関連審決 | 不服2018-17153 |
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事件 |
令和
2年
(行ケ)
10005号
審決取消請求事件
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原告 特種東海製紙株式会社 同訴訟代理人弁理士 実広信哉 塩尻一尋 被告 特許庁長官 同 指定代理人横溝顕範 間中耕治 井上茂夫 河本充雄 小出浩子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2020/11/10 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2018-17153号事件について令和元年12月4日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,平成25年12月26日,発明の名称を「ガラス板合紙用木材パルプ及びガラス板用合紙」とする特許出願(特願2014-554542。優先権主張:平成24年12月27日,日本国,平成25年4月18日,日本国。請求項の数15。)をしたが(甲2の3),平成30年9月28日付けで拒絶査定を受けた(甲6)。 ? 原告は,平成30年12月25日,これに対する不服審判の請求をし(甲7),特許庁は,同請求を不服2018-17153号事件として審理した。 原告は,令和元年10月25日付け手続補正書により,特許請求の範囲を補正した(甲10。請求項の数7。以下「本件補正」という。。 ) ? 特許庁は,令和元年12月4日,本件審判請求は成り立たないとする別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年12月16日に原告に送達された。 ? 原告は,令和2年1月15日,本件審決の取消しを求める本件訴えを提起した。 2 特許請求の範囲の記載 本件審決が対象とした本件補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(甲10)。 以下,請求項1に係る発明を「本願発明1」という。また,その明細書(甲2の3)を,図面を含めて「本件明細書」という。 【請求項1】 木材パルプを原料とするガラス板用合紙であって,紙中に含まれるシリコーンの量が,紙の絶乾質量に対して0.5ppm以下であるガラス板用合紙。 3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本願発明1は,下記引用例1に記載された発明(以下「先願発明」という。)と同一であり,特許法184条の13の規定により読み替える同法29条の2の規定により,特許を受けることができない,というものである。 引用例1:特願2012-280085号(甲1の1。出願日:2012年12月21日。PCT/JP2013/083992(国際公開日:2014年6月26日)の優先権主張に係るもの。以下,その願書に最初に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面を「甲1明細書」という。) ? 本件審決が認定した先願発明並びに本願発明1と先願発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す。 ア 先願発明 ガラス合紙であって,ガラスは,液晶ディスプレイ用ガラス板などのFPD用のガラス板であり,このガラス合紙は,ガラス板の表面の疵や汚染を防止するために,積層するガラス板の間に挟み込み,隣接するガラス板の表面同士を分離するものであり,/ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケイ素化合物が,配線等の不良の大きな原因となることから,有機ケイ素化合物の含有量が3ppm以下のガラス合紙とすることにより,有機ケイ素化合物に起因する配線の不良発生等を低減させることができ,有機ケイ素化合物の含有量は,より好ましくは1ppm以下であり,少ない程,好ましく,有機ケイ素化合物の含有量の下限には限定は無いが,ガラス合紙から有機ケイ素化合物を完全に取り除くのは困難であり,有機ケイ素化合物の含有量が極端に少ないガラス合紙は,製造に手間やコストがかかるため,有機ケイ素化合物の含有量は,0.05ppm以上であるのが好ましく,/有機ケイ素化合物は,シリコーンのポリジメチルシロキサンである,/ガラス合紙。 イ 本願発明1との一致点 パルプを原料とするガラス板用合紙 ウ 本願発明1との相違点 (ア)相違点1 本願発明1の「ガラス板用合紙」のパルプが「木材パルプ」であるのに対し,先願発明のガラス合紙のパルプが「木材パルプ」であるか特定されていない点。 (イ)相違点2 本願発明1が「紙中に含まれるシリコーンの量が,紙の絶乾質量に対して0.5ppm以下」であるのに対し,先願発明は「有機ケイ素化合物の含有量は,より好ましくは1ppm以下であり,少ない程,好ましく,有機ケイ素化合物の含有量の下限には,限定は無いが,ガラス合紙から有機ケイ素化合物を完全に取り除くのは,困難であり,有機ケイ素化合物の含有量が極端に少ないガラス合紙は,製造に手間やコストがかかるため,有機ケイ素化合物の含有量は,0.05ppm以上であるのが好まし」いとされている点。 4 取消事由 先願発明に基づく特許法29条の2の判断の誤り ? 先願発明が発明として未完成であることの看過(主位的主張) ? 先願発明の認定の誤り(予備的主張1) ? 相違点2の判断の誤り(予備的主張2) |
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当事者の主張
〔原告の主張〕 1 先願発明が発明として未完成であることの看過(主位的主張) ? 特許出願に係る発明が特許法29条の2により特許を受けることができないとされるには,当該特許出願の日前の他の特許出願に係る発明が完成した発明として開示されていること,すなわち,当該特許出願に係る明細書において,当業者が反復実施して目的とする技術効果を挙げる程度にまで当該発明が具体的・客観的なものとして記載されていることが必要である。そして,上記の程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていないいわゆる未完成発明は,特許法29条の2にいう「他の特許出願‥の発明」に当たらず,後願排除効を有さない。 ? 先願発明は,ガラス合紙に含まれる「有機ケイ素化合物」の含有量を3ppm以下とすることをその技術思想としているが,甲1明細書の実施例によれば,@ガラス合紙からの抽出物の抽出時間が不明であるから,ガラス合紙中の「有機ケイ素化合物」の含有量を特定することはできない。また,A実施例に示されている抽出操作は,抽出溶媒及び抽出時間が不明であるから,実施することができない。さらに,B有機ケイ素化合物が具体的に何であるかが不明である上,C核磁気共鳴(NMR)による定量の際の標準品について記載がなく,標準品を作製することも検量線を決定することもできないから,原理的に有機ケイ素化合物を定量することができない。したがって,先願発明の技術的思想は完成していない。 ? 先願の出願人は製紙企業ではないから,甲1明細書の図1及び図2に示されるような製紙設備を有さず,実施例に記載されたガラス合紙を製造する能力を有しない蓋然性が高い。甲1明細書の実施例は具体性を欠き,記載されたガラス合紙の作製を先願の出願人が実際に行ったのかについて少なからず疑義が生じることからも,先願発明の技術的思想が完成していないことが推認されるというべきである。 そうすると,甲1明細書の実施例以外の部分をみても,先願発明の技術的思想が完成していたとはいえない。 ? 甲1明細書の実施例に記載された「有機ケイ素化合物」がポリジメチルシロキサンであったと推測することはできない。 すなわち,本件明細書の実施例(【0071】)ではポリジメチルシロキサンを標準品として作成された検量線を使用して「シリコーン」を定量しているので,当該「シリコーン」がポリジメチルシロキサンであることは明らかである。仮に,被告の主張するように,甲1明細書の実施例に記載の「有機ケイ素化合物」がポリジメチルシロキサンであったとすると,同量のポリジメチルシロキサンを含むガラス合紙は同一の実験結果をもたらすはずであるから,例えば,2ppmのポリジメチルシロキサンを含むガラス合紙について本件明細書の実施例と甲1明細書の実施例において同一の実験が行われていたとすれば,理論上は,同一の結果となる。 しかし,本件明細書の実施例(【0079】)では,ポリジメチルシロキサン含有量が2ppmのガラス合紙(比較例1)を使用するとガラス板の表面にポリジメチルシロキサンによる汚染が確認され,また,当該ガラス板を用いた液晶パネルのアレイ形成の際にカラーフィルムの断線が認められ,甲1明細書の実施例(【0060】)では,「有機ケイ素化合物」含有量が2ppmのガラス合紙(実施例1)を使用したガラス板の表面に配線を形成しても断線は認められないとされ,同じ2ppmのポリジメチルシロキサン又は「有機ケイ素化合物」を含むガラス合紙について異なる実験結果となっている。このことからは,甲1明細書の実施例で使用されている「有機ケイ素化合物」がポリジメチルシロキサンではないことが推察されるというべきである。 ? よって,先願発明は未完成であり,後願排除効を有さない。 2 先願発明の認定の誤り(予備的主張1) 本件審決では,先願発明の「有機ケイ素化合物」がポリジメチルシロキサンであると認定されている。 しかし,「発明」とは,技術的思想に基づくものであるから,ある刊行物に記載された事項を先行技術である発明として認定するためには,それが目的とする内容を実際に達成するための実質的な裏付けが必要である。甲1明細書の実施例には「有機ケイ素化合物」がポリジメチルシロキサンであるとは特定されておらず,そもそも「有機ケイ素化合物」が何であるかすら不明であるから,甲1明細書のポリジメチルシロキサンに関する記載は裏付けのない文言にすぎず,実質的に先願発明が開示されていないから,発明を認定することはできない。 よって,本件審決が先願発明につき上記のとおり認定したことは誤りである。 3 相違点2の判断の誤り(予備的主張2) ? 引用例1の記載によれば,先願発明では,有機ケイ素化合物の含有量は「3ppm以下」とされ,「1ppm以下」は単に好ましい範囲として示されているにすぎない。したがって,相違点2のうち,有機ケイ素化合物の含有量の上限値が1ppmであるかのように認定する部分は誤りであり,当該部分は,「ポリジメチルシロキサンの含有量は3ppm以下であり,より好ましくは1ppm以下であり」と認定すべきである。 ? 本願発明1に係るガラス合紙に含まれ得るシリコーンの量は,紙の絶乾質量に対して0.5ppmであるのに対し,先願発明に係るガラス合紙に含まれ得るポリジメチルシロキサンの量3ppmよりも少ないから,そのことからして,本願発明1と先願発明は同一でない。 そして,本願発明1に係るガラス合紙は,含まれるシリコーンの量が先願発明に係るガラス合紙よりも少ないので,ガラス合紙がガラス板と接触する際に転写するシリコーンの量をより低減することができ,それにより,ガラス板表面のシリコーンによる汚染をより抑制し,シリコーンに起因するガラス板上での回路断線等の不都合をより抑制するという新たな効果を奏することが可能である。実際に,甲1明細書の実施例には「有機ケイ素化合物」の含有量が2ppmである実施例1のガラス合紙はガラス板上での回路断線等の不都合を引き起こさない旨が記載されているが,本件明細書の実施例にはシリコーン含有量が2.0ppmである比較例1のガラス合紙はガラス板上での回路断線の不都合を引き起こすことが示され,本件明細書の実施例1(シリコーン含量0.01ppm未満)のガラス合紙及び実施例2(シリコーン含量0.4ppm)のガラス合紙はガラス板上での回路断線等の不都合を引き起こさない。 そうすると,相違点2は課題解決のための微差とはいえず,本願発明1と先願発明が実質的に同一であるともいえない。 ? 甲1明細書には,ポリジメチルシロキサンの含有量0.05ppm程度のガラス合紙が実質的に開示されていないから,甲1明細書【0028】の「0.05ppm以上であるのが好ましい」という記載に基づいて「先願発明のガラス合紙は,有機ケイ素化合物であるシリコーンの含有量が0.5ppmより微量の0.05ppm程度であるガラス合紙を含む」と認定することはできず,また,【0027】の「より好ましくは1ppm以下」の記載が0.5ppm以下を意味するものと認定することも,字義的に無理がある。 ? よって,本件審決が相違点2は実質的なものでないとした判断は,誤りである。 〔被告の主張〕1 先願発明が発明として未完成であること(主位的主張)について? 特許法29条の2にいう先願発明に求められる技術内容の開示の程度は,当業者が,先願発明がそこに示されていること及びそれが実施可能であることを理解し得る程度に記載されていれば足りるところ,甲1明細書には,先願発明が示され,有機ケイ素化合物の含有量を少なくする複数の具体的に示された方法により,当業者において反復可能で実施可能な技術思想として明確に示されている 【0031】 ( ,【0032】【0039】〜【0045】。 , ) ? 甲1明細書の実施例にガラス合紙からの抽出物の抽出時間が明記されていないとしても,当業者であれば,抽出物が一定となる程度に十分長い時間を抽出時間に設定していることは明らかである。同様に,抽出溶媒が明記されていないとしても,溶質である「有機ケイ素化合物」を溶かし得る媒質が抽出溶媒として選択されていることは明らかである。また,甲1明細書の実施例に記載された「有機ケイ素化合物」がポリジメチルシロキサンであることは,実施例以外の記載から明らかであり,このことが分かれば,標準品や検量線について明記されていなくても,当業者であれば定量作業が可能である。 よって,原告の主張は失当である。 2 先願発明の認定の誤り(予備的主張1)について 甲1明細書には,有機ケイ素化合物の含有量が3ppm以下のガラス合紙が記載され,「有機ケイ素化合物」の中でもシリコーンの「ポリジメチルシロキサン」であると,より配線や電極の不良等が発生しやすくなることが特記されている。 そうすると,当業者であれば,甲1明細書には有機ケイ素化合物の中でも「ポリジメチルシロキサン」の含有量が3ppm以下のガラス合紙が開示されていると認識できる。したがって,甲1明細書には,ポリジメチルシロキサンの含有量が3ppm以下のガラス合紙が実質的に記載されている。 よって,これと異なる旨をいう原告の主張は失当である。 3 相違点2の判断の誤り(予備的主張2)について ? 先願発明の「ポリジメチルシロキサン」の含有量である「3ppm以下‥より好ましくは1ppm以下」との事項は,「3ppm以下」又は「1ppm以下」のいずれかを選択し得るものであり,本件審決が引用発明として「より好まし」い方の「1ppm以下」を選択し,本願発明1との相違点2を認定したことに誤りはない。 ? 甲1明細書の記載によれば,当業者であれば,パルプを洗浄する方法やパルプ自体にシリコーン系の消泡剤を使用しないで製造する方法等を複数回行うことにより,少ないほど好ましいとされる含有量のうち,製造上の手間やコストを考慮した中では最適な含有量である「0.05ppm」にすることが実施可能であると認識できる。そうすると,先願発明のガラス合紙は,ポリジメチルシロキサンの含有量が少なくとも0.5ppm〜0.05ppmの数値範囲を含むといえるから,相違点2は実質的なものではない。 |
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当裁判所の判断
1 本願発明1について ? 本件明細書の記載 本件明細書(甲2の3)には,以下の記載がある。 ア 技術分野及び背景技術 【0001】本発明は,液晶ディスプレイ,プラズマディスプレイ,有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)ディスプレイ等のフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板を複数枚積層して保管,運搬する過程において,ガラス板を包装する紙,及び,ガラス板の間に挟み込む紙,並びに,これらの紙の製造に使用される木材パルプに関するものである。 【0002】一般に,フラットパネル・ディスプレイ用のガラス板を,複数枚積層して保管する過程,トラック等で運搬する流通過程等において,ガラス板同士が衝撃を受けて接触して擦れ傷が発生し,また,ガラス表面が汚染するのを防止する目的でガラス板の間に合紙と称される紙を挟み込むことが行われている。 【0003】フラットパネル・ディスプレイ用のガラス板は,一般の建築用窓ガラス板,車両用窓ガラス板等に比べて,高精細ディスプレイ用に使用されることから,ガラス表面は紙表面に含まれる不純物が極力無いクリーンな表面を保持していること,また,高速応答性や視野角拡大のために平坦度に優れていることが求められる。 【0004】このような用途に使用される合紙としては,ガラス板の割れや表面の傷つきを防止できる合紙,また,ガラス表面を汚染しない合紙として,既にいくつか提案されている。例えば,特許文献1には,合紙の表面にフッ素コーティング皮膜を形成する手法が開示されている。また,特許文献2には,ポリエチレン系樹脂製発泡シートとポリエチレン系樹脂製フィルムが貼合された合紙が,特許文献3には,さらしケミカルパルプ50質量%以上を含有するパルプからなる紙であって,特定のアルキレンオキサイド付加物や水可溶性ポリエーテル変性シリコーンを含有するガラス用合紙が,そして,特許文献4には,紙中の樹脂分の量を規定し,ガラス表面の汚染に考慮した原料を使用したガラス板合紙がそれぞれ開示されている。 【0006】しかし,これらの合紙によってフラットパネル・ディスプレイ用のガラス板表面の汚染を完全に防げるわけではなく,場合によっては,何らかの原因によるガラス板表面の汚染のため,ガラス板の欠陥率が上昇することがあるのが実状である。 【0007】特に最近は採算性の観点から,フラットパネル・ディスプレイ等の製造工程において高い歩留まりが求められ,フラットパネル・ディスプレイ用に使用されるガラス板表面の汚染をいかに防止するかが重要である。 イ 課題 【0008】本発明は,高い清浄度及び傷品位が要求されるフラットパネル・ディスプレイ用の基板材料として用いられるガラス板向けの,当該ガラスの表面の汚染を格段に防止可能な合紙,並びに,当該合紙用の木材パルプを提供することを課題とする。 ウ 課題を解決するための手段 【0009】例えばTFT液晶ディスプレイの製造工程の一つであるアレイ工程のカラーフィルター基板作製時に,ガラス板表面が汚染されている場合,断線等の問題が生じることが知られている。カラーフィルター基板は,ガラス板に半導体膜,ITO膜(透明導電膜),絶縁膜,アルミ金属膜等の薄膜をスパッタリングや真空蒸着法等で形成して作製されるが,ガラス板表面に汚染物質が存在すると薄膜から形成した回路パターンに断線が生じたり,絶縁膜の欠陥による短絡が生じるからである。また,カラーフィルター基板の作製において,ガラス板にフォトリソグラフィによるパターンを形成するが,この工程でレジスト塗布時のガラス板面に汚染物質が存在すると,露光や現像後のレジスト膜にピンホールが生じ,その結果断線や短絡が生じる。同様な問題が有機ELディスプレイの製造でも確認されている。有機ELディスプレイはガラス基板にITO陽極,有機発光層,陰極等の薄膜をスパッタリングや蒸着や印刷等で形成して作製されるため,ガラス基板表面に薄膜を阻害する異物が存在すると非発光となる問題が生じる。 このようなガラス板の汚染原因は特定が困難であったが,その原因がガラス板用合紙に含まれるシリコーンであることが本発明者らの検証によって初めて判明した。 【0010】そこで,本発明者らは,ガラス板用合紙(以下,「ガラス板合紙」ともいう)の製造に使用される木材パルプ中のシリコーンの含有量を一定以下にすること,そして,ガラス板用合紙中のシリコーンの含有量を一定以下にすることで上記課題を解決できることを見出し,本発明を完成した。 【0016】本発明の第二の態様は,木材パルプを原料とするガラス板用合紙であって,紙中に含まれるシリコーンの量が,紙の絶乾質量に対して0.5ppm以下であるガラス板用合紙に関する。 【0017】ガラス板用合紙中に含まれるシリコーンの量は,紙の絶乾質量に対して0.1ppm以下であることが好ましい。 【0018】前記シリコーンはシリコーン油であることが好ましい。 【0019】前記シリコーン油はジメチルポリシロキサンであることが好ましい。 エ 効果 【0023】‥本発明のガラス板用合紙はガラス板へのシリコーン転写を抑制乃至回避することができる。このように,ガラス板へのシリコーン転写を抑制乃至回避することにより,TFT液晶ディスプレイ等の製造工程においてカラーフィルム等の回路断線を防止することが可能となる。 オ 発明を実施するための形態 【0024】ガラス板へ合紙が使用される際に,合紙中のシリコーンがガラス板へ転写する傾向があり,特に,シリコーン含量が0.5ppmを超える木材パルプからなる合紙,或いは,紙中のシリコーン含量が0.5ppmを超える合紙をガラス板に使用すると,ガラス板へ転写するシリコーン量が著しく増加し,その結果,パネル形成時の問題を引き起こすことが今回明らかとなった。したがって,本発明のガラス板合紙用木材パルプは,木材パルプ中に含まれるシリコーンの量が,木材パルプの絶乾質量に対して0.5ppm以下である。これにより,本発明の木材パルプからなるガラス板合紙のシリコーン含有量を0.5ppm以下とすることができる。また,本発明のガラス板用合紙は,木材パルプからなるガラス用合紙であって,紙中に含まれるシリコーンの量が,紙の絶乾質量に対して0.5ppm以下である。なお,本発明において「絶乾」とは,乾燥により被乾燥対象物中に水分が実質的に存在しない状態を意味しており,例えば, 「絶乾」状態の物体の室温(25℃)での1時間当たりの重量変化は1%以下,好ましくは0.5%以下,より好ましくは0.1%以下である。 【0025】一般に,木材パルプ中にはシリコーンが含有されていることが多い。これは,木材パルプの製造過程,特に洗浄工程,において泡の発生による洗浄能力の低下を防ぐために使用される消泡剤としてシリコーン系消泡剤が多用されるからであり,このシリコーン系消泡剤由来のシリコーンがパルプに残存する。 シリコーン系消泡剤は,例えば,シリコーンオイル及び疎水性シリカの混合物に変性シリコーン,界面活性剤等を混合して製造される。 【0026】したがって,ガラス合紙のシリコーンの含有量を0.5ppm以下とするためには,特に合紙の原料となる木材パルプがシリコーンを多く含まないことが重要である。本発明の第一の態様において,合紙の原料となる木材パルプ中のシリコーンの含有量を0.5ppm以下とする手段は特に限定されるものではないが,木材パルプ製造時に使用する消泡剤として非シリコーン系消泡剤を使用することが好ましい。 【0044】本発明においては,木材パルプ,ひいては当該木材パルプからなるガラス板合紙,に含まれるシリコーンの量が,木材パルプ又は合紙の絶乾質量に対して0.4ppm以下であることが好ましく,0.3ppm以下がより好ましく,0.2ppm以下が更により好ましく,0.1ppm以下であることが特に好ましい。0.1ppmを超える量のシリコーンが存在する場合,携帯端末など非常に高精細なディスプレイを必要とする場面において,ガラスに転移した微量のシリコーンが要因で発生するカラーフィルムの断線箇所が高精彩であるが故に目立ち,品質不良と判断されてしまうおそれが高まるからである。 【0046】本発明におけるシリコーンとしては,シリコーン油が挙げられる。 シリコーン油は疎水性であり,その分子構造は,環状,直鎖状,分岐状のいずれであってもよい。シリコーン油の25℃における動粘度は,通常,0.65〜100,000mm 2 /sの範囲であるが,0.65〜10,000mm 2 /sの範囲でもよい。 【0047】シリコーン油としては,例えば,直鎖状オルガノポリシロキサン,環状オルガノポリシロキサン,及び,分岐状オルガノポリシロキサンが挙げられる。 【0048】直鎖状オルガノポリシロキサン,環状オルガノポリシロキサン,及び,分岐状オルガノポリシロキサンとしては,例えば,下記一般式(1) (2) ,及び(3): R 1 3 SiO-(R 1 2 SiO) a -SiR 1 3 (1) R 1 (4-c) Si(OSiR 1 3 ) c (3)(式中,R 1 は,それぞれ独立して,水素原子,水酸基,或いは,置換若しくは非置換の一価炭化水素基,アルコキシ基で示される基から選択される基であり,aは,0〜1000の整数であり,bは3〜100の整数であり,cは1〜4の整数,好ましくは2〜4の整数である)で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられる。 【0049】置換若しくは非置換の一価炭化水素基は,典型的には,置換若しくは非置換の,炭素原子数1〜30,好ましくは炭素原子数1〜10,より好ましくは炭素原子数1〜4の一価の飽和炭化水素基;置換若しくは非置換の,炭素原子数2〜30,好ましくは炭素原子数2〜10,より好ましくは炭素原子数2〜6の一価の不飽和炭化水素基;炭素原子数6〜30,より好ましくは炭素原子数6〜12の一価の芳香族炭化水素基である。 【0050】炭素原子数1〜30の一価の飽和炭化水素基としては,例えば,メチル基,エチル基,n-プロピル基,イソプロピル基,n-ブチル基,イソブチル基,sec-ブチル基,tert-ブチル基,ペンチル基,ヘキシル基,ヘプチル基,オクチル基,ノニル基,デシル基等の直鎖又は分岐状のアルキル基,並びに,シクロペンチル基,シクロヘキシル基,シクロヘプチル基,シクロオクチル基等のシクロアルキル基が挙げられる。 【0058】本発明におけるシリコーン油としては,ジメチルポリシロキサン,ジエチルポリシロキサン,メチルフェニルポリシロキサン,ポリジメチル-ポリジフェニルシロキサンコポリマー,ポリメチル-3,3,3-トリフルオロプロピルシロキサン等が好ましい。本発明におけるシリコーンとしては,ジメチルポリシロキサンが典型的である。 カ 実施例 【0071】(1)シリコーンの定量測定 合紙を約1cm四方に切断し,へキサンを用いて約3時間半ソックスレー抽出を行った。得られた抽出物をロータリーエバポレーターにて凝縮し,これを重クロロホルム1mLに再溶解させて 1 H-NMR測定を行った。この定量にあたり,検量線作成のためにポリジメチルシロキサンの重クロロホルム溶液を標準品として絶対検量法で定量を行った。なお,NMR装置はAVANCE500型(ブルーカーバイオスピン社製)を用いた。 【0072】(2)ガラスへの転写試験(輸送テスト) アルミ製で75度の角度がつけられたL 字架台上のガラス載置面に発泡ウレタンを敷き,ガラス板を垂直方向に載置するための載置面と,載置面の後端部から垂直方向に延びる背もたれ面に向けて,サイズ680mm×880mm×0.7mmのガラス板120枚と各ガラス板の間にガラス板合紙を挿入して,背もたれ面に平行となるように立てかけ,架台に固定された帯状のベルトを後端部から背もたれ面へ全周にわたり掛け渡してガラス板を固定した。上記のようにセットされた架台は,外部からの埃や塵等の混入を防ぐため包装資材で全面を被覆した。 その後,トラックでの輸送テストを実施した。輸送テスト条件は,輸送距離1000km(輸送途中に40℃×95%RHの環境下に5日間保管)でテストを実施した。その後,ガラス板表面のシリコーンの有無をFT-IR分析により確認した。 【0073】[木材パルプの製造] 蒸解工程と,洗浄工程と,酸素脱リグニン反応工程と,二酸化塩素及び過酸化水素による多段晒漂白工程とからなる針葉樹晒クラフトパルプの製造装置において,蒸解工程後にノットを除去した直後のドラムウォッシャーの洗浄液に使用される消泡剤として非シリコーン系の消泡剤である鉱物油系消泡剤「プロナールA5044」(東邦化学社製)の原液を適量連続添加した。また,プレス洗浄の工程でウォッシュプレスに添加される消泡剤として同じく「プロナールA5044」を適量加えた。以上のように,製造工程中で非シリコーン系消泡剤を使用した針葉樹晒クラフトパルプAを得た。 【0074】また,消泡剤としてシリコーン系消泡剤「SNデフォーマー551K」(サンノプコ社製)を使用した以外は上記と同様にして針葉樹晒クラフトパルプBを得た。 【0075】[実施例1] 木材パルプとして針葉樹晒クラフトパルプAを100質量部用意し,これを離解して叩解度を520mlc.s.f.に調製したスラリーに紙力増強剤としてポリアクリルアミド(商品名:ポリストロン1250,荒川化学工業社製)を全パルプ質量に対して0.4質量部添加し,0.4%濃度のパルプスラリーを調成した。これを,長網抄紙機を使用して,坪量50g/m 2 のガラス板合紙を得た。 【0076】[実施例2] 木材パルプとして針葉樹晒クラフトパルプA80質量部と針葉樹晒クラフトパルプB20質量部を混合したものを使用した以外は実施例1と同様の手法で,坪量50g/m 2 のガラス板合紙を得た。 【0077】[比較例1] 針葉樹晒クラフトパルプB100質量部を使用した以外は実施例1と同様の手法,坪量50g/m 2 のガラス板合紙を得た。 【0078】実施例及び比較例で得たガラス板合紙のシリコーン含有量を表1に示す。ガラス板合紙のシリコーン含有量は,当該合紙の製造に使用された木材パルプ中のシリコーン含有量をも表す。 【表1】 【0079】実施例及び比較例で得たガラス板合紙のガラス板への転写を輸送テストにて確認したところ,実施例1の合紙を用いたガラス板の表面にはシリコーンが全く検出されなかった。実施例2の合紙を用いたガラス板の表面にはシリコーンが僅かに確認されたものの,当該ガラス板を用いた液晶パネルのアレイ形成の際に,カラーフィルムの断線が認められなかった。比較例1の合紙を用いたガラス板の表面には,シリコーンによる汚染が確認された。当該ガラス板を用いた液晶パネルのアレイ形成の際に,カラーフィルムの断線が認められた。 【0080】以上の結果から,本発明の木材パルプ中に含まれるシリコーンの量は木材パルプの絶乾質量に対して0.5ppm以下であるために,本発明の木材パルプからなる本発明のガラス板合紙も0.5ppm以下のシリコーン含有量しかなく,したがって,当該ガラス板合紙からガラス板へのシリコーンの転移を防止することができ,その結果,液晶パネルのアレイ形成を好適に行うガラス板を製造することが可能となることが分かる。 ? 本願発明1の特徴 ア 本願発明1は,フラットパネル・ディスプレイ用のガラス板を複数枚積層し保管,運搬する過程において,ガラス板同士が衝撃を受けて接触して擦れ傷が発生し,また,ガラス表面が汚染するのを防止する目的で,ガラス板の間に挟み込む,合紙と称される紙に関するものである。 フラットパネル・ディスプレイ用のガラス板は,高精細ディスプレイ用に使用されることから,ガラス表面は紙表面に含まれる不純物が極力無いクリーンな表面を保持することや,高速応答性や視野角拡大のために平坦度に優れていることが求められるが,従来提案されている合紙は,フラットパネル・ディスプレイ用のガラス板表面の汚染を完全に防ぐわけではなく,採算性の観点からも,その汚染をいかに防止するかが重要である。(【0001】〜【0007】) イ 本願発明1は,高い清浄度及び傷品位が要求されるフラットパネル・ディスプレイ用の基板材料として用いられるガラス板向けの,当該ガラスの表面の汚染を格段に防止可能な合紙を提供することを課題とする。(【0008】) ウ 本願発明1の発明者らの検証により,ガラス板表面の汚染原因はガラス板用合紙に含まれるシリコーンであることが判明し,上記発明者らは,ガラス板用合紙中のシリコーンの含有量を一定以下にすることで上記課題を解決できることを見出して,本願発明1を完成した。(【0009】,【0010】) エ 本願発明1のガラス板用合紙は,ガラス板へのシリコーン転写を抑制ないし回避することができ,これにより,TFT液晶ディスプレイ等の製造工程においてカラーフィルム等の回路断線を防止することが可能となる。(【0023】) オ 本願発明1のガラス板用合紙は,木材パルプからなり,紙中に含まれるシリコーンの量が紙の絶乾質量に対して0.5ppm以下のものである。ガラス板合紙のシリコーンの含有量を0.5ppm以下とするためには,特に合紙の原料となる木材パルプがシリコーンを多く含まないことが重要であり,木材パルプ製造時に使用する消泡剤として非シリコーン系消泡剤を使用することが好ましい。 本願発明1におけるシリコーンとしては,シリコーン油が挙げられ,ジメチルポリシロキサンが典型的である。(【0024】〜【0026】,【0046】,【0058】)2 取消事由(先願発明に基づく特許法29条の2の判断の誤り)について? 甲1明細書の記載(甲1の1。図面は別紙に記載のもの)ア 技術分野及び背景技術 【0001】本発明は,ガラス合紙,およびこのガラス合紙を用いるガラス板梱包体に関する。 【0002】建築用ガラス板,自動車用ガラス板,プラズマディスプレイ用ガラス板や液晶ディスプレイ用ガラス板などのFPD(Flat Panel Display)用のガラス板は,保管中や搬送中に,表面に疵が入る,表面が異物で汚染される等で,製品欠陥が生じ易い。 特に,FPD用のガラス板(ガラス基板)は,表面に微細な電気配線(以下,配線とも言う),電極,電気回路,隔壁等の素子が形成されるので,表面に僅かな疵や汚染が有っても,断線等の不良の原因となる。そのため,これらの用途に用いられるガラス板には,高い表面の清浄性が要求される。 【0005】‥ガラス板の表面の疵や汚染を防止する方法として,積層するガラス板の間に紙を挟み込み,隣接するガラス板の表面同士を分離する,いわゆるガラス合紙を介在させる方法が,従来から利用されている。 【0009】‥しかしながら,これらのガラス合紙では,FPD用のガラス板など,表面に配線や電極等の素子が形成されるガラス板の積層に用いた際に,ガラス合紙からの転写汚れに起因する,微細な配線,電極,電気回路等の不良の発生を十分に抑制するのは,困難である。 イ 課題 【0010】本発明の目的は,前記従来技術の問題点を解決することにあり,ガラス板の表面に配線や電極等の素子を形成した際に,ガラス合紙からの転写による汚染に起因する配線等の不良の発生を大幅に抑制できるガラス合紙,および,このガラス合紙を用いるガラス板梱包体を提供することにある。 ウ 課題を解決するための手段 【0011】前記目的を達成するために,本発明のガラス合紙は,複数枚のガラス板を積層する際に,ガラス板間に介在させるガラス合紙であって,ケイ素元素を有する有機化合物の含有量が3ppm以下であることを特徴とするガラス合紙を提供する。 【0012】このような本発明のガラス合紙において,含有する前記有機化合物としては,シリコーンが例示される。 エ 効果 【0015】本発明のガラス合紙によれば,間にガラス合紙を介在させて積層したガラス板の表面に微細な配線や電極等を形成した際に,ガラス合紙から転写された,ケイ素元素を含有する有機化合物に起因する不良を,大幅に抑制できる。 従って,本発明のガラス合紙を用いることにより,歩留りを向上し,FPD等の生産コストを低減できる。 オ 発明を実施するための形態 【0019】‥本発明のガラス合紙は,ケイ素元素を有する有機化合物の含有量(ガラス合紙の質量に対する,ケイ素元素を有する有機化合物の質量の割合)が3ppm以下のガラス合紙である。 本発明のガラス合紙は,このような構成を有することにより,このガラス合紙を用いて積層されたFPD用のガラス板などの表面に,配線,電極,電気回路,隔壁等の素子を形成した際に配線や電極に生じる不良等を,大幅に低減できる。 【0020】前述のように,ガラス合紙からガラス板への転写汚れを抑制することに関しては,従来より,各種の提案が行われている。 しかしながら,本発明者らの検討によれば,FPD用のガラス板などの,表面に配線や電極等の素子を形成されるガラス板では,ガラス合紙からガラス板への転写汚れを抑制しても,表面に配線や電極等を形成した際に,配線等の不良が,決して低くはない確率で発生する。 【0021】本発明者らは,この原因について,鋭意検討を重ねた。その結果,ガラス合紙からガラス板に転写された,ケイ素元素を有する有機化合物(以下,有機ケイ素化合物とも言う)が,配線等の不良の大きな原因となっていることを見出した。 【0022】周知のように,ガラス合紙の原料となる紙パルプの製造においては,化学パルプの製造における蒸解工程や漂白工程,古紙パルプの製造における脱墨工程など,各種の工程において,蒸解助剤,スケール防止剤,脱墨剤,消泡剤,界面活性剤,漂白剤などの様々な薬剤が必要に応じて使用される。また,ガラス合紙の製紙工程(抄紙工程)においても,ガラス合紙(湿紙/紙)が接触する部材の洗浄などに,洗浄剤,添加物の調整剤としての乳化剤や分散剤など,各種の薬剤が必要に応じて使用される。これらの薬剤の中には,有機ケイ素化合物を含む物も少なからず有る。 通常,パルプやガラス合紙の製造工程で使用された,これらの薬剤は,洗浄によって除去される。しかしながら,有機ケイ素化合物は,多くの物が,ある程度の粘度を有するため,完全に除去することは困難で,製造したガラス合紙に残存してしまう。 そのため,ガラス合紙を介在させてガラス板を積層した際に,ガラス合紙に残存する有機ケイ素化合物が,ガラス板に転写されて異物となってしまう。 【0023】一方,近年では,FPDは空間分解能等が高くなっており,その結果,ガラス板に形成される配線や電極等も微細になっている。例えば,配線であれば,幅3〜5μm程度の配線を,50〜200μm程度の間隔(ピッチ)で形成することが要求される。 【0024】ところが,本発明者らの検討によれば,このような微細な配線等を形成する際には,ガラス板の表面に僅かな有機ケイ素化合物が存在しても,配線となる金属薄膜(金属化合物薄膜)の成膜や,エッチングによるパターンニング等の阻害要因となる。また,液晶ディスプレイでは,ガラス板の表面に僅かな有機ケイ素化合物が存在しても,カラーフィルタのブラックマトリックスにムラが生じてしまう。 そのため,ガラス合紙からガラス板に有機ケイ素化合物が転写されると,転写された有機ケイ素化合物が異物となって,ガラス板に配線や電極などの素子や,カラーフィルタ等を形成した際の不良発生の大きな要因となる。 中でも,消泡剤に含有されることが多いシリコーン(有機官能基を有するポリシロキサン(オルガノポリシロキサン)がガラス板に転写されると,配線や電極の不良等が発生し易い。シリコーンの中でも特に,ポリジメチルシロキサンがガラス板に転写されると,より配線や電極の不良等が発生し易くなる。 【0025】本発明者らは,さらに検討を重ねた結果,ガラス合紙の有機ケイ素化合物の含有量を3ppm以下とすることにより,ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケイ素化合物に起因する配線の不良等の発生を,大幅に低減できることを見出した。 すなわち,本発明のガラス合紙を用いることにより,FPD用のガラス板などの表面の有機ケイ素化合物からなる異物を除去するための高度な洗浄等を行わなくても,ガラス板の表面に微細な配線,電極,電気回路,隔壁などの素子や,カラーフィルタのブラックマトリックス等を形成した際に,有機ケイ素化合物に起因する断線等の配線などの素子の不良や,ブラックマトリックスのムラの発生を,大幅に抑制できる。従って,本発明のガラス合紙を用いることにより,FPDなどの生産コストを低減し,歩留りを向上できる。 【0026】前述のように,本発明のガラス合紙は,有機ケイ素化合物の含有量が3ppm以下のガラス合紙である。 有機ケイ素化合物の含有量が3ppmを超えると,ガラス合紙からガラス板への有機ケイ素化合物の転写を,十分に抑制できず,ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケイ素化合物に起因する配線の不良発生等の低減効果を十分に得られない。 【0027】本発明のガラス合紙において,有機ケイ素化合物の含有量は,好ましくは2ppm以下,より好ましくは1ppm以下である。 ガラス合紙における有機ケイ素化合物の含有量を,この量とすることにより,本発明のガラス合紙を用いたFPD用ガラス板などの表面に,配線や電極等を形成した際に発生する不良を,より好適に抑制することができる。 【0028】なお,本発明のガラス合紙において,有機ケイ素化合物の含有量は,少ない程,好ましい。すなわち,本発明のガラス合紙において,有機ケイ素化合物の含有量の下限には,限定は無い。 しかしながら,ガラス合紙から有機ケイ素化合物を完全に取り除くのは,困難であり,有機ケイ素化合物の含有量が極端に少ないガラス合紙は,製造に手間やコストがかかる。この点を考慮すると,本発明のガラス合紙において,有機ケイ素化合物の含有量は,0.05ppm以上であるのが好ましい。 【0029】本発明のガラス合紙は,有機ケイ素化合物の含有量が3ppm以下である以外は,基本的に,ガラス板の積層に用いられる公知のガラス合紙である。 【0030】従って,本発明のガラス合紙は,クラフトパルプ(KP)‥等の化学パルプ,セミケミカルパルプ(SCP)‥等の半化学パルプ,砕木パルプ(GP)‥等の機械パルプ,楮,三椏,麻,ケナフ等を原料とする非木材繊維パルプ,合成パルプ等,各種の原料からなる公知のガラス合紙が利用可能である。さらに,本発明のガラス合紙は,これらの混合物を原料とするものでもよく,セルロース等を含有するものを原料としてもよい。 また,これらの原料は,古紙であっても,バージンパルプであっても,古紙とバージンパルプとの混合物であってもよい。中でも,バージンパルプが好ましい。 【0031】ここで,本発明のガラス合紙においては,何れのパルプであっても,ガラス板に転写した際に配線や電極の不良等の大きな原因となる,シリコーン系の消泡剤(シリコーンを含有する消泡剤)を使用しないで製造したパルプを原料として用いるのが好ましい。 中でも,ポリジメチルシロキサンを含有する消泡剤を使用しないで製造したパルプが,本発明のガラス合紙の原料として,特に好適に用いられる。 【0032】このような本発明のガラス合紙は,基本的に,公知のガラス合紙の製紙方法を利用して製造できる。 好適な一例として,ガラス合紙の製紙工程において,紙原料液を調製する前に,原料となるパルプの洗浄を行う製造方法,および,乾燥工程の前および途中の少なくとも一方でシャワー洗浄を行う製造方法が例示される。 【0033】図1および図2に,一般的なガラス合紙の製造装置(一般的なガラス合紙の製紙装置)の一例を概念的に示す。‥ 【0039】本発明のガラス合紙の製造方法として,このようなガラス合紙の製造装置(製紙工程)において,ヘッドボックス12に供給する紙原料液を調製する前に,原料となるパルプを洗浄する方法が例示される。 本発明者らの検討によれば,ガラス合紙からガラス板に転写される有機ケイ素化合物は,原料となるパルプに付着している不純物に起因する物が,多いと考えられる。そのため,溶剤の中に原料となるパルプを投入して,攪拌や放置等を行うことにより,パルプに付着している有機ケイ素化合物を溶剤で溶解し,その後,濾過することにより,パルプを溶剤で洗浄する。 このように,溶剤で洗浄したパルプを用いて,紙原料液を調製して,ヘッドボックス12に供給して,ガラス合紙を製造する。これにより,有機ケイ素化合物が3ppm以下である,本発明のガラス合紙を製造することができる。 【0042】‥本発明のガラス合紙の別の製造方法として,このようなガラス合紙の製造装置において,ドライヤパート24の前,および,ドライヤパート24の中の少なくとも一方において,紙をシャワー洗浄する方法が,例示される。 すなわち,ドライヤパート24の前(プレスパート20とドライヤパート24との間),および,ドライヤパート24の中の少なくとも一方に,シャワーを設け,乾燥前および乾燥中の少なくとも一方において,紙に付着していると考えられる有機ケイ素化合物を溶解可能な溶剤でシャワー洗浄する。これにより,紙に含まれる有機ケイ素化合物の異物を溶解して除去して,有機ケイ素化合物が3ppm以下である,本発明のガラス合紙を製造することができる。 なお,ドライヤパート24の前やドライヤパート24の中の洗浄用シャワーは,紙の搬送方向に,複数箇所,設けてもよい。 【0043】シャワー洗浄に用いる溶剤は,先のパルプの洗浄と同様,紙に付着していると考えられる有機ケイ素化合物を溶解可能な有機溶剤等を,適宜,選択すればよい。一例として,先にパルプの洗浄で例示した物と同様の溶剤が例示される。なお,先と同様に,溶剤は,必要に応じて,希釈して用いてもよい。 また,シャワー洗浄に用いる溶剤の量,溶剤の噴射速度など,紙のシャワー洗浄の条件は,紙の厚さ,紙の搬送速度や搬送経路,紙の種類(原料等),有機ケイ素化合物に対する溶剤の溶解力等に応じて,ガラス合紙が含有する有機ケイ素化合物を3ppm以下にできる条件を,適宜,設定すればよい。 【0044】‥本発明のガラス合紙の別の製造方法として,ドライヤパート24の前やドライヤパート24の中に,紙に付着していると考えられる有機ケイ素化合物を溶解できる溶剤を充填した水槽を設け,此処に紙を通紙することで,紙に含まれる有機ケイ素化合物の異物を溶解して除去する方法も,利用可能である。 【0045】この様なパルプの洗浄,紙のシャワー洗浄,および水槽を用いる洗浄は,2種以上を行って,本発明のガラス合紙を製造してもよい。 また,必要に応じて,溶剤を用いたパルプや紙の洗浄を行った後,純水等の清浄な水で,パルプや紙の洗浄を行っても良い。 カ 実施例 【0053】[実施例1] 原料となるバージンパルプを,エタノールで50倍(体積比)に希釈したトルエンに投入して,10時間,攪拌した後,濾過して,原料となるパルプの洗浄を行った。 この洗浄したパルプを原料として,図1および図2に示す,一般的なガラス合紙の製造装置を用いて,ガラス合紙を作製した。 作製したガラス合紙を,後述するガラス板のサイズに合わせてカットシート状に切断して,ソックスレー抽出器(Soxhlet extractor)によってガラス合紙から成分を抽出した。抽出した成分を核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance)装置で分析したところ,有機ケイ素化合物の含有量は2ppmであった。 【0054】[比較例1] 原料となるパルプの洗浄を行わない以外は,実施例1と同様にして,ガラス合紙を作製した。 作製したガラス合紙を,実施例1と同様に分析したところ,有機ケイ素化合物の含有量は4ppmであった。 【0055】[実施例2] 図1および図2に示す,一般的なガラス合紙の製造装置において,ドライヤパート24の途中2箇所に,紙を洗浄するためのシャワーを設けた。 このような製造装置を用い,原料としてバージンパルプを用いて,ドライヤパート24において,エタノールで50倍(体積比)に希釈したトルエンによって紙のシャワー洗浄を行いつつ乾燥を行い,ガラス合紙を作製した。 【0056】作製したガラス合紙を,実施例1と同様に分析したところ,有機ケイ素化合物の含有量は1ppmであった。 【0057】[比較例2] ドライヤパート24における紙のシャワー洗浄を行わない以外は,実施例2と同様にして,ガラス合紙を作製した。 作製したガラス合紙を,実施例1と同様に分析したところ,有機ケイ素化合物の含有量は4ppmであった。 【0058】[性能評価] 以上の実施例1および2,ならびに,比較例1および2で作製したガラス合紙を,厚さが0.5mmで,1500×1300mmサイズのFPD用のガラス板(旭硝子社製 液晶用ガラスAN100)の間に介在させて,複数枚のガラス板を積層したガラス板積層体にした。 このガラス板積層体を,実施例1および2,ならびに,比較例1および2の各ガラス合紙毎に,5パレット分(ガラス板2000枚),作製した。 このガラス板積層体を,一般的なガラス板梱包用のパレットに積載して,ガラス板梱包体にした。 このようにして作製したガラス板梱包体を,台湾から日本まで船で搬送した。 【0059】日本まで搬送したガラス板梱包体から,各ガラス板積層体ごとに,100枚のガラス板を無作為に選択した。 次いで,選択した全てのガラス板の表面に,幅が5μmの直線状の配線を,80μmの間隔で形成した。 【0060】形成した配線の断線状況を確認した。 その結果,実施例1および2のガラス合紙を用いて積層したガラス板では,全てのガラス板で,配線に断線は認められなかった。 これに対し,比較例1および2のガラス合紙を用いて積層したガラス板では,全てのガラス板で,配線に断線が確認された。 以上の結果より,本発明の効果は明らかである。 ? 先願発明の認定 ア 甲1明細書には, ガラス合紙」 「 に関する発明が記載されている 【0001】。 ( ) イ 甲1明細書には,その発明について,ガラスは, 「液晶ディスプレイ用ガラス板などのFPD(Flat Panel Display)用のガラス板」であり,この「ガラス合紙」は,ガラス板の表面の疵や汚染を防止するために,積層するガラス板の間に挟み込み,隣接するガラス板の表面同士を分離するものであることが記載されている(【0002】【0005】。 , ) よって,甲1明細書には, 「ガラス合紙であって,ガラスは,液晶ディスプレイ用ガラス板などのFPD用のガラス板であり,このガラス合紙は,ガラス板の表面の疵や汚染を防止するために,積層するガラス板の間に挟み込み,隣接するガラス板の表面同士を分離するものであ」ることが記載されている。 ウ 甲1明細書には,その発明について,ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケイ素化合物が配線等の不良の大きな原因となっており,有機ケイ素化合物の含有量を少なくすることにより,有機ケイ素化合物に起因する配線の不良発生等を低減させることができることが記載されている(【0020】〜【0025】。 ) よって,甲1明細書には, 「ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケイ素化合物が,配線等の不良の大きな原因となることから,有機ケイ素化合物の含有量」が小さい「ガラス合紙とすることにより,有機ケイ素化合物に起因する配線の不良発生等を低減させることができ」ることが記載されている。 エ 甲1明細書には,その発明に係るガラス合紙の有機ケイ素化合物の含有量について,これを「3ppm以下」とすることにより,有機ケイ素化合物に起因する配線の不良発生等を低減させることができるとした上, 「より好ましくは1ppm以下」で「少ない程,好まし」く, 「下限には,限定は無」いが, 「ガラス合紙から有機ケイ素化合物を完全に取り除くのは,困難であり,有機ケイ素化合物の含有量が極端に少ないガラス合紙は,製造に手間やコストがかかる」ため, 「0.05ppm以上であるのが好ましい」と記載されている(【0025】【0026】【0028】。 , , ) よって,甲1明細書には,「有機ケイ素化合物の含有量が3ppm以下のガラス合紙とすることにより,有機ケイ素化合物に起因する配線の不良発生等を低減させることができ,有機ケイ素化合物の含有量は,より好ましくは1ppm以下であり,少ない程,好ましく,有機ケイ素化合物の含有量の下限には限定は無いが,ガラス合紙から有機ケイ素化合物を完全に取り除くのは困難であり,有機ケイ素化合物の含有量が極端に少ないガラス合紙は,製造に手間やコストがかかるため,有機ケイ素化合物の含有量は,0.05ppm以上であるのが好まし」いとの記載がある。 オ 甲1明細書には,配線の不良発生等の原因となる有機ケイ素化合物に,シリコーンであるポリジメチルシロキサンが含まれることが記載されている(【0024】。 ) よって,甲1明細書には, 「有機ケイ素化合物は,シリコーンのポリジメチルシロキサンである」ことが記載されている。 カ 以上によれば,甲1明細書に記載された発明は,本件審決の認定したとおりの先願発明(前記第2の3?ア)であると認められる。 ? 本願発明1と先願発明との対比 以上によれば,先願発明は,本件審決の認定したとおりの一致点(前記第2の3?イ)と相違点1及び2(同ウ)を有するものと認められる。 相違点1は,本願発明1の「ガラス板用合紙」のパルプが「木材パルプ」であるのに対し,先願発明のガラス合紙のパルプが「木材パルプ」であるか特定されていない点である。紙の原料が一般的にパルプであることは周知であり,甲1明細書の【0030】にも,ガラス合紙の原料として種々のパルプが記載され,【0031】,【0033】〜【0045】,実施例1及び2の記載からは,先願発明のガラス合紙も「パルプを原料とする」ものであることが前提とされている一方,木材パルプ以外のパルプのみを原料とすると記載されていないので,先願発明のガラス合紙は木材パルプを原料とし得ると理解されることからすれば,相違点1は実質的な相違点ではない。 また,相違点2は,本願発明1が「紙中に含まれるシリコーンの量が,紙の絶乾質量に対して0.5ppm以下」であるのに対し,先願発明は「有機ケイ素化合物の含有量は,より好ましくは1ppm以下であり,少ない程,好ましく,有機ケイ素化合物の含有量の下限には,限定は無いが,ガラス合紙から有機ケイ素化合物を完全に取り除くのは,困難であり,有機ケイ素化合物の含有量が極端に少ないガラス合紙は,製造に手間やコストがかかるため,有機ケイ素化合物の含有量は,0.05ppm以上であるのが好まし」いとされている点であるところ,両者は,0.05ppm以上0.5ppm以下の範囲で重なることからすれば,相違点2は実質的な相違点ではない。 したがって,本願発明1と先願発明は同一である。 ? 原告の主位的主張(先願発明が発明として未完成であることの看過)について ア 原告は,当業者が反復実施して目的とする効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていないいわゆる「未完成発明」は,特許法29条の2における「他の特許出願‥の発明」に当たらず,後願排除効を有さないとし,甲1明細書に記載された発明は発明として未完成であると主張する。 イ そこで判断するに,特許法184条の13により読み替える同法29条の2は,特許出願に係る発明が,当該特許出願の日前の他の特許出願又は実用新案登録出願であって,当該特許出願後に特許掲載公報,実用新案掲載公報の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「先願明細書等」という。)に記載された発明又は考案と同一であるときは,その発明について特許を受けることができないと規定する。 同条の趣旨は,先願明細書等に記載されている発明は,特許請求の範囲以外の記載であっても,出願公開等により一般にその内容は公表されるので,たとえ先願が出願公開等をされる前に出願された後願であっても,その内容が先願と同一内容の発明である以上,さらに出願公開等をしても,新しい技術をなんら公開するものではなく,このような発明に特許権を与えることは,新しい発明の公表の代償として発明を保護しようとする特許制度の趣旨からみて妥当でない,というものである。 このような趣旨からすれば,同条にいう先願明細書等に記載された「発明」とは,先願明細書等に記載されている事項及び記載されているに等しい事項から把握される発明をいい,記載されているに等しい事項とは,出願時における技術常識を参酌することにより,記載されている事項から導き出せるものをいうものと解される。 したがって,特に先願明細書等に記載がなくても,先願発明を理解するに当たって,当業者の有する技術常識を参酌して先願の発明を認定することができる一方,抽象的であり,あるいは当業者の有する技術常識を参酌してもなお技術内容の開示が不十分であるような発明は,ここでいう「発明」には該当せず,同条の定める後願を排除する効果を有しない。また,創作された技術内容がその技術分野における通常の知識・経験を持つ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術効果をあげることができる程度に構成されていないものは, 「発明」としては未完成であり,特許法29条の2にいう「発明」に該当しないものというべきである。 ウ これを本件についてみると,甲1明細書には,液晶ディスプレイ用ガラス板などのFPD用のガラス板の表面の疵や汚染を防止するために,積層するガラス板の間に挟み込み,隣接するガラス板の表面同士を分離するガラス合紙において,積層するガラス板の間にガラス合紙を介在させてガラス板表面に微細な配線や電極等を形成した際に生ずる不良を抑制するという課題を解決するために,ガラス合紙に含有されるシリコーンのポリジメチルシロキサンである有機ケイ素化合物の含有量を3ppm以下,好ましくは1ppm以下で,0.05ppm以上とすることを課題解決手段としたものであることが記載されている。 より具体的にいえば,まず,ガラス板の表面に僅かな有機ケイ素化合物が存在しても,配線となる金属薄膜の成膜やエッチングによるパターニング等を阻害し,カラーフィルタのブラックマトリックスにムラを生じさせることから,ガラス合紙からガラス板に有機ケイ素化合物が転写されると,転写された有機ケイ素化合物が異物となって,ガラス板に配線や電極などの素子や,カラーフィルタ等を形成した際の不良発生の大きな要因となること,中でもシリコーンがガラス板に転写されると,配線や電極の不良等が発生し易く,特にジメチルシロキサンがガラス板に転写されると,より配線や電極の不良等が発生し易くなること(【0021】,【0024】),これに対し,ガラス合紙の有機ケイ素化合物の含有量を3ppm以下とすることにより,ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケイ素化合物に起因する配線の不良等を大幅に低減できること(【0025】),有機ケイ素化合物の含有量,好ましくは2ppm以下,より好ましくは1ppm以下であること(【0027】),及び,有機ケイ素化合物の含有量は,少ないほど好ましいが,有機ケイ素化合物の含有量が極端に少ないガラス合紙は,製造に手間やコストがかかる点を考慮すると,有機ケイ素化合物の含有量は0.05ppm以上であるのが好ましいこと(【0028】)が記載されている。 そして,ガラス合紙の原料として,シリコーン系の消泡剤を使用しないで製造したパルプを原料として用いるのが好ましく,ポリジメチルシロキサンを含有する消泡剤を使用しないで製造したパルプが特に好適に用いられること(【0031】),ガラス合紙の製造方法として,ガラス合紙の製造工程において,原料となるパルプを洗浄する方法(【0039】),紙をシャワー洗浄する方法(【0042】),及び紙に付着していると考えられる有機ケイ素化合物を溶解できる溶剤を充填した水槽に紙を通紙する方法(【0044】)が記載され,パルプの洗浄,紙のシャワー洗浄,水槽を用いる洗浄は,2種以上行ってもよいことが記載されている(【0045】)。 次に,甲1明細書の実施例には,洗浄したパルプを原料としてガラス合紙を作製したところ,有機ケイ素化合物の含有量は2ppmであったこと(実施例1【0053】),ガラス合紙の製造装置において,ドライヤパートの途中に紙を洗浄するためのシャワーを設けてガラス合紙を作製したところ,有機ケイ素化合物の含有量は1ppmであったこと(実施例2【0055】,【0056】)が記載されている。また,上記各実施例のガラス合紙を用いたガラス板梱包体を,台湾から日本まで船で輸送した後,無作為に選択したガラス板の表面に幅が5μmの直線状の配線を80μmの間隔で形成したところ,全てのガラス板で,配線に断線が認められなかったこと(【0058】〜【0060】)が記載されている。 そして,甲1明細書に,配線の不良発生等の原因となる有機ケイ素化合物に,シリコーン,中でもポリジメチルシロキサンが含まれることが記載されている(【0024】)ことからすれば,実施例1及び2の有機ケイ素化合物が,ポリジメチルシロキサンを意味すると理解するのが自然である。 エ 以上によれば,ガラス合紙の,シリコーンのポリジメチルシロキサンである有機ケイ素化合物の含有量を3ppm以下,好ましくは1ppm以下で,0.05ppm以上とした先願発明は,ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケイ素化合物に起因する配線の不良等を大幅に低減でき,特にポリジメチルシロキサンがガラス板に転写され,より配線や電極の不良等が発生し易くなることを抑制できるものであって,先願発明の目的とする効果を奏するものであること,そのようなガラス合紙は,ポリジメチルシロキサンを含有する消泡剤を使用しないで製造したパルプを原料として用い,ガラス合紙の製造工程において,パルプの洗浄,紙のシャワー洗浄,水槽を用いる洗浄や,これらを2種以上行う方法により製造できること,以上のことが理解できる。 そうすると,先願発明は,創作された技術内容がその技術分野における通常の知識・経験を持つ者であれば何人でもこれを反覆実施してその目的とする技術効果をあげることができる程度に構成されたものというべきである。 よって,先願発明は,特許法29条の2にいう「発明」に該当し,未完成とはいえないから,同条により,これと同一の後願を排除する効果を有する。 オ 原告は,甲1明細書の実施例によれば,@ソックスレー抽出器による抽出時間が不明であるから,ガラス合紙中の「有機ケイ素化合物」の含有量を特定することはできない,また,A抽出溶媒及び抽出時間が不明であるから,実施例に示されている抽出操作は実施不可能である,さらに,B有機ケイ素化合物が具体的に何であるかが不明である,加えて,C核磁気共鳴(NMR)による定量の際の標準品について記載されておらず, 「有機ケイ素化合物」が具体的に何であるかが不明であるから標準品を作製すること自体不可能であり,検量線を決定することは不可能であるから,原理的に有機ケイ素化合物を定量することはできないとして,技術的思想が完成していないと主張する。 (ア)しかしながら,まず,Bについては,実施例の有機ケイ素化合物がポリジメチルシロキサンを意味すると理解するのがごく自然であることは,前記ウのとおりである。 (イ)@Aのソックスレー抽出については,以下の文献がある。 a 化学大辞典編集委員会編「化学大辞典5〔縮刷版〕」(共立出版株式会社,2006年9月15日,縮刷版第39刷発行。甲13)527頁 「ソックスレーちゅうしゅつき ‥実験室で溶剤抽出を行なう場合に使用するガラス器具の一つ。‥試料中の不揮発性成分を揮発性溶剤を用いて,次のように溶かし出す‥十分抽出を終わったらフラスコをはずし,溶剤を留去すれば,あとに不揮発性成分が残る。油分の定量,抽出などに広く使用される。」 b 特開2007-114249号公報(乙2) 【0051】‥ここで,ポリジメチルシロキサンのソックスレー抽出量とは,弾性体に対し,100mlのn-ヘキサンを抽出溶剤として用い,ソックスレーにて8時間抽出を行ない,抽出液ならびに抽出残渣を約1Paで5時間乾燥固化した後に抽出液乾固物に含まれるポリジメチルシロキサン量を秤量して求めた抽出量の全体に対する比率をいう。 c 特開2009-120707号公報(乙3) 【0040】‥かかるポリカーボネートーポリオルガノシロキサン共重合体には,少なからずポリカーボネートに結合しない,ポリマーの原料として使用された遊離のポリオルガノシロキサンやポリオルガノシロキサンにカーボネート単位や末端停止剤のカーボネート単位が結合しているものの,それが不十分な成分(以下,“遊離のポリオルガノシロキサン等”と称する)が含まれる。かかる遊離のポリオルガノシロキサン等はn-ヘキサンによる抽出処理によりその量を算出することができる。 【0041】‥かかるn-ヘキサン抽出量の算出は,秤量された共重合体試料を,特級n-ヘキサンによりソックスレー抽出処理することにより算出される。 d 特開平7-18140号公報(乙4) 【0015】ポリシロキサン系化合物とアゾ化合物とが結合してなるマクロアゾ開始剤を用いて塩化ビニルを重合した時,生成物中には,ポリシロキサン系ブロックとポリ塩化ビニル系ブロックからなるブロック共重合体以外に,マクロアゾ開始剤の分解物であり,ポリ塩化ビニルに結合しないポリシロキサン系化合物が含まれることがある。このような非結合のポリシロキサン系化合物の含有量は,ポリシロキサン系化合物を溶解し,塩化ビニル系重合体を溶解しない溶剤(例えば,ジエチルエーテルやn-ヘキサン)を用いてソックスレー抽出を数時間行うことにより求めることができる。 e 甲13及び乙2〜4の上記記載に照らせば,先願の出願時において,ソックスレー抽出器により,不揮発性成分を揮発性溶剤を用いて十分抽出し,溶剤を留去して油分を定量することや,ポリジメチルシロキサン等のポリオルガノシロキサンについても,n-ヘキサン等の溶剤を用いてソックスレー抽出を行うことにより定量するということは,技術常識であったといえる。 (ウ)CのNMRについては,以下の文献がある。 a 日本分析化学会著「機器による高分子分析(I)」(廣川書店,昭和38年9月15日,2版発行。甲21) NMR法によるメチルフェニルシリコン油のメチル基とフェニル基の定量 ‥核磁気共鳴吸収法は近年ますます発展し,装置の改良とともに,多くの研究成果が発表されている。‥NMR法を定性分析に用いるには,化学シフトおよびI-I結合に基づく吸収線の分離を利用する。定量分析では,主に吸収線の全強度(ピークの面積)が着目核の濃度に比例することを利用する。(195頁1〜12行) b 伊藤邦雄編「シリコーンハンドブック」(日刊工業新聞社,1990年8月31日発行。甲22) 20.1.2 シリコーンの定量分析法 シリコーンの定量分析法としては,シリコーンのSi量測定が中心であるが,そのほかIR,NMRなどを使用する方法もある‥(3)また,試料が未硬化品で,特にジメチルシリコーンを測定対象とする場合には,NMR測定によっても定量は可能である。ジメチルシリコーンのNMRは‥ケミカルシフト(δ)が0ppm付近に位置し,ほかの多くの有機物とは異なることから,このピーク強度をシリコーン既知濃度の試料でのそれと比較することにより,混合比(含有量)を求めることができる。また試料が既知化合物との混合品であれば,ピーク強度の相対比較により,混合比(含有量)を求めることができる。(767頁17行〜768頁21行) c 甲21及び22の上記記載によれば,先願の出願時において,NMRによってジメチルシリコーン等のシリコーンの定量分析を行うこと,この際,シリコーン既知濃度の試料とピーク強度を比較することによって定量分析を行うことは,技術常識であったということができる。 (エ)そうすると,前記(イ)の技術常識を有する当業者であれば,甲1明細書に接した際には,その実施例に抽出時間や抽出溶媒について具体的な記載がなくとも,ポリジメチルシロキサンの抽出に適した揮発性溶剤を用い,十分な時間抽出することを当然に理解するものといえる。 また,前記(ウ)の技術常識を有する当業者であれば,甲1明細書に接した際には,その実施例にNMRの標準品が何であるかについて具体的な記載がなくても,ポリジメチルシロキサンを定量するにあたり既知濃度の適宜の試料を標準品として用いることを理解するものといえる。 したがって,原告の指摘する事情を踏まえても,先願発明は,特許法29条の2にいう「発明」に該当するというべきである。 カ 原告は,先願発明の出願人が製紙企業でないことなどを指摘し,先願発明としての技術的思想が完成していないことが推認されるとも主張するが,これらの主張の内容を考慮しても,前記の判断は動かない。 原告は,甲1明細書の実施例に記載された「有機ケイ素化合物」がポリジメチルシロキサンであったと推測することはできず,むしろ,仮に,被告の主張するように,甲1明細書の実施例に記載の「有機ケイ素化合物」がポリジメチルシロキサンであったとすると,同量のポリジメチルシロキサンを含むガラス合紙は同一の実験結果をもたらすはずであるが,本件明細書の実施例では,ポリジメチルシロキサン含有量が2ppmのガラス合紙(比較例1)を使用するとガラス板の表面にポリジメチルシロキサンによる汚染が確認され,また,当該ガラス板を用いた液晶パネルのアレイ形成の際にカラーフィルムの断線が認められるのに対し,甲1明細書の実施例では,有機ケイ素化合物含有量が2ppmのガラス合紙(実施例1)を使用したガラス板の表面に配線を形成しても断線は認められないとされており,いずれも同じ2ppmのポリジメチルシロキサン又は「有機ケイ素化合物」を含むガラス合紙について異なる実験結果となっていることから,甲1明細書の実施例で使用されている有機ケイ素化合物がポリジメチルシロキサンではないことが推察されると主張する。 しかしながら,本件明細書の比較例1は,ガラス板の間に,シリコーン含有量が2.0ppmであるガラス板合紙を挿入して輸送テスト(輸送距離1000km(輸送途中に40℃×95%RHの環境下に5日間保管)を実施し,輸送テスト後のガラス板を用いて,液晶パネルのアレイ形成を行った際,断線が認められたというものであるのに対し,甲1明細書の実施例1は,有機ケイ素化合物の含有量が2ppmであるガラス合紙をガラス板の間に介在させ,台湾から日本に船で搬送した後,ガラス板の表面に,幅が5μmの直線状の配線を80μmの間隔で形成した際,配線に断線は認められなかったというものであって,両者の輸送条件も,断線の有無を確認する条件も異なるから,単に,本件明細書の比較例1と甲1明細書の実施例1との結果が異なることのみをもって,甲1明細書の実施例1の有機ケイ素化合物がポリジメチルシロキサンではないと推察できるものではない。 よって,原告の上記主張は理由がない。 ? 原告の予備的主張1(先願発明の認定の誤り)について 原告は,甲1明細書の実施例には「有機ケイ素化合物」がポリジメチルシロキサンであるとは特定されておらず,そもそも「有機ケイ素化合物」が何であるかすら全く不明であるから,甲1明細書のポリジメチルシロキサンに関する記載は形式的なものにすぎず,実質的に先願発明が開示されていないとして,甲1明細書から発明を認定することはできないと主張する。 しかしながら,甲1明細書には,配線の不良発生等の原因となる有機ケイ素化合物に,シリコーンのポリジメチルシロキサンが含まれることが記載されており(【0024】,実施例1及び2の有機ケイ素化合物がポリジメチルシロキサンを意味 )すると理解するのが自然であることは,前記?ウのとおりである。 よって,原告の主張は理由がない。 ? 原告の予備的主張2(相違点2の判断の誤り)について ア 原告は,相違点2のうち,有機ケイ素化合物の含有量の上限値が1ppmであるかのように認定する部分は誤りであり,当該部分は,「ポリジメチルシロキサンの含有量は3ppm以下であり,より好ましくは1ppm以下であり,」と認定すべきであると主張するが,先願発明は,甲1明細書の記載によっても,本件審決が認定したとおりのものとして認定できることは前記?カのとおりであり,これと異なる旨をいう原告の主張は理由がない。 イ 原告は,本願発明1に係るガラス合紙に含まれ得るシリコーンの量は,紙の絶乾質量に対して0.5ppmであるのに対し,先願発明に係るガラス合紙に含まれ得るポリジメチルシロキサンの量3ppmよりも少ないから,そのことからして,本願発明1と先願発明は同一でないと主張する。 そして,本願発明1に係るガラス合紙は,含まれるシリコーンの量が先願発明に係るガラス合紙よりも少ないので,ガラス合紙がガラス板と接触する際に転写するシリコーンの量をより低減することができ,それにより,ガラス板表面のシリコーンによる汚染をより抑制し,シリコーンに起因するガラス板上での回路断線等の不都合をより抑制するという新たな効果を奏することが可能であり,実際に,甲1明細書の実施例には「有機ケイ素化合物」の含有量が2ppmである実施例1のガラス合紙はガラス板上での回路断線等の不都合を引き起こさない旨が記載されているが,本件明細書にはシリコーン含有量が2.0ppmである比較例1のガラス合紙はガラス板上での回路断線の不都合を引き起こすことが示され,本件明細書の実施例1のガラス合紙(シリコーン含量0.01ppm未満)及び実施例2のガラス合紙(同0.4ppm)はガラス板上での回路断線等の不都合を引き起こさないから,相違点2は課題解決のための微差とはいえず,本願発明1と先願発明が実質的に同一であるともいえないと主張する。 そこで判断するに,本願発明1のガラス合紙に含まれるシリコーンの量の上限値は「0.5ppm」であり,先願発明のガラス合紙に含まれるポリジメチルシロキサンの量の上限値は「好ましくは1ppm以下」であるという違いはあるものの,本願発明1の「0.5ppm以下」との範囲と,「好ましくは1ppm以下」であり,「0.05ppm以上」であるのが好ましいとされる先願発明の範囲とは重複するから,本願発明1のガラス合紙に含まれ得るシリコーン量の方が先願発明のガラス合紙に含まれ得るポリジメチルシロキサンの量よりも少ないとはいえない。 また,ガラス合紙からガラス板に有機ケイ素化合物が転写されると,転写された有機ケイ素化合物が異物となって,ガラス板に配線や電極などの素子や,カラーフィルタ等を形成した際の不良発生の大きな原因となること,有機ケイ素化合物の含有量が3ppmを超えると,ガラス合紙からガラス板への有機ケイ素化合物の転写を十分に抑制できず,ガラス合紙からガラス板に転写された有機ケイ素化合物に起因する配線の不良発生等の低減効果を十分に得られないこと,及び,有機ケイ素化合物の含有量が,より好ましくは1ppm以下であり,少ない程好ましいという甲1明細書の記載(【0024】〜【0028】)をみれば,ガラス合紙の有機ケイ素化合物含有量が少ない程,ガラス合紙からガラス板への有機ケイ素化合物の転写は少なくなり,ガラス板に配線や電極などの素子やカラーフィルタ等を形成した際の不良発生の程度が少なくなることが理解できる。 そうすると,ガラス合紙に含まれるシリコーンの含有量が少なければ,ガラス合紙がガラス板と接触する際にガラス合紙からガラス板に転写するシリコーンの量をより低減することができ,それにより,ガラス板表面のシリコーンによる汚染をより抑制し,シリコーンに起因するガラス板上での回路断線等の不都合をより抑制するという効果は,甲1明細書から理解できる事項であり,新たな効果であるとはいえない。 さらに,本件明細書の比較例1(シリコーン含有量2.0ppm)と甲1明細書の実施例1(有機ケイ素化合物含有量2ppm)の輸送条件や断線有無確認の条件が異なることは,前記?において検討したとおりであって,両者の結果は直接比較できるものではない。本件明細書の比較例1が回路断線の不都合を引き起こし,実施例1(シリコーン含量0.01ppm未満)及び実施例2(同0.4ppm)において回路断線等の不都合を引き起こさなかったとしても,このことは,ガラス合紙に含まれるシリコーンの含有量が少なければ,ガラス合紙がガラス板と接触する際にガラス合紙からガラス板に転写するシリコーンの量をより低減することができ,それにより,ガラス板表面のシリコーンによる汚染をより抑制し,シリコーンに起因するガラス板上での回路断線等の不都合をより抑制するという効果を説明したにすぎない。そして,当該効果が甲1明細書から理解できる事項であることは前記のとおりである。 以上によれば,本願発明1と先願発明は実質的に同一であり,原告の主張は理由がない。 ウ 原告は,甲1明細書には,ポリジメチルシロキサンの含有量0.05ppm程度のガラス合紙が実質的に開示されていないから,甲1明細書【0028】の「0.05ppm以上であるのが好ましい」という記載に基づいて「先願発明のガラス合紙は,有機ケイ素化合物であるシリコーンの含有量が0.5ppmより微量の0.05ppm程度であるガラス合紙を含む」と認定することはできず,また,【0027】の「より好ましくは1ppm以下」の記載が0.5ppm以下を意味するものと認定することも,字義的に無理があるとも主張する。 しかしながら,【0028】には,有機ケイ素化合物の含有量については,少ない程好ましいものの,その含有量が極端に少ないガラス合紙は製造に手間やコストがかかることから, 05ppm以上であるのが好ましい旨の記載がある。 0.そうすると,有機ケイ素化合物の含有量がその程度であるガラス合紙が甲1明細書に記載された方法よって製造することができると理解できるから,ポリジメチルシロキサンの含有量が0.05ppm程度のガラス合紙も,甲1明細書に実質的に記載されているものといえる。ポリジメチルシロキサンの含有量が0.05ppm程度のガラス合紙の記載が実施例にないことは,このように認定することの妨げにならない。 また,「1ppm以下」の数値範囲は「0.5ppm以下」も包含するから,「より好ましくは1ppm以下」の記載が,0.5ppm以下を意味するものと認定することに字義的に無理があるともいえない。 よって,原告の主張は理由がない。 ? 小括 以上によれば,本願発明1と先願発明は同一であり,本願発明1について特許法29条の2の規定に該当するとした本件審決の判断に誤りはないから,取消事由は理由がない。 3 結論 よって,原告の請求は理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 高部眞規子 |
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裁判官 | 小林康彦 |
裁判官 | 高橋彩 |