関連審決 |
無効2018-800039 |
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事件 |
令和
2年
(行ケ)
10049号
審決取消請求事件
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原告小橋工業株式会社 訴訟代理人弁護士 高橋雄一郎 同 阿部実佑季 同 北島志保 被告松山株式会社 訴訟代理人弁理士 樺澤聡 同 山田哲也 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2021/02/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2018−800039号事件について令和2年3月23日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,名称を「作業機」とする発明に係る特許(特許第5976246 号。平成27年9月4日を出願日とする特願2015-174637号(原 1 出願)の一部を平成28年3月10日に新たな特許出願とした特願2016 -46843号に係る特許。設定登録日平成28年7月29日。請求項の数 1。以下「本件特許」という。)の特許権者である。 ? 被告は,平成30年4月13日,特許庁に本件特許(請求項1に係る発明 についての特許)につき無効審判請求をし,特許庁は上記請求を無効201 8-800039号事件(以下「本件無効審判」という。)として審理した。 原告は,令和元年8月30日付けで訂正請求(以下「本件訂正」という。)を した(甲87の1,2)。 特許庁は,令和2年3月23日,結論を「特許第5976246号の特許 請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正す ることを認める。特許第5976246号の請求項1に係る発明についての 特許を無効とする。審判費用は,被請求人の負担とする。」とする審決(以下 「本件審決」という。)をし,その謄本は同年4月1日に原告へ送達された。 ? 原告は,令和2年4月21日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起 した。 2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(A 〜Jの分説は本件審決において付与された(本件審決8頁)。以下,本件訂正 後の請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。 A 走行機体の後部に装着され,耕うんロータを回転させながら前記走行機体 の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする作業機において, B 前記作業機は前記走行機体と接続されるフレームと, C 前記フレームの後方に設けられ,前記フレームに固定された第1の支点を 中心にして下降及び跳ね上げ回動可能であり,その重心が前記第1の支点よ りも後方にあるエプロンと, D 前記フレームに固定された第2の支点と前記エプロンに固定された第3 2 の支点との間に設けられ,前記第2の支点と前記第3の支点との距離を変化 させる力を作用させることによって前記エプロンを跳ね上げる方向に力を作 用させる,ガススプリングを含むアシスト機構とを具備し, J 前記ガススプリングは,シリンダーと,前記シリンダーの内部に挿入され たピストンと,前記ピストンから延長されるピストンロッドとを有し, E 前記アシスト機構は,さらに,前記ガススプリングがその中に位置し,前 記第2の支点及び第3の支点を通る同一軸上で移動可能な第1の筒状部材と 第2の筒状部材とを有し, F 前記第1の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記第2の支点が,前記 第1の筒状部材の前記エプロン側の他端には前記ピストンロッドの先端が接 続され,前記第2の筒状部材の前記フレーム側の一端には前記シリンダーの 先端が接続され, G 前記第2の筒状部材の外周に突設された第1の突部が前記第3の支点を 回動中心とし,前記エプロンに台座を介して設けられた第2の突部に接触し て前記第3の支点と前記第2の支点との距離を縮める方向に変化することに より,前記エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する 所定角度範囲内において徐々に減少し, H 前記ガススプリングは,前記エプロンが下降した地点において収縮するよ うに構成される I ことを特徴とする作業機。 3 本件審決の理由の要旨? 本件無効審判において,原告は,次のような無効理由を主張した(本件審 決9頁)。 ア 無効理由1 本件発明は,本件特許の出願前に公然知られた又は公然実施された検甲 1(被告製「ニプログランドロータリーSKS2000(製造番号100 3 7))に係る発明であるから,特許法29条1項1,2号に該当し,特許 」 を受けることができないものである。 仮に,同一でないとしても,本件発明は,検甲1に係る発明に基づいて 当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2 項の規定により,特許を受けることができないものである。 イ 無効理由2 本件発明は,甲14に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明を することができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許 を受けることができないものである。 ウ 無効理由3 本件発明は,本件特許の出願の日前の他の特許出願であって本件特許の 出願後に出願公開された甲18の願書に最初に添付された明細書,特許請 求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり,しかも,本件特許の出 願に係る発明の発明者が当該他の特許出願の発明の発明者と同一ではな く,また本件特許の出願時の出願人が当該他の特許出願の出願人と同一で もないので,特許法29条の2の規定により,特許を受けることができな いものである。 エ 無効理由4 本件特許の特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」とい う。その内容は別紙特許公報のとおりである。)の発明の詳細な説明の記載 は,当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載 されたものではないので,特許法36条4項1号に規定する要件を満たし ていないものである。 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりであり,各無効理由に対 する判断の要旨は次のとおりである。 ア 無効理由1について 4 本件発明は,本件特許の原出願前に公然知られた発明でも公然実施され た発明でもなく,かつ,そのような発明に基づいて当業者が容易に発明を することができたものでもない(本件審決93頁)。 イ 無効理由2について 本件発明は,甲14に記載された発明及び甲23ないし30に記載され た事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない (本件審決95頁)。 ウ 無効理由3について 本件発明は,本件特許の出願の日前の他の特許出願であって本件特許の 出願後に出願公開された甲18の願書に最初に添付された明細書,特許請 求の範囲又は図面に記載された発明と同一ではないから,先願明細書であ る甲18に記載された発明ではない(本件審決100頁)。 エ 無効理由4について 本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,エプロンを跳ね上げるのに要 「 する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」 するとの構成(構成要件G)を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に 記載されていないから,特許法36条4項1号の規定に違反している(本 件審決88頁)。 4 原告主張の取消事由 特許法36条4項1号に関する判断(無効理由4について)の誤り |
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原告の主張
1 審決の誤りの有無 本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明の構成要件Gの「エプロ ンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内にお いて徐々に減少」するという構成を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に 記載されていないから,特許法36条4項1号の規定(以下,特許法36条4 5 項1号所定の要件を「実施可能要件」という。)に違反しているとの本件審決の 判断は誤りである。以下,本件審決が,本件明細書が実施可能要件を欠く理由 として述べた各判断について詳述する。 2 構成要件Gを裏付ける理論的説明について ? 本件審決の判断 本件審決は,アシスト操作力とエプロン角度との関係について記載された 本件明細書の【0028】と本件特許の特許出願の願書に添付された図面で ある【図7】(以下,本件特許の特許出願の願書に添付された図面は,【】を 付し,例えば「【図7】」のように示す。図面の内容は,別紙特許公報に掲載 されたとおりである。 の記載によっても, ) 実施例のどのような支点の位置関 係であれば「逆の特性」 (エプロン角度が大きくなるほどアシスト機構が作用 する力が大きくなる。)を奏するのか当業者に理解できず,「所定の回転角度 に対する支点152の移動距離が大きくなる」ことと, 「てこの原理」 「逆 及び の特性を奏する」こととの関係も不明であると判断した(本件審決84頁図 の下2〜14行目)。 また,本件審決は,原告が,本件無効審判において, 「本件発明においてエ プロン角度が増加するにつれてアシスト力が徐々に増加する論理は,エプロ ン角度が増加するにつれて,ガススプリング自体の力(F)は小さくなる(F 1 >F2) その差は小さいのに対して, が, エプロン角度が増加するにつれて, sinθの値が増加(sinθ1 上記の本件審決の判断は,本件訂正後の請求項1,本件明細書及び本件特 6 許の特許出願の願書に添付された図面によっても,構成要件Gの「エプロン を跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内にお いて徐々に減少」するとの構成を裏付ける理論的説明は明らかでないとの趣 旨と解される。 ? 判断の誤りの有無とその理由 ア しかし,当業者は,本件訂正後の請求項1,本件明細書及び本件特許の 特許出願の願書に添付された図面と力学的な技術常識により,構成要件G の「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定 角度範囲内において徐々に減少」するとの構成を裏付ける理論的説明を理 解することができるものであり,本件審決の前記?の判断は誤りである。 その理由は,次のイのとおりである。 イ(ア) 本件発明に係る作業機の構造 本件訂正後の請求項1に記載された「第1の支点」, 「第2の支点」, 「第 3の支点」は,本件明細書において,それぞれ実施例に記載された具体 的な部材の構造とともに説明されている。すなわち,「第1の支点」は, 「フレーム」を構成するシールドカバー120に固定された「支点14 0」であり,エプロン130がフレームに対して下降及び跳ね上げ回動 する際の回動中心である(本件明細書【0017】, 【0020】。 ) また, 「第2の支点」は, 「フレーム」を構成する主フレーム110に設けられ た台座111による「支点151」であり,支点151は,ガススプリ ングを内包する「第1の筒状部材」である内側筒状部材210の一端に 設けられる(本件明細書【0021】【0024】。さらに, , ) 「第3の支 点」 エプロン130に台座134を介して設けられた は, 「第2の突部」 の回動中心である「支点152」であって,支点152は,内側筒状部 材210の外側に位置する「第2の筒状部材」である外側筒状部材22 0に設けられる。(本件明細書【0021】【0024】 , ,甲47(審判 7 乙1)7頁[参考図1][参考図2]。 , ) 上記の各支点の作業機全体に対する位置関係は,【図2】及び【図3】 に,本件発明の実施例に係る作業機の全体構造として図示されている。 (イ) 構成要件Gを裏付ける理論的説明 構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力」をFs, 第3の支点に働くアシスト力をFg,エプロンに働く重力による,第1 の支点を中心とするモーメント(第1の支点からの距離と力の積)をT w,第3の支点(152)に働くアシスト力Fgによる,第1の支点を 中心とするモーメントをTa,第1の支点からエプロンを持ち上げる位 置(エプロン操作者がエプロンを持ち上げるために手をかける位置)ま での距離をR,第1の支点から第3の支点までの距離をRa,第1の支 点からエプロンの重心までの距離をRw,第1の支点とエプロンを持ち 上げる位置とを結ぶ直線の鉛直方向に対する角度をβ,第1の支点とエ プロンの重心とを結ぶ直線の鉛直方向に対する角度をα,第1の支点と 第3の支点とを結ぶ直線と,第2の支点と第3の支点とを結ぶ直線がな す角度をθaとすると(別紙図1(原告従業員作成の平成31年3月2 2日付け陳述書である甲60(審判乙14)5頁の図面),これらの関 ) 係は,被告が提示した次の式で表される(ただし, 「Fg」は「FG」と 表されている。。 ) エプロンが,第1の支点を通る直線に対してなす角度をθとし,エプ ロンが最も下降したときにθ=0°とすると,α,βは,θに,θ=0° のときのそれぞれの一定の角度(α0, 0) β を加えた角度(α=α 0+θ, β=β0+θ)として表される。これを上記の式に当てはめると次のとお りとなる。 8 Fs=((Rw・W・sin(α0+θ)-(Ra・Fg・sinθa)/(R・sin(β0+θ)) 「エプロンを跳ね上げるのに要する力」 (Fs)は,上記の式で表すこ とができるから,構成Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エ プロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという 構成は,上記の式において,Fsが,θが増加する所定角度範囲内にお いて徐々に減少するような構成である。 (ウ) 理論的説明に対する認識 そして,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプ ロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成 の理論的説明として前記(イ)の式が妥当することは,原告と被告の間で 争いがないものであり,本件発明の作業機の構造と力学的な技術常識に より,当業者であれば認識することができる。 (エ) 本件明細書の【0028】の記載 本件明細書【0028】には「てこの原理」により逆の特性を奏する ことが記載されている。エプロンを跳ね上げるのに要する力」操作力) 「 ( は,「エプロン荷重」から「アシスト力」(アシスト機構が作用してガス スプリングの力によってエプロンの持ち上げをアシストする力)を引い た差分であることは技術常識であり,この技術常識から,本件発明にお いて,エプロン角度が増加するにつれて「エプロンを跳ね上げるのに要 する力」 (操作力)が「徐々に減少」するという構成要件Gは,エプロン 角度が増加するにつれて,アシスト力が徐々に増加することを意味する と容易に理解することができる。また,本件明細書の【0028】に記 載された「てこの原理」とは,本件発明にかかる作業機の第1の支点(支 点140)を「支点」とし,ガススプリングの力が及ぼされる第3の支 点を「力点」とし,エプロンの重心位置を「作用点」としてアシスト力 を得る仕組みそのものを説明するための用語であると理解される。 9 これを図示すると,別紙図3(被告提出の平成30年9月25日付け 口頭審理陳述要領書である甲71の26頁の図面)のとおりであり,第 1の支点(140)と第3の支点(152)との距離をL,エプロンが 下に降りている状態で(別紙図3の上図),第3の支点(152)に,第 2の支点(151)に向かう方向にガススプリングにより加えられる力 をF1,そのときの,第1の支点と第3の支点を結ぶ直線と第3の支点と 第2の支点を結ぶ直線がなす角度をθ1とし,他方,エプロンが上に上が っている状態で(別紙3の下図),第3の支点に,第2の支点に向かう方 向にガススプリングにより加えられる力をF2,そのときの,第1の支点 と第3の支点を結ぶ直線と第3の支点と第2の支点を結ぶ直線のなす角 度をθ2とする。そうすると,エプロンが持ち上げられるにつれて,ガス スプリングにより加えられる力が小さくなり,F 2 3 構成要件Gを実施する際の作業機の姿勢について ? 本件審決の判断 本件審決は,構成要件Gを実施する際の作業機の姿勢について, 「エプロン の前面部分(耕うんロータに面した側)や耕うんロータに付着した土を掻き 落としたり,耕うんロータに設けられた耕うん爪を取り替えたりする場合に 10 は,エプロンを跳ね上げた状態に保持する。( 」【0002】)際に,作業機の 姿勢を「トラクタ油圧機構で作業機を持ち上げ調整した姿勢」や「スタンド 姿勢」等のように作業機を前傾させることは,本件訂正後の請求項1,本件 明細書又は本件特許の特許出願の願書に添付された図面には記載されていな いとした。そして,本件明細書には「耕うん状態においてエプロンが下降し た状態から,作業者が誤ってエプロンを跳ね上げることがなくなり,相当程 度の力をもって(ただし,アシスト機構が存在しないときに要する力よりは 小さい)一旦エプロンをある程度の角度まで跳ね上げれば,その後はますま す軽い力で跳ね上げることが可能となる。( 」【0037】, )「ガススプリング は,前記エプロンが下降した地点において,収縮するよう構成しているため, 最も長い時間である耕うん時においてガススプリングのピストンロッド表面 が汚れることがなくなり,ガススプリングの寿命が大幅に向上する。(段落 」 【0041】)と記載されており,「耕うん状態」や「耕うん時」が耕うん作 業時を指すことは明らかであるから,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げる 力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するこ とは,少なくとも,上記耕うん作業時の作業機の傾きのときに実現できるこ とを説明する必要があるとした上で,それが,原告が主張する「トラクタ油 圧機構で作業機を持ち上げ調整した姿勢」や「スタンド姿勢」等の本件明細 書等に記載のない条件下でしか実現できないのであれば,本件発明が実施可 能であるとはいえない旨判断した(本件審決86頁18行目〜87頁2行目)。 ? 判断の誤りの有無とその理由 しかし,本件明細書の【0036】【0026】【0021】の記載に照 , , らすと, 【0037】に記載された「耕うん状態」【0041】に記載された , 「耕うん時」とは,「エプロンが下降した状態」(ロック機構によりアシスト 機構が作用しないようにロックされた状態)をいうものであり,実際に圃場 で耕うん作業を行っている耕うん作業時の状態に限定されるものではないか 11ら,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げる力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」することは,少なくとも上記耕うん作業時の作業機の傾きのときに実現できることを説明する必要があるとした本件審決の前記?の判断は誤っている。 本件明細書の【0002】に記載された「耕うんロータに付着した土を掻き落としたり,耕うんロータに設けられた耕うん爪を取り替えたりする」という作業は,実際に圃場で耕うん作業を行っている耕うん作業時の状態ではなく,「作業機全体が地上に引き上げられた状態」(スタンドに載置した場合を含む。以下,同じ。)で行われるから,そのときに実施可能であることが示されれば,構成要件Gが実施可能であったことが立証されたことになる。そして, 「作業機全体が地上に引き上げられた状態」のときは,作業機の水平に対する傾きは前傾18.0°〜34.8°(甲59(審判乙13))又は前傾17.41°〜33.97°(甲90〜92)である。甲60(審判乙14)で, 【図2】に記載された作業機の位置関係を基礎にして,第3の支点152の位置を,第1の支点140を中心として25°下方に移動させた「第1の作業機」 (別紙図2の青色で記載された構造)について採用された「第1の姿勢」(スタンド姿勢)(作業機が水平に対して33°前傾した姿勢)及び「第2の姿勢」(作業機が水平に対して18°前傾した姿勢),甲64(審判乙18)で「第1の作業機」に採用された「最上げ姿勢」 (トラクタ油圧機構で作業機を最も持ち上げた状態での姿勢) (入力軸が水平に対して30.5°前傾した姿勢)は,いずれも上記の「作業機全体が地上に引き上げられた状態」のときに当たる。そして,上記の甲60(審判乙14)の「第1の姿勢」及び「第2の姿勢」のとき,及び甲64(審判乙18)の「最上げ姿勢」のときの「エプロンを跳ね上げるのに要する力」と「エプロン角度」の関係は,それぞれ甲60(審判乙14)の7頁のグラフ(別紙図4)の青色線,黄色線,甲64(審判乙18)の6頁のグラフ(別紙図5)の青色線のとおりで 12 あり,少なくともこれらの姿勢のときに, 「エプロンを跳ね上げる力は,エプ ロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」することは立証さ れているから,構成要件Gが実施可能であったことは立証されている。 4 エプロンの操作者がエプロンを跳ね上げる力の減少の程度について ? 本件審決の判断 本件審決は,構成要件Gが実施可能であるというためには, 「耕うん作業時 の作業機の傾き」のときに実現できることを説明する必要があるとの立場を 前提とした上で,本件明細書の【0037】に「相当程度の力をもって(た だし,アシスト機構が存在しないときに要する力よりは小さい)一旦エプロ ンをある程度の角度まで跳ね上げれば,その後はますます軽い力で跳ね上げ ることが可能となる。と記載されていることからみて, 」 構成要件Gにおいて, 「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「徐々に減少」するとは,エプロ ンの操作者が,そのような力が徐々に減少することを明確に知覚することが できる程度に減少すること(例えば【図7】のグラフ)と解することができ るとし,甲64(審判乙18)の6頁のグラフ(別紙図5)に記載された「作 業姿勢」(入力軸が水平に対して3.0°前傾した姿勢)のグラフ(緑色線) の傾きからみて,エプロンの操作者が,エプロンを跳ね上げるのに要する力 が徐々に減少することを明確に知覚することができる程度の減少が生じてい るとは認められないとし,構成要件Gを実現できたことにはならず,本件発 明は実施可能であるとはいえないと判断した(本件審決87頁8〜21行目)。 ? 判断の誤りの有無とその理由 しかし,前記3?〔本判決11頁〕のとおり,構成要件Gを「耕うん作業 時の作業機の傾き」のときに実現できることを説明する必要があるとする本 件審決の見解は誤っており,そのような見解を前提とする前記?の本件審決 の判断は誤りである。前記3?〔本判決11頁〕のとおり, 「作業機全体が地 上に引き上げられた状態」のときに実施可能であることが示されれば,構成 13 要件Gが実施可能であったことが立証されたことになる。また,構成要件G において, 「エプロンを跳ね上げるのに要する力」 「徐々に減少」 が するとは, エプロンの操作者が,そのような力が徐々に減少することを明確に知覚する ことができる程度にまで減少することが必要であるとはいえない。そして, 甲60(審判乙14)の「第1の姿勢」及び「第2の姿勢」のとき,及び甲 64(審判乙18)の「最上げ姿勢」のときの「エプロンを跳ね上げるのに 要する力」と「エプロン角度」の関係は,それぞれ甲60(審判乙14)の 7頁のグラフ(別紙図4)の青色線,黄色線,甲64(審判乙18)の6頁 のグラフ(別紙図5)の青色線のとおりであり,これらのグラフの傾きによ れば,少なくともこれらの姿勢のときには, 「エプロンを跳ね上げるのに要す る力」が「徐々に減少」するということができ,構成要件Gが実施可能であ ったことが立証されているといえる。 5 発明の構成の実施に過度な試行錯誤を要するかについて ? 本件審決の判断 本件審決は,原告が,本件無効審判において, 「本件発明においてエプロン 角度が増加するにつれてアシスト力が徐々に増加する論理は,エプロン角度 が増加するにつれて,ガススプリング自体の力(F)は小さくなる(F1>F 2 )が,その差は小さいのに対して,エプロン角度が増加するにつれて,sin θの値が増加(sinθ1 14 ? 判断の誤りの有無とその理由 ア しかし,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロ ン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成を実 施するために,当業者は過度の試行錯誤を要しないものであり,本件審決 の前記?の判断は誤りである。その理由は,次のとおりである。 イ 原告は, 【図2】に記載された各支点の基本的な位置関係に基づき,構成 要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力」と「エプロン角度」の変 化曲線をシミュレーションし,甲60(審判乙14)の7頁のグラフ(別 紙図4) 甲64 , (審判乙18)の6頁のグラフ(別紙図5)の結果を得た。 これらによれば, 【図2】に記載された作業機の位置関係を基礎にして,第 3の支点152の位置を,第1の支点140を中心として25°下方に移 動させた「第1の作業機」において,「第1の姿勢」(作業機が水平より3 3°前傾した状態)である場合には甲60(審判乙14)の7頁のグラフ (別紙図4)の青色線のとおりとなり,「第2の姿勢」(作業機が水平より 18°前傾した状態)である場合には同グラフの黄色線のとおりとなり, 【図7】に相当する程度に, 「エプロンを跳ね上げるのに要する力」 「徐々 が に減少」する構成を実現できることが確認できた。また,「第1の作業機」 において,「最上げ姿勢」(作業機が水平より30.5°前傾した状態)で ある場合には,甲64(審判乙18)の6頁のグラフ(別紙図5)の青色 線のとおりとなり,【図7】に相当する程度に,「エプロンを跳ね上げるの に要する力」が「徐々に減少」する構成を実現できることが確認できた。 したがって,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エ プロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成 を実施するために,当業者は過度の試行錯誤を要しない。 6 原告の主張の変遷の有無について ? 本件審決の判断 15 本件審決は,原告が,平成31年2月7日付け口頭審理陳述要領書(2) (甲78)で, 「例えば,エプロンが下降した状態でガススプリングが伸長状 態になり,エプロンが跳ね上げられた状態でガススプリングが圧縮状態にな るように,ガススプリングの作業機に対する取り付け方向を逆にすれば,エ プロン角度が増加するにつれて,ガススプリング自体の力が大きくなる」こ と(甲78,8頁)「ガススプリングの変化率を高く設定し,伸長時と圧縮 , 時の反力の差が大きいガススプリングを用いることは容易である」こと(甲 78,9頁)「ガススプリングの取り付け方向を逆にしたり,伸縮方向が異 , なるガススプリングを用いたりすることによって,F1 ? 判断の誤りの有無とその理由 しかし,本件審決が指摘する原告の平成31年2月7日付け口頭審理陳述 要領書(2) (甲78)における上記説明は,本件発明の構成について説明し たものではなく,特許庁審判官が発出した平成30年12月25日付け審理 事項通知書(甲75,4〜5頁)により,本件発明と同様の支点の位置関係 を有する検甲1・甲14・甲18の作業機との違いを問われたことに応え, 16 本件発明と同様の支点の位置関係を有する作業機であっても,支点の位置関 係以外の構成を変えることにより,構成要件Gを備えない場合があることを 説明したものである。そのため,原告の上記説明が,構成要件Gを裏付ける 理論的説明と異なったとしても,構成要件Gを裏付ける理論的説明について 原告の説明が矛盾したり二転三転したものではなく,当業者が,本件明細書 から,どのような構成にすれば構成要件Gを実施できるかを理解することが できなかったとはいえないし,本件発明が実施可能でなかったということは できない。したがって,本件審決の前記?の判断は誤りである。 7 実施可能要件の具備 以上に検討したところによれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は, 構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加す る所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成を当業者が実施できる 程度に明確かつ十分に記載されており,実施可能要件を備えている。 |
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被告の主張
1 審決の誤りの有無 原告の主張は争う。 本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明の構成要件Gの「エプロ ンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内にお いて徐々に減少」するという構成を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に 記載されていないから特許法36条4項1号の規定に違反しているとの本件 審決の判断に誤りはない。 2 構成要件Gを裏付ける理論的説明について ? 本件審決の判断 原告主張のとおり本件審決が判断したことは争わない。 ? 判断の誤りの有無とその理由 原告の主張は争う。 17 本件審決の判断に誤りはない。 当業者は,本件明細書及び本件特許の特許出願の願書に添付された図面に よって,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角 度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成の理論的説 明を認識することはできないし,本件明細書の【0028】 「 の 「てこの原理」 により,逆の特性(エプロン角度が大きくなるほどアシスト機構が作用する 力1が大きくなる。)を奏する。」という記載の意味を理解することはできな い。原告が主張する式や説明は,本件明細書に記載がないから,当業者はそ れらを認識することはできない。また,本件明細書の【0028】の記載及 び【図7】は,本件発明と構成を異にする原告の「FTE240」という製 品に関するものであり,「FTE240」において構成要件Gが実施可能で あるとしても,本件発明において構成要件Gは実施できない。 3 構成要件Gを実施する際の作業機の姿勢について ? 本件審決の判断 原告主張のとおり本件審決が判断したことは争わない。 ? 判断の誤りの有無とその理由 原告の主張は争う。 本件審決の判断に誤りはない。 本件明細書の【0037】の「耕うん状態においてエプロンが下降した状 態から,作業者が誤ってエプロンを跳ね上げることがなくなり,相当程度の 力をもって・・・一旦エプロンをある程度の角度まで跳ね上げれば,その後 はますます軽い力で跳ね上げることが可能となる。 との記載における 」 「耕う ん状態」は,「耕うん作業時」【図2】の「耕うん姿勢」 ( )の意味にしか理解 できないし,本件明細書に記載されている作業機の姿勢は, 【図2】の「耕う ん姿勢」が唯一であり,しかも,この「耕うん姿勢」に原告も同意して検証 が行われたのであるから,構成要件Gが, 「トラクタ油圧機構で作業機を持ち 18 上げ調整した姿勢」や「スタンド姿勢」など本件明細書に記載のない条件下 でしか実現できないのであれば,構成要件Gは実施可能であるとはいえない。 4 エプロンの操作者がエプロンを跳ね上げる力の減少の程度について ? 本件審決の判断 原告主張のとおり本件審決が判断したことは争わない。 ? 判断の誤りの有無とその理由 原告の主張は争う。 本件審決の判断に誤りはない。 構成要件Gの「前記エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角 度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する程度について,本件 明細書の【0037】には「・・・相当程度の力をもって・・・一旦エプロ ンをある程度の角度まで跳ね上げれば,その後はますます軽い力で跳ね上げ ることが可能となる。」と記載されており,【図7】のグラフに,アシスト操 作力が約250Nから約0Nになることが示されているから, 【0037】の 「相当程度の力」は約250Nを意味し, 「ますます軽い力」は約ゼロに向か う力を意味する。原告は,作業機が耕うん姿勢のときにエプロンを跳ね上げ るのに要する力が約250Nから約0Nになることを立証していないから, 構成要件Gが実施可能であることを立証していない。 5 発明の構成の実施に過度な試行錯誤を要するかについて ? 本件審決の判断 原告主張のとおり本件審決が判断したことは争わない。 ? 判断の誤りの有無とその理由 ア 原告の主張は争う。 本件審決の判断に誤りはない。 イ(ア) 本件明細書の【0028】には「上記実施例の各支点の位置関係から このような荷重の傾向が観察される。」と記載されており,【図2】の作 19 業機の支点の位置により【図7】のグラフが得られたことが明らかにさ れている。原告は, 図2】 【 に記載された作業機の位置関係を基礎にして, 第3の支点152の位置を,第1の支点140を中心として25°下方 に移動させた「第1の作業機」 (別紙図2の青色で記載された構造)につ いて,力学的なシミュレーションにより「エプロンを跳ね上げるのに要 する力」が「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減 少」する変化曲線を得た(甲60(審判乙14)の7頁のグラフ(別紙図 4)の青色線,黄色線,甲64(審判乙18)の6頁のグラフ(別紙図 5)の青色線)と主張する。しかし, 「第1の作業機」は, 【図2】の作業 機とは第3の支点(152)の位置が異なり,本件明細書,本件特許の特 許出願の願書に添付された図面に記載されていないものであるから, 「第 1の作業機」を用いて得た甲60(審判乙14)の7頁のグラフ(別紙図 4)及び甲64(審判乙18)の6頁のグラフ(別紙図5)に基づいて, 本件発明の構成要件Gが実施可能であるとする原告の主張は誤りである。 (イ) また, 「第1の作業機」の計算に用いたガススプリング(甲65)は, 直径をφ16mmにした「オールガスタイプ」のものであり, 【図5】及 び【図6】に記載された「フリーピストンタイプ」のものでなく, 【図5】 及び【図6】に記載された「フリーピストンタイプ」のピストンでは【図 7】のグラフが得られないことは明らかである。 (ウ) 本件発明に係る作業機を自ら開発した原告ですら, 【図7】のグラフ のデータを得た日に存在していた「当時の作業機」を再現できないので あるから,構成要件Gが実施不可能であることは明らかである6 原告の主張の変遷の有無について ? 本件審決の判断 原告主張のとおり本件審決が判断したことは争わない。 ? 判断の誤りの有無とその理由 20 原告の主張は争う。 本件審決の判断に誤りはない。 原告は,本件発明の技術的意味を十分理解した者であれば間違うはずのな い説明事項を間違って説明しており,説明が二転三転しているから,当業者 が本件発明を実施することはできなかった。 7 実施可能要件の具備 原告の主張は争う。 本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,構成要件Gの「エプロンを跳ね上 げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に 減少」するという構成を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されて おらず,実施可能要件を欠いている。 |
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当裁判所の判断
1 審決の誤りの有無 本件審決は,本件無効審判において主張された無効理由4に関し,本件明細 書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明の構成要件Gの「エプロンを跳ね上 げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に 減少」するという構成を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されて いないから,特許法36条4項1号の規定に違反している判断した(本件審決 83頁1行目〜88頁28行目)。しかし,当裁判所は,本件審決の上記判断は 誤りであると判断する。以下,本件審決が,本件明細書が実施可能要件を欠く 理由として述べた各判断について詳述する。 2 構成要件Gを裏付ける理論的説明について ? 本件審決の判断 ア 本件審決は,実施可能要件に関し,本件明細書の【0028】と【図7】 について,次のとおり判断した。 「しかしながら,上記記載によれば, 「上記実施例の各支点の位置関係」に 21 おいて,エプロンを上げていくと,被請求人が説明するところによる「所 定の回転角度に対する支点152の移動距離が大きくな」ることが必然的 に成され,該移動距離が大きくなることにより,結果的に,「てこの原理」 により「逆の特性(エプロン角度が大きくなるほどアシスト機構が作用す る力1が大きくなる。)を奏する」ものであるが,上記逆の特性が奏すると される「上記実施例の各支点の位置関係」について,本件特許明細書には 記載されておらず,どのような支点の位置関係であれば,上記逆の特性が 奏するのか,当業者には理解できない。 しかも,説明において, 「所定の回転角度に対する支点152の移動距離 が大きくなる」ことと, 「てこの原理」及び「逆の特性(エプロン角度が大 きくなるほどアシスト機構が作用する力1が大きくなる。 を奏する」 ) こと との関係も不明である。(本件審決84頁図の下2〜14行目) 」イ また,本件審決は,実施可能要件に関し,てこの原理の説明について, 次のとおり判断した。 「これに対し,被請求人は,上記「てこの原理」に関して, 「本件発明においてエプロン角度が増加するにつれて『アシスト力』が 徐々に増加する論理は, 『エプロン角度が増加するにつれて,ガススプリン グ自体の力(F)は小さくなる(F1>F2)が,その差は小さいのに対し て,エプロン角度が増加するにつれて,sinθの値が増加(sinθ1 22 特に,上記式は,アシスト力がエプロン角度が増加するにつれて大きく なるための条件を提示しているに過ぎず,その条件の中で,上記Fやθを どのようにすればよいのか,当業者が容易に理解することはできない。 通常のガススプリングの出力特性や,普段の作業で用いられるエプロン 角度では,必ずしも, 「エプロン角度が増加するにつれて,ガススプリング 自体の力(F)は小さくなる(F1>F2)」割合と比較して, 「エプロン角 度が増加するにつれて,sinθの値が増加(sinθ1 したがって,上記式及びその説明を勘案しても,本件明細書等は,本件 発明を実施可能な程度に記載されているとはいえない。(本件審決84頁 」 図の下15行目〜85頁32行目)。 ? 判断の誤りの有無 ア 前記?の本件審決の判断は,当業者は,本件訂正後の請求項1,本件明 細書及び本件特許の特許出願の願書に添付された図面によっても構成要 件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する 所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成を裏付ける理論的説明 23 を理解することができず,本件明細書は実施可能要件を充足していないと の趣旨であると認められる。 イ しかし,当業者は,本件訂正後の請求項1,本件明細書及び本件特許の 特許出願の願書に添付された図面と力学的な技術常識により,構成要件G の「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定 角度範囲内において徐々に減少」するとの構成を裏付ける理論的説明を理 解することができたものと認められ,本件審決の上記判断は誤りである。 その理由は,次の?のとおりである。 ? 理由 ア 本件発明に係る作業機の構造 本件訂正後の請求項1,本件明細書及び本件特許の特許出願の願書に添 付された図面によれば,本件発明に係る作業機の構造は,次のとおり認め られる。 (ア) 作業機の全体構造 本件発明は, 「走行機体の後部に装着され,耕うんロータを回転させな がら前記走行機体の前進走行に伴って進行して圃場を耕うんする」作業 「 機」(構成要件A)に関するものであり,「前記走行機体と接続されるフ レーム」 (構成要件B)と「前記フレームの後方に設けられ」る「エプロ ン」(構成要件C)「前記フレームに固定された」 , 「ガススプリングを含 むアシスト機構」 (構成要件D)を具備するものであるところ,本件明細 書の「実施例」【0016】〜【0021】 ( )には,作業機の全体構造を 示す【図1】〜【図3】とともに,フレーム(主フレーム110とシー ルドカバー120),耕うんロータ102,エプロン103,エプロン跳 ね上げアシスト機構141を具備する「作業機100」の具体的構造が 記載されている。 (イ) 「ガススプリングを含むアシスト機構」の構造 24 本件発明の作業機が具備する「アシスト機構」は, 「前記フレームに固 定された」 「第2の支点」 「前記エプロンに固定された」 と 「第3の支点」 との間に設けられ,前記第2の支点と前記第3の支点との距離を変化さ 「 せる力を作用させることによって前記エプロンを跳ね上げる方向に力を 作用させる」ものであるところ(構成要件D) 本件明細書の , 【0021】 には,作業機の側面図である【図2】【図3】とともに,アシスト機構 , 141を「支点151」(第2の支点)と「支点152」(第3の支点) との間に設ける具体的構造が記載されている。 (ウ) 「エプロン」の構造 本件発明の作業機が具備する「エプロン」は, 「前記フレームに固定さ れた第1の支点を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能」であり, 「その (エプロンの)重心が前記第1の支点よりも後方にある」ところ(構成 要件C) 本件明細書の , 【0020】には,作業機の側面図である【図2】, 【図3】とともに,エプロン130を「支点140」 (第1の支点)を中 心に回動可能とする具体的構造が記載されている。 イ 構成要件Gを裏付ける理論的説明 力学に関する技術常識を勘案し,前記アの本件発明に係る作業機の構造 に照らすと,構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力は, エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構 成を導く理論的説明に関しては,次のとおり認めることができる。(下記 (ア)〜(ウ)につき,別紙図1(甲60(審判乙14)の5頁の図)参照。) (ア) エプロンを跳ね上げるのに要する力 エプロンを持ち上げるときには,エプロン操作者(作業者)がエプロ ンの下端に手をかけて力を入れて持ち上げるところ,構成要件Gにおけ る「エプロンを跳ね上げるのに要する力」は,その文言からすると,エ プロンの手をかける位置に垂直に上向きにかかる力(Fs)を意味する 25 ものと認められる。 そして,エプロンを持ち上げるときにエプロンに加えられる力を検討 すると,「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(Fs)の他,エプロン の重心に鉛直方向に働く重力(W),第3の支点に,第2の支点の方向に 働くアシスト力(Fg)が加えられている。 (イ) 第1の支点を中心とするモーメント a しかしながら,エプロンは,第1の支点を中心として回動する構造 となっているから,エプロンに加えられる力は,第1の支点を中心と するモーメントとして働く。 b 第1の支点とエプロンを持ち上げる位置(エプロン操作者がエプロ ンを持ち上げるために手をかける位置)とを結ぶ直線の鉛直方向に対 する角度をβ,第1の支点とエプロンの重心とを結ぶ直線の鉛直方向 に対する角度をα,第1の支点と第3の支点とを結ぶ直線と,第2の 支点と第3の支点とを結ぶ直線がなす角をθaとし,第1の支点を中 心とする円の半径と垂直をなす方向に働く力について,エプロンを持 ち上げる位置に働く力をFu,第3の支点に働く力をFa,エプロン の重心に働く力をFwとすると,これらの各点において第1の支点を 中心とする円の半径と垂直をなす方向に働く力は,次のとおり表され る。 Fu=Fs・sinβ Fa=Fg・sinθa Fw=W・sinα このうち,FuとFaは上向きの力であり,Fwは下向きの力である。 c そして,第1の支点からエプロンを持ち上げる位置までの距離をR, 第1の支点から第3の支点までの距離をRa,第1の支点からエプロ ンの重心までの距離をRwとし,第1の支点を中心とするモーメント (第1の支点からの距離と力の積)について,エプロンを持ち上げる 位置のモーメントをTu,第3の支点のモーメントをTa,エプロン 26 の重心のモーメントをTwとすると,これらの各点における第1の支 点を中心とするモーメント(第1の支点からの距離と力の積)は,次 のとおり表される。 Tu=R・Fu Ta=Ra・Fa Tw=Rw・Fw このうち,TuとTaは上向きのモーメントであり,Twは下向きの モーメントである。 d エプロンを持ち上げる場合には,第1の支点を中心とする上向きの モーメントが下向きのモーメントより大きくなるから,Tu+Ta> Twとなる。これに前記cの各項を当てはめると,次のとおりとなる。 R・Fu+Ra・Fa>Rw・Fw 更にこれに前記bの各項を当てはめると,次のとおりとなる。 R・Fs・sinβ+Ra・Fg・sinθa>Rw・W・sinα これを,「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(Fs)について整 理すると,次のとおりとなる。 (Rw・W・sinα-Ra・Fg・sin ??) Fs> R・sinβ(ウ) エプロン角度 エプロンが,第1の支点を通る直線に対してなす角度をθとし,エプ ロンが最も下降したときにθ=0°とし,そのときの第1の支点とエプ ロンを持ち上げる位置とを結ぶ直線の鉛直方向に対する角度をβ 0,第 1の支点とエプロンの重心とを結ぶ直線の鉛直方向に対する角度をα 0 とすると,β=θ+β 0,α=θ+α0となり,これを前記(イ)dの最後 の式に当てはめると,次のとおりとなる。 (Rw・W・sin( ?+α0)-Ra・Fg・sin ??) Fs> R・sin( ?+β0)(エ) 「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が, 「エプロン角度が増加す 27る所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成a 「エプロンを跳ね上げるのに要する力」 (Fs)は,前記(ウ)の式で 表すことができ,エプロンが持ち上げられるにつれて,エプロン角度 θが増加するから(角度θaもエプロンが持ち上げられるにつれて増 加するが,その増加割合はエプロン角度θとは異なる。,構成要件G ) の「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する 所定角度範囲内において徐々に減少」するという構成は,前記(ウ)の式 において,Fsが,θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少 するような構成であると認められる。 b 前記(ウ)の式中の各項目のうち,エプロンの重心に鉛直方向に働く 重力W(前記(ア)) 第1の支点からエプロンの重心までの距離Rw , (前 記(イ)c),第1の支点からエプロンを持ち上げる位置までの距離R (前記(イ)c),第1の支点から第3の支点までの距離Ra(前記(イ) c),エプロンが最も下降したとき(θ=0°のとき)の第1の支点と エプロンを持ち上げる位置とを結ぶ直線の鉛直方向に対する角度β 0 (前記(ウ)),第1の支点とエプロンの重心とを結ぶ直線の鉛直方向に 対する角度α0(前記(ウ))は,エプロンの重さ,大きさ,形状等によ り定めることができる。また,第1の支点と第3の支点を結ぶ線と, 第3の支点と第2の支点を結ぶ線がなす角度θa(エプロンが持ち上 げられるにつれて増加するが,その増加割合はエプロン角度θとは異 なる。)について,エプロンが最も下降したとき(θ=0°のとき)の 角度θa0も,エプロンの重さ,大きさ,形状等により定めることがで きる。そして,第3の支点に働くアシスト力(Fg)(前記(ア))は, 本件発明の構成要件Dによれば,ガススプリングにより,第2の支点 と第3の支点との距離を変化させることによってエプロンを跳ね上げ る方向に作用する力であり,ガススプリングの反発力と伸びが適切な 28 特性を有するようなものを選択することにより,設定することができ る。 このように,前記(ウ)の式中の各項目のうち,θ以外の項目を適宜設 定し,Fsが,θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少する ような構成を実現することにより,構成要件Gにおける「エプロンを 跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内 において徐々に減少」するとの構成は実現されるものと認められる。 ウ 理論的説明に対する認識 力学に関する技術常識を勘案し,本件発明に係る作業機の構造に照らす と,前記イのとおり,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力 は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」すると いう構成は,前記イ(ウ)〔本判決27頁〕の式において,Fsが,θが増加 する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成であると認めら れる。 もっとも, 「エプロンを跳ね上げるのに要する力」 (Fs)が前記イ(ウ)の 式で表すことができることや,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに 要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」 するという構成が,前記イ(ウ)の式において,Fsが,θが増加する所定角 度範囲内において徐々に減少するような構成であることは,本件特許の請 求項1や本件明細書には直接には記載されていない。 しかし,被告は,本件無効審判において,平成30年9月25日付け口 頭審理陳述要領書(甲71)の26頁で別紙図3を示し,平成31年2月 7日付け口頭審理陳述要領書(2) (甲76)の42〜49頁で,力学的検 証を行い,48頁6行目で,上向きのモーメントと下向きのモーメントが 等しいときに次の式(「式K」)が成り立つことを示した。 R・Fs・sinβ=Rw・W・sinα-Ra・Fg・sinA (式K) 29(上記の式KのR,Fs,Rw,Ra,Fg,角度α,角度βは,前記イで述べたものと同じであり,式Kの角度Aは,前記イ(イ)b〔本判決26頁〕で述べた角度θaと同じである。上記の式Kに基づいて,上向きのモーメントが下向きのモーメントよりも大きいときのモーメントの関係を示すとR・Fs・sinβ+Ra・Fg・sinθa>Rw・W・sinαとなり,これは,前記イ(イ)d〔本判決27頁〕の「R・Fs・sinβ+Ra・Fg・sinθa>Rw・W・sinα」という式と同じである。)そして,被告は,平成31年3月1日付け口頭審理陳述要領書(4) (甲82)の11頁で,上記の式(「式K」)を変形すると,次の式となることを示した。 Fs=(Rw・W・sinα-Ra・Fg・sinA)/(R・sinβ)(上記の式のR,Fs,Rw,Ra,Fg,角度α,角度βは,前記イで述べたものと同じであり,上記の式の角度Aは,前記イ(イ)b〔本判決26頁〕で述べた角度θaと同じである。上記の式は,等号か不等号かが異なる点を除けば,前記イ(イ)d〔本判決27頁〕でFsについて整理した式と同じである。) 原告は,原告従業員作成の平成31年3月22日付け陳述書である甲60(審判乙14)の6頁で,構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要する力」 (Fs)の計算方法として被告が提示した上記の式を採用することを示し,「エプロンを跳ね上げるのに要する力」(Fs)と,エプロン角度θとの関係をシミュレーションした。原告は,原告従業員作成の令和元年8月22日付け陳述書である甲64(審判乙18)でも,同様の考え方に基づくシミュレーションを行った。なお,甲60(審判乙14)の6頁に書かれた式は,次のとおりであり,FgがFGと表されているが,式の示す内容は,被告が口頭審理陳述要領書(4) (甲82)の11頁で示した上記の式と同じである。 30 そして,角度α,β,θaは,前記イ(ウ),(エ)〔本判決27頁〕のとおり, エプロン角度θとともに変化するものであるから(ただし,角度α及び角 度βは,エプロン角度θが増加する分だけ増加するのに対し,角度θaの 増加割合は,エプロン角度θの増加割合とは異なる。,この式により, ) 「エ プロンを跳ね上げるのに要する力」 (Fs)とエプロン角度との関係が示さ れるものであり,その点について,当事者間に争いがなかった。 このように,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エ プロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構 成の理論的説明の具体的内容は,本件無効審判においては,本件発明に係 る作業機の構造と力学に関する技術常識に基づいて被告が提示し,原告は, それに基づいて,構成要件Gを実現する具体例をシミュレーションし,後 記5〔本判決47頁〕のとおり構成要件Gが実現できることを具体的に示 した。 そうすると,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エ プロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという構 成の理論的説明は,力学に関する技術常識を勘案し,本件訂正後の請求項 1及び本件明細書の記載により把握される本件発明に係る作業機の構造 を参照するならば,当業者であれば認識できるものであったと認められる。 エ 本件明細書【0028】の記載 (ア) 本件明細書【0028】の記載は,次のとおりである。 「【0028】 [アシスト操作力とエプロン角度との関係] 図7は,アシスト操作力とエプロン角度の関係を示すグラフである(出 願人が製造販売する耕うん作業機を用いて実測した結果である。。ア ) 31 シスト機構が作用しない場合には,エプロン角度(最も下降した状態 を0°とし,これから回動するにつれて回動角度をエプロン角度と定義 した。)が10°を超えたあたりから,ほぼ一定の荷重がかかることが 理解される。他方で,アシスト機構が作用する場合には,エプロン角 度0°近傍から,ほぼ線形に荷重が低減していく。そして,エプロン角 度が約60°の点で荷重がゼロになる。つまり,作業者からみれば,だ んだんと軽くなっていく。上記実施例の各支点の位置関係からこのよ うな荷重の傾向が観測される。上記説明したガススプリング250は 圧縮状態の力のほうが,伸長状態の力よりも大きいが,支点152が 支点151に近づくにつれ,所定の回転角度に対する支点152の移 動距離が大きくなるため, 「てこの原理」により,逆の特性(エプロン 角度が大きくなるほどアシスト機構が作用する力1が大きくなる。を ) 奏する。」(イ) 力学に関する技術常識を勘案し,本件訂正後の請求項1及び本件明 細書の記載から認められる本件発明に係る作業機の構造に照らすと,本 件明細書の【0028】の記載は,次のとおり理解することができると 認められる。 a すなわち,本件明細書の【0028】の記載は,エプロンを持ち上 げる力をアシストする力とエプロン角度について述べるものであり, 本件発明の作業機において,エプロンは,第1の支点(140)を中 心として回転運動するものであり,ガススプリングにより加えられる アシスト力は第3の支点(152)に加えられるものであり,それに よって,エプロンを持ち上げる力をアシストする力を得ることからす ると,本件明細書の【0028】に記載された「てこの原理」とは, 本件発明にかかる作業機の第1の支点(140)を「支点」とし,ガ ススプリングの力が及ぼされる第3の支点(152) 「力点」 を とし, 32 エプロンの重心位置を「作用点」として,ガススプリングの力によっ てエプロンの持ち上げをアシストする力を得る関係を説明するもの として理解することができる。 b また, 【0028】に, 「上記説明したガススプリング250は圧縮 状態の力の方が,伸長状態の力よりも大きい」とした上で, 「逆の特性 (エプロン角度が大きくなるほどアシスト機構が作用する力1が大 きくなる。」 ) と記載されていることからすると, 「逆の特性」とは, 「て この原理」における「力点」に及ぼされるガススプリング自体の力が, エプロン角度の増加に伴ってガススプリングが伸長状態となるため に徐々に減少するにもかかわらず, 「てこの原理」の「作用点」におい て得られるアシスト力が,エプロン角度の増加に伴って徐々に増加す ることを述べているものと理解できる。 c さらに, 【0028】の「支点152が支点151に近づくにつれ, 所定の回転角度に対する支点152の移動距離が大きくなるため」と の記載は, 「てこの原理」によって前記bの「逆の特性」を奏する理由 を述べたものである。そして,てこの原理によれば,作用点に働く力 が同じでも,力点と支点との距離が遠くなれば,力点に加える力は少 なくて済むところ,本件発明に係る作業機においては,第1の支点(1 40) (てこの原理における「支点」)と第3の支点(152) (てこの 原理における「力点」)との距離は構造上変わらない。エプロンが持ち 上げられエプロン角度が増加するにつれて第1の支点(140)との 距離が大きくなるのは,第1の支点(140)と,第3の支点(15 2)と第2の支点(151)の2点を通る直線との間の距離であって, この直線に沿って,ガススプリングによる力が働いている。 そうすると, 「てこの原理」により「逆の特性」を奏するのは,エプ ロンが持ち上げられエプロン角度が増加するにつれて,ガススプリン 33 グ自体の力は小さくなるが,第3の支点(152)と第2の支点(1 51)の2点を通る直線と第1の支点(140) (てこの原理における 「支点」 との距離が大きくなることから, ) 両者の積で表されるモーメ ント(アシスト力として働く力)が大きくなることを意味しているも のとして理解できる。 d これを図示すると,別紙図3(被告提出の平成30年9月25日付 け口頭審理陳述要領書である甲71の26頁の図面)のとおりである。 第1の支点(140)と第3の支点(152)との距離をL,エプロ ンが下に降りている状態で(別紙図3の上図),第3の支点に,第2支 点に向かう方向にガススプリングにより加えられる力をF 1,そのと きの,第1の支点と第3の支点を結ぶ直線と第3の支点と第2の支点 を結ぶ直線がなす角度をθ1とすると,第3の支点に,第1の支点を中 心とする円の半径と直角をなす方向に働く力は, 1・sinθ1であり, F 第1の支点と第3の支点の距離はLであるから,第3の支点に働くモ ーメント(第1の支点を中心として,第3の支点に,エプロンを上向 きに動かすように働くモーメント)は,力と距離の積であるF1・sin θ1・Lである。 他方,エプロンが上に上がっている状態で(別紙図3の下図),第3 の支点に,第2支点に向かう方向にガススプリングにより加えられる 力はF2であり,そのときの,第1の支点と第3の支点を結ぶ直線と第 3の支点と第2の支点を結ぶ直線のなす角度をθ 2とすると,第3の 支点に,第1の支点を中心とする円の半径と直角をなす方向に働く力 は,F2・sinθ2であり,第1の支点と第3の支点の距離はLであるか ら,第3の支点に働くモーメント(第1の支点を中心として,第3の 支点に,エプロンを上向きに動かすように働くモーメント)は,力と 距離の積である,F2・sinθ2・Lである。 34 上記のとおり,エプロンが下に降りている状態で(別紙図3の上図)第3の支点に働くモーメントはF1・sinθ1・Lであり,エプロンが上に上がっている状態で(別紙図3の下図)第3の支点に働くモーメントはF2・sinθ2・Lであるところ,前記cのとおり,「てこの原理」により「逆の特性」を奏するのは,エプロンが持ち上げられエプロン角度が増加するにつれて,ガススプリング自体の力は小さくなるが,第3の支点(152)と第2の支点(151)の2点を通る直線と第1の支点(140) (てこの原理における「支点」)との距離が大きくなることから,両者の積で表されるモーメント(アシスト力として働く力)が大きくなることを意味しているものとして理解されるから,このような「てこの原理」に従った整理をするならば,エプロンが下に降りている状態で(別紙図3の上図)第3の支点に働くモーメントは,ガススプリング自体の力であるF1と,第3の支点(152)と第2の支点(151)の2点を通る直線と第1の支点(140)との距離であるLsinθ1の積であるF1・Lsinθ1であり,エプロンが上に上がっている状態で(別紙図3の下図)第3の支点に働くモーメントは,ガススプリング自体の力であるF2と,第3の支点(152)と第2の支点(151)の2点を通る直線と第1の支点(140)との距離であるLsinθ2の積であるF2・Lsinθ2であるとして整理される。 エプロンが上に上がっている状態(別紙図3の下図)では,エプロンが下に降りている状態(別紙図3の上図)よりも,上向きのモーメントは大きくなり,作業者がエプロンを持ち上げる力は少なくなるから,F2・Lsinθ2>F1・Lsinθ1となる。 ガススプリングは,圧縮状態の力の方が伸長状態の力よりも大きい(【0028】 から, 2 (ウ) 前記イ(エ)〔本判決27頁〕のとおり,構成要件Gの「エプロンを跳 ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内にお いて徐々に減少」するという構成の理論的説明は,前記イ(ウ) 〔本判決2 7頁〕の式において,Fsが,θが増加する所定角度範囲内において徐々 に減少するような構成であり,前記ウ〔本判決29頁〕のとおり,技術 常識を勘案し,本件訂正後の請求項1及び本件明細書の記載により把握 される本件発明に係る作業機の構造を参照するならば,上記の理論的説 明は,当業者であれば認識できるものと認められる。そして,被告が, 本件無効審判において,口頭審理陳述要領書(平成30年9月25日, 甲71)の25〜26頁で別紙図3を示し,F 2・Lsinθ2>F1・Lsin θ1との式が成り立つことを示し,この式が成り立つことについては原 告も争っていないことを考慮すると, 【0028】が前記(イ)a〜dのと おりの意味であることは,当業者であれば認識できたものと認められる。 なお,前記イ(ウ)〔本判決27頁〕のエプロン角度は,エプロンが,第 1の支点を通る直線に対してなす角度をθとし,エプロンが最も下降し 36 たときにθ=0°とするものであり,別紙図3に示された角度θ1,θ2 とは異なるが,エプロンが持ち上げられるに従って前記イ(ウ)〔本判決 27頁〕のエプロン角度θは大きくなり,他方,エプロンが下降した状 態の角度θ 1 よりもエプロンが上昇した状態の角度θ 2 の方が大きいか ら,エプロンが持ち上げられるに従って大きくなる点でこれらは共通す る。そして,前記イ(ウ)〔本判決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外 の項目を適宜設定し,Fsが,θが増加する所定角度範囲内において徐々 に減少するような構成を実現する(前記イ(エ)〔本判決27頁〕)に当た っては,0028】「ガススプリング250は圧縮状態の力のほうが, 【 に 伸長状態の力よりも大きい」と記載されていることから,エプロン角度 が増加するに従って第3の支点に働くガススプリング自体のアシスト力 (Fg)が弱くなるような設定をする必要があり,それにもかかわらず 操作者がエプロンを跳ね上げるのに要する力Fsが減少していくことの 説明が【0028】において行われているものと認められる。 (エ) 被告は,本件明細書の【0028】の記載及び【図7】は,本件発明 と構成を異にする原告の「FTE240」という製品に関するものであ り, 「FTE240」において構成要件Gが実施可能であるとしても,本 件発明において構成要件Gは実施できないと主張する。しかし,本件明 細書の【0028】の記載は,本件発明に関して前記(イ),(ウ)のとおり 理解できるものと認められるところ,この論理は,特定の製品以外の耕 うん機にも適用可能なはずであるし,現に,後記5のとおり本件発明の 構成要件Gは実施可能であるから,被告の上記主張は,採用することが できない。 3 構成要件Gを実施する際の作業機の姿勢について ? 本件審決の判断 本件審決は,作業機の姿勢について,次のとおり判断した。 37 「しかしながら,上記作業機の姿勢について, 「エプロンの前面部分(耕うん ロータに面した側)や耕うんロータに付着した土を掻き落としたり,耕うん ロータに設けられた耕うん爪を取り替えたりする場合には,エプロンを跳ね 上げた状態に保持する。(本件明細書等の段落【0002】 」 )際に,作業機の 姿勢を「トラクタ油圧機構で作業機を持ち上げ調整した姿勢」や「スタンド 姿勢」等のように作業機を前傾させることは,本件明細書等には記載されて いない。しかも,本件明細書等に, 「耕うん状態においてエプロンが下降した 状態から,作業者が誤ってエプロンを跳ね上げることがなくなり,相当程度 の力をもって(ただし,アシスト機構が存在しないときに要する力よりは小 さい)一旦エプロンをある程度の角度まで跳ね上げれば,その後はますます 軽い力で跳ね上げることが可能となる。(段落【0037】, 」 )「ガススプリン グは,前記エプロンが下降した地点において,収縮するよう構成しているた め,最も長い時間である耕うん時においてガススプリングのピストンロッド 表面が汚れることがなくなり,ガススプリングの寿命が大幅に向上する。」 (段落【0041】)と記載されており,「耕うん状態」や「耕うん時」が耕 うん作業時を指すことは明らかであるから,本件発明の「エプロンを跳ね上 げる力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」す るようにアシスト機構に作用させるのは,少なくとも,上記耕うん作業時の 作業機の傾きのときに実現できることを説明する必要がある。 よって,被請求人が主張する「トラクタ油圧機構で作業機を持ち上げ調整 した姿勢」や「スタンド姿勢」等の本件明細書等に記載のない条件下でしか 実現できないのであれば,本件発明が実施可能であるとはいえない。(本件 」 審決86頁18行目〜87頁2行目)? 判断の誤りの有無とその理由 ア しかし,本件審決の前記?の判断は誤りである。その理由は,次のイの とおりである。 38イ(ア) 構成要件Gを実現する際の作業機の傾きについて,本件訂正後の請 求項1においては何ら限定は加えられていないが,本件明細書の【発明 が解決しようとする課題】 【0006】 【0007】【発明の効果】 , 【00 13】によれば,本件発明は,エプロンを跳ね上げるためのアシスト機 構に従来存した課題を解決し,安定したアシスト動作が可能であり,ガ ススプリングの劣化も防止した作業機を提供することにあると解される ところ, 【0002】には「このようなロータリ作業機は走行機体と接続 されるフレームと,フレームの後方に設けられ,フレームに固定された 支点(第1の支点)を中心にして下降及び跳ね上げ回動可能なエプロン を有している。エプロンの前面部分(耕うんロータに面した側)や耕う んロータに付着した土を掻き落としたり,耕うんロータに設けられた耕 うん爪を取り替えたりする場合には,エプロンを跳ね上げた状態に保持 する。」と記載されている。そして,エプロンを跳ね上げるためのアシス ト動作が必要になるのは,耕うんロータに付着した土を掻き落としたり, 耕うんロータに設けられた耕うん爪を取り替えたりするという作業を行 うときであり,これらの作業は,その目的,性質や手順等に照らし, 「耕 うん爪が圃場に侵入した状態」ではなく,作業機が前傾している「作業 機全体(刃を含む)が地上から引き上げられた状態」で行うのが通常で あると認められる。また,そのような作業が行われるときの作業機の水 平に対する前傾の傾きは,甲59(審判乙13)により認められる18. 0°〜34.8°と,甲90〜92により認められる17.41°〜3 3.97°を併せた範囲である17.41°〜34.8°の範囲である と認められる。以上のような発明の目的等に照らしてみると,作業機が 前傾している「作業機全体が地上に引き上げられた状態」 (上記認定の作 業機の水平に対する前傾の傾きが17.41°〜34.8°である状態) で構成要件Gを実現することができるのであれば,構成要件Gは実施可 39 能であると認められる。構成要件Gが実施可能であるというために,作 業機が上記以外の姿勢の場合にも構成要件Gが実施可能であることを示 さなければならないとする根拠はない。 しかるところ,甲60(審判乙14)における「第1の姿勢」 (入力軸 が水平より33°前傾した状態)及び「第2の姿勢」 (入力軸が水平より 18°前傾した状態),甲64(審判乙18)における「最上姿勢」(ト ラクタ油圧機構で作業機を最も持ち上げた位置,入力軸が水平より30. 5°前傾した状態) 作業機の水平に対する前傾の傾きが上記の17. は, 41°〜34.8°の範囲内に入っており,上記の「作業機全体が地上 に引き上げられた状態」であるものと認められる。そして,後記4?イ (ア)(本判決43頁)のとおり,甲60(審判乙14)によれば, 「第1 の作業機」において, 「第1の姿勢」及び「第2の姿勢」で,エプロンを 跳ね上げるのに要する力は,一般的な作業者が感じることができる程度 に徐々に減少したことが認められ,甲64(審判乙18)によれば, 「第 1の作業機」において, 「最上姿勢」で,エプロンを跳ね上げるのに要す る力は,一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少したこ とが認められるから,構成要件Gは実施可能であると認められる。 (イ) 被告は,本件明細書の【0037】の「耕うん状態においてエプロン が下降した状態から,作業者が誤ってエプロンを跳ね上げることがなく なり,相当程度の力をもって・・・一旦エプロンをある程度の角度まで 跳ね上げれば,その後はますます軽い力で跳ね上げることが可能となる。」 との記載における「耕うん状態」は, 「耕うん作業時」【図2】の「耕う ( ん姿勢」 の意味にしか理解できないし, ) 本件明細書に記載されている作 業機の姿勢は, 【図2】の「耕うん姿勢」が唯一であり,しかも,この「耕 うん姿勢」に原告も同意して検証が行われたのであるから, 「トラクタ油 圧機構で作業機を持ち上げ調整した姿勢」や「スタンド姿勢」などの本 40件明細書に記載のない条件下でしか実現できないのであれば,本件発明の構成要件Gは実施可能であるとはいえないと主張する。 しかし, 【0037】の記載は,実施例の説明にとどまるし,前記(ア)で指摘した点をも踏まえて検討すると,耕うん状態においては,エプロンを跳ね上る必要が通常ないばかりか,安全等のために不用意にエプロンが跳ね上げられるのを防止する必要があるところ, 「耕うん状態」への言及は,耕うん作業中に作業者が誤ってエプロンを跳ね上げることがなくなることに関してなされたと解する余地があり, 【0037】の記載から逆に,耕うん状態においてもアシスト機構が適切に機能することが必要であるとして本件発明の内容を限定する根拠はない。また,図2】 【 も,耕うん機の形状や構成を説明する図であって,アシスト機構の説明をするための図ではないと解する余地もあるから,これによって耕うん状態においてもアシスト機構が働くことが示されていると断定することはできない。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 なお,被告従業員作成の平成30年1月31日付け報告書である甲13には,耕うん姿勢でエプロンを跳ね上げるのに要する力を測定することが記載されていたところ,本件無効審判において,審判検甲1を用いてエプロンを跳ね上げるのに要する力の測定(検証)を行うに当たり,原告は,平成30年10月9日付け口頭審理陳述要領書(甲73) 「 に 「前記エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」ことを,報告書(甲第13号証)に記載された方法により測定することについて特に異存はない。(甲7 」3,3頁)と記載し,その結果,エプロンを跳ね上げるのに要する力の測定(検証)は,耕うん姿勢で行われた。しかし,上記の原告の対応は,審判検甲1を用いてエプロンを跳ね上げるのに要する力を測定(検証)する方法に関するものにとどまり,本件無効審判におけるその後の原告 41 の主張を制限する根拠となるようなものであったとは認められず,その 後原告の主張が実際に制限されたことも窺われない。そうすると,原告 が上記のような対応をしたとしても,原告が,耕うん姿勢以外の「作業 機全体が地上に引き上げられた状態」で構成要件Gが実施可能である旨 主張することが,信義則又は禁反言の原則に反するとは認められない。 4 エプロンを跳ね上げる力の減少の程度について ? 本件審決の判断 本件審決は,エプロンを跳ね上げる力の減少の程度について,次のとおり 判断した。 「また,被請求人は,乙第18号証を提出し,「耕うん姿勢」(作業機の入力 軸が前傾3.0°)において,「エプロンを跳ね上げるのに要する力」の変改 を計算し,グラフ化したところ, 「仮に,耕うん状態からエプロンを跳ね上げ るとした場合でも,要する力は徐々に減少することが分かります。(上記1 」 (13)イのグラフ中段)と主張する。 しかしながら,「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が 増加する所定角度範囲内において徐々に減少」することにおいて,本件特許 明細書の【0037】に「相当程度の力をもって(ただし,アシスト機構が 存在しないときに要する力よりは小さい)一旦エプロンをある程度の角度ま で跳ね上げれば,その後はますます軽い力で跳ね上げることが可能となる。」 と記載されていることからみて,本件発明において, 「エプロンを跳ね上げる のに要する力」が「徐々に減少」することは,エプロンの操作者が該要する 力が徐々に減少することを明確に知覚することができる程度の減少(例えば, 本件特許の図7のグラフ。 と解することができるところ, ) 乙第18号証に記 載の該グラフの傾きからみて,エプロンの操作者が該要する力を知覚できる 程度に減少しているとは認められない。 よって,耕うん作業時の姿勢において,エプロンの操作者が明確に知覚す 42 ることができない該要する力の減少程度では,構成Gを実現できたことには ならず,本件発明が実施可能であるとはいえない。(本件審決87頁3〜2 」 1行目)? 判断の誤りの有無とその理由 ア しかし,本件審決の前記?の判断は誤りである。その理由は,次のイの とおりである。 イ(ア) 前記?の本件審決の判断は,耕うん作業時の姿勢において構成要件 Gを実現できなければならないことを前提とするものである。しかし, 前記3?イ(ア)〔本判決39頁〕のとおり, 「作業機全体が地上に引き上 げられた状態」で構成要件Gを実現することができるのであれば,構成 要件Gは実施可能であると認められるから,上記の本件審決の判断は, その前提において採用することができない。前記3?イ(ア) 本判決39 〔 頁〕のとおり,甲60(審判乙14)における「第1の姿勢」及び「第 2の姿勢」,甲64(審判乙18)における「最上姿勢」は,「作業機全 体が地上に引き上げられた状態」であるものと認められるから,それら の姿勢において, 「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度 が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構成が実施可 能であるとすれば,構成要件Gは実施することができるものと認められ る。 (イ) そして,構成要件Gの, 「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エ プロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの構 成が実施可能であるというためには,エプロンを跳ね上げるのに要する 力が,エプロン角度の増加に伴って,一般的な作業者が感じることがで きる程度に徐々に減少することが必要であると認められる。その理由は, 次のとおりである。 すなわち,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エ 43プロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少する」という文言によれば,構成要件Gが実現されているというためには,エプロンを跳ね上げるのに要する力が,エプロン角度の増加に伴って徐々に減少することが必要である。また,本件明細書には, 「しかしながら,エプロンはそれなりの重量があり,その重心が支点(第1の支点)よりも後方にあることから,作業者にとってエプロンを跳ね上げる作業は重労働である。【背景技術】 」 【0003】と記載されており,エプロンに重量があるためエプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって重労働であることが背景技術として指摘されている。そして,このような背景技術の問題点を解決するために,先行技術文献に,エプロンを跳ね上げる作業を容易にするために跳ね上げる力を補助するエプロン跳ね上げアシスト機構が記載されていたところ 【0004】, ( ) それらの先行技術が有していた問題点が,本件発明が解決しようとする課題として指摘されている 【発明 (が解決しようとする課題】【0006】【0007】。更にそれに続けて )本件発明の内容が記載され(【課題を解決するための手段】【0008】〜【0012】,発明の効果として「本発明の作業機によれば,安定し )たアシスト動作が可能であり,ガススプリングの劣化も防止した作業機を提供することができる。また,エプロンが下降状態にあるときに,いきなりエプロンが跳ね上がらないようにすることが可能となる。【00 」 (13】)と記載されている。このような本件明細書の記載によれば,本件発明は,エプロンに重量があるためエプロンを跳ね上げる作業が作業者にとって重労働であることを解決し,エプロンを跳ね上げる作業を容易にするために設けられるエプロン跳ね上げアシスト機構について,先行技術の問題点を解決することを課題とするものであることが認められ,そのような課題を解決することにより,エプロン跳ね上げアシスト機構の安定したアシスト動作を可能にし,エプロンを跳ね上げる作業を容易 44 にして,究極的には,エプロンに重量があるためエプロンを跳ね上げる 作業が作業者にとって重労働であるという問題を解決するものであると 認められる。構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力」は, 作業者がエプロンを跳ね上げるのに要する力であるところ,上記のよう な本件発明の意義に鑑みれば,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるの に要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に 減少する」という構成が実現されているというためには,エプロンを跳 ね上げる作業が作業者にとって容易になる必要があるというべきであり, エプロンを跳ね上げるのに要する力が,エプロン角度の増加に伴って, 一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少することが必要 であると認められる。 【図7】には,エプロンを跳ね上げるのに要する力 が,エプロン角度がおおむね0°から60°に変化する間に,250N から0Nまで徐々に減少したことが示されているところ,後記(エ)のと おり,エプロンを跳ね上げるのに要する力の減少の程度が【図7】に示 された具体的な数値に限定されると解する根拠はないが, 【図7】は,本 件発明において,エプロンを跳ね上げるのに要する力が一般的な作業者 が感じることができる程度に徐々に減少することを裏付けることを意図 しているといえる。 (ウ) しかるところ,甲60(審判乙14)の7頁のグラフ(別紙図4)に よれば,「第1の作業機」において,「第1の姿勢」の場合(同グラフの 青色線)には,エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が 0°から60°に変化する間に,250Nから0Nになるまで徐々に減 少したことが認められ, 「第2の姿勢」の場合(同グラフの黄色線)には, エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から60° に変化する間に,約230Nから約75Nまで,割合でいうと3分の1 以下になるまで徐々に減少したことが認められる。また,甲64(審判 45 乙18)の6頁のグラフ(別紙図5)によれば, 「第1の作業機」におい て, 「最上姿勢」の場合(同グラフの青色線)には,エプロンを跳ね上げ るのに要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化する間に,約 230Nから約20Nまで,割合でいうと11分の1以下になるまで 徐々に減少したことが認められる。これらの場合には,エプロンを跳ね 上げるのに要する力は,エプロンが上に持ち上げられるまでの間に徐々 に減少しており,減少の割合はいずれも相当に大きいから,エプロンを 跳ね上げるのに要する力の減少は,一般的な作業者が感じることができ る程度のものであったと認められる。そうすると,これらの場合には, エプロンを跳ね上げるのに要する力が,エプロン角度の増加に伴って, 一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少したものと認め られ,構成要件Gの実施が可能であることが立証されたものと認められ る。したがって,構成要件Gは実施可能であると認められる。 (エ) 被告は,構成要件Gの「前記エプロンを跳ね上げるのに要する力」が 「エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する程 度について,本件明細書の【0037】には「・・・相当程度の力をも って・・・一旦エプロンをある程度の角度まで跳ね上げれば,その後は ますます軽い力で跳ね上げることが可能となる。と記載されており,図 」 【 7】のグラフに,アシスト操作力が約250Nから約0Nになることが 示されているから, 【0037】の「相当程度の力」は約250Nを意味 し,「ますます軽い力」は約ゼロに向かう力を意味すると主張する。 しかし,本件発明においては,作業機の大きさや重量は制限されてい ないから,本件発明に係る作業機としては,種々の大きさ,重量のもの が想定され,そのことは, 【0030】に「変形例」として「重量のある エプロンを有する大型の耕うん作業機や代かき機等」と挙げられている ことからも裏付けられるものであり,そのことに鑑みれば,本件発明に 46 おいてエプロンを跳ね上げるのに要する力が具体的な数値に限定される と解することはできない。そして,本件明細書の【0037】は,本件 発明の実施例の説明であり, 【図7】は,本件発明の実施例に係る作業機 の跳ね上げアシスト機構の効果を示す図にとどまり,構成要件Gの「前 記エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が増加する所 定角度範囲内において徐々に減少」する程度が【図7】に示された具体 的な数値に限定されるとする記載は本件明細書にはないし,そのように 解する根拠はない。したがって,被告の上記主張は,採用することがで きない。 5 発明の構成の実施に過度な試行錯誤を要するかについて ? 本件審決の判断 本件審決は,前記2?イ〔本判決22頁〕のとおり,原告が主張する式及 び説明に基づいて本件発明を実施するとしても,当業者に過度の試行錯誤を 要するものと判断した。 ? 判断の誤りの有無とその理由 ア しかし,本件審決の前記?の判断は誤りである。その理由は,次のイの とおりである。 イ(ア) 前記2?イ(エ) 〔本判決27頁〕のとおり,前記2?イ(ウ) 〔本判 決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項目を適宜設定し,Fsが, θが増加する所定角度範囲内において徐々に減少するような構成を実 現することにより,構成要件Gにおける「エプロンを跳ね上げるのに要 する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」 するとの構成は実現されるものと認められるところ,前記2?イ(ウ) 本 〔 判決27頁〕の式中の各項目のうち,θ以外の項は複数存在することか ら,それらについて適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作業 機を作成して本件発明を実施するために過度な試行錯誤を要するかを 47検討することが必要となる。 この点に関し,原告は, 【図2】に記載された各支点の基本的な位置関係に基づき,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力」 「エ とプロン角度」の変化曲線をシミュレーションし,甲60(審判乙14)の7頁のグラフ(別紙図4)の結果を得た。そして,同グラフによれば,【図2】に記載された作業機の位置関係を基礎にして,第3の支点152の位置を,第1の支点140を中心として25°下方に移動させた「第1の作業機」において,「第1の姿勢」(作業機が水平より33°前傾した状態)の場合(同グラフの青色線)には,エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化する間に,250Nから0Nに徐々に減少したことが認められ,「第2の姿勢」(作業機が水平より18°前傾した状態)の場合(同グラフの黄色線)には,エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化する間に,約230Nから約75Nまで徐々に減少したことが認められる。また,甲64(審判乙18)の6頁のグラフ(別紙図5)によれば,「第1の作業機」において,「最上姿勢」(トラクタ油圧機構で作業機を最も持ち上げた位置,入力軸が水平より30.5°前傾した状態)の場合,エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が0°から60°に変化する間に,約230Nから約20Nまで徐々に減少したことが認められる。そして,前記4?イ(ア)〔本判決43頁〕のとおり,これらの場合は,エプロンを跳ね上げるのに要する力が,一般的な作業者が感じることができる程度に徐々に減少したものと認められる。そうすると,これらのシミュレーションにより,構成要件Gの実施が可能であることが立証されたものと認められる。 これらのシミュレーションは,コンピュータを用いたものと推認されるが,その実施が特に困難であったとは認められず,上記の結果を得る 48 ために過度の試行錯誤が必要であったことを窺わせる事情はない。 したがって,前記2?イ(ウ) 〔本判決27頁〕の式中の各項目のうち, θ以外の項目について適切な数値の組合せを見出して本件発明に係る作 業機を作成して構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は, エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとの 構成を実施するために,当業者は過度の試行錯誤を要しないものと認め られる。 (イ)a 被告は,本件明細書の【0028】には「上記実施例の各支点の位 置関係からこのような荷重の傾向が観察される。」と記載されており, 【図2】の作業機の支点の位置により【図7】のグラフが得られたこ とが明らかにされているとした上,原告が,力学的なシミュレーショ ンにより「エプロンを跳ね上げるのに要する力」が「エプロン角度が 増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する変化曲線を得たと する「第1の作業機」 (別紙図2の青色で記載された構造) 【図2】 は, の作業機とは第3の支点(152)の位置が異なり,本件明細書,本 件特許の特許出願の願書に添付された図面に記載されていないもの であるから, 「第1の作業機」を用いて得た甲60(審判乙14)の7 頁のグラフ及び甲64(審判乙18)の6頁のグラフに基づいて,本 件発明の構成要件Gが実施可能であるとする原告の主張は誤りであ ると主張する。 しかし, 【図2】の作業機は,本件発明の構成を説明するための作業 機の一例であるところ 【0016】, ( ) 本件発明の特許請求の範囲にお いて,支点の位置に関しては,第2の支点及び第3の支点の位置につ いて,アシスト機構が両支点を通る同一軸上で移動可能であること (構成要件E)が定められているのみであることからすると,その定 めを充たしていれば,本件発明の作業機における第2の支点及び第3 49 の支点の位置は, 【図2】に示される具体的な位置と同じである必要は ない。そして,特許出願の願書に添付される図面は,設計図のように 寸法等が正確なものが求められるものではなく,発明の技術内容を理 解できる程度の精度で表現されていれば足りるものであり, 【図2】も, 本件発明の構成を説明するために示されたものであって,設計図のよ うに厳密な形状や寸法等を具体的に示したものとは認められないか ら, 【図2】の作業機とは第3の支点(152)の位置が異なるのみで 全体の構成が同じであり,構成要件Eも満たしている「第1の作業機」 において,構成要件Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エ プロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するとい う構成が実施可能であることが示されていれば,本件発明の構成要件 Gは実施可能であると認められる。本件明細書の【0028】には「上 記実施例の各支点の位置関係からこのような荷重の傾向が観察され る。 と記載されているが, 」 本件発明の構成が特許請求の範囲により特 定されていることからしても,上記の【0028】の記載は,本件発 明の作業機における第2の支点及び第3の支点の位置が【図2】に示 される具体的な位置と同じであることまでを要求するものとは認め られない。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。 b 被告は, 「第1の作業機」の計算に用いたガススプリング(甲65(審 判乙19))は,直径をφ16mmにした「オールガスタイプ」のもの であり,【図5】及び【図6】に記載された「フリーピストンタイプ」 のものでないところ, 【図5】及び【図6】に記載された「フリーピス トンタイプ」のピストンでは【図7】のグラフが得られないことは明 らかであると主張する。 しかし,本件発明におけるアシスト機構で用いるガススプリングに ついて,本件訂正後の請求項1には, 「ガススプリング」と記載されて 50 いるのみであり, 「オールガスタイプ」であるか「フリーピストンタイ プ」であるかについての特定がない。また,本件明細書の【0029】 には, 「上記実施例においては,ガススプリングとして,フリーピスト ンを有するものを用いたが,フリーピストンを用いない従来型のガス スプリングを用いることも可能である。 と記載されており, 」 本件発明 のガススプリングが「フリーピストンタイプ」のものに限られない旨 記載されている。そうすると, 「オールガスタイプ」のガススプリング (甲65(審判乙19))を計算に用いて,前記(ア)のとおり, 「第1の 作業機」により構成要件Gが実施可能であることが示されていること (甲60(審判乙14)1〜2頁,甲64(審判乙18)1頁,甲6 5(審判乙19))からすれば,構成要件Gは実施可能であると認めら れる。そして, 「オールガスタイプ」のガススプリング(甲65(審判 乙19))は,その構造に照らし,本件特許の原出願時に実施可能であ ったものと推認され,本件特許の原出願時に実施できなかったことを 裏付ける具体的な証拠はない。したがって,被告の上記主張は,採用 することができない。 c 被告は,本件発明に係る作業機を自ら開発した原告ですら,【図7】 のグラフのデータを得た日に存在していた「当時の作業機」を再現で きないのであるから,構成要件Gが実施不可能であることは明らかで あると主張する。 しかし,特許発明が実施可能性であるか否かは,実施例に示された 例をそのまま具体的に再現することができるか否かによって判断され るものではないから,本件特許の原出願時に当業者が本件明細書の記 載に基づいて本件発明を実施することができたか否かは, 【図7】のグ ラフのデータを得た「当時の作業機」自体を再現できるか否かによっ て判断されるものではない。前記(ア)のとおり,甲60(審判乙14), 51 甲64(審判乙18)によれば,構成要件Gが実施可能であることが 認められる。したがって,被告の上記主張は,採用することができな い。 6 原告の主張の変遷の有無について ? 本件審決の判断 本件審決は,原告作成の平成30年10月9日付け口頭審理陳述要領書(甲 73),平成31年2月7日付け口頭審理陳述要領書(2)(甲78)におけ る説明について,次のとおり判断した(下記の「被請求人要領書(1)」は, 原告作成の平成30年10月9日付け口頭審理陳述要領書(甲73)であり, 「被請求人要領書(2)」は,原告作成の平成31年2月7日付け口頭審理陳 述要領書(2)(甲78)である。。 ) 「無効理由4について,被請求人要領書(1)においても,上記(3)のと おりの説明を行っている。 そして,その説明に付加する形で,被請求人要領書(2)では, 「(1)エプロ ン角度が増加するにつれて,ガススプリング自体の力が大きくなる(F1 イ(ア) 本件無効審判の経過については,次のとおり認められる。 a 特許庁審判官は,平成30年12月25日付け審理事項通知書(甲 5375)を発出した。 平成30年12月25日付け審理事項通知書(甲75)には,3 「 合議体の暫定的な見解」「 ,(5)無効理由4について」において,次のとおり記載されていた(下記の平成30年9月25日付け口頭審理陳述書は甲71であり,平成30年10月9日付け口頭審理陳述要領書は甲73である。。 )「請求人は, 「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」する点について,発明の詳細な説明に当業者が実施可能な程度に記載されていないとして,審判請求書(30〜32頁)において,大まかに,本件発明で用いられたガススプリングの構成が不明であること,本件明細書の段落【0028】に記載の「てこの原理」の支点・力点・作用点等が不明であること,を主張している。また,平成30年9月25日付け口頭審理陳述書において,ガススプリングの特性及び各支点の位置関係について,その26頁の【参考説明図】を用いて説明している。これに対し,被請求人は,平成30年10月9日付け口頭審理陳述要領書において,該「てこの原理」による仕組みを,該【参考説明図】を用いて説明している。 エプロンを跳ね上げるのに要する力が,エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少するとされる論理である該「てこの原理」が該【参考説明図】のとおりであるならば,本件発明と支点等の位置が特に相違しない検甲第1号証・甲第14号証・甲第18号証のものとの違いは,どの様な要件となるのか不明である。(甲75, 」4頁30行目〜5頁10行目) さらに,平成30年12月25日付け審理事項通知書(甲75)には, 「5 被請求人に対して」「 ,(5)」において,次のとおり記載され 54 ていた。 「上記3(5)について, 「てこの原理」以外に,本件発明において該 要する力が減少する要件,あるいは影響を与える要件があるのであれ ば,詳しく説明して下さい。(甲75,6頁6〜8行目) 」 b 原告は,前記aの平成30年12月25日付け審理事項通知書(甲 75)による説明の要請に応え,平成31年2月7日付け口頭審理陳 述要領書(2) (甲78)において,別紙6(甲78,6頁14行目〜 10頁14行目)のとおり記載した。 (イ) 別紙6(平成31年2月7日付け口頭審理陳述要領書(2) 甲78) ( 6頁14行目〜10頁14行目)によれば,原告は,その記載において, 本件発明と同様の支点の位置関係を有する作業機であっても,エプロン 角度の増加に伴うガススプリング自体の力の増減,エプロン角度の増加 に伴うガススプリング自体の力の減少の割合と sinθ2が sinθ1(sinθ 1 ,sinθ2は別紙図3の sinθ1,sinθ2と同じ。)より増加する割合など の要素を変えることにより,エプロン角度が増加するにつれてアシスト 力が徐々に減少する構造も,ほぼ一定の構造も,本件発明のように徐々 に増加する構造も適宜設計することができることを述べたものと認め られる。そして,平成31年2月7日付け口頭審理陳述要領書(2) (甲 78)の記載のうち,本件審決が,本件発明の説明と整合しないと指摘 する箇所(前記?における指摘箇所)は,本件発明と同様の支点の位置 関係を有する作業機であっても,本件発明の構成要件Gのようにエプロ ン角度の増加に伴ってアシスト力が増加するのとは異なる構成も設計 できることを述べた箇所であるものと認められる。そのため,平成31 年2月7日付け口頭審理陳述要領書(2) (甲78)に,本件審決が指摘 する箇所(前記?における指摘箇所)の記載があったとしても,それを もって,原告が本件発明の理論的説明や技術的意義を誤って説明したも 55 のとも,原告の本件発明に関する説明が二転三転しているとも認めるこ とはできず,本件発明を実施することができなかったとは認められない。 7 実施可能要件の具備 そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明の構成要件 Gの「エプロンを跳ね上げるのに要する力は,エプロン角度が増加する所定角 度範囲内において徐々に減少」するという構成を当業者が実施できる程度に明 確かつ十分に記載されているものと認められ,本件明細書の発明の詳細な説明 の記載は構成要件Gを当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されてい ないから実施可能要件を欠き特許法36条4項1号の規定に違反しているとし た本件審決の判断は誤りである。 被告は種々の主張をするが,いずれも上記の結論を左右するものではない。 8 結論 以上によれば,本件審決には,これを取り消すべき違法があり,原告主張の 取消事由は理由がある。 よって,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
56裁判官中平健57別紙図1(原告従業員作成の平成31年3月22日付け陳述書である甲60(審判乙14)5頁の図面)58別紙図2(原告従業員作成の平成31年3月22日付け陳述書である甲60(審判乙14)3頁の図面)59別紙図3(被告提出の平成30年9月25日付け口頭審理陳述要領書である甲71の26頁の図面)60別紙図4(原告従業員作成の平成31年3月22日付け陳述書である甲60(審判乙14)7頁のグラフ)61別紙図5(原告従業員作成の令和元年8月22日付け陳述書である甲64(審判乙18)6頁のグラフ)62別紙6(原告作成平成31年2月7日付け口頭審理陳述要領書(2)である甲78の6頁14行目〜10頁14行目)(6)「3(5)(無効理由4:本件発明と検甲第1号証・甲第14号証・甲第18」号証との違い)について被請求人の平成30年10月9日付け口頭審理陳述要領書(以下「被請求人要領書(1)」という。)21頁2〜8行で説明したとおり、本件明細書【0028】に記載された「てこの原理」とは、第1の支点(支点140)を「支点」とし、ガススプリングの力が及ぼされる第3の支点を「力点」とし、エプロンの重心位置を「作用点」として、ガススプリングの力によってエプロンの持ち上げをアシストする力(アシスト機構が作用する力、すなわち「アシスト力」)を得るための論理である。 そして、 「エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に減少」するという論理を、「てこの原理」で言い換えると、 エプロン角度が増加するにつれて、「てこの原理」の作用点(エプロンの重心位置)において得られる「アシスト力」が徐々に増加するという論理をいう。 また、本件発明においてエプロン角度が増加するにつれて「アシスト力」が徐々に増加する論理は、被請求人要領書(1)21頁16〜24行で説明したとおり、 「エプロン角度が増加するにつれて、ガススプリング自体の力(F)は小さくなる(F1>F2)が、その差は小さいのに対して、エプロン角度が増加するにつれて、 sinθの値が増加(sinθ1>sinθ2)する割合のほうが大きい」ので、 「てこの原理」の作用点(エプロンの重心位置)において、エプロンを持ち上げる方向に作用する力(アシスト力)は、エプロン角度が増加するにつれて大きくなる(F1sinθ1 「てこの原理」における「力点」に及ぼされるガススプリング自体の力(F)が、エプロン角度の増加に伴って徐々に減少するにもかかわらず、 「てこの63原理」における「作用点」において得られるアシストカは、エプロン角度の増加に伴って徐々に増加するということを、本件明細書では、「てこの原理」により、逆「の特性(エプロン角度が大きくなるほどアシスト機構が作用する力1が大きくなる。)を奏する。(本件明細書【0028】」)と表現している。 したがって、例えば、@エプロン角度が増加するにつれて、ガススプリング自体の力が大きくなる(F1 「F1sinθ1>F2sinθ2」という関係が成立し、 「アシスト力」は、エプロン角度が増加するにつれて徐々に減少するから、エプロンを跳ね上げるのに要する力は、エプロン角度が増加する所定角度範囲内において徐々に「増加」することになる。 具体的には、@の場合について、 「エプロン角度が増加するにつれて、ガススプリング自体の力は小さくなる(F1>F2)」という本件発明における論理は、 「圧縮状態の力のほうが、伸長状態の力よりも大きい」というガススプリングの特性を前提とし、かつ、エプロンが下降した状態でガススプリングが圧縮状態になり、エプロンが跳ね上げられた状態でガススプリングが伸長状態になるような方向でガススプリングが作業機に取り付けられていることを前提としている。 したがって、例えば、エプロンが下降した状態でガススプリングが伸長状態になり、エプロンが跳ね上げられた状態でガススプリングが圧縮状態になるように、ガススプリングの作業機に対する取り付け方向を逆にすれば、エプロン角度が増加するにつれて、ガススプリング自体の力が大きくなる(F1 64この点について、請求人は、乙第3号証に基づき、 「ガススプリングが広範囲のストロークで略一定のバネ力を発揮することは、当業者の技術常識である」(請求人要領書(1)25頁4〜8行)と主張する。 しかし、乙第3号証には「Aバネ定数とガス反力を広い範囲で設計することができます。、 」「E用途に応じた設計が可能なため、幅広い用途に対応できます。(乙第」3号証1頁「特長」)とも記載されている。 また、乙第6号証には、シリンダー内部に充填されているガスがピストンによって圧縮されることにより反力が上昇する程度(変化率)を算出することができること、ピストンロットとシリンダーの径サイズの組み合わせ、及びストローク長、ガススプリングの全長の数値から、変化率およそ35%や100%のガススプリングを設計することができること(乙第6号証2頁)ガススプリングの伸長時の基準反、 力(F1)に変化率の数値(変化率35%であれば「1.35」)を掛けることによって、圧縮時の反力(F2)を算出することができること、 「高い変化率のガススプリングを選定すると反力の上昇が大きい」こと(乙第6号証3頁)が記載されている。 65このように、ピストンロットとシリンダーの径サイズの組み合わせ、及びストローク長、ガススプリングの全長の数値等を適宜選択することにより、ガススプリングの変化率を高く設定し、伸長時と圧縮時の反力の差が大きいガススプリングを用いることは容易である。 したがって、仮に、検甲第1号証・甲第14号証・甲第18号証と本件発明との支点等の位置が相違しないとしても、ガススプリングの取り付け方向を逆にしたり、 伸縮方向が異なるガススプリングを用いたりすることによって、F1 したがって、仮に、検甲第1号証・甲第14号証・甲第18号証と本件発明との支点等の位置が相違しないとしても、上述したその他の要素により、「アシスト力」が、エプロン角度が増加するにつれて徐々に減少する構造も、ほぼ一定である構造も、徐々に増加する構造も適宜設計することができる。 したがって、請求人の主張する無効理由4には理由がない。 66別紙676869707172737475767778 |
裁判長裁判官 | 鶴岡稔彦 |
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裁判官 | 上田卓哉 |