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事件 |
平成
31年
(ワ)
3273号
差止請求権不存在確認請求事件
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5 原告 株式会社しちだ・教育研究所 同訴訟代理人弁護士 松田政行 同 山崎貴啓 同 吉川武志 10 同補佐人弁理士 黒瀬雅一 同 及川周 被告 株式会社キャニオン・マインド 同訴訟代理人弁護士 伊原友己 15 同 並山恭子 同 橋本祐太 同補佐人弁理士 楠本高義 同 三雲悟志 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2021/03/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
20 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
被告が,原告に対し,原告による別紙物件目録記載の製品の生産,使用,譲渡,25 貸渡し又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡若しくは貸渡しのための展示を含 む。)について,特許第 4085311 号の特許権に基づく差止請求権を有しないことを 確認する。 |
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事案の概要
1 本件は,原告が,原告の製造販売する別紙物件目録記載の製品(以下「原告 製品」という。)は被告の有する特許権に係る特許発明の技術的範囲に属しないと 5 して,被告に対し,被告が原告に対し本件特許権に基づく原告製品の生産等の差止 請求権(特許法100条1項)を有しないことの確認を求める事案である。 2 前提事実(証拠を掲げていない事実は争いのない事実である。) (1) 当事者及び本件訴訟の経緯等(甲1,2,6,乙2,弁論の全趣旨) ア 原告は,児童教材編集出版物の販売,教育に関する塾の経営等を目的とする10 株式会社である。 被告は,学習塾・幼児教室等の経営,学習教材の販売,コンピューター及び周辺 機器並びにソフトウェアーの販売等を目的とする株式会社である。 イ 原告は,平成30年12月頃から現在に至るまで,業として,原告製品を制 作,販売している。 15 ウ 被告は,平成31年1月10日,原告に対し,原告製品が本件発明に酷似し ていると考えられるなどとして,原告の回答を求めると共に,誠実な回答が得られ ない場合は法的措置を取ることがある旨を書面(甲6)により通知し,原告はこれ を受領した。 また,被告代表者は,その数日後,原告取締役に対し,電話で,原告製品の販売20 停止を求めた。 (2) 被告の特許権(甲4) 被告は,以下の特許権を有する(以下「本件特許権」といい,これに係る特許を 「本件特許」,本件特許の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」とい う。また,本件特許に係る特許請求の範囲請求項1記載の発明を「本件発明」とい25 う。)。本件明細書の記載は,別紙「特許公報」(甲4)のとおりである。 特許番号 特許第 4085311 号 発明の名称 学習用具,学習用情報提示方法,及び学習用情報提示システム 出願日 平成14年8月2日 登録日 平成20年2月29日 特許請求の範囲 別紙「特許公報」記載のとおり 5 (3) 構成要件の分説 本件発明の構成要件は,次のとおり分説される。 A コンピューターを備え,対応する語句が存在する原画の形態を該語句と結 びつけて憶えるための学習用具であり, B 前記コンピューターが,10 B1 前記原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対 応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に似た若し くは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二 の関連画,から成る組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒体と, B2 前記組画記録媒体に記録された複数個の組画の 画像データから,一の組画15 の画像データを選択する画像選択手段と, B3 前記選択された組画の画像データにより,前記第一の関連画,前記第二の 関連画,及び前記原画の順に表示する画像表示手段と, B4 前記関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒 体と,20 B5 前記音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と, B6 前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段と,を含み, C 前記画像表示手段が,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原 画を,対応する語句の再生と同期して表示する D 学習用具。 25 (4) 原告製品の構成 原告製品の構成は,次のとおりである。 a 別紙セット画目録記載(1)〜(47)の都道府県の地図上の形状を前記都道府県の名 称と結びつけて憶えるための学習用 DVD。 b 前記学習用 DVD には,後記都道府県形状画と結びつけた形状のイラストが描 き込まれた画(以下「イラスト画」という。),後記都道府県画と形状を同じくし 5 その中に翻案したイラストを入れ込んだ画(以下「形状・イラスト画」という。), 都道府県の地図上の形状を示す画(以下「都道府県形状画」という。)及び都道府 県形状画と共に当該都道府県が属する地方の位置関係を示す画(以下「都道府県位 置画」という。)の4画をセット(以下「セット画」という。)にした映像が,日 本全国及び別紙セット画目録記載1〜6の地方ごとに記録されている(なお,セッ10 ト画の具体例は,別紙「セット画一部抜粋表」記載のとおり)。 c 前記学習用 DVD には,それぞれ前記イラスト画,前記形状・イラスト画,前 記都道府県形状画,前記都道府県位置画の一連の語呂合わせの歌の音声が,別紙セ ット画目録記載1〜6の地方ごとに一曲ずつ,映像として記録されている。 d 前記学習用 DVD の映像は,1つのセット画ごとに前記イラスト画,前記形状15 ・イラスト画,前記都道府県形状画,前記都道府県位置画の順に出力されると共に, 前記イラスト画,前記形状・イラスト画,前記都道府県形状画の一連の語呂合わせ の歌が音声として出力される。 e 前記学習用 DVD に記録された映像を再生するにあたっては,日本全国の都道 府県を別紙セット画目録記載(1)〜(47)の順に再生するモード(以下「ALL PLAY モ20 ード」という。)又は別紙セット画目録記載1〜6の地方ごとに再生するモード (以下「地方選択モード」という。)が選択できる。ALL PLAY モードであっても, 地方選択モードであっても,それぞれの再生順は,地方ごとに作成者が設定した都 道府県の順に自動で連続して再生され,選択された地方に属する都道府県の前記イ ラスト画,前記形状・イラスト画,及び前記都道府県形状画の一連の前記語呂合わ25 せの歌の音声が再生される。 (5) 本件特許に係る出願経過(甲7〜10) ア 本件特許に係る出願時の特許請求の範囲請求項1(以下「当初の請求項1」 という。)の記載は,以下のとおりである。 「1又は複数種の記憶対象から成る記憶対象群に含まれる個別の記憶対象を表現 する原画及び該原画に関連する関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連 5 画から成る組画の画像が画像データとして記録された組画記録媒体を含んで成り, それぞれの前記記憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対 象を記憶する学習用具。」 イ 特許庁審査官は,平成19年1月25日起案に係る拒絶理由通知書(甲8。 以下「本件通知書」という。)において,当初の請求項1を含む請求項の記載が特10 許法36条6項2号の要件を満たさないこと,当初の請求項1を含む請求項記載の 発明は引用文献1(特開平 10-312151 号公報。乙6。以下「乙6文献」という。) 記載の発明(以下「乙6発明」という。)から当業者が容易に想到し得たものであ り,同法29条2項により特許を受けることができないことを理由として,本件特 許に係る出願は拒絶すべきものである旨を通知した。 15 本件通知書には,次のような記載がある。 ・当初の請求項1の記載では,物の発明である「学習用具」としての構成は 「(1又は複数種の記憶対象から成る記憶対象群に含まれる個別の記憶対象を表現 する)原画及び(該原画に関連する関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の) 関連画から成る組画の画像が画像データとして記録された組画記録媒体」でしかな20 く,「それぞれの前記記憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記 記憶対象を記憶する」のは人間が行う作業であって,物の発明としての「学習用具」 の構成を成していないため,本願発明が「…原画及び…関連画から成る組画の画像 が画像データとして記録された組画記録媒体」以外にいかなる構成を有するもので あるのか不明である。 25 ・乙6発明は,記憶対象が「国家や自治体や行政単位に関連する地域の地図上の 形状,又は該地域を象徴する国旗,シンボルマーク等の模様」ではなく,「関連画 が,原画の輪郭あるいは形態に似せた,原画を連想させる動物や人物やその他の具 体的なものの漫画」,ないし,「原画及び対応する漫画のいずれをも象徴する抽象 画」ではない点で相違するが,具体的に何を記憶するために用い,どのような「関 連画」とするかは通常の創作であって自然法則を用いない人為的取り決め事項にす 5 ぎず,記憶する内容と関連画の選択・作成に関しては技術的進歩性を奏する構成を 伴なわない(自然法則を用いていない)から,当初の請求項1等記載の発明は乙6 発明から当業者が容易に想到し得たものである。 ウ これに対し,被告は,同年4月12日付け手続補正書(甲10)により,当 初の請求項1を本件特許に係る請求項1のとおり補正するなどの補正を行う(以下10 「本件補正」という。)と共に,同日付け意見書(甲9。以下「本件意見書」とい う。)を提出した。 本件意見書には,次のような記載がある。 ・補正後の特許請求の範囲においては,作業の主体を「手段」とし,人が行う作 業を示す部分を削除した。これにより,補正後の各請求項は明確なものとなり,記15 載不備の拒絶理由は解消されたものと思料される。 ・本願発明は原画の形態を対応する語句と結びつけて記憶することを目的として いるのに対し,乙6発明は英単語の記憶を目的としている。 ・本願発明は原画の形態を記憶するために,記憶対象である原画の輪郭に似た又 は連想させる輪郭を有する関連画を表示するのに対し,乙6発明は,警察官のアニ20 メ等の表示は行っているが,記憶対象が文字であることにより,記憶対象の輪郭に 似た又は連想させる輪郭を有する関連画を表示しない。 ・本願発明は,関連画の表示及び関連画に対応する語句の再生を行った後に原画 の表示及び原画に対応する語句の再生を行うようにしたのに対して,乙6文献には, そのような構成及び作用についての記載がない。 25 ・本願発明は,4通りのルートによって原画及び対応する語句を思い出すことが できるのに対して,乙6文献には,そのような構成及び作用についての記載がない。 ・従って,本願発明の学習用具と引用発明の学習支援装置とは,発明の技術的思 想が全く異なる。このため,たとえ当業者といえども乙6文献から本願発明を容易 に想到し得るものではない。 3 争点 5 (1) 原告製品が充足する本件発明の構成要件(争点1) (2) 均等侵害の成否(争点2) (3) 間接侵害の成否(争点3) |
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当事者の主張
1 原告製品が充足する本件発明の構成要件(争点1)10 (被告の主張) (1) 構成要件 A 及び B について 原告製品は,その構成にコンピューターを備えるものではない。したがって,原 告製品は,本件発明の構成要件 A 及び B を充足しない。 ただし,後記のとおり,原告製品の生産等は,本件特許に係る請求項1〜5の発15 明との関係では特許法101条1号及び2号に,請求項6〜9の発明との関係では 同条4号及び5号にそれぞれ該当し,本件特許権の間接侵害に当たる。 (2) 構成要件 B1 について ア 原告製品のイラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画は,それぞれ, 本件発明の構成要件 B1 の「第二の関連画」,「第一の関連画」,「原画」にそれ20 ぞれ該当する。したがって,原告製品は,本件発明の構成要件 B1 を充足する。 イ 原告製品の都道府県位置画について (ア) 原告製品の都道府県位置画は,当該都道府県の日本列島における位置を説明 するための図にすぎず,個々の都道府県の輪郭(原画)を記憶させるための画とは いえない。このため,原告製品の本件発明の技術的範囲への属否の検討に当たって25 は考慮する必要がない。 (イ) 仮に,都道府県位置画が本件発明の「関連画」に当たるとしても,本件発明 において「組画」の数は3点に限定されるものではなく,4点であっても本件発明 の「組画」に該当する。 ウ 原告の主張について 本件補正は,本件通知書で明確性要件違反と進歩性欠如が指摘されたことを受け 5 て,物の発明として構成がより明確になるように行ったものであり,これによって 乙6文献は進歩性欠如の拒絶理由を基礎付け得るものではなくなった。すなわち, 本件補正は,関連画の数が問題とされたことに向けられたものではない。 また,組画に音声が含まれるか(付加されているかどうか)は,本件発明の構成 要件 B1 の充足性を左右するものではない。 10 (3) 構成要件 B2 について ア 特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載から,「一の組画」とは,記憶 対象とされる一の原画と,これに対応する第一の関連画及びこれらに対応する第二 の関連画(ただし,関連画の数はこれに限定されない。)によって構成されるひと まとまりの画を意味する。また,「画像選択手段」は,複数個の組画データから少15 なくとも一の組画の画像データを選ぶことのできる手段をいう。DVD のように画 像データが電子的に記憶されるものについては, 当該 DVD が「組画記録媒体」 (構成要件 B1,B2)となり,複数個の組画データから再生を企図した少なくとも 一の組画の画像データを電子的に特定できる機構がこれに該当する。 原告製品は,地方ごとにセットになっているものが特定され,所定の順序で表示20 されるようにプログラムされている。このような仕組みは,全国の都道府県の組画 の中から適宜選択された地域単位の組画に含まれる一の組画を選択して表示する構 成を備えるものである。 なお,原告製品は,地方単位で組画を選択することはできるものの,単一の都道 府県のみを選択することはできない。しかし,学習したい都道府県が含まれる地方25 を選択することにより,最初に表示される都道府県については当該都道府県単位で 選択したのと同じであるし,そうでなくとも,使用者が再生を希望する都道府県を 待つ時間は秒単位であって,学習上,特段の問題はないタイミングで表示される。 したがって,原告製品は,その地域に含まれる一の組画を選択することができるよ うになっているといって差し支えない。 以上より,原告製品は,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」を有 5 しているといえ,本件発明の構成要件 B2 を充足する。 イ 原告の主張について 本件明細書には,あるセット(地方ごとのまとまり)でのみ画像選択ができるよ うなものを排除する記載はない。また,このようなものも本件発明の作用効果を奏 するのであって,一の組画を数個まとめて選択する形になっていたところで,本件10 発明の趣旨を逸脱するものではなく,本件発明の技術的範囲に属する。 (4) 構成要件 B3 について 原告製品は,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」(構成要件 B2) を備えており,これにより,原告製品に含まれる組画を順々に表示するものである。 したがって,原告製品は,本件発明の構成要件 B3 を充足する。 15 (5) 構成要件 B4 について 原告製品は,都道府県の輪郭形状を語呂合わせ歌によって記憶しやすいように記 録されており,これが学習時に再生される。したがって,原告製品は,「関連画及 び原画に対応する語句の音声データが記録された」ものである。地方ごとに1曲ず つであるかどうかは,構成要件 B4 の充足性判断には関係がない。 20 したがって,原告製品は,本件発明の構成要件 B4 を充足する。 (6) 構成要件 B5 及び B6 について 前記(3)のとおり,地方単位で選択することも本件発明の「画像選択」 に当たる ところ,原告製品は,必ず各都道府県に対応した画像と音声が再生されるものであ るから,都道府県に対応した音声(語呂合わせ歌)が選択され,再生される手段を25 備えていることになる。 したがって,原告製品は,本件発明の構成要件 B5 及び B6 を充足する。 (7) 構成要件 C 及び D について 「同期」(構成要件 C)とは,組画とそれに対応する音声とを同じタイミングで 再生することを意味するが,物理的に媒体(物体・機械装置)を異にする必要があ るわけではない。 5 ビデオファイルは,映像,音声,静止画,テキストデータを含むデータであって, それらのデータをメタデータで同期させていることは技術常識であるところ,原告 製品も,画像と音声とは常に連携して再生されるようになっているから,「同期し て表示する」「学習用具」である。 したがって,原告製品は,本件発明の構成要件 C 及び D を充足する。 10 (原告の主張) (1) 構成要件 A の非充足 「コンピューター」(構成要件 A)は,組画記録媒体(同 B1),画像選択手段 (同 B2),画像表示手段(同 B3),音声記録媒体(同 B4),音声選択手段(同 B5)及び音声再生手段(同 B6)並びに画像表示手段が第一の関連画,第二の関連15 画及び原画とこれらに対応する語句と同期させて表示する(同 C)機能を有するも のでなければならない。しかし,以下のとおり,原告製品は,DVD プレーヤー等 で再生させる場合,これを有しない。したがって,原告製品は,本件発明の構成要 件 A を充足しない。 (2) 構成要件 B1 の非充足20 ア 特許請求の範囲の記載によれば,「組画」(構成要件 B1)は,原画,第一 の関連画及び第二の関連画の3画からなるものであり,全体がこの3画のみにより 構成されるものに限定される。また,当初の請求項1では「1又は複数種の関連画」 と記載されていたが,本件補正を経て原画と第一及び第二の関連画という3画が組 画を構成するとされており,本件補正の際,敢えて組画の構成要素を原画と2つの25 関連画に限定したものと理解される。 そうすると,「組画」の構成要素は3点に限られる。 これに対し,原告製品のセット画は,イラスト画,形状・イラスト画,都道府県 形状画及び都道府県位置画の4画からなる。このうち,都道府県位置画は,原画と 同一の輪郭を有し,対応する語句と位置を表示することによって原画の形状とその 名前を覚えさせるための原画に関連する画である。「関連画」とは,原画,第一の 5 関連画又は第二の関連画の輪郭に似た(又は連想させる)輪郭を有し,対応する語 句が存在する画を意味するから,都道府県位置画は,3つ目の「関連画」である。 また,原告製品のセット画は,音声を含む「映像」であって,単なる「組画」で はない。 したがって,原告製品は,本件発明の構成要件 B1 を充足しない。 10 イ 被告の主張について 請求項には,特許出願人が発明を特定するために必要と認める事項の全てを記載 しなければならない。そうすると,本件特許に係る請求項1に「原画」,「第一の 関連画」及び「第二の関連画」と記載したことにより,本件発明を特定するための 全ての事項が記載されたことになり,「のみ」との記載の有無にかかわらず,「組15 画」の構成要素は「原画」,「第一の関連画」及び「第二の関連画」に限定される。 また,本件特許に係る請求項1では,関連画を「第一の関連画」と「第二の関連 画」として,その要件を明確に記載している。にもかかわらず,その他の関連画も 含まれるとすると,その要件は不明であり,明確性を欠く。 (3) 構成要件 B2 の非充足20 ア 原告製品は,映像を再生するに当たっては,地方ごとに再生箇所を選択し, 選択された地方ごとに原告が設定した都道府県の順に自動で連続して再生するもの となっており,記憶対象である都道府県を一つずつ選択して再生することはできな い。したがって,原告製品は,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」 を有さず,本件発明の構成要件 B2 を充足しない。 25 イ 被告の主張について (ア) 請求項には,出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認 める事項の全てを記載しなければならない。その趣旨は,特許権の範囲を過不足な く公示させることで予見可能性を確保することにある。そうすると,「一の組画の 画像データを選択する」との記載により,本件発明の特定に必要な全ての事項が記 載されたこととなるから,複数の組画のまとまりでのみ選択できるものを排除する 5 記載がなくとも,本件発明は,「一の組画」を選択するものに限定される。「一の 組画」との記載から複数又は一定の範囲での組画のまとまりを選択することをも含 むと解することは,上記趣旨に反すると共に,請求項の範囲の記載に明確性を求め る趣旨にも反する。 (イ) 地方単位の選択であっても,学習者は再生を希望する都道府県が登場するの10 を待つことで学習上何の問題もないなどとする被告の主張は,異なる出力形式であ っても学習できるというにとどまり,これをもって構成要件 B2 の文言を充足する ものではない。また,本件発明のように一つの画像を選択することと,原告製品の ように地方単位で選択することは,技術的内容及びその作用効果において異質のも のである。 15 (4) 構成要件 B3 の非充足 前記(3)のとおり,原告製品は,一の組画の画像選択手段を有しないから,「前 記選択された組画の画像データにより,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及 び前記原画の順に表示する画像表示手段」(構成要件 B3)を有しない。そもそも, 原告製品は,画像表示手段を有しない。したがって,原告製品は,本件発明の構成20 要件 B3 を充足しない。 (5) 構成要件 B4 の非充足 原告製品は,セット画を一連とする語呂合わせの歌の音声が,地方ごとに一曲ず つ映像として記録されたものであって,「関連画及び原画に対応する語句の音声デ ータが記録された」(構成要件 B4)ものではない。したがって,原告製品は,本25 件発明の構成要件 B4 を充足しない。 (6) 構成要件 B5 及び B6 の非充足 本件発明は,一つの組画のうちの第一の関連画,第二の関連画及び原画にそれぞ れ対応する「語句」の音声データがあり,選択された一つの組画に合わせ,かつ, 当該組画を構成する3つの画像に対応させて出力するように音声データを選択する ことが求められる。また,本件発明の構成要件 B5 は,画像選択手段とは別個に音 5 声選択手段を有することが要件となっている。 これに対し,原告製品は,映像として,地方ごとに再生箇所を選択すれば原告が 設定した都道府県の順に自動で一連の語呂合わせ歌の音声を再生するものであって, 「語句」(構成要件 B5)を選択するものではなく,また,別個に「音声選択手段」 (同 B5)を有するものではない。同様に,原告製品は,「選択された語句の音声10 データ」(同 B6)を再生するものではない。 したがって,原告製品は,本件発明の構成要件 B5 及び B6 をいずれも充足しな い。 (7) 構成要件 C の非充足 本件発明の構成では,組画記録媒体に記録された画像データ(構成要件 B1)と15 音声記録媒体に記録された音声データ(同 B4)をそれぞれ有しているとされてお り,構成要件 C は,これらをコンピューターの情報処理によって,組画と対応する 語句の再生と同期して表示するとしている。他方,原告製品においては,画と共に 音声が対応して再生するようにあらかじめ映像として DVD に記録されており,別 々に記録された映像データと音声データをコンピューターの情報処理によって同期20 させる必要はない。 したがって,原告製品は,本件発明の構成要件 C を充足しない。 2 均等侵害の成否(争点2)について (被告の主張) 仮に,原告製品が,単一の都道府県単位ではなく地方単位で画像データを選択す25 るものである点で,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」(構成要件 B2)を備えないとしても,以下のとおり,原告製品は本件特許に係る特許請求の 範囲記載の構成と均等なものであり,本件発明の技術的範囲に属する。 (1) 第1要件(非本質的部分) 原告製品における本件発明との相違部分は,地方単位の組画のまとまりでまず画 像選択し,次いでそのまとまりに含まれる一の組画を選択できるという点である。 5 特許発明の本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来 技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分である。 本件発明が措定する従来の技術では,繰り返し画像を見て,それに関連する語句 を何度も繰り返し見て,単純記憶にすり込んで忍耐強く勉強するのが一般的であっ たところ,これでは特に小学生等の若年者にとっては興味がわかず苦痛と感じられ10 ることが多かった。本件発明は,このような問題点を解決し,楽しみを感じながら 知らず知らずに特定の国家等を覚えられるようにしようとしたものである。このた め,本件発明の本質的部分は,原画,第一の関連画及び第二の関連画からなる組画 の画像データと,当該関連画及び原画に対応する語句の記録された音声データがあ り,第一の関連画,第二の関連画,原画の順に表示されるのと同期して当該音声デ15 ータが再生される部分であるといえる。換言すれば,第一の関連画から第二の関連 画へ,そして覚えるのが容易ではない記憶対象となる画像へと画像の変化でつなげ, それに対応する語句を併せて再生することで,記憶に残りやすいようにするという 部分が,従来技術との比較における本質的部分である。 そうすると,上記相違部分は,本質的部分におけるものではない。 20 したがって,原告製品は,均等の第1要件を充足する。 (2) 第2要件(置換可能性) ア 本件発明は,これまで機械的に単純に何度も忍耐強く記憶対象を見て,それ に関連する特定の用語との結びつきを覚えていくような無機質な勉強方法が採用さ れてきたが,これでは幼児や児童に負担が大きく,覚えにくいため,覚えやすい漫25 画等から抽象画へ変化させ,最後は覚えにくい原画との関連付けをして,画像の変 化とこれに対応する音声データとで,目と耳の両方で記憶の定着を図る仕組みを提 案するものである。 原告製品の置換部分は,一の組画(一つの都道府県)をピンポイントで選択でき ず,まず地方単位の組画を選択し,その中で特定の都道府県を選択するという二段 階で選択する構成(使用者が所望する都道府県の含まれる地域をまず選択すること 5 により,結果として記憶したい都道府県が表示されるという構成)になっている点 である。 しかし,都道府県の輪郭線と都道府県名を覚えるという学習目的からすると,地 方単位の組画のまとまりを選択したからといって,そのことによって目的を達せら れるものではない。原告製品における記憶の容易化の最も大切な部分は,第一の関10 連画,第二の関連画及び原画を,その順で語呂合わせ歌という音声データと共に選 択,再生する点である。この点では,原告製品も本件発明も全く同じである。 また,原告製品において,ユーザーがワンタッチでダイレクトに所望の都道府県 を指定して再生することができないとしても,所望の都道府県の再生をユーザーが 待つ時間は秒単位のものでしかないため,ユーザーの記憶のしやすさが従来技術の15 単純記憶に頼る場合と同等レベルに劣るということはなく,第一の関連画,第二の 関連画と原画への画像変化と語呂合わせ歌という音声データとを併せて再生するこ とで,格段に記憶しやすくなっている。 このように,原告製品の構成であっても,本件発明の目的を達することができ, 作用効果を奏するものであり,本件発明の構成を原告製品の構成に置換することは20 可能である。すなわち,原告製品は,均等の第2要件を充足する。 イ 原告の主張について 原告は,本件明細書【0057】の記載に重きを置いて主張するようである。しかし, 同段落は実施例の記載であり,また,画像の選択のバリエーションを例示している ものにすぎない。本件明細書【0053】において,画像の選択は,コンピューターの25 内蔵プログラムに基づいてなされてもよいと説明されていることを勘案すれば, DVD を再生した場合に表示される画像の選択については,ある程度記憶しにくい 形状の記憶の容易化に資するものであれば,適宜実施者が考えれば足りる。 (3) 第3要件(置換容易性) 原告製品の発売時期において,一の組画の画像選択手段に換えてこれが含まれる 数個の組画のまとまりとしてまず選択し,次に一の組画の画像を選択することなど 5 は,当業者であれば簡単にできる。 したがって,原告製品は,均等の第3要件を充足する。 (4) 第4要件(非容易推考性)について 原告の主張は争う。 原告は,置換された構成のものとなれば,出願前公知の技術と同一又はそれと近10 似するものが存在していたといった主張立証をしていない。また,原告が指摘する 乙6文献及び特開平 04-013174 号(甲11。以下「甲11文献」という。)は,い ずれも審査の際に参考文献として考慮されていることからすれば,これらの文献に より,本件発明と実質的に同一と評価される置換された構成の特許性が否定される ものではない。 15 (5) 第5要件(意識的除外のないこと)について 原告の主張は争う。 本件補正は,作業の主体を「手段」として明確にし,人が行う部分として指摘さ れた「それぞれの前記記憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記 記憶対象を記憶する」という部分を削除したものである。これにより被告が意識的20 に除外したのは,あくまでも物の発明を構成しない人為的作業としての「逐次又は 一斉に表示する」という行為態様であり,物や方法の構成として逐次又は一斉に表 示すること(表示される構成)一般を技術的範囲の埒外に置いたものではない。ま た,本件発明の進歩性が認められたのは,引用文献と比較対照したときに全体とし て技術的思想が異なり,引用文献から本件発明を容易に想到し得るものではないと25 の被告の説明を審査官が理解したからであって,構成要件 B2 を本件補正で付加し たことにより進歩性欠如の拒絶理由が解消されて特許査定を得たわけではない。 (原告の主張) 原告製品は,以下のとおり,均等の第1〜第5要件のいずれも充足しない。した がって,原告製品は,本件特許に係る特許請求の範囲記載の構成と均等なものとは いえず,本件発明の技術的範囲に属しない。 5 (1) 第1要件の非充足 ア 本件明細書の記載,本件特許の出願時における従来技術である甲11文献及 び乙6文献各記載の技術並びに本件特許に係る出願経過に鑑みると,本件発明は, 本件補正により付加された構成要件 B2 によりはじめて,コンピューターによる画 像の選択によって,覚えにくい記憶対象に関する組画を繰り返し選択して表示する10 ことや既に記憶した記憶対象の組画を除外した残りの組画を選択して表示すること 等が可能となり,学習能率の向上にも寄与するという作用効果を奏する。このため, 本件発明の本質的部分には,学習者が記憶対象とする一の組画を任意に選択してコ ンピューターの処理によってこれを繰り返し学習できるようにしていることも含ま れる。 15 他方,記憶学習において,記憶対象と結びつけることができるイラストや言葉な どによって記憶を容易化するというアイデア自体は,本件特許の出願以前から存す る。また,本件発明の構成要件 B1 は,本件補正前に人為的取り決め事項に過ぎな いと指摘された点を,コンピューター関連発明の構成をとることによって拒絶査定 を回避したに過ぎず,技術的な貢献度は低い。さらに,構成要件 B2 は,逐次・一20 斉表示に係る拒絶理由への対応として,本件補正により,一の組画の選択に限定す ることとしているのであって,この点でも,技術的な貢献度は極めて低い。 このような従来技術及び出願経過に鑑みると,本件発明は,従来技術が未解決で あった技術的困難性を具体的に指摘し,その困難性を克服するための具体的手段を 開示するものではない。このため,「第一の関連画」,「第二の関連画」,「原画」25 の順に表示されることは,当該部分が本質的部分の一部になるとしても,その貢献 度は極めて低いものであり,特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定さ れるべきである。 したがって,本件発明においては,「一の組画の画像データを選択する画像選択 手段」との構成(構成要件 B2)が,従来技術に見られない特有の技術的思想を構 成する特徴的部分すなわち本質的部分である。 5 しかるに,原告製品は,本件発明の構成要件 B2 を備えておらず,これは,本件 発明の本質的部分に係わる相違部分である。加えて,原告製品は,一の組画を選択 するという構成を備えていないところ,これは,地方単位で当該地方に属する都道 府県の名称及びその個数と,当該地方における都道府県の位置関係に合わせて記憶 することを主目的としているからである。この点は,本件明細書に開示されていな10 い技術的思想であり,原告製品は,本件特許の技術的思想の範囲内にない。 したがって,原告製品は,均等の第1要件を充足しない。 イ 被告の主張について 被告は,第一の関連画,第二の関連画,原画の順に表示されるのと同期して当該 音声データが再生されるという部分が本件発明の本質的部分であると主張する。こ15 れによれば,画の「表示」と同期して音声データを「再生」することに限定されて おり,「選択」について言及されていない。しかし,本件明細書によれば,本件発 明は「選択」を伴わなければ記憶対象たる組画の表示はあり得ず,むしろ「選択」 こそが重要な要素である。 (2) 第2要件の非充足20 本件発明は,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」(構成要件 B2) を備えるものであり,「画像の選択」が,課題である学習能率の向上に寄与してい る。すなわち, 本件発明の効果にとって,特定の組画を選択できることを前提に, これを繰り返し表示できるという構成は,極めて重要な意義を有する。これに対し, 原告製品は,各地方単位又は日本全国における地図上の都道府県を記憶させること25 を目的としているため,あらかじめ設定された地方ごとのセット画のまとまりでし か再生することはできず,表示順序もあらかじめ設定された順序で逐次再生するこ とができるだけであり,一つ又は複数の都道府県の画を選択し,当該都道府県のみ を繰り返し再生することは,その構成上不可能である。しかも,学習者が特定の都 道府県が属する地方を記憶していない場合,そもそもその都道府県が表示されない ことになる。 5 また,原告製品は,イラストと言葉の語呂合わせで個別の都道府県とその形状を 結び付けて憶えるのみならず,地方単位で当該地方に属する都道府県の名称及びそ の個数と,当該地方における都道府県の位置関係を合せて記憶することをも目的と して製作されており,この点で,原告製品は,本件発明とは技術的思想が異なり, 作用効果も異なる。 10 そうすると,本件発明と原告製品との上記相違部分につき,本件発明の構成を原 告製品の構成に置き換えると,その効果は「画像選択手段」(構成要件 B2)によ って達成される効果とは全く異なることとなり,本件発明と同一の作用効果を生じ るとはいえない。 したがって,原告製品は,均等の第2要件を充足しない。 15 (3) 第3要件の非充足 本件発明と原告製品との相違部分につき,本件発明の構成を原告製品の構成に置 き換えることは,当業者において常套手段や周知の技術事項といえるものではなく, また,設計上の微差とする根拠もないから,当業者が容易に想到し得るものとはい えない。 20 したがって,原告製品は,均等の第3要件を充足しない。 (4) 第4要件の非充足 甲11文献及び乙6文献に鑑みれば,本件特許出願時に,コンピューターを備え, 記憶対象とする原画とこれに関連する複数の画からなる組画の画像を逐次表示する ことによって記憶対象を記憶させる物の発明は,当業者も容易に推考できたものと25 いえる。 また,組画を原画とこれに関連する2つの画に限定することなく構成すること, 選択できる範囲を1つの組画ではなく複数のまとまりで構成することも,当業者が 容易に推考できたものといえる。 したがって,原告製品は,均等の第4要件を充足しない。 (5) 第5要件の非充足 5 被告は,明確性要件違反及び進歩性の欠如という拒絶理由に対し,本件補正にお いて,組画の逐次又は一斉の表示をして記憶する人の「作業」となる部分を削除し つつ,組画の表示を構成要件 B2 の選択手段に限定して,明確性の欠如に係る拒絶 理由を補正すると共に,「組画を逐次又は一斉に表示して」とする構成を削除し, かつ,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」(構成要件 B2)を付加10 したものである。 このような本件補正の経緯によれば,被告は,本件発明に係る特許請求の範囲に つき,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」に客観的,外形的に限定 し,これを備えない発明については,本件発明の技術的範囲から意識的に除外した といえる。 15 しかるに,原告製品は,本件発明の構成要件 B2 を備えない。 したがって,原告製品は,被告が本件発明の特許出願手続において特許請求の範 囲から意識的に除外したものに当たり,特段の事情を有するといえるから,均等の 第5要件を充足しない。 3 間接侵害の成否(争点3)20 (被告の主張) 原告製品は,その構成にコンピューターを備えていないが,コンピューターで再 生されることにより意味を持つ学習用具である。 そうすると,原告製品は,コンピューターを備える学習用具である本件発明の専 用品である。また,原告は,少なくとも特許製品(コンピューターを備える学習用25 具)の生産に用いる物を,コンピューターで再生されることを知って生産等をして いる。 したがって,原告の行為は,本件特許に係る請求項1〜5の発明との関係では特 許法101条1号及び2号に,請求項6〜9の発明との関係では同条4号及び5号 にそれぞれ該当し,本件特許権の間接侵害に当たる。 (原告の主張) 5 原告製品は,DVD プレイヤー等によって映像を再生させる場合,本件発明の構 成要件 B1〜B6 の手段等及び同 C の機能を含む画像表示手段を有しない。 したがって,原告製品につき,間接侵害は成立しない。 |
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当裁判所の判断
1 原告製品が充足する本件発明の構成要件(争点1)について10 (1) 本件明細書の記載 本件明細書には,次のとおりの記載がある。 ア 従来の技術及び本件発明が解決しようとする課題 特定の国の地図上の形や国旗の模様のような,特定の国家や都道府県等の自治 体,行政単位に関連する地域の地図上の形状,又はこれらの地域を象徴する国旗,15 シンボルマーク等の模様を学習するためには,地図帖や国旗一覧表などを用いて, これらを繰り返し見ながら覚えることが一般に行われている。(【0002】) しかし,単にこれらを繰り返し見ることは忍耐を必要とし,特に小学生等の若年 者にとってはこの学習には興味が沸かず苦痛と感じられることが多く,学習効果が 上がらないことが多い。(【0003】)20 本発明は,これら問題点に鑑み,楽しみを感じながら知らず知らずに特定の国家 や自治体,行政単位に関連する地域の地図上の形状,又は該地域を象徴する国旗, シンボルマーク等の模様が覚えられる学習用具及びこの学習用具を用いて学習する ための学習用情報提示方法を提供しようとする。(【0004】) イ 課題を解決するための手段25 本発明に係る学習用具の要旨とするところは,コンピューターを備え,対応する 語句が存在する原画の形態を該語句と結びつけて憶えるための学習用具であり,前 記コンピューターが,前記原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる 輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連 画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が 存在する第二の関連画,から成る組画の画像データが,複数個記録された組画記録 5 媒体と,前記組画記録媒体に記録された複数個の組画の画像データから,一の組画 の画像データを選択する画像選択手段と,前記選択された組画の画像データによ り,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示する画像表示 手段と,前記関連画及び原画に対応する語句の音声データが記録された音声記録媒 体と,前記音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と,10 前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段と,を含むことにある。 (【0005】) 本発明は,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示する ことを特徴とする。(【0006】) さらに,前記画像表示手段が,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記15 原画を,対応する語句の再生と同期して表示することにある。(【0007】) また,前記学習用具において,前記関連画が複数であり,一の関連画が他の関連 画の輪郭に似た若しくは該他の関連画を連想させる輪郭を有し得る。(【0011】) ウ 本件発明の実施の形態 特定の国の地図上の形態と,その形態の輪郭に似た輪郭を有する漫画とを結び付20 けて,漫画,抽象画,原画の順に,それぞれの絵に対応する語句とともに提示する ことにより,生徒は国の地図上の形態を,国名など原画に対応する語句と結びつけ て容易に憶えることができる。(【0027】) その理由は,漫画が生徒にとって親しみやすく抵抗なく頭の中に受け入れられる ことである。更に,漫画,抽象画,原画と順を追って示すことにより,漫画から抽25 象画,原画と変化する画像が容易に生徒に受け入れられることである。又,漫画, 抽象画,原画のそれぞれに対応する語句とともにそれぞれの絵を提示することによ り,一層それぞれの絵が生徒に印象づけられることである。(【0028】) 都道府県に関して,漫画,抽象画,原画の順に並べた組画から成る組画群の例を 各ユニット画に対応する語句とともに表2に示す。(【0033】) 【表2】5 (【0034】) このようにして,ある記憶対象に関する漫画,抽象画及び原画をそれぞれユニッ ト画とし,これらの各ユニット画から成る組画が集合して,個々の記憶対象に対応 する組画群が構成される。そして1又は複数種の記憶対象から成る記憶対象群に含 まれる記憶対象のそれぞれに対応する組画が作られて,その組画が集まって記憶対 象群に対応する組画群が構成される。(【0035】) 即ち,組画は,原画及び原画に関連する関連事項又は関連像を表現する1又は複 数種の関連画から構成される。(【0036】) 組画を所定の順で逐次表示して記憶対象を記憶させる。又,組画を構成するユニ 5 ット画を逐次表示することに組画の表示が行われる。このような表示により記憶対 象を記憶させる。(【0037】) 特定の組画を構成するユニット画は,全て一斉に表示してもよいが,前述のよう に逐次表示するほうが,学習効果が増して好ましい。(【0038】) 組画は,漫画と原画の2個1組のユニット画から構成されていてもよいが,前述10 のように漫画,抽象画及び原画の3画1組のユニット画から構成されるほうが学習 効果が増して好ましい。更に,原画に関連するキーワードの文字から成る文字画を 加えて4画1組のユニット画から構成されてもよい。(【0039】) 記憶対象は自治体や行政単位に関連する地域の地図上の形状であってもよい。… 都道府県や市町村の地図上の形態であってもよい。…湖や島や半島やその他地図上15 の特定の場所や区域であってもよい。(【0043】) 記憶対象に対応する漫画は,原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有するもののほか に,原画の特徴を抽出して描かれたものであれば,原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭 を有しなくてもよい。(【0044】) ユニット画は映写機のような画像再生手段により記録・再生して表示されてもよ20 い。又,ユニット画は…DVD のような電子記録媒体に記録され,…DVD 再生装置 のような電子画像表示手段により再生して表示されてもよい。語句の発声は,テー プレコーダや,ビデオテープレコーダや,CD 装置や DVD 装置のような録音・再生 手段により,録音・再生されてもよい。画像録画・再生手段に内蔵の録音・再生手 段により録音・再生されてもよい。(【0047】)25 本発明においては,ユニット画が画像データとして記録されたカードや電子記録 媒体を組画記録媒体と称する。又,カードに描かれた画像も画像データとみなす。 (【0048】) テープレコーダから発生する語句の音声に合わせて(同期させて),発声される 語句に対応するユニット画の描かれたカードを生徒に提示してもよい。(【 004 9】) 5 画像再生手段や音声再生手段がコンピュータに備えられ,コンピュータの画像選 択手段や音声選択手段により選択された画像データや音声データに基づき,画像再 生手段や音声再生手段を介して電子記録媒体に記録された画像や音声が出力されて もよい。(【0050】) 語句音声はユニット画の再生に同期して再生されることが好ましい。(【 00510 1】) ユニット画は,…DVD のような,画像を画像データとして記録する電子記録媒 体から成る組画記録媒体に画像データとして記録されていてもよい。組画記録媒体 に記録されたユニット画は,画像出力端末を備える…コンピュータのような,画像 再生手段により逐次又は選択的に再生される。(【0052】)15 画像の選択は,コンピュータに内蔵のプログラムに基づいてなされてもよい。こ のプログラムが,外部からコンピュータの入力端末を介して変更可能なものであっ てもよい。(【0053】) 画像の選択が,コンピュータの入力端末から指令として入力されてもよい。即 ち,コンピュータの指令受信手段が,選択する組画を特定する選択指令データをコ20 ンピュータの端末から受信し,受信した選択指令データに基づいて選択する組画を 特定する画像データが選択されてもよい。(【0054】) 音声の選択が,コンピュータの入力端末から指令として入 力されてもよい。即 ち,コンピュータの指令受信手段が,選択する音声を特定する音声選択指令データ をコンピュータの端末から受信し,受信した音声選択指令データに基づいて選択す25 る音声を特定する音声データが選択されてもよい。(【0055】) この音声選択指令データは,コンピュータの入力端末から指令として入力されず に,選択する組画を特定する選択指令データに基づいて自動的に作られてもよい。 (【0056】) このような画像の選択は,学習能率の向上に寄与する。即ち,選択としては,憶 えにくい記憶対象に関する組画を幾度も繰り返して表示することが挙げられる。 5 又,組画群のなかから,既に記憶した記憶対象に関する組画を除いて残りの組画を 表示することが挙げられる。組画の表示の順番を変える選択も挙げられる。生徒に 応じて表示する組画を変える選択も挙げられる。一つの組画に対して,複数種の標 語を準備し録音し,生徒の年齢等に応じて再生する標語を変える選択も挙げられ る。一つの記憶対象に対して,複数種の組画と標語を記録し,生徒の年齢等に応じ10 て再生する組画の画像と標語の音声を変える選択も挙げられる。(【0057】) 本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で,当業者の知識に基づき種々 の改良,修 正,変形を加えた態様で実施し得るものであり,これらの態様はいずれも本発明の 範囲に属するものである。(【0058】) エ 発明の効果15 本発明の学習用具及びこの学習用具を用いた学習用情報提示方法により,楽しみ を感じながら知らず知らずに特定の国家や自治体,行政単位に関連する地域の地図 上の形状,又は該地域を象徴する国旗,シンボルマーク等の模様,等の記憶対象が 憶えられる。(【0059】) (2) 原告製品はその構成にコンピューターを備えるものではなく,本件発明の20 構成要件 A 及び B を充足しないことは,当事者間に争いがない。 もっとも,原告製品をコンピューター(画像再生手段及び音声再生手段を備えた ものであることを前提とする。以下同じ。)に使用する場合,当該コンピューター は,都道府県の地図上の形状を前記都道府県の名称と結び付けて覚えるための学習 用 DVD(原告製品の構成 a)を備えた装置すなわち学習用具となる。また,後記の25 とおり,原告製品における「都道府県の地図上の形状」は「原画」(構成要件 B 1)に,「都道府県の名称」は「原画」に「対応する語句」(同)に相当する。そ うすると,原告製品を使用したコンピューターは,「対応する語句が存在する原画 の形態を該語句と結びつけて憶えるための学習用具」といえる。 したがって,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の構成要件 A,B 及び D を充足する。 5 (3) 構成要件 B1 について ア 「組画」の意義 (ア) 特許請求の範囲の記載によれば,本件発明の「組画」は,「対応する語句 が存在」し,その「形態を該語句と結びつけて覚える」対象である「原画」,「原 画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第10 一の関連画」並びに「原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連 画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画」から成る。すな わち,特許請求の範囲記載の「組画」は,「原画」,「第一の関連画」及び「第二 の関連画」の各1画により構成されるものと理解される。もっとも,特許請求の範 囲の記載には上記構成に限定される趣旨をうかがわせる文言はない。このため,本15 件発明は,「原画」,「第一の関連画」及び「第二の関連画」の各1画 (合計3 画)から成る「組画」のみを記録,表示する構成に限定されるか,それ以外の画像 等を更に付加する構成を排除しない趣旨であるかは,その記載から明らかとは必ず しもいえない。 加えて,本件特許に係る請求項5の発明は,「前記関連画が複数であり,一の関20 連画が他の関連画の輪郭に似た若しくは該他の関連画を連想させる輪郭を有する請 求項1〜請求項4のいずれかに記載の学習用具」である。この記載からは,当該発 明は,「第一の関連画」及び「第二の関連画」以外の「関連画」を含むものと理解 する余地がある。これによれば,従属項である請求項5の発明の構成を含むもので ある本件発明は,「第一の関連画」及び「第二の関連画」以外の「他の関連画の輪25 郭に似た若しくは該他の関連画を連想させる輪郭を有する」関連画を含むものと理 解する余地があることになる。 (イ) 本件明細書の記載によれば,本件発明は, 特定の国家や都道府県等の自治 体等の地図上の形状等の学習に当たり,従来は,これらを繰り返し見ながら覚える ことが一般に行われていたところ,このような学習方法には忍耐を必要とし,特に 小学生等の若年者にとっては,興味が沸かず苦痛と感じられることが多く,学習効 5 果が上がらないことが多かったという問題点に鑑み,楽しみを感じながら知らず知 らずにこれを学習できるようにしたものである(【0003】,【0004】)。例えば, 漫画は学習者にとって親しみやすく抵抗なく頭の中に受け入れられることから, 記 憶対象である地図上の形態と,その形態の輪郭に似た輪郭を有する漫画とを結び付 け,漫画から抽象画,原画と順を追って示すことにより,変化する画像が容易に学10 習者に受け入れられ,学習者は,容易にこれを記憶することができる(【0027】, 【0028】)。このような,ある記憶対象に関する漫画,抽象画及び原画から成る組 画は,原画及び原画に関連する関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連 画から構成される(【0035】,【0036】)。ここでは,組画を構成する関連画の数 は,必ずしも2つに限定されていない。 15 また,「組画」は,漫画,抽象画及び原画の3画1組のユニット画から構成され る方が好ましく,更に,原画に関連するキーワードの文字からなる文字画を加えて 4画1組のユニット画から構成されてもよい(【0039】)。加えて,記憶対象に対 応する漫画は,原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有するもののほかに,原画の特徴 を抽出して描かれたものであれば,原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有しなくても20 よい(【0044】)。本件の都道府県位置画のように都道府県の地図上の形状を複数 組み合わせた画は,特定の都道府県の地図上の形状を「原画」とすると,全体とし ては原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有するものではないものの,原画の輪郭をそ の一部に含むことから,原画の特徴を抽出して描かれたものということはできる。 さらに,本件発明は,その趣旨を逸脱しない範囲で,当業者の知識に基づき種々25 の改良,修正,変形等を加えた態様で実施し得る(【0058】)。本件明細書記載の 解決すべき課題(【0004】)ないし本件発明の効果(【0059】)に鑑みると,「原 画」,「第一の関連画」及び「第二の関連画」から成る構成に「原画に関連するキ ーワードの文字からなる文字画」や「他の関連画の輪郭に似た若しくは該他の関連 画を連想させる輪郭を有する」関連画,「原画の特徴を抽出して描かれた」画が付 加されたとしても(以下,このような原画,第一の関連画及び第二の関連画以外に 5 付加された画を「付加画」という。),直ちに本件発明の趣旨を逸脱するものとは いえない。他方,本件発明における組画が原画1画と関連画2画のみで構成されな ければならない理由等をうかがわせる記載は見当たらない。 これらの記載によれば,本件明細書において,「組画」は,原画,第一の関連画 及び第二の関連画の合計3画から成る構成に限らず,原画に関連するキーワードの10 文字からなる文字画や,原画の特徴を抽出して描かれた画等の付加画を更に含むこ とを許容する概念であると解される。 (ウ) 以上より,本件発明の「組画」とは,原画,第一の関連画(「原画の輪郭 に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する」関連画) 及び第二の関連画(「原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連15 画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する」関連画)の合計3画から成る ことを要するものの,そのような構成に限定されず,「第一の関連画」及び「第二 の関連画」以外の付加画を更に付加する構成をも排除しないものと解される。 (エ) 原告の主張について 原告は,本件発明の関連画は「第一の関連画」と「第二の関連画」に限定される20 と主張する。 しかし,特許請求の範囲及び本件明細書の各記載を見ても,「組画」を構成する 画が「原画」,「第一の関連画」及び「第二の関連画」各1画の合計3画に限定さ れることをうかがわせる具体的な記載はない。むしろ,前記(ア)〜(ウ)のとおり,上 記各記載からは,そのような構成に限定されるものではないと解される。本件特許25 に係る出願経過についても,本件意見書には,組画を構成する画の数を殊更限定す る趣旨をうかがわせる記載は見当たらない。特許請求の範囲の記載の明確性という 観点から見ても,本件発明に係る特許請求の範囲には,関連画につき「第一の関連 画」及び「第二の関連画」が明示されるにとどまるものの,請求項5の記載,本件 明細書の記載及び当業者の技術常識を考慮すれば,付加画が更に含まれ得ると解し たとしても,なお発明の明確性は損なわれないと思われる。 5 その他原告が縷々指摘する点を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用で きない。 イ 原告製品について (ア) 前記(第2の2(4))のとおり,原告製品は, 以下の表のような「イラスト 画」,「形状・イラスト画」,「都道府県形状画」及び「都道府県位置画」の4画10 を「セット画」とすると共に(構成 b),地方ごとに一曲ずつ,対応する語呂合わ せ歌を有する(構成 c,d)。また,「イラスト画」,「形状・イラスト画」及び 「都道府県形状画」は,それぞれに対応する語呂合わせ歌の歌詞を 有する。さら に,原告製品においては,6つの地方ごとにセット画の映像が記録されている(構 成 b)。 15 【表】 都道府県 イラスト画 形状・イラスト画 都道府県形状画 都道府県位置画 北海道 青森県 原告製品は,都道府県の地図上の形状を覚えるための学習用 DVD であるから (構成 a),原告製品の都道府県形状画は本件発明の「原画」に相当する。イラス ト画は,都道府県形状画に似た輪郭を有する画であるから,「第一の関連画」に相 当する。形状・イラスト画は,都道府県形状画及びイラスト画に似た輪郭を有する 画であるから,「第二の関連画」に相当する。また,イラスト画及び形状・イラス 5 ト画には,それぞれ,「対応する語句」が存在する。そうすると,セット画のうち 都道府県形状画,イラスト画及び形状・イラスト画は,本件発明の「組画」に相当 することとなる。 さらに, DVD である原告製品には,6つの地方ごとにセット画の映像が記録さ れているから,原告製品は,「組画の画像データが,複数個記録された組画記録媒10 体」に相当する。 他方,原告製品のセット画には,都道府県位置画が含まれる。しかし,都道府県 位置画は,都道府県の地図上の形状を一まとまりの地方単位で複数組み合わせた画 であり,全体としては原画の輪郭や,輪郭に似た輪郭を有するものではないもの の,原画の輪郭をその一部に含むことから,原画の特徴を抽出して描かれたものと15 いうことはできる。このため,原告製品のセット画に都道府県位置画が含まれるこ とは,原告製品が本件発明の構成要件 B1 を充足するとする判断を妨げるものでは ない。 (イ) こ れ に 対し , 原 告は , 原 告 製 品の セ ット 画 は 音 声 を含 む 「映 像 」 で あ っ て,単なる「組画」ではないなどと主張する。 20 本件発明において,その特許請求の範囲の記載では,「組画の画像データ」を記 録する「組画記録媒体」(構成要件 B1)と「関連画及び原画に対応する語句の音 声データ」を記録する「音声記録媒体」(同 B4)は,別の構成として特定されて いる。もっとも,「組画記録媒体」と「音声記録媒体」が物理的に別の記録媒体で あることが明示的に定められているわけではなく,また,「画像データ」及び「音25 声データ」のデータ形式も特定されていない。 他方,本件明細書の記載によれば,組画を構成するユニット画は,DVD のよう な電子記録媒体に記録されてもよく,また,音声は,DVD 装置のような録音・再 生手段に録音されてもよく,画像録画・再生手段に内蔵の録音・再生手段により録 音されてもよい(【0047】,【0052】)。さらに,音声の選択は,コンピューター の入力端末から指令として入力されてもよく(【0055】),また,コンピューター 5 の入力端末から指令として入力されずに,選択する組画を特定する選択指令データ に基づいて自動的に作られてもよい(【0056】)。 これらの記載によれば,「組画記録媒体」と「音声記録媒体」が物理的に別の記 録媒体であることは必ずしも求められておらず,DVD のような記録媒体が,画像 データの記録媒体と音声データの記録媒体を兼ねることも,記録される画像データ10 と音声データが一体のものであることも,いずれも許容されていると考えられる。 また,これを許容したとしても,楽しみを感じながら知らず知らずに特定の国家等 の地図上の形状等の記憶対象を記憶するという本件発明の作用効果(【0059】)が 妨げられることもない。 したがって,原告製品のセット画が音声を含む「映像」であったとしても,これ15 が「組画」に相当すると見ることを妨げるものではない。 その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用 できない。 ウ 小括 したがって,原告製品は,本件発明の構成要件 B1 を充足する。 20 (4) 構成要件 B2 について ア 原告製品が「複数個の組画の画像データ」を「記録」した「前記組画記録媒 体」に当たることは,前記(3)イのとおりである。 イ 「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」の意義 (ア) 本件発明に係る特許請求の範囲の記載によれば,本件発明のコンピュータ25 ーが備える「画像選択手段」は,組画記録媒体に記録された「複数個の組画の画像 データから,一の組画の画像データ」を選択する手段である。そうすると,「画像 選択手段」は,コンピューターが,その組画記録媒体に記録されている他の組画の 画像データと区別して,一つの組画の画像データを選択することができるものであ る必要があるものと理解される。もっとも,コンピューターが二つ以上の組画の画 像データを同時に選択することしかできない構成が本件発明の「一の組画の画像デ 5 ータを選択する画像選択手段」から除外されていることを明示的にうかがわせる記 載はない。 他方,本件明細書には,「画像選択手段」について,選択の実行手段については 記載があるものの(【0053】,【0054】),選択対象である「組画の画像データ」 については,一つの組画を念頭に置いた と見られる 記載はあるものの ( 【 00510 7】),二つ以上の組画の画像データを同時に選択することしかできない構成 が本 件発明の「画像選択手段」に含まれることをうかがわせる具体的な記載は見当たら ない。 以上より,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」(構成要件 B2) とは,コンピューターが,その組画記録媒体に記録されている他の組画の画像デー15 タと区別して,一つの組画の画像データを選択することができるものであり,二つ 以上の組画の画像データを同時に選択することしかできない構成は含まれないと解 される。 (イ) 原告製品について 原告製品においては,前記(第2の2(4))のとおり,都道府県の形状に係るイ20 ラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画及び都道府県位置画からなるセット 画が,日本全国及び地方ごとの映像として記録されている(構成 b,c)。また,そ の映像の再生に当たっては,日本全国の都道府県を順に再生する ALL PLAY モー ド又は地方ごとに再生する地方選択モードを選択することができるが(構成 e), 個々の都道府県単位での選択はできない。再生順についても,ALL PLAY モード25 であれ地方選択モードであれ,地方ごとに作成者が設定した都道府県順に自動で連 続して再生される(構成 e)。また,同一の地方に属する複数の都道府県につい て,一の都道府県ごとに1組ずつのものとしてコンピューターが区別し得る形式で 組画の画像データが存在し,これを1つずつ選択する構成になっていることを認め るに足りる証拠もない。 そうすると,原告製品を使用したコンピューターは,「一の組画の画像データを 5 選択する画像選択手段」(構成要件 B2)を備えているとはいえない。 (ウ) 被告の主張について 被告は,「画像選択手段」は,複数個の組画データから少なくとも一の組画の画 像データを選ぶことのできる手段をいい,DVD においては,複数個の組画データ から再生を企図した少なくとも一の組画の画像データを電子的に特定できる機構の10 ことであるところ,原告製品は,地方ごとにセットになっているものが特定され, 所定の順序で表示されるようにプログラムされているので,一の組画を選択する構 成を備えているなどと主張する。 しかし,前記(ア)のとおり,本件発明の「画像選択手段」につき, 二つ以上の組 画の画像データを同時に選択することしかできない構成は含まれないと解されるの15 であって,複数個の組画データから「少なくとも」一の組画の画像データを選ぶこ とのできる手段と解することはできない。また,前記(イ)のとおり,原告製品にお いて,画像データが一の都道府県の組画の画像データをコンピューターにおいて特 定できる構成になっていることを認めるに足りる証拠はない。そうである以上,原 告製品を使用したコンピューターにおいて特定の地方が選択された際に,コンピュ20 ーターが原告製品(DVD)のプログラムに従って当該地方に属する都道府県の組 画を1つずつ選択する構成を備えているとはいえない。 さらに,原告製品において,学習したい都道府県が含まれる地方を選択し,意図 した都道府県が表示されるまで待つ時間が長くても秒単位であり,学習上特段の問 題はないとしても,本件発明とは構成が異なることに違いはない。 25 その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する被告の主張は採用 できない。 ウ 以上によれば,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の構成要件 B2 を充足しない。 (5) 構成要件 B3〜B6 及び C について ア 前記(4)のとおり,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の「一 5 の組画の画像データを選択する画像選択手段」(構成要件 B2)を備えるものでは ないから,この「画像選択手段」による組画の画像データの選択を前提とする構成 要件 B3〜B6 及び C も充足しないことになる。 もっとも,便宜上,以下において,原告製品を使用したコンピューターが本件発 明の構成要件 B2 を充足するとした場合における同コンピューターの構成要件 B3〜10 B6 及び C の充足性について検討する。 イ 構成要件 B3 について 原告製品は,前記(第2の2(4))のとおり,ALL PLAY モードの選択又は地方 選択モードにおける地方の選択に応じて,組画であるセット画が1つのセット画ご とに,イラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画及び都道府県位置画の順に15 出力される設定になっている(構成 d,e)。このうち,イラスト画,形状・イラス ト画及び都道府県形状画は,それぞれ本件発明の「第一の関連画」,「第二の関連 画」及び「原画」に相当する(前記(3)イ(ア))。他方,都道府県位置画は,本件発 明において付加が許容される付加画であるから,その存在は原告製品を使用したコ ンピューターが本件発明の構成要件 B3 を充足するとの判断を妨げない。 20 そうすると,原告製品を使用したコンピューターは,「前記選択された組画の画 像データにより,前記第一の関連画,前記第二の関連画,及び前記原画の順に表示 する画像表示手段」を備えており,構成要件 B3 を充足するものといえる。これに 反する原告の主張は採用できない。 ウ 構成要件 B4 について25 前記(3)イ(イ)のとおり,本件発明の「組画記録媒体」と「音声記録媒体」とは, 物理的に別の記録媒体であることは必ずしも求められておらず,DVD のような記 録媒体が,画像データの記録媒体と音声データの記録媒体を兼ねることも,記録さ れる画像データと音声データが一体のものであることも,いずれも許容されている と考えられる。 原告製品においては,前記(第2の2(4))のとおり,イラスト画,形状・イラ 5 スト画,都道府県形状画及び都道府県位置画からなるセット画の一連の語呂合わせ 歌の音声が,地方ごとに一曲ずつ,映像として記録されており(構成 c),この語 呂合わせ歌の音声は,イラスト画,形状・イラスト画及び都道府県形状画のそれぞ れに対応した歌詞を含む(前記(3)イ(ア))。また,都道府県位置画は,本件発明に おいて付加が許容される付加画であるから,その存在は原告製品を使用したコンピ10 ューターが本件発明の構成要件 B4 を充足するとの判断を妨げない。 そうすると,原告製品の語呂合わせ歌の音声データは,「関連画及び原画に対応 する語句の音声データ」に相当するといえる。このため,この音声データを記録し ている原告製品は,セット画を一連とする語呂合わせの歌の音声が地方ごとに一曲 ずつ映像として記録されたものであったとしても,「前記関連画及び原画に対応す15 る語句の音声データが記録された音声記録媒体」(構成要件 B4)に当たる。 したがって,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の構成要件 B4 を 充足する。これに反する原告の主張は採用できない。 エ 構成要件 B5 及び B6 について (ア) 特許請求の範囲の記載によれば,本件発明のコンピューターは,これに含20 まれる音声記録媒体から,関連画及び原画に対応する語句の音声データを選択する 音声選択手段と(構成要件 B5),選択された語句を再生する音声再生手段(同 B 6)を含むこととされている。しかし,そこでは,語句の音声が組画を構成する1 画それぞれに対応するものであることを要するか否かは明示されていない。また, 音声選択手段については,画像選択手段により選択された組画の画像データに対応25 する語句の音声データを,これを記録した音声記録媒体から選択し得るものである ことは必要であるものの,画像選択手段と別個のものであることを要することをう かがわせる明示的な記載はない。 さらに,本件発明においては,組画記録媒体と音声記録媒体とは,物理的に別個 の記録媒体である必要はなく,組画記録媒体に記録される画像データと音声記録媒 体に記録される音声データとは,一体のものであることが許容されている(前記 5 (3)イ(イ))。この点を踏まえると,音声選択手段は,むしろ画像選択手段と別個の ものであることを必ずしも要しないと理解される。 (イ) 本件明細書の記載によれば,語句の発声は,DVD 装置のような録音・再生 手段や画像録画・再生手段に内蔵の録音・再生手段により再生されてもよい(【00 47】)。また,本件発明において「同期」とは,音声再生手段から発声される語句10 に対応するユニット画を,当該音声に合わせて再生することを意味するものと理解 されるところ(【0049】参照),語句音声はユニット画の再生に同期して再生され ることが好ましい(【0051】)。さらに,画像の選択は,コンピューターに内蔵の プログラムに基づいてされてもよい(【0053】)と共に,コンピューターの入力端 末から指令として入力されてもよい(【0054】)。他方,音声の選択は,コンピュ15 ーターの入力端末から指令として入力されてもよく(【0055】),この音声選択指 令データは,コンピューターの入力端末から指令として入力されずに,選択する組 画を特定する選択指令データに基づいて自動的に作られてもよい(【0056】)。 他方,語句の音声が組画を構成する1画それぞれに対応するものであることを要 することをうかがわせる記載は,本件明細書には見当たらない。むしろ,語句音声20 はユニット画の再生に同期して再生されることが好ましいとされていること,音声 選択指令データが,選択する組画を特定する選択指令データに基づいて自動的に作 られてもよいことに鑑みると,組画の画像データに対応する語句の音声データが, 組画全体に対応するものであることは,本件明細書において許容されているものと 理解される。 25 (ウ) 以上より,本件発明に係る特許請求の範囲及び本件明細書の各記載を考慮す ると,本件発明の「対応する語句の音声データ」は,組画を構成する1画それぞれ に対応するものであることは必ずしも必要ではなく,また,「音声選択手段」は, 画像選択手段とは別個のものである必要はなく,コンピューターが一の組画を選択 すれば,自動的に対応する音声データが選択される構成も含まれると解される。 (エ) 原告製品について 5 前 記( 第 2 の 2 (4)) のと お り , 原 告製 品 を使 用 し た コ ンピ ュ ータ ー に お い て は,1つのセット画ごとにイラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画,都道 府県位置画の順に出力されると共に,イラスト画,形状・イラスト画,都道府県形 状画に対応する一連の語呂合わせ歌の音声が出力される設定となっており( 構成 d),その再生にあたっては,「地方選択モード」の場合,選択された地方に属す10 る都道府県のセット画が再生されると共に,選択された地方に属する都道府県のイ ラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画の一連の語呂合わせ歌の音声が,地 方ごとに作成者が設定した順に自動で連続して再生される(構成 e)。すなわち, 原告製品を使用したコンピューターにおいては,再生すべき画像が選択されること により,自動的にこれに対応する語呂合わせ歌の音声が選択され,再生されるもの15 といえる。 このことと,原告製品の語呂合わせ歌の音声データは「前記語句の音声データ」 に相当すること(前記ウ)を併せ考えると,原告製品を使用したコンピューター は,「音声記録媒体から,前記語句の音声データを選択する音声選択手段と」, 「前記選択された語句の音声データを再生する音声再生手段と」を備えたものとい20 える。すなわち,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の構成要件 B5 及び B6 をいずれも充足する。これに反する原告の主張はいずれも採用できない。 エ 構成要件 C について 前記(3)イ(イ)のとおり,本件発明において,組画記録媒体及び音声記録媒体に記 録される画像データと音声データが一体のものであることは許容されていると考え25 られる。前記エ(イ)のとおり,本件発明において「同期」とは,音声再生手段から 発生する語句に対応するユニット画を,当該音声に合わせて再生することを意味す るものと理解されるところ,記録される画像データと音声データが一体のものであ れば,もとより音声再生手段から発声する語句に対応するユニット画は,当該音声 に合わせて再生されることとなるから,このような場合も「同期して表示」された ものといえる。 5 また,前記(第2の2(4))のとおり,原告製品を使用したコンピューターにお いては,1つのセット画ごとにイラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画, 都道府県位置画の順に出力されると共に,イラスト画,形状・イラスト画,都道府 県形状画に対応する一連の語呂合わせ歌の音声が出力される設定となっており(構 成 d),その再生にあたっては,「地方選択モード」の場合,選択された地方に属10 する都道府県のセット画が再生されるとともに,選択された地方に属する都道府県 のイラスト画,形状・イラスト画,都道府県形状画の一連の語呂合わせ歌の音声 が,地方ごとに作成者が設定した順に自動で連続して再生される(構成 e)。原告 製品のセット画は本件発明の「第一の関連画,第二の関連画及び原画 から成る組 画 」 に 相当 し ,語 呂 合わ せ 歌は 「 対応 す る語 句 」に 相 当す る とこ ろ (前 記 (3)イ15 (ア),(5)ウ),上記のとおり,セット画は,対応する語呂合わせ歌と共に再生され ることから,「対応する語句の再生と同期して表示」されるものといえる。 したがって,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の構成要件 C を充 足する。これに反する原告の主張は採用できない。 (6) 小括20 以上によれば,原告製品を使用したコンピューターは,「一の組画の画像データ を選択する画像選択手段」(構成要件 B2)及びこれを前提とする構成を備えない 点を除き,本件発明の構成要件を充足する。 2 均等侵害の成否(争点2)について (1) 特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方が製造等をする製品等(対25 象製品等)と異なる部分が存する場合であっても,当該部分が特許発明の本質的部 分ではなく(第1要件),当該部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特 許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏するものであって(第2要 件),そのように置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点におい て容易に想到することができたものであり(第3要件),対象製品等が,特許発明 の特許出願時における公知技術と同一又は当業者が当該出願時に容易に推考できた 5 ものではなく(第4要件),かつ,対象製品等が特許発明の特許出願手続において 特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき (第5要件)は,当該対象製品等は,特許請求の範囲に記載された構成と均等なも のとして,特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(最高裁平 成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁,最高裁平成29年10 3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号359頁参照)。 そこで,本件発明の「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」(構成要 件 B2)を備えない原告製品を使用したコンピューターが,なお本件発明に係る特 許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件発明の技術的範囲に属す るものといえるかについて,以下検討する。 15 (2) 第1要件(非本質的部分)について ア 本件発明の本質的部分 (ア) 特 許 発 明の 本 質 的部 分 と は , 当該 特 許発 明 の 特 許 請求 の 範囲 の 記 載 の う ち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解され る。このような特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えていると認められ20 る場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり,対象製品等に, 従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分 があるとしても,そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならない。 また,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発 明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記25 載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であ るかを確定することによって認定される。より具体的には,特許発明の本質的部分 は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認 定されるべきであり,従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価さ れる場合には,特許請求の範囲の記載の一部について,これを上位概念化したもの として認定される一方で,従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大き 5 くないと評価される場合には,特許請求の範囲の記載とほぼ同義のものとして認定 されると解される。ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載 されているところが,出願時の従来技術に照らして客観的に不十分な場合には,明 細書に記載されていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られな い特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。 10 (イ) 本件明細書の記載 本件明細書においては,本件発明に係る従来技術として,「特定の国家や都道府 県等の自治体…の地図上の形状…を学習するためには,地図帖や国旗一覧表などを 用いて,これらを繰り返し見ながら覚えることが一般に行われている。」(【000 2】 )ことが挙げられている。そのうえで,発明が解決しようとする 課題 に つ い15 て,「単にこれらを繰り返し見ることは忍耐を必要とし,特に小学生等の若年者に とってはこの学習には興味が沸かず苦痛と感じられることが多く,学習効果が上が らないことが多い。」(【0003】),「本発明は,これら問題点に鑑み,楽しみを 感じながら知らず知らずに特定の国家や自治体…の地図上の形状…が覚えられる学 習用具及びこの学習用具を用いて学習するための学習用情報提示方法を提供しよう20 とする。」(【0004】)と記載されている。 また,本件明細書においては,こうした従来技術の課題の解決手段として,特許 請求の範囲記載の構成が示されると共に,その作用効果につき,「本発明の学習用 具及びこの学習用具を用いた学習用情報提示方法により,楽しみを感じながら知ら ず知らずに特定の国家や自治体…の地図上の形状…等の記憶対象が憶えられる。」25 (【0059】)と記載されている。 (ウ) 甲11文献について a 甲11文献(平成4年1月17日公開)は,発明の名称「漢字学習用具」に 係る公開特許公報である。その「従来の技術」及び「発明が解決しよ うとする課 題」に係る記載によれば,甲11文献は,本件発明と従来技術及び解決すべき課題 を共通にするものであり,本件発明にとっての従来技術ということができる。 5 b 甲11文献には,以下の記載がある。 「漢字の一つと,前記漢字の成り立ちを示す古代文字と,前記古代文字の成り立 ちを示す絵文字と,前記漢字と前記絵文字とを関連づけて暗記するための唱え言葉 とを1組の学習記録として記録し,前記漢字の種類に応じて複数組の学習記録を記 録して成る漢字学習用具。」(請求項1)10 「前記学習記録は,カードに表示されて記録されており,前記1組の学習記録を 記録する1組の前記カードは,漢字の一つを表示する漢字カードと,前記漢字カー ドに表示される漢字の成り立ちを示す古代文字を表示する古代文字カードと,前記 古代文字カードに表示される古代文字の成り立ちを示す絵文字を表示する絵文字カ ードと,前記漢字カードに表示される漢字と前記絵文字カードに表示される絵文字15 とを関連づけて暗記するための唱え言葉を表示する唱え言葉カードとを有し,/前 記漢字の種類に応じて複数組の前記カードを集合して成る請求項1記載の漢字学習 用具。」(請求項2) 「前記学習記録は,磁気テープをもって調整した部分に記録されていることを特 徴とする請求項1の漢字学習用具。」(請求項8)20 「学習者は,漢字を覚える場合,その漢字と,その成り立ちを示す古代文字と, その古代文字の成り立ちを示す絵文字とをその形から互いに関連付けて理解し,ま た,唱え言葉により漢字と絵文字との関連づけを助けて,漢字の理解を深めること ができる。このため,絵文字や唱え言葉が漢字を想起する手掛かりとなって,漢字 を覚えやすく,一旦覚えた後は忘れにくく,学習効果を上げることができる。/ま25 た,絵文字から古代文字,そして漢字への形の変化をみたり,唱え言葉を唱えるこ とにより,学習が単調になるのを防ぐことができ,漢字を楽しく覚えることができ る。」(2頁右下欄17行目〜3頁左上欄9行目) 学習記録は,「磁気テープをもって調整した部分に記録したりしてもよい。磁気 テープに記録する場合には,唱え言葉は,音声として再生されるように記録しても よい。」(5頁左上欄1行目〜4行目) 5 「磁気テープには,これに準ずる方法,例えば,電磁的記録のほか,機械的,静 電的方法などにより学習記録を確実に記録して置くことができる物を含むものであ る。磁気テープがビデオテープの場合には,ビデオテープレコーダを用いて再生 し,テレビ画面などで学習することができる。 」(5頁左上欄10行目〜16行 目)10 また,実施例には,唱え言葉として,「人-じゆうにまがるからだ/二ほんあし でたつ人」(第1図,第3図),「心-しんぞうのかたちでできた/心の字」(第 2図)が示されている。 c 甲11文献記載の発明 前記bの各記載によれば,甲11文献には, 漢字の一つを表示する漢字カード15 と,前記漢字カードに表示される漢字の成り立ちを示す古代文字を表示する古代文 字カードと,前記古代文字カードに表示される古代文字の成り立ちを示す絵文字を 表示する絵文字カードを画像として再生されるように記録すると共に,前記漢字カ ードに表示される漢字と前記絵文字カードに表示される絵文字とを関連付けて暗記 するための唱え言葉を音声として再生されるように記録し,前記漢字カードと,前20 記古代文字カードと,前記絵文字カードの表示と,前記唱え言葉の音声としての再 生が関連付けて行われる磁気テープの発明(以下「甲11発明」という。)が記載 されているといえる。 (エ) 乙6文献について a 乙6文献(平成10年11月24日公開)は,発明の名称「英単語等の学習25 支援装置並びに英単語等の学習支援プログラムを記録した記録媒体」に係る公開特 許公報である。その「発明の背景」及び「開発を試みた技術課題」に係る記載によ れば,乙6文献は,本件発明と従来技術及び解決すべき課題を共通にするものであ り,本件発明にとっての従来技術ということができる。 b 乙6文献には,以下の記載がある。 「本発明の学習支援装置1の一例…は…音声データ及び画像データを読み取る手 5 段であって一例として FD ドライブを適用した読取装置2と,この読取装置2によ り読み取った音声データ及び画像データを記憶する手段であり,一例として半導体 記憶素子を適用した主記憶3と,これら音声データ及び画像データから学習カリキ ュラム及び記憶カリキュラムを構成する手段の一例である CPU4及び入出力制御部 5と,音声データを出力する手段の一例であるスピーカ6と,画像データを表示す10 る手段の一例であるディスプレイ7とを具えて成る。」(【0014】) 「前記主記憶3内には,CPU4と,…記録媒体8に記録されたプログラムにより いくつかのファイル F が作成されるのであり,これらは大別して音声ファイル FA と画像ファイル FV に分類される。…音声ファイル FA 内には連想文ファイル F1 と 英単語発音ファイル F2 が作成され,…画像ファイル FV 内には文字ファイル FC と15 パーツ関連アニメファイル FP が作成される。…文字ファイル FC 内には和単語ファ イル F3 と英単語ファイル FE が作成され,この英単語ファイル FE 内には完全文字 ファイル F4,パーツファイル F5 及びパーツ結合ファイル F6 が作成される。」 (【0016】) 「記録媒体8としてはフロッピーディスク…等の磁気ディスクや,CD-ROM 等の20 光ディスク…等,種々のものが用いられる」(【0017】) 記録媒体8に記録されるデータのうち,「完全文字ファイル f4 に記録される完全 文字データとは,ある特定の英単語についての正確なスペル(アルファベットの 群)を符号化して成るデータである(例 polish)。」(【0020】) 「前記パーツファイル f 5 に記録されるパーツデータとは,英単語のスペリング25 を,個々のアルファベットの順序をそのままにした状態で分断して成るアルファベ ットの群(…スペリング要素)であり,他の文言(…連想パーツ)を連想させるよ うな群を符号化して成るデータである(例 パーツ 23「poli」から連想パーツであ るポリースマン(警察官)が連想される。パーツ 23「sh」から連想パーツであるシ ューズ(靴)が連想される。)。(【0021】) 「前記パーツ結合ファイル f6 に記録されるパーツ結合データとは,前記完全文字 5 データを分断したパーツ(スペリング要素)を,元の順番に一例として「-」(ハ イフォン)で連結した文字記号群を符号化して成るデータである(例 p ol i -s h)。」(【0022】) 「前記和単語ファイル f3 に記録される和単語データとは,前記完全文字データの 英単語を意味する日本語の単語文字(漢字,平仮名,片仮名)を符号化して成るデ10 ータである(例 磨く)。」(【0023】) 「前記パーツ関連アニメファイル fp に記録されるパーツ関連アニメデータとは, 前記パーツ…から連想される語である連想パーツを表す映像であり,静止画または 動画を符号化して成るデータである(例 パーツ 23「poli」から連想される連想パ ーツたるポリースマン(警察官)を表す静止画,パーツ 23「sh」から連想される連15 想パーツたるシューズ(靴)を表す静止画と,このシューズを磨く動作(動 画))。」(【0024】) 「連想文ファイル f1 に記録される連想文データとは記憶援助ストーリーの一態様 であり,前記パーツ 23 から連想される連想パーツを表す文言を含んで構成された 創作文の音声を符号化して成るデータである(例 完全文字が polish のとき,パー20 ツ 23 である poli からポリースマンという連想パーツが連想され,sh からシューズ という連想パーツが連想され,これらの連想パーツを組み合わせることによって各 英単語毎に一定の記憶援助ストーリーの一態様である連想文「ポリースマンのシュ ーズを磨く」を創作する)。」(【0027】) 「英単語発音ファイル f2 に記録される英単語発音データとは,前記完全文字デー25 タの英単語についての正確な発音の音声を符号化して成るデータであ」る。(【00 28】) 「これらのデータにはそれぞれ識別符号が付されており,個々の完全文字データ (英単語)に対応した完全文字データ,パーツデータ,パーツ結合データ,和単語 データ,パーツ関連アニメデータ,…連想文データ,英単語発音データ…には,同 一の識別符号が付されている。そして前記完全文字データは一例として 10 個を一 5 まとまりとして1セクションを形成するのであり,前記記録媒体8には複数のセク ションが記録されている。」(【0030】) 「ステップ S103 において,読取装置2を起動して記録媒体8内の音声ファイル fa 及び画像ファイル fv に記録された音声データ及び画像データのうち一例として 1セクション分のデータを,それぞれのデータに付された識別符号を用いて,主記10 憶3内の音声ファイル FA 及び画像ファイル FV 中の対応するファイルに読み込 む。」(【0036】) 「ステップ S105 において英単語画面 11 を表出するのであり,…完全文字 22(p olish)の画像をディスプレイ7に表示し,更に英単語発音データの音声をスピーカ 6から出力する。」(【0038】)15 「ステップ S106 において記憶援助ストーリーたる連想文画面 12 を表出するので あり,…画像データのパーツ 23(poli,sh),パーツ関連アニメ 24(警察官,靴) 及び他のアニメ 21(靴磨きの少年)をディスプレイ7に表示し,更に音声データ の記憶援助ストーリーたる連想文(「ポリースマンのシューズを磨く」)…をスピ ーカ6から出力する。このときパーツ関連アニメ 24…の近傍にそれぞれパーツ 2320 …を表出した状態で前記連想文…の出力を一回又は複数回行う。また前記パーツ関 連アニメ 24…は連想文とシンクロして表示されるのであり,パーツ関連アニメ 24 は…連想文の内容に合った表示が行われる(この実施の形態では靴磨きの少年がパ ーツ関連アニメ 24 である警察官の靴を磨く動作を行う)。」(【0039】) 「ステップ S107 において1セクション中に含まれるすべての完全文字データ25 (…10 個の英単語)について S106 までの処理が行われたか否かを判断し,否なら 105 に戻り残りの完全文字データ(英単語)について S106 までの処理を行う。そし て S107 での判断が正となったら S108 へ進み,カウントを行う。」(【0040】) 「ステップ S109 において,S108 でのカウント値が設定値(…一例として4)で あるか否かを判断する。否であれば S105 に戻り当該セクションの最先の完全文字 データについて S105 以降の処理を実行する。正であれば S110 に進み,記憶カリキ 5 ュラムを表出するための以降の処理を行っていく。」(【0041】) 「ステップ S111 において確認画面 13 を表出するのであり,…画像データのパー ツ結合 25(poli-sh)をディスプレイ7に表示し,更に音声データの英単語発音をス ピーカ6から一回または複数回出力する。」(【0043】) 「ステップ S112 において,学習者が前記ステップ S111 において表示,出力され10 た単語の意味を暗記したことを確認した場合に,適宜マウス等の入力装置9をクリ ックする。」(【0044】) 「ステップ S113 において正答画面 14 を表出するのであり,…画像データのパー ツ結合 25(poli-sh)をディスプレイ7に表示し,更に音声データの記憶援助ストー リーたる連想文(「ポリースマンのシューズを磨く」)をスピーカ6か ら出力す15 る。このとき連想文の出力とシンクロさせて和単語 26(磨く)を表示する」(【0 045】) 「ステップ S114 において1セクション中に含まれるすべてのパーツ結合データ (英単語)についてクリック入力がされたか否かを判断し,否なら S111 に戻り再 度 S113 までの処理を行う。…そしてステップ S114 での判断が正となったらステッ20 プ S115 へ進む。」(【0046】) 「ステップ S115 において過剰学習を実行するのであり,この過剰学習とは…1 セクション中のすべて(…10 個の単語 polish 等)の完全文字 22 について,これら をディスプレイ7に表示し,更に記憶援助ストーリーたる連想文(「ポリースマン のシューズを磨く」等)をスピーカ6から出力する。」(【0047】)25 「ステップ S116 ですべてのセクションが終了したか否かを判断し,否なら S102 に戻り音声ファイル FA 及び画像ファイル FV をクリアし,ステップ S103 で次のセ クション2についてデータを読み込み,S104 以降の学習カリキュラムと記憶カリ キュラムとの表出を行っていくのである。また S116 での判断が正なら暗記カリキ ュラムを終了する。」(【0048】) 「先の実施の形態で画面の切り替えは CPU4によって連続的に行ったが,適宜の 5 入力装置の操作によって行うようにしてもよく,この場合,学習を行う者のペース に合わせてカリキュラムを実行することができる。」(【0051】) c 乙6発明 前記bの各記載によれば,乙6文献には,英単語の学習支援装置1であって,主 記憶3と,CPU4と,スピーカ6と,ディスプレイ7とを備え,主記憶3内には,10 英単語の完全文字 22 と,英単語をスペリング要素ごとに分けたパーツ 23 と,パー ツ 23 から連想されるパーツ関連アニメ 24 及び他のアニメ 21 を記憶する画像ファ イル FV と,英単語発音データと,記憶援助ストーリーたる連想文の音声データを 記憶する音声ファイル FA が作成されており,英単語に関するデータを1セクショ ンを1単位として読み込み,1英単語の完全文字 22 をディスプレイ7に表示し,15 英単語発音データの音声データをスピーカ6から出力した後に,パーツ関連アニメ 24 及び他のアニメ 21 をディスプレイ7に表示し,更に連想文の音声データをシン クロさせてスピーカ6から出力すること,このような英単語の出力処理,パーツ関 連アニメと連想文のシンクロ出力処理を,1セクション中に含まれる全ての文字に ついて順次行う学習支援装置1の発明(乙6発明)が記載されているといえる。 20 (オ) 本件発明の本質的部分 本件明細書記載の従来技術に加え,甲11発明及び乙6発明をも考慮すると,本 件発明のうち,コンピューターを備え,対応する語句が存在する原画を該語句と結 びつけて覚えるための学習用具であり,前記コンピューターが,前記原画(乙6発 明の完全文字 22 に相当。以下,本項において括弧内は,乙6発明において相当す25 る構成を意味する。)と,該原画に関連する画像(パーツ関連アニメ 24)からな る1セットの画像データが複数個記録された記録部(画像ファイル FV)と,記録 部に記録された複数個の1セットの画像データから,表示すべき画像データを選択 (1セクション分の英単語のデータを1単位として読み込み)する手段と,選択さ れた画像データにより,原画,該原画に関連する画像を順次表示する画像表示手段 (ディスプレイ7)と,前記原画と,原画に関連する画像に対応する語句の音声デ 5 ータ(それぞれ,英単語音声データ,連想文の音声データ)が記憶された記録部 (音声ファイル FA)と,記録部から前記語句の音声データを選択(1セクション 分の英単語のデータを1単位として読み込み)する手段と,前記選択された語句の 音声データを再生する手段(スピーカ6)とを含み,前記画像表示手段が,原画 と,該原画に関連する画像の表示を,対応する語句の再生と同期して表示(シンク10 ロ出力処理)する学習用具という点は,従来技術にも見られたものといえる。 他方,乙6発明の完全文字 22 及びパーツ関連アニメ 24 は,原画,該原画の輪郭 に似たもしくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連 画,並びに該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想 させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画といえるような関係性を有15 するものではない。その再生順も,完全文字 22 を表示した後にパーツ関連アニメ 2 4 を表示するものであって,第一の関連画,第二の関連画,原画の順に表示するも のではない。甲11発明においても,漢字,古代文字及び絵文字が相互に似た輪郭 を有するものではあっても,その表示の順に定めはなく,古代文字及び絵文字に対 応する語句を有するものではなく,また,唱え言葉も,これらに対応する語句を含20 んだものではない。 したがって,本件発明のうち,組画の1単位として,原画,該原画の輪郭に似た 若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並 びに該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる 輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画から成る組画を組画記録媒体に記25 録する点,画像表示手段に表示するに際し,前記第一の関連画,前記第二の関連 画,及び前記原画の順に表示する点,第一の関連画に対応する語句,第二の関連画 に対応する語句,原画に対応する語句から成る語句の音声データを,音声記録媒体 に記録し,音声再生手段で再生し,前記画像表示手段が前記第一の関連画,前記第 二の関連画,及び前記原画を対応する語句の再生と同期して表示する点は,本件明 細書の従来技術に記載されていないことはもとより,甲11文献及び乙6文献のい 5 ずれにも記載がない。 そうすると,上記各点が本件発明の本質的部分というべきである。 イ 原告製品を使用したコンピューターについて 原告製品を使用したコンピューターにおいては,イラスト画(第一の関連画), 形状・イラスト画(第二の関連画)及び都道府県形状画(原画)を含む画像を1単10 位として組画記録媒体に記録しており(構成 b),その表示の際には,この順序で 表示される(構成 d)。また,イラスト画,形状・イラスト画及び原画それぞれに 対応する語句を含む語句の音声データを音声記録媒体に記録し(構成 c),その再 生を上記表示に同期して行っている(構成 d)。 したがって,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の本質的部分を備15 えているものと認められるのであって,本件発明と原告製品を使用したコンピュー ターとの相違部分は,本質的部分ではないといえる。 ウ 原告の主張について これに対し,原告は,本件明細書の記載,従来技術(甲11文献及び乙6文献) 及び出願経過に鑑みると,本件発明においては,「一の組画の画像データを選択す20 る画像選択手段」との構成(構成要件 B2)が従来技術に見られない特有の技術的 思想を構成する特徴的部分であり本質的部分に当たる旨を主張する。 しかし,従来技術と対比した場合の本件発明特有の技術的思想を構成する部分に ついては,前記アのとおりである。また,出願経過を見ても,本件意見書において は,記憶対象や,実施に当たり用いられる画像の内容,表示順序の点等における本25 件発明と従来技術(乙6文献)との違いなどは説明されているものの,「一の組 画 の画像データ」の「選択」の意義等に関する言及はない。このため,「一の組画の 画像データを選択する画像選択手段」をもって本件発明の本質的部分とする出願者 の意図はうかがわれない。 その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用 できない。 5 エ 小括 以上より,原告製品を使用したコンピューターは,均等の第1要件を充足する。 (3) 第2要件(置換可能性)について ア 本件発明の作用効果は,「楽しみを感じながら知らず知らずに特定の国家や 自治体,行政単位に関連する地域の地図上の形状,又は該地域を象徴する国旗,シ10 ンボルマーク等の模様,等の記憶対象が憶えられる」(本件明細書【0059】)こと である。 原告製品を使用したコンピューターにおいては,地方単位ではあるもののユーザ ーの行う選択に従い,各都道府県の形状及び名称を,都道府県単位で,当該形状を 含めた関連する画像の表示と,名称を含んだ対応する語句の音声再生とを同期させ15 た出力を順次行っており,ユーザーは,都道府県の形状をその名称とともに記憶す ることが可能となる。 したがって,本件発明の「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」(構 成要件 B2)を,原告製品を使用したコンピューターにおける選択手段に置き換え ても,なお本件発明の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏するものと20 いえる。 イ 原告の主張について これに対し,原告は,本件発明においては,「画像の選択」が課題である学習能 率の向上に寄与するものであること,原告製品は,個別の都道府県とその形状を結 び付けて覚えるのみならず,地方単位で当該地方に属する都道府県の名称及びその25 個数と,当該地方における都道府県の位置関係を合わせて記憶することをも目的と することなどを指摘して,原告製品は均等の第2要件を充足しない旨主張する。 しかし,前記アのとおり,原告製品を使用したコンピューターにおいても,地方 単位とはいえユーザーによる選択が行われることなどから,本件発明と同一の作用 効果を奏するものといってよい。これに,当該地方における都道府県の位置関係を 合わせて記憶するという目的ないし効果が付加されたとしても,その点が異なるも 5 のではない。 その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用 できない。 ウ 小括 以上より,原告製品を使用したコンピューターは,均等の第2要件を充足する。 10 (4) 第3要件(置換容易性)について 学習用具の記録媒体に複数の記憶対象のデータが記録されている場合に,学習方 法として,1の記憶対象ごとに選択することなく,複数の記憶対象をまとめて選択 するようにすることは,技術常識であり,原告製品の製造等の時点においても,当 業者が容易に想到し得たといえる。例えば,乙6文献には,前記(2)ア(エ)bのとお15 り,例として,10個の英単語を含む1セクションの全ての完全文字を表示するこ とを全てのセクションについて終了することによって,学習カリキュラムを終了し たものとすることが示されている。その過程での画面の切替えは,適宜の入力装置 の操作によって行うようにしてもよく,この場合,学習を行う者のペースに合わせ てカリキュラムを実行することができるとされている。ここで,その一環として,20 学習を行う者のペースに合わせてカリキュラムを実行する観点から,あらかじめ決 められた順にセクションを移ることに代えて,学習を行う者がそれぞれ異なる10 個の英単語を含む所望のセクションを選択できるようにすることは,当業者が容易 に想到し得たことといえる。 以上より,原告製品の製造等の時点において,本件発明の「一の組画の画像デー25 タを選択する画像選択手段」(構成要件 B2)を,原告製品を使用したコンピュー ターにおける選択手段に置き換えること,すなわち,本件発明のように1つの記憶 対象を選択するか,乙6文献に示唆されるような技術常識に基づき複数の記憶対象 から成る1セットを選択するかは,当業者が容易に想到することができたものであ る。 したがって,原告製品を使用したコンピューターは,均等の第3要件を充足す 5 る。これに反する原告の主張は採用できない。 (5) 第4要件(非容易推考性)について 原告は,甲11文献及び乙6文献に鑑みれば,本件特許出願時に,コンピュータ ーを備え,記憶対象とする原画とこれに関連する複数の画からなる組画の画像を逐 次表示することによって記憶対象を記憶させる物の発明は,当業者が容易に推考で10 き,また,組画を原画とこれに関連する2つの画に限定することなく構成するこ と,選択できる範囲を1つの組画ではなく複数のまとまりで構成することも,当業 者が容易に推考できたものであると主張する。 しかし,前記(2)ア(オ)のとおり,本件発明は,組画の1単位として,原画,該原 画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第15 一の関連画,並びに該原画及び第一の関連画に似た若しくは該原画及び第一の関連 画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在する第二の関連画から成る組画を組 画記録媒体に記録する点,画像表示手段に表示するに際し,前記第一の関連画,前 記第二の関連画,及び前記原画の順に表示する点,第一の関連画に対応する語句, 第二の関連画に対応する語句,原画に対応する語句から成る語句の音声データを,20 音声記録媒体に記録し,音声再生手段で再生し,前記画像表示手段が前記第一の関 連画,前記第二の関連画,及び前記原画を対応する語句の再生と同期して表示する 点において,甲11発明及び乙6発明と相違する。また,上記各点につき,本件特 許出願時に自明ないし設計的事項であったことをうかがわせる事情はない。 したがって,原告製品の構成は,本件特許出願時における公知技術と同一又は当25 業者が容易に遂行できたものとはいえない。この点に関する原告の主張は採用でき ない。 以上より,原告製品を使用したコンピューターは,均等の第4要件を充足する。 (6) 第5要件(意識的除外のないこと)について ア 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許発明の範囲から意識的に 除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するときは,均等の主張は許されな 5 いものと解されるところ,出願人が,特許出願時に,特許請求の範囲に記載された 構成中の対象商品等と異なる部分につき,対象製品等に係る構成を容易に想到する ことができたにもかかわらず,これを特許請求の範囲に記載しなかった場合におい て,客観的,外形的にみて,対象製品等に係る構成が特許請求の範囲に記載された 構成を代替すると認識しながらあえて特許請求の範囲に記載しなかった旨を表示し10 ていたといえるときには,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求 の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情が存するというべき である(最高裁平成29年3月24日第二小法廷判決・民集71巻3号359頁参 照)。 イ 原告は,組画の逐次又は一斉の表示をして記憶する人の「作業」となる部分15 を削除しつつ,組画の表示を構成要件 B2 の選択手段に限定して,明確性の欠如に 係る拒絶理由を補正すると共に,「組画を逐次又は一斉に表示して」とする構成を 削除し,かつ,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」を付加したとい う本件補正の経緯から,被告は,特許請求の範囲につき,「一の組画の画像データ を選択する画像選択手段」に客観的,外形的に限定し,これを備えない発明を本件20 発明の技術的範囲から意識的に除外したなどと主張する。 しかし,本件通知書及び本件意見書の各記載を踏まえると,「それぞれの前記記 憶対象に対応する前記組画を逐次又は一斉に表示して前記記憶対象を記憶する」の は人間が行う作業であって,物の発明としての「学習用具」の構成をなしていない などといった明確性要件に係る本件通知書の指摘に対し,被告は,本件補正におい25 て,作業の主体につき,画像選択手段,画像表示手段,音声選択手段,音声再生手 段といった「手段」とし,人が行う作業を示す部分を削除することで,これらの手 段を含むコンピューターであることを明確にしたものと理解される。それと共に, 進歩性に係る本件通知書の指摘に対しては,上記のように作業の主体を明確にした ことに加え,組画記録媒体に記録される画像データを,「1又は複数種の記憶対象 から成る記憶対象群に含まれる個別の記憶対象を表現する原画及び該原画に関連す 5 る関連事項又は関連像を表現する1又は複数種の関連画から成る組画の画像」(当 初の請求項1)から「原画,該原画の輪郭に似た若しくは該原画を連想させる輪郭 を有し対応する語句が存在する第一の関連画,並びに,該原画及び第一の関連画に 似た若しくは該原画及び第一の関連画を連想させる輪郭を有し対応する語句が存在 する第二の関連画,から成る組画の画像データ」に限定すると共に,画像表示手段10 が第一の関連画,第二の関連画,及び原画をその順に表示することとし,さらに, その表示を,これらに対応する語句の再生と同期させることとして,情報の提示方 法を限定したものである。 このような出願経過を客観的,外形的に見ると,被告は,本件補正により,人為 的作業を示す部分としての「逐次又は一斉に表示」という行為態様は意識的に除外15 しているものの,物及び方法の構成として,逐次又は一斉に表示する構成を一般的 に除外する旨を表示したとはいえない。また,「一の組画の画像データを選択する 画像選択手段」との構成を付加した点は,本件明細書に「一の組画」の画像データ の選択,表示を念頭に置いた記載があることを踏まえたものと理解されるものの (例えば【0057】),これをもって直ちに,客観的,外形的に見て,複数の組画を20 選択する構成を意識的に除外する旨を表示したものとは見られない。 そうすると,原告指摘に係る本件補正の経緯をもって,被告は,特許請求の範囲 につき,「一の組画の画像データを選択する画像選択手段」に客観的,外形的に限 定し,これを備えない発明を本件発明の技術的範囲から意識的に除外したと見るこ とはできない。この点に関する原告の主張は採用できない。 25 ウ 小括 以上より,原告製品を使用したコンピューターは,均等の第5要件を充足する。 (7) まとめ 以上のとおり,原告製品を使用したコンピューターは,均等の第1〜第5要件を いずれも充足する。したがって,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明 に係る特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,本件発明の技術的範 5 囲に属する。 3 間接侵害の成否(争点3)について 前記2のとおり,原告製品を使用したコンピューターは,本件発明の技術的範囲 に属する。また,原告製品は,DVD であり,DVD 再生装置等のコンピューターに より再生されて使用されるものであって(前記第2の2(4)),それ以外の用途が10 あるとは考え難く,また,そのような用途の存在をうかがわせる具体的な事情も見 当たらない。 そうである以上,原告製品は,本件発明の技術的範囲に属するものである原告製 品を使用したコンピューターの「生産にのみ用いる物」(特許法101条1号)に 当たる。原告は,このような原告製品を業として制作,販売していることから(前15 記第2の2(1)イ),このような原告の行為は,本件特許権を侵害するものと見な される(同条柱書)。 したがって,本件特許に係る他の請求項記載の発明について論ずるまでもなく, 被告は,原告に対し,本件特許権に基づき,原告製品の生産等の差止請求権(同法 100条1項)を有する。 20 4 結論 以上より,被告が原告に対し本件特許権に基づく差止請求権を有しないことの確 認を求める原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとお り判決する。 |
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追加 | |
裁判長裁判官5杉浦正樹裁判官10杉浦一輝15裁判官布目真利子(別紙)物件目録「歌って覚えるゴロゴロイメージ都道府県」という名称のDVD-ROM(別紙)セット画目録1北海道・東北地方(1)北海道,(2)青森県,(3)岩手県,(4)宮城県,(5)秋田県,(6)山形県,(7)福島5県2関東地方(8)茨城県,(9)栃木県,(10)群馬県,(11)埼玉県,(12)千葉県,(13)東京都,(14)神奈川県3中部地方10(15)新潟県,(16)富山県,(17)石川県,(18)福井県,(19)山梨県,(20)長野県,(21)岐阜県,(22)静岡県,(23)愛知県4近畿地方(24)三重県,(25)滋賀県,(26)京都府,(27)大阪府,(28)兵庫県,(29)奈良県,(30)和歌山県155中国・四国地方(31)鳥取県,(32)島根県,(33)岡山県,(34)広島県,(35)山口県,(36)徳島県,(37)香川県,(38)愛媛県,(39)高知県6九州地方(40)福岡県,(41)佐賀県,(42)長崎県,(43)熊本県,(44)大分県,(45)宮崎県,20(46)鹿児島県,(47)沖縄県(別紙)セット画一部抜粋表都道府県イラスト画形状・イラスト画都道府県形状画都道府県位置画1北海道2青森県※別紙「特許公報」は添付省略 |