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事件 令和 2年 (ネ) 10002号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人(一審原告) 株式会社東京精密
同訴訟代理人弁護士 半場秀 筬島裕斗志 前田直哉 三縄隆 松村啓
同 補佐人弁理士石田良平
被控訴人(一審被告) 浜松ホトニクス株式会社
同訴訟代理人弁護士 設樂隆一 松本直樹 深沢正志 尾関孝彰 寺下雄介 大澤恒夫
同訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹 柴田昌聰
同 補佐人弁理士小曳満昭 今村玲英子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/09/09
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,原判決別紙被控訴人製品目録記載の各製品を製造し,譲渡し,若しくは貸し渡し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
3 被控訴人は,原判決別紙被控訴人製品目録記載の各製品を廃棄せよ。
事案の概要等
1(1) 控訴人は,発明の名称を「分割起点形成方法及び分割起点形成装置」とする特許権(本件特許)の特許権者であり,被控訴人は,原判決別紙被控訴人製品目録記載の各レーザエンジン(被控訴人各製品)を製造,販売する者である。
被控訴人各製品の少なくとも一部は,株式会社ディスコ(訴外会社)に販売され,レーザダイシング装置であるステルスダイシング(Stealth Dicing)レーザソー(以下「SDレーザソー」という。)に搭載された上で,ウェーハにレーザ光を照射してステルスダイシングを行った後に研削をする(Stealth Dicing Before Grinding)工程(以下「SDBGプロセス」という。)を実行するための,SDレーザソー,研削装置その他SDBGプロセスの実行に必要な全ての装置(ただし,エキスパンド装置を除く。)から成るシステム(以下「SDBGプロセス実行システムB」という。)の構成要素として用いられている。
本件は,控訴人が,被控訴人に対し,SDBGプロセス実行システムBは本件発明の技術的範囲に属し,被控訴人各製品の製造,販売等は本件特許に係る特許権に 対する特許法101条2号に定める間接侵害に当たると主張して,上記特許権に基づき,被控訴人各製品の製造,販売等の差止め(同法100条1項)を求めるとともに,当該侵害行為を組成する物としての被控訴人各製品の廃棄(同条2項)を求める事案である。
(2) 原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したことから,控訴人は,控訴を提起し,当審において,特許法101条1号に定める間接侵害に係る主張を追加した。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり改め,後記3のとおり争点2に関する当事者の当審における補充主張を,後記4のとおり当審で追加された争点及びそれに関する当事者の追加主張をそれぞれ加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の1〜3に記載するとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決3頁3行目の「「本件特許」という。」を「「本件特許」といい,本件特許の願書に添付された明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。」に改め,19行目の「(ただし」から21行目の「製造し,」までを「を製造,販売し,そのうち少なくとも原判決別紙被控訴人製品目録記載1(1)及び2の製品を」に改める。
(2) 原判決3頁24行目の「成り」を「成る装置であって」に,26行目の「ウェーハ内部に改質領域が形成される」を「ウェーハ内部に改質領域を形成することを可能とするものである」にそれぞれ改める。
(3) 原判決4頁1行目の「,前記アのとおり」を削除し,6行目末尾に続けて「(控訴人は,訴外会社が製造販売等するSDレーザソーに,原判決別紙被控訴人製品目録記載1(2)のレーザエンジンも搭載されている旨を主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。)」を加える。
(4) 原判決6頁1行目の「露出されない」を「露出させない」に改め,5行目の「明らかであるから」を「明らかであり,被控訴人各製品を用いることにより初めてウェーハの裏面を研削除去しても微小亀裂をウェーハの表面に露出させないこ とが可能となるようウェーハ内部に改質領域を形成することができるのであるから」に改める。
(5) 原判決6頁19行目の「明記されており,」の次に「「分割起点形成装置」が」を加え,21行目末尾に続けて,「「分割起点形成装置」は,分割起点を形成するために,上記加工対象物の裏面を一定の状態で研削除去する研削装置についての発明であり,SDレーザソーを構成要素とするものではない。」を加える。
(6) 原判決7頁8行目冒頭から末尾までを「被控訴人において,被控訴人各製品が本件発明の実施に用いられることを知ったことは否認する。」と改める。
3 争点2に関する当事者の当審における補充主張 【控訴人の主張】 (1) 特許法101条2号の「その物の生産に用いる物」の該当性 ア 被控訴人各製品はSDBGプロセス実行システムBの生産に用いる物であること 特許法101条2号の「その物」とは,当該発明の技術的範囲に属する物をいうと解すべきであり,本件では,被控訴人各製品が,本件発明の「分割起点形成装置」の生産に用いる物であるか否かではなく,本件発明の技術的範囲に属するSDBGプロセス実行システムBの生産に用いる物であるか否かが問題とされるべきである。
そして,被控訴人各製品は,SDBGプロセス実行システムBの生産に用いる物であるから,同号の「その物の生産に用いる物」に当たる。
イ 被控訴人各製品は本件発明の「分割起点形成装置」の生産に用いる物であること (ア) 本件発明の「分割起点形成装置」が改質領域の形成手段を含むこと a 本件発明の「分割起点形成装置」について,ウェーハを分割するプロセスは,@バックグラインドテープの貼付,Aレーザによる改質層の形成,B改質層の研削除去,C化学機械研磨,Dエキスパンドテープの貼付,Eウェーハの割断及びFウェーハの離間の七つの工程から成る(本件明細書の段落【0162】〜 【0202】及び図15)。そして,本件明細書において,分割するための起点である改質領域から延びる微小亀裂は,上記A及びBによって形成されているから,「分割起点形成装置」(分割するための起点を形成する装置,微小亀裂を形成する装置)として本件明細書に開示されているのは,レーザ照射装置と研削除去装置であるといえる。
b 構成要件Aの「内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを分割するための分割起点形成装置」という表現からは,「分割起点形成装置」が分割に用いられる装置であること及び当該分割とは内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハの分割であることしか読み取れず,「分割起点形成装置」が既にその内部にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを加工対象物とする装置であるということはできない。「形成した」という言葉を殊更に強調して解釈するのは,相当でなく,日本語の通常の語法という観点からしても誤っている。
本件発明は,クラックの進展の程度を制御しようとする技術思想のものであるところ,チップ断面の改質領域の部分からのチップの破断等を防ぐという課題(本件明細書の段落【0010】及び【0022】)からは,本件発明が,改質領域を形成することを必須の工程として含んでいるか,改質領域が形成されたウェーハを対象とするかのどちらかであるとまではいえても,後者であるとは断定できない。本件明細書の段落【0051】及び【0209】に記載されたクラックの進展の程度の制御についても,改質領域の形成とは無関係に行われているのか,改質領域の形成とも関連しているのか,直ちには判別できない。
本件明細書には,既に改質領域が形成されたウェーハを入手すればよい,改質領域はどのように形成されても構わないといった表現はどこにも記載も示唆もされておらず,むしろ,改質領域の形成方法について詳細に開示されており,特に本件明細書の段落【0167】では,チップの厚さと改質領域を形成する位置について言及がされている。
したがって,本件発明においては,適切な位置,形状等で改質領域を形成するこ とは,必須のものと考えられているのであり,本件発明は,既にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを対象とするものではない。
(イ) 訂正の主張 上記(ア)のとおり,本件発明の「分割起点形成装置」には,レーザ照射装置と研削除去装置が含まれるが,そのことをより明確するために,控訴人は,構成要件A(内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを分割するための分割起点形成装置において)と構成要件B(前記ウェーハの前記改質領域を研削除去するための研削手段であって)との間に,「前記ウェーハの内部に改質領域を形成する改質領域形成手段と,」を加える旨の訂正をする用意がある。
(2) 特許法101条2号の「その発明による課題の解決に不可欠なもの」の該当性 ア 本件発明は,研削が終了した段階で亀裂が表面に到達していない点に,従来技術と対比した場合の進歩性を根拠づける差があるのであって,本件発明に係る技術思想を特定するに当たり,その具体的な手段のうち研削手段のみを過度に強調するのは妥当でなく,改質領域形成手段も同様に重視されるべきである。
特許法101条2号の「その発明による課題の解決に不可欠なもの」とは,特許請求の範囲に記載された発明の構成要素(発明特定事項)とは異なる概念であるから,原判決のように特許請求の範囲の記載を出発点としてこれを検討することは誤っているが,本件発明の構成要件を基準にみても,構成要件B及びCだけでなく,構成要件A及びDも備えることで,レーザ光による改質領域が除去され,抗折強度の高い,安定した品質チップを効率よく得るという本件発明に固有の独特な作用効果を奏するのであるから,構成要件A〜Dのいずれもが課題の解決に不可欠であるといえる。
イ 本件明細書の段落【0167】の記載は,研削工程の際,改質領域から延びる微小亀裂が表面に到達しないための条件といえ,本件明細書では,研削工程と有意な関連性を有する改質領域形成手段が備えるべき具体的な構成,条件等につ いての説明がされている。
また,特許法101条2号の条文上,「その発明による課題の解決に不可欠なもの」が明細書に記載されていることまでは要求されておらず,明細書に記載されていないものであっても,これに該当し得る。
ウ SDBGプロセスを説明する甲第6号証及び乙第3号証は,被控訴人各製品が搭載されたSDレーザソー等の製品を販売するための動画であるところ,被控訴人が,販売を目的として,それらを製作し,これをあまねく広く知らしめようとしていることは,SDBGプロセス実行システムBに被控訴人各製品が不可欠であることを示している。
【被控訴人の主張】 (1) 特許法101条2号の「その物の生産に用いる物」の非該当性 ア SDBGプロセス実行システムBの生産は本件発明の物ではないこと 本件特許請求の範囲には,本件発明の物が「分割起点形成装置」であることが明記されており,これとは異なるSDBGプロセス実行システムBが本件発明の物であると解釈する余地はない。
イ 被控訴人各製品は本件発明の「分割起点形成装置」の生産に用いる物ではないこと (ア) 本件特許請求の範囲の文言において,「形成した」は過去形であり,「分割起点形成装置」が新たにウェーハ内部に改質領域を形成すると解釈する余地はない。本件明細書には,上記の理解を覆す記載はなく,むしろ,これに整合する記載がある。
控訴人が指摘するウェーハ分割プロセスにおける七つの工程は,本件発明のはるかに前から,本件明細書の段落【0005】の「特許文献1」と「特許文献2」(いずれも優先日を平成14年3月12日とする被控訴人による出願である。)に示された公知の技術であり,本件明細書の段落【0002】〜【0004】の記載等から明らかなように,本件発明は,これらの公知技術における問題(本件明細書の段 落【0006】〜【0021】)のいずれかに鑑みてされた改良発明の一つにすぎず,既にその内部にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを加工対象物として,その割断のための分割の起点を形成する装置の発明である(本件明細書の段落【0022】,【0025】)。
(イ) 本件明細書及び本件特許請求の範囲に「分割起点形成装置」が改質領域形成手段を有することは示されておらず,むしろ,本件明細書の段落【0001】には,「本発明は,内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハに分割起点を形成する分割起点形成方法及び分割起点形成装置に関するものである。」と記載されている。したがって,控訴人が示唆する訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でなされるものではなく,特許法126条5項訂正要件を充足しない。仮に,当該訂正について,上記範囲内でするものということができたとしても,当該訂正は,同条1項ただし書及び7項に定める各訂正要件を満たしておらず,また,間接侵害の範囲を広げる訂正であって,同条6項に反する。
(2) 特許法101条2号の「その発明による課題の解決に不可欠なもの」の非該当性 本件明細書には,改質領域を研削除去した際に改質領域から延びる微小亀裂をウェーハの表面に到達させないために,改質領域が特定の条件を備えるべきことは一切記載されていない。また,本件発明の出願当時の技術常識において,どのような改質領域であれば研削除去された際に微小亀裂がウェーハの表面に到達し,逆にどのような改質領域であれば研削除去された際に微小亀裂がウェーハの表面に到達しないのか不明である。したがって,本件明細書の記載によると,本件発明は,加工対象物であるウェーハの内部にどのような改質領域及びそれから延びる微小亀裂が形成されているかを問うことなく,研削条件を調整することにより,改質領域から延びる微小亀裂がウェーハの表面に到達しないように改質領域を研削除去するものである。よって,研削手段は本件発明の特徴的技術手段であるが,改質領域形成手 段は本件発明の特徴的技術手段ではない。
本件明細書の段落【0167】の記載は,改質領域を研削除去した際に改質領域から延びる微小亀裂をウェーハの表面に到達させないという観点で好適な改質領域形成位置を示すものではなく,研削により改質領域が除去されつつも微小亀裂がウェーハの表面近くまで進展する(すなわち微小亀裂がウェーハの表面に到達しやすい)改質領域形成位置を示すものである。したがって,本件明細書には,改質領域を研削除去した際に改質領域から延びる微小亀裂をウェーハの表面に到達させないためにはどのような改質領域が好適であるのかは一切記載されていない。
なお,ウェーハ内部での改質領域形成位置(レーザ光の集光位置)の調整は,被控訴人各製品の構成とは無関係である。
以上のとおり,被控訴人各製品が特許法101条2号における「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に該当する余地はない。
4 当審で追加された争点及びそれに関する当事者の追加主張 間接侵害(特許法101条1号)の成否(争点4) 【控訴人の主張】 (1) 特許発明技術的範囲に属する物であること SDBGプロセス実行システムBは,本件発明の構成要件A〜Dを充足する。
SDBGプロセス実行システムBが構成要件Cを充足することは,争点1について主張したとおりである。
(2) 物の生産に用いる物であること 争点2に関して述べたところからすると,被控訴人各製品は,特許法第101条1号の「生産に…用いる物」に該当する。
(3) 「のみ」の要件を充たすこと 被控訴人各製品は,SDレーザソー(型番DFL7361又はDFL7362)にのみ搭載されるものである(特に,原判決別紙被控訴人製品目録記載2のレーザエンジンは,明らかにSDレーザソーに搭載されるものである)。このことは,被 控訴人各製品がレーザエンジンという特殊な製品であり,汎用性のあるものではないことからも明らかである。
そして,SDレーザソーは,SDBG実行プロセスBにのみ用いられるものである。例えば,SDレーザソーについてのカタログである甲第7号証及び甲第11号証において,SDBGプロセス以外の他の方法について一切言及はない。
【被控訴人の主張】 (1) 控訴人の主張は,時機に後れた攻撃防御方法であるから,民訴法157条1項により却下されるべきである。
(2) 被控訴人各製品は,次のとおり,「その物」(改質領域を除去するSDBGプロセスを実行するシステムであって研削が終了した時点で微小亀裂をウェーハの表面に露出させないシステム)「の生産にのみ用いる物」ではない。
ア 被控訴人各製品が, 「その物の生産に…用いる物」に該当しないことは,争点2に関して述べたとおりである。
イ 被控訴人各製品は,次のとおり,「その物の生産にのみ用いる物」の「のみ」の要件も充足しない。
(ア) 本件発明は,SDBGプロセスを前提として,裏面研削の際に進展する微小亀裂をウェーハ表面までは到達させない(そういう研削をする)ものである一方,被控訴人各製品は,あらゆる形態のステルスダイシング加工に適用可能なものである(甲6,乙3)。
(イ) 被控訴人各製品が搭載された訴外会社のSDレーザソーは,SDBGプロセスに限られない多様なプロセスに適用されるものである(甲8の3頁,乙18のスライド13のB)から,被控訴人各製品は,改質領域を除去する(構成要件Bを充足する)SDBGプロセスのみに適用されるものではない。また,被控訴人各製品が搭載された訴外会社のSDレーザソーを含むSDBGプロセス実行システムBを用いた加工において,研削が終了した時点で微小亀裂がウェーハの表面に露出しないとの事実もないから,被控訴人各製品は,研削が終了した時点で微小亀裂 をウェーハの表面に露出させない(構成要件Cを充足する)SDBGプロセスのみに適用されるものではない。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断するが,その理由は,後記2のとおり改め,後記3のとおり争点2に関する当審における控訴人の補充主張についての判断を,後記4のとおり当審で追加された争点4についての判断を加えるほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3 当裁判所の判断」(以下,単に「原判決の第3」という。)の1及び2に記載するとおりであるから,これを引用する。
2(1) 原判決7頁16行目の「本件特許の」から17行目の「という。)には」までを「本件明細書には」と改める。
(2) 原判決9頁24行目の次に,改行して次のとおり加える。
「【0029】…改質領域が形成されたウェーハ表面の略全面をテーブルに基板の各位値を独立して一様に吸着させた状態でウェーハを裏面から研削して改質領域を除去する。
【0030】このときに,研削によって生じた研削熱により,研削しているウェーハ表面とともに半径方向に熱膨張して広がろうとする。しかし,一方でウェーハは熱容量の大きいウェーハ真空チャックによって,その膨張による広がりを阻止しようとする。
【0031】その結果,ウェーハ表面は熱膨張で拡大する一方,チャックされているウェーハ裏面は真空チャックにより膨張せず,そのままの状態を維持しようとする。その結果,ウェーハ内部に形成された改質領域は,そのウェーハ表面と裏面の膨張の違いに応じて,改質領域がさらに拡大するように作用し,さらに亀裂が進展するようになる。…【0032】こうして,研削工程によってウェーハを削りながら除去するとともに,微小空孔をウェーハの厚み方向に進展させ改質領域を除去する。次に,研削により 形成された加工変質層と,進展した微小空孔とを,際立たせるために,ウェーハ全面に対して化学機械研磨を施して(後に詳細記載) 加工変質層を完全に除去する。
,その結果,微小空孔のみが表面に残り,その残りの領域は加工歪も残らない完全な鏡面となる。」 (3) 原判決11頁4行目の「高い」を「大きい」と改める。
(4) 原判決11頁15行目の「SDレーザソーに」から17行目の「あり」までを,「ウェーハ内部に改質領域を形成することを可能とする被控訴人各製品は,亀裂を進展させる工程に先立って,その内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを製作する工程に用いられるものであって」と改める。
(5) 原判決13頁7行目の「(構成要件A),」の次に,「研削手段を有する(構成要件B,C)」を,10行目の「起点を」の次に「研削手段によって」をそれぞれ加える。
(6) 原判決14頁1行目の「露出されない」を「露出させない」と改める。
3 争点2に関する当審における控訴人の補充主張についての判断 (1) 特許法101条2号の「その物の生産に用いる物」該当性について ア 訂正の上で引用した原判決の第3の1(2)アで説示したとおり,本件発明において,特許法101条2号の「その物」は,本件発明に係る「分割起点形成装置」を意味するのであって,SDBGプロセス実行システムBが上記の「その物」に当たる余地はない。
イ 控訴人は,@本件明細書の段落【0162】〜【0202】及び図15においては七つの工程が記載されているところ,レーザによる改質層の形成(2番目の工程)及び改質層の研削除去(3番目の工程)によって,分割するための起点である改質領域から延びる微小亀裂が形成されていること,A構成要件Aの「内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハを分割するための分割起点形成装置」という表現からは,「分割起点形成装置」が分割に用いられる装置であること及び当該分割とは内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハの分割であることしか読 み取れないこと,B本件発明は,クラックの進展の程度を制御しようとする技術思想のものであるところ,チップ断面の改質領域の部分からのチップの破断等を防ぐという課題からは,本件発明が,改質領域が形成されたウェーハを対象とするとは断定できないこと,C本件明細書には,既に改質領域が形成されたウェーハを入手すればよい,改質領域はどのように形成されても構わないといった表現はどこにも記載も示唆もされておらず,特に本件明細書の段落【0167】では,チップの厚さと改質領域を形成する位置について言及がされていることを理由に,本件発明においては,適切な位置,形状等で改質領域を形成することも,必須のものと考えられているのであり,本件発明における分割起点形成装置にはレーザ照射装置が含まれるなどと主張する。
しかし,本件明細書の記載が研削除去工程だけでなくレーザ改質工程についても触れたものとなっており,本件明細書の段落【0167】では,チップの厚さと改質領域を形成する位置について言及がされているとしても,本件特許請求の範囲の記載からすると,本件発明がレーザ改質工程を含むものといえないことは,訂正の上で引用した原判決の第3の1(3)アで説示したとおりである。また,構成要件Aの文言や本件発明の課題等からすると,本件発明が,既にその内部にレーザ光で改質領域が形成されたウェーハを加工対象物として,その割断のための分割の起点を形成する装置であることは,訂正の上で引用した原判決の第3の1(2)アで判示したとおりであり,このような解釈が日本語の通常の語法に反するということはできない。
したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
ウ 控訴人は,訂正の用意がある旨主張するが,訂正の上引用した原判決の第3の1(2)で判示したところによると,控訴人が主張する訂正は,特許法126条1項ただし書が規定するいずれのものにも当たらないのみならず,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するもの(特許法126条6項)であるから,その要件を欠くものである。
(2) 特許法101条2号の「その発明による課題の解決に不可欠なもの」について ア 控訴人は,本件発明は,研削が終了した段階で亀裂が表面に到達していない点に,従来技術と対比した場合の進歩性を根拠づける差があるのであって,本件発明に係る技術思想を特定するに当たり,改質領域形成手段も研削手段と同様に重視されるべきであると主張するが,この主張については,訂正の上で引用した原判決の第3の1(3)イで説示したとおり採用することができない。
この点について,控訴人は,本件明細書の段落【0167】の記載が研削工程と有意な関連性を有する改質領域形成手段が備えるべき具体的な構成,条件等についての説明であると主張するが,本件明細書の段落【0167】には,「ウェーハWの表面(デバイス面)を効率的に破断するため」のレーザ光の照射方法が記載されているにすぎず,研削工程と有意な関連性を有する改質領域手段が備えるべき具体的な構成,条件等について説明されているものではない。
イ 控訴人は,甲第6号証及び乙第3号証を指摘し,SDBGプロセス実行システムBに被控訴人各製品が不可欠であると主張するが,被控訴人各製品がSDBGプロセス実行システムBを構成するに当たって不可欠なものであるか否かが本件における特許法101条2号の「その発明による課題の解決に不可欠なもの」の認定を何ら左右するものでないことは,訂正の上で引用した原判決の第3の1(2)イで説示したところから明らかである。
4 争点4についての判断 (1) SDBGプロセス実行システムBが特許法101条1号の「その物」に当たらないことは,前記3(1)アのとおりであるから,これに当たることを前提とする控訴人の主張は,採用することができない。また,訂正して引用した原判決の第3の1(2)で説示したところに照らすと,被控訴人各製品が本件発明に係る「分割起点形成装置」の生産に用いるものであるとも認められない。したがって,特許法101条1号についての控訴人の主張は,その余の点について判断するまでもなく,理 由がない。
(2) 被控訴人は,争点4の控訴人の主張について,時機に後れたものとして民訴法157条1項による却下を求める旨の申立てをするが,上記主張が訴訟の完結を遅延させることとなるとは認められないから,上記申立てには理由がない。
5 まとめ 以上によると,控訴人の請求は,その他の争点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
結論
よって,控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 佐野信
裁判官 中島朋宏
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