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事件 |
令和
2年
(ネ)
10036号
特許権侵害損害賠償請求控訴事件
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控訴人X 被控訴人 西日本旅客鉄道株式会社 同訴訟代理人弁護士 森本純 高山和也 同訴訟代理人弁理士 前堀義之 川崎茂雄 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2021/01/18 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,控訴人に対し,10万円及びこれに対する平成30年12月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 4 第2項につき仮執行宣言 1 |
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事案の概要
1 本件は,座席管理システムの特許に係る特許権者である控訴人が,被控訴人の使用に係る被告各システムは,本件各特許請求の範囲に記載された構成の各要件を充足し,また,被控訴人の使用に係る被告システム1は,本件各特許請求の範囲に記載された各構成と均等なものであり,いずれも,本件各発明の技術的範囲に属すると主張して,被控訴人に対し,特許権侵害の不法行為による損害賠償請求として,10万円及びこれに対する平成30年12月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 原判決が控訴人の請求を棄却したため,控訴人が控訴した。 2 前提事実(争いがない事実及び証拠等により認定できる事実) 原判決「事実及び理由」の第2,2のとおりであるから,これを引用する。 3 当事者の主張 次のとおり,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第2,3のとおりであるから,これを引用する。 (1) 当審における控訴人の主張 ア 本件各発明について (ア) 本件明細書には,「券情報と発券情報を地上の管理センターから受ける場合,伝送される情報は2種になるため通信回線の負担を1種の場合と比べて2倍にするなどの問題がある」という問題がある実施例(本件明細書の段落【0004】の7行目以下。以下, 「問題のある実施例」という。)と, 「本件各発明の『座席表示情報』は,券情報と発券情報という二つの情報を一つに統合した」という最善の実施例(以下,「最善の実施例」という。)が記載されている。 「問題のある実施例」が,本件各発明の実施例であることは,本件明細書の段落【0019】に, 「また,端末機2がする表示は前記券情報又は前記発券情報の1情報について行うことができ」と記載があることからも裏付けられている。また, 「問 2題のある実施例」は,本件各発明が従来の技術として採用した「カードリーダで読取られた座席指定券の券情報及び券売機等で発券された座席指定券の発券(座席予約)情報等を,例えば列車車内において,端末機(コンピュータ)で受けて記憶し表示して,指定座席の利用状況を車掌が目視できるようにして車内検札を自動化する座席指定席利用状況監視装置(特公H5-47880号公報) が特許出願された 」以降,本件各発明の「座席管理システム」が特許出願されるまでの間に特許出願されていない。 したがって, 「問題のある実施例」は,従来の技術にはない技術であるのはいうまでもなく,本件明細書に記載されている本件各発明である。 (イ) しかるに,原判決は,「最善の実施例」のみが本件各発明であるとの誤った一実施例限定解釈をしている。 この一実施例限定解釈は,特許法70条1項,2項の規定や,東京高等裁判所平成2年(ネ)第2780号の判旨に反するものである。 本件各発明の技術的範囲は,本件特許請求の範囲の記載に基づいて, 「問題のある実施例」であると明確に理解することができるのであり,一実施例限定解釈をした原判決には誤りがある。 イ 文言侵害について 被告システム1では,改札通過情報及びOD情報は,それぞれ別のサーバに保存,管理されており,両情報は,統合されることなく,各サーバから別々に車内補充券発行機に伝送されるものであるから,本件各発明の「問題のある実施例」と同じ構成である。 原判決は, 「最善の実施例」のみが本件各発明であるとの誤った一実施例限定解釈をし,被告システム1は「最善の実施例」と構成が異なるとして文言侵害を否定し,被告システム2についても,被告システム1と同様の理由により文言侵害を否定したものであり,誤りがある。 ウ 均等侵害について 3 原判決は, 「最善の実施例」が本件各発明の本質であるとして被告システム1の均等侵害を否定したが,被告システム1は,「問題のある実施例」と同じ構成であり,均等論を持ち出すまでもなく,本件各発明の技術的範囲に属する。また,本件各発明の「問題のある実施例」と被告システム1は,本質的部分を同一とする。 したがって,被告システム1の均等侵害を否定した原判決には誤りがある。 エ 被控訴人の主張について (ア) 被控訴人は,「問題のある実施例」は従来技術であり,本件各発明の本質的部分ではないと主張する。 しかし,被控訴人の主張は,前記アのとおり,特許法70条1項,2項の規定や,東京高等裁判所平成2年(ネ)第2780号判決に反するものである。 また,「特許発明の本質的部分」とは,「当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付ける特徴的な部分」,すなわち,「従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するための,従来技術に見られない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的な構成をもって社会に開示した点にあるから,特許請求の範囲に記載された構成のうち,当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術思想の中核をなす特徴的部分」である(最高裁平成6年(オ)第1083号同10年2月24日判決,知的財産高等裁判所平成27年(ネ)第10014号同28年3月25日判決)とされているから,本件各発明の特徴的部分は,特許請求の範囲に記載の構成(構成要件)によってのみ得られることになる。 これらのことからすると,被控訴人の主張は, 「問題がある実施例」を従来の技術であるとして捉え,その上,特許請求の範囲に記載のない事項について主張しているので誤りである。また, 「最善の実施例」のみを唯一の本件各発明と捉え,特許請求の範囲に記載のない事項についてされたものであり,理由がなく失当である。 (イ) 発明の本質的部分の把握については,上記(ア)のとおりであるところ,本件各発明によって,車掌は,その携帯する端末機に表示される各指定座席の利用状況(改札通過情報及び予約情報の有無)を目視し確認できるようになり,稀に「発 4売されていない座席」あるいは「指定座席券は発売されていても指定座席購入者が改札を通過してない座席」について,そこに座っている乗客に対してのみ従来とおりに「切符拝見」と手検札をするだけで車内改札が済むようになり,車内改札は少人数の車掌で迅速かつ確実にすることができ, 「課題解決手段」での「課題」である車内改札の省力化を可能にし,そのことによって,従来と比べて格段に車掌による車内乗客サービス及び車内防犯の強化等の作用効果が図られるようになった。 このような本件各発明の座席管理システム(車内改札システム)が有する車内改札の省力化及びそのことにより必然的に伴う車掌による車内乗客サービス及び車内防犯の強化等の作用効果等の本件各発明の特徴(特許発明の本質的部分)は,被告システム1においても全く同じように実現されている。 したがって,仮に,被告システム1が, 「最善の実施例」の構成を備えていないとしても,上記本質的部分を有するから,均等侵害が成立する。 オ(ア) 被控訴人は,控訴審の答弁書において,原判決の認定を引用しているだけで,控訴理由書に対する反論をしていない。したがって,控訴理由書に記載された内容については,民訴法159条により自白が成立する。 (イ) 被控訴人は,原審において,本件各発明の「座席表示情報」は,券情報,発券情報とともに,座席レイアウトも含めた3種類の情報を統合したものであると主張していたが,控訴審の答弁書にはその旨の記載はない。したがって,これについても,民訴法159条により自白が成立する。 (ウ) 被控訴人は,被告システム1の「OD情報」「改札通過情報」が,そ ,れぞれ,本件明細書の図2の「発券情報」「券情報」に,被告システム1の「マル ,スサーバ」及び「セキュリティサーバ」が, 「地上の管理センター」に該当することを認めているから,被告システム1は,本件明細書の図2の構成を備えるものであり,本件特許権を侵害するものである。 カ その他,控訴人の主張は,別紙「控訴理由書」及び「第 1 準備書面」記載のとおりである。 5 (2) 当審における被控訴人の主張 ア 本件各発明について 本件各発明の技術的特徴は,指定座席を管理する座席管理システムに関して,管理センターから券情報と発券情報の両情報を端末機で別個に受ける場合,伝送される情報が2種になることから,伝送される情報が1種の場合と比べて,通信回線の負担が2倍となり,端末機の記憶容量と処理速度を2倍にするなどの技術的課題があったことに鑑み,管理センターに備えられるコンピュータが,カードリーダで読み取られた券情報と,券売機等で読み取られた発券情報等を入力して,これらの情報を統合して一つの座席表示情報を作成し,作成された座席表示情報を,コンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられた端末機に伝送して,端末機が座席レイアウトに基づき各指定座席の利用状況を表示するという構成を採用したことによって,上記技術的課題を解決したという点にある。 イ 文言侵害が成立しないことについて (ア) 本件各発明の「座席表示情報」は,「券情報」と「発券情報」という二つの情報を一つに統合したものであり,ホストコンピュータは,このような「座席表示情報」を作成,記憶するとともに,端末機へ伝送するものであり,端末機は,伝送された「座席表示情報」を入力,記憶し,これを表示するものである。 これに対し,被告システム1は,本件各発明の「券情報」に相当する「改札通過情報」と,本件各発明の「発券情報」に相当する「OD情報」とが,それぞれ別のサーバに保存,管理され,両情報が統合されることなく,各サーバから別々に車内補充券発行機に伝送されるものであるから,本件各発明の「座席表示情報」に相当する構成を備えておらず,被告システム1のサーバは, 「座席表示情報」を作成する手段,記憶する手段,伝送する手段のいずれも備えていない。また,被告システム1の車内補充券発行機は, 「座席表示情報」を入力する手段,記憶する手段,表示する手段のいずれも備えていない。 したがって,被告システム1は,少なくとも,本件発明1の構成要件1-B及び 61-C並びに本件発明2の構成要件2-B及び2-Cを充足していないから,文言侵害は成立しない。 (イ) 被告システム2は,発券情報に相当するOD情報のみが,サーバから車内補充券発行機に伝送され,券情報に相当する情報を保存,管理する構成を備えていないから,本件各発明の「座席表示情報」に相当する構成を備えておらず,被告システム2のサーバは, 「座席表示情報」を作成する手段,記憶する手段,伝送する手段のいずれも備えていない。また,被告システム2の車内補充券発行機は, 「座席表示情報」を入力する手段,記憶する手段,表示する手段のいずれも備えておらず,「ホストコンピュータ」に相当する構成も備えていない。 したがって,被告システム2は,本件発明1の構成要件1-A,1-B及び1-C並びに本件発明2の構成要件2-A,2-B及び2-Cを充足していないから,文言侵害は成立しない。 ウ 均等侵害が成立しないことについて (ア) 本件各発明と被告システム1とは,被告システム1が,本件各発明が定める構成(ホストコンピュータにおいて券情報と発券情報から一つの「座席表示情報」を作成し,これを,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられる端末機に伝送し,端末機において「座席表示情報」を表示するという構成)を有していない点において相違する。 この相違は,本件各発明における,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分(本質的部分)にかかる相違である。 したがって,被告システム1は,均等の第1要件を充足しておらず,同システムについて均等侵害は成立しない。 (イ) 被告システム2は,本件各発明の「券情報」に相当する情報を保存,管理する構成すら備えていないから,本件各発明との相違は,本件各発明の本質的部分にかかる相違である。 そのため,被告システム2についても,均等の第1要件を充足しておらず,均等 7侵害は成立しない。 エ 控訴人の主張に対する反論 (ア) 控訴人の主張する「問題のある実施例」は,本件明細書の段落【0002】〜【0004】の【従来の技術】に記載されたものであり,本件各発明は,「伝送される情報量が2倍になるために,該情報を伝送する通信回線の負担を2倍にするとともに端末機の記憶容量と処理速度とをともに2倍にするなどの点」(段落【0005】)なる課題があり,これを課題解決したものとされている(段落【0006】。本件各発明は,本件各発明が定める構成を備えることにより, ) 「上記ホストコンピュータから上記端末機へ伝送される情報量が上記券情報と上記発券情報との両表示情報から1つの表示情報となる上記座席表示情報にすることで半減され,これによって通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度とを半減する」(段落【0007】)という作用により,「該端末機がする各指定座席の利用状況の表示を前記券情報と前記発券情報との両表示情報から1つの表示情報となる前記座席表示情報で実現できるようになり,これによって,前記ホストコンピュ-タから前記端末機へ伝送する情報量が半減され,通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコストダウンが計られて,本発明のシステムの構築を容易にする」(段落【0020】)という効果を奏するというものである。 控訴人が主張する「問題のある実施例」は,本件各発明に対し,従来技術と位置付けられるものであり,この従来技術に対して課題を解決したものが本件各発明である。 したがって, 「問題のある実施例」が本件各発明の実施例であるとする控訴人の主張に理由はない。 (イ) 控訴人は,本件明細書の段落【0019】に「端末機2がする表示は前記券情報又は前記発券情報の1情報について行うことができ」と記載されていることを控訴人の主張の根拠の一つとしているが,段落【0019】は,段落【0008】以下の実施例についての記載であり,段落【0008】以下には,控訴人が 8主張する「最善の実施例」が記載されている。 控訴人の上記主張は,1個の同じ実施例でありながら,段落【0019】につき,これと整合しない解釈をするものであって,理由がない。 また,本件明細書に記載された発明の課題,作用及び効果は,上記(ア)のとおりであり,控訴人の上記主張は,これらと矛盾するという意味でも理由がない。 (ウ) 控訴人は,均等侵害についても,文言侵害と同様,原判決が,誤って一実施例限定解釈をした旨主張するが,本件明細書に2個の本件各発明の実施例が記載されているとする控訴人の主張は誤りであって,原判決が判示した本件各発明の本質的部分の認定に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求は棄却すべきものと判断する。その理由は,以下のとおり,原判決を補正し,当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第3,1〜5のとおりであるから,これを引用する。 2 原判決の補正 (1) 原判決8頁15行目の次に,行を改めて,次のとおり加える。 「【0008】図1は本発明の座席管理システムのブロック図であって,ホストコンピュータ1は,カードリーダ(改札機等)で読取られた座席指定券の券情報或いは券売機等で発券された座席指定券の発券情報等を管理する管理センターに備えられて,端末機2は,ホストコンピュータ1と通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられる。」 (2) 原判決10頁4行目の次に,行を改めて,次のとおり加える。 「【0019】また,端末機2がする表示は前記券情報又は前記発券情報の1情報について行うことができ,また,端末機2は,当該座席理管理地に,同一表示し,かつ,通信回線(無線)で結ばれたものを複数備えて,複数の座席管理者がそれぞれに携帯して利用できる。また,本発明の座席管理システムは,特急列車や船舶等の 9移動体,それに地上の競技場等の施設に利用できる。」 3 当審における控訴人の主張に対する判断 (1) 控訴人は,原判決は,特許法70条1項,2項等に反し,本件特許請求の範囲に記載のある「問題のある実施例」を本件各発明の実施例とせず, 「最善の実施例」のみを本件各発明であるとした点に誤りがある旨主張する。 ア 本件特許請求の範囲の【請求項1】には, 「ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを入力する入力手段と,該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段と,該作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,と記載されており,券情報」 」 「と「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手段に記憶させることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善の実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する「問題のある実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはできない。 また,本件特許請求の範囲の【請求項2】には, 「ホストコンピュータが,前記券情報と前記発券情報とを入力する手段と,該入力手段によって入力された前記券情報と前記発券情報とを,複数の前記座席管理地又は前記端末機を識別する座席管理地識別情報又は端末機識別情報別に集計する集計手段と,該集計手段によって集計された前記券情報と前記発券情報とに基づき,かつ,前記座席管理地に設置される指定座席のレイアウトに基づいて表示する座席表示情報を作成する作成手段と,該作成手段によって作成された前記座席表示情報を記憶する記憶手段と,該記憶手段によって記憶された前記座席表示情報を伝送する伝送手段と,」と記載されており,「券情報」と「発券情報」とを統合して「座席表示情報」を作成し,これを記憶手段に記憶させることが記載されていると認められるから,控訴人の主張する「最善の実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認められ,控訴人の主張する 10「問題のある実施例」が本件特許請求の範囲に記載されていると認めることはできない。 イ 上記のことは,本件明細書(甲2)の記載からも明らかである。 本件明細書の「発明の詳細な説明」は,補正して引用した原判決「事実及び理由」の第3,1(1)のとおりであり,段落【0002】には, 【従来の技術】として, 「従来,指定座席を管理する座席管理システムとしては,カードリーダで読取られた座席指定券の券情報及び券売機等で発券された座席指定券の発券(座席予約)情報等を,例えば列車車内において,端末機(コンピュータ)で受けて記憶し表示して,指定座席の利用状況を車掌が目視できるようにして車内検札を自動化する座席指定席利用状況監視装置(特公H5-47880号公報)が発明されている。」との記載があり,段落【0004】において, 「券情報」及び「発券情報」を地上の管理センターから受ける場合について,「伝送される情報は2種になるために通信回線の負担を1種の場合と比べて2倍にするなどの問題がある。」ことが記載されている。 そして,本件明細書の段落【0005】には, 【発明が解決しようとする課題】として,「上記発明の座席指定席利用状況監視装置は上記券情報と上記発券情報とに基づいて各座席指定席の利用状況を表示するにはこれ等の両情報を地上の管理センターから受ける場合,伝送される情報量が2倍になるために,該情報を伝送する通信回線の負担を2倍にするとともに端末機の記憶容量と処理速度をともに2倍にするなどの点にある。」として,控訴人の主張する「問題のある実施例」の問題点が指摘されており,段落【0006】には, 【課題を解決するための手段】として「本発明は,上記管理センターに備えられるホストコンピュータが,カードリーダで読取られた座席指定券の券情報と券売機等で発券された座席指定券の発券情報とを入力して,これ等の両情報に基づいて表示する座席表示情報を作成して,作成された前記座席表示情報を,前記ホストコンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられる端末機へ伝送して,該端末機が,前記座席表示情報を入力して表示してするように構成したことを主要な特徴とする。」と記載さ 11れており,段落【0007】に,【作用】として,「上記ホストコンピュータから上記端末機へ伝送される情報量が上記券情報と上記発券情報との両表示情報から1つの表示情報となる上記座席表示情報にすることで半減され,これによって通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度とを半減する。 と記載され, 【0008】 」 段落〜【0019】に, 【実施例】として,控訴人が主張する「最善の実施例」「座席表 (示情報」は,券情報と発券情報という二つの情報を一つに統合した実施例)が記載されていることが認められる。さらに,段落【0020】 【発明の効果】 に, として,「該端末機がする各指定座席の利用状況の表示を前記券情報と前記発券情報との両表示情報から1つの表示情報となる前記座席表示情報で実現できるようになり,これによって前記ホストコンピュータから前記端末機へ伝送する情報量が半減され,通信回線の負担と端末機の記憶容量と処理速度等を軽減するとともに,端末機のコストダウンが計られて,本発明のシステムの構築を容易にする。 と記載されている 」ことが認められる。 これらの本件明細書の記載によると,本件各発明は,指定座席を管理する座席管理システムに関して,地上の管理センターから券情報と発券情報の両情報を端末機で受ける場合,伝送される情報が2種になることから,伝送される情報が1種の場合と比べて,通信回線の負担が2倍となり,端末機の記憶容量と処理速度を2倍にするなどの技術的課題があることに鑑み,地上の管理センターに備えられるコンピュータが,カードリーダで読み取られた券情報と,券売機等で読み取られた発券情報等を入力して,これらの情報から一つの座席表示情報を作成し,作成された座席表示情報を,コンピュータと通信回線で結ばれて,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられた端末機に伝送して,端末機が座席レイアウトに基づき各指定座席の利用状況を表示するという構成を採用したものであって,この点に,本件各発明の技術的意義があると認められる。 このような本件明細書の記載によると,控訴人の主張する「問題のある実施例」は,本件各発明が解決すべき課題を示したものであり,その課題を解決したのが本 12件各発明であるから,これが本件各発明の実施例であると認めることはできない。 ウ 控訴人は, 「問題のある実施例」は,従来の技術にはない技術であり,本件明細書に記載されている本件各発明の発明であると主張するが,本件各発明の技術的意義は上記イのとおり認められるのであり,控訴人の主張する「問題のある実施例」が従来特許出願されたことがないとしても,本件各発明であると認めることはできない。 また,控訴人は, 「問題のある実施例」が,本件明細書の段落【0019】に記載されていると主張する。 本件明細書の段落【0019】には, 「また,端末機2がする表示は前記券情報又は前記発券情報の1情報について行うことができ, ・・・」とあるが,これは,端末機の表示について記載したものであり, 「券情報と発券情報という二つの情報」から作られた座席表示情報が端末機に送られた後に,それを端末機2に表示させるに当たり,券情報又は発券情報の1情報について行うことを記載しているものと認められ,段落【0019】が,二つの情報をそれぞれ端末機に送るという控訴人の主張する「問題のある実施例」を記載していると認めることはできない。 エ そして,上記のように解することは,特許法70条1項,2項に何ら反するものではない。 オ したがって,本件各発明に係る原判決の認定には誤りはなく,控訴人の主張を採用することはできない。 (2)ア 控訴人は,被控訴人は,控訴審の答弁書において,原判決の認定を引用し,控訴理由書に対する反論をしていないから,控訴理由書に記載された内容については,民訴法159条の自白が成立すると主張する。 しかし,被控訴人は,控訴審の答弁書(5頁以下)において,控訴理由書における主張に反論しており,被控訴人が,控訴理由書における主張を争っていることは,原審における被控訴人の主張及び控訴審の答弁書における上記記載から明らかである。 13 したがって,本件において,自白の成立を認めることはできず,控訴人の上記主張には理由がない。 イ 控訴人は,被控訴人は,原審において,本件各発明の「座席表示情報」は,券情報と発券情報とともに,座席レイアウトも含めた3種類の情報を統合したものであると主張していたが,控訴審の答弁書にはその旨の記載はないから,これについても,民訴法159条の自白が成立すると主張する。 しかし,原審において,被控訴人は,本件各発明の「座席表示情報」は,券情報と発券情報とともに,座席レイアウトも含めた3種類の情報を統合したものであると主張していたのであるから,控訴審の答弁書にその旨の主張がないからといって,自白が成立することはない。 したがって,本件において,控訴人の上記主張には理由がない。 (3) 控訴人は,被告各システムは,本件各発明の「問題のある実施例」と同じであるから,文言侵害が認められると主張するが,控訴人の主張する「問題のある実施例」が本件各発明の実施例であると認められないことは,前記(1)のとおりである。 また,控訴人は,被控訴人は,被告システム1の「OD情報」「改札通過情報」 ,が,それぞれ,本件明細書の図2の「発券情報」「券情報」に,被告システム1の ,「マルスサーバ」及び「セキュリティサーバ」が, 「地上の管理センター」に該当することを認めているから,被告システム1は,本件明細書の図2の構成を備えるものであり,本件特許権を侵害するものであると主張するが,本件明細書の図2は,控訴人の主張する「問題のある実施例」に関するものであり,被告システム1が,上記図2の構成を備えるからといって,本件各発明の構成を備えるということにはならない。 原判決(15頁〜24頁)が判示するとおり,被告システム 1 は,本件発明 1 の構成要件1-B及び1-C並びに本件発明2の構成要件2-B及び2-Cの文言を充足せず,被告システム2は,本件発明1の構成要件1-A,1-B及び1-C並び 14に本件発明2の構成要件2―A,2-B及び2-Cの文言を充足しないから,被告各システムが本件各発明の技術的範囲に属するものとは認められない。 (4) 控訴人は,被告システム1と本件各発明との間の本件相違点(被告システム1は,本件各発明における,ホストコンピュータにおいて券情報と発券情報から一つの「座席表示情報」を作成し,これを,指定座席を設置管理する座席管理地に備えられる端末機に伝送し,端末機において「座席表示情報」を表示するという構成を有していないこと)は,本件各発明の本質的部分ではないと主張するが,控訴人のこの主張を採用することができないことは,原判決(25頁〜26頁)が判示するとおりである。 本件相違点は,本件各発明の本質的部分に係るものであるから,被告システム1は,均等の第1要件を充足しない。 (5) その他,控訴人が主張することは,いずれも,上記の判断を左右するものではない。 |
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結論
以上によると,控訴人の請求には理由がない。よって,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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