関連審決 | 不服2018-12494 |
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事件 |
令和
1年
(行ケ)
10116号
審決取消請求事件
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原告 住友重機械ファインテック株 式会社 同訴訟代理人弁護士 福土勝也 同訴訟代理人弁理士 谷水浩一 井津健太郎 安藤公祐 西脇美奈子 被告 特許庁長官 同 指定代理人金公彦 菊地則義 河本充雄 豊田純一 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2020/05/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が不服2018−12494号事件について令和元年7月22日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,独立特許要件違反(新規性,進歩性欠如)の判断の誤りの有無である。 1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「回転ドラム型磁気分離装置」とする発明につき,平成26年10月1日,特許出願(特願2014-202824号。甲9。以下「本願」という。 をし, ) 平成29年10月27日付け及び平成30年3月5日付けで特許請求の範囲等を補正する手続補正をした(甲10,甲12の2)が,同年6月12日付けで拒絶査定(甲13)を受けたので,同年9月19日,拒絶査定不服審判請求をし(甲14の1) 同審判請求は, , 不服2018-12494号として審理された。 原告は,同日,特許請求の範囲を補正する手続補正(以下「本件補正」という。 甲14の2)をしたが,特許庁は,令和元年7月22日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同審決謄本は,同年8月6日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲の記載(甲9,10,甲12の2,甲14の2) (1) 本件補正前(平成29年10月27日付けの補正後)の本願の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(同請求項に係る発明を,以下「本件補正前発明」という。。 ) 「複数の磁石を配置した第1の回転ドラムを備え,使用済みクーラント液中の磁性体を分離する回転ドラム型磁気分離装置において, 複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを,前記第1の回転ドラムよりも使用済みクーラント液が流入してくる手前側に備え, 前記第2の回転ドラムが使用済みクーラント液中の磁性体を磁化することで,該磁性体を互いに吸着させて大きくするとともに, 前記第2の回転ドラムに付着した磁性体を掻き取るスクレパーと, 前記第1の回転ドラム下部の流路を形成する底部材とを備え, 前記スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま,前記使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導されることを特徴とする回転ドラム型磁気分離装置。」 (2) 本件補正後の本願の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(同請求項に係る発明を,以下「本件補正発明」という。。 ) 「複数の磁石を配置した第1の回転ドラムを備え,使用済みクーラント液中の磁性体を分離する回転ドラム型磁気分離装置において, 複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを,前記第1の回転ドラムよりも使用済みクーラント液が流入してくる手前側に備え, 前記使用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ, 前記第2の回転ドラムが使用済みクーラント液中の磁性体を磁化することで,該磁性体を互いに吸着させて大きくするとともに, 前記第2の回転ドラムに付着した磁性体を掻き取るスクレパーと, 前記第1の回転ドラム下部の流路を形成する底部材とを備え, 前記スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま,前記使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導されることを特徴とする回転ドラム型磁気分離装置。」 3 本件審決の理由の要旨 (1) 引用発明について 実願昭50-104558号(実開昭52-19080号)のマイクロフィルム(以下「引用文献1」という。甲1)には,以下のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。 「工作機械の切削油,冷却液等に混入する鉄粉等の磁性を有する切屑の分離排出装置であって,鉄粉等を含有するダーティオイルである混濁液を工作機械からオイルタンク中に排出するオイル排出口,ダーティオイル21とクリーンオイル23とを仕切る仕切板19,装置の側壁に回動自在に支承され,複数のパーマネントマグネットを配置したマグネットドラム25,27,29,31,32,マグネットドラム25,27,29,31,32の外周面に接するように固設されたカキ取り板39,及びクリーンオイル23を工作機械に送るポンプPを備え,オイル排出口から流下した混濁液中の鉄粉は仕切板19に沿って沈降し,マグネットドラム25の付近に落下して沈殿し,沈殿した鉄粉はマグネットドラム25の外周面に吸着され,鉄粉はカキ取り板にて分離されカキ取り板の表面に沿って徐々に送り出され,マグネットドラム25からかなりの間隔となった時点で次のマグネットドラム27の外周面に吸着される,装置。」 (2) 一致点及び相違点 本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア 一致点 「複数の磁石を配置した第1の回転ドラムを備え,使用済みクーラント液中の磁性体を分離する回転ドラム型磁気分離装置において,複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを備え,前記第2の回転ドラムに付着した磁性体を掻き取るスクレパーと,前記第1の回転ドラム下部の流路を形成する底部材とを備え,前記スクレパーにより掻き取られた磁性体が前記第1の回転ドラムへ誘導される回転ドラム型磁気分離装置。」である点 イ 相違点 (ア) 相違点1 本件補正発明は「第2の回転ドラムが使用済みクーラント液中の磁性体を磁化することで,該磁性体を互いに吸着させて大きく」なるものであるが,引用発明は磁性体が互いに吸着して大きくなっているか否かが不明な点。 (イ) 相違点2 本件補正発明は「複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを,前記第1の回転ドラムよりも使用済みクーラント液が流入してくる手前側に備え,使用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ」ることにより,スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま「使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導される」ものであるが,引用発明は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって混濁液が流れているか否かが明らかでなく,マグネットドラム25から27への鉄粉の誘導が混濁液の流れに沿ったものであるかが不明な点。 (3) 相違点についての判断 ア 相違点1について 引用発明においては,装置に導入された混濁液中の鉄粉は磁石が配置されたマグネットドラム25に吸着されるから,その際に付着した鉄粉は磁化され,磁化された鉄粉どうしが互いに吸着されて大きくなっている蓋然性が高い。 したがって,相違点1は実質的な相違点ではない。 イ 相違点2について (ア) 引用発明においては,オイル排出口15から混濁液が流下すること及びマグネットドラム25が第3図で示された矢印方向へ回転していることからして,緩やかではあるものの,マグネットドラム25に固設されたカキ取り板39によって分離された鉄粉をカキ取り板の表面に沿って徐々に送り出すような緩い流れ,すなわち,下図(以下「審決参考図面」という。)の矢印のとおり,マグネットドラム27の下部に右向きの緩やかな流れが形成され,付随してマグネットドラム25からマグネットドラム27へカキ取り板39に沿って混濁液の緩やかな流れが形成されている蓋然性が高い。 したがって,相違点2は実質的な相違点ではない。 (イ) 仮に,相違点2において,マグネットドラム25からマグネットドラム27へカキ取り板39に沿って混濁液の緩やかな流れが自然には形成されていなかったとしても,引用発明における鉄粉の流れは,マグネットドラム25の外周面に吸着された後,カキ取り板にて分離され,カキ取り板の表面に沿って徐々に送り出され,マグネットドラム25からかなりの間隔となった時点で次のマグネットドラム27の外周面に吸着されるものであるから,当業者は,オイルタンク中にこのような鉄粉の流れを促すような混濁液の流れを生じさせること,すなわち,マグネットドラム25からマグネットドラム27へカキ取り板39に沿って流れが形成されるように,オイル排出口15からの混濁液の流下やポンプPからの排出を調整し,オイルタンク内において,おおよそ審決参考図面の矢印で示されるような流れが形成されるようにすることは,容易になし得ることである。 ウ したがって,本件補正発明は引用文献1に記載された発明であるから,新規性を欠き,仮に,新規性が認められるとしても,引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠き,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 (4) 本件補正前発明について 本件補正前発明は,本件補正発明から, 「前記使用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ,」に係る限定事項を削除したものである。 そうすると,本件補正前発明の発明特定事項を全て含み,上記限定事項を付加したものに相当する本件補正発明が,前記(3)のとおり,引用文献1に記載された発明であるから,本件補正前発明も,引用文献1に記載された発明である。 また,仮に,本件補正前発明が,引用文献1に記載された発明とはいえないとしても,前記(3)のとおり,引用文献1に記載された発明及び引用文献1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 したがって,本件補正前発明は,特許法29条2項により特許を受けることができない。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由(本件補正発明についての新規性及び進歩性の有無の判断の誤り) (1) 相違点の認定の誤り ア 本件補正発明と引用発明との間に,本件審決が認定した相違点1が存在することは認める。 イ 本件審決が認定した相違点2について (ア) 引用文献1には, 「沈降,沈殿した不純物はマグネットドラム25の外周面に吸着され,カキ取り板39にて分離されカキ取り板39の表面に沿って徐々に送り出されてゆく。このカキ取られた不純物がマグネットドラム25からかなりの間隔となった時点で次のマグネットドラム27の外周面に吸着され」と記載されている(4頁14行〜20行)ことから,引用発明において,スクレパーにより掻き取られた磁性体は,スクレパーの表面を徐々に送り出されるのみであって,使用済みクーラント液の流れに沿って次のマグネットドラムへ誘導されていない。 仮に,審決参考図面の矢印のような流れを生じさせたとしても,混濁液は,マグネットドラム25の上側から,カキ取り板39の上部表面を通過する流れを形成していないことから,スクレパーにより掻き取られた磁性体は,使用済みクーラント液の流れに沿って次のマグネットドラムへ誘導されていない。 (イ) したがって,相違点2は,以下のとおり認定すべきである。 本件補正発明は, 「複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを,前記第1の回転ドラムよりも使用済みクーラント液が流入してくる手前側に備え,使用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ」ることにより,スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま「使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導される」ものであるが,引用発明は,マグネットドラム25からマグネットドラム27に向かって混濁液が流れているか否かが明らかでなく,また,カキ取り板39によって掻き取られた鉄粉が大きくなった状態のまま,混濁液の流れに沿ってマグネットドラム25からマグネットドラム27へ誘導されるものであるかが不明である点 ウ 相違点3の存在 (ア) 引用文献1には, 「鉄粉等の不純物は液体より比重が大きいため排出口15からオイルと一緒に排出される不純物は仕切板19に沿って沈降し,最下端のマグネットドラム25の近辺に沈殿していく。沈降,沈殿した不純物はマグネットドラム25の外周面に吸着され,カキ取り板39にて分離されカキ取り板39の表面に沿って徐々に送り出されてゆく。このカキ取られた不純物がマグネットドラム25からかなりの間隔となった時点で次のマグネットドラム27の外周面に吸着され以下同様にカキ取り板39,マグネットドラム29,カキ取り板39,マグネットドラム31,カキ取り板39,マグネットドラム32,カキ取り板39を経て受け箱41に排出されるのである。」と記載されている(4頁10行〜5頁4行)ことからすると,引用発明は,不純物を沈降,沈殿によりマグネットドラム25に吸着させるものであり,マグネットドラム27とタンク底部との間に流路は形成されていない。 (イ) したがって,本件補正発明と引用発明との間には,以下のとおりの相違点3が存在する。 本件補正発明では,第1の回転ドラムと底部材との間にクーラント液の流路を形成するのに対し,引用発明は,マグネットドラム27とタンク底部との間にクーラント液の流路を形成していない点 (2) 相違点2の判断の誤り ア 新規性について (ア) 引用文献1には, 「前記使用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ」ることが一切記載されていないだけでなく,そもそも本件補正発明の使用済みクーラント液に相当する「混濁液」の流れについて記載も示唆もされていない。 (イ) 引用文献1には, 「本考案は,工作機械の切削油,冷却液等に混入する鉄粉等の磁性を有する切屑の分離排出装置に関するもので,従来,鉄粉等を分離排出する装置には種々の問題があった。例えば第1図に示す装置は,コンベアー方式によるもので,タンク1内にカキ揚げ式のコンベアー3を設置し,排出口5より流出する混濁液に含まれた鉄粉をコンベアーによって補足排出させるもので,この装置においてはコンベアーの側面等よりこぼれ落ちる鉄粉がかなりあり非能率的であるのみならず落下した鉄粉がタンク底部に堆積し腐敗する恐れがある。」と記載されている(1頁13行〜2頁3行,第1図)ことからすると,従来のコンベアー方式の分離排出装置は,タンク1内で鉄粉を沈降させ,沈降した鉄粉をカキ揚げ式のコンベアーで排出させる装置であると認められる。 また,引用文献1には, 「本考案は,マグネットドラムをタンク内に複数個設置しタンク底部に沈殿した鉄粉ならびに混濁液内に浮遊する微細な鉄粉までもマグネットドラムに吸着させ常時タンク外へ排出させることにより上述の欠点を解消しようとするものである。」と記載されている(2頁15行〜20行)ことからすると,引用発明は,従来の分離排出装置において,コンベアー方式により鉄粉を排出する手段を,マグネットドラムを用いて鉄粉を排出する手段に置換したものであり,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉までもマグネットドラムに吸着させてタンク外へ排出するものである。 さらに,引用文献1には,仕切板19によりダーティオイル21とクリーンオイル23に仕切られたオイルタンク17が記載されており,引用発明においては,混濁液は,オイル排出口15より,オイルタンク17のダーティオイル21の槽に投入され,ダーティオイル21の槽では,前記混濁液に含まれる鉄粉等が沈降して,最下端のマグネットドラム25の外周面に吸着する一方,鉄粉等が沈降することにより分離された混濁液(分離液)は,仕切板19の上部から越流してクリーンオイル23の槽に溜められ,ポンプPにより吸い上げられて,工作機械に送られる(3頁2行〜4頁17行,第3図)。 以上のとおり,引用発明において,混濁液に含まれる鉄粉及び浮遊する微細な鉄粉は,タンク内にて沈降分離し,最下端に配置されたマグネットドラム25の外周面に吸着させるという処理が行われる。 (ウ) 一般的に,液体と固体の混濁液から沈降により固体を分離する場合,沈降物が舞い上がって分離液と共に流出しないように,混濁液を静かに投入することが通常であるから,引用発明において,混濁液はオイル排出口15から静かに投入されるので,槽の下部では,マグネットドラム25からマグネットドラム27への向かう混濁液の流れが生じていないといえる。 したがって,相違点2について,本件審決が,マグネットドラム25からマグネトドラム27へカキ取り板39に沿って混濁液の緩やかな流れが形成されている蓋然性が高いと認定したことは誤りである。 (エ) 引用発明の認定において,発明の構成要件のすべてが示されていない場合に,推測,類推をすることによってはじめて,構成要件が充足されると認識又は理解できるような発明は,特許法29条1項所定の文献に記載された発明ということはできない。本件補正発明の「前記使用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ」るとの構成要件は,混濁液の流れや流路について記載も示唆もない引用文献1から,推測又は類推をすることによってはじめて充足される事項である。本件審決は,本件補正発明の知識を得た上で後知恵的に引用文献1に記載されている事項の認定を行ったものである。 (オ) 被告の主張について a 被告は,引用文献1の第3図のオイル排出口15内に記載される矢印は混濁液の流れを示すこと及びクリーンオイル23がポンプPにより工作機械に送られるものであることから,引用発明において,以下の参考図面(以下「訴訟参考図面」という。)の太矢印に示されるような混濁液の流れが生じると主張する。 しかし,オイルタンク内において,どのような混濁液の流れが生じているかは,排出口15から流入する混濁液の流量によって変化することは技術常識であるところ,引用文献1には,排出口15より流入する混濁液の流量について,何ら記載も示唆もされていない。 また,引用発明は,混濁液に含まれる鉄粉等の不純物を仕切板19に沿って沈降させ,オイルタンク17の最下端に配置されたマグネットドラム25の近辺に沈殿させることにより,マグネットドラム25に吸着させるものである。ここで,マグネットドラム25の近辺に混濁液の流れを生じると,マグネットドラム25の近辺に沈殿した鉄粉等の不純物を浮遊させてしまうことになり,マグネットドラム25への吸着を妨害することになるから,引用発明は,排出口15から流入する混濁液の流量を小さくして,オイルタンク17の下部には混濁液の流れを生じさせないものと解するのが妥当である。 さらに,訴訟参考図面の混濁液の流れ方向は,引用文献1に記載も示唆もされておらず,また,鉄粉等の不純物の流れとも一致しないから,根拠がない。仮に,混濁液の流れが生じるとしても,鉄粉等の不純物は,仕切板19に沿って沈降するから,鉄粉等を含有した混濁液は,仕切板19とマグネットドラム25の間を流下するというべきである。 また,訴訟参考図面の流れは,本件審決で認定した混濁液の流れと異なるから,訴訟参考図面の流れの主張をすることは,信義則上許されない。 b 被告は,実願昭46-95485号(実開昭48-53668号)のマイクロフィルム(乙1。以下「乙1文献」という。)に記載された発明から,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉をマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与えることにより除去することは,本願の出願当時の技術常識であるとし,引用発明においても,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉をオイルタンク内に複数個設置されたマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与える混濁液の緩やかな流れが生じて,マグネットドラム25からマグネットドラム27に向かって混濁液が流れると主張する。 しかし,引用発明は,鉄粉等を含有した混濁液は排出口15からタンク17に流下され,液体より比重の大きい鉄粉等の不純物は仕切板19に沿って沈降し,混濁液内に設置されている最下端のマグネットドラム25の近辺に沈殿させることで,沈降した不純物をマグネットドラム25の外周面に吸着させるものである。 一方,乙1文献に記載された発明は,引用文献1のマグネットドラムに相当する複数の小磁石を有する円筒1を,混濁液に相当する磁性微粒子を含んだ液(8)に円筒の表面が浸るように設置して回転させ,液(5)も流動させて液中(5)に存在する微粒子を磁石に接近して吸引されるような機会を与えるものである。 このように,引用発明は,不純物を沈降させるものであるのに対し,乙1文献に記載された発明は,微粒子を流動させるものであり,不純物(微粒子)をマグネットドラムに付着させるための技術的思想が全く異なるから,引用発明に乙1文献に記載された発明を適用するには阻害要因がある。 また,乙1文献に記載された発明は,微粒子を磁石に接近して吸引されるような機会を与えるために液を流動させることが記載されているにすぎず,どのような流れを形成するかは特定できないから,引用発明において,乙1文献に記載された発明を参酌しても,どのような流れを形成するのかは特定することができない。したがって,引用発明において,マグネットドラム25からマグネットドラム27に向かって混濁液が流れるという被告の主張も根拠を欠く。 よって,被告の上記主張は誤りである。 イ 進歩性について (ア) 引用文献1には,オイルタンク中において鉄粉の流れを促すような混濁液の流れを生じさせる動機について記載も示唆もされておらず,ましてや,本件補正発明で特定するような「第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ」るという具体的な流れを生じさせる根拠について何ら示されていない。また,引用発明において,混濁液中に浮遊する微細な鉄粉をマグネットドラムに吸着させるという処理を考慮すると,浮遊する微細な鉄粉がオイルタンクから排出されないように,オイルタンク中に混濁液の流れを生じさせるはずもない。 (イ) 引用文献1には, 「クリーンオイル23はポンプPにより工作機械(図示省略)に送られ,所定の加工工程を経て排出口15より鉄粉等を含有した混濁液となってタンク17内に流下される。鉄粉等の不純物は液体より比重が大きいため排出口15からオイルと一緒に排出される不純物は仕切板19に沿って沈降し,最下端のマグネットドラム25の近辺に沈殿していく。沈降,沈殿した不純物はマグネットドラム25の外周面に吸着され,カキ取り板39にて分離されカキ取り板39の表面に沿って徐々に送り出されてゆく。このカキ取られた不純物がマグネットドラム25からかなりの間隔となった時点で次のマグネットドラム27の外周面に吸着され以下同様にカキ取り板39,マグネットドラム29,カキ取り板39,マグネットドラム31,カキ取り板39,マグネットドラム32,カキ取り板39を経て受け箱41に排出されるのである。以上のごとく本考案はマグネットドラムの組み合わせによりタンク底部に沈殿した不純物ならびにオイル内に浮遊する不純物までも容易にタンク内から分離排出することができ,従来,問題とされてきたポンプの故障,オイル劣化等の危惧をなくする。また不純物の沈殿する位置にマグネットドラムを設けたので不純物の分離排出作業が能率的でタンク内の掃除をする必要がない等著しい効果を奏する。と記載されている 」 (4頁7行〜5頁13行,第3図)ことからすると,引用発明は,混濁液がタンク17に流下された後,混濁液に含まれる鉄粉等の不純物を仕切板19に沿って沈降させ,最下端に配置されたマグネットドラム25の近辺に沈殿させるものであり,これにより,マグネットドラム25に不純物が吸着するため,不純物がタンク底部に堆積し腐敗することを防止するという効果を発揮する。 仮に,審決参考図面のような混濁液の流れを生じさせたとすると,以下の図に示すとおり,マグネットドラム25の近辺に沈殿した不純物は,マグネットドラム25の遠方に流れてしまい,マグネットドラム25に吸着されずにタンク底部に堆積する。したがって,上記の混濁液の流れを形成すると,引用発明の効果が阻害されることになるから,引用発明において,上記混濁液の流れを形成することには阻害要因があるといえる。 また,引用発明は,鉄粉等の不純物を最下端のマグネットドラムの近辺に沈殿させてマグネットドラム25の外周面に吸着させるものであるから,鉄粉等の不純物をマグネットドラム25の近辺に沈殿することを妨げるような混濁液の流れを生じさせることには阻害要因がある。 (ウ) 引用文献1には,オイルタンク中において鉄粉の流れを促すような混濁液の流れを生じさせる動機について記載も示唆もされていないし,仮に,審決参考図面の矢印のような流れを生じさせたとしても,混濁液は,マグネットドラム25の上部からカキ取り板39の上部表面を流れないことから,スクレパーにより掻き取られた磁性体は,使用済みクーラント液の流れに沿って次のマグネットドラムへ誘導されていない。 したがって,引用発明において,本件補正発明の「前記スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま,前記使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導される」という発明特定事項には想到し得ない。 (3) 相違点3の判断の誤り 前記(2)のとおり,引用文献1には,オイルタンク中において鉄粉の流れを促すような混濁液の流れを生じさせる動機について記載も示唆もされておらず,ましてや,マグネットドラム25とタンク底部との間に混濁液の流れを形成する根拠についても何ら示されていない。 また,前記(2)のとおり,マグネットドラム25とタンク底部との間に混濁液の流れを形成すると,タンク底部に不純物が堆積する恐れがあることから,マグネットドラムとタンク底部との間に流路を形成することには,阻害要因があるといえる。 したがって,相違点3について,当業者は,引用文献1に記載された事項から容易に想到することができるとはいえない。 (4) 以上より,本件補正発明は,引用文献1に記載された事項から容易に想到することができるとはいえないから,本件審決の本件補正発明についての容易想到性の判断は誤りである。 2 前記1のとおり,本件補正は適法であるから,本件補正発明を対象として,新規性及び進歩性の有無の判断をすべきである。したがって,本件補正を却下し,本件補正前発明について新規性及び進歩性が認められないと判断した本件審決は誤りである。 |
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被告の主張
1 取消事由(本件補正発明についての容易想到性の判断の誤り)について (1) 相違点の認定の誤りについて ア 本件補正後発明と引用発明との間に,原告が主張する相違点2が存在することは認める。 イ 相違点3について 後記(2)アのとおり,引用発明は,混濁液の流れによりマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与えることにより,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉を,タンク内に複数個設置されたマグネットドラムの組合せによって除去しようとするものであるところ,引用文献1の第3図によると,マグネットドラム27とオイルタンク17の底部の間には間隙が設けられており,混濁液のような液体は,通常,部材の間の間隙を流れるという特性を有することは明らかであって,かつ,引用発明は,特段,これらの部材の間の間隙の混濁液の流れを阻止しようとするものでもない。「流路」とは,「水や電気などが流れる道」をいうものであり,液体が流れる部材の間の間隙は「流路」にほかならないから,引用発明において,オイルタンク17内で,少なくとも訴訟参考図面の太矢印に示されるような,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉を,タンク内に複数個設置されたマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与える混濁液の緩やかな流れが生じて,マグネットドラム27とオイルタンク17底部との間に混濁液の流路が形成されることは明らかである。オイルタンク17は,引用発明を構成する部材の一つであり,オイルタンク17底部は「底部材」といえる一方,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1においては,「第1の回転ドラム下部の流路を形成する底部材」についての構成は, 「流路を形成する」こと以外,何ら特定されていない。これらのことからすると,本件補正発明と引用発明との間に上記相違点3は存在しないというべきである。 したがって,相違点3を一致点とした本件審決の判断に誤りはない。 (2) 相違点2の判断の誤りについて ア 新規性について (ア) 引用文献1に基づく検討 引用文献1の記載(2頁15行〜20行)によると,引用発明は,マグネットドラムをタンク内に複数個設置し,タンク底部に沈澱した鉄粉及び混濁液内に浮遊する微細な鉄粉までもマグネットドラムに吸着させ常時タンク外へ排出させるものであることが認められるところ,引用文献1の記載(3頁2行〜8行,4頁3行〜5頁4行,第3図)によると,オイルタンク17に,オイル排出口15より排出される混濁液に含まれる鉄粉等がマグネットドラム25の附近に落下しやすいように適宜傾斜して仕切板19が設けられており,装置の作動時には,マグネットドラム25,27,29,31,32が同時に回転し始める一方,クリーンオイル23がポンプPにより工作機械に送られ,所定の加工工程を経てオイル排出口15より鉄粉等を含有した混濁液となってオイルタンク17内に流下され,鉄粉等の不純物は液体より比重が大きいため,オイル排出口15からオイルと一緒に排出される不純物は仕切板19に沿って沈降し,最下端のマグネットドラム25の近辺に沈澱していき,沈降,沈澱した不純物はマグネットドラム25の外周面に吸着され,カキ取り板39にて分離されカキ取り板39の表面に沿って徐々に送り出されていき,このカキ取られた不純物がマグネットドラム25からかなりの間隔となった時点で次のマグネットドラム27の外周面に吸着され,以下同様に,カキ取り板39,マグネットドラム29,カキ取り板39,マグネットドラム31,カキ取り板39,マグネットドラム32,カキ取り板39を経て,受け箱41に排出されるものであることが認められ,また,引用文献1の記載(5頁5行〜13行)によると,上記マグネットドラムの組合せにより,タンク底部に沈澱した不純物やオイル内に浮遊する不純物までもが容易にタンク内から分離排出することができるものであることが認められる。 そして,引用発明においては,オイルタンク17,オイル排出口15,マグネットドラム25,27,29,31,32,仕切板19及びポンプPが,引用文献1の第3図に記載される構成を有するところ,第3図のオイル排出口15内に記載される矢印は混濁液の流れを示すこと及びクリーンオイル23がポンプPにより工作機械に送られるものであることからすると,引用発明において,オイルタンク17内で,少なくとも訴訟参考図面の太矢印に示されるような混濁液の流れが生じること,このとき,カキ取り板39によって掻き取られた鉄粉と混濁液の流れ方向が合致することで,カキ取り板39によって掻き取られた鉄粉が大きくなった状態のまま,混濁液の流れに沿ってマグネットドラム25からマグネットドラム27へ誘導されるものとなることは,当業者にとって明らかである。 したがって,引用文献1の記載事項から,引用発明において, 「複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを,前記第1の回転ドラムよりも使用済みクーラント液が流入してくる手前側に備え,使用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ」ることにより,スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま「使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導される」ことは明らかである。 (イ) 技術常識に基づく検討 a 乙1文献の記載(1頁12行〜3頁6行)からすると,同文献には,以下の技術が記載されている。 すなわち,工作機械による切削作業等を行うとき,水又は油などの液中に金属の微粒子が多く存在するようになり,この微粒子を除去して液を清浄にする必要があるが,微粒金属が甚だ微小な場合,液中でいつまでも浮遊しているから簡単に分離し難いため,従来,液中に存在する磁性体の微粒金属を除去するために液中で移動する磁界を与えて,磁性金属の微粒子を磁力によって吸引し集収して除去するようにして液を清浄にする装置があり,当該装置は,非磁性体でつくられた長い円筒(1)の表面上に,複数の小磁石のS,N極の間を非磁性体の小片(7)をはさんで円環(3)を形成し,円筒(1)の中心軸として回転軸(4)を有し,回転軸を水平にして回転するようになっているものであり,以上のような構成で磁性微粒子を含んだ液(8)をこの装置の円筒の表面に浸るようにして円筒を回転し,液(5)も流動させて液中(5)に存在する微粒子を磁石に接近して吸引されるような機会を与えるようにすると,円筒(1)を回転している間に液中に浮遊する磁性体の微粒子は磁石に接近し吸引せられて磁極付近に多く集まり,付着して,除去されるものである。 b 上記の乙1文献記載の装置における,工作機械の水又は油などの液及び液中を浮遊している磁性体の微粒金属は,それぞれ,引用発明における混濁液及び混濁液内に浮遊する微細な鉄粉に相当し,円筒(1)及び磁石の円環(3)等からなる一体の円筒は,液中の磁性体の微粒金属を磁石により除去するものである点で,引用発明におけるマグネットドラムに相当するから,乙1文献には,@混濁液中にはいつまでも浮遊する微細な鉄粉が存在すること,A従来,そのような微細な鉄粉を回転するマグネットドラムにより除去して混濁液を清浄にする装置があったこと,Bそのような従来からある装置は,混濁液を流動させて微細な鉄粉をマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与えることにより除去するものであることが開示されるものである。 そして,乙1文献が,昭和46年10月16日を出願日とする実用新案登録出願に係るものであることからすると,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉を回転するマグネットドラムで除去する場合,混濁液を流動させて,微細な鉄粉をマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与えることにより除去することは,本願出願時及び引用発明がされたときにおいて,技術常識であったといえる。 c 前記(ア)のとおり,引用発明は,マグネットドラムをタンク内に複数個設置し,タンク底部に沈澱した鉄粉や混濁液内に浮遊する微細な鉄粉までもマグネットドラムに吸着させ常時タンク外へ排出させるものであるところ,上記bの本願の出願時の技術常識によると,引用発明が,混濁液の流れによりマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与えることにより,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉を,タンク内に複数個設置されたマグネットドラムの組合せによって除去しようとするものであることは明らかである。 また,引用文献1の第3図によると,マグネットドラム27とカキ取り板39の間には間隙が設けられており,混濁液のような液体は,通常,部材の間の間隙を流れるという特性を有することは明らかであって,かつ,引用発明は,特段,これらの部材の間の間隙の混濁液の流れを阻止しようとするものでもない。 したがって,前記(ア)で指摘した引用文献1の記載,前記bの技術常識及び液体の特性からしても,引用発明において,少なくとも訴訟参考図面の太矢印に示されるような,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉をオイルタンク内に複数個設置されたマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与える混濁液の緩やかな流れが生じて,マグネットドラム25からマグネットドラム27に向かって混濁液が流れること,このとき,カキ取り板39によって掻き取られた鉄粉と混濁液の流れ方向が合致することで,カキ取り板39によって掻き取られた鉄粉が大きくなった状態のまま,混濁液の流れに沿ってマグネットドラム25からマグネットドラム27へ誘導されるものとなることは,当業者にとって明らかである。 (ウ) 原告の主張について a 原告は,引用発明は,従来の分離排出装置において,コンベアー方式により鉄粉を排出する手段を,マグネットドラムを用いて鉄粉を排出する手段に置換したものであり,引用発明において,混濁液に含まれる鉄粉及び浮遊する微細な鉄粉は,タンク内にて沈降分離し,最下端に配置されたマグネットドラム25の外周面に吸着させるという処理が行われると主張する。 しかし,引用発明は,マグネットドラムをタンク内に複数個設置し,上記マグネットドラムの組合せにより,タンク底部に沈澱した鉄粉や混濁液内に浮遊する微細な鉄粉までもマグネットドラムに吸着させ常時タンク外へ排出させるものであって,引用発明においては,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉は,マグネットドラム25以外の他のマグネットドラムにも吸着されることは明らかである。 したがって,引用発明におけるマグネットドラムの組合せは,単なる搬送手段ではなく,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉を吸着するものでもあるから,引用発明は,コンベアー方式により鉄粉を排出する手段を,マグネットドラムを用いて鉄粉を排出する手段に置換したものではないし,混濁液に含まれる鉄粉のみならず浮遊する微細な鉄粉までもタンク内にて沈降分離し,最下端に配置されたマグネットドラム25の外周面に吸着させるものでもない。 b 原告は,一般的に,液体と固体の混濁液から沈降により固体を分離する場合,沈降物が舞い上がって分離液と共に流出しないように,混濁液を静かに投入することが通常であるから,引用発明においては,混濁液はオイル排出口15から静かに投入されるので,槽の下部では,マグネットドラム25からマグネットドラム27への向かう混濁液の流れが生じていないとして,相違点2について,マグネットドラム25からマグネトドラム27へカキ取り板39に沿って混濁液の緩やかな流れが形成されている蓋然性が高いと本件審決が認定したのは誤りであると主張する。 しかし,引用発明は,混濁液の流れによりマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与えることにより,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉を,タンク内に複数個設置されたマグネットドラムの組合せによって除去しようとするものであるから,引用発明において,混濁液がオイル排出口15から静かに投入されていたとしても,マグネットドラム25からマグネトドラム27へカキ取り板39に沿って混濁液の緩やかな流れが形成されている蓋然性が高いといえるものである。 c 原告は,引用発明の認定において,発明の構成要件のすべてが示されていない場合に,推測,類推をすることによってはじめて構成要件が充足されると認識又は理解できるような発明は,特許法29条1項所定の文献に記載された発明ということはできず,本件審決の引用文献1に記載されている事項の認定は,本件補正発明の知識を得た上で後知恵的に行ったものであると主張する。 しかし,本件審決における引用文献1に記載されている事項の認定は,前記(ア),(イ)のとおり,引用文献1の記載事項,技術常識及び液体の特性から当然に導き出されるものであって,引用文献1に, 「前記使用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ」ることが直接的には記載されていないとしても,本件審決における相違点2についての判断は,発明の構成要件のすべてが示されていない場合に,推測,類推をすることによってはじめて構成要件が充足されると認識又は理解できるような発明に関するものではないし,後知恵的な判断によるものでもない。 (エ) 以上のとおり,相違点2は,実質的な相違点ではない。 イ 進歩性について (ア) 相違点2について a 前記ア(イ)のとおり,引用発明は,混濁液の流れによりマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与えることにより,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉を,タンク内に複数個設置されたマグネットドラムの組合せによって除去しようとするものであって,オイルタンク17内で,少なくとも訴訟参考図面の太矢印に示されるような,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉を,タンク内に複数個設置されたマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与える混濁液の緩やかな流れが生じる。 そして,引用発明において,オイル排出口15からタンク内に流れた混濁液を訴訟参考図面の太矢印のように流すことは,「複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを,第1の回転ドラムよりも使用済みクーラント液が流入してくる手前側に備え,使用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ」るものとすることにほかならないし,その場合, 「スクレパーにより掻き取られた磁性体」と混濁液の流れ方向が合致するから, 「スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導される」ものとなることも明らかである。 したがって,引用発明において, 「回転ドラム型磁気分離装置」を,相違点2に係る「複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを,前記第1の回転ドラムよりも使用済みクーラント液が流入してくる手前側に備え,使用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ」ることにより,スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま「使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導される」との本件補正発明の発明特定事項を有するものとすることは,引用文献1の記載事項及び本願の出願時の技術常識に基づいて当業者が容易になし得るものである。 b 原告は,引用発明において,混濁液の流れを形成することには阻害要因がある旨を主張する。 しかし,引用発明は,混濁液の流れによりマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与えるものであって,もともと混濁液の流れを形成することを前提とするものといえるので,引用発明において混濁液の流れを形成することの阻害要因は初めから存在し得ない。 また,引用発明においては,沈降,沈澱する不純物はマグネットドラム25の外周面に吸着されて除去されるから,混濁液がマグネットドラム27とオイルタンク17の底部の間で流れを形成したとしても,原告が主張する位置に不純物の堆積が発生するものではない。この点からみても,引用発明において混濁液の流れを形成することに阻害要因は存在しない。 したがって,原告の上記主張は失当である。 (イ) 相違点3について 仮に,相違点3が存在したとしても,前記(ア)のとおり,引用発明において,「回転ドラム型磁気分離装置」を,相違点2に係る発明特定事項を有するものとすることは当業者が容易になし得るものであり,その場合, 「マグネットドラム27とタンク底部との間にクーラント液の流路が形成される」との上記相違点3の発明特定事項となることは,引用発明のマグネットドラム27,カキ取り板39,タンク17の構成及び配置から明らかであるから,前記(ア)と同様の理由により,相違点3も,当業者が容易になし得るものである。 2 前記1のとおり,本件補正は不適法であるから,本件補正前発明について新規性及び進歩性の判断をした本件審決に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 本件特許の願書に添付した明細書及び図面(本件補正により補正された後のもの。以下,「本件明細書」という。)には,以下の記載がある(甲9,10)。 【技術分野】 【0001】本発明は,クーラント液に含まれるスラッジから金属成分を回収する回転ドラム型磁気分離装置に関する。 【背景技術】 【0002】金属材料,特に鉄鋼材料に代表される磁性材料の研磨加工,切削加工等において,クーラント液とともに排出されるスラッジ状の切削屑,切粉等は,液分と分離させて回収する。切削屑,切粉等は様々な形状を有しているため,回収効率の観点から種々の磁気分離(回収)装置が開発されている。 【発明が解決しようとする課題】 【0012】 本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり,簡単な構造で,循環するクーラント液の清浄度を向上させることが可能な回転ドラム型磁気分離装置を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0013】上記目的を達成するために第1発明に係る回転ドラム型磁気分離装置は,複数の磁石を配置した第1の回転ドラムを備え,使用済みクーラント液中の磁性体を分離する回転ドラム型磁気分離装置において,複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを,前記第1の回転ドラムよりも使用済みクーラント液が流入してくる手前側に備え,前記第2の回転ドラムが使用済みクーラント液中の磁性体を磁化することで,該磁性体を互いに吸着させて大きくするとともに,前記第2の回転ドラムに付着した磁性体を掻き取るスクレパーと,前記第1の回転ドラム下部の流路を形成する底部材とを備え,前記スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま,前記使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導されることを特徴とする。 【0014】第1発明では,複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを,第1の回転ドラムよりも使用済みクーラント液が流入してくる手前側に備え,第2の回転ドラムが使用済みクーラント液中の磁性体を磁化することで,該磁性体を互いに吸着させて大きくするとともに,第2の回転ドラムに付着した磁性体を掻き取るスクレパーと,第1の回転ドラム下部の流路を形成する底部材とを備え,スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま,使用済みクーラント液の流れに沿って第1の回転ドラムへ誘導される。これにより,第2の回転ドラムにおいて吸着された磁性体が磁化されることにより互いに引き寄せあい,細かい粒子が集まることで1粒あたりの大きさが大きくなる。したがって,磁性体が大きな粒子となった状態のまま第1の回転ドラムへと誘導されるので,第1の回転ドラムにより確実に磁性体を回収することができ,クーラント液の清浄度をより向上させることが可能となる。 【発明の効果】 【0031】本発明によれば,第2の回転ドラムにおいて吸着された磁性体が磁化されることにより互いに引き寄せあい,細かい粒子が集まることで1粒あたりの大きさが大きくなる。したがって,磁性体が大きな粒子となった状態のまま第1の回転ドラムへと誘導されるので,第1の回転ドラムにより確実に磁性体を回収することができ,クーラント液の清浄度をより向上させることが可能となる。 【発明を実施するための形態】 【0034】図2に示すように,本実施の形態に係る回転ドラム型磁気分離装置は,箱型の本体10内にクーラント液を溜め置く液溜め部12が設けられ,研磨加工後,あるいは切削加工後の切削屑,切粉等を含むスラッジが混入している使用済みクーラント液は,投入口20から液溜め部12へ投入される。 【0035】液溜め部12を二分するように,本体10の中央部近傍に第1の回転ドラム13が略水平方向に回転することが可能に軸支されている。第1の回転ドラム13は,ステンレス鋼等の非磁性材からなる円筒体をなしており,外周面に複数の磁石14,14, ・・・を所定の配列で配置してある内筒15を,外筒19の内部に外筒19と同軸に固定してある。複数の磁石14,14, ・・・は,使用済みクーラント液に含まれる磁性体である切削屑,切粉等を磁着させることができるように,外筒19の外周面に所定の磁束を発生させるよう,極性が配置されている。なお,図2に示すように,隣接する磁石14,14は,それぞれ極性が逆になるように配置されており,具体的には外周面側が「N」極の磁石,外周面側が「S」極の磁石,・・・というように交互に内筒15の外周面に配置されている。 【0036】図2では,第1の回転ドラム13の液溜め部12に浸漬する部分から頂上部までの間,すなわち第1の回転ドラム13の外周の略4分の3に相当する部分に対応する内筒15に,複数の磁石14,14, ・・・が配置されている。残りの略4分の1に相当する部分には内筒15に磁石14が配置されておらず,磁力が作用しないように構成されている。 【0037】複数の磁石14,14, ・・・の磁力によって液溜め部12の底部にて第1の回転ドラム13の外筒19の外周面に磁着された磁性体である切削屑,切粉等は,外筒19の回転に伴って第1の回転ドラム13の頂上部へと搬送され,頂上部を通過した時点で複数の磁石14,14, ・・・による磁着力から解放され,外筒19に当接するスクレパー17にて掻き取られて回収される。第1の回転ドラム13の頂上部近傍には,ゴム等の弾性体を表面に配してある絞りローラ16が設けられており,所定の押圧で第1の回転ドラム13の外筒19の外周面に当接されている。外筒19と絞りローラ16との間を磁着された切削屑,切粉等を含むスラッジが通過することにより,スラッジの液分が絞り取られ,第1の回転ドラム13が頂上部を通過した時点,すなわち磁力が及ばない位置にて切削屑,切粉等のみが分離回収される。 【0039】本実施の形態では,第1の回転ドラム13に加えて,第1の回転ドラム13よりも小径である第2の回転ドラム21を,第1の回転ドラム13よりも使用済みクーラント液が流入してくる手前側に配置している。つまり,まず第2の回転ドラム21により磁性体である切削屑,切粉を吸着させた後,再度,第1の回転ドラム13により集約された切削屑,切粉を吸着する構造となっている。 【0040】第2の回転ドラム21は,第1の回転ドラム13と同様,ステンレス鋼等の非磁性材からなる円筒体をなしており,外周面に複数の磁石24,24, ・ ・・を所定の配列で配置してある内筒25を,外筒29の内部に外筒29と同軸に回転することが可能に支持してある。複数の磁石24,24, ・・・は,使用済みクーラント液に含まれる磁性体である切削屑,切粉等を磁着させることができるように,外筒29の外周面に所定の磁束を発生させるよう,極性が配置されている。なお,図2に示す「N」「S」は,それぞれ磁石24の外筒29の外周面側と逆の面側の ,極性を示している。 【0041】図2では,第2の回転ドラム21は液溜め部12に全体が浸漬している。そして,内筒25に,複数の磁石24,24, ・・・が配置されている。複数の磁石24,24, ・・・の磁力によって液溜め部12の底部にて第2の回転ドラム21の外筒29の外周面に磁着された磁性体である切削屑,切粉等は,内筒25の回転に伴って外筒29の外周面を移動し,第2の回転ドラム21の頂上部を通過して外筒29に当接するスクレパー27にて掻き取られる。スクレパー27は,第1の回転ドラム13の下部の流路を形成する底部材30に連結されており,掻き取られた不要物(磁性体)は第1の回転ドラム13へと誘導される。 【0051】図6は,不要物である磁性スラッジの回収率の変動を示すグラフである。図6(a)は,従来の回転ドラム型磁気分離装置の磁性スラッジ等の不要物の回収率を示している。 【0052】一方,図6(b)は,従来の回転ドラム型磁気分離装置に,第2の回転ドラム21を設けた場合の磁性スラッジ等の不要物の回収率を示している。図6(a)と図6(b)とを比較してわかるように,図6(b)の方が図6(a)よりも回収率が向上している。 【0053】ここで,スクレパー27は,図2に示すように水平方向に設けることに限定されるものではない。例えば,スクレパー27は,第1の回転ドラム13の下部の流路を形成する底部材に連結されていれば足りるので,第2の回転ドラム21側から第1の回転ドラム13に向かって下降するよう傾斜していても良い。 【0054】図7は,本発明の実施の形態に係る回転ドラム型磁気分離装置の他の構成を示す回転ドラムの回転軸に直交する面での断面図である。図7に示すように,本実施の形態に係る回転ドラム型磁気分離装置は,第2の回転ドラム21の外筒29に当接するスクレパー27が,第2の回転ドラム21側から第1の回転ドラム13側へ傾斜するよう設けられている。 【0055】これにより,スクレパー27で書き取られた第2の回転ドラム21に付着した不要物が,傾斜に沿って第1の回転ドラム13側へと流れに乗って移動しやすく,第1の回転ドラム13により確実に回収することが可能となる。 【0056】以上のように本実施の形態によれば,第2の回転ドラム21において吸着された不要物(磁性体)が磁化されることにより互いに引き寄せあい,細かい粒子が集まることで1粒あたりの大きさが大きくなる。したがって,不要物が大きな粒子となって第1の回転ドラム13へと誘導されるので,第1の回転ドラム13により確実に不要物を回収することができ,クーラント液の清浄度をより向上させることが可能となる。 【図1】 【図2】 2(1) 引用文献1には,以下のとおりの記載がある(甲1)。 ア 「本考案は,マグネットドラムをタンク内に複数個設置しタンク底部に沈澱した鉄粉ならびに混濁液内に浮遊する微細な鉄粉までもマグネットドラムに吸着させ常時タンク外へ排出させることにより上述の欠点を解消しようとするものである。(2頁15行〜20行) 」 イ 「第3図において15は工作機械(図示省略)に備えられたオイル排出口,17はオイルタンク,19はダーティオイル21とクリーンオイル23とを仕切る仕切板で,排出口15より排出される混濁液に含まれる鉄粉等が後述のマグネットドラム25の附近に落下しやすいように適宜傾斜して設けられている。 (3頁 」2行〜8行) ウ 「上記構成においてまずモーター36を駆動させると無端帯37を介してマグネットドラム25,27,29,31,32が同時に矢印方向に回転し始める。この回転速度は毎分3〜5m程度が望ましい。一方クリーンオイル23はポンプPにより工作機械(図示省略)に送られ,所定の加工工程を経て排出口15より鉄粉等を含有した混濁液となってタンク17内に流下される。鉄粉等の不純物は液体より比重が大きいため排出口15からオイルと一諸に排出される不純物は仕切板19に沿って沈降し,最下端のマグネットドラム25の近辺に沈澱していく。沈降,沈澱した不純物はマグネットドラム25の外周面に吸着され,カキ取り板39にて分離されカキ取り板39の表面に沿って徐々に送り出されてゆく。このカキ取られた不純物がマグネットドラム25からかなりの間隔となった時点で次のマグネットドラム27の外周面に吸着され以下同様にカキ取り板39,マグネットドラム29,カキ取り板39,マグネットドラム31,カキ取り板39,マグネットドラム32,カキ取り板39を経て受け箱41に排出されるのである。 (4頁3行〜5頁4行) 」 エ 「以上のごとく本考案はマグネットドラムの組合せによりタンク底部に沈澱した不純物ならびにオイル内に浮遊する不純物までも容易にタンク内から分離排出することができ,従来,問題とされてきたポンプの故障,オイル劣化等の危惧をなくする。また不純物の沈澱する位置にマグネットドラムを設けたので不純物の分離排出作業が能率的でタンク内の掃除をする必要がない等著しい効果を奏する。」(5頁5行〜13行) (2) 乙1文献には,以下のとおりの記載がある(乙1)。 「種々の機械工作,例えば工作機械による切削作業あるいは放電加工,超音波加工等を行なうとき,水又は油などの液中に金属の微粒子が多く存在するようになり,この微粒子を除去して液を清浄にする必要がある。 このような場合液中の微粒子の材質が磁性体で粒子が大きいときは液中での沈降速度がはやいので簡単に微粒金属を分離除去することができるが,微粒金属が甚だ微小な場合,例えば数l0μ以下となれば液中でいつまでも浮遊しているから簡単に分離し難く,特殊の濾過法が必要となるが,この考案では液中に存在する磁性体の微粒金属を除去するために液中で移動する磁界を与えて磁性金属の微粒子を磁力によって吸引し集収して除去するようにして液を清浄にする装置である。 従来この種の装置として,第1図のようなものがあった。先づこれを説明すると,(1)は非磁性体でつくられた長い円筒でその円筒表面上に(2)の非磁性体の金属の環(2)が円周を取り巻き,(2)の円環の隣にある(3)の円環には複数の小磁石のS,N極の間を非磁性体の小片(7)をはさんで円環を形成し,(2)の円環と(3)の磁石の円環とは交互に(2)(3),(2)’(3)’,(2)”(3)”のように円筒(1)の軸方向にならべて一体の円筒を形成し,円筒(1)の中心軸として回転軸(4)を有し,回転軸を水平にして回転するようになっている。(6)は円筒の外周に極めて接近して設けられた微粒子をかき落す目的の,かきおとし片である。 以上のような構成で磁性微粒子を含んだ液(8) 判決注:(9)の誤記と認める。 をこ [ ]の装置の円筒の表面に浸るようにして円筒を矢の方向に回転する。液(5) [判決注:(9)の誤記と認める。]も流動させて液中(5) [判決注:(9)の誤記と認める。]に存在する微粒子を磁石(3)に接近して吸引されるような機会を与えるようにする。 こうして円筒(1)を回転している間に液中に浮遊する磁性体の微粒子は磁石(3)に接近し吸引せられて磁極付近に多く集まって(8)のように付着する。(1頁12行〜 」3頁6行) 3 取消事由1(独立特許要件違反の有無―本件補正発明の進歩性の有無)について (1) 本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点 ア 前記2(1)で認定した引用文献1の記載からすると,引用文献1には,以下のとおりの引用発明が記載されていることが認められる。 「工作機械の切削油,冷却液等に混入する鉄粉等の磁性を有する切屑の分離排出装置であって,鉄粉等を含有するダーティオイルである混濁液を工作機械からオイルタンク中に排出するオイル排出口,ダーティオイル21とクリーンオイル23とを仕切る仕切板19,装置の側壁に回動自在に支承され,複数のパーマネントマグネットを配置したマグネットドラム25,27,29,31,32,マグネットドラム25,27,29,31,32の外周面に接するように固設されたカキ取り板39,及びクリーンオイル23を工作機械に送るポンプPを備え,オイル排出口から流下した混濁液中の鉄粉は仕切板19に沿って沈降し,マグネットドラム25の付近に落下して沈殿し,沈殿した鉄粉はマグネットドラム25の外周面に吸着され,鉄粉はカキ取り板にて分離されカキ取り板の表面に沿って徐々に送り出され,マグネットドラム25からかなりの間隔となった時点で次のマグネットドラム27の外周面に吸着される,装置。」 イ したがって,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりとなる。 (ア) 一致点 「複数の磁石を配置した第1の回転ドラムを備え,使用済みクーラント液中の磁性体を分離する回転ドラム型磁気分離装置において,複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを備え,前記第2の回転ドラムに付着した磁性体を掻き取るスクレパーと,前記第1の回転ドラム下部に底部材とを備え,前記スクレパーにより掻き取られた磁性体が前記第1の回転ドラムへ誘導される回転ドラム型磁気分離装置。」である点 (イ) 相違点 a 相違点1(争いがない。) 本件補正発明は「第2の回転ドラムが使用済みクーラント液中の磁性体を磁化することで,該磁性体を互いに吸着させて大きく」なるものであるが,引用発明は磁性体が互いに吸着して大きくなっているか否かが不明な点 b 相違点2(争いがない。) 本件補正発明は, 「複数の磁石を配置した第2の回転ドラムを,前記第1の回転ドラムよりも使用済みクーラント液が流入してくる手前側に備え,使用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ」ることにより,スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま「使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導される」ものであるが,引用発明は,マグネットドラム25からマグネットドラム27に向かって混濁液が流れているか否かが明らかでなく,また,カキ取り板39によって掻き取られた鉄粉が大きくなった状態のまま,混濁液の流れに沿ってマグネットドラム25からマグネットドラム27へ誘導されるものであるかが不明である点 c 相違点3’ 本件補正発明では,第1の回転ドラムと底部材との間にクーラント液の流路を形成するのに対し,引用発明は,上記のような流路を形成しているか否かが不明な点 ウ これに対し,被告は,引用文献1においては,タンク17の底部が底部材に相当し,マグネットドラム27とタンク17の底部との間に混濁液の流路が形成されるとして,相違点3は存在しないと主張する。 (ア) しかし,本件補正発明に係る特許請求の範囲の記載は, 「・・・前記使用済みクーラント液は,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かって流れ, ・・・前記第2の回転ドラムに付着した磁性体を掻き取るスクレパーと,前記第1の回転ドラム下部の流路を形成する底部材とを備え,前記スクレパーにより掻き取られた磁性体が大きくなった状態のまま,前記使用済みクーラント液の流れに沿って前記第1の回転ドラムへ誘導されることを特徴とする回転ドラム型磁気分離装置。」というものであり,同記載からすると,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かうクーラント液は,第 1 の回転ドラム下部に第 1 の回転ドラムと底部材との間に形成された流路を流れるものであって,スクレパーによって掻き取られた磁性体を第1の回転ドラムに誘導するものであると解される。そして,このことは,本件明細書に, 「スクレパー27は,第1の回転ドラム13の下部の流路を形成する底部材30に連結されており,掻き取られた不要物(磁性体)は第1の回転ドラム13へと誘導される。(段落【0041】, 」 )「スクレパー27は,第1の回転ドラム13の下部の流路を形成する底部材に連結されていれば足りるので,第2の回転ドラム21側から第1の回転ドラム13に向かって下降するよう傾斜していても良い。(段落【0053】, 」 )「図7に示すように,本実施の形態に係る回転ドラム型磁気分離装置は,第2の回転ドラム21の外筒29に当接するスクレパー27が,第2の回転ドラム21側から第1の回転ドラム13側へ傾斜するよう設けられている。(段落【0054】, 」 )「これにより,スクレパー27で書き取られた第2の回転ドラム21に付着した不要物が,傾斜に沿って第1の回転ドラム13側へと流れに乗って移動しやすく,第1の回転ドラム13により確実に回収することが可能となる。(段落【0055】 」 )と記載されていることからも,裏付けられているということができる。 したがって,本件補正発明の特許請求の範囲の「流路を形成する」とは,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かうクーラント液の流路を形成するものと解すべきである。 (イ) 引用文献1には,マグネットドラム27(第1の回転ドラムに相当)とタンク17の底部との間にマグネットドラム25(第2の回転ドラムに相当)からマグネットドラム27に向かう混濁液の流れが生じていることは記載されていない(甲1)から,相違点3’は存在し,被告の上記主張は理由がない。 (2) 相違点2,3’の判断について ア 本件補正発明におけるクーラント液の流れについて 前記(1)ウ(ア)のとおり,第2の回転ドラムから第1の回転ドラムに向かうクーラント液は,第1の回転ドラムの下部に第 1 の回転ドラムと底部材によって形成された流路を流れるものであり,スクレパーによって掻き取られた磁性体を第1の回転ドラムに誘導するものであると解される。 イ 引用文献1におけるタンク17内の混濁液の流れについて (ア) 前記2(1)のとおり,引用文献1の第3図には,鉄粉等を含有した混濁液をタンク17内に投入するためのオイル排出口15,仕切板19で仕切られた左側の区域にあるクリーンオイルをタンク17内から外へ排出するためのポンプP及び仕切板19の上端と液面との間には間隙があることが記載されていることからすると,排出口15からタンク17内に混濁液が投入され,仕切板19で仕切られた右側の区域において,鉄粉等を含有したダーティオイルから鉄粉等が除かれ,除かれたクリーンオイルは,仕切板19の上端と液面との間の間隙を越流して,左側の区域に移り,同区域にあるクリーンオイルはポンプによって吸い上げられてタンク17の外の工作機械に送られることが認められ,このような混濁液の流れに伴い,タンク17内に混濁液の流れが生じることが認められる。 しかし,排出口15からタンク17内に投入された混濁液の流れの具体的な方向や大きさについては,投入される混濁液や排出されるクリーンオイルの量や勢い,タンク17内の各部材の具体的な位置関係等によって変わるものと考えられるから,引用文献1の記載のみから,タンク17内の特定の範囲における特定の流れの方向や大きさを読み取ることは困難である。 (イ) 前記2(1)のとおり,引用文献1には,「第3図において15は工作機械(図示省略)に備えられたオイル排出口,17はオイルタンク,19はダーティオイル21とクリーンオイル23とを仕切る仕切板で,排出口15より排出される混濁液に含まれる鉄粉等が後述のマグネットドラム25の附近に落下しやすいように適宜傾斜して設けられている。 , 」 「鉄粉等の不純物は液体より比重が大きいため排出口15からオイルと一諸に排出される不純物は仕切板19に沿って沈降し,最下端のマグネットドラム25の近辺に沈澱していく。沈降,沈澱した不純物はマグネットドラム25の外周面に吸着され,カキ取り板39にて分離されカキ取り板39の表面に沿って徐々に送り出されてゆく。」との記載があり,同記載からすると,排出口15からタンク17内に投入された混濁液の流れが存し,その流れに含まれる鉄粉等の不純物は,仕切板19に沿って真下に沈降するものと認められるから,排出口15からタンク17内に投入された混濁液の流れの勢いは比較的緩やかなものであると考えられ,したがって,排出口15からタンク17内に投入された混濁液の流れがマグネットドラム27とカキ取り板39の間隙にまで流れ込み,カキ取り板39に沿って不純物をマグネットドラム27に誘導するかどうかは明らかではないというべきである。 また,前記2(1)で認定した引用文献1の記載からすると,排出口15からタンク17内に投入された混濁液に含まれる鉄粉等の不純物は,マグネットドラム25に吸着され,その後,カキ取り板39によって分離され,マグネットドラム27に吸着されることが認められるが,前記2(1)で認定した引用文献1の「沈降,沈澱した不純物はマグネットドラム25の外周面に吸着され,カキ取り板39にて分離されカキ取り板39の表面に沿つて徐々に送り出されてゆく。 との記載からすると, 」 上記の不純物がマグネットドラム25からマグネットドラム27に移動するのは,カキ取り板39の表面に沿って送り出されることによるものであり,混濁液の流れに誘導されるものとは必ずしも認められない。 さらに,引用文献1の各マグネットドラムの回転により,同マグネットドラムの周囲の混濁液に流れが生じることも考えられるが,仮に,マグネットドラム25の回転方向に混濁液の流れが生じるとしても,引用文献1の第3図によると,マグネットドラム27の回転方向は,マグネットドラム25とマグネットドラム27との間の部分においては,マグネットドラム25とは逆方向の上側方向であると認められること,マグネットドラム25の右側部分においては,カキ取り板39の存在により,マグネットドラム25の回転が混濁液の流れに与える影響は小さいものと認められることからすると,マグネットドラム25とマグネットドラム27の間にあるカキ取り板39の右側(上側)の部分においては,マグネットドラム27の回転方向である下から上に向かった混濁液の流れが生じる可能性が高く,したがって,カキ取り板39に沿ってマグネットドラム27に不純物を誘導する混濁液の流れが生じているとは必ずしも認められない。 (ウ) その他,引用文献1には,マグネットドラム27とタンク17の底部の間に,マグネットドラム25からマグネットドラム27に向かう,スクレパーによって掻き取られた磁性体を誘導する混濁液の流れが生じていることを読み取ることができる記載があるとは認められないから,当業者が,引用文献1の記載から,引用発明について,上記の流れが生じていることを読み取ることはできず,また,上記の流れが生じる構成とすることを容易に想到するということもできないというべきである。 したがって,相違点2,3’は,いずれも実質的な相違点であり,かつ,当業者は,これらを容易に想到することができたとは認められない。 ウ 被告の主張について (ア) 被告は,乙1文献について主張する。 前記2(2)で認定した乙1文献の記載からすると,乙1文献に記載された技術は,磁石で形成された円環(3)を取り付け,回転軸(4)を軸として回転可能な円筒状部材(1)を,回転軸(4)が水平になるようにして磁性微粒子を含んだ液(9)に浸し,同円筒状部材(1)を回転させ,液(9)中に浮遊する磁性体の微粒子を,円環(3)に取り付けられた磁石の磁力によって吸引して付着させて,これを収集し,その際,液(9)を流動させて,微粒子を磁石に接近させるというものであることが認められる。 しかし,乙1文献には,液(9)の流動する方向については記載されていない(乙1)。 そして,乙1文献に記載された技術においては,液(9)を流動させる目的は,液(9)中に存在する磁性微粒子を満遍なく円環(3)に接近させるためであると認められ,この目的からすると,液(9)を掻き回すことで足り,液(9)を特定の方向に流動させる必要はないというべきである。 一方,前記イのとおり,引用発明において,タンク17内に混濁液の流れが生じるとしても,その具体的な方向,すなわち,マグネットドラム27とタンク17の底部の間に,マグネットドラム25からマグネットドラム27に向かう,スクレパーによって掻き取られた磁性体を誘導する流れが生じることを読み取ることはできないのであって,この点が,相違点2,3’の内容をなすものであるから,乙1文献に記載された上記技術を適用しても,相違点2,3’は依然として相違点として残るというべきである。 そして,上記のとおり,乙1文献に記載された技術は,液(9)を特定の方向に流動させる技術ではないから,乙1文献に記載された上記技術を前提としても,当業者が,引用発明について,混濁液を上記のとおりマグネットドラム25からマグネットドラム27に向かって流れるようにすることを容易に想到することはできないというべきである。 (イ) 被告は,引用発明は,混濁液の流れによりマグネットドラムに接近して吸引されるような機会を与えることにより,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉を,タンク内に複数個設置されたマグネットドラムの組合せによって除去しようとするものであると主張する。 前記2(1)で認定した引用文献1の記載からすると,引用文献1に記載された装置は,混濁液内に浮遊する微細な鉄粉等の不純物をもマグネットドラムに吸着させて分離排出するものであることが認められるが,そうであるからといって,必ずしも,混濁液をマグネットドラム25からマグネットドラム27に向かって流れるようにする必要はない。 したがって,被告の上記主張は理由がない。 (3) 以上のとおり,本件補正発明が新規性又は進歩性を欠如するということはできない。 したがって,原告の主張する取消事由は理由がある。 4 以上のとおりであるから,原告の請求は理由がある。 |
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結論
よって,主文のとおり判決する。 |