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関連審決 無効2018-800128
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
令和3ネ10007 特許権侵害差止請求控訴事件 判例 特許
令和2行ケ10144 審決取消請求事件 判例 特許
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事件 令和 1年 (行ケ) 10155号 審決取消請求事件

原告 エイワイファーマ株式会社
同訴訟代理人弁護士 川田篤井上義隆
被告株式会社大塚製薬工場
同訴 訟代 理人 弁護 士設樂隆一 塚原朋一 佐藤慧太
同訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹清水義憲 田村明照 今村玲英子 吉住和之
同訴訟復代理人弁護士 松阪絵里佳
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/08/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2018-800128号事件について令和元年10月7日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,特許法29条の2違反についての認定の誤りの有無である。
1 手続の経緯 被告は,平成14年1月16日(以下「本件出願日」という。,発明の名称を「含 )硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤」とする発明について,特許出願(特願2002-7821号)をし,平成20年8月15日,特許第4171216号として特許権の設定登録(請求項の数11)を受けた(以下,この特許を「本件特許」という。。
) 原告は,平成30年10月23日,本件特許の無効審判請求をし,被告は平成31年2月19日に本件特許の特許請求の範囲についての訂正請求(以下「本件訂正」という。)をした。
特許庁は,上記無効審判請求を無効2018-800128号事件として審理し,令和元年10月7日,本件訂正を認めた上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同月21日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨(甲28の1・2) 本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,請求項に係る発明を,それぞれの請求項の番号に応じて「本件発明1」などといい,併せて「本件発明」という。また,本件特許の明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。。
)【請求項1】 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され,他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属 元素収容容器が収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤であって, 前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり, 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており, 前記外袋内の酸素を取り除いた,輸液製剤。
【請求項2】 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され,他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤であって, 前記溶液は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり, 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されている,輸液製剤。
【請求項3】 微量金属元素収容容器が収納されている第1室と,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている第2室とが,連通可能な隔壁手段を介して隣接していることを特徴とする請求項1または2に記載の輸液製剤。
【請求項4】 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填され,他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されており,微量金属元素収容容器を収納している室に, 糖質輸液または/および電解質輸液が充填されていることを特徴とする輸液製剤であって, 前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり, 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており, 前記外袋内の酸素を取り除いた,輸液製剤。
【請求項5】 第1室または第2室に,ビタミン収容容器が収納されていることを特徴とする請求項3または4に記載の輸液製剤。
【請求項6】 微量金属元素収容容器またはビタミン収容容器と,それを収納している室とが,外部からの押圧によって連通可能であることを特徴とする請求項1〜5に記載の輸液製剤。
【請求項7】 第1室または第2室に充填されている溶液が,さらにビタミンを含有していることを特徴とする請求項3〜5に記載の輸液製剤。
【請求項8】 複数の全ての室および収容容器を,外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成が,ブドウ糖50〜400g/L,L-ロイシン0.8〜10.0g/L,L-イソロイシン0〜7.0g/L,L-バリン0.3〜8.0g/L,L-リジン0.5〜7.0g/L,L-スレオニン0.3〜4.0g/L,L-トリプトファン0.08〜1.5g/L,L-メチオニン0.2〜4.0g/L,L-フェニルアラニン0.4〜6.0g/L,L-システイン0.03〜1.0g/L,L-チロシン0.02〜1.0g/L,L-アルギニン0.5〜7.0g/L,L-ヒスチジン0.3〜4.0g/L,L-アラニン0.4〜7.0g/L,L-プロリン0.2〜5.0g/L,L-セリン0〜3.0g/L,グリシン 0.3〜6.0g/L,L-アスパラギン酸0〜2.0g/L,L-グルタミン酸0〜3.0g/L,ナトリウム20〜80mEq/L,カリウム10〜40mEq/L,マグネシウム2〜20mEq/L,カルシウム2〜20mEq/L,リン2〜20mmol/L,塩素20〜80mEq/L,鉄2〜200μmol/L,銅0.5〜40μmol/L,マンガン0〜10μmol/L,亜鉛2〜300μmol/L,ヨウ素0〜5μmol/Lであることを特徴とする請求項2に記載の輸液製剤。
【請求項9】 さらに,ビタミンB10.4〜30mg/L,ビタミンB20.5〜6.0mg/L,ビタミンB60.5〜8.0mg/L,ビタミンB120.5〜20μg/L,ニコチン酸類5〜80mg/L,パントテン酸類1.5〜35mg/L,葉酸50〜800μg/L,ビタミンC12〜200mg/L,ビタミンA400〜6500IU/L,ビタミンD0.5〜10μg/L,ビタミンE1.0〜20mg/L,ビタミンK0.2〜4mg/L,ビオチン5〜120μg/Lを含有することを特徴とする請求項8に記載の輸液製剤。
【請求項10】 複室輸液製剤の輸液容器において,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって, 前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり, 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており, 前記外袋内の酸素を取り除いた,保存安定化方法。
【請求項11】 複室輸液製剤の輸液容器において,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって, 前記溶液は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり, 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されている,保存安定化方法。
3 審決の理由の要点 (1) 原告が主張する無効理由 本件発明は,本件出願日前の他の特許出願であって,本件出願日後に出願公開されたものの願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面である甲1(特願2001-278664号)に記載された発明と同一であり,特許を受けることができないものであるから,本件特許は,特許法29条の2に違反してされたもので同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
(2) 甲1に記載された発明の認定 甲1には,輸液製剤に係る発明(以下「甲1輸液製剤発明」という。)として,以下のアのものが,輸液製剤の保存安定化方法に係る発明(以下「甲1輸液製剤の保存安定化方法発明」といい,甲1輸液製剤発明と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明を併せて「甲1発明」という。)として,以下のイのものが,それぞれ記載されている。
ア 甲1輸液製剤発明「複室容器が,複数の収容室を有する容器本体と,複数の区画室を有して収容室に収容された収容容器とからなり,収容室にはアミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され,別の収容室には糖或いは糖及び電解質含有液が収容され,該別の収容室に収容された複数の区画室には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なく とも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよく該複室容器の容器本体では,複数の収容室間が容器壁の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる仕切部により仕切られていて,上下両端を含む周囲が密封シール部により密封されており,上記糖含有液及びアミノ酸含有液には,鉄,銅,亜鉛,マンガン,ヨウ素などの微量元素が含有されている輸液製剤」 イ 甲1輸液製剤の保存安定化方法発明「複室容器が,複数の収容室を有する容器本体と,複数の区画室を有して収容室に収容された収容容器とからなり,収容室にはアミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され,別の収容室には糖或いは糖及び電解質含有液が収容され,該別の収容室に収容された複数の区画室には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよく該複室容器の容器本体では,複数の収容室間が容器壁の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる仕切部により仕切られていて,上下両端を含む周囲が密封シール部により密封されており,上記糖含有液及びアミノ酸含有液には,鉄,銅,亜鉛,マンガン,ヨウ素などの微量元素が含有されている輸液製剤の保存安定化方法」 (3) 本件発明1と甲1輸液製剤発明との対比及び判断 ア 対比(一致点)「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され,他の室に収容容器が収納されており,上記輸液容器には,鉄,マンガンおよび銅を含む群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された輸液製剤」に関するものである点。
(相違点1-1) 微量金属元素を含む液の収容場所及び収容容器について,本件発明1においては,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている室とは他の室に収納された微量金属元素収容容器に収容されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることが特定されているのに対して,甲1輸液製剤発明は,アミノ酸を含有する溶液が充填された収容室とは他の収容室に複数の区画室(収容容器)が収納されているものの,微量金属元素の収容場所は特定されておらず,複数の区画室(収容容器)の材質及び形態も不明である点。
(相違点1-2) 複数の室に存在させる成分に関して,本件発明1は,その一室に含まれる溶液がアセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり,他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して,甲1輸液製剤発明では,アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され,複数の区画室(収容容器)には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点。
(相違点1-3) 本件発明1では,輸液製剤は,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して,甲1輸液製剤発明では,そのような特定のない点。
イ 判断 (ア) 相違点1-1について 甲1には,鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液の収容場所及び収容容器の材質について記載されているとはいえず,本件出願日の技術常識を考慮しても,微量金属元素を含む液の収容場所が記載 されているに等しい事項であるとはいえない上,当該微量金属元素を含む液の収容容器が熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることも記載されているに等しい事項であるとはいえない。
また,本件発明1は,鉄,マンガン及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液の収容場所を,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液と隔離して別の空間に保存することを技術思想とするものであるのに対して,甲1輸液製剤発明は,異なるビタミンを適切なpHでそれぞれ保管するために別の空間で保存することを技術思想とするもので,両者の技術思想は異なっており,本件明細書の段落【0014】【0052】〜【0066】を踏まえると,相違点1-1 ,は,課題解決のための具体化手段の微差であって,新たな効果を奏するものではないとはいえない。
したがって,相違点1-1は,実質的な相違点である。
(イ) 相違点1-2について a 甲1の段落【0022】〜【0024】【0040】【0045】 , , ,【0047】及び【図1】からすると,甲1の区画室は,少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容するためのものであり,微量金属元素に限定して使用されるものではなく,甲1において,区画室とアミノ酸含有液との位置関係は特定されていない。
また,甲1には,アミノ酸含有液と微量金属元素溶液の位置関係を限定するような技術思想は開示されていない。
したがって,その一室に含まれる溶液がアミノ酸輸液であり,他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているという本件発明1の構成が,甲1に記載されているに等しい事項とはいえない。
b 甲1では,収容室5に収容するアミノ酸含有液としても,段落【0023】にL-システインが多くの選択肢の一例として挙げられているだけで,ア セチルシステインを含むアミノ酸輸液に関する記載は全くなく,本件出願日の技術常識を考慮しても記載されているに等しい事項とはいえない。
c 前記(ア)のとおり,本件発明1と甲1輸液製剤発明は,技術思想を異にしており,相違点1-2に係る本件発明1の構成が,課題解決のための具体化手段の微差であって,新たな効果を奏するものではないとはいえない。
d したがって,相違点1-2は,実質的な相違点である。
(ウ) 相違点1-3について 甲1には,本件発明1の特定事項である,輸液容器がガスバリヤー性外袋に収納されている点や外袋内の酸素を取り除いた点については直接の記載はなく, 【0 段落036】も,ビタミンの種類によっては,輸液容器の容器内壁面への吸着や区画室又は収容室のガス透過性を低下するための樹脂層又は非樹脂層の積層手段の採用に関して記載されているにすぎず,本件出願日の技術常識を考慮しても,甲1輸液製剤発明において,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されている点や,外袋内の酸素を取り除いた点が記載されているに等しい事項であるとはいえない。
また,前記(ア)のとおり,本件発明1と甲1輸液製剤発明は,技術思想を異にしており,相違点1-3に係る本件発明1の構成が,課題解決のための具体化手段の微差であって,新たな効果を奏するものではないとはいえない。
したがって,相違点1-3は,実質的な相違点である。
(エ) 小括 以上からすると,甲1輸液製剤発明は,本件発明1と同一ではない。
(4) 本件発明2と甲1輸液製剤発明との対比及び判断 ア 対比(一致点)「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され,他の室に収 容容器が収納されており,上記輸液容器には,銅を含む液が収容された輸液製剤」に関するものである点。
(相違点2-1) 銅を含む液の収容場所及び収容容器について,本件発明2においては,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている室とは他の室に収容された微量金属元素収容容器に収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることが特定されているのに対して,甲1輸液製剤発明は,アミノ酸を含有する溶液が充填された収容室とは他の収容室に複数の区画室が収納されているものの,銅の収容場所は特定されておらず,複数の区画室の材質及び形態も不明である点。
(相違点2-2) 複数の室に存在させる成分に関して,本件発明2は,その一室に含まれる溶液がシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり,他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して,甲1輸液製剤発明では,アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され,複数の区画室には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点。
(相違点2-3) 本件発明2は,輸液製剤が,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されているのに対して,甲1輸液製剤発明では,そのような特定のない点。
イ 判断 (ア) 相違点2-1及び相違点2-3について 前記(3)イ(ア)(ウ)で検討したのと同様に,相違点2-1及び相違点2-3は実質的な相違点である。
(イ) 相違点2-2について 前記(3)イ(イ)で検討したところに加えて,甲1には,収容室5に収容するアミノ酸含有液として,段落【0023】にL-システインが多くの選択肢の一例として挙げられているだけで,本件発明2にある「システイン・・・,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液」に関する記載はなく,本件出願日の技術常識を考慮しても記載されているに等しい事項とはいえないから,相違点2-2は実質的な相違点である。
(ウ) 小括 以上からすると,甲1輸液製剤発明は,本件発明2と同一ではない。
(5) 本件発明3と甲1輸液製剤発明との対比及び判断 ア 対比 本件発明3(本件発明3のうち,本件発明1を引用する発明を「本件発明3-1」といい,本件発明2を引用する発明を「本件発明3-2」という。)と甲1輸液製剤発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
(一致点)「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,第1室に収容容器が収納されており,第2室にアミノ酸を含有する溶液が充填され,第1室と第2室とが,連通可能な隔壁手段を介して隣接しており,上記輸液容器には,本件発明3-1との対比においては,鉄,マンガンおよび銅を含む群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素,本件発明3-2との対比においては銅を含む液が収容された輸液製剤」に関するものである点。
(相違点3-1) 微量金属元素を含む液の収容場所及び収容容器について,本件発明3においては,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている第2室と微量金属元素収容容器が収納されている第1室と特定されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることが特定されているのに対して,甲1輸液製剤発明は,アミノ酸を含有する溶液が充填さ れた収容室とは他の収容室に複数の区画室が収納されているものの,微量金属元素の収容場所は特定されておらず,複数の区画室の材質及び形態も不明である点。
(相違点3-2) 複数の室に存在させる成分に関して,本件発明3-1は,その一室である第2室に含まれる溶液がアセチルシステインを含むアミノ酸輸液,本件発明3-2は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり,他の室である第1室に,本件発明3-1は,鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素,本件発明3-2は,銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して,甲1輸液製剤発明では,アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され,複数の区画室には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点。
(相違点3-3) 本件発明3-1は,輸液製剤が,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外袋内の酸素を取り除いたものであり,本件発明3-2は,輸液製剤が,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されているのに対して,甲1輸液製剤発明では,そのような特定のない点。
イ 判断 前記(3)イ,(4)イで検討したのと同様に,相違点3-1〜相違点3-3は実質的な相違点であり,甲1輸液製剤発明は,本件発明3と同一ではない。
(6) 本件発明4と甲1輸液製剤発明との対比及び判断 ア 対比(一致点)「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され,他の室に糖 を含有する溶液が充填され,該他の室に収容容器が収納されており,上記輸液容器には,微量金属元素を含む液が収容された輸液製剤」である点。
(相違点4-1) 微量金属元素を含む液の収容場所について,本件発明4においては,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている室とは他の室に収容された微量金属元素収容容器に収納されていることが特定されているのに対して,甲1輸液製剤発明は,アミノ酸を含有する溶液が充填された収容室とは他の収容室に複数の区画室が収納されているものの,微量金属元素の収容場所は特定されていない点。
(相違点4-2) 複数の室に存在させる成分に関して,本件発明4は,その一室に含まれる溶液がアセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり,他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して,甲1輸液製剤発明では,アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され,複数の区画室には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点。
(相違点4-3) 本件発明4は,輸液製剤が,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して,甲1輸液製剤発明では,そのような特定のない点。
イ 判断 前記(3)イで検討したのと同様に,相違点4-1〜相違点4-3は実質的な相違点であり,甲1輸液製剤発明は,本件発明4と同一ではない。
(7) 本件発明5と甲1輸液製剤発明との対比及び判断 本件発明5と甲1輸液製剤発明との間には,前記(5),(6)の本件発明3,4と甲1輸液製剤発明との間の各相違点に対応する相違点5-1〜相違点5-3が存在し,前記(5),(6)で検討したとおり,それらは実質的な相違点であるから,甲1輸液製剤発明は,本件発明5と同一ではない。
(8) 本件発明6と甲1輸液製剤発明との対比及び判断 本件発明6と甲1輸液製剤発明との間には,本件発明1〜5と甲1輸液製剤発明との対比において認定した各相違点に対応する相違点6-1〜相違点6-3が存在することに加えて,以下の相違点6-4が存在するが,前記(3)〜(7)で検討したとおり,相違点6-1〜相違点6-3は,実質的な相違点であるから,甲1輸液製剤発明は,本件発明6と同一ではない。
(相違点6-4) 本件発明6は,微量金属元素収容容器またはビタミン収容容器と,それを収納している室とが,外部からの押圧によって連通可能であることを特定しているのに対して,甲1輸液製剤発明においては,別の収容室に収容された複数の区画室には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容されているものの,外部からの押圧によって連通可能であることを特定はしていない点。
(9) 本件発明7と甲1輸液製剤発明との対比及び判断 本件発明7と甲1輸液製剤発明との間には,前記(5)〜(7)の本件発明3〜5と甲1輸液製剤発明との間の各相違点に対応する相違点7-1〜相違点7-3が存在し,前記(5)〜(7)で検討したとおり,それらは実質的な相違点であるから,甲1輸液製剤発明は,本件発明7と同一ではない。
(10) 本件発明8と甲1輸液製剤発明との対比及び判断 ア 対比 本件発明8と甲1輸液製剤発明とを対比すると,本件発明2と甲1輸液製剤発明との対比において認定した相違点と同一の相違点8-1〜相違点8-3が存在することに加えて,以下の相違点8-4が存在する。
(相違点8-4) 本件発明8は,複数の全ての室および収容容器を,外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成が,ブドウ糖50〜400g/L,L-ロイシン0.8〜10.0g/L,L-イソロイシン0〜7.0g/L,L-バリン0.3〜8.0g/L,L-リジン0.5〜7.0g/L,L-スレオニン0.3〜4.0g/L,L-トリプトファン0.08〜1.5g/L,L-メチオニン0.2〜4.0g/L,L-フェニルアラニン0.4〜6.0g/L,L-システイン0.03〜1.0g/L,L-チロシン0.02〜1.0g/L,L-アルギニン0.5〜7.0g/L,L-ヒスチジン0.3〜4.0g/L,L-アラニン0.4〜7.0g/L,L-プロリン0.2〜5.0g/L,L-セリン0〜3.0g/L,グリシン0.3〜6.0g/L,L-アスパラギン酸0〜2.0g/L,L-グルタミン酸0〜3.0g/L,ナトリウム20〜80mEq/L,カリウム10〜40mEq/L,マグネシウム2〜20mEq/L,カルシウム2〜20mEq/L,リン2〜20mmol/L,塩素20〜80mEq/L,鉄2〜200μmol/L,銅0.5〜40μmol/L,マンガン0〜10μmol/L,亜鉛2〜300μmol/L,ヨウ素0〜5μmol/Lであることを特定しているのに対して,甲1輸液製剤発明においては,複室容器の複数の収容室と複数の区画室に対して,外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成を特定はしていない点。
イ 判断 相違点8-4に関して,甲1には, 【図1】に示された輸液容器を用いた実施例1について,糖含有液(段落【0056】,アミノ酸含有液(段落【0057】,ビ ) )タミン含有液(段落【0058】)の配合量の記載が存在し,実施形態の段落【00 25】に微量元素の含有量の記載が存在している。しかし,甲1輸液製剤発明は,甲1の【図5】及び【図6】の実施形態を前提とするものであるところ, 【図5】及び【図6】の収容室23及び収容室24並びに収容容器30に収容されている具体的成分組成の記載は甲1に存在せず,甲1にそれらが記載されているとはいえない。
また,前記(4)イで検討したところからすると,相違点8-1〜相違点8-3は,実質的な相違点である。
したがって,甲1輸液製剤発明は,本件発明8と同一ではない。
(11) 本件発明9と甲1輸液製剤発明との対比及び判断 ア 対比 本件発明9と甲1輸液製剤発明とを対比すると,本件発明2と甲1輸液製剤発明との対比において認定した相違点と同一の相違点9-1〜相違点9-3が存在することに加えて,以下の相違点9-4が存在する。
(相違点9-4) 本件発明9は,複数の全ての室および収容容器を,外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成が,ブドウ糖50〜400g/L,L-ロイシン0.8〜10.0g/L,L-イソロイシン0〜7.0g/L,L-バリン0.3〜8.0g/L,L-リジン0.5〜7.0g/L,L-スレオニン0.3〜4.0g/L,L-トリプトファン0.08〜1.5g/L,L-メチオニン0.2〜4.0g/L,L-フェニルアラニン0.4〜6.0g/L,L-システイン0.03〜1.0g/L,L-チロシン0.02〜1.0g/L,L-アルギニン0.5〜7.0g/L,L-ヒスチジン0.3〜4.0g/L,L-アラニン0.4〜7.0g/L,L-プロリン0.2〜5.0g/L,L-セリン0〜3.0g/L,グリシン0.3〜6.0g/L,L-アスパラギン酸0〜2.0g/L,L-グルタミン酸0〜3.0g/L,ナトリウム20〜80mEq/L,カリウム10〜40mEq/L,マグネシウム2〜20mEq/L,カルシウム2〜20mEq/L,リン2〜20mmol/L,塩素20〜80mEq/L,鉄2〜200μmol/ L,銅0.5〜40μmol/L,マンガン0〜10μmol/L,亜鉛2〜300μmol/L,ヨウ素0〜5μmol/L,であること,及びさらに,ビタミンB10.4〜30mg/L,ビタミンB20.5〜6.0mg/L,ビタミンB60.5〜8.0mg/L,ビタミンB120.5〜20μg/L,ニコチン酸類5〜80mg/L,パントテン酸類1.5〜35mg/L,葉酸50〜800μg/L,ビタミンC12〜200mg/L,ビタミンA400〜6500IU/L,ビタミンD0.5〜10μg/L,ビタミンE1.0〜20mg/L,ビタミンK0.2〜4mg/L,ビオチン5〜120μg/Lを含有することを特定しているのに対して,甲1輸液製剤発明においては,複室容器の複数の収容室と複数の区画室に対して,外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の成分組成を特定はしていない点。
イ 判断 前記(4)イ,(10)イで検討したところに加え,実施例としてひとまとまりの成分組成として記載された輸液製剤の成分組成のうち,ビタミンKという一成分に関してだけ別の濃度に変更した成分組成の輸液製剤に係る発明が甲1に記載されているとは認められないことからすると,相違点9-1〜相違点9-4は実質的な相違点であり,甲1輸液製剤発明は,本件発明9と同一ではない。
(12) 本件発明10と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明との対比及び判断 ア 対比(一致点)「複室輸液製剤の輸液容器において,アミノ酸を含有する溶液を収容している室と別室に収容容器を収納し,上記輸液容器には,鉄,マンガンおよび銅を含む群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された輸液製剤の保存安定化方法」に関するものである点。
(相違点10-1) 微量金属元素を含む液の収容場所及び材質について,本件発明10においては,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に収納された微量金属元素収容容器に収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることが特定されているのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は,アミノ酸を含有する溶液が収容された収容室とは別の収容室に複数の区画室(収容容器)が収納されているものの,微量金属元素の収容場所は特定されておらず,複数の区画室(収容容器)の材質も不明である点。
(相違点10-2) 複室に存在させる成分に関して,本件発明10は,その一室に含まれる溶液がアセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり,別室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では,アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され,複数の区画室(収容容器)には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点。
(相違点10-3) 本件発明10は,輸液製剤が,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では,そのような特定のない点。
イ 判断 相違点10-1〜相違点10-3は,本件発明1と甲1輸液製剤発明との間の相違点1-1〜相違点1-3と実質的に同じであり,前記(3)イで検討したところに照らすと,相違点10-1〜相違点10-3は実質的な相違点であり,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は,本件発明10と同一ではない。
(13) 本件発明11と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明との対比及び判断 ア 対比(一致点)「複室輸液製剤の輸液容器において,アミノ酸を含有する溶液を収容している室と別室に収容容器を収納し,上記輸液容器には,微量金属元素を含む液が収容された輸液製剤の保存安定化方法」に関するものである点。
(相違点11-1) 微量金属元素を含む液の収容場所及び材質について,本件発明11においては,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている室とは別室に収容された微量金属元素収容容器に収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることが特定されているのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は,アミノ酸を含有する溶液が収容された収容室とは別の収容室に複数の区画室(収容容器)が収納されているものの,微量金属元素の収容場所は特定されておらず,複数の区画室(収容容器)の材質も不明である点。
(相違点11-2) 複室に存在させる成分に関して,本件発明11は,その一室に含まれる溶液がシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり,別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では,アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され,複数の区画室(収容容器)には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点。
(相違点11-3) 本件発明11は,輸液製剤が,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されているのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では,そのような特定のない点。
イ 判断 相違点11-1〜相違点11-3は,本件発明2と甲1輸液製剤発明との間の相違点2-1〜相違点2-3と実質的に同じであり,前記(4)イで検討したところに照らすと,相違点11-1〜相違点11-3は実質的な相違点であり,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は,本件発明11と同一ではない。
原告主張の審決取消事由
1 甲1輸液製剤発明の構成について (1) 以下のとおり,甲1の段落【0053】〜【0055】並びに【図5】及び【図6】に記載された構造(以下「構造5」という。)の容器について,その区画室28に,鉄,銅,亜鉛,マンガンなどの微量金属元素を収容することが開示されている。
ア 甲1の【図1】に示された実施例(以下「構造1」という。)について述べている段落【0048】に微量元素などを「一部の区画室」に収容することが記載されている。構造5の容器については同旨の記載はないものの,それは繰り返しを避けるために詳細な説明が省略されているにすぎない。そのことは,基本となる構造1の実施形態と構造5の実施形態とにおいて,各「室」に収容する溶液の「概要」に関して同一の書き方がされつつ,基本となる構造1の実施形態に限り,「室」 各に収容する溶液の「具体的成分等」に関して詳細に記載されていることからも明らかである。したがって,構造5の容器の区画室28についても,構造1の容器の区画室と同様の微量元素を収容することが予定されているものと理解できる。
イ 甲1の段落【0025】には,微量元素が鉄,銅,亜鉛,マンガンであることなどが開示されているし,そこに記載された微量元素の各成分ごとの必要量は,証拠(甲3[財団法人日本医薬情報センター編「医療薬 日本医薬品集2001(第24版), 」 平成12年)に照らし,構造1の容器の区画室の容量と符合する。
そして,構造1の容器について述べた甲1の段落【0044】には,区画室とは,特定の輸液の収容を目的とした室ではなく,その用途はビタミンの収容に限られず,収容室に収容される糖やアミノ酸などの多量成分とを隔離して収容する微量成分のための室であることが明らかにされており,段落【0053】の記載からすると,構造5の区画室28も甲1の段落【0048】に挙げられているビタミンなどの微量元素を収容するという同じ機能を有するものと認められる。
ウ 区画室28に,鉄,銅,マンガンなどの微量金属元素を収容することは,本件発明1の発明特定事項のうち, 「課題を解決するための手段に係る発明特定事項」ではなく,「解決すべき課題に係る発明特定事項」にすぎない。
(2) 被告は,構造1の容器と構造5の容器とが異なる構成であると主張するが,甲1は,輸液の投与時に必要となる輸液成分を安定的に保存することを可能とするために,各輸液成分を各「室」に隔離して収容する発明を開示するものであるから,その投与時に必要となる混合後の輸液の具体的な成分は,構造1と構造5の容器において当然に同一とすることが予定されており,構造1の容器の区画室に収容される溶液と構造5の容器の区画室28に収容される溶液は同じものである。
また,被告の主張は,甲1に,微量元素の区画室28への収容に関する構成が記載されているに等しいかどうかを問題としているにもかかわらず,糖含有液に「微量元素」を含有させることができるとの甲1の段落【0025】の記載を理由として,原告の主張が誤りであるとするもので,その点でも失当である。
(3) 上記(1),(2)からすると,本件発明1に対応する甲1輸液製造発明の構成は,以下のとおりとなる。
1―a 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段(弱シール)で区画されている「収容室23」及び「収容室24」を有する輸液容器である。
1-b 「収容室23」に(含硫アミノ酸である)L-メチオニン及びL-システインを含有する溶液が充填されている。
1-c 糖又は糖及び電解質含有液が収容されている「収容室24」に,鉄,マンガン,銅,ヨウ素などの微量金属元素を含む液が収容された「区画室28」と,ビタミン(液又は粉末)が収容された「区画室28」とが,それぞれ,収納されている。
1-d 「収容容器30」を構成する「区画室28」は,外部からの押圧によって,これを収容している「収容室24」と連通可能である熱可塑性樹脂のフィルムからなる袋である。
1-e 輸液製剤である。
また,本件発明7,8又は9における本件発明1の付加的な構成に対応する甲1輸液製剤発明の構成は,以下のとおりとなる。
7-a 「収容室24」に充填されている「糖含有液」又は「収容室23」に充填されている「アミノ酸含有液」は,更にビタミンを含有することができる。
8-a 「収容室23」及び「収容室24」並びに「収容容器30」を構成する全ての「区画室28」を,外部からの押圧によって連通させて得られる薬液の混合物の成分組成が, ブドウ糖 約92g/L, L-ロイシン 約4.0〜4.1g/L, L-イソロイシン 約2.3g/L, L-バリン 約2.3g/L, L-リジン 約4.3g/L, L-スレオニン 約1.6〜1.7g/L, L-トリプトファン 約0.58g/L, L-メチオニン 約1.1g/L, L-フェニルアラニン 約2.0g/L, L-システイン 約0.29g/L, L-チロシン 約0.15g/L, L-アルギニン 約3.0g/L, L-ヒスチジン 約1.4g/L, L-アラニン 約2.3g/L, L-プロリン 約1.4g/L, L-セリン 約0.9g/L, グリシン 約1.7g/L, L-アスパラギン酸 約0.3g/L, L-グルタミン酸 約0.3g/L, ナトリウム 約47mEq/L, カリウム 約26mEq/L, マグネシウム 約10mEq/L, カルシウム 約4mEq/L, リン 約6mmol/L, 塩素 約41mEq/L, 鉄 約0〜81μmol/L, 銅 約0〜12μmol/L, マンガン 約0〜46μmol/L, 亜鉛 約16〜139μmol/L, ヨウ素 約0〜2μmol/L である。
9-a 「収容室23」及び「収容室24」並びに「収容容器30」を構成する全ての「区画室28」を,外部からの押圧によって連通させて得られる薬液の混合物 が, ビタミンB1 約4.5mg/L, ビタミンB2 約5.3mg/L, ビタミンB6 約5.6〜5.7mg/L, ビタミンB12 約5.8μg/L, ニコチン酸類 約46mg/L, パントテン酸類 約16.1〜16.2mg/L, 葉酸 約461〜463μg/L, ビタミンC 約115〜116mg/L, ビタミンA 約3778〜3795IU/L, ビタミンD 約5.8μg/L, ビタミンE 約11.5〜11.6mg/L, ビタミンK 約5.8mg/L, ビオチン 約70μg/Lを含有する。
2 取消事由1(本件発明1が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り) (1) 相違点1-1の認定の誤り ア 前記1のとおり,甲1には,構造5の容器の区画室28に鉄,銅,亜鉛,マンガンなどの微量金属元素を輸液の微量成分として収容することが開示されている。
審決は,@甲1の構造1の容器の構造が,本件発明1の輸液容器のような「バッグ・イン・バッグ」構造ではないこと,A甲1の区画室は,各ビタミンを相互に分離して最適なpHで保存するための「室」であり,微量元素を,含硫アミノ酸を含有する溶液を収容する室と別の室にさらに収容容器を設けて保存するための構成として記載されているわけではないこと,B甲1の段落【0048】の記載は,ビタ ミンを相互に異なる最適なpHで収容することを確保した前提において,残った空間を収容室3,5と同様に,他の成分の収容場所に利用してもよいことに言及したものでありいずれかの場所に微量元素を限定して収容することを意味していないこと,C構造5の容器からなる輸液製剤の区画室28に微量元素を収容することは,微量金属元素の不安定化防止という新たな技術的事項を導入するものであることを理由に,相違点1-1を認定するが,以下のとおり,上記@〜Cは,いずれも理由となるものではない。
(ア) 理由@について 理由@は,構造5の容器からなる輸液製剤の区画室28に微量金属元素を収容することが明記されていないという形式的な理由に基づいているにすぎない。
構造5の容器について記載が省略されているにすぎず,甲1に,構造5の容器の区画室28に鉄,銅,亜鉛,マンガンなどの微量金属元素を輸液の微量成分として収容することが開示されていると認められることは,前記1のとおりである。
(イ) 理由Aについて 甲1に開示されている構造1,構造5を含む五つの構造の輸液容器からなる輸液製剤の区画室は,前記1のとおり,「ビタミン」という特定の輸液の収容のみを目的とした「室」ではなく,それ以外の微量成分である「微量元素」などを多量成分から「隔離して収容」するための「室」でもあるから,理由Aに係る審決の認定は誤りである。
(ウ) 理由Bについて 甲1の段落【0003】や【0043】からすると,構造5の容器からなる輸液製剤では,ビタミンを収容する場所は区画室に限られるものではなく,他の収容室の適宜の室に収容することが予定されている。
これに対して,「微量元素」については,証拠(甲3)から分かるとおり,ビタミンのように安定的なpH領域の差異により区画室を分ける必要はなく,全てを単一の「区画室」に収容すれば足り,微量元素を区画室に収容することを妨げる事情 はないから,構造5の容器において,微量元素を区画室28に入れることができることについては,甲1の記載に接した当業者において,当然に認識し得ることである。
(エ) 理由Cについて 前記1のとおり,甲1には構造5も含めた全ての構造について,他の輸液成分と隔離するために,区画室にビタミン,微量元素などの微量成分を収容することが記載されている。
また,甲1には,構造5の容器からなる輸液製剤について,「糖或いは糖及び電解質輸液」を収容した収容室24に区画室28を収納する構成によって,バッグ・イン・バック構造とすることも記載されている。
したがって,甲1は,本件明細書に記載された「微量金属元素」の保存安定化を実現した構成を既に備えるものであるから,このような構成を甲1の記載から認定することにより,新たな技術的事項が導入されることはない。
イ 審決は,甲1では区画室の材質及び形態が不明であると認定しているが,甲1の段落【0053】,【0054】には,区画室28の構造として,@「熱溶着した弱シール」が形成されていること及びA押圧により,区画室28の内圧を増加させ,この弱シールを剥離させることにより,区画室28内の輸液を他の輸液と混合させることが記載されている。また,証拠(甲4[日本薬局方(第14改正),平成13年],甲8[泉雅満「栄養輸液用複室バッグキットの開発とその課題」ファームテックジャパン16巻1号,平成12年])及び甲1の段落【0055】などからすると,甲1では,区画室28の材質として,ガスを透過する熱可塑性樹脂であるポリエチレン,ポリプロピレン又はポリ塩化ビニルを用いることを当然に想定しているといえる。
以上からすると,甲1輸液製剤発明の区画室28の材質及び形態は,「熱可塑性樹脂フィルム製の袋」であることが甲1に記載されているに等しい事項である。そして,このことは,本件発明1の発明特定事項のうち,「課題を解決するための手 段に係る発明特定事項」ではなく,「解決すべき課題に係る発明特定事項」である。
ウ 以上からすると,審決が相違点1-1を認定したことは誤りである。
(2) 相違点1-2の認定の誤り ア 審決は,甲1輸液製剤発明における収容室23に収容するアミノ酸輸液の成分について,アセチルシステインは開示されていないとし,甲1輸液製剤発明と本件発明1との間において,相違点1-2が実質的な相違点として存在すると認定している。
しかし,甲1は,段落【0023】,【0057】にアミノ酸輸液として「システイン」(L-システイン)を含有することを記載している。
そして,証拠(甲5[特開昭59-16817号公報],甲6[特開平9-87177号公報],甲7[岡田正=井村賢治「小児外科とアミノ酸輸液」医薬ジャーナル26巻8号,平成2年] 甲9の5 , [P.SOCHA他「Hydrogen sulfide in parenteralamino-acid solutions」Clinical Nutrition Vol. 15 p 34-35,1996年],甲34[ドイツ連邦製薬産業連合会編「ROTE LISTE」,1994年)及び本件明細書の段落【0016】の「前記アミノ酸輸液としては,公知のものを用いてよい。例えば,アミノ酸輸液中に含有されるアミノ酸としては,必須アミノ酸,非必須アミノ酸および/またはこれらのアミノ酸の塩,エステルまたはN-アシル体」との記載からすると,輸液製剤の分野において,システインとシステインをアセチル化したN-アシル(誘導)体であるアセチルシステインは有効成分として実質的に等価なものとして周知であるから,甲1の段落【0023】にいう「一般的に輸液に使用される・・・非必須アミノ酸」には,アセチルシステインが含まれる。
また,アミノ酸輸液にアセチルシステインが含まれることは,本件発明1の発明特定事項のうち,「課題を解決するための手段に係る発明特定事項」ではなく,「解決すべき課題に係る発明特定事項」にすぎない。
以上からすると,甲1には,構造5の容器からなる輸液製剤のアミノ酸輸液にアセチルシステインを含有する構成が開示されているに等しいといえ,それを否定し て相違点1-2を認定した審決の認定は誤りである。
イ 被告は,アセチルシステインやシステインを含まない輸液製剤があると主張するが,システインを含まないアミノ酸輸液が存在していることは,原告が主張するアセチルシステインとシステインとの等価性を否定する理由にはならない。
糖・電解質輸液室及びアミノ酸輸液室を備えた2室バッグ構成の高カロリー輸液製剤は,消化器系の手術などの後に自ら摂食することができない患者向けであるから,アセチルシステイン又はシステインを含ませることが技術常識であり,2室バッグ構成の高カロリー輸液製剤以外のアミノ酸輸液製剤において,アセチルシステイン及びシステインのいずれも含まない輸液製剤があるというのみでは,そのような技術常識の存在は否定できない。被告の提出する乙1(特開平7-89856号公報)に記載されている発明は,アミノ酸輸液製剤において,システイン,システイン塩酸塩又はシステインの誘導体を含有しないことを技術的特徴とする発明であり,このような発明が出願されていることは,アミノ酸輸液において,システイン,システイン塩酸塩又はシステインの誘導体であるアセチルシステインを含むことが一般的であり,かつ,技術常識であることが裏付けられている。被告が提出する乙2(特開平7-61925号公報)についても同様のことがいえる。
(3) 相違点1-3の認定の誤り ア 甲1輸液製剤発明のように,プラスチック容器に収容したアミノ酸輸液を安定的に保存するためには,@輸液容器を「ガスバリヤー性外袋に収納」し,A「外袋内の酸素を取り除く」構成を備えるべきことは,以下のとおり,甲1の出願時における技術常識であって,甲1輸液製剤発明が上記構成@及び構成Aを備えることは,甲1に記載されているにも等しい事項である。
(ア) アミノ酸輸液が酸素の影響を受けやすく,それを踏まえて上記構成@及び構成Aを備えることは技術常識であり(甲3,8,甲13[高井誠「ワンバッグ製剤の開発とその評価」ファームテックジャパン16巻4号,平成12年]),現に同構成を採用した製品は,甲1の出願時までに複数存在した(甲10〜12) し,被告自身も平成9年の別件の無効審判事件で同構成が技術常識であると自認していた(甲9の1・2)。
(イ) 甲1の明細書の段落【0059】には,「上記のような糖及び電解質含有液,アミノ酸含有液,及びビタミンをそれぞれ収容室3,5及び区画室15a,15b,15cに収容し,それぞれ窒素ガス置換して密封」することにより作成した輸液容器を「窒素充填された常温の遮光室に収容」するとの記載があり,輸液容器に収容された各溶液が酸素により影響を受けない構成とすべきことが具体的に記載されている。この記載に接した当業者は,上記(ア)の技術常識を踏まえ,輸液製剤として製造し,保管し,販売し,搬送し,再び保管する際には,上記段落に記載された「窒素充填」された「遮光室」に収容する代わりに,上記構成@及び構成Aを採用すべきことを理解する。また,甲1の構造1及び構造5の容器からなる輸液製剤は,いずれも収容室に「アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容」されるのであり(段落【0023】,【0053】),これらの収容室の材質は,前記(1)のとおり,「熱可塑性樹脂フィルム」であり,酸素が透過し得るので,ガスバリヤー性の外袋に収納する必要がある。
イ また,本件発明1の相違点1-3に係る構成のうち,輸液容器を「ガスバリヤー性外袋」に収納した構成は,本件発明1の発明特定事項のうち,「解決すべき課題に係る発明特定事項」であり,「外袋内の酸素を取り除いた」とする構成は,本件発明1の課題とは無関係であるから,「解決すべき課題に係る発明特定事項」でも「課題を解決するための手段に係る発明特定事項」でもなく,「いずれとも無関係な発明特定事項」である。したがって,仮に,甲1輸液製剤発明の構成として,「ガスバリヤー性外袋」に収納し,「外袋内の酸素を取り除く」構成を認定することができず,相違点1-3が形式的には存在するとしても,この相違点に係る構成は,本件発明1の本質的部分とは関係のない「微差」にすぎず,甲1輸液製剤発明は本件発明1と実質的に同一であるというべきである。
ウ よって,審決が相違点1-3を認定したことは誤りである。
(4) 小括 以上のとおり,本件発明1と甲1輸液製剤発明との間に実質的な相違点はなく,同一であり,本件発明1に係る特許は特許法29条の2に違反する。これに反する判断をした審決は誤りである。
3 取消事由2(本件発明2が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り) (1) 相違点2-1の認定の誤り 相違点2-1は,相違点1-1とほぼ同一であり,その差異は,本件発明2の「銅を含む液」という構成が,本件発明1では「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液」という構成である点にすぎない。
前記2(1)のとおり,甲1輸液製剤発明の区画室28に収容される微量元素は,鉄,銅,亜鉛,マンガン,ヨウ素などであり,銅を含む液であることから,審決が相違点2-1を認定したことは誤りである。
(2) 相違点2-2の認定の誤り ア 以下のとおり,甲1の構造5の容器からなる輸液製剤の収容室23に収容されるアミノ酸輸液に「システイン」及び「亜硫酸塩」を含有することは甲1に記載されているに等しい事項である。
(ア) 前記2(2)のとおり,甲1の段落【0023】,【0057】には,甲1輸液製剤発明に「システイン」(L-システイン)を含有することが具体的に記載されている。
(イ) 甲1の段落【0033】には,輸液に配合することができる酸化防止剤として「亜硫酸水素ナトリウム」や「亜硫酸ナトリウム」が明記されているところ,前記2(3)のとおり,プラスチック容器に収容されたアミノ酸輸液が酸素の影響を受けやすいことは技術常識であるから,「アミノ酸輸液」に「亜硫酸水素ナトリウム」や「亜硫酸ナトリウム」などの酸化防止剤を配合することは,自明の構成にすぎない。
(ウ) したがって,甲1には,構造5の容器からなる輸液製剤のアミノ酸輸液に「システイン」及び「亜硫酸塩」を含有することが記載されているに等しい。
イ 審決は,@甲1の発明の詳細な説明の段落【0033】における「亜硫酸塩」に関する記載は,構造1の容器からなる輸液製剤であり,構造5の容器のものではないこと,A「アミゼットB」という「亜硫酸塩」を含有させていないアミノ酸輸液製剤も知られていたこと(甲22[アミゼットBの添付文書,2000年])から,甲1の構造5の容器からなる輸液製剤(甲1輸液製剤発明)のアミノ酸輸液に「亜硫酸塩」を含有する構成が開示されていないとする。
しかし,前記1のとおり,甲1は,構造5の容器の各室に収容される輸液等に関する記載を省略しているにすぎないから,上記@は誤りである。また,「アミゼットB」以外の「高カロリー輸液用総合アミノ酸製剤」には全て「亜硫酸塩」が配合されており,例外的に「亜硫酸塩」が配合されていない「アミゼットB」が僅か一例として存在していたにすぎないのであり,そこから甲1輸液製剤発明のアミノ酸輸液に亜硫酸塩を配合することを当業者が想定しているとはいえないとする上記Aもまた誤りである。
ウ アミノ酸輸液にシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体を含むことは,本件発明2の発明特定事項のうち,「課題を解決するための手段に係る発明特定事項」ではなく,「解決すべき課題に係る発明特定事項」にすぎないし,アミノ酸輸液に亜硫酸塩を含むことは,「解決すべき課題に係る発明特定事項」又は「課題を解決するための手段に係る発明特定事項」でもない,「いずれとも無関係な発明特定事項」である。
エ 以上からすると,審決が相違点2-2を認定したことは誤りである。
(3) 相違点2-3の認定の誤りについて 審決が本件発明2と甲1輸液製剤発明において相違すると認定した相違点2-3は,相違点1-3とほぼ同一であり,前記2(3)で検討したところに照らすと,審決が相違点2-3を認定したことは誤りである。
(4) 小括 以上のとおり,本件発明2と甲1輸液製剤発明との間に実質的な相違点はなく,同一であり,本件発明2に係る特許は特許法29条の2に違反する。これに反する判断をした審決は誤りである。
4 取消事由3(本件発明3が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り) 本件発明3は, 「微量金属元素収容容器が収納されている第1室と,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている第2室とが,連通可能な隔壁手段を介して隣接していることを特徴とする請求項1または2に記載の輸液製剤」である。
前記1のとおり,甲1輸液製剤発明は,微量元素を収容する区画室28が収納されている収容室24を有しているし,前記3(2)のとおり,少なくとも「システイン」(含硫アミノ酸)を含有するアミノ酸輸液が充填されている収容室23を有している。
また,甲1の構造5の容器において収容室24と収容室23とは,甲1の段落【0054】に, 「収容容器30」の「隔離部43[原告注:隔離部33の誤り]は,区画室28の壁材39を押圧することにより,剥離して解法できる強度に溶着されている。 と記載されていることから, 」 「連通可能な隔壁手段を介して隣接」している。
以上からすると,本件発明3は,甲1輸液製剤発明との関係において,本件発明1,2に関して審決が認定した相違点と異なる相違点を生じさせるものではない。
したがって,本件発明3と甲1輸液製剤発明との間に実質的な相違点はなく,同一であるから,本件発明3に係る特許は特許法29条の2に違反する。これに反する判断をした審決は誤りである。
5 取消事由4(本件発明4が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り) 本件発明4は,本件発明1の構成とほぼ同一であり,その差異は,甲1輸液製剤 発明との関係において,本件発明1とは異なる新たな相違点を形式的にも生じさせるものではない。
したがって,本件発明4と甲1輸液製剤発明とは同一であり,本件発明4に係る特許は特許法29条の2の規定に違反する。これに反する判断をした審決は誤りである。
6 取消事由5(本件発明5が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り) 本件発明5は,本件発明3,4との関係において更に構成を特定した発明であるが,この特定により,甲1輸液製剤発明との関係において,本件発明3,4と異なる新たな相違点を形式的にも生じさせるものではない。
したがって,本件発明3,4と同様,本件発明5と甲1輸液製剤発明とは同一であり,本件発明5に係る特許は特許法29条の2に違反する。これに反する判断をした審決は誤りである。
7 取消事由6(本件発明6が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り) 本件発明6は,本件発明1〜5との関係において更に構成を特定した発明であるところ,この特定により,甲1輸液製剤発明との関係において,本件発明1〜5とは異なる新たな相違点を形式的にも生じさせるものではない。
審決は,本件発明6と甲1輸液製剤発明との間における新たな相違点として,相違点6-4(甲1輸液製剤発明は区画室28を外部から押圧し,これを収納している収容室24と連通することの特定がないこと)を認定しているが,前記2(1)イのとおり,甲1は, 「ビタミン」又は「微量元素」を収容する区画室28の内圧を増加させ, 「弱シール」を剥離させることによって,区画室28内の輸液を他の輸液と混合させることを記載している(段落【0053】【0054】 , )から,審決が認定する相違点6-4は,相違点には当たらない。
したがって,本件発明1〜5と同様,本件発明6と甲1輸液製剤発明とは,同一 であり,本件発明6に係る特許は特許法29条の2に違反する。これに反する判断をした審決は誤りである。
8 取消事由7(本件発明7が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り) 本件発明7は,本件発明3〜5との関係において更に構成を特定した発明であるところ,この特定により,甲1輸液製剤発明との関係において,本件発明3〜5とは異なる新たな相違点を形式的にも生じさせるものではない。
したがって,本件発明3〜5と同様,本件発明7と甲1輸液製剤発明は同一であり,本件発明7に係る特許は特許法29条の2に違反する。これに反する判断をした審決は誤りである。
9 取消事由8(本件発明8が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り) (1) 本件発明8は,本件発明2との関係において,外部からの連通により得られる薬剤混合物のうち,「糖」,「アミノ酸」及び「微量金属元素」の各成分組成を更に特定した発明であるところ,本件発明8が引用している本件発明2と甲1輸液製剤発明との間に相違点がないことは,前記3のとおりである。
(2) 審決は,本件発明2から更に特定された構成を相違点8-4として認定している。
しかし,本件発明2との関係において更に特定された構成(「糖」,「アミノ酸」又は「微量金属元素」の各成分組成)については,前記1(1)のとおり,甲1の構造5の容器からなる輸液製剤の各「室」に収容される輸液などについては,単に詳細な記載が省略されているにすぎず,構造5の容器からなる輸液製剤についても,構造1の容器の場合と同様の輸液を収容することが当然の前提とされているから,構造1の容器の輸液における「糖」,「アミノ酸」,「微量金属元素」の各成分組成について,甲1の明細書の段落【0056】,【0057】に記載されているところが妥当する。
また,微量元素の含有量について,前記1(1)のとおり,甲1の段落【0025】においては,微量元素の成分ごとの必要量が記載されているところ,それぞれ最大値となるように各成分を含有させる場合であっても,代表的な「高カロリー輸液用微量元素製剤」であり,現に原告を製造,販売元とする「エレメンミック」(甲3)の2アンプル分(合計「4mL」)にすぎず,微量元素の容量により輸液の各成分組成の数値に実質的な差異を生じさせるものではない。
本件発明8の輸液製剤における各輸液の成分又は組成は,一般的な成分又は組成にすぎない。本件明細書においても,各輸液の成分又は組成に基づく効果について一切記載されていない。したがって,相違点8-4の輸液の成分又は組成は,技術常識を踏まえて,当業者が,適宜,導き出せる事項にすぎない。
さらに,相違点8-4は,本件発明8の発明特定事項のうち,「課題を解決するための手段に係る発明特定事項」でも「解決すべき課題に係る発明特定事項」でもない,「いずれとも無関係な発明特定事項」であるから,本件発明8の本質的分とは関係ない「微差」にすぎない。
よって,相違点8-4は,実質的な相違点ではない。
(3) 被告は,相違点8-4に関して,構造1の容器を連通させた後の銅及び鉄の濃度は0μmol/Lであると主張するが,甲1の段落【0048】には, ・ 「・ ・さらに,上記では区画室に全てビタミンが収容されているが,例えば一部の区画室にビタミン以外の成分が収容されていても問題はなく,例えば微量元素,グルタミン等の他の成分だけを1又は2以上の区画室に収容しておくことも可能である。 ・ ・ 」 ・と記載され,また,段落【0025】には,「微量元素」の成分は「鉄」「銅」などであることが記載されているから,甲1輸液製剤発明に係る輸液溶液の各室を連通させた後の鉄及び銅の濃度が0μmol/Lであることはあり得ない。
(4) 以上からすると,本件発明2と同様,本件発明8と甲1輸液製剤発明とは,同一であり,本件発明8に係る特許は特許法29条の2に違反する。これに反する判断をした審決は誤りである。
10 取消事由9(本件発明9が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り) (1) 本件発明9は,本件発明8との関係において,外部からの連通により得られる薬剤混合物のうち,「ビタミン」の各成分組成を更に特定した発明であり,本件発明9が引用している本件発明8と甲1輸液製剤発明との間に相違点がないことは,前記9において述べたとおりである。
(2) 審決は,本件発明8との関係において更に特定された構成と相違点8-4とを併せて相違点9-4として認定している。
しかし,相違点8-4に相当する相違点の認定が誤りであることは,前記9のとおりである。「ビタミンK」を含め,本件発明8又は9における薬剤混合物の各成分組成に格別の技術的意義はなく,通常の輸液における各成分組成を規定したものにすぎない。相違点9-4は,相違点8-4と同様,「微差」にすぎず,相違点9-4は,実質的な相違点を構成するものではない。
よって,本件発明8と同様,本件発明9と甲1輸液製剤発明とは,同一であり,本件発明9に係る特許は特許法29条の2に違反する。これに反する判断をした審決は誤りである。
11 取消事由 10 (本件発明10が甲1輸液製剤の保存安定化方法発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り) 本件発明10は,本件発明1の構成と概ね同一である。審決が認定する相違点10-1〜相違点10-3は,それぞれ相違点1-1〜相違点1-3と実質的に同一であるから,本件発明1と同様,本件発明10と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は同一の発明であり,本件発明10に係る特許は特許法29条の2に違反する。
これに反する判断をした審決は誤りである。
12 取消事由 11 (本件発明11が甲1輸液製剤の保存安定化方法発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り) 本件発明11は,本件発明2の構成と概ね同一である。審決が認定する相違点1 1-1〜相違点11-3は,それぞれ相違点2-1〜相違点2-3と実質的に同一であるから,本件発明2と同様,本件発明11と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は同一の発明であり,本件発明11に係る特許は特許法29条の2に違反する。
これに反する判断をした審決は誤りである。
被告の主張
1 甲1に記載された発明について 甲1には,輸液とこの輸液に配合するための複数のビタミンとの混合操作が容易であり,複数のビタミンを製造時及び保存時に安定に維持する(段落【0005】)ことを目的とする発明が記載されているのであって,以下のとおり,構造5の容器について,収容室24に,鉄,マンガン,銅,ヨウ素などの微量元素を含む液が収容された区画室28を収納すること及び収容室23に(含硫アミノ酸である)L-メチオニン及びL-システインを含有する溶液を充填することは,甲1に記載されているに等しい事項ではない。
(1) 構造1の容器は,収容室3,5とは隔離部により区画された複数の区画室を有するものである。これらの区画室は,収容室3,5の内部に収容されたものではなく,容器本体外部からの影響を直接受ける独立した構造を有する一方,収容室の収容物とは直接接することのない構造を有している。甲1の【図2】〜【図4】の容器も,配置の仕方は異なるものの,その他は構造1の容器本体と同様とされている(甲1の段落【0049】〜【0051】)。
これに対し,構造5の容器は,収容室24の内部に複数の区画室28を有する収容容器30を収容していて,区画室28が容器本体外部からの影響を直接受ける独立した構造ではなく,収容室の収容物と直接接触する構造を有するものであって,【図1】〜【図4】の実施形態における容器とは構造が異なり,容器本体外部あるいは収容室の収容物から直接受ける影響も当然異なるから,構造5の容器の区画室28に,構造1の実施形態における区画室と同様の成分を収容することが予定されているとはいえない。
(2) また,甲1には,構造1の容器が,例えば複数の微量元素を複数の区画室に収容するとともに輸液を収容した容器,更に複数の微量の調味料と多量の調味料や食品などを収容した食品用容器などの他の用途に使用可能である(段落【0044】)と記載されているが,構造5の容器は,あくまで複数のビタミンとの混合操作を容易とし,複数のビタミンを安定に維持する(段落【0005】【0055】)ため,「複数の区画室28には,少なくとも2種以上のビタミンが,・・・別々に収容されている」(段落【0053】)ものであり,段落【0044】でいう他の用途に使用するものではない。
(3) さらに,甲1には,構造1の変更例(段落【0045】〜【0048】)に関し,まず,収容室3に脂肪が収容されている例が記載され,使用できる脂肪,乳化剤,乳化助剤等が挙げられており(段落【0045】),さらに,糖含有液,アミノ酸含有液,脂肪乳剤,電解質含有液を一つの収容室に収容したり,収容室を3室以上設けたりできること(段落【0047】),一部の区画室にビタミン以外の成分,例えば微量元素,グルタミン等を収容しておくのが可能であること(段落【0048】)など様々な形態についての言及があるが,一部の区画室に微量元素を収容することは,構造1の実施形態の変更例として挙げられた多くの例の一つにすぎない上,甲1には,構造5を変更することについても全く記載がない。とりわけ,構造5は,易熱変質性のビタミンが収容された区画室28を有し,そのビタミンが加熱処理の影響を受けにくい(段落【0055】)というものであって,区画室28は,構造1の実施形態の区画室とは異なる技術的意義を有しているから,そのような区画室28の一部に易熱変質性のビタミンに代えて微量元素を入れた発明が,甲1に記載されているとはいえない。
しかも,甲1には,構造1の容器に関し,収容室3,5に収容された糖含有液及びアミノ酸含有液には,電解質の他に,微量元素を含有させることができる(段落【0025】)とあり,糖及び電解質含有液に実際に硫酸亜鉛を含有させた例が示されている(段落【0056】)。
(4) 原告の主張は,構造1の容器において,他の用途や変更例として挙げられた数多くの例の中から恣意的に都合のよいものを取り上げ,構造5の容器の実施形態を変更した発明を創作した上で,そのような発明が甲1に記載されているというものであり,失当である。
(5) 原告は,構造5の容器からなる輸液製剤の発明における区画室28が熱可塑性樹脂のフィルムからなる袋であると主張するが,甲1には,区画室の材質は一切記載されておらず,容器本体の材質について言及している甲4,8を参照しても,甲1に記載されている事項からは,区画室28の材質に関し,「熱可塑性樹脂フィルム」という概念を導き出すことはできない。
(6) 原告は,構造5の容器の収容室23及び収容室24並びに全ての区画室28を,外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物の各成分濃度について述べているが,甲1には,構造5における連通後の各成分濃度はどこにも記載されていない。
2 取消事由1(本件発明1が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り)について (1) 相違点1-1について 構造5の容器の区画室28に微量元素を収容することは予定されていない。前記1のとおり,構造5の容器の区画室28はあくまでビタミンという特定の輸液の収容を目的とした室であり,甲1に記載された発明はビタミンを製造時及び保存時に安定に維持する(甲1の段落【0005】)ことを目的とするものであるから,微量元素を構造5の区画室28に入れた発明が,甲1に記載されているということはできず,甲1の記載からは,当該実施形態において微量金属元素の保存安定化を実現した構成は導き出されない。
(2) 相違点1-2について 輸液製剤で使用されるアミノ酸含有液はアセチルシステインを含有しないものが大半であり(甲3,甲24[「静脈経腸栄養年鑑2000 製剤・器具一覧 第2巻」, 2000年]),甲1の出願時の技術常識を参照しても,構造5の容器における「アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液」が「アセチルシステイン」を含有する構成が,甲1に記載されているに等しいとはいえない。
(3) 相違点1-3について 以下のとおり,甲1の出願時の技術常識を参照しても,構造5が当然に「ガスバリヤー性外袋に収納されており」,さらに,その「外袋内の酸素を取り除いた」ものであるということは導き出されず,「ガスバリヤー性外袋に収納」すること(構成@),「外袋内の酸素を取り除く」こと(構成A)を採用することは,甲1に記載されているに等しい事項ではない。
ア 甲1には,輸液容器を作成した(段落【0059】)後に,当該輸液容器にガス透過性を考慮して,更に何らかの手段を講じて最終的に輸液製剤とすることはどこにも記載されておらず,むしろ,甲1によると,構造1の容器の区画室又は収容室のガス透過性を低下するために,ガス透過性の低い樹脂層を積層してもよい(段落【0036】)とされている。
そうすると,構造1の容器を,最終的に輸液製剤として保管等する際に構成@及びAを備えるようにすることは,原告が技術常識であるとする事項を参酌したとしても甲1の記載からは導き出すことはできない。
したがって,このことを前提とした,構造5の容器も構成@及びAを採用することが甲1に実質的に記載されているに等しいという原告の主張には理由がない。
イ 甲1の段落【0059】に記載されている「窒素充填された常温の遮光室に収容」という構成は,ビタミンの安定性を確認するための試験で「窒素充填された常温の遮光室に収容」することであって,それによる効果が,甲1に記載のない構成@及びAを備えた輸液製剤を製造し,保管し,販売し,搬送し,再び保管する際の効果と同一であるとはいえない。仮に,同一の効果を奏する構成が存在するとしても,甲1に全く記載がなく実質的にも異なるそのような構成に置き換えた発明が甲1に記載されているに等しいということはできない。
3 取消事由2(本件発明2が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り)について (1) 相違点2-1及び相違点2-2について ア 構造5の容器の区画室28及び収容室23の収容物として,「銅を含む液」と,「システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液」である「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」との組合せが甲1に記載されているに等しい事項であるとはいえない。
イ 甲1には,構造1(段落【0017】〜【0044】)の容器におけるアミノ酸含有液の成分に関し,アミノ酸として,種々のアミノ酸が列挙されるとともに,アミノ酸含有液で使用されるpH調整剤が例示され(段落【0023】),また,各種の電解質や微量元素を含有させることができ(段落【0024】,【0025】),他の薬剤,例えば,緩衝剤,着色防止剤,亜硫酸水素ナトリウム等の酸化防止剤などを配合できる(段落【0033】)などと記載されているが,システインや亜硫酸水素ナトリウム等は,アミノ酸含有液に配合できる多くの成分の一つにすぎない上,甲1には構造5の容器の収容室23に収容された「アミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液」の具体的な成分についての記載は一切されていない。
しかも,構造1においては,亜硫酸水素ナトリウムなどの酸化防止剤は糖含有液,ビタミン含有液,脂肪含有液に配合してもよい(段落【0033】,【0040】)のである。
また,輸液製剤で使用されるアミノ酸含有液にはシステインを含有しないものがあり(甲24,乙1),亜硫酸塩を必ず配合するという技術常識もなかった(甲22,甲23[特開平4-210629号公報],乙1,2)。
そうすると,構造5の容器からなる輸液製剤アミノ酸輸液がシステイン及び亜硫酸塩を含有することは甲1に記載されているに等しい事項であるということはできない。
(2) 相違点2-3について 前記2(3)の相違点1-3について検討したところと同様に,相違点2-3が実質的な相違点であるとした審決の認定が誤りであるということはできない。
4 取消事由3〜7,10及び11について 前記2,3のとおりであって,原告主張の取消事由3〜7,10,11はいずれも理由がない。
相違点4-1及び相違点4-2に関しても,甲1の段落【0053】の記載からは, 「熱可塑性樹脂フィルム製」の区画室28に「銅を含む液」が収容されることは導き出せないし,構造5の容器における区画室28及び収容室23の収容物として,「銅を含む液」と, 「アセチルシステインを含むアミノ酸輸液」である「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」との組合せが甲1に記載されているに等しい事項であるとはいえない。
5 取消事由8及び9について (1) 相違点8-1〜相違点8-3,相違点9-1〜相違点9-3については,前記3で主張したとおりである。
(2) 構造5の容器本体は,構造1における容器とは構造が異なり,容器本体外部あるいは収容室の収容物から受ける影響も同じではない。また,甲1の段落【0017】〜【0044】には,構造1の容器の輸液として様々なものが羅列されているにとどまるから,構造5の実施形態の輸液が構造1のそれと当然に同一であるとはいえない。さらに,甲1の【図1】の実施形態である実施例1の容器を連通させた後の銅及び鉄の濃度は0μmol/Lであり,本件発明8及び9の「0.5〜40μmol/L」及び「2〜200μmol/L」の範囲外である。
(3) 甲1に記載されている事項及び記載されているに等しい事項の認定に関し,本件発明8又は9における薬液混合物の各成分又は組成の技術的意義を持ち出すことは的外れであるし,甲1には,構造5の容器の連通後の鉄,銅,ビタミンKをはじめとする各成分濃度はどこにも記載されていないから,相違点9-4は実質的 な相違点となる。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件発明に係る特許請求の範囲は,第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲20)には,以下の記載がある。
発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,経時変化を受けることなく保存でき,使用時に細菌による汚染なく薬剤の配合を行うことができる複数の室を有する輸液容器に収容されている輸液製剤に関する。
【0002】【従来の技術】経口・経腸管栄養補給が不能または不十分な患者には,経静脈からの高カロリー輸液の投与が行われている。このときに使用される輸液製剤としては,糖製剤,アミノ酸製剤,電解質製剤,混合ビタミン製剤,脂肪乳剤などが市販されており,病態などに応じて用時に病院で適宜混合して使用されていた。
しかし,病院におけるこのような混注操作は煩雑なうえに,かかる混合操作時に細菌汚染の可能性が高く不衛生であるという問題がある。このため連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器が開発され病院で使用されるようになった。
【0003】一方,輸液中には,通常,微量金属元素(銅,鉄,亜鉛,マンガンなど)が含まれていないことから輸液の投与が長期になると,患者の唇がひび割れたり,造血機能が低下したりする,いわゆる微量金属元素欠乏症を発症する。微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の原因となる。このため 病院では,細菌汚染の問題をかかえながらも依然として輸液を投与する直前に微量金属元素が混合されているのが現状である。
【0004】本発明者らは,かかる現状に鑑み,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用い,用時に細菌汚染の可能性なく微量金属元素を混入することができ,かつ,保存安定性にも優れた輸液製剤の創製研究を開始した。 本発明者らは,システインまたはシスチンなどの含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液と微量金属元素とを隔離して保存することを試みた。しかしながら,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,該アミノ酸輸液と微量金属元素とは隔離してあるにもかかわらず,微量金属元素を含む溶液が不安定であるという問題が生じることを知見した。上記室と微量金属元素収容容器を構成する材料を種々変更して検討したが,通常入手し得る樹脂材料である限り,微量金属元素溶液を安定化することはできなかった。
【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明は,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを目的とする。
【0006】【課題を解決するための手段】本発明者らは,上記目的を達成すべく鋭意検討した結果,連通可能な隔壁手段で区画されている複室からなる輸液容器において,その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が収容され,微量金属元素収容容器は他の室に収容することにより,微量金属元素を含む溶液が安定であるという思いがけない知見を得た。
発明者らは,さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0007】すなわち,本発明は, (1) 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填され,他の室に微量金属元素収容容器が収納されていることを特徴とする輸液製剤,(2) 硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が,含硫アミノ酸または/および亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり,微量金属元素が銅であることを特徴とする前記(1)に記載の輸液製剤,(3) 微量金属元素収容容器が収納されている第1室と,硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填されている第2室とが,連通可能な隔壁手段を介して隣接していることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の輸液製剤,(4) 微量金属元素収容容器を収納している室に,糖質輸液または/および電解質輸液が充填されていることを特徴とする前記(1)〜(3)に記載の輸液製剤,に関する。
【0008】また,本発明は,(5) 第1室または第2室に,ビタミン収容容器が収納されていることを特徴とする前記(3)または(4)に記載の輸液製剤,(6) 微量金属元素収容容器またはビタミン収容容器と,それを収納している室とが,外部からの押圧によって連通可能であることを特徴とする前記(1)〜(5)に記載の輸液製剤,(7) 第1室または第2室に充填されている溶液が,さらにビタミンを含有していることを特徴とする前記(3)〜(5)に記載の輸液製剤,に関する。
【0009】また,本発明は,(8) 複数の全ての室および収容容器を,外部からの押圧によって連通させて得られる 薬液混合物の成分組成が,ブドウ糖50〜400g/L,L-ロイシン0.8 〜10.0 g/L,L-イソロイシン0〜7.0g/L,L-バリン0.3〜8.0g/L,L-リジン0.5〜7.0g/L,L-スレオニン0.3〜4.0g/L,L-トリプトファン 0.08〜1.5g/L,L-メチオニン0.2〜4.0g/L,L-フェニルアラニン 0.4〜6.0g/L,L-システイン0.03〜1.0g/L,L-チロシン0.02 〜1.0g/L,L-アルギニン0.5〜7.0g/L,L-ヒスチジン0.3〜4.0 g/L,L-アラニン0.4〜7.0g/L,L-プロリン0.2〜5.0g/L,L- セリン0〜3.0g/L,グリシン0.3〜6.0g/L,L-アスパラギン酸0〜2.0g/L,L-グルタミン酸0〜3.0g/L,ナトリウム20〜80mEq/L,カリウム10〜40mEq/L,マグネシウム2〜20mEq/L,カルシウム2〜20mE q/L,リン2〜20mmol/L,塩素20〜80mEq/L,鉄2〜200μmol /L,銅0.5〜40μmol/L,マンガン0〜10μmol/L,亜鉛2〜200μmol/L,ヨウ素0〜5μmol/Lであることを特徴とする前記(1) (7) 〜に記載の輸液製剤,に関する。
【0010】また,本発明は,(9) さらに,ビタミンB10.4〜30mg/L,ビタミンB20.5〜6.0mg /L,ビタミンB60.5〜8.0mg/L,ビタミンB120.5〜50μg/L,ニコチン酸類5〜80mg/L,パントテン酸類1.5〜35mg/L,葉酸50〜800 μg/L,ビタミンC12〜200mg/L,ビタミンA400〜6500IU/L,ビタミンD0.5〜10μg/L,ビタミンE1.0〜20mg/L,ビタミンK0.2〜 4mg/L,ビオチン5〜120μg/Lを含有することを特徴とする前記(8)に記載の輸液製剤,に関する。
【0011】 また,本発明は,(10) 複室輸液製剤において,含硫アミノ酸溶液を収容している室と別室に微量金属元素収容容器を収納することを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法,(11) 微量金属元素が,銅であることを特徴とする前記(10)に記載の輸液製剤の保存安定化方法,に関する。
【0012】【発明の実施の形態】本発明にかかる輸液製剤においては,連通可能な隔壁手段で区画されている複室からなる輸液容器を用いる。かかる輸液容器としては,特に限定されず,公知のものを用いてよい。具体的には,例えば,複数の室が弱シール部により区画され,輸液容器の一室を外部より押圧することにより当該室が隣接する他の室と連通する輸液容器が,好適な例として挙げられる。また,輸液容器を複数の室に区画する隔壁に破断可能な流路閉塞体が設けられている構造のものなども挙げられる。
【0013】上記輸液容器における各室の形成材料としては,貯蔵する薬剤の安定性上問題のない樹脂であればよく,比較的大容量の室を形成する部分は,柔軟な熱可塑性樹脂,例えば軟質ポリプロピレンやそのコポリマー,ポリエチレンおよび/またはそのコポリマー,酢酸ビニル,ポリビニルアルコール部分ケン化物,ポリプロピレンとポリエチレンもしくはポリブテンの混合物,エチレン-プロピレンコポリマーのようなオレフィン系樹脂もしくはポリオレフィン部分架橋物,スチレン系エラストマー,ポリエチレンテレフタラートなどのポリエステル類もしくは軟質塩化ビニル樹脂など,またはそれらの内適当な樹脂を混合した素材,またナイロンなど他の素材も含めて前記素材を多層に成型したシートなどが利用可能である。
【0014】本発明にかかる輸液製剤は,上述のような連通可能な隔壁手段で区画されている複 室からなる輸液容器において,その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填され,他の室に微量金属元素収容容器が収納されていることを特長とする。このようにすることにより,硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を有する輸液製剤において,微量金属元素,特に銅イオンを安定化することができる。
【0015】上記「硫黄原子を含む化合物(本発明において,含硫化合物ともいう。)」としては,特に限定されないが,システインまたはシスチンなどの含硫アミノ酸が挙げられる。また, かかる化合物としては,安定化剤として用いられている亜硫酸塩なども挙げられる。前記亜硫酸塩としては,例えば,亜硫酸水素ナトリウム,亜硫酸ナトリウム,ピロ亜硫酸ナトリウム,チオ亜硫酸ナトリウムまたはロンガリットなどが挙げられる。本発明の輸液製剤には,上記の含硫化合物が単独で含有されていてもよいし,2種以上の含硫化合物が含有されていてもよい。
上記含硫化合物の含有量は,特に限定されないが,含硫アミノ酸の場合,その含有量は約 0.1〜10g/Lであることが好ましく,亜硫酸塩の場合,その含有量は約0.02〜 0.5g/Lであることが好ましい。
【0016】上記「含硫化合物を含む溶液」としては,上記含硫化合物を含めば,特に限定されないが ,含硫アミノ酸または/および亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液が好適な例として挙げられる 。
前記アミノ酸輸液としては,公知のものを用いてよい。例えば,アミノ酸輸液中に含有されるアミノ酸としては,必須アミノ酸,非必須アミノ酸および/またはこれらのアミノ酸の塩,エステルまたはN-アシル体などが挙げられる。より具体的には,例えば,L-イソロイシン,L-ロイシン,L-リジン,L-メチオニン,L-フェニルアラニン,L-スレオニン,L-トリプトファン,L-バリン,L-アラニン,L-アルギニン,L-アスパラギン酸,L-システイン,L-グルタミン酸,L-ヒスチジン,L-プロリン,L-セリン,L-チロシンまたはL-グリシ ンなどのアミノ酸が挙げられる。また,これらアミノ酸はL-アルギニン塩酸塩,L-システイン塩酸塩,L-グルタミン酸塩酸塩,L-ヒスチジン塩酸塩,L-リジン塩酸塩等の無機酸塩や,L-リジン酢酸塩,L-リジンリンゴ酸塩等の有機酸塩,L-チロシンメチルエスエル,L-メチオノンメチルエスエル ,L-メチオニンエチルエステルなどのエステル体,N-アセチル-L-システイン,N-アセチル-L-トリプトファン,N-アセチル-L-プロリンなどのN-置換体,L-チロシル-L-チロシン,L-アラニル-L-チロシン,L-アルギニル-L-チロシン ,L-チロシル-L-アルギニンなどのジペプチド類の形態でも良い。
【0017】全ての溶液を混合した溶液中にアミノ酸は,以下の配合量(遊離形態で換算)で配合されていることが好ましい。
すなわち,L-ロイシン約0.8〜10.0g/L,好ましくは約2.0〜5.0g/L ,L-イソロイシン約0〜7.0g/L,好ましくは約1.0〜3.0g/L,L-バリン約0.3〜8.0g/L,好ましくは約1.0〜3.0g/L,L-リジン約0.5〜 7.0g/L,好ましくは約1.5〜4.5g/L,L-トレオニン約0.3〜4.0g /L,好ましくは約0.5〜2.0g/L,L-トリプトファン約0.08〜1.5g/ L,好ましくは約0.2〜1.0g/L,L-メチオニン約0.2〜4.0g/L,好ましくは約0.5〜1.5g/L,L-フェニルアラニン約0.4〜6.0g/L,好ましくは約1.0〜2.5g/L,【0018】L-システイン約0.03〜1.0g/L,好ましくは約0.15〜0.5g/L,L-チロシン約0.02〜1.0g/L,好ましくは約0.05〜0.20g/L,L-アルギニン約0.5〜7.0g/L,好ましくは約1.5〜3.5g/L,L-ヒスチジン約 0.3〜4.0g/L,好ましくは約0.5〜2.5g/L,L-アラニン約0.4〜7 .0g/L,好ましくは約1.0〜3.0g/L,L-プロリン約0.2〜5.0g/L ,好ましくは約0.5〜2.0g/L,L-セリン約 0〜3.0g/L,好ましくは約0 5〜1.5g/L,グリシン約0.3〜6.0g/L,好ましくは約0.5〜2.5g /L,L-アスパラギン酸約0〜2.0g/L,好ましくは約0.1〜1.0g/L,L-グルタミン酸約0〜3.0g/L,好ましくは約0.1〜1.0g/Lとなるように配合するのが好ましい。
【0019】上記アミノ酸輸液のpHは,通常のpH調整剤,例えば塩酸,酢酸,乳酸,リンゴ酸,クエン酸などの酸類や水酸化ナトリウムなどのアルカリを適宜用いて約2.5〜10,好ましくは約5〜8に調製するのが好ましい。
【0020】本発明の輸液製剤において,微量金属元素を含有する液(以下,「微量金属元素含有溶液 」ともいう)を収容する微量金属元素収容容器は,含硫化合物を含有する溶液を充填する室と異なる室に収納されている。微量金属元素収容容器の収納方法としては,例えば室内の液中に微量金属元素収容容器を浮遊させてもよいが,微量金属元素収容容器の周縁シール部の端を,収納する室の周縁に挟み込んでシールすることにより,吊着するのが好ましい。この場合,シールをしやすくするために,微量金属元素含有溶液が収納されている室の素材を,微量金属元素収容容器の最内層の素材と同一にするのが一般的である。 また,微量金属元素収容容器は,それを収納している室と連通可能であることが好ましい。そのための手段としては,公知手段を用いてよく,具体的には,上述したように,微量金属元素収容容器とそれを収納している室が弱シール部または肉厚が約100μm以下の 薄膜により区画され,微量金属元素収容容器を外部より押圧することにより当該容器がそれを収納している室と連通する構造となっていることが好ましい。また,微量金属元素収容容器は,それを収納している室との隔壁に破断可能な流路閉塞体を有していてもよい。
【0021】上記微量金属元素としては,例えば銅,鉄,マンガン,亜鉛などが挙げられる。微量金属元素収容容器内の微量金属元素は,微量金属元素もしくは微量金属元素を含 む化合物またはそれらを含有する溶液もしくは懸濁液などであってよい。また,所望によって,その他の成分が微量金属元素収容容器内に存在していても良い。微量金属元素収容容器内において,鉄はコロイドとして,また銅,マンガン,亜鉛は水に溶解させて,微量金属元素収容 容器に充填するのが好ましい。但し,マンガン,亜鉛は,アミノ酸含有溶液または糖含有 溶液と混合して用いることもできる。
【0022】微量金属元素含有溶液において,銅の供給源としては,例えば硫酸銅などが挙げられ,製剤中の全ての溶液を混合した溶液中に約0.5〜40μmol/L,好ましくは約1〜2 0μmol/Lとなるように配合するのが好ましい。
鉄の供給源としては,例えば塩化第二鉄,硫酸第二鉄などが挙げられ,製剤中の全ての溶液を混合した溶液中に約2〜200μmol/L,好ましくは約5〜100μmol/L となるように配合するのが好ましい。
マンガンの供給源としては,例えば塩化マンガン,硫酸マンガンなどが挙げられ,製剤中の全ての溶液を混合した溶液中に約0〜10μmol/L,好ましくは約0〜5μmol/Lとなるように配合するのが好ましい。
亜鉛の供給源としては,例えば塩化亜鉛,硫酸亜鉛などが挙げられ,製剤中の全ての溶液を混合した溶液中に約2〜300μmol/L,好ましくは約5〜150μmol/Lと なるように配合するのが好ましい。
【0024】上記「微量金属元素収容容器を収納している室」には,溶液が充填されていてもよいし, 充填されていなくてもよい。なかでも,前記室には,糖質輸液もしくは電解質輸液のいずれかまたはそれらの混合物が収納されていることが好ましい。
【0025】上記糖質輸液は,公知のものを用いてよい。かかる糖質輸液中に含有される糖としては,従来から各種輸液に慣用されるものでよく,例えばブドウ糖,フルクトースなどの単糖類 ,マルトースなどの二糖類が例示される。その中でもブドウ糖,フル クトース,マルトースなどの還元糖が好ましく,特に血糖管理などの点で,ブドウ糖が好ましい。これらの還元糖は2種以上を混合して用いてもよく,更にこれらの還元糖にソルビトール,キシリトール,グリセリンなどを加えた混合物を用いてもよい。
【0026】上記糖質輸液は,通常のpH調整剤,例えば塩酸,酢酸,乳酸,リンゴ酸,クエン酸などの酸類や水酸化ナトリウムなどのアルカリを適宜使用してpH約2〜6,好ましくは約3 .5〜5に調製されていることが好ましい。
また,本発明の輸液製剤において全ての溶液を混合した溶液中にこれらの糖は,約50〜400g/L,好ましくは約100〜200g/Lとなるように配合するのが好ましい。さらに,上記糖質輸液は,下記する電解質が,下記する濃度で含有されていても良い。
【0027】上記電解質輸液は,公知のものを用いてよい。かかる電解質輸液中に含有される電解質としては,例えば,ナトリウム,カリウム,マグネシウム,カルシウム,塩素,リンなど無機成分の水溶性塩,例えば塩化塩,硫酸塩,酢酸塩,グルコン酸塩,乳酸塩,グリセロリン酸塩などが挙げられる。
【0028】ナトリウムイオン供給源としては,例えば塩化ナトリウム,酢酸ナトリウム,クエン酸ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸水素二ナトリウム,硫酸ナトリウムまたは乳 酸ナトリウムなどが挙げられ,全ての溶液を混合した溶液中に約10〜160mEq/L ,好ましくは約20〜80mEq/L,さらに好ましくは約30〜60mEq/Lとなるように配合するのが好ましい。
カリウムイオン供給源としては,例えば塩化カリウム,酢酸カリウム,クエン酸カリウム,リン酸二水素カリウム,リン酸水素二カリウム,硫酸カリウムまたは乳酸カルシウムなどがあげられ,全ての溶液を混合した溶液中に約5〜80mEq/L, 好ましくは約10 〜40mEq/L,さらに好ましくは約15〜30mEq/Lとなるように配合するのが好ましい。
【0029】カルシウムイオン供給源としては,例えば塩化カルシウム,グルコン酸カルシウム,パトテン酸カルシウム,乳酸カルシウムまたは酢酸カルシウムなどが挙げられ,全ての溶液を混合した溶液中に約1〜40mEq/L,好ましくは約2〜20mEq/L,さらに好ましくは約2〜10mEq/Lとなるように配合するのが好ましい。
マグネシウムイオン供給源としては,例えば硫酸マグネシウム,塩化マグネシウムまたは 酢酸マグネシウムなどが挙げられ,全ての溶液を混合した溶液中に約1〜40mEq/L ,好ましくは約2〜20mEq/L,さらに好ましくは約2〜10mEq/Lとなるように配合するのが好ましい。
【0030】リン供給源としては,リン酸二水素ナトリウム,リン酸水素二ナトリウムまたはグリセロリン酸カリウムなどが挙げられ,全ての溶液を混合した溶液中に約1〜40mmol/L ,好ましくは約2〜20mmol/L,さらに好ましくは約3〜10mmol/Lとなるように配合するのが好ましい。
クロルイオン供給源としては,例えば塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムなどが挙げられ,全ての溶液を混合した溶液中に約10〜160m Eq/L,好ましくは約20〜80mEq/L,さらに好ましくは約30〜60mEq/ Lとなるように配合するのが好ましい。
【0031】 本発明に係る輸液製剤の好ましい態様として,微量金属元素収容容器が収納されている第1室と,硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が充填されている第2室とが,連通可能な隔壁手段を介して隣接している輸液製剤が挙げられる。
かかる輸液製剤の具体的態様を,図1を用いて説明する。図1は,本発明に係る輸液製剤を収納する輸液容器の平面図である。該輸液容器は,外袋2内に第1室(図 中の符号4)と第2室(図中の符号5)を有する。第1室と第2室は連通可能部3が形成されており, 第1室4または第2室5を押圧することにより,連通可能部3が剥離して薬剤が外気に触れることなく第1室4と第2室5が連通される。
【0032】また,微量金属元素収容容器6が,第1室4内に吊着されており,外側から押圧することにより破袋され,第1室4と連通する。より具体的には,微量金属元素収容容器6の周縁シール部の端を,第1室4の周縁に挟み込んでシールすることにより吊着されている。また,用時に室の外側から押圧して破袋できるように,微量金属元素収容容器は,易開封性シールで第1室4と区画されているか,または肉厚約100μm以下の薄膜からなることが好ましい。
【0033】本態様の輸液製剤では,図1に示す輸液容器の第1室4に,溶液が充填されていてもよいし,充填されていなくてもよい。なかでも,上述のように,前記第1室4には,糖質輸液または/および電解質輸液が充填されていることが好ましい。また,微量金属元素収容容器6には,上述したような微量金属元素の液が充填されている。
さらに,図1に示す輸液容器の第2室5には,上述したような含硫化合物を含有する溶液が充填されている。
【0035】本発明の輸液製剤を収納する輸液容器の各室は気体および液体を通さない性質の外袋2に収納されていることが好ましい。さらに,脱酸素剤9がガスバリヤー性外袋2に収納されているのが好ましい。このようにすることにより,本発明の輸液製剤の成分,特にアミノ酸などの酸化分解されやすい成分の酸化分解を抑えることができるという利点がある。脱酸素剤9を封入する代わりに,または脱酸素剤9を封入するとともに,所望により外袋2内に不活性ガスを充填してもよい。さらに,光分解性ビタミンなどの光安定性に乏しい成分を充填する場合には,外袋に遮光性をもたせるのが好ましい。
【0036】上記外袋に適した材質としては,一般に汎用されている各種材質のフィルムもしくはシートを使用することができる。例えばエチレン・ビニルアルコール共重合体,ポリ塩化ビニリデン,ポリアクリロニトリル,ポリビニルアルコール,ポリアミド,ポリエステルなどガスバリヤー素材のうち少なくとも1種を含むフィルムもしくはシートなどから適宜に選択し,使用することができる。また,上記外袋に遮光性をもたせる場合には,例えば上記フィルムまたはシートにアルミラミネートを施すことにより実施できる。
【0037】上記外袋内に封入する脱酸素剤としては,例えば,(1)炭化鉄,鉄カルボニル化合物,酸化鉄,鉄粉,水酸化鉄またはケイ素鉄をハロゲン化金属で被覆したもの,(2)水酸化アルカリ土類金属もしくは炭酸アルカリ土類金属,活性炭と水,結晶水を有する化合物の無水物,アルカリ性物質またはアルコール類化合物と亜ニチオン酸塩との混合物,(3) 第一鉄化合物,遷移金属の塩類,アルミニウムの塩類,アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属を含むアルカリ化合物,窒素を含むアルカリ化合物またはアンモニウム塩と亜硫酸アルカリ土類金属との混合物,(4)鉄もしくは亜鉛と硫酸ナトリウム・1水和物との混合物または該混合物とハロゲン化金属との混合物,(5)鉄,銅,スズ,亜鉛またはニッケル;硫酸ナトリウム・7水和物または10水和物;およびハロゲン化金属の混合物,(6)周期律表第4周期の遷移金属;スズもしくはアンチモン;および水との混合物または該混合物とハロゲン化金属との混合物,(7)アルカリ金属もしくはアンモニウムの亜硫酸塩,亜硫酸水素塩またはピロ亜硫酸塩;遷移金属の塩類またはアルミニウムの塩類;および水との混合物などを用いることができる。本発明においては,これら公知物の中から,所望により適宜に選択することができる。
【0038】また,脱酸素剤としては,市販のものを用いることができ,かかる市販の脱酸素剤 としては,例えばエージレス(三菱ガス化学社製),モデュラン(日本化薬社製)などが挙げられる。
上記脱酸素剤としては,粉末状のものであれば,適当な通気性の小袋にいれて用いるのが好ましく,錠剤化されているものであれば,包装せずにそのまま用いてもよい。
【0039】また,上記外袋内に不活性ガスを充填することで酸素を取り除いてもよく,そのような不活性ガスとしては,例えばヘリウムガス,窒素ガスなどが挙げられる。
【0040】本発明に係る輸液製剤は,さらにビタミンを含むことができる。第1室または第2室にビタミンを溶解してもよいし,さらに,第1室または第2室に,ビタミン収容容器を収納させることができる。かかるビタミン収容容器は,それを収納している室と,外部からの押圧によって連通可能であることが好ましい。その手段は,上述のような公知手段を用いてよい。
より具体的には,図2または図3に示す輸液容器に収納されている輸液製剤が挙げられる 。図2に示す輸液容器では,第1室4に,微量金属元素収容容器6とは別に,ビタミン収容容器(図中の符号7)が,上述した微量金属元素収容容器6の収納手段と全く同様にして収納されている。また,図3に示す輸液容器では,第2室5に,ビタミン収容容器(図中の符号7)が,上述した微量金属元素収容容器6の収納手段と全く同様にして収納されている。
【0041】上記ビタミン収容容器に充填されているビタミン溶液としては,公知のものであってよい。具体的には,上記ビタミン収容容器に脂溶性ビタミン溶液を充填する場合が挙げられる。前記脂溶性ビタミンとしては,例えばビタミンA,ビタミンDまたはビタミンEが挙げられ,所望によりビタミンKを配合することもできる。
ビタミンAとしては,例えばパルミチン酸エステル,酢酸エステルなどのエステル 形態が 挙げられる。ビタミンDとしては例えばビタミンD 1,ビタミンD2,ビタミンD3(コレカルシフェロール)およびそれらの活性型(ヒドロキシ誘導体)が挙げられる。ビタミンE(トコフェロール)としては,例えば酢酸エステル,コハク酸エステルなどのエステル形態が挙げられる。ビタミンK(フィトナジオン)としては,例えばフィトナジオン,メナテトレノン,メナジオンなどの誘導体が挙げられる。
【0042】これらの脂溶性ビタミンは,全ての溶液を混合した溶液中に,ビタミンAを約400〜6500IU/L,好ましくは約800〜4000IU/L,ビタミンD(コレカルシフェノールとして)を約0.5〜10μg/L,好ましくは約1.0〜6.0μg/L,ビタミンE(酢酸トコフェノールとして)を約1.0〜20mg/L,好ましくは約2.5〜12.0mg/L,ビタミンK(フィトナジオンとして)を約0.2〜4mg/L,好ましくは約0.5〜2.5mg/L,配合するのが好ましい。
【0043】上記ビタミン収容容器には,上記脂溶性ビタミン溶液とともに,または脂溶性ビタミン溶液の代わりに,水溶性ビタミンを充填してもよい。かかる水溶性ビタミンとしては,例えばビタミンB1,ビタミンB2,葉酸,ビオチン,ビタミンC,ビタミン12,パントテン酸類,ビタミンB6,ニコチン酸類またはビタミンHなどが挙げられる。
かかるビタミンは誘導体であってもよく,具体的にはビタミンB1としては例えば塩酸チアミン,プロスルチアミンまたはオクトチアミンなどが挙げられる。ビタミンB2としては,例えばリン酸エステル,そのナトリウム塩,フラビンモノヌクレオチドまたはフラビンアデニンジヌクレオチドなどが挙げられる。ビタミンCとしては例えばアスコルビン酸またはアスコルビン酸ナトリウムなどが挙げられる。パントテン酸類としては,遊離体に加え,カルシウム塩や還元体であるパンテノールの形 態などが挙げられる。ビタミンB6としては,例えば塩酸ピリドキシンなどの塩の形態などが挙げられる。ニコチン酸類としては,例えば,ニコチン酸またはニコチン酸アミドなどが挙げられる。ビタミンB12としては,例えばシアノコバラミンなどが挙げられる。
【0044】上記水溶性ビタミンは,全ての溶液を混合した溶液中に以下の配合割合で配合されるのが好ましい。ビタミンB1(塩酸チアミンとして)を約0.4〜30mg/L,好ましくは 約1.0〜5.0mg/L,ビタミンB2(リボフラビンとして)を約0.5〜6.0m g/L,好ましくは約0.8〜4.0mg/L,ビタミンB6(塩酸ピリドキシンとして)を約0.5〜8.0mg/L,好ましくは約1.0〜5.0mg/L,ビタミンB12 (シアノコバラミンとして)を約0.5〜50μg/L,好ましくは約1.0〜10μg/L,ニコチン酸類(ニコチン酸アミドとして)を約5〜80mg/L,好ましくは約8 〜50mg/L,パントテン酸類(パントテン酸として)を約1.5〜35mg/L,好ましくは約3.0〜20mg/L,葉酸を約50〜800μg/L,好ましくは約40〜120μg/L,ビタミンC(アスコルビン酸として)を約12〜200mg/L,好ましくは約20〜120mg/L,ビオチンを約5〜120μg/L,好ましくは約10〜 70μg/L,配合するのが好ましい。
【0045】上記水溶性ビタミンは,ビタミン収容容器に限定されず,図1〜3に示す輸液容器の第1室または第2室に含有されていても良い。
【0046】本発明の輸液製剤を患者に投与するに際して,外袋を破り,複数の室,すなわち,図1に示す輸液製剤においては,第1室,第2室および微量金属元素収容容器,図2または3に示す輸液製剤においては,第1室,第2室,微量金属元素収容容器およびビタミン収容容器を連通させることにより,各室の薬液を混合する。
本発明の輸液製剤においては,複数の全ての室および収容容器を外部からの押圧によって 連通させて得られる薬液混合物の成分組成が,下記の組成であることが好ましい。
【0047】すなわち,ブドウ糖約50〜400g/L,好ましくは約100〜200g/L,L-ロイシン約0.8〜10.0g/L,好ましくは約2.0〜5.0g/L,L-イソロイシン約0〜7.0g/L,好ましくは約1.0〜3.0g/L,L-バリン約0.3〜8. 0g/L,好ましくは約1.0〜3.0g/L,L-リジン約0.5〜7.0g/L,好ましくは約1.5〜4.5g/L,L-トレオニン約0.3〜4.0g/L,好ましくは約0.5〜2.0g/L,L-トリプトファン約0.08〜1.5g/L,好ましくは約 0.2〜1.0g/L,L-メチオニン約0.2〜4.0g/L,好ましくは約0.5〜 1.5g/L,L-フェニルアラニン約0.4〜6.0g/L,好ましくは約1.0〜2 .5g/L,【0048】L-システイン約0.03〜1.0g/L,好ましくは約0.15〜0.5g/L,L-チロシン約0.02〜1.0g/L,好ましくは約0.05〜0.20g/L,L-アルギニン約0.5〜7.0g/L,好ましくは約1.5〜3.5g/L,L-ヒスチジン約 0.3〜4.0g/L,好ましくは約0.5〜2.5g/L,L-アラニン約0.4〜7.0g/L,好ましくは約1.0〜3.0g/L,L-プロリン約0.2〜5.0g/L ,好ましくは約0.5〜2.0g/L,L-セリン約0〜3.0g/L,好ましくは約0 .5〜1.5g/L,グリシン約0.3〜6.0g/L,好ましくは約0.5〜2.5g /L,L-アスパラギン酸約0〜2.0g/L,好ましくは約0.1〜1.0g/L,L-グルタミン酸約0〜3.0g/L,好ましくは約0.1〜1.0g/Lである。
【0049】さらに,本発明の輸液製剤においては,電解質,微量金属元素として下記成分を含 んでいる。すなわち,ナトリウム約20〜80mEq/L,カリウム約10〜40mEq/L, マグネシウム約2〜20mEq/L,カルシウム約2〜20mEq/L,リン約2〜20 mmol/L,塩素約20〜80mEq/L,鉄約2〜200μmol/L,銅約0. 〜40μmol/L, 5 マンガン約0〜10μmol/L,亜鉛約2〜200μmol/L ,ヨウ素約0〜5μmol/Lである。
【0050】本発明にかかる輸液製剤は,さらに,下記成分を下記濃度で含有することが好ましい。
すなわち,ビタミンB1(塩酸チアミンとして)を約0.4〜30mg/L,好ましくは 約1.0〜5.0mg/L,ビタミンB2(リボフラビンとして)を約0.5〜6.0m g/L,好ましくは約0.8〜4.0mg/L,ビタミンB6(塩酸ピリドキシンとして )を約0.5〜8.0mg/L,好ましくは約1.0〜5.0mg/L,ビタミンB12(シアノコバラミンとして)を約0.5〜50μg/L,好ましくは約1.0〜10μg /L,ニコチン酸類(ニコチン酸アミドとして)を約5〜80mg/L,好ましくは約8 〜50mg/L,パントテン酸類を約1.5〜35mg/L,好ましくは約3.0〜20 mg/L,葉酸を約50〜800μg/L,好ましくは約40〜120μg/L,ビタミンC(アスコルビン酸として)を約12〜200mg/L,好ましくは約20〜120mg/L,ビタミンAを約400〜6500IU/L,好ましくは約800〜4000IU/L,ビタミンD(コレカルシフェノールとして)を約0.5〜10μg/L,好ましくは約1.0〜6.0μg/L,ビタミンE(酢酸トコフェノールとして)を約1.0〜2 0mg/L,好ましくは約2.5〜12.0mg/L,ビタミンK(フィトナジオンとして)を約0.2〜4.0mg/L,好ましくは約0.5〜2.5mg/L,ビオチンを約5〜120μg/L,好ましくは約10〜70μg/L,含有していることが好ましい。
【0051】 本発明にかかる輸液製剤において,複数の全ての室および収容容器を外部からの押圧によって連通させて得られる薬液混合物のpHは,約4〜7となるようにするのが好ましい。
【0052】【実施例】〔実施例1〕注射用蒸留水にブドウ糖および電解質溶液を溶解し,酢酸でpHを4.4とした後,ろ過して,表1に示した組成の溶液(A)を調製した。
また,各結晶アミノ酸および電解質を注射用蒸留水に溶解し,酢酸でpHを6.5とした後,ろ過し,表2に示した組成の溶液(B)を調製した。
これとは別に,コンドロイチン硫酸ナトリウムの注射用蒸留水溶液に,塩化第二鉄の注射用蒸留水溶液と水酸化ナトリウムの注射用蒸留水溶液を交互に添加しながら,所定量の塩化第二鉄を添加した。この溶液に所定量の硫酸銅,塩化マンガンを添加した後,pHを水酸化ナトリウムまたは塩酸で5.3に調整し,注射用蒸留水で液量を調整し,表3に示した組成の溶液(C)を調製した。なお,コンドロイチン硫酸ナトリウムは濃度5.0g/Lとなるように添加した。
厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した小袋に,溶液(C)2mLを充填し,溶着した。この小袋を微量金属元素収容容器(図1の符号6)としてポリエチレン製容器第1室(図1の符号4)に予め挟着した。該第1室4と第2室(図1の符号5)のそれぞれに,溶液(A)の600mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し,密封した後,常法に従い,108℃で20分間,高温蒸気滅菌を行い,輸液を得た。これを,脱酸素剤(三菱瓦斯化学社製,商品名エージレス)と共に,遮光性ナイロン多層袋で包装した。このようにして,図1に示した輸液容器に収納された本発明に係る輸液製剤を製造した。
【0053】〔実施例2〕 注射用蒸留水にブドウ糖および電解質水溶液を溶解し,酢酸でpHを4.4とし,糖電解質液を調製した。さらに,ビタミンB1(塩酸チアミン)・・・を注射用蒸留水に溶解し,これを上記の糖電解質液と混合後,ろ過して表1に示した組成の溶液(A)を調製した。
また,各結晶アミノ酸,ニコチン酸アミド,葉酸および電解質を注射用蒸留水に溶解し,酢酸でpHを6.0とした後,ろ過し,下記表に示した組成の溶液(B)を調製した。なお,溶液(B)には安定剤として亜硫酸水素ナトリウムを濃度200mg/Lとなるように添加した。
【0054】これとは別に,ビタミンA(パルミチン酸レチノール) ・・・を・・・可溶化した後,注射用蒸留水に溶解した。ビタミンB2(リン酸リボフラビンナトリウム)・・・を加え,水酸化ナトリウムでpH6とした後,ろ過して表4に示した組成の溶液(D)を調製した。
別に,実施例1と同様にして,表3に示した組成の溶液(C)を調整した。
【0055】厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した2つの小袋に,それぞれ溶液(C)2mLおよび溶液(D)2mLを充填し,溶着した。これらの小袋を図2に示される微量金属元素収容容器(図2中の符号6)およびビタミン収容容器(図2中の符号7)のように,ポリエチレン製容器第1室(図2中の符号4)に挟着した。
該第1室4および第2室(図2中の符号5)に,溶液(A)の600mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し,密封した後・・・高温蒸気滅菌を行い,輸液を得た。これを,脱酸素剤(三菱瓦斯化学社製,商品名エージレス)と共に,遮光性ナイロン多層袋で包装した。このようにして,図2に示した輸液容器に収納された本発明に係る輸液製剤を製造した。
【0056】〔実施例3〕 注射用蒸留水にブドウ糖および電解質水溶液を溶解し,酢酸でpHを4.4とし,糖電解質液を調製した。さらに,ビタミンB1(塩酸チアミン)・・・を注射用蒸留水に溶解し,これを上記の糖電解質液と混合後,ろ過して表1に示した組成の溶液(A)を調製した。
また,各結晶アミノ酸,ニコチン酸アミド,葉酸および電解質を注射用蒸留水に溶解し,酢酸でpHを6.0とした後,ろ過し,下記表に示した組成の溶液(B)を調製した。なお,溶液(B)には安定剤として亜硫酸水素ナトリウムを濃度50mg/Lとなるように添加した。
【0057】これとは別に,ビタミンD3・・・を・・・可溶化した後,注射用蒸留水に溶解し,更にビタミンC(アスコルビン酸)を加え,水酸化ナトリウムでpH6とした後,ろ過して表4に示した組成の溶液(D)を調製した。
別に,実施例1と同様にして,表3に示した組成の溶液(C)を調製した。
【0058】厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した2つの小袋に,それぞれ溶液(C)2mLおよび溶液(D)4mLを充填し,溶着した。これらの小袋を図2に示される微量金属元素収容容器(図2中の符号6)およびビタミン収容容器(図2中の符号7)のように,ポリエチレン製容器第1室(図2中の符号4)に挟着した。
該第1室4および第2室(図2中の符号5)に,溶液(A)の700mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し,密封した後・・・高温蒸気滅菌を行い,輸液を得た。これを,脱酸素剤(三菱瓦斯化学社製,商品名エージレス)と共に,遮光性ナイロン多層袋で包装した。このようにして,図2に示した輸液容器に収納された本発明に係る輸液製剤を製造した。
【0059】〔実施例4〕溶液(A)(B)(C)および(D)は,実施例3と全く同様にして調整した。
, , 厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した2つの小袋に,それぞれ溶液(C)2mLおよび溶液(D)2mLを充填し,溶着した。溶液(C)が入っている小袋を図3に示される微量金属元素収容容器(図3中の符号6)のように,ポリエチレン製容器第1室(図3中の符号4)に挟着した。また,溶液(D)が入っている小袋を図3に示されるビタミン収容容器(図3中の符号7)のように,ポリエチレン製容器第2室(図3中の符号5)に挟着した。該第1室4および第2室5に,溶液(A)の700mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し,密封した後・・・高温蒸気滅菌を行い,輸液を得た。これを,脱酸素剤(三菱瓦斯化学社製,商品名エージレス)と共に,遮光性ナイロン多層袋で包装した。
このようにして,図3に示した輸液容器に収納された本発明に係る輸液製剤を製造した。
【0060】〔比較例〕溶液(A),(B)および(C)を,その組成を下記表のように変更した以外は,実施例1と全く同様にして調整した。但し,溶液(B)には安定剤として亜硫酸水素ナトリウムを濃度50mg/Lとなるように添加した。
厚さ50μmのポリエチレンフィルムより成形した小袋に,溶液(C)2mLを充填し,溶着した。この小袋を微量金属元素収容容器(図4の符号6)としてポリエチレン製容器第2室(図4の符号4)に予め挟着した。該第1室4と第2室(図4の符号5)のそれぞれに,溶液(A)の600mLおよび溶液(B)の300mLをそれぞれ別個に窒素置換下で充填し,密封した後,・・・高温蒸気滅菌を行い,輸液を得た。これを,脱酸素剤(三菱瓦斯化学社製,商品名エージレス)と共に,遮光性ナイロン多層袋で包装した。このようにして,図4に示した輸液容器に収納された輸液製剤を製造した。
【0065】〔安定性試験〕 実施例1〜4および比較例で製造された輸液製剤を,60℃で2週間保存した。保存後の容器の外観を肉眼で観察したところ,比較例の輸液製剤においてのみ,微量金属元素収容容器に着色が見られた。
【表5】【0066】【発明の効果】本発明によれば,含硫化合物と微量金属元素を含有する輸液製剤において,微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌による汚染を全くは(判決注:「全く」の誤記と認める。)排除することができ,かつ,経時変化を受けることなく保存できる輸液製剤を提供することができる。
【図1】【図2】 【図3】【図4】 (2) 本件発明の概要 前記(1)によると,本件発明の概要は以下のとおりであると認められる。
ア 技術分野 本件発明は,経時変化を受けることなく保存でき,使用時に細菌による汚染なく薬剤の配合を行うことができる複数の室を有する輸液容器に収容されている輸液製剤に関するものである(段落【0001】)。
イ 従来の技術及び発明が解決しようとする課題 経口・経腸管栄養補給が不能又は不十分な患者に対しては,経静脈からの高カロリー輸液の投与が行なわれ,同投与に使用される輸液製剤は,病態などに応じて用時に病院で適宜混合して使用されていたが,病院における混注操作は煩雑な上に,混合操作時に細菌汚染の可能性が高く不衛生であるという問題があったため,連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器が開発され病院で使用されるようになった(段落【0002】)。
一方,輸液中には,通常,微量金属元素(銅,鉄,亜鉛,マンガンなど)が含まれていないことから輸液の投与が長期になると,患者の唇がひび割れたり,造血機能が低下したりする,いわゆる微量金属元素欠乏症を発症するが,微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の原因となるため,病院では,細菌汚染の問題がありながらも依然として輸液を投与する直前に微量金属元素が混合されているのが現状であった(段落【0003】)。
発明者らは,上記のような現状に鑑み,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用い,用時に細菌汚染の可能性なく微量金属元素を混入することができ,かつ,保存安定性にも優れた輸液製剤の創製研究を開始したが,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,該アミノ酸輸液と微量金属元素とは隔離してあるにもかかわらず,微量金属元素を含む溶液が不安定であるという問題が生じることを知見し,上記室と微量金属元素収容容器を構成する材料を種々変更して検討した が,通常入手し得る樹脂材料である限り,微量金属元素溶液を安定化することはできなかった(段落【0004】)。
本件発明は,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを目的とするものである(段落【0005】)。
-ウ 課題を解決するための手段 発明者らは,複室からなる輸液容器において,その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を収容し,微量金属元素収容容器は他の室に収納することにより,微量金属元素を含む溶液が安定であるという知見に基づき,「複数の室を有する輸液容器において,その一室に含硫アミノ酸及び亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する輸液が充填され,他の室に鉄,マンガン及び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されていること」などを特徴とする輸液製剤又はその保存安定化方法に関する発明である本件発明を完成した(【請求項1】〜【請求項11】,段落【0006】〜【0011】)。
エ 本件発明の効果 本件発明により含硫化合物と微量金属元素を含有する輸液製剤において,微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌による汚染を完全に排除することができ,かつ,微量金属元素を経時変化を受けることなく保存できる輸液製剤を提供することができる(段落【0014】,【0066】)。
2 取消事由1(本件発明1が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り)について (1) 甲1発明の認定 ア 甲1の記載事項【発明の詳細な説明】【0001】 【発明の属する技術分野】本発明はアミノ酸,糖,脂 肪,及び/または電解質を含有する輸液を収容した容器に係り,特に該輸液に配合するためのビタミンを長期間安定に収容することが可能な収容物入り医療用容器と,この医療容器に好適に使用できる複室容器に関する。
【0002】【従来の技術】アミノ酸,糖,脂肪,及び/または電解質を含有する輸液が多用されている。この輸液は,長期間患者に投与する場合,該輸液に対して微量のビタミンを混合して投与される。特に糖代謝などにより消費されるビタミンB1を混合することは,長期間の投与には不可欠である。ビタミンは不安定な物質であるため,製造時に輸液中に混合しておくと,滅菌工程中や保存期間中に熱,光,輸液中の他の成分の作用等により経時的に分解されることが知られている。そのため,従来は投与時に注射器等を用いて輸液容器中に混合していた。しかし,混合されるビタミンが極めて多種類であるとともに微量であり,しかも無菌性の維持が必須であるため,投与時の混合操作には手間がかかった。そのため,近年では,ビタミンの安定性を確保できる組合わせを選択することにより,製造時に予めビタミンを配合した輸液が種々提案されている。
【0003】しかしながら,このようなビタミン配合輸液では,2室或いは3室に分割して収容された輸液成分中に10種類以上のビタミンを収容しているため,配合されたビタミン全ての安定性を確保しにくいものであった。ビタミンは,特にビタミンを含有させた液の場合には,pHや共存物質等によって安定性が変化しやすく,そのため,多くのビタミンを配合した輸液では,ビタミン同士の相互作用,電解質や各種の添加剤等の他の成分とビタミンとの相互作用などを考慮して,できるだけ各ビタミンが安定に維持できるように,特定の組合せを選択していた。例えば特開平10-203959号では糖を含有する液中に,ビタミンB1,B12,A,D,E,Kを溶解して,pHを3.5〜4.5に調製し,アミノ酸を含有する液中にビタミンB2,C,葉酸を溶解して,pHを5.0〜7.0に調製している。ビタミ ンB6,ビオチン,ニコチン酸アミド及びパンテノールはどちらの液に溶解してもよいとしている。ここでは,多くの相互作用を考慮して安定化を図っている。ところが,このビタミン配合輸液を各ビタミンの単味製剤における安定pH域から検討すると,糖含有液に溶解されたビタミンEの単味製剤の安定pHは例えば5.0〜7.0程度,ビタミンKは例えば6.0〜8.0程度であり,液のpHは安定な範囲ではない。また,アミノ酸含有液に溶解された葉酸の単味製剤の安定pHは8.0〜 11.0程度であって,やはり液のpHは安定な範囲ではない。さらに,どちらの液に溶解してもよいとされているビタミンB6の安定pHは公定書(日本薬局方)等では3.0〜5.0とされているが,実際には3.0〜4.0程度であり,何れの液のpHも安定な範囲ではない。しかも,実際の容器では,糖含有液とアミノ酸含有液のpHが前記範囲内の特定の値となるため,該pH値が安定pHの範囲に含まれないビタミンがさらに増加するのである。従って,このような輸液では,共存物質とのバランスが崩れると,多数のビタミンを十分に安定に維持することが困難である。他にも多数のビタミン配合輸液は提案されているが,・・・同様である。
【0004】また,ビタミンを溶解して保存している従来の輸液では,多数のビタミンの安定性をできるだけ高めるために輸液のpHを,所定の値に調整している。このpHの調整は,輸液に酢酸やクエン酸等有機酸,無機酸などのpH調整剤を添加することにより行われる。しかしながら,この輸液は溶解されるビタミンの量に比べて著しく多く,ビタミンの量からみて著しく多量のpH調整剤を使用しているが,このようなpH調整剤は,投与される患者にとって不要な場合が多い。そのため,その結果,この輸液を投与することにより,生体に不要な成分を多量に投与してしまうという問題点があった。さらに,このようなことはpH調整剤に限られず,脂溶性ビタミンの可溶化剤,緩衝剤,酸化防止剤などの各種の薬剤量においても同様である。
【0005】 【発明が解決しようとする課題】本発明は上記従来の問題点を解決するべく,アミノ酸,糖,脂肪,及び/または電解質を含有する輸液とこの輸液に配合するための複数のビタミンとの混合操作が容易であり,該複数のビタミンを製造時及び保存時に安定に維持することができるとともに生体に必須の薬剤以外の不要成分をできるだけ少なくすることができ,製造が容易な収容物入り医療用容器及びそれに適した複室容器を提供することを目的とする。
【0006】【課題を解決するための手段】従来の医療用容器では,多量の輸液と多種類の微量のビタミンとを1つの容器に収容して使い勝手を良くするには,輸液中にビタミンを混合して安定化を図ることが必須の事項として考えられていたため,特定な組合せ及び割合においてだけ成立する安定な系を形成することのみが行われていた。しかしながら,輸液とビタミンとを同一液中に共存させることと,輸液の液性を生理的に許容される値に調整することとを両立させなければならないため,すべてのビタミンを十分に安定に収容することが困難となっていて,その上,生体に不要な成分の量を増加させてしまうという問題点が存在していたのである。そこで,本発明者らは,鋭意研究の結果,使い勝手を良くすることとビタミンを安定に収容することとが区別できる事項であるという新たな着想を得て,多量の輸液と多種類のビタミンとを1つの容器に収容するものの共存させないという本発明の容器,即ち,多種類の微量のビタミンと輸液とを別々の容器に収容して安定化を図るものではなく,また,多種類の微量のビタミンを輸液に溶解して使い勝手を良くするものでもない容器を完成するに至ったのである。
【0007】本発明の医療用容器は,アミノ酸,糖,脂 肪,及び電解質からなる群から選ばれる1種または2種以上を含有する輸液を収容室に収容した容器において,前記収容室と連通可能な仕切部を備えて該収容室と液密に区画され,かつ該収容室より小さい複数の区画室を有し,該複数の区画室に複数のビタミンを,少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容したことを特徴とす る。
【0008】このような本発明によれば,収容室と液密に区画され,かつ該収容室より小さい複数の区画室に,性質の異なる複数のビタミンを,少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容したので,複数の区画室に収容されたビタミンを輸液成分から隔離した状態で収容することができ,さらに,各区画室中のビタミンを他の区画室のビタミンと隔離した状態で収容することができる。そのため,各区画室に収容されたビタミンに最適な条件を該区画室毎に設定することができ,製造時及び保存時にビタミンを経時的に変化することを抑えることができる。また,複数の区画室が収容室と連通可能な仕切部を備えているので,複数の区画室にビタミンを隔離して収容していても,使用時には仕切部を連通させれば容易に各ビタミンを輸液と混合して使用することができ,この混合時に輸液やビタミンを外気に晒すことがない。しかも,収容室と液密に区画され, かつ該収容室より小さい複数の区画室にビタミンを収容したので,各ビタミンを任意の剤型で収容することができ,各区画室にビタミン含有液として収容する場合には,輸液の量とは別に任意の液量とすることができ,輸液にビタミンを混合するのに比べ,各区画室内のビタミンの濃度を高く設定することができる。一般的に溶液は溶質濃度が高い程加熱時に分解されにくいことが知られているが,このようにビタミン濃度を高くすれば,滅菌等の加熱時にビタミンの分解を抑えることができ,区画室に各ビタミンを収容した状態で加熱滅菌を行うことも可能となる。さらに,多くのビタミンは,ビタミンの安定性を確保するためのpH調整剤,脂溶性ビタミンを可溶化するための可溶化剤,緩衝剤,抗酸化剤などの安定化剤を添加することがあるが,このような配合剤は患者にとって不要な成分であることが多く,できるだけ少なくすることが好ましい。本発明の容器においてビタミンを溶解或いは分散して区画室に収容すれば,安定化剤を十分な濃度となるように添加したとしても,区画室内の液量が輸液に比べて少なく,輸液に添加するのに比べて 前記のような種々の安定化剤の使用量を大幅に少なくすることができる。また,容器壁に吸着されやすい性質のビタ ミンを区画室に収容する場合には,複数の区画室が 収容室より小さいので,区画室の内壁面の面積が収容室より少なく,収容室へ該ビタミンを収容する場合に比べ,容器壁へのビタミンの吸着量を少なくすることができる。
【0012】また,本発明の収容物入り医療用容器に特に適した複室容器は,密封された収容室を有する合成樹脂製の複室容器であって,剥離不能な強シールからなる複数の隔離部及び該隔離部から連続する剥離可能な弱シールからなる仕切部により,前記収容室と液密に区画され,かつ前記収容室より小さい複数の区画室を有し,複数の前記隔離部の少なくとも一部が一方側に配向するとともに,該一部の一方側に前記仕切部が配置されていることを特徴する。
【0013】このような本発明の複室容器では,剥離不能な強シールからなる複数の隔離部及び該隔離部から連続する剥離可能な弱シールからなる仕切部により収容室と液密に区画された複数の区画室を有し,該複数の区画室が収容室より小さいので,収容室の収容物より少量の複数の他の収容物をそれぞれ隔離した状態で収容することができ,収容室及び複数の区画室内へ収容する収容物の性状を異なる条件に容易に設定することが可能であり,混合しておくと変質し易い成分や安定な収容条件が異なる収容物を収容し易い。また,仕切部の弱シールを剥離させるだけで,各区画室と収容室を連通させることができ,異なる条件で収容されていた各収容物を容易に外気に晒すことなく混合することが可能である。そのため,前記のような輸液と多数の微量のビタミンのように,互いに異なる保存条件が要求されて使用時に混合される多数の収容物を収容する容器として好適に使用できる。・・・【0017】【発明の実施の形態】以下,本発明を図面の実施形態を用いて説明する。図1は,本発明の1実施形態の医療用容器としての複室容器を示し,(a)は正面図,(b)は上下方向断面図,(c)は横方向断面図である。図において1は合成樹脂を用いて可撓性を有するように形成された輸液容器の容器本体であり,連通可能な収容室仕切部13aにより液密に分割された収容室3,5が形成されている。また,下端 7には排出口9が設けられ,上端8には必要に応じて混注口10が設けられている。
この容器本体1には,容器の上下方向に形成された複数本の隔離部11a,11b,11c・・・とこの隔離部11a,11b,11c・・・と連続するように横方向に形成された連通可能な仕切部13b,13c,13d・・・とにより区画された区画室15a,15b,15c ・・・が設けられている。ここでは隔離部11a,11b,11c・・・は全て排出口9側に配向していて,仕切部13b,13c,13d・・・は隔離部11a,11b,11c・・・の排出口9側に配置されている。そして,各区画室15a,15b,15c・・・は隔離部11b,11c・・・を介して隣接して配置され,また,隔離部11aを介して区画室15aと収容室3とが横方向に隣接して配置されている。区画室15a,15b,15c・・・は収容室3,5より小さく,好ましくは1/10以下の容積である。また,区画室15a,1 5b,15c・・・は輸液容器1の上下方向の端部側, ここでは上端8側に配置され,全ての区画室15a,1 5b,15c・・・が他の区画室15a,15b,15 c・・・及び収容室3,5と液密に区画されている。なお図では,区画室15a,15b,15c・・・の数を簡略化して図示しているとともに幅を拡大して図示している。
【0018】連通可能な収容室仕切部13a及び仕切部13b,13c,13d・ ・ ・は,内壁面を当接させて 剥離可能に溶着して形成された弱シールからなり,輸液容器1の両側部17a,17b間を通して直線的に連続している。一方,隔離部11a,11b,11c・・・は,内壁面を当接させて十分に溶着することにより剥離不能に形成された強シールからなり,収容室仕切部13a及び仕切部13b,13c,13d・・・と連続して設けられている。なお,輸液容器1の上端8及び下端7は,剥離不能な強シール19,21により密封されていて,上端8の強シール19により区画室15a,15b,15c・・・の上端16a,16b,16c・・・ が密封されている。また,両側部17a,17bは表裏の壁面が連続しているが,必要により剥離不能な強シールを施していてもよい。
【0019】この実施形態ではこのように構成された容器本体1において,収容室3,5には,アミノ酸,糖,脂肪,及び電解質の1種または2種以上を含有する輸液が適宜収容されるが,ここでは収容室3にアミノ酸,或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され,収容室5には糖,或いは糖及び電解質含有液がそれぞれ収容されている。一方,複数の区画室15a,15b,15c・・・の一部には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように 別々に収容されていて,それぞれの区画室15a,15b,15c・・・内は互いに異なるpH等の条件,液性に設定され,それぞれ収容室3,5とは異なるpH等の条件,液性に設定されている。なお,ビタミンを収容する目的のために輸液の液性を調整する必要がなければ,この実施形態では他のビタミンの一部を収容室3,5に収容してもよい。ビタミンは区画室15a,15b,15 c・・・内に,粉体等の形態で収容してもよいが,混合を容易にするためにビタミンを水性のビタミン含有液として収容している。このビタミン含有液は,ビタミン A,D,E,K,等の脂溶性ビタミンの場合,界面活性剤等の可溶化剤を用いて水性媒体中に分散した分散液として,ビタミンB1,B2,B6,B12,C,ニコチン酸,パンテノール,ビオチン,葉酸等の水溶性ビタミンの場合,水溶液とすることができる。ここでは,複数のビタミンの内,他のビタミンと異なる性質を有する一種または二種以上を,個々に或いは複数組み合わせて分類して収容している。この分類では,複数のビタミンを全て個々に別々の収容室に収容することにより,全ビタミンを安定に維持することができるが,多数のビタミンを容器本体1に収容する場合には,多数の区画室15 a,15b,15c・・・が必要となるため製造に手間が掛かる。
そのため,多数のビタミンを分類する場合には,同一又は類似の性質を有するビタミン同士を組み合わせて分類することができる。このビタミンの性質としては,例えば脂溶性ビタミンと水溶性ビタミンの差,単味製剤における安定pH域の差,容器内壁面への吸着性の差,光若しくは空気に対する安定性の差,粉体と液体の差,各ビタミン同士或いは他の成分との相互作用の差等が挙げられる。これらの性質に よる分類は,それぞれ 単独で適用することが可能であるが,複数の性質による分類を合わせて適用することにより,より複数のビタミンを安定に維持することができる。
【0022】次に,この実施形態の輸液容器に収容された収容物を具体的に説明する。収容室3に収容する糖含有液としては,グルコース,フルクトース,マルトース等の還元糖,キシリトール,ソルビトール,グリセロー ル等の糖アルコールなどの一種又は二種以上を,水等の水性溶媒に溶解した液が挙げられる。・・・【0023】一方,収容室5に収容されるアミノ酸含有液としては,L-イソロイシン,L-ロイシン,L-バリン,L-メチオニン,L-フェニルアラニン,L-チロシン,L-トリプトファン,L-スレオニン,L-アルギニン,L-ヒスチジン,L-アラニン,L-プロリン,L-セリン,グリシン,L-リジン,L-アスパラギン酸,L-グルタミン酸,L-システイン,L-シスチン,L-オキシプロリンなど,一般に輸液に使用される必須アミノ酸及び/または非必須アミノ酸を適宜,水性媒体に溶解した液が挙げられる。このアミノ酸含有液のpHは,好ましくは5〜7,より好ましくは5.5〜 6.5の範囲とするのが好適である。pH調整剤としては,糖含有液に使用されている公知のものが使用でき,例えば,クエン酸,グルコン酸,乳酸,リンゴ酸,マレイン酸,マロン酸等の有機酸,無機酸,有機塩基,苛性 ソーダ等の無機塩基等を例示できる。このアミノ酸含有液中のアミノ酸の配合量は,特に限定されるものではないが,好ましくは前述の糖含有液と混合した状態で,1-15重量%となる範囲,より好ましくは3〜12重量%となる範囲に調製するのがよい。なお,収容室5には,アミノ酸含有液とともに複数のビタミンの一部が収容されている。
【0024】また,収室室(判決注:「収容室」の誤記と認める。)3,5には糖含有液またはアミノ酸含有液とともに,各種の電解質を含有させることができる。このような電解質としては,ナトリウム,カリウム,マグネシウム,カルシウム,塩素,リン,亜鉛等が挙げられ,これらを適宜選択して添加することができる。なお, 各電解質は,酸性の糖含有液及びアミノ含有液のいずれに添加することも可能であり,両者に添加してもよい。電解質のナトリウム供給源としては,水酸化ナトリウム,塩化ナトリウム,有機酸ナトリウム 塩,アミノ酸ナトリウム塩,リン酸一水素ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム等が挙げられ,カリウム供給源としては,水酸化カリウム,塩化カリウム,有機酸カリウム塩,アミノ酸カリウム塩,リン酸一水素カリウム,リン酸二水素カリウム等が挙げられ,マグネシウム供給源としては,塩化マグネシウム,硫酸マグネシウム,有機酸マグネシウム塩,アミノ酸マグネシウム塩等が挙げられ,カルシウム供給源としては,塩化カルシウム,グルコン酸カルシウム等が挙げられ,塩素供給源としては,塩酸,塩化ナトリウム,塩化カリウム,アミノ酸塩酸塩等が挙げられ,リンの供給源としては,リン酸,リン酸一水素ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸一水素カリウム,リン酸二水素カリウム等,亜鉛供給源としては硫酸亜鉛,塩化亜鉛,グルコン酸亜鉛,乳酸亜鉛,酢酸亜鉛等が挙げられる。このような電解質は,生体内の必要量を過剰とならないように加えることが好ましく,糖含有液及びアミノ酸含有液を混合した後,ナトリウムが0〜180mEq/L,カリウムが0〜135mEq/L,カルシウムが0〜50mEq/L,マグネシウムが0〜40mEq/L,クロルが0〜300m Eq/L,リンが0〜100mEq/L程度となるように添加することができる。
【0025】なお,この電解質中,カルシウムまたはマグネシウムと,リンとしてリン酸とを酸性以外の輸液中に配合する場合には,結晶を析出する恐れがあるため,別々の収容室に収容するのがよく,酸性でない糖含有液またはアミノ酸含有液の一方にカルシウムまたはマグネシウムを添加したときには,他方にリン酸化合物を添加するようにするのが好ましい。また,糖含有液及びアミノ酸含有液には,前記電解質の他に,鉄,銅,亜鉛,マンガン,ヨウ素などの微量元素を必要に応じて必要量,例えば,鉄を0〜70μmol,銅を0〜10μmol,亜鉛0〜120μmol,マンガン0〜40μmol,ヨウ素を0〜2μmol含有させることができる。これらの微量元素は,塩化物,硫酸塩,酢酸塩,グルコン酸塩,乳酸塩などの 水溶性塩を供給源とすることができる。このような電解質及び微量元素は,できるだけ製造工程中及び保存中の安定性が高くなるように配合する。
【0027】次に,区画室15a,15b,15c・・・に収容されるビタミン類について説明する。ビタミン類としては,前述のように,ビタミンA,ビタミンD,ビタミンE,ビタミンK,ビタミンB1,ビタミンB2,ビタミンB6,ビタミンB12,ビタミンC,ニコチン酸類,パントテン酸類,葉酸,ビオチンなどが挙げられる。 ・ ・・【0031】ここでは前記複数のビタミン類を,例えば2以上,好ましくは3〜9個,より好ましくは3〜5個の区画室15a,15b,15c・・・及び収容室3,5に少なくとも一部のビタミンが他のビタミンと互いに隔離されるように分類して収容する。この分類としては何ら限定されるものではないが,好ましくは水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンとを隔離して収容することが可能であり,ビタミンの単味製剤の安定pHの観点から,単味製剤における安定pH域が異なるビタミンをそれぞれ隔離して収容することが可能である。単味製剤における安定pH域が異なるビタミンをそれぞれ隔離して収容するとは,単味製剤における安定pH域が重なるもの同士をまとめて,異なる区画室15a,15b,15c・・・や収容室3,5に収容することをいう。
【0032】このような観点から組み合わせると,例えば,複数の区画室15a,15b,15c・・・のうち,一つの区画室15aに脂溶性ビタミンを収容し,残りの区画室15b,15c・・・内を収容室3,5と異なるpHに調整して水溶性ビタミンをそれぞれ安定pH域に応じた区画室15b,15c・・・に収容したり,或いはさらに水溶性ビタミンの内,ビタミンB1のように特に安定pH域が低いものを単独で別の区画室に収容したり,ビタミンCのように他ビタミンとの相互作用が多くて抗酸化剤を多く必要なものを単独で別の区画室に収容することができる。・・・【0033】なお,本発明の輸液容器には,糖含有液,アミノ酸含有液,ビタミン含有液,或いは脂肪含有液に,安定性を損なわない範囲で一般に輸液に添加されてい る他の薬剤を含有させることも可能である。このような他の添加剤としては,例えば,L-ヒスチジン,トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン等の緩衝剤,チオグリセロール,ジチオスレイトール等の着色防止剤,チオグリセロール,亜硫酸水素ナトリウム,亜硫酸ナトリウム等の酸化防止剤などを配合することができる。
【0034】本発明において,前記のような各収容物を収容する容器本体1は,前述の通り合成樹脂製の容器であるのが好ましい。この容器は少なくとも内層が医療用容器として安全性が認められる樹脂層を有するものであればよく,外層に非樹脂層を有するものであってもよい。また,容器は硬質容器であってもよいが,仕切部が易剥離性の弱シールである場合は軟質容器であるのが好ましい。この実施形態の輸液容器の内層に使用される医療用容器の樹脂は,内容物の薬剤に影響を与えず,溶出物が生じない樹脂であり,例えばポリオレフィン系樹脂,ポリエステル樹脂,ポリアクリロニトリル系樹脂, ポリアクリル系樹脂,ポリアミド系樹脂,塩化ビニル,塩化ビニリデン系樹脂,ポリビニルアルコール系樹脂,エチレン-酢酸ビニル共重合体,エチレン-アクリル共重合体,アイオノマー等の樹脂が挙げられ,特にポリオレフィン系樹脂が好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては,低密度ポリエチレン,直鎖状低密度ポリエチレ ン,中密度ポリエチレン,高密度ポリエチレン,ポリプロピレン等の低級オレフィン樹脂,環状ポリオレフィン系樹脂,エチレン-酢酸ビニル共重合体,エチレン-アクリル共重合体,アイオノマー,或いはこれらの混合物などが挙げられる。
【0035】また,収容室仕切部13a及び仕切部13b,13c,13d・・・が易剥離性を有する弱シールである場合には,内層に使用する樹脂として,内層同士を低温で不完全に溶着することにより弱シールを形成できるとともに,高温で完全に溶着することにより強シールが形成できる樹脂を選択するのが好ましく,例えば低級オレフィン樹脂を選択することができ,特に直鎖状低密度ポリエチレンとポリプロピレンとの混合物からなる樹脂が好適である。・・・【0036】なお,ビタミンD等の脂溶性ビタミンを区画室15a,15b,15c, 15d・・・に収容する場合には,容器内壁面への吸着をより防止するために, 該区画室の最内層の樹脂として,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリアクリロニトリル,環状ポリオレフィン,ナイロン等を使用することもできる。この場合,他の区画室15a,15b,15c,15d・・・及び/または収容室3,5の最内層がこのような吸着性の低い樹脂により形成されていない場合には,例えばこのような樹脂からなり,剥離等により開口可能なシール部分を有する独立した容器にビタミンD等の脂溶性ビタミンを収容し,この独立した容器を区画室内に収容するようにしてもよい。また,空気により変化するおそれのあるビタミンD,A,Eを区画室15a,15b,15c,15d・・・或いは収容室3,5に収容する場合には,該区画室又は収容室のガス透過性を低下するために,ガス透過性の低い樹脂層を積層してもよく,樹脂層の表面,裏面,両面,或いは中間層に金属,無機物等からなる非樹脂層を積層してもよい。ガス透過性の低い樹脂としては,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリビニルアルコール,エチレンビニルアルコール,ポリ塩化ビニリデン, ポリ塩化ビニリデンクロライド,ナイロン等のポリアミド,セロファン等の樹脂が挙げられる。また,ガス透過性の低い非樹脂層としては,例えばアルミ等の金属薄層,アルミナ蒸着層,シリカ蒸着層などのセラミック蒸着層などが挙げられる。
【0037】・・・空気または/及び光により変化しやすいビタミンをそれぞれ区画室15a,15b,15c,15d・・・に収容すると,該区画室だけを空気または/及び光から保護すればよく,前記のような材料の使用量も少なくできる。
【0039】以上のようにして製造されたこの実施形態の輸液容器を使用するには,まず,収容室5を容器の外壁から押圧することにより,収容室仕切部13a及び仕切部13b,13c・・・の弱シールを剥離させて収容室5と収容室3との間,及び収容室5と各区画室15a,15b,15c,15d・・・との間を連通させる。
この場合,収容室仕切部13a及び仕切部13b,13c・・・の全てが弱シールなので,一度に全てを連通させることができる。そして内容液を各収容室3,5及 び区画室15a,15b,15c,15d・・・を流動させることにより,糖若しくは糖及び電解質含有液と,アミノ酸若しくはアミノ酸及び電解質含有液と,ビタミンと,さらに必要により脂肪乳剤等とを無菌的に混合する。・・・【0040】以上のような輸液容器によれば,複数の区画室15a,15b,15c,15d・・・に性質の異なる複数のビタミンを,少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容したので,複数ビタミンをそれぞれ該ビタミンに最適な条件下で収容しておくことが可能となる。そのため,製造時及び保存時に輸液に配合されるビタミンが経時的に変化することを抑えることができる。また,区画室15a,15b,1 5c,15d・・・に収容されるビタミンには,該ビタミンの安定性を確保するためにpH調整剤,脂溶性ビタミンを可溶化するための可溶化剤,緩衝剤,着色防止剤,酸化防止剤などを配合することができるが,このビタミン量が微量であり,余分な成分が存在しないため,これらのビタミンに配合する各種の成分もビタミン量に対応した微量でよく,輸液と混合した状態では,輸液内に存在する量が著しく少ない。そのため,該ビタミンにこのような成分を十分に配合して,十分な安定性を得ていたとしても,従来のビタミンを溶解した輸液に比べて,患者に不要なこれらの成分を著しく少なくすることができる。さらに,加熱滅菌を行う場合,区画室内に収容されたビタミン濃度が従来の輸液に比べて高濃度に維持されているので,従来の輸液より加熱滅菌時のビタミンの分解を抑えることが可能である。
【0043】また,区画室15a,15b,15c,15d・・・に収容されたビタミン含有液のpHが,収容室3,5の糖含有液及びアミノ酸含有液のpHと異なっているため,糖含有液及びアミノ酸含有液のpHが安定pH域であるビタミンを,輸液と混合した状態で保存することにより,区画室を少なくすることができる。 ・ ・・【0044】・・・なお,以上のような輸液入り医療用容器に使用した容器本体は,輸液成分及び複数のビタミンを収容するのに特に好適に使用できるものであるが,他の用途にも使用可能であり,例えば複数の微量元素を複数の区画室に収容すると ともに輸液を収容した容器,更に複数の微量の調味料と多量の調味料や食品などを収容した食品用容器など,複数の微量成分と多量成分とを隔離して収容しておく他の用途の容器としても使用可能である。
【0048】・・・さらに,上記では区画室に全てビタミンが収容されているが,例えば一部の区画室にビタミン以外の成分が収容されていても問題はなく,例えば微量元素,グルタミン等の他の成分だけを1又は2以上の区画室に収容しておくことも可能である。・・・【0053】図5は,本発明の一実施形態を示す正面図,図6はその縦断面図である。
この実施形態の複室容器21は,複数の収容室23,24を有する容器本体25と,複数の区画室28を有して収容室24に収容された収容容器30とからなり,ここでは収容室23にはアミノ酸或いはアミノ酸及び電解質含有液が収容され,収容室24には糖或いは糖及び電解質含有液が収容されている。一方,複数の区画室28には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容されているが,他のビタミンの一部がさらに収容室23,24に収容されていてもよい。この複室容器21の容器本体25では,複数の収容室23,24間が容器壁31の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる仕切部33により仕切られていて,上下両端を含む周囲が密封シール部35により密封されている。この密封シール部35により密封された容器壁31の内部が収容空間37である。また,下端の密封シール部35には収容空間37内の収容物の排出口38を有していて,ゴム栓等により密封されている。収容容器30では,壁材39の内壁面同士を剥離不能に熱溶着した強シールからなる区画部41により両側部30a及び区画室28間が区画され,壁材39の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる隔離部43により下端部が収容室24と隔離され,容器本体30の密封シール部35に上端部が配置されて一体に溶着されることにより密封されている。この区画室41(判決注:「区画部41」の誤記と認める。)は複数個設けられているが,図では3室の例を記載している。また密封シール部3 5,区画部41及び隔離部43により区画された壁材39の内部がそれぞれ区画室21(判決注:「区画室28」の誤記と認める。)である。この区画室28は,収容室より小さく,好ましくは収容室24の容積の1/10以下となっている。
【0054】さらに,収容容器30の隔離部43は,区画室28の壁材39を押圧することにより,剥離して開放できる強度に溶着されている。・・・この実施形態では,容器壁31を介して収容容器30の壁材39を押圧することにより区画室39の内圧を増加させて弱シールからなる隔離部43を剥離させるものであり,該剥離を生じる程度に収容容器30の壁材39を変形させるのに必要な容器本体25の容器壁31の変形量である。
【0055】このような複室容器21においても,少なくとも2種以上のビタミンが少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように別々に収容されているので前記実施形態と同様の効果が得られる上,さらに, 区画室28が収容室24内に設けられているため,区画室28内の収容物が複室容器21の周囲の雰囲気の影響を受けにくく,例えば区画室28内への外気中の酸素等のガスの透過や,区画室28内の収容物の水等揮発しやすい成分の周囲の雰囲気中への放出などを抑えることができ,保存時に区画室28内の収容物の変質を防止し易い。さらに,加熱滅菌処理時には収容容器30の区画室28内の収容物が容器本体25の収容液の温度変化に応じて加熱されため,過剰に加熱処理を受けることがない。しかも,連通可能な仕切部33により仕切られた収容室24に,容器本体25の容器壁31を介して開放操作可能な隔離部43を備えた収容容器30が配置されていて,容器本体25の容器壁31の変形可能量が,仕切部33の連通前には隔離部43の開放可能量より小さく,かつ,仕切部33の連通後には開放可能量より大きくなっているので,仕切部33を連通した後でなければ 隔離部43を開放することができず,複数の収容室23,24と区画室28との開放順序を特定することができる。そのため,仕切部33を連通させない限り隔離部43を開放することができないので,仕切部33を確実に非連通状態に維持しておくだけで,仕切部33と隔離部43の両方の 開放を防止することができる。また,隔離部43を開放するために要する力を低く設定しておくことも可能である。さらに,易熱変質性のビタミンが収容された区画室28を有する収容容器30が,容器本体25の収容空間37内に収容されて,該収容空間37内に収容液が収容された状態で加熱処理されているので,加熱処理時には収容容器30の区画室28内の収容物が容器本体25の収容液の温度変化に応じて加熱される。そのため,収容室24の収容物の昇温とともに区画室28の収容物が昇温し,区画室28の収容物が収容室24の収容物より早く加熱処理温度に到達することがなく,収容室24の収容物以上に加熱処理を受けることがない。その結果,各区画室28が収容室23,24に比べて小さくても,各区画室28の収容物の過剰な加熱処理を確実に防止することができる。
【0056】【実施例】以下,本発明の実施例を説明する。
実施例1図1に示すような輸液容器を用い,ビタミンの安定性を確認した。
糖含有液まず,下記成分を注射用水に溶解して,クエン酸でpH 4.5に調整した600mlの糖及び電解質含有液を得た。この液を排出口9から収容室5に収容した。
成 分 配合量 ブドウ糖 79.80g 果糖 40.2g キシリトール 19.80g 塩化ナトリウム 1.06g 塩化カリウム 1.27g 酢酸ナトリウム 1.85g グルコン酸カルシウム 0.89g 硫酸マグネシウム 0.49g 硫酸亜鉛 2.28mg リン酸二水素カリウム 0.68g【0057】アミノ酸含有液次に,下記成分を注射用水に溶解して,pH6.5に調整した250mlのアミノ酸含有液を得た。この液を容器本体1の上端8の開口部分から収容室3に収容した。
成 分 配合量 L-ロイシン 3.50g L-イソロイシン 2.00g L-パリン 2.00g 酢酸L-リジン 3.70g L-トレオニン 1.43g L-トリプトファン 0.50g L-メチオニン 0.98g L-フェニルアラニン 1.75g L-システイン 0.25g L-チロシン 0.13g L-アルギニン 2.63g L-ヒスチジン 1.25g L-アラニン 2.00g L-プロリン 1.25g L-セリン 0.75g アミノ酢酸 1.48g L-アスパラギン酸 0.25g L-グルタミン酸 0.25g【0058】ビタミン含有液下表に示すようなビタミンをそれぞれ区画室15a〜15fに収容した。各区画室 のビタミン含有液は,区画室eに5ml,区画室a,b,dに2ml,区画室c,fに1mlとなるように調整し,水溶液または分散液として分注した。なお,脂溶性ビタミンは予め可溶化剤としてポリソルベート80を用いて可溶化処理した。脂溶性ビタミンを収容した区画室内の可溶化剤は80mgであった。また,区画室に収容したビタミンはクエン酸若しくは塩酸または苛性ソーダを用いてpHを調整して収容した。区画室の内,最も酸の使用量の多いビタミンB1を収容した区画室15aでは使用した塩酸の量は医療用に使用される希塩酸0.1ccであった。
成 分 収容量 収容位置 pH ビタミンA 3300IU 区画室15e 6 ビタミンD 5μg 区画室15e 6 ビタミンE 10mg 区画室15e 6 ビタミンK 5mg 区画室15e 6 ビタミンB1 3.9mg 区画室15a 3.5 ビタミンB6 4.9mg 区画室15a 3.5 ビタミンB2 4.6mg 区画室15b 6.3 ビタミンB12 5μg 区画室15d 5.2 ビタミンC 100mg 区画室15c 7.2 ニコチン酸アミド 40mg 区画室15b 6.3 パンテノール 14mg 区画室15d 5.2 ビオチン 0.06mg 区画室15b 6.3 葉酸 0.4mg 区画室15f 8【0059】輸液容器上記のような糖及び電解質含有液,アミノ酸含有液,及びビタミンをそれぞれ収容室3,5及び区画室15a,15b,15cに収容し,それぞれ窒素ガス置換して密封した後,115℃で20分間高圧蒸気滅菌を施し,輸液容器を作成した。
安定性の確認 前記輸液容器を高圧蒸気滅菌して常温まで冷却した後, 収容室3,5及び区画室15a,15b,15cから内容液を抜き取り,各ビタミンの残存率を液体クロマトグラフ法により測定した。次に,該輸液容器を,窒素充填された常温の遮光室に収容して3月保存し,内容物中の各ビタミン残存率を同様に測定した。結果を表2に示す。
【0060】実施例2ビタミンを下記のような配合及び収容位置とし,糖及び電解質含有液のpHを5した(判決注:「5とした」の誤記と認める。)他は,実施例1と同様にして,各ビタミンの安定性の確認を行った。各区画室は5ccとした。結果を表2に示す。
成 分 収容量 収容位置 pH ビタミンA 10000IU 区画室15e 5 ビタミンD 1000IU 区画室15e 5 ビタミンE - ビタミンK - ビタミンB1 50mg 区画室15a 3.5 ビタミンB6 15mg 区画室15a 3.5 ビタミンB2 10mg 収容室3 6.5 ビタミンB12 - ビタミンC 500mg 区画室15c 7.2 ニコチン酸アミド 100mg 収容室3 6.5 パンテノール 25mg 収容室5 5 ビオチン - 葉酸 -【0061】実施例3ビタミンを下記のような配合及び収容位置とし,実施例1と同様にして,各ビタミンの安定性の確認を行った。各区画室は5ccとした。なお,脂溶性ビタミンは大 豆油に混合した後,ポリオキシ硬化ひまし油60に混合して可溶化した。結果を表2に示す。
成 分 収容量 収容位置 pH ビタミンA 10000IU 区画室15b 5 ビタミンD 1000IU 区画室15b 5 ビタミンE 20mg 区画室15b 5 ビタミンK 10mg 区画室15b 5 ビタミンB1 50mg 区画室15a 4 ビタミンB2 10mg 区画室15b 5 ビタミンB6 15mg 区画室15a 4 ビタミンB12 30μg 区画室15a 4 ビタミンC 500mg 区画室15b 5 ニコチン酸アミド 100mg 区画室15c 6.1 パンテノール 25mg 区画室15c 6.1 ビオチン 0.3mg 区画室15c 6.1 葉酸 1mg 区画室15c 6.1【0062】実施例4ビタミンを下記のような配合及び収容位置とし,実施例1と同様にして,各ビタミンの安定性の確認を行った。各区画室は5ccとした。結果を表3に示す。
成 分 収容量 収容位置 pH ビタミンA 10000IU 区画室15b 5 ビタミンD 1000IU 区画室15b 5 ビタミンE 20mg 区画室15b 5 ビタミンK 10mg 区画室15b 5 ビタミンB1 50mg 区画室15a 4 ビタミンB2 10mg 区画室15b 5 ビタミンB6 15mg 区画室15a 4 ビタミンB12 30μg 区画室15a 4 ビタミンC 500mg 区画室15d 6.5 ニコチン酸アミド 100mg 区画室15c 6.1 パンテノール 25mg 区画室15c 6.1 ビオチン 0.3mg 区画室15c 6.1 葉酸 1mg 区画室15c 6.1【0063】実施例5ビタミンを下記のような配合及び収容位置とし,実施例1と同様にして,各ビタミンの安定性の確認を行った。各区画室は5ccとした。結果を表3に示す。
成 分 収容量 収容位置 pH ビタミンA 10000IU 区画室15b 5 ビタミンD 1000IU 区画室15b 5 ビタミンE 20mg 区画室15b 5 ビタミンK 10mg 区画室15b 5 ビタミンB1 50mg 区画室15e 3.5 ビタミンB2 10mg 区画室15b 5 ビタミンB6 15mg 区画室15a 4 ビタミンB12 30μg 区画室15a 4 ビタミンC 500mg 区画室15d 6.5 ニコチン酸アミド 100mg 区画室15c 6.1 パンテノール 25mg 区画室15c 6.1 ビオチン 0.3mg 区画室15c 6.1 葉酸 1mg 区画室15c 6.1【0064】【表2】 【0066】表2,3の結果に示されるように,多数のビタミンを輸液成分と隔離して収容し,多数の水溶性ビタミンを単味製剤における安定pH域が異なるものに分類し,また脂溶性ビタミンを多くの水溶性ビタミンとを分類して,各区各室に隔離して収容したので,少ないpH調整剤及び可溶化剤で各区画室内のpHを該区画室内に収容されたビタミンを安定に維持できる収容条件に設定することができ,これにより各ビタミンの安定性を確保することができた。各実施例ともに,ビタミンB1を含有するビタミン含有液を区画室に収容して,他のの(判決注: 「他の」誤記と認める。 区画室及び収容室に収容された液のpHより低く調整したため, ) ビタミンB1を確実に安定に保存することができた。また,配合したビタミン中でビタミンB1の安定pHが最も低いため,これを区画室に収容したことにより,糖含有液をpH4.5或いは5としておくことができ,糖含有液にpH調整剤を多量に使用する必要がなかった。なおpH4.5或いは5であっても,糖含有液の品質の低下は確認されなかった。また,区画室にビタミンDを収容したので,ビタミンDの容器内壁面への吸着量が少なく,ビタミンDの減少は小さかった。実施例2では,全て の区画室に収容されたビタミン含有液のpHを,収容室3,5の輸液のpHと異ならせたため,輸液のpHが安定pH域にあるビタミンを輸液と混合した状態で保存しても安定性を確保することができた。
【0067】なお,実施例において,3月経過後の輸液容器を目視により確認したことろ(判決注: 「ところ」の誤記と認める。,何れの輸液容器のビタミン含有液並び )に糖含有液及びアミノ酸含有液にも分離が見られず,均一な液の状態に維持できていた。これは,脂溶性ビタミンであるビタミンA,D,E,Kを多くの水溶性ビタミンと隔離して区画室に収容したので, 脂溶性ビタミンに付着した可溶化剤の界面の改質効果が維持できたことを示す。
【0068】【発明の効果】以上詳述の通り,この発明の収容物入り医療用容器によれば,輸液を収容室に収容した容器において,収容室と連通可能な仕切部を備えて収容室と液密に区画され,かつ収容室より小さい複数の区画室を有し,複数の区画室に複数のビタミンを,少なくとも一部のビタミンと他のビタミンとが隔離されるように収容したので,輸液とこの輸液に配合するための複数のビタミンとの混合操作が容易であり,該複数のビタミンを長期間安定に維持保存することができるとともに生体に必須の薬剤以外の不要成分をできるだけ少なくすることができ,製造が容易な輸液容器が得られる。また,本発明の複室容器によれば,密封された収容室を有する合成樹脂製の複室容器において,剥離不能な強シールからなる複数の隔離部及び隔離部から連続する剥離可能な弱シールからなる仕切部により,収容室より小さい複数の区画室を収容室と液密に区画して,複数の隔離部の少なくとも一部が一方側に配向して仕切部を配置したので,輸液と複数のビタミンを収容した内容物入り医療用容器に好適に使用できる複室容器が得られる。
【図1】 【図5】【図6】 イ 甲1発明の認定について 前記アの甲1の記載事項及び弁論の全趣旨からすると,以下の甲1発明を認定することができる(以下,甲1輸液製剤発明,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明及 び甲1発明というときには,以下で認定する発明を指すこととする。)。
(ア) 甲1輸液製剤発明 「複室容器が,複数の収容室を有する容器本体と,複数の区画室を有して収容室に収納された収容容器とからなり,収容室にはアミノ酸又はアミノ酸及び電解質含有液が収容され,別の収容室には糖又は糖及び電解質含有液が収容され,別の収容室に収納された熱可塑性樹脂の袋からなる複数の区画室には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよく,上記複室容器の容器本体では,複数の収容室間が容器壁の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる仕切部により仕切られていて,上下両端を含む周囲が密封シール部により密封されており,鉄,銅,亜鉛,マンガン,ヨウ素などの微量元素が収容されている輸液製剤」 (イ) 甲1輸液製剤の保存安定化発明 「複室容器が,複数の収容室を有する容器本体と,熱可塑性樹脂の袋からなる複数の区画室を有して収容室に収納された収容容器とからなり,収容室にはアミノ酸又はアミノ酸及び電解質含有液が収容され,別の収容室には糖又は糖及び電解質含有液が収容され,別の収容室に収納された熱可塑性樹脂の袋からなる複数の区画室には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよく,上記複室容器の容器本体では,複数の収容室間が容器壁の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる仕切部により仕切られていて,上下両端を含む周囲が密封シール部により密封されており,鉄,銅,亜鉛,マンガン,ヨウ素などの微量元素が収容されている輸液製剤の保存安定化方法」 (ウ) 審決は,甲1発明について,@区画室28の材質及び形態は不明であり,A鉄,銅,亜鉛,マンガン,ヨウ素などの微量元素が糖含有液及びアミノ酸含有液に含有されるものであるとしている。
a 上記@について (a) 材質について 甲1の段落【0034】には,構造1の輸液容器の内層に使用できる樹脂として,熱可塑性樹脂が複数列挙されている。同段落は直接的には構造1の容器について記載しているものであるが,内容からして,その記載は,構造5の容器にも当てはまるものといえる。
また,構造5の容器について,甲1の段落【0053】の「・・・収容容器30では,壁材39の内壁面同士を剥離不能に熱溶着した強シールからなる区画部41により両側部30a及び区画室28間が区画され,壁材39の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる隔離部43により下端部が収容室24と隔離され・・・」との記載からすると,構造5の容器の収容容器30の両側部30a,区画部41及び隔離部43はいずれも熱溶着されていると認められる。さらに,上記段落【0053】の「容器本体30の密封シール部35に上端部が配置されて一体に溶着される」との記載や【図6】の区画室28の上端部の記載からすると,収容容器30の上端部も,上記両側部30aなどと同様に熱溶着されていると推認でき,構造5の容器の収容容器30について,少なくとも上記のように熱溶着されている部分については,熱により形状が変化する部分であるから,熱可塑性樹脂が使用されているものと認められる。
そして,上記段落【0053】の「収容容器30では,壁材39の内壁面同士を剥離不能に熱溶着した強シールからなる区画部41により両側部30a及び区画室28間が区画され,壁材39の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる隔離部43により・・・」「・・・密封シール部35,区画部41及び隔離部4 ,3により区画された壁材39の内部がそれぞれ区画室28である。
・・・」との記載からすると,収容容器30及びそれを構成する区画室28は, 「壁材39」により構成されているものと認められるが,甲1中に, 「壁材39」について,熱溶着される部位とそうでない部位とで異なる材質が用いられることを明示又は示唆する記載は ないから,当業者は,収容容器30及びそれを構成する区画室28の「壁材39」は,全体として熱可塑性樹脂により構成されているものと認識するものと認められる。
以上からすると,甲1に接した当業者は,区画室28の材質は熱可塑性樹脂であると認識するものと認められ,その点を否定した審決の認定は相当ではない。
(b) 形態について 「袋」の辞書的な意味は,「中に物を入れて,口をとじるようにした入れ物。」とされている(広辞苑第七版)。そして,本件発明においても「袋」の語がそのようなものとして扱われている(本件明細書の段落【0052】,【0055】,【0058】,【0059】参照)と認められ,「袋」について上記辞書的意味を超えて,それを限定する記載はない。
他方,甲1の段落【0053】の「・・・複数の区画室28には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容されている・・・」,「・・・壁材39の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる隔離部43により下端部が収容室24と隔離され・・・」との記載,段落【0054】の「・・・収容容器30の隔離部43は,区画室28の壁材39を押圧することにより,剥離して開放できる・・・」との記載及び【図6】からすると,甲1発明の区画室28は,内部にビタミン等を収容することが予定されたものであり,隔離部43が閉じたり,開いたりして「口」としての役割を果たすものであると認められるし,【図6】に表れた区画室28の形状からしても区画室28は「袋」と呼んで差し支えないものである。
そうすると,甲1発明の区画室28の形態は,本件発明1にいう「袋」に相当するものであり,この点を否定した審決の認定は相当ではない。
b 上記Aについて 審決は,甲1発明では,微量元素が糖含有液及びアミノ酸含有液に含有されると認定している。確かに,甲1の段落【0025】は,構造1の容器について,各収 容室に収容される糖含有液及びアミノ酸含有液に微量元素を含有させることを記載している。しかし,甲1には,構造1の容器について,段落【0044】や【0048】では区画室に微量元素を収容可能であることが記載されており,これらの記載に接した当業者は,甲1発明においては,微量元素を収容する場合,その収容場所は特定されていないと理解すると認められる。したがって,甲1発明において,微量元素が糖含有液及びアミノ酸含有液に含有されるとの審決の認定は相当ではない。
なお,この点に関し,被告は,構造1の容器の区画室と構造5の容器の区画室28は構造や技術的意義が異なることなどから,構造5の区画室28に収容される成分は,構造1の区画室に収容される成分とは異なると主張する。しかし,構造1の区画室に収容できる微量元素について,構造5の区画室28に収容すると不安定化するなどの不都合があるなどの記載は甲1にはないし,そのような技術常識があるとも認められないから,甲1の記載からして,段落【0044】や【0048】の記載が,構造5の区画室28に適用されないと解することはできない。
(エ) 原告は,甲1の記載や本件出願日当時の技術常識からすると,@区画室28の材質が熱可塑性樹脂の「フィルム」であること,A収容室23にL-システイン等の含硫アミノ酸が充填され,構造5の容器の区画室28に微量金属元素が収容されること及びB甲1の輸液容器を「ガスバリヤー性外袋に収納」し,かつ「外袋内の酸素を取り除く」構成を備えるべきことは,それぞれ甲1に記載されているか,記載されているに等しいと主張する。
a 上記@について 甲1発明の区画室の材質は前記(ウ)aのように熱可塑性樹脂であると認められるが,甲1には,区画室28を構成する熱可塑性樹脂が「フィルム」であるのかについては何も記載されていない。また,確かに甲1の段落【0054】には,収容容器30の壁材39を押圧することにより区画室39の内圧を増加させて弱シールからなる隔離部43を剥離させることが記載されているものの,同記載のみでは,そ こから直ちに区画室28を構成する材質が「フィルム」であることを認めることはできない。
b 上記Aについて 上記Aについては,以下のとおり,甲1からこれを認定することはできない。
(a) まず,前記1(2)のとおり,本件発明は,微量金属元素が輸液と反応して劣化するという課題に対して,複室からなる輸液容器において,その一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液を収容し,微量金属元素収容容器は他の室に収納することにより,微量金属元素を含む溶液が安定するという知見に基づいて,「複数の室を有する輸液容器において,その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を充填し,他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納する」という構成を採用することにより,微量金属元素を経時変化を受けることなく保存できるという効果を奏するものである。
他方,甲1発明は,「輸液と複数のビタミンとの混合操作が容易であり,複数のビタミンを製造時及び保存時に安定的に維持するとともに,生体に必須の薬剤以外の不要成分をできるだけ少なくすること」を課題とし(甲1の段落【0005】),同課題解決のために,複数の区画室に複数のビタミンを少なくとも一部のビタミンと他のビタミンが隔離されるように収容するという構成を採用した(甲1の段落【0007】)ものであり,甲1には,「一室に硫黄原子を含む化合物を含有する溶液が収容され,微量金属元素収容容器は他の室に収納することにより,微量金属元素を含む溶液が安定する」という本件発明の基礎となる技術思想について何ら記載や示唆がない。
(b) 甲1の段落【0023】には,充填されるべきアミノ酸の成分について,「・・・収容室5に収容されるアミノ酸含有液としては,L-イソロイシン,L-ロイシン,L-バリン,L-メチオニン,L-フェニルアラニン,L-チロシン,L-トリプトファン,L-スレオニン,L-アルギニン,L-ヒスチジン, L-アラニン,L-プロリン,L-セリン,グリシン,L-リジン,L-アスパラギン酸,L-グルタミン酸,L-システイン,L-シスチン,L-オキシプロリンなど,一般に輸液に使用される必須アミノ酸及び/または非必須アミノ酸を適宜,水性媒体に溶解した液が挙げられる。・・・」と多数のアミノ酸が並列的に記載されているが,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体が収容室5に必ず含まれるとの記載やそれを示唆する記載はない。また,本件出願日当時,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体を含まないアミノ酸含有液が複数存在していた(甲24,乙1)。これらのことからすると,本件出願日当時,甲1発明の輸液製剤においてシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体が必要であることを当業者が認識していたとは認められない。
(c) 前記(ウ)bで検討したとおり,甲1発明では,微量元素を収容する場所は特定されておらず,区画室28に収容する以外にも,収容室23及び収容室24の一方又は双方に収容するなどの複数の選択肢があり得る。甲1の段落【0044】,【0048】は,構造1の容器の区画室に微量元素を収容できることを記載しているにすぎず,いずれも甲1発明において,微量金属元素の収容場所を特定する趣旨のものではない。
また,構造5の容器における区画室28に収容されるべきものとして,甲1では,ビタミンが想定されている(甲1の段落【0053】,【0055】)のであるから,甲1に接した当業者は,前記(a)のような甲1発明の課題及びその解決手段を踏まえ,基本的に区画室28はビタミンを収容するための場所であると認識するものと認められる。
この点,原告は,甲1は,本件明細書に記載された微量金属元素の保存安定化を実現した構成を既に備えるとも主張するが,それは区画室28に微量金属元素を収容することを前提とした主張であり,区画室28に微量金属元素を収容する発明を甲1から抽出して認定することの根拠となるものではない。
(d) 以上の検討を総合すると,(i)甲1には,「一室に硫黄原子を含む 化合物を含有する溶液が収容され,微量金属元素収容容器は他の室に収納することにより,微量金属元素を含む溶液が安定する」という本件発明の基礎となる技術思想について何ら記載や示唆がなく,(ii)甲1では,アミノ酸輸液にシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体を含むかどうかは任意であり,(iii)さらに,甲1においては,微量金属元素の収容場所について複数の選択肢があって,特定されていないのであるから,当業者は,甲1から,収容室23にシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体を収容し,区画室28に微量金属元素を収容するという,ひとまとまりの技術思想としての構成を認識すると認めることはできない。
c 上記Bについて 甲1には,輸液容器を「ガスバリヤー性外袋に収納」し,かつ「外袋内の酸素を取り除く」構成を備えるべきことを明示する記載は存在しない。構造1の容器についての甲1の段落【0036】及び【0037】に「・・・空気により変化するおそれのあるビタミンD,A,Eを区画室15a,15b,15c,15d・・・或いは収容室3,5に収容する場合には,該区画室又は収容室のガス透過性を低下するために,ガス透過性の低い樹脂層を積層してもよく,樹脂層の表面,裏面,両面,或いは中間層に金属,無機物等からなる非樹脂層を積層してもよい。」(段落【0036】),「・・・空気または/及び光により変化しやすいビタミンをそれぞれ区画室15a,15b,15c,15d・・・に収容すると,該区画室だけを空気または/及び光から保護すればよく,前記のような材料の使用量も少なくできる。」(段落【0037】)と記載されていることからすると,甲1発明においては,空気により影響を受ける物質を収納する際に,ガス透過性の低い樹脂層を積層したり,樹脂層の表面や裏面などに非樹脂層を積層したりし,かつ輸液容器の一部にのみガス透過性の低い材料を用いたり,加工をしたりするといった手段を講じることが想定されていたといえる。また,原告が論拠とする甲1の段落【0059】もビタミンの安定性試験についての記載である。
したがって,甲1には,輸液容器を「ガスバリヤー性外袋に収納」し,かつ「外袋内の酸素を取り除く」構成を備えるべきことを明示する記載は存在せず,甲1輸液製剤発明の内容として,このような構成を有すると認めることはできない。このことは,アミノ酸輸液が酸素の影響を受けやすいことが技術常識であり,それに対処するために本件発明のようにガスバリヤー性の外袋を採用したり,外袋内の酸素を取り除いたりする構成が周知であったとしても左右されない。
(2) 本件発明1と甲1輸液製剤発明との対比及び判断 ア 本件発明1と甲1輸液製剤発明とを対比すると,以下の一致点及び相違点が認められる。
(一致点) 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され,他の室に熱可塑性樹脂の袋からなる収容容器が収納されており,上記輸液容器には,鉄,マンガン及び銅を含む群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された輸液製剤」に関するものである点。
(相違点1-1) 本件発明1においては,微量金属元素が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている室とは他の室に収納された微量金属元素収容容器に収容されており,微量金属元素収容容器はフィルム製であることが特定されているのに対して,甲1輸液製剤発明は,アミノ酸を含有する溶液が充填された収容室とは他の収容室に複数の区画室(収容容器)が収納されているものの,微量金属元素の収容場所は特定されておらず,複数の区画室(収容容器)がフィルム製であるかどうか不明である点。
(相違点1-2) 複数の室に存在させる成分に関して,本件発明1は,その一室に含まれる溶液がアセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり,他の室に鉄,マンガン及び銅から なる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して,甲1輸液製剤発明では,アミノ酸又はアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され,他の室に収納された複数の区画室(収容容器)には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点。
(相違点1-3) 本件発明1では,輸液製剤は,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されており,上記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して,甲1輸液製剤発明では,そのような特定のない点。
イ 前記(1)イ(エ)bのとおり,当業者は,甲1から,収容室23にシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体を収容し,区画室28に微量金属元素を収容するという構成を認識することができないところ,本件発明1の「アセチルシステイン」は,システインのN-アシル体であるから,相違点1-1及び相違点1-2は,実質的な相違点ということができる。
(3) 小括 以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決は結論において相当であり,原告が主張する取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(本件発明2が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り)について (1) 本件発明2は,本件発明1の「微量金属元素」を「銅」に限定し,「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」を「システイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液」とし,本件発明1の「外袋内の酸素を取り除」くという構成を除いたものである。
そうすると,本件発明2と甲1輸液製剤発明との一致点及び相違点は,以下のようなものであると認められる。
(一致点) 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され,他の室に熱可塑性樹脂の袋からなる収容容器が収納されており,上記輸液容器には,銅を含む液が収容された輸液製剤」に関するものである点。
(相違点2-1) 本件発明2においては,銅を含む液が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている室とは他の室に収納された微量金属元素収容容器に収容されており,微量金属元素収容容器はフィルム製であることが特定されているのに対して,甲1輸液製剤発明においては,アミノ酸を含有する溶液が充填された収容室とは他の収容室に複数の区画室が収納されているものの,銅の収容場所は特定されておらず,複数の区画室がフィルム製であるか不明である点。
(相違点2-2) 複数の室に存在させる成分に関して,本件発明2は,その一室に含まれる溶液がシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり,他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して,甲1輸液製剤発明では,アミノ酸又はアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され,複数の区画室には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点。
(相違点2-3) 本件発明2は,輸液製剤が,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されている のに対して,甲1輸液製剤発明では,そのような特定のない点。
(2) 原告は,相違点2-2に関し,甲1の段落【0033】には,輸液に配合することができる酸化防止剤として「亜硫酸水素ナトリウム」や「亜硫酸ナトリウム」が記載されており,かつ,プラスチック容器に収容されたアミノ酸輸液が酸素の影響を受けやすいことは技術常識であるから,「アミノ酸輸液」に「亜硫酸水素ナトリウム」や「亜硫酸ナトリウム」などの酸化防止剤を配合することは,自明の構成であって,甲1に記載されているに等しいと主張する。
しかし,甲1の段落【0033】では,亜硫酸塩は,添加され得る他の薬剤の一つとして,緩衝剤,着色防止剤と共に酸化防止剤として列挙されているにすぎないし,甲1にシステインと亜硫酸塩を併用した処方は記載されていない。
また,証拠(甲22,23,乙1,2)によると,本件出願日当時,亜硫酸塩を用いないアミノ酸輸液も存在しており,亜硫酸塩が,アミノ酸の酸化防止において,必須の添加剤であるとの技術常識が存在していたとも認められない。
したがって,原告の上記主張は採用することができず,前記(1)の認定は左右されない。
(3) 前記2(1)イ(エ)bのとおり,当業者は,甲1から,収容室23にシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体を収容し,区画室28に微量金属元素を収容するという構成を認識することができないところ,本件発明2は,微量金属元素を「銅」と特定したものであるから,相違点2-1及び相違点2-1は,実質的な相違点ということができる。
(4) 以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件発明2が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決は結論において相当であり,原告が主張する取消事由2は理由がない。
4 取消事由4(本件発明4が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り)について (1) 本件発明4は,本件発明1と比べると,「微量金属元素」が「銅」に限定 され,本件発明1の「他の室」に「糖質輸液または/および電解質輸液が充填され」ており,「微量金属元素収容容器」について,熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることの限定がされていないというものである。
そうすると,本件発明4と甲1輸液製剤発明との間の一致点及び相違点は,以下のようなものであると認められる。
(一致点) 「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室にアミノ酸を含有する溶液が充填され,他の室に糖を含有する溶液が充填され,同他の室に収容容器が収納されており,上記輸液容器には,銅を含む液が収容された輸液製剤」に関するものである点。
(相違点4-1) 本件発明4においては,銅を含む液が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている室とは他の室に収容された微量金属元素収容容器に収納されていることが特定されているのに対して,甲1輸液製剤発明は,アミノ酸を含有する溶液が充填された収容室とは他の収容室に複数の区画室が収納されているものの,銅の収容場所は特定されていない点。
(相違点4-2) 複数の室に存在させる成分に関して,本件発明4は,その一室に含まれる溶液がアセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり,他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して,甲1輸液製剤発明では,アミノ酸又はアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され,複数の区画室には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点。
(相違点4-3) 本件発明4は,輸液製剤が,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されており, 上記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して,甲1輸液製剤発明では,そのような特定のない点。
(2) 前記2(1)イ(エ)bのとおり,当業者は,甲1から,収容室23にシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体を収容し,区画室28に微量金属元素を収容するという構成を認識することができないところ,本件発明4は,微量金属元素を「銅」と特定したものであるから,相違点4-1及び相違点4-2は,実質的な相違点ということができる。
(3) 以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件発明4が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決は結論において相当であり,原告が主張する取消事由4は理由がない。
5 取消事由3,5〜9(本件発明3,5〜9が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り)について 本件発明3,5〜9と甲1輸液製剤発明との間には,前記2〜4で認定した相違点1-1及び相違点1-2,相違点2-1及び相違点2-2並びに相違点4-1及び相違点4-2と同じ相違点が存在するものと認められるところ,前記2〜4で検討したところからすると,それらの相違点はいずれも実質的な相違点であるから,その余の点について判断するまでもなく,本件発明3,5〜9が甲1輸液製剤発明と同一ではないとした審決は結論において相当であり,原告が主張する取消事由3,5〜9はいずれも理由がない。
6 取消事由10,11(本件発明10,11が甲1輸液製剤の保存安定化方法発明と同一ではないとした審決の認定及び判断の誤り)について (1)ア 前記2で判示したところに照らすと,本件発明10と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明との間の一致点及び相違点は,以下のようなものであると認められる。
(一致点) 「複室輸液製剤の輸液容器において,アミノ酸を含有する溶液を収容している室 と別室に熱可塑性樹脂の袋からなる収容容器を収納し,上記輸液容器には,鉄,マンガンおよび銅を含む群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された輸液製剤の保存安定化方法」に関するものである点。
(相違点10-1) 本件発明10においては,微量金属元素が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に収納された微量金属元素収容容器に収納されており,微量金属元素収容容器はフィルム製であることが特定されているのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は,アミノ酸を含有する溶液が収容された収容室とは別の収容室に複数の区画室(収容容器)が収納されているものの,微量金属元素の収容場所は特定されておらず,複数の区画室(収容容器)がフィルム製であるかどうか不明である点。
(相違点10-2) 複室に存在させる成分に関して,本件発明10は,その一室に含まれる溶液がアセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり,別室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では,アミノ酸又はアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され,複数の区画室(収容容器)には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されていてもよいことが特定されている点。
(相違点10-3) 本件発明10は,輸液製剤が,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されており,上記外袋内の酸素を取り除いたものであるのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では,そのような特定のない点。
イ 前記2(1)イ(エ)bのとおり,当業者は,甲1から,収容室23にシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体を収容し,区画室28に微量 金属元素を収容するという構成を認識することができないところ,本件発明10の「アセチルシステイン」は,システインのN-アシル体であるから,相違点10-1及び相違点10-2は,実質的な相違点ということができる。
(2)ア 前記3で判示したところに照らすと,本件発明11と甲1輸液製剤の保存安定化方法発明との間の一致点及び相違点は,以下のようなものであると認められる。
(一致点)「複室輸液製剤の輸液容器において,アミノ酸を含有する溶液を収容している室と別室に熱可塑性樹脂の袋からなる収容容器を収納し,上記輸液容器には,銅を含む液が収容された輸液製剤の保存安定化方法」に関するものである点。
(相違点11-1) 発明11においては,銅を含む液が,含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充填されている室とは別室に収容された微量金属元素収容容器に収納されており,微量金属元素収容容器はフィルム製であることが特定されているのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明は,アミノ酸を含有する溶液が収容された収容室とは別の収容室に複数の区画室(収容容器)が収納されているものの,銅の収容場所は特定されておらず,複数の区画室(収容容器)がフィルム製であるか不明である点。
(相違点11-2) 複室に存在させる成分に関して,本件発明11は,その一室に含まれる溶液がシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり,別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されているのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では,アミノ酸又はアミノ酸及び電解質含有液が一方の収容室に収容され,複数の区画室(収容容器)には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔離するように,別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに収容室に収容されて いてもよいことが特定されている点。
(相違点11-3) 本件発明11は,輸液製剤が,輸液容器が,ガスバリヤー性外袋に収納されているのに対して,甲1輸液製剤の保存安定化方法発明では,そのような特定のない点。
イ 前記2(1)イ(エ)bのとおり,当業者は,甲1から,収容室23にシステイン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体を収容し,区画室28に微量金属元素を収容するという構成を認識することができないところ,本件発明11は,微量金属元素を「銅」と特定したものであるから,相違点11-1及び相違点11-2は,実質的な相違点ということができる。
(3) 以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,本件発明10,11が甲1輸液製剤の保存安定化発明と同一ではないとした審決は結論において相当であり,原告が主張する取消事由10,11はいずれも理由がない。
7 なお,原告は,本件発明の構成要件を「解決すべき課題に係る発明特定事項」,「課題を解決するための手段に係る発明特定事項」及び「いずれとも無関係な発明特定事項」に分け,そのことに基づき, 「課題を解決するための手段に係る発明特定事項」以外について実質的な相違点でない旨の主張をする。
しかし, 「課題を解決するための手段に係る発明特定事項」ではないからといって,そのことから直ちに当該相違点が実質的な相違点ではないとはいえないし,本件発明と甲1発明とが同一といえないのは,前記2〜6で検討してきたとおりであるから,原告の上記主張は採用することができない。
結論
以上の次第で,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。