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関連審決 異議2000-72605
関連ワード 新規性 /  進歩性(29条2項) /  一致点の認定 /  上位概念 /  技術常識 /  実質的に同一 /  均等 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  新規事項追加(新規事項の追加) /  請求の範囲 /  変更 /  取消決定 / 
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事件 平成 13年 (行ケ) 335号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社ニコン
訴訟代理人弁理士 永井冬紀
被告 特許庁長官今井康夫
指定代理人 伊藤昌哉
同 高木 進
同 涌井幸一
同 鹿股俊雄
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/04/08
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が異議2000−72605号事件について平成13年6月5日にした決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「カメラの露出演算装置」とする特許第2995773号の特許(平成2年1月5日出願(以下「本件出願」という。),平成11年10月29日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は2である。以下,請求項1の発明を決定と同じく「本件発明1」といい,請求項2の発明を決定と同じく「本件発明2」という。まとめて呼ぶときは「本件発明」という。本件出願に係る願書に添付された明細書と図面とを併せて,「本件明細書」という。甲第2号証は,登録時のその内容を示す公開公報である。)の特許権者である。
平成12年6月27日,本件特許に対し,請求項1及び2のいずれについても,特許異議の申立てがなされた。特許庁は,これを異議2000-72605号事件として審理し,平成13年6月5日,「特許第2995773号の請求項1ないし2に係る特許を取り消す。」との決定をし,その謄本を原告に送達した。
上記異議の手続において,原告は,平成12年11月2日付けで,後記の内容の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)を行った。しかし,これは拒絶された。
2 本件発明の特許請求の範囲(別紙1,2参照) (1) 請求項1 被写界からの光を受けて,該被写界の測光すべき測光領域に対して輝度測定をおこない,測光領域輝度出力を発生する測光手段と, 前記測光領域の中で,かつ連続して形成された複数の素子によって焦点検出される領域に対して焦点検出を行い,焦点検出出力を発生する焦点検出手段と, 該各素子の出力を用いて前記測光領域輝度出力とは別に複数の焦点領域輝度値を算出し,該焦点領域輝度値に対応した複数の焦点領域輝度出力を発生する焦点領域輝度算出手段と, 被写体及びカメラに関連した距離に関する情報を出力する距離情報出力手段と, 該距離情報出力手段の出力に基づいて,前記焦点領域輝度算出手段によって発生される焦点領域輝度出力の中から主要被写体を含む焦点検出領域に対応する焦点領域輝度出力を露出演算に用いる露出輝度出力として,選別する選別手段と, 該選別手段によって選別された露出輝度出力を用いて露出値を算出する露出演算手段と, を有することを特徴とするカメラの露出演算装置。
(2) 請求項2 該距離に関する情報が撮影倍率であることを特徴とする請求項1のカメラの露出演算装置。
3 決定の理由 別紙決定書の写し記載のとおりである。要するに,本件訂正請求は,訂正に係る内容が,本件明細書に記載されておらず,また,本件出願時の技術常識であるとも認められないので,新規事項の追加に該当し,認められない,とした上で,本件発明は,いずれも,特開昭61-246713号公報(判決注・審判刊行物1・本訴甲第6号証,以下「甲6公報」という。)に記載された発明(以下,「引用発明」という。)に,特開昭60-213931号公報(判決注・審判刊行物2・本訴甲第7号証,以下「甲7公報」という。)に記載された技術及び特開平1-267620号公報(判決注・審判刊行物3・本訴甲第8号証,以下「甲8公報」という。)に記載された技術を適用して,容易に推考できたものであるから,特許法29条2項に該当する,とするものである。
4 決定が認定した,引用発明の内容,本件発明1と引用発明との一致点・相違点 (1) 引用発明の内容 「被写界からの光を受けて,該被写界の測光すべき測光領域に対して輝度測定をおこない,測光領域輝度出力を発生する測光手段と,前記測光領域の中で,かつ連続して形成された複数の素子によって焦点検出される領域に対して焦点検出を行い,焦点検出出力を発生する焦点検出手段と,前記測光領域輝度出力とは別に複数の焦点領域輝度値を算出し,該焦点領域輝度値に対応した複数の焦点領域輝度出力を発生する焦点領域輝度算出手段と,前記焦点領域輝度算出手段によって発生される焦点領域輝度出力の中から主要被写体を含む焦点検出領域に対応する焦点領域輝度出力を露出演算に用いる露出輝度出力として,選別する選別手段と,該選別手段によって選別された露出輝度出力を用いて露出値を算出する露出算出手段と,を有することを特徴とするカメラの露出演算装置」(決定書5頁9行目〜19行目) (2) 本件発明1と引用発明との一致点 「被写界からの光を受けて,該被写界の測光すべき測光領域に対して輝度測定をおこない,測光領域輝度出力を発生する測光手段と,前記測光領域の中で,かつ連続して形成された複数の素子によって焦点検出される領域に対して焦点検出を行い,焦点検出出力を発生する焦点検出手段と,前記測光領域輝度出力とは別に複数の焦点領域輝度値を算出し,該焦点領域輝度値に対応した複数の焦点領域輝度出力を発生する焦点領域輝度算出手段と,前記焦点領域輝度算出手段によって発生される焦点領域輝度出力の中から主要被写体を含む焦点検出領域に対応する焦点領域輝度出力を露出演算に用いる露出輝度出力として,選別する選別手段と,該選別手段によって選別された露出輝度出力を用いて露出値を算出する露出演算手段と,を有することを特徴とするカメラの露出演算装置」(決定書6頁28行目〜38行目)である点 (3) 本件発明1と引用発明との相違点 「A前者(判決注・本件発明1)は,各素子の出力を用いて複数の焦点領域輝度値を算出したのに対して,後者(判決注・引用発明)は,受光センサー13のAF用ピクセルとAE用ピクセルとは同一素子ではないから,各素子の出力を用いてとは言えない点, B前者は,被写体及びカメラに関連した距離に関する情報を出力する距離情報出力手段を有するのに対して,後者は,そのような構成を有しない点, C前者は,距離情報出力手段の出力に基づいて,焦点領域輝度出力を選別するのに対して,後者はそのような記載がない点」(決定書6頁39行目〜7頁6行目) (以下,それぞれ「相違点A)」,「相違点B」,「相違点C」という。)
原告の主張の要点
決定は,本件訂正請求が新規事項を含むと誤って判断して,これを拒絶した。
仮に,本件訂正請求が認められないとしても,決定は,本件発明1と引用発明との一致点の認定を誤って,その結果相違点を看過し,さらに自らが認定した相違点についての判断も誤った。これらの誤りがそれぞれ本件発明1についての決定の結論に影響することは,明らかである。
決定は,本件発明1についての認定判断を誤った結果,本件発明2についての認定判断も誤っている。
したがって,決定は,いずれの請求項についても,違法として取り消されるべきである。
1 本件訂正請求についての判断の誤り (1) 本件訂正請求に係る訂正の内容は,本件発明1の請求項の記載を, 「被写界からの光を受けて,該被写界の測光すべき測光領域に対して輝度測定をおこない,測光領域輝度出力を発生する測光手段と, 前記測光領域の中で,かつ連続して形成された複数の素子によって焦点検出される領域に対して焦点検出を行い,焦点検出出力を発生する焦点検出手段と, 該各素子の出力を用いて前記測光領域輝度出力とは別に複数の焦点領域輝度値を算出し,該焦点領域輝度値に対応した複数の焦点領域輝度出力を発生する焦点領域輝度算出手段と, 被写体及びカメラに関連した距離に関する情報を出力する距離情報出力手段と, 該距離情報出力手段の出力に基づいて,前記焦点領域輝度算出手段によって発生される焦点領域輝度出力の中から主要被写体を含む焦点検出領域に対応する焦点領域輝度出力を露出演算に用いる露出輝度出力として,選別する選別手段と, 該選別手段によって選別された露出輝度出力と,前記測光手段によって発生される測光領域輝度出力との差に応じて,露出値の算出方法を異ならせる 露出演算装置と, を有することを特徴とするカメラの露出演算装置。」 と訂正することを内容とするものである(甲第10号証)。
(判決注・下線部が訂正部分である。この訂正後の請求項1を,「訂正後請求項1」という。)。
(2) 決定は,「「前記測光手段によって発生される測光領域輝度出力との差に応じて,露出値の算出方法を異ならせる」ことに関しては,願書に添付した明細書に記載されておらず,また,当該訂正事項が出願時の技術常識であるとも認められず,新規事項の追加に該当する。」(決定書1頁29行目〜2頁3行目),としている。
(3) 本件明細書の図面には,主要被写体に対応するように選別された焦点検出出力による輝度値Bcを演算する点(第2図(c)ステップS27),及び,測光手段から発生する測光領域輝度値R(I)の平均値である輝度値BRを演算する点(同図ステップS29)が記載され,ステップS30においてBR-B c≦2が否定されると,主要被写体に対応する焦点検出出力による輝度値Bcで輝度演算値Bを演算し(同図ステップS32),BR-B c≦2が肯定されると(B c+B R)/2で輝度演算値Bを演算し(同図ステップS31),この輝度演算値Bを露出制御手段14に出力することが記載されている。すなわち,訂正前明細書記載の実施例では,焦点検出出力に基づく輝度値Bcと測光手段から発生する測光領域輝度値R(I)の平均値である輝度値BRとの差である(B R-B c)に応じて輝度値演算の算出方法を異ならせている。
(4) したがって,「選別手段によって選別された露出輝度出力と,前記測光手段によって発生される測光領域輝度出力との差に応じて,露出値の算出方法を異ならせる」点は本件明細書に記載されている。
訂正を認めなかった決定の判断は,誤りである。
2 本件発明1と引用発明との一致点の認定の誤りの1 (1) 決定は,引用発明が,測光領域の中で,かつ連続して形成された複数の素子によって焦点検出される領域に対して焦点検出を行い,焦点検出出力を発生する焦点検出手段を有する,と認定し,この認定に基づいて,本件発明1と引用発明とが上記構成を有する点において一致すると認定した。
決定は,上記認定をする過程で,引用発明につき,「第4図(B)(判決注・甲6公報4図(B))からよくわかるように,測光領域(受光センサー13全体)の中で複数の素子(AF用ピクセル)により焦点を検出して焦点検出出力を発生しているから,焦点検出手段を当然に備えている。」(決定書4頁16行目〜18行目)と説示している。
(2) 甲6公報の第4図(B)に示されている,市松模様のエリヤセンサー13では,測光に用いるピクセル(AE用ピクセル)と焦点検出に用いるピクセル(AF用ピクセル)とが隣接して配置されている。このような配置のなされているものを,測光領域の中に焦点検出領域があるということはできない(別紙3参照) (3) 甲6公報の第8図に示すような,市松模様のエリヤセンサーを用いてAE用受光センサーとAF用受光センサーとを兼用する構成を採用する限り,AF用ピクセルを連続して配置することはできず,AE用受光出力とAF用受光出力とを撮影画面内の同じ位置で検出することは不可能である。つまり,上記構成を採用する限り,本件発明1の構成の一部である,「測光領域の中で,かつ連続して形成された複数の素子」を実現することができないのである。
(4) 決定は,一致点の認定において,甲6公報中の,「この実施例ではフィル夕18が市松模様に取り付けられているが,これに限定されるものではなく,例えばエリヤセンサーを二分するように,その半分にフイルタ13を設けてもよい。」(3頁左上欄1行目〜5行目)との記載を摘示し,「エリヤセンサーを二分するようにその半分にフィルタ13を設ければ,AF用ピクセル同士が完全に連続して形成されることになるから,本件発明1の「前記測光領域の中で,かつ連続して形成された複数の素子によって焦点検出される領域に対して焦点検出を行い,焦点検出出力を発生する焦点検出手段」が記載されている。」(決定書4頁19行目〜23行目),と説示している。
エリヤセンサー13を二分するとは,別紙4のとおり,上下又は左右に二分することであり,これでは,AE用ピクセルが,主要被写体を検出したAF用ピクセルと離れてしまうことになる。
そのような構成では,複数の測距用の素子を連続して形成することはできても,それらを測光領域の中に形成することはできない。これでは,そもそも,AF用ピクセルで検出した主要被写体若しくはその近傍の輝度を,AE用ピクセルからの出力で検出することができなくなる。
(5) 上記の点について本件発明1と引用発明が一致するとした決定の認定は,誤っている。
3 本件発明1と引用発明との一致点の認定の誤りの2 (1) 決定は,引用発明が「測光領域輝度出力とは別に複数の焦点領域輝度値を算出し,該焦点領域輝度値に対応した複数の焦点領域輝度出力を発生する焦点領域輝度算出手段」を有すると認定し,本件発明1と引用発明とが,この構成を有する点で一致すると認定した。
(2) 本件発明1の焦点領域輝度算出手段は,焦点検出手段を測光手段とは別の光電変換素子としつつ,これで焦点領域輝度値をも測定するようにしたために,必要となる構成である。
これに対し,引用発明は,AF用ピクセルからの焦点検出出力を輝度値として使用することをしていない。AF用ピクセルが設けられた受光センサー13上に,AF用ピクセルとは別に,AE用ピクセルを設け,このAE用ピクセルからの検出出力を輝度値として用いている。したがって,引用発明では,AF用ピクセルからの焦点検出出力を輝度値とするための手段は,およそ不要である。
(3) 引用発明における,AE用ピクセルからの出力の平均値は,スポット測光時に主要被写体からの反射光が入射するAF用ピクセルの近接位置にあるAE用ピクセル(以下「近接AEピクセル」という。)の出力に対する重み付け係数を設定するための値であり,それ自身露出演算に使用されるものではないから,本件発明1の「測光領域輝度出力」に相当するものではない。
(4) 被告は,引用発明の,近接AEピクセルの出力を取り出す手段は,本件発明1の「測光領域輝度出力とは別に複数の焦点領域輝度値を算出し,該焦点領域輝度値に対応した複数の焦点領域輝度出力を発生する焦点領域輝度算出手段」に相当する,と主張している。
被告のこの主張は,近接AEピクセルの出力を取り出す引用発明の技術事項が,本件発明1の焦点領域輝度算出手段に相当する,というものである。しかし,本件発明1の焦点領域輝度算出手段は,焦点検出素子の出力そのものを用いて焦点領域輝度出力を発生するものであって,焦点検出素子とは別の素子の出力を用いる,上記引用発明のものとは異なることが明らかである。
4 本件発明1と引用発明との一致点の認定の誤りの3 (1) 決定は,引用発明が「焦点領域輝度算出手段によって発生される焦点領域輝度出力の中から主要被写体を含む焦点検出領域に対応する焦点領域輝度出力を露出演算に用いる露出輝度出力として,選別する選別手段」を有すると認定し,本件発明1と引用発明とが同構成を有する点で一致すると認定している。しかし,この認定も誤りである。
(2) 前記3のとおり,引用発明は,本件発明1の焦点領域輝度算出手段に当たるものを有していない。
(3) 引用発明は,単に,被写体との距離に応じて測距用のスリット状光束の受光位置が変わると,その受光位置に対応するAE用ピクセルから輝度値を読み出すだけのことである。このようなものを,本件発明1の選別手段に当たるとすることはできない。
(4) 決定は,要するに,スポット測光時に主要被写体からの反射光が入射するAF用ピクセルの近接位置にあるAE用ピクセル(近接AEピクセル)の出力を使用するという技術事項(甲第6号証11図の近接AEピクセルの信号取出し部51)を,焦点領域輝度算出手段であり,選別手段でもあると認定しているものである。
しかし,本件発明1は,焦点領域輝度算出手段で算出した焦点領域輝度出力を,選別手段により露出輝度出力として選別する,という,二つの異なる技術事項を含んでいる。このような構成は,引用発明にはない。
5 相違点Aについての判断の誤り (1) 決定は,相違点A(「前者(判決注・本件発明1)は,各素子の出力を用いて複数の焦点領域輝度値を算出したのに対し,後者(判決注・引用発明)は,受光センサー13のAF用ピクセルとAE用ピクセルとは同一素子ではないから,各素子の出力を用いてとはいえない点」)に関して, 「刊行物1のa項には,「この反射光が入射した位置と均等な位置又はこの近辺にあるピクセルを用いてスポット測光あるいは重点測光を行なって被写体輝度を求める」との記載があり,実質的に同一素子から輝度出力及び焦点検出出力の双方を得ることが示唆されている。そして,刊行物2(判決注・甲7公報)には,受光素子に結像される被写体の距離および輝度を測定し得るとの記載があるから,刊行物2に記載されたものを刊行物1(判決注・甲6公報)に適用することは,当業者なら容易に為しえたものと言える。」(決定書7頁7行目〜13行目), と判断している。
(2) 引用発明において,主要被写体からの反射光が入射した位置にあるピクセルのうち,スポット測光あるいは重点測光を行うものは,あくまでAE用ピクセルであり,AF用ピクセルではない。AF用ピクセルは焦点を検出することしかしない。両者は,近接してはいるものの,異なる素子である。「実質的に同一素子」により測光と焦点検出との両出力を得るなどということはできない。
したがって,甲7公報記載の,一つの受光素子から測距出力と輝度出力を得るとの技術思想を,引用発明に適用するということ自体,無意味である。
6 相違点Cについての判断の誤り (1) 決定は,相違点C(「前者(判決注・本件発明1)は,距離情報出力手段の出力に基づいて,焦点領域輝度出力を選別するのに対して,後者(判決注・引用発明)はそのような記載がない点」)について, 「刊行物3(判決注・甲第8公報)には,「露出補正手段3により前記測光誤差を相殺するような補正値を種々の撮影条件に応じて予め設定しておいて,各測光手段1,2の測光値BVC,BV Oから前記測光誤差を相殺するように補正値を差し引くことにより,適正な制御輝度値BVTを得るものである。」との記載があり,撮影倍率βの影響を考慮して測光値を補正し,適正な制御輝度値BVTを得るのであるから,相違点Cは刊行物3に開示されている。そして,刊行物1および3は,同じ技術分野に属するから,刊行物3に記載されたものを刊行物1に適用することは,当業者なら容易に為しえたものと言える。」(決定書7頁19行目〜27行目) と説示している。
(2) 甲8公報の発明では,単に,主要被写体の像(以下,主要被写体の像を,単に「主要被写体」ということがある。)が撮影画面中央部に位置することを前提として,撮影倍率に応じて撮影画面全体に占める主要被写体の割合が変化することから,中央部の測光値BVcと周辺の測光値BV oの補正量を変更して最適な制御輝度値BVTを算出するだけである。本件発明1がしているように,複数の素子から出力される焦点検出出力に基づいて算出された焦点領域輝度値出力の中から主要被写体を含む焦点検出領域に対応する焦点領域輝度出力を選別することはしていない。したがって,甲8公報には相違点Cに係る本件発明1の構成の記載はない。
(3) 甲8公報の発明の,距離情報(撮影倍率)に基づいて主要被写体の制御露出値を補正するとの技術事項を引用発明に適用しても,相違点Cに係る本件発明1の構成には至らない。
すなわち,引用発明では,距離に応じて焦点検出用スリット状光束の受光位置が一義的に決まっているものであり,選別という概念がないからである。引用発明に刊行物発明3の上記技術事項を適用する余地はない。
7 本件発明2の進歩性についての判断の誤り 本件発明1についての判断が誤りであるから,本件発明1についての判断を前提とする本件発明2についての判断も誤りである。
被告の反論の要点
1 原告の主張1(本件訂正請求の適否についての判断の誤り)に対して (1) 本件明細書(甲第2号証参照)における,請求項1で用いられいてる文言と,〔実施例〕(甲第2号証2頁3欄41行目〜6頁11欄20行)で使用されている用語との間には,それぞれ,次のような対応関係がある。
ア〔実施例〕における「測光素子8」(2頁4欄2行目)と「測光回路9」(4欄8行目)とから成る「測光手段」(4欄11行目)及び「測光手段」から発生される「輝度出力」(4欄10行目)が,それぞれ,請求項1記載の「測光手段」及び「測光領域輝度出力」に, イ〔実施例〕における「輝度算出手段11」(4欄43行)及び「輝度値出力」(4欄44行)が,請求項1記載の「焦点領域輝度算出手段」及び「焦点領域輝度出力」に, ウ〔実施例〕における「選別手段12」(3頁5欄3行目)により選別された素子群NL〜N Rの「輝度値出力」(C(N L)〜C(N R))が,請求項1記載の「露出輝度出力」に, エ〔実施例〕における「輝度演算値B」(5頁10欄本文20行目)が,請求項1記載の「露出値」に, 対応する。
(2) 〔実施例〕の「露出演算手段13」は,選別された素子群NL〜NRの「輝度値」であるC(NL)〜C(N R)の平均値B cを算出し,「輝度出力」の平均値BRを算出し,これら二つの平均値の差が2以下のときは,輝度演算値Bをこれらの二つの平均値(Bc十B R)/2とし,平均値の差が2より大きいときは,輝度演算値BをBcとする構成とされている。
そうすると,本件明細書の〔実施例〕には,「選別手段によって選別された露出輝度出力の平均値と,測光手段によって発生された測光領域輝度出力の平均値との差が2以下のときは,露出値を前記露出輝度出力の平均値と前記測光領域輝度出力の平均値との平均値とし,前記差が2より大きいときは,露出値を前記測光領域輝度出力の平均値とする露出演算手段」が記載されているのみである。
(3) 他方,訂正後請求項1記載の,「選別手段によって選別された露出輝度出力と,前記測光手段によって発生される測光領域輝度出力との差に応じて」において,「露出輝度出力」と「測光領域輝度出力」は,ともに複数個存在する。これらの差を取ること(どのように差を取るのかも不明である)と,上記〔実施例〕に記載されている「露出輝度出力の平均値」と「測光領域輝度出力の平均値」の差を取ることは,互いに,技術的に全く異なる。
(4) 訂正後請求項1記載の「露出値の算出方法を異ならせる露出演算手段」は,訂正前の〔実施例〕として記載されている「差が2以下のときは,露出値を前記露出輝度出力の平均値と前記測光領域輝度出力の平均値との平均値とし,前記差が2より大きいときは,露出値を前記測光領域輝度出力の平均値とする露出演算手段」の上位概念であり,訂正前の〔実施例〕以外の構成をも含むことは明らかである。
(5) したがって,訂正後請求項1の「選別手段によって選別された露出輝度出力と,前記測光手段によって発生される測光領域輝度出力との差に応じて,露出値の算出方法を異ならせる露出演算手段」を,本件明細書に記載した事項の範囲内のものということはできない。
2 原告の主張2(一致点認定の誤りの1)に対して (1) 原告は,甲6公報の「例えばエリヤセンサーを二分するように,その半分にフィルタ13を設けてもよい。」(3頁左上欄3〜5行)という記載から,AE用ピクセルとAF用ピクセルを上下又は左右に二分した構成を想定し,主張を展開している。
上記記載から原告主張のような構成をも想定することができることは,認める。しかし,原告自ら主張するように,そのような構成では,AF用ピクセルとAE用ピクセルとが離れてしまい,引用発明の作用効果を奏することができない。
そして,そのことは,当業者なら容易に理解し得るところである。引用発明の上記記載は,原告が主張するような構成を示唆するものではない。
(2) 引用発明の作用効果を奏するためには,AF用ピクセルとAE用ピクセルとが近接した構成であることが必要である。甲6公報の「フィルタ18が市松模様に取り付けられているが,これに限定されるものではなく」(3頁左上欄1〜3行)という記載は,AF用ピクセルとAE用ピクセルの配置が市松模様に限定されないことを示していること,「その半分に」という記載は,面積としての半分をも意味すること,及び,一般にアクティブ測距装置においては,受光センサが連続して形成された複数の素子から成る構成が周知であること(乙第1号証3頁左上欄17〜20行,第1図参照)(別紙5)からは,引用発明の「例えばエリヤセンサを二分するように」という記載は,例えば,別紙6のように,一列ごとにAF用ピクセルとAE用ピクセルを交互に配置した構成を示唆するものであり,そのことは,当業者が容易に理解し得ることである。
(3) この配置では,AE用ピクセルが配置された領域が測光領域であり,AF用ピクセルはAE用ピクセルに隣接して配置されているのであるから,AF用ピクセルは前記測光領域の中に形成されたものということができる。
したがって,引用発明が,「測光領域の中で,かつ連続して形成された複数の素子によって焦点検出される領域に対して焦点検出を行い,焦点検出出力を発生する焦点検出手段」を有する,との決定の認定に誤りはない。
3 原告の主張3(一致点認定の誤りの2)に対して (1) 引用発明の,AE用ピクセルの出力の平均値を算出する手段,及び近接AEピクセルの出力を取り出す手段は,それぞれ本件発明1の「被写界からの光を受けて,該被写界の測光すべき測光領域に対して輝度測定をおこない,測光領域輝度出力を発生する測光手段」,「測光領域輝度出力とは別に複数の焦点領域輝度値を算出し,該焦点領域輝度値に対応した複数の焦点領域輝度出力を発生する焦点領域輝度算出手段」に相当することが明らかである。決定に,原告が主張する認定の誤りはない。
(2) 原告は,本件発明1の焦点領域輝度算出手段は,焦点検出手段を測光手段とは別の光電変換素子としたからこそ必要となる構成である,と主張する。
しかし,請求項1には,焦点検出手段と測光手段とが別の光電変換素子であることは何ら規定されていない。
(3) 原告は,引用発明について,AF用ピクセルが設けられた受光センサー13上にAE用ピクセルを設け,このAE用ピクセルからの検出出力を輝度値として用いるのであるから,AF用ピクセルからの焦点検出出力を輝度値とするための手段はそもそも不要である,と主張する。
しかし,決定は,引用発明がAF用ピクセルからの焦点検出出力を輝度値とする手段を有すると認定しているわけではない。(1)で述べたとおり,決定は,近接AEピクセルが,被写体を検出したAF用ピクセルと実質的に同一素子であるとして,近接AEピクセルの出力が焦点領域輝度出力である,としているのである。
(4) 原告は,引用発明における,AE用ピクセルからの出力の平均値は,それ自身露出演算に使用されるものではない,と主張する。
しかし,そもそも,本件発明1の請求項1にも,測光領域輝度出力を露出演算に使用する構成は記載されていない。
4 原告の主張4(一致点の認定の誤りの3)に対して (1) 原告は,引用発明は,焦点領域輝度算出手段を有さない,と主張する。
しかし,引用発明が焦点領域輝度算出手段を有することは,3で述べたとおりである。
(2) 原告は,本件発明1が,焦点領域輝度算出手段で算出した焦点領域輝度出力を,選別手段により露出輝度出力として選別するのに対し,引用発明はこのような選別手段を有さない,と主張する。
引用発明において,主要被写体を検出したAF用ピクセルに近接した位置にあるAE用ピクセル(近接AEピクセル)を輝度算出用のピクセルと決定することは,正に,焦点領域輝度出力の中から,主要被写体を含む焦点領域に対応する焦点領域輝度出力を選別していることにほかならない。
原告の主張は,失当である。
5 原告の主張5(相違点Aについての判断の誤り)に対して (1) 甲6公報には,「多数のピクセルのうち主要被写体を検出したAF用ピクセルに近接した位置にあるAE用ピクセル(判決注・近接AEピクセル)の出力を取り出すことにより,スポット測光を行い,得られた被写体輝度を用いて露光量を算出する。」(3頁左下欄3行目〜8行目)との記載,及び,「前記ピクセルは,AF用とAE用とに区別されているために,主要被写体を検出したAF用ピクセルでは,外光を測定することができない。そこで,このAF用ピクセルに近接した位置にある1個のAE用ピクセル(近接ピクセル)を主要被写体を検出したピクセルと仮定する。」(4頁右下欄1〜6行)との記載がある。
これらの記載から,甲6公報に接した当業者は,主要被写体の輝度を測光する場合,主要被写体自体はAF用ピクセルの受光位置で判別できるものの,同ピクセルでは輝度を測光できないので,同ピクセルに近接した位置にあるAE用ピクセル(近接AEピクセル)が主要被写体の輝度を検出したピクセルであると仮定して,輝度を測定する,という技術思想を把握することができる。そして,これからは,一つのピクセルでAF用・AE用の双方の測定ができることが理想的であることをも,容易に理解することができるのである。
すなわち,甲6公報には,同一の素子から輝度出力及び焦点検出出力の双方を得ることができればより好ましいということが,示唆されているのである。
(2) したがって,甲6公報に,「実質的に同一素子から輝度出力及び焦点検出出力の双方を得ることが示唆されている。」(決定書7頁10行目〜11行目)との決定の認定に誤りはない。そして,一つの素子で,AF用・AE用両方の出力が得られる構成が甲7公報に開示されている以上,「刊行物2に記載されたものを刊行物1に適用することは,当業者なら容易に為しえたものと言える。」(決定書7頁12行目〜13行)ことは,明らかである。
6 原告の主張6(相違点Cについての判断の誤り)に対して (1) 甲8公報には,本件発明1のもののような,距離に関する情報(撮影倍率も含む。)に基づいて,複数の測光素子の中から主要被写体を含む焦点領域輝度出力を選別する構成が,直接記載されているわけではない。これは,原告が主張するとおりである。
(2) しかし,甲8公報に接した当業者は,撮影倍率により主要被写体の画面内で占める割合が変化するので,撮影画面を複数の領域に分けて測光する構成においては,撮影倍率を考慮して,輝度値を得る必要があるという技術思想を読み取ることができる。
そして,引用発明では,撮影倍率により主要被写体の画面内で占める割合が変化すると,主要被写体からの光を受けるAE用ピクセルの数が変わることは,当業者であれば容易に理解し得ることである。そうすると,引用発明において,多数のAE用ピクセルの中から,撮影倍率に応じて露光量算出に使用するAE用ピクセルを選別することは,当業者が容易に想到し得ることである。
(3) 原告は,引用発明では,距離に応じて焦点検出用スリット状光束の受光位置が一義的に決まっているものであり,甲6公報には選別という概念は記載されていない,と主張する。
発光ダイオードから発したスリット状光束が被写体で反射された光を受光して測距する際に,受光位置が一義的に決まることは当然である。しかし,そうであるとしても,自動的に露出値を算出するために,被写体からの光をそのまま受光して測光する際には,被写体の距離に応じて受光位置が一義的に決まる,というわけのものではないことは,当業者には常識である。この際には,当然,選別が行われることになる。
原告の主張は,このAF用の受光とAE用の受光との違いを理解せずに行っているもので,全く当を得ないものである。
7 原告の主張7(本件発明2の進歩性についての判断の誤り)に対して 本件発明1についての判断に誤りはないから,本件発明2についての判断にも誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件発明1の理解について (1) 本件発明1に係る本件明細書の記載 本件明細書(その内容は,請求項1の部分を除き,本件訂正前後によって変わるところはない。)には,以下のとおりの記載がある。
ア 特許請求の範囲の記載は,第2の2のとおりである。本件訂正は,これを第3の1の(1)で原告が主張するとおりに訂正しようとするものである(甲第10号証,弁論の全趣旨)。
イ「〔産業上の利用分野〕本発明は,カメラの露出演算装置に関するものである。
〔従来の技術〕従来この種の装置としては,特公昭60-1603や特開昭62-187832等があった。これらの装置は,測距用素子の出力から輝度値を算出して,露出演算を行うものであった。
〔発明が解決しようとする課題〕上記の如き従来の技術においては,測光に兼用される測距用素子の一部が主要被写体から外れた部分を測光したような場合,算出される露出値は適正な露出値から大幅にずれる場合があった。これは,はみ出した部分が主要被写体とは異なる部分を測光するため生ずるものであり,はみ出した部分が多い程,適正な露出値からのずれる量は大きくなりやすい。
本発明はこのような従来の問題点に鑑みてなされたもので,主要被写体からはみだした部分の大小に左右されることなく,適正な露出値を算出しうる露出演算手段を提供することを目的とする。
〔課題を解決する為の手段〕上記問題の解決の為に,本発明では (i)被写界からの光を受けて,該被写界の焦点検出すべき焦点検出領域に対して焦点検出を行い,焦点検出出力を発生する焦点検出手段と, 該焦点検出出力を用いて輝度値を算出し,該輝度値に対応した輝度出力を発生する輝度算出手段と, 被写体及びカメラに関連した距離に関する情報を出力する距離情報出力手段と, 該距離情報出力手段の出力に基づいて,該輝度出力の中から主要被写体を含む焦点検出領域に対応する輝度出力を露出演算に用いる輝度出力として選別する選別手段と, 該選別手段によって選別された輝度出力を用いて露出値を算出する露出演算手段と, を有するようにカメラの露出演算装置を構成した。
〔作用〕本発明においては,被写体及びカメラに関連した距離に関する情報を用いて,測光に兼用する測距用光電変換素子の出力の中から,露出演算に用いる輝度出力を選別するようにした。
これにより主要被写体を含む焦点検出領域に対応する光電変換素子の輝度出力の選別が可能になる。
従って主要被写体を重点的に測光し,主要被写体以外のものによる影響を少なくすることが可能となる。
(甲第2号証1頁2欄10行目〜2頁3欄40行目) ウ「〔実施例〕 ・・・測光回路9は測光素子8の5個の光電変換素子8a〜8eからの測光出力を受け,それぞれの輝度値を算出し対応する輝度出力を発生する。
測光手段(一部不図示)は測光素子8と測光回路9とを主な構成部分とする。
光電変換素子列群3は焦点検出用である。対応する画面上において横方向に配列された一対の光電変換素子列3a,3bと,縦方向に配列された一対の光電変換素子列3c,3dと合計4個の光電変換素子列から構成されている。・・・ 4個の光電変換素子列は撮影レンズ1を介して入射した光が,4個の十字状に配置された再結合レンズ(不図示)を通過し結像する面に配置されている。
このとき撮影レンズ1の予定焦点面,即ち画面上における4個の光電変換素子列の像は,横方向に配列された一対の光電変換素子列3aと3b,縦方向に配列された一対の光電変換素子列3cと3dがそれぞれ重なり合って,第4図に示される如き十字の領域となり,この領域を測距することになる。・・・ (同2頁3欄41行目〜4欄28行目) エ「光電変換素子列群3からの出力は焦点検出回路4において焦点検出出力として発生し,焦点位置の情報として,レンズ駆動手段5へ送られる。
輝度算出手段11は,光電変換出力から輝度値を算出し且つ対応する輝度値出力を発生する手段である。・・・ 選別手段12へは,焦点検出出力及び輝度算出手段11において算出された輝度値出力が入力される。
距離情報出力手段6は,撮影レンズ1が駆動され設定された位置に対応する撮影距離,通常はカメラのアパーチャー面から被写体までの距離x〔mm〕を撮影レンズ1より,又撮影レンズ1の焦点距離f〔mm〕をレンズ内ROM2よりそれぞれ入力する。ここで焦点距離f〔mm〕を距離x〔mm〕で除す,除算を行って撮影倍率f/xを算出し,撮影倍率に関する出力を選別手段12へ出力する。・・・」 (同2頁4欄37行目〜3頁5欄11行目) オ「選別手段12は,距離情報出力手段6,撮影シーン設定手段7及び姿勢検知手段10の各出力に基づいて,輝度換算手段11から出力される複数の輝度値出力の中から輝度値出力を選択抽出し,露出演算手段13に入力する。
露出演算手段13は,この選択された輝度値出力と,測光回路9から出力される5個の光電変換素子8a〜eの出力とを受けて適正露出値を演算し,露出制御手段14に出力する。」 (同3頁5欄28行目〜35行目) カ「次に,第2図(A)〜第2図(C)を用いて,本実施例の演算過程を説明する。・・・ ステップS15において,次の演算を行いW値を求める。
f W=250×─── x ここにW値は,適正な露出値を与えたい主要被写体の,撮影レンズ1により結像した像の画面上における幅に相当する値である。・・・ ステップS16において,選別手段12は,光電変換素子列群3を構成する素子(第3図)の中でどの位置にある素子(第3図)において最もピントズレ量が小さいかを,即ち合焦に近いかを検知し,その位置の番号NCを読み込む。N Cは素子位置1〜Sの中から決定される。・・・ ステップS17において,所定幅としてW値0.5を定め,W≧0.5であるか否かを判別する。
W=0.5は画面上で0.5mmに対応するものであり,焦点距離50mmのレンズで5m先の人物の鼻の幅の程度に相当し,これを所定幅とする。所定幅の意味は実際上意味のある最小幅である。
W≧0.5のときは,即ち主要被写体の幅が撮像面で所定幅以上のときはステップS18へ進む。・・・ 次にステップS18〜S20において,光電変換素子列3a〜dの測光に用いる素子群の一端の素子の番号NLと他端の素子の番号N Rとを演算する。・・・従って NL=N C-25 N R=N C+25となり,N Cを中心に両側に各25素子,合計51素子を光電変換素子列群3の中の測光に用いる素子群とする。」 (同3頁5欄38行目〜5頁9欄6行目,10欄4行目) キ「ステップS26において C(I)=C0-Klog 2T(I)なる式によって,各素子毎に輝度値への算出を行う。ここに,C0は換算定数,Kは換算係数である。・・・ 露出演算手段13においてはステップS27において,下記の式 N R ΣC(I) I=NL B c=─────── NR-N L-1 によって選別された測光に用いる素子群の領域L1又はL2の輝度値BCを算出しステップS28へ進む。ステップS28において,測光素子8から測光回路9を介し5個の測光輝度値R(I)を読み込みステップS29へ進む。
ステップS29において,画面全体に対応する輝度値BRを次式により算出し, 5 ΣR(I) I=1 B R=─────── 5 ステップS30へ進む。ステップS30においてBR-B C≦2のときは,即ち画面中央部と画面全体における輝度値の差が小さいときはステップS31へ進む。
ステップS31において輝度演算値Bを次式により算出する。
Bc+B R B= 2 ・・・ 又たステップS30においてBR-B C>2のときは,即ち画面中央部が画面全体に比べ明るさが2EVよりも暗いときはステップS32へ進む。
ステップS32において輝度演算値Bを次式により算出する。
B=BC 即ち画面全体よりも画面中央部の輝度値に合わせ,全画面中から主要被写体を特にくっきりとさせるため適正露出に設定する。
露出演算手段13における演算はステップS31又はS32で終了し,ステップS33へ進む。
(同5頁9欄46行目〜6頁11欄6行目) ク「〔発明の効果〕 以上の様に本発明において,被写体及びカメラに関連した距離に関する情報を用いて,測光に兼用する測距用光電変換素子の出力の中から,露出演算に用いる輝度出力を選別するようになった。
又選別は主要被写体を含む焦点検出領域に対応する光電変換素子の輝度出力を基準にして行うようになった。
従って本発明によれば,主要被写体を重点的に測光し,主要被写体以外のものによる影響を少なくすることが可能となった。」 (同6頁11欄9行目〜18行目) (2) 以上のような本件明細書の記載から,訂正の前後を通じて,本件発明1は,複数の測光領域輝度出力とは別に,連続する複数の素子によって形成される領域に対して,焦点検出を行う焦点検出手段の,その複数の素子からの出力を用い,(焦点領域輝度値を算出させた上で,)複数の焦点領域輝度出力を発生させ,この複数の焦点領域輝度出力を距離情報に基づき選別し(選別の結果,主要被写体を含む焦点検出領域に対応する焦点領域輝度出力,すなわち本件発明にいう「露出輝度出力」が得られる),これと測光領域輝度出力を用いて,露出値を算出する,カメラの露出演算装置であるということができる。
そして,本件明細書には,その実施例として,複数の測光領域の測光領域輝度出力と,同じく複数の露出輝度出力とから,それぞれそれらの平均値をとること,その結果得られたそれぞれ単一の測光領域輝度出力と露出輝度出力との差が2以下かそうでないかで,露出値の算出方法を異ならせること(2以下であればそれらの平均値をとり,それを超えた場合露出輝度出力をそのまま採用する)が,開示されている。
(3) 被告は,本件発明1において,焦点検出手段と測光手段とが,別の光電変換素子であることは何ら規定されていない,と主張する。
しかし,請求項1の文言「・・・測光領域に対して輝度測定をおこない,測光領域輝度出力を発生する測光手段と,」,「前記測光領域の中で,かつ連続して形成された複数の素子によって・・・焦点検出を行い,焦点検出出力を発生する焦点検出手段と,」,「前記各素子の出力を用いて前記測光領域輝度出力とは別に複数の焦点領域輝度値を算出し」からは,それらが,別の光電変換素子であることは明らかというべきである。
2 原告の主張1(本件訂正請求を拒絶した判断の誤り)について (1) 原告の主張は,要するに,本件訂正請求に係る構成は,本件明細書に記載されている,ということである。
これに対し,被告は,@訂正後の本件発明1の請求項において,共に複数個存在する露出輝度出力と測光領域輝度出力との差をとる(どのように差をとるのかも不明である。),ということと,実施例に具体的に記載されている,それぞれの平均値の差をとることは,技術的に全く異なる,A上記差が2以下かそうでないかで,輝度演算値を,露出輝度出力と測光領域輝度出力の平均値とするか露出輝度出力とするか,ということは,本件訂正請求に係る構成である「露出値の算出方法を異ならせる露出演算手段」の一例にすぎず,訂正事項の中には,本件明細書に開示されていないものが含まれることになる,と主張する。
(2) それぞれ複数である,露出輝度出力と測光領域輝度出力との差をとる,ということの意味について,検討する。
差とは,「一つの数値と他の数値との間のひらき,さしひき」(広辞苑第四版)のことであり,差は,二つの数値の間でとられるものである。したがって,訂正後の請求項1の「選別された露出輝度出力」も,「測光領域輝度出力」も,途中段階では,それぞれ複数存在するとしても,露出演算の段階に至るまでに,何らかの方法により,いずれも一つに絞られる,と解するのが相当である。しかも,上記のとおり,本件明細書の実施例の記載には,それぞれの平均値をとることにより,一つずつに絞り込んで,その差をとる態様が開示されているのである。
被告が主張するような,不明確な点はない。
(3) 訂正前の請求項1には,「該選別手段によって選別された露出輝度出力を用いて露出値を算出する露出演算手段」との文言がある。訂正後請求項1の「露出輝度出力と,前記測光手段によって発生される測光領域輝度出力との差に応じて,露出値の算出方法を異ならせる」態様も,「露出輝度出力を用いて露出値を算出する」ことの一態様である。
そうすると,本件訂正請求に係る訂正内容は,形式的には,訂正前の請求項1の中に含まれている,ということができる。
(4) 前記のとおり,本件明細書には,実施例として,複数の焦点領域輝度出力を,距離に関する情報に基づき選別し,さらにその平均をとって,一つの露出輝度出力とする態様,及び複数の測光領域からの輝度値の平均をとって,一つの測光領域輝度出力とする態様,並びに,これらの二つの値の差が2以下である場合,露出輝度出力をそのまま露出値(輝度演算値)とし,2を超える場合は,これらの平均値を露出値として採用する態様が開示されている。
本件明細書の実施例で挙げられている態様は,それでなければ,本件発明1の目的を達成できないものとは認められない。すなわち,それは,あくまで例示にすぎないものと認められる。
他方,これは,訂正後の請求項1の「該選別手段によって選別された露出輝度出力と,前記測光手段によって発生される測光領域輝度出力との差に応じて,露出値の算出方法を異ならせる露出演算手段」の一つの例にすぎない。そのすべてとして開示されているわけではないことは明らかである。
そして,決定は,本件訂正請求を認めなかった理由として,本件訂正請求に係る訂正内容が,当業者の技術常識とは認められない,ということを挙げている。そこで,以下の点について,当業者の技術常識といえる否かについて検討する。
(5) 複数の輝度出力の中から,適正と思われる輝度出力を取り出す方法について検討する。
この点について,以下の各文献中に,次のような記載がある。
ア 特開昭61-246713号公報 「・・・なお,このスポット測光は,受光センサー13の出力の平均値を算出して,この平均値に応じて係数を選択し,この係数で近接AEピクセルの出力に重み付けすることにより,被写体輝度を算出することもできる。あるいは近接AEピクセルの出力の重みを大きくした重点測光を行うこともできるものである。」(甲第6号証3頁左下欄8行目〜15行目)) イ 特開平1-267620号公報 「[従来の技術] 従来,複数のエリアを有するカメラの露出制御装置において,各測光エリアで得られた測光値の加重平均を算出することにより,適正な制御輝度値を算出する評価測光方式が提案されている。各測光値に乗算される係数(重み係数)はゼロを含み,したがって,制御輝度値は各測光エリアで得られた測光値の最大値と最小値の間の値となる。
また,このような評価測光方式において,加重平均のための演算式を予め複数通り用意し,使用する演算式を撮影倍率に応じて切り換えることが提案されている(特開昭61-279829号公報参照)。
[発明が解決しようとする課題] 複数の測光エリアを有するカメラの露出制御装置においては,複数の測光エリアで得られた測光値から露出制御用の制御輝度値をどのようにして決定すれば,最適の露出が得られるか問題となる。特開昭61-279829号公報においては,最適の制御輝度値は各測光値を適正に加重平均すれば得られるという理解の下に,各測光値から制御輝度値を算出するための加重平均式を撮影倍率に応じて切り替えることにより,適正な露出制御を行おうとしている。」(甲第8号証2頁左上欄2行目〜右上欄5行目) (6) 以上の各文献にみられる以上の記載からは,複数の輝度出力を得て,その中から露出値を得る場合,個別の輝度出力にそれぞれ適宜重み付けをして加重平均をとることは,当業者の技術常識であった,と認めることができる。
単純平均は,厳密な言葉の定義からは加重平均といえないであろう。しかし,実際の露出値の算出において,複数の輝度出力のいずれにも重み付けをしない,すなわちすべて均等に扱って算出するという方法も,適正な露出を得るというこの種分野(カメラの露出演算・露光制御)の要求からは,撮影場面によっては当然あり得ることである。そうすると,本件に関する限り,単純平均も,加重平均の一種ということができる。
本件明細書において,単純平均でなければ,本件発明1の目的である適切な露出値を得るという目的が達成できない,と解釈すべき記載はない。むしろ,本件発明1も,得られる複数の数値に適宜重み付けをして加重平均をとることにより,数値を一つに絞り込むという,当業者の技術常識を採用することを前提としているものと認められる。
そうすると,本件明細書において,複数の測光領域輝度出力と,複数の焦点領域輝度出力の中から選別された,複数の露出輝度出力とから,それぞれ,単純平均をとる態様しか開示されていないとしても,これは,上記当業者の技術常識の一態様を,例示的に記載したものにすぎない,というべきである。
(7) 「前記測光手段によって発生される測光領域輝度出力との差に応じて,露出値の算出方法を異ならせる」との点について検討する。
ア 甲8公報には, 「従来,複数の測光エリアを有するカメラの露出制御装置において,各測光エリアで得られた測光値の加重平均を算出することにより,適正な制御輝度値を算出する評価測光方式が提案されている。」(2頁左上欄3行目〜6行目), 「第1の測光手段1により得られる中心輝度の測光値BVcと,第2の測光手段2により得られる周辺輝度の測光値BVo」(甲第8号証2頁右下欄7行目〜9行目), 「測光エリアA1,A2の大きさが一定である通常のカメラにおいては,前述の測光誤差の大きさは,・・・測光値の差分BV oc (=BV o-BV c)・・・に応じて変化する。」(同3頁左上欄7行目〜12行目) 「BV oc =1.5〜2.5程度のときに,・・・制御輝度値に対する補正値を大きく設定する必要がある。また,BV oc >2.5のときは,・・・中心輝度の測光値BVcは主被写体の輝度をほぼ適確にとらえている状態である・・・制御輝度値に対する補正値を小さく設定する必要がある。
BV oc <1のときは殆ど逆光状態ではないと考えられるので,制御輝度値を補正する必要はないと考えられる。また,BV oc が1〜1.5の範囲であるときには, BV oc が1.5〜2.5の範囲であるときに比べると,制御輝度値に対する補正値を小さく設定する必要があると言える。」(同4頁左上欄20行目〜右上欄16行目) との記載がある。
イ すなわち,甲8公報には,複数の測光エリアからそれぞれ得られる輝度出力の差に応じて,補正値を異ならせて露出値を算出する,すなわち露出値の算出方法を異ならせるという技術常識が開示されている。
(8) 本件明細書の「Bo」及び「B c」も,異なる複数の測光エリアからの輝度出力であるという観点において,甲8公報記載の「BVo」及び「BV c」に対応する,ということができ,「Bo」及び「B c」の差に応じて,露出値の算出方法を異ならせる,ということは,当業者の技術常識であるということができる。
そうすると,本件明細書の実施例の記載は,当業者の技術常識の一例として記載したものと,優に認めることができる。なお,「Bo」及び「B c」の単純平均をとったり,「Bc」をそのまま採用したりすることを,当業者の技術常識ということができる理由については,(5)及び(6)において述べたとおりである。
(9) 以上のとおり,「「前記測光手段によって発生される測光領域輝度出力との差に応じて,露出値の算出方法を異ならせる」ことに関しては,願書に添付した明細書に記載されておらず,また,当該訂正事項が出願時の技術常識であるとも認められず,新規事項の追加に該当する。」(決定書1頁末行〜2頁3行目),とした決定の認定判断は,本件訂正請求に係る構成の一部しか本件明細書には記載されていなかったとの点については正しいものの,出願時の技術常識を誤認しており,この点については誤っている。
もっとも,仮に,本件訂正請求が認められるべきであるとしても(明細書に記載されていない事項を訂正により取り込むことは,たといそれが技術常識であったとしても,当然のこととして許される,というわけではない。),「前記測光手段によって発生される測光領域輝度出力との差に応じて,露出値の算出方法を異ならせる」ことが,当業者の技術常識といえることを根拠としているものであるから,この本件訂正請求に係る訂正は,それ自体により,本件発明1に新規性,進歩性を与えることになるものではない。その意味で,決定の上記誤りは,その結論に影響しない,というべきである。
そこで,さらに,その余の取消事由について検討する。
3 原告の主張1(一致点の認定の誤りの1)について (1) 原告の主張は,要するに,引用発明には,測光領域の「中に」,「連続して」形成される焦点検出用の素子がない,というものである。
甲6公報に記載されているもののうち,別紙3(第4図(B))のような,AF用ピクセルとAE用ピクセルとを市松模様に配置した構成では,AF用ピクセルを「連続して」かつAE用ピクセルの「中に」配置したことにはならない,と認められる。
しかし,甲6公報には,AF用ピクセルとAE用ピクセルとの配置関係について,「この実施例ではフイルタ18が市松模様に取り付けられているが,これに限定されるものではなく,例えばエリヤセンサーを二分するように,その半分にフイルタ13(判決注・18の誤記と認める。)を設けてもよい。更に,ピクセルの配置もマトリックスに限られるものではなく,例えばライン状,放射状,あるいはリング状をしたピクセルを同心円状等に配置してもよい。」(甲第6号証3頁左上欄1行目〜8行目),との記載がある。
この点について,原告は,AF用ピクセルとAE用ピクセルの配置について,甲6公報には,別紙3のような市松模様のほか,別紙4のような配置が開示されているにすぎないとしている。これに対し,被告は,別紙6のような配置(AF用ピクセルの列とAE用ピクセルの列を交互に配置する。)も開示されている,と主張する。
(2) 原告が自ら主張するとおり,別紙4のような配置では,AF用ピクセルとAE用ピクセルが離れてしまうため,被写体から反射されてくる赤外光に近接するAE用ピクセルで測光するという,引用発明の作用効果を発揮することができない。しかも,そのことは,当業者が容易に理解できるものであると認められる。そうである以上,甲6公報の上記記載の下で,市松模様のほかには,このような配置だけしか開示されていない,と認めることはできない。
甲6公報は,個々のAF用ピクセルの近傍に,AE用ピクセルが置かれることを開示しており,引用発明はそのことを前提としている。そうすると,当業者は,甲6公報の上記記載から,AF用ピクセルとAE用ピクセルとをそれぞれライン状とする構成,より具体的にいえば,上記のとおり,個々のAF用ピクセルの近傍にAE用ピクセルを置くために,それぞれのラインを縦に細長いものとし,かつ交互に置く(交互に配置することは,前記「同心円状」という記載からも示唆されるところである。)構成,すなわち別紙6のような構成をも把握し得ると,すなわち,甲6公報には,このような構成も開示されていると,いうべきである。
そして,別紙6のように配置されたAF用ピクセルは,測光領域の中で,かつ連続する複数の(焦点検出用の)素子である,ということができる。
(3) したがって,この点について,決定に一致点の認定の誤りはない。
4 原告の主張3(一致点の認定の誤りの2)について (1) 引用発明の受光センサーは,「ピクセルを複数個配置し,全ピクセルのうち所定数のピクセルの受光面に可視光をカットするフイルタが設けられている。このフイルタを有するものが測距用ピクセルを構成し,フイルタがないものが輝度測定用ピクセルを構成し,それにより1個の受光センサーで測距と輝度測定とを行うことができる。」(甲第6号証2頁右上欄14行目〜左下欄1行目),というものである。
引用発明のAE用ピクセルは,(その配置が,別紙3のようなものである場合でも,別紙6のようなものである場合でも),受光センサーの事実上全面(ただし,実際に覆っている面積は半分となる。)を測光し得るように配置されるものと認められる。
甲6公報には,「・・・このレンズセット後に,受光センサー13で外光(可視光)を測光し,多数のピクセルのうち主要被写体を検出したAF用ピクセルに近接した位置にあるAE用ピクセル(以下,これを近接AEピクセルという。)の出力を取り出することにより,スポット測光を行い,得られた被写体輝度を用いて露光量を算出する。なお,このスポット測光は,受光センサー13の出力の平均値を算出して,この平均値に応じて係数を選択し,この係数で近接AEピクセルの出力に重み付けすることにより,被写体輝度を算出することもできる。あるいは近接AEピクセルの出力の重みを大きくした重点測光を行なうこともできるものである。前記露光量の算出後に,シャッタが作動してフイルムを露光する。」(同3頁左下欄2行目〜17行目),との記載がある。
この記載から,甲6公報には,受光センサー上のAE用ピクセルの出力の平均値をとり,これを露光量の決定に用いることも開示されている,ということができる。
したがって,引用発明の受光センサー及びその一部を構成するAE用ピクセルは,「被写界からの光を受けて,該被写界の測光すべき測光領域に対して輝度測定をおこない,測光領域輝度出力を発生する測光手段」に当たることが明らかである。
決定が,引用発明が,「・・・近接AEピクセルによる焦点領域に対する測光(スポット測光)の他に,受光センサー13全体(受光面にフィルタ18が取り付けられていないピクセル全部)の測光値の平均を露光量の算出に利用しており,この受光センサー13全体の輝度出力を得る手段が測光手段に該当」(決定書4頁9行目〜12行目)するとしているのは,上記認定と同様のことをいっているものと理解することができる。
(2) 原告は,引用発明のAE用ピクセルからの出力の平均値は,それ自体露出演算に使用されるものではない,と主張する。しかし,近接AEピクセルの出力に重み付けをするための比較対象として用いられることも,「露出演算に使用される」といい得ることは当然である。のみならず,甲6公報の「重み付け部45は,近接ピクセル(判決注・近接AEピクセル)と,そうでないピクセルとでは,異なった重み付け係数を用いてAE用ピクセルの信号Eijを積算し,これを加算部46で加算して重点測光を行い,被写体輝度を算出する。ここで,近接ピクセルでないものに対しては,重み付け係数を「0」にすれば,スポット測光となる。加算部46で加算された被写体輝度は,露光量演算部47に送られ,フイルム感度とともに演算されて露光量が算出される。」(甲第6号証4頁右下欄6行目〜15行目)との記載及び1図によれば,重み付けをされるにせよ,AE用ピクセルからの出力が露光量の算出に用いられることは,明らかである。
(3) 甲6公報の,(1)において摘示した引用部分,及びその11図から明らかなとおり,引用発明は,被写体の輝度を反映するものとして,全AE用ピクセルの出力の中から,別途,近接AEピクセルからの出力を取り出すものと認められる。そして,甲6公報の特許請求の範囲(2)には,「前記反射光が入射した位置又はその近辺にある少なくとも1個のピクセルの出力を他のピクセルよりも大きな重み付け係数で重み付けして加算することにより・・・」とされており,この記載からは,引用発明において,近接AEピクセルが複数個存在し,その出力として複数個を得る構成を含むことも,明らかである。
したがって,引用発明は,「測光領域輝度出力とは別に,複数の焦点領域輝度値を算出し,該焦点領域輝度値に対応した複数の焦点領域輝度出力を発生する焦点領域輝度算出手段」を備えている,と認めることができる。
この場合,近接AEピクセルが,焦点領域輝度算出手段に該当することになる。この点は,決定の「・・・受光センサー13全体の出力の平均値を出力するのとは別に,輝度測定用ピクセル(近接AEピクセル)が各々独立した出力を供給しているから,受光センサー13の輝度測定用ピクセルが「焦点領域輝度算出手段」に該当し」(甲第1号証4頁24行目〜27行目),との説示のとおりである。
(4) 原告が,一致点認定の誤りの2の根拠とするのは,要するに,引用発明においては,AF用ピクセルは測光をしない(できない)ということである。
甲6公報には,「前記ピクセルは,AF用とAE用とに区別されているたに,主要被写体を検出したAF用ピクセルでは,外光を測定することができない。」(甲第6号証4頁右下欄1行目〜3行目」と記載されている。原告の上記指摘は,それ自体としては正しい。
しかし,決定は,「受光センサー13のAF用ピクセルとAE用ピクセルとは近接して位置するとはいえ,別のものであり,厳密には同一ピクセルでないから,「該各素子の出力を用いて」ということにはならない。」(甲第1号証4頁29行目〜32行目)と認定した上で,引用発明は,「AF用ピクセルとAE用ピクセルとは同一素子でないから,各素子の出力を用いてとは言えない」点を相違点の一つ(相違点A)として摘示している。決定は,その上で,原告が,その主張において摘示しているとおり,甲6公報には,実質的に同一の素子(AF用ピクセル及び近接AEピクセル)から輝度出力及び焦点検出出力の双方を得ることが記載されており,かつ,甲7公報に開示されている,文字通り同一の受光素子で距離と輝度との双方を測定するとの技術を,引用発明に適用することができる,としているのである。
この論理は,要するに,近接AEピクセルからの出力が,AF用ピクセルの出力と同視できるため,引用発明も,焦点検出素子,すなわちAF用ピクセルと同視できる近接AEピクセルの出力を用いて焦点領域出力を発生する構成を備えているということができる,とするものであると理解することができる。
結論の当否はともかく,決定は,原告が指摘するような本件発明1と引用発明との違いを認識した上で,これを相違点とし,これについての判断を行っているのである。
(5) 以上のとおりであるから,この点についての決定の一致点の認定に誤りはない。原告の主張3は採用できない。
5 原告の主張4(一致点の認定の誤りの3について) (1) 原告の主張は,要するに,@そもそも,引用発明は,本件発明1の焦点領域輝度算出手段を有していない,A引用発明は,焦点検出用のスリット状光束の受光位置に対応するAE用ピクセル(近接AEピクセル)から,輝度値を読み出す,というものであり,これは,本件発明1の選別手段には該当しない,というものである。
(2) @の点について 引用発明が焦点領域輝度算出手段といい得るものを有していることは,4で判示したとおりである(前記のとおり,本件発明1における焦点領域輝度算出手段(測距も測光も行うことができる素子から成る。)と,引用発明におけるそれ(測距素子に近接する測光素子から成る。)とは,具体的には異なる。しかし,その相違する点は,相違点Aにおいて摘示されているから,一致点の認定として誤っているとはいえない。) (3) Aの点について 前記4(3)で摘示したとおり,決定は,引用発明の近接AEピクセルを「焦点領域輝度算出手段」に該当する,としている。そして,甲6公報には,引用発明のこの近接AEピクセルの出力を,何らかの方法で,さらに選別する手段は開示されていない。
引用発明において,本件発明1における「焦点領域輝度算出手段」に該当するのは,近接AEピクセルである,との前提に立ちつつ,引用発明が,「焦点領域輝度算出手段によって発生される焦点領域輝度出力の「中から」主要被写体を含む焦点検出領域に対応する焦点領域輝度出力を露出演算に用いる露出輝度出力として,選別する手段」を有しているとして,この点で本件発明と一致するとした決定の判断は,誤りという以外にない。決定の上記認定は,焦点領域輝度出力を発生させることと,さらにこれらから一部を選別することとは別のことであることを,忘れたものであることが明らかである。
(4) 決定は,相違点Cについての判断においても,結局,「距離情報に基づく」選別(正確には補正)という技術の適用の有無だけを論じているものであって,焦点領域輝度出力として取り出した出力を,さらに選別するという技術の存否や適用の可否については全く述べていない。決定には,一致点の認定の誤りと,これに基づく相違点の看過があることが明らかである。
(5) 引用発明は,受光センサー上のAE用ピクセル全体からの出力(例えば平均値)のほかに,少なくとも1個の近接AEピクセルの出力を取り出している。決定も「・・・センサー13全体にわたって設けられたAE用ピクセルのうち,主要被写体の近接位置にあるピクセル(近接AEピクセル)の出力のみを選別しているから・・・」(甲第1号証4頁33行目〜35行目)として,同様の認定をしている。単に「選別」という用語の問題としてみる限り,これも,選別の一種である,ということはできる。しかし,このように解釈すると,本件発明1における「測光領域輝度出力とは別に複数の焦点領域輝度値を算出し」との構成が存在しないことになる。
(6) 以上のとおりであるから,原告の主張4(一致点認定の誤りの3)には理由がある。
(7) この一致点の認定の誤りのため,決定は,本件発明1の「複数の焦点領域輝度出力を選別する」という構成が,引用発明には開示されていないという相違点を看過している。この相違点の看過が結論に影響を及ぼすことは明らかである。
もっとも,相違点の看過があっても,それが結論に影響を及ぼすとは認められない特別の事情,例えば,看過された相違点が,他の相違点についての判断において実質的に判断されている等の事情があれば,決定の結論を維持できる。しかし,本件で,そのような特別な事情は認められない。
(8) したがって,その余の点について判断するまでもなく,決定は取消を免れない。
6 原告の主張7(本件発明2の進歩性についての判断の誤り)について 決定は,「本件請求項2に係る発明は,・・・本件請求項1に係る発明と同様な判断となる。」(決定書7頁29〜32行)と判断している。本件発明1についての認定判断に誤りがある以上,本件発明2についての上記判断も誤りとなる。
7 結論 以上のとおりであるから,決定の取消を求める原告の本訴請求は,いずれの請求項についても理由がある。そこで,原告の本訴請求を全部認容することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久