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関連審決 無効2019-800058 無効2019-800
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成23ワ4836特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成27ネ10017 特許権侵害行為差止請求控訴事件 判例 特許
平成28行ケ10226 審決取消請求事件 判例 特許
平成30ワ3018 特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成29行ケ10137 審決取消請求事件 判例 特許
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事件 令和 2年 (行ケ) 10045号 審決取消請求事件
5
原告 株式会社ファイブスター
同訴訟代理人弁護士 冨宅恵
同 西村啓 10 同訴訟代理人弁理士 高山嘉成
被告株式会社MTG
同訴訟代理人弁護士 關健一 15 同訴訟代理人弁理士 小林徳夫
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/06/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
20 第1 請求 特許庁が無効2019-800058号特許無効審判事件について令和2年 3月31日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要 (以下,書証については,単に「甲1」などと略記する。)25 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。) (1) 被告は,平成26年3月27日を出願日とする特許出願(特願2014- 1 65029号。以下「原出願」という。)の一部を分割して,平成28年4月 26日,発明の名称を「美容器」とする発明についての特許出願(以下「本 件出願」という。 をし, ) 平成29年4月7日,特許権の設定登録を受けた(特 許第6121026号。請求項の数4。以下,この設定登録を受けた特許を 5 「本件特許」という。 。
) (2) 原告は,令和元年8月8日,本件特許の請求項1ないし4に係る発明につ いての特許を無効とすることを求める特許無効審判(無効2019-800 058号)を請求した。
特許庁は,令和2年3月31日,「本件審判の請求は成り立たない。」との10 審決(以下「本件審決」という。)をした。
(3) 原告は,同年4月16日,本件審決の取消を求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4の記載は,次のとおりである (以下,請求項の番号に応じて,請求項1に係る発明を「本件発明1」などと15 いい,本件発明1ないし4を「本件発明」という。。
) 【請求項1】 棒状のハンドル本体と,該ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部と,上 記ハンドル本体との結合部分が露出しない状態で上記凹部を覆うように上記ハ ンドル本体に取り付けられたハンドルカバーとからなるハンドルと,20 上記ハンドル本体の長手方向の一端に一体的に形成された一対の分枝部と, 該一対の分枝部のそれぞれに形成されているとともに,上記凹部に連通する 軸孔と, 該軸孔に挿通された一対のローラシャフトと, 該一対のローラシャフトに取り付けられた一対のローラと,25 を備え, 上記ハンドル本体の表面及び上記ハンドルカバーの表面が,上記ハンドルの 2 表面を構成している,美容器。
【請求項2】 上記凹部には,上記軸孔に挿通された上記ローラシャフトを支持するシャフ ト支持台が設けられている,請求項1に記載の美容器。
5 【請求項3】 上記凹部には電源部が収納されており,該電源部は上記ローラシャフトを介 して,上記ローラに電気的に接続されており,該ローラと肌との間に微弱電流 が流れるように構成され,上記凹部の底には上記ハンドル本体を貫通して上記 電源部としての太陽電池パネルに外光を到達させる窓部が形成されている,請10 求項1又は2に記載の美容器。
【請求項4】 上記一対のローラの並び方向から見たときに,上記一対のローラシャフトは 上記ハンドル本体に対して傾斜しており,上記凹部は上記一対のローラシャフ トが傾斜する側に開口するように形成されている,請求項1〜3のいずれか一15 項に記載の美容器。
3 本件審決の要旨 本件審決の要旨は,@本件特許は,本件発明に係る請求項の記載が特許法3 6条6項1号に規定する要件(以下「サポート要件」という。)を満たしていな いということはできず,同法123条1項4号に該当しない,A本件特許は,20 本件発明に係る請求項の記載が同法36条6項2号に規定する要件(以下「明 確性要件」という。)を満たしていないということはできず,同法123条1項 4号に該当しない,B本件出願は,分割要件を満たした出願であって,原出願 の時に出願したものとみなされるところ,甲3(特開2015-186540 号公報)は,原出願前に頒布され,又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能25 となったものとはいえないから,甲3に記載された発明は,同法29条1項3 号に定める発明とはいえず,したがって,本件発明は,同法29条1項又は同 3 条2項により特許を受けることができないものとすることはできないから,同 法123条1項2号に該当しない,というものであり,原告が主張する無効理 由に対する判断の理由の要旨は,以下のとおりである。
(1) サポート要件違反(無効理由1) 5 本件出願の願書に添付した明細書(甲6。以下「本件明細書」という。)の 【0006】 【0010】 【0011】 【0028】 【0030】 【003 , , , , , 9】, 【0042】, 【0043】, 【0045】ないし【0047】, 【0055】, 【0056】の各記載によれば,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説 明に記載された発明であるといえる。
10 本件発明が解決しようとする課題は,従来技術(ハンドルを中心線に沿っ て上下又は左右に分割したもの。以下,単に「従来技術」という。)に比較し てハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに,組み立 て作業性の向上が図られる美容器を提供しようとするものである(【000 4】 0005】 ところ, 【 , ) 特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載から,15 本件発明のハンドルの構造は,従来技術を含むものではないと理解すること ができる。そして,@複数の部材を組み合わせてなる物品について,部材と 部材との接合部分が多かったり,接合部分が線状のものにおいて接合線が長 かったりするものについては,構造的に強度が弱くなることは,原出願時の 技術常識であることを踏まえると,従来技術に比して接合線を短くするよう20 に構成した本件発明は,従来技術に比してハンドルの強度を高く維持するこ とができると当業者は認識できる範囲のものであり,A分割された部材を組 み合わせる際に,組み合わせ部分にずれが生じないようにするために,各部 材における組み合わせ部分,すなわち,接合線全体にわたって成形精度を確 保する必要があるが,従来技術に比して接合線を短くした本件発明は,成形25 精度が求められる部分の長さが短くなって成形精度を確保しやすいものであ ることを当業者は容易に理解でき,従来技術に比して成形精度の向上が図ら 4 れると認識できる範囲のものであり,B本件発明のハンドルカバーは,従来 技術に比してハンドル本体への接合線を短くするように構成しているから, ハンドル本体の凹部への位置合わせ等,組み付け作業時の取扱いが楽になり, 組み付け作業が容易になることも当業者であれば十分理解できるから,本件 5 発明は,従来技術に比して組み立て作業性の向上が図られると認識できる範 囲のものである。
したがって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載された発明で,その発 明の詳細な説明及び原出願時の技術常識に照らし,当業者が発明の課題を解 決できると認識できる範囲のものであるといえるから,サポート要件に適合10 するものである。
(2) 明確性要件違反(無効理由3) @本件発明においてハンドルの形状は,「棒状」とのみ特定されているが, 一般的に「棒」とは, 「手に持てるほどの細長い木・竹・金属などの称」のこ とを意味し, 「状」とは, 「すがた。ありさま」を意味するところ, 「棒状」と15 は, 「手に持てるほどの細長い木・竹・金属などのすがたをしたもの」という 意味として明確に理解でき,本件明細書及び図面に記載された「棒状」のハ ンドルについて,手で握ることができるような細長い棒状の形状をなしてい るものとなっていることは,本件発明の「棒状」という用語を上記のような 意味で理解できることと整合していること,A本件発明の「凹部」及び「ハ20 ンドルカバー」については, 「ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部」及 び「上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバ ー」と記載されており,それぞれその記載のとおりに形状ないし構造を明確 に把握することができることからすると,本件発明は明確であり,本件発明 に係る請求項の記載は,明確性要件に適合する。
25 (3) 分割要件違反による新規性又は進歩性の判断の誤り(無効理由4) 原出願の願書に添付した明細書及び図面(甲2。以下「出願当初明細書」 5 という。)には「ハンドル10は細い棒状に形成されている」 【0049】 ( ) と記載されていたところ,本件明細書には「美容器において,ハンドル本体 は棒状であって」【0007】 ( )と記載されて「細い」という用語が削除され たが, 「棒」という語の意味には「細い」という概念があり,出願当初明細書 5 の全体をみても,原出願のハンドルが特別に細いものとは認められず,手で 握る程度の細さのものと理解できるから,同明細書の「細い」という用語に は格別の技術的意味があるとはいえず,同明細書の「細い棒状」と本件明細 書の「棒状」とは実質的には同じ意味のものと理解することができる。そし て, 「例えばハンドル10を中心線L0に沿って上下又は左右に分割して,ハ10 ンドル10の内部に各部材を収納する構成とした場合には,ハンドル10の 成形精度や強度が低下したり,各部材がハンドル10の内部を密閉する作業 に手間がかかって美容器1の組み立て作業性が低下したりするおそれがある」 という技術的課題を解決するという本件特許の技術的意義は原出願時と変わ りなく,新たな技術的意義が追加されないことも明らかであるから,本件発15 明について「細い」という特定のない棒状のハンドルとすることによっては, 新たな技術的事項が導入されたとはいえない。
また,ハンドル本体が「直線状」であることに関して,出願当初明細書に は「ハンドルは,上記第1端部から上記第2端部にかけて直線状に形成され ていることが好ましい」【0023】 ( )との記載があるが,これはあくまでも20 「好ましい」という記載にとどめられており,ハンドルが直線状に特定され ないものであることは自明であり, 【0049】の記載をみても,ハンドルは 細い棒状であること以外に何ら言及はないから,本件発明においてハンドル 本体の形状が「直線状」に特定されないからといって新たな技術的事項が導 入されたということにはならず,また,凹部がハンドルの中央部に形成され25 ることに関して,同明細書に「ハンドル10は,その一部(中央部)を凹状 にくり抜いて形成された凹部15」と記載されていたものが,本件明細書で 6 は「ハンドル本体に凹部が形成され」【0007】 ( )と記載され,凹部を形成 する位置として「中央部」という特定のない記載となったが,出願当初明細 書の【0049】のとおり「中央部」は括弧書きとして記載されていること からみても,凹部を設ける位置の一例を単に示したものと認められ,同明細 5 書に記載された凹部は,ハンドルの中央部に設けられたものに限定されてい るものではないから,本件発明において凹部を設ける位置が「中央部」に特 定されないからといって,そのことによって新たな技術的事項が導入された とはいえない。
したがって,本件出願は,分割要件を満たした出願である。
10 第3 当事者の主張 1 取消事由1(サポート要件違反の判断の誤り) (1) 原告の主張 ア 本件明細書の発明の詳細な説明には,請求項1に係る発明における「棒 状のハンドル本体」について,棒状のハンドル本体に関する記載はあるが,15 いずれも図1,図3を参照しており,同図面には, 「棒状のハンドルの本体」 について「直線状の棒状のハンドル本体」としか開示されておらず(【00 28】, 【0030】, ) また, 「該ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部」 については,ハンドル10に中央部を凹状にくり抜いて形成された凹部1 5についての記載があり(【0042】【0056】 , ,図4),ハンドルカバ20 ーは,中央部の凹部に対応する位置に設けられており,中央部以外の凹部 に使用するハンドルカバーに関して記載がなく(【0030】,図4) 「ハ , ンドル本体の中央部の表面から内方に窪んだ凹部」しか開示されていない。
そして, 「直線状の棒状のハンドル本体」及び「ハンドル本体の中央部の表 面から内方に窪んだ凹部」を, 「棒状のハンドル本体」及び「該ハンドル本25 体の表面から内方に窪んだ凹部」に拡張ないし一般化した場合に, 「ハンド ルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに,組み立て作業 7 性の向上が図られる美容器を提供する」という課題が解決することができ るという点については,本件明細書の発明の詳細な説明には記載も示唆も 一切存在しない。
したがって,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載され 5 た事項であるとはいえず,本件審決の判断には誤りがある。
イ 本件発明が解決しようとする課題は,従来技術に比較してハンドルの成 形精度や強度を高く維持することができるとともに,組み立て作業性の向 上が図られる美容器を提供しようとするものであるところ,以下のとおり, 当業者は,本件発明のハンドル本体,凹部及びハンドルカバーの構造を採10 用することによって,上記課題を解決すると認識することはできない。
(ア) 強度を高く維持する点について a 本件審決は,前記第2の3(1)のとおり,従来技術に比して接合線を 短くするように構成した本件発明は,従来技術に比してハンドルの強 度を高く維持することができると当業者は認識できる範囲のものであ15 る旨判断した。
しかし,本件審決で言及されている「技術常識」は,本件明細書に は一切記載も示唆もなく証拠も提出されていない。かえって,接合線 が短くなるとハンドルカバーは小さな部品とならざるを得ず,ハンド ルカバーとハンドル本体との接合部分の面積が小さくなるから,本件20 発明のハンドルカバーを用いた場合のハンドルは,従来の上下分割の ハンドルに比べて,接合部分に加わる単位面積当たりの圧力は大きく なるため,構造的に強固なものとはいえず,ハンドルカバーだけに力 が加わった場合には,ハンドル本体との接合部分に過剰な圧力が加わ る危険があり,接合部分で破損が生じるおそれがある(下図参照)。
8 このような構造力学的な前提によれば,当業者は,本件発明のハン ドル本体,凹部及びハンドルカバーの構造を採用することによって, 5 ハンドルを上下に分割した従来技術に比較して,ハンドルの強度を高 く維持することができるという課題を解決すると認識することはでき ない。
b また,本件発明には, 「棒状のハンドル本体」「該ハンドル本体の表 , 面から内方に窪んだ凹部」 「上記凹部を覆うように上記ハンドル本体 ,10 に取り付けられたハンドルカバー」からなるハンドルとの発明特定事 項からすると,接合線が上下分割した場合よりも少しでも短いように 9 して凹部をハンドルのほぼ全体にわたって形成するもの(別紙2の図 A,図B)のようなハンドルも含まれるのであり,こうしたハンドル が,ハンドルを上下に分割した従来技術と比較してハンドルの強度を 高く維持するとの課題を解決することができるような技術的根拠は示 5 されていない。
被告は,後記(2)イ(ア)bのとおり,乙5の試験結果を提出するが, 乙5は, 「直線状のハンドル本体に対して,ハンドルの中央部に形成さ れた凹部及びそれに対応するハンドルカバーを用いる場合」 「ハン と, ドルを上下に分割した」場合との強度を比較し,前者が後者と比較し10 て強度が向上していることを示したものにすぎない。ハンドルの中央 部分に凹部を設けると,ハンドルの基端部分は筒状になっており,そ の部分には中身が詰まっているから,上下に分割したハンドルと比較 して強度が向上するのは当然であり,また,基端部分に中身が詰まっ ていなくても,筒状のものと半分に割れたものとを比較した場合に筒15 状のものが強い強度が得られるのは技術常識であるから,上記試験結 果は当然のことである。被告は,乙5の試験結果に基づき「片持ち梁」 と「両端支持梁」とが荷重試験1と荷重試験2に相当するとし,従来 技術は「半割れ2枚重ね構造」であり,本件発明は「一体梁構造」で あると主張し,一体梁構造の方が強度が強いとも主張するが,本件審20 決が認定した原出願時における技術常識の立証をすり替えるものであ り,当を得ない。
c したがって,当業者は,原出願時における技術常識を考慮しても, 本件発明が従来技術に比してハンドルの強度を高く維持することがで きると認識することはできないから,これと異なる本件審決の判断は25 誤りである。
(イ) 成形精度を高く維持するとの点について 10 本件審決は,前記第2の3(1)のとおり,従来技術に比して接合線を短 くした本件発明は,成形精度が求められる部分の長さが短くなって成形 精度を確保しやすいものであることを当業者は容易に理解でき,従来技 術に比して成形精度の向上が図られると認識できる範囲のものである旨 5 判断した。
しかし,接合線を短くすることによって成形精度を確保することがで きる技術的根拠が不明であり,接合線を短くすることによって成形精度 が高まるという技術常識は明らかではない。むしろ,現在では,あらゆ る製品が樹脂成形品として提供されており,接合線の長短が成形精度に10 影響を及ぼさないことは技術常識である。
したがって,当業者は,接合線を短くすることによって成形精度を確 保しやすくなるとの課題が解決すると認識することはできない。
(ウ) 組み付け作業を容易にする点について 本件審決は,前記第2の3(1)のとおり,本件発明のハンドルカバーは,15 ハンドル本体の凹部への位置合わせ等,組み付け作業時の取扱いが楽に なり,組み付け作業が容易になることも当業者であれば十分理解できる から,本件発明は,従来技術に比して組み立て作業性の向上が図られる と認識できる範囲のものである旨判断した。
しかし,接合線が短くなると位置合わせ等の組み付け作業時の取扱い20 が楽になるという技術的根拠はなく,接合線が短くなるということは部 品が小さくなり,小さな部品を組み付ける作業の容易性は,作業者の技 術に依存する問題であるにすぎず,発明の効果ではない。
したがって,当業者は,本件発明のように接合線を短くすることによ って組み付け作業が容易になると認識することはできない。
25 ウ 小括 以上のとおり,本件発明は,発明の詳細な発明に記載された発明である 11 とはいえず,また,当業者が課題を解決することができると認識できる範 囲のものであるとはいえないから,サポート要件に反するというべきであ る。
したがって,これと異なる本件審決の判断は誤りであり,取り消される 5 べきである。
(2) 被告の主張 ア 原告は,前記(1)アのとおり,本件審決が引用した本件明細書の記載を引 用しつつ, 「直線状の棒状のハンドル本体」及び「ハンドル本体の中央部の 表面から内方に窪んだ凹部」を「棒状のハンドル本体」及び「該ハンドル10 本体の表面から内方に窪んだ凹部」に拡張ないし一般化した場合に,ハン ドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに,組立作業性 の向上が図られる美容器を提供するという課題を解決することができる という点については,本件明細書の発明の詳細な説明には記載も示唆も一 切存在しない旨主張するが,原告が指摘する本件審決の判断部分は,特許15 請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比して,特許請求の範 囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか否か を検討,判断しているのであって,本件発明の課題を解決することができ るか否かについて発明の詳細な説明の記載を検討したものではなく,原告 の上記主張は当を得ない。
20 その点を措くとしても,請求項1の「棒状のハンドル本体」について, 本件明細書には, 「ハンドル本体13は,棒状であって」 (【0028】 , )「図 1,図3に示すように,ハンドル10は棒状を成している。( 」【0030】 との記載があり,請求項1の「該ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹 部」については, 「本例では,図4に示すように,ハンドル10は,その一25 部(中央部)を凹状にくり抜いて形成された凹部15」【0056】 ( )との 記載があるから,本件発明1は,発明の詳細な説明に記載された発明であ 12 って,同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ 本件発明は,以下のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載又は 原出願時の技術常識に照らし,当業者であれば本件発明の課題を解決でき ると認識できる範囲のものであるといえる。
5 (ア) 強度を高く維持する点について a ハンドルを分割成形する従来技術としては,特開2013-103 086号公報にあるように,ハンドルを上下ないし左右から分割して 両者を組み合わせる手法があるが,本件発明は,このような従来技術 を前提として,ハンドル成形精度や強度を高く維持し,組立作業性の10 向上を図ることを課題とするものである。
本件発明における「ハンドル」の構造は,本件発明の発明特定事項 を踏まえれば,ハンドルカバーがハンドル本体に比べて相対的に小さ い部材であり,ハンドル本体とハンドルカバーとの接合線についても, 従来技術(ハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割したもの)15 の接合線よりも短いものといえる。
b 原出願時の一般的知見,技術的常識として,複数の部材を組み合わ せて物品を構成する場合に,強度が劣るのは部材の組み合わせ部分(接 合部分)であり,このため,接合線を短くすることは強度の劣る部分 を減少させることになり,強度を高くすることができる。
20 被告は,この技術常識を裏付けるため,本件発明と従来技術との構 成について,それぞれハンドル強度のシミュレーション試験(乙5) を行った。すなわち,同試験では,本件明細書の実施形態に示すハン ドル本体とハンドルカバーを組み合わせたハンドル(別紙3の1)と, 従来技術に対応する上下方向に二分割した上側ハンドルと下側ハンド25 ルを組み合わせたハンドル(別紙3の2)を試験対象とし,ユーザが ハンドルを握ってローラを肌に当てて使用する際にハンドルに作用す 13 る荷重を想定し,それぞれのハンドルの先端に各1kgの荷重(シャ フト2個で合計2kg)をシャフトに直交する方向に加えた試験(荷 重試験1)と,床等に置かれた状態の美容器をユーザ等が上から踏み つけてしまった場合を想定し,それぞれのハンドルのシャフト先端と 5 ハンドル基端を床面に固定し,ハンドルの上方向から20kgの荷重 を加えた試験(荷重試験2)を行ったところ,荷重試験1では,ハン ドルに生じる応力及びハンドルの変位量は,いずれも,本件発明より も従来技術のハンドルが大きく,荷重試験2では,ハンドルに生じる 応力及びハンドル中央部の変位量は,いずれも,本件発明よりも従来10 技術のハンドルが大きい結果となり,本件発明のハンドルは,従来技 術のハンドルよりも強度的に優れていることが明らかとなった。
材料力学上,荷重試験1は梁の支持方法のうち「片持ち梁」に,荷 重試験2は「両端支持梁」に相当し,本件発明は一体構造梁に,従来 技術は半割2枚重ね構造に見立てることができ,一体構造梁と半割215 枚重ね構造では,片持ち梁,両端支持梁の場合ともに,前者のほうが 後者と比較して応力で2分の1,変位で4分の1となり,半割2枚重 ね構造の構造物よりも一体構造梁の構造物のほうが,相対的に,応力 集中及びたわみ量が少なくなり,強度が増すことは,原出願時におけ る技術常識であり,こうした技術常識を踏まえると,上記のとおり,20 複数の部材を組み合わせてなる物品に関して,部材と部材との接合部 「 分が多かったり,接合部分が線状のものにおいて接合線が長くなった りするものについては,構造的に強度が弱くなる」ことも原出願時の 技術常識というべきであり,本件発明のハンドルは,従来技術に比し て,ハンドルの強度を高く維持するとの課題を解決するものと当業者25 であれば認識できる。
なお,原告は,前記(1)イ(ア)bのとおり,本件発明のハンドルカバ 14 ーを用いた場合のハンドルは,従来の上下分割のハンドルに比べて, 接合部分に加わる単位面積当たりの圧力は大きくなるため,構造的に 強固なものとはいえず,ハンドルカバーだけに力が加わった場合には, ハンドル本体との接合部分に過剰な圧力が加わる危険があり,接合部 5 分で破損が生じるおそれがある旨主張するが,単位面積当たりの圧力 は面積に反比例するのであるから,大きな面積(ハンドルを二分割し た分割片)と小さな面積(ハンドルカバー)に同じ荷重を掛けた場合 には,小さな面積の単位面積当たりの荷重が大きくなるのは当たり前 であって,原告の上記主張は理由がない。
10 c したがって,従来技術に比して接合線を短くするように構成した本 件発明は,従来技術に比してハンドルの強度を高く維持することがで きると当業者は認識できる範囲のものである旨の本件審決の判断に誤 りはない。
(イ) 成形精度を高く維持する点について15 原告は,前記(1)イ(イ)のとおり,接合線を短くすることによって成形 精度を確保することができる技術的根拠が不明であり,接合線を短くす ることによって成形精度が高まるという技術常識は明らかではない旨主 張するが,組み合わせる部品(本件発明のハンドル本体の凹部とハンド ルカバー)に関しては,その組み合わせる部分にずれが生じていると確20 実に組み合わせることができないため,組み合わせる部分全体において 精度を確保する必要があり,組み合わせる部分(接合線の長さ)が長い よりも短くしたほうが精度を出しやすいのであるから,こうした技術常 識を前提として,従来技術に比して接合線を短くした本件発明は,成形 精度が求められる部分の長さが短くなって成形精度を確保しやすいもの25 であることを当業者は容易に理解でき,従来技術に比して成形精度の向 上が図られると認識できる範囲のものである旨の本件審決の判断に誤り 15 はなく,原告の上記主張は理由がない。
(ウ) 組み付け作業の容易性について 原告は,前記(1)イ(ウ)のとおり,接合線が長くなると,位置合わせ等 の組み付け作業時の取扱いが楽になるという技術的根拠はなく,接合線 5 が短くなるということは部品が小さくなり,小さな部品を組み付ける作 業の容易性は,作業者の技術に依存する問題であるにすぎず,発明の効 果ではない旨主張するが,例えば,ハンドルカバーの接合線の長さでい えば,ハンドルカバーのハンドル本体への組み付けに当たっては,ハン ドルカバーの接合線が長い場合には短い場合と比べて位置合わせする長10 さも長くなるから,接合線が長いものに比べて短いものは,組み付け作 業時の位置合わせが楽になり,容易になることは自明である。
したがって,本件発明は従来技術に比して組み立て作業性の効率が図 られると認識できる範囲のものである旨の本件審決の判断に誤りはなく, 原告の上記主張は理由がない。
15 2 取消事由2(明確性要件違反の判断の誤り) (1) 原告の主張 特許請求の範囲の記載は,特許発明技術的範囲を画定するものであるか ら,その技術的な境界線が明確なものとなっていなければならないところ, 本件発明については, 「凹部」がどの程度の範囲まで指すのかは特許請求の範20 囲の記載だけでは明確ではない。特に,本件発明において,ハンドルの強度 を高めるという目的を達成させるためには,凹部の形状や大きさ等が重要と なるにもかかわらず,本件明細書を参酌したとしても,凹部とは,どの範囲 までを指すのか,従来技術との関係において,上下に分割したハンドルと比 較して,少しでも接合線が短くなっている凹部であれば,それを全て凹部と25 いうのか,不明確な記載である。
したがって,本件発明は明確性要件違反があり,これと異なる本件審決の 16 判断には誤りがある。
(2) 被告の主張 請求項1の「凹部」とは,その字義どおり,「凹んだ部分」であり,「該ハ ンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部」とは,ハンドル本体の表面から内 5 方に窪んで凹んだ部分である。また,請求項1の「凹部を覆うように上記ハ ンドル本体に取り付けられたハンドルカバー」とは,凹んだ部分(凹部)を 覆うようにハンドル本体に取り付けられたハンドルのカバー(覆い)であっ て,請求項1の「凹部」 「ハンドルカバー」は,それぞれ明確であり,これ , と同旨の本件審決の判断に誤りはない。
10 なお,原告は,上記(1)のとおり,本件発明においてハンドルの強度を高め るという目的を達成させるためには凹部の大きさや形状が重要である旨主張 するが,特許請求の範囲に記載された発明が課題を解決できる程度に記載さ れているかどうかはサポート要件の問題であって,明確性要件違反の問題で はないから,原告の上記主張は失当である。
15 3 取消事由3(分割要件違反の判断の誤り) (1) 原告の主張 本件審決は,前記第2の3(3)のとおり,出願当初明細書の【0049】に おける「中央部」は,括弧書きとして記載されていることからみても,凹部 を設ける位置の一例を単に示したものと認められ,同明細書に記載された凹20 部の位置はハンドルの中央部に限定されているものではないから,本件発明 において凹部を設ける位置が「中央部」に特定されていないからといって, そのことによって,新たな技術的事項が導入されたということにはならない 旨判断した。
しかし,ハンドルの強度を高めるという発明の課題を解決する手段として,25 同明細書に記載された発明は,ハンドルの中央部に設けられた凹部に限られ ており,中央部以外に設けられた凹部によってハンドルの強度が高まるのか 17 否かについて,同明細書には一切記載がされていない。また,ハンドルの中 央部以外のいかなる凹部にまで拡張ないし一般化することができるのかに係 る記載は,同明細書には存在せず,また,拡張ないし一般化することができ ることが原出願時の技術常識でもない。
5 そうすると,同明細書に記載された課題を解決するための手段は,ハンド ルの中央部に設けられた凹部と,中央部の凹部に対応するハンドルカバーを 用いることであり, 「直線状のハンドル本体に対して,ハンドルの中央部に形 成された凹部及びそれに対応するハンドルカバーを用いる」ことが特定され ていない本件発明にまで拡張ないし一般化できる事項は,同明細書には一切10 記載も示唆もされていないから,分割出願は新規事項を含んでおり,分割要 件を具備しない。
そして,分割要件を具備しない以上は,本件特許は原出願の時に出願した ものとはみなされないところ,本件発明は,本件出願の時より前に頒布され るなどした甲3記載の発明と同一であるか,又は甲3に記載された発明に基15 づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,本件発明は, 特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものであり,本件審決の判 断は誤りであるから,取り消されるべきである。
(2) 被告の主張 本件審決は,前記第2の3(3)のとおり,ハンドル本体の中央部に凹部を設20 ける旨の限定のない請求項1が原出願との関係において新たな技術的事項を 導入するものといえるかについて,出願当初明細書の【0049】及び本件 明細書の【0007】を引用して検討し,新たな技術的事項を導入するもの とはいえない旨判断しており,その判断に誤りはない。
原告の前記(1)の主張は,本件審決が採用していないサポート要件の判断基25 準に基づいて,本件特許が分割要件を満たさない出願である旨主張している にすぎず,理由がない。なお,本件発明がサポート要件に反するものではな 18 いことは前記1(2)のとおりである。
第4 当裁判所の判断 1 本件明細書の記載事項について 本件明細書には,別紙1のとおりの記載事項があり,この記載事項によれば, 5 本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明に関し,次のような開示がある ことが認められる。
(1) 従来,肌をローラによって押圧等してマッサージ効果を奏する美容器が 種々提案されており,その例として,二股に分かれた先端部を有するハンド ルの当該先端部に一対のローラが軸回転可能に取り付けられたものが開示さ10 れているが,例えば,ハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割して, ハンドルの内部に各部材を収納する構成とした場合には,ハンドルの成形精 度や強度が低下したり,各部材がハンドルの内部を密閉する作業に手間がか かって美容器の組立作業性が低下したりするおそれがあった(【0002】, 【0004】 。
)15 (2) 「本発明」は,このような背景に鑑みてされたものであり,ハンドルの成 形精度や強度を高く維持することができるとともに,組立作業性の向上が図 られる美容器を提供しようとするものであり,この課題を解決するための手 段として, 「本発明」の美容器は,棒状のハンドル本体と,該ハンドル本体の 表面から内方に窪んだ凹部と,上記ハンドルとの結合部分が露出しない状態20 で上記凹部を覆うように上記ハンドルを本体に取り付けられたハンドルカバ ーとからなるハンドルと,上記ハンドル本体の長手方向の一端に一体的に形 成された一対の分枝部と,該一対の分枝部のそれぞれに形成されているとと もに,上記凹部に連通する軸孔と,該軸孔に挿通された一対のローラシャフ トと,該一対のローラシャフトに取り付けられた一対のローラとを備え,上25 記ハンドル本体の表面及び上記ハンドルカバーの表面が上記ハンドルの表面 を構成する態様を採用するものである(【0005】 【0006】 。
, ) 19 2 取消事由1(サポート要件違反の判断の誤り)について (1) 特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載に際し,発明の詳細な説 明に記載した発明の範囲を超えて記載してはならない旨を規定したものであ り,その趣旨は,発明の詳細な説明に記載していない発明について特許請求 5 の範囲に記載することになれば,公開されていない発明について独占的,排 他的な権利を請求することになって妥当でないため,これを防止することに あるものと解される。
そうすると,特許請求の範囲の記載が同号所定の要件(サポート要件)に 適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対10 比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された 発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決でき ると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも 当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識でき る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであると解するのが相15 当である。
(2) 本件明細書の開示事項によれば,本件発明の課題は,前記1(1)及び(2)の とおり,ハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割してハンドルの内部 に各部材を収納する従来技術に比して,ハンドルの成形精度や強度を高く維 持することができるとともに,組立作業性の向上が図られる美容器を提供す20 ることにあるものと認められる。
そこで,本件発明が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載又は原出願時 の技術常識に照らして,当業者が上記のような本件発明の課題を解決するも のと認識できる範囲のものであるといえるかについて,検討する。
ア 本件発明に係る請求項1は, 「棒状のハンドル本体と,該ハンドル本体の25 表面から内方に窪んだ凹部と,上記ハンドル本体との結合部分が露出しな い状態で上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハン 20 ドルカバーとからなるハンドルと, , 」 「上記ハンドル本体の表面及び上記 ハンドルカバーの表面が,上記ハンドルの表面を構成している, との発明 」 特定事項を有しており,請求項2ないし4は,請求項1を直接的又は間接 的に引用するものである。
5 このような発明特定事項によれば,「棒状のハンドル本体」は,「表面か ら内方に窪んだ凹部」を備え,この凹部を覆う「ハンドルカバー」が取り 付けられたものであり,また, 「上記ハンドル本体の表面及び上記ハンドル カバーの表面が,上記ハンドルの表面を構成している」との構成からする と,上記ハンドルカバーは,ハンドル本体に比べて相対的に小さい部材で10 あると解することができる。また,「窪む(凹む)」は,一部分が落ち込ん で低くなることを指す用語であることから, 「棒状のハンドル本体」の「表 面から内方に窪んだ凹部」は,棒状のハンドル本体の一部分が内方に落ち 込んで低くなった部分のことを指すものと理解することができる。
イ そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,ハンドルを中心線に沿っ15 て上下又は左右に分割してハンドルの内部に各部材を収納する従来技術 に比して,ハンドルの強度を高く維持するとの課題を解決する手段に関し, 「本発明の一態様は,棒状のハンドル本体と,該ハンドルの表面から内方 に窪んだ凹部と,上記ハンドル本体との結合部分が露出しない状態で上記 凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバーと20 からなるハンドルと,上記ハンドルの長手方向の一端に一体的に形成され た一対の分枝部と,該一対の分枝部のそれぞれに形成されているとともに, 上記凹部に連通する軸孔と,該軸孔に挿通された一対のローラシャフトと, 該一対のローラシャフトに取り付けられた一対のローラと,を備え,上記 ハンドル本体の表面及び上記ハンドルカバーの表面が,上記ハンドルの表25 面を構成している,美容器にある。 ( 」 【0006】 , ) 「…ハンドル本体には 凹部が形成され,該凹部は分枝部に形成された軸孔が連通するとともに, 21 ハンドルカバーによって覆われている。上記美容器は,このような構成を 有することにより,ハンドルを上下又は左右に分割した場合に比べて,ハ ンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに,ハンドル カバーによって凹部の内部を容易に密閉できることから美容器の組み立 5 て作業性が向上する。( 」【0007】)との記載があり,実施例として, 「本 例の美容器1は,図1に示すように,・・・ハンドル本体13は,棒状であっ て,凹部15が形成されている。・・・ハンドルカバー14は凹部15を覆っ ている。 ( 」 【0028】 , ) 「…図1,図3に示すように,ハンドル10は, 棒状を成している。ハンドル10は,ハンドル本体13及びハンドルカバ10 ー14を備えている。ハンドル本体13はABS樹脂製であって,クロム メッキが施されている。・・・」 【0030】, ( ) 「図1に示すように,ハンド ル10の正面側中央部の第1端部11寄りには窓部13aが形成されて いる。一方,図4に示すように,ハンドル10の背面側中央部には凹部1 5が形成されており,凹部15は窓部13aと連通している。・・・」【00 (15 40】 , )「そして,凹部15は,ハンドルカバー14により覆われている。
ハンドルカバー14は係合爪14aを備えており,係合爪14aが凹部1 5内の係合溝(図示せず)に係合することにより,ハンドルカバー14は ハンドル本体13に固定されている。・・・ハンドルカバー14とハンドル 本体13との間にはOリング35bが介在している。 ( 」 【0042】 , ) 「本20 例の美容器1によれば,ハンドル10の本体13は棒状であって,長手方 向Yの一端に一対の分枝部11a,11bが一体的に形成されている。そ して,ハンドル本体13には凹部15が形成され,凹部15は分枝部11 a,11bに形成された軸孔11cが連通するとともに,ハンドルカバー 14によって覆われている。美容器1は,このような構成を有することに25 より,ハンドル10を上下又は左右に分割した場合に比べて,ハンドル1 0の成形精度や強度を高く維持することができるとともに,ハンドルカバ 22 ー14によって凹部15の内部を容易に密閉できることから美容器1の 組み立て作業性が向上する。 ( 」 【0045】, ) 「また,本例では,ハンドル 10は,細い棒状に形成されていることから,例えばハンドル10を中心 線L0に沿って上下又は左右に分割して,ハンドル10の内部に各部材を 5 収納する構成とした場合には,ハンドル10の成形精度や強度が低下した り,各部材がハンドル10の内部を密閉する作業に手間がかかって美容器 1の組み立て作業性が低下したりするおそれがある。しかし,本例では, 図4に示すように,ハンドル10は,その一部(中央部)を凹状にくり抜 いて形成された凹部15内に各部材を配設するとともに,ハンドルカバー10 14によって当該凹部15を覆うことにより各部材を収納する構成を採 用している。これにより,ハンドル10の中心線L0に沿って上下又は左 右に分割した場合に比べて,ハンドル10の成形精度や強度を高く維持す ることができるとともに,ハンドルカバー14によって凹部15の内部を 容易に密閉できることから美容器1の組み立て作業性が向上する。 ( 」 【015 056】)との記載がある。
ウ 前記イで指摘した本件明細書の記載によれば,本件明細書には,前記ア の課題の解決に関し,本件発明の発明特定事項であるところの,棒状のハ ンドル本体と,棒状のハンドル本体の表面の一部分が内方に落ち込んで低 くなった凹部が形成され,その凹部を覆うようにハンドル本体に取り付け20 られたハンドルカバーとからなるハンドルの構成が開示されているとい うべきである。
この点につき,原告は,本件明細書には, 「直線状の棒状のハンドル本体」 としか記載されておらず,また, 「ハンドル本体の中央部の表面から内方に 窪んだ凹部」としか記載されておらず, 「棒状のハンドル本体」及び「ハン25 ドル本体の表面から内方に窪んだ凹部」に拡張ないし一般化した場合,前 記アの課題を解決することができるという点については記載も示唆もな 23 い旨主張する。
しかし,発明特定事項である「棒状のハンドル本体」に含まれる「棒」 には,そもそも直線を表す語意も含まれると解されるから,本件明細書に 「直線状」のものしか開示されていないからといって,本件発明が本件明 5 細書に記載のない発明であるとはいえない。また,本件明細書には,ハン ドルに設けられる凹部が「中央部」としか記載されていない点についても, 本件明細書においては, 【課題を解決するための手段】と【発明の効果】の 見出しの下に, 「本発明の一態様は,棒状のハンドル本体と,該ハンドル本 体の表面から内方に窪んだ凹部と…」 (【0006】 , )「ハンドル本体には凹10 部が形成され…」【0007】 ( )と記載されており,原告が指摘する【00 30】【0042】【0056】 , , ,図3及び図4は,中央部に凹部を設けた 一実施例であるにすぎず,本件明細書の記載が凹部の位置を中央部に限定 するものとは解し得ないし,ハンドルを手で握って利用する美容器である という本件発明の内容及び目的に照らせば,本件明細書に記載された前記15 の事項を前提にして,課題の克服のために有効と思われる位置に凹部を形 成することは可能と考えられる。したがって,本件発明は,課題を解決す るものと認識できる範囲の記載はされていると認められるから,原告の主 張は理由がない。
(3) 以下,本件発明の各課題ごとに,本件発明が当該課題を解決するものと認20 識できる範囲のものであるといえるかについて,検討する。
ア ハンドルの強度を高く維持するとの課題について (ア) 原告は,本件審決が,従来技術に比して接合線を短くするように構 成することによりハンドルの強度を高く維持することができるとの技術 常識の存在を前提にした判断を行ったことにつき,このような技術常識25 は,本件明細書には一切記載も示唆もなく証拠も提出されていない旨主 張する。しかし,少なくとも本件発明のようにハンドルを手で握って利 24 用する美容器のハンドルについていえば,握った際にハンドルに作用す る力に関して強度が劣ることになる接合線の部分が少なくなるのである から,一般的に接合線を短くするように構成することによりハンドルの 強度を高く維持することができることは明らかというべきであるし,ま 5 た,乙5によれば,材料力学上の梁の支持方法として,片持ち梁と両端 支持梁があり,一体構造梁は,半割れ2枚重ね構造と比較して,片持ち 梁,両端支持梁ともに,応力では2分の1,変位では4分の1となるこ とは,原出願時の技術常識であると認めることができる。
そして,本件発明のハンドルの構成は,ハンドル表面の一部分が内方10 に窪んでいるだけであるから,梁の構造になぞらえると一体構造梁に近 く,他方,従来技術である上下分割又は左右分割のハンドルは半割れ2 枚重ね構造といえるから,上記の原出願時の技術常識を踏まえると,本 件発明に係るハンドルは,従来技術である上下分割又は左右分割のハン ドルと比較して,ハンドルの強度を高く維持するものと理解することが15 できる。
(イ) これに対し,原告は,前記第3の1(1)イ(ア)aのとおり,接合線が短 くなるとハンドルカバーは小さな部品とならざるを得ず,接合部分に加 わる単位面積当たりの圧力は大きくなり,ハンドルカバーだけに力が加 わった場合には,過剰な圧力が加わって,接合部分で破損が生じるおそ20 れがある旨主張する。
しかし,本件発明の美容器は,使用者がハンドル本体の周囲を手のひ らで包み込むように手で把持して使用するものであり,このような使用 形態に加え,想定されるハンドルの大きさを踏まえると,使用時におい てハンドルカバーに集中的に力が加わるものとは認められないから,原25 告の上記主張はその前提において失当である。
次に,原告は,前記第3の1(1)イ(ア)bのとおり,本件発明の発明特 25 定事項には,例えば,別紙2の図A及び図Bのようなハンドルも含まれ るところ,こうしたハンドルが,従来技術のハンドルと比較して,本件 発明の課題の1つであるハンドルの強度を維持するという課題を解決で きることについては記載も示唆もない旨主張する。
5 しかし,本件明細書の図3及び図4には,ハンドルの中央部分に凹部 15を設け,この凹部15を覆うハンドルカバー14の実施例が開示さ れているが, 「棒状のハンドル本体」 「表面から内方に窪んだ凹部」 の は, 棒状のハンドル本体の一部分が内方に落ち込んで低くなった部分のこと を指すものと理解することができることは前記(2)アのとおりであるこ10 とに加え,本件発明は,ハンドルを上下分割又は左右分割し,ハンドル 内部に各部材を収納する構成と比較し,従来技術の課題の解決を図った ものである(【0004】)から,別紙2の図Aや図Bのようなハンドル を上下分割又は左右分割したものと実質的に差異がない構成を含むもの と認めることができない。
15 さらに,原告は,乙5は,凹部がハンドルの中央部に形成された場合 を試験の対象としているものであり,それ以外の場合にも「ハンドルを 上下に分割した」場合との強度を比較して強度が向上することを示すも のではない旨主張する。しかし,同主張は,少なくとも凹部がハンドル の中央部に形成された場合には,上下に分割したハンドルと比較して強20 い強度が得られるのは技術常識であることを自認するものである上,少 なくとも中央部に形成された場合に強い強度が得られるということは, 一般的に接合線を短くするように構成することによりハンドルの強度を 高く維持することができることを相応に裏付けるものともいえる。また, 前示したとおり,ハンドルを上下分割又は左右分割したものと実質的に25 差異がない構成等,凹部の位置につき課題の克服が困難となるような構 成をことさら取り上げて議論することは,当業者の認識にも反するもの 26 で相当でない。
したがって,原告の上記主張はいずれも理由がない。
(ウ) 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び原出願時 の技術常識に照らすと,本件発明は,ハンドルの中心線に沿って上下又 5 は左右に分割してハンドル内部に各部材を収納する従来技術に比して, ハンドルの強度を高く維持するとの課題を解決するものと認識できる 範囲のものであるといえる。
イ 成形精度を高く維持するとの課題について (ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,ハンドルを中心線に沿って上10 下又は左右に分割してハンドルの内部に各部材を収納する従来技術に比 して,ハンドルの成形精度を高く維持するとの課題を解決する手段に関 して前記(2)イの記載があり,このような記載から,本件明細書には,成 形精度を高く維持するとの課題の解決手段に関し,棒状のハンドル本体 と,棒状のハンドル本体の表面の一部分が内方に落ち込んで低くなった15 凹部が形成され,その凹部を覆うようにハンドル本体に取り付けられた ハンドルカバーとからなるハンドルの構成が開示されており,こうした 構成からすると,上記ハンドルカバーは,ハンドル本体に比べて相対的 に小さい部材であると解することができ,また,本件発明の技術的意義 からすると,本件発明にはハンドルを上下分割又は左右分割したハンド20 ルと実質的に差異がない構成は含まれないものであることは,前記(2)ア 及び(3)ア(イ)のとおりである。
(イ) そして,分割された部材を組み合わせる際に,組み合わせ部分にず れが生じないようにするためには,各部材における組み合わせる部分, すなわち,接合線に沿って成形精度を確保する必要があるところ,前記25 (ア)のとおり,本件発明のハンドルカバーは,ハンドル本体に比べて相 対的に小さい部材であり,従来技術である上下分割又は左右分割をした 27 ハンドルと比べると,接合線が短くなることから,当業者であれば,本 件発明は,成形精度が求められる部分が短くなり,成形精度を確保しや すいものとなることを理解することができる。
(ウ) これに対し,原告は,第3の1(1)イ(イ)のとおり,接合線を短くする 5 ことによって成形精度が高まるとの技術的根拠は明らかではない旨主張 するが,接合線を短くすることによって成形精度が高まることの技術的 根拠は上記(イ)のとおりであり,このこと自体は自明であるし,樹脂成 形品として提供される場合には,接合線の長短は成形精度に影響を及ぼ さないは技術常識であることを認めるに足りる証拠はない。したがって,10 原告の上記主張は採用することができない。
(エ) 以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び原出願時 の技術常識に照らすと,本件発明は,ハンドルの中心線に沿って上下又 は左右を分割してハンドル内部に各部材を収納する従来技術に比して, ハンドルの成形精度を高く維持するとの課題を解決するものと認識でき15 る範囲のものであるといえる。
ウ 組み付け作業を容易にするとの課題について (ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,ハンドルを中心線に沿って上 下又は左右に分割してハンドルの内部に各部材を収納する従来技術に比 して,ハンドルの組み付け作業を容易にするとの課題を解決する手段に20 関して前記(2)イの記載があり,このような記載からすると,本件明細書 には,組み付け作業を容易にするとの課題の解決手段に関し,棒状のハ ンドル本体と,棒状のハンドル本体の表面の一部分が内方に落ち込んで 低くなった凹部が形成され,その凹部を覆うようにハンドル本体に取り 付けられたハンドルカバーとからなるハンドルの構成が開示されており,25 こうした構成からすると,上記ハンドルカバーは,ハンドル本体に比べ て相対的に小さい部材であると解することができ,また,本件発明の技 28 術的意義からすると,本件発明にはハンドルを上下分割又は左右分割し たハンドルと実質的に差異がない構成は含まれないものであることは, 前記(2)ア及び(3)ア(イ)のとおりである。
(イ) 前記のとおり,本件発明のハンドルカバーは,ハンドル本体に比べ 5 て相対的に小さい部材となっていることから,従来技術である上下分割 又は左右分割のハンドルと比べて接合線が短くなるように構成されてい るということができる。そうすると,ハンドル本体の凹部の位置合わせ など,従来技術のハンドルと比べると作業時の取扱いが楽になり,組み 付け作業が容易となることは当業者であれば十分に理解可能である。
10 (ウ) これに対し,原告は,前記第3の1(1)イ(ウ)のとおり,接合線が短く なると位置合わせなどの組付け作業の取扱いが楽になるということには 技術的根拠はなく,接合線が短くなれば部品が小さくなり,小さな備品 を組み付ける作業の容易性は作業者の技術に依存する問題であるにすぎ ない旨主張するが,接合線が短くなることによる組み付け作業の容易性15 については上記(イ)のとおりであり,また,本件発明の美容器は,利用者 が手で把持して使用することが想定されているから,こうした使用形態 に照らすと,ハンドル部分を覆うハンドルカバーは組み付け作業時にこ とさら技術を要するほどの小さな部品であるとは考え難いから,原告の 上記主張は理由がない。
20 (4) 以上によれば,本件発明は,発明の詳細な説明に記載された発明であり, 発明の詳細な説明の記載及び原出願時の技術常識を踏まえると,当業者が発 明の課題を解決することができると認識できる範囲のものであるということ ができる。
したがって,本件発明はサポート要件を充足するものであるから,これと25 同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(明確性要件違反の判断の誤り)について 29 原告は,前記第3の2(1)のとおり,本件発明については「凹部」がどの程度 の範囲まで指すのかは特許請求の範囲の記載だけでは明確ではなく,特に本件 発明において,ハンドルの強度を高めるという目的を達成させるためには,凹 部の形状や大きさ等が重要となるにもかかわらず,本件明細書を参酌したとし 5 ても,凹部とはどの範囲まで指すのかが不明確である旨主張する。
しかし,本件発明に係る請求項1は, 「棒状のハンドル本体と,該ハンドル本 体の表面から内方に窪んだ凹部と,上記ハンドル本体との結合部分が露出しな い状態で上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカ バーとからなるハンドルと, , 」 「上記ハンドル本体の表面及び上記ハンドルカ10 バーの表面が,上記ハンドルの表面を構成している, との発明特定事項を有し 」 ているところ, 「内方に窪んだ凹部」は,ハンドル本体の表面の内方に窪んだ部 分を指すものであり,「凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられた ハンドルカバー」は,ハンドル本体の表面に内方に窪んだ部分を覆うように取 り付けられたカバーのことを指すものと,それぞれの形状ないし構造を明確に15 理解することができる。
原告の上記主張は,凹部の範囲が明確でないと,本件発明の課題である従来 技術と比較してハンドルの強度を高めるという目的を達成できないのであるか ら,特許請求の範囲に記載された発明が発明の課題が解決することができる程 度に記載されていないというものであるところ,これはサポート要件の問題で20 あって,明確性要件の問題ではなく,原告の上記主張は失当である。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事 由2は理由がない。
4 取消事由3(分割要件違反による新規性又は進歩性の判断の誤り)について (1) 出願当初明細書には,「また,本例では,ハンドル10は細い棒状に形成25 されていることから,例えばハンドル10を中心線L0に沿って上下又は左 右に分割して,ハンドル10の内部に各部材を収納する構成とした場合には, 30 ハンドル10の成形精度や強度が低下したり,各部材がハンドル10の内部 を密閉する作業に手間がかかって美容器1の組み立て作業性が低下したりす るおそれがある。しかし,本例では,図4に示すように,ハンドル10は, その一部(中央部)を凹状にくり抜いて形成された凹部15内に各部材を配 5 設するとともに,ハンドルカバー14によって当該凹部15を覆うことによ り各部材を収納する構成を採用している。これにより,ハンドル10の中心 線L0に沿って上下又は左右に分割した場合に比べて,ハンドル10の成形 精度や強度を高く維持することができるとともに,ハンドルカバー14によ って凹部15の内部を容易に密閉できることから美容器1の組み立て作業性10 が向上する。 ( 」 【0049】)との記載がある。
上記のとおり,同明細書には,凹部15は,ハンドル10の「一部(中央 部)を凹状にくり抜いて形成され」るとの記載があったところ,本件明細書 には, 「本発明の一の態様は,棒状のハンドル本体と,該ハンドル本体の表面 から内方に窪んだ凹部と,・・・」 【0006】 , ( ) 「ハンドル本体には凹部が形15 成され…」【0007】 ( )と記載され,ハンドル本体の表面の内方に窪んだ凹 部の位置について「中央部」との記載はない。しかし,出願当初明細書の前 記記載は,図4の実施例に関して,凹部の位置を括弧書きで中央部であるこ とを例示したものであるにすぎず,また,同明細書の該当箇所前後の記載か らして,凹部の位置をハンドルの中央部に限定する趣旨であると解すること20 はできない。
したがって,本件発明において,凹部を設ける位置が「中央部」であると の特定がないとしても,同明細書の上記記載との関係において新たな技術的 事項を導入するものとはいえない。
(2) これに対し,原告は,前記第3の3(1)のとおり,課題解決の手段として,25 同明細書に記載された発明は,ハンドルの中央部に設けられた凹部に限られ ていることを前提とした主張をするが,同明細書の【0049】 「 の (中央部)」 31 との記載がハンドルの一部を凹状にくり抜いた凹部の位置について例示した ものであるにすぎず,中央部に限定する趣旨ではないことは前記(1)のとおり であるから,原告の上記主張はその前提を欠いている。
(3) したがって,本件出願は,分割要件を満たしたものであるから,この要件 5 に反することを前提に,本件発明が甲3に記載された発明と同一であるか, 又は甲3に記載された発明に基づいて当業者であれば容易に想到し得た旨の 原告主張の取消事由3は理由がない。
5 結論 以上によれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由がないから,原告の10 請求は棄却されるべきである。
よって,主文のとおり判決する。
追加
15裁判長裁判官菅野雅之20裁判官中村恭裁判官25岡山忠広32 (別紙1)【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】5本発明は,美容器に関する。
【背景技術】【0002】従来,肌をローラによって押圧等してマッサージ効果を奏する美容器が種々提案されている。このような美容器の例として,特許文献1には,二股に分かれた先端10部を有するハンドルの当該先端部に一対のローラが軸回転可能に取り付けられたものが開示されている。かかる美容器は,一対のローラを肌に接触させた状態で往復動作させることにより,肌の押圧とともに肌の摘み上げがなされてマッサージ効果を奏する。
先行技術文献】15【特許文献】【0003】【特許文献1】特開2013-103086号公報【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】20【0004】例えばハンドルを中心線に沿って上下又は左右に分割して,ハンドルの内部に各部材を収納する構成とした場合には,ハンドルの成形精度や強度が低下したり,各部材がハンドルの内部を密閉する作業に手間がかかって美容器の組み立て作業性が低下したりするおそれがある。
25【0005】本発明は,かかる背景に鑑みてなされたもので,ハンドルの成形精度や強度を高33 く維持することができるとともに,組み立て作業性の向上が図られる美容器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】【0006】5本発明の一の態様は,棒状のハンドル本体と,該ハンドル本体の表面から内方に窪んだ凹部と,上記ハンドル本体との結合部分が露出しない状態で上記凹部を覆うように上記ハンドル本体に取り付けられたハンドルカバーとからなるハンドルと,上記ハンドル本体の長手方向の一端に一体的に形成された一対の分枝部と,該一対の分枝部のそれぞれに形成されているとともに,上記凹部に連通する軸孔10と,該軸孔に挿通された一対のローラシャフトと,該一対のローラシャフトに取り付けられた一対のローラと,を備え,上記ハンドル本体の表面及び上記ハンドルカバーの表面が,上記ハンドルの表面15を構成している,美容器にある。
【発明の効果】【0007】上記美容器において,ハンドル本体は棒状であって,長手方向の一端に一対の分枝部が一体的に形成されている。そして,ハンドル本体には凹部が形成され,該凹20部は分枝部に形成された軸孔が連通するとともに,ハンドルカバーによって覆われている。上記美容器は,このような構成を有することにより,ハンドルを上下又は左右に分割した場合に比べて,ハンドルの成形精度や強度を高く維持することができるとともに,ハンドルカバーによって凹部の内部を容易に密閉できることから美容器の組み立て作業性が向上する。
25【0008】以上のごとく,本発明によれば,ハンドルの成形精度や強度を高く維持すること34 ができるとともに,組み立て作業性の向上が図られる美容器を提供することができる。
【0010】上記凹部には,上記軸孔に挿通された上記ローラシャフトを支持するシャフト支5持台が設けられていることが好ましい。この場合には,ローラシャフトが凹部内で支持され,ローラシャフトの抜け止めされることとなる。
【0011】上記凹部には電源部が収納されており,該電源部は上記ローラシャフトを介して,上記ローラに電気的に接続されており,該ローラと肌との間に微弱電流が流れるよ10うに構成されている。この場合には,肌への刺激が増して,マッサージ効果が一層高まる。
【0023】上記一対のローラの軸線が互いに重なる方向から見たときの上記ハンドルの中心線と上記軸線とのなす角が90°〜155°であることが好ましい。この場合には,15目元や口元などの顔に使用する際に,ハンドルを把持した状態において,肌面に対して一対のローラの軸線が適度に傾斜することとなるため,一対のローラが滑らかに回転して肌の摘み上げ効果が効果的に奏される。その結果,マッサージ効果が向上される。また,肘を上げたり,手首を過度に曲げたりすることなく美容器の往復動作を行うことができるため,操作性に優れる。
20【0026】上記ハンドルは,上記第1端部から上記第2端部にかけて直線状に形成されていることが好ましい。これにより,目元や口元などの顔に使用する際に,肌面に対してローラが当接する角度の調整がしやすいため,操作性が向上する。また,ハンドルの握りやすさを維持しつつ,美容器全体をコンパクトに形成することができため,25旅行などで持ち運ぶのに適している。
実施例】35 【0028】(実施例1)本例の実施例に係る美容器につき,図1〜図7を用いて説明する。
本例の美容器1は,図1に示すように,ハンドル本体13と,一対のローラシャ5フト22と,一対のローラ20と,ハンドルカバー14とを備える。
ハンドル本体13は,棒状であって,凹部15が形成されている。
ハンドル本体13の長手方向Yの一端である第1の端部11には,一対の分枝部11a,11bが一体的に形成されている。
一対の分枝部11a,11bには,図4,図5に示すように,凹部15に連通す10る軸孔11cが形成されている。
一対のローラシャフト22は,軸孔11cに挿通されている。
一対のローラ20は,一対のローラシャフト22に取り付けられている。
ハンドルカバー14は,凹部15を覆っている。
【0029】15そして,本例では,一対のローラ20は,図6に示すように,ハンドル10の第1端部11に互いに離隔してそれぞれの軸線L1,L2を中心に回転可能に支持されている。そして軸線L1,L2はハンドル10の中心線L0に対して第1端部11と反対側の第2端部12から第1端部11に向かう方向(図1に示すY1方向)に傾斜するように配設されている。
20そして,一対のローラ20の直径dは15〜20mmであるとともに,一対のローラ20の外周面21a,21b間の最短距離Wは7mm以上8mm未満である。
なお,本例では,複数のローラとして一対のローラ20のみが備えられており,直径dは18mmであり,最短距離Wは7mmである。
【0030】25以下,本例の美容器1について,詳述する。
図1,図3に示すように,ハンドル10は棒状を成している。ハンドル10は,36 ハンドル本体13及びハンドルカバー14を備えている。ハンドル本体13はABS樹脂製であって,クロムメッキが施されている。ハンドル本体13の長手方向の一端側の第1端部11には,二股に分かれた分枝部11a,11bが形成されている。ハンドル本体13は他端側の第2端部12に向かうにつれて縮径している。そ5して,ハンドル本体13は,第1端部11(分枝部11a,11bのつけ根部)から第2端部12にかけて直線状に形成されている。ハンドル10の最も太い部分の直径Sは14〜18mmとすることができ,本例では16mmである。
【0031】図4,図5に示すように,第1端部11の分枝部11aには,ハンドル本体1310に形成されている後述の凹部15に連通する軸孔11cが形成されている。軸孔11cには,ブッシュ23とОリング25を介してローラシャフト22が挿通されている。ローラシャフト22はステンレス製であって,ニッケルメッキが施されており,導電性を有している。
【0039】15また,軸線L1,L2は,図2に示すように,ハンドル10の中心線Lに対して第1端部11と反対側の第2端部12から第1端部11に向かう方向Y1側に傾斜している。そして,図2に示すように,一対のローラの軸線が互いに重なる方向から見たときの中心線L0と軸線L2(L1)とのなす角(側方投影角度)αは90〜155°とすることができ,本例では,120°である。
20【0040】図1に示すように,ハンドル10の正面側中央部の第1端部11寄りには窓部13aが形成されている。一方,図4に示すように,ハンドル10の背面側中央部には凹部15が形成されており,凹部15は窓部13aと連通している。そして,窓部13aには,背面側からレンズ30がはめ込まれている。そして,レンズ30の25背面側には太陽電池パネル31が配設されている。太陽電池パネル31には,2個の端子32が接続されている。
37 【0041】太陽電池パネル31の背面側にはレンズカバー33が設けられている。レンズカバー33には2個の孔33aが形成されているとともに,端子32にもそれぞれ孔32aが形成されている。そして,ネジ34が孔33a,32aに挿通されて凹部515内のボス15aに締結されている。これにより,レンズ30とレンズカバー33との間に太陽電池パネル31が介在した状態でレンズ30,太陽電池パネル31,端子32及びレンズカバー33がハンドル本体13に固定されている。なお,レンズカバー33の一端側(ハンドル本体13の第1端部11側)には,上述のシャフト支持台33bが形成されている。そして,レンズカバー33の一端側の孔33a10とネジ34を介して,シャフトホルダー36がシャフト支持台33bに取り付けられている。
【0042】そして,凹部15は,ハンドルカバー14により覆われている。ハンドルカバー14は係合爪14aを備えており,係合爪14aが凹部15内の係合溝(図示せず)15に係合することにより,ハンドルカバー14はハンドル本体13に固定されている。
なお,レンズ30とハンドル本体13との間にはОリング35aがそれぞれ介在しており,ハンドルカバー14とハンドル本体13との間にはОリング35bが介在している。
【0043】20太陽電池パネル31は端子32を介して,導電性のクロムメッキが施されたハンドル本体13に電気的に接続されている。さらに,太陽電池パネル31は導電性材料からなるシャフトホルダー36,ローラシャフト22及びベアリングホルダー26を介して,導電性のプラチナメッキが施された一対のローラ20(20a,20b)に電気的に接続されている。これにより,美容器1の使用時にローラ20の外25周面21aが肌に接触することにより,ローラ20とハンドル10とが人体を介して電気的に接続されることとなる。そして,太陽電池パネル31が窓部14のレン38 ズ30を介して受光して発電することにより,ローラ20の外周面21aと肌との間に微弱電流が流れる。その結果,肌への刺激が増し,マッサージ効果が一層高まる。
【0044】5次に,美容器1の使用態様を説明する。
この美容器1の使用時には,図7に示すように,使用者がハンドル10を把持した状態で,一対のローラ20の外周面21a,21bを目元や口元などの狭い部分の肌面50に押し当てて接触させながら美容器1を第1端部11方向(図6の矢印P1の方向)へ移動させると,ローラ20a,20bがそれぞれ軸線L1,L2を10中心にして矢印P2方向に回転させられる。このとき,ローラ20a,20bによって肌面に押圧力が加えられる。美容器1をP1方向へ移動させた後,元に戻すように美容器1を第2端部12方向(図6の矢印Q1の方向)へ移動させると,ローラ20a,20bは矢印Q2方向に回転させられる。これにより,図7に示すようにローラ20a,20b間に位置する肌面50がローラ20a,20bの回転に伴15って巻き上げられるようにして摘み上げられる。
【0045】次に,本例の美容器1の作用効果を説明する。
本例の美容器1によれば,ハンドル10のハンドル本体13は棒状であって,長手方向Yの一端に一対の分枝部11a,11bが一体的に形成されている。そして,20ハンドル本体13には凹部15が形成され,凹部15は分枝部11a,11bに形成された軸孔11cが連通するとともに,ハンドルカバー14によって覆われている。美容器1は,このような構成を有することにより,ハンドル10を上下又は左右に分割した場合に比べて,ハンドル10の成形精度や強度を高く維持することができるとともに,ハンドルカバー14によって凹部15の内部を容易に密閉できる25ことから美容器1の組み立て作業性が向上する。
【0046】39 また,本例の美容器1では,凹部15には,軸孔11cに挿通されたローラシャフト22を支持するシャフト支持台33bが設けられている。これにより,ローラシャフト22が凹部15内で支持され,ローラシャフト22の抜け止めされている。
【0047】5また,本例の美容器1では,凹部15には電源部としての太陽光パネル31が収納されており,電源部としての太陽光パネル31はローラシャフト22を介して,ローラ20a,20bに電気的に接続されており,ローラ20a,20bと肌との間に微弱電流が流れるように構成されている。これにより,肌への刺激が増して,マッサージ効果が一層高まる。
10【0051】また,ハンドル10は,第1端部11(分枝部11a,11bのつけ根部)から第2端部12にかけて直線状に形成されている。これにより,目元や口元などの顔に使用する際に,肌に対してローラ20が当接する角度の調整がしやすいため,操作性が向上する。また,ハンドル10の握りやすさを維持しつつ,美容器1全体が15コンパクトに形成されるため,旅行などで持ち運ぶのに適している。
【0055】また,軸線L1,L2は,図2に示すように,ハンドル10の中心線L0に対して第1端部11と反対側の第2端部12から第1端部11に向かう方向Y1側に傾斜しているとともに,側方投影角度αは90〜155°に設定されており,本例で20は120°である。これにより,目元や口元などの顔に使用する際に,ハンドル10を把持した状態において,肌面に対して一対のローラ20a,20bの軸線L1,L2が適度に傾斜することとなるため,一対のローラ20a,20bが滑らかに回転して摘み上げ効果が効果的に奏される。その結果,マッサージ効果が向上される。
また,肘を過度に上げたり,手首を過度に曲げたりすることなく美容器1の往復動25作を行うことができるため,操作性に優れる。また,使用する際に肌面に対する一対のローラ20a,20bの軸線L1,L2の傾きを変更させたときに,一対のロ40 ーラ20a,20bが設けられるハンドルの第1端部11が肌面に触れることが防止されるため,肌に負担をかけるおそれを低減できる。
【0056】また,本例では,ハンドル10は細い棒状に形成されていることから,例えばハ5ンドル10を中心線L0に沿って上下又は左右に分割して,ハンドル10の内部に各部材を収納する構成とした場合には,ハンドル10の成形精度や強度が低下したり,各部材がハンドル10の内部を密閉する作業に手間がかかって美容器1の組み立て作業性が低下したりするおそれがある。しかし,本例では,図4に示すように,ハンドル10は,その一部(中央部)を凹状にくり抜いて形成された凹部15内に10各部材を配設するとともに,ハンドルカバー14によって当該凹部15を覆うことにより各部材を収納する構成を採用している。これにより,ハンドル10の中心線L0に沿って上下又は左右に分割した場合に比べて,ハンドル10の成形精度や強度を高く維持することができるとともに,ハンドルカバー14によって凹部15の内部を容易に密閉できることから美容器1の組み立て作業性が向上する。
1541 42 43 44 45 46 (別紙2)【図A】5【図B】47 (別紙3)1本件発明のハンドル構成ハンドル本体ハンドルカバー52従来技術のハンドル構成上側ハンドル下側ハンドル下ハンドル48