関連審決 |
無効2017-8 無効2015-8 無効2019-800010 |
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事件 |
令和
1年
(行ケ)
10126号
審決取消請求事件
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原告株式会社技研製作所 訴訟代理人弁護士 増井和夫 同 齋藤誠二郎 復代理人弁護士 橋口尚幸 被告株式会社コーワン |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2020/10/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が無効2019−800010号事件について令和元年8月21日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文と同旨 |
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事案の概要等
1 手続の経緯 ? 被告は,特許第5763225号(以下「本件特許」という。)の特許権 者である。 ? 本件特許の設定登録に至る経緯は次のとおりである。 平成22年4月22日 原出願(特願2010-99137号) 平成26年1月14日 本件出願(特願2014-4293号) 平成27年6月19日 設定登録(特許第5763225号)? 原告が平成27年9月24日に請求した特許無効審判(無効2015-8 00184号)では,本件特許の請求項1,2,3,8及び9に記載された 発明に対して,分割要件違反に基づく新規性欠如又は進歩性欠如(無効理由 1,同2),サポート要件違反(無効理由3),及び実施可能要件違反(無 効理由4)が主張された。 特許庁は,平成28年6月28日に請求不成立の審決(甲28の1。以下 「第1次審決」という。)をした。 原告が提起した審決取消訴訟(当庁平成28年(行ケ)第10161号) につき,平成29年4月18日に請求棄却の判決がなされ,その後確定した。 これにより,第1次審決が確定した。 ? 原告が平成29年6月19日に請求した特許無効審判(無効2017-8 00078号)では,本件特許の請求項1,2,3,8及び9に記載された 発明に対して,サポート要件違反(無効理由1),特開2008-2670 15号を主引例とする新規性欠如又は進歩性欠如(無効理由2,同3),公 然実施された鋼矢板圧入引抜機「WP-100」に基づく進歩性欠如(無効 理由4)が主張された。 特許庁は,平成30年1月24日に請求不成立の審決(甲7の1。以下 「第2次審決」という。)をした。 原告が提起した審決取消訴訟(当庁平成30年(行ケ)第10030号) につき,平成30年11月28日に請求棄却の判決がなされ,その後確定し た。これにより,第2次審決が確定した。 ? 原告は,平成31年2月12日,本件特許の請求項1〜9に係る発明につ き特許無効審判(無効2019-800010号。以下「本件審判」とい う。)を請求した。 特許庁は,令和元年8月21日,請求不成立の審決(以下「本件審決」と いう。)をした。 原告は,同月29日に本件審決謄本の送達を受け,同年9月26日,本件 訴訟を提起した。 2 本件特許発明 ? 請求項1の記載(以下「本件発明1」という。) 「 下方にクランプ装置を配設した台座と,台座上にスライド自在に配備され たスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設されたガ イドフレームと,該ガイドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧入引抜 シリンダが取り付けられた昇降体と,昇降体の下方に形成されたチャックフ レームと,チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型の鋼矢 板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼矢板圧入引抜 機において, 前記クランプ装置は,台座の下面に形成した複数のクランプガイドに,相 互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクラン プする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに,複数のクラ ンプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり, 前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて,クランプガイドとクラン プ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設のU 型の鋼矢板の継手ピッチが400mm,500mm,600mmのいずれで あっても前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能としたことを特徴 とする鋼矢板圧入引抜機。」 ? 請求項2〜9に係る各発明(以下「本件発明2〜9」という。)は,本件 発明1に従属し,本件発明1の発明特定事項をすべて含む。 3 本判決の用語について ?「鋼矢板圧入引抜機」を単に「圧入機」ということがある。 ?「既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ」することを「正規状態で(の) 施工」ということがある。これに対し,先頭ではなく2枚目をクランプする ことを「2枚目クランプ状態で(の)施工」ということがある。 ? 鋼矢板の「継手ピッチ」は,通常,鋼矢板の幅によって定まる。したがっ て,「鋼矢板の継手ピッチが400mmである」ことと「400mm(の 幅)の鋼矢板を施工する」こととはほぼ同義であるので,特に区別せずに用 いるほか,更に略して,単に「400mmの場合」等ということがある。 |
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本件審決の要旨
1 本件発明1について請求人(原告)が主張した無効理由 ? 引用発明 本件原出願日前に公然実施された圧入機「WP-150」(以下「甲1圧 入機」という。)から,次の引用発明を認定することができる(以下「甲1 発明」という。甲1-1は甲1圧入機の取扱説明書である。)。 「 下方にクランプを配設したサドルと,サドル上にスライド自在に配備さ れたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設され たガイドフレームと,該ガイドフレームに昇降自在に装着されて圧入引抜 シリンダーが取り付けられた昇降体と,昇降体の下方に形成されたチャッ クフレームと,チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともにU型 の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック本体とを具備してなる鋼矢板 圧入・引抜機において, 前記クランプは,サドルの下面に形成した複数のクランプガイドに,相 互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってクラ ンプする複数のクランプを組み替え可能に装備するとともに,複数のクラ ンプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめてなり, 前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて,クランプガイドとクラ ンプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設 のU型の鋼矢板の継手ピッチが500mm,600mmのいずれであって も前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とするとともに,前記 既設のU型の鋼矢板の継手ピッチが400mmであっても前記既設のU型 の鋼矢板を先頭からではないがクランプ可能とした,鋼矢板圧入・引抜 機。」? 一致点 「 下方にクランプ装置を配設した台座と,台座上にスライド自在に配備さ れたスライドベースの上方にあって縦軸を中心として回動自在に立設され たガイドフレームと,該ガイドフレームに昇降自在に装着されて鋼矢板圧 入引抜シリンダが取り付けられた昇降体と,昇降体の下方に形成されたチ ャックフレームと,チャックフレーム内に旋回自在に装備されるとともに U型の鋼矢板を挿通してチャック可能なチャック装置とを具備してなる鋼 矢板圧入引抜機において, 前記クランプ装置は,台座の下面に形成した複数のクランプガイドに, 相互に継手を噛合させて圧入した既設のU型の鋼矢板の上端部に跨ってク ランプする複数のクランプ部材を組み替え可能に装備するとともに,複数 のクランプガイドのピッチ及び複数のクランプ部材の形状を異ならしめて なり, 前記既設のU型の鋼矢板の継手ピッチに応じて,クランプガイドとクラ ンプ部材を組み替えてクランプピッチを変更することによって,前記既設 のU型の鋼矢板の継手ピッチが500mm,600mmのいずれであって も前記既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした 鋼矢板圧入引抜機。」? 相違点 「既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能とした」構成について, 本件発明1では,「継手ピッチ400mm,500mm,600mmのい ずれであっても」既設のU型の鋼矢板の先頭からクランプ可能なのに対し, 甲1発明では,「継手ピッチ500mm,600mm」のみ可能であって, 「継手ピッチ400mm」のものは,既設のU型の鋼矢板をクランプ可能で あるが,先頭の鋼矢板をクランプするものではない点。 (判決注:この相違点を,上記「第2」3の用語により言い換えると,次のと おりである。 「400mmの場合,本件発明1では正規状態で施工できるのに対して,甲 1発明では正規状態で施工できず2枚目クランプ状態で施工する点。」)? 相違点の容易想到性 ア 甲1発明において,400mmの場合に正規状態で施工できないことの 原因は,チャック装置の幅寸法が大きいためにチャック装置と台座とが干 渉するという問題(以下「干渉問題」という。)が生じることにあった。 イ(無効理由1) 圧入する対象に応じて一体型チャックフレームを適宜交換することは公 知であり,かつ,400mmの場合は小さな一体型チャックフレームで足 りることは公知であった。 したがって,甲1発明において,500mm・600mm用の一体型チ ャックフレームに加えて,400mm用の小さな一体型チャックフレーム を用意し,400mmの場合には小さな一体型チャックフレームに交換す ることによって干渉問題を解決し,400mmの場合でも正規状態で施工 できるようにすることは,当業者が容易に想到し得た。 ウ(無効理由2) 圧入する対象に応じて先端のチャック装置のみを適宜交換する着脱式チ ャック装置は公知又は周知であり,かつ,400mmの場合に小さなチャ ック装置で足りることも公知又は周知であった。 したがって,甲1発明において,チャックフレームは共通化し,着脱式 チャック装置を備え,500mm・600mm用のチャック装置に加えて, 400mm用の小さなチャック装置を用意し,400mmの場合には小さ なチャック装置に交換することによって干渉問題を解決し,400mmの 場合でも正規状態で施工できるようにすることは,当業者が容易に想到し 得た。 2 本件発明1の進歩性についての本件審決の判断 ? 引用発明の認定及びこれと本件発明1との対比は,請求人(原告)の主張 (上記1の?〜?)のとおりである。 ? 相違点の容易想到性について ア 甲1-1では,400mmの場合には,2枚目クランプ状態で施工する ことが図示されている。また,本件原出願日前に公然実施されていた圧入 機「WP-100」(以下「甲6圧入機」という。甲6-1は甲6圧入機 の取扱説明書である。)は,甲1圧入機と同様にクランプの組替えによっ て600mm・500mm・400mmの鋼矢板の施工を1台で可能とす る機器であるところ,甲6-1には,400mmの場合について,甲1- 1の上記図示と同一の図に加えて,「圧入する矢板の手前の矢板はクラン プすることが出来ません。施工時に圧入する矢板の手前の矢板が共上がり, 共下がりすることがありますので,圧入する矢板の手前の矢板とクランプ している矢板を溶接止めして下さい。」との記載(以下「溶接事項記載」 という。)がある。 甲1-1の上記図示によれば,甲1発明においては,400mmの場合 には2枚目クランプ状態で施工することを前提としていたものと認められ る。このことは,甲6圧入機について,甲6-1の溶接事項記載において 400mmの場合には2枚目クランプ状態で施工する旨が説明されている こととも整合する。 イ(無効理由1について) 甲2-1〜2-3には,鋼矢板の種類に応じて一体型チャックフレームを交換することが開示されているが,400mm・500mm・600mmの鋼矢板を1台で施工するときには一体型チャックフレームを交換せずに施工しており,400mmの場合に小さな一体型チャックフレームに交換することは,記載も示唆もされていない。 甲3〜5,11(各枝番含む。)には,鋼矢板の種類に応じて異なるチャック装置を使用することが開示されているが,400mm・500mm・600mmの鋼矢板を1台の圧入機で施工することは記載も示唆もされていない。 甲1-1,3-2,6-1,10-1,12には,2枚目クランプ状態での施工の場合,装置に過負荷がかかること,共下がり・共上がりが生じることが開示されているが,400mm・500mm・600mmのいずれの場合も正規状態で施工可能とすることは記載も示唆もされていない。 そして,甲2〜6,9〜14(各枝番含む。)のいずれにも,400mm・500mm・600mmのいずれの場合も正規状態で施工可能とすることは記載も示唆もされていない。 そうすると,上記アのとおり400mmの場合は2枚目クランプ状態で施工することを前提としていた甲1発明において,一体型チャックフレームの交換によって,400mm・500mm・600mmのいずれの場合であっても正規状態で施工可能とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。 また,2枚目クランプ状態での施工には上記の課題(装置への過負荷,共下がり・共上がり)があるとしても,甲1発明は,400mmの鋼矢板の場合は2枚目クランプ状態で施工することを前提とするから,同課題を解決するために,継手ピッチが400mm・500mm・600mmのいずれであっても正規状態で施工可能とする特定の構成を採用することが当 業者にとって容易であったとはいえない。 ウ(無効理由2について) 甲3〜6,9〜14(各枝番含む。)のいずれにも,400mm・50 0mm・600mmのいずれの場合も正規状態で施工可能とすることは記 載も示唆もされていない。そうすると,1台の圧入機では,400mmの 場合には正規状態で施工できないことを前提としていた甲1発明において, 400mm・500mm・600mmのいずれの場合も正規状態で施工可 能とすることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。 3 本件発明2〜9について 請求人(原告)は,本件発明1の進歩性欠如による無効を前提に,本件発明 2〜9で付加された構成も進歩性を基礎付けるものではない旨主張した(なお, 本件発明1〜3,8,9については無効理由1及び2の両方を,本件発明4〜 7については無効理由2のみを主張した。) 本件審決は,本件発明1についての無効理由1及び2はいずれも成り立たず 本件発明1が進歩性を欠くとはいえないとの判断を前提に,更に構成を限定し た本件発明2〜9も進歩性を欠くとはいえない旨判断した。 |
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当事者の主張
1 原告の主張(審決取消事由) 原告は,本件審決の引用発明の認定及び本件発明1との対比は争わず,相違 点の容易想到性の判断の誤りを主張している。 ?(課題の認識及び解決への動機付け) 甲1発明では,400mmの場合に2枚目クランプ状態で施工することに よって,重大な問題(装置への過負荷,圧入引抜力の制限,共下がり・共上 がりの発生等)が発生している。したがって,甲1発明において,かかる重 大な問題を解決するための,強い動機付けが認められる。 甲1発明において400mmの場合には正規状態で施工できず2枚目クラ ンプ状態で施工すること(本件発明1との相違点)の原因は,甲1発明のチ ャック装置の横寸に基づく干渉問題による。当業者にとって,甲1発明に干 渉問題が存在することは自明であった。 本件原出願時に,400mmの鋼矢板の施工専用に用いる圧入機(以下 「400mm専用機」という。)は周知であり,400mm専用機ではチャ ック装置が小さいため干渉問題が生じず,正規状態で施工できることも周知 であった。 甲1発明において干渉問題が存在するのは,400mmの場合にも500 mm・600mm用の大きなチャック装置を用いているためであること,干 渉問題の解決のために400mm用の小さなチャック装置を用いればよいこ とも自明である。当業者は,この自明の理を,甲1発明自体の構成と,40 0mm専用機では干渉問題は生じないという周知の事実から認識するのであ り,開示又は示唆は不要である。 ?(取消事由1:無効理由1についての判断誤り) 本件原出願時に,圧入機の技術分野において,圧入する対象に応じて最適 な一体型チャックフレームと交換する手段が,公知の手段として存在してい た。すると,上記?のとおり,甲1発明において,400mm用の小さなチ ャック装置を用いれば干渉問題を解消できることは自明であることから,必 要に応じて,甲1発明の500mm・600mm用チャック装置を備えた一 体型チャックフレームから,400mm用の小さなチャック装置を備えた周 知の一体型チャックフレームへと交換することは,甲2及び甲18の教示に より当業者が容易に想到することである。 ?(取消事由2:無効理由2についての判断誤り) 本件原出願時に,圧入機の技術分野において,圧入する対象に応じて先端 のチャック装置の部分を交換できるものとする着脱式チャック装置は周知で あった。すると,上記?のとおり,甲1発明において,400mm用の小さ なチャック装置を用いれば干渉問題を解消できることは自明であることから, 甲1発明の一体型チャックフレームに代えて,周知の着脱式チャック装置を 採用し,400mmの鋼矢板を施工する際には400mm用の小さなチャッ ク装置を用いるものとすることは,上記周知技術を知る当業者が容易に想到 することである。 2 被告は,3期日にわたって適式な呼出しを受けながらいずれの口頭弁論期日 にも出頭せず,答弁書その他の準備書面も提出しない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1及び2について ? 引用発明の認定及び本件発明1との対比について 原告は,本件審決の引用発明(甲1発明)の認定並びに一致点及び相違点 の認定を争っておらず,当裁判所も,これらの認定を相当と認める。 ? 技術常識について 証拠(甲1-1,6-1,10-1,12)によれば,本件原出願時の技 術常識として次を認定できる。 ア 鋼矢板圧入引抜機は,通常,正規状態で施工するものであり,正規状態 での施工には,既設のU型の鋼矢板から強力な反力が得られ,共上がりや 共下がりが発生しないという利点がある。 イ 2枚目クランプ状態での施工には,過負荷がかかるため圧入機が不安定 化し,圧入引抜力が制限されるという問題点がある。 ウ チャック装置が大きすぎる場合には,チャック装置が本体側に近づくと 干渉問題が発生するために,正規状態での施工が不能になることがある。 ? 周知事項について 後掲各証拠によれば,本件原出願時において次の事項が当業者にとって周 知であったと認定できる。 ア 鋼矢板圧入引抜機には,圧入施工する対象(U型の鋼矢板,ハット形の 鋼矢板,鋼管矢板等)に合わせてチャック装置の交換が可能な構成が採用 されている。具体的には,チャック装置の交換は,一体型チャックフレー ムの交換や着脱式チャック装置の交換という公知又は周知の手段によって 実現される(甲2-2・2-3,3-2・3-3,4-2・4-3,5- 1・5-2,10-1,11,18〜25)。 イ 継手ピッチ400mmのU型鋼矢板用のチャック装置には,幅が大きな 鋼矢板(例えば,φ600〜φ1000mmの鋼管矢板,有効幅900mmの ハット形鋼矢板)に用いられるチャック装置と比べて,幅が小さいものが 使用される(甲2-2・2-3,13-2,14-1〜14-3)。 ? 相違点の容易想到性について 正規状態での施工の利点(上記?ア)及び2枚目クランプ状態での施工の 問題点(同イ)にかんがみると,甲1発明において,400mmの場合に2 枚目クランプ状態で施工すると,地盤が硬い場合や鋼矢板が長い場合には施 工不能となるおそれがあるから,正規状態での施工が可能になるように構成 することを当業者は動機付けられるといえる。 ここで,600mm用のチャック装置のままで400mmの鋼矢板を正規 状態で施工すると,チャック装置が大きすぎるために干渉問題が生じる(上 記?ウ)。この干渉問題を解決するために,上記?の周知事項を適用して, 必要に応じて圧入機に仕様変更を加えつつ,600mm用のチャック装置よ りも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm用のチャック装置を備え る一体型チャックフレームに交換することにより,あるいは,600mm用 の着脱式チャック装置よりも小型であり干渉問題の解消が可能な400mm 用の着脱式チャック装置に交換することにより,400mmの場合でも正規 状態での施工が可能になるように構成することは,当業者が容易に想到し得 たことといえる。 なお,本件特許の明細書の【0027】には,従来技術の説明として,溶 接事項記載に相当する記載があるが,溶接の工程にはそれなりの手間や費用 を要する上に,溶接した鋼矢板は,その再利用にも支障が生じ得ることなど を踏まえると,鋼矢板の溶接は,あくまでも次善の策にすぎず,当業者とし ては,より抜本的な解決策の採用に向けて動機付けられるであろうことは否 定できない。そうすると,溶接事項記載の存在により,相違点に係る本件発 明1の構成を採用することが阻害されるとはいえない。 2 第2次審決(甲7-1)との関係について なお,甲7の1,2によれば,本件審判手続と第2次審決に係る無効審判手 続とでは,類似の無効理由が主張されていたことが認められるので,第2次審 決との抵触等が問題にならないではないが,同証拠によれば,両者で主張され た無効理由は,主引例が異なる上に,その根拠として提出された証拠にも違い があることが認められるから,本件において,原告が,甲1発明に基づく進歩 性欠如を主張することが,第2次審決の効力に違反するものではないし,また, その主張が既に決着済みの問題を蒸し返すものであって信義則に違反するとま で認めるに足りる証拠もない。 3 結論 以上によれば,本件発明1について,原告主張の取消事由1及び2はいずれ も理由があるから,本件審決を取り消すべきである。また,本件発明2〜9に ついても,本件審決の判断は,本件発明1に無効理由がないからその従属請求 項である本件発明2〜9にも無効理由はないとするものであり,付加された構 成の容易想到性を判断していないので,この点を判断させるため,本件審決を 取り消すべきである。 |
裁判長裁判官 | 鶴岡稔彦 |
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裁判官 | 上田卓哉 |
裁判官 | 都野道紀 |