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関連審決 無効2018-800049
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事件 令和 2年 (行ケ) 10027号 審決取消請求事件

原告ラジオメーターメディ カルアーペーエス
同訴訟代理人弁護士 北原潤一 佐藤健太郎
同訴訟代理人弁理士 杉山共永 黒川恵 藤拓也
被告 シーメンスヘルスケア ダイアグノ スティックス インコーポレーテッド
同訴訟代理人弁理士 村山靖彦 寺本光生 田部元史 阿部達彦 後藤学 黒田晋平 光末竜太
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/03/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
-1-2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2018-800049号事件について令和元年10月23日にした審決のうち,「特許第5538587号の請求項1,10に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
事案の概要
本件は,特許無効審判請求による無効審決の一部の取消訴訟である。争点は,進歩性についての認定判断の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,平成25年3月22日,発明の名称を「体液用センサーアッセンブリ」とする特許出願(特願2013-59818号。平成20年4月25日[パリ条約による優先権主張 平成19年4月27日,欧州特許庁]を国際出願日とする特許出願(特願2010-504451号)の一部を新たな特許出願としたもの)をし,平成26年5月9日,その設定登録を受けた(特許第5538587号。請求項の数10。以下「本件特許」といい,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。甲13)。
(2) 被告は,平成30年4月27日,本件特許の無効審判の請求(以下「本件審判請求」という。)をし(無効2018-800049号事件),原告は,令和元年6月3日に本件特許の請求項1〜10についての訂正請求をした(甲14,25)。
特許庁は,同年10月23日,本件審判請求について,上記訂正請求に係る訂正(以下「本件訂正」という。)を認めた上で, 「特許第5538587号の請求項1,9,10に係る発明についての特許を無効とする。特許第5538587号の請求項2ないし8に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件 審決」という。)をし,本件審決の謄本は,同月31日に原告に送達された。
2 本件特許に係る発明の要旨 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,請求項1及び10に係る発明をそれぞれ「本件訂正発明1」 「本件訂正発明10」 及びといい,請求項1〜10に係る発明を併せて「本件訂正発明」という。。
) 【請求項1】 センサーアッセンブリにおいて, 第1面及び第2面と,前記第1面上に形成されている少なくとも2つの検体センサーと,を有している第1電子配線基板であって,前記少なくとも2つの検体センサーは,電気接点と接続されている,第1電子配線基板と, 第1面及び第2面と,前記第1面上に形成されている少なくとも2つの検体センサーと,を有している第2電子配線基板であって,前記少なくとも2つの検体センサーは,電気接点と接続されている,第2電子配線基板と, 第1開口部及び第2開口部を備えた切り抜き溝を有しているスペーサと,を備えており, 前記検体センサーの少なくとも1つは,pCO2,pO2,pHの1つ又はそれ以上を測定するように構成されている血液パラメータセンサーであるセンサーアッセンブリであって, 前記第1基板,前記第2基板,及び前記スペーサは,層状構造に配置されていて,前記第1基板の前記第1面が前記スペーサの第1開口部を閉じ,前記第2基板の前記第1面が前記スペーサの第2開口部を閉じることによって,測定用セルを形成し,該測定用セルでは,前記第1基板の前記第1面上に形成されている前記検体センサーのすべてが前記スペーサの前記第1開口部を介して前記測定用セルに相対し,前記第2基板の前記第1面上に形成されている前記検体センサーのすべてが前記スペーサの前記第2開口部を介して前記測定用セルに相対し,前記測定用セルは,前記測定用セルを通って流れる流体が少なくとも実質的に直線的な運動を行えるように する形状を有し, 前記スペーサが,長さ20〜60mm,幅5〜20mm,厚さ0.2〜0.6mmの寸法を有するか,前記スペーサの切り抜き溝が,長さ10mm〜50mm,幅1mm〜5mm及び深さ0.2mm〜0.6mmの寸法を有している,センサーアッセンブリ。
【請求項2】 第1面及び第2面と,前記第1面上に形成されている少なくとも2つの検体センサーと,を有している第1電子配線基板であって,前記少なくとも2つの検体センサーは,電気接点と接続されている,第1電子配線基板と, 第1面及び第2面と,前記第1面上に形成されている少なくとも2つの検体センサーと,を有している第2電子配線基板であって,前記少なくとも2つの検体センサーは,電気接点と接続されている,第2電子配線基板と, 第1開口部及び第2開口部を備えた切り抜き溝を有しているスペーサと,を備えており, 前記第1基板,前記第2基板,及び前記スペーサは,層状構造に配置されていて,前記第1基板の前記第1面が前記スペーサの第1開口部を閉じ,前記第2基板の前記第1面が前記スペーサの第2開口部を閉じることによって,測定用セルを形成し,該測定用セルでは,前記第1基板の前記第1面上に形成されている前記検体センサーのすべてが前記スペーサの前記第1開口部を介して前記測定用セルに相対し,前記第2基板の前記第1面上に形成されている前記検体センサーのすべてが前記スペーサの前記第2開口部を介して前記測定用セルに相対し,前記測定用セルは,前記測定用セルを通って流れる流体が少なくとも実質的に直線的な運動を行えるようにする形状を有している,センサーアッセンブリであって, 前記第1基板の前記電気接点は,前記第1基板の前記第2面に配置されており,前記第2基板の前記電気接点は,前記第2基板の前記第1面に配置されている,センサーアッセンブリ。
【請求項3】 前記第2基板の前記検体センサーと前記接点は,前記センサーから前記基板を通って前記第2面へと伸び,そして前記第2面から前記基板を通って前記接点まで伸びている配線を介して接続されている,請求項2に記載のセンサーアッセンブリ。
【請求項4】 前記第2基板の一部は,前記第1基板を超えて張り出している,請求項2又は3の何れかに記載のセンサーアッセンブリ。
【請求項5】 前記第2基板の前記電気接点は,前記張り出し部分に配置されている,請求項4に記載のセンサーアッセンブリ。
【請求項6】 前記基板の内の少なくとも一方は,セラミック材料で作られている,請求項2から5の何れかに記載のセンサーアッセンブリ。
【請求項7】 前記測定用セルは,入口ポートと出口ポートを有しており,前記両ポートは,前記第1基板に形成されている,請求項2から6の何れかに記載のセンサーアッセンブリ。
【請求項8】 前記測定用セルは,入口ポートと出口ポートを有しており,前記両ポートは,前記第2基板に形成されている,請求項2から6の何れかに記載のセンサーアッセンブリ。
【請求項9】 第1面及び第2面と,前記第1面上に形成されている少なくとも2つの検体センサーと,を有している第1電子配線基板であって,前記少なくとも2つの検体センサーは,電気接点と接続されている,第1電子配線基板と, 第1面及び第2面と,前記第1面上に形成されている少なくとも2つの検体セン サーと,を有している第2電子配線基板であって,前記少なくとも2つの検体センサーは,電気接点と接続されている,第2電子配線基板と, 第1開口部及び第2開口部を備えた切り抜き溝を有しているスペーサと,を備えており, 前記第1基板,前記第2基板,及び前記スペーサは,層状構造に配置されていて,前記第1基板の前記第1面が前記スペーサの第1開口部を閉じ,前記第2基板の前記第1面が前記スペーサの第2開口部を閉じることによって,測定用セルを形成し,該測定用セルでは,前記第1基板の前記第1面上に形成されている前記検体センサーのすべてが前記スペーサの前記第1開口部を介して前記測定用セルに相対し,前記第2基板の前記第1面上に形成されている前記検体センサーのすべてが前記スペーサの前記第2開口部を介して前記測定用セルに相対し,前記測定用セルは,前記測定用セルを通って流れる流体が少なくとも実質的に直線的な運動を行えるようにする形状を有している,少なくとも実質的にハウジング内に封入されているセンサーアッセンブリであって, 前記第1基板の電気接点と前記第2基板の電気接点は同じ方向を向いているセンサーアッセンブリ。
【請求項10】 第1面及び第2面と,前記第1面上に形成されている少なくとも2つの検体センサーと,を有している第1電子配線基板であって,前記少なくとも2つの検体センサーは,電気接点と接続されている,第1電子配線基板と, 第1面及び第2面と,前記第1面上に形成されている少なくとも2つの検体センサーと,を有している第2電子配線基板であって,前記少なくとも2つの検体センサーは,電気接点と接続されている,第2電子配線基板と, 第1開口部及び第2開口部を備えた切り抜き溝を有しているスペーサと,を備えており, 前記第1基板,前記第2基板,及び前記スペーサは,層状構造に配置されていて, 前記第1基板の前記第1面が前記スペーサの第1開口部を閉じ,前記第2基板の前記第1面が前記スペーサの第2開口部を閉じることによって,測定用セルを形成し,該測定用セルでは,前記第1基板の前記第1面上に形成されている前記検体センサーのすべてが前記スペーサの前記第1開口部を介して前記測定用セルに相対し,前記第2基板の前記第1面上に形成されている前記検体センサーのすべてが前記スペーサの前記第2開口部を介して前記測定用セルに相対し,前記測定用セルは,前記測定用セルを通って流れる流体が少なくとも実質的に直線的な運動を行えるようにする形状を有している,センサーアッセンブリであって, 前記検体センサーは,pCO2,pO2,pHの1つ又はそれ以上を測定する血液パラメータセンサーである,センサーアッセンブリ。
3 本件審決の理由の要旨等 (1) 甲1(Joseph Wang 他「Coated Amperometric Electrode Arrays forMulticomponent Analysis」Analytical Chemistry Vol.62, No.18, p1924-1927,1990年)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)の認定 「多成分分析を行う4電極薄層フローセルであって, 作用電極C1及び作用電極C2を有するC1C2側ブロック,切り抜き空間を有するD2スペーサ,切り抜き空間を有するD1スペーサ,作用電極C3及び作用電極C4を有するC3C4側ブロックの順で層状構造に配置され, C 1C 2側ブロックのD 2スペーサ側の面が,D 2 スペーサの切り抜き空間のC 1C2側ブロック側の開口部分を閉じ,C 3C4側ブロックのD 1 スペーサ側の面が,D1スペーサの切り抜き空間のC 3C4側ブロック側の開口部分を閉じることでセルを形成し, 作用電極C1及び作用電極C2は,上記セルに相対するようにC1C2側ブロックのD2スペーサ側の面にあり,それらに接続する配線はD 2スペーサ側と反対側の面に出ており,作用電極C3及び作用電極C4は,上記セルに相対するようにC3C4側ブロックのD1スペーサ側の面にあり,それらに接続する配線はD 1スペーサ側と反対 側の面に出ており, C1C2側ブロックには溶液入り口A及び溶液出口Bがあり,溶液は溶液入り口Aから入り,上記セルを通り,溶液出口Bから出て行くものであり, そして,上記各配線はボルタメトリ分析器に接続され,各電極のフローインジェクション応答が記録される, 4電極薄層フローセル。」 (2) 本件訂正発明1及び10に係る容易想到性についての判断 ア 本件訂正発明1について (ア) 甲1発明との一致点及び相違点 本件訂正発明1と甲1発明とは,次の一致点で一致し,次の相違点1及び2で相違する。
(一致点) 「センサーアッセンブリにおいて, 第1面及び第2面と,前記第1面上に形成されている少なくとも2つの検体センサーと,を有している第1電子配線基板であって,前記少なくとも2つの検体センサーは,電気接点と接続されている,第1電子配線基板と, 第1面及び第2面と,前記第1面上に形成されている少なくとも2つの検体センサーと,を有している第2電子配線基板であって,前記少なくとも2つの検体センサーは,電気接点と接続されている,第2電子配線基板と, 第1開口部及び第2開口部を備えた切り抜き空間を有しているスペーサと,を備えており, 前記第1基板,前記第2基板,及び前記スペーサは,層状構造に配置されていて,前記第1基板の前記第1面が前記スペーサの第1開口部を閉じ,前記第2基板の前記第1面が前記スペーサの第2開口部を閉じることによって,測定用セルを形成し,該測定用セルでは,前記第1基板の前記第1面上に形成されている前記検体センサーのすべてが前記スペーサの前記第1開口部を介して前記測定用セルに相対し,前 記第2基板の前記第1面上に形成されている前記検体センサーのすべてが前記スペーサの前記第2開口部を介して前記測定用セルに相対し,前記測定用セルは,前記測定用セルを通って流れる流体が運動を行えるようにする形状を有している,センサーアッセンブリ。」 (相違点1) スペーサが有している切り抜き空間(前者),第1基板,第2基板及び前記スペーサが層状構造に配置されることによって形成される測定用セルの形状(後者)が, 本件訂正発明1では,前者について「長さ10mm〜50mm,幅1mm〜5mm及び深さ0.2mm〜0.6mmの寸法を有している」 「溝」であり,後者について,流れる流体が「少なくとも実質的に直線的な」運動を行えるようにする形状であるのに対し, 甲1発明では,前者について,D2スペーサ及びD1スペーサが有する切り抜き空間が「溝」とはいえず,後者について,溶液が「少なくとも実質的に直線的な」運動を行えるようにする形状とは特定されていない点。
(相違点2) 検体センサーについて,本件訂正発明1では,検体センサーの少なくとも1つは,「pCO2,pO2,pHの1つ又はそれ以上を測定するように構成されている血液パラメータセンサーである」のに対して,甲1発明では,検体センサーがそのようなものであるとは特定されていない点。
(イ) 相違点1に関する判断 a 甲2(特表2006-517652号公報)には, 「検出チャンバに流れる流体をそれに配置されている複数の電極でアッセイする技術において,検出チャンバの形状が細長い直線的なものであること」という技術的事項(以下「甲2技術」という。)が,甲3(特表平9-509485号公報)には,「フローチャネルに流れる試験サンプルをそれに内蔵されている複数の電極で検出する技術において,フローチャネルが細長い直線的なもの,すなわち溝であること」という技術的 事項(以下「甲3技術」という。)が,甲4(米国特許第5916425号明細書)には,「フローセルに流れる流体をそこにある複数の電極で分析する技術において,フローセルの形状が細長い直線的なものであること」という技術的事項(以下「甲4技術」という。)がそれぞれ記載されている。
b 甲2技術の「検出チャンバ」,甲3技術の「フローチャネル」及び甲4技術の「フローセル」は, 「測定用セル」に相当し,それらの形状が細長い直線的なものであることが記載されているから,測定用セルに流れる流体を複数の電極で検出する技術において,その測定用セルの形状を溝などの細長い直線的なものとすることは,本件特許の優先日(以下「本件優先日」という。)前の周知技術であり,この溝などの細長い直線的なものは,そこを通って流れる流体が「少なくとも実質的に直線的な」運動を行うものである。
甲1発明は,セルに流れる溶液を複数の電極で検出する技術であり,上記周知技術に鑑み,その溶液が流れる「セル」を溝などの細長い直線的なものとする,すなわち,D2スペーサ及びD1スペーサが有する切り抜き空間を「溝」とし,C 1C2側ブロック,D2スペーサ,D1スペーサ,C3C4側ブロックを順に層状構造に配置することによって形成されるセルの形状を,溶液が「少なくとも実質的に直線的な」運動を行えるようにする形状とすることは,当業者が容易になし得たことである。
なお,空間として菱餅状のような形(甲1の Figure 1.)にする理由が甲1には記載されておらず,そのような形に描いた技術的な特段の事情があるともいえないから,甲1発明において「セル」を溝などの細長い直線的なものにすることに阻害要因は認められない。
c 電極を用いて生化学的な成分分析を行う装置において,そのフローセルの大きさは,標本サイズ,標本量によって適宜設計されるものであり,例えば,甲2(段落【0174】)には,フローセルの寸法(標本が電極によって検出される場所,すなわち本件訂正発明1の「溝」部分の寸法に相当するもの)として,幅0.05mm〜20mm,高さ0.05〜0.2mm,体積0.1〜1000μLの範 囲のものが例示されており,これは,本件訂正発明1の溝の大きさ程度であり,セルに流れる溶液を複数の電極で検出する技術の甲1発明において,上記切り抜き空間を「溝」とする際に,長さ10mm〜50mm,幅1mm〜5mm及び深さ0.2mm〜0.6mmの寸法を有する溝とすることは当業者において通常になし得る設計事項にすぎない。
(ウ) 相違点2に関する判断 甲1発明の「4電極薄層フローセル」は, 「溶液」を「多成分分析」するものであり,甲1には「生物医学」の用途として用いられることが示されている。
そして,甲2(段落【0061】)には,複数の電極で複数の成分を分析する対象として「血液」が記載されており,さらに,甲4(4欄63行〜67行,8欄24行〜29行)にも記載されているように,血液パラメータセンサーとしてpCO 2,pO2,pHを測定するものは本件優先日前に周知であるから,甲1発明において,血液を多成分分析しようとして,4つの作用電極C 1, 2, 3及びC4をpCO2, C CpO2,pHの1つ又はそれ以上を測定するように構成されている血液パラメータセンサとすることは,当業者が容易になし得たことである。
(エ) 効果について 本件明細書の段落【0020】の記載について,流体が「少なくとも実質的に直線的な」運動を行えるようにする形状の効果として, 「濯ぎと洗浄は著しくやり易くなり,気泡形成の危険性は小さくなる」との効果は,当業者が予期し得る範囲のものである。
(オ) まとめ したがって,本件訂正発明1は,甲1発明並びに甲2〜甲4に記載された事項から導出される周知技術及び甲2,4に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
イ 本件訂正発明10について (ア) 甲1発明との相違点 本件訂正発明10と甲1発明とは,上記ア(ア)の相違点2及び次の相違点3で相違する。
(相違点3) スペーサが有している切り抜き空間(前者),第1基板,第2基板及び前記スペーサが層状構造に配置されることによって形成される測定用セルの形状(後者)が, 本件訂正発明10では,前者について「溝」であり,後者について,流れる流体が「少なくとも実質的に直線的な」運動を行えるようにする形状であるのに対し, 甲1発明では,前者について,D2スペーサ及びD1スペーサが有する切り抜き空間が「溝」とはいえず,後者について,溶液が「少なくとも実質的に直線的な」運動を行えるようにする形状とは特定されていない点。
(イ) 相違点2に関する判断 上記ア(ウ)のとおりである。
(ウ) 相違点3に関する判断 相違点3は,本件訂正発明1の上記ア(ア)の相違点1に対応するもので,相違点1の「長さ10mm〜50mm,幅1mm〜5mm及び深さ0.2mm〜0.6mmの寸法を有している」との構成を含まないものであるから,上記ア(イ)のとおり,当業者が容易になし得たことである。
(エ) まとめ したがって,本件訂正発明10は,甲1発明並びに甲2〜甲4に記載された事項から導出される周知技術及び甲2,4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
原告主張の取消事由
1 取消事由1(本件訂正発明1と甲1発明の相違点の看過) 本件審決は,次のとおり,本件訂正発明1と甲1発明の三つの相違点を看過しており,これらの相違点のいずれについても判断をしていないことから違法である。
(1) 相違点の看過@(スペーサ) ア 本件訂正発明1は,「第1基板の第1面がスペーサの第1開口部を閉じ,第2基板の第1面がスペーサの第2開口部を閉じることによって,測定用セルを形成」することを特定している。このようにして測定用セルを形成することができるのは,本件訂正発明における「スペーサ」が単一の部材であるからにほかならない。
このことは,本件特許に対応する米国特許US8728288B2(甲30)のクレーム1において,「スペーサ」が「a spacer」と表記されていることからも裏付けられる。また,本件明細書にも,その実施例において,スペーサが1枚であることのみが記載されている。
イ 他方,甲1発明は,D1スペーサとD2スペーサという2枚のスペーサを備えているところ, 「第1基板の第1面がスペーサの第1開口部を閉じ,第2基板の第1面がスペーサの第2開口部を閉じ」ることが甲1に記載されているとしても,D1スペーサの「第1開口部」の反対側の面の開口部とD 2スペーサの「第2開口部」の反対側の面の開口部とが閉じられなければ,「測定用セル」は形成されないから,上記記載だけでは,D1スペーサ及びD2スペーサが閉じられることが特定されておらず,測定用セルが形成されるとはいえない。
ウ したがって,本件訂正発明1においてスペーサは1枚の単一の部材であるのに対し,甲1発明では2枚のスペーサが存在する点で,両発明は相違している。
それゆえ,本件審決の甲1発明の認定(前記第2の3(1))のうち,セルの形成に係る部分には誤りがある。
エ 本件審決は,上記相違点を看過して,甲1発明の2枚のスペーサのそれぞれが本件訂正発明1のスペーサに当たるのか,両スペーサが一体となって本件訂正発明1のスペーサに当たるのかを明示的に認定せず,両スペーサがいかなる意味で本件訂正発明1のスペーサに相当するか説明することもなく,甲1発明の「C1C2側ブロックのD2スペーサ側の面が,D2スペーサの切り抜き空間のC1C2側ブロック側の開口部分を閉じ,C3C4側ブロックのD1スペーサ側の面が,D1スペーサの切り抜き空間のC 3C4側ブロック側の開口部分を閉じることで」「形成」され る「セル」は,本件訂正発明1の「前記第1基板,前記第2基板,及び前記スペーサは,層状構造に配置されていて,前記第1基板の前記第1面が前記スペーサの第1開口部を閉じ,前記第2基板の前記第1面が前記スペーサの第2開口部を閉じることによって」「形成」される「測定用セル」に相当すると認定した。
(2) 相違点の看過A(基板) ア 「基板」とは「電子部品を組み込むプリント板。また,集積回路を組み込むシリコンの単結晶板」であり(甲31)「板」とは「@材木を薄く平たくひき ,わったもの。A金属や石などを薄く平たくしたもの。」であって「薄く」「平たい」形状のものである(甲32)。そして,本件訂正発明1の電子配線基板は,「薄く」「平たい」形状で,「電子部品を組み込」んだものである。
他方,甲1発明における「C1C2側ブロック」及び「C3C4側ブロック」は, 「薄く」なく「平たい」ともいえない。
したがって,本件訂正発明1は「電子配線基板」を備えるのに対し,甲1発明は「基板」ではなく「ブロック」を備えているのみである点で,両発明には相違点がある。
本件審決は,上記相違点を看過して,甲1発明の「C 1 C 2 側ブロック」及び「C3C4側ブロック」 本件訂正発明1の が, 「電子配線基板」に当たると認定した。
イ 被告の主張について (ア) 被告は,次の甲1発明のFigure 1.中,ガラス状炭素の表面に施された被膜(●で示された部分。以下「●の部分」という。)が,本件訂正発明1の「検体センサー」に相当すると主張する。
しかし,本件訂正発明1における検体センサーは,化学物質の濃度の様な物理的パラメータを測定することのできるあらゆるセンサーである(本件明細書の段落【0040】。これに対して,甲1発明の各作用電極に施された被膜とは, ) 「5mLの溶液を塗布」し,空気乾燥されたことによって形成される膜であって,当該膜自体で化学物資の「物理的パラメータ」を測定することなどできない。したがって,当該被膜が検体センサーに相当するという被告の主張は誤りである。なお,被告の主張は,作用電極C1〜C4がそれぞれ検体センサーに相当するとの本件審決の認定とも異なっている。
また,本件明細書の段落【0013】及び【0043】の記載によると,本件訂正発明1の電子配線基板に担持される「配線」とは,検体センサーを電気接点に接続するために,検体センサーと電気接点の間に存在するものである。そして,本件明細書の段落【0021】から,電気接点は「基板上に設置」されているから,検体センサーと電気接点との間の「配線」も同じく基板上に担持されると理解できる。
しかるに,甲1発明において被告が「配線」に相当すると主張するもの(Figure1.のC1〜C4の各表記の横の実線又は点線で表記された,ブロックの外側にある線分)は,検体センサーを電気接点に接続するための「配線」ではなく,本件明細書の段落【0049】で「電気接点5cは,適した配線を介して分析器に接続されていてもよい」との文脈で言及されている電気接点と分析器とを接続するための配線である。
したがって,被告の主張によっても,また,本件審決の認定によっても,甲1発明における検体センサーとされる部分と電気接点の間に「配線」は存在しておらず, 仮に,甲1発明の「ブロック」が「基板」に当たることを前提としても,甲1発明には,検体センサーを電気接点に接続するための「配線」は存在せず,当該「ブロック」は,このような「配線」を担持しているとはいえないから,甲1発明のブロックは,「電子配線基板」に相当しない。
(イ) 被告は,甲1のFigure 1.の寸法を参照して,甲1発明のブロックの厚みが1cm程度であることをもって「平たい板状の部材」と主張していると解されるが,仮に,当該ブロックの厚み(横方向の長さ)が1cm程度であるとすれば,同時に,ブロックの高さは2cm程度,奥行も2〜3cm程度であることが上記Figure 1.から理解されるのであり,当該ブロックの各辺の長さにはそれほど差がなく,まさに「かたまり,角塊」 (甲34)という意味での「ブロック」というべき直方体(六面体)で,「平たい板状の部材」などではない。
(3) 相違点の看過B(電気接点) ア(ア) 本件明細書の段落【0021】【0043】【0049】及び【00 , ,51】並びに【図1】における電気接点に関する記載等からは,本件訂正発明1における「電気接点」とは,「基板上に配置」され,「配線」や「小さいボア」を介して「検体センサー」に電気的に接続され, 「検体センサー」を接続する対象であることが理解できる。
本件審決は,甲1発明の「作用電極C1及び作用電極C2」及び「作用電極C3及び作用電極C4」がそれぞれ「配線」 「に接続する」ことは,接続箇所が電気接点といえることから,本件訂正発明1の「少なくとも2つの検体センサーは,電気接点と接続されている」ことに相当すると,甲1発明における「作用電極」と「配線」の接続箇所を「電気接点」としたものと理解できる認定をした。
しかし,甲1発明において「作用電極」と「配線」の接続箇所を本件審決の認定のように「電気接点」と理解しようとすると,それは, 「基板上」ではなく「ブロックの内部」に存在し, 「配線」を介さずに「作用電極」と接続されており,接続箇所の呼称にすぎないため「作用電極」を接続する対象になり得ない。
したがって,甲1発明における「作用電極」と「配線」の接続箇所を本件訂正発明1における「電気接点」ということはできず,甲1発明は, 「電気接点」が存在しないという点で本件訂正発明1と相違する。
本件審決は,上記相違点を看過している。
(イ) なお,本件審決は,甲1のFigure 1.の作用電極について,円柱部分とそれに接続している線部分があるところ,円柱部分が作用電極C 1〜C4であり,線部分がボルタメトリ分析器に接続されることになる「配線」であると判断したが,Figure 1.におけるC1〜C4の表示は,円柱部分のみに付されているというよりはむしろ,配線部分に付されている。そのため,円柱部分が作用電極C 1〜C4の一部であるとはいえるが,円柱部分のみを作用電極とし,そこから配線部分を恣意的に分けて論じることはできない。A教授の陳述書(甲29。 「A陳述書」 以下 という。)で述べられているように,甲1の作用電極は,円柱部分と配線部分とが一体となったもので,配線部分の他端(Figure 1.では省略)は,ボルタメトリ分析器の電気接点に電気的に接続されていると解するのが妥当である。また,本件審決は,円柱部分が溶液と接する部分で,線部分がボルタメトリ分析器に接続されることになることを理由として,上記のように二つの部分に分ける説示をしているが,溶液と接するのは,円柱部分とされた部分のうち,溶液と接する端面に露出する感知部分のみである。それゆえ,本件審決の甲1発明の認定(前記第2の3(1))のうち,以上の点に沿わない部分には誤りがある。
イ 被告が,甲1発明のどの部分をもって「電気接点」に当たるというのかは,明確でない。また,「作用電極」と,「作用電極のガラス状炭素の表面に施された被膜」とは別のものであり,この点からも被告の主張は明確でない。被告が甲1発明の構成を明確に説明できていないことや,上記ア(イ)のとおり本件審決も同様であることは,甲1発明と本件訂正発明1との構成に相違があることの証左であるといえる。
2 取消事由2(本件訂正発明1に関する相違点1についての判断の誤り) 測定用セルに関し,試料として用いる血液の量を少なくするという本件訂正発明1の目的と,セルの中で試料と試薬とを分散・混合するという甲1発明の目的は異なっている。それゆえ,次のとおり,甲1発明に基づいて,相違点1に係る本件訂正発明1の構成に当業者が想到する動機付けはなく,相違点1は当業者にとって容易に想到できるものではないから,本件審決の判断には誤りがある。
(1) 技術的理由により測定用セルの形状が異なること ア(ア) 本件訂正発明1は,血液ガスの複数の成分分析を行い,かつ,分析に用いる血液の量を少なくするために,センサーアッセンブリの小型化を目的とするもので,その目的は,直線的で平坦な測定用セルを備えることをもって達成されているといえる。
(イ) これに対し,甲1発明は,フローインジェクション分析(試料と試薬とを細管内又は混合室内で分散・混合し,分析対象成分と試薬とを反応させることを基本とする分析方法)に関するもので,甲1発明の測定用セルの菱餅状の形は,フローインジェクション分析に特有の技術的な理由による形状である。それゆえ,甲1発明の認定に当たっては,「多成分のフローインジェクション分析を行う4電極薄層フローセルであって」というように, 「分析」が「フローインジェクション分析」であることを認定すべきである。
甲1発明においては,分析対象であるサンプル流体は,キャリア流体で包囲されながら測定用セルまで運搬される。そして,測定用セルにおいて試料と試薬が分散・混合されるところ,測定用セルの形が菱餅状であることによって,サンプル流体はキャリア流体に包囲されたまま測定用セルを通過することになり,その結果,サンプル流体は測定用セルの内側の壁に触れず,測定用セルの内側にサンプル流体が残留することがない。このことは,測定用セルを交換せずに,異なる種類のサンプルを分析するフローインジェクション分析においては特に重視される。異なるサンプル流体が測定用セル内で混合されることを避けられるからである。これに対し,本件訂正発明1のような直線状のセルでは,サンプルが壁に接触しやすくなる。
また,甲1発明においては,測定用セル内で試料と試薬が分散・混合されることが予定されているが,本件訂正発明1のような直線状の測定用セルではそれは不可能である。
以上のことは,A陳述書(甲29)や,B教授の陳述書(甲33。以下「B陳述書」という。)で述べられている。
(ウ) したがって,当業者が,甲1発明に基づいて相違点1に係る本件訂正発明1の構成に至ることには動機付けがなく,阻害要因がある。
イ 被告の主張について (ア) 周知技術(乙1〜3)の主張について 乙1〜3に基づく被告の主張は,「測定用セルに流れる流体を複数の電極で検出する技術」のように過度に抽象化された技術を前提としている点で誤りである。また,次のとおり,乙1〜3から,フローインジェクションの測定用セルの形状として細長い直線的なものが用いられることが周知であるともいえず,当業者が甲1発明の測定用セルを直線状にすることを想到することはない。
a 乙1〜3は,いずれも甲1発明と性格を異にするもので,被告が主張するような周知技術は認定できない。
甲1発明は,フローインジェクション分析に用いられるものである点で,本件訂正発明1と大きく異なるところ,甲1の記載内容及び甲1の題名が「多成分分析用の被覆電流測定電極アレイ」であることからも分かるとおり,甲1発明は,複数の電流測定電極それぞれを異なる試薬で被覆して電極の表面に選択透過性被膜を形成することを前提とする。当該被膜は,分析対象の成分を分子サイズや電荷等の性質によって選択的に透過させるから,各分析物のアレイの応答パターンにより,個々の成分について独特な特性評価を行うことができる。このように,甲1発明は,電極表面を被覆する選択透過性被膜を用いた分析方法を提供することを特徴とするもので,本件訂正発明1のような血液ガスの成分分析を行う発明とは全く性質を異にするものであり,そのような実態に着目すると,乙1〜3に記載された発明とも全 く性質を異にする発明である。
b 乙1〜3について個別に検討しても,次のとおり,被告の主張には理由がない。
(a) 乙1(庄子習一他「Micro flow cell for blood gas analysisrealizing very small sample volume」Sensors and Actuators B,8,p205-208,1992年)に,血液ガスモニタリング用のマイクロフローセルがフローインジェクション分析に用いられることを直接的に記載した部分はなく,マイクロフロー制御デバイスの有益な応用として,液体クロマトグラフィーやフローインジェクション分析法を統合することがあるとの一般論が述べられているにすぎない。むしろ,乙1のマイクロフローセルは, 「血液ガスモニタリング」のために作製されたものと理解される。
また,乙1では,血液ガスの成分を分析する際には, 「試料フローによって各センサーで出力電圧の望ましくないシフトが発生するため,測定中にはフローを停止」しており,試料と試薬が流れている中で測定が行われるフローインジェクション分析と異なっている。このことは,フローインジェクションシステムの基本的な原理が,当業者において血液試料のpO2,pCO2及びpHを測定するために,このような装置を用いることを明確に妨げる旨のA陳述書(甲29)における説明を裏付けている。
(b) 乙2(米国特許第4533456号明細書,1985年)では,試料と試薬の分散・混合が予定されておらず,フローインジェクション分析の定義(甲28)に当たらない。むしろ,乙2に記載されているフローセルでは,アクセプタ(電解質)流の流路とキャリア流の流路とが区分けされており(乙2の訳文の段落【0017】,乙2において,分析対象は,アクセプタを介して間接的に検出・ )分析される。このように,乙2は,JISで定義されるようなキャリア流体(試薬)と試料を分散・混合させるフローインジェクション分析(甲28)とは相反する性質を有している。したがって,乙2に記述があるフローインジェクション分析とは, 実質的には甲1発明が用いられるような一般的なフローインジェクション分析とは大きく異なるものである。
(c) 乙3(Philippe Arquint他「Micromachined Analyzers on aSilicon Chip」CLINICAL CHEMISTRY,Vol.40,No.9,p1805-1809,1994年)における「フローインジェクション分析」(flow-injection analysis)との文言は,シリコンベースの微細加工された分析装置に関する一般論について記載されているにすぎない。
c 仮に,フローインジェクション分析一般において直線状のセルが用いられることが周知であるとしても,当該周知技術を甲1発明に適用した結果,甲1発明のセルの形状の技術的意義を無に帰すのであれば,当該周知技術を甲1発明に適用することには阻害要因があるといえ,相違点1に係る本件訂正発明1の構成について想到することはできないことに変わりはない。したがって,甲1発明の測定用セルの形状に技術的な理由がある以上,被告が主張するような周知技術が認められるとしても,甲1発明に基づいて,本件訂正発明1の構成に至ることが容易であることにはならない。
(イ) 試料と試薬の分散・混合について 甲1発明の測定用セルにおいては乱流が発生するのであり,流れが乱流になることによる混合は起きないと考えるのが技術常識であるとの被告の主張に根拠はない。
このことは,血管中の血液の流れに関する一般的な層流と乱流の理解によっても裏付けられる(甲35) 血管のような微細な管であっても箇所によっては乱流が生 。
じ得るのであり,甲1の菱餅状の形の測定用セルであれば,乱流が生じることはいうまでもない。なお,B教授は, 「予測できない乱流」に限定して,それが生じないように設計されていることを説明しているにすぎず,むしろ,予測できる乱流が生じることは当然の前提としている。このことは,JISがフローインジェクション分析一般において,試料と試薬の分散・混合が生じることを前提としていること(甲28)とも整合する。
また,被告は,甲1発明においては,作用電極が試薬により被覆されており,測定用セルにおいて試料と試薬とが分散・混合されるわけではない旨主張するが,甲1発明において電極を被覆している試薬(Reagent)は,電極に選択透過性被膜を形成するためのものであり,フローインジェクション分析において試料と混合・反応させる試薬とは異なるものである。
(ウ) サンプル流体が測定用セルの内側の壁に触れないことについて キャリア流体とサンプル流体が分散・混合されるとしても,測定用セルはキャリア流体で満たされており,サンプル流体がその中心部分を通過することになるところ,キャリア流体と混合したサンプル流体が測定用セルの内側の壁にまで達することは考えられない。したがって,試料と試薬が分散・混合されるという原告の主張と,サンプル流体はキャリア流体に包囲されたまま測定用セルを通過することになるからサンプル流体は測定用セルの内側の壁に触れないという原告の主張は,矛盾していない。仮に,キャリア流体に混合したサンプル流体が多少測定用セルの内側の壁に触れたとしても,その量はごくわずかであるから,当該サンプル流体が残留し,異なるサンプル流体と混合するということはおよそ考えられない。
また,被告は,フローインジェクション分析において,サンプル流体はキャリア流体を押しのけて注入されるなどと主張するが,その意味は不明である。フローインジェクション分析においては,キャリア流体が継続的に流れているところにサンプル流体が注入されるため,少なくとも測定用セルを通過する際には,サンプル流体はキャリア流体に包囲されている状態になる。甲28の4頁の図は,細管内を通過する流体の状態を模式的に表したものにすぎず,甲1発明のような菱餅状の形の測定用セルを通過する状態を表したものではない。
(エ) 甲1発明の測定用セルが菱餅状の形である理由について 被告は,甲1発明の測定用セルの技術的意義について,複数の作用電極を測定用セルの中心に配置することを可能とするという点及び作用電極における電気化学的な反応時間を考慮して測定用セルに流れる流体の流速を遅くさせるという点を主張 するところ,原告も,測定用セルを菱餅状の形とすることによりそうした効果が生じること自体は否定しない。しかし,少なくとも,甲1の作成者であるA教授が測定用セルを菱餅状の形にした理由は,前記ア(イ)のとおりである。
他方,被告は,上記二つの点において,甲1発明の測定用セルの形状に理由があることを認めているところ,当該理由が,甲1発明の測定用セルの形状を直線状に変更する際に阻害要因とならず,また,直線状に変更することについて動機付けがあることを主張していない。配置する作用電極の寸法又は反応時間によっては,測定用セルの形が必ずしも菱餅状である必要はないとの被告の主張には,論理の飛躍がある。被告の主張は,むしろ,相違点1に係る構成に想到することについて動機付けがなく,阻害要因があることを裏付けているといえる。
(2) 技術的理由により測定用セルの寸法のオーダーが異なること ア(ア) 本件訂正発明1は, 「スペーサの切り抜き溝が,長さ10mm〜50mm,幅1mm〜5mm及び深さ0.2mm〜0.6mmの寸法を有している」構成を備えているところ,この切り抜き溝によって形成される測定用セルは,内容積が2mm3〜150mm3(2μL〜150μL)となる。これも,試料として用いる血液の量を少なくするという目的によるものである。
(イ) 他方,フローインジェクションシステムにおいて用いられる混合器(本件訂正発明1の測定用セルに相当する。 は, ) その内容積が100μL〜1000μLとされている(甲28の5頁15行〜18行)。甲1発明について,セルの寸法は記載されていないが,甲1発明がフローインジェクション分析に用いられるもので,セルの中においてキャリア流体に包囲されつつ試料と試薬とを分散・混合するためにはセルが一定の容積を有する必要があることから,その容積は少なくとも100μL〜1000μLという範囲を想定しているものといえる。
(ウ) 以上のように,技術的な理由により測定用セルに一定の容積が求められる甲1発明から,本件訂正発明1のような寸法の構成に至る動機付けはない。また,セルの容積を小さくすると,試料と試薬の分散・混合が行えなくなるため,阻 害要因がある。
イ 被告の主張について 乙3について, 「フローインジェクション分析」は一般論の中で言及されているのみであり,乙3に記載されているフローセルと無関係であることは,前記(1)イ(ア)b(c)のとおりである。なお,原告は,フローインジェクション分析において用いられる混合器が一般的に100μL〜1000μLとされていること(甲28)から,甲1発明と本件訂正発明1との間で寸法の違いが大きいということを主張しているのであり,フローインジェクション分析において上記寸法の範囲外の混合器を有するセルが例外的に用いられるとしても,そのことは,甲1発明に基づいて本件訂正発明1のような寸法の構成に至ることの動機付けがあることを意味しない。
また,甲1発明の測定用セルにおいて,流れが乱流になることによる混合は起きないと考えるのが技術常識であるとの被告の主張に根拠がないことは,前記(1)イ(イ)のとおりである。
3 取消事由3(本件訂正発明1に関する相違点2についての判断の誤り) (1) フローインジェクション分析では血液ガスの分析が想定されないこと 以下のとおり,フローインジェクション分析では血液ガスの分析が想定されず,甲1発明に基づいて,血液ガスのpO2,pCO2及びpHを測定する本件訂正発明1の構成に至る動機付けは存在しない。したがって,甲1発明に基づいて,相違点2に係る本件訂正発明1の構成に当業者が想到する動機付けはなく,相違点2は当業者にとって容易に想到できるものではないから,本件審決の判断には誤りがあり,そのような誤った判断により本件訂正発明1の進歩性を否定した本件審決は違法である。
ア 甲1には,分析の対象として「血液」が明示されていないが,それは,甲1発明が用いられるフローインジェクション分析においては,血液ガスを分析することを想定していないためである。
甲1発明は,繊細なpO2,pCO2及びpHの測定に適しておらず,また,甲1 発明で採用されている電流測定センサーは,pO 2,pCO2及びpHの測定に適していない。これらのことは,A陳述書(甲29)やB陳述書(甲33)で述べられている。
イ 血液ガス分析用のセンサーと甲1発明の作用電極は,全く異なる。
甲4の段落【0058】【0062】及び【0065】の記載によると,甲4に ,記載されている血液パラメータセンサーについては,単にセンサーに膜を形成するだけではなく,センサーと膜の間に血液ガスを溶解させる溶液(ゲル)を設ける必要がある。そして,センサーを覆う形で溶液(ゲル)と膜を設けるためには,センサー及び基板の設計の段階で,溶液(ゲル)を充填する空隙を設けるなどしなければならない。血液ガス分析用のセンサーは,それが設けられる基板と一体となっており,そのセンサー及び基板に対して血液ガスを溶解させる溶液(ゲル)部分を設け,かつ,膜を形成するのである。
これに対し,甲1発明は,上記2(1)イ(ア)aのとおり,電極の表面に試薬を塗布して膜を形成するという発明であり,甲1発明の作用電極と血液ガス分析用のセンサーとは,構成,測定対象及び測定手法が全く異なっている。
したがって,甲1発明の作用電極だけを血液ガス分析用のセンサーと入れ替えることはできず,甲1に基づいて相違点2に係る本件訂正発明1の構成に至る動機付けはなく,阻害要因があるといえる。
ウ 本件審決は,甲1〜4を組み合わせるに当たり,これらの発明を「測定用セルに流れる流体を複数の電極で検出する技術」と上位概念化し,このような上位概念化のもとで,甲1〜4が同種の技術であることを前提として,相違点2について容易想到と判断している。そうでなければ,甲2や甲4の記載をもって,甲1と組み合わせることはできない。
しかし,各電極表面に異なる選択透過性被膜を形成し,電極ごとに異なる分析対象を透過・検出させることによって特性評価を行うという甲1発明の特徴からすると,甲1発明について,上記のように上位概念化して,甲2〜4と同種のものとす ることはできない。
したがって,仮に,血液パラメータセンサーとしてpCO2,pO2及びpHを測定するものが本願優先日前に周知であると認定できるとしても,その周知技術を甲1に組み合わせる動機付けはない。
(2) 被告の主張について ア 周知の技術的事項(乙1〜4)の主張について 以下のとおり,乙1〜4に基づいて,フローインジェクション分析一般によって,pO2,pCO2及びpH用の測定を行えるという周知の技術的事項は認められない。
(ア) 乙1のマイクロフローセルについて,フローインジェクション分析に用いられることの直接的な記載がないこと, 「血液ガスモニタリング」のために作製されたものであること,乙1において血液ガスの成分を分析する際に「測定中にはフローを停止」していることがA陳述書(甲29)における説明を裏付けていることなどは,前記2(1)イ(ア)b(a)のとおりである。
(イ) 乙2が一般的なフローインジェクション分析を想定していないことは,前記2(1)イ(ア)b(b)のとおりであり,乙2の記載がフローインジェクション分析一般において共通する事項であるとはいえない。また,乙2では,pO2センサーが開示されているのみで,pCO2センサーやpHセンサーは開示されていない。
(ウ) 乙3について, 「フローインジェクション分析」は一般論の中で言及されているのみで,乙3に記載されているフローセルとは無関係であることは,前記2(1)イ(ア)b(c)のとおりである。
乙3で言及されている「pO2,pCO2,およびpH用の血液ガスセンサー」は,それに先立つ記載からして,マイクロポンプとイオン感応性センサーを統合した装置や,マイクロポンプとリン酸塩用の光検知システムを統合した装置との関係で用いられるものとして説明されているにすぎない。
(エ) 乙4(Philippe Arquint他「COMBINED BLOOD GAS SENSOR FOR pO2,pCO2 AND pH」Micro Total Analysis Systems,p191-194,1995年)において, 「フローインジェクション分析」との文言は一度も表れていないから,乙4がフローインジェクション分析に関する技術を開示したものであるとは理解できない。
イ 検出器の置換えの主張について (ア) 仮に,被告が主張するような周知の技術的事項が認められるとしても,それを甲1発明に適用して本件訂正発明1の構成に至る動機付けが必要となるが,甲1発明は,前記2(1)イ(ア)aのとおり,各電極を異なる試薬によって被覆し,電極ごとに分析対象を選択的に透過・検出することを特徴とする発明である一方,甲1に,当該電極をpO2,pCO2及びpHを測定するセンサーに置換するような示唆はなく,甲1発明の特徴的な部分をあえて置換する動機付けは存在しない。
(イ) 血液ガス分析を行うためには,前記(1)イのとおり,一般的に,センサーと血液ガスとの間に,溶液(ゲル)及び膜(メンブレン)が存在する必要がある。
血液ガスは,膜を透過して溶液に溶け込み,センサーは溶け込んだ血液ガスの成分を分析する。このことは,乙1〜4の血液ガスの成分分析を目的としたセンサーの各図(乙1の図2,乙2の図1,乙3の図2,乙4の図3)からも理解できる。
このように,血液ガスの成分分析を行う場合には,センサーと分析対象(血液)との間に溶液(ゲル)及び膜(メンブレン)を設けることが一般的であるが,甲1発明では,電極は被膜で覆われているものの,当該被膜と電極の間に溶液(ゲル)に相当する部分は存在しておらず,この点で,甲1発明と血液ガスの成分分析を行う装置とは,その構成を異にしている。B教授も,厚膜型センサと甲1発明の電流測定センサとが全く異なると述べている(甲33)。
そして,甲1発明において電極と被膜の間に溶液(ゲル)を設ければ,甲1発明の特徴的部分,すなわち,電極ごとに異なる被膜を形成し,各電極における分析対象の成分の選択的な透過・検出を実現するという性質は維持できないから,甲1発明にpO2,pCO2及びpHを測定するセンサーを適用することには阻害要因がある。
(ウ) B教授が述べるとおり,血液ガス分析用のセンサーにおいては「比較 的長い応答時間を要する」点でも,甲1発明の作用電極と異なる。例えば,乙1では,pCO2センサーの「応答時間は,約3〜5minと評価された」とされ(乙1の図5,乙1の7頁3行〜4行),乙2の図4及び段落【0024】によると,乙2で用いられるセンサーでは,ピークが表れるまでに18秒かかっていることが分かる。さらに,乙3では,各センサーの応答時間は1〜2分とされ(乙3の表1),乙3と作成者が同じ乙4でも,三つのセンサーの「応答時間t95(95%応答に関する)は,1から2分である。」とされている(乙4の5頁1行〜2行)。この点,B教授によると,応答時間が10秒であっても,甲1発明の作用電極と比べると,「比較的長い応答時間」といえる(甲33)。実際に,甲1の図2からは,急峻な反応が生じていることが分かり,甲1発明の作用電極の応答時間は,乙1〜4と比べて明らかに短い。
そして,甲1発明の作用電極は応答時間が短いため,流体の流れを止めずに検出を行っている一方で,乙1〜4においては,センサーに長い応答時間が必要であるために,流体の流れを止めたうえで電流を検出している。例えば,乙1の図5においては,ピークの状態で10分程度流れを止めていることが分かる。
このように,甲1発明の作用電極と血液ガス分析用センサーとでは,反応時間という点でも相違しているため,これらを置き換える動機付けはない。
4 取消事由4(本件訂正発明10と甲1発明の相違点の看過) 前記1の相違点の看過@〜Bは,本件訂正発明10と甲1発明の相違点についても当てはまる。
5 取消事由5(本件訂正発明10に関する相違点2についての判断の誤り) 前記3の相違点2についての判断の誤りは,本件訂正発明10についても当てはまる。
6 取消事由6(本件訂正発明10に関する相違点3についての判断の誤り) 相違点3は,本件訂正発明1の相違点1に対応するものであって,相違点1の「長さ10mm〜50mm ,幅lmm〜5mm及び深さ0.2mm〜0.6mmの寸法 を有している」との構成を含まないものであるから,前記2(1)の相違点1についての判断の誤りは,本件訂正発明10についても当てはまる。
被告の主張
1 取消事由1(本件訂正発明1と甲1発明の相違点の看過)について (1) 相違点の看過@(スペーサ)について ア 甲1のFigure 1.の脚注の記載から,Figure 1.の薄層フローセルは,スペーサ(D1,D2)によって形成される切り抜き空間に溶液入口Aから溶液が入って溶液出口Bから出ていくフローセルであることが理解できる。
本件審決は,これと同様の認定をし,甲1発明の切り抜き空間を有するD1スペーサ及びD2スペーサが本件訂正発明1のスペーサに相当すると認定したもので,甲1発明のスペーサ(D1,D2)がセルを形成し,本件訂正発明1のスペーサに相当するとした本件審決の認定に誤りはない。
イ 本件訂正発明1において,スペーサの構成については, 「第1開口部及び第2開口部を備えた切り抜き溝を有している」 「第1基板の第1面がスペーサの第 ,1開口部を閉じ,第2基板の第1面がスペーサの第2開口部を閉じることによって,測定用セルを形成し」と特定されているだけで,本件明細書を参酌しても,スペーサが1枚の単一の部材であることに関する説明もなく,スペーサの構成を1枚の単一の部材に限定解釈する理由はない。
(2) 相違点の看過A(基板)について ア 本件明細書の段落【0013】及び【0042】の記載から,本件訂正発明1の「電子配線基板」は,検体センサーを分析器と接続するために必要な配線を少なくとも担持することのできる基板ということになるが,そのために「基板」の厚み等の寸法が特に限定されるものではない。本件訂正発明1の「電子配線基板」の「基板」の寸法に特に技術的意義はなく,また,技術用語として, 「電子配線基板」の「基板」の寸法についての技術常識があるわけでもないから,本件訂正発明1の「電子配線基板」の「基板」の寸法については,特に限定されていないといえる。
そして,検体センサーについての本件明細書の段落【0040】〜【0042】の記載によると,本件訂正発明1の検体センサーは,化学物質の濃度のような物理的なパラメータを測定することのできる,あらゆるセンサーを指し,基板に貼り付けられる膜が望ましいとされている。
他方,甲1のFigure 1.及びその脚注のほか,甲1の1頁右欄10行〜20行におけるFigure 1.の実験装置についての説明や,同欄30行〜40行における二つの2電極(ガラス状炭素)のそれぞれの表面に異なる被膜が施されることについての説明から,甲1のFigure 1.の薄層フローセルの作用電極(C1〜C4)は,表面に被膜が施されたガラス状炭素からなり,スペーサ(D 1,D2)によって形成される切り抜き空間に溶液入口Aから入って溶液出口Bから出ていく溶液が,ガラス状炭素の表面に施された被膜(●の部分)と作用する電極であることが理解できる。
以上より,甲1のFigure 1.の薄層フローセルの作用電極(C1〜C4)のガラス状炭素の表面に施された被膜(●の部分)は,本件訂正発明1の「検体センサー」に相当する。
イ 甲1において,作用電極(C1〜C4)のガラス状炭素の表面に施された被膜(●の部分)は,ボルタメトリ分析器に接続する配線(ブロックの外側にある2本の線)とブロックの外側の表面から電気的に接続されることが理解できる。また,ブロックの厚みが1cm程度であることも理解できる。
ウ 上記ア及びイによると,甲1発明の二つのブロックは,本件訂正発明1の「電子配線基板」に相当するものであり,本件審決の認定に誤りはない。
原告の主張は,本件訂正発明1の「電子配線基板」の「基板」がどの程度の厚みであれば「薄く」というのかも不明で,根拠を欠くものである。
(3) 相違点の看過B(電気接点)について 上記(2)のとおり,甲1発明において,作用電極(C1〜C4)のガラス状炭素の表面に施された被膜(●の部分)が本件訂正発明1の「検体センサー」に相当し,上記被膜(●の部分)は,ボルタメトリ分析器に接続する配線(ブロックの外側にあ る2本の線)とブロックの外側の表面から接続される。
上記被膜及び上記配線を電気的に接続する箇所(電気接点)は,ガラス状炭素を通じて,上記被膜(●の部分)と接続されている。
そして,本件訂正発明1の「電気接点」については, 「少なくとも2つの検体センサーは,電気接点と接続されている」と特定するだけである。
上記の甲1発明の電気接点は,ガラス状炭素を通じて,上記被膜(●の部分)と接続され,本件訂正発明1の「少なくとも2つの検体センサーは,電気接点と接続されている」ことに相当するから,電気接点についての本件審決の認定に誤りはない。
2 取消事由2(本件訂正発明1に関する相違点1についての判断の誤り)について (1) 測定用セルの形状について ア 周知技術について (ア) 甲2〜4に記載された技術的事項は,測定用セルに流れる流体を複数の電極で検出する技術において,その測定用セルの形状を溝などの細長い直線的なものとすることを開示するもので,上記技術において,その測定用セルの形状を溝などの細長い直線的なものとすることは,本件優先日前の周知技術である。
そして,甲1発明の「フローインジェクション応答が記録される4電極薄層フローセル」は,測定用セルである「4電極薄層フローセル」に流れる溶液を複数(四つ)の電極で検出する技術であるから,上記周知技術を適用し,その溶液が流れる測定用セルの形状を溝などの細長い直線的なものとする,すなわち,溶液が「少なくとも実質的に直線的な」運動を行えるようにする形状とすることは,当業者が容易になし得たことである。この容易想到性についての本件審決の判断に誤りはない。
(イ) 上記(ア)の周知技術に係る形状が,測定用セルに流れる流体を複数の電極で検出する技術であるフローインジェクションの測定用セルの形状としても採用されることは,次の周知例(乙1〜3)のとおり,周知である。したがって,仮 に,甲1発明において,フローインジェクション分析の測定用セルの形が菱餅状であることに特有の技術的な理由があるとしても,甲1発明の測定用セルの形状を本件訂正発明1のような直線状のセルとすることを想到することができ,阻害要因はない。
a 乙1には,フローインジェクション分析法(FIA)等の従来の化学分析システムに応用できる,血液ガスモニタリング用のマイクロフローセルであって,フローチャネル(「測定用セル」に相当)が幅600μm,長さ7mm,厚さ80μmの細長い直線的な形状であるものが記載されている。
b 乙2には,フローインジェクション分析法(FIA)のような高速サンプル分析に適合されたセンサのキャリア流が流れるチャネル206(「測定用セル」に相当)が細長い直線的な形状であるものが記載されている。
c 乙3には,フローインジェクション分析技術の使用に基づいた化学分析システムに搭載できるセンサのフロースルーチャネル(「測定用セル」に相当)が長さ18mm,幅2mmであって,細長い直線的な形状であるものが記載されている。
イ 甲1発明の測定用セルの形状について (ア) 原告は,甲1発明の測定用セルの形が菱餅状であることによって,試料と試薬が分散・混合される一方で,サンプル流体は測定用セルの内側の壁に触れず,測定用セルの内側にサンプル流体が残留することがない旨主張するが,そのような事実は客観的な公知の証拠によっては立証されておらず,むしろ,次のとおり,技術常識からはあり得ないものである。
a 試料と試薬が分散・混合されるという点について 甲1発明におけるような微小な寸法の測定用セルにおいては,流れは乱れのない層流となり,流れが乱流になることによる混合は起きないと考えるのが技術常識である。また,その他に拡散による混合が考えられるが,拡散による混合は,非常に遅く,測定用セルの形を菱餅状としたとしても同様であるので,結局,甲1発明に おけるような微小な寸法の測定用セルにおいては,試料と試薬が分散・混合されることはないと考えるのが技術常識である。このことは,C教授の陳述書(乙5。以下「C陳述書」という。 に述べられている。
) この点については,B陳述書(甲33)でも,甲1発明の測定用セルにおいては,予測できない流れである乱流は発生しない旨が述べられている。
また,甲1発明において,フローインジェクション分析の対象となる流体は,リン酸塩緩衝液中のドーパミン,DOPAC,カテコール,プロメタジン,エピネフリン,ノルエピネフリンである(甲1の図2,図3,図4,図5の脚注)が,試薬に相当するPVP,ナフロン,アセチルセルロース(甲1の1頁の右欄の「Reagents」,甲1の図2,図3,図4,図5の脚注)は,作用電極に被覆されているので,甲1に記載される実験では,甲1発明の測定用セルにおいて,試料と試薬が分散・混合されるわけではない。
したがって,甲1発明の測定用セルの形が菱餅状であることによって,試料と試薬が分散・混合されるとの原告の主張は,技術常識からはあり得ない。
b サンプル流体が測定用セルの内側の壁に触れないという点について サンプル流体がキャリア流体に包囲されたまま測定用セルを通過することになるからサンプル流体は測定用セルの内側の壁に触れないという原告の主張は,甲1発明の測定用セルの形が菱餅状であることによって試料と試薬が分散・混合されるとの主張と整合しない。
また,フローインジェクション分析において,サンプル流体はキャリア流体を押しのけて注入されるので(甲28の4頁の図) サンプル流体がキャリア流体に包囲 ,されたまま測定用セルを通過することになるからサンプル流体は測定用セルの内側の壁に触れないという原告の主張は,技術常識からは理解できない。
(イ) 甲1発明の測定用セルの形が菱餅状であることの理由は,C陳述書(乙5)に述べられているとおり,複数の作用電極を測定用セルの中心に配置することを可能とするために,中心に向かって測定用セルの体積が増加する形状としている ことと,作用電極における電気化学的な反応時間を考慮して測定用セルに流れる流体の流速を遅くさせるために,中心に向かって測定用セルの体積が増加する形状としていることの2点にあると考えるのが,技術常識にかなう。したがって,測定用セルの形状は,配置する作用電極の寸法又は反応時間によっては,必ずしも菱餅状である必要はない。これは,B陳述書(甲33)における陳述とも整合する。
(ウ) 以上のように,甲1発明の測定用セルの形状について,原告が主張するような技術的意義は認められない。
(2) 測定用セルの寸法について ア 本件審決が指摘するとおり,電極を用いて生化学的な成分分析を行う装置において,そのフローセルの大きさは,標本サイズ,標本量によって適宜設計されるものであり,例えば,電極を用いて生化学アッセイを行う装置が記載されている甲2に,フローセルの寸法(標本が電極によって検出される場所,すなわち本件訂正発明1の「溝」部分の寸法に相当)として,幅0.05mm〜20mm,高さ0.05〜0.2mm,体積0.1〜1000μLの範囲のもの(本件訂正発明1の溝の大きさ程度のもの)が例示されている。
また,他にも,甲1発明のようなフローインジェクション分析において少量の試料で済むように測定用セルが15μLのものが知られている(乙3の1頁右欄23行〜32行)。
他方,本件明細書の段落【0026】の記載によると,本件訂正発明1において,「スペーサが有している切り抜き空間が, 『長さ10mm〜50mm,幅1mm〜5mm及び深さ0.2mm〜0.6mmの寸法を有している』 『溝』である」ことの技術的意義は,非常に少量の試料で済むように,測定用セルを,約25μLから45μLの容積とすることとされている。しかし,本件訂正発明1で特定される上記切り抜き空間の寸法の内容積は,2μL〜150μLと計算されるので,本件訂正発明1で特定される切り抜き空間の寸法の数値範囲に臨界的意義があるわけではない。
したがって,甲1発明の測定用セルを容積が2μL〜150μLの範囲とするた めに本件訂正発明1のような寸法とすることは,当業者において容易になし得る得る設計事項にすぎず,本件審決の判断に誤りはない。
イ 原告は,フローインジェクション分析に用いられる甲1発明の測定セルの容積については100μL〜1000μLという範囲が想定されるなどと主張するが,上記のとおり,フローインジェクション分析に用いられる測定セルについて容積が15μLのものが知られている(乙3)。また,甲1発明において,セルの中においてキャリア流体に包囲されつつ試料と試薬とを分散・混合するためにセルが一定の容積を有する必要がある旨の原告の主張が誤りであることは,前記(1)イのとおりである。
したがって,甲1発明の測定セルを本件訂正発明1のような寸法とし,容積を小さくすることに阻害要因はなく,原告の主張には理由がない。
3 取消事由3(本件訂正発明1に関する相違点2についての判断の誤り)について (1) 甲1発明の「4電極薄層フローセル」は,フローインジェクション分析装置における「検出部」 (甲28の8頁の「e)検出部」)に相当するから,種々の試料に応じて検出器の種類を置き換えることができるフローセルであることは当業者に明らかであるところ,血液のpCO2,pO2,pHを検出する検出器(センサ)が設けられたフローセルは,周知(例えば,甲4)であるから,甲1発明の「4電極薄層フローセル」の四つの作用電極からなる検出器を血液のpCO 2,pO2及びpHを検出する周知の検出器(センサ)に置きかえることは,容易想到である。本件審決の判断に誤りはない。
(2) 原告は,甲1発明を相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることに阻害要因がある旨主張するが,次のとおり理由がない。
ア フローインジェクション分析によって,pO 2,pCO2及びpHの測定を行えることは,次のとおり周知の技術的事項である(乙1〜4)から,フローインジェクション分析の基本的な原理が繊細なpO 2,pCO2及びpHの測定に適し ていないとする原告の主張は根拠を欠くものである。
(ア) 乙1には,フローインジェクション分析法(FIA)等の従来の化学分析システムに応用できる,血液ガスモニタリング用のマイクロフローセルのセンサであって,pO2,pCO2及びpHの測定を行うセンサが開示されている。
(イ) 乙2には,フローインジェクション分析システムに適合されたpO 2センサが開示されている。
(ウ) 乙3には,フローインジェクション分析技術の使用に基づいた化学分析システムに搭載できるpO2,pCO2及びpH用の血液ガスセンサーが開示されている。
(エ) 乙4にも,乙3と同様に,フローインジェクション分析技術の使用に基づいた化学分析システムに搭載できるpO 2,pCO2及びpH用の血液ガスセンサーが開示され,輸血用血液及び全血で実施されたデバイス評価において,センサが,線形性,低ドリフト性及び機能的寿命において優れた性能を示すことが開示されている。
イ また,原告は,甲1発明で採用されている電流測定センサーはpO 2,pCO2及びpHの測定に適していない旨主張するが,甲1発明で採用されている電流測定センサーは,フローインジェクション分析装置における「検出部」 (甲28の8頁の「e)検出部」)の検出器に相当するから,種々の試料に応じて検出器の種類を置き換えることができるフローセルであることは,当業者に明らかで,pCO2,pO2及びpHを検出する周知の検出器(センサー) (乙1〜4等)に置き換えることができるフローセルであることは,当業者に明らかである。
4 取消事由4(本件訂正発明10と甲1発明の相違点の看過)について 取消理由1について前記1で述べたところから,取消事由4も認められない。
5 取消事由5(本件訂正発明10に関する相違点2についての判断の誤り)について 取消理由3について前記3で述べたところから,取消事由5も認められない。
6 取消事由6(本件訂正発明10に関する相違点3についての判断の誤り)について 取消理由2について前記2(1)で述べたところから,取消事由6も認められない。
当裁判所の判断
1 本件訂正発明について (1) 本件明細書の記載(甲13) 【発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,センサーアッセンブリに,厳密には,電気化学的センサー要素を備えているセンサーアッセンブリに関する。本発明のセンサーアッセンブリは,複数の異なるパラメータ,例えば,血液パラメータを同時に測定するのに特に適している。
【背景技術】 【0002】 様々な事例では,例えば,全血試料中の血液ガスの分圧,血液試料中の電解質と代謝産物の濃度,他にも,血液試料のヘマトクリット値,を測定することが望ましい。例えば,pCO2,pO2,pH,Na+,K+,Ca2+,Cl-,ブドウ糖,乳酸塩,及びヘモグロビンの値を測定することは,医療患者の状態を見極める際の主要な臨床評価指標となる。多種多様な分析器が,この様な測定を行うために現在使われている。その様な分析器は,最も意味のある診断情報を提供するために,正確な測定を行う能力がある。更に,行われる分析毎に使用される患者の血液を可能な限り少なくしようとすれば,血液試料を分析するのに採用される測定用セルは比較的小さいほうが望ましい。血液分析を,少ない血液試料を使用して行うことは,比較的多数の試料を比較的短時間に採取しなければならない時,又は新生児の様に血液の量が限られている場合には重要である。例えば,集中治療中の患者は,血液ガス及び臨床化学測定で1日当たり15回から20回の試料採取頻度が必要で,患者 評価中に大量失血を起こす可能性がある。また,行わねばならない検査の回数を制限するには,各検査の完了時に,可能な限り多くの情報を収集するのが望ましい。
しかしながら,血液の化学的性質を測定するのに使用されるセンサーには寸法的制約がある。この様な寸法的制約は,主に,センサーの物理的形状及びセンサーへの接続に起因する。
【0003】 この問題を解決するための1つの試みは,米国特許第5,916,425号に見い出され,同特許は,超小型貫通穴を覆って形成されるセンサーのための電子配線基板を開示している。貫通穴の直径が小さいおかげで,基板面上の比較的小さい流体フローセル内に比較的多数のセンサーを形成することができる。而して,より多くの情報が,より少ない血液を使用して取得できるようになる。また,米国特許第5,916,425号に開示されているセンサーは,小さい面積に製作することができるので,小さいフローセルに比較的多数のセンサーを配置することができる。
【0004】 米国特許第6,123,820号には,数個のセンサーを含んでいるセンサーカートリッジが開示されている。開示されているセンサーカートリッジは,2つのセンサーボードを備えている。センサーボードは,プレート状であって2つの主面を有しており,一方の主面に数個のセンサーが担持されている。2つのセンサーボードは,ジグザグになったフローチャネルを有する中間部分に面しており,中間部分の両側に,2つのセンサーボード上の各センサーがセンサーポートと向かい合って測定用セルを形成するようなやり方で,一連のセンサーポートを提供している。複数の個別の測定用セル同士は,中間部分に形成されているフローチャネルセグメントによって接続されている。センサーカートリッジでは,試料の必要寸法が小さくなる傾向にはあるが,フローチャネルセグメントを通して接続されている個別の測定用セルは,実際には或る試料寸法を必要とする。更に,汚染物質が,1つの測定用セルから次のセルに流れ,フローチャネルを通って流れる試料に蓄積されるかも しれない。センサーカートリッジは,一部には中間部分のフローチャネルのジグザグ状構造のせいで,製造するのが比較的複雑である。
発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 上で述べたセンサーは,少ない試料を使用した測定の要件を部分的には満たしているが,一層小さい試料サイズで正確且つ迅速な測定を行うことのできるセンサーアッセンブリがなお求められている。
【0007】 本発明の目的は,正確な測定のために最小量の試料流体しか必要としない非常に小型化されたセンサーアッセンブリを備えているシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】 【0008】 従って,先行技術のセンサーに代わるものとして,本発明は,非常に小さい体積にまとめられた数個の検体センサーを試料に接触させて配置することのできるセンサーアッセンブリを提供している。同センサーアッセンブリは,少ない試料量で数個のパラメータを測定することができる。
【0009】 更に,本発明は,先行技術による類似のセンサーアッセンブリに比べ,センサーアッセンブリ内のセンサーの数を減らすこと無く,より少ない試料量を使用することができるセンサーアッセンブリを提供している。更に,意外にも,測定用セルの互いに反対側の壁に,フル機能センサー要素を設置することが可能であることも明らかになった。
【0010】 本発明の第1の態様によれば,上の目的及び他の目的は,センサーアッセンブリにおいて, -第1面及び第2面と,その第1面上に形成されている少なくとも1つの検体センサーと,を有している第1電子配線基板であって,前記少なくとも1つの検体センサーは,1つ又はそれ以上の電気接点と接続されている,第1電子配線基板と, -第1面及び第2面と,その第1面部分の上に形成されている少なくとも1つの検体センサーと,を有している第2電子配線基板であって,前記少なくとも1つの検体センサーは,1つ又はそれ以上の電気接点と接続されている,第2電子配線基板と, -第1開口部及び第2開口部を備えた切り抜き溝を有しているスペーサと,を備えており,第1基板,第2基板,及びスペーサは,層状構造に配置されていて,第1基板の第1面は,スペーサの第1開口部を閉じ,第2基板の第1面は,スペーサの第2開口部を閉じ,これにより,それぞれの基板からの少なくとも1つのセンサーが相対する測定用セルが形成されている,センサーアッセンブリ,を提供することによって達成される。具体的には,スペーサの第1開口部は,第1基板の第1面上に形成された少なくとも1つの検体センサーと第1基板の第1面の一部分とによって閉じられ,スペーサの第2開口部は,第2基板の第1面上に形成された少なくとも1つの検体センサーと第2基板の第1面の一部分とによって閉じられ,これにより,測定用セルが形成されている。また,測定用セルの一部分を画定するスペーサの開口部は,第1開口部及び第2開口部のみである。
【0011】 一般に,測定用セルは,試料の測定中,試料を保持するセルである。測定用セルは,試料を検体センサーに接触させるための少なくとも1つの開口部を有している。
検体センサー同士を隔てておく壁,チャネル,又は類似のものが全く存在しないにもかかわらず,互いに反対側の検体センサーの間の顕著な干渉無しに,同じ測定用セルで2つ又はそれ以上のパラメータを測定するのが可能であることが,予期せずして判明した。殆どの場合,測定用セルの互いに反対側の面上の検体センサーは, 所望により,互いに向かい合わせに配置してもよいし,又は互いにずらして配置してもよい。
【0012】 センサーアッセンブリの或る好適な実施形態では,測定用セルには,一方の基板からの少なくとも2つのセンサーが相対している。センサーアッセンブリの別の好適な実施形態では,測定用セルには,それぞれの基板からの少なくとも2つのセンサーが相対している。より望ましくは,それぞれの基板からの少なくとも3つ又はそれ以上のセンサーが,測定用セルと相対している。これらの実施形態では,非常に少ない試料で多数のパラメータ値を実現することのできる測定用セルを得ることが可能になる。
【0013】 基板は,検体センサーを電気接点に接続するために必要な配線を担持することのできるプレート状又は矩形薄板状の基板であるのが望ましい。第1面及び反対側の第2面は,無論,プレート又は薄板の2つの主面であり,平行になっているのが望ましい。基板の第1面と第2面の間隔は,基板の厚さを画定する。この様な基板は,望ましくは非導電性材料であり,配線は銅,銀,金,白金,又は導電性ポリマーの様な導電性材料である。検体センサーを備えているこの様な基板の例は,例えば,米国特許第5,916,425号に見い出される。
【0014】 第1基板と第2基板の間隔は,スペーサの厚さによって画定される。スペーサの切り抜き溝と両基板の各第1面とによって画定される測定用セルは,閉鎖型セルであってもよいが,測定用セルには,流体試料を測定用セルの中へ導き入れる入口及び流体試料を測定用セルから出て行かせる出口の設けられているのが望ましい。1つの実施形態では,それぞれ少なくとも2つの互いに反対側の検体センサーを備えている2つ又はそれ以上の測定用セルは,チャネルのような適切な接続装置を介して直列に接続されていてもよい。受け入れられる流体試料は,望ましくは液体試料 であるが,代わりに,気体試料,例えば,呼気であってもよい。液体試料は,好都合には,分析されることになる血液試料,尿試料,唾液などの様な,体液の試料である。
【0015】 或る好適な実施形態では,検体センサーは血液パラメータセンサーである。検体センサーは,望ましくは,以下のパラメータ,即ち,pCO 2 ,pO 2 ,p H, N a +,K+,Ca2+,Cl-,ブドウ糖,乳酸塩,尿素,及びクレアチニン,の内の1つ又はそれ以上を測定するように構成されていてもよい。例えば,FO 2Hb,FCOHb,FMetHb,FHHb,及びFHbFなど,ビリルビン値及びヘモグロビン値の様な別のパラメータを追加のモジュールで測定してもよい。代わりに,検体センサーの1つ又それ以上は,尿,唾液,及び呼気の様な他の考えられる体液のパラメータを測定するようになっていてもよい。
【0016】 センサーアッセンブリが,血液分析器と接続されて機能するようになっている場合,第1基板側の検体センサーは,流れ方向に,先ずpO 2を測定するための光学的なセンサー,次いで,カリウム,ナトリウム,pH及びpO 2を測定するための厚膜型のセンサー,そして随意的なクレアチニンセンサーの部分が配置されているのが望ましい。基準電極も,第1基板側に設置されるのが望ましい。第2基板側の検体センサーは,流れ方向に,塩化物,マグネシウム,カルシウム,随意的に尿素,ブドウ糖,乳酸塩を測定するための厚膜型のセンサー,そして随意的にクレアチニンセンサーの部分が配置されているのが望ましい。
【0017】 第1基板及び第2基板は,スペーサ部分を挟んで互いに反対側に,溝を第1基板の検体センサーの位置と第2基板の検体センサーの位置に対応する位置に配置して,検体センサーそれぞれが測定用セルと相対するように,配置されている。検体センサーは,而して,測定用セルの中に配置されている流体試料のパラメータ値を測定 することができる。検体センサーは,流体試料と直接流体接触していてもよい。しかしながら,例えば,薄膜,薄板,又は箔の形態をした隔膜を,流体試料と1つ又はそれ以上の検体センサーの間に配置して,その様な(単数又は複数の)検体センサーを流体試料と間接的に接触させることも考えられる。
【0018】 検体センサーは,第1基板の第1面側並びに第2基板の第1面側に,測定用セルに直接的又は間接的に接触して配置されているので,セル内に流体試料が配置されていると,非常に多数の検体センサーが少なくとも実質的に同時に流体試料のパラメータ値を測定することができる。而して,可能な検体センサーの数は,個々の検体センサーのサイズを縮小すること無く,大幅に増やすことができる。更に,追加的に個々の検体センサーのサイズを縮小すれば,非常に少ない試料量を維持しながらもなお一層多くの検体センサーに流体試料のパラメータを測定させることができるようになる。或いは,同じ数の検体センサーに流体試料のパラメータを測定させながら,試料量を減らすこともできる。この様にして,本発明は,幾つかの利点を提供している。
【0019】 同一基板上の個々の検体センサー同士の間の間隔と,第1基板側の検体センサーと第2基板側の検体センサーの間の間隔は,異なるセンサー間の干渉を回避するのに十分な広がりを持たせるのが好適である。
【0020】 測定用セルは,測定用セルを通って流れる流体が,少なくとも実質的に直線的な運動を行えるようにする形状を有していてもよい。この実施形態によれば,測定用セルには,曲がり部と折り返し箇所が全くないか又はその数が限定されているべきである。測定用セルに曲がり部と折り返し箇所が無いようにすることで,測定用セルの濯ぎと洗浄は著しくやり易くなり,気泡形成の危険性は小さくなる。或る好適な実施形態では,分析器と測定用セルの間の流体接続は,測定用セル内の流れの主 方向に実質的に垂直,即ち,基板の第1面に垂直になっていてもよい。これは,測定用セルを備えているセンサーアッセンブリを分析器と接続しようとする場合,或る種の利点を提供する。このため,好適な実施形態では,測定用セルは,入口ポートと出口ポートを有しており,両ポートは第1基板に形成されているか,又は両ポートは第2基板に形成されている。或る特定の好適な実施形態では,入口ポートと出口ポートは,第2基板に形成されている。これは,センサーアッセンブリを分析器側の接続チューブに押し付け,これにより入口ポートと出口ポートを接続チューブと接続するだけで,センサーアッセンブリを分析器に簡単に流体接続できるという利点を提供する。
【0021】 或る代わりの実施形態では,分析器と測定用セルの間の随意的な流体接続は,測定用セルを通る流れ方向に実質的に平行であってもよい。
各分析器センサーは,各検体センサーと分析器の間に電気的接触を確立するために,それぞれのセンサー要素と同じ基板上に配置されている関係付けられた電気接点に接続されている。これにより,特定の測定に関係のある情報は,関連した検体センサーから,関係付けられた電気接点を経由して,分析器へ伝達される。なお,中には検体センサーが2つ又はそれ以上の電気接点に接続される場合もあるものと理解頂きたい。これは,例えば,検体センサーが,2つ又はそれ以上の電極を備えている電気化学的センサーである場合である。この場合,センサーの電極それぞれを電気接点に接続してもよい。
【0022】 或る好適な実施形態では,第1基板の電気接点は,第1基板の第2面側に配置され,第2基板の電気接点は,第2基板の第1面側に配置されている。第2基板の広がりは,第1基板の広がりより幾分大きめであるのが望ましい。第2基板は,横方向又は縦方向の広がりが第1基板より大きくてもよい。或いは,第2基板は,横方向と縦方向共に,広がりが第1基板より大きくてもよい。縦方向及び横方向は,測 定用セルの流れ方向に関して定義される。これにより,センサーアッセンブリを組み立て,センサー要素が測定用セルに相対するように基板を配置した時,第2基板の第1面の一部は,第1基板の境界を超えて張り出している。第2基板の電気接点は,第1面のこの張り出した部分に配置されており,第1基板の電気接点と第2基板の電気接点は,而して,この実施形態によれば,同じ方向を向いている。その結果,同じ方向に向いた十分な数の対応する電気接点を備えている単一の接触ユニットを使用して,第1基板と第2基板の電気接点のそれぞれに対する接触を得ることが可能になる。これにより,分析器への接続の設計を著しく単純化することができ,従って,これは非常に好都合な解決策であると考えられる。
【0023】 検体センサーと電気接点が第1面側に配置されている場合には,検体センサーと,関係付けられている電気接点との間の接続は,導電性経路,例えば,基板に印刷されている白金経路によって好都合に提供される。或いは,白金経路は,基板の第1穴又はボアを通って第2面へと導かれ,そして,第2穴又はボアを通って第1面に戻り,同面上の要求されている位置まで繋がっている。検体センサーが第1面側に配置され,接点が第2面側に配置されている場合は,検体センサーと,関係付けられている電気接点との間の接続は,代替的又は追加的に,基板を貫通している穴又はボアを備えている。穴又はボアには,銅,銀,金,白金,又は導電性ポリマーの様な,導電性材料が充填されている。
【0024】 基板は,ガラス又はプラスチック材料の様な適切な材料で作ることができるが,少なくとも一方の基板は,酸化アルミニウムの様なセラミック材料,又はシリコン又はホウ素を基材とするセラミック材料で作られているのが望ましい。
【0025】 スペーサは,プラスチック,ゴム,セラミックで作ることができ,スペーサは,アクリル又は同等のプラスチック材料で作られているのが望ましい。スペーサと基 板は,測定用セルからの試料の漏出を最小限にするためシールされた様式で組み立てられる。このシーリングは,シール材で作られたスペーサを選定することによって得てもよいが,別体のシール手段をスペーサと基板の間に設置することによっても得ることができる。
【0026】 スペーサの溝と第1及び第2基板の両第1面によって設けられている測定用セルは,望ましくは約25μlから45μlの容積,より望ましくは約30μlから40μlの容積を提供している。この様な容積であれば,測定用セル内の検体センサーによる測定には,非常に少量の試料で済む。スペーサの寸法は,長さが20mmから60mm,幅が5mmから20mm,そして厚さが0.2mmから0.6mmの範囲内にあるのが望ましい。スペーサ内の溝は,長さが10mmから50mm,幅が1mmから5mm,そして深さが0.2mmから0.6mmの範囲内の寸法を有していてもよい。
【0027】 第1及び第2基板とスペーサの寸法,而して,センサーアッセンブリの寸法は,意図される用途次第で改造してもよい。しかしながら,或る好適な実施形態では,第1基板は,長さが約20mmから60mm,幅が約5mmから20mm,そして厚さが約0.3mmから0.8mmの範囲内の寸法を有している。
【0028】 第2基板の幅及び/又は長さは,第1基板の幅及び/又は長さより幾分大きくてもよい。これは,幾つかの好適な実施形態では,第2基板の第1面は,センサーアッセンブリのスペーサと第1基板の縁部よりも突き出ているのが好適であるという事実に因る。第2基板は,長さが約20mmから60mm,幅が約5mmから40mm,そして厚さが約0.3mmから0.8mmの範囲内にある寸法を有しているのが望ましい。第2基板の長さと幅は,約4mmから20mmの範囲で,第1基板とスペーサの縁部を超える張り出し部を提供していてもよい。
【発明を実施するための形態】 【0039】 本発明によるセンサーアッセンブリ,及び調整ユニットは,生体機械工学,例えば,生物学的試料の分析に適合させた器械で使用することができる。センサーアッセンブリと調整ユニットは,試料を分析する分野内の多くの用途で有用であるが,1つの好適な使用法は,血液試料についての様々なパラメータを測定及び分析するように設計された器械に関連している。従って,この説明文中,本発明の一例として,血液試料の測定に適合させた本発明によるセンサーアッセンブリを使用することにする。
【0040】 この説明文中,検体センサーという用語は,化学物質の濃度の様な物理的なパラメータを測定することのできるあらゆるセンサーを表す。検体センサーは,1つ又はそれ以上の電極と1つ又はそれ以上の膜を備えていてもよい。
【0041】 分析器は,検体センサーから,例えば,電気信号を受信して,その様なデータを処理し,処理の結果を提示することのできる装置として理解して頂きたい。分析器は,更に,センサーアッセンブリと,検体センサーを分析器に接続するための手段と,を含んでいる。
【0042】 電子配線基板は,検体センサーを分析器と接続するための配線を担持する,セラミック材料で作られた基板である。検体センサーは,厚膜技法を使用して基板に貼り付けられるのが望ましい。
【0043】 図1は,第1基板2,第2基板3,及びスペーサ4を備えているセンサーアッセンブリ1の分解組立図である。
第1基板2には,第1基板の第1面側に配置され,図の下方向を向いている複数 の検体センサー(図では確認できない)が設けられている。第1基板には,更に,図の上方向を向いている,第2面側に配置された複数の電気接点5cが設けられている。電気接点5cは,配線5bとセンサーボードの小さいボア5aを介して検体センサーに接続されている。ボア5aには,導電性材料,例えば,白金が充填されおり,この材料が,第1面側の検体センサーと第2面側の配線5bに接続されている。
【図1】 【0044】 第2基板3にも,複数の検体センサー6と複数の電気接点5cが設けられている。
検体センサー6並びに電気接点5cは,第2基板3の第1面側に配置され,図の上方向を向いている。第2基板の検体センサー6と電子接点5cの間の配線は,第1面側の検体センサーから基板3の第2面側に導かれ,基板の穴を通って第1面側の接点5cに戻っている。
【0046】 スペーサ4には,スペーサ4の大部分を貫通して伸張している細長いボアの形態 をした溝7が設けられている。
センサーアッセンブリ1を図2に示すように組み立てると,第1基板2の第1面と第2基板3の第1面は,互いに相対し,スペーサ部品4は,第1基板2と第2基板3の間に配置され,溝7は基板2と基板3の両第1面と共同で測定用セル7aを形成する。測定用セル7aは,第1基板2の検体センサー並びに第2基板3の検体センサー6が測定用セル7aと流体接触するようなやり方で配置されることになる。
その結果,基板2,3と組み合わされた溝7によって,流体試料を収容することになる測定用セル7aが画定される。流体試料が測定用セル7aに入れられると,検体センサー6のそれぞれが試料と接触することになり,その結果,検体センサー6のそれぞれは,当該試料の関連パラメータを測定することができるようになる。
【0047】 測定用セル7aは,多種多様な形状,例えば,S字形又は膨隆部を有していてもよいが,測定用セル7aは,洗浄し易く,不純物の沈降する場所ができないように,可能な限り直線的で平坦であるのが望ましい。更に,測定用セル7aが,直線的で平坦であれば,測定用セル7aに必要な容積はより小さくて済む。
【0048】 測定用セルは,約25μlから45μlの容積を提供している。スペーサの寸法は,長さが約20mmから60mm,幅が約5mmから20mm,そして厚さが約0.2mmから0.6mmの範囲内にある。
【0049】 検体センサー6のそれぞれは,関係付けられた電気接点5cに接続されている。
電気接点5cは,適した配線を介して分析器に接続されていてもよい。これにより,検体センサー6によって行われた測定に関する情報が,関係付けられた電子接点5cを介して分析器に伝達されると,分析器は,次いで,測定値の必要な分析を行うことができる。第1基板2の電気接点5cと第2基板3の電気接点5cは,同じ方向を向いているので,同じ側から電気接点5cのそれぞれにアクセスすることがで き,これにより分析器への接続,而して,測定情報の伝達がやり易くなる。
【0050】 図2は,図1の組み立てられたセンサーアッセンブリ1の斜視図である。図2から明らかな様に,両基板の電気接点5cのそれぞれに同時にアクセスすることは非常に容易になっている。
【図2】 【0051】 図1と図2に示しているように,センサーアッセンブリ1は,基本的に,第1基板2と,スペーサ4と,第2基板3と,から成る三層で構成されている。第1基板2は,第1面側に検体センサー(図1では確認できない)を具備し,第2面側に分析器との電気接続を確立するための電気接点5cを具備している。この図示の好適な実施形態では,第1基板2は,更に,酸素センサー50及び基準電極51用の穴を具備している。第2基板3は,流体試料用の入口ポート52と出口ポート53を具備している。
【0052】 第1基板2と第2基板3の上の説明は,特定の実施形態に関するものであり,入口ポート52と出口ポート53は,第1基板2に配置されていてもよいし,入口ポート52は第1基板2に,そして出口ポート53は第2基板3に,又はその逆に,配置されていてもよいと理解頂きたい。更に,酸素センサー50と基準電極51用 の穴は,センサーアッセンブリの意図される特定の使用法に応じ,除外してもよいし,一方だけを設けてもよい。更に,基板2,3は,必要に応じて,他の目的に供される開口部を具備していてもよい。
【0053】 第1基板,第2基板,及びスペーサの寸法,而して,センサーアッセンブリの寸法は,意図される使用法に応じて適合させてもよい。しかしながら,開示されている実施形態では,第1基板は,長さが約20mmから60mm,幅が約5mmから20mm,そして厚さが約0.3mmから0.8mmの範囲内の寸法を有している。
【0054】 第2基板は,長さが約20mmから60mm,幅が約5mmから40mm,そして厚さが約0.3mmから0.8mmの範囲内の寸法を有している。第2基板3の幅は,第1基板2の幅より幾分大きくなっている。これは,幾つかの好適な実施形態では,第2基板3の第1面が,センサーアッセンブリ1のスペーサ4と第1基板2の縁部よりも突き出ているのが好適であるという事実に因る。この様にすれば,電気接点5cを第2基板の第1面上に,外部接続手段,例えば,接触要素側のピンが電気接点5cにアクセスできるようなやり方で,配置することが可能になる。そこで,接点5cは,第2基板の第1面の,スペーサ4と第1基板2の縁部よりも突き出ている部分に設置されている。こうすれば,第1面と第2面の接点5cが,一方の側から利用できるようになり,これにより,接点と分析器ユニットに接続されている接触要素のとの間に電気接点を確立することがなお一層簡単になる。
【0055】 検体センサー6は,pCO2,pO2,pH,Na+,K+,Ca2+,Cl-,Mg++ ,Ca++を測定するための検体センサーを備えており,追加の検体センサー,例えば,乳酸塩,クレアチニン,及び尿素を測定する検体センサーを,必要に応じ又は所望に応じて設けてもよい。FO2Hb,FCOHb,FMetHb,FHHb,及びFHbFなどのビリルビン及びヘモグロビン値の様なパラメータを,追加のモジュー ルで測定してもよい。
(2) 本件訂正発明の概要 前記第2の2の本件訂正後の本件特許の請求項1〜10及び上記(1)の本件明細書の記載からすると,本件訂正発明は,次のようなものと認められる。
ア 技術分野 本件訂正発明は,電気化学的センサー要素を備えているセンサーアッセンブリに関するもので,複数の異なるパラメータ,例えば,血液パラメータを同時に測定するのに特に適している。(段落【0001】) イ 背景技術 様々な事例で,例えば,全血試料中の血液ガスの分圧,血液試料中の電解質と代謝産物の濃度,他にも,血液試料のヘマトクリット値を測定することが望ましく,また,pCO2,pO2,pH,Na+,K+,Ca2+,Cl-,ブドウ糖,乳酸塩,及びヘモグロビンの値を測定することは,医療患者の状態を見極める際の主要な臨床評価指標となる。最も意味のある診断情報を提供するために,正確な測定を行う能力のある多種多様な分析器が現在使われている。行われる分析毎に使用される患者の血液を可能な限り少なくしようとすると,血液試料を分析するのに採用される測定用セルは比較的小さいほうが望ましく,行わねばならない検査の回数を制限するには,各検査の完了時に可能な限り多くの情報を収集するのが望ましいが,血液の化学的性質を測定するのに使用されるセンサーには,主に,センサーの物理的形状及びセンサーへの接続に起因する寸法的制約がある。(段落【0002】) この問題を解決するために,超小型貫通穴を覆って形成されるセンサーのための電子配線基板(貫通穴の直径が小さいために基板面上の比較的小さい流体フローセル内に比較的多数のセンサーを形成することができる。 や, ) 小さい面積に製作することができるセンサーが開示されている。また,数個のセンサーが担持された二つのセンサーボードを備えたセンサーカートリッジも開示されているが,フローチャネルセグメントを通して接続されている複数の測定用セルは,一定の試料寸法を必 要とし,また,汚染物質が一つの測定用セルから次のセルに流れ,フローチャネルを通って流れる試料に蓄積されるかもしれないという問題や,製造するのが比較的複雑であるといった問題がある。(段落【0003】) ウ 発明が解決しようとする課題 一層小さい試料サイズで正確かつ迅速な測定を行うことのできるセンサーアッセンブリがなお求められており,本件訂正発明の目的は,正確な測定のために最小量の試料流体しか必要としない非常に小型化されたセンサーアッセンブリを備えているシステムを提供することである。(段落【0006】〜【0007】) エ 課題を解決するための手段等 本件訂正発明は,非常に小さい体積にまとめられた数個の検体センサーを試料に接触させて配置することのできるセンサーアッセンブリを提供しており,同センサーアッセンブリは,少ない試料量で数個のパラメータを測定することができる。また,本件訂正発明は,先行技術による類似のセンサーアッセンブリに比べ,センサーアッセンブリ内のセンサーの数を減らすことなく,より少ない試料量を使用することができるセンサーアッセンブリを提供している。
(段落【0008】〜【0009】) 本件訂正発明の検体センサーは,第1基板の第1面側及び第2基板の第1面側に,測定用セルに直接的又は間接的に接触して配置されているので,セル内に流体試料が配置されていると,非常に多数の検体センサーが少なくとも実質的に同時に流体試料のパラメータ値を測定することができ,個々の検体センサーのサイズを縮小することなく,その数を大幅に増やすことができる。個々の検体センサーのサイズを縮小すれば,非常に少ない試料量を維持しながらもなお一層多くの検体センサーに流体試料のパラメータを測定させることや,同じ数の検体センサーに流体試料のパラメータを測定させながら,試料量を減らすこともできる。(段落【0018】) 2 甲1発明について (1) 甲1は, 「多成分分析用の被覆電流測定電極アレイ」という題名のA教授ら による論文であり,甲1には,次の事項が記載されている。
ア 本論文では,それぞれが異なる選択透過性膜で被覆された,いくつかの電流測定電極からなるセンサアレイについて記述する。サイズ(アセチルセルロース),電荷(ナフロン,ポリ(ビニルピリジン),ポリ(エステルスルホン酸),お )よび極性(リン脂質)に基づいて異なる輸送特性を持つ被覆が,4電極薄層流量検出器と結び付けて使用される。等電位動作では,各分析物のアレイの応答パターンにより,個々の成分について独特な特性評価が行われる。多成分分析が,個々のセンサの部分的選択性を利用すること,およびパターン認識(多重線形回帰)法を用いることによって得られる。付加情報が,個々のセンサにおいて完全な流体力学ボルタモグラムを記録することによって得られる。新規アレイの利点が,神経学的に重要なカテコール化合物の定量化に関して示される。(1924頁の本文左欄1行〜16行) イ 実験セクション 装置。Figure 1.に4電極薄層フローセルが示されている。その本体は,2つの二電極(ガラス状炭素)半セル(モデルMF1000,Bioanalytical Systems(BAS))で構成された。ブロックのうちの1つに,溶液入口および出口配管を受け入れるための孔がドリルであけられた。2つのブロックが,2つのテフロンガスケット(TG-15M,BAS)によって分離された。Ag/AgCl(3M NaCl)参照電極およびステンレス鋼補助電極が,従来方式で下流に置かれた。フローインジェクションシステムについては以前に記述されていたが(2) 20μL試料ルー ,プが使用された。電極がIBM計測器Model EC 220ボルタメトリ分析器に接続され,その出力がHouston Omniscribeの記録紙レコーダに表示された。各電極のフローインジェクション応答が順次記録された。(1924頁の本文右欄9行〜22行) ウ 表面装飾。4つのガラス状炭素面は,これらを被覆する前に,0.05μmα-アルミナ粒子で研磨され,二重蒸留水で洗浄され,水浴中で5分間超音波 処理された。それぞれ異なる被膜が個々の電極に,対応する5mLの溶液を塗布して活性ディスクを覆い空気乾燥させることによって,塗布された。個々の膜は重なり合わなかった。別々の溶液は, (a)PVPをメタノール(0.5%溶液)で溶解し,(b)ナフロン溶液をエタノールで10倍に希釈し,(c)アセチルセルロースを1:1アセトン:シクロヘキサノン溶液(2%溶液)で溶解し, (d)水をEastman AQ 55D溶液に加え(1%で)これをメタノールで20倍に希釈し, ,かつ(e)12mgのコレステロールを,10mgのホスファチジルコリンを含む1mLのクロロホルム溶液に加えることによって,調製された。アセチルセルロース被膜は,別のディスクを被覆する前に,0.07M KOHで加水分解された。
(1924頁の本文右欄32行〜46行) エ 手順。フローインジェクション分析が,等電位動作および1.0mL/分の流量によって,アレイの利点を実証するために用いられた。動作電位(プラトー領域における)が順次,個々の電極に加えられた。一部の実験は,個々のセンサにおいて完全な流体力学ボルタモグラムを記録することによって行われた。(1924頁の本文右欄47行〜52行) オ Figure 1. (1925頁の左欄上部) (訳:図1 薄層フローセルの拡大図: (A,B)溶液入口および出口; 1〜C4) (C作用電極;(D1,D2)スペーサ) カ 考察 (ア) 部分的選択性被覆電極のアレイが,計量化学手法と結び付いて電流測定検知の能力を大きく高め得ることを実証した。 1926頁の本文右欄 (「DISCUSSION」の項の本文1行〜3行) (イ) この概念は生物医学(神経化学)用途の枠組み内で提示されたが,同様の電流測定-電極アレイが,環境監視または工業プロセス管理のために有益に使用され得る。(1927頁の本文左欄16行〜19行) (2) 上記(1)からすると,甲1には,本件審決が認定した前記第2の3(1)の甲1発明が記載されていると認められる。
(3) 原告の主張について ア 分析方法について 原告は,甲1発明について, 「多成分のフローインジェクション分析を行う4電極薄層フローセルであって」というように, 「分析」 「フローインジェクション分析」 がであることを認定すべきであると主張する。
しかし, 「多成分分析用の被覆電流測定電極アレイ」という甲1の題名や,論文の内容についての説明(上記(1)ア)のほか,考察(同カ)の記載に照らし,甲1発明がフローインジェクション分析に限定された4電極薄層フローセルについてのものであるとは認められない。したがって,原告の上記主張は採用できない。
イ セルの形成について (ア) 原告は,甲1発明について,2枚のスペーサが用いられていることを指摘して,「C1C2側ブロックのD2スペーサ側の面が,D2スペーサの切り抜き空間のC1C2側ブロック側の開口部分を閉じ,C3C4側ブロックのD1スペーサ側の面が,D1スペーサの切り抜き空間のC 3C4側ブロック側の開口部分を閉じることでセルを形成し」ていると認定するのは誤りである旨を主張する。
(イ) 甲1のFigure 1.及びその説明(上記(1)オ)によると,甲1発明においては,D1及びD2の2枚のスペーサが用いられているが,上記Figure 1.のほか,甲1にフローインジェクション分析が用いられた旨の記載があること(上記(1)イ,エ)や,フローインジェクション分析が,一定流量で細管内を流れている試薬に試料を導入し,細管内での分散・混合によって分析対象成分と試薬とを反応させ,下流に設けた検出器で反応生成物を検出して定量する方法であると認められること(甲28。なお,甲28は平成31年時点のものであるが,本件優先日当時におけるフローインジェクション分析の意味内容がそこに記載されたものと異なっていたとみるべき事情は見当たらない。)も考慮すると,甲1発明においては,上記2枚のスペーサを二つのブロックで挟み込む形で,溶液入口及び出口(A,B)以外から溶液が漏出することのないよう密閉されたセルが形成されることが明らかである。
それゆえ,甲1発明においては, 1C2側ブロック, 2スペーサ, 1スペーサ, C D DC3C4側ブロックの順で層状構造に配置されることを前提として, 1C2側ブロッ CクのD 2スペーサ側の面がD 2スペーサの切り抜き空間のC 1C 2 側ブロック側の開口部分を閉じ, 3C4側ブロックのD1スペーサ側の面がD1スペーサの切り抜き空 C間のC3C4側ブロック側の開口部分を閉じることで,セルが形成されるものということができる。この際には,D1スペーサ及びD2スペーサがそれぞれブロックの反対側で密着させられることになることも明らかである。
したがって,原告の上記(ア)の主張は採用できない。
ウ 作用電極及び配線について (ア) 原告は,本件審決は,甲1のFigure 1.に記載された作用電極C1〜C4には円柱部分とそれに接続している線部分があるところ,そのうち円柱部分が作用電極C1〜C4であり,線部分がボルタメトリ分析器に接続されることになる配線であると判断したが,甲1の作用電極は,円柱部分と配線部分とが一体となったものである,この点,本件審決は,円柱部分が溶液と接する部分で,線部分がボルタメトリ分析器に接続されることになることを理由としているが,溶液と接するのは, 円柱部分とされた部分のうち溶液と接する端面に露出する感知部分のみであるなどとして,それらの点に沿わない甲1発明の認定には誤りがある旨を主張する。
(イ) 甲1の装置の説明(上記(1)イ)及びFigure 1.(同オ)のほか,論文の内容についての説明(同ア)及び表面装飾の説明(同ウ)を踏まえると,被覆された電流測定のための電極が,セルに相対するように,二つのブロックのD1スペーサ又はD2スペーサ側の各面に達していることや,それらの電極が,それら各面とは反対側において,ボルタメトリ分析器に接続されていることは明らかであり,また,電極のうち上記のとおりD 1スペーサ又はD 2 スペーサ側の各面に達している部分が,電流測定に当たって作用する部分,すなわち,作用電極C1〜C4となるものと解される。
そうすると,本件審決の「作用電極C1及び作用電極C2は,上記セルに相対するようにC 1 C 2 側ブロックのD 2 スペーサ側の面にあり,それらに接続する配線はD2スペーサ側と反対側の面に出ており,作用電極C 3及び作用電極C4は,上記セルに相対するようにC 3C4側ブロックのD1スペーサ側の面にあり,それらに接続する配線はD1スペーサ側と反対側の面に出ており」, 「そして,上記各配線はボルタメトリ分析器に接続され,各電極のフローインジェクション応答が記録される」との認定は,上記のような甲1の装置の構造を前提に,電極とボルタメトリ分析器との間が配線により接続されている旨及び各電極のフローインジェクション応答の記録について補足して認定したものであって,甲1発明の認定として誤っているとはいえない。原告の主張するように,上記Figure 1.で示された作用電極C1〜C4が,円柱部分と配線部分とが一体となったものであると解することはできず,このことは,Figure 1.におけるC1〜C4の表示によって左右されるものではない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
3 甲2〜4に記載された技術的事項について (1) 甲2について ア 甲2は,名称を「アッセイカートリッジ及び同アッセイカートリッジを 用いた方法」とする発明に係るものであり,甲2には,次の事項が記載されている。
【特許請求の範囲】 【請求項15】 複数の生化学アッセイを実行する装置であって, 少なくとも1つの専用の作用電極,少なくとも1つの二役電極,及び少なくとも1つの対向電極を含んだ複数の電極であり,前記専用の作用電極及び二役電極の上にはアッセイ試薬が付着された複数の電極を備え, 前記二役電極は最初は作用電極として働き,次に対向電極として働くように構成された装置。
【請求項21】 前記複数の電極は単一の検出チャンバ内に配置されている請求項15に記載の装置。
発明の詳細な説明】 【発明の開示】 【課題を解決するための手段】 【0061】 図示のように,好適な一実施例は,好適には少なくとも1つの専用の対向電極135,1つの二役電極136,及び1つの専用の作用電極137有する電極アレイを使用するであろう。このような好適な構成は二役電極135が再利用され得るペアワイズ形態の発射スキーム(以下で詳細に説明する)を使用するであろう。図1bはカートリッジベースのデバイス150の検出部分の可能な一実施例をより詳細に示している。図示のように,2つの検出チャンバ155,156は各々,個々にアドレス可能な9本の電極の列157,158を含んでいる。検出チャンバ及び電極157,158への対応するリード線170,171を備えた2列の電気接点165,166に標本,試薬及び/又は洗浄溶液を導入する2つの流体入口ライン160,161が示されている。この好適な実施例では,流体検出(例えば,標本, 試薬,洗浄液,緩衝液等)及び/又は流体識別(例えば,標本,試薬,洗浄液,緩衝液等及び/又は全血,血漿,粘液等の標本タイプの識別)において使用されてよい2列のインピーダンスセンサ172,173も示されている。
【図1b】 【0062】 図1cは好適な一実施例のアセンブリの略図であり,電極アレイ176を備えたカートリッジコンポーネント178のアセンブリを示している。一実施例によれば,(高きにはカーボンインクから成る)電極アレイ176は電極180,電気リード線181,及び電気接点182の部分を形成する基体層175に塗布される。誘電体層177を電極層上に塗布して,アッセイ領域190及びインピーダンスセンサ191を形成することが好ましい。別の場合には,電気接点182は基体の反対側に印刷され,基体を貫ける貫通孔を介して電極180又は電気リード線181に接続されてよい。カーボン層又は誘電体層のほか種々の別の材料を塗布する方法を以下により詳細に説明する。
【0142】 別の実施例では,標本チャンバ及び廃棄物チャンバは共に,第1及び第2の入口 /出口導管を有する検出チャンバ(好適には,細長形の形状を有する検出チャンバであり,入口/出口導管はその細長形の寸法の両端において又はその近傍に配置される)の上流側に配置される。
【0174】 検出チャンバは細長形寸法の対向する端部において又はその近傍に入口及び出口を有する細長形のフローセル設計に配置されることが好ましい。用途,製造方法,標本サイズ等に応じて,フローセルの寸法はナノメートル〜数十センチメートルの範囲であってよく,体積はピコリットル〜ミリリットルの範囲であってよい。ある好適な実施例は0.05mm〜20mm,より好適には1〜5mmに及び得る範囲の幅,及び0.01〜20mm,より好適には0.05〜0.2mmの範囲の高さ(好適には,所与の量に対しては,検出チャンバの底部の表面積を,特にこの表面を用いて結合試薬を固定化するときに増大させるように該幅以下)を有する。高さは幅以下であることが好ましい。検出チャンバは0.1〜1000μL,より好適には1〜200μL,さらに好適には2〜50μL,もっとも好適には5〜25μLの標本量を収容するように設計されることが好ましい。標本量(例えば,フィンガープリックの血液を測定するカートリッジ)によって制限される実施例では,特に好適な検出チャンバの容量は,10μL未満,より好適には0.5〜10μL未満,さらに一層好適には2〜6μL未満である。フローセルは高さ以上の幅を有することが好ましい。
【0181】 本発明の好適な一実施例は「積層」プロセスを用いて製造されてよく,これによりカートリッジボディの機能表面はカバー層を用いて密閉されて流体ネットワークを形成する。例えば,本願明細書では「機能表面」呼ばれるものを提供する,カートリッジボディの1つ又は複数の表面の凹部(例えば,チャネル,溝,ウェル等)である。カバー層への機能表面の密閉/結合により,少なくともそのいくつかは一部はカートリッジボディの凹部によって,一部はカバー層の表面によって形成され る流体コンポーネント(例えば,導管,チャンバ等)を含んだ流体ネットワークが形成される。
イ 上記アから,甲2には, 「検出チャンバに流れる流体をそれに配置されている複数の電極でアッセイする技術において,検出チャンバの形状が細長い直線的なものであること」という技術的事項(甲2技術)が記載されている(なお,原告は,甲2の段落【0061】の記載の一部が国際公開公報の誤訳によるものであることを主張するが,その点は,上記の甲2技術の認定を左右するものではない。。
) (2) 甲3について ア 甲3は,名称を「診断用フローセルデバイス」とする発明に係るものであり,甲3には,次の事項が記載されている(下線は原文に付されたものである。。
) 【特許請求の範囲】 1.試験サンプル中のアナライトの存在または量を判定するための診断用フローセルであって,前記フローセルが,(I) 対向する第1及び第2の基板の間に配置され,長手方向切欠きを有し,前記対向基板との間でフローチャネルを形成するスペーシング層と,(II)前記スペーシング層と前記対向基板とを結合させる締結手段と,(III)前記サンプルを前記フローチャネルに流入させ得る流入口手段と,(IV)前記サンプルを前記フローチャネルから流出させ得る流出口手段と,(V)検出可能な信号を発生する固定化試薬手段とから構成されており,前記試薬手段が少なくとも部分的に前記フローチャネルに内蔵されていることを特徴とする診断用フローセル。
・・・ 4.前記試薬手段が,参照電極と対極と作用電極とから成ることを特徴とする請求項1に記載のフローセル。
発明の詳細な説明】 診断用フローセルデバイス 発明の詳細な説明 II.フローセル 本発明は,対向する2つの基板層と,これらの2つの対向基板層の間に配置されたスペーシングまたはガスケット(gasket)層と,から成る診断用フローセルを目的とする。スペーシングまたはガスケット層は長手方向切欠きを有し,該切欠きは基板と共にフローセルのフローチャネルを形成する。・・・ 本発明で提供されるフローセルの種々の構成層を対向基板に付加し,次いで基板をガスケット層に結合し,本文中に教示されたフローセルを形成する。フローセルの設計及びその製造方法などを理由として診断用フローセルは再使用可能であり,廉価に製造でき,完成形態または未完成形態で容易に保存でき,固定化試薬手段のパターン形成が可能であり,従来の技術に比較して機械加工部分の数が顕著に少ない。更に,試薬手段から発生する信号対雑音比が増加し,電磁干渉が減少する。
対向する基板は,該基板に付加される種々の物質を支持し得る化学的に不活性で物理的に耐久性の任意の不導性材料から製造され得る。このような材料の非限定例は,ポリエステル,ポリカーボネート,ポリスチレン,ポリエーテルイミドのようなプラスチックフィルム,アクリル系,フェノール系,ポリオレフィンのようなプラスチック成形物,アルミナ(Al2O3),ジルコニア(ZrO2),マグネシア(MgO)のようなセラミックス,ガラス,シリコンウェーハなどである。
VI.実施態様 多くの型のデバイスが本発明の範囲に包含されるが,特に好ましい実施態様を図面と共に以下に記載する。先ず図面を参照すると,図1は電気化学的フローセルの展開図である。図1は,電気化学的フローセルの一方の部分を形成するための,基板10と基板10に付加された複数の層とを示す。詳細には,基板10に付加され得る層は,レドックスカップル22と導電性トレース32とから成る参照電極と,作用電極の一部を形成する導電性トレース30と,マスク層40と,スペーシング層50と,接着層60とを含む。図1はまた,第2基板70と基板70に重層され た対極80とから成る電気化学的フローセルの他方の半体を示す。電気化学的フローセルを形成する2枚の基板の結合を補助するために,対向する基板10及び70は,位置合わせ用開孔12及び14と72及び74とを備えており,マスク層40は位置合わせ用開孔42及び44を備えており,スペーシング層は位置合わせ用開孔52及び54を備えており,接着層は位置合わせ用開孔62及び64を備えており,対極は位置合わせ用開孔82及び84を備えている。
接着層60及びスペーシング層50は長手方向切欠き66及び56を有しており,これらは,接着層とスペーシング層とを基板10と70との間に挟持したときにフローセルのフローチャネルを部分的に形成する。基板70と対極層80とはポート用の開孔76及び78と,86及び88とを備えている。基板及び夫々の層を互いに組立てるかまたは結合させたとき,ポート用の開孔は長手方向切欠き56及び66の末端の近傍で位置合わせされ,フローチャネルの流入ポート及び流出ポートとして機能する。
【図1】 イ 上記アから,甲3には, 「フローチャネルに流れる試験サンプルをそれに内蔵されている複数の電極で検出する技術において,フローチャネルが細長い直線的なもの,すなわち溝であること」という技術的事項(甲3技術)が記載されている。
(3) 甲4について ア 甲4は,平成11年6月29日を特許発行日とするもので,名称を「極小スルーホールを備えた電子配線基板」とする発明に係るものであり,甲4には,次の事項が記載されている。
(ア) 技術分野 本発明は,流体を分析するためのシステムに関し,より詳細には,血液ガス分圧,電解質濃度,および流体試料のヘマトクリット値を決定するための装置と,このような装置を製作するための方法とに関する。(1欄6行〜10行) (イ) 発明の概要 たとえば,本発明の一実施形態では,pCO2,pO2,pH,Na+,K+,Ca2+およびヘマトクリット値のセンサがすべて,単一の比較的小さい試料チャンバ内に設けられる。(4欄63行〜67行) (ウ) 発明を実施するための形態 a 図2は,本発明のセンサアセンブリ400の一実施形態の表平面図である。図3は,図2に示された本発明のセンサアセンブリ400の裏平面図である。本発明品は,無機基板405上に配置された高純度の平坦な円形の銀の電位差測定センサおよび電流測定電極センサを含む,複数のセンサ403を有するセンサアセンブリ400である。センサアセンブリ400は,好ましくは,フローセルを画定するハウジング内に密閉され,このフローセルには,センサ403による分析のための分析物が伝達される。(6欄2行〜12行) b 本発明の好ましい実施形態の基板405は,比較的長い期間(すなわち,本発明の一実施形態の場合では6カ月超)にわたって水性電解質および血液 を本質的に浸透させない。本発明の好ましい実施形態によれば,無機基板405は,厚さ約0.025インチの市販グレードの96%アルミナ(Al 2O3)のシートである。基板405は,好ましくは購入前に熱処理によって安定化される。1つのそのような基板は,Coors Ceramic Company,Grand Junction,Colo.から入手可能である。あるいは,基板は,以下でさらに詳細に説明するように,センサを上に堆積できる任意の非導電性の本質的に平坦な面とすることができる。たとえば,基板は,実質的に滑らかで平坦な面として使用できる,任意のシリコン,ガラス,セラミック,木製品,非導電ポリマーまたは市販のガラス材料とすることができる。しかし,基板は,好ましくは,pHが6を超え9までの電解質が存在することに耐えること,および長期間(すなわち数週間程度)本質的に影響を受けないままでいることができなければならない。
アルミナ基板を使用することにより以下の利点,すなわち, (1)低いサーマルマス,(2)水性電解質および血液に長期間曝されたときの寸法安定性,(3)厚膜堆積技法と共に使用するための機械的および化学的に安定した基板を確立する,(4)非常に小さい直径の孔に対し高い精度の正確なレーザ加工をすることができる,5) (センサを製作するために使用される材料のいずれとも反応しない,および(6)非常に高い電気抵抗,が得られる。無機基板405および各堆積層を含むアセンブリが,水性電解質および血液に曝されたときに非常に安定しており,かつ破壊されないことの結果として,センサアセンブリ400は, (1)センサ403のそれぞれの間, (2)センサ403のそれぞれと各導電体の間,および(3)導電体それぞれの間,に非常に高度の分離を維持する。
(7欄15行〜51行) c 図2および図3に示されたセンサアセンブリ400によれば,以下のセンサが設けられる。(1)ナトリウムセンサ403h,(2)カリウムセンサ403g, (3)カルシウムセンサ403f, (4)pHセンサ403e, (5)二酸化炭素センサ403a, (6)酸素センサ403b,および(7)ヘマトクリット値の センサ403c,403d。(8欄24行〜29行) d 図12は,好ましくは透明または半透明のプラスチックケース1200内に取り付けられたセンサアセンブリ400の上面図である。
・・・ センサアセンブリ400の表側は,フローセル1201および参照セル1203を形成するプラスチックケース1200に密封される。重ね継手1211が,好ましくはセンサアセンブリ400とケース1200の間に形成される。本発明の好ましい実施形態によれば,エポキシ接着剤などの接着剤が,センサアセンブリ400をケース1200の中に固定するのに使用される。ケース1200は,入口ポート1202および出口ポート1204を備えて形成される。入口ポート1202および出口ポート1204は,試料をフローセル1201に注入し,フローセル1201から排出することができるようにする。接着剤は,参照セル1203およびフローセル1201を,流体が入口ポート1202および出口ポート1204だけを通って出入りするように,重ね継手に沿って封止する。
・・・ フローセル1201は,フローセルに入る試料が確実にセンサ403のそれぞれと接触するように形成される。
(20欄6行〜65行) 【図12】 イ 上記アから,甲4には, 「フローセルに流れる流体をそこにある複数の電極で分析する技術において,フローセルの形状が細長い直線的なものであること」という技術的事項(甲4技術)が記載されている。
4 乙1〜4に記載された事項について (1) 乙1について 乙1は, 「試料体積の超小型化を実現する血液ガス分析用マイクロフローセル」という題名の論文であり,乙1には,次の事項が記載されている。
ア 概要 血液ガスモニタリング用のマイクロフローセルをシリコン基板上に作製し,試料体積の超小型化を実現した。本マイクロフローセルはクラーク型のマイクロpO2センサー,セブリングハウス型のマイクロpCO2センサー,およびISFET(イオン感応電界効果トランジスタ)型のpHセンサーを有する。セル寸法は1.0cm×0.6cm×0.8cmであり,必要な試料体積は約0.34μlである。
(205頁の「Abstract」の項) イ 序論 マイクロバルブやマイクロポンプ等のマイクロフロー制御デバイスのシリコン基板上への作製が,微細加工により行われてきた[1]。小型で,かつ無視し得るほどデッドボリュームが小さいため,μl/minレベルの極めて少量のフロー制御が達成可能である。これらのデバイスの有益な応用として,例えば液体クロマトグラフィー(LC)やフローインジェクション分析法(FIA)等の従来の化学分析システムの統合がある。(205頁の本文左欄2行〜10行) ウ マイクロフローセルの設計と構造 筆者らの目的は,センサーと基準電極を統合してデッドボリュームを最小化することであった。図1にフローセルの構造を図解する。1個のpO2センサー,1個のpCO2センサー,および2個のpH ISFETが同一ウェーハ上に統合されている。3個のAg-AgCl基準電極がウェーハの裏側に配置されている。試料の入り口および出口はガラス側にある。シリコンウェーハとガラスは感光性ドライフィルム(日立化成製,SR-1300G)で結合され,その内部にフローチャネルが形成されている。チャネルは幅600μm,長さ7mm,厚さは80μmである。
必要な試料体積は約0.34μlである。(次の図も含め,205頁の右欄) (2) 乙2について 乙2は,昭和60年8月6日を特許発行日とするもので,名称を「迅速な血液ガス分析のための酸素センサ」とする発明に係るものであり,乙2には,次の事項が記載されている。
ア 技術分野 本発明は酸素センサに関し,より詳細には,フローインジェクション分析システムのような高速サンプル分析システムに適合された,このようなセンサに関する。
(1欄6行〜9行) イ 発明を実施するための最良の形態 (ア) まず図1を参照すると,本発明の原理によるセンサをFIAシステム内へ組み込むための象徴的な設定が示されている。フローセル100が,入力ポート112と出力ポート113との間の,FIAキャリアおよびサンプル用,および入力ポート109と出力ポート111との間の電解質アクセプタ物質用の両方の通路を画定する。次に,消費されたサンプル,キャリア,およびアクセプタは,フロ ーセル出力114を介して適切な廃棄物容器106へ排出される。したがって,アクセプタ101の供給が,適切なタイミング制御下で,ポンプ102によって引き出され,アクセプタ物質を入力ポート109へ送達する。システムのFIAの態様はキャリアの供給を含み,これはポンプ104を介してサンプル注入バルブ105へ,そしてそこからFIA入力ポート112へ送達される。図1のセンサはpO 2センサであり,したがって,カソード電極107およびアノード電極108を含む。
このようなセンサでは,アクセプタ流体は好ましくは,重炭酸塩緩衝液である。
(3欄60行〜4欄11行) (イ) 本発明の原理によるセンサはおそらく,図2を検討するとよりよく理解することができ,これは,本発明の原理によるセンサを組み込んだ例示的なフローセルの分解バージョンを示す。(4欄44行〜48行) (ウ) したがって,膜204は,アクリル接着剤の層202および205とともに,サンプル流およびアクセプタ流の両方のためのそれぞれの流路を画定することが分かるであろう。特に,アクセプタ流は,入力ポート109を介して入り,チャネル203に沿って通過し,廃棄物ポート114を介して排出されることが分かるであろう。キャリア流は,ポート112を介して入り,下部アクリル接着剤層202および膜204における開口を通過し,次いで上部アクリル接着剤層205におけるチャネル206を通って流れ,次いで下部アクリル接着剤203の右端部分を通って出て廃棄物排出ポート114に達する。(5欄4行〜15行) ウ 図1エ 図2 (3) 乙3について 乙3は,シリコンチップ上の微細加工された分析装置」 「 という題名の論文であり,乙3には,次の事項が記載されている。
ア ほとんどのシリコンベース電気化学センサーにおけるこの欠点は,フローインジェクション分析技術(3)の使用に基づいてセンサーを総合的な化学分析システムに搭載することによって克服できる。さらなる段階では,小型センサーの優位性を引き出すために,システムの液体処理部分も小型化することができる。このような複合的な分析システムはシリコンマイクロポンプ,マイクロバルブ,センサー,および電子部品から構成されており,サンプリング,校正,および信号処理を行う。小型であるため,試料体積,試薬消費量,応答時間に関して効率を改善する。したがって,臨床応用向けの携帯分析装置として有望なツールである。
筆者らの研究室ではいくつかのシリコンベース分析装置を開発してきたが,その1つはマイクロポンプとイオン感応性センサーを統合した装置(4)であり,他方はマイクロポンプとリン酸塩用の光検知システムを統合した装置(5)である。本論文で筆者らは,pO2,pCO2,およびpH用の血液ガスセンサーについて説明するが,これは少量の血液試料の臨床モニタリングに適した小型の携帯または病床用装置で使用するために設計された。(1805頁の本文左欄末行〜右欄21行) イ センサーデバイスは,寸法が22×6mmであり,チップ上に直接形成されたポリマーのリングであるフロースルーチャネルを含む(図1) チャネルは長 。
さ18mm,幅2mm,内容積は15μLであり,2mmの間隔で一列に並んだ9個のセンサー素子を含む。これらの素子(基準電極,4個の電流測定型PO2センサー,2個のISFETベースPCO2センサー,1個のpH-ISFETセンサー,および1個の温度センサー)により,試料のpO2,pCO2,およびpHを重複して測定することが可能である。(1805頁の本文右欄23行〜32行) ウ 図1(1806頁上部) (4) 乙4について 乙4は, 「pO2,pCO2及びpHのための複合血液ガスセンサ」という題名の論文であり,乙4には,次の事項が記載されている。
ア 要約 シリコンベースのセンサチップ及び集積されたフロースルーチャネルと組み合わせた血液中のpO2,pCO2及びpHの体外モニタリングのための小型化学分析システムを発表する。従来の電気化学的センシング原理が用いられ,平面形態で実現される。センサは,IC互換性のあるプロセスを用いてウェハレベルで完全に製造される。フロースルーチャネルをチップ上に直接集積することによってサンプルサイズ及び試薬消費量が大幅に削減される。デバイス評価は,水溶液,輸血用血液及び全血で実施された。センサは,2か月以上にわたって優れた線形性,低ドリフト性及び機能的寿命を示す。(191頁の「Abstract」の項) イ センサチップ設計及び製造 センサチップは,600μm厚さのポリマーリング(図1)によって画定されたチップ上に直接フロースルーチャネルを提供する。チャネル内には,15μLの内部容積を有し,9個の独立した検出素子が1列に配置されており,参照電極,4つのアンペロメトリックpO2センサ,2つのISFETベースのpCO2センサ,1つのpH-ISFETセンサ及び1つの温度センサを設けている。
(192頁の上部の図及び本文2行〜6行) 5 取消事由1(本件訂正発明1と甲1発明の相違点の看過)について (1) 相違点の看過@(スペーサ)について ア 本件訂正発明1について,本件訂正後の特許請求の範囲に,スペーサが1枚の単一の部材によって構成されると解すべき記載はない。
また,本件明細書の記載(前記1(1))にも,スペーサを複数の部材で構成することを除外する旨の記載は見られない。本件明細書の図1では,1枚の単一の部材によってスペーサを構成する例が示されているが,そのことから直ちに,スペーサを複数の部材で構成することが除外されているとはいえない。
さらに,本件訂正発明の概要(前記1(2))からしても,本件訂正発明の「試料流 体を最小量としつつ測定できるパラメータを多くする」という課題に照らし,課題解決のために,スペーサを1枚の単一の部材によって構成することに特段の技術的意義があるとは認められない。
したがって,本件訂正発明1のスペーサについて,1枚の単一の部材であると解釈すべき理由はない。
なお,本件特許に対応する米国特許US8728288B2(甲30)のクレーム1において,「スペーサ」が「a spacer」と表記されていることは,本件訂正発明1の上記解釈に影響するものではない。
イ 甲1発明の認定及びそこにおけるセルの形成方法については,前記2(2)及び(3)イで認定判断したとおりである。
ウ 上記ア及びイからすると,甲1発明において2枚のスペーサにより形成されるセルは,本件訂正発明1においてスペーサにより形成される測定用セルに相当するというべきであって,相違点の看過@(スペーサ)についての原告の主張には理由がない。
(2) 相違点の看過A(基板)について ア(ア) 本件訂正発明1について,本件訂正後の特許請求の範囲に, 「第1電子配線基板」及び「第2電子配線基板」の厚さ(検体センサーがその上に形成されている「第1面」と, 「第2面」との間の距離)や,基板の厚さと基板の厚さ以外の大きさとの関係(以下「相対的な厚さ」という。)を限定する記載はない。
(イ) 本件明細書の段落【0013】には,基板について, 「検体センサーを電気接点に接続するために必要な配線を担持することのできるプレート状又は矩形薄板状の基板であるのが望ましい。, 」「第1面及び反対側の第2面は,無論,プレート又は薄板の2つの主面であり,平行になっているのが望ましい。 と記載されてい 」るものの,プレート状又は薄板状が望ましいという記載にとどまっており,基板の厚さや相対的な厚さについて数値等で限定する記載はない。また, 「第1基板」及び「第2基板」の横方向や縦方向の広がりについて記載されている本件明細書の段落 【0022】にも,基板の厚さや相対的な厚さについての記載はない。
上記に関し,本件明細書の段落【0027】【0028】【0053】及び【0 , ,054】には,好適な実施形態における第1基板や第2基板の厚さを含む寸法について記載されているが, 「第1及び第2基板・・・の寸法・・・は,意図される用途次第で改造してもよい。(段落【0027】, 」 )「第1及び第2基板・・・の寸法・・・は,意図される使用法に応じて適合させてもよい。(段落【0053】 」 )とも記載されており,上記の実施例における記載が基板の厚さや相対的な厚さを限定するものとは解されない。
そうすると,本件明細書の記載に照らしても,基板の厚さや相対的な厚さが限定されているとは認められない。
(ウ) 本件訂正発明の概要(前記1(2))からしても,本件訂正発明の「試料流体を最小量としつつ測定できるパラメータを多くする」という課題に照らし,課題解決のために,基板の厚さや相対的な厚さを限定することに特段の技術的意義があるとは認められない。
(エ) したがって,本件訂正発明1の基板について,その厚さや相対的な厚さが限定されているとはいえない。
イ 上記アのほか,一般に,基板の厚さや形状が,その材質,用途等に応じて適宜設定され得ることに照らすと,甲1発明における二つのブロックは,本件訂正発明1における「基板」に相当するというべきであって,相違点の看過A(基板)についての原告の主張には理由がない。
ウ(ア) 原告は, 「基板」の語や「板」の語の一般的な意義(甲31,32)について主張するが,甲1発明における二つのブロックは,甲1のFigure 1.(前記2(1)オ)に照らしても,第1面と第2面との間の距離は,他の面間の距離よりも明らかに短いから,必ずしも上記の一般的な意義に反するとはいえず,上記ア及びイで認定判断したところを左右するものではない。
(イ) また,原告は,被告の主張に対する反論として,本件訂正発明1につ いて,本件明細書の段落【0013】及び【0043】の記載を踏まえ,本件訂正発明1の電子配線基板に担持される「配線」やそれと検体センサー及び電気接点との位置関係等について指摘した上で,甲1発明においては,検体センサーとされる部分と電気接点の間に配線は存在していないから,甲1発明のブロックは配線を担持しているとはいえず,「電子配線基板」に相当しないと主張する。
しかし,本件訂正発明1について,本件訂正後の特許請求の範囲には,下記(3)ア(ア)のとおり,検体センサーと電気接点の間に配線が存するとの特定はない。また,本件明細書の段落【0013】は, 「基板は,検体センサーを電気接点に接続するために必要な配線を担持することのできる・・・基板であるのが望ましい。」という記載にすぎず,段落【0043】は,実施例の記載であるから,上記のとおり特許請求の範囲に記載がないにもかかわらず,検体センサーと電気接点との間に配線が存すると特定することはできない。さらに,下記(3)ア(ウ)のとおり,本件訂正発明の概要(前記1(2))からしても,検体センサーと電気接点の間に配線が存することに特段の技術的意義があるとも認められない。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって採用できない。
(3) 相違点の看過B(電気接点)について ア(ア) 本件訂正発明1について,本件訂正後の特許請求の範囲には, 「電気接点」について,それが「第1電子配線基板」及び「第2電子配線基板」の各「第1面上に形成されている」 「2つの検体センサー」と接続されている旨の特定がされているのみで,「電気接点」の位置や,「電気接点」と「検体センサー」との接続方法及び「配線」との関係等について特定する記載はない。
(イ) これに対し,本件明細書の段落【0021】〜【0023】【004 ,3】【0044】【0049】【0051】及び【0054】並びに【図1】及び , , ,【図2】には, 「電気接点」が基板の第1面上又は第2面上に配置されることが記載されているが,そのことから直ちに,上記(ア)のとおり特許請求の範囲に記載がないにもかかわらず,本件訂正発明1の「電気接点」について基板の第1面上又は第2 面上に配置されるものと特定することはできない。
(ウ) 本件訂正発明の概要(前記1(2))からしても,本件訂正発明の「試料流体を最小量としつつ測定できるパラメータを多くする」という課題に照らし,課題解決のために, 「電気接点」を基板の第1面上又は第2面上に配置することや, 「電気接点」と「検体センサー」との接続方法及び「配線」との関係等に特段の技術的意義があるとは認められない。
イ 甲1発明の認定並びに作用電極及び配線については,前記2(2)及び(3)ウで認定判断したとおりである。
ウ 上記ア及びイからすると,甲1発明の「作用電極C1」 「作用電極C4」 〜とそれらに「接続する配線」との接続部分は,本件訂正発明1の「電気接点」に相当するということができ,相違点の看過B(電気接点)についての原告の主張には理由がない。なお,甲1発明における「作用電極C1」〜「作用電極C4」と「配線」との接続部分が厳密にどこに位置するかという点は,以上の認定判断を左右するものではない。
(4) 甲1発明と本件訂正発明1との対比 上記(1)〜(3)によると,取消事由1は認められない。
そして,甲1発明と本件訂正発明1を対比すると,それらの間には,本件審決が認定した前記第2の3(2)ア(ア)の一致点及び相違点が存在すると認められる。
6 取消事由2(本件訂正発明1に関する相違点1についての判断の誤り)について (1)ア 本件優先日前の技術として,甲2技術(検出チャンバに流れる流体をそれに配置されている複数の電極でアッセイする技術において,検出チャンバの形状が細長い直線的なものであること) 甲3技術 , (フローチャネルに流れる試験サンプルをそれに内蔵されている複数の電極で検出する技術において,フローチャネルが細長い直線的なもの,すなわち溝であること)及び甲4技術(フローセルに流れる流体をそこにある複数の電極で分析する技術において,フローセルの形状が細長い 直線的なものであること)が認められる(前記3(1)〜(3)) そして, 。 甲2技術の「検出チャンバ」,甲3技術の「フローチャネル」及び甲4技術の「フローセル」は,それぞれ本件訂正発明1の「測定用セル」に相当するものといえる。
イ(ア) 乙1〜4の記載事項(前記4)によると,本件優先日前に,次の技術的事項が知られていたことが認められる。
a pO2センサー,pCO2センサー及びpHセンサーを有する血液ガスモニタリング用のマイクロフローセル(セル寸法は1.0cm×0.6cm×0.8cm)について,フローチャネルを幅600μm,長さ7mm,厚さ80μmとし,必要な試料体積を約0.34μlとすること。そのようなデバイスの有益な応用として,例えば,液体クロマトグラフィーやフローインジェクション分析法等の従来の化学分析システムの統合があること。(前記4(1)) b フローインジェクション分析システムのような高速サンプル分析システムに適合された酸素センサ(pO2センサを含む。)に関し,チャネルを細長い直線的な形状とすること。(前記4(2)) c フローインジェクション分析技術を使用する,pO2,pCO2及びpH用の血液ガスセンサーを有する分析装置において,フロースルーチャネルを長さ18mm,幅2mm,内容積15μLの細長い直線的な形状とすること。
(前記4(3)) d 血液中のpO2,pCO2及びpHの体外モニタリングのための小型化学分析システムにおいて,フロースルーチャネルを細長い直線的な形状とすること。(前記4(4)) (イ) 上記(ア)aの「フローチャネル」,同bの「チャネル」並びに同c及びdの「フロースルーチャネル」は,それぞれ本件訂正発明1の「測定用セル」に相当するものといえる。
ウ(ア) 上記ア及びイからすると,フローインジェクション分析を用いるものを含め,測定用セルに流れる流体を複数の電極で検出する技術において,その測定 用セルの形状を溝などの細長い直線的な形状とすることは,本件優先日前の周知技術であったと認められる。そして,そのような形状の測定用セルにおいて,そこを通って流れる流体が「少なくとも実質的に直線的な」運動を行うものであることは,公知の事項であったというべきであるから,測定用セルをそのような形状のものとすることは,当業者が容易に想到することができたと認められる。
(イ)a 本件明細書の段落【0026】【0048】によると,本件訂正発 ,明1のスペーサの切り抜き溝の寸法は,本件訂正発明1を実施するに当たり望ましい寸法を特定したものであり,それを超える技術的意義を有するとは認められない。
b 甲2の段落【0174】には,「検出チャンバ」について,「ある好適な実施例は0.05mm〜20mm,より好適には1〜5mmに及び得る範囲の幅,及び0.01〜20mm,より好適には0.05〜0.2mmの範囲の高さ」,「0.1〜1000μL,より好適には1〜200μL,さらに好適には2〜50μL,もっとも好適には5〜25μLの標本量を収容するように設計されることが好ましい」, 「標本量(例えば,フィンガープリックの血液を測定するカートリッジ)によって制限される実施例では,特に好適な検出チャンバの容量は,10μL未満,より好適には0.5〜10μL未満,さらに一層好適には2〜6μL未満である」といった記載がある(前記3(1)ア)。
c 上記bの記載に,上記イ(ア)a,cの各記載及び一般的に,電極を用いて生化学的な成分分析を行う装置について,標本サイズ,標本量等によってスペーサの溝の寸法を変更することは,当業者が適宜行う事項であることからすると,スペーサの切り抜き溝の寸法を「長さ10mm〜50mm,幅1mm〜5mm及び深さ0.2mm〜0.6mm」 (これに基づいて計算すると,内容積は2μL〜150μLとなる。 とすることは, ) 当業者が容易に想到することができたものというべきである。
エ したがって,相違点1に係る本件訂正発明1の構成は,当業者において容易想到なものであったと認められ,取消事由2は認められない。
(2) 原告の主張について ア 測定用セルの形状に係る主張について (ア) 原告は,甲1発明における菱餅状のセルの形は,フローインジェクション分析に特有の技術的な理由によるものであるとし,セルの形が菱餅状とされていることには,@セルにおいて試料と試薬が分散・混合されること,Aサンプル流体が,キャリア流体に包囲されたままセルを通過することになる結果,セルの内側の壁に触れず,セルの内側に残留することがないことという技術的な理由がある旨を主張する。
しかし,次の点に照らし,原告の上記主張は採用できない。
a 甲1発明がフローインジェクション分析に限定されたものと認められないことは,前記2(3)アで判断したとおりである。
b A陳述書(甲29)には,上記の原告の主張に沿う記載があるが,根拠となる文献等が示されておらず,それがそのまま甲1発明に接した当業者による客観的な理解を示すものであるとは認められない。
菱餅状の形のセルにおいて,溝などの細長い直線的な形状のセルにおいて生じる流れと比較して,試料と試薬の混合・拡散という観点からみて有意な差異のある流れが生じるという技術常識を認めるべき他の証拠はない。この点,B陳述書(甲33)には,むしろ,菱餅状の形のセルにより予測できない乱流が発生しなくなる旨をいう記載がある(3枚目の5行〜7行)。また,セルの形が菱餅状とされていることによって,サンプル流体が,キャリア流体に包囲されたままセルを通過することになる結果,セルの内側の壁に触れず,セルの内側に残留することがないという技術常識を認めるべき他の証拠もない。さらに,血液試料のpO2,pCO2及びpHの測定にフローインジェクション分析装置が適していない旨のA陳述書の記載は,上記(1)イ(ア)のとおり乙1〜4から認められる技術的事項と整合しないものであるし,菱餅状の形のセルを実質的に直線的な形状に変更することに二つの主な欠点がある旨のA陳述書の記載は,当該変更後においてもフローインジェクション分析を 用いることを前提としたものであって,他の分析方法を用いる分析装置とする場合を含めた容易想到性の判断に影響するものではない。
したがって,A陳述書(甲29)の記載は,上記(1)の容易想到性についての認定判断を左右するものではない。
c B陳述書(甲33)には,甲1発明で使用されているようなフローインジェクションシステムについて,血液中のpO2,pCO2又はpHの測定のために当業者によって使用されたとは考えられない旨の記載があるが,その内容に照らし,当該記載は,甲1発明のセルをそのまま上記測定のために用いることは相当でない旨を述べるにとどまるものとみられる。また,当該記載がフローインジェクションシステムについての一般的な理解をいうものであるとした場合には,上記(1)イ(ア)のとおり乙1〜4から認められる技術的事項と整合しない。B陳述書におけるセルの形状の変更についての記載も,上記(1)の容易想到性についての認定判断を左右するものではない。
(イ) 原告は,乙1〜3により認められる周知技術の適用に関し, 「測定用セルに流れる流体を複数の電極で検出する技術」のように過度に抽象化された技術を前提とすることは誤りであり,また,乙1〜3から,フローインジェクションの測定用セルの形状として細長い直線的なものが用いられることが周知であるともいえず,当業者が甲1発明の測定用セルを直線状にすることを想到することはない旨を主張する。
しかし,乙1〜3の記載(前記4(1)〜(3))により,上記(1)イ(ア)のとおり,その内容を認定することができるのであり,これらの技術事項を適用すること等により相違点1を容易に想到することができることは,上記(1)ウのとおりであって,原告の上記主張によって左右されない。
イ 測定用セルの寸法に係る主張について 原告は,技術的な理由により甲1発明のセルには一定の容積が求められる旨を主張するが,甲1にはセルの寸法について記載がない。そして,フローインジェクシ ョン分析に用いられているものであるという理由から直ちに,本件訂正発明1のスペーサの切り抜き溝の寸法を「長さ10mm〜50mm,幅1mm〜5mm及び深さ0.2mm〜0.6mm」(内容積2μL〜150μLとなる。)とすることを排除するような下限があるというべき根拠は見いだし難い。
7 取消事由3(本件訂正発明1に関する相違点2についての判断の誤り)について (1)ア 甲1発明は,多成分分析を行う4電極薄層フローセル」 「 に係るもので,「溶液入り口A及び溶液出口B」を有するものである。そして,甲1には,甲1発明に係る概念が「生物医学(神経化学)用途の枠組み内で提示された」旨が記載されている(前記2(1)カ)。
イ 甲2の段落【0061】には,複数の電極で複数の成分を分析する対象に関し, 「流体識別(例えば, ・・・全血,血漿,粘液等の標本タイプの識別)」との記載があり,甲2の段落【0174】には,「検出チャンバ」の容量に関し,「標本量(例えば,フィンガープリックの血液を測定するカートリッジ)によって制限される実施例」との記載がある(前記3(1)ア)。また,甲4にも,血液の分析について,pO2,pCO2及びpHのセンサーを設ける旨の記載がある(前記3(3)ア(ア),(イ),(ウ)c)。
ウ 乙1〜4には,前記6(1)イ(ア)のとおり,フローインジェクション分析を用いるものを含め,血液を対象とする複数のセンサーを有する分析装置にpO2,pCO2及びpHのセンサーを設けることが記載されている。
エ 上記イ及びウによると,フローインジェクション分析を用いるものを含め,測定用セルに流れる流体を複数の電極で検出する技術において,血液を対象としてpO2,pCO2及びpHのセンサーを設けることは,本件優先日前の周知技術であったと認められる。
そして,甲1発明が上記アのようなものであることからすると,血液を多成分分析するために,四つの作用電極C1,C2,C3及びC4を,pCO2,pO2,pHの 1つ又はそれ以上を測定するように構成されているセンサーとすることは,当業者において,容易になし得たことであるといえる。
オ したがって,相違点2に係る本件訂正発明1の構成は,当業者において容易想到なものであったと認められ,取消事由3は認められない。
(2) 原告の主張について ア 原告は,フローインジェクション分析では血液ガスの分析が想定されないと主張するが,前記6及び上記(1)で認定判断したところに照らし,原告の上記主張は採用できない。
イ 原告は,@甲1発明における作用電極が電極の表面に試薬を塗布して膜を形成するものであるのに対し,血液パラメータセンサーについては,センサーに膜を形成するだけでなく,センサーと膜の間に血液ガスを溶解させる溶液(ゲル)を設ける必要があり,溶液(ゲル)を充填する空隙を設ける必要があること,A甲1発明においてセンサーと膜の間に溶液(ゲル)を設けると,電極ごとに異なる皮膜を形成し,各電極における分析対象の成分の選択的な透過・検出を図るという性質は維持できなくなること,B反応時間という点でも有意に相違していることを主張し,それゆえ,甲1の作用電極を血液パラメータセンサーに置き換えることはできず,また,乙1〜4に記載された技術的事項を甲1発明に適用することはできない旨を主張する。
しかし,上記@については,そのようなセンサーの構造の違いのみから直ちに,センサーの置換えが阻害されるものとは解されない。また,上記Aについても,各電極における分析対象の成分の選択的な透過・検出を被膜の差異により実現して多成分分析を行うか,その他の方法で多成分分析を行うかは,当業者において任意に選択し得る事項と考えられる。これらの点に関し,本件訂正発明1においては,検体センサーの少なくとも1つを血液パラメータセンサーとするものとされており,血液パラメータセンサーとそれ以外のセンサーを併用することも本件訂正発明1に含まれると解され,また,本件明細書の段落【0017】に, 「検体センサーは,流 体試料と直接流体接触していてもよい。しかしながら,例えば,薄膜,薄板,又は箔の形態をした隔膜を,流体試料と1つ又はそれ以上の検体センサーの間に配置して,その様な(単数又は複数の)検体センサーを流体試料と間接的に接触させることも考えられる。」との記載があり,本件明細書の段落【0040】に「検体センサーという用語は,化学物質の濃度の様な物理的なパラメータを測定することのできるあらゆるセンサーを表す。検体センサーは,1つ又はそれ以上の電極と1つ又はそれ以上の膜を備えていてもよい。」との記載があることや,本件明細書の段落【0015】【0016】及び【0055】に,センサーの構造の違いによる制約につ ,いて触れることなく様々な対象を測定する検体センサーが挙げられていることは,センサーの構造の違いによってその置換えが妨げられることがないことをうかがわせるものである。
上記Bについても,反応時間の差異を踏まえて,当業者において,測定セルの構造や流量等を選択し得るものと考えられる(C陳述書[乙5]の4頁本文[図及びその説明を除く。]8行〜11行,6頁本文の「Another」から始まる段落)。なお,B陳述書(甲33)で,圧膜型センサと電流測定センサの差異について述べられている部分(2頁)は,既に前記6(2)ア(ア)cで判断したとおり,その内容からして,甲1発明のセルをそのまま血液中のpO2,pCO2又はpHの測定のために用いることは相当でない旨を述べるにとどまるものとみられ,センサーの置換えの難易について述べるものとは解されない。
ウ その他,原告が主張する点も,上記(1)の認定判断を左右するものではないことは,既に判示したところから明らかである。
8 取消事由4(本件訂正発明10と甲1発明の相違点の看過),取消事由5(本件訂正発明10に関する相違点2についての判断の誤り)及び取消事由6(本件訂正発明10に関する相違点3についての判断の誤り)について (1) 取消事由1について前記5で認定判断したところに照らし,取消事由4は認められない。
そして,甲1発明と本件訂正発明10を対比すると,それらの間には,本件審決が認定した前記第2の3(2)イ(ア)の相違点が存在すると認められる。
(2) 取消事由3について前記7で認定判断したところと同様に,相違点2に係る取消事由5は認められない。
(3) 取消事由2について前記6で認定判断したところ(ただし,寸法に係る部分を除く。)と同様に,相違点3に係る取消事由6は認められない。
9 本件訂正発明の効果について 原告は,本件訂正発明1について,少なくとも実質的に直線的な運動を行えるようにする形状であることのみならず,他の全ての構成要件(本件審決が看過した相違点を含む。 を備えることにより, ) 正確な測定のために最小量の試料流体しか必要としない非常に小型化された,pO2,pCO2,pHの少なくともいずれかを測定することができるセンサーアッセンブリを提供することができるという予測し得ない顕著な効果を奏すると主張する。
しかし,前記5で認定判断したとおり,本件審決に原告が主張する相違点の看過は認められない。そして,その構成を容易に想到することができる本件訂正発明1について,その効果が予測し得ない顕著なものであるというべき事情は認められない。本件訂正発明10についても同様である。
結論
以上の次第で,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 佐野信
裁判官 中島朋宏
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