関連審決 | 無効2017-800154 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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令和4ネ10002特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
令和2行ケ10144 審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
令和3行ケ10021 審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
令和2行ケ10079 審決取消請求事件 令和2行ケ10083 審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
令和4ネ10003特許権侵害差止請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
令和
1年
(行ケ)
10076号
審決取消請求事件
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原告 エフ.ホフマンーラロシュ アクチェンゲゼルシャフト 同訴訟代理人弁理士 園田吉隆 石岡利康 時任貴志 中田博子 同訴訟復代理人弁理士 小梶晴美 仙波和之 被告 アムジェンインコーポレイテッド 同訴訟代理人弁護士 山本健策 福永聡 難波早登至 千田史皓 同訴訟代理人弁理士 ?谷剛志 富樫征也 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2020/12/14 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30-1-日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2017-800154号事件について平成31年1月22日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,後記1に係る特許の請求項1〜17の記載要件違反(実施可能要件違反,サポ-ト要件違反),新規性及び進歩性の有無である。 1 特許庁における手続の概要等 被告は,発明の名称を「炎症性疾患および自己免疫疾患の処置の組成物および方法」とする発明に係る特許権(特許第5766124号)の特許権者である(以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」という。甲19)。 本件特許に係る出願(以下, 「本件特許出願」という。)は,平成22年1月20日に,パリ条約による優先権主張(2009年〔平成21年〕1月21日 米国。以下,同日を「本件優先日」といい,優先権主張の基礎とされた出願〔甲11〕を「本件基礎出願」という。)を伴って出願されたもので,本件特許権は,平成27年6月26日に設定登録された(甲19)。 被告は,平成28年7月26日付けで,訂正請求をし,特許庁は,本件特許の請求項1〜19について訂正を認めた(甲14。以下,訂正後の請求項1〜19に係る発明を,それぞれ「本件発明1」〜「本件発明19」といい,併せて,「本件発明」という。また,本件特許の明細書及び図面を「本件明細書」という。。 ) 原告は,平成29年12月20日,特許庁に対し,本件発明について,特許を無効とすることを求めて審判(以下, 「本件審判」という。)の請求をし,特許庁は,上記請求を無効2017-800154号事件として審理した上,平成31年1月22日, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下, 「本件審決」という。)をし,その謄本は同月31日,原告に送達された。 2 訂正後の本件特許の特許請求の範囲等 (1) 本件発明1〜19について【請求項1】(本件発明1) 被験体において炎症性疾患,障害または状態を処置する方法において使用するための組成物であって,該組成物は,IL-2改変体を含み,該IL-2改変体は,(a)配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸の配列を含み,(b)FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激し,(c)配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しており,および(d)(@)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2Rβ親和性を有するか,(A)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い,IL-2Rα親和性を有し,かつ,配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2Rβ親和性を有するか,(B)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有するか,または, (C)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い,IL-2Rα親和性を有し,かつ,配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有し, 該炎症性疾患,障害または状態は,自己免疫疾患,器官移植片拒絶,または,移植片対宿主病である,組成物。 【請求項2】(本件発明2) 前記炎症性疾患,障害または状態は,喘息,糖尿病,関節炎,アレルギー,器官移植片拒絶,および移植片対宿主病からなる群より選択される,請求項1に記載の組成物。 【請求項3】(本件発明3) 前記IL-2改変体は,配列番号1に少なくとも95%同一のアミノ酸の配列を含む,請求項1に記載の組成物。 【請求項4】(本件発明4) 前記IL-2改変体は,配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い,IL-2Rα親和性を有する,請求項1に記載の組成物。 【請求項5】(本件発明5) 前記IL-2改変体は,インビトロにおいて,FOXP3陽性調節性T細胞の成長または生存を促進する,請求項1に記載の組成物。 【請求項6】(本件発明6) 前記IL-2改変体は,アミノ酸30,アミノ酸31,アミノ酸35,アミノ酸69,およびアミノ酸74からなる群より選択される位置に,配列番号1において記載されるポリペプチド配列において変異を含む,請求項1に記載の組成物。 【請求項7】(本件発明7) 前記30位の変異は,N30Sである,請求項6に記載の組成物。 【請求項8】(本件発明8) 前記31位の変異は,Y31Hである,請求項6に記載の組成物。 【請求項9】(本件発明9) 前記35位の変異は,K35Rである,請求項6に記載の組成物。 【請求項10】(本件発明10) 前記69位の変異は,V69Aである,請求項6に記載の組成物。 【請求項11】(本件発明11) 前記74位の変異は,Q74Pである,請求項6に記載の組成物。 【請求項12】(本件発明12) 前記IL-2改変体は,機能的IL-2受容体複合体を含むエクスビボFOXP3陽性T細胞においてSTAT5リン酸化を誘発するが,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が,配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して低下している,請求項1に記載の組成物。 【請求項13】(本件発明13) 前記IL-2改変体は,配列番号1において記載されるポリペプチド配列の88位において変異を含む,請求項12に記載の組成物。 【請求項14】(本件発明14) 前記88位の変異は,N88Dである,請求項13に記載の組成物。 【請求項15】(本件発明15) 前記IL-2改変体は,インビボにおいて該IL-2改変体の血清半減期を延長する化学物質またはポリペプチドに結合体化されている,請求項1に記載の組成物。 【請求項16】(本件発明16) 炎症性疾患,障害または状態の処置のための医薬の調製におけるIL-2改変体の使用であって,該IL-2改変体は,(a)配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸の配列を含み,(b)FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激し,(c)配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しており,および(d)(@)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2Rβ親和性を有するか,(A)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い,IL-2Rα親和性を有し,かつ,配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2Rβ親和性を有するか,(B)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有するか,または, (C)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い,IL-2Rα親和性を有し,かつ,配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有し, 該炎症性疾患,障害または状態は,自己免疫疾患,器官移植片拒絶,または,移植片対宿主病である,使用。 【請求項17】(本件発明17) 前記IL-2改変体は,インビボにおいて該IL-2改変体の血清半減期を延長する化学物質またはポリペプチドに結合体化されている,請求項16に記載の使用。 【請求項18】(本件発明18) 前記IL-2改変体は, 配列番号3に記載のアミノ酸; 配列番号4に記載のアミノ酸; 配列番号5に記載のアミノ酸; 配列番号6に記載のアミノ酸; 配列番号8に記載のアミノ酸;および 配列番号9に記載のアミノ酸;からなる群より選択されるアミノ酸の配列を含む,請求項1〜15のいずれかに記載の組成物。 【請求項19】(本件発明19) 前記IL-2改変体は, 配列番号3に記載のアミノ酸; 配列番号4に記載のアミノ酸; 配列番号5に記載のアミノ酸; 配列番号6に記載のアミノ酸; 配列番号8に記載のアミノ酸;および 配列番号9に記載のアミノ酸;からなる群より選択されるアミノ酸の配列を含む,請求項16〜17のいずれかに記載の使用。 (2) 以下においては,請求項1(本件発明1)の「(b)FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激し」 「本件発明特定事項 を (b) , 」 (c) 「配列番号1として記載されるポリペプチド(以下,単に「野生型IL-2」,「wtIL-2」,「野生型」又は「WT」ということがある。)と比較して,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しており」 「本件 を発明特定事項(c)」,「(d)(@)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2Rβ親和性を有するか,(A)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い,IL-2Rα親和性を有し,かつ,配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2Rβ親和性を有するか,(B)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有するか,または, (C)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも高い,IL-2Rα親和性を有し,かつ,配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有し」を「本件発明特定事項(d)」ということがある。また,IL-2Rα親和性,IL-2Rβ親和性,IL-2Rβγ親和性などの親和性を「α親和性」,「β親和性」,「βγ親和性」などということがある。 3 本件審判で主張された無効理由 (1) 無効理由1(優先権主張の利益を享受できないことを前提とする甲1に基づく新規性欠如) 本件発明1〜3,5,12〜17は,本件基礎出願(米国特許仮出願第61/146,111号〔甲11〕)に基づき優先権主張の利益を享受できないものであり,甲1に記載された発明(以下,「甲1発明」という。)と同一である。 (2) 無効理由2(優先権主張の利益を享受できないことを前提とする甲1,甲1及び2,又はこれらと甲3〜9のうちの一又は複数との組合せに基づく進歩性欠如) 本件発明1〜19は,本件基礎出願に基づき優先権主張の利益を享受できないものであり,本件発明は,甲1,甲1及び2,又はこれらと甲3〜9のうちの一又は複数との組み合わせに記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた発明である。 (3) 無効理由3(仮に優先権主張の利益を享受できるとした場合の甲1に基づく特許法29条の2違反) 本件発明1〜3,5,12〜17は,甲1発明と同一であり,しかも,本件特許出願の発明者は,甲1発明をした者と同一ではなく,また,本件特許出願時に,出願人は,甲1の出願人と同一でもない。 (4) 無効理由4(実施可能要件違反) 本件発明1〜17は,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないため,特許法36条4項1号に違反する。 (5) 無効理由5(サポ-ト要件違反) 本件発明1〜17は,発明の詳細な説明に記載されたものではないため,特許法36条6項1号に違反する。 (6) 無効理由6(甲2に基づく新規性欠如) 本件発明1〜17は,甲2に記載された発明(以下, 「甲2発明」という。)と同一である。 (7) 無効理由7(甲2に基づく進歩性欠如) 本件発明1〜19は,甲2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (8) 甲1〜10及び13について甲1 国際公開第2009/135615号甲2 米国特許出願公開第2005/0142106号明細書甲3 国際公開第99/060128号甲3の2 特表2002-515247号公報甲4 Ruth Y. Lan 他「The regulatory, inflammatory, and T cell programmingroles of interleukin-2(IL-2)」Journal of Autoimmunity vol.31,No.1,p7-12,2008年甲5 Armen B. Shanafelt 他「A T-cell-selective interleukin 2 muteinexhibits potent antitumor activity and is well tolerated in vivo」NatureBiotechnology vol.18,p1197-1202,2000 年甲6 Kerstin Siegmund 他「Unique Phenotype of Human Tonsillar and InVitro-Induced FOXP3+CD8+ T Cells1」The Journal of Immunology vol.182,p2124-2130,2009 年甲7 N Chaput 他「Identification of CD8+CD25+Foxp3+ suppressive T cellsin colorectal cancer tissue」Gut Vol.58,p520-529,2009 年甲8 国際公開第2008/003473号甲8の2 特表2009-542592号公報甲9 特表2005-529108号公報甲10 David V. Liu 他「Engineered Intrleukin-2 Antagonists for theInhibition of Regulatory T Cells」J Immunother vol.32,No.9,p887-894,2009 年甲13 Natasha K Crellin 他「Altered activation of AKT is required forthe suppressive function of human CD4 + CD25 + T regulatory cells 」 BLOODvol.109,No.5,p2014-2022,2007 年 4 本件審決の理由の要旨 (1) 本件特許出願における新規性及び進歩性の判断の基準日について ア 本件発明特定事項(b)について 本件発明特定事項(b)は,「FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激し」というものであるところ,本件基礎出願の願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「本件基礎出願明細書」という。甲11)の特許請求の範囲の請求項1に, 「FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激」することが記載されている。 本件基礎出願明細書には,IL-2改変体が,IL-2Rを介したシグナル伝達の改変によって,Treg細胞の優先的な増殖/生存/活性化をもたらすことが記載され,IL-2Rの活性化に際して,リン酸化されることが公知の分子の一つとしてSTAT5が挙げられている。 FOXP3が,Tregを同定する際のマーカー分子として用いられることは,本件優先日当時の技術常識であることを考慮すると,本件基礎出願明細書における「Treg細胞」は,「FOXP3陽性調節性T細胞」と同義である。 そうすると,本件基礎出願明細書には,FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激しているIL-2改変体が記載されているといえる。 イ 本件発明特定事項(c)について 本件基礎出願明細書には,IL-2改変体が,Treg細胞の成長/生存を促進するが,非調節性細胞(FOXP3-IL-2Rα+CD4+)の成長/生存を促進するための能力が野生型IL-2と比較して低下しているものであることが記載されている。 甲4によると,調節性T細胞であるか,非調節性T細胞であるかにかかわらず,T細胞が増殖する際には,STAT5の二量体化によるリン酸化反応が生じることは本件優先日当時の技術常識である。この技術常識を踏まえると,本件発明1のIL-2改変体において,非調節性T細胞(FOXP3-IL-2Rα+CD4+)の増殖/生存を促進するための能力が低下するということは,STAT5がリン酸化する能力が低下することと同義であるといえる。 そうすると,本件基礎出願明細書には,野生型IL-2と比較して,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているIL-2改変体が開示されているものであり,本件発明特定事項(c)は本件基礎出願明細書に記載されている。 ウ 本件発明特定事項(d)並びに本件発明特定事項(b),(c)及び(d)の組合せについて (ア) 本件基礎出願明細書には,IL-2改変体は,Treg細胞(すなわち,FOXP3陽性調節性T細胞)の成長/生存を促進するが,非調節性細胞(FOXP3-IL-2Rα+CD4+)(すなわち,FOXP3陰性T細胞)の成長/生存を促進するための能力が野生型IL-2と比較して低下しているものであることが記載されている。 また,本件基礎出願明細書には,IL-2改変体の一態様として,@野生型IL-2よりも高いα親和性を有するIL-2改変体が記載され,その改変体の具体例が記載されている。 さらに,本件基礎出願明細書には,Tregの優先的な増殖/生存/活性化をもたらすIL-2改変体は,低下したPI3Kシグナル伝達能力を有しており,このPI3Kシグナルの低下は,AKTのリン酸化の低下を指標として測定することができ,そのような改変体は,A「IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置」(すなわち,親和性に関与する位置)に変異を含み得るものであって,その改変体の具体例も記載されている。なお,本件基礎出願明細書における「IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置」に変異を含み得る旨の記載は,「シグナル伝達サブユニットIL-2Rβに対する親和性の低下」との記載を考慮すると,IL-2βに対して親和性を低下させる変異を含むこと,又はIL-2Rβ及びIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異を含むこと(すなわち,本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)に対応する。)を意味すると理解するのが自然である。 そうすると,本件基礎出願明細書には,Treg細胞の成長/生存は促進するが,非調節性細胞の成長/生存を促進するための能力が野生型IL-2と比較して低下しているIL-2改変体は,α親和性の上昇及びβ親和性の低下の組合せを通して機能することが記載されているものの(本件発明特定事項(d)(A)に対応する。),上記@(IL-2Rαに対する高い親和性を有するIL-2改変体)又は上記A(IL-2Rβに対して親和性を低下させる変異,又はIL-2Rβ及びIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異)のいずれかの態様のみのものも具体的に示されており,また,本件基礎出願明細書の「Tregの優先的な増殖/生存/活性化をもたらす改変体は,IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置か,又はIL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する他の位置の方向づけを改変する位置に変異を含む」旨の記載から,IL-2Rβに対して親和性を低下させる変異,又はIL-2Rβ及びIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異( 本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)に対応する。)が,FOXP3陰性T細胞よりも,FOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用を発揮するのに重要であることが理解できる。 したがって,当業者は,本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)に対応する構成を有するIL-2改変体は,FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の増殖/生存を優先的に促進する作用を有することを合理的に推認できる。 (イ) 本件発明特定事項(d)(A)又は(d)(C)は,本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)に対して,さらにα親和性が向上していることを規定するものであるところ,本件基礎出願明細書には,Treg細胞の成長/生存の活性を促進するが,非調節性T細胞の成長/生存を促進するための能力が低下しているIL-2改変体について,α親和性の上昇及びβ親和性の低下の組合せを通して機能することが記載されているから,本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)に加えて,α親和性が向上していてもよいことが理解できる。 したがって,当業者は,本件発明特定事項(d)(A)又は(d)(C)に対応する構成を有するIL-2改変体は,FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の増殖/生存を優先的に促進する作用を有することを合理的に推認できる。 (ウ) 上記(ア)及び(イ)における「FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用」とは,甲4に示された「調節性T細胞であるか,非調節性T細胞であるかにかかわらず,T細胞が増殖する際には,STAT5の二量体化によるリン酸化反応が生じる」という技術常識を考慮すると,FOXP3陰性T細胞において,STAT5リン酸化を誘発する能力が低下すること(本件発明特定事項(c)に対応する。)及びFOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激すること(本件発明特定事項(b)に対応する。)を意味する。 したがって,当業者は,本件発明特定事項(d)に対応する構成を有するIL-2改変体は,本件発明特定事項(b)及び本件発明特定事項(c)に規定された性質を有するものであることを合理的に推認できる。 (エ) 以上のとおり,本件基礎出願明細書には,本件発明特定事項(d)が記載されており,また,本件発明特定事項(b),本件発明特定事項(c)及び本件発明特定事項(d)の組合せも本件基礎出願明細書の記載から把握できる。 エ 本件発明1が本件基礎出願明細書に実施可能に記載されているかについて (ア) 本件発明特定事項(b),本件発明特定事項(c)及び本件発明特定事項(d)が本件基礎出願明細書に記載されており,これらの組合せも記載されていることは,上記ウで検討したとおりであって,本件基礎出願明細書の記載から,α親和性の向上は必須ではなく,α親和性が向上していなくても,FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進するという作用を有することを理解できる。 (イ) このことは,本件基礎出願明細書の実施例においても裏付けられている。 本件基礎出願明細書には,野生型よりも高いα親和性を付与する変異のみを有するmod2-4がwtIL-2と同様の挙動を示したことが記載されているから,α親和性を向上させる変異は,FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用を有するものではないことが理解できる。 一方,このmod2-4(野生型よりも高いα親和性を付与する変異のみを有するIL-2改変体)に,野生型よりも低下したβ親和性を付与すると理解できる変異(N88D)及び本件基礎出願明細書には触れられていない変異(I89V)を有するIL-2改変体2-4は,野生型と比較して,2〜3倍高い比率でFOXP3+細胞を含有していたことが,本件基礎出願明細書に記載されている。 本件基礎出願明細書には,IL-2Rαに対するより大きな親和性を付与する具体的な変異の位置,IL-2Rβ又はIL-2Rγに接触する位置が記載されているところ,第89位は,そのどちらにも記載されていないから,I89Vは,IL-2Rに対する親和性に影響を与えない変異であることが理解できる。そして,本件基礎出願明細書には,IL-2改変体が,IL-2Rを介したシグナル伝達の改変によって,Treg細胞の優先的な増殖/生存/活性化をもたらすものであるという技術的思想が記載されていることに鑑みると,IL-2改変体2-4によるFOXP3+細胞の増加の結果は,IL-2Rに対する親和性に影響を与えない変異であるI89Vではなく,野性型よりも低下したβ親和性を付与する変異(N88D)に起因するものであると考えるのが自然である。 そうすると,FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用を有するためには,α親和性ではなく,低下したβ親和性が重要であることが実施例の記載からも理解される。 (ウ) したがって,当業者は,本件基礎出願明細書の記載に基づいて,I89V変異を有さない改変体やIL-2Rαに対するより大きな親和性を付与する変異を有さない改変体でも,所望の作用を有することを合理的に推認できる。 (エ) 以上のとおり,本件発明1は,本件基礎出願明細書に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているから,本件発明1は,優先権主張の利益を享受することができる。 オ 本件発明2〜6,8〜11,13〜15について 本件発明1が優先権主張の利益を享受できるのは上記のとおりであるから,本件発明2〜6,8〜11,13〜15は,本件発明1と同様に優先権主張の効果が認められる。 カ 本件発明7について 本件基礎出願明細書の特許請求の範囲の請求項8には, 「位置30における変異がN30S」であることが記載されているから,本件発明7は本件基礎出願明細書に記載されている。 キ 本件発明12について 本件基礎出願明細書には,平底プレートにおいて,PBMCをIL-2改変体2-4で培養したところ,wtIL-2の存在下と比較して,FOXP3+細胞の存在数は,2〜8倍に高まったこと,予め活性化したT細胞を2-4変異体と共に培養したところ,wtIL-2又はmod2-4と培養した細胞と比較して,CD4+T細胞は,2〜3倍高い比率でFOXP3+細胞を含有していたこと,及び予め活性化され休止したT細胞をIL-2改変体2-4に短時間暴露したところ,IL-2受容体シグナルカスケードの一部として既知であるSTAT5のリン酸化が刺激されたことが記載されている。 これらの実験において使用されたT細胞は,エクスビボの状態であると認められ,また,2-4変異体は,IL-2受容体を通じて,エクスビボFOXP3陽性T細胞の増殖を促進したものであることから,本件基礎出願明細書には,「機能的IL-2受容体複合体を含むエクスビボFOXP3陽性T細胞」においてSTAT5リン酸化を刺激するIL-2改変体は記載されているといえる。 したがって,本件発明12は本件基礎出願明細書に記載されている。 ク 本件発明16及び17について 本件発明1が優先権主張の利益を享受できるのは上記のとおりであるから,本件発明16及び17についても同様に優先権主張の利益を享受できる。 ケ 以上のとおりであるから,本件発明1〜17は優先権主張の利益を享受できる。 (2) 無効理由1(優先権主張の利益を享受できないことを前提とする甲1に基づく新規性欠如)について ア 本件発明1〜3,5,12〜17は,優先権主張の利益を享受でき,その新規性,進歩性の判断において出願日とみなされる日(判断基準日)は本件優先日(平成21年1月21日)であるから,本件発明1〜3,5,12〜17の新規性は甲1(国際公開日2009年〔平成21年〕11月12日)により否定されない。 したがって,本件発明1〜3,5,12〜17に係る特許を無効理由1によって無効にすることはできない。 イ 仮に,本件発明1〜3,5,12〜17が,優先権主張の利益を享受できない場合であっても,下記(4)(無効理由3)のとおり,本件発明1と甲1発明の間には,相違点1〜3及び相違点4〜6があり,このうち,少なくとも相違点2及び相違点3,若しくは,相違点5は,実質的な相違点であり,両発明は同一ではないから,無効理由1の結論を左右しない。 (3) 無効理由2(優先権主張の利益を享受できないことを前提とする甲1,甲1及び2,又はこれらと甲3〜9のうちの一又は複数との組合せに基づく進歩性欠如)について ア 前記(2)のとおり,本件発明1〜17は,優先権の利益が享受できるのであるから,本件発明1〜17の進歩性は,甲1,甲1及び甲2,又はこれらと甲3〜9のうちの一又は複数との組合せにより否定されない。 したがって,本件発明1〜17に係る特許を無効理由2によって無効にすることはできない。 イ 仮に,本件発明1〜17が優先権主張の利益を享受できない場合であっても,下記(4)(無効理由3)のとおり,本件発明1と甲1に記載された発明の間には,相違点1〜3及び相違点4〜6がある。 このうち,相違点2又は相違点5は,本件発明1は配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることが特定されているのに対し,甲1発明は,CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対してほとんど又は全く影響を及ぼさないものである点であるところ,甲1発明において,「配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下して」いることは,いずれの証拠にも記載も示唆もされていないから,相違点2又は相違点5に係る構成は当業者が容易に想到し得るものではない。この点は,甲2〜9に記載の事項を組み合わせても同様である。また,本件発明1のIL-2改変体は,FOXP3陰性T細胞の活性化について,CD8+及びCD4+の両方において低下を示すものであって(本件明細書の【図2B】及び【図2C】),望ましくない炎症を総合的に抑制することができるという顕著な効果を奏するものであるから,本件発明1は,甲1発明に甲2〜9に記載の事項を組み合わせても,当業者が容易に発明することができるものではない。本件発明2〜17も同様である。 そうすると,仮に,本件発明1〜17が優先権主張の利益を享受できないとしても,無効理由2の結論を左右しない。 (4) 無効理由3(仮に優先権主張の利益を享受できるとした場合の甲1に基づく特許法29条の2違反)について ア 甲1の優先権主張の適否 甲1の優先権主張の基礎とされた独国特許出願10 2008 023 820.1号(以下,「甲1基礎出願」という。)の明細書,特許請求の範囲及び図面(甲35)には,hIL-2-N88Rが,野生型IL-2と比較して,CD8+細胞傷害性T細胞の増殖に対する活性をほとんどあるいは全く有さないことが記載されていないから,甲1の先願としての地位の基準日(後願排除の基準日)は,甲1の特許出願日である平成21年4月28日となる。 そうすると,甲1は,本件発明1〜3,5,12〜17に係る特許の出願日とみなされる日である平成21年1月21日より前の「他の特許出願」には該当しないから,無効理由3は理由がない。 イ また,仮に,甲1が優先権を主張できるとしても,以下のとおり,無効理由3は理由がない。 (ア) 本件発明1について a 甲1発明(技術的思想)に基づく特許法29条の2違反 @ 甲1発明について 甲1の国際出願日の明細書,特許請求の範囲及び図面(以下,「甲1明細書」という。)には,次の発明が記載されている。 「被験体において自己免疫疾患を治療する方法において使用するための組成物であって,該組成物は,IL-2改変体を含み,該IL-2改変体は,(a)野生型IL-2のアミノ酸配列に対して,第20位,第88位及び第126位のアミノ酸のうち少なくとも1つが置換されており,(b)CD4+CD25+FOXP3+およびCD4+CD25-Foxp3+などの制御性T細胞の形成を選択的に誘導し,(c)野生型IL-2と比較して,CD8陽性の細胞傷害性T細胞の増殖に対してほとんど又は全く影響を及ぼさない,自己免疫疾患を治療するための組成物。」(以下,「先願発明1」という。) A 対比 本件発明1と先願発明1を対比すると,両者は,「医薬組成物であって,該組成物は,IL-2改変体を含み,該IL-2改変体は,(a)配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸の配列を含むものである組成物。」である点で一致し,少なくとも以下の点で相違する。 <相違点1> 本件発明1は,IL-2改変体は,FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5のリン酸化を刺激するものであるのに対し,先願発明1は,CD4+CD25+FOXP3+およびCD4+CD25-FOXP3+などの制御性T細胞の形成を選択的に誘導するものである点。 <相違点2> 本件発明1は,IL-2改変体は,配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているものであるのに対し,先願発明1は,CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対してほとんど又は全く影響を及ぼさないものである点。 <相違点3> 本件発明1は,IL-2改変体におけるIL-2Rに対する親和性が(d)(@)〜(C)として特定されているのに対し,先願発明1にはそのような特定はない点。 B 判断 ? 相違点1について 先願発明1は「CD4+CD25+FOXP3+およびCD4+CD25-FOXP3+ などの制御性T細胞の形成を選択的に誘導」するものであるところ,「制御性T細胞」は「調節性T細胞」と同義であるから,先願発明1の「CD4+CD25+FOXP3+およびCD4+CD25-FOXP3+などの制御性T細胞」は,「FOXP3陽性調節性T細胞」に相当する。 そして,甲4によると,調節性T細胞であるか,非調節性T細胞であるかにかかわらず,T細胞が増殖する際にはSTAT5の二量体化によるリン酸化反応が生じることが本件優先日当時の技術常識であることを考慮すると,先願発明1における「CD4 + CD25 + FOXP3 + およびCD4 + CD25 - FOXP3 +などの制御性T細胞の形成を誘導」する際には,STAT5のリン酸化の刺激が起きているものである。 そうすると,先願発明1の「CD4+CD25+FOXP3+およびCD4+CD25-FOXP3+などの制御性T細胞の形成を選択的に誘導」することは,本件発明1の「FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5のリン酸化を刺激」することに相当する。 したがって,この相違点は実質的な相違点ではない。 ? 相違点2について 甲4に示された技術常識を考慮すると,「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」の増殖が促進されなかったことは,「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることを意味する。 そして,甲6及び7は,CD8+FOXP3+T細胞が存在することを開示するものであ るこ と , 甲1 5( Jason D. Fontenot 他 「Regulatory T Cell LineageSpecification by the Forkhead Transcription Factor Foxp3 」 ImmunityVol.22,p239-341,2005 年。本件審判の乙2)には,CD8陽性細胞においてFOXP3は低レベルで発現していることが記載されていることを踏まえると, 「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」は,必ずしも「FOXP3陰性T細胞」に相当するとはいえない。 したがって,甲1明細書には,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているIL-2改変体が記載されているとはいえない。 仮に,先願発明1における「CD8陽性細胞傷害性T細胞」が本件発明1の「FOXP3陰性T細胞」に相当するとしたとしても,本件明細書の段落【0003】の,FOXP3陰性T細胞には,CD4+細胞とCD8+細胞があり,これらの両方は,炎症誘発性となり得るものである旨の記載を考慮すると,本件発明1の組成物を規定する用途に使用するためには,「FOXP3陰性T細胞」に含まれるCD4+細胞とCD8+細胞の両方において,「STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」している必要があるものといえる。 一方,先願発明1において,「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」については,STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているとしても,それ以外の「FOXP3陰性T細胞」(例えば,CD4+細胞)におけるSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることは,甲1明細書には記載されていない。 そして,本件明細書の段落【0003】にも示されるように,CD4+細胞も炎症誘発性になり得るものであるから,「FOXP3陰性T細胞」全体のうち,一部である「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることをもって,本件発明1の「FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」していることに相当するとはいえない。 ? 相違点3について 甲1明細書には,IL-2改変体におけるIL-2Rに対する親和性について何ら記載されていないから,この相違点は実質的な相違点となる。 ? まとめ 以上のとおり,本件発明1は,先願発明1と少なくとも相違点2及び相違点3で相違するから,本件発明1は甲1明細書に記載された発明と同一であるとはいえない。 b 甲1発明の特定の改変体に基づく特許法29条の2違反 @ 甲1発明の特定の改変体について 甲1明細書には,次の発明が記載されていると認められる。 「被験体において自己免疫疾患を治療する方法において使用するための組成物であって,該組成物はIL-2改変体を含み,該IL-2改変体は,hIL-2-N88Rであり,CD4 +CD25 +FOXP3 + 及びCD4 + CD25 - FOXP3 +などの制御性T細胞の形成を誘導し,CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対してほとんど又は全く影響を及ぼさない,組成物。」(以下,「先願発明2」という。) A 対比 本件発明1と先願発明2は,「医薬組成物であって,該組成物は,IL-2改変体を含み,該IL-2改変体は,(a)配列番号1に少なくとも90%同一のアミノ酸の配列を含むものである組成物。」である点で一致し,少なくとも以下の点で相違する。 <相違点4> 本件発明1は,IL-2改変体は,FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5のリン酸化を刺激するものであるのに対し,先願発明2は,CD4+CD25+FOXP3+およびCD4+CD25-FOXP3+などの制御性T細胞の形成を誘導するものである点。 <相違点5> 本件発明1は,IL-2改変体は,配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているものであるのに対し,先願発明2は,CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対してほとんど又は全く影響を及ぼさないものである点。 <相違点6> 本件発明1は,IL-2改変体におけるIL-2Rに対する親和性が(d)(@)〜(C)として特定されているのに対し,先願発明2にはそのような特定はない点。 B 判断 ? 相違点4について 前記a(相違点1について)で述べたとおり,相違点4は実質的な相違点ではない。 ? 相違点5について 前記a(相違点2について)で述べたとおり,この相違点は実質的な相違点である。 ? 相違点6について 甲5の表1における「IL-2Rβ」の行における結合解離定数であるKd値をみると,hIL-2-N88Rは野生型よりもKd値が大きいことが読み取れる。Kd値は,大きいほど親和性が低下していることを意味するから,hIL-2-N88Rは野生型よりもβ親和性が低下しているものである。 そうすると,先願発明2のIL-2改変体は,本件発明1の本件発明特定事項(d)(@)の野生型,すなわち,配列番号1として記載されるポリペプチドよりも「低下したIL-2Rβ親和性を有する」ことに該当する。 ? 以上のとおり,本件発明1は先願発明2と少なくとも相違点5で相違するから,本件発明1は先願発明2と同一であるとはいえない。 (イ) 本件発明2,3,5,12〜15について 本件発明2,3,5,12〜15は,本件発明1を限定した発明であるから,本件発明1と同様の理由により,先願発明1又は先願発明2と同一であるとはいえない。 (ウ) 本件発明16及び17について 本件発明16の「炎症性疾患,障害または状態の処置のための医薬の調製におけるIL-2改変体の使用」は,本件発明1の「炎症性疾患,障害または状態の処置する方法において使用するための組成物」に含まれるIL-2改変体のカテゴリーを「使用」に変更したものであるところ,本件発明1は,先願発明1又は先願発明2と同一であるとはいえないから,本件発明16も先願発明1又は先願発明2と同一であるとはいえない。 本件発明17は,本件発明16を限定した発明であるから,本件発明16と同様の理由により,本件発明17は,先願発明1又は先願発明2と同一であるとはいえない。 (エ) 以上によると,本件発明1〜3,5,12〜17に係る特許を無効理由3によって無効にすることはできない。 (5) 無効理由4(実施可能要件違反)について ア 本件発明1について (ア) 本件発明1の本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)に対応する構成を有するIL-2改変体が,実施例に示された特定のIL-2改変体と同様の効果を奏することを予測する根拠はないから,本件発明1はその全範囲にわたって使用できないとする点(主張@)について 本件明細書の段落【0006】において,本件発明1は,FOXP3-CD25+T細胞の成長/生存よりも,FOXP3+調節性T細胞(T-reg細胞)の成長/生存を優先的に促進する,IL-2の免疫抑制変異性改変体を提供するものであることが記載されている。 そして,段落【0008】において,IL-2改変体の実施形態として,Treg細胞におけるIL-2Rの下流の1つもしくは複数のシグナル伝達分子のリン酸化を刺激する能力を保持するものであることが記載され,FOXP3-CD4+細胞もしくはFOXP3-CD8+T細胞におけるSTAT5の非効率的なリン酸化,リン酸化の低下,またはリン酸化の欠如を示すものであることが記載されている。 段落【0020】において,本件発明1のIL-2改変体の一態様として,「野生型IL-2よりもIL-2Rαに対する高い親和性を有する」改変体が記載され,その改変体の具体例が段落【0021】に記載されている。 段落【0022】には,T-regの優先的な増殖/生存/活性化をもたらすIL-2改変体は,FOXP3陰性T細胞において低下したPI3Kシグナル伝達能力を有しており,このPI3Kシグナルの低下は,AKTのリン酸化の低下を指標として測定することができ,さらに,そのような改変体は,「IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置」(すなわち,親和性に関与する位置)に変異を含み得るものであって,その改変体の具体例も記載されている。なお,段落【0022】における「IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置」に変異を含み得る旨の記載は,段落【0007】の「IL-2受容体のシグナル伝達鎖(IL-2Rβ/CD122および/もしくはIL-2Rγ/CD132)に対する親和性の低下」との記載,及び段落【0016】の「シグナル伝達サブユニットIL-2Rβおよび/またはIL-2Rγに対する親和性の低下」との記載を考慮すると,IL-2Rβに対して親和性を低下させる変異を含むこと,又はIL-2Rβ及びIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異を含むこと(すなわち,本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)に対応する。)を意味すると理解するのが自然である。 段落【0023】には,IL-2Rαに対する高い親和性を付与する変異と,IL-2Rβに対して親和性を低下させる変異又はIL-2Rβ及びIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異の両変異を組み合わせたIL-2改変体の具体例も記載されている。 そうすると,段落【0007】には,IL-2改変体の特有の特性は,IL-2Rαに対する高い親和性を付与する変異と,IL-2Rβ及び/又はIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異の2組の変異から生じる旨が記載され, 【001 段落6】には,IL-2改変体の実施形態として,?IL-2RサブユニットIL-2Rα(CD25)に対する親和性の上昇,?シグナル伝達サブユニットIL-2Rβ 及び/又はIL-2Rγ に対する親和性の低下の組み合わせを有するものが記載されていることから,両変異を含む段落【0023】に記載のIL-2改変体が最良の実施形態であると思われるものの,段落【0020】又は【0022】のいずれかの態様のみのものも具体的に示されており,また,段落【0022】の,T-regの優先的な増殖/生存/活性化をもたらす改変体は,IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置か,又はIL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する他の位置の方向づけを改変する位置に変異を含む旨の記載から,IL-2Rβに対して親和性を低下させる変異,又はIL-2Rβ及びIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異(本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)に対応する。)が,FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進するという本件発明1の作用を発揮するのに重要であることが理解できる。 そして,このFOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用とは,甲4に示された「調節性T細胞であるか,非調節性T細胞であるかにかかわらず,T細胞が増殖する際には,STAT5の二量体化によるリン酸化反応が生じる」という技術常識を考慮すると,FOXP3陰性T細胞において,STAT5リン酸化を誘発する能力が低下すること(本件発明特定事項(c)に対応する。 及びFOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激 )すること(本件発明特定事項(b)に対応する。)を意味する。 このことは,本件明細書の実施例においても裏付けられている。すなわち,本件明細書の実施例2において,IL-2Rα(CD25)に対する親和性を向上させる変異のみを有するIL-2改変体(haWT) 野生型IL-2 は, (WT)と比較して,FOXP3+細胞及びFOXP3-細胞の成長/生存に対して同様に作用し(【図2B】〜【図2C】),FOXP3+/FOXP3-細胞の比率についてほとんど違いがないことから(【図2E】),IL-2Rαに対する親和性を向上させる変異は,本件発明特定事項(b)及び本件発明特定事項(c)に規定される性質にほとんど影響を与えず,その結果,FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の増殖/生存を優先的に促進する作用において,さほど重要なものではないことが理解できる。一方,このhaWTに対して,IL-2Rβ及び/又はIL-2Rγに対する親和性を低下させる変異を有するIL-2改変体(haD,haD.2,haD.4,haD.5,haD.6及びhaD.8)(なお,これらは順に,配列番号3,5〜9に対応するものであることは,【図1】及び配列表の記載から明らかである。)は,FOXP3+/FOXP3-細胞の比率を増加させるものである(【図2E】)。そして,【図2D】をみると,これらの改変体は,haWTと同程度にFOXP3+T細胞を刺激するのに対し,【図2B】及び【図2C】をみると,これらの改変体は,haWTよりもFOXP3-T細胞の蓄積が非常に非効率的であることが読み取れる。 そうすると,【図2E】でみられたFOXP3+/FOXP3-細胞の比率の増加は,FOXP3+T細胞の増殖を抑制することなく(【図2D】),その一方で,FOXP3-T細胞の増殖を抑制した結果(【図2B】及び【図2C】)によるものである。 このように,本件発明1のIL-2改変体が,FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の増殖/生存を優先的に促進する作用を有するには,IL-2Rαに対する向上した親和性ではなく,IL-2Rβ又は,IL-2Rβ及びIL-2Rγに対する低下した親和性が重要であることが実施例の記載からも理解される。 したがって,当業者は,本件発明特定事項(d)(@)及び(d)(B)に対応する構成を有するIL-2改変体は,FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の増殖/生存を優先的に促進する作用を有することを合理的に推認できる。 よって,上記の主張@は理由がない。 (イ) 本件明細書には,本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)を満たしつつ,本件発明特定事項(b)又は本件発明特定事項(c)を満たすIL-2改変体を作ることは記載されておらず,当業者にとってこのようなIL-2改変体を作るには,過度な検討が必要となるとの主張(主張A)について 上記(ア)のとおり,本件明細書の段落【0007】及び【0016】の記載によると, 【0022】 段落 における「IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置」に変異を含み得る旨の記載は,IL-2Rβに対して親和性を低下させる変異を含むこと,又はIL-2Rβ及びIL-2Rγに対して親和性を低下させる変異を含むこと(本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)に対応する。)を意味すると理解できる。 本件明細書の段落【0022】には,IL-2RβやIL-2Rγに対する親和性の低下を実現するために,IL-2において変異すべき位置が具体的に示され,さらに,変異後のアミノ酸残基の種類についても例示されている。 本件明細書の段落【0026】〜【0034】には,遺伝子工学的に免疫抑制IL-2改変体を作製するための方法が記載されている。 本件明細書の実施例には,IL-2Rβ及び/又はIL-2Rγに対する親和性を低下する変異を有するIL-2改変体であるhaD,haD.2,haD.4,haD.6及びhaD.8が具体的に記載されている。 このような本件明細書の記載に接した当業者は,本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)に規定する親和性を有するIL-2改変体を作ることができる。 そして,上記のとおり作成したIL-2改変体の中から,実施例2のフローサイトメトリーによるFOXP3陽性T細胞数及びFOXP3陰性T細胞数の測定を行うことにより,本件発明特定事項(b)及び本件発明特定事項(c)に規定される性質を有するものを確認することは,当業者にとって過度な検討を要することとは認められない。 したがって,主張Aは理由がない。 (ウ) 本件明細書には,本件発明特定事項(d)について,IL-2Rに対する親和性の測定方法が記載されておらず,どのような方法で測定した親和性を比較すべきなのかも特定されていないから,本件発明に係る物を作ることができないとの主張(主張B)について 甲2(本件審判の乙3)には,IL-2Rαに対する向上した親和性を有するIL-2改変体のスクリーニング方法が記載されているし,フローサイトメトリーを用いて細胞表面結合タンパク質を測定し,二つの個別の実験から得られた結果を用いてIL-2とIL-2Rα間の結合解離定数であるK d 値を推定したことが記載され,甲5には,表面プラズモン共鳴により,IL-2とあり得るIL-2Rサブユニットの組合せのそれぞれを用いて,Kd値を求めたことも記載されている。 そうすると,IL-2とIL-2R間の親和性の測定方法は,本件特許出願日当時の技術常識であったといえる。 そして,このような技術常識を考慮すると,当業者は,IL-2におけるIL-2Rに対する親和性を測定することができる。 また,本件明細書中にどのような方法で測定したか特定されていないとしても,本件発明特定事項(d)は,比較対象として「配列番号1として記載されるポリペプチド」と規定しており,本件優先日当時に汎用のいずれの方法を用いたとしても,「配列番号1として記載されるポリペプチド」と比較して親和性が向上又は低下していればよいのであるから,本件明細書中にIL-2Rに対する親和性の測定方法を特定する必要はない。 さらに,本件明細書の段落【0002】には,「IL-2Rβγによって伝えられるシグナル」と記載され,段落【0050】には,「IL-2Rβγ接触残基変異を有するいくつかのIL-2改変体」と記載されており,また,甲5及び甲18(Xinquan Wang 他「Structure of the Quaternary Complex of Interleukin-2 withIts α,β,and γc Receptors」SCIENCE Vol.310,p1159-1163,2005 年。本件審判の乙5)には,IL-2RβとIL-2Rγは複合体を形成して,IL-2と結合することが記載されていることを考慮すると, 「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」は,IL-2Rβγ(IL-2βγ複合体)を意味すると解釈できる。そして,IL-2Rβγへの親和性は,本件特許出願日当時の技術常識により測定可能である。 したがって,主張Bは理由がない。 イ 本件発明2〜15について 本件発明2〜15についての原告の主張は,無効理由4が本件発明1について理由があるという前提の下,本件発明2〜15が本件発明1に従属していることのみをその根拠とするものであり,無効理由4は,本件発明1について理由がない以上,本件発明2〜15についても理由がない。 ウ 本件発明16及び17について 本件発明1について,無効理由4に理由がない以上,本件発明16及び17についても理由がない。 エ 以上によると,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明1〜17を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているから,本件明細書の発明の詳細な説明は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしている。 (6) 無効理由5(サポート要件違反)について 本件発明1が解決しようとする課題は,本件発明1の記載からみて,「IL-2改変体を含む,被験体において炎症性疾患,障害または状態を処置する方法において使用するための医薬組成物を提供すること」であると認められる。 そして,前記(5)のとおり,本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)に規定するIL-2Rに対する親和性を有するIL-2改変体は,FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用を有するものであるから,被験体において炎症性疾患,障害又は状態を処置する方法において使用できることは,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が認識できるものである。 そうすると,本件発明1は,発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されている範囲内のものである。 本件発明2〜17についての無効理由5は,本件発明1についてのそれと趣旨を同じくするものであるから,本件発明1について,無効理由5に理由がない以上,本件発明2〜17についても理由がない。 したがって,本件発明1〜17に係る特許を無効理由5によって無効とすることはできない。 |
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原告の主張する審決取消事由
1 取消事由1(無効理由4:(d)(B)改変体及び(d)(C)改変体の実施可能要件違反) (1) 本件審決は,本件発明1の「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」は,IL-2Rβγ(IL-2Rβγ複合体)への親和性(βγ親和性)を意味すると解釈でき,これは測定可能であるとするが,この判断には誤りがある。 (2)ア (d)(B)改変体及び(d)(C)改変体として,「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」との記載があるのみで,本件明細書には,直接的あるいは間接的の何れの形においても,「IL-2Rβγ複合体親和性(IL-2Rβγ複合体に対する親和性)」という技術的事項は記載されていないし,発明を特定するための特定事項として,「IL-2Rβγ複合体親和性」を選択すべきことも記載されていない。 イ 「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」の語は,文言上は,「IL-2Rβ」と「IL-2Rγ親和性」を「および」で併記したものであるところ,前者がIL-2Rのサブユニットの一種を指すものであり,後者が他のサブユニットへの親和性を指すものであるから,言葉の性質・レベルが異なっている。「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」 「IL-2Rβ親和性およびIL-2Rγ親和性」 は,と書くと冗長となるため,最初の「親和性」を削除して略記したものであるといえる。 このことは,本件明細書の段落【0002】の「PI3-キナーゼRas-MAP-キナーゼ,およびSTAT5経路」は,「および」の前の「経路」の語が省略されたもの,段落【0051】の「AKTおよびSTAT5のリン酸化」は,「および」の前の「リン酸化」が省略されたものであることなどからも明らかである。 また,被告は,請求項1を訂正しているが,訂正前の「IL-2Rβおよび/もしくはIL-2Rγ親和性」を,「IL-2Rβ親和性」と「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」に書き分けている(平成28年7月26日付け訂正請求書〔甲30。 以下,「本件訂正請求書」という。〕)し,「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」について,「IL-2Rβ親和性およびIL-2Rγ親和性に係る部分の両方を満たすもの」と説明している(被告作成の平成28年7月26日付け意見書〔甲31。 以下,「本件意見書」という。〕)。 さらに,本件明細書では,「IL-2Rβおよびγ」又は「IL-2Rβおよび/もしくは(または)γ」に類する記載が複数の個所で用いられているが(段落【0002】,【0004】,【0007】,【0016】,【0047】,【0050】等) そのいずれも, , 「IL-2RβサブユニットおよびIL-2Rγサブユニット」という二つの別々のサブユニット双方に対しての事象を説明している文脈で用いられている。また,本件明細書では,段落【0002】,【0050】の2か所において,「IL-2Rβγ」の語が用いられているが,これらは何れも,先にβγ複合体への言及がない状態において,先行する「IL-2Rβおよび(/もしくは)IL-2Rγ」の語の後に登場するものであるから,「IL-2Rβおよび(/もしくは)IL-2Rγ」を略記したものであって,βγ複合体を意味するものでない。 【0 段落002】においては,「IL-2結合に際して細胞内シグナル伝達事象を一緒に活性化する」と「一緒に」という語が用いられていることからすると,「IL-2RβおよびIL-2Rγ」が「IL-2Rβγ複合体」を意味していると読むこともできない。 ウ 甲5(1198頁表1の脚注a)に,「IL-2Rγ単独では結合は見受けられなかった」とあり,他の先行技術にも,IL-2改変体とIL-2Rγとの親和性を測定した例は存在しない。そもそも,IL-2Rγ親和性に関する記載自体がほとんど存在しない。そのため,IL-2Rγ親和性は実際には測定することができないものである。 しかし,IL-2は,IL-2R(IL-2受容体)と結合するものであり,IL-2Rのサブユニットはβ,γ又はα, γからなるため, β, IL-2Rγ親和性(IL-2Rγとの結合性)は観念し得る。当業者が,IL-2Rγ親和性を観念しえないとはいえない。 エ 以上によると,「IL-2Rβ およびIL-2Rγ 親和性」は,IL-2Rβ親和性及びIL-2Rγ親和性を意味するのであり,IL-2Rβγ(複合体)親和性を意味すると解釈することはできない。 (3) 前記(2)ウのとおり,IL-2Rγ親和性は実際には測定することができないものである。仮に,何らかの特殊な条件や装置ならば測定可能であったとしても,本件明細書には,IL-2Rγ親和性の測定方法についての記載は一切なく,これを過度な検討なく測定可能であったとすることはできない。 (4) 以上によると,本件発明1の「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」は,「IL-2Rβ親和性およびIL-2Rγ親和性」と解するほかなく,当時の当業者はIL-2Rγ親和性を測定できなかったから,(d)(B)改変体及び(d)(C)改変体(γ親和性の低下を特徴に含む改変体)は,実施可能要件に違反する。 2 取消事由2(無効理由4:(d)(@)改変体及び(d)(B)改変体の実施可能要件違反) (1)ア 本件明細書に,実施例として具体的な効果のデータが記載されているのは,(d)(A)改変体(α親和性の上昇かつβ親和性の低下を特徴とする改変体)及び(d)(C)改変体(α親和性の上昇かつβ親和性及びγ親和性の低下を特徴とする改変体)であり,(d)(@)改変体(β親和性の低下を特徴とする改変体)及び(d)(B)改変体(β親和性及びγ親和性の低下を特徴とする改変体)については,実施例として具体的な効果のデータが記載されているわけではない。 イ 本件明細書や実施例で具体的に論じられているのは,各サブユニットとの「接触」や受容体サブユニットと接触するとされる「アミノ酸残基の変異」であり,実施例では親和性は測定されていないため,観察されるIL-2改変体の活性の変化が,結合親和性と関係しているのかどうかは不明である。接触の変化(接触残基の変異)は,親和性とは無関係に,IL-2R(IL-2R受容体)の活性を直接調整し得るものであるから,実施例で示された効果が結合親和性の強弱の変化のみと関連しているという前提に立った上で様々な推論を行い,(d)(A)改変体や(d)(C)改変体で観察された効果を,(d)(@)改変体や(d)(B)改変体にまで拡張して理解,推測することはできない。IL-2Rβ関連の変異について具体的に説明する,本件明細書の段落【0022】においても,「IL-2Rβに接触すると考えられるIL-2残基」という表記が用いられ,親和性については言及されていない。これは,IL-2Rαについては,段落【0020】【0021】で親和性に言及されていることと ,対照的である。IL-2上の変異の位置や変異後のアミノ酸によっては,IL-2Rβに対する親和性は維持されつつ,IL-2Rβを活性化させる活性化能力のみが低下することも十分にあり得ることである。 ウ 本件明細書の実施例のIL-2改変体の含む「I-2Rβおよび/またはIL-2Rγとの相互作用を改変する」変異,例えば,N88D変異について,本件明細書にこれが具体的にどのような変異であるか説明されていないのみならず,本件特許出願日より前の文献等においても,N88D変異がどのような性質をもたらす変異であるかは確認されていない。 N88Dは,本件明細書の段落【0022】に,I-2Rβ接触位置の残基の変異として記載されているが,接触位置の変異であっても,親和性を向上させることになるか,低下させることになるかは,試してみるまで分からない。実際に,段落【0020】, 【0021】に記載されているIL-2Rα接触位置の変異の幾つかはI-2Rαとの親和性の向上をもたらす一方,他の変異の幾つかはIL-2Rαとの親和性の低下をもたらすことが知られている。甲1及び甲5に記載されるN88R改変体は,本件特許出願日より前に,IL-2Rβ親和性が低下していることが確認されているが,N88R改変体でIL-2Rβ親和性の低下が観察されたからといって,N88D改変体においても,IL-2Rβ親和性が低下していると理解できるものではない。 本件明細書の実施例で用いられた変異又は変異の組合せや段落【0022】に記載されたアミノ酸残基の位置における変異は,IL-2のIL-2Rサブユニットとの親和性に影響するのか,IL-2によるIL-2Rβの活性化に影響を与えるのか,あるいは,その双方なのかが明らかではなく,これを合理的に推測するための根拠や実験的な結果もない。 エ したがって,(d)(@)改変体や(d)(B)改変体は,実施可能要件を欠くものである。 (2) 本件審決は,α親和性を向上させる変異は本件発明の作用効果を奏する上では重要でなく,β親和性を低下させることが本件発明の作用効果を奏する上で重要であるから,α親和性の上昇かつβ親和性の低下を特徴とする改変体とα親和性の上昇のみを特徴とする改変体との比較・差分から,(d)(@)改変体及び(d)(C)改変体の効果を推定することができるとする。 ア 本件明細書はα親和性の上昇も重視していたこと (ア) 甲41(Thomas R. Malek 「The Biology of Interleukin-2」The AnnualReview of Immunology 26,p453-479,2008 年)には,IL-2のTreg活性化においてシグナル伝達を担うIL-2Rβ(CD122)のみならず,IL-2Rα(CD25)が欠損した場合にも,自己免疫疾患等の免疫過剰(免疫制御の欠損)の症状を示したこと,IL-2Rα(CD25)を恒常的に発現しているのはTregのみであり,IL-2Rα(CD25)はTregのマーカーとして有用であること,ヒトにおいて,IL-2Rα(CD25)が欠損した患者が深刻な自己免疫疾患等の免疫異常を示したこと,IL-2Rβ及びIL-2Rγ(CD122及び γc)のみを有する細胞(IL-2Rαを有しない細胞)を活性化するmAb(モノクロ-ナル抗体)は,Tregを活性化することができなかったことが記載されていた。 このように,免疫抑制機能を有するTreg細胞は,IL-2Rαを高発現することを特徴としており,本件特許出願当時,IL-2RのサブユニットとIL-2の有するTreg活性化との対応関係について知られていたことは,IL-2によるTreg細胞の活性化においてIL-2Rαが重要な働きを担っていることであった。 (イ) 本件明細書は,α親和性の上昇に係る説明(段落【0020】,【0021】)をβ親和性,γ親和性に係る説明(段落【0022】)に先行して行っており,その分量も前者が後者と比較して多く,詳細である。実施例の改変体も,β親和性を低下させる変異は1〜2個しかないのに,α親和性を上昇させる変異は8個と多数に及んでいるし,IL-2Rα(CD25)を発現するCD25陽性細胞のみを分析対象としている(【図2B】〜【図2E】)から,α親和性の上昇が重要と考えられていたことが理解できる。 イ 本件発明の効果はα親和性の向上とβ親和性の低下の組合せにより得られること (ア) 本件明細書は,【課題を解決するための手段】として,α親和性の向上とβ親和性の低下の組合せという2組の変異の組合せを強調しており,本件発明特定事項(b),(c)に対応する効果を記載している段落【0007】,【0016】及び【0023】のいずれにおいても,α親和性の向上と β 親和性の低下の組合せが強調されている。 (イ)a 本件発明は,自己免疫疾患等の炎症性疾患等を処置するためのものであり,その最も基礎的な課題は,調節性T細胞の活性化(自己免疫作用の抑制)を,当該処置に効果的な程度まで発揮させることである。 しかし,甲41には,IL-2Rβ(CD122)を欠損したマウスは自己免疫疾患(過剰な免疫反応)を発症することが記載されており,IL―2Rβは,IL-2によるTreg活性化においてIL-2シグナルを下流に伝える基礎的なシグナル伝達ユニットである。また,甲10は,本件基礎出願で用いられたIL-2改変体「2-4」からβ親和性を低下させる変異(本件明細書の段落【0022】に記載されるV91R又はQ126Tのいずれか一方の変異)を更に一つ増やし,β親和性を低下させる変異を二つ含むIL-2改変体を開示しているが,この改変体は,β親和性の低下に伴い,Tregを活性化することができず,逆に調節性T細胞活性化の阻害剤(アンタゴニスト)として機能した。 このように,β親和性を低下させただけのIL-2改変体は,IL-2による調節性T細胞の活性化自体も低下させるため,自己免疫疾患の処置に用いることができず,かえってこれを悪化させる可能性すら懸念される。 そのため, 「IL-2Rβおよび/またはIL-2Rγに対する親和性のさらなる低下は,CD25〔IL-2Rα〕に対する親和性の増加によって補うことができるかもしれない」と期待されていた(本件明細書の段落【0004】)のである。 b IL-2Rα(CD25)は,IL-2からのシグナルを細胞内に直接伝達するものではないため,IL-2は,IL-2Rαと結合すると,IL-2Rα・IL-2複合体を形成し,この複合体が,実際にシグナルを伝達する役割を担うIL-2Rβ,IL-2Rγと結合し,IL-2は,IL-2Rαと結合することで,より強くIL-2Rβと結合するようになる(甲4,18,37,38)。 本件明細書の実施例では,IL-2Rα(CD25)を発現する細胞において, 「α親和性が向上すると考えられる変異を多数含み,かつN88変異も含むIL―2改変体」(haD)が所望の効果(非Tregと比較して,Tregをより強く活性化する)を示したことが記載されている。他方で,本件明細書の実施例のIL-2改変体(haD,haD.1,haD.2,haD.4.haD.5,haD.6及びhaD.8。以下,「haD等」という。)は,β親和性を低下させる可能性のあるN88変異も併せて有している。これらを併せて考えると,実施例の実験系中では,IL-2改変体haDによりα親和性向上を介したβ親和性の向上と,β親和性の低下という二つの相反する結果がもたらされることになる。 甲18の図2Bでは,IL-2は,IL-2Rαと結合することで,IL-2のN88残基が移動し,その結果,N88残基とIL-2Rβとの結合が強くなることが示されている。このことを理解している当業者は,本件明細書の実施例により,IL-2改変体が,より多く又はより強くIL-2Rαと結合すると,そのことは,N88残基の位置にも影響を与えるだろうと理解する。そうすると,α親和性向上変異とN88変異とを併せ持つIL-2改変体(haD等)が奏する作用効果は,α親和性向上変異の結果,移動したN88残基の位置と,N88位アミノ酸の特定のアミノ酸(D)への変異との固有の組合せにより奏されているだろうと解するのが自然である。 このように,当業者は,本件発明の実施例の特定の変異の組合せにより成されたβ親和性の微妙なバランス(ほどよい親和性・活性化)の結果,あるいは,IL-2Rα結合性の向上によるIL-2Rαとの結合への直接的な影響も考慮する場合には,IL-2Rαβγ複合体からなる受容体とIL-2Rβγ複合体からなる受容体のそれぞれについての適度に調節された親和性の組合せの達成の結果,所望の作用効果が発揮されているのであろうと考えるのが一般的である。現に,haDに対し,段落【0022】に記載されるQ126Eに変異を加えたhaD.11は,本件発明の効果を奏していない。 (ウ) 以上のように,本件発明の効果は,α親和性の向上とβ親和性の低下の組合せにより得られるものである。 ウ (d)(A)改変体及び(d)(C)改変体で観察された効果から(d)(@)改変体や(d)(B)改変体の効果を理解することができないこと (ア) バイオテクノロジ-の実験において,ある変異群を有する変異体の結果から,その変異群のうちの一部を有する変異体の結果を差し引いて,差分の変異のもたらすであろう効果を考えるという手法は一般的ではない。特に,IL-2のように,作用効果の発揮に関わり得る受容体が複数(αβγ,βγ)存在し,それぞれの変異群が,それぞれの受容体に対してどのように結合性の変化をもたらすのか定かでない場合は,より一層,このような手法が用いられることはない。 被告自身も,本件特許の審査段階において,「野生型IL-2は,IL-2Rα,βおよびγの 3 種すべてに結合することが知られるので,増加したIL-2Rα親和性および/または低下したIL-2Rβ/γ 親和性を有するIL-2改変体において,生物学的機能(例えば,調節性T細胞の刺激)が保持されることを当然のことと推定することはできません。」(被告作成の平成27年4月22日付け拒絶査定不服審判請求書・甲32)として,IL-2から別のIL-2へと改変した場合の効果の変化の予測不能性を説明している。 (イ) また,前記イ(イ)のとおり,本件明細書をみた当業者は,α親和性向上変異とN88変異とを併せ持つIL-2改変体(haD等)が奏する作用効果は,α親和性向上変異の結果,移動したN88残基の位置と,N88位アミノ酸の特定のアミノ酸(D)への変異との固有の組合せにより奏されているだろうと解するのが自然である。 このような背景の下では,haD等のIL-2改変体の作用効果から,α親和性向上変異のみを有するIL-2改変体(haWT)の作用効果を単純に差し引くことで何らかの結論を得る手法は通常考えられず,また,実際に差し引いたところでβ親和性低下のみを有する変異体の効果を合理的に理解できるものではない。 エ 以上のとおり,当業者は,(d)(A)改変体(α親和性向上とβ親和性の低下を特徴とする改変体)及び(d)(C)改変体(α親和性の向上と β/γ親和性の低下を特徴とする改変体)から,(d)(@)改変体(β親和性の低下を特徴とする改変体)及び(d)(B)改変体(β/γ親和性の低下を特徴とする改変体)の効果を合理的に予測できたということはできないから,(d)(@)改変体及び(d)(B)改変体は,実施可能要件に違反する。 3 取消事由3(無効理由5:サポート要件違反) 前記1,2のとおり,本件明細書には,本件発明の(d)(A)改変体以外の改変体について,それにより所望の効果を得られることが実施可能に記載されていない。このことは,当該改変体についてのサポート要件違反をも構成する。 4 取消事由4(無効理由1:優先権主張の利益を享受できないことを前提とする甲1に基づく新規性欠如) (1) 優先権がないこと ア 本件基礎出願と本件発明の相違点は,以下のとおりである。 (ア) 技術思想及び本件発明特定事項(c)の違い 本件発明特定事項(c)は,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力を低下させることで,FOXP3陰性T細胞における免疫活性化作用を抑制するというメカニズムに基づくものである。 本件基礎出願当時,調節性T細胞におけるAKT活性の低下が,調節性T細胞の活性化に寄与することが広く知られており(甲13) 本件基礎出願の請求項1の , (c)は,「AKTのリン酸化における低下」が「低下したPI3Kシグナル伝達能力」を示し,この「シグナル伝達の改変」によって「Tregの優先的な増殖/生存/活性化」をもたらすという技術的思想に基づいている(本件基礎出願明細書の段落【0013】)。本件基礎出願明細書には,「FOXP3陰性T細胞におけるSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下している」ことにつき,直接の記載はない。 (イ) 本件発明特定事項(d)の違い 本件発明の請求項には,本件発明特定事項(b),(c)のような機能的要件を実現する構成的要件として,IL-2の改変態様に係る本件発明特定事項(d)が存在する。 本件基礎出願明細書は,複数個所において,α・β・γとの接触についての言及は行っているが,本件基礎出願の請求項には,本件発明特定事項(d)のようなIL-2の改変態様に係る記載は存在しない。 (ウ) 本件審決は,@本件基礎出願明細書の段落【0009】には,IL-2改変体の非調節性細胞・・・の成長/生存を促進するための能力が野生型IL-2と比較して低下しているものであることが記載されているところ,A当時の技術常識(甲4)からすると,非調節性細胞・・・の成長/生存を促進するための能力が低下していることは,STAT5がリン酸化する能力が低下することと同義であるから,本件発明特定事項(c)は実質的には記載されているとする。 しかし,本件発明は,対象疾患に関し,β・γ親和性の低下による「FOXP3陰性T細胞におけるSTAT5のリン酸化を誘発する能力の低下」によって,「FOXP3陰性T細胞における免疫活性化作用を抑制」することに本質があるものである。 他方,本件基礎出願では,「非調節性細胞の成長/生存を促進するための能力の低下」という結果や,「非調節性細胞」という対象自体については,本件基礎出願明細書の段落【0009】で記載されているものの,その原因や,それを実現するための構成との関係については何ら記載されていない。かえって,本件基礎出願の実施例2は,「AKTのリン酸化における低下」による「Tregの優先的な増殖/生存/活性化」に着目しているものである。 したがって,非調節性細胞の抑制結果の記載があることをもって,本件基礎出願明細書に, 「FOXP3陰性T細胞におけるSTAT5のリン酸化を誘発する能力の低下」という機能やそのための構成についても記載があるというのは飛躍がある。 (エ) 以上のとおり,本件基礎出願と本件特許出願とでは,β親和性・γ親和性に係る技術的思想や,それによって実現しようとする機能が異なっており,この点についての本件特許出願の構成は本件基礎出願に記載がないから,両者は同一の発明とはいえず,本件発明は本件基礎出願に基づく優先権を主張できない。 イ 本件基礎出願の実施例では,配列番号1に記載のアミノ酸配列に対し,N29S,Y31H,K35R,T37A,K48E,V69A,N71R,Q74P,N88D,I89Vという合計10のアミノ酸変異を有するIL-2改変体「2-4」が所望の効果を奏する唯一のIL-2改変体として記載されている。本件基礎出願明細書の記載に基づくと,IL-2改変体のうちの八つの変異(N29S,Y31H,K35R,T37A,K48E,V69A,N71R,Q74P)はIL-2Rαに対するより大きな親和性を付与する変異であり,一つの変異(N88D)は低下したPI3Kシグナル伝達能力を有するIL-2改変体が含み得る変異であって,IL-2Rβに接触すると考えられるIL-2残基の変異である。しかし,残りの変異I89Vについては,本件基礎出願明細書では,実施例以外では触れられていない。 そして,本件基礎出願明細書の段落【0038】は,I89Vについて,N88D変異,又はI89V変異,あるいはN88D変異とI89V変異の組合せのうち,いずれが本件基礎出願に係る発明の効果の発揮に関与しているのかが実施例から定かでないことを示している。N88とI89が隣接したアミノ酸残基であることも併せて考えると,いずれかの変異が重要であっても,あるいは,その双方の変異の組合せが重要であっても,おかしくはない。 これに対し,本件特許出願の実施例では,本件基礎出願の実施例とは異なるIL-2改変体が用いられており,そのIL-2改変体は本件基礎出願のIL-2改変体「2-4」と異なり,I89V変異を有さない。I89V変異を有さないIL-2改変体を用いた実験結果の開示(本件明細書)によって初めて,I89V変異が不要であることを合理的に理解可能となったことは明らかである。 本件基礎出願明細書等には,I89Vは本発明の課題解決・効果の発揮に不要であると理解するための合理的な理由も,その他の実験も,詳細な実験結果(実験デ-タ)の開示も,あるいは関連するメカニズムの説明も記されていないから,I89V変異を有さない改変体が,実施例に係るI89V変異体と同様の効果を奏するであろうことは本件基礎出願明細書等から合理的には推認できない。 明細書の記載から一義的に導くことができず,自分で追試験を行うことで初めて明らかになるような特徴は,明細書に(実施可能に)記載されている事項であるとはみなすことができない。 したがって,I89V変異の必要性の点においても,本件基礎出願明細書は,本件発明をサポートしておらず,優先権は有効ではない。 ウ 次のとおり,本件基礎出願が前提とするAKTのリン酸化に係る技術的思想は,それ自体として誤っているものであるから,本件発明に優先権を認めることはできない。 (ア) 本件基礎出願の請求項1の(c)は,AKTのリン酸化における低下は,PI3Kシグナル伝達能力の低下を示し,これがTregの優先的な増殖/生存/活性化をもたらすという技術的思想に基づいている。 しかし,本件明細書の段落【0051】においても引用される文献(甲33〔RobertZeiser 他「Differential impact of mammalian target of rapamycin inhibitionon CD4+CD25+Foxp3+ regulatory T cells compared with conventional CD4 + T cells」BLOOD vol.111,No.1,453-462,2008 年〕)によると,IL-2によるTregの活性化においては,AKT経路(PI3K-AKT-mTOR経路)ではなく,STAT5経路により,シグナルが伝達されているのであり,IL-2によってAKTシグナル伝達は刺激されない。 したがって,本件基礎出願の実施例2(本件基礎出願明細書の段落【0040】)で確認された「IL-2改変体『2-4』がAKTリン酸化を刺激できなかった」という実験結果は,そのIL-2改変体固有の結果ではなく,野生型IL-2でも起こり得る結果であり,その実験結果の誤解に基づいてされた,FOXP3陽性T細胞におけるAKT活性の低下を特徴とした本件基礎出願の発明は,技術的に誤ったものであった。 (イ) パリ条約に基づく優先権制度は,各国の特許制度が別個独立のものであることを前提に,言語も法律も手続も異なる各国に早急に出願するのは多大な労力と費用が必要で,負担が大きいことから,ある同盟国で正規又は最初の出願をし,それを基礎として1年以内に他の同盟国に出願することを条件に,他の同盟国での優先権を認めたものである。この制度は,当初の出願に係る発明が,技術的にも正しく特許を受ける資格を有するものであることを当然の前提としているのであって,技術的に誤りのある未完成発明というべきものを基礎とした優先権は認められない。 本件基礎出願は,上記(ア)のように,その前提とする技術的思想自体が誤っているものであり,本件発明は,この誤りを請求項から排除し,全く異なる技術的思想を導入して適正な発明としての外形を整えたものであるから,本件発明は本件基礎出願の発明と同一ではないし,本件基礎出願に基づく優先権を認めるのも適当ではない。 基礎出願が本質部分につき誤った情報の開示をした結果,課題解決の手段としての発明を理解することができないか,発明を過度な検討なく実施できない状況になってしまっているのであれば,当該基礎出願に基づく優先権主張は無効であると判断せざるを得ない。 したがって,本件発明1は,本件基礎出願に基づく優先権を主張できない。 (2) 先願発明2に基づく新規性欠如 ア 本件審決は,本件発明1の本件発明特定事項(c)と先願発明2について,相違点4〜6を認定し,@CD8陽性細胞においてFOXP3が低レベルで発現していることからすると,先願発明2における「CD8陽性細胞傷害性T細胞」が,本件発明1における「FOXP3陰性T細胞」に相当するとはいえないこと,A本件発明1は,「FOXP3陰性T細胞」に含まれるCD4+細胞とCD8+細胞の両方において,「STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」しているものであるが,甲1明細書には,CD4+細胞におけるSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることの記載がないことから,相違点5は実質的な相違点であるとした。 イ 上記@について 本件特許の請求項に記載された「FOXP3陰性T細胞」とは「FOXP3を発現していない細胞」という意味であり,「調節性T細胞以外の細胞」を意味する。甲 1の「CD8陽性細胞傷害性T細胞」は,細胞傷害性T細胞(細菌等を攻撃する免疫応答を担う細胞)であり,免疫を抑制する役割を担う調節性T細胞ではない。甲 1 では,「CD8陽性」と,細胞マーカーを用いた特定も重ねてされているが,甲6の図1及び甲7の図1Bの説明や,本件明細書の段落【0013】 【図2A】 の によると,FOXP3+CD8+T細胞は典型的に極めてまれであり,CD8+T細胞の大半はFOXP3陰性である。そして,CD8陽性T細胞に,低レベルのFOXP3陽性T細胞の発現があるとしても,含まれているFOXP3陽性T細胞は無視できるほどごくわずか(甲6では0.15%,甲7では0.22%)である。このわずかな割合のFOX3陽性T細胞は,甲 1 で示されたCD8陽性T細胞における増殖の低下の文脈において,実質的な同一性を失わせるものではない。したがって,先願発明2の「CD8陽性傷害性T細胞」は本件発明1の「FOXP3陰性T細胞」と実質的に同一と評価できる。 また,甲 1 に記載されている「CD8陽性細胞傷害性T細胞」とは,非傷害性T細胞である「CD8陽性調節性T細胞」(CD8陽性FOXP3陽性T細胞)を含まない概念であるから,「CD8陽性細胞傷害性T細胞」はFOXP3陰性T細胞のみからなる概念と考えることもできる。 以上によると,先願発明2の「CD8陽性細胞傷害性T細胞」は本件発明1の「FOXP3陰性細胞」といえる。 ウ 上記Aについて 甲34(Andreas Weishaupt 他「The T cell-selective IL-2 mutant AIC284mediates protection in a rat model of Multiple Sclerosis 」 Journal ofNeuroimmunology 282,p63-72,2015 年)の図1C及び図2A(右端の血液における結果)では,野生型IL-2(Proleukin)よりもIL-2改変体「hIL-2-N88R」(AIC284)の方が,CD4陽性FOXP3陰性細胞(CD4+FOXP3-細胞)の増殖に対する活性が低下していることが示されており,この結果は,本件明細書の実施例の【図2C】の結果と同様である。このことは,IL-2改変体「hIL-2-N88R」 本件明細書の実施例で用いられたIL-2改変体haD等 が,と同様の活性を有することを示している。また,甲1のIL-2改変体「hIL-2-N88R」について,本件明細書の実施例3と同一の実験条件で実験を行ったところ,甲 1 発明に係るhIL-2-N88Rは,CD4+FOXP3陰性T細胞においても,本件発明と同様の効果を奏することが確認されている(甲39〔令和元年11月28日付け実験成績証明書〕。 ) したがって,先願発明2は,CD8陽性細胞傷害性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力を低下させるのみならず,CD4陽性FOXP3陰性T細胞においてもSTAT5のリン酸化を誘発する能力を低下させるものである。 なお,甲34は本件特許出願後の文献であり,少なくとも本件基礎出願,本件特許出願時には,先願発明2のCD4+細胞での効果は確認されていなかったといえるが,CD4+細胞での効果は,あくまで先願発明2に内在していた効果にすぎないところ,それによって新たな用途が見出されたわけではないから,このようなCD4+細胞での効果を理由に,公知の用途発明である本件発明1に新規性を認めることはできない。被告は,甲34はラット細胞で活性を測定しており,甲1はヒト細胞で測定しているので,甲34の結果が甲 1 のヒト細胞でももたらされるか否か不明であると反論するが,そもそも本件発明は,特定の生物種に限定された発明ではないため,甲1の改変体がラット細胞で本件発明の活性を示すというだけで十分である。本件明細書も,生物種によって効果が異なるという説明はしていないから,甲34で確認された活性は,当然ながらヒト細胞でも奏されるものと考えられる。 このように,先願発明2(IL-2改変体「hIL-2-N88R」)は,CD4+ 細胞でもSTAT5のリン酸化誘発能力を低下させる効力があること,CD4+細胞でのこの効力は,先願発明2に新たな用途をもたらすものではないこと等からすると,前記Aは実質的な相違点ではない。 エ 本件審決は,相違点6を実質的な相違点としているが,後記(3)アのとおり,相違点6も実質的な相違点ではない。 オ したがって,先願発明2と本件発明は実質的に同一である。 (3) 先願発明1に基づく新規性欠如 ア 本件審決は,本件発明1の本件発明特定事項(d)と先願発明1について,相違点1〜3を認定し,IL-2Rに対する親和性が(d)(@)〜(C)として特定されているのに対し,甲1には,IL-2改変体におけるIL-2Rに対する親和性について何ら記載されていないとして,相違点3を実質的な相違点と認定した。 しかし,甲1の段落【0019】及び【0022】によると,@甲1発明のhIL-2変異体タンパク質(第20位,第88位及び第126位のアミノ酸のうちの少なくとも一つが置換されたIL-2改変体) 甲3のIL-2改変体と同一であるこ は,と,A当該改変体がIL-2RβγよりもIL-2Rαβγと強く結合することが甲3に記載されていることが理解できる。 また,甲3の段落【0009】,【0030】及び【0031】によると,IL-2RβγよりもIL-2Rαβγと強く結合する甲1発明のIL-2改変体は,Asp-20,Asn-88又はGln-126での置換により,IL-2Rβ(Asp-20及びAsn-88)又はIL-2Rγ(Gln-126)のいずれかに対する結合親和性が減少したものであることがわかる。 このように,甲1では,甲3を引用して甲1のIL-2改変体のIL-2Rへの親和性について言及しているところ,それによると,甲1に記載の「第20位,第88位及び第126位のアミノ酸のうちの少なくとも1つが置換されたIL-2改変体」は,本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)を満たすものであるから,甲1は,本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)を実質的に開示するものであり,この点は実質的な相違点ではない。 イ 本件審決が実質的な相違点であるとした相違点2が実質的な相違点でないことは,前記(2)のとおりである。 ウ したがって,先願発明1と本件発明は実質的に同一である。 (4) 以上から,甲1発明と本件発明(改変体(d)(@)及び(d)(B)を用いた発明)は実質的に同一であって,本件発明に新規性は認められない。 5 取消事由5(無効理由2:優先権主張の利益を享受できないことを前提とする甲1に基づく進歩性欠如) (1) 仮に,本件審決のように,甲1におけるCD4+細胞での効力の記載の不存在等を理由に,本件発明1に新規性があると判断される場合であっても,甲1発明を,その 記載 され たと お りに 実行 す る と , そ のま ま 本 件発 明特 定 事項 (d)(@) 又 は(d)(B)に係る態様を構成する。 ア 本件発明1は,特定のIL-2改変体を含む,自己免疫疾患,器官移植片拒絶,又は,移植片対宿主病を処置する方法において使用するための組成物,すなわち,自己免疫疾患,器官移植片拒絶,又は,移植片対宿主病の処置に関するIL-2改変体の用途発明である。 甲 1 の表記にもかかわらず,甲 1 のIL-2改変体(例えば,hIL-2-N88R)は,本件特許の請求項に記載のIL-2改変体(改変体(d)(@)又は(d)(B))に該当する。また,甲 1 は,甲 1 のIL-2改変体を炎症性疾患,障害又は状態を処置用途に用いる発明を開示している。 したがって,当業者が甲 1 の発明を実施しようとして,甲 1 のIL-2改変体を製造し,これを自己免疫疾患等のための組成物とすると,そのまま本件発明特定事項(d)(@)又は(d)(B)に係る態様を構成する。 当業者は,CD4+細胞での効力等の不記載にかかわらず,甲 1 発明から,過度の検討どころか一切の検討すら必要なく,本件発明に想到することができるのであって,本件発明は,甲1発明に対して進歩性を有さない。 イ 甲1のIL-2改変体(例えば,hIL-2-N88R)は,本件発明で特定されているIL-2改変体と同一であるため,同一の効果を奏する。甲1のIL-2改変体を含んだ甲1の組成物は,自己免疫疾患等の治療において,本件発明1の組成物と同一の効果を発揮する。 ウ CD4+細胞でのリン酸化誘発能力の低下の効果については,本件発明1に係る改変体のみでなく甲1の改変体についても,内在的に有している属性,特性であって,自己免疫疾患等の処置用途において甲1発明においても発揮されている副次的効果,作用機序を記述したものに過ぎない。 ある発明を実施すると当然に発揮される効果の中から,従前知られていなかった効果を発見したとしても,当該効果が,従前知られていた用途を実現する過程での副次的な作用機序・過程にすぎないのであれば,単に,新たな作用機序の発見に外ならず,当該発明の効果と比較して優れた効果や新たな用途を発見したということはできず,進歩性,非容易想到性の根拠となるものではない。 (2) 本件発明1以外の発明についても,甲1と甲2〜9とを組み合わせる等により容易に想到することができるから,進歩性は認められない。 (3) したがって,本件発明は,甲1発明に対して進歩性を有さない。 6 取消事由6(無効理由3:優先権主張の利益を享受できるとした場合の甲1に基づく特許法29条の2違反) (1) 仮に,本件発明について本件基礎出願に基づく優先権が認められ,新規性の基準日が平成21年1月21日になるとしても,本件発明1は,平成20年5月8日に優先権主張の基礎出願がされた甲1発明と実質的に同一の発明であるから,特許法29条の2違反となる。 (2) 甲1の先願としての地位の基準日について 本件審決は,甲1基礎出願の明細書(甲35)には,hIL-2-N88Rが,CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対する活性をほとんどあるいは全く有さないことが記載されていないとして,甲1の先願としての地位の基準日(後願排除の基準日)は,甲1の特許出願日である平成21年4月28日となるとする。 しかし,甲1基礎出願の明細書(甲35)は,調節性T細胞の選択的な活性化について記載している(6頁第2段落,10頁第6段落)。選択性の対象としてのCD8陽性細胞傷害性T細胞は,具体的には記載されていないが,調節性T細胞の選択的な活性化に基づく自己免疫疾患等の治療という用途に関する発明は,甲1基礎出願の明細書等に開示されている。 そして,甲1基礎出願は,「第20位,第88位及び第126位のアミノ酸のうちの少なくとも1つが置換されたIL-2改変体」が調節性T細胞を活性化し,それにより自己免疫疾患等を処置し得ることを,甲1基礎出願の明細書(発明の名称,明細書1頁第1段落,7頁第3段落,11頁末段落,28頁末段落等)に記載している。 これらによると,甲1発明は,調節性T細胞の選択的な活性化についても含めて,甲1基礎出願に記載されている。したがって,甲1発明は甲1基礎出願に基づく優先権を主張することができ,その基準日は,平成20年5月8日となる。 (3) 甲1には,本件発明1と実質的に同一の発明が記載されているから,本件特許は,特許法29条の2に違反するものである。 |
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被告の主張
1 取消事由1(無効理由4:(d)(B)改変体及び(d)(C)改変体の実施可能要件違反) (1) 本件発明1の「IL-2Rβ およびIL-2Rγ 親和性」の記載は,IL-2Rβγ(IL-2βγ複合体)の親和性を意味するものであり,これは測定可能であるから,実施可能要件違反はない。 (2)ア 本件発明の(d)(A)改変体は,配列番号1のポリペプチドと比べてIL-2Rαの親和性が高く,かつ,IL-2Rβの親和性が低下したIL-2改変体であり,特許の特許請求の範囲でも,「かつ」という接続詞を使っている。 本件特許の特許請求の範囲では,改変体のIL-2Rの二つのサブユニットに対する親和性が高くなったか低下したかを規定する場合に「かつ」という接続詞を使っているが,(d)(B)改変体については,「(B)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性を有するか,」としており,「かつ」という接続詞を用いていないから,「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」は,「IL-2Rβの親和性およびIL-2Rγの親和性」を指すものではないことが分かる。 イ 仮に,「かつ」に代わって「および」を用いるとしても,原告が主張するような(d)(B)改変体を規定するのであれば,「(B)配列番号1として記載されるポリペプチドよりも低下した,IL-2Rβ親和性およびIL-2Rγ親和性を有するか,」と記載するはずであるが,(d)(B)改変体の特許請求の範囲には,このような記載がない。 特許請求の範囲の記載は,権利範囲の外延を明確にするために,安易な略記が行われるものではない。 「親和性」という一語を加えるだけでその権利範囲が明確になるのであれば,クレ-ム作成に当たって「親和性」という一語が削除されることはない。 原告が主張するとおり, 「および」が複数の名詞を併記する際に用いられる接続詞であるとすると, 「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」の「および」は, 「IL-2Rβ」と「IL-2Rγ親和性」を併記したものではなく,「IL-2Rβ」と「IL-2Rγ」を併記したものと考えるべきである。また,「親和性」という文言を意図的に1回だけ使用することで, 「IL-2RβおよびIL-2Rγ」が一つの受容体サブユニットであることを強調しようとしていると読み取ることができる。 「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」のうち「IL-2RβおよびIL-2Rγ」 一つの受容体サブユニットであるIL-2Rβγ複合体を意味しているこ は,とは明らかであり,IL-2Rβの親和性及びIL-2Rγの親和性を指すものではない。 ウ 本件明細書の段落【0002】には,「(背景)IL-2は,IL-2結合に際して細胞内シグナル伝達事象を一緒に活性化するIL-2RβおよびIL-2Rγならびに他の2つの受容体サブユニットにIL-2を提示する役目をするCD25(IL-2Rα)の3つの膜貫通受容体サブユニットに結合する。IL-2Rβγ によって伝えられるシグナルは,PI3-キナーゼ,Ras-MAP-キナーゼ,およびSTAT5経路のシグナルを含む。」との記載があり,「IL-2RβおよびIL-2Rγ」との用語が, 「一緒に活性化する」IL-2Rβγの受容体サブユニット,すなわち,IL-2RβとIL-2Rγの複合体を意味していることが分かる。ここにいう「一緒に」とは,単量体IL-2Rβ及び単量体IL-2Rγが一緒になって複合体となり,シグナル伝達現象を生じさせることを表現するために記載されたものである。 本件明細書の段落【0004】及び【0050】の「IL-2RβおよびIL-2Rγ」という用語も,IL-2Rβγ(IL-2βγ複合体)を意味することを前提として使われている。 (3) IL-2Rが三つのサブユニットからなり,IL-2がIL-2Rγと結合し,形式的にIL-2Rγ親和性が観念できることは否定しないが,IL-2は,IL-2RαやIL-2Rβとは異なり,IL-2Rγ単独と,IL-2に特有のシグナルを生体内に伝達するような生物学的に有意な結合をすることはない。このことは,IL-2Rγ親和性は実際に測定を観念できないのであり(甲5),IL-2γが検出可能な親和性を有さず,生物学的に意味のあるシグナル伝達のためにIL-2βとIL-2γとが複合体を形成することが必要であるとされていた(甲18)ことに符合する。 したがって,「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」という文言に接した当業者は,IL-2Rβの親和性及びIL-2Rγの親和性という二つの親和性を意味するものではなく,IL-2Rβγ複合体の親和性を意味するものと考える。 (4) 本件意見書の記載について 本件意見書(甲31)には,「IL-2Rβγを刺激する能力」,「IL-2Rβγへの結合」,「IL-2Rβγ刺激能の低下」,「IL-2Rβγによって伝えられるシグナル」など,全体にわたり,IL-2RβとIL-2Rγが複合体を形成することを前提とした主張がされているから,本件意見書の「訂正前の(A)においてIL-2Rβ親和性およびIL-2γ親和性に係る部分の両方を満たすもの(すなわち, 「および」の場合)を訂正後の(B)とする。」の記載は「IL-2RβおよびIL-2γ親和性」の誤記である。 2 取消事由2(無効理由4:(d)(@)改変体及び(d)(B)改変体の実施可能要件違反) (1) β親和性のみを低下させた改変体が本件発明の作用効果を奏することが開示されていること 本件明細書の段落【0022】には,本件発明の作用効果を奏する免疫抑制IL-2改変体は,IL-2Rβ又はIL-2Rγに接触するアミノ酸残基位置に変異を含むものであってもよい旨が記載されており,段落【0016】の記載を併せて読むと,IL-2Rβに接触するアミノ酸残基位置を変異することでβ親和性を低下させること等が,本件発明の作用効果である,FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進する作用を発揮するのに重要であることが分かる。したがって,野生型IL-2と比較してβ親和性が低下した改変体が,本件発明の作用効果を奏することが明らかにされているといえる。 (2) 本件明細書の実施例の記載からもα親和性の向上ではなくβ親和性を低下させることが本件発明の作用効果との関係で重要であることが分かること ア 本件明細書の実施例2について (ア) 本件明細書の段落【0049】及び【0050】に記載された実施例2において,IL-2Rα(CD25)に対する親和性を向上させる変異のみを有するIL-2改変体(haWT)は,野生型IL-2(WT)と比較して,FOXP3+ 細胞及びFOXP3-細胞の成長/生存に対して同様に作用し(【図2B】,【図2 ) FOXP3+/FOXP3-細胞の比率についてほとんど違いがないことからC】 ,(【図2E】),α親和性を向上させる変異は,本件発明特定事項(b)及び本件発明特定事項(c)に規定される性質にほとんど影響を与えず,その結果,FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の増殖/生存を優先的に促進する作用には重要な作用を発揮していないことが分かる。 (イ) 一方,本件明細書の実施例2には,α親和性を向上させたIL-2改変体に対し,β親和性を低下させる変異を加えた改変体((d)(A)改変体に相当するもの)が,haD,haD.1,haD.2,haD.5,haD.6,haD.8として記載されており(段落【0022】【図1】,α親和性を向上させた改変体に , )対し,βγ親和性を低下する変異を加えた改変体((d)(C)改変体に相当するもの)がhaD.4として記載されている(段落【0022】【図1】。 , ) haD等(haD,haD.1,haD.2,haD.4,haD.5,haD.6,及びhaD.8)は,本件明細書の【図2E】によると,FOXP3陽性調節性T細胞のFOXP3陰性T細胞に対する比率を増加させるものであることが分かる。 しかも,haD等は,本件明細書の【図2D】によると,野生型IL-2と同程度にFOXP3陽性調節性T細胞を刺激する一方で,本件明細書の【図2B】及び【図2C】によると,野生型IL-2よりもCD4陽性及びCD8陽性となるFOXP3陰性T細胞が蓄積しないものであることが分かる。 したがって,haD等のFOXP3陽性調節性T細胞のFOXP3陰性T細胞に対する比率の増加は,FOXP3陽性調節性T細胞の増殖を抑制しない一方で,FOXP3陰性T細胞の増殖を抑制した結果であることが分かる。 (ウ) 以上のとおり,本件明細書の実施例2によると,α親和性を向上させたIL-2改変体は,本件発明の作用効果を奏しない一方で,α親和性を向上させた改変体にβ親和性又はβγ親和性を低下させる変異を加えた改変体は,本件発明の作用効果を奏するものであることが分かる。 そうすると,FOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進するという本件発明の作用効果を奏するためには,α親和性を向上させる変異ではなく,β親和性又はβγ親和性を低下させる変異が重要となることが,本件明細書の実施例2の記載から読み取れる。 イ 本件明細書の実施例3について (ア) 本件明細書の実施例3によると,α親和性を向上させる変異のみを有するhaWT改変体によるFOXP3陽性調節性T細胞及びFOXP3陰性T細胞のSTAT5のリン酸化の程度は,野生型IL-2によるSTAT5のリン酸化の程度と異ならないこと,α親和性を野生型IL-2と比べて上昇させ,β親和性を野生型IL-2と比べて低下させたIL-2改変体(haD.1)によるFOXP3陽性調節性T細胞のSTAT5のリン酸化の程度は,野生型IL-2によるSTAT5のリン酸化の程度と異ならないことが確認された(段落【0051】 【図3】 。 , ) 一方で,本件明細書の実施例3によると,当該改変体(haD.1)によるFOXP3陰性T細胞のSTAT5のリン酸化の程度は,野生型IL-2によるSTAT5のリン酸化の程度と比べて低下すること,α親和性を野生型IL-2と比べ上昇させ,βγ親和性を野生型IL-2と比べ低下させたIL-2改変体(haD.5)によるFOXP3陽性調節性T細胞及びFOXP3陰性T細胞のSTAT5のリン酸化の程度も,haD.1によるSTAT5のリン酸化の程度と同じ傾向にあることが見いだされた(段落【0051】,【図3】)。 (イ) 上記(ア)の発見事項によると,haD.1又はhaD.5によるFOXP3陽性調節性T細胞のSTAT5のリン酸化の程度は,野生型IL-2と異ならないので,haD.1又はhaD.5は,FOXP3陽性調節性T細胞のSTAT5のリン酸化を引き起こすものであることが分かる(本件発明特定事項(b))。 また,haD.1又はhaD.5によるFOXP3陰性T細胞のSTAT5のリン酸化の程度は,野生型IL-2のそれよりも低下している(本件発明特定事項(c) 。 ) したがって,haD.1又はhaD.5は本件発明特定事項(b)及び(c)を満たすものであり,本件発明の作用効果を奏するIL-2改変体であることが分かる。 (ウ) 以上のとおり,haD.1又はhaD.5のようにα親和性を上昇させ,β親和性又はβγ親和性を低下させたIL-2改変体である(d)(A)改変体又は(d)(C)改変体であって,本件発明特定事項(b)及び(c)を満たす改変体が,自己免疫疾患,器官移植片拒絶,または移植片対宿主病などの望ましくない炎症を総合的に抑制するものであることが,本件明細書に記載されている。 一方,上記(ア)の発見事項によると,α親和性を上昇させたIL-2改変体(haWT) FOXP3陽性調節性T細胞及びFOXP3陰性T細胞のSTAT5のリ は,ン酸化の程度が野生型IL-2のそれと比べ変化しないものであることが分かる。 (エ) 上記(ア)の発見事項に加えて,IL-2が一般にT細胞を増殖させること,T細胞がIL-2に応答するためにはIL-2Rαの働きが重要になるという技術常識(甲18,本件明細書の段落【0003】)を考慮すると,当業者は,haWTは,FOXP3陽性調節性T細胞及びFOXP3陰性T細胞以外のT細胞のSTAT5のリン酸化の程度を上昇させるものであることを本件明細書から読み取ることができる。 そのため,当業者は,仮に,α親和性を低下させたとしても,FOXP3陽性調節性T細胞及びFOXP3陰性T細胞以外のT細胞のSTAT5のリン酸化の程度を低下させるだけで,α親和性の増減は,FOXP3陽性調節性T細胞及びFOXP3陰性T細胞のSTAT5のリン酸化の程度を野生型IL-2のそれと比べ変化させないものであることを本件明細書から読み取ることができる。 したがって,当業者は,haD.1又はhaD.5などの(d)(A)改変体又は(d)(C)改変体と同様,β親和性又はβγ親和性のみを低下させたIL-2改変体であって,本件発明特定事項(b)及び(c)を満たすIL-2改変体が本件発明の作用効果を奏することを,本件明細書から読み取ることができる。 (オ) このように,本件明細書は,β親和性を低下させたIL-2改変体である(d)(@)改変体又は(d)(B)改変体であって本件発明特定事項(b)及び(c)を満たすIL-2改変体も,自己免疫疾患,器官移植片拒絶,または移植片対宿主病などの望ましくない炎症を総合的に抑制するものであることを開示している。 (3) 以上によると,野生型IL-2と比較してα親和性が上昇し,かつβ親和性又はβγ親和性の低下した(d)(A)改変体及び(d)(C)改変体が本件発明の作用効果を奏するのであるから,α親和性を向上させる変異を加えておらず,β親和性又はβγ親和性を低下させる変異のみを加えた(d)(@)改変体及び(d)(C)改変体も,本件発明の作用効果を奏することを合理的に読み取ることができる。 したがって,(d)(@)改変体及び(d)(B)改変体が実施可能要件を満たすことは明らかである。 (4) 原告の主張に対する反論 ア 原告は,本件明細書では,変異の組合せを重視しており,α親和性の上昇に関する記載が十分にあり,重要と考えられていたと主張する。 しかし,本件明細書の段落【0007】の記載は,2組の変異からIL-2改変体の特有の特性が生じることがあることを述べるにとどまり,1組の変異のみでFOXP3陰性T細胞よりもFOXP3陽性調節性T細胞の成長/生存を優先的に促進するという本件発明の作用効果を奏することがあることを否定するものではない。 そして,前記(2)のとおり,α親和性を向上させる変異は本件発明の作用効果を奏する上で重要ではなく,β親和性を低下させる変異が本件発明の作用効果を奏する上で重要であることが明らかにされているから,本件明細書ではα親和性の上昇とβ親和性の低下の組合せは重要視されていない。本件明細書の段落【0016】は,特定の実施形態に関する記載にとどまるものであり,β親和性の低下だけで本件明細書の作用効果を奏することがあることを否定するものではない。 イ 原告は,甲10に記載の抗体は,自己免疫疾患等の炎症性疾患を処置できないから,α親和性の向上も重要と考えられていたと主張する。 しかし,甲10に記載されたIL-2改変体は,本件発明特定事項(b) (c) 及びを充足しているのかが不明である。甲10に記載の改変体は,調節性T細胞の活性化能が低すぎる以上,「(b)FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激」するものではないと考えられる。そうすると,甲10に記載されたIL-2改変体は,β親和性のみが低下した(d)(@)改変体とは異なると考えられる。 ウ 原告は,本件明細書の実施例記載のhaD等は,α親和性が向上しているため,IL-2Rαとの複合体形成後にIL-2R親和性がより大きく向上すると共に,それ自身は野生型よりβ親和性が低下しており,β親和性に関して相反する特性を併せ持つと主張する。 しかし,α親和性が向上しているIL-2改変体とIL-2Rαの複合体は,IL-2改変体そのものではない。α親和性が向上しているIL-2改変体とIL-2Rαの複合体は,β親和性のみが低下しているIL-2改変体とは,インターロイキン類という点でも一致しておらず,共通性が全く認められない別個の物である。 仮に,α親和性が向上しているIL-2改変体とIL-2Rαの複合体のうちのIL-2改変体に注目したとしても,当該IL-2改変体はα親和性が向上したIL-2改変体であり,β親和性のみが低下しているIL-2改変体とは別個の物である。 以上のことを考慮すると,仮に,α親和性が向上しているIL-2改変体とIL-2Rαの複合体が,野生型IL-2と比較して,β親和性が向上していたとしても,そのことは,本件発明でいうβ親和性のみが低下している改変体に影響を及ぼすことはない。 したがって,当業者は,向上したα親和性に起因するβ親和性の向上と,変異が直接的に引き起こすβ親和性の低下の,正負双方の制御が必要であり,そのバランスの上に実施例で示されたような効果が発揮されるとは考えないから,原告の主張は採用できない。 エ 原告は,α親和性を変化させた場合,β親和性も変化することになるから,(d)(A)改変体が本件発明の作用効果を奏するからといって(d)(@)改変体が作用効果を奏すると合理的に予測できないと主張する。 しかし,α親和性を生物学的に有意に上昇させるためのIL-2のアミノ酸残基の位置(本件明細書の段落【0020】及び【0021】)と β 親和性を生物学的に有意に低下させるためのIL-2のアミノ酸残基の位置(本件明細書の段落【0022】)は全く異なることが知られている。 そのため,α親和性を上昇させた改変体を,β親和性を生物学的に有意に低下させるためには,β親和性が低下させるためのアミノ酸残基も変異させる必要があるから,α親和性を上昇させる変異を加えたとしても,このような変異により,常にβ親和性を低下させることはない。 本件明細書の実施例2の【図2A】〜【図2F】の「haWT」は,野生型と比べてα親和性を向上させたがβ親和性は低下していないIL-2改変体であるため,α親和性を上昇させる変異を加えても,このような変異によりβ親和性が低下していないIL-2改変体の存在が確認できる。 また,本件明細書の実施例3の【図3】からも,実施例2と同じく,α親和性を上昇させる変異を加えても,このような変異によりβ親和性が低下していないIL-2改変体の存在が確認できる。 このように,α親和性の変化とβ親和性の変化は必ずしも相関するものではないから,原告の主張は認められない。 オ 原告は,甲32を根拠にして,被告がIL-2の親和性を改変した場合の効果の予測不能性を強調していたと主張する。 しかし,原告が指摘する箇所は,本件明細書の開示の問題点を指摘するものではなく,引用文献と比べた場合の予測不可能性を述べるにすぎず,本件明細書が開示する差分の議論とは無関係なものである。 3 取消事由3(無効理由5:サポート要件違反) 前記1,2のとおり,(d)(@)改変体,(d)(A)改変体及び(d)(C)改変体は,本件明細書の記載から実施可能に認識できるから,取消事由3も認められない。 4 取消事由4(無効理由1:優先権主張の利益を享受できないことを前提とする甲1に基づく新規性欠如) (1) 優先権が認められること ア 第一国での出願に基づき第二国での出願について優先権を主張するためには,第一国での出願に係る発明と第二国での出願に係る発明が内容的に同一であることが必要であるものの,ここにいう発明の同一性は,特許請求の範囲だけでなく,明細書や図面等から同一と判断されれば足りると解される。原告は,基礎出願の請求項やその技術的思想が本件発明と同一であるか否かの検討をしており,採用できない。 また,原告は,本件基礎出願の請求項1に係る発明の技術的思想の誤りを指摘して,基礎出願を基礎とする優先権の主張が認められないと主張しているが,優先権主張が認められるかは,特許出願に係る発明が,基礎出願の明細書等に記載された発明と同一であるかを検討すれば足りる。仮に,本件基礎出願の請求項1に係る発明の技術的思想が誤っていたとしても,優先権主張が認められなくなるものではない。 優先権主張に関する原告の主張は,独自の解釈に基づくものである。 イ 原告は,本件基礎出願明細書には本件発明特定事項(c)の「FOXP3陰性T細胞におけるSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」していることが記載されていないと主張するが,本件基礎出願明細書には,IL-2改変体が,非調節性(T)細胞(FOXP3-IL-Rα+CD4+)の成長/生存を促進するための能力が野生型IL-2と比較して低下しているものであることが記載されている。 そして,甲4に記載のとおり,調節性T細胞であるか,非調節性T細胞であるかにかかわらず,T細胞が増殖する際には,STAT5の二量体化によるリン酸化反応が生じることは,本件優先日当時の技術常識であったから,本件基礎出願の明細書等の本件発明1の非調節性T細胞(FOXP3-IL-Rα+CD4+)の増殖/生存を促進するための能力が低下するということは,STAT5がリン酸化する能力が低下していること同義である。 そうすると,本件基礎出願明細書は,野生型IL-2と比較して,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているIL-2改変体を開示していることになる。 したがって,本件発明は本件基礎出願明細書に記載されているといえる。 ウ 以上のとおり,本件発明は,本件基礎出願明細書に記載されており,優先権の利益を享受できることから,優先権の利益を享受できないことを前提とする取消事由4は理由がない。 (2) 仮に,優先権の主張が認められないとしても,次のとおり,取消事由4は認められない。 ア 相違点5及び相違点2が実質的な相違点となること (ア) 原告は,先願発明2の「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」は,本件発明の「FOXP3陰性T細胞」と実質的に同一と評価できると主張する。 しかし,CD4は,マクロファージ,単球,ヘルパーT細胞,及び炎症性T細胞に対する特異的なマーカーとして使用され(乙2),CD8は,細胞傷害性(キラ-)T細胞に対する特異的なマーカーとして使用され(乙2) FOXP3は, , 制御性(調節性)T細胞に対する特異的なマーカーとして使用されるものであり,CD4,CD8,FOXP3は,独立した観点から細胞を分類するものであるから,例えば,ある細胞はCD4陽性,CD8陽性,FOXP3陰性と分類されることもあるし,CD4陰性,CD8陰性,FOXP3陽性と分類されることもある。また,CD8とFOXP3の生体分子の構造上の類似性は最大でも約46%に過ぎない(乙3)から,ある細胞のCD8陽性細胞のほとんどがFOXP3陰性であったとしても,その他の細胞のCD8陽性細胞がFOXP3陰性であるとは限らない。 原告は,先願発明2の「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」は,本件発明の「FOXP3陰性T細胞」と実質的に同一であること示すために,甲6及び7において,CD8陽性細胞の99.85%〜99.78%がFOXP3陰性であることを主張するが,甲6及び7で測定された細胞と甲1で測定された細胞は異なる細胞であるから,細胞マーカーの性質を考えると,甲6及び7で測定された細胞のうちCD8陽性細胞の99.85%〜99.78%がFOXP3陰性であったとしても,甲1で測定された細胞の中のCD8陽性細胞のほとんどがFOXP3陰性となるとは限らない。 したがって,「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」が「FOXP3陰性T細胞」に相当するとはいえないから,この点は実質的な相違点である。 (イ) 仮に,先願発明2における「CD8陽性細胞傷害性T細胞」が本件発明の「FOXP3陰性T細胞」に相当するとしても,次のとおり,先願発明2に含まれるIL-2改変体は, 「FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」する性質を有するものとはいえない。 本件発明のIL-2改変体は, 「FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下している」という性質を有するものであり,本件明細書の段落【0003】によると,本件発明の「FOXP3陰性T細胞」に含まれるCD4陽性細胞とCD8陽性細胞の両方において, 「STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」している必要がある。 一方,先願発明2において,「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」については,STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているとしても,それ以外の「FOXP3陰性T細胞」(例えば,CD4陽性細胞)におけるSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることは,甲1には記載されていない。 そして,本件明細書記載のとおり,CD4陽性細胞も炎症誘発性になり得るものであるから,「FOXP3陰性T細胞」全体のうち,一部である「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下しているからといって,本件発明の「FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」しているとはいえない。 したがって,先願発明2に含まれるIL-2改変体は,「FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」する性質を有するものとはいえない。 原告は,甲34によると,CD4陽性細胞もSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していると主張するが,甲34はラットの細胞を測定し,甲1はヒト患者の細胞を測定しており,互いに完全に種類の異なる細胞をそれぞれ測定対象としている。 したがって,甲34のCD4陽性細胞がリン酸化を誘発する能力が低下していても,甲1のCD4陽性細胞のリン酸化を誘発する能力が向上しているか,低下しているか,それとも維持されているか全く予測できない。 (ウ) 以上によると,本件発明1と先願発明2の相違点5は,実質的な相違点となる。本件発明1と先願発明1との相違点である相違点2は,相違点5と同一の相違点であるから,相違点2も実質的な相違点になる。 イ 相違点3が実質的な相違点となること 甲1は,先願発明1のIL-2改変体のIL-2Rへの親和性を何ら記載していないので,相違点3は実質的な相違点となる。 ウ 以上のとおり,本件発明1は甲1に記載の先願発明1及び2との関係で実質的に相違し,新規性を有している。 5 取消事由5(無効理由2:優先権の利益を享受できないことを前提とする甲1に基づく進歩性欠如) (1) 前記4のとおり,本件発明1は本件基礎出願明細書に記載されており,優先権の利益を享受できるから,優先権の利益を享受できないことを前提とする取消事由5は,理由がない。 (2) 仮に,優先権の主張が認められないとしても,次のとおり,取消事由5は認められない。 ア 本件発明1について 前記4のとおり,本件発明1は,先願発明2との関係では少なくとも相違点5において実質的に相違し,先願発明1との関係では相違点2及び3において実質的に相違している。 このうち,相違点2又は相違点5は,本件発明1は配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して,FOXP3陰性T細胞においてSTATのリン酸化を誘発する能力が低下していることが特定されているのに対し,甲1発明は,CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対してほとんど又は全く影響を及ぼさないものであるというものである。そして, 「配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して,FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下して」いることは,甲1には記載も示唆もない。 そうすると,相違点2又は相違点5に係る構成は当業者が容易に想到し得るものではない。 しかも,本件発明1のIL-2改変体は,FOXP3陰性T細胞の活性化について,CD8陽性及びCD4陽性の両方において低下を示すものであって(本件明細書の【図2B】及び【図2C】,望ましくない炎症を総合的に抑制することができるとい )う顕著な効果を奏するものである。 そうすると,先願発明1及び2に甲2〜9に記載の事項を組み合わせても,当業者は上記のような顕著な効果を奏する本件発明に想到することはできない。 イ 本件発明1以外の発明について 本件発明1以外の発明は,本件発明1の従属項であり,本件発明1に進歩性が認められる以上,本件発明1以外の発明にも進歩性が認められる。 6 取消事由6(無効理由3:優先権主張の利益を享受できるとした場合の甲1に基づく特許法29条の2違反) (1) 甲1の先願としての地位の基準日について ア パリ条約による優先権の主張の効果が認められるためには, 「発明の構成部分」が第一国出願に係る出願書類の全体により明らかにされている必要があり(パリ条約第4条H),新規事項には優先権の主張の効果が認められない(乙4)。 そして,日本出願の請求項に係る発明が,第一国出願の出願書類の全体に記載した事項の範囲内のものとされない主な類型の一つに「第一国出願の出願書類に記載された上位概念の発明から下位概念の要素を選択した選択発明を,日本出願において請求項に係る発明とする場合」がある(乙5)。 イ 甲1基礎出願には,hIL-2-N88Rの活性に関して,CD8陽性細胞傷害性T細胞とは異なる概念である「調節性T細胞」 (甲35では「制御性T細胞」)に関する記載と,その制御性T細胞の選択的な活性化という一般的な記載があるのみで,hIL-2-N88Rが,野生型IL-2と比較して,CD8陽性細胞傷害性T細胞の増殖に対する活性をほとんどあるいは全く有さないことは何ら記載されていない。 上位概念としてT細胞の何らかの選択的な活性化が甲1基礎出願に記載されていることから,その下位概念として「CD8陽性細胞傷害性T細胞に対する活性をほとんどあるいはまったく有さない」ことも記載されているということはできないから,甲1発明は,甲1基礎出願による優先権主張の利益を享受できない。 したがって,甲1の先願としての地位の基準日(後願排除の基準日)は,甲1の国際出願日である平成21年4月28日となるから,原告主張の取消事由6は認められない。 (2) 仮に,甲1の後願排除効が甲1基礎出願がされた平成20年5月8日から認められるとしても,甲1に記載の先願発明1は,本件発明1と対比すると少なくとも相違点2及び相違点3で実質的に相違している。また,甲1に記載の先願発明2は,本件発明1と対比すると,少なくとも相違点5で実質的に相違している。 そうすると,本件発明1と甲1発明は実質的に同一ではないので,本件特許は特許法29条の2に違反することはない。 |
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当裁判所の判断
1 技術常識等 後掲の証拠及び弁論の全趣旨によると,本件優先日(平成21年1月21日)及び本件特許出願日(平成22年1月20日)当時の技術常識として,以下の事実が認められる。 (1) 調節性(制御性)T細胞は,自己免疫疾患やアレルギーなどの過剰な免疫応答を抑制する働きを有する。これに対し,非調節性(非制御性)T細胞は,免疫応答するものであり,自己免疫疾患やアレルギーなどの過剰な免疫反応の原因となっている。 (2) IL-2(インターロイキン-2)は,サイトカインの一種であり,細胞膜上に存在するIL-2受容体(IL-2R)を介して細胞内に様々なシグナルを伝達する。IL-2受容体は, β, α, γの三つのサブユニットから構成されている(甲4)。IL-2Rα,IL-2Rβ,IL-2Rγは,いずれも単量体といわれ,IL-2Rβγは,複合体といわれる。IL-2Rαは,CD25と称されることもある。 IL-2がIL-2Rと結合してIL-2Rを活性化することにより,STAT5の二量化によるリン酸化反応が生じ,その二量化したSTAT5により,T細胞が活性化し,T細胞の増殖が促進され,逆に,「STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」させる作用を有することは, 「T細胞の増殖が低下していること」を意味する。(甲4)。 (3) IL-2のアミノ酸に変異を加えることにより,IL-2Rとの親和性に変更を加えることができる。このうち,IL-2Rγは,IL-2と生物学的に有意な結合をしないので,IL-2受容体のうち,IL-2と結合し得るものとして観念し得るものは,IL-2Rα,IL-2Rβ,IL-2Rαβ複合体,IL-2Rαγ複合体,IL-2Rβγ複合体,IL-2Rαβγ複合体の6種類である。そして,IL-2とIL-2Rβγ複合体との親和性(βγ親和性)は測定可能であるが,IL-2とIL-2Rγとの親和性(γ親和性) 測定することができない は, (甲5)。 (4) T細胞の細胞マーカーには,CD4,CD8,FOXP3などが存在する。 CD4は,ヘルパーT細胞,炎症性T細胞,単球及びマクロファージに対する特異的なマーカーとして使用され(乙2),CD8は細胞傷害性(キラー)T細胞に対する特異的なマーカーとして使用され(乙2),FOXP3は調節性(制御性)T細胞に対する特異的なマーカーとして使用されるものである。CD8とFOXP3の生体分子の構造上の類似性は,最大でも46.15%である(乙3)。 2 本件発明について (1) 本件特許の特許請求の範囲は,前記第2,2のとおりであるほか,本件明細書(甲19)には,次の記載がある。 【発明の詳細な説明】【背景技術】【0002】(背景) IL-2は,IL-2結合に際して細胞内シグナル伝達事象を一緒に活性化するIL-2RβおよびIL-2Rγならびに他の2つの受容体サブユニットにIL-2を提示する役目をするCD25(IL-2Rα)の3つの膜貫通受容体サブユニットに結合する。IL-2Rβγによって伝えられるシグナルは,PI3-キナーゼ,Ras-MAP-キナーゼ,およびSTAT5経路のシグナルを含む。 【0003】 T細胞は,典型的に組織中に存在する低濃度のIL-2に応答するためにCD25の発現を必要とする。CD25を発現するT細胞は,自己免疫性炎症を抑制するのに不可欠であるCD4 +FOXP3 +調節性T細胞(T-reg細胞)およびCD25を発現するように活性化されたFOXP3 - T細胞の両方を含む。FOXP3- CD25 +Tエフェクター細胞(T-eff)は,CD4 +細胞またはCD8 + 細胞のいずれかであってもよく,これらの両方は,炎症誘発性(pro-inflammatory)となり得,自己免疫病,器官移植片拒絶,または移植片対宿主病の一因となり得る。IL-2刺激STAT5シグナル伝達は,正常なT-reg細胞の成長および生存にとってならびに高FOXP3発現にとって重大である。 【0004】 IL-2は3つのIL-2R鎖のそれぞれに対して低い親和性を有するため,IL-2Rβおよび/またはIL-2Rγに対する親和性のさらなる低下は,CD25に対する親和性の増加によって補うことができるかもしれない。CD25に対して170倍まで高い親和性を示すIL-2の変異性改変体が生成された(特許文献1;Raoら,Biochemistry 44巻,10696〜701頁(2005年)。 ・ )・ ・発明者らは,変異体が,持続的なT細胞成長を刺激し,したがって,ウイルス免疫療法の方法においておよびがんまたは他の過剰増殖障害を処置するのに有用であり得ることを報告する。 ・・・特許文献2は,低下した毒性を有すると述べられるIL-2改変体を記載する。該特許は,毒性が,IL-2RβおよびIL-2Rγのみを発現するナチュラルキラー(NK)細胞のIL-2誘発刺激に起因すると考える。そこに記載されるIL-2改変体は,それらが,NK細胞よりも,CD25 +T細胞を選択的に活性化するので,低下した毒性を有すると述べられた。 さらに,IL-2改変体は,一般に免疫系を刺激することが有益である治療方法,たとえばがんまたは感染症の処置に有用であると述べられた。 【発明の概要】【課題を解決するための手段】【0006】(概要) 炎症誘発性であり得るFOXP3 -CD25+T細胞の成長/生存よりも,FOXP3+調節性T細胞(T-reg細胞)の成長/生存を優先的に促進する,IL-2の免疫抑制変異性改変体が,本明細書において提供される。他のT細胞に対するT-regの比を増加させることによっておよび/またはFOXP3 -CD25+T細胞を活性化せずに,T-regにおけるFOXP3発現を増加させることによって,これらの改変体は,望ましくない炎症を抑制するはずである。 【0007】 これらのIL-2改変体の特有の特性は,2組の変異から生じる。1組の変異は,IL-2受容体のシグナル伝達鎖(IL-2Rβ/CD122および/もしくはIL-2Rγ/CD132)に対する親和性の低下ならびに/またはIL-2受容体の一方もしくは両方のサブユニットからのシグナル伝達事象を誘発するための能力の低下をもたらす。変異の第2の組は,CD25(IL-2Rα)に対するより高い親和性を付与し,Raoら(米国特許出願公開第2005/0142106号)によって記載される変異を含んでいてもよい。 【0008】 本明細書において記載されるように,ある種のIL-2改変体は,T-reg細胞の生存,増殖,活性化,および/または機能を優先的に誘発するシグナル伝達事象を誘発する。ある実施形態では,IL-2改変体は,T-reg細胞において,STAT5リン酸化ならびに/またはIL-2Rの下流の1つもしくは複数のシグナル伝達分子,たとえばp38,ERK,SYK,およびLCKのリン酸化を刺激するための能力を保持する。他の実施形態では,IL-2改変体は,T-reg細胞の生存,増殖,活性化,および/または機能にとって重要である,FOXP3またはIL-10などのような,遺伝子またはタンパク質の転写またはタンパク質発現をT-reg細胞において刺激するための能力を保持する。他の実施形態では,IL-2改変体は,CD25+T細胞の表面上のIL-2/IL-2複合体のエンドサイトーシスを刺激するための能力の低下を示す。他の実施形態では,IL-2改変体は,AKTおよび/またはmTOR(哺乳類ラパマイシン標的)の非効率的なリン酸化,リン酸化の低下,リン酸化の欠如などのような,PI3-キナーゼシグナル伝達の非効率的な刺激,刺激の低下,または刺激の欠如を示す。他の実施形態では,IL-2改変体は,wt IL-2がSTAT5リン酸化および/またはT-reg細胞におけるIL-2Rの下流の1つもしくは複数のシグナル伝達分子のリン酸化を刺激する能力を保持し,さらに,FOXP3-CD4+細胞もしくはFOXP3-CD8+T細胞またはNK細胞におけるSTAT5,AKT,および/もしくはmTORまたはIL-2Rの下流の他のシグナル伝達分子の非効率的なリン酸化,リン酸化の低下,またはリン酸化の欠如を示す。他の実施形態では,IL-2改変体は,FOXP3-CD4+細胞もしくはFOXP3 -CD8+T細胞またはNK細胞の生存,成長,活性化および/または機能を刺激するのに非効率的であるかまたは刺激することができない。 【0009】 炎症性障害または自己免疫障害を処置するための方法が提供される。方法は,治療有効量の1つまたは複数の免疫抑制IL-2改変体を被験体に投与するステップを含む。 【図面の簡単な説明】【0013】【図1】図1は,IL-2改変体の配列を示す図である。生殖系ヒトIL-2と異なる配列は,グレーで網掛けされていない。 【図2A】図2Aは,フローサイトメトリーデータおよびゲーティング戦略の例を示す図である。・・・FOXP3+CD8+T細胞は,典型的に,非常にまれである。 【発明を実施するための形態】【0014】(好ましい実施形態の詳細な説明) FOXP3+調節性T細胞(T-reg細胞)は,正常な免疫恒常性および自己組織に対する免疫寛容を維持するのにならびに望ましくない炎症を抑制するのに不可欠である。・・・現在の免疫抑制治療薬は,一般に,個々の炎症誘発性の経路を標的にし,そのため,部分的な効能を示すかまたは特異疾患に適用可能であることが多い。 代替の免疫抑制様式は,天然の抑制細胞が炎症の部位に適切な抑制分子/活性を伝えることを可能にするために,天然の抑制細胞の数および活性化状態の上昇を含んでいてもよい。 【0015】 T-reg細胞の増殖,生存,活性化,および/または機能を選択的に促進する治療剤が本明細書において記載される。「選択的に促進する」によって,治療剤が,T-reg細胞において活性を促進するが,非調節性T細胞において,活性を促進するための能力が限られているかまたはそれを欠くことが意味される。・・・【0016】 ある実施形態では,作用物質は,IL-2改変体である。特に,IL-2改変体は,T-reg細胞の成長/生存のこれらの活性を促進するが,非調節性T細胞(FOXP3-CD25+)およびナチュラルキラー細胞の増殖,生存,活性化,および/または機能を促進するための能力が野生型IL-2と比較して低下している。ある実施形態では,そのようなIL-2改変体は,IL-2RサブユニットIL-2Rα(CD25)に対する親和性の上昇ならびにシグナル伝達サブユニットIL-2Rβおよび/またはIL-2Rγに対する親和性の低下の組み合わせを通して機能する。 IL-2およびその改変体が,免疫賦活剤として,たとえば,がんまたは感染症を処置するための方法において,当技術分野において使用されてきたのに対して,本明細書において記載されるIL-2改変体は,免疫抑制作用物質として,たとえば,炎症性障害を処置するための方法において,特に有用である。 【0017】 IL-2改変体は,野生型IL-2に対して少なくとも70%,少なくとも75%,少なくとも80%,少なくとも85%,少なくとも90%・・・同一のアミノ酸の配列を含む。 ・・・本明細書において使用されるように, 「野生型IL-2」は,以下のアミノ酸配列を有するポリペプチドを意味するものとする:【0018】【化1】ここで,Xは,C,S,A,またはV(配列番号1)である。 【0019】 改変体は,野生型IL-2アミノ酸配列内に1つまたは複数の置換,欠失,または挿入を含有していてもよい。残基は,一文字アミノ酸コード,その後に続くIL-2アミノ酸位置によって本明細書において示され,たとえば,K35は,配列番号1の35位のリシン残基である。置換は,一文字アミノ酸コード,その後に続くIL-2アミノ酸位置,その後に続く置換一文字アミノ酸コードによって本明細書において示され,たとえば,K35Aは,配列番号1の35位のリシン残基のアラニン残基との置換である。 【0020】 一態様では,本発明は,野生型IL-2よりもIL-2Rαに対する高い親和性を有する免疫抑制IL-2改変体を提供する。米国特許出願公開第2005/0142106号(その全体が参照によって本明細書において組み込まれる)は,野生型IL-2が有するよりも,IL-2Rαに対する高い親和性を有するIL-2改変体およびそのような改変体を作製し,かつスクリーニングするための方法を記載する。 好ましいIL-2改変体は,IL-2Rαに接触するIL-2配列の位置か,またはIL-2Rαに接触する他の位置の方向づけを改変するIL-2配列の位置に1つまたは複数の変異を含み,IL-2Rαに対するより高い親和性がもたらされる。変異は,公開された結晶構造に基づいて,IL-2Rαに極めて接近していることが公知のエリア中にまたはその近くにあってもよい(Xinquan Wang,Mathias Rickert,K.Christopher Garcia.Science 310巻:1159頁 2005年)。IL-2Rαに接触すると考えられるIL-2残基は,K35,R38,F42,K43,F44,Y45,E61,E62,K64,P65,E68,V69,L72,およびY107を含む。 【0021】 IL-2Rαに対するより大きな親和性を有するIL-2改変体は,N29,N30,Y31,K35,T37,K48,E68,V69,N71,Q74,S75,またはK76における変化を含むことができる。好ましい改変体は,1つまたは複数の以下の変異を有するものを含む:N29S,N30S,N30D,Y31H,Y31S,K35R,T37A,K48E,V69A,N71R,およびQ74P。 【0022】 免疫抑制IL-2改変体はまた,IL-2Rを介して野生型IL-2によって活性化されるある種の経路を通してのシグナル伝達の改変を示し,T-regの優先的な増殖/生存/活性化をもたらす改変体をも含む。IL-2Rの活性化に際してリン酸化されることが公知の分子は,STAT5,p38,ERK,SYK,LCK,AKT,およびmTORを含む。野生型IL-2と比較して,免疫抑制IL-2改変体は,FOXP3-T細胞において低下したPI3Kシグナル伝達能力を有することができ,これは,野生型IL-2と比較した,AKTおよび/またはmTORのリン酸化における低下によって測定することができる。そのような改変体は,IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置か,またはIL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する他の位置の方向づけを改変する位置に変異を含んでいてもよい。IL-2Rβに接触すると考えられるIL-2残基は,L12,Q13,H16,L19,D20,M23,R81,D84,S87,N88,V91,I92,およびE95を含む。IL-2Rγに接触すると考えられるIL-2残基は,Q11,L18,Q22,E110,N119,T123,Q126,S127,I129,S130,およびT133を含む。ある実施形態では,IL-2改変体は,E15,H16,Q22,D84,N88,またはE95に変異を含む。そのような変異の例は,E15Q,H16N,Q22E,D84N,N88D,およびE95Qを含む。 【0023】 ある実施形態では,IL-2改変体は,変異の組み合わせを含む。変異の組み合わせを有するIL-2改変体の例は,図1に提供され,haWT(配列番号2),haD(配列番号3),haD.1(配列番号4),haD.2(配列番号5),haD.4(配列番号6),haD.5(配列番号7),haD.6(配列番号8),haD.8(配列番号9),およびhaD.11(配列番号10)を含む。好ましい実施形態では,IL-2改変体は,FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激するが,野生型IL-2と比較して,FOXP3陰性T細胞において,STAT5およびAKTリン酸化を誘発する能力が低下している。そのような特性を有する好ましい改変体は,haD,haD.1,haD.2,haD.4,haD.5,haD.6,およびhaD.8を含む。 【0024】 IL-2改変体は,野生型IL-2配列と比較して,IL-2RβまたはIL-2Rγに対する親和性に対して効果を有していない1つまたは複数の変異をさらに含んでいてもよいが,IL-2改変体が,FOXP3を発現しない他のT細胞よりも,FOXP3+T-regの優先的な増殖,生存,活性化,または機能を促進することを条件とする。好ましい実施形態では,そのような変異は,保存的変異である。 【0026】(免疫抑制IL-2改変体を作製するための方法) 免疫抑制IL-2改変体は,免疫賦活IL-2改変体を産出するための米国特許第6,955,807号(参照によって本明細書に組み込まれる)において記載されるものを含む,当技術分野において公知の任意の適した方法を使用して産生することができる。そのような方法は,IL-2改変体をコードするDNA配列を構築するステップおよび適切に形質転換された宿主においてそれらの配列を発現するステップを含む。しかしながら,改変体はまた,化学合成または化学合成および組換えDNA技術の組み合わせによって産生されてもよい。・・・【0027】 改変体を産生するための組換え法の一実施形態では,DNA配列は,野生型IL-2をコードするDNA配列を単離または合成し,次いで,部位特異的変異誘発によって1つまたは複数のコドンを変化させることによって構築される。この技術は,周知である。たとえば,参照によって本明細書において組み込まれるMarkら,「Site-specific Mutagenesis Of The HumanFibroblast Interferon Gene」,Proc.Nati.Acad.Sci.USA 81巻,5662〜66頁(1984年);および米国特許第4,588,585号を参照されたい。 【0028】 IL-2改変体をコードするDNA配列を構築するための他の方法は,化学合成である。これは,たとえば,本明細書において記載される特性を示すIL-2改変体をコードするタンパク質配列の化学的手段によるペプチドの直接的な合成を含む。 この方法はIL-2Rα,IL-2Rβ,またはIL-2RγとのIL-2の相互作用に影響を与える位置に天然アミノ酸および非天然アミノ酸を組み込んでいてもよい。その代わりに,所望のIL-2改変体をコードする遺伝子は,オリゴヌクレオチドシンセサイザーを使用して化学的手段によって合成されてもよい。そのようなオリゴヌクレオチドは,所望のIL-2改変体のアミノ酸配列に基づき,その中で組換え改変体が産生される宿主細胞において有利なコドンを好ましくは選択して設計される。この点に関して,遺伝子コードが縮重しており,アミノ酸が1つを超えるコドンによってコードされてもよいことが十分に認識される。たとえば,Phe(F)は,2つのコドン,TTCまたはTTTによってコードされ,Tyr(Y)は,TACまたはTATによってコードされ,h@s(H)は,CACまたはCATによってコードされる。Trp(W)は,単一のコドン,TGGによってコードされる。したがって,特定のIL-2改変体をコードする所与のDNA配列について,そのIL-2改変体をコードする多くのDNA縮重配列があるということが理解される。 【0029】 IL-2改変体をコードするDNA配列はまた,特定部位の変異誘発,化学合成,または他の方法によって調製されるかどうかに関わらず,シグナル配列をコードするDNA配列を含んでいてもよいし,または含んでいなくてもよい。そのようなシグナル配列は,存在する場合,IL-2改変体の発現のために選ばれた細胞によって認識されるシグナル配列であるべきである。それは,原核生物,真核生物,またはその2つの組み合わせであってもよい。それはまた,本来のIL-2のシグナル配列であってもよい。シグナル配列の包含は,IL-2改変体が作製される組換え細胞から,IL-2改変体を分泌することが所望されるかどうかに依存する。選ばれた細胞が原核生物である場合,DNA配列がシグナル配列をコードしないことが一般に好ましい。選ばれた細胞が真核生物である場合,シグナル配列がコードされること,最も好ましくは,野生型IL-2シグナル配列が使用されることが一般に好ましい。 【0030】 標準的な方法は,IL-2改変体をコードする遺伝子を合成するために適用されてもよい。たとえば,完全なアミノ酸配列は,逆翻訳遺伝子を構築するために使用されてもよい。IL-2改変体をコードするヌクレオチド配列を含有するDNAオリゴマーが合成されてもよい。たとえば,所望のポリペプチドの部分をコードするいくつかの小さなオリゴヌクレオチドが合成され,次いで,ライゲーションされてもよい。 個々のオリゴヌクレオチドは,典型的に,相補的な組み立てのために5’または3’オーバーハングを含有する。 【0031】 一度,組み立てられたら(合成,特定部位の変異誘発,または他の方法によって),IL-2改変体をコードするDNA配列は,発現ベクターの中に挿入され,所望の形質転換宿主におけるIL-2改変体の発現に適切な発現制御配列に作動可能に連結される。適切な組み立ては,ヌクレオチド配列決定,制限酵素マッピング,および適した宿主における生物学的に活性なポリペプチドの発現によって確認されてもよい。 当技術分野において周知であるように,宿主においてトランスフェクトされた遺伝子の高い発現レベルを得るために,遺伝子は,選ばれた発現宿主において機能的な転写および翻訳発現制御配列に作動可能に連結されなければならない。発現制御配列および発現ベクターの選択は,宿主の選択に依存する。種々様々の発現宿主/ベクター組み合わせが使用されてもよい。 【0032】 細菌,真菌類(酵母を含む),植物,昆虫,哺乳動物,または他の適切な動物細胞もしくは細胞株およびトランスジェニック動物またはトランスジェニック植物を含む,任意の適した宿主が,IL-2改変体を産生するために使用されてもよい。特に,これらの宿主は,E.coli,Pseudomonas,Bacillus,Streptomyces,真菌,酵母,Spodoptera frugiperda(Sf9)などのような昆虫細胞,組織培養における,チャイニーズハムスター卵巣(CHO)およびNS/Oなどのようなマウス細胞,COS1,COS7,BSC1,BSC40,およびBNT10などのようなアフリカミドリザル細胞,およびヒト細胞などのような動物細胞,ならびに植物細胞の株などのような周知の真核生物および原核生物の宿主を含んでいてもよい。動物細胞発現については,培養物中のCHO細胞およびCOS7細胞,特にCHO細胞株CHO(DHFR-)またはHKB株が好ましい。 【0033】 もちろん,すべてのベクターおよび発現制御配列が機能して,本明細書において記載されるDNA配列を等しく十分に発現するとは限らないということを理解されたい。また,すべての宿主が同じ発現系で等しく十分に機能するとは限らない。しかしながら,当業者は,不必要な実験作業を用いずに,これらのベクター,発現制御配列,および宿主から選択を行ってもよい。たとえば,ベクターを選択する際に,ベクターはその中で複製しなければならないので,宿主は考慮されなければならない。ベクターコピー数,そのコピー数を制御する能力,および抗生物質マーカーなどのような,ベクターによってコードされる任意の他のタンパク質の発現もまた考慮されたい。 たとえば,本発明における使用のための好ましいベクターは,IL-2改変体をコードするDNAのコピー数が増幅されることを可能にするものを含む。そのような増幅可能なベクターは,当技術分野において周知である。それらは,たとえば,DHFR増幅(たとえばKaufman,米国特許第4,470,461号,KaufmanおよびSharp, 「Construction Of A Modular Dihydrafolate Reductase cDNA Gene:Analysis Of Signals Utilized For Efficient Expression」,Mol.Cell.Biol.,2巻,1304〜19頁(1982頁)を参照されたい)またはグルタミンシンテタ-ゼ(「GS」)増幅(たとえば米国特許第5,122,464号および欧州特許出願公開第338,841号を参照されたい)によって増幅することができるベクターを含む。 【0034】 IL-2改変体は,改変体を産生するために使用される宿主生物に依存して,グリコシル化されても,グリコシル化されなくてもよい。細菌が宿主に選ばれる場合,産生されるIL-2改変体は,グリコシル化されない。他方,おそらく,本来のIL-2がグリコシル化されるのと同じ方法ではないが,真核細胞は,IL-2改変体をグリコシル化する。形質転換宿主によって産生されるIL-2改変体は,任意の適した方法によって精製することができる。IL-2を精製するための様々な方法が公知である。たとえばCurrent Protocols in ProteinScience,2巻 編:John E. Coligan,Ben M. Dunn,Hidde L. Ploehg,David. W Speicher,Paul T.Wingfield,Unit 6.5(Copyright 1997,John Wiley and Sons,Inc)を参照されたい。 【0036】(適応症) 疾患,障害,または状態は,T-reg選択的IL-2改変体の被験体への投与による処置が適用可能であってもよく,またはその投与によって予防されてもよい。そのような疾患,障害,および状態は,炎症,自己免疫疾患・・・関節リウマチ・・・乾癬・・・アトピー性皮膚炎・・・クローン病・・・多発性硬化症・・・喘息,COPD,ギラン-バレー疾患・ ・移植拒絶反応, ・ ならびにその他同種のものを含むが,これらに限定されない。・・・【0038】(医薬組成物) いくつかの実施形態では,本発明は,薬学的に許容される希釈剤,キャリア,可溶化剤,乳化剤,防腐剤,および/または補助剤と一緒に,治療有効量の1つまたは複数の,本発明のT-reg選択的IL-2改変体を含む医薬組成物を提供する。さらに,本発明は,そのような医薬組成物を投与することによって患者を処置するための方法を提供する。用語「患者」は,ヒトおよび動物被験体を含む。 【実施例】【0047】(実施例)(実施例1:IL-2変異体のパネル) T-regではなく,FOXP3 -CD25+「エフェクター」T細胞(T-eff)を刺激する能力が低下したIL-2改変体を生成する可能性を試験するために,IL-2Rβ鎖および/またはIL-2Rγ鎖と相互作用することが予測されるアミノ酸が改変された一連のIL-2変異体を生成した。これらの改変体はまた,CD25に対する高い親和性を付与した1組の以前に記載された変異を含有した(Raoら,Biochemistry 44巻,10696〜701頁(2005年)における改変体「2〜4」。この一連の改変体を図1に示す。改変体haWTは,CD )25に対する高い親和性に寄与する変異のみを含有した。改変体haD,haD.1,haD.2などはまた,IL-2Rβおよび/またはIL-2Rγとの相互作用を改変することが予測される変異を含有した。すべてのアッセイにおいて,改変体haD.11は,いかなるシグナルをも誘発することができず,いかなる細胞表現型をも改変することができず,そのため,IL-2Rシグナル伝達を伴わないCD25結合についての対照として役立った。・・・【0048】 いくつかのアッセイは,IL-2改変体がシグナル伝達事象およびT細胞成長を 誘発する能力を評価するために使用した。これらは,1.T細胞サブセットの成長および生存ならびにFOXP3発現の測定2.細胞シグナル伝達(たとえばフローサイトメトリー法およびELISAベースの方法を使用する,リン酸化STAT5およびAKTの検出)を検出するためのアッセイを含んだ。 【0049】(実施例2:FOXP3+細胞の豊富化および長期T細胞培養の間のFOXP3アップレギュレーションの保持) 全PBMCを・・・活性化した。・・・3日間新鮮な培地中に置いた。次いで,細胞を洗浄し,10nMまたは100pMのIL-2改変体を有する96ウェル平底プレ-ト中に接種した。3日後,細胞は,フローサイトメトリーによってカウントし,分析した(図2A)。 【0050】 期待されるように,CD8 +CD25+T細胞は,WT IL-2および改変体haWTにとりわけ反応したが,変異IL-2Rβおよび/またはγ接触残基を含有したすべての改変体は,活性化CD8 +CD25+T細胞の蓄積の促進で非常に非効率的であった(図2B)。同様の傾向は,CD4 +CD25+FOXP3-T細胞について観察された(図2C)。対照的に,FOXP3 +CD4+T細胞の成長/生存は,WT IL-2に類似する程度までいくつかのIL-2改変体によって刺激された(図2D)。その結果として,CD4 +CD25+T細胞の中のFOXP3 -T細胞に対するFOXP3+T細胞の比は,IL-2Rβγ接触残基変異を有するいくつかのIL-2改変体によって増加した(図2E)。さらに,変異は,T-regにおいてIL-2刺激FOXP3アップレギュレーションを弱めなかった(図2F)。 【0051】(実施例3:FOXP3-T細胞においてシグナル伝達を低下させるが,T-regにおいてSTAT5シグナル伝達を刺激する変異) IL-2改変体を,T細胞サブセットにおいて,AKTおよびSTAT5のリン酸化を刺激するそれらの能力についてスクリーニングした。いくつかのIL-2改変体は,刺激の10分後のFOXP3+T細胞におけるSTAT5の刺激において,wt IL-2と同じくらい強力であったか,またはほぼ同じくらい強力であった。・・・いくつかのIL-2改変体(haD,haD.1,haD.2,haD.4,haD.6,およびhaD.8)は,wt IL-2で見られたものよりも高いレベルで持続性のSTAT5シグナル伝達を刺激し続けた。対照的に,FOXP3-T細胞について,10分間の刺激後,haD改変体に対するSTAT5およびAKTの反応は,wt IL-2またはhaWTによって刺激されたものに比べれば全く高くなかった。3時間後に,wt IL-2で見られたものに類似する弱いSTAT5およびAKTのシグナルが,T-effにおいて観察されたが,この後期の時点で,wt IL-2シグナル伝達は大幅に小さくなった。FOXP3+T細胞において,AKTシグナル伝達は,IL-2によって通常刺激されない(Zeiser Rら,2008年 Blood 111巻:453頁),したがって,全T細胞溶解物において観察されたホスホ-AKTシグナルは,T-effに起因し得る。 【0052】 方法:あらかじめ活性化させ・・・置いておいた・・・T細胞を,37℃で10分間,1nM wtまたは変異体IL-2に曝露した。次いで・・・多重ELISAプレートを用いて,ホスホ-AKTについて測定した・・・。そして,BioLegend FOXP3染色プロトコールに従い細胞表面マーカー,FOXP3およびホスホ-STAT5を染色した。 【図1】【図2A】【図2B】 【図2C】【図2D】 【図2E】【図3】 (2) 上記(1)の本件特許の記載及び前記1の技術常識によると,本件特許は,次のとおりのものであると認められる(特許請求の範囲及び本件明細書の関連する記載をかっこ内に示す。。 ) ア T細胞は,自己免疫性炎症を抑制するのに不可欠な調節性T細胞(「T-reg細胞」「FOXP3+T細胞」ともいう。 , )と,炎症を誘発し得,自己免疫病,器官移植片拒絶,または移植片対宿主病の一因となり得る非調節性T細胞(「T-eff細胞」「FOXP3-T細胞」ともいう。 , )の両方を含む(段落【0003】。 ) 本件発明は,非調節性T細胞(FOXP3-T細胞,T-eff細胞)の成長/生存よりも,調節性T細胞(FOXP3+T細胞,T-reg細胞)の成長/生存を優先的に促進するように改変され,免疫抑制作用物質として作用するIL-2改変体に関するものであり,請求項1には,このような改変体を含む,自己免疫疾患,器官移植片拒絶,又は,移植片対宿主病を処置する方法で使用するための組成物の発明が記載されている(【請求項1】,段落【0006】【0016】。 , ) イ IL-2は,T細胞で発現しているCD25(IL-2Rα)並びにIL-2Rβ及びIL-2Rγの三つの膜貫通受容体サブユニットに結合し,IL-2Rβγにより,PI3-キナーゼ,Ras-MAP-キナーゼ,及びSTAT5経路のシグナルが伝えられる(段落【0002】。 ) 本件発明のIL-2改変体は,@CD25(IL-2Rα)に対する親和性が上昇する変異,Aシグナル伝達サブユニットであるIL-2Rβおよび/またはIL-2Rγに対する親和性が低下する変異の組合せを通して機能するものであり(【請求項1】,段落【0007】【0016】,これらの変異によって,調節性T細胞(F , )OXP3+T細胞,T-reg細胞)では,STAT5リン酸化および/またはIL-2Rの下流のシグナル伝達分子のリン酸化を刺激する能力が保持されるものの,非調節性T細胞(FOXP3-T細胞,T-eff細胞)では,STAT5リン酸化および/またはIL-2Rの下流のシグナル伝達分子のリン酸化が低下または欠如し,調節性T細胞(FOXP3+T細胞,T-reg細胞)の生存,増殖,活性化が優先的に促進される(【請求項1】,段落【0008】。 ) ウ(ア) 本件明細書の実施例1には,@野生型IL-2(WT)に,CD25(IL-2Rα)に対して高い親和性に寄与する変異(N29S,Y31H,K35R,T37A,K48E,V69A,N71R,Q74P) (以下, 「α変異」という。)を加えたIL-2改変体(haWT),Aα変異と共にIL-2Rβとの相互作用またはIL-2RβおよびIL-2Rγとの相互作用を改変することが予測される変異を加えたIL-2改変体(haD〔α変異+N88D〕,haD.1〔α変異+N88D+E15Q〕,haD.2〔α変異+N88D+H16N〕,haD.4〔α変異+N88D+Q22E〕,haD.5〔α変異+N88D+E15Q+H16N〕,haD.6〔α変異+N88D+D84N〕,haD.8〔α変異+N88D+E95Q〕 haD. , 11〔α変異+N88D+Q126E〕 が記載されている ) (段落【0023】【0047】【図1】。 , , ) (イ) 原告は,本件明細書には,IL-2サブユニットとの「接触」や受容体サブユニットと接触するとされる「アミノ酸残基の変異」について記載されているが,実施例では親和性は測定されていないため,観察されるIL-2改変体の活性の変化が,結合親和性と関係しているのかどうかは不明であると主張する。 しかし,α親和性向上に寄与するα変異については,本件明細書の段落【0020】,【0021】に記載されている。本件明細書の段落【0022】には,結合親和性という文言は用いられていないが,前記イのとおり,本件発明のIL-2改変体は,α親和性が上昇する変異とシグナル伝達サブユニットであるIL-2Rβおよび/またはIL-2Rγに対する親和性が低下する変異の組合せを通じて機能するのであり,本件明細書の段落【0022】にIL-2Rβに接触すると考えられると記載されているN88に変異を加えた改変体が,野生型IL-2(WT)と比べてIL-2Rβに対する親和性が低下することが知られていた(甲5,18)ところ,N88に変異を加えたhaD等は,WTよりもCD8+CD25+FOXP3-細胞及びCD4+CD25+FOXP3-細胞の発生を抑制している(本件明細書の【図2B】,【図2C】)のであるから,IL-2RβまたはIL-2RβおよびIL-2Rγに対する相互作用は,結合親和性を意味するものと認められる(以下,β親和性,β及びγ親和性に寄与する変異を「β変異」,「βγ変異」ということがある。)。これに反する原告の主張を採用することはできない。 エ 本件明細書の実施例2には,@α変異のみに関連するhaWTは,WTよりも,濃度によって,CD8+CD25+FOXP3-細胞の発生を抑制させることも増殖させることもあり,CD4+CD25+FOXP3-細胞の発生については,WTと有意の差が認められないこと,Aα変異と,β変異又はβγ変異の双方に関連するhaD等は,WTよりも,CD8+CD25+FOXP3-細胞及びCD4+CD25+ FOXP3-細胞の発生を顕著に抑制していることが記載されている(段落【0049】,【0050】,【図2B】,【図2C】)。 また,本件明細書の実施例2には,BCD4+CD25+FOXP3+T細胞の増殖については,α変異のみに関連するhaWTも,α変異と,β変異又はβγ変異の双方に関連するhaD等も,WTと比較して,CD4+CD25+FOXP3+T細胞を概ね増殖させていることが記載されている(段落【0049】,【0050】,【図2D】)。 さらに,本件明細書の実施例2には,Cα変異のみに関連するhaWTは,WTと比較して,CD25+CD4+T細胞中のFOXP3+/FOXP3-細胞の比に有意の差はないが,Dα変異と,β変異又はβγ変異の双方に関連するhaD等は,WTと比較して,CD25 +CD4+T細胞中のFOXP3+/FOXP3-細胞の比が大きくなっていることが記載されている(段落【0049】【0050】【図2E】 。 , , ) オ 本件明細書の実施例3には,FOXP3-T細胞(T-eff)のSTAT5のリン酸化を刺激する能力(STAT5シグナル伝達)を試験する「pSTAT5 CD4 T-eff」及び「pSTAT5 CD8 T-eff」のIL-2による刺激10分後のグラフにおいて,Eα変異と,β変異又はβγ変異の双方に関連するhaD等は,WT(野生型)やhaWT(α変異のみ)と比べて,顕著に,STAT5シグナル伝達を抑制する一方,FOXP3 +T細胞(Treg)のSTAT5のリン酸化を刺激する能力(STAT5シグナル伝達)を試験する「pSTAT5T-reg」のIL-2による刺激10分後のグラフでは,WT(野生型)やhaWT(α変異のみ)と同様に,STAT5シグナル伝達が生じていることが記載されている(段落【0051】,【0052】,【図3】)。 カ haD.11は,いかなるシグナルも誘発せず,いかなる細胞表現型も改変できなかったため,IL-2Rシグナル伝達を伴わないCD25結合についての対照として役立ったとされている(段落【0047】。 ) 3 取消事由1(無効理由4:(d)(B)改変体及び(d)(C)の実施可能要件違反)について (1) 原告は,本件発明1の「IL-2Rβ およびIL-2Rγ親和性」は,IL-2Rβγ(IL-2Rβγ複合体)への親和性を意味するものではなく,IL-2Rβ親和性とIL-2Rγ親和性を意味すると主張する。 しかし,前記1(3)のとおり,βγ親和性は測定可能であるが,γ親和性は測定することができないことが認められ,このような技術常識を踏まえると,当業者は, 「IL-2Rβ およびIL-2Rγ 親和性」 「 は, 『IL-2Rβ およびIL-2Rγ』親和性」,すなわち,IL-2Rβγ複合体への親和性を意味すると理解するものと認められる。 (2)ア これに対し,原告は,本件明細書には, 「IL-2Rβγ複合体親和性」という技術的事項は記載されていないし,発明を特定するための特定事項として,「IL-2Rβγ複合体親和性」を選択すべきことも記載されていないと主張する。 しかし,上記(1)のように,「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」がβγ親和性を意味すると理解できるのであるから,本件明細書に「IL-2Rβγ複合体親和性」は記載されているということができるし,発明を特定するための事項としても,「IL-2Rβγ複合体親和性」を選択すべきことが記載されているといえる。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 イ 原告は,「IL-2Rβ」と「IL-2Rγ親和性」では,前者がIL-2Rのサブユニットの一種を指すものであり,後者が他のサブユニットへの親和性を指すものであるから,言葉の性質・レベルが異なっていると主張するが,上記(1)のとおり,「『IL-2Rβ』および『IL-2Rγ』親和性」と理解できるため,原告が主張するように,言葉の性質・レベルが異なっているわけではない。 ウ 原告は,本件訂正請求書や本件意見書における被告の記載について主張する。 証拠(甲30)によると,被告は,本件訂正請求書において,訂正前の「(d)(A)・ ・ ・IL-2Rβおよび/もしくはIL-2Rγ親和性」を,「(d)(@)・・・IL-2Rβ親和性」と,「(d)(B)・・・IL-2Rβおよび/もしくはIL-2Rγ親和性」に訂正したことが認められるが,この訂正は,γ親和性が測定できないことからすると,β親和性と,γ親和性及びβγ親和性に区別したものであるとも理解できる。 また,証拠(甲31)によると,被告は,本件意見書に,「訂正前の(A)においてIL-2Rβ親和性およびIL-2Rγ親和性に係る部分の両方を満たすもの(すなわち,「および」の場合)を訂正後の(B)とする」と記載していたことは認められるが,被告は,これについて誤記であると主張し,前記1(3)の技術常識からすると,誤記であるとの被告の主張が不自然であるとはいえない。 これらによると,原告の上記主張は,前記(1)の判断を左右するものではない。 エ その他,原告は,本件明細書のその余の記載と比較して,「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」は,「IL-2Rβ親和性およびIL-2Rγ親和性」を意味すると主張するが,これらの記載は,「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」とは異なる文言についての記載であり,また,原告の主張は,技術常識に反するものであることからすると,原告の主張は,前記(1)の判断を左右するものではない。 (3) 以上によると,本件発明1の「IL-2RβおよびIL-2Rγ親和性」が,β親和性とγ親和性を意味するものとして記載されたものとは認められず,IL-2Rβγ(IL-2Rβγ複合体)への親和性を意味するものとして記載されたと認められ,βγ 親和性は測定可能であったのであるから,(d)(B)改変体及び(d)(C)改変体が,実施可能要件に違反すると認めることはできない。 したがって,取消事由1には理由がない。 4 取消事由2(無効理由4:(d)(@)改変体及び(d)(B)改変体の実施可能要件違反)について (1) 前記2(2)ウのとおり,本件明細書の実施例には,@α親和性向上に寄与するα変異を加えたIL-2改変体(haWT)と,Aα変異と共にβ変異又はγ変異を加えたIL-2改変体であるhaD等が記載されていることが認められるから,本件明細書の実施例に具体的な効果のデータが記載されている改変体は,(d)(A)改変体に関連するものと(d)(C)改変体に関するものであることが認められる。 (2)ア 前記2(2)エの本件明細書の実施例2の記載 【図2B】 【図2C】 ( 及び )によると,α変異のみに関連するhaWTは,WTよりも,FOXP3-細胞の発生について,WTと有意の差は特に認められないといえること,α変異とβ変異又はβγ変異の双方に関連するhaD等は,WTよりも,FOXP3-細胞の発生を顕著に抑制していることが認められるから,FOXP3-細胞の発生を抑制されていることについては,α変異よりも,β変異又はβγ変異が影響を与えていると認められる。 また,前記2(2)エの本件明細書の実施例2の記載(【図2D】)によると,CD4+CD25+FOXP3+T細胞の増殖については,α変異のみに関連するhaWTも,α変異とβ変異又はβγ変異の双方に関連するhaD等も,WTと比較して,CD4+CD25+FOXP3+T細胞を概ね増殖させていることが認められる。 イ 前記2(2)オの本件明細書の実施例3の記載(【図3】)には,α変異とβ変異又はβγ変異の双方に関連するhaD等は,FOXP3-T細胞(T-eff)において,WT(野生型)やhaWT(α変異のみ)と比べて,顕著に,STAT5シグナル伝達を抑制する一方,FOXP3+T細胞(Treg)において,WTやhaWTと同様に,STAT5シグナル伝達が生じていることが認められ,上記アと同じ結論であることがわかる。 ウ 本件発明では,FOXP3-CD25+T細胞の成長/生存よりも,FOXP3+調節性T細胞(T-reg細胞)の成長/生存を優先的に促進するIL-2の免疫抑制変異性改変体が提供される(段落【0006】)ものであるが,前記2(2)エの本件明細書の実施例2の記載(【図2E】)には,α変異のみに関連するhaWTは,WTと比較して,CD25+CD4+T細胞中のFOXP3+/FOXP3-細胞の比に有意の差はないが,α変異とβ変異又はβγ変異の双方に関連するhaD等は,WTと比較して,CD25+CD4+T細胞中のFOXP3 +/FOXP3-細胞の比が大きくなっており,上記段落【0006】の効果を示しているため,FOXP3-CD25+T細胞の成長/生存よりも,FOXP3+調節性T細胞(T-reg細胞)の成長/生存を優先的に促進するという点についても,α変異よりもβ変異又はβγ変異が影響を与えていると認められる。 エ 上記ア〜ウによると,α変異とβ変異又はβγ変異の双方に関連するhaD等は,WT(野生型)やhaWT(α変異のみ)と同様に,FOXP3陽性T細胞の増殖を刺激するものであるが,WTやhaWTと比べて,FOXP3陰性T細胞の蓄積を顕著に低減させる(非調節性T細胞の増殖能を低下させる)作用及びFOXP3-CD25+T細胞の成長/生存よりも,FOXP3+調節性T細胞(T-reg細胞)の成長/生存を優先的に促進するという作用が強いことが理解できるため,当業者は,FOXP3陰性T細胞の蓄積を顕著に低減させる(非調節性T細胞の増殖能を低下させる)作用及びFOXP3-CD25+T細胞の成長/生存よりも,FOXP3+調節性T細胞(T-reg細胞)の成長/生存を優先的に促進するという作用について,α変異ではなく,β変異又はβγ変異が重要であることを理解すると認められる。そうすると,当業者は,本件発明特定事項(a)〜(c)及び(d)(@)又は(d)(B)の構成を満たすIL-2改変体は,本件発明特定事項(a)〜(c)及び(d)(A)又は(d)(C)の構成を満たすIL-2改変体と同様の効果を奏することを推認できたといえる。 したがって,(d)(@)改変体及び(d)(B)改変体も実施可能要件を満たすと認められる。 (3) 本件明細書はα親和性の上昇も重視していたという原告の主張について ア 原告は,本件特許出願当時,IL-2によるTreg細胞の活性化においてIL-2Rαが重要な働きを担っていることが知られていたと主張する。 証拠(甲41)によると,IL-2によるTreg細胞の活性化においてIL-2Rαが重要な働きを担っていることが知られていたことなどが認められるが,そのことが前記(2)の実施可能要件についての判断を左右するものということはできない。 イ 原告は,本件明細書において,α親和性の上昇に係る説明が記載されている分量や位置,実施例で用いられた変異体もα親和性を上昇させる変異が8個と多数に及んでいることや,IL-2Rα(CD25)を発現するCD25陽性細胞のみを分析対象としている(【図2B】〜【図2E】)ことから,α親和性の上昇が重要と考えられていたことが理解できると主張するが,原告が指摘することをもっては,前記(2)の実施可能要件についての判断は左右されない。 (4) 本件発明の効果はα親和性の向上とβ親和性の低下の組合せにより得られるという原告の主張について ア 原告は,β親和性を低下させただけのIL-2改変体は,Treg活性化能が低下しているだけであろうと当業者は予測するところ,α親和性を向上させたIL-2改変体は,β親和性も向上させるため,本件発明の効果を奏するためには,α親和性の向上とβ親和性の低下の微妙な組合せが重要であると主張する。 (ア) β親和性を低下させただけのIL-2改変体は,Treg活性化能が低下しているだけであろうと当業者は予測するという点について 甲41には,IL-2Rβ及びIL-2Rγ(CD122及びγc)のみを有する細胞(すなわち,IL-2Rαを有しない細胞)を活性化するmAb(モノクロ-ナル抗体)/IL-2複合体は,Tregを活性化することができなかったことが記載されていると認められるが,甲41のmAb/IL-2複合体がβ親和性だけを低下させたIL-2改変体であるかどうかは明らかではない。 また,甲10のIL-2改変体は,本件基礎出願のIL-2改変体「2-4」に β親和性を低下させる変異(V91R又はQ126T)を一つ増やしたものであり,この改変体が,Tregを活性化することができなかったことから,β親和性を低下させる変異には,Tregの活性化,すなわち,(b)FOXP3陽性調節性T細胞に 「おいてSTAT5リン酸化を刺激」という効果を生じないものが存在することが理解できる。このことは,β親和性を低下させる変異を有する本件明細書の実施例のhaD.11が,FOXP3+細胞をWT(野生型)のIL-2よりも抑制していることとも符合する(本件明細書の【図2D】 。 ) しかし,本件明細書で,α変異とβ変異又はα変異とβγ変異を含むhaD等の七つのIL-2改変体が,WT(野生型)やhaWT(α変異のみ)と同様にTreg(FOXP3陽性T細胞)の増殖を刺激することが記載されていること 【図2D】 ( )からすると,β親和性を低下させる変異が,必ずしも,Treg活性化能の低下に寄与する変異であるとは認められない。 これらによると,当業者は,甲10の改変体の効果や甲41をもとに,β親和性を低下させただけのIL-2改変体が,Treg活性化能を低下させる作用を有するとの予測を抱くとは認められない。 (イ) 原告は,本件明細書の実施例では,「α親和性が向上すると考えられる変異を多数含み,かつN88変異も含むIL―2改変体」(haD)が所望の活用を示したことが記載されているが,IL-2は,IL-2Rαと結合すると,より強くIL-2Rβと結合するようになるところ,N88変異は,β親和性を低下させる可能性があるため,当業者は,適度に調節された親和性の組合せの達成の結果,所望の作用効果が発揮されているのであろうと考えるのが一般的であると主張する。 しかし,IL-2がIL-2Rαと結合することによってより強くIL-2Rβと結合することがあるとしても,前記(2)で判示した,当業者は,FOXP3陰性T細胞の蓄積を顕著に低減させる(非調節性T細胞の増殖能を低下させる)作用,及びFOXP3-CD25+T細胞の成長/生存よりも,FOXP3+調節性T細胞(T-reg細胞)の成長/生存を優先的に促進するという作用について,α変異ではなく,β変異又はβγ変異が重要であることを理解すると認められるとの判断を左右するものではないから,前記(2)の実施可能要件についての判断を左右しない。 イ 原告は,本件明細書の【課題を解決するための手段】における記載や,段落【0007】,【0016】及び【0023】の記載では,本件明細書はα親和性とβγ親和性の組合せが強調されていると主張する。 本件明細書の段落【0006】,【0007】,【0016】,【0023】には,本件発明に係るIL―2改変体が,α変異とβ変異,又はα変異とβγ変異を含むものであることは記載されているが,これらの記載がα親和性の向上とβ親和性の低下の組合せを必須としているとまでは認められない。 ウ 以上によると,本件発明の効果を奏するために,α親和性とβ親和性の組合せが重要であるとの原告の主張は,前記(2)の実施可能要件についての判断を左右するものではない。 (5) 原告は,バイオテクノロジ-の実験において,ある変異群を有する変異体の結果から,その変異群のうちの一部を有する変異体の結果を差し引いて,差分の変異のもたらすであろう効果を考えるという手法は一般的ではないなどと主張するが,前記(2)のとおり,本件においては,本件明細書に記載された実施例から,(d)(@)改変体及び(d)(B)改変体の効果を推測することができるのであるから,原告の主張を採用することはできない。 原告は,被告が,本件特許の審査段階において,IL-2から別のIL-2へと改変した場合の効果の変化が予測不可能であると説明していたことを指摘するが,前記(2)のとおり,実施例によって,(d)(A)改変体及び(d)(C)改変体の効果から(d)(@)改変体及び(d)(B)改変体の効果を予測することは可能ということができるから,原告の主張は前記(2)の実施可能要件についての判断を左右するものではない。 (6) したがって,取消事由2に理由はない。 5 取消事由3(無効理由5:サポ-ト要件違反)について 前記3,4のとおり,本件明細書には,本件発明のうち(d)(A)改変体以外の改変体についても,それにより所望の効果を得られることが実施可能に記載されていると認められ,本件発明は,いずれも本件明細書の発明の詳細な説明に本件発明の課題が解決できることが当業者が理解できるように記載されていると認められるから,サポート要件違反も認められない。 6 取消事由4(無効理由1:優先権の利益を享受できないことを前提とする甲1に基づく新規性欠如)について (1) 本件基礎出願に基づく優先権を主張できるかについて検討する。 ア 甲11には,以下の記載がある。 【請求項1】 対象において炎症性障害を治療する方法であって,IL-2改変体の治療有効量を対象に投与することを含み,前記IL-2改変体が,(a)配列番号1と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を含み,(b)FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激し,かつ(c)配列番号1に示されるポリペプチドと比較して,FOXP3陽性調節性T細胞においてAKTリン酸化を誘発するための能力が低下している,方法。 【請求項2】 炎症性障害が,喘息,糖尿病,関節炎,アレルギー,および移植片対宿主病からなる群から選択される,請求項1に記載の方法。 【請求項3】 前記IL-2改変体が,配列番号1と少なくとも90%同一なアミノ酸配列を含む,請求項1に記載の方法。 【請求項4】 前記IL-2改変体が,配列番号1と少なくとも95%同一なアミノ酸配列を含む,請求項1に記載の方法。 【請求項5】 IL-2改変体が,配列番号1に示されるポリペプチドよりもIL-2Rαに対する高い親和性を有する,請求項1に記載の方法。 【請求項6】 IL-2改変体が,インビドロにおいてFOXP3陽性調節性T細胞の成長または生存を促進する,請求項1に記載の方法。 【請求項7】 前記IL-2改変体が,アミノ酸30,アミノ酸31,アミノ酸35,アミノ酸69,およびアミノ酸74からなる群より選択される位置において,配列番号1に示されるポリペプチド配列に変異を含む,請求項1に記載の方法。 【請求項8】 位置30における変異がN30SまたはN30Dである,請求項7に記載の方法。 【請求項9】 位置31における変異がY31HまたはY31Sである,請求項7に記載の方法。 【請求項10】 位置35における変異がK35Rである,請求項7に記載の方法。 【請求項11】 位置69における変異がV69Aである,請求項7に記載の方法。 【請求項12】 位置74における変異がQ74Pである,請求項7に記載の方法。 【請求項13】 IL-2改変体が,機能的IL-2受容体複合体を含むエクスビボのT細胞におけるSTAT5リン酸化を誘発するが,野生型IL-2と比較して,前記エクスビボのT細胞においてAKTのリン酸化を誘発するための能力が低下している,請求項1に記載の方法。 【請求項14】 前記IL-2改変体が,位置88において,配列番号1に示されるポリペプチド配列中に変異を含む,請求項13に記載の方法。 【請求項15】 位置88における変異がN88Dである,請求項14に記載の方法。 【請求項16】 FOXP3陽性調節性T細胞の成長または生存を促進する方法であって,FOXP3陽性調節性T細胞をIL-2改変体と接触させることを含み,前記IL-2改変体が,(a)配列番号1と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を含み,(b)FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激し,かつ(c)配列番号1として記載されるポリペプチドと比較して,FOXP3陽性調節性T細胞においてAKTリン酸化を誘発する能力が低下している,方法。 【請求項17】 FOXP3陽性調節性T細胞がインビトロで接触させられる,請求項16に記載の方法。 【請求項18】 炎症性疾患の治療のための医薬の調製におけるIL-2改変体の使用であって,前記IL-2改変体が,(a)配列番号1と少なくとも80%同一なアミノ酸配列を含み,(b)FOXP3陽性調節性T細胞においてSTAT5リン酸化を刺激し,かつ(c)配列番号1に示されるポリペプチドと比較して,FOXP3陽性調節性T細胞においてAKTリン酸化を誘発するための能力が低下している,方法。 【概要】【0004】 IL-2の免疫抑制変異性改変体が,本明細書において提供される。当該改変体は,望ましくない炎症を抑制する調節性T細胞を優先的に促進する。本明細書において記載されるように,ある種のIL-2改変体は,調節性T細胞の増殖,生存,成長,又は活性化を優先的に誘発するシグナル伝達事象を誘発する。ある実施形態では,IL-2改変体は,STAT5リン酸化ならびに/またはIL-2Rの下流の1つもしくは複数のシグナル伝達分子,たとえばp38,ERK,JNK,およびSYK)のリン酸化を刺激する。他の実施形態では,IL-2改変体は,AKTの非効率的なリン酸化,リン酸化の低下,リン酸化の欠如などのような,PI3Kにより誘発されるシグナル伝達の非効率的な刺激,刺激の低下,または刺激の欠如を示す。さらに他の実施形態では,IL-2改変体は,STAT5リン酸化及び/又はIL-2Rの下流の1つもしくは複数のシグナル伝達分子のリン酸化を刺激し,さらに,AKTの非効率的なリン酸化,リン酸化の低下,又はリン酸化の欠如を示す。 【望ましい実施形態の詳細な説明】【0009】 Tregの増殖/生存を選択的に促進する突然変異改変体が本明細書において記載される。特に,本明細書に記載のIL-2改変体は,Treg細胞の成長/生存を促進するが,非調節性細胞(FOXP3-IL-2Rα+CD4+)の成長/生存を促進するための能力が野生型IL-2と比較して低下している。ある実施形態では,そのようなIL-2改変体は,非シグナル性IL-2RサブユニットIL-2Rαに対する親和性の上昇およびシグナル伝達サブユニットIL-2Rβに対する親和性の低下の組み合わせを通して機能する。IL-2およびその改変体は,たとえば癌または感染性疾患を治療する方法において,免疫刺激剤として当該技術分野において使用されているが,本明細書に記載されるIL-2改変体は,たとえば炎症性障害を治療する方法において,免疫抑制剤として特に有用である。 【0010】 IL-2改変体は,野生型IL-2と・・・,少なくとも90%,・・・同一のアミノ酸の配列を含む。・・・本明細書において使用されるとき,「野生型IL-2」は,次のアミノ酸配列:APTSSSTKKTQLQLEHLLLDLQMILNGINNYKNPKLTRMLTFKFYMPKKATELKHLQCLEEELKPLEEVLNLAQSKNFHLRPRDLISNINVIVLELKGSETTFMCEYADETATIVEFLNRWITFXQSIISTLTを有するポリペプチドを意味するものとし,ここで,XはCまたはSである(配列番号1)。 【0011】 一態様では,本発明は,野生型IL-2よりもIL-2Rαに対する高い親和性を有する免疫抑制IL-2改変体を提供する。米国特許出願公開第2005/0142106号(その全体が参照によって本明細書において組み込まれる)は,野生型IL-2が有するよりも,IL-2Rαに対する高い親和性を有するIL-2改変体及びそのような改変体を作製し,かつスクリーニングするための方法を記載する。好ましいIL-2改変体は,IL-2Rαに接触するIL-2配列の位置か,又はIL-2αに接触する他の位置の方向づけを改変するIL-2配列の位置に1つまたは複数の変異を含み,IL-2Rαに対するより高い親和性がもたらされる。・・・。 IL-2Rαに接触すると考えられるIL-2残基は,K35,R38,F42,K43,F44,Y45,E61,E62,K64,P65,E68,V69,L72,及びY107を含む。 【0012】 IL-2Rαに対するより大きな親和性を有するIL-2改変体は,N29,N30,Y31,K35,T37,K48,E68,V69,N71,Q74,S75,又はK76における変化を含むことができる。好ましい改変体は,1つまたは複数の以下の変異を有するものを含む:N30S,N30D,Y31H,Y31S,K35R,V69A,およびQ74P。 【0013】 免疫抑制IL-2改変体はまた,IL-2Rを介して野生型IL-2によって活性化されるある種の経路を通してのシグナル伝達の改変を示し,Tregの優先的な増殖/生存/活性化をもたらす改変体をも含む。IL-2Rの活性化に際してリン酸化されることが公知の分子は,STAT5,p38,ERK,JNK,SYK,およびAKTを含む。野生型IL-2と比較して,免疫抑制IL-2改変体は,低下したPI3Kシグナル伝達能力を有することができ,これは,野生型IL-2と比較した,AKTのリン酸化における低下によって測定することができる。そのような改変体は,IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置か,又はIL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する他の位置の方向づけを改変する位置に変異を含んでいてもよい。IL-2Rβに接触すると考えられるIL-2残基は,L12,Q13,H16,L19,D20,M23,R81,D84,S87,N88,V91,I92,およびE95を含む。IL-2Rγに接触すると考えられるIL-2残基は,Q11,L18,Q22,E110,N119,T123,Q126,S127,I129,S130,およびT133を含む。好ましい実施形態では,IL-2改変体はN88に,N88Dを含む変異を含む。 【0014】 IL-2改変体が,FOXP3を発現しない他のT細胞の増殖/生存/活性化よりも,FOXP3+ Tregの優先的な増殖/生存/活性化を促進するならば,IL-2改変体は,野生型IL-2配列と比較して,IL-2Rα又はIL-2Rβγに対する親和性に対して効果を有していない1つ又は複数の変異をさらに含んでいてもよい。・・・【実施例】【0037】 実施例1:選択的Treg増殖/生存 本実施例は,総PBMCをIL-2変異体と共に他の刺激の不在下で培養した場合に,IL-2変異体(2-4)が選択的にTreg増殖を促進することを示す。2-4は配列番号1に以下の変異を含む;N29S,Y31H,K35R,T37A,K48E,V69A,N71R,Q74P,N88D,I89V(米国特許出願公開第2005/0142106号公報)。 【0038】 PBMCを,96ウェルの平底プレートにおいて,wtIL-2又はIL-2の2-4変異体の存在下・・・培養した。6日の培養後,フローサイトメトリーで決定されるFOXP3+細胞の存在数は,wtIL-2の存在下と比べて2-4の存在下では2〜8倍に高まった。対して,wtIL-2と共に培養したPBMCは,より多くのFOXP3-CD25+CD4+T細胞を含んでいた。FOXP3+細胞の増加は,部分的には,細胞分裂を観察するためのCFSE標識により示されるように,FOXP3+細胞の増加した増殖及び/又は生存によるものであった。これら2つの変異がN88及びI89に戻された2-4の改変型(mod2-4)は,wtIL-2と同様の挙動を示したことから,2-4のN88D及び/又はI89V変異は,そのFOXP3+細胞の増加を促進する能力に関与していた。 【0039】 FOXP3+細胞の増殖を優先的に促進する2-4の能力は,予め活性化したT細胞でも観察された。これらの実験では,総PBMCを抗CD3(100ng/mLOKT3)で3日間刺激し,洗浄し,培地中で5日間放置した。続いて細胞をwtIL-2,2-4,又はmod2-4と共に0.5〜1時間培養し,3回洗浄し,数日培養した。IL-2でパルスしてから3日後,2-4と共に培養したCD4+T細胞は,wtIL-2又はmod2-4と培養した細胞と比較して2〜3倍高いパーセンテージのFOXP3+細胞を含有していた。 【0040】 実施例2:IL-2受容体シグナル伝達 2-4がwtIL-2又はmod2-4と比較して,IL-2Rを通じて質的に異なるシグナルを誘発したのか決定するために,予め活性化され休止したT細胞を,上記三種のIL-2に短時間曝露した後,IL-2受容体シグナル伝達カスケードの一部として既知のタンパク質のリン酸化状態を観察した。STAT5及びAKTのリン酸化は,フローサイトメトリー及びELISAにより決定された。wtIL-2及びmod2-4は何れもAKT及びSTAT5リン酸化を刺激する能力を有していたのに対して,2-4はAKTリン酸化を刺激することはできず,CD4+T細胞のあるサブセットについてのみ,STAT5リン酸化を刺激した。2-4への暴露後にSTAT5リン酸化を誘導する能力を有していたCD4+T細胞は,より高いレベルのCD25を発現し,FOXP3+細胞の全てを含んでいた。本発明は何ら特定の生物学的機能の理論に限定されることを意図するものではないが,これらの結果は,2-4が有するCD25への高い親和性によって,2-4がIL-2RβおよびIL-2Rγと,STAT5シグナルを誘発するのに十分であるが,AKTシグナルを誘発するには十分でない時間,接触することを可能にする機序があり,斯かる差分的なシグナル伝達が,FOXP3+調節性T細胞の増殖及び/又は維持に寄与していることを示唆している。 イ 前記2によると,本件発明のIL-2改変体は,「野生型と比較してFOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下している」ものであり,(d)(@)野生型よりも低下したβ親和性を有するか,(d)(A)野生型よりも高いα親和性を有し,かつ,野生型よりも低下したβ親和性を有するか,(d)(B)野生型よりも低下したβγ親和性を有するか,(d)(C)野生型よりも高いα親和性を有し,かつ,野生型よりも低下したβγ親和性を有するものである。 他方,前記アによると,本件基礎出願の改変体は,「FOXP3陽性調節性T細胞において,STAT5リン酸化を刺激し,かつ,野生型と比較して,AKTリン酸化を誘発するための能力が低下している」ものである 【請求項1】 【請求項13】 ( , ,段落【0040】)。 もっとも,本件基礎出願明細書の段落【0009】には,「本明細書に記載のIL-2改変体は,Treg細胞の成長/生存を促進するが,非調節性細胞(FOXP3-IL-2Rα+CD4+)の成長/生存を促進するための能力が野生型IL-2と比較して低下している」との記載はあるが,それが「STAT5のリン酸化を誘発するための能力」の低下によることの記載はない。また,本件基礎出願明細書の同段落には,上記記載に続いて,「ある実施形態では,そのようなIL-2改変体は,非シグナル性IL-2RサブユニットIL-2Rαに対する親和性の上昇およびシグナル伝達サブユニットIL-2Rβに対する親和性の低下の組み合わせを通して機能する。 との記載はあるが, 」 本件基礎出願明細書には,これ以外の親和性の変異が,非調節性細胞(FOXP3-IL-2Rα+CD4+)の成長/生存を促進するための能力の低下をもたらすことを示す記載は存在しない。 そして,本件基礎出願明細書には,FOXP3陽性調節性T細胞のSTAT5リン酸化を刺激し,AKTリン酸化を誘発する能力が低下している「2-4」のIL-2改変体が記載されている(段落【0038】)が,本件明細書の実施例には,「2-4」のIL-2改変体は記載されておらず,実施例に記載されたIL-2改変体(haD等)は,異なるアミノ酸配列を有するものである。また,本件明細書の段落【0022】に記載されているhaD等が有しているE15Q,H16N,Q22E,D84N,E95Qの変異に関する記載は,本件基礎出願明細書には存在しない。 なお,本件基礎出願明細書の段落【0013】には,「そのような改変体は,IL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する位置か,またはIL-2RβもしくはIL-2Rγに接触する他の位置の方向づけを改変する位置に変異を含んでいてもよい。」との記載があるが,これは,免疫抑制IL-2改変体につき,AKTのリン酸化を誘発する能力を低下させる変異について記載されたものである。 これらによると,本件基礎出願明細書には,FOXP3陽性調節性T細胞におけるAKTリン酸化を誘発する能力の低下等を発明特定事項とした,本件発明1とは異なる作用メカニズムに基づいた別の発明が記載されているのみであり,本件発明1の発明特定事項を満たすIL-2改変体の発明が,本件基礎出願明細書に記載されている又は記載されているに等しいものとは認められない。そして,このことは,本件優先日当時の技術常識を考慮したとしても左右されるものではない。 ウ 以上によると,本件基礎出願には,本件発明1が記載されている又は記載されているに等しいとはいえないので,本件発明1は,本件基礎出願に基づく優先権を主張することはできない。 そして,本件発明2〜15は,本件発明1を限定した発明であるから,本件発明1と同様の理由により,本件基礎出願に基づく優先権を主張することはできない。 また,本件発明16の「炎症性疾患,障害または状態の処置のための医薬の調製におけるIL-2改変体の使用」は,本件発明1の「炎症性疾患,障害または状態の処置のための医薬の調製におけるIL-2改変体の組成物」に含まれるIL―2改変体のカテゴリーを「使用」に変更したものであるから,本件発明1と同様の理由により,本件基礎出願に基づく優先権を主張することはできない。 本件発明17は,本件発明16を限定した発明であるから,本件発明16と同様の理由により,本件基礎出願に基づく優先権を主張することはできない。 (2) 本件特許出願は本件基礎出願に基づく優先権を主張することはできないから,甲1発明は,本件特許出願よりも前に公知になった発明ということができる。 そこで,本件発明が甲1発明に対して新規性を有する発明といえるかどうかについて検討する。 ア 甲1には,以下の記載がある。 【特許請求の範囲】【請求項1】 野生型ヒトインターロイキン2(hIL-2)のアミノ酸番号に基づいて,第20位,第88位および第126位のアミノ酸のうち少なくとも1つが置換されているhIL-2変異タンパク質またはそのフラグメントの,自己免疫疾患の治療および/または予防のための薬剤を製造するための使用。 【請求項2】 第88位の置換により,アスパラギンがアルギニンに置換されている(hIL-2-N88R),グリシンに置換されている(hIL-2-N88G),またはイソロイシンに置換されている(hIL-2-N88I)ことを特徴とする,請求項1に記載の使用。 【請求項3】 第20位の置換より,アスパラギン酸がヒスチジンに置換されている(hIL-2-D20H),イソロイシンに置換されている(hIL-2-D20I),またはチロシンに置換されている(hIL-2-D20Y)ことを特徴とする,請求項1または2に記載の使用。 【請求項4】 第126位の置換により,グルタミンがロイシンに置換されている(hIL-2-Q126L)ことを特徴とする,先行する請求項のいずれか1項に記載の使用。 【請求項5】 hIL-2変異タンパク質,すなわち野生型hIL-2において第20位,第88位および第126位のアミノ酸のうち少なくとも1つは置換されているがそれ以外には置換が施されていない変異タンパク質,またはそのフラグメントにおいて,第20位,第88位,第126位のいずれでもない任意の位置におけるアミノ酸のうち少なくとも1つがさらに置換されており,このさらなる置換が施されたhIL-2変異タンパク質,またはさらなる置換が施されたhIL-2変異タンパク質のセクションのアミノ酸配列が,元のhIL-2変異タンパク質またはそのセクションのアミノ酸配列に対して,少なくとも80%,好ましくは85%,より好ましくは90%,より好ましくは95%,最も好ましくは99%の相同性を有することを特徴とする,先行する請求項のいずれか1項に記載の使用。 【請求項6】 第20位,第88位,第126位のいずれでもない任意の位置における少なくとも1つのさらなる置換が,アミノ酸の保存的置換であることを特徴とする,請求項5に記載の使用。 【請求項7】 前記薬剤が,免疫抑制剤をさらに含むことを特徴とする,先行する請求項のいずれか1項に記載の使用。 【請求項8】 前記免疫抑制剤が,・・・バシリキシマブ・・・を含む抗CD25抗体・・・からなる群より選ばれることを特徴とする,先行する請求項のいずれか1項に記載の使用。 【請求項9】 前記自己免疫疾患が,I型糖尿病,関節リウマチ,多発性硬化症,慢性胃炎,クローン病,バセドウ病・・・,乾癬,重症筋無力症,自己免疫性肝炎,自己免疫性多腺性内分泌不全症・・・,ギラン・バレー症候群,・・・自己免疫性腸症,・・・自己免疫性アレルギー疾患,喘息および臓器移植後の自己免疫反応からなる群より選ばれることを特徴とする,先行する請求項のいずれか1項に記載の使用。 【請求項10】 前記薬剤が,薬学的に許容される担体を含むことを特徴とする,先行する請求項のいずれか1項に記載の使用。 【請求項11】 請求項1〜10のいずれか1項に記載の使用におけるhIL-2変異タンパク質またはそのフラグメントを含むことを特徴とする,自己免疫疾患の治療および/または予防のための医薬組成物。 【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】 本発明は,自己免疫疾患の治療および/または予防のための薬剤,生物体における制御性T細胞(TReg)形成のための薬剤,ならびに本発明の薬剤の種々の使用方法に関する。 【背景技術】【0007】 以前はサプレッサーT細胞とも呼ばれていた制御性T細胞(T Reg)は,T細胞の中の特殊化したサブグループの1つである。制御性T細胞は,免疫系の活性化を抑制する機能を有し,それにより免疫系の自己寛容の調節を行う。したがって,健康な生物体においては,制御性T細胞によって,自己免疫疾患の発症が抑制される。種々のTReg集団がこれまで報告されており,一例として,タンパク質CD4,CD25およびFoxp3を発現することからCD4 +CD25+Foxp3+T細胞と呼ばれる細胞集団が挙げられる。さらに,CD4およびFoxp3を発現するが,CD25を発現していない,いわゆるCD4+CD25-Foxp3+T細胞と呼ばれるTRegも報告されている。 【0008】 Lan et al.(2005),Regulatory T cells:development,function and role in autoimmunity,Autoimmun. Rev.4(6),p.351-363には,CD4+CD25+制御性T細胞の欠如により自己免疫疾患を自然発症するマウスモデルが記載されている。 【0009】 Chatila T.A.(2005),Role of regulatoryT cells in human diseases,116(5),p.949-959には,タンパク質Foxp3をコードする遺伝子の変異によって起こるCD4+CD25+制御性T細胞の先天性欠損が,自己免疫疾患の発症の一因となることが報告されている。 【発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0017】 このような背景から,本発明の目的は,当技術分野で見られる欠点を可能な限り回避した,自己免疫疾患の治療および/または予防のための新規の医薬組成物を提供することである。・・・【0018】 本発明のさらなる目的は,生物体における制御性T細胞(T Reg)形成のための薬剤を提供することである。 【課題を解決するための手段】【0019】 これらの課題は,野生型ヒトインターロイキン2(hIL-2)のアミノ酸番号に基づいて,第20位,第88位および第126位のアミノ酸のうち少なくとも1つが置換されているhIL-2変異タンパク質またはそのセクションもしくはフラグメントを提供することにより達成される。 【0020】・・・本発明者らは,hIL-2変異タンパク質が,生物体において,CD4+CD25+Foxp3+およびCD4+CD25 -Foxp3+などの制御性T細胞の形成を選択的に誘導することを様々な実験で実証することができた。 【0021】 意外にも,本発明のhIL-2変異タンパク質の制御性T細胞に対する作用は,野生型hIL-2よりはるかに優れている。これは,高濃度において特に顕著である。 【0022】 本発明のhIL-2変異タンパク質に関しては,WO99/60128に,2つの鎖からなるIL-2受容体(IL-2Rβγ)よりも3つの鎖からなるIL-2受容体(IL-2Rαβγ)に強く結合することが記載されている。この度初めて本発明者らによって証明されたように,本発明のhIL-2変異タンパク質は,IL-2受容体のαサブユニット(CD25)を持たない制御性T細胞(CD4 +CD25-Foxp3+)の形成を誘導し,また意外にもその作用は野生型hIL-2より強い。さらに,このサブポピュレーションは,免疫系の活性化を抑制し,それにより免疫系の自己寛容を調節する働きを担う。その結果,本発明のhIL-2変異タンパク質は,自己免疫疾患治療のための活性物質として,野生型hIL-2より際立って高い効力を示すことになる。 【0023】 また本発明者らは,hIL-2変異タンパク質が,CD3+CD4-CD25+Foxp3+およびCD3+CD4-CD25-Foxp3+などの,自己免疫疾患の抑制に決定的な役割を担うCD8陽性制御性T細胞の形成を誘導することを実証することができた(データ示さず)。 【0024】 さらに,本発明のhIL-2変異タンパク質は,ナチュラルキラー細胞(NK細胞)とは正反対の機能を有するT細胞を選択的に活性化するため,野生型hIL-2よりも低い毒性プロファイルを示しかつ治療指数が高いというさらなる利点を有する。 その結果,本発明のhIL-2変異タンパク質は,野生型hIL-2より,際立って高い忍容性を示す(WO99/60128を参照のこと)。 【0025】 さらに,野生型hIL-2とは対照的に,本発明のhIL-2変異タンパク質は,意外にも,CD8陽性の細胞傷害性T細胞(ナイーブCD8T細胞,セントラルメモリーCD8T細胞,初期分化CD8T細胞,および後期分化CD8T細胞ともいう)の増殖に対して全く影響を及ぼさない,及ぼしてもわずかに過ぎないことが,細胞傷害性CD3+CD8+CD45RO+T細胞に基づいて初めて示された。このことは,CD8+細胞傷害性T細胞が自己免疫疾患における慢性的な持続性の炎症過程を引き起こす原因であるとするならば,有利であると言える・・・。従って,野生型hIL-2とは対照的に本発明のhIL-2変異タンパク質は,CD8+T細胞に起因するこのような炎症反応がさらに激化するのを防ぐ。このことも本発明のhIL-2変異タンパク質の忍容性が高いという利点を示す。 【0026】 また,本発明者らによって証明されたように,本発明のhIL-2変異タンパク質は,免疫細胞の抗原特異的な活性化も刺激する。このことは,hIL-2変異タンパク質により疾患特異的な免疫細胞が選択的に賦活されて免疫療法による全身性の作用が抑えられるという利点を有する。その結果,hIL-2変異タンパク質の投与が原因で他の疾患が誘発されることも抑制される。 【0027】 さらに本発明者らは,本発明のhIL-2変異タンパク質の投与により,自己免疫疾患の発症を抑制できることを,マウスI型糖尿病モデルに基づいて示すことができた。 【0038】 ・・・本発明のhIL-2変異タンパク質において・・・第88位の置換は,アスパラギン(N)からアスパラギン酸(D),システイン(C),グルタミン(Q),トリプトファン(W)またはプロリン(P)への置換でないことが好ましい。・・・【0040】 本発明の特に好ましいhIL-2変異タンパク質として,第88位のアスパラギン(N)がアルギニン(R)に置換された変異タンパク質(hIL-2-N88R)が挙げられ・・・【実施例】【0104】 2.3 hIL-2-N88Rは多発性硬化症患者において制御性T細胞を誘導する 次に,本発明のhIL-2変異タンパク質であるhIL-2-N88Rが,免疫細胞の抗原特異的な活性化も刺激するかどうか調べた。そのために,多発性硬化症患者2名のPBMC(106cell/ml)を,多発性硬化症関連ペプチドの存在下または非存在下において,10-11〜10-6MのhIL-2-N88R(BAY 50-4798,ロット#PR312C008)または野生型hIL-2(プロロイキン)で刺激した。また,5μg/ml PHAで刺激したもの,および培地のみを加えたものも用意した。次いで,制御性T細胞CD4+CD25+Foxp3+およびCD4+ CD25-Foxp3+のサブポピュレ-ション量をそれぞれ求めた。それぞれの結果を,図5および表7ならびに図6および表8に示す。 【0106】 hIL-2-N88Rで処理することにより,多発性硬化症患者においても制御性T細胞が顕著に増加することが明らかになった。CD4 +CD25+Foxp3+のサブポピュレ-ションの場合には10 -8Mおよび10-7Mの濃度における増加量が,CD4+CD25-Foxp3 +のサブポピュレーションの場合には10 -6Mの濃度における増加量が,同じ濃度の野生型IL-2(プロロイキン)刺激による増加量を大幅に上回っている。 【0107】 2.4 多発性硬化症患者および健康な被験者においてhIL-2-N88Rは細胞傷害性CD8+T細胞の増殖をほとんど誘導しない さらに,細胞傷害性CD8+セントラルメモリーT細胞の賦活化実験を行った。そのために,健康な被験者または多発性硬化症患者のPBMCに対して,2.3と同様の処理を行った。CFSElow/CD3+CD8+CD45RO+T細胞のパーセンテージを分析により求めた。結果を,図7および表9ならびに図8および表10に示す。 【0109】 野生型hIL-2とは対照的に,多発性硬化症患者においても,健康な被験者においても,hIL-2-N88Rに起因するセントラルメモリーCD8+T細胞の増殖はわずかであり,これは検討したすべての供試濃度において共通している。 イ 本件発明1について (ア) 上記アによると,甲1発明(先願発明1及び2)は,前記第2,4(4)イ(ア)a@,b@のとおりと認められ,先願発明1と本件発明1の一致点及び相違点並びに先願発明2と本件発明1の一致点及び相違点は,それぞれ,前記第2,4(4)イ(ア)aA,bAのとおりと認められる。 (イ) 先願発明2と本件発明1に係る相違点5について a 本件明細書の段落【0013】には,【図2A】の説明として,FOXP3+CD8+T細胞は,典型的に,非常にまれであると記載されており,甲6の図1及びその説明や甲7の図1及びその説明も同旨のものである。また,甲15には,CD8+T細胞において,FOXP3は低レベルで発現していることが記載されている。 b 本件明細書には,FOXP3-T細胞(T-eff)には,FOXP3-CD4+細胞とFOXP3-CD8+T細胞が含まれることが記載されている(段落【0003】)から,本件発明特定事項(b)の構成を満たすIL-2改変体というためには,野生型のIL-2と比べて,FOXP3陰性T細胞に含まれるCD4 +細胞とCD8+細胞の両方において, 「STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」していることが必要であると認められる。 前記1(4)のとおり,CD8とFOXP3は,異なる観点でT細胞を分類するマーカーであり,構造上も異なるものといえるから,CD8+T細胞の中でFOXP3 +が出現することは典型的に非常にまれであるとしても, 「CD8陽性の細胞傷害性T細胞」が,必ずしも「FOXP3陰性T細胞」に相当するとはいえない。 また,甲1には,FOXP3-CD4+細胞の増殖に関する記載は存在しないから,甲1の記載に接した当業者が,CD8陽性の細胞傷害性T細胞の結果に基づいて,先願発明2の「hIL-2-N88R」が,FOXP3-CD4+細胞の増殖についても,野生型のIL-2と比べて,「STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下」していること,すなわち,「T細胞の増殖が低下していること」(甲4)を認識するとは認められない。 c これについて,原告は,CD8陽性T細胞に,低レベルのFOXP3陽性T細胞の発現があるとしても,含まれているFOXP3陽性T細胞は無視できるほどごくわずか(甲6では0.15%,甲7では0.22%)であるため,わずかな割合のFOX3陽性T細胞は,甲1で示されたCD8陽性T細胞における増殖の低下の文脈において,実質的な同一性を失わせるものではないと主張するが,上記bの判示に照らし,原告の主張を採用することはできない。 また,原告は,甲34及び39によると,「hIL-2-N88R」が,CD4陽性FOXP3陰性T細胞においても,STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していること(CD4陽性FOXP3陰性T細胞の増殖に対する活性が低下していること)を確認することができるため,CD4+細胞での効果は,先願発明2に内在していた効果にすぎず,それによって新たな用途が見いだされたわけではないから,このようなCD4+細胞での効果を理由に,公知の用途発明である本件発明1に新規性を認めることはできないと主張する。 しかし,甲34及び39の上記の記載は,本件特許の出願日より後に行われた実験によるものであり,本件特許の出願日より前に,先願発明2の「hIL-2-N88R」が,CD4陽性FOXP3陰性T細胞についても,STAT5のリン酸化を誘発する能力を低下させる作用を有することが知られていたことについての証拠はないから,本件発明1の新規性が失われることはない。なお,原告は,本件発明は用途発明であると主張するが,本件発明は新規な組成物の発明であるから,公知の組成物について用途のみを発明したものではない。 したがって,先願発明2の「CD8陽性傷害性T細胞」は,実質的に見ても,本件発明1の「FOXP3陰性T細胞」と同一であると評価することはできないから,相違点5は,実質的な相違点であると認められる。また,先願発明1と本件発明1の相違点2は,先願発明2と本件発明1の相違点5と同じであるから,相違点2も実質的な相違点であると認められる。 (ウ) 以上によると,本件発明1は,甲1発明と同一のものとは認められない。 ウ 本件発明2,3,5,12〜15について 本件発明2,3,5,12〜15は,本件発明1を限定した発明であるから,本件発明1と同様の理由により,先願発明1又は先願発明2と同一であるとはいえない。 エ 本件発明16及び17について 本件発明16の「炎症性疾患,障害または状態の処置のための医薬の調製におけるIL-2改変体の使用」は,本件発明1の「炎症性疾患,障害または状態の処置のための医薬の調製におけるIL-2改変体の組成物」に含まれるIL―2改変体のカテゴリーを「使用」に変更したものであるから,本件発明1と同様の理由により,先願発明1又は先願発明2と同一であるとはいえない。 本件発明17は,本件発明16を限定した発明であるから,本件発明16と同様の理由により,先願発明1又は先願発明2と同一であるとはいえない。 (3) 以上によると,原告の主張する取消事由4は理由がない。 7 取消事由5(無効理由2:優先権の利益を享受できないことを前提とする甲1に基づく進歩性欠如)について (1) 本件発明1について ア 前記6のとおり,本件発明1と先願発明2には,実質的な相違点として相違点5があり,CD4陽性FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下することは,本件特許の出願日の技術常識に照らしても導き出すことはできないから,本件発明1は,先願発明2に基づき当業者が容易に想到できたものとは認められない。また,本件発明1と先願発明1の相違点である相違点2は,相違点5と同一であるから,本件発明1は,先願発明1からも容易に発明をすることができたものということはできない。 原告は,甲1の「hIL-2-N88R」が,CD4陽性FOXP3陰性T細胞においても,STAT5のリン酸化を誘発する能力が低下していることは,甲1発明に内在していた効果にすぎず,それによって新たな用途が見いだされたわけではないから,このようなCD4+細胞での効果を理由に,本件発明1に進歩性を認めることはできないと主張するが,本件発明は,新規な組成物の発明であって,上記のとおりCD4陽性FOXP3陰性T細胞においてSTAT5のリン酸化を誘発する能力が低下することは,本件特許の出願日の技術常識に照らしても導き出すことはできない以上,甲1発明から容易に発明をすることができたとはいえない。 イ 原告は,先願発明1及び2をそのまま実施すると,本件発明1になると主張するが,相違点2及び5があるにもかかわらず,先願発明1及び2をそのまま実施すると,本件発明1になると認めることはできないから,原告の主張には理由がない。 ウ したがって,本件発明1は,当業者が容易に発明をすることができたと認めることはできない。 (2) 本件発明2〜15について 本件発明2〜15は,本件発明1を限定した発明であるから,本件発明1が先願発明1及び2から容易に発明をすることができたとはいえない以上,本件発明2〜15が先願発明1及び2から容易に発明をすることができたと認めることはできない。 (3) 本件発明16及び17について 本件発明16の「炎症性疾患,障害または状態の処置のための医薬の調製におけるIL-2改変体の使用」は,本件発明1の「炎症性疾患,障害または状態の処置のための医薬の調製におけるIL-2改変体の組成物」に含まれるIL―2改変体のカテゴリーを「使用」に変更したものであるから,本件発明1と同様の理由により,先願発明1又は先願発明2から容易に発明をすることができたと認めることはできない。 本件発明17は,本件発明16を限定した発明であるから,本件発明16と同様の理由により,先願発明1又は先願発明2から容易に発明をすることができたと認めることはできない。 (4) したがって,原告の主張する取消事由5は理由がない。 8 以上によると,原告の請求には理由がない。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 森義之 |
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裁判官 | 眞鍋美穂子 |
裁判官 | 熊谷大輔 |