関連審決 |
無効2019-800049 |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|---|
元本PDF | 裁判所収録の別紙1PDFを見る |
元本PDF | 裁判所収録の別紙2PDFを見る |
元本PDF | 裁判所収録の別紙3PDFを見る |
事件 |
令和
2年
(行ケ)
10052号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告ネオケミア株式会社 同訴訟代理人弁護士 橋淳 宮川利彰 被告 株式会社メディオン・リ 同訴訟代理人弁護士 山田威一郎 松本響子 柴田和彦 同訴訟代理人弁理士 田中順也 水谷馨也 迫田恭子 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2021/06/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
請求
特許庁が無効2019-800049号事件について令和2年4月2日にした審決を取り消す。 |
|
事案の概要
本件は,特許無効審判請求の不成立審決の取消訴訟である。争点は,進歩性についての認定判断の誤りの有無である。 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,平成22年9月6日,発明の名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする特許出願(特願2010-199412号。平成10年10月5日[優先権主張 平成9年11月7日]を国際出願日とする特許出願[特願2000-520135号]の一部を新たな特許出願としたもの)をし,平成24年1月27日,その設定登録を受けた(特許第4912492号。以下「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本件特許権」と,本件特許に係る明細書及び図面を併せて「本件明細書」とそれぞれいう。甲75)。 (2) 原告は,令和元年8月1日,本件特許の無効審判の請求(以下「本件審判請求」といい,本件審判請求により開始された審判手続を「本件審判手続」という。)をし(無効2019-800049号事件),特許庁は,令和2年4月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月10日に原告に送達された。 (3) 原告は,本件訴えの提起後の令和2年12月7日,破産手続開始決定を受け(神戸地方裁判所令和2年(フ)第971号。以下,当該決定に係る破産事件を「別件破産事件」という。 ,破産管財人が選任されたが,同破産管財人は,令和3 )年4月13日,破産裁判所の許可を受けて,本件訴訟における原告の地位に係る権利を放棄した。なお,別件破産事件は,いまだ終結していない。 2 本件特許に係る発明の要旨 本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,各請求項に係る発明を,それぞれ請求項の番号に応じて「本件発明1」などといい,本件発明1〜7を併せて「本件発明」という。。 ) 【請求項1】 医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって,1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;2)酸及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,炭酸塩を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;又は3)炭酸塩と酸を含有する複合顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ;からなり,含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。 【請求項2】 得られる二酸化炭素含有粘性組成物が,二酸化炭素を5〜90容量%含有するものである,請求項1に記載のキット。 【請求項3】 含水粘性組成物が,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき,2時間後において50以上の容量を保持できるものである,請求項1又は2に記載のキット。 【請求項4】 含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである,請求項1〜3のいずれかに記載のキット。 【請求項5】 含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである,請求項1〜4のいずれかに記載のキット。 【請求項6】 請求項1〜5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む医薬組成物。 【請求項7】 請求項1〜5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む化粧料。 3 本件審決の理由の要旨 (1) 福井基成著「エキスパートナース MOOK 16 最新!褥瘡治療マニュアル 創面の色に着目した治療法」平成5年12月10日発行の72頁(甲1)に記載された発明(以下「甲1発明」という。また,同頁を含む上記文献全体を「甲1文献」という。)の認定 「褥瘡を治療又は予防するために使用される組成物を得るための剤であって, 炭酸水素ナトリウムを含み,湯に溶かして炭酸ガスを発生させるものである入浴剤バブを割った剤であり, 前記組成物は,前記入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物である,剤。(なお, 」 「バブ」は登録商標であるが, 「バブ」の後ろに個別に「?」を記載することを省略する。) (2) 本件発明1と甲1発明との対比 本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 (一致点) 「医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有組成物を得るためのものであって,炭酸塩を含むもの。」 (相違点1) 「二酸化炭素含有組成物」が,本件発明1においては, 「粘性」を有するものであるのに対し,甲1発明においては, 「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」であり,粘性の特定がない点。 (相違点2) 「炭酸塩を含むもの」が,本件発明1においては, 「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;2)酸及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,炭酸塩を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;又は3)炭酸塩と酸を含有する複合顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ;からなり,含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット」であるのに対し,甲1発明においては, 「炭酸水素ナトリウムを含み,湯に溶かして炭酸ガスを発生させるものである入浴剤バブを割った剤」である点。 (3) 無効理由(甲1発明と公知技術等による進歩性欠如)についての判断 ア 相違点1について (ア) 本件明細書の段落【0017】及び【0032】の記載からすると,相違点1に係る本件発明1の二酸化炭素含有粘性組成物における「粘性」とは,二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を意味すると解される。 (イ) 人工炭酸泉浴剤の入浴剤バブを湯に溶かした「バブ浴」を用いた褥瘡の治療又は予防に関する甲1には,洗面器やバケツにおいて,入浴剤バブを割ったバブ片1〜数個を溶かした約42度の湯に,褥瘡を生じた足を入れて足浴したり,ガーゼやタオルを浸してそれを褥瘡部に当てて温湿布をし,入浴剤バブを湯に溶かして発生した炭酸ガスにより,局所の血行を改善し褥瘡を治療又は予防するものであり, 「温泉の効果」を応用するものであることが記載されているところ,この「温泉の効果」とは,古くから知られる炭酸泉の効果,すなわち炭酸泉に含まれる炭酸ガスの末梢血管拡張作用に基づく循環改善効果(血行改善効果と同義。甲71〜73)と,湯の温熱作用による血行改善効果の両方を含むものと解される。 甲1には,甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」に含まれる炭酸ガスの濃度に関して記載されていないが,甲1発明が,組成物中に含まれる炭酸ガスの血行改善効果と,湯の温熱作用による血行改善効果を利用して,褥瘡の治療又は予防を図ろうとするものであることを踏まえると,甲1発明の当該組成物中には,当然,血行改善効果が期待できる濃度で炭酸ガスが存在していると考えるのが相当である。 そうすると,甲1発明において,当該組成物中の炭酸ガス濃度が褥瘡の治療又は予防に不十分であり,バブを湯に完全に溶かす際や使用時に拡散する炭酸ガスを極力保持する必要があるとの課題が認識できるとはいえない。 (ウ) 甲1と同様に入浴剤バブを用いた褥瘡治療についての文献である甲71及び73には,温湿布する際に,保温と炭酸ガスの拡散防止のためにビニールを当てることが記載されているが,入浴剤バブを溶かした湯を特定の態様で用いる場合に,別の部材を用いることで炭酸ガスの保持を図るものにすぎず,入浴剤バブを溶かした湯自体に,炭酸ガスを保持するための手段を採用することは記載も示唆もない。 さらに,甲4〜12のいずれにも,甲1発明の当該組成物において,炭酸ガスを保持するための手段を採用するという課題があることを認めるに足りる記載も示唆も見出せない。 (エ) そうすると,甲1発明の当該組成物において,炭酸ガスを保持するための手段を採用するという課題が認識できるとはいえないから,その課題を解決する手段である,炭酸ガスすなわち二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を付与することは,当業者が容易に想到することができるものではない。 (オ) また,甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」に,二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を付与すれば,足浴や温湿布とするに当たり使用感が大きく変化してしまい,人工炭酸泉であるバブ浴の概念とかけ離れたものとなることは明らかであるから,甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」に,二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を付与することには,阻害要因がある。 (カ) 以上によると,甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」に,二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を付与して,相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することは,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 イ 相違点2について 相違点2は,相違点1の「二酸化炭素含有組成物」を「粘性」を有するものとするための具体的な組成に関するものであるから,甲1発明において,相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を採用することを当業者が容易に想到することができたとはいえない以上,相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を採用することも,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 ウ 小括 したがって,本件発明1は,甲1発明に公知技術等(甲4〜12)を適用することで,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ 本件発明2〜7について 本件発明2〜5は,本件発明1の全ての発明特定事項を含むもので,本件発明6及び7は,本件発明1〜5のいずれかから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む「医薬組成物」又は「化粧料」に係るものである。 そうすると,本件発明2〜7は,いずれも本件発明1の全ての発明特定事項又はそれらに対応する事項を含むものであるから,上記ア〜ウと同様の理由により,甲1発明に公知技術等(甲4〜12)を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 |
|
被告の本案前の答弁(訴えの利益の消滅)とこれに対する原告の主張
1 被告の主張 次の事情を踏まえると,別件破産事件における破産手続開始決定により,本件訴訟については,訴えの利益を欠くに至ったというべきである。 (1) 特許権の存続期間が満了していること 本件特許権の存続期間は,平成30年10月5日をもって満了した。 (2) 特許権の存続期間中にされた行為について,原告に対し,損害賠償請求又は不当利得返還の請求が行われることはないこと ア 原告は,本件特許権の存続期間中に本件発明を実施していたが,当該実施行為に対する損害賠償債務について,被告は原告に対する確定判決を有している。 そして,原告においては,当該実施行為以外に本件発明の実施行為に相当する行為を行っていないと考えられ,被告は,上記確定判決に係る損害賠償請求権以外に原告に対する損害賠償請求権を有していない。 イ 原告は,破産手続開始決定を受けており,別件破産事件について廃止決定がされると,原告は,法人格を失い,消滅する。破産手続においては,債権者集会等の期日が続行された場合であっても,通常,数か月以内に次の債権者集会が開かれ,破産手続の廃止決定がされる可能性が高い。このような状況において,被告から原告に対し,新たに本件特許権の侵害に基づく損害賠償請求や不当利得返還請求を行うことは時間的に不可能であり,また,既に破産の申立てをし,財産がほぼない会社に対し,時間や費用をかけて金銭請求を行うメリットはない。そのため,被告から,原告に対し,新たな損害賠償請求や不当利得返還の請求が行われることはあり得ない。 (3) 刑事罰が科される可能性もないこと 原告の主張によると,原告による本件特許権の最後の実施時期は平成28年であるため,本件特許権の侵害による刑事罰の時効はまだ完成していないが,上記(2)のとおり,原告は,数か月以内に消滅する存在である。被告人たる法人が存続しなくなったときは公訴が棄却されるため(刑訴法339条1項4号),原告について,現実的に,刑事罰を確定させる時間的猶予はなく,事実上,刑事罰が科される可能性もない。 (4) まとめ 以上のとおり,本件では,客観的に見て,原告に対し,本件特許権の侵害を問題にされる可能性は全く存在しなくなったといえるから,本件訴訟については,訴えの利益を欠くに至ったものである。 2 原告の主張 訴えの利益の消滅が認められるためには,原告にとって不利益な主張となり得る具体的な原告の被疑侵害行為等が特定される必要はなく,あくまで客観的に,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったとまで認められる必要があるのであって,法令上,そのような可能性が少しでも払拭できない場合には,訴えの利益の消滅は認められないと考えるべきところ,次の事情を踏まえると,本件で,被告から原告に対する損害賠償又は不当利得返還の請求等が行われる可能性が全くなくなったといえる特段の事情が存しないことは明らかであり,訴えの利益は消滅していない。 (1) 被告から原告に対する損害賠償請求等がされる可能性について 原告は,平成13年に設立されて以降,自社の主力商品として多様な炭酸ジェルパックを長期間にわたり製造・販売してきた。それゆえ,被告が指摘する確定判決に係る被疑侵害物件以外の原告製品について,被告が,今後,別途,被疑侵害物件であると主張しないとは限らない。 したがって,被告から原告に対する損害賠償請求又は不当利得返還請求がされる可能性が全くないとはいえない。 (2) 別件破産事件の手続の進捗について 別件破産事件においては,令和3年6月10日に第2回債権者集会が予定されている。そして,同日に破産手続が終了するとも限らない。仮に,破産手続の終了が数か月以内に見込まれ,原告が破産申立てをしており財産をほぼ有しない会社であるとしても,破産手続の終了までの間に,被告から原告に対して損害賠償請求又は不当利得返還請求をすること自体は可能である。 したがって,被告から原告に対し,新たな損害賠償請求や不当利得返還の請求が行われることがあり得ないとはいえない。 (3) 原告の取締役に対する損害賠償請求訴訟が係属中であること 被告は,原告による本件特許権の侵害行為による損害について,原告の代表取締役であるA及び取締役であり同人の妻であるBに対し,取締役の第三者に対する損害賠償責任を追及する訴え(会社法429条1項)を提起しており,同訴訟は,現在,大阪地方裁判所に係属中である(大阪地方裁判所令和元年(ワ)第5444号)。 当該訴訟における被告の請求は,実質的に,原告に対する本件特許権の侵害を理由とする損害賠償請求と同視されるべきである。 (4) 刑事罰が科される可能性について 上記(2)のとおり,別件破産事件について,令和3年6月10日の第2回債権者集会で破産手続が終了するとは限らず,原告に対して刑事罰を確定させる時間的猶予がないとはいいきれない。 |
|
原告主張の取消事由
1 取消事由1(甲1発明及び相違点2の認定の誤り) (1) 甲71における「炭酸ナトリウム塩とコハク酸の混合錠剤である花王バブ錠(花王株式会社発売)」との記載から,バブにはコハク酸(本件発明の「酸」の例として,本件明細書の段落【0007】に記載されている。)が含有されていることが明らかである。また,炭酸水素ナトリウムが炭酸塩の一種であることを考慮すると,炭酸塩と酸を含む固形物であるバブを割った(砕いた)ものは,炭酸塩と酸を含む複合顆粒剤である。 したがって,甲1発明は,炭酸塩と酸を含む複合顆粒剤と湯からなり,複合剤を湯に溶かし水中で炭酸塩と酸を反応させることにより二酸化炭素を発生させるものであって,これと異なる本件審決の甲1発明及び相違点2の認定には誤りがあり,相違点2は,次の相違点2’とすべきである。 (相違点2’) 「炭酸塩を含むもの」が,本件発明1においては, 「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;2)酸及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,炭酸塩を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;又は3)炭酸塩と酸を含有する複合顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ;からなり,含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット」であるのに対し,甲1発明においては,炭酸水素ナトリウムとコハク酸を含有する複合顆粒剤と,湯の組み合わせからなることを特徴とする,湯中で炭酸水素ナトリウムとコハク酸を反応させることにより二酸化炭素を含有する組成物を得ることができるものである点。 (2) そして,後記2のとおり,本件審決が容易想到性についての判断を誤ったことは,上記(1)の認定の誤りに起因するものであるから,上記(1)の認定の誤りは,本件審決の結論に影響する。容易想到性の判断の前提である相違点の認定の誤りが,本件審決の認定判断の誤りを基礎付けるものであることは,明らかである。 2 取消事由2(相違点1及び2についての容易想到性の判断の誤り) (1) 本件発明の課題が周知又は容易に発見できるものであったこと ア 気泡状の二酸化炭素の持続性についての技術常識 炭酸ガスを利用する発泡性化粧料については,炭酸ガスを肌に作用させるため,炭酸ガスが大気中に拡散してしまわないで保留されることが望ましいことは自明であり,現に,当業者においても,ガス保留性,経日安定性,官能特性及び皮膚安全性に優れたものを開発することが課題として認識されていた(甲48)。 上記のうち,ガス保留性(気泡状の二炭化炭素の持続性)については,公知文献に次のような記載があるところであって,気泡状の二酸化炭素を利用する発明においては,古くから,その効果を高めるという課題が認識され,ガス保留性を維持することを目的とした研究が行われてきていたものである。 (ア) 甲49(特開平3-161415号公報)の記載 「炭酸ガスを含む従来の薬用化粧料は,水,アルコール類等を主成分とするために,炭酸ガスの保持能力が低く,血行促進効果が得られる時間が短い欠点がある」 「本発明の目的は,炭酸ガスを高濃度で長時間保持することができ,血行促進効果の持続性が高い薬用化粧料を提供することにある」 (イ) 甲6(特開平9-206001号公報)の記載 「このゲル状食品は,製造時に,膠質水溶液と炭酸ガスとを混合した後に加熱する。この加熱によって炭酸ガスは激しく発泡すると同時に膠質水溶液から逃散してしまう」 「その目的とするところは,発泡成分の発泡によって生成した気泡が,ゼリー中に多数内包され,しかもこの気泡中の炭酸ガスが長時間保持され,喫食時にロ中で強い発泡感が感じられる発泡性ゼリーを,家庭で簡単に手作りできる発泡性ゼリー用粉末およびこれを用いた発泡性ゼリーの製法を提供するにある」 (ウ) 甲50(特開昭63-280799号公報)の記載 「5%未満であると炭酸ガスの発生量が少なく,且つその発泡の持続性が低下し,泡が流れ出し,・・・好ましくない」 「本発明の組成物には増泡及び泡の先立ちあるいは後立ちそしてその泡の持続性を調節する制泡剤として,更には使用感の改良及びさっぱりした感じなどを確保するためガム質物質及び/又は水溶性高分子化合物を配合することができる。具体例としては, ・・・アルギン酸ナトリウム・・・などが挙げられる。これらの中で若干増粘性を示すものが好ましい」 (エ) 甲51(特開昭62-294604号公報)の記載 「20%未満だと炭酸ガスの発生量が少なく,且つその発泡の持続性が低下し,・・・好ましくない」 (オ) 甲52(特開昭61-43102号公報),甲53(特開昭61-43101号公報)及び甲54(特開昭61-40205号公報)の記載 甲52には, 「本発明の効果をより高めるためには,化粧料中の炭酸ガスの滞留時間を長くする必要があり,本発明化粧料を頭髪に付着することなく,頭皮に直接泡状又は液状で塗布し,頭皮上で発泡させるのが好ましい」との記載があり,甲53,54にも同趣旨の記載がある。 (カ) 甲12(高橋雅夫「機能性化粧品の開発」平成2年8月28日発行)の記載 甲12には, 「経皮吸収については, ・・・昭和60年以降は, ・・・目的に応じた徐放化技術も見られる。 との記載があり, 」 当業者において成分を効率的に経皮吸収させるために当該成分発生の持続性を高めることが課題として認識されていたことは,明らかである。 イ(ア) 上記アのように,気泡状の二酸化炭素を持続的に発生させ保持するという本件発明の課題は,自明又は容易に発見できるものである。したがって,当該課題が甲1発明から認識できるか否かを判断する必要はないにもかかわらず,本件審決には,その点について判断し,本件発明1の課題が自明又は容易に発見し得たか否かについて判断しなかったという誤りがある。 本件において,当業者とは,化粧品分野における知見を有する者を指すところ,当業者は,甲1発明に接する以前から,気泡状の二酸化炭素の発生・保持を持続させるという課題を認識し得た。そのため,仮に,甲1発明自体に上記課題が明記されていないとしても,当業者は上記課題を認識しているから,甲1発明からどのような課題を認識できるかを考えることが必要になるとはいえない。 (イ) 上記(ア)のように,当業者は,気泡状の二酸化炭素を持続的に発生させ保持するという課題を周知の課題として認識しているから,甲1発明からの課題の認識可能性を問題とする被告の主張は失当である。 また,甲1発明においては,温湿布を行う際には気泡の発生が収まっているものの,甲1発明を実施するためにバブを湯に溶解する過程ではバブから気泡状の二酸化炭素が発生する。甲1発明は炭酸ガスの経皮吸収を目的とするものであるため,二酸化炭素の発生の持続性向上という課題を認識した上で上記の気泡状の二酸化炭素の発生を視認する化粧品分野の当業者は,湯に溶解せずに空気中に二酸化炭素が発散してしまうことを止め,これらも効率的に経皮吸収させようと思い至るはずである。したがって,甲1発明がバブを完全に溶かした湯を用いるものであるからといって,当業者において,気泡状の二酸化炭素を持続的に発生させ保持するという課題を認識しないとはいえない。 (2) 甲1発明への周知技術の適用について ア 周知技術 (ア) 甲1発明は,気泡状の二酸化炭素を発生させて利用する技術分野に関するものであるところ,次の各文献における記載等からすると,本件特許の出願日時点において,当該技術分野において,二酸化炭素の発生・保持の持続性を高めるために媒質に粘性を持たせるという技術は,周知技術であった。 a 甲4(近藤保・鈴木四朗「生活の界面科学」昭和45年5月10日発行)の記載 「安定性のある泡沫においては,排液の速度が泡沫の寿命を支配している。泡沫に冷たい空気を吹き付けると,表面粘度が上昇して泡沫の寿命が増加する場合が多い。またタンパク質を含む液体膜は,タンパク質でできた2枚の表面膜の間に液体が入っているような構造と考えられているが,この液体が流下することによってタンパク質が濃厚になり,粘性が高くなるために泡沫寿命が長くなると考えられている。このように表面の粘性と泡沫寿命との間にはかなりの相関関係がある。」 b 甲5(福原信和「化粧品における水溶性高分子の利用」高分子21巻242号250頁〜253頁,昭和47年発行)の記載 「水溶性高分子が添加されると泡の安定性がよくなるので,シェービングクリーム,バブルバス,シャンプー,ハミガキなどのように泡立ちのよいことが必要な製品には,メチルセルロース,ポリビニルピロリドン,カルボキシメチルセルロースなどが添加される。」 c 甲6の記載 「特定の増粘多糖類を一旦溶液化して特定温度に保持し,適度な粘性を付与した状態で,発泡成分と接触させることにより,発泡成分が充分に溶解して発泡するとともに,それによって生じた炭酸ガスの気泡が,粘性を帯びた増粘多糖類に封じ込められ,外部へ逃散しないことを見いだした」 d 甲45(原実・藤村欽二「アルギン酸プロピレングリコールエステルについて」農産加工技術研究会誌4巻4号136頁〜143頁,昭和32年8月発行)の記載 「アルギン酸ソーダ,CMC等が泡沫安定の作用を有するのは主として之等の粘性に依存する事による」 e 甲26(日刊工業新聞「企業誕生」取材班「ベスト・イン・ザ・ワールド」平成25年6月25日発行)の記載 「アイスクリームの中にかくれた小さな気泡が,ふっくらねっとりとした食感を演出するが,そのロどけの要となる気泡を安定させるのがアルギン酸だった」 f 甲59(特開昭52-102366号公報)の記載 「水性気泡分散液の気泡を安定化させる方法として,従来,ポリビニルアルコール,ポリアクリル酸誘導体,セルロース誘導体等を水に融解添加し水溶液粘度を上昇させる方法がとられて来た」 g 甲13(特開平8-268828号公報)の記載 「本発明に使用される泡安定剤としては,各種の粉末及び水溶性高分子が挙げられる。」 (イ) 甲59の「水溶性セルロース誘導体と・・・スルフォン酸塩系界面活性剤・・・とオキシカルボン酸或いはその水可溶性塩とを主成分とする水性の増粘組成物にある。, 」「前記スルフォン酸塩系界面活性剤の無い場合は,セルロース誘導体はオキシカルボン酸またはその水可溶性塩の存在に依り容易に不溶化し,その水溶液の粘性を失う。 との記載から, 」 界面活性剤には増粘性をもたらす効果があることが分かる。 その上で,甲57(特開昭60-161741号公報)及び甲58(特開昭56-21667号公報)の記載から,そのような界面活性剤が,起泡力及び/又は安定性を高めることも周知であることが分かる。特に,甲59や甲13の段落【0010】の記載から,水溶性高分子から構成される界面活性剤が,起泡性のみならず,泡の安定化効果にも寄与するものであることが,技術常識であることは明らかである。 イ 甲1発明に上記アの周知技術を適用する動機付けがあること (ア) 甲1文献の記載に基づく示唆 a 甲1には, 「バブが溶けた湯にガーゼやタオルを浸し,それを褥瘡部に当てて温湿布をする」という記載がある。また,甲1文献には, 「3.創面を被覆する」の「3)アルギン酸塩被覆材」の項において,本件発明の粘性組成物の代表例であるアルギン酸塩をガーゼに塗布する挿絵(甲76の24頁)が描かれ,「4)特殊ガーゼ類」の項において, 「抗菌作用を有したり,生体面と固着しないように処理されたガーゼ(メッシュ)」で褥瘡を被覆する方法が記載されている。 ガーゼが生体面と固着しないようにする手段として,アルギン酸ナトリウムなどの粘性組成物をガーゼに染み込ませ,その面を患部に当てることは,当業者において周知技術であった。このことは,甲77(原田佳昭ほか「Calgitex (Alginateproduct) gauze の使用経験」昭和48年発行)における,「外傷性の止血においては直接ガーゼ等による圧迫止血を行なう場合が?々で,熱傷など皮膚欠損の大きい創面,挫創,挫滅創,咬創のごとく一次閉鎖の不可能な創部においてはガーゼ交換時におこる創面の損傷,二次出血のため治癒過程の遷延などがあり,これを防止し完全に止血するためのすぐれた止血剤としてアルギン酸ナトリウム塩等が汎用されている。」との記載からも明らかである。 b さらに,甲1文献には,「バブ浴」の記載があり(甲76),甲1文献を見てバブ浴を行う当業者は,上記aのガーゼに粘性組成物を浸すことについての記載も必ず読む。 したがって,上記aの記載は,バブ浴において,複合顆粒剤を添加する水溶液を単なる湯から増粘剤(アルギン酸ナトリウム等)が添加された粘性組成物に置換することを示唆するものである。 c 被告は,甲76及び77の記載について,アルギン酸ナトリウムを含む粘性組成物にガーゼを浸すことを示唆するようなものではないと主張するが,アルギン酸ナトリウムは増粘剤であるため,含水粘性組成物すなわちゲルとしても用いられるもので,これを甲76の挿絵のようにガーゼに塗布して用いることは,当業者において容易に思いつくところである。甲76に,アルギン酸ナトリウムをそのように用いることを特段排斥する記載もない。アルギン酸塩についての記載自体から,当業者は,カルトスタット等以外の方法でのアルギン酸ナトリウムの利用を思いつくものと考えられる。 また,被告は,甲76の「バブ浴」の記載について,理学療法と創面の被覆のフェーズとの違いを主張するが,甲76の「6.理学療法」については,主に「浅い褥瘡」に適用すると記載されており,褥瘡の程度によっては,当業者は,同項のほか,甲76で「褥瘡の治療法」として列挙されている「2.外用剤を創部局所に使用する」や「3.創面を被覆する」の項目の記載も読むと考えられる。したがって,当業者においては,バブ浴すなわち甲1発明に対し,それら他の項目の記載を組み合わせることを検討することが想定される。 (イ) 技術分野の共通性 甲1発明も,上記アの周知技術も,二酸化炭素を経皮吸収させる技術分野に属しており,技術分野は共通している。 (ウ) 課題の共通性 二酸化炭素の経皮吸収による褥瘡治療を目的とする甲1発明において,二酸化炭素が空気中に拡散せず,患部に長く接した方が皮膚における二酸化炭素の吸収効率を高め,褥瘡やかゆみなどの治療効果が高くなることは周知であるから,甲1発明の課題は,気泡状の二酸化炭素の経皮吸収の持続化である。 そして,上記アの周知技術を基礎付ける文献は,気泡状の二酸化炭素の持続性の研究についてのものであるから,甲1発明と上記アの周知技術との課題は共通する。 (エ) 作用・機能の共通性 甲1発明は,酸と炭酸塩を用いて気泡状の二酸化炭素を発生させる作用を有するところ,上記アの周知技術についても,二酸化炭素の発生との作用を有するものが認められる(甲13)。したがって,甲1発明と上記アの周知技術の作用・機能も共通している。 (オ) なお,特定の化学分野の研究者ではないC医師が,ジェルにより炭酸ガスを封じ込めるという技術の適用を,バブを用いた甲1発明に接して即座に想到したこと(甲2)は,ジェルにより炭酸ガスを封じ込めるという技術を甲1発明に適用することに,本件発明の課題に直面した当業者が,格別の努力を要せず想到できることを裏付けている。 ウ 阻害要因がないこと (ア) 本件審決の判断の誤り 褥瘡治療目的のガーゼを患部に当てる態様の湿布を,粘性組成物を塗布した上で利用することは,通常の湿布の使用方法であり,それにより温湿布としてのバブ浴の使用感が大きく変化するなどとはいえない。 また,仮に使用感が変化するとしても,本件発明の課題の解決には何ら支障はなく,阻害要因とはならない。甲1発明の湯を含水粘性組成物に置き換えても,甲1発明の作用効果に影響はなく,甲1に当該置換を排斥する記載もない。 したがって,相違点1の克服について阻害要因があるとした本件審決の判断は誤りである。 (イ) 被告の主張に対する反論 a 甲1発明の湯を粘性組成物に置き換えるということは,炭酸ガスを経皮吸収させる媒介物を湯から粘性組成物に置換することを意味するのであって,媒介物として炭酸ガスを経皮吸収させるという機能を果たせるのであれば,当業者は上記置換に当たって技術常識の範囲内でその方法を変更するはずである。そして,当該変更は,いわゆる設計事項の変更にすぎない。 まず,甲1発明における,湯をバケツ又は洗面器に収容し,それにガーゼ又はタオルを浸すという構成は,一般常識に照らすと,一切粘性を有しないため,ガーゼ等のうち皮膚との接着面に限って染み込ませることが難しい一方で,大量に調達することが簡単であるという湯の特性に基づくものであることが明らかである。そして,甲1発明の湯を含水粘性組成物に置き換えた場合,その粘性から,わざわざバケツ又は洗面器いっぱいに粘性組成物を収容しなくとも,ガーゼ又はタオルに,患部に当てるのに必要な量のみを塗布することができ,かつ,それで足りることは,当業者の技術常識のみならず,一般常識に照らしても明らかである。 そのため,当業者において,甲1発明の湯を含水粘性組成物に置き換える際には,バケツ又は洗面器いっぱいに含水粘性組成物を用意し,それにガーゼ又はタオルを浸すというような不合理な方法をあえて選択するはずはなく,ガーゼ又はタオルに必要な量のみ含水粘性組成物を塗布するという方法に当然変更するはずである。そのような変更は,一般常識に従えば誰でも行うものであり,一切の技術的知見を要しないものであって,設計事項にすぎない。 また,化粧品においては,大量の湯を用いることを要する構成は,使用する上であまりに不便であるため一般的に採用されないし,化粧品の剤型として,顆粒と粘性組成物といった2剤型にすることは慣用されている(甲15〜20) これらの点 。 から,甲1発明に触れた当業者は,自身の化粧品についての知見に基づき,大量の湯にタオル又はガーゼを浸すという方法から,タオル又はガーゼに粘性組成物を必要量のみ塗布するという方法に置換することを容易に思いつくのである。 b 甲1発明の【作用機序・効果】の項には, 「入浴剤バブは重炭酸水素ナトリウム(重曹)を含んでおり,湯に溶かすことにより,炭酸ガスを発生する。 この炭酸ガスにより局所の血行を改善し,褥瘡を予防または治療する試みがなされている。すなわち,温泉の効果を応用するものである。」と記載されており,温熱作用についての言及は一切ない。 上記記載のうち「入浴剤バブは・・・湯に溶かすことにより,炭酸ガスを発生する。というバブについての説明書きからして, 」 甲1発明がバブの投入対象を「お湯」と記載している理由は,バブという製品がそもそも入浴剤であり,湯に加えられることが通常であるからであると考えるべきである。少なくとも,甲1の記載から,湯の使用及びそれによる温熱作用が「褥瘡治療に不可欠」などということはできない。 そもそも,炭酸ガスの経皮吸収が目的であれば,媒体に溶解する炭酸ガスの濃度が高い方が好ましいのは当然であるところ,液状の媒体(水など)の温度が低ければ低いほど溶解する気体の量が増えることはヘンリーの法則として著名な技術常識であるから,温熱作用が「褥瘡治療に不可欠」といえないのは物理法則からも明白である。 したがって,甲1発明の湯を含水粘性組成物に置き換える上で,湯の温熱作用が喪失することは,何ら阻害要因とならない。 (3) まとめ 以上によると,甲1発明に,周知技術を適用して,湯を増粘剤を添加した粘性組成物に置換することについては強い動機付けが認められる上,これを阻害する要因もないから,相違点1の克服は容易である。しかるに,相違点1について容易想到性を否定した本件審決には,誤りがある。そして,相違点1についての判断を前提とする相違点2の判断についても,同様の誤りがある。 本件発明1について上記のように判断に誤りがある以上,本件発明2〜7についての判断も,その前提に誤りがある。 |
|
被告の主張
1 取消事由1(甲1発明及び相違点2の認定の誤り)について 原告の主張する甲1発明及び相違点2の認定の誤りの主張は,相違点2についての容易想到性の主張に連動しない主張であり,本件審決の認定の違法性を基礎付ける根拠とはならない。 2 取消事由2(相違点1及び2についての容易想到性の判断の誤り)について (1) 本件発明の課題の認識可能性について ア 甲1発明は,約42度の湯(洗面器やバケツ)に,入浴剤(バブ片)1〜数片を投入し,入浴剤が完全に溶けた後(すなわち気泡状の二酸化炭素の発生終了後)に,褥瘡治療に使用している(甲1の【使用方法】及び図17)もので,バブ片が投入された湯において,気泡状の二酸化炭素が発生している間(すなわちバブ片が溶けている最中)は,褥瘡治療に使用されていない。甲1発明においては,湯に溶存している二酸化炭素が経皮吸収されることにより血行促進作用の一端を担っているものと考えられ,発生した気泡状の二酸化炭素を保持させることは必要とされていない。 上記のように,甲1発明は,気泡状の二酸化炭素を使用していないから,甲1発明に接する当業者が,甲1発明に,気泡状の二酸化炭素を持続的に発生させ保持するという課題があると認識するとはいえず,甲1発明において,入浴剤を投入する湯に対して二酸化炭素を気泡状で保持させる機能を付与することが動機付けられることはありえない。 したがって,気泡状の二酸化炭素を持続的に発生させ保持するという課題に基づき,甲1発明において,湯を増粘剤を添加した粘性組成物に置換することが容易であるといえないことは,明らかである。 イ 本件発明が甲1発明から容易に想到できたか否かを考えるに当たっては,甲1発明に接する当業者が,甲1発明からどのような課題を認識できるかを考えることが必要になることはいうまでもなく,甲1発明の技術内容を無視して,本件発明の課題が自明か否かを論じることは妥当でない。この点,甲1発明の技術分野における周知の課題をもとに,甲1発明が内在している課題を認定することは必ずしも否定されないとしても,その場合においても,甲1発明が内在している課題の検討は不可欠であって,甲1発明から課題が認識できるか否かを判断する必要がないという原告の主張は誤りである。 (2) 甲1発明への周知技術の適用について ア 甲1発明に周知技術を適用する動機付けについて (ア) 原告が「アルギン酸塩をガーゼに塗布する挿絵」であると主張する甲1文献の挿絵(甲76の24頁)は,「さまざまな作用を有する軟膏類,散剤など」を「ガーゼにのばして」いる挿絵にすぎない。甲1文献中, 「3)アルギン酸塩被覆材」としては, 「カルトスタット」という製品が紹介されており,上記挿絵は当該製品を示すものではない。なお, 「カルトスタット」は,アルギン酸塩繊維を絨絡してシート状にしたもの又は絨絡せずに不定型の綿状にしたもので,体液等を吸収することを目的としたものであり(乙3) これをアルギン酸ナトリウムを含む粘性組成 ,物に浸したりすることはあり得ない。 また,甲1文献において, 「4)特殊ガーゼ類」として,抗菌剤を含むガーゼや非固着性のガーゼについて様々な製品が紹介されているが,それら自体が抗菌剤を含んだり,非固着性を有する完成品であって,それらにアルギン酸ナトリウムを染み込ませることはあり得ない。さらに,甲77に記載の「Calgitex gauze」も「カルトスタット」と同様に,アルギン酸塩を繊維状に加工したガーゼであり,血液を吸収するものである。 したがって,甲76及び77の記載は,アルギン酸ナトリウムを含む粘性組成物にガーゼを浸すことを示唆するようなものではない。 (イ) また,甲1文献中の「バブ浴」の記載(甲76の24頁)は, 「6.理学療法」の一つとして紹介されているにすぎず,アルギン酸塩被覆材や特殊ガーゼ類を使用した「3.創面を被覆する」というフェーズとは全く異なるものであり,これらを同時に行うことはあり得ない。そのため,上記記載も,バブ浴において,複合顆粒剤を添加する水溶液を,単なる湯から増粘剤が添加された粘性組成物に置換することを示唆するものではない。 イ 阻害要因について (ア) 「褥瘡治療目的のガーゼを患部に当てる態様の湿布を,粘性組成物を塗布した上で利用する」という原告主張の使用態様は,甲1発明の湯を増粘剤を添加した粘性組成物に置換した態様に合致していない。甲1発明におけるガーゼは,入浴剤を溶かした湯に浸して,褥瘡部に当てるために使用されるものであり,粘性組成物を塗布した上に当てて使用する態様とは使用態様を異にする。 (イ) 甲1発明における褥瘡の治療は,入浴剤を溶かした湯にガーゼやタオルを浸し,それを褥瘡部に当てたり,その湯に褥瘡が生じた足を入れて足湯をしたりするものであるが,入浴剤を溶かす湯の代わりに,気泡状の二酸化炭素を保持できる含水粘性組成物にガーゼやタオルを浸すことはそもそも困難であるし,含水粘性組成物にガーゼやタオルを浸した場合の使用感は,湯に浸した場合の使用感とは大きく異なったものとなる。 また,甲1発明では,バケツや洗面器に収容する多量の湯が必要とされるところ,そのような多量の湯の代わりに,多量の含水粘性組成物を2剤タイプの製品の一剤として提供することは,著しい利便性の低下をきたすことになる。 さらに, 「バブが溶けた湯にガーゼやタオルを浸し,それを褥瘡部に当てて温湿布をするか(冷めないように湿布の上からビニールカバーをかぶせ,約42度の湯枕を当てるとよい)」という甲1(【使用方法】の欄)の記載からも明らかなように,甲1発明においては,入浴剤を投入する対象が湯に限定されている。すなわち,甲1発明では,湯の中で発生する炭酸ガスによる作用と,湯による温熱作用との双方を利用することにより,局所の血行を改善し,褥瘡の治療を試みているのであり,甲1発明において,褥瘡治療に不可欠である湯を他のものに置換すると,湯による温熱作用が喪失し,その結果,褥瘡の治療効果の低減を招くことが懸念される。 したがって,甲1発明において,入浴剤を投入する湯の代わりに「アルギン酸ナトリウムを含み,二酸化炭素を気泡状で保持できる含水粘性組成物」を2剤タイプの製品の一剤として提供することには,使用感の観点のほか,使用に当たっての利便性や褥瘡の治療効果の観点からみても,阻害要因がある。 原告は,仮に使用感が変化するとしても本件発明の課題の解決には支障がないと主張するが,阻害要因があるか否かは,甲1発明の効果が阻害されるか否かとの観点から判断されるべきものであって,本件発明の課題の解決に支障がないことは,阻害要因の存在を否定する根拠とならない。 (3) まとめ 以上のとおり,本件発明1の進歩性を否定した本件審決の認定は妥当なものであり,本件審決が本件発明2〜7の有効性を認めた点についても,取消理由は存在しない。 |
|
当裁判所の判断
1 本案前の答弁について (1) 特許無効審判請求を不成立とした審決に対する取消しの訴えの利益は,特許権消滅後であっても,特許権の存続期間中にされた行為について,原告に対し,損害賠償又は不当利得返還の請求が行われたり,刑事罰が科されたりする可能性が全くなくなったと認められる特段の事情がない限り,失われることはないというべきである(知財高裁平成28年(行ケ)第10182号,第10184号同30年4月13日特別部判決・判例タイムズ1460号125頁参照)。 (2) 本件においては,別件破産事件の手続がいまだ進行中であって,原告の主張する事情のうち破産事件の終結に伴う事情は,考慮すべきものではない。また,別件破産事件が終結したとしても,そのことから直ちに,被告から原告に対する損害賠償又は不当利得返還の請求を行うことができなくなるわけではないから,原告と被告との間で本件特許権の有効性の判断が求められる法的な可能性が全くなくなるということもできない。 したがって,被告の本案前の主張には理由がない。 2 本件明細書の記載(甲75) 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎,貨幣状湿疹,乾皮症,脂漏性湿疹,蕁麻疹,痒疹,主婦湿疹,尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹,創傷,熱傷,き裂,びらん,凍瘡などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴うかゆみ;褥創,創傷,熱湯,口角炎,口内炎,皮膚潰瘍,き裂,びらん,凍瘡,壊疽などの皮膚粘膜損傷;移植皮膚片,皮弁などの生着不全;歯肉炎,歯槽膿漏,義歯性潰瘍,黒色化歯肉,口内炎などの歯科疾患;閉塞性血栓血管炎,閉塞性動脈硬化症,糖尿病性末梢循環障害,下肢静脈瘤などの末梢循環障害に基づく皮膚潰瘍や冷感,しびれ感;慢性関節リウマチ,頸肩腕症候群,筋肉痛,関節痛,腰痛症などの筋骨格系疾患;神経痛,多発性神経炎,スモン病などの神経系疾患;乾癬,鶏眼,たこ,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹などの角化異常症;尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,化膿性湿疹などの化膿性皮膚疾患;排便反射の減衰または喪失に基づく便秘;除毛後の再発毛抑制(むだ毛処理) ;そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題などを副作用をほとんどともなわずに治療あるいは改善でき,また所望する部位に使用すれば,その部位を痩せさせられる二酸化炭素含有粘性組成物に関する。 【背景技術】 【0002】 痒みの治療に対して,局所療法として外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤などが一般に使用される。これらは痒みが発生したときに使用され,一時的にある程度痒みを抑える。湿疹に伴う痒みに対しては外用の非ステロイド抗炎症剤やステロイド剤の使用が一般的であり,これらは炎症を抑えることにより痒みの発生を防ごうとするものである。 【0003】 しかしながら,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤はアトピー性皮膚炎,水虫や虫さされの痒みにはほとんど効果がない。外用の非ステロイド抗炎症剤やステロイド剤は,痒みに対する効果は弱く,即効性もない。また,ステロイド剤は副作用が強いため,使用が容易でない。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本発明は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎,貨幣状湿疹,乾皮症,脂漏性湿疹,蕁麻疹,痒疹,主婦湿疹,尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹,創傷,熱傷,き裂,びらん,凍瘡などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴う痒みに有効な製剤とそれを用いる治療及び予防方法を提供することにある。 【0005】 また本発明は,褥創,創傷,熱傷,口角炎,口内炎,皮膚潰瘍,き裂,びらん,凍瘡,壊疽などの皮膚粘膜損傷;移植皮膚片,皮弁などの生着不全;歯肉炎,歯槽膿漏,義歯性潰瘍,黒色化歯肉,口内炎などの歯科疾患;閉塞性血栓血管炎,閉塞性動脈硬化症,糖尿病性末梢循環障害,下肢静脈瘤などの末梢循環障害に基づく皮膚潰瘍や冷感,しびれ感;慢性関節リウマチ,頸肩腕症候群,筋肉痛,関節痛,腰痛症などの筋骨格系疾患;神経痛,多発性神経炎,スモン病などの神経系疾患;乾癬,鶏眼,たこ,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹などの角化異常症;尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,化膿性湿疹などの化膿性皮膚疾患;排便反射の減衰または喪失に基づく便秘;除毛後の再発毛抑制(むだ毛処理) ;そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満に有効な製剤とそれを用いる予防及び治療方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者らは鋭意研究を行った結果,二酸化炭素含有粘性組成物が,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤,非ステロイド抗炎症剤,ステロイド剤などが無効な痒みにも有効であることを発見し,更に該組成物が抗炎症作用や創傷治癒促進作用,美肌作用,部分肥満解消作用,経皮吸収促進作用なども有することを発見して本発明を完成した。 【0008】 かゆみを伴う皮膚粘膜疾患もじくは(判決注:「もしくは」の誤記と認める。)皮膚粘膜障害としては,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎,貨幣状湿疹,乾皮症,脂漏性湿疹,蕁麻疹,痒疹,主婦湿疹,尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹,創傷,熱傷,き裂,びらん,凍瘡などが挙げられる。 【0009】 皮膚粘膜損傷としては,褥創,創傷,熱傷,口角炎,口内炎,皮膚潰瘍,き裂,びらん,凍瘡,壊疸などが挙げられる。 【0016】 化粧料としては,美白,肌質改善,そばかす改善,部分痩せ,除毛後の再発毛抑制,髪の艶改善効果などがあり,クリーム,ジェル,ペースト,クレンジングフォーム,パック,マスクなどの形状で使用できる。 【0017】 本発明でいう「含水粘性組成物」とは,水に溶解した,又は水で膨潤させた増粘剤の1種又は2種以上を含む組成物である。該組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用した場合,二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡を保持できる。該組成物は,二酸化炭素を気泡状で保持するためのものであれば特に限定されず,通常の医薬品,化粧品,食品等で使用される増粘剤を制限なく使用でき,剤形としてもジェル,クリーム,ペースト,ムースなど皮膚粘膜や損傷組織,毛髪などに一般的に適用される剤形が利用できる。 【0018】 本発明には,例えば以下のキットが含まれる。 1)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸とのキット; 2)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩とのキット; 3)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット; 4)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット; 5)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有含水粘性組成物のキット; 6)炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物のキット; 7)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有シートのキット; 8)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩含有シートのキット; 9)炭酸塩と酸と含水粘性組成物のキット; 10)含水粘性組成物と,炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤含有シートのキット;及び11)炭酸塩と酸と水と増粘剤のキット。 【0019】 気泡状の二酸化炭素を含む本発明の組成物は,これらキットの各成分を使用時に混合することにより製造できる。 【0020】 増粘剤としては,例えば天然高分子,半合成高分子,合成高分子,無機物などがあげられ,これらの1種又は2種以上が用いられる。 【0031】 本発明の含水粘性組成物に二酸化炭素を保持させる方法としては,該組成物に炭酸ガスボンベなどを用いて二酸化炭素を直接吹き込む方法がある。 【0032】 また,反応により二酸化炭素を発生する物質を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生させるか,又は含水粘性組成物を形成すると同時に二酸化炭素を発生させて二酸化炭素含有粘性組成物を得ることも可能である。二酸化炭素を発生する物質としては,例えば炭酸塩と酸の組み合わせがある。具体的には以下のような組み合わせにより二酸化炭素含有粘性組成物を得ることが可能であるが,本発明は二酸化炭素が気泡状で保持される二酸化炭素含有粘性組成物が形成される組み合わせであれば,これらの組み合わせに限定されるものではない。 1)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の組み合わせ; 2)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の組み合わせ; 3)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ; 4)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ; 5)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有含水粘性組成物の組み合わせ; 6)炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物の組み合わせ; 7)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有シートの組み合わせ; 8)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩含有シートの組み合わせ; 9)炭酸塩と酸と含水粘性組成物の組み合わせ; 10)含水粘性組成物と,炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤含有シートの組み合わせ;及び11)炭酸塩と酸と水と増粘剤の組み合わせ。 【0033】 なお,炭酸塩含有含水粘性組成物,酸含有含水粘性組成物及び含水粘性組成物は,各々炭酸塩の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等,酸の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等及び増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等の製剤を製造し,これらから調製してもよい。炭酸塩の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等及び酸の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等は各々炭酸塩及び酸の徐放性製剤とすることにより,更に持続性を増強することも可能である。 【0034】 本発明に用いる炭酸塩としては,炭酸アンモニウム,炭酸カリウム,炭酸カルシウム,炭酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウム,セスキ炭酸カリウム,セスキ炭酸カルシウム,セスキ炭酸ナトリウム,炭酸水素カリウムなどがあげられ,これらの1種または2種以上が用いられる。 【0035】 本発明に用いる酸としては,有機酸,無機酸のいずれでもよく,これらの1種または2種以上が用いられる。 【0036】 有機酸としては,ギ酸,酢酸,プロピオン酸,酪酸,吉草酸等の直鎖脂肪酸,シュウ酸,マロン酸,コハク酸,グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,フマル酸,マレイン酸,フタル酸,イソフタル酸,テレフタル酸等のジカルボン酸,グルタミン酸,アスパラギン酸等の酸性アミノ酸,グリコール酸,リンゴ酸,酒石酸,クエン酸,乳酸,ヒドロキシアクリル酸,α-オキシ酪酸,グリセリン酸,タルトロン酸,サリチル酸,没食子酸,トロパ酸,アスコルビン酸,グルコン酸等のオキシ酸などがあげられる。 【0049】 本発明の二酸化炭素含有粘性組成物を皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害の治療や予防目的,又は美容目的で使用する場合は,該組成物を直接使用部位に塗布するか,あるいはガーゼやスポンジ等の吸収性素材に含浸させるか,またはこれらの素材を袋状に成形してその中に該組成物を入れて使用部位に貼付してもよい。該組成物を塗布又は貼付した部位を通気性の乏しいフィルム,ドレッシング材などで覆う閉鎖療法を併用すれば更に高い効果が期待できる。該組成物を満たした容器に使用部位を浸すことも有効である。その場合,炭酸ガスボンベなどを用いて該組成物に二酸化炭素を補給すればより効果が持続する。 【0053】 本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は使用後ティッシュペーパーなどでふき取ったり,水などで洗い流すことにより容易に除去できるが,該組成物の原料及び該組成物自体はいずれも非常に安全性が高いので,褥創面などの損傷組織に投与した場合は,完全に患部から除去しなくても問題はなく,また,場合によっては除去せずに新しい二酸化炭素含有粘性組成物を追加使用することも可能である。 【0055】 本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は,数分程度皮膚または粘膜に適用し,すぐに拭き取ってもかゆみ,各種皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害の治療や予防,あるいは美容に有効であるが,通常5分以上皮膚粘膜もしくは損傷皮膚組織等に適用する。特に褥創治療などでは24時間以上の連続適用が可能であり,看護等の省力化にも非常に有効である。肌質改善等の美容目的に使用する場合は,1回の使用ですぐに効果が得られる。使用時間や使用回数,使用期間を増やせば,美容効果は更に高まる。部分痩せ用途に対しては,1日1回の使用を1ヶ月以上継続すれば十分な効果が得られるが,使用時間や使用回数,使用期間を増やせば効果は更に高まる。 【0056】 本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は,密閉容器等に保存することにより,長期間有効性を失うことなく使用が可能である。また,用時調製により使用することも可能である。用時調製による二酸化炭素含有粘性組成物の具体的な使用方法としては,例えば,炭酸塩を含有する含水粘性組成物や含水もしくは多孔性高分子フィルム又はシート等を使用部位に塗布又は貼付し,その上に酸を含有する含水粘性組成物や含水もしくは多孔性高分子フィルム又はシート,顆粒剤等を塗布したり,貼付又は散布して二酸化炭素含有粘性組成物を得ることもできる。また,この顆粒剤等は通気性の乏しい高分子フィルム又はシート等に粘着剤で接着しておき,この高分子フィルム又はシート等を,炭酸塩を含有する含水粘性組成物や含水もしくは多孔性高分子フィルム又はシート等を塗布又は貼付した上からそれを覆うように貼付すれば二酸化炭素含有粘性組成物が得られると同時に,閉鎖療法が簡便に実施できる。 もちろんこれらの組み合わせで炭酸塩と酸を入れ替えても有効であるし,顆粒剤等を炭酸塩と酸の複合顆粒剤等とし,含水粘性組成物との組み合わせで二酸化炭素含有粘性組成物を得ることも可能である。用時調製では二酸化炭素の発生に伴う吸熱反応により二酸化炭素含有粘性組成物が冷たくなるため,調製用の材料を暖めておくか,又は調製後に二酸化炭素含有粘性組成物を暖めてもよい。 3 甲1発明及び甲1文献について (1) 甲1は,甲1文献のうち, 「褥瘡治療薬剤・材料」という項目の一つである「バブ浴(人工炭酸泉浴剤 花王バブ)」に係る部分(甲1文献の72頁)であり,甲1には,次のアの事項が記載され,次のイの図が掲載されている。 ア バブ浴(人工炭酸泉浴剤 花王バブ)「【作用機序・効果】 入浴剤バブは重炭酸水素ナトリウム(重曹)を含んでおり,湯に溶かすことにより,炭酸ガスを発生する。この炭酸ガスにより局所の血行を改善し,褥瘡を予防または治療する試みがなされている。すなわち,温泉の効果を応用するものである。 【使用方法】 バブ1個を1/4から1/8の大きさに割る。そのうちの1〜数片を約42度の湯(洗面器〜バケツ)に溶かす。バブは炭酸ガスを出しながら溶ける(図17)。 バブは無着色,無香料のものがよいが,なかなか手に入らない。その場合,香料入りでもかまわないが,刺激臭が強いので直接湯に鼻を近づけない。 バブが溶けた湯にガーゼやタオルを浸し,それを褥瘡部に当てて温湿布をするか(冷めないように湿布の上からビニールカバーをかぶせ,約42度の湯枕を当てるとよい),その湯に褥瘡を生じた足を入れて足浴する。ただし,足浴によって感染を引き起こすことがあるので注意が必要である(バケツは個人用とし,また足浴後は創の消毒,洗浄を行う)。 バブ浴は1日1回〜数回行う。 バブ浴は褥瘡の治療に用いられるだけでなく,褥瘡や下肢の皮膚潰瘍の予防にも有効である。私たちは,褥瘡のリスクのある患者さんの清拭にバブを溶かした湯を使用している。 また,寒い季節になると,動脈硬化や血管の攣縮により,足先の血行が悪くなりチアノーゼを呈する患者さんがある(特に高齢で閉塞性動脈硬化症や糖尿病を合併している人に多い) ・・・。このまま放置すると,下肢の皮膚潰瘍(とくに趾先に多い)を生じる場合がある。プロスタンディンなどの血管拡張剤を使用する前に,このバブによる足浴を試みるべきである。有効なことが多い。」 イ 図17 (2) 甲1文献の22頁〜25頁である甲76は,甲1文献のうち「治療法選択の原則,治療効果の評価」という項目に係る部分であり,甲76には, 「治療法の選択」「治療の評価」の項目に続き, , 「褥瘡の治療法」という項目において,次のアの記載があり,次のイの挿絵が掲載されている。 ア 褥瘡の治療法「 現在,褥瘡の治療に用いられている方法についてまとめてみた。 1.創部を洗浄する ・・・ 2.外用剤を創部局所に使用する さまざまな作用を有する軟膏類,散剤などを直接創部に塗布(充填)したり,ガーゼにのばして創部に当てる。 1)局所の血流改善のために用いられるもの ・・・2)局所の炎症を抑制するために用いられるもの ・・・3)感染の予防,または感染のコントロールのために用いられるもの ・・・4)滲出液のコントロール,浮腫の軽減のために用いられるもの ・・・5)創面を清浄化するために用いられるもの ・・・6)肉芽形成を促進するために用いられるもの ・・・7)創を収縮させるために用いられるもの ・・・8)上皮化を促進するために用いられるもの ・・・9)創表面を乾燥させるために用いられるもの ・・・10)創面,および創周囲の皮膚を保護するために用いられるもの ・・・ 3.創面を被覆する ドレッシング材で創面を覆うことにより,創の保護,疼痛軽減,湿潤環境の形成,上皮化の促進をはかる。 1)ポリウレタンフィルム材(準閉鎖性フィルムドレッシング) ・・・2)ハイドロコロイドドレッシング材 ・・・3)アルギン酸塩被覆材●アルギン酸塩が浸出液を吸収するとともに,ゲル化し,湿潤環境を形成する:カルトスタット。 4)特殊ガーゼ類 ・・・5)生体成分を使用した被覆材 ・・・ 4.外科的デブリッドマンを行う ・・・ 5.外科的に創を閉鎖する(皮弁形成術,筋皮弁形成術) ・・・ 6.理学的療法(主に「浅い褥瘡」に適用する)1)日光浴,赤外線療法,紫外線療法 ・・・2)マッサージ療法 ・・・3)乾温風(ドライヤー)療法 ・・・4)ハバードタンク療法 ・・・5)バブ浴●人工炭酸泉浴剤であるバブを湯に溶かし,温湿布に用いるか,足浴に使用する。 7.その他 ・・・ 以上のように非常に多くの褥瘡治療法があるが,その中でも外用剤や被覆材による治療が中心となる。」 イ 挿絵(上記アの記載中, 「3.創面を被覆する」の「3)アルギン酸塩被覆材」の記載が甲1文献の23頁末尾にあり,同24頁の記載は上記アの「●アルギン酸塩が」から始まる。その上にこの挿絵がある。) 4 取消事由1(甲1発明及び相違点2の認定の誤り)について (1) 上記3の甲1の記載からすると,本件審決の認定する前記第2の3(1)の甲1発明が認められる。そして,甲71(日吉俊紀ほか「人工炭酸泉浴剤による褥創治療について」総合リハ17巻8号605頁〜609頁,平成元年8月発行),甲72(萬秀憲ほか「人工炭酸浴に関する研究(第1報)炭酸泉の有効炭酸濃度について」日温気物医誌47巻3・4号123頁〜129頁,昭和59年5月発行)及び甲73(前田真治ほか「人工炭酸泉浴剤の褥創温湿布療法における皮膚温の変化」日温気物医誌53巻4号195頁〜199頁,平成2年8月発行)の記載並びに弁論の全趣旨によると,バブには酸が含まれていること及び炭酸塩と酸が反応して炭酸ガスが発生することは技術常識であると認められるから,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおり認めることが相当である。 (一致点) 「医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有組成物を得るためのものであって,炭酸塩及び酸を含むもの。」 (相違点1) 「二酸化炭素含有組成物」が,本件発明1においては, 「粘性」を有するものであるのに対し,甲1発明においては, 「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」であり,粘性の特定がない点。 (相違点2) 「炭酸塩及び酸を含むもの」が,本件発明1においては, 「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;2)酸及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,炭酸塩を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;又は3)炭酸塩と酸を含有する複合顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ;からなり,含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット」であるのに対し,甲1発明においては, 「炭酸水素ナトリウムと酸を含み,湯に溶かして炭酸ガスを発生させるものである入浴剤バブを割った剤」である点。 (2) したがって,取消事由1は,上記の限度で理由がある。もっとも,下記5のとおり,以上の一致点,相違点の認定に基づき本件発明の容易想到性を判断しても,本件発明は容易想到とはいえないから,本件審決が違法となるということはできない。 5 取消事由2(相違点1及び2についての容易想到性の判断の誤り)について (1) 相違点1に係る容易想到性について ア 本件発明1における二酸化炭素含有組成物は「粘性」を有するものであるところ,本件発明は, 「皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴う痒みに有効な製剤とそれを用いる治療及び予防方法を提供すること」(本件明細書の段落【0004】 及び ) 「皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満に有効な製剤とそれを用いる予防及び治療方法を提供すること」(本件明細書の段落【0005】)を目的とするものであり,本件明細書の段落【0017】に「該組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ」「二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気 ,泡を保持できる。」及び「該組成物は,二酸化炭素を気泡状で保持するためのものであれば特に限定されず」との記載があること,段落【0032】に「二酸化炭素が気泡状で保持される二酸化炭素含有粘性組成物」との記載があること,段落【0033】に「炭酸塩の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等及び酸の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等は各々炭酸塩及び酸の徐放性製剤とすることにより,更に持続性を増強することも可能である。」との記載があること,段落【0055】に「本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は,数分程度皮膚または粘膜に適用し,すぐに拭き取ってもかゆみ,各種皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害の治療や予防,あるいは美容に有効であるが,通常5分以上皮膚粘膜もしくは損傷皮膚組織等に適用する。特に褥創治療などでは24時間以上の連続適用が可能であり,看護等の省力化にも非常に有効である。 との記載があることを踏まえると, 」 本件発明1の二酸化炭素含有粘性組成物における「粘性」とは,二酸化炭素を気泡状で相応の時間にわたり保持できる程度の粘性を意味するものと解される。 イ(ア) 甲1の記載のうち,【作用機序・効果】欄の記載や,【使用方法】における約42度の湯を用いる旨の記載等を踏まえると,甲1の【作用機序・効果】欄に記載の甲1発明が利用する「温泉の効果」とは,古くから知られる炭酸泉の効果,すなわち,炭酸泉に含まれる炭酸ガスの末梢血管拡張作用に基づく循環改善効果及び湯の温熱作用による血行改善効果(甲71〜73)の双方を含むものと解される。 そして,上記の点に加え,甲1の図17に「バケツにバブ片を1〜数個入れ,完全に溶けるまで待つ」との説明が記載されていることを踏まえると,甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」について,甲1発明における上記の湯の温度やバブ片の個数等は,バブ片が完全に溶けた状態で,なお一定の温度にある水分中に循環改善効果が期待できる濃度の炭酸ガスを含有させた状態とすることを企図したものと認められるところであって,そのような「組成物」に,二酸化炭素がなお「気泡」の状態で存しているものとは解されない。 (イ) 甲1に,二酸化炭素を気泡状で相応の時間にわたり保持できる程度の粘性を付与することの記載はなく,そのことについての示唆や動機付けとなる記載があるとは認められない。 また,甲1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」については,上記のとおり二酸化炭素が「気泡」の状態で存しているものとは解されないから,二酸化炭素の保持について「気泡」という点に着眼することが直ちに容易であるとは解し難いし,二酸化炭素を気泡状で相応の時間にわたり保持できる程度の粘性を付与した場合,温湿布や足浴に用いたりする場合の使用感や利便性が少なからず変化するとみられる。これらのことも,上記のように示唆や動機付けがあるとはみられないことを裏付けるものである。 ウ 原告は,証拠(甲4〜6,13,26,45,57〜59)から,気泡状の二酸化炭素を発生させて利用する技術分野において,二酸化炭素の発生・保持の持続性を高めるために媒質に粘性を持たせるという技術は,周知技術であったと主張するが,これらの原告が指摘する各証拠のうち,甲4,5,26,45及び59には,「二酸化炭素の気泡」についての記載はなく,甲13には,媒質の「粘性」についての記載はなく,甲57及び58には,界面活性剤についての記載があるのみである。結局のところ, 「二酸化炭素の気泡」の「粘性」について記載されているのは,甲6のみである。このような各証拠を寄せ集めて原告が主張する周知技術を認めることはできず,これらの証拠から,原告が主張する周知技術が存したとは認められない。なお,甲6は,食品(ゼリー用粉末等)に関する発明であって,本件発明とは技術分野が大きく異なり,甲1発明に甲6に記載された発明を適用する動機付けは認められない。 エ 原告は,@甲1に「バブが溶けた湯にガーゼやタオルを浸し,それを褥瘡部に当てて温湿布をする」という記載があること,A甲1文献に,本件発明の粘性組成物の代表例であるアルギン酸塩をガーゼに塗布する挿絵があること,B甲1文献に,「4)特殊ガーゼ類」の項において,「抗菌作用を有したり,生体面と固着しないように処理されたガーゼ(メッシュ) で褥瘡を被覆する方法が記載されてい 」ること,C甲1文献には,「バブ浴」の記載があり(甲76),甲1文献を見てバブ浴を行う当業者は,上記のガーゼに粘性組成物を浸すことについての記載も必ず読むことなどを指摘する。 しかし,前記3(2)イの甲1文献の挿絵(上記A)やガーゼによる褥瘡の被覆(上記B)に対し,甲76の「5)バブ浴」の記載(上記C)は, 「6.理学的療法(主に「浅い褥瘡」に適用する)」の項に記載されているところ,甲1文献には,「以上のように非常に多くの褥瘡治療法があるが,その中でも外用剤や被覆材による治療が中心となる。」と記載され,上記のうち「外用剤や被覆材による治療」は,「2.外用剤を創部局所に使用する」及び「3.創面を被覆する」を指すものと解されるから,甲1文献に接した当業者において,上記「5)バブ浴」の記載(上記@,C)と上記挿絵(上記A)及びガーゼによる褥瘡の被覆(上記B)の記載とは,それぞれ異なる治療法に係る記載であると理解するものと解される。それゆえ,上記@〜Cから,甲1文献に,二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を付与することの示唆や動機付けがあると認めることはできない。 オ したがって,気泡状の二酸化炭素を発生させて利用する技術分野において,ガス保留性(気泡状の二炭化炭素の持続性)を維持するという課題が知られていたとしても,その課題を, 「皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴う痒みに有効な製剤とそれを用いる治療及び予防方法を提供すること」とともに, 「皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満に有効な製剤とそれを用いる予防及び治療方法を提供すること」のために,二酸化炭素を気泡状で持続的に保持させる「粘性」を付与することによって解決することを,当業者が甲1発明に基づいて容易に想到することができたとは認められない。なお,C医師が述べる本件発明に至る経緯(甲2,3) 本件発明を思いつくきっかけとなった出来事について述べたものにすぎず, は,本件発明1を甲1発明に基づいて容易に想到することができないとの上記認定を左右するものではない。 (2) 小括 以上によると,本件発明1は,その余の点について判断するまでもなく,甲1発明に公知技術等を適用することで,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 そして,本件発明2〜5は,本件発明1の全ての発明特定事項を含むもので,本件発明6及び7は,本件発明1〜5のいずれかから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む「医薬組成物」又は「化粧料」に係るものであり,本件発明2〜7は,いずれも本件発明1の全ての発明特定事項又はそれらに対応する事項を含むものである。そうすると,本件発明2〜7についても,同様に,甲1発明に公知技術等を適用することで,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 したがって,取消事由2は,理由がない。 |
|
結論
以上の次第で,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
---|---|
裁判官 | 中島朋宏 |
裁判官 | 勝又来未子 |