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追加

関連審決 無効2017-800061
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事件 令和 1年 (行ケ) 10115号 審決取消請求事件

原告 エヴァーライトエレクトロニクス カンパニー リミテッド
同訴訟代理人弁護士 上山浩
同訴訟代理人弁理士 片山健一
被告 日亜化学工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 宮原正志
同訴訟代理人弁理士 山尾憲人 田村啓 玄番佐奈恵
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/06/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 原告に対し,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2017-800061号事件について令和元年5月9日にした審決のうち,特許第5825390号の請求項1〜3,5,6,8〜10に係る部分を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 被告は,平成26年4月11日,発明の名称を「発光装置,樹脂パッケージ, 樹脂成形体並びにこれらの製造方法」とする特許出願(平成20年9月3日に出願した特願2008-225408号(以下「原々出願」という。)の分割出願である特願2013-44799号(以下「原出願」という。)の分割。以下「本件出願」という。)をし,平成27年10月23日,設定の登録を受けた(特許第5825390号。請求項の数7。甲37。以下,この特許を「本件特許」という。。
) ? 原告は,平成29年5月9日,本件特許について特許無効審判請求をし,無効2017-800061号事件として係属した(甲38,39)。
? 被告は,平成29年8月18日付け訂正請求書及び平成30年1月9日付け手続補正書により,特許請求の範囲を訂正した(甲40,45。以下,この訂正を「本件訂正」という。。
) ? 特許庁は,令和元年5月9日, 「特許第5825390号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項[1,3,5,6][2,8〜10]について,一群の請求項ごとに訂正することを認める。特 ,許第5825390号の請求項1〜3,5,6,8〜10に係る発明についての審判の請求は,成り立たない。特許第5825390号の請求項4,7に係る発明についての審判の請求を却下する。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同月17日,その謄本が原告に送達された(なお,取消訴訟の出訴期間として原告に対し90日が付加された。。
) ? 原告は,同年8月30日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 ? 本件訂正前の特許請求の範囲 本件訂正前の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(甲37)。なお,「/」は原文の改行部分を示す(以下同じ。)。以下,本件訂正前の各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい,本件訂正後の各請求項に係る発明を「本件訂正発明1」などといい,併せて「本件各訂正発明」ともいう。また,本件訂正の前後を通じて,その明細書を,図面を含めて「本件明細書」という。
【請求項1】 切り欠き部を有するリードと,前記切り欠き部に埋め込まれた光反射性物質が含有される熱硬化性樹脂と,を備える樹脂パッケージを有し,/前記切り欠き部は,前記樹脂パッケージの外側面に沿って形成されており,/前記樹脂パッケージは,前記リードが露出されてなる内底面と,樹脂部からなる内側面とを備える凹部を有し,/前記内底面に発光素子が配置されており,/前記凹部内に,前記発光素子を被覆する封止部材が配置されており,/前記樹脂パッケージの外側面において,前記樹脂部と前記リードとが同一面に形成されており,/前記リードは,前記樹脂パッケージの外底面において露出されていることを特徴とする発光装置。
【請求項2】 前記内底面は,前記リードおよび前記樹脂部からなる請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】 前記樹脂パッケージの外側面の全包囲の長さにおいて,前記リードが露出している部分は1/2より短い長さである請求項1または2に記載の発光装置。
【請求項4】 前記封止部材は,熱硬化性樹脂である請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項5】 前記封止部材は,蛍光物質を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】 前記熱硬化性樹脂は,トリアジン誘導体エポキシ樹脂である請求項1〜5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項7】 前記光反射性物質は酸化チタンである請求項1〜6のいずれか1項に記載の発光装置。
? 本件訂正後の特許請求の範囲 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲のうち請求項1〜3,5,6及び8〜10の記載は,次のとおりである(甲45。請求項4及び7は削除された。)。下線は,訂正箇所を示す。
【請求項1】 切り欠き部を有するリードと,前記切り欠き部に埋め込まれるとともに前記リードの上方に一体に形成された,光反射性物質として酸化チタンが含有される熱硬化性樹脂からなる樹脂部と,を備え,互いに対向する位置にある第1外側面及び第2外側面と,互いに対向する位置にある第3外側面及び第4外側面とを有する,上面視で矩形の樹脂パッケージを有し,/前記切り欠き部は,前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれに沿って形成されており,さらに,前記切り欠き部は,前記樹脂パッケージの外側面において互いに分離した,前記第1外側面に沿って形成された第1の切り欠き部と,前記第2外側面に沿って形成された第2の切り欠き部と,前記第3外側面に沿って形成された第3の切り欠き部と,前記第4外側面に沿って形成された第4の切り欠き部とを有しており,/前記樹脂パッケージは,前記リードが露出されてなる内底面と,前記樹脂部からなる内側面とを備える凹部を有し,/前記内底面に発光素子が配置されており,/前記凹部内に,前記発光素子を被覆する,シリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂からなる封止部材が配置された発光装置であって,/前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれにおいて,前記切り欠き部に埋め込まれた前記樹脂部と,前記リードの上方に形成された前記樹脂部と,前記樹脂部から露出した前記リードとが同一面に形成されて,切断面を構成しており,/前記リードは,金属板に銀メッキ処理が施されてなり,前記樹脂パッケージの外底面において露出されて,前記金属板の少なくとも上面全面に銀メッキ処理が施されている一方,前記樹脂パッケージの外側面において前記金属板が露出しており,前記第1外側面,前記第2外側面及び前記第3外側面それぞれに露出した第1リードと,前記第1外側面,前記第2外側面及び前記 第4外側面それぞれに露出した第2リードを有し,/前記切り欠き部は,上面視で,前記発光装置の全包囲周の2分の1以上にわたって設けられていることを特徴とする発光装置。
【請求項2】 切り欠き部を有するリードと,前記切り欠き部に埋め込まれるとともに前記リードの上方に一体に形成された,光反射性物質として酸化チタンが含有される熱硬化性樹脂からなる樹脂部と,を備え,互いに対向する位置にある第1外側面及び第2外側面と,互いに対向する位置にある第3外側面及び第4外側面とを有する,上面視で矩形の樹脂パッケージを有し,/前記切り欠き部は,前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれに沿って形成されており,さらに,前記切り欠き部は,前記樹脂パッケージの外側面において互いに分離した,前記第1外側面に沿って形成された第1の切り欠き部と,前記第2外側面に沿って形成された第2の切り欠き部と,前記第3外側面に沿って形成された第3の切り欠き部と,前記第4外側面に沿って形成された第4の切り欠き部とを有しており,/前記樹脂パッケージは,前記リードが露出されてなる内底面と,前記樹脂部からなる内側面とを備える凹部を有し,/前記内底面は,前記リードおよび前記樹脂部からなり,前記内底面に発光素子が配置されており,/前記凹部内に,前記発光素子を被覆する,シリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂からなる封止部材が配置された発光装置であって,/前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれにおいて,前記切り欠き部に埋め込まれた前記樹脂部と,前記リードの上方に形成された前記樹脂部と,前記樹脂部から露出した前記リードとが同一面に形成されており,/前記リードは,金属板に銀メッキ処理が施されてなり,前記樹脂パッケージの外底面において露出されて,前記金属板の少なくとも上面全面に銀メッキ処理が施されている一方,前記樹脂パッケージの外側面において前記金属板が露出しており,前記第1外側面,前記第2外側面及び前記第3外側面それぞれに露出した第1リードと,前記第1外側面,前記第2外側面及び前記第4外側面それぞれに露出した第2リードを 有し,/前記切り欠き部は,上面視で,前記発光装置の全包囲周の2分の1以上にわたって設けられていることを特徴とする発光装置。
【請求項3】 前記樹脂パッケージの外側面の全包囲の長さにおいて,前記リードが露出している部分は1/2より短い長さであり,/前記金属板は,前記外側面を除く全面に銀メッキ処理が施されている一方,前記外側面において露出している,請求項1に記載の発光装置。
【請求項5】 前記封止部材は,蛍光物質を含有する請求項1および3のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項6】 前記熱硬化性樹脂は,トリアジン誘導体エポキシ樹脂である請求項1,3および5のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項8】 前記樹脂パッケージの外側面の全包囲の長さにおいて,前記リードが露出している部分は1/2より短い長さであり,/前記金属板は,前記外側面を除く全面に銀メッキ処理が施されている一方,前記外側面において露出している,請求項2に記載の発光装置。
【請求項9】 前記封止部材は,蛍光物質を含有する請求項2および8のいずれか1項に記載の発光装置。
【請求項10】 前記熱硬化性樹脂は,トリアジン誘導体エポキシ樹脂である請求項2,8および9のいずれか1項に記載の発光装置。
? 本件訂正発明1及び同2を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
【請求項1】 1A 切り欠き部を有するリードと,前記切り欠き部に埋め込まれるとともに前記リードの上方に一体に形成された,光反射性物質として酸化チタンが含有される熱硬化性樹脂からなる樹脂部と,を備え, 1B 互いに対向する位置にある第1外側面及び第2外側面と,互いに対向する位置にある第3外側面及び第4外側面とを有する,上面視で矩形の樹脂パッケージを有し, 1C 前記切り欠き部は,前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれに沿って形成されており,さらに,前記切り欠き部は,前記樹脂パッケージの外側面において互いに分離した,前記第1外側面に沿って形成された第1の切り欠き部と,前記第2外側面に沿って形成された第2の切り欠き部と,前記第3外側面に沿って形成された第3の切り欠き部と,前記第4外側面に沿って形成された第4の切り欠き部とを有しており, 1D 前記樹脂パッケージは,前記リードが露出されてなる内底面と,前記樹脂部からなる内側面とを備える凹部を有し, 1E 前記内底面に発光素子が配置されており, 1F 前記凹部内に,前記発光素子を被覆する,シリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂からなる封止部材が配置された発光装置であって, 1G 前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれにおいて,前記切り欠き部に埋め込まれた前記樹脂部と,前記リードの上方に形成された前記樹脂部と,前記樹脂部から露出した前記リードとが同一面に形成されて,切断面を構成しており, 1H 前記リードは,金属板に銀メッキ処理が施されてなり,前記樹脂パッケージの外底面において露出されて,前記金属板の少なくとも上面全面に銀メッキ処理が施されている一方,前記樹脂パッケージの外側面において前記金属板が露出しており, 1I 前記第1外側面,前記第2外側面及び前記第3外側面それぞれに露出した 第1リードと,前記第1外側面,前記第2外側面及び前記第4外側面それぞれに露出した第2リードを有し, 1J 前記切り欠き部は,上面視で前記発光装置の全包囲周の2分の1以上にわたって設けられていることを特徴とする発光装置。
【請求項2】 2A,2B,2C及び2D それぞれ1A,1B,1C及び1Dと同じ。
2E 前記内底面は,前記リードおよび前記樹脂部からなり,前記内底面に発光素子が配置されており, 2F 1Fと同じ。
2G 前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれにおいて,前記切り欠き部に埋め込まれた前記樹脂部と,前記リードの上方に形成された前記樹脂部と,前記樹脂部から露出した前記リードとが同一面に形成されており, 2H,2I及び2J それぞれ1H,1I及び1Jと同じ。
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書に掲げる事項を目的とするものに該当し,また,同条2項及び3項の規定並びに同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する,A本件訂正発明1及び2は,同法36条6項1号及び2号に規定される各要件を満たしている,B本件出願は,同法44条1項に規定する新たな特許出願であり,甲2に基づく進歩性欠如の主張は理由がない,C本件訂正発明1〜3,5,6,8〜10は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない,D本件訂正発明1〜3,5,6,8〜10は,下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない,というものである。
ア 引用例1:特開2006-156704号公報(甲3) イ 引用例2:特開2007-235085号公報(甲1) ? 本件審決は,引用発明1及びその本件各訂正発明との相違点について,以下のとおり認定した。
ア 引用発明1 発光素子10と,発光素子10を載置する第1の樹脂成形体40と,発光素子10を被覆する第2の樹脂成形体50とを有する表面実装型発光装置であって,/第1の樹脂成形体40は,発光素子を載置するための第1のリード21と,発光素子と電気的に接続される第2のリード31と,を一体成形しており,/第1のリード21は第1のインナーリード部21aと第1のアウターリード部21bとを有しており,第1のアウターリード部21bは,外部電極と電気的に接続される部分であり,/第2のリード31は第2のインナーリード部31aと第2のアウターリード部31bとを有しており,第2のアウターリード部31bは,外部電極と電気的に接続される部分であり,/第1の樹脂成形体40は,底面40aと側面40bとを持つ凹部40cを有しており,/第1の樹脂成形体40は反射性物質を混合することもでき,/裏面側の第1のアウターリード部21bと第2のアウターリード部31bとは露出しており,実質的に同一平面を形成し,これにより表面実装型発光装置の実装安定性を向上することができ,/第1のリード及び第2のリードの表面に銀等の金属メッキを施すこともでき,/第1のリード21及び第2のリード31に凹凸を設け,第1の樹脂成形体40との接触面積を拡げることにより,第1の樹脂成形体40から第1のリード21及び第2のリード31が抜脱するのを防止しており,/第2の樹脂成形体50の材質は熱硬化性樹脂であり,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂などにより形成することが好ましく,/リードフレームと一体成形された樹脂組成物の完全硬化物にて,第1の樹脂成形体40を成形したリードフレームであって,第1の樹脂成形体40の凹部40cの底面40aはリードフレームが露出しているリードフレームを得て,/このリードフレームの,第1のリード21の第1のアウターリード部21b,第2のリード31の第2のアウターリード部 31bに相当する部分にメッキ処理を施し,/凹部40cの底面40aに発光素子10をダイボンドし,/次に第2の樹脂成形体50を形成し,/最後に所定の位置でリードフレームを切り出して,第1の樹脂成形体40から露出している,第1のアウターリード部21bと第2のアウターリード部31bとを形成することで製造される,表面実装型発光装置。
イ 本件訂正発明1との相違点 相違点1-1 本件訂正発明1では,リードが有する「切り欠き部」が, 「前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれに沿って形成されており,さらに,前記切り欠き部は,前記樹脂パッケージの外側面において互いに分離した,前記第1外側面に沿って形成された第1の切り欠き部と,前記第2外側面に沿つて形成された第2の切り欠き部と,前記第3外側面に沿って形成された第3の切り欠き部と,前記第4外側面に沿って形成された第4の切り欠き部とを有して」いる(構成要件1C)のに対し,引用発明1では, 「最後に所定の位置でリードフレームを切り出して,第1の樹脂成形体40から露出している,第1のアウターリード部20bと第2のアウターリード部30bとを形成することで製造される」ものであることから,『互いに 「分離した』四つの切り欠き部」を有しているものとはいえず,本件訂正発明1のような「前記切り欠き部は,前記樹脂パッケージの外側面において互いに分離した,前記第1外側面に沿って形成された第1の切り欠き部と,前記第2外側面に沿って形成された第2の切り欠き部と,前記第3外側面に沿って形成された第3の切り欠き部と,前記第4外側面に沿って形成された第4の切り欠き部とを有して」いるものではない点。
相違点1-2 本件訂正発明1では, 「前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれにおいて,前記切り欠き部に埋め込まれた前記樹脂部と,前記リードの上方に形成された前記樹脂部と,前記樹脂部から露出した前記リードとが同一面に形成されて, 切断面を構成して」いる(構成要件1G)のに対し,引用発明1では,第1の樹脂成形体40のいずれの外側面においても,樹脂部と第1のリード21,第2のリード31とが同一面に形成されておらず,本件訂正発明1のこのような特定はなされていない点。
相違点1-3 本件訂正発明1では,リードが「前記第一外側面,前記第二外側面及び前記第三側面それぞれに露出した第1リードと,前記第一外側面,前記第二外側面及び前記第四外側面それぞれに露出した第2リードを有し」ている(構成要件1I)のに対し,引用発明1では,「第1のリード21」及び「第2のリード31」はそれぞれ,一つの外側面のみにおいて露出している点。
相違点1-4 本件訂正発明1では, 「前記切り欠き部は,上面視で,前記発光装置の全包囲周の2分の1以上にわたって設けられている」 (構成要件1J)のに対し,引用発明1では, 「第1のリード21及び第2のリード31に凹凸を設け」ることは特定されているものの,本件訂正発明1のこのような特定はなされていない点。
ウ 本件訂正発明2との相違点 相違点1-1,1-3及び1-4は,本件訂正発明1と 同じである。
相違点1-2’ 本件訂正発明2では, 「前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれにおいて,前記切り欠き部に埋め込まれた前記樹脂部と,前記リードの上方に形成された前記樹脂部と,前記樹脂部から露出した前記リードとが同一面に形成されて」いる(構成要件2G)のに対し,引用発明1では,第1の樹脂成形体40のいずれの外側面においても,樹脂部と第1のリード21,第2のリード31とが同一面に形成されていない点。
? 本件審決は,引用発明2及びその本件各訂正発明との相違点について,以下 のとおり認定した。
ア 引用発明2 光半導体装置110であって,/光半導体素子搭載領域となる凹部(貫通孔)420が所定位置に2つ以上形成されている光反射用熱硬化性樹脂組成物層(リフレクター)421,103を,表面に銀めっきが施されたリードフレームである配線基板上に有する光半導体素子搭載用パッケージ基板430を得て,/光半導体素子搭載用パッケージ基板に形成された2つ以上の凹部420の各底面に光半導体素子100を搭載し,/光半導体素子100を,エポキシ樹脂を主成分とする透明封止樹脂101により覆い,硬化させた後,/光半導体素子100を1つ有する単体の光半導体装置110に,ダイシングにより分割して個片化することで製造される光半導体装置110であり,/光半導体素子100はLED素子であり,/前記光反射用熱硬化性樹脂組成物は, (A)エポキシ樹脂, (D)無機充填材, (E)白色顔料を必須成分として含み,無機充填材と白色顔料の平均粒径や合計量は反射特性の点から選択される,光半導体装置110。
イ 本件訂正発明1との相違点 相違点2-1 「樹脂部」について,本件訂正発明1では, 「光反射性物質として酸化チタンが含有される」ものである(構成要件1A)のに対し,引用発明2では,光反射用熱硬化性樹脂組成物について,光反射性物質として酸化チタンを含有することは特定されていない点。
相違点2-2 本件訂正発明1では,リードが有する「切り欠き部」が, 「前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれに沿って形成されており,さらに,前記切り欠き部は,前記樹脂パッケージの外側面において互いに分離した,前記第1外側面に沿って形成された第1の切り欠き部と,前記第2外側面に沿って形成された第2の切り欠き部と,前記第3外側面に沿って形成された第3の切り欠き部と,前記第4外 側面に沿って形成された第4の切り欠き部とを有して」いる(構成要件1C)のに対し,引用発明2は, 「リードフレームである配線基板」が, 「切り欠き部」を有するものではない点。
相違点2-3 樹脂パッケージが有する「凹部内」に配置された「封止部材」について,本件訂正発明1では, 「シリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂からなる」ものである(構成要件1F)のに対し,引用発明2では,透明封止樹脂101について, 「シリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂からなる」ものとは特定されていない点。
相違点2-4 本件訂正発明1では, 「前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれにおいて,前記切り欠き部に埋め込まれた前記樹脂部と,前記リードの上方に形成された前記樹脂部と,前記樹脂部から露出した前記リードとが同一面に形成されて,切断面を構成し」いる(構成要件1G)のに対し,引用発明2では,リフレクターの4つの外側面それぞれにおいて,「光反射用熱硬化性樹脂組成物層(リフレクター)421,103」 (樹脂部)と,『ダイシングにより分割して個片化』された『リー 「ドフレームである配線基板』(リード)とが「同一面に形成されて」いるものではな 」く,本件訂正発明1のこのような特定はなされていない点。
相違点2-5 金属板に銀メッキ処理が施された「リード」について,本件訂正発明1では, 「前記金属板の少なくとも上面全面に銀メッキ処理が施されている」 (構成要件1H)のに対し,引用発明2では, 「表面に銀めっきが施されたリードフレームである配線基板」が, 「ダイシングにより分割して個片化」され, 「リード」になった際,銀めっきが「少なくとも上面全面」に施されているとの特定はなされていない点。
相違点2-6 本件訂正発明1では, 「前記切り欠き部は,上面視で,前記発光装置の全包囲周の2分の1以上にわたって設けられている」 構成要件1J) ( のに対し,引用発明2は, このような特定はなされていない点。
ウ 本件訂正発明2との相違点 相違点2-1〜3,5及び6は,本件訂正発明 同じである。
相違点2-4’ 本件訂正発明2では, 「前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれにおいて,前記切り欠き部に埋め込まれた前記樹脂部と,前記リードの上方に形成された前記樹脂部と,前記樹脂部から露出した前記リードとが同一面に形成されて」いる(構成要件2G)のに対し,引用発明2では,リフレクターの4つの外側面のいずれにおいても, 「光反射用熱硬化性樹脂組成物層(リフレクター)421,103」(樹脂部)と,『ダイシングにより分割して個片化』された『リードフレームである 「配線基板』(リード)とが「同一面に形成されて」いるものではなく,本件訂正発明 」2のこのような特定はなされていない点。
4 取消事由 ? 訂正要件(新規事項の追加)に係る判断の誤り(取消事由1) ? 記載要件(特許法36条6項1号・2号)に係る判断の誤り(取消事由2) ? 分割要件違反に伴う進歩性判断の誤り(取消事由3) ? 引用発明1に基づく進歩性の判断の誤り(取消事由4) ? 引用発明2に基づく進歩性の判断の誤り(取消事由5)
当事者の主張
1 取消事由1(訂正要件(新規事項の追加)に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件明細書に開示されている発光装置は,裏面視で樹脂パッケージの4隅においてリードが露出している態様のものに限られているが,本件訂正後の各請求項の記載ではそのような限定がされていないから,本件訂正は,新規事項を追加したものとして,特許法134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定に違反する。
ところが,本件審決は,本件訂正が上記規定に適合するとして本件訂正を認め,それに伴い,無効理由2(甲16に記載された発明を先願とする特許法29条の2の違反)及び3(甲17に記載された発明を先願とする同条違反)についての判断を示すことなく審決をした。
本件訂正を認めた上でされた本件審決には,審決の結論に及ぼす違法がある。
〔被告の主張〕 本件明細書で開示されている発光装置は,裏面視で樹脂パッケージの4隅においてリードが露出している態様のものに限られたことはなく,本件訂正によって限定が生じたことはないから,原告の主張は,その前提を欠き,理由がない。
2 取消事由2(記載要件(特許法36条6項1号・2号)に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件訂正後の請求項1及び2では,「同一面」の用語が用いられている。
しかし,本件明細書の発明の詳細な説明で, 「樹脂部とリードとは略同一面に形成されている。この略同一面とは同じ切断工程で形成されたことを意味する。( 」【0042】)とされ,「略同一面」の文言につき特別な定義付けがされていることからすれば,上記「同一面」が,「略同一面」と同義であると直ちには理解できない。
また, 「同一面」の用語は, 「同一」の「面」を意味し,その技術的意義を一義的に理解することができるから,サポート要件適合性との関係で発明を認定するときは,発明の詳細な説明参酌せず,専ら特許請求の範囲の記載によるべきであるところ,本件訂正発明1及び2における「同一面」は,文言解釈上,「略同一面」と異なり,樹脂部の切断面とリードの切断面が,同じ切断工程で形成されたものだけでなく,別個の切断工程で形成されて切断面を構成するに至ったものを包含することになるので,本件訂正発明の技術的範囲は,発明の詳細な説明に開示のないものにまで及ぶこととなる。
ところが,本件審決は,本件明細書の発明の詳細な説明には,樹脂部とリードが 同じ切断工程で形成されることが開示されており,上記「同一面に形成されて」の構成が開示されているとして,明確性要件及びサポート要件に反しないと判断した。
「同一面」の解釈を誤り,明確性要件及びサポート要件の判断に誤りのある本件審決には,審決の結論に及ぼす違法がある。
〔被告の主張〕 本件審決は,本件訂正発明1及び2の「同一面」という用語を,物の構造を特定する語として解釈した上で,その構造が本件明細書に開示されていると認定した。
本件訂正発明1及び2の構成要件全体をみれば,上記各発明が発明の詳細な説明に記載された製造方法によって得られる発光装置に特徴的かつ新規の構造を特定したことは明らかである。また,その構造に由来して,多数個同時生産方式で製造しても,リードフレームと樹脂成形体との剥離が生じ難いという効果に加え,得られた発光装置のリードと樹脂とが「密着性の高い」ものとなる効果を奏する。
本件訂正発明1及び2につき,明確性要件やサポート要件に問題はなく,原告の主張は理由がない。
3 取消事由3(分割要件違反に伴う進歩性判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件訂正発明1及び2は,いずれも「前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれにおいて,前記切り欠き部に埋め込まれた前記樹脂部と,前記リードの上方に形成された前記樹脂部と,前記樹脂部から露出した前記リードとが同一面に形成されて」との構成を備えるものとされているところ,これには,樹脂部の切断面とリードの切断面が別個の切断工程で形成されることによって同一面を形成している態様の発光装置も含まれ,さらに,本件訂正発明2では,切断面を構成してさえいない態様の発光装置も含まれる。しかし,そのような態様の発光装置は,原々出願の明細書,原出願の明細書及び本件明細書のいずれにも開示されておらず,本件特許は分割出願の要件を充足しないから,本件各訂正発明の新規性進歩性の判断時は,現実の出願日である平成26年4月11日となる。
本件審決は,本件出願が特許法44条1項に規定する新たな特許出願であるとの誤った判断のもと,甲2(特開2010-62272号公報)が特許法29条1項3号の「特許出願前に頒布された刊行物」に該当しないとしたが,分割要件の判断を誤った本件審決には審決の結論に及ぼす違法がある。
〔被告の主張〕 原告の主張は,基準明細書が本件明細書であるか分割前の明細書であるかの違いを除けば,実質的に取消事由2と同一の理由に基づくものであるところ,上記各明細書の記載事項は基本的に同一である。よって,取消事由2について述べたのと同じ理由により,取消事由3も成り立たない。
4 取消事由4(引用発明1に基づく進歩性の判断の誤り)について 〔原告の主張〕 原告は,特許無効審判請求において,本件訂正発明は,引用発明1に,切り欠き部を設けて樹脂部とリードの密着度を高めるという周知の技術(甲5〜8,10,11)を組み合わせることにより,容易に発明をすることができたものであると主張した(無効理由5)。
これに対し,本件審決は,本件訂正発明のリードに設けられている「切り欠き部」が切断時の剥離を抑制するためのものであるのに対し,引用発明1の「凹凸」はそのようなものではないので,引用発明1には「切り欠き部」を設ける動機付けがないと判断した。
しかし,引用発明1の「凹凸」は,リードと樹脂パッケージの密着性を向上させるためのものであり,その密着性の向上という効果は必然的に切断時の剥離防止効果を高めるところ,上記「凹凸」は,リードを切り欠くものであり,樹脂の充填によってリードと樹脂部との密着性を向上させるから,技術的な効果において本件訂正発明のリードに設けられている「切り欠き部」と実質的には異なるところはなく,本件訂正発明でいうところの「切り欠き部」にほかならないというべきである。
この点を看過した本件審決は,進歩性の判断も誤っており,審決の結論に及ぼす 違法がある。
〔被告の主張〕 原告が引用例1(甲3)に加えて挙げる各文献(甲5〜8,10,11)は,引用発明1に適用すべき副引用例であると理解していたが,これらを,切り欠き部を設けることによって樹脂部とリードの密着度を高めるという技術が周知であったことを基礎付ける証拠として検討してみても,引用発明1は,樹脂とリードフレームを同じ切断工程で切断するものではないから,当業者において引用発明1の「凹凸」が切断時の剥離の防止を目的とするものだと理解することはあり得ない。
よって,原告の主張は理由がない。
5 取消事由5(引用発明2に基づく進歩性の判断の誤り)について 〔原告の主張〕 原告は,特許無効審判請求において,本件訂正発明は,引用発明2に,切り欠き部を設けて樹脂部とリードの密着度を高めるという周知の技術を組み合わせることにより,容易に発明をすることができたものであると主張した(無効理由6,7)。
これに対し,本件審決は,引用発明2において引用例1(甲3),甲6,13の開示する技術事項(無効理由6)を適用する動機付けが認められず,甲14,15に記載された技術事項を適用しても,少なくとも本件訂正発明1の構成を導くことができない(無効理由7)と判断した。
しかし,熱硬化性樹脂とリードフレームの密着性を高めることは当業者に自明の課題であり,切り欠き部を有していない引用発明2の「配線基板」 リードフレーム) (に,熱硬化性樹脂とリードの密着性を高めるためのリードの形状(甲3,6,13)を適用する動機付けは十分にある。
また,甲14には多数個同時生産方式で用いられるメタル基板(リードフレーム)にスリットを設けた態様のものが開示され,甲15にはダイシング位置に形成されたスリットにモールド樹脂を充填させることでダイシングソーが軟質なモールド樹脂を切断することとなる結果,基板(リードフレーム)に印加される応力の低減が 図られる旨の教示がある。
このように上記各甲号証の開示は,多数個同時生産方式で用いるリードフレームに切り欠き部を設け,そこに樹脂を充填させることでリードフレームと樹脂との密着性の向上が図られ,リードフレームにおける切断部分が少なくなり,リードフレームと樹脂との剥離をより抑制することができることを示すものである。
この点を看過した本件審決は,進歩性の判断も誤っており,審決の結論に及ぼす違法がある。
〔被告の主張〕 原告が,引用例2(甲1)に加えて挙げている各文献は,引用発明2に適用すべき副引用例であると理解していたが,仮に,切り欠き部を設けることによって樹脂部とリードの密着度を高めるという技術が周知であったことを基礎付ける証拠として検討してみても,いずれも本件訂正発明1とは技術的思想を全く異にしているから,これらの証拠に記載された技術事項を適用したとしても,本件訂正発明1で特定された,切断時の剥離防止に寄与する構造の切り欠き部には至らない。
よって,原告の主張は理由がない。
当裁判所の判断
1 本件各訂正発明について ? 本件明細書の記載事項 本件明細書の発明の詳細な説明には,次の各記載がある(甲37。図は別紙1記載のもの)。
ア 技術分野 【0001】本発明は,照明器具,ディスプレイ,携帯電話のバックライト,動画照明補助光源,その他の一般的民生用光源などに用いられる発光装置及び発光装置の製造方法などに関する。
イ 背景技術 【0002】‥発光ダイオード(LED),レーザーダイオード(LD)などの発 光素子を用いる発光装置は,各種の光源として利用されている。
【0004】従来,発光装置を製造する方法として,リードフレームを非透光性で光反射性を有する白色樹脂でインサート成形し,リードフレームを介して所定の間隔で凹部形状のカップを有する樹脂成形体を成形する方法が開示されている(‥)。
‥白色樹脂の材質が明示されていないが,‥一般的な熱可塑性樹脂が用いられる。
【0005】しかしながら,熱可塑性樹脂はリードフレームとの密着性に乏しく,樹脂部とリードフレームとの剥離を生じやすい。また,熱硬化性樹脂は樹脂の流動性が低いため複雑な形状の樹脂成形体を成形するには不適切であり,耐光性にも乏しい。特に近年の発光素子の出力向上はめざましく,発光素子の高出力化が図られるにつれ,熱可塑性樹脂からなるパッケージの光劣化は顕著となってきている。
【0006】これらの問題点を解決するため,樹脂成形体の材料に熱硬化性樹脂を用いる発光装置が開示されている(‥)。この発光装置は,金属箔から打ち抜きやエッチング等の公知の方法により金属配線を形成し,ついで,金属配線を所定形状の金型に配置し,金型の樹脂注入口から熱硬化性樹脂を注入し,トランスファ・モールドすることが開示されている。
【0007】しかし,この製造方法は,短時間に多数個の発光装置を製造することが困難である。また,発光装置1個に対して廃棄されるランナー部分の樹脂が大量になるという問題がある。
【0008】異なる発光装置及びその製造方法として,配線基板状に光反射用熱硬化性樹脂組成物層を有する光半導体素子搭載用パッケージ基板及びその製造方法が開示されている(‥)。この光半導体素子搭載用パッケージ基板は,平板状のプリント配線板を金型に取り付け,光反射用熱硬化性樹脂組成物を注入し,トランスファー成型機により加熱加圧成型し,複数の凹部を有する,マトリックス状の光半導体素子搭載用パッケージ基板を作製している。また,プリント配線板の代わりにリードフレームを用いることも記載されている。
【0009】しかし,これらの配線板及びリードフレームは平板状であり,平板 状の上に熱硬化性樹脂組成物が配置されており,密着面積が小さいため,ダイシングする際にリードフレーム等と熱硬化性樹脂組成物とが剥離し易いという問題がある。
ウ 発明が解決しようとする課題 【0011】本発明は上述した問題に鑑みて,リードフレームと熱硬化性樹脂組成物との密着性が高く,短時間に多数個の発光装置を製造する簡易かつ安価な方法を提供することを目的とする。
エ 課題を解決するための手段 【0013】本明細書において,個片化された後の発光装置には,リード,樹脂部,樹脂パッケージなる用語を用い,個片化される前の段階では,リードフレーム,樹脂成形体なる用語を用いる。
【0014】本発明は,熱硬化後の,波長350nm〜800nmにおける光反射率が70%以上であり,外側面において樹脂部とリードとが略同一面に形成されている樹脂パッケージを有する発光装置の製造方法であって,切り欠き部を設けたリードフレームを上金型と下金型とで挟み込む工程と,上金型と下金型とで挟み込まれた金型内に,光反射性物質が含有される熱硬化性樹脂をトランスファ・モールドして,リードフレームに樹脂成形体を形成する工程と,切り欠き部に沿って樹脂成形体とリードフレームとを切断する工程と,を有する発光装置の製造方法に関する。かかる構成によれば,切り欠き部に熱硬化性樹脂が充填されるため,リードフレームと熱硬化性樹脂との密着面積が大きくなり,リードフレームと熱硬化性樹脂との密着性を向上することができる。また,熱可塑性樹脂よりも粘度が低い熱硬化性樹脂を用いるため,空隙が残ることなく,切り欠き部に熱硬化性樹脂を充填することができる。また,一度に多数個の発光装置を得ることができ,生産効率の大幅な向上を図ることができる。さらに,廃棄されるランナーを低減することができ,安価な発光装置を提供することができる。
【0015】上金型と下金型とで挟み込む前に,リードフレームにメッキ処理を 施すことが好ましい。このとき,製造された発光装置には切断された面にメッキ処理が施されておらず,それ以外の部分にはメッキ処理が施されている。個片化された発光装置毎にメッキ処理を施す必要がなくなり,製造方法を簡略化することができる。
【0016】リードフレームは,切断部分における切り欠き部が全包囲周の約1/2以上であることが好ましい。これによりリードフレームを軽量化でき,安価な発光装置を提供することができる。また,リードフレームにおける切断される部分が少なくなり,リードフレームと熱硬化性樹脂との剥離をより抑制することができる。
【0021】本発明は,熱硬化後の,波長350nm〜800nmにおける光反射率が70%以上であり,外側面において樹脂部とリードとが略同一面に形成されている樹脂パッケージを有する発光装置であって,リードは底面及び上面の少なくともいずれか一面にメッキ処理が施されており,かつ,外側面はメッキ処理が施されていない部分を有する発光装置に関する。これによりメッキ処理されていないリードの露出を防止でき,かつ,一度に多数個の発光装置を得ることができる。また,発光素子からの光を反射する部分のみメッキを施すことにより発光装置からの光取り出し効率を向上することができる。
【0022】樹脂パッケージは,四隅からリードが露出されていることが好ましい。樹脂パッケージの一側面全体にリードを設けるよりも,リードの露出部分を低減するができるため,樹脂部とリードとの密着性の向上を図ることができる。また,正負の異なるリード間に絶縁性の樹脂部が設けられているため短絡を防止することができる。
オ 発明の効果 【0030】本発明にかかる発光装置及びその製造方法によれば,リードフレームと樹脂成形体との密着性の高い発光装置を提供することができる。また,短時間に多数個の発光装置を得ることができ,生産効率の大幅な向上を図ることができる。
さらに,廃棄されるランナーを低減することができ,安価な発光装置を提供することができる。
カ 発明を実施するための最良の形態 【0032】<第1の実施の形態>(発光装置)図1は,第1の実施の形態に係る発光装置を示す斜視図である。図2は,第1の実施の形態に係る発光装置を示す断面図である。図2は図1に示すII-IIの断面図である。図3は,第1の実施の形態に用いられるリードフレームを示す平面図である。
【0033】第1の実施の形態に係る発光装置100は,熱硬化後の,波長350nm〜800nmにおける光反射率が70%以上であり,外側面20bにおいて樹脂部25とリード22とを略同一面に形成する樹脂パッケージ20を有する。リード22は底面(樹脂パッケージ20の外底面20a)及び上面(凹部27の内底面27a)の少なくともいずれか一面にメッキ処理を施している。一方,リード22の側面(樹脂パッケージ20の外側面20b)はメッキ処理が施されていない。
樹脂パッケージ20の外側面20bは,樹脂部25が大面積を占めており,リード22が隅部から露出している。
【0034】樹脂パッケージ20は,主に光反射性物質26を含有する樹脂部25と,リード22と,から構成されている。樹脂パッケージ20はリード22を配置している外底面20aと,リード22の一部が露出している外側面20bと,開口する凹部27を形成する外上面20cと,を有する。樹脂パッケージ20には内底面27aと内側面27bとを有する凹部27が形成されている。樹脂パッケージ20の内底面27aにはリード22が露出しており,リード22に発光素子10が載置されている。樹脂パッケージ20の凹部27内には発光素子10を被覆する封止部材30を配置する。封止部材30は蛍光物質40を含有している。発光素子10は,ワイヤ50を介してリード20と電気的に接続している。樹脂パッケージ20の外上面20cはリード20が配置されていない。
【0035】樹脂パッケージ20の外側面20bの全包囲の長さにおいて,リー ド22が露出している部分は1/2より短い長さである。後述する発光装置の製造方法において,リードフレーム21に切り欠き部21aを設け,その切り欠き部21aに沿って切断するため,リードフレーム21の切断部分が樹脂パッケージ20から露出される部分である。
【0036】樹脂パッケージ20は,四隅からリード22が露出している。リード22は外側面20bにおいて露出しており,メッキ処理を施していない。また,リード22は外底面20aにも露出する構造を採ることができ,メッキ処理を施すこともできる。なお,個片化された後にリード22の外側面20bにメッキ処理を施すことは可能である。
【0037】発光装置100は,熱硬化後の,波長350nm〜800nmにおける光反射率が70%以上である。これは主に可視光領域の光反射率が高いことを示す。発光素子10は,発光ピーク波長が360nm〜520nmにあるものが好ましいが,350nm〜800nmのものも使用することができる。特に,発光素子10は420nm〜480nmの可視光の短波長領域に発光ピーク波長を有するものが好ましい。この樹脂パッケージ20は,480nm以下の短波長側の光に対して優れた耐光性を有しており劣化し難いものである。また,この樹脂パッケージ20は,電流を投入することにより発光素子10が発熱しても劣化しにくく耐熱性に優れたものである。
【0038】樹脂パッケージ20は透光性の熱硬化性樹脂に光反射性物質を高充填したものを使用することが好ましい。例えば,350nm〜800nmにおける光透過率が80%以上の熱硬化性樹脂を用いることが好ましく,特に,光透過率が90%以上の熱硬化性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂に吸収される光を低減することにより,樹脂パッケージ20の劣化を抑制することができるからである。光反射性物質26は発光素子10からの光を90%以上反射するものが好ましく,特に95%以上反射するものが好ましい。また,光反射性物質26は蛍光物質40からの光を90%以上反射するものが好ましく,特に95%以上反射するものが好ましい。
光反射性物質26に吸収される光量を低減することにより発光装置100からの光取り出し効率を向上することができる。
【0039】発光装置100の形状は特に問わないが,略直方体,略立方体,略六角柱などの多角形形状としてもよい。凹部27は,開口方向に拡がっていることが好ましいが,筒状でも良い。凹部27の形状は略円形状,略楕円形状,略多角形形状などを採ることができる。
【0041】 (樹脂パッケージ)樹脂パッケージは,熱硬化性樹脂からなる樹脂部とリードとを有し,一体成形している。樹脂パッケージは,350nm〜800nmにおける光反射率が70%以上であるが,420nm〜520nmの光反射率が80%以上であることが特に好ましい。また,発光素子の発光領域と蛍光物質の発光領域とにおいて高い反射率を有していることが好ましい。
【0042】樹脂パッケージは,外底面と外側面と外上面とを有する。樹脂パッケージの外側面からリードが露出している。樹脂部とリードとは略同一面に形成されている。この略同一面とは同じ切断工程で形成されたことを意味する。
【0043】樹脂パッケージの外形は,略直方体に限定されず略立方体,略六角柱又は他の多角形形状としてもよい。また,外上面側から見て,略三角形,略四角形,略五角形,略六角形などの形状を採ることもできる。
【0044】樹脂パッケージは内底面と内側面とを持つ凹部を形成している。凹部の内底面にはリードを配置している。凹部は外上面側から見て,略円形形状,略楕円形状,略四角形形状,略多角形形状及びこれらの組合せなど種々の形状を採ることができる。凹部は開口方向に拡がる形状となっていることが好ましいが,筒状となっていても良い。凹部は滑らかな傾斜を設けても良いが,表面に細かい凹凸を設け,光を散乱させる形状としてもよい。
【0045】リードは正負一対となるように所定の間隔を空けて設けている。凹部の内底面のリード及び樹脂パッケージの外底面のリードはメッキ処理を施している。このメッキ処理は樹脂成形体を切り出す前に行うこともできるが,予めメッキ 処理を施したリードフレームを用いる方が好ましい。一方,リードの側面はメッキ処理を施していない。
【0046】 (リード,リードフレーム)リードフレームは平板状の金属板を用いることができるが,段差や凹凸を設けた金属板も用いることができる。
【0047】リードフレームは,平板状の金属板に打ち抜き加工やエッチング加工等を行ったものである。
【0050】切り欠き部は,樹脂成形体を個片化して樹脂パッケージとした際,リードが正負一対となるように形成されている。また,切り欠き部は,樹脂成形体を切断する際に,リードを切断する面積を少なくするように形成されている。例えば,正負一対のリードとなるように横方向に切り欠き部を設け,また,樹脂成形体を個片化する際の切り出し部分に相当する位置に切り欠き部を設ける。ただし,リードフレームの一部が脱落しないように,又は,樹脂パッケージの外側面にリードを露出させるためにリードフレームの一部を連結しておく。ダイシングソーを用いて樹脂成形体をダイシングするため,切り欠き部は,縦及び横若しくは斜めに直線的に形成されていることが好ましい。
【0051】リードフレームは,例えば,鉄,リン青銅,銅合金などの電気良導体を用いて形成される。また,発光素子からの光の反射率を高めるために,銀,アルミニウム,銅及び金などの金属メッキを施すことができる。切り欠き部を設けた後やエッチング処理を行った後など上金型と下金型とで挟み込む前に金属メッキを施すことが好ましいが,リードフレームが熱硬化性樹脂と一体成形される前に金属メッキを施すこともできる。
【0062】 (第1の実施の形態に係る発光装置の製造方法)図4は,第1の実施の形態に係る発光装置の製造方法を示す概略断面図である。図5は,第1の実施の形態に係る樹脂成形体を示す平面図である。
【0063】第1の実施の形態に係る発光装置の製造方法は,切り欠き部21aを設けたリードフレーム21を上金型61と下金型62とで挟み込む工程と,上金 型61と下金型62とで挟み込まれた金型60内に,光反射性物質26が含有される熱硬化性樹脂23をトランスファ・モールドして,リードフレーム21に樹脂成形体24を形成する工程と,切り欠き部21aに沿って樹脂成形体24とリードフレーム21とを切断する工程と,を有する。
【0072】リードフレーム21は,切り欠き部21aを設けた後,金属メッキ処理を行っておく。
【0073】まず,切り欠き部21aを設けたリードフレーム21を上金型61と下金型62とで挟み込む。上金型61と下金型62とで挟み込むことによって金型60内に空間が設けられる。
【0074】このとき,凹部27が形成される位置にある切り欠き部21aが上金型61の有する突出部と下金型62とで挟まれるように配置する。これにより切り欠き部21aにおけるリードフレーム21のバタつきが抑制され,バリの発生を低減することができる。
【0075】次に,上金型61と下金型62とで挟み込まれた金型内に,光反射性物質26が含有される熱硬化性樹脂23をトランスファ・モールドして,リードフレーム21に樹脂成形体24を形成する。
金型60内に設けられた空間に,注入口から光反射性物質26が含有される熱硬化性樹脂23を注入して,所定の温度と圧力とを加えてトランスファ・モールドする。上金型61と下金型62とで切り欠き部21a付近のリードフレーム21を挟み込んでいるため,熱硬化性樹脂23をトランスファ・モールドする際に,リードフレーム21がバタつかず,凹部27の内底面27aにおいてバリの発生を抑制できる。
【0076】ピン挿入部にピンを挿入させて樹脂成形体24を上金型61から抜脱する。金型60内において所定の温度を加えて仮硬化を行い,その後,金型60から抜脱して,仮硬化よりも高い温度を加えて本硬化を行うことが好ましい。
【0077】次に,樹脂成形体24に形成された凹部27の内底面27aのリー ドフレーム21に発光素子10を載置し,ワイヤ50によりリードフレーム21と電気的に接続する。発光素子10を載置する工程は,樹脂成形体24を金型60から抜脱した後に載置できる他,樹脂成形体24を切断し個片化した樹脂パッケージ20に発光素子10を載置してもよい。また,ワイヤを用いず発光素子をフェイスダウンして実装してもよい。発光素子10をリードフレーム21に実装した後,蛍光物質40を含有した封止部材30を凹部27内に充填し硬化する。
【0078】次に,切り欠き部21aに沿って樹脂成形体24とリードフレーム21とを切断する。
複数の凹部27が形成された樹脂成形体24は,隣接する凹部27の間にある側壁を略中央で分離されるように長手方向及び短手方向に切断する。切断方法はダイシングソーを用いて樹脂成形体24側からダイシングする。これにより切断面は樹脂成形体24とリードフレーム21とが略同一面となっており,リードフレーム21が樹脂成形体24から露出している。このように切り欠き部21aを設けることにより,切断されるリードフレーム21は少なくなりリードフレーム21と樹脂成形体24との剥離を抑制することができる。また,リードフレーム21の上面だけでなく,切り欠き部21aに相当する側面も樹脂成形体24と密着するため,リードフレーム21と樹脂成形体24との密着強度が向上する。
? 本件各訂正発明の特徴 上記?によれば,本件各訂正発明の特徴は次のとおりであると認められる。
ア 本件各訂正発明は,発光ダイオード(LED),レーザーダイオード(LD)などの発光素子を用いる発光装置に関する(【0001】【0002】。
, ) イ 従来,マトリックス状の発光素子搭載用パッケージ基板を作製する場合に,金型に平板状のリードフレームを取り付け,光反射用熱硬化性樹脂組成物を注入し,トランスファー成型機により加熱加圧成型するものがあったが,リードフレームとその上に配置される熱硬化性樹脂組成物との密着面積が小さいため,パッケージ基板を個々の発光装置にダイシングする際に,リードフレームと熱硬化性樹脂組成物 とが剥離し易いという問題があった(【0008】【0009】。
, ) ウ 本件各訂正発明は,その課題として,上述した問題に鑑みて,リードフレームと熱硬化性樹脂組成物との密着性が高い発光装置の提供を目的とする(【0011】。
) 本件各訂正発明の発光装置は,この課題を解決するため,外側面において,リードに設けられた切り欠き部に熱硬化性樹脂が埋め込まれるとともに,樹脂部とリードとが同一面に形成されている樹脂パッケージを有する構成としたものである。
本件各訂正発明の発光装置は,@切り欠き部を設けたリードフレームを上金型と下金型とで挟み込む工程,A上金型と下金型とで挟み込まれた金型内に光反射性物質を含有する熱硬化性樹脂をトランスファ・モールドし,リードフレームに樹脂成形体を形成する工程及びB切り欠き部に沿って樹脂成形体とリードフレームとを切断する工程を有する製造方法により製造される。
上記の構成を備えた本件各訂正発明においては,切り欠き部に熱硬化性樹脂が充填されるため,リードフレームと熱硬化性樹脂との密着面積が大きくなり,両者の密着性を向上させることができる(【0014】。
) 本件各訂正発明にかかる発光装置によれば,リードフレームと樹脂成形体との密着性の高い発光装置を提供することができる(【0030】。
) 2 取消事由1(訂正要件(新規事項の追加)に係る判断の誤り)について ? 訂正要件の適合性 願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,その記載した事項の範囲内においてしなければならない(特許法134条の2第9項,126条5項
新規事項の追加禁止要件)。ここでいう「明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内」とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであることをいう。
? 新規事項の追加の有無 本件訂正前の請求項1のうちリードの露出に関する特定事項は,「前記リードは,前記樹脂パッケージの外底面において露出されている」というものであり,本件訂正により,請求項1のうちリードの露出に関する特定事項は, 「前記リードは,金属板に銀メッキ処理が施されてなり,前記樹脂パッケージの外底面において露出されて,前記金属板の少なくとも上面全面に銀メッキ処理が施されている一方,前記樹脂パッケージの外側面において前記金属板が露出しており,前記第1外側面,前記第2外側面及び前記第3外側面それぞれに露出した第1リードと,前記第1外側面,前記第2外側面及び前記第4外側面それぞれに露出した第2リードを有し, と訂正 」された。この訂正が,当業者によって明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入しないものであることは,本件明細書の【0021】【0045】【0046】【0050】【0 , , , ,051】及び図1〜4の記載から明らかである。
よって,上記訂正事項に係る本件訂正は,明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされている。
? 原告の主張について 原告は,本件明細書において開示されている発光装置は,裏面視で樹脂パッケージの4隅においてリードが露出している態様のものに限られるが,本件訂正後の各請求項の記載ではそのような限定がされていないから,本件訂正は,新規事項の追加に当たると主張する。また,原告は,本件各訂正発明の発光装置が,潜在的には,上記の態様のものに限られていなかったとしても,本件訂正は,第1〜4外側面において金属板がどのように露出するのかを特定する意図により,上記の態様への限定を顕在化させたから,新規事項の追加に当たるとみることに根拠があるとも主張する。
しかしながら,本件訂正前の請求項1のうちリードの露出に関する特定事項は,前記のとおり,露出の態様について,樹脂パッケージの外底面で露出するという以外には何ら制限しておらず,請求項の記載として不明確なところはない。
なるほど,本件明細書の発明の詳細な説明(【0103】以下)に記載された実施例をみると,図1のとおり,リードが樹脂パッケージの4隅において露出している。
しかし,実施例は,発明の実施態様の一例を説明するものにすぎず,本件訂正発明1のリードが実施例に記載された構成に限定されるものと解することはできない。
? 小括 以上によれば,原告の主張は採用できず,原告は,その他の訂正事項に関する本件審決の判断について争っていないから,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(記載要件(特許法36条6項1号・2号)に係る判断の誤り)について ? 請求項1の記載の解釈 本件訂正後の特許請求の範囲請求項1には, 「前記樹脂パッケージの前記第1乃至第4外側面それぞれにおいて,前記切り欠き部に埋め込まれた前記樹脂部と,前記リードの上方に形成された前記樹脂部と,前記樹脂部から露出した前記リードとが同一面に形成されて,切断面を構成しており,」と記載されているところ,これによれば,樹脂部とそこから露出したリードとが「同一面に形成されて,切断面を構成して」いるものをいうと解される。
また,本件明細書には, 「上金型61と下金型62とで挟み込まれた金型内に,光反射性物質26が含有される熱硬化性樹脂23をトランスファ・モールドして,リードフレーム21に樹脂成形体24を形成する」こと(【0075】)及び「切り欠き部21aに沿って樹脂成形体24とリードフレーム21とを切断する」こと(【0078】)が記載されているから,樹脂成形体を形成後に切り欠き部に沿ってリードフレームと熱硬化性樹脂の両方を切断すれば,樹脂パッケージの外側面において,切り欠き部に埋め込まれた樹脂部と,リードの上方に形成された樹脂部と,樹脂部から露出したリードとは必然的に同一面に形成されるものと認められ,そのことは,本件明細書の図1からも明らかである。
したがって,特許請求の範囲請求項1にいう「同一面」とは,樹脂パッケージの外 側面において樹脂部とリードとが同一面に形成されることを意味するものと解釈することができる。
? サポート要件の適合性 ア 特許請求の範囲の記載については,特許を受けようとする発明が明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであることを要する(特許法36条6項1号。サポート要件)。
サポート要件は,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かによって判断するのが相当である。
イ 前記1?によれば,本件訂正発明1及び2の課題は,発光ダイオード(LED),レーザーダイオード(LD)などの発光素子を用いる発光装置に関しては,従来,マトリックス状の発光素子搭載用パッケージ基板を作製するために,平板状のリードフレームを金型に取り付け,光反射用熱硬化性樹脂組成物を注入し,トランスファー成型機により加熱加圧成型するものがあったところ,平板状のリードフレームとその上に配置される熱硬化性樹脂組成物との密着面積が小さいことから,パッケージ基板を個々の発光装置にダイシングする際にリードフレームと熱硬化性樹脂組成物とが剥離し易いという問題があり,この問題を解消するということにある。
本件訂正発明1及び2の発光装置は,この課題を解決するため,外側面において樹脂部とリードとが同一面に形成されている樹脂パッケージを有する構成を採用し,また,リードに設けられた切り欠き部に熱硬化性樹脂が埋め込まれたものとしたことから,リードと熱硬化性樹脂との密着面積が大きくなり,両者の密着性を向上させることができる。
そして,本件訂正発明1及び2の構成要件全体をみれば,それらは発明の詳細な説明に記載された製造方法によって得られる発光装置に特徴的かつ新規な構造を特定したものであることが明らかである。また,その構造に由来して,複数の発光装 置を一括して形成した後,切断して個片化する,いわゆる「多数個同時生産方式」で製造しても,リードと樹脂部との剥離が生じ難いという効果に加え,得られた発光装置もリードと樹脂部との密着性の高いものとなるという効果を奏するが,これらの効果は,特定の態様でリードに設けた「切り欠き部」という物の構造に基づくものであり,そのために必要な構成は,本件訂正発明1及び2において特定されている(構成要件1C,1G)。
そうすると,特許請求の範囲に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるということができる。
ウ 原告の主張について 原告は, 「同一面」なる記載は, 「同一」の「面」としてその技術的意義を一義的に理解することができるから,そのサポート要件適合性を判断するために発明を認定するときは,発明の詳細な説明参酌せず,専ら特許請求の範囲の記載に基づいて認定されるべきであるところ,本件訂正発明1及び2は,リードフレームの上に熱硬化性樹脂をトランスファ・モールドして得られるものであるとの限定がない上に,「略同一面」とは異なる「同一面」という発明特定事項を含むものであるから,発明の詳細な説明に開示されていない態様を含むことになり,サポート要件に適合しないと主張する。
しかし,発明の要旨は,特許請求の範囲の記載に基づいて認定されるが,その技術内容を理解するためには発明の詳細な説明や図面を参酌することが相当である。
本件訂正発明1及び2の発光装置は,トランスファ・モールドによってリードフレームと一体形成された樹脂成形体を切断する際の樹脂部の剥離を防止するために,切断される部分のリードフレームに切り欠き部を設け,その切り欠き部に沿って樹脂部とリードフレームとを切断して形成されたものである。したがって,樹脂部とリードが同じ切断工程で形成されることにより,樹脂パッケージの外側面において,樹脂部とリードとが同一面に形成されるものと解釈することができる。
なお,特許請求の範囲に記載された「同一面」という用語と,発明の詳細な説明に記載された「略同一面」という用語とが同義であることは,後記?のとおりである。
以上の理解と異なる旨をいう原告の主張は採用することができない。
? 明確性要件の適合性 ア 特許請求の範囲の記載については,特許を受けようとする発明が明確であることを要する(特許法36条6項2号明確性要件)。
明確性要件の適否は,特許請求の範囲の記載,明細書の記載及び図面並びに出願時の当業者の技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断するのが相当である。
イ 特許請求の範囲請求項1及び2にいう「同一面」の意義は,前記?のとおりであり,その意義は明確であり,特許請求の範囲の記載が,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
ウ 原告は,本件明細書の発明の詳細な説明において, 「略同一面」という文言について「樹脂部とリードとは略同一面に形成されている。この略同一面とは同じ切断工程で形成されたことを意味する。 との特別な定義付けがされていることを指摘 」し,これと「同一面」という文言が同義であると直ちには理解できないとして,明確性要件の適合性を争う。
しかし,特許請求の範囲請求項1及び2にいう「同一面」とは,樹脂パッケージの外側面において樹脂部とリードとが同一面に形成されることを意味するものと解釈することができることは,前記?のとおりである。他方,本件明細書の発明の詳細な説明の「略同一面」については, 樹脂部とリードとは略同一面に形成されている。
「この略同一面とは同じ切断工程で形成されたことを意味する。 ( 」【0042】)というものであり,前記「同一面」と同義のものである。よって,特許請求の範囲に記載された「同一面」という用語と,発明の詳細な説明に記載された「略同一面」という用語とが,異なる意味で用いられていると解すべき根拠は見当たらず,そうすると,発明の詳細な説明において専ら「略同一面」という文言が用いられているからとい って,発明の詳細な説明に記載された製造方法により,樹脂パッケージの外側面において樹脂部とリードとが「同一面」に形成されるという当業者の理解が妨げられるものではない。原告の主張は理由がないというべきである。
? 小括 以上によれば,取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(分割要件違反に伴う進歩性判断の誤り)について 特許出願人は,二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる(特許法44条1項)。
原告は,取消事由2についての主張と同様の理由により,本件訂正発明1及び2は,樹脂パッケージの外側面において,樹脂部とリードとが同じ工程で切断されて「略同一面」を形成している態様以外の発光装置を包含するとした上,そのような態様の発光装置は,原々出願の明細書,原出願の明細書及び本件明細書のいずれにも開示されていないから,分割出願の要件を充足しないと主張する。
しかし,本件訂正発明1及び2は,樹脂パッケージの外側面において,樹脂部とリードとが同じ工程で切断されて同一面を形成している発光装置であると認定できることは,前記3のとおりであるので,原告の主張はその前提を欠き,理由がない。
よって,取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(引用発明1に基づく進歩性の判断の誤り)について ? 引用発明1について ア 引用例1には,名称を「樹脂成形体及び表面実装型発光装置並びにそれらの製造方法」とする発明につき,以下の記載がある(甲3。図は別紙2に記載のもの)。
技術分野 【0001】本発明は,照明器具,ディスプレイ,携帯電話のバックライト,動画照明補助光源,その他の一般的民生用光源などに用いられる表面実装型発光装置及びそれに適した樹脂成形体並びにそれらの製造方法に関する。
発明を実施するための最良の形態 a 第1の実施の形態 表面実装型発光装置 【0054】第1の実施の形態に係る表面実装型発光装置について図面を用いて説明する。図1は,第1の実施の形態に係る表面実装型発光装置を示す概略断面図である。図2は,第1の実施の形態に係る表面実装型発光装置を示す概略平面図である。図1は,図2のI-Iの概略断面図である。
【0055】第1の実施の形態に係る表面実装型発光装置は,発光素子10と,発光素子10を載置する第1の樹脂成形体40と,発光素子10を被覆する第2の樹脂成形体50とを有する。第1の樹脂成形体40は,発光素子10を載置するための第1のリード20と,発光素子10と電気的に接続される第2のリード30と,を一体成形している。
【0057】第1のリード20は第1のインナーリード部20aと第1のアウターリード部20bとを有している。発光素子10は,第1のインナーリード部20a上にダイボンド部材を介して載置されている。第1のインナーリード部20aは,発光素子10が持つ第1の電極11とワイヤ60を介して電気的に接続されている。
第1のアウターリード部20bは第1の樹脂成形体40から露出している。第1のリード20は,第1の樹脂成形体40の側面外側に第1のアウターリード部20bを有しているだけでなく,第1の樹脂成形体40の裏面側に露出している部分を第1のアウターリード部20bと呼ぶ場合もあり,第1のアウターリード部20bは,外部電極と電気的に接続される部分であればよい。第1のリード20は外部電極と接続するため,金属部材を用いる。
【0058】第2のリード30は第2のインナーリード部30aと第2のアウターリード部30bとを有している。第2のインナーリード部30aは,発光素子10が持つ第2の電極12とワイヤ60を介して電気的に接続されている。第2のアウターリード部30bは第1の樹脂成形体40から露出している。第2のリード30は,第2の樹脂成形体40の側面外側に第2のアウターリード部30bを有して いるだけでなく,第2の樹脂成形体40の裏面側に露出している部分を第2のアウターリード部30bと呼ぶ場合もあり,第2のアウターリード部30bは,外部電極と電気的に接続される部分であればよい。第2のリード30は外部電極と接続するため,金属部材を用いる。第1のリード20と第2のリード30とが短絡しないように,裏面側における第1のリード20と第2のリード30との近接する部分に絶縁部材90を設ける。
【0059】第1の樹脂成形体40は,底面40aと側面40bとを持つ凹部40cを形成している。第1のリード20の第1のインナーリード部20aは,第1の樹脂成形体40の凹部40cの底面40aから露出している。この露出部分にダイボンド部材を介して発光素子10を載置している。第1の樹脂成形体40は,トランスファ・モールドにより成形する。第1の樹脂成形体40は,熱硬化性樹脂を用いている。凹部40cの開口部は,底面40aよりも広口になっており,側面40bには傾斜が設けられていることが好ましい。
? 第1の樹脂成形体 【0081】第1の樹脂成形体40は,パッケージとしての機能を有するため硬質のものが好ましい。また,第1の樹脂成形体40は透光性の有無を問わないが,用途等に応じて適宜設計することは可能である。例えば,第1の樹脂成形体40に遮光性物質を混合して,第1の樹脂成形体40を透過する光を低減することができる。一方,表面実装型発光装置からの光が主に前方及び側方に均一に出射されるように,フィラーや拡散剤を混合しておくこともできる。また,光の吸収を低減するために,暗色系の顔料よりも白色系の顔料を添加しておくこともできる。このように,第1の樹脂成形体40は,所定の機能を持たせるため,フィラー,拡散剤,顔料,蛍光物質,反射性物質,遮光性物質からなる群から選択される少なくとも1種を混合することもできる。
【0082】第1のリード20は,第1のインナーリード部20aと第1のアウターリード部20bとを有する。第1のインナーリード部20aにおける第1の樹 脂成形体40の凹部40cの底面40aは露出しており,発光素子10を載置する。
この露出された第1のインナーリード部20aは,発光素子10を載置する面積を有していればよいが,熱伝導性,電気伝導性,反射効率などの観点から広面積の方が好ましい。第1のインナーリード部20aは,発光素子10の第1の電極11とワイヤ60を介して電気的に接続されている。第1のアウターリード部20bは,発光素子10が載置されている部分を除く,第1の樹脂成形体40から露出している部分である。第1のアウターリード部20bは,外部電極と電気的に接続されるとともに熱伝達する作用も有する。
【0083】第2のリード30は,第2のインナーリード部30aと第2のアウターリード部30bとを有する。第2のインナーリード部30aにおける第1の樹脂成形体40の凹部40cの底面40aは露出している。この露出された第2のインナーリード部30bは,発光素子10の第2の電極12と電気的に接続する面積を有していればよいが,反射効率の観点から広面積の方が好ましい。裏面側の第1のアウターリード部20bと第2のアウターリード部30bとは露出しており,実質的に同一平面を形成している。これにより表面実装型発光装置の実装安定性を向上することができる。また半田付け時に第1のインナーリード部20aと第2のインナーリード部30aの裏面間が半田により短絡することを防止するため,電気絶縁性の絶縁部材90を薄くコーティングすることもできる。絶縁部材90は樹脂などである。
【0084】第1のリード20及び第2のリード30は,鉄,リン青銅,銅合金等の電気良導体を用いて構成することができる。また,発光素子10からの光の反射率を向上させるため,第1のリード20及び第2のリード30の表面に銀,アルミニウム,銅や金等の金属メッキを施すこともできる。また,第1のリード20及び第2のリード30の表面の反射率を向上させるため,平滑にすることが好ましい。
また,放熱性を向上させるため第1のリード20及び第2のリード300の面積は大きくすることができる。これにより発光素子10の温度上昇を効果的に抑えるこ とができ,発光素子10に比較的多くの電気を流すことができる。また,第1のリード20及び第2のリード30を肉厚にすることにより放熱性を向上することができる。この場合,第1のリード20及び第2のリード30を折り曲げるなどの成形工程が困難であるため,所定の大きさに切断する。また,第1のリード20及び第2のリード30を肉厚にすることにより,第1のリード20及び第2のリード30のたわみが少なくなり,発光素子10の実装をし易くすることができる。これとは逆に,第1のリード20及び第2のリード30を薄い平板状とすることにより折り曲げる成形工程がし易くなり,所定の形状に成形することができる。
? 第2の樹脂成形体 【0086】第2の樹脂成形体50は,外部環境からの外力や埃,水分などから発光素子10を保護するために設ける。また,発光素子10から出射される光を効率よく外部に放出することができる。第2の樹脂成形体50は,第1の樹脂成形体40の凹部40c内に配置している。
【0087】第2の樹脂成形体50の材質は熱硬化性樹脂である。熱硬化性樹脂のうち,エポキシ樹脂,変性エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂,アクリレート樹脂,ウレタン樹脂からなる群から選択される少なくとも1種により形成することが好ましく,特にエポキシ樹脂,変性エポキシ樹脂,シリコーン樹脂,変性シリコーン樹脂が好ましい。第2の樹脂成形体50は,発光素子10を保護するため硬質のものが好ましい。また,第2の樹脂成形体50は,耐熱性,耐候性,耐光性に優れた樹脂を用いることが好ましい。第2の樹脂成形体50は,所定の機能を持たせるため,フィラー,拡散剤,顔料,蛍光物質,反射性物質からなる群から選択される少なくとも1種を混合することもできる。第2の樹脂成形体50中には拡散剤を含有させても良い。具体的な拡散剤としては,チタン酸バリウム,酸化チタン,酸化アルミニウム,酸化珪素等を好適に用いることができる。また,所望外の波長をカットする目的で有機や無機の着色染料や着色顔料を含有させることができる。
さらに,第2の樹脂成形体50は,発光素子10からの光を吸収し,波長変換する 蛍光物質80を含有させることもできる。
? 表面実装型発光装置の実装状態 【0106】上記表面実装型発光装置を用いて,外部電極と電気的に接続した実装状態を示す。図3は,第1の実施の形態に係る表面実装型発光装置の実装状態を示す概略断面図である。
【0107】表面実装型発光装置の裏面側に放熱接着剤100を介して放熱部材110を設けることができる。この放熱接着剤100は,第1の樹脂成形体40の材質よりも熱伝導性が高いものが好ましい。放熱接着剤100の材質は,電気絶縁性のエポキシ樹脂,シリコーン樹脂などを用いることができる。放熱部材110の材質は熱電導性の良好なアルミ,銅,タングステン,金などが好ましい。このほか,第1のリード20のみに接触するように放熱接着剤100を介して放熱部材110を設けることにより,放熱接着剤として更に熱電導性の良い半田を含む共晶金属を用いることができる。表面実装型発光装置の裏面側は平坦となっていることから,放熱部材110への実装時の安定性を保持することができる。特に,発光素子10と最短距離をとるように第1のリード20及び放熱部材110を設けているため,放熱性は高い。
【0108】第1のリード20の第1のアウターリード部20b及び第2のリード30の第2のアウターリード部30bは外部電極と電気的に接続する。第1のリード20と第2のリード30は厚肉の平板であるため,外部電極と放熱部材90とで挟み込むように電気的に接続する。第1のアウターリード部20b,第2のアウターリード部30bと外部電極との電気的接続には鉛フリー半田を用いる。この他,外部電極に第1のアウターリード部20b等を載置するように電気的接続することもできる。
b 第2の実施の形態 【0109】第2の実施の形態に係る表面実装型発光装置について説明する。第1の実施の形態に係る表面実装型発光装置と同様な構成を採る部分については説明 を省略する。図4は,第2の実施の形態に係る表面実装型発光装置を示す概略平面図である。
【0110】この表面実装型発光装置は,第1のリード21及び第2のリード31に凹凸を設け,第1の樹脂成形体40との接触面積を拡げている。これにより第1の樹脂成形体40から第1のリード21及び第2のリード31が抜脱するのを防止することができる。
c 表面実装型発光装置の製造方法 【0120】本発明に係る表面実装型発光装置の製造方法について説明する。本製造方法は,上述の表面実装型発光装置についてである。図10(a)〜(e)は,第1の実施の形態に係る表面実装型発光装置の製造工程を示す概略断面図である。
【0121】第1の樹脂成形体40の凹部40cの底面40aに相当する第1のインナーリード部20aと第2のインナーリード部30a並びに第1のアウターリード部20bと第2のアウターリード部30bとを,上金型120と下金型121とで挟み込む(第1の工程)。
【0122】上金型120は第1の樹脂成形体の凹部に相当する凹みを形成している。第1の樹脂成形体40の凹部40cの底面40aに相当する上金型120の部分は,第1のインナーリード部20a及び第2のインナーリード部30aとを接触するように形成されている。
【0123】上金型120と下金型121とで挟み込まれた凹み部分に第1の熱硬化性樹脂がトランスファ・モールド工程により流し込む(第2の工程)。
【0124】トランスファ・モールド工程は,所定の大きさを有するペレット状の第1の熱硬化性樹脂を所定の容器に入れる。その所定の容器に圧力を加える。その所定の容器から繋がる上金型120と下金型121とで挟み込まれた凹み部分に,溶融状態の第1の熱硬化性樹脂が流し込む。上金型120と下金型121とを所定の温度に温め,その流し込まれた第1の熱硬化性樹脂を硬化する。この一連の工程をトランスファ・モールド工程という。
【0125】第1のインナーリード部20a及び第2のインナーリード部30aを挟み込むため,第1の熱硬化性樹脂を流し込む際に第1のインナーリード部20a及び第2のインナーリード部30aがばたつくことがなく,バリの発生を抑制できる。
【0126】流し込まれた第1の熱硬化性樹脂は加熱して硬化され,第1の樹脂成形体40を成形する(第3の工程)。
【0127】これにより,熱硬化性樹脂を用いた第1の樹脂成形体40を成形する。これにより耐熱性,耐光性,密着性等に優れたパッケージを提供することができる。また,底面40aと側面40bとを持つ凹部40cを有する熱硬化性樹脂を用いた第1の樹脂成形体40を提供することができる。
イ 引用発明1,本件各訂正発明と引用発明1の相違点 前記アによれば,引用例1には,本件審決が認定したとおりの引用発明1(前記第2の3?ア)が開示されていることが認められる。
また,本件各訂正発明と引用発明1の相違点は,本件審決が認定したとおり(前記第2の3?イ)であると認められる。
? 相違点の判断について ア 本件訂正発明1について 相違点1-1について 相違点1-1に係る本件訂正発明1における構成要件1Cに関連して,本件明細書には, 「切り欠き部は,樹脂成形体を個片化して樹脂パッケージとした際,リードが正負一対となるように形成されている。また,切り欠き部は,樹脂成形体を切断する際に,リードを切断する面積を少なくするように形成されている。‥ダイシングソーを用いて樹脂成形体をダイシングするため,切り欠き部は,縦及び横若しくは斜めに直線的に形成されていることが好ましい。( 」【0050】)との記載や, 「切り欠き部21aに沿って樹脂成形体24とリードフレーム21とを切断する。‥切断方法はダイシングソーを用いて樹脂成形体24側からダイシングする。‥このよ うに切り欠き部21aを設けることにより,切断されるリードフレーム21は少なくなりリードフレーム21と樹脂成形体24との剥離を抑制することができる。また,リードフレーム21の上面だけでなく,切り欠き部21aに相当する側面も樹脂成形体24と密着するため,リードフレーム21と樹脂成形体24との密着強度が向上する。」との記載(【0078】)がある。
これらの記載によれば,本件訂正発明1の「切り欠き部」は,いわゆる多数個同時生産方式によって製造される発光装置において,樹脂成形体を個片化して樹脂パッケージに切断する際に生じる,リードフレームと樹脂成形体との剥離を抑制する効果を奏するものであると認められる。
一方,引用発明1は,個別の発光装置ごとに樹脂封止を行う個別生産方式の発光装置であり,樹脂成形体を切断することがない。このため,第1のリード及び第2のリードに凹凸を設け,第1の樹脂成形体との接触面積を拡げることにより,第1の樹脂成形体から第1のリード及び第2のリードが抜脱するのを防止している 【0 (110】)ものの,この「凹凸」も,樹脂成形体を個片化して樹脂パッケージに切断する際のリードフレームと樹脂成形体との剥離の防止を目的とするものではない。
このように,引用発明1は,樹脂成形体を切断する工程を有しておらず,このため,切断時の樹脂成形体とリードフレームとの剥離を防止することを目的として切断箇所のリードフレームに切り欠き部を設ける必要がないものである。
原告が周知技術として提出した証拠(甲5〜8,10,11)のうち,甲10及び甲11は,いわゆる多数個同時生産方式によって製造される発光装置を開示したものでないことから,切断時のリードと樹脂部との剥離という課題については記載も示唆もない。
他方,甲6( 【0019】,甲7( ) 【0033】)及び甲8(【0036】)には,いわゆる多数個同時生産方式によって製造される半導体装置において,樹脂封止後に個々の装置に分割する際に,リードと樹脂部とを同時に切断することが記載されており,甲5(【0079】)には,樹脂封止後の発光装置において,リードの樹脂部か ら突出した部分を切断することが記載されている。しかしながら,いずれの文献にも,切断される部分のリードに切り欠き部を設けておくことによって,装置の4つの外側面それぞれにリードの切り欠き部が配置されるようにすることについては,記載も示唆もされていないから,引用発明1に甲5〜8に記載された技術事項を適用しても,相違点1-1に係る本件訂正発明1の構成要件1Cには至らない。
よって,相違点1-1に係る本件訂正発明1の構成要件1Cを採用することが当業者であれば容易になし得たとはいえない。
小括 以上のとおりであるから,その余の相違点について判断するまでもなく,本件訂正発明1は,引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件訂正発明2について 本件訂正発明2は,引用発明1と本件訂正発明1との相違点1-1と同一の点において相違するので,その余の相違点について検討するまでもなく,当業者が引用発明1に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
ウ 原告の主張について 原告は,引用発明1のリードに設けられている「凹凸」はリードと樹脂パッケージの密着性を向上させるためのものであり,その密着性の向上効果は必然的に切断時の剥離防止という効果を高めるから,技術的な効果として実質的には異なるところはなく,リードの「切り欠いた部分」であり,そこに樹脂が充填されることでリードと樹脂部との密着性が向上するのであれば,それは本件訂正発明1及び2でいうところの「切り欠き部」にほかならないと主張する。
しかし,仮にリードの「凹凸」が樹脂とリードとの密着強度を向上させるという点において本件訂正発明1の「切り欠き部」と同様の機能を奏するものであるとしても,かかる「凹凸」を「切り欠き部」として,特に樹脂パッケージの4つの外側面それぞれに沿って形成する動機付けはない。
よって,原告の主張は理由がない。
エ 本件訂正発明3,5,6,8〜10について 本件訂正発明3,5,6,8〜10は,本件訂正発明1又は本件訂正発明2の発明特定事項を全て含み,さらに限定を付したものであるから,前記アと同様の理由により,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明できたものとは認められない。
? 小括 以上のとおり,本件訂正発明1〜3,5,6,8〜10は,引用発明1に基づいて,当業者が容易に発明できたものとは認められないから,取消事由4は理由がない。
6 取消事由5(引用発明2に基づく進歩性の判断の誤り)について ? 引用発明2について ア 引用例2には,名称を「光半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法およびこれを用いた光半導体装置の製造方法」とする発明につき,以下の記載がある(甲1。図は別紙3に記載のもの)。
技術分野 【0001】本発明は,光半導体素子と蛍光体などの波長変換手段とを組み合わせた光半導体装置を製造するのに有用な光半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法に関する。
課題を解決するための手段 【0011】(1)光半導体素子搭載領域となる凹部が2つ以上形成された光反射用熱硬化性樹脂組成物層を配線基板上に有する光半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法であって,前記光反射用熱硬化性樹脂組成物層をトランスファー成型により形成することを特徴とする,光半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法
【0012】(2)前記光反射用熱硬化性樹脂組成物が,(A)エポキシ樹脂,(B)硬化剤,(C)硬化促進剤,(D)無機充填剤,(E)白色顔料及び(F)カップリング剤を必須成分として含み,熱硬化後の,波長800nm〜350nmにおける光反射率が80%以上であり,熱硬化前には室温(25℃)で加圧成型可能 なものであることを特徴とする,上記(1)に記載の光半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法
【0017】(7)前記配線基板が,リードフレーム,プリント配線板,フレキシブル配線板,およびメタルベース配線板のいずれかであることを特徴とする,上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の光半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法
【0018】(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の製造方法によって得られる光半導体素子搭載用パッケージ基板に形成された2つ以上の凹部の各底面に,光半導体素子を搭載する工程,および前記光半導体素子を封止樹脂により覆う工程,を有することを特徴とする光半導体装置の製造方法
【0019】(9)前記樹脂封止工程後,前記光半導体素子を1つ有する光半導体装置単体に分割する工程,をさらに有することを特徴とする,上記(8)に記載の光半導体装置の製造方法
発明を実施するための最良の形態 【0023】本発明は,配線基板と,当該配線基板上に形成され,光半導体素子搭載領域となる凹部(貫通孔)が所定位置に2つ以上形成されている光反射用熱硬化性樹脂組成物層とを有する光半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法であって,上記光反射用熱硬化性樹脂組成物層をトランスファー成型により一括形成することをその特徴とするものである。
【0024】上記トランスファー成型による形成について,より具体的には,例えば,上記配線基板として,図1(a)に示すような,金属配線401を有するプリント配線板400を用い,これを図1(b)に示すように,所定形状の金型411内に配置し,金型411の樹脂注入口410から光反射用熱硬化性樹脂組成物を注入する。ついで,注入した光反射用熱硬化性樹脂組成物を好ましくは,金型温度170℃〜190℃で60秒〜120秒,アフターキュア温度120℃〜180℃で1時間〜3時間の条件で熱硬化させた後,金型411を外すことで,凹部(光半導体 素子搭載領域)420が2つ以上形成された光反射用熱硬化性樹脂組成物層(リフレクター)421を配線基板上に有する光半導体素子搭載用パッケージ基板430を得ることができる(図1(c),(d))。また,凹部底面の,光半導体素子が接続される端子表面に電気めっき等によりNi/Agめっき104を施すこともできる。また,凹部の形状は,特に限定されないが,搭載されたLED素子10が発する光を反射させて上方へ導くようなカップ形状(円錐台形状)であることが望ましい。
【0025】上記光反射用熱硬化性樹脂組成物としては,公知のものを使用することも可能であるが,好ましくは,熱硬化後の,波長800nm〜350nmにおける光反射率が80%以上であり,熱硬化前には室温(25℃)で加圧成型可能な光反射用熱硬化性樹脂組成物を用い,より好ましくは,(A)エポキシ樹脂,(B)硬化剤,(C)硬化促進剤,(D)無機充填剤,(E)白色顔料及び(F)カップリング剤を必須成分として含み,かつ熱硬化後の,波長800nm〜350nmにおける光反射率が80%以上であり,熱硬化前には室温(25℃)で加圧成型可能な光反射用熱硬化性樹脂組成物を用いる。
【0029】上記(D)無機充填材としては,例えば,シリカ,アルミナ,酸化マグネシウム,酸化アンチモン,水酸化アルミニウム,硫酸バリウム,炭酸マグネシウム,炭酸バリウム等を挙げることができ,これらは単独でも,併用して用いてもよい。熱伝導性,光反射特性,成型性,難燃性の点からは,シリカ,アルミナ,酸化アンチモン,水酸化アルミニウムのうちの2種以上の混合物であることが好ましい。
また,無機充填材の粒径は,特に制限はないが,白色顔料とのパッキング効率を考慮すると,平均粒径が1μm〜100μmの範囲であることが好ましい。
【0030】 (E) 上記 白色顔料としては,例えば,アルミナ,酸化マグネシウム,酸化アンチモン,水酸化アルミニウム,硫酸バリウム,炭酸マグネシウム,炭酸バリウム,無機中空粒子等を挙げることができ,これらは単独でも,併用して用いてもよい。‥また,白色顔料の粒径は,平均粒径が1〜50μmの範囲にあることが好ましい。平均粒径が1μm未満であると粒子が凝集しやすく,分散性が悪くなる傾 向があり,50μmを超えると反射特性が十分に得られなくなる傾向がある。
【0031】上記(D)無機充填材と上記(E)白色顔料の合計量は,光反射用熱硬化性樹脂組成物全体に対して,70〜85体積%の範囲であることが好ましい。
この合計量が70体積%未満であると熱伝導性や光反射特性が不十分になる恐れがあり,85体積%を超えると樹脂組成物の成型性が悪くなり,光半導体素子搭載用基板の作製が困難となる傾向がある。
【0034】また,本発明において用いる上記配線基板としては,公知のものを使用することができ,特に限定されないが,例えば,上記プリント配線のほかに,リードフレーム,フレキシブル配線板,メタルベース配線板等を用いることができる。
【0035】上記プリント配線は,例えば,銅箔付プリプレグに対して,公知の手法を用いて回路となる配線を形成した後,絶縁用の樹脂を回路上に形成して得ることができる。その際,絶縁用の樹脂及びプリプレグに含浸する樹脂には,LED素子からの光を効率よく反射できるように白色の絶縁樹脂を用いることが望ましい。
また,上記リードフレームは,例えば,銅,42アロイ等の基板を公知の手法を用いて回路を形成して得ることができる。その際,基板表面にはLED素子からの光を効率よく反射できるように銀めっきを施しておくことが望ましい。また,上記フレキシブル配線板は,例えば,銅箔付のポリイミド基板を公知の手法を用いて回路となる配線を形成した後,絶縁用の樹脂を回路上に形成して得ることができる。その際,絶縁用の樹脂にはLED素子からの光を効率よく反射できるように白色の絶縁樹脂を用いることが望ましい。また,上記メタルベース配線板は,例えば,銅やアルミニウムの基板に絶縁層を形成し,公知の手法を用いて回路となる配線を形成した後,絶縁用の樹脂を回路上に形成して得ることができる。その際,金属基板上の絶縁層及び回路絶縁用の樹脂にはLED素子からの光を効率よく反射できるように白色の絶縁樹脂を用いることが望ましい。
【0036】本発明の光半導体装置の製造方法は,上記本発明の光半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法により得られた光半導体素子搭載用パッケージ基板 に形成された2つ以上の凹部の各底面に,光半導体素子を搭載する工程,および当該光半導体素子を透明な封止樹脂により覆う工程,を有することをその特徴とするものである。
【0037】より具体的には,例えば,図1(c)および(d)に示す光半導体素子搭載用パッケージ基板430の凹部420の各底面の所定位置に,例えば,図2および図3に示すように,光半導体素子100を搭載し,該光半導体素子100と金属配線105とをボンディングワイヤ102,はんだバンプ107等の公知の方法で電気的に接続した後,公知の蛍光体106を含む透明な封止樹脂101により該光半導体素子100を覆うことで本発明の光半導体装置を製造する。なお,図1(c)および(d)には,光半導体素子を搭載する凹部が9箇所形成された場合について示されているが,本発明がこれに限定されないことはいうまでもない。
【0038】また,上記樹脂封止工程後に,マトリックス状である上記光半導体装置を,ダイシング,レーザ加工,ウォータージェット加工,金型加工等の公知の方法により分割することで,光半導体素子を1つ有する光半導体装置単体(SMD型光半導体装置)を得ることができる。好ましくは,図6に示すような,マトリックス状の光半導体装置にダイシングラインを形成し,これに沿ってダイシングする。
イ 引用発明2,本件各訂正発明と引用発明2の相違点 前記アによれば,引用例2には,本件審決が認定したとおりの引用発明2(前記第2の3?ア)が開示されていることが認められる。
また,本件各訂正発明と引用発明2の相違点は,本件審決が認定したとおり(前記第2の3?イ)であると認められる。
? 相違点の判断について ア 本件訂正発明1について 相違点2-2について 本件訂正発明1と引用発明本件訂正発明1のうち構成要件1C,特にリードの「切り欠き部」の有無に係るも のであるところ,本件訂正発明1の「切り欠き部」が,いわゆる多数個同時生産方式によって製造される発光装置において,樹脂成形体を個片化して樹脂パッケージに切断する際に生じる,リードフレームと樹脂成形体との剥離を抑制する効果を奏す 一方,引用発明2は,本件訂正発明1と同様の多数個同時生産方式による光半導体装置ではあるものの,引用例2の図3等に示されるように,外側面において, 「配線基板(金属配線)」上に「光反射用熱硬化性樹脂組成物層」が積層されており,4つの外側面のいずれにおいても,平面視において, 「リードフレームである配線基板」が「光反射用熱硬化性樹脂組成物層」により挟まれた構造とはなっていない。
周知の技術事項(引用例1,甲5〜8,13)の適用について 引用例1には「第1のリード21及び第2のリード31に凹凸を設け,第1の樹脂成形体40との接触面積を拡げている。これにより第1の樹脂成形体40から第1のリード21及び第2のリード31が抜脱するのを防止することができる。 こと 」(【0110】)の記載がある。また,甲5には「前記第1リードの突起部203及び前記第2リードの突起部303は,前記第1リード2及び前記第2リード3が前記絶縁体4から剥離し,抜け落ちるのを防止するために設けられており,‥前記絶縁体4の内部方向に折り曲げられている。」こと(【0057】)の記載があり,甲6には「分割された半導体装置のリード端子34の終端は,‥樹脂41表面付近で先細りの形状に形成されるために,リード端子34が樹脂層41の側面から抜け落ちることを防止している。」こと(【0028】)の記載があり,甲13には「リード部2の封止樹脂1と接着する部分に凹状のくぼみ3を設けている。このようにすることによって,トランスファーモールド時に,このくぼみ3に封止樹脂1が入り込み,アンカー効果がでる。」こと(【0014】)及び「パッケージ本体20の側面方向のリード幅と内側方向のリード幅を,内側方向のリード幅を太くするように変えて,‥アンカー効果を得ることができる。」こと(【0017】)の各記載がある。
これらの記載によれば,引用例1,甲5,甲6及び甲13には,樹脂からの抜けを 防止するためにリードに何らかの構造を設ける技術が開示されているものと認められる。
しかし,上記の各文献に記載された発光装置又は半導体装置は,いずれも,その外側面において,平面視で,リードが樹脂により挟まれた構造となっているところ,このような構造を有していない引用発明2においては,上記の技術事項を適用する前提が欠けているから,上記の技術事項を適用する動機付けがないというべきである。
また,甲7及び8は,相違点2-2に係る本件訂正発明1の,4つの外側面それぞれに互いに分離して設けられた「切り欠き部」の構成を開示するものではないから,これを適用したとしても,本件訂正発明1の構成に至らない。
仮に,引用例1に記載された「凹凸」や甲13に記載された「凹状のくぼみ」を,リードと樹脂との密着性を向上させるための「切り欠き部」と捉えて,引用発明2のリードフレームに適用したとしても,引用例2,引用例1,甲5〜甲8及び甲13のいずれにも,樹脂成形体をダイシングにより分割して樹脂パッケージに個片化する際に,熱硬化性樹脂組成物層とリードフレームとが剥離するという課題については記載も示唆もされていない。
そうすると,かかる「切り欠き部」を,切断時のリードと樹脂部との剥離を防止すべく,特に発光装置の4つの外側面それぞれに沿って形成して,相違点2-2に係る本件訂正発明1の構成とすることが,当業者において容易にできたものとはいえない。
甲14及び甲15に記載された技術事項の適用について 甲14には,いわゆる多数個同時生産方式によって製造されるLED(発光装置)において,電極となるメタル基板の完成LEDの外周にあたる部分に板厚を貫通するスリットを形成しておき,前記メタル基板上に,前記完成LEDの外周にあたる部分に板厚を貫通するスリットを形成した樹脂基板を接合した後,ダイシングラインに沿ってLEDを単個に分離することが記載されているところ 【0021】 【0 ( 〜 027】,各スリットは単個に分離された完成LEDの外周にあたる部分に形成さ )れているから,前記ダイシングラインに沿って形成されているものと認められる。
また,甲15には,いわゆる多数個同時生産方式によって製造される半導体装置において,配線パターンが形成された基板のダイシング位置にスリットを形成しておき,ダイシング位置をダイシングソーを用いて切断して個々の半導体装置を分離させること,前記スリットを形成したことにより,ダイシングソーは基板に比べて軟質なモールド樹脂を主に切断処理することとなるため,分離処理を行う治具の長寿命化を図ることが可能となることが記載されている 【0165】 【0168】。
( 〜 ) このように,甲14及び甲15には,いわゆる多数個同時生産方式によって製造される発光装置又は半導体装置において,基板のダイシング(切断)を行う部分にスリットを形成するという技術事項が開示されている。
しかし,これらのスリットは,基板と樹脂との密着性を向上させるためのものではなく,専ら,当該基板を含めた装置全体の切断を容易にするために設けられたものであると認められ,切断後の装置の外側面に敢えて基板の一部(スリットが設けられていない部分)を残すように形成する必要性がなく,課題や作用の共通性がない。
そうすると,引用発明2に甲14,甲15の技術を適用する動機付けがなく,よって,甲14又は甲15に接した当業者が,引用発明2において,装置の外側面に露出するリードフレームに,リードとして機能する部分を残しながら「切り欠き部」を設けることを容易に想起し得たものとは認められない。
したがって,相違点2-2に係る本件訂正発明1の構成は,引用発明2に基づいて当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
小括 以上のとおりであるから,その余の相違点について検討するまでもなく,本件訂正発明1は,当業者が引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件訂正発明2について 本件訂正発明2は,引用発明2と本件訂正発明1との相違点2-2と同一の点において相違するので,その余の相違点について検討するまでもなく,当業者が引用発明2に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
ウ 原告の主張について 原告は,熱硬化性樹脂とリードフレームの密着性を高めることは当業者に自明の課題であり,切り欠き部を有さない引用発明2の「配線基板」 リードフレーム) (に,引用例1(甲3),甲6及び甲13が開示するようなリードの形状を適用する動機付けは十分にあると主張する。
しかし,原告が提出する証拠(甲3,6及び13)のいずれにも,多数個同時生産方式において特に生じる,切断時のリードと樹脂部との剥離という課題については記載や示唆はなく,切り欠き部への熱硬化性樹脂の充填領域をなるべく多くするために切り欠き部を外側面に設けるという解決方法に想到する契機もないから,仮に,引用発明2に上記解決方法に係る技術を適用したとしても,当業者において,かかる「切り欠き部」を,切断時のリードと樹脂部との剥離を防止するために,特に4つの外側面それぞれに配置することを容易に想起し得たとは認められない。
原告は,甲14にはメタル基板(リードフレーム)にスリットを設けた態様のものが開示され,甲15にはダイシング位置に形成されたスリットにモールド樹脂を充填させることでダイシングソーが軟質なモールド樹脂を切断することとなる結果,基板(リードフレーム)に印加される応力の低減が図られる旨の教示があるとも主張する。
なるほど,甲14及び甲15には,基板のダイシング(切断)を行う部分にスリットを形成するという技術事項が開示されているけれども,これらのスリットは,前ていない部分)を残すように形成する必要性のないものである。そうすると,甲14又は甲15に接した当業者が,引用発明2において,装置の外側面に露出するリ ードフレームに,リードとして機能する部分を残しながら「切り欠き部」を設けることを容易に想起し得たとは認められない。
よって,原告の主張はいずれも理由がない。
エ 本件訂正発明3,5,6,8〜10について 本件訂正発明3,5,6,8〜10は,本件訂正発明1又は本件訂正発明2の発明特定事項を全て含み,他の限定を付したものであるから,前記アと同様の理由により,引用発明2に基づいて,当業者が容易に発明できたものとは認められない。
? 小括 以上のとおり,本件訂正発明1〜3,5,6,8〜10は,引用発明2に基づいて当業者が容易に発明できたものとは認められないから,取消事由5は理由がない。
7 結論 よって,原告の請求は理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 部眞規子
裁判官 小林康彦
裁判官 関根澄子