンクリートCが固化した状態で上記縦長外枠2を離脱した後は,ベースコンクリートBCの外壁面から突出した部位を切り欠き13a,13bから切断具(カッター)により切断することができる。 【0026】 上記型枠傾倒防止具8は,その一端側が上記縦長外枠2の下方に打設されるベースコンクリートBCの上面側内部に臨むように隣接する縦長外枠の縦長フランジF間に幅狭に形成された連結板9の他端側が挟持されると共に,挟持された他端側が上記貫通孔6と選択された上記縦長フランジFの連結孔5に連結片12を挿通した連結具10により挟着される。 【0027】 詳しくは,図3に示すように10は公知の連結具(以下クランプ装置と称する)であって,このクランプ装置10は,金属板を折曲成型したものであって,縦長外枠2の縦長フランジFの連結孔5に挿入される略半円筒状をなす金属製の連結片12と,隣接する縦長フランジFをクランプするためのクランプ部14により構成されている。 【0028】 上記クランプ部14は,断面コ字状に折曲形成されて,第1,第2の両クランプ片14a,14bが形成され,両クランプ片14a,14b間には環状の第1の補強リブ15aが設けられ,両クランプ片14a,14bの背部には第2の補強リブ15bが形成されている。 【0029】 第1のクランプ片14aは内方にわずかに湾曲されており,両クランプ片14a,14bの一端部は幅狭の把手部14cとなっている。第2のクランプ片14bの側縁には,断面円弧状のてこ作用片16が突設されている。一方のクランプ片14bの他端部が延長されて,その先端には上記連結片12がクランプ片14bに対してほぼ直角に折曲形成されている。 【0030】 そこで,上記構成のクランプ装置10により隣接する縦長外枠2を連結するには,上記連結片12を,隣接する縦長フランジFの選択された連結孔5とこの縦長フランジF間に挟持された連結板9他端側の貫通孔6に挿通させる。 【0031】 そして,上記クランプ装置10を,連結片12を中心として上記縦長外枠2の外面側に向けて回動させれば,両クランプ片14a,14bにより2枚の縦長フランジFが挟持され,隣接する縦長外枠2が連結される。 【0032】 次に,このクランプ装置10を開放する際は,てこ作用片16と縦長外枠2の外面との間にバール等を差込み,僅かな力を加えると上記縦長外枠2の外面が支点となり,てこの作用により作用片16が持ち上げられ上記クランプ装置10が開放されるようになっている。 【0033】 次に,型枠の施工手順を説明する。 【0034】 先ず,コンクリート基礎の型枠を施工する際に,地盤G上に設置した型枠保持具B上に複数の縦長外枠2を長手方向に列設した状態で立設保持し,これら縦長外枠2同士を長手方向に接続する際に,隣接する縦長フランジFが上記連結孔5を挿通した複数の連結具となるボルトなどを介して締結される。 【0035】 上記複数の縦長外枠2の縦長フランジF同士を締結する際に,上記連結板9の幅広状の一端側が上記縦長外枠2の下方に打設されるベースコンクリートBCの上面側内部に臨む位置になるように,隣接する縦長外枠端部の縦長フランジF間に他端側を位置決めし,その位置に対応すべく選択された縦長フランジFの連結孔5を上記連結板9他端側の貫通孔6に合致させて上記連結片12を挿通し,上記クランプ装置10を回動操作して連結板9の他端側を挟持する。 【0036】 複数の縦長外枠2が長手方向に立設保持された状態で,上記縦長外枠2の内側にベースコンクリートBCが打設されると,縦長外枠2の内側に突出した上記連結板9の一端側がベースコンクリートBCの内部に埋設される。 【0037】 ベースコンクリートBCが固化されると,複数の縦長外枠2に対応して内枠4が所定間隔をもって上記ベースコンクリートBC上に立設保持されると,上記縦長外枠2と内枠4で形成される間隙内にコンクリートCが打設される。 【0038】 上記ベースコンクリートBC上にコンクリートCが打設された際,コンクリートCの重量が縦長外枠2に外方に向けて作用するが,固設されたベースコンクリートBCにより一端側が保持された上記型枠傾倒防止具8により上記縦長外枠2の外側に向く傾倒が防止される。 【0039】 このように,複数の縦長外枠2同士を接続する際に,縦長フランジF間に連結具10を介して挟着された型枠傾倒防止具8の一端がベースコンクリートBC内に固設されるので,簡素な構成で上記縦長外枠2の傾倒を防止することができ,施工作業が単純化されて施工効率を向上することができ,延いてはコストの低減を図ることができる。 【0040】 また,上記連結板9の幅狭となる他端側には,ベースコンクリートBCの外壁面から突出した該外壁面に対応する上下端縁に切断可能な切り欠き13a,13bが形成されているので,縦長外枠2の離脱後にベースコンクリートBCの外壁面から突出した部位が上記切り欠き13a,13bからベースコンクリートBCの外壁面と略同一面上で切断することができ,コンクリート基礎壁面の外観が損なわれることなく平滑な壁面を形成することができる。 【0041】 次に,型枠傾倒防止具の変形例に付き図4を参照して説明する。 【0042】 図4は,上記実施例の変形例に係る型枠傾倒防止具の部分斜視図である。なお,前述した構成部材と同一構成部材は同一符号を付してその説明を省略する。 【0043】 図4において,8’は,変形例に係る型枠傾倒防止具であって,この型枠傾倒防止具8’は,薄板鋼鈑で矩形状に形成された連結板9’に,長手方向に複数(本変形例では3個)の貫通孔6が穿設されている。 【0044】 上記型枠傾倒防止具8’は,その一端側が上記縦長外枠2の下方に打設されるベースコンクリートBCの上面側内部に臨むように隣接する縦長外枠の縦長フランジF間に上記連結板9’の他端側が挟持され,挟持された他端側は上記貫通孔6と選択された上記縦長フランジFの連結孔5に連結具としてのボルト18を挿通しこのボルト18にナット20を螺着することで挟着される。 【0045】 本変形例に係る型枠傾倒防止具8’の作用,効果は,上記実施例と同じであり,その説明を省略する。なお,連結板9’他端側のベースコンクリートBCの外壁面から突出した該外壁面に対応する上下端縁にも図示しない切断可能な切り欠きを形成することができ,上記実施例と同様に上記切り欠きからベースコンクリートBCの外壁面と略同一面上で切断することができ,コンクリート基礎壁面の外観が損なわれることなく平滑な壁面を形成することができる。 【図1】 【図2】【図3】 【図4】 【図5】 (2) 上記(1)からすると,甲1には,本件審決が認定した前記第2の3(2)アの甲1発明が記載されていると認められる。 3 甲2発明について (1) 平成15年4月9日に公開された甲2は,発明の名称を「段付き中間巾止め金具」とする特許に係るもので,甲2には,次の事項が記載されている。 【発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,基礎コンクリートを打設する際に使用される一対の型枠を高低差をつけて支持するための段付き中間巾止め金具に関する。 【0002】 【従来の技術】埋立地や地盤の悪い場所などに基礎工事用コンクリートを打設するには,従来2種類の方法が利用されている。 【0003】第1の方法は,地表面に形成された捨てコンクリートの上面全体に防湿基礎コンクリートを成形し,その防湿基礎コンクリートの上部外周などに布基礎コンクリートを成形する方法であり,第2の方法は,前述の防湿基礎コンクリート及び布基礎コンクリートを同時に成形する方法いわゆるベタ基礎コンクリートである。 【0004】このベタ基礎コンクリートは,地盤と接する面積が大きく,また,地震,不同沈下,防湿,防虫にすぐれているので,近年多く利用されている。 【0005】出願人は,このベタ基礎コンクリートに使用され,対向する2枚のコンクリート型枠を異なる高さに支持するコンクリート型枠の支持金具を実公平6-18986号において開示している。 【0006】これは, 「高さの異なる高低2箇所に支持部を備え,防湿基礎コンクリートの上に布基礎コンクリートを打設する場合に,所定の間隔で対向する一対の型枠を異なる高さに支持する」ものである。 【0009】 【発明が解決しようとする課題】ところで,基礎コンクリートの厚さは,寒冷地においては温暖地に比べて厚く形成されるようになっている。このような場合,第1の型枠3と第2の型枠6との段差が大きくなるので,支持杆4を長く製作して支持部5の位置を高く形成しなければならない。 【0010】しかしながら,この支持部5に第2の型枠6を支持させた場合,支持杆4には第2の型枠6の重量に起因する矢印A方向のトルクが付加されるので,支持杆4が傾き易く支持部5の高さが低くなる。これにより,第2の型枠6を所定位置に支持できなくなるという問題がある。 【0011】これを防止するためには支持杆4を強固に製作しなければならないので,コスト高を招き,重量も増加するので,搬送にも手間がかかるという新たな問題が発生する。 【0012】本発明は,上記の事情に鑑みてなされたもので,その目的は,段差の大小に拘わらず一対の型枠を高低差をつけて支持することができる段付き中間巾止め金具を提供するにある。 【0019】 【発明の実施の形態】以下,本発明の第1の実施例の段付き中間巾止め金具10につき図1〜図3を参照して説明する。但し,従来例と同一箇所には同一符号を付す。 【0020】段付き中間巾止め金具10は,金具本体11と,金具本体11の端部に設けられた挟着部12と,挟着部12に対して金具本体11の反対側の端部に設けられた支持部13とから構成されている。 【0021】金具本体11は上下の端部を直角に折り曲げて補強用のリブ14を形成しており,これの挟着部12側の端部を規制部15としている。 【0022】挟着部12は金具本体11より薄板で形成され,金具本体11の端部にスポット溶接で一体に固着されている。この挟着部12は,後述するように隣接する一方の型枠3(以下第1の型枠3と云う)間に挟着されるもので,その巾寸法は,第1の型枠3の厚さに対応している。また,中央部には第1の型枠3の連結用3a(図9参照)に連通する穴16が形成されている。この穴16は円形でも水平方向に長い長穴であっても良い。 【0023】また,挟着部12の端部には,L字状の規制部としての規制片17が溶着されている。さらに,挟着部12の規制部15側の端部には,縦方向にミシン目状の分離部18が形成されている。 【0024】支持部13は,一対の立上り片13a,13bが形成されて全体として上部が開放するコ字状をなしている。この一対の立上り片13a,13bの間隔は,一方の型枠6(以下第2の型枠6という)の厚さ寸法に対応している。そして,端部がリブ14の上端に溶接されている。また,立上り片13aの近傍にはV字状の切り込みからなる分離部19が形成されている。 【0025】この支持部13と挟着部12間の距離が両型枠3,6間の間隔に相当するもので,支持部13の溶接位置を変化させることにより,この距離を変化させることができる。 【0026】尚,本実施例においては,支持部13と金具本体11を別体で構成し,溶接により一体化したが,支持部13と金具本体11を一体に製作しても良い。 【0027】つぎに上記構成の作用について説明する。第1の型枠3及び第2の型枠6には,側面部に所定の間隔(h)で連結用の穴3a(3aのみ図示)が複数個形成されている。 【0028】そして,隣接する第1の型枠3及び第2の型枠6同士を連結用の穴を貫通したピン7により連結している。 【0029】作業に先立って基礎コンクリートの厚さ即ち所望の段差に相当する穴3aを選択する(段差はhの整数倍に設定される)。 【0030】つぎに,隣接する第1の型枠3間に中間巾止め金具10の挟着部12を挟み,穴16を穴3aに連通させ,ピン7を貫通させて連結する。 【0031】この場合,規制片17及びリブ14側の規制部15が第1の型枠3に接する。そこで,挟着部12を挟んで隣接する第1の型枠3間をピン7により固定する(図3参照)。 【0032】つぎに,支持部13の上に第2の型枠6を載置すれば,型枠が完成する。そこで,コンクリートを打設する。 【0033】コンクリートが固化したら,第1の型枠3及び第2の型枠6を取り外す。そして,コンクリートの外側に突出した支持部13の一対の立上り片13a,13bを分離部19から切り離し,さらに,挟着部12を分離部18から切り離す。 これによりコンクリートの上面には突出物は存在しないので,安全性が向上する。 【0034】上記実施例によれば,つぎの効果を奏する。 (1)基礎コンクリートの厚さが異なる場合であっても,第1の型枠3の連結用の穴3aを適宜に選択することにより,1種類の中間巾止め金具10で対応することができる。 (2)挟着部13に規制部15,17を設けたので,この規制部15,17が型枠3の側面に衝止して中間巾止め金具10の倒れを防止できて支持部13の高さを一体に保持できる。 (3)挟着部13は薄片で形成されているので,隣接する第1の型枠3間の隙間を小さくすることができ,打設されたコンクリートの洩れやトロの流出を防止できる。 (4)挟着部12及び支持部13に分離部18,19を設けたので,型枠3,6を取り外した後,挟着部12及び支持部13を取り除くことができて,コンクリートの上面には突出物は存在せず,安全性を向上させることができる。 【0038】また,規制部15(規制片17)は,図1の如く必ずしも左右両側にある必要はなく,図6又は図7に示すように何れか一方に,或いは図8に示すように両方の規制部15をなくして規制片17のみにしてもよく,要は金具本体11が傾斜や捻れを生じることなく型枠3に挟着されるようになっていれば良いものである。 【0039】 【発明の効果】本発明は,基礎コンクリートを打設する際に使用される一対の型枠を高低差をつけて支持するための段付き中間巾止め金具であって,金具本体と,この金具本体の端部に設けられ隣接する一方の型枠間に挟着され該金具本体を所定の高さに位置させる挟着部と,この挟着部に対して金具本体の反対側の端部に設けられ他方の型枠の下端を支持する支持部とを備えたので,段差の大小に拘わらず一対の型枠を高低差をつけて支持することができるため,基礎コンクリートの厚さが異なる場合であっても,1種類の中間巾止め金具で対応することができるという優れた効果を奏するものである。 【図1】【図2】【図3】【図6】【図7】【図8】 【図9】 (2) 上記(1)からすると,甲2には,本件審決が認定した前記第2の3(2)イの甲2発明が記載されていると認められる。 4 甲3〜7に記載された技術について (1) 甲3に記載された技術(以下「甲3技術」という。) 昭和59年2月6日に公開された甲3(実願昭57-113770号[実開昭59-19710号]のマイクロフィルム)は,名称を「コンクリート壁の構造」とする実用新案に係るもので, 「考案の詳細な説明」及び「図面」として,次の事項が記載されている。 ア 本考案は新規且つ有用なコンクリート壁の構造に関し,更に詳しくはパネルをコンクリート型枠兼内装下地材として使用し,これとコンクリート壁とを物理的に一体化し,地震や火災時においても剥落の危険のなく且つ目地処理を必要としないコンクリート壁の構造に関する(1頁末行〜2頁5行)。 イ 本考案に用いられる接合具は,基本的には第1図に示した如く,接合壁1の両側に適宜間隔を置いて略水平方向に各2個の接合舌片2a,2a’及び2b,2b’を延設し,且つ接合壁1の延長部にコンクリート掛止部3を備えた構造からなる。接合具の素材としてはプラスチツク,金属等特に制限されないが,難燃プラスチツク,金属製のものが火災時においてもパネルとコンクリート壁との一体化構造を保持し,あるいは保持し易い点で好適である。コンクリート掛止部3に突起や透孔を設けたり,分枝状,波形状等とすることにより掛止部のコンクリート中への埋没掛合力を大巾に向上し得る。(5頁18行〜6頁10行) ウ 第2図は第1図に示された接合具を用いて,パネル4a,4bをそれぞれ接合舌片2a,2a’間,2b,2b’間に嵌入させ,且つコンクリート掛止部3がコンクリート壁5中に埋没固定された例である(6頁11行〜15行)。 エ 第3図は第2図において,コンクリート掛止部3の先端を分枝状としコンクリート壁5との掛合力を高めた例を示す(6頁16行〜18行) 。 オ 本考案は叙上のごとく,至極簡単な構造により,@パネルとコンクリート壁とを一体化し得るから地震や火災時においても落下する危険を回避し得る,Aコンクリート打設時に寸法の狂いが生じ難い,Bパネルに接合のための凹溝を形成させる必要がないから安価である,Cパネル接合と同時に目地壁が形成されるから,従前のパネル施工-目地仕上げという2工程を1工程に省力化し得る,等多くの利点を有するものである(8頁9行〜18行)。 カ 図面 (2) 甲4技術 平成5年8月3日に公開された甲4(特開平5-195623号公報)は,名称を「コンクリート型枠用間隔保持具」とする発明に係るもので,発明の詳細な説明」 「及び「図面」として,次の事項が記載されている。 【0001】 【産業上の利用分野】この発明は,コンクリート型枠を所定の対向間隔で保持するための間隔保持具に関するものである。 【0002】 【従来の技術】従来の間隔保持具として,短冊状の鋼板よりなる本体に外側規制片と内側規制片とを折曲げて一対の嵌合部を形成し,各嵌合部に型枠を嵌合して所定の対向間隔で保持するものが知られている。この種の間隔保持具は型枠の下端を保持する場合にベースコンクリート上に設置されるが,ベースコンクリートの上面に窪みがあると,間隔保持具が型枠から脱落し,間隔保持具として機能しなくなるおそれがある。これを防止するために,従来は外側規制片の一部を内側に折曲げて型枠の縁部に掛止していた。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】ところが,この構成によると,型枠の組立及び取外時に外側規制片を折曲げる必要があるので,工数が増えるばかりでなく,必要に応じハンマー,ドライバー等の工具を使用する面倒もあり,そのうえ,しゃがんだ姿勢で作業するため大変な労苦を伴うという問題点があった。 【0004】この発明は上記問題点に着目してなされたものであって,その目的は型枠に簡単な操作で確実に掛止できるとともに,作業工数を削減して能率を向上できる間隔保持具を提供することにある。 【0007】 【実施例】以下,この発明を具体化した実施例を図面に基づいて説明する。図1及び図2は本発明による一実施例の間隔保持具を示し,本体1は薄肉の焼入れ鋼板により短冊状に形成されている。本体1の両端には外側規制片2が上方へ折曲げて形成され,各外側規制片2の内側には内側規制片3が上方へ切り起して形成されている。そして,間隔保持具は外側規制片2と内側規制片3との間に一対の型枠嵌合部4を備え,本体1をベースコンクリート(図示略)上に設置し,各嵌合部4に型枠5を上方から嵌合して所定の対向間隔で保持できるように構成されている。 【0008】各内側規制片3には,その弾性により型枠5を外側規制片2側へ押圧する押圧部6が円弧状に折曲げて突設されるとともに,この押圧部6の上方には嵌合部4の上端が開くように斜状部7が設けられている。一方,外側規制片2は内側規制片3よりも短く形成され,その上端には型枠5の縁部8に上方から係合する掛止部9が内側へ円弧状に折曲形成されている。なお,本体1には内側規制片3を切り起すことにより開口部10が形成されている。 【0009】上記のように構成した間隔保持具を使用して型枠5を組立てる場合には,図1の左側に示すように,型枠5を嵌合部4に上方から嵌入する。このとき,型枠5の下端は内側規制片3の斜状部7に妨げられることなく押圧部6に係合し,内側規制片3が自身の弾性に抗していったん内側へ変形する。そして,型枠5の縁部8が外側規制片2の掛止部9を通過すると,同図の右側に示すように,内側規制片3が自身の弾性により外側に復元する。そのため,押圧部6が型枠5を外側規制片2側へ押圧し,縁部8が外側規制片2の内面に当接した状態で,掛止部9が縁部8に上方から係合する。従って,型枠5の組立てと同時に,簡単な操作で本体1を型枠5に確実に掛止して,間隔保持具の脱落を防止できる。 【0010】また,型枠5を取外す場合には,同図の鎖線で示すように,型枠5を外側へ傾ければ,掛止部9が縁部8から解離されるため,この状態で,型枠5を嵌合部4から上方へ容易に引き抜くことができる。それ故,従来とは異なり,組立て及び取外しに際して外側規制片2の一部を折曲げる必要がなく,工数を削減でき,作業能率を向上させることができる。その上,工具を使用する面倒もなくなり,立ったままの姿勢で容易に作業できる。 【図1】 【図2】 (3) 甲5技術 平成7年10月27日に公開された甲5(特開平7-279425号公報)は,名称を「コンクリート型枠板の保持具」とする発明に係るもので, 「発明の詳細な説明」及び「図面」として,次の事項が記載されている。 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は,コンクリート基礎や立ち上がり部を形成するためのコンクリート型枠板の保持具に関するものである。 【0002】 【従来の技術】コンクリート型枠板の保持具として,従来から,本体片の両端に折曲した外側係止片と,夫々該係止片の内側に一定の間隔をおいて該係止片と同一方向に突出した内側係止片を形成した保持具が用いられ,コンクリート型枠板の上下端を外側係止片と内側係止片との間に係止して対向するコンクリート型枠板を保持していたのである。 【0003】そして,型枠板の連結部では連結板の介在のために型枠板と連結板との二重部となるため,前記した通常の保持具とは別に,外側係止片と内側係止片との間隔を連結板の板厚分だけ大きくした連結用保持具を用いているのである。この二種類の保持具でコンクリート型枠板を保持しているのである。 【0004】しかしながら,型枠板がゆがんで変形した場合は通常の保持具が使用できず,また,連結部において対向する型枠板が連結部ではない場合,即ち,一方側が型枠板の連結部であるが,他方側が連結部ではない場合,間隔の大きい連結用保持具を用いると,連結部ではない他方側の型枠板と内側係止片との間に間隙が生じてガタつくため,型枠板の支持が悪くなってコンクリート面が良好に仕上がらないと共に,打設コンクリートの乾燥によって型枠板が傷付いたり破損する等の問題点があった。 【0005】この点,内側係止片を弾性体で形成してコンクリート型枠板を押圧保持するものもあるが,内側係止片の弾性可撓範囲が極めて少ないため,且つ素材が高価なため実用には不向きであり使用されていないのである。 【0006】 【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は,若干変形した型枠板の保持,一枚の型枠板の通常保持,ベニヤ板等の追加保持,或いは連結部での連結板と型枠板との二枚の保持を問わず,それを保持する外側係止片と内側係止片との間隔を可変することで一つの保持具で保持できるものを提供することを目的としている。 【0009】 【実施例】以下,本発明の詳細を図示実施例について説明する。図1で示す本例の保持具1は,鋼製の本体片10の両端部に外側係止片11を直角に折曲連設すると共に,夫々該係止片11から内側に一定の間隔をおいて,本体片10の長手方向の切り込み121による切り起しによって内側係止片12を該係止片11と同一方向に突出形成している。 【0010】 内側係止片12は半円弧状でその膨出部を外向きとして対向させ,その巾方向の両側を絞って中央部120を外側に突出させている。そして,該切り起し用の切り込み121に内側に向けた可撓用切り込み122を連続して設けて夫々内側係止片12を内側に可撓可能としている。また,外側係止片11の開放側端部には外側に向けてわん曲した短いガイド片部111を連設している。 【0011】これら本体片10,外側係止片11,ガイド片部111及び内側係止片12はプレス加工及び切り起し加工で一体に成形されている。これにより内側係止片12は切り込み122のため内側への可撓性を有して外側係止片11との間の間隔を可変できるのである。 【0012】このように構成した本例は,図2のように,保持具1の夫々の外側係止片11と内側係止片12との間にコンクリート型枠板2を上から差し込むことにより,対向配置した型枠板2の底部を挾持すると共に,上から別の保持具1で夫々の外側係止片11と内側係止片12との間で該型枠板2の上端部を挾持することで,対向した該型枠板2を一定の間隔をおいて保持するのである。 【0013】この際,型枠板2によって内側係止片12が内側に押圧され撓曲するため型枠板2を保持できるのである。このため型枠板2が変形している場合でも,内側係止片12が可撓して外側係止片11との間隔を可変できることから保持使用できるのである。 【図1】 【図2】 (4) 甲6に記載された技術(以下「甲6技術」という。) 平成元年8月18日に公開された甲6(実願昭63-17858号[実開平1-122142号]のマイクロフィルム)は,名称を「コンクリート型枠の連結構造」とする実用新案に係るもので, 「考案の詳細な説明」及び「図面」として,次の事項が記載されている。 ア コンクリート型枠1を使用してコンクリート壁を施工するときには,積上げ金具2を介してコンクリート型枠1が積上げられる。積上げ金具2は,水平面部の両側部を互いに逆方向に直角に折り曲げられ,各折曲げ部の両端に,上下位置のコンクリート型枠1の周縁補強部が入り込むように切欠いた係止部3a,3bが設けられる。そして,コンクリート型枠1をコンクリート壁の厚さだけ離した間隔に2列に積上げるため,それぞれの補強部1aを積上げ金具2の係止部3a,3bに係合させれば,各コンクリート型枠1の横方向の位置規制がされる。 (5頁末行〜6頁11行) イ 積上げ金具2の係止部の内側位置に合成樹脂やゴム等の弾性体4が取付けられ,さらに積上げ金具2の係止部の外側位置の水平部に長孔5が設けられ,この長孔5に矢板6が差し込まれるようになっている。なお長孔5は,少し係止部寄りに設けるのが望ましい。弾性体4は,積上げ金具4の断面形状と略同一にされて積み上げ金具の下側面に取付けられ,さらに弾性体4は少し係上部(判決注: 「係止部」の誤記であると認める。)寄りに突出される。なお,前記弾性体4は,矢板6を長孔5に差し込むときに,コンクリート型枠1の補強部1aが容易に弾性変形するように,積上げ金具2の係止部3a,3bの端面とコンクリート型枠1との間の緩衝をさせる。(6頁12行〜7頁4行) ウ 本考案は,周縁に断面L字型の補強部を有するコンクリート型枠を積上げ金具を介して積上げる場合,積上げ金具の係止部でコンクリート型枠の横方向の規制をでき,また矢板を積上げ金具の長孔に差し込むことにより,コンクリート型枠の上下方向の規制ができ,コンクリート型枠の連結を確実にすることができる。 さらにコンクリート型枠の上下方向の位置規制は,矢板を積上げ金具の長孔に差し込むだけでよいので,その作業が容易である。(8頁15行〜9頁4行) エ 図面 (5) 甲7に記載された技術(以下「甲7技術」という。) 平成15年12月3日に公開された甲7(特開2003-343084号公報)は,名称を「型枠支持金具」とする発明に係るもので, 「発明の詳細な説明」及び「図面」として,次の事項が記載されている。 【0013】型枠支持金具10は,普通鋼材の薄板からなる所定幅の長方形の長尺板である基部11を有しており,基部11の長手方向の一端縁(図示右端)にて基部11に対して垂直にかつその上面及び下面側に曲設された第1及び第2縦垂直支持片13,14を有している。基部11には,長手方向の中間位置かつ幅方向の中間位置に長手方向に延びた長方形状で一端が丸くなっている長孔である係止孔12が設けられている。第1及び第2縦垂直支持片13,14は,基部11の幅方向中間位置からそれぞれ幅方向の両側に向けかつ基部11の幅方向両端を越えて延びた長方形の板材であって,基部11に対して垂直にかつ互いに基部11の一表面側及び他表面側に折り曲げられて基部11の両面側に配設されている。 【0014】また,基部11は,その長手方向の一端から型枠の厚さ寸法を隔てた位置から長手方向他端側に至る範囲にて,基部11の幅方向両端から基部11に対して垂直にかつ互いに基部11の一表面側及び他表面側に折り曲げられて基部11の両面側に配設された第1及び第2横垂直支持片15,16を設けている。第1横垂直支持片15は,その延長方向が第1縦垂直支持片13と交叉する基部11の幅方向一端に配設され,一方,第2横垂直支持片16は,その延長方向が第2縦垂直支持片14と交叉する基部11の幅方向他端に配設されている。ただし,これに限るものではなく,第1横垂直支持片15が幅方向の他端に配設され,第2横垂直支持片16が幅方向の一端に配設されるものであってもよい。 【0015】そして,基部11の一表面側の第1縦垂直支持片13と第1横垂直支持片15に挟まれた部分が,第1型枠挿嵌部17になっており,また,基部11の他表面側の第2縦垂直支持片14と第2横垂直支持片16に挟まれた部分が,第2型枠挿嵌部18になっている。この型枠支持金具10は,普通鋼材製の薄板にパンチング加工により所定形状の打ち抜いて打抜き板を形成し,さらに打抜き板にプレス加工を施して折り曲げることにより一体で形成される。 【0016】この型枠支持金具10の使用状態について説明する。図5に示すように,ベースコンクリートG上に,型枠支持具24が載置される。型枠支持具24は,長尺板状の基部25と,その長手方向一端に立設された係止片26と,基部25にて係止片26と所定間隔を隔てて互いに対向して立設された位置決め片27とを有しており,基部25の係止片26と位置決め片27との間に取付孔(図示しない)を設けている。型枠支持具24は,基部25に設けた取付孔に釘を打ち込むことによりベースG上に固定される。型枠支持具24の係止片26と位置決め片27との間に,成形面を位置決め片27側に合わせて下型枠21が挿嵌されて立設される。 【0017】下型枠21の上端には,型枠支持金具10が第2型枠挿嵌部18を嵌め合わせることにより取り付けられる。この型枠支持金具10の第1型枠挿嵌部17に,上型枠22が,成形面を第1縦垂直支持片13に合わせて挿嵌されて下型枠21上に積み重ねられる。さらに,図5に示すように,基部11の係止孔12に固定部材19が打ち込まれ,下及び上型枠21,22が,型枠支持金具10にさらに強固に固定される。このように組み立てられた下及び上型枠21,22の成形面側にコンクリートが打設され,乾燥後に下及び上型枠21,22が取り外され,図6に示すようにコンクリート基礎Kが形成される。 【図1】 【図5】 5 取消事由1(無効理由1の判断の誤り)について (1) サポート要件違反の有無について ア 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ 前記1(2)ア〜ウを踏まえ,本件発明が解決しようとする課題についてみると,本件発明は,ベース部,防湿部(ベタ基礎)及び布基礎から成る基礎コンクリートを形成するに当たり,ベースコンクリートと布基礎コンクリートを別々に形成する手法である2度打ちをする場合において,@ベース部が固化するまでに布基礎を形成すべき型枠が外側に開いてしまい,トロによるベース部の汚れやベース部と布基礎のずれが生じてしまうという問題が生じるのを避けるために,型枠の支持を確実に行うことができ,A構造が簡単で安価に提供することができる型枠用の支持具を提供することにあると解される。 ウ 本件明細書の発明の詳細な説明には,上記イ@の課題の解決に関し,本件発明に係る支持具は,外側係止部及び内側係止部によって型枠の外側角部及び内側角部にそれぞれ係止され,ベース部又は防湿部側に延出したアンカー部がベース部及び防湿部とすべき生コンクリートの打設及び硬化によって硬化コンクリート中に埋設固定される結果,支持具が取り付けられている型枠がベース部又は防湿部に対してしっかりと支持固定されることになり,それゆえ,本件発明に係る支持具は,布基礎となる生コンクリートが打設されるまでの間,型枠を外に広がらないようにそのまま保持することが記載されている(前記1(2)エ(イ)及び(ウ)並びにオ)。 また,本件明細書の発明の詳細な説明には,上記イAの課題の解決に関し,本件発明に係る支持具について,その全体を金属板等の薄板によって形成することで,安価に提供できるようにすることが記載されているとともに,支持具の型枠に対する取付け作業をも簡単に行えるよう,簡単な構造とすることが記載されている(前記1(2)エ(イ)及びオ)。 エ 以上を踏まえ,本件発明の特許請求の範囲の請求項1には, 「全体を薄板によって形成する」ことや, 「外側係止部(12), 」「内側係止部(13)」及び「基礎コンクリート(30)に埋設されることになるアンカー部(14)とを備え」る構成が記載されていることからすると,当業者は,本件明細書における記載から,特許請求の範囲の上記構成を採用することで,上記イの課題が解決できると認識することができるものと認められる。 (2) 原告の主張について ア 原告は,本件発明にサポート要件違反があるというべき根拠として,本件発明の支持具について,生コンクリートの流し込み等の作業の影響による移動が生じてしまった場合,「型枠20の外側への開きを防止する支持具とする」(本件明細書の段落【0011】)ということが実現できないことになる,そのような移動が生じてしまうことは,本件明細書の段落【0019】及び【0020】の記載とも矛盾する,コンクリートの打設前に作業員が型枠に靴等をぶつけて衝撃を与えることによって,支持具が下方に移動したり,型枠が外側に開いたりするなどの状況が生じた場合に,現場で多数(一般的な住宅基礎工事現場で40〜50個程度)使用される支持具を一つずつ元の位置に戻すことは,実際には困難と考えられるなどと主張する。 しかし,ベースコンクリートの打設時に生コンクリートの流し込み等の作業の影響で支持具が一定程度移動することがあるとしても,ベースコンクリートが硬化した後には,硬化コンクリート中にアンカー部が埋設固定された状態の支持具が外側係止部及び内側係止部によって取り付けられた型枠を支持するという作用が働くものと解され,生コンクリートの流し込み等の作業によって,上記作用を奏することができないような影響が生じるというべき根拠はない。したがって,ベースコンクリートの打設時に生コンクリートの流し込み等の作業の影響で支持具が一定程度移動することがあるとしても,本件明細書の段落【0019】及び【0020】の記載と矛盾するともいえない。 また,コンクリートの打設前に,支持具の中に下方に移動したものがあったり,型枠の中に外側に移動したものがあったとしても,現場において,それを元の位置に戻すことが可能であると解され,それが不可能であるとはいえない。原告は,建築の実際の現場において,作業員が型枠を足で跨いで移動するという場面や,その際に型枠に靴等がぶつかることは,日常的かつ頻繁にあると主張するが, 建築の実際の現場において作業員の靴等が型枠にぶつかることがあり,そのために支持具の中に下方に移動したものがあったり,型枠の中に外側に移動したものがあったとしても,それを元の位置に戻すことが不可能であるというべき事情は認められない。 よって,原告の上記主張は,採用することができない。 イ 原告は,支持具が下方に移動不可能な程度に確実に保持されることについては,甲1発明において課題が十分に解決されているから,本件発明について,下方に移動不可能な程度に確実に保持されること及びそのための構成が必須のものではないと認定することは,公知技術と比較して作用効果の点で著しく劣るもので,発明の課題を十分に解決していないものまで本件発明に含めるものであって,不合理であると主張する。 しかし,支持具の下方への移動に係る事情は,上記アで判断したとおりである。 その点に限ってみた場合に甲1発明でよりよく解決されているかどうかは,前記(1)のサポート要件違反の有無の判断に影響を与えるものではない。 (3) したがって,取消事由1は理由がない。 6 取消事由2(無効理由2(その1)における本件発明1に係る相違点の認定及び容易想到性の判断の誤り)について (1) 甲1発明は,前記2(2)のとおりである。 その上で,甲1発明と本件発明1とを対比すると,それらの間には,本件審決が認定した前記第2の3(2)ウ(ア)の一致点及び相違点が存在すると認められる。 (2) 審理範囲について 原告は,審決取消事由として,甲1発明を主引用例とし,相違点1について甲4技術及び甲5技術を副引用例とする進歩性欠如の無効理由を主張している。 これに対し,原告は,本件審判請求においては,甲1発明に,相違点1について甲3〜7から認められる周知技術を適用することによる進歩性欠如の無効理由を主張していた。そして,本件審判請求における原告の主張内容は,相違点1について,それに相当する技術が甲3〜7に開示されているというものであり,甲4及び5についても,原告は,相違点1に相当する技術が開示されていることを具体的に指摘して主張し,被告もこれに対して反論して,審理が行われ(甲22,23,25),前記第2の3(2)ウ(イ)のとおり,本件審決において,甲4及び5を含む甲4〜7に開示されている技術は,固定されるもの及び固定対象が甲1発明とは異なっているとして,相違点1について甲3〜7から認められる周知技術を適用することによる進歩性欠如の無効理由は認められないとの判断がされている。 そうすると,本件審判請求において甲1発明を主引用例とし,相違点1について甲4技術及び甲5技術を副引用例とする進歩性欠如の無効理由についても実質的に審理判断がされているに等しいということができるから,これを本件訴訟の審理の対象とすることが,審決取消訴訟の審理範囲外であるということはできない。最高裁昭和51年3月10日同42年(行ツ)第28号大法廷判決・民集30巻2号79頁は,本件のような場合まで審決取消訴訟の審理範囲外とする趣旨とは解されない。 (3) 相違点1について ア 甲1発明について (ア) 甲1の記載事項(前記2(1))からすると,甲1発明は,2度打ちによりコンクリート基礎を形成するに当たり,ベースコンクリートBC上に打設されるコンクリートCの重量によって外枠(外側の型枠)が外側へ傾倒してしまい,コンクリートCが流れ込んでコンクリート基礎壁面の外観が損なわれるなどという課題を解決するため,簡素な構成とし,かつ,施工効率を向上することで,コストを低減したコンクリート型枠傾倒防止具を提供することを目的とするものである(甲1の段落【0001】〜【0006】【0012】【0013】。 , , ) したがって,甲1発明は,技術分野や解決すべき課題等について,本件発明と共通する点を多く有しているといえる。 そして,甲1発明の縦長外枠2の縦長フランジFは,縦長外枠2の長手方向両端を折曲形成したものであるところ,縦長外枠2は,甲1の【図3】のほか,コンクリートの重量を支えるものであることに照らし,一定の厚みをもった部材であると認められるから,それを折曲形成した縦長フランジFについては,本件発明1の「内側角部」に相当する構成はもとより, 「外側角部」に相当する構成も備わっているというべきである。この点において,原告の主張には理由があり,本件審決の認定判断には誤りがあるといえる。 (イ) しかし,甲1発明において,型枠傾倒防止具8は,連結板9に穿設された貫通孔6を,縦長フランジFの連結孔5と合致させて,連結片12を挿通した上で,隣接する縦長フランジFをクランプ装置10でクランプして連結板9を挟持するという工程により,型枠に取り付けられるものである(甲1の段落【0023】,【0027】【0035】【図3】 , , )ところ,そのような取付け等の手段があるにもかかわらず,それに加えて,あるいはそれに代えて,型枠傾倒防止具8を縦長フランジF(縦長外枠2)に係止するため,本件発明1のような,型枠に支持具を係止するために外側係止部及び内側係止部を設けるという構成(以下「本件構成」という。)を付加する理由があるものとは解されない。このことは,甲1発明の変形例の説明においても,あくまで連結板9’に穿設された貫通孔6と縦長フランジFの連結孔5に連結具を挿通するものとされていること(甲1の段落【0041】〜【0045】【図4】 , )からも,裏付けられるところである。 したがって,甲1発明から直ちに本件発明1を想到することが動機付けられるとはいえない。 イ 原告が主張する副引用例及び周知技術について (ア) 甲2発明について a 甲2の記載事項(前記3(1))からすると,甲2発明は,基礎コンクリートを打設する際に,一対の型枠を高低差をつけて支持することを目的とするもので(甲2の段落【0001】,特に,防湿基礎コンクリート及び布基礎コンクリ )ートを同時に成形する方法において,基礎コンクリートの厚さによって変化する段差の大小にかかわらず,一対の型枠を高低差をつけて支持することができる段付き中間巾止め金具を提供するというものである(同【0003】【0009】〜【0 ,012】。 ) したがって,甲2発明は,技術分野や解決すべき課題等について,本件発明や甲1発明とは異なるものであるといえる。 b 甲2発明において,隣接する型枠間に挟着される挟着部12 【0 (同022】)の両側に形成されている規制片17(規制部17。以下「規制片17」という。)及び規制部15(同【0023】)についてみると,それらは,挟着部12を隣接する型枠に挟んで,型枠の側面部に形成された連結用の穴3aと挟着部12の穴16を連通させ,ピン7を貫通させて固定する場合に,型枠3に接するもので(同【0030】【0031】【図1】【図3】 【図9】,型枠3の側面に衝止し , , , , )て中間巾止め金具10の倒れを防止し,支持部13の高さを一体に保持するとの効果を有するものである(同【0034】。そして,規制片17及び規制部15は, )必ずしも左右両側にある必要はなく,両方の規制部15をなくして規制片17のみにしてもよく,要は金具本体11が傾斜や捻れを生じることなく型枠3に挟着されるようになっていればよいとされている(同【0038】。 ) 上記の各点を踏まえると,甲2発明における規制片17及び規制部15は,あくまで,挟着部12がその穴16にピン7を貫通させた上で型枠に挟まれて固定されている状態において,一対の型枠を高低差を付けて支持するとの上記aの目的のために,金具本体11が傾斜や捻じれを生じることなく型枠3に挟着されるよう設けられているものであって,型枠に中間巾止め金具10を係止するため,すなわち,「係わり合って止まる」 (特許技術用語委員会編「特許技術用語集-第3版-」47頁,日刊工業新聞社,平成18年8月31日発行)ために設けられているものとは認められない。 それゆえ,甲2発明において,型枠に支持具を係止するための本件構成が開示されているとはいえない。これに反する原告の主張は,採用することができない。 c 以上のとおり,甲2発明において,型枠に支持具を係止するための本件構成が開示されているとはいえないから,甲1発明に甲2発明を組み合わせても本件発明1に至ることはなく,また,甲2発明は,本件発明や甲1発明とは,技術分野や解決すべき課題等が異なるから,甲2発明を甲1発明に組み合わせて本件発明1に至ることが動機付けられるとはいえない。 (イ) 甲4技術について 甲4の記載事項(前記4(2))によると,甲4技術に係る間隔保持具は,コンクリート型枠を所定の対向間隔で保持するためのものであり(甲4の段落【0001】, )鋼板により短冊状に形成された本体1をベースコンクリート上に設置するもので,本体1の両端にそれぞれ外側規制片2及び内側規制片3を形成し,それらにより構成される各嵌合部に型枠を上方から嵌合するものである 【0007】。 (同 ) そして,外側規制片2及び内側規制片3に係る構成は,型枠を上方から嵌入する際に,簡単な操作で本体1を型枠に掛止することができ,また,型枠を上方へ引き抜く際に容易に引き抜くことができ,作業効率を向上させるものである(同【0004】【0 ,008】〜【00010】。 ) したがって,甲4技術は,型枠同士の間隔を保持するための金具に係るもので,金具に型枠を上方から嵌合固定することを基本的な特徴とするものである。 上記の甲4技術は,本件発明や甲1発明とは,型枠の傾倒等を防止する固定具である(同【0002】)という点では共通するものの,本件発明や甲1発明が,2度打ちによるコンクリート基礎を形成するに当たり型枠が外側に傾斜することを防止するためのものであるのに対して,甲4技術は,上記のとおり,複数の型枠を対向間隔で保持するためのものであって,そのような対象とする技術の違いに照らすと,甲1発明に甲4技術を組み合わせることが直ちに動機付けられるとはいえず,その他動機付けとなり得る事情も認められない。 (ウ) 甲5技術について 甲5の記載事項(前記4(3))によると,甲5技術に係る保持具は,対向するコンクリート型枠板を保持するためのものであり(甲5の段落【0001】 0002】 【 , ,【0006】,鋼製の本体片10の両端部にそれぞれ外側係止片11及び内側係止 )片12を形成し,それらの間に型枠を上方から差し込んで,一定の間隔を開けて型枠を保持するためのものである(同【0009】〜【0012】。そして,内側係 )止片12が内側への可撓性を有する旨の記載(同【0013】)からしても,外側係止片11及び内側係止片12の構成は,型枠を上方から差し込む際の利点に着目して設けられているものと認められる。 したがって,甲5技術は,型枠同士の位置を維持するための金具に係るもので,金具に型枠を上方から差し込んで固定するものである。 上記の甲5技術は,本件発明や甲1発明とは,前記(イ)で甲4技術について述べたのと同様の対象とする技術の違いがあるから,甲1発明に甲5技術を組み合わせることが直ちに動機付けられるとはいえず,その他動機付けとなり得る事情も認められない。 (エ) 甲3技術,甲6技術及び甲7技術について 甲3の記載事項(前記4(1)),甲6の記載事項(前記4(4))及び甲7の記載事項(前記4(5))からすると,甲3技術の接合具は,パネルをコンクリート壁と接合するためのものであり,甲6技術の積み上げ金具及び甲7技術の型枠支持金具は,いずれも複数の型枠を積み重ねるためのものであって,これらの技術は,本件発明や甲1発明とは,対象とする技術が異なるから,甲1発明にこれらの技術を組み合わせて本件発明1に至ることが動機付けられるということはできない。 ウ 以上によると,甲1発明に甲2発明,甲4技術又は甲5技術を組み合わせても,相違点1が容易想到であったとは認められないし,また,甲3技術,甲6技術及び甲7技術を考慮しても,相違点1が容易想到であったとは認められない。 (4) 原告の主張について ア 原告は,甲1発明の縦長外枠2は「外側角部」に相当する構成を備えており,甲1発明は,外側係止部と内側係止部の構成を備えていると主張するが,甲1発明のコンクリート型枠傾倒防止具が外側係止部や内側係止部の構成を備えるものでないことは,甲1の【図1】〜【図3】などに照らして明らかである。縦長外枠2が「外側角部」に相当する構成を備えているとしても,そのことは,上記認定を左右するものではない。 そして,甲1発明の縦長外枠2が「外側角部」に相当する構成を備えているとしても,前記(3)ア(イ)で指摘した点からすると,当業者が甲1発明に本件構成を適用することについて,動機付けがあるとはいえない。原告が主張する,支持具を型枠の所定部位に対して正しい姿勢で位置決めするといった課題の有無は,上記判断に影響するものではない。 イ 原告は,甲4技術,甲5技術又は甲2発明を副引用例とする主張において,傾倒防止を含め,コンクリート型枠の固定が,事柄の性質上,一連の施工の様々な段階において常に求められる普遍的な要請であるなどと主張するが,どのような目的のために,どのようなコンクリート型枠を,どのような工程の際に,どの程度固定するか等は,施工方法や施工段階によって異なるもので,それにより,発明によって解決されるべき課題等も異なるものと解される。コンクリート型枠を固定するための固定具に係る技術というくくりで発明を捉えることは,過度に技術分野を抽象化するものであって,相当でない。上記に反する原告の主張は,いずれも採用することができない。 また,原告は,甲3〜7に相違点1が周知技術として開示されていると主張するが,前記(3)イ(イ)〜(エ)のとおり,甲3技術〜甲7技術は,それぞれ異なる技術であって,これをコンクリート型枠を固定するための固定具であるとしてひとくくりにして捉えて周知技術を認定することも相当ではない。 (5) よって,取消事由2は理由がない。 7 取消事由3(無効理由2(その2)における本件発明1に係る相違点の認定及び容易想到性の判断の誤り)について (1)ア 甲2発明は,前記3(2)のとおりである。 その上で,甲2発明と本件発明1とを対比すると,それらの間には,本件審決が認定した前記第2の3(2)エ(ア)の一致点及び相違点が存在すると認められる。 イ 原告の主張について (ア) 原告は,相違点Bは,相違点ではないと主張するが,前記6(3)イ(ア)で判断したとおり,原告の上記主張は採用できない。 (イ) 原告は,相違点Cの認定について,甲2発明における金具本体11がアンカー部に相当すると主張する。 しかし,前記1(2)エ(ウ)のとおり,本件発明におけるアンカー部は,当該部位が打設したコンクリート中に埋設固定されることで,型枠の外側への開きを防止する効果を生じさせるものである。このことは, 「アンカー」 (錨・碇)が, 「@船をとめおくために網や鎖につけて海底に沈めるおもり」や, 「A碇のように作ったおもし・かぎなどの具」を意味する「錨(いかり)」を意味する語であること( 「広辞苑 第三版」岩波書店。乙11)からも裏付けられるということができる。これに対し,甲2の記載事項(前記3(1))からすると,1度打ち工法に係る甲2発明の金具本体11は,最終的にコンクリート内に埋設されるものの,当該コンクリートはコンクリートの打設中は未硬化のままであって,金具本体11は,コンクリート中に固定されるわけではなく,段付き中段巾止め金具10は,コンクリートに埋設されることによって型枠を支持するものではない。 したがって,相違点Cの認定に誤りはない。 (2) 相違点Bについて 相違点Bに関し,前記6(3)イ(イ)〜(エ)のとおり,甲3技術〜甲7技術は,本件発明とは対象とする技術が異なるものであって,これらの技術を甲2発明に組み合わせることで本件発明に至る動機付けがあるということはできない。また,甲3技術〜甲7技術をひとくくりにして捉えて周知技術を認定することが相当ではないことは,前記6(4)イのとおりである。 したがって,相違点Bが容易想到であったとは認められない。 (3) 相違点Cについて 本件全証拠によっても,相違点Cが容易想到であったというべき事情も認められない。 (4) よって,その余の点について判断するまでもなく,取消事由3は理由がない。 8 取消事由4(本件発明2,4〜6に係る容易想到性の判断の誤り)について 本件発明2,4〜6は,本件発明1の構成を全て含み,更に構成を限定したものであるから,前記6及び7で本件発明1に係る取消事由2及び3に関して述べたのと同じ理由により,当業者が容易に想到し得たものではない。 よって,取消事由4は理由がない。 |
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結論
以上の次第で,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 中島朋宏 |
裁判官 | 勝又来未子 |