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関連審決 異議2018-700612
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事件 令和 2年 (行ケ) 10042号 特許取消決定取消請求事件

原告 ヤマハ発動機株式会社
同訴訟代理人弁理士 上羽秀敏 山内哲文 村上太郎 田中憲治 小宮山聰
被告特許庁長官
同 指定代理人須賀仁美 氏原康宏 青木良憲 小出浩子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2021/02/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が異議2018-700612号事件について令和2年2月28日にした決定のうち「特許第6267433号の請求項1〜9に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。
事案の概要
本件は,特許異議申立事件において,訂正を一部認めずに特許の一部取消しをした異議の決定のうち当該取消しに係る部分の取消訴訟である。争点は,訂正の可否である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,平成25年3月29日,発明の名称を「駆動ユニット及び電動補助自転車」とする特許出願(以下「本件特許出願」という。)をし,平成30年1月5日,その設定登録を受けた(特許第6267433号。請求項の数12。以下「本件特許」といい,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。また,本件明細書と特許請求の範囲を併せて「本件明細書等」ということがある。。
) (2) 平成30年7月24日,本件特許の請求項1〜12に対し,特許異議の申立てがされ(異議2018-700612号事件),その後,原告は,令和元年10月4日付けで訂正の請求(甲7。以下,同請求による訂正を「本件訂正」という。)をした。
(3) 特許庁は,令和2年2月28日,本件訂正のうち請求項10〜12に係る訂正は認める一方で請求項1〜9に係る訂正は認められないとして,「特許第6267433号の請求項1〜9に係る特許を取り消す。同請求項10〜12に係る特許を維持する。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同年3月10日に原告に送達された。
2 本件特許に係る発明の要旨 本件特許の本件訂正前の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下, 「請求項」という場合,本件特許の本件訂正前の特許請求の範囲の請求項をいい,また,各請求項に係る本件訂正前の発明を請求項の番号に応じてそれぞれ「本件発明1」などといい,本件発明1〜12を併せて「本件発明」という。。
) 【請求項1】 電動補助自転車に用いられる駆動ユニットであって, ハウジングと, 前記ハウジングを貫通して配置されるクランクシャフトと, 前記ハウジング内に配置されるモータと, 前記ハウジング内に配置され,前記クランクシャフトの中心軸線に対して平行に延びる伝達軸とを備え, 前記モータは, ロータと, 前記ロータとともに回転し,前記クランクシャフトの中心軸線に対して平行に延びる出力軸と, 前記出力軸に配置される出力歯車とを含み, 前記駆動ユニットは,さらに, 前記ハウジング内に位置し,前記伝達軸に配置され,前記出力歯車と噛み合い,前記出力歯車よりも多い歯を有する第1伝達歯車と, 前記ハウジング内に位置し,前記伝達軸において,前記第1伝達歯車より前記モータから離れた位置に配置される第2伝達歯車と, 前記ハウジング内に位置し,前記クランクシャフトの軸方向において前記第1伝達歯車よりも前記モータから離れて前記クランクシャフトに配置され,前記第2伝達歯車と噛み合い,前記第2伝達歯車よりも多い歯を有する被駆動歯車とを備え, 前記モータ,前記第1伝達歯車及び前記被駆動歯車のうち,前記クランクシャフトの軸方向から見たときの径が最も大きい部材を第1部材とし,その次に径が大きい部材を第2部材とし,最も径が小さい部材を第3部材とした場合, 前記第1部材及び前記第2部材の一方は,前記被駆動歯車であり, 前記クランクシャフトの軸方向から見た場合, 前記第1部材の少なくとも一部は,前記第2部材と重なり, 前記第3部材の少なくとも一部は,前記第1部材と前記第2部材とが重なる領域に重なり, 前記第1部材の回転中心と前記第2部材の回転中心とを結ぶ第1線分と,前記第2部材の回転中心と前記第3部材の回転中心とを結ぶ第2線分と,前記第3部材の回転中心と前記第1部材の回転中心とを結ぶ第3線分とにより,三角形が形成され, 前記第1線分が,前記第2線分及び前記第3線分よりも長い,駆動ユニット。
【請求項2】 請求項1に記載の駆動ユニットであって, 前記第1部材は,前記被駆動歯車である,駆動ユニット。
【請求項3】 請求項1又は2に記載の駆動ユニットであって, 前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に,前記モータの少なくとも一部は,前記被駆動歯車と重なる,駆動ユニット。
【請求項4】 請求項3に記載の駆動ユニットであって, 前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に,前記第1伝達歯車の少なくとも一部は,前記モータと前記被駆動歯車とが重なる領域に重なる,駆動ユニット。
【請求項5】 請求項1又は2に記載の駆動ユニットであって, 前記第2部材は,前記モータである,駆動ユニット。
【請求項6】 請求項5に記載の駆動ユニットであって, 前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に,前記第2伝達歯車は,前記第1部材の回転中心と前記第2部材の回転中心とを結ぶ線分と重ならない,駆動ユニット。
【請求項7】 請求項5又は6に記載の駆動ユニットであって, 前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に,前記伝達軸の回転中心は,前記 モータと重なる,駆動ユニット。
【請求項8】 請求項1〜7の何れか1項に記載の駆動ユニットであって, 前記クランクシャフトに配置され,前記クランクシャフトを第1の方向に回転させる回転力を,前記クランクシャフトに配置される駆動スプロケットに伝達し,前記クランクシャフトを前記第1の方向とは反対の方向に回転させる回転力を,前記駆動スプロケットに伝達しないワンウェイクラッチをさらに備え, 前記ワンウェイクラッチは,前記被駆動歯車を含む,駆動ユニット。
【請求項9】 電動補助自転車に用いられる駆動ユニットであって, ハウジングと, 前記ハウジングを貫通して配置されるクランクシャフトと, 前記ハウジング内に配置されるモータと, 前記ハウジング内に配置され,前記クランクシャフトの中心軸線に対して平行に延びる伝達軸とを備え, 前記モータは, ロータと, 前記ロータとともに回転し,前記クランクシャフトの中心軸線に対して平行に延びる出力軸と, 前記出力軸に配置される出力歯車とを含み, 前記駆動ユニットは,さらに, 前記ハウジング内に位置し,前記伝達軸に配置され,前記出力歯車と噛み合い,前記出力歯車よりも多い歯を有する第1伝達歯車と, 前記ハウジング内に位置し,前記伝達軸に配置される第2伝達歯車と, 前記ハウジング内に位置し,前記クランクシャフトに配置され,前記第2伝達歯車と噛み合い,前記第2伝達歯車よりも多い歯を有する被駆動歯車とを備え, 前記モータ,前記第1伝達歯車及び前記被駆動歯車のうち,前記クランクシャフトの軸方向から見たときの径が最も大きい部材を第1部材とし,その次に径が大きい部材を第2部材とし,最も径が小さい部材を第3部材とした場合, 前記第1部材及び前記第2部材の一方は,前記被駆動歯車であり, 前記クランクシャフトの軸方向から見た場合, 前記第1部材の少なくとも一部は,前記第2部材と重なり, 前記第3部材の少なくとも一部は,前記第1部材と前記第2部材とが重なる領域に重なり, 前記第1部材の回転中心と前記第2部材の回転中心とを結ぶ第1線分と,前記第2部材の回転中心と前記第3部材の回転中心とを結ぶ第2線分と,前記第3部材の回転中心と前記第1部材の回転中心とを結ぶ第3線分とにより,三角形が形成され, 前記第1線分が,前記第2線分及び前記第3線分よりも長く, 前記被駆動歯車は,前記駆動スプロケットが取り付けられる取付軸を含む,駆動ユニット。
【請求項10】 請求項1〜9の何れか1項に記載の駆動ユニットを備える電動補助自転車。
【請求項11】 請求項10に記載の電動補助自転車であって, 前記伝達軸の回転中心及び前記出力軸の回転中心は,前記クランクシャフトよりも前方に位置する,電動補助自転車。
【請求項12】 請求項10又は11に記載の電動補助自転車であって, 前記伝達軸の回転中心及び前記出力軸の回転中心は,前記クランクシャフトよりも上方に位置する,電動補助自転車。
3 本件訂正 本件訂正は,訂正事項1〜3からなり,訂正事項1は請求項1〜8の,訂正事項 2は請求項9の,訂正事項3は請求項10〜12の訂正である。訂正事項1〜3は,いずれも特許請求の範囲減縮を目的とするもの(ただし,訂正事項3は,請求項10を他の請求項の記載を引用しないものとすることを含む。 で, ) 次の内容のものである。(甲7) (1) 訂正事項1 ア 請求項1のうち「伝達軸とを備え,」を「伝達軸と,前記ハウジング内に配置され,前記クランクシャフトの中心軸線に対して直交する方向に広がる電気部品の実装面を有する基板とを備え」と訂正する(以下「訂正1ア」という。。
) イ 請求項1のうち「前記第1線分が,前記第2線分及び前記第3線分よりも長い,駆動ユニット」を「前記第1線分が,前記第2線分及び前記第3線分よりも長く,前記基板は,前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に,前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動歯車に重なる領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重なる領域を有する,駆動ユニット」と訂正する(以下「訂正1イ」という。。
) ウ 請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜8について,訂正1ア及び訂正1イと同様に訂正する。
(2) 訂正事項2 ア 請求項9のうち「伝達軸とを備え,」を「伝達軸と,前記ハウジング内に配置され,前記クランクシャフトの中心軸線に対して直交する方向に広がる電気部品の実装面を有する基板とを備え」と訂正する(以下「訂正2ア」という。。
) イ 請求項9のうち「前記被駆動歯車は,前記駆動スプロケットが取り付けられる取付軸を含む,駆動ユニット」を「前記被駆動歯車は,前記駆動スプロケットが取り付けられる取付軸を含み,前記基板は,前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に,前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動歯車に重なる領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重なる領域を有する,駆動ユニット」と訂正する(以下「訂正2イ」とい う。。
) (3) 訂正事項3 ア 請求項10を次のとおり訂正する。
「駆動ユニットを備える電動補助自転車であって, 前記駆動ユニットは, ハウジングと, 前記ハウジングを貫通して配置されるクランクシャフトと, 前記ハウジング内に配置されるモータと, 前記ハウジング内に配置され,前記クランクシャフトの中心軸線に対して平行に延びる伝達軸とを備え, 前記モータは, ロータと, 前記ロータとともに回転し,前記クランクシャフトの中心軸線に対して平行に延びる出力軸と, 前記出力軸に配置される出力歯車とを含み, 前記駆動ユニットは,さらに, 前記ハウジング内に位置し,前記伝達軸に配置され,前記出力歯車と噛み合い,前記出力歯車よりも多い歯を有する第1伝達歯車と, 前記ハウジング内に位置し,前記伝達軸に配置される第2伝達歯車と, 前記ハウジング内に位置し,前記クランクシャフトに配置され,前記第2伝達歯車と噛み合い,前記第2伝達歯車よりも多い歯を有する被駆動歯車とを備え, 前記モータ,前記第1伝達歯車及び前記被駆動歯車のうち,前記クランクシャフトの軸方向から見たときの径が最も大きい部材を第1部材とし,その次に径が大きい部材を第2部材とし,最も径が小さい部材を第3部材とした場合, 前記第1部材及び前記第2部材の一方は,前記被駆動歯車であり, 前記クランクシャフトの軸方向から見た場合, 前記第1部材の少なくとも一部は,前記第2部材と重なり, 前記第3部材の少なくとも一部は,前記第1部材と前記第2部材とが重なる領域に重なり, 前記第1部材の回転中心と前記第2部材の回転中心とを結ぶ第1線分と,前記第2部材の回転中心と前記第3部材の回転中心とを結ぶ第2線分と,前記第3部材の回転中心と前記第1部材の回転中心とを結ぶ第3線分とにより,三角形が形成され, 前記第1線分が,前記第2線分及び前記第3線分よりも長く, 前記被駆動歯車は,前記駆動スプロケットが取り付けられる取付軸を含み, 前記クランクシャフトの軸方向から見て,前記第3部材の回転中心は,前記第1線分より上方にあり, 前記第1部材は,前記被駆動歯車であり,前記第2部材は,前記モータであり,前記第3部材は,前記第1伝達歯車である,電動補助自転車。」 イ 請求項10の記載を引用する請求項11及び12も同様に訂正する。
4 本件決定の理由の要旨 (1) 訂正事項1及び2に係る訂正の適否等 ア 訂正事項1について (ア) 訂正1アについて 訂正1アは,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正ということができる。
(イ) 訂正1イについて a 訂正1イは,基板の形状・構造について, 「前記基板は,前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に,前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動歯車に重なる領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重なる領域を有する」ことを特定するものである。
b 本件明細書等における基板の形状 構造についての段落 ・ 【0105】, 【0111】【0113】及び【0118】によると, , 「基板150」は,「クランクシャフト54の軸方向から見た場合に」「第1線分S1に対して,回転中心C3 ,とは反対側に配置される」ものであって, 「モータ60に重なる第1領域154を有する」とともに, 「被駆動歯車104に重なる第2領域162を有する」ことが記載されているものといえる。
c 以上を踏まえて検討すると,訂正1イで特定する「基板」の配設位置は,第1線分に対して, 「第3部材とは反対側」において,被駆動歯車に重なる領域及びモータと重なる領域を有するというものであるが,本件明細書に記載された上記「基板150」の配置位置は,あくまでも,第1線分S1に対して, 「回転中心C3とは反対側」において,被駆動歯車104に重なる第2領域及びモータ60に重なる第1領域154を有するというものであるから,訂正1イで特定する「基板」の配設位置と,本件明細書に記載された「基板150」の配置位置とは整合していない(訂正1イにおける「第3部材とは反対側」と,本件明細書に記載された「回転中心C3とは反対側」とは,別意である。。
) また,本件明細書の【図8】には, 「第3部材」としての第1伝達歯車84が示されているところ,その図示内容によると,上記第1伝達歯車84は, 「第1線分」として示される「S1」の両側に存在しているから, 【図8】からも訂正1イで特定する「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」を特定することはできない。
したがって,本件明細書等に,訂正1イに係る「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動歯車に重なる領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重なる領域を有する」という「基板」の構成が記載されているということはできない。
d また,訂正1イで特定する「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」が,本件明細書に記載された「第1線分S1に対して,回転中心C3とは反対側」(段落【0111】)を意味するものと解することができたとしても,上記「基板150」の形状・構造は,あくまでも,本件明細書の段落【0065】及び 【0092】の記載に係る駆動ユニットを前提とした基板150の配設構造であって,本件訂正後の請求項1に記載される「前記モータ,前記第1伝達歯車及び前記被駆動歯車のうち,前記クランクシャフトの軸方向から見たときの径が最も大きい部材を第1部材とし,その次に径が大きい部材を第2部材とし,最も径が小さい部材を第3部材とした場合,前記第1部材及び前記第2部材の一方は,前記被駆動歯車であり」(以下「事項A」ということがある。)として構成されれば足りる駆動ユニットに対する基板150の配設構造ということはできない。
訂正1イに係る「基板」の構成は,本件訂正後の請求項1に記載された「第1部材」「第2部材」及び「第3部材」のそれぞれが, , 「被駆動歯車」「モータ」及び「第 ,1伝達歯車」として特定されるとともに,本件訂正後の請求項1に記載された「第1部材の回転中心」「第2部材の回転中心」及び「第3部材の回転中心」のそれぞ ,れが, 「被駆動歯車の回転中心」「モータの回転中心」及び「第1伝達歯車の回転中 ,心」であって,それら回転中心の配設構造について, 「第1伝達歯車の回転中心」が,「被動歯車の回転中心」よりも前方に位置し,かつ, 「モータの回転中心」よりも後方に位置するとともに,「第1伝達歯車の回転中心」が,「被駆動歯車の回転中心」及び「モータの回転中心」よりも上方に位置するものとして特定された場合に,訂正1イに係る「基板」の構成が認められるというべきであって,例えば, 「第1伝達歯車の回転中心」 「被駆動歯車の回転中心」 が, 及び「モータの回転中心」よりも「上方」ではなく「下方」に位置するものや,本件明細書の段落【0157】及び【図15】に記載されるような「第1部材」「第2部材」及び「第3部材」のそれぞれ ,を, 「被駆動歯車」「第1伝達歯車」及び「モータ」として特定した場合においてま ,で,訂正1イに係る「基板」の構成が認められるものではない。
そして,本件明細書の段落【0158】の記載を根拠として,基板の形状・構造が,事項Aの駆動ユニットにおいて,訂正1イの構成で足りるものと解すべき合理性もない。
したがって,訂正1イは,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂 正であるということはできない。
イ 訂正事項2について (ア) 訂正2アについて 訂正2アは,訂正1アと同様に,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正ということができる。
(イ) 訂正2イについて 訂正2イは,訂正1イと同様の訂正内容であって,訂正後の請求項9に記載された駆動ユニットの構成も,訂正後の請求項1に記載された駆動ユニットの事項Aと同様に「前記モータ,前記第1伝達歯車及び前記被駆動歯車のうち,前記クランクシャフトの軸方向から見たときの径が最も大きい部材を第1部材とし,その次に径が大きい部材を第2部材とし,最も径が小さい部材を第3部材とした場合,前記第1部材及び前記第2部材の一方は,前記被駆動歯車であり」というものであるから,訂正2イは,訂正1イと同様に,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であるということはできない。
ウ 一群の請求項について (ア) 本件訂正前の請求項1〜8,10〜12について,本件訂正前の請求項2〜8,10〜12はそれぞれ本件訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって,請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるから,本件訂正前の請求項1〜8,10〜12は一群の請求項を構成する。
(イ) 本件訂正前の請求項9〜12について,本件訂正前の請求項10〜12はそれぞれ本件訂正前の請求項9を直接又は間接的に引用するものであって,請求項9の訂正に連動して訂正されるものであるから,本件訂正前の請求項9〜12は一群の請求項を構成する。
(ウ) 上記(ア)及び(イ)の一群の請求項はいずれも請求項10〜12を含むことから,それら一群の請求項は組み合わされて,本件訂正前の請求項1〜12が特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項となる。
(エ) 原告は,本件訂正後の請求項10〜12については,当該請求項についての訂正が認められる場合には,一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めており,本件訂正後の請求項10〜12についての訂正事項3は訂正が認められるものであるから,本件訂正後の請求項10〜12については,一群の請求項を構成しないものとする。
(2) 取消理由の有無 ア 取消理由1 本件発明1〜9は,本件特許出願の日前の特許出願であって,本件特許出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた特許出願である特願2012-171094号(以下「本件先願」という。甲1)の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許出願の発明者が本件先願に係る発明をした者と同一ではなく,また,本件特許出願の時において,その出願人が本件先願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2により特許を受けることができない。
イ 取消理由2 本件発明1,3,4は,本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された中国実用新案第2300584号明細書(甲2)に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない。また,本件発明2,5〜7,9は,上記中国実用新案第2300584号明細書に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができない。さらに,本件発明8は,上記中国実用新案第2300584号明細書に記載された発明であるか,又は上記中国実用新案第2300584号明細書に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条1項3号又は同法29条2項に該当し,特許を受けることができない。
ウ したがって,本件発明1〜9に係る特許は,特許法29条及び同法29 条の2に違反してされたものであり,取り消されるべきものである。
原告主張の決定取消事由
1 取消事由1(本件訂正の適否についての判断の誤り) 本件決定は,訂正1イ及び訂正2イの解釈を誤り,それらが本件明細書等の範囲内でないとの誤った判断をしたものである。したがって,請求項1〜8について訂正事項1による訂正を認められないとの判断及び請求項9について訂正事項2による訂正を認められないとの本件決定の判断は,いずれも誤りである。
(1) 訂正1イ及び訂正2イの解釈の誤り 本件決定は,訂正1イにおける「第3部材とは反対側」と本件明細書に記載された「回転中心C3とは反対側」とは別意であると判断したが,これは誤りであり,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において」は,前記第1線分に対して前記第3部材の回転中心とは反対側において,と解釈すべきである。具体的には,次のとおりである。
ア 本件明細書等においては, 「図8に示すように,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,基板150は,第1線分S1に対して,回転中心C3とは反対側に配置される。」との記載(段落【0111】)以外に,基板が第1線分に対して第3部材と反対側にあることについて,特に記載はなく,また,これと矛盾する記載もない。そのため,本件明細書等を参酌すれば,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において」の文言は, 「前記第1線分に対して前記第3部材の回転中心とは反対側において」と解釈すべきである。
イ 本件決定は,本件明細書の【図8】の図示内容によると,第1伝達歯車84は「第1線分」として示される「S1」の両側に存在しているから,同図からも訂正1イで特定する「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」を特定することができないとするところ,上記判断は,訂正1イ及び訂正2イの「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」 「前記第1線分に対して前記第3部材の を,全体とは反対側」と解釈することを前提としている。
しかし,本件明細書等には,このように解釈することの記載又は示唆はない。
また,このように「第3部材とは反対側」を「第3部材の全体とは反対側」と解釈した場合,本件決定においても認めるとおり, 【図8】の図示内容を始めとする本件明細書等に記載された内容と整合しないことになる。
ウ したがって,訂正1イ及び訂正2イの「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において」を,本件明細書の段落【0111】に記載された事項に基づき, 「前記第1線分に対して前記第3部材の回転中心とは反対側において」と解釈すべきことは,明らかである。なお,原告は,仮に訂正の機会を得られた場合には,訂正1イ及び訂正2イの「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において」を「前記第1線分に対して前記第3部材の回転中心とは反対側において」と訂正する準備があることを付言する。
(2) 訂正1イ及び訂正2イが本件明細書等の範囲内でないとした判断の誤り 本件決定は,訂正1イで特定する「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」が,本件明細書に記載された「第1線分S1に対して,回転中心C3とは反対側」(段落【0111】)を意味するものと解することができたとしても,訂正1イは,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であるということはできないとしたが,次のとおり,これは誤りである。そして,同様に,訂正2イが本件明細書等に記載した範囲内においてした訂正であるということはできないとの本件決定の判断にも誤りがある。
ア 本件明細書等に明示的に記載された事項であること 本件明細書の段落【0111】【0113】及び【0118】の記載において, ,「基板150」は, 「クランクシャフト54の軸方向から見た場合に」「第1線分S ,1に対して,回転中心C3とは反対側に配置される」ものであって, 「モータ60に重なる第1領域154を有する」とともに, 「被駆動歯車104に重なる第2領域162を有する」ことが記載されているものといえる。すなわち,本件明細書等には,@「基板150」は, 「クランクシャフト54の軸方向から見た場合に」「第1線分 , S1に対して,回転中心C3とは反対側に」 「モータ60に重なる第1領域154を有する」こと及びA「基板150」は, 「クランクシャフト54の軸方向から見た場合に」「第1線分S1に対して,回転中心C3とは反対側に」 , 「被駆動歯車104に重なる第2領域162を有する」ことが明示的に記載されている。
そして,訂正1イにおいて, 「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において」が, 「前記第1線分に対して前記第3部材の回転中心とは反対側において」の意であることは,上記(1)のとおりである。
したがって,訂正1イは,本件明細書等に明示的に記載された事項である。
イ 特許庁の審査基準に照らした判断手法の誤り 特許庁の特許・実用新案審査基準(以下,単に「審査基準」という。)第IV部第2章の「3.新規事項の具体的な判断」 (甲9)においては,補正された事項が「当初明細書等に明示的に記載された事項」である場合には,その補正は,新たな技術的事項を導入するものではないから許されるとされているところ,本件決定の判断は,本件明細書等に明示的に記載された事項を本件明細書等に記載された事項の範囲ではないとするものであり,審査基準に則っていない。
ウ 裁判例等に照らした判断手法の誤り (ア) 特許法120条の5第9項で準用する同法126条5項にいう「願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内において」に関し,「明細書又は図面に記載した事項」とは,「当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は,『明細書又は図面に記載した事項の範囲内において』するものということができる。例えば,特許請求の範囲減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する訂正を行う場合において,付加される訂正事項が当該明細書又は図面に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような訂正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導 入しないものであると認められ, 『明細書又は図面に記載された範囲内において』するものであるということができる。(知財高裁平成20年5月30日(平成18年 」(行ケ)第10563号)大合議判決) (イ) しかるに,まず,本件決定は,訂正1イにおいて新たに導入される技術的事項が何であるかを明確に特定しておらず,訂正1イが明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正でないことを全く立証していない。また,本件決定は,訂正1イが,本件明細書等に明示的に記載されているにもかかわらず新たな技術的事項の導入であるとするための「特段の事情」を示していない。
(ウ) 次に,本件決定は,訂正1イに係る基板の配設構造とは直接的に関係のない請求項1の構成(事項A)と本件明細書の具体例の記載(【0065】【00 ,92】 とを比較し, ) 駆動ユニットにおいて請求項1に記載の構成が足りるか否かを判断し,請求項1に記載の基板の配設構造とは直接関係のない構成が駆動ユニットにおいて足りないと判断したことをもって,訂正1イが新たな技術的事項を導入するものであると判断している。このような判断手法は,裁判例や審査基準で示された判断基準から逸脱しており,不適切である。
また,本件決定は,訂正1イのみでは足りず,訂正1イの他に図面等で示された具体的な構成も請求項に記載すべきであるとの認定に基づいているが,本件明細書等に記載された構成が請求項に記載されているか否かは,本件訂正が本件明細書等に記載された範囲内か否かを判断する際の判断基準にはなり得ない。
以上のように,本件決定は,誤った判断基準に従って判断されたものである。
(エ) 仮に,訂正1イは本件明細書等に記載した事項の範囲にはないとする本件決定の判断が正しいとすると,本件明細書等が公開された後に,別出願として本件訂正後の請求項1と全く同じ文言の請求項1を特許請求の範囲として出願がされた場合に,その請求項1における訂正1イの基板配置構成は,出願前に公開された明細書等に記載された構成ではないということになり,新規性が否定されないことになってしまうが,明らかに不合理である。
エ 本件明細書等の全ての記載を総合することにより導き出される技術的事項について 本件決定は,本件明細書等の全ての記載を総合して導き出される基板の構成が,本件明細書の段落【0065】及び【0092】に記載された駆動ユニットの構成を前提とする場合のみに限定されると判断していると解する余地があるが,次のとおり,そのような判断も誤りである。
(ア) 導き出される技術的事項を本件明細書に記載の特定の一つの具体例に限定することの根拠が存在しないこと 上記判断は,本件明細書の段落【0111】【0113】及び【0118】に記 ,載された基板の配設構造が,段落【0065】に記載の回転中心C1〜C3の位置関係及び段落【0092】に記載の第1部材〜第3部材の組み合わせの場合に限定されることを前提するものとみられるが,本件決定は,そのように限定することの根拠を示しておらず,当該限定はその根拠がなく,誤りである。
本件明細書等に明示的に記載された訂正1イの構成について, 「第1部材」, 「第2部材」及び「第3部材」のそれぞれが「被駆動歯車」「モータ」及び「第1伝達歯 ,車」であり, 「第1伝達歯車の回転中心」が「被動歯車の回転中心」よりも前方に位置し,かつ,「モータの回転中心」よりも後方に位置するとともに,「第1伝達歯車の回転中心」が, 「被駆動歯車の回転中心」及び「モータの回転中心」よりも上方に位置する場合のものに限定されることの記載又は示唆は,本件明細書等には全く存在しない。
(イ) 導き出される基板構成を本件明細書に記載の特定の一つの具体例に限定できない理由 本件特許の請求項1及び9には, 「前記モータ,前記第1伝達歯車及び前記被駆動歯車のうち,前記クランクシャフトの軸方向から見たときの径が最も大きい部材を第1部材とし,その次に径が大きい部材を第2部材とし,最も径が小さい部材を第3部材とした場合,前記第1部材及び前記第2部材の一方は,前記被駆動歯車であ り,」と記載されており,「第1部材」「第2部材」及び「第3部材」のそれぞれが ,「被駆動歯車」, 「モータ」及び「第1伝達歯車」である場合のみに限定していない。
また, 「第1伝達歯車の回転中心」 「被駆動歯車の回転中心」 が よりも前方に位置し,かつ,「モータの回転中心」よりも後方に位置するとともに,「第1伝達歯車の回転中心」が, 「被駆動歯車の回転中心」及び「モータの回転中心」よりも上方に位置することの限定もない。
この点,本件明細書等の発明の詳細な説明において,発明の具体例の一つとして,「第1部材」「第2部材」及び「第3部材」のそれぞれが「被駆動歯車」「モータ」 , ,及び「第1伝達歯車」であり, 「第1伝達歯車の回転中心」が「被駆動歯車の回転中心」よりも前方に位置し,かつ, 「モータの回転中心」よりも後方に位置するとともに,「第1伝達歯車の回転中心」が,「被駆動歯車の回転中心」及び「モータの回転中心」よりも上方に位置する構成を,図面に図示して説明している。
しかし,本件明細書の段落【0158】には, 「以上,本発明の実施の形態を説明したが,上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって,本発明は上述した実施の形態に限定されることなく,その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。」と記載されている。
これらのことから,本件明細書等の全ての記載を総合すれば,本件明細書等で記載される第1部材,第2部材,第3部材の構成が,図面に図示された具体例に限定されないことは,当業者にとって明らかである。当業者であれば, 「第1部材」「第 ,2部材」及び「第3部材」に対して, 「被駆動歯車」「モータ」 , 及び「第1伝達歯車」をどのように組み合わせるかについて,図示された具体例に限定されず,請求項に記載した範囲で,組み合わせを変えることができることは,当然,想定できる。
また,被駆動歯車の回転中心,第1伝達歯車の回転中心及びモータの回転中心の位置関係が,図面に図示された位置関係に限定されないことも,本件明細書等を見た当業者にとって明らかである。
(ウ) 本件明細書等における示唆 次のとおり,本件明細書等には,駆動ユニットの構成について, 「第1部材」「第 ,2部材」及び「第3部材」のそれぞれが「被駆動歯車」「モータ」及び「第1伝達 ,歯車」であり, 「第1伝達歯車の回転中心」が「被駆動歯車の回転中心」よりも前方に位置し,かつ,「モータの回転中心」よりも後方に位置するとともに,「第1伝達歯車の回転中心」が, 「被駆動歯車の回転中心」及び「モータの回転中心」よりも上方に位置する構成に限定されないことの示唆がある。
a 本件明細書の段落【0012】〜【0014】 本件明細書の段落【0012】〜【0014】の記載からは,クランクシャフトの軸方向から見た場合の駆動ユニットのサイズを小さくするための構成として,第1部材,第2部材及び第3部材のそれぞれを「被駆動歯車」「モータ」及び「第1 ,伝達歯車」とした場合のみに限定されず,むしろ,第1部材,第2部材及び第3部材の組み合わせとして, 「被駆動歯車」「モータ」及び「第1伝達歯車」を任意に組 ,み合わせたものでよいことが読み取れる。
また,上記記載においては,クランクシャフトの軸方向から見た場合の駆動ユニットのサイズを小さくするための構成として, 「第1伝達歯車の回転中心」が「被駆動歯車の回転中心」よりも前方に位置し,かつ「モータの回転中心」よりも後方に位置するとともに,「第1伝達歯車の回転中心」が,「被駆動歯車の回転中心」及び「モータの回転中心」よりも上方に位置することまで求められるとはされていない。
b 本件明細書の段落【0065】〜【0066】 本件明細書の段落【0065】〜【0066】の記載からは,図2及び図3に示す回転中心C1〜C3の位置関係は,回転中心C1と回転中心C2とを結ぶ第1線分S1と,回転中心C2と回転中心C3とを結ぶ第2線分S2と,回転中心C3と回転中心C1とを結ぶ第3線分S3とにより,三角形が形成されること,また,第1線分S1は,第2線分S2及び第3線分S3よりも長いという構成の一例であることが示唆される。すなわち,第1〜第3線分S1〜S3で三角形が形成され,第 1線分S1が,第2線分S2及び第3線分S3より長い構成であれば,回転中心C1〜C3の位置関係は図示したものに限定されないことが示唆されている。
c 本件明細書の段落【0150】 本件明細書の段落【0150】の記載では,モータの磁極数が多い,すなわち,モータの径が大きいことが好ましいことが示唆されている。このことから,モータの径を被駆動歯車の径より大きくし,第1部材をモータ,第2部材を被駆動歯車としてもよいことが示唆されているといえる。
(エ) 構造物の発明における明細書等から導き出される技術的事項の認定 一般的に,構造物の発明では,請求項で特定されるもののうち一例を図面に図示して説明されることになる。このような現状において,仮に,明細書等の全ての記載を総合して導かれる事項が,特段の根拠もなく図面に図示された具体例に限定されるとするのであれば,特許出願人は,請求項に記載された発明の想定される具体例を全て図示し,発明の詳細な説明に記載しなければならなくなる。それは,出願人に過度の負担を求めるものとなり,発明を奨励し,もって産業の発達に寄与するという特許法の目的に反することなる。
オ 本件訂正の前後で技術的課題は変化しないこと 本件明細書の段落【0014】の記載のとおり,本件特許に係る発明は,クランクシャフトの軸方向から見た場合の駆動ユニットのサイズを小さくすることを課題とするものである。
この課題を解決するための手段として,本件明細書の段落【0013】には, 「クランクシャフトの軸方向から見た場合,第1部材の少なくとも一部は,第2部材と重なる。第3部材の少なくとも一部は,第1部材と第2部材とが重なる領域に重なる。第1部材の回転中心と第2部材の回転中心とを結ぶ第1線分と,第2部材の回転中心と第3部材の回転中心とを結ぶ第2線分と,第3部材の回転中心と第1部材の回転中心とを結ぶ第3線分とにより,三角形が形成される。第1線分が,第2線分及び第3線分よりも長い。」と記載されている。
この手段としての駆動ユニットの構成は,本件訂正前の請求項1及び本件訂正後の請求項1のいずれにも記載されているため,それらにおいて,解決しようとする課題及びその手段は同じであり,訂正1イは,請求項1に係る発明の課題の解決に直接的に寄与しない構成を付加するものである。したがって,訂正1イは,本件明細書等に記載された技術的思想の範囲内の構成である。
(3) 被告の主張に対する反論 ア 訂正1イ及び訂正2イの解釈について (ア) 被告は,訂正1イにおける「第3部材とは反対側」と本件明細書等に記載された「回転中心C3とは反対側」とが別意であることは,その記載に照らして明らかであるとするが,本件明細書等の記載に照らすと,訂正1イ及び訂正2イにおける「第3部材とは反対側」は誤記であり,正しくは「第3部材の回転中心とは反対側」であることは一見して明らかである。
なぜなら,本件明細書の段落【0111】には「図8に示すように,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,基板150は,第1線分S1に対して,回転中心C3とは反対側に配置される。 との記載がある一方で, 」 基板が第1線分に対して第3部材の全体とは反対側に配置されることについては,本件明細書等のどこにも明示的な記載がないからである。
(イ) 被告は,「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」について,第3部材が第1線分に対して片側にのみ配置されている態様を前提としているのであれば,その位置は明確に理解することができるとする。
しかし,本件訂正後の請求項1及び9に,第3部材が第1線分に対して片側にのみ配置されている態様を前提とすることの記載はない。むしろ,本件明細書の【図8】には,第3部材として第1伝達歯車84が示されるが,上記第1伝達歯車84は,第1線分として示される「S1」に対して,その両側に存在している。これらから,本件訂正後の本件発明1及び9が,第3部材が第1線分に対して片側にのみ配置されている態様に限られないことは明らかである。そうすると, 「前記第1線分 に対して前記第3部材とは反対側」の文言からは,その位置は明確に理解できず,その記載の技術的意義は一義的に明確にできない。
(ウ) 被告は,本件明細書の【図8】からも訂正1イで特定する「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」を特定することができないとするが,被告の主張は, 「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」を「前記第1線分に対して前記第3部材の全体とは反対側」と解釈することを前提とするものである。第1線分に対して第3部材の全体とは反対側に基板を配置することについて本件明細書等に明示的な記載がないことは上述のとおりである。また,第3部材とは反対側」 「を「第3部材の全体とは反対側」と解釈すると,本件明細書の【図8】や段落【0111】の記載と整合しなくなる。このことからも,訂正1イ及び訂正2イの「第3部材とは反対側」は, 「第3部材の回転中心とは反対側」の誤記であることが明らかである。
さらに,本件特許の請求項1及び9とは別の箇所に「第3部材の回転中心」との特定があることは,訂正1イ及び訂正2イの「第3部材とは反対側」が「第3部材の回転中心とは反対側」の誤記であることを示唆している。
(エ) 特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか,あるいは,一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなどの特段の事情がある場合には,明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるところ,訂正1イ及び訂正2イの「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」からは,その技術的意義が一義的に明確にできない。また, 「第3部材とは反対側」が「第3部材の回転中心とは反対側」の誤記であることは,本件明細書等の記載に照らして明らかである。したがって, 「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」の意味については,発明の詳細な説明中の記載を参酌し,「前記第1線分に対して前記第3部材の回転中心とは反対側」と解すべきである。
イ 本件明細書等に明示された実施例とは異なる基板の配設構造について (ア) 被告は,本件明細書等に明示された実施例とは異なる基板の配設構造を挙げて,それらが,本件訂正後の請求項1の技術的範囲に含まれることを理由に,訂正1イを含む本件訂正が本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正でないと判断している。
しかし,構造物の発明においては,請求項の技術的範囲に含まれる具体的な構造は,無数にあり,その全てを実施例として明細書等に記載することは不可能である。
訂正後の請求項の技術的範囲に含まれるが明細書等に明示的に記載されていない構造があるからといって,直ちに,本件訂正により新たな技術的事項を追加したということはできない。
仮に,被告の主張するように,本件訂正後の請求項の技術的範囲に含まれるが,明細書等に明示的に記載されていない構造があり,その構造に何らかの技術的意味があることをもって,その訂正が新たな技術的事項を導入するものであるとするならば,構造物の発明における訂正や補正の大半は,新たな技術的事項を導入するものとなってしまい,訂正や補正を認める法の趣旨を没却することになる。
また,出願人においては,将来の補正や訂正に備えて,請求項の技術的範囲に含まれる無限個の実施例を全て明細書等において明示しなければいけなくなり,出願人に過度の負担を強いることになる。
したがって,被告の上記判断手法は,妥当でない。
(イ) 被告は,本件明細書等に明示のない五つの基板の配設構造の技術的意味について,出願時の公知文献を基に解釈するが,それらの配設構造の技術的意味は,本件訂正が本件明細書等に記載した範囲内か否かの判断に影響を与えるべきものではない。本件明細書等に明示的に記載されていない基板の配設構造の技術的意味によって,本件明細書等の全ての記載を総合することにより導き出される技術的事項が決定されるものではない。
(ウ) 被告の主張する判断手法は,五つの基板の配設構造及びその技術的意味が本件明細書等に明示されていないことを論じるものであり,これは,それら五 つの基板の配設構造が,訂正によって,請求項に導入された場合に,その訂正が明細書等に記載した範囲内のものであるか否かを判断する際の手法である。本件訂正は,五つの基板の配設構造を請求項に導入するものではないため,この手法を当てはめるのは妥当ではない。例えるならば,被告の判断手法は,願書に添付した明細書等に,「弾性体」とその具体例「ゴム」が記載されている状況で,「弾性体」を訂正で請求項に追加した場合に,明細書に「ゴム」以外の弾性体,例えば「バネ」が明示されていないから,その訂正は明細書等の範囲内においてしたものでないと判断するものに等しい。
ウ 本件明細書等の全ての記載を総合することにより導き出される技術的事項について (ア) 被告は,本件明細書等に記載された駆動ユニット及び基板の形状・構造について,基板150の配設構造は,クランクシャフトの軸方向から見たときに,第1線分S1に対して,第3部材の回転中心C3に対して「反対側にのみ」と位置付けられ,駆動ユニットの下側に位置し,第1伝達歯車84から離れた位置となるとする。
これは,本件明細書等の全ての記載を総合することにより導き出される技術的事項を明細書に記載の特定の一つの具体例に限定するものであるが,その限定の根拠は示されていない。本件明細書等には,基板を配置する位置を,第1線分S1に対して,第3部材の回転中心C3に対して「反対側にのみ」に限定することについて,記載も示唆もない。また,基板を駆動ユニットの下側の位置に限定することについても,基板を第1伝達歯車84から離れた位置に限定することについても,本件明細書等に記載も示唆もない。
(イ) 本件明細書の段落【0006】及び【0012】〜【0014】の記載から,本件特許に係る発明の課題は, 「電動補助自転車に用いられる駆動ユニットにおいて,クランクシャフトの軸方向から見た場合のサイズを小さくすること」であり,この課題の解決のために, 「クランクシャフトの軸方向から見た場合,第1部 材の少なくとも一部は,第2部材と重なる。第3部材の少なくとも一部は,第1部材と第2部材とが重なる領域に重なる。第1部材の回転中心と第2部材の回転中心とを結ぶ第1線分と,第2部材の回転中心と第3部材の回転中心とを結ぶ第2線分と,第3部材の回転中心と第1部材の回転中心とを結ぶ第3線分とにより,三角形が形成される。第1線分が,第2線分及び第3線分よりも長い。」という構成を備える駆動ユニットとしたことが導き出される。
このように,本件明細書等には,駆動ユニットの第1部材,第2部材,及び第3部材の配置を工夫して,クランクシャフトの軸方向から見た場合の駆動ユニットのサイズを小さくするという課題を解決する技術思想が記載されている。
そして,上記課題を解決するための駆動ユニットの具体的な構成が,本件明細書の段落【0016】〜【0157】及び【図1】〜【図15】に例示されている。
本件明細書等に記載されている上記課題とそれを解決するための第1部材〜第3部材の構成を踏まえて,本件明細書の段落【0111】【0113】及び【011 ,8】の記載をみると,課題を解決するために好ましい基板の配設構造として,それらの段落に基板の配設の指針が示されていると捉えることができる。すなわち,それらの段落は,本件明細書の段落【0012】及び【0013】に記載する第1部材,第2部材,及び第3部材の配置を前提とした基板の配設構造の具体例を示すものであり,上記課題を解決するために好ましい基板の配設の指針を示すものである。
本件明細書等の全ての記載を総合すれば,本件明細書の段落【0111】【01 ,13】及び【0118】に記載された基板の配設構造は,本件明細書の【図8】に示された一つの具体的な構成のみを前提とするものではなく,課題を解決するために好ましい基板の配設の技術思想であることが導き出される。
また,本件明細書等の全ての記載を総合しても,基板の位置を第3部材の回転中心C3に対して「反対側にのみ」に限定すること,基板を駆動ユニットの下側の位置に限定すること及び基板を第1伝達歯車84から離れた位置に限定することが,クランク軸の方向から見て駆動ユニットのサイズを小さくするという課題を解決す る上で必須の構成であることを導き出すことはできない。
(ウ) 上記(ア)の被告の主張は,上記の本件明細書等から導き出される本件特許に係る発明の課題及びそれを解決するための構成を全く考慮せず,実施例の特徴の一部を半ば恣意的に選び出して基板の配設構造に付加した構成を,本件明細書等に記載されたものと判断するものであり,妥当でない。
(エ) この点,被告は,訂正1イによれば,基板は,第1線分に対して第3部材の回転中心と「同じ側」において配設上の制限はなく,さらに,第1線分に対して第3部材の回転中心とは反対側において,被駆動歯車及びモータを超えた領域においても制限はなく,駆動ユニットのサイズを画定する基板の大きさには制限がないのであるから,そのように基板の形状・構造によって,本件明細書等に記載された課題は解決することができないとする。
しかし,本件訂正後の請求項1が前提とするモータ,第1伝達歯車及び被駆動歯車で構成される第1部材,第2部材及び第3部材の配置構成を特定する事項によって,上記(イ)の課題を解決することは,本件明細書の段落【0012】 【0014】 〜に記載されている。さらに,基板の配設構成を特定することで,上記(イ)の課題を解決するために好ましい基板の適切な配置が可能になる。このことは,上記のとおり,本件明細書等の全ての記載を総合することにより導き出される事項である。したがって,第1線分に対して第3部材の回転中心と「同じ側」の基板配設構成,被駆動歯車及びモータを超えた領域の基板配設構成並びに基板の大きさについて記載がないからといって,上記(イ)の課題が解決できないということにはならない。
2 取消事由2(本件発明1〜9の認定誤りに基づく特許法29条の2該当性の判断の誤り) 上記1のとおり,本件特許の請求項1〜9について訂正を認めないとした判断は誤りであるため,請求項1〜9は,訂正事項1及び2による本件訂正後の請求項1〜9となる。
そうすると,請求項1〜9に係る発明が先願発明と実質的に同一であるとして, 特許法29条の2により特許を受けることができないとした本件決定には誤りがある。
3 取消事由3(本件発明1〜9の認定誤りに基づく新規性及び進歩性の判断の誤り) 上記2で述べたとおり,本件決定には,訂正事項1及び2による本件訂正前の本件特許の請求項1〜9で請求項1〜9を特定したという誤りがある。そうすると,請求項1,3,4,8に係る発明が,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないとした本件決定には誤りがある。
また,請求項2,5〜7,8,9に係る発明が,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができないとした本件決定には誤りがある。
被告の主張
1 取消事由1(本件訂正の適否についての判断の誤り)について (1) 訂正1イ及び訂正2イの解釈について 次のとおり,本件決定に訂正1イ及び訂正2イの解釈の誤りはない。
ア 本件明細書の段落【0105】【0111】【0113】及び【011 , ,8】における基板の形状・構造についての記載を踏まえると,本件明細書等には,「基板150」は, 「クランクシャフト54の軸方向から見た場合に」「第1線分S ,1に対して,回転中心C3とは反対側に配置される」ものであって, 「モータ60に重なる第1領域154を有する」とともに, 「被駆動歯車104に重なる第2領域162を有する」ことが記載されているといえる。
イ 訂正1イで特定する基板の配設位置は,第1線分に対して, 「第3部材とは反対側」において,被駆動歯車に重なる領域,及びモータと重なる領域を有するというものであるが,本件明細書等に記載された上記基板150の配置位置は,あくまでも,第1線分S1に対して, 「回転中心C3とは反対側」において,被駆動歯車104に重なる第2領域及びモータ60に重なる第1領域154を有するというものであるから,訂正1イで特定する基板の配設位置と本件明細書等に記載された 基板150の配置位置とは整合していない。訂正1イにおける「第3部材とは反対側」と,本件明細書等に記載された「回転中心C3とは反対側」とが別意であることは,その記載に照らして明らかである。
そして,発明の要旨の認定,すなわち特許請求の範囲に記載された技術的事項の確定は,まず特許請求の範囲の記載に基づくべきであり,その記載が一義的に明確であり,その記載により発明の内容を的確に理解できる場合には,発明の詳細な説明に記載された事項を加えて発明の要旨を認定することは許されず,特許請求の範囲の記載文言自体から直ちにその技術的意味を確定するのに十分といえないときに初めて発明の詳細な説明中の記載を参酌できるにすぎないと解されるところ,訂正1イにおける「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」の位置は,第3部材が第1線分に対して片側にのみ配置されている態様を前提としているのであれば,その位置は明確に理解することができるのであるから,訂正1イにおける「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において」 「前記第1線分に対して前記 を,第3部材の回転中心とは反対側において」と解すべき合理性はない。本件特許の請求項1及び9の別の箇所に「第3部材の回転中心」との特定があるにもかかわらず,あえて「第3部材とは反対側」との表現を用いていることに鑑みると,原告の主張は当を得たものではない。
ウ 本件明細書の【図8】には,第3部材としての第1伝達歯車84が示されているところ,その図示内容によると,上記第1伝達歯車84は,第1線分として示されるS1に対して,その両側に存在しているから, 【図8】からも訂正1イで特定する「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」を特定することはできない。
したがって,本件明細書等において,基板の構造・形状を示す【図8】等の図示内容を根拠として,訂正1イに係る「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動歯車に重なる領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重なる領域を有する」という基板の構成が記載され ているということはできない。
エ また,訂正2イは,訂正1イと同様の訂正内容であることから,訂正1イと同様に,本件明細書等に,訂正2イに係る「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動歯車に重なる領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重なる領域を有する」という基板の構成が記載されているということもできない。
(2) 訂正1イ及び訂正2イが本件明細書等の範囲内でないとした判断について 訂正1イ及び訂正2イで特定する「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」が,本件明細書等に記載された「第1線分S1に対して,回転中心C3とは反対側」(段落【0111】)を意味するものと解することができたとしても,訂正1イ及び訂正2イは,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正ということはできない。詳細は,次のとおりである。
ア 本件明細書等に記載された駆動ユニット及び基板の形状・構造 本件明細書等における駆動ユニット及び基板の形状・構造に関する段落【0065】【0092】【0105】【0111】【0113】及び【0118】の記載 , , , ,並びに【図6】【図8】【図9】及び【図11】によると,本件明細書等に記載さ , ,れた基板150の形状・構造は,本件明細書等に「伝達軸82の回転中心C3は,・ ・・クランクシャフト54の回転中心C1よりも前方に位置し,且つ,出力軸74の回転中心C2よりも後方に位置する。回転中心C3は, ・・・回転中心C1よりも上方に位置し,且つ,回転中心C2よりも上方に位置する。」 (段落【0065】 及び ) 「モータ60,第1伝達歯車84及び被駆動歯車104のうち,クランクシャフト54の軸方向から見たときの径が最も大きい部材(第1部材)は,被駆動歯車104である。その次に径が大きい部材(第2部材)は,モータ60である。最も径が小さい部材(第3部材)は,第1伝達歯車である。(段落【0092】 」 )として記載された駆動ユニット50を前提とした基板150の配設構造である。また, 「図8に示すように,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,基板150は,第1線分 S1に対して,回転中心C3とは反対側に配置される」(段落【0111】)ことから,基板150は,本件明細書の【図8】に示すとおり,第1線分S1に対して,第3部材の回転中心C3に対して「反対側にのみ」配設されるものである。
したがって,この場合の基板150の配設構造は,クランクシャフトの軸方向から見たときに,第1線分S1に対して,第3部材の回転中心C3に対して「反対側にのみ」と位置づけられる,駆動ユニットの下側に位置し,第1伝達歯車84から離れた位置となる。
イ 本件訂正後の請求項1の技術的範囲に含まれる駆動ユニット及び基板の配設構造 (ア) 本件訂正後の請求項1で特定する基板の配設構造は,次のa〜dを前提とするものといえる。
a 「前記モータ,前記第1伝達歯車及び前記被駆動歯車のうち,前記クランクシャフトの軸方向から見たときの径が最も大きい部材を第1部材とし,その次に径が大きい部材を第2部材とし,最も径が小さい部材を第3部材とした場合,前記第1部材及び前記第2部材の一方は,前記被駆動歯車であり」(以下「事項a」という。) b 「前記第1部材の回転中心と前記第2部材の回転中心とを結ぶ第1線分と,前記第2部材の回転中心と前記第3部材の回転中心とを結ぶ第2線分と,前記第3部材の回転中心と前記第1部材の回転中心とを結ぶ第3線分とにより,三角形が形成され」(以下「事項b」という。) c 「前記第1線分が,前記第2線分及び前記第3線分よりも長く」 (以下「事項c」という。) d 「前記基板は,前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に,前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動歯車に重なる領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重なる領域を有する」 (以下「事項d」という。ただし,上記のうち「前記第3部材」は, 「第 3部材の回転中心」と仮に解する。) (イ) 事項a〜dを前提とすると,請求項1の技術的範囲に含まれる駆動ユニット及び基板の配設構造は,少なくとも,次の各図の4種類のものを含むものといえる(各図において,左側の図は駆動ユニットの配設構造を,右側の図はそれらと基板の配設構造を示し,図中,赤色は被駆動歯車,緑色は第1伝達歯車,青色はモータ,黄土色は基板を示す。。
) 【図@】 【図A】 S1 【図B】 S1 【図C】 (ウ) さらに,本件訂正後の請求項1においては,第1線分S1に対して,回転中心C3と「同じ側」における基板の配設構造は特定されていないから,事項a〜dを前提とすると,基板の配設構造について,もう一つ,クランクシャフトの軸方向から見た場合に,基板が第1線分に対して第3部材と「同じ側」に配設される態様をも含み得る。
すなわち,事項dは,クランクシャフトの軸方向から見た場合に,第1線分に対して第3部材(「第3部材の回転中心」と仮に解する。)とは「反対側」における被駆動歯車に重なる領域及びモータと重なる領域を特定するが,第1線分に対して第 3部材の回転中心と「同じ側」における基板の配設構造についてまで特定していないため,基板は,クランクシャフトの軸方向から見た場合に,上記【図@】〜【図C】の各右側の図の態様のみならず,第1線分に対して第3部材の回転中心に対して「同じ側」にも配置された態様を含むことになる。
ウ 小括 上記アのとおり,本件明細書等に記載された基板の配設構造は,クランクシャフトの軸方向から見たときに,第1線分S1に対して,第3部材の回転中心C3に対して「反対側にのみ」と位置づけられる,駆動ユニットの下側に位置し,第1伝達歯車84から離れた位置となるところ,本件訂正後の請求項1の技術的範囲には,このような配設構造と異なる,少なくとも上記イ(イ)及び(ウ)の五つの配設構造を含むことが明らかであるから,訂正1イを含む訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であるということはできない。
同様に,訂正2イを含む訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であるということはできない。
エ 電動補助自転車に用いられる駆動ユニットにおける基板の配設構造の技術的意味(技術常識)について 訂正1イを含む訂正が,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正でないことは,基板の配設構造に係る本件特許出願時の技術常識に照らしてみても明らかである。
本件特許出願時の技術常識として,電動補助自転車に用いられる駆動ユニットにおける基板の配設構造は,次に例示するような技術的意味をもって行われる。
(ア) 特開2011-156911号公報(乙1) 基板の配設構造は,コイルの発生する熱及び減速歯車部の摩耗粉の影響が少ない位置が考慮される(上記公報の段落【0001】及び【0007】。
) (イ) 特開2001-278161号公報(乙2) 基板の配設構造は,基板の発生する熱の駆動ユニットからの放出の効果及び走行 時の空冷の効果の高い位置が考慮される(上記公報の段落【0016】 0019】 【 , ,【0020】【0034】【0035】及び【0037】 。
, , ) (ウ) 特開平10-16872号公報(乙3) 基板の配設構造は,基板周辺の配索の簡略化,基板の発生する熱の駆動ユニットからの放出,飛び石等による損傷の防止,空きスペースの有効利用,乗降性の向上及び駆動ユニット取付け剛性の向上が考慮される(上記公報の段落【0019】, 【0024】【0039】【0041】〜【0043】及び【0045】。
, , ) (エ) 特開2003-219603号公報(乙4) 基板の配設構造は,基板の発生する熱の駆動ユニットからの放出,外部からの力の作用の回避及びノイズによる悪影響の回避が考慮される(上記公報の段落【0008】【0038】【0040】及び【0041】。
, , ) オ 本件訂正後の請求項1の技術的範囲に含まれる基板の配設構造の有する技術的意味について (ア) 上記エのとおり,電動補助自転車に用いられる駆動ユニットにおける基板の配設構造は,所期の目的をもって配設することが技術常識であるところ,上記アの本件明細書等に記載された基板の配設構造,上記イ(イ)の【図@】〜【図C】の基板の配設構造及び上記イ(ウ)の基板の配設構造の技術的意味は,次のように解することができる a 本件明細書等に記載された基板の配設構造の有する技術的意味 クランクシャフトの軸方向から見たときに,駆動ユニットの走行方向前側下部に配置されることから,走行時の冷却効果を高くすることができるという技術的意味を持つものと解することもできる。
b 上記イ(イ)の【図@】【図A】及び【図C】における基板の配設構造 ,の有する技術的意味 クランクシャフトの軸方向から見たときに,駆動ユニットの上側に位置し,走行路から基板までの距離を大きくとることができ,縁石への乗り上げ,飛び石等の走 行路からの影響による基板の損傷の可能性を少なくするという技術的意味を持つものと解することもできる。
c 上記イ(イ)の【図A】及び【図B】における基板の配設構造の有する技術的意味 クランクシャフトの軸方向から見たときに,被駆動歯車,第1伝達歯車,及びモータが重なる領域に重なることから,基板に駆動ユニットの動作を制御するための各種電機部品が実装されるに際し,基板上の各種電機部品から駆動ユニットを構成する各部品までの配線長さを短くすることができ,基板上及び基板周辺の配索を簡略化できるという技術的意味を持つものと解することもできる。
d 上記イ(ウ)における基板の配設構造の有する技術的意味 クランクシャフトの軸方向から見た場合に,第1線分に対して第3部材の回転中心に対して「反対側にのみ」配設された態様のみならず,さらに,第1線分に対して第3部材の回転中心に対して「同じ側」にも配置された態様を含むことになるできることから,基板の大きさについての設計の自由度を高くすることができるという技術的意味を持つものと解することもできる。
(イ) 本件訂正後の請求項1の技術的範囲に含まれる基板の配設構造には,上記イ(イ)及び(ウ)のとおり様々なものが含まれるところ,それらの基板の配設構造に共通する技術的意義を見いだすことはできず,上記(ア)に例示するように,本件明細書等にない新たな技術的意味を持った配置も含まれる。そのような技術的意味を持つ基板の配設構造は,本件明細書等に記載されたものではなく,本件訂正後の請求項1で特定する基板の配設態様は,所期の技術的意味を持った配置ということはできず,新たな技術的事項を導入するものである。
したがって,電動補助自転車に用いられる駆動ユニットにおける基板の配設上の技術常識に照らして,訂正1イを含む訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正であるということはできない。
カ 原告の主張に対する反論等 (ア) 原告は,訂正1イは,本件明細書等に明示的に記載された事項であるところ,本件決定は,本件明細書等に明示的に記載された事項を,本件明細書等に記載された事項の範囲ではないとするものであり,審査基準に則っていない旨主張する。
しかし,本件明細書の段落【0111】【0113】及び【0118】の記載か ,らすると,基板150の配置構造は,本件明細書の【図8】【図9】及び【図11】 ,に示すような構造として説明されているのであって,訂正1イで特定する「前記基板は,前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に,前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動歯車に重なる領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重なる領域を有する」として記載しているのではない。基板150は,上記各図に図示されているとおり,第1線分S1に対して,回転中心C3とは「反対側にのみ」配置されることが記載されているというべきであり,訂正1イは,そのような基板の配置を特定するものということはできない。さらに,上記イで述べたとおり,本件明細書等には,訂正1イによる訂正後の請求項1の技術的範囲に含まれる,少なくとも五つの基板の配設構造も明示的に記載されていない。
(イ) 原告は,本件決定は,訂正1イの他に図面等で示された具体的な構成も請求項に記載すべきであるとの誤った判断基準に従って判断したものである旨主張する。
しかし,上記アのとおり,訂正1イは,本件明細書の【図6】【図8】等をも根 ,拠とした訂正であって,「伝達軸82の回転中心C3は,・・・クランクシャフト54の回転中心C1よりも前方に位置し,且つ,出力軸74の回転中心C2よりも後方に位置する。回転中心C3は, ・・・回転中心C1よりも上方に位置し,且つ,回転中心C2よりも上方に位置する。(段落【0065】 」 )及び「モータ60,第1伝達歯車84及び被駆動歯車104のうち,クランクシャフト54の軸方向から見たときの径が最も大きい部材(第1部材)は,被駆動歯車104である。その次に径 が大きい部材(第2部材)は,モータ60である。最も径が小さい部材(第3部材)は,第1伝達歯車である。(段落【0092】 」 )といった条件をも前提とした駆動ユニット50に対する基板150の配設構造である。
また,上記イで述べたとおり,訂正1イが包含する,少なくとも五つの基板の配設構造は明示的に記載されていない。
さらに,上記エ及びオで述べたとおり,訂正1イを含む本件訂正は,本件特許出願時の技術常識に照らしてみても,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてした訂正ということはできない。
(ウ) 原告は,本件明細書等の全ての記載を総合して導き出される基板の構成は,本件明細書の段落【0065】及び【0092】に記載された駆動ユニットの構成を前提とする場合のみに限定されない旨主張するが,上記(イ)のとおり,訂正1イは,少なくとも,上記各段落に記載された条件をも前提とした駆動ユニット50に対する基板150の配設構造であるというべきであるから,原告の上記主張は理由がない。
(エ) 原告は,本件訂正の前後の請求項1においては,解決しようとする課題及びその手段が同じであり,訂正1イは,請求項1に係る発明の課題の解決に直接的に寄与しない構成を付加するものであるから,訂正1イは,本件明細書等に記載された技術的思想の範囲内の構成である旨主張する。
しかし,上記エのとおり,電動補助自転車に用いられる駆動ユニットにおける基板の配設構造は,所期の目的をもって配設することが技術常識であるところ,上記オのとおり,訂正1イによる本件訂正後の請求項1の技術的範囲に含まれる基板の配設構造に様々なものが含まれ,それらの基板の配設構造に共通する技術的意義を見いだすことはできず,本件明細書等にない新たな技術的意味を持った配置をも含むようになる。
また,訂正1イは,第1線分に対して第3部材の回転中心と「同じ側」の基板の配設構造について特定するものではなく,第1線分に対して第3部材の回転中心と は反対側において,被駆動歯車及びモータと重ならない領域の基板の配設構造について特定するものでもない。訂正1イによれば,基板は,第1線分に対して第3部材の回転中心と「同じ側」において配設上の制限はなく,さらに,第1線分に対して第3部材の回転中心とは反対側において,被駆動歯車及びモータを超えた領域においても制限はなく,駆動ユニットのサイズを画定する基板の大きさには制限がないのであるから,そのように基板の形状・構造によって,本件明細書等に記載された「本発明の目的は,電動補助自転車に用いられる駆動ユニットにおいて,クランクシャフトの軸方向から見た場合のサイズを小さくすることである。(段落【00 」06】)という課題は解決することができない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
仮に,原告が主張するとおり,訂正1イが課題の解決に寄与しない構成であるのであれば,訂正1イに係る事項は当業者が適宜設定すべき事項にすぎず,本件決定における拡大先願等の判断に影響を及ぼすものとはならず,本件決定の結論に影響を及ぼすものではない。
(3) まとめ 以上によると,取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本件発明1〜9の認定誤りに基づく特許法29条の2該当性の判断の誤り)について 上記1のとおり,本件決定における本件訂正の適否についての判断に誤りはなく,拡大先願の判断も誤りなくされている。原告の主張は,本件特許の請求項1〜9について訂正事項1及び2による本件訂正が認められることを前提としたものであるところ,その前提において誤りであり,取消事由2は理由がない。
3 取消事由3(本件発明1〜9の認定誤りに基づく新規性及び進歩性の判断の誤り)について 上記1のとおり,本件決定における本件訂正の適否についての判断に誤りはなく,発明の新規性及び進歩性の判断も誤りなくされている。原告の主張は,本件特許の 請求項1〜9について訂正事項1及び2による訂正が認められることを前提としたものであるところ,その前提において誤りであり,取消事由3は理由がない。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件明細書の記載 本件明細書(甲6)には,以下の記載がある。
発明の詳細な説明】 【技術分野】 【0001】 本発明は,電動補助自転車に用いられる駆動ユニット及び当該駆動ユニットを備える電動補助自転車に関する。
【背景技術】 【0002】 近年,運転者がペダルを漕ぐ力(以下,踏力と称する)をモータの駆動力によってアシストする電動補助自転車が提案されている。電動補助自転車は,踏力をアシストするための駆動ユニットを備える。駆動ユニットは,例えば,特開2008-114851号公報に開示されている。
【0003】 上記公報において,駆動ユニットは,回転部材を備える。回転部材は,ペダルクランク軸と同一軸線上で回転自在に設けられる。回転部材は,人力駆動系とモータ駆動系とを連結する。回転部材よりも車体の後方には,モータが配置される。モータと回転部材とは,歯車減速機を介して,連結される。
発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 上記公報では,モータと,回転部材(ペダルクランク軸)と,歯車減速機とが, 略一直線上に配置される。そのため,ペダルクランク軸の軸方向から見たときの駆動ユニットのサイズを小さくすることが難しい。
【0006】 本発明の目的は,電動補助自転車に用いられる駆動ユニットにおいて,クランクシャフトの軸方向から見た場合のサイズを小さくすることである。
【0007】 また,本発明は,上記駆動ユニットを備える電動補助自転車を提供することも,目的とする。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】 【0008】 本発明の駆動ユニットは,電動補助自転車に用いられ,ハウジング,クランクシャフト,モータ及び伝達軸を備える。
【0009】 クランクシャフトは,ハウジングを貫通して配置される。モータは,ハウジング内に配置される。伝達軸は,ハウジング内に配置され,クランクシャフトの中心軸線に対して平行に延びる。
【0010】 モータは,ロータ,出力軸及び出力歯車を含む。出力軸は,ロータとともに回転し,クランクシャフトの中心軸線に対して平行に延びる。出力歯車は,出力軸に配置される。
【0011】 駆動ユニットは,第1伝達歯車,第2伝達歯車及び被駆動歯車をさらに備える。
第1伝達歯車は,伝達軸に配置され,出力歯車と噛み合い,出力歯車よりも多い歯を有する。第2伝達歯車は,伝達軸に配置される。被駆動歯車は,クランクシャフトに配置され,第2伝達歯車と噛み合い,第2伝達歯車よりも多い歯を有する。
【0012】 モータ,第1伝達歯車及び被駆動歯車のうち,クランクシャフトの軸方向から見たときの径が最も大きい部材を第1部材とし,その次に径が大きい部材を第2部材とし,最も径が小さい部材を第3部材とする。この場合,第1部材及び第2部材の一方は,被駆動歯車である。
【0013】 クランクシャフトの軸方向から見た場合,第1部材の少なくとも一部は,第2部材と重なる。第3部材の少なくとも一部は,第1部材と第2部材とが重なる領域に重なる。第1部材の回転中心と第2部材の回転中心とを結ぶ第1線分と,第2部材の回転中心と第3部材の回転中心とを結ぶ第2線分と,第3部材の回転中心と第1部材の回転中心とを結ぶ第3線分とにより,三角形が形成される。第1線分が,第2線分及び第3線分よりも長い。
【0014】 本発明の駆動ユニットによれば,クランクシャフトの軸方向から見たときに,第3部材を第1部材及び第2部材に近づけて配置できる。そのため,クランクシャフトの軸方向から見た場合に,第3部材が第1部材及び第2部材に重なる割合を大きくできる。その結果,クランクシャフトの軸方向から見た場合の駆動ユニットのサイズを小さくできる。
【発明を実施するための形態】 【0016】 以下,図面を参照しながら,本発明の実施の形態による駆動ユニット及び電動補助自転車について説明する。図中,同一又は相当部分には,同一符号を付して,その部材についての説明は繰り返さない。また,各図中の構成部材の寸法は,実際の構成部材の寸法及び各構成部材の寸法比率等を忠実に表したものではない。なお,以下の説明において,前方,後方,左方及び右方は,サドル18に着座し且つハンドル16を握った状態の運転者から見た前方,後方,左方及び右方を意味する。
【0030】 [駆動ユニット] 図2を参照しながら,駆動ユニット50について説明する。図2は,駆動ユニット50の概略構成を示す縦断面図である。
【図2】 【0031】 駆動ユニット50は,ハウジング52,クランクシャフト54,回転部材56,駆動スプロケット58,モータ60及び減速機構62を備える。
【0037】 [モータ] モータ60は,ハウジング52内に配置される。モータ60は,図示しない制御装置から出力される制御信号に基づいて,電動補助自転車10の走行をアシストするための駆動力を発生する。モータ60は,ステータ70,ロータ72,出力軸74及び出力歯車76を備える。
【0046】 図2及び図3を参照しながら,出力軸74の回転中心C2について説明する。図3は,第2ハウジング部52Rが取り外された状態の駆動ユニット50を示す右側面図である。
【図3】 【0047】 回転中心C2は,クランクシャフト54の回転中心C1よりも前方に位置する。
回転中心C2は,回転中心C1よりも上方に位置する(図3参照)。
【0055】 [減速機構] 図2及び図5を参照しながら,減速機構62について説明する。減速機構62は,伝達軸82,第1伝達歯車84及び第2伝達歯車86を備える。
【0056】 伝達軸82は,ハウジング52内に配置される。伝達軸82の中心軸線L3は,クランクシャフト54の中心軸線L1と平行である。つまり,伝達軸82は,クランクシャフト54の中心軸線L1に対して平行に延びる。中心軸線L3は,伝達軸82の軸方向,つまり,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,伝達軸82の回転中心C3と一致する。
【0065】 伝達軸82の回転中心C3は,図2及び図3に示すように,クランクシャフト54の回転中心C1よりも前方に位置し,且つ,出力軸74の回転中心C2よりも後方に位置する。回転中心C3は,図3に示すように,回転中心C1よりも上方に位置し,且つ,回転中心C2よりも上方に位置する。
【0066】 つまり,図6に示すように,回転中心C1と回転中心C2とを結ぶ第1線分S1と,回転中心C2と回転中心C3とを結ぶ第2線分S2と,回転中心C3と回転中心C1とを結ぶ第3線分S3とにより,三角形が形成される。第1線分S1は,第2線分S2及び第3線分S3よりも長い。
【図6】 【0069】 第2伝達歯車86は,クランクシャフト54の軸方向で軸受78Rと同じ位置に配置される。ここで, 「第2伝達歯車86と軸受78Rとがクランクシャフト54の軸方向で同じ位置に配置される」とは,クランクシャフト54の中心軸線L1に対して直交する方向から見た場合に,第2伝達歯車86の少なくとも一部が軸受78Rと重なることをいう。
【0070】 図6に示すように,クランクシャフト54の軸方向から見た場合,第2伝達歯車86は,第1線分S1と重ならない。
【0071】 [回転部材] 図7を参照しながら,回転部材56について説明する。図7は,図2の一部を拡大して示す縦断面図である。
【図7】 【0089】 被駆動歯車104は,クランクシャフト54の軸方向で軸受78Rと同じ位置に配置される。ここで, 「被駆動歯車104と軸受78Rとがクランクシャフト54の軸方向で同じ位置に配置される」とは,クランクシャフト54の中心軸線L1に対して直交する方向から見た場合に,被駆動歯車104の少なくとも一部が軸受78Rと重なることをいう。
【0091】 図6を参照しながら,被駆動歯車104,モータ60及び第1伝達歯車84の関係について説明する。
【0092】 被駆動歯車104は,クランクシャフト54の軸方向から見た場合,モータ60よりも大径であり,且つ,第1伝達歯車84よりも大径である。モータ60は,第1伝達歯車84よりも大径である。つまり,モータ60,第1伝達歯車84及び被駆動歯車104のうち,クランクシャフト54の軸方向から見たときの径が最も大 きい部材(第1部材)は,被駆動歯車104である。その次に径が大きい部材(第2部材)は,モータ60である。最も径が小さい部材(第3部材)は,第1伝達歯車である。
【0093】 被駆動歯車104の少なくとも一部は,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,モータ60に重なる。第1伝達歯車84の少なくとも一部は,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,被駆動歯車104とモータ60とが重なる領域126に重なる。つまり,第1伝達歯車84の少なくとも一部は,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,被駆動歯車104とモータ60とのそれぞれに重なる。
【0104】 [基板] 検出素子134は,基板150に設けられる。基板150は,プリント配線基板である。基板150は,図3に示すように,ハウジング52内に配置される。基板150には,駆動ユニット50の動作を制御する制御装置(図示せず)が実装される。なお,基板150は,防水性を有するコーティング材により,コーティングされている。
【0105】 図2及び図8〜図11を参照しながら,基板150について説明する。図8は,基板150を説明するための右側面図である。図8においてハッチングを付した部分が,基板150である。図9は,第1領域154を説明するための右側面図である。図9においてハッチングを付した部分が,第1領域154である。図10は,第1領域154と第2ハウジング部52Rとの関係を説明するための縦断面図である。図11は,第2領域162及び第3領域164を説明するための右側面図である。図11においてハッチングを付した部分が,第2領域162及び第3領域164である。
【図8】【図9】【図11】 【0106】 図2に示すように,基板150は,実装面152を有する。実装面152は,基板150の厚さ方向一方の端面である。実装面152には,駆動ユニット50の動作を制御するための各種電気部品が実装される。実装面152は,クランクシャフト54の中心軸線L1に対して直交する方向に広がる。
【0107】 図2に示すように,基板150は,クランクシャフト54の軸方向において,被駆動歯車104と,モータ60との間に配置される。ここで, 「基板150が被駆動歯車104とモータ60との間に配置される」とは,モータ60のうちクランクシャフト54の軸方向から見たときの径が最も大きいステータ70と,被駆動歯車104との間に,基板150が配置されることをいう。
【0108】 図2に示すように,基板150は,第1ハウジング部52Lと第2ハウジング部52Rとの重ね合わせ面53L,53Rに沿って配置される。ここで, 「基板150が重ね合わせ面53L,53Rに沿って配置される」とは,基板150の厚さ方向の端面が,クランクシャフト54の軸方向で重ね合わせ面53L,53Rと一致することをいう。
【0109】 なお,基板150の厚さ方向の端面は,クランクシャフト54の軸方向で重ね合わせ面53L,53Rと厳密に一致していなくてもよい。例えば,重ね合わせ面53L,53Rは,クランクシャフト54の軸方向で基板150と同じ位置にあってもよい。ここで, 「重ね合わせ面53L,53Rがクランクシャフト54の軸方向で基板150と同じ位置にある」とは,クランクシャフトの中心軸線L1に対して直交する方向から見た場合に,重ね合わせ面53L,53Rが基板150に重なることをいう。
【0110】 図2に示すように,基板150は,クランクシャフト54の軸方向で第1伝達歯車84と同じ位置に配置される。ここで, 「基板150と第1伝達歯車84とがクランクシャフト54の軸方向で同じ位置に配置される」とは,クランクシャフト54の中心軸線L1に対して直交する方向から見た場合に,基板150が第1伝達歯車84と重なることをいう。
【0111】 図8に示すように,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,基板150は,第1線分S1に対して,回転中心C3とは反対側に配置される。
【0112】 図8に示すように,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,基板150は,回転中心C1及び回転中心C2とは重ならない。
【0113】 図9に示すように,基板150は,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,モータ60に重なる第1領域154を有する。
【0114】 図9に示すように,第1領域154には,電気部品156が配置される。電気部品156は,モータ60に電力を供給するスイッチング素子である。電気部品156は,実装面152に配置される。
【0115】 図9に示すように,第1領域154のうち,電気部品156が配置される領域には,伝熱シート158が配置される。伝熱シート158は,基板150の裏面(基板152の厚さ方向で実装面152とは反対側の面)に配置される。伝熱シート158は,基板150をコーティングするコーティング材よりも高い熱伝導率を有する。伝熱シート158は,電気部品156が発する熱を逃がす。
【0118】 図11に示すように,基板150は,クランクシャフト54の軸方向から見た場 合に,被駆動歯車104に重なる第2領域162を有する。
【0119】 図11に示すように,第2領域162は,クランクシャフト54の軸方向から見た場合にリング磁石132と重なる第3領域164を含む。第3領域164と重なる位置において,検出素子134が配置される。
【0120】 [仕切壁] 図2,図3,図8,図12,図13及び図14を参照しながら,仕切壁170について説明する。図12及び図13は,仕切壁170を示す斜視図である。図14は,図3と比べて,被駆動歯車104が取り外されている。
【図14】 【0122】 第1壁部172は,図14に示すように,クランクシャフト54の中心軸線L1に対して直交する方向に広がる。第1壁部172には,図8及び図12〜図14に示すように,貫通孔180が形成される。図14に示すように,貫通孔180内には,駆動部材102が配置される。図2,図3,図8及び図14から明らかなように,第1壁部172は,クランクシャフト54の軸方向において,基板150と被駆動歯車104との間に配置される。ここで, 「第1壁部172が基板150と被駆動歯車104との間に配置される」とは,第1壁部172が,基板150と,被駆 動歯車104が有する歯(第2伝達歯車86と噛み合う部分)との間に配置されることをいう。つまり,基板150と,被駆動歯車104が有する歯(第2伝達歯車86と噛み合う部分)との間に形成される空間は,第1壁部172で仕切られる。
【0123】 第2壁部174は,図3及び図8に示すように,クランクシャフト54の中心軸線L1に対して直交する方向に広がる。第2壁部174は,図3に示すように,クランクシャフト54の軸方向で第1壁部172と異なる位置に配置される。ここで,「第2壁部174がクランクシャフト54の軸方向で第1壁部172と異なる位置に配置される」とは,クランクシャフトの中心軸線L1に対して直交する方向から見た場合に,第2壁部174が第1壁部172と重ならないことをいう。
【0129】 図8に示すように,クランクシャフト54の軸方向から見た場合,第3壁部176の内側には,第1伝達歯車84,第2伝達歯車86及び出力歯車76が配置される。
【0130】 具体的には,第1伝達歯車84は,第1周壁部186の内側に配置される。換言すると,第1伝達歯車84は,図2に示すように,クランクシャフト54の軸方向で第3壁部176と同じ位置に配置される。ここで, 「第1伝達歯車84がクランクシャフト54の軸方向で第3壁部176と同じ位置に配置される」とは,クランクシャフト54の中心軸線L1に対して直交する方向から見た場合に,第1伝達歯車84の少なくとも一部が第3壁部176に重なることをいう。
【0131】 また,出力歯車76は,第2周壁部188の内側に配置される。換言すると,出力歯車76は,図2に示すように,クランクシャフト54の軸方向で第3壁部176と同じ位置に配置される。ここで, 「出力歯車76がクランクシャフト54の軸方向で第3壁部176と同じ位置に配置される」とは,クランクシャフト54の中心 軸線L1に対して直交する方向から見た場合に,出力歯車76の少なくとも一部が第3壁部176に重なることをいう。
【0132】 なお,第2伝達歯車86は,図2に示すように,クランクシャフト54の軸方向で第3壁部176と異なる位置に配置される。ここで, 「第2伝達歯車86がクランクシャフト54の軸方向で第3壁部176と異なる位置に配置される」とは,クランクシャフト54の中心軸線L1に対して直交する方向から見た場合に,第2伝達歯車86が第3壁部176に重ならないことをいう。
【0133】 図8に示すように,基板150は,出力軸74の中心軸線L2に対して直交する方向で,第2周壁部188の外側に配置される。つまり,基板150と出力歯車76との間に形成される空間は,第2周壁部188で仕切られる。
【0135】 図8に示すように,第4壁部178は,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,基板150に重なる。
【0143】 モータ60,第1伝達歯車84及び被駆動歯車104のうち,クランクシャフト54の軸方向から見たときの径が最も大きい部材を第1部材104とし,その次に径が大きい部材を第2部材60とし,最も径が小さい部材を第3部材84とする。
この場合,第1部材104及び第2部材60の一方は,被駆動歯車104である。
【0144】 クランクシャフト54の軸方向から見た場合,第1部材104の少なくとも一部は,第2部材60と重なる。第3部材84の少なくとも一部は,第1部材104と第2部材60とが重なる領域に重なる。第1部材104の回転中心C1と第2部材60の回転中心C2とを結ぶ第1線分S1と,第2部材60の回転中心C2と第3部材84の回転中心C3とを結ぶ第2線分S2と,第3部材84の回転中心C3と 第1部材104の回転中心C1とを結ぶ第3線分S3とにより,三角形が形成される。第1線分S1が,第2線分S2及び第3線分S3よりも長い。
【0145】 このような駆動ユニット50においては,クランクシャフト54の軸方向から見たときに,第3部材84を第1部材104及び第2部材60に近づけて配置できる。
そのため,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,第3部材84が第1部材104及び第2部材60に重なる割合を大きくできる。その結果,クランクシャフト54の軸方向から見た場合の駆動ユニット50のサイズを小さくできる。
【0146】 駆動ユニット50において,第1伝達歯車84は,出力歯車76よりも多い歯を有する。被駆動歯車104は,第2伝達歯車86よりも多い歯を有する。そのため,駆動ユニット50においては,減速比を確保しつつ,クランクシャフト54の軸方向から見た場合の駆動ユニット50のサイズを小さくできる。
【0147】 駆動ユニット50において,第1部材は,被駆動歯車104である。
【0148】 駆動ユニット50においては,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,モータ60の少なくとも一部は,被駆動歯車104と重なる。
【0149】 駆動ユニット50においては,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,第1伝達歯車84の少なくとも一部は,モータ60と被駆動歯車104とが重なる領域126に重なる。
【0150】 駆動ユニット50において,第2部材は,モータ60である。この場合,ロータ72の磁極数を増やすことができる。その結果,モータ60の細かい動作を制御し易くなる。
【0151】 駆動ユニット50においては,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,第2伝達歯車86は,第1部材104の回転中心C1と第2部材60の回転中心C2とを結ぶ線分S1と重ならない。
【0152】 駆動ユニット50においては,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,伝達軸82の回転中心C3は,モータ60と重なる。この場合,第1伝達歯車84をモータ60に近づけて配置できる。そのため,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,第1伝達歯車84がモータ60に重なる割合を大きくできる。その結果,クランクシャフト54の軸方向から見た場合の駆動ユニット50のサイズを小さくできる。
【0155】 電動補助自転車10においては,伝達軸82の回転中心C3及び出力軸74の回転中心C2は,クランクシャフト54よりも前方に位置する。この場合,駆動ユニット50においてクランクシャフト54よりも後方に位置する部分の車両前後方向の長さを短くできる。その結果,クランクシャフト54と従動スプロケット26との間隔を短くできる。
【0156】 電動補助自転車10においては,伝達軸82の回転中心C3及び出力軸74の回転中心C2は,クランクシャフト54よりも上方に位置する。この場合,駆動ユニット50におけるクランクシャフト54よりも下方に位置する部分の車両高さ方向の長さを短くできる。その結果,電動補助自転車10の最低地上高を高くすることができる。
【0157】 [応用例] 上記実施の形態では,クランクシャフト54の軸方向から見たときの径が最も小 さい部材は,第1伝達歯車84であったが,例えば,図15に示すように,クランクシャフト54の軸方向から見たときの径が最も小さい部材は,モータ60であってもよい。この場合,線分S3が,線分S1及び線分S2よりも長くなる。
【図15】 【0158】 以上,本発明の実施の形態を説明したが,上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって,本発明は上述した実施の形態に限定されることなく,その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
(2) 本件発明の概要 前記第2の2で認定した本件特許の特許請求の範囲の記載及び前記(1)で認定した本件明細書の記載からすると,本件発明について,次のとおり認められる。
ア 本件発明の課題 運転者がペダルを漕ぐ力をモータの駆動力によってアシストする電動補助自転車が備える駆動ユニットについて,先行技術文献においては,人力駆動系とモータ駆動系とを連結する回転部材を備え,回転部材よりも車体の後方にはモータが配置され,モータと回転部材とは歯車減速機を介して連結されるとの構成が開示されているが,そこでは,モータと回転部材(ペダルクランク軸)と歯車減速機とが,略一直線上に配置されるため,ペダルクランク軸の軸方向から見たときの駆動ユニット のサイズを小さくすることが難しい。本件明細書の段落 ( 【0002】【0005】 〜 ) 本件発明の目的は,電動補助自転車に用いられる駆動ユニットにおいて,クランクシャフトの軸方向から見た場合のサイズを小さくすること,また,上記駆動ユニットを備える電動補助自転車を提供することである。(本件明細書の段落【0006】【0007】 , ) イ 課題を解決するための手段 (ア) 本件発明の駆動ユニットは,電動補助自転車に用いられ,ハウジング,クランクシャフト,モータ及び伝達軸を備え,第1伝達歯車,第2伝達歯車及び被駆動歯車をさらに備える。第1伝達歯車は,伝達軸に配置され,出力歯車と噛み合い,出力歯車よりも多い歯を有する。第2伝達歯車は,伝達軸に配置される。被駆動歯車は,クランクシャフトに配置され,第2伝達歯車と噛み合い,第2伝達歯車よりも多い歯を有する。(本件明細書の段落【0008】【0011】 , ) (イ) モータ,第1伝達歯車及び被駆動歯車のうち,クランクシャフトの軸方向から見たときの径が大きい方から順に第1部材,第2部材,第3部材とする。
この場合,第1部材及び第2部材の一方は,被駆動歯車である。
(本件明細書の段落【0012】) (ウ) クランクシャフトの軸方向から見た場合,第1部材の少なくとも一部は,第2部材と重なる。第3部材の少なくとも一部は,第1部材と第2部材とが重なる領域に重なる。第1部材の回転中心と第2部材の回転中心とを結ぶ第1線分と,第2部材の回転中心と第3部材の回転中心とを結ぶ第2線分と,第3部材の回転中心と第1部材の回転中心とを結ぶ第3線分とにより,三角形が形成される。第1線分が,第2線分及び第3線分よりも長い。(本件明細書の段落【0013】) ウ 本件発明の効果 本件発明の駆動ユニットでは,クランクシャフトの軸方向から見たときに,第3部材を第1部材及び第2部材に近づけて配置できる。そのため,クランクシャフトの軸方向から見た場合に,第3部材が第1部材及び第2部材に重なる割合を大きく できる。その結果,クランクシャフトの軸方向から見た場合の駆動ユニットのサイズを小さくできる。(本件明細書の段落【0014】) エ 上記ア〜ウによると,本件発明は,課題の解決に当たり,モータ,第1伝達歯車及び被駆動歯車という三つの部材について,クランクシャフトの軸方向から見たときの径の大きさに着目し,その大きさによって,それらを第1部材〜第3部材と特定した上で,それらの部材の重なり合いやそれらの部材の各回転中心が形成する三角形の性質を特定するものである。
オ 上記に関し, 「基板」については,本件明細書の【発明が解決しようとする課題】(段落【0005】〜【0014】)においては何ら記載がない。
他方, 【発明を実施するための形態】には, 「基板」についての詳しい記載があり,本件発明の課題に直接的に関連するクランクシャフトの軸方向から見たときの位置関係については,段落【0111】〜【0113】【0118】及び【0119】 ,並びに【図8】【図9】及び【図11】に記載があるものの,具体的にどのように ,駆動ユニットのサイズを小さくすることにつながるかは,これらの記載から明らかではない。本件明細書の段落【0145】【0146】【0150】【0152】 , , , ,【0155】及び【0156】において,クランクシャフトの軸方向から見たときの駆動ユニットのサイズを小さくできること等,実施形態に係る効果についての記載があるが,それらの段落において,「基板」については何ら記載がない。
そして,応用例について記載した本件明細書の段落【0157】及び【図15】には,そもそも「基板」の存在自体について記載がない。
2 取消事由1(本件訂正の適否についての判断の誤り)について (1) 訂正1イ及び訂正2イの解釈について ア 訂正1イ及び訂正2イによる特定事項 前記第2の3(1)によると,訂正1イは,訂正1アにより請求項1に加えられるべき「基板」の形状・構造について, 「前記基板は,前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に,前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動 歯車に重なる領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重なる領域を有する」ことを特定するものである。
また,前記第2の3(2)によると,訂正2イは,訂正2アにより請求項9に加えられる「基板」の形状・構造について, 「前記基板は,前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に,前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動歯車に重なる領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重なる領域を有する」ことを特定するものである。
イ 「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」の意義 (ア) 訂正1イにいう「前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に」おける「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」の意義について検討するに,請求項1の他の部分の記載,特に,@前記クランクシャフトの軸方向から見た場合,「第1部材の少なくとも一部」が第2部材と重なり,「第3部材の少なくとも一部」が「前記第1部材と前記第2部材とが重なる領域」に重なると記載され, 「部材」の一部分についていう場合にはその旨の表現が用いられていること,A第1線分〜第3線分の定義において,第1部材〜第3部材の「回転中心」を基準とした記載がされ,「部材」の回転中心を示す場合にはその旨が明記されていることを踏まえると,単に「第3部材」という場合には, 「第3部材の全体」を指すものと解釈するのが合理的である。
したがって, 「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」とは,第1線分によって区切られる領域の片側に第3部材の全体が存在することを前提とし,それが存在する側と第1線分を挟んで反対側をいうものと解される。
訂正2イにいう「前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に」おける「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」の意義についても,請求項9の他の部分の記載,特に,上記@及びAの点を踏まえると,同様に解すべきである。
(イ) 上記(ア)の解釈は,本件明細書の記載からも裏付けられる。
すなわち,本件明細書において, 「第1部材の少なくとも一部は,第2部材と重な る。第3部材の少なくとも一部は,第1部材と第2部材とが重なる領域に重なる。」(段落【0013】, )「被駆動歯車104の少なくとも一部は,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,モータ60に重なる。第1伝達歯車84の少なくとも一部は,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,被駆動歯車104とモータ60とが重なる領域126に重なる。つまり,第1伝達歯車84の少なくとも一部は,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,被駆動歯車104とモータ60とのそれぞれに重なる。(同【0093】, 」 )「クランクシャフト54の軸方向から見た場合,第1部材104の少なくとも一部は,第2部材60と重なる。第3部材84の少なくとも一部は,第1部材104と第2部材60とが重なる領域に重なる。(同【0144】, 」 )「駆動ユニット50においては,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,モータ60の少なくとも一部は,被駆動歯車104と重なる。」(同【0148】, )「駆動ユニット50においては,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,第1伝達歯車84の少なくとも一部は,モータ60と被駆動歯車104とが重なる領域126に重なる。(同【0149】 」 )など,「部材」やそれに対応する「歯車」や「モータ」の一部分についていう場合には,その旨の表現が用いられている。
また,本件明細書において, 「第1部材の回転中心と第2部材の回転中心とを結ぶ第1線分と,第2部材の回転中心と第3部材の回転中心とを結ぶ第2線分と,第3部材の回転中心と第1部材の回転中心とを結ぶ第3線分とにより,三角形が形成される。(段落【0013】, 」 )「第1部材104の回転中心C1と第2部材60の回転中心C2とを結ぶ第1線分S1と,第2部材60の回転中心C2と第3部材84の回転中心C3とを結ぶ第2線分S2と,第3部材84の回転中心C3と第1部材104の回転中心C1とを結ぶ第3線分S3とにより,三角形が形成される。 【0 」 (同144】)など,「部材」の回転中心をいう場合には,その旨が明記されている。このことは, 「図8に示すように,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,基板150は,第1線分S1に対して,回転中心C3とは反対側に配置される。(同 」 【0111】,図8に示すように, )「 クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,基板150は,回転中心C1及び回転中心C2とは重ならない。(同【0112】 」 )など,「基板」の位置関係に関して記載される場合も同様である。
これらに対し,本件明細書において,例えば, 「第3部材を第1部材及び第2部材に近づけて配置できる。そのため,クランクシャフトの軸方向から見た場合に,第3部材が第1部材及び第2部材に重なる割合を大きくできる。 段落 ( 」 【0014】, )「図9に示すように,基板150は,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,モータ60に重なる第1領域154を有する。(同【0113】, 」 )「図11に示すように,基板150は,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,被駆動歯車104に重なる第2領域162を有する。(同【0118】, 」 )「図8に示すように,クランクシャフト54の軸方向から見た場合,第3壁部176の内側には,第1伝達歯車84,第2伝達歯車86及び出力歯車76が配置される。(同【012 」9】, )「駆動ユニット50においては,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,伝達軸82の回転中心C3は,モータ60と重なる。この場合,第1伝達歯車84をモータ60に近づけて配置できる。そのため,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,第1伝達歯車84がモータ60に重なる割合を大きくできる。」(同【0152】)など,特段の限定なく, 「部材」やそれに対応する「歯車」や「モータ」の語が用いられている場合,いずれもそれら「部材」等の全体をいうものと解することができる。また, 「図6に示すように,クランクシャフト54の軸方向から見た場合,第2伝達歯車86は,第1線分S1と重ならない。」との記載(同【0070】)について,【図6】においては,第2伝達歯車の全体が第1線分S1とは重なっておらず, 「図8に示すように,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,基板150は,第1線分S1に対して,回転中心C3とは反対側に配置される。」との記載(同【0111】)について,【図8】においては,基板150の全体が第1線分S1によって区切られる領域の片側のみに存在しており,「駆動ユニット50においては,クランクシャフト54の軸方向から見た場合に,第2伝達歯車86 は,第1部材104の回転中心C1と第2部材60の回転中心C2とを結ぶ線分S1と重ならない。」との記載(同【0151】)について, 【図8】においては,第2伝達歯車86の全体が線分S1と重なっていない。
以上のように,本件明細書においては, 「部材」やそれに対応する「歯車」や「モータ」について,その一部分やその回転中心をいう場合には,それらの旨が明らかにされている。
前記(2)ア〜エの本件発明の概要からすると,本件発明は,駆動ユニットにおいて,クランクシャフトの軸方向から見た場合のサイズを小さくするために,モータ,第1伝達歯車及び被駆動歯車の三者の位置関係に注目したものであり,それゆえ,本件明細書等においても,位置関係を示す際には,基本的に厳密に用語が使用されているということができ(以上で指摘したもののほか,本件明細書の段落【0069】,【0089】【0107】〜【0110】【0122】【0123】【0130】 , , , ,〜【0132】など)「部材」等の一部分やその回転中心をいう場合においてそれ ,らが明らかにされていることも,そのような本件発明の特質を踏まえてされたものと理解することができる。
ウ 原告の主張について (ア) 原告は,本件明細書の段落【0111】の記載及び【図8】を指摘し,本件決定が,訂正1イにおける「第3部材とは反対側」と本件明細書に記載された「回転中心C3とは反対側」とは別意であると判断したことは誤りであり,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」は,第1線分に対して第3部材の回転中心とは反対側をいうものと解釈すべきであると主張する。
しかし,本件明細書の段落【0111】における「回転中心C3」は, 「伝達軸82」の中心として特定されており(本件明細書の段落【0016】【0056】, , )クランクシャフトの軸方向から見たときの径の大きさによって定義される「第3部材」とは異なる概念であるから,回転中心C3とは反対側」 「 との記載を根拠として, 「前記第3部材とは反対側」の語をもって,第3部材の回転中心とは反対側と同義ということができないことは,明らかである。
この点,原告は,訂正1イ及び訂正2イについて,誤記であることが明らかであるとも主張するが,上記の点及び前記イで指摘した諸点に照らし,採用できない。
(イ) 原告は,本件明細書等には,上記「第3部材とは反対側」を「第3部材の全体とは反対側」と解釈することの記載又は示唆はないと主張するが,前記イで判示したところに照らし,原告の上記主張は採用できない。
また,原告は,そのように解釈した場合, 【図8】の図示内容を始めとする本件明細書等に記載された内容と整合しないことになるとも主張するが,そのような事情があるからといって,前記イの判断が左右されるものでもない。
(ウ) 原告は,訂正1イ及び訂正2イの「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」からは,その技術的意義が一義的に明確にできないから,本件明細書等を参酌して,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」は,第1線分に対して第3部材の回転中心とは反対側をいうものと解釈すべきであると主張する。
しかし,前記イのとおり, 「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」の意義(意味内容)自体は,一義的に明確であって,前記イのように解することができるというべきである。
(2) 訂正1イ及び訂正2イが本件明細書等に記載した事項の範囲内のものであるかどうか ア 上記(1)のとおり,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」は,第1線分によって区切られる領域の片側に第3部材の全体が存在することを前提とし,それが存在する側と第1線分を挟んで反対側をいうものと解すべきところ,そのような構成は,本件明細書には, 「基板」を図示している【図8】【図9】及び【図11】を含め,全く記載されていない。
, そして, 「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」を上記のとおり解する と,訂正1イ及び訂正2イは,第3部材について,第1線分に重ならないという構成に限定するものとなるが,そのように限定する技術的意義については,本件明細書等には記載がない。他方で, 「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」を上記のとおり解すると,訂正1イ及び訂正2イは,同時に,本件訂正前の請求項1及び9では,第1部材〜第3部材の各定義に照らし,モータか第1伝達歯車のいずれかという限度にまでしか特定されていなかった「第3部材」について,モータではない(すなわち第1伝達歯車である)という限定を加える結果をもたらすものであるが,それは,応用例に係る本件明細書の段落【0157】及び【図15】で,「第3部材」と解される「クランクシャフト54の軸方向から見たときの径が最も小さい部材」が「モータ60」とされていることと相容れないものである(なお,上記段落及び図では,そもそも請求項1及び9における「第1線分」すなわち第1部材の回転中心と第2部材の回転中心とを結ぶ線分が「線分S1」ではなく「線分S3」 と記載されており,上記「第1線分」の定義との関係自体も必ずしも明らかでない。。
) そして,その他,本件明細書に,第1線分によって区切られる領域の片側に第3部材の全体が存在することを前提とし,それが存在する側と第1線分を挟んで反対側における基板の位置について記載されていないにもかかわらず,訂正1イ及び訂正2イが本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたというべき事情は認められない。
そうすると,訂正1イ及び訂正2イは,いずれも,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものということはできない。
イ(ア) 仮に,原告の主張するとおり,訂正1イ及び訂正2イにおける「前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側」について,第1線分に対して「第3部材の回転中心」とは反対側をいうものであると解したとしても,以下のとおり,訂正1イ及び訂正2イは,本件明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものということはできない。
a 本件明細書の段落【0111】【0113】及び【0118】の記 ,載並びに【図8】【図9】及び【図11】によると,本件明細書には,訂正1イ及 ,び訂正2イに含まれる「前記基板は,前記クランクシャフトの軸方向から見た場合に,前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記被駆動歯車に重なる領域及び前記第1線分に対して前記第3部材とは反対側において前記モータと重なる領域を有する,駆動ユニット」の構成のうち,第1部材が被駆動歯車,第2部材がモータ,第3部材が第1伝達歯車である場合の実施例が記載されていると認められる。
しかし,本件訂正後の請求項1及び9においては,基板の構成について,上記の特定がされているのみであるので,被告が主張する五つの態様のもの(前記第4の1(2)イ(イ),(ウ)。以下,併せて「被告主張の別態様」という。)も含まれることになるが,これらは本件明細書等には記載されていない。
b また,前記1(2)オのとおり,本件明細書には,「基板」の位置を上記のとおり特定したこと,殊に,基板が被駆動歯車及びモータと重なる領域が第1線分に対して「第3部材とは反対側」の領域であることについて,本件発明の課題との関係でいかなる技術的意義を有するかの記載はなく,それを認めるに足りる技術常識があるとも認められない。したがって,訂正1イ及び訂正2イの上記構成がいかなる技術的意義を有するかは不明というほかない。
c そうすると,本件訂正後の請求項1及び9は,その技術的意義が明らかでない,本件明細書等に記載のない被告主張の別態様を含むこととなるところ,被告主張の別態様中には,本件明細書に記載された上記aの実施例と比較して「基板」の技術的意義が共通するものと直ちにみ難いものが含まれているといえるから,このような訂正は,本件明細書等に記載した事項の範囲内でされたものということはできない。
(イ) 原告の主張について a 原告は,訂正1イが本件明細書等に記載した事項の範囲にないとし た場合において,別の特許出願について新規性の判断が不合理なものとなる旨を主張するが,明細書等に記載した事項の範囲にあるとして訂正が認められるか否かと,明細書等の記載された事項により他の特許について新規性が否定されるか否かの判断は,全く異なるものであるから,原告の上記主張は採用できない。
b 原告は,本件訂正の前後で技術的課題は変化せず,訂正1イは,請求項1に係る発明の課題の解決に直接的に寄与しない構成を付加するものであると主張するが,前記(ア)で判示したところからすると,本件訂正の前後で技術的課題が変化しているかどうかは明らかでないというほかなく,また,訂正1イが請求項1に係る発明の課題の解決との関係でいかなる技術的意義を有するかも明らかでない。
したがって,原告の上記主張も,訂正1イ及び訂正2イが認められるべきとの理由にはならない。
c 原告は,訂正後の請求項の技術的範囲に含まれるが明細書等に明示的に記載されていない構造があるからといって,直ちに,本件訂正により新たな技術的事項を追加したということはできないと主張するが,前記(ア)の判断は,訂正後の請求項の技術的範囲に含まれるが明細書等に明示的に記載されていない構造があることのみをもって新たな技術的事項を追加したとの判断をしたものではない。
d その他,原告が主張する点は,いずれも前記(ア)の判断を左右するものではない。
3 取消事由2(本件発明1〜9の認定誤りに基づく特許法29条の2該当性の判断の誤り)及び取消事由3(本件発明1〜9の認定誤りに基づく新規性及び進歩性の判断の誤り)について 前記2のとおり,訂正事項1及び2の訂正は,いずれも認められず,原告主張の取消事由1は認められないから,それら訂正が認められることを前提とする原告主張の取消事由2及び3は,いずれも認められない。
結論
以上の次第で,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文 のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 佐野信
裁判官 中島朋宏
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