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関連審決 異議2018-700095
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事件 令和 1年 (行ケ) 10096号 特許取消決定取消請求事件

原告 日立化成デュポンマイクロシステムズ株式会社
同訴訟代理人弁理士 長谷川芳樹 吉住和之 平野裕之 水木佐綾子 沖田英樹
被告特許庁長官
同 指定代理人橋本栄和 大熊幸治 井上猛 原賢一 豊田純一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/06/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が異議2018−700095号事件について令和元年5月30日にした異議の決定のうち,特許第6172139号の請求項2,9及び10に係る部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その1を被告の負担とする。
-1-事 実 及 び 理 由第1 請求特許庁が異議2018−700095号事件について令和元年5月30日にした異議の決定のうち,特許第6172139号の請求項1〜4及び6〜19に係る部分を取り消す。
第2 事案の概要本件は,特許異議審判請求を認容した異議の決定に対する取消訴訟である。争点は,進歩性の有無(一致点及び相違点の認定,相違点に係る判断の当否)である。
1 特許庁における手続の概要等原告は,発明の名称を「樹脂組成物,及びこれを用いたポリイミド樹脂膜,ディスプレイ基板とその製造方法」とする発明に係る特許権(特許第6172139号。以下,「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」,本件特許権の明細書及び図面を「本件明細書」という。)の特許権者であり,平成25年2月15日に特許出願(特願2014−500907号)を行い(特願2012−37369号。優先権主張:平成24年2月23日〔以下,「本件優先日」という。 ,〕日本国),平成29年7月14日に特許権の設定登録を受けた(甲8)。
本件特許について,平成30年2月2日付けで特許異議の申立てがあり(甲9),特許庁はこれを異議2018−700095号事件として審理(以下,「本件異議手続」という。)し,原告は同年12月17日付けで訂正請求をした(甲16。以下,訂正後の請求項1〜19に係る各発明につき,「本件発明1」〜「本件発明19」といい,これらを併せて「本件発明」と総称することがある。)。
特許庁は,上記訂正請求を認めた上で,令和元年5月30日,「特許第6172139号の請求項1〜4及び6〜19に係る特許を取り消す。特許第6172139号の請求項5に係る特許に対する本件特許異議の申立てを却下する。 との決定」 (以下,「本件決定」という。)をし,その謄本は,同年6月7日,原告に送達された。
2 本件特許の訂正後の特許請求の範囲(甲17)-2-【請求項1】(本件発明1)(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸と,(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物と,(c)有機溶剤と,を含有し,前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜2質量%である樹脂組成物であって,前記樹脂組成物をシリコン基板又はガラス基板に塗布,加熱し,1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
【化11】(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の有機基を示す。)【請求項2】(本件発明2)(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸と,(b)3−ウ-3-レイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物と,(c)有機溶剤と,を含有し,前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜2質量%である樹脂組成物であって,前記樹脂組成物をシリコン基板又はガラス基板に塗布,加熱し,1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
【化1】(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の有機基を示す。)【請求項3】(本件発明3)(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸と,(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−-4-アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物と,(c)有機溶剤と,を含有し,前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜2質量%である樹脂組成物であって,前記樹脂組成物をシリコン基板又はガラス基板に塗布,加熱し,1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
【化12】(一般式(1)中, 1は芳香族環を有する2価の有機基を示し, 2は下記式R R (7)で表される4価の有機基を示す。)【化13】【請求項4】(本件発明4)(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸と,(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−ア-5-ミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物と,(c)有機溶剤と,を含有し,前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜1質量%である樹脂組成物であって,前記樹脂組成物をシリコン基板又はガラス基板に塗布,加熱し,1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
【化14】(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の有機基を示す。)【請求項6】(本件発明6)(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸と,(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−-6-アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物と,(c)有機溶剤と,を含有し,前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜2質量%であり,前記(a)成分の重量平均分子量が15,000〜200,000である樹脂組成物であって,前記樹脂組成物をシリコン基板又はガラス基板に塗布,加熱し,1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
【化15】(一般式(1)中,R1は下記式(3)で表される2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の有機基を示す。)【化16】【請求項7】(本件発明7)請求項1に記載された樹脂組成物を加熱して得られるポリイミド樹脂膜。
【請求項8】(本件発明8)請求項7に記載のポリイミド樹脂膜を含むディスプレイ基板。
【請求項9】(本件発明9)請求項2に記載された樹脂組成物を加熱して得られるポリイミド樹脂膜。
【請求項10】(本件発明10)-7-請求項9に記載のポリイミド樹脂膜を含むディスプレイ基板。
【請求項11】(本件発明11)請求項3に記載された樹脂組成物を加熱して得られるポリイミド樹脂膜。
【請求項12】(本件発明12)請求項11に記載のポリイミド樹脂膜を含むディスプレイ基板。
【請求項13】(本件発明13)請求項4に記載された樹脂組成物を加熱して得られるポリイミド樹脂膜。
【請求項14】(本件発明14)請求項13に記載のポリイミド樹脂膜を含むディスプレイ基板。
【請求項15】(本件発明15)請求項6に記載された樹脂組成物を加熱して得られるポリイミド樹脂膜。
【請求項16】(本件発明16)請求項15に記載のポリイミド樹脂膜を含むディスプレイ基板。
【請求項17】(本件発明17)(a)−般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸と,(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物と,(c)有機溶剤と,を含有し,前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜2質量%である樹脂組成物であって,-8-前記樹脂組成物をシリコン基板又はガラス基板に塗布,加熱し,1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
【化17】(一般式(1)中,R1は下記式(3)で表される2価の有機基を示し,R2は下記式(7)で表される4価の有機基を示す。)【化18】【請求項18】(本件発明18)請求項17に記載された樹脂組成物を加熱して得られるポリイミド樹脂膜。
【請求項19】(本件発明19)請求項18に記載のポリイミド樹脂膜を含むディスプレイ基板。
3 本件決定の理由の要旨(1) 本件発明1〜4及び6〜19は,いずれも,甲1(特開2010−202729号公報)に記載された発明(以下,「甲1発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
-9-(2) 本件発明1についてア 甲1発明について甲1には,「液状の樹脂組成物をキャリア基板上に塗布成膜して固体状の樹脂膜を形成する工程,前記樹脂膜上に回路を形成する工程,前記回路が表面に形成された固体状の樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程,の各工程を含む,表示デバイスであるフレキシブルデバイスの製造法に用いられる,フレキシブルデバイス基板となる前記液状の樹脂組成物であって,下記一般式(1)で表される構造を有する重量平均分子量が15,000から200,000のポリイミド前駆体と有機溶媒とを含有してなるフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物。
【化1】(一般式(1)中,Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し,R1は【化2】から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり,アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい),R2は【化3】から選択される四価の有機基であり,nは繰り返し数を表す正の整数である。)」- 10 -に係る発明(以下,「甲1発明1」という。),「甲1発明1のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物をキャリア基板上に塗布成膜してなる固体状のポリイミド樹脂膜。」に係る発明(以下,「甲1発明2」という。)及び「甲1発明1のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物をキャリア基板上に塗布成膜して甲1発明2の固体状のポリイミド樹脂膜を形成する工程,前記樹脂膜上に回路を形成する工程,前記回路が表面に形成された固体状の樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程の各工程を含む製造方法により製造されたディスプレイである表示デバイス。」に係る発明(以下,「甲1発明3」という。)がそれぞれ記載されている。
イ 本件発明1と甲1発明1の一致点及び相違点(ア) 一致点(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸と,(c)有機溶剤と,を含有する樹脂組成物であって,前記樹脂組成物を基板に塗布,加熱し,ポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
【化11】(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の有機基を示す。)(イ) 相違点1本件発明1では「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−- 11 -ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物と,・・・を含有し,前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜2質量%である」のに対して,甲1発明1では「(b)アルコキシシラン化合物」を含有すること及びその含有量につき特定されていない点(ウ) 相違点2「ポリイミド樹脂膜を形成する工程」において,本件発明1では「シリコン基板又はガラス基板」を使用するとともに「1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜」を形成するのに対して,甲1発明1では「キャリア基板」を使用するとともに「固体の樹脂膜」の膜厚につき特定されていない点ウ 検討(ア) 相違点2について甲1には,甲1発明1の固体の樹脂膜の形成におけるキャリア基板につき,ガラス基板を使用すること又はシリコン基板を使用することがそれぞれ開示されているとともに,当該樹脂膜として,膜厚1〜20μmの範囲が好適であり,実施例として膜厚3μmの樹脂膜としたことも開示されている。そうすると,甲1発明1における固体の樹脂膜の形成において,ガラス基板又はシリコン基板を用いること及び形成する固体の樹脂膜の膜厚を1〜20μmを含む1〜50μmとすることは,いずれも実質的な相違点であるとはいえないか,甲1発明1において,当業者が適宜- 12 -なし得ることである。
(イ) 相違点1について甲1には,甲1発明1のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物において,キャリア基板などの被塗布体との接着性向上のために,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤等のカップリング剤を添加することができることが記載され,また,その使用量がポリイミド前駆体(樹脂分)に対して,0.1質量%以上,3質量%以下が好適であることが記載されている(段落【0019】)ところ,甲1発明1のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物においても,ガラス基板又はシリコン基板などの被塗布体の表面に塗布成膜しポリイミド樹脂膜として他表面に回路形成を行った後,被塗布体から剥離することによりフレキシブルデバイス基板とするものであって,甲1発明1において,シランカップリング剤の適量の添加使用により被塗布体に対する接着性を改善するとしても,被塗布体からの剥離性につき許容される範囲内で行うことを前提とするものであるから,甲1発明1において,ガラス基板又はシリコンウエハなどの被塗布体に対する接着性向上を意図して,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤などのアルコキシシラン化合物をポリイミド前駆体(樹脂分)に対して,「0.1質量%以上,3質量%以下」なる範囲のうちの0.2〜2質量%の範囲で添加使用することは,当業者が適宜なし得ることである。
したがって,相違点1は,当業者が適宜なし得ることである。
(ウ) 本件発明1の効果について本件発明1において,アルコキシシラン化合物を使用しない場合(比較例1,2,6及び7)は,剥離性については極めて優れるものの,剥離強度で表される密着性(段落【0052】)は明らかに劣り,アルコキシシラン化合物を多量に使用した場合(比較例5)又は支持体であるウエハの表面をあらかじめアルコキシシラン化合物で処理しておいた場合(比較例3及び4)は,剥離強度で表される密着性につ- 13 -いては極めて優れるものの,剥離性は明らかに劣るのに対して,本件発明1に係る実施例1〜22の場合には,剥離性につき優れると評価される範囲(A評価又はB評価)内において,剥離強度で表される密着性が改善されているものと看取することができる。
しかし,甲1発明1のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物においては,ガラス基板又はシリコン基板などの被塗布体の表面に塗布成膜し,ポリイミド樹脂膜として他表面に回路形成を行った後,被塗布体から剥離することによりフレキシブルデバイス基板とするものであって,甲1には,被塗布体から剥離する際の方法として特に制限がなく,レーザ照射による剥離並びに単に物理的剥離でもいずれも可能であることが開示されている(段落【0022】)から,甲1発明1において,シランカップリング剤の適量の添加使用により被塗布体に対する接着性を改善するとしても,剥離方法につき限定がない被塗布体からの剥離性につき許容される範囲内で行うことを前提とするものである。そうすると,本件発明1の上記効果は,甲1発明1において,被塗布体に対する接着性向上を意図してシランカップリング剤の適量の添加使用を行うこと,その際,剥離性をも重視するのであれば,上記「0.1質量%以上,3質量%以下」の範囲のうち,少量の範囲である「0.2〜2質量%」で使用することにより,「密着性(接着性)」と「剥離性」との両立なる効果を奏するであろうことは,当業者が予期し得る範囲のものということができ,格別顕著な効果であるものということはできない。
(エ) 以上から,本件発明1は,甲1発明1に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
エ 原告は,密着性と剥離性は要求される場面が異なり,完全なトレードオフ関係であるとはいえず,ある程度の独立性は認められるべき物性であり,本件発明1は,高価な装置を用い,基板裏面からレーザーを照射するという危険を伴う操作を行うことなく,半導体素子形成工程において要求される密着性とポリイミド樹脂膜剥離工程で要求される剥離性の両特性とを同時に達成することができるもので- 14 -ある旨主張する。
しかし,塗布成膜に使用する塗料の技術分野において,「(塗膜の)密着性」とは,「接着性」又は「付着性」ともいい,塗膜が被塗物表面によくついてはがれにくい性質であるのに対して,「(塗膜の)剥離性」は,その文意からみて塗膜が被塗物表面に対してはがれやすい性質であるものと解するのが自然であって,完全なトレードオフの関係ではないにしても,独立した物性ではなく,相互に関連し,少なくとも相反する傾向を示す又は負の相関関係を有する物性であることは,当業者において一般的な技術常識であるということができるとともに,本件明細書の発明の詳細な説明実施例(比較例)における「密着性」の評価方法及び「剥離性」の評価方法は,いずれも「付着力試験」の測定方法と略同一の手法(「プルオフ法」及び「ピーリング法」)であって,「付着力」に相当する「剥離強度」(定量的手法の場合)又は「剥離性」(定性的手法の場合)に係る測定結果が得られるものであることからみても,本件発明における「密着性」と「剥離性」とは独立した物性ではなく,相互に関連し,少なくとも相反する傾向を示す又は負の相関関係を有する物性であると解するのが自然である。
甲1には,甲1発明1の解決課題として「ガラス基板等のキャリア基板上に塗布することで簡単にかつ所望の膜厚の薄膜を形成し,その樹脂薄膜上に回路やディスプレイ層等を形成できるとともに,耐熱性に優れ,熱膨張係数の低いポリイミド膜となって,回路等の形成過程でキャリア基板層からのはがれやキャリア基板層のそりを生じさせず,回路等のはがれなどの欠陥も生じず,そしてその後,キャリア基板から欠陥を生じずにきれいに剥離ができる,液状のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物」の提供にあることが明示されており,上記「剥離」の方法につき,「剥離方法に特に制限はなく,例えばキャリア基板側からレーザー等を照射することで剥離を行っても良い。本発明により得られるポリイミド樹脂膜は,高い靭性を有するので,キャリア基板(支持体)と単に物理的に剥離することも可能である」ことも開示されている(段落【0022】参照)から,甲1発- 15 -明1のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物においても,シリコンウエハなどの被塗布体の表面に塗布成膜しポリイミド樹脂膜として他表面に回路形成を行った後,被塗布体から剥離することによりフレキシブルデバイス基板とするものであって,レーザー照射による剥離のみならず,単なる物理的な剥離による場合を含む剥離性については担保しつつ,剥離工程前の回路等の形成過程などにおけるポリイミド膜のキャリア基板層からのはがれや回路等のはがれなどの不具合を防止する程度の被塗布材に対する十分な密着性(接着性)を有することが要求されることは自明であって,剥離性につき許容できる範囲において密着性(接着性)を改善するために,アルコキシシラン化合物の量を調節しつつ使用することにつき,当業者は容易に想到し得ることと認めるのが相当である。
そうすると,「基板裏面からレーザーを照射する操作を行わずに剥離することができる」との点は,甲1発明1に対して,何らの技術的優位性を有する事項ではない。
オ 原告は,甲1発明1は,ポリイミド樹脂膜の耐熱性と熱膨張特性を重視した発明であることなどから,甲1において,あえて耐熱性が下がるリスクを冒してまで,ポリイミド樹脂組成物中にシランカップリング剤を積極的に添加する動機はなく,仮に,甲1の段落【0019】の教示により樹脂組成物中にシランカップリング剤を添加しようとする場合でも,「0.2〜2質量%」の特定量を選択する動機はないこと,半導体素子形成工程では支持体との十分な密着性を担保しつつ,ポリイミド樹脂膜剥離工程では,レーザーを用いずに,簡易に,かつ綺麗に樹脂膜を剥離できるという効果は甲1から予期できないこと,本件発明1の樹脂膜の熱膨張特性及び破断伸び特性の低下が抑えられ,同成分を添加しない場合の性能をほぼ維持できるという効果は,甲1発明1から全く予期できないことを主張する。
しかし,甲1には,「本発明は,液晶ディスプレイ,有機ELディスプレイ,電子ペーパー等の表示デバイス,太陽電池の受光デバイスであるフレキシブルデバイスにおいて,ガラス基板等のキャリア基板上に塗布することで簡単にかつ所望の膜- 16 -厚の薄膜を形成し,その樹脂薄膜上に回路やディスプレイ層等を形成できるとともに,耐熱性に優れ,熱膨張係数の低いポリイミド膜となって,回路等の形成過程でキャリア基板層からのはがれやキャリア基板層のそりを生じさせず,回路等のはがれなどの欠陥も生じず,そしてその後,キャリア基板から欠陥を生じずに剥離ができる,液状のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物,これを用いたフレキシブルデバイス及びその製造方法を提供する」(段落【0004】)ことが記載されているから,その文意からみて,甲1発明1の樹脂組成物は,キャリア基板上に塗布できポリイミド樹脂膜を形成できること,ポリイミド樹脂膜を形成した後の回路等の形成過程においてキャリア基板層又は回路等とのはがれを防止できる程度の十分な接着性(密着性)を有すること及び回路を形成した後のポリイミド樹脂膜がキャリア基板から剥離する際に当該樹脂膜に欠陥が生じない程度の十分な剥離性を有することが,いずれも達成すべき主要事項であることが明らかである。
また,甲1には,シランカップリング剤の使用につき「本発明のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物には,被塗布体との接着性向上のため,シランカップリング剤・・・を添加することができる。上記カップリング剤としては,例えば,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,・・・などが挙げられ・・・る。・・・このときの使用量は,ポリイミド前駆体(樹脂分)に対して,0.1質量%以上,3質量%以下が好ましい。」と記載されているところ,「被塗布体との接着性」が「向上」されて高すぎる場合,ポリイミド樹脂膜をキャリア基板から剥離する際の剥離性に影響する(剥離しにくくなる)であろうことが当業者に自明であるから,上記「被塗布体との接着性向上のため」とは,「回路等の形成過程における被塗布体であるキャリア基板とポリイミド樹脂膜との接着性(密着性)を向上させるため」ということを意味するものと解するのが自然である。
原告は,シランカップリング剤をポリイミド樹脂組成物に添加することによるポ- 17 -リイミド樹脂膜の熱膨張特性や破断伸び特性の悪化を主張するが,ポリイミド樹脂に対してシランカップリング剤を単に後添加するような場合であるならば格別,シランカップリング剤がキャリア基板又はポリイミド前駆体(ポリアミド酸)に対して化学反応を生起するような成膜時の加熱処理を行う甲1発明1のポリイミド前駆体及び有機溶剤を含む樹脂組成物において,更にシランカップリング剤を添加することにより,加熱処理後の樹脂膜が熱膨張しやすくなること及び加熱処理後の樹脂膜においてシランカップリング剤が異物として作用し破断しやすくなることを想起し得る当業者の技術常識が存するものとは認められず,当該主張は,その技術的根拠を欠くものである。
(3) 本件発明2についてア 本件発明2と甲1発明1の一致点及び相違点(ア) 一致点(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸と,(c)有機溶剤と,を含有する樹脂組成物であって,前記樹脂組成物を基板に塗布,加熱し,ポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
【化11】(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の有機基を示す。)(イ) 相違点3本件発明2では「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−- 18 -ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物と,・・・を含有し,前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して「0.2〜2質量%である」のに対して,甲1発明1では「(b)アルコキシシラン化合物」を含有すること及びその含有量につき特定されていない点(ウ) 相違点2a「ポリイミド樹脂膜を形成する工程」において,本件発明2では「シリコン基板又はガラス基板」を使用するとともに「1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜」を形成するのに対して,甲1発明1では「キャリア基板」を使用するとともに「固体の樹脂膜」の膜厚につき特定されていない点イ 検討(ア) 相違点2aについて相違点2aに係る事項は,相違点2に係る事項と同一であるから,前記(2)ウ(ア)で説示した理由と同一の理由により,相違点2aは,実質的な相違点であるとはいえないか,甲1発明1において当業者が適宜なし得ることである。
(イ) 相違点3について甲1には,甲1発明1のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物において,キャリア基板などの被塗布体との接着性向上のために,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤等のカップリング剤を添加することができることが記載され,また,その使用量がポリイミド前駆体(樹脂分)に対して,0.1質量%以上,3質量%以下が好適であることが記載されている(段落【0019】)ところ,甲1発明1のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物においても,ガラス基板又はシリコン基板などの被塗布体の表面に塗布成膜し,ポリイミド樹脂膜として他表面に回路形成を行った後,被塗布体から剥離することによりフレキシブルデバ- 19 -イス基板とするものであって,甲1発明1において,シランカップリング剤の適量の添加使用により被塗布体に対する接着性を改善するとしても,被塗布体からの剥離性につき許容される範囲内で行うことを前提とするものであるから,甲1発明1において,ガラス基板又はシリコンウエハなどの被塗布体に対する接着性向上を意図して,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤などのアルコキシシラン化合物をポリイミド前駆体(樹脂分)に対して,「0.1質量%以上,3質量%以下」なる範囲のうちの0.2〜2質量%の範囲で添加使用することは,当業者が適宜なし得ることである。
また,本件発明2で使用されるアルコキシシラン化合物のうち,3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン及び3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランは,いずれもγ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどと同様に汎用のシランカップリング剤であり,その点につき,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,本件発明2に係るいずれかのアルコキシシラン化合物を使用した場合に,他のアルコキシシラン化合物を使用した場合に比して特異な効果を奏するものとは認識することができず,本件発明2において,上記特定のアルコキシシラン化合物を使用することにより,特有の効果を奏しているものとも認められない。
したがって,相違点3は,当業者が適宜なし得ることである。
(ウ) 本件発明2の効果について本件発明2において,特定のアルコキシシラン化合物を使用することにより,特有の効果を奏しているものとも認められず,その余については,前記(2)ウ(ウ)で示した本件発明1に係る効果と同様であるから,本件発明2の効果についても,甲1発明1のものに比して,当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものということはできない。
ウ 以上から,本件発明2は,甲1発明1に基づいて,当業者が容易に発明- 20 -をすることができたものである。
(4) 本件発明3についてア 本件発明3と甲1発明1の一致点及び相違点(ア) 一致点(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸と,(c)有機溶剤と,を含有する樹脂組成物であって,前記樹脂組成物を基板に塗布,加熱し,ポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
【化11】(一般式(1)中, 1は芳香族環を有する2価の有機基を示し, 2は下記式R R (7)で表される4価の有機基を示す。)【化13】(イ) 相違点1a本件発明3では「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエ- 21 -チルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物と,・・・を含有し,前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して「0.2〜2質量%である」のに対して,甲1発明1では「(b)アルコキシシラン化合物」を含有すること及びその含有量につき特定されていない点(ウ) 相違点2b「ポリイミド樹脂膜を形成する工程」において,本件発明3では「シリコン基板又はガラス基板」を使用するとともに「1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜」を形成するのに対して,甲1発明1では「キャリア基板」を使用するとともに「固体の樹脂膜」の膜厚につき特定されていない点イ 検討(ア) 相違点2bについて相違点2bに係る事項は,相違点2に係る事項と同一であるから,前記(2)ウ(ア)で説示した理由と同一の理由により,相違点2bは,実質的な相違点であるとはいえないか,甲1発明1において当業者が適宜なし得ることである。
(イ) 相違点1aについて相違点1aに係る事項は,相違点1に係る事項と同一であるから,前記(2)ウ(イ)で説示した理由と同一の理由により,相違点1aは,甲1発明1において当業者が適宜なし得ることである。
(ウ) 本件発明3の効果について本件発明3の効果につき本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき検討しても,前記(2)ウ(ウ)で検討した本件発明1のものに比して特異な効果を奏するものとはいえないから,本件発明3の効果についても,前記(2)ウ(ウ)で説示した理由と同- 22 -一の理由により,甲1発明1のものに比して,当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものということはできない。
ウ 以上から,本件発明3は,甲1発明1に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(5) 本件発明4についてア 本件発明4と甲1発明1の一致点及び相違点(ア) 一致点(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸と,(c)有機溶剤と,を含有する樹脂組成物であって,前記樹脂組成物を基板に塗布,加熱し,ポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
【化11】(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の有機基を示す。)(イ) 相違点1b本件発明4では「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチ- 23 -ルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物と,・・・を含有し,前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜1質量%である」のに対して,甲1発明1では「(b)アルコキシシラン化合物」を含有すること及びその含有量につき特定されていない点(ウ) 相違点2c「ポリイミド樹脂膜を形成する工程」において,本件発明4では「シリコン基板又はガラス基板」を使用するとともに「1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜」を形成するのに対して,甲1発明1では「キャリア基板」を使用するとともに「固体の樹脂膜」の膜厚につき特定されていない点イ 検討(ア) 相違点2cについて相違点2cに係る事項は,相違点2に係る事項と同一であるから,前記(2)ウ(ア)で説示した理由と同一の理由により,相違点2cは,実質的な相違点であるとはいえないか,甲1発明1において当業者が適宜なし得ることである。
(イ) 相違点1bについて相違点1bに係る事項は,相違点1に係る事項と同一であるから,前記(2)ウ(イ)で説示した理由と同一の理由により,相違点1bは,甲1発明1において当業者が適宜なし得ることである。
(ウ) 本件発明4の効果について本件発明4の効果につき本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき検討しても,前記(2)ウ(ウ)で検討した本件発明1のものに比して特異な効果を奏するものとはいえないから,本件発明4の効果についても,前記(2)ウ(ウ)で説示した理由と同一の理由により,甲1発明1のものに比して,当業者が予期し得ない程度の格別顕- 24 -著なものということはできない。
ウ 以上から,本件発明4は,甲1発明1に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(6) 本件発明6についてア 本件発明6と甲1発明1の一致点及び相違点について(ア) 一致点(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸と,(c)有機溶剤と,を含有する樹脂組成物であって,前記樹脂組成物を基板に塗布,加熱し,ポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
【化11】(一般式(1)中,R1は下記式(3)で表される2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の有機基を示す。)【化16】(イ) 相違点1c本件発明6では「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシ- 25 -プロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物と,・・を含有し,前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して「0.2〜2質量%である」のに対して,甲1発明1では「(b)アルコキシシラン化合物」を含有すること及びその含有量につき特定されていない点(ウ) 相違点2d「ポリイミド樹脂膜を形成する工程」において,本件発明6では「シリコン基板又はガラス基板」を使用するとともに「1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜」を形成するのに対して,甲1発明1では「キャリア基板」を使用するとともに「固体の樹脂膜」の膜厚につき特定されていない点イ 検討(ア) 相違点2dについて相違点2dに係る事項は,相違点2に係る事項と同一であるから,前記(2)ウ(ア)で説示した理由と同一の理由により,相違点2dは,実質的な相違点であるとはいえないか,甲1発明1において当業者が適宜なし得ることである。
(イ) 相違点1cについて相違点1cに係る事項は,相違点1に係る事項と同一であるから,前記(2)ウ(イ)で説示した理由と同一の理由により,相違点1cは,甲1発明1において当業者が適宜なし得ることである。
(ウ) 本件発明6の効果について- 26 -本件発明6の効果につき本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき検討しても,前記(2)ウ(ウ)で検討した本件発明1のものに比して特異な効果を奏するものとはいえないから,本件発明6の効果についても,前記(2)ウ(ウ)で説示した理由と同一の理由により,甲1発明1のものに比して,当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものということはできない。
ウ 以上から,本件発明6は,甲1発明1に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(7) 本件発明17についてア 本件発明17と甲1発明1の一致点及び相違点(ア) 一致点(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸と,(c)有機溶剤と,を含有する樹脂組成物であって,前記樹脂組成物を基板に塗布,加熱し,ポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
【化11】(一般式(1)中,R1は下記式(3)で表される2価の有機基を示し,R2は下記式(7)で表される4価の有機基を示す。)【化18】- 27 -(イ) 相違点1d本件発明17では「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物と,・・・を含有し,前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して「0.2〜2質量%である」のに対して,甲1発明1では「(b)アルコキシシラン化合物」を含有すること及びその含有量につき特定されていない点(ウ) 相違点2e「ポリイミド樹脂膜を形成する工程」において,本件発明17では「シリコン基板又はガラス基板」を使用するとともに「1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜」を形成するのに対して,甲1発明1では「キャリア基板」を使用するとともに「固体の樹脂膜」の膜厚につき特定されていない点イ 検討(ア) 相違点2eについて相違点2eに係る事項は,相違点2に係る事項と同一であるから,前記(2)ウ(ア)で説示した理由と同一の理由により,相違点2eは,実質的な相違点であるとはい- 28 -えないか,甲1発明1において当業者が適宜なし得ることである。
(イ) 相違点1dについて相違点1dに係る事項は,相違点1に係る事項と同一であるから,前記(2)ウ(イ)で説示した理由と同一の理由により,相違点1dは,甲1発明1において当業者が適宜なし得ることである。
(ウ) 本件発明17の効果について本件発明17の効果につき本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき検討しても,前記(2)ウ(ウ)検討した本件発明1のものに比して特異な効果を奏するものとはいえないから,本件発明17の効果についても,前記(2)ウ(ウ)で説示した理由と同一の理由により,甲1発明1のものに比して,当業者が予期し得ない程度の格別顕著なものということはできない。
ウ 以上によると,本件発明17は,甲1発明1に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(8) 本件発明7,9,11,13,15及び18についてア 本件発明1を引用する本件発明7,本件発明2を引用する本件発明9,本件発明3を引用する本件発明11,本件発明4を引用する本件発明13,本件発明6を引用する本件発明15及び本件発明17を引用する本件発明18と甲1発明2とをそれぞれ対比すると,本件発明7,9,11,13,15及び18と甲1発明2とは,下記の点でのみ相違し,その余で一致しているものと認められる。
相違点4「樹脂組成物」につき,本件発明7では「請求項1に記載された樹脂組成物」,本件発明9では「請求項2に記載された樹脂組成物」,本件発明11では「請求項3に記載された樹脂組成物」 本件発明13では, 「請求項4に記載された樹脂組成物」,本件発明15では「請求項6に記載された樹脂組成物」及び本件発明18では「請求項17に記載された樹脂組成物」であるのに対して,甲1発明2では「甲1発明1のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物」である点- 29 -イ 検討本件発明1〜4,6及び17は,前記(2)〜(7)でそれぞれ説示した理由により,甲1発明1に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,相違点4についても,甲1発明2において,当業者が適宜なし得ることである。
ウ 以上から,本件発明7,9,11,13,15及び18は,いずれも,甲1発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
(9) 本件発明8,10,12,14,16及び19についてア 本件発明7を引用する本件発明8,本件発明9を引用する本件発明10,本件発明11を引用する本件発明12,本件発明13を引用する本件発明14,本件発明15を引用する本件発明16及び本件発明18を引用する本件発明19と甲1発明3とをそれぞれ対比すると,本件発明8,10,12,14,16及び19と甲1発明3とは,下記の点でのみ相違し,その余で一致しているものと認められる。
相違点5本件発明8では「請求項7に記載のポリイミド樹脂膜」,本件発明10では「請求項9に記載のポリイミド樹脂膜」,本件発明12では「請求項11に記載のポリイミド樹脂膜」,本件発明14では「請求項13に記載のポリイミド樹脂膜」,本件発明16では「請求項15に記載のポリイミド樹脂膜」及び本件発明19では「請求項18に記載のポリイミド樹脂膜」であるのに対して,甲1発明3では「甲1発明2の固体状のポリイミド樹脂膜」である点イ 検討本件発明7,9,11,13,15及び18は,いずれも,前記(8)でそれぞれ説示した理由により,甲1発明2に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同様に,相違点5についても,甲1発明3において,当業者が適宜なし得ることである。
ウ 以上から,本件発明8,10,12,14,16及び19は,いずれも,- 30 -甲1発明3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。
第3 原告が主張する審決取消事由1 取消事由1−1(本件発明1について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1) ポリアミド酸の構造の相違についてア 本件決定は,本件発明1と甲1発明1の対比において,ポリアミド酸の構造の相違を看過している。
すなわち,本件発明1におけるポリアミド酸は,下記の一般式(1)(以下,「本件一般式(1)」という。)で表される構造単位を有するものであり,当該構造単位では,4価の有機基R2に二のカルボキシル基(−COOH)が結合し,かつ,R1及びR2が芳香族環を有する有機基である。
「(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の有機基を示す。」)一方,甲1発明1を構成するポリイミド前駆体は,下記の一般式(1)(以下,「甲1一般式(1)」という。)で表される構造を有する。
「(一般式(1)中,Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し,・・・R2はから選択される四価の有機基であり,・・・」- 31 -甲1一般式(1)に表されるように,甲1発明1におけるポリアミド酸では,4価の有機基R2に二の「−COOR」が結合しているが,二の「−COOR」の両方がカルボキシル基(−COOH)である構造に特定されていない。また,4価の有機基R2は芳香族環を有するものに特定されていないし,その選択肢のうちの二つは,芳香族環を有するものではない。
少なくとも,甲1発明1では,ポリイミド前駆体の構造単位が,4価の有機基R2 に結合した二のカルボキシル基(−COOH)と,芳香族環を有する4価の有機基R2との組み合わせを含むものに特定されていない。
イ 被告は,甲1には,甲1発明1式(1)において,R 2として4価の芳香族基を有し,Rとして水素原子を有する構造を有するポリイミド前駆体であるポリアミド酸が具体的に記載されているものといえ,本件発明1における「二のカルボキシル基を有する・・・ポリアミド酸」と実質的に相違するものではないと主張する。
しかし,本件決定で認定されているのは,あくまで甲1発明1であり,甲1一般式(1)に上記のポリイミド前駆体であるポリアミド酸も記載されているか否かは,本件発明1と甲1発明1とが相違するか否かとは関係がない。被告は,本件発明1と甲1発明1とを対比せずに,別の発明とを対比しており,失当である。
(2) 本件発明の技術的意義ア 本件発明が解決する技術的な課題は,「良好な機械特性及び耐熱性」を有するのと同時に,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離すること」が可能なポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供することであり(段落【0007】),本件発明における「良好な剥離性」とは,「支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能」なことをいい,「十分な密着性」とは,「良好な剥離性」を損なわない範囲での「十分な密着性」のことをいう。
イ 本件特許の発明の詳細な説明によると,ポリイミド前駆体溶液自体から- 32 -得られるポリイミド樹脂膜には,機械特性及び耐熱性があるが密着性はなく,また,ポリイミド前駆体及びそれに対しアルコキシシラン化合物を2質量%より多く含有する溶液から得られるポリイミド樹脂膜は,機械特性,耐熱性及び剥離性に劣るものである。そのような中で,本件発明は,発明者が,「従来の使用方法に反し,(a)ポリイミド前駆体に,シランカップリング剤の中でも特定の(b)アルコキシシラン化合物を少量配合することで,適度な密着強度を発現することを見出し」(段落【0008】)て完成されたものである。
本件優先日当時の技術水準として,単に接着性が向上したポリイミド樹脂膜を得るだけであれば,当業者は,各種のカップリング剤を配合する方法のほか,例えば,「無機層(支持体)とプラスチック基板であるポリイミド層との間にシランカップリング層を設ける」(本件明細書の段落【0006】),モノカルボン酸化合物の添加(甲23,1頁【要約】),有機ジルコニウム化合物の添加(甲24,1頁【要約】 のような種々の手法を選択することが可能であった。
) しかし,本件発明では,単に接着性向上のためではなく,「良好な機械特性及び耐熱性」を有するのと同時に,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離すること」が可能なポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供するという課題を解決するために,二のカルボキシル基を有する本件一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸に,「3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン・・・からなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を上記のポリアミド酸に対して「0.2〜2質量%」の含有量で組み合わせることによって,上記の課題を同時に解決したものであり(段落【0014】,【0026】),両者は一体不可分の技術的手段である。
ウ(ア) 被告は,TFTを形成する際等に必要な耐熱性及び寸法安定性(並びにディスプレイ基板として適当な機械的特性)は,パリレンを含むプラスチック層で達成されているとともに,ポリイミド層でも達成されていると主張する。
しかし,本件特許の発明の詳細な説明の段落【0004】及び【0006】には,- 33 -そのような記載はなく,かえって,これらの段落には,パリレンを含むプラスチック層の形成はプロセスが煩雑であるという問題があり,「プラスチック基板をレーザーにより剥離する必要があったため,エキシマレーザー装置などが必要であった」ので,「無機層(支持体)とプラスチック基板であるポリイミド層との間にシランカップリング層を設ける方法が提案され」,その「方法では,剥離工程においてレーザーを必要とせず,物理的に支持体からポリイミド樹脂膜を剥離する」ことが記載されている。
(イ) 被告は,本件発明1記載のアルコキシシラン化合物の含有量が2質量%を超える多量に使用すると,ポリイミド前駆体量の相対的な減少により,耐熱性及び機械特性に優れるとの効果が低下する傾向にあることをいうものと理解するのが自然であると主張する。
しかし,本件特許明細書の記載からは,本件発明1記載のアルコキシシラン化合物を使用することで,耐熱性及び機械特性が低下する傾向にあることは読み取れないし,被告の同主張の当否は,本件発明が所期の目的(段落【0007】)を達成し,所期の効果(段落【0011】)を奏していることとは全く関係がない。
(3) 以上によると,本件発明1と甲1発明1の正しい一致点及び相違点は次のとおりとなる。
ア 一致点(a)ポリアミド酸と,(c)有機溶剤と,を含有する樹脂組成物であって,前記樹脂組成物を基板に塗布,加熱し,ポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
イ 相違点1’本件発明1では,(a)二のカルボキシル基を有する「一般式(1)で表される構造単位(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R2は芳香- 34 -族環を有する4価の基を示す)を有するポリアミド酸」に,(b)3−ウレイドプ「ロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を組み合わせ,その上で「前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜2質量%である」としているのに対して,甲1発明1では,ポリイミド前駆体の構造単位が,4価の有機基R2に結合した二のカルボキシル基(−COOH)と,芳香族環を有する4価の有機基R2との組み合わせを含むものに特定されておらず,さらに「(b)アルコキシシラン化合物」を含有すること及びその含有量につき特定されていない点ウ 相違点2「ポリイミド樹脂膜を形成する工程」において,本件発明1では「シリコン基板又はガラス基板」を使用するとともに「1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜」を形成するのに対して,甲1発明1では「キャリア基板」を使用するとともに「固体の樹脂膜」の膜厚につき特定されていない点(4) 以上のとおり,本件発明1と甲1発明1の一致点及び相違点に関する本件決定の認定には誤りがある。
2 取消事由1−2(本件発明1について:相違点の判断の誤り)(1) 相違点1’についてア 本件発明1は,「良好な機械特性及び耐熱性」を有するのと同時に,「支- 35 -持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離すること」が可能なポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供するという課題を解決するものである。
これに対し,甲1には,シランカップリング剤の作用として「被塗布体との接着性向上」が言及されているにすぎない(段落【0019】)。また,当該シランカップリング剤も添加剤の一種であるが,添加剤がポリイミドの熱的及び機械的特性に影響する(低下させる)のは当業者の技術常識である(甲30〔山田保治他「添加剤によるポリイミドの低誘電率化」高分子論文集 Vol.54,No.9,pp.537-543,1997年9月〕)。
甲1には,「ポリイミド樹脂膜は,高い靭性を有するので,キャリア基板(支持体)と単に物理的に剥離することも可能」(段落【0022】)とされているが,添加剤である当該シランカップリング剤は,被塗布体との接着性を向上させる一方,技術常識(甲30)を有する当業者には「靭性」を低下させるものと推論されるので,当業者は,甲1発明1にカップリング剤を添加すると,「耐熱性,低熱膨張,靭性に優れ,きれいに剥離できる」というポリイミド膜の物性は維持されない(低下する)と推論する。
そうすると,甲1一般式(1)で表される構造を有するポリイミド前駆体のうち,特にRが水素原子,R2が芳香族環を有する4価の有機基であるものを採用した場合において,「良好な機械特性及び耐熱性」を有するのと同時に,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離すること」が可能なポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供しようとする当業者が,甲1の段落【0019】に記載されたシランカップリング剤に着目することはない。
また,当該カップリング剤に着目し得たとしても,甲1には,単にカップリング剤が列挙されているだけで,耐熱性,低熱膨張,靭性に優れ,きれいに剥離できるというポリイミド樹脂膜の物性が維持され,さらに,被塗布体との接着性を向上させるカップリング剤がどれであるのか,その質量%がどのくらいの範囲にあればこ- 36 -れらの特性が同時に両立できるのかについて全く記載がないのであるから,当業者には,好適なシランカップリング剤の採用やその添加量の設定を行う動機も全くない。
被告は,甲2(特公平6−51803号公報)及び甲3(特開2005−68347号公報)に基づいて,「添加剤が一般に(ポリイミドの)熱的及び機械的特性を低下させることが技術常識である」とはいえないと主張する。
しかし,添加剤が「一つ又はそれ以上の性質を改良又は改質するために重合体に添加するいずれかの物質 狭義では,用語の添加剤は少量添加する成分のみを含む」(甲31)ものであり,「ブロッキング防止剤,消泡剤,着色剤,カップリング剤,硬化剤,難燃剤,熱安定化剤,表面滑剤,滑剤,離型剤,芳香剤,可塑剤,紫外線安定化剤,ウレタン触媒,そして粘度調節剤など」(甲32)であって,「物性を改善するためあるいはコスト低減のためにポリマーシステムに添加する固体として分類」(甲32)され,「強さ,耐久性,作業特性又はその他の性質を改質するため,又は価格を引き下げるためにプラスチックに加える比較的不活性な固体材料」(甲31)である「充てん材」とは異なるものであることは,本件優先日当時,当業者の技術常識である。
しかも,甲2及び甲3並びに甲4(特表2011−514266号公報),甲5(特開2011−225675号公報)及び甲6(特開2011−46918号公報)を参照しても,フレキシブルデバイス基板それ自体に用いるポリイミドに充てん材を添加することが当業界において通常行われていたようにはみえない。
そうすると,甲1の記載に接した当業者は,甲1でいう「添加剤」とは,「少量添加する」「一つ又はそれ以上の性質を改良又は改質するために重合体に添加するいずれかの物質」であり,充てん材とは異なるものであると理解する。
そして,甲2に記載された金属酸化物及び甲3に記載された最大粒径が100nm以下のシリカは,甲1でいう「添加剤」ではない。
かえって,甲30には,添加剤の増加に伴ってポリイミドの平均分子量が低下す- 37 -ることや添加剤分子の構造(剛直性)に起因して,添加剤がポリイミドの熱的,機械的特性を低下させていることが記載されており,甲32に挙げられた添加剤は総じてポリイミドと比べて耐熱性及び剛直性の小さい有機物が主であるので,甲30からは,添加剤が一般にポリイミドの熱的及び機械的特性を低下させることが技術常識であることは十分にうかがわれる。
イ 本件決定が認定する相違点1が存在するとしても,上記アと同様の理由により,当業者が適宜なし得たこととはいえない。
(2) 相違点2についてア 本件発明1でいう「1〜50μmの膜厚を有するポリイミド膜」と甲1発明1の固体状の樹脂膜は,そもそも樹脂組成物の組成自体が相違している(相違点1’)以上,当然相違する。
イ 甲1発明1の被塗布体である「キャリア基板」は,「自立性を持つ硬質なものであって,耐熱性があれば良い。つまり製造工程上必要とされる高温にさらされても変形しない素材を用いていれば良い。」(段落【0021】)というものであるが,上位概念である甲1発明の「キャリア基板」は,本件発明1でいう下位概念の「シリコン基板又はガラス基板」には当然相当しない。
また,添加剤がポリイミドの熱的特性に影響する(低下させる)のは当業者の技術常識である(甲30)から,当業者は,甲1に添加することができるとされた添加剤の一つであるシランカップリング剤もポリイミド樹脂のフィルムの熱膨張率に影響すると当然推論する。
しかし,甲1には,甲1一般式(1)で表される構造を有するポリイミド前駆体のうち,特にRが水素原子, 2が芳香族環を有する4価の有機基であるものを採用Rし,シランカップリング剤を添加した場合の被塗布体である「キャリア基板」として「シリコン基板又はガラス基板」を採用することは記載されておらず,この場合に,被塗布体である「キャリア基板」として「シリコン基板又はガラス基板」を使用することが本件優先日当時,当業者に知られていたこともうかがわれない。
- 38 -ウ 甲1には,ポリイミド樹脂膜の厚さについて,「1〜20μmであることが望ましい。これは,厚さが1μmに満たない場合にポリイミドフィルムが十分な耐性を保持できず」(段落【0020】)と記載されているが,添加剤がポリイミドの機械的特性に影響する(低下させる)のは当業者の技術常識である(甲30)から,当業者は,甲1に添加することができるとされた添加剤の一つであるシランカップリング剤もポリイミド樹脂のフィルムの耐性に影響すると当然推論する。
しかし,甲1には,甲1一般式(1)で表される構造を有するポリイミド前駆体のうち,特にRが水素原子, 2が芳香族環を有する4価の有機基であるものを採用Rし,シランカップリング剤を添加した場合のポリイミドフィルムの膜厚は記載されておらず,この場合の当該膜厚が本件優先日当時,当業者に知られていたこともうかがわれない。
そうすると,被塗布体であるキャリア基板として「シリコン基板又はガラス基板」を用い,ポリイミド樹脂膜の厚さを1〜50μmとすることは,当業者が想到し得ないことである。
エ 被告は,甲1の段落【0021】【0020】【0032】の記載を摘記して,甲1の「ガラス基板」と本件発明1における「基板」とが相違するものと解することはできず,甲1に記載されたポリイミド樹脂膜の膜厚が,本件発明1のポリイミド樹脂膜の膜厚と相違するものとも解することはできないと主張するが,この主張の当否は,本件発明1と「液状の樹脂組成物をキャリア基板上に塗布製膜して・・・前記キャリア基板から剥離する工程,・・・樹脂組成物。」と本件決定で認定された甲1発明1との相違点2が本件優先日当時,当業者に容易想到であったか否かとは関係がない。ここでも被告は,本件発明1と甲1発明1とを対比せずに,それとは別の発明とを対比している。
(3) 本件発明の効果についてア 本件発明1と甲1発明1の効果を比較すると,本件発明の効果(本件明細書の段落【0011】)は,少なくとも「支持体と十分な密着性を有」するとい- 39 -う点で,甲1発明1の効果(甲1の段落【0009】)よりも顕著に優れている。
イ 甲1には,「被塗布体との接着性向上のため,シランカップリング剤,チタンカップリング剤等のカップリング剤を添加することができる」(段落【0019】)とあるものの,添加剤がポリイミドの熱的及び機械的特性に影響する(低下させる)のは当業者の技術常識である(甲30)から,仮に,添加剤の一つであるシランカップリング剤を添加し得たならば,当業者は,甲1発明1のポリイミド樹脂膜の熱的及び機械的特性(熱膨張率,破断点応力,弾性率,伸び)は低下すると予測する。
また,ポリイミド樹脂膜をキャリア基板(支持体)から単に物理的に剥離することを可能とするのは「高い靭性」であるから(甲1の段落【0022】),仮に,添加剤の一つであるシランカップリング剤を添加し得たならば,技術常識(甲30)を有する当業者は,甲1発明1のポリイミド樹脂膜の靭性は低下し,単に物理的に剥離するのがより困難になると予測する。
これに対し,本件一般式(1)を有するポリアミド酸と,特定のアルコキシシラン化合物とを組み合わせ,アルコキシシラン化合物の含有量を「0.2〜2質量%」とした構成を含む本件発明1は,支持体と十分な密着性を有するばかりでなく,当業者の予測に反し,「支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)」であり,さらに「機械特性及び耐熱性に優れ」ているのである。「支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)」であるとの点は,甲1発明に対して技術的優位性を有する事項である。したがって,本件発明1の効果は甲1の記載から予測し得るものではない。
甲1には,甲1発明1の課題を解決し,所期の効果を奏し,さらに被塗布体との密着性を向上させるカップリング剤がどれであるのか,その質量%がどのくらいの範囲にあればこれらの特性が同時に両立できるのかについて全く記載がない。
(4) 本件決定の判断について- 40 -ア 本件決定は,本件発明における「密着性」と「剥離性」とは独立した物性ではなく,相互に関連し,少なくとも相反する傾向を示す又は負の相関関係を有する物性であると解するのが自然であるとしている。
しかし,本件発明の課題ないし効果の一つは,「支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)」(段落【0007】,【0011】)というものであり,本件発明における「良好な剥離性」とは「支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能」なことをいい,「十分な密着性」とは,「良好な剥離性」を損なわない範囲での「十分な密着性」のことであるから,「密着性」自体と「剥離性」自体とが「独立した物性ではなく,相互に関連し,少なくとも相反する傾向を示す又は負の相関関係を有する物性である」か否かを論じる意味は全くない。
イ 本件決定では,「被塗布体との接着性向上のため」とは,「回路等の形成過程における被塗布体であるキャリア基板とポリイミド膜との接着性(密着性)を向上させるため」ということを意味するものと解するのが自然であるとしている。
しかし,添加剤がポリイミドの熱的及び機械的特性に影響する(低下させる)のは当業者の技術常識であって(甲30),シランカップリング剤の添加によって,「被塗布体との接着性」が「向上」されて高すぎるものとなると同時に,密着性及び物理的剥離にも影響を与えるポリイミド膜の耐熱性及び機械的特性は低下することが当業者に自明であるから,「被塗布体との接着性向上のため」とは,「回路等の形成過程における被塗布体であるキャリア基板とポリイミド膜との接着性(密着性)を向上させるため」ということを意味するものと解することはできない。
したがって,本件決定の判断には誤りがある。
ウ 本件決定は,「シランカップリング剤を添加することにより,加熱処理後の樹脂膜が熱膨張しやすくなること及び加熱処理後の樹脂膜においてシランカップリング剤が異物として作用し破断しやすくなることを想起し得る当業者の技術常- 41 -識が存するものとは認められず」としているが,構成の容易想到性に関しては審判合議体が立証責任を負うところ,本件決定には,「更にシランカップリング剤を添加することにより,加熱処理後の樹脂膜が熱膨張」しないし,「加熱処理後の樹脂膜においてシランカップリング剤が異物として作用」せず「破断」もしないと当業者が推論する根拠となる「当業者の技術常識」は全く示されていない。
そして,「更にシランカップリング剤を添加することにより,加熱処理後の樹脂膜が熱膨張しやすくなること及び加熱処理後の樹脂膜においてシランカップリング剤が異物として作用し破断しやすくなることを想起し得る当業者の技術常識」として,「添加剤がポリイミドの熱的及び機械的特性に影響する(低下させる)」という技術常識(甲30)が存在するから,本件決定の認定には誤りがある。
(5) 以上のとおり,本件発明1が甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件決定の判断は誤りである。
3 取消事由2−1(本件発明2について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1) 本件決定は,本件発明2と甲1発明1の対比において,前記1(1)と同一の理由から,ポリアミド酸の構造の相違を看過している。
(2) 本件発明2と甲1発明1の正しい一致点及び相違点は次のとおりである。
ア 一致点(a)ポリアミド酸と,(c)有機溶剤と,を含有する樹脂組成物であって,前記樹脂組成物を基板に塗布,加熱し,ポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
イ 相違点3’本件発明2では,「(a)一般式(1)で表される構造単位(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の基を示す)を有する)ポリアミド酸」に,「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシ- 42 -ラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン及びフェニルトリメトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を組み合わせ,その上で「前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜2質量%である」としているのに対して,甲1発明1では,ポリイミド前駆体の構造単位が,4価の有機基R2に結合した二のカルボキシル基(−COOH)と,芳香族環を有する4価の有機基R2との組み合わせを含むものに特定されておらず,さらに「(b)アルコキシシラン化合物」を含有すること及びその含有量につき特定されていない点ウ 相違点2a「ポリイミド樹脂膜を形成する工程」において,本件発明2では「シリコン基板又はガラス基板」を使用するとともに「1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜」を形成するのに対して,甲1発明1では「キャリア基板」を使用するとともに「固体の樹脂膜」の膜厚につき特定されていない点(3) 以上のとおり,本件発明2と甲1発明1の一致点及び相違点に関する本件決定の認定には誤りがある。
4 取消事由2−2(本件発明2について:相違点の判断の誤り)(1) 相違点3’についてア 相違点1’に関して前記2(1)で述べたところは,相違点3’についてもいうことができるが,さらに,甲1には,シランカップリング剤として,「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,・・・選択される1以上のアルコキシシラン化合物」自体記載されておらず,その示唆もない。
また,甲2〜6を参照しても,甲1一般式(1)で表される構造を有するポリイミド前駆体のうち,特にRが水素原子, 2が芳香族環を有する4価の有機基であるRものを採用した場合において,「良好な機械特性及び耐熱性」を有するのと同時に,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離すること」が可能なポリイミド樹脂膜を形成するために,本件発明2記載のアルコキシシラン- 43 -化合物を使用することが,本件優先日当時,当業者に知られていたことはうかがわれないし,甲1に記載されたカップリング剤に求められている機能,作用と,甲2〜6に記載された「3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,・・・フェニルトリメトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」の機能,作用とは異なっている。
したがって,甲1発明1に,甲1の段落【0019】に列挙されたシランカップリング剤ではなく,「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,・・・フェニルトリメトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を添加する動機付けはない。
イ 本件決定が認定する相違点1が存在するとしても,上記アと同様の理由により,当業者が適宜なし得たこととはいえない。
(2) 相違点2aについて前記2(2)のとおり,被塗布体であるキャリア基板として「シリコン基板又はガラス基板」を用い,ポリイミド樹脂膜の厚さを1〜50μmとすることは,当業者が想到し得ないことである。
(3) 本件発明2の効果について前記2(3)のとおり,本件発明2は,「TFTなどの半導体素子を形成する際に,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)なポリイミド樹脂膜(プラスチック基板)を形成することが可能な樹脂組成物」であって,「半導体素子を形成する際に,高温に曝されても,熱膨張が小さいポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供することができる」(段落【0011】)し,本件発明の「樹脂組成物を用いたポリイミド樹脂膜は,機械特性及び耐熱性に優れ」(段落【0011】)ているという顕著な効果を奏するものである。
そして,前記2(3)と同一の理由から,本件発明2の効果は甲1の記載から予測し得るものではない。
- 44 -被告は,他のアルコキシシラン化合物を使用した場合に比して本件発明2の特定のアルコキシシラン化合物を使用することにより,特有の効果を奏することが確認できないと主張するが,本件発明2の効果と対比すべきはあくまで甲1発明1の効果であるから,被告の上記主張は,本件発明2が甲1発明1と比較して顕著で予測し得ない効果を奏しているか否かとは関係がない。
(4) 以上のとおり,本件発明2が甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件決定の判断は誤りである。
5 取消事由3−1(本件発明3について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1) 本件決定は,本件発明3と甲1発明1の対比において,ポリアミド酸の構造の相違を看過している。甲1一般式(1)において,R2は本件発明3における式(7)で表される4価の有機基には特定されていない。また,二の「−COOR」の両方がカルボキシル基(−COOH)である構造も特定されていない。少なくとも,甲1発明1では,ポリイミド前駆体の構造単位が,4価の有機基R2に結合した二のカルボキシル基(−COOH)と,本件発明3の式(7)で表される4価の有機基R2との組み合わせを含むものに特定されていない。
そして,本件発明3における,「一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸」に,「3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン・・・からなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を上記のポリアミド酸に対して「0.2〜2質量%」の含有量で組み合わせることは,一体不可分の技術的手段である。
被告は,甲1には,甲1発明1式(1)において,R2として4価の芳香族基を有し,Rとして水素原子を有する構造を有するポリイミド前駆体であるポリアミド酸が具体的に記載されているものといえ,本件発明3における「二のカルボキシル基を有する・・・ポリアミド酸」と実質的に相違するものではないと主張するが,本件決定で認定されているのは,あくまで甲1発明1であり,甲1発明1式(1)に上記のポリイミド前駆体であるポリアミド酸も記載されているか否かは,本件発明3と甲1発明1とが相違するか否かとは関係がない。被告は,本件発明3と甲1発- 45 -明1とを対比せずに,別の発明とを対比しており,失当である。
(2) そうすると,本件発明3と甲1発明1の正しい一致点及び相違点は,次のとおりとなる。
ア 一致点(a)ポリアミド酸と,(c)有機溶剤と,を含有する樹脂組成物であって,前記樹脂組成物を基板に塗布,加熱し,ポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
イ 相違点1a’本件発明3では,「(a)二のカルボキシル基を有する一般式(1)で表される構造単位(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R2は式(7)で表される4価の基を示す)を有する)ポリアミド酸」に,「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を組み合わせ,その上で「前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜2質量%である」としているのに対して,甲1発明1では,ポリイミド前駆体の構造単位が,4価の有機基R2に結合した二のカルボキシル基(−COOH)と,本件発明3の式(7)で表される4価の有機基R2との組み合わせを含- 46 -むものに特定されておらず,さらに「(b)アルコキシシラン化合物」を含有すること及びその含有量につき特定されていない点ウ 相違点2b「ポリイミド樹脂膜を形成する工程」において,本件発明3では「シリコン基板又はガラス基板」を使用するとともに「1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜」を形成するのに対して,甲1発明1では「キャリア基板」を使用するとともに「固体の樹脂膜」の膜厚につき特定されていない点(3) 以上のとおり,本件発明3と甲1発明1の一致点及び相違点に関する本件決定の認定には誤りがある。
6 取消事由3−2(本件発明3について:相違点の判断の誤り)(1) 相違点1a’について前記2(1)と同一の理由から,甲1発明1において,相違点1a’に係る本件発明3の構成に想到することは,当業者が適宜なし得たこととはいえない。
本件決定が認定する相違点1aが存在するとしても,同様に,当業者が適宜なし得たこととはいえない。
(2) 相違点2bについて前記2(2)のとおり,被塗布体であるキャリア基板として「シリコン基板又はガラス基板」を用い,ポリイミド樹脂膜の厚さを1〜50μmとすることは,当業者が想到し得ないことである。
(3) 本件発明3の効果について前記2(3)のとおり,本件発明3は,「TFTなどの半導体素子を形成する際に,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)なポリイミド樹脂膜(プラスチック基板)を形成することが可能な樹脂組成物」であって,「半導体素子を形成する際に,高温に曝されても,熱膨張が小さいポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供することができる」(段落【0011】)し,本件発- 47 -明の「樹脂組成物を用いたポリイミド樹脂膜は,機械特性及び耐熱性に優れ」(段落【0011】)ているという顕著な効果を奏するものである。
そして,前記2(3)と同一の理由から,本件発明3の効果は甲1の記載から予測し得るものではない。
(4) 以上のとおり,本件発明3が甲1発明1に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件決定の判断は誤りである。
7 取消事由4−1(本件発明4について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1) 本件決定は,本件発明4と甲1発明1の対比において,前記2(1)と同一の理由から,ポリアミド酸の構造の相違を看過している。
(2) 本件発明4と甲1発明1の正しい一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 一致点(a)ポリアミド酸と,(c)有機溶剤と,を含有する樹脂組成物であって,前記樹脂組成物を基板に塗布,加熱し,ポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
イ 相違点1b’本件発明4では,「(a)二のカルボキシル基を有する一般式(1)で表される構造単位(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の基を示す)を有する)ポリアミド酸」に,「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミ- 48 -ノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を組み合わせ,その上で「前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜1質量%である」としているのに対して,甲1発明1では,ポリイミド前駆体の構造単位が,4価の有機基R2に結合した二のカルボキシル基(−COOH) 芳香族環を有する4価の有機基R2との組み合わせを含むものに特定されと,ておらず,さらに「(b)アルコキシシラン化合物」を含有すること及びその含有量につき特定されていない点ウ 相違点2c「ポリイミド樹脂膜を形成する工程」において,本件発明4では「シリコン基板又はガラス基板」を使用するとともに「1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜」を形成するのに対して,甲1発明1では「キャリア基板」を使用するとともに「固体の樹脂膜」の膜厚につき特定されていない点(3) 以上のとおり,本件発明4と甲1発明1の一致点及び相違点に関する本件決定の認定には誤りがある。
8 取消事由4−2(本件発明4について:相違点の判断の誤り)(1) 相違点1b’について前記2(1)と,アルコキシシラン化合物を「0.2〜1質量%」に置き換えること以外は同一の理由から,甲1発明1において,相違点1b’に係る本件発明4の構成に想到することは,当業者が適宜なし得たこととはいえない。
本件決定が認定する相違点1bが存在するとしても,同様に,当業者が適宜なし得たこととはいえない。
(2) 相違点2cについて前記2(2)のとおり,被塗布体であるキャリア基板として「シリコン基板又はガラ- 49 -ス基板」を用い,ポリイミド樹脂膜の厚さを1〜50μmとすることは,当業者が想到し得ないことである。
(3) 本件発明4の効果について前記2(3)のとおり,本件発明4は,「TFTなどの半導体素子を形成する際に,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)なポリイミド樹脂膜(プラスチック基板)を形成することが可能な樹脂組成物」であって,「半導体素子を形成する際に,高温に曝されても,熱膨張が小さいポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供することができる」(段落【0011】)し,本件発明の「樹脂組成物を用いたポリイミド樹脂膜は,機械特性及び耐熱性に優れ」(段落【0011】)ているという顕著な効果を奏するものである。
そして,前記2(3)と同一の理由から,本件発明4の効果は甲1の記載から予測し得るものではない。
(4) 以上のとおり,本件発明4が,甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件決定の判断は誤りである。
9 取消事由5−1(本件発明6について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1)ア 本件決定は,本件発明6と甲1発明1の対比において,ポリアミド酸の構造の相違を看過している。甲1一般式(1)において,R1は本件発明6における式(3)で表される4価の有機基には特定されていない。また,二の「−COOR」の両方がカルボキシル基(−COOH)である構造も特定されていない。少なくとも,甲1発明1では,ポリイミド前駆体の構造単位が,本件発明6の式(3)で表される2価の有機基R1と,4価の有機基R2に結合した二のカルボキシル基(−COOH)との組み合わせを含むものに特定されていない。
そして,本件発明6における,「(a)二のカルボキシル基を有する一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸」に,「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン・・・からなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合- 50 -物」を上記のポリアミド酸に対して「0.2〜2質量%」の含有量で組み合わせることは,一体不可分の技術的手段である。
また,本件決定は本件発明6における(a)成分の重量平均分子量の点も看過している。
イ 被告は,甲1には,甲1発明1式(1)において,R2として4価の芳香族基を有し,Rとして水素原子を有する構造を有するポリイミド前駆体であるポリアミド酸が具体的に記載されているものといえ,本件発明6における「二のカルボキシル基を有する・・・ポリアミド酸」と実質的に相違するものではないと主張するが,本件決定で認定されているのは,あくまで甲1発明1であり,甲1発明1式(1)に上記のポリイミド前駆体であるポリアミド酸も記載されているか否かは,本件発明6と甲1発明1とが相違するか否かとは関係がない。被告は,本件発明6と甲1発明1とを対比せずに,別の発明とを対比しており,失当である。
(2) そうすると,本件発明6と甲1発明1の正しい一致点及び相違点は次のとおりとなる。
ア 一致点(a)ポリアミド酸と,(c)有機溶剤と,を含有し,(a)成分の重量平均分子量が15,000〜200,000である樹脂組成物であって,前記樹脂組成物を基板に塗布,加熱し,ポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
イ 相違点1c’本件発明6では,「(a)二のカルボキシル基を有する一般式(1)で表される構造単位(一般式(1)中,R1は式(3)で表される2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の基を示す)を有する)ポリアミド酸」に,「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノ- 51 -プロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を組み合わせ,その上で「前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜2質量%である」としているのに対して,甲1発明1では,ポリイミド前駆体の構造単位が,本件発明6の式(3)で表される2価の有機基R1と,4価の有機基R2に結合した二のカルボキシル基(−COOH)との組み合わせを含むものに特定されておらず,さらに「(b)アルコキシシラン化合物」を含有すること及びその含有量につき特定されていない点ウ 相違点2d「ポリイミド樹脂膜を形成する工程」において,本件発明6では「シリコン基板又はガラス基板」を使用するとともに「1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜」を形成するのに対して,甲1発明1では「キャリア基板」を使用するとともに「固体の樹脂膜」の膜厚につき特定されていない点(3) 以上のとおり,本件発明6と甲1発明1の一致点及び相違点に関する本件決定の認定には誤りがある。
10 取消事由5−2(本件発明6について:相違点の判断の誤り)(1) 相違点1c’について前記2(1)と同一の理由から,甲1発明1において,相違点1c’に係る本件発明6の構成に想到することは,当業者が適宜なし得たこととはいえない。
本件決定が認定する相違点1cが存在するとしても,同様に,当業者が適宜なし- 52 -得たこととはいえない。
(2) 相違点2dについて前記2(2)のとおり,被塗布体であるキャリア基板として「シリコン基板又はガラス基板」を用い,ポリイミド樹脂膜の厚さを1〜50μmとすることは,当業者が想到し得ないことである。
(3) 本件発明6の効果について前記2(3)のとおり,本件発明6は,「TFTなどの半導体素子を形成する際に,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)なポリイミド樹脂膜(プラスチック基板)を形成することが可能な樹脂組成物」であって,「半導体素子を形成する際に,高温に曝されても,熱膨張が小さいポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供することができる」(段落【0011】)し,本件発明の「樹脂組成物を用いたポリイミド樹脂膜は,機械特性及び耐熱性に優れ」(段落【0011】)ているという顕著な効果を奏するものである。
そして,前記2(3)と同一の理由から,本件発明6の効果は甲1の記載から予測し得るものでもない。
(4) 以上のとおり,本件発明6が甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件決定の判断は誤りである。
11 取消事由6−1(本件発明17について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1)ア 本件決定は,本件発明17と甲1発明1の対比において,ポリアミド酸の構造の相違を看過している。甲1一般式(1)において,R1は本件発明17の式(3)で表される2価の有機基には特定されておらず, 2は本件発明17の式R (7)で表される4価の有機基には特定されていない。また,二の「−COOR」の両方がカルボキシル基(−COOH)である構造も特定されていない。少なくとも,甲1発明1では,ポリイミド前駆体の構造単位が,4価の有機基R2に結合した二のカルボキシル基(−COOH)と,本件発明17の式(3)で表される2価の有機基- 53 -R1と,式(7)で表される4価の有機基R2との組み合わせを含むものに特定されていない。
そして,本件発明17における,「(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸」に,「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン・・・からなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を上記のポリアミド酸に対して「0.2〜2質量%」の含有量で組み合わせることは,一体不可分の技術的手段である。
イ 被告は,甲1には,甲1発明1式(1)において,R2として4価の芳香族基を有し,Rとして水素原子を有する構造を有するポリイミド前駆体であるポリアミド酸が具体的に記載されているものといえ,本件発明6における「二のカルボキシル基を有する・・・ポリアミド酸」と実質的に相違するものではないと主張するが,本件決定で認定されているのは,あくまで甲1発明1であり,甲1発明1式(1)に上記のポリイミド前駆体であるポリアミド酸も記載されているか否かは,本件発明17と甲1発明1とが相違するか否かとは関係がない。被告は,本件発明17と甲1発明1とを対比せずに,別の発明とを対比しており,失当である。
(2) そうすると,本件発明17と甲1発明1の正しい一致点及び相違点は次のとおりとなる。
ア 一致点(a)ポリアミド酸と,(c)有機溶剤と,を含有する樹脂組成物であって,前記樹脂組成物を基板に塗布,加熱し,ポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
イ 相違点1d’本件発明6では,「(a)二のカルボキシル基を有する一般式(1)で表される構造単位(一般式(1)中,R1は式(3)で表される2価の有機基を示し,R2は- 54 -式(7)で表される4価の基を示す)を有する)ポリアミド酸」に,「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,及びγ−アミノブチルトリブトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を組み合わせ,その上で「前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜2質量%である」としているのに対して,甲1発明1では,ポリイミド前駆体の構造単位が,本件発明17の式(4)で表される2価の有機基R1 と,4価の有機基R2に結合した二のカルボキシル基(−COOH)と,式(7)で表される4価の有機基R2との組み合わせを含むものに特定されておらず,さらに「(b)アルコキシシラン化合物」を含有すること及びその含有量につき特定されていない点ウ 相違点2e「ポリイミド樹脂膜を形成する工程」において,本件発明17では「シリコン基板又はガラス基板」を使用するとともに「1〜50μmの膜厚を有するポリイミド樹脂膜」を形成するのに対して,甲1発明1では「キャリア基板」を使用するとともに「固体の樹脂膜」の膜厚につき特定されていない点(3) 以上のとおり,本件発明17と甲1発明1の一致点及び相違点に関する本件決定の認定には誤りがある。
12 取消事由6−2(本件発明17について:相違点の判断の誤り)(1) 相違点1d’について- 55 -前記2(1)と同一の理由から,甲1発明1において,相違点1d’に係る本件発明17の構成に想到することは,当業者が適宜なし得たこととはいえない。
本件決定が認定する相違点1dが存在するとしても,同様に,当業者が適宜なし得たこととはいえない。
(2) 相違点2eについて前記2(2)のとおり,被塗布体であるキャリア基板として「シリコン基板又はガラス基板」を用い,ポリイミド樹脂膜の厚さを1〜50μmとすることは,当業者が想到し得ないことである。
(3) 本件発明17の効果について前記2(3)のとおり,本件発明17は,TFTなどの半導体素子を形成する際に,「支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)なポリイミド樹脂膜(プラスチック基板)を形成することが可能な樹脂組成物」であって,「半導体素子を形成する際に,高温に曝されても,熱膨張が小さいポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供することができる」(段落【0011】)し,本件発明の「樹脂組成物を用いたポリイミド樹脂膜は,機械特性及び耐熱性に優れ」(段落【0011】)ているという顕著な効果を奏するものである。
そして,前記2(3)と同一の理由から,本件発明17の効果は甲1の記載から予測し得るものでもない。
(4) 以上のとおり,本件発明17が甲1に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるとした本件決定の判断は誤りである。
13 取消事由7−1(本件発明7,9,11,13,15及び18について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1) 本件決定は,本件発明7,9,11,13,15及び18と甲1発明2の対比において,本件発明7については本件発明1,本件発明9については本件発明2,本件発明11については本件発明3,本件発明13については本件発明4,本- 56 -件発明15については本件発明6,本件発明18については本件発明17と,甲1発明1との対比と同様に,ポリアミド酸の構造の相違を看過しているから,本件決定の一致点,相違点の認定は誤りである。
(2) 以上のとおり,本件発明7,9,11,13,15及び18と甲1発明2の一致点及び相違点に関する本件決定の認定には誤りがある。
14 取消事由7−2(本件発明7,9,11,13,15及び18について:相違点の判断の誤り)本件決定は,本件発明7,9,11,13,15及び18について,それぞれ,前記2,4,6,8,10及び12と同一の理由から,相違点の判断に誤りがある。
15 取消事由8−1(本件発明8,10,12,14,16及び19について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1) 本件決定は,本件発明8,10,12,14,16及び19と甲1発明3の対比において,本件発明8については本件発明1,本件発明10については本件発明2,本件発明12については本件発明3,本件発明14については本件発明4,本件発明16については本件発明6,本件発明19については本件発明17と,甲1発明1との対比と同様に,ポリアミド酸の構造の相違を看過しているから,本件決定の一致点,相違点の認定は誤りである。
(2) 以上のとおり,本件発明8,10,12,14,16及び19と甲1発明3の一致点及び相違点に関する本件決定の認定には誤りがある。
16 取消事由8−2(本件発明8,10,12,14,16及び19について:相違点の判断の誤り)本件決定は,本件発明8,10,12,14,16及び19について,それぞれ,前記2,4,6,8,10及び12と同一の理由から,相違点の判断にも誤りがある。
第4 被告の主張1 取消事由1−1(本件発明1について:一致点及び相違点の認定の誤り)- 57 -(1) 原告は,本件一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸に,本件発明1記載のアルコキシシラン化合物を「0.2〜2質量%」の含有量で組み合わせることが一体不可分の技術的手段であると主張する。
ア しかし,本件明細書の記載によると,TFTを形成する際等に必要な耐熱性及び寸法安定性(並びにディスプレイ基板として適当な機械的特性)は,パリレンを含むプラスチック層で達成されているとともに,ポリイミド層でも達成されているが,無機層(支持体)とプラスチック基板であるポリイミド層との間にシランカップリング層を設ける方法では,シランカップリング層とポリイミド層を2層形成する必要があり,工程が煩雑であったため,ポリイミド前駆体に,シランカップリング剤の中でも特定のアルコキシシラン化合物を少量配合することで,適度な密着強度を発現する本件発明を完成したものであるから,本件発明は,ポリイミド層を用いていることで,TFTを形成する際等に必要な耐熱性及び寸法安定性(並びにディスプレイ基板として適当な機械的特性)は得られており,さらに,ポリイミド前駆体に,シランカップリング剤の中でも特定のアルコキシシラン化合物を少量配合することで,適度な密着強度と良好な剥離性を発現させているものであると理解するのが自然である。
この理解は,本件明細書において,耐熱性及び機械的特性の指標としているポリイミド樹脂膜の熱膨張率について,「30×10−6/K以下であることがより好ましく」(段落【0045】),ポリイミド樹脂膜の破断伸びについて,「15%以上であることがさらに好ましい」,ポリイミド樹脂の弾性率(引っ張り弾性率)について,「2GPa以上であることがさらに好ましい」(段落【0046】)とされているところ,実施例及び比較例は,全て本件発明の範囲に含まれるポリイミド前駆体を用いているが,その全ての例で,上記の指標を満足していること,アルコキシシラン化合物を含有しない比較例1〜3に関する記載(段落【0087】)でも,密着性及び剥離性に関する言及はあるものの,耐熱性及び機械的特性について,全く言及がないことと整合している。
- 58 -イ さらに,本件明細書の記載からすると,次の(A),(B)が開示されているということができる。
(A)本件発明の樹脂組成物は,(a)ポリイミド前駆体を含有することで,耐熱性及び機械特性に優れたポリイミド樹脂膜を形成することが可能であって,耐熱性,機械特性の観点から,一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸であることが好ましく,(a)ポリイミド前駆体の重量平均分子量は,硬化膜の伸び及び溶媒への溶解性の観点から,重量平均分子量で,5,000〜300,000が好ましい(段落【0014】,【0020】〜【0024】)。
(B)本件発明の樹脂組成物は,(a)ポリイミド前駆体に対して(b)アルコキシシラン化合物を0.01〜2質量%含有することで,TFTなどの半導体素子を形成する際に,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)なポリイミド樹脂膜(プラスチック基板)を形成することが可能な樹脂組成物を提供することができるのであって,(b)アルコキシシラン化合物の含有量が0.01質量%以上であることで,良好な支持体との十分な密着性を付与することができ,また,(b)アルコキシシラン化合物の含有量が2質量%以下であることで,良好な剥離性を付与し,さらに,ポリイミド樹脂膜に良好な耐熱性と機械特性を付与することができる(段落【0026】)。
ウ 上記(A)及び(B)の各開示をそれぞれ検討すると,上記(A)の開示から,一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸を(a)ポリイミド前駆体として使用することにより,本件発明の樹脂組成物につき耐熱性及び機械特性に優れたポリイミド樹脂膜を形成することという効果を得るとともに, (B)上記の開示から,(a)ポリイミド前駆体に対して(b)アルコキシシラン化合物を0.01〜2質量%含有することで,本件発明の樹脂組成物につきTFTなどの半導体素子を形成する際に,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)- 59 -なポリイミド樹脂膜(プラスチック基板)を形成することが可能となるという効果を得ており,(b)アルコキシシラン化合物の含有量が2質量%を超える多量に使用すると,上記一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸を(a)ポリイミド前駆体として使用することにより得られた耐熱性及び機械特性に優れるとの効果が,ポリイミド前駆体量の相対的な減少により,低下する傾向にあることをいうものと理解するのが自然であって,(b)アルコキシシラン化合物を使用することにより,耐熱性及び機械特性につき更に改善されたものとなるとは理解することができない。
エ したがって,本件発明に係る樹脂組成物において,当該樹脂組成物からなるポリイミド樹脂膜が「良好な機械特性及び耐熱性」を有するという課題は,請求項1に記載されたポリイミド前駆体であるポリアミド酸の使用により達成されているものと評価するのが自然であり,本件発明に係るポリイミド樹脂膜が「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離すること」が可能であるという課題は,シラン化合物の特定量使用により達成されているものと評価するのが自然であって,本件発明では,それら両課題の同時解決に当たり,上記独立した二つの技術的手段を単に相加的に採用して両課題を同時に解決したものと評価すべきであり,両技術的手段を一体不可分のものと評価,理解するのは不適当である。
(2) 原告の主張する一致点及び相違点についてア 上記(1)によると,独立した二つの技術的手段を一体化した相違点1’を認定することは不適当である。
イ 本件決定における甲1発明1のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の種別につき甲1の記載を確認すると,以下の@及びAが確認できる。
@ 甲1一般式(1)におけるR2は,4種の基に限定されているところ(下図参照),そのうち2種はピロメリト酸残基(下図左端)及びs−ビフェニルテトラカルボン酸残基(下図右から2番目)という4価の芳香族基であり,甲1発明1におけ- 60 -るR2に係る4種の選択肢の2種として4価の芳香族基を有する態様を具体的に包含することは明らかである。また,甲1には,甲1発明1の実施例1〜5として,専らs−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を少なくとも一部として使用したもののみが記載されている。
A 甲1一般式(1)におけるCOORのRは,「各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し,」と規定され,「COOH」基となっている態様を包含することが明らかであるところ,ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを反応させてポリイミド前駆体であるポリアミド酸を製造した場合,上記「COOR」は専ら遊離のカルボキシル基,すなわち「COOH」基になることが当業者の技術常識(乙1)である。また,甲1には,甲1発明1の実施例1〜5として,芳香族基を有するものである場合を含むジアミン化合物と芳香族基を有するs−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物を使用した場合のみが専ら記載されている。
そうすると,上記@及びAからみて,甲1には,甲1一般式(1)において,専ら, 2として4価の芳香族基を有し,R Rとして水素原子を有する構造を有するポリイミド前駆体であるポリアミド酸が具体的に記載されているものといえ,本件発明1における二のカルボキシル基を有する「一般式(1)で表される構造単位(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R 2は芳香族環を有する4価の基を示す)を有するポリアミド酸」と実質的に相違するものではない。
したがって,本件決定において,上記の点につき一致点とし,相違点を相違点1及び2であるとした点に誤りはない。
2 取消事由1−2(本件発明1について:相違点の判断の誤り)(1) 相違点1及び1’についてア 相違点1’について- 61 -(ア) 仮に相違点1’が存在するとしても,甲1発明1のポリアミド酸は,本件発明1における二のカルボキシル基を有するポリアミド酸と実質的に相違するものではなく,さらに,甲1には,甲1発明1の実施例1〜5として,芳香族基を有するものである場合を含むジアミン化合物と芳香族基を有するs−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物を使用した場合のみが専ら記載されているから,甲1発明1のポリアミド酸として,本件発明1における二のカルボキシル基を有するポリアミド酸を用いることは,当業者が適宜なし得ることといえる。
(イ) また,添加物がポリイミドの熱的及び機械的特性に影響するとの原告の主張は,甲2(10欄「[作用]」の項)及び甲3(段落【0002】)に開示されているとおり,本件発明で使用するアルコキシシラン化合物とは異なる添加剤であるシリカ,テトラアルコキシシラン縮合物である金属酸化物などがポリイミドフィルムの耐熱性,寸法安定性の改善剤として使用されていることからみて,根拠を欠くものである。甲30に開示された技術は,本件発明で使用する特定のアルコキシシラン化合物を添加剤とした場合につき開示するものではないから,特定のアルコキシシラン化合物を含む添加剤が一般にポリイミドの熱的及び機械的特性を低下させることが技術常識であることを立証するものでもない。
したがって,甲1発明1の樹脂組成物において,当業者がアルコキシシラン化合物を添加剤として使用することを阻害又は困難化されることはない。甲1発明1のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物において,ポリイミド前駆体であるポリアミド酸に対して,キャリア基板などの被塗布体との接着性向上のために,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤等のカップリング剤を,ポリイミド前駆体(樹脂分)に対して,0.1質量%以上3質量%以下の範囲で添加すること(段落【0019】)は,当業者が適宜なし得ることというべきである。
(ウ) さらに,甲1には,甲1発明1のフレキシブルデバイス基板用ポリイ- 62 -ミド前駆体樹脂組成物は,キャリア基板などの被塗布体表面に塗布製膜しポリイミド樹脂膜とし,他表面に回路形成した後,被塗布体から剥離することによりフレキシブルデバイス基板とするものであって,被塗布体から剥離する際の方法として特に制限がなく,レーザー照射による剥離並びに単なる物理的剥離のいずれも可能であることが開示されている(段落【0022】)ことからすると,甲1発明1におけるアルコキシシラン化合物の添加使用による被塗布体に対する接着性の改善は,被塗布体からの剥離性につき許容される範囲内で行うことを前提とするものであって,甲1に記載されたポリイミド前駆体(樹脂分)に対して,「0.1質量%以上,3質量%以下」なる範囲のうち,アルコキシシラン化合物の増量による被塗布体に対する接着性(密着性)の改善と被塗布体からの剥離性の維持の両立を意図して,0.2〜2質量%の範囲で添加使用することについても,当業者が適宜なし得ることというべきである。
(エ) 以上によると,原告が主張する相違点1’は,甲1発明1において当業者が適宜なし得ることである。
イ 相違点1について甲1発明1のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物において,ポリイミド前駆体であるポリアミド酸に対して,キャリア基板などの被塗布体との接着性向上のために,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤等のカップリング剤を,ポリイミド前駆体(樹脂分)に対して,0.1質量%以上3質量%以下の範囲で添加することは,当業者が適宜なし得ることというべきであって,さらに,その使用量につき,支持体との剥離性をも維持することを意図して,ポリイミド前駆体(樹脂分)に対して,「0.1質量%以上,3質量%以下」なる範囲のうちの0.2〜2質量%の範囲で添加使用することについても,当業者が適宜なし得ることというべきであるから,本件決定における相違点1に係る判断は相当である。
(2) 相違点2について- 63 -ア 本件明細書の「支持体」についての記載(段落【0038】)や「ポリイミド樹脂膜の厚さ」についての記載(段落【0040】)によると,本件発明1は,特定のポリイミド前駆体を採用し,特定のアルコキシシラン化合物を添加した場合に特化して,特別の「支持体」(基板)を使用するとともに,特別のポリイミド樹脂膜の膜厚を設定したものと理解すべきではない。
そして,甲1の「キャリア基板(例えばガラス基板)」についての記載(段落【0020】,【0021】,【0032】)によると,甲1に記載されたポリイミド樹脂膜の膜厚が,本件発明1のポリイミド樹脂膜の膜厚と相違するものとも解することはできない。
したがって,上記相違点2に係る原告の主張は,甲1の記載に基づかない主張であるか,根拠を欠くものである。
イ 甲1には,甲1発明1に係る固体の樹脂膜の形成におけるキャリア基板につき,ガラス基板を使用すること(段落【0021】,【0029】,【0032】)又はシリコン基板を使用すること(段落【0023】〜【0028】,【0030】,【0031】)がそれぞれ開示されているとともに,当該樹脂膜として,膜厚1〜20μmの範囲が好適であり(段落【0020】),実施例として膜厚3μmの樹脂膜としたこと(段落【0032】)も開示されているのであって,甲1発明1における固体の樹脂膜の形成において,ガラス基板又はシリコン基板を用いること及び形成する固体の樹脂膜の膜厚を1〜20μmを含む1〜50μmとすることは,いずれも実質的な相違点であるとはいえないか,甲1発明1において当業者が適宜なし得ることであるから,本件決定における相違点2に係る判断は相当である。
(3) 本件発明1の効果について原告は,添加剤の一つであるシランカップリング剤を添加し得たならば,当業者は,甲1発明1のポリイミド樹脂膜の熱的及び機械的特性(熱膨張率,破断点応力,弾性率,伸び)及び靭性は低下し,単に物理的に剥離するのがより困難になると予- 64 -測すると主張するが,シランカップリング剤の添加が上記のような効果を有することが当業者の技術常識であるということはできないのであるから,当業者がその技術常識に照らして,上記「予測」をすることはない。
そして,本件発明1と甲1発明1の効果を比較すると,前者は少なくとも「支持体と十分な密着性を有」するという点で,後者よりも優れているものであるところ,甲1には,「被塗布体との接着性向上のため,シランカップリング剤,チタンカップリング剤等のカップリング剤を添加することができる」(段落【0019】)と記載されているのであるから,甲1発明1の樹脂組成物において,支持体からの剥離性を極端に低下させることのない量比範囲でアルコキシシラン化合物などのシランカップリング剤を添加使用した場合,支持体との密着性が改善されるであろうことは,当業者が予期し得る効果であるといえる。
また,本件発明1の樹脂組成物からなるポリイミド樹脂膜の熱的及び機械的特性は,ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の使用により発現するものであり,ポリアミド酸に対してアルコキシシラン化合物を添加使用することにより発現するものではないから,ポリアミド酸の種別の点で本件発明1に係るものと実質的な相違点がなく,甲1において,発明の効果として「また,ガラス基板等のキャリア基板上に薄く塗布することで簡単にかつ所望の膜厚の薄膜として成膜でき,その上に回路やディスプレイ層等を形成できるとともに,耐熱性に優れ,熱膨張係数の低いポリイミド膜となって,回路等の形成過程でキャリア基板層からのはがれやキャリア基板層のそりを生じさせず,回路等のはがれなどの欠陥も生じない上,その後キャリア基板から剥がす際には,ポリイミド膜自体にも,その上に形成された回路等にも欠陥を生じることがなく,きれいに剥がせるものである。」(段落【0009】)とされる甲1発明1の樹脂組成物からなるポリイミド樹脂膜であっても,略同等の熱的及び機械的特性を有するものと当業者が理解するのが自然であって,甲1における実施例に係る記載に照らして,熱的特性(ガラス転移温度,熱分解温度,熱膨張率)及び機械的特性(破断点応力,弾性率,伸び)の点で略同等であることが看- 65 -取できるところである。
そうすると,本件発明1が,甲1発明1においてシランカップリング剤を添加使用した場合に比して,当業者が予期し得ない程度の顕著な効果を奏しているものと評価すべきものではない。
なお,仮に,添加剤が添加されるのに伴って,ポリアミド酸から得られるポリイミド樹脂膜の熱的及び機械的特性の低下が予想されるとしても,その低下は,甲1において,発明の効果として上記の効果を有する(段落【0009】)とされる甲1発明1に係るポリイミド樹脂膜が,「耐熱性に優れ,熱膨張係数が低い」熱的特性及び「キャリア基板から剥がす際には,ポリイミド膜自体にも,その上に形成された回路等にも欠陥を生じることがなく,きれいに剥がせる」との機械的特性を維持できる範囲内にあるものと当業者は理解するのが自然であるから,甲1発明1の樹脂組成物にアルコキシシラン化合物を添加使用したとしても,原告が主張するように,ポリイミド樹脂膜の物理的剥離が困難になる程度の熱的及び機械的特性の低下が生起すると当業者が予測することはない。
3 取消事由2−1(本件発明2について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1) 前記1(2)アと同様の理由により,独立した二つの技術的手段を一体化した相違点3’を認定することは不適当である。
(2) また,前記1(2)イと同様の理由により,甲1には,甲1一般式(1)において,専ら,R2として4価の芳香族基を有し,Rとして水素原子を有する構造を有するポリイミド前駆体であるポリアミド酸が具体的に記載されているものといえるから,本件発明2における「二のカルボキシル基を有する一般式(1)で表される構造単位(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R 2は芳香族環を有する4価の基を示す)を有するポリアミド酸」と実質的に相違するものではない。
したがって,本件決定の一致点及び相違点の判断に誤りはない。
4 取消事由2−2(本件発明2について:相違点の判断の誤り)- 66 -(1) 相違点3’について仮に,相違点3’が存在するとしても,相違点3’は,アルコキシシラン化合物の種別の点を除き,原告が示した相違点1’と同一の事項である。
しかるに,本件発明2における「3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」は,いずれも,甲1に記載されたγ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどと同様に,シランカップリング剤(接着促進剤)として汎用のもの(甲22「便覧 ゴム・プラスティック配合薬品」2003年12月)であるとともに,他の基材に対する接着性改善のためにポリイミド樹脂(前駆体)に対して添加されるシラン化合物としても,当業者に少なくとも公知なものである(甲2〜6)から,甲1発明1の樹脂組成物において,キャリア基板などの被塗布体との接着性向上のためのシランカップリング剤として,「3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を使用することは,当業者が適宜なし得ることであるというべきであって,本件明細書の記載を確認しても,他のアルコキシシラン化合物を使用した場合に比して,本件発明2に係る「3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシランからなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を使用した場合に特有の効果を奏することも確認することができない。
そして,相違点3’に係るその余の点については,前記2(1)アの理由により,当業者が適宜なし得ることである。
そうすると,相違点3’についても,甲1発明1において,当業者の周知技術(甲- 67 -2〜6,22)を組み合わせることにより,当業者が適宜なし得ることということができる。
(2) 相違点2aについて相違点2aは,相違点2と同一の事項であるから,前記2(2)の理由により,相違点2aに係る原告の主張は,甲1の記載に基づかない主張であるか,根拠を欠くものである。
(3) 本件発明2の効果について本件発明2において,特定のアルコキシシラン化合物を使用することにより,特有の効果を奏することが確認できず,その余については,前記2(3)で示した本件発明1に係る効果と同様であるから,本件発明2の効果についても,甲1発明1のものに比して,当業者が予期し得ない程度の格別顕著な効果を奏しているものと評価すべきものではない。
5 取消事由3−1(本件発明3について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1) 前記1(2)アと同様の理由により,独立した二つの技術的手段を一体化した相違点1a’を認定することは不適当である。
(2) また,本件決定における甲1発明1のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の種別につき甲1の記載を確認すると,以下の@及びAが確認できる。
@ 甲1一般式(1)におけるR2は,4種の基に限定されているところ(下図参照),そのうち1種はs−ビフェニルテトラカルボン酸残基(下図右から2番目)という4価の芳香族基であり,甲1発明1におけるR2に係る4種の選択肢の1種としてs−ビフェニルテトラカルボン酸残基という4価の芳香族基を有する態様を具体的に包含することは明らかであって,さらに,甲1には,甲1発明1の実施例1〜5として,専らs−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を少なくとも一部として使用したもののみが記載されている。
- 68 -A 甲1発明1の式(1)におけるCOORのRは,「各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し,」と規定され,「COOH」基となっている態様を包含することが明らかであるところ,ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを反応させてポリイミド前駆体であるポリアミド酸を製造した場合,上記「COOR」は専ら遊離のカルボキシル基,すなわち「COOH」基になることが当業者の技術常識(乙1)であって,さらに,甲1には,甲1発明1の実施例1〜5として,芳香族基を有するものである場合を含むジアミン化合物と芳香族基を有するs−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物を使用した場合のみが専ら記載されている。
そうすると,上記@及びAからみて,甲1には,甲1一般式(1)において,専ら,R2としてs−ビフェニルテトラカルボン酸残基(3,3’,4,4’−ビフェニレン基)(本件発明3における式(7)で表される4価の有機基である。)という4価の芳香族基を有し,Rとして水素原子を有する構造を有するポリイミド前駆体であるポリアミド酸が具体的に記載されているものといえ,本件発明3における「二1のカルボキシル基を有する一般式(1)で表される構造単位(一般式(1)中,Rは芳香族環を有する2価の有機基を示し,R2は式(7)で表される4価の有機基を示す)を有するポリアミド酸」と実質的に相違するものではない。
したがって,本件決定の一致点及び相違点の認定に誤りはない。
6 取消事由3−2(本件発明3について:相違点の判断の誤り)(1) 相違点1a’について仮に,相違点1a’が存在するとしても,相違点1a’は,ポリアミド酸の種別の点を除き,原告が示した相違点1’と同一の事項である。
しかるに,前記5(2)のとおり,本件発明3におけるポリアミド酸と甲1発明1におけるポリアミド酸とは,実質的に相違するものではなく,ポリアミド酸の種別の点は新たな相違点ではない。
そして,相違点1a’に係るその余の点については,前記2(1)アの理由により,- 69 -当業者が適宜なし得ることである。
そうすると,相違点1a’についても,甲1発明1において,当業者が適宜なし得ることということができる。
(2) 相違点2bについて相違点2bは,相違点2と同一の事項であるから,前記2(2)の理由により,相違点2bに係る原告の主張は,甲1の記載に基づかないものである。
(3) 本件発明3の効果について本件発明3の効果は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,前記2(3)で示した本件発明1に係る効果と同様であり,本件発明3の場合に特異な効果を奏しているものとは認められないから,本件発明3の効果についても,甲1発明1のものに比して,当業者が予期し得ない程度の格別顕著な効果を奏しているものと評価すべきものではない。
7 取消事由4−1(本件発明4について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1) 前記1(2)アと同様の理由により,独立した二つの技術的手段を一体化した相違点1b’を認定することは不適当である。
(2) 前記1(2)イと同様の理由により,甲1には,甲1一般式(1)において,専ら, 2として4価の芳香族基を有し,R Rとして水素原子を有する構造を有するポリイミド前駆体であるポリアミド酸が具体的に記載されているものといえ,本件発明4における「二のカルボキシル基を有する一般式(1)で表される構造単位(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の基を示す)を有するポリアミド酸」と実質的に相違するものではない。
したがって,本件決定の一致点及び相違点の判断に誤りはない。
8 取消事由4−2(本件発明4について:相違点の判断の誤り)(1) 相違点1b’について仮に,相違点1b’が存在するとしても,相違点1b’は,アルコキシシラン化合物の使用量範囲の点を除き,原告が示した相違点1’と同一の事項である。
- 70 -しかるに,本件明細書の記載を確認しても,アルコキシシラン化合物を使用量につき,本件発明1に係る「0.2〜2質量%」の範囲とした場合に比して,本件発明4に係る「0.2〜1質量%」の範囲とした場合に特有の効果を奏することを確認することができない。
そして,相違点1b’に係るその余の点については,前記2(1)アの理由により,当業者が適宜なし得ることである。
そうすると,相違点1b’についても,甲1発明1において,当業者が適宜なし得ることということができる。
(2) 相違点2cについて相違点2cは,相違点2と同一の事項であるから,前記2(2)の理由により,相違点2cに係る原告の主張は,甲1の記載に基づかないものである。
(3) 本件発明4の効果について本件発明4の効果について,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,前記2(3)で示した本件発明1に係る効果と同様であり,本件発明4の場合に特異な効果を奏しているものとは認められないから,本件発明4の効果についても,甲1発明1のものに比して,当業者が予期し得ない程度の格別顕著な効果を奏しているものと評価すべきものではない。
9 取消事由5−1(本件発明6について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1) 前記1(2)アと同様の理由により,独立した二つの技術的手段を一体化した相違点1c’を認定することは不適当である。
(2) また,甲1発明1のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の種別につき甲1の記載を確認すると,以下の@及びAが確認できる。
@ 甲1一般式(1)におけるR1は,4種の2価の芳香族基に限定されている(下図参照)ところ,そのうち1種はフェニレン基(下図左端)という2価の芳香族基であり,甲1発明1におけるR1に係る4種の選択肢の1種としてフェニレン基という2価の芳香族基を有する態様を具体的に包含することは明らかであって,さらに,- 71 -甲1には,甲1発明1の実施例1及び2として,(p−)フェニレンジアミンをジアミン化合物の少なくとも一部として使用したものが記載されている。
A 甲1一般式(1)におけるCOORのRは,「各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し,」と規定され,「COOH」基となっている態様を包含することが明らかであるところ,ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを反応させてポリイミド前駆体であるポリアミド酸を製造した場合,上記「COOR」は専ら遊離のカルボキシル基,すなわち「COOH」基になることが当業者の技術常識(乙1)であって,さらに,甲1には,甲1発明1の実施例1及び2として,芳香族基を有する(p−)フェニレンジアミンを含むジアミン化合物と芳香族基を有するs−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物を使用した場合が記載されている。
そうすると,前記@及びAからみて,甲1には,甲1発明1の式(1)において,R1として(p−)フェニレン基(本件発明6の式(3)で表される2価の有機基である。 という2価の芳香族基を有し,) Rとして水素原子を有する構造を有するポリイミド前駆体であるポリアミド酸が具体的に記載されているものといえ,本件発明6における「二のカルボキシル基を有する一般式(1)で表される構造単位(一般式(1)中,R1は式(3)で表される2価の有機基を示し,R2は芳香族環基を有する4価の有機基を示す)を有するポリアミド酸」と実質的に相違するものではない。
したがって,本件決定の一致点及び相違点の判断に誤りはない。
10 取消事由5−2(本件発明6について:相違点の判断の誤り)(1) 相違点1c’について仮に,相違点1c’が存在するとしても,相違点1c’は,ポリアミド酸の種別の点を除き,原告が示した相違点1’と同一の事項である。
- 72 -しかるに,前記9(2)のとおり,本件発明6におけるポリアミド酸と甲1発明1におけるポリアミド酸とは,実質的に相違するものではなく,ポリアミド酸の種別の点は新たな相違点ではない。
そして,相違点1c’に係るその余の点については,前記2(1)アの理由により,当業者が適宜なし得ることである。
そうすると,相違点1c’についても,甲1発明1において,当業者が適宜なし得ることということができる。
(2) 相違点2dについて相違点2dは,相違点2と同一の事項であるから,前記2(2)の理由により,相違点2dに係る原告の主張は,甲1の記載に基づかないものである。
(3) 本件発明6の効果について本件発明6の効果について,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,前記2(3)で示した本件発明1に係る効果と同様であり,本件発明6の場合に特異な効果を奏しているものとは認められないから,本件発明6の効果についても,甲1発明1のものに比して,当業者が予期し得ない程度の格別顕著な効果を奏しているものと評価すべきものではない。
11 取消事由6−1(本件発明17について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1) 前記1(2)アと同様の理由により,独立した二つの技術的手段を一体化した相違点1d’を認定することは不適当である。
(2) また,本件決定における甲1発明1のポリイミド前駆体(ポリアミド酸)の種別につき甲1の記載を確認すると,以下の@及びAが確認できる。
@ 甲1発明1の式(1)におけるR 1は,4種の基に限定され(下図上段参照),そのうち1種はフェニレン基(下図上段左端)という2価の芳香族基であり,R 2は,4種の基に限定され(下図下段参照),そのうち1種はs−ビフェニルテトラカルボン酸残基(下図下段右から2番目)という4価の芳香族基であるから,甲1発明1におけるR1及びR2に係るそれぞれ4種の選択肢のうち各1種として「フェニレン基」- 73 -なる2価の芳香族基と「s−ビフェニルテトラカルボン酸残基」なる4価の芳香族基とを併せて有する態様を具体的に包含することは明らかであって,さらに,甲1には,甲1発明1の実施例1及び2として,(p−)フェニレンジアミンをジアミン化合物の少なくとも一部として使用し,s−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物をテトラカルボン酸二無水物として使用して組み合わせたものが記載されている。
A 甲1発明1の式(1)におけるCOORのRは,「各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し,」と規定され,「COOH」基となっている態様を包含することが明らかであるところ,ジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とを反応させてポリイミド前駆体であるポリアミド酸を製造した場合,上記「COOR」は専ら遊離のカルボキシル基,すなわち「COOH」基になることが当業者の技術常識(乙1)であって,さらに,甲1には,甲1発明1の実施例1及び2として,芳香族基を有する(p−)フェニレンジアミンを含むジアミン化合物と芳香族基を有するs−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物を使用した場合が記載されている。
そうすると,前記@及びAからみて,甲1には,甲1発明1の式(1)において,R1として(p−)フェニレン基(本件発明17の式(3)で表される2価の有機基である。)という2価の芳香族基を有し,R2としてs−ビフェニルテトラカルボン酸残基(3,3’,4,4’−ビフェニレン基)(本件発明17の式(7)で表される4価の有機基である。)という4価の芳香族基を有し,さらに,Rとして水素原子を有する構造を有するポリイミド前駆体であるポリアミド酸が具体的に記載されているものといえ,本件発明17における「二のカルボキシル基を有する一般式(1)で表される構造単位(一般式(1)中,R1は式(3)で表される2価の有機基を示- 74 -し,R2は式(7)で表される4価の有機基を示す)を有するポリアミド酸」と実質的に相違するものではない。
したがって,本件決定の一致点及び相違点の判断に誤りはない。
12 取消事由6−2(本件発明17について:相違点の判断の誤り)(1) 相違点1d’について仮に,相違点1d’が存在するとしても,相違点1d’は,ポリアミド酸の種別の点を除き,原告が示した相違点1’と同一の事項である。
しかるに,前記11(2)のとおり,本件発明17におけるポリアミド酸と甲1発明1におけるポリアミド酸とは,実質的に相違するものではなく,ポリアミド酸の種別の点は新たな相違点ではない。
そして,相違点1d’に係るその余の点については,前記2(1)アの理由により,当業者が適宜なし得ることである。
そうすると,相違点1d’についても,甲1発明1において,当業者が適宜なし得ることということができる。
(2) 相違点2eについて相違点2eは,相違点2と同一の事項であるから,前記2(2)の理由により,相違点2eに係る原告の主張は,甲1の記載に基づかないものである。
(3) 本件発明17の効果について本件発明17の効果について,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌しても,前記2(3)で示した本件発明1に係る効果と同様であり,本件発明17の場合に特異な効果を奏しているものとは認められないから,本件発明17の効果についても,甲1発明1のものに比して,当業者が予期し得ない程度の格別顕著な効果を奏しているものと評価すべきものではない。
13 取消事由7−1(本件発明7,9,11,13,15及び18について:一致点及び相違点の認定の誤り)前記1,3,5,7,9及び11のとおり,本件発明1〜4,6及び17と甲1- 75 -発明1との各対比において,一致点及び相違点の認定に誤りはないから,当該認定に基づく本件決定における本件発明7,9,11,13,15及び18と甲1発明2との各対比においても,原告が主張する一致点及び相違点の認定に誤りはない。
14 取消事由7−2(本件発明7,9,11,13,15及び18について:相違点の判断の誤り)前記2,4,6,8,10及び12のとおり,本件決定における本件発明7,9,11,13,15及び18に係る相違点の判断に誤りはない。
15 取消事由8−1(本件発明8,10,12,14,16及び19について:一致点及び相違点の認定の誤り)前記13のとおり,本件発明1〜4,6及び17と甲1発明1との各対比において,一致点及び相違点の認定に誤りはなく,当該認定に基づく本件決定における本件発明7,9,11,13,15及び18と甲1発明2との各対比においても,一致点及び相違点の認定に誤りはないから,本件発明7,9,11,13,15及び18をそれぞれ引用する本件発明8,10,12,14,16及び19と甲1発明2を引用する甲1発明3との各対比においても,一致点及び相違点の認定に誤りはない。
16 取消事由8−2(本件発明8,10,12,14,16及び19について:相違点の判断の誤り)前記14のとおり,本件発明7,9,11,13,15及び18に係る相違点の判断の誤りはないから,当該本件発明7,9,11,13,15及び18をそれぞれ引用する本件発明8,10,12,14,16及び19に係る相違点の判断に誤りはない。
第5 当裁判所の判断1 本件発明について(1) 本件特許の訂正後の特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりであるほか,本件明細書(甲8)には,次の記載がある。
- 76 -【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】本発明は,適度な密着性と良好な剥離性を併せ持つ,樹脂組成物に関する。また,本発明の樹脂組成物を用いたポリイミド樹脂膜,ディスプレイ基板とその製造方法に関する。
【背景技術】【0002】近年,スマートフォンやタブレット端末に代表される中小型ディスプレイが市場規模を広げている。これらの中小型ディスプレイに用いられるディスプレイ基板は,ガラス基板の上にTFT(薄膜トランジスタ)等を形成することで得ることができる。しかし,ガラス基板は耐熱性や寸法安定性に優れる一方,軽量化及び薄型化をすると,強度が低下するという問題を抱えている。
そこで,ガラス基板に代わる基板として,プラスチック基板が提案されている。
プラスチック基板は成形が容易で,高い靭性を有し折り曲げに強いことから,半導体素子の軽量化や薄型化に適しており,さらにフレキシブルな基材として有用である。
薄型化したプラスチック基板を用いてディスプレイ基板を製造する方法は,支持体の上にプラスチック基板を形成する工程と,該プラスチック基板上にTFTなどの半導体素子を形成する工程と,プラスチック基板を支持体から剥離する工程を含む。
【0003】例えば,特許文献1には,硬質キャリア基板(支持体)の上に剥離層を介してプラスチック基板を設け,この上に画素回路及びディスプレイ層を形成した後,前記硬質キャリア基板からレーザーによって剥離するというディスプレイ基板の製造法が記載されている。・・・- 77 -【0004】・・・特許文献1に記載のディスプレイ基板の製造方法では,プラスチック基板をレーザーにより剥離する必要があったため,エキシマレーザー装置などが必要であった。
先行技術文献】【0005】【特許文献1】特開2007−512568号公報【特許文献2】特開2011−11455号公報【発明の概要】【0006】そこで,無機層(支持体)とプラスチック基板であるポリイミド層との間にシランカップリング層を設ける方法が提案されている(例えば特許文献2) 特許文献2。
の方法では,剥離工程においてレーザーを必要とせず,物理的に支持体からポリイミド樹脂膜を剥離する。
【0007】しかし特許文献2の製造方法では,シランカップリング層とポリイミド層を2層形成する必要があったため,工程が煩雑であった。
そこで本発明では,TFTなどの半導体素子を形成する際に,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能なポリイミド樹脂膜(プラスチック基板)を形成することが可能な樹脂組成物を提供することを目的とする。また良好な機械特性及び耐熱性を有するポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供することを目的とする。
また本発明は,該樹脂組成物を用いたポリイミド樹脂膜と,ディスプレイ基板の製造方法を提供することを目的とする。さらに,本発明は該製造方法により形成されるディスプレイ基板を提供することを目的とする。
- 78 -【0008】一般に,シランカップリング剤は,それを配合した組成物を被着体に塗布して,組成物の層や膜を形成した場合,形成した層や膜と被着体の密着強度が著しく増加し,接着性を高くする傾向にある。そして,接着力を高めるには,シランカップリング剤の配合量を,ある程度多くする必要があり,層や膜を被着体から剥がす目的には使用されてこなかった。本発明は,従来の使用方法に反し,(a)ポリイミド前駆体に,シランカップリング剤の中でも特定の(b)アルコキシシラン化合物を少量配合することで,適度な密着強度を発現することを見出し本発明に達したものである。・・・【0011】本発明によれば,TFTなどの半導体素子を形成する際に,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)なポリイミド樹脂膜(プラスチック基板)を形成することが可能な樹脂組成物を提供することができる。また半導体素子を形成する際に,高温に曝されても,熱膨張が小さいポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供することができる。ポリイミド樹脂膜の熱膨張が小さいと,TFTなどの半導体素子を形成する際に,寸法ずれを抑制することができる。
また,本発明の樹脂組成物を用いたポリイミド樹脂膜は,機械特性及び耐熱性に優れる。
また,本発明は,該樹脂組成物を用いたディスプレイ基板の製造方法を提供するができる。さらに,本発明は,該製造方法により形成されるディスプレイ基板を提供するができる。
【0013】(樹脂組成物)本発明の樹脂組成物は,(a)ポリイミド前駆体と,(b)アルコキシシラン化合物と,(c)有機溶剤と,を含有する樹脂組成物であり,(b)の含有量が(a)ポ- 79 -リイミド前駆体に対して0.01〜2質量%である。・・・【0014】((a)ポリイミド前駆体)本発明の樹脂組成物は,(a)ポリイミド前駆体を含有する。ポリイミド前駆体を含有することで,耐熱性及び機械特性に優れたポリイミド樹脂膜を形成することが可能である。
(a)ポリイミド前駆体は,耐熱性,機械特性の観点から,一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸であることが好ましい。
【0015】【化3】(一般式(1)中,R1は芳香族環を有する2価の有機基,R2は芳香族環を有する4価の有機基を示す。)【0016】(a)ポリイミド前駆体は,一般にテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合することにより得られる。この重合は両者を有機溶媒中で混合することにより行うことができる。
【0017】(a)ポリイミド前駆体を合成するために用いるテトラカルボン酸二無水物としては,ピロメリット酸二無水物,シクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物,3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物,3,3´,4,4´−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物,4,4´−オキシジフタル酸二無水物,3,3´,4,4´−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物,1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物,1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン- 80 -酸二無水物,4,4´−スルフォニルジフタル酸二無水物,2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物等が挙げられ,また,これらは2種以上を併用してもよい。
【0018】(a)ポリイミド前駆体を合成するために用いるジアミンとしては,p−フェニレンジアミン,m−フェニレンジアミン,ベンジジン,3,3´−ジメチル−4,4´−ジアミノビフェニル, 2´−ジメチル−4,2, 4´−ジアミノビフェニル,3,3´−ジエチル−4,4´−ジアミノビフェニル,2,2´−ジエチル−4,4´−ジアミノビフェニル,p−キシリレンジアミン,m−キシリレンジアミン,1,5−ジアミノナフタレン,3,3´−ジメトキシベンジジン,4,4´−(又は3,4´−,3,3´−,2,4´−)ジアミノジフェニルメタン,4,4´−(又は3,4´−,3,3´−,2,4´−)ジアミノジフェニルエーテル,4,4´−(又は3,4´−,3,3´−,2,4´−)ジアミノジフェニルスルフォン,4,4´−(又は3,4´−,3,3´−,2,4´−)ジアミノジフェニルスルフィド,4,4´−ベンゾフェノンジアミン,3,3´−ベンゾフェノンジアミン,4,4´−ジ(4−アミノフェノキシ)フェニルスルフォン,4,4´−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル,1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン,1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン,1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン,2,2´−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン,2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン,3,3−ジメチル−4,4´−ジアミノジフェニルメタン,3,3´,5,5´−テトラメチル−4,4´−ジアミノジフェニルメタン,4,4´−ジ(3−アミノフェノキシ)フェニルスルホン,3,3´−ジアミノジフェニルスルホン,2,2´−ビス(4−アミノフェニル)プロパン,5,5´−メチレン−ビス−(アントラニル酸),3,5−ジアミノ安息香酸,3,3´−ジヒドロキシ−4,4´−ジアミノビフェニル,3,3´−ジメチル−4,4´−ジア- 81 -ミノビフェニル−6,6´−ジスルホン酸等の芳香族ジアミン,2,6−ジアミノピリジン,2,4−ジアミノピリジン,2,4−ジアミノ−s−トリアジン,2,7−ジアミノベンゾフラン,2,7−ジアミノカルバゾール,3,7−ジアミノフェノチアジン,2,5−ジアミノ−1,3,4−チアジアゾール,2,4−ジアミノ−6−フェニル−s−トリアジン等の複素環式ジアミン,トリメチレンジアミン,テトラメチレンジアミン,ヘキサメチレンジアミン,2,2−ジメチルプロピレンジアミン,1,4−シクロヘキサンジアミン等が挙げられ,また,これらは2種以上を併用して用いてもよい。
【0020】(a)ポリイミド前駆体の重量平均分子量は,硬化膜の伸び及び溶媒への溶解性への観点から,重量平均分子量で,5,000〜300,000が好ましく,10,000〜300,000がより好ましく,15,000〜200,000が特に好ましい。重量平均分子量は,ゲルパーミエ−ションマトグラフィー法により測定し,標準ポリスチレン検量線により換算し算出することができる。
【0021】また,一般式(1)で表されるポリイミド前駆体は,芳香族環を有する2価の有機基であり,上記ジアミンの残基(ジアミンから二つのアミノ基を除いたもの)であるR1が,下記構造式(4)〜(6)のいずれかで表される2価の有機基であることが好ましい。
【0022】【化4】- 82 -(一般式(4)(5)中,R’は,各々独立に1価のアルキル基を示す。また,R’,はアルキル基中の水素原子の一部または全部がハロゲン原子(フッ素,塩素,臭素,ヨウ素)で置換されていてもよい。)一般式(1)のR1が,構造式(3)〜(6)のいずれかで表される2価の有機基である場合,機械特性や耐熱性に優れ,また,熱膨張係数を低くすることができる。
ここで,1価のアルキル基を示す一般式(4)(5)中のR’としては,炭素原,子数1〜3のアルキル基であることが好ましい。また,そのアルキル基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子で置換されていてもよい。・・・【0023】また,一般式(1)で表される構造単位において,芳香族環を有する4価の有機基を示すR2は,下記構造式(7)又は(8)で表される4価の有機基であることが好ましい。
【0024】【化5】R2が,上記のいずれかの基である場合,機械特性や耐熱性に優れ,また,熱膨張係数を低くすることができる。
一般式(1)のR2が,構造式(7)又は(8)で表される4価の有機基である場合,a)( ポリイミド前駆体の合成で用いられるテトラカルボン酸二無水物としては,ピロメリット酸二無水物,3,3´,4,4´−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物,が挙げられる。これらのテトラカルボン酸二無水物は,(a)ポリイミド前駆体の合成で用いられるテトラカルボン酸二無水物の総量に対して,40質量%以上用いることが好ましく,60%質量以上用いることがより好ましく,80〜100質量%用いることがさらに好ましい。
- 83 -【0025】(a)ポリイミド前駆体は,樹脂組成物全体に対して,5〜100質量%含有することが好ましい。
【0026】((b)アルコキシシラン化合物)本発明の樹脂組成物は,(a)ポリイミド前駆体に対して(b)アルコキシシラン化合物を0.01〜2質量%含有する。
(b)アルコキシシラン化合物を0.01〜2質量%含有することで,TFTなどの半導体素子を形成する際に,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)なポリイミド樹脂膜(プラスチック基板)を形成することが可能な樹脂組成物を提供することができる。
(b)アルコキシシラン化合物の含有量が0.01質量%以上であることで,良好な支持体との十分な密着性を付与することができ,また(b)アルコキシシラン化合物の含有量が2質量%以下であることで,良好な剥離性を付与し,さらにポリイミド樹脂膜に良好な耐熱性と機械特性を付与することができる。
(b)アルコキシシラン化合物の含有量は,(a)ポリイミド前駆体に対して,0.02〜2質量%であることが好ましく,0.05〜1質量%であることはより好ましく,0.05〜0.5質量%であることがさらに好ましく,0.1〜0.5質量%であることが特に好ましい。・・・【0027】(b)アルコキシシラン化合物としては,一般式(2)又は(3)で表されるいずれかの化合物を用いることが好ましい。
【0028】【化6】- 84 -(一般式(2)(3)中,R1及びR2は各々独立に1価の有機基を示す),【0029】一般式(2)又は(3)で表される化合物としては,3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,γ−アミノブチルトリブトキシシラン,等が挙げられ,また,これらは2種以上を併用して用いてもよい。これらの中でも,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際に剥離性が良好なポリイミド樹脂膜を与える観点から,3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシランのいずれかを用いることが好ましく,3−ウレイドプロピルトリエトキシシランを用いることが最も好ましい。
【0030】((c)有機溶剤)本発明の樹脂組成物は,(c)有機溶剤を含有する。(c)有機溶剤を含有することで,支持体上への塗布性及び,ポリイミド樹脂膜の均一性が向上する。・・・【0035】- 85 -本発明の樹脂組成物は,該樹脂組成物を支持体に塗布,加熱しポリイミド樹脂膜を形成する工程と,該ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,該半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いることが好ましい。
本発明のポリイミド樹脂膜は,支持体と良好な密着性を有する(例えば50〜950kg/cm2,スタッドプル評価法)ため,ポリイミド樹脂膜上に簡単にTFTなどの半導体素子を形成することができる。また,本発明のポリイミド樹脂膜は,低い熱膨張係数(例えば100〜200℃における熱膨張係数が15×10−6/K以下)であり,またガラス転移温度が高いため(例えば,250℃以上),TFTなどの半導体素子を形成する際に,高温に曝されても,寸法ずれを抑制することができる。
【0036】(ポリイミド樹脂膜)本発明のポリイミド樹脂膜は,本発明の樹脂組成物を加熱することで形成できる。
加熱により,樹脂組成物中のポリイミド前駆体がポリイミドになり,ポリイミド樹脂膜に良好な機械特性及び耐熱性を付与することができる。
本発明のポリイミド樹脂膜は,いわゆるプラスチック基板である。
【0037】(ディスプレイ基板の製造方法)本発明のディスプレイ基板の製造方法は,本発明の樹脂組成物を支持体に塗布,加熱しポリイミド樹脂膜を形成する工程と,該ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,該半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程の各工程とを含む。
本明細書において,ディスプレイ基板とは,特に制限はないが,プラスチック基板(本発明の場合,ポリイミド樹脂膜)上にTFTなどの半導体素子が形成された,基板のことをいう。
- 86 -【0038】本発明の樹脂組成物を支持体に塗布する工程は,支持体に均一な厚みを形成できる方法であれば,特に限定はされないが,例えば,ダイコーティングやスピンコーティング,スクリーン印刷による塗布が可能である。・・・【0039】樹脂組成物を支持体に塗布する工程で形成された樹脂組成物膜は,次に,乾燥工程を行うことが好ましい。・・・樹脂組成物膜を加熱することでポリイミド樹脂膜を形成することができる。この加熱工程により,樹脂組成物中のポリイミド前駆体のイミド環が閉環し,ポリイミド樹脂膜に良好な機械特性及び耐熱性を与える。加熱工程は昇温速度及び硬化中の雰囲気のコントロールが可能で,一定時間,特定の温度を保持することが可能な装置であれば良い。加熱工程における温度は100〜500℃であることが好ましく,・・・また加熱時間は,1分〜6時間であることが好ましく,・・・15分〜2時間であることがさらに好ましい。
【0040】本発明におけるポリイミド樹脂膜の厚さは,1〜50μmであることが望ましい。
厚さが1μm以上であることで,ポリイミド樹脂膜は良好な機械特性を有し,支持体からの剥離工程でポリイミド樹脂膜に欠陥が生じることを抑制できる。また,50μm以下であることで,乾燥中に溶媒が均一に気化しないことにより発生するポリイミド膜表面荒れを抑制することができる。ポリイミド樹脂膜の厚さは,3〜40umであることがより好ましく,5〜30μmであることがさらに好ましい。
【0041】本発明のディスプレイ基板の製造方法は,ポリイミド樹脂膜上にTFTなどの半導体素子を形成する工程を含む。・・・【0042】ポリイミド樹脂膜は,半導体素子を形成した後,支持体から剥離する。剥離方法- 87 -に特に制限はないが,本発明の樹脂組成物を用いたポリイミド樹脂膜は,良好な剥離性と機械特性を有するため,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能である。
また,支持体側からレーザー等を照射して剥離を行なっても良い。
【0043】本発明における,ディスプレイ基板としては,フレキシブル配線版,液晶素子,電子ペーパーを挙げることが出来る。特に,薄型化かつフレキシブル性を付与したいデバイスへの適用に最適である。
【0045】本発明のポリイミド樹脂膜の熱膨張率は,100〜200℃の範囲において50×10−6/K以下であることが好ましく,30×10−6/K以下であることがより好ましく,支持体(例えばガラス基板)と同程度の熱膨張率であることがさらに好ましい。支持体の熱膨張率とポリイミド樹脂膜との熱膨張率が同程度であるほど,半導体素子形成のプロセス中に,支持体とポリイミド膜の剥離やそり,寸法ずれが起こりにくく,信頼性の高いディスプレイ基板を与えることができる。・・・【0046】ポリイミド樹脂膜の破断伸びは,5%以上が好ましく(25℃),10%以上がより好ましく,15%以上であることがさらに好ましい。
・・・破断伸びが5%以上であると,折り曲げても尤度(ゆうど)があるためよりフレキシブル性を付加できる傾向がある。
ポリイミド樹脂の弾性率(引っ張り弾性率)は,1GPa以上であることが好ましく(25℃),1.5GPa以上であることがより好ましく,2Gpa以上であることがさらに好ましい。
・・・弾性率が1GPa以上であると,熱膨張係数が小さくなる傾向にあるため,高温曝露時の変形が小さくなる,つまり寸法ずれが生じにくくなり,本発明のポリイミド樹脂を用いた各種装置の信頼性が向上する傾向がある。
さらに形成されるポリイミド樹脂と基盤との密着力(スタッドプル評価法?)は,50kg/cm2以上,950kg/cm2以下,より好ましくは,300kg/c- 88 -m2以下であることが望ましい。この範囲より密着力が弱い場合,半導体素子を形成,積層中に支持体との剥離が生じやすくなり,またこの範囲を超える密着力である場合は,支持体から剥離するときにポリイミド樹脂膜や半導体阻止にダメージを与える可能性がある。
実施例】【0047】(合成例1:ポリイミド前駆体溶液Aの合成)窒素雰囲気下の200mlフラスコに,p−フェニレンジアミン6.99gとN−メチルピロリドン174gを仕込み,15分間,40℃で加熱攪拌しモノマーを溶解させた。その後s−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(2,3,3´,4´−ビフェニルテトラカルボン酸2,3:3´,4´−二無水物)19.01gを加え,さらに30分間攪拌し,粘度1100mPa・s(25℃)のポリイミド前駆体溶液Aを得た。このポリイミド前駆体の重量平均分子量は70,000であった。得られたポリイミド前駆体溶液A中,ポリイミド前駆体の含有量は13質量%であった。
【0048】(合成例2:ポリイミド前駆体溶液Bの合成)窒素雰囲気下の200mlフラスコに,p−フェニレンジアミン10.85g,ジアミノジフェニルエーテル0.10g,N−メチルピロリドン164gを仕込み,15分間,40℃で加熱攪拌しモノマーを溶解させた。その後s−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物11.88gとピロメリット酸二無水物13.21gを加え,さらに30分間攪拌し,粘度1200mPa・s(25℃)のポリイミド前駆体溶液Bを得た。このポリイミド前駆体溶液Bの重量平均分子量は65,000であった。得られたポリイミド前駆体溶液B中,ポリイミド前駆体の含有量は18質量%であった。
【0049】- 89 -(合成例3:ポリイミド前駆体溶液Cの合成)窒素雰囲気下の200mlフラスコに,p−フェニレンジアミン7.22g,ジアミノジフェニルエーテル0.07g,N−メチルピロリドン173gを仕込み,15分間,40℃で加熱攪拌しモノマーを溶解させた。その後s−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物19.64gとピロメリット酸二無水物0.07gを加え,さらに30分間攪拌し,粘度13000mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体Cを得た。このポリイミド前駆体の重量平均分子量は72,000であった。ポリイミド前駆体の含有量は13質量%であった。
【0050】(合成例4:ポリイミド前駆体溶液Dの合成)窒素雰囲気下の200mlフラスコに,p−フェニレンジアミン11.33g,ジアミノジフェニルエーテル0.11g,N−メチルピロリドン164gを仕込み,15分間,40℃で加熱攪拌しモノマーを溶解させた。その後s−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物6.20gとピロメリット酸二無水物18.37gを加え,さらに30分間攪拌し,粘度1200mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体Dを得た。このポリイミド前駆体の重量平均分子量は60,000であった。ポリイミド前駆体の含有量は18質量%であった。
【0051】(実施例1)ポリイミド前駆体溶液A100gに,UCT?801(3−ウレイドプロピルトリエトキシシランの50%メタノール溶液:以下同様)を0.013g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物1を得た。なお,(a)ポリイミド前駆体に対してアルコキシシラン化合物の含有量は0.05質量%である。
得られた樹脂組成物1を6インチシリコンウエハ上にスピンコートで塗布した後130℃のホットプレートで2分間ベーク(乾燥)し,厚さ18μmになるように製膜した。次いで,硬化炉を用い200℃で30分間,さらに450℃で60分間- 90 -加熱硬化して,樹脂組成物中のポリイミド前駆体をイミド化し,ポリイミド樹脂膜を得た。加熱硬化後のポリイミド樹脂膜の膜厚は10μmであった。このポリイミド樹脂膜について,シリコン基板との密着性,熱特性,機械特性を測定し,その結果をまとめて表1に示した。
【0052】(密着性の評価)密着性は,Quad Group社製ロミュラス(薄膜密着強度測定機)を用いたスタッドプル評価法(スタッド引っ張り剥離強度測定)で測定した。具体的には,前記の方法でポリイミド樹脂膜を形成したシリコン基板を1cm角に切断したサンプル片を作製し,その中央にエポキシ樹脂付きスタッドピンを立てクリップで固定し,150℃のオーブンで1時間加熱硬化させエポキシ樹脂付きスタッドピンをポリイミド樹脂膜に固定し評価用サンプルを作製した。この評価用サンプルをロミュラスにセットし,5kg/minの割合で荷重を増加させ垂直方向に引っ張りの負荷を掛け,ポリイミド樹脂膜がシリコン基板から剥離するときの強度を剥離強度とした。
【0053】(剥離性の評価)シリコン基板上に形成したポリイミド樹脂膜にカミソリで切れ目を入れ,物理的な剥離を試み,以下に示すA〜Dで評価した。
「A」剥離性に優れており,: カミソリで切れ目を入れると,そこから自然剥離する。
「B」:剥離性が良好(ピンセットで容易に剥離が可能)であるが,カミソリで切れ目を入れても自然剥離はしない。
「C」:剥離(ピンセットで剥離)できるが,ポリイミド樹脂膜に負担(伸びや変形,一部千切れ)が生じる膜に負担がかかる。
「D」:剥離できなかった。
【0054】- 91 -(耐熱性(熱膨張率及び1%質量減少温度)の評価)熱特性は,株式会社リガク製サーマルメカニカルアナライザーを用い,5mm×15mmに切り出したポリイミド樹脂膜について25℃から450℃まで,毎分5℃ずつ昇温したときの,100〜200℃の範囲の熱膨張係数及び1%質量減少温度を測定した。
【0055】(機械特性(破断伸び及び弾性率)の評価)機械特性は,10mm×60mmに切り出したポリイミド樹脂膜について株式会社島津製作所製オートグラフを用い,破断伸びと弾性率(引っ張りに対するヤング率,引っ張り弾性率)を測定した。
【0056】(実施例2)ポリイミド前駆体溶液A100gに,UCT?801を0.052g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物2を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液A中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は0.2質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
【0057】(実施例3)ポリイミド前駆体溶液A100gに,UCT?801を0.13g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物3得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液A中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は0.5質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
- 92 -【0058】(実施例4)ポリイミド前駆体溶液A100gに,UCT?801を0.26g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物4を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液A中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,1.0質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
【0059】(実施例5)ポリイミド前駆体溶液B100gに,UCT?801を0.018g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物5を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液B中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,0.05質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
【0060】(実施例6)ポリイミド前駆体溶液B100gに,UCT?801を0.072g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物6を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液B中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,0.2質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
【0061】(実施例7)- 93 -ポリイミド前駆体溶液B100gに,UCT?801を0.18g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物7を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液B中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,0.5質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表2に示した。
【0062】(実施例8)ポリイミド前駆体溶液B100gに,SIB1140.0(ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランの50%メタノール溶液)を0.072g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物8を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液B中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,0.2質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表2に示した。
【0063】(実施例9)ポリイミド前駆体溶液B100gに,SIB−1140を0.18g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物9を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液B中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,0.5質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表2に示した。
【0064】(実施例10)ポリイミド前駆体溶液B100gに,SIB−1140を0.36g添加後,3時- 94 -間攪拌し,樹脂組成物10を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液B中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,1.0質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表2に示した。
【0065】(実施例11)ポリイミド前駆体溶液B100gに,KBM-103(フェニルトリメトキシシラン)を0.072g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物11を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液B中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,0.4質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表2に示した。
【0066】(実施例12)ポリイミド前駆体溶液B100gに,KBM-103を0.18g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物12を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液B中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,1.0質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表2に示した。
【0067】(実施例13)ポリイミド前駆体溶液B100gに,KBM-103を0.36g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物13を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液B中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,2.- 95 -0質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表2に示した。
【0068】(実施例14)ポリイミド前駆体溶液B100gに,KBM-403(3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)を0.072g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物14を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液B中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,0.4質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表2に示した。
【0069】(実施例15)ポリイミド前駆体溶液B100gに,KBM-403を0.18g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物15を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液B中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,1.0質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミドフィルムについて,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表3に示した。
【0070】(実施例16)ポリイミド前駆体溶液B100gに,KBM-403を0.36g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物16を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液B中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,2.0質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,- 96 -機械特性を評価し,その結果を纏めて表3に示した。
【0071】(実施例17)液状ポリイミド前駆体C100gに,UCT−801を0.14g添加後,3時間攪拌し,液状ポリイミド前駆体樹脂組成物17を得た。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミドフィルムについて,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
【0072】(実施例18)液状ポリイミド前駆体C100gに,UCT−801を0.27g添加後,3時間攪拌し,液状ポリイミド前駆体樹脂組成物18を得た。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミドフィルムについて,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
【0073】(実施例19)液状ポリイミド前駆体C100gに,UCT−801を0.54g添加後,3時間攪拌し,液状ポリイミド前駆体樹脂組成物19を得た。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミドフィルムについて,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
【0074】(実施例20)液状ポリイミド前駆体D100gに,UCT−801を0.18g添加後,3時間攪拌し,液状ポリイミド前駆体樹脂組成物20を得た。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミドフィルムについて,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
【0075】- 97 -(実施例21)液状ポリイミド前駆体D100gに,UCT−801を0.36g添加後,3時間攪拌し,液状ポリイミド前駆体樹脂組成物21を得た。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミドフィルムについて,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
【0076】(実施例22)液状ポリイミド前駆体D100gに,UCT−801を0.54g添加後,3時間攪拌し,液状ポリイミド前駆体樹脂組成物22を得た。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミドフィルムについて,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
【0077】(比較例1)ポリイミド前駆体溶液Aを,実施例1に記載の方法で成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表3に示した。
【0078】(比較例2)ポリイミド前駆体溶液Bを,実施例1に記載の方法で成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表3に示した。
【0079】(比較例3)ポリイミド前駆体溶液Aを,シランカップリング剤で前処理(3−アミノプロピルトリエトキシシラン0.1質量%の1−メトキシ−2−プロパノール溶液を6インチシリコンウエハ上にスピンコート後,130℃でベークし溶剤を除去することで,- 98 -3−アミノプロピルトリエトキシシランの単層膜を形成する)した6インチのシリコンウエハ上にスピンコートで塗布した後,130℃のホットプレートで2分間ベークし,厚さ18μmになるように製膜した。次いで,硬化炉を用い200℃で30分間,さらに450℃で60分間加熱硬化してイミド化し,ポリイミド樹脂膜を得た。イミド化後の膜厚は10μmであった。
得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表3に示した。
【0080】(比較例4)ポリイミド前駆体溶液Bを,シランカップリング剤で前処理した6インチシリコンウエハ上にスピンコートで塗布した後,130℃のホットプレートで2分間ベークし,厚さ18μmになるように製膜した。次いで,硬化炉を用い200℃で30分間,さらに450℃で60分間加熱硬化してイミド化し,ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。イミド化後の膜厚は10μmであった。
得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表3に示した。
【0081】(比較例5)ポリイミド前駆体溶液A100gに,UCT?801を0.78g添加後,3時間攪拌し,樹脂組成物を得た。なお,ポリイミド前駆体(ポリイミド前駆体溶液A中のポリイミド前駆体成分)に対してアルコキシシラン化合物の含有量は,3.0質量%である。
実施例1と同様に成膜し,得られたポリイミド樹脂膜について,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
【0082】(比較例6)- 99 -液状ポリイミド前駆体Cを,実施例1に記載の方法で成膜し,得られたポリイミドフィルムについて,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
【0083】(比較例7)液状ポリイミド前駆体Dを,実施例1に記載の方法で成膜し,得られたポリイミドフィルムについて,密着性,熱特性,機械特性を評価し,その結果を纏めて表1に示した。
【0084】【表1】※(b)アルコキシシラン化合物の含有量は(a)ポリイミド前駆体溶液中のポリイミド前駆体成分(固形分)に対する(b)成分の固形分の含有量(質量%)を示す。
- 100 -【0085】【表2】- 101 -【0086】【表3】【0087】実施例1〜23に示したように,アルコキシシラン化合物を0.01〜2質量%含有する樹脂組成物を用いた樹脂膜は,密着性,剥離性,耐熱性(熱膨張率,1%質量減少温度)及び,機械特性(破断伸び,及び弾性率)に優れることが分かった。
実施例1〜17のようなポリイミド樹脂膜は,10μmの薄膜であっても,TFTなどの半導体素子を容易に形成することが可能であり,また,支持体から簡単に剥- 102 -離することができる。
一方,シランカップリング剤を含有しない樹脂組成物を用いた比較例1及び2では,密着性が低下した。また,シランカップリング剤を含有する樹脂組成物を用いる代わりに,ウェハをシランカップリング剤で前処理した比較例3及び4では剥離性が悪かった。また,シランカップリング剤を3質量%用いた比較例5では,剥離性が悪かった。
(2) 上記(1)によると,本件発明は次のとおりのものであると認めることができる。
ガラス基板に代わる基板として提案されているプラスチック基板は成形が容易で,高い靭性を有し,折り曲げに強いことから,半導体素子の軽量化や薄型化に適し,フレキシブルな基材として有用である。薄型化したプラスチック基板を用いてディスプレイ基板を製造する方法は,支持体の上にプラスチック基板を形成する工程と,該プラスチック基板上にTFTなどの半導体素子を形成する工程と,プラスチック基板を支持体から剥離する工程を含む。(段落【0002】)本件発明では,TFTなどの半導体素子を形成する際に,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能なポリイミド樹脂膜(プラスチック基板)を形成することが可能な樹脂組成物を提供することを目的とする。また,良好な機械特性及び耐熱性を有するポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供することを目的とする。さらに,本件発明は,該樹脂組成物を用いたポリイミド樹脂膜と,ディスプレイ基板の製造方法を提供すること及び当該製造方法により形成されるディスプレイ基板を提供することを目的とする。(段落【0007】)一般に,シランカップリング剤は,それを配合した組成物を被着体に塗布して,組成物の層や膜を形成した場合,形成した層や膜と被着体の密着強度が著しく増加し,接着性を高くする傾向にある。本件発明は,従来の使用方法に反し,一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸である「(a)ポリイミド前駆体」に,シ- 103 -ランカップリング剤の中でも特定の「(b)アルコキシシラン化合物」を少量配合することで,適度な密着強度を発現することを見いだし本件発明に達したものである。
(段落【0008】)本件発明の樹脂組成物は,ポリイミド前駆体が,一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸である「(a)ポリイミド前駆体」に対して「(b)アルコキシシラン化合物」を0.01〜2質量%含有することで,TFTなどの半導体素子を形成する際に,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)なポリイミド樹脂膜(プラスチック基板)を形成することが可能な樹脂組成物を提供することができる。(段落【0026】)本件発明に用いるアルコキシシラン化合物としては,3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,γ−アミノブチルトリブトキシシラン等が挙げられる。
これらの中でも,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際に剥離性が良好なポリイミド樹脂膜を与える観点から,3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン, (2−ヒドロキシエチル)ビス −3−アミノプロピルトリエトキシシラン,3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,フェニルトリメトキシシランのいずれかを用いることが好ましく,3−ウレイドプロピルトリエトキシシランを用いることが最も好ましい。(段落【0029】)2 取消事由1−1(本件発明1について:一致点及び相違点の認定の誤り)に- 104 -ついて(1)ア 甲1には次の記載がある。
【特許請求の範囲】【請求項1】液状の樹脂組成物をキャリア基板上に塗布成膜して固体状の樹脂膜を形成する工程,前記樹脂膜上に回路を形成する工程,前記回路が表面に形成された固体状の樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程,の各工程を含む,表示デバイス又は受光デバイスであるフレキシブルデバイスの製造法に用いられる,フレキシブルデバイス基板となる前記液状の樹脂組成物であって,一般式(1)【化1】(一般式(1)中,Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し,R 1は【化2】から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり,アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されても良い),R 2は【化3】から選択される四価の有機基であり,nは繰り返し数を表す正の整数である)で表される構造を有するポリイミド前駆体と有機溶媒とを含有してなるフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物。
- 105 -【請求項2】ポリイミド前駆体の重量平均分子量が,15,000から200,000である請求項1に記載のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物。
【請求項3】請求項1又は2に記載のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物をキャリア基板上に塗布成膜して固体状のポリイミド樹脂膜を形成する工程,前記樹脂膜上に回路を形成する工程,前記回路が表面に形成された固体状の樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程の各工程を含む,表示デバイス又は受光デバイスであるフレキシブルデバイスの製造方法
【請求項4】ポリイミド樹脂膜の厚さが,1〜20μmである請求項3に記載のフレキシブルデバイスの製造方法
【請求項5】ポリイミド樹脂膜のガラス転移温度が,300℃以上である請求項3又は4に記載のフレキシブルデバイスの製造方法
【請求項6】ポリイミド樹脂膜の100℃〜200℃の範囲における熱膨張係数が,20ppm/K以下である請求項3から5のいずれかに記載のフレキシブルデバイスの製造方法
【請求項7】請求項3から6のいずれかに記載されたフレキシブルデバイスの製造方法により製造された表示デバイス又は受光デバイスであるフレキシブルデバイス。
【請求項8】フレキシブルデバイスが,電子ペーパー,ディスプレイ又は太陽電池の受光素子である請求項7に記載のフレキシブルデバイス。
発明の詳細な説明】- 106 -【技術分野】【0001】本発明は,低熱膨張,高耐熱性,靭性に優れる,各種フレキシブルデバイスにおいて,液晶ディスプレイ用基板,有機ELディスプレイ用基板,電子ペーパー用基板等の表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板,薄膜太陽電池等の受光デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板等のフレキシブルデバイス基板用であるポリイミド前駆体樹脂組成物に関し,特にフレキシブルディスプレイ用基板として有用であるポリイミド前駆体樹脂組成物に関する。また,本発明は前記ポリイミド前駆体樹脂組成物を用いるフレキシブルデバイスの製造方法及び前記製造方法により得られるフレキシブルデバイスに関する。
【背景技術】【0002】現在,各種ディスプレイにはガラス基板が用いられているが,ガラス基板は軽量化,薄型化すると強度が低下する問題を抱えている。そこでガラス基板の代替品として,軽量かつ成型加工が容易であるゆえに薄型化可能なプラスチック基板の採用が求められている。ガラス基板よりも高い靭性を持つプラスチック基板の採用は,曲げたり丸めたりすることが可能なフレキシブルディスプレイパネルの実現を可能とする。・・・【発明が解決しようとする課題】【0004】しかしながら,液晶ディスプレイ用基板,有機ELディスプレイ用基板,電子ペーパー用基板等の表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板,薄膜太陽電池等の受光デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板等のフレキシブルデバイス基板用としては,簡易な工程に適用でき,かつ,要求特性を高度に満足するものは知られていない。即ち,前記フレキシブルデバイス基板用としては,さらなる薄膜化の要求がなされ,また,工程上一旦キャリア基板上に薄膜を形成した状態でその上- 107 -に各種回路を形成し,その後に剥離することができる液状樹脂組成物が要求されるが,このような工程に用いることができ,かつ,高度な要求特性を有する液状樹脂組成物は知られていない。
本発明は,液晶ディスプレイ,有機ELディスプレイ,電子ペーパー等の表示デバイス,太陽電池の受光デバイスであるフレキシブルデバイスにおいて,ガラス基板等のキャリア基板上に塗布することで簡単にかつ所望の膜厚の薄膜を形成し,その樹脂薄膜上に回路やディスプレイ層等を形成できるとともに,耐熱性に優れ,熱膨張係数の低いポリイミド膜となって,回路等の形成過程でキャリア基板層からのはがれやキャリア基板層のそりを生じさせず,回路等のはがれなどの欠陥も生じず,そしてその後,キャリア基板から欠陥を生じずに剥離ができる,液状のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物,これを用いたフレキシブルデバイス及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】【0005】本発明は次の各項に関する。
(1) 液状の樹脂組成物をキャリア基板上に塗布成膜して固体状の樹脂膜を形成する工程,前記樹脂膜上に回路を形成する工程,前記回路が表面に形成された固体状の樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程,の各工程を含む,表示デバイス又は受光デバイスであるフレキシブルデバイスの製造法に用いられる,フレキシブルデバイス基板となる前記液状の樹脂組成物であって,一般式(1)【0006】【化1】- 108 -(一般式(1)中,Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し,R 1は【0007】【化2】から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり,アルキル基の水素原子はハロゲンで置換されても良い),R 2は【0008】【化3】から選択される四価の有機基であり,nは繰り返し数を表す正の整数である)で表される構造を有するポリイミド前駆体と有機溶媒とを含有してなるフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物。
(2) ポリイミド前駆体の重量平均分子量が,15,000から200,000である前記(1)に記載のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物(3) 前記(1)又は(2)に記載のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物をキャリア基板上に塗布成膜して固体状のポリイミド樹脂膜を形成する工程,前記樹脂膜上に回路を形成する工程,前記回路が表面に形成された固体状の樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程の各工程を含む,表示デバイス又は受光デバイスであるフレキシブルデバイスの製造方法。・・・【発明の効果】【0009】本発明における液状のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物は,低熱膨張,高耐熱性,高靭性に優れ,表示デバイス又は受光デバイスの基- 109 -板として適したポリイミド薄膜を形成できる。
また,現在の主流である,ベースフィルムとしてすでにフィルムとして成型されている,厚さの決まったものを用いるのではなく,デバイスの製造に即して塗布成膜する液状の組成物を使用するため,スピンコートやスクリーン印刷などによりガラス基板などのキャリア基板上に塗布できる。この時,塗布膜厚を変化させることにより,樹脂膜(ベースフィルム)の厚さを所望の厚さ,特に薄膜に調整することも可能となり,したがってフレキシブルデバイスのさらなる薄型化も可能となる。
これにより,最終製品の小型化,軽量化も可能となる。
また,ガラス基板等のキャリア基板上に薄く塗布することで簡単にかつ所望の膜厚の薄膜として成膜でき,その上に回路やディスプレイ層等を形成できるとともに,耐熱性に優れ,熱膨張係数の低いポリイミド膜となって,回路等の形成過程でキャリア基板層からのはがれやキャリア基板層のそりを生じさせず,回路等のはがれなどの欠陥も生じない上,その後キャリア基板から剥がす際には,ポリイミド膜自体にも,その上に形成された回路等にも欠陥を生じることがなく,きれいに剥がせるものである。従って,これを用いた表示デバイス又は受光デバイスとなるフレキシブルデバイスの製造方法は,キャリア基板上に形成されたベースフィルムに直接回路を形成し,その後剥離することが可能となるため,再転写の製造工程を省略することができる。そして得られるフレキシブルデバイスは,薄くても靱性が高く,耐熱性にも優れるものとなる。
【発明を実施するための形態】【0011】本発明の液状のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物は,キャリア基板上に塗布,乾燥,成膜し,次いで,好ましくは加熱等の手段により,脱水閉環させて,固体状のポリイミド樹脂膜を形成する工程,その上に回路を形成する工程,前記回路が表面に形成された固体状の樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程,の各工程を含む,フレキシブルデバイスの製造方法に用いられるもので- 110 -ある。この方法によれば,前述のように直接固体状のポリイミド樹脂膜(ベースフィルム)へ回路を形成することが可能となり,再転写の製造工程を省略することができる。
本発明における液状のポリイミド前駆体樹脂組成物は,以下の一般式(1)で表される構造を有するポリイミド前駆体と有機溶媒を含む。
一般式(1)【0012】【化4】(一般式(1)中,Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し,R1は【0013】【化5】(但しR’は各々独立にアルキル基であり,アルキル基の水素原子はハロゲンで置換されても良い)から選択される2価の有機基であり,R2は【0014】【化6】から選択される四価の有機基であり,nは繰り返し数を表す正の整数である)一般式(1)において,Rは,各々独立に水素又は1価の有機基を示し,1価の有機基として,炭素原子数1〜20のものが好ましく,例えば,メチル基,エチル- 111 -基,プロピル基,イソプロピル基,ブチル基などが挙げられる。R1におけるRとしては,炭素原子数1〜3のアルキル基等の炭化水素基が挙げられ,そのアルキル基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子(フッ素,塩素,臭素,ヨウ素)で置換されていても良い。
ポリイミド前駆体は,一般に1つのテトラカルボン酸残基と1つのジアミン残基から形成される構造単位(括弧でくくられた構造単位)が繰り返し単位となって形成されるが,本発明においては一般式(1)で示される括弧でくくられた構造単位が,全構造単位中40%以上であることが好ましく,60%以上であることがより好ましく,80〜100%であることが特に好ましい。
ポリイミド前駆体は,一般にテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合することにより得られる。この重合は両者を有機溶媒中で混合することにより行うことができる。
【0015】前記一般式(1)で示される構造を形成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては,ピロメリット酸二無水物,シクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物,3,3,4,4−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物,3,3,4,4−ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。その他のテトラカルボン酸二無水物を併用することもでき,その例としては,4,4−オキシジフタル酸二無水物,3,3,4,4−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物,1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物,1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物,4,4−スルフォニルジフタル酸二無水物,2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物などが挙げられる。一般式(1)で示される構造を形成するテトラカルボン酸二無水物の使用量は,テトラカルボン酸二無水物の総量に対して,40%以上であることが好ましく,60%以上であることがより好ましく,80〜100%であることが特に好ましい。
【0016】- 112 -また,前記一般式(1)で示される構造単位を形成するために用いられるジアミンとしては,p−フェニレンジアミン,m−フェニレンジアミン,ベンジジン,3,3−ジメチル−4,4−ジアミノビフェニル,2,2−ジメチル−4,4−ジアミノビフェニル,3,3−ジエチル−4,4−ジアミノビフェニル,2,2−ジエチル−4,4−ジアミノビフェニル等が挙げられる。・・・【0017】重合に使用する有機溶媒は,例えば,N−メチル−2−ピロリドン,N,N−ジメチルホルムアミド,N,N−ジメチルアセトアミド,γ−ブチロラクトン,ε−カプロラクトン,γ−カプロラクトン,γ−バレロラクトン,ジメチルスルホキシド,1,4−ジオキサン,シクロヘキサノンなどが挙げられ,また,これらは2種以上を併用してもよい。ポリイミド前駆体樹脂組成物を生成後,粘度を調整するために,プロピレングリコールモノメチルエーテル,プロピレングリコールモノエチルエーテル,プロピレングリコールモノメチルアセテート,プロピレングリコールモノエチルアセテート,エチルセロソルブ,ブチルセロソルブ,トルエン,キシレン,エタノール,イソプロピルアルコール,n−ブタノールなどを用いても良く,これらは2種以上を併用してもよい。ポリイミド前駆体樹脂組成物におけるポリイミド前駆体/有機溶媒の質量割合としては,良好な薄膜を形成できる塗布性等の観点から,ポリイミド前駆体/有機溶媒で,5/95〜95/5が好ましい。
製造されるポリイミド前駆体の分子量としては,硬化膜の伸び及び溶媒への溶解性の観点から,重量平均分子量で,5000〜300000が好ましく,10000〜300000がより好ましく,15,000〜200,000が特に好ましい。
重量平均分子量は,ゲルパーミエ-ションクロマトグラフィー法により測定し,標準ポリスチレン検量線により換算して算出することができる。
【0019】さらに,本発明のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物には,被塗布体との接着性向上のため,シランカップリング剤,チタンカップリング剤等- 113 -のカップリング剤を添加することができる。上記カップリング剤としては,例えば,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,γ−アミノブチルトリブトキシシラン,などが挙げられ,また上記チタンカップリング剤としては,例えば,γ−アミノプロピルトリエトキシチタン,γ−アミノプロピルトリメトキシチタン,γ−アミノプロピルトリプロポキシチタン,γ−アミノプロピルトリブトキシチタン,γ−アミノエチルトリエトキシチタン,γ−アミノエチルトリメトキシチタン,γ−アミノエチルトリプロポキシチタン,γ−アミノエチルトリブトキシチタン,γ−アミノブチルトリエトキシチタン,γ−アミノブチルトリメトキシチタン,γ−アミノブチルトリプロポキシチタン,γ−アミノブチルトリブトキシチタン,などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。このときの使用量は,ポリイミド前駆体(樹脂分)に対して,0.1質量%以上,3質量%以下が好ましい。
その他,必要に応じて,各種添加剤を配合することも可能である。
【0020】本発明の液状のポリイミド前駆体樹脂組成物の塗布は,キャリア基板(支持体)に均一な厚みを形成できる方法であれば,種類を問わず適用できる。例として,ダイコーティングやスピンコーティング,スクリーン印刷による塗布が可能である。
本発明における液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布,乾燥,イミド閉環して得られるポリイミド樹脂膜の厚さは,1〜20μmであることが望ましい。これは,厚さが1μmに満たない場合にポリイミドフィルムが十分な耐性を保持できず,フレキシブルデバイスとして使用したとき応力に耐え切れず破壊されるためである。
また,20μmを超えて厚くなると,フレキシブルデバイスの薄型化が困難となっ- 114 -てしまう。したがって,フレキシブルデバイスとして十分な耐性を保持しながらより薄膜化するには,2〜10μmの厚みであることが最も望ましい。
【0021】本発明のフレキシブルデバイスの製造方法において,ポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布するキャリア基板(支持体)は,自立性を持つ硬質なものであって,耐熱性があれば良い。つまり製造工程上必要とされる高温にさらされても変形しない素材を用いていれば良い。具体的には,一般に200℃以上,好ましくは250℃以上のガラス転移温度を持つ素材を用いるのが望ましく,このようなものとしてはガラスが挙げられる。キャリア基板の厚さは,0.3mmから5.0mmが好ましく,0.5mmから3.0mmがより好ましく,0.7mmから1.5mmであるものがさらに好ましい。・・・【0022】本発明のフレキシブルデバイスの製造方法においては,以上のようにして形成したポリイミド膜の上に,表示デバイス,受光デバイスに必要な回路を形成する工程を含む。・・・本発明において得られるポリイミド樹脂膜は耐熱性,靱性等各種特性に優れるので,回路等を形成する手法は特に制限されない。
以上のようにして,回路等が表面に形成された固体状のポリイミド樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する。剥離方法に特に制限はなく,例えばキャリア基板側からレーザー等を照射することで剥離を行っても良い。本発明により得られるポリイミド樹脂膜は,高い靭性を有するので,キャリア基板(支持体)と単に物理的に剥離することも可能である。
本発明における,フレキシブルデバイスとしては,液晶ディスプレイ,有機ELディスプレイ,電子ペーパーといった表示デバイス,太陽電池,CMOSなどの受光デバイスを挙げることが出来る。特に,薄型化かつフレキシブル性を付与したいデバイスへの適用に最適である。
実施例】- 115 -【0023】(実施例1)窒素雰囲気下の200mlフラスコに,p−フェニレンジアミン5.41gとN−メチルピロリドン181.03gを仕込み,15分間,40℃で加熱攪拌しモノマーを溶解させた。その後s−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物14.71gを加え,さらに30分間攪拌し,粘度1100mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体の重量平均分子量は70000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後,130℃のホットプレートで2分間ベークし,厚さ5μmになるように製膜した。次いで,硬化炉を用い200℃で30分間,さらに350℃で60分間加熱硬化してイミド化し,ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。イミド化後の膜厚は3μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し,熱特性,機械特性を測定し,その結果を纏めて表1に示した。
【0024】測定条件は,次の通り。
ガラス転移温度:サーマルメカニカルアナライザー(株式会社リガク製,測定温度範囲25〜450℃,試料サイズ5mm×15mm)熱分解温度:サーマルメカニカルアナライザー(株式会社リガク製,測定温度範囲25〜450℃,試料サイズ5mm×15mm)熱膨張率:サーマルメカニカルアナライザー(株式会社リガク製,測定温度範囲25〜450℃,試料サイズ5mm×15mm)破断点応力:オートグラフ(株式会社島津製作所製,試料サイズ10mm×60mm)弾性率:オートグラフ(株式会社島津製作所製,試料サイズ10mm×60mm)伸び:オートグラフ(株式会社島津製作所製,試料サイズ10mm×60mm)- 116 -重量平均分子量 ゲルパーミエーションクロマトグラフ: (株式会社島津製作所製)【0025】(実施例2)窒素雰囲気下の200mlフラスコに,p-フェニレンジアミン3.86gと1,3-ビス(3-アミノプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン0.18g,N-メチルピロリドン85gを仕込み,15分間,40℃で加熱攪拌しモノマーを溶解させた。その後s-ビフェニルテトラカルボン酸無水物10.19gと1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル酸無水物)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを0.78g加え,さらに30分間攪拌し,粘度2000mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は80000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後,130℃のホットプレートで45秒間,次いで160℃のホットプレートで45秒間ベークし,厚さ8μmになるように製膜した。次いで,実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し,ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は5μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し,熱特性,機械特性を測定し,その結果を纏めて表1に示した。・・・【0026】(実施例3)窒素雰囲気下の200mlフラスコに2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン11.99gとN-メチルピロリドン77gを仕込み,室温(25℃)で15分間攪拌しモノマーを溶解した。その後s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物11.01gを加えさらに室温で30分間攪拌し,粘度7200mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は72400であった。
- 117 -得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後,100℃のホットプレートで2分間,次いで130℃のホットプレートで2分間ベークし,厚さ13μmになるように製膜した。
次いで,実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し,ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は9μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し,熱特性,機械特性を測定し,その結果を纏めて表1に示した。・・・【0027】(実施例4)窒素雰囲気下の200mlフラスコに,1,4-ジアミノシクロヘキサン5.59gをN-メチルピロリドン80gを仕込み,70℃で15分間加熱攪拌しモノマーを溶解した。その後s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物14.41gを加え80℃で30分間攪拌後,自然冷却し粘度9200mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は53000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後,100℃のホットプレートで2分間,次いで130℃のホットプレートで2分間ベークし,厚さ15μmになるように製膜した。
次いで,実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し,ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は10μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し,熱特性,機械特性を測定し,その結果を纏めて表1に示した。・・・【0028】(実施例5)窒素雰囲気下の200mlフラスコに,2,2-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン1.49gと1,4-ジアミノシクロヘキサン4.78g,N-メチルピロリドン80gを仕込み,70℃で15分間加熱攪拌しモノマーを溶解した。その後s- 118 --ビフェニルテトラカルボン酸二無水物13.01gと3,3,4,4-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物0.71gを加え80℃で30分間加熱攪拌後,自然冷却し液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は87900であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後,100℃のホットプレートで2分間,次いで130℃のホットプレートで2分間ベークし,厚さ15μmになるように製膜した。
次いで,実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し,ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は10μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し,熱特性,機械特性を測定し,その結果を纏めて表1に示した。・・・【0029】(比較例1)窒素雰囲気下の200mlフラスコに,4,4-ジアミノジフェニルエーテル6.03gと1,3-ビス(3-アミノプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン0.39g,N-メチルピロリドン85gを仕込み,室温で15分間攪拌しモノマーを溶解させた。その後ピロメリット酸二無水物3.46gと3,3,4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物5.11gを加え,さらに24時間攪拌した。その後80℃の加熱攪拌で粘度調整を行い,粘度1100mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は76000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物をガラス基板上にスピンコートで塗布した後,140℃のホットプレートで1分間ベークし,厚さ8μmになるように製膜した。次いで,実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し,ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は4μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し,熱特性,機械特性を測定し,その結果を纏めて表1に- 119 -示した。・・・【0030】(比較例2)窒素雰囲気下の200mlフラスコに, 2-ビス2, [4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン8.07gと1,3-ビス(3-アミノプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン0.26g,N-メチルピロリドン68g,ジイソブチルケトン17gを仕込み,15分間攪拌した。その後3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物6.67gを加えさらに30分間攪拌し,粘度1100mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は81000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後,120℃のホットプレートで3分間ベークし,厚さ14μmになるように製膜した。次いで,実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し,ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は8μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し,熱特性,機械特性を測定し,その結果を纏めて表1に示した。・・・【0031】(比較例3)窒素雰囲気下の200mlフラスコに,ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン8.93gとN-メチルピロリドン85gを仕込み,室温で15分間攪拌しモノマーを溶解した。その後s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物6.07gを加えさらに30分間攪拌し,粘度500mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は78100であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後,80℃のホットプレートで2分間,次いで1- 120 -20℃のホットプレートで2分間ベークし,厚さ7μmになるように製膜した。次いで,実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し,ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は3μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し,熱特性,機械特性を測定し,その結果を纏めて表1に示した。 ・・ ・【0032】ディスプレイデバイスの製造例上記実施例1〜5及び比較例1〜3で得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を用いたフレキシブル液晶ディスプレイの製造例を示す。
図1に示すようにキャリア基板としてガラス基板を用い,ガラス基板上に各液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を,スピンコートで塗布した後,130℃のホットプレートで2分間ベークし,厚さ約5μmになるように製膜した。次いで,硬化炉を用い200℃で30分間,さらに350℃で60分間加熱硬化してイミド化し,固体状の樹脂膜であるポリイミド樹脂フィルムを形成した。この膜厚は3μmである。
このポリイミド膜上に,既知の方法に従って図2に示すようにTFT電極を形成することができる,さらにその上に既知の方法に従って,図3に示すように液晶表示素子,カバーフィルムの層を形成することができる。その後,図4に示すようにガラス基板から,フレキシブルデバイスを剥離することができる。
このようにして得られる,実施例のフレキシブル液晶ディスプレイは良好な性能を示すが,比較例のものはポリイミド膜物性が劣るため,信頼性に優れるフレキシブル液晶ディスプレイは得られない。
- 121 -【0033】【表1】表1に示したように,本発明の一般式(1)で表される構成単位を有するポリイミド前駆体を用いた樹脂膜は,ガラス転移温度,熱分解温度,熱膨張率などの熱特性,破断点応力,弾性率,伸びなどの機械特性に優れる。これに対し,一般式(1)で表される構成単位を有さない比較例1〜3は,熱特性,機械特性に劣る。また,実施例のポリイミド前駆体は,薄膜の樹脂膜にもかかわらず,その上に形成した各種回路(TFT電極,液晶表示素子)にはがれなどの欠陥を生じさせることなくキャリア基板からの剥離性に優れる。
【図1】イ 甲1に記載された発明上記アによると,甲1には,前記第2の3(2)ア記載の甲1発明1〜3が記載されていると認められる。
(2) 本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点についてア 前記1及び2(1)によると,本件発明1と甲1発明1の一致点及び相違点は,前記第2の3(2)イのとおりと認められる。
- 122 -イ(ア) 原告は,本件決定は,本件発明1と甲1発明1の対比において,本件一般式(1)と甲1一般式(1)におけるポリアミド酸の構造の相違を看過していると主張する。
本件発明1におけるポリイミド前駆体は,本件一般式(1)で表される構造単位を有するものであるところ,その構造と,甲1発明1におけるポリイミド前駆体が有する構造(甲1一般式(1))は,表記上,@本件一般式(1)には,R2に二のカルボキシル基(−COOH)が結合することが示されているのに対し,甲1一般式(1)中の本件一般式(1)のR2に対応する基には,二の「−COOR」が結合し,Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示すとされ,二の「−COOR」の両方がカルボキシル基(−COOH)が結合したものには限定されていない点,A本件一般式(1)のR2は,芳香族環を有する4価の有機基を示すのに対し,甲1一般式(1)中の本件一般式(1)のR2に対応する基は,芳香族環ではないものを含む選択肢から選択される四価の有機基とされており,芳香族環を有するものには限定されていない点の2点で一致していない点があることが認められる。
(イ) 乙1,3(日本ポリイミド・芳香族系高分子研究会編「新訂 最新ポリイミド−基礎と応用−」平成22年8月25日発行)には,次の記載がある。
a ポリイミドは,イミド結合(−O=C−N−C=O−)を主鎖に持つポリマーの総称であり,その代表は,一般に「kapton」として知られている高耐熱性プラスチックである芳香族ポリイミド,ポリ−4,4’−オキシジフェニレンピロメリトイミド(式1)である。
b 「kapton」は,剛直な主鎖構造ゆえに有機溶媒には溶けず,しかも溶融しないため,あらかじめ溶液重合によって合成したポリアミド酸(ポリイミドの前駆体)の状態で成形加工し,ポリイミドに転化されているが,ほとんどのポリイミドは,「kapton」同様,有機溶媒に不溶であり,溶融しないため,その合成には,有機溶媒に可溶なポリアミド酸を経由する(式2)二段階合成法が用いられている。
- 123 -c 二段階合成法の第一段目の反応(アミノ基による開環重付加反応)は,ジアミン2をN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)やジメチルアセトアミド(DMAc)のような極性溶媒に溶かした後,この溶液に固体のテトラカルボン酸二無水物1を加えて室温下で攪拌することにより行われ,ポリアミド酸3の溶液が得られる。この反応は,式3の環状酸無水物5のカルボニル炭素へのアミン6の窒素の求核付加による環状四面体中間体7の生成と,引き続く四面体中間体からのカルボン酸の分子内での離脱によるアミド酸構造の開環付加体8への生成であり,アミノ基の無水フタル酸部への求核置換アシル化反応である。この反応により,芳香族環であるArに2個の−COOHが結合した構造を有する式2におけるポリアミド酸3の溶液が得られる。
式2d 無色透明性,低誘電率特性を併せもつポリイミドの開発のために脂肪族ジアミンや脂肪族テトラカルボン酸無水物が用いられることはあるが,一般に,- 124 -芳香族ジアミン,芳香族テトラカルボン酸二無水物がポリイミドの合成,製造に用いられる。
(ウ) 上記(イ)によると,本件優先日におけるプラスチックの分野の技術常識として,以下の事実が認められる。
a ポリイミドの合成,製造には,一般に,芳香族ジアミン,芳香族テトラカルボン酸二無水物が用いられる。
b 「kapton」として知られている芳香族ポリイミドに代表されるように,ポリイミドは,剛直な主鎖構造ゆえに有機溶媒には溶けず,しかも溶融しないため,あらかじめ溶液重合によって合成したポリアミド酸であるポリイミド前駆体の状態で成形加工し,ポリイミドに転化されている。
c ほとんどのポリイミドの合成には二段階合成法が用いられており,第一段目の反応であるアミノ基による開環重合付加反応によって,芳香族環であるArに2個の−COOHが結合した構造を有するポリアミド酸の溶液が得られる。
(エ) 前記(ア)@についてa 甲1では,甲1発明1におけるポリイミド前駆体は,一般にテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合することにより得られるとされており(段落【0014】),上記(ウ)の本件優先日当時の技術常識も併せ考慮すると,甲1発明1のポリイミド前駆体は,甲1一般式(1)中の4価の有機基R2に2個の−COOH(カルボキシル基)が結合したものであると理解される。
したがって,前記(ア)@は,実質的な相違点ではないと認められる。
b なお,証拠(甲34,35)によると,本件優先日前に,ポリアミド酸として,Rが1価の有機基である−COORを有するものが存在し,甲34(特開2009−242539号公報)及び甲35(国際公開第00/43439号公報)には,そのようなポリアミド酸が記載されていることが認められるが,上記aのとおり,甲1の記載及び技術常識からみて,甲1発明1におけるポリイミド前駆体は,カルボキシル基を有するポリアミド酸であると理解されるのであって,Rが- 125 -1価の有機基である−COORを有するポリイミド前駆体が記載された公報である甲34及び35が本件優先日前に頒布されていたことをもって,甲1発明1におけるポリイミド前駆体が,Rが1価の有機基である−COORを有するものを指すということはできない。
したがって,甲1発明1におけるポリイミド前駆体は,甲1一般式(1)中の4価の有機基R2に2個の−COOHが結合したものであると理解される。
(オ) 前記(ア)Aについて甲1一般式(1)中の本件一般式(1)のR2に対応する基は,芳香環でないものが選択肢に含まれているが,芳香環を有する基も選択肢に含まれている上,甲1に記載された実施例におけるポリイミド前駆体は,いずれも, 2が芳香族環である構R造単位を含んでいるから,前記(ア)Aも実質的な相違点ではないということができる。
(カ) 以上によると,本件発明1の本件一般式(1)の構造と,甲1発明1の甲1一般式(1)の構造には相違がないことが認められる。原告の主張を採用することはできない。
ウ 原告は,本件発明では,単に接着性向上のためではなく,「良好な機械特性及び耐熱性」を有するのと同時に,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離すること」が可能なポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供するという課題を解決するために,二のカルボキシル基を有する本件一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸に,「3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン・・・からなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を上記のポリアミド酸に対して「0.2〜2質量%」の含有量で組み合わせることによって,上記の課題を同時に解決したものであり,両者は一体不可分の技術的手段であると主張する。
本件明細書の記載によると,本件発明1は,本件一般式(1)の構造単位を有するポリアミド酸に,特定のアルコキシシラン化合物を0.2〜2質量%の含有量で- 126 -含むことにより,良好な機械特性及び耐熱性を有するのと同時に,支持体と十分な密着性を有し,かつ,支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)なポリイミド樹脂膜(プラスチック基板)を形成することが可能な樹脂組成物となるものであるから,「(a)本件一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸」を含有する組成物において,「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン・・・からなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物」を上記のポリアミド酸に対して「0.2〜2質量%」の含有量で組み合わせることを,ひとまとまりのものとしてとらえることには合理性があるといえる。
しかし,前記イのとおり,本件発明1と甲1発明1において,本件一般式(1)と甲1一般式(1)の構造に実質的な相違がないのであるから,本件発明1と甲1発明1は,「(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸」を含有する点及び「(c)有機溶剤」を含有する樹脂組成物である点が一致点となる。
そして,本件発明1は,上記(a)及び(c)の他,「(b)3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン・・・からなる群から選択される1以上のアルコキシシラン化合物と,・・・」を含有し,「前記(b)成分の含有量が前記(a)成分に対して0.2〜2質量%である」のに対して,甲1発明1では上記の「(b)アルコキシシラン化合物」を含有すること及びその含有量につき特定されていない点で相違があるから,この点を相違点とすることができるのであり,本件決定の一致点及び相違点の認定が誤りであるということはできない。
(3) 以上によると,取消事由1−1は理由がない。
3 取消事由1−2(本件発明1について:相違点の判断の誤り)について(1) 相違点1についてア 本件発明1は,「良好な機械特性及び耐熱性」を有するのと同時に,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離すること」が可能なポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供するという課題を解- 127 -決するものであるところ,証拠(甲23〜28)によると,本件優先日当時,ポリイミド樹脂膜が,耐熱性及び機械特性を有しているとされていることが認められる。
そして,本件発明1における「密着性」と「剥離性」の関係については,本件発明1では,密着性は,ポリイミド樹脂膜を形成したシリコン基板を1cm角に切断したサンプル片を作製し,これを加熱した後,Quad Group社製ロミュラス(薄膜密着強度測定機)を用いて,5kg/minの割合で荷重を増加させ垂直方向に引っ張りの負荷を掛け,ポリイミド樹脂膜がシリコン基板から剥離するときの強度を剥離強度とするスタッドプル評価法(スタッド引っ張り剥離強度測定)で測定し(段落【0052】,剥離性は,シリコン基板上に形成したポリイミド樹脂)膜にカミソリで切れ目を入れ,物理的な剥離を試み,「A:剥離性に優れており,カミソリで切れ目を入れると,そこから自然剥離する」「B:剥離性が良好(ピンセ,ットで容易に剥離が可能)であるが,カミソリで切れ目を入れても自然剥離はしない」「C:剥離(ピンセットで剥離)できるが,ポリイミド樹脂膜に負担(伸びや,変形,一部千切れ)が生じる膜に負担がかかる」「D:剥離できなかった」の4段,階で評価している(段落【0053】)こと,本件明細書の表1の実施例1〜4,実施例5〜7,実施例8〜10をそれぞれ比較すると,密着性が上がると,剥離性が下がるという傾向がみられることが認められることからすると,本件発明1における密着性と剥離性は,完全なトレードオフの関係ではないにしても,独立した物性ではなく,相互に関連し,少なくとも相反する傾向を示す又は負の相関関係を有する物性を示すものであると認められる。
イ 甲1に記載された発明は,前記2(1)のとおり,フレキシブルデバイス基板用のポリイミド前駆体組成物等に関するものであり,キャリア基板上に塗布,乾燥,成膜し,次いで,好ましくは加熱等の手段により,脱水閉環させて,固体状のポリイミド樹脂膜を形成する工程,その上に回路を形成する工程,前記回路が表面に形成された固体状の樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程の各工程を含む,フレキシブルデバイスの製造方法に用いられるものである(段落【0011】。甲)- 128 -1において,フレキシブルデバイス基板は,液晶ディスプレイ,有機ELディスプレイ,電子ペーパー等の表示デバイス,太陽電池の受光デバイスであるフレキシブルデバイスに用いるものが想定されている(段落【0004】)から,その回路の形成には高い精度が求められ,キャリア基板上に形成されたポリイミド樹脂膜の上に回路を形成する工程を行うために,ポリイミド樹脂膜がキャリア基板に十分な密着性を有することが必要であると理解でき,そのためには,キャリア基板に塗布したポリイミド前駆体組成物に高い接着性が求められることは明らかである。そして,甲1には,「さらに,本発明のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物には,被塗布体との接着性向上のため,シランカップリング剤,チタンカップリング剤等のカップリング剤を添加することができる。上記カップリング剤としては,例えば,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アミノプロピルトリプロポキシシラン,γ−アミノプロピルトリブトキシシラン,γ−アミノエチルトリエトキシシラン,γ−アミノエチルトリメトキシシラン,γ−アミノエチルトリプロポキシシラン,γ−アミノエチルトリブトキシシラン,γ−アミノブチルトリエトキシシラン,γ−アミノブチルトリメトキシシラン,γ−アミノブチルトリプロポキシシラン,γ−アミノブチルトリブトキシシラン,などが挙げられ,また上記チタンカップリング剤としては,例えば,γ−アミノプロピルトリエトキシチタン,γ−アミノプロピルトリメトキシチタン,γ−アミノプロピルトリプロポキシチタン,γ−アミノプロピルトリブトキシチタン,γ−アミノエチルトリエトキシチタン,γ−アミノエチルトリメトキシチタン,γ−アミノエチルトリプロポキシチタン,γ−アミノエチルトリブトキシチタン,γ−アミノブチルトリエトキシチタン,γ−アミノブチルトリメトキシチタン,γ−アミノブチルトリプロポキシチタン,γ−アミノブチルトリブトキシチタン,などが挙げられる。これらは2種以上を併用してもよい。このときの使用量は,ポリイミド前駆体(樹脂分)に対して,0.1質量%以上,3質量%以下が好ましい。(段落【0019】」 )と記載されている。
- 129 -そうすると,耐熱性及び機械特性を有しているポリイミド樹脂膜がキャリア基板に十分な密着性を付与するために,甲1に記載されたこれらのカップリング剤を,その好ましい使用量として記載された,ポリイミド前駆体(樹脂分)に対して0.1質量%以上3質量%以下の範囲内の量で添加することに対する動機付けがある。
また,本件発明1記載のアルコキシシラン化合物は,甲1において,シランカップリング剤として挙げられたものを含んでおり,十分な密着性と共に,これと相互に関連し,少なくとも相反する傾向を示す又は負の相関関係を有する物性である剥離性を十分に得させるために,これらのシランカップリング剤の添加量の決定に,多少の試行錯誤を要するとしても,甲1に記載された0.1質量%以上3質量%以下の範囲から,0.2〜2重量%の添加量を見いだすことは当業者が容易になし得たことであるといえる。
ウ 原告は,添加剤がポリイミドの熱的及び機械的特性に影響する(低下させる)ことは技術常識であるから,当業者は,添加物の一種であるシランカップリング剤がポリイミド樹脂膜の靭性を低下させるものと推論するので,当業者が甲1の段落【0019】に記載されたシランカップリング剤に着目することはないと主張する。
甲30には,ポリイミドには優れた熱的化学的及び機械的特性があるが,フッ素及びケイ素を含む3種のビスイミド化合物(BisATAF−PA〔化合物(A),〕BPDA−ABF〔化合物(B)〕及びGAPD−PA〔化合物(C)〕)を合成し,ポリイミドへの添加による熱的及び機械的特性への添加効果を検討したところ,熱的,機械的特性は,添加量の増加とともに低下したことが記載されている。
しかし,甲30は,特定の3種のビスイミドをポリイミドに添加した際の影響を調べたものであり,添加物が一般的にポリイミドの熱的,機械的特性を低下させることを述べたものではないし,上記の添加物はいずれもアルコキシシラン化合物ではない。
また,甲36(特開2004−35825号公報)には,従来,ポリイミドの導- 130 -電性を改良する方法として,一般に,カーボン,グラファイトなどの導電性物質で被覆することにより導電性を付与された物質等の導電性充填剤(フィラー)を混合する方法が知られているが,溶液製膜法により製造される樹脂フィルム中に多量のフィラーを混合させる場合,フィラーの分散性を改良する目的で使用される分散剤がフィルム特性を悪化させることが多かった(段落【0002】)との記載,分散剤には公知のあらゆる分散剤,分散助剤,増粘剤,界面活性剤,合成樹脂の可塑剤等の各種薬剤及び/又は添加剤を混合して用いることもできるが,これら各種薬剤及び/又は添加剤の量が一定の範囲を上回ると,ポリアミドフィルムの機械的特性が低下するなどの現象が見られやすくなる(段落【0027】)との記載のほか,イミド化を化学キュア法により行う場合,化学的転化剤と触媒を含む硬化剤を併用する,化学的転化剤の量が一定の範囲を上回ると,得られるポリイミドフィルムの機械的特性が悪化したりすることがある(段落【0023】)との記載がある。
しかし,分散剤がフィルム特性を悪化させるとの記載や,添加剤の量が一定の範囲を上回ると得られるポリイミドフィルムの機械的特性が悪化することがあるといった記載から,添加剤が一般的にポリイミドのフィルム特性を悪化させると認めることはできない。
したがって,甲30及び36によっても,原告が主張する,添加剤がポリイミドの熱的,機械的特性に影響する(低下させる)との技術常識の存在は認められない。
その他,当業者が,シランカップリング剤がポリイミド樹脂膜の靭性を低下させるものと推論する根拠となるような技術常識の存在を認めることができる証拠はないから,当業者が,甲1の段落【0019】に記載されたシランカップリング剤に着目することがないということはできない。
エ 以上より,相違点1は,甲1の記載から,当業者が容易に想到し得たものと認められる。
(2) 相違点2についてア 甲1には,前記第2の3(2)ア記載の甲1発明1が記載されており,甲1- 131 -には,キャリア基板としてガラス基板やシリコン基板を用いることが記載されている(段落【0004】【0009】【0021】【0023】〜【0032】, , , )から,甲1発明1の組成物は,キャリア基板としてのガラス基板やシリコン基板に塗布するものであると理解できる。
また,甲1には,本発明における液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を塗布,「 乾燥,イミド閉環して得られるポリイミド樹脂膜の厚さは,1〜20μmであることが望ましい。これは,厚さが1μmに満たない場合にポリイミドフィルムが十分な耐性を保持できず,フレキシブルデバイスとして使用したとき応力に耐え切れず破壊されるためである。また,20μmを超えて厚くなると,フレキシブルデバイスの薄型化が困難となってしまう。(段落【0020】」 )と記載されているから,甲1発明1の組成物から得られるポリイミド樹脂膜としては,1〜20μmのものが想定されていることが理解できる。そして,本件発明1におけるポリイミド樹脂膜の厚さである1〜50μmは,甲1発明1について想定されている1〜20μmの範囲を全て包含する。
したがって,相違点2も容易想到であると認められる。
イ これに対し,原告は,@添加剤がポリイミドの熱的及び機械的特性に影響する(低下させる)のは技術常識である(甲30)から,添加剤の一種であるシランカップリング剤はポリイミド樹脂の熱膨張率や耐性に影響すること及びA甲1一般式(1)で表される構造を有するポリイミド前駆体のうち,特にRが水素原子,R2が芳香族環を有する4価の有機基であるものを採用した場合の「キャリア基板」やポリイミドフィルムの膜厚が甲1に記載されていないことを理由に,相違点2は容易想到ではないと主張する。
しかし,添加剤がポリイミドの熱的及び機械的特性に影響する(低下させる)との技術常識が存在すると認められないことは,前記(1)ウのとおりであるし,前記2(2)イのとおり,本件発明の本件一般式(1)と甲1発明1の甲1一般式(1)には相違点がないから,原告の主張を採用することはできない。
- 132 -ウ 以上より,相違点2は,甲1の記載から,当業者が容易に想到し得たものと認められる。
(3) 本件発明1の効果についてア 原告は,本件発明1と甲1発明1の効果を比較すると,本件発明1は,少なくとも「支持体と十分な密着性を有」するという点で,甲1発明1よりも顕著な効果があると主張する。
甲1には,ポリイミド前駆体樹脂組成物の被塗布体である支持体への接着性向上のためにシランカップリング剤を添加できることが記載されており(段落【0019】,甲1発明1の前駆体樹脂組成物は,前駆体樹脂を支持体に塗布した状態で加)熱してポリイミド樹脂膜にするものである(段落【0021】【0023】【00, ,26】〜【0032】)から,支持体とポリイミド前駆体組成物の接着性を向上させることにより,支持体とポリイミド樹脂膜の密着性も向上することは当業者に明らかである。
そうすると,ポリイミド前駆体にシランカップリング剤を添加するという本件発明1の構成によって,甲1発明と同様に,「支持体と十分な密着性を有」するとの効果が得られることは当業者が予測し得ることであるから,これをもって当業者が予測することができない顕著な効果であると認めることはできない。
イ 原告は,添加剤はポリイミドの熱的及び機械的特性に影響することは技術常識であるから,「支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)」であり,さらに耐熱性及び機械特性に優れている本件発明1の効果は,甲1の記載から予測し得ないものであると主張する。
しかし,添加剤がポリイミドの熱的及び機械的特性に影響するとの技術常識が存在すると認められないことは,前記(1)ウのとおりである。
また,甲1の段落【0022】には,「本発明のフレキシブルデバイスの製造方法においては,以上のようにして形成したポリイミド膜の上に,表示デバイス,受光- 133 -デバイスに必要な回路を形成する工程を含む。
・・・本発明において得られるポリイミド樹脂膜は耐熱性,靱性等各種特性に優れるので,回路等を形成する手法は特に制限されない。以上のようにして,回路等が表面に形成された固体状のポリイミド樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する。剥離方法に特に制限はなく,例えばキャリア基板側からレーザー等を照射することで剥離を行っても良い。本発明により得られるポリイミド樹脂膜は,高い靭性を有するので,キャリア基板(支持体)と単に物理的に剥離することも可能である。」と記載されているから,「支持体から剥離する際にレーザーを用いずに,物理的な方法で綺麗に剥離することが可能(剥離性が良好)」であり,さらに,「熱的及び機械特性に優れ」ているとの本件発明1の効果が,本件発明1の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであると認めることはできないというべきである。
ウ したがって,本件発明1が,当業者が予測することができない顕著な効果を有するということはできない。
(4) 以上によると,本件発明1は,甲1から容易に発明をすることができたと認められるから,取消事由1−2には理由がない。
4 取消事由2−1(本件発明2について:一致点及び相違点の認定の誤り)について(1) 前記1及び2(1)によると,本件発明2と甲1発明1の一致点及び相違点は,前記第2の3(3)アのとおりと認められる。
(2) 原告は,本件発明1についてと同様の主張をするが,原告の主張を採用することができないことは,前記2のとおりである。
(3) したがって取消事由2−1は理由がない。
5 取消事由2−2(本件発明2について:相違点の判断の誤り)について(1) 本件発明2と甲1発明1には,相違点3及び相違点2aが存在するところ,相違点2aは,相違点2と同様の相違点であるため,前記3(2)のとおり,容易想到であると認められる。
- 134 -(2) 相違点3についてア 甲1には,甲1発明1において,ポリイミド樹脂膜の支持体への密着性を向上させることができるカップリング剤として,本件発明2記載のアルコキシシラン化合物は記載されていない。また,本件発明2記載のアルコキシシラン化合物がキャリア基板に形成したポリイミド樹脂膜上に回路を形成後,キャリア基板から剥離するフレキシブルデバイス基板形成用のポリアミド樹脂組成物から形成した樹脂膜のキャリア基板への密着性を向上させるのに適するものであることが本件優先日の当業者の技術常識であったことを認めることができる証拠はない。
そうすると,甲1に接した当業者が,本件発明2に記載されたアルコキシシラン化合物を選択する動機付けがあるとは認められないから,相違点3が容易想到であると認めることはできない。
イ(ア) これに対し,被告は,甲22の記載によると,本件発明2記載のアルコキシシラン化合物は,いずれも,甲1に記載されたγ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどと同様に,シランカップリング剤(接着促進剤)として汎用のものであるとともに,甲2〜6の記載から,他の基材に対する接着性改善のためにポリイミド樹脂(前駆体)に対して添加されるシラン化合物として当業者に公知なものであるから,甲1発明1の樹脂組成物において,キャリア基板などの被塗布体との接着性向上のためのシランカップリング剤として,本件発明2記載のアルコキシシラン化合物を使用することは,当業者が適宜なし得ることであると主張する。
(イ) 甲22についてa 甲22には,以下の記載がある。
21.カップリング剤(接着促進剤)・・・◆(12)γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン・・・〔特性〕分子量236,比重1.06,屈折率1.427,沸点290℃/760- 135 -mm。水に溶け,pH3.0〜4.5で完全に溶解する。多くの有機溶剤に可溶。
ポリエステル,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,ポリエチレン,ポリカーボネート,ABS,塩ビ樹脂,ポリウレタンに有用。
・・・シリカ入りの硫黄加硫SBR,EPDMに添加すると物性が大幅に増大する。
◆(19)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン・・・〔特性〕分子量221,比重0.94,屈折率1.420,沸点217℃/760mm。水に可溶。とくに塩ビ樹脂に有効で,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,フェノール樹脂,ポリプロピレン,ポリカーボネート,ナイロン樹脂,EPM,EPDMその他の硫黄加硫ゴム,ポリウレタン,多硫化ゴムにも利用できる。
◆(20)3−アミノプロピルトリメトキシシラン・・・〔特性〕分子量179.3,比重1.01(25℃),屈折率1.422,沸点215℃。
◆(21)N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン・・・〔特性〕分子量255.4,比重1.07,屈折率1.504,沸点312℃/760mm。ポリイミド,エポキシ樹脂,フェノール樹脂,メラミン樹脂に有用。
◆(27)γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン・・・〔特性〕分子量264,比重0.91,屈折率1.386,水に溶ける。エポキシ樹脂,メラミン樹脂,フェノール樹脂などの複合材に卓効がある。
(以上につき,393頁1行〜398頁25行)b 甲22によると,本件優先日時点において,プラスチックに添加するシランカップリング剤として,甲1の段落【0019】に記載されたγ−アミノプロピルトリエトキシシラン,γ−アミノプロピルトリメトキシシランと,本件発明2における3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,3−ウレイドプロピルトリエトキシシランが知られていたと認められる。そして,甲22には,甲1に記載されたγ−アミノプロピルトリエトキシシランの特性として,「とくに塩ビ樹脂に有効で,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,フェノール樹脂,ポリプロピレン,ポ- 136 -リカーボネート,ナイロン樹脂,EPM,EPDMその他の硫黄加硫ゴム,ポリウレタン,多硫化ゴムにも利用できる。」と記載され(同じく甲1に記載されたγ−アミノプロピルトリメトキシシランの特性は,甲22には記載されていない。,本件)発明2に記載された3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランであるγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランについては,「ポリエステル,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,ポリエチレン,ポリカーボネート,ABS,塩ビ樹脂,ポリウレタンに有用。,」「シリカ入りの硫黄加硫SBR,EPDMに添加すると物性が大幅に増大する。,3−ウレイドプロピルトリエトキシシランであるγ−ウレイドプロピル」トリエトキシシランについては,「エポキシ樹脂,メラミン樹脂,フェノール樹脂などの複合材に卓効がある。」とそれぞれ記載されている。
しかし,甲22に記載されたシランカップリング剤のうち,ポリイミドへの添加について言及されているのは,(21)のN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランのみであり,甲22には,甲1や本件発明2に記載された上記のアルコキシシラン化合物が,ポリイミドに添加されるシランカップリング剤であるとの記載はない。
そうすると,甲22を根拠に,本件発明2記載のアルコキシシラン化合物をポリイミドに添加することが容易想到であると認めることはできない。
(ウ) 甲2〜6についてa 甲2には,次の記載がある。
「本発明は,金属酸化物が均一に配合されてなる金属酸化物含有ポリイミド系重合体成形物に関するものである。(2欄3行〜4行)」「ポリイミド系重合体は,その前駆体であるポリアミック酸系重合体に含まれるシランカップリング剤は,重合体に配合される金属アルコキシド,その他の物質の分散性,混合性を向上せしめるのに有用であって,組成物からの成形物においてそれを含まない成形物に比して熱膨張率などの特性にもとづく寸法安定性が著しく改善される。(5欄14行〔化学式を除く。以下において同じ〕〜20行)」 。
- 137 -「かかるシランカップリング剤としては,1個以上のアミノ基,特に第1級および/あるいは第2級のアミノ基を有する例えばγ−アミノプロピルトリメトキシシラン,γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン,1個以上のグリシジル基を有する例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン・・・などが好適なものとして挙げられる。その他,フェニルトリメトキシシランの如きフェニル系シランカップリング剤・・・なども使用しうるものとして例示できる。これらシランカップリング剤において,特にポリイミド系重合体あるいは,その前駆体であるポリアミック酸系重合体の官能基,例えば-COOH, -NH2,などと反応性を有するようなシランカップリング剤を用いた場合は効果が著しい。(6欄5行〜7欄2行)」 。
「本発明におけるシランカップリング剤を含むポリイミド系重合体あるいはポリアミック酸系重合体と金属アルコシドとよりなる組成物を例えば,キャスト成形してなる組成物が高耐熱性,高強度,寸法安定性に優れることに関する作用機構については必ずしも明確ではないが,金属アルコキシドがモノマー状態または部分縮合物の形態でポリイミド成分と混合されるための成形時の加熱処理による縮合によって生成される金属酸化物が極めて均一な状態で分散され,しかもこの際シランカップリング剤を含むことから,金属酸化物がポリイミド成分との間の何らかの相互作用や化学的結合などを促進させることなどによるものと推測される。(10欄19」行〜30行)b 甲3には,次の記載がある。
「本発明は,透明性を損なわずに,寸法安定性に優れ,かつ無機化合物基板との密着性が高いシリカ粒子が分散してなる新規なポリイミド組成物およびその製造方法を提供することにある。(段落【0006】」 )「・・・アルコキシシラン及び/またはその部分加水分解重縮合化合物(A)と,アミノ基含有アルコキシシラン,水素結合性又はイオン結合性官能基を含有するアミノ化合物から選ばれる1種以上の化合物(B)とを,ポリイミド溶液中,加水分解・重縮合を行うことで,上記目的にかなう材料になることを見出し,本発明に至- 138 -った。(段落【0007】。
」 )「本発明のポリイミド組成物の製造方法で使用するのはアルコキシシラン及び/またはその部分加水分解重縮合化合物(A)としては,・・・フェニルトリメトキシシラン,・・・3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン・・・等のアルコキシシラン類が挙げられ,部分加水分解重縮合物はこれらの1種以上のアルコキシシラン類に酸またはアルカリ化合物を触媒として加水分解,重縮合することにより得られるものである。寸法安定性,即ち線膨張率の低減効果が大きいことから,テトラメトキシシラン,又はテトラエトキシシランを用いることが好ましい。(段落【0」019】)「本発明の製造方法で使用される,アミノ基を有するアルコキシシランとしては,例として3−アミノプロピルトリメトキシシラン,3−アミノプロピルトリエトキシシラン・・・等をあげることができるが,これらに限定されるものではなく,これらの中から選ばれる1種以上のアミノ基を含有するアルコキシシランが使用されることが好ましい。寸法安定性や密着性への効果が大きいことから,3−アミノプロピルトリメトキシシラン,3−アミノプロピルトリエトキシシランを用いることがより好ましい。(段落【0020】」 )c 甲4には,次の記載がある。
「本発明は,・・・ポリイミド銅張積層板に関する。(段落【0001】」 )「・・・本発明は,シランカップリング剤を含むポリイミド積層板を提供する。
本発明の積層板は中間の接着剤層を全く含有せず,ポリイミド層は,表面粗さの低い銅箔に対する強い接着性,高透明度,良好な機械的特性,ならびに十分な寸法安定性および熱安定性の各長所を兼ね備える。 (段落【0014】」 )「・・・このポリイミド積層板は,シランカップリング剤を含有するポリイミド層と,銅箔の層とを含み,この場合,ポリイミド層は,ジアミンモノマーと,二無水物モノマーと,有機溶媒と,1種または複数種の有機官能基を有するシランカップリング剤とを含む前駆体から形成され,銅箔の表面粗さは0.7μm未満である。」- 139 -(段落【0015】)「ポリイミド層と銅箔との間の接着性を高めるために,接着促進剤としての特定のシランカップリング剤がポリイミド前駆体コーティング溶液中に直接組み込まれる。このように利用する場合,シランカップリング剤は,最終的に硬化した状態のポリイミド層に対する銅箔の接着性を高める一方で前駆体コーティング溶液の特性(例えば,分子量,粘度,安定性)をあまり下げないように,注意深く選択されなければならない。
・・・この観点から,しばしばポリイミドと共に使用される,典型的な第1級アミノ官能性シランおよび第2級アミノ官能性シラン(例えば,γ−アミノプロピルトリエトキシシラン)は好ましくなく,なぜなら,これらの官能性シランは(例えば,ポリマー前駆体のカルボン酸基との塩の形成,またはアミド結合を有するポリマー前駆体からの芳香族アミンの置換を介して)ポリマー前駆体の骨格と直接反応し,その結果,粘度不安定性および/またはポリマー分子量の損失が生じ得るからである。(段落【0016】」 )「本発明に好ましいシランカップリング剤は,尿素基またはカルバメート基を含有する。最も好ましいシランカップリング剤は,γ−ウレイドプロピルトリメトキシシランまたはγ−ウレイドプロピルトリエトキシシランである。(段落【001」8】)d 甲5には次の記載がある。
「本発明は,熱伝導性接着樹脂組成物・・・に関する。」(段落【0001】)「特に樹脂と無機フィラーとを含む樹脂組成物では,樹脂と無機フィラーの相溶性が低いと,無機フィラーの周囲に樹脂に覆われない部分,即ちボイド(空隙)を生じる。」(段落【0005】)「本発明は,・・・ポリイミド樹脂と無機フィラーを含む樹脂組成物の,熱伝導性の向上と,接着性の向上とを両立させること,好ましくはさらに耐熱性の向上を実現すること,を目的とする。(段落【0006】」 )「本発明者らは,ポリイミド樹脂と無機フィラーの相溶性を高めることによって,- 140 -無機フィラーの周囲をポリイミド樹脂が隙間なく覆い,ボイドを抑制すること,それにより少ない無機フィラー含量でも高い熱伝導性が得られることを見出した。」(段落【0007】)「本発明の第1は,熱伝導性接着樹脂組成物に関する。
[1] ポリイミド樹脂(A)と,25〜60体積%の無機フィラー(B)とを含む熱伝導性接着樹脂組成物であって,前記ポリイミド樹脂(A)は,テトラカルボン酸二無水物とジアミンの重縮合ユニットを含み,前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンの合計のうち,イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)と,カルボニル基を有する芳香族ジアミン(β1)との合計割合が1.0モル%以上29.0モル%以下であり,かつ前記イミド環を構成するカルボニル基以外のカルボニル基は,ケト基,オキシカルボニル基,ジオキシカルボニル基またはアミド基(ただし,アミド基に含まれる窒素原子は,イミド環を構成する窒素原子である)を構成し,前記ポリイミド樹脂(A)を構成するテトラカルボン酸二無水物が,前記芳香族テトラカルボン酸二無水物(α1)とともに式(1)で表されるテトラカルボン酸二無水物をさらに含むか,または前記ポリイミド樹脂(A)を構成するジアミンが,前記芳香族ジアミン(β1)とともに式(2)で表されるジアミンをさらに含む,熱伝導性接着樹脂組成物。
【化1】〔式(1)のm及び式(2)のnは,それぞれ0以上の整数である〕(段落【0」010】)- 141 -「本発明の接着樹脂組成物は,ポリイミド樹脂(A)と,無機フィラー(B)以外の任意の成分を含んでもよい。任意の成分の例には,表面改質剤を含有していてもよく,表面改質剤の例にはシランカップリング剤(C)が含まれる。表面改質剤は,無機フィラーの表面を処理するために用いられてもよい。(段落【0055】」 )「シランカップリング剤(C)の例には,・・・3-アミノプロピルトリメトキシシラン,3-アミノプロピルトリエトキシシラン・・・3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン・・・3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン・・・などが含まれる。(段落【0056】」 )「・・・本発明の接着樹脂組成物は,それに含まれる無機フィラー(B)の含量が比較的低いにもかかわらず,熱伝導に寄与する無機フィラー(B)の割合が高く,熱伝導率が高いことを特徴とする。そのため,接着性や耐熱性や可撓性に優れており,かつ十分な熱伝導性を有する樹脂組成物となる。(段落【0058】」 )「本発明の接着樹脂組成物は,無機フィラー(B)の含量が比較的低いにもかかわらず,熱伝導性が高いのは,ポリイミド樹脂(A)と無機フィラー(B)の相溶性が高く,無機フィラー(B)周囲をポリイミド樹脂(A)が隙間なく覆い,ボイドを抑制できるからである。(段落【0059】。
」 )e 甲6には,次の記載がある。
「本発明は,電子部品の絶縁膜又は表面保護膜用樹脂組成物,パターン硬化膜の製造方法及び電子部品に関するものであり,さらに詳しくは,耐熱性を有する電子部品の絶縁膜又は表面保護膜用樹脂組成物,該樹脂組成物を用いたレリーフパターンの製造方法,並びに当該レリーフパターンを表面保護膜,層間絶縁膜等として備える電子部品に関する。」(段落【0001】)「ポリイミド樹脂は耐熱性に優れるという性質を有しているため,半導体素子等の分野で幅広く使用されている。特にポリイミド樹脂は,層間絶縁膜,及び封止剤と半導体チップとの間に設けられる表面保護膜(バッファーコート)として用いられている。(段落【0002】」 )- 142 -「ここで,表面保護膜とは,前工程で形成されたアルミ薄膜回路及び酸化膜が,後工程の作業中にダメージを受けたり,半導体チップ実装後,封止剤とシリコンとの熱膨張係数の違いによってクラックが生じたりするのを防ぐ役割を果たす膜である。(段落【0003】」 )「・・・従来のポリイミド樹脂及びポリベンゾオキサゾール樹脂では,現像後に形成されたレリーフパターンが最終加熱時において膜が溶融し開口パターンの寸法が小さくなる又は開口パターンが消失する(以下,「メルト」という)という問題があった。(段落【0006】。
」 )「本発明の目的は,最終加熱時においてメルトを起こすことなく,また,最終加熱以降の加熱においても架橋成分等の昇華及びガス成分の発生が少ない層間絶縁膜又は表面保護膜を成膜可能な樹脂組成物を提供することである。 段落(」 【0011】。
)「本発明によれば,以下の樹脂組成物等が提供される。
1.(A)下記式(I)で表される構造単位を有し,酸性官能基若しくはその誘導基を両末端に有する重合体,【化1】(式中,X1は,2〜8価の有機基である。Y1は,2〜8価の有機基である。R1は水素原子又は炭素数1〜20の有機基である。R2は水素原子又は1価の有機基である。R1又はR2が複数あるとき,複数のR1又はR2は同一でも異なってもよい。
p及びqは,それぞれ0〜4の整数である。l及びmは,それぞれ0〜2の整数である。nは重合体中の構造単位の数を示す2以上の整数である。)- 143 -(B)溶媒,及び(C)下記式(II)で表される化合物【化2】(式中,R3は,1価の有機基である。)を含んでなる電子部品の絶縁膜又は表面保護膜用樹脂組成物」(段落【0013】)「本発明の樹脂組成物が含む(C)成分は,下記式(II)で表される化合物である。
【化6】(式中,R3は,1価の有機基である。)この化合物は,(A)成分の前記酸性官能基又はその誘導基である末端基と反応すると推定される。それにより本発明の優れた効果が得られると推定される。(段落」【0055】)「R3がアルコキシシリル基を官能基として有する有機基である式(II)で表される化合物としては,例えばウレイドメチルトリメトキシシラン,・・・3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン・・・等が挙げられる。(段落【0057】」 )「本発明の組成物は,上記(A)〜(D)成分の他に,シリコン基板に対する接着性増強剤としてシランカップリング剤(但し前記(C)成分を除く)を含むことができる。
上記シランカップリング剤としては,反応性の点からアルコキシシラン類が好ましい。
アルコキシシラン類としては,例えば,・・・3−アミノプロピルトリメトキシシラン,・・・3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,・・・ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン・・・等が挙げられる。」- 144 -(段落【0069】)f 上記a〜eによると,甲2〜6について,以下のようにいうことができる。
甲2において,シランカップリング剤は,金属アルコキシドやその他の物質のポリイミド系重合体の前駆体であるポリアミック酸系重合体への分散性,混合性を向上させ,熱膨張率などの特性にもとづく寸法安定性を改善することを目的とするものであり,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発明2とは異なる目的のために配合されている。
甲3において,アルコキシシラン化合物は,透明性を損なわずに,寸法安定性に優れ,かつ無機化合物基板との密着性が高いシリカ粒子が分散してなる新規なポリイミド組成物及びその製造方法を提供するために,ポリイミド溶液に添加し,ポリイミド溶液において水の存在下で反応させるものであり,本件発明2において,アルコキシシランが,ポリイミド前駆体であるポリアミド酸の組成物に配合されるのとは,配合対象が異なっている上,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発明2とは異なる目的のために配合されている。
甲4は,ポリイミド銅張積層板のポリイミド層と銅箔との間の接着性を高めるために,ポリイミド前駆体コーティング溶液中に,アルコキシシランを組み込むというもので,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発明2とは異なる目的のために配合されている。
甲5は,良好な熱伝導性と接着性を有し,さらに,良好な耐熱性を有する樹脂組成物を提供することを目的とするものであるが,(C)成分の例として,3−ウレイドプロピルトリエトキシシランを含む組成物が,ポリイミド樹脂と無機フィラーの相溶性を高め,ボイド(空隙)を抑制し,少ない無機フィラー含量でも高い熱伝導- 145 -性が得られると記載されており,本件発明2のように,「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離する」というものではないから,本件発明2とは異なる目的のために配合されている。
甲6は,電子部品の絶縁膜又は表面保護膜用樹脂組成物,パターン硬化膜の製造方法及び電子部品に関するものであり,最終加熱時においてメルトを起こすことなく,最終加熱以降の加熱においても架橋成分等の昇華及びガス成分の発生が少ない層間絶縁膜又は表面保護膜を製造するために,3−ウレイドプロピルトリエトキシシランを添加することができる(段落【0057】)というものであり,シリコン基板に対する接着性増強剤として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランなどのアルコキシシラン化合物を含むことができる(段落【0069】 との記載があるが,) 「支持体と十分な密着性」を有し,かつ,「物理的な方法で綺麗に剥離すること」が可能なポリイミド樹脂膜を形成することが可能な樹脂組成物を提供するという本件発明2とは添加目的が異なっている。
g 以上によると,甲2〜6によって,甲2〜6にされたアルコキシシラン化合物を本件発明2のために用いるという動機付けがあるとは認められないから,相違点3が容易想到であると認めることはできない。
なお,甲2〜6には,ポリイミド前駆体に添加するシランカップリング剤として,本件発明2における4種のアルコキシシラン化合物のうちの少なくとも1種と甲1記載の他種のものが並列的に列挙されているとしても,甲2〜6は,アルコキシシラン化合物を使用する目的や対象が本件発明2とは異なるから,本件発明2において,甲2〜6に記載するアルコキシシラン化合物を用いることが容易想到であるとは認められない。
(3) 以上によると,本件発明2は,当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできないから,効果の点について判断するまでもなく,取消事由2−2は理由がある。
- 146 -6 取消事由3−1(本件発明3について:一致点及び相違点の認定の誤り)について前記1及び2(1)によると,本件発明3と甲1発明1の一致点及び相違点は,前記第2の3(4)アのとおりと認められる。
原告は,本件発明3と甲1発明1の相違点について,本件発明1についてと同様の主張をするが,原告の主張を採用することができないことは,前記2のとおりである。
したがって,取消事由3−1は理由がない。
7 取消事由3−2(本件発明3について:相違点の判断の誤り)について本件発明3と甲1発明1には,相違点1aと相違点2bが存在するところ,相違点1aについては,前記3(1)のとおりであり,相違点2bについては,前記3(2)のとおりであり,いずれも,容易想到である。また,本件発明3の効果については,前記3(3)のとおりである。
したがって,取消事由3−2は理由がない。
8 取消事由4−1(本件発明4について:一致点及び相違点の認定の誤り)前記1及び2(1)によると,本件発明4と甲1発明1の一致点及び相違点は,前記第2の3(5)アのとおりと認められる。
原告は,本件発明4と甲1発明1の相違点について,本件発明1についてと同様の主張をするが,原告の上記主張を採用することができないことは,前記2のとおりである。
したがって,取消事由4−1は理由がない。
9 取消事由4−2(本件発明4について:相違点の判断の誤り)本件発明4と甲1発明1には,相違点1bと相違点2cが存在するところ,相違点1bについては,(b)成分の含有量が(a)成分に対して0.2〜1質量%であるからといって,前記3(1)の判断が変わるものではないから,前記3(1)のとおりであり,相違点2cについては,前記3(2)のとおりであり,いずれも容易想到であ- 147 -る。また,本件発明4の効果については,前記3(3)のとおりである。
したがって,取消事由4−2は理由がない。
10 取消事由5−1(本件発明6について:一致点及び相違点の認定の誤り)(1) 前記1及び2(1)によると,本件発明6と甲1発明1の一致点は,次の(2)のとおりであり,相違点は,前記第2の3(6)ア(イ)及び(ウ)のとおりと認められる。
本件発明6には(a)成分の重量平均分子量が15,000〜200,000とされており,これは,甲1の請求項2や段落【0017】と同じ内容であるから,(a)成分の重量平均分子量が上記のように特定されていることは,一致点とするべきである。
他方,原告は,本件発明6と甲1発明1において,本件発明1と甲1発明1の対比と同様に,ポリアミド酸の構造の相違を看過していると主張するが,原告の主張を採用することができないことは,前記2のとおりである。
(2) 一致点(a)一般式(1)で表される構造単位を有するポリアミド酸と,(c)有機溶剤と,を含有し,(a)成分の重量平均分子量が15,000〜200,000である樹脂組成物であって,前記樹脂組成物を基板に塗布,加熱し,ポリイミド樹脂膜を形成する工程と,前記ポリイミド樹脂膜上に半導体素子を形成する工程と,前記半導体素子が形成されたポリイミド樹脂膜を支持体から剥離する工程とを含む,ディスプレイ基板の製造方法に用いられる,樹脂組成物。
【化15】(一般式一般式(1)中,R1は下記式(3)で表される2価の有機基を示し,R2は芳香族環を有する4価の有機基を示す。)- 148 -【化16】(3) もっとも,本件決定の相違点の認定には誤りがないため,一致点の認定の誤りが本件決定の結論に影響すると認めることはできない。
したがって,取消事由5−1は理由がない。
11 取消事由5−2(本件発明6について:相違点の判断の誤り)本件発明6と甲1発明1には,相違点1cと相違点2dが存在するところ,相違点1cについては,前記3(1)のとおりであり,相違点2dについては,前記3(2)のとおりであり,いずれも,容易想到である。また,本件発明6の効果については,前記3(3)のとおりである。
したがって,取消事由5−2は理由がない。
12 取消事由6−1(本件発明17について:一致点及び相違点の認定の誤り)前記1及び2(1)によると,本件発明17と甲1発明1の一致点及び相違点は,前記第2の3(7)アのとおりと認められる。
原告は,本件発明17と甲1発明1において,本件発明1についてと同様の主張をするが,原告の主張を採用することができないことは,前記2のとおりである。
したがって,取消事由6−1は理由がない。
13 取消事由6−2(本件発明17について:相違点の判断の誤り)本件発明17と甲1発明1には,相違点1dと相違点2eが存在するところ,相違点1dについては,前記3(1)のとおりであり,相違点2eについては,前記3(2)のとおりであり,いずれも,容易想到である。また,本件発明17の効果については,前記3(3)のとおりである。
したがって,取消事由6−2は理由がない。
14 取消事由7−1(本件発明7,9,11,13,15及び18について:一- 149 -致点及び相違点の認定の誤り)について本件発明7,9,11,13,15及び18は,それぞれ本件発明1,2,3,4,6及び17の樹脂組成物を加熱して得られるポリイミド樹脂膜に係る発明であるところ,本件発明1,2,3,4,6及び17と甲1発明1の相違点の認定に誤りがない以上,本件発明7,9,11,13,15及び18についても,甲1発明2との相違点の認定に誤りはない。
したがって,取消事由7−1は理由がない。
15 取消事由7−2(本件発明7,9,11,13,15及び18について:相違点の判断の誤り)について本件発明9は,請求項2に記載された樹脂組成物を加熱して得られるポリイミド樹脂膜に係る発明であるところ,本件発明2が容易想到でないことからすると,本件発明9も容易想到でないことになる。
他方,本件発明7,11,13,15及び18は,それぞれ本件発明1,3,4,6及び17の樹脂組成物を加熱して得られるポリイミド樹脂膜に係る発明であるところ,本件発明1,3,4,6及び17が,いずれも,甲1発明1から容易想到であったのであるから,これらも甲1発明2に基づき容易想到であることになる。
したがって,取消事由7−2については,本件発明9に係る部分には理由があるが,その余は理由がないことになる。
16 取消事由8−1(本件発明8,10,12,14,16及び19について:一致点及び相違点の認定の誤り)について本件発明8,10,12,14,16及び19は,それぞれ本件発明7,9,11,13,15及び18のポリイミド樹脂膜を含むディスプレイ基板に係る発明であるところ,本件発明7,9,11,13,15及び18と甲1発明1の相違点の認定に誤りがない以上,本件発明8,10,12,14,16及び19についても,甲1発明3との相違点の認定に誤りはない。
したがって,取消事由8−1は理由がない。
- 150 -17 取消事由8−2(本件発明8,10,12,14,16及び19について:相違点の判断の誤り)について本件発明10は,請求項9に記載のポリイミド樹脂膜を含むディスプレイ基板に係る発明であるところ,本件発明9が容易想到でないことからすると,本件発明10も容易想到でないことになる。
他方,本件発明8,12,14,16及び19は,それぞれ本件発明7,11,13,15及び18のポリイミド樹脂膜を含むディスプレイ基板に係る発明であるところ,本件発明7,11,13,15及び18が,いずれも,甲1発明2から容易想到であったのであるから,これらも甲1発明3に基づき容易想到であることになる。
したがって,取消事由8−2については,本件発明10に係る部分には理由があるが,その余は理由がないことになる。
第6 結論以上によると,原告の請求のうち,本件発明2,9及び10に係る請求には理由があるが,その余の請求には理由がない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部裁判長裁判官森 義 之- 151 -裁判官眞 鍋 美 穂 子裁判官佐 野 信- 152 -
事実及び理由
全容
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