関連審決 | 不服2002-6380 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
15年
(行ケ)
385号
審決取消請求事件
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原告 長島鋳物株式会社 訴訟代理人弁理士 井澤洵 同 井澤幹 被告 特許庁長官今井康夫 指定代理人 田中弘満 同 新井 夕起子 同 大野克人 同 伊藤三男 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/03/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2002-6380号事件について平成15年7月7日にした審決を取り消す。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年7月26日,発明の名称を「地下構造物用補助梯子」とする特許出願(特願平11-210821号,以下「本件特許出願」という。)をしたが,平成14年3月1日に拒絶の査定を受けたので,これに対する不服の審判の請求をした。 特許庁は,同請求を不服2002-6380号事件として審理した上,平成15年7月7日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月30日,原告に送達された。 2 本件特許出願の願書に最初に添付した明細書(以下「当初明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨 地下構造物の開口部を覆って設けられる補助梯子であって,蓋受け枠に補助梯子を装着したまま蓋体を閉じることができる補助梯子を提供するために,上記蓋体の下に配設可能な大きさを有する梯子本体とその収納空所とを具備し,梯子本体は少なくとも一端において,開口部を形成している蓋受け枠に着脱可能に取り付けられることを特徴とする地下構造物用補助梯子。 3 平成14年5月10日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)に係る明細書(以下「補正明細書」という。)の同【請求項1】記載の発明(以下「本願補正発明」という。)の要旨 地下構造物の開口部を覆って設けられる補助梯子であって,蓋受け枠に補助梯子を装着したまま蓋体を閉じることができる補助梯子を提供するために,上記蓋体の下の収納空所に配設可能な大きさを有する梯子本体を具備し,梯子本体は両端において,開口部を形成している蓋受け枠に着脱可能に取り付けられており,また梯子本体は基部に長孔を有し,長孔と外部とを通じる通孔部分にて,開口部内に設けられた支軸と長孔を係合可能とし,それによって梯子本体が蓋受け枠に着脱可能に取り付けられていることを特徴とする地下構造物用補助梯子。 4 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願補正発明は,実願平4-90161号(実開平6-49532号公報)のCD-ROM(審判引用例1・本訴甲2,以下「引用例1」という。)記載の発明(以下「引用例1発明」という。),特開平11-107303号公報(審判引用例2・本訴甲3,以下「引用例2」という。)記載の発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件補正は,特許法17条の2第5項において準用する同法126条4項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものであるとした上,本願発明は,同様の理由により,引用例1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は,本願補正発明と引用例1発明との相違点1〜3についての判断を誤った(取消事由1〜3)ものであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り) (1) 審決は,本願補正発明と引用例1発明との相違点1として認定した,「本願補正発明は,蓋受け枠に補助梯子を装着したまま蓋体を閉じることができる補助梯子を提供するのに対し,引用例1発明では,その点が明記されていない点」(審決謄本5頁第1段落[相違点1])について,「引用例1発明においては,蓋受枠1に梯子状金具9を装着したまま蓋体を閉じることができることは明記されていない。しかしながら,・・・梯子状金具9は鉄蓋に『配設』されているから,梯子状金具9を装着したまま鉄蓋を閉じることが示唆されている。・・・相違点1のように構成したことは,実質的に引用例1に記載されているか,または,当業者が容易にできた事項にすぎない」(同頁(4)判断の「[相違点1]について」の項)と判断したが,誤りである。 (2) 引用例1(甲2)の「配設」とは,「マンホール内への昇降用として配設された」(段落【0001】)という記載から,鉄蓋が「配設」されていることを意味しており,梯子状金具9が配設されていることを意味しないから,本願補正発明のように蓋受け枠に梯子状金具9を装着したまま鉄蓋を閉じることが示唆されているとはいえない。 2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り) (1) 審決は,本願補正発明と引用例1発明との相違点2として認定した,「本願補正発明の梯子本体は,その両端において,開口部を形成している蓋受け枠に着脱可能に取り付けられているのに対し,引用例1発明ではその一端においてのみ,開口部を形成している蓋受け枠に着脱可能に取り付けられている点」(審決謄本5頁第1段落[相違点2])について,「引用例2(注,甲3)には,地下構造物用蓋の受枠の内側に設けられた転落防止用梯子4の基端側が取付部10によって枢着され,先端側に設けられた係止具7のロック部26aが受枠2の取付座3の下面に係止されることによって梯子の浮き上がりが防止され,ロック部26aを取付座3の下方から外すことによってロックが解除され,梯子4を起立させることができるようになっている構造が記載されており,この先端側の係止具の構造を引用例1の梯子状金具9の基部10と反対の端部(先端側)に適用して,本願補正発明の上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到できた事項にすぎない。なお,引用例2の梯子の基端側は,支持部に『装着可能な取付部』を有している(請求項1)ものであって,本願補正発明の『梯子本体は両端において・・蓋受け枠に着脱可能に取り付けられて』いる構成と同様の構成が記載されているといえる」(同5頁〜6頁(4)判断の「[相違点2]について」の項)と認定判断したが,「引用例2には,地下構造物用蓋の受枠の内側に設けられた転落防止用梯子4の基端側が取付部10によって枢着され」及び「引用例2の梯子の基端側は,支持部に『装着可能な取付部』を有している(請求項1)ものであって,本願補正発明の『梯子本体は両端において・・蓋受け枠に着脱可能に取り付けられて』いる構成と同様の構成が記載されているといえる」との認定は,誤りである。 (2) 引用例2(甲3)の「枢着」とは,着脱の「着」構造だけを有するのであるから,「脱」には関係がなく,したがって,上記「枢着」との記載が着脱可能との構成を記載していることにならないのは明らかである。また,引用例2の【請求項1】には,「支持部に装着可能な取付部を基端側に有し」と記載されているが,この記載は,支持部に取付部を装着可能であることを述べているにすぎず,「装着可能」とは,装着ができるというだけのことであって,上記「枢着」と整合する記載であるということはできるが,「脱」が可能であるとは記載されていないから,着脱可能ということはできない。引用例2の実施例の記載において,転落防止用梯子の取付部10は全部ボルト止めされた部品によって固着されており,支持部に装着可能な状態であるとはいえるが,これを着脱可能とはいえず,図面も同じである。これに対し,本願補正発明の相違点2に係る構成は,梯子本体が蓋受け枠に着脱可能に取り付けられていることを規定しているから,「着」のみならず,「脱」も可能でなければならない。 被告は,引用例2に記載された梯子4の基端側は,【図2】に図示されたように,その取付部10がボルト13,ナット14により取付座(支持部)3に固定されているのであるから,ナット14をゆるめれば梯子4は受枠2から外すことが可能であって,着脱可能になっているといえると主張する。しかしながら,補正明細書(甲6-3添付)には,「補助梯子には,実公昭60-33162号に開示されているような蓋受け枠に軸結合されている常設型のものと,実公昭62-5087号に開示されているような蓋受け枠に着脱可能な携帯型のものとがある」(段落【0002】),「着脱可能であることは携帯型補助梯子に必要な要件である」(段落【0010】)と,携帯との関連性が記載され,かつ,「梯子本体12は携帯に適したものであり,また基部にて軸13により回転可能にかつ着脱可能に取り付けられ」(段落【0014】)と記載されているから,本願補正発明における着脱可能とは,ボルトやナットを外さなければ着脱できないものを指すのではなく,作業者が携帯して,あるマンホールに取り付け,作業終了後に取り外し,次のマンホールへ移動して取り付け,取り外すことを繰り返すのに適した,取り外しの便宜を考慮した着脱,より具体的には,「取り付けるには梯子本体12の先端部を持ち,左右の基部19にある通孔21aを支軸13に合わせ,長孔21に移行するように操作して梯子本体12を蓋受け枠11に一体的に組み付ける」(段落【0023】)という作業で装着され,また,逆の操作で取り外されるものであり,上記のように軸を長孔に通孔より通すようなワンタッチといってよい着脱を意味する。したがって,被告の上記主張は失当である。 3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り) (1) 審決は,本願補正発明と引用例1発明との相違点3として認定した,「本願補正発明の梯子本体の基部に設けられた係合用の孔は長孔であり,この長孔と支軸とを係合可能としているのに対し,引用例1発明では,梯子本体の基部に設けられた係合用の孔はコ字形水平嵌合部及びコ字形垂直嵌合部で,全体としてL字状の孔形状であって,この嵌合部と梁材(支軸)とを係合可能としている点」(審決謄本5頁第1段落[相違点3])について,「引用例1発明では,梯子本体の基部に設けられた係合用の孔は全体としてL字状の孔形状であって,長孔ではないが,両者はともに,梯子を支軸により回動可能に,かつ着脱可能とするとともに,梯子を伏せた状態と,起立させた状態とに選択できるという作用を奏する点において同じであって,相違点3に係る構成のように特に『長孔』としたことに技術的意義は認められないから,相違点3は,当業者が適宜採用できる設計的事項にすぎない」(同6頁「[相違点]3について」の項)と判断したが,誤りである。 (2) 引用例1発明において,梯子の伏せた状態と起立させた状態とを選択できるためには,軸が四角形梁材5であることから,係合用の孔をL字状にせざるを得ないのであって,長孔では起・伏2状態を維持できないから,本願補正発明のL字状の孔と長孔とは技術的意義が同じではない。L字状の孔は,四角形梁材5の起・伏2状態を選択できるものの,梯子は水平にも垂直にも動かすことができないが,本願補正発明の長孔は,梯子の水平移動及び回転を許容するのであり,両者は,作用も,技術的意義も異なっており,当業者が適宜採用できる設計的事項であるとはいえない。引用例1発明のL字状の係合用の孔は,「梯子状金具を水平状に倒したとき梁材5の上端面と両側面に係合するコ字形水平嵌合部21と,梯子状金具9を直立状に起してその遊離端部11を直立状に保持するためのコ字形直立嵌合部22」(甲2の2頁左欄【実用新案登録請求の範囲】の【請求項1】)から成ることが記載され,L字状の係合用の孔は,梯子状金具の水平状の姿勢と直立状の姿勢を保つもので,その意味で梯子状金具の姿勢を保つ機能があり,他にはないとみることができる。これに対して,本願補正発明の長孔は,補助梯子の姿勢を保つ機能を有しないが,支軸13を受け入れて補助梯子10を起立させた姿勢から開口部を覆うように伏せた状態とするときに,相対的な支軸13の移動を許容するものであり,その構成作用に基づいて複数の蓋受け枠に着脱を繰り返して使用することができ,携帯型構造を有するものであるにもかかわらず,地下構造物に装着したまま蓋を閉じることが可能であり,さらに,地下構造物内で水流及び空気流により内圧が上昇しても,梯子本体は地下構造物の開口部に固定された状態を保持し,立ち上がることがないため,誤って通行中の人が落ち込んだり,車が脱輪したりするおそれをなくすことができ,安全性が高められるという発明の効果に寄与している。 |
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被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について 引用例1(甲2)には,「【産業上の利用分野】本考案は,上下水道用,電力通信用,ガス用等の地下構築物のマンホールの地表面に配設される鉄蓋に転 落防止用及びマンホール内への昇降用として配設された梯子状金具付の鉄蓋に関する」(段落【0001】)と記載されており,同記載と【図1】ないし【図5】の図示を参照すれば,梯子状金具9は,マンホールの鉄蓋の受枠1に配設され,マンホールの受枠1に鉄蓋が配設されるのは当然のことであるから,引用例1には「梯子状金具9を装着したまま鉄蓋を閉じることが示唆されている」とした審決の認定に誤りはない。また,引用例1には,【従来の技術】の項に「梯子状金具付の鉄蓋」(段落【0002】)が従来技術として記載されており,そこに記載された「梯子状金具付の鉄蓋」及び上記「マンホール内への昇降用として配設された梯子状金具付の鉄蓋」が,梯子状金具を鉄蓋に配設し,梯子状金具を装着したまま鉄蓋を閉じることができるものであることは明らかである。さらに,本願補正発明の相違点1のように「蓋受け枠に補助梯子を装着したまま蓋体を閉じることができる」構成は,例を挙げるまでもなく,本件特許出願前に周知の事項であった。 2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について 審決は,引用例2(甲3)の「枢着」が「着脱」に当たると認定しているのではない。審決は,本願補正発明と引用例1発明との相違点2について検討するために,引用例2(甲3)の特許請求の範囲の【請求項1】,段落【0003】,【0004】,【0024】,【0025】を引用し,「引用例2には,地下構造物用蓋の受枠の内側に設けられた転落防止用梯子4の基端側が取付部10によって枢着され,先端側に設けられた係止具7のロック部26aが受枠2の取付座3の下面に係止されることによって梯子の浮き上がりが防止され,ロック部26aを取付座3の下方から外すことによってロックが解除され,梯子4を起立させることができるようになっている構造が記載されており」としており,ロック部26aによるロック及びロック解除が,梯子4において先端側の「着脱」に当たることから,「この先端側の係止具の構造を引用例1の梯子状金具9の基部10と反対の端部(先端側)に適用して,本願補正発明の上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到できた事項にすぎない」としている。本願補正発明にいう「着脱可能」という用語,「着脱ができ る」ことを意味するが,引用例2に記載された梯子4の基端側は,【図2】に図示されたように,その取付部10がボルト13,ナット14により取付座(支持部)3に固定されているのであるから,ナット14をゆるめれば梯子4は受枠2から外すことが可能であって,着脱可能になっているといえる。そして,引用例2は,特許請求の範囲の【請求項1】において,「受枠内周面に複 数形成した支持部に装着可能な取付部を基端側に有し・・・ことを特徴とする転落防止用梯子」としているから,「梯子本体は両端において,開口部を形成している蓋受け枠に着脱可能に取り付けられて」いるということもできる。 3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について 本願補正発明の梯子に設けられた孔は「長孔」であり,引用例1発明では,梯子本体の基部に設けられた係合用の孔は全体としてL字状の孔形状であって,形状が異なるが,両者は共に,梯子を支軸に対し実質的に回動可能で,梯子を伏せた状態と,起立させた状態となるようにする機能を有する点において同じである。原告は,本願補正発明の長孔は,梯子の水平移動を許す機能を有するのに対し,引用例1発明ではそのような機能を有しない点において相違する旨主張するが,本願補正発明は,そのことによって,どのような利点(いわゆる効果)があるのか明細書には何ら記載されておらず,本願補正発明の相違点3に係る構成としたことに技術的意義があるとは認められない。また,原告は,引用例1発明は,軸が四角形梁材5であるから係合用の孔をL字状にせざるを得ない旨主張し,あたかも本願補正発明の支軸が実施例に記載されたように丸軸であるかのように主張するが,本願補正発明に係る【請求項1】には支軸が丸軸であることは記載されていない。したがって,本願補正発明の相違点3に係る構成は,当業者が適宜採用できる設計的事項にすぎないとした審決の判断に誤りはない。なお,梯子の基端部に長孔を設け,ここに丸い支軸を挿入することにより,梯子を伏せた状態と,起立させた状態となるようにすることは,引用例2(甲3)の【図2】及び【図8】の5a,15にも記載されているように,広く用いられている技術的事項にすぎない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用例1(甲2)の「配設」とは,「マンホール内への昇降用として配設された」(段落【0001】)という記載から,鉄蓋が「配設」されていることを意味しており,梯子状金具9が配設されていることを意味しないないから,本願補正発明のように蓋受け枠に梯子状金具9を装着したまま鉄蓋を閉じることが示唆されているとはいえず,審決の「引用例1発明においては,蓋受枠1に梯子状金具9を装着したまま蓋体を閉じることができることは明記されていない。しかしながら,・・・梯子状金具9は鉄蓋に『配設』されているから,梯子状金具9を装着したまま鉄蓋を閉じることが示唆されている。・・・相違点1のように構成したことは,実質的に引用例1に記載されているか,または,当業者が容易にできた事項にすぎない」(審決謄本5頁(4)判断の「[相違点1]について」の項)との認定判断は誤りであると主張する。 (2) 「配設」の語は,「それぞれの位置に設けること」(日刊工業新聞社発行「特許技術用語集」参照)を意味するところ,引用例1(甲2)においては,それぞれ,「マンホールの地表面に配設される鉄蓋」(段落【0001】),「鉄蓋に転落防止用及びマンホール内への昇降用として配設された梯子状金具付の鉄蓋」(同)との文節中において,「地表面に」,「鉄蓋に」という場所,部材を示す語とともに用いられているから,「配設」の語は,これらの場所,部材に,何らかのものが設けられているとの意味に解すべきである。そうすると,上記「鉄蓋に転落防止用及びマンホール内への昇降用として配設された梯子状金具付の鉄蓋」は,「鉄蓋」に,「転落防止用及びマンホール内への昇降用の梯子状金具」が「配設」されている,すなわち,鉄蓋と梯子状金具とが一体に組み付けられていることを意味するものと理解することができる。そして,「マンホールの地表面に配設される鉄蓋」と記載されているから,鉄蓋は,地表面に配設されるもの,すなわち,閉じて使用するものであることも明らかである。したがって,鉄蓋に梯子状金具が組み付けられていることから,梯子状金具は,鉄蓋を閉じた際に,マンホール内に位置すると理解するのが合理的であるから,審決が,引用例1(甲2)に,梯子状金具9は鉄蓋に「配設」されており,梯子状金具9を装着したまま鉄蓋を閉じることが示唆されていると認定したことに誤りはなく,これを前提とする「相違点1のように構成したことは,実質的に引用例1に記載されているか,または,当業者が容易にできた事項にすぎない」との判断も誤りということはできないから,原告の取消事由1の主張は理由がない。 2 取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用例2(甲3)の「枢着」とは,着脱の「着」構造だけを有するのであるから,「脱」には関係がなく,「枢着」との記載が着脱可能との構成を記載していることにならず,また,引用例2の【請求項1】の「装着可能」も,装着ができるというだけのことであって,「脱」が可能であるとは記載されていないから,着脱可能ということはできず,審決の「引用例2には,地下構造物用蓋の受枠の内側に設けられた転落防止用梯子4の基端側が取付部10によって枢着され」及び「引用例2の梯子の基端側は,支持部に『装着可能な取付部』を有している(請求項1)ものであって,本願補正発明の『梯子本体は両端において・・蓋受け枠に着脱可能に取り付けられて』いる構成と同様の構成が記載されているといえる」との認定は誤りであると主張する。 (2) 審決は,引用例1発明を,「地下構造物の開口部を覆って設けられる梯子状金具であって,蓋体の下の収納空所に配設可能な大きさを有する梯子状金具本体を具備し,梯子状金具本体はその一端において,開口部を形成している受枠に着脱可能に取り付けられており,また梯子状金具本体は基部にコ字形水平嵌合部及びコ字形垂直嵌合部を有し,コ字形水平嵌合部及びコ字形垂直嵌合部と外部とを通じる切込み部分にて,開口部内に設けられた梁材とコ字形水平嵌合部及びコ字形垂直嵌合部を係合可能とし,それによって梯子状金具本体が受枠に着脱可能に取り付けられている地下構造物用梯子状金具」(審決謄本3頁第1段落)と認定した上で,相違点2について,「この(注,引用例2〔甲3〕の)先端側の係止具の構造を引用例1(注,甲2)の梯子状金具9の基部10と反対の端部(先端側)に適用して,本願補正発明の上記相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到できた事項にすぎない」(同6頁第1段落)と判断したが,上記説示の内容によれば,審決は,引用例1発明においては,梯子本体の基部が着脱可能に取り付けられているが,着脱可能とされていない先端側の端部においても,引用例2(甲3)の記載に従って,着脱可能とすることは当業者が容易に想到できると判断したものであって,引用例2(甲3)において基部が着脱可能とされていることを相違点2の判断の前提とするものではないことが明らかである。 審決は,「なお,引用例2の梯子の基端側は,支持部に『装着可能な取付部』を有している(請求項1)ものであって,本願補正発明の『梯子本体は両端において・・蓋受け枠に着脱可能に取り付けられて』いる構成と同様の構成が記載されているといえる」(同6頁第2段落)として,引用例2の基端部も「着脱可能」と認定し,被告は,引用例2に記載された梯子4の基端側は,【図2】に図示されたように,その取付部10がボルト13,ナット14により取付座(支持部)3に固定されているのであるから,ナット14をゆるめれば梯子4は受枠2から外すことが可能であって,着脱可能になっているといえると主張する。しかしながら,被告の上記主張の当否はさておき,引用例2の基端部も「着脱可能」とした審決の上記認定は,上記説示の後に「なお書き」として,付随的にされたものであり,この認定が,上記相違点2の判断の前提とされていないことは明らかである。したがって,審決の上記認定の誤りをいう原告の主張は,審決の結論に影響がない部分を論難するにすぎず,採用することができない。 (3) そこで,進んで,引用例2の先端側を着脱可能とする構造の容易想到性に係る審決の上記判断について検討すると,引用例2(甲3)には,「【発明が解決しようとする課題】・・・一時的な降雨量の増大によってマンホール内に揚圧が発生した場合,蓋本体に設けた錠が受枠から外れて開蓋してしまうことがある。一方,上記補助梯子は,倒伏させて先端を受枠内周面の受片に単に載置させて支持されているだけであるので,蓋本体が開蓋してしまうと受枠の枢着片に起伏可能に枢支させた梯子の基部を支点として蓋本体の開蓋と同時に起立状態となってしまい,通行者がマンホール内に転落する虞がある」(段落【0003】),「本発明は,上述の点に鑑みてなされたもので,蓋本体が揚圧によって万が一開蓋した場合でも,転落防止用梯子が倒伏状態を維持できる転落防止用梯子および転落防止用梯子を備えた地下構造物用蓋の受枠を提供することを目的とする」(段落【0004】),「【課題を解決するための手段】本発明は,受枠内周面に複数形成した支持部に装着可能な取付部を基端側に有し,且つ受枠に対して起伏可能で,倒伏状態で受枠内周面に形成した支持部に先端側が支持される転落防止用梯子において,前記転落防止用梯子の先端側に該先端側を支持する支持部の下面に係合するように保持されている係止部材を設けた構成としている」(段落【0005】),「梯子4を昇降用として使用する場合,先ず,作業者は,係止具7の下方に指を差し込み,ロックプレート26の操作部26bの切欠部26i(図4,図5)に指先を引っかけ,ねじりコイルバネ27のばね力に抗して図3に2点鎖線で示すロック解除位置まで時計方向に回動させて,ロック部26aを取付座3の下方から外す。これによりロックプレート26によるロックが解除される。作業者は,ロックプレート26をロック解除状態に保持したまま,係止具7を持ち上げて梯子4を起立させる。ロックプレート26は,作業者が切欠部26iから指先を離すとねじりコイルバネ27のばね力によりロック位置に復帰する」(段落【0025】)と記載され,これらの記載によれば,引用例2においては,蓋本体が開蓋してしまうと,受枠の枢着片に起伏可能に枢支させた梯子が,その基部を支点として蓋本体の開蓋と同時に起立状態となってしまうということを防止するために,梯子の先端側に,先端側を支持する支持部に対して着脱可能である係止部材を設けたものであることが認められる。 引用例1発明において,梯子状金具本体は,その一端においてのみ,開口部を形成している受枠に着脱可能に取り付けられているものであることからみて,同発明が,引用例2と同様の上記課題を有することは明らかであるから,引用例2の先端側を着脱可能とする構造を,引用例1発明における梯子状金具9の先端側の取付構造として適用することは,当業者が容易に想到し得るというべきである。 (4) したがって,審決の相違点2についての判断に誤りはなく,原告の取消事由2の主張は理由がない。 3 取消事由3(相違点3についての判断の誤り)について (1) 原告は,引用例1発明の「L字状の孔」を,本願補正発明の相違点3に係る「長孔」とすることの進歩性を肯定すべき理由として,@引用例1発明のL字状の孔では,四角形梁材5の起・伏2状態を選択できるものの,梯子は水平にも垂直にも動かすことができないのに対し,本願補正発明の長孔は,梯子の水平移動及び回転を許容するのであり,両者は,作用も,技術的意義も異なっていること,A引用例1発明のL字状の孔は,梯子状金具の水平状の姿勢と直立状の姿勢を保つ機能のみがあるのに対し,本願補正発明の長孔は,補助梯子の姿勢を保つ機能を有しないこと,B本願補正発明においては,支軸13を受け入れて補助梯子10を起立させた姿勢から開口部を覆うように伏せた状態とするときに,相対的な支軸13の移動を許容するものであり,その構成作用に基づいて複数の蓋受け枠に着脱を繰り返して使用することができ,携帯型構造を有するものであるにもかかわらず,地下構造物に装着したまま蓋を閉じることが可能であり,さらに,地下構造物内で水流及び空気流により内圧が上昇しても,梯子本体は地下構造物の開口部に固定された状態を保持し,立ち上がることがないため,誤って通行中の人が落ち込んだり,車が脱輪したりするおそれをなくすことができ,安全性が高められるという発明の効果に寄与していることを挙げる。 (2) そこで,まず,上記@の点について検討する。補正明細書(甲6-3添付)には,「取り付けるには梯子本体12の先端部を持ち,左右の基部19にある通孔21aを支軸13に合わせ,長孔21に移行するように操作して梯子本体12を蓋受け枠11に一体的に組み付ける。梯子本体12を立てた状態にするには基部19を支持部20に嵌めると,支軸13が長孔21の前壁に突き当たり,やや外方傾斜の状態で起立させることができる。図4の状態である」(段落【0023】),「他方,補助梯子10を伏せた状態とするには,基部19を支持部20から引き出し,開口部を覆うように倒して」(段落【0024】)と記載され,これらの記載によれば,長孔は,補助梯子10と蓋受け枠11とを一体的に組み付ける際は,支軸13と通孔21aとの位置をずらすため,蓋受け枠11から補助梯子10を取り外す際は,支軸13と通孔21aとの位置を整合させるため,支軸13に対して,補助梯子10の水平方向の移動を許容するよう設けられたものであること,また,補助梯子10を立てた状態から伏せた状態へと回転させる際,及びその逆に回転させる際,基部19を支持部20へ嵌め込み,また,基部19を支持部20から引き出せるように,支軸13に対して,補助梯子10の垂直方向の移動を許容し,支軸13まわりに回転できるように設けられていることが認められ,長孔は,梯子本体12の取り付け,取り外しの際に,梯子の水平移動を許容し,立てた状態から伏せた状態へ移行させるため,及びその逆に移行させるため,回転を許容するものということができる。 他方,引用例1(甲2)には,「【作用】受枠1の内側に収容した梯子状金具9の横杆19に取付けた係合板20を梁材5に挿通して係合する。梯子状金具9を梁材5に嵌合するには,梯子状金具9を水平状に倒し係合板20の切込み23を梁材5の上方より挿通して(図3),係合板20の水平状嵌合部21を梁材5に係合する。この状態は梯子状金具9を受け枠1内に水平状態に位置して収容した場合と同じである。梯子状金具9を図4に示す如く起すとき係合板20の弯曲内周面部25が梁材5の外周面を摺動するから梯子状金具9は円滑に回動して立ち上る。 梯子状金具9が図4の如く立ち上ると係合板20のコ字形直立嵌合部22が梁材5の上面と両側面に係合し,係合板20の外側衝止24が受枠1の立ち上がり部3に接合して受止められる。梯子状金具9を図4より図3の位置に倒すには,梯子状金具9を持上げてコ字形垂直嵌合部22を梁材5より外した後,梯子状金具9の係合板20の弯曲内周面部25を案内として梯子状金具9を図3の如く水平状に倒し,コ字形水平嵌合部21を梁材5の上面部と両側面部に係合し,梯子状金具9の遊離端部11を棚部30に載置する」(段落【0005】),「梯子状金具9の基部に,梯子状金具9を梁材5に係合し又は梁材5より脱するための係合板20を一体に設け,係合板20に梯子状金具9を水平状態に保持するためのコ字形水平嵌合部21と,梯子状金具9を直立状態に保持するためのコ字形直立嵌合部22とを隣り合わせて形成したことにより梯子状金具9の直立状態と水平状態は迅速確実に転換作動されかつ保持されると共に,係合板20を,梁材5に取付け又は梁材5より取外すには,梯子状金具9を水平状態に倒して切込み23(注,「23部」とあるのは誤記と認める。)を梁材5の直下に位置して梯子状金具9を垂直方向に持ち上げ,又は梯子状金具9を垂直方向より降下させてコ字形水平嵌合部21を梁材5より外し,又はコ字形水平嵌合部21を梁材5に嵌合すればよく,梯子状金具9を直立させた状態では係合部板20の切込み23は図3に示す如く梁材5の下方より外れて左方(図4)に配設されてコ字形直立嵌合部22に梯子状金具9の全重量が加わるため梯子状金具9は梁材5より外れることがない。又,梯子状金具9が図4に示す如くその上端部が右方(後方)に倒れる方向に重量が加わったとしても,係合板20の外側衝止部24が受枠1の立上り部3の内側面に衝止しているために梯子状金具9はそれ以上右方(後方)に倒れることがないと共に梁材5にねじりモーメントを与えるのを無くすことができ,その構造が簡単で,強度大なる等の効果がある」(段落【0008】)と記載され,これらの記載によれば,引用例1において,係合板20を梁材5に取り付け又は取り外す際には,切込み23を梁材5の直下に位置させることが必要であると認められるところ,【図3】の図示によれば,切込み23と梁材5とは,水平方向に離間しているから,水平状に倒した状態から梁材5を取り外すに当たっては,切込み23を梁材5の直下に位置させるために,梯子状金具9を水平方向(【図3】の右方)に移動させる必要のあること,また,梯子状金具9を取り付けるにあたっては,切込み23に梁材5を通してから上記とは逆の方向に移動させる必要のあることは明らかである。また,梯子状金具9は,直立状に起こした状態(【図4】)から水平状に倒した状態(【図3】)へ,また,その逆に移行させられるもので,直立状に起こした状態(【図4】)から水平状に倒した状態(【図3】)へと移行させる場合には,梯子状金具9を垂直方向に持上げてコ字形直立嵌合部22を梁材5より外した上で,係合板20の弯曲内周面部25を梁材5の外周面に摺動させつつ,水平状態へと回転させる必要があり,逆に,梯子状金具9を水平状に倒した状態(【図3】)から直立状に起こした状態(【図4】)へと移行させる場合には,梯子状金具9を直立状態まで回転させ,係合板20のコ字形直立嵌合部22が梁材5の上面と両側面に係合するように,梯子状金具9を,全体的に垂直方向に沈み込ませて,係合板20の外側衝止部24を受枠1の立上り部3の内側面に衝止させる必要があり,その結果,梯子状金具9はそれ以上右方(後方)に倒れることがない(段落【0008】)ものであることが認められる。なお,上記いずれの移行の場合においても,係合板20の弯曲内周面部25を,梁材5の上面部に摺動させながら,梯子状金具9を回転させて,梁材5の上面部と,コ字形水平嵌合部21又はコ字形直立嵌合部22とを嵌合させるように操作が行われることになるところ,【図3】及び【図4】の図示から明らかなように,コ字形水平嵌合部21とコ字形直立嵌合部22とは,水平方向及び垂直方向において離間しているから,梯子状金具9は,水平方向及び垂直方向に移動するとともに回転するものであることは明らかである。そうすると,引用例1発明におけるL字状の孔は,梯子状金具9の取付け,取外しの際に,水平移動を許容し,また,立てた状態から伏せた状態へ移行させるため,及びその逆に移行させるため,回転を許容するものということができ,本願補正発明の長孔が有しているのと同一の機能を備えたものである。したがって,引用例1発明のL字状の孔と本願補正発明の長孔とは,梯子の水平移動及び回転を許容する点で,作用も,技術的意義も同じであるから,原告の上記@の主張は,採用できない。 (3) 次に,上記Aの点について検討する。本願補正発明に係る【請求項1】には,支軸の形状及び支軸と長孔との配置関係が特定されておらず,本願補正発明において,補助梯子が水平及び直立状態にあるとき,長孔と支軸とがどのように嵌合するかは,不明であるため,本願補正発明において,長孔が,補助梯子の姿勢を保つ機能を有するかどうかは明らかではない。補正明細書(甲6-3添付)に,「梯子本体12を立てた状態にするには基部19を支持部20に嵌めると,支軸13が長孔21の前壁に突き当たり,やや外方傾斜の状態で起立させることができる。図4の状態である」(段落【0023】)と記載されているとおり,立てた状態は,基部19を支持部20に嵌めることで維持され,その際,支軸13は長孔21の前壁に突き当たるものの,支軸13だけでは,立てた状態を維持できないことが認められ,このことから,長孔は,補助梯子を直立状態に保つ機能を有しないこと,また,「伏せ状態では,基部19においても支軸13と基部19が係合した状態となる」(段落【0024】)と記載されているものの,【図3】の図示によれば,支軸13が,長孔21の前後壁の中間に位置し,梯子本体12は,伏せた状態において,なお,水平方向に移動できることが認められ,このことから,長孔は,補助梯子を水平状態に保つ機能を有しないと認められる。 これに対して,引用例1(甲2)には,「実公昭62-31466号公報においては,梁材に係合した梯子状金具の基部の係合板に,コ字形水平嵌合部,コ字形垂直嵌合部及び回転嵌合部を形成した環状部を設けた構造が開示されている。 この金具の構造では係合板の環状部の内周に形成されたコ字形水平嵌合部を梁材に嵌合して梯子状金具を水平状態に倒した位置を保持させ,コ字形垂直嵌合部を梁材に嵌合して梯子状金具を直立状に保持させている」(段落【0003】)と記載され,この記載によれば,引用例1において,L字状の孔を設けたのは,垂直方向に長辺を有した断面四角形の梁材5と,コ字形水平嵌合部21およびコ字形直立嵌合部22とを嵌合させるようにしたためということができ,梁材5の断面四角形と,コ字形水平嵌合部21及びコ字形直立嵌合部22との嵌合により,梯子状金具9を直立状態,水平状態に安定して保持できることが認められる。そうすると,引用例1発明におけるL字状の孔と本願補正発明における長孔とは,その姿勢保持機能の有無において異なるということもできる。しかし,引用例1発明において,係合板20の外側衝止部24が受枠1の立上り部3の内側面に衝止し,梯子状金具9はそれ以上右方(後方)に倒れることがないよう直立状態が保持されており,断面四角形の梁材5と,コ字形直立嵌合部22との嵌合とによって,直立状態が保持されるものではないことが認められ,断面四角形の梁材5と,コ字形直立嵌合部22との嵌合とによって,直立状態を保持する必要はないことは明らかである。また,引用例1の,「梯子状金具9を図4より図3の位置に倒すには,梯子状金具9を持上げてコ字形垂直嵌合部22を梁材5より外した後,梯子状金具9の係合板20の弯曲内周面部25を案内として梯子状金具9を図3の如く水平状に倒し,コ字形水平嵌合部21を梁材5の上面部と両側面部に係合し,梯子状金具9の遊離端部11を棚部30に載置する」(段落【0005】)との記載によれば,引用例1発明においては,L字状の孔のコ字形直立嵌合部22とコ字形水平嵌合部21との間の弯曲内周面部25が,梁材5の上面部を案内されることにより,梯子状金具9の垂直方向又は水平方向の移動操作及び梯子状金具9の回動操作が実現されるものと認められ,L字状の孔は,断面四角形の梁材5との協働による上記操作が可能なようにその形状が定められているということができる。そうすると,引用例1発明において,梁材5の形状を断面四角形以外の適宜形状のものに変更すること及び梁材5の形状変更に対応して孔の形状も変更することは,当業者が容易に採用し得ることであって,梯子状金具9の垂直及び水平移動及び回転を許容する上記L字状の孔の機能にかんがみれば,引用例2に示されているような,長孔と丸軸(長孔5a及び支軸15)が,同一機能を果たすものとして利用できることも,当業者が容易に想到し得ることである。原告の上記Aの主張も,採用できない。 (4) さらに,上記Bの点について検討すると,原告主張に係る,本願補正発明においては,支軸13を受け入れて補助梯子10を起立させた姿勢から開口部を覆うように伏せた状態とするときに,相対的な支軸13の移動を許容するものであり,その構成作用に基づいて複数の蓋受け枠に着脱を繰り返して使用することができるとの点は,引用例1発明においても,L字状の孔が,梯子状金具9を,支軸に対して移動できるようにする結果,梯子状金具9を直立状に起こした状態と水平状に倒した状態との間で円滑に回動させるように機能しており,また,補助梯子10の取付け,取外しを可能とするように機能しているから,上記効果が,本願補正発明において,長孔を採用したことにより奏されるものということはできない。 また,携帯型構造を有するものであるにもかかわらず地下構造物に装着したまま蓋を閉じることが可能である点及び地下構造物内で水流及び空気流により内圧が上昇しても,梯子本体は地下構造物の開口部に固定された状態を保持し,立ち上がることがないため,誤って通行中の人が落ち込んだり,車が脱輪したりするおそれをなくすることができ,安全性が高められるという点は,それぞれ,相違点1,相違点2により奏される効果であるが,これらの相違点に係る構成は,当業者が容易に想到できるものである以上,その奏する効果も,当業者が予測し得るものであり,格別のものということはできない。したがって,原告の上記Bの主張も採用することができない。 (5) したがって,審決の相違点3についての判断を誤りということはできず,原告の取消事由3の主張も理由がない。 4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 早田尚貴 |