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関連審決 無効2019-800016
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事件 令和 2年 (行ケ) 10018号 審決取消請求事件

原告株式会社東京精密
同訴訟代理人弁護士 半場秀 筬島裕斗志 前田直哉 三縄隆 松村啓
同訴訟代理人弁理士 丹治彰 石田良平
被告 浜松ホトニクス株式会社
同訴訟代理人弁護士 設樂隆一 深沢正志 寺下雄介 大澤恒夫
同訴訟復代理人弁護士 松阪絵里佳
同訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹 柴田昌聰 小曳満昭
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/11/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 -1-1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2019-800016号事件について令和2年1月7日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許無効審判請求の不成立審決の取消訴訟である。争点は,進歩性についての認定判断の誤りの有無である。
1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,平成13年9月13日(優先日は平成12年9月13日),発明の名称を「切断起点領域形成方法及び加工対象物切断方法」とする特許出願をし,平成15年3月14日,その設定登録を受けた(特許第3408805号。請求項の数37。甲27)。
(2) 被告は,平成16年12月28日に,発明の名称を「加工対象物切断方法」と訂正することを含む訂正の請求をし,特許庁は,平成17年2月4日,同訂正を認める旨の決定をし,同年3月22日,同決定の確定登録がされた。その後,被告は,同年8月15日に訂正の請求をし,特許庁は,平成18年3月3日,同訂正を認める旨の審決(甲19)をし,同年11月9日,同審決の確定登録がされた(同訂正後の請求項の数31。以下,同訂正後の特許第3408805号を「本件特許」といい,同訂正後の本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。 。
) (3) 原告は,平成31年2月25日,本件特許の無効審判の請求(以下「本件審判請求」という。)をした(無効2019-800016号事件) 。特許庁は,令和2年1月7日,本件審判請求について,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,本件審決の謄本は,同月17日に原告に送達された。
2 本件特許に係る発明の要旨 本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,各請求項に係る発明を,それぞれ請求項の番号に応じて「本件発明1」などといい,本件発明1〜31を併せて「本件発明」という。。
) 【請求項1】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成し,この改質領域によって,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる,加工対象物切断方法。
【請求項2】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて,集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し,前記加工対象物の内部にクラック領域を含む改質領域を形成し,この改質領域によって,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる,加工対象物切断方法。
【請求項3】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて,集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し,前記加工対象物の内部に溶融処理領域を含む改質領域を形成し,この政質領域によって,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる,加工対象物切断方法。
【請求項4】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて,集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射し,前記加工対象物の内部に屈折率が変化した領域である屈折率変化領域を含む改質領域を形成し,この改質領域によって,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる,加工対象物切断方法。
【請求項5】 レーザ光源から出射される前記レーザ光はパルスレーザ光を含む,請求項1〜4のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項6】 前記加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射するとは,一つのレーザ光源から出射されたレーザ光を集光して前記加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射する,請求項1〜5のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項7】 前記加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射するとは,複数のレーザ光源から出射された各レーザ光を前記加工対象物の内部に集光点を合わせて異なる方向から照射する,請求項1〜5のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項8】 前記複数のレーザ光源から出射された各レーザ光は,前記加工対象物の表面から入射する,請求項7記載の加工対象物切断方法。
【請求項9】 前記複数のレーザ光源は,前記加工対象物の表面から入射するレーザ光を出射するレーザ光源と,前記加工対象物の裏面から入射するレーザ光を出射するレーザ光源と,を含む請求項7記載の加工対象物切断方法。
【請求項10】 前記複数のレーザ光源は前記切断予定ラインに沿ってレーザ光源がアレイ状に配置された光源部を含む,請求項7〜9のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項11】 前記改質領域は,前記加工対象物の内部に合わされたレーザ光の集光点に対して,前記加工対象物を相対的に移動させることにより形成される,請求項1〜10のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項12】 前記加工対象物は照射されたレーザ光の透過性を有する材料である,請求項1〜11のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項13】 前記加工対象物の表面に電子デバイス又は電極パターンが形成されている,請求項1〜12のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項14】 前記加工対象物に力を加えることによって,前記切断の起点となる領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることで,前記切断予定ラインに沿って前記加工対象物を切断する,請求項1〜13のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項15】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて,集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し,前記加工対象物の内部に改質領域を形成し,この改質領域によって,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる,加工対象物切断方法。
【請求項16】 前記加工対象物は,その表面に複数の回路部が形成されており,前記複数の回路部のうち隣接する回路部の間に形成された間隙に臨む前記加工対象物の内部にレーザ光の集光点を合わせる,請求項1〜15のいずれかに記載の加工対象物切断方法。
【請求項17】 前記複数の回路部にレーザ光が照射されない角度でレーザ光が集光される,請求項16記載の加工対象物切断方法。
【請求項18】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記加工対象物の内部に,単結晶構造から非晶質構造に変化した領域,単結晶構造から多結晶構造に変化した領域,又は単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域である溶融処理領域を形成し,この溶融処理領域によって,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる,加工対象物切断方法。
【請求項19】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に,多光子吸収による改質領域を形成することで,この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項20】 請求項19記載の加工対象物切断方法において,前記改質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項21】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて,集光点に おけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に,クラック領域を含む改質領域を形成することで,この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項22】 請求項21記載の加工対象物切断方法において,前記改質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項23】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて,集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に,溶融処理領域を含む改質領域を形成することで,この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項24】 請求項23記載の加工対象物切断方法において,前記政質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項25】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて,集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1ns以下の条件でレーザ光を照射し,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に,屈折率が変化した領域である屈折率変化領域を含む改質領城を形成することで,この改質領 域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項26】 請求項25記載の加工対象物切断方法において,前記改質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項27】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせて,集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上でかつパルス幅が1μs以下の条件でレーザ光を照射し,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に改質領域を形成することで,この改質領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項28】 請求項27記載の加工対象物切断方法において,前記改質領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項29】 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物の内部において前記加工対象物のレーザ光入射面に沿った方向に,単結晶構造から非晶質構造に変化した領域,単結晶構造から多結晶構造に変化した領域,又は単結晶構造から非晶質構造及び多結晶構造を含む構造に変化した領域である溶融処理領域を形成することで,この溶融処理領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させて前記加工対象物を切断することを特徴とする加工対象物切断方法。
【請求項30】 請求項29記載の加工対象物切断方法において,前記溶融処理領域を前記レーザ光入射面から所定距離内側に形成する加工対象物切断方法。
【請求項31】 前記加工対象物に力を加えることによって,前記切断の起点となる領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることで,前記切断予定ラインに沿って前記加工対象物を切断する,請求項18記載の加工対象物切断方法。
3 本件審決の理由の要旨等 (1) 原告の主張に係る無効理由 本件審判請求における進歩性の要件の違反についての原告の主張の要旨は,本件発明が甲1〜7に記載された各発明(以下,証拠番号に従ってそれぞれ「甲1発明」などという。)のうち複数のものを組み合わせることにより当業者が容易に想到できるものであるというもので,次のア〜オのとおりである。
ア 無効理由1 本件発明は,甲1発明に,甲4発明,甲7発明,甲6発明及び甲3発明を組み合わせることで,当業者が容易に想到できるものである。
イ 無効理由2 本件発明は,甲4発明に,甲1発明,甲7発明,甲6発明及び甲3発明を組み合わせることで,当業者が容易に想到できるものである。
ウ 無効理由3 本件発明は,甲2発明に,甲1発明,甲6発明,甲3発明及び甲4発明を組み合わせることで,当業者が容易に想到できるものである。
エ 無効理由4 本件発明は,甲5発明に,甲1発明,甲3発明,甲6発明及び甲4発明を組み合わせることで,当業者が容易に想到できるものである。
オ 無効理由5 本件発明は,甲7発明に,甲1発明,甲6発明,甲3発明及び甲4発明を組み合わせることで,当業者が容易に想到できるものである。
(2) 主引例についての本件審決の認定 ア 甲1発明の認定 「厚板の合成石英ガラスの内部に焦点を合わせて 高エネルギー密度のエキシマレーザパルスの繰り返しによるエキシマレーザビームを照射し, 前記合成石英ガラスの内部に多光子吸収による微小なクラックを形成し, 切断予定ラインに沿ってワークを水平面内で移動させつつ焦点の位置を前記合成石英ガラスの底面から上方向に移動させることによって,微細なクラックを合成石英ガラスの内部で連続させ,合成石英ガラスを複雑な形状に切断加工する, 合成石英ガラスの切断加工方法。」 イ 甲4発明の認定 「サファイア基板201の表面上に窒化物半導体層205が形成された半導体ウエハーの前記基板201の内部に焦点が結ばれるように,16J/cm2でレーザ光線を照射し,前記基板201の内部に,微視的なマイクロ・クロックの集合である加工変質層206を形成し,この加工変質層206によって,前記基板201の底面付近の基板内部に,ローラー荷重をかけた場合の割れ方を制御するためのスクライブ・ラインを形成した後,溝部204を形成し,前記溝部204の底面にスクライブ・ライン207を形成し,その後,前記溝部204に沿ってローラーによって荷重をかけ,前記半導体ウエハーを切断する,半導体ウエハーの切断方法。」 ウ 甲2発明の認定 「ガラス物体の内部に焦点を合わせてレーザを照射し,ガラス物体の内部に微小亀裂を形成し,この微小亀裂によって,前記ガラス物体の分割線に沿って前記ガラス物体の内部に破断点を形成し,破断開封する,ガラス物体の破断方法。」 エ 甲5発明の認定 「シリコン基板を含む薄板状の被加工部材10の内部に集光させて, 1ナノ秒以下のパルス幅で発振するレーザ光を照射し, 高いレーザ光の密度によって前記被加工部材の内部に光学的損傷あるいは光学的 絶縁破壊が生じて変質した微小領域13を形成し, この微小領域13によって,前記被加工部材10の内部にマーキングし,マーキングによるクラックの発生が表面まで到達しないようにする, 被加工部材のマーキング方法。」 オ 甲7発明の認定 「ガラス,プラスチック,宝石,または半導体等の材料の内部にレーザビームを収束させて, 光学破壊を起こすハイパワー密度のオーダー(桁)が1013watts/cm2でかつパルス幅のオーダー(桁)が10ピコ秒又はそれより短い条件でレーザビームを照射し, 前記材料の内部に光学破壊により空隙を形成し, この空隙を前記材料の表面から鋸運動により所定の経路に沿って,複数結びつかせることによって,前記材料を切断する, 材料の切断方法。」 (3) 無効理由1のうち本件発明1についての本件審決の判断の要旨 ア 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点 (一致点) 「加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成する,加工対象物切断方法。」 (相違点1) 本件発明1は,加工対象物が「半導体材料からなるウェハ状」のものであるのに対し,甲1発明は,「厚板の合成石英ガラス」である点。
(相違点2) 本件発明1は,切断工程が, 「この改質領域によって,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる」という工程であって,切断の起点を加工対象物の内部に形成するのに対し,甲1発明においては,切断工程が, 「切断予定線に沿ってワークを水平面内で移動させつつ焦点の位置を前記合成石英ガラスの底面から上 方向に移動させることによって,微細なクラックを合成石英ガラスの内部で連続させ,合成石英ガラスを複雑な形状に切断加工する」という工程であって,焦点の位置を対象物である石英ガラスの底面から上方向へ移動させることで微細なクラックを連続させて切断するものである点。
イ 相違点の検討 (ア) 相違点1について 甲1には,「厚板であっても自由な切断加工を可能とすることを目的としている」などと記載されている一方,半導体素子を製造する半導体ウエハーは,通常は薄板状のものであるとともに,厚板から円柱状等の複雑な形状に加工する必要性は特段知られていないから,厚板である石英ガラスなどの透明材料について複雑な形状に切断加工するものである甲1発明において,切断加工対象を半導体材料からなるウェハ状の加工対象物とする動機付けが存在せず,相違点1に係る半導体材料からなるウエハ状のものを加工対象とすることは,当業者であっても容易ではない。
(イ) 相違点2について 甲1発明においては,微細なクラック同士が底面から上方向へ連続して切断面を形成するものと認められる一方,本件発明1は,内部の切断の起点から外部に向けて割れを進行させるもので,切断の機序が異なる。また,甲2はガラス物体の破断方法,甲3はレーザ光による屈折率の変化を利用したマーキング方法,甲4は半導体ウエハーであるサファイア基板の切断方法,甲5は被加工部材のマーキング方法,甲6はレーザー光線照射による半導体ウェーハ-の一部の溶融除去,甲7は半導体材料等のレーザ光の鋸運動による切断方法を示すもので,本件発明1の上記工程を開示するものではない。そうすると,いずれも切断の起点となる領域を形成する上記工程を開示していないし,そのような工程を採用する動機付けもないから,甲1発明において,相違点2の構成を採用することは,当業者であっても容易ではない。
ウ 有利な効果 本件発明1は,相違点1及び2に係る構成を備えることにより,割断制御が容易 となる(本件明細書の段落【0042】,切断予定ラインから外れた不必要な割れ )や溶融が生じることなく半導体チップを切り出すことができる,作製される製品の歩留まりを向上させることができる(同【0060】)といった,甲1発明と比較して有利な効果を奏する。
エ したがって,本件発明1は,甲1発明及び甲2〜7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
(4) 無効理由2のうち本件発明1についての本件審決の判断の要旨 ア 本件発明1と甲4発明の一致点及び相違点 (一致点) 「ウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記加工対象物の内部に改質領域を形成する,加工対象物切断方法。」 (相違点1) 加工対象物が,本件発明1は, 「半導体材料」であるのに対し,甲4発明は,「サファイア基板201」である点。
(相違点2) 加工対象物の内部に改質領域を形成するのに際し,本件発明1は,多光子吸収によって形成するのに対し,甲4発明は,多光子吸収によって形成しているか否か不明な点。
(相違点3) 本件発明1においては,切断工程が, 「この改質領域によって,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる」という工程であって,改質領域が切断の起点となるのに対し,甲4発明においては,切断工程が, 「この加工変質層206によって,前記基板201の底面付近の基板内部に,ローラー荷重をかけた場合の割れ方を制御するためのスクライブ・ラインを形成した後,溝部204を形成し,前記溝部204の底面にスクライブ・ライン207を形成し,その後,前記溝部204に沿ってローラーによって荷重をかけ,前記半導体ウエハーを切断する」という工程であって,基板201を切断するものの,加工変質層206によるスクライブ・ラインが切断の起点となるか否か不明な点。
イ 相違点の検討 (ア) 相違点1について 甲4の段落【0005】及び【0006】の記載によると,甲4発明では,モース硬度が高く,へき開性がないサファイア基板において,クラック,チッピングを発生させずに綺麗に切断するという課題を解決することが求められていたところ,加工対象物をサファイア基板以外のものとすることは,上記課題を解決するものではなくなるから,このような材料を変更する動機が存在しない。したがって,甲4発明において,相違点1の構成を採用することは当業者であっても容易ではない。
(イ) 相違点2について 甲1には,レーザを用いた多光子吸収によって材料の内部にクラックを発生させるという技術的事項が記載されており,甲4発明は,レーザ光線を照射し,サファイア基板201の内部に微視的なマイクロ・クロックの集合である加工変質層206を形成するものである。両者に記載された技術的事項は,いずれも,レーザ光を用いて加工対象物の内部にクラックを発生させるという点では共通しているから,甲4発明に甲1の上記技術的事項を適用し,甲4発明において,サファイア基板201の内部に加工変質層206を形成するに当たり,多光子吸収によって形成するようにすることは,当業者であれば容易になし得たことである。
(ウ) 相違点3について 甲4発明においては,加工変質層206によって,基板201の底面付近の基板内部に,ローラー荷重をかけた場合の割れ方を制御するためのスクライブ・ラインを形成した後,溝部204を形成し,溝部204の底面にスクライブ・ライン207を形成し,その後,溝部204に沿ってローラーによって荷重をかけ,半導体ウエハーを切断しているところ,ローラを表裏どちらの面に当接させるかについては特定がなく,切断の起点がどこであるかに関しても説明はない。したがって,甲4発明の切断方法で,いずれかの箇所において切断の起点は生じると推測できるものの,必ずしも加工変質層206によるスクライブラインが切断の起点となっている とはいえず,本件発明1のように,加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に形成した領域を起点として,加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させるという工程を有しているとまでとはいえない。むしろ,甲4発明は,へき開性のないサファイア基板について溝部204及び溝部204底面のスクライブライン207を有するもので,加工変質層206によるスクライブラインは,割れ方を制御するためのものであること,ローラーが溝部に沿って荷重をかけるものであることに鑑みると,溝部204の底面を起点として割れが生じ,その割れを制御すべく加工変質層206によるスクライブラインが機能すると考えるのが自然ともいえる。また,この工程については,甲1〜3,5〜7にも記載されていないことから,甲4発明において,相違点3の構成を採用することは,当業者であっても容易ではない。
ウ 有利な効果 本件発明1は,相違点1〜3に係る構成を備えることにより,割断制御が容易となる(本件明細書の段落【0042】,切断予定ラインから外れた不必要な割れや )溶融が生じることなく半導体チップを切り出すことができる(同【0060】)といった効果等の,甲4発明と比較して有利な効果を奏する。
エ したがって,本件発明1は,甲4発明及び甲1〜3,5〜7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
(5) 無効理由3のうち本件発明1についての本件審決の判断の要旨 ア 本件発明1と甲2発明の一致点及び相違点 (一致点) 「加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記加工対象物の内部に改質領域を形成し,この改質領域によって,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って,前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる,加工対象物切断方法。」 (相違点1) 加工対象物が,本件発明1は, 「半導体材料からなるウェハ状」のものであるのに対し,甲2発明は,ガラス物体である点。
(相違点2) 加工対象物の内部に改質領域を形成するのに際し,本件発明1は, 多光子吸収によって形成するのに対し,甲2発明は,多光子吸収によって形成しているか否か不明な点。
(相違点3) 本件発明1においては,切断工程が,半導体材料である「前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる」という工程であるのに対し,甲2発明においては,切断工程が, 「ガラス物体の内部に破断点を形成し,破断開封する」という工程であり, 「破断点」が切断の起点か否かは不明である点。
イ 相違点の検討 (ア) 相違点1について 甲2の段落【0001】及び【0013】の記載からすると,甲2発明は,ガラス物体,特に,破断開封アンプル特有の課題を解決しようとした発明であることは明らかであるから,甲2発明において,加工対象物を半導体材料からなるウェハ状のものとすることは,「破断開封アンプルを再現できかつ安全に開口する方法で破断開封アンプルの破断領域に所定の破断点を形成する」というアンプル特有の課題とは関係がなく,当業者であっても甲2発明の加工対象物をガラス物体から半導体材料からなるウェハ状のものにしようとする動機はない。したがって,甲2発明において,相違点1の構成を採用することは,当業者であっても容易ではない。
(イ) 相違点2について 甲1には,レーザを用いた多光子吸収によって材料の内部にクラックを発生させるという技術的事項が記載されており,甲2発明は,ガラス物体の内部にレーザを照射し,ガラス物体の内部に微小亀裂を形成するものである。両者の技術的事項はいずれも,レーザ光を用いて加工対象物の内部に亀裂を発生させるという点では共通しているから,甲2発明に甲1の上記技術的事項を適用し,甲2発明において,ガラス物体の内部に亀裂を形成するに当たり,多光子吸収によって形成するようにすることは,当業者であれば容易になし得たことといい得る。
(ウ) 相違点3について 甲2発明においては,ガラス物体に対しどのように力をかけ,どのように破断開封しているかが不明であり,それに伴い,ガラス内部に形成された破断点が切断の起点となるのか否かも不明である。甲2では,実施例として,アンプルの首の破断について説明するのみで,力のかけ方や破断の機序についての説明はない。したがって,甲2発明においては,切断工程が,加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に形成した領域を起点として,加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させるという工程を有しているとはいえない。また,この工程については,甲1,3〜7にも記載されていないことから,甲2発明において,相違点3の構成を採用することは,当業者であっても容易ではない。
ウ 有利な効果 本件発明1は,相違点1〜3に係る構成を備えることにより,割断制御が容易となる(本件明細書の段落【0042】,切断予定ラインから外れた不必要な割れや )溶融が生じることなく半導体チップを切り出すことができる,作製される製品の歩留まりを向上させることができる(同【0060】)といった,甲2発明と比較して有利な効果を奏する。
エ したがって,本件発明1は,甲2発明及び甲1,3〜7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
(6) 無効理由4のうち本件発明1についての本件審決の判断の要旨 ア 本件発明1と甲5発明の一致点及び相違点 (一致点) 「半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記加工対象物の内部に改質領域を形成」する点。
(相違点1) 加工対象物の内部に改質領域を形成するのに際し,本件発明1は,多光子吸収によって形成するのに対し,甲5発明は,多光子吸収によって形成しているか否か不明な点。
(相違点2) 本件発明1においては, 「改質領域によって,前記加工対象物の切 断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる,加工対象物切断方法」であって,加工対象物の内部に,切断の起点となる領域を形成して,加工対象物を切断するのに対し,甲5発明においては, 「微小領域によって,前記被加工部材の内部に,マーキングする,被加工部材のマーキング方法。」であって,被加工部材の内部にマーキングはするものの,切断を前提としていないから切断の起点となる領域を形成するものではないし,加工対象物を切断もしていない点。
イ 相違点の検討 (ア) 相違点1について 甲1には,レーザを用いた多光子吸収によって材料の内部にクラックを発生させるという技術的事項が記載されており,甲5発明は,被加工部材10の内部にレーザ光を照射し,被加工部材10の内部に光学的損傷を形成するものである。両者に記載された技術的事項は,いずれも,レーザ光を用いて加工対象物の内部に損傷を発生させるという点では共通しているから,甲5発明に甲1の上記技術的事項を適用し,甲5発明において,被加工部材10の内部に光学的損傷を形成するに当たり,多光子吸収によって形成するようにすることは,当業者であれば容易になし得たことといい得る。
(イ) 相違点2について 甲5発明は,マーキング方法に関するものであり,切断方法に関するものではない。また,甲5の段落【0040】及び【0071】の記載によると,マーキングによって被加工部材のクラックが表面に到達するのを防止している。そうすると,甲5発明を,被加工部材10の切断方法に変更することは阻害要因があり,当業者であっても,甲5発明のマーキング方法を切断方法に変更することは容易ではない。
また,甲1にはレーザによる合成石英ガラスの切断方法が,甲2にはレーザによるガラス物体の破断方法が,甲4にはレーザによるサファイア基板の切断方法が, 甲7にはレーザによる半導体材料の切断方法が記載されているものの,甲5発明は,マーキングによるクラックの発生が表面まで到達しないようにできるものであって,甲1,2,4,7によりレーザを切断に用いることが公知技術であるとしても,当該クラックの発生を抑制するものである甲5発明に適用するには阻害要因がある。
ウ 有利な効果 本件発明1は,相違点1及び2に係る構成を備えることにより,割断制御が容易となる(本件明細書の段落【0042】,切断予定ラインから外れた不必要な割れ )や溶融が生じることなく半導体チップを切り出すことができる,作製される製品の歩留まりを向上させることができる(同【0060】)といった,甲5発明と比較して有利な効果を奏する。
エ したがって,本件発明1は,甲5発明及び甲1〜4,6,7に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
(7) 無効理由5のうち本件発明1についての本件審決の判断の要旨 ア 本件発明1と甲7発明の一致点及び相違点 (一致点) 「半導体材料からなる加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,前記加工対象物の内部に改質領域を形成し,この改質領域によって,前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる,加工対象物切断方法。」 (相違点1) 半導体材料からなる加工対象物が,本件発明1は, 「ウェハ状」であるのに対し,甲7発明は,ウェハ状であるのか否か不明な点。
(相違点2) 前記加工対象物の内部に改質領域を形成するに当たり,本件発明1は,「多光子吸収」によるものであるのに対し,甲7発明は,「光学破壊」によるものである点。
(相違点3) 加工対象物を切断するに当たり,本件発明1は, 「改質領域によって,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させ」ており,加工対象物の内部に切断 の起点となる領域を形成しているのに対し,甲7発明では, 「空隙を前記材料の表面から鋸運動により所定の経路に沿って,複数結びつかせることによって,前記材料を切断」しており,加工対象物である材料の内部に切断の起点となる領域を形成しているか否か不明な点。
イ 相違点の検討 (ア) 相違点1について 甲4の段落【0047】に記載されているように,半導体製造の分野において,ウエハー状のものを切断することは周知技術である。甲7発明は,半導体材料を切断する技術に関するものであるから,甲7発明において,上記周知技術を適用し,加工対象物である半導体材料をウエハ状のものとすることは,当業者であれば容易に想到し得たということができる。
(イ) 相違点2について 甲1には,レーザを用いた多光子吸収によって材料の内部にクラックを発生させるという技術的事項が記載されており,甲7発明は,レーザビームを照射し,材料の内部に光学破壊により空隙を形成するものである。両者に記載された技術的事項は,いずれも,レーザを用いて加工対象物の内部に破壊を発生させるという点では共通しているから,甲7発明に甲1の上記技術的事項を適用し,甲7発明において,材料の内部に空隙を形成するに当たり,多光子吸収によって形成するようにすることは,当業者であれば容易になし得たことといい得る。
(ウ) 相違点3について 甲7発明においては,材料の表面から空隙を複数結びつかせて材料を切断していると認められる一方,本件発明1は,内部の切断の起点から外部に向けて割れを進行させるものとなり,空隙を複数結びつかせることによって材料を切断する甲7発明とは切断の機序が異なる。また,この工程については,甲1〜6にも記載されていないことから,甲7発明において,相違点3の構成を採用することは当業者であっても容易ではない。
ウ 有利な効果 本件発明1は,相違点1〜3に係る構成を備えることにより,割断制御が容易となる(本件明細書の段落【0042】,切断予定ラインから外れた不必要な割れや )溶融が生じることなく半導体チップを切り出すことができる,作製される製品の歩留まりを向上させることができる(同【0060】)といった,甲7発明と比較して有利な効果を奏する。
エ したがって,本件発明1は,甲7発明及び甲1〜6に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものとすることはできない。
原告主張の取消事由
1 取消事由1(無効理由1に係る進歩性判断の誤り) 本件審決は,次のとおり,甲1発明の認定のほか,本件発明1に関する相違点1及び2についての進歩性判断を誤っており,当該判断の誤りは,いずれも結論に影響を及ぼすものである。本件発明2〜31についても同様である。
(1) 甲1発明の認定の誤り ア 「切断の起点」の意義 「切断」とは,ある立体を,当該立体を通過するある面で二つに分離することを意味するところ,ミクロに見た場合,当該立体の内部に形成される切断面において,当該立体を構成する原子又は分子の間の結合が切れることである。この際,切断面全体における原子又は分子の間の膨大な数の結合が同時に切れるという事態は生じないから,切断面の形成は一斉には起こらず,想定する切断面に含まれるいくつかの箇所において,何らかの理由で原子又は分子の間の結合が切れ,その箇所から想定する切断面内の隣接する箇所へ,また次の隣接する箇所へと,順次結合が切れていくことにより,結合の切れた箇所が互いに連なっていき,その結果,想定する切断面内で次第に,結合の切れた箇所で構成されるマクロなサイズの線,そして面が形成され,最終的に切断に至るものである。したがって, 「切断の起点」とは,何らかの理由により結合が切れ始めるいくつかの箇所であって,切断面全体において最 も早く結合の切れた箇所一点のみを指すとは限らず,切断面内のある領域において最も早く結合の切れた箇所は,全て「切断の起点」となり得る。
イ 甲1発明について 本件審決の甲1発明の認定のうち,「切断予定ラインに沿ってワークを水平面内で移動させつつ焦点の位置を前記合成石英ガラスの底面から上方向に移動させる」について,ワーク(石英ガラス)に対してみた場合,焦点の位置は,上方向に移動しているとは限らない。
甲1の実施例1では, 「ワークを3r.p.mの回転数で回転させながら,焦点の位置を3mm/minの速さでワーク底面より引き上げることにより,直径30mmの円筒形の孔を開けた。」とされているが,この場合,上記回転数,速さ及び直径からして,焦点の位置は,石英ガラスに対してらせん状に移動する。そして, 「高エネルギービームの照射された個所に数十ミクロン以下の微小なクラックが発生する」との甲1の記載を踏まえると,上記の場合,焦点の位置に発生する微小なクラックが,石英ガラスに対してらせん状に形成されることになるが,それらが形成されただけで切断に至らないことは明らかであり,切断面が形成されるためには,微小なクラックを起点として,厚さ方向に,より大きいクラックが進展することを要する。
したがって,甲1発明は,微細なクラックを合成石英ガラスの内部で連続させ,微小なクラックを起点として,より大きいクラックが進展して切断に至る結果,合成石英ガラスを複雑な形状に切断加工することができるというものである。換言すると,甲1発明の要諦は,切断面内で見たときに,微小なクラック群が上方向(厚さ方向)ではなく水平方向寄りに複数配置され,それら微小なクラック群を上方向(厚さ方向)に繋ぐように,微小なクラックを起点として,より大きなクラックが進展し,その結果,切断面が形成される点にあるというべきである。これにより,切断面が曲面であっても,曲面形状の大枠を微小なクラックで水平方向寄りに形成しているため,切断面から外れた不必要な割れの発生が生じにくくなる。微小なクラックを厚さ方向につないで形成したとしても,1条の連続したクラックが形成さ れるのみで,切断には至らない。このようにして切断面を形成するには,結局,微小なクラックで切断面を覆い尽くさねばならないが,非効率極まりなく,現実的に採り得る方法ではない。しかも,切断面が曲面である場合は特に,前記1条の連続したクラック同士の間で,切断面から外れた不必要な割れが発生するおそれを低減できない。
したがって,微細なクラックを合成石英ガラスの内部で連続させることにより,直ちに(更なるクラックの進展を必要とせずに)合成石英ガラスを複雑な形状に切断加工するもの,すなわち,微小なクラック同士がワークの底面から上方向へ連続して切断面を形成する旨のものとして甲1発明を認定した本件審決の認定は誤りである。
ウ 被告の主張について (ア) 「数十ミクロン以下」との甲1の記載について,厚さ方向,幅方向,奥行き方向のいずれかに限定した説明はされていないから,いずれについても数十ミクロン以下である旨の記載と理解すべきである。そして, 「数十ミクロン以下」の微小なクラックが形成された際のピークパワー密度やパルス幅の条件と,実施例1のピークパワー密度やパルス幅の条件とが異なると説明されていない以上,同様な条件であると推定される。また, 「数十ミクロン以下」との記載が甲1の[作用]の欄にあることからして,甲1が企図した発明においては微小なクラックは「数十ミクロン以下」になると説明されていると理解すべきであり,その一例である実施例1において形成される微小なクラックも「数十ミクロン以下」になると理解すべきである。
上記に関し,レーザ光を照射して形成するクラックにおいて,微小なクラックの厚さ方向の大きさが1mmもの大きさになるとは,技術常識からして考えられない。
それは,甲1の「数十ミクロン」との説明からしても明らかに不自然である。
(イ) らせん状に断続的に微小なクラックを形成し,厚さ方向に数周にわたって微小なクラックを形成した場合であっても,微小なクラックから厚さ方向に亀 裂が自然と進展する(又は押圧等することで進展させる)ことで,円筒状に切断できる。紙にミシン目状に孔が形成された切り取り線を想像すれば明らかなように,物を切断する際に,断続的な切れ込みを形成して,押圧等の力を加えて切断することは一般的な周知慣用技術であり,切り取り線に従って切断した場合に刃物等で切断した場合と比較してそれほど遜色なく切断できることも,一般的に知れ渡っている。甲1が想定している従来技術は,直線的な加工しかできないものであるから,円筒状に切断することは,甲1が想定している複雑な加工に該当する。
(ウ) 甲1の[効果]の欄には,微小なクラックが連続している方向について言及がないところ,それを厚さ方向に連続していると解釈することは,実施例1におけるクラックの形成方法に照らして明らかに不合理である。
(エ) 微小なクラックを進展させることについて記載がないからといって,微小なクラックを進展させていないと理解するのは妥当でない。甲1に接した当業者は,微小なクラックを進展させて切断していると当然に理解できる。甲1には,微小なクラックが厚さ方向に1mm幅につき数十ミクロンの大きさで形成されること及びこれに沿って切断することが記載されているのであって,例えば,紙にミシン目を形成し,ミシン目に沿って切断すると記載されている際,ミシン目に沿って亀裂を進展させると説明されていなくとも,そのように理解するのと同様,微小なクラックを進展させて切断していると,当業者は当然理解する。厚さ方向において,微小なクラックの部分とクラックが形成されていない部分の比率は,1対数十であるところ,この比率が切断の起点としては十分な比率であることは明らかであって,特に,技術常識である微小なクラックが進展しやすいことに鑑みると,切断の起点として十分な大きさである。
(オ) 甲1における「連続的」「連続させる」といった記載は,らせん状に ,連なることであって,厚さ方向に連なることを意味しない。また, 「底面」から加工することと,切断面が円筒面の全域にわたって形成されることは,何ら関連性がない。さらに,微小なクラックで切断面を覆い尽くせば切断できるとしても,他の方 法でも切断は可能であるから,切断されている以上は微小なクラックで切断面を覆い尽くされているとはいえない。微小なクラックで切断面を覆い尽くすためには,微小なクラックの大きさが数十ミクロンであることに鑑みると,厚さ方向1mmの幅に対して,数十周もらせん状に微小なクラックを形成する必要があるが,それでは,本件明細書の記載内容と大きな差異を生じる。甲1の実施例1は切断の効率を追求したものではないという旨の被告の主張は,およそ現実的ではない。
(2) 相違点1についての進歩性判断の誤り ウェハ状のものを直線状に加工するという周知慣用技術を念頭に置くと,厚板であっても自由な切断加工を可能とする発明を,ウェハ状の加工対象を直線状に切断する加工に転用することは,それが「複雑な形状」にしか切断できず直線状には切断できないという,よほど特殊な発明でない限り,当業者にとって容易である。また,石英ガラスを対象とする甲1発明が,半導体材料からなる加工対象には適用できないという特段の事情も存在しない。
したがって,甲1発明において,半導体材料からなるウェハ状のものを加工対象とすることは,当業者が容易に想到できることである。
(3) 相違点2についての進歩性判断の誤り ア 上記(1)のとおり,甲1発明は,「加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,微小クラックを形成し,この微小クラックを起点として,前記加工対象物の厚さ方向に向かって,より大きなクラックを発生させる」という工程を有する。「微小クラック」は本件発明1の「切断の起点となる領域」に,「より大きなクラック」は本件発明1の「割れ」に相当するから,甲1発明と本件発明1とは,切断の機序を同じくするもので,相違点2は実質的な相違点ではない。
イ 甲1発明の実施例1を踏まえると,底面から微小なクラックを発生させたとしても,底面内の微小なクラックは,ただ一点に留まる(数十ミクロンという微小クラックの大きさ及び1mmというらせんのピッチに鑑みると,仮に微小なクラックが線状で露出するとしても,実質的には点と異ならない。 。そして,切断面 ) 内で,厚さ方向に大きなクラックが発生する際に始まりとなる点(切断の起点)は,切断面内のほぼ全ての位置で,石英ガラス(ワーク)内部の点である。したがって,「切断の起点」がどこかという点においては,底面でも微小クラックが発生していることは意味を持たず, 「切断の起点」についても甲1発明と本件発明1とに実質的な相違はない。
(4) 有利な効果について 上記(1)のとおり,甲1発明では,切断面が曲面であっても,曲面形状の大枠を,微小クラックで水平方向寄りに形成しているため,切断面から外れた不必要な割れの発生が生じにくくなるのであり,甲1発明によっても, 「不必要な割れが生じにくいので,割断制御が容易となる」といった効果が得られるから,有利な効果についての本件審決の判断も誤っている。
2 取消事由2(無効理由2に係る進歩性判断の誤り) 本件審決は,次のとおり,甲4発明の認定のほか,本件発明1に関する相違点1及び3についての進歩性判断を誤っており,当該判断の誤りは,いずれも結論に影響を及ぼすものである。本件発明2〜31についても同様である。
(1) 甲4発明の認定の誤り ア 甲4発明について (ア) 本件発明1と対応する発明は,甲4の請求項4で開示されているところ,同請求項に係る発明は,サファイア基板に限定される発明ではなく,基板一般に妥当する発明であるから,甲4発明を認定するに当たり, 「サファイア基板」とサファイアに限定する必要はなく,「基板」と認定すべきである。
(イ) 引用発明の認定においても,それが特許文献である以上,特許請求の範囲の記載は重視されるべきであり,実施形態の記載を重視して限定的に認定するのは妥当でない。特許法29条1項3号に照らしても,本件発明1に係る特許出願前に日本国内において頒布された刊行物に当たる甲4の特許請求の範囲に記載された発明は,本件発明の進歩性の判断材料であるというべきであり,特許法29条の 2において,先願発明の認定について明細書と特許請求の範囲とが並記されていることからも,先願発明や引用発明を認定するに当たって,特許請求の範囲の記載を無視してはならないことが明らかである。加えて,甲4に係る特許出願は,その後特許査定されているところ(甲41) 特許査定時の特許請求の範囲の請求項4でも ,「サファイア基板」とはされず,単に「基板」とされており,同出願を審査した審査官は,甲4の【発明の詳細な説明】では,サファイアであることを必須とせず,基板一般について開示されていると判断している。
イ 被告の主張について 引用文献に記載されている発明を認定するに当たって,特許請求の範囲の記載を無視することは許されない。特許請求の範囲には,発明の詳細な説明をもとに実施できるものと出願人が考えている内容が記載されていることにも留意すべきである。
この点,甲4の特許請求の範囲の文言について言及することなく,甲4の段落【0004】〜【0013】の記載を引用して主張する被告の主張は妥当でない。甲4の請求項1の記載からも分かるように,具体的な技術的思想は,特許請求の範囲にも記載されており,特許請求の範囲において基板として特定している以上,甲4発明は,サファイア基板に限らず,基板全般について適用できると説明しているものと理解される。
(2) 相違点1についての進歩性判断の誤り ア 相違点1の認定について 甲4発明について,上記(1)のとおり単に「基板」として認定した上,甲4の請求項1の文言からも明らかなように, 「基板」上に窒化物半導体が積層されていることを踏まえると,正しい相違点1は,次のとおりとなる(以下「相違点1’ という。。
」 ) (相違点1’ 「加工対象物が,本件発明1は, ) 「半導体材料」であるのに対し,甲4発明は,「窒化物半導体が積層された基板」である点。」 イ 進歩性判断について (ア) 窒化物半導体が積層された基板は,全体としてみれば半導体材料であ るから,甲4発明の「窒化物半導体が積層された基板」と本件発明1の「半導体材料」は一致し,相違点1’は,実質的な相違点とならない。
仮に,甲4発明の「窒化物半導体が積層された基板」を全体としてみることができず,半導体材料に該当しないとしても,甲4発明の属する「スクライブ・ラインを形成して基板を割断する技術分野」において,加工対象物を半導体基板(すなわち半導体材料)とすることは,周知慣用の技術である。したがって,相違点1’が実質的な相違点になるとしても,周知慣用技術を適用することで,甲4発明をもとに,加工対象物を半導体材料とすることは,当業者が容易に想到できる。
(イ) 甲4の段落【0005】及び【0006】は,サファイア基板の場合に特に不都合が大きいことを説明しているのみで,他の基板の場合に不都合が生じないと述べるものではない。むしろ,甲4の段落【0013】の記載から明らかなように,甲4は,基板の種類に関係なく生じる切断面のクラック,チッピングを抑制することを課題としていると理解すべきであり,甲4発明について,サファイア基板を必須とすることを前提とするのは誤っている。
ウ 被告の主張について (ア) 本件特許出願時より前から,スクライブ・ラインを形成して割断する対象は,半導体基板に限られるものではなく,例えば,甲4のように,サファイア基板も対象とされていたもので, 「スクライブ・ラインを形成して基板を割断する技術分野」は存在する。そして,甲4が当該技術分野に属するものである以上,周知慣用技術を適用することは,当業者が容易に想到できる。
なお,割断する技術において,対象をどのようなものにするかは,当業者が創意工夫する事項であり,甲4に接した当業者は,加工対象物である基板をどのようなものにするか,当然創意工夫するのであって,その際にスクライブ・ラインを形成して割断する際に周知慣用な加工対象物を選択することは,容易に想到できることである。
(イ) 甲4の段落【0003】〜【0012】は,甲4が直面している課題 がより鮮明となる事象について説明するのみで,課題が当該内容に限定される理由はない。甲4の段落【0013】に記載されているように,窒化物半導体ウエハー全般について,クラックやチッピングの課題があるところ,硬度が非常に硬い基板では,この課題がより際立っていることが説明されているにすぎない。
(3) 相違点3についての進歩性判断の誤り ア 相違点3の認定について (ア) 上記(1)のとおり,引用発明の認定においても特許請求の範囲の記載は重視されるべきところ,甲4の請求項4に係る発明は,その内容からして,スクライブ・ライン207を必須とせず,スクライブ・ライン206しか有しないものも想定している。なお,半導体ウエハーにスクライブ・ラインを形成して割断する分野において,スクライブ・ラインは一方の面にだけ形成すれば十分であり,両方の面に形成しなければならない理由はない。
この点,複数の拒絶理由通知において,甲4に「研磨加工されたウエーハの裏面側からウエーハに対してレーザー光線を照射してウエーハの内部に変質層を形成し,ウエーハを個々のチップに分割する分割方法が記載されている」との特許庁の認識が示されている。
また,前記のとおり,甲4に係る特許出願は,その後特許査定がされているところ(甲41),特許査定時の甲4の請求項4に係る発明も,スクライブ・ライン207を必須とせず,スクライブ・ライン206しか有しないものを想定しており,特許出願を審査した審査官は,甲4の【発明の詳細な説明】には,スクライブ・ライン207を必須とせず,スクライブ・ライン206しか有しないものも開示されていると判断している。
そうすると,甲4発明において,分離(切断)の起点となり得るのは,スクライブ・ライン206のみとなり,それが分離(切断)の起点となる。
(イ) 以上より,正しい相違点3は,次のとおりである(以下「相違点3’」という。。
) (相違点3’) 本件発明1においては,切断工程が,「この改質領域によって,前記加工対象物の切断予定ラインに沿って前記加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させる」という工程であって,改質領域が切断の起点となるのに対し,甲4発明においては,切断工程が, 「この加工変質層206によって,前記基板201の底面付近の基板内部に,スクライブ・ラインを形成した後,ローラーによって荷重をかけ,前記半導体ウエハーを切断する」という工程であって,加工変質層206によるスクライブ・ラインが切断の起点となる点。
(ウ) 本件審決は,甲4発明について,必ずしも加工変質層206によるスクライブ・ラインが切断の起点となっているとはいえないとした上で,溝部204の底面を起点として割れが生じ,その割れを制御すべく加工変質層206によるスクライブ・ラインが機能すると考えるのが自然ともいえると判断しているが,スクライブ・ライン206が分離(切断)の起点となることは,前記のとおり明らかであるし,加工変質層206について, 「ローラー荷重をかけた場合の割れ方を制御するための」ものとする本件審決の認定は,甲4の記載に基づくものではなく,当業者にとって明らかな事項でもなく,不要であり,かつ,誤っている。
また,本件審決は,甲4では溝を形成せずに切断している実施例は存在せず,溝を形成せずにサファイア基板を切断している場合にどのように切断するかは明らかではない,仮に溝が形成されていないサファイア基板を切断するとしても,切断の起点が基板内部の加工変質層から必ず発生するということは甲4の記載からは読み取れないと判断するが,甲4の請求項4には,溝を必須としない態様も開示されており,溝を形成しない基板を切断する技術が開示されていると認定すべきであって,基板内部に加工変質層206しか存在しない以上,それが切断の起点となることは,当業者にとって明らかである。
進歩性判断について 相違点3’について,本件発明1の構成と甲4発明の構成は,実質的に同一であ るから,相違点3’に係る構成は,当業者が容易に想到することができる。
ウ 被告の主張について (ア) 甲4の請求項1及び4には,@基板の表面側及び裏面側の両方の内部にスクライブ・ラインを形成する技術,A基板の表面側の内部にスクライブ・ラインを形成する技術並びにB基板の裏面側の内部にスクライブ・ラインを形成する技術が,明確に具体的に記載されているところ,いずれの技術においても,基板の表面及び裏面に露出したスクライブ ラインは必須として説明されていない。
・ むしろ,上記@の技術にあっては,表面側及び裏面側の内部にスクライブ・ラインを形成している以上,表面及び裏面の両方とも露出したスクライブ・ラインが形成されていないとすら理解される。
この点,甲4には片側からのみの加工で窒化物半導体ウェハーの表裏両面から加工したのと同じ効果を得ることができる方法しか記載されていない旨の被告の主張は,原告の主張と矛盾しない。また,上記A及びBだけでなく,あえて上記@の態様が記載されている以上,上記A又はBの態様は, 「基板の表面側のみに」又は「基板の裏面側のみに」スクライブ・ラインを形成する技術と考えるべきであり,被告の上記主張は誤っている。乙1に係る被告の主張についても同様である。
(イ) 甲4の審査の過程で特許出願人が提出した意見書(乙2)からは,せいぜい基板の表面側及び裏面側の両方にスクライブ・ラインを形成する技術を必須としていることしか読み取れず,それは,原告の主張と矛盾しない。また,同意見書は,いわゆるベストモードの効果についていうものにすぎず,発明全般の効果について説明しているものとは解されない。
(4) 有利な効果について ア 有利な効果についての本件審決の判断は,甲4発明との相違点に基づいた効果としての判断かどうかが不明である。また,加工対象物の内部にレーザ光を集光して加工変質層を形成し,この加工変質層をもとに加工対象物を切断する甲4発明でも,当該構成から,当然に,本件発明1と同様の有利な効果を奏するものと いえる。
イ 被告の主張について 本件発明1が溶融処理領域を必須とする発明ではない以上,溶融処理領域による有利な効果の主張は不当である。また,甲4の請求項1に記載のとおり,甲4発明は,半導体ウエハーを半導体素子に分割する技術であり,甲4に半導体チップを半導体ウェハから切り出すことについての記載がないとの主張は誤っている。
3 取消事由3(無効理由3に係る進歩性判断の誤り) 本件審決は,次のとおり,本件発明1に関する相違点1及び3についての進歩性判断を誤っており,当該判断の誤りは,いずれも結論に影響を及ぼすものである。
本件発明2〜31についても同様である。
(1) 相違点1についての進歩性判断の誤り 甲2発明は,ガラス板を分離するために適切な破断点を形成する方法に関するもので,傷の発生を避けるとの効果を奏するのであるから,本件発明1の「加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生」させるとの構成や,これにより「割断時,切断予定ラインから外れた不必要な割れが生じにく」くなるとの効果が甲2発明と共通していることは明らかである。また,甲2発明を破断開封アンプル特有の課題の解決に限ることは,甲2の段落【0036】及び【0037】の記載に反している。さらに,ガラスを対象とする切断方法をシリコン等半導体に適用することの阻害要因も,本件審決は何ら示していない。本件審決の判断は,本件発明1の進歩性を認めるとの結論を先取りし,あえて構成や効果を限定的に解した誤ったものである。
(2) 相違点3についての進歩性判断の誤り 甲2発明の請求項1の記載から,甲2発明が「ガラス壁を破断するためまたはガラス板を分離するために」 「微小亀裂」を「ガラス壁またはガラス板の内部に形成 ,する」以上,当該「微小亀裂」が「切断の起点」となることは明白である。例えば, ミシン目を形成して紙を切断すると説明されている際に,説明がなくとも当該ミシン目が切断の起点になることは,当業者はもとより一般人であっても自明である。
(3) 有利な効果について 上記(1)のとおり,甲2発明と本件発明1の効果は共通する。
(4) 被告の主張について ア 被告は,ガラス板(アンプルの首領域)を分離するために適切な「破断点」を形成することと,半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の切断のために適切な「切断の起点となる領域」を形成することとは,全く異なると主張するが,具体的に「物」としてどのような差があるのかを説明していない。甲2の加工対象物の内部に形成された他の部分と異なる領域である「分離するための適切な破断点」は,他の部分と異なる領域という点で,本件発明1の「切断の起点」と「物」として同じものを指している。加えて,甲2においても,破断点をもとに分離している以上,それが分離の起点,すなわち切断の起点になっているのは明らかであり,機能の点でも一致している。
また,甲2において,人の指に対する傷の発生を避けることができるのは,破談部分に,不必要なバリ(割れ)等が生じにくくなるからであり,甲2においても,不必要な割れが生じにくくなるという効果を奏している。
イ 被告が主張する特殊な切断プロセスを要するガラス管やフラットガラスは,甲2に明示されている加工対象物であり,それらを加工対象物とできることについては,容易に想到できるかどうかを検討するまでもない。当業者の創作の範囲は,甲2に記載されている内容を超えて,どこまで創作できるかの問題であるところ,甲2にフラットガラスが挙げられている以上,それと類似した形状のウェハ状のものも,甲2発明を適用しようと考える加工対象物であるといえる。
ウ 阻害要因についての被告の主張は,甲2の段落【0013】のどの記載を根拠とするものか明らかでない。また,仮に,同段落に記載されている内容から,甲2がアンプルの提供を課題としていると理解するのであれば,課題を狭くとらえ すぎており,妥当でない。このことは,甲2自体がフラットガラス等へ適用することを想定していることからも明らかである。同段落から認定される甲2の課題は,再現性の良い切断方法を提供するという程度に理解すべきである。
4 取消事由4(無効理由4に係る進歩性判断の誤り) 本件審決は,次のとおり,本件発明1に関する相違点2についての進歩性判断を誤っており,当該判断の誤りは,結論に影響を及ぼすものである。本件発明2〜31についても同様である。
(1) 相違点2についての進歩性判断の誤り 当業者は「マーキング」と「切断」とを,およそ性質を異にする加工方法としてではなく,同じレーザ加工方法下位概念に分類される,近縁の加工方法として認識していた。したがって,材料内部のレーザ加工をいずれの方法に適した態様で行うかは,レーザのパラメータを調整する等,適宜設計可能な事項にすぎなかった。
甲5の段落【0040】及び【0071】の記載についても,被加工部材のクラックが表面に到達するのを防止しているのは,正にそれが「マーキング」に用いる態様であるからにすぎず,これを「被加工部材のクラックが表面に到達する」ようにして切断に用いることは,当業者にとって容易である。また,同じ理由により,甲1, 3及び7記載の技術と甲5発明とを組み合わせることにも阻害要因はない。
2, (2) 有利な効果について 甲5発明は,シリコン基板を含む薄板状の被加工部材のマーキング加工において,表面までクラックが到達することで表面が損傷し,被加工部材の破片等が原因となるゴミが発生することを課題としている(甲5の段落【0071】等)のであり,割断制御を容易とし歩留まりを向上させるとの本件発明1の課題や効果と共通する。
(3) 被告の主張について ア 阻害要因に係る被告の主張は,当業者の通常の創作性の範囲を狭めており,不当である。マーキング方法に関する特許文献は,いずれもマーキング方法を提供することを課題としているところ,そのことゆえにマーキング方法に関する特 許文献を切断方法に転用することにいずれも阻害要因があるとすることは,技術の実態として不当である。マーキング方法と切断方法は,レーザ加工技術において,極めて密接した関連性のある技術であり,切断方法の研究者は,当然,マーキング方法の技術を調べる。
イ 甲5発明を切断加工に転用した場合,本件発明1と同様な効果が得られる以上,本件発明1の有利な効果は,進歩性を肯定させるほどの事情とはならない。
5 取消事由5(無効理由5に係る進歩性判断の誤り) 本件審決は,次のとおり,甲7発明の認定のほか,本件発明1に関する相違点1の認定及び相違点3についての進歩性判断を誤っており,当該判断の誤りは,いずれも結論に影響を及ぼすものである。本件発明2〜31についても同様である。
(1) 甲7発明の認定の誤り 本件審決における甲7発明の発明特定事項のうち,空隙」「複数結びつかせる」 「 をというプロセスは,逆穿孔手順による超微細孔の形成の説明において登場するもので,鋸運動による切断溝の形成の説明には登場しない。したがって,鋸運動による切断溝の形成に係る発明を認定するのであれば,光学破壊により空隙を形成し」 「 は,「光学破壊により破壊された領域を形成し」 「この空隙を前記材料の表面から鋸 と,運動により所定の経路に沿って,複数結びつかせること」は, 「この破壊された領域を前記材料の表面から鋸運動により所定の経路に沿って形成すること」とそれぞれ認定すべきである。
(2) 相違点1の認定の誤り 本件審決における甲7発明の発明特定事項のうち,「半導体等の材料」は,当然,シリコンウェハほか半導体ウェハを含む。これは,甲7に, 「シリコンまたはガリウム砒素ウェーハ」といった記載がある点に照らして明らかである。したがって,本件審決の相違点1の認定は誤りである。
(3) 相違点3についての進歩性判断の誤り 上記(1)を踏まえると,甲7発明は,「破壊された領域を前記材料の表面から鋸運 動により所定の経路に沿って形成することによって,前記材料を切断」するものと認定すべきところ,「鋸運動」においては,厚さ方向において,「空隙を複数結びつかせることによって材料を切断」しておらず,本件発明1と同じく, 「加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域(破壊された領域)を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生」させることによって加工対象物を切断しており,その機序は同じである。
「破壊された領域を前記材料の表面から鋸運動により所定の経路に沿って形成する」 当然, 際,切断面は「鋸運動」が行われる面(「鋸運動」で形成する「破壊された領域」が含まれる面)であることが想定されているところ,その場合,鋸運動によって材料内部に形成される複数の「破壊された領域」のうち,材料内部に形成された上から2本目以降の領域が「切断の起点」にはならないとすると,所望の切断面は得られない。
したがって,材料内部に形成された「破壊された領域」は,当然, 「切断の起点」であって,甲7では,切断の起点が加工対象物の内部であることも開示されているといえる。
(4) 有利な効果について 甲7に開示された, 「鋸運動」による材料内部での「破壊された領域」の形成によっても,本件発明1の「割断時,切断予定ラインから外れた不必要な割れが生じにく」くなるといった効果を奏する。
(5) 被告の主張について 被告は,鋸運動において形成される各空隙が上下間でも相互に結びついている根拠について,何ら説明していない。
この点,仮に,空隙が上下間で相互に結びついているのであれば,当該空隙は,破壊された領域から延びた亀裂をも含む概念と理解すべきである。技術常識からすると,レーザ光を照射して,他の部分と性質を変化した領域を形成する際,当該領域の大きさは,数十ミクロン等の小さなものであり,そこから亀裂が進展することはあるにしても,甲7において,そのような小さな領域自体を上下間で結びつくよ うにレーザ加工をすることは,技術常識としてあり得ない。例えば,1cm厚のものを切断するためでも,鋸運動を数十回行わなければならなくなり非現実的である。
したがって,甲7発明によって形成される「破壊された領域」は,上下間で相互に結びついているものではないというべきである。
被告の主張
1 取消事由1(無効理由1に係る進歩性判断の誤り)について (1) 甲1発明の認定の誤りの主張について ア 甲1の実施例1において,らせんが形成されただけでは切断に至らないという前提は誤っている。甲1には実施例1において形成される微小なクラックの厚さ方向の寸法は記載されておらず, 「数十ミクロン以下」という記載が微小クラックの厚さ方向の寸法であると解すべき理由はない。また,微小クラックの寸法は,レーザ光のピークパワー密度やパルス幅によって大きく変化し得るが,上記数十ミクロン以下の微小クラックが形成された際のピークパワー密度やパルス幅の条件と,実施例1のピークパワー密度やパルス幅の条件とが同一である旨の記載もない。らせんのピッチが1mmとされているからといって,切断面となるべき円筒面の全域にわたって微小なクラックが形成されていないことにはならない。
また,甲1発明は,石英ガラスなどの透明材料を複雑な形状に加工することと,厚板であっても自由な切断加工を可能にすることとを目的としており,甲1の実施例1もその一例と解されるから,仮に,甲1の実施例1が微小クラックを起点としてより大きいクラックを進展させるものであるとすると,甲1発明は,微小クラックを起点としてより大きいクラックを進展させることで,厚板の透明材料を複雑な形状に加工することが可能な発明であるということになるが,そのような発明が甲1に開示されているとは解されない。微小クラックを起点としてより大きいクラックを進展させることで厚板の透明材料を複雑な形状に加工することができるとは考えられず,厚板の透明材料を複雑な形状に加工するためには,切断面全域にわたって微小なクラックを連続させることが必要と考えられる。現に,甲1の[効果]欄 には, 「例えば,石英ガラスに対しエキシマレーザを照射すると,微細なクラックが透明材料の内部に発生する。これを連続させることによって透明材料を複雑な形状に切断加工できる。」と記載されている。
以上のことと,甲1に微小クラックを進展させることについての記載が全くないことからすると,甲1発明は,切断面全域にわたって微小なクラックを連続させることで透明材料を切断する発明であり,甲1の実施例1も,切断面となるべき円筒面の全域にわたって微小なクラックを連続させるものと解するのが妥当である。
イ 甲1における,「透明材料に連続的なクラックを発生させることによって透明材料を切断加工する」「焦点の位置を3mm/min・・・ワーク底面より ,引き上げることにより,・・・円筒形の孔を開けた。, 」「例えば,石英ガラスに対しエキシマレーザを照射すると,微細なクラックが透明材料の内部に発生する。これを連続させることによって透明材料を複雑な形状に切断加工できる。」等の記載に接した当業者は,甲1の実施例1を,切断面となるべき円筒面の全域にわたって微小なクラックを形成しているものと理解する。
ウ 仮に,実施例1で形成される微小なクラックの厚さ方向の寸法が数十ミクロンで,らせんが形成されただけでは切断に至らないといえたとした場合,甲1には微小なクラックを厚さ方向に進展させることについて一切記載がされておらず,らせんのピッチが1mmとすると,切断面となるべき円筒面のごく一部にしか微小クラックが形成されないことになり,厚さが150mmもあるガラス板が円筒状に切断されるはずがなく,実施例1は実施不能なものとなるにすぎない。
エ 原告は,微小クラックで切断面を覆い尽くすことは,非効率極まりなく,現実的に採り得る方法ではない旨主張するが,根拠を示していない。仮に,手数がかかるとしても,甲1の実施例1は,切断の効率を追求したものではないから,非現実的とはいえない。
また,微小クラックで切断面を覆い尽くす場合に切断面から外れた不必要な割れが発生することはあり得ない。逆に,原告が主張するように,切断面のごく一部に しか形成されない微小クラックを進展させようとした場合には,切断面から外れた不必要な割れが発生するおそれがある。
(2) 相違点1についての進歩性判断の誤りの主張について 仮に,甲1発明が,原告がいうような, 「複雑な形状にしか切断できず,直線状には切断できないという,よほど特殊な発明」ではないとしても,そのことは,甲1発明をウェハ状の加工対象を直線状に切断する加工に転用することが「可能」であることの理由にはなり得ても,それが「容易」であることの理由にはならない。
(3) 相違点2についての進歩性判断の誤りの主張について 甲1には,実施例におけるクラックの深さ方向の大きさがどの程度になるかの記載はないが,微小なクラックが深さ方向にある程度の大きさを有していることは明らかであるから,微小なクラックは表面及び底面に点で露出するのではなく,線状に露出すると考えるのが妥当である。
また,前記(1)のとおり原告の主張が成り立たない以上,厚さ方向に大きなクラックが発生する際,始まりとなる点が切断面内のほぼ全ての位置で石英ガラス(ワーク)内部の点であるとの原告の主張は,前提を欠くものである。
(4) 有利な効果について 前記(1)のとおり原告の主張が成り立たない以上,原告の主張は前提を欠くものである。
2 取消事由2(無効理由2に係る進歩性判断の誤り)について (1) 甲4発明の認定の誤りの主張について ア 特許法29条1項3号の「刊行物に記載された発明」は,当業者が,出願時の技術水準に基づいて本願発明を容易に発明することができたかどうかを判断する基礎となるべきものであるから,当該刊行物の記載から抽出し得る具体的な技術的思想でなければならない。このことは,刊行物が特許文献か否か,刊行物の記載が特許請求の範囲の記載か発明の詳細な説明の記載かで何ら変わりがない。したがって,たとえ引用文献の特許請求の範囲の記載に含まれる事項であっても,その 引用文献の記載全体から当業者が具体的な技術的思想として抽出できない事項は,引用発明としては認定できないというべきである。
イ 甲4の段落【0001】〜【0013】の記載を踏まえて甲4の記載全体を理解すると,甲4からは,サファイアのような「窒化物半導体との格子定数不整が大きい」「へき開性を有していない」「モース硬度がほぼ9と非常に硬い」 , , (段落【0005】 といった特性を有する加工対象物特有の課題を解決しようとした発 )明しか,具体的な技術的思想としては抽出できず, 「基板」全般を加工対象物とする具体的な技術的思想は抽出できない。
なお,甲4に係る特許出願を審査した審査官の判断に,本件訴訟の判決が拘束されるいわれはない。そもそも審査は, 「刊行物に記載された発明」の内容を認定するために行われるものでもない。さらに,特許請求の範囲の記載のみをもって,審査官の判断内容を推し量ることができないことも明らかである。
(2) 相違点1についての進歩性判断の誤りの主張について ア 前記(1)によると,原告の主張は前提を欠くものである。
イ スクライブ・ラインを形成して基板を割断する技術分野において,加工対象物を半導体基板(すなわち半導体材料)とするというような周知慣用の技術は存在しない。半導体基板をスクライブ・ラインを形成して割断する技術自体は従来から知られていた技術であるが,それはあくまでも,半導体基板を分割する手法が模索される中で開発された技術であり,加工対象物を問わない「スクライブ・ラインを形成して基板を割断する技術」というものがあって,その加工対象物を半導体基板とするという思想に基づく技術ではない。
また,甲4記載の「スクライブ・ラインを形成して基板を割断する技術」は, 「加工変質層206によって,基板201の底面付近の基板内部に,ローラー荷重をかけた場合の割れ方を制御するためのスクライブ・ラインを形成した後,溝部204を形成し,前記溝部204の底面にスクライブ・ライン207を形成し,その後,前記溝部204に沿ってローラーによって荷重をかけ,前記半導体ウエハーを切断 する」といった構成を備えた,サファイア基板の分割に特化された技術であるから,仮に,原告の主張する周知慣用の技術を前提としても,そのことは,甲4発明の加工対象物を半導体基板に置換することが容易想到であったことの理由にはならない。
ウ 甲4の段落【0013】の記載から,甲4の課題が基板の種類に関係なく生じる切断面のクラック,チッピングを抑制することであるとは理解されない。
同段落でいう「窒化物半導体ウエハー」が,GaAs,GaAlAs,GaPなどの半導体ウエハーではなく,「サファイアやスピネル等のへき開性を有せず硬度が非常に硬い基板上に窒化物半導体が積層されたウエハー」を指すことや,同段落でいう「クラック,チッピング」がそのような「窒化物半導体が積層されたウエハー」特有の課題を指していることは,甲4の段落【0003】〜【0012】の記載から明らかである。
(3) 相違点3についての進歩性判断の誤りの主張について ア 本件審決の相違点3の認定に誤りはない。
甲4の段落【0009】【0010】及び【0067】の記載を含む甲4の記載 ,全体を考慮すると,甲4に接した当業者が, 「スクライブ・ライン206は形成するがスクライブ・ライン207は形成しない加工対象物を切断する方法」の発明を,具体的な技術的思想として抽出し得たとする根拠はない。上記各段落が甲4発明全体に係る課題・効果の記載であること,甲4に開示される実施例(実施例1〜5)は,いずれも「片側からのみの加工で窒化物半導体ウェハーの表裏両面から加工したのと同じ効果を得る」(上記段落【0067】)ことができるものとされていること等を考慮すると,甲4の記載から当業者が抽出し得た具体的な技術的思想は,上記「片側からのみの加工で窒化物半導体ウェハーの表裏両面から加工したのと同じ効果」を得ることができる方法だけである。この効果は, 「スクライブ・ライン206は形成するがスクライブ ライン207は形成しない加工対象物を切断する方法」 ・により得られないことは明らかである。
甲4発明と同様に,サファイア基板を切断加工の対象として想定した特開昭50 -64898号公報(乙1)においても, 「サファイア基板の両方の面にスクライブ・ラインを形成したことで,分割面をほぼ直線状にすることができた」旨記載されており,そのような知見をも有した上で,上記段落【0009】及び【0010】の記載を記載に接した当業者は,甲4発明を, 「スクライブ・ライン206を形成する場合には,スクライブ・ライン207を形成することも必要な発明である。」と当然に理解する。
なお,甲4発明を認定するに当たって,溝部204を必須のものとする必要があるかないかは,本件審決の判断の当否とは無関係である。
イ 原告が主張する拒絶理由通知は,本件発明とは異なる発明に対してされたものである上,本件審決がそれらの認定に拘束されるいわれはない。
ウ 原告は,甲4に係る特許出願の登録時の特許請求の範囲でもスクライブ・ライン207が必須とされていない旨主張するが,当該出願を審査した審査官の判断に本件の無効審判事件の審決が拘束されるいわれはない。
また,当該出願の審査経過をみると,審査官において,甲4の【発明の詳細な説明】に,スクライブ・ライン207を必須とせず,スクライブ・ライン206しか有しないものも開示されているとの判断をしていないことは明らかである。当該出願の審査経過に係る平成14年7月30日付け意見書(乙2)において,出願人は,「片側からのみの加工で窒化物半導体ウエハーの表裏両面から加工したのと同じ効果を得ることができる」という効果を強調しているところ,それが, 「片側からのみの加工により窒化物半導体ウエハーの表裏両面にスクライブ・ライン乃至スクライブ溝を形成可能であること」を表していることは,甲4の段落【0009】【00 ,10】及び【0067】並びに各実施例についての記載から明らかである。
加工変質層206が,ローラー荷重をかけた場合の割れ方を制御するためのものであることは,甲4の段落【0010】及び図2の記載や,甲23に示される技術常識等から当然に導出される事項である。
(4) 有利な効果について 甲4には,溶融処理領域を形成することについての記載も半導体チップを半導体ウェハから切り出すことについての記載もないから,有利な効果についての本件審決の認定にも誤りはない。
3 取消事由3(無効理由3に係る進歩性判断の誤り)について (1) 相違点1についての進歩性判断の誤りの主張について ア ガラス板(アンプルの首領域)を分離するために適切な「破断点」を形成することと,半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の切断のために適切な「切断の起点となる領域」を形成することとは,全く異なる。人の指に対する傷の発生を避けるという効果と,割断時,切断予定ラインから外れた不必要な割れが生じにくくなるという効果も全く異なるものである。
イ 甲2の段落【0036】及び【0037】の記載は,引用発明となり得るような具体的な技術的思想を何ら開示するものではない。
仮に,上記各段落の記載をもって,甲2発明を破断開封アンプル以外の加工対象物に適用しようとの発想はあるといえたとしても,甲2発明の全体の課題を記載した甲2の段落【0013】やそれに先立つ段落【0010】【0011】等の記載 ,に照らすと,甲2の段落【0036】でいう「ガラス管を切断等する多くの適用」や,甲2の段落【0037】でいう「フラットガラスの分野」における「特殊な切断プロセス」も,甲2の段落【0010】でいう「破断中の破断ガラスのリスク」,あるいは甲2の段落【0011】でいう「アンプルの漏洩または時期尚早破断」を避ける必要のある特殊な切断プロセスを指していると解するのが自然である。したがって,当業者が甲2発明を適用しようと考える「破断開封アンプル以外の加工対象物」の範囲は,せいぜいそのような特殊な切断プロセスを要するガラス管やフラットガラスまでであり,少なくとも,半導体材料からなるウェハ状の加工対象物がその範囲に含まれていないことは明らかである。
このことは,本件特許の出願前から「半導体材料からなるウェハ状の加工対象物」を切断する技術が半導体チップの製造プロセスに不可欠の技術であって,極めて需 要の高い技術であったにもかかわらず,甲2がその技術を「半導体材料からなるウェハ状の加工対象物」の切断に利用することについての示唆すらしていないという事実からも明らかである。
ウ 阻害要因がなくても動機付けがなければ容易想到とはいえない。また,仮に,甲2発明の加工対象物を「シリコンウェハ」に換えた場合には,甲2の段落【0013】に示される課題自体が存在しないことになり,甲2発明の意味がなくなってしまうという意味において,甲2発明の加工対象物を「シリコンウェハ」に換えることに対しては,阻害要因があるともいえる。
(2) 相違点3についての進歩性判断の誤りの主張について 原告は,具体的な根拠を何も示していない。甲2の実施例においては,破断点は甲2の段落【0040】に記載されるようにアンプルの首(締め付け)の領域に形成されるから,その部分の表面に応力が集中し,その表面が切断の起点となることも否定はできない。その意味で,「破断点が切断の起点となるのか否かも不明である。」とした本件審決の認定に誤りはない。
(3) 有利な効果について 前記(1)アのとおり,甲2発明と本件発明1の効果は共通せず,本件発明1が本件審決が認定したとおりの有利な効果を奏することは明らかである。
4 取消事由4(無効理由4に係る進歩性判断の誤り)について (1) 甲5発明のマーキング方法を切断方法に変更した場合に,甲5発明の「薄板状の被加工部材にマーキングする際にも,表面まで達するクラックの発生を抑制することができるマーキング方法及びマーキング装置を提供する。」という課題が解決できなくなることは明らかであるから,甲5発明のマーキング方法を切断方法に変更することについて阻害要因がある。
(2) 甲5発明は,加工対象物を切断する発明ではないから,本件審決が認定した本件発明1の有利な効果を奏し得ない。
5 取消事由5(無効理由5に係る進歩性判断の誤り)について (1) 甲7からは,本件審決が認定したとおりの甲7発明が抽出可能であり,甲7には, 「空隙ではない破壊された領域」により加工対象物を切断できる旨の記載はないから,本件審決の甲7発明の認定に誤りはない。甲7発明を原告主張のように認定することは,具体的な技術的思想として開示されていない事項までを含んだ発明を認定することとなって,妥当でない。
(2) 甲7には,原告が主張するような「加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域(破壊された領域)を形成し,この領域を起点として前記加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生」させることにより加工対象物を切断する方法の発明は記載されていない。甲7発明の「切断」における原告主張の「破壊された領域」は, 「空隙」であり,鋸運動における各空隙は上下間でも相互に結びついているものである。そして,そのような相互に結びついた空隙は,「切断面」自体を構成するものであって「切断の起点」ではない。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件明細書の記載 【発明の詳細な説明】 【発明の属する技術分野】 【0002】 本発明は,半導体材料基板からなる加工対象物の切断に使用される加工対象物切断方法に関する。
【0003】 【従来の技術】 レーザ応用の一つに切断があり,レーザによる一般的な切断は次の通りである。例えば半導体ウェハやガラス基板のような加工対象物の切断する箇所に,加工対象物が吸収する波長のレーザ光を照射し,レーザ光の吸収により切断する箇所において加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を進行させて加工対象物を切断する。しかし,この方法では加工対象物の表面のうち切断する箇所となる領域周辺も溶融される。よって,加工対象物が半導体ウェハの場合,半導体ウ ェハの表面に形成された半導体素子のうち,上記領域付近に位置する半導体素子が溶融する恐れがある。
【0004】 【発明が解決しようとする課題】 加工対象物の表面の溶融を防止する方法として,例えば,特開2000-219528号公報や特開2000-15467号公報に開示されたレーザによる切断方法がある。これらの公報の切断方法では,加工対象物の切断する箇所をレーザ光により加熱し,そして加工対象物を冷却することにより,加工対象物の切断する箇所に熱衝撃を生じさせて加工対象物を切断する。
【0005】 しかし,これらの公報の切断方法では,加工対象物に生じる熱衝撃が大きいと,加工対象物の表面に,切断予定ラインから外れた割れやレーザ照射していない先の箇所までの割れ等の不必要な割れが発生することがある。よって,これらの切断方法では精密切断をすることができない。特に,加工対象物が半導体ウェハ,液晶表示装置が形成されたガラス基板や電極パターンが形成されたガラス基板の場合,この不必要な割れにより半導体チップ,液晶表示装置や電極パターンが損傷することがある。また,これらの切断方法では平均入力エネルギーが大きいので,半導体チップ等に与える熱的ダメージも大きい。
【0006】 本発明の目的は,半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなくかつその表面が溶融しない加工対象物切断方法を提供することである。
【0007】 【課題を解決するための手段】 本発明に係る加工対象物切断方法は,半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成し,この改質領域によって,加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させることを特徴とする。
【0008】 本発明に係る加工対象物切断方法によれば,加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射しかつ多光子吸収という現象を利用することにより,加工対象物の内部に改質領域を形成している。加工対象物の切断する箇所に何らかの起点があると,加工対象物を比較的小さな力で割って切断することができる。
本発明に係る加工対象物切断方法によれば,改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより,加工対象物を切断することができる。よって,比較的小さな力で加工対象物を切断することができるので,加工対象物の表面に切断予定ラインから外れた不必要な割れを発生させることなく加工対象物の切断が可能となる。
【0009】 また,本発明に係る加工対象物切断方法によれば,加工対象物の内部に局所的に多光子吸収を発生させて改質領域を形成している。よって,加工対象物の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないので,加工対象物の表面が溶融することはない。なお,集光点とはレーザ光が集光した箇所のことである。切断予定ラインは加工対象物の表面や内部に実際に引かれた線でもよいし,仮想の線でもよい。
【発明の効果】 【0118】 本発明に係る加工対象物切断方法によれば,半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく,加工対象物を切断することができる。よって,加工対象物を切断することにより作製される製品(例えば,半導体チップ)の歩留まりや生産性を向上させることができる。
(2) 本件発明の概要 前記第2の2の本件特許の請求項1及び前記(1)の本件明細書の記載からすると,本件発明1は,次のようなものと認められる ア 技術分野 半導体材料基板からなる加工対象物の切断に使用される加工対象物切断方法に関 する(本件明細書の段落【0002】。
) イ 従来技術 レーザによる一般的な切断では,加工対象物の切断する箇所に,加工対象物が吸収する波長のレーザ光を照射し,レーザ光の吸収により切断する箇所において加工対象物の表面から裏面に向けて加熱溶融を進行させて加工対象物を切断するが,加工対象物の表面のうち切断する箇所となる領域周辺も溶融されるから,加工対象物が半導体ウェハの場合,上記領域付近に位置する半導体素子が溶融するおそれがある(同段落【0003】。加工対象物の表面の溶融を防止する切断方法として,切 )断する箇所をレーザ光により加熱し,加工対象物を冷却することにより,切断する箇所に熱衝撃を生じさせて加工対象物を切断するものがあるが,熱衝撃が大きいと,加工対象物の表面に,切断予定ラインから外れた割れやレーザ照射していない先の箇所までの割れ等の不必要な割れが発生することがあり,精密に切断することができず,特に,加工対象物が半導体ウェハ等である場合,不必要な割れにより半導体チップ等が損傷することがあるほか,平均入力エネルギーが大きい切断方法であるため半導体チップ等に与える熱的ダメージも大きい(同段落【0004】【000 ,5】。
) ウ 発明が解決しようとする課題 本件発明の目的は,半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の表面に不必要な割れを発生させることなく,かつ,その表面が溶融しない,加工対象物切断方法を提供することである(同段落【0006】。
) エ 課題を解決するための手段等 (ア) 半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し,加工対象物の内部に多光子吸収による改質領域を形成し,この改質領域によって,加工対象物の切断予定ラインに沿って加工対象物のレーザ光入射面から所定距離内側に,切断の起点となる領域を形成し,この領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させるという構成を採用する(同段落 【0007】。
) (イ) 上記(ア)の構成によると,加工対象物の内部の改質領域を起点として切断予定ラインに沿って加工対象物が割れることにより,比較的小さな力で加工対象物を切断することができ,また,加工対象物の表面ではレーザ光がほとんど吸収されないので,半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の表面に溶融や切断予定ラインから外れた割れが生じることなく,加工対象物を切断することができる(同段落【0008】【0009】。したがって,加工対象物を切断することにより作 , )製される製品の歩留まりや生産性を向上させることができる(同段落【0118】 。
) オ 「切断の起点」について 以上の本件発明1の技術的意義に照らすと, 「切断の起点」とは,切断が始まる点であればどこでもよいのではなく, 「切断が最初に始まる点」すなわち「切断が開始する点」を意味するというべきである。
2 主引用例とされている発明について 原告の主張する取消事由1〜5に係る無効理由1〜5は,それぞれ甲1発明,甲4発明,甲2発明,甲5発明,甲7発明を主引用例とする一方で,それらのうち他の発明の一部を副引用例とするものであるから,まず,上記各発明について認定する。
(1) 甲1発明の認定 ア 平成4年4月13日に公開された甲1(特開平4-111800号公報)は,名称を「透明材料の切断加工方法」とする発明に係るもので, 「発明の詳細な説明」として,次の事項が記載されていると認められる。
(ア) 産業上の利用分野 本発明は,石英ガラスなどの種々の透明材料を切断加工する方法に関する。
(イ) 従来の技術 従来,石英ガラスなどの種々の透明材料を切断加工する方法として,バンドソーや内周刃などの直線的な切断機や,コアドリル,円筒研削機などの円形の加工機械 が使用され直線状または,円筒状の加工がおこなわれている。
また,不定形の切断加工には炭酸ガスレーザを使用したレーザ加工機等が使用されている。
(ウ) 発明が解決しようとする課題 従来の切断加工機械のバンドソーや,内周刃などでは直線的な切断加工のみであり,また,コアドリル,円筒研削機などの円形の加工機械は,円筒形の切断のみであり,複雑な加工には使用できなかった。炭酸ガスレーザを利用したレーザ切断機では,炭酸ガスレーザビームの波長はガラスを透過しないため,材料表面部に集光し表面より溶断して行くが,この場合溶断表面より内部へ進行するに従って,溶断面のピットによりレーザビームがさえぎられるので,溶断する厚さに対し限度があり,現状では10mm程度が限界である。
本発明は,石英ガラスなどの透明材料を複雑な形状に切断加工することを目的とし,被加工物の厚味に影響を受けず,厚板であっても自由な切断加工を可能とすることを目的としている。
(エ) 課題を解決するための手段 そこで,本発明は,石英ガラスなどの透明材料に吸収されない高エネルギービームを透明材料内部に焦点を結ばせて照射し,透明材料内部に微小なクラックを発生させることによって切断加工しようとするものである。
透明材料としては,例えば,光学ガラス,石英ガラスなどの無機ガラス,アクリル樹脂などの透明樹脂等が挙げられる。
・・・ 焦点の移動は,光学的に焦点位置を移動させても,また,ワークを移動させても良く,操作しやすい方法を適宜選択できる。
焦点は,最初ワークの下側にあわせ,それから上方に移動させるのが効率的である。最初に,ワークの上方に焦点を合せると,切断部分により高エネルギービームが部分的に切断されてしまい作業効率が悪くなるからである。
高エネルギービームが通過する表面は研磨しておき,ビームが表面で散乱するのを防止し,焦点位置にビームが集中するようにするのが好ましい。
(オ) 作用 透明材料に吸収されない高エネルギービームを,レンズやミラーから構成される光学系を介して透明材料の内部に焦点を合せ,高エネルギービームを透明材料内部に照射する。すると,高エネルギービームの照射された個所に数十ミクロン以下の微小なクラックが発生する。高エネルギービームの照射位置を移動させて,透明材料に連続的なクラックを発生させることによって透明材料を切断加工する。
・・・ この発明においては,多光子吸収を利用して,バンドギャップよりエネルギーが低く,本来,吸収の起こらない波長の光を透明材料に吸収させることにより,透明材料の結合ボンドを切断したり,あるいは,発熱を利用して微小なクラックを透明材料内部に発生させるのである。
石英ガラスでは,このバンドギャップは約9eV(140nm)である。石英ガラス中に不純物や欠陥構造が無い限り,バンドギャップよりも低エネルギー,すなわち,長波長の光は,通常吸収しない。
・・・ (カ) 実施例 次に,本発明を実施例によってさらに詳しく説明する。
実施例1 透明材料として150×150×150mmの合成石英ガラス(OH 1300ppm含有)を使用し,高エネルギービームとしては,不安定共振器を用いたエキシマレーザ(KrF 248nmエネルギー密度 50mJ/cm2・パルス,くり返し周波数150Hz)を使用し,焦点距離500mmのレンズで集光し,ミラーで反射させ,上面を予め研磨したワークである厚板の合成石英ガラスの内部にエキシマレーザビームの焦点を合せエキシマレーザをワークの上面から照射し,ワークを3 r.p.mの回転数で回転させながら,焦点の位置を3mm/minの速さでワーク底面より引き上げることにより,直径30mmの円筒形の孔を開けた。
このとき,ワーク内部におけるエキシマレーザのビームの垂直方向の焦点位置は,レンズの位置を移動させることによって変化させた。
また,ワーク内部での焦点位置の水平方向の移動は,ワーク自体を水平方向に移動させることによっておこなった。
切断に当っては,焦点位置は,ワークの底面から上方向に移動させた。
(キ) 効果 以上,述べてきたように,透明材料の内部に焦点をあわせ,透明材料に対し吸収の無い高エネルギービーム,例えば,石英ガラスに対しエキシマレーザを照射すると,微細なクラックが透明材料の内部に発生する。これを連続させることによって透明材料を複雑な形状に切断加工できる。
焦点をワークの内部に結ばせているのでワークの厚味に影響を受けず,自由な形状に加工できる。
焦点の移動をコンピュタにプログラムしておくことによって,円錐形,ひょうたん型など,その形状は制約を受けないといってもよいものである。
イ 前記アからすると,甲1には,本件審決が認定した前記第2の3(2)アの甲1発明が記載されていると認められる。
ウ(ア) 原告は,甲1発明において,ワーク(合成石英ガラス)に対してみた場合,焦点の位置は,上方向に移動しているとは限らないと主張するが,前記アからすると,甲1発明において,焦点の位置は,合成石英ガラスの底面から上方向に移動していることは明らかであって,原告が実施例1について主張する「らせん状」の場合も上方向に移動しているということができる。
(イ) 原告は,甲1の「数十ミクロン以下の微小なクラック」という記載(前記ア(オ))及び実施例1についての記載(同(カ))からすると,実施例1において,切断面が形成されるためには,微小なクラックを起点として,厚さ方向に,より大 きいクラックが進展することを要するから,甲1発明は,微小なクラックを起点としてより大きいクラックが進展することをその構成に含むものである旨を主張する。
しかし,甲1の「作用」欄に記載されている上記「数十ミクロン」が厚さ方向の寸法かどうかは明らかでなく,また,実施例1がこれを前提としているかどうかも明らかでないから,この「数十ミクロン」との記載と実施例1の記載を組み合わせることにより,甲1発明においては,微小なクラックを起点として厚さ方向により大きなクラックが進展すると認めることはできない。甲1には,微小なクラックから,厚さ方向に,より大きいクラックが進展することをうかがわせる記載はない。
むしろ, 「作用」についての記載(前記ア(オ))では, 「数十ミクロン以下の微小なクラックが発生する。
・・・照射位置を移動させて,透明材料に連続的なクラックを発生させることによって・・・切断加工する。」と記載され,「効果」についての記載(同(キ))でも,「微細なクラック・・・を連続させることによって透明材料を複雑な形状に切断加工できる」と記載されている。
また,甲1には,発明の効果として, 「自由な形状に加工できる」「円錐形,ひょ ,うたん型など,その形状は制約を受けないといってもよい」と記載されている(前記ア(キ))ところ,甲1発明が微小なクラックを起点として,厚さ方向に,より大きいクラックが進展することをその構成に含むものであると理解した場合に,そのような自由な加工が可能であるとは直ちに解し難い。
上記に関し,原告は,微小なクラックで切断面を覆い尽くすのは,非効率極まりなく,現実的に採り得る方法ではないと主張するが,厚さ方向の寸法が「数十ミクロン」との主張を採用できないことは前記のとおりである上,甲1発明は,切断の効率性を追求したものでないから,この点は上記判断を左右するものではない。
したがって,甲1発明が微小なクラックを起点として,厚さ方向に,より大きいクラックが進展することをその構成に含む旨の原告の主張は採用できない。
(2) 甲4発明の認定 ア 平成11年6月18日に公開された甲4(特開平11-163403号 公報)は,名称を「窒化物半導体素子の製造方法」とする発明に係るもので,次の事項が記載されていると認められる。
(ア) 特許請求の範囲 【請求項1】 基板(101)上に窒化物半導体(102)が形成された半導体ウエハー(100)を窒化物半導体素子(110)に分割する窒化物半導体素子(110)の製造方法であって,前記半導体ウエハー(100)は第1及び第2の主面を有し該第1の主面(111)側及び/又は第2の主面(121)側からレーザーを前記半導体ウエハー(100)を介して照射し少なくとも前記基板(101)の第2の主面(121)側及び/又は前記基板(101)の第1の主面(111)側に形成された焦点にスクライブ・ライン(103)を形成する工程と,前記スクライブ・ラインに沿って半導体ウエハーを分離する工程とを有することを特徴とする窒化物半導体素子の製造方法
【請求項4】 前記スクライブ・ラインは基板内部に形成された加工変質層(206)である請求項1に記載された窒化物半導体素子の製造方法
(イ) 発明の詳細な説明 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は紫外域から橙色まで発光可能な発光ダイオードやレーザーダイオード,更には高温においても駆動可能な3-5族半導体素子の製造方法に係わり,特に,基板上に形成された窒化物半導体素子の製造方法に関する。
【0002】 【従来技術】 今日,高エネルギーバンドギャップを有する窒化物半導体(InX GaYAl1-X-YN,0≦X,0≦Y,X+Y≦1)を利用した半導体素子が開発されつつある。窒化物半導体を利用したデバイス例として,青色,緑色や紫外がそれぞれ発光可能な発光ダイオードや青紫光が発光可能な半導体レーザが報告されている。更には高温においても安定駆動可能且つ機械的強度が高い各種半導体素子などが挙げられる。
【0003】 通常,GaAs,GaPやInGaAlAsなどの半導体材料が積層された半導体ウエハーは,チップ状に切り出され赤色,橙色,黄色などが発光可能なLEDチップなどの半導体素子として利用される。半導体ウエハーからチップ状に切り出す方法としては,ダイサー,やダイヤモンドスクライバーが用いられる。ダイサーとは刃先をダイヤモンドとする円盤の回転運動によりウエハーをフルカットするか,又は刃先巾よりも広い巾の溝を切り込んだ後(ハーフカット),外力によりカットする装置である。一方,ダイヤモンドスクライバーとは同じく先端をダイヤモンドとする針などにより半導体ウエハーに極めて細い線(スクライブ・ライン)を例えば碁盤目状に引いた後,外力によってカットする装置である。GaPやGaAs等のせん亜鉛構造の結晶は,へき開性が「110」方向にある。そのため,この性質を利用してGaAs,GaAlAs,GaPなどの半導体ウエハーを比較的簡単に所望形状に分離することができる。
【0004】 しかしながら,窒化物半導体を利用した半導体素子は,GaP,GaAlAsやGaAs半導体基板上に形成させたGaAsP,GaPやInGaAlAsなどの半導体素子とは異なり単結晶を形成させることが難しい。結晶性の良い窒化物半導体の単結晶膜を得るためには,MOCVD法やHDVPE法などを用いサファイアやスピネル基板など上にバッファー層を介して形成させることが行われている。サファイア基板などの上に形成された窒化物半導体層を所望の大きさに切断分離することによりLEDチップなど半導体素子を形成させなければならない。
【0005】 サファイアやスピネルなどに積層される窒化物半導体はヘテロエピ構造である。窒化物半導体はサファイア基板などとは格子定数不整が大きい。また,サファイア基板は六方晶系という結晶構造を有しており,その性質上へき開性を有していない。さらに,サファイア,窒化物半導体ともモース硬度がほぼ9と非常に硬い物質である。
【0006】 したがって,ダイヤモンドスクライバーで切断することは困難で あった。また,ダイサーでフルカットすると,その切断面にクラック,チッピングが発生しやすく綺麗に切断できなかった。また,場合によっては基板から窒化物半導体層が部分的に剥離する場合があった。
【0007】 窒化物半導体の結晶性を損傷することなく半導体ウエハーを正確にチップ状に分離することができれば,半導体素子の電気特性や効率を向上させることができる。しかも,1枚の半導体ウエハーから多くの半導体チップを得ることができるため生産性をも向上させられる。
【0008】 そのため窒化物半導体ウエハーはダイヤモンドスクライバーやダイサーを組み合わせて所望のチップごとに分離することが行われている。チップごとの分離方法として特開平8-274371号などに記載されている。具体的一例として,図5(A)から図5(D)に窒化物半導体素子の製造方法を示す。サファイア基板(501)上に窒化物半導体層(502)が形成された半導体ウエハー(500)を図5(A)に示している。サファイア基板下面側から窒化物半導体層に達しない深さでダイサー(不示図)による溝部(509)を形成する工程を図5(B)に示している。溝部(509)にスクライブ・ライン(507)を形成する工程を図5(C)に示してある。スクライブ工程の後半導体ウエハー(500)をチップ状の半導体発光素子(510)に分離する分離工程を図5(D)に示してある。これにより,切断面のクラック,チッピングが発生することなく比較的綺麗に切断することができるとされている。
【0009】 【発明が解決しようとする課題】 しかしながら,半導体ウエハーの一方のみにスクライブ・ラインなどを形成させると分離時に他方の切断面にクラック,チッピングが発生しやすい傾向にある。分離された窒化物半導体素子の一表面形状は揃えることが可能であるが,窒化物半導体素子の他方の表面形状ではバラツキが発生し,半導体ウエハーにクラックやチッピングが生じやすい。したがって,半導体ウエハーを分離するときに,スクライブ・ライン形成面側から形成されていない半導体ウエハー面側への割れかたを制御し完全に窒化物半導体素子の形状を揃えて切断する ことは極めて難しいという問題を有する。
【0010】 他方,半導体ウエハーの両面にスクライブ・ラインを形成させ窒化物半導体ウエハーの割れ方を制御することは可能である。しかし,窒化物半導体ウエハーの両主面にスクライブ・ラインを形成するには半導体ウエハーをゴミの付着などを防止しつつ,ひっくり返し再度固定する工程が必要となり極めて量産性が悪くなる。また,サファイア基板上に形成された窒化物半導体の半導体ウエハー硬度は極めて高くダイヤモンドスクライバーのカッター刃先などの消耗,劣化が多くなり加工精度のバラツキ,刃先交換の為の製造コストが発生する。さらには,ダイヤモンドスクライバーでスクライブ・ラインを形成させると刃先の磨耗に応じてダイヤモンドスクライバーの加重を変えなければならない。また,ダイヤモンドスクライバーによりスクライブ・ラインを形成させるためにはそのダイヤモンドの刃先ごとに適した角度で接触させなければならず極めて量産性が悪いという問題を有する。
【0011】 より小さい窒化物半導体素子を正確に量産性よく形成させることが望まれる今日においては上記切断方法においては十分ではなく,より優れた窒化物半導体素子の製造方法が求められている。
【0012】 特に,窒化物半導体の結晶性を損傷することなく半導体ウエハーを正確にチップ状に分離することができれば,半導体素子の電気特性や効率を向上させることができる。しかも,1枚のウエハーから多くの窒化物半導体素子を得ることができるため生産性をも向上させられる。
【0013】 したがって,本発明は窒化物半導体ウエハーをチップ状に分離するに際し,切断面のクラック,チッピングの発生をより少なくする。また,窒化物半導体の結晶性を損なうことなく,かつ歩留まりよく所望の形,サイズに分離された窒化物半導体素子を量産性良く形成する製造方法を提供することを目的とするものである。
【0014】 【課題を解決するための手段】 本発明は,基板(101)上に窒化物半導体(102)が形成された半導体ウエハー(100)を窒化物半導体素子(110)に分割する窒化物半導体素子(110)の製造方法である。特に,半導体ウエハー(100)は第1及び第2の主面を有し第1の主面(111)側及び/又は第2の主面(121)側からレーザーを半導体ウエハー(0)を介して照射し少なくとも基板(101)の第2の主面(121)側及び/又は基板(101)の第1の主面(111)側に形成された焦点にスクライブ ライン(103)を形成する ・工程と,スクライブ・ラインに沿って半導体ウエハーを分離する工程とを有する窒化物半導体素子の製造方法である。
【0017】 本発明の請求項4に記載された窒化物半導体素子の製造方法においては,スクライブ・ラインが基板内部に形成された加工変質層(206)である。
【発明の実施の形態】 本発明者らは種々実験の結果,窒化物半導体素子を製造する場合において半導体ウエハーの特定箇所に特定方向からレーザーを照射することにより,半導体特性を損傷することなく量産性に優れた窒化物半導体素子を製造することができることを見いだし本発明を成すに到った。
【0022】 即ち,本発明の方法により窒化物半導体素子の分離ガイドとなるスクライブ・ラインを窒化物半導体層を損傷することなく窒化物半導体ウエハーを透過してレーザー照射面側以外の任意の点に形成することができる。特に,同一面側から窒化物半導体素子に悪影響を引き起こすことなく半導体ウエハーの両面を比較的簡単に加工することができる。以下,本発明の製造方法について詳述する。
【0023】 半導体ウエハーとして,LD(laser diode)となる構成の窒化物半導体層をスピネル基板上に形成させた。具体的には,スピネル基板上に,GaNのバッファー層,n型GaNのコンタクト層,n型AlGaNのクラッド層,n型GaNの光ガイド層,SiをドープしInの組成を変化させた多重量子井戸構造となるInGaNの活性層,p型AlGaNのキャップ層,p型GaNの光ガイド層,p型AlGaNのクラッド層及びp型GaNのコンタクト層が積層されている。この半導体ウエハーのスピネル基板側からCO2レーザーを照射して窒化物半導体層 とスピネル基板の界面に加工変質層をスクライブ・ラインとして形成させた。スクライブ・ラインと略平行にダイサーによりスピネル基板上に溝を形成させる。ローラーにより溝に沿って加圧することで窒化物半導体素子を形成させた。分離された窒化物半導体素子は何れも端面が綺麗に形成されている。以下,本発明の工程に用いられる装置などについて詳述する。
【0024】 (窒化物半導体ウエハー100,200,300,400)窒化物半導体ウエハー100,200,300,400としては,基板101上に窒化物半導体102が形成されたものである。窒化物半導体102の基板101としては,サファイア,スピネル,炭化珪素,酸化亜鉛や窒化ガリウム単結晶など種々のものが挙げられるが量産性よく結晶性の良い窒化物半導体層を形成させるためにはサファイア基板,スピネル基板などが好適に用いられる。サファイア基板などは劈開性がなく極めて硬いため本発明が特に有効に働くこととなる。窒化物半導体は基板の一方に形成させても良いし両面に形成させることもできる。
【0027】 基板の厚さとしてはレーザー加工機の加工精度や出力により種々選択することができるがレーザーにより大きい溝(深い溝)を形成させる場合はダイヤモンドスクライバーやダイサーに比べて時間が掛かること及び長時間の加熱による部分的な破壊などの観点からレーザー加工による溝などを大きくさせすぎないことが好ましい。したがって,半導体ウエハーに形成される溝部104はレーザーによる他,量産性等を考慮してダイサーやダイヤモンドスクライバーにより種々選択することができる。或いはそれらの組み合わせにより形成させることができる。
【0028】 窒化物半導体が積層されたサファイア基板を分離させる場合,切断端面を量産性良く切断させるために窒化物半導体ウエハーの最も薄い分離部の厚みは100μm以下が好ましい。100μm以下だとチッピングやクラックなどが少なく比較的容易に分離することができる。基板の厚さの下限値は特に問わないが,あまり薄くすると半導体ウエハー自体が割れやすく量産性が悪くなるため30μm以上が好ましい。また,窒化物半導体層が単一量子井戸構造や多重量子井戸構造な どの薄膜を含む場合,レーザー照射による半導体接合や半導体層の損傷を防ぐ目的で予めレーザーが照射される窒化物半導体層をエッチングなどにより予め除去することもできる。エッチングは種々のドライエッチング法やウエットエッチング法を用いることができる。
【0030】 なお,レーザーが照射された窒化物半導体ウエハーは,その焦点となる照射部が選択的に飛翔した凹部103,403或いは微視的なマイクロ・クロックの集合である加工変質層206,308になると考えられる。また,第1の主面側,第2の主面側とは加工分離される半導体ウエハーの総膜厚を基準として,総膜厚の半分からその第1の主面或いは第2の主面に向けての任意の位置を言う。
したがって,半導体ウエハーの表面でも良いし内部でも良い。さらに,本発明は第1の主面側及び/又は第2の主面側のレーザー加工に加えて半導体ウエハーの総膜厚の中心をレーザー加工させても良い。
【0031】 (レーザー加工機)本発明に用いられるレーザー加工機としては,窒化物半導体ウエハーが分離可能な溝,加工変質層などが形成可能なものであればよい。具体的には,CO2レーザー,YAGレーザーやエキシマ・レーザーなどが好適に用いられる。
【0032】 レーザー加工機によって照射されるレーザーはレンズなどの光学系により所望により種々に焦点を調節させることができる。したがって,同一方向からのレーザー照射により半導体ウエハーの任意の焦点に窒化物半導体を損傷させることなく溝,加工変質層などを形成させることができる。また,レーザーの照射面は,フィルターを通すことなどにより真円状,楕円状や矩形状など所望の形状に調節させることもできる。
【0033】 レーザー加工機によるスクライブ・ラインの形成にはレーザー照射装置自体を移動させても良いし照射されるレーザーのみミラーなどで走査して形成させることもできる。さらには,半導体ウエハーを保持するステージを上下,左右,90度回転など種々駆動させることにより所望のスクライブ・ラインを形成す ることもできる。以下,本発明の実施例について詳述するが実施例のみに限定されるものでないことは言うまでもない。
【0034】 【実施例】 (実施例1) 厚さ200μmであり洗浄されたサファイアを基板としてMOCVD法を利用して窒化物半導体を積層させ窒化物半導体ウエハーを形成させた。窒化物半導体は基板を分離した後に発光素子とすることが可能なよう多層膜として成膜させた。・・・ 【0038】 ・・・こうして形成された半導体ウエハー100を形成された窒化物半導体102が上になるように上下・左右の平面方向に自由に駆動可能なテーブル上に固定させた。レーザー光線(波長356nm)をサファイア基板101上に形成された窒化物半導体102側から照射し,焦点がサファイア基板101の略底面に結ばれるようにレーザーの光学系を調整した。調整したレーザーを16J/cm2で照射させながらステージを移動させることによりサファイア基板101の底面に深さ約4μmのスクライブ・ライン103を縦横に形成する。形成されたスクライブ・ライン103は,窒化物半導体ウエハー100の主面から見るとそれぞれがその後に窒化物半導体素子110となる約350μm角の大きさに形成させてある(図1(B)。
) 【0039】 次に,レーザー加工機のレーザー照射部のみダイシングソーと入れ替え窒化物半導体ウエハーの固定を維持したままダイサーにより,半導体ウエハー100に窒化物半導体102の上面からサファイア基板101に達する溝部104を形成する。ダイサーにより形成された溝部104は,レーザー照射により形成されたスクライブ・ライン103と半導体ウエハー100を介して平行に形成されており,溝部104底面とサファイア基板101側の底面との間隔が,100μmでほぼ均一にさせた(図1(C)。
) 【0040】 スクライブ・ライン103に沿って,不示図のローラーにより荷重を作用させ,窒化物半導体ウエハーを切断分離することができる。分離された端 面はいずれもチッピングやクラックのない窒化物半導体素子110を形成することができる(図1(D)。
) 【0041】 実施例1ではレーザーが照射される窒化物半導体102が形成された半導体ウエハー100の表面側ではなく窒化物半導体102及びサファイア基板101を透過した半導体ウエハー100の裏面側となるサファイア基板101底面で集光されたレーザーによりスクライブ・ライン103が形成される。
【0042】 半導体ウエハー100の窒化物半導体102が形成された主面側(レーザー照射側)からサファイアなどの基板101に達する溝部104を形成することで,容易にかつ正確にスクライブ・ライン104に沿って窒化物半導体素子110を分割することができる。
【0043】 なお,スクライブ・ライン103の形成をレーザーで行うため,ダイヤモンドスクライバーの如き,カッターの消耗,劣化による加工精度のバラツキ,刃先交換のために発生するコストを低減することができる。また,半導体ウエハーの片側からだけの加工で,半導体ウエハー両面から加工したのと同様の効果を得られ,上面,裏面においても形状の揃った窒化物半導体素子110を製造することが可能となり,製造歩留まりを高め,形状のバラツキが低減できる分,特に,切り代を小さくし,半導体素子の採り数を向上させることが可能となる。さらに,スクライブ・ライン110をサファイア基板101側の表面で形成させるためにレーザーによる加工くずが窒化物半導体102上に付着することなくスクライブ・ラインを形成することができる。
【0044】(実施例2) 実施例1と同様にして形成させた半導体ウエハーに,RIE(Reactive Ion Etching)によって窒化物半導体表面側から溝が形成されるサファイア基板との境界面が露出するまでエッチングさせ複数の島状窒化物半導体層205が形成された半導体ウエハーを用いる。なお,エッチング時にpn各半導体が露出するようマスクを形成させエッチング後除去させてある。また,pn各半導体層には,電極220がスパッタリング法により形成されている(図2(A)。
) 【0045】 この半導体ウエハー200を実施例1と同様のレーザー加工機に固定配置させた。実施例2においてもレーザー加工機からのレーザーを窒化物半導体ウエハーの窒化物半導体205側から照射し,焦点がサファイア基板201の底面から20μmのサファイア基板内部に結ばれるようにレーザー光学系を調整する。
調整したレーザー光線を16J/cm2で照射させながらステージを移動させることによりサファイア基板の底面付近の基板内部に加工変質層206となるスクライブ・ラインを形成する(図2(B)。
) 【0046】 次に,レーザー光学系(不示図)を調整し直し,焦点がエッチングにより露出されたサファイア基板201の上面(窒化物半導体の形成面側)に結ばれるように調整した。調整したレーザーを照射させながらステージを移動させることにより,半導体ウエハーに窒化物半導体層側の上面からサファイア基板に達する溝部を形成する。形成された溝部204は,加工変質層206とサファイア基板201を介して略平行に形成させてある。なお,レーザー照射により形成されたサファイア基板201上の溝部204は,溝部の底面とサファイア基板の底面との間隔が,約100μmで,ほぼ均一になるように調整してある。さらに,レーザー光学系を調節し直し,焦点がサファイア基板201に設けられた溝部底面に結ばれるよう調節した。調節したレーザーを14J/cm2で照射させながらステージを移動させることにより,窒化物半導体が形成されたサファイア基板の露出面に設けられた溝部204の底面に深さ約3μmのスクライブ・ライン207を形成する(図2(C)。
) 【0047】 続いて,溝部(スクライブ・ライン)に沿ってローラーによって荷重をかけ半導体ウエハーを切断し,LEDチップ210を分離させた(図2(D)。
) 【0048】 こうして形成されたLEDチップに電力を供給したところいずれも発光可能であると共に切断端面にはチッピングが生じているものはほとんどなかった。歩留まりは98%以上であった。
【0049】 実施例2では半導体ウエハーの片面側からレーザーにより基板表 裏両面にスクライブ・ラインを形成することで,厚みがある窒化物半導体ウエハーでもスクライブ・ラインに沿って簡単に窒化物半導体素子を分割するる(判決注:「分割する」の誤記と認める。)ことが可能となる。また,溝の形成される部分が,サファイア基板までエッチングされているため,溝形成による窒化物半導体への損傷がより少なく分離させた後の窒化物半導体素子の信頼性を向上させることが可能である。特に,スクライブ・ラインが形成されるとき,レーザーの焦点がサファイア基板内部で結ばれていることから,半導体ウエハーを固定している,テーブル若しくは粘着性シートを損傷することなく加工が実現できる。また,レーザー照射による加工くずの発生もない。なお,全てをレーザー加工でなく溝の形成をダイサーで行っても本発明と同様に量産性良く窒化物半導体素子を形成することができる。
【0050】 レーザーによって溝部,スクライブ・ラインを窒化物半導体ウエハーに対して非接触で加工できる。そのため,ブレード及びカッターの消耗,劣化による加工精度のバラツキ,刃先の交換のために発生するコストを低減できる。また,半導体ウエハーの片側からだけの加工で,半導体ウエハー両面から加工したのと同様の効果を得られ,形状の揃った半導体チップを製造することが可能となる。
製造歩留まりを高め形状のバラツキが低減できる分切り代を小さくし,窒化物半導体ウエハーからの半導体素子の採り数を向上させることが可能となる。
【0051】 さらに,半導体層面からの溝部をもレーザーにより形成することで,より幅の狭い溝を形成することが可能となる。このため窒化物半導体ウエハーからのチップの採り数をさらに向上させることが可能となる。
【0052】 (実施例3) 実施例1と同様にして形成させた半導体ウエハー300に,予めサファイア基板301を80μmまで研磨して鏡面仕上げされている。
この半導体ウエハーを窒化物半導体302が積層されていないサファイア基板301面を上にして実施例1と同様のレーザー加工機のステージに固定配置させた(図3(A)。
) 【0053】 実施例3においてはレーザー加工機(不示図)からのレーザーを 窒化物半導体ウエハー300の窒化物半導体302が形成されていないサファイア基板301面側(基板露出面側)から照射し,焦点が窒化物半導体302とサファイア基板301の界面に結ばれるようにレーザー光学系を調整しする(判決注: 「調整する」の誤記と認める。 。ステージを駆動させながらレーザーを照射することに )より窒化物半導体302及び窒化物半導体と接したサファイア基板301界面近傍に加工変質層308であるスクライブ・ラインを縦横に第1のスクライブ・ラインとして形成する(図3(B)。
) 【0054】 次に,レーザー加工機のレーザー照射部のみダイシングソー(不示図)と入れ替え窒化物半導体ウエハーの固定を維持したままダイサーによりブレード回転数30,000rpm,切断速度3mm/secで窒化物半導体が積層されていないサファイア基板底面側から窒化物半導体面に達しない溝部309を形成した。ダイサーにより形成された溝部は,縦横とも加工変質層308と略平行に設けられ溝部309の底面とサファイア基板底面との間隔が,50μmでほぼ均一になるように形成させる。さらに,ダイシングソーをレーザー加工機と入れ替えレーザーの焦点をダイサーにより形成された溝部309の底面に合わせる。レーザー照射により,サファイア基板301に形成された溝部309の底面に深さ約3μmの第2のスクライブ・ライン307を形成する(図3(C)。
) 【0055】 第2のスクライブ・ライン307に沿って,ローラー(不示図)により荷重をかけ窒化物半導体ウエハーを切断分離し窒化物半導体素子310を形成させた(図3(D)。こうして形成された窒化物半導体素子の切断端面にはチッ )ピングが生じているものはほとんどなかった。
【0056】 実施例3に記載の方法は,サファイアなど基板301裏面側から窒化物半導体302に達しない溝部309を別途形成することで,レーザーにより形成されたスクライブ・ラインに沿って容易にかつ正確に窒化物半導体素子310を分離することが可能となる。したがって,上面,裏面においても形状の揃った窒化物半導体素子の供給,及び製品歩留まりの向上が可能となる。なお,ダイサーに よる加工の後に,レーザー加工による第1及び第2のスクライブ・ラインの形成を形成することもできる。第1及び第2のスクライブ・ライン形成後にダイサーによる加工をすることもできる。
【0057】 スクライブ・ラインの形成をレーザーで行うため,ダイヤモンドスクライバーのカッター消耗,劣化による加工精度のバラツキ,刃先交換のために発生するコストを低減することができる。また,窒化物半導体ウエハーをひっくり返すことなく,半導体ウエハーの片側からだけの加工で半導体ウエハー両面から加工したのと同様の効果を得られる。形状の揃った半導体チップを製造することが可能となり,製造歩留まりを高め形状のバラツキが低減できるため切り代を小さくし,窒化物半導体ウエハーからの半導体チップの採り数を向上させることが可能となる。
さらに,レーザー加工による加工くずが窒化物半導体表面に付着することもない。
【0058】(実施例4) 実施例1と同様にして形成させた半導体ウエハーに,RIE(Reactive Ion Etching)によって窒化物半導体表面側から溝が形成されるサファイア基板401との境界面が露出するまでエッチングさせ複数の島状窒化物半導体405が形成された半導体ウエハー400を用いる。なお,エッチング時にpn各半導体が露出するようマスクを形成させエッチング後除去させてある。また,pn各半導体層には,電極420がスパッタリング法により形成されている。この半導体ウエハー400のサファイア基板401を100μmまで研磨して鏡面仕上げさせる(図4(A)。
) 【0059】 半導体ウエハー400を窒化物半導体が全く積層されていないサファイア基板401を上にして実施例1と同様のレーザー加工機(不示図)に固定配置させた。実施例4においてはレーザー加工機のレーザーを半導体ウエハー(400)の窒化物半導体405が形成されていないサファイア基板401面側から照射し,焦点は窒化物半導体405が積層されたサファイア基板表面側の(予め基板が露出された)表面近傍に結ばれるようにレーザー光学系(不示図)を調整し,レーザー走査によりサファイア基板401に深さ約4μmの第1のスクライブ・ライ ン403を縦横に形成する(図4(B)。
) 【0060】 次に,レーザー光学系を再び調整してレーザーの走査により,窒化物半導体ウエハーにサファイア基板401側から窒化物半導体405面に達しない溝部409を第1のスクライブ・ライン403に沿って形成する。レーザー光学系を再び調整してレーザーの走査により,溝部の底面に深さ約3μmの第2のスクライブ・ラインを形成する(図4(C)。
) 【0061】 スクライブ・ラインに沿って,ローラー(不示図)により荷重をかけ窒化物半導体ウエハーを分離し窒化物半導体素子410を形成させる(図4(D)。
) 【0062】 分離された窒化物半導体素子であるLEDチップに通電させたところ何れも発光可能であり,その端面を調べたところチッピングやクラックが生じているものはほとんどなかった。歩留まりは98%以上であった。
【0063】 スクライブ・ラインの形成をレーザーで行うため,ダイヤモンドスクライバーのカッターの消耗,劣化による加工精度のバラツキ,刃先交換のために発生するコストを低減することができる。また,窒化物半導体ウエハーの片側からだけの加工で,半導体ウエハー両面から加工したのと同様の効果を得られ,形状の揃った半導体素子を製造することが可能となり,製造歩留まりを高め,形状のバラツキが低減できる分,切り代を小さくし,窒化物半導体ウエハーからの半導体チップの採り数を向上させることが可能となる。
【0064】(実施例5) 実施例1のYAGレーザーの照射の代わりにエキシマ・レーザーを用いた以外は実施例1と同様にして半導体ウエハーを分離してLEDチップを形成させた。実施例1と同様半導体ウエハーを分離させるときに半導体ウエハーを裏返すことなく分離することができる。また,形成されたLEDチップの分離端面はいずれも発光可能でありチッピングやクラックのない綺麗な面を有している。
【0065】 (比較例1) レーザー加工の代わりにダイヤモンドスクライバーに より繰り返し3回スクライブした以外は実施例1と同様にして半導体ウエハーを分離させた。比較例1の分離された窒化物半導体素子は部分的にクラックが生じていた。また,割れが生じ約84%以下の歩留まりであった。なお,半導体ウエハーの両面にスクライブ・ラインやダイサーによる溝を形成させるためにひっくり返すなどの手間がかかり作業性が極めて悪く約1.5倍の時間が掛かった。
【0066】 【発明の効果】 本発明の窒化物半導体素子の製造方法では,レーザー源から照射したレーザーをレンズなどの光学系で集光することにより,所望の焦点付近でエネルギーを集中させることができる。このエネルギー密度が非常に高くなった焦点でワークの加工がなされる。特に,窒化物半導体ウエハーを透過したレーザーの焦点を利用する。不要な分離部となる窒化物半導体ウエハーに光学系で調整したレーザーを照射し,必要な窒化物半導体層の損傷をすることなく窒化物半導体ウエハーのレーザー照射面に対して半導体ウエハーの反対側の面まで自由に加工を行うことが可能となる。
【0067】 したがって,本発明は窒化物半導体ウエハーを透過した所望の焦点での加工を利用することにより,窒化物半導体ウエハーを両面側から加工する必要がなく,片側からのみの加工で窒化物半導体ウエハーの表裏両面から加工したのと同じ効果を得ることができる。したがってより歩留まりを向上させ,且つ形状にバラツキが少ない窒化物半導体素子及びその量産性の良い製造方法を提供することができる。
【図1】 【図4】【図2】 【図5】【図3】 イ 本件審決は,前記第2の3(2)イのとおり,甲4発明をサファイア基板に限定して認定している。
しかし,甲4の段落【0001】【0003】〜【0010】【0013】【0 , , ,024】及び【0028】には,へき開性を有しておらず,非常に硬い物質であるために,ダイヤモンドスクライバーやダイサーで切断する場合にサファイア基板には問題があることが記載され,その解決のために甲4発明がされたことが記載されているものの,甲4の上記記載は,サファイア基板をダイヤモンドスクライバーやダイサーで切断する場合に問題が生じる基板の例として記載しているものと解され,甲4発明がサファイア基板以外の基板に適用できないというべき事情も認められないことからすると,甲4発明をサファイア基板に限ることは相当ではなく,請求項1及び4に従い,「基板」についての発明であると認めるべきである。
ウ(ア) 原告は,甲4発明は,その内容からして,スクライブ・ライン207を必須とせず,スクライブ・ライン206しか有しないものも想定しており,甲4発明において,切断の起点となり得るものは,スクライブ・ライン206のみとなり,それが切断の起点となると主張する。
(イ) 甲4の実施例をみると,加工変質層としてスクライブ・ラインが形成され,加工対象物の表面に当該スクライブ・ラインが露出しない実施例(実施例2及び3)が存する。しかし,これらの実施例においては,サファイア基板201,301の上面に溝部204,309を形成し,その溝部底面にスクライブ・ライン207,307を形成するとされている(甲4の段落【0046】【0054】【図 , ,2】【図3】。そして,甲4の発明の詳細な説明及び図面の他の記載をみても,加 , )工対象物の表面にスクライブ・ラインを形成することなく,表面に露出しないスクライブ・ラインのみを形成することの記載があるとは認められない。甲4の請求項4は,その文言からすると,基板内部に形成された加工変質層(206)とされているが,発明の詳細な説明及び図面の記載が上記のとおりであることからすると,甲4において,基板内部にのみスクライブ・ラインを形成することが開示されているとは認 められない。
原告が主張する特許庁の拒絶理由通知の内容や甲4に係る発明が特許査定されていることは,何ら上記判断を左右するものではない。
そうすると,甲4発明がスクライブ・ライン207を必須とせず,スクライブ・ライン206しか有しないものを想定しているとの原告の主張を採用することはできない。
上記のとおり,甲4発明には,スクライブ・ラインとして207と206があるところ,甲4には,スクライブ・ライン206が切断の起点(切断が開始する点)となるとの記載があるとは認められず,かえって,甲4の段落【0047】には,「溝部(スクライブ・ライン)に沿ってローラーによって荷重をかけ半導体ウエハーを切断」すると記載されていることからすると,スクライブ・ライン207が切断の起点となるとも考えることができる。他にスクライブ ライン207ではなく, ・スクライブ ライン206が切断の起点となるというべき事情も認められないから, ・甲4発明において,スクライブ・ライン206が切断の起点となると認めることはできない。
なお,甲4の実施例2の構成からすると,スクライブ・ライン206は,ローラー荷重をかけた場合の割れ方を制御するものであるということはできる。
(ウ) したがって,甲4発明が,スクライブ・ライン207を必須とせず,スクライブ・ライン206しか有しないものも想定しており,甲4発明において,切断の起点となるのはスクライブ・ライン206であるとの原告の主張は採用できず,同主張を前提とした原告の相違点3’の主張も採用できない。
エ そうすると,甲4発明は,次のとおり認定すべきである。
「基板201の表面上に窒化物半導体層205が形成された半導体ウエハーの前記基板201の内部に焦点が結ばれるように,16J/cm2でレーザ光線を照射し,前記基板201の内部に,微視的なマイクロ・クロックの集合である加工変質層206を形成し,この加工変質層206によって,前記基板201の底面付近の 基板内部に,ローラー荷重をかけた場合の割れ方を制御するためのスクライブ・ラインを形成した後,溝部204を形成し,前記溝部204の底面にスクライブ・ライン207を形成し,その後,前記溝部204に沿ってローラーによって荷重をかけ,前記半導体ウエハーを切断する,半導体ウエハーの切断方法。」 (3) 甲2発明の認定 ア 平成11年3月16日に公開された甲2(特開平11-71124号公報)は,名称を「ガラス物体に破断点を形成する方法」とする発明に係るもので,「発明の詳細な説明」として,次の事項が記載されていると認められる。
【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,破断領域に微小亀裂を発生させることにより,ガラス物体,特に破断開封用アンプルまたは管のガラス壁を破断するため,またはガラス板を分離するために適切な破断点を形成(produce)する方法に関する。
【0002】 【従来の技術】 ガラスアンプル類は,医療用配合物の貯蔵や輸送に広範に使われている。・・・ 【0003】 アンプル(いわゆる,ワンポイントカットまたはタングステンカットのアンプル(break-open ampoules))の開口部は,すでに多くの特許及び特許出願の対象となっている。しかしながら,ここで述べられた方法は全て多かれ少なかれ不利益をともなう。破断開封後さらに取り扱われるアンプルの破断縁はしばしばぎざぎざであって,傷つける恐れがあり,その恐れは相対的に広い範囲で変化する破断力がむしろ高い値にしばしば達するという事実によってさらに高められ,その結果,手はその瞬間極めて高い緊張にさらされ,アンプルの開封後制御できない方法で動き,ぎざぎざの破断した縁で傷つく。最後に,さらに,破断線又は破断片がアンプル本体に侵入し,使用できなくなるという問題がある。さらに,破断操作中に形成される破断ガラスは,アンプル中に存在する配合物を汚染する恐れがある。
【0004】 上記の問題は,アンプルの首領域のアンプル表面に所定の破断点 として,ヤスリ,切断ホイール,ダイヤモンド等を用いて,多かれ少なかれ限定された初期の亀裂を物理的に形成する従来の方法において大きくなる。・・・ 【0005】 一つの試みであってアンプルの破断をより制御した方法で行う試みは,所定の破断線をエナメルペイントを用いてマークをつける,いわゆる破断リングアンプルの製造である。
・・・この方法の欠点は,前記のように,アンプルを破断したときに破断ガラスが生じ,配合物がペイントからの重金属粒子で汚染される恐れがあることである。
【0006】 最近の方法では,非接触手段としてレーザー放射が使われ,係る手段は極めて再現性が高く,高い保存(service)状態で初期亀裂が生じる。
【0011】 上記レーザー法の別の欠点は,初期亀裂であって表面に位置しまたは表面まで伸びる亀裂が,アンプルの更なる取扱中に水分などの環境の影響を受けることにある。このように,好ましくない亀裂の進行が生じ,アンプルの漏洩または時期尚早破断を導く。さらに,ガラス粒子または蒸発生成物を具備するガラス表面の負荷は規定されておらず,薬剤師にとっては好ましくないものである。
【0013】 【発明が解決しようとする課題】 本発明の目的は,破断開封アンプルを再現できかつ安全に開口する方法で破断開封アンプルの破断領域に所定の破断点を形成することにある。特に,破断開封が困難なアンプルを開封するときに生ずる傷の発生を避け,かつ,アンプルの開封で生ずるアンプル内の医薬品の損傷を妨げることを意図する。
【0014】 【課題を解決するための手段】 本発明の目的は,破断領域に微小亀裂を発生させることにより,ガラス物体,特に破断開封用アンプルまたは管のガラス壁を破断するため,またはガラス板を分離するために適切な破断点を形成する方法において,前記微小亀裂を前記ガラス壁またはガラス板の内部に形成することを特徴とする破断点を形成する方法により達成される。
【0015】 前記微小亀裂はレーザー照射により形成することが好ましい。
【0020】 表面に対して垂直な微小亀裂の大きさはガラス壁の厚みの0.5倍を越えないことが好ましい。
【0021】 【発明の実施の形態】 本発明によれば,適切な破断点は,微小亀裂が制御された方法でアンプルのガラス壁内部に形成されるという事実によって作られる。最初に述べた従来の技術であって,それぞれの場合にガラス壁がガラス表面からの微小亀裂により弱くなる技術に対して,問題の表面は本発明の方法を使用するときに損傷を受けない。
【0025】 微小亀裂がガラス壁内部に存在することは,始めに述べた環境との相互作用であって亀裂形成に関する変化を導くリスクがないことを意味する。
【0026】 その結果,広範な条件下で貯蔵するときに,アンプルの破断特性に関し今まで得られなかった安定性が得られる。
【0028】 好都合なことに,本発明に従う微小亀裂は集中レーザー照射手段により形成される;アンプルの場合,従来技術から公知であるが,アンプルの首領域で生ずる。直径<100μmのレーザービームをガラス壁の中心に収束することが有益であることが証明された。このことを実施するために,ガラスが透明でありまたは少なくとも半透明である波長を備えるレーザー放射を利用することが必要なことは明らかである。レーザーパラメーターを好適に選択することにより,当業者は,制御された方法で微小亀裂の長さや幾何学的な配列などの形成及び促進を調節することができる。これを実施するための適切なパラメーターを見つけだすことは進歩性を要求せず,これらは当業者によって,例えば適切な通常の実験に基づいて容易に決定できる。上記から明らかなように,ガラス物体(例えば,アンプル)の種々の幾何学性に関するプロセスパラメーターを採用することは容易である。微小亀裂は,約10〜1000Hzの繰り返し周波数を備える単一レーザーパルスまたは一連のレーザーパルスを利用して形成できる。
【0031】 本発明方法の2つの実際に実施可能な実施態様は,アンプルの実施例を参照して説明する。
【0032】 1)適切な破断点は,例えば適切な分割線に沿って周囲方向に配列した一若しくはそれ以上の微小亀裂領域によって,アンプル締め付け部の周囲の点に形成してよい。この方法(ワンポイントカット)では,破断開封するときにアンプルを配列又は調整するために適切な破断点をマークすることが必要である。
【0033】 2)さらに,適切な破断点は,アンプルの首周りを走るように適切な分割線に沿って形成してよい(いわゆる破断リングアンプルに類似する方法)。
この場合,アンプルは予め配列又は調整することなく破断開封できる。・・・ 【0035】 使用されたレーザー放射源は,Q-スイッチまたはモードロックNdソリッドステートレーザーであることが好都合である。短焦点距離を備える適切な光システムは,必要により広いビーム断面を有するレーザービームを<0.1mmのスポット直径に収束する。大きい湾曲面を有すると,例えば,円柱または屈折の光システム(従来技術)により付加的な形状を備えるビームを提供する必要がある。非ガウスレーザービームプロファイルを用いると,破断方向に微小亀裂の付加的な配向を達成することが可能である。短いレーザーパルス時間のため,必要により,アンプル輸送の間適切な破断点を適用することができるが,これは壁の焦点位置を0.1mmよりも精度よく維持するために,多くの支出が必要である。プロセスコントロールは,例えば,プラズマ形成の光電子的観察及びレーザーパラメーターの再調整によって実施してよい。
【0036】 当然,本発明の方法は,適切な破断点をアンプルに適用するために好適であるばかりではない。この方法は,例えばガラス管を切断する等の多くの適用に対し,高品質,再現性を有する初期亀裂を得るために使用してよい。
【0037】 この方法は,フラットガラスの分野において特殊な切断プロセスに用いてもよい(例えば,適切な形状(時計皿)のガラス片をガラス板から切断する)。
【0038】 【実施例】 本発明の実験的実施態様は図面を用いて示し,下記により詳細に記述する。
【0039】 図1は本発明に従って破断開封アンプルに適切な破断点を形成するための位置の図式レイアウトを示す。
【図1】 【0040】 図1において,適切な破断点はアンプルの首2(締め付け)の領域においてホウケイ酸ガラス製の2mlアンプル1に形成する。
【0041】 締め付けは,アンプルの製造方法において二次成形用具(formingtool)を用いてタレット装置上で直径6.5mm,壁厚0.8mmに予め形成された。適切な破断点は図1で図式された更なるプロセスラインで適用され,ここで,アンプル1はチェインコンベヤーから,リフト装置3を使用してストップローラー4に対して持ち上げられる。アンプル1は,ローラー6が二次成形用具を追跡するような方法でローラー(roller table)5及び6上に置く。
【0042】 パルス時間約10ns,パルスエネルギー25mJのQ-スイッチNd:YAGレーザー7を使用して適切な破断点を作る。レーザービームは,焦点距離50mmのレーザーレンズ8を使用してガラス壁の中心に収束させる:直径 は約0.1mmである。適切な破断点がガラス壁の中心に形成されるように,アンプルの首2(締め付け)の直径は大きくて0.1mmの公差を有する。10Hzのレーザー繰り返し周波数を用いると,3つの適切な破断点は周囲方向に沿って1mm間隔でアンプルの首に適用される。これを達成するために必要なアンプルの回転はローラー4の駆動によって行われる。
【0043】 3つの適切な破断点は顕微鏡で見ることが可能で,アンプルを明確にかつ物理的に破断できる。
イ 前記アからすると,甲2には,本件審決が認定した前記第2の3(2)ウの甲2発明が記載されていると認められる。
(4) 甲5発明の認定 ア 平成11年5月25日に公開された甲5(特開平11-138896号公報)は,名称を「レーザを用いたマーキング方法,マーキング装置,及びマークの観察方法,観察装置」とする発明に係るもので, 「発明の詳細な説明」として,次の事項が記載されていると認められる。
発明の詳細な説明】 【0001】 【発明の属する技術分野】 本発明は,レーザを用いたマーキング方法及びマーキング装置に関し,特に薄板状の被加工部材にマーキングを行うのに適したマーキング方法及びマーキング装置に関する。
【0002】 【従来の技術】 レーザ光によるアブレーションを利用して,例えば透明ガラス基板等の被加工部材の表面にマーキングする方法が知られている。この方法によると,被加工部材の表面に微細な割れが発生し,その破片が製造ラインに混入する場合がある。また,マーキングされた位置の近傍に「デブリ」と称される付着物が堆積するため,この付着物を除去するための洗浄を行う必要がある。
【0003】 被加工部材の表面に損傷を与えることなく,その内部にレーザ光 を集光し,被加工部材の内部にマーキングを行う方法が,特開平3-124486号公報に開示されている。この方法によると,被加工部材の表面が損傷を受けないため,微細な割れの発生,及びデブリの付着を防止できる。
【0004】 【発明が解決しようとする課題】 上述の特開平3-124486号公報に開示された方法によると,被加工部材の表面から0.5〜2.5mm程度の深さの位置にマーキングを行うことができる。この方法を用いて,例えば厚さ1mm以下の薄板状の被加工部材にマーキングすると,内部に発生したクラックが表面まで到達する場合がある。表面まで達したクラックは,微細なパーティクル発生の原因になる。
【0005】 本発明の目的は,薄板状の被加工部材にマーキングする際にも,表面まで達するクラックの発生を抑制することができるマーキング方法及びマーキング装置を提供することである。
【0006】 【課題を解決するための手段】 本発明の一観点によると,レーザ光源から出射したレーザビームを複数のレーザビームに分割する工程と,分割された複数のレーザビームを被加工部材の内部のある微小領域に集光することにより,前記被加工部材の集光部分を変質させてマーキングする工程とを有するマーキング方法が提供される。
【0020】 【発明の実施の形態】 図1(A)は,本発明の第1の実施例によるマーキング装置の動作原理図を示す。
【図1】 【0021】 レーザ光源1から,1本のレーザビーム11が出射する。レーザビーム11は,ビーム分割手段2に入射する。ビーム分割手段2は,レーザビーム11を2つの部分ビーム12Aと12Bとに分割する。分割された部分ビーム12Aと12Bは,集光光学系3に入射する。なお,部分ビーム12Aと12Bとの総エネルギの和が,レーザビーム11のエネルギにほぼ等しくなり,エネルギロスの生じないように分割することが好ましい。
【0022】 集光光学系3に対向するように,保持台4が配置されている。保持台4の上に被加工部材10が載置される。集光光学系3は,部分ビーム12Aと12Bとを,被加工部材10の内部の微小領域13に集光する。微小領域13及びその近傍においてレーザ光の密度が高くなる。このレーザ光の密度が,あるしきい値よりも高くなると,光学的非線型現象による吸収が起こると考えられる。この吸収 に 基 づ き , 光 学 的 損 傷 (Optical Damage) あ る い は 光 学 的 絶 縁 破 壊 (OpticalBreakdown)が生じ,被加工部材10の微小領域13が変質し,外部から視認し得るようになる。このようにして,被加工部材10の内部にマーキングすることができる。
【0023】 微小領域13から発生する光が,光検出器5により観測される。
光検出器5の観測結果が位置調節手段6に通知される。一般的に,被加工部材10の表面でアブレーションが生ずると,その内部で光学的損傷あるいは光学的絶縁破 壊が起きている場合に比べて,発光強度が大きくなる。位置調節手段6は,光検出器5から得られた発光強度情報に基づいて,被加工部材10の表面でアブレーションが生じないように,集光光学系3と保持台4とのレーザビームの光軸方向に関する相対位置を調節する。このようにして,被加工部材10の表面に損傷を与えることなく,その内部にマーキングすることが可能になる。
【0025】 また,2本の部分ビーム12Aと12Bとに分割して微小領域13に集光するため,1本のレーザビーム11をそのまま集光する場合に比べて,被加工部材10の深さ方向に関するレーザ光の密度を,より微小な領域に集中させることができる。このため,変質する領域の深さ方向の長さを短くすることができ,変質領域が被加工部材10の表面まで達することを抑制することが可能になる。
【0026】 被加工部材10の深さ方向に関して,より微小な領域にレーザビームを集光させるためには,集光光学系3の対物レンズとして,なるべく開口数の大きなレンズを用いることが好ましい。
【0027】 なお,使用するレーザ光としては,被加工部材10との組み合わせにより適当なものを選択する。例えば,石英ガラスにマーキングする場合には,石英ガラスに対して透明な波長領域,すなわち赤外線領域,可視光線領域,もしくは紫外線領域の波長を有するレーザ光を使用することができる。また,一般的な板ガラスにマーキングする場合には,板ガラスに対して透明な波長領域,すなわち赤外線領域もしくは可視光線領域の波長を有するレーザ光を使用することができる。
また,ガラス以外にも,例えばシリコン基板等にマーキングしたい場合には,シリコン基板に対して透明な波長領域のレーザ光を用いればよい。
【0029】 さらに,レーザ光源1として,パルスレーザ装置を用いることにより,被加工部材10のマーキング部近傍の温度上昇を抑制することができる。このため,温度上昇による悪影響を回避し,マーキングされる深さ方向の位置を均一に揃えることが可能になる。なお,パルス幅の短いものを使用することが好ましい。
これは,熱的効果の大きさがパルス幅の平方根に比例するためである。具体的には, 1ナノ秒以下のパルス幅で発振するレーザ光源を用いることが好ましい。
【0036】 次に,図2を参照して,第2の実施例について説明する。 (A) 図2に示すように,第2の実施例においては,図1(A)のビーム分割手段2の代わりに,ビーム整形手段20を使用している。その他の構成は図1(A)の場合と同様である。
【図2】 【0039】 レーザビーム11をそのまま集光すると,光軸方向に関して比較的長い領域において,その光軸近傍の光強度がしきい値を超える。一方,レーザビーム21のように,その光軸近傍において光強度の弱いビームを集光する場合には,光軸方向に関してより短い領域でのみしきい値を超えるように制御することが容易になる。
【0040】 このため,被加工部材10の厚さ方向に関して,より短い領域にのみマーキングすることができ,クラックの表面への到達を抑制することが可能になる。
【0041】 被加工部材10の深さ方向に関して,より微小な領域にレーザビームを集光させるためには,集光光学系3の対物レンズとして,なるべく開口数の大きなレンズを用いることが好ましい。
【0071】 【発明の効果】 以上説明したように,本発明によれば,被加工部材の内部に局 所的にマーキングすることができる。マーキングによるクラックの発生が表面まで到達しないようにできるため,被加工部材の破片等が原因となるゴミの発生を抑制することができる。
イ 前記アからすると,甲5には,本件審決が認定した前記第2の3(2)エの甲5発明が記載されていると認められる。
(5) 甲7発明の認定 ア 2000年6月8日に公開された甲7(国際公開第00/32349号)には,次の事項が記載されていると認められる(日本語訳のみを掲記する。頁数等は甲7原文の本文(甲7の3枚目から始まるもの)における頁数等である)。なお,(ア)は, 「発明の背景」 (BACKGROUND OF THE INVENTION),(イ)〜(カ)は, 「発明の要旨」(SUMMARY OF THE INVENTION),(キ)及び(ク)は,「好ましい実施形態の詳細な説明」(DETAILED DESCRIPTION OF PREFERRED EMBODIMENTS)における記載である。
(ア) 3頁11行目〜18行目 出願人が知る限りでは,マーキングやイメージ形成技術とは対照的に,切断や穿孔といった産業への応用に用いられている真のマテリアルプロセシング技術において,体積光学破壊を用いることを記載した先行技術はない。ここでいう「マテリアルプロセシング」という用語の定義は,産業用レーザの用語法(溶接も含む。)において通常用いられており,本特許明細書の全体にわたって前提とされている。したがって,適当な物質における,光学的な体積破壊現象を,産業その他へ応用するために,新しい方法が深刻に求められている。
(イ) 3頁23行目〜4頁10行目 本発明は,光学的に透明な材料の体積光学破壊現象を利用してマテリアルプロセシングの新たな方法を提供しようとするものである。この現象は,レーザ波長の回折限界に近い集束スポットが材料内で得られるような高品質の集束対物レンズによって,10ピコ秒以下のレーザである超短パルスビームを,加工される材料の体積内に集束させたときに発生する。このような短い高ピークパワーパルスは,例えば, 一時的に圧縮される後方誘導ブリユアン散乱(SBS)Nd:YAGレーザから得ることができる。
このような高パワー密度は,1013watts/cm2のオーダーであり,材料は,光学破壊を起こす。その理由は,材料内でパワーに対する線形応答の遷移限界を超えた後,レーザ放射線が強く吸収されるからである。集中的なパワー密度のために,材料の原子及び分子の結合が破壊されると,材料は,ほぼ瞬時に分解してその最も基本的な構成要素,一般的に,高度にイオン化された構成原子に変化する。
(ウ) 6頁24行目〜7頁10行目 本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば,透明材料の超微細切断のための方法が提供される。この方法は,上記穿孔の実施例で説明したのと同様であるが,連続した切断溝が製造されるように互いに近接したさらなる穴を穿孔するさらなる工程を含んでいる。
あるいは,そして好ましくは,集束されたレーザビームは,切断する材料に対して複数回横断を実行するようにされる。レーザビームは,まず,材料の表面,そしてゆっくりと鋸運動により材料を徐々に下がっていき,所望であれば材料の厚さ分貫通する方向に延びる完全な切断溝を生成する。
本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば,レーザー放射に対して実質的に透明な材料の上にマテリアルプロセシングを行う方法が提供される。その方法は,材料の体積内へレーザ放射のパルスを収束する工程,材料が光学破壊を生じるようなパルスとする工程,所定の経路に沿って材料に対するレーザ放射のパルスの焦点を移動させる工程を含む。
(エ) 7頁21行目〜23行目 本発明のさらに好ましい実施形態によれば,また,上述したように,材料は,ガラス,プラスチック,宝石,または半導体であることを特徴とする方法が提供される。
(オ) 7頁30行目〜8頁4行目 本発明の好ましい実施形態によれば,上述したように,所定の経路に沿った材料に対するパルスレーザ放射の焦点の移動が,パルスレーザ放射の放出と,所定の方法で同期されることを特徴とする方法がまださらに提供される。
(カ) 9頁20行目〜10頁8行目 また,本発明のさらに別の好ましい実施形態によれば,レーザ放射に対して実質的に透明な材料のサンプルを通して穴を穿孔する方法が提供される。穴を穿孔する工程は,サンプルの体積内,つまり,レーザ放射が行われる表面から離れたサンプルの表面に近い場所へレーザ放射のパルスを収束する工程を含む。その工程では,100ピコ秒より短い幅のパルスにより,サンプルの材料は光学破壊を受け,サンプルの厚さに比べれば短い径の大きさの1番目の孔を生成し,レーザ放射が行われる表面から離れたサンプルの表面外で破壊される。また,穴を穿孔する工程は,レーザ放射が行われる表面から所定距離後方へレーザ放射のパルスの収束点を移動する工程を含む。その工程では,2番目の孔が,1番目の孔にちょうど入るような所定の距離の位置に材料の光学破壊により生成される。また,穴を穿孔する工程は,サンプルの厚さ分の連続する孔を生成するまで前記工程を繰り返すことを含む。
上述したように,材料は,ガラス,プラスチック,半導体,又は宝石であることを特徴とする方法も本発明の別の好ましい実施形態によって提供される。
(キ) 12頁27行目〜14頁3行目 この方法は,半導体産業において特に有用であり,半導体産業では,表面以外に非常に高解像度の識別マークを有するように,シリコンまたはガリウム砒素ウェーハをマークする必要性が存在している。表面にマークが必要ないのは,表面マーキングプロセスのデブリが,ウエハの処理段階の多くでは,要求される清浄度のレベルに悪影響を及ぼすからである。マークは,フォトレジスト及びエッチング法を使用して従来のマイクロリソグラフィ法によって適用することができるが,内部レーザーマーキング方法はマイクロリソグラフィ方法とは違い,非常に迅速で,簡単な1段階プロセスで,実施することができる。さらに,本発明のこの実施形態に記載 されたような,内部マーキング方法を利用すれば,必要以上の特徴を有する整頓されたウエハ表面を残すこととなる。本発明のこの実施形態のこの利点は,マーキングは,ウエハレベルではなくチップレベルで適用しなければならない場合に一層重要となる。なぜなら,チップ関連の不動産は高価値の商品だからである。シリコンが,約1.1μmから約5μmに対して実質的に透明の場合には,本実施形態の方法を実施するのには1.9μmのレーザパルスが適している。
本発明の別の好適な実施形態によるさらなる方法は,逆穿孔手順により,透明なサンプルに非常に平行な超微細孔を形成するために,体積光学破壊の効果を使用することである。この方法は,貫通孔が穿孔されるべきサンプルの他の面のちょうど内側に,上記第1の実施形態で記載されているような,超短パルス幅レーザを収束させる第1の工程,及び所定数のパルスを点火する工程からなる。体積光学破壊により,穿孔された狭い空隙または孔が生じ,ビーム方向において前方に,サンプルから離れる方に破片が射出される。この方法では,材料とレーザーとの相互作用機構は,光学破壊のことであることが知られている。なぜなら,プラズマのプルームは,あけられた穴の前端から排出されるからである。
形成された空隙はレーザー穿孔ビームの焦点サイズと同程度の大きさの直径を有し,プラスチック材料では主に1μmしかなく,ガラスまたはサファイアのようなより耐熱性のある材料では,2μmから3μmとなる。
次のステップでは,レーザの焦点位置を材料に応じて0.1-10μmの距離後方へ移動させ,別の一連のパルスが発射される。この空隙は,既存の空隙に結びつくように延びている。このようにして,完全な孔が,光学破壊の相互作用によってサンプルを貫通して穿孔されている。孔が逆穿孔されるので,排出される破片,プラズマ及びガスは,穿孔される際に,孔が拡がる原因とはならず,孔の大きさの良好な平行度,高均一性が得られることとなる。
(ク) 14頁21行目〜15頁8行目 本発明の別の好ましい実施形態によれば,多数の孔が相互に十分に近接して配置 されており,それにより,隣接する孔は互いに混ざり合い,所定の経路に沿った連続切断溝を生産することとなる透明材料の微細切断の方法が提供される。
あるいは,そして好ましくは,収束されたレーザビームは所定の経路に沿って,切断される材料を複数回横断することとなる。収束されたレーザビームの第1の横断は材料の表面において行われ,それからゆっくりと鋸運動により材料の下の方へ移動され,完全な切断溝を形成し,所望であれば材料の厚さを貫通するまで延ばすことができる。もしくは,切断は,サンプルの遠い側の表面から開始されてもよく,その場合は,鋸引きで形成された溝がレーザ照射が行われる表面の方へ上がっていくこととなる。本発明によれば,これらの切断方法は,特にダイヤモンド加工に有益である。なぜなら,最小の材料しか除去されないからである。また,これらの切断方法は,半導体産業においても有益である。なぜなら,半導体産業では,極端に微細で滑らかな切断溝が要求されるからである。これらの方法を利用すれば,0.2mmの厚さのガラスに10μm以下の切断幅を生成することが可能となる。
イ 前記アからすると,甲7には,本件審決が認定した前記第2の3(2)オの甲7発明が記載されていると認められる。
ウ 原告は, 「空隙」を「複数結びつかせる」というプロセスは,逆穿孔手順による超微細孔の形成の説明(前記ア(キ))において登場するもので,鋸運動による切断溝の形成の説明には登場しないから,鋸運動による切断溝の形成に係る発明を認定する場合には,「空隙」は「破壊された領域」と,「複数結びつかせる」は「形成する」とそれぞれ認定すべきである旨主張する。
しかし,鋸運動の実施例に係る「連続した切断溝が製造されるように互いに近接したさらなる穴を穿孔する」との記載(前記ア(ウ))や,「多数の孔が相互に十分に近接して配置されており,それにより,隣接する孔は互いに混ざり合い,所定の経路に沿った連続切断溝を生産することとなる」との記載(同(ク))からすると,本件審決における「空隙を形成し」「空隙を・・・複数結びつかせる」という甲7発明 ,の構成が,誤りであるとは認められない。
3 取消事由1(無効理由1に係る進歩性判断の誤り)について (1) 前記2(1)のとおり,本件審決の甲1発明の認定に誤りはない。
その上で,甲1発明と本件発明1とを対比すると,それらの間には,本件審決が認定した前記第2の3(3)アの一致点及び相違点が存在すると認められる。
(2) 相違点1について ア 甲1発明は,石英ガラスなどの透明材料について(前記2(1)ア(ア)),直線状又は円筒状の切断加工しかできないことや,炭酸ガスレーザを利用したレーザ切断機では溶断する厚さとして10mm程度が限界であることを従来技術の課題とし,厚板であっても自由な切断加工を可能とすることを目的とするものである(同(イ),(ウ))。これに対し,半導体材料からなるウェハ状の加工対象物は,通常,薄いものであって,厚板から複雑な形状に加工する必要性があるものとも解されない。
したがって,そのような加工対象物に甲1発明を適用することが直ちに動機付けられるとはいえないところ,甲1にはそのような動機付けとなり得る記載はなく,その他動機付けとなり得る事情も認められない。
したがって,相違点1が容易想到であるとは認められない。
イ 原告は,厚板であっても自由な切断加工を可能とする発明を,ウェハ状の加工対象を直線状に切断する加工に転用することは,当業者にとって容易であると主張するが,前記アで指摘した甲1発明の課題や目的を無視するものであって,上記主張は採用できない。また,原告は,甲1発明を半導体材料からなる加工対象物に適用できないという特段の事情もないと主張するが,阻害要因がないことから直ちに容易想到といえるものでもない。
(3) 相違点2について 本件発明1は,加工対象物内部に形成された改質領域を切断の起点として厚さ方向に向かって割れを発生させるものであるところ,甲1発明については,前記2(1)ウ(イ)のとおり,そのようなものとは認められないから,相違点2は,実質的な相違点である。
そして,原告が副引用例として主張する甲4発明,甲7発明,甲6発明及び甲3発明のうち,甲4発明は前記2(2)のとおり,甲7発明は前記2(5)のとおりであって,いずれも改質領域を切断の起点として厚さ方向に向かって割れを発生させるとの本件発明1の上記工程を開示するものではない。
また,甲6(特開昭53-148097号公報。昭和53年12月23日公開)に記載された甲6発明は,半導体ウェーハにレーザー光線を照射してその一部を溶融除去するに当たり,予熱工程と溝の形成工程の2段階を経ることで,ウェーハ材料に急激に熱が加わることを避け,ガラス保護膜に微小なクラックを生じさせないというものと認められ(甲6) 本件発明1の上記工程を開示するものとは認められ ,ない。
さらに,甲3(特開平11-267861号公報。平成11年10月5日公開)に記載された甲3発明についても,光透過性材料のマーキングに当たり,材料の表面の損傷を防ぐため,光透過性材料をガラス材料とし,より低い照射エネルギーのレーザー光を材料内部に集光させることによって,光学的性質の変化(屈折率その他任意の光学的特性の変化)を起こさせてマーキングを施すというものと認められ(甲3),本件発明1の上記工程を開示するものとは認められない。
したがって,甲1発明に甲4発明,甲7発明,甲6発明及び甲3発明を組み合わせても,当業者において,本件発明1の上記工程が容易想到であったとは認められない。
よって,相違点2が容易想到であったとは認められない。
(4) まとめ 以上によると,本件発明1は,その余の点について判断するまでもなく,甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないし,本件発明2〜31についても,当業者が容易に想到し得たというべき事情はない。したがって,取消事由1は認められない。
4 取消事由2(無効理由2に係る進歩性判断の誤り)について (1) 甲4発明は前記2(2)のとおり認定すべきであるから,甲4発明と本件発明1とを対比すると,それらの間には,本件審決が認定した前記第2の3(4)アの一致点及び相違点2,3が存在するほか,原告が主張する相違点1’が存在すると認められる。
(2) 相違点3について 相違点3について,本件審決が認定したとおり認められることは,前記(1)のとおりであり,これは実質的な相違点ということができる。
そして,原告が副引用例として主張する甲1発明,甲7発明,甲6発明及び甲3発明のうち,甲1発明は前記2(1)のとおりであり,甲7発明は前記2(5)のとおりであって,改質領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させるという本件発明1の工程を開示するものではない。甲6発明及び甲3発明が本件発明1の上記工程を開示するものと認められないことは,前記3(3)のとおりである。
したがって,甲4発明に甲1発明,甲7発明,甲6発明及び甲3発明を組み合わせても,当業者において,本件発明1の上記工程が容易想到であったとは認められない。
よって,相違点3が容易想到であったとは認められない。
(3) まとめ 以上によると,本件発明1は,その余の点について判断するまでもなく,甲4発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないし,本件発明2〜31についても,当業者が容易に想到し得たものというべき事情はない。したがって,取消事由2は認められない。
5 取消事由3(無効理由3に係る進歩性判断の誤り)について (1) 甲2発明は,前記2(3)のように本件審決が認定するとおりである。
その上で,甲2発明と本件発明1とを対比すると,それらの間には,本件審決が認定した前記第2の3(5)アの一致点及び相違点が存在すると認められる。
(2) 相違点1について ア 甲2発明は,ガラス物体,特に破断開封用アンプルを加工対象物とするものと認められる(甲2の段落【0001】〜【0006】【0011】【001 , ,3】及び【0014】)ところ,ガラス物体と半導体材料からなるウェハ状の加工対象物の性質が異なることは,明らかであるといえる。したがって,そのような加工対象物に甲2発明を適用することが直ちに動機付けられるとはいえないところ,甲2にはそのような動機付けとなり得る記載はなく,その他動機付けとなり得る事情も認められない。
したがって,相違点1が容易想到であるとは認められない。
イ 原告は,甲2発明が傷の発生を避けるとの効果を奏することを指摘するが,甲2の段落【0013】にいう「傷の発生」は,段落【0003】の記載に照らすと,アンプルを破断開封する際の破断縁による手の傷をいうものとみられるところであり,それが,甲2発明において避けられるものであるとしても,そのことから直ちに,それが切断予定ラインから外れた割れを生じさせないという本件発明1の効果と共通するものであるとはいえない。また,原告は,甲2の段落【0036】及び【0037】の記載や阻害要因がないことを主張するが,原告のそれらの主張は,相違点1について容易想到であることを基礎付けるに足りるものではない。
(3) 相違点3について 甲2発明については,ガラス物体に対してどのように力がかかって破断開封がされるものか等が明らかにされていないから,甲2発明において形成される破断点が,切断の起点となっているのかどうかは明らかでなく,甲2発明におけるガラス物体の破断の工程が,改質領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させるという本件発明1における切断の工程と同様に, 「破断点」である微小亀裂を起点とするものであるとは認められない。
そして,原告が副引用例として指摘する甲1発明,甲6発明,甲3発明及び甲4発明のうち,甲1発明は前記2(1)のとおり,甲4発明は前記2(2)のとおりであっ て,本件発明1の上記工程を開示するものではない。甲6発明及び甲3発明が本件発明1の上記工程を開示するものと認められないことは,前記3(3)のとおりである。
したがって,甲2発明に甲1発明,甲6発明,甲3発明及び甲4発明を組み合わせても,当業者において,本件発明1の上記工程が容易想到であったとは認められない。
よって,相違点3が容易想到であったとは認められない。
(4) まとめ 以上によると,本件発明1は,その余の点について判断するまでもなく,甲2発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないし,本件発明2〜31についても,当業者が容易に想到し得たものというべき事情はない。したがって,取消事由3は認められない。
6 取消事由4(無効理由4に係る進歩性判断の誤り)について (1) 甲5発明は,前記2(4)のように本件審決が認定するとおりである。
その上で,甲5発明と本件発明1とを対比すると,それらの間には,本件審決が認定した前記第2の3(6)アの一致点及び相違点が存在すると認められる。
(2) 相違点2について ア 甲5発明は,マーキングに関する発明であるところ,従来の技術では,被加工部材の表面に損傷を生じたり,レーザ光を集光してマーキングを行う方法では薄板状の被加工部材にマーキングをするとクラックが表面まで到達してしまうといった問題があること(甲5の段落【0002】〜【0004】)を踏まえ,薄板状の被加工部材にマーキングする際に表面まで達するクラックの発生を制御することを目的とするものである(段落【0005】。
) そして,発明の実施の形態としても,変質領域が被加工部材の表面まで達することを避けるための構成が示されており(段落【0023】【0025】【0026】【0029】【0040】【004 , , , , ,1】,発明の効果においても,クラックの発生が表面まで到達しないことが示され ) ている(段落【0071】。
) 上記のように,甲5発明は,あくまでマーキングを目的としたもので,切断を前提としておらず,かつ,変質領域が被加工部材の表面まで達することを避けるという,切断とは逆方向の技術的思想を有するものであるから,加工対象物を切断するために甲5発明を適用することが動機付けられるとはいえず,その他動機付けとなり得る事情も認められない。
したがって,甲5発明を,本件発明1のような切断のための方法として適用することが,当業者において容易想到であったとはいえない。
そして,原告が副引用例として主張する甲1発明,甲3発明,甲6発明及び甲4発明のうち,甲1発明は前記2(1)のとおり,甲4発明は前記2(2)のとおりであって,改質領域を起点として加工対象物の厚さ方向に向かって割れを発生させるという本件発明1の工程を開示するものではない。甲3発明及び甲6発明が本件発明1の上記工程を開示するものと認められないことは,前記3(3)のとおりである。
したがって,甲5発明に甲1発明,甲3発明,甲6発明及び甲4発明を組み合わせても,当業者において,本件発明1の上記工程が容易想到であったとは認められない。
よって,相違点2が容易想到であるとは認められない。
イ 原告は,当業者においては, 「マーキング」と「切断」とを,同じレーザ加工方法下位概念に分類される近縁の加工方法として認識していたもので,材料内部のレーザ加工をいずれの方法に適した態様で行うかは,レーザのパラメータを調整する等,適宜設計可能な事項にすぎなかった旨を主張する。
しかし,本件発明1は,甲5発明とは上記のとおり異なるものであって,これが当業者にとって適宜設計可能な事項にすぎなかったというべき事情は認められない。
(3) まとめ 以上によると,本件発明1は,その余の点について判断するまでもなく,甲5発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないし,本件発明2〜 31についても,当業者が容易に想到し得たものというべき事情はない。したがって,取消事由4は認められない。
7 取消事由5(無効理由5に係る進歩性判断の誤り)について (1) 前記2(5)のとおり,本件審決の甲7発明の認定に誤りはない。
その上で,甲7発明と本件発明1とを対比すると,それらの間には,本件審決が認定した前記第2の3(7)アの一致点及び相違点が存在すると認められる。
(2) 相違点3について 相違点3についての進歩性判断の誤りをいう原告の主張は,本件審決の甲7発明の認定に誤りがあることを前提とするものであるが,それに誤りが認められないことは,前記2(5)のとおりであるから,原告の上記主張は前提を欠くものであって採用できない。
甲7発明は,空隙を複数結びつかせることによって材料を切断する方法を開示するものであって,空隙を切断の起点とすることを開示するものではなく,甲7発明における切断の工程が,加工対象物である材料の内部に切断の起点となる領域を形成するという本件発明1の工程と共通するものであるとはいえず,甲7に,そのような本件発明1の工程を示唆する記載は見当たらない。
そして,原告が副引用例として主張する甲1発明,甲6発明,甲3発明及び甲4発明のうち,甲1発明は前記2(1)のとおり,甲4発明は前記2(2)のとおりであって,本件発明1の上記工程を開示するものではない。甲6発明及び甲3発明が本件発明1の上記工程を開示するものと認められないことは,前記3(3)のとおりである。
したがって,甲7発明に甲1発明,甲6発明,甲3発明及び甲4発明を組み合わせても,当業者において,本件発明1の上記工程が容易想到であったとは認められない。
よって,相違点3が容易想到であったとは認められない。
(3) まとめ 以上によると,本件発明1は,その余の点について判断するまでもなく,甲7発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないし,本件発明2〜31についても,当業者が容易に想到し得たものというべき事情はない。したがって,取消事由5は認められない。
結論
以上の次第で,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 佐野信
裁判官 中島朋宏
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