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関連審決 無効2018-800120
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事件 令和 1年 (行ケ) 10102号 審決取消請求事件

原告 株式会社スミテックエンジニアリング
原告大善建設株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 利光洋
上記両名訴訟代理人弁理士 松尾憲一郎 市川泰央 今中崇之
被告株式会社コプロス
同訴訟代理人弁護士 神邊健司
同訴訟代理人弁理士 加藤久遠坂啓太 南瀬透
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/03/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2018-800120号事件について令和元年6月13日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 被告は,発明の名称を「立坑構築機」とする特許(特許第3694724号。
請求項の数4。平成13年6月8日出願,平成17年7月8日設定登録。甲6。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
? 原告らは,平成30年9月28日,本件特許の請求項1について無効審判の請求をし,特許庁は,同請求を無効2018-800120号事件として審理した。
? 特許庁は,令和元年6月13日, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月24日にその謄本が原告らに送達された。
? 原告らは,同年7月18日,本件審決の取消しを求める本件訴えを提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。なお,「/」は原文の改行部分を示す(以下同じ。)。また,その明細書(甲6)を,図面を含めて「本件明細書」という。
ベースフレームに昇降且つ回動可能に支持され,円筒状部材の外周部に着脱される把持機構と,この把持機構を駆動する回転駆動装置とを備えた立坑構築機において,/前記ベースフレームは組立可能に複数に分割された分割フレームを備え,前記把持機構は,それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えていることを特徴とする立坑構築機。
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本件発明は,@下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)及び下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて容易 に発明をすることができたものとはいえず,A引用発明1及び下記ウの引用例3に記載された発明(以下「引用発明3」という。)に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえず,B引用発明1及び下記エないしキの文献に記載された周知技術に基づいて容易に発明をすることができたといえない,というものである。
ア 引用例1:特開平9-203038号公報(甲1) イ 引用例2:特開昭59-55988号(甲2) ウ 引用例3:特開平2-190599号公報(甲3) エ 実用新案登録第2521914号公報(平成9年1月8日発行)(甲4の1) オ 実願昭63-167245号(実開平2-87118号)のマイクロフィルム(甲4の2) カ 実願昭62-195170号(実開平1-98917号)のマイクロフィルム(甲4の3) キ 実願昭62-159111号(実開平1-65925号)のマイクロフィルム(甲4の4) ? 本件発明の分説 本件発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
A ベースフレームに昇降且つ回動可能に支持され, B 円筒状部材の外周部に着脱される把持機構と, C この把持機構を駆動する回転駆動装置とを備えた立坑構築機において, D 前記ベースフレームは組立可能に複数に分割された分割フレームを備え, E 前記把持機構は,それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えていることを特徴とする F 立坑構築機。
? 引用発明1の認定 大口径鋼管杭あるいは鋼管類であるケーシング13の圧入,引抜きを行うための回転式ケーシングドライバであり,/方形枠状をなし,4隅に縦ガイドフレーム3 a〜3dを有し,フランジ3eで分割されるベースフレーム3,/ベースフレーム3に取付けられたスラストシリンダ5により,縦ガイドフレーム3a〜3dに沿って昇降自在に取付けられた昇降フレーム4,/昇降フレーム4に,旋回ベアリング6を介して取付けられた回転リング7,及び,回転リング7上に取付けられたバンド装置14,/昇降フレーム4に取付けられ,旋回ベアリング6の外歯歯車6cに噛合する出力歯車11を有し,旋回ベアリング6の外輪6bを回転する油圧モータ10,を備え,/昇降フレーム4は,上面の内周側に旋回ベアリング6の内輪6aをボルトにより固定する取付座4aを有し,旋回ベアリング6の取付座4aを分断するように,油圧モータ10が取付けられた端部分割フレーム21,22と,これらの間の左右の中間分割フレーム23,24とに4分割され,中間分割フレーム23,24及び端部分割フレーム21,22は,それぞれ横ボルト25,縦ボルト26により締結されており,/旋回ベアリング6,回転リング7,及びバンド装置14は,円筒状のケーシング13の外周を囲み,このうちバンド装置14は円筒状のケーシング13の外周を掴む,/回転式ケーシングドライバ。
? 本件発明と引用発明1との一致点及び相違点の認定 ア 一致点 本件発明は,前記?において分説した構成要件のAないしD及びFにおいて,引用発明1と一致する。
イ 相違点 本件発明では, 「把持機構は,それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えている」 (前記?において分説した構成要件のE)のに対し,引用発明1では, 「旋回ベアリング6」 「外 が歯歯車6c」を有し,また「昇降フレーム4」が「旋回ベアリング6」を固定する「取付座4a」を分断するように「分割」されるものの, 「旋回ベアリング6」自体は分割されないとともに, 「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片」は備えていない点。
? 副引用例に記載された各発明の認定 ア 引用発明2 種々の径のケーシングチユーブに対応することができる現場打杭に使用されるオールケーシング工法用回転式ボーリングマシンであり,/操作部1およびクランプ部2より成り,/クランプ部2は,複数個に等分割され,締付拡大可能に取り付けられた円形状の割クランプ3,割クランプ3の内側に割クランプ3に対応して複数個に等分割され,締付拡大可能に取り付けられた円形状の割ライナー4,割ライナー4の各ライナー素子に固着され,操作部1のギアボツクス7により回転駆動されるほぼ円形状の割ラツク歯車6,所定のケーシングチユーブを中央部に固定するために割クランプ3および割ライナー4を締め付けるための締付ジヤツキ5,を具え,/割ライナー4と割クランプ3とは,スチールボールのような回転支承部材15により回転可能に支承されており,/割ライナー4は,締付ジヤツキ5によるクランプ3の締め付けによつて,各ライナー素子がくつついた最小径から各ライナー素子が離れたより大きい径までの種々の径のケーシングチユーブをクランプすることができ,割ライナー4の最小径より小さい径のケーシングチユーブをセツトすることが必要な場合には,割ライナー4に第2ライナー17をセツトして,第2ライナーにケーシングチユーブをクランプし,/作動時には,所要径のケーシングチユーブを割ライナー4の内側に入れ,締付ジヤツキ5により割クランプ3および割ライナー4を締めつけてケーシングチユーブを固定し,駆動源12の作動により割ラツク歯車6を回転させることにより,割ライナー4に固定されたケーシングチユーブを回転させ,ケーシングチユーブを土中に押入する時には,押入引抜用ジヤツキ19により荷重をかけることができ,所定量押入したら,ケーシングチユーブのやや上方を割ライナー4により再びチヤツクし,押入操作を繰り返す,/小さな力で施工が可能になったことから小型化され,搬入困難な場所でも分解搬入が可能である,/オールケーシング工法用回転式ボーリングマシン。
イ 引用発明3 (ア) 引用発明3の1(従来技術) 内輪102,外輪104,内輪102と外輪104の間に配置されるスラストころ111,112及びラジアルころ116を備え,内輪102と外輪104とが互いに旋回可能に支持される旋回座軸受であり,/内輪102は,軸に垂直な平面で分割される第1内輪部102aと第2内輪部102bと第3内輪部102cとが,夫々上記軸を含む平面で2つの弧状の軌道部材102a-1,102a-2,及びl02b-1,102b-2,並びに102c-1,l02c-2に分割され,上記第1内輪部102a,第2内輪部102bおよび第3内輪部102cが,半径方向の分割面の位相を互いに90°ずらして,一体に分離可能に結合されており,内輪102は,歯車状の凹凸21a及び21bを有しており,/外輪104は,軸に垂直な平面で分割される第1外輪部104aと第2外輪部104bを有し,この第1外輪部104aと第2外輪部104bは,夫々上記軸を含む平面で2つの弧状の軌道部材104a-1,104a-2,及び104b-1,104b-2に分割され,上記第1外輪部104aと第2外輪部104bは,半径方向の分割面の位相を互いに90°ずらして一体に分離可能に結合されている,/旋回座軸受。
(イ) 引用発明3の2(実施例) 外輪,内輪,及び,内輪と外輪の間に存在するスラストころ13,14及びラジアルころ18により構成される旋回座軸受であり,/外輪は,/外周に外歯歯車1cを有する略半円弧状の軌道部材1,軌道部材1と対をなし,外周に外歯歯車2cを有する略半円弧状の軌道部材2,軌道部材1と2の端面間に配置され,軌道部材1,2と共に一つの真円をなす板状のスペーサ3,4からなる軌道輪1,2,3,4と,/軌道輪1,2,3,4と軸心回りの位相を90度ずらした状態で,かつ2つの軌道部材1,2にまたがって軸方向に嵌合される,略半円弧状の連結部材22,22及びスペーサ40,41からなる環状の連結輪と,/軌道輪1,2,3,4と軸心回りの位相を90度ずらした状態で,連結部材22,22の反対側で,2つの軌道部材1,2にまたがって軸方向に嵌合される,略半円弧状の連結部材23,23及びス ペーサからなる環状の連結輪と,により構成され,/内輪は,/略半円弧状の軌道部材41,42,及び軌道部材41,42の端面間のスペーサ43により,環状に組み立てられる軌道輪cと,/軌道輪c に対して互いに位相を90度ずらした状態で軸方向に一体にボルト等により組み立てられる軌道輪eとにより構成される,/旋回座軸受。
4 取消事由 ? 引用発明1及び同2に基づく進歩性判断の誤り(取消事由1) ? 引用発明1及び同3に基づく進歩性判断の誤り(取消事由2) ? 引用発明1及び周知技術に基づく進歩性判断の誤り(取消事由3)
当事者の主張
1 取消事由1(引用発明1及び同2に基づく進歩性判断の誤り)について 〔原告らの主張〕 ? 引用発明2の認定の誤り ア 引用例2によれば,第2ライナーは発明の本質でなく,本件審決が認定した「作動時には‥押入操作を繰り返す」は実施例にすぎず,発明の技術的本質ではないから,発明の構成として「割ライナー4の最小径より小さい径のケーシングチユーブをセツトすることが必要な場合には,割ライナー4に第2ライナー17をセツトして,第2ライナーにケーシングチユーブをクランプし,作動時には,‥押入操作を繰り返す,」を認定するのは誤りである。
イ 本件審決は,引用例2に記載されている「割ライナー4及び割クランプ3」は,ケーシングチユーブをクランプするときに締付け又は拡大が可能となるように分割されたものであるから,クランプ時の締付け及び拡大のための隙間を有して機能するものであり,分割された割ライナー4及び割クランプ3の各素子は, 「それぞれの両端部を接続」して「環状の歯車付ベアリングを構成」するものではない,と認定した。しかし,引用例2に記載された発明は,各ライナー素子がくっついた最小径となる状態でも使用されることを前提としており,隙間を有して機能するだけの ものではない。その点において,本件審決の引用発明2の認定には誤りがある。
? 引用発明2と本件発明との対比の誤り ア 本件審決は,本件発明の「環状の歯車付ベアリング」及び「複数に分割された円弧状ベアリング片」の機能について,把持機能を認定せず,本件明細書の【0022】の「円弧状ベアリング片21,22の下位置には,鋼管4に巻着されるC字状のバンド部材32が固定されている」との記載から,バンド部材32への回転動力伝達機能のみを認定する一方,引用発明2との差異を説明する場面では,回転動力伝達機能ではなく,把持機能の観点から説明した。
しかし,このように本件発明の「環状の歯車付ベアリング」や「円弧状ベアリング片」の機能として回転動力伝達機能だけを認定しているのであれば,引用発明2との対比に際しても回転動力伝達機能のみをもって対比すべきであり,把持機能は考慮してはならないはずである。そして,回転動力伝達機能の面から対比すれば,本件発明の「環状の歯車付ベアリング」「円弧状ベアリング片」と引用発明2の「割ラ ,イナー,割クランプ」とは,回転動力の円滑な伝達という機能の点,及び,両者とも分割端面を当接する技術であるという点で共通する。
そうすると,引用発明2においては,ケーシングチューブの径に応じて割ライナーや割クランプの各素子端面が「当接」する場合や「離隔」する場合いずれの形態での使用も前提とされていることに加え, 「回転動力伝達機能」を有するという本件発明との共通点からみれば,引用発明2は,本件発明の構成要件Eを開示している。
イ 本件審決は,引用発明2における割ライナー4及び割クランプ3は両端部が隙間を有して締付拡大可能な状態で機能するものと認定した。しかし,引用例2には, 「ライナー4は各ライナー素子がくっついた最小径から各ライナー素子が離れたより大きい径までの種々の径のケーシングチューブをクランプすることができる」との記載があり,この記載は,引用発明2の実施形態において,各種の各ライナー素子の接合離隔形態を述べた中で,各ライナー素子がくっついた形態,すなわち,本件発明の両端部を各々接続した円弧状ベアリング片が,把持機能を果たすバンド 部材に固定されてバンド部材に動力を伝達する構造形態と全く同一である。
ウ よって,引用発明1に引用発明2を適用すると本件発明の構成に至る。
? 引用発明1に引用発明2を適用する動機付け等の誤り ア 旋回ベアリングを分割することは周知の技術であり,土木機械である立杭構築機につき,運搬時の作業性を勘案して各種構成部材を分割することは,引用例2から容易に発想できるから,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けがある。
イ 引用発明1に引用発明2を適用するに際しては,引用発明1の「取付座4a」に所定の径の旋回ベアリング6が固定できるように,サイズの合う部材を現場において選択すれば足り,阻害要因はない。
〔被告の主張〕 ? 引用発明2の認定の誤りについて 引用例2において,割ライナー4及び割クランプ3は,種々の径のケーシングチユーブをクランプするために「締付拡大可能」に分割されたものであるから,クランプ時の締付及び拡大のための隙間を有して機能する。また,割ライナー4及び割クランプ3の端部を突き合わせて環状にした場合でも,突き合わされた割ライナー4及び割クランプ3の間を転動体が,自由に自転と公転するものではない。さらに,割ライナー4及び割クランプ3は,ベアリングを構成する外輪,内輪,転動体以外に「締付拡大」機能を合わせ持つから,分割された割ライナー4及び割クランプ3の各素子は, 「それぞれの両端部を各々接続」して「環状の歯車付きベアリングを構成」しない。
そうすると,引用例2の分割された割ライナー4及び割クランプ3の各素子は,「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付きベアリングを構成」する, 「複数に分割された円弧状ベアリング片」に相当しない。
? 引用発明2と本件発明との対比の誤りについて ア 本件発明の「環状の歯車付ベアリング」や「円弧状ベアリング片」は,それ自体としては把持機能を有しないから,それと異なる構成と機能を有する引用例2記 載の構成について異なる機能を認定するのは当然である。引用例2に記載された発明は,割クランプ3,割ライナー4等で構成される部材が把持機能と回転動力伝達機能の双方を有するものであるのに対し,引用例1に記載された発明は, 「把持機能」としてのバンド装置14と「回転動力伝達機能」としての旋回ベアリング6はそれぞれ別部材として構成されている。引用発明1は, 【0023】の記載から明らかなように,本件発明の「環状の歯車付ベアリング」に相当する「回転リング7」と把持機構に相当する「バンド装置14」は別部材として構成されている。
これに対し,引用例2には, 「割ライナー4と割クランプ3とは,スチールボールのような回転支承部材15により回転可能に支承され」た構造を有しており,把持機能を持つ割ライナー4と割クランプ3自体が回転支持機能を持つものであって,対比すべきものの構造とその機能が異なるから,その対比にあたっても,回転支持機能や把持機能を峻別しない表現にならざるを得ない。
引用発明2における「割ライナー4及び割クランプ3」は,両端部が隙間を有して「締付拡大可能」な状態で機能するものであり,本件発明のように「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成」するものではない。
そして,引用発明2において,仮に割ライナー4の最小径と同径のケーシングチユーブを,第2ライナーを介在させることなくクランプさせれば,クランプ機能が減殺されるのと引き替えに割ライナー4の端部同士が当接する状態が生じ得るとしても,かかる例外的な状況で端部同士が当接する場合があることをもって,引用発明2における割ライナー4及び割クランプ3が,本件発明における「それぞれの両端部を各々接続」して「環状の歯車付ベアリングを構成」する「複数に分割された円弧状ベアリング片」に相当するということはできない。
イ 本件発明と引用発明1との相違点である構成要件Eのうち, 「環状の歯車付ベアリング」については, 「環状」であることからして, 「円弧状ベアリング片」のそれぞれの両端部を各々接続し組み立てられた後は,普通の「環状の歯車付ベアリング」と同様に,ベアリング内部の転動体は,内輪と外輪の間を自転しつつ360度自由 に公転するものでなければならず, 「環状の歯車付ベアリング」は,それを構成する複数の「円弧状ベアリング片」からなるものでなければならない。
また,引用例2に記載された発明の構造上,各ライナー素子の端部同士が当接した状態に至るとそれ以上縮めることができず,ケーシングチューブ(鋼管等)をクランプする機能が損なわれることが力学上明らかであるから,引用例2には,それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片に相当する技術的思想は開示されていない。
そうすると,引用例2には,本件発明の構成要件Eに相当する構成は記載されていないというべきである。
? 引用発明1に引用発明2を適用する動機付け等の誤りについて 引用発明1の分割可能な昇降フレーム4につき,旋回ベアリング6に代えて,引用発明2の種々の径のケーシングチユーブをクランプするために締付拡大可能に分割された割ライナー4及び割クランプ3を単に組み合わせても,そのままでは機能しない。引用発明1に引用発明2を組み合わせるには,引用発明1の分割可能な「昇降フレーム4」及び「取付座4a」の構成自体を改変する必要があり,これらの改変を掘削作業の現場で行うことの負担も大きい。このような改変の必要性は,引用発明1に引用発明2を組み合わせることの阻害要因となり,現場でサイズの合う部材を選択すれば足りるというものではない。
2 取消事由2(引用発明1及び同3に基づく進歩性判断の誤り)について 〔原告らの主張〕 ? 引用発明3の認定の誤り 引用例3は,ベアリングの技術を開示するものであり,旋回座軸受を構成する複数の内輪が結合されるときの位相のことを問題としていない。本件審決は,組み立て後の完成品である旋回座軸受の一つの構造である位相が90度ずれていることに着目し,実施例に基づいて過度に限定的に発明を認定しているが,そのように認定することは妥当でない。
引用例3からは,次のア及びイの発明を認定すべきである。
ア 引用発明3’の1(従来技術) 内輪(第2内輪部102b),外輪(第2外輪部104b),内輪(第2内輪部102b)と外輪(第2外輪部104b)の間に配置されるスラストころ112及びラジアルころ116を備え,内輪(第2内輪部102b)と外輪(第2外輪部104b)とが互いに回転可能に支持されるベアリング(軸を支持する部品)であり,/内輪(第2内輪部102b)は,軸を含む平面で2つの弧状の軌道部材102b-1及び軌道部材102b-2に分割され(図11参照),歯車を形成する凹凸21a及び21bを有しており,それぞれの両端部を各々接続して構成されており,/外輪(第2外輪部104b)は,上記軸を含む平面で2つの弧状の軌道部材104b-1及び軌道部材104b-2に分割され(図12参照),それぞれの両端部を各々接続して構成されている,/ベアリング(軸を支持する部品)。
イ 引用発明3’の2(実施例として) 外輪,内輪,及び,内輪と外輪の間に存在するスラストころ14又はラジアルころ18により構成されるベアリング(軸を支持する部品)であり,/外輪は,外周に外歯歯車1cを有する略半円弧状の軌道部材1と,軌道部材1と対をなし,外周に外歯歯車2cを有する略半円弧状の軌道部材2とが,軌道部材1と2の端面間に配置され,軌道部材1,2と共に一つの真円をなす板状のスペーサ3,4を介してそれぞれの両端部を各々接続して環状に構成されており,/内輪は,略半円弧状の軌道部材41と略半円弧状の軌道部材42とが,軌道部材41,42の端面間のスペーサ43を介して,それぞれの両端部を各々接続して環状に構成されている(図3及び図8参照),/ベアリング(軸を支持する部品)。
? 相違点の認定判断の誤り ア 本件発明に係る特許請求の範囲には,把持機構が, 「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片」を備えていると記載されている。
この記載に関連し,本件審決は, 「円弧状ベアリング片」について,内輪,外輪及びその間に配置された転動体が「一体」となっていることに技術的意義があるかのように認定するが,そのような認定の根拠となる記載は本件明細書になく,甲3や甲7に照らしても根拠がない。また,本件審決は, 「ベアリング」を,内輪と外輪及び転動体を有するものに限定するが, 「ベアリング」とは,軸を支持する部品のことであり,ボールベアリングに代表される転がり軸受,ボールを使用しない滑り軸受,磁気を用いて軸を支持する磁気軸受等,種々の軸受を包含し, 「内輪と外輪及び転動体を有する」ものに限られない。さらに, 「ベアリング片」の「片」は,一般に「ひときれ。きれはし」 (広辞苑第7版)を意味するから,文言解釈としても,内輪,外輪及びその間に配置された転動体が一体となっているもののみを指すことは導かれない。把持機構が, 「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えている」は,本件発明の立坑構築機を組み立てた上での構成を述べているにすぎず,組立て以前の部材について述べたものではない。
イ 引用発明3’を前記?のとおりに認定すれば,引用例3には,引用発明1と本件発明の相違点が開示されていることになるから,これらを組み合わせると相違点に係る本件発明の構成に至る。
他方,引用発明3’が前記?のとおりには認定されないとしても,本件審決は,引用発明3を全体として「環状の歯車付ベアリング」ということができると認定しているところ,本件発明の「円弧状ベアリング片」は「内輪,外輪,内輪と外輪との間に配置された転動体が一体となった」ものに限定する必要や合理性がないから,本件審決が認定した引用発明3には「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えている」という構成が開示されているから,やはり引用発明1と引用発明3を組み合わせることで容易に本件発明に至ることができる。
ウ 本件審決は,引用発明3と本件発明の相違点に係る認定に関し, 「しかし,引 用発明3では,内輪または外輪を構成する軸方向に積層された部材が,いずれも軸心回りの位相を90度ずらして結合される」ことを殊更,強調する。
しかし,甲7記載の軸受では,内輪と外輪の位相のずれが全く生じておらず,軸受におけるセグメント(ベアリング片)は,内輪,外輪,転動体は一つのユニットとなったものである。甲7は,本件発明の10年以上前に公開された技術であるから,周知性つまり技術常識であることを否定する事情等は一切存在しない。
甲7によれば,当時の当業者の技術常識において,内輪と外輪の位相のずれ等というものは技術的に何ら意味・意義を有しないものと認識されていた。本件審決は,上記技術常識を看過し,外輪と内輪の位相を持ち出している点において誤りがある。
エ 本件審決が認定した引用発明3の位相は,旋回座軸受を組み立てる上での位置決めが容易になる一例を示したにすぎず,本件発明と引用発明3の相違点において,殊更に,内輪,外輪の位相のずれを強調することには意味がない。本件審決は,この点を看過し,引用発明3の実施には「内輪または外輪を構成する軸方向に積層された部材が,いずれも軸心回りの位相を90度ずらして結合され」なければならないとし,引用発明3が「それぞれの両端部を各々接続」して「環状の歯車付ベアリング」を構成する「円弧状ベアリング片」に該当しないとしたが,誤っている。
? 引用発明1に引用発明3を適用する動機付け等の誤り 取消事由1で述べたとおり,引用発明1と引用発明3を組み合わせる動機付けは十分にあり,組み合わせることの阻害要因はない。
〔被告の主張〕 ? 引用発明3の認定の誤りについて 引用例3の特許請求の範囲等に「位相が90度」ずれたものであることと,具体的に限定する記載がないからといって,特許請求の範囲に「位相がずれていないもの」が記載されているとはいえず,そうである以上,位相が90度ずれたものとそうでないものとの間に技術的な違いがないとはいえない。引用発明3は,本件審決が認定したとおりの発明である。
? 相違点の認定判断の誤りについて ア 本件発明の「環状の歯車付ベアリング」は,ベアリング全体を指し, 「円弧状ベアリング片」は, 「環状の歯車付ベアリング」が,外輪,内輪とも同じ位置で分割され,全体として円弧状となった状態,すなわち,外輪,内輪,転動体が一体となったものであることは明らかであり,本件審決の判断に誤りはない。
原告らは,甲3及び甲7を挙げて,本件発明の「円弧状ベアリング片」を内輪,外輪,内輪と外輪との間に配置された転動体が一体となったものに限定解釈することに技術的価値がないと主張するが,本件発明の構成は,特許請求の範囲発明の詳細な説明の記載によって決まるべきものであり,原告らの主張は理由がない。
本件発明の「環状の歯車付ベアリング」は,本件明細書の【0007】ないし【0009】【0011】【0020】及び【0026】において,一貫して「ボールベ , ,アベアリング」に関して記載されているとおり,内輪,外輪,内輪と外輪の間に配置されたボール状の転動体からなるものである。本件発明の「円弧状ベアリング片」は,本件明細書の図4, 【0026】に記載のとおり, 「環状の歯車付ベアリング」を内輪,外輪同じ位置で半円形となるように分割しただけで,「内輪,外輪,転動体」一体のものであることは明らかである。
イ 引用発明3の外輪又は内輪のうちの一部分を構成する弧状又は略半円弧状の部材とスペーサは,本件発明の「円弧状ベアリング片」には相当しない。
「円弧状ベアリング片」とは,本件審決が認定するとおり, 「内輪,外輪,内輪と外輪の間に配置される転動体が一体となったもの」である。
ウ 原告らは,甲7を示し,軸受における内輪,外輪の位相のずれは,技術的に何ら意味を持たず,位相のずれをことさら強調して,当業者の技術常識と異なる技術的意義を認定することは許されないと主張する。しかし,仮に,出願当時,軸受における内輪,外輪の位相のずれがない構成が公知であったとしても,位相のずれがないものが位相差のあるものと比べ技術的に意味がないとも, 「位相のずれがないものと位相差があるもの」が発明の構成要件において同等であるともいえない。
? 引用発明1に引用発明3を適用する動機付け等の誤りについて 取消事由1との関係で述べたのと同様である。
3 取消事由3(引用発明1及び周知技術に基づく進歩性判断の誤り)について 〔原告らの主張〕 ? 周知技術の認定の誤り 甲4の1ないし4に加え,甲7によれば,当時の当業者の技術常識において,内輪と外輪の位相のずれ等というものは技術的に何ら意味・意義を有しないものと認識されていた。本件審決は,上記技術常識を看過し,外輪と内輪の位相を持ち出している点において,周知技術の認定に誤りがある。
? 引用発明1に周知技術を適用する動機付け等の誤り 取消事由1及び2で述べたのと同様である。
〔被告の主張〕 ? 周知技術の認定の誤りについて 原告らの主張は,内輪と外輪のずれ等というものは技術的になんら意味・意義を有しないという認識を前提にしているが,そのような認識は正しいものではない。
「内輪と外輪のずれ」や, 「内輪,外輪,内輪と外輪との転動体が一体になり一つのユニットになっている」ことの技術的意義は,これまで述べてきたとおりである。
? 引用発明1に周知技術を適用する動機付け等の誤りについて 取消事由1及び2との関係で述べたのと同様である。
当裁判所の判断
1 本件発明について ? 本件明細書の記載事項 本件明細書(甲6)には,次の各記載がある(図は別紙1記載のもの)。
ア 発明の属する技術分野 【0001】本発明は,鋼管等を回転して圧入する立坑構築機に関する。
イ 従来の技術 【0002】従来より,鋼管等を回転させ,所定位置に圧入する立坑構築機は多数使用されている。立坑の施工を行うには,立坑構築機をトラック等の運搬手段により保管場所から施工場所まで運搬することが必要である。装置の輸送に一般道路を使用する場合,現行の道路交通法では運搬物の幅を3200mm以内に収めなければならず,立坑構築機の外形をこれに合わせようとすると鋼管等の直径を2500mm以下にする必要がある。
【0003】近年,使用する鋼管の直径が大型化しており,直径が2500mmを超えるものが要求される場合もある。図6に示すように,例えば,特開2000-073371号公報に記載されている鋼管類圧入引抜き装置70は,上フレーム71及び下フレーム72を油圧シリンダ74によって上下に相対移動可能に設けられている。また,上フレーム71の上部には,回転体73を配置されている。
【0004】上,下フレーム71,72は,コ字状の上,下フレーム片75,76の両端部を連結部材77,78でそれぞれ接続して矩形枠状に形成されている。回転体73は,中心角が180度より小さい円弧状歯車片79,80を隙間をあけて対向配置している。また,円弧状歯車片79,80は,上フレーム辺75に2台ずつ設けられ同期回転する小歯車81〜84にそれぞれ噛合している。
【0005】かかる構成によって,各円弧状歯車片79,80に固定された図示しない複数のC形バンドを鋼管(図示せず)の外周に締め付けて固定して,その鋼管と共に回転することができる。また,上,下フレーム71,72及び回転体73は,幅方向に縮幅し,運搬時の幅を狭くすることができる。
ウ 発明が解決しようとする課題 【0006】しかしながら,この従来の装置においては,円弧状歯車片79,80は,使用時に各両端部を当接させず,その間に隙間85,86を有して配置されている。従って,装置の使用時に,円弧状歯車片79,80は上,下フレーム71,72に対して相対的に回動することになるが,このときの円弧状歯車片79,80の支持方法が開示されていない。
【0007】内輪と外輪の間に多数の転動体を有するベアリングは,支持部材として一般的なものであるが,ベアリングを部分的に切断し,端部を当接させない状態で回転させると,内部の転動体が端部からこぼれ落ちてしまうので,使用することができない。すなわち,鋼管類圧入引抜き装置70においては,内輪と外輪の間に多数の転動体を有する一般的なベアリングは使用できないため,特殊なガイドを用いた保持方法となる。この場合には,前述した特殊なガイドを精度良く調整して設けることが必要になり,また,機構が大変複雑なものになると考えられる。
【0008】また,円弧状歯車片79,80が隙間85,86を移動するときにはガイドがない状態になるので,円弧状歯車片79,80の端部が隙間85,86を通過する度に回転状態が不安定になるという問題があった。
【0009】そこで本発明が解決しようとする課題は,幅方向の寸法を狭くすることができ,標準的なベアリングを用いて回転を安定させることができる立坑構築機を提供することにある。
エ 課題を解決するための手段 【0010】前記課題を解決するため,本発明の立坑構築機は,ベースフレームに昇降且つ回動可能に支持され,円筒状部材の外周部に着脱される把持機構と,この把持機構を駆動する回転駆動装置とを備えた立坑構築機において,前記ベースフレームは組立可能に複数に分割された分割フレームを備え,前記把持機構は,それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えている。
【0011】円筒状部材には,例えば,鋼管や鉄筋コンクリートを用いた管材を用いることができる。円弧状ベアリングは隙間なく接続して環状の歯車付ベアリングを構成し,内輪及び外輪の間に配置された球やころ等の転動体がこぼれ落ちない構造になっている。かかる構成によって,分割して幅方向の寸法を狭くすることができると共に,標準的なベアリングを使用して回転を安定させることができる。
オ 発明の実施の形態 (ア) 立坑構築機1の構造 【0017】本発明の一実施の形態に係る立坑構築機1は,ベースフレーム3に昇降且つ回動可能に支持され,円筒状部材の一例である鋼管4(図5参照)の外周部に着脱される把持機構5と,把持機構5を駆動する回転駆動装置の一例である駆動モータ17〜20とを備えている。
【0018】ベースフレーム3は,コ字状に形成されて溝部を対向配置した対となる分割フレーム7,8を左右に備えている。また,それぞれの端部を水平シリンダ9で接続して幅方向に伸縮可能な矩形枠状に組立てられている。水平シリンダ9は,ハウジングの内部に2台のシリンダ部材を備え,両側にそれぞれ伸縮するシリンダロッドを備えている。
【0019】ベースフレーム3の上方位置には,左右に二分割された分割保持フレーム15,16を備えて把持機構5を支持する保持フレーム14が配置されている。保持フレーム14は拡幅時のベースフレーム3と同じ大きさの外形で,内周を円弧状に形成している。ベースフレーム3と保持フレーム14の四隅は,昇降シリンダ10〜13によって接続され,分割保持フレーム15,16は,それぞれを支持する昇降シリンダ10,11,又は昇降シリンダ12,13によって異なる高さに昇降することができる。
【0020】把持機構5は,円弧状ベアリング片21,22を保持フレーム14の内側位置の左右両側に配置している。円弧状ベアリング片21,22は,それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリング2を構成する。円弧状ベアリング片21,22は同一形状に形成され,半円状の分割内輪部23及び分割外輪部24と,その間に配置され転動体として使用される多数の球体25をそれぞれ有している。分割外輪部24の外周には,外歯部26が形成されている。図2(B)に示すように,分割内輪部23は,分割保持フレーム15,16にそれぞれ固定され,分割外輪部24は,分割内輪部23に球体25を介して回動自在に設けられている。
【0021】同期運転可能な油圧又は電動式の駆動モータ17〜20は,分割保 持フレーム15,16の昇降シリンダ10〜13の内側にそれぞれ配置され,それぞれの駆動モータ17〜20の先部には,把持機構5を構成するピニオン28〜31が取り付けられている。ピニオン28〜31は分割外輪部24の外歯部26に噛合している。‥ 【0022】円弧状ベアリング片21,22の下位置には,鋼管4に巻着固定されるC字状のバンド部材32が固定されている。バンド部材32は,多数の円弧状部材を回動可能に接続し,両端部をシリンダ部材37によって接続している。バンド部材32は使用時には鋼管4の外周に巻着して円形になり,移動時には,幅方向に縮幅した形状に変形することができる。
【0023】立坑構築機1の使用時には,図5に示すように,ベースフレーム3に走行台車35を連結することができる。走行台車35には,昇降機構と鋼管4内の土砂を除去するバケット部材36を設けることができる。
(イ) 立坑構築機1の動作 【0024】‥立坑構築機1の使用時においては,図1,図3(A),図5に示すように,水平シリンダ9のロッドを伸ばしてベースフレーム3を拡幅する。また,分割保持フレーム15,16は同じ高さに配置し,円弧状ベアリング片21,22の両端部を当接させる。なお,円弧状ベアリング片21,22の位置決めは,図2に示すように,円弧状ベアリング片21,22の間に設けられたノックピン38,39によって行うことができる。
【0025】この状態で,バンド部材32で鋼管4を締結固定し,駆動モータ17〜20を同期駆動すると,ピニオン28〜31,円弧状ベアリング片21,22,バンド部材32を介して鋼管4を回転させることができる。また,昇降シリンダ10〜13を同時に昇降させて鋼管4を昇降させることができる。
【0026】立坑構築機1の輸送時には,図3(B),図4に示すように,昇降シリンダ10,11と昇降シリンダ12,13を別々に作動させ,左右の分割保持フレーム15,16にそれぞれ設けられた円弧状ベアリング片21,22の高さを段 違いに配置する。このとき,球体25がこぼれないようにそれぞれの端部にはベアリング保護カバー40を取り付ける。ベアリング保護カバー40は,分割保持フレーム15,16にボルトにより締結固定された平板状部材で,その一端部を円弧状ベアリング片21,22の端部に当接させている。かかる構成によって,球体25の紛失を防止すると共に,球体25の転動路にゴミ等が侵入することを防止できる。
次いで,水平シリンダ9を操作して,ロッドを縮めると,立坑構築機1全体を縮幅でき,一般道路上を輸送することができる。
【0027】‥本発明は前記実施の形態の内容に限定されるものではなく,例えば,分割内輪部23の端部同士と,分割外輪部24の端部同士及び分割保持フレーム15,16の端部同士をボルト等を用いて締結固定することも可能である。
カ 発明の効果 【0028】本発明によれば次の効果を奏する。
それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数の円弧状ベアリング片を備えているので,分割して幅方向の寸法を狭くすることができると共に,標準的なベアリングを使用して装置を安価に構成することができ,また回転を安定させることができる。
? 本件発明の特徴 上記?によると,本件発明の特徴は,以下のとおりであると認められる。
ア 本件発明は,鋼管等を回転して圧入する立坑構築機に関する(【0001】。
) イ 鋼管等を回転させ,所定位置に圧入する立坑構築機を使用するには,保管場所から施工場所までトラック等により運搬する必要があるところ,道路交通法の規制により運搬物の幅に制約があり,鋼管等の直径を2500mm以下にする必要があるが,近年では,これを超える直径の鋼管が要求される場合もある(【0002】【0003】。従来の装置では,上下の各フレームはコ字状で,回転体は,中心角が )180度より小さい円弧状歯車片を隙間をあけて対向配置されており,幅方向に縮幅して運搬時の幅を狭くすることができている(【0004】【0005】。
) ウ しかし,従来の装置では,使用時にも円弧状歯車片の各両端部を当接させないため隙間を有することから,円弧状歯車片の支持部材として一般的なベアリングでは,内部の転動体が端部からこぼれ落ちる。そこで,特殊なガイドを用いて保持するとすれば,装置が複雑になるという問題があり,また,円弧状歯車片が隙間を移動するときにガイドがない状態になるので,その度に回転状態が不安定になるという問題もあった(【0006】〜【0008】。
) 本件発明が解決しようとする課題は,幅方向の寸法を狭くすることができ,標準的なベアリングを用いて回転を安定させることができる立坑構築機を提供することにある(【0009】。
) エ 本件発明の立坑構築機は,前記課題を解決するため,ベースフレームに昇降且つ回動可能に支持され,円筒状部材の外周部に着脱される把持機構と,この把持機構を駆動する回転駆動装置とを備えた立坑構築機において,前記ベースフレームは組立可能に複数に分割された分割フレームを備え,前記把持機構は,それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備える(【0010】。
) 本件発明は,複数の円弧状ベアリング片を備え,その両端部が隙間なく接続されて環状の歯車付ベアリングを構成するようにするとともに,左右の分割保持フレームにそれぞれ設けられた円弧状ベアリング片の高さを段違いに配置して,分割により幅方向の寸法を一挙に狭くすることで運搬の便宜を図るとともに,標準的なベアリングを使用して安価な装置構成と回転の安定を図ることができる(【0011】,【0026】【0028】。
, ) 2 取消事由1(引用発明1及び同2に基づく進歩性判断の誤り)について ? 引用発明1について ア 引用例1の記載(甲1。図は別紙2記載のもの) (ア) 発明の属する技術分野 【0001】本発明は,建築,土木の基礎工事に使用する大口径鋼管杭あるいは 鋼管類(以下これらをケーシングと称す)の圧入,引抜きを行うための回転式ケーシングドライバにおける昇降フレームに関する。
(イ) 従来の技術 【0002】回転式ケーシングドライバは,ジャッキにより水平に保持されるベースフレームにスラストシリンダにより昇降自在に昇降フレームを取付け,該昇降フレームに旋回ベアリングを介して回転リングを取付け,該回転リングは昇降フレームに搭載した油圧モータにより回転させるように構成し,該回転リング上に,ケーシング掴み用のバンドと油圧式バンドシリンダからなるバンド装置を取付けてなる。
【0004】このようなケーシングドライバにおいて,近年における建造物の高層化等に伴い,ケーシングの径も大きくなり,大型のものは,各構成部品ごとに分割輸送せざるを得なくなっている。構成部品のうち,昇降フレームは,さらに大型化すると単体では輸送できず,昇降フレームを複数のフレームに分割して輸送することが行われる。
【0005】この昇降フレームにおいて,回転リングの回転駆動用の油圧モータが昇降フレーム外周部に位置する場合,旋回ベアリングの外輪に回転リングに取付けられ,内輪が昇降フレームに取付けられている。そして,昇降フレームの分割は,内輪の取付座を避け,ケーシングを通すための昇降フレーム内周の円形開口部は非分割として,その円形開口部を含む中間分割フレームと,そのほかの分割フレームとに3分割し,現場において組立,分解を行う構成を有している。
(ウ) 発明が解決しようとする課題 【0006】近年の建造物の高層化,杭支持力増大の要求に伴うケーシングの径の増大により,従来構造による円形開口部を有する中間分割フレームのサイズ及び重量が大となっており,このため,輸送が容易ではなく,またこのような従来の昇降フレームの分割構造を踏襲することが,ケーシングドライバの大型化の妨げになるという問題点があった。
【0007】本発明は,上述のような問題点に鑑み,ケーシングドライバを大型化しても昇降フレームを小さく分割でき,輸送が容易になると共に,ケーシングドライバのさらなる大型化が図れる構造の昇降フレームを提供することを目的とする。
(エ) 発明の実施の形態 【0021】図1(A)(B)はそれぞれ本発明による昇降フレームの一実施例を ,示す平面図及び側面図,図2,図3はそれぞれ図1の昇降フレームを備えたケーシングドライバの側面図及び平面図であり,図2,図3に示すように,ケーシングドライバ1は,4隅のジャッキ2により水平に保持されるベースフレーム3を備え,該ベースフレーム3は4隅に縦ガイドフレーム3a〜3dを有する方形枠状をなすものであり,フランジ3eで分割される。4は前記縦ガイドフレーム3a〜3dに沿って昇降自在に取付けられた昇降フレームであり,該昇降フレーム4は,前記ベースフレーム3と該昇降フレーム4との間に取付けられた複数本のスラストシリンダ5により昇降される。
【0022】前記昇降フレーム4には,旋回ベアリング6を介して回転リング7が取付けられる。図3のE-E拡大断面図である図4(A)に示すように,前記昇降フレーム4の上面の内周側に旋回ベアリング6の取付座4aを固着しており,該取付座4aの上面には,旋回ベアリング6の内輪6aが固定される取付座面4bが形成され,該内輪6aは,ボルト9により取付座4aに固定される。旋回ベアリング6の外輪6bは外歯歯車6cを有し,図1(A)(B)に示すように,該外歯歯車6 ,cが,昇降フレーム4に取付けられた油圧モータ10の出力歯車11に噛合し,油圧モータ10の回転により,外輪6bが回転する。図4(A)に示すように,外輪6b上に回転リング7がボルト12により固定されて取付けられる。
【0023】図2,図3に示すように,回転リング7上には,ケーシング13を掴むためのバンド装置14が取付けられる。該バンド装置14は,回転リング7に固定された略半円状の固定バンド14aと,該固定バンド14aの両端に枢着軸15,16を中心として開閉自在に取付けられた一対の可動バンド14b,14cと,こ れらの可動バンド14b,14cの先端間に両端をピン17,18により連結して取付けたバンド開閉用の油圧式バンドシリンダ14dとからなる。
【0024】前記ガイドフレーム3a〜3dはそれぞれ2つのガイド面a,bを持つ。一方のガイド面aは回転反力を受ける面であり,回転リング7の回転円の接線方向に対し,ほぼ垂直をなすように設けられている。他方のガイド面bは,昇降フレーム4の水平方向のふらつきを押さえ,安定的に支持するものである。そして,昇降フレーム4には前記ガイドフレーム3a〜3dの各面a,bにそれぞれ摺動する面を有している。
【0025】‥本発明においては,図4(A)に示した旋回ベアリング6の取付座4aを分断するように,昇降フレーム4を分割フレーム21〜24に分割する。このように,昇降フレームを取付座4aを分断するように分割すれば,取付座を分断しない分割構造を採用した場合のように,中央開口部を含む分割フレームのサイズが昇降フレーム4の取付座4aの外径に比例して大きくなることを防止できる。
【0026】本実施例においては,図1ないし図3に示すように,相対する両端部に回転リング7を回転させる油圧モータ10が取付けられ,昇降フレーム4を,油圧モータ10が取付けられた端部分割フレーム21,22と,これらの間の左右の中間分割フレーム23,24とに4分割しており,このような分割構造にすれば,分割箇所が油圧モータ10から離れた箇所となり,分割が容易であり,かつ組立も容易となる上,これらは対称形に構成でき,端部分割フレーム21と22は同形に構成でき,中間分割フレーム23,24も同形に構成できるため,製造も容易となると共に,バランスも良好となる。
【0027】上述のように取付座4aを分断する分割構造にした場合,旋回ベアリング6の取付座4aの凹凸が発生すると,旋回ベアリング6が変形し,強度不足を招いたり,スムーズな旋回が妨げられたりするおそれがある。本実施例においては,このような不具合を無くすための構造を有している。すなわち,端部分割フレーム21,22の中間分割フレーム23,24との分断部は,図1(B),図2,図 4(B)に示すように,外側から見て階段状をなすように形成する。そして,その分断箇所の端部分割フレーム21,22側の上半部に,上方及び外方に突出した縦フランジdを,端面の縦部材の外周部によって形成する。同様に,分断箇所の端部分割フレーム21,22側下半部に,下方及び外方に突出した縦フランジfを,端面縦部材の外周部によって形成する。また,端部分割フレーム21,22の水平部には,図4(B)のF-F断面図である図4(C)に一方の端部分割フレーム22について代表して示すように,該端部分割フレーム22外周側,内周側の縦部材22a22bの中間水平部上面に固着した水平部材29の端部を外方及び内方に突出させて水平フランジhを形成する。
【0028】中間分割フレーム23,24の回転リング7の接線方向の両端部は,端部分割フレーム21,22の端部に合致する逆階段状の形状を有し,かつ前記縦フランジd,f及び水平フランジhに対向し当接させる縦フランジc,e及び水平フランジgを有する。図4(C)に示すように,水平フランジgは,図4(C)に一方の中間分割フレーム23について代表して示すように,外周側及び内周側の縦部材23a,23bの中間水平部の下面に固着した水平部材28の端部を外方及び内方に突出させることにより形成する。
【0029】前記中間分割フレーム23,24及び端部分割フレーム21,22は,図4(B)に示すように,中間分割フレーム23,24の縦フランジc,eを端部分割フレーム21,22の縦フランジd,fに合わせ,かつ中間分割フレーム23,24の水平フランジgを端部分割フレーム21,22の水平フランジhに載せ,それぞれ横ボルト25,縦ボルト26により締結する。図4(B)(C)に示すよう ,に,これらのボルト25,26は,裏面に設けたナット27に螺合して締め付けることにより締結する。
【0030】上記分割構造をとる場合,取付座4aはそれぞれの分割フレーム21〜24上に固着されるが,各分割フレーム21〜24の取付座4aを固着する部分にはフランジc,dはない。
【0031】また,図4(C)に示すように,端部分割フレーム21,22の水平部材29には,ノックピンと称されるガイドピン19が,その下端のねじ部19aを水平部材29のねじ孔29aにねじ込むことにより取付けられ,一方,水平部材29上に載る中間分割フレーム23,24の両端の水平部材28には,該ガイドピン19に嵌合するピン孔28aが設けられており,これらにより組立時の水平方向の位置決め手段を構成している。
イ 引用発明1の認定,本件発明との一致点 上記アによれば,引用例1には,本件審決が認定した前記第2の3?の引用発明1が記載されている。
また,本件発明とその構成要件AないしD及びFにおいて一致することは,当事者間に争いがない。
? 本件発明の構成要件Eとの対比 ア 本件発明の構成要件Eは,立坑構築機の「把持機構」の構造について, 「それぞれの両端部を各々接続して環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片を備えている」と特定するものである。
(ア) 構成要件Eの「把持機構」について 本件発明の構成要件Eにある「把持機構」は, 「ベースフレームに昇降且つ回動可能に支持され」 (構成要件A)「円筒状部材の外周部に着脱される」 , (構成要件B)ものであるところ,引用発明1の「旋回ベアリング6,回転リング7,及びバンド装置14」は,昇降フレーム4を介して,ベースフレーム3(本件発明の「ベースフレーム」に相当)に対して「昇降自在」に支持されているといえる。また, 「旋回ベアリング6」は, 「内輪6a」が「昇降フレーム4」の「取付座4a」に固定されたうえで, 「外輪6b」が回転することに伴い, 「回転リング7」及び「回転リング7上に取付けられたバンド装置14」が回転するから,引用発明1の「旋回ベアリング6,回転リング7,及びバンド装置14」は, 「ベースフレーム3」に対して, 「回動可能」に支持されている。また,引用発明1の「旋回ベアリング6,回転リング7,及びバ ンド装置14」は,円筒状のケーシング13の外周を囲んでいるとともに,バンド装置14により,円筒状のケーシング13の外周を「掴む」機構を構成している。
したがって,引用発明1の「旋回ベアリング6,回転リング7,及びバンド装置14」は,構成要件A,Bも備えており,構成要件Eの「把持機構」に相当する。
(イ) 構成要件Eの「環状の歯車付ベアリング」について 引用発明1の「旋回ベアリング6」は, 「内輪6a」「外輪6b」「内輪6a」と , ,「外輪6b」の間に配置された「図4に『12』で示される球状のもの(以下「転動体」という。」「外歯歯車6c」を備えるものであるから,構成要件Eの「環状の歯 ),車付ベアリング」に相当する。
イ 本件発明と引用発明1との相違点 上記アによれば,本件発明と引用発明1との相違点は,本件審決が認定したとおり(前記第2の3?イ)と認められる。
? 引用発明2について ア 引用例2の記載(甲2。図は別紙3記載のもの) (ア) 産業上の利用分野等 本発明は,種々の径のケーシングチユーブに対応することができる現場打杭に使用されるオールケーシング工法用回転式ボーリングマシンに関するものである。
本発明の目的は,種々のケーシングチユーブに適用することができ,掘削排土およびケーシングチユーブの回転両操作を同時に行うことができ,低騒音で,精度の高い杭を形成することができるオールケーシング工法用回転式ボーリングマシンを提供しようとするものである。
本発明によれば,複数個の,等分割され,締付拡大可能に取り付けられた円形状の割クランプと,この割クランプの内側に割クランプに対応して複数個に等分割され,締付拡大可能に取り付けられた円形状の第1割ライナーと,この第1ライナーの各割素子に固着され,第1ライナーの各割素子に対応して固着された各ラツク歯車素子の両端部の少なくとも1個の歯は他の歯より歯高が低く形成された,はぼ円 形状のラツク歯車と,このラツク歯車に少なくとも1個は前記歯高の低い歯以外の歯に噛合するよう配置された2個の歯車と,この2個の歯車を駆動する駆動源とでボーリングマシンを構成することにより,上記目的を達成することができる。第1ライナーの最小径より小さいケーシングチユーブを適用しようとする場合には,第1ライナーの内側に適当な径の第2ライナーを取り付けて用いることができる。
(イ) 本発明の回転式ボーリングマシンの構成 本発明のボーリングマシンは,第1図の側面図および第2図の平面図に示すように,操作部1およびクランプ部2より成る。
クランプ部2は,第3図に線図的に示すように,数個に等分割された(図では4個)割クランプ3,割クランプに対応してその内側に取り付けられたライナー4,所定のケーシングチユーブ(図示せず)を中央部に固定するために割クランプ3およびライナー4を締め付けるためのジヤツキ5,ライナー4に固着された割ラツク歯車6を具え,ラツク歯車6は後に詳述する操作部1のギアボツクス7により回転駆動される。
クランプ3はジヨイントピン8により互いに連結されている。ラツク歯車6は,第3図からわかるように,クランプと同様に分割して構成され,ギアボツクス7中の二つの歯車9により常時駆動され,これらの歯車9は他の歯車10および11を介して,油圧モータのような駆動源12に連結されている。ラツク歯車6は4個で構成されているが,これらのラツク歯車を2個の歯車9で駆動するのは次の理由による。ラツク歯車6は分割されているから,一つのラツク歯車から他のラツク歯車への遷移部分に歯車6がさしかかった時には,駆動力が伝達されない恐れがある。
そこで,少なくとも1つの歯車9がラツク歯車6の遷移部分ではない部分に位置するようにする必要があるからである。
また,各ラツク歯車6の両末端部における少なくとも1個の歯13は,他の歯14に比してその歯高を減じておく。これにより,歯車9がラツク歯車6の遷移部分にかかった時においても,噛み合いをスムースにいかせることができるのである(第 3図参照)。分割されたラツク歯車6の各素子間には,その間の間隙を一定にするため硬質ゴム等を介挿しておくのが良い。
第2図のW-W線での断面図である第4図に示すように,ライナー4にはラツク歯車6が固着され,ラツク歯車6は歯車9に作動的に連結されている。一方,ライナー4とクランプ3とは垂直方向および水平方向において,それぞれスチールボールのような回転支承部材15により回転可能に支承され,歯車9がクランプに回転可能に取り付けられている。ライナー4とクランプ3との間に異物が侵入しないよう,上部には防護板16が設置される。
締付ジヤツキ5によるクランプ3の締め付けによって,ライナー4は各ライナー素子がくっついた最小径から各ライナー素子が離れたより大きい径までの種々の径のケーシングチユーブをクランプすることができる。上記最小径より小さな径のケーシングチユーブをライナー4にクランプしようとする場合には,第1ライナー4上に第2ライナー17取付用の手段18を取り付けて,所定のケーシングチユーブを常法通りセットすることができる。
(ウ) 本発明の回転式ボーリングマシンの作動 クレーン等で吊り上げた所要径のケーシングチユーブをライナー4の内側に入れ,締付ジヤツキ5によりクランプ3およびライナー4を締めつけてケーシングチユーブを固定する。駆動源12の作動により歯車11,10,9を介してラツク歯車6を回転させることにより,ライナー4に固足されたケーシングチユーブを回転させる。
チユーブの回転によりチユーブは土中に押入することができる。所定量押入したら,チユーブのやや上方をライナー4により再び前述したようにしてチヤツクし,押入操作を繰り返す。押入操作時,チユーブは単に回転しているだけで,チユーブ孔には障害物はないから,ハンマグラブを用いてチユーブ内の排土を回転中に行うことができる。すなわち,チユーブの押入と排土を同時に行うことができる。ケーシングチユーブの引抜は逆回転により同様の操作で行うことができる。
ケーシングチユーブの回転は,ラツク歯車6と2つの歯車9により行われ,ラツク歯車6の遷移部分においても,ラツク歯車には歯高の低い部分が設けてあるから,ラツク歯車6と少なくとも1個の歯車9とが確実に噛合して,一時的に駆動力が低下するようなことはなく,回転駆動力は常に所要量与えられる。
なお,ライナー4の最小径より小さい径のケーシングチユーブをセットすることが必要な場合には,第1ライナー4に適当な取付手段18を取り付け,これに第2ライナー17をセットし,第2ライナーにケーシングチユーブを上述した手順でクランプすればよい。
イ 上記アに加え,第2ライナーは付加的な構成といえることを考慮し,引用例2には,審決の認定した発明の構成のうち, 「割ライナー4の最小径より小さい径のケーシングチユーブをセツトすることが必要な場合には,割ライナー4に第2ライナー17をセツトして,第2ライナーにケーシングチユーブをクランプし,」を除外した,次の発明(以下「引用発明2’」という。)が記載されているものと認める。
(引用発明2’) 種々の径のケーシングチユーブに対応することができる現場打杭に使用されるオールケーシング工法用回転式ボーリングマシンであり,操作部1およびクランプ部2より成り,クランプ部2は,複数個に等分割され,締付拡大可能に取り付けられた円形状の割クランプ3,割クランプ3の内側に割クランプ3に対応して複数個に等分割され,締付拡大可能に取り付けられた円形状の割ライナー4,割ライナー4の各ライナー素子に固着され,操作部1のギアボツクス7により回転駆動されるほぼ円形状の割ラツク歯車6,所定のケーシングチユーブを中央部に固定するために割クランプ3および割ライナー4を締め付けるための締付ジヤツキ5,を具え,割ライナー4と割クランプ3とは,スチールボールのような回転支承部材15により回転可能に支承されており,割ライナー4は,締付ジヤツキ5によるクランプ3の締め付けによって,各ライナー素子がくっついた最小径から各ライナー素子が離れたより大きい径までの種々の径のケーシングチユーブをクランプすることができ, 作動時には,所要径のケーシングチユーブを割ライナー4の内側に入れ,締付ジヤツキ5により割クランプ3および割ライナー4を締めつけてケーシングチユーブを固定し,駆動源12の作動により割ラツク歯車6を回転させることにより,割ライナー4に固定されたケーシングチユーブを回転させ,ケーシングチユーブを土中に押入する時には,押入引抜用ジヤツキ19により荷重をかけることができ,所定量押入したら,ケーシングチユーブのやや上方を割ライナー4により再びチヤツクし,押入操作を繰り返す,小さな力で施工が可能になったことから小型化され,搬入困難な場所でも分解搬入が可能である,オールケーシング工法用回転式ボーリングマシン。
ウ 上記イによれば,引用発明2’は次の構成を含んでいるものと認められ,これと異なる旨をいう原告らの主張はいずれも理由がない。
(ア) 引用発明2’の「クランプ部2」は,それが有する「割クランプ3」の締め付けによって,ケーシングチユーブをクランプする「把持機構」といえる。
(イ) 引用発明2’の「クランプ部2」は, 「割クランプ3」「割ライナー4」「ス , ,チールボールのような回転支承部材15」及び「割ラツク歯車6」からなる「環状の歯車付ベアリング」といえる。
(ウ) 引用発明2’の「クランプ部2」は, 「複数個に等分割」され,締付拡大可能に取り付けられた「円形状の割クランプ3」,割クランプ3に対応して「複数個に等分割」され,割クランプ3の内側に締付拡大可能に取り付けられた「円形状の割ライナー4」を備え,割ライナー4の各ライナー素子はくっついた状態から離れた状態までを取り得る。上記各ライナー素子がくっついた状態では, 「割クランプ3」及び「割ライナー4」が,それぞれ隣接する「割クランプ3」「割ライナー4」と隙間 ,なく当接することにより,「環状の歯車付ベアリング」を構成しているといえる。
? 相違点に係る容易想到性 ア 引用発明1に引用発明2’を適用することについて (ア) 引用発明1は,大口径の鋼管杭(ケーシング)の圧入,引抜きを行うための 回転式ケーシングドライバに関し,引用発明2’は,種々の径のケーシングに対応することができ,現場打杭に使用される回転式ボーリングマシンに関するから,両発明の技術分野は共通する。
しかし,引用発明1では,小さく分割することでその輸送を容易にしながら,ケーシングドライバの大型化を図ることのできる構造の,昇降フレームを提供することを目的とするのに対し,引用発明2’では,種々のケーシングチユーブに適用し,掘削排土及びケーシングチユーブの回転の両操作を同時に行うことのできる回転式ボーリングマシンを提供することを目的とするので,両発明の目的は異なる。
また,引用例1には,引用発明1の把持機構(旋回ベアリング6,回転リング7,及びバンド装置14)に代えて,引用発明2’の把持機構(クランプ部2)を採用することに関する記載も示唆も認められない。
そうすると,引用発明1に引用発明2’を適用することについて,直ちに動機付けがあると評価することはできない。
(イ) そこで,更に両発明の構成をみると,引用発明1の「旋回ベアリング6,回転リング7,及びバンド装置14」と引用発明2’の「クランプ部2」は,いずれもケーシングの回転及び把持の機能を有する点において共通する。
しかし,上記の目的の相違に対応して,引用発明1の「昇降フレーム4」は,旋回ベアリング6を取り付ける「取付座4a」を分断するように分割する構成を有し,その「取付座4a」のサイズは一定であり,種々の径の旋回ベアリング6を固定できるよう拡大や縮小が可能なものではないのに対し,引用発明2’の割ライナー4及び割クランプ3は,種々の径のケーシングチユーブをクランプするために締付拡大可能なものであり,回転駆動される割ライナー4,及び割ライナー4を回転可能に支承する側の割クランプ3の両者が,締付ジヤツキ5の動作によってその径を変更することのできるものである。このような引用発明2’の割ライナー4及び割クランプ3を,旋回ベアリング6の径の変更に対応するための構成を有しない引用発明1の「昇降フレーム4」上の「取付座4a」にそのまま取り付けることはできないか ら,引用発明1に引用発明2’を組み合わせるためには,分割可能な「昇降フレーム4」及び「取付座4a」という引用発明1の構成自体を変更する必要が生じる。
そうすると,引用発明1に引用発明2’を組み合わせることについては,これを阻害する要因があるというべきである。
イ 原告らの主張について 原告らは,@旋回ベアリングを分割することは周知の技術であり,また,土木機械である立杭構築機について,その運搬時の作業性を勘案して各種構成部材を分割することも引用例2から容易に発想できるから,引用発明1に引用発明2’を適用する動機付けがある,A引用発明1に引用発明2’を適用するに際しては,引用発明1の「取付座4a」に所定の径の旋回ベアリング6が固定できるように,サイズの合う部材を現場において選択すれば足り,阻害要因はないと主張する。
しかし,@については,前記アで述べたとおりの理由により適用の動機付けがないし,Aについても,引用発明1に引用発明2’を適用する場合には, 「取付座4a」のサイズに応じた部材のほかに, 「旋回ベアリング6の外歯歯車6cに噛合する出力歯車11」のサイズや配置の変更も必要となることからすれば,適用することに阻害要因があると評価すべきである。原告らの主張は理由がない。
? 小括 よって,本件発明は,引用発明1及び引用例2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(引用発明1及び同3に基づく進歩性判断の誤り)について ? 引用発明3について ア 引用例3の記載(甲3。図は別紙4記載のもの) (ア) 産業上の利用分野 この発明は,トンネル掘進機のカッターヘッド用軸受や超大型建設機械のターンテーブル用軸受等の大型の軸受に用いられる分割可能な起動輪及びその製造方法に関する。
(イ) 発明が解決しようとする課題 この発明の目的は,‥容易にかつ精度高く真円に製造することができる‥分割可能な旋回座軸受の軌道輪を提供することにある。
また,‥環状の組み立てに際し,容易かつ正確に環状に位置決めすることができる旋回座軸受の軌道輪を提供することにある。
また,‥容易にかつ精度高く真円に製造することのできる旋回座軸受の軌道輪の製造方法を提供することにある。
(ウ) 課題を解決するための手段 上記目的を達成するため,この発明の旋回座軸受の軌道輪は,一つの環状部材を半径方向に切断することにより構成された複数の弧状の軌道部材と,上記軌道部材の対向する端面間に挿入され,上記環状部材が切り欠かれた部分に相当するスペーサとを環状に組み立ててなる。
また,上記スペーサには軸方向に延び周方向両側に開口を有する穴が設けられ,上記穴には周方向両側に上記開口より突出する係合部を有する嵌合部材が嵌合され,上記軌道部材の上記端面には上記係合部に係合可能な係合凹部が設けられている。
また,この発明の旋回座軸受の製造方法は,一つの環状部材を半径方向に切断することにより複数の弧状の軌道部材を構成し,次いで上記複数の軌道部材の対向する端面間に上記環状部材の切断に際し切り欠かれた部分に相当するスペーサを挿入して環状に一体に組み立て,次いでこの一体に組み立てられた状態の上記軌道部材及びスペーサに真円加工を行うことを特徴としている。
(エ) 実施例 第1図は,この発明の旋回座軸受の軌道輪の第1実施例を軸方向からみた図であり,この軌道輪は,真円の一部をなす略半円弧状で,外周に外歯歯車1cを有する一方の軌道部材1と,この一方の軌道部材1と同一の真円の一部をなす略半円弧状で,外周に上記外歯歯車1cと共に一つの歯車をなす外歯歯車2cを有する他方の軌道部材2と,上記一方の軌道部材1‥と他方の軌道部材2‥の互いに対向する端 面‥に夫々配置され,上記一対の軌道部材1,2と共に一つの上記真円をなす板状のスペーサ3,4と,このスペーサ3,4とその両側に位置する上記軌道部材1,2の3者にまたがるように嵌合され,軸心に平行な2本ずつ計4本の円柱形のピン5,5及び6,6とからなっている。‥この軌道輪は後述する2つの連結輪と共に旋回座軸受の外輪を構成する。
上記軌道部材1,2は夫々,一つの環状部材を直径方の一つの平面に沿って一定の切断代(図中w参照)で切断して得られる2つの略半円弧状をしており,上記各端面‥は軸心に平行な平面で形成されている。ここでは互いに対向する上記端面1a,2a及び端面1b,2bは同一形状(第2図参照)をしており,また‥夫々互いに対称な形状をしている。そして,上記軌道部材1,2は各端面‥に,上記ピン5の一部及びピン6の一部に嵌合し,内面が円筒面で形成される軸方向の係合溝7及び8(第2図参照)を夫々有している。そして,上記ピン5,6と位相が90°ずれた周方向位置に軸方向の円穴9及び円穴10を有している。これらの軌道部材1,2は,外歯歯車1c,2c部分を除いて両者とも第3図に示す径方向の断面形状を有している。そして,これらの軌道部材1,2は,その内周面の軸方向一端及び他端に夫々,上記一端側及び他端側に一方を開放する断面略矩形の半弧状の溝11及び12を有している。上記溝11及び12の軸心に直角な面11a及び面12aにより,2組のスラストころ13,14が夫々転動する一方の軌道面15及び他方の軌道面16(第1図参照)の大部分が形成され,また,内周面17により,ラジアルころ18が転動する軌道面19の大部分が形成される。そして,上記面11a,12a及び17には,表面から一定深さにまで至る焼き入れ層(図示を省略)が形成されている。なお,20及び21は断面矩形の略半弧状の嵌合溝であり,軌道輪の組み立てに際し,これら嵌合溝20,21には夫々,第3図中想像線a及び想像線bで示す断面略矩形の略半円弧状の連結部材22,23が,その嵌合部を介して,上記従来と同様(第11図参考)上記軌道部材と軸心回りの位相を90度ずらした状態で,かつ2つの軌道部材1,2にまたがって,嵌合される。
第1図に示すように,上記一方のスペーサ3はその両端面‥を上記端面1a,2aに完全に一致させた状態で,また他方のスペーサ4はその両端面‥を上記端面1b,2bに完全に一致させた状態で軌道部材1,2間に挿入されている。
第4,5図に示すように,上記スペーサ3,4は,軸方向一端側及び他端側に夫々,‥軸方向の穴24及び穴25を有している。この穴24及び穴25は,軌道部材1,2とスペーサ3,4とを第1図に示す環状の状態に保持したまま,上記互いに対向する端面1a,2aまたは1b,2bに設けた上記係合溝7,7及び8,8と一体加工で軸方向の円穴加工を行うことにより設けられる。
第1図に示すように,軸方向一端側において2つの係合溝7,7とスペーサ3の穴24により形成される一方の円穴28と,同様にして形成されるスペーサ4側の他方の円穴29とには上記ピン5が夫々密に嵌合してある。また同様に,軸方向他端側において2つの係合溝8,8とスペーサ3の穴24により形成される一方の円穴30と,同様にして形成される他方の円穴31とには上記ピン6が夫々嵌合してある。これらのピン5,6の上記開口24a,24a及び上記開口25a,25aから突出し上記係合溝7または8に嵌合する突出部分5a,5aまたは6a,6a(第5図参照)が係合突起として作用する。そして,上記2つの軌道部材1,2は,‥係合溝7,8とスペーサ3,4の端面3a及び4aより突出した上記ピン5の突出部分5a,6aとの係合により,第1図中矢印で示す方向に互いに位置決めされている。そして,周方向は,スペーサ3の両端面‥と軌道部材1,2の上記対向する端面‥との当接及びスペーサ4の両端面‥と軌道部材1,2の上記端面‥との当接により位置決めされている。
上記ピン5は上記係合溝7及び穴24の深さよりも適宜な寸法だけ長く設けられており,また上記ピン6も上記係合溝8及び穴25の深さよりも適宜な寸法だけ長く設けられている。そして,上記各円穴28,29,30,31から夫々軸方向に突出している。また,軌道部材1,2の上記ピンと90°位相がずれた上記穴9,10にもピン5,6が夫々一部が突出した状態で嵌合してある(第6図参照,ただし第 6図では軸方向上記他端側は図示の一端側と同様であるので図示を省略してある)。
環状に組まれ,ピン5,6を夫々突出させた状態の軌道輪には,上記半円弧状の連結部材22,22と2つのスペーサ40,41とを備えた環状の連結輪42を,上述のように軌道輪と位相を90°ずらした状態で図中矢印で示すように互いに当接するまで押し進め,第7図に示すように,上記スペーサ3,4部分の上記円穴28,29に嵌合したピン5,5を連結部材22,22の弧の中央に設けた穴22a,22aに夫々嵌合する一方,上記穴9,9に嵌合したピン5,5を連結輪の上記スペーサ40,41部分に形成される円穴43,44に嵌合している。そして,上記軌道輪に対してこの連結輪42を位置決めし,この連結輪42と上記軌道輪とを周方向適宜な位置において,図示を省略した複数のボルトにより軸方向に連結して,上記軌道輪を一体に組み立てている。
(他端側つまり第3図に示す連結部材23を備えた連結輪は上記と同様であるので図示を省略)。
この軌道輪によれば,組み立てに際し,容易にかつ正確に軌道部材1,2とスペーサ3,4の端面どうしを互いに一致させて,精度よく真円状に組み立てることができる。したがって,軌道面15,16,19等を正確な一つの平面や円筒面に形成することができる。しかも,修理等のため分解しても,容易かつ正確に再び組み立てることができる。したがって,この軌道輪を適用した旋回座軸受は,従来と同様に小さい部品に分解して容易に運べ,しかも従来に比べて容易かつ精度よく組み立てることができる。
上記実施例では軌道輪の軸心に対称な2箇所の周方向位置に1つずつ計2つのスペーサ3,4‥を設けるようにし,これに応じて軌道部材1,2‥を一つの環状部材を軸心に関して対称な2箇所の周方向位置で切断したように半円弧状に構成するようにしたが,スペーサを設ける周方向位置は上記周方向位置に限らず,また設けるスペーサの数も2つに限らず,これらスペーサを設ける周方向位置やスペーサの数は,輸送車両の能力,作業性及び軌道輪全体の大きさや重量等を考慮にいれて,例えば120゜毎に3つというように適宜に決定される。そして,軌道部材も,上 記スペーサを設ける周方向位置及びスペーサを設ける数に応じて一つの環状部材を切断したように,構成される。
なお,このことは,連結輪にも言える。
イ 引用発明3の認定 上記アによれば,引用例3には,本件審決が認定したとおりの引用発明3の1及び2が記載されているものと認められ,このうち引用発明3の2には,スペーサを設ける位置,数が変更可能であるという技術的思想が示されているものといえる。
? 相違点に係る容易想到性 ア 相違点に係る構成要件Eの「円弧状ベアリング片」について 構成要件Eは,立坑構築機の「把持機構」の構造を前記第4の2?アのとおり特定することにより, 「円弧状ベアリング片」と「環状の歯車付ベアリング」との関係を規定しているところ,前者について「円弧」 「ベアリング片」との語句を用いて特定し,後者について「環状」「ベアリング」との語句を用いて特定していることや,前者の「両端部」を各々「接続」することで後者が「構成」されることを特定していることを踏まえると,構成要件Eの「円弧状ベアリング片」は, 「環状の歯車付ベアリング」を周方向に分割して得られるものであり,その各々の端部を隙間なく接続することで「環状の歯車付ベアリング」を構成するものと解するのが自然である。
そして,このような構成要件Eの「円弧状ベアリング片」「環状の歯車付ベアリ ,ング」についての理解は,本件明細書に,従来の立坑構築機においては,回転体の中心角が180度より小さい円弧状歯車片(本件発明の「円弧状ベアリング片」に対応)が隙間をあけて対向配置されており(【0004】,使用時に各両端部を当接さ )せず,その間に隙間を有して配置されていることで(【0006】,円弧状歯車片の )回転状態が不安定になるという問題があったこと(【0008】)を念頭に,その幅方向の寸法を狭くでき,標準的なベアリングを用いて回転を安定させることができる立坑構築機を提供することを本発明が解決しようとする課題(【0009】)として記載していることとも整合する。
これに対し,引用発明1の「旋回ベアリング6」は,周方向に分割されるものではないから,引用発明1の「旋回ベアリング6,回転リング7,及びバンド装置14」が「円弧状ベアリング片」を備えるものではないことは明らかである。
イ 他方,引用発明3の1の「旋回座軸受」は,内輪102,外輪104,及び,その間に配置される「ころ」が一体となって,本件発明の「環状の歯車付ベアリング」に相当する「旋回座軸受」を構成するものではある。
ところが,内輪102は,軸に垂直な平面で分割した第1〜3内輪部(102a〜c)を上記軸を含む平面で分割した分割面が半径方向に互いに90°ずれた位置関係にあり,外輪104は,軸に垂直な平面で分割した第1,2外輪部(104a,b)を上記軸を平面で分割した分割面が半径方向に互いに90°ずれた位置関係にあるもので,内輪,外輪いずれについても分割面が同一の平面上になく, 「環状の歯車付ベアリング」を周方向に分割(軸を含む平面で分割)して得られるものではないから,上記相違点に係る「環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片」に相当する構成を有していない。
次に,引用発明3の2の「旋回座軸受」も,内輪,外輪,及び,その間に配置される「ころ」が一体となって,本件発明の「環状の歯車付ベアリング」に相当する「旋回座軸受」を構成してはいる。
ところが,このうち,外輪は,@略半円弧状の軌道部材1,2及びその端面間に配置されるスペーサ3,4とからなる軌道輪1〜4,A略半円弧状の連結部材22,22及びスペーサ40,41とからなる環状の連結輪及びB当該連結輪と前記軌道輪を挟んだ位置にあり,略半円弧状の連結部材23,23及びスペーサからなる環状の連結輪とからなるが,軌道輪1〜4の間に形成される端面とその両側の連結輪において連結部材とスペーサの間に形成される端面は半径方向に90°ずれた位置関係にある。また,内輪は,@略半円弧状の軌道部材41,42及び端面間のスペーサ43とからなる環状の軌道輪cと,Aこれと軸方向に一体に構成される軌道輪 eとからなるが,互いに90°ずれた位置関係にある。
このように90°ずらすのは,環状の組み立てに際し,容易かつ正確に環状に位置決めすることができるようにするという引用発明3の課題に由来するが,そのため,内輪,外輪のいずれも,分割面が同一の平面上にない構造となる。そうすると,本件発明の「環状の歯車付ベアリング」を周方向に分割(軸を含む平面で分割)して得られるものとは異なり,相違点に係る「環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片」に相当する構成を有していないことになる。
また,本件発明では,前記1?エのとおり,左右の分割保持フレームにそれぞれ設けられた円弧状ベアリング片の高さを段違いに配置して,分割により幅方向の寸法を一挙に狭くすることができる(別紙1図3(B)参照)が,引用発明3では,そのような効果を奏しない。
ウ 以上によれば,引用発明3は,相違点に係る構成要件Eを有していないというべきであるから,仮に引用発明1に引用発明3を適用したとしても,相違点に係る構成に至らず,そうすると,本件発明が引用発明1及び引用発明3に基づいて容易に発明をすることができたものということはできない。
? 原告らの主張について ア 原告らは,引用例3に記載された発明においても,本件発明と同様の「内輪,外輪,転動体」の一体構造が開示されているから,本件発明は特別に何ら技術的意義を有しないと主張し,また,引用例3から前記第3の2〔原告らの主張〕?のとおりの発明が認定されるべきであると主張する。
しかしながら,引用例3から前記第3の2〔原告らの主張〕?のとおりの発明を認定することは,旋回座軸受の一部のみに着目することになるが,これだけでは旋回座軸受が一体として機能することがないから,引用例3から原告らの主張するように発明を認定することは相当でない。
イ また,本件発明の「環状の歯車付ベアリング」は,本件明細書の【0007】ないし【0009】【0011】【0020】及び【0026】において,一貫して , ,「ボールベアベアリング」に関して記載されていることから明らかなように,内輪, 外輪及びそれらの間に配置されたボール状の転動体からなるものである。そして,本件発明の「円弧状ベアリング片」は,本件明細書の図4, 【0026】に記載のとおり, 「環状の歯車付ベアリング」を内輪,外輪同じ位置で半円形となるように分割しただけのものであることからすれば, 「内輪,外輪,転動体」が一体となったものであることも明らかというべきである。
ウ なお,原告らが提出する甲第7号証(特開平2-304216号公報)には,以下の記載がある(図は別紙6記載のもの)。
(ア) 産業上の利用分野 この発明は,トンネル掘削機のカッタヘッド等を回転自在に支持する大型転がり軸受の軸受セグメントに関するものである。
(イ) 実施例 第1図は,大形の転がり軸受を示す。この転がり軸受1は複数の軸受セグメント2から形成されている。
第2図以下は,上記軸受セグメント2を示す。この軸受セグメント2は,内輪セグメント3と外輪セグメント4とを有し,内輪セグメント3の外周面おける中央部にはフランジ5が設けられている。
‥上記大形転がり軸受を用いて,例えば,トンネル掘削機のカッタヘッドを支持するには,内輪セグメント3及び外輪セグメント4に形成された取付孔29,30を利用して,内輪を形成する内輪セグメント3をカッタヘッドにねじ止めし,外輪を形成する外輪セグメント4をハウジングにボルト止めする。
ここで,転がり軸受は,内輪セグメント3及び外輪セグメント4の取付けによって組立てるようにする。すなわち,軸受セグメント2の内輪セグメント3及び外輪セグメント4をねじ止めする工程と,次の軸受セグメント2を先に取付けられた軸受セグメント2の突き合わせ面23,26に突き合わせ,かつ突部24,27を凹部25,28に係合してその軸受セグメント2を取付ける工程とを順次行なって複数の軸受セグメント2を円形に組立て,その後,連結ボルト22を取外して内輪セ グメント3と外輪セグメント4の連結を解除する。
しかし,甲第7号証を参酌することによって上記の判断が左右されることもない。
エ したがって,原告らの主張は理由がない。
? 小括 よって,本件発明は,引用発明1及び引用発明3に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(引用発明1及び周知技術に基づく進歩性判断の誤り)について ? 周知例の記載 ア 甲4の1(実用新案登録第2521914号公報)(図は別紙5記載のもの) (ア) 産業上の利用分野 この考案は,大型転がり軸受に係り,さらに詳しくは,スラスト荷重,ラジアル荷重及びモーメント荷重を支持することができるセグメント構造式の大型転がり軸受に関するものである。
(イ) 実施例 第3図に示すように,円形に組合わされて分割外輪OR 1を形成する2個の外輪セグメントOR1S及び分割外輪OR2を形成する2個の外輪セグメントOR 2Sの突き合わせ面F1,F2における一方には,位置決め用の突部14が設けられ,他方には上記突部14が嵌る凹部15が形成されている。
第5図に示すように,円形に組合わされて分割内輪IR 1を形成する2個の内輪セグメントIR1S及び分割内輪IR2を形成する2個の内輪セグメントIR 2Sの突き合わせ面F3,F4も上記と同様に,一方に位置決め用の突部14が設けられ,他方に凹部15が設けられている。
なお,外輪ORの組立てに際しては,上記のようにして円形に形成した2個の分割外輪OR1,OR2を軸方向に重ね合わせてノックピン5をピン孔4に挿入し,締付ボルト8の締付けによって2個の分割外輪OR1,OR2を軸方向に結合する。この場合,一方の分割外輪OR1の外輪セグメントOR1Sの突き合わせ面F1が,他方 の分割外輪OR 2の外輪セグメントOR 2S の突き合わせ面F 2に対して周方向に90°位置がずれるようにする。内輪IRの組立てに際しても上記と同様にする。
イ 甲4の2(実願昭63-167245号(実開平2-87118号))のマイクロフィルム 外輪と内輪との間に転動体を組込んだ大型転がり軸受において,前記外輪と内輪のそれぞれを,軸心に直角な平面に沿って分割して一対の分割外輪と一対の分割内輪とを形成し,その分割外輪と分割内輪のそれぞれを軸心を含む平面に沿って分割して複数の外輪セグメントと複数の内輪セグメントを形成し,前記一方分割外輪の外輪セグメントの突き合わせ面及び一方分割内輪の内輪セグメントの突き合わせ面を,他方分割外輪の外輪セグメントの突き合わせ面及び他方分割内輪の内輪セグメントの突き合わせ面に対して周方向に位置をずらし,軸方向で対向する外輪セグメント及び内輪セグメントを締付ボルトで互に連結した大型転がり軸受において,円形に組合わされた外輪セグメント及び内輪セグメントの突き合わせ面における一方に突部を設け,他方に上記突部が嵌る凹部を形成したことを特徴とする大型転がり軸受。
ウ 甲4の3(実願昭62-195170号(実開平1-98917号))のマイクロフィルム 外周に環状の嵌合部を有する内輪と,内周に上記内輪の嵌合部に嵌合する環状の嵌合部を有する外輪と,上記内輪の嵌合部と上記外輪の嵌合部との軸方向に対向する面の間に配置される保持器に保持された2組のスラストころと,上記内輪と外輪の対向する周面の間に配置される保持器に保持されるラジアルころとを備えた複合円筒ころ軸受であって,/上記内輪は,軸に垂直な平面で分割される第一内輪部と第二内輪部とを少なくとも有し,上記第一内輪部と第二内輪部は,夫々上記軸を含む平面で少なくとも2つに分割され,上記第一内輪部及び第二内輪部は,半径方向の分割面の位相を互いにずらして一体に分離可能に結合され,/上記外輪は,軸に垂直な平面で分割される少なくとも第1外輪部と第2外輪部を有し,上記第1外輪 部と第2外輪部は夫々上記軸を含む平面で少なくとも2つに分割され,上記第1外輪部と第2外輪部は,半径方向の分割面の位相を互いにずらして一体に分離可能に結合され,/上記内輪部の内周または外輪部の外周にはギヤが形成され,上記ギヤが形成された内輪部または外輪部を少なくとも2つに分割する上記軸を含む平面は,上記ギヤの歯底を通り,/上記スラストころを保持する各保持器は,夫々軸を含む平面で分割され,/上記ラジアルころを保持する保持器は,軸を含む平面で分割されていることを特徴とする複合円筒ころ軸受。
エ 甲4の4(実願昭62-159111号(実開平1-65925号))のマイクロフィルム 外輪とその内側に組込んだ内輪とを備え,その両輪間に転動体を組込んだ大型転がり軸受において,前記外輪及び内輪を軸心に直角な平面と,軸心に沿う平面に沿って分割して複数の外輪セグメント及び複数の内輪セグメントを設け,その外輪セグメント及び内輪セグメントを軸方向に並ぶ外輪セグメント及び内輪セグメントに対して周方向に位置をずらし,軸方向に並ぶ外輪セグメント及び内輪セグメントを締付ボルトで連結したことを特徴とする大型転がり軸受。
周知技術の認定 前記アないしエの記載によれば,外輪と内輪とその間に配置した転動体とからなる大型の転がり軸受において,外輪及び内輪は,@軸心に垂直な平面とA軸心を含む平行な平面とに沿って分割された複数のセグメントからなり,外輪セグメント及び内輪セグメントをそれぞれ軸方向に並ぶ外輪セグメント及び内輪セグメントに対して周方向にずらして連結するという技術が周知であったと認められる。
? 相違点に係る容易想到性 ア 本件発明と引用発明1との相違点は,前記第4の2?イのとおりである。
相違点に係る構成要件Eの「円弧状ベアリング片」は,前記3?アのとおり,環状の歯車付ベアリングを周方向に分割して得られ,その各々の端部を隙間なく接続することによって環状の歯車付ベアリングを構成するものを意味する。
イ ところが,前記?の周知技術は,軸方向に重ねる外輪セグメント及び内輪セグメントの分割位置を周方向にずらすところに特徴があり,環状の歯車付ベアリングを周方向に分割して得られる本件発明のそれとは異なるから,相違点に係る「環状の歯車付ベアリングを構成する複数に分割された円弧状ベアリング片」に相当する構成を有していないことになる。
なお,原告らが提出した甲第7号証(特開平2-304216号公報)を参酌しても上記の判断は左右されない。
ウ 以上によれば,上記周知技術は,相違点に係る構成要件Eを有していないというべきであるから,仮に引用発明1に上記周知技術を適用したとしても,相違点に係る構成に至らない。
? 小括 よって,本件発明は,引用発明1及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,取消事由3は理由がない。
5 結論 よって,原告らの請求は理由がないので棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 小林康彦
裁判官 関根澄子