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事件 令和 2年 (ネ) 10025号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人兼被控訴人(一審原告)(以下「一審原告」という。) 日亜化学工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 牧野知彦 加治梓子
同訴訟代理人弁理士 田村啓 玄番佐奈恵
被控訴人兼控訴人(一審被告)(以下「一審被告」という。) 東芝映像ソリューション株式会社
同訴訟代理人弁護士 松永章吾
同訴訟代理人弁理士 片山健一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/11/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 一審原告の控訴に基づき,原判決主文第1項を次のとおり変更する。
2 一審被告は,一審原告に対し,1億3200万円及びこれに対する平成29年8月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 一審被告の本件控訴を棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じ,これを20分し,その3を一審原告の負担とし,その余を一審被告の負担とする。
-1-5 この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
控訴の趣旨
(一審原告の控訴の趣旨) 主文第1,2項と同旨 (一審被告の控訴の趣旨) 1 原判決のうち一審被告敗訴部分を取り消す。
2 上記の部分について,一審原告の請求を棄却する。
事案の概要等
1 事案の概要 (1) 一審原告は,発明の名称を「発光装置と表示装置」とする本件特許権1(特許第5177317号),発明の名称を「発光装置,樹脂パッケージ,樹脂成形体並びにこれらの製造方法」とする本件特許権2(特許第6056934号)及び発明の名称を「発光装置,樹脂パッケージ,樹脂成形体並びにこれらの製造方法」とする本件特許権3(特許第5825390号)の特許権者である。
一審被告は,平成28年6月30日に東芝ライフスタイル株式会社のテレビ等を扱う映像事業を包括承継した者である。平成26年1月から平成28年12月までの間に,同社及び一審被告は,海外のメーカーが設計,製造等した原判決別紙物件目録記載1及び2の液晶テレビ(一審被告製品1及び2)を輸入し,譲渡し,その譲渡の申出をしたところ,一審被告製品には本件LED(一審被告製品1にはイ号LED,一審被告製品2にはロ号LED)が搭載されていた。
本件は,一審原告が,本件LEDは本件特許1の請求項1の発明(本件発明1)及び本件特許3の請求項2の発明(本件訂正前発明3。以下,本件発明1及び2と併せて「本件発明1〜3」と,本件発明2と併せて「本件発明2及び3」とそれぞれいう。)の各技術的範囲に属し,本件LEDの製造方法は本件特許2の請求項1の発明(本件発明2)の技術的範囲に属すると主張して,一審被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,一審被告製品の生産,譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに,民法709条に基づき,損害賠償金1億4350万1857円(特許法102条3項に基づく損害額1億2466万8436円,弁護士費用1200万円及び消費税相当額683万3421円の合計額)のうち1億3200万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成29年8月29日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 原審は,一審原告の損害賠償請求を1795万6641円及びこれに対する平成29年8月29日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容し,その余の損害賠償請求並びに差止請求及び廃棄の請求を棄却した。
原判決を不服として,一審原告及び一審被告の双方が控訴を提起した。ただし,一審原告は,当審においては損害賠償のみを請求しており,差止請求及び廃棄の請求が棄却された点については不服を申し立てていない。したがって,当審の審理の対象は,損害賠償請求権の存否及び額に限定されている。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり改め,後記3のとおり当事者の当審における補充主張を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要等」の2〜4(原判決3頁〜83頁)に記載するとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決12頁5行目の「切断する」を「切断することにより,複数の発光装置に分離する工程」に,15頁18行目の「を総称する」を「と総称する」に,同頁24行目の「株式会社東芝等」を「株式会社東芝(以下「東芝」という。)等」 に,18頁3行目の「被告LED」を「本件LED」に,20頁14行目の「甲10報告書(甲10)」を「原告分析結果報告書」に,同頁26行目の「主張と同じ」を「主張(ただし,「略同一面」を「同一面」と読み替える。)と同じ」にそれぞれ改める。
(2) 原判決26頁25行目及び27頁14行目の「蛍光顔料か」をいずれも「蛍光顔料」に,29頁8行目〜9行目の「得ようとするものであるのである」を「得ようとするものである」に,30頁11行目の「このよう」を「このように」に,同頁24行目の「発光するもの」を「発光をするもの」に,31頁21行目及び33頁1行目の「光と」をいずれも「光を」に,31頁22行目並びに33頁2行目及び4行目の「光源一般に」をいずれも「光源一般の」に,同頁6行目の「発行ダイオード」を「発光ダイオード」に,35頁25行目の「進歩性の欠如」を「進歩性欠如」にそれぞれ改める。
(3) 原判決45頁8行目,9行目及び13行目並びに49頁10行目,11行目及び15行目の「樹脂成形体付きリードフレーム」をいずれも「樹脂成形体付リードフレーム」に改め,同頁19行目の「2e)」の次に「。」を加える。
(4) 原判決55頁26行目及び56頁1行目の「上記の発明」をいずれも「一審被告乙11発明」に,57頁9行目〜10行目の「本件原出願日」を「本件特許3の原出願日」にそれぞれ改め,66頁6行目の「前記」の前に「「」を加える。
(5) 原判決68頁4行目〜5行目の「前記第一外側面,前記第二外側面及び前記第三外側面」を「前記第1外側面,前記第2外側面及び前記第3外側面」に,同頁5行目〜6行目の「前記第一外側面,前記第二外側面及び前記第四外側面」 「前 を記第1外側面,前記第2外側面及び前記第4外側面」に,69頁12行目の「記載要件違反2」を「サポート要件違反2」に,76頁11行目の「本件訂正前発明」を「本件訂正前発明3」に,同頁26行目〜77頁1行目の「((構成要件3A’」を「(構成要件3A’」にそれぞれ改める。
(6) 原判決78頁9行目の「構成要件3F’」を削除し,同頁11行目の「形 成されて」」の次に「(構成要件3F’)」を加え,同頁14行目及び22行目の「(構成要件2E)の充足性」をいずれも「の充足性について」に,同頁16行目の「充足性」を「充足性)」にそれぞれ改める。
(7) 原判決80頁20行目冒頭から23行目末尾までを「683万3421円」に,同頁25行目の「1億4760万1911円」 「1億4350万1857円」 をにそれぞれ改める。
3 当事者の当審における補充主張 (1) 本件発明2並びに本件訂正前発明3及び本件訂正後発明3における「リード」の意義について(争点2-2-1,3-2及び7-11関係) (一審被告の主張) ア 関連技術についての特許公開公報には,@リードフレームの切断前に予め形成されていた「リード部(110,111)」が「単位実装領域101」を連結する「連結部102」の切断によって個片化される旨の記載(乙69の【0004】,【図10】),A「ダイパッド」,「リード部」及び「連結部」で「リードフレーム」が構成される旨や,「リードフレーム」の「連結部」をダイシングすることで「連結部」が外側樹脂部の側面から外方へ露出する旨の記載(乙101の【0035】,【0036】,【0052】〜【0054】,【0061】,【0062】,【図1】,【図7】〜【図9】)があり,これらを踏まえると,個片化する前にリードフレームであった部材でありさえすれば,それは即ちリード部であるといえるものではない。
イ これに対し,本件発明2並びに本件訂正前発明3及び本件訂正後発明3において,「リード」とは,平板上の金属板であるリードフレームを個片化したことで得られる金属板であって,リードフレームと樹脂成形体とを切断して複数の発光装置に分離するという工程により初めて形成されるものであり,リードフレームに予め設けられていたものではない。
原判決は,上記のように,上記各発明における「リード」が,予めリードフレー ムに形成されていたものではなく,構成要件2E並びに3F及び3F’の切断により形成されるものである点を看過して,それら「リード」の意味を誤って認定し,「連結片(連結部)」にすぎないものを「リード」とみて上記各構成要件の充足を認めたものである。
(一審原告の主張) 他の特許公開公報などにおいて,本件発明2並びに本件訂正前発明3及び本件訂正後発明3における「リード」に対応する構成を「連結片」と称呼している例があると主張し,本件LEDの当該部分も「連結片」と称呼すべきであると主張する一審被告の主張は,実質的な非侵害の理由とはなっていない。上記各発明における「リード」の意味や,本件LEDがそのような意味における「リード」を備えていることなどは,原判決が正しく認定するとおりである。
(2) 本件発明1のサポート要件違反について(争点4-1及び4-4関係) (一審被告の主張) ア 本件発明1は,従来技術には,光,熱,水分等による蛍光体の劣化という問題があることに鑑み,「青色系の発光が可能な窒化ガリウム系化合物半導体素子」と組み合わせる蛍光体として,「黄色系の発光が可能なフォトルミネセンス蛍光体である,セリウムで付活されたガーネット系フォトルミネッセンス蛍光体」を採用し,発光素子からの青色系の発光と,その発光によって励起されたフォトルミネセンス蛍光体からの黄色系の発光光との混色により「白色系」の光を得ることとしたものであるところ,「フォトルミネセンス蛍光体」が,発光素子からの青色系の発光によって励起されて黄色系の光を発光する蛍光体ではない場合には,当業者は,白色系を発光する発光ダイオードとしての本件発明1の課題に直面することはない。その場合,混色により「白色系」の光を得ることができないから,「白色系」の発光をする発光ダイオードではあり得ず,使用当初から黄色系の光を発光しない「フォトルミネセンス蛍光体」について,その劣化(品質の低下)を観念することもできないからである。
イ(ア) 本件発明1は,一般式(Y,Gd)3(Al,Ga)5O12:Ceで表記した場合の,Y(イットリウム)サイトを全てGdが置換した場合のガーネット系蛍光体Gd3Al5O12:Ce(以下「GAG蛍光体」という。)を含むが,GAG蛍光体は,実質的に,発光素子からの青色系の発光によって励起しても黄色系の光を発光しないガーネット系蛍光体である(乙71,72)。
(イ) また,本件発明1は,一般式(Y,Gd)3(Al,Ga)5O12:Ceで表記した場合の,Al(アルミニウム)サイトを全てGaが置換した場合のガーネット系蛍光体であるY3Ga5O12:Ce(以下「YGG蛍光体」という。)を含むが,YGG蛍光体については,既に1967年12月の時点で,長波又は短波の紫外線や陰極線で励起しても黄色系の蛍光を発することがないとされ(乙98の表 III),それは,本件特許1の第1優先日当時には技術常識となっていた。
ウ したがって,本件発明1は,課題を認識し得ない構成を含むものであるから,発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えたものであり,サポート要件を充足するものとはいえない。
エ 上記に関し,本件発明1の課題を解決するためには,@発光素子,A蛍光体及びB発光素子と蛍光体との関係という三つの要素が相互に密接に関連しているのであり,サポート要件の判断に当たって,上記@〜Bのいずれかを無視した課題の認定はあり得ないというべきである。
(一審原告の主張) ア(ア) 一審被告の主張は,GAG蛍光体やYGG蛍光体が全く発光しないことを前提にするものであるが,実際にこれらの蛍光体がまったく発光しないのかは不明である。この点,一審被告が指摘する乙98の記載については,そもそも光らないといっても程度問題であるから同記載をもってYGG蛍光体が全く光らないと断定することはできない上,電子線(陰極線)又は紫外線での励起では発光しなかったことの記載のみで,青色光での励起についての記載はない。
(イ) また,本件明細書1には,組成を異ならせた多数の実施例が記載され ている。
そして,Gdの置換については,本件明細書1の【0050】に,Gdが増加するとともに青色光によるフォトルミネッセンスの発光輝度は低下する傾向にある旨の記載があり,本件明細書1の【0054】に,Gdの置換量が6割以上になると,赤み成分を増やすことができるが輝度が急激に低下する旨や,YとGdとの比率をY:Gd=2:3〜1:4の範囲に設定すると,輝度は低い旨の記載があるほか,実施例8として,Gdで100%置換した例が記載され輝度が低かったとされている。
同様に,Gaの置換についても,本件明細書1の【0054】記載の表1でGa置換量を増やすと輝度が低下することが示された上で,AlをGaによって置換する場合,発光効率と発光波長を考慮してGa:Al=1:1から4:6の間の比率に設定することが好ましい旨の記載があり(同様な記載は本件明細書1の【0083】にもある。),実施例7や8において,AlをGaで50%置換した発光ダイオードでは,輝度が低かったことが具体的に示されている。
上記のように,本件明細書1には,Gd又はGaの量を増やすと,波長が長波長又は短波長にシフトする代わりに輝度が低下することが示されているので,当業者であれば,使用する青色LEDの波長や目的とする白色の色調や輝度に応じてGd又はGaの量を適宜選択できる。したがって,本件明細書1の教示に接した当業者が,白色系の発光が得られないようなGd量やGa量を選択することは考えられない。
(ウ) 仮に,白色系の発光が得られない場合があったと仮定した場合,それはもはや「白色系を発光する発光ダイオード」ではなく,本件特許1のクレームの範囲外となるから,サポート要件違反の問題は生じない。
イ なお,一審被告は,本件発明1のサポート要件違反の主張について,「高輝度」の課題に係る原審における主張を変更しており,原判決における争点4-1及び争点4-4に対する判断が正当であることを認めているといえる。
(3) 本件発明2の進歩性欠如について(争点5-3及び5-4関係) (一審被告の主張) ア 本件発明2の「樹脂成形体付リードフレーム」の意義について 発光装置の技術分野において用いられる「樹脂成形体付リードフレーム」 「金 は,型」を用いることなく準備し得るものである(乙99の【0010】 【0011】 , ,【0029】,【0030】,【0045】,【0047】,【0051】,【0053】,【0057】,【0065】,【図5】)。
しかるに,本件特許2の請求項1の文言や,その従属項である請求項6及び7で「金型」を用いるとの特定がされているという事実に反して,請求項1に記載されてもいない技術的事項をあえて読み込み, 「樹脂成形体付リードフレーム」につき,リードフレームを金型に取り付け,一回の成形工程で樹脂成形体とリードフレームとを一体化して成形したものを意味すると解した原判決は,誤っている。
イ 無効理由3(乙47公報を主引例とする進歩性欠如)(争点5-3)について (ア) 原判決は,本件発明2と乙47発明について,次の二つの相違点を認定した。
@ 本件発明2では,「樹脂成形体付リードフレームを準備する工程」にて準備される「樹脂成形体付リードフレーム」の樹脂成形体が「光反射性物質を含有する樹脂成形体」であるのに対して,乙47発明では,ベース100を構成する絶縁体106が光反射性物質を含有しているか否か不明である点。
A本件発明2では,「樹脂成形体付リードフレーム」は,その上側に凹部が複数設けられているのに対し,乙47発明では,樹脂成形体付リードフレームであるベース100の上側は平面で,凹部が存在しない点。また,乙47発明は,ベース100(樹脂成形体付リードフレーム)の上に,複数の貫通孔を有する板部材210(反射板110の集合体)を接着剤160で貼り付ける工程を有するのに対し,本件発明2はそのような工程を有しない点。
(イ) しかし,上記アからすると,上記Aは,実質的な相違点ではない。
(ウ) そして,上記@については,乙47公報の【0027】において,反射板は樹脂などの絶縁物質で形成されることができることや,スルーホールの壁面が白いコーティングを有することが開示されており,乙16公報や乙17公報にも,光反射率を高める目的で,樹脂中に白色系の顔料や反射性物質を添加する旨の記載がある。これらの点に照らすと,反射板がレジン(樹脂)である場合に,色顔料等の光反射性物質を含有させることは,当業者にとって周知慣用の技術であり,当業者であれば必要に応じて適宜なし得る事項である。
(エ) したがって,本件発明2は,乙47発明に周知慣用の技術を適用することで当業者が容易に想到することができたものである。
ウ 無効理由4(乙48公報を主引例とする進歩性欠如)(争点5-4)について (ア) 原判決は,本件発明2と乙48発明について,次の三つの相違点を認定した。
@ 本件発明2では,「樹脂成形体付リードフレームを準備する工程」にて準備される「樹脂成形体付リードフレーム」の樹脂成形体が「光反射性物質を含有する樹脂成形体」であるのに対して,乙48発明では,樹脂成形体及び絶縁基板が光反射性物質を有しているか否か不明である点。
A 本件発明2では,「樹脂成形体付リードフレーム」は,その上側に凹部が複数設けられているのに対し,乙48発明では,樹脂成形体付リードフレームである薄型平板13の集合体の上側は平面で,凹部が存在しない点。また,乙48発明は,薄型平板13の集合体の上部に,別途形成した貫通孔14を有する絶縁基板15を接着フィルム19で接着して,複数のパッケージを形成する工程を有するのに対し,本件発明2はそのような工程を有しない点。
B 本件発明2では,「樹脂成形体付リードフレームの底面にて前記リードフレームが露出している」のに対し,乙48発明では,薄型平板の集合体の底面にて前 記金属薄板母材が樹脂成形体で覆われているか否か不明である点。
(イ) しかし,上記アからすると,上記Aは,実質的な相違点ではない。
(ウ) そして,上記@及びBについては,原審で主張したとおり,当業者であれば必要に応じて適宜なし得る事項である。
(エ) したがって,本件発明2は,乙48発明に周知慣用の技術を適用することで当業者が容易に想到することができたものである。
(一審原告の主張) ア(ア) 特許発明技術的範囲を検討する際には,「願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して,特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈する」 (特許法70条2項)べきであるところ,本件明細書2の【0008】,【0009】及び【0014】の記載を踏まえ,「樹脂成形体付リードフレーム」の意味について認定した原判決に誤りはない。
また,「成形」という用語は,通常の意味として,金型を用いることを含意しているところである(甲95〜97)。
(イ) 一審被告が指摘する乙99は,本件特許2の出願後の文献であり,しかも,かなり特殊な方法を開示するのみである。また,本件特許2の請求項6及び7の記載は,本件発明2の内容をさらに詳細に説明するものにすぎない。
イ 上記のとおり,一審被告の「樹脂成形体付リードフレーム」の解釈が誤っている以上,無効理由3及び4に係る一審被告の主張は,いずれも理由がない。
(4) 損害額について(争点8関係) (一審原告の主張) ア 算定の基礎について (ア) 一審被告製品の売上げを算定の基礎とすべきこと a 特許法102条3項の損害賠償額を定めるに当たり,「実施料」というライセンス契約における概念を用いる場合,その認定においては,当該訴訟の当事者が仮にライセンス契約を締結するとしたらどのような合意になるか,という 仮定的なライセンス契約の締結過程を考慮することが不可欠である。すなわち,当該事案に現れた諸般の事情に基づき,仮に,両当事者がライセンス契約を締結するとした場合における当事者間の合理的な意思を推認して,基礎とすべき売上高や具体的な実施料率,あるいは製品当たりの実施料額を決定すべきである。
b 本件LEDが一審被告製品に一体的に組み込まれており製品として両者を分離することができないことに加え,次の事情を踏まえると,本件においては,一審被告製品の売上げを基礎として,これに本件発明1〜3の価値などを踏まえた実施料率を乗じることで損害額を認定すべきである。
(a) 一審被告が製造販売しているのは,一審被告製品であって本件LEDではない。一審被告は,本件LEDの単価も知らないはずであるし,そもそも一審被告製品がOEM製品であることからすると,一審被告自身は,本件LEDがどこのメーカーの製品であるのかさえ知らない可能性も高い。
(b) 一審原告は,他社が有望な特許権等を持っている場合にはクロスライセンス契約を締結することはあるものの,基本的には,他社にライセンスをしない方針である(甲84の1)。
(c) 仮に,一審原告が和解によって本件を解決するとすれば,一審被告製品の売上げを基準とした実施料相当額の損害賠償を条件にする。テレビである一審被告製品を製造販売する一審被告との間で,わざわざLEDの価格に基づいたライセンス交渉を行うことはない。まして,本件に対する一審被告の遺憾な対応からすると,一審原告において一審被告に対しそもそもライセンスをすること自体が困難なのであり,侵害の事実を前提に行う交渉において,一審原告において,本件LEDの価格に基づいた低額なライセンスを行うことはあり得ない。実際に,過去に一審原告がした裁判上の和解においても,製品全体の売上げを基礎にした損害賠償義務が認められている(甲84の3)。
(d) 後記イのとおり,本件発明1〜3は,一審被告製品全体の価値に貢献するもので,特に,本件発明1は白色LEDの基本特許といわれる発明であ って,この発明なくして一審被告製品のようなLEDを使用したテレビの実現はあり得なかった。本件LEDは,一審被告製品に組み込まれることで,一審被告製品の売上げに貢献している。
c 部品の値段ではなく,一審被告製品の売上げを基礎とすると,証拠上から客観的に示される数値に基づく認定を行うことができ,より客観性が高い。
特に,本件のように,最終製品を取り扱う業者とそれに組み込まれる部品に係る特許を保有する特許権者とがライセンス交渉を行う場合には,最終製品の売上げを基にしたライセンス契約が締結される蓋然性が高いことからすると,最終製品の売上げを基礎にした算定を行うことが取引の実情にも沿っているといえる。
d 特許発明が製品全体の一部の構成に係る発明である場合の実施料の算定において,製品全体の売上げをベースにするのか,直接の実施品である製品の売上げをベースにするのかといった点は,世界中の特許訴訟の実務で問題となる事項であり,ドイツなどでも議論がされているところ,ドイツにおいても,特許が製品の一部に係る場合であっても,当該製品が通常全体として販売されている場合,特許で保護された部品によって装置全体の価値が向上している場合,あるいは,特許で保護された部品によって製品の特徴が獲得されている場合などにおいては,製品全体の売上げを基準にできるとされている(甲98)。
(イ) 少なくとも「直下型バックライト」の価格を基礎とすべきこと(予備的主張) a 仮に,テレビにはLED以外の部材が数多く組み込まれていることなどを理由に,一審被告製品全体の売上げを基礎とせず,テレビの「部材」単位に着目するとしても,次の理由により,少なくとも,テレビの主要部品である「直下型バックライト」(LEDを組み込んだ部材)の価格を基礎に損害を算定すべきである。
(a) 一審被告製品のような液晶テレビは,液晶パネルとバックライトを組み合わせた構造になっている。バックライトは,LEDを画面(導光板)端に 配置する「エッジ型」と,液晶パネルの真後ろに配置する「直下型」(一審被告製品はこれに当たる。)の二つの方式に分類されるところ,液晶テレビの方式は,このようなバックライトの種類によって区分されており,バックライトはまさにテレビにおける中心的な部品の一つである(甲85)。
(b) LEDはバックライトに組み込まれる部品であり,テレビの部品としての性能は,直下型バックライトという単位で決まる。
(c) 商流としても,LEDメーカーとは別に直下型バックライトを製造するバックライトメーカーが存在し,テレビの製造メーカーに対しては,当該バックライトメーカーが直下型バックライトを部材として供給する。実際,一審被告製品から本件LEDを取り出そうとすれば,直下型バックライトを取り外し,さらに,これを分解する必要がある。
b 一審被告製品は32型の液晶テレビであり,32型用の直下型バックライトの価格は1400円〜1700円(甲84の2の69頁「3)LED製品価格動向(2016年Q4時点)」)であるから,本件の損害の算定の基礎となる数値としては,少なくとも上記価格を用いるべきである。
実施料率について 本件発明1〜3の技術的価値が高く,一審被告製品の売上げに大きく貢献し,他にめぼしい代替技術が存在せず,一審原告が一審被告に対してライセンスをすることがあり得ないこと等の事情を総合考慮すると,一審被告製品がテレビであって,LED以外に多くの要素の集合体であることを最大限に考慮したとしても,一審被告製品の売上げに対する本件発明1〜3の実施料率は,時期を問わず0.5%(一審被告製品一台当たり約171円。直下型バックライトの価格である1400円〜1700円を基準にすると,約10〜12%)を下らない。考慮すべき事情は,具体的には,次の(ア)〜(オ)(直下型バックライトの価値を基礎とする場合は次の(ア)〜(カ))のとおりである。
(ア) 本件発明1〜3に関する実際の実施許諾契約など 一審原告のライセンスポリシーとして,基本的には有力な技術を持った会社とのクロスライセンス契約しか締結していないところ,過去に締結したクロスライセンス契約の中には,本件発明1〜3が含まれるものもある。守秘義務により,その具体的な内容については述べられないが,本件発明1を含めた一連の白色系LEDに関する特許は,一審原告がクロスライセンス契約を締結する際,相手方が常にライセンスを求める有力特許の一つであることは紛れもない事実である。
また,本件発明1に関しては,訴訟上の和解や当事者間の話合いによる解決がされたことがあるが,その際の料率は,一審原告の製品の購入条件がある場合で製品全体の売上げの5%程度,一審原告の製品の購入条件がない場合にはそれよりも高い料率となる。例えば,裁判上の和解の例(甲84の3)では,相手方製品(LED電球)の売上げに実施料率10%(これに消費税8%が加算されている)を乗じた金額とされたが,これが特に高率であったものではない。
(イ) 本件発明1〜3自体の技術的価値・重要性 a 本件発明1について 本件発明1は,白色系発光の発光ダイオード(LED)に関する発明であり,本件発明1を含めた一連の一審原告の出願の技術的意義は極めて高い。
すなわち,「白色光」を得るには,少なくとも,赤,緑,青の三色の波長が必要であるところ,赤色LEDや緑色LEDは1980年代には既に存在しており,青色LEDが実現すれば,白色系発光が可能であると認識されていた。そのため,1993年に一審原告によって青色発光ダイオードが世に出ると,これで三色のLEDチップを用いて白色光が実現できるという期待が一気に高まり,種々の開発が進められた。ところが,こうした中にあって,本件発明1は,一つのチップ(青色LEDチップ)のみを用い,耐久性に優れたYAG系蛍光体を組み合わせることで,長寿命,高輝度,ブロードな波長の白色系LEDを実現したものであり,三色LEDチップを用いる一般的発想とは一線を画す,極めて画期的な発明であり,これらの特許権は白色LEDの「基本特許」として,この業界で知らない者はいない著名 な発明である(甲24,26,86)。
以上のとおり,本件発明1は,「LED時代」を築いた基本特許であるところ,テレビのバックライトの分野についても,テレビ内部に設けられたLEDを交換することはできないから,これに用いられるLEDには高い耐久性が求められるのであり,本件発明1を含む白色LEDに関する発明によって,初めて実用化がされたものである。
したがって,一審被告製品において,本件発明1の価値が極めて高いことは明らかである。
b 本件発明2及び3について テレビに用いられるLEDについては,テレビ一台に複数のLEDが用いられることから安価であることが望ましい一方で,テレビ内部に設けられたLEDを交換することはできないから耐久性が極めて重要な特性となる。しかるところ,本件発明2及び3は,一度に多数個の発光ダイオードを製造する際に,個片化するために切断するに当たりリードフレームと熱硬化性樹脂が剥離してしまう課題を解決し,生産効率向上・コスト低減を実現した上で,剥離のない信用性の高いLEDを提供するものであるから,テレビ用のバックライトとしてのその技術的価値は明白である(本件明細書2及び3の【0003】〜【0014】)。
この点,一審被告製品に用いられているLEDパッケージの大きさは3.0mm×3.0mm(業界では「3030」などといわれる。)であるが,このサイズや,3.5mm×3.5mm(同様に「3535」などといわれる。)というのが直下型バックライトに採用される一般的なサイズであり,このようなサイズでは,本件発明2及び3が多用されている。例えば,ソウルセミコンダクター社の「3030FLIP」という製品は,本件発明2及び3の実施品である(甲87)。また,エバーライト社の「SMD HP・XI3030(2S)Series」という製品も,本件発明2及び3を実施している(甲88。同製品については,米国において,本件発明2及び3に対応する米国特許に基づく一審原告の侵害の主張が裁判所で認 められている(甲89)。)。
したがって,本件発明2及び3が一審被告製品のような液晶テレビにおいて,極めて重要な技術であることは明らかである。
(ウ) 一審被告製品の売上げ・利益に対する本件発明1〜3の貢献 a 画質に関する貢献 テレビにおいて,画面を形成するバックライトが主幹部材であることに異論の余地はない。特に,一審被告製品は,目覚まし機能などを除けば,視聴・録画というごく基本的な機能のみを備えた非常にシンプルなテレビであり(高音質,動画配信サービス対応,無線LAN,スマホやタブレット操作等は何も備えていない。),画質が要である。この点,本件発明1のLEDは,長時間の使用環境下においても発光光度等の低下や色ずれが極めて少なく,長寿命,高効率,高輝度等を特徴とし,中でも長寿命という最大の特徴が,画質の長期維持に貢献し,他のLEDにない優位性を有している。また,本件発明2及び3も,安価でかつ信頼性の高いLEDを供給する技術であって,これをテレビのバックライトに用いるメリットは大きい。
また,一審被告製品は,部屋の明るさに応じて,色温度や明るさの画質を自動調整するという機能を新たに搭載したものであるが(甲92 ,77,78) これは, ,LEDが電流に対しリニアに反応するために実現できるものであり,LEDは,一審被告製品に対し,単なる部品としてではなく,その機能を実現するために不可欠な要素であった。
実際,一審被告製品は,「高画質」や「映像美」をアピールポイントとしているところ(甲77,78),これらの特徴は,本件LEDが本件発明1〜3により高輝度で使用による輝度低下が小さく耐久性が高いからこそ,実現できるものである。
また,一審被告製品1について,本件LEDが生み出す画質が好評で,顧客需要に直結している(甲93)。そのため,一審被告自身も,一審被告製品の「主な機能」の1つとして特に「LED」を挙げているところである(甲77,78)。一審被告製品が売れ筋ランキング上位を占めた(甲94)という成功には,本件LEDを 用いたバックライトによって,一審被告が標榜する高画質・映像美を達成したことが寄与している。
b コスト低減に関する貢献 本件発明1を実施した本件LEDは,三色のLEDチップで白色光を得る場合に比べて駆動システムをシンプルにでき,また一種類のチップと蛍光体の組み合わせで済むため,より低コストで製造可能であり,一審被告製品全体のコスト削減に大きく貢献している(本件明細書1の【0095】,甲32)。加えて,本件発明2及び3を利用することで,リードフレームと熱硬化性樹脂の密着性が向上し,切断の際にリードと樹脂部が剥がれる等の生産ロスを防止した上で,一度に多数の発光装置を得ることができるため(生産効率の向上),安価で信頼性の高いLEDを製造することが可能であり,これも一審被告製品の製造コストの大幅な低減に寄与している(本件明細書2及び3の【0014】)。
(エ) 代替技術について a 白色系LEDにおいて,本件発明1の青色LEDチップとYAG系蛍光体の組み合わせが,第一選択肢である。
この点,原判決は,一審原告の白色系LED市場におけるシェアを指摘するが,乙86の56頁上の表の「Seoul Semi」,「OSRAM Opto」などは一審原告のライセンス先である。また,近年,「海外その他」の割合の増加が顕著であるが,その中には,本件発明1の侵害品が多く含まれており(そのために,一審原告は世界中で提訴を余儀なくされていた。),実態としては,本件発明1を利用した白色系LEDが主流である。
他方,一審被告の関連会社は,白色系LEDに使用する蛍光体として,YAG系蛍光体ではなく,シリケート系蛍光体やSrサイアロン蛍光体を開発したと述べているが(甲33の43頁),一審被告自身の一審被告製品においてそれらの蛍光体が採用されていないことから示されるように,近時になって代替品が開発されたからといって,YAG系蛍光体の価値に影響はない。
以上のとおり,バックライト用の白色系LEDについて,本件発明1のめぼしい代替技術は存在しない。
b 本件発明2及び3の代替技術について,一審被告は,乙94,95を指摘するが,乙94は,樹脂成形体のバリを取る際に銅製リードのメッキを損傷してしまうという課題を解決した発明であり(乙94の【0003】【0004】 , ,【0065】),乙95は,ダイシング分割により個片化する際に樹脂材料にクラックが発生してしまうという課題を解決した発明であり(乙95の【0008】,【0021】,【0022】,【0051】,【0052】),いずれも,本件発明2及び3の樹脂成形体とリードフレームが切断時に剥がれる等の課題を解決するものではなく,代替技術に当たらない。
(オ) 一審原告のライセンス方針 a 「通常受けるべき金銭の額」では侵害のし得になってしまうとして,平成10年法律第51号による特許法102条3項の改正により「通常」という文言が削除されたことを踏まえ,同項の実施料実施料率は,権利者と侵害者の個別事情に基づき算定されるべきと解されており,権利者の具体的なライセンス方針は,重要な考慮要素である。
一審原告は,ライセンスによる利益獲得よりも,業界における自社シェアの確保維持を重視しているため,基本的にライセンスは限定的であり,競合他社が有望な特許を有している場合など,必要な場合に限りライセンスを行う方針であり,かつ,必要なライセンス契約は既に締結済みである(甲84の1,乙86の33頁)。
したがって,一審原告が,一審被告製品を製造しているというコンパル・エレクトロニクス インクや同社に本件LEDを納入しているLEDメーカーはもとより, ・一審被告に対して,仮に実施料率が100%を超えたとしても,本件発明1〜3のライセンスを許諾してLEDの製造販売を許可することはあり得ず,本件の実施料率はある程度高率として評価されなければならない。
b 上記ア(ア)aのとおり,実施料率を認定する際には,当事者がライセ ンス交渉をしたと仮定した場合の状況を踏まえるべきであるが,その際には,特許権者と侵害が認定された当事者が行う仮想的な交渉における「レンジ」を考慮すべきである。特許権者としては侵害者の行為態様などを踏まえて,最低でもこの程度の金額でなければライセンスすることはあり得ないと合理的に考えられる料率が最低限となり,一方,侵害者が支払うと合理的に考えられる料率が最高になるとすべきである。例えば,特許権者はライセンスによって自社の市場シェアの一部を奪われるのであれば,逸失利益を補填する金額が最低受入水準となり得るし,侵害者にとっては,対象特許を利用する事業から得られる利益が最高水準となり得るといえる。
上記の点からも,一審原告がライセンスを許可するには,最低でも一審被告製品の0.5%程度の料率にすることが必要である。一審被告製品にとって,本件LEDは不可欠な構成であり,その重要性に鑑みて,0.5%(売上げ×0.005)という数値は決して大きなものとはいえず,むしろ,仮に,その程度の実施料率さえ認定されないとすれば,実際には締結されることがあり得ない,現実を無視した架空な認定となり,許されない。
(カ) バックライト用白色系LEDの価格,業界における実施料率の実績 a 仮に,一審被告製品の部材を基礎に損害賠償額を検討するとしても,前記ア(イ)のとおり,その際に基礎とすべきものは,本件LEDが組み込まれた直下型バックライトというべきであり,その価格は1400円〜1700円である。
b 原判決は,LED1個当たりの金額を9円程度と認定したが,一審被告製品に用いられるような直下型バックライト用のLEDの実際の価格は1個当たり18円〜24円である(甲84の1・2)。一審被告製品1台当たりのLEDの価格は,一台当たり平均して24個が使用されていることから,432円〜576円となる。しかも,市場に流通している白色系LEDには,本件LEDのように本件特許権1〜3を侵害する製品も多く,そのために単価が全体として引き下げられ低廉になっているのが実情である(甲84の1・2)から,この価格でさえも, そのような事情によって価格が下落した後の金額である。
c また,原判決が指摘する「電子・通信用部品」分野(甲79)や「電気」分野(乙89)の実施料率の業界実績については,LEDとは関係がない多種多様な製品の実績を広く含む上,特許法102条3項実施料率は当該当事者間の具体的事情を踏まえ評価されるべきものであるから,発明内容,発明価値,売上げへの貢献,当事者の関係等が本件とは異なる業界実績などは,本来的に参考にできない。
損害額について (ア) 以上によると,損害額は,次のとおりとなる(一審被告製品の売上げは,乙87による。一円未満四捨五入)。
a イ号LED 147億1230万5518円×0.5%=7356万1528円 b ロ号LED 102億2138万1519円×0.5%=5110万6908円 c 合計 1億2466万8436円 (イ) そして,本件訴訟における弁護士費用は1200万円を下らない。さらに,これらに対する消費税相当額は,期間を問わず5%の率で計算しても,683万3421円を下らない。
(ウ) したがって,一審原告が一審被告に対し有する損害賠償請求権の金額は,合計1億4350万1857円を下らない。
エ 一審被告の主張について (ア) 一審被告は,乙102として,フィリップス社のライセンスプログラムを提出しているところ,その9枚目及び10枚目では,LEDの価格ではなく,LEDを組み込んだ照明機器の販売額をベースに3〜5%の実施料率を乗じている。
これは,本件の技術分野を含め,一般的なライセンスの実務として,販売する製品 全体の価格をベースに実施料が定められていることを示すものである。
(イ) 一審被告は,テレビである一審被告製品において本件LEDが重要な役割を果たしていても,そのような事情の考慮を許せば,本件LEDがより高価な最終製品に搭載されるほど実施料が高額になりかねないため,考慮し得る事情ではない旨を主張する。
しかし,上記は極めて片面的といわざるを得ない議論であり,少なくとも,本件に妥当するものではない。
例えば,部品メーカーXがテレビメーカーYに納めている製品A(正味販売価格100円)が第三者であるZ保有の特許権の侵害品であり,製品Aがテレビに組み込まれたことで,本来であれば1万円でしか売れないテレビの性能が飛躍的に向上し10万円でも大ヒットする製品になったという事例において,特許権者ZがYに対して権利行使をした場合に,テレビを基準に製品Aの実施料を計算して,製品Aの正味販売価格を超えた金額(例えば1万円)を実施料としても不合理なことはなく,むしろ,正味販売価格を考慮した実施料(例えば10円)とすることこそが不合理である。
一審被告の上記議論は,上記のような事例において,製品Aが製品の価値に基づいた本来の適正価格といえる価格(例えば5万円)で販売できることを暗黙の前提にしているように思われるが,実際の取引では,部品の価格は極めて低額に押さえられるというのが常態なのであって ,そのような前提は成り立たない。また,部品(実施品)の価格を超える実施料を設定することが不合理とされる理由として,上記のような事例で,仮に,YがXに対し特許補償を求めた場合にXの販売価格を超えた補償金額になる点があるとも思われるが,むしろ,そのような補償契約こそが独占禁止法における優越的地位の濫用に該当するなどとして禁止されるべきである。
一審被告の上記議論は,権利者が特許発明実施する者のいずれに対してどのような権利行使をするのかは基本的には特許権者の自由であるとの特許法の原則を忘れた片面的な議論である。
(一審被告の主張) ア 算定の基礎について (ア) LEDチップの価格を算定の基礎とすべきこと 本件特許1〜3の本質的部分の貢献は,LEDチップ自体に閉じており,当該チップが独立して客観的な市場価値を有して流通している以上,特許法102条3項実施料の評価においては,LEDチップの価格を算定基礎とすべきである。
この点,平成29年度特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書「特許権侵害における損害賠償額の適正な評価に向けて」の59頁以下では,「実施料相当の損害を算定する場合,実施料に係る前記の議論の他,実施料に乗じる実施料算定の基礎(ロイヤルティベース)をどう定義するかという問題が生じる。多くの場合,特許の侵害があったとしても,その特許は消費者に販売されている完成品の一部のみに使用されている。それにもかかわらず,完成品の販売価格をロイヤルティベースとして損害が請求された場合,その合理性を検討する必要がある。完成品が多数の部品から構成されており,完成品メーカーがこれらの部品を外部のサプライヤーから購入することが可能な場合,そのような部品の市場が完成品の市場とは別個に存在すると考えることができる。そのような場合,仮想的交渉に基づく推定であれ,類似事例や業界平均に基づく推定であれ,完成品ではなく,部品の価格をロイヤルティベースとすることが合理的である。」として,部品価格を算定基礎額とするのが原則であるとの基本的な考え方が示されているところである。
(イ) 一審原告の主張について a 一審原告の指摘する和解条項(甲84の3)は,LED電球が侵害品とされた事例に係るものであるところ,LED電球はLED以外の部品数が少ないのみならず,LEDの発光性能そのものが完成品である電球の価値に貢献する唯一の要因ともいえるものであり,侵害特許は完成品の全体に使用され,商品そのものの売上げについて消費者需要を喚起していると評価し得る。
これに対して,一審被告製品(液晶テレビ)は,液晶ディスプレイだけでも,一 般的に,偏光フィルター,ガラス基盤,透明電極,配向膜,液晶,スペーサー,カラーフィルター,バックライトから構成されるほか,画像処理のためのLSIやソフトウェア,受信装置,音響装置,録画装置,外部機器との接続装置も備え,極めて多数の部品から構成される。また,比較的シンプルな機能のみを備えるテレビであったとしても,なおその機能は多岐にわたる。そうすると,一審被告製品においては,本件LEDの性能そのものが完成品の価値に貢献する唯一の要因ではあり得ず,製品全体の価値における貢献の度合いは限られたものにすぎない点で,LED電球の場合とは大きく事情が異なる。
したがって,本件において,完成品をロイヤルティベースとすることの合理性はない。LEDが液晶テレビやバックライトユニットとは独立して市場に広く流通する製品である以上,仮想的交渉に基づく損害額の推定であれ,類似事例や業界平均に基づく損害額の推定であれ,LEDの価格をロイヤルティベースとすることが合理的である。
b 白色LEDには,テレビやテレビ用バックライトユニットとは独立した取引市場が存在する以上(甲84の2),LED以外の部品をも構成部品とするバックライトユニットを,ロイヤルティベースとして選択する合理的な理由はない。バックライトはテレビの液晶パネルを構成する部品のうちの一つにすぎず,テレビにおける中心的な部品であるとまではいえない。
イ 白色LEDの実施料率について (ア) 本件発明1〜3の実施料率について a LEDのライセンスは,実務上,複数国のファミリー特許を含む多数の特許で構成されるポートフォリオを対象として,固定実施料率により締結されるのが通常であるところ,例えば,一審原告の競合メーカーであるフィリップス社が2016年に公表しているライセンスプログラムによると,同社は,当時白色LEDに関連する日本を含む世界9か国以上の特許のポートフォリオを正味販売額に対する3%の固定実施料率でライセンスしている(乙102の9頁)。その上で, 同社の2020年版のポートフォリオライセンスの対象特許には,日本で設定登録を受けた273件もの関連特許が含まれている(乙103)ところ,この中には,本件特許権1に関連する青色LEDを用いた白色光源を開示する特許として,少なくとも次の4件の特許が含まれている。
@ 特許第4574842号(登録日は平成22年8月27日。その明細書には,「図1は,例えば日亜化学工業株式会社(東京)が製造する白色LEDランプのように青色LEDから作成された従来技術による白色LED(100)を示したものである。」(【0003】),「…この技術も万能ではない。」(【0004】)との記載がある。) A 特許第4813484号(登録日は平成23年9月2日。その明細書には,「青色光を放射するLED上に黄色蛍光体層を塗布することによって白色光が得られる。・・・青色光及び黄色光の同時放射は,観察者に白色光と知覚される。・・・蛍光体層のタイプ及び厚さの適切な選択によって,他の色も放射するPC-LEDが製造され得る。」(【0004】),「しかしながら,LED素子の電流密度の制約が,単純なPC-LEDの最大輝度を制限する。」(【0005】)との記載がある。) B 特許第4955101号(登録日は平成24年3月23日) C 特許第5096346号(登録日は平成24年9月28日) b 上記@〜Cの特許は,その登録日に鑑み,一審被告製品の販売期間である平成26年1月から平成28年3月の間のフィリップス社のポートフォリオライセンスの対象特許となっていたことが合理的に推認される。そして,上記@及びAの特許に係る記載によると,一審被告の販売時期のはるか前の出願当時において,一審原告の採用する白色LEDの構造には改良すべき点があることが当業者に認識されており,このような問題意識に基づいてされた特許発明がフィリップス社のポートフォリオライセンスに複数含まれていたことが明らかである。
そのような質の高い特許発明を複数含み,日本の関連特許だけでも273件の特 許を対象とする比較可能なポートフォリオライセンス契約が3%の固定実施料率で申し出られ,締結されている事実に鑑みると,本件特許権1〜3の実施料率の合計は,0.033%を超えない(計算式:3%÷273×3≒0.033%)。
(イ) 原判決の認定について 実施料率について,平成15年に発行された甲79では「電子・通信用部品」の最多分布帯が2%台と,平成22年に発行された乙89では「電気」分野の平均が2.9%とされているところ,統計上の最多料率や平均値よりも高い実施料率を適用するためは,少なくともそのような実績を証明する比較可能なライセンス契約締結の事実とその内容が前提とされるべきである。しかるに,そのような比較可能なライセンス契約締結の実績が認められないにもかかわらず,5%及び8%の実施料率を認定した原判決の判断は誤りである。
(ウ) 一審原告の主張について a 前記ア(イ)aのとおり,一審被告製品において,製品全体の価値における本件LEDの貢献の度合いは限られたものにすぎないことからすると,仮にロイヤルティベースを完成品の価格とする場合であっても,一審原告が主張するような高い実施料率を損害算定に用いることは不当である。
b 一審被告製品の販売当時,既に本件発明1を実施しないバックライト用の白色LEDが流通していたもので,本件発明1なくして一審被告製品のようなLEDを使用したテレビの実現があり得なかったとはいえない。本件発明1が発明当時に技術的価値の高い発明として評価されたものであったとしても,一審被告製品の販売期間中には既に異なる技術で製造される蛍光体を用いた製品が後発メーカーによって次々に開発され,市場に投入されていたところである。
白色LEDの蛍光体の材料には,YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)系のほか,TAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット)系,サイアロン系,BOS(バリウム・オルソシリケート)系など,複数の技術的解決手段があり(乙105),YAG系蛍光体を使わない白色LED製品が市場に流通している (乙106)。その結果,一審被告製品発売前の2012年には,オスラムオプト社のTAG蛍光体ほか非YAG系蛍光体は,一審原告のYAG蛍光体とともに世界三大蛍光体に数えられるに至っていた(乙107)。
この点, 例えば TA G蛍光体 は,2 00 4年頃に はオス ラム オプト社 からEverlight,Lite-On,Vishay,YaHsim,Harvatek,ロームの各社にライセンスされており(乙108の33頁),遅くとも2008年までには製品として市場に流通していた(乙109の1・2)。また,Vishay 社が2008年に発売したTAG蛍光体を使用した白色LEDは,厚さが0.75ミリメートルの薄型であるほか,高い光度や耐久性を備え,車載部品の信頼性規格ほかの技術規格を満たす製品であった。
したがって,一審被告製品の販売期間においては,本件発明1の実施に用いられるYAG蛍光体は,市場における選択肢の一つでしかなく,市場での競争の激化を主たる要因として,LEDの価格が低廉になっていたものにすぎない。
c 一審被告製品のユーザーレビュー(甲93)には,画質については必ずしも積極的な評価ではない投稿が見受けられる一方,価格設定について,コストパフォーマンスを高く評価する投稿が散見され,また,レグザブランドが購入の動機となったことを示す投稿が複数みられる。一審被告製品が好評であったのは,バックライトLEDの機能が消費者に訴求したのではなく,著名なレグザブランドの製品が比較的リーズナブルな価格で販売されたからに他ならない。
d LEDの生産効率の向上やコスト低減の実現といった事情は,LEDメーカーの競争力に貢献するものにすぎず,一審被告製品を生産することなく完成品のOEM供給を受けていた一審被告の関知しない事情である。
e 一審原告は,一審被告及び一審被告製品の供給元にライセンスを許諾することはあり得ないことを強調するが,そうであれば,現実のライセンス交渉を再構築することで合理的な実施料を推定しようとする仮想的交渉のレンジを推定する方法を適用する前提を欠くものといわざるを得ない。
特許法102条3項による実施料の評価算定に当たっては,第三者間の料率を含む比較可能な料率を参照する方法によるべきであり,上記(ア)aのフィリップス社に係る事情が重視されるべきである。
f 甲84の2の「直下型バックライト」向けのLEDの価格は,株式会社富士キメラ総研の推定値にすぎず,推定の根拠も示されていない。
甲84の1 2の作成者よりも大規模な産業情報調査会社である米国IHS社 ・ (2016年当時の名称。現在はIHSマークイット社。)による調査によると,テレビバックライト用のLEDの単価は,2015年は0.08米ドル,2016年は0.07ドルであり(乙104),それぞれTTBの年間平均相場価格によって円換算すると,9.6円及び7.5円であるから,LEDの単価についての原判決の認定に誤りはない。
ウ 一審被告製品1台当たりの実施料相当額の算定 (ア) 一審被告製品1台当たりの実施料について 前記ア(ア)及びイ(ア)からすると,一審被告製品1及び2を通じ,特許法102条3項実施に対し受けるべき金銭の額(本件LED24個分の実施料)は,一審被告製品1台当たり,消費税相当額を含めて0.071円を超えない(計算式:216円×0.033%≒0.071円)。
(イ) 原判決の認定について 原判決は,本件LED24個分の実施料相当額について,平成26年1月から平成27年10月までの期間(以下「前期」という。)については10.80円,平成27年11月から平成28年3月までの期間(以下「後期」という。)については17.28円と認定した上で,諸事情を考慮し,特許法102条3項に基づく損害額を,一審被告製品1台当たり,消費税相当額を含めて,前期は20円,後期は30円と,それぞれ1.85倍,1.74倍に引き上げて認定した。
しかし,原審が諸事情として指摘した事情のうち,本件における特許権の侵害が本件LEDを使用した一審被告製品の販売であるという点や,本件LEDがデジタ ルハイビジョンテレビである一審被告製品にとって不可欠のもので,その機能,性能において重要な役割を果たしているといえるという点が仮に事実であったとしても,上記の事情は,本件LEDが組み込まれた一審被告製品の金額をロイヤルティベースとして実施料を算定する場合には考慮され得るものの,一審被告製品とは独立した製品として市場に流通する本件LED自体の価格をロイヤルティベースとして実施料を算定する場合に考慮し得る事情ではない。なぜなら,そのような考慮を許すと,本件LEDがより高価な最終製品に搭載されるほど実施料が高額になりかねない(例えば,本件LEDが一審被告製品の数百倍の販売価格となる自動車のメーターパネルのバックライトとして搭載されたような場合には,実施料が本件LEDの正味販売価格を超えるという不合理な結果にもなりかねない)からである。
エ 特許法102条3項に基づく損害額 前記ウ(ア)のとおり,一審原告が実施に対し受けるべき実施料は,一審被告製品1台当たり,0.071円であり,これは,一審被告製品の平均的な販売価格の0.0002%に当たる(計算式:0.071円÷3万4129円≒0.0002%)。
したがって,特許法102条3項に基づく損害額は,4万9867円を超えない(計算式:249億3368万7037円×0.0002%=4万9867円)。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,原審と同様,本件LEDが本件特許権1〜3を侵害するものと判断した上で,一審原告の損害賠償請求の全部を認容するのが相当であると判断する。
その理由は,侵害論については,後記2のとおり改め,後記3のとおり前記第2の3(1)〜(3)の当審における一審被告の補充主張についての判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」(以下「原判決の第3」という。)の1〜6(原判決83頁〜221頁)に記載するとおりであるから,これを引用する。他方,損害論については,当審における当事者の補充主張に対する判断を含め,後記4のとおりである。
2 引用に係る原判決の訂正 (1) 原判決87頁9行目の「Y3Al5O12:Ce」を「Y3Al5O12:Ce」に改め,88頁17行目の「従来,」の次に「一種類の発光素子を用いて」を加え,同頁19行目〜20行目の「考えられたが」を「開示されていたが」に改め,89頁16行目末尾に続けて「について」を加え,同頁26行目の「上記のLED」を「本件LED」に改め,90頁8行目の「(1a-1,1a-2)」を削除する。
(2) 原判決90頁21行目の「エネルギー分散型X線分析装置(EDX分析)」を「エネルギー分散型X線分析(EDX分析)装置」に改め,91頁13行目の「分析」を削除し,92頁13行目の「波長である」から15行目の「うかがわれる。」までを「波長であるところ,YAG系蛍光体にCが含まれるものは知られていない(甲62,乙24〜26,弁論の全趣旨)。」に,同頁18行目の「あるところ」から22行目の「認められる。」までを「ある(甲54,55)ところ,上記のEPMA分析により検出されたCの含有量には相応のばらつきがあり,これは,コンタミネーションによるものとみることと整合的であるといえる。 にそれぞれ改め, 」93頁1行目の「(1e-1,1e-2)」を削除し,94頁3行目及び10行目の「1D」の次にそれぞれ「及び1F」を加える。
(3) 原判決96頁15行目末尾の次に改行して,次のとおり加える。
「エ 課題を解決するための手段 「本発明は,熱硬化後の,波長350nm〜800nmにおける光反射率が70%以上であり,外側面において樹脂部とリードとが略同一面に形成されている樹脂パッケージを有する発光装置の製造方法であって,切り欠き部を設けたリードフレームを上金型と下金型とで挟み込む工程と,上金型と下金型とで挟み込まれた金型内に,光反射性物質が含有される熱硬化性樹脂をトランスファ モールドして, ・リードフレームに樹脂成形体を形成する工程と,切り欠き部に沿って樹脂成形体とリードフレームとを切断する工程と,を有する発光装置の製造方法に関する。かかる構成によれば,切り欠き部に熱硬化性樹脂が充填されるため,リードフレームと 熱硬化性樹脂との密着面積が大きくなり,リードフレームと熱硬化性樹脂との密着性を向上することができる。また,熱可塑性樹脂よりも粘度が低い熱硬化性樹脂を用いるため,空隙が残ることなく,切り欠き部に熱硬化性樹脂を充填することができる。また,一度に多数個の発光装置を得ることができ,生産効率の大幅な向上を図ることができる。さらに,廃棄されるランナーを低減することができ,安価な発光装置を提供することができる。」【0014】」 ( ) (4) 原判決96頁16行目の「エ」を「オ」に改め,97頁6行目の「熱可塑性樹脂」の次に「(なお,本件明細書2の【0005】の「熱硬化性樹脂」は「熱可塑性樹脂」の誤記と認められる。)」を加え,98頁6行目〜7行目の「エネルギー分散型X線分析装置(EDX分析)」を「エネルギー分散型X線分析(EDX分析)装置」に改め,同頁19行目〜20行目の (2b-1-1, 「 2b-1-2)」を削除する。
(5) 原判決101頁2行目の「このことからすると」を「このことと,前記のとおり,本件LEDにおいて,リードに該当する部分と切り欠き部に入り込んだ樹脂部とが略同一面となっていることが認められることを踏まえると,報告書(3)(甲13)で考察されているように」に,同頁17行目冒頭から18行目の「整合しないから」までを「単なる可能性を指摘するものにすぎず,それを具体的に裏付ける事情も認められないから,上記の判断を左右するものではなく,」にそれぞれ改め,同頁22行目〜23行目の「(2e-1,2e-2)」を削除する。
(6) 原判決106頁3行目の「あったところ」を「あった(なお,本件明細書3の【0005】の「熱硬化性樹脂」は「熱可塑性樹脂」の誤記と認められる。)ところ」に改め,同頁15行目末尾に続けて「このことは,証拠(甲11,12)においても適切に指摘されているところである。」を加え,同頁21行目の「(3a-1,2)」及び22行目の「(3b-1,2)」をいずれも削除する。
(7) 原判決107頁13行目の「略同一面となっている」を「同一面に形成されているとみるべき状態にある」に改め,同頁16行目の「(3f-1,2)」及 び108頁1行目の「(3g-1,2)」をそれぞれ削除する。
(8) 原判決109頁10行目末尾に続けて「について」を加え,110頁21行目の「Y3(Al1-sGas)5O12:Ce」を「Y3(Al1-sGas)5O :Ce」に,116頁11行目の「射された場合」を「照射された場合」に,11217頁16行目の「(Y0.2Gd0.8)3Al5O12:Ce」を「(Y 0.2Gd0.8)3Al5O12:Ce」に,118頁24行目の「蛍光体」を「蛍光体等」に,119頁1行目の「(ZnCd)S」を「(ZnCd)S」にそれぞれ改め,同頁13行目の「第1蛍光体:」を削除し,同行目の末尾に続けて「(シンロイヒ化学製FA-001)」を加え,同頁14行目の「第2蛍光体:」を削除し,同行目の「顔料」の次に「(シンロイヒ化学製FA-005)」を加え,同頁25行目の「カラーセンター」 「カラーセンタ」 120頁5行目〜6行目の を に, 「Y3Al5O12 Based」 「Y3Al5O12-Based」 同頁19行目の を に, 「2μA/cm2」を「2μA/cm2」に,122頁1行目の「(Y1-xCrx)3Al5O12」を「(Y1-x Crx)3Al5O12」にそれぞれ改める。
(9) 原判決125頁12行目冒頭から127頁4行目末尾までを次のとおり改める。
「 しかし,本件明細書1に従来技術の課題として記載されているのは, 熱, 光,水分,直流電界(イオン性の有機染料の場合)による蛍光体の劣化のみであり,課題を解決するための手段や本件発明1の効果も,上記課題に対応したものが記載されているから,本件発明1における「課題」は,上記の光,熱,水分,直流電界による蛍光体の劣化であると認めることができる。
また,本件明細書1には,実施例8として,GaInN半導体を用いた発光ピークが450nmの発光素子とYを100%Gdで置換した本件発明1の構成要件Eに係る蛍光体(Gd3(Al0.5Ga0.5)5O12:Ce)を用いた発光ダイオードが記載されており,同発光ダイオードが,輝度は低いものの,優れた耐候性を有していることが記載されている(本件明細書1の【0102】,【0120】)から, 輝度が低い発光ダイオードが本件発明1の実施例として開示されている。
そして,本件明細書1の【0010】には,「したがって,本願発明は上記課題を解決し,より高輝度で,長時間の使用環境下においても発光光度及び発光光率の低下や色ずれの極めて少ない発光装置を提供することを目的とする。」と記載されているものの,上記で判示したところに照らすと,本件発明1の発光装置の輝度がそれ自体として高輝度であることが本件発明1の「前提」となっていると認めることはできない。
本件明細書1のその余の記載(【0014】,【0038】,【0045】,【0079】,【0086】)は,いずれも青色発光素子が高輝度の発光が可能なものであることを述べたものか,そのように高輝度の青色発光素子を用い,かつ上記課題を解決したために高輝度が維持されることについて述べたものであると認められ,そこから直ちに,高輝度であることが本件発明1の「前提」となっているということはできない。
当業者は,本件明細書1における上記課題を解決するための手段や効果の記載(【0011】,【0014】,【0139】),さらには,実施の形態や実施例・比較例についての記載(本件明細書1の【0044】 【0045】 【0050】 , , ,【0102】〜【0137】)などから,特許請求の範囲にある構成を採用することで,上記課題が解決できると認識することができるものと認められる。
YとAlのいずれか一方でも含まれない蛍光体を用いた場合に,一審被告が主張するとおり輝度が低くなることがあるとしても,そのことによりサポート要件違反になるというものではない。」 (10) 原判決127頁11行目冒頭から19行目末尾までを削除し,同頁20行目の「さらに」を「また」に改め,130頁3行目の「例えば」から5行目の「観測できる。」までを削除し,131頁10行目の「以下「乙2公報」という。」を「乙2公報」に,同頁26行目の「4880Å」を「4880A」に,132頁3行目の「約5500Å」を「約5500A」に,同頁4行目の「4416Å」を「4 416A」に,133頁10行目の「ない。)」を「ない)。」に,134頁10行目及び135頁3行目〜4行目の「蛍光顔料か」をいずれも「蛍光顔料」にそれぞれ改める。
(11) 原判決138頁6行目の「Cd」 「Ca」 を に,同頁7行目の (Zn 「 (d)S」を「(ZnCd)S」にそれぞれ改め,139頁14行目の「上記の記載によれば,」の次に「乙6公報には,」を加え,140頁1行目及び8行目の「珪酸」をいずれも「硅酸」に改め,同頁10行目の「上記の記載によれば,」の次に「乙7公報には,」を加え,同頁16行目の「発光中心内での」を「フライングスポット管では螢光の立上りと減衰がきわめて早いことが要求される。・・・発光中心内での」に,同頁17行目の「Ce3+」を「Ce3+」に,同頁20行目〜21行目の「Y2SiO5:Ce」を「Y2SiO5:Ce」に,141頁11行目の「十分」を「充分」にそれぞれ改め,142頁6行目の「吸収して,」の次に「青緑色域,」を加え,143頁1行目の「このよう」を「このように」に改める。
(12) 原判決145頁3行目の「(1020」から4行目末尾までを「(1020原子cm-3)であり,可能な範囲は5×1019〜1021原子cm-3」に,146頁6行目の「ダイオード)に関する報告」である」を「ダイオード」に関する報告である」にそれぞれ改め,148頁5行目冒頭から14行目末尾までを削除し,同頁20行目の「LED用」を「LCD用」に改め,149頁11行目の「,」を削除し,同頁17行目の「第2欄」の次に「〜第2頁第3欄」を加え,151頁1行目の「とりわけ」を「とりわて」に,同頁22行目の「53.」を「53.,」に,同頁26行目の「解決課題とする」を「解決課題に含む」にそれぞれ改める。
(13) 原判決153頁12行目の末尾に続けて「について」を加え,167頁13行目の「180-591号」を「180591号」に,168頁23行目の「本件原出願日」を「本件特許2の原出願日」に,同頁24行目〜25行目及び169頁1行目の「反射性が」をいずれも「反射率の」にそれぞれ改める。
(14) 原判決169頁24行目末尾に続けて「について」を,同頁26行目末尾 に続けて「なお,乙47公報の翻訳について,原審での「被告準備書面(9)」における一審被告の翻訳を,原審での「準備書面(原告その9)」において一審原告も引用しており,争っていないから,上記一審被告の翻訳を前提とする。」をそれぞれ加える。
(15) 原判決172頁5行目の「上記アの記載に照らせば」を「上記アの記載のほか,乙47公報の図2a,2b,3a,4b〜dに照らすと」に,同頁7行目の「リード104」を「電極104(以下,便宜的に「リード104」という。)」に,同頁10行目の「リード104を含む加工された金属板(リードフレーム104)」を「リード104及びヒートシンクシート102からなる加工された金属板(以下,便宜的に「リードフレーム104」という。)」に,173頁7行目の「前記樹脂部106」を「前記絶縁体106」に,同頁14行目〜15行目,同頁22行目及び174頁12行目の「板部材201」をいずれも「板部材210」に,同頁2行目,3行目及び7行目の「樹脂成形体付きリードフレーム」をいずれも「樹脂成形体付リードフレーム」にそれぞれ改める。
(16) 原判決177頁11行目〜12行目の「設ける。」の次に「この時,凹部23のみにマスキングをして樹脂層を形成することにより,凹部23を除く第1の金属薄板13bの下面と側面及び第2の金属薄板13cの下面と側面とに,樹脂13aと連続した樹脂層25を形成する。」を加え,同行の末尾に改行して次のとおり加える。
「「(第4の工程)第4の工程では,図5に示すように,分離スリット24aに絶縁性樹脂が充填されてなる絶縁分離部24が絶縁基板15の貫通孔内に位置するように絶縁基板15と薄型平板13とを接着フィルム19を介して張り合わす。 ・ ・・(以下省略)」(【0033】)」 (17) 原判決179頁10行目の「上記アの記載に照らせば」を「上記アの記載のほか,乙48公報の【図1】,【図7】,【図10】によると」に,同頁12行目〜13行目の「第1金属薄板13bと第2金属薄板13c(以下,便宜的にこれ らを総称して「リード」という。)」を「第1の金属薄板13bと第2の金属薄板13c(リード)」に改め,同頁25行目冒頭から180頁2行目末尾までを,次のとおり改める。
「2b-5 且つ前記薄型平板13の集合体の底面にて前記金属薄板母材が樹脂層25(樹脂成形体)で覆われている, 2b-6 薄型平板13の集合体を準備する工程と, 2b-7 前記薄型平板13の集合体の上部に,別途形成した貫通孔14を有する絶縁基板15を接着フィルム19により貼り付けて,複数のパッケージを形成する工程と,」 (18) 原判決180頁15行目の「第1金属薄板13bと第2金属薄板13c」を「第1の金属薄板13bと第2の金属薄板13c」に,181頁4行目,5行目及び9行目の「樹脂成形体付きリードフレーム」をいずれも「樹脂成形体付リードフレーム」に,同頁7行目の「樹脂成形体および絶縁基板」を「樹脂成形体(樹脂13a,樹脂層25)及び絶縁基板15」にそれぞれ改め,同頁13行目の「2e)」の次に「。」を加える。
(19) 原判決183頁11行目の「凹部21」を「凹部21c」に改め,184頁23行目の「上記アによれば」を「上記アのほか,乙49公報の【0029】に「メタルコアはマグネシウム合金より成り」との記載があること並びに乙49公報の【図1】,【図3】,【図7】,【図14】〜【図17】によると」に,同頁25行目の「同じ」を「ほぼ同じ」に,185頁3行目〜4行目,5行目,9行目及び14行目の「集合ケース体120」並びに同頁12行目の「集合ケース対120」をいずれも「集合ケース体121」に,同頁10行目〜11行目及び18行目の「スリット123c」をいずれも「スリット123g,溝部123c」にそれぞれ改め,同頁23行目の 【0140】 を削除し, 「 」 186頁18行目の「集合ケース120」及び187頁6行目の「集合ケース体120」をいずれも「集合ケース体121」に,186頁22行目の「スリット123c」を「スリット123g,溝部123 c」にそれぞれ改める。
(20) 原判決187頁21行目末尾に続けて (争点7-1) 「 について」を加え,188頁7行目の「本件明細書3の【0042】【0050】には」を「本件明細書3について,【0042】,【0050】によると,」に,同頁8行目〜9行目の「【0022】には」を「【0022】によると,」に,同頁10行目の「も明記されている」を「が記載されているとそれぞれ認められる」にそれぞれ改め,同頁14行目の「解消」の次に「(争点7-2)」を,189頁12行目の「解消」の次に「(争点7-3)」をそれぞれ加え,196頁12行目〜13行目の「半導体装置および半導体装置製造用フレーム」を「表面実装型発光ダイオード及びその製造方法」に,197頁6行目の「枠上の」を「枠状の」にそれぞれ改める。
(21) 原判決197頁8行目の「上記(ア)の記載に照らせば」を「上記(ア)の記載のほか,乙16公報の【図1】【図4】に照らすと」に,198頁2行目の「前記」 ,を「「前記」にそれぞれ改め,同頁15行目の「リードが」を削除する。
(22) 原判決200頁12行目の「解消」の次に「(争点7-4)」を,202頁20行目の「解消」の次に「(争点7-5)」を,203頁9行目の「解消」の次に「(争点7-6)」をそれぞれ加え,同頁10行目の「リードタイム」から12行目の「製造方法」までを「光半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法およびこれを用いた光半導体装置の製造方法」に,205頁8行目の「400mm2」を「400mm2」に,208頁12行目〜13行目の「1600mm2」を「1600mm 2」に,209頁23行目の「上記(ア)の記載によれば,乙17公報には,以下の発明が記載されている」を「上記(ア)の記載のほか,乙17公報の【図1】,【図2】,【図4】によると,乙17公報に記載された発明は,少なくとも,以下の構成を有する」にそれぞれ改め,210頁8行目の「被覆する」の次に「エポキシ樹脂からなる」を加え,同頁15行目の「以下の点で」から16行目末尾までを「少なくとも,以下の点で相違する。」と改め,同頁22行目冒頭から25行目末尾までを削除し,同頁26行目の「B」を「A」に,211頁8行目の「C」を「B」に,同頁12 行目の「D」を「C」にそれぞれ改め,同頁18行目冒頭から21行目末尾までを削除し,同頁22行目の「F」を「D」に,212頁13行目及び17行目の「上記B」をいずれも「上記A」に,同頁21行目の「同工法」を「乙54公報」に,213頁2行目及び5行目の「上記B」をいずれも「上記A」にそれぞれ改める。
(23) 原判決213頁11行目末尾に続けて「の解消(争点7-7)について」を加え,215頁15行目の「F」 「D」 を に,同頁20行目の「上記(ア)によれば」を「上記(ア)のほか,乙18公報の【図1】〜【図5】,【図9】によると」に,216頁1行目及び9行目の「D」をいずれも「C」にそれぞれ改める。
(24) 原判決216頁16行目冒頭から末尾までを「ア 「切り欠き部」(構成要件3A’,3B’)の充足性(争点7-8)について」に,同頁20行目冒頭から末尾までを「イ 「光反射性物質として酸化チタンが含有される」(構成要件3A’)の充足性(争点7-9)について」に,217頁13行目冒頭から14行目末尾までを「ウ 「シリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂からなる封止部材」(構成要件3E’)の充足性(争点7-10)について」に,同頁23行目の「SEM分析」を「SEM観察」に,218頁2行目の「cm-1」を「cm-1」にそれぞれ改め,同頁6行目〜7行目の「ないし43」を削除する。
(25) 原判決219頁4行目末尾に続けて「(争点7-11)について」を,同頁16行目末尾に続けて「(争点7-12)について」を,220頁12行目の「3h’-1」の次に「,3i’-1」を,同行目の「3H’」の次に「,3I’」を,同頁21行目の「3h’-2」の次に「,3i’-2」を,同行目の「3H’」の次に「,3I’」をそれぞれ加える。
3 侵害論に係る当審における一審被告の補充主張についての判断 (1) 本件発明2並びに本件訂正前発明3及び本件訂正後発明3における「リード」の意義について(争点2-2-1,3-2及び7-11関係) 一審被告は,本件発明2並びに本件訂正前発明3及び本件訂正後発明3における「リード」の意味を正しく認定すれば,本件LEDは本件特許2及び3を侵害する ものではない旨を主張する。
しかし,上記各発明にいう「リード」について,本件明細書2及び本件明細書3の【0013】及び【0050】の記載から,個片化される前の段階でリードフレームであった部材が,切断により個片化されることによって「リード」となるものと解すべきこと並びに本件LEDが本件発明2の構成要件2E及び本件訂正前発明3の構成要件F及び本件訂正後発明3の構成要件F’を充足することは,訂正して引用した原判決の第3の2(4)ア(原判決99頁〜100頁),3(4)(原判決106頁〜107頁)及び6(3)エ(原判決219頁)で判示したとおりである。
これに対し,一審被告は,他の特許公開公報(乙69,101)の記載を指摘するが,それらの記載内容によって,本件発明2並びに本件訂正前発明3及び本件訂正後発明3における「リード」の意義や本件LEDの構成要件充足性が左右されるものではない。
したがって,一審被告の上記主張は採用できない。
(2) 本件発明1のサポート要件違反について(争点4-1及び4-4関係) ア 一審被告は,GAG蛍光体及びYGG蛍光体を含む点において,本件発明1はサポート要件を欠く旨を主張する。
しかし,本件発明1がサポート要件を欠くといえないことは,訂正して引用した原判決の第3の4(1)(原判決109頁〜128頁)で判示したとおりである。
イ これに対し,一審被告は,当審において,特に,GAG蛍光体及びYGG蛍光体が,発光素子からの青色系の発光によって励起しても黄色系の光を発光しない蛍光体であることを主張するが,一審被告の提出する証拠(乙71,72,98)によっても,上記事実を直ちに認めるには足りない。
また,本件明細書1には,Gd又はGaの量を増やすと,波長が長波長又は短波長にシフトする一方で輝度が低下することが記載されている(【0050】〜【0054】,【表1】,【0083】)から,当業者においては,使用する青色LEDの波長や目的とする白色の色調や輝度に応じて,Gd又はGaの量を適宜選択で きるものであって,その中でGAG蛍光体やYGG蛍光体も当業者によって使用が選択されるものと認められるから,一審被告の指摘する上記の点を理由として本件発明1がサポート要件を欠くということはできない。
したがって,一審被告の上記主張は採用できない。
(3) 本件発明2の進歩性欠如について(争点5-3及び5-4関係) ア(ア) 一審被告は,発光装置の技術分野において用いられる「樹脂成形体付リードフレーム」は,「金型」を用いることなく準備し得るから,本件発明2にいう「樹脂成形体付リードフレーム」が金型を用いるものをいうと解するのは誤りである旨を主張する。
(イ) 「成形」について,@牧廣ほか著「図解プラスチック用語辞典」日刊工業新聞社(昭和56年発行。甲95)には, 「一般には,プラスチック成形材料に熱および圧力を加えて軟化あるいは溶融流動化させたのち,金型ないしダイなどを用いて,所望の形状にすることをいう。通常,金型を用いる圧縮成形,トランスファ成形,射出成形,ブロー成形などの成形を mo(u)lding とい」うと,A大木道則ほか編集「化学大辞典」株式会社東京化学同人(1989年発行。甲96)には, 「プラスチックやゴムの成形とガラス,セラミックスの成形があるが,いずれも加熱して流動状態にして,金型に圧入し,固化させる方法で,固化には冷却して固化させる場合と,反応させて硬化させる方法がある。前者の方法としてプラスチックでは射出成形,押出成形,ブロー成形,熱成形,圧縮成形,があり,射出,押出,圧縮成形は反応硬化の場合にも用いる。」と,Bプラスチック大辞典編集委員会編「プラスチック大辞典」株式会社工業調査会(1994年発行。甲97)には, 「成形材料に熱と圧力をかけて流動化させ,金型などを用いて所定の形に賦形すること。成形される材料には熱可塑性樹脂,熱硬化性樹脂,ゴム,バインダーを混ぜて流動性をもたせたセラミックスやメタルの粉末などがある。成形法には射出成形,押出成形,圧縮成形,トランスファー成形,ブロー成形,熱成形,積層成形,発泡成形,回転成形,注型,ディップ成形などがある。」とそれぞれ掲載されている。
上記のような「成形」の語の一般的な意義を踏まえると,本件発明2にいう「樹脂成形体付リードフレーム」は,熱硬化性樹脂に熱や圧力を加えて流動化させて固化することにより作製されるものをいい,その際,金型を用いることが想定されているといえ,当業者においてもそのように理解するものということができる。
(ウ) 上記に関し,本件特許2の原出願日後に出願された特許の公開公報である乙99を踏まえても,発光装置の技術分野において用いられる「樹脂成形体付リードフレーム」について,上記(イ)の一般的な「成形」の語と意義を異にする「成形」によるものとは解されず,他に上記のように解すべき事情を認めるに足りる証拠はない。また,本件特許2の請求項6及び7は,請求項1にいう「樹脂成形体付リードフレームを準備する工程」が金型を用いるものであることを前提として,その具体的な工程について示すものと認められるところである。
(エ) したがって,本件発明2の「樹脂成形体付リードフレーム」の意義についての一審被告の上記主張は採用できない。
イ そして,上記アのような本件発明2の「樹脂成形体付リードフレーム」の意義を踏まえると,乙47公報及び乙48公報によって,本件発明2の進歩性が否定されるものでないことは,訂正して引用した原判決の第3の5(3)及び(4)(原判決169頁〜182頁)で判示したとおりである。これらの点に関する一審被告の当審における補充主張は,いずれもその前提を欠くものであって,採用できない。
4 損害発生の有無及びその額(争点8)について(当審における当事者の補充主張に対する判断を含む。) (1) 特許法102条3項所定の「その特許発明実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額」について 特許法102条3項は,特許権侵害の際に特許権者が請求し得る最低限度の損害額を法定した規定であり,同項による損害は,原則として,侵害品の売上高を基準とし,そこに,実施に対し受けるべき料率を乗じて算定すべきである。
そして,同項所定の「その特許発明実施に対し受けるべき金銭の額に相当する 額」については, 技術的範囲への属否や当該特許が無効にされるべきものか否かが明らかではない段階で,被許諾者が最低保証額を支払い,当該特許が無効にされた場合であっても支払済みの実施料の返還を求めることができないなどさまざまな契約上の制約を受けるのが通常である状況の下で事前に実施料率が決定される特許発明実施許諾契約の場合と異なり,技術的範囲に属し当該特許が無効にされるべきものとはいえないとして特許権侵害に当たるとされた場合には,侵害者が上記のような契約上の制約を負わないことや,平成10年法律第51号による同項の改正の経緯に照らし,同項に基づく損害の算定に当たっては,必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はない。特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき,実施に対し受けるべき料率は,通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきであり,@当該特許発明の実際の実施許諾契約における実施料率や,それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ,A当該特許発明自体の価値すなわち特許発明の技術内容や重要性,他のものによる代替可能性,B当該特許発明を当該製品に用いた場合の売上げ及び利益への貢献や侵害の態様,C特許権者と侵害者との競業関係や特許権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合考慮して,合理的な実施料率を定めるべきである。
(2) 実施料率の算定に当たり考慮すべき事情 括弧内に掲記する証拠及び弁論の全趣旨によると,次の各事実が認められる。
実施料率に関する数値等 (ア) 社団法人発明協会発行の「実施料率〔第5版〕」(平成15年9月30日発行。甲79)には,「電子・通信用部品」分野の実施料率について,次の旨の記載がある。
a イニシャル・ペイメント条件がない場合の実施料率の平均値は,昭和63年度〜平成3年度は4.9%,平成4年度〜10年度は3.3%である。平均値が下降した結果,全技術分野中実施料が最も低い技術分野の一つとなった。
b この技術分野は,契約件数が全技術分野の中でも多い方であるが,他の契約件数上位の技術分野と比較して,実施料率が低く抑えられている。その理由としては,@この技術分野では,高額のライセンス収入を得ることとともに,技術を普及させ,対象技術の標準化を目指すことが重要視されるケースが他の技術分野と比較して多いことや,A半導体産業は設備投資が大きく,ライセンシーの危険負担が大きいことが考えられる。
c 平成4年度〜10年度の実施料率8%以上の契約(イニシャル・ペイメント条件の有無を問わない。)合計21件を技術内容的に細分すると,電子管が1件,半導体が18件,その他の電子・通信用部品が2件であり,半導体が大半を占めている。
(イ) 平成22年8月31日に発行された「ロイヤルティ料率データハンドブック〜特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ〜」によると,本件発明1〜3に関連する「電気」の分野の実施料率について,平均値は2.9%,最大値は9.5%,最小値は0.5%であった(乙89)。
(ウ) 一審原告が訴訟等で相手方と和解をする際には,相手方において侵害品から一審原告の製造するLEDへの置換えが可能な場合には,当該LEDを相手方が購入することを条件として,侵害品の売上高に5%前後の実施料率を乗じた損害賠償額で和解をすることがあるが,そのような置換えが難しい場合には,製品の製造販売の中止を条件に,侵害品の売上高に上記より高い実施料率を乗じた損害賠償額で和解をすることがある(甲84の1)。
一審原告は,平成28年5月,本件特許1を含む二つの特許を侵害するLED電球の販売に係る事案に関し,相手方と,総売上高に10%の実施料率を乗じた額に8%の消費税相当額を加算した金額で裁判上の和解を成立させた(甲84の1 3) ・ 。
(エ) 一審原告の競合メーカーであるフィリップス社は,平成28年6月21日,LED照明及びLEDレトロフィット電球のライセンスプログラムを公表したが,そこでは,LED照明の総収入に基づく実施料率は,単色照明(白色又は有 色の固定色)については3%であることが示されている(乙102)。
イ 本件発明1〜3の価値・重要性等に関する事情 (ア) 一審原告による青色LEDの開発後,赤,緑,青の三種類のLEDを用いるのではなく,青色LEDと蛍光体を用いて一審原告が白色LEDの開発を実現したことは,非常に重要な産業上の意味を持つもので,その後のLED市場の急速な拡大に大きく寄与し(甲24,26),一審原告による白色LEDの開発については,文部科学省発行の「令和元年版 科学技術白書」(甲86)においても取り上げられている。
(イ) 白色LEDを構成するために青色LEDチップと組み合わせる蛍光体の材料としては,YAG系のほか,TAG(テルビウム・アルミニウム・ガーネット)系,サイアロン系,BOS(バリウム・オルソシリケート)系などがある(乙105)。この点,ドイツの OSRAM Opto 社は,平成15年〜平成16年頃に,複数の会社に対し,TAG蛍光体による白色LEDのライセンスを供与しており(乙108),平成20年には,アメリカの Vishay Intertechnology 社は,カメラのフラッシュ・ライト,自動車のブレーキ・ランプや方向指示器やインスツルメント・パネルのバックライトや非常灯などに向けたものとして,TAG蛍光体を用いた白色LEDを発売した(乙109の1・2)。平成18年には,TAG系蛍光体材料などを用いた白色LEDが続々登場しているとの報道があり(乙106),平成24年には,YAG,TAG及びシリケートが,世界三大の蛍光体であると評価されていた(乙107)。
(ウ) 平成27年に発表された「LED製品開発の現状と最新動向」と題する論文(豊田合成技報57号。乙91)には,次の旨の記載がある。
a 青色LEDを光源とし蛍光体を励起させる方式の白色LEDの開発により,小型・省電力の白色光源が実用化され,更なる用途拡大が進んだ。代表例としては,液晶ディスプレイが挙げられる。白色LEDの高効率化により,急速にバックライト用光源の置き換えが進んだ。LED化によるメリットは,主に,発光 効率が高いことと,薄型化ができることである。LEDは光源自体のエネルギー効率が高いことに加え,配光指向性によりバックライトへの入射効率が高くなるため,機器としての省エネが図りやすいことも大きなメリットとなっている。LEDが当たり前になった現在においても,パネル画質向上(高精細化・広色域化)に伴うパネル透過率低下(画面が暗くなること)を補うため,LEDへの効率向上への期待・ニーズは依然として高い。
b 最近,従来の青色LEDと黄色蛍光体の組み合わせから,光の三原色である青色LEDと緑色蛍光体・赤色蛍光体の組み合わせによる色品質の向上が図られている。
従来の青色LEDに黄色蛍光体を加えた疑似白色光は,液晶に用いられる場合,色の純度が低く,液晶パネル上の色域が狭いのが一般的である。色域を拡げるためには,液晶パネルのカラーフィルタの濃度を上げる方法があるが,光の損失が大きくなるため望ましくない。そこで,色域を向上させるため,青色LEDに緑色蛍光体と赤色蛍光体を組み合わせた,新規白色光が開発されている。
ウ 一審被告製品の売上げ及び本件LEDの位置付け等 (ア) 一審被告製品の売上げ(乙87) a 一審被告製品1 一審被告製品1の販売期間は平成26年1月から平成28年3月までであり,総販売台数は43万3971台で,1台当たりの平均販売価格は3万3902円,総売上高は147億1230万5518円であった。売上高の内訳は,平成26年1月から平成27年9月までが147億0404万7272円,同年10月が293万6815円,同年11月から平成28年3月までが532万1431円であった。
b 一審被告製品2 一審被告製品2の販売期間は平成27年5月から平成28年12月までであり,総販売台数は29万6608台,1台当たりの平均販売価格は3万4461円,総売上高は102億2138万1519円であった。売上高の内訳は,平成27年5 月から平成27年9月までが24億1436万1080円,同年10月が9億3268万0350円,同年11月から平成28年11月までが68億4922万2715円,同年12月が2511万7374円であった。
(イ) 一審被告製品における本件LEDの位置付け等 a 一審被告製品は,いずれもデジタルハイビジョン液晶テレビであり,一審被告製品1及び2のバックライトには,いずれも1台につき24個のイ号LED又はロ号LEDが搭載されていた。液晶テレビの方式は,バックライトの種類によって,直下型とエッジ型とに区分されるところ,一審被告製品は,直下型である(甲85)。
b テレビに用いられるLEDについては,テレビ一台に複数のLEDが用いられることから安価であることが望ましい一方で,テレビ内部に設けられたLEDを交換することはできないから,耐久性が極めて重要な特性として求められる。
c 東芝のテレビ事業部の担当者は,平成21年4月に,液晶テレビのバックライトは白色LEDがトレンドになると主張し,RGB三色のLED光源よりも白色LEDの方がより高画質を実現できるという認識を明らかにしていた(甲32)。
そして,一審被告は,一審被告製品を含む液晶テレビのシリーズ商品を販売するに当たり,映像美を一つのセールスポイントとしており,また,一審被告製品は,「おまかせオートピクチャー」という,周囲の明るさに適した画質に自動で調整するとの機能を有していたところ,それは,リニアに発光するというLEDの特性を利用したものであった(甲77,78,92)。
一審被告製品1を購入したユーザーのレビューには,画質の良さやコストパフォーマンスの良さを指摘するものがある(甲93)。
d 一審被告製品は,平成27年7月から11月までの売れ筋ランキングの上位(第3位)を占めていた(甲94)。
e 直下型バックライトが採用される液晶テレビ用の一般的なサイズのLEDにおいては,本件発明2及び3に関連した技術を用いたLEDが多用されている(甲87〜89)。
f 一審被告製品はOEM製品であり,一審被告は,本件LEDの単価も知らず,本件LEDがどこのメーカーの製品であるのかも知らなかった。
エ LEDに関する市場等 (ア) テレビのバックライト用の白色LEDの世界的な平均価格は,平成26年は0.1ドル,平成27年は0.08ドル,平成28年は0.068ドルであった(乙85の1〜3,乙104)。なお,年間平均為替レート(TTS)は,平成26年は106.85円/1ドル,平成27年は122.05円/1ドル,平成28年は109.84円/1ドルであった(乙90)。
(イ) 株式会社富士キメラ総研発行の「2017LED関連市場総調査」 (平成29年1月25日発行。甲84の2)には,次の旨の記載がある。
a テレビ用バックライトユニットについて テレビ用バックライトユニットでは,直下型の白色LEDパッケージが採用されている。テレビ向けのLEDは,高出力かつ広色域,長寿命が要求されるケースが多く,他のバックライトユニット向けLEDと比較してハイエンドな商品となる。
平成28年第4四半期時点において,32型テレビ用の直下型バックライトユニットの主要な価格帯は,1台当たり1400円〜1700円である。ただし,光学シート構成やLEDパッケージの仕様,搭載個数によって大きく価格が変動する。
また,テレビメーカー各社が独自設計を行うハイエンドテレビ用バックライトユニットは,より高価格になる。なお,光学シートの機能複合による搭載枚数削減,LEDパッケージの性能向上による搭載数量削減により,今後も低価格化が続く見通しである。
b 白色LEDパッケージについて 白色LEDパッケージとは,疑似白色に発光するLEDパッケージである。主に 可視光(GaN系)LEDチップに蛍光体を使用することで,疑似的に白色光を実現している。白色LEDパッケージについて,日本では発光効率を高める開発が続けられている。一方で,演色性(色再現性)も必要であるが,演色性と発光効率はトレードオフの関係にある。なお,中国では,コストの圧縮を目的として,LEDパッケージメーカーによるリードフレームを始めとする各種部材の内製化が進んでいる。
世界的にみると,白色LEDパッケージ市場は,数量ベースで引き続き好調な伸びとなっている。ただし,従来大きなウェイトを占めてきたバックライト向けは,出荷数量が大きく減少している。セット機器の減少に加え,中小型バックライト向けでは搭載工数の減少やOLEDへの移行,テレビ用バックライト向けではパッケージ当たりの光束量の増加に伴う搭載個数の減少が主な市場縮小の要因となっている。
白色LEDパッケージについて平成28年第4四半期時点で,バックライト向けの直下型の白色LEDパッケージの価格は,1個当たり,18円〜24円である。
c 白色LEDパッケージに採用される蛍光体について 高発光効率・低価格が要求される製品には,黄色の蛍光体が単体で採用されるケースが多い。演色性や広い色域が要求される場合には,黄色と赤色や,赤色と緑色の組み合わせが採用されている。
LED用蛍光体については,中国において,地域別生産数量に占めるウェイトが高まっている。
平成27年の出荷数量実績では,黄色の蛍光体について,YAG蛍光体が83.5%を占めており,シリケート系が10.2%,その他が6.3%を占めている。
この点,シリケート系は,近年減少傾向にある。YAGなどに比べ高温高湿条件下での信頼性に劣るためである。平成29年に一審原告のYAG主要保有特許が失効するのを受けて,特に電球など色温度3000K程度の照明向けLEDパッケージでは,効率の良さを背景にYAGへの移行が進む可能性がある。
(ウ) 総合技研株式会社発行の「2017年度 白色LED・応用市場の現状と将来性」(乙86)には,次の旨の記載がある。
a 白色LEDメーカーシェア動向について,メーカーは一審原告のほかに合計10社以上あるところ,平成24年〜平成28年において,一審原告は継続してシェア第1位を占めている。この点,シェアは,平成24年は23.7%,平成25年は24.2%,平成26年度は25.4%,平成27年度は19.6%,平成28年度は19.1%である。
b 分野別・用途別白色LED応用市場分析に関し,分野別市場規模について,平成24年〜平成29年で,液晶バックライトを用途とするものは,61.2%から44.4%に減少し,一般照明を用途とするものが34.5%から50.8%に増加してきた。他方,液晶バックライトの数量ベースでみると,平成24〜平成28年で,液晶テレビを用途とするものは,40%前後で推移しており,他の用途(ノートパソコン,液晶モニター,タブレット端末,スマートフォン等)を大きく引き離している。
(エ) 直下型バックライトについては,商流として,LEDメーカーとは別に直下型バックライトを製造するバックライトメーカーが存在し,テレビの製造メーカーに対しては,当該バックライトメーカーが直下型バックライトを部材として供給している。
オ 一審原告のライセンス方針等 (ア) 一審原告は,平成28年においても,バックライト用LED(テレビ,モニター,ノートパソコン及びタブレットを含む。)収入で,世界第2位,14.1%のシュアを占めている(乙84)。
(イ) 一審原告は,後発メーカーとの間で,平成8年頃から,各国で特許訴訟の提起や交渉を繰り返してきたところ,平成14年には,後発メーカーのLEDの技術水準も向上したため,互いに補完し合える技術を保有しているメーカーとはクロスライセンス契約を結んで和解をするようになったが,その際,クロスライセ ンス以外の形態でLEDメーカーにライセンスを供与することは,一部の例外を除いてなかった。それは,ライセンス収入には頼らず,特許はあくまでも自社の技術を保護する手段と考え,自社製品の販売によって利益を得るという経営方針によるものである(甲84の1)。
(3) 実施料率の算定 訂正して引用した原判決第3で判示した本件発明1〜3の意義等に加え,上記(2)で認定した諸事情を踏まえ,以下,実施料相当額について検討する。
実施料率を乗じる基礎(ロイヤルティベース)について (ア) 前記(1)で特許法102条3項について指摘した点に加え,@本件LEDは直下型バックライトに搭載されて一審被告製品に使用されていたところ,直下型バックライトは,液晶テレビである一審被告製品の内部に搭載された基幹的な部品の一つというべきであり,一審被告製品から容易に分離することが可能なものとはいえないこと,ALEDの性能は,液晶テレビの画質に大きく影響するとともに,どのようなLEDを用い,どのようにして製造するかは製造コストにも影響するものであること,B一審被告は,後記イのとおり,本件LEDの特性を活かした完成品として一審被告製品を販売していたもので,一審被告製品の販売によって収益を得ていたこと等に照らすと,一審被告製品の売上げを基礎として,特許法102条3項実施料相当額を算定するのが相当である。
(イ) これに対し,一審被告は,本件特許1〜3の貢献が,LEDチップに限定される旨を主張するが,採用することができない。また,一審被告は,LEDチップが独立して客観的な市場価値を有して流通していると主張するが,そうであるとしても,上記(ア)@〜Bの事情からすると,本件においてLEDの価格をロイヤリティのベースとすることは相当ではない。なお,直下型バックライトについても,独立の市場価値を有するものと認められるが,上記(ア)@〜Bの事情からすると,直下型バックライトの価格をロイヤリティのベースとすることも相当ではない。さらに,一審被告は,最終製品を実施料算定の基礎とすると,本件LEDがより高価な 最終製品に搭載されるほど実施料が高額になると主張するが,本件LEDがより高額な製品に搭載されてより高額な収入をもたらしたのであれば,その製品の売上げに対する本件LEDの貢献度に応じて実施料を請求することができるとしても不合理ではない。
実施料率について (ア)a 一審原告は,クロスライセンス以外の形態でLEDメーカーにライセンスを供与することは,一部の例外を除いてはなく(前記(2)オ(イ)),特許権が侵害された場合,一審原告の製造するLEDへの置換えが可能な場合にはそれを前提に5%前後の実施料率を用いて,置換えが難しい場合にはより高い実施料率を用いて和解をしており,平成28年に,本件特許1を含む二つの特許権を侵害するLED電球の販売に係る事案において,10%の実施料率を想定し,それに8%の消費税相当額を付加して,裁判上の和解をした(前記(2)ア(ウ))。
b 平成10年度までにおいて,電子・通信用部品分野のうち,半導体については,実施料率8%以上の契約が少なからず存する(前記2ア(ア)c)。
c 本件特許1は,長時間の使用に対する特性劣化が少なく,色ずれや輝度低下の極めて少ない発光装置に係る特許であり,本件特許2及び3は,ダイシングの際の剥離の防止や廃棄される樹脂の低減を図るとともに,生産効率を大幅に向上させ,安価な発光装置を提供する方法及び当該装置に係る特許である。これらの特性は,液晶テレビのバックモニタ用の白色LEDとして,大きく活かされるものであったといえ,殊に,本件特許1は,非常に重要な産業上の意味を持つものとして,その後のLED市場の急速な拡大に大きく寄与した(前記(2)イ(ア),(ウ)a,同ウ(イ)b,c,e,同エ(イ)a)。
この点,YAG系の蛍光体以外の蛍光体を用いた白色LEDも存在していたことが認められる(同イ(イ),(ウ))が,一審原告は,白色LEDメーカーとして,平成24年〜平成28年において継続してシェア第1位を占めており,平成28年にバックライト用LED収入でも世界第2位のシェアを占めていること(同エ(ウ)a,同 オ(ア))や,平成27年の出荷数量実績において黄色の蛍光体につきYAG系の蛍光体が大部分を占めていること(同エ(イ)c)に照らすと,一審被告製品の販売期間である平成26年1月から平成28年12月までの期間において,液晶テレビのバックライト用の白色LEDについて,一審原告の製品は他の製品に比べてかなり優位な地位にあったものと認められる。
d 以上のa〜cで述べたところに,前記(1)で特許法102条3項実施料率について述べたところや,前記(2)で認定した関連技術分野における実施料率の特徴や幅,YAG系蛍光体を用いた白色LEDの価値等に係る他の事情を総合すると,平成26年1月から平成28年12月までの期間(ただし,本件特許3については平成27年10月23日以後,本件特許2については平成28年12月16日以後)における本件発明1〜3の実施料率は,10%を下回ることのない相当に高い数値となるものと認められる。
なお,@フィリップス社は平成28年に単色のLED照明の実施料率について3%と公表しており(前記(2)ア(エ)),ALEDの属する技術分野における実施料率の平均値は,3.3%,2.9%といった数値である(同ア(ア)a,(イ))。しかし,上記@の数値は,フィリップス社の特許についてこれからライセンスする場合の数値であり,また,上記Aは,広汎な分野における実施料率の平均値であり,いずれも上記認定を左右するものではない。
(イ) 液晶テレビである一審被告製品は,本件LED以外の多数の部品から成り立っており,上記(ア)の実施料率をそのまま適用することは相当ではないが,前記(ア)cのとおり,本件発明1〜3の技術は,液晶テレビのバックモニタ用の白色LEDとして,大きく活かされるものであったということができる上,一審被告製品は,映像美を一つのセールスポイントとするなどして,売れ行きは好調であった(前記(2)ウ(イ)c,d)のであるから,一審被告製品の売上げに対する本件発明1〜3の技術の貢献は相当に大きいものであり,前記(2)で認定した白色LEDの価格等に係る事情を考慮しても,平成26年1月から平成28年1月までの間(ただ し,本件特許3については平成27年10月23日以後,本件特許2については平成28年12月16日以後)において,一審被告製品の売上げを基礎とした場合の実施料率は,0.5%を下回るものではないと認めるのが相当である。
ウ 一審被告の主張について 一審被告は,一審被告製品2には一審原告が主張立証するLEDチップとは異なるチップが使用されているため,一審原告が主張立証するロ号LEDが使用されている一審被告製品2の販売数量は不明であるから一審被告製品2に係る損害賠償請求は認められないと主張するが,訂正して引用した原判決第3の1(5)(原判決93頁)で判示したことからすると,一審被告製品2には,その販売期間を通じて,本件特許1〜3を侵害するロ号LEDが使用されていたと推認されるというべきであり,一審被告の上記主張やその裏付けとしての証拠(乙66,70)は,この推認を覆すに足りるものではない。
その他,一審被告の主張は,前記イの認定を左右するに足りるものではない。
(4) 一審原告が一審被告に請求し得る額の算定 以上を踏まえると,一審原告が一審被告に請求し得る額は,次のとおりとなる。
実施料相当額について,一審被告製品の総売上高は,一審被告製品1が147億1230万5518円,一審被告製品2が102億2138万1519円で,合計249億3368万7037円であり,同額に,上記(3)の実施料率0.5%を乗じると,1億2466万8435円(1円未満四捨五入)となる。
イ 弁護士費用相当額については,原告の主張額である1200万円を認めるのが相当である。
ウ したがって,一審原告は,一審被告に対し,少なくとも損害賠償として,合計1億3666万8435円を請求することができるところ,この金額は,一審原告の請求額を超えているので,消費税相当額の加算について判断するまでもなく,一審原告の損害賠償請求は,全部について理由がある。
結論
よって,1億3200万円及びこれに対する平成29年8月29日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める一審原告の損害賠償請求には理由があるところ,これと異なり,1795万6641円及びこれに対する同遅延損害金の限度で同請求を一部認容し,その余を棄却した原判決は,一部失当であって,一審原告の本件控訴は理由があるから,原判決を変更することとし,一審被告の控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 佐野信
裁判官 中島朋宏
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