関連審決 |
無効2017-800093 |
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事件 |
令和
2年
(行ケ)
10033号
審決取消請求事件
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5 原告日本水産株式会社 同訴訟代理人弁護士 末吉剛 同 高橋聖史 10 同訴訟代理人弁理士 寺地拓己 同 一宮維幸 被告 ビーエーエスエフアーエス 15 同訴訟代理人弁護士 大野聖二 同 金本恵子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2021/06/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2017−800093号事件について令和2年2月12日にした審決のうち,特許第6026672号の請求項7及び10に係る部分を20 取り消す。 2 原告のその余の請求を棄却する。 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 4 被告について,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間25 を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2017-800093号事件について令和2年2月12日 にした審決のうち,特許第6026672号の請求項1ないし17に係る部分 を取り消す。 5 第2 事案の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,平成25年10月31日(パリ条約による優先権主張(米国)2 012年11月2日(以下「本件優先日」という。 ) ) ,発明の名称を「油組成 物からの好ましくない成分の除去」とする発明について特許出願(特願2010 15-540127号)をし,平成28年10月21日,特許権の設定登録 (特許第6026672号。請求項の数19。以下,この特許を「本件特許」 という。)を受けた。(甲81,83) (2) 原告は,平成29年7月18日,本件特許につき,無効審判請求をした(無 効2017-800093号事件) (乙C2) 。 15 (3) 上記無効審判請求事件において,被告は,令和元年9月4日付けで,請求 項1ないし19につき,訂正請求をした(以下「本件訂正」という。 。 )(甲8 2,85) (4) 特許庁は,令和2年2月12日,本件訂正を認めた上で,「特許第602 6672号の請求項18,19に係る発明についての特許を無効とする。特20 許第6026672号の請求項1ないし17に係る発明についての審判請求 は,成り立たない。」との審決(出訴期間として被告に対し90日を附加。以 下「本件審決」という。 をし, ) その謄本は,同月21日,原告に送達された。 (5) 原告は,令和2年3月19日,本件審決のうち本件特許の請求項1ないし 17に係る部分の取消しを求めて本件訴えを提起した。 25 2 特許請求の範囲の記載 本件訂正がされた後の請求項1ないし17に係る特許請求の範囲の記載は, 2 次のとおりである(以下,各請求項に記載された発明を,請求項の番号に従い 「本件発明1」等といい,併せて「本件各発明」と総称する。また,本件特許 に係る明細書(甲81)を「本件明細書」という。 。 ) 【請求項1】 5 油組成物中の好ましくない成分の量を低減する方法であって, (a)好ましくない親水性成分,好ましくない親油性成分および遊離脂肪酸を 含む原油組成物を用意するステップと,ここで好ましくない親水性成分がタン パク質性化合物であり,好ましくない親油性成分が臭素化難燃剤であり,遊離 脂肪酸が炭素数16から22の遊離脂肪酸を含み,10 (b)原油組成物を水性流体処理ステップにかけるステップであり,原油組成 物中に存在する好ましくない親水性成分が,内部揮発性作業流体として有効な 量の炭素数16から22の遊離脂肪酸を含む油組成物が得られるような条件の 下で原油組成物から分離されるステップと, (c)ステップ(b)後の油組成物を内部揮発性作業流体としての炭素数1615 から22の遊離脂肪酸の存在下でストリッピング処理ステップにかけるステッ プであり,好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流体としての炭素数16 から22の遊離脂肪酸と共に油組成物から分離されるステップと, (d)ステップ(c)からの組成物を多不飽和脂肪酸を濃縮するさらなる処理 ステップにかけるステップと20 を含み, ここで,ステップ(b)の水性流体処理ステップが,原油組成物を,原油組成 物中の遊離脂肪酸のモル量に対して等モル量以下の塩基を含む水性流体と接触 させて,それによって原油組成物中に存在する遊離脂肪酸が部分中和されるス テップを含み,25 ステップ(b)後に,油組成物中の遊離脂肪酸の量が0.5重量%から5重量% であり, 3 ステップ(c)前に,外部揮発性作業流体を油組成物に添加しない, 方法。 【請求項2】 ステップ(b)後に,油組成物中の遊離脂肪酸の量が1〜3重量%である, 5 請求項1に記載の方法。 【請求項3】 ステップ(b)後に,油組成物中の遊離脂肪酸の量が2重量%である,請求 項1に記載の方法。 【請求項4】10 原油組成物が,多不飽和脂肪酸,多不飽和ω-3脂肪酸またはEPAおよび DHAを含む,請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。 【請求項5】 原油組成物が海産物油組成物である,請求項1から4のいずれか一項に記載 の方法。 15 【請求項6】 油組成物中の好ましくない成分の量を低減する方法であって, (a)好ましくない親水性成分,好ましくない親油性成分および遊離脂肪酸を 含む原油組成物を用意するステップと,ここで好ましくない親水性成分がタン パク質性化合物であり,好ましくない親油性成分が臭素化難燃剤であり,遊離20 脂肪酸が炭素数16から22の遊離脂肪酸を含み, (b)原油組成物を水性流体処理ステップにかけるステップであり,原油組成 物中に存在する好ましくない親水性成分が,内部揮発性作業流体として有効な 量の炭素数16から22の遊離脂肪酸を含む油組成物が得られるような条件の 下で原油組成物から分離されるステップと,25 (c)ステップ(b)後の油組成物を内部揮発性作業流体としての炭素数16 から22の遊離脂肪酸の存在下でストリッピング処理ステップにかけるステッ 4 プであり,好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流体としての炭素数16 から22の遊離脂肪酸と共に油組成物から分離されるステップと, (d)ステップ(c)からの組成物を多不飽和脂肪酸を濃縮するさらなる処理 ステップにかけるステップと 5 を含み, ここで,ステップ(b)の水性流体処理ステップが,原油組成物を,原油組成 物中の遊離脂肪酸のモル量に対して等モル量以下の塩基を含む水性流体と接触 させて,それによって原油組成物中に存在する遊離脂肪酸が部分中和されるス テップを含み,10 ステップ(b)後に,油組成物中の遊離脂肪酸の量が0.5重量%から5重量% であり, ステップ(c)前に,外部揮発性作業流体を油組成物に添加せず, 原油組成物が,トリグリセリドおよび/またはリン脂質あるいはトリグリセリ ドを原油組成物の少なくとも50重量%,60重量%,70重量%,80重量%15 または90重量%の範囲で含む, 方法。 【請求項7】 油組成物中の好ましくない成分の量を低減する方法であって, (a)好ましくない親水性成分,好ましくない親油性成分および遊離脂肪酸を20 含む原油組成物を用意するステップと,ここで好ましくない親水性成分がタン パク質性化合物であり,好ましくない親油性成分が臭素化難燃剤であり,遊離 脂肪酸が炭素数16から22の遊離脂肪酸を含み, (b)原油組成物を水性流体処理ステップにかけるステップであり,原油組成 物中に存在する好ましくない親水性成分が,内部揮発性作業流体として有効な25 量の炭素数16から22の遊離脂肪酸を含む油組成物が得られるような条件の 下で原油組成物から分離されるステップと, 5 (c)ステップ(b)後の油組成物を内部揮発性作業流体としての炭素数16 から22の遊離脂肪酸の存在下でストリッピング処理ステップにかけるステッ プであり,好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流体としての炭素数16 から22の遊離脂肪酸と共に油組成物から分離されるステップと, 5 (d)ステップ(c)からの組成物を多不飽和脂肪酸を濃縮するさらなる処理 ステップにかけるステップと を含み, ここで,ステップ(b)の水性流体処理ステップが,原油組成物を実質的に塩 基なしで水性流体と接触させるステップを含み,水性流体が,相分離を改善す10 るための塩化ナトリウム,塩化カリウム,硫酸ナトリウムおよび硝酸アンモニ ウムから選択される塩を含有し, ステップ(b)後に,油組成物中の遊離脂肪酸の量が0.5重量%から5重量% であり, ステップ(c)前に,外部揮発性作業流体を油組成物に添加しない,15 方法。 【請求項8】 油組成物中の好ましくない成分の量を低減する方法であって, (a)好ましくない親水性成分,好ましくない親油性成分および遊離脂肪酸を 含む原油組成物を用意するステップと,ここで好ましくない親水性成分がタン20 パク質性化合物であり,好ましくない親油性成分が臭素化難燃剤であり,遊離 脂肪酸が炭素数16から22の遊離脂肪酸を含み, (b)原油組成物を水性流体処理ステップにかけるステップであり,原油組成 物中に存在する好ましくない親水性成分が,内部揮発性作業流体として有効な 量の炭素数16から22の遊離脂肪酸を含む油組成物が得られるような条件の25 下で原油組成物から分離されるステップと, (c)ステップ(b)後の油組成物を内部揮発性作業流体としての炭素数16 6 から22の遊離脂肪酸の存在下でストリッピング処理ステップにかけるステッ プであり,好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流体としての炭素数16 から22の遊離脂肪酸と共に油組成物から分離されるステップと, (d)ステップ(c)からの組成物を多不飽和脂肪酸を濃縮するさらなる処理 5 ステップにかけるステップと を含み, ここで,ステップ(b)の水性流体処理ステップが,原油組成物を,原油組成 物中の遊離脂肪酸のモル量に対して等モル量以下の塩基を含む水性流体と接触 させて,それによって原油組成物中に存在する遊離脂肪酸が部分中和されるス10 テップを含み, ステップ(b)後に,油組成物が好ましくない親水性成分を実質的に含まず, 油組成物中の遊離脂肪酸の量が0.5重量%から5重量%であり, ステップ(c)前に,外部揮発性作業流体を油組成物に添加しない, 方法。 15 【請求項9】 塩基が,アルカリ金属水酸化物あるいは水酸化ナトリウムおよび/または水 酸化カリウムであり,ステップ(b)後に,油組成物中の遊離脂肪酸の量が1 〜3重量%である,請求項8に記載の方法。 【請求項10】20 ステップ(b)後に,油組成物中の遊離脂肪酸の量が1〜3重量%または2 重量%である,請求項7に記載の方法。 【請求項11】 ステップ(c)において,遊離脂肪酸の少なくとも75重量%が除去される, 請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。 25 【請求項12】 ステップ(c)後に,ストリッピングした油組成物中の遊離脂肪酸の量が0. 7 2から0.8重量%である,請求項1,2,3,4,5および11のいずれか 一項に記載の方法。 【請求項13】 ステップ(c)後に,ストリッピングした油組成物中の遊離脂肪酸の量が0. 5 1重量%以下である,請求項1,2,3,4,5および11のいずれか一項に 記載の方法。 【請求項14】 さらなる処理ステップが,ω-3脂肪酸あるいはEPAおよび/またはDH Aを,脂肪酸の全重量に対して少なくとも30重量%の含有量に濃縮して栄養10 添加物を提供し,または脂肪酸の全重量に対して少なくとも70重量%の含有 量に濃縮して医薬品製剤を提供する,請求項1,2,3,4,5,11,12 および13のいずれか一項に記載の方法。 【請求項15】 さらなる処理ステップがω-3脂肪酸あるいはEPAおよび/またはDHA15 を,脂肪酸の全重量に対して少なくとも30重量%の含有量に濃縮して,健康 補助食品または臨床栄養において使用するための組成物を提供する,請求項1, 2,3,4,5,11,12および13のいずれか一項に記載の方法。 【請求項16】 さらなる処理ステップがω-3脂肪酸あるいはEPAおよび/またはDHA20 を,脂肪酸の全重量に対して少なくとも30重量%の含有量に濃縮して,動物 用飼料,特に魚飼料を提供する,請求項1,2,3,4,5,11,12およ び13のいずれか一項に記載の方法。 【請求項17】 さらなる処理ステップが,25 (i)遊離脂肪酸への加水分解ステップまたはモノエステルへのエステル化ス テップ, 8 (ii)尿素錯体化ステップ, (iii)分子蒸留ステップ,および/または (iv)エステル交換ステップ のうちの少なくとも1つを含む,請求項1,2,3,4,5,11,12,1 5 3,14,15および16のいずれか一項に記載の方法。 (以下,本件各発明における(a)ないし(d)の各ステップについては,い ずれの請求項におけるものかを特定する必要がある場合は「本件発明1のステ ップ(b)」等といい,それ以外の場合は単に「ステップ(b)」等という。) 3 本件審決の理由の要旨10 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,取消事由と の関係では,要するに,本件各発明は,いずれも,特許法36条6項2号の 明確性要件,同条4項1号の実施可能要件及び同条6項1号のサポート要件 に係る規定に適合しないということはできず,また,以下の甲第2号証ない し甲第4号証の各文献(以下,文献については,それぞれの書証番号に従い15 「甲2文献」等という。 に記載された各発明及び周知技術に基づいて当業者 ) が容易に想到し得た事項ではないから進歩性を欠くものではない(甲3文献 に係る後記の相違点2-3及び8-3並びに甲4文献に係る後記の相違点2 -4及び8-4については,実質的な相違点ではないとしたが,甲2文献に 係る後記の相違点4-2及び10-2,甲3文献に係る後記の相違点4-320 及び10-3並びに甲4文献に係る後記の相違点4-4及び10-4につい ては,容易想到性を否定した。)というものである。 甲第2号証 特表2005-532460号公報 甲第3号証 特開昭62-145099号公報 甲第4号証 国際公開第2012/002210号公報25 (2) 本件審決が認定した甲2文献に記載された発明(以下「甲2発明」という。) 並びに本件各発明と甲2発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 9 ア 甲2発明 環境汚染物質を含有する,食用であるかまたは化粧品中に用いるための 脂肪または油を含む混合物中の該環境汚染物質の量を低減させるための 方法であって: 5 内部揮発性作業流体が,該環境汚染物質を含有する該脂肪または油中に含 まれる遊離脂肪酸により構成され, 該混合物が該内部揮発性作業流体とともに少なくとも1回のストリッピ ング処理過程に付される過程であって,該脂肪または油中に存在するある 量の環境汚染物質が,該内部揮発性作業流体と一緒に該混合物から分離さ10 れる過程を含むことを特徴とする方法。 イ 本件各発明と甲2発明との一致点及び相違点 (ア) 本件発明1 (一致点) 油組成物中の好ましくない成分の量を低減する方法であって,15 (a)好ましくない親油性成分および遊離脂肪酸を含む原油組成物を用 意するステップと, (c)前のステップ後の油組成物を内部揮発性作業流体としての遊離脂 肪酸の存在下でストリッピング処理ステップにかけるステップであり, 好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流体としての遊離脂肪酸と共20 に油組成物から分離されるステップと を含み, ステップ(c)前に,外部揮発性作業流体を油組成物に添加しない, 方法。 (相違点1-2)25 原油組成物について,本件発明1では,好ましくない親水性成分であ るタンパク質性化合物が含まれているのに対し,甲2発明では,好まし 10 くない親水性成分であるタンパク質性化合物が含まれているのか不明な 点。 (相違点2-2) 好ましくない親油性成分が,本件発明1では,臭素化難燃剤であるの 5 に対し,甲2発明では,環境汚染物質との特定に留まる点。 (相違点3-2) 原油組成物に含まれる遊離脂肪酸が,本件発明1では,炭素数16か ら22の遊離脂肪酸を含むのに対し,甲2発明では,炭素数16から2 2の遊離脂肪酸を含むのか不明な点。 10 (相違点4-2) 油組成物中の好ましくない成分の量を低減する方法が,本件発明1で は, 「(b)原油組成物を水性流体処理ステップにかけるステップであり, 原油組成物中に存在する好ましくない親水性成分が,内部揮発性作業流 体として有効な量の炭素数16から22の遊離脂肪酸を含む油組成物が15 得られるような条件の下で原油組成物から分離されるステップ」を含み, 「ここで,ステップ(b)の水性流体処理ステップが,原油組成物を, 原油組成物中の遊離脂肪酸のモル量に対して等モル量以下の塩基を含む 水性流体と接触させて,それによって原油組成物中に存在する遊離脂肪 酸が部分中和されるステップを含み,ステップ(b)後に,油組成物中20 の遊離脂肪酸の量が0.5重量%から5重量%であ」るのに対し,甲2 発明では,この様なステップを含んでいるのか不明な点。 (相違点5-2) ステップ(c)における内部揮発性作業流体としての遊離脂肪酸が, 本件発明1では,炭素数16から22の遊離脂肪酸を含むのに対し,甲25 2発明では,炭素数16から22の遊離脂肪酸を含むのか不明な点。 (相違点6-2) 11 油組成物中の好ましくない成分の量を低減する方法が,本件発明1で は,(d)ステップ(c)からの組成物を多不飽和脂肪酸を濃縮するさ 「 らなる処理ステップにかけるステップ」を含んでいるのに対し,甲2発 明では,この様なステップを含んでいるのか不明な点。 5 (イ) 本件発明2ないし6,8,9及び11ないし17 本件発明2ないし6,8,9及び11ないし17と甲2発明とは,少 なくとも上記の相違点1-2ないし6-2の点で相違する。 (ウ) 本件発明7 (一致点)10 油組成物中の好ましくない成分の量を低減する方法であって, (a)好ましくない親油性成分および遊離脂肪酸を含む原油組成物を用 意するステップと, (c)前のステップ後の油組成物を内部揮発性作業流体としての遊離脂 肪酸の存在下でストリッピング処理ステップにかけるステップであり,15 好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流体としての遊離脂肪酸と共 に油組成物から分離されるステップと を含み, ステップ(c)前に,外部揮発性作業流体を油組成物に添加しない, 方法。 20 (相違点7-2) 原油組成物について,本件発明7では,好ましくない親水性成分であ るタンパク質性化合物が含まれているのに対し,甲2発明では,好まし くない親水性成分であるタンパク質性化合物が含まれているのか不明な 点。 25 (相違点8-2) 好ましくない親油性成分が,本件発明7では,臭素化難燃剤であるの 12 に対し,甲2発明では,環境汚染物質との特定に留まる点。 (相違点9-2) 原油組成物に含まれる遊離脂肪酸が,本件発明7では,炭素数16か ら22の遊離脂肪酸を含むのに対し,甲2発明では,炭素数16から2 5 2の遊離脂肪酸を含むのか不明な点。 (相違点10-2) 油組成物中の好ましくない成分の量を低減する方法が,本件発明7で は, 「(b)原油組成物を水性流体処理ステップにかけるステップであり, 原油組成物中に存在する好ましくない親水性成分が,内部揮発性作業流10 体として有効な量の炭素数16から22の遊離脂肪酸を含む油組成物が 得られるような条件の下で原油組成物から分離されるステップ」を含み, 「ここで,ステップ(b)の水性流体処理ステップが,原油組成物を実 質的に塩基なしで水性流体と接触させるステップを含み,水性流体が, 相分離を改善するための塩化ナトリウム,塩化カリウム,硫酸ナトリウ15 ムおよび硝酸アンモニウムから選択される塩を含有し,ステップ(b) 後に,油組成物中の遊離脂肪酸の量が0.5重量%から5重量%であ」 るのに対し,甲2発明では,この様なステップを含んでいるのか不明な 点。 (相違点11-2)20 ステップ(c)における内部揮発性作業流体としての遊離脂肪酸が, 本件発明7では,炭素数16から22の遊離脂肪酸を含むのに対し,甲 2発明では,炭素数16から22の遊離脂肪酸を含むのか不明な点。 (相違点12-2) 油組成物中の好ましくない成分の量を低減する方法が,本件発明7で25 は,(d)ステップ(c)からの組成物を多不飽和脂肪酸を濃縮するさ 「 らなる処理ステップにかけるステップ」を含んでいるのに対し,甲2発 13 明では,この様なステップを含んでいるのか不明な点。 (エ) 本件発明10 本件発明10と甲2発明とは,少なくとも上記の相違点7-2ないし 12-2の点で相違する。 5 (3) 本件審決が認定した甲3文献に記載された発明(以下「甲3発明」という。) 並びに本件各発明と甲3発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア 甲3発明 (T)脱ガム処理した沿岸イワシ粗油(酸価3.8,不ケン化物含量2. 0%,コレステロール含量1.8%)15Kgを分子蒸留処理し,揮発性10 留分として0.45Kgの常温で半固体の油状物(コレステロール含量3 5.0%)を除去した,残留区分として14.5Kgの脱酸イワシ油(酸 価0.2不ケン化物含量0.6%,コレステロール含量0.5%)の脱酸 イワシ油を得る方法。 イ 本件各発明と甲3発明との一致点及び相違点15 (ア) 本件発明1 (一致点) (a)遊離脂肪酸を含む原油組成物を用意するステップと, (b)原油組成物を水性流体処理ステップにかけるステップと, (c)ステップ(b)後の油組成物を遊離脂肪酸の存在下でストリッピ20 ング処理ステップにかけるステップを含み, ステップ(c)前に,外部揮発性作業流体を油組成物に添加しない, 方法。 (相違点1-3) 方法について,本件発明1は, 「油組成物中の好ましくない成分の量を25 低減する方法」であるのに対し,甲3発明は, 「油組成物中の好ましくな い成分の量を低減する方法」であるのか不明な点。 14 (相違点2-3) 原油組成物が,本件発明1では,好ましくない親水性成分であるタン パク質性化合物,及び好ましくない親油性成分である臭素化難燃剤を含 むのに対し,甲3発明では,好ましくない親水性成分であるタンパク質 5 性化合物,及び好ましくない親油性成分である臭素化難燃剤を含むのか 不明な点。 (相違点3-3) 原油組成物に含まれる遊離脂肪酸が,本件発明1では,炭素数16か ら22の遊離脂肪酸を含むのに対し,甲3発明では,炭素数16から210 2の遊離脂肪酸を含むのか不明な点。 (相違点4-3) ステップ(b)について,本件発明1では, 「炭素数16から22の遊 離脂肪酸」が「内部揮発性作業流体」とされていると共に, 「原油組成物 中に存在する(タンパク質性化合物である)好ましくない親水性成分が,15 内部揮発性作業流体として有効な量の炭素数16から22の遊離脂肪酸 を含む油組成物が得られるような条件の下で原油組成物から分離される ステップ」であり,「ここでステップ(b)の水性流体処理ステップが, 原油組成物を,原油組成物中の遊離脂肪酸のモル量に対して等モル量以 下の塩基を含む水性流体と接触させて,それによって原油組成物中に存20 在する遊離脂肪酸が部分中和されるステップを含み,ステップ(b)後 に,油組成物中の遊離脂肪酸の量が0.5重量%から5重量%であ」る のに対し,甲3発明では,炭素数16から22の遊離脂肪酸が内部揮発 性作業流体であるのか不明であると共に,この様なステップを含むのか 不明な点。 25 (相違点5-3) ステップ(c)について,本件発明1では, (臭素化難燃剤である) 「 15 好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流体としての炭素数16から 22の遊離脂肪酸と共に油組成物から分離される」のに対し,甲3発明 では,臭素化難燃剤である好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流 体としての炭素数16から22の遊離脂肪酸と共に油組成物から分離さ 5 れるのか不明な点。 (相違点6-3) 方法について,本件発明1では, (d)ステップ(c)からの組成物 「 を多不飽和脂肪酸を濃縮するさらなる処理ステップにかけるステップ」 を有するのに対し,甲3発明では,この様なステップを有するのか不明10 な点。 (イ) 本件発明2ないし6,8,9及び11ないし17 本件発明2ないし6,8,9及び11ないし17と甲3発明とは,少 なくとも上記の相違点1-3ないし6-3の点で相違する。 (ウ) 本件発明715 (一致点) (a)遊離脂肪酸を含む原油組成物を用意するステップと, (b)原油組成物を水性流体処理ステップにかけるステップと, (c)ステップ(b)後の油組成物を遊離脂肪酸の存在下でストリッピ ング処理ステップにかけるステップを含み,20 ステップ(c)前に,外部揮発性作業流体を油組成物に添加しない, 方法。 (相違点7-3) 方法について,本件発明7は, 「油組成物中の好ましくない成分の量を 低減する方法」であるのに対し,甲3発明は, 「油組成物中の好ましくな25 い成分の量を低減する方法」であるのか不明な点。 (相違点8-3) 16 原油組成物が,本件発明7では,好ましくない親水性成分であるタン パク質性化合物,及び好ましくない親油性成分である臭素化難燃剤を含 むのに対し,甲3発明では,好ましくない親水性成分であるタンパク質 性化合物,及び好ましくない親油性成分である臭素化難燃剤を含むのか 5 不明な点。 (相違点9-3) 原油組成物に含まれる遊離脂肪酸が,本件発明7では,炭素数16か ら22の遊離脂肪酸を含むのに対し,甲3発明では,炭素数16から2 2の遊離脂肪酸を含むのか不明な点。 10 (相違点10-3) ステップ(b)について,本件発明7では,炭素数16から22の遊 離脂肪酸が内部揮発性作業流体とされていると共に, 原油組成物中に存 「 在する好ましくない親水性成分が,内部揮発性作業流体として有効な量 の炭素数16から22の遊離脂肪酸を含む油組成物が得られるような条15 件の下で原油組成物から分離されるステップ」であり, 「ここで,ステッ プ(b)の水性流体処理ステップが,原油組成物を実質的に塩基なしで 水性流体と接触させるステップを含み,水性流体が,相分離を改善する ための塩化ナトリウム,塩化カリウム,硫酸ナトリウムおよび硝酸アン モニウムから選択される塩を含有し,ステップ(b)後に,油組成物中20 の遊離脂肪酸の量が0.5重量%から5重量%であ」るのに対し,甲3 発明では,炭素数16から22の遊離脂肪酸が内部揮発性作業流体であ るのか不明であると共に,この様なステップを含むのか不明な点。 (相違点11-3) ステップ(c)について,本件発明7では, (臭素化難燃剤である) 「25 好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流体としての炭素数16から 22の遊離脂肪酸と共に油組成物から分離される」のに対し,甲3発明 17 では,臭素化難燃剤である好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流 体としての炭素数16から22の遊離脂肪酸と共に油組成物から分離さ れるのか不明な点。 (相違点12-3) 5 方法について,本件発明7では, (d)ステップ(c)からの組成物 「 を多不飽和脂肪酸を濃縮するさらなる処理ステップにかけるステップ」 を有するのに対し,甲3発明では,この様なステップを有するのか不明 な点。 (エ) 本件発明1010 本件発明10と甲3発明とは,少なくとも上記の相違点7-3ないし 12-3の点で相違する。 (4) 本件審決が認定した甲4文献に記載された発明(以下「甲4発明」という。) 並びに本件各発明と甲4発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア 甲4発明15 イワシの粗魚油を水洗し脱水した後,短行程真空蒸留により,遊離脂肪 酸,コレステロールを主成分とする蒸留成分を分離して,トリグリセリド を主成分とする魚油本体を得る方法。 イ 本件各発明と甲4発明との一致点及び相違点 (ア) 本件発明120 (一致点) (a)遊離脂肪酸を含む原油組成物を用意するステップと, (b)原油組成物を水性流体処理ステップにかけるステップと, (c)ステップ(b)後の油組成物を遊離脂肪酸の存在下でストリッピ ング処理ステップにかけるステップを含み,25 ステップ(c)前に,外部揮発性作業流体を油組成物に添加しない, 方法。 18 (相違点1-4) 方法について,本件発明1は, 「油組成物中の好ましくない成分の量を 低減する方法」であるのに対し,甲4発明は, 「油組成物中の好ましくな い成分の量を低減する方法」であるのか不明な点。 5 (相違点2-4) 原油組成物が,本件発明1では,好ましくない親水性成分であるタン パク質性化合物,及び好ましくない親油性成分である臭素化難燃剤を含 むのに対し,甲4発明では,好ましくない親水性成分であるタンパク質 性化合物,及び好ましくない親油性成分である臭素化難燃剤を含むのか10 不明な点。 (相違点3-4) 原油組成物に含まれる遊離脂肪酸が,本件発明1では,炭素数16か ら22の遊離脂肪酸を含むのに対し,甲4発明では,炭素数16から2 2の遊離脂肪酸を含むのか不明な点。 15 (相違点4-4) ステップ(b)について,本件発明1では, 「炭素数16から22の遊 離脂肪酸」が「内部揮発性作業流体」とされていると共に, 「原油組成物 中に存在する(タンパク質性化合物である)好ましくない親水性成分が, 内部揮発性作業流体として有効な量の炭素数16から22の遊離脂肪酸20 を含む油組成物が得られるような条件の下で原油組成物から分離される ステップ」であり,「ここでステップ(b)の水性流体処理ステップが, 原油組成物を,原油組成物中の遊離脂肪酸のモル量に対して等モル量以 下の塩基を含む水性流体と接触させて,それによって原油組成物中に存 在する遊離脂肪酸が部分中和されるステップを含み,ステップ(b)後25 に,油組成物中の遊離脂肪酸の量が0.5重量%から5重量%であ」る のに対し,甲4発明では,炭素数16から22の遊離脂肪酸が内部揮発 19 性作業流体であるのか不明であると共に,この様なステップを含むのか 不明な点。 (相違点5-4) ステップ(c)について,本件発明1では, (臭素化難燃剤である) 「 5 好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流体としての炭素数16から 22の遊離脂肪酸と共に油組成物から分離される」のに対し,甲4発明 では,臭素化難燃剤である好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流 体としての炭素数16から22の遊離脂肪酸と共に油組成物から分離さ れるのか不明な点。 10 (相違点6-4) 方法について,本件発明1では, (d)ステップ(c)からの組成物 「 を多不飽和脂肪酸を濃縮するさらなる処理ステップにかけるステップ」 を有するのに対し,甲4発明では,この様なステップを有するのか不明 な点。 15 (イ) 本件発明2ないし6,8,9及び11ないし17 本件発明2ないし6,8,9及び11ないし17と甲4発明とは,少 なくとも上記の相違点1-4ないし6-4の点で相違する。 (ウ) 本件発明7 (一致点)20 (a)遊離脂肪酸を含む原油組成物を用意するステップと, (b)原油組成物を水性流体処理ステップにかけるステップと, (c)ステップ(b)後の油組成物を遊離脂肪酸の存在下でストリッピ ング処理ステップにかけるステップを含み, ステップ(c)前に,外部揮発性作業流体を油組成物に添加しない,25 方法。 (相違点7-4) 20 方法について,本件発明7は, 「油組成物中の好ましくない成分の量を 低減する方法」であるのに対し,甲4発明は, 「油組成物中の好ましくな い成分の量を低減する方法」であるのか不明な点。 (相違点8-4) 5 原油組成物が,本件発明7では,好ましくない親水性成分であるタン パク質性化合物,及び好ましくない親油性成分である臭素化難燃剤を含 むのに対し,甲4発明では,好ましくない親水性成分であるタンパク質 性化合物,及び好ましくない親油性成分である臭素化難燃剤を含むのか 不明な点。 10 (相違点9-4) 原油組成物に含まれる遊離脂肪酸が,本件発明7では,炭素数16か ら22の遊離脂肪酸を含むのに対し,甲4発明では,炭素数16から2 2の遊離脂肪酸を含むのか不明な点。 (相違点10-4)15 ステップ(b)について,本件発明7では,炭素数16から22の遊 離脂肪酸が内部揮発性作業流体とされていると共に, 原油組成物中に存 「 在する好ましくない親水性成分が,内部揮発性作業流体として有効な量 の炭素数16から22の遊離脂肪酸を含む油組成物が得られるような条 件の下で原油組成物から分離されるステップ」であり, 「ここで,ステッ20 プ(b)の水性流体処理ステップが,原油組成物を実質的に塩基なしで 水性流体と接触させるステップを含み,水性流体が,相分離を改善する ための塩化ナトリウム,塩化カリウム,硫酸ナトリウムおよび硝酸アン モニウムから選択される塩を含有し,ステップ(b)後に,油組成物中 の遊離脂肪酸の量が0.5重量%から5重量%であ」るのに対し,甲425 発明では,炭素数16から22の遊離脂肪酸が内部揮発性作業流体であ るのか不明であると共に,この様なステップを含むのか不明な点。 21 (相違点11-4) ステップ(c)について,本件発明7では, (臭素化難燃剤である) 「 好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流体としての炭素数16から 22の遊離脂肪酸と共に油組成物から分離される」のに対し,甲4発明 5 では,臭素化難燃剤である好ましくない親油性成分が内部揮発性作業流 体としての炭素数16から22の遊離脂肪酸と共に油組成物から分離さ れるのか不明な点。 (相違点12-4) 方法について,本件発明7では, (d)ステップ(c)からの組成物 「10 を多不飽和脂肪酸を濃縮するさらなる処理ステップにかけるステップ」 を有するのに対し,甲4発明では,この様なステップを有するのか不明 な点。 (エ) 本件発明10 本件発明10と甲4発明とは,少なくとも上記の相違点7-4ないし15 12-4の点で相違する。 4 取消事由 原告が主張する取消事由は,次のとおりである(なお,原告は,本件訂正に おける訂正事項6について争うと認否する一方で,独立の取消事由として主張 するものではなく,また,以下の各取消事由と関連するものでもないと述べて20 いることから,この点については判断を要しない。 。 ) (1) 明確性要件違反 (2) 実施可能要件違反 (3) サポート要件違反 (4) 甲2発明に対する進歩性の欠如(相違点4-2及び10-2に係る進歩25 性判断の誤り) (5) 甲3発明に対する進歩性の欠如(相違点4-3及び10-3に係る相違 22 点の認定の誤り及び進歩性判断の誤り) (6) 甲4発明に対する進歩性の欠如(相違点4-4及び10-4に係る進歩 性判断の誤り(相違点10-4に係る判断の欠落を含む。 ) ) |
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原告の主張
5 1 取消事由(1)(明確性要件違反) (1) 本件明細書には, 「臭素化難燃剤」との用語は記載されておらず, 「臭素系 難燃剤」として「ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE),テトラブロモビ スフェノールA(TBBPA) ヘキサブロモシクロドデカン , (HBCDD)」 が例示されているのみである(【0023】 。また, ) 「臭素化難燃剤」及び「臭10 素系難燃剤」の各用語が同義であると解したとしても,本件明細書には「臭 素系難燃剤」の定義が存せず, 「臭素系難燃剤」の除去に関する具体的な実施 例すら示されていないこと,両用語は化学構造を特定する用語ではなく,臭 素を含有する難燃性の化合物を広く含むところ,同化合物には様々な揮発性 を有するものがあることからすれば,上記両用語は不明確である。 15 そして,本件各発明における「外部揮発性作業流体」とは, 「臭素化汚染物 質」との関係で「適切な揮発性を有する」物質であるとされているが(【00 38】 ,上記のとおり, ) 「臭素化難燃剤」には様々な揮発性のものが含まれる から,どのような「外部揮発性作業流体」を選択すればよいのかが明確では なく,発明の内容が不明確である。 20 (2) 本件審決は,臭素化ポリスチレン等の高分子量の臭素化難燃剤は生物の 細胞には取り込まれにくいという技術常識を参酌することにより,「臭素化 難燃剤」の範囲を理解することができるとするが,臭素化ポリスチレン等は, 生物の細胞に取り込まれる可能性もあるから, 「臭素化難燃剤」の範囲から除 外されるものではない。 25 2 取消事由(2)(実施可能要件違反) (1) ステップ(c)について 23 ステップ(c)のストリッピング処理において,揮発性の乏しいポリマー (例えば臭素化ポリスチレン)である臭素化難燃剤が,遊離脂肪酸と共に揮 発して分離されることはあり得ない。また,本件明細書の段落【0023】 において挙げられているポリ臭化ジフェニルエーテルについて,臭素置換の 5 数が多い同族体の挙動は明らかではない。さらに,本件明細書は,臭素化難 燃剤を除去する方法について,何らの実施例も示していない。 このように,本件明細書においては,ステップ(c)について,実施可能 といえる程度に明確かつ十分には記載されていない。 (2) ステップ(b)について10 ア 本件審決がいうように,ステップ(b)が,周知の脱ガム処理とは異な り,親水性成分であるタンパク質性化合物の全てが分離される特別な工程 であるとすれば,本件明細書に当該工程が記載されていなければならない が,本件明細書には何らの記載もないから,当業者がこれを実施すること はできない。 15 上記の点に関し,被告は,脱ガム処理は水溶性物質の除去を目的とする 処理には当たらないと主張するが,脱ガム処理とは,原油組成物を水相(温 水又は水蒸気)と接触させることにより,水和性の成分を水相に移動させ て分離する操作を意味する。そして,脱ガム処理においては,ガム質のみ ならず,他の水溶性成分又は水和性成分も分離されるから,作業者が意図20 するか否かに関わらず,必然的に親水性成分は水相に移動することとなる。 イ 本件明細書には,ステップ(b)の後のタンパク質性化合物の濃度に関 する具体的な記載は存しない上,実施例1及び2において,ステップ(b) によってタンパク質性化合物が低減された程度やその結果としてスケー ルの生成が改善された程度が全く記載されておらず,残存するタンパク質25 性化合物の濃度とスケールの生成との相関や,タンパク質性化合物由来の スケールが実際に成長するのか,そのスケールの除去にどのような問題が 24 あるのかについて,具体的な検証がされているものとはいえない。また, 本件審決が言及する本件明細書の段落【0009】ないし【0014】は, 一般的かつ抽象的な記載にすぎない。 このように,本件明細書においては,ステップ(b)が実際に「親水性 5 成分からのスケールのリスクを低減または排除」することについて,実施 可能といえる程度に明確かつ十分には記載されていない。 上記の点に関し,被告は,タンパク質性化合物は一般に極性が高く,沸 点も高くなるから,エバポレータの伝熱面におけるスケールの成長等の問 題が生じると主張するが,沸点が高いのであれば,揮発せずに液相にとど10 まり,エバポレータの伝熱面に到達しないはずである。 ウ 本件明細書の段落【0080】には,実施例1において「2%水酸化ナ トリウム水溶液1.0?」が用いられた旨が記載されているが,これは油組 成物中の遊離脂肪酸のモル量を大きく上回るものであるから,本件明細書 には,本件発明1のステップ(b)に係る具体的な実施例が示されている15 ものとはいえない。 3 取消事由(3)(サポート要件違反) (1) ステップ(c)について 上記2(1)で主張したとおり,当業者は,ステップ(c)について,臭素化 難燃剤全般が分離されるものと認識することはできない。また,本件明細書20 には,臭素化難燃剤を除去する方法について,何らの実施例も示されておら ず,臭素化難燃剤の除去という課題の解決について何ら実証されていない。 (2) スケールに関する課題について ア 上記2(2)で主張したとおり,当業者は,本件明細書の記載から,「親水 性成分からのスケールのリスクを低減または排除する」との課題の内容及25 び本件各発明の作用効果を明確に理解することができないから,本件各発 明が上記課題を解決することができると認識し得ない。 25 イ 被告が主張するように,蒸留時にタンパク質性化合物によってエバポレ ータの伝熱面にスケールが生じ得るとしても,技術常識どおりに脱ガム処 理がされた魚油にはタンパク質性化合物が含まれず,その蒸留においてス ケールの問題は生じないはずであるから,本件各発明の課題は,技術常識 5 から逸脱している。 4 取消事由(4)(甲2発明に対する進歩性の欠如) (1) 相違点4-2について 以下のとおり,甲2発明に対し,希NaOHによる脱ガム処理の周知技術 又は甲33文献に記載された不純物の除去又は不活性化のためにアルカリ処10 理による部分中和を行う技術(以下「甲33技術」という。)を適用して,相 違点4-2に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者が容易に想到 し得た事項である。 ア 希NaOHによる脱ガム処理が周知技術であったこと (ア) 脱ガムは,粗魚油を温水又は水蒸気と接触させることにより,水和15 性の成分を水相に移動させて分離する操作を意味する。脱ガム処理が, 粗製の油に含まれる不純物のうち,リン脂質,糖,樹脂,タンパク質性 化合物,微量金属等を除去するための手段であり,精製工程の最初の段 階で行われるものであることは,技術常識であった(甲6,16,17, 30等)。そして,希NaOHによる脱ガム処理も,本件優先日当時,周20 知であった(甲15,18)。 したがって,甲2発明に周知技術である希NaOHによる脱ガム処理 を適用することは,当業者が容易に想到し得た事項である。 (イ) 甲18文献においては,アルカリ中和の程度が高すぎる場合のみな らず,アルカリ中和の程度が低すぎる場合の問題も指摘されていること25 からすれば,遊離リン脂質の水溶性ナトリウム塩への変換という脱ガム 処理の目的を確実に達成するためには,少なくともやや過剰量のNaO 26 Hが必要であり,その結果,遊離脂肪酸の部分中和が起こるといえるか ら,甲18文献の記載をもって,脱ガム処理の目的は遊離脂肪酸の中和 ではないということはできない。 (ウ) 甲18文献は,希NaOHによる脱ガム処理について言及している 5 上,希NaOHによる脱ガム処理においても当然にリン脂質は除去され るのであるから,酸による脱ガム処理についてのみ記載されているもの ではない。 イ 蒸留の前に遊離脂肪酸を部分中和する動機付けがあったこと (ア) 遊離脂肪酸の分離(脱酸)のための主たる方法には,アルカリ中和10 及び蒸留があるところ,アルカリ中和においては遊離脂肪酸以外の不純 物を除去又は不活性化することができるが,蒸留においては必ずしもこ れらの成分を十分に除去又は不活性化することができないから,脱酸の 方法として蒸留を採用する場合であっても,蒸留の前にアルカリ成分 (代表的には希NaOH)による処理を行うことが望ましい。このこと15 は,蒸留が水蒸気蒸留又は分子蒸留のいずれであるかや,精製の対象が 植物油又は動物油のいずれであるかによらず,妥当するものである。 また,蒸留の前にアルカリ中和を行う場合,大部分の遊離脂肪酸は後 続の蒸留において除去されることから,アルカリ成分の量は,遊離脂肪 酸を部分中和するレベルで足りるとされている。 20 したがって,甲2発明に対して,不純物の除去又は不活性化のために アルカリ処理による部分中和を行う甲33技術を適用する動機付けがあ る。 (イ) アルカリ精製は,粗魚油組成物をアルカリ(特にNaOH)水溶液 と接触させて,遊離脂肪酸を中和して除去する工程であるところ,アル25 カリ水溶液を使用するという点で,希アルカリによる脱ガム処理と共通 する。実際に,甲16文献に記載されているとおり,脱ガム処理及びア 27 ルカリ精製は一体として行われることがあり,そもそも両者を峻別すべ きではない。 (ウ) 粗魚油をアルカリで処理する以上,必然的に遊離脂肪酸の量は低減 されるから,甲33技術は,遊離脂肪酸の量を低減するという技術的特 5 徴を当然に有する。 ウ 遊離脂肪酸濃度を一定にそろえる動機付けがあったこと 粗魚油は,天然由来の原料であるため,その遊離脂肪酸濃度にはばらつ きがあるところ,前処理なしに粗魚油を蒸留に付すと,プラントを安定的 に操業することができないことから,蒸留の前精製工程として,脱ガム処10 理において希NaOHを使用し,遊離脂肪酸を部分中和して,蒸留に付す 粗魚油の遊離脂肪酸濃度を一定にそろえる動機付けがある。このことは, 石油精製工業等のみならず,魚油の技術分野にも当てはまる。 エ 炭素数の特定は実質的な相違点ではないこと 本件発明1においては,遊離脂肪酸の炭素数が16から22に特定され15 ているが,魚油の遊離脂肪酸の炭素数は,14から22の間にあり,炭素 数16から22の遊離脂肪酸が必ず多量に存在するから,上記特定は実質 的な相違点をもたらすものではない。 オ 残存する遊離脂肪酸の量は必然的に実現される事項であること 本件発明1においては,ステップ(b)後の油組成物中の遊離脂肪酸の20 量が0.5重量%ないし5重量%に特定されているが,粗魚油は,通常2 ないし5重量%の遊離脂肪酸を含むところ,希NaOHを用いた脱ガム処 理によって部分中和を行う場合,遊離脂肪酸の濃度は,必然的に上記特定 の範囲内となる。また,本件明細書には,上記特定に係る技術的意義は何 ら記載されていない。 25 したがって,分子蒸留前の遊離脂肪酸濃度を0.5重量%ないし5重量% の範囲内とすることは,必然的に実現される事項である。 28 カ 被告が主張する阻害要因及び顕著な効果は存しないこと (ア) 甲2発明においては,魚油内部の脂肪酸をそのまま揮発性作業流体 として利用する態様と,外部から揮発性作業流体を添加する態様のいず れにおいても,魚油に元来含まれている遊離脂肪酸を揮発性作業流体と 5 して使用するものであり,甲2発明の上記各態様は,この点で本件発明 1と何ら変わるものではないから,被告が主張する阻害要因は存しない。 (イ) 本件発明1におけるアルカリ成分を用いた水性流体処理ステップ は,アルカリ中和そのものであり,その結果として必然的に石けん成分 の副生及びその処理というアルカリ中和と同様の問題が生じるところ,10 本件発明1は,この問題について何ら新たな解決手段を提供しておらず, 特段の効果を奏さないから,被告が主張する顕著な効果は存しない。 (2) 相違点10-2について 以下のとおり,甲2発明に対し,脱ガム処理の周知技術及び解乳化剤とし ての無機塩の添加の周知技術を適用して,相違点10-2に係る本件発明715 の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得た事項である。 ア 脱ガム処理の周知技術の適用 相違点10-2のうち,親水性成分が原油組成物から分離されるステッ プ及び実質的に塩基なしで原油組成物を水性流体と接触させるステップ を含むという点は,脱ガム処理を適用することによって解消するものであ20 るところ,前記のとおり,脱ガム処理は,粗魚油を温水又は水蒸気と接触 させることにより,ガム質やその他の水溶性の不純物を除去するために使 用される周知の技術であり,精製プロセスの最初の段階で行われることも 周知であるから,当業者が,甲2発明に脱ガム処理の周知技術を適用する ことは当然であり,強い動機付けがある。 25 イ 解乳化剤としての無機塩の添加の周知技術の適用 脱ガム処理は,魚油に水相を加え,水相にガム質を移動させた後,2つ 29 の相の比重差を利用して両者を分離する手法であるところ,ガム質の主成 分であるリン脂質(ホスファチド)が乳化剤として作用してエマルジョン の形成を促進することから,両者の分離が困難となり,粗魚油からの水溶 性不純物の分離及び油相の回収が妨げられることがある。このように,甲 5 2発明においては,リン脂質を原因とするエマルジョンの形成を抑制する ことが望ましい。 そして,本件優先日当時,無機塩を添加してエマルジョンを破壊(解乳 化)することは技術常識であり,無機塩を添加して有機相及び水相の分離 を促進させることも一般に行われていた(甲31,44ないし47)。 10 そうすると,甲2発明に解乳化剤としての無機塩を添加する周知技術を 適用することについては,動機付けがあり,当業者が容易に想到し得た事 項であるといえ,これにより,相違点10-2のうち,水性流体が相分離 を改善するための無機塩を含有するという点は解消される。 ウ 被告が主張する顕著な効果はないこと15 塩基を使用しない水性流体処理とは,一般的な脱ガム処理のことであり, 周知慣用の手段として行われてきたものである上,解乳化剤として無機塩 を添加する技術も周知のものであるから,本件発明7の効果は,予測され たものにすぎず,特段の効果を奏するものではない。 5 取消事由(5)(甲3発明に対する進歩性の欠如)20 (1) 相違点の認定について 本件審決は,ステップ(b)のうちの「(タンパク質性化合物である)親水 性成分が…原油組成物から分離されるステップ」を,親水性成分の全てが分 離されるものと誤って解釈したことにより,同ステップを含むか否かが相違 点であると誤って認定した。しかしながら,脱ガム処理も上記ステップに含25 まれることからすれば,相違点4-3及び10-3は,次のとおり認定すべ きである(相違点4-3及び10-3との相違部分に下線を付した。 。 ) 30 (相違点4-3’) ステップ(b)について,本件発明1では, 「炭素数16から22の遊離脂 肪酸」が「内部揮発性作業流体」とされていると共に, 「原油組成物中に存在 する(タンパク質性化合物である)好ましくない親水性成分が,内部揮発性 5 作業流体として有効な量の炭素数16から22の遊離脂肪酸を含む油組成物 が得られるような条件の下で原油組成物から分離されるステップ」であり, 「ここでステップ(b)の水性流体処理ステップが,原油組成物を,原油組 成物中の遊離脂肪酸のモル量に対して等モル量以下の塩基を含む水性流体と 接触させて,それによって原油組成物中に存在する遊離脂肪酸が部分中和さ10 れるステップを含み,ステップ(b)後に,油組成物中の遊離脂肪酸の量が 0.5重量%から5重量%であ」るのに対し,甲3発明では,脱ガム処理に よって原油組成物中に存在する(タンパク質性化合物である)好ましくない 親水性成分が,原油組成物から分離されるステップを含むものの,炭素数1 6から22の遊離脂肪酸が内部揮発性作業流体であるのか不明であり,原油15 組成物中の遊離脂肪酸のモル量に対して等モル量以下の塩基を含む水性流体 と接触させて,それによって原油組成物中に存在する遊離脂肪酸が部分中和 されるのか不明な点。 (相違点10-3’) ステップ(b)について,本件発明7では,炭素数16から22の遊離脂20 肪酸が内部揮発性作業流体とされていると共に,「原油組成物中に存在する 好ましくない親水性成分が,内部揮発性作業流体として有効な量の炭素数1 6から22の遊離脂肪酸を含む油組成物が得られるような条件の下で原油組 成物から分離されるステップ」であり, 「ここで,ステップ(b)の水性流体 処理ステップが,原油組成物を実質的に塩基なしで水性流体と接触させるス25 テップを含み,水性流体が,相分離を改善するための塩化ナトリウム,塩化 カリウム,硫酸ナトリウムおよび硝酸アンモニウムから選択される塩を含有 31 し,ステップ(b)後に,油組成物中の遊離脂肪酸の量が0.5重量%から 5重量%であ」るのに対し,甲3発明では,脱ガム処理によって原油組成物 中に存在する(タンパク質性化合物である)好ましくない親水性成分が,原 油組成物から分離されるステップを含むものの,水性流体が,実質的に塩基 5 なしか否か明示されておらず,相分離を改善するための塩化ナトリウム,塩 化カリウム,硫酸ナトリウムおよび硝酸アンモニウムから選択される塩を含 有するのか,炭素数16から22の遊離脂肪酸が内部揮発性作業流体である のか,ステップ(b)後に,油組成物中の遊離脂肪酸の量が0.5重量%か ら5重量%であるのか不明である点。 10 (2) 容易想到性について ア 本件発明1について (ア) 取消事由(4)で主張したところと同様の理由により,相違点4-3’ について,脱ガム処理において希NaOHを使用し,遊離脂肪酸を部分 中和させることは,当業者が容易に想到し得た事項であり,その他の点15 についても同様に容易想到である。 (イ) また,相違点4-3は,相違点4-2に「炭素数16から22の遊 離脂肪酸が内部揮発性作業流体とされている」点が加えられたものであ るところ,この点は相違点をもたらすものではないから,取消事由(4)で 主張したところと同様の理由により,相違点4-3に係る本件発明1の20 構成は,当業者が容易に想到し得たものである。 (ウ) 甲3発明は,脱酸イワシ油を得る方法の発明であり,その目的は, 遊離脂肪酸及びコレステロールが含まれる揮発性留分だけではなく,高 品質の脱酸油を取得することにある。そして,脱酸油を得るためには, 蒸留では除去又は不活性化することができない不純物の除去又は不活25 性化という観点からも,遊離脂肪酸濃度をそろえるという観点からも, 蒸留前にアルカリ処理を行うことが望ましく,その際のアルカリ成分の 32 量は,魚油中の遊離脂肪酸の等モル量よりも少量で足りる。 したがって,当業者には,蒸留前にアルカリ処理を行う動機付けがあ る。 イ 本件発明7について 5 (ア) 取消事由(4)で主張したところと同様の理由により,相違点10- 3’について,解乳化剤としての無機塩を添加することは,当業者が容 易に想到し得た事項であり,その他の点についても同様に容易想到であ る。 (イ) また,相違点10-3は,相違点10-2と実質的に同じであるか10 ら,取消事由(4)で主張したところと同様の理由により,相違点10-3 に係る本件発明7の構成は,当業者が容易に想到し得たものである。 (ウ) 本件各発明の水性流体処理は,脱ガム処理(油相と水相との混合及 びそれに続く水相の分離)を含むところ,一般に,脱ガム処理は実質的 に塩基なしで行われることから,粗魚油の脱ガム処理の前後における遊15 離脂肪酸濃度に変化はない。そして,粗魚油の遊離脂肪酸濃度は,通常 は2〜5%であるから,脱ガム処理後の遊離脂肪酸濃度も, 5重量% 0. ないし5重量%の範囲内となる。 そうすると,ステップ(b)後の遊離脂肪酸濃度に係る上記構成は, 当然に実現されるものであるから,動機付けの問題は生じない。 20 ウ 被告が主張する顕著な効果はないこと 取消事由(4)で主張したとおり,本件発明1及び7は,特段の効果を奏す るものではない。 6 取消事由(6)(甲4発明に対する進歩性の欠如) (1) 相違点10-4についての判断の欠落25 相違点10-4は,実質的には解乳化剤としての無機塩の含有の有無のみ が相違点となるところ,本件審決は,原告が解乳化剤としての無機塩の添加 33 を周知技術として主張立証していたにもかかわらず,これに対する判断をせ ず,理由を付さないまま,相違点10-4は当業者が容易に想到し得なかっ たと判断したものであり,理由不備及び判断の遺漏がある。 (2) 容易想到性 5 ア 本件発明1について (ア) 甲4発明の「水洗及び脱水」は,脱ガム処理が具体的な操作として 表現されたものであるから,相違点4-4は,相違点4-3と実質的に 同じ内容である。 (イ) したがって,取消事由(5)で主張したところと同様の理由により,相10 違点4-4に係る本件発明1の構成は,当業者が容易に想到し得たもの である。 イ 本件発明7について (ア) 相違点10-4のうち,実質的な相違点は, 「水性流体が,相分離を 改善するための塩化ナトリウム,塩化カリウム,硫酸ナトリウムおよび15 硝酸アンモニウムから選択される塩を含有」するとの部分のみであり, 相違点10-3と実質的に同じである。 (イ) したがって,取消事由(5)で主張したところと同様の理由により,相 違点10-4に係る本件発明7の構成は,当業者が容易に想到し得たも のである。 20 第4 被告の主張 1 取消事由(1)(明確性要件違反) (1) 本件明細書の段落【0038】に記載されているように,「外部揮発性作 業流体」とは, 「除去対象の親油性成分」である「環境汚染物質」との関係に おいて「適切な揮発性を有する」物質であり, 「ストリッピング処理ステップ25 において原油組成物から好ましくない親油性成分」である「環境汚染物質」 を「除去するのに効果的な組成物」である。このことは,甲2文献等からも 34 明らかである。 (2) そして,「臭素化難燃剤」及び「臭素系難燃剤」が同義であることは,当 業者にとって明らかである上,本件明細書の記載によれば,本件各発明にお ける「原油組成物」の中に含まれる「臭素化難燃剤」が, 「魚や海洋哺乳類の 5 ような有機体の脂肪組織に最終的に集まる脂溶性残留性環境汚染物質」に該 当することも明らかである。また,臭素化ポリスチレン等の高分子量の臭素 化難燃剤が生物の細胞に取り込まれにくいことは技術常識であった上,本件 各発明において, 「臭素化難燃剤」は遊離脂肪酸と共に油組成物から分離され るとされているのであるから,当業者であれば,蒸留によって遊離脂肪酸と10 共に除去することができない分子量の大きな低揮発性ポリマー等が「臭素化 難燃剤」の範囲には含まれないことを,容易に理解することができる。さら に,本件明細書の段落【0023】には,環境汚染物質としての臭素系難燃 剤の具体的例示がある。 これらの事情によれば,「臭素化難燃剤」の技術的範囲は明確である。 15 (3) 以上に加え,本件各発明においては, 「除去対象の親油性成分」である「環 境汚染物質」が「臭素化難燃剤」であることが特定されていることからすれ ば,「外部揮発性作業流体」の意義も明確である。 2 取消事由(2)(実施可能要件違反) (1) ステップ(c)について20 ア 上記1で主張したとおり,当業者は,本件明細書の記載を参酌すれば, 原油組成物から除去される「臭素化難燃剤」の範囲及び適切な揮発性を有 する「外部揮発性作業流体」を理解することができる。 イ また,本件明細書には,実施例1及び2として,所定の条件で蒸留を行 うことにより,ダイオキシン,PCB等の環境汚染物質が低減されたこと25 が示されている(表1(【0085】 )ところ,当業者は,ダイオキシン類 ) が減少するような蒸留の条件であれば,一般的な臭素化難燃剤も減少する 35 ことを容易に理解することができる。 ウ したがって,当業者は,実施例の記載等を参酌して,臭素化難燃剤等を 分離することができるから,ステップ(c)を実施することができる。 (2) ステップ(b)について 5 ア 当業者であれば,本件明細書の段落【0048】ないし【0050】,実 施例1及び2等の記載並びに技術常識に基づいて,ステップ(b)におい て,原油組成物中に存在する好ましくない親水性成分であるタンパク質性 化合物が分離されるように本件各発明を実施することができる。そして, 本件明細書の段落【0009】【0010】【0013】及び【0014】 , ,10 の記載を参酌すると,タンパク質性化合物を減少させることにより,スト リッピング処理ステップにおいて用いられるエバポレータの伝熱面に堆 積する成分を減少させることができること,すなわち, 「親水性成分からの スケールのリスクを低減または排除する」ことができることも,当業者は 当然に理解することができる。 15 イ 本件審決は,ステップ(b)においてタンパク質性化合物を含む水溶性 物質を全て除去することが必要であると判断したものではなく,原告が主 張する各甲号証に記載された脱ガム処理はステップ(b)には当たらない と判断したものである。 脱ガム処理とは,リン脂質の除去を目的として,油中に含まれるリン脂20 質の量に見合った量の水を添加し,ガム質として除去する工程であるとこ ろ,リン脂質は親水性成分とはいえないから,脱ガム処理は,タンパク質 性化合物を含む水溶性物質の除去を目的とする処理には当たらない。そし て,原告が主張する各甲号証に記載された脱ガム処理は,様々な方法によ るものを含む非常に広範な概念であり,これらの「周知の脱ガム処理」に25 は,水溶性物質を十分に除去し得ないものが含まれることは明らかである。 ウ 技術常識によれば,親水性のタンパク質性化合物は,一般には,極性が 36 高く,それに応じて沸点も高くなるから,たとえ具体的な検証実験のデー タが本件明細書に記載されていないとしても,当業者は,本件明細書の段 落【0009】ないし【0014】に記載されたエバポレータの伝熱面に おけるスケールの成長等の問題や,親水性のタンパク質性化合物を洗い流 5 すことによってスケールの増大が低減されることなどを理解することが できる。また,本件明細書の段落【0009】ないし【0011】に記載 されているように,本件明細書で問題とされているタンパク質成分等の親 水性成分からのスケールとは,未処理の原油,すなわち脱ガム処理されて いない油を精製する際に発生するものである。 10 エ 本件明細書の実施例1に関する記載(【0080】)を基に計算すると, 水酸化ナトリウム水溶液の濃度は,約0.3重量%であると推測すること ができるところ,当業者は,本件明細書の段落【0043】の記載等も併 せて参酌すれば,実施例1における「2%水酸化ナトリウム水溶液」 「0. が 2%水酸化ナトリウム水溶液」の誤記であると理解するのが合理的である15 から,実施例1は本件発明1に対応する具体例であると容易に理解するこ とができる。 3 取消事由(3)(サポート要件違反) (1) 取消事由(2)で主張したとおり,当業者は,実施例も含めた本件明細書の 記載及び技術常識に基づいて,原油組成物から除去される「臭素化難燃剤」20 の範囲及び適切な揮発性を有する「外部揮発性作業流体」を理解することが でき,本件各発明によって臭素化難燃剤の除去という課題を解決することが できると認識し得る。 また,同様に,当業者は,本件明細書の記載及び技術常識から, 「親水性成 分からのスケールのリスクを低減または排除する」との課題の内容及び本件25 各発明の作用効果を明確に理解することができる。 (2) このほか,取消事由(2)で主張したとおり,原告の主張は成り立たない。 37 4 取消事由(4)(甲2発明に対する進歩性の欠如) (1) 相違点4-2の容易想到性 ア 甲2発明において遊離脂肪酸を部分中和する動機付けはないこと (ア) 甲2文献には,ストリッピング工程の前処理過程の一例として,脱 5 臭工程が記載されているのみであり 【0057】 , ( ) ストリッピング処理 前の油組成物を脱ガム処理することや,何らかの水性流体と接触させる ことは,記載又は示唆されていない。そうすると,仮に,甲2文献に接 した当業者が,甲2発明に対して何らかの前処理を組み合わせることを 動機付けられたとしても,脱臭工程を選択するのが自然であり,敢えて10 脱ガム処理を選択することはない。 (イ) また,仮に,当業者が前処理として周知の脱ガム処理を選択し得た としても,周知の脱ガム処理は,粗製油脂のリン脂質の除去を目的とす る工程であり,油脂中の遊離脂肪酸の除去を目的とする工程ではないか ら,当業者が脱ガム処理によって遊離脂肪酸の部分中和を図ろうと思い15 至ることはない。 (ウ) したがって,甲2文献に接した当業者が,甲2発明において,相違 点4-2に係るステップ(b)に相当する処理を行おうとする動機付け は存しない。 イ 脱ガム処理及びアルカリ精製は別の工程であったこと20 (ア) 原告が甲号証として提出した文献には,いずれも脱ガム処理が遊離 脂肪酸を除去する手段であるとは記載又は示唆されておらず,逆に,粗 油の生成においては,遊離脂肪酸を除去するためにアルカリ精製(中和, 脱酸)が行われること,脱ガム処理及びアルカリ精製はそれぞれ独立し た別の工程として行われることが示されている。 25 したがって,仮に,当業者が,甲2発明において,脱ガム処理やアル カリ精製を行うことを動機付けられたとしても,技術常識によれば,脱 38 ガム処理及びアルカリ精製をそれぞれ独立した別の工程として行うはず であるから,本件発明1のように,水性流体処理において塩基を使用し, 油脂中に存在する遊離脂肪酸を部分的に中和することで,その後にアル カリ精製の工程を経ることなく,油脂をストリッピング工程に付するこ 5 とを動機付けられることはない。 (イ) 原告は,脱酸のために蒸留を使用する場合でも,併せてアルカリ成 分による処理を行うことには利点があり,その際のアルカリ成分の量は 遊離脂肪酸を部分中和するレベルで足りるなどと主張するが,本件優先 日当時の技術常識によれば,そのような利点があるときには,脱ガム処10 理の後にアルカリ精製を行っていたのであり,原告が主張するところは 動機付けの根拠とはならない。 (ウ) 原告は,上記(イ)の主張に関連して,甲6文献及び甲24文献等を 根拠として,粗魚油の精製において脱酸及び脱臭が蒸留によって1つの 工程で行われることもあり,ステップ(c)もこれと同じ例であると主15 張するが,同各文献に記載されている「蒸留」 (物理精製)は,水蒸気蒸 留を使用するものであり,温度に対する感受性が高い長鎖多不飽和脂肪 酸を魚油から回収するために使用することができないことは,本件優先 日当時の技術常識であった。 ウ 希NaOHによる脱ガム処理の周知技術は存在しないこと20 (ア) 甲15文献の記載は,甲18文献の単なる引用である。また,そも そも,甲15文献は,脱ガム処理とは別個独立の工程としてアルカリ精 製を行うことを開示する文献であり,同文献には,脱ガム処理において 遊離脂肪酸の部分的中和を行うことは,記載又は示唆されていない。 (イ) 甲18文献においては,酸による脱ガム処理について記載されてい25 るが,希NaOHによる脱ガム処理については記載されていない。また, 甲18文献において希NaOHを使用するのは,遊離脂肪酸の量をコン 39 トロールするためではなく,酸による脱ガム処理で酸性化されたリン脂 質を速やかに水溶性ナトリウム塩に変換するためである上,甲18文献 には,酸の中和の程度が高すぎると石けんの形成及び乳化による油の損 失をもたらし好ましくない旨が記載されている。 5 そうすると,甲18文献に接した当業者は,仮に同文献に開示されて いる酸による脱ガム処理の工程で希NaOHによる洗浄が行われるとし ても,当該脱ガム処理は,遊離脂肪酸を中和して除去することを目的と する工程ではないし,この工程を経ることにより,逆に,石けんが形成 されるなど望ましくない結果をもたらすことがあると理解するから,こ10 の点からも,甲2発明に希NaOHによる処理を適用して,遊離脂肪酸 を部分中和させようとする動機付けは存しない。 (ウ) そもそも,甲18文献において,希NaOH,すなわち少量のNa OHが使用されているのは,脂肪酸が中和されることを確実に回避する ためである。しかも,甲18文献に記載された技術は,EPAやDHA15 等の長鎖多不飽和脂肪酸を含まない植物油の精製に適用されるもので あるから,この技術を魚油等から長鎖多不飽和脂肪酸を回収しようとす る際に適用しようとする動機付けはない。 エ 粗魚油中の遊離脂肪酸濃度を一定にそろえる動機付けはないこと 原告は,脱ガム処理における部分中和には,粗魚油中の遊離脂肪酸濃度20 を一定にそろえてプラントを安定に稼働させることができるメリットが ある旨主張するが,その根拠とする甲48文献は,石油精製工業等を含む 天然資源を原料とする精製工程全般について記載するものであり,魚油の 精製について何ら具体的な記載はないから,魚油の技術分野における技術 常識を示す文献ではない。 25 オ 甲33技術について 40 (ア) 甲33技術は,高温の水蒸気を吹き込む水蒸気蒸留処理(物理精製) を使用するものであるが,温度に対する感受性が高い長鎖多不飽和脂肪 酸を魚油から回収するために使用することができないことは,本件優先 日当時の技術常識であった。また,甲33文献は,ガム質を大量に含む 5 植物油の精製に関する文献であるところ,植物油は,長鎖多不飽和脂肪 酸であるEPA及びDHAを含まない。 したがって,甲33文献に接した当業者は,魚油から長鎖多不飽和脂 肪酸を回収する技術に係る甲2発明に甲33技術を適用しようと動機付 けられることはない。 10 (イ) 甲33技術は,遊離脂肪酸を除去するために,脱ガム処理とは別に アルカリ精製を行うものである。そして,甲2発明は,複雑かつ経費が かかるアルカリ精製を行わずとも,ストリッピング処理によって遊離脂 肪酸を除去することができる点を有利な作用効果の1つとする発明で ある。 15 したがって,当業者が,甲2発明にアルカリ精製に係る甲33技術を 適用しようと動機付けられることはない。 (ウ) 甲33技術は,アルカリ処理で精製した石けん分を分離せずに加水 分解して再び遊離脂肪酸として油相中に溶解させてから,水洗せずに水 蒸気蒸留処理に付すという技術的特徴を有するものであり,遊離脂肪酸20 を部分的に中和させてその量を低減するという本件発明1の技術的特 徴を有するものではない。 したがって,仮に,甲33文献に接した当業者が,同文献に開示され ているアルカリ処理を甲2発明と組み合わせたとしても,相違点4-2 に係る本件発明1の構成とはならない。 25 カ 残存する遊離脂肪酸量について 41 これまで主張したとおり,そもそも甲2発明において魚油中の遊離脂肪 酸を部分中和させようとする動機付けが存在しない以上,当業者は,部分 中和後の魚油中の遊離脂肪酸濃度を0.5重量%ないし5重量%の範囲内 とする構成を想到し得ない。 5 キ 阻害要因があること (ア) 甲2文献には,魚油内部の脂肪酸をそのまま利用するか,外部から 揮発性作業流体を魚油に添加して利用することが記載されていること からすれば,本件発明1のように遊離脂肪酸を部分中和してその量を低 減させようとする動機付けが存在しないどころか,阻害要因が存すると10 いえる。 (イ) 甲2発明によれば,魚油中に存在する遊離脂肪酸を,前処理なしで 1回のストリッピング処理で除去することができるのであるから,当業 者が,これを敢えて本件発明1に係る2回の脂肪酸の分離工程に置き換 えようと動機付けられることはなく,この点でも阻害要因が存するとい15 える。 ク 顕著な効果があること (ア) 甲2文献には,魚油等の油組成物中の遊離脂肪酸を除去することは 何ら記載されていない。また,原告が先行技術として主張する甲6文献, 甲15文献,甲18文献等にも,脱ガム処理として希NaOHで洗浄す20 ることによって遊離脂肪酸の量を低減させることは,記載又は示唆され ておらず,それどころか,脱ガム処理後にアルカリ精製等によって遊離 脂肪酸を除去すべきことが開示されている。 (イ) そうすると,当業者は,本件発明1の構成を採用することによって, アルカリ精製等の遊離脂肪酸除去工程を経ることなく,環境汚染物質を25 ストリッピング処理において効果的に除去し,トリグリセリド油の回収 率を高めることができることを,予測することはできない。 42 したがって,本件発明1は,当業者には予測し得ない顕著な効果を奏 するものである。 (2) 相違点10-2の容易想到性 ア 動機付けがないこと 5 (ア) 甲2文献には,ストリッピング処理前の前処理過程の一例として脱 臭工程のみが挙げられている上,ストリッピング処理前の油組成物を脱 ガム処理することや,何らかの水性流体と接触させることは,記載又は 示唆されていない。また,甲2文献には,原油組成物を,相分離を改善 するための塩化ナトリウム,塩化カリウム,硫酸ナトリウム及び硝酸ア10 ンモニウムから選択される塩を含有する水性流体と実質的に塩基なしで 接触させることや,実質的にタンパク質性化合物を原油組成物から分離 することも,記載又は示唆されていない。 そうすると,仮に,甲2文献に接した当業者が,甲2発明に何らかの 前処理を組み合わせることを動機付けられたとしても,前処理として脱15 臭工程を選択するのが自然であり,何ら記載のない脱ガム処理を敢えて 選択することはない上,脱ガム処理を選択しても,無機塩を含有する水 性流体を使用するように動機付けられることはない。 (イ) また,原告が主張する各甲号証に記載された脱ガム処理は,様々な 方法によるものを含む非常に広範な概念であり,水溶性物質を十分に除20 去し得ないものも含まれるから,本件発明7のステップ(b)とは異な るものである。 したがって,仮に,当業者が前処理として脱ガム処理を選択し,かつ, 脱ガム処理において無機塩を使用する方法に思い至ることができたとし ても,相違点10-2に係る本件発明7の構成とはならない。 43 (ウ) 原告は,甲44文献の記載を根拠として,解乳化剤として無機塩を 添加する技術は技術常識であり,無機塩を添加して有機相と水相の分離 を促進させることも一般的に行われていた旨主張する。 しかしながら,甲46文献及び甲47文献にも記載されているように, 5 エマルジョン形成の解消は容易ではないことは技術常識であったもので あり,原告が指摘する甲44文献の記載のみをもって無機塩を添加して 有機相と水相の分離を促進させることが一般に行われていたと認定する ことはできない。 また,甲44文献に記載されている有機相は,天然油脂の鹸化によっ10 て得られたかなりの量の遊離脂肪酸を含むのに対し,本件発明7のステ ップ(b)における有機相は,主としてグリセリドを含むものの遊離脂 肪酸及び好ましくない親水性成分は少量しか含まないものであって,両 有機相は全く異なるものであるから,当業者が甲44文献に記載された 技術を甲2発明に適用しようと動機付けられることはなく,仮にこれを15 適用したとしても,相違点10-2に係る本件発明7の構成とはならな い。 さらに,仮に,一般科学において,無機塩が解乳化剤として知られて いたとしても,これを魚油の精製工程で使用しようと試みられることが なかったことは,これに関する文献が本件訴訟において何ら提出されて20 いないことからも裏付けられる。 イ 顕著な効果があること (ア) 甲2文献には,魚油を実質的に塩基なしで水性流体に接触させるこ とは何ら記載されていない上,水性流体が無機塩を含有することや,そ れによって相分離を改善し得ることは,記載又は示唆されていない。 25 (イ) そうすると,当業者は,本件発明7の構成を採用することによって, 水性処理において塩基を使用することなく,相分離を改善し,トリグリ 44 セリド油の回収率を高めることができることを,予測することはできな い。 したがって,本件発明7は,当業者には予測し得ない顕著な効果を奏 するものである。 5 5 取消事由(5)(甲3発明に対する進歩性の欠如) (1) 相違点4-3及び10-3の認定について ア 原告の主張は,本件審決が認定した相違点を更に分割して先行技術と比 較するものであるが,本件発明1及び7の内容によれば,ステップ(b) に係る構成は,発明の技術的課題の解決の観点からみてまとまりのある構10 成といえるから,これを更に分割して比較することは許されない。 イ また,甲3文献には,脱ガム処理の具体的な処理方法は一切記載されて いないところ,原告が主張する周知の脱ガム処理には水溶性物質を十分に 除去し得ないものも含まれるから,甲3発明の脱ガム処理は,ステップ(b) のような「好ましくない親水性成分が…原油組成物から分離される」工程15 とはいえない。 (2) 相違点4-3’及び4-3の容易想到性 ア 動機付けがないこと (ア) 甲3文献には,脱ガム処理について具体的な記載は何ら存在しない 上,脱ガム処理の工程において本件発明1のステップ(b)のような処20 理をすることは,記載又は示唆されていないから,取消事由(4)で主張し たところと同様の理由により,当業者が甲3発明において相違点4-3’ に係る構成を採用する動機付けはない。 また,甲3発明は,従来のアルカリ処理の方法には,工程が多く操作 が煩雑である上,加水分解の発生や脱酸油及びコレステロールの収率が25 低いという欠点が存することから,これらの問題を解決することを目的 とするものであることからすれば,甲3文献に接した当業者が,甲3発 45 明の脱ガム処理において,希NaOHを使用する本件発明1のステップ (b)の方法を採ろうと動機付けられることはなく,それどころか,相 違点4-3’に想到する上で阻害要因とすらなるものといえる。 以上のとおり,仮に原告が主張する相違点4-3’を認定したとして 5 も,同相違点に係る構成とする動機付けは生じない。 (イ) 上記(ア)に加え,取消事由(4)で主張したところと同様の理由によ れば,当業者が相違点4-3に係る本件発明1の構成を採る動機付けは ない。 イ 顕著な効果があること10 (ア) 甲3文献には,脱ガム処理において魚油を塩基を含む水性流体と接 触させることや,続くストリッピング工程において魚油中の環境汚染物 質の量を減少させることは,記載又は示唆されていない。そして,原告 が先行技術として主張する甲6文献,甲15文献,甲18文献等にも, 脱ガム処理として希NaOHで洗浄することによって遊離脂肪酸の量15 を低減させることは,記載又は示唆されておらず,それどころか,脱ガ ム処理後にアルカリ精製等によって遊離脂肪酸を除去すべきことが開 示されている。 (イ) そうすると,当業者は,本件発明1の構成を採用することによって, アルカリ精製等の遊離脂肪酸除去工程を経ることなく,環境汚染物質を20 ストリッピング処理によって効果的に除去し,トリグリセリド油の回収 率を高めることができることを,予測することはできない。 したがって,本件発明1は,当業者には予測し得ない顕著な効果を奏 するものである。 (3) 相違点10-3’及び10-3の容易想到性25 ア 動機付けがないこと (ア) 甲3文献には,脱ガム処理について,具体的な記載は何ら存在しな 46 い上,脱ガム処理において本件発明7のステップ(b)のような処理を することは,記載又は示唆されていないから,取消事由(4)で主張したと ころと同様の理由により,当業者が甲3発明において相違点10-3’ に係る本件発明7の構成を採ろうと動機付けられることはない。 5 したがって,仮に原告が主張する相違点10-3’を認定したとして も,同相違点に係る構成とする動機付けは生じない。 (イ) 上記(ア)に加え,取消事由(4)で主張したところと同様の理由によ れば,当業者が相違点10-3に係る本件発明7の構成を採る動機付け はない。 10 イ 顕著な効果があること (ア) 甲3文献には,脱ガム処理において,魚油を実質的に塩基なしで水 性流体に接触させることは何ら記載されていない上,塩を含有する水性 流体を使用して相分離を改善し得ることや,好ましくない親油性成分で ある環境汚染物質を魚油から除去することは,記載又は示唆されていな15 い。 (イ) そうすると,当業者は,本件発明7の構成を採用することによって, 水性処理において塩基を使用することなく,相分離を改善し,トリグリ セリド油の回収率を高めることができることを,予測することはできな い。 20 したがって,本件発明7は,当業者には予測し得ない顕著な効果を奏 するものである。 6 取消事由(6)(甲4発明に対する進歩性の欠如) (1) 相違点10-4についての判断の欠落はないこと ア 原告は,相違点10-4を5つに分割した上で同相違点についての判断25 の欠落を主張しているが,本件発明7の内容によれば,ステップ(b)に 47 係る構成は,発明の技術的課題の解決の観点からみてまとまりのある構成 といえるから,同相違点を更に分割して比較することは許されない。 イ 本件審決は,相違点10-4の判断において,甲4文献の記載につき, 相分離を改善するための無機塩を含有する水性流体を用いることの記載 5 及び示唆がないことなどを述べており,解乳化剤としての無機塩の添加の 周知技術の適用について判断していることは明白である。 (2) 相違点4-4の容易想到性 ア 原告が主張する各甲号証に記載された脱ガム処理は,様々な方法による ものを含む非常に広範な概念であるから,これと単に魚油を水洗して脱水10 するだけである甲4発明の「水洗及び脱水」とを実質的に同一であると解 することはできない。 イ 甲4発明においては,粗魚油を水洗し脱水しているところ,魚油を水洗 しても遊離脂肪酸を分離することはできないことは,技術常識である。ま た,甲4文献には,魚油を蒸留に付す前に魚油中の遊離脂肪酸を部分中和15 させることについては何ら記載されていない上,本件発明1のステップ (b)のような処理をすることは,記載又は示唆されていない。 そうすると,取消事由(4)において主張したところと同様の理由により, 当業者が甲4発明において相違点4-4に係る本件発明1の構成を採用 する動機付けはない。 20 ウ 甲4文献には,粗魚油を水洗し脱水した後,短行程真空蒸留装置に付し たことが記載されているのみであり,蒸留に付す前に魚油中の遊離脂肪酸 を部分中和させることや,塩基を含む水性流体と接触させること,魚油中 の環境汚染物質の量を減少させることは,記載又は示唆されていない。そ して,原告が先行技術として主張する甲6文献,甲15文献,甲18文献25 等にも,脱ガム処理として希NaOHで洗浄することによって遊離脂肪酸 の量を低減させることは,記載又は示唆されておらず,それどころか,こ 48 れらの文献には,脱ガム処理後にアルカリ精製等によって遊離脂肪酸を除 去すべきことが開示されている。 そうすると,当業者は,本件発明1の構成を採用することによって,ア ルカリ精製等の遊離脂肪酸除去工程を経ることなく,環境汚染物質をスト 5 リッピング処理によって効果的に除去し,トリグリセリド油の回収率を高 めることができることを,予測することはできない。 したがって,本件発明1は,当業者には予測し得ない顕著な効果を奏す るものである。 (3) 相違点10-4の容易想到性10 ア 甲4文献には,粗魚油を水洗し脱水したと記載されているのみであり, 粗魚油の水洗に塩を含有する水性流体を使用して相分離を改善すること や,水洗・脱水後の遊離脂肪酸の量を0.5重量%から5重量%となるよ うにすることは,記載又は示唆されていない。 そうすると,当業者が甲4発明において相違点10-4に係る本件発明15 7の構成を採用しようと動機付けられることはない。 イ 甲4文献には,粗魚油の水洗に塩を含有する水性流体を使用して相分離 を改善することや,好ましくない親油性成分である環境汚染物質を魚油か ら除去することは,記載又は示唆されていない。 そうすると,当業者は,本件発明7の構成を採用することによって,相20 分離を改善し,外部からの揮発性作業流体の添加を不要としつつ,好まし くない親油性成分である環境汚染物質を低減させることができることを, 予測することはできない。 したがって,本件発明7は,当業者には予測し得ない顕著な効果を奏す るものである。 25 第5 当裁判所の判断 1 本件各発明 49 (1) 特許請求の範囲 本件各発明の特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりである。 (2) 本件明細書の記載 本件明細書には,次のとおりの記載がある(甲81)。 5 ア 技術分野 【0001】 本発明は,油組成物,特にω-3系多不飽和脂肪酸を含む油 組成物中に含まれている好ましくない成分の量を低減する方法に関する。 本発明の方法は,精製された濃縮物,例えばω-3系多不飽和脂肪酸が濃 縮された高度精製濃縮物を得るために,油組成物から好ましくない水溶性10 (親水性)成分および好ましくない脂溶性(親油性)成分を効率的に除去 する方法を提供する。 イ 背景技術 【0002】 残念なことに,人間の活動によって,汚染物質が環境に広範 囲に広がった。残留性有機汚染物質(POP)は食物連鎖を通じて蓄積さ15 れ,捕食性動物およびヒトが特にそれらの弊害を受ける。とりわけ関心を もたれているのは,魚や海洋哺乳類のような有機体の脂肪組織に最終的に 集まる脂溶性残留性環境汚染物質である。… 【0004】 …したがって,ヒトまたは動物が摂取する油に含まれる汚染 物質の濃度を低減する方法が必要とされている。 20 【0005】 魚油を含め,動物油にはコレステロールが含まれている。食 用油は食品,健康補助食品または医薬品に使用される前にコレステロール を除去することが必要であるか,望ましいことが多い。 【0006】 WO2004/007654には,油または脂肪中に含まれ ている環境汚染物質を,油をストリッピング工程,例えば短行程蒸発,分25 子蒸留または同様の工程にかける前に揮発性作業流体を添加することに よって低減する方法が記載されている。WO2004/007655には, 50 コレステロールを低減するため,例えば脂肪酸エチルまたはメチルエステ ルが作業流体として使用される,関連したタイプの方法が記載されている。 【0007】 これらの文献によれば,分子蒸留を行う前に外部から揮発性 作業流体をトリグリセリド油に添加すると,より効率的な方法となり,汚 5 染物質またはコレステロールの除去率が上昇する。揮発性作業流体の添加 によって,より低い温度の採用および/または生産設備の能力の向上も可 能になる。低減された工程温度および保持時間(流速の増加によって生ず る)は,海産物油中のEPAやDHAのような多不飽和脂肪の二重結合の 分解を防止するのに重要である。 10 【0008】 WO2004/007654には,海産物油中に自然に含ま れている遊離脂肪酸のストリッピング工程における内部作業流体として の使用も記載されている。それによって,外部作業流体の添加を避けるこ とができる。 【0009】 しかし,未処理の原油中に含まれている遊離脂肪酸を内部作15 業流体として使用することには不利な点もある。原油製品は通常,水溶性 タンパク質,ペプチドなどの親水性成分を少量含有するものである。この ようなタンパク質性成分または他の成分は,短行程蒸発または分子蒸留に 使用される設備の伝熱面,これらはしばしば約200℃以上の温度になり うる,を腐食する傾向があるので,ストリッピング処理ステップに存在す20 ると問題を引き起こす可能性がある。 【0010】 本格的な商業生産においては,膨大な量の原油が通常処理さ れる。原油中のタンパク質,ペプチドおよび他の水溶性成分の濃度が低い 場合でさえ,油の処理量は通常多く,このような親水性成分からエバポレ ータの伝熱面におけるスケール(scaling:缶石)の成長,すなわち微粒子25 状物質の堆積によって,比較的短時間で技術的な問題または品質の問題が 生じる可能性がある。 51 【0011】 潜在的な問題の例としては,熱媒体から油膜への熱伝達の低 下,ストリッピングされた油中に崩壊したスケールが不純物として含まれ ること,流線における制約などである。このような問題は,設備を清掃す る頻度を増やすことによって解決する可能性がある。しかし,海産物油の 5 ストリッピングに使用されたエバポレータおよび他の設備の清掃は瑣末 な事ではない。… 【0012】 …このようなシステムの清掃は非常に時間と費用を要する。 したがって,清掃の頻度を減らすことは,不稼動時間を低減するのに非常 に重要であり,生産性およびプロセス経済性のために不可欠であり得る。 10 【0013】 最新の工業用方法において,原油はストリッピング工程前に アルカリ精製により脱酸され,それによって原油中に存在する遊離脂肪酸 が除去される。さらに,アルカリ精製はまたタンパク質性物質などの親水 性成分を洗い流し,それによってストリッピングに使用される設備におけ るスケールの増大が低減される。しかし,遊離脂肪酸がストリッピング前15 に除去されるので,外部作業流体をストリッピング工程のために添加しな ければならない。 ウ 発明が解決しようとする課題 【0014】 本発明は,原油組成物中に含まれている遊離脂肪酸のストリ ッピング工程用の内部作業流体としての使用であって,同時にストリッピ20 ング設備の伝熱面上におけるタンパク質,ペプチドなどの親水性成分から のスケールのリスクを低減または排除する使用に関係する。これは,スト リッピング前に,等モル量以下の塩基,すなわち原油組成物中に存在する 遊離脂肪酸すべてを中和して石けんにするのに必要とされる塩基の量よ り少ない塩基を使用して,アルカリ部分精製を行うことによって実現する25 ことができる。あるいは,ある種の用途では,実質的に塩基なしで,代わ りに水性流体を用いて油を洗浄してもよい。 52 エ 課題を解決するための手段 【0015】 したがって,本発明の一態様は,油組成物中の好ましくない 成分の量を低減する方法であって, (a)好ましくない親水性成分,好ましくない親油性成分および遊離脂肪 5 酸を含む原油組成物を用意するステップと, (b)原油組成物を水性流体処理ステップにかけるステップであり,内部 揮発性作業流体として有効な量の遊離脂肪酸を含む油組成物が得られる ような条件の下で親水性成分が原油組成物から分離されるステップと, (c)ステップ(b)後の油組成物を内部揮発性作業流体としての遊離脂10 肪酸の存在下でストリッピング処理ステップにかけるステップであり,親 油性成分が遊離脂肪酸と共に油組成物から分離されるステップと, (d)ステップ(c)からの組成物をさらなる処理ステップに場合によっ てはかけるステップと を含む方法である。 15 【0016】 本発明によれば,まず好ましくない親水性成分は水性流体処 理ステップにおいて原油組成物から除去される。この水性流体処理ステッ プは,油組成物中の遊離脂肪酸の残量がその後のストリッピング処理ステ ップにおいて内部揮発性作業流体として有効なレベルに到達するように 設計された条件下で行われ,好ましくない親油性成分を好適には外部揮発20 性(親油性)作業流体を油組成物に添加することなくストリッピングする ことができる。 【0017】 したがって,本発明は,ストリッピング用の内部作業流体と して油中に自然に含まれている遊離脂肪酸を使用して,好ましくない親油 性成分,例えば環境汚染物質およびコレステロールを除去することによっ25 て,伝熱面上の望ましくないスケールの課題に対応するものである。さら に,WO2004/007654およびWO2004/007655に記 53 載されている確立されたストリッピング工程に比べて,油全収量を大幅に 改善することができる。ストリッピング前に行われる等モル量を超えるア ルカリを使用した通常のアルカリ脱酸において,脱酸は,トリグリセリド の加水分解によって引き起こされるトリグリセリド油の著しい損失およ 5 び他の損失をもたらす。魚油の脱酸時に,遊離脂肪酸画分の所望の損失に 加えて,しばしば2〜5%のトリグリセリド油を損失することがある。作 業流体が添加される後続のストリッピング工程も,典型的には1〜4%の トリグリセリド油の損失を伴う。本開示にかかる方法を使用すると,より 低い苛性が使用されているので,部分脱酸の典型的な油収量は通常の脱酸10 工程の油収量より高い。したがって,トリグリセリドの加水分解が低減さ れることになる。本発明によるストリッピング工程のトリグリセリド油収 量は,外部作業流体を使用する確立されたストリッピング工程に比べて同 様または高いと予想される。したがって,本開示にかかる方法は油収量の 増加の機会を与える。 15 【0018】 本開示にかかる方法の別の利点は,外部作業流体を添加する 必要がなくなることである。これにより,適正な量の作業流体の生成,購 入,貯蔵,添加および混合のコストを低減することができる。 【0019】 酸価の非常に高い(15mgKOH/gを超える)海産物油 のアルカリ脱酸を実現するのは非常に困難であることがあり,油の損失は20 甚だしいことがある。本開示にかかる方法は,このような油の効率的な脱 酸の選択肢を提供し,トリグリセリド油収量を改善させる。 オ 発明を実施するための形態 【0020】 本発明は,油組成物,特にω-3系多不飽和脂肪酸,より特 定すると(すべてcis)-5,8,11,14,17-エイコサペンタ25 エン酸(EPA)および/または(すべてcis)-4,7,10,13, 16,19-ドコサヘキサエン酸(DHA)を含む油組成物中の好ましく 54 ない親水性成分および親油性成分の量を低減する方法に関する。好ましく ない親水性成分が水性流体処理ステップによって除去され,その後好まし くない親油性成分が内部揮発性作業流体としての遊離脂肪酸の存在下で ストリッピング処理ステップによって除去される。場合によっては,本方 5 法は,油組成物中のω-3系多不飽和脂肪酸のレベルを上げるステップを 含めてさらなる処理ステップを含むことがある。 【0021】 本発明の方法のステップ(a)は,好ましくない親水性成分, 好ましくない親油性成分および遊離脂肪酸を含む原油組成物を用意する ステップを含む。 10 【0022】 好ましくない親水性成分としては,タンパク質,ペプチドな どのタンパク質性化合物および他の水溶性成分が挙げられるが,これらに 限定されない。これらの成分は原油組成物中に通常0.1重量%未満の量 で存在することがある。好ましい実施形態において,親水性成分はタンパ ク質やペプチドなどのタンパク質性化合物である。 15 【0023】 好ましくない親油性成分としては,コレステロールおよび環 境汚染物質,特に芳香族および/またはハロゲン化炭化水素,ならびに有 機金属化合物,特にDDTおよびその代謝産物,ポリ塩化ビフェニル(P CB) ジベンゾ-ダイオキシン, , ジベンゾ-フラン,クロロフェノール, ヘキサクロロシクロヘキサン(HCH),トキサフェン,ポリ塩化トリフ20 ェニル,臭素系難燃剤,多環芳香族炭化水素(PAH),塩素系農薬,有 機スズ化合物および有機水銀化合物などの残留性有機汚染物質が挙げら れるが,これらに限定されない。特に重要なことは,ダイオキシン様PC Bなどのポリ塩化ビフェニル,ポリ臭化ジフェニルエーテル(PBDE), テトラブロモビスフェノールA(TBBPA),ヘキサブロモシクロドデ25 カン(HBCDD)などの臭素系難燃剤,ペルフルオロ化合物およびそれ らの組合せの除去である。 55 【0030】 上記の化合物の定義は,残留性有機汚染物質(POP)に関 するストックホルム条約および食品中のPOPに関する関連EU規制に 従っている。 【0031】 出発材料は,ω-3系多不飽和脂肪酸を含む原油組成物であ 5 ればいずれでもよい。… 【0032】 原油は,トリグリセリド形およびリン脂質形の少なくとも1 つの脂肪酸を含む。… 【0033】 市販の粗(未精製)トリグリセリド油,特に海産物油は,通 常トリグリセリド油の加水分解によって生成した一定量の遊離脂肪酸を10 含む。… 【0034】 原油は遊離脂肪酸の濃度が加水分解の程度に応じて上昇また は低下する。原油中の遊離脂肪酸の実際の濃度は酸価試験で決定すること ができる。…最も一般的なトリグリセリド油について,遊離脂肪酸の百分 率は酸価(mgKOH/gで報告される)のおよそ半分であると推定する15 ことができる。 【0035】 通常,粗魚油中の遊離脂肪酸の含有量はさまざまな油品質に 応じて異なるが,約2.5〜7.5重量%の遊離脂肪酸に相当する酸価約 5〜15mgKOH/gを粗魚油の標準とみなすことができ,その中でも 含量の高い油は低品質油とみなすことができる。 20 【0036】 本発明によれば,出発材料として使用される原油組成物は遊 離脂肪酸の含有量が原油組成物の全重量に対して好ましくは1重量%を 超え,より好ましくは約1重量%から約10重量%の間,最も好ましくは 約2.5重量%から約7.5重量%の間である。 【0037】 ステップ(b)は,原油組成物を水性流体処理ステップにか25 けるステップを含む。このステップにおいて,原油組成物中に存在する好 ましくない親水性成分は原油組成物から分離される。水性流体処理ステッ 56 プは脱酸,すなわち遊離脂肪酸の除去を含まないでもよく,または部分脱 酸,すなわち遊離脂肪酸の部分除去を含んでもよい。その結果,好ましく ない親水性成分を実質的に含まず,その後の処理ステップ(c)において 内部揮発性作業流体として有効な量の遊離脂肪酸を含む油組成物が得ら 5 れる。 【0038】 本発明の文脈において「作業流体」は,ストリッピング処理 ステップにおいて原油組成物から好ましくない親油性成分を除去するの に効果的な組成物である。「内部作業流体」は出発材料中にすでに存在す るが,一方「外部作業流体」は出発材料の処理中に何らかの段階で添加さ10 れる。作業流体は除去対象の親油性成分との関係において適切な揮発性を 有する。 【0039】 本発明の作業流体は原油組成物中に含まれている遊離脂肪酸 からなる。典型的には,これは16から22個の炭素原子を有する遊離脂 肪酸の混合物である。すなわち,典型的には除去対象の親油性成分によっ15 ては,本発明の作業流体がより揮発性であることもあれば,揮発性でない こともある。これは,POPの揮発性が,例えば比較的高い揮発性を有す るトリクロロ-PCBから例えば比較的低い揮発性を有するデカクロロ -PCBまでさまざまであるからである。 【0040】 ステップ(b)は,原油組成物中の好ましくない親水性成分20 が少なくとも部分除去される条件下における水性流体による原油組成物 の処理を含む。ステップ(b)における水性流体は,相分離を改善するた めの例えば塩化ナトリウム,塩化カリウム,硫酸ナトリウム,硝酸アンモ ニウムまたは他の塩などの塩を含有していてもよい水系流体である。さら に,有機と無機の両方のさまざまな酸が脱乳化剤として機能する。 25 【0041】 脱酸の工業工程において,通常,(遊離脂肪酸の量に比べて 等モル量より多い)過剰量のアルカリを添加して,0に近い酸価(好まし 57 くは0.6mgKOH/g以下)まで遊離脂肪酸の完全に近い除去をスト リッピング前に実現する。しかし,過剰量のアルカリを使用すると,油中 に存在するトリグリセリドがケン化するリスクがあり,油損失の増加が伴 う。それとは対照的に,本発明は等モル量以上のアルカリの使用を回避す 5 る。したがって,本発明の方法には全工程における油収量の向上という利 点がある。 【0042】 一実施形態において,ステップ(b)は,脱酸すなわち遊離 脂肪酸の相当量の除去を行うことなく(例えば,除去が0.3重量%未満) 実施される。したがって,水性流体処理ステップは塩基の使用を必要とせ10 ず,原油組成物を実質的に塩基なしで水性流体と接触させてもよい。相分 離を改善するための例えば塩化ナトリウム,塩化カリウム,硫酸ナトリウ ム,硝酸アンモニウムまたは他の塩などの塩を含有していてもよい水を使 用しうる。さらに,有機と無機の両方のさまざまな酸が脱乳化剤として機 能する。場合によっては,水性流体処理ステップは酸条件下,例えばリン15 酸および/またはクエン酸の存在下で実施されてもよい。 【0043】 別の実施形態において,ステップ(b)は部分脱酸,すなわ ち(原油組成物中の脂肪酸の全重量に対して)例えば最大で約10重量%, 最大で約30重量%,最大で約50重量%,最大で約70重量%または最 大で約90重量%の遊離脂肪酸の部分除去を行って実施される。したがっ20 て,水性流体処理ステップは,原油組成物を,原油組成物中の遊離脂肪酸 のモル量に対して等モル量以下の塩基を含む水性流体と接触させ,原油組 成物中に存在する遊離脂肪酸を部分中和するステップを含む。水性流体は, 上記の塩化ナトリウム,塩化カリウム,硫酸ナトリウム,硝酸アンモニウ ムまたは他の塩などの塩をさらに含有してもよい。 25 【0044】 塩として存在する中和された脂肪酸(石けんとも呼ばれる) は,水性流体と共に組成物から除去されうる。ステップ(b)で使用され 58 る塩基の実際の量は原油組成物中の遊離脂肪酸の量およびステップ(b) 後の遊離脂肪酸の所望の量を基準として算出することができる。 【0045】 塩基はアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化 物,特に水酸化ナトリウムおよび/または水酸化カリウムとされうる。好 5 ましくは,塩基をアルカリ水溶液として原油組成物と接触させる。アルカ リ溶液は好ましくは水にとかした水酸化ナトリウム溶液であるが,水酸化 カリウム水溶液または他の苛性水溶液も使用されうる。トリグリセリド油 の脱酸方法は周知であり,バッチ法と連続法の両方を使用しうる。 【0046】 部分脱酸はあるいは,蒸気脱酸,吸着(例えば,酸化マグネ10 シウムおよび/またはシリカゲルを用いる),溶媒抽出,エタノールによ る溶媒抽出と膜技術との組合せ(WO2008/002154),または 例えばリパーゼもしくは他の触媒を用いた遊離脂肪酸からトリグリセリ ドへの再エステル化など当技術分野において公知である別法で行われう る。 15 【0047】 好ましくは,水性流体処理ステップ(b)は,ステップ(b) 後の油組成物中の遊離脂肪酸の含有量が約0.5重量%から約5重量%, 好ましくは約1重量%から約3重量%,最も好ましくは約2重量%である 条件下で実施される。 【0048】 水性流体処理ステップはバッチ法または連続法として実施さ20 れうる。油と水相の接触は,例えば混合槽,特に撹拌槽中で,油に流体を 噴霧することによって,またはインラインスタティックミキサーで油に流 体を送出もしくは循環させることによって,または他の方式で行われうる。 洗浄に使用される流体の油からの分離は,槽に対する重力によって,また は遠心機もしくは他のタイプの分離装置で行われうる。塩基を使用して,25 遊離脂肪酸を中和する場合,分離後の石けんの残留物は通常,相分離の前 に油を水または主に水を含む溶液と接触させる洗浄ステップによって除 59 去される。アルカリ脱酸のバッチ法と連続法は両方とも当技術分野におい て周知であり,より弱塩基性の溶液を用いたり,塩基性溶液を用いなかっ たりする点を除けば,同様の方法を使用しうる。ストリッピング処理ステ ップの前に,水性流体は水洗または部分脱酸した油から例えば真空下で蒸 5 発により除去されなければならない。水性流体処理を伴う方法は現行のス トリッピング法に比べて油の全収量も改善する。 【0049】 ステップ(b)において使用される水性流体の量は,一般に 原油組成物の重量に対して約1重量%から約500重量%にわたること がある。水性流体の量は好ましくは約2重量%から約200重量%,より10 好ましくは約3重量%から約100重量%,最も好ましくは約5重量%か ら約20重量%である。 【0050】 ステップ(b)における工程温度は好ましくは少なくとも約 50℃,最高で水の沸点未満であり,好ましくは90〜99℃である。… 【0051】 ステップ(c)は,ステップ(b)後の油組成物をストリッ15 ピング処理ステップにかけるステップを含む。好ましくは,油組成物をス テップ(b)に続いてストリッピング処理ステップにかける。しかし,さ らなる精製ステップ,例えば脱ロウ,漂白,または脱臭をステップ(b) と(c)の間で実施しうる。 【0052】 本発明の方法は水性流体処理ステップ後に油組成物が所定量20 の遊離脂肪酸を内部作業流体として含むので,ストリッピング処理ステッ プにおいて外部揮発性作業流体の添加を必要としない。したがって,好ま しい実施形態において,ステップ(c)の前に,外部作業流体,特に脂肪 酸エステル,脂肪酸アミド,遊離脂肪酸,炭化水素およびそれらの混合物 を含む外部作業流体は,ストリッピング対象の油組成物に添加されない。 25 【0053】 ストリッピング処理ステップは,油組成物中の好ましくない 親油性成分の量を低減する蒸留または蒸発ステップである。適切なストリ 60 ッピング技法はWO2004/007654に記載され,その内容は参照 により本明細書に組み込まれる。ストリッピング技法としては,短行程蒸 留または短行程蒸発,薄膜蒸留または薄膜蒸発,流下膜式蒸留または流下 膜式蒸発および分子蒸留が挙げられるが,これらに限定されない。 5 【0054】 ストリッピング処理ステップは好ましくは約150から約2 50℃の蒸留/蒸発温度,より好ましくは約170から約220℃の温度 で,1mbar未満,より好ましくは0.1mbar未満,さらに一層好 ましくは0.01mbar未満の圧力下において実施される。… 【0055】 本発明の方法,特にステップ(b)および(c)の性能を,10 油製品の要件および流入する原油の品質に適合させうる。要件はさまざま な油および用途に応じて異なりうる。最終の油製品は,ストリッピング後, ここでストリッピングは例えば漂白,脱臭,脱ロウその他の精製ステップ を含んでいてもよい,の海産物由来のトリグリセリド油としうる。ストリ ッピングされた油は,さらなる処理,例えば典型的にはトリグリセリド,15 メチルエステル,エチルエステルまたは遊離脂肪酸の形をしたω-3脂肪 酸の濃縮物の生成,のための中間体として使用されうる。 【0056】 ステップ(c)のストリッピング工程において,流入する油 中の相当量の遊離脂肪酸が油から除去され,留出物画分(廃棄物画分)に なる。設備,ストリッピングに用いられる工程条件および油のタイプに応20 じて,ストリッピング工程への流入する油中の例えば約0から25%の間 の遊離脂肪酸がストリッピング後にトリグリセリド油中に残留する可能 性がある。 【0057】 好ましくは,ステップ(c)において脂肪酸の全量に対して 少なくとも60重量%の遊離脂肪酸が好ましくない親油性成分と共に油25 組成物から除去される。より好ましくは,脂肪酸の全量に対して少なくと も75重量%の遊離脂肪酸が好ましくない親油性成分と共に油組成物か 61 ら除去される。 【0058】 例えば,ストリッピング処理ステップ(c)のために選択さ れた工程条件が酸価をその初期値の10%まで低減する場合,酸価10m gKOH/gの流入する(原)油はストリッピング後に酸価1mgKOH 5 /gとなる。このような値はある種の用途で許容できる可能性があるが, 酸価をできる限り低減することが望ましいことが多い。一般に,高酸価は 低品質の指標とみなされ,酸価をできる限り低く維持することが望まれる。 低酸価は,品質要件の厳しい油製品または次の処理もしくは貯蔵時に酸価 が上昇する中間油に望ましい。したがって,いくつかの実施形態において10 は,ストリッピング処理ステップ(c)後に遊離脂肪酸の含有量は0.1 重量%以下であることが好ましい。他の実施形態においては,例えばスト リッピング処理ステップ(c)後の遊離脂肪酸約0.1重量%から約1. 0重量%,好ましくは約0.2重量%から約0.8重量%に相当する,よ り高い酸価が許容できるはずである。 15 【0059】 他の脱酸方法を使用する場合,工程パラメータはアルカリ脱 酸を行う場合と同様に,一定量の遊離脂肪酸を処理後の油に残したままに しておくように設定されるべきである。 【0060】 原油における酸価が低く,かつ/またはストリッピング工程 パラメータが遊離脂肪酸の非常に効率的な除去のために設定され,かつ/20 またはストリッピングされた油における酸価要件があまり厳しくない場 合,ストリッピング工程段階の前に原油を塩基なしで水性流体と接触させ, 続いて水性流体を除去するだけで前処理されてもよい。 【0061】 ストリッピング後の油における非常に低い酸価を実現するた めに,選択肢が2つある:25 i)原油を上述のように部分脱酸しうる。アルカリ脱酸を用いる場合,脱 酸に使用するアルカリの量は,ストリッピング工程において遊離脂肪酸が 62 効率的な内部作業流体として働くのに十分なほど酸価が高い中間体トリ グリセリド油をストリッピング前に生成するレベルに調整されるべきで ある。一方,ステップ(b)後の酸価は,ストリッピング後のトリグリセ リド油の酸価が最大許容レベルより高くなるかもしれないリスクを防止 5 するために高すぎるべきではない。好ましくは,ストリッピング前のトリ グリセリド油の酸価は,約1〜3重量%の遊離脂肪酸に相当する2〜6m gKOH/gであるべきである。しかし,ある種の用途では,酸価が6m gKOH/gより高いこともあり,作業流体として働くには例えば最大で 5重量%であり得る。 10 ii)ストリッピング工程を,遊離脂肪酸のより効率的な除去をもたらす 工程パラメータに調整しうる。これには,例えば蒸発温度の上昇および/ または供給速度の低下を伴う可能性がある。 【0062】 ステップ(d)によれば,ストリッピング処理ステップ(c) からの油組成物は,場合によっては,多不飽和脂肪酸の濃縮を含みうるさ15 らなる処理ステップにかけられる。 【0063】 したがって,本発明によって,ω-3系多不飽和脂肪酸中に 濃縮された,さらに詳細にはEPAおよび/またはDHA中に濃縮された, さらに一層詳細にはEPAおよびDHAが濃縮された精製濃縮物を原油 組成物から生成しうる。本発明の方法で生成した精製濃縮物はヒトによる20 使用に特に適しているが,動物における使用にも適している。 【0064】 濃縮ステップは, (i)遊離脂肪酸またはモノエステルを生成して,次の濃縮ステップの用 意をする加水分解またはエステル化ステップ, (ii)尿素錯体化ステップ,25 (iii)分子蒸留ステップ,および/または (iv)例えば金属アルコキシドなどの化学触媒またはリパーゼなどの酵 63 素を用いたエステル交換ステップ のうちの少なくとも1つを含みうる。 【0065】 これらのステップは,当技術分野において記載されているよ うに実施されうる。 5 【0066】 さらなる処理ステップとしては,ω-3脂肪酸,特にEPA およびDHAの濃縮を挙げることができ,脂肪酸の全重量に対して少なく とも30重量%,例えば35%〜60重量%の含有量,または油製品の全 重量に対して少なくとも70重量%,例えば75%〜90重量%の含有量 に濃縮してもよい。 10 【0067】 いくつかの実施形態において,精製された濃縮物は栄養添加 物として使用される。他の実施形態において,精製された濃縮物は健康補 助食品としてまたは臨床栄養において使用することができる。さらになお, 濃縮物は動物用飼料,特に魚飼料として使用されうる。これらの実施形態 において,濃縮物は,好ましくはω-3多不飽和脂肪酸の含有量,より好15 ましくはDHAにEPAを加えた含有量が脂肪酸の全重量に対して約3 0%から約60重量%である。他の実施形態において,精製された濃縮物 は医薬品製剤として使用される。これらの実施形態において,DHAにE PAを加えたω-3多不飽和脂肪酸の含有量は,脂肪酸の全重量に対して 好ましくは少なくとも約70重量%,より好ましくは少なくとも約80重20 量%である。 【0068】 最終製品は (i)ω-3-脂肪酸エチルエステル製品, (ii)ω-3-脂肪酸トリグリセリド製品,または (iii)遊離酸の形をしたω-3-脂肪酸製品25 としうる。 【0069】 本発明のさらなる態様は,内部揮発性作業流体として有効な 64 量の遊離脂肪酸および好ましくない親油性成分を含み,好ましくない親水 性成分および外部揮発性作業流体を実質的に含まない油組成物の,好まし くない親油性成分を遊離脂肪酸と共に油組成物から除去するためのスト リッピング処理ステップにおける供給材料としての使用に関する。 5 【0070】 さらに,本発明のさらなる態様は,内部揮発性作業流体とし て有効な量の遊離脂肪酸および好ましくない親油性成分を含み,好ましく ない親水性成分および外部揮発性作業流体を実質的に含まない油組成物 に関する。 【0071】 本発明によれば,油から環境汚染物質を効果的に除去するこ10 とが,外部揮発性作業流体を使用することなく実現できる。例えば,残留 性有機汚染物質,特に以下の実施例に記載されるポリ塩化ダイオキシンお よびフラン,PCB,塩素系農薬,ヘキサクロロシクロヘキサンおよびD DTなどの汚染物質の低減率は,少なくとも90%,特に少なくとも9 5%,より特定すると少なくとも96%および最大で99%,特に99.15 5%,より特定すると99.9%,またはさらにそれ以上である。 【0072】 本発明の一実施形態において,特許請求された方法にかけら れた後の原油から除去されたダイオキシンの全量は≧96.1%であり, 最大で99%,特に99.5%,より特定すると最大で99.9%,また はさらにそれ以上である。 20 【0073】 本発明の別の実施形態において,特許請求された方法にかけ られた後の原油から除去されたフランの全量は≧98.7%,最大で9 9%,特に99.5%,より特定すると最大で99.9%,またはさらに それ以上である。 【0074】 本発明の第3の実施形態において,特許請求された方法にか25 けられた後の原油から除去されたダイオキシンとフランの全量は≧9 8%,最大で99%,特に99.5%,より特定すると最大で99.9%, 65 またはさらにそれ以上である。 【0075】 本発明の第4の実施形態において,特許請求された方法にか けられた後の原油から除去された非オルトPCBの全量は≧99.1%, 最大で99.5%,特に99.9%,またはさらにそれ以上である。 5 【0076】 本発明の第5の実施形態において,特許請求された方法にか けられた後の原油から除去されたPCBの全量は≧99.3%,最大で9 9.5%,特に99.9%,またはさらにそれ以上である。 【0077】 本発明の第6の実施形態において,特許請求された方法にか けられた後の原油から除去されたDDTの全量は≧99.3%,最大で910 9.5%,特に99.9%,またはさらにそれ以上である。 【0078】 さらに,以下の実施例によって,本発明をさらに詳細に説明 する。 カ 実施例 【0079】 実験用の原材料はバルト海からの粗魚油であった。環境汚染15 物質,コレステロールおよび酸価の含有量は表1に示す通りである。 (ア) 実施例1 【0080】 部分精製魚油 3リットルの撹拌されたガラス製反応器中の粗魚油1200gを9 0℃に加熱し,150rpmで撹拌しながら,2%水酸化ナトリウム水20 溶液1.0lをゆっくり添加した。300rpmで2分間撹拌した後, 撹拌機を止め,混合物を放置して静止させた。下側の水相を取り除き, 廃棄した。上側の油相を中性になるまで(pH<9)90℃の水で数回 洗浄し,90℃,真空下の反応器中で窒素パージしながら乾燥した。精 製と洗浄の両ステップにおいて形成された乳濁液は,スプーン一杯の塩25 化ナトリウムを,相分離が合理的な時間内に認められるようになるまで, 少しずつ添加しては300rpmで2分間撹拌することを繰り返して, 66 破壊した。得られた油は酸価3.5mgKOH/gであった。これは, 原油中の遊離脂肪酸の約半分が除去されたことを意味する。 【0081】 精製された油(1071g)を短行程蒸留装置(UICK D6)に膜温度210℃,ワイパー速度300rpm,圧力約0.05 5 mbarおよび供給速度2.0l/時でかけた。最終精製魚油は表1に 示す含有量の環境汚染物質および他の成分を含むものであった。酸価は 0.07mgKOH/gであり,遊離脂肪酸は全てストリッピングされ たことが明らかになった。 (イ) 実施例210 【0082】 水洗された未精製魚油 3リットルの撹拌されたガラス製反応器中の粗魚油1200gを9 0℃に加熱し,3回90℃の水で洗浄し,90℃,真空下の反応器中で 窒素パージしながら乾燥した。形成された乳濁液は,スプーン一杯の塩 化ナトリウムを,相分離が合理的な時間内に認められるようになるまで,15 少しずつ添加しては300rpmで2分間撹拌することを繰り返して, 破壊した。 【0083】 洗浄および乾燥して得られた油を短行程蒸留装置(UIC KD6)に実施例1と同じ条件でかけた。最終精製魚油は表1に示す含 有量の環境汚染物質および他の成分を含むものであった。酸価は0.220 3mgKOH/gであり,遊離脂肪酸はほとんど全てストリッピングさ れたことが明らかになった。 【0084】 結果から,両工程とも,魚油から残留性有機汚染物質を除 去するのに非常に効率的であることが明らかである。全ての成分につい て,低減率は97〜99%レベルであった。最も重い成分(DecaC25 B=デカクロルビフェニル)の場合でさえ,低減率は97〜98%であ った。遊離コレステロールの低減率は,両工程について90%であった。 67【0085】【表1】 68697071 (3) 本件明細書の段落【0053】の「適切なストリッピング技法」 本件明細書の段落【0053】において「適切なストリッピング技法」が 記載された文献として引用されているWO2004/007654(本件明 細書の段落【0006】,【0008】及び【0017】参照)は,日本の 5 公表特許公報である甲2文献に対応する国際公開公報であるところ,甲2文 献には,ストリッピング技法に関して,次のとおりの記載がある(甲2)。 【0016】 少なくとも1つのストリッピング処理過程を包含する方法にお ける揮発性作業流体の使用の利点は,混合物中のある量の環境汚染物質が, 該揮発性作業流体と一緒に容易にストリッピングされ得る,即ち,脂肪また10 は油混合物中に存在する該環境汚染物質が,該作業流体と一緒に該混合物か ら分離される,ということである。好ましくはこれは,該揮発性作業流体が, 脂肪または油混合物から除去されるべき環境汚染物質と揮発性が本質的に等 しいかまたはそれより少ない限り可能である。ストリッピングされた汚染物 質(成分)およびほとんどの揮発性作業流体は,蒸留液中に見出されるであ15 ろう。 【0039】 ・・・脂肪または油中に存在する環境汚染物質および/または毒 性成分,例えばダイオキシンおよび/またはPCBの量を低減するのに用い るために,該作業流体は,脂肪または油混合物から分離されるべき環境汚染 物質と比較して実質的に等しいかまたはより少ない揮発性を有する脂肪酸エ20 ステル,脂肪酸アミド,遊離脂肪酸および炭化水素,あるいはそれらの任意 の組合せのうちの少なくとも1つを含んでいる。 【0060】 「揮発性が本質的に等しいかまたはより少ない」という用語は, 脂肪または油混合物からストリッピングされるべき環境汚染物質の揮発性に 関係して適切な揮発性を有する揮発性作業流体を含むものと解釈され,一般25 的に,これは,該作業流体の揮発性が該環境汚染物質の揮発性と同一である かより低い場合であるが,該作業流体の揮発性が該環境汚染物質より多少(や 72 や)高い場合も含むことが意図される。 【0061】 ストリッピングという用語は,液体流から気体化合物を除去し, 分離しまたは(強制的に)追い出すための一般的方法を含むものと解釈され る。 5 (4) 本件各発明の概要 上記(1)ないし(3)によれば,本件各発明の概要は,以下のとおりであると 認められる。 ア 技術分野 本件各発明は,油組成物中に含まれている好ましくない成分の量を低減10 する方法に関するものであり,精製された濃縮物を得るために,油組成物 から好ましくない水溶性(親水性)成分及び好ましくない脂溶性(親油性) 成分を効率的に除去する方法を提供するものである。 【0001】 ( ) イ 背景技術 (ア) 従来から,ヒト又は動物が摂取する油に含まれる残留性有機汚染物15 質(POP)の濃度を低減する方法が必要とされていたところ,油をス トリッピング工程(例えば短行程蒸発,分子蒸留又は同様の工程)にか ける前に外部から揮発性作業流体を添加し,より効率的に汚染物質等を 除去する方法(甲2文献)等が知られていた。また,甲2文献において は,海産物油中に自然に含まれている遊離脂肪酸を,ストリッピング工20 程における内部作業流体として使用することにより,外部作業流体の添 加を避けることができるとされていた。 【0002】 【0004】ない ( , し【0008】) (イ) しかしながら,未処理の原油中に含まれている遊離脂肪酸を内部作 業流体として使用すると,原油製品に少量含有されている水溶性タンパ25 ク質等の親水性成分が原因となって,短行程蒸発又は分子蒸留に使用さ れる設備の伝熱面が腐食され,また,伝熱面にスケール(缶石)が成長 73 して比較的短時間で技術的な問題又は品質の問題が生じ得るという問 題があった。 【0009】ないし【0012】 ( ) (ウ) 他方で,原油をストリッピング工程前にアルカリ精製によって脱酸 し,遊離脂肪酸を除去する方法については,アルカリ精製においてタン 5 パク質性物質等の親水性成分が洗い流されることから,ストリッピング 設備におけるスケールの増大が低減されるものの,遊離脂肪酸が除去さ れてしまうため,ストリッピング工程の前に外部作業流体を添加しなけ ればならないという問題があった。 【0013】 ( ) ウ 発明が解決しようとする課題10 本件各発明は,原油組成物中に含まれている遊離脂肪酸をストリッピン グ工程用の内部作業流体として使用するとともに,ストリッピング設備の 伝熱面上における水溶性タンパク質等の親水性成分からのスケールのリ スクを低減又は排除する使用に関係するものである。 【0014】 ( ) エ 課題を解決するための手段15 (ア) 本件各発明においては,ストリッピング工程前に,等モル量以下の 塩基,すなわち原油組成物中に存在する全ての遊離脂肪酸を中和して石 けんにするのに必要とされる塩基の量よりも少ない塩基を使用して,ア ルカリ部分精製を行う。また,ある種の用途においては,実質的に塩基 なしで,代わりに水性流体を用いて油を洗浄してもよい。 (【0014】)20 (イ) 本件各発明の一態様は,油組成物中の好ましくない成分の量を低減 する方法であって,次の各ステップを含む方法である。 【0015】 ( ) (a)好ましくない親水性成分,好ましくない親油性成分及び遊離脂肪酸 を含む原油組成物を用意するステップ (b)原油組成物を水性流体処理ステップにかけるステップであり,内部25 揮発性作業流体として有効な量の遊離脂肪酸を含む油組成物が得られ るような条件の下で親水性成分が原油組成物から分離されるステップ 74 (c)ステップ(b)後の油組成物を内部揮発性作業流体としての遊離脂 肪酸の存在下でストリッピング処理ステップにかけるステップであり, 親油性成分が遊離脂肪酸と共に油組成物から分離されるステップ (d)ステップ(c)からの組成物を更なる処理ステップに場合によって 5 はかけるステップ (ウ) 本件各発明においては,ステップ(b)後の油生成物が所定量の遊 離脂肪酸を内部作業流体として含むので,ステップ(c)の前に外部作 業流体の添加を必要としない。 【0052】 ( ) オ 発明を実施するための形態10 (ア) ステップ(b)は,部分脱酸(例えば原油組成物中の脂肪酸の全重 量に対して最大で約10重量%,最大で約30重量%,最大で約50重 量%,最大で約70重量%又は最大で約90重量%の遊離脂肪酸の部分 除去)を行って実施される。この場合,水性流体処理ステップは,原油 組成物を,原油組成物中の遊離脂肪酸のモル量に対して等モル量以下の15 塩基を含む水性流体と接触させ,原油組成物中に存在する遊離脂肪酸を 部分中和するステップを含む(本件発明1の実施形態) ( 。 【0043】) (イ) また,原油における酸価が低い場合等においては,ステップ(b) は,脱酸すなわち遊離脂肪酸の相当量の除去を行うことなく実施される。 この場合,水性流体処理ステップは,塩基の使用を必要とせず,原油組20 成物を実質的に塩基なしで水性流体と接触させてもよく,相分離を改善 するために,塩化ナトリウム,塩化カリウム,硫酸ナトリウム,硝酸ア ンモニウム又は他の塩等の塩を含有する水を使用し得る(本件発明7の 実施形態) ( 。 【0042】 【0060】 , ) カ 発明の効果25 (ア) 本件各発明においては,水性流体処理ステップにおいて好ましくな い親水性成分を油組成物から除去した上で,ストリッピング処理ステッ 75 プにおいて油中に自然に含まれている遊離脂肪酸を使用して環境汚染 物質等の好ましくない親油性成分を除去する方法を採ることにより,伝 熱面上の望ましくないスケールの課題に対応する。 【0016】 【00 ( , 17】) 5 (イ) また,通常のアルカリ脱酸は,等モル量を超えるアルカリが使用さ れ,トリグリセリドの加水分解によって引き起こされるトリグリセリド 油の著しい損失及び他の損失をもたらすが,本件各発明においては,よ り低いアルカリが使用されて部分脱酸が行われ,トリグリセリドの加水 分解が低減されるため,外部作業流体を使用する確立されたストリッピ10 ング工程と比較して,油全収量を大幅に改善することができる。 【00 ( 17】 【0019】 【0041】 【0048】 , , , ) (ウ) さらに,本件各発明においては,水性流体処理ステップが,その後 のストリッピング処理ステップにおいて内部揮発性作業流体として有 効な量の遊離脂肪酸が油組成物中に残存するように設計された条件下15 で行われるため,ストリッピング処理ステップの前に外部作業流体を添 加する必要がなく,適正な作業流体の生成,購入,貯蔵,添加及び混合 のコストを低減することができる。 【0016】 【0018】 【005 ( , , 2】) (エ) 加えて,本件各発明によれば,油から環境汚染物質を効果的に除去20 することができ,ポリ塩化ダイオキシン及びフラン,PCB,塩素系農 薬,ヘキサクロロシクロヘキサン及びDDT等の汚染物質の低減率は, 少なくとも90%,特に少なくとも95%,より特定すると少なくとも 96%及び最大で99%,特に99.5%,より特定すると最大で99. 9%又は更にそれ以上である。 【0071】 ( )25 2 取消事由(1)(明確性要件違反)に対する判断 (1) 特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記 76 載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当 業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が, 第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判 断するのが相当である。 5 (2) 本件各発明の明確性について,原告は,本件各発明の特許請求の範囲にお ける「臭素化難燃剤」は本件明細書における「臭素系難燃剤」と用語が異な る上,これらが同義であるとしても, 「臭素化難燃剤」には様々な揮発性のも のが含まれ,その範囲が不明確であるから,それを除去するために用いられ る「外部揮発性作業流体」も明確ではなく,発明の内容が不明確である旨主10 張する。 また,原告は,臭素化ポリスチレン等の高分子量の臭素化難燃剤が本件各 発明の「臭素化難燃剤」から除外されるものではない旨主張する。 (3)ア そこで検討するに,上記1(2)のとおりの本件明細書の記載によれば, 本件各発明の特許請求の範囲における「臭素化難燃剤」及び本件明細書に15 おける「臭素系難燃剤」は,臭素を含有する残留性有機汚染物質を指す同 義の用語であるといえる。 そして,上記1(2)によれば,本件明細書には,「臭素系難燃剤」の定義 規定は設けられていないものの,その例示としてポリ臭化ジフェニルエー テル(PBDE),テトラブロモビスフェノールA(TBBPA),ヘキ20 サブロモシクロドデカン(HBCDD)が挙げられている上 【0023】 , ( ) 「臭素系難燃剤」を含む残留性有機汚染物質の揮発性について,比較的高 い揮発性を有するトリクロロ-PCBから例えば比較的低い揮発性を有 するデカクロロ-PCBまで様々であると記載されている 【0039】 。 ( ) また,上記1(2)のとおり,本件明細書には,外部作業流体について,ス25 トリッピング処理ステップにおいて除去される親油性成分との関係にお いて適切な揮発性を有する物質であり,出発材料の処理中に何らかの段階 77 で添加されるものとされている上(【0038】),脂肪酸エステル,脂 肪酸アミド,遊離脂肪酸,炭化水素及びそれらの混合物であり得ることが 記載されている(【0052】)。 さらに,上記1(3)のとおり,ステップ(c)における適切なストリッピ 5 ング技法が記載されたものとして本件明細書の段落【0053】において 引用されるWO2004/007654には,作業流体の適切な揮発性は, 除去対象となる環境汚染物質の揮発性と同一であるかより低い場合であ り,多少(やや)高い場合も含む旨が記載されている。 イ これらの記載からすれば,当業者は,本件各発明における「臭素化難燃10 剤」が,ポリ臭化ジフェニルエーテル,テトラブロモビスフェノールA, ヘキサブロモシクロドデカン等の臭素を含有する残留性有機汚染物質で あり,その揮発性がトリクロロ-PCBからデカクロロ-PCBまでと同 等の範囲に含まれるものであって,ステップ(c)のストリッピング処理 において油組成物中の炭素数16から22の遊離脂肪酸と共に油組成物15 から分離されるものであることを認識するものといえる。そうすると,当 業者は,「臭素化難燃剤」には,少なくとも炭素数16から22の遊離脂 肪酸やデカクロロ-PCBに比して揮発性が極めて低い高分子量の臭素 化難燃剤が含まれることはないと認識するものといえる。 また,当業者は,本件各発明における「外部揮発性作業流体」が,ステ20 ップ(c)における除去対象である親油性成分との関係において適切な揮 発性,すなわち上記のとおりの意味の「臭素化難燃剤」を含む環境汚染物 質の揮発性と同一であるかより低く,又は多少(やや)高い揮発性を有す る物質であり,具体的には,脂肪酸エステル,脂肪酸アミド,遊離脂肪酸, 炭化水素及びそれらの混合物であり得ることを認識するものといえる。 25 (4) 以上のとおり,本件明細書の記載を考慮すれば,本件各発明の特許請求の 範囲に記載された「臭素化難燃剤」及び「外部揮発性作業流体」が,第三者 78 の利益が不当に害されるほどに不明確であるということはできない。 したがって,取消事由(1)は,理由がない。 3 取消事由(2)(実施可能要件違反)に対する判断 (1) 検討 5 ア 発明の詳細な説明の記載が,実施可能要件に適合するか否かは,明細書 の発明の詳細な説明に,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び 出願時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その発 明を実施することができる程度に発明の構成等が記載されているか否か によって判断するのが相当である。 10 イ そこで検討するに,上記1(2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明 には,本件各発明の内容に関し,次の各事項が記載されている。 (ア) ステップ(a)について,用意すべき原油組成物に含まれる好まし くない親水性成分,好ましくない親油性成分及び遊離脂肪酸の物質又は 化合物の例や含有量等(【0021】ないし【0036】)15 (イ) ステップ(b)について,水性流体処理の内容として,原油組成物 中の遊離脂肪酸のモル量に対して等モル量以下の塩基を用いて部分中 和をする場合と,実質的に塩基なしで水性流体と接触させる場合のそれ ぞれについて,用いられる水性流体及び処理態様等(【0037】【00 , 40】ないし【0050】)20 (ウ) ステップ(c)について,ストリッピング処理における内部揮発性 作業流体である炭素数16から22の遊離脂肪酸と除去対象である親 油性成分との揮発性の関係や,ストリッピング処理の条件,同処理後に 残存する遊離脂肪酸の割合,同処理後の親油性成分の種類及び低減率等 (【0038】, 【0039】, 【0051】ないし【0061】, 【0071】25 ないし【0077】) (エ) ステップ(d)について,多不飽和脂肪酸の濃縮ステップ等(【00 79 62】ないし【0068】) (オ) 実施例1及び2(【0079】以下) ウ 上記イによれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件各発明の特 許請求の範囲に記載された各ステップの内容が,その具体的な実施の形態 5 も含めて記載されており,当業者が,これらの記載に基づいて,過度の試 行錯誤を要することなく,本件各発明を実施することができる程度に発明 の構成等が記載されているものといえる。 (2) 原告の主張について ア 原告は,ステップ(c)に関し,@ストリッピング処理において揮発性10 の乏しいポリマーである臭素化難燃剤が分離されることはあり得ない,A ポリ臭化ジフェニルエーテルについて臭素置換の数が多い同族体の挙動 は明らかではない,B本件明細書には臭素化難燃剤の除去方法に係る実施 例が記載されていないとして,本件各発明が実施可能といえる程度に明確 かつ十分な記載がされていない旨主張する。 15 しかしながら,上記2で検討したところによれば,本件明細書の発明の 詳細な説明には,当業者が,本件各発明における「臭素化難燃剤」には少 なくとも炭素数16から22の遊離脂肪酸やデカクロロ-PCBに比し て揮発性が極めて低い高分子量の臭素化難燃剤が含まれないことを認識 し得る程度の記載が存するといえるから,このような臭素化難燃剤が分離20 されないことは実施可能要件を否定する理由にはならない(@について)。 また,Aの点は,単に抽象的な可能性を指摘するにすぎないから,実施可 能要件を否定するに足りる事由であるということはできない。さらに,上 記(1)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,実施例1及び2が開 示されているところ,実験結果として,最も重い化合物であるデカクロル25 ビフェニル(DecaCB(デカクロロ-PCB))の低減率が,実施例1 においては98.8%,実施例2においては97.5%であったことが記 80 載されている(【0084】 【0085】 , )ことからすれば,当業者は,本 件各発明においてはこれと同程度の揮発性の臭素化難燃剤は除去される ものと認識し得るものといえる(Bについて)。 そうすると,当業者は,これらの記載に基づいて,ステップ(c)を実 5 施することができるといえる。 したがって,原告の主張は,採用することができない。 イ 原告は,ステップ(b)に関し,本件明細書には,親水性成分であるタ ンパク質性化合物が全て除去されるような工程は記載されておらず,当業 者は本件各発明を実施することができない旨主張する。 10 しかしながら,上記1(2)のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には, 「ステップ(b)は,原油組成物中の好ましくない親水性成分が少なくと も部分除去される条件下における水性流体による原油組成物の処理を含 む。 ( 」 【0040】)と記載されていることからすれば,ステップ(b)に おいては必ずしも親水性成分が全て除去されるものとはされていないと15 いうべきであるから,ステップ(b)について,本件明細書に原告が主張 するような内容が記載される必要はないというべきである。 したがって,原告の主張は,採用することができない。 ウ 原告は,ステップ(b)に関し,本件明細書には,同ステップ後のタン パク質性化合物の濃度に係る具体的な記載や,スケールの生成の改善の程20 度等に関する記載が存しないことなどから,同ステップが実際に「親水性 成分からのスケールのリスクを低減または排除」することについて,実施 可能といえる程度の記載がされていない旨主張する。 しかしながら,上記1(2)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には, 未処理の原油に含まれる遊離脂肪酸をストリッピング処理における内部25 作業流体として用いようとすると,タンパク質性化合物等の親水性成分が 原因となってエバポレータの伝熱面にスケールが成長し,種々の問題が生 81 じる可能性があること(【0009】ないし【0012】 ,上記親水性成分 ) を洗い流すことによってスケールの増大が低減されること(【0013】, 【0014】 ,本件各発明においては,ステップ(b)において原油組成 ) 物から好ましくない親水性成分であるタンパク質性化合物を除去した上 5 でステップ(c)を行うことにより,伝熱面上の望ましくないスケールの 課題に対応するものであること(【0016】 【0017】 , )がそれぞれ記 載されている上,実施例1及び2においても,粗魚油に水酸化ナトリウム 水溶液を加えて撹拌した後に下側の水相を取り除いて廃棄し,又は粗魚油 を水で洗浄する工程を行うことが記載されている(【0079】ないし【010 085】 。 ) これらの記載によれば,当業者は,具体的な検証実験等のデータが記載 されていなくとも,原油組成物から親水性成分であるタンパク質性化合物 を除去することによって,ストリッピング処理におけるスケールの増大が 低減されるものと理解することができるといえる。そうすると,本件明細15 書の発明の詳細な説明には,ステップ(b)の工程を実施することが可能 な程度の記載が存するというべきである。 したがって,原告の主張は,採用することができない。 エ 原告は,本件明細書の段落【0080】には,実施例1において「2% 水酸化ナトリウム水溶液1.0?」が用いられた旨が記載されているが,こ20 れは原油組成物中の遊離脂肪酸のモル量を大きく上回るものであるから, 本件明細書には,本件発明1のステップ(b)に係る具体的な実施例が示 されているものとはいえない旨主張する。 しかしながら,本件明細書の段落【0080】及び【0085】によれ ば,当業者は,実施例1において,水酸化ナトリウム水溶液を用いた処理25 によって原油の酸価が6.9mgKOH/gから3.5mgKOH/gと 約半分になったことを認識することができる。そして,この数値を基にす 82 ると,実施例1においては,水酸化ナトリウム水溶液を用いた処理により, 原油1200g中に含まれていた144mmolの水素イオン(KOHの 式量=56.1を水素イオン濃度に換算すると0.12mmol/gであ るから,1200g×0.12mmol/g=144mmol)が約半分 5 になったのであるから,中和された水素イオンは約72mmolであり, これを「水酸化ナトリウム水溶液1.0?」で中和する場合には,0.28 8重量%(水溶液の密度を1. NaOHの式量を40. 0, 0として, (0. 072×40.0/1000)×100=0.288)の濃度の水溶液を 用いればよいこととなることは,計算上明らかである。 10 そうすると,当業者であれば,上記のような計算を経ることにより,本 件明細書の段落【0080】の「2%水酸化ナトリウム水溶液」との記載 が誤記であることを容易に認識することができるといえるから,本件明細 書には,実施例1において,本件発明1のステップ(b)に係る具体的な 実施例が示されているものといえる。 15 したがって,原告の主張は,採用することができない。 (3) 小括 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件を 満たすものといえる。 したがって,取消事由(2)は,理由がない。 20 4 取消事由(3)(サポート要件違反)に対する判断 (1) 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特 許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲 に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な 説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲の25 ものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術 常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか 83 否かを検討して判断するのが相当である。 (2) そこで検討するに,上記1(2)及び(3)によれば,本件各発明は,油組成物 から好ましくない親水性成分及び好ましくない親油性成分を効率的に除去す る方法に係る従来の技術においては,未処理の原油中に含まれている遊離脂 5 肪酸を内部作業流体として使用する場合には,親水性成分であるタンパク質 性化合物が原因となって,伝熱面にスケールが成長して技術的な問題等が生 じるという問題があったこと,他方で,アルカリ精製による脱酸を行う場合 には,親水性成分であるタンパク質性化合物が洗い流されるものの,外部作 業流体の添加が必要となるという問題があったことから,これらの問題を解10 消し得る上記の除去方法を提供することを課題として,ステップ(a)ない し(d)に係る構成を採るものといえる。 そして,本件明細書には,上記3で検討したとおり,本件各発明の特許請 求の範囲に記載された各ステップの内容が,その具体的な実施の形態も含め て記載されている上,上記1(2)のとおり,実施例1及び2において,各ステ15 ップを経た後の各環境汚染物質の低減率がいずれも95.5%以上であり, 遊離脂肪酸がほとんど残存していないといえる程度の酸価となったことなど が記載されている(【0079】ないし【0085】 。 ) 本件明細書におけるこれらの記載内容によれば,特許請求の範囲に記載さ れた本件各発明の内容が,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されており,20 当業者は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみれば,上記課題を解決 することができると認識し得るものといえる。 (3)ア 原告は,技術常識どおりに脱ガム処理がされた魚油にはタンパク質性 化合物が含まれず,その蒸留においてスケールの問題は生じないはずであ るから,本件各発明の課題は技術常識から逸脱している旨主張する。 25 しかしながら,上記(2)で検討したとおり,本件各発明におけるスケール に関する課題は,未処理の原油中に含まれている遊離脂肪酸を内部作業流 84 体として使用する場合を前提としているものであり,そのような原油には タンパク質性化合物が含まれているのであるから,本件各発明の課題が技 術常識から逸脱しているものとはいえない。 したがって,原告の主張は,採用することはできない。 5 イ このほか,原告は,取消事由(3)に関し,取消事由(2)と同旨の主張をす るが,上記3で検討したとおり,いずれも採用することはできない。 (4) 以上によれば,本件各発明は,サポート要件を満たすものといえる。 したがって,取消事由(3)は,理由がない。 5 取消事由(4)(甲2発明に対する進歩性の欠如)に対する判断10 (1) 甲2発明並びに本件各発明と甲2発明との一致点及び相違点 ア 甲2文献の記載 甲2文献には,次のとおりの記載がある(甲2)。 (ア) 特許請求の範囲 【請求項1】 環境汚染物質を含有する,食用であるかまたは化粧品中に15 用いるための脂肪または油を含む混合物中の該環境汚染物質の量を低 減させるための方法であって: - 揮発性作業流体を該混合物に添加する過程であって,該揮発性作 業流体が,脂肪酸エステル,脂肪酸アミド,遊離脂肪酸および炭化水素 のうちの少なくとも1つを含む過程;および20 - 該混合物が添加された該揮発性作業流体とともに少なくとも1回 のストリッピング処理過程に付される過程であって,食用であるかまた は化粧品中に用いるための該脂肪または油中に存在するある量の環境汚 染物質が,該揮発性作業流体と一緒に該混合物から分離される過程 を含むことを特徴とする方法。 25 【請求項3】 前記揮発性作業流体が,前記環境汚染物質を含有する食用 であるかまたは化粧品中に用いるための前記脂肪または油中に含まれ 85 る遊離脂肪酸により構成される,請求項1記載の方法。 (イ) 発明の詳細な説明 【0001】 本発明は,食用であるかまたは化粧品中に用いるための脂 肪または油を含む混合物中の環境汚染物質の量を低減するための方法 5 に関する。本発明は,揮発性環境汚染物質低減作業流体にも関する。さ らに本発明は,上記の方法に従って調製される健康サプリメント,医薬 品,化粧品および動物飼料製品に関する。 【0013】 本発明の一目的は,食用であるかまたは化粧品中に用いる ための脂肪または油中の,環境汚染物質の量を低減するための有効な方10 法を提供することである。 【0014】 本発明の第1の態様に従って,この,およびその他の目的 は,食用であるかまたは化粧品中に用いるための脂肪または油(環境汚 染物質を含有する)を含む混合物中の環境汚染物質の量を低減するため の方法であって,以下の:揮発性作業流体を該混合物に添加する過程で15 あって,該揮発性作業流体が脂肪酸エステル,脂肪酸アミド,遊離脂肪 酸および炭化水素のうちの少なくとも1つを含む過程,および該混合物 を添加された該揮発性作業流体とともに少なくとも1回のストリッピ ング処理過程に付す過程であって,食用であるかまたは化粧品中に用い るための脂肪または油中に存在するある量の環境汚染物質が該揮発性20 作業流体と一緒に該混合物から分離される過程を包含する方法を用い て達成される。本明細書中で, 「ある量」とは,いくつかの環境汚染物質 の95〜99%までの量の低減,即ち脂肪または油組成物からの特定汚 染物質および/または毒性成分の実質的な除去を包含すると解釈され る。 25 【0017】 さらに,少なくとも1つのストリッピング処理過程におけ る,脂肪酸エステル,脂肪酸アミド,遊離脂肪酸および炭化水素のうち 86 の少なくとも1つを含む揮発性作業流体の使用は,本発明の方法の使用 が,魚油中のダイオキシンの量を95%より多く低減することになる。 本発明の方法を用いることにより,食用であるかまたは化粧品中に用い るための脂肪または油を含む混合物中の塩素化有機殺虫剤(または汚染 5 物質) (該汚染物質はDDTよりさらに低揮発性であり,例えばダイオキ シン,トキサフェンおよび/またはPCBである)の量を低減すること もできる。高度不飽和油でさえ分解させない穏和な条件を用いて,本発 明に従って脂肪または油混合物からこのような重く且つ望ましくない 成分を分離することは,驚くべきことである。さらに,先行技術からの10 既知の技法と比較して,本発明のストリッピング法に従って,遥かによ り低温で有効量のPAHを低減させることが可能である。 【0022】 本方法のもう1つ別の好ましい実施形態では,該揮発性作 業流体は,環境汚染物質を含有する,食用であるかまたは化粧品中に用 いるための脂肪または油中に含まれる遊離脂肪酸により構成され,即ち,15 該脂肪または油それ自体が遊離脂肪酸を含有する。ここで,該油または 脂肪中の遊離脂肪酸は,該揮発性作業流体として作用する。さらに,油 または脂肪中の遊離脂肪酸もまた,当該方法において内部作業流体とし て部分的に作用することにより(または該作業流体の活性部分であるこ とにより) ストリッピング工程における付加的効果に寄与し得る。 , 上記20 のこのような油または脂肪は,例えばサイレージ油あるいは長期間保存 または運搬された油であり得るであろう。これは,揮発性作業流体が, ストリッピング工程前に油もしくは脂肪混合物に添加され得るか,およ び/または,環境汚染物質もしくは毒性成分を含有する脂肪もしくは油 混合物中に含まれ得る,ということを意味する。このように,本発明は25 驚くべきことに,低品質の油として普通は分類される油を精製するため に非常に効率的である。 87 【0023】 該ストリッピング法のもう1つ別の好ましい実施形態では, 該揮発性作業流体は,高含量の遊離脂肪酸を伴う少なくとも1つの海産 油,例えば魚油(低品質海産油)の混合物中に含まれる遊離脂肪酸によ り構成され,この場合,該油混合物中の該遊離脂肪酸は作業流体として 5 作用する。さらに,それにより同時にそして同一の方法において,該海 産油中の環境汚染物質の量を減少させ,遊離脂肪酸の量を低減すること が可能である。 【0056】 [定義] 本明細書中で用いる場合,環境汚染物質という用語は,好ましくは,10 毒性成分および/または殺虫剤,例えばポリ塩素化ビフェニル(PCB), DDTおよびその代謝産物,海洋環境中に見出され,潜在的に有害であ るかおよび/または有毒であると同定された有機化合物;ポリ塩素化ト リフェニル(PCT),ジベンゾ-ダイオキシン(PCDD)およびジベ ンゾ-フラン(PCDF) クロロフェノールおよびヘキサクロロシクロ ,15 ヘキサン(HCH),トキサフェン,ダイオキシン,臭素化難燃剤,ポリ 芳香族炭化水素(PAH),有機スズ化合物(例えばトリブチルスズ,ト リフェニルスズ)ならびに有機水銀化合物(例えばメチル水銀)を意味 する。 【0057】 本明細書中で用いる場合,油および脂肪という用語は,ト20 リグリセリドおよびリン脂質形態のうちの少なくとも1つでの脂肪酸 を意味する。一般に,該ストリッピング工程における出発原料が海産油 である場合,該油は魚またはその他の海洋性供給源からの,そしてトリ グリセリドの形態で脂肪酸,例えば多価不飽和脂肪酸を含有するそのま ままたは部分的に処理された油のいずれかであってもよい。典型的には,25 このような海産油中の各々のトリグリセリド分子は,飽和,一価不飽和 または多価不飽和であるか,あるいは長鎖または短鎖である異なる脂肪 88 酸エステル部分を,多かれ少なかれ無作為に含有するであろう。 さらに,植物油または脂肪の例は,コーン油,パーム油,ナタネ油, ダイズ油,ヒマワリ油およびオリーブ油である。さらに,該脂肪または 油は,上記のようにストリッピング工程における出発原料を構成する前 5 に,1つまたはいくつかの過程において前処理されてもよい。このよう な前処理過程の一例は,脱臭工程である。該脂肪または油は,1つまた はいくつかのこのような前処理過程において,および/または本発明に よる処理過程において,食用のものであってもよいということも留意さ れる。 10 【0061】 さらに,本明細書中で用いる場合,ストリッピングという 用語は,液体流から気体化合物を除去し,分離しまたは(強制的に)追 い出すための一般的方法を含むものと解釈される。さらに,本明細書中 で好ましい「ストリッピング処理過程」という用語は,1つ以上の蒸留 除去または蒸留方法,例えばショートパス蒸留,薄膜蒸留(薄膜ストリ15 ッピングまたは薄膜(蒸気)ストリッピング),薄膜降下式蒸留および分 子蒸留,ならびに蒸発法により,油または脂肪中の環境汚染物質の量を 低減させるための方法/工程に関するものである。 【0062】 本明細書中で用いる場合, 「低品質の油」という用語は好ま しくは,栄養目的ではあまり有用でなくなる大量の遊離脂肪酸を該油が20 含み,そしてこのような油における従来のアルカリ精製は複雑且つ経費 が掛かる,ということを意味する。さらに,本明細書中で用いる場合, 鉱油という用語は,鉱油製品,例えば蒸留工程からの画分および白色ス ピリット(精油)を含むものと解釈される。本明細書中で用いる場合, 炭化水素は,主に炭素および水素から構成される比較的大型の分子であ25 る有機化合物を含むものと解釈される。それらは,窒素,リン,イオウ および塩素等の原子も含み得る。 89 【実施例1】 【0082】 次に,以下の実施例により本発明を例証するが,本発明は これらに限定されない。これらの実施例は単に例証のために説明され, 本方法の多数のその他の変形(バリエーション)が用いられてもよい。 5 以下の実施例は,分子蒸留による魚油の異なる精製からの,いくつかの 結果を要約するものである。 【0083】 [実験室での実験のための設備および条件] 以下の実施例1〜3では,デカクロロビフェニル0.60mg/kg を,汚染物質モデル物質として魚油組成物に添加した。デカクロロビフ10 ェニル中の高い塩素含量により,この化合物が,環境汚染物質,例えば PCB,DDTおよびその代謝物,トキサフェン,ダイオキシンおよび 臭素化難燃剤より,低揮発性であることが確実になる。 【0084】 別記しない限り,全ての実施例において,圧力は0.00 1mbarであった。しかしながら,これは圧力指標の下限であり,実15 際の圧力は変化するであろう。それが,実施例によって結果が多少(や や)変動する理由である。蒸留設備が安定な条件下に作動している場合, 有意の変動は予測されない。しかしながらこれは,一定の圧力が本発明 を実行するための非常に強力な条件ではない,ということを指摘するも のである。 20 【0099】 いくつかの場合において,一定のコレステロールレベルが, 魚油のいくつかの適用,例えば魚飼料,特に仔稚魚用飼料に,有益であ り得る。これらの適用において,汚染物質のみの優先的除去を実施する ことは重要である。 【0102】 [実施例6:サーモン油]25 本実施例では,大西洋産の(アトランティック)サーモンからの新鮮 な副産物からの油を,本発明に従って加工処理した。本発明の方法は, 90 揮発性作業流体を油混合物に添加し,そしてさらに該混合物を,添加さ れた該揮発性作業流体とともに分子蒸留処理過程に付す過程を包含する。 8%の作業流体((揮発性作業流体)(サーモン油)の比は,ここでは約 : 8:100である)を該油に添加し,圧力1×10??mbar,温度1 5 80℃,および混合物流速600mL/時で,蒸留工程を実施した。 【0103】 臭素化難燃剤,PCBおよびいくつかの塩素化殺虫剤の量 に関して,それぞれ蒸留の前および後に,該油混合物の試料を分析した (以下の表5および6参照)。 【0104】10 【表5】 【0105】 【表6】 91 【0116】 [実施例9:遊離脂肪酸の除去] 魚飼料の生産のために購入された魚油を,実施例1に与えられたのと 同一の条件下に分子蒸留工程により蒸留し,この出発原料である油は, 5 6.8mgKOH/gの酸価を有していた。4.3重量%に相当する留 出物の除去後,残留油の酸価は0.2mgKOH/gへと減少し,そし て該出発原料である油中の環境汚染物質の量が低減された。 【0117】 同一の蒸留手順において,20.5mgKOH/gの酸価 を有する油を蒸留した。10.6%の留出物の除去後,該酸価は約1.010 mgKOH/gへと減少し,該出発原料である油中の環境汚染物質の量 が低減された。 【0118】 実施例8におけるストリッピング工程も,該油中の遊離脂 92 肪酸の除去を容易にし,そして該遊離脂肪酸が揮発性であるという事実 により,低品質を有する,即ち高含量の遊離脂肪酸を有する油でさえ, 本発明に従って成功裡に処理され得る,と予測され得る。低品質を有す る油の一例は,サイレージ油または長期間保存もしくは運搬された油で 5 ある。低品質の魚油は,魚飼料の生産に用いられてもよい。 【0119】 したがって本実施例は,油または脂肪中の遊離脂肪酸が作 業流体として作用するため,高含量の遊離脂肪酸を有する脂肪または油 (低品質油または脂肪)を少なくとも含む混合物中の環境汚染物質の量 を低減させるためのストリッピング工程は有効である,ということを示10 す。さらに,該油または脂肪中の遊離脂肪酸は,該ストリッピング工程 における内部作業流体として一部作用することにより(または該作業流 体の活性部分であることにより),該ストリッピング工程における更な る効果にも寄与する。 【0120】 脂肪または油中の環境汚染物質の量を低減するために,該15 環境汚染物質を含有する該油または脂肪に,同様の量の適切な遊離脂肪 酸を含有する揮発性作業流体を添加することにより,同一のストリッピ ング効果が得られるということも,当業者は見出すであろう。 イ 甲2発明並びに本件各発明と甲2発明との一致点及び相違点 上記1及び上記アによれば,甲2発明並びに本件各発明と甲2発明との20 一致点及び相違点は,本件審決が認定したとおり(前記第2の3(2))であ ると認められる。 (2) 相違点4-2の容易想到性 ア 本件発明1のステップ(b)について (ア) 相違点4-2においては,本件発明1のステップ(b)に係る構成25 の容易想到性が問題となるところ,上記1(4)のとおり,本件発明1のス テップ(b)は,原油組成物を水性流体処理ステップにかけるステップ 93 であり,かつ,部分脱酸のステップを含むものである。 (イ) そして,証拠(甲5〔475頁の表2〕,6〔693頁右欄の表1〕, 13〔571頁の右欄〕 14 , 〔98頁の図2〕 16 , 〔782頁の左欄〕, 24〔185頁〕,30〔88ないし89頁〕,33〔333頁2欄12 5 ないし15行〕,87〔259頁〕)によれば,本件優先日当時,油の精 製において,アルカリ精製による脱酸処理(遊離脂肪酸の中和による除 去)の前に脱ガム処理を経ること,一般的な脱ガム処理の方法の1つと して,水や水蒸気等の水性流体を油組成物と接触させ,水和したガム質 を含む親水性の不純物を油から分離して除去する方法があったことは,10 いずれも周知の技術であったと認められる。 (ウ) そうすると,本件発明1のステップ(b)は,水や水蒸気等の水性 流体を用いた脱ガム処理を行う際に,一定量の塩基を用いることにより, 従来は次の工程で行われていた脱酸処理の一部(部分中和)を併せて行 うこととしたものであるといえる。 15 そして,本件発明1は,上記のステップ(b)をストリッピング処理 であるステップ(c)の前に行うことにより,上記1(4)カの各効果を奏 するものといえるから,ステップ(b)の構成は,本件発明1の技術的 特徴をなすものといえる。 イ 甲2文献における開示又は示唆の有無20 (ア) 上記(1)アによれば,甲2文献においては,甲2発明の主な目的は, 食用であるか又は化粧品中に用いるための脂肪又は油中の環境汚染物質 の量を低減する方法を提供することにあるとされ(【0013】,また, ) そのストリッピング方法の好ましい実施形態の1つとして,高含量の遊 離脂肪酸を伴う魚油(低品質海産油)の混合物中に元々含まれている遊25 離脂肪酸を,内部揮発性作業流体として作用させることにより,同時に かつ同一の方法において,混合物中の環境汚染物質及び遊離脂肪酸を共 94 に分離し,その量を低減することが可能であるとされている 【0014】 ( , 【0022】 【0023】 。 , ) これらの記載によれば,甲2文献においては,ストリッピング工程に おいて,魚油の混合物中に元々含まれている遊離脂肪酸を内部揮発性作 5 業流体として作用させることにより,1つの処理工程で遊離脂肪酸及び 環境汚染物質を共に分離し,効率的に環境汚染物質の量を減少させ得る ことが,甲2発明の主要な作用効果である旨が開示されているといえる。 (イ) そして,上記アのとおり,本件発明1のステップ(b)は,ストリ ッピング工程の前に脱酸処理の一部(部分中和)を行うものであるから,10 これを甲2発明に組み合わせることは,甲2発明に新たな別の脱酸処理 の工程を加えることを意味するところ,このように二度の脱酸処理とい う構成を採ることは,一度の脱酸処理によって効率的に環境汚染物質の 量を減少させることを主要な作用効果とする甲2発明の技術的思想と は合致しないものというべきである。 15 そうすると,甲2文献に接した当業者は,本件発明1のステップ(b) の工程を採用することを動機付けられるものではないというべきである。 ウ 周知技術としての希NaOHによる脱ガム処理の適用の可否 (ア) 原告は,甲15文献及び甲18文献の各記載を根拠として,希Na OHによる脱ガム処理は周知技術であったから,これを甲2発明に適用20 することは,当業者が容易に想到し得た事項である旨主張する。 (イ) そこで検討するに,甲15文献には, 「グレイト及びケレンズ(20 00)によれば,脱ガム処理は,水,希酸又は場合により希NaOHに よる洗浄により粗油からホスファチド及び粘質物質を除去することを 目的としていた。」との記載が存するところ(甲15〔322頁の右欄325 5ないし39行〕 ,この「グレイト及びケレンズ(2000) ) 」とは,甲 18文献を指すものである。 95 そして,甲18文献には,次のとおりの記載がある(甲18,乙A1 8)。 「4.3.1 脱ガム 脱ガムは,粗油からリン脂質及び粘質物質を除去するための,水,希 5 酸(リン酸又はクエン酸)及び,場合により,希NaOHによる粗油の 処理である。 (83頁8ないし11行) 」 「4.3.1.1 脱ガムの原理 一般に,脱ガムは,リン脂質及び粘質ガムの油中の溶解度を低下させ て,水相によるそれらの除去を促進するための,低温又は高温でのリン10 脂質及び粘質ガムの速い又は遅い水和である。このプロセスを加速させ るために,充分に強い酸(クエン酸又はリン酸)を加えることができる。 水和型のリン脂質は,同量の水を加えれば容易に除去できる。大豆油 のようなリン脂質含量の高い油は,リン脂質回収のために,一般には抽 出直後に水により脱ガムされる。水和されたガムはレシチン処理の原料15 となる。加工大豆油の約1/3でレシチンの需要を充たせるだろうと, 見積もられている(Brian,1976)。粉砕-精製統合設備におい ては,分離されたガムをミールに戻し入れることもできる。 非水和型のリン脂質は,除去がもっと難しく,濃酸による処理(酸に よる脱ガム)によって変換する必要がある。産業的実施においては,リ20 ン酸(85%溶液を0.1-0.3%)又はクエン酸(30%溶液を0. 1-1%)が使用される。非水和型のリン脂質は,油-不溶性の金属塩 並びに遊離ホスファチジン酸及びエタノールアミンに分解される。これ らの水和は,その後に脱ガム用の酸を水で希釈すること及び充分な水和 時間をかけることで,促進させることができる。アルカリ性ナトリウム25 溶液の添加により,酸性化されたリン脂質をさらに速やかに水和性にで きることも,見出されている。…」(85頁6行ないし最終行) 96 「 いくつかの酸-脱ガムプロセスでは,遊離リン脂質をその水溶性ナト リウム塩に変換するために,水酸化ナトリウム溶液が添加される。酸の 中和の程度は,脱ガムプロセスの効率のために決定的に重要である。中 和の程度が低すぎれば,リン脂質の粘度はかなり高く,それはしばしば 5 遠心分離機からの連続的な排出を問題のあるものにする。他方,高すぎ る中和の程度は,石鹸の形成及び乳化による油の損失の増大をもたら す。 (88頁5ないし12行) 」 (ウ) 上記(イ)によれば,甲18文献には,水を加えても容易に除去する ことができない非水和型のリン脂質を除去するためには,濃酸による処10 理(酸による脱ガム)によってリン脂質を遊離リン脂質等に変換する必 要があること,このような酸による脱ガムのプロセスにおいては,遊離 リン脂質を水溶性ナトリウム塩に変換し,水和して除去するために,ア ルカリ性ナトリウム溶液が添加されることが開示されているといえる。 そうすると,甲18文献において開示されているのは,酸による脱ガ15 ム処理であるというべきであり,濃酸を用いた後にアルカリ性ナトリウ ム溶液が添加されることをもって,希NaOHによる脱ガム処理が開示 されているということはできない。 また,甲18文献における開示の内容を踏まえると,甲15文献につ いても,希NaOHによる脱ガム処理が開示されているということはで20 きない。 (エ) 以上によれば,甲15文献及び甲18文献を根拠として,希NaO Hによる脱ガム処理が周知技術であったと認めることはできない。そし て,このほか,希NaOHによる脱ガム処理が周知技術であったことを 認めるに足りる証拠は存しない。 25 したがって,希NaOHによる脱ガム処理を,周知技術として甲2発 明に適用することを,当業者が容易に想到し得たものということはでき 97 ない。 (オ) また,甲15文献及び甲18文献のいずれにおいても,開示されて いるのは酸による脱ガム処理であるというべきであり,本件発明1のス テップ(b)に係る構成が開示されているとはいえない。 5 したがって,甲2発明に甲15文献及び甲18文献に記載された技術 を適用したとしても,相違点4-2に係る本件発明1の構成に至るもの ではないというべきである。 エ 甲2発明に対する甲33技術の適用の可否 (ア) 原告は,脱酸の方法として蒸留を採用する場合であっても,不純物10 の除去又は不活性化のためにアルカリ処理を行うのが望ましいことから すれば,甲2発明に対して粗魚油中の不純物の除去又は不活性化のため にアルカリ処理による部分中和を行う甲33技術を適用する動機付けが ある旨主張する。 (イ) 甲33文献には,次のとおりの記載がある(甲33)15 a 特許請求の範囲 【第1項】 動植物油脂原油または常法により前処理を施した動植物油 脂をアルカリ水溶液と接触させ,次いで生成物を分離せずに酸類水溶 液と接触させ,以後水洗を行わずに不純物除去処理を行って精製油を 得ることを特徴とする油脂の精製法。 20 【第3項】 酸類水溶液と接触させ,以後水洗を行わずに不溶成分を分 離除去し,更に常法による吸着剤処理および/または水蒸気蒸留処理 を施す特許請求の範囲第1項記載の油脂の精製法。 b 発明の詳細な説明 「 このようにアルカリ精製法は環境保全のために大きな経済的負担を25 強いられるため,環境汚染防止に関する各種の規制が強化されつつあ る今日では決して有利な方法とはいえない。 98 アルカリ精製法にはこの他に前記脱酸工程で発生する石鹸に中性 の油脂分が付着したまま除かれるいわゆる付着ロス,およびアルカリ が遊離脂脱酸のみならず中性油までを鹸化してしまういわゆる鹸化ロ ス等の問題があり,これらもアルカリ精製法の不利な点に数えられて 5 いる。 一方水蒸気精製法では原油をそのままあるいは脱ガム処理して直 ちに脱色,脱臭(脱酸を兼ねた)を行うので,アルカリ精製の場合の ような付着ロス,鹸化ロス,洗浄ロス等は発生しないうえ,排水も全 く生じないから,これらの面ではアルカリ精製法に比べて極めて有利10 な方法といえる。しかしながら,アルカリ精製法の場合のよりに残存 ガム質を更に十分に除去する工程がないので,水蒸気精製法による場 合には脱ガス処理(判決注:「脱ガム処理」の誤記であると認める。) を十分に行い,ガム質を油中に殆ど残存させないことが必要不可欠で ある。しかしながら前記の程度に脱ガムを行うことは実際にはかなり15 難しく,酸類,塩類等各種の脱ガム剤を種々用いても必らずしも常に 十分な脱ガムが行えるとは限らなかつた。その上たとえガム質の除去 は十分で,脱色,脱臭後の製品は見た目には正常と思われる場合でも, その製品の風味,特に油を加熱したときに生ずる風味(いわゆる加熱 臭のため)は著しく劣るケースが少なからずあり,この点でも未解決20 の問題を含んでいる。 また本来ガム質を多く含まない油脂,例えばパーム油,ラード等の 場合にも,製品の風味,加熱臭等は水蒸気精製法によるものがアルカ リ精製法によるものよりも劣る場合が多い。このような観点からみる と,アルカリの使用は残存ガム質の除去ばかりでなく,製品の風味に25 影響するその他の因子の除去あるいは不活性化に極めて役立っている であろうと推定される。 99 以上のような理由で一般にアルカリ精製法よりも経済的に有利と されている水蒸気精製法にも問題とすべき点は少くない。結局前述の ような排水の発生による問題,同伴ロス,鹸化ロス,洗浄ロス等の問 題等の経済的に不利な条件の多い方法と知りながら旧来のアルカリ精 5 製法をなおまだ利用せねばならない状態にあるのが現状である。 本発明者らはこのようなアルカリ精製法,水蒸気精製法の両者の有 利な点のみを利用するような新しい油脂の精製法について研究を重ね た結果,本発明を完成した。即ち本発明は動植物油脂の精製法に関す るもので次の各工程よりなる。 10 すなわち (1) 油脂の精製における前処理 (2) アルカリ処理 (3) 酸類水溶液による石鹸分の加水分解 (4) 不溶成分の除去15 (5) 吸着剤処理 (6) 水蒸気蒸留処理 本発明方法における上記各工程につき逐次説明する。 (1) 油脂の前処理 本発明方法を実施する原料は動植物油脂原油または常法により20 精製のための前処理を施した油脂である。原料油脂はその採油原料 の種類,採油法によっては採油したままの原油を直ちに(2)以下の 処理を施すことができるが,多くの場合採油した原料油脂に適宜前 処理を行ない,粗油中に含まれる不純物の過沈降等の物理的な除去, 酸,アルカリによる脱ガム ,酸類水溶液処理によるガム質の不溶化,25 其他必要により行なう油脂の乾燥などの処理を施している。この工 程は何れも必要によって行なうものであって(2)以下の本発明の工 100 程をより効果的にする一般の精製の前処理を指すものである。… (2) アルカリ処理 従来のアルカリ脱酸法と同様に油にアルカリを加え,遊離脂肪酸 の中和,ガム質の鹸化,水和,析出および油中色素の脱色等を行な 5 う。アルカリは従来法と同じく一般に苛性ソーダ,ソーダ灰等が使 われるが,勿論これ以外のアルカリを用いてもよい。 この工程の目的は遊離脂肪酸の鹸化にあるだけではなく,残存ガ ム質の鹸化,水和,析出,油中色素の脱色,風味に影響する物質の 不溶化ないし不活性化等が主であるから,アルカリの使用量は特に10 遊離脂肪酸の中和相当量を基準とする必要はなくその一部を中和 するにとどめてもよい。ただし実施の都合上従来のアルカリ精製法 の場合のように,遊離脂肪酸の中和量を基準としてアルカリ使用量 を決定しても何等差支えなく,また実際にはその方が便利な場合も 多い。なお本工程の前にロの酸類水溶液による処理を行った場合に15 は,その酸類中和のためのアルカリ量をも考慮に入れる必要がある。 処理条件は用いる設備,装置の種類により多少異るが,アルカリ 水溶液と油とを室温〜100℃で数秒〜数時間程度接触させる。な お従来用いられているアルカリ脱酸のための公知の設備,装置はい ずれも本発明に使用することができる。この処理により石鹸分,ガ20 ム質等が油中に析出するが,従来法と異りこれらの分離除去を行わ ず,次の工程に移るのが本発明方法の特徴である。 (3) 酸類水溶液による石鹸分の加水分解 前記アルカリ処理工程を経て,石鹸分,ガム質等の析出物が浮遊 する油を酸類水溶液と,室温〜100℃で数秒〜数時間程度接触さ25 せる。 この工程の目的は,前記アルカリ処理でいつたんガム質等ととも 101 に油中に析出せしめた石鹸分を, (判決注: 残 「酸」の誤記と認める。) により加水分解して再び遊離脂肪酸の形に戻し,油脂中に再溶解さ せることである。その結果油中にはガム質を主体とする析出物およ び添加薬剤やその中和生成物が,油不溶物の形で残留することにな 5 る。こうすることにより,油中のガム質等油脂製品の品質に悪影響 を及ぼす不純物質を遠心分離,?過,吸着,その他適宜の方法で極 めて容易に油から分離,除去できる状態とすることができるのであ る。 …酸類の添加量は生成した石鹸分の全部を分解するに要する量10 を必ずしも用いる必要はなく,その一部を分解するにとどめてもよ い。… (4) 不溶成分の除去 前工程でガム質を主とする析出物が残溜する油から,遠心分離, ?過,その他適宜の処理によって該析出物を油滓として分離,除去15 する。 分離される油滓は従来のアルカリ精製法の場合と異なつて主に ガム質であるからその量も少い。従って中性油の同伴ロスも従来よ りはるかに軽減することができる。… (5) 吸着剤処理(脱色)20 前記析出物を除いたあるいは除かない油に対しこれを水洗する ことなしに直接活性白土,活性炭等による吸着剤処理を行なう。こ の工程は通常のいわゆる脱色工程であり,従来公知の処理方法,条 件,装置等によって行われる。この工程により油中の色素をはじめ, ガム質その他の不純物は殆ど完全に吸着,除去される。この吸着剤25 処理工程も場合により省略しこの前の工程を終って精製油製品と することもある。 102 (6) 水蒸気蒸溜処理(脱酸および脱臭) 常法によるいわゆる油脂の脱臭工程である。前記(3)項の工程で 再び遊離の形に戻った脂肪酸は,この工程で他の有臭成分等ととも に完全に油から溜去され,かくて水蒸気精製法の特徴である脱酸, 5 脱臭の同時遂行が完了する。また同時に油中の色素も熱分解して, 油は更に淡色となる。勿論ガム質はすでに十分に除かれているから それに起因する油の着色等は全く起らない。処理の方法,条件,装 置等はいずれも従来公知のものを採用して差支えない。この水蒸気 蒸溜処理工程も亦必要により行なう工程である。 10 以上が本発明方法の概要である。その最も特徴とする点は,アルカ リ処理の後に生成した生成物を分離せず直ちに酸処理を施し,アルカ リ処理で生じた石鹸分,ガム質等の析出物のうち,石鹸分を加水分解 して再び油相中に溶解せしめ,主としてガム質のみを油不溶物の形で 油中に残すことである。これによってガム質は従来のように石鹸分と15 同伴した形でなしに,アルカリ精製法の場合と同程度まで除くことが でき,しかも一方遊離脂肪酸は有利な水蒸気精製法によって効果的に 除去することが可能になったのである。 (2頁3欄20行ないし4 …」 頁8欄17行) (ウ) 上記1によれば,本件発明1のステップ(b)は,原油組成物中の20 遊離脂肪酸のモル量に対して等モル量以下の塩基を含む水性流体を原油 組成物に接触させ,部分中和を行うステップを含むものであり,この部 分中和によって生じた石けんは,水性流体と共に原油組成物から除去さ れるものとされている(本件明細書【0044】 【0048】 。 , ) これに対し,上記(イ)によれば,甲33文献には,甲33技術の最も25 大きな特徴は,動植物油脂をアルカリ処理することによって生じた石け ん分を,分離せずに直ちに酸類水溶液を用いて加水分解し,再び遊離脂 103 肪酸として油相中に溶解させることによって,主としてガム質のみを油 不溶物の形で油脂中に残すことにあり,これにより,ガム質を石けん分 とは同伴させずに除去した上で,水蒸気蒸留によって遊離脂肪酸を効果 的に除去することができる旨が記載されている。 5 そうすると,甲33技術は,本件発明1のステップ(b)とは異なる 技術的特徴を有するものというべきであり,甲33文献には,同ステッ プに係る構成が開示されているものとはいえない。 (エ) 以上によれば,甲2発明に甲33技術を適用したとしても,相違点 4-2に係る本件発明1の構成に至るものではないというべきである。 10 オ 原告の主張について (ア) 原告は,甲16文献を根拠として,脱ガム処理及びアルカリ精製は 一体として行われることがある上,希アルカリによる脱ガム処理及びア ルカリ精製は,アルカリ水溶液を使用するという点で共通するから,当 業者は脱ガム処理の際に希NaOHを水相として使用することを動機付15 けられる旨主張する。 しかしながら,証拠(甲16)によれば,甲16文献に記載された脱 ガム処理は,水又は酸の水溶液を用いたものであり,希NaOHによる ものではない。また,甲16文献に記載された方法は,脱ガム処理を行 った後に,沈殿したガム質を含む油についてアルカリ精製を行い,生成20 した石けんにガム質を吸着又は包含させて除去する方法である。そうす ると,甲16文献に接した当業者が,脱ガム処理の際に希NaOHを水 相として使用することを動機付けられるものとはいえない。 したがって,原告の主張は,採用することができない。 (イ) 原告は,粗魚油の遊離脂肪酸濃度にばらつきがあることから,甲225 発明において,蒸留に付す前の段階で同濃度を一定にそろえるために, 脱ガム処理の際に部分中和を行う動機付けがある旨主張する。 104 しかしながら,上記イで検討したとおり,甲2文献においては,魚油 に元々含まれている遊離脂肪酸を利用することにより,一度の脱酸処理 によって効率的に環境汚染物質の量を減少させることが主要な作用効果 として開示されているものといえることからすれば,甲2文献に接した 5 当業者が,脱ガム処理の際に部分中和を行うことを動機付けられるもの とはいえない。 したがって,原告の主張は,採用することができない。 (ウ) このほか,原告は,種々の主張をするが,いずれも前記の結論を左 右するものではないというべきである。 10 カ 小括 (ア) 以上検討したところによれば,甲2文献に接した当業者が,ストリ ッピング工程の前に,脱酸処理の一部が併せて行われる本件発明1のス テップ(b)の工程を採用することを動機付けられるものではない上, 原告が周知技術として指摘する甲15文献,甲18文献及び甲33文献15 は,いずれも本件発明1のステップ(b)に係る構成を開示するものと はいえない。 そうすると,本件優先日当時の当業者が,相違点4-2に係る本件発 明1の構成を採ることを,容易に想到することができたとはいえない。 (イ) また,以上のことは,本件発明1の発明特定事項を全て含む本件発20 明2ないし6,8,9及び11ないし17についても同様である。 (ウ) したがって,本件発明1ないし6,8,9及び11ないし17に係 る取消事由(4)は,理由がない。 (3) 相違点10-2の容易想到性 ア 本件発明7のステップ(b)について25 (ア) 相違点10-2においては,本件発明7のステップ(b)に係る構 成の容易想到性が問題となるところ,上記1(4)のとおり,本件発明7の 105 ステップ(b)は,原油組成物を実質的に塩基なしで水性流体処理ステ ップにかけるステップであり,かつ,相分離を改善するために無機塩を 水性流体に添加するものである。 (イ) そして,上記(2)アのとおり,本件優先日当時,油の精製において, 5 アルカリ精製による脱酸処理の前に脱ガム処理を経ること,一般的な脱 ガム処理の方法の1つとして,水や水蒸気等の水性流体を油組成物と接 触させ,水和したガム質を含む親水性の不純物を油から分離して除去す る方法があったことは,いずれも周知の技術であったと認められる。ま た,証拠(甲3,4,6〔693,700,701頁〕)によれば,本件10 優先日当時,蒸留(物理的精製)による脱酸処理の前に脱ガム処理又は 水洗の処理を経ることは,周知であったと認められる上,証拠(甲5〔4 75頁の表2〕,6〔693頁右欄の表1〕,13〔571頁の右欄〕,1 4〔98頁の図2〕,24〔185頁〕)によれば,水や水蒸気等の水性 流体を油組成物と接触させた後に分離する処理によってタンパク質性化15 合物が除去されることも,周知であったと認められる。 (ウ) そうすると,本件発明7のステップ(b)は,タンパク質性化合物 を含む親水性の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去し得る 点において,上記の水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水 洗の処理と異なるところはないというべきである。 20 イ 甲2文献における開示 (ア) 上記(1)のとおり,甲2文献においては,油をストリッピング工程の 前に前処理してもよいと記載されている(【0057】 。 ) (イ) そして,上記アのとおり,ストリッピング処理を行う前に水や水蒸 気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を経ることが周知25 であったことからすれば,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や 水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性 106 の不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去することを,当業者 は当然に動機付けられるものといえる。 ウ 解乳化剤としての無機塩の添加が周知技術であったか否か (ア) 水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理におい 5 ては,水相と油相との界面が十分に解乳化され,水性流体を油から容易 に分離することが可能な状態となることが好ましいことは明らかである。 (イ) そして,証拠(甲30,31,44ないし46)によれば,一般科 学においては,従来から,塩化ナトリウム等の塩を解乳化剤として用い ることが広く知られていたと認められることからすれば,水や水蒸気等10 の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においても,水相と油相 との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離することが可能な状 態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,当業者は当然 に動機付けられるものといえる。 エ 容易想到性15 (ア) 上記アないしウで検討したところによれば,甲2文献に接した本件 優先日当時の当業者は,甲2発明のストリッピング処理の前に,水や水 蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理を行い,親水性の 不純物の少なくとも一部を油から分離させて除去すること,その際に, 水相と油相との界面を解乳化し,水性流体を油から容易に分離すること20 が可能な状態とするために,塩化ナトリウム等の塩を用いることを,容 易に想到することが可能であったといえる。 (イ) また,本件発明7のステップ(b)に係るその他の構成について検 討するに,証拠(甲5,24)によれば,魚油には炭素数16から22 の遊離脂肪酸が必ず含まれていることが認められる。 25 さらに,粗魚油の一般的な遊離脂肪酸濃度は2重量%ないし5重量% であると認められる(甲5〔475頁の表1〕)ところ,水や水蒸気等の 107 水性流体を用いた脱ガム処理又は水洗の処理においては,油組成物中の 遊離脂肪酸は中和されず,その量が変化しないことは明らかであるから, 上記処理後の魚油の遊離脂肪酸濃度が,0.5重量%ないし5重量%の 範囲内となることも明らかである。 5 (ウ) 以上によれば,甲2文献に接した本件優先日当時の当業者は,本件 発明7のステップ(b)に係る構成を,容易に想到することができたも のといえる。 オ 被告の主張について (ア) 被告は,甲2文献には,ストリッピング処理前の前処理過程の一例10 として脱臭工程のみが挙げられている上,脱ガム処理のほか,本件発明 7のステップ(b)に係る構成について何らの記載等もされていないか ら,当業者は同構成を採ることを動機付けられるものではない旨主張す る。 しかしながら,甲2文献の段落【0057】には,ストリッピング工15 程の前処理の一例として脱臭工程が挙げられているものの,これに限る 旨の記載は存しない上,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用い た脱ガム処理等が周知の技術であり,これをストリッピング処理の前に 行うこともまた周知であったことからすれば,当業者は,ストリッピン グ工程の前処理として,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理等20 を行うことを動機付けられるものといえる。 したがって,被告の主張は,採用することができない。 (イ) 被告は,原告が主張する脱ガム処理には様々な方法によるものが含 まれるから,相違点10-2に係る本件発明7の構成には至らない旨主 張する。 25 しかしながら,前記のとおり,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガ ム処理が,一般的な脱ガム処理の方法の1つとして周知の技術であった 108 と認められることからすれば,甲2文献に接した当業者は,これを甲2 発明に適用することを動機付けられるものといえるから,被告が指摘す るとおり,脱ガム処理に様々な方法によるものが存在するとしても,前 記の結論を左右するものではないというべきである。 5 したがって,被告の主張は,採用することができない。 (ウ) 被告は,エマルジョン形成の解消が容易ではないことは技術常識で あったこと,甲44文献に記載された有機相及び本件発明7のステップ (b)における有機相は全く異なるものであること,魚油の精製工程に おいて無機塩を解乳化剤として用いることに関する文献が本件訴訟にお10 いて提出されていないことから,当業者が無機塩を添加して有機相と水 相とを分離させる技術を甲2発明に適用することを動機付けられるもの ではない旨主張する。 しかしながら,欧州の特許公開公報である甲44文献に対応する日本 の公開特許公報である乙C6文献には,海産動物油等の天然源からEP15 A及びDHA混合物等を抽出する方法に関して,脂肪酸混合物を含む相 と水相との分離を高めるために,塩化ナトリウム等の塩類を少量加える ことが記載されている。また,甲30文献には,魚鯨油を2%程度の塩 化ナトリウム等の塩類水溶液で洗浄する方法が記載されており,脱ガム 処理として魚鯨油を塩類水溶液で洗浄する方法が行われているものと認20 められる。このように,魚油の精製工程において,無機塩を添加するこ とによって相分離を図る方法が記載されている文献が存在するのに対し, 本件各証拠上,このような方法の採用を妨げるような内容の文献は見当 たらない。 そうすると,一般科学において実施されている相分離を改善するため25 の無機塩の添加を,魚油の精製工程において実施することが妨げられる ものではないというべきである。 109 したがって,被告の主張は,採用することができない。 (エ) 被告は,本件発明7は当業者には予測し得ない顕著な効果を奏する 旨主張する。 しかしながら,これまで検討したとおり,本件発明7のステップ(b) 5 に係る構成は,周知技術である水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム 処理等に,同じく周知技術である相分離を改善するために無機塩を添加 する方法を組み合わせたものであることからすれば,当業者は,同構成 が塩基を使用しないものであることや,相分離の改善によりトリグリセ リド油の回収率を高めることができることを当然に予測し得るものとい10 えるから,本件発明7は,予測し得ない顕著な効果を奏するものとは認 められない。 カ 小括 (ア) 以上によれば,甲2文献に接した本件優先日当時の当業者は,相違 点10-2に係る本件発明7の構成を採ることを,容易に想到すること15 ができたものといえる。 (イ) また,以上のことは,本件発明7の発明特定事項を全て含む本件発 明10についても同様であるし,本件発明10固有の構成要件も,進歩 性を基礎付け得るものではない。 (ウ) したがって,本件発明7及び10に係る取消事由(4)は,理由がある。 20 6 取消事由(5)(甲3発明に対する進歩性の欠如)に対する判断 (1) 甲3発明並びに本件各発明と甲3発明との一致点及び相違点 ア 甲3文献の記載 甲3文献には,次のとおりの記載がある(甲3)。 (ア) 特許請求の範囲25 【第1項】 魚油を分子蒸留し,得られた揮発性成分を溶剤で結晶化せし めることを特徴とするコレステロールの分離精製法。 110 【第2項】 溶剤がヘキサン,メタノール,アセトン,酢酸エチルから選 ばれた有機溶剤である特許請求の範囲第1項記載のコレステロールの 分離精製法。 (イ) 発明の詳細な説明 5 a 産業上の利用分野 本発明はコレステロールの分離精製法に関し,更に詳細には,魚油 から効率よくコレステロールを分離精製する方法に関する。 1頁左欄 ( 13ないし16行) b 従来の技術およびその問題点10 近年,魚油から分離されるコレステロールは,養魚飼料添加物,化 粧品原料,医薬品原料あるいは液晶原料として需要が盛んになってき た。 従来,魚油からコレステロールを得るには,魚油を苛性ソーダ等の アルカリ水溶液と混合後,遠心分離してセッケン層と油層(脱酸油)15 に分離して得られるセッケン層を原料とする方法が行われていた。… しかしながら,この方法は工程が多く操作が煩雑であると共に,遠 心分離による分離性を向上させるために加熱が不可欠であるため加水 分解が惹起し,またセッケン層と油層を完全に分離することが困難な ため脱酸油及びコレステロールの収率が低いという欠点があった。 20 (1頁左欄17行ないし右欄最終行) c 問題点を解決するための手段 斯かる実状において,本発明者は鋭意研究を行った結果,魚油を分 子蒸留すれば容易に脱臭された脱酸油と揮発性成分とに分離すること かでき,しかもこの揮発性成分中には高濃度(約35%)でコレステ25 ロールが含まれているので,これから簡単な操作でコレステロールを 高収率で収得できることを見出し,本発明を完成した。 111 すなわち,本発明は魚油を分子蒸留し,得られた揮発性成分を溶剤 で結晶化せしめることを特徴とするコレステロールの分離精製法を提 供するものである。 本発明方法を実施するには,まず魚油を分子蒸留し,揮発成分を得 5 る。魚油としては,煮取法,圧搾法,アルカリ分解法,自己消化法, 溶剤抽出法等通常の採油方法により得たものが好ましく,特に,公知 の手段により脱ガム処理されているものが好ましい。また,魚油原料 の魚としては,いわし,さば,さんま,にしん,メンヘーデン,すけ とうたら,まだら等の魚類;オキアミ等の甲殻類;スルメイカ,ムラ10 サキイカ等の頭足類等が挙げられる。また分子蒸留は,薄膜流下式, 遠心式等の装置を用い,真空度1×10??〜1×10??mmHgで, 温度200〜250℃に加熱する条件でおこなわれる。この分子蒸留 工程では,脂肪酸や臭気成分と共に,魚油中の主要不ケン化物である コレステロールが効率よく揮発性留分に濃縮される。なお,上記加熱15 温度が200℃より低い場合はコレステロールの収率が悪くなり,ま た250℃を超えた場合は魚油中のトリグリセライドの揮発が起り, 脱酸油の収率が悪くなる。 (2頁上左欄1行ないし上右欄11行) d 発明の効果20 叙上の如く,本発明方法によれば,魚油から簡単な操作で高収率に てコレステロールを分離精製できると共に,更に分子蒸留によって得 られる一方の脱酸油は,酸価,不ケン化物含量の何れにおいても従来 品に比べて1/2であり,またコレステロール含量も極めて低く,し かも魚油特有の不快臭もないという利点を有する。 2頁上右欄19行 (25 ないし下左欄6行) e 実施例 112 次に実施例を挙げて説明する。 (I)脱ガム処理した沿岸イワシ粗油(酸価3. 不ケン化物含量2. 8, 0%,コレステロール含量1.8%)15Kgを下記条件下分子蒸留 処理を行つた。 5 装置:遠心式分子蒸留装置 MS380型(日本車輌(株)製,蒸 発皿半径380mm) 加熱温度:220℃ 試料油流量:20L/H 蒸発皿回転数 2,000rpm10 真空度 5×10??mmHg この結果,残留区分として14.5Kgの脱酸イワシ油*,および, 揮発性留分として0.45Kgの常温で半固体の油状物(コレステロ ール含量35.0%)が得られた。なお,ここで得られた脱酸イワシ 油の収率も97%で,従来法の90-95%に比べ高い収率であった。 15 * 脱酸イワシ油は,酸価0.2不ケン化物含量0.6%,コレス テロール含量0.5%であり,従来法による数値と較べ,いずれ も約1/2と低く,また魚油特有の不快臭のない良質のものであ った。 (2頁下左欄7行ないし下右欄11行)20 イ 甲3発明並びに本件各発明と甲3発明との一致点及び相違点 (ア) 上記1及び上記アによれば,甲3発明並びに本件各発明と甲3発明 との一致点及び相違点は,本件審決が認定したとおり(前記第2の3(3)) であると認められる。 (イ) 原告は,本件審決における相違点4-3及び10-3の認定につき,25 ステップ(b)のうち「親水性成分が…原油組成物から分離されるステ ップ」は甲3発明の脱ガム処理を含むものであるとして,前記第3の5 113 (1)で主張する相違点4-3’及び10-3’のとおり認定すべきである 旨主張する。 しかしながら,これまで検討したところによれば,本件各発明は,課 題解決のための手段として,従来の技術である脱ガム処理及びアルカリ 5 精製に代えて,新たにステップ(b)の方法を採ったものと解されるこ とからすれば,甲3発明においてステップ(b)の方法が採られている か不明であるという点を相違点として認定した上で,その実質的な相違 の内容については進歩性判断において検討するのが相当である。 したがって,原告の主張は,採用することができない。 10 (2) 相違点4-3の容易想到性 ア 前記の相違点4-2の内容を踏まえると,相違点4-3は,相違点4- 2と実質的に同じ内容であるといえる。 イ 上記(1)アによれば,甲3文献には,従来のアルカリ精製には,工程が多 く操作が煩雑であることや,加熱による加水分解の発生や脱酸油及びコレ15 ステロールの収率が低いといった欠点があったことから,甲3発明におい ては分子蒸留の方法によって脱酸処理を行うこととしたことが開示され ているといえる。 そして,上記5(2)アのとおり,本件発明1のステップ(b)は,ストリ ッピング工程の前に塩基を用いて脱酸処理の一部(部分中和)を行うもの20 であることからすれば,アルカリ精製の欠点を指摘する開示がされている 甲3文献に接した当業者は,本件発明1のステップ(b)の工程を採用す ることを動機付けられるものではないというべきである。 原告は,甲3発明において,蒸留前にアルカリ処理を行う動機付けがあ る旨主張するが,上記に照らし,採用することはできない。 25 ウ また,上記5(2)で検討したとおり,原告が周知技術として指摘する甲1 5文献,甲18文献及び甲33文献は,いずれも本件発明1のステップ(b) 114 に係る構成を開示するものとはいえない。 エ 以上によれば,本件優先日当時の当業者は,相違点4-3に係る本件発 明1の構成を採ることを,容易に想到することができたものとはいえず, これは本件発明2ないし6,8,9及び11ないし17についても同様で 5 ある。 したがって,本件発明1ないし6,8,9及び11ないし17に係る取 消事由(5)は,理由がない。 (3) 相違点10-3の容易想到性 ア 前記の相違点10-2の内容を踏まえると,相違点10-3は,相違点10 10-2と実質的に同じ内容であるといえる。 イ そして,上記5(3)で検討したところに照らすと,当業者は,周知技術で ある水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理等を,甲3発明の蒸留の 工程の前に行うことや,当該脱ガム処理等において,解乳化のために無機 塩を用いることを,当然に動機付けられるものといえる。 15 ウ このほか,上記5(3)で検討したところによれば,本件優先日当時の当業 者は,相違点10-3に係る本件発明7の構成を採ることを,容易に想到 することができたといえ,これは本件発明10についても同様である。 したがって,本件発明7及び10に係る取消事由(5)は,理由がある。 7 取消事由(6)(甲4発明に対する進歩性の欠如)に対する判断20 (1) 甲4発明並びに本件各発明と甲4発明との一致点及び相違点 ア 甲4文献の記載 甲4文献には,次のとおりの記載がある(甲4)。 (ア) 技術分野 【0001】 本発明は,乳化化粧料に関する。詳しくは,コレステロー25 ルを含有しながら,べたつきが少なく,のびが良い,使用感触の軽い乳 化化粧料に関する。 115 (イ) 背景技術 【0002】 コレステロールはリポタンパク,生体膜の構成成分として 必須であるため,ほとんどすべての動物組織中に認められる。そしてそ の用途は,飼料添加物,香粧品原料,液晶原料,医薬原料など多岐にわ 5 たっている。このうち香粧品原料,液晶原料,医薬原料として用いられ る場合は,特に純度の高いコレステロールが要求される。 コレステロールは化粧品成分としては,油剤,エモリエント剤,皮膚 コンディショニング剤,乳化剤,親油性増粘剤として使われている。角 質層に潤いを与え,肌を柔らかくする成分としても,広く使用されてい10 る(特許文献1,2等)。 コレステロールとしては,羊毛脂を原料とするラノリンコレステロー ル,牛,豚の脳脊髄から抽出するもの,魚由来のものが知られている(特 許文献3) 化粧料分野では, 。 ラノリンコレステロールが最も広く利用さ れている。 15 (ウ) 発明が解決しようとする課題 【0004】 本発明は,コレステロールを含有しながら,べたつきがな くさらっとした軽い使用感触の,乳化タイプの化粧料を提供することを 課題とする。コレステロールは角質層に潤いを与え,肌を柔らかくする 成分としてクリームなどに用いられる。しっとりするのは良いが,使用20 時にべたつきがあると感じられることがあり,さっぱりした使用感に仕 上げたい化粧料には添加しにくい場合があった。 (エ) 課題を解決するための手段 【0005】 化粧品に用いられるコレステロールはほとんどが,ラノリ ン由来のコレステロールである。本願はあまり利用されていなかった魚25 由来のコレステロールの性質を調べる中で,主成分は同じコレステロー ルであるが,由来が異なるとその物性に差があることを見出し,本発明 116 を完成させた。 (オ) 発明を実施するための形態 【0008】 本発明において,魚由来コレステロールとは,魚類から得 られるコレステロールである。通常,魚油の精製工程においてコレステ 5 ロール画分を得,それを精製することによって得られる。… 【0009】 あるいは,魚油原料を分子蒸留し,得られた揮発性成分を ヘキサン,メタノール,アセトン,酢酸エチルなどの溶剤で結晶化する 方法で得る方法もある。この方法は,まず魚油原料を分子蒸留し,揮発 成分を得る。魚油としては,煮取法,圧搾法,アルカリ分解法,自己消10 化法,溶剤抽出法等通常の採油方法により得たものが好ましく,特に公 知の手段により脱ガム処理されているものが好ましい。また,魚油の原 料魚としては,イワシ,サバ,サンマ,ニシン,メンヘーデン,スケト ウダラ,マダラ等の魚類,オキアミ等の甲殻類,スルメイカ,ムラサキ イカ等の頭足類などが例示される。 15 … 分子蒸留は薄膜流下式,遠心式等の装置を用い,真空度1×10??〜 1×10??mmHgで,温度200〜250℃で加熱する条件で行われ る。この分子蒸留工程では,脂肪酸や臭気成分とともに,魚油中の主要 不ケン化物であるコレステロールが効率よく揮発性留分に凝縮される。 20 次に,得られた揮発性成分を,溶剤を用いて結晶化せしめる。結晶化に 用いられる溶剤としては,ヘキサン,メタノール,アセトン,酢酸エチ ル等の有機溶剤が挙げられる。 【0010】 本発明のコレステロールとして好ましいのは,粗魚油に含 まれるコレステロールを蒸留にて分取し,ヘキサンにてコレステロール25 を93〜96面積%の純度で含有するように精製したものである。具体 的には,イワシなどの粗魚油を水洗し脱水した後,短行程真空蒸留装置 117 により,遊離脂肪酸,コレステロールを主成分とする蒸留成分を得る。 続いて,この蒸留成分を分子蒸留にかけ,遊離脂肪酸を蒸留成分として 除去し,コレステロールを残渣として得る。… 【0013】 以下に本発明の実施例を記載するが,本発明はこれらに何 5 ら限定されるものではない。 魚由来コレステロールの製造 本実施例で用いた魚由来コレステロールは,以下の製法で製造した。 イワシの粗魚油を水洗し脱水した後,短行程真空蒸留装置により,遊 離脂肪酸,コレステロールを主成分とする蒸留成分を得る。トリグリセ10 リドを主成分とする魚油本体は残渣として別途利用される。続いて,こ の蒸留成分を分子蒸留にかけ,遊離脂肪酸を蒸留成分として除去し,コ レステロールを残渣として得る。コレステロールはフリー体のものとエ ステル体のものとが混ざっているので,ケン化反応を行い,フリー体に 統一させる。コレステロールをヘキサン抽出し結晶化させ,ヘキサンを15 溶媒として再結晶することにより93〜96面積%の純度のコレステロ ールが得られる。 イ 甲4発明並びに本件各発明と甲4発明との一致点及び相違点 上記1及び上記アによれば,甲4発明並びに本件各発明と甲4発明との 一致点及び相違点は,本件審決が認定したとおり(前記第2の3(4))であ20 ると認められる。 (2) 相違点4-4の容易想到性 ア 前記の相違点4-2及び4-3の内容を踏まえると,相違点4-4は, 相違点4-2及び4-3と実質的に同じ内容であるといえる。 イ 上記(1)アによれば,甲4文献には,コレステロールを含有しながら,べ25 たつきがなくさらっとした軽い使用感触の,乳化タイプの化粧料を提供す ることを課題とし,これを解決する方法として,魚油を分子蒸留によって 118 脱酸する方法が開示されているといえる。 そして,上記5(2)アのとおり,本件発明1のステップ(b)は,ストリ ッピング工程の前に塩基を用いて脱酸処理の一部(部分中和)を行うもの であるところ,甲4文献において,部分中和を行うことが望ましいことを 5 示唆する記載は見当たらないことからすれば,甲4文献に接した当業者は, 本件発明1のステップ(b)の工程を採用することを動機付けられるもの ではないというべきである。 ウ また,上記5(2)で検討したとおり,原告が周知技術として指摘する甲1 5文献,甲18文献及び甲33文献は,いずれも本件発明1のステップ(b)10 に係る構成を開示するものとはいえない。 エ 以上によれば,本件優先日当時の当業者は,相違点4-4に係る本件発 明1の構成を採ることを,容易に想到することができたものとはいえず, これは本件発明2ないし6,8,9及び11ないし17についても同様で ある。 15 したがって,本件発明1ないし6,8,9及び11ないし17に係る取 消事由(6)は,理由がない。 (3) 相違点10-4の容易想到性 ア 前記の相違点10-2及び10-3の内容を踏まえると,相違点10- 4は,相違点10-2及び10-3と実質的に同じ内容であるといえる。 20 イ そして,上記5(3)及び6(3)で検討したところに照らすと,当業者は, 甲4発明において蒸留の工程の前に行われる水洗の処理(上記5(3)で検 討したとおり,この処理は,水や水蒸気等の水性流体を用いた脱ガム処理 と同様の処理である。 において, ) 解乳化のために無機塩を用いることを当 然に動機付けられるものといえる。 25 ウ このほか,上記5(3)及び6(3)で検討したところによれば,本件優先日 当時の当業者は,相違点10-4に係る本件発明7の構成を採ることを, 119 容易に想到することができたといえ,これは本件発明10についても同様 である。 したがって,本件発明7及び10に係る取消事由(6)は,理由がある。 8 まとめ 5 以上検討したところによれば,本件各発明につき,明確性要件違反,実施可 能要件違反及びサポート要件違反はいずれも認められず,また,本件発明1な いし6,8,9及び11ないし17につき,進歩性を欠くものとはいえないか ら,本件発明1ないし6,8,9及び11ないし17に係る本件審決の判断に 誤りはない。 10 他方で,本件発明7及び10については,いずれも進歩性を欠くものといえ るから,これらの発明に係る本件審決の判断には誤りがある。 9 結論 以上によれば,原告の請求については,本件審決のうち本件特許の請求項7 及び10に係る部分の取消しを求める限度で理由があるから,同限度でこれを15 認容し,その余は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |