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関連審決 無効2000-35125
無効2018-800084
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事件 令和 1年 (行ケ) 10087号 審決取消請求事件

原告 東芝映像ソリューション株式会社
同訴訟代理人弁護士 上山浩
同訴訟代理人弁理士 片山健一
被告日亜化学工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 牧野知彦 加治梓子
同訴訟代理人弁理士 田村啓 山尾憲人玄番佐奈恵
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/06/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2018-800084号事件について令和元年5月8日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,@サ ポート要件及びA進歩性の各認定判断の誤りの有無である。
1 手続の経緯 (1) 被告は,平成9年7月29日,発明の名称を「発光装置と表示装置」とする特許出願(特願平10-508693号。優先権主張:平成8年7月29日,平成8年9月17日,平成8年9月18日,平成8年12月27日,平成9年3月31日,優先権主張国:日本)をし,平成14年9月24日,上記特願平10-508693号の一部を特願2002-278066号として分割出願し,平成17年5月19日,上記特願2002-278066号の一部を特願2005-147093号として分割出願し,平成18年7月19日,上記特願2005-147093号の一部を特願2006-196344号として分割出願し,平成20年1月7日,上記特願2006-196344号の一部を特願2008-269号として分割出願し,平成24年8月29日,上記特願2008-269号の一部を特願2012-189084号として分割出願し,平成25年1月18日,その設定登録を受けた(特許第5177317号。請求項の数2。以下「本件特許」という。)。
(2) 原告は,平成30年7月9日に本件特許の無効審判を請求し(無効2018-800084号事件),被告は,同年11月9日付けで請求項2を訂正することを含む訂正請求(以下「本件訂正」といい,本件訂正後の本件特許に係る明細書及び図面を「本件明細書」という。)をした。特許庁は,令和元年5月8日,本件訂正を認めた上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同審決謄本は,同月16日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨(甲56) 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,各請求項に係る発明を,それぞれ請求項の番号に応じて,本件発明1」 本件発明2」 「 「 ,といい,本件発明1と本件発明2を併せて「本件発明」という。。
) 【請求項1】 白色系を発光する発光ダイオードであって, 該発光ダイオードは,発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり,前記発光層の発光スペクトルのピークが420〜490nmの範囲にあるLEDチップと,該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する,Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体とを含む, ことを特徴とする発光ダイオード。
【請求項2】 白色系を発光するLED光源であって, 該LED光源は,発光層がインジウムを含む窒化ガリウム系化合物半導体であり,前記発光層の発光スペクトルのピークが420〜490nmの範囲にあるLEDチップと,該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する,Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体とを含み,前記LED光源は発光ダイオードである ことを特徴とするLED光源。
3 審決の理由の要点 (1) 原告が主張する無効理由 ア 無効理由1 本件発明の「Y(イットリウム)及びGd(ガドリウム)からなる群から選ばれた少なくとも1つの元素」との記載は,Yを含まない(Gdのみを含む)ガーネット系蛍光体を文言上包含する。
しかし,このような組成のガーネット系蛍光体を用いた場合には, 「より高輝度」の「白色系」を発光する発光ダイオードを実現し得ない。
したがって,本件発明についての特許は,特許法36条6項1号に規定する要件 (サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,特許法123条1項4号により,無効とされるべきである。
イ 無効理由2 本件発明の「Al(アルミニウム)及びGa(ガリウム)からなる群から選ばれる少なくとも1つの元素」との記載は,Alを含まない(Gaのみを含む)ガーネット系蛍光体を文言上包含する。
しかし,このような組成のガーネット系蛍光体を用いた場合には, 「より高輝度」の「白色系」を発光する発光ダイオードを実現し得ない。
したがって,本件発明についての特許は,特許法36条6項1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,特許法123条1項4号により,無効とされるべきである。
ウ 無効理由3-1 本件発明は,甲13(特開平5-152609号公報)に記載された発明(以下「甲13発明」という。)及び甲1〜12,14〜22,24に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明に係る特許は,特許法123条1項2号により,無効とされるべきである。
エ 無効理由3-2 本件発明2は,甲14(特開平8-7614号公報)に記載された発明(以下「甲14発明」という。)及び甲1〜12,15〜22,24に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明2に係る特許は,特許法123条1項2号により,無効とされるべきである。
(2) 無効理由1,2(サポート要件違反)について ア 本件発明が解決しようとする課題は,「従来の発光ダイオードは,蛍光体の劣化によって色調がずれたり,あるいは蛍光体が黒ずみ光の外部取り出し効率が低下する場合があるという問題点があったこと」 本件明細書の段落 ( 【0007】,以下「課題1」という。)及び「イオン性の有機染料を使用すると,チップ近傍で は直流電界により電気泳動を起こし,色調が変化する場合があること」(段落【0009】,以下「課題2」という。)であり,本件発明は,「上記課題を解決し,より高輝度で,長時間の使用環境下においても発光光度及び発光光率の低下や色ずれの極めて少ない発光装置を提供すること」を目的としている(段落【0010】 。
) そして,本件発明の課題1,2を解決する手段は,蛍光体として,「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体」を含み,当該ガーネット系蛍光体は,「発光層の発光スペクトルのピークが420〜490nmの範囲にあるLEDチップ」「によって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光」し,それにより「白色系を発光する」ものである。
上記蛍光体は,ガーネット構造を有する「(Y1-aGda)3(Al1-bGab)5O12:Ce(ただし,0≦a≦1,0≦b≦1)」の式で表されるもの(以下「本件一般式蛍光体」という。なお,本件一般式蛍光体のようなイットリウム・アルミニウム・ガーネット蛍光体のことを「ガーネット系蛍光体」,「YAG蛍光体」,「YAG系蛍光体」ともいう。)であるが,本件明細書の段落【0050】の記載,Y,Gd,Al及びGaに関する技術常識からすると,当業者は,上記課題解決手段により課題1,2を解決することができると認識できると認められるから,本件発明はサポート要件を満たしている。
イ 原告は,本件一般式蛍光体のうち,GdのみがYサイトの全てを占める蛍光体で構成された発光ダイオードは,輝度が低いものとなる上,本件一般式蛍光体のうち,YとAlのいずれか一方でも含まれない蛍光体を用いた場合はほとんど発光しないことがあるから,本件発明の課題を解決できない旨主張するが,発光ダイオードの輝度が低いかどうかは本件発明の課題解決とは無関係であるから,原告の主張はその前提を欠くもので採用することができない。
また,原告は,本件発明にいう「白色系」に「電球色」が含まれないことを前提 として,YとAlのいずれか一方でも含有しない単なる本件一般式蛍光体は, 「白色系」を発光しないから,サポート要件違反である旨主張するが, 「白色系」は「電球色」を含んだ概念であるから,原告の主張はその前提を欠くもので採用することができない。
(3) 無効理由3-1について ア 本件発明の「発光ダイオード」の意義 本件明細書の段落【0005】【0007】【0008】【0011】及び本件 , , ,特許の最先の優先日である平成8年7月29日(以下「本件優先日」という。)当時の技術常識(甲13〜15,乙8)からすると,本件発明の「発光ダイオード」は,本件明細書の【図1】や【図2】にあるようなリードタイプやチップタイプのような,蛍光体が発光素子(LEDチップ。以下,特に断らない限り,「LEDチップ」と「発光素子」は同じものを指す。)に近接して設けられているものを指し,LEDチップに導光板が接続するような面状光源を含まないと認められる。
なお,本件明細書の段落【0090】【0121】の「発光ダイオード」は, , 「発光装置」などの誤記であるし,段落【0004】が特開平7-176794号公報及び特開平8-8614号公報に開示された面状光源の構成を「発光ダイオード」と称していることも誤記である。
イ 甲13発明 「ステム上に発光素子を有し,それを樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオードにおいて,前記発光素子が,一般式GaxAl1-XN(但し0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体よりなり,さらに前記樹脂モールド中に,前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料,または蛍光顔料が添加されてなるものであり, LEDの発光波長は,主として430nm付近にあり,さらに370nm付近の紫外域にも発光ピークを有しており, 蛍光染料,蛍光顔料は,短波長の光によって励起され,励起波長よりも長波長光 を発光する, 発光ダイオード。」 ウ 本件発明1と甲13発明との一致点及び相違点並びに相違点についての判断 (ア) 一致点 「発光ダイオードであって, 該発光ダイオードは,発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり,前記発光層の発光スペクトルのピークが420〜490nmの範囲にあるLEDチップと,該LEDチップによって発光された光を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する,蛍光体とを含む, 発光ダイオード。」である点。
(イ) 相違点(相違点1-1)「発光ダイオード」が「発光する」光が,本件発明1では, 「白色系」であるのに対し,甲13発明では,そうではない点。
(相違点1-2) 「蛍光体」が「吸収」するところの「該LEDチップによって発光された光」が,本件発明1では,そのうち「一部」であるのに対し,甲13発明では,そのうち全部なのか「一部」なのかが不明である点。
(相違点1-3)「蛍光体」について,本件発明1は, 「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体」であるのに対し,甲13発明は,そうではない点。
(ウ) 相違点についての判断 a 甲13発明は,LEDチップからの発光光の輝度向上のために,蛍 光体が,LEDチップによって発光された輝度が悪い光を「全部」吸収することにより,輝度を向上した光を得るものであり,本件発明1のように,蛍光体がLEDチップによって発光された輝度が悪い光の一部のみを吸収することによって,混合光による「白色系」発光を得ることを想定したものではない。
したがって,甲13発明から出発した当業者が,蛍光体として本件一般式蛍光体を採用することはないというべきであり,相違点1-1及び相違点1-2はいずれも容易想到ではない。
b 仮に,甲13発明が蛍光体の「一部」吸収による「白色系」発光を想定したものであり,かつ,本件一般式蛍光体が本件優先日前に存在していたことを考慮しても,@甲1(蛍光体同学会編著「蛍光体ハンドブック」昭和62年12月25日),甲2(M.F.Yan他「Preparation of Y3Al5O12-Based Phosphor Powders」J.Electrochem.Soc.Vol.134 No.2 p493-498,1987年),甲3(小林弘男他「PYGけい光面とその応用」三菱電機技報 vol.48 No.9 p1121-1124,1974年),甲4(特開平6-73376号公報),甲5(特開平8-170077号公報),甲21(特開平5-156246号公報)記載の蛍光体は,いずれも陰極線管に関するものであって,甲13発明の蛍光体として使用することの動機付けがないこと,A甲17(特公昭49-1221号公報),甲18(特開昭62-20237号公報),甲19(特開平6-208845号公報)の蛍光体が用いられている技術分野は,発光ダイオードの技術分野とは異なっており,発光ダイオードの技術分野とは蛍光体の選択に関する個別具体的な要請が異なっていること,B蛍光体は成熟した技術分野であるところ,そのような技術分野であるにもかかわらず,甲1〜5,甲16の1・2(NP-204のデータシート),甲17〜19,21に記載されているような既に存在した蛍光体が,本件優先日前には,発光ダイオードに用いるものとして選択されずに,別の手段によって本件課題が解決されてきたことからすると,甲13発明に本件一般式蛍光体を適用する動機付けがあるとはいえず,相違点1-3は容易想到ではない。
c その他の原告が主張する甲号証は,いずれも上記判断を左右するものではない。
d よって,本件発明1は当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明2と甲13発明との一致点及び相違点並びに相違点についての判断 (ア) 一致点 「LED光源であって, 該LED光源は,発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり,前記発光層の発光スペクトルのピークが420〜490nmの範囲にあるLEDチップと,該LEDチップによって発光された光を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する,蛍光体とを含み,前記LED光源は発光ダイオードである LED光源。」である点。
(イ) 相違点(相違点2-1) 「発光ダイオードである」「LED光源」が「発光する」光について,本件発明2は,「白色系」であるのに対し,甲13発明は,そうではない点。
(相違点2-2) 「蛍光体」が「吸収」するところの「該LEDチップによって発光された光」が,本件発明2では,そのうち「一部」であるのに対し,甲13発明では,そのうち全部なのか「一部」なのかが不明である点。
(相違点2-3) 「蛍光体」について,本件発明2は,「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体」であるのに対し,甲13発明は,そうではない点。
(相違点2-4)「発光層」である「窒化ガリウム系化合物半導体」について,本件発明2は「インジウムを含む」のに対し,甲13発明は,そうではない点。
(ウ) 相違点についての判断 a 発光層である窒化ガリウム系化合物半導体にインジウムを含ませる態様は周知(甲8〜11)であるから,相違点2-4は格別なものではない。
b 相違点2-1〜相違点2-3は,実質的に,相違点1-1〜相違点1-3と同一である。したがって,上記ウ(ウ)a〜cと同様に,当業者が,甲13発明から出発して,相違点2-1及び相違点2-2の構成に至ることはないし,仮に至るとしても,相違点2-3の構成に至ることはない。
c よって,本件発明2は当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 無効理由3-2(進歩性欠如2)について ア 甲14発明 「透明な導光板2の端面の少なくとも一箇所に青色発光ダイオード1が光学的に接続されており,さらに前記導光板2の主面のいずれか一方に白色粉末が塗布された散乱層3を有し,前記散乱層3と反対側の導光板2の主面側には,透明なフィルム6が設けられており,そのフィルム6の表面あるいは内部には前記青色発光ダイオード1の発光により励起されて蛍光を発する蛍光物質が具備されている面状光源であって, 散乱層3により散乱された光の一部は蛍光層5により吸収され同時に波長変換されて放射され,導光板2の第一の主面側から観測する発光色はこれらの光を合成した光が観測できるものであり,例えば橙色の蛍光顔料からなる蛍光層5を設けた面状光源では,先に述べた作用により,青色LED1からの発光色が白色となって観測でき, 一つの青色LEDの発光波長はその主発光ピークが500nmよりも短く,発光 波長480nm,発光出力1200μWを有する窒化ガリウム系化合物半導体よりなる青色LEDを用いてもよい, 面状光源。」 イ 本件発明2と甲14発明との一致点及び相違点並びに相違点についての判断 (ア) 一致点 「白色系を発光するLED光源であって, 該LED光源は,発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり,前記発光層の発光スペクトルのピークが420〜490nmの範囲にあるLEDチップと,該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する,蛍光体とを含む, LED光源。」である点。
(イ) 相違点(相違点3-1) 「発光層」である「窒化ガリウム系化合物半導体」が,本件発明2では「インジウムを含む」ものであるのに対し,甲14発明ではそうではない点。
(相違点3-2) 「蛍光体」が,本件発明2では「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体」であるのに対し,甲14発明ではそうではない点。
(相違点3-3) 「LED光源」について,本件発明2は,「発光ダイオード」であるのに対し,甲14発明は,面状光源である点。
(ウ) 相違点についての判断 a 相違点3-1について,青色発光ダイオードの発光層である窒化ガ リウム系化合物半導体として,インジウムを含むものは,本件優先日前に技術常識であった(甲8〜11)から,甲14発明の「青色発光ダイオード」又は「青色LED」として,そのような発光層を備えたものを用いることは当業者が適宜なし得たことである。
b 相違点3-2は,無効理由3-1の相違点1-3と実質的に同じであるから,前記(3)ウ(ウ)b,cの判断と同じ理由で,当業者が,甲14発明から出発して,相違点3-2の構成に容易に至ることはない。
c 甲14発明の技術的意義は,蛍光物質の劣化が問題となるという課題(甲14の段落【0004】)を解決するために,LEDチップと蛍光物質とが直接接することがないようにしたものであるところ,甲14発明の「LED光源」を,本件発明2の「発光ダイオード」,すなわち,蛍光体が発光素子に近接して設けられたものとすると,甲14発明の上記課題を解決できないことになるから,当業者が,甲14発明から出発して,相違点3-3の構成に至ることは,阻害されるというべきである。したがって,相違点3-3は容易想到ではない。
d よって,本件発明2は,当業者が容易に発明をすることができたものではない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1,2(無効理由1,2[サポート要件違反]についての認定判断の誤り)(原告の主張) (1) 本件発明の解決課題の認定の誤り(取消事由1) ア 高輝度であることは,高輝度青色発光素子を利用した結果として高輝度の発光装置を提供するという目的を有する本件発明の前提となっている。
本件発明は,高輝度ではない発光ダイオードの蛍光体劣化を解決課題とするものではなく,ほとんど発光しないような発光ダイオードの蛍光体劣化は,本件発明の解決課題ではない。
本件明細書の段落【0010】によると,本件発明の目的は,「より高輝度で,長時間の使用環境下においても発光光度及び発光光率の低下や色ずれの極めて少ない発光装置を提供すること」であり,同目的達成のために課題があるから,発光ダイオードの輝度は,本件発明の課題解決と密接に関連する極めて重要な技術的事項である。また,本件明細書の段落【0011】,【0014】,【0038】,【0045】,【0079】,【0086】は,いずれも発光ダイオードやLED光源が高輝度であることが本件発明の前提であることをうかがわせる記載である。
そして,甲25,26によると,YとAlのいずれか一方でも含まれない,すなわち,Gd又はGaが100%である本件一般式蛍光体を用いると,ほとんど発光せず,当業者にとっては事実上の非発光のものとなり,本件発明の目的である高輝度を実現できない。そうすると,本件発明では,そのような発光ダイオードまでもが特許請求の範囲に包含されていることになるから,本件発明は,サポート要件に違反するものである。
イ(ア) 審決は,本件発明に係る発光装置に用いられる蛍光体が,熱,光及び水分に強いガーネット構造のものでさえあればよく,当該発光装置の輝度はどのようなものでもよく,ほとんど発光しない発光ダイオードであってもよいと認定しているが,本件発明の効果は,本件一般式蛍光体に「高輝度の発光が可能な窒化物系化合物半導体からなる発光素子」を組み合わせて得られるものであり,低輝度の発光素子では蛍光体の劣化を論じる技術的意味がないから,本件発明に係る発光ダイオードは,高輝度の発光を実現することが前提となっている。
(イ) 被告は,本件発明の課題が,課題1と課題2であり,高輝度の達成は課題1と課題2を達成した結果でしかないと主張するが,本件発明に,初期において低輝度又は発光しない発光ダイオードが含まれる以上,そのような発光ダイオードは,長時間使用時又は長時間使用後の輝度について判断するまでもなく,最初から低輝度又は非発光であるから,実現がされていない高輝度を維持することはできないし,他の蛍光体を用いた発光ダイオードに比較して,「高輝度を維持できる」 ものや「輝度の低下が少ない」ものともいえず,高輝度を達成できないものである。
また,被告は,特許請求の範囲が規定する蛍光体の組成範囲のごく一部に輝度が得られない(光らない)物質が含まれており,当該物質を用いたときに白色系を発光する発光ダイオードが得られないとしても,そのような物質を蛍光体として用いる態様はそもそも権利範囲から排除されているというべきであると主張するが,特許請求の範囲が規定する蛍光体の組成範囲に輝度が得られない(光らない)物質が含まれており,当該物質を用いた場合には白色系を発光する発光ダイオードが得られないのであると,そのような態様(輝度が得られない蛍光体)を権利範囲から除外する訂正を行えばよいのに,被告はそのような訂正を行っていないから,サポート要件に違反するというべきである。
(2) 「白色系」についての認定の誤り(取消事由2) ア 本件明細書の段落【0069】によると,本件発明にいう「白色系」とは,本件明細書の【図16】の斜線部分の一部を指す概念であるところ,一般的な意味の「電球色」(色温度は2600〜3250Kの範囲)の全範囲が,本件発明における「白色系」の範囲を表す【図16】の斜線範囲の一部分にあるわけではなく,斜線範囲の外側にあるものも「電球色」に含まれる場合があるから,「白色系」に「電球色」一般が含まれるとする審決の認定は誤りである。
そして,Yを100%Gdで置換した本件一般式蛍光体を用いた発光ダイオードの色温度は,本件明細書の【図16】のFとの対比からすると,【図16】の斜線範囲外となるから,そのような発光ダイオードは,「白色系」を発光するものとはいえない。
したがって,本件発明では,「白色系」を発光しない発光ダイオードがその特許請求の範囲に含まれているから,サポート要件に違反する。
イ 被告は,本件発明にいう「白色光」は,「可視光の発光スペクトルを幅広く含んだ光」であれば足り,その色味がどのようなものであっても「白色光」に当たると主張するが,被告が自ら提出した広辞苑(乙1の1・2)には「白色光」 について,「各波長の光が混合している光」と記載されているのみで,被告の主張は,広辞苑の定義と相容れないし,被告が提出する乙2等は,一般照明用の光についての説明であって,LEDの技術分野におけるものではない。
また,証拠(甲75〜77)によると,LEDの技術分野では,「白色」は,「人間の色感覚上,好感の持てる色」で,互いに補色関係にある複数の波長の光の混色により得られる色として理解されており,被告の主張するような「可視光の発光スペクトルを幅広く含んだ光」であるとは理解されてはいない。本件明細書の段落【003】にも,「色調」の変化や「色むら」という「色味」の観点から,従来の「白色光」の問題点が指摘されている。
さらに,被告は,「白色系」の意味が「色味」とは無関係である旨を主張するが,本件発明の関連特許(特許第2927279号)についての無効審判事件(無効2000-35125号)の中で,被告は,白色又は白色系について,「可視光の発光スペクトルを幅広く含んだ光」の色であるなどとは一切主張しておらず,むしろ,「色味」(色み)の観点から論じており,「白色系」であるためには,一般的な色度区分において「白色と知覚できる範囲」にあることが必要であると主張していた(甲78)。本件における被告の主張は,被告が従前してきた主張と矛盾する。
(3) 小括 「発光ダイオード」や「LED光源」が「高輝度」であることは本件発明の前提であるが,審決は, 「発光ダイオード」の輝度が低いかどうかは,本件発明の課題を解決できるか否かとは無関係であるとの誤った判断を前提に,サポート要件の充足性を判断しており,取り消されるべき違法がある。
また,Yを100%Gdが置換した蛍光体を用いた場合の色温度は,本件明細書の【図16】の斜線範囲外にあるから,当該発光色は「白色系」ではないが,審決は,Yを100%Gdで置換した本件一般式蛍光体を用いた場合の発光色が「白色系」の範囲に含まれることとなるのか否かの判断を行うことなく,サポート要件の充足性を判断しており,取り消されるべき違法がある。
(被告の主張) (1) 本件発明の解決課題の認定の誤り(取消事由1)について ア 原告は,「高輝度」であることが本件発明の前提であり,YAG蛍光体のYを100%Gdで置換した蛍光体は,前提であるはずの「高輝度」ではないから,サポート要件違反であると主張しているが,サポート要件に適合するか否かは,「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,その記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」であるから,原告の主張はサポート要件についての独自の見解を前提とするものであって,主張自体失当である。
イ 本件発明の課題は,課題1及び課題2からなるもので,原告が指摘する本件明細書の段落【0010】の「より高輝度」以下は,課題1及び課題2が達成されることで,長時間の使用によっても輝度の低下を防止することができるようになり,蛍光体の劣化が問題となっていた従来技術よりも蛍光体の劣化が少ない結果として,「高輝度」を達成できるということを表した記載である。
使用に伴い早期に大きく輝度が低下する従来の蛍光体の発光ダイオードの中にあって(本件明細書の段落【0109】,【図13】),本件発明のように長時間使用しても輝度低下が少ないことは,初期の輝度の程度にかかわらずそれ自体,十分な技術的意義を有する。本件明細書の段落【0010】,【0011】によると,耐久性の高い蛍光体を使用することで,エネルギーの強い青色発光素子として,高輝度のものを使用できるようになり,その結果として,「より高輝度の発光ダイオード」が得られるとされているのである。
ウ 本件明細書の段落【0011】についても,本件課題の解決手段と関係するのは「(2)」の耐光性や耐熱性等に優れた蛍光体に関する記載であるし,原 告が指摘する段落【0014】,【0038】,【0045】,【0079】,【0086】は,いずれも,本件課題解決に伴う結果として発光ダイオードが「高輝度」(輝度低下が小さい)になることを記載しているか,又は,使用する青色発光素子の輝度を説明しているだけで,本件発明の課題として「高輝度」を述べた段落ではない。
エ 甲25には,被告従業員の供述(Yを100%Gdで置換した蛍光体は「2パーセントや3パーセントの発光である」)が示されているが,これは,極めて輝度が高いYAG蛍光体との対比において,100%Gd置換の蛍光体の輝度が劣ることを述べたにすぎず,同蛍光体が光らないということを示していない。むしろ,甲25によると,100%Gd置換の蛍光体が発光することが明確に裏付けられている。この点は,甲26も同様である。
オ なお,特許請求の範囲が規定する蛍光体の組成範囲のごく一部に輝度が得られない(光らない)物質が含まれており,当該物質を用いたときに白色系を発光する発光ダイオードが得られないとしても,本件発明が,「LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する」蛍光体を用いた,「白色系を発光する発光ダイオード」 の発明である以上,そのような物質を蛍光体として用いる態様はそもそも権利範囲から排除されているというべきである。
(2) 「白色系」についての認定の誤り(取消事由2)について ア 仮に原告が主張するとおり,青色発光素子と100%Gd置換した蛍光体との組合せが,本件発明でいう「白色系」を発光しないとすると,原告が問題とする100%Gd置換した蛍光体と青色発光素子との組合せは,本件発明の範囲には含まれないというだけのことであって,原告の主張は,サポート要件違反の主張とはなっておらず,主張自体失当である。
イ また,以下のとおり,本件発明においては,100%Gd置換の蛍光体を用いても「白色系」を発光する。
(ア) 本件明細書の【図16】の斜線範囲は,「白色系」の範囲を画するものではない。本件明細書の【図16】は,【表1】に示された@〜Fの七つの蛍光体とピーク波長465nmの青色発光素子とを組み合わせた白色系発光ダイオードで実現できる色再現範囲を表したものであって,本件発明の「白色系」の意味や範囲を限定する記載ではない。現に,本件明細書の段落【0046】,【0047】は,上記斜線範囲と無関係に一般に「電球色」を「白色系」に含めている。
白色光という用語の通常の意味(乙1の1・2)や照明分野や物理学における技術常識(乙2〜8,乙9の1・2)に加え,本件明細書の各記載(段落【0001】〜【0003】,【0006】,【0010】,【0054】,【0108】,【0111】,【0130】,【0139】)からすると,本件発明の「白色系の発光」とは,可視光の発光スペクトルを幅広く含んだ光で,白色光源が使用される幅広い分野に用いることが可能な光を幅広く含むものであり,照明分野において典型的な白色光の一つとされる「電球色」が当然含まれるものである。
(イ) 本件明細書の段落【0069】にあるように,青色発光素子と蛍光体との組合せによって得られる発光色は,色度図上における青色発光素子の色度点とこれに組み合わせる蛍光体の色度点とを結ぶ直線上の範囲となる。
本件発明の青色発光素子の波長範囲は420〜490nmであるところ,仮に,発光素子として490nmのものを採用すると,その色度点は約X=0.05,Y=0.3となり(甲51の4/8のCIE色度図を参照),これを本件明細書の【図16】にプロットすると下図の青点となる。また,100%Gd置換の蛍光体の色度点は明確ではないが,仮にこれが以下の図の赤点(波長にして約580nm)の場合であれ,緑点(波長にして約650nm)の場合であれ,いずれにせよ,発光素子と当該蛍光体の組合せによる直線(赤線及び緑線)は,原告がいう白色領域(【図16】の斜線部分)を通過しているから,その組合せによって,白色系を実現できることが明らかである。
(3) 小括 以上のとおり,サポート要件に関する原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
2 取消事由5〜7(無効理由3-1[甲13発明に基づく本件発明の進歩性欠如]についての認定判断の誤り)(原告の主張) (1) 相違点1-1及び相違点2-1の認定の誤り(取消事由5) ア @甲13の段落【0003】に開示されている従来技術(発光素子の発光色を変換などの目的で着色剤として顔料を用い,これにより発光色を白色とするもの),A甲13の段落【0009】にある「数々の波長の光」に白色系が包含されること及びB本件明細書の段落【0004】で,甲13が「1種類の発光素子を用いて白色系など他の発光色を発光させることができる」発光ダイオードを開示する特許文献の一つとして挙げられていることからすると,甲13発明は,「従来技術」で色変換等に用いられていた顔料が「着色剤」であったところ,これを,青色発光素子からの光により励起されて蛍光を発する「蛍光材料」に変え,それにより 「白色系」を含む数々の波長の光に変換することとした発明であると認められる。
したがって,甲13発明は,実質的に「白色系を発光する」発光ダイオードであり得るから,審決が認定した相違点1-1及び相違点2-1は,実質的な相違点ではない。
イ 仮に,被告が主張するとおり,甲13の段落【0003】の記載(緑色発光素子と赤色顔料の組合せ)からは,白色発光する機序が必ずしも明らかとはいえないとしても,当該段落の記載に触れた当業者は,同段落が,補色関係にある光の混色により白色を得るという技術について述べたものであること,すなわち,当該補色関係にある複数の光の光源として発光ダイオードを用いることで白色を得るという技術的思想を述べた記載であることを当然に理解する。
甲13の段落【0003】の「例えば,GaPの半導体材料を有する緑色発光素子の樹脂モールド中に,赤色顔料を添加すれば発光色は白色とすることができる。」という記載からすると,本件優先日当時において, 「補色同士を組み合わせれば白色光になる」ことが発光ダイオードの分野でも技術常識であったことは明らかであり,甲13発明の発光色の変換の中には発光色を白色にすることも含まれていることは明らかである。
(2) 相違点1-2及び相違点2-2の認定の誤り(取消事由6) ア 前記(1)のとおり,甲13発明は,数々の波長の光に変換することが可能な発光ダイオードであり,「他の発光色」である数々の波長の光に「白色系」が包含される。そして,蛍光体が,「該LEDチップによって発光された光」の「全部」を吸収するとした場合,発光ダイオードからの発光は蛍光体からの発光のみとなり,これと補色関係に立つ発光光が存在しないこととなるから,甲13発明に「白色系」の光を発光する「発光ダイオード」が含まれる場合,甲13発明が備える蛍光体が「吸収」するところの「該LEDチップによって発光された光」は,そのうちの「一部」となる。したがって,相違点1-2及び相違点2-2は実質的な相違点ではない。
イ 審決は,「視感度を良く」するという甲13発明の「課題」や「目的」から,甲13発明では,蛍光体が視感度が悪い光を全部吸収すると認定している。
しかし,甲13の段落【0009】には,甲13発明の「発明の効果」として,青色発光素子の「色補正」,数々の波長の光への「変換」,蛍光材料の添加量,「輝度」が挙げられている一方で,「視感度を良く」することについての記載は一切ないから,甲13発明の構成,すなわち,窒化ガリウム系化合物半導体よりなる「発光素子」とその発光により励起されて蛍光を発する「蛍光材料」との組合せにより必然的にもたらされる第一義的な技術的意義や効果は,色の「補正」や「変換」にあり,「視感度を良く」することは,色の「補正」や「変換」の結果の一つにすぎず,「全部」吸収の場合に得られる技術的効果でしかない。しがって,審決の上記認定は誤りである。
(3) 相違点1-3及び相違点2-3の容易想到性の判断の誤り(取消事由7) ア 審決は,「本件発明1においては,『白色系』の光を発光することとLEDチップと本件一般式蛍光体とが,ひとまとまりの技術思想として扱われているといえる。」との誤った判断を前提に,本件発明の進歩性の有無を判断しているがこれは誤りである。
本件発明において,「ひとまとまりの技術思想」であるのは,LEDチップと,「LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する」含有する元素を限定しない「蛍光体」全般であり,「蛍光体」が「Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系」(本件一般式蛍光体)であることは,別の技術思想に関するものである。
イ 甲1〜5には,YAG系蛍光体の変換効率や耐久性などが他の蛍光体に比較して優れていることの開示があり,本件優先日以前より,本件発明が属する蛍光体を利用した光学装置の技術分野において,YAG系蛍光体は,他の蛍光体より 劣化し難い蛍光体であることが当業者にとって周知になっていた。
したがって,甲1〜5等に記載された蛍光体に照射されるエネルギー線が甲13発明のような光ではないとしても,甲1〜5による,YAG系蛍光体が他の蛍光体に比べて劣化し難い蛍光体である旨の開示は,甲13発明の蛍光体としてYAG系蛍光体を使用することについての動機付けとなる。甲1〜5等に記載された蛍光体に照射されるエネルギー線が甲13発明のような光ではないことを根拠に動機付けを否定した審決の判断は,誤りである。
ウ 甲14の段落【0004】によると,本件優先日時点で,白色発光又はモノクロの光源として「青色LEDチップの周囲を蛍光物質を含む樹脂で包囲して色変換する試み」がされており,蛍光材料を青色LEDチップと組み合わせた際に当該蛍光材料の物質劣化が問題となることも認識されていた。したがって,審決の認定とは異なり,発光ダイオードの技術分野における当業者は,青色光を吸収して黄色光を放出し,かつ,劣化し難いYAG蛍光体を開示する甲17〜19のような文献に接する機会は十分にあったといえる。
エ 前記(2)のとおり,甲13には,補色関係にある複数の光の光源として発光ダイオードを用いることで白色を得るという技術的思想に基づく発明が開示されており,本件優先日当時において,「補色同士を組み合わせれば白色光になる」ことが発光ダイオードの分野でも技術常識であった。
オ 上記ア〜エのとおり,甲13の記載及び本件優先日当時の公知技術からすると,甲13に白色系の発光を実現するための手段としてのYAG系蛍光体が明示されてはいないものの,甲13発明において青色の補色関係にある色を発光する蛍光体を使用して白色系の発光をさせることは,当業者が容易に想到し得たものであり,かつ,その際に,耐環境性に優れた蛍光体であって,しかも,青色の光と補色関係にある光を発光する蛍光体であるYAG系蛍光体を選択することには,特段の困難性はなく,阻害要因も存在しないから,相違点1-3及び相違点2-3は容易想到である。
本件優先日前にYAG系蛍光体が,発光ダイオードに用いられていなかったという事実は,YAG蛍光体選択の困難性を基礎づけるものとはいえず,甲14発明も「チップからの光による蛍光物質の劣化」を解決する具体策として,「耐光性のある蛍光物質を選択すること」と「蛍光物質の位置をチップから遠ざけること」の選択肢がある場合に,後者を選択しただけである。
(4) 小括 以上からすると,相違点1-1及び相違点1-2並びに相違点2-1及び相違点2-2は実質的な相違点ではなく,相違点1-3及び相違点2-3は容易想到である。審決のいうとおり相違点2-4は容易想到であるから,無効理由3-1について理由がないとした審決には取り消されるべき違法がある。
(被告の主張) (1) 相違点1-1及び相違点2-1の認定の誤り(取消事由5)について ア 緑と赤は補色関係になく,審決がいうとおり,甲13の段落【0003】に開示された緑色LEDと赤色顔料では,緑発光しか得られないから,甲13の段落【0003】にある従来技術(緑色発光素子の樹脂モールド中に赤色顔料を添加したもの)が白色発光する機序は,明らかとはいえない。
また,甲13の段落【0003】の従来技術である顔料は光を反射するのに対し,甲13発明の蛍光体は光を吸収して自ら発光するものであり,発光機序が全く異なる。そのため,仮に,甲13の従来技術として,白色系を得ることが開示されていると理解したとしても,それは青色発光素子に「顔料」を添加した場合の話であるから,「蛍光体」を用いる本件発明の「白色系を発光する」点において一致するとはいえない。
さらに,甲13は,従来技術のLEDの発光が紫色に近い発光で視感度が悪いという課題に対し,蛍光体を用いることで青色にして輝度を向上させる発明について記載したものである(甲13の段落【0005】〜【0008】)から,甲13において白色発光を得ることを目的にしているとは理解できない。
したがって,甲13の段落【0003】の従来技術を踏まえても,また,甲13の全体の記載からしても,甲13発明において白色系発光を得ることが開示されているとはいえない。
イ 原告が指摘する「補色同士を組み合わせれば白色光になる」との事項は,本件優先日当時において,発光ダイオードの分野に適用され得るような技術常識ではなかった。発光ダイオードの分野では,甲13が公開された1993年(平成5年)に青色LEDチップが実現したことで,初めて赤・緑・青の3原色のLEDチップが出揃い,これら3色のLEDチップの光を混色して白色光を得ようという研究開発が一般的であり,LED光と蛍光体からの光を混色させて白色光を得るという思想は皆無であったから,甲13が,青色LED光+蛍光体光の混色で白色光を得ることを想定しているはずがなく ,甲13に接した当業者もそうした混色の白色光が得られるとは理解しない。
ウ 甲13の段落【0009】について,「数々の波長の光」というだけでは具体的にどの波長が含まれるのかは明らかとはいえない。
また,白色光は複数の波長の光が混じったものであって,白色光を特定の波長で示すことはできないから,「数々の波長の光」は緑色光や赤色光といった特定波長で表現され得る光を想定した記載と解するのが合理的である。
さらに,甲13が青色光を蛍光体で全て吸収する技術を開示していることについては,審決が正しく認定するとおりであり,この点からしても,甲13が青色発光素子からの光と蛍光体からの光の混色である白色を開示しているとはいえない。
エ 本件明細書の段落【0004】は,被告が,その社内において,従来技術を踏まえ青色発光素子と黄色系蛍光体を組み合わせて白色系発光ダイオードを得る発想・試みをしたという本件発明に至る経緯を記載したものであって,公知の従来技術において既に上記発想・試みが行われていたとは記載していない。甲13発明が白色発光していることは,甲13自体から立証すべき事柄であるから,甲13自体において白色発光が説明できない以上,甲13発明が白色発光していることの 裏付けにはならない。
オ 以上からすると,甲13発明が「白色系」の発光をしているとは認められず,「白色系」発光の点は相違点であり,審決が相違点1-1及び相違点2-1を認定したことは正しい。そして,視感度・輝度向上のために「全部」吸収している甲13発明において,わざわざ視感度の悪い光を残す「一部」吸収を採用する動機はないから,「白色光」発光は容易に想到できるものではない。
(2) 相違点1-2及び相違点2-2の認定の誤り(取消事由6)について ア 前記(1)のとおり,甲13発明は「白色系」発光を含まないから,審決が相違点1-2及び相違点2-2を認定したことは正しく,原告の主張には理由がない。
イ 原告は,視感度向上は甲13発明の目的ではないと主張しているが,甲13の段落【0005】には,従来技術の課題として「視感度が悪いという欠点がある」とあり,段落【0006】には,「その目的とするところは,・・・視感度を良くし・・・」とあるから,視感度の向上は甲13発明の目的である。そうである以上,敢えて視感度の悪い光(青色発光素子からの光)を残しておく理由はない。
ウ 以上のとおり,「一部」吸収の点は相違点であり,同相違点の容易想到性は認められない。
(3) 相違点1-3及び相違点2-3の容易想到性の判断の誤り(取消事由7)について ア 原告は,審決が,本件一般式蛍光体まで「ひとまとまりの技術思想」に含めたのは誤りであると主張するが,審決は,「ひとまとまりの技術思想」にこだわることなく,本件一般式蛍光体の選択の容易想到性を検討してこれを否定しており,かつ,同結論は正当であるから,「ひとまとまりの技術思想」をどう見るかは,審決の結論に影響しないものである。
イ 一部吸収・白色系発光をしていない甲13発明について,本件一般式蛍光体を採用する理由はないから,相違点1-3及び相違点2-3の容易想到性は認 められない。
仮に,甲13発明が一部吸収・白色系発光であるとしても,本件一般式蛍光体の採用は,以下のとおり非容易である。
(ア) 甲1〜5は陰極線管の文献であり,陰極線管の電子線に対してYAG系蛍光体が劣化し難いことは開示するものの,LEDチップの光に対する耐光性については何も開示していない。蛍光体を発光させるエネルギー線や蛍光体を置く環境が異なると,蛍光体の劣化の有無・程度も異なるから,甲1〜5は,発光ダイオード分野でYAG系蛍光体が高耐光性の蛍光体として公知であったことを示すものではない。
(イ) 甲14は,蛍光物質がLEDチップの光によって劣化するという問題を,蛍光物質の特性で解決するのではなく,蛍光物質をLEDチップから遠ざける「面状光源」にすることで解決した発明である。したがって,甲14の段落【0004】からは,耐光性に優れた蛍光体を選択しようという動機付けは生じない。
仮に,甲14の段落【0004】が高耐光性の蛍光体を選択する理由の一つになると仮定したとしても,発光ダイオード分野では,蛍光体の選択において,耐光性以外にも,発光効率,発光色,粉体特性,温度特性,演色性といった様々な要素を考慮する必要がある(甲14,41,44,47)から,それらの要素を考慮せず,耐光性のみに着目して本件一般式蛍光体を選択することはない。
(ウ) 甲17は,レーザディスプレイに関する文献であり,蛍光体はレーザ光で定期的に照射されるが,常時照射ではないため,蛍光体の耐光性・耐熱性は一定時間おきの照射に耐える程度で足りる。一方,甲17の蛍光体は,レーザ光で一定時間おきに照射されるため,蛍光体の残光時間は照射間隔より短いことが要請される。また,甲18,19は,低圧水銀放電ランプに関する文献であり,蛍光体には,水銀ガス環境で水銀からの紫外線の照射を常時受けるという条件下での耐久性が要請される。これらに対し,本件発明の蛍光体は,LEDチップに近接した位置で常時照射されるから,LEDチップの光に対する高い耐光性・耐熱性が求められ るほか,大気中で使用されるため耐水性も要請される。このように,甲17〜19と本件発明とでは,蛍光体に求める性能が大きく異なるから,甲17〜19においてYAG蛍光体を使用して白色光が得られているからといって,YAG蛍光体をそのまま発光ダイオードにおいて使うという動機付けは生じない。
(エ) 白色系発光に限らず,およそ発光ダイオード分野で本件一般式蛍光体が使用されていないことは,進歩性を裏付ける根拠となるものである。
ウ また,甲13発明から出発して白色系発光を得ようとする場合に,以下のとおり,本件一般式蛍光体を選択する動機付けがなく,むしろ阻害事由がある。
(ア) 甲13発明に用いられる青色発光素子は青色発光以外に370nmの紫外光も発しているところ,このような甲13発明から出発すると,青色発光のみならずエネルギーが高い370nmの紫外光も利用した「全部」吸収の白色系発光ダイオードとするのが自然であるところ,本件一般式蛍光体は紫外光ではほぼ励起されないので,本件一般式蛍光体は選択肢とはならない。
(イ) 仮になんらかの動機付けに基づいて,甲13発明から出発して,当業者が発光ダイオードからの青色光と蛍光体の混色を用いた白色系の発光を得ようとした場合を想定するとしても,補色は単一の蛍光体によって発光させる必要はなく,複数の蛍光体(例えば,赤色蛍光体+緑色蛍光体)で発光させることもでき,むしろ複数の蛍光体を組み合わせて発光させるほうが有利な点も多い。しかるところ,甲13発明は,青色のみならず紫外光をも有するLEDを用いる発明であるから,励起源としては青色光及び紫外光があり,これらによって励起される蛍光体の色としては,混色して白になればよいのであるから,青,緑,赤を含めてその選択肢は極めて多数存在し,仮に,青色励起だけに着目したとしても,その候補は多数に上る(甲17,42〜45など)。このような多数の候補の中から,本件一般式蛍光体を選択する動機付けはない。
(ウ) 本件一般式蛍光体を使用すると,甲13で発光されている370nmの紫外線を吸収できず,人体に有害な紫外光が外部に放出されてしまうことになる。
これは,同蛍光体を採用することに対する阻害事由である。
エ 以上のとおり,甲13発明に本件一般式蛍光体を適用する動機付けはない上,阻害要因があるから,相違点1-3及び相違点2-3は容易想到ではない。
(4) 小括 以上のとおり,審決が相違点1-1及び相違点2-1並びに相違点1-2及び相違点2-2を認定したことは正当であり,相違点1-3及び相違点2-3は容易想到ではないから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
3 取消事由3,8(無効理由3-2[甲14発明に基づく本件発明2の進歩性欠如]についての認定判断の誤り)(原告の主張) (1) 相違点3-3についての認定の誤り(取消事由3) ア 審決は,本件発明の「発光ダイオード」は,発光素子と蛍光体が近接して設けられているものを指すとして,面状光源が含まれないとしているが,本件特許の特許請求の範囲には,発光素子と蛍光体との位置関係,蛍光体が発光素子に近接して設けられる旨の記載はない。
イ 審決が根拠とする本件明細書の段落【0011】は,「発光装置において」と記載されていて,「発光素子と蛍光体とを備えた発光ダイオードにおいて」と記載されているわけではなく,「発光ダイオード」と「蛍光体」を近接することは記載されていない。
ウ 本件明細書の段落【0007】に記載されている「従来の発光ダイオード」は,段落【0005】に記載されている「上記公報に開示された発光ダイオード」や段落【0006】に記載されている「上述の開示された発光ダイオード」に限らず,「従来の発光ダイオード」一般を指していて,そこには面状光源も含まれる。
エ 本件明細書の段落【0001】や【0087】などからすると,本件明細書は,「発光ダイオード」を,LEDチップを用いた「発光装置」(面状光源を 含む)を意味する用語として用いていて,そのような「発光装置」を「光源」と観念した場合に,当該「発光ダイオード」を「LED光源」と表記するものであり,本件明細書上,「発光ダイオード」,「発光装置」,「LED光源」は,実質的に同じ意味であると解される。そうであるから,本件明細書の段落【0090】には「面状発光の発光ダイオードを用いた液晶表示装置」と,段落【0121】には「実施例9の発光ダイオードは,【図7】に示す構成を有する面状発光の発光装置」と記載されているのであって,段落【0090】や段落【0121】の「発光ダイオード」との記載は「発光装置」の誤記ではなく,同様に,段落【0004】において二つの公報に開示された面状光源の構成を「発光ダイオード」と称していることも誤記ではない。
オ 仮に,「発光ダイオード」と「LED光源」とが同義ではなく,「LED光源」が「LEDチップ」を用いた「光源」の意味であるとしても,そのことが直ちに「発光ダイオード」が「LED光源」の下位概念であるとはいえない。
本件明細書の段落【0035】【0069】【0084】【0089】【009 , , , ,0】【0121】によると,本件明細書において, , 「発光ダイオード」は,「LEDチップ」や「発光素子」や「LED素子」の意味として用いられている「LED」とは異なるものとして用いられており, 「発光ダイオード」は「LED」を用いた装置の意味として用いられている。
カ 以上のとおり,本件発明の「発光ダイオード」には面状光源が含まれるのであり,これが含まれないことを前提に相違点3-3を認定し,同相違点について容易想到性を否定した審決の判断は誤っている。
(2) 相違点3-2についての容易想到性の判断の誤り(取消事由8) 相違点3-2は無効理由3-1の相違点1-3と実質的に同じであるから,前記2(3)のとおり,相違点1-3は容易想到である。
(3) 小括 以上からすると,相違点3-2は容易想到であって,相違点3-3は相違点では ない。そして,審決のいうとおり,相違点3-1は容易想到であるから,本件発明2は当業者が容易に発明をすることができたものであり,無効理由3-2を理由がないとした審決には取り消されるべき違法がある。
(被告の主張) (1) 相違点3-3についての認定の誤り(取消事由3)について ア 特許請求の範囲には,蛍光体と発光素子の位置関係や発光ダイオードの定義に関する記載はないが,審決は,特許請求の範囲からは「発光ダイオード」の意義が明らかではないとして本件明細書を参酌し,その意義を認定しているのであって,その判断手法は正当である。
審決が認定するとおり,訂正前の請求項1が「発光ダイオード」で,訂正前の請求項2が「LED光源」であることからすると,両者が同義でないことは明白であり,本件発明の課題及び解決手段によると,本件発明にいう「発光ダイオード」が蛍光体を発光素子に近接させる通常のLEDを想定していることは明らかである。
また,甲35〜39が示すとおり, 「発光ダイオード」が面状光源を含まないとの理解が当業者の通常の理解であること,本件明細書の段落【0001】が, 「本願発明は,LEDディスプレイ,バックライト光源,信号機,照光式スイッチ及び各種インジケータなどに利用される発光ダイオードに関し,特に発光素子が発生する光の波長を変換して発光するフォトルミネセンス蛍光体を備えた発光装置及びそれを用いた表示装置に関する。」として,「発光ダイオード」は,バックライト光源(面状光源) 「利用される」 に 部品と位置づけていることなどからも, 「発光ダイオード」が面状光源を含まないことは明らかである。
イ 本件明細書の段落【0007】にある「従来の発光ダイオード」がリードタイプを指すことは文脈上明らかである。
原告は,本件明細書の段落【0001】と【0087】を根拠に「発光ダイオード」=「発光装置」=「LED光源」であると主張するが,段落【0001】は,上記のとおり, 「発光装置」が「発光ダイオード」の上位概念であるという審決の前 提で読んでも,何の問題もなく意味が通じるから,同段落は「発光ダイオード」=「発光装置」と解すべき根拠とならない。また,本件明細書の段落【0087】及び【図7】の「面状発光光源」が本件発明の蛍光体・LEDチップを備えているからといって,「発光ダイオード」が面状光源を含むことは何も裏付けられない。
審決は,「発光ダイオード」が「LEDチップ」を指すとも理解していない。
(2) 相違点3-2についての容易想到性の判断の誤り(取消事由8)について 相違点3-2は,実質的に相違点1-3と同じであるから,前記2(3)のとおり,相違点3-2は容易想到ではない。
(3) 小括 以上のとおり,相違点3-2は容易想到ではなく,審決が相違点3-3を認定したことは正当であるから,原告主張の取消事由は理由がない。
当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件特許に係る特許請求の範囲は前記第2の2記載のとおりであるところ,本件明細書(甲55,56)には,以下の記載がある。
【技術分野】【0001】 本願発明は,LEDディスプレイ,バックライト光源,信号機,照光式スイッチ及び各種インジケータなどに利用される発光ダイオードに関し,特に発光素子が発生する光の波長を変換して発光するフォトルミネセンス蛍光体を備えた発光装置及びそれを用いた表示装置に関する。
【0002】 発光ダイオードは,小型で,効率が良く鮮やかな色の光の発光が可能で,半導体素子であるため,球切れの心配がなく,初期駆動特性及び耐震性に優れ,さらにON/OFF点灯の繰り返しに強いという特長を有する。そのため,各種インジケータや種々の光源として広く利用されている。また,最近では,超高輝度,高効率な RGB(赤,緑,青色)の発光ダイオードがそれぞれ開発され,これらの発光ダイオードを用いた大画面のLEDディスプレーが使用されるようになった。このLEDディスプレーは,少ない電力で動作させることができ,軽量でしかも長寿命であるという優れた特性を有し,今後益々使用されるものと期待される。
【0003】 さらに,最近では,発光ダイオードを用いて,白色発光光源を構成する試みが種々なされている。発光ダイオードを用いて白色光を得るためには,発光ダイオードが単色性ピーク波長を有するので,例えば,R,G,Bの3つの発光素子を近接して設けて発光させて拡散混色する必要がある。このような構成によって白色光を発生させようとした場合,発光素子の色調や輝度等のバラツキにより所望の白色を発生させることができないという問題点があった。また,発光素子がそれぞれ異なる材料を用いて形成されている場合,各発光素子の駆動電力などが異なり個々に所定の電圧を印加する必要があり,駆動回路が複雑になるという問題点があった。さらに,発光素子が半導体発光素子であるため,個々に温度特性や経時変化が異なり,色調が使用環境によって変化したり,各発光素子によって発生される光を均一に混色させる事ができずに色むらを生ずる場合がある等の多くの問題点を抱えていた。すなわち,発光ダイオードは,個々の色を発光させる発光装置としては有効であったが,発光素子を用いて白色光を発生させることができる満足な光源は得られていなかった。
【0004】 そこで,本出願人は先に発光素子によって発生された光が,蛍光体で色変換されて出力される発光ダイオードを,特開平5-152609号公報,特開平7-99345号公報,特開平7-176794号公報,特開平8-8614号公報などにおいて発表した。これらに開示された発光ダイオードは,1種類の発光素子を用いて白色系など他の発光色を発光させることができるというものであり,以下のように構成される。
【0005】 上記公報に開示された発光ダイオードは,具体的には,発光層のエネルギーバンドギャッブが大きい発光素子をリードフレームの先端に設けられたカップ上に配置し,発光素子を被覆する樹脂モールド部材中に発光素子からの光を吸収して,吸収した光と波長の異なる光を発光する(波長変換)蛍光体を含有させて構成する。
【0006】 上述の開示された発光ダイオードにおいて,発光素子として,青色系の発光が可能な発光素子を用いて,該発光素子をその発光を吸収して黄色系の光を発光する蛍光体を含有した樹脂によってモールドすることにより,混色により白色系の光が発光可能な発光ダイオードを作製することができる。
【0007】 しかしながら,従来の発光ダイオードは,蛍光体の劣化によって色調がずれたり,あるいは蛍光体が黒ずみ光の外部取り出し効率が低下する場合があるという問題点があった。ここで,黒ずむというのは,例えば,(Cd,Zn)S蛍光体等の無機系の蛍光体を用いた場合には,この蛍光体を構成する金属元素の一部が析出したり変質したりして着色することであり,また,有機系の蛍光体材料を用いた場合には,2重結合が切れる等により着色することをいう。特に,発光素子である高エネルギーバンドギャッブを有する半導体を用い,蛍光体の変換効率を向上させた場合(すなわち,半導体によって発光される光のエネルギーが高くなり,蛍光体が吸収することができるしきい値以上の光が増加し,より多くの光が吸収されるようになる。, )又は蛍光体の使用量を減らした場合(すなわち,相対的に蛍光体に照射されるエネルギー量が多くなる。)等においては,蛍光体が吸収する光のエネルギーが必然的に高くなるので,蛍光体の劣化が著しい。また,発光素子の発光強度を更に高め長期にわたって使用すると,蛍光体の劣化がさらに激しくなる。
【0008】 また,発光素子の近傍に設けられた蛍光体は,発光素子の温度上昇や外部環境(例 えば,屋外で使用された場合の太陽光によるもの等)によって高温にもさらされ,この熱によって劣化する場合がある。
【0009】 さらに,蛍光体によっては,外部から侵入する水分や,製造時に内部に含まれた水分と,上記光及び熱とによって,劣化が促進されるものもある。
またさらに,イオン性の有機染料を使用すると,チップ近傍では直流電界により電気泳動を起こし,色調が変化する場合がある。
発明の概要】【発明が解決しようとする課題】【0010】 したがって,本願発明は上記課題を解決し,より高輝度で,長時間の使用環境下においても発光光度及び発光光率の低下や色ずれの極めて少ない発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】【0011】 本発明者らは,この目的を達成するために,発光素子と蛍光体とを備えた発光装置において,(1)発光素子としては,高輝度の発光が可能で,かつその発光特性が長期間の使用に対して安定していること,(2)蛍光体としては,上述の高輝度の発光素子に近接して設けられて,該発光素子からの強い光にさらされて長期間使用した場合においても,特性変化の少ない耐光性及び耐熱性等に優れていること(特に発光素子周辺に近接して配置される蛍光体は,我々の検討によると太陽光に比較して約30倍〜40倍に及ぶ強度を有する光にさらされるので,発光素子として高輝度のものを使用すれば使用する程,蛍光体に要求される耐光性は厳しくなる),(3)発光素子と蛍光体との関係としては,蛍光体が発光素子からのスペクトル幅 をもった単色性ピーク波長の光を効率よく吸収すると共に効率よく異なる発光波長が発光可能であること,が必要であると考え,鋭意検討した結果,本発明を完成させた。
【0012】 すなわち,本発明の発光装置は,白色系を発光する発光ダイオードであって,該発光ダイオードは,発光層がインジウムを含む窒化ガリウム系化合物半導体であり,前記発光層の発光スペクトルのピークが420〜490nmの範囲にあるLEDチップと,該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する,Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体とを含むこと,を特徴とする発光ダイオードである。また,本発明の発光装置は,白色系を発光するLED光源であって,該LED光源は,発光層がインジウムを含む窒化ガリウム系化合物半導体であり,前記発光層の発光スペクトルのピークが420〜490nmの範囲にあるLEDチップと,該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する,Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体とを含み,前記LED光源は発光ダイオードであることを特徴とするLED光源でもある。
【0014】 また,前記フォトルミネセンス蛍光体としては,Y3Al5O12:Ce,Gd3In5O12:Ceを始め,上述のように定義される種々のものが含まれる。
この本願発明の発光装置は,高輝度の発光が可能な窒化物系化合物半導体からなる発光素子を用いているので,高輝度の発光をさせることができる。また,該発光装置において,使用している前記フォトルミネッセンス蛍光体は,長時間,強い光にさらされても蛍光特性の変化が少ない極めて耐光性に優れている。これによって, 長時間の使用に対して特性劣化を少なくでき,発光素子からの強い光のみならず,野外使用時等における外来光(紫外線を含む太陽光等)による劣化も少なくでき,色ずれや輝度低下が極めて少ない発光装置を提供できる。また,この本願発明の発光装置は,使用している前記フォトルミネッセンス蛍光体が,短残光であるため,例えば,120nsecという比較的速い応答速度が要求される用途にも使用することができる。
【0022】 またさらに,前記発光素子において,該発光素子の発光層がInを含む窒化ガリウム系半導体を含んでなり,前記フォトルミネセンス蛍光体が,イットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体において,Alの一部がGaによってGa:Al=1:1から4:6の範囲内の比率になるように置換されかつYの一部がGdによってY:Gd=4:1から2:3の範囲内の比率になるように置換されていることがさらに好ましい。このように調整されたフォトルミネセンス蛍光体の吸収スペクトルは,発光層としてInを含む窒化ガリウム系半導体を有する発光素子の発光する光の波長と非常によく一致し,変換効率(発光効率)を良くできる。また,該発光素子の青色光と該蛍光体の蛍光光との混色による光は,演色性のよい良質な白色となり,その点で極めて優れた発光装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】【0034】 以下,図面を参照して本発明の実施形態の説明をする。
図1の発光ダイオード100は,マウント・リード105とインナーリード106とを備えたリードタイプの発光ダイオードであって,マウント・リード105のカップ部105a上に発光素子102が設られ(判決注: 「設けられ」の誤記と認める。,カップ部105a内に,発光素子102を覆うように,所定のフォトルミネ )ッセンス蛍光体を含むコーティング樹脂101が充填された後に,樹脂モールドされて構成される。ここで,発光素子102のn側電極及びp側電極はそれぞれ,マ ウント・リード105とインナーリード106とにワイヤー103を用いて接続される。
【0035】 以上のように構成された発光ダイオードにおいては,発光素子(LEDチップ)102によって発光された光(以下,LED光という。)の一部が,コーティング樹脂101に含まれたフォトルミネッセンス蛍光体を励起してLED光と異なる波長の蛍光を発生させて,フォトルミネッセンス蛍光体が発生する蛍光と,フォトルミネッセンス蛍光体の励起に寄与することなく出力されるLED光とが混色されて出力される。その結果,発光ダイオード100は,発光素子102が発生するLED光とは波長の異なる光も出力する。
【0036】 また,図2に示すものはチップタイプの発光ダイオードであって,筺体204の凹部に発光素子(LEDチップ)202が設けられ,該凹部に所定のフォトルミネッセンス蛍光体を含むコーティング材が充填されてコーティング部201が形成されて構成される。ここで,発光素子202は,例えばAgを含有させたエポキシ樹脂等を用いて固定され,該発光素子202のn側電極とp側電極とをそれぞれ,筺体204に設けられた端子金属205に,導電性ワイヤー203を用いて接続される。 以上のように構成されたチップタイプの発光ダイオードにおいて,図1のリードタイプの発光ダイオードと同様に,フォトルミネッセンス蛍光体が発生する蛍光と,フォトルミネッセンス蛍光体に吸収されることなく伝搬されたLED光とが混色されて出力され,その結果,発光ダイオード200は,発光素子102が発生するLED光とは波長の異なる光も出力する。
【0037】 以上説明したフォトルミネセンス蛍光体を備えた発光ダイオードは,以下のような特徴を有する。
1.通常,発光素子(LED)から放出される光は,発光素子に電力を供給する 電極を介して放出される。放出された光は,発光素子に形成された電極の陰となり,特定の発光パターンを有し,そのために全ての方向に均一に放出されない。しかしながら,蛍光体を備えた発光ダイオードは,蛍光体により発光素子からの光を散乱させて光を放出するので,不要な発光パターンを形成することなく,広い範囲に均一に光を放出することができる。
2.発光素子(LED)からの光は,単色性ピークを有するといっても,ある程度のスペクトル幅をもつので演色性が高い。このことは,比較的広い範囲の波長を必要とする光源として使用する場合には欠かせない長所になる。例えば,スキャナーの光源等に用いる場合は,スペクトル幅が広いほうが好ましい。
【0038】 以下に説明する実施形態1,2の発光ダイオードは,図1又は図2に示す構造を有する発光ダイオードにおいて,可視光域における光エネルギーが比較的高い窒化物系化合物半導体を用いた発光素子と,特定のフォトルミネッセンス蛍光体とを組み合わせたことを特徴とし,これによって,高輝度の発光を可能にし,長時間の使用に対して発光効率の低下や色ずれが少ないという良好な特性を有する。
【0044】 実施の形態1. 本願発明に係る実施の形態1の発光ダイオードは,発光層に高エネルギーバンドギャッブを有し,青色系の発光が可能な窒化ガリウム系化合物半導体素子と,黄色系の発光が可能なフォトルミネセンス蛍光体である,セリウムで付活されたガーネット系フォトルミネッセンス蛍光体とを組み合わせたものである。これによって,この実施形態1の発光ダイオードにおいて,発光素子102,202からの青色系の発光と,その発光によって励起されたフォトルミネセンス蛍光体からの黄色系の発光光との混色により白色系の発光が可能になる。
【0045】 また,この実施形態1の発光ダイオードに用いた,セリウムで付活されたガーネ ット系フォトルミネッセンス蛍光体は耐光性及び耐候性を有するので,発光素子102,202から放出された可視光域における高エネルギー光を長時間その近傍で高輝度に照射した場合であっても発光色の色ずれや発光輝度の低下が極めて少ない白色光が発光できる。
【0047】 本実施形態1において,このフォトルミネセンス蛍光体は,上述したように,コーテイング樹脂101,コーテイング部201を形成する樹脂(詳細は後述する)に混合して使用されるので,窒化ガリウム系発光素子の発光波長に対応させて,樹脂などとの混合比率,若しくはカップ部105又は筺体204の凹部への充填量を種々調整することにより,発光ダイオードの色調を,白色を含め電球色など任意に設定できる。
【0050】 また,実施形態1のフォトルミネセンス蛍光体は,ガーネット構造を有するので,熱,光及び水分に強く,図3(A)に示すように,励起スペクトルのピークを450nm付近にすることができる。また,発光ピークも図3(B)に示すように,580nm付近にあり700nmまで裾を引くブロードな発光スペクトルを持つ。また,実施形態1のフォトルミネッセンス蛍光体は,結晶中にGdを含有することにより,460nm以上の長波長域における励起発光効率を高くすることができる。
Gdの含有量の増加により,発光ピーク波長が,長波長に移動し,全体の発光波長も長波長側にシフトする。すなわち,赤みの強い発光色が必要な場合,Gdによる置換量を多くすることで達成することができる。
一方,Gdが増加するするとともに,青色光によるフォトルミネッセンスの発光輝度は低下する傾向にある。
【0051】 特に,ガーネット構造を有するYAG系蛍光体の組成の内,Alの一部をGaで置換することで,発光波長が,短波長側にシフトするまた組成のYの一部をGdで 置換することにより,発光波長が長波長側にシフトする。
【0052】 表1に一般式(Y1-aGda)3(Al1-bGab)5O12:Ceで表されるYAG系蛍光体の組成とその発光特性を示す。
【0054】【表1】 表1に示した各特性は,460nmの青色光で励起して測定した。又表1における輝度と効率は一の材料を100として相対値で示している。
AlをGaによって置換する場合,発光効率と発光波長を考慮してGa:Al=1:1から4:6の間の比率に設定することが好ましい。同様に,Yの一部をGdで置換する場合は,Y:Gd=9:1〜1:9の範囲の比率に設定することが好ましく,4:1〜2:3の範囲に設定することがより好ましい。Gdの置換量が2割未満では,緑色成分が大きく赤色成分が少なくなるからであり,Gdの置換量が6割以上になると,赤み成分を増やすことができるが,輝度が急激に低下する。特に,発光素子の発光波長によるがYAG系蛍光体中のYとGdとの比率を,Y:Gd=4:1〜2:3の範囲に設定することにより,1種類のイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体を用いて黒体放射軌跡にほぼ沿った白色光の発光が可能な発光ダイオードを構成することができる。また,YAG系蛍光体中のYとGdとの比率を,Y:Gd=2:3〜1:4の範囲に設定すると,輝度は低いが電球色の発 光が可能な発光ダイオードを構成することができる。尚,Ceの含有量(置換量)は,0.003〜0.2の範囲に設定することにより,発光ダイオードの相対発光光度を70%以上にできる。含有量が0.003未満では,Ceによるフォトルミネッセンスの励起発光中心の数が減少することにより光度が低下し,逆に0.2より大きくなると濃度消光が生じる。
【0055】 以上のように,組成のAlの一部をGaで置換することにより発光波長を短波長にシフトさせることができ,また,組成のYの一部をGdで置換することで,発光波長を長波長へシフトさせることができる。このように組成を変化することで発光色を連続的に調節することが可能である。また,波長が254nmや365nmであるHg輝線ではほとんど励起されず450nm付近の青色系発光素子からのLED光による励起効率が高い。さらに,ピーク波長がGdの組成比で連続的に変えられるなど窒化物半導体発光素子の青色系発光を白色系発光に変換するための理想条件を備えている。
【0068】 本実施形態1の発光ダイオードにおいて白色系を発光させる場合は,フォトルミネセンス蛍光体との補色関係や樹脂の劣化等を考慮して発光素子の発光波長は400nm以上530nm以下に設定することが好ましく,420nm以上490nm以下に設定することがより好ましい。発光素子とフォトルミネセンス蛍光体との効率をそれぞれより向上させるためには,450nm以上475nm以下に設定することがさらに好ましい。実施形態1の白色系発光ダイオードの発光スペクトルの一例を図4に示す。ここに例示した発光ダイオードは,図1に示すリードタイプのものであって,後述する実施例1の発光素子とフォトルミネッセンス蛍光体とを用いたものである。ここで,図4において,450nm付近にピークを持つ発光が発光素子からの発光であり,570nm付近にピークを持つ発光が発光素子によって励起されたフォトルミネセンスの発光である。
【0069】 また,表1に示した蛍光体とピーク波長465nmの青色LED(発光素子)とを組み合わせた白色系発光ダイオードで,実現できる色再現範囲を図16に示す。
この白色系発光ダイオードの発光色は,青色LED起源の色度点と蛍光体起源の色度点とを結ぶ直線上のいずれかに位置するので,表1の1〜7の蛍光体を使用することにより,色度図中央部の広範な白色領域(図16中斜線を付した部分)をすべてカバーすることができる。図17は,白色系発光ダイオードにおける蛍光体の含有量を変化させた時の発光色の変化を示したものである。ここで,蛍光体の含有量は,コーティング部に使用する樹脂に対する重量パーセントで示している。図17から明らかなように,蛍光体の量を増やせば蛍光体の発光色に近付き,減らすと青色LEDに近付く。
【0079】発明の実施2. 本発明に係る実施の形態2の発光ダイオードは,発光素子として発光層に高エネルギーバンドギャップを有する窒化ガリウム系半導体を備えた素子を用い,フォトルミネセンス蛍光体として,互いに組成の異なる2種類以上のフォトルミネセンス蛍光体,好ましくはセリウムで付活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体を含む蛍光体を用いる。これにより実施の形態2の発光ダイオードは,発光素子によって発光されるLED光の発光波長が,製造バラツキ等により所望値からずれた場合でも,2種類以上の蛍光体の含有量を調節することによって所望の色調を持った発光ダイオードを作製できる。
この場合,発光波長が比較的短い発光素子に対しては,発光波長が比較的短い蛍光体を用い,発光波長が比較的長い発光素子には発光波長が比較的長い蛍光体を用いることで発光ダイオードから出力される発光色を一定にすることができる。蛍光体に関して言うと,フォトルミネセンス蛍光体として,一般式(Re1-rSmr)3(Al1-sGas)5O12:Ceで表されるセリウムで付活された蛍光体を用いることも できる。但し,0<r≦1,0≦s≦1,Reは,Y,Gd,Laから選択される少なくとも一種である。これにより発光素子から放出された可視光域における高エネルギーを有する光が長時間高輝度に照射された場合や種々の外部環境の使用下においても蛍光体の変質を少なくできるので,発光色の色ずれや発光輝度の低下が極めて少なく,かつ高輝度の所望の発光成分を有する発光ダイオードを構成できる。
【0086】 さらに,実施形態2に用いるイットリウム・アルミニウム・ガーネット系(YAG系)蛍光体は,ガーネット構造を有するので,実施形態2の発光ダイオードは,長時間高輝度に発光させることができる。また,実施形態1及び2の発光ダイオードは,発光観測面からみて蛍光体を介して発光素子を設ける。また,発光素子からの光よりもより長波長側に発光する蛍光物質を用いているので,効率よく発光させることができる。さらに,変換された光は発光素子から放出される光よりも長波長側になっているために,発光素子の窒化物半導体層のバンドギャップよりも小さく,該窒化物半導体層に吸収されにくい。従って,蛍光体が等方的に発光するために発光された光はLED素子にも向かうが,蛍光体によって発光された光はLED素子に吸収されることはないので,発光ダイオードの発光効率を低下させることはない。
【0102】・・・(実施例1) 実施例1は,発光素子として,GaInN半導体を用いた発光ピークが450nm,半値幅30nmの発光素子を用いた例である。
・・・【0104】 以上のようにして作製された発光素子を,銀メッキした鋼製のマウント・リードのカップ部にエポキシ樹脂でダイボンディングした後,発光素子の各電極とマウント・リード及びインナー・リードとをそれぞれ直径が30μmの金線を用いてワイ ヤーボンディングして,リードタイプの発光ダイオードを作製した。
【0105】 一方,フォトルミネセンス蛍光体は,Y,Gd,Ceの希土類元素を所定の化学量論比で酸に溶解した溶解液を修酸で共沈させ,沈澱物を焼成して得られる共沈酸化物と,酸化アルミニウムを混合して,この混合原料にフラックスとしてフツ化アンモニウムを混合して坩堝に詰めて,空気中1400℃の温度で3時間焼成した後,その焼成品をボールミルを用いて湿式粉砕して,洗浄,分離,乾燥後,最後に篩を通すことにより作製した。その結果,フォトルミネセンス蛍光体は,YがGdで約2割置換されたイットリウム・アルミニウム酸化物として(Y 0.8Gd0.2)3Al5 O12:Ceが形成された。尚,Ceの置換は0.03であった。
【0106】 以上のようにして作製した(Y0.8Gd0.2)3Al5O12:Ce蛍光体80重量部とエポキシ樹脂100重量部とをよく混合してスラリーとし,このスラリーを発光素子が載置されたマウント・リードのカップ内に注入した後,130℃の温度で1時間で硬化させた。こうして発光素子上に厚さ120μmのフォトルミネセンス蛍光体が含有されたコーティング部を形成した。なお,本実施例1では,コーティング部においては,発光素子に向かってフォトルミネセンス蛍光体が徐々に多く分布するように構成した。
【0107】 照射強度は,約3.5W/cm2である。その後,さらに発光素子やフォトルミネセンス蛍光体を外部応力,水分及び塵芥などから保護する目的でモールド部材として透光性エポキシ樹脂を形成した。ここで,モールド部材は,砲弾型の型枠の中に,リードフレームにボンディングされ,フォトルミネセンス蛍光体を含んだコーティング部に覆われた発光素子を挿入して,透光性エポキシ樹脂を注入した後,150℃5時間にて硬化させて形成した。
【0108】 この要に形成した発光ダイオードは,発光観測正面から見ると,フォトルミネセンス蛍光体のボディーカラーにより中央部が黄色っぽく着色されていた。
こうして得られた白色系が発光可能な発光ダイオードの色度点,色温度,演色性指数を測定した結果,それぞれ,色度点は,(x=0.302,y=0.280),色温度8080K,演色性指数(Ra)=87.5と三波長型蛍光灯に近い性能を示した。また,発光効率は9.51m/wと白色電球並であった。さらに,温度25℃60mA通電,温度25℃20mA通電,温度60℃90%RH下で20mA通電の各寿命試験においても蛍光体に起因する変化は観測されず通常の青色発光ダイオードと寿命特性に差がないことが確認できた。
【0109】(比較例1) フォトルミネセンス蛍光体を(Y0.8Gd0.2)3Al5O12:Ce蛍光体から(ZnCd)S:Cu,Alとした以外は,実施例1と同様にして発光ダイオードの形成及び寿命試験を行った。形成された発光ダイオードは通電直後,実施例1と同様,白色系の発光が確認されたが輝度は低かった。また,寿命試験においては,約100時間で出力がゼロになった。劣化原因を解析した結果,蛍光体が黒化していた。
【0110】 これは,発光素子の発光光と蛍光体に付着していた水分あるいは外部環境から進入した水分により光分解し蛍光体結晶表面にコロイド状亜鉛金属を析出し外観が黒色に変色したものと考えられる。温度25℃20mA通電,温度60℃90%RH下で20mA通電の寿命試験結果を実施例1の結果と共に図13に示す。輝度は初期値を基準にしそれぞれの相対値を示す。図13において,実線が実施例1であり波線が比較例1を示す。
【0111】(実施例2) 実施例2の発光ダイオードは,発光素子における窒化物系化合物半導体のInの 含有量を実施例1の発光素子よりも増やすことにより,発光素子の発光ピークを460nmとし,フォトルミネセンス蛍光体のGdの含有量を実施例1よりも増やし(Y0.6Gd0.4)3Al5O12:Ceとした以外は実施例1と同様にして発光ダイオードを作製した。
以上のようにして作製した発光ダイオードは,白色系の発光可能であり,その色度点,色温度,演色性指数を測定した。それぞれ,色度点(x=0.375,y=0.370),色温度4400K,演色性指数(Ra)=86.0であった。
【0112】 図18(A〜C)にそれぞれ,実施例2のフォトルミネセンス蛍光体,発光素子及び発光ダイオードの各発光スペクトルを示す。
また,この実施例2の発光ダイオードを100個作製し,初期の光度に対する1000時間発光させた後における光度を調べた。その結果,初期(寿命試験前)の光度を100%とした場合,1000時間経過後における平均光度は,平均して98.8%であり特性に差がないことが確認できた。
【0113】(実施例3) 実施例3の発光ダイオードは,フォトルミネセンス蛍光体としてY,Gd,Ceの希土類元素に加えSmを含有させた,一般式(Y0.39Gd0.57Ce0.03Sm0.01 )3Al5O12蛍光体を用いた以外は,実施例1と同様に作製した。この実施例3の発光ダイオードを100個作製し,130℃の高温下において評価した結果,実施例1の発光ダイオードと比較して平均温度特性が8%ほど良好であった。
【0116】(実施例5) 実施例5の発光ダイオードは,フォトルミネセンス蛍光体として一般式(Y 0.2Gd0.8)3Al5O12:Ceで表される蛍光体を用いた以外は,実施例1と同様にして作製した。この実施例5の発光ダイオードを100個作製して諸特性を測定し た。
その結果,色度点(平均値)は(x=0.450,y=0.420)であり,電球色の光を発光することができた。
【0117】 図19(A〜C)にそれぞれ,実施例5のフォトルミネセンス蛍光体,発光素子及び発光ダイオードの各発光スペクトルを示す。
また,実施例5の発光ダイオードは,実施例1の発光ダイオードに比較して輝度が約40%低かったが,寿命試験においては,実施例1と同様に優れた耐候性を示していた。
【0118】(実施例6) 実施例6の発光ダイオードは,フォトルミネセンス蛍光体として一般式Y 3Al5O12:Ceで表される蛍光体を用いた以外は,実施例1と同様にして作製した。この実施例6の発光ダイオードを100個作製して諸特性を測定した。
その結果,実施例1に比較してやや黄緑色がかった白色の光を発光することができた。
図20(A〜C)にそれぞれ,実施例6のフォトルミネセンス蛍光体,発光素子及び発光ダイオードの各発光スペクトルを示す。
また,実施例6の発光ダイオードは,寿命試験においては,実施例1と同様に優れた耐候性を示していた。
【0119】(実施例7) 実施例7の発光ダイオードは,フォトルミネセンス蛍光体として一般式Y3 (Al0.5 Ga0.5)5O12:Ceで表される蛍光体を用いた以外は,実施例1と同様にして作製した。この実施例7の発光ダイオードを100個作製して諸特性を測定した。
その結果,実施例7の発光ダイオードは,輝度は低いが緑色がかった白色の光を 発光することができ,寿命試験においては,実施例1と同様に優れた耐候性を示していた。
図21(A〜C)にそれぞれ,実施例7のフォトルミネセンス蛍光体,発光素子及び発光ダイオードの各発光スペクトルを示す。
【0120】(実施例8) 実施例8の発光ダイオードは,フォトルミネセンス蛍光体として,一般式Gd3(Al0.5Ga0.5)5O12:Ceで表されるYを含まない蛍光体を用いた以外は,実施例1と同様にして作製した。この実施例8の発光ダイオードを100個作製して諸特性を測定した。
その結果,実施例8の発光ダイオードは,輝度は低いが,寿命試験においては,実施例1と同様に優れた耐候性を示していた。
【0121】(実施例9) 実施例9の発光ダイオードは,図7に示す構成を有する面状発光の発光装置である。
発光素子として発光ピークが450nmのIn0.05Ga0.95N半導体を用いた。
・・・【0124】 一方,フォトルミネセンス蛍光体は,緑色系及び赤色系をそれぞれ必要なY,Gd,Ce,Laの希土類元素を化学量論比で酸に溶解した溶解液を蓚酸で共沈させた。これを焼成して得られる共沈酸化物と,酸化アルミニウム,酸化ガリウムと混合して混合原料をそれぞれ得る。これにフラックスとしてフッ化アンモニウムを混合して坩堝に詰め,空気中1400°Cの温度範囲で3時間焼成して焼成品を得た。
焼成品をそれぞれ水中でボールミルして,洗浄,分離,乾燥,最後に篩を通して形成した。
【0125】 以上のようにして作製された,一般式Y3(Al0.6Ga0.4)5O12:Ceで表される緑色系が発光可能な第1の蛍光体120重量部と,同様にして作製された,一般式(Y0.4Gd0.6)3Al5O12:Ceで表される赤色系が発光可能な第2の蛍光体100重量部とを,エポキシ樹脂100重量部とよく混合してスラリーとし,このスラリーを厚さ0.5mmのアクリル層上にマルチコーターを用いて均等に塗布,乾燥し,厚さ約30μmの色変換部材として蛍光体膜を形成した。
蛍光体層を導光板の主発光面と同じ大きさに切断し導光板上に配置することにより面状の発光装置を作製した。以上のように作製した発光装置の色度点,演色性指数を測定した結果,色度点は,(x=0.29,y=0.34)であり,演色性指数(Ra)は,92.0と三波長型蛍光灯に近い性能を示した。また,発光効率は12lm/wと白色電球並であった。さらに耐侯試験として室温60mA通電,室温20mA通電,60℃90%RH下で20mA通電の各試験においても蛍光体に起因する変化は観測されなかった。
【0126】(比較例2) 実施例9の一般式Y3(判決注: 「Y3」の誤記と認める。(Al0.6Ga0.4)5 )O12:Ceで表される緑色系が発光可能な第1の蛍光体,及び一般式(Y 0.4Gd0.6 )3Al5O12:Ceで表される赤色系が発光可能な第2の蛍光体からなるフォトルミネセンス蛍光体に代えて,それぞれペリレン系誘導体である緑色有機蛍光顔料(シンロイヒ(SINLOIHI)化学製FA-001)と赤色有機蛍光顔料(シンロイヒ化学製FA-005)とを用いて同量で混合攪拌した以外は,実施例9と同様にして発光ダイオードを作製して実施例9と同様の耐侯試験を行った。作製した比較例1の発光ダイオードの色度点は,(x=0.34,y=0.35)であった。
耐侯性試験として,カーボンアークで紫外線量を200hrで太陽光の1年分とほぼ同等とさせ時間と共に輝度の保持率及び色調を測定した。また,信頼性試験とし て発光素子を発光させ70℃一定における時間と共に発光輝度及び色調を測定した。
この結果を実施例9と共に図14及び図15にそれぞれ示す。図14,15から明らかなように,いずれの試験においても,実施例9は,比較例2より劣化が少ない。
【0127】(実施例10) 実施例10の発光ダイオードは,リードタイプの発光ダイオードである。
実施例10の発光ダイオードでは,実施例9と同様にして作製した450nmのIn0.05Ga0.95Nの発光層を有する発光素子を用いた。・・・【0128】 一方,フォトルミネセンス蛍光体は,一般式Y3(Al0.5Ga0.5)5O12:Ceで表される緑色系が発光可能な第1の蛍光体と一般式(Y 0.2Gd0.8) Al5O 3 :Ceで表される赤色系が発光可能な第2の蛍光体とをそれぞれ以下のようにし12て作製して混合して用いた。すなわち,必要なY,Gd,Ceの希土類元素を化学量論比で酸に溶解した溶解液を蓚酸で共沈させた。これを焼成して得られる共沈酸化物と,酸化アルミニウム,酸化ガリウムと混合して混合原料をそれぞれ得る。これにフラックスとしてフッ化アンモニウムを混合して坩堝に詰め,空気中1400°Cの温度範囲で3時間焼成してそれぞれ焼成品を得た。焼成品を水中でボールミルして,洗浄,分離,乾燥,最後に篩を通して所定の粒度の第1と第2の蛍光体を作製した。
【0129】 以上のようにして作製された第1の蛍光体及び第2の蛍光体それぞれ40重量部を,エポキシ樹脂100重量部に混合してスラリーとし,このスラリーを発光素子が配置されたマウント・リード上のカップ内に注入した。注入後,注入されたフォトルミネセンス蛍光体を含有する樹脂を130℃1時間で硬化させた。こうして発光素子上に厚さ120μのフォトルミネセンス蛍光体が含有されたコーティング部材を形成した。なお,このコーティング部材は,発光素子に近いほどフォトルミ ネセンス蛍光体の量が徐々に多くなるように形成した。その後,さらに発光素子やフォトルミネセンス蛍光体を外部応力,水分及び塵芥などから保護する目的でモールド部材として透光性エポキシ樹脂を形成した。モールド部材は,砲弾型の型枠の中にフォトルミネセンス蛍光体のコーティング部が形成されたリードフレームを挿入し透光性エポシキ樹脂を混入後,150℃5時間にて硬化させて形成した。このようにして作製された実施例10の発光ダイオードは,発光観測正面から視認するとフォトルミネセンス蛍光体のボディーカラーにより中央部が黄色っぽく着色されていた。
【0130】 以上のように作製した実施例10の発光ダイオードの色度点,色温度,演色性指数を測定した結果,色度点は, (x=0.32,y=0.34)であり,演色性指数(Ra)=89.0,発光効率は10lm/wであった。さらに耐侯試験として室温60mA通電,室温20mA通電,60℃90%RH下で20mA通電の各試験においてもフォトルミネセンス蛍光体に起因する変化は観測されず通常の青色系発光ダイオードと寿命特性に差がないことが確認できた。
【0135】 一方,フォトルミネセンス蛍光体は,一般式(Y0.8Gd0.2)3Al5O12:Ceで表され比較的短波長側の黄色系が発光可能な蛍光体と,一般式(Y0.4Gd0.6 )3Al5O12:Ceで表され比較的長波長側の黄色系が発光可能な蛍光体とを以下のようにして作製して混合して用いた。これらの蛍光体は,それぞれ必要なY,Gd,Ceの希土類元素を化学量論比で酸に溶解した溶解液を蓚酸で共沈させた。
これを焼成して得られる共沈酸化物と,酸化アルミニウムと混合して混合原料をそれぞれ得る。これにフラックスとしてフッ化アンモニウムを混合して坩堝に詰め,空気中1400℃の温度範囲で3時間焼成して焼成品を得た。焼成品をそれぞれ水中でボールミルして,洗浄,分離,乾燥,最後に篩を通して形成した。
【0136】 以上のように作製した比較的短波長側の黄色系蛍光体100重量部と比較的長波長側の黄色系蛍光体100重量部とを,アクリル樹脂1000重量部とよく混合して押し出し成形し,厚さ約180μmの色変換部材として用いる蛍光体膜を形成した。蛍光体膜を導光板の主発光面と同じ大きさに切断し導光板上に配置することにより発光装置を作製した。このようにして作製した実施例11の発光装置の色度点,演色性指数を測定した結果,色度点は, (x=0.33,y=0.34)であり,演色性指数(Ra)=88.0を示した。また,発光効率は10lm/wであった。
【0137】 図22(A〜C)にはそれぞれ,実施例11に使用した,式(Y 0.8Gd0.2)3Al5O12:Ceで表される蛍光体,式(Y0.4Gd0.6)3Al5O12:Ceで表される蛍光体及び発光素子の各発光スペクトルを示す。また,図23には,実施例11の発光ダイオードの発光スペクトルを示す。 さらに耐侯試験として室温60mA通電,室温20mA通電,60℃90%RH下で20mA通電の各試験においても蛍光体に起因する変化は観測されなかった。同様に,この蛍光体の含有量を種々変えることによって発光素子からの波長が変化しても所望の色度点を維持させることができる。
【0139】 以上説明したように,本発明に係る発光ダイオードは,所望の色を有する光を発光することができ,長時間高輝度の使用においても発光効率の劣化が少なくしかも耐候性に優れている。従って,一般的な電子機器に限られず,高い信頼性が要求される車載用,航空産業用,港内のブイ表示用及び高速道路の標識照明など屋外での表示や照明として新たな用途を開くことができる。
【図1】【図2】 【図3】 【図4】【図7】 【図13】 【図14】 【図15】 【図16】【図17】 【図18】 【図19】 【図20】 【図21】 【図22】 【図23】 (2) 本件発明の概要 ア 前記(1)の本件明細書の記載からすると,本件発明の概要は以下のとおりであると認められる。
(ア) 技術分野 本件発明は,LEDディスプレイ,バックライト光源,信号機,照光式スイッチ及び各種インジケータなどに利用される発光ダイオードに関し,特に発光素子が発生する光の波長を変換して発光するフォトルミネセンス蛍光体を備えた発光装置及びそれを用いた表示装置に関するものである(段落【0001】。
) (イ) 本件発明の課題及び目的 従来の,発光素子によって発生された光が蛍光体で色変換されて出力される発光ダイオードは,1種類の発光素子を用いて白色系など他の発光色を発光させることができるというものであり,具体的には,発光素子をリードフレームの先端に設けられたカップ上に配置し,樹脂モールド部材中に発光素子からの光を吸収して,吸収した光と波長の異なる光を発光する(波長変換)蛍光体を含有させて構成するというものである(段落【0004】【0005】。
, ) このような発光ダイオードにおいて,発光素子として青色系の発光が可能な発光素子を用いて,同発光素子をその発光を吸収して黄色系の光を発光する蛍光体を含有した樹脂によってモールドすることにより,混色により白色系の光が発光可能な発光ダイオードを作製することができるが,蛍光体の劣化によって色調がずれたり,蛍光体が黒ずみ光の外部取り出し効率が低下したりする場合があるという問題点があった(段落【0006】【0007】。
, ) 特に,発光素子である高エネルギーバンドギャッブを有する半導体を用い,蛍光体の変換効率を向上させた場合(すなわち,半導体によって発光される光のエネルギーが高くなり,蛍光体が吸収することができるしきい値以上の光が増加し,より多くの光が吸収されるようになる。,又は蛍光体の使用量を減らした場合(すなわ )ち,相対的に蛍光体に照射されるエネルギー量が多くなる。)等においては,蛍光体 が吸収する光のエネルギーが必然的に高くなるので,蛍光体の劣化が著しい。また,発光素子の発光強度を更に高め長期にわたって使用すると,蛍光体の劣化がさらに激しくなる。そして,発光素子の近傍に設けられた蛍光体は,発光素子の温度上昇や外部環境(例えば,屋外で使用された場合の太陽光によるもの等)によって高温にさらされ,この熱によって劣化する場合があり,外部から侵入する水分や製造時に内部に含まれた水分と上記光及び熱によっても,劣化が促進される。さらに,イオン性の有機染料を使用すると,チップ近傍では直流電界により電気泳動を起こし,色調が変化する場合がある。(段落【0007】〜【0009】) 本件発明は,上記のように,従来の発光ダイオードにおいて,@発光素子からの光,A発光素子や外部環境からの熱,B外部から侵入する水分や製造時に内部に含まれた水分により,蛍光体が劣化して,色調がずれたり,蛍光体が黒ずみ光の外部取り出し効率が低下したりする場合があるという問題及びCイオン性の有機染料を使用すると,チップ近傍では直流電界により電気泳動を起こし,色調が変化する場合があるという問題を解決し,長時間の使用環境下においても発光光度及び発光光率の低下や色ずれの極めて少ない発光装置を提供することを目的とするものである(段落【0007】〜【0010】。
) (ウ) 課題を解決するための手段 上記(イ)の課題を解決するため,発明者らは,@発光素子としては,高輝度の発光が可能で,かつその発光特性が長期間の使用に対して安定していること,A蛍光体としては,高輝度の発光素子に近接して設けられて,当該発光素子からの強い光にさらされて長期間使用した場合においても,特性変化の少ない耐光性及び耐熱性等に優れていること,B発光素子と蛍光体との関係としては,蛍光体が発光素子からのスペクトル幅をもった単色性ピーク波長の光を効率よく吸収するとともに効率よく異なる発光波長が発光可能であることが,それぞれ必要であると考えた(段落【0011】。
) そして,発明者らは,@発光ダイオードとして, 「白色系を発光する発光ダイオー ドであって,該発光ダイオードは,発光層が窒化ガリウム系化合物半導体であり,発光層の発光スペクトルのピークが420〜490nmの範囲にあるLEDチップと,該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する,Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも一つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体とを含むことを特徴とする発光ダイオード」を,ALED光源として, 「白色系を発光するLED光源であって,該LED光源は,発光層がインジウムを含む窒化ガリウム系化合物半導体であり,発光層の発光スペクトルのピークが420〜490nmの範囲にあるLEDチップと,該LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する,Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも一つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体とを含むことを特徴とするLED光源」を発明した( 【請求項1】【請求項2】 , ,段落【0012】。
) (エ) 本件発明の効果 本件発明で使用される,Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも一つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも一つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系蛍光体は,長時間,発光素子からの強い光にさらされても蛍光特性の変化が少なく,極めて耐光性に優れており,長時間の使用に対して特性劣化を少なくできる上,耐候性にも優れていて野外使用時等における外来光(紫外線を含む太陽光等)による劣化も少なくでき,色ずれや輝度低下が極めて少ない発光装置を提供でき,当該発光装置は,一般的な電子機器に限られず,高い信頼性が要求される車載用,航空産業用,港内のブイ表示用及び高速道路の標識照明など屋外での表示や照明として新たな用途に用いることができる(段落【0012】【0014】【0139】。
, , ) イ 原告は,提供される発光装置が「高輝度」であることが本件発明の前提 になっていると主張する。
(ア) しかし,前記アのとおり,本件明細書に従来技術の課題として記載されているのは,光,熱,水分,直流電界(イオン性の有機染料の場合)による蛍光体の劣化のみであり,課題を解決するための手段や本件発明の効果も,上記課題に対応したものが記載されているから,本件発明における「課題」は,上記の光,熱,水分,直流電界による蛍光体の劣化であると認めることができる。
(イ) また,本件明細書には,実施例8として,GaInN半導体を用いた発光ピークが450nmの発光素子とYを100%Gdで置換した本件一般式蛍光体(Gd3(Al0.5Ga05)5O12:Ce)を用いた発光ダイオードが記載されており,同発光ダイオードが,輝度は低いものの,優れた耐候性を有していることが記載されている(本件明細書の段落【0102】,【0120】)から,輝度が低い発光ダイオードが本件発明の実施例として開示されている。
(ウ) そして,本件明細書の段落【0010】には,「したがって,本願発明は上記課題を解決し,より高輝度で,長時間の使用環境下においても発光光度及び発光光率の低下や色ずれの極めて少ない発光装置を提供することを目的とする。」と記載されているものの,上記(ア),(イ)で判示したところに照らすと,本件発明の発光装置の輝度がそれ自体として高輝度であることが本件発明の「前提」となっていると認めることはできない。
(エ) 原告が論拠とする本件明細書上のその余の記載(段落【0014】,【0038】,【0045】,【0079】,【0086】)は,いずれも青色発光素子が高輝度の発光が可能なものであることを述べたものか,そのように高輝度の青色発光素子を用い,かつ上記課題を解決したために高輝度が維持されることについて述べたものであると認められ,そこから直ちに,高輝度であることが本件発明の「前提」となっているということはできない。
(オ) したがって,原告の上記主張は採用することができない。
2 サポート要件違反についての認定判断の誤り(取消事由1,2)について (1) 取消事由1(「高輝度」との関係のサポート要件違反)について 特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
原告は,本件発明においては,提供される発光装置が「高輝度」なものであることが前提となっているところ,本件一般式蛍光体のうち,YとAlのいずれか一方でも含まないものは,ほとんど発光せず, 「高輝度」ではないから,そのような本件一般式蛍光体が含まれているという点で,本件発明がサポート要件に違反すると主張している。
しかし,前記1(2)で認定したように,発光装置が「高輝度」であることが本件発明の前提や課題となっているとはいえず,本件発明の課題は,光,熱,水分及び直流電界による蛍光体の劣化である。そして,当業者は,本件明細書における上記課題を解決するための手段や効果の記載(段落【0011】 0014】 0139】, , 【 【 , )さらには,実施の形態や実施例・比較例についての記載(本件明細書の段落【0044】【0045】【0050】【0102】〜【0137】 , , , )などから,特許請求の範囲にある構成を採用することで,上記課題が解決できると認識することができるものと認められる。
YとAlのいずれか一方でも含まれない本件一般式蛍光体を用いた場合に,原告が主張するとおり輝度が低くなることがあるとしても,そのことによりサポート要件違反になるというものではない。
したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
(2) 取消事由2(「白色系」との関係のサポート要件違反)について ア 原告は,本件発明にいう「白色系」が,本件明細書の【図16】の斜線 部分の一部であるという前提に立った上で,Yを100%Gdが置換した本件一般式蛍光体を用いると,再現できる色が斜線部分の範囲外となるし,一般的な意味の「電球色」 (色温度が2600〜3250Kの範囲)の一部が,同斜線部分の範囲外となるから,本件発明がサポート要件に違反すると主張する。
イ 本件明細書の段落【0069】には,「色度図中央部の広範な白色領域(【図16】中斜線を付した部分)」との記載があるが,段落【0069】には,上記記載部分に先立って,「表1に示した蛍光体とピーク波長465nmの青色発光素子とを組み合わせた白色系発光ダイオードで,実現できる色再現範囲を図16に示す。この白色系発光ダイオードの発光色は,青色LED起源の色度点と蛍光体起源の色度点とを結ぶ直線上のいずれかに位置するので,表1の1〜7の蛍光体を使用することにより,」と記載されていることからすると,上記斜線部分は,ピーク波長465nmの青色発光素子と本件一般式蛍光体のうち【表1】の@〜Fのものを組み合わせた場合に再現できる色の範囲を表したものであって,本件発明の「白色系」の範囲を画するものとはいえないから,原告の上記主張は,その前提を欠いている。
ウ 本件明細書の段落【0139】に本件発明の発光ダイオードが照明としても使用できることが記載されていることからすると,本件発明は,照明分野にも用いることのできるものである。
そして,証拠(甲51,乙3,4,6〜8,10,11)によると,照明分野では, 「白色光」には広範な色温度(相関色温度)のものが含まれるとされているから,本件発明の「白色系」の中にも広範な色温度のものが含まれると解される。
本件発明では,発光素子のピーク波長が420〜490nmと幅を持ったものとなっている(【請求項1】【請求項2】 , )上,本件明細書の段落【0054】【表1】 ,にあるように本件一般式蛍光体起源の色度点もその組成に応じて変わり得るものである。また,本件明細書の段落【0069】や【図17】にあるように,本件発明において,蛍光体の量を調節することで発光色を変化させることもできるとされて いる。さらに,本件明細書の段落【0047】には, 「電球色」が本件発明にいう「白色系」に含まれることを前提とした記載がある。
そうすると,本件発明の「白色系」には,一般的に色温度が2600〜3250Kの範囲にあるとされる「電球色」 (甲51,乙11)も含め,広範な色温度のものがそこに含まれるものと解される。
なお,本件明細書の段落【0054】の「YAG系蛍光体中のYとGdとの比率を,Y:Gd=4:1〜2:3の範囲に設定することにより,1種類のイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体を用いて黒体放射軌跡にほぼ沿った白色光の発光が可能な発光ダイオードを構成することができる。 との記載は, 」 本件発明の一つの実施形態を示したもので,「白色系」の意義を限定するものとは解されない。
エ したがって, 「電球色」のうちの一部が【図16】の斜線部分の範囲内に含まれないから,本件発明がサポート要件に反するとの原告の主張を採用することはできない。
オ また,Yを100%Gdで置換した本件一般式蛍光体を用いた場合においても,段落【0069】で使用されているピーク波長465nmとは異なるピーク波長を有する発光素子を採用したり,蛍光体の量を調節したりすることで,本件発明にいう,上記ウのような意義を有する「白色系」の発光を得ることができるといえる。
カ したがって,Yを100%Gdで置換した本件一般式蛍光体を用いた場合には【図16】の斜線部分の範囲外となる点から本件発明がサポート要件に違反するとの原告の主張を採用することはできない。
キ 以上のとおり,原告主張の取消事由2は理由がない。
(3) 小括 以上からすると,原告が主張する取消事由1,2はいずれも理由がない。
3 無効理由3-1(甲13発明に基づく本件発明の進歩性欠如)についての認定判断の誤り(取消事由5〜7)について (1) 取消事由5,6(相違点1-1及び相違点2-1並びに相違点1-2及び相違点2-1の認定の誤り)について ア 甲13発明について (ア) 甲13の記載【請求項1】 ステム上に発光素子を有し,それを樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオードにおいて,前記発光素子が,一般式GaXAl1-XN(但し0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体よりなり,さらに前記樹脂モールド中に,前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料,または蛍光顔料が添加されてなることを特徴とする発光ダイオード。
発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】本考案は発光素子を樹脂モールドで包囲してなる発光ダイオード(以下LEDという)に係り,特に一種類の発光素子で多種類の発光ができ,さらに高輝度な波長変換発光ダイオードに関する。
【0002】【従来の技術】一般に,LEDは図1に示すような構造を有している。1は1mm角以下に切断された例えばGaAlAs,GaP等よりなる発光素子,2はメタルステム,3はメタルポスト,4は発光素子を包囲する樹脂モールドである。発光素子1の裏面電極はメタルステム2に銀ペースト等で接着され電気的に接続されており,発光素子1の表面電極は他端子であるメタルポスト3から伸ばされた金線によりその表面でワイヤボンドされ,さらに発光素子1は透明な樹脂モールド4でモールドされている。
【0003】通常,樹脂モールド4は,発光素子の発光を空気中に効率よく放出する目的で,屈折率が高く,かつ透明度の高い樹脂が選択されるが,他に,その発光素子の発光色を変換する目的で,あるいは色を補正する目的で,その樹脂モールド4の中に着色剤として無機顔料,または有機顔料が混入される場合がある。例えば,GaPの 半導体材料を有する緑色発光素子の樹脂モールド中に,赤色顔料を添加すれば発光色は白色とすることができる。
【0004】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来,樹脂モールドに着色剤を添加して波長を変換するという技術はほとんど実用化されておらず,着色剤により色補正する技術がわずかに使われているのみである。なぜなら,樹脂モールドに,波長を変換できるほどの非発光物質である着色剤を添加すると,LEDそのもの自体の輝度が大きく低下してしまうからである。
【0005】ところで,現在,LEDとして実用化されているのは,赤外,赤,黄色,緑色発光のLEDであり,青色または紫外のLEDは未だ実用化されていない。青色,紫外発光の発光素子は II-VI 族のZnSe,IV-IV 族のSiC,III-V 族のGaN等の半導体材料を用いて研究が進められ,最近,その中でも一般式がGaXAl1-XN(但し X は0≦X≦1である。)で表される窒化ガリウム系化合物半導体が,常温で,比較的優れた発光を示すことが発表され注目されている。また,窒化ガリウム系化合物半導体を用いて,初めてpn接合を実現したLEDが発表されている(応用物理,60巻,2号,p163〜p166,1991)。それによるとpn接合の窒化ガリウム系化合物半導体を有するLEDの発光波長は,主として430nm付近にあり,さらに370nm付近の紫外域にも発光ピークを有している。その波長は上記半導体材料の中で最も短い波長である。しかし,そのLEDは発光波長が示すように紫色に近い発光色を有しているため視感度が悪いという欠点がある。
【0006】本発明はこのような事情を鑑みなされたもので,その目的とするところは,発光ピークが430nm付近,および370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし,またその輝度を向上させることにある。
【0007】【課題を解決するための手段】本発明は,ステム上に発光素子を有し,それを樹脂モ ールドで包囲してなる発光ダイオードにおいて,前記発光素子が,一般式GaXAl1-N(但し0≦X≦1である)で表される窒化ガリウム系化合物半導体よりなり,さらXに前記樹脂モールド中に,前記窒化ガリウム系化合物半導体の発光により励起されて蛍光を発する蛍光染料,または蛍光顔料が添加されてなることを特徴とするLEDである。
【0008】図2は本発明のLEDの構造を示す一実施例である。11はサファイア基板の上にGaAlNがn型およびp型に積層されてなる青色発光素子,2および3は図1と同じくメタルステム,メタルポスト,4は発光素子を包囲する樹脂モールドである。発光素子11の裏面はサファイアの絶縁基板であり裏面から電極を取り出せないため,GaAlN層のn電極をメタルステム2と電気的に接続するため,GaAlN層をエッチングしてn型層の表面を露出させてオーミック電極を付け,金線によって電気的に接続する手法が取られている。また他の電極は図1と同様にメタルポスト3から伸ばした金線によりp型層の表面でワイヤボンドされている。
さらに樹脂モールド4には420〜440nm付近の波長によって励起されて480nmに発光ピークを有する波長を発光する蛍光染料5が添加されている。
【0009】【発明の効果】蛍光染料,蛍光顔料は,一般に短波長の光によって励起され,励起波長よりも長波長光を発光する。逆に長波長の光によって励起されて短波長の光を発光する蛍光顔料もあるが,それはエネルギー効率が非常に悪く微弱にしか発光しない。前記したように窒化ガリウム系化合物半導体はLEDに使用される半導体材料中で最も短波長側にその発光ピークを有するものであり,しかも紫外域にも発光ピークを有している。そのためそれを発光素子の材料として使用した場合,その発光素子を包囲する樹脂モールドに蛍光染料,蛍光顔料を添加することにより,最も好適にそれら蛍光物質を励起することができる。したがって青色LEDの色補正はいうにおよばず,蛍光染料,蛍光顔料の種類によって数々の波長の光を(判決注: 「数々の波長の光に」の誤記と認める。)変換することができる。さらに,短波長の光を長波 長に変え,エネルギー効率がよい為,添加する蛍光染料,蛍光顔料が微量で済み,輝度の低下の点からも非常に好都合である。
【図1】【図2】 (イ) 甲13発明の認定について 前記(ア)の甲13の記載からすると,甲13には審決が認定した前記第2の3(3)イ記載の甲13発明が記載されていると認められる。
イ 取消事由5,6について (ア) 本件発明と甲13発明との相違点について 甲13の段落【0006】に「発光ピークが430nm付近,および370nm付近にある窒化ガリウム系化合物半導体材料よりなる発光素子を有するLEDの視感度を良くし,またその輝度を向上させること」が甲13発明の目的とされ,かつ,段落【0004】や【0009】に「波長を変換する」「数々の波長に変換する」と ,記載されていることからすると,甲13発明は,視感度の悪い発光素子からの発光光の波長を,樹脂モールド中に添加された蛍光染料や蛍光顔料(以下,蛍光染料や蛍光顔料を特に区別することなく,併せて「蛍光体」という。)を使って変換することで,LEDの視感度を良くし,輝度を向上させる発明ということができる。しかし,甲13中に,発光素子からの発光光と蛍光体からの発光光とを組み合わせて白色光を得るといった技術思想を明示している記載は存在しない。
したがって,甲13発明が,原告の主張するように,発光素子からの発光光を一部吸収し,発光素子からの発光光と蛍光体からの発光光とを混色させて白色系の発光をすることを想定した発明であると認めることはできず,本件発明と甲13発明との間には,前記第2の3(3)ウ(イ)の相違点1-1及び相違点1-2並びに同エ(イ)の相違点2-1及び相違点2-2が存在するものと認められ,審決の相違点の認定に誤りはない。
(イ) 原告の主張について a 原告は,@甲13の段落【0003】の「GaPの半導体材料を有する緑色発光素子の樹脂モールド中に,赤色顔料を添加すれば発光色は白色とすることができる。 との記載からすると, 」 補色同士を組み合わせて白色光を得るということが発光ダイオードの分野でも技術常識であったことが明らかであること,A甲13の段落【0009】に「数々の波長の光」とあり,そこに白色光が包含されること,B本件明細書の段落【0004】に,甲13が白色系を発光させる発光ダイオードを開示する特許文献として記載されていることからすると,甲13発明が, 一部吸収による白色系発光を企図した発明であることが認められ,相違点1-1及び相違点1-2並びに相違点2-1及び相違点2-2は存在しないと主張する。
しかし,上記@について,緑色の発光光を発する発光素子と赤色光のみを反射してそれ以外の光を吸収する赤色顔料を組み合わせても,緑色光が赤色顔料に全て吸収されて発光しないか,吸収しきれない緑色光によって緑色に発光するのみで白色光は得られない。また,緑色と赤色は補色関係にない。したがって,甲13の段落【0003】が,発光ダイオードの分野における補色関係を利用して白色光を得るという技術思想について記載したものであると認めることはできないし,まして,それが技術常識であったとは認められない。
上記Aについて, 「数々の波長の光」が何を意味するのかについて,甲13に具体的な記載がなく, 「数々の波長の光」という記載だけでは,甲13発明が一部吸収による白色系発光を企図したものであると認めるには足りないというべきである。
上記Bについても,本件明細書に甲13が特許文献として記載されているのみでは,上記(ア)の認定を左右するものとはいえない。
b 原告は,甲13発明の構成により必然的にもたらされる第一義的な技術的意義や効果は,色の「補正」や「変換」にあり, 「視感度を良く」することは色の「補正」や「変換」の結果の一つにすぎず, 「全部」吸収の場合に得られる技術的効果でしかないと主張する。
しかし,甲13の段落【0006】には, 「視感度」を良くすることが発明の目的であると記載されており,甲13発明が「視感度を良く」することを「課題」「目 ,的」とすることは明らかであって, 「全部」吸収の場合に得られる技術的効果でしかないということはできない。甲13の段落【0009】に「視感度を良く」することが記載されていないことは,この認定を左右するものではない。
(ウ) したがって,原告が主張する取消事由5,6はいずれも理由がない。
(2) 取消事由7(相違点1-3及び相違点2-3の容易想到性の判断の誤り)について ア 相違点1-3及び相違点2-3に関し,甲13発明に,甲1〜5,17〜19に記載されたYAG蛍光体を採用することが容易であったかについて検討する。
(ア) 証拠(甲1,17,42,乙12)によると,本件優先日当時,青色発光素子と組み合わされるべき蛍光体は無数に存在していたと認められる。しかも,前記(1)イで判示したところからすると,甲13発明との関係では,発光素子からの発光光と蛍光体からの発光光とを混色させて白色光を得るという観点から蛍光体を選択するという動機付けは存在しないし,甲13にはYAG蛍光体を採用することについては記載も示唆もない。
また,発光素子からの発光光と蛍光体からの発光光とを組み合わせて白色光を得るという観点から蛍光体を選択するとしても,本件発明のYAG系蛍光体のように青色光を吸収して黄色光を発する蛍光体を組み合わせる以外にも,乙12にあるように,発光素子に青・緑・赤の蛍光体を組み合わせたり,発光素子に発光素子から発せられた青色光の一部を吸収して赤色光と緑色光を発する蛍光体を組み合わせたりするということも考えられる。
(イ) a 次に,甲14の段落【0004】の「また白色発光,あるいはモノクロの光源として,一部では青色LEDチップの周囲を蛍光物質を含む樹脂で包囲して色変換する試みもあるが,チップ周辺は太陽光よりも強い放射強度の光線にさらされるため,蛍光物質の劣化が問題となり,特に有機蛍光顔料で顕著である。・ 」 ・・という記載に接した当業者は,青色発光素子を蛍光体を含む樹脂で包囲すると,蛍光体が青色発光素子からの強い放射強度の光線によって劣化するという課題があることを認識するものと認められるから,劣化との関係で動機付けがあるかについて検討する。
b 甲1〜5,17〜19の記載 (a) 甲1「第3章 ブラウン管用蛍光体 3-1 ブラウン管の構成[1]構造と原理ブラウン管(Braun tube)は陰極線管(cathode-ray tube,略して CRT)とも呼ばれ,その構成を図 3・3・1 に示す。ガラス製真空容器は各部分により,ネック管(neck),ファネル(funnel),およびフェースプレート(face plate)と呼び分けている。」 (241頁左欄1行〜8行)「(c)寿命 蛍光体の「寿命」は,セットがユーザの手に渡ってからの問題であることを考えると, 『輝度-飽和特性』『温度特性』より,むしろやっかいな問題である ,ともいえる。蛍光体の輝度低下はイオン焼け,発生した熱による,蛍光体の組成変化,カラーセンタの形成などが考えられるが,確かなことはわかっていない。いずれにしても,投入パワー(ビームスポット径も関係してくる)および投写管の放熱状態などにより変化するので,ここでは定性的なものにとどめ,蛍光体の相対的強さを調べるためディマンダブル装置を用いた評価で判断したい。加速電圧16kVでDC励起し,励起電流及び励起時間を変化させることにより,輝度低下と bodycolor の変化(着色具合)から,蛍光体の強度を判断したのが表 3・3・8 である。強度はVS,S,W,VW,VWの順に弱くなっていく。」(268頁左欄15行〜右 欄6行) (b) 甲2「投影CRT用途には,高い発光強度と長い寿命ゆえに,セリウムをドープしたY3Al5O12 ベースの蛍光物質が選択された(1,2)」(493頁右欄下から2行〜4 。
94頁左欄2行)。
(c) 甲3「ここに述べるPYGけい光体はY3(Al,Ga)5O12:Ceであらわされ次のような特長を有している。発光スペクトルが450〜650nmと幅広く約500nmにそのピークがあり発光色は緑黄色である。残光特性はP46同様従来知られているもののうちの最も速い部類に属し,電子線衝撃に対する安定性も非常にすぐれている。(1121頁左欄下から8行〜4行) 」「4.3 輝度劣化PYGけい光体は非常に劣化の少ないことが大きな特長の一つでもある。図8はけい光面ライフデータの一例であるが,これは陽極電圧20kVで電流密度2μA/cm2の条件で行ったもので,初期の250時間くらいまで数%の劣化が認められるが,それ以後はほとんど劣化は認められず,わずかに2〜3,000時間を越え るころからフェースガラスの電子線焼けの影響で透過率が落ちるために,ブラウン管としての輝度劣化が若干ある程度である。 (1123頁左欄下から17行〜10 」行)「PYGけい光面の応用面としては,このけい光体が明るく,しかもきわめて劣化が少なく発光波長帯域も比較的広いことから,その用途は多岐にわたっている。」(1124頁左欄下から15行〜13行) (d) 甲4【発明の名称】 赤色ないし赤外発光蛍光体及びこれを用いた液晶ライトバルブCRT【発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】本発明は,主発光波長が650nm以上にあり,電子線により励起されて主に赤外帯域に発光する陰極線管用蛍光体に係り,特にイットリウムアルミニウムガーネット(以下,YAGという)系蛍光体,ガドリニウムガリウムガーネット(以下,GGGという)系蛍光体,及びイットリウムガリウムガーネット(以下,YGGという)系蛍光体及びこれを用いた液晶ライトバルブCRTに関するものである。
【0016】図1に(Y1-xCrx)3Al5O12蛍光体(x=0.0065)の発光スペクトルを示す。この蛍光体は,約707nm主発光ピ―クを有し,約650nmないし800nmの波長に亘って発光し,その半値幅は約35nmであった。このような発光特性は,例えばシリコンアモルファスを用いたフォトコンダクタ等に適する。この蛍光体は,電流密度を上げて蛍光体を励起しても,CdS:Ag蛍光体と異なり,劣化により発光ピ―クがずれることがない。また,上記範囲内でYをCrで置換しても同じく劣化により発光ピ―クがずれることがない。しかし,この蛍光体がYAG単一相となっていない場合,例えばペロブスカイト構造であるYAPを含む場合,750nm付近にも発光ピ―クが現れる。
【0020】また,これらの蛍光体のX値と蛍光体の輝度との関係は,図2のグラフとほぼ同様である。このように,本発明の蛍光体は,電流密度あるいは加速電圧の増加に対しても,発光波長の変化がないと共に,劣化しにくく,また650〜800nmの波長域で十分に発光する。また,発光スペクトルの主発光ピークの半値幅は,35nm以上好ましくは35〜110nmである。
(e) 甲5【発明の名称】 蛍光体,その製造方法,発光スクリーン及びそれを用いた陰極線管【特許請求の範囲】【請求項1】イットリウム,アルミニウム(ただし,アルミニウムの一部又は全部をガリウムで置換してもよい)及び酸素を基本構成元素とし,結晶構造がガーネット構造の蛍光体であって,熱発光強度の温度依存性を示した曲線の中で,300K未満の温度領域の熱発光ピークの積分強度より,300Kから700Kの温度領域の熱発光ピークの積分強度が小さいことを特徴とする蛍光体。
発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】本発明は,発光特性に優れた蛍光体,その製造方法,この蛍光体を用いた発光スクリーン及びそれを用いた陰極線管に関する。
【0053】なお,上記各実施例は, 1-xTbx)3(Al1-yGay)5O12の組 (Y成の系の蛍光体について記載したが,発光センタのTbに代えて,Eu又はTmを発光センタとした蛍光体についてもほぼ同様の効果が認められた。
【0054】【発明の効果】本発明で得られた蛍光体は,同一組成の従来の蛍光体に比べて,高密度励起による輝度寿命が向上し,また,発光効率が高くなった。また,本発明の蛍光体の製造方法によれば,このような蛍光体を容易に製造することができた。さらに,本発明の発光スクリーンは,高輝度,かつ,輝度寿命が向上した。そのため, 蛍光膜が高い励起強度で使用される投射型ブラウン管等の陰極線管にこの材料を適用すると,製品の寿命を延ばすことができると共に,画像の高画質化に大きく貢献できた。
(f) 甲17 1欄1行)「レーザ・ディスプレイ装置によって,斑点形成を排除した黒白画像が得られる。
本発明の装置はスクリーンからの発光光よりいくらか短い波長での可視領域で発光するレーザによりエネルギーを付与されたセリウム活性化ガーネットの燐光体スクリーンを用いることによる。一つの構成にはセリウムを含有するイットリウム・アルミニウム・ガーネットを用いる。肉眼には,この燐光性物質からの発光は帯黄色である特性であり,レーザ発光の一部を故意に反射させることによってより白色に近いように修正される。(2欄30行〜3欄3行) 」 。
「セリウム-ドープ・ガーネット中の励起スペクトルは上記のレーザに適応するように,或は他のレーザ源をより効率よく利用するように変動しえる。この目的の為,原型組成Y3Al5O12はアルミニウムに対して一部又は全部ガリウムで置換し,及び/又はイットリウムに対してガドリニウムで置換することにより変更しえる。
・ ・白色又は近白色像を得るための好適な設計具体例には, ・ 発光ピークは約0.52ミクロン(アルミニウムを約45原子パーセントガリウムで置換して変えたYAG成分によって得られる約0.43ミクロンの励起ピークに相当する)以下の波長にすべきではない。(8欄4行〜24行) 」 (g) 甲18「1.発明の名称 低圧水銀蒸気放電灯 2.特許請求の範囲 1.放射が主として3つのスペクトル範囲にありかつ放出する光の色温度が2000〜3000Kの範囲にあり,放射に対し透明で水銀及び希ガスを含む気体充填物を有する気密の放電外被を設けかつ放射が主として 590〜630nmの範囲と 520〜565 nmの範囲とにある発光材料を含む発光層を設ける一方,さらに気体充填物中で柱状放電を維持するための装置を設け,この柱状放電によって消費される電力が,前記発光層のm2で示す表面積当り少なくとも 500Wである低圧水銀蒸気放電灯において, 3価のセリウムによって活性化されガーネット結晶構造を有する発光性アルミン酸塩を含む吸収層を設けることを特徴とする低圧水銀蒸気放電灯。(1頁左欄2行 」〜18行)「これらの放電灯は,与えられた一定の色温度において白色光を放出する。(2頁 」左下欄11行〜12行)「本発明による蛍光灯に発光性ガーネットを用いることは,吸収された放射が失われないで,高い効率をもって可視放射に変換されるため高い相対的発光束が得られるという利点を有する。・・・ ガーネット構造を有する発光性アルミン酸塩が式Ln 3-xCexAl5-p-qGapScqO12に相当し,ここでLnが元素イットリウム(Y),ガドリニウム(Gd),ランタン(La)及びルテチウム(Lu)のうちの少なくとも1種であり,かつ 0.01≦x≦0.15 0≦p≦3 及び 0≦q≦1 であることを特徴とする本発明による放電灯が好適である。・・・ 本発明によるそのような放電灯は,好ましくは,このガーネットにおいて,Lnがイットリウム(Y)であること,このガーネットがGa及びSc(p=q=0)を含まないこととを特徴とする。そのような材料は事実,最も好都合な吸収性を有し,最高の発光束を供給する。(3頁左下欄20行〜4頁左上欄15行) 」 (h) 甲19【発明の名称】 低圧水銀放電ランプ【特許請求の範囲】【請求項1】 演色が極めて優れ,完全放射体軌跡上あるいは近傍にカラーポイント(xL,yL)を有し,水銀と希ガスとを含み,ガス洩れしない,放射線-透過エン ベロープを具えるとともに,発光層を具える低圧水銀放電ランプであって,この発光層が2価のユーロピウムで活性化され,最大値が 470nm から 500nm の間にあり,半値幅が多くとも 90nm のエミッションバンドを有する第1の発光材料と,2価のマンガンで活性化され,主に可視スペクトルの赤色領域に少なくともエミッションバンドを有する第2の発光材料とを具え,更に,上記発光層が最大値が 430nm から490nm にあるバンドエミッションを有する第3の発光材料と主に 520nm と 565nm の間で放射する第4の発光材料と主に 590nm と 630nm の間で放射する第5の発光材料とを具えることを特徴とする低圧水銀放電ランプ。
発明の詳細な説明】【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明は,とりわて(判決注: 「とりわけ」の誤記と認める。,放射光が白色であり,演色が極めて優れた低圧水銀放電ランプを提供 )することを目的としたものであり,・・・【0016】低圧水素ランプによって放射される光の色温度が比較的低いことを所望する場合は,発光層が,3価のセリウムで活性化された蛍光イットリウム-アルミニウムガーネットを含んでいることによってこれを実現できる。このアルミン酸塩(以下YAGという),式Y3-xCexAl5O12によって規定される。ここで,xは,0.01≦x≦0.15である。イットリウム(Y)を,ガドリニウム(Gd),ランタン(La),及びルテニウム(Lu)のような他の希土酸化物で置き換えてもよく,アルミニウム(Al)の一部を,例えば,ガリウム(Ga)及び/又はスカンジウム(Sc)で置き換えるようにしてもよい。これらの発光ガーネット(・・・)は,短波長紫外線のみならず,可視深青線をも吸収し,最大約560nmの広いバンド(半値幅約110nm)で放出する。
c 検討 (a) 甲1〜5によると,YAG蛍光体やセリウムでドープしたYAG蛍光体は,ブラウン管(CRT)の用途に使用される際,安定性に優れ,劣化が 少ないことは,技術常識であったと認められる。
しかし,ブラウン管において蛍光体は,甲1の図3・3・2に示されているように,真空容器内のフェースプレート上の蛍光面に設けられるものであって,その使用環境は,甲14で想定されているような蛍光体の使用環境とは異なるものである。ブラウン管に使用された際に劣化が少ない蛍光体が,甲14で想定されている使用環境,すなわち,蛍光体が青色発光素子を包囲し,青色発光素子からの強い放射強度の光線に常時さらされるという環境下においても,劣化が少ないということを示す根拠はない。
そうすると,甲14に接して,蛍光体が青色発光素子からの強い放射強度の光線にさらされて劣化するという課題が存在することを認識した当業者といえども,当該課題を解決するために,甲1〜5に記載された,ブラウン管に使用されているYAG蛍光体やセリウムでドープしたYAG蛍光体を採用することが動機付けられるということはできない。
(b) また,甲17〜19によると,本件優先日当時,セリウムで活性化されたYAG蛍光体をレーザディスプレイ装置や低圧水銀放電ランプに使用することが知られていたといえるが,甲17〜19には,レーザディスプレイ装置や低圧水銀放電ランプで想定される使用環境下において,YAG系蛍光体が劣化し難いものかどうかについて何も記載されていない上,甲14で想定されている上記のような使用環境下においてもYAG蛍光体が高耐光性を発揮するものかについても何も記載されていない。
したがって,上記(a)と同様に,甲14に接した当業者といえども,甲17〜19に記載された,レーザディスプレイ装置や低圧水銀放電ランプに使用されているセリウムで活性化されたYAG蛍光体を採用することが動機付けられるということはできない。
(ウ) 甲14には,前記(イ)のとおり,蛍光体に高耐光性が要求されるという課題を提起する段落【0004】が存在するものの,後述するその内容からすると, YAG蛍光体を採用することについては記載も示唆もない。
(エ) 以上の(ア)〜(ウ)でした検討を総合すると,甲13発明に,甲1〜5,17〜19に記載されたYAG蛍光体を採用することが容易想到であったということはできず,本件訴訟で原告が主張した事由に基づき,本件発明の容易想到性が肯定されることはないというべきである。
イ 原告は,@甲1〜5にYAG蛍光体が他の蛍光体に比べて劣化し難いことが開示されていたこと,A甲14の段落【0004】によると,本件優先日当時,青色発光素子と蛍光材料を組み合わせた場合に,蛍光材料の劣化が問題となることが認識されており,当業者が甲17〜19に接する機会があったことからすると,甲13発明に,甲1〜5,17〜19に記載されたYAG蛍光体を採用することが容易であったと主張する。
しかし,上記@,Aの点が容易想到性を基礎付けるものではないことは,上記アで検討したとおりであるから,原告の上記主張は採用することができない。
ウ 以上からすると,原告が主張する取消事由7は理由がない。
(3) 小括 以上のとおり,原告が主張する取消事由5〜7はいずれも理由がない。
なお,原告は,取消事由7の前提として,「本件発明において,『ひとまとまりの技術思想』であるのは,LEDチップと, 『LEDチップによって発光された光の一部を吸収して,吸収した光の波長よりも長波長の光を発光する』含有する元素を限定しない『蛍光体』全般であり, 『蛍光体』が『Y及びGdからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素と,Al及びGaからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素とを含んでなるセリウムで付活されたガーネット系』 (本件一般式蛍光体)であることは,別の技術思想に関するものである。」と主張するが,この点を原告の主張するように解しても,取消事由7の判断が左右されることはない。
4 無効理由3-2(甲14発明に基づく本件発明2の進歩性欠如)についての認定判断の誤り(取消事由3,8)について (1) 甲14の記載【特許請求の範囲】【請求項1】 透明な導光板2の端面の少なくとも一箇所に青色発光ダイオード1が光学的に接続されており,さらに前記導光板2の主面のいずれか一方に白色粉末が塗布された散乱層3を有し,前記散乱層3と反対側の導光板2の主面側には,透明なフィルム6が設けられており,そのフィルム6の表面あるいは内部には前記青色発光ダイオード1の発光により励起されて蛍光を発する蛍光物質が具備されていることを特徴とする面状光源。
発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】本発明はディスプレイのバックライト,照光式操作スイッチ等に使用される面状の光源に係り,特に液晶ディスプレイのバックライトとして好適に用いることができる面状光源に関する。
【0002】【従来の技術】一般にノート型パソコン,ワープロ等に使用される液晶ディスプレイのバックライト用の面状光源には,例えばEL,冷陰極管が使用されている。ELはそれ自体が面状光源であり,冷陰極管は拡散板を用いて面状光源とされ,現在それらのバックライトの発光色はほとんどが白色とされている。
【0003】一方発光ダイオード(以下LEDと記す。)もバックライト用光源として一部利用されている。しかしLEDを用いて白色発光を得る場合,従来では青色LEDの発光出力が数十μWほどしかないため,他の赤色LED,緑色LEDを用いて白色発光を実現させるには,それら各色発光LEDの特性を合致させにくく色変化が大きいという欠点がある。また,三原色のLEDを集合させて,同一平面上に幾何学的に同じ位置に配置しても,バックライトとしてはそれらのLEDを接近した位置で視認するため,均一な白色光源にすることは不可能であった。従って現在白色の液晶バックライトの面状光源には,大型では冷陰極管,小型〜中型にはE Lと使い分けられているのが現状で,LEDを用いた白色発光のバックライトはほとんど知られていない。
【0004】また白色発光,あるいはモノクロの光源として,一部では青色LEDチップの周囲を蛍光物質を含む樹脂で包囲して色変換する試みもあるが,チップ周辺は太陽光よりも強い放射強度の光線にさらされるため,蛍光物質の劣化が問題となり,特に有機蛍光顔料で顕著である。更にイオン性の有機染料はチップ近傍では直流電界により電気泳動を起こし,色調が変化する可能性がある。また従来の青色LEDは蛍光物質で色変換するには十分な出力を有しておらず,たとえ色変換したとしても実用できるものではなかった。
【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明はこのような欠点を解決するために成されたもので,その目的とするところは,LEDを用い,主としてバックライトとして利用できる白色発光可能な面状光源を実現すると共に,均一な白色発光を観測できる面状光源を提供することにあり,さらには白色以外の任意色の発光が可能な面状光源を提供し,信頼性に優れたLEDの特性を利用し,各種操作スイッチ等に利用することにある。
【0006】【課題を解決するための手段】本発明の面状光源は,透明な導光板2の端面の少なくとも一箇所に青色発光ダイオード1が光学的に接続されており,さらに前記導光板2の主面のいずれか一方に白色粉末が塗布された散乱層3(以下,散乱層側の主面を第二の主面という。)を有し,前記散乱層3と反対側の導光板2の主面(以下,第一の主面という。)側には,透明なフィルム6が設置されており,そのフィルム6の表面あるいは内部には前記青色発光ダイオード1の発光により励起されて蛍光を発する蛍光物質が具備されていることを特徴とする。
【0007】図1は本発明の面状光源の導光板2を第二の主面側から見た平面図である。導光板2は例えばアクリル,硝子等の透明な材料よりなり,その導光板2の 端面に青色LED1が埋設されることにより,導光板2と青色LED1とが光学的に接続されている。なお本発明において,青色LED1と導光板2の端面とが光学的に接続されているとは,簡単に言えば,導光板2の端面から青色LEDの光を導入することをいい,例えばこの図に示すように青色LED1を埋設することはもちろんのこと,青色LEDを接着したり,また,光ファイバー等を用いて導光板2の端面に青色LEDの発光を導くことによって実現可能である。
【0008】次に,散乱層3は,白色顔料で光を導光板2内に散乱させている。特に図1では前記散乱層3をストライプ状とし,第一の主面側の表面輝度が一定となるように,LED1に接近するにつれて,第二の主面側の単位面積あたりの散乱層3の面積を減じるようなパターンとし,さらにはLED1と最も離れた第二の主面の端部の面積はやや最大面積に比して若干小さくしている。ここで,図1中の■は散乱層3のパターンを表している。図1では青色LEDを一つの端面に六個配した構造としているが,導光板が四角形であれば四方の端面全てにLEDを接続してもよいことはいうまでもなく,LEDの個数も限定するものではない。さらに,LEDの配置状況により,第一の主面側から観測する発光を面状均一とするように散乱層3の塗布形状,塗布状態を適宜変更することができる。
【0009】【作用】図2は本発明の面状光源を例えば液晶パネルのバックライトとして実装した場合の模式断面図である。これは図1に示す面状光源の第二の主面側に,例えばチタン酸バリウム,酸化チタン,酸化アルミニウム等よりなる散乱反射層7と,例えばAlよりなるベース8とが積層された反射板を設置し,第一の主面側には表面に微細な凹凸が施された透明なフィルム6が設置され,このフィルム6の凹凸が施された表面上には青色LED1の発光により励起されて蛍光を発する蛍光物質が塗布されている。
【0010】まず図2の矢印で示すように,青色LED1から出た光は,チップ近傍で一部導光板2以外の外部に放射されるが,大部分の光は導光板2の中を全反射 を繰り返しながら,導光板2の端面に達する。端面に達した光は端面全てに形成された反射膜4に反射されて,全反射を繰り返す。この時,導光板2の第二の主面側に設けられた散乱層3により光は散乱され,散乱された光の一部は蛍光層5により吸収され同時に波長変換されて放射され,導光板2の第一の主面側から観測する発光色はこれらの光を合成した光が観測できる。例えば橙色の蛍光顔料からなる蛍光層5を設けた面状光源では,先に述べた作用により,青色LED1からの発光色が白色となって観測できる。
【0011】特に本発明では一つの青色LEDの発光波長はその主発光ピークが500nmよりも短く,その発光出力は200μW以上,更に好ましくは300μW以上の出力が必要である。なぜなら発光波長が500nm以上であると全ての色が実現しにくくなり,またその発光出力が200μWよりも少ないと,たとえ導光板の端面に光学的に接続する青色LEDの数を増やしても,充分な明るさの均一な面状発光の光源が得られにくい傾向にあるからである。
【0014】【実施例】[実施例1]厚さ約2mmのアクリル板の片面に,図1に示すストライプ状のパターンで,散乱層3をスクリーン印刷により形成した。散乱層3はチタン酸バリウムよりなる白色物質をアクリル系バインダー中に分散したものを印刷して形成した。
【0015】上記のようにして散乱層3が形成されたアクリル板を,所望のパターンに従って切断し,アクリル板の端面(切断面)を全て研磨した後,研磨面にAlよりなる反射層4を形成することにより,散乱層3が形成された導光板2を得た。
【0016】次に,表面に微細な凹凸が施されたフィルム6に蛍光層5を形成した。
蛍光層5は,赤色蛍光顔料であるシンロイヒ化学製FA-001と緑色蛍光顔料である同社製FA-005とを等量に混合した蛍光顔料をアクリル系バインダー中に分散したものを塗布して形成した。
【0017】前記導光板2の端面に六箇所,穴を設け,その穴に発光波長480n m,発光出力1200μWを有する窒化ガリウム系化合物半導体よりなる青色LED1をそれぞれ1個づつ埋め込んだ。続いて,発光観測面側には上記のように蛍光層5が形成されたフィルム6を,散乱層3側にはAlベース8上にチタン酸バリウム層7が塗布された反射板を設置して,バックライト用光源としたところ,第一の主面側から完全に面状均一な白色発光が得られた。輝度は55cd/m 2 であった。
【0019】【発明の効果】以上説明したように,本発明の面状光源は,青色LEDを用い,しかも導光板の一方の主面側には白色粉末が塗布された散乱層3を有し,さらにもう一方の主面側には青色LEDにより波長変換できる蛍光物質が塗布された透明なフィルム6を設置することにより,信頼性に優れたLEDによる面状光源を実現することが可能となった。しかも散乱層3の白色粉末は青色LEDの発光を,反射,拡散させる作用があるため,使用する蛍光物質の使用量が少なくて済む。更にフィルム6に微細な凹凸を形成することにより,光を散乱させる作用を高め,フィルムが導光板2に張り付いて干渉縞ができるのを防ぐことができる。更に好都合なことには,LEDチップと蛍光物質とが直接接することがないので,蛍光物質の劣化が少なく,長期間に渡って面状光源の色調変化を起こすことがない。また色調に関しては,蛍光層5の蛍光物質の種類により,白色を含め任意の色調を提供することができ,また蛍光物質はフィルムに具備されている為,フィルムを変えるだけで簡単に面状光源の色調を変化させることができる。
【図1】 【図2】 (2) 検討 前記(1)の甲14の記載によると,甲14には,審決が認定した前記第2の3(4)アの甲14発明が記載されていると認められる。そして,本件発明2と甲14発明との間には,前記第2の3(4)イ(イ)の相違点3-2が存在することが認められる。
上記相違点3-2の容易想到性に関する取消事由8についてまず検討するに,前記3(2)で検討したところに照らすと,甲14発明に,甲1〜5,17〜19に記載されたYAG蛍光体を採用することが容易想到であったということはできず,本件訴訟で原告が主張した事由に基づき,本件発明の容易想到性が否定されることはないというべきである。
したがって,原告が主張する取消事由8は理由がないから,取消事由3について判断するまでもなく,本件発明2が当業者が容易に想到できたものとはいえないとした審決の判断に誤りはないといえる。
結論
よって,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
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