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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成12ワ26626特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成11ワ8434特許権侵害差止請求事件 判例 特許
平成12ワ9657特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成11ワ10931損害賠償等請求事件 判例 特許
平成14ワ23862特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード インターネット /  特許料(維持年金) /  実施 /  権原 /  加工 /  逸失利益 /  不法行為(民法709条) /  実施権 /  専用実施権 /  通常実施権 / 
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事件 平成 15年 (ワ) 7829号 損害賠償請求事件
原告 株式会社ボンテック
訴訟代理人弁護士 泉秀一
同 神田俊之
同 奥野信悟
被告 ロート製薬株式会社
訴訟代理人弁護士 的場悠紀
同 福田健次
同 大川治
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2004/04/08
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
被告は、原告に対し、2億円及びこれに対する平成15年8月10日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、後記特許権について専用実施権の設定を受けていた原告が、被告が特許権者に特許料不納を働きかけて上記特許権を失効させたことによって損害を被ったと主張して、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償を請求した事案である。
1 前提となる事実(特に明示した部分以外は当事者間に争いがない。) (1)ア 原告は、天然水の採取、瓶詰加工、販売及び輸出入、農産保存食料品の製造、加工、販売並びに輸出入等を業とする株式会社である。
イ 被告は、医薬品、医薬部外品、飲料品等の製造、売買及び輸出入等を業とする株式会社である。
(2) 中国人Aは、次の特許権(以下「本件特許権」といい、これに係る発明を「本件発明」という。)を有していた(甲第1、第2号証)。
発明の名称 アンチアンモニア アゾトバクター 出願日 昭和61年10月17日(特願昭61-247258号) 公開日 昭和62年10月20日(特開昭62-239987号) 出願公告日 平成4年9月11日(特公平4-57318号) 登録日 平成5年2月12日 特許番号 第1764948号 本件発明は、アンチアンモニア窒素固定能を有するアゾトバクターに関する発明である。
(3) 原告は、Aから、本件特許権について、次のとおり、通常実施権の許諾を受け、その後に専用実施権の設定を受けた(甲第1号証)。
@ 通常実施権 原因 平成8年5月26日許諾 範囲 地域 日本国全域 期間 特許権の権利有効期間 内容 販売 登録 平成8年9月24日 A 専用実施権 原因 平成8年11月10日契約 範囲 地域 日本国全域 期間 特許権の権利有効期間 内容 販売 登録 平成9年2月24日 (4) 原告は、平成6年ころから、本件発明を利用した、アンチアンモニアアゾトバクターの菌株である「851菌」の培養液を原料とする健康飲料水の商品開発を行い、「振華851」、「シンカパウイ」の名称を付して、チンチラー株式会社を通じて日本国内で販売していた(甲第4ないし第6号証。この商品を以下「本件商品」という。)。
(5) 本件特許権は、平成10年9月11日第7年分特許料不納を原因として、
平成11年5月19日、登録が抹消された。
(6) 被告は、平成12年8月ころから、「851菌」の培養液を原料とする「免益源851」という名称の加工食品(以下「被告商品」という。)を販売している。
2 争点 (1) 被告が特許権者であるAに働きかけて、本件特許権の特許料を納付させず、本件特許権の登録抹消に至らしめたか。
〔原告の主張〕 ア 被告は、本件特許権の特許権者であるAに対し、本件発明を利用した「851菌」の培養液を原料とする健康飲料について、被告が日本国内における独占販売契約を締結する旨申し向け、原告の本件特許権についての専用実施権を消滅させるため、Aに本件特許権の特許料を納付させず、登録抹消に至らしめたものである。このことを裏付ける事情として次のような事実が存在する。
(ア) 原告は、平成6年11月、被告の当時の代表取締役であった亡Bという。)から、本件商品の購入申込みを受け、被告本社へ本件商品とそのパンフレット(甲第4号証)を持参した。また、原告は、平成8年11月ころ、被告に対し、本件商品に関する原告のパンフレット等(甲第4ないし第6号証)や原告代表取締役の著書(甲第10号証)を持参した上、本件特許権につき実施権の許諾を受けている旨の説明もした。
(イ) 原告は、平成11年11月、Aから、日本の大手製薬会社から本件商品につき取引の申出があり、これが成立すれば、原告が同社から本件商品の仕入れができるようにする旨を告げられた。
(ウ) 被告による被告商品の販売開始により、上記(イ)の大手製薬会社が被告であると認識した原告が、平成12年8月21日、Bに対し、事実確認を求める書面(甲第11号証)を送付したところ、被告は、平成11年9月に被告の関連会社である香港メンソレータム社がBESO社(Aが代表者を務め、「851菌」に関する事業も行っていた米国法人)との間で、本件商品につき香港、シンガポール、マレーシア、タイ、台湾等の地域における独占販売契約を締結したことを認めた。平成11年9月という時期は、本件特許権の抹消登録がされてからわずか4か月程度後のことであることからしても、Aが特許料不納付により本件特許権を消滅させた行為と被告関連会社(子会社)の本件商品に関する独占的販売契約の締結とが無関係ということはあり得ない。なお、A作成のホームページ(甲第14号証)においても、まず、被告の関連会社との間で独占販売契約を締結し、それを踏まえて、被告との契約に至っているとされている。
(エ) 原告代表取締役と原告取締役(会長)は、平成12年10月、Bと面談したが、同人から賠償金合計3000万円(被告から1000万円、B個人から2000万円)を支払う旨の提案があった。
(オ) 被告は、被告商品に関する営業活動の一環として小冊子(甲第13号証の2)を発行しこれを広く配布し、通信販売の営業活動を行っているところ、
その小冊子の内容は、原告が以前Bに交付した原告代表取締役の著書(甲第10号証)の内容を大幅に引用している。
以上の事実関係からすれば、被告が、原告から入手した本件商品に関する資料を検討した結果、本件商品の価値に魅力を感じ、Aに働きかけて本件特許権を消滅させ、その後、まず子会社をしてAとの間で独占的販売契約を締結させた上、自らもAと契約して日本国内で被告商品の販売を開始したものと考えられる。
イ 被告は、原告が本件特許権についての専用実施権を有していることを知りながら、これを消滅させるために上記行為に及んだものであるから、これは原告に対する不法行為である。
〔被告の認否〕 原告の主張は争う。Aの特許料不納付につき被告は全く関与していない。
ア(ア)のうち、平成6年11月ころ、被告の当時の代表取締役Bが本件商品を購入したことは認めるが、その余は否認又は不知。Bの本件商品購入は、同人が個人的に行ったものである。
同(イ)の事実は不知。
同(ウ)のうち、原告がその主張の書面を被告に送付し、被告が主張のような回答をしたこと、原告主張のAのホームページに載っているとされる事実のうち、香港メンソレータム社がBESO社との間で独占的販売契約を締結し、その後、被告がBESO社との間で契約を締結したことは認めるが(ただし、香港メンソレータム社とBESO社との間の契約を「踏まえて」被告がBESO社と契約を締結したとの点は否認する。)、その余の事実は不知。
同(エ)のうち、平成12年10月に原告代表取締役と取締役(会長)がBと面談したことは認めるが、その余の事実は否認する。Bは、原告と被告の間で著作権問題に関する紛争が生じていたことを念頭に置いて、相応の措置をとる旨の発言をしたにすぎない。
同(オ)のうち、被告が被告商品の販売に伴って原告主張の小冊子を配布したことは認めるが、その余の事実は否認する。
(2) 損害 〔原告の主張〕 被告の不法行為によって原告が被った損害は、以下のとおりである。
@ Aから専用実施権の設定を受けるための条件であった原料仕入れに要した原料代金 6812万6645円 A 上記@の原料仕入れに要した通関税及び配達料 4258万6491円 B 本件商品の開発において飲みやすくするための加工賃等 843万9896円 C 本件商品の広告費 2764万0306円 D 本件商品の開発において飲みやすくするための消耗品費等 444万7720円 E Aから専用実施権の設定を受けるための交渉に要した交通費、宿泊費、原料分析検査費用、特許申請等の費用 3224万6638円 F 本件商品の開発、サンプル費用 2710万9488円 G 逸失利益 3億0945万5426円 (計算根拠) 平成11年当時の本件商品による年間利益額 =4788万1081円 本件特許権の残存期間 =8年間(ライプニッツ係数6.463) 47,881,081×6.463=309,455,426 (1円未満切捨て) 合 計 5億2005万2610円 本件では、このうち2億円を請求する。
〔被告の認否〕 不知ないし争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)(被告が特許権者であるAに働きかけて、本件特許権の特許料を納付させず、本件特許権の登録抹消に至らしめたか。)について (1) 原告が本件特許権の特許権者であったAとの間で、本件特許権につき初めは通常実施権の許諾を、その後専用実施権の設定を受けて、各登録を了していたこと、原告が本件発明を実施した本件商品を輸入して日本国内で販売していたこと、
本件特許権が特許料不納付により登録抹消されたこと、被告が、その後本件商品と同種の加工食品である被告商品の販売を開始したことは前記「前提となる事実」記載のとおりである。
(2) 原告は、本件特許権の特許料不納付は、被告がAに働きかけたことによるものであると主張する。しかし、本件全証拠によっても、被告がAに対してそのような働きかけをした事実を認めることはできない。以下、原告の主張する間接事実に即して検討する。
ア 原告が主張する事実(前記第2の2(1)の〔原告の主張〕ア(ア)ないし(オ))のうち、平成6年11月ころ、被告の当時の代表取締役Bが本件商品を購入したこと(上記(ア))、原告が平成12年8月21日、その主張(上記(ウ))のような書面を被告に送付し、被告が主張のような回答をしたこと、原告代表取締役及び原告取締役(会長)とBが平成12年10月に面談したこと(上記(エ))、被告が被告商品の販売に伴って原告主張の小冊子を配布したこと(上記(オ))は、当事者間に争いがない。
イ 原告は、本件特許権の抹消登録から約4か月後の平成11年9月に、被告の関連会社(子会社)である香港メンソレータム社がBESO社(Aが代表者を務め、「851菌」に関する事業も行っていた米国法人)との間で、「851菌」の培養液ないしその加工品について、香港、シンガポール、マレーシア、タイ、台湾等の地域における独占的販売契約を締結したことから、Aが本件特許権の特許料を納付せずに本件特許権を消滅させた行為と、被告の関連会社の独占的販売契約締結が無関係だということはあり得ないと主張する。
しかし、本件特許権の抹消登録時期と、BESO社と被告の関連会社との間の上記独占的販売契約の締結時期とが近接しているとしても、上記独占的販売契約は、香港等の日本国外に関するものであり、日本国の特許権である本件特許権は障害となるものではないから、このような事実があるからといって、原告が主張するように何らかの関係があったものと推認することはできない。
被告の代表取締役であったBは、上記のとおり、平成6年11月に本件商品を購入しているから(被告は、この購入はBが個人的に行ったものであると主張している。)、そのころから被告側で本件商品のことを認識し、あるいは興味を有していたことはうかがわれるし、本件特許権につき原告が実施権の設定を受けていることを認識していた可能性も否定できないが、そのような事実を、被告からAに対する特許料不納付の働きかけに結びつけることも無理があるといわざるを得ない。
ウ 原告は、Aが開設しているインターネット上のホームページの内容から、まず、BESO社と被告の関連会社との間で上記独占的販売契約を締結し、これを踏まえて被告がBESO社と契約に至っている旨主張するところ、被告もその客観的な事実関係自体は認めている。しかし、上記イで述べたのと同様の理由により、そのような事実があるからといって、被告がAに対して、原告が主張するような働きかけをしたと推認することはできない。
エ 原告は、平成11年11月に、Aが、原告代表取締役に対し、日本の大手の製薬会社の申出により、取引の話をしている旨告げたと主張し、乙第3号証の1によれば、そのころ(同号証によれば同年10月)、Aが、原告代表取締役に対し、被告が日本における「851菌」の培養液ないしその加工品の販売総代理店となる旨を伝えたことを認めることができる。しかしながら、その時点では既に本件特許権の登録は抹消されていたのであるから、この事実をもって、被告からAに対し、原告が主張するような働きかけがあったと推認することはできない。
オ 原告は、平成12年10月ころに原告代表取締役及び原告取締役(会長)と当時の被告代表取締役であったBが面談し(ここまでの事実は、当事者間に争いがない。)、その後、Bから賠償金として3000万円(被告から1000万円、Bから2000万円)を支払う旨の提示を受けた旨主張する。しかし、これについても、仮にそのような事実が存在したとしても、被告が、後述の原告作成の書籍の著作権に係る紛争が原・被告間で生じていたことを自認していることも考慮すれば、被告が本件特許権を失効せしめたことの賠償の申出であると直ちに解することはできず、そのような賠償の趣旨の申出であったことを認めるに足りる証拠もない。したがって、上記事実も、被告が、Aに対して、原告が主張するような働きかけをしたことを推認させるに足りるものではない。
カ 原告は、被告が、被告商品の販売に際して作成した小冊子(甲第13号証の2)が、原告がBに以前交付した原告代表取締役の著書(甲第10号証)の内容を大幅に引用していると主張する。しかし、これが事実であったとしても、そのような事実は、被告からAに対する、原告が主張するような働きかけがあったことの裏付けとなるような性質のものではなく、これから原告主張事実を推認することはできない。
(3) 以上のとおり、原告が自己の主張を裏付ける事情として主張するものは、
いずれも、原告が主張するような、被告がAに対し、本件特許権の特許料を納付しないように働きかけた事実の存在を推認させる根拠とならないか、関連性の薄いものといわざるを得ず、他に、原告が主張する被告による働きかけの事実を認めるに足りる証拠はない。
かえって、乙第3号証の1によれば、Aは、原告代表取締役へファクシミリ送信した平成12年8月25日付の書簡に、本件特許権の特許料を納付せずに本件特許権を失効させた理由について、Aが、平成10年には、「851菌」の製造のために本件発明ではなく、別の新たな技術を利用するようになり、本件発明を利用しなくなっていたために、本件特許権を失効させたのであって、被告とは関わりがない旨を記載していることが認められ、このA本人の弁明を否定するに足りる証拠もない。
(4) したがって、原告の上記主張事実は認めることができない。
2 結論 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 守山修生
裁判官 田中秀幸