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事件 令和 1年 (ネ) 10067号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人・被控訴人(一審原告) 城東テクノ株式会社 (以下「一審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 岩坪哲
同 速見禎祥
同 溝内伸治郎
被控訴人・控訴人(一審被告) 吉川化成株式会社 (以下「一審被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 朝野修治
同 鈴木章
同訴訟代理人弁理士 森治
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/06/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 一審原告の控訴及び一審被告の控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は,一審原告の控訴につき生じたものは一審原告の負担とし,その余は一審被告の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨及び申立ての趣旨
1 一審原告 ? 原判決を次のとおり変更する。
? 一審被告は,原判決別紙被告製品目録記載2の製品を製造し,販売し,販 売の申出をしてはならない。
? 一審被告は,前項の製品を廃棄せよ。
? 一審被告は,一審原告に対し,1億7419万6161円並びに内金1億 2965万5555円に対する平成31年3月1日から支払済みまで年5分 の割合による金員,内金1070万円に対する平成29年8月17日から支 払済みまで年5分の割合による金員及び内金226万円に対する平成30年 10月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 一審被告 ? 原判決中,一審被告敗訴部分を取り消す。
? 上記取消部分に係る一審原告の請求を棄却する。
? 一審原告は,一審被告に対し,7035万7151円及びこれに対する令 和元年10月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要等(本判決で,略語は原判決の例による。ただし,「本件第1発
明」「本件第1特許」等は,更に略して「第1発明」「第1特許」のようにい う。) 1 事案の要旨 ? 本件は,発明の名称を「基礎パッキン用スペーサ」とする第1特許権(存 続期間満了により消滅済み)をかつて有し,また,発明の名称を「台輪,台 輪の設置構造,台輪の設置方法及び建造物本体の設置方法」とする第2特許 権及び「台輪,台輪の設置構造及び設置方法」とする第3特許権をミサワホ ームと共有している一審原告が,原判決別紙被告製品目録記載の各製品を製 造販売する一審被告に対し,特許法100条1項に基づき,同目録記載2の 製品の製造,販売等の差止めを,同条2項に基づき,同製品及びその半製品 の廃棄をそれぞれ請求するとともに,特許権侵害不法行為に基づく損害賠 償請求をした事案である。
損害賠償請求につき,一審原告主張の損害額は次のとおりであり,本件訴 訟での請求はその一部請求である。
ア 特許法102条2項(一部製品に関しては予備的に同条3項)に基づく 損害額 (ア) 198万2433円 被告第1製品の製造販売によるもの (イ) 1億3681万0744円 被告第2製品の製造販売によるものイ 弁護士費用相当額 1387万円ウ 上記アの各損害額に対する平成31年2月28日までの確定遅延損害金 (ア) 20万6662円 上記ア(ア)に対するもの (イ) 3339万1329円 上記ア(イ)に対するもの エ 上記アの損害額合計に対する平成31年3月1日から支払済みまで民法 所定の年5分の割合による遅延損害金 オ 上記イの弁護士費用相当額に対する民法所定の年5分の割合による遅延 損害金 (ア) うち1070万円に対し,平成29年8月17日(訴状送達日の翌 日)から支払済みまで (イ) 残額317万円に対し,平成30年10月3日(一審原告の同日付け 準備書面の一審被告への送付日)から支払済みまで? 原判決は,差止請求及び廃棄請求については,被告第2製品の半製品につ いての廃棄請求のみを棄却し,その余の部分を認容した。
また,損害賠償請求については,上記?の各項目に対応してそれぞれ次の 限度で認容した。
ア(ア) 198万2433円 (イ) 4867万8376円 イ 510万円 ウ(ア) 20万6662円 (イ) 1231万6870円 エ 上記アの損害額合計5066万0809円に対し平成31年3月1日か ら支払済みまで年5分の割合 オ(ア) 上記イの弁護士費用相当額510万円のうち460万円に対し平成2 9年8月17日から支払済みまで年5分の割合 (イ) 残額50万円に対し平成30年10月31日から支払済みまで年5分 の割合 ? 一審原告は,原判決のうち,損害賠償請求の棄却部分を不服として控訴し た。
? 一審被告は,原判決の敗訴部分を不服として控訴した。また,原判決で認 容された金額に相当する金員をその言渡し後に一審原告に対して支払ったこ とから,仮執行宣言に基づく支払についての原状回復及び損害賠償を命ずる 裁判の申立て(上記第1の2?)をした。
2 前提事実 原判決「事実及び理由」の「第2」の2項(3頁9行目から8頁12行目ま で)に記載のとおりであるから,これを引用する。
3 争点 (1) 被告第2製品は第2発明の技術的範囲に属するか(争点1) (2) 第1特許権の侵害による一審原告の損害額(争点2) (3) 第2及び第3特許権の侵害による一審原告の損害額(争点3) (4) 消滅時効の成否(争点4) (5) 差止請求及び廃棄請求の必要性(争点5) (6) 仮執行宣言に基づく支払についての原状回復及び損害賠償を命ずる裁判の 申立ての当否(争点6) 争点1〜5は,原審におけるものと同様である(争点5は,原判決に争点と して掲げられていないが,実質的な争点であって裁判所の判断も示されてい る。)4 当事者の主張 争点1〜5については,次の5項及び6項のとおり当審における主張を付加 するほか,原判決「事実及び理由」の「第3」(8頁21行目から23頁1行 目まで)のとおりであるから,これを引用する。
争点6につき,一審被告は,「仮執行の宣言に基づき」(民訴法260条2 項)給付したものである旨主張し,一審原告は,任意に給付されたものである 旨主張している。
5 当審における一審原告の主張 原判決は,争点3(第2及び第3特許権の侵害による一審原告の損害額)に 対する判断において,特許法102条2項によって推定される損害額に対して 7割の推定覆滅を認めた。
しかしながら,特許法102条2項による損害額の推定を覆滅するためには, 侵害者が,推定事実の不存在,すなわち「特許権者の損害額が,侵害者が侵害 行為により得た利益の額と異なること」の本証に成功する必要があるところ, 一審被告が,7割もの推定覆滅割合の本証に成功したとは到底いえない。
したがって,原判決の上記判断は,一審原告が自認する3割の推定覆滅部分 を超える部分について誤りである。
以下,原判決の誤りを具体的に述べる。
? 原判決は,特許法102条2項の推定覆滅事情として,@特許権者と侵害 者の業務態様等の相違,A市場における競合品の存在,B侵害者の営業努力, C侵害品の性能を例示しているが,本件においてこれらの事情は何ら立証さ れていない。
? 推定覆滅についての原判決の認定判断を要約すると,次のとおりである。
ア 第2発明の技術的意義のうち,顧客吸引力を有するのは効果2(布基礎 天端面凸部との干渉回避)のみであると認定した。
第3発明の技術的意義のうち,顧客吸引力を有するのは構成要件3C〜 3Gの構成により幅方向へ移動しないようにする効果(以下「効果3」と いう。)のみであると認定した。
イ 被告第2製品及び一審原告の製品並びに他社製品の各カタログの記載を 列挙した上で,被告第2製品のカタログには効果2及び効果3の記載がな いこと,いずれのカタログでも強度,換気性能,防鼠性,施工の容易性, 供給・品質・価格の安定性等が前面に出されていることを認定した。
ウ 被告第2製品が効果2を奏しない形で使用される場合があり得ること, 効果3を奏するための別の方法もあることを認定した。
エ その上で,「これらの事情を総合的に考慮すると,本件では,7割の限 度で特許法102条2項による推定が覆滅されると認めるのが相当である。
」と判断した。
? 原判決の上記?ア〜ウの認定には,次の点で誤りがある。
ア 第3発明の構成要件3C〜3Gの構成によれば,第3発明には,台輪同 士を接続する際に,一方の台輪の接続部に接続させるのが他の台輪の両接 続部のどちらであってもよい(接続する向きを問わない)という効果(以 下「効果4」という。)もあるが,原判決はこの点を看過している。
イ 長尺タイプのスペーサーが連結して用いられるのは自明であるところ, わざわざカタログに「連結構造」との記載を設けているのは,当該「連結 構造」の特徴,すなわち第3発明の構成(構成要件3C〜3G)を被告第 2製品が備えていることのアピール(顧客誘引の一材料とされている)と 見るのが自然である。
? 原判決の認定を前提としても,7割もの推定覆滅を認めたことは不当であ る。
ア 原判決が摘示する証拠によっても,被告第2製品と一審原告の製品との 間でその構成に格別重要な差異があるとは認められず,被告第2製品を購 入した購入者が一審原告の製品であれば購入しなかったような事情は何一 つ認められない。このことは,本件において,市場では被告第2製品と一 審原告の製品とが,かなりの程度補完関係にあり,被告第2製品が売れれ ば一審原告が被告第2製品の利益と同程度の利益を逸失するとの相当因果 関係を推認させる,特許法102条2項の趣旨にかなった重要な事情であ る。
イ カタログの記載を根拠に推定覆滅を認めるためには,少なくとも,「被 告第2製品の購入者のX%が,カタログに記載された被告第2製品の○○ の特徴を契機として被告第2製品を購入したのであって,一審原告の製品 にはそれがないため購入しなかった」程度の事実の本証に成功する必要が ある。しかし,原判決が摘示したカタログの記載からこのような事情を認 定することはできない。
ウ 仮に被告第2製品のセールスポイントが,原判決が摘示するように強度, 換気性能,施工の容易性,供給・品質・価格の安定性であったとしても, これらの点について一審原告の製品が特に劣っていたことが立証されてい ない以上,被告第2製品の購入者が同製品でなければ購入しなかったとい う事実を認定することはできない。
エ 一審原告の製品のカタログで,施工性,換気性及び防鼠性といった点が 前面に出されていたとしても,一審原告の製品にこのような特徴があるか らといって,被告第2製品の購入者が一審原告の製品であれば購入しなか ったことになるわけではないから,上記の事情は,推定覆滅の事情たり得 ない。
オ 被告第2製品が効果2を奏しない形で使用される場合があり得ることは 事実としても,これらの製品の需要者は,特定の工事のためではなく, 様々な物件における様々な施工方法による工事を想定して製品を大量に購 入するものであるから,対応できる施工方法が幅広いということは製品の セールスポイントとして重要である。このような取引の実情からしても, 上記事実と推定覆滅との関連性は不明と言うしかない。
カ 効果3を奏するための「別の方法」とはどのようなものかそもそも不明 である上,第3発明には効果4もある。そして,これらの効果を全て奏す る方法が他にもあった事実は認めがたいし,これらの効果を全て奏する方 法が他にもあるとしても,被告第2製品の購入者が,被告第2製品がなけ れば当該方法の製品を購入したであろう事実は全く立証されていない。
? 原判決の認定・判断は,侵害された特許の技術的評価を感覚的,裁量的に 行った上で,それを損害額に反映させたように読め,法律上の事実推定規定 の覆滅事情の認定としては,そもそも,判断枠組自体が妥当ではないと思わ れる。原判決の推定覆滅の判断は,従来,法律上の根拠がないとして批判さ れた「寄与率」「寄与度減額」の概念を,中身をそのままにして「推定覆滅 」と言い換えただけに見える。
「推定覆滅」という法的位置付けで処理するためには,推定事実の不存在 が本証によって具体的に立証されることが必要なのであって,その立証に成 功しない限りは認められない。「寄与率」「寄与度減額」のように,裁判所 が感覚的,裁量的な減額を行うことは許されない。
? なお,知財高裁特別部の令和元年6月7日判決においては,特許法102 条2項の推定覆滅に関し「当該発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮」 することについて言及がある。しかし,当該判決においては,「特許発明侵害品の部分のみに実施されている場合」の推定覆滅を検討する際に「顧客 誘引力等の事情を総合的に考慮」するとされているのであり,特許発明が侵 害品の部分のみに実施されているわけではない本件のような事案において, 発明の顧客誘引力を理由とした推定覆滅を認めるものではない。
6 当審における一審被告の主張 ? 争点1(被告第2製品が第2発明の技術的範囲に属するか)について ア 第2発明の構成要件2Eの「テーパ部」の意義について 原判決は,構成要件2Eの「テーパ部」の大きさには限定がないとし, 被告第2製品も構成要件2Eを充足すると判示する。
しかしながら,原判決の解釈によれば,一般的に施される面取りについ ても第2特許権の侵害とされる可能性が高く,同種製品を製造する事業者 の事業活動に対する不当な制約となる。また,第2特許の明細書の図5は, その余の記載と相まって「テーパ部」の大きさを指し示す意味を持つと解 すべきであり,同図によれば,「テーパ部」は被告第2製品の面取り部よ りもはるかに大きなものである。さらに,基礎の天端面に生じた凸部がわ ずかな数oの大きさであれば,台輪本体の設置には支障がないから,「テ ーパ部」は,これを超える大きさの凸部に対応できる大きさのものに限定 されるべきである。
イ 作用効果不奏功の抗弁について 原判決は,被告第2製品は第2発明の構成要件2Eが想定する作用効果 を奏しない旨の一審被告の主張(作用効果不奏功の抗弁)を排斥した。
しかしながら,被告第2製品の面取り部の小ささに照らすと,基礎天端 の凸部との干渉を避ける効果は発揮できない。凸部が大きい場合にはグラ インダー等で切除するほかないし,凸部が小さい場合(例えば高さ1〜2 o程度)には被告第2製品を設置すれば凸部が自然に押しつぶされる形と なる。いずれにしても,被告第2製品の面取り部が第2発明のテーパ部の 効果2を奏する場面は想定しがたい。
? 争点2(第1特許権の侵害による一審原告の損害額)について ア 消費税相当額について 原判決は,一審被告の利益の額を算定するにあたり,売上高に消費税を 加算すべきであると判示するが,一審被告が製品の販売によって受領した 消費税は国等に納付しているから,消費税が一審被告の利益になっていな いことは明らかであり,原判決の判断は誤りである。
イ 推定の覆滅について 以下の事情によれば,推定の覆滅を認めなかった原判決の判断は誤りで ある。
(ア) 代替品の存在について 原判決は,被告第1製品以外に一審被告が販売している製品(出没可 能な突出構成を含まないもの)は代替品に当たらない旨判示する。
しかしながら,一審被告が販売しているレベル調整プレート(ロング 換気タイプ)のうち,出没可能な突出構成を含まない物も被告第1製品 の代替品たり得るものである。
(イ) 被告第1製品の実際の使用態様等について 原判決は,出没可能な突出構成の存在は被告第1製品にとって重要な 機能とはいえない旨の一審被告の主張を排斥した。
しかしながら,スペーサの実際の使用に当たっては,基礎パッキンと 構造物との隙間を確実に埋めるため,ハンマーで打ち込んでセットする ことが必要であるから,出没可能な突出構成の存在は被告第1製品及び 同種製品にとって不可欠な機能とはいえず,顧客吸引力を高めるものと もいえない。
? 争点3(第2及び第3特許権の侵害による一審原告の損害額)についてア 被告第2製品の販売による利益の額について (ア) 消費税相当額について 上記?アに同じ。
(イ) 販促活動費用の控除の可否について a カタログ作成費用について カタログ作成の主たる目的は被告第2製品の売り込みにあったから, カタログ作成費用の半額しか経費として認めなかった原判決の判断は 厳格に過ぎる。
b 展示会出展費用について 一審被告の取扱製品の主力は被告第2製品であったから,展示会出 展費用を経費として認めなかった原判決の判断は誤りである。
(ウ) 茨城工場関係費用の控除の可否等について a 賃料について 一審被告が茨城工場の約半分のスペースを使用して被告第2製品の 製造を行っていた期間中,一審被告は,当該スペースを他の用途に利 用することはできず,当該スペースのための賃料を支払い続けていた のであるから,当該賃料は,被告第2製品の製造販売に直接関連して 追加的に必要となった経費というべきである。これを経費として認め なかった原判決の判断は誤りである。
b 改修工事及び電気工事の費用について 原判決は,これらの費用のうち被告第2製品の製造販売に直接関連 する部分を算定するに当たり,工事によって備えられた機械などの使 用可能年数を法定耐用年数の2倍としたが,根拠を欠き,誤りである。
イ 推定の覆滅について (ア) 競合品の存在について 原判決は,一審被告が競合品として挙げた他社製品につき,いずれも 第2特許のうち構成要件2E及び第3特許の構成や機能を備えていない として,競合品たり得ない旨判示する。
しかしながら,上記構成及び機能の有する顧客吸引力はわずかであり, これら以外の点(強度,換気等)については上記他社製品も十分な性能 を要することからすると,上記他社製品はいずれも第2発明との関係で 一審原告の製品及び被告第2製品との競合品たり得る。
(イ) 易切断領域について 原判決は,易切断領域を設けることによって被告第2製品の売上が伸 びたとは認められないから,被告第2製品に易切断領域という機能があ ることは推定覆滅事由とならない旨判示する。
しかし,実際の販売データによれば,易切断領域を設けた新製品の販 売を開始したことによって,被告第2製品全体の売上を押し上げる効果 がみられている。
したがって,原判決の上記判断は,前提となる事実認定に誤りがある。
(ウ) 被告第2製品における第2及び第3特許の比重について 原判決は,第2及び第3発明の技術的意義のうち,顧客誘引力を有す るのは効果2及び効果3のみであるとした上で,7割の推定覆滅を認め た。
しかし,実際の施工現場において効果2及び効果3が発揮されるのは ごく限られた場面であることからすれば,推定覆滅の割合は8割を下回 るものではない。
ウ 特許法102条4項後段による損害賠償額の減額について 一審被告が長年にわたって一審原告から特許権侵害警告を受けていな かったこと,第2特許及び第3特許の構成及び機能が特許権の保護を受け うるような工夫であるとの認識を一審被告が有していなかったことからす れば,仮に一審被告が一審原告の特許権を過失によって侵害していたとし ても,その過失の程度は相当に低いものである。
したがって,特許法(平成30年法33号による改正前のもの。以下同 じ。)102条4項後段が適用されるべきである。
? 争点4(消滅時効の成否)について 原判決は,被告第2製品についてのカタログの発行や展示会への出展によ って一審原告が特許権侵害の事実を知ったとは認められない旨認定をした。
しかしながら,同カタログには被告第2製品が記載されていることに一審 原告の担当者が気付かなかったとは考えられない。そして,一審原告の主張 によれば,これら特許を採用していることは一審原告の製品を他社の同種製 品から区別する最も重要な特徴ということになるのであるから,同カタログ の記載を見れば被告第2製品が第2特許及び第3特許を侵害しているとの疑 いを持って然るべき対応を取るのが自然である。また,展示会においては, 実際に被告第2商品を手にとって確認することができるから,尚更である。
? 争点5(差止請求及び廃棄請求の必要性)について 原判決は,被告第2製品について,一審原告の差止請求及び廃棄請求を認 容した。
しかしながら,一審被告は既に同製品につき形状変更を行い,製造販売事 業自体もYPCに譲渡したから,今後,再び事業を譲り受けるとともに過去 の形状に復した被告第2製品を販売する可能性はない。
したがって,原判決が差止請求及び廃棄請求を認容したことは誤りである。
当裁判所の判断
1 争点1(被告第2製品は第2発明の技術的範囲に属するか)について ? 当裁判所も,原審裁判所と同様に,被告第2製品は第2発明の技術的範囲 に属すると判断する。その理由は,次のとおり補足するほか,争点1につい ての原判決の判断(原判決23頁3行目から27頁22行目まで)に記載の とおりであるからこれを引用する。
? 当審における一審被告の主張について ア 一審被告は,構成要件2Eへの該当性に関して,? 原判決の解釈によ れば,一般的に施される面取りについても第2特許権の侵害とされる可能 性が高く,同種製品を製造する事業者の事業活動に対する不当な制約とな る,? 第2特許の明細書の図5は,その余の記載と相まって「テーパ部 」の大きさを指し示す意味を持つと解すべきであり,同図によれば,「テ ーパ部」は被告第2製品の面取り部よりもはるかに大きなものである,? 基礎の天端面に生じた凸部がわずかな数oの大きさであれば,台輪本体の 設置には支障がないから,「テーパ部」は,これを超える大きさの凸部に 対応できる大きさのものに限定されるべきである旨主張する。
しかしながら,次のとおり,一審被告の上記主張はいずれも採用するこ とができない。
?については,「面取り」と称するかどうかにかかわらず,他の構成要 件をすべて充足し,かつ,構成要件2Eに係る構成を充足する製品につい て一審原告が独占権を取得し,その結果,当業者が同種製品を製造できな くなるのは特許権の性質上当然の事柄であり,不当な制約には当たらない。
?については,構成要件2Eの「テーパ部」には特段の限定がないので あるから,図5の構成に限定される理由もない。
?については,基礎天端の数mmの凸部でも台輪本体と干渉する可能性が あり,テーパ部が小さくても,当該凸部の干渉回避に効果があることは明 らかであるから,テーパ部の大きさが一定のものに限定されるべき必然性 はない。
イ 一審被告は,作用効果不奏功の抗弁に関して,被告第2製品の面取り部 の小ささに照らすと,基礎天端の凸部が大きい場合にはグラインダー等で 切除するほかないし,凸部が小さい場合(例えば高さ1〜2o程度)には 被告第2製品を設置すれば凸部が自然に押しつぶされる形となるから,い ずれにしても,被告第2製品の面取り部が第2発明のテーパ部の効果2を 奏する場面は想定しがたい旨主張する。
しかしながら,一審被告の主張を前提としても,少なくとも凸部の高さ が1mm程度の場合には,被告第2製品の面取り部(テーパ部)によって凸 部を回避することができるはずなのであるから,被告第2製品の面取り部 が第2発明のテーパ部の効果2を奏する場面はないと断定することはでき ない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
2 争点2(第1特許権の侵害による一審原告の損害額)について ? 損害額の推定について ア 当裁判所も,原審裁判所と同様に,一審被告が被告第1製品の製造販売 によって得た利益の額を合計198万2433円と認定し,特許法102 条2項に基づき,この金額をもって,第1特許権の侵害による一審原告の 損害額と推定する。その理由は,次のとおり補足するほか,原判決27頁 24行目から29頁2行目までの説示のとおりであるからこれを引用する。
イ 当審における一審被告の主張について 一審被告は,一審被告が製品の販売によって受領した消費税は国等に納 付済みであり,一審被告の得た利益とはいえないから,原判決が上記認定 に当たり消費税を加算したことは誤りである旨主張する。
しかしながら,ここで問題とすべきなのは,収支計算そのものではなく (なお,原判決は,収支計算の過程において,一審被告は,原判決別紙 「被告第2製品の売上高・仕入高等」の「売上高」欄記載の売上高のほか に,消費税相当額の支払も受けたものと推認しているところ,一審被告は, この点については何ら具体的反論をしていない。したがって,一審被告の 納付した消費税相当額は,収支計算から除外されていることになるので, 一審被告の利益が,消費税相当額分過大に算定されているということはな い。),収支計算の結果算出された利益額に更に消費税相当額を上積みす るかどうかなのであるから,この点は,一審被告が,消費税相当額を支払 っているかどうかとは関係のない事柄である。
したがって,一審被告の上記主張は筋違いであり,採用することができ ない。
? 推定の覆滅について ア 考え方 特許法102条2項に基づく推定の覆滅については,侵害者が主張立証 責任を負い,侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係 を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば,@特許権者と侵害者 の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性),A市場における 競合品の存在,B侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),C侵害品 の性能(機能,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について,推 定覆滅の事情として考慮することができるものと解される。また,特許発 明が侵害品の部分のみに実施されている場合においても,推定覆滅の事情 として考慮することができるが,特許発明侵害品の部分のみに実施され ていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるのではなく,特許発明実施されている部分の侵害品中における位置付け,当該特許発明の顧客 誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相当である。
イ 本件における具体的検討 (ア) 一審被告は,原審及び当審を通じ,?一審被告が販売しているレベル 調整プレート(ロング換気タイプ)のうちの「出没可能な突出構成」を 有さない製品が被告第1製品の代替品たり得ること,?レベル調整プレ ートの実際の使用に当たってはハンマーで打ち込んでセットするから 「出没可能な突出構成」による抜け止め機能は製品にとって不可欠な機 能とはいえず顧客誘引力は乏しいことを主張する。
しかしながら,一審被告の上記主張はいずれも採用することができな い。その理由については,原判決の説示(原判決29頁11行目から2 4行目まで)を引用するほか,次のとおり補足する。
(イ) まず,上記?の点については,「出没可能な突出構成」を有する被告 第1製品と当該構成を有さない製品がともに販売されていた中で,あえ て被告第1製品を購入した需要者は出没可能な突出構成に需要喚起され たと見るのが合理的である。
次に,上記?の点については,ハンマーで打ち込んでセットするとい う使用態様が一般的であると認めるに足る証拠はない。また,仮に当該 使用態様が取られたとしても,「出没可能な突出構成」を有する被告第 1製品は「位置ずれしたり,抜け出したりすることがなく,長期間に亘 り,安定良く土台を支持できる」という有用な効果(第1特許の明細書 (甲1-2)段落【0013】)を奏する。したがって,被告第1製品 をハンマーで打ち込んでセットするか否かにかかわらず,当該効果を期 待する需要者の需要が出没可能な突出構成のない製品に向かうとは考え 難い。
3 争点3(第2及び第3特許権の侵害による一審原告の損害額)について ? 損害額の推定について ア 当裁判所も,原審裁判所と同様に,一審被告が被告第2製品の製造販売 によって得た利益の額を2億1105万1670円と認定し,特許法10 2条2項に基づき,この金額をもって,第2及び第3特許権の侵害による 一審原告の損害額と推定する。その理由は,次のとおり補足するほか,原 判決30頁5行目から37頁14行目までの説示のとおりであるからこれ を引用する。
イ 当審における一審被告の主張について (ア) 消費税相当額について 一審被告は,原判決が一審被告の得た利益の算定に当たり消費税を加 算したことは誤りである旨主張するが,この主張が採用できないことは, 上記2?イに説示したとおりである。
(イ) 販促活動費用の控除の可否について a カタログ作成費用について 一審被告は,カタログ作成の主たる目的は被告第2製品の売り込み にあったから,カタログ作成費用の半額しか経費として認めなかった 原判決の判断は厳格に過ぎる旨主張する。
しかしながら,カタログ作成費用に関する各証拠(乙50の各枝 番)によっては,カタログの具体的な内容や,カタログ中で被告第2 製品の宣伝が占めていた割合は明らかでない。かえって,上記各証拠 のうち,一審被告の従業員が作成した「キソスペーサーカタログ作成 費支払い一覧」(乙50の1)には「キソスペーサー総合カタログA 4×12P」に係る項目があり,これは,本件証拠中のカタログのう ちA4サイズ12ページから成る乙32又はこれと類似のカタログに 係る費用と推認されるが,乙32には被告第2製品以外の製品も多数 掲載されており,各製品共通の機能に関する紹介にも相当数のページ が割かれている。これらの事情によれば,カタログ作成費用の半額を 超えて,被告第2製品のために直接関連して追加的に支出されたもの と認定するには至らない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
b 展示会出展費用について 一審被告は,一審被告の取扱製品の主力は被告第2製品であったか ら,展示会出展費用を経費として認めなかった原判決の判断は誤りで ある旨主張する。
しかしながら,一審被告が被告第2製品以外にも多種類の製品を取 り扱っていたことは上記カタログ(乙32)からも明らかであり,そ れらの製品の中で被告第2製品の展示のために特別の費用を要したこ とを認めるに足りる証拠もないから,展示会出展費用は,その一部に せよ,被告第2製品のために直接関連して追加的に支出されたものと 認定するには至らない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 茨城工場関係費用の控除の可否等について a 賃料について 一審被告は,茨城工場の約半分のスペースを使用して被告第2製品 の製造を行っていた期間中,当該スペースを他の用途に利用すること はできず,当該スペースのための賃料を支払い続けていたのであるか ら,当該賃料は,被告第2製品の製造販売に直接関連して追加的に必 要となった経費というべきである旨主張する。
しかしながら,茨城工場は,被告第2製品の製造を開始する以前か ら稼動していたのであるから,同工場の使用は,基本的に現有財産を 活用したというのにとどまるところ,一審被告が,茨城工場で被告第 2製品を製造するため,他の製品の製造ライン等を置くための工場や 場所を他に手当てせざるを得なかった事実や,そのために他の製品の 製造ライン等を置く場所を確保するための経費を支出した事実を認め るに足りる証拠はない。また,一審被告が,茨城工場に被告第2製品 の製造ラインを置かなければ,同工場が広すぎるとして賃貸借契約を 解約して他にもっとコンパクトな工場を借りるという選択をしたであ ろうといった事情を認めるに足る証拠もない。そうすると,茨城工場 の賃料は,その一部にせよ,被告第2製品のために直接関連して追加 的に支出されたものと認定するには至らない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
b 改修工事及び電気工事の費用について 一審被告は,これらの費用のうち被告第2製品の製造販売に直接関 連する部分を算定するに当たり,工事によって備えられた建屋及び設 備等の使用可能年数を法定耐用年数の2倍とした原判決の認定は誤り である旨主張する。
しかしながら,法定耐用年数は租税法規上の概念にすぎず,その年 数は,実際の耐用年数よりも相当程度短いことは公知の事実であると いえる。このことに,実際に行われた工事内容を踏まえた工事後の建 屋及び設備の使用可能期間が特に短いことを裏付けるような立証もな いことを併せ考えると,原判決が,建屋及び設備の使用可能期間を法 定耐用年数の2倍としたことは相当である。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。
? 推定の覆滅について ア 当裁判所も,特許法102条2項による損害額の推定(上記?)は,7 割の限度で覆滅され,さらに,第2及び第3特許を一審原告及びミサワホ ームが共有していることから,同社が有する損害賠償請求権の相当額14 63万7125円についても推定が覆滅され,この結果,一審原告の損害 額は,原判決と同様に4867万8376円であると認定する。その理由 は,次のとおりである。
イ 第2及び第3特許の技術的意義とその位置付け 第2及び第3特許の技術的意義についての検討は,原判決39頁18行 目から42頁11行目までの記載のとおりなので(ただし,原判決42頁 同10行目の「幅方向へ」から11行目末尾までを「幅方向へ移動しない ようにする点,及び,台輪の接続部の嵌合部と被嵌合部が,台輪本体の長 手方向の向きを逆にしても接続するように構成されている点(効果4)で あると認められる。」と改める。),これを引用する。
これによると,第2特許の技術的意義は,台輪本体の延在方向に沿って テーパ部を設けることによって,布基礎の凸部に干渉されることなく台輪 本体を略水平な状態で布基礎の天端面に設置することができること(効果 2)であり,第3特許の技術的意義は,台輪の両端部に設けられた接続部 を嵌合可能な構成とすることにより,台輪が幅方向に移動しないようにす ることができること(効果3)と,当該接続部の嵌合部と被嵌合部が,台 輪本体の長手方向の向きを逆にしても接続するように構成されていること (効果4)であると認められる。そうすると,第2特許,第3特許は,い ずれも台輪全体に関する特許という形になってはいるものの,第2特許は 台輪本体の側面縁部(延在方向),第3特許は台輪両端部に設けられた接 続部という,台輪のごく一部に技術的特徴が存するのにすぎないのである から,実質的には,特許発明侵害品の部分のみに実施されている場合に 当たるものと解される。したがって,推定覆滅が認められるかどうかは, 特許発明実施されている部分の侵害品中における位置付け,当該特許発 明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮して判断すべきものである。
ウ 推定覆滅に関する判断(その1:第2及び第3特許の顧客誘引力等) 推定覆滅に関する判断の前提となる基礎的事情は,原判決42頁12行 目から45頁13行目までに記載のとおりであるから,これを引用する。
以上に基づいて,まず,第2特許の顧客誘引力等について判断するに, 第2特許の技術的特徴であるテーパ部は,本件被告カタログで挙げられた 6点の特徴の中には挙げられておらず(テーパ部に関しては,「素手で持 っても痛くありません」という,第2特許の技術的特徴とは異なる特徴と の関係で挙げられているのにすぎない。),また,一審原告のカタログ等 においても,甲20の1,2のカタログには「両端に天端モルタルのバリ 逃げ」との説明が付された一審原告の製品の図が小さく掲載されているの みであるし,最も詳しい説明のある甲21のパンフレットには,「バリ逃 げ」が項目として取り上げられている(第2発明の技術的特徴に関する具 体的言及も存在する。)ものの,11点の特徴のうちの1点として位置付けられているのにすぎず,大きな特徴という取扱いはされていない。しかも,被告第2製品におけるテーパ部は,高さ1mm,幅2mmという極めて小さなものであるため,布基礎の凸部による干渉を避ける効果も極めて限定されたものであり,第2特許の技術的特徴が十分に発揮されているとは到底いえないものといわざるを得ないから,仮に第2特許そのものには相応の顧客誘引力があるとしても,被告第2製品のテーパ部は,その顧客誘引力を十分に発揮しているとはいい難い。このように考えると,被告第2製品における第2特許の顧客誘引力は,極めて限定されたものであるというべきである。
次に,第3特許の顧客誘引力等について判断すると,この点についても,本件被告カタログが挙げる6点の特徴には,明示的な言及はされていない(「スピード施工」との記載はあるが,「スピード施工」が可能となる理由は様々あり得るのであるから,これによって,第3特許の技術的特徴について言及されたとはいえない。また,説明写真の中には,「連結構造」についての言及はあるものの,連結構造そのものが第3特許の技術的特徴とはいえないことは既に指摘したとおりであるし,第3特許の技術的特徴である嵌合部に関しては全く言及がない。)。また,一審原告のカタログ等においても,甲20の1,2のカタログには何ら言及はなく,最も詳しい説明のある甲21のパンフレットにも,「7 継手嵌合 キソパッキンロングを連結するための,凹凸の形状です。」という記載があるのみで,嵌合部については説明があるものの,第3特許の技術的特徴に関連する記載は全くない。このように考えると,第3特許の技術的特徴は,被告第2製品においてはもとより,一審原告の製品においても,大きな意味があるものとしては取り扱われていないと判断せざるを得ない。したがって,被告第2製品における第3特許の顧客誘引力も非常に限定されたものにとど まるというべきである。
以上の点に,前述のとおり,第2特許の技術的特徴である側面縁部のテ ーパ部,及び第3特許の技術的特徴である接続部は,いずれも,台輪本体 のごく一部を占めるにすぎないこと等を総合的に考慮すると,本件におい ては,特許法102条2項による推定が,7割の限度で覆滅されるという べきである。
一審被告は,推定覆滅が少なくとも8割の限度で認められるべきである として種々主張するが,第2,第3特許の顧客誘引力に関していう点につ いては既に判示したとおりであって,採用することができない。また,被 告第2製品に競合品が存するとはいえないことは原判決37頁16行目か ら39頁1行目までに記載されたとおりであり,被告第2製品に易切断領 域が設けられていることが推定覆滅に影響を及ぼすものではないことは原 判決39頁2行目から17行目までに説示されたとおりであって,これら に関する主張も採用することはできない。
他方,一審原告は,7割の推定覆滅には根拠がないとして種々主張する が,この点に関しては,既に説示したとおりであって,やはりその主張は 採用することができない。
エ 推定覆滅に関する判断(その2:ミサワホームに生じた損害) この点に関する判断は,原判決47頁1行目から17行目までに記載の とおりであって,ミサワホームに生じた損害1463万7125円の限度 で,推定が覆滅されるべきであると認められる。
オ 一審原告の損害額 この点に関する判断は,原判決47頁18行目から23行目までに記載 のとおりであって,一審原告の損害額は,一審被告の利益額2億1105 万1670円に,推定が覆滅されない割合3割を乗じ,その結果からミサ ワホームに生じた損害額1463万7125円を控除した残額である48 67万8376円であると認められる。
? 特許法102条3項に基づく損害額の主張(原審における一審原告の予備 的主張)について 当裁判所も,原審裁判所と同様に,一審原告の上記予備的主張は採用できないと判断する。その理由は,原判決47頁24行目から48頁10行目までに記載のとおりであるからこれを引用する。
? 特許法102条4項後段による損害賠償額の減額(当審における一審被告 の新たな主張)について 上記説示において認定した事実に加えて,本件各証拠及び弁論の全趣旨を総合しても,本件において,同条項に基づき裁判所の裁量において損害賠償額を減額すべき事情があるとはいえず,一審被告の主張は採用することができない。
? 弁護士費用(第1特許権の侵害分も含む。)について 一審原告は本件訴訟代理人弁護士に訴訟の提起・追行を委任したところ,一審被告の第1〜第3特許権侵害不法行為相当因果関係のある弁護士費用は,510万円と認めるのが相当である。なお,逸失利益に係る損害の発生状況に照らし,弁護士費用に係る損害賠償支払債務のうち,平成29年8月17日の時点で遅滞に陥っていたのは460万円の損害賠償債務であると認めるのが相当である。また,一審被告の不法行為終了時期が平成30年10月末であることを踏まえると,残額の損害賠償債務の遅滞損害金の起算日は同月31日とするのが相当である。
? 一審原告の逸失利益に対する確定遅延損害金について 一審原告が確定遅延損害金を請求している期間の,被告第2製品の製造販売による損害に対する遅延損害金の金額は,原判決別紙「被告第2製品に係る損害額(裁判所の認定)」の「H31.2.28までの確定遅延損害金」欄記載のとおりの方法で計算すると,合計1231万6870円である。
4 争点4(消滅時効の成否)について ? 当裁判所も,原審裁判所と同様に,消滅時効に係る一審被告の主張は採用 できないと判断する。その理由は,次のとおり補足するほか,原判決48頁 24行目から49頁16行目までの説示のとおりであるからこれを引用する。
? 当審における一審被告の主張について 一審被告は,カタログに被告第2製品が記載されていることに一審原告の 担当者が気付かなかったとは考えられず,一審原告の主張によればこれら特 許を採用していることは一審原告の製品を他社の同種製品から区別する最も 重要な特徴ということになるのであるから,同カタログの記載を見れば被告 第2製品が第2特許及び第3特許を侵害しているとの疑いを持って然るべき 対応を取るのが自然である旨を主張し,また,展示会においては実際に被告 第2商品を手にとって確認することができるから尚更である旨を主張する。
しかしながら,一審被告の主張を考慮しても,せいぜい,特許権侵害によ る損害を一審被告が知り得たという程度のことがいえるにとどまり,これを 知ったことの立証があるとはいえない。
したがって,一審被告の上記主張は上記?の判断を左右するものでなく, 採用することができない。
5 争点5(差止請求及び廃棄請求の必要性)について ? 当裁判所も,一審原告の差止請求及び廃棄請求は,原判決が認容した限度 で必要性等の相当な理由があると判断する。その理由は,次のとおり補足す るほか,原判決49頁17行目から50頁4行目までの説示のとおりである からこれを引用する。
? 当審における一審被告の主張について 一審被告は,既に被告第2製品につき形状変更を行い,製造販売事業自体 もYPCに譲渡しており,今後,再び事業を譲り受けるとともに過去の形状 に復した被告第2製品を販売する可能性はないから,原判決が差止請求及び 廃棄請求を認容したことは誤りである旨主張する。
しかしながら,一審被告が差止めの仮処分命令を受けるまでは一審原告の 警告等にもかかわらず被告第2製品の製造販売を続けていたことや,YPC が一審被告の100%子会社であること等に照らすと,なお上記可能性は認 められるというべきである。
したがって,一審被告の上記主張は上記?の判断を左右するものでなく, 採用することができない。
6 一審被告の金員支払について 一審被告は,原判決言渡し後,原判決が支払を命じた金員を一審原告に支払 っている。しかし,一審被告が支払義務を争っているにもかかわらず,原判決 の仮執行宣言とは関わりなく,全くの任意で支払を行ったと認めるのは困難で あるから,一審原告の請求の当否を判断するのに当たり,上記支払の事実を考 慮する必要はない。
結論
以上によれば,原判決は相当であり,一審原告の控訴及び一審被告の控訴はい ずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。なお,本判決 は原判決を変更していないので,仮執行宣言に基づく支払についての原状回復及 び損害賠償を命ずる裁判の申立てについては判断する必要がない。
裁判長裁判官 鶴岡稔彦
裁判官 上田卓哉
裁判官 石神有吾
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