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事件 平成 29年 (ワ) 27378号 特許権持分1部移転登録手続等請求事件
5原告X
同訴訟代理人弁護士 町田健一 牧野知彦 加治梓子
被告 小野薬品工業株式会社 10 (以下「被告小野薬品」という。)
同訴訟代理人弁護士 重冨貴光 古庄俊哉 辻居幸一 田中伸一郎 15 同補佐人弁理士 小松邦光
被告Y (以下「被告Y」という。)
同訴訟代理人弁護士 岩瀬ひとみ 葛西陽子 20 湯村暁 井垣太介
同訴訟復代理人弁護士 石井将介
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2020/08/21
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件訴えのうち発明者であることの確認を求める部分を却下する。
25 2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
1事 実 及 び 理 由第1 請求1 原告と被告らとの間で,原告が,別紙特許権目録記載の特許権に係る発明の発明者であることを確認する。
5 2 被告らは,原告に対し,同目録記載の特許権につき,それぞれ持分4分の1の移転登録手続をせよ。
3 被告らは,原告に対し,連帯して,1000万円及びこれに対する被告小野薬品について平成29年9月5日から,被告Yについて同月3日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
10 4 仮執行宣言第2 事案の概要1 本件は,平成12年4月から平成14年3月まで京都大学大学院生命科学研究科(生体制御学分野)の修士課程に在籍していた原告が,名称を「癌治療剤」とする別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件特許」といい,同特許権に係15 る特許を「本件特許」という。)に係る発明(以下「本件発明」という。)は,原告が同大学院在籍中に行った実験結果やその分析から得られた知見をまとめた論文(後記PNAS論文)に基づくものであるから,原告は同発明の発明者の一人であるとして,本件特許権を共有する被告らに対し,本件発明の発明者であることの確認及び特許法74条1項に基づく本件特許権の持分各4分20 の1の移転登録手続を求めるとともに,被告らが故意又は過失により原告を共同発明者として出願しなかったことにより損害を被ったとして,共同不法行為に基づく損害賠償金1000万円(経済的損害200万円,精神的損害300万円,弁護士費用500万円の合計額)及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告小野薬品について平成29年9月5日,被告Yについて同月3日)から25 支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
22 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)(1) 当事者等5 ア 原告は,岡山大学工学部を卒業した後,平成12年4月に京都大学大学院生命科学研究科(生体制御学分野)に入学し,Z教授(以下「Z教授」という。)の研究室(以下「Z研」という。)に所属し,平成14年3月まで修士課程に,平成17年3月まで博士課程に在籍し,同月,博士号の学位を取得した。
10 イ 被告小野薬品は,医薬品の製造,売買及び輸出入等を業とする株式会社であり,がんの免疫療法薬として使用されている「オプジーボ」という商品名の抗PD−1(Programmed cell death 1 の略)抗体に係る薬剤を製造販売している。
ウ 被告Yは,京都大学大学院医学研究科(分子生物学)教授等を歴任し,15 現在,京都大学医学部内の講座「免疫ゲノム医学」教室において特任教授の地位にある。同被告は,平成30年10月,T細胞上に発現するPD−1の免疫抑制機能を阻害することによるがん治療法を発見したとして,ノーベル生理学・医学賞を受賞した。(甲7,乙B24)エ Z教授は,原告が京都大学大学院の修士・博士課程に在籍していた時の20 指導担当教授であり,がん免疫の研究を専門としている。
オ W助手(以下「W助手」という。)は,平成10年10月にZ研にスタッフとして着任し,原告が京都大学大学院の修士・博士課程に在籍していた時,Z研に所属する助手であり,原告を直接指導する立場にあった。
カ A氏(以下「A氏」という。)は,平成10年春から平成14年3月ま25 で,京都大学大学院の博士課程に在籍し,被告Yの研究室(以下「Y研」という。)に所属して研究を行っていた。
3キ 上記のとおり,平成12年から平成14年までの間,Y研には被告Y及びA氏(博士課程)等が,Z研にはZ教授,W助手,原告(修士課程)等が所属していた。
(2) 原告の発表した論文及び学位の取得5 ア 修士論文及び修士号の取得原告は,後記(8)の結果に基づき,平成14年3月に論文題目を「PD−1/PD−L1システムによるCTL細胞障害性に対する抑制調節」とする修士論文を執筆し,修士号を取得した。(甲12)イ PNAS論文の発表10 A氏,原告,W助手,被告Y及びZ教授は,「Involvement of PD-L1 on tumor cells in the escape from host immune system and tumor immunotherapy by PD-L1 blockade (腫瘍細胞中のPD−L1と宿主免疫システムからの回避との関係及びPD−L1をブロックすることによるがん免疫治療について)」)と題する論文を執筆し,これを米国科学アカデ15 ミー紀要(PNAS)平成14年9月17日号において発表した(以下「PNAS論文」という。甲13)。
PNAS論文は,同論文掲載の一連の実験の結果が,「PD−L1の発現が,潜在的に免疫原性のある腫瘍が宿主の免疫反応から免れるための強力なメカニズムとして機能し得ることを示唆し,また,PD−1とPD−20 L間の相互作用を遮断することが,特定のがん免疫療法のための有望な戦略を提供することを示唆している」(甲13の2(1頁))ことを要旨とするものである。
PNAS論文の脚注1(甲13の1(1頁))には,「AとXは本研究に等しく貢献した。」との記載がある。
25 ウ 博士論文及び博士号の取得原告は,平成17年3月,PNAS論文を根拠論文として,博士号を取4得した。同博士号の申請に当たり,原告の指導教授であるZ教授は,自ら署名押印した文書(甲1の2)において,原告の行った実験及びその結果を列記した後,「以上のところまでを,equal contribution として,分担担当した。」と記載している。
5 なお,京都大学大学院生命科学研究科においては,その当時,博士課程修了認定者は,当該学生が筆頭著者となっている国際誌に英文で発表した論文を根拠論文としなければ学位申請をすることができなかった。(乙B3(24頁),乙B13(35頁))(3) 本件特許権等10 被告らは,以下の各特許権に係る発明につき,発明者を被告Y,Z教授,A氏及びF(被告小野薬品の従業員(当時))として特許出願をし,特許権の設定の登録を受けた。なお,被告小野薬品が製造販売しているオプジーボは,下記関連特許権1及び2に係る発明の実施品である。(甲3〜6)ア 関連特許権1(本件特許権の曽祖父出願)15 特許番号 特許第4409430号出願日 平成15年7月2日登録日 平成21年11月20日発明の名称 免疫賦活組成物イ 関連特許権2(特許権1の出願からの分割出願 本件特許権の祖父出願)・20 特許番号 特許第5159730号出願日 平成21年9月3日登録日 平成24年12月21日発明の名称 モノクローナル抗体ウ 関連特許権3(特許権2の出願からの分割出願・本件特許権の親出願)25 特許番号 特許第5701266号出願日 平成24年9月7日5登録日 平成27年2月27日発明の名称 感染症治療剤エ 本件特許権(特許権3の出願からの分割出願)本件特許権は,別紙特許権目録記載のとおりであり,その特許請求の範5 囲は,別紙「特許請求の範囲」記載のとおりである(以下,本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書等」という。甲6)。
(4) 被告小野薬品の製造・販売するオプジーボの基本的な作用機序免疫機能が正常に働いている場合,主として免疫細胞の一種であるT細胞(「CTL」ともいう。)ががん細胞を攻撃する。T細胞の表面には,T細10 胞の活性を抑制し,いわば免疫機能のブレーキボタンに当たる受容体であるPD−1(Programmed cell death 1)が発現しているが,PD−1が現れただけでは,ブレーキはかからない。
他方,がん細胞は,T細胞の攻撃を受けないように表面にPD−L1(Programmed cell death ligand 1)を発現させることがある。このPD−15 L1とPD−1とが結合すると,その相互作用により免疫抑制シグナルがT細胞に伝達されるので,T細胞の免疫機能にブレーキがかかり,T細胞はがん細胞を攻撃できなくなる。
抗PD−1抗体であるオプジーボは,T細胞のPD−1に結合して,PD−1ががん細胞から作り出されるPD−L1と結合することを阻止すること20 により,免疫機能にブレーキがかからないようにして,がん細胞を攻撃するT細胞の攻撃力を高めるとの作用を奏する。
すなわち,オプジーボが投与されてT細胞のPD−1と結合し,PD−1とPD−L1との結合が阻止されると,T細胞にブレーキがかからないため,免疫機能が回復し,T細胞ががん細胞を攻撃することができるようになる。
25 (甲11)(5) 本件発明の特徴6上記(4)記載のとおり,オプジーボはT細胞に発現するPD−1に結合する抗体(抗PD−1抗体)であり,関連特許権1及び2の実施品であるのに対し,本件発明は,本件特許の請求項1(「PD−1の免疫抑制シグナルを阻害する抗PD−L1抗体を有効成分として含む癌治療剤。」)からも明らか5 なとおり,がん細胞の側に発現するPD−L1に結合する抗体に関する発明である。
(6) 原告がZ研に入室した当時のZ研の研究・指導体制原告がZ研に入室した平成12年4月当時の教員スタッフは,Z教授の他に助教授2名,助手1名(W助手)の4名体制であり,大学院生は希望に応10 じて,これら3名のいずれかのグループに配属されて研究指導を受けていた。
当時,Z研に所属していた大学院生は,修士課程(非医系学部出身者のみ)と博士後期課程合わせて約20名であった。
Z研では,当時,毎週1回,約2時間をかけて,グループミーティングを開催していた。同ミーティングには,Z教授のほか,グループリーダー(教15 員)とそのグループに属する全ての学生が参加し,各学生は一人ずつその1週間に行った実験の生データを示すなどして,実験の目的,実験手技の妥当性,データの解釈,今後の方針などについての議論が行われた。(乙B3(5頁))そして,W助手のグループに属する学生は,グループミーティングに参加20 するに際し,「objectives(目的)」,「Methods(方法)」,「Results(結果)」及び「Future plans(今後の計画)」などの項目から構成され,英文で記載されたメモ(甲83)を参加者全員に配布することとされていた。(以上,乙B3(5・6),乙B14(8〜10),Z証人(28〜30頁),W証人(7〜10頁),原告本人(1〜3,36,52頁))25 (7) 原告がZ研に入室する時点までのPD−1及びPD−L1の研究状況等ア PD−1は,平成4年,Y研において,単離され,発見された。(乙B71(3頁))イ 平成8年5月,被告Yを共同執筆者の一人とする「Expression of thePD-1 antigen on the surface of stimulated mouse T and B lymphocytes(刺激したマウスTリンパ球及びBリンパ球の表面におけるPD−1抗5 原の発現)」と題する論文(以下「Int.Immunol論文」という。
乙B5)が公表された。
同論文(Fig.4及び6)には,リンパ球(T細胞及びB細胞)を刺激することによりPD−1の発現が誘導されることが記載されている。
ウ 平成11年8月,被告Yを共同執筆者の一人とする「Development of10 Lupus-like Autoimmune Diseases by Disruption of the PD-1 GeneEncoding an ITIM Motif-Carrying Immunoreceptor(ITIMモチーフを有する免疫受容体をコードするPD−1遺伝子の破壊によるループス様自己免疫疾患の発症)」と題する論文(以下「Immunity論文」という。乙B6)が公表された。
15 同論文には,@PD−1遺伝子欠失マウスの実験により,PD−1分子の欠失が自己免疫病によく似た症状の発症に至ること,A2Cトランスジェニックマウス(以下「2Cマウス」という。)との交配実験により,PD−1欠損下では,本来抑制されているはずの自己反応性T細胞(2C細胞)が全身で増殖し活性化されていることなどが示されている。(乙B120 3(2頁))エ 被告Yは,平成10年3月頃から平成11年6月頃にかけて,A氏にPD−1−Ig融合タンパク質を作製させ,平成11年6月頃までに,これを用いてがん細胞を含む様々な細胞上のPD−1リガンドの発現の有無を確認させた。
25 他方,PD−1の結合相手になるリガンド分子(PD−L1)については,単離されていなかったところ,Z教授は,被告YがそのころPD−L81分子の遺伝子同定に成功したとの情報を得て,平成11年冬までにY研からPD−L1遺伝子を譲り受けた上で,Z研において,PD−L1側からの研究を開始した。そして,被告YとZ教授は,実験データ等を共有しつつ,共同して研究を進めることに合意した。(乙B1(7頁),乙B35 (4頁))オ Z教授は,その後,Z研のB助教授(以下「B助教授」という。)及びW助手に対し,PD−L1に対するモノクローナル抗体(以下「抗PD−L1抗体」という。)の作製を指示し,B助教授において,抗原となるマウスのPD−L1タンパク質を大量に調製した。
10 続いて,W助手において,抗PD−L1抗体の作製作業に入り,B助教授が調製したタンパク質を使い,抗PD−L1抗体を産生するハイブリドーマを作製した。そして,産生された多数のハイブリドーマをフローサイトメトリー法によりスクリーニングする作業を繰り返した結果,平成12年4月22日までの間に,優れた性能を有する1−111抗体及び1−115 67抗体を得た。
W助手は,その後,1−111抗体及び1−167抗体のハイブリドーマの培地馴化等の作業を行い,平成12年7月頃,実際に実験で使用する抗PD−L1抗体を調製した。(以上,乙B4,乙B13(7〜8頁),乙B14(13・14,18〜20頁),証人Z11頁,証人W16・120 7頁)カ 平成12年10月,被告Yを共同執筆者の一人とする「Engagement ofthe PD-1 Immunoinhibitory Receptor by a Novel B7 Family Member Leadsto Negative Regulation of Lymphocyte Activation(新しいB7ファミリーメンバーによるPD−1免疫抑制性受容体の関与が,リンパ球活性化25 の負の制御を導く)」と題する論文(以下「JEM論文」という。甲66)が公表された。
9同論文には,「腫瘍が,抗腫瘍免疫応答を阻害するために,PD−L1を使用している可能性を提起する。」との記載がある(甲66(5−117頁)。
(8) 原告が修士課程に在籍中に行った実験(以下の実験を総称して「本件実験」5 という。)原告は,Z研に入室後,以下の実験を行った(以下の実験のうち,エ(オ)を除き,実際の作業を原告が行ったことは当事者間に争いがないが,個々の実験を着想,計画及び設計したのが原告自身であるかどうかについては争いがある。)。
10 ア 抗PD−L1抗体の性状確認等(ア) 抗PD−L1抗体の性状確認等前記(7)オのとおり,原告がZ研に入室した平成12年4月当時,抗PD−L1抗体の作製作業は既に開始しており,1−111抗体及び1−167抗体のハイブリドーマは得られていたものの,なお,より良い15 抗体を作製する抗体スクリーニング作業は続いていた。原告は,Z研に入室後,このスクリーニング作業に参加するとともに,1−111抗体及び1−167抗体の性状解析を行い,これらの抗体がPD−L1分子をしっかり認識できるかどうかなどの確認作業を行った。
その結果,平成12年11月頃には,1−111抗体の方がより高い20 親和性でPD−L1分子を認識していることが明らかになり,これを超える性能の抗PD−L1抗体は見つからなかったことから,その後は,1−111抗体が抗PD−L1抗体として実験に使用されるようになった。(甲50(5〜7頁),乙B13(9頁),乙B14(19〜25頁))25 (イ) PD−L1の発現の確認原告は,その後,抗PD−L1抗体を用いて,ランダムに多数のがん10細胞におけるPD−L1の発現の有無を調べる実験を行った。その際,フローサイトメトリー法のみならず,ノーザンブロッティング法により,遺伝子転写産物(mRNA)発現との対応関係も確認した。これは,試験管内で維持されているがん細胞において,フローサイトメトリー法に5 よりPD−L1分子が細胞表面に発現していないように見えても,生体内に投与すると当該分子が細胞表面に発現誘導される可能性があることによる。(乙B13(10〜11頁))この確認実験の対象には,がん細胞であるP815細胞も含まれ,同細胞はPD−L1を発現していないことが確認された。(甲83(7−10 1頁〔H12.9.29〕)。なお,甲83はZ研のグループミーティングのメモであり,括弧内はその開催日を示す。甲25,72,73も同様のメモであるが,甲83に含まれている。)イ ヒトのγδ型T細胞及びNK細胞を使用した実験原告は,平成12年9月頃から,具体的な実験に従事するようになった。
15 原告は,当初,「PD−1遺伝子のヒトγδ型T細胞に及ぼす影響の検討」,「マウスPD−L1のNK細胞に及ぼす影響の検討」を研究テーマとして与えられ(甲28(3−56頁)),がん細胞を攻撃するキラー細胞(キラーT細胞,NK細胞,γδ型T細胞)のうち,主として,NK細胞及びγδ型T細胞を使用して実験を行った。
20 しかし,その結果,ヒトのγδ型T細胞におけるPD−1の発現を観察することはできず(甲83(7−5頁〔H12.10.13〕)),また,NK細胞が標的とするYAC−1細胞にPD−L1を遺伝子導入したものと,PD−L1を発現していない元々のYAC−1細胞とでは,その細胞傷害性に有意な差は認められなかった。
(以上,甲83(7−2頁〔H12.10.6〕,乙B)25 13(9〜10頁) 乙B14, (23〜24頁) 証人Z, (12〜13頁),証人W(10〜11頁))11ウ P815/PD−L1細胞に対する2C細胞の細胞傷害性測定実験(実施例1関係)(ア) 実験の意義・目的原告は,平成12年10月から11月にかけての頃,2C細胞とP85 15細胞とを組み合わせた実験を開始した。
2C細胞は,B6系マウスに,H−2L dという主要組織適合抗原遺伝子複合体(MHC)クラスI分子を認識するT細胞受容体(TCR)をコードする遺伝子を導入した2Cマウスに由来するキラーT細胞である。T細胞にPD−1が発現していることは,上記(7)イのとおり,I10 nt.Immunol論文において既に明らかにされていた。2C細胞は,その細胞表面に発現したTCRを介して,異系の細胞上に発現するH−2Ldを認識して免疫応答する。
他方,P815細胞は,DBA/2マウス由来のがん細胞であり,PD−L1を発現していないことは,上記ア(イ)の実験により確認されて15 いた。この細胞は,2C細胞の標的となるH−2L dを発現しており,代表的なNK抵抗性でT細胞感受性であることから,NK細胞による影響を考慮する必要がなく,細胞傷害性T細胞の解析に適している。
上記のとおり,B6系マウスに由来する2C細胞とDBA/2マウスに由来するP815細胞とは,その由来するマウスの系が異なるので,20 2C細胞はP815細胞をがん細胞と認識して攻撃するのではなく,MHCが異なる細胞として攻撃する。この2つの細胞を組み合わせた実験は,異なるMHCを有する細胞を標的細胞とする移植免疫系(異系)の実験である。
(以上,乙B13(10〜12頁),乙B14(25〜26頁),証人Z15・16頁)25 (イ) PD−L1を発現するP815細胞の樹立上記のとおり,P815細胞にはPD−L1を発現していないことが12確認されたことから,PD−1/PD−L1の相互作用について確認する実験を行うには,P815細胞にPD−L1を遺伝子導入した細胞(以下「P815/PD−L1細胞」という。)を作製した上で,PD−L1を発現していない野生型のP815細胞との対比を行うことが必要とな5 る。
これを受けて,原告は,P815細胞にPD−L1を遺伝子導入する方法としてエレクトロポレーション法を使用し,作製されたP815/PD−L1細胞上にPD−L1が発現していることをフローサイトメトリー法により確認した。
10 原告は,平成12年12月の時点で1個のクローンを樹立することができたが,一つの細胞株のみで行った実験ではクローナル・バリアナンスの可能性を排除することができないことから,P815/PD−L1細胞株を複数樹立する作業を進めたところ,平成13年4月になって,3個のクローンを取得することができた。(以上,甲83(7−20・15 35・36頁〔H12.12.8,H13.4.13〕,乙B13(12頁),乙B14(26〜32頁),証人W18・19頁)上記実験の結果は,PNAS論文Fig.1B右図に掲載されるとともに,平成14年2月頃に実施した実験の結果(甲34)が同左図に掲載され,本件明細書等の実施例1に関する【図1】(A)にも掲載された。
5120 (ウ) Crリリースアッセイによる細胞傷害性測定実験原告は,平成12年12月頃,樹立されたP815/PD−L1細胞を用い,PD−L1を発現させたP815/PD−L1細胞に対する2C細胞によるキラー活性(細胞傷害性)を測定し,野生型のP815細胞に対するキラー活性と比較する実験を行い,更に,抗PD−L1抗体25 が存在する状況でのキラー活性の測定も行い,その結果を放射性同位体であるクロミウムを使用した 51Crリリースアッセイにより測定した。
13その結果,平成13年2月頃,抗PD−L1抗体を投与すると,2C細胞上のPD−1とP815/PD−L1細胞上のPD−L1との相互作用に基づく免疫応答抑制シグナルが阻害されて,P815/PD−L1細胞に対する2C細胞のキラー活性が回復することが確認された。
5 (甲83(7−22,27〜30頁〔H12.12.25,H13.2.2・16〕)。なお,7−23は平成14年1月18日付けメモの2枚目であるのでここに挙げていない(甲25の1(3−27,28頁)参照)。),乙B13(13〜15頁),乙B14(30・31頁),証人W19・20頁)(エ) 抗PD−L1抗体からFc部分を切断した抗体を使用した実験10 上記(ウ)の実験においては,全長の抗PD−L1抗体が使用されたが,P815/PD−L1細胞に対するキラー活性が抗PD−L1抗体の投与により回復した場合であっても,それが抗PD−L1抗体によるPD−1/PD−L1相互作用の遮断効果ではなく,P815/PD−L1細胞に結合した抗PD−L1抗体のFc領域に2C細胞がFc15 受容体を介して結合し,これによってキラー活性が誘導されたことの効果(ADCC効果)である可能性がある。
(乙B13(15・16頁),乙B14(31頁))このため,原告は,平成13年2月頃,抗PD−L1抗体のキラー活性増強効果がADCC効果による可能性を排除し,PD−1/PD20 −L1相互作用の阻害による効果であることを確認するために,抗PD−L1抗体をペプシンという消化酵素を用いて切断し,F(ab’)2 型の抗PD−L1抗体を作製する作業を開始した(甲83(7−28頁〔H13.2.16〕),乙B17(13〜14頁,別紙2),証人W20・21頁)。
25 原告は,F(ab’)2型の抗PD−L1抗体を作製するのに相応の時間を要し,平成13年12月頃,F(ab’)2型の抗PD−L1抗14体を作製して,DBA/2マウスへの投与実験を行うことができるようになった。
(甲83(7−38・39〔H13.4.27〕・43〔H13.6.1〕,48〔H13.7.13〕,52頁〔H13.12.17〕),甲38,67,乙B13(16頁),乙B14(31〜39頁))5 F(ab’)2型の抗PD−L1抗体を使用した実験の結果,2C細胞とP815/PD−L1の存在下ではキラー活性は阻害されたが,F(ab’)2型の抗PD−L1抗体を投与すると,キラー活性が2C細胞とP815細胞を混合した場合と同程度まで回復することが明らかになった。これにより,抗PD−L1抗体の効果が,Fc部分を介10 した細胞傷害に起因するものではなく,PD−1/PD−L1相互作用に基づく2C細胞抑制シグナルの阻害によるものであることが明らかになった。(甲39)この結果は,PNAS論文Fig.1Cに掲載され,本件明細書等の実施例1に関する【図1】(B)にも掲載された。
15 エ DBA/2マウスへのP815/PD−L1細胞移植実験(実施例2関係)(ア) 実験の目的・意義上記ウ(ア)のとおり,2C細胞とP815細胞という異系の細胞の組合せによる実験は,MHCの異なる細胞に対する移植拒絶反応系の実験で20 あり,キラーT細胞に対する効果を試験管内で検証するためのものであるが,これを本来のがん免疫反応において個体レベルで検証するには,P815細胞と同系のDBA/2マウスを使用し,マウスの生体にP815細胞を投与する実験を行う必要がある。
(乙B13(16・17頁))(イ) 腹腔内及び皮下への投与実験25 原告は,まず,平成13年4月頃,DBA/2マウス腹腔内にP815/PD−L1細胞とP815細胞を投与したが,有意な差は認められ15なかった。(甲83(7−35・36頁〔H13.4.13〕,41頁〔H13.5.18〕,甲40))続いて,原告は,平成13年5月頃,DBA/2マウスの皮下にP815/PD−L1細胞とP815細胞を注入し,腫瘤を形成した腫瘍の5 長径と短径を測定して体積を推定し,その変化を経時的に測定する実験を開始したところ,同年11月頃,腫瘍の増大速度がP815/PD−L1細胞の方が速いことが確認できた。
(甲83(7−49〜51頁〔H13.11.16・26・30〕,甲41,42,乙B13(17・18頁)) )上記の実験結果は,PNAS論文Fig.2A(左図)・Bに掲載さ10 れ,本件明細書等の実施例2に関する【図2】(A)にも掲載された。
(ウ) P815移植DBA/2マウスに対する抗PD−L1抗体の投与実験原告は,DBA/2マウスを用いた実験においても,抗PD−L1抗体を投与した場合の効果が抗PD−L1抗体のADCC効果によるも15 のである可能性を除外するため,平成13年12月頃,P815/PD−L1細胞を皮下に移植したDBA/2マウスにF(ab’) 2型の抗PD−L1抗体を投与して,その生存率と腫瘍容積の変化を測定した。
その結果,F(ab’)2型の抗PD−L1抗体を投与することにより腫瘍の増殖が抑制されることが確認できた。(甲83(7−52頁〔H120 3.12.17〕,甲43))上記実験の結果は,PNAS論文Fig.3Bに掲載され,本件明細書等の実施例3に関する【図3】(B)にも掲載された(なお,この実験は実施例3に記載されているが,その性質としては,DBA/2マウスへのP815/PD−L1細胞移植実験の一部であると解されるの25 で,ここに記載した。)。
(エ) Balb/cヌードマウスを使用した実験16続いて,原告は,平成13年5月頃,DBA/2マウスにおいて認められたP815細胞とP815/PD−L1細胞の腫瘍形成能の違いが,宿主であるDBA/2マウスのT細胞に依存するものであることを確認するため,胸腺を欠如しT細胞を持たないBalb/cのヌードマ5 ウスを用いて,P815細胞とP815/PD−L1細胞の腫瘍増殖を調べる実験を開始した。(甲83(7−41頁〔H13.5.18〕))ヌードマウスは胸腺を欠損しており,T細胞性免疫応答を備えていない一方,NK細胞のような非T細胞系は存在するところ,DBA/2マウスをヌードマウスに代えて実験を行った場合に,P815/PD−L10 1細胞を投与してもP815/PD−L1細胞の腫瘍形成能が野生型のP815細胞と差異を生じないとすれば,PD−1/PD−L1相互作用によるT細胞性免疫応答の抑制機能はT細胞に依存していることになる。(乙B13(18頁),乙B14(34〜36頁),証人Z24・25頁)15 上記実験の結果,ヌードマウスにおいてP815細胞とP815/PD−L1細胞の腫瘍形成能の差異が認められなかった。(甲83(7−61頁〔H14.3.29〕 ,甲45))上記の実験結果は,PNAS論文Fig.2A(右図)に掲載された。
(オ) DBA/2マウスの病理組織学的解析20 Z教授は,P815/PD−L1細胞を投与されたDBA/2マウスが急速に死亡した原因が,P815/PD−L1細胞の全身転移による可能性があると考え,がん細胞が実際に組織の中でどのように浸潤・転移しているのかを確認すべく,DBA/2マウスの病理組織学的解析を行った。この解析はZ教授が自ら行ったものであり,原告は関与してい25 ない。(甲83(7−49・51頁〔H13.11.16・30〕)乙B13(18・19頁))17上記の実験結果は,PNAS論文Fig.2Cに掲載され,本件明細書等の実施例2に関する【図2】(B)にも掲載された。
オ P815特異的細胞傷害性T細胞及びP815移植DBA/2マウスに対する抗PD−L1抗体の投与実験(実施例3関係)5 (ア) 実験の目的・意義上記ウの実験は,2C細胞とP815細胞を組み合わせた異系の細胞レベルでの実験であったが,P815細胞と同系のDBA/2マウスに由来するキラーT細胞についても,これと同様の実験を行うべく,原告は,平成13年6月頃より,放射線照射によって細胞分裂を止めたP810 15細胞をDBA/2マウスに免疫して,そのマウスから抗原特異的細胞傷害性T細胞を取得するという方法により,P815細胞を特異的に認識して傷害するP815特異的細胞傷害性T細胞のクローンを樹立する作業を開始した。
原告は,平成14年1月頃になって,DBA/2マウス由来のP8115 5特異的細胞傷害性T細胞を樹立することができ,その後,このP815特異的細胞傷害性T細胞と,@P815細胞,AP815/PD−L1細胞,B抗PD−L1抗体存在下のP815/PD−L1細胞とを混合培養した場合における細胞傷害性アッセイ及びIFN−γ(インターフェロンγ)産生を確認した。(以上,乙B13(19・20頁),乙20 B14(34〜40頁),証人Z25・26頁,証人W21・22頁)(イ) 実験の結果細胞傷害性アッセイの結果,同系の細胞を用いた試験管内実験でも,P815/PD−L1細胞においてPD−L1によって抗腫瘍活性が抑制されていることが確認できた。
25 また,上記実験(ア)の結果,P815細胞にP815特異的細胞傷害性T細胞を作用させると,IFN−γを産生するが,P815細胞にPD18−L1を発現させるとIFN−γの産生は著しく低下し,これにF(ab’) 型の抗PD−L1抗体を添加するとIFN−γの産生がP8152細胞に対する反応性に近いところまで回復した。(以上,甲83(7−43〔H13.6.1〕,54・23頁〔H14.1.18〕),乙B14(40頁))5 上記の実験結果は,PNAS論文Fig.3A中央及び右図に掲載され,本件明細書等の実施例3に関する【図3】(A)にも掲載された。
カ J558L細胞を使用した実験(実施例5関係)(ア) 実験の目的・意義上記のP815/PD−L1細胞を用いた実験は,あくまで遺伝子導10 入により人為的にPD−L1を発現させたがん細胞を用いた実験であったが,これらの実験で確認された結果が,遺伝子人為導入がん細胞による特殊な事象ではないかとの疑念を払拭するため,原告は,平成13年終わり頃,PD−L1を自然かつ高度に発現していることが判明していたJ558Lというがん細胞を用いて,同様の移植実験を行った。
(乙15 B13(20頁),乙B14(40〜43頁),証人Z26頁,証人W22・23頁)(イ) 実験結果上記実験の結果,抗PD−L1抗体により腫瘍が大きくなるのが阻害されることを示すデータが得られた。(甲83(7−55〜60頁〔H120 4.2.22,3.3・18・22〕),乙B14(42・43頁))この実験結果は,PNAS論文Fig.4に掲載され,本件明細書等の実施例5に関する【図5】にも掲載された。
(9) A氏による実験(実施例4関係)A氏は,平成12年8月頃から平成13年2月までに,野生型のB6マウ25 スとPD−1遺伝子欠失B6マウスにB16/PD−L1細胞を皮下移植し,その増殖速度を測定した結果,PD−1遺伝子欠失B6マウスでは,野生型19のB6マウスに比べて,B16/PD−L1細胞の増殖が遅くなることを確認した(乙B2(2頁,別紙4及び5))。
この実験結果は, PNAS論文Fig.4C右図に掲載され,同様の結果は,本件明細書等の実施例4に関する【図4】にも掲載された。
5 3 争点(1) 本件発明の発明者であることの確認の利益の有無(争点1)(2) 原告が本件発明の発明者かどうか(争点2)(3) 特許権の持分移転登録請求の可否(争点3)(4) 不法行為の成否及び損害額(争点4)10 第3 争点に関する当事者の主張1 争点1(本件発明の発明であることの確認の利益の有無)について〔原告の主張〕原告は,以下のとおり,本件発明の発明者であることの確認を求める利益を有する。
15 (1) 発明者は,発明完成と同時に特許を受ける権利を取得するとともに,人格権としての発明者名誉権を取得する。このことは,パリ条約4条の3に「発明者が特許証に発明者として記載される権利を有する。」と定められているとおりであり, 特許に関し条約に別段の定があるときは,「 その規定による。」と定める特許法26条により,我が国において直接適用される。
20 (2) また,特許法66条3項3号等は,発明者の氏名を特許公報の記載事項としているが,これは,発明者発明者名誉権を有することを前提とし,これを具体化した規定であると解される。
(3) したがって,原告は,特許証作成者である特許庁に対し,本件発明の特許証に自己を発明者として記載するように求める権利を有するところ,被告ら25 は,原告が本件発明の発明者であることを否定しているので,原告には,原告が本件発明の発明者であることの確認を得る利益が認められる。
20〔被告Yの主張〕原告には,以下のとおり,本件発明の発明者であることの確認を求める利益はない。
(1) 原告が本件発明の発明者であることの確認を求める訴えは,その実質にお5 いて,発明者に関する事実関係について確認を求めるものであり,このような事実関係についての確認の利益は認められない。
(2) また,我が国の特許法上,パリ条約4条の3及び特許法26条に基づき,特許庁に対し特許証に自己を発明者として記載するよう求めるなどという手続は規定されていないので,原告の主張はその前提を欠く。
10 (3) 給付の訴えが認められるときはその前提となる事実関係の確認に訴えの利益は認められないところ,発明者名誉権の侵害に対しては,発明者たる地位の確認請求ではなく,給付の訴えである不法行為に基づく損害賠償請求をすれば足りるのであるから,原告には本件発明の発明者であることの確認を求める利益はない。
15 〔被告小野薬品の主張〕上記〔被告Yの主張〕(3)と同旨。
2 争点2(原告が本件発明の発明者かどうか)について〔原告の主張〕原告は,以下のとおり,本件発明の共同発明者である。
20 (1) 発明者の認定基準発明者については,発明の成立過程を着想の提供(課題の提供又は課題解決の方向付け)と着想の具体化の2段階に分け,@提供した着想が新しい場合には,着想(提供)者は発明者であり,A新着想を具体化した者は,その具体化が当業者にとって自明程度のことに属しない限り共同発明者であると25 の基準により認定されるべきである(東京地裁平成14年8月27日判決(平成13年(ワ)第7196号)参照)。
21特に,医薬品分野は,着想や課題が設定されたからといって,必ずしも予想どおりの結果が得られるか否かが明らかではなく,実際に実験等を繰り返すことによって初めて発明が具現化されるという特殊性がある。すなわち,医薬品分野では,実験条件の選択や実験の実施が,発明の完成において極め5 て重要な意味を有している。未解明な事項の多い最先端の技術分野において,学生が創作性を発揮し,発明者として関与することが多いというのは通常の経験則である。
原告は,PD−1,PD−L1及びこれらの抗体と免疫機能の関連性を系統的に解析することを着想し,本件実験の条件の設定,材料・実験方法の選10 択,実験の実施,条件修正及び更なる実験を行い,その結果,初めて,実験データという確証を伴った形で,PD−1又はPD−L1と抗体との結合により免疫機能が回復するメカニズムを明らかにした。
また,原告のように特許発明に係る情報を記載した各種文書を作成し,これを管理している場合には,いわば発明を占有するものとして発明者性が推15 認されるものと解すべきである。本件において,被告Y,Z教授,W助手らは,本件発明に係る実験を再現する必要性が生じた場面において,原告の管理する当時の実験ノートや原告の助言なしに原告による実験を再現することができなかった。この事実も,原告が共同発明者であることを示している。
(2) 原告の発表した論文と本件発明の関係20 ア 原告の執筆した論文等原告は,平成12年に京都大学大学院に入学し,配属されたZ研における研究テーマとしてPD−1を選択し,W助手のグループに所属して研究を行った。原告は,Z研において,W助手が進めていた抗PD−L1抗体の樹立の研究に協力し,同年6月頃までに2種類の抗体を樹立し,同年9月頃まで25 に,そのうち1種類が効果的な抗体であることを解明した。その後,この抗体を使った応用実験の中で生じたのが,がん免疫とPD−1/PD−L1の22相互作用に関する本件発明である。
原告は,本件実験の結果に基づき,平成14年3月に修士論文を執筆し(甲12),その後,A氏とともに,共同第一執筆者として,PNAS論文を発表した(甲13)。
5 原告は,更にその後,平成17年に,PNAS論文の研究成果が認められ,京都大学において博士号を取得した(甲1)。
イ PNAS論文の内容と本件発明の同一性本件明細書等に記載されている実施例1〜3及び5に係る実験のほとんどは,原告が修士課程に在籍中に行ったもので,修士論文,PNAS論文及10 び博士論文で発表したものと同一である。
そして,PNAS論文の冒頭には,研究の結論として「これらの結果は,PD−L1の発現が,潜在的に免疫原性のある腫瘍が宿主の免疫反応から免れるための強力なメカニズムとして機能し得ることを示唆し,また,PD−1とPD−L間の相互作用を遮断することが,特定のがん免疫療法のための15 有望な戦略を提供することを示唆している。」(甲13の2(1頁))と記載されているが,これは,本件発明のメカニズムそのものである。
このように,本件発明の特徴的部分は,原告の本件実験及びそこから導かれる発明を根幹とするものである。
(3) Z教授による原告の貢献の証明等20 ア このように,PNAS論文の内容は本件発明のメカニズムを解明し,その有用性を指摘するものであって,本件発明等の根幹をなすものであるところ,同論文において,原告は共同第一著者と明記され,甲13の1の脚注(1頁)には「AとXは本研究に等しく貢献した。」と記載されている。
同論文において,A氏がFig.4Cに係る一つの実験のみを担当したこ25 とをもって筆頭著者となっているのであれば,その余の実験全てを行った原告が筆頭著者になるのは当然のことである。そして,A氏が本件特許の23発明者になっているのであれば,原告もまた発明者になることは当然である。
被告Yは,PNAS論文の共同執筆者の一人であり,自らが同論文の投稿を行う立場にあったのであるから,原告の上記貢献を認めていた。同論5 文に名を連ねている被告Y,Z教授,W助手は当時国立大学であった京都大学の教員であり,国家公務員の地位にあった者であり,しかも,同論文が,本件発明に近接し,利害得失のない時期に作成されたものであることに照らすと,上記脚注の記載は類型的に信用性が高いということができる。
イ Z教授が原告の博士論文の審査に際して提出された資料においては, 以「10 上のところまでを,equal contribution として,分担担当した」などと記載され,同教授は,PNAS論文における実験に対する原告の寄与を証明している(甲1の2)。
この証明書作成当時,Z教授は国立大学法人である京都大学の教員であり,みなし公務員の地位にあった(国立大学法人法19条)。そして,この15 証明書が本件発明に近接し,利害得失のない時期に作成されたものであることはPNAS論文の場合と同様であり,この証明書もまた類型的に信用性が高い。
また,博士号等の授与は,法令・規則等に基づく極めて厳格な手続であり,京都大学も博士号等の授与に関し「京都大学学位規程」(甲23)を定20 めており,厳格な手続によることとしているほか,「京都大学 学位授与の方針(ディプロマ・ポリシー)(甲24)では,」 「研究者として自立して活動し,また高度な専門業務に従事するために必要な能力とその基盤となる学識を身につけている」ことを博士号授与の要件としている。Z教授の上記証明は,原告が上記の要件を満たすことを認めたものにほかならない。
25 ウ 被告Yは,PNAS論文において原告が筆頭著者であることについて,実際に手を動かしてデータを取得したという以上の意味はないというが,24京都大学大学院生命科学研究科において,学生の学位取得に際して,当該学生が筆頭著者となっている論文がなければ学位申請できないというシステムが採用されているのは,当該論文記載の研究を筆頭著者が行っていることが通常であり,これにより筆頭著者である学生がその論文に見合う5 実力を有しているといえるからである。単に手を動かしてデータを取得したにすぎない学生を論文の筆頭筆者とするのが一般的な実務であるなどということはあり得ない。
エ 以上のとおり,原告が本件実験を行ったことを裏付けるPNAS論文の記載及びZ教授の証明書の信用性は極めて高いから,これらのみをもって10 しても原告が本件発明に貢献していると認められる。
(4) PNAS論文における実験は原告が主体的に行ったものであることア 本件実験のほぼ全てを原告が行ったことについては,当事者間に争いがない。化学の分野においては,発明の基礎となる実験を現に行い,その検討を行った者の発明者性が否定されることはなく,むしろ,一般的な助言15 等を与えたにすぎない者の発明性が否定されている(知財高裁平成18年7月19日判決(平成18年(ネ)第10020号),同平成20年5月29日判決(平成19年(ネ)第10037号,甲58),同平成27年3月25日判決(平成25年(ネ)第10100号,甲59)等参照)。実験を成功させるまでには,具体的な実験方法の選択,用いる材料や量の選択,20 温度や時間の管理など,様々な試行錯誤が必要になるので,多数の裁判例が実際に実験を実施した者に発明者性を認めているのは当然である。
イ 一般に,大学院の研究室において,学生は,研究者として自立し,専門業務に従事するために必要な能力を養うために自らの研究として実験を行っている。原告も,本件実験を独自に着想するとともに,同実験を構成25 する個々の実験の過程において,実験条件の設定,材料・方法の選択,条件修正などを自ら主体的に行い,失敗を繰り返しながら有用性のある条25件・範囲を確認し,実験データを得て初めてPD−L1と抗体が結合することにより免疫機能が回復することを確認したものである。
ウ 被告Yは,Z教授がPNAS論文に記載された実験系を設計又は構築し,原告に対して具体的な指導を行ったと主張するが,これを裏付ける客観的5 な証拠は存在しない。
特に,本件実験のように大規模かつ長期にわたる実験の全ての段階において,多くの学生を抱えて研究室の運営や自らの研究も行っているZ教授が,大学院生である原告による創意工夫が介在する余地を一切残さないほどの詳細な指示を与えることは不可能であり,研究の遂行には学生自身の10 着想・検討や試行錯誤を伴うことは明らかである。
エ 実際のところ,Z研においては,原告が在籍した当時,研究の方向性のみはZ教授が決めていたものの,具体的な研究テーマの設定を含め,学生とその指導教官(W助手)に主体的に決めさせていた。
Z研では,毎週,グループミーティングが行われていたが,同ミーティ15 ングで使用するメモは,毎週各学生が行った実験結果を記載するとともに,その後行う実験計画を,学生自身が「Future plans」として書き込むことになっていた(甲83)。これらは,基本的に学生が自ら検討して記載するのであって,Z教授やW助手の指示が記載されるものではない(甲51(5頁)。
)20 Z教授は,多数の学生を抱えていたこともあり,その指導時間は,1,2週間に1回,一人5分から10分程度に限られていた(甲51(4頁)。
)原告は,Z教授からグループミーティング以外で指示を受けたことはなく,W助手が原告のメモを事前に修正したこともなかった。
このように,原告が行った実験が全てZ教授又はW助手の指示によるも25 のであったとの事実はなく,原告が考えた実験プランをZ教授やW助手に伝え,その場でZ教授などから意見や助言がなされ,それを踏まえて,更26に実験を進めていったのが実際である。最先端の研究を行っている研究室において,学生と指導者との間においてこのようなやり取りがなされていたことは極めて自然なことである。
オ 本件実験の実験手法に関し,被告Yは,原告が行った個別の実験手法は5 全てZ研において確立されていた手法であったと主張する。
しかし,具体的な実験内容は,その実験により検証しようとする内容により異なるのであって,個々の実験の基本的な手順などが公知であるとしても,実験の選択や組合せについては,一律に確立したやり方があってそれをそのまま行えばよいというものではない。まして,PD−1やPD−10 L1のように,その当時,その機能等が未解明な分子を扱うための実験系は当時確立されていなかった。
後記のとおり,本件において,原告は,@2C細胞とP815細胞とを使用した実験を着想し,AF(ab’)2作製の経緯において,Z教授に助言されたパパインを使用した実験がうまくいかなかったことから,試行錯15 誤の末,ペプシンを使用することを選択し,B岡山大学医学部寄生虫学教室のC助教授(当時)(以下「C助教授」という。)の助言を得て,P815特異的細胞傷害性T細胞を樹立したなどの事実が認められ,これによれば,原告が試行錯誤しながら実験を進めたことは明らかである。
カ 原告の実験の手技について,被告Yは,原告は,Z研に入室当時,生物20 学や免疫学の系統的な知識は有しておらず,実験の実技経験も学部の学生実習程度のものであったので,Z教授及びW助手は,原告に対して,いわばゼロに近い状態から教育・研究指導を行う必要があったと主張する。
この点,原告としても,原告の知識の程度が修士課程に入学したばかりの程度であったことを特に否定するものではないが,原告は,Z研に入っ25 てからすぐに抗体作成のための実験などに関与し,具体的な実験を始める平成12年10月頃には相応の経験を積んでいた。
27(5) PD−1/PD−L1の相互作用とがん免疫の関係についての着想ア 原告は,Z研に入室した際,PD−L1の研究及びアレルギーの研究の2つを示され,PD−L1の研究を選択した。原告がこの研究に関与した当時は,PD−L1は自己免疫疾患との関係で研究されていたにすぎず,5 これをがん治療と結びつける発想はなかった。原告は,本件実験を通じて徐々にPD−1/PD−L1の相互関係ががん細胞に対する細胞傷害性に影響することを認識し,PD−1やPD−L1の抗体ががん治療に有効となり得る可能性があるとの知見を持つに至ったのである。
イ これに対して,被告Yは,遅くとも,PD−1が免疫反応の負の制御因10 子である可能性を見出した平成10年頃の時点で,これをがん治療に応用することを想定していたと主張する。
この点,原告としても,被告Yがそのような着想を有していたことまでを否定するものではないが,A氏が行った程度の実験によって,そのような課題が具体的なものとして確立されていたと主張するのであれば否認15 する。その当時,がんに対する免疫療法という抽象的な課題が認識されていたとしても,それ自体は単なる願望というべきものであって,大学の研究室における研究テーマの設定には該当しても,特許発明において必要とされる課題の設定という程度に達していたということはできない。
更にいえば,PD−1/PD−L1の相互作用が抗腫瘍効果を奏する可20 能性があるとの上記課題自体は,平成12年10月2日発行のJEM論文(甲66(5−117頁) に) 「腫瘍が,抗腫瘍免疫応答を阻害するために,PD−L1を使用している可能性を提起する。」と記載されていることや,平成13年3月に公開された特許公報である甲60(その訳文として甲61(5−87頁))に「PD−1を介するシグナリングを阻害する作用剤を25 対象の免疫細胞に投与して,免疫応答のアップレギュレーションから利益を受けるであろう症状を治療することを特徴とする…1の具体例におい28て,該症状は,腫瘍…からなる群より選択される。(段落【0009】」 )と記載されていることが示すとおり,原告がZ研に入室した当時,公知であったというべきである。
以上のとおり,被告Yが着想したと主張する課題自体は公知のものであ5 り,上記のPD−1/PD−L1の相互作用がもたらす可能性は,原告が行った本件実験を通じて,初めて単なる「願望」から具体的な「課題」として認識されるに至ったものである。原告が行った本件実験は,本件発明の「課題」を設定し,その解決に向けた具体的な解決手段を示したものであった。
10 ウ 被告Y及びZ教授が,原告がZ研において実験を行っていた当時,本件実験ががんの治療に関わる重要な実験であることを具体的に理解していたのであれば,そもそも,そのような重要な実験を修士課程の学生一人に全て任せるということ自体があり得ない。このことからしても,被告Y及びZ教授が,原告が実験を行っていた時点で本件発明の重要性を認識して15 いたとは考え難い。
被告Yの主張によれば,上記の重要な実験を適切な実験を行う知識・能力に欠けた修士課程の学生一人に任せ,Y研で行われていたA氏の実験内容も伝えることなく,Z教授とW助手で原告の実験を全て指示したということになるが,そのような主張は荒唐無稽というほかない。
20 また,平成12年9月末頃におけるW助手のグループのメンバーの課題は,同助手作成の課題メモ(甲28)に記載されたとおりであるが,このメモには,キラーT細胞の記載はない。このことも,当時,Z教授やW助手ががん免疫治療を目指していなかったことを示している。
(6) 原告の行った個別の実験における着想及び具体化25 原告は,本件実験を構成する個々の実験について,以下のとおり,着想及びその具体化をした。
29ア 抗PD−L1抗体の作製原告がZ研に入室した平成12年4月1日時点は,抗PD−L1抗体を産出する可能性のあるハイブリドーマの作製が終了していたにすぎない時期であった。その時点で樹立されたハイブリドーマは数千種類に及ぶ抗5 体産生細胞の集合であるため,その後,有効な単体の抗体が産生されているハイブリドーマのクローンを選別するスクリーニング作業が不可欠であり,この時点ではモノクローナル抗体の作製は完成していなかった。
原告は,Z研に入室した直後の平成12年4月から6月までは,同抗体のスクリーニング作業に専ら従事した。その際,Z教授から,作製した抗10 体と結合させるべきPD−L1を発現した細胞について,ノーザンブロッティング法によりPD−L1の遺伝子配列の全長のRNA発現があることを確認した上で,その細胞と作製した抗体を反応させてフローサイトメトリー法により染色させるという方法により行ってはどうかという提案があった。
15 原告は,これを受けて,ノーザンブロッティング法及びフローサイトメトリー法による実験をW助手等の指導も受けながら行ったところ,1−111抗体及び1−167抗体が有望であることが判明したが,最終的には,平成12年9月29日,全ての細胞株が染色された1−111抗体を抗PD−L1モノクローナル抗体として樹立し,使用するようになった(甲820 3(7−1頁〔H12.9.29〕))。このように,原告は,抗PD−L1モノクローナル抗体の樹立に貢献したということができる。
これに対し,被告Yは,抗PD−L1抗体は,遅くとも平成12年4月22日までに完了していたと主張するが,この段階では,ハイブリドーマというクローンが作製されていたにすぎず,W助手の陳述書(乙B4)の25 別紙3Fに掲げられたチューブのラベルには平成12年7月頃のものもある。さらに,抗PD−L1抗体のスクリーニング作業や更に良い抗体の30判定作業も抗体樹立のための重要な作業である。
イ ヒトのγδ型T細胞及びNK細胞を使用した実験原告は,平成12年7月ないし8月頃,W助手から,γδ型T細胞やNK細胞を使用して実験をしてはどうかという提案を受けた。
5 そこで,原告は,平成12年10月頃,ヒトのγδ型T細胞にPD−1が発現しているかどうかを調査したが,その発現を観察することはできなかった(甲83(7−5頁〔H12.10.13〕 ))。また,同月頃,NK細胞が認識するYAC−1細胞にPD−L1を遺伝子導入したものと,PD−L1を発現していない元々のYAC−1細胞とを使用した実験を行ったが,P10 D−L1の発現の有無により細胞傷害性に有意な差は認められなかった(甲83(7−2〜4頁〔H12.10.6〕))。
このため,原告は,ヒトのγδ型T細胞にもNK細胞にも,PD−1は発現していないと考えた。
ウ P815/PD−L1細胞に対する2C細胞の細胞傷害性測定実験(実15 施例1関係)このように,ヒトのγδ型T細胞やNK細胞を使用した実験は行き詰まったところ,原告は,平成12年10月から11月にかけての頃,2C細胞とP815細胞とを組み合わせた実験によりPD−1/PD−L1及びその抗体と免疫機能との関連性を研究することを独自に着想した。この20 実験は,本件発明の特徴的部分となる実証実験の重要な転機となったものであるが,その経緯は,以下のとおりである。
(ア) 実験の着想の経緯平成12年当時,Z研には,D氏(以下「D氏」という。)が在籍し,2C細胞を使った研究をしており,そのために2C細胞を培養していた。
25 2Cマウスは,H−2 d(Balb/cやDBA/2マウスのMHC分子(主要組織適合抗原遺伝子複合体))を認識するT細胞受容体を持つ31T細胞だけを持つマウスである。
原告は,D氏と雑談をしている際に,2C細胞を増やす際に,放射線照射により分裂増殖しないようにした肥満細胞(マスト細胞)腫P815細胞を使って増やしているとの話を聞いた。これを聞いて,原告は,5 2C細胞の系にPD−1/PD−L1の抑制系が関連するかもしれないと考えた。というのは,原告は,モノクローナル抗体の樹立過程において,P815細胞がPD−L1を発現していないことを確認していたこともあり,がん細胞の一種であるP815細胞でキラーT細胞の一種である2C細胞が増殖するのは,PD−L1の作用によって2C細胞の10 活性化(細胞傷害性)が減じられないためにP815細胞を増殖源にできているからではないかと考えたからである。
以上の経緯から,原告は,とりあえず,NK細胞と同じく細胞を傷害するキラーT細胞である2C細胞にPD−1が発現しているか否かを確認しようと考えた。
15 (イ) 2C細胞におけるPD−1の発現の有無の確認原告は,平成12年10月から11月にかけての頃,まず,2C細胞とPD−1/PD−L1の関係を調べるため,2C細胞にPD−1が発現しているかどうかを確認した。その結果,2C細胞にPD−1が強く発現していることが確認できた(甲83(7−12〔H12.11.17〕・2820 頁〔H13.2.16〕,甲29,30)) 。原告は,この実験結果を踏まえ,ますます2C細胞とP815細胞との間にPD−1/PD−L1の相互作用の関係があると考えるようになった。
(ウ) P815/PD−L1細胞の作製次に,原告は,2C細胞とP815細胞を用いて,PD−L1の効果25 を確かめるために,W助手の助言も得て,本来PD−L1を発現しない細胞であるP815細胞にエレクトロポレーション法によりPD−L132を導入し,P815/PD−L1細胞を樹立した(甲83(7−20頁〔H12.12.8〕,甲32,33)) )P815細胞にPD−L1の遺伝子を導入することについては,平成12年11月17日開催に係るグループミーティングにおいて,Z教授5 の助言により決定されたが(甲83(7−12頁〔H12.11.17〕)),同日のメモの「Future Plans」には「2CとP815,FBL3,YAC−1,YAC−1/PD−L1細胞を使って細胞障害性を調べる」と記載されているとおり,原告は,その時点において,遺伝子導入した細胞を使用することを視野に入れていた。
10 上記の実験ではP815/PD−L1細胞を1株しか樹立できなかったため,更に数を増やすために同様な実験を繰り返し,平成13年3月28日頃に,発現が強い3つのP815/PD−L1細胞を得ることができた(甲33)。
PNAS論文では,この結果をFig.1B右図に掲載し,平成1415 年2月頃に実施した実験の結果(甲34)を同左図に掲載している。
(エ) P815/PD−L1細胞に対する2C細胞の細胞傷害性試験の開始原告は,平成12年12月中旬頃から,遺伝子導入していないP815細胞とP815/PD−L1細胞(P815にPD−L1を導入した細胞)に対する2C細胞の細胞傷害性試験を開始した(甲83(7−220 1頁〔H12.12.18〕 ))。その後,D氏などと相談しながら試行錯誤した結果,平成13年2月頃,P815/PD−L1細胞は2C細胞で破壊されにくくなることが確認できた(甲83(7−27頁〔H13.2.2〕 ,甲3)6(3−71頁)。
)なお,上記の試験において,キラー活性を測定するに当たり,Z教授25 はクロミウムを使用した測定をするように指示したと陳述するが(乙B13(13頁),原告は,クロミウムではなく,LDHキットを使用し)33ている(甲83(7−2〜4〔H12.10.6〕・13頁〔H12.11.27〕 ,甲8)4) このことも,。 原告が自ら試行錯誤しつつ,実験を行っていたことを示している。
(オ) 抗PD−L1抗体の添加5 さらに,その頃,P815/PD−L1細胞に抗PD−L1抗体を添加すると,2C細胞によってP815/PD−L1細胞が破壊されやすくなることが確認できた(甲83(7−28〜30頁〔H13.2.16〕 ,甲)37)。
(カ) 抗PD−L1抗体からFc部分を切断した抗体を使用した実験10 a F(ab’)2の作製原告は,上記(オ)の実験では,抗PD−L1抗体の全長を用いた実験を行っていたところ,Z教授から,これではP815が抗PD−L1抗体によって傷害を受けてしまうため,抗体のFc部分を切断した抗体を使う必要があるとの助言があった。
15 ただし,上記F(ab’)2の作製に当たりZ教授が指示したのは,ペプシンによる処理ではなくパパインによる処理であった(甲83(7−28頁〔H13.2.16〕)のグラフ右側の手書き)。
パパインにより処理をすると,抗体は,2つのF(ab)領域と1つのFc領域に分断され,「F(ab’ 2 」ではなく「F(ab)) 」が作製20 されることになるところ,原告は,平成13年2月から実際にパパインを使用した実験を行ったが(甲64,65),うまくいかなかった。
そこで,原告は,試行錯誤の上,同年4月頃,ペプシンという消化酵素で1−111抗体を反応させて最適な条件でF(ab’)2 の作製を試み(甲83(7−38・39〔H13.4.27〕・43頁〔H13.6.1〕 ,甲3)25 8),) ペプシンにより抗体をF(ab’ 2 領域とFc断片に分断した。
)Z教授が上記のような助言をしたことは,同教授が,実際には自らが34指導した内容さえも認識していないことを示している。
原告は,Z教授やW助手から十分な助言等もなかったことから,F(ab’)2の作製に何度も失敗したが,平成13年7月頃,実験に使えるだけのF(ab’) 2 を得ることができた(甲83(7−48頁5 〔H13.7.13〕,甲67)) 。
b 細胞傷害性の確認実験原告は,F(ab’)2 の作製完了後,これと上記P815/PD−L1細胞3株を使用して,2C細胞による細胞傷害性を確認する実験を行った結果,2C細胞によってP815/PD−L1細胞が破壊さ10 れやすくなるという結果を得ることができた(甲39)。原告は,この実験結果をPNAS論文のFig.1Cに掲載した。
エ DBA/2マウスへのP815/PD−L1細胞移植実験(実施例2関係)(ア) 実験の着想の経緯15 2C細胞とP815細胞の組合せによる実験は,どちらもマウス由来であるとはいえ,異種の遺伝子背景をもつ細胞間の実験であるため,生体内で発生するがん細胞のモデルを検証するには,破壊する細胞と破壊される細胞が同系の実験系を組み立てる必要があった。
そこで,原告は,Z教授の助言を受け,P815細胞が由来するDB20 A/2マウスを宿主にP815/PD−L1細胞を樹立し,これを接種したDBA/2マウスとP815細胞を接種したDBA/2マウスを用いて,DBA/2マウスの生体内にあるキラーT細胞との作用を調べることにした。
(イ) DBA/2マウスへの移植25 そのために,原告は,まず,平成13年4月13日に,自らの着想により,DBA/2マウス腹腔内にP815/PD−L1細胞とP81535細胞を投与したが(甲83(7−35・36頁〔H13.4.13〕)),有意な差は現れなかった(同(7−41頁〔H13.5.18〕,甲40)) 。
原告がこの結果を平成13年5月18日に開催されたグループミーティングで紹介したところ,Z教授又はW助手から,P815/PD−5 L1細胞とP815細胞の投与方法を皮下投与に切り替え,腫瘍の大きさをノギスにより測定してはどうかとの助言があった(甲83(同頁)。
)原告は,これを受けて,助言された方法を試行錯誤しつつ試みたところ,平成13年11月頃,腫瘍の増大速度がP815/PD−L1細胞の方が速いことが確認できた(甲83(7−49〜51頁〔H13.11.16・10 26・30〕,甲41,42)) 。ただし,原告は,この皮下注射の実験についても具体的な方法の指導は受けていない。
PNAS論文のFig.2A左図に掲載されているのは,この実験と同様の実験である。
(ウ) 抗PD−L1抗体を使用した実験15 原告は,次に,DBA/2マウスにPD−L1を発現させたP815細胞を接種し,これに抗PD−L1抗体を投与することにより,がんが有するPD−L1によって免疫機能が抑制されることを阻止する効果があるかどうかを調べる実験をすることにした。
原告は,P815細胞を接種したDBA/2マウスとP815/PD20 −L1細胞を接種したDBA/2マウスを用意し,P815/PD−L1細胞を接種したDBA/2マウスに,@抗PD−L1抗体 (ab’)(F2 形状)を投与したものと,A抗PD−L1抗体を投与しないものを用意して,腫瘍増大速度がどうなるかを検討した。
その結果,平成13年12月頃,@P815を接種したDBA/2マ25 ウスではP815がPD−L1を発現していないためがんが免疫によって攻撃され腫瘍が小さくなり,AP815/PD−L1細胞を接種し36たDBA/2マウスに抗PD−L1抗体を投与したマウスにおいて,がんはPD−L1を発現しているが,抗体によって機能が阻害されるため免疫によってがんが攻撃され腫瘍が小さくなり,BP815/PD−L1細胞を接種した上で抗PD−L1抗体を投与しなかったDBA/25 マウスでは,がんにPD−L1が発現しているため,これによって免疫機能が制限され,腫瘍が小さくならないとの結果を得た(甲83(7−52頁〔H13.12.17〕 ,甲43)) 。
原告は,この実験の後,平成14年3月頃,更に抗PD−L1抗体の全長を使って同じ実験を行った(甲83(7−53頁〔H14.1.11〕 )) 。こ10 の結果,抗PD−L1抗体を投与したマウスでは腫瘍増殖は著しく減速したことが確認された(甲83(7−57頁〔H14.3.3〕,甲44)) 。これらの実験によって,抗体によるPD−1/PD−L1経路遮断により腫瘍免疫応答が亢進できることが確認できた。
PNAS論文(7頁下8行〜末行,Fig.3B)に記載又は図示さ15 れた結果は,これと同様な実験である。
(エ) Balb/cヌードマウスを使用した実験原告は,平成13年3月頃,Z教授の助言を受けて,PD−1がいずれの細胞(T細胞,B細胞といった複数存在する免疫細胞のうちのどの細胞)に発現しているのかについて調べることとした(甲83(7−420 1頁〔H13.5.18〕下の手書き部分)。ただし,Z教授の助言は,原告が)「P815を注入したときどんなエフェクター細胞がPD−1を持っているのか?」と提案したことに対するものであるので,同実験を着想したのは原告自身である。
原告は,Balb/cヌードマウスを用いた実験を行い,Balb/25 cヌードマウスにP815/PD−L1細胞とP815細胞を皮下投与して,腫瘍の増殖を調べた結果,どちらのマウスにおいても日数を経37るのに比例して腫瘍は大きくなり,両者に差は認められなかった(甲83(7−61頁〔H14.3.29〕,甲45)) 。これは,どちらのマウスにもPD−1が発現していないために,PD−L1の有無で腫瘍の増殖に差が出なかったことによるものであると考えられ,PD−1はT細胞に発現5 することが明らかになった(PNAS論文6頁6〜10行,Fig.2A右図)。
オ P815特異的細胞傷害性T細胞及びP815移植DBA/2マウスに対する抗PD−L1抗体の投与実験(実施例3関係)(ア) 実験の着想の経緯10 以上の実験は,マウスの体内の様々な作用が影響しており,確認したい機序以外の要素も実験結果に関与している可能性がある。そこで,原告は,平成13年6月頃,上記の実験とは別に,DBA/2マウス由来であるP815を特異的に破壊するDBA/2マウス由来のキラーT細胞(P815特異的細胞傷害性T細胞)を樹立して,同系の細胞を使15 用した試験管内での実験を行うことにした(甲83(7−43頁〔H13.6.1〕))。ここで同系の細胞を使用した理由は,生体内で発生するがん細胞とは本来自己すなわち自分の体内の異常な細胞(元々は同じMHC分子を持つ細胞)であるため,実際のがんのモデルを検証するには,破壊する細胞と破壊される細胞が同系の実験系を組み立てる必要があ20 ったためである。
(イ) P815特異的細胞傷害性T細胞の樹立P815特異的細胞傷害性T細胞を得るためには,P815で免疫したDBA/2マウスが一定期間生き延びて体内でP815特異的細胞傷害性T細胞を生成する必要がある。しかし,がん細胞であるP81525 細胞は,そのままでは急速に増殖して,これを破壊するP815特異的細胞傷害性T細胞が生成される前にDBA/2マウスが死んでしまう。
38そこで,原告は,放射線照射を施して増殖しないようにしたP815細胞をDBA/2マウスに免疫して,DBA/2マウス由来のP815特異的細胞傷害性T細胞を樹立した(甲46)。
このP815特異的細胞傷害性T細胞の樹立は,知人であったC助教5 授に相談して(甲47),ようやく成功したものである。
(ウ) 細胞傷害性の確認実験原告は,平成14年1月頃,DBA/2マウス由来のP815細胞とP815/PD−L1細胞を用い,細胞傷害性の違いを確認した。この実験によって同系の細胞を用いた試験管内実験でも,P815/PD−10 L1細胞においてPD−L1によって抗腫瘍活性が抑制されていることが確認できた(甲83(7−54・23頁〔H14.1.18〕))。PNAS論文Fig.3A中央図)。
なお,同日のグループミーティングのメモの「Future plans」において,マウスにP815細胞とP815/PD−L1細胞を投与する実験15 を行うことが記載されているが,これは,同年3月3日のグループミーティングにおいてその結果を報告している実験であり,この実験によって,抗PD−L1抗体F(ab’ 2を投与するよりも全長の抗PD−1)抗体を用いた方が腫瘍の増殖の抑制効果が高いことが判明した(PNAS論文Fig.3B)。
20 (エ) IFN−γ定量による確認試験原告は,同時に,次のような実験も行った。すなわち,一般的に,キラーT細胞は,活性化するとIFN−γのような炎症性サイトカインを分泌し,体内の免疫反応を増強していることが知られている。仮に,P815特異的細胞傷害性T細胞がP815を攻撃して活性化するとすれ25 ば,それに伴って炎症性サイトカインIFN−γの産生が増加するはずなので,炎症性サイトカインIFN−γの分泌量を調べることで,P83915特異的細胞傷害性T細胞がP815を攻撃して活性化していることが確認できる。この実験は,W助手の行っていた実験や教科書を参照して,原告が発案して行ったものである。
原告は,平成14年1月頃,マウスIFN−γ測定用ELISAキッ5 トによりP815特異的細胞傷害性T細胞からのIFN−γの分泌量を測定してみたところ,P815細胞を用いた場合と比較して,P815/PD−L1細胞を用いた場合はIFN−γの分泌量が抑制されていることが判明した(甲83(7−54・23頁〔H14.1.18〕))。
また,P815/PD−L1細胞を用いた上で抗PD−L1抗体を添10 加すると,IFN−γの分泌量の抑制が解除されることが明らかになり(甲83(同頁),PNAS論文7頁下13行〜下9行,Fig.3A右図),この実験によっても,抗PD−L1抗体によってキラーT細胞の活性が回復することが確認できた。
カ J558L細胞を使用した実験(実施例5関係)15 (ア) 実験の着想の経緯原告は,続いて,人為的にPD−L1分子をがん細胞に導入したものではなく,PD−L1を自然に発現しているがん細胞でも同様の効果を確認することができるかどうかを確認する実験を行った。
この実験の対象とする細胞については,PD−L1を元々強く発現し,20 かつ,がんとして生着する(増殖力が弱く,マウスの生存期間が長い)細胞を既報やZ教授の助言を参考に検討し,最終的に,一番強くPD−L1分子を発現していて,かつ,キラーT細胞によって認識されることが報告されているJ558L細胞(マウス骨髄腫細胞)を用いることにした(なお,J558L細胞はBalb/cマウス由来の細胞であるた25 め,以下の実験ではBalb/cマウスを用いた。。
)同様に,原告は,J558L細胞を選択するに当たり,同細胞がP84015細胞と同じ腫瘍抗原P1Aを認識するキラーT細胞から攻撃されていると報告されていることも参照した(甲75)。この点について,被告Yは,甲75の論文の内容はJ558L細胞の選択と関係がないと主張するが,W助手の陳述書(乙B14(41頁))においても,J5585 L細胞の抗原腫瘍タンパクがP1Aであることによりその後の研究計画を立てることが容易であったと記載されているとおりであって,被告Yの主張は理由がない。
なお,原告は,J558L細胞を選択する前,平成13年9月から10月にかけて,SP2/0細胞を用いた予備検討を行っている。原告が,10 当時このような検討を行っていることも,原告が自ら調査,検討し,試行錯誤を繰り返していたことを示すものである。
(イ) 具体的な実験このようにして選択されたJ558L細胞を使用した実験は,当初,抗PD−L1抗体F(ab’ 2を投与して,抗体の投与による腫瘍の増)15 殖の抑制効果を調べたが,効果の差が出にくかったため(甲83(7−58・59頁〔H14.3.18〕) 全長の抗PD−L1抗体を用いて実験した),ところ,平成14年3月頃,抗体の投与による腫瘍の増殖の抑制効果が確認できた(甲83(7−60頁〔H14.3.22〕))。
(ウ) 細胞数を減らしての実験20 また,原告は,細胞数を2.5×105個に下げてBalb/cマウスに接種する実験も行ったが,この実験では,J558L細胞接種後に抗PD−L1抗体(全長)を投与すると,先の実験よりもより顕著に投与した群で腫瘍形成速度が抑えられた(甲83(7−63頁〔H14.4.12〕,)甲48,PNAS論文9頁5〜9行,Fig.4B)。
25 (エ) マウスへの接種による実験さらに,原告は,平成14年4月頃,Z教授の助言を得て,PD−141受容体を介した免疫抑制が作用しているか否かを端的に明らかにするため,野生型マウスとホモ欠損型マウス(PD−1を欠損しているもの)にJ558L細胞を接種する実験を行った。この結果,ホモマウスはがん細胞であるJ558L細胞を拒絶(攻撃)し,野生型(WT)はがん5 細胞であるJ558L細胞を拒絶(攻撃)できなかった(甲83(7−62頁〔H14.4.8〕,甲49,PNAS論文9頁15〜18行,Fig.)4C左図)。
この結果からも,腫瘍細胞がPD−L1を利用して免疫細胞のブレーキに当たるPD−1に作用して免疫活動を阻害していることが確認で10 きた。
(7) 被告らの主張等についてア Z教授,W助手の証言及び陳述書の信用性(ア) Z教授は,被告らの主張に沿う陳述又は証言をするが,その内容は不自然であり,多数の客観証拠とも相反する上,Z教授と被告Yの間は極15 めて緊密な師弟関係にあり,Z教授には自らの職を賭してでも被告Yに有利な陳述を行う動機付けがある。また,本件に関する研究により,Z教授が副学長を務める京都大学が,被告小野薬品から有形無形の利益を得ているであろうことは想像に難くない。
(イ) W助手についても,被告らの主張に沿う陳述又は証言をするが,原告20 とW助手の間では,平成26年にやり取り(甲62)があったほか,本訴提起の前の平成28年の段階でもメールと電話でやり取りがあり(甲68),そのやりとりの中には,「WとXが主に携わった研究」との発言(甲68の3) 「あの頃は,や, 特許という概念も大学では軽んじられていて,関係ない人を入れたり,重要な人を省いたりとめちゃめちゃ」(甲25 68の2) などの発言等があり,」 これは,W助手自身と原告が発明者であると認識していることを示すものである。
42また,W助手の研究費獲得の実績(甲105)をみると,平成28年以降になってPD−1研究に回帰し,多額の研究費を獲得するに至っており,現在も被告Yと深い関係を持ち,本件訴訟の帰趨について重大な利害関係を有している。
5 さらに,本件発明の発明者性に関する同助手の証言や陳述は,任意性の高い本件提訴前の時期の供述とも趣旨が大きく異なっている上,2C細胞の培養開始時期やF(ab’) 作製の指導等に関しても不自然な内2容の証言及び陳述を行っており,その信用性が低い。
イ 2C細胞とP815細胞の組合せの着想の主体について10 (ア) Z教授は,2C細胞とP815細胞の組合せによる実験を着想し,これを原告に指示したと証言するが,これを客観的に裏付けるグループミーティングのメモの記載など,客観的な証拠は存在しない。
また,仮に,同教授が当初からがん免疫治療を想定していたのであれば,最も典型的な免疫反応に関わるキラーT細胞を最初の段階で使わな15 いということはあり得ない。原告においても,がん免疫を目的に実験を行うのであれば同系での実験が必須であるとの認識がなかったのは事実であり,原告がこのような実験系を採用したのは,利用し得る細胞が身近にあるという偶然の理由によるところが大きいが,だからこそ,異種の2C細胞を用いた実験を行うことを着想し得たのである。
20 (イ) Z教授は2C細胞を選択した理由はImmunity論文で既に使用されていたからであったとし,また,これと組み合わせるがん細胞としてP815細胞を採用した理由は,P815細胞がNK細胞の影響を考慮しないでよいためであったと主張する。
しかし,Z研において新しい研究を行おうとしている時に,既に成果25 としてまとめられており,しかも,主としてY研の成果であるImmunity論文において使用されていた2C細胞を選択したというのは43不自然というほかない。
また,NK細胞の影響を受けないからP815細胞を採用したというが,マウスから2C細胞を単離する際に多少のNK細胞の混入はあるとしても,2C細胞とP815細胞のインビトロの実験系にNK細胞が大5 きな影響は与えるとは思われず,少なくとも,2C細胞との組合せの対象としてP815細胞を選択しようとする積極的な理由となるとは考えられない。
まして,この段階ではNK細胞にPD−1の発現は観察していないことが確認されているのであるから,PD−L1を発現していないP8110 5細胞とこれを発現させたP815細胞との比較を行おうとする実験において,NK細胞の存在がそれほど大きな影響を与えることはない。
実際,Z教授がこのような考えをもって両者の組合せの選択を行ったのであれば,原告はその説明を受けているはずであるが,原告はそのような説明を受けておらず,グループミーティングのメモにもそのような15 記載はない。
(ウ) Z教授は,2C細胞とP815細胞を用いた実験はグローバルスタンダードであったと主張するが,オンライン学術データベースである Webof Science により,平成12年11月までに2C細胞とP815細胞を使った実験を調べるとわずか5件にすぎず(甲103),この組合せに20 よる実験がグローバルスタンダードであったということはできない。
(エ) W助手は,学生が許可なく細胞を培養することはあり得ないと証言するが,細胞の培養レベルのことであれば,特段の指示や許可がなくとも実験を行うことは可能であった。また,細胞培養室は,W助手が普段在席している実験室と離れているので,原告が2C細胞の培養を始めたこ25 とを同助手が知らなかったとしても不自然ではない。
ウ 本件発明に関する原告の理解について44(ア) 被告Yは,キラーT細胞にPD−1が発現していることを新規に発明したのが原告であるとの訴状における主張は事実に反し,原告の理解不足を示すものであると主張する。
この点,原告がZ研に入室した当時,キラーT細胞にPD−1が発現5 していることが公知であったことは認めるが,当時の原告にこのような知見がなかったことは,特段非難されるような事情ではなく,かえって,Z教授やW助手の原告に対する指導が十分ではなかったことを示している。
(イ) 被告Yは,Balb/cヌードマウスを使用した実験についての原告10 の指摘が誤りであるとするが,原告の指摘は誤っておらず,説明の仕方が異なるだけで原告の指摘と全く同趣旨である。
〔被告Yの主張〕(1) 発明者の認定基準ア 特許法上,「発明」とは,「自然法則を利用した技術的思想創作のう15 ち高度のもの」を意味するところ(特許法2条1項),「発明者と認められるためには,当該特許請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想創作行為に現実に加担したことが必要であり,仮に,当該創作行為に関与し,発明者のために実験を行い,データの収集・分析を行ったとしても,その役割や行為が発明者の補助をしたにすぎない場合には,創作行為20 に現実に加担したということはできないと解すべきである(知財高裁平成19年3月15日判決(平成18年(ネ)第10074号),同平成22年9月22日判決(平成21年(ネ)第10067号)参照)。
特に,免疫学を含む基礎実験医学の分野においては,蓄積された先行研究に基づく知見に基づき,解決すべき課題や実証すべき具体的な仮説を着25 想し,その実証のために必要となる研究計画の立案及び実験系を設計・構築することが重要であり,かかる着想,研究計画の立案及び実験系の設計・45構築において創意工夫をして関与していない者は実験における重要な課題を解決したとはいうことはできず,発明者とは認められない。
イ PNAS論文に係る研究は,Y研におけるPD−1遺伝子欠失マウスを用いた実験と,Z研における抗PD−L1抗体を用いた研究から成るもの5 であるが,その意義は,@がん細胞はPD−L1分子を発現することによって,その受容体であるPD−1分子を発現する免疫T細胞からの攻撃を回避して成長し続けることができること,A更にPD−1とPD−L1の相互作用を阻害することによって免疫回避機構を遮断してがんの治癒をもたらし得ることを実験動物モデルで証明したものであり,その基礎は,10 免疫T細胞に発現されるPD−1分子とがん細胞に発現されるPD−L1分子の相互作用にある(乙B13)。
このような本件発明の本質に照らすと,本件発明の完成に至る過程において重要なことは,PD−1/PD−L1相互作用の阻害ががん治療に応用可能か否かという課題をいかにして設定し,当該課題を解決するために15 いかに実験系を構築してこれを論理的に実証するかにある。
ウ 原告は,PNAS論文に係る研究が行われた当時,Z研の修士課程の一学生として,Z教授が構築した実験系に従って,Z教授及びW助手による教育・研究指導の下で各実験を行ったものにすぎず,原告自らが本件発明に係る課題を設定し,課題解決のための実験系を自ら構築し実証したとい20 う事実はない。個々の実験の遂行過程において,仮に原告に何らかの実験手技上の工夫があったとしても,それは,標準的な手順の範囲内において,研究室において既に用意されていた試料・サンプルを用いて実験作業を行う中で,その免疫回数や刺激のタイミング,添加量などの細部の条件を至適化しながら実験作業を行ったことを意味するにすぎず,本件発明の重要25 な部分に対する創作的ないし重要な貢献を行ったと評価されるものではない。
46(2) 原告の発表した論文と本件発明の関係ア 原告の執筆した論文等原告は修士論文を自ら執筆したと主張するが,原告が作成した修士論文の原稿は査読や審査に耐え得るものではなかったことから,W助手がほぼ5 全て書き直し,Z教授が最終校正するという手順で完成させた。
また,PNAS論文の共同執筆者として原告の名前が記載されていることは認めるが,同論文を執筆したのは原告ではなく,その内容について最終的な責任を負うZ教授である。原告は,同論文のFig.4Cに係る実験以外の全ての実験及び考察を原告が独自に行ったものであるかのよう10 に主張するが,原告は,Z教授及びW助手による具体的指導に従って実験作業を行い,データを収集・分析したにすぎず,独自に実験及び考察を行ったものではない。
博士論文についても,修士論文と同様に,当時の原告には学術論文を英語で正確に記述する能力がなかったため,W助手がほぼ全て書き直し,Z教15 授が最終校正するという手順で完成させたものである。
イ PNAS論文の内容と本件発明の同一性本件発明等の明細書とPNAS論文に対応する内容が存在することは認めるが,本件明細書等の実施例1〜3及び5に対応する実験は,Z教授が設計・構築し,また,Z教授が自ら又はW助手をして,各実験において使20 用する具体的な実験材料や解析方法等を選択・決定したものである。同各実験に用いる実験材料や解析方法その他の実験条件の決定に関して,原告による創意工夫が介在する余地は一切なかった。
(3) Z教授による原告の貢献の証明等ア(ア) PNAS論文の脚注に“Y.I. and M.I. contributed equally to this25 work.”と記載されていることは認めるが,同論文は原告が執筆したものではなく,共同第一著者とも明記されていない。同脚注の記載をした47のは,@原告が,Z教授及びW助手による具体的指導に従って収集・分析した実験データがPNAS論文において採用されたこと,A京都大学大学院生命科学研究科では,筆頭著者ではない「2番目の共著者」の論文では,博士論文の審査申請の際の根拠論文に利用することを認めてい5 ないことを踏まえた総合的判断に基づくものである。
医学・生命科学の分野の大学院においては,研究成果を論文発表する際には,指導教員が指示を出して学生はそれに従って実験をしていただけであったとしても,学生が実際に手を動かしてデータが取得されたのであれば,論文の筆頭筆者とするのが一般的な実務である。特に,京都10 大学大学院生命科学研究科のように,学生の学位取得に際して当該学生が筆頭著者となっている論文がなければ学位申請できないというシステムが採用されている場合には,当該学生を論文の筆頭著者とする必要があるという事情が存在する。
(イ) 他方,本件発明においては,Y研においてZ研に先行して実施された15 PD−1遺伝子欠失マウスを用いた実験によってPD−1/PD−L1相互作用阻害によるがん治療の可能性が実証されていたことが極めて重要である。PNAS論文は,Y研のこの実験と,続いてZ研で行われた抗PD−L1抗体を用いた実験とを合わせて完成したのである。このように,Y研及びZ研において実施された実験が「同等」の意義を持20 つことが,PNAS論文の筆頭著者とされたA氏と原告に同等の貢献があったと記述した理由の1つである。
なお,当時Y研の博士後期課程の学生であったA氏は,被告Yの仮説に基づいて,被告Yと相談しながら,実験材料を揃え,実験条件を決定して検証を進めたのであり,与えられた実験材料を用いてZ教授のデザ25 インにより選択された既存の実験手法をW助手の指導の下で行ったにすぎない原告とは,本件発明に至る研究における役割と実際に行った貢48献の程度が全く異なる。
イ Z教授が,原告の博士論文の審査に際して甲1の2の書面を作成し,同書面上に「以上のところまでを,equal contribution として,分担担当した」との記載があることは認めるが,これは,申請者の学位論文が他の研5 究者との筆頭共著である場合,共著者の役割分担を明確にし,分担するパートの重みが論文全体の少なくとも50%を占めることを証明することが必要であるという学内ルールを踏まえて総合的に判断した結果にすぎない。
(4) 原告に対する指導方針や実際の指導内容などア Z研の態勢,指導方針等10 (ア) 原告がZ研に入室した平成12年4月当時の教員スタッフは,Z教授の他に助教授2名,助手1名(W助手)の4名体制であり,大学院生は希望に応じて,いずれかの教員のグループに配属されて研究指導を受けていた。当時,Z研に所属していた大学院生は,修士課程(非医系学部出身者のみ)と博士後期課程合わせて約20名であった。
15 平成12年当時,修士課程の学生は,全て非医系学部出身者であり,一部の理学部,薬学部出身者を除き,学部時代に生物学や免疫学の系統講義を全く受けておらず,また関連する実技経験も学生実習程度のものであるため,Z教授は,とりわけ修士課程の学生の研究内容の進捗には気を配っていた。
20 (イ) Z教授の修士課程の学生に対する教育方針は,まず暫定的な研究課題を与え,グループリーダーによる実験指導の下で,オンザジョブトレーニングの形で,個別の課題に即して免疫学の考え方,基礎知識,正確な実験手技の習得などを図るというものであった。平均的な修士課程の学生は,入学後半年から1年で,自分の行っている研究課題の意味を理解25 し,免疫学の基礎知識を学習し,基本的な実験手技ができるようになり,何とか独力で自らの研究課題に関連する原著文献を収集することがで49きるようになるというのが一般的であった。
(ウ) Z研における毎週のグループミーティングでは,Z教授から,例えば,免疫学の基礎知識から,実験の論理の説明,実験の詳細な条件設定,得られた実験データの解釈,解釈から導き出した仮説を検証するためにど5 のような実験を行うべきか,それらのデータから論理的にどのような結論を導くかなど,実際的な議論による指導がなされた。
そして,グループミーティングで学生が発表する際に参加者に配布するメモには,主語を「I」(メモを作成した学生自身)として,実験の目的・方法や,今後の研究方針(Future plans)等について,学生が自10 ら考えて提案したかのような記載方法で書かせていた。これは,教員スタッフが構築・設計した実験系に沿って学生に実験を行わせる場合でも,まず実験系の原理や背景を説明した上で,その原理から導かれる実験方法を学生自身に考えさせるという指導方針によるものであった。
なお,原告は,グループミーティングにおけるZ教授の指示は,助言15 にすぎず,指示ではなかったと主張するが,Z研における実験は,Z教授の責任において行ったものであり,同教授がその結果に応じて判断をし,次のステップを提示しており,Z研の学生は実際にその指示に基づいて実験を進めていた。
また,グループミーティングの際にZ教授から原告に出された全ての20 指示が,原告によるグループミーティングメモへの手書きのメモとして残されているわけではない。Z教授の指示が手書きのメモとして残されなかったとしても,「Future plans」として記載され,その後の実験に反映されていた。
イ 学位の取得の仕組み等25 原告が在籍した京都大学大学院生命科学研究科は,修士課程(2年間)とその後の博士後期課程(3年間)からなっており,修士課程の修了認定50者には学位申請の資格が与えられるのに対し,博士課程修了認定者は,同課程中に行った研究について筆頭筆者として公表した論文を根拠論文として,自ら作成した学位論文を同研究科に提出して審査を願い出ることができ,公開審査会で合格した場合に博士号が授与される。
5 また,修士課程と博士課程とでは,教育・指導内容も異なっている。すなわち,修士課程では,講義の履修と実験の指導による専門知識の習得と研究姿勢・考え方及び基本的な実験技術の体得が主目的であり,他方,博士課程では,原著論文の発表を目指した独自の研究の指導が中心となる。
原告は,大学院の研究室において,学生は研究者として自立し,専門業10 務に従事するために必要な能力を養うために自らの研究として実験を行っていると主張するが,修士課程においては学生が主体的に独自の研究テーマを設定するということは想定されておらず,修士課程の学生が自ら研究テーマを設定するということ自体が非現実的である。
ウ 原告に対する指導等15 (ア) 原告の行った実験Z教授は,平成12年9月頃,原告の修士課程の研究テーマをPD−1/PD−L1システムのがん免疫における意義と設定し,Z教授とW助手とが設定した実験デザインに沿って本件実験を遂行させることとした。
20 原告がZ研で行った実験は,いずれも,既にZ研においてプロトコールとして確立されていたものばかりであり(乙B17(6〜8頁)),PNAS論文に掲載された実験に用いられたP815細胞などの細胞株は,長年の研究の過程でZ研にストックされていたものであった。
(イ) 原告の実験手技のレベル25 原告は,当時,大学院1年生であり,課題の検討のために必要な実験系を構築できないことは当然として,ほぼ全ての実験手技が初めて経験51するものであった。加えて,原告は手先が器用ではなかったことから,Z教授とW助手が都度協議し,原告が大学院在籍中に論文化できるような実験結果が得られるよう,原告が失敗する可能性が低いと思われる実験を課題として与え,実験材料を提供し,解析方法を指導するなどして,5 相当程度の教育的な配慮をしたというのが実情であった。
原告が,平成12年10月頃までに,主として抗体の性状解析において必要となる実験操作を経験したが,これらのごく限られた経験に基づいて,本件実験の実験計画を自ら立ててこれを遂行するなどして,本件発明に係る技術的思想創作に関与することは不可能である。この点は,10 W助手が「経験したことのない実験を計画することはできない」と指摘するとおりである(乙B14(44頁)。
)本件において,原告は,修士課程在学中1年半足らずの間に,博士号取得の根拠論文として引用可能なPNAS論文に掲載する実験データを揃えたということになる。免疫学分野の実験経験がほとんどなく,P15 D−1に関する先行研究についての知見も実験に必要な技術・手技も習得していなかった当時の原告が実験データをこのような短期間で揃えられたのは,Z教授及びW助手によって構築された綿密な研究計画と具体的な実験系に従って,その指示どおりに作業を行ったことによるものである。
20 (5) PD−1/PD−L1の相互作用とがん免疫の関係についての着想原告は,Z研に入室した当時は,PD−L1は自己免疫疾患との関係で研究されていたにすぎず,がん治療と結びつける発想はなかったと主張するが,これは明らかに事実に反しており,原告の理解不足を示すものである。
ア PD−1研究は,平成4年にY研においてPD−1遺伝子が単離された25 ことに始まったものである。その後,Y研において,平成8年までに,T細胞を含む免疫細胞(リンパ球)の亜群におけるPD−1の発現が詳細に52検討されて国際誌に報告された(Int.Immunol論文) さらに,。
Y研が主導し,平成11年には,@PD−1遺伝子欠失マウスの実験により,PD−1分子の欠失が自己免疫病によく似た症状の発症に至ること,A2Cマウスとの交配実験により,PD−1欠損下では,本来抑制されて5 いるはずの自己反応性T細胞(2C細胞)が全身で増殖し活性化されていることを示す重要な論文が公表された(Immunity論文)。
Immunity論文が世界的に注目された理由は,PD−1分子が免疫T細胞のブレーキの働きをしており,この機能が遮断されると実際に体内でこの免疫ブレーキ機能が解除され,T細胞性免疫反応が増強されるこ10 とを個体レベルで証明したことにある。この動物モデルでは,PD−1機能の遮断による自己細胞に対するT細胞性免疫反応の増強が自己免疫病という形で現れたが,同論文を発表した頃までには,被告Y及びZ教授は,同様のことが,がんの局面で起これば,これに対する免疫応答の増強に至り得ることを推定していた。
15 イ T細胞に発現するPD−1側からの解析は,平成11年当時,Y研を中心に進められていたが,まだPD−1の結合相手となるリガンド分子は単離されておらず,リガンド側からの研究は行われていなかった。そのような状況の中,平成11年にY研からImmunity論文が発表されるのとほぼ時を同じくして,Z教授は,Z研において,PD−L1分子を中心20 に研究を進めることとし,Y研からPD−L1の遺伝子の供与を受け,直ちにがん免疫研究のために抗PD−L1抗体の作製に着手した。他方で,Y研では既にA氏がPD−1側からがん免疫研究を進めており,原告がZ研に入室した当時には,Y研及びZ研においてPD−1のがん免疫研究が本格化していた。
25 ウ その後,A氏は,平成12年8月頃から平成13年2月までに,野生型のB6マウスとPD−1遺伝子欠失B6マウスにB16/PD−L1細53胞を皮下移植し,その増殖速度を測定した結果,PD−1遺伝子欠失B6マウスでは,野生型のB6マウスに比べて,B16/PD−L1細胞の増殖が遅くなることを確認した(乙B2別紙4及び5,本件明細書等の実施例4,図4,PNAS論文Fig.4C右図)。これらのPD−1遺伝子5 欠失B6マウスの実験結果は,被告Yが想定したPD−1/PD−L1相互作用阻害によるがん治療の可能性を実証するものであった。
エ 原告は,平成12年4月当時,PD−1/PD−L1相互作用の阻害ががん治療に応用可能か否かという課題は公知であったと主張するが,被告Yの主張する「課題」とは,抽象的ながん免疫治療の可能性ではなく,が10 ん治療における新たな標的分子としてPD−1/PD−L1に注目し,PD−1/PD−L1による抑制シグナルを阻害することで免疫機能の回復,更にはがんの増殖を阻害するという,具体的かつ論理的に実証可能なものであって,このような課題がその当時に公知であったということはできない。
15 (6) 本件発明及びその背景に関する原告の理解度の欠如ア 原告の陳述書(甲50)には,概ね,PNAS論文記載の実験方法と実験結果の説明しかなされておらず,原告が作業した実験のPD−1研究全体における位置付けや実験系設計・構築の背景やそのプロセスについてはほとんど触れられていない。しかも,個々の実験系の選択に至った理由・20 背景,実験から得られた結果の解釈及び各実験の論理的関係等において,全般的に数多くの誤認が認められる。原告は,現時点においても,PNAS論文に記載された実験内容を十分に理解できていないことは明らかである。
イ 原告は,当初,キラーT細胞にもPD−1が発現しているという新規な25 発見をしたと主張し,原告の陳述書にもその旨の記載があるが(原告第2準備書面4頁,甲50(4頁)),キラーT細胞にPD−1が発現してい54ることは,Y研において平成8年に発表したInt.Immunol論文に報告されているので,明らかに事実に反する。原告は,後にこの主張を撤回したが,このような主張又は陳述をすること自体,現在においてもなお原告がPD−1に係る一連の研究を十分に理解していないことを示し5 ている。
ウ 原告は,「この当時に知られていたPD−1/PD−L1の系に関する知見は,免疫系をコントロールする細胞(ヘルパーT細胞や抗原提示細胞)に発現しているはずのPD−1/PD−L1の欠陥であり」と主張及び陳述するが(原告第2準備書面4頁,甲50(4頁)),Immunity10 論文においては,PD−1遺伝子欠失(ノックアウト)マウスと2Cマウスとの交配により自己反応性CD8+T細胞(キラーT細胞)の異常増殖と活性化が起こることから,へルパーT細胞や抗原提示細胞ではなくキラーT細胞の異常(自己寛容の破綻)が生じることが明らかにされていた。
このため,原告の上記主張等は誤りである。
15 エ PNAS論文の冒頭の説明部分にはImmunity論文が明示的に引用されている。しかし,原告は,入学前にZ教授からImmunity論文を渡されたものの,「自分の研究テーマとは関係がない」と思ったため「よくは読んではいませんでした」などと供述し,Immunity論文についての理解が乏しかったことを自認している(原告本人10〜1120 頁)。Immunity論文は,PNAS論文に係る研究を構築する前提となる事象が報告された論文であって,その内容を十分に理解せずにPNAS論文に係る研究を構築することは不可能である。
オ その他,個々の実験系の選択に至った理由・背景,実験から得られた結果の解釈に関する原告の誤認等については,後記(7)の関係する箇所で指25 摘するとおりである。
(7) 原告の行った個別の実験における着想及び具体化55本件実験を構成する個々の実験の着想及び具体化をしたのは,以下のとおり,原告ではなく,Z教授である。
ア 抗PD−L1抗体の作製(ア) 抗PD−L1抗体の作製5 W助手は,Z教授の指示を受けて,平成11年の冬頃,B助教授の精製したPD−L1タンパク質(抗原)を用いて,抗PD−L1抗体の作製を開始した。そして,平成12年1月から2月にかけての作製作業において得られた1000個以上のハイブリドーマに「1−1」などの番号が付され,W助手自らの手で,同年2月から3月頃にスクリーニング10 が行われ(乙B4(別紙1J〜L),1−111抗体及び1−167抗)体を含むハイブリドーマが,正しくPD−L1を認識する抗体を産生するものであることが確認された。その後,上記各抗体を含むハイブリドーマは,限界希釈等の操作(同別紙O〜R)を経てモノクローナル化されて,同年4月22日に凍結保存された。
15 原告は,1−111抗体が抗PD−L1モノクローナル抗体として樹立された時期について,平成12年4月ではなく同年9月であると主張するが,モノクローナル抗体は,クローン化された(単一の細胞由来の)抗体産生細胞(ハイブリドーマ)が産生する抗体のことをいうので,限界希釈作業を経て,ハイブリドーマが得られた時点で,モノクローナル20 抗体が「樹立」されたということができる(乙B4(1頁)。その後の)細胞安定化,馴化,増殖などのプロセスは,技術的ルーチンであり,抗体作製完了後の処理にすぎない(乙B3(11頁)。
)Z教授とW助手は,平成12年4月以降も,より良い抗体を取得するために抗体作製を行い,このスクリーニング作業には,原告も,W助手25 の指導の下で参加していた。もっとも,その結果,より良い抗体は得られなかったので,かかるスクリーニング作業に原告が関与していたこと56は,抗PD−L1抗体の作製に対する原告の貢献を意味するものではない。
また,原告は,乙B4の別紙3に掲載されたチューブのラベルには平成12年7月頃のものもあると主張するが,同月17日に保存されてい5 るのは,「RPMI 化清 After limiting dilution」であり(乙B4(別紙3・F),同別紙1の?の段階のものであるから,これは,むしろ,同)Rの段階のハイブリドーマは同年4月頃に樹立されていたことを示すものである。
以上のとおり,Z研のW助手等により作製された抗PD−L1モノク10 ローナル抗体は,遅くとも原告入学直後の平成12年4月22日までに樹立されており,原告はこの過程に関与していない。
(イ) PD−L1の発現の有無の確認Z教授は,平成12年9月頃,原告に対し,PD−L1の機能解析を行う前提として,1−111抗体及び1−167抗体の性状解析,並び15 に,各種がん細胞におけるPD−L1発現の有無の確認を指示した(甲83(7−1頁〔H12.9.29〕))。Z教授は,その際,原告に対し,ランダムにできるだけ多数の使用可能ながん細胞を調べること,フローサイトメトリー法によるのみならず,ノーザンブロッティング法を用いて遺伝子転写産物(mRNA)発現との対応関係も確認することを指示し20 た。Z教授がこのような指示をしたのは,フローサイトメトリー解析によりPD−L1が細胞表面にほとんど発現していないように見えても,当該がん細胞を生体内に投与するとPD−L1が細胞表面に発現誘導されてくることがあり得るからである。
イ ヒトのγδ型T細胞及びNK細胞を使用した実験25 Z教授及びW助手は,当初の段階では,原告に対し,レベルの高い学術誌への掲載を目指して,よりオリジナリティの高い系であるマウスのNK57細胞機能解析用のYAC−1細胞(代表的なNK感受性がん細胞)の実験系及びヒトのγδ型T細胞の実験系も並行して指導していた(甲28)。
Z教授が原告に対してNK細胞やγδ型T細胞を用いた実験を指示したのは,Z研には他の研究室に比してNK細胞,γδ型T細胞に係る研究5 基盤が整っていたこと,αβ型T細胞を用いてがん免疫研究を行う場合には,がん抗原特異的細胞傷害性T細胞を樹立することが必要となるが,NK細胞やγδ型T細胞を用いた実験においては,そのような過程が不要であったことなどの配慮もあった。
しかし,原告に行わせた実験からは有意な結果が得られなかったことを10 受けて,Z教授は,原告にはかかる実験を継続させることは困難であると判断して,後記ウのマウスにおけるキラーT細胞(2C細胞)とP815細胞を組み合わせた系での検証に移るよう原告に指示した。
なお,Z教授とW助手が,原告には荷が重いと判断したNK細胞を用いた研究とγδT細胞を用いた研究については,いずれも,その後,原告以15 外の学生に対して研究課題として与えられ,後に研究成果は論文として報告されている。
ウ P815/PD−L1細胞に対する2C細胞の細胞傷害性測定実験(実施例1関係)原告は,2C細胞とP815細胞とを組み合わせた実験を着想したのは20 原告であると主張するが,以下のとおり,この実験を実施すること及びその実験方法は,いずれもZ教授が設計し,決定したものであり,原告は何ら創作的な寄与をしていない。
(ア) 実験の目的・意義a 2C細胞の選択25 2C細胞とは2Cマウスに由来する,細胞傷害性T細胞(キラーT細胞)であるところ,同細胞は,その細胞表面に発現したTCRを介58して,異系の細胞上に発現するH−2L dを認識して免疫応答する。
Z教授は,当時,@活性化したキラーT細胞上へのPD−1発現が既に確認されていたことや(Int.Immunol論文Fig.4・6参照) AImmunity論文に報告されたPD−1遺伝子欠失マウ,5 スを用いた実験において既に2Cマウスが使用されていたことから,Z研においても,PD−1研究に2C細胞を用いることとした。
b P815細胞の選択2C細胞を維持するためには抗原(H−2L d)による刺激が必要となるが,Z教授は,2C細胞の刺激細胞としてH−2L dを発現してい10 るP815細胞を使用することとした。というのも,P815細胞は,Z教授が1970年代から研究に使用してきた経験からその性状を熟知していたがん細胞であり,代表的なNK細胞抵抗性がん細胞であってNK細胞によって傷害されないことから,NK細胞による影響を考慮する必要がなく,細胞傷害性T細胞の解析には最適であったからで15 ある。Z研では原告の入学前から,キラーT細胞の細胞傷害性を検討する系として,2C細胞とP815細胞を用いた実験系が採用されていた。
c 2C細胞とP815細胞の組合せを用いた実験の標準性このような2C細胞とP815細胞の組合せを用いた細胞傷害性ア20 ッセイの方法が世界的にも標準的な手法として用いられていたことに関しては,平成4年時点でG氏が発表しているCell論文の中で,2C細胞によるP815細胞に対する細胞傷害性を基準として,他のターゲット細胞に対する細胞傷害性が比較されていること(乙B32・Table1(990頁,訳文2頁・表1))からも明らかである。
25 (イ) PD−L1を発現するP815細胞の樹立上記のとおり,Z教授は,2C細胞とP815細胞を組み合わせた実59験を行うこととしたが,当時Z研で維持されていたP815細胞はPD−L1を発現していないことが確認されたことから,PD−L1を発現していない当該P815細胞にPD−L1を遺伝子導入したP815/PD−L1細胞を作製した上で,PD−L1の発現の有無にのみ違い5 を有するがん細胞に対する2C細胞の細胞傷害性を比較して,がん細胞上のPD−L1が2C細胞の細胞傷害性に及ぼす影響を検証することとした。
このために,Z教授は,W助手に指示し,その指導の下で,原告に,平成12年12月8日までに,PD−L1を発現していないことが確認10 されたP815細胞にPD−L1をコードする遺伝子を導入して,P815/PD−L1細胞を作製する作業を行わせることとした(甲83(7−20・35・36頁〔H12.12.8,H13.4.13〕)。
)これを受けて,W助手は,P815細胞にPD−L1を遺伝子導入する方法として,エレクトロポレーション法を使用するよう原告に指示し,15 更に,Z教授は,P815/PD−L1細胞上にPD−L1が発現していることをフローサイトメトリー法により確認するよう指示し,その解析方法を指導した。
原告は,当時,細胞培養の技術が未熟であったために,通常は1回の導入操作により数百個のクローンが樹立できるところ,平成12年1220 月の時点では,原告は1個のクローンしか樹立することができなかった(甲83(7−20頁〔H12.12.8〕))。原告がクローナル・バリアンスの除外のために複数のP815/PD−L1細胞の取得ができたのは,平成13年4月頃であった(甲83(7−35・36頁〔H13.4.13〕),乙B14)。
5125 (ウ) Crリリースアッセイによる細胞傷害性測定実験上記実験の結果の測定に関し,Z教授は,原告に対し,平成12年1602月25日までに,細胞傷害性を測定する方法の中でも感度の高い 51Crリリースアッセイの方法によることを指示し,P815/PD−L1細胞に対する2C細胞による細胞傷害性を測定させた(甲83(7−22,27〜30頁〔H12.12.25,H13.2.2・16〕))。
5 平成12年12月頃に,原告が取得した当初のデータは,例えば,@そもそもPD−L1を発現しない野生型のP815細胞に対する2C細胞のキラー活性が,Z教授の経験から想定される値よりも著しく低いこと,A2C細胞非存在下で,P815細胞から自然に遊離されるクロミウムの自然遊離率が非常に高い値を示しており(通常20%以下が望10 ましい。),同一サンプル間のばらつきも大きく,得られたキラー活性の正確性に欠けるなどの問題点があり,野生型のP815細胞とP815/PD−L1細胞に対する2C細胞のキラー活性の違いは非常に微妙なものであった(甲83(7−22頁〔H12.12.25〕))。
しかし,Z教授は,原告の技術的な問題点を改善し習熟度を上げるこ15 とによって,想定していた結論を得ることが出来る可能性は十分にあると判断して,この方向で研究を継続することとし,原告に具体的な対応策を指示した(甲83(同頁)の手書きメモ)。
その後,Z教授は,原告の実験手技が安定してきたのを確認して,平成13年1月頃,抗PD−L1抗体存在下でも,同様にキラー活性を検20 討する実験に進むべきことを指示した。原告の細胞傷害性試験の実験手技が安定し,Z教授の想定どおりに,原告が,抗PD−L1抗体の投与によりP815/PD−L1細胞に対する2C細胞のキラー活性が回復することを示唆する実験結果を出せるようになったのは,平成13年2月頃であった(甲83(7−28〜30頁〔H13.2.16〕))。
25 なお,原告は,原告がLDH活性測定による細胞傷害性アッセイを行っていたと主張するが,クロミウムリリースによる細胞傷害性アッセイ61は,放射性同位元素を用いる方法であるため,実験者が被爆するおそれがあり,所定の教育訓練を受けた上で,Z研の実験室外の放射線管理区域において行う必要がある。このため,初期的な予備実験においては,放射性同位元素を用いる必要のない測定法の一つである市販のLDHキ5 ット(乳酸脱水素酵素検出キット)を用いた簡便法が用いられることがある。原告がLDH活性測定による細胞傷害性アッセイを行っていたことは,Z教授がクロミウムリリースによる細胞傷害性アッセイを行うようにとの指示をしたことと矛盾するものでもない。
(エ) 抗PD−L1抗体からFc部分を切断した抗体を使用した実験10 a 実験の目的・意義上記(ウ)のとおり,Z教授は,原告に対し,抗PD−L1抗体存在下におけるキラー活性の確認実験を指示したが,全長の抗PD−L1抗体を使用するのみでは,P815/PD−L1細胞に対するキラー活性が抗PD−L1抗体の投与により回復した場合であっても,同抗体15 によるPD−1/PD−L1相互作用の遮断効果ではなく,P815/PD−L1細胞に結合した抗PD−L1抗体のFc領域に,キラー細胞がFc受容体を介して結合し,これによってキラー活性が誘導される可能性がある(これはADCC効果と呼ばれることがある。。
)このため,Z教授は,平成13年2月頃,抗PD−L1抗体のキラ20 ー活性増強効果がADCC効果による可能性を除外し,PD−1/PD−L1相互作用の阻害によることを確認するために,Fc部分を切断除去したF(ab’ 2型の抗PD−L1抗体でも同様の確認実験を)行うべきであると考えて,原告に対して,抗体をペプシンという消化酵素を用いて切断し,F(ab’ 2型の抗PD−L1抗体を作製するよ)25 う指示した(甲83(7−28〜30頁〔H13.2.16〕),乙B17(13〜14頁,別紙2) 。
)62なお,原告は,上記実験の意義について,抗PD−L1抗体の全長を用いた実験ではP815細胞が抗PD−L1抗体によって傷害を受けてしまうためであると理解しているようであるが,全長(完全型)抗PD−L1抗体が(PD−L1陰性の)P815細胞を傷害すると5 いう懸念はないので,原告の上記理解は誤りである。
b Z教授の指示について原告は,Z教授から最初はF(ab’)2ではなく,「パパイン」という消化酵素を使ってF(ab)を作るよう助言したと主張し,E氏(以下「E氏」という。)作成の陳述書(乙B17)の正確性に問題が10 あるなどとする。
しかし,原告の保管していたグループミーティングメモにも,E氏が保管していたグループミーティングメモにも「F(ab’)2 」の記載があり(甲83(7−28頁〔H13.2.16〕),乙B17(別紙2)),Z教授が,平成13年2月16日のグループミーティングにおいて,15 その作製にペプシンを必要とするF(ab’)2の作製を指示したことは明らかである。
また,本件明細書等及びPNAS論文に記載されているのは,ペプシンにより処理されたF(ab’)2型の抗PD−L1抗体を用いた実験である。ここで重要なのは,原告がZ教授の指示に基づいて実際に20 かかる実験を行ったことであって,その実験を行う過程において,原告がパパインを用いてF(ab)を作ったか否かではない。
c 原告による作業の進捗状況原告は,F(ab’ 2型の抗体の調製作業に相当苦労し,時間がか)かり,この調製作業の過程で,Z教授も,原告の出したデータを見な25 がら,ペプシンによる消化時間や,消化したFc部分の除去方法などについて指導した(甲83(7−38・39頁〔H13.4.27〕),乙B1637(14〜15頁,別紙3)。
)この調製作業は,W助手が原告の代わりに実験を行えば容易に作製できるものであったが,Z教授及びW助手は,原告の実験手技の訓練として調製作業を継続させたところ,原告は,平成13年12月頃,5 F(ab’ 2 型の抗PD−L1抗体を作製して,DBA/2マウスへ)の投与実験を行うことができるようになった(甲83(7−52頁〔H13.12.17〕),乙B14(30〜39頁) 。
)なお,原告は,甲72のグループミーティングメモに基づき,平成13年7月中旬にF(ab’ 2型の抗PD−L1抗体の作製を完了し)10 たと主張するが,F(ab’ 2型の抗PD−L1抗体を投与した実験)結果が報告されているのは,平成13年12月17日以降である(甲83(同頁)。
)d 実験の結果最終的には,原告に指示して行わせたこれらの実験によって,抗P15 D−L1抗体の効果が,Fc部分を介した細胞傷害に起因するものではなく,Z教授の仮説並びにY研及びZ研においてそれまで得られていたデータのとおり,PD−1/PD−L1相互作用に基づくT細胞(2C細胞)抑制シグナルの阻害(遮断)によるものであることが強く示唆された(本件明細書等の実施例1,【図1】(B),PNAS論20 文Fig.1C)。
エ DBA/2マウスへのP815/PD−L1細胞移植実験(実施例2関係)(ア) 実験の目的・意義平成13年3月頃には,原告は,未だ複数のP815/PD−L1細25 胞を樹立できておらず,F(ab’)2型の抗体の調製もできていなかったが,2C細胞とP815細胞の系において全長の抗PD−L1抗体を64投与する実験における有望な実験結果を踏まえて,Z教授は,並行して,これを異系の組み合わせではなく同系の組み合わせで,つまり本来のがん免疫反応において個体レベルで検証すべく,P815細胞と同系のDBA/2マウスを使用して,生体へのP815細胞の投与実験に進むこ5 とを原告に指示した。
さらに,Z教授は,DBA/2マウスにおいて認められたP815細胞とP815/PD−L1細胞の腫瘍形成能の違いが,宿主であるDBA/2マウスのT細胞に依存するものであることを確認するため,原告に対し,胸腺を欠如しT細胞を持たないBalb/cのヌードマウスを10 用いて,P815細胞とP815/PD−L1細胞の腫瘍増殖を調べさせた。
実際に,原告は,Z教授からグループミーティングにおいて口頭で指示を受けた事項をグループミーティングメモに手書きで書き込んでいる。例えば,甲83(7−41頁〔H13.5.18〕)のグループミーティン15 グメモにおける「s.c.投与[皮下投与]で腫瘍の大きさをみてはどうか」,「nu/nu mice[ヌードマウス]でどうか?」との手書きの書き込みは,いずれも原告がZ教授から直接受けた指示を記録したものである。
(イ) DBA/2マウスへの移植20 Z教授は,P815細胞が肥満細胞種という特殊な白血病の一種に由来するがん細胞であることも踏まえ,原告に対し,投与方法として,腹腔内投与と皮下投与の方法の違いについても説明した上で,まず,P815細胞の腹腔内投与から始めさせた。これは,投与後のマウスの生死判定という最も手間のかからない古典的な方法であり,手始めの実験と25 して妥当だと考えたためである。
Z教授は,腹腔内投与による結果を踏まえ,その後,平成13年5月65頃までには,皮下投与により腫瘤を形成した腫瘍の長径と短径を測定して体積を推定し,その変化を経時的に測定するという,より感度の高い定量的な方法へ展開するよう指示を出した。皮下で腫瘤を形成している腫瘍の体積を経時的に測定するのは,データにばらつきも生じやすく,5 かなり手間のかかる手技であるが,Z教授は,このために精密測定ノギスを新調して,原告に与えて測定させた。
なお,原告は,自ら着想した腹腔内投与の方法による実験が失敗したため,これをZ教授又はW助手からの助言によって投与方法を変更したと主張するが,腹腔内投与の方法による実験は,マウスの生存曲線を得10 るために必要な実験である。また,皮下投与の方法による実験は,腫瘍径を測定することにより経時的な腫瘍増殖の変化を定量解析するという異なる目的のために必要な実験であった。
(ウ) Balb/cヌードマウスを使用した実験Z教授は,同じ頃,原告に対し,同様の実験をヌードマウスで行うこ15 とを指示したが,その理由は上記(ア)のとおりであり,ヌードマウスは胸腺を欠損しており,T細胞性免疫応答を備えていないため,DBA/2マウスをヌードマウスに代えてこの実験を行った場合には,P815/PD−L1細胞を投与しても,PD−1/PD−L1相互作用によるT細胞性免疫応答の回避機能は発揮されず,P815/PD−L1細胞20 の腫瘍形成能は,野生型のP815細胞と差異を生じないことが想定された。
Z教授の想定どおり,この実験において,ヌードマウスにおいてP815細胞とP815/PD−L1細胞の腫瘍形成能の差異が認められなかったことから,DBA/2マウスで認められた腫瘍形成能の差異は25 DBA/2マウスにT細胞が存在することに基づくものであると考えられた(本件明細書等の実施例2,【図2】(A),PNAS論文Fi66g.2A・B)。
なお,ヌードマウスにもNK細胞は存在するため,もしもNK細胞のような非T細胞系のキラー細胞が関与していたのだとすれば,ヌードマウスにおいても,P815細胞とP815/PD−L1細胞との間で腫5 瘍形成能に差異が認められたはずである。
この点について,原告は,この実験の結果,PD−1はT細胞に発現することが明らかになったと主張するが,もともとT細胞を持たないヌードマウスを使った実験によって,PD−1がT細胞に発現していることを確認することはできない。T細胞上にPD−1が発現していること10 は,既にInt.Immunol論文において報告されている既知の事項であり,原告は現時点においてもこのヌードマウスを用いた実験の目的を理解していない。
(エ) がん細胞の浸潤・転移の組織学的解析Z教授は,自身のそれまでの経験に照らし,P815/PD−L1細15 胞を投与されたDBA/2マウスが想定以上に急速に死亡することから,これがP815/PD−L1細胞の全身転移による可能性があると考え,がん細胞が実際に組織の中でどのように浸潤・転移しているのかを確認すべく,DBA/2マウスの病理組織学的検討を行うこととした。ただし,病理組織学的解析については,修士学生であった原告には困難であ20 ると考え,Z教授が自ら行った。
上記実験について,例えば,平成13年11月30日付けのグループミーティングメモ(甲83(7−51頁〔H13.11.30〕))には,「Future plans」欄に「Histochemistry」と記載され,Z教授が自ら行い,原告が全く関与していないことを自認している病理組織化学染色が記載25 されている。また,同月16日付けのグループミーティングメモ(甲83(7−49頁〔H13.11.16〕))には,「組織を保管」,「ホルマリン6710%」という手書きのメモが残されており,Z教授が,原告に対し,病理組織化学染色を行うため,組織を採取して,10%のホルマリン(10%のホルムアルデヒド水溶液)に浸けて保管すべきことを指示している。
5 このように,原告が作成したグループミーティングのメモに原告自身が関与していない解析についても記載されているという事実は,同メモの「Future plans」欄の記載がZ教授の指示に基づいたものであることを示している。
(オ) P815移植DBA/2マウスに対する抗PD−L1抗体の投与実10 験2C細胞とP815細胞を用いた実験と同様に,DBA/2マウスを用いた実験においても,F(ab’)2型の抗PD−L1抗体を用いた確認実験を行う必要があった。すなわち,DBA/2マウスにP815/PD−L1細胞を移植し,抗PD−L1抗体を投与した場合の効果が,15 抗PD−L1抗体のADCC効果によるものである可能性を除外するためである。
もっとも,前記のとおり,原告が,F(ab’)2型の抗PD−L1抗体の調製を行うことができたのは平成13年12月頃であり,Z教授は,原告に,P815/PD−L1細胞を皮下に移植したDBA/2マウス20 に,ようやく調製することができたF(ab’)2型の抗PD−L1抗体を投与して,その生存率と腫瘍容積の変化を測定させた(本件明細書等の実施例3,【図3】(B),PNAS論文Fig.3B)。
オ P815特異的細胞傷害性T細胞及びP815移植DBA/2マウスに対する抗PD−L1抗体の投与実験(実施例3関係)25 (ア) 実験の目的・意義次に,Z教授は,腫瘍免疫応答におけるPD−L1の機能を検証する68ため,DBA/2マウス由来のP815細胞を同系のDBA/2マウスに免疫し,P815細胞を特異的に認識して傷害するP815特異的細胞傷害性T細胞のクローンを樹立して,試験管内において,P815特異的細胞傷害性T細胞と,@P815細胞,AP815/PD−L1細5 胞,B抗PD−L1抗体存在下のP815/PD−L1細胞とを,それぞれ混合培養した場合にP815特異的細胞傷害性T細胞が産生するIFN−γの分泌量をELISA法により定量することにより,P815特異的細胞傷害性T細胞の活性を調べさせた。
キラーT細胞活性を評価するに当たって,細胞傷害性や細胞増殖を測10 定・評価するのに加えて,キラーT細胞が産生する代表的なサイトカインであるIFN−γの量を測定・評価することは,一般に行われるものである。
(イ) P815特異的細胞傷害性T細胞の樹立原告は,Z教授の指示に従い,W助手による指導の下で,DBA/215 マウス由来のP815特異的細胞傷害性T細胞を樹立する作業を行っていたが,これが樹立できたのは,平成14年1月頃であった。原告は,W助手による指導の下で,このP815特異的細胞傷害性T細胞を用いて,細胞傷害性アッセイ及びIFN−γ産生を確認する実験を行った。
なお,ここで原告に指示した,放射線照射によって細胞分裂を止めた20 P815細胞をDBA/2マウスに免疫して,そのマウスから抗原特異的細胞傷害性T細胞を取得するという方法は,抗原特異的細胞傷害性T細胞の樹立方法として,ごく一般的な方法であるが,原告に対しては具体的な指示が当然必要であった。
原告は,C助教授の助力(甲47)を得て抗原特異的細胞傷害性T細25 胞の樹立に成功したと主張するが,同助教授のメールに記載されているコメントは,実験担当者であれば当然に検討するべき手技上の工夫にす69ぎない。
(ウ) IFN−γ定量による確認試験原告は,平成14年1月18日までに,W助手の指導の下で,P815細胞とP815/PD−L1細胞刺激によって,P815細胞特異的5 細胞傷害性T細胞から産生されるIFN−γの量をELISA法により測定し,同T細胞の活性化を比較した。また,抗PD−L1抗体存在下でのP815/PD−L1細胞刺激によるIFN−γの産生量も調べた(本件明細書等の実施例3,図3(A),PNAS論文Fig.3A右図,甲83(7−54・23頁〔H14.1.18〕))。
10 カ J558L細胞を使用した実験(実施例5関係)(ア) 実験の目的・意義上記のP815/PD−L1細胞を用いた実験は,あくまで遺伝子導入により人為的にPD−L1を発現させたがん細胞を用いた実験であった。そこで,Z教授は,これらの実験で確認された結果が,遺伝子人15 為導入がん細胞による特殊な事象であるという,当然予想される懸念を払拭するため,平成13年終わり頃に,原告に対して,PD−L1を自然に発現していることが判明したJ558Lというがん細胞を用いて,同様の移植実験を行うよう指示した。
(イ) J558L細胞を選択した理由20 Z教授がJ558L細胞を選択したのは,従前,原告に対し,当時Z研に保有していた複数の種類のがん細胞上のPD−L1発現を無作為に調べるように指示しており,その結果,J558L細胞が最もPD−L1を強く発現していることが確認できたためである。
これに対し,原告は,J558L細胞にP815細胞と共通するP125 A抗原を発現していることが報告された論文を読み,P815細胞の場合と同様に,キラーT細胞がJ558L細胞を傷害すると考えたことか70らJ558L細胞を選択したものであると主張する。しかし,PD−L1はT細胞上にあるT細胞受容体に作用するものであって,T細胞受容体ががん細胞上のいかなる抗原に結合するかには関係しないため,P815細胞とJ558L細胞が,数あるがん抗原のうちP1A抗原を共通5 にするからといって,そのことは,この実験においてJ558L細胞を用いることとは関係がない(証人Z26頁,証人W23頁)。
また,原告は,自らの着想により,SP2/O細胞でも予備実験を行ったと主張するが,Z教授は,SP2/0やX63などのがん細胞は人為的に遺伝子を変異させた細胞であるため,生体内で自然に生じる現象10 を検証するための実験系には適していないと考えており,当初からこの実験を選択するつもりはなく,その旨を原告に説明していた(証人Z26頁)。
(イ) J558L細胞上のPD−L1発現を確認原告が平成14年2月から4月頃にZ教授及びW助手の指示に従っ15 て,この実験を行った結果,Z教授の想定どおりの結論を示唆するデータが得られた(甲83(7−55〜60頁〔H14.2.22,3.3・18・22〕),乙B14(40〜43頁))。この点は,Y研のA氏によるPD−1遺伝子欠失マウスを用いた実験によって既にPD−1側からもサポートされていたため,Z教授は両者をまとめて一つの図として整理した(本20 件明細書等の実施例5,【図5】,PNAS論文Fig.4)。
(8) 原告の主張等についてア Z教授,W助手等の証言及び陳述書の信用性原告は,Z教授と被告Yの間は極めて緊密な師弟関係にあり,Z教授には,自らの職を賭してでも被告Yに有利な陳述を行う動機付けがあるなど25 と主張をするが,かかる原告の主張は事実に反するものである。被告YとZ教授は,その専門分野を異にしており,師弟関係にないことは,被告Y71及びZ教授のそれまでの研究履歴の違いから明らかである(甲7の1,甲8,乙B22)。
また,原告は,本件研究によりZ教授自らが副学長を務める京都大学が被告小野薬品から有形無形の利益を得ているであろうことは想像に難く5 ないなどとも主張をするが,かかる主張も事実無根である。京都大学は,被告小野薬品を含め,多くの企業との間において産官学連携活動を展開しているが,これらの活動は大学の利益を図ることを目的とするものではない。また,Z教授個人としても,被告小野薬品との間に持ち株や金品授受などを含む利益相反は一切ない。
10 イ 2C細胞とP815細胞の組合せの着想の主体について原告は,2C細胞とP815細胞とを組み合わせる実験は,原告自身が着想したものであると主張する。
(ア) しかし,原告の平成12年11月17日付けのグループミーティングメモ(甲83(7−12頁〔H12.11.17〕 には,) 「αH−2L○をみる」d15 との手書きのメモがある。これは,Z教授が,同ミーティングにおいて,原告に対し,材料として使用する2C細胞が,「B6」マウス(C57BL/6マウス)系統の2Cトランスジェニック(遺伝子改変)マウスに由来するキラーT細胞であり,その細胞傷害性は,「αH−2L○をdみる」,すなわち,2C細胞のT細胞受容体が,標的細胞表面のH−220 Ldという主要組織適合抗原遺伝子複合体(MHC)クラスI分子を認識することにより発揮されることを説明したことを示すものである。そして,その約3週間後の同年12月8日のグループミーティングメモ(甲83(7−20頁〔H12.12.8〕))の冒頭の「Introduction[導入]」の欄に,P815細胞が2C細胞の標的細胞であるこ25 とが記載されている。
これは,Z教授が2C細胞とP815細胞その他のがん細胞を用いた72細胞傷害性試験を実際に行うために必要となる具体的な指示や説明をしたことを示すものである。
(イ) 原告は,2C細胞とP815細胞の組合せを採用した経緯について,D氏が培養・維持している2C細胞の供与を受けて,2C細胞を実験に5 用いることを着想したと主張するが,PD−1研究との関係で2C細胞を選択した論理的な説明を欠いており,実験系の着想の経緯の説明として不自然である。
当時,原告は,2C細胞やP815細胞について実験に実際に使用したという経験もなければ,この組合せがキラーT細胞の発生を検証する10 ために以前から使用されてきた組合せであるということも知らなかった(原告本人28頁)。また,原告は,2C細胞を実験に用い始めた時点では,T細胞上のPD−1発現についても認識しておらず(同56頁),その後の研究の展望もなく,単にZ教授にP815細胞とP815/PD−L1細胞を組み合せた実験を指示されたから当該実験を行った(同15 13・14,27・28,38・39頁)というのである。
これらの原告の供述を前提とすれば,原告は,2C細胞にPD−1が発現しているという認識もなく,かつ,P815細胞にPD−L1遺伝子を導入したP815/PD−L1細胞と組み合わせることにも思い至っていなかったということになる。しかし,P815細胞はPD−L20 1を発現していないのであるから,P815細胞にPD−L1を導入するという発想がなければ,そもそも2C細胞とP815細胞の組合せを用いてPD−1/PD−L1の相互作用を調べることは構想できない。
(ウ) 原告は,2C細胞とP815細胞の採用について,原告が平成12年11月17日のグループミーティングで報告するまで,Z教授及びW助25 手は知らなかったと供述する(原告本人9・10頁,27頁)。
しかしながら,Z教授が維持を依頼していた2C細胞をD氏が同教授73に無断で原告に渡したということはあり得ない。
また,W助手は,自分が指導を担当する各学生がどのような実験を進めているのかは常に把握しており,培養室にある細胞はプレートに日付と細胞の名前が書かれるため,原告が,W助手の知らないところで無断5 で細胞を培養できた可能性は低い。
〔被告小野薬品の主張〕本件訴訟における原告及び被告Yの主張内容に加えて,関係各証拠を適切に検討,評価すれば,原告が本件発明の発明者であるということはできない。
(1) 発明者の認定基準10 本件発明は,がん治療分野を標的として,@PD−1分子とPD−L1分子の相互作用ががんの免疫抑制シグナルを発生させること,APD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害することによってがん免疫抑制シグナルを阻害すること,Bこのがん免疫抑制シグナルを阻害する抗体ががん免疫の賦活をもたらすこと,により見出されたものである。本件発明についての発15 明者性は,上記@〜Bの科学的知見をそれぞれ確認するために適切な実験計画を策定し,計画に沿って実施された実験結果を適切に評価して効果の確認を行った者に認められる。指示された実験作業を行うことが本件発明の技術的思想創作となるわけではなく,単にそのような実験作業を行うに際して手法・手技に関して原告が試行錯誤をしたとしても,本件発明の発明者性を20 基礎付けるものではない。
(2) 本件発明に至る経緯京都大学では,原告が修士課程に入学する平成12年4月までの段階において,Y研においてはPD−1側の研究としてPD−1遺伝子欠損マウスを用いた腫瘍細胞の増殖を調べる具体的な研究計画を策定し,Z研においては25 PD−L1側の研究としてがん免疫研究に使用することができる多機能の抗PD−L1抗体の作製(樹立)を終えていた。
74すなわち,本件発明等の着想及び現実化に至る研究計画の基本的道筋は,原告が入学する平成12年4月までに構築されており,被告Y及びZ教授ともに,がん免疫治療分野をターゲットとして,PD−1分子とPD−L1分子の相互作用がどのようながん免疫応答をもたらすかを調べる具体的な研究5 計画を策定していた。
平成12年4月の原告入学以降の研究においても,Z教授の研究計画に基づき,同教授が適切な実験計画を策定し,W助手が原告に実験作業の実技指導を行った。Z教授は,この実験作業によって得られた結果を評価し,次なる実験計画を策定するといったサイクルで実験を積み重ねた。このような適10 切な実験計画の策定,実験作業によって得られた結果を適切に評価することによって実施例1〜3及び5が示す知見が確認され,Y研での知見(実施例4)と併せて本件発明が完成したのである。
(3) 本件発明の意義・内容及びその発明者についてア 本件発明の意義・内容15 上記のとおり,Z研において行われた本件明細書記載の実施例1〜3及び5の実験は,Z教授が適切な実験計画を策定し,策定された実験計画に基づく作業によって得られた実験結果を評価したものであり,その結果として,がん免疫反応において,PD−1とPD−L1の相互作用によりキラーT細胞にネガティブシグナルが伝達されキラー活性が低下し,この相20 互作用を阻害することによってキラーT細胞のキラー活性を回復することができるという効果が確認された。
イ Z教授の果たした役割本件発明のための適切な実験計画を策定し,計画に沿って実施された実験結果を適切に評価して効果の確認を行ったのはZ教授である。
25 Z教授は,まず,上記(1)@の科学的知見を確認するための実験として,2C/P815実験の実験計画を策定し,実験結果を適切に評価して効果75の確認を行った後,本件発明の実施例2,3及び5に係る実験の実験計画を順次策定し,策定された実験計画に基づく作業により得られた実験結果を評価した。Z教授は,これらの一連の実験の遂行及び実験結果の評価を行った結果として,がん免疫反応において,PD−1とPD−L1の相互5 作用によりキラーT細胞にネガティブシグナルが伝達されキラー活性が低下し,この相互作用を阻害することによってキラーT細胞のキラー活性を回復することができるという効果を確認した。
ウ 原告の貢献他方,原告は,大学院修士課程に入りたての学生として,Z教授の研究10 指導及びW助手の実技指導の下で上記の各実験の作業を担当したものの,Z教授によって策定された各実験計画の狙いや実験の目的については真に理解ができておらず,各実験計画を策定するために必要な知見,経験及び能力を備えていなかった。そのような原告が,各実験計画を発案し得たとは考えられない。
15 また,当然のことながら,策定された実験の結果を原告が自ら適切に評価することもできなかった。上記の各実験について原告が試行錯誤した事項があるとしても,それは,指示された実験作業を進めるに際しての手技・手法における試行錯誤に過ぎず,かかる試行錯誤をもって本件発明の技術的思想創作行為への現実的な加担があったということはできない。
20 (4) P815/PD−L1細胞に対する2C細胞の細胞傷害性測定実験(【実施例1】関係)について原告が,本件発明にかかる技術的思想創作への原告の貢献について具体的行為を主張しているのは,主としてP815/PD−L1細胞に対する2C細胞の細胞傷害性測定実験であると考えられることから,この点について25 の主張を補足する。
ア 上記実験の内容・意義76この実験は,同一のがん細胞種(P815細胞)を用いて,@PD−L1を発現しているがん細胞(P815/PD−L1細胞)と,A発現していないがん細胞(P815細胞)に対してPD−1を発現したキラー細胞(2C細胞)を作用させた場合にそのキラー活性に差があるかを検討する5 ことにより,PD−1とPD−L1の相互作用によりキラー細胞にネガティブシグナルが伝達されるかを分子レベルで検証することを目的とした実験である。
イ 実験計画を策定等したのがZ教授であること2C細胞とP815細胞の組合せを用いることを決定し,P815/P10 D−L1細胞を作製し,P815細胞とP815/PD−L1細胞に対する2C細胞のキラー活性の比較を確認し,更には抗PD−L1抗体による2C細胞のキラー活性回復を確認するという実験計画を策定したのは,Z教授である。
Z教授は,長年にわたって一貫してがん免疫研究を続けており,PD−15 1/PD−L1の相互作用がどのようながん免疫応答をもたらすかをPD−L1分子側から検証する研究を開始することとし,かかる見地から研究テーマを選定していた。
そして,Z教授は,@2C細胞及びP815細胞の属性,A2C細胞のキラー活性がPD−1の影響を受けること(2C細胞とPD−L1との関20 係)を知悉しているうえ,B2C細胞及びP815細胞のいずれも即座にアクセスできる状態を維持・構築していた。
このような状況の下で,Z教授は,平成11年以降に本格的に研究を開始したPD−1とPD−L1の相互作用の研究過程でP815細胞がPD−L1を発現していないことを確認していたのであるから,Z教授が熟25 知した2C細胞とP815細胞の組合せ実験を即座に発案及び構築したことは極めて自然であって,これに沿うZ教授の証言は極めて信用性が高77い。
ウ 実験計画を策定したのが原告ではないこと以下のとおり,上記実験の実験計画を策定したのが原告であるとは認め難い。
5 (ア) 原告は,D氏との会話の中で,2C細胞を活性化するためにP815細胞を使うことを着想したというが,そのような偶然的な経緯自体が真実であるとは認め難く,仮に,D氏との会話の中で2C細胞とP815細胞が話題に上ったことがあったとしても,原告がPD−1とPD−L1の相互作用の有無を検証するために上記実験を発案・構築できたとは10 考え難い。
(イ) 原告は,当時,2C細胞がPD−1を発現していることを知らなかったというのであるから,PD−1とPD−L1の相互作用の有無を確認するために2C細胞を用いるという発案をできたはずがない。また,原告は,P815細胞の表面にPD−L1が発現していないことを,Z教15 授から指示されて行った実験で確認していたのであるから,その段階で,PD−1とPD−L1の相互作用の有無を確認するために2C細胞とP815とを組み合わせるという発想が生じる余地はない。
(ウ) 原告は,P815細胞については,2C細胞の標的となるハプロタイプの異なるMHCクラスI(H−2Ld)を持つことも認識していなか20 った。2C細胞が攻撃対象であるか否かを認識するために必要となるMHCクラスI(H−2Ld)をP815細胞が有することを知らなかったのであるから,原告が,P815細胞と2C細胞の組合せが実験系として適切であると判断し得たはずがない。
(エ) 原告は,Z教授から数ある細胞の中でP815とP815/PD−L25 1の組合せも考えられるという提案をされたので,それをやったほうが良いと考えた(原告本人28頁),P815にPD−L1導入すべきこ78とはZ教授からの指示であり(同38,57頁) 2C細胞とP815細,胞の組合せを思い付いたときにはPD−L1を導入する実験を想定していなかった(同38・39頁)と供述し,2C/P815実験の具体的内容がZ教授の指示によるものであったことを認めている。
5 (オ) 平成12年11月17日のグループミーティングメモ(甲83(7−12頁〔H12.11.17〕 )の原告の手書き部分のうち,) 「2Cのproliferation P815のAPCの能力 とのPD−Lの関係」との記載は,Z教授が2C細胞とP815細胞の組合せ実験の目的を原告に教授したことを意味している。
10 (カ) 原告は,自分が行っている研究ががん免疫分野であるか,自己免疫疾患分野であるかという発想もなく(原告本人26,65頁) 2C細胞と,P815細胞の組合せ実験がうまくいった段階でも,自己の研究ががん免疫研究に関係していることも認識することなく(同62頁),同実験の先の具体的プランすらも有していなかった(同57頁) このように,。
15 原告は,同実験の目的,意義すら理解していなかったのであり,実験の目的,意義を理解せずに,その実験計画を策定できたはずはない。
エ 上記実験の目的について原告は,本実験は「異系」の免疫応答に関するから,がん免疫の研究ではないと主張しているようであるが,かかる理解は根本的に誤りである。
20 すなわち,P815細胞はがん細胞であり,2C細胞はこのP815細胞を選択的に殺すことがよく知られていた免疫細胞(キラーT細胞)である。2C細胞のようなキラーT細胞は,細胞性免疫応答の主役であり,がん細胞,ウイルス感染細胞などの標的細胞への攻撃の役割を担っている(乙A1(241頁) 。より具体的には,当該標的細胞は,主要組織適合)25 性抗原複合体(MHC)上に自身に由来する抗原を乗せて細胞表面上に提示しており,キラーT細胞の表面のT細胞受容体(TCR)は,このMH79Cと抗原との複合体に結合することで標的細胞を認識し,免疫応答により標的細胞を攻撃する(乙A1(268・269頁)。
)ここで,「同系」(例えば,がん細胞やウイルス感染細胞)においてはキラーT細胞が由来する個体のMHCと標的細胞上のMHCが一致し,「異5 系」(例えば,移植細胞)では一致しないが,異系においても,MHCと抗原の複合体が,キラーT細胞により認識され,攻撃の対象となるものであり(乙A1(270頁),キラーT細胞における細胞性免疫応答の結果と)して標的細胞が排除されるという点では同じである。すなわち,キラーT細胞がTCRを介して標的細胞を認識して攻撃するか否かを決定する局10 面においては,標的細胞がキラーT細胞にとって自己由来のもの(同系)であるか,非自己由来のもの(異系)であるかは関係がない。
上記実験の目的は,キラーT細胞である2C細胞ががん細胞であるP815細胞を認識して攻撃するというキラー活性がPD−1により抑制され,キラー細胞ががん細胞を殺さなくなるという概念を検証することであ15 る(乙B13(11・12頁)。2C細胞は,P815細胞が細胞表面に)提示しているMHCと抗原の複合体全体の構成に基づいて,それを攻撃対象であると認識する(免疫応答)のであり,この免疫応答が実際には標的細胞のMHCが非自己である異系の免疫応答であるかどうかは,実験結果の解釈には影響しない。
20 以上のとおり,上記実験が異系の免疫応答に関するものであることを理由に,がん免疫の研究ではないとする原告の理解は根本的に誤りである。
3 争点3(特許権の持分移転登録請求の可否)について〔原告の主張〕(1) 特許法74条は,平成23年の同法改正により設けられた規定であり,平25 成24年4月1日以後の特許出願に適用される(同法施行規則2条9項)ところ,本件特許権に係る特許出願の出願日は平成26年1月20日である。
80したがって,本件特許権に特許法74条が適用される。
(2) PNAS論文における原告の貢献度は,Z教授の評価に照らしても80%を下ることはない。また,PNAS論文の内容は本件特許権の根幹そのものであるから,本件特許権におけるPNAS論文の寄与度は8分の5を下回る5 ことはない。
そうすると,本件特許権における原告の貢献度は50%(80%×5/8)を下回らないから,原告は本件特許権の持分を少なくとも2分の1有することになる。
したがって,原告は,特許法74条に基づき,被告らに対し,原告が有す10 る本件特許権の持分2分の1のうち,その2分の1である4分の1ずつの移転登録手続を求める。
〔被告らの主張〕原告の主張は争う。
特許法74条は,平成24年4月1日以後の特許出願に適用されるところ,15 本件特許権に係る特許出願は,特許権1を曽祖父出願とする分割出願であり,原出願の日である平成15年7月2日に出願したものとみなされる(特許法44条2項)。
したがって,本件特許権に特許法74条の適用はない。
4 争点4(不法行為の存否及び損害額)について20 〔原告の主張〕(1) 被告らは,原告が本件発明の発明者特許を受ける権利を有していたにもかかわらず,平成15年7月2日,故意又は過失により原告を本件発明の発明者とせずに原告と共同しないまま特許出願をした。この被告らによる特許出願は,原告に対する不法行為を構成する。
25 (2) 原告は,被告らの上記不法行為により,以下の額を下回らない損害を被った。
81ア 経済的損害(ただし,米国,欧州等日本国外において生じた損害を除く。)200万円原告は,本件発明の発明者とされていれば受けられていたはずの就職,賃金,研究環境等における待遇を,上記特許出願により受けられなくなっ5 た。
イ 精神的損害 300万円ウ 弁護士費用 500万円〔被告らの主張〕争う。
10 第4 当裁判所の判断1 本件発明の概要(1) 本件特許の請求の範囲の記載に加え,本件明細書等(甲6)には,以下の記載が存在する。
ア 技術分野15 「本発明は,PD−1,PD−L1,またはPD−L2によって誘導される免疫抑制シグナルを阻害することを特徴とする免疫賦活,癌の治療若しくは感染症の治療のための組成物,およびそれらを用いる治療方法に関する。」(段落【0001】)イ 背景技術20 「免疫療法は,ほとんどの薬物療法において避け難い副作用が軽減され,極めて特異性の高い治療方法として期待されている。特に,癌治療や感染症治療における薬物療法が,患者に対して大きな負担を課す治療方法であるために,患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の回復が重要視されているが,免疫療法は,ヒトがもともと備え持っている免疫反応を外因25 的な方法によって賦活化させ,薬物投与による負担の一部を肩代わりさせることによって,患者のQOLを回復させる目的のもとに行なうことがで82きる。」(段落【0003】)「免疫の賦活化は,Tリンパ球細胞の免疫反応を活性化させる方法で行なうことができる。T細胞の活性化には,抗原レセプター(TCR)を介した刺激だけでなく,共役刺激分子群(例えば,CD28)を介した付加5 的な刺激誘導が必要であるといわれている。一方,最近,共役刺激分子群と相同的な構造を有する分子群,CTLA−4とPD−1が発見され,抗原レセプター(TCR)シグナルを抑制するシグナルを発していることが報告されている。T細胞の活性化の方法として,この共役抑制分子の機能を抑制することも有効な1つの手段であると考えられている。 (段落」 【010 004】)「PD−1は免疫グロブリンファミリーに属する55kDのI型膜タンパクとしてクローニングされた(The EMBO Journal,1992年,第11巻,第11号,p.3887〜3895,特開平5-336973号公報,特開平7-291996号公報)。
ヒトPD−1cDNAは,EMBL / GenBank Acc. No. NM_005018に示され15 る塩基配列で構成され,マウスPD−1cDNAは,Acc. No. X67914に示される塩基配列で構成され,それら発現は,胸腺細胞においてはCD4−CD8−からCD4+CD8+細胞に分化する際に認められる(International Immunology,1996年,第18巻,第5号,p.773〜780,Journalof Experimental Medicine,2000年,第191巻,第5号,p.891〜898)。ま20 た,末梢におけるPD−1の発現は,抗原レセプターからの刺激により活性化したT細胞,B細胞(International Immunology,1996年,第18巻,第5号,p.765〜772参照)または活性化マクロファージを含む骨髄細胞に認められることが報告されている。」(段落【0005】)「 P D − 1 の 細 胞内領 域 に は , I T IMモ チ ー フ ( Immunoreceptor25 Tyrosine - based Inhibitory Motif)があり,免疫反応に対する抑制ドメインと考えられている。さらに,PD−1欠損マウスが,糸球体腎炎,83関節炎といったループス様自己免疫病(C57BL/6遺伝子背景の場合)(International Immunology,1998年,第10巻,第10号,p.1563〜1572,Immunity,1999年,第11巻,第2号,p.141〜151)や拡張性心筋症様疾患(Balb/c遺伝子背景の場合)(Science,2001年,第291巻,第55025 号,p.319〜332)を発症することから,PD−1が自己免疫疾患発症,特に,末梢自己免疫寛容の制御因子であることも示唆されている。」(段落【0006】)「PD−1のリガンドであるPD−L1(ヒトPD−L1cDNAはEMBL / GenBank Acc. No. AF233516 , マ ウ ス P D − L 1 c D N A は10 NM_021893で示される塩基配列で構成される。)は,活性化した単球や樹状細 胞 な ど の い わ ゆ る 抗 原 提 示 細 胞 に 発 現 し て い る ( Journal ofExperimental Medicine,2000年,第19巻,第7号,p.1027〜1034)。これら細胞は,Tリンパ球細胞に対して,さまざまな免疫誘導シグナルを誘導する相互作用分子を提示しており,PD−L1は,PD−1による抑制シ15 グナルを誘導する分子の1つである。PD−L1リガンド刺激は,PD−1を発現しているTリンパ球細胞の活性化(細胞増殖,各種サイトカイン産生誘導)を抑制することが示されている。さらに,PD−L1の発現は,免疫担当細胞のみでなく,ある種の腫瘍細胞株(単球性白血病由来細胞株,肥満細胞種由来細胞株,肝癌由来細胞株,神経芽細胞種由来細胞株,乳癌20 由来各種細胞株)でも確認されている(Nature Immunology,2001年,第2巻,第3号,p.261〜267参照)。」(段落【0007】)「PD−1に代表される共役抑制分子からの抑制シグナルは,抗原レセプター(TCR)および共役刺激分子によるポジティブなシグナルを適性に制御するメカニズムによって,リンパ球発生または成熟過程での免疫寛25 容や自己抗原に対する異常な免疫反応を制御していると考えられている。
また,ある種の腫瘍やウイルスは,直接的もしくは間接的なメカニズムに84よって,T細胞の活性化および増殖を遮断し,これら共役抑制分子を自らに対する宿主免疫反応を衰弱させるのに利用していると考えられている(Cell,1992年,第71巻,第7号,p.1093〜1102,Science,1993年,第259巻,第5093号,p.368〜370参照)。さらに,T細胞の機能障害に起因する5 と考えられている疾患の一部では,これら共役抑制分子の異常がT細胞の機能障害を起していると考えられている。」(段落【0009】)ウ 発明が解決しようとする課題「本発明の課題は,PD−1,PD−L1,またはPD−L2による抑制シグナルを阻害して,免疫賦活させる組成物およびこの機構を介した癌10 治療または感染症治療のための組成物の提供にある。」(段落【0012】)エ 課題を解決するための手段「本発明者らは,癌治療または感染症治療における新たな標的として,PD−1,PD−L1,またはPD−L2に注目し,PD−1,PD−L1,またはPD−L2による抑制シグナルを阻害する物質が,免疫機能の15 回復,さらには賦活機構を介して癌の増殖を阻害することを見出した。さらに,感染したウイルスの排除にPD−1シグナル,具体的にはPD−1とPD−L1またはPD−1とPD−L2の相互作用が関与していることを見出した。これら事実に基づいて,PD−1,PD−L1,またはPD−L2による抑制シグナルを阻害する物質が,癌または感染症に対して20 治療効果を有することを見出し,本発明を完成した。(段落」 【0013】)オ 発明を実施するための形態「本発明者らは,癌細胞移植動物モデルへの投与によって,癌の増殖を顕著に抑制し個体の延命効果を発揮する物質として,PD−1,PD−L1の機能を阻害するそれぞれの特異的抗体(抗PD−1抗体,抗PD−L25 1抗体)を発明した。これら抗体は,PD−1を発現しているCTL(細胞傷害性Tリンパ球細胞)へのPD−L1リガンドの提示によって相対的85に低下する細胞傷害活性を回復あるいは増強させる作用を示した(実施例1,図1参照)。これは,CTLによる癌細胞に対する細胞傷害活性が,これら抗体の投与によって増強しうることを示唆するものである。さらに,抗PD−L1抗体の投与は,PD−L1を人為的に発現させた肥満細胞腫5 由来細胞株を移入した同系マウスを用いた癌細胞移植動物モデル(蛋白質・核酸・酵素,1981年,26巻,3号,p.208〜224)において,癌細胞の増殖,浸潤および転移を抑制し,個体の延命効果を示した(図2,図3参照)。
さらに,この抗体によるPD−L1機能の阻害による効果と同様の効果が,PD−1の機能あるいは産生を阻害することによって得られることが示10 唆された。これは,PD−1欠損マウスを用いた癌移入モデルでは,移入癌細胞の増殖が全く認められなかったからであり,PD−1の機能阻害あるいは産生阻害も有効な癌治療方法になることを示すものである(実施例5,図5参照)。」(段落【0046】)「実施例115 マウスPD−L1発現ベクターの作製は,マウスPD-L1cDNA(Journal ofExperimental Medicine,2000年,第19巻,第7号,p.1027〜1034)を制限酵素EcoRIで消化して,発現ベクターpApuroXS The EMBO Journal,( 1994年,第13巻,第6号,p.1341〜1349)に挿入し,連結させることによって行った。
作製した発現ベクターpApuroXS-PD-L1のP815細胞への導入は,エレク20 トロポーレーション法(360V,500μF)で行った。P815細胞の培養は,FCS(10%),2−メルカプトエタノール(10-5M),各種抗生物質含RPMI-1640培地で培養できるが,さらに,抗生物質ピューロマイシン(Puromycin;3μg/ml)を含んだ培地の培養に対して耐性の同細胞株を継代培養することによって,マウスPD−L1を安定的に発現す25 る形質転換P815細胞株を取得した。PD−L1の発現は,フローサイトメトリー解析にて確認した。図1(A)にH−2Ld特異的2C CTLクロー86ンのPD−1発現(i)と,P815(肥満細胞種由来細胞株)のPD−L1発現安定形質転換株でのPD−L1発現(ii)を示すフローサイトメトリーを示す。
同様の方法で,PD−L1を安定的に発現する形質転換B16細胞株5 (B16/PD−L1)を取得した(図1(A)(iii)〜(v)参照)。
こ こ で は 発 現 ベ ク タ ー と し て 同 様 の 方 法 で 作 製 し た pEFBOSneo-PD-L1(Nucleic Acid Research,1990年,第18巻,第17号,p.5322)を用い,細胞株の選択培養にはG418(0.5mg/ml)を使用した。
全長マウスPD-L1cDNAの3'末端側に6個のヒスチジンがタンデムに並10 んだペプチドタグ(His-Tag)を連結させたタンパク質をコードするcDNAを制限酵素EcoRIおよびNotIで消化して,発現ベクターpVL1393(商品名:Clontechより購入)に挿入させた。続いて,この発現ベクターをSF9昆虫細胞(Invitrogenより購入)に導入して,封入体を回収した。この封入体ウイルスをHiFive昆虫細胞(Invitrogenより購入)に2日間,27℃下15 で培養することによって感染させた。溶解緩衝液(Tris-HCl(50mM,pH7,含1%TritonX-100),EDTA(10mM),NaCl(150mM),各種プロテアーゼ阻害剤)で溶解させた細胞溶解液を,Ni−セファロースカラムクロマトグラフィーで処理することによって,抗原となる精製PD−L1タンパク質を取得した。
20 透析した同PD−L1タンパク質を完全フロイントアジュバンドと共に8週令メスWhisterラット(SLC Japanより購入)に免疫して,数日後,末梢リンパ節から回収した2×108細胞を,PEG1500(Amershamより購入)を用いて同数のSP2/0細胞と細胞融合させた。さらに,RPMI1640培地(HAT(Sigmaより購入),Origen(10%,Igenより購入),FCS(125 0%),2−メルカプトエタノール(10-5M),各種抗生物質)で培養することによって選択し,産生抗体の存在をフローサイトメトリー解析に87て確認した。これによって樹立されたハイブリドーマ(国際受託番号:FERMBP-8396で認識されるハイブリドーマ)をBalb/c nu/nuマウスに移入して,後に腹水からの回収液をプロテインGセファロースカラムクロマトグラフィーで精製することによって,PD−L1に対するモノクローナ5 ル抗体(1−111)を取得した。フローサイトメトリー等で使用される抗体は,Sulfo-NHS-LC-biotin(商品名:Pierceより購入)を用いてビオチン化したものを用いた。
また,同様の方法に従い,抗ヒトPD−1抗体(国際受託番号:FERM BP-8392で認識されるハイブリドーマから産生されるモノクローナル抗体)を10 作製した。
細胞傷害性アッセイは,51Cr(クロム)遊離アッセイによって行った。
2C細胞(Journal of Immunology,1996年,第157巻,第2号,p.670〜678)は,2CトランスジェニックB6マウス由来の(H−2L)dアロ反応性の細胞傷害性T細胞である。図1(B)に,2C細胞(E:エフェク15 ター)を51Crラベル化したP815細胞(T:ターゲット)と共に(○)または3つのPD−L1発現P815細胞株(P815/PD−L1)(□,◇ , △ ) と 共 に あ る い は さ ら に 1 0 m g / m l ラ ッ ト anti-PD-L1F(ab')2IgG存在下(▲)を,さまざまなE/T比で混合して,4時間で遊離される51Crを測定した結果を示す。
20 抗PD−L1抗体(anti-PD-L1F(ab')2)は,細胞傷害性Tリンパ球細胞の低下した細胞傷害活性を回復させた。これらの結果から,PD−L1の機能を阻害することによるPD−1およびPD−L1シグナルの阻害は,癌細胞に対する細胞傷害活性を増強させることができると考えられる。」(段落【0089】)25 【図1】88「実施例21×106細胞のP815細胞(n=6)またはP815/PD−L1細胞(n=6)を同系DBA/2マウスの皮下にそれぞれ移入し,腫瘍増殖5 とマウスの生存率を評価した。その結果を図2(A)に示す。図中,○はP815細胞株移植群,□,△はPD−L1発現P815細胞株移植群である。さらにP815/PD−L1細胞を移入した群の組織学的解析を行った。移入20日後のマウスの腹壁ならびに腹膜腔の組織切片を,10%ホルムアルデヒドで固定,パラフィンで砲架して,ヘマトキシリン,エオ10 ジンで染色して得られた染色像を図2(B)に示す。図中,aは腹壁および腹膜への腫瘍細胞の浸潤を示す40倍像,bは同じく400倍像であり,89cは脾臓への転移,dは肝臓への転移を示す。
P815細胞を移植した群では,P815細胞の増殖は抑えられており,6〜7週目では30%が生存したのに対して,PD−L1を発現するP815細胞(P815/PD−L1)を移植した群では,癌細胞の増殖は著5 しく,2〜4週目までに全例が死亡した(図2(A))。P815/PD−L1は,腹膜腔,さらに,腹腔へ浸潤しており,また,肝および脾臓への転移が認められた(図2(B)a〜d参照)。」(段落【0090】)【図2】90「実施例3P815細胞を移入し免疫したマウスから細胞傷害性T細胞CTLを調整し,2×106個数のCTL細胞と,5×106個数のP815細胞また5 はP815/PD−L1細胞のみ,あるいはanti-PD-L1F(ab')2IgG(10mg/ml)存在下でP815/PD−L1細胞をそれぞれ混合培養し,24時間後の培養上清中のIFN−γをELISAキット(Bioscienceか91ら購入)で測定した。その結果を図3(A)に示す。
また,図3(B)に,3×106個数のP815/PD−L1細胞を皮下移入した同系DBA/2マウス(n=10)に,ラットIgG(□)あるいはanti-PD-L1F(ab')2IgG(0.1mg/一匹)(○)を,細胞移入後1,3,5 5,7日後にそれぞれ腹腔内投与し,腫瘍増殖とマウスの生存率を評価した結果を示す。
抗PD−L1抗体は,P815/PD−L1により抑制された細胞傷害性Tリンパ球細胞からのIFN−γ産生を回復させた(図3(A))。抗PD−L1抗体の投与は,癌細胞増殖を抑制し,明確な生存効果を示した(図10 3(B))。この結果は,抗PD−L1抗体の投与が癌治療に有効であることを示している。(段落【0091】)【図3】92「実施例41×106個数のB16メラノーマ(n=6)またはB16/PD−L1細胞(n=6)をB6マウスにはそれぞれ皮下移入し,同数のB16/P5 D−L1細胞をPD−1トランスジェニックB6マウス(n=5)およびPD−1遺伝子ホモ欠損B6マウス(PD−1-/-(n=4))(Science,2001年,291巻,5502号,p.319〜332)に移入し,以後25日までそれぞれの腫瘍増殖を測定した。その結果を図4に示す。」(段落【0092】)【図4】93「実施例52.5×108個数のJ558Lミエローマ細胞を皮下移入した同系Balb/cマウス(n=9)に,ラットIgGあるいはanti-PD-L1F(ab')2IgG5 (0.1mg/一匹)を細胞移入後3,5,7日後にそれぞれ腹腔内投与し,腫瘍増殖を評価した(図5(B))。また,同様にJ558Lミエローマ細胞を皮下移入したPD−1ホモ欠損マウスとBalb/c(n=4)での腫瘍増殖を比較した(図5(C))。
抗PD−L1抗体の投与は,PD−L1を発現しているJ558癌細胞10 (図5(A)に各種ミエローマ細胞株でのPD−L1発現を示すフローサイトメトリーを示す。)の増殖を抑制した(図5(B))。また,J558細胞を移植したPD−1欠損マウスでは移植癌細胞の増殖は完全に阻94害された(図5(C))。これらの結果は,PD−L1もしくはPD−1の阻害が癌治療に有効であることを示している。」(段落【0093】)【図5】5 (2) 上記(1)によれば,本件発明(請求項1に係るもの)は,PD−L1はPD−1による抑制シグナルを誘導する分子の1つであると知られていたところ,PD−L1に対する抗体が,PD−1による抑制シグナルを阻害し,免疫機能の回復,更には賦活機構を介してがんの増殖を阻害し,がんに対して治療95効果を有することを見出したものと認められる。
2 本件明細書等とPNAS論文の記載の対比本件明細書等(甲6)の実施例1〜3及び5に関する記載と,PNAS論文(甲13の2)の対応する記載を対比すると,以下のとおりである(以下の対比5 については,当事者間に積極的な争いはない。甲6,13。なお,段落番号は本件明細書等のものである。)。
(1) 実施例1についてア PD−L1タンパク質の取得及び抗PD−L1抗体の取得(ア) PNAS論文の記載10 「抗体及びフローサイトメトリー分析ラット抗マウスPD-1とPD-L1抗体を文献記載のとおり確立し(15,16),抗H- 2Ldは,e-Bioscience社(カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。」(3頁)「15. Agata, Y., Kawasaki, A., Nishimura, H., Ishida, Y.,15 Tsubata, T., Yagita, H. &Honjo, T. (1996) Int. Immunol. 8, 765?772.16. Ishida, M., Iwai, Y., Tanaka, Y., Okazaki, T., Freeman, G.J., Minato, N. &Honjo, T. (2002) Immunol. Lett. 84, 57?62.」(2297頁の脚注)20 (イ) 本件明細書等(段落【0089】(19頁47〜20頁18行))との対比PNAS論文の脚注15,16に示された各論文には,本件明細書等の上記引用で記載されている抗PD−L1抗体の作製方法と同一の方法が記載されているので(甲14,15(2.5:2頁)),本件明細25 書等に記載された抗PD−L1抗体の作製方法は,PNAS論文に記載の方法と同一である。
96イ PD−1,PD−L1の発現の確認(ア) PNAS論文の記載「抗体及びフローサイトメトリー分析・・・5 フローサイトメトリー分析は,文献記載のとおり(7) FACScan, (BectonDickinson 社製)を用いて行った。」(3頁)(イ) 本件明細書等(段落【0089】(20頁11行))との対比本件発明はPD−1,PD−L1発現の確認方法として,PNAS論文で用いられたフローサイトメトリー解析を使用している。
10 ウ P815/PD−L1細胞の作製・使用(ア) PNAS論文の記載「遺伝子導入.G. J.フリーマン先生(ハーバード・メディカル・スクール,ボストン所在)のご厚意により提供された PD-L1 cDNA を EcoRI で消化し,pApuroXS15 発現ベクターに構築した。
P815 細胞に,pApuroXS-PD-L1 を 360V,500 F でエレクトロポレーション法により遺伝子導入し,続いてピューロマイシン(3μg/ml)で選択して,安定的に PD-L1 を発現する独立したクローンを確立した。 (3頁)」(イ) 本件明細書等の記載(段落【0089】(19頁31〜39行))と20 の対比本件明細書等に記載された,PD−L1を導入したP815細胞の作製方法は,PNAS論文に記載の方法と同一である。
エ 細胞傷害性アッセイの方法(ア) PNAS論文の記載25 「細胞毒性及び IFN アッセイ.細胞傷害性アッセイは,文献記載のとおり(17),51 Cr(クロム)遊離97アッセイを用いて行った。また,IFN-γのアッセイは,酵素結合免疫吸着アッセイキット(E-Bioscience 社)を用いて,製造元のプロトコルに従って行った。」(3頁)(イ) 本件明細書等(20頁20行)との対比5 本件発明は細胞傷害性アッセイ方法として,PNAS論文で用いられた51Cr(クロム)遊離アッセイを使用している。
オ フローサイトメトリーによる分析結果(ア) PNAS論文の記載「2CマウスのCTLクローンは,特定の標的であるP815腫瘍細胞(図10 1A)に対する刺激により,多くのPD-1を発現した。P815細胞は,PD-L1(図1B),PD-L2(データは示されていない)のいずれも発現していないので,我々は安定的にPD-L1を発現する,3種類の独立した遺伝子導入P815を樹立した。P815/PD-L1クローンの全てが同じレベルのH-2Ld抗原(図1B)を発現し,培養中の親細胞と同じ速度で増殖した。」(415 頁)【Fig.1】202598(イ) 本件明細書等の記載(段落【0089】(19頁39〜44行),【図1】(A))との対比以上のとおり,本件明細書等の【図1】(A)は,図番や配置が少し異なるだけで,PNAS論文のFig.1のA,Bと全く同じである。
5 したがって,PNAS論文と本件明細書等には,いずれも,@2C細胞(T細胞の一種)に,PD−1が発現したこと,AP815細胞(癌細胞の一種)には,PD−L1が発現しないこと,BPD−L1を導入したP815細胞(3種)には,PD−L1が安定的に発現していることが示されている。
10 カ 細胞傷害性アッセイの結果(ア) PNAS論文の記載「しかしながら, 1C で示すとおり,図 P815/PD-L1 クローンは, P815親細胞より 2C CTL の細胞傷害活性の影響を受けにくかった。
P815/PD-L1 クローンの 2C CTL への影響の低下は,アッセイ培地(1015 μg/ml)中に抗 PD-L1 抗体の F(ab’)2 を含めることによって,ほぼ完全に回復された。これは,クローン固有の特性によるものではなかったことを示している。」(4頁)【Fig.1】2025(イ) 本件明細書等(段落【0089】(20頁20〜29行) 図1, (B))99との対比本件明細書等の図1(B)で使用されている図は,PNAS論文に掲載された図と全く同じ図である。PNAS論文と本件明細書等には,いずれも,P815細胞にPD−L1を導入すると,PD−L1を導入し5 ていないP815細胞に比べて,2C細胞による攻撃力が低減してP815細胞の溶解度が低減したが,抗PD−L1抗体に加えると,P815細胞の溶解度が同程度に戻り,2C細胞の攻撃力が回復していることが示されている。
(2) 実施例2について10 ア PNAS論文の記載(ア) 腫瘍容積,マウス生存率測定「P815 腫瘍細胞は顕著な T 細胞免疫原性を示すので,用いる量によっては同系の DBA/2 マウスに致命的な腫瘍であるにもかかわらず,長年にわたり,がん免疫のモデルとして使用されてきた。
15 P815 細胞においては,同系マウスにおける特異的細胞傷害性 T 細胞により認識されるいくつかの別個の拒絶抗原が同定されている。これには,種々の他の腫瘍細胞と共有する P1A 抗原を含む(20-22)。
そこで,私たちは,同系 DBA/2 マウスにおける P815 と P815/PD-L1 細胞における腫瘍形成を比較した。
20 マウスあたり 1×106 個の P815 細胞を皮下接種したところ,一過性局所腫瘍(図 2A,左)を形成するのみであったが,マウスの 70%は最終的に,潜在的な腹腔内腫瘍細胞(図 2B)の転移により,6-7 週間で死亡した。
残り 30%のマウスは明らかに腫瘍が治癒した。
25 他方,同じ用量で P815/PD-L1 細胞を皮下接種したところ,進行性の局所腫瘍(図 2A 左)が形成され,2-4 週間程度で 100%のマウスが死亡し100た(図 2B)。」(5〜6頁)【Fig.2】51015(イ) 組織学的解析「解剖して検査したところ,皮下の P815/PD-L1 細胞が腹壁を貫通して腹腔内に,早期に浸潤していたことが明らかになり,腹膜内に広範囲に転移し,肝臓および脾臓において血行性転移とみられるものが明らか20 になった(図 2C)。 」(6頁)【Fig.2】1015イ 本件明細書等(段落【0090】)との対比本件明細書等の【図2】のうち,原告の実験に係る【図2】(A)は,10 PNAS論文に掲載された図2A左図,Bと同内容である。
本件明細書等では上記各図に示された実験結果に関し,P815細胞を移植したマウスではP815細胞の増殖が抑えられ,6〜7週目で30%生存であったのに対し,PD−L1を導入したP815細胞(P815/PD−L1)を移植したマウスではP815細胞の増殖が著しく,2〜415 週目までに全例死亡したと説明されているところ,その説明内容はPNAS論文の記載と完全に一致している。
(3) 実施例3についてア PNAS論文の記載(ア) IFN−γ測定20 「T 細胞固有の P815 細胞の免疫原性に従うと,腫瘍特異的 CD8+ CTLは P815 細胞で免疫した DBA/2 マウスの脾臓細胞から誘導することができ,それらは多くの PD-1 を発現させた(図 3A)。
同系の CTL は再び P815 細胞より P815/PD-L1 に対する効果の低い細胞傷害性及び IFN-γの産生を示し,抗 PD-L1 抗体の F(ab’)2(図 3A)を25 導入することにより P815/PD-L1 細胞が回復されたことにより,IFN-γの産生は回復した。
102この結果により,腫瘍細胞上の PD-L1 は,腫瘍抗原により同系マウスに特異的な T 細胞の活性化を有意に阻害したことが確認された。(7頁)」【Fig.3】510 (イ) 腫瘍容積,マウス生存率測定「インビボでの強化された腫瘍原性を持つ P815/PD-L1 細胞におけるPD-L1 の直接的な役割を証明するために,我々は, P815/PD-L1 細胞(マウス当たり 3 ×106 細胞)の接種後 1,3,5,7日目に対照群としてラット抗 PD-L1 抗体又は正常ラット IgG を,マウス当たり 0.1mg ずつ注入し15 た。
抗 PD-L1 抗体の注射は,大幅に局所的な腫瘍の成長を阻害し,注射をうけたもののうち 40%の腫瘍が完全に治癒された。
他方,対照群として IgG を接種されたマウスの 100%に進行性の腫瘍の増殖が見られ,6 週間以内に死亡した(図 3B)。」(7頁)20 【Fig.3】25103イ 本件明細書等(段落【0091】)との対比本件明細書等の【図3】(A)はPNAS論文の図3A右図に対応し,同明細書等の【図3】(B)上段の2つの図はPNAS論文の図3B左図5 に対応し,同明細書等の【図3】(B)下段の図はPNAS論文の図3B右図に対応しており,本件明細書等にはPNAS論文と全く同一の実験データが記載されている。
(4) 実施例5についてア PNAS論文の記載10 (ア) PD−L1の発現の有無の確認「種々の腫瘍細胞株の調査は,マウス腫瘍株のかなりの割合において,また,最も顕著なものは,これまで検討した全ての独立した骨髄腫株において,PD-L1 が発現していることを示した(図 4(a))。 」(8〜9頁)15 【Fig.4】(イ) 腫瘍容積測定「したがって,我々は,インビボで,腫瘍細胞上で自然に発現している PD-L1 が,実際に腫瘍原性に寄与しているかどうかを調査した。
20 図 4(b)に示されたとおり,J558L 骨髄腫細胞をマウスあたり 2.5×106の割合で皮下接種したところ,同系の BALB/c マウスで非常に急速に腫瘍の増殖が形成され,3 週間以内にそれらは死亡した。
マウスのほとんどで腫瘍が 1 週間程度遅れて拡大を開始したものの(図4B),腫瘍接種後の抗 PD-L1 抗体の注射は,骨髄腫細胞増殖に対し有意104な抑制をもたらした。」(9頁)【Fig.4】510(ウ) 腫瘍容積測定「インビボでの PD-1 と PD-L1 の相互作用の完全な遮断の潜在的影響を評価するために,我々は,その後の BALB/c 由来の PD-1-/-マウスにおけ15 る J558L の成長を調査した。
図 4C 左に示されるように,PD-1-/- BALB/c マウスにおいて J558L 骨髄腫の増殖は完全に抑制され,他方,PD-1+/+の同腹子では腫瘍が急速に成長した。」(9頁)【Fig.4】1055イ 本件明細書等の記載(段落【0093】)との対比10 本件明細書等の【図5】(A),(B),(C)はそれぞれ,PNAS論文の図4A,B,Cに対応するものであり,全く同一のデータを示している。本件明細書等の考察で述べられている「これらの結果は,PD−L1もしくはPD−1の阻害が癌治療に有効であることを示している。」との内容は,PNAS論文の「これにより,インビボでの PD-1 又は PD-L1 を15 ブロックする手順をより持続的かつ効率的にすること,例えば,PD-L1 を可用性のあるものにすることにより,更に大きな治療効果をもたらすことが強く示唆された。」(9頁)との考察と同内容である。
(5) 小括以上のとおり,本件明細書等の実施例1〜3及び5の関する実験結果を示20 す図面(【図1】〜【図3】,【図5】)には,PNAS論文に掲載された対応する図面(Fig1〜4)と概ね同一の実験データが記載されているということができる。
3 争点1(本件発明の発明者であることの確認の利益の有無)について原告は,本件発明の発明者であることの確認を求める利益を有すると主張す25 る。
しかし,確認の利益は,原告の権利又は法律的地位に危険や不安定が現存し,106かつ,その危険や不安定を除去する方法として,当事者間に当該請求について判決をもって法律関係の存否を確定することが必要かつ適切な場合に認められると解されるところ,本件発明の発明者であることの確認請求は,原告が本件発明の発明者にあるという事実関係についての確認を求めるものにすぎず,給5 付の訴えである不法行為に基づく損害賠償請求をすれば足りるのであるから,原告には本件発明の発明者であることの確認を求める利益があるということはできない。
したがって,本件訴えのうち,原告が本件発明の発明者であることの確認を求める部分は確認の利益を欠き,不適法である。
10 4 争点2(原告が本件発明の発明者かどうか)について(1) 発明者の判断基準発明とは,自然法則を利用した技術的思想創作のうち高度のものをいい(特許法2条1項),特許発明技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定められなければならない。したがって,発明者と認められるために15 は,当該特許請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分を着想し,それを具体化することに現実に加担したことが必要であり,仮に,当該創作行為に関与し,発明者のために実験を行い,データの収集・分析を行ったとしても,その役割が発明者の補助をしたにすぎない場合には,創作活動に現実に加担したということはできないと解すべきである(知財高20 裁平成19年3月15日判決(平成18年(ネ)第10074号),同平成22年9月22日判決(平成21年(ネ)第10067号)等参照)。
本件特許請求の範囲の請求項1は,前記のとおり,「PD−1の免疫抑制シグナルを阻害する抗PD−L1抗体を有効成分として含む癌治療剤。」であり,PD−1分子とPD−L1分子の相互作用によりがんの免疫抑制シグ25 ナルがPD−1に伝達されることを前提として,抗PD−L1抗体が,PD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害することにより,がん免疫の賦107活をもたらすとの知見を見出したものである。
本件発明の技術的思想は上記のとおりであるが,本件発明のような免疫学を含む基礎実験医学の分野において,着想した技術的思想を具体化するためには,先行する研究成果に基づいて実証すべき具体的な仮説を着想し,その5 実証のために必要となる実験系を設計・構築した上で,科学的・論理的に必要とされる一連の実験を組み立てて当該仮説を証明するとともに,当該仮説以外の他の可能性を排除することなどが重要となる。
これを本件に即していうと,本件発明の発明者を認定するに当たっては,@抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害する10 ことによりがん免疫の賦活をもたらすとの技術的思想着想における貢献,APD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害する抗PD−L1抗体の作製・選択における貢献,B仮説の実証のために必要となる実験系の設計・構築における貢献及び個別の実験の遂行過程における創作的関与の程度などを総合的に考慮し,認定されるべきである。
15 (2) 本件発明の技術的思想着想における原告の貢献ア 本件発明の技術的思想は,上記のとおり,抗PD−L1抗体が,PD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害することにより,がん免疫の賦活をもたらすという知見を見出した点にあるところ,原告は,本件実験の開始時点においては,PD−L1は自己免疫疾患との関係で研究されてい20 たにすぎず,これをがん治療と結びつける発想はなく,原告の行った実験を通じて,徐々にPD−1/PD−L1の相互関係ががん細胞に対する細胞傷害性に影響することが認識されるようになったと主張する。
イ しかし,前記前提事実(7)アないしウのとおり,平成4年にY研においてPD−1が単離され,平成8年には,Int.Immunol論文にお25 いて,T細胞にPD−1が発現していることが発見され,更に,平成11年にはImmunity論文において,PD−1がT細胞の自己免疫寛容108の維持に重要であることが明らかにされていたことに加え,従来がんには自己免疫病と同じようなメカニズムが働いていると考えられていたこと(証人Z3頁)に照らすと,その頃までに,被告YとZ教授は,生体内のがんの免疫反応にPD−1が重要な役割を果たしていると考えていたと5 認めるのが相当であり(乙B1(3・4頁),乙B13(3頁)),原告もそのこと自体を否定するものではない。
そして,本件においては,前記認定のとおり,@被告Yはがん免疫を専門とするZ教授に対してPD−L1遺伝子を譲り渡しているところ,PD−L1はがん細胞に発現するものであること,AY研においては,平成110 1年頃にはA氏を主担当としてPD−1とがん免疫の実験を開始していたこと,BZ研においては,その頃,PD−L1の研究を開始し,Z教授は,がん免疫を専門とするW助手に抗PD−L1抗体の作製を指示していること,C原告も,Z研の入室後ほどない頃,Z教授の指示により,がん細胞にPD−L1が発現しているかどうかの確認実験をしていることな15 どの事実が認められ,これらの事実によれば,原告がZ研に入室した平成12年4月までに,Y研及びZ研において,PD−1/PD−L1相互作用とがん免疫の関係についての研究が開始されていたと認められる。
以上によれば,被告Y及びZ教授は,原告がZ研に入室した時点以前から,抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害20 することによりがん免疫の賦活をもたらすという技術的思想共有し,これを実証するための具体的な実験に着手していたものというべきである。
他方,原告は,本件実験を開始した当時,PD−1/PD−L1の相互作用をがん免疫との関係で研究しているとの認識はなく,その後のグループミーティングにおいて指摘をされて「初めてがんでも使えるのかな」と25 思ったというのであるから(甲50(3頁),原告本人26,62,65頁),抗PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻109害することによりがん免疫の賦活をもたらすという技術的思想着想に原告が関与していたと認めることはできない。
ウ 以上に対し,原告は,被告Yが平成12年より前にPD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらす5 ことに着想していたとしても,それは単なる願望であって,具体性を欠いていたと主張する。
しかし,前記判示のとおり,原告がZ研に入室した平成12年4月当時には,既に,Y研においてPD−1の側から,また,Z研においてPD−L1の側から,PD−1/PD−L1相互作用とがん免疫の関係について10 の研究が開始されていたのであるから,被告Y及びZ教授が着想していた技術的思想が「単なる願望」にすぎなかったということはできない。
エ また,原告は,PD−1/PD−L1の相互作用が抗腫瘍効果を奏する可能性があるとの上記課題自体は,JEM論文や甲60の特許公報などにより公知であったと主張する。
15 しかし,これらの文献は,その発表又は公開時期からして,原告がZ研に入学したときに公知であったということはできず,また,仮に,同時点で公知であったとしても,原告が本件発明の技術的思想着想に関与していないとの上記結論を左右するものではない。
オ さらに,原告は,Z教授が本件実験を修士課程の学生である原告に任せ20 たのは,同教授が本件実験の意義を十分に理解していなかったことを示していると主張する。
しかし,PD−L1に関する研究は多面的で,Z研に所属する多くの学生が同研究に関する課題に取り組んでいたのであり(乙B14(18頁) ,)Z教授が複数ある研究課題の中から本件実験に係る課題を原告に委ねた25 としても,それをもって,Z教授が,原告の行った研究の重要性について認識していなかったということはできない。
110また,原告は,W助手が作成した研究テーマに関するメモ(甲28)にキラーT細胞の記載がないことをもって,Z教授らはがん免疫治療を目指していなかったと主張するが,同メモに挙げられた原告の研究課題(甲28(3−56頁))には,がん細胞であるYAC細胞とNK細胞を使用して5 行う研究も含まれていたのであるから,Z教授らががん免疫治療を念頭に置いていたことは明らかである。
カ 以上のとおり,PD−L1抗体がPD−1分子とPD−L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすとの本件発明の技術的思想着想したのは,被告Y及びZ教授であり,原告は関与していな10 いものと認められる。
(3) 抗PD−L1抗体の作製における原告の貢献ア 原告は,抗PD−L1抗体の作製に関し,原告がZ研に入室した当時は,抗PD−L1抗体を産出する可能性のあるハイブリドーマの作製が終了していたにすぎず,原告の実験により1−111抗体及び1−167抗体15 が有望であることが判明し,最終的には,平成12年9月29日に1−111抗体を樹立したのであるから,この点に関する原告の貢献は大きかったと主張する。
イ しかし,抗PD−L1抗体の作製経過については,前記前提事実(7)オのとおりであり,モノクローナル抗体は,クローン化されたハイブリドーマ20 が産生する抗体を意味するので,限界希釈作業を経て,ハイブリドーマが得られた時点で,モノクローナル抗体は樹立されたと認めるのが相当である(乙B4(1頁),証人W16頁)。
W助手が作製した抗PD−L1抗体のうち,1−167抗体については,平成12年4月22日には凍結保存されていると認められるので(乙B425 (別紙2),証人W16頁),同抗体は同日までには作製されたものということができ,その番号に照らし1−167抗体より先に採取されたと認め111られる1−111抗体についても,同日までに作製されたものと認められる。
ウ 他方,抗PD−L1抗体の作製に関し,原告が行った実験は,前記前提事実(8)ア(ア)のとおりであるが,これは,平成12年9月29日に開催さ5 れたグループミーティングのメモ(甲83(7−1頁)〔H12.9.29〕)に「111と167が本当にPD−L1を認識しているかどうかをmRNAの検出によって行う実験である。 などと記載されているように,」 作製された抗PD−L1抗体の性状確認及び性能のより良い抗体の探索を行うためのものであったということができる。
10 原告の行った上記実験は,1−111抗体を最終的に選択する上で意味のあるものであったということはできるが,前記判示のとおり,1−111抗体及び1−167抗体の作製自体は原告がZ研に入室した直後である平成12年4月22日までには完了したものと認められ,原告による1−111抗体及び1−167抗体以外の抗PD−L1抗体の探索につい15 ては,有望な抗体を見出すことができなかったことを考えると,原告が抗PD−L1抗体の作製・選択に一部関与したとしても,その程度はごく限られたものであったというべきである。
エ 以上によれば,本件発明に係る抗PD−L1抗体の作製・選択に貢献した主体は,Z教授及びW助手であり,原告は,Z教授らの指導も受けつつ,20 一定の役割を果たしたということはできるものの,その貢献の度合いはごく限られたものであったというべきである。
(4) 本件発明を構成する個々の実験の構想及び具体化における原告の貢献続いて,本件発明を構成する個々の実験の構想及び具体化における原告の貢献について,検討する。
25 ア P815/PD−L1細胞に対する2C細胞の細胞傷害性測定実験(実施例1関係)112(ア) 原告は,2C細胞とP815細胞とを組み合わせた実験について,自ら着想したものであると主張し,その経緯について,D氏と雑談をしている際に,D氏が2C細胞を活性化するためにP815細胞を使って増殖させており,2C細胞がP815細胞を攻撃すると聞いたことから,5 2C細胞がP815細胞を殺す際にPD−1/PD−L1の抑制系が関連しているかもしれないと考えたと説明する(原告本人7〜8頁)。
しかし,他方,原告は,@Z研に入る前に2C細胞及びP815細胞を使用した経験はなかった(原告本人28頁),A2C細胞にPD−1が発現していることは知らなかった(同56頁),BP815細胞がH10 −2Ldを発現しているという認識はなかった(同27〜28頁),C2C細胞とP815細胞の組合せがキラーT細胞の活性を検証するために以前から使用されていたことは知らなかった(同28頁),D2C細胞とP815の組合せ実験が移植免疫系であるとの認識はなかった(同8・9頁),E2C細胞とP815細胞との組合せを思い付いたときに15 はPD−L1を導入する実験のことは想定しておらず,Z教授からP815細胞にPD−L1を導入してみてはどうかとの助言を受けた(同38,39,57頁) F2C細胞とP815細胞との組合せの実験でうま,くいっても,その先における具体的なプランはなかった(同57頁)と供述する。
20 本件においては,D氏の証言は得られず,その陳述書等も証拠として提出されていないので,原告の上記主張を裏付けるに十分な証拠があるということはできないが,仮に,原告とD氏との間に原告の主張するようなやりとりがあり,それにより原告が2C細胞とP815細胞との組合せを自ら提案したとの事実が認められるとしても,上記@〜Fの供述25 によれば,原告は,その当時,2C細胞及びP815細胞の性状についての基本的な知識・理解を得るに至っていなかったというべきである。
1132C細胞とP815細胞の組合せ実験を着想するには,2C細胞にPD−1が発現していること,P815細胞が2C細胞の標的になるH−2Ldを発現していること,この実験が移植免疫系の実験であること,がん免疫と自己免疫で基本的なメカニズムに変わりがないことなどの5 基礎的な理解を前提とした上で,2C細胞とP815細胞の組合せがキラーT細胞の活性を検証するために以前から使用されていたという知識を加味することが必要であると考えられる。
その上で,P815細胞はPD−L1を発現していないことは既に確認されていたのであるから,PD−L1の機能を確認・解析するには,10 PD−L1遺伝子をP815細胞に導入するなどして,PD−L1を発現する細胞を予め作製することが必要となり,また,実験結果を評価する方法を選択したり,抗PD−L1抗体を投与した場合の効果がADCC効果によるものではないことを確認する実験を行うなど,必要となる一連の実験を想起した上で,その具体的な設計・構築をする必要がある。
15 ところが,原告は,2C細胞とP815細胞の組合せ実験の基礎となる知識・理解を有するに至っておらず,2C細胞とP815細胞を使用してどのような実験を実施するかというアイディアや,2C細胞とP815細胞の組合せ実験の後の展望を有していなかったというのであるから,仮に,実験に使用する細胞の組合せを最初に提案したのが原告で20 あったとしても,原告が同実験に創作的な関与をしたということはできない。
(イ) 他方,Z教授は,キラーT細胞についての研究歴が長く,2C細胞も入手して維持しており,P815細胞についても1970年代から使用してその性状を熟知していたと認められ(乙B13(9・10頁),証人25 Z16頁),原告を指導して上記の一連の実験を設計・構築するに足りる経験,知識を有していたものと認められる。
114そして,2C細胞とP815細胞との組合せ実験を構成する個々の実験についても,例えば,P815細胞にPD−L1遺伝子を導入してP815/PD−L1細胞を作製する実験や,抗PD−L1抗体からFc部分を切断した抗体を使用した実験を行うことについて,原告がZ教授5 から助言を受けたことは,原告も自認するところである。そうすると,Z教授は,2C細胞とP815細胞の組合せ実験を構成する個々の実験について,原告に指導・助言を与えていたものと認められる。
また,原告は,実験の手技の面においても,P815/PD−L1細胞のクローンを複数樹立すること,抗PD−L1抗体からFc部分を切10 断した抗体を作製すること,2C細胞及びP815細胞を維持・培養することなどに苦労をしていたと認められるところ(甲50(14〜16頁),乙B14(26〜29,32,36〜39頁) ,こうした実験の手)技に属する細部についても原告がZ教授やW助手から指導・助言を受けていたことは,原告自身が「実験に関する細かなノウハウなどに関する15 知見に乏しかったので,実験がつまずくと,Z先生やW助手に相談をしてアドバイスをいただいていました。」と陳述するとおりである(甲50(15頁)。
)このように,原告は,P815/PD−L1細胞の作製,抗PD−L1抗体からFc部分を切断した抗体を使用した実験など,2C細胞とP20 815細胞との組合せ実験を構成する個々の実験についても,Z教授らから助言を受け,実際の作業に当たっても,同教授やW助手の指導を受けながら進めたものと認められる。
(ウ) 以上のとおり,仮に2C細胞とP815細胞との組合せ自体を最初に想起したのが原告であるとしても,2C細胞とP815細胞を組み合わ25 せた一連の実験を論理的・科学的な観点から設計・構想し,これに基づく具体的な実験方法を原告に助言するとともに,実際の実験の過程にお115いても原告に助言を与えたのは,Z教授及びW助手であったというべきである。
(エ) これに対し,原告は,Z教授が原告に対し2C細胞とP815細胞との組合せ実験を指示したことを裏付ける客観的な証拠は存在しないと5 主張する。
しかし,例えば,原告が「2CとP815…を使って細胞傷害性を調べる」と記載した平成12年11月17日付けグループミーティングのメモ(甲83(7−12頁〔H12.11.17〕 )には,手書きで「αH−2L)?をみる」,「H−2d でない かつ PD−Lをもつ」などと記載されて10 おり,このうち,前者の手書き部分は,Z教授が,同ミーティングにおいて,原告に対し,2C細胞のT細胞受容体が標的細胞表面のH−2Ldという主要組織適合抗原遺伝子複合体(MHC)クラスI分子を認識することを説明したものと考えられる。
また,平成12年12月25日のグループミーティングメモ(甲8315 (7−22頁〔H12.12.25〕))には,「killer 活性が落ちている」などの手書きの書き込みがあり,E氏の保管していた同日のグループミーティングメモ(乙B17別紙1)にも同様の書き込みがあるが,これは,Z教授が実験に使用する2C細胞の維持・培養等について助言をしたことの現れであると認められる。
20 このように,Z教授は,同ミーティングの際に,2C細胞とP815細胞の組合せ実験の意義や留意点について原告に説明したものと認められ,このような説明は,原告がその後に作成するグループミーティングメモに反映されていたと考えるのが自然である。
(オ) 原告は,抗PD−L1抗体からFc部分を切断した抗体を作製するに25 際し,Z教授からパパインにより処理するように指示され,実際に指示に従った実験を行ったがうまくいかなかったので,試行錯誤の上,ペプ116シンによる処理を着想したと主張する。
この点,確かに,平成13年2月16日開催のグループミーティングのメモ(甲83(7−28頁〔H13.2.16〕)には「papain」との手書き)の書き込みがあり,原告はこれに従ってしばらくの間パパインを酵素と5 して使用した実験を行ったものと認められる(甲64,65)。
しかし,他方で,原告及びE氏の保管していた同日のグループミーティングメモには,いずれも「F(ab’)2」との書き込みがあるところ(甲83(同頁),乙B17(別紙2)),F(ab’)2を作製するにはペプシンによる処理が必要であることを考えると,「papain」との書10 き込みは,原告がZ教授の説明の一部を書き留めたものにすぎず,同教授の指示を書き留めたものではない可能性もある(なお,E氏の保管していた同日のグループミーティングメモにはパパインに関する書き込みは見当たらない。)。
ただ,いずれにしても,抗PD−L1抗体からFc部分を切断した抗15 体を使用した実験については,全長の抗PD−L1抗体を使用するのみではADCC効果による可能性を排除し得ないので,抗PD−L1抗体からFc部分を切断した抗体を作製した上で,ADCCの効果の可能性を排除し得るような実験を組み立てる必要があるという着想が重要であり,抗PD−L1抗体からFc部分を切断するための酵素として何を20 使用するかは,実験手技上の試行錯誤にすぎないというべきである。
(カ) 原告は,クロミウムリリースによる細胞傷害性アッセイに関し,クロミウムではなく,LDHキットを使用したことも,原告が試行錯誤しつつ実験を行っていたことを示していると主張する。
しかし,市販のLDHキットを用いた測定は,クロミウムリリースに25 よる細胞傷害性アッセイがZ研の実験室外の放射線管理区域において行う必要があることから,予備的な試験として行われたものと考えられ(証117人W19・20頁),最終的な実験結果は 51Crリリースアッセイによる細胞傷害性測定実験により行われていることを考えると,原告の主張する上記の工夫は,実験遂行過程における実験手技上の工夫にすぎないというべきである。
5 (キ) したがって,2C細胞とP815細胞の組合せ実験において主として貢献したのはZ教授及びW助手であり,原告の貢献はごく限られたものであったというべきである。
イ DBA/2マウスへのP815/PD−L1細胞移植実験(実施例2関係)10 (ア) 2C細胞とP815細胞の組合せ実験により想定した結果を得られた後,Z教授が,原告に対し,@本来のがん免疫反応において個体レベルで検証すべく,P815細胞と同系のDBA/2マウスを使用して,生体へのP815細胞の投与実験を行うことを助言したこと,AP815/PD−L1細胞とP815細胞を皮下に注入し,腫瘍の大きさをノギ15 スにより測定することを助言したこと,B胸腺を欠如しT細胞を持たないBalb/cのヌードマウスを用いて,P815細胞とP815/PD−L1細胞の腫瘍増殖を調べることを助言したことについては,原告も自認するところである。
また,甲83(7−41頁〔H13.5.18〕)のグループミーティングメ20 モには「s.c.投与[皮下投与]で腫瘍の大きさをみてはどうか」,「nu/nu mice[ヌードマウス]でどうか?」という趣旨の手書きの書き込みが存在するが,これらは,いずれも原告がZ教授から受けた指示ないし助言を記録したものであると認められる。
このように,DBA/2マウスへのP815/PD−L1細胞移植実25 験については,Z教授が構想し,その後の一連の実験についても,同教授が設計・構築したものと認められる。
118(イ) これに対し,原告は,P815/PD−L1細胞とP815細胞をマウスの皮下に注入するに先立ち,自らの着想により,DBA/2マウス腹腔内にP815/PD−L1細胞とP815細胞を投与する実験を行ったと主張する。
5 しかし,この腹腔内投与実験は,原告の主張によっても想定した結果を得られなかったというのであるから,この実験を原告が自らの着想により行ったとしても,それをもって,DBA/2マウスへのP815/PD−L1細胞移植実験において原告に創作的な関与があったということはできない。
10 (ウ) したがって,DBA/2マウスへのP815/PD−L1細胞移植実験において主として貢献したのはZ教授であり,原告の貢献は限られたものであったというべきである。
ウ P815特異的細胞傷害性T細胞及びP815移植DBA/2マウスに対する抗PD−L1抗体の投与実験(実施例3関係)15 (ア) 原告は,DBA/2マウスへのP815/PD−L1細胞移植実験において所期の結果を得た後,前記前提事実(8)オのとおり,2C細胞とP815細胞を組み合わせた異系の細胞レベルでの実験と同様の実験を,P815細胞と同系のDBA/2マウスに由来するキラーT細胞についても行ったものと認められる。この実験の方法は,放射線照射によ20 って細胞分裂を止めたP815細胞をDBA/2マウスに免疫して,そのマウスから抗原特異的細胞傷害性T細胞を取得することを含むものである。
原告はこの実験を自らの発案で行ったと主張するが,原告がこれまで同実験を行った経験を有さず,また,この実験は修士課程の学生にとっ25 ては難しいレベルの細胞生物学的実験であった(乙B14(34頁))ことなどに照らすと,これを原告自身が着想し得たとは考え難く,Z教119授からの指示ないし助言に基づいて行ったと推認するのが相当である。
(イ) 原告は,P815特異的細胞傷害性T細胞の樹立に当たり,Z教授らから十分な指導を得ることができず,知人であったC助教授に相談してようやく成功したと主張する。
5 しかし,C助教授からのメールによる助言(甲47)は,その内容に照らすと,P815特異的細胞傷害性T細胞の樹立をするに当たっての実験手技上の工夫についての助言にすぎないというべきである。
そうすると,原告が同助教授から助言を得てP815特異的細胞傷害性T細胞の樹立に成功したとしても,原告に同実験における創作的な関10 与があったということはできない。
(ウ) 原告は,IFN−γ定量による確認試験について,自ら発案して行ったものであると主張する。
しかし,キラーT細胞が産生する代表的なサイトカインであるIFN−γの量を測定・評価することは,原告自身が「キラーT細胞が活性化15 してもインターフェロンγの産生が起こることが免疫学の教科書に記載され,知られていた」,「W助手がγδ型T細胞が活性化したことをインターフェロンγの産生で確認していることを見ていた」と陳述するように(甲86(8頁)),教科書等にも記載され,Z研においても行われていた一般的な測定方法であるというべきである。
20 そうすると,仮に,原告が,Z教授やW助手から指示されることなくIFN−γ定量による確認試験を行ったとしても,それをもって原告に創作的な関与があったということはできない。
(エ) したがって,P815特異的細胞傷害性T細胞及びP815移植DBA/2マウスに対する抗PD−L1抗体の投与実験において主として貢25 献したのはZ教授及びW助手であり,原告の貢献は限られたものであったというべきである。
120エ J558L細胞を使用した実験(実施例5関係)(ア) 原告は,PD−L1を自然に発現するがん細胞であるJ558L細胞を用いた実験に関し,Z教授の助言を参考に検討したとしつつも(甲50(22頁),) 細胞を選択するに当たり,同細胞がP815細胞と同じ腫瘍5 抗原P1Aを認識するキラーT細胞から攻撃されていることが報告されている論文(甲75)を参照して自ら着想したと主張する。
しかし,J558L細胞を使用した実験の目的が,人為的にPD−L1を発現させたがん細胞を用いるのではなく,PD−L1を自然に発現しているがん細胞を用いることにあることを考えると,J558L細胞10 が選択された主たる理由は,同細胞にPD−L1が自然かつ高度に発現していることによると考えるのが自然であり,この点,原告自身も,PD−L1の強発現が認められた5種類のがん細胞(ミエローマ細胞)の中から選択するようZ教授から指導を受けてJ558L細胞を選択したと供述する(原告本人35頁)。
15 そうすると,原告が,甲75の論文を参照しつつ,PD−L1を強発現する複数のがん細胞からJ558L細胞を選択したとしても,その役割は限定的なものであったというべきである。
(イ) したがって,J558L細胞を使用した実験についても,その設計や構築に主として貢献したのはZ教授であり,原告の貢献は限られたもの20 であったというべきである。
オ 本件発明における原告の貢献以上によれば,本件発明を構成する個々の実験については,原告が実際の作業を行ったものの,各実験系の設計及び構築をしたのはZ教授であり,各実験の遂行過程における原告の貢献は限られたものであったというべき25 である。
(5) 本件発明の発明者について121上記(2)ないし(4)によれば,@本件発明の技術的思想着想したのは,被告Y及びZ教授であり,A抗PD−L1抗体の作製に貢献した主体は,Z教授及びW助手であり,B本件発明を構成する個々の実験の設計及び構築をしたのはZ教授であったものと認められ,原告は,本件発明において,実験の5 実施を含め一定の貢献をしたと認められるものの,その貢献の度合いは限られたものであり,本件発明の発明者として認定するに十分のものであったということはできない。
したがって,原告を本件発明の発明者であると認めることはできない。
(6) 原告の主張について10 ア 発明者の認定基準について(ア) 本件実験のほぼ全てを原告が行ったことについては,当事者間に争いがないところ,原告は,化学の分野においては,発明の基礎となる実験を現に行い,その検討を行った者が発明者と認められるべきであると主張する。
15 しかし,前記判示のとおり,発明者と認められるためには,当該特許請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思想の特徴的部分を着想し,それを具体化することに現実に加担したことが必要であり,仮に,発明者のために実際に実験を行い,データの収集・分析を行ったとしても,その役割が発明者の補助をしたにすぎない場合には,発明者という20 ことができないと解すべきである。
原告が本件発明に係る技術的思想に関与せず,抗PD−L1抗体の作製・選択及び本件発明を構成する実験の設計・構築に対する貢献もごく限られたものであったことは,前記判示のとおりであり,これによれば,原告の本件発明における役割は補助的なものであったというべきであ25 る。
(イ) また,原告は,特許発明に係る情報を記載した各種文書を作成し,こ122れを管理している場合には,いわば発明を占有するものとして発明者性が推認されるべきであると主張するが,研究の補助者が特許発明に係る情報を記載した各種文書を作成・保管することもあり得ることに照らすと,特許発明に関する文書の作成・保管主体をもって直ちに発明者であ5 ると推認することはできない。
イ 論文の共同第一執筆者であること等について(ア) 原告は,PNAS論文において,原告が共同第一著者であると明記され,その脚注(1頁)に「AとXは本研究に等しく貢献した。」と記載されていることを指摘し,被告Yは同論文の投稿を行う立場にあったので10 あるから,原告の貢献を認めていたと主張する。
しかし,前記判示のとおり,本件発明の発明者であるかどうかは,本件発明の経緯に至るまでの具体的な事実関係に基づき,@その技術的思想着想における貢献,A抗PD−L1抗体の作製 選択における貢献,・B仮説の実証のために必要となる実験系の設計・構築における貢献及び15 個別の実験の遂行過程における創作的関与の程度の観点から総合的に認定されるべきであって,論文の共同第一著者とされ,研究に等しく貢献した旨の記載があるとしても,そのことから,直ちに当該論文の共同第一著者を発明者であると推認することはできない。
(イ) また,原告は,Z教授が,原告の博士論文の審査に際して提出された20 資料において,「以上のところまでを,equal contribution として,分担担当した」などと記載しているのは,PNAS論文における実験に対する原告の寄与を証明したものであると主張するが,上記(ア)と同様の理由から,博士論文の審査の際の上記記載をもって,原告が本件発明の発明者であると推認することはできない。
25 ウ 大学院において学生が行う研究の自主性について原告は,一般的に,学生は,大学院の研究室において,研究者として自123立し,専門業務に従事するために必要な能力を養うために自らの研究として実験を行っているのであり,原告についても,実験の着想,個々の実験の条件設定,材料・方法の選択,条件修正などを自ら主体的に行ったものであると主張する。
5 しかし,前記前提事実(6)のとおり,原告が在籍した当時,Z研における修士課程の学生は,いずれも非医系学部出身者であったと認められるところ,これらの学生が,修士過程の終了までに,免疫学の基礎知識を習得するとともに,基本的な実験方法や手技を身に付け,更には与えられたテーマに沿った一連の実験を実施して所期の成果を上げ,これを論文に記載し10 て発表するのは容易なことでなく,Z教授及びその他の教員の教育的な配慮に基づく日常的な指導や助言等があって初めて可能になるものであったと考えるのが自然である。
原告についても,Z研に入室した時点では免疫学分野の実験経験がほとんどなく,PD−1に関する先行研究についての知見も,実験に必要な技15 術・手技も習得していなかったものと認められるところ,原告が,Z研において,修士課程の終了までに,一連の本件実験を行い,博士号取得の根拠論文として引用可能なPNAS論文に掲載する実験データを揃えることができたのは,原告自身の研究姿勢や継続的な努力もさることながら,Z教授及びW助手による日常的な指導・助言によるところが大きかったも20 のと考えられ,そのことは,上記(4)で判示した個別の実験の経過からもうかがわれるところである。
エ Z研における指導体制等について原告は,Z研における学生に対する指導の実情に関し,Z教授は多数の学生を抱えていたこともあり,原告に対する指導時間は限られたものであ25 り,グループミーティングにおいても,その議論の過程においてZ教授やW助手から助言や意見を受けることはあっても,指示されたとおりに全て124の実験を行ったものではないと主張する。
(ア) 原告がZ研に入室した当時のZ研の研究・指導体制の実情は,前記前提事実(6)のとおりであるが,更に,Z研においては,週に一度のグループミーティングに加え,全学生が参加するラボミーティング(週1回)5 及びスタッフミーティング(月1回)が開催され,Z教授は,これらのミーティングを通じて,研究室に所属する学生の研究の進捗状況,研究に対する姿勢,日常生活上の問題の有無などを把握していたものと認められる(乙B3(5・6頁))。
(イ) 上記の各ミーティングのうち,グループミーティングは,各学生が,10 それぞれの研究課題について,目的,方法,結果及び今後の計画などについて配布メモに基づいて説明することから,Z教授は,このミーティングを通じて,その学生の研究の進捗状況,実験の目的や原理に関する知識・理解の程度,現在の課題や問題点,実験結果を示すデータなどを把握することが可能であったものと考えられる。(乙B14(9・1015 頁),乙B17(2〜6頁),証人W7〜9頁)(ウ) Z教授がグループミーティングの議論の中で,学生に対して,実験の目的,実験を行うに当たっての留意点,今後の方針や計画について必要な指示や助言を与えていたことは,原告の作成したグループミーティングのメモ(甲83)の中に,Z教授の指摘等を書き取ったと思われる手20 書きの書き込みが存在することからもうかがわれるところである。
(エ) 原告は,グループミーティングメモは学生が自ら考えた実験計画や結果を記載したもので,Z教授の指示を記載したものではないというが,当該メモは基本的には当該学生が自主的に記載するものであるとしても,その内容は,前回までのグループミーティングにおいてZ教授やW25 助手から受けた指示,助言,説明等を踏まえたものであり,基本的な方向性や方針はZ教授の意向に沿うものであったと考えるのが自然であ125る。
(オ) 原告は,グループミーティングにおけるZ教授の助言等は「指示」ではないと主張する。もとより,同ミーティングにおけるZ教授の発言には様々な性質のものが含まれていたものと考えられるが,Z研における5 研究はZ教授の責任と判断の下に行われていたことに照らすと,実験の手技や細部等についてはともかくとして,各学生が行う実験の種類・内容,その進め方,実験結果の評価方法,今後の実験計画など,研究の主要な部分についての同教授の指導・助言等は実質的には指示に近いものであり,Z研の他の教員及び学生も,同教授の指導・助言等に沿って研10 究を進めていたと認めるのが相当である(乙B14(9・10頁),乙B17(11頁)。
)(カ) 以上のとおり,原告が在籍した当時のZ研の学生指導の実情に照らすと,Z教授は,原告の実験の進捗状況等を把握しつつ,グループミーティングなどを通じて,必要な指示や助言を与え,原告もこれに沿って本15 件実験を進めていたということができる。
オ Z教授及びW助手の証言の信用性について(ア) 原告は,Z教授と被告Yの間は極めて緊密な師弟関係にあり,また,京都大学が被告小野薬品から利益を受けているであろうことを考えると,Z教授の証言の信用性は低いと主張する。
20 しかし,Z教授の証言内容・態度に照らしても,Z教授と被告Yの関係が同教授の証言に影響を与えたことはうかがわれず,同教授の所属する京都大学が被告小野薬品から利益を得ていると認めるに足りる証拠はない。
(イ) 原告は,原告とW助手間のメールの記載(甲68)や研究費獲得の実25 績などを根拠に,その証言の信用性は低いと主張する。
しかし,上記のメールのやりとりは,アメリカで提起された訴訟への126対応等に関するものであり,その中に,例えば「あの頃は,特許という概念も大学では軽んじられていて,…重要な人を省いたりとめちゃめちゃです。」という記載や,「京大の知財は,X君の業績を認めている」などの記載があるとしても,これらの抽象的な記載からW助手が原告を本5 件発明の発明者であると認めていたということはできない。
また,W助手が本件訴訟の帰趨について重大な利害関係を有していると認めるに足りる証拠はなく,他に,同助手の証言の信用性に疑念を抱かせるような事情は認められない。
(7) 小括10 以上のとおり,原告は,本件発明の共同発明者であるとは認められないので,原告の請求(本件発明の発明者であることの確認請求に係る部分を除く。)は,その余の争点について検討するまでもなく,いずれも理由がない。
5 結論以上によれば,本件訴えのうち,本件発明の発明者であることの確認請求に15 係る部分は不適法であるからこれを却下し,その余の原告請求については,いずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部裁判長裁判官20佐 藤 達 文裁判官25 ? 野 俊 太 郎127裁判官齊 藤 敦128(別紙)特 許 権 目 録特 許 番 号 特許第5885764号5 出 願 日 平成26年1月20日分割の表示 特願2012−197861の分割原 出 願 日 平成15年7月2日出 願 番 号 特願2014−7941優 先 日 平成14年7月3日10 優先権主張国 日本国登 録 日 平成28年2月19日発 明 者 Y,Z,A,F出 願 人 小野薬品工業株式会社,Y特 許 権 者 小野薬品工業株式会社,Y15 発明の名称 癌治療剤129(別紙)特 許 請 求 の 範 囲【請求項1】5 PD−1の免疫抑制シグナルを阻害する抗PD−L1抗体を有効成分として含む癌治療剤。
【請求項2】抗PD−L1抗体が,PD−1およびPD−L1の相互作用を阻害する請求項1記載の癌治療剤。
10 【請求項3】抗PD−L1抗体が,キメラ抗体,ヒト化抗体または完全ヒト型抗体である請求項1または2記載の癌治療剤。
【請求項4】癌が,癌腫,扁平上皮癌,腺癌,肉腫,白血病,神経腫,メラノーマ,リン15 パ腫および骨髄腫から選択されるいずれかの癌である請求項1〜3のいずれか1項記載の癌治療剤。
【請求項5】扁平上皮癌が,子宮頚管,瞼,結膜,膣,肺,口腔,皮膚,膀胱,舌,喉頭または食道の癌である請求項4記載の癌治療剤。
20 【請求項6】腺癌が,前立腺,小腸,子宮内膜,子宮頚管,大腸,肺,膵,食道,直腸,子宮,胃,乳房または卵巣の癌である請求項4記載の癌治療剤。
【請求項7】癌が,肺癌,大腸癌,食道癌,卵巣癌,メラノーマまたはリンパ腫である請25 求項1〜3のいずれか1項記載の癌治療剤。
【請求項8】130肺癌が,肺扁平上皮癌または肺腺癌である請求項7記載の癌治療剤。
【請求項9】癌が,PD−L1を発現する癌である請求項1〜3のいずれか1項記載の癌治療剤。
5 【請求項10】さらに,免疫賦活剤と組み合わせることを特徴とする請求項1記載の癌治療剤。
【請求項11】免疫賦活剤が,サイトカインまたは癌抗原である請求項10記載の癌治療10 剤。
【請求項12】サイトカインが,GM−CSF,M−CSF,G−CSF,インターフェロン−α,インターフェロン−β,インターフェロン−γ,IL−1,IL−2,IL−3またはIL−12である請求項11記載の癌治療剤。
15 【請求項13】癌抗原が,MAGE−1もしくはMAGE−3由来のHLA−A1またはHLA−A2拘束ペプチド,MART−1,gp100,HER2/neuペプチド,MUC−1ペプチドおよびNY−ESO−1から選択される一または二以上の癌抗原である請求項11記載の癌治療剤。
20 【請求項14】免疫賦活剤が,抗CTLA−4抗体である請求項10記載の癌治療剤。
【請求項15】さらに,化学療法剤と組み合わせることを特徴とする請求項1記載の癌治療剤。
25 【請求項16】化学療法剤が,アルキル化剤,ニトロソウレア剤,代謝拮抗剤,抗癌性抗生131物質,植物由来アルカロイド,トポイソメラーゼ阻害剤,ホルモン療法剤,ホルモン拮抗剤,アロマターゼ阻害剤,P糖蛋白阻害剤および白金錯体誘導体から選択される一または二以上の化学療法剤である請求項15記載の癌治療剤。
【請求項17】5 さらに,白血球減少症治療薬,血小板減少症治療薬,制吐剤または癌性疼痛治療薬から選択される一または二以上と組み合わせることを特徴とする請求項1記載の癌治療剤。
【請求項18】インビボにおいて癌細胞の増殖を抑制する作用を有する請求項1記載の癌治10 療剤。
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事実及び理由
全容
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