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事件 令和 1年 (ネ) 10065号 特許権侵害差止等請求控訴事件

控訴人(一審原告) X
同訴訟代理人弁護士 以呂免義雄 美藤慎太郎 ケアシェルサポートこと
被控訴人(一審被告) Y (以下「被控訴人Y」という。)
被控訴人(一審被告) ケアシェル株式会社 (以下「被控訴人会社」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 楠井嘉行 岡浩喜 河野壮登
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/03/11
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 当審において控訴人が追加した請求をいずれも棄却する。
3 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,原判決別紙物件目録(1)記載の粒状物を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
3 被控訴人らは,原判決別紙物件目録(2)記載の製造装置等を廃棄せよ。
4 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して,2873万3036円及びこれに対する令和元年7月12日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
事案の概要
1(1) 本件は,発明の名称を「養殖魚介類への栄養補給体及びその製造方法」とする共有特許権(特許第3999585号)を被控訴人Yと共有するとともに,発明の名称を「透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤」とする甲4特許権(特許第5227537号)を単独で有している控訴人が,被控訴人らに対し,次の各請求をした事案である。
ア 被控訴人会社に対する請求 (ア) 差止請求・廃棄請求 被控訴人会社による原判決別紙物件目録(1)記載の「ケアシェル」という商品名の粒状物(養殖魚介類への栄養補給体)(被告製品)の製造販売が共有特許権の直接侵害(均等侵害を含む。)に当たるとともに,甲4特許権の間接侵害(特許法101条5号)に当たることを理由とする,特許法100条1項及び2項に基づく被告製品の製造,譲渡等の差止め及び製造装置等の廃棄請求 (イ) 被告製品の製造販売を理由とする金銭請求 a 上記(ア)の各特許権侵害不法行為による損害賠償請求として,損害賠償金及びこれに対する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害 2 金の支払請求 b 上記(ア)の各特許権侵害に係る不当利得返還請求として,不当利得金及びこれに対する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法704条前段所定の利息の支払請求 c 被告製品の製造販売について特許権侵害が成立しないとしても,被告製品の製造販売は控訴人の法律上の保護に値する利益を侵害するものとして違法であり,また,これにより被控訴人会社が法律上の原因なく利得したことを理由とする,不法行為による損害賠償請求又は不当利得返還請求として,損害賠償金及びこれに対する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金又は不当利得金及びこれに対する同日から支払済みまで民法704条前段所定の利息の支払請求 (ウ) 中国の会社に対する共有特許権についての通常実施権の許諾等を理由とする金銭請求 被控訴人会社が中国の会社に対して共有特許権について通常実施権を許諾したこと等により共有特許権を侵害したことを理由とする,不法行為による損害賠償請求又は不当利得返還請求として,損害賠償金及びこれに対する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払請求又は不当利得金及びこれに対する同日から支払済みまで民法704条前段所定の利息の支払請求 イ 被控訴人Yに対する請求 (ア) 差止請求・廃棄請求 特許法100条1項及び2項に基づく,被告製品の製造,譲渡等の差止め及び製造装置等の廃棄請求 (イ) 金銭請求 被控訴人会社による上記ア(イ)及び(ウ)の各行為に対する代表取締役としての任務を懈怠したことを理由とする,会社法429条1項に基づく,損害賠償金及びこれに 3 対する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払請求 (2) 原判決が,被告製品を製造したのは被控訴人Yであるなどとして,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が控訴し,当審において,以下の請求を追加した。
ア 被控訴人会社に対する請求 (ア) 被控訴人会社が中国の会社から受領した本件業務委託契約の対価について,民法190条による返還請求として,750万円及びこれに対する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法704条前段所定の利息の支払請求 (イ) 被控訴人会社の本件業務委託契約に基づく技術指導行為が共有特許権侵害に当たることを理由とする,不法行為による損害賠償請求又は不当利得返還請求として,750万円及びこれに対する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は同日から支払済みまで民法704条前段所定の利息の支払請求 イ 被控訴人Yに対する請求 (ア) 被控訴人Yが被控訴人会社と共同して被告製品を製造販売したことが,共同特許権の直接侵害(均等侵害を含む。)に当たるとともに,甲4特許権の間接侵害に当たることを理由とする,不法行為による損害賠償又は不当利得返還請求として,損害賠償金及びこれに対する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金又は同額の不当利得金及びこれに対する同日から支払済まで民法704条前段所定の利息の支払請求 (イ) 被控訴人会社による上記ア(イ)の行為に対する代表取締役としての任務を懈怠したことを理由とする,会社法429条1項に基づく,損害賠償金及びこれ 4 に対する訴え変更申立書(令和元年7月3日付け)送達の日の翌日である令和元年7月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求 2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠等及び弁論の全趣旨により認められる事実) 次のとおり,原判決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」の第2の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決4頁9行目の「財団法人鳥羽市開発公社」の次に,「(以下「公社」という。)」を加える。
(2) 原判決4頁10行目の「原告供述」を,「原告本人」に改める。
(3) 原判決9頁21行目の「乙2」を,「甲125,乙2」に改める。
(4) 原判決10頁2行目の「被告Y供述」を,「被告Y本人」に改める。
(5) 原判決10頁5行目の「財団法人鳥羽市開発公社」を,「公社」に改める。
(6) 原判決10頁11行目の「この製品」を,「被告製品」に改める。
(7) 原判決10頁13行目の「販売した」の次に,「(弁論の全趣旨)」を加える。
3 争点 控訴人は,被控訴人会社に対し,@被告製品の製造販売による共有特許権の直接侵害(均等侵害を含む。)を理由とする請求,A被告製品の製造販売による甲4特許権の間接侵害を理由とする請求,B被告製品の製造販売について特許権侵害が成立しないことを前提とする請求,C中国の会社に対する共有特許権についての通常実施権の許諾等を理由とする請求,D民法190条による返還請求,E本件業務委託契約に基づく技術指導行為を理由とする請求をしているところ,後記争点1及び争点2は,上記@に係る争点,争点3は上記Aに係る争点,争点4は上記Bに係る争点,争点5は上記Cに係る争点,争点6は上記Dに係る争点,争点7は上記Eに係る争点,争点9は上記Dを除く全請求に係る争点である。
また,控訴人は,被控訴人Yに対し,?被控訴人会社と共同して被告製品を製造販 5 売したことによる共同特許権の直接侵害(均等侵害を含む。)を理由とする請求,?被控訴人会社と共同して被告製品を製造販売したことによる甲4特許権の間接侵害を理由とする請求,?被控訴人会社が不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づく責任を負うことを前提とする,会社法429条1項に基づく損害賠償請求をしているところ,後記争点1及び2は,上記?に係る争点,争点3は上記?に係る争点,争点8は上記?に係る争点であり,争点9は被控訴人Yに対する請求との関係でも争点となる。
(1) 被告製品が共有特許発明技術的範囲に属するか(均等侵害の成否等) (争点1) (2) 被控訴人会社が被告製品を製造したと認められるか(争点2) (3) 被告製品の製造販売について甲4特許権に対する間接侵害が成立するか(争点3) (4) 被告製品の製造販売について特許権侵害が成立しない場合の不法行為による損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否(争点4) (5) 共有特許権についての通常実施権の許諾等を理由とする不法行為による損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否(争点5) (6) 民法190条による返還請求の可否(争点6) (7) 本件業務委託契約に基づく技術指導行為を理由とする不法行為による損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否(争点7) (8) 被控訴人Yの会社法429条1項に基づく責任の有無(争点8) (9) 被控訴人らの行為による控訴人の損害額,控訴人の損失額・被控訴人会社の利得額(争点9) 4 争点に関する当事者の主張 次のとおり,原判決を補正し,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第3に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決の補正 6 ア 原判決13頁23行目から24行目までを,「争点2(被控訴人会社が被告製品を製造したと認められるか)」に改める。
イ 原判決14頁2行目の「取引基本契約」の次に, (以下 「 「本件基本契約」という。)」を加え,原判決15頁8行目の「取引基本契約」を,「本件基本契約」に改める。
ウ 原判決15頁12行目から13行目までを,「争点3(被告製品の製造販売について甲4特許権に対する間接侵害が成立するか)」に改める。
エ 原判決15頁18行目及び原判決16頁26行目から17頁1行目にかけての「原告主張の本件技術」を,いずれも「本件技術」に改める。
オ 原判決16頁24行目の「基づく」を,「による」に改める。
カ 原判決17頁3行目及び同頁5行目の「この技術」,同頁8行目及び11行目の「上記技術」を,いずれも「本件技術」に改める。
キ 原判決17頁23行目の「基づく」を,「による」に改める。
ク 原判決18頁24行目の「争点6」を,「争点8」に改める。
ケ 原判決18頁26行目の「特許権等の侵害」を,「共有特許権の直接侵害や甲4特許権の間接侵害」に改める。
コ 原判決19頁8行目の「争点7」を,「争点9」に改める。
サ 原判決19頁18行目から19行目にかけての「したかって」を,「したがって」に改める。
(2) 当審における控訴人の主張 ア 被告製品が共有特許発明技術的範囲に属するか(均等侵害の成否等)(争点1)について (ア) 共有特許権の請求項1には,「貝殻の粉末(1)と,主成分を水酸化マグネシウムとし,その接着力によって前記貝殻の粉末(1)を塊状に固めるバインダー(2)とが混練固化して塊状体に成形され・・・養殖魚介類への栄養補給体」とあり,請求項4には,「該中間品を乾燥し固化させて塊状体の栄養補給体」とあるところ, 7 被告製品にあっては,「カキ殻粉末と,水酸化マグネシウムを混合して水で混練した直径1センチ程度の粒状の固形物に炭酸ガスを吸入させて固化した,アサリ養殖に使用する緩速溶解剤」であり,これと上記請求項1及び4を対比すると,上記下線部分が互いに異なる。
(イ) 共有特許発明の本質的部分は,「貝殻の粉末(1)と,主成分を水酸化マグネシウムとし,その接着力によって前記貝殻の粉末(1)を塊状に固めるバインダー(2)とが混練固化して塊状体に成形され・・・養殖魚介類への栄養補給体」であり,被告製品にいう「炭酸ガスを吸入させて固化した,」はこれに当たらない。
また,共有特許権の目的は,発明の名称に「養殖魚介類への栄養補給体及びその製造方法」とあるところ,被告製品の目的は,「貝類(本件ではアサリ)への栄養補給体及びその製造方法」であるから,被告製品の上記異なる部分を前記請求項1及び4の該当部分に置き換えても,共有特許の特許発明の目的を達することができる。
同一の作用効果としては,特許発明品も,被告製品も成分に変質を加えたものではなく,海水中に溶解して,貝類に栄養を補給し,その成長を促すところに差異はないほか,その特徴として被告製品にあっては,請求項1の成形品の溶解速度よりも溶解速度が遅延させるところにとどまる。
(ウ) 以上によると,共有特許権の請求項1及び4については均等侵害が成立する。
イ 被控訴人会社が被告製品を製造したと認められるか(争点2)について (ア) 以下のとおり,被控訴人らは被告製品を共同して製造している。
a 被控訴人会社が被告製品の原料仕入れ業務を行っていること 被控訴人会社の商号変更前の有限会社アスク鳥羽(以下「アスク」という。)は,公社から「しおさい」を仕入れ,これを肥料として販売し,一部を,被告製品の製造及び販売を行っていた解散会社に被告製品の製造用に販売していた。
被控訴人会社は,平成27年10月1日にアスクから商号変更し,解散会社は同年11月2日に解散したが,被控訴人会社は,アスク同様,公社から「しおさい」を仕 8 入れ,購入後,肥料そのものとして顧客に販売する分と,製造原料として被控訴人Yへ販売する分とに分けて取り扱っている。被控訴人会社の損益計算書(甲34)にある「肥料」とは,「しおさい」のことである。
原料調達や仕入れは製造行為に必須かつ他に替えられないものであり,製造工程の中では重要な一部である。関係各帳簿からも明らかなように,被控訴人会社は,アスクの営んでいた被告製品の原料仕入れ業務に,独立採算の下に独立の人格としてかかわっており,被告製品の製造工程の一部の役割を分担している。
被控訴人らは,被控訴人会社には被告製品の製造用の「しおさい」は一切存在していないと主張するが,被控訴人会社の平成28年度棚卸資産の内訳書(甲39)には,在庫として「ケアシェル,しおさい,ネット,段ボール」と記載されており,これらは被告製品の製造の一群となっているから,「しおさい」とは被告製品の製造用のもののみを示している。また,被控訴人会社の作業場の写真(甲88,甲136の1・2)にも,被告製品の製造用の「しおさい」が写っている。
被控訴人らの主張は,被控訴人Yの一人会社で,かつ,被控訴人Yが代表取締役である被控訴人会社と被控訴人Yとの経営的に密接なつながりを持つという関係の下での被控訴人会社からの原料の仕入れという実態に目を置かず,これを全く経営的につながりのない第三者からの仕入れと同様に扱って論じており,失当である。
b 被控訴人らが共同して作業していること @ 被控訴人会社は,顧客からの注文があるたびに,同数の被告製品を被控訴人Yから仕入れており,被控訴人会社には被告製品の在庫は生じていない。
A 被告製品の製造工場となっている建物の賃料は,被控訴人らが5万円ずつを負担しているし,建物内にある機械類は,被控訴人らの共有であるか,被控訴人Yが単独で借りたものを被控訴人会社とで共同使用している。
上記建物内では,被控訴人会社が借りている2階部分で,在庫保管のほか,被告製品の乾燥作業が行われている(甲135の1・2)。
B 写真(甲130の1・2)では,男性従業員が商品の梱包作業をし 9 ているが,被控訴人会社の従業員は女性2名であるから,上記男性従業員は被控訴人Yの従業員である。このように,被控訴人会社の販売業務に被控訴人Yの従業員も携わっている。
他方,被告製品の製造に当たっては,被控訴人Yがミキサーで「しおさい」と水酸化マグネシウムを混練し,造粒機を使って粒状物を製造するが,1日の作業工程は3人で稼働して初めて可能である(甲127〜129)。しかし,被控訴人Yの2名の従業員は,被控訴人Yが支払っている給料賃金から計算すると,年間それぞれ136.7日の勤務にすぎないから,その余の作業を被控訴人Y以外の従業員が行わなければ出荷することはできず,その作業は女性従業員でも十分にこなせる内容である(甲127のB〜G)。そして,被控訴人会社の女性従業員は1日当たり7時間勤務であるが,被告製品の販売業務だけであれば,積み込みは宅配会社が行うので手空きが生じることになるから,被控訴人会社の女性従業員らが被告製品の製造に携わっているといえる。
被控訴人らは,被控訴人会社の従業員には被告製品の製造方法は指導していないと主張するが,被告製品の製造過程の粒状物を運ぶ作業等には技術指導を要しない。
被控訴人会社と被控訴人Yは,同じ建物の中で作業をしているが,狭い工場と事務所の中で,被控訴人Yが唯一の株主であり代表取締役である被控訴人会社と被控訴人Yとの間で,その役割分担の比率はさておき,互いに被告製品の製造及び販売の発送準備の作業にかかわっているというのはごく自然であって理解しやすい。被控訴人Yの従業員と被控訴人会社の従業員とで載然と区分けして製造作業に当たるというのはいかにも不自然である。そして,不真正連帯債務における内部求償の割合につき定めがない場合には,均等と解されていることに照らし,被控訴人会社と被控訴人Yにおいて被告製品の製造と販売のこれらの事業活動を行うに当たっての役割分担の比率は,均等とみるのが合理的である。
C 被控訴人会社の経理帳簿には被控訴人Yからの仕入れの記載があり,これと対になる被控訴人Yの経理帳簿にも同様の記載があるから,被控訴人会社 10 の従業員が単独で双方の記帳を行うのが自然であるし,製造作業にかかわっている被控訴人Yの男性従業員が被控訴人会社の経理及び電話対応に関与しているのは不自然である。被告製品の製造にも受注管理や経理事務が必要であるから,被控訴人Yにはこの負担が生じる一方で,被控訴人会社が行っている「しおさい」の販売は,被控訴人Yが顧客の元に届けることで行っていた。
D 被控訴人Yの青色申告書(乙20)に記載されている電話番号は,被控訴人会社のものであるから,被控訴人会社が製造にかかわっていることを自認している。また,被控訴人らの平成27年10月1日付けの取引基本契約書(乙6。
以下「本件基本契約書」という。)によると,被控訴人Yは,被告製品の全量を被控訴人会社に卸し,販売には関与していないことになるが,上記青色申告書には,被控訴人Yが販売にかかわっているような記載があり,矛盾がある。
E 以上のような状況下で被控訴人会社と被控訴人Yが厳格に区分けして互いの職務内容にかかわらないようにしているというのは,経験則に反し,不合理,不自然である。被控訴人らは共同して被告製品を製造しているといえる。
c 本件基本契約が不自然であること 本件基本契約書には,被控訴人Yが被告製品を製造し,被控訴人Yが被控訴人会社へ被告製品全量を販売するとされているが,上記bに照らすと,これは共同製造であり,被控訴人らが被告製品の売主であり,被控訴人会社が買主となるはずである。しかし,被控訴人会社から被控訴人会社への販売は不自然であるため,被告製品の売主は被控訴人Y名義としているといえる。
なお,平成27年10月2日及び同月8日の各請求書(甲63,64)によると,被控訴人Yが被告製品を第三者に販売したことになっているが,これは,被控訴人会社が被告製品を全量販売するとの本件基本契約書の内容に反するものである。このことから,本件基本契約書が事実に沿う表現ができていないことが見て取れるのであり,製造について,被控訴人Yと被控訴人会社の間で載然と切り離し,被控訴人会社が製造には関与していないとの主張は破たんしている。
11 d 被控訴人Yが単独で被告製品を製造していることが不自然であること 被控訴人Yは,被控訴人会社の一人株主かつ代表取締役であり,被控訴人Yの被告製品の行為は,個人としてのものであるのか,被控訴人会社のために行っているものであるのか判然としない。
解散会社は,被告製品の製造と販売を行っていたのであるから,被控訴人会社もその事業を引き継げばよいはずである。被控訴人Yが被告製品の製造を行っているとすると,被控訴人Yから被告会社に対する卸売の手続が入って厄介な処理となり,被控訴人会社が被告製品の製造及び販売の両方を事業として執り行っていたのであれば生じるはずのない卸売代金を被控訴人Yが取得することもない。被控訴人Yの平成28年度青色申告決算書(乙20)によると,被控訴人Yの被控訴人会社への卸売代金は391万4390円であるのに対し,原料仕入れ額は68万6034円となっており,被控訴人会社に著しい差損が生じていて,不自然である。
被控訴人らは,経営判断として,被控訴人Yが製造販売をし,被控訴人会社は被告製品の購入を希望する顧客に対する販売をすると主張するが,このことは,被控訴人会社の経理帳簿からは明らかになっていないばかりかその内容に反するものである。
e 被控訴人会社の会社案内の記載 被控訴人会社の会社案内(甲140)には,被控訴人会社の業務内容の説明として,「あさり等の養殖用栄養剤を製造・販売する会社」であると表示されている。また,消費者は製造元にも関心を抱くから,製造が被控訴人会社ではないとなると消費者を欺くことになる。このことからも,被控訴人会社が製造も行っていることは明らかである。
(イ) 被控訴人Yが共有特許権侵害侵害者となることについて 被控訴人会社が控訴人の有する共有特許権を侵害することになるにもかかわらず,被控訴人Yが,一人株主かつ代表取締役の立場を利用して,あえて被控訴人会社に侵害行為を行わせたことは,被控訴人会社と共謀して侵害行為に及んだというほかな 12 い。この場合,被控訴人Yが共有特許権者として同意なくして共有特許権を実施できる権利は,その濫用として認められず,被控訴人会社と共に,侵害者となる。
(ウ) 被控訴人らが共同製造しているとの主張及び被控訴人Yが侵害者であるとの主張が時機に後れた攻撃防御方法に当たらないこと 原審における主張は,平成30年12月12日付けの訴えの変更申立書の陳述に始まっており,訴状の請求原因の主張及び上記訴えの変更申立書の前に提出された訴えの変更申立書等の書面は陳述していないから,時機に後れた攻撃防御方法の判断に当たっては,これらの主張はその対象とはならない。また,控訴審での被控訴人会社と被控訴人Yの共同製造との主張は,これまで取り調べられた訴訟資料に基づく評価判断を要するにとどまっており,審理を遅延させるものではない。
(エ) 自白の撤回に当たらないこと 被控訴人らは,控訴人が撤回した,被控訴人Yが被告製品を製造しているという主張について裁判上の自白が成立すると主張する。しかし,控訴人の主張は,上記撤回した主張とは異なり,被控訴人Yが,被控訴人会社の一人株主かつ代表取締役の立場を利用してあえて被控訴人会社に侵害行為を行わせたことは,被控訴人会社と共謀して侵害行為に及んだものであるという主張であるから,自白の対象にはならない。
また,控訴人は,被控訴人らが援用する前に,被控訴人Yが被告製品を製造しているとの主張を撤回しているから,自白は成立しない。
さらに,自白の撤回は,自白の内容が真実に反し,錯誤によってされた場合に許されるのであり,本件では,まさに,自白の撤回の要件を備えている。
ウ 被告製品の製造販売について甲4特許権に対する間接侵害が成立するか(争点3)について (ア) 主位的主張 a 控訴人は,貝殻の粉末と主成分が無機マグネシウム化合物であるバインダーとで混練固化して塊状体に成形された成形品に対し,加湿することなく炭酸ガスを充満した炭酸ガス雰囲気下で保存されて,前記成形品の溶解速度よりも溶 13 解速度が遅延するようにする技術(本件技術)を保有している。
物の発明として記載された請求項の内容を,方法の発明として記載することもできるし,逆に,方法の発明として記載された請求項の内容を,物の発明として記載することもできる。「単なるカテゴリー上の差異」であれば,物の発明として記載されたものを方法の発明として読み替えることができることは,特許庁審査基準(以下「審査基準」という。)第V部第U章第4節の記載からも明らかである。また,控訴人が特許庁に問い合わせたところ,特許庁は,@請求項の記載について補正することによって発明のカテゴリーを変更することは,新規事項を追加する補正でないこと等の補正の要件を満たしていれば可能であること,A先行技術に当たる公開公報の請求項に物の発明のみが記載されていても,明細書等の記載及び本願の出願時における技術常識参酌して当業者が導き出せると認められれば,当該公報には方法について記載されていると認定される場合があることを回答している。
そうすると,甲4特許発明は,請求項に「透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤」と記載されているが,「透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤を利用した透析機洗浄排水の中和処理方法」と表現することができる。
甲4特許の出願においては,養殖や透析排水の中和に用いる物として,ケアシェルの物の特許ないしは製造方法の特許を求めたところ,特許庁から,新規性,進歩性なしとの拒絶理由通知がきたため,控訴人は,特許請求の範囲減縮補正して,特許査定を得た。このような出願経過によると,透析排水の中和処理に関し,物(緩速溶解剤)の特許は認められないことになったのであり,実質的には,甲4特許が特許に至ることのできる種類としては,方法特許しかなかった。
また,甲4特許の特許請求の範囲の「透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤」の「中和処理に用いる溶解剤」と「溶解剤を中和処理に用いる方法」とは同義であり,当業者にあっても,容易に同義であることが理解できるし,「溶解剤を中和処理に用いる方法」の方が自然な表現で理解しやすい。このような場合は,特許法36条6項2号明確性の要件に反しないことになり,そうであるからこそ,物 14 の発明として表現された請求項の内容は,方法の発明としても表現することができると解されているのである。
さらに,本件は,共有特許権者間での紛争であるから,明確性の要件を懸念するには及ばない。甲4特許権が「透析洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤」とする特許権であれば,特許庁の拒絶理由通知書(乙10)記載のとおり特許法29条2項(進歩性)を欠如することになるが,「溶解剤を中和処理に用いる方法」と読み替えるのであれば,進歩性を欠如することにはならない。
以上によると,甲4特許は,方法特許,具体的には,マグネシウム系緩速溶解剤を利用した透析機洗浄水の中和方法に関する特許である。
b 被告製品は,「医療での透析後の排水液の酸性から中和化へ」の機能を有する粒状固化物につき,緩溶化することで中和化の一定濃度を維持するとともに,固化物の補給の節約により,採算上も大いに向上させる必須の物質である。控訴人は,平成13年1月頃,透析機洗浄排水の中和処理用のマグネシウム系緩速溶解剤を製造できるように,これまでの柔らかい固形物では溶解が早く,製品の補給の頻度が高く,そこでこれに要する経費と労力を改善すべく,炭酸ガスを使って固化する技術を発明した。そうした中,カキ殻粉末を水酸化マグネシウムの粉末に混ぜ合わせたものに,炭酸ガスを使って固化した被告製品は,甲4特許の「方法の特許」に不可欠なものであり,被控訴人らはこのことを知悉していた。
そうすると,被告製品の製造販売は,控訴人の有する甲4特許権の間接侵害である。
(イ) 予備的主張 a 甲4特許権は,発明の名称記載の物の特許権である。
b カキ殻粉末を水酸化マグネシウムの粉末に混ぜ合わせたものである「医療での透析後の排水液の酸性から中和化へ」の機能を有する粒状固化物につき,これまでの柔らかい固形物では溶解が早く,製品の補給の頻度が高く,そこでこれに要する経費と労力を改善すべく,緩溶化することで中和化の一定濃度を維持するとともに,固化物の補給の節約により,生産上も大いに向上させるためには,炭酸ガス 15 が不可欠であり,その発明が甲4特許発明であること及び炭酸ガスがその実施に用いられることを被控訴人らは知悉していた。
そうすると,被告製品の製造販売は,控訴人の有する甲4特許権の間接侵害である。
エ 被告製品の製造販売について特許権侵害が成立しない場合の不法行為による損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否(争点4)について (ア) 仮に,被告製品の製造販売について特許権侵害が成立しないとしても,「貝殻の粉末として主成分が無機マグネシウム化合物であるバインダーとで混練固化して塊状体に成形された成形品が,加温することなく炭酸ガスを充満した炭酸ガス雰囲気下で保存されて,前記生成品の溶解速度よりも溶解速度が遅延するようにした」との本件技術は,甲4特許をみても分かるように,@「透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤」として,産業有用性を有して流通対価を生じ,A「カキ殻粉末を水酸化マグネシウムの粉末に混ぜ合わせて作った固形物」を炭酸ガスを使って固化して作った貝養殖のカルシウム補給剤の製造により利益を上げており,その対象は,上記「透析機洗浄排水」,「アサリ」にとどまらないことは優に推認できる。
本件技術は,控訴人と被控訴人Yの間だけで知られてきたもので,他者においてこれを使用した事実もなければこれを認識している事実もない。また,本件技術によって作られた「医療での透析後の排水液の酸性から中和化へ」の機能を有する粒状固化物は,前記「方法の特許にのみ」用いられる不可欠な有体物であり,被控訴人Yはこのこともよく知っている。そのような中で,被控訴人Yは,同様の有体物である被告製品を製造販売して利益を得るに至った。
公平の理念からみて,財産的価値の移動をその当事者間において正当なものとするだけの実質的,相対的な理由がないことにより,被控訴人会社が被告製品を製造販売することによって利益を得ることについては,法律上の原因がない。
(イ) 被控訴人会社は,本件技術を用いて被告製品を製造販売しているところ,控訴人が甲4特許の特許請求の範囲である方法特許の実施において製造かつ使 16 用する「透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤」は,被告製品と同じ製法を用いて生産され,被告製品と同じ形態及び性質を有する有体物であり,商品化されて流通している。このようにして,本件技術を用いて生産される上記「緩速溶解剤」は,甲4特許の「にのみ用いる」ものとして,甲4特許権を構成しているものであるから,「法律上の保護に値する利益」を有する有体物である。
したがって,被控訴人会社が被告製品を製造することは,甲4特許権を侵害するものである。
そして,被控訴人会社は,法律上の保護に値する利益の侵害について認識しており,被控訴人会社には故意があった。
(ウ) 以上より,被控訴人会社の行為については,控訴人に対する不当利得返還義務も生じるし,不法行為による損害賠償義務も生じる。
共有特許権についての通常実施権の許諾等を理由とする不法行為による損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否(争点5)について 原判決は,本件業務委託契約書に,ケアシェルを日本で製造,販売,日本へ輸出しないとの定めがあるため,控訴人に損害を与える余地はないと判断した。
しかし,本件業務委託契約書4条1項ただし書及び8条1項ただし書には,被控訴人会社の文書による要請があれば,被控訴人会社への販売や日本への輸出ができるとも記載されており,「要請」は申込み,「できる」は承諾に類するから,中国の会社が承諾を選択すれば,特許の実施の許諾契約が成立することになり,控訴人に損害を与える余地がある。これを認定していない原判決の判断は変更されるべきである。
カ 民法190条による返還請求の可否(争点6)について (ア) 本件業務委託契約に基づいて,製造を伴う技術指導の対価として,中国の会社から被控訴人会社に1500万円が送金されているが,原判決はこれについて触れておらず,判断遺脱の違法がある。この1500万円は,あさり養殖に100%寄与するケアシェルの製造技術指導の対価であるから,共有特許権そのものの有する価値に対する対価である。そうすると,控訴人は,被控訴人会社に対し,共有 17 特許権の2分の1の共有持分権者として,民法190条に基づき,750万円の支払請求権を有する。
(イ) 製造を伴う技術指導の対価として被控訴人会社には1500万円が送金されているから,当該1500万円は将来請求に係るものではなく,既に発生した損害である。
キ 本件業務委託契約に基づく技術指導行為を理由とする不法行為による損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否(争点7)について 被控訴人会社は,中国の会社との間で,本件業務委託契約を締結したが,同契約では,被控訴人会社が中国の会社に対し,ケアシェルの製造技術指導,すなわち,「原材料や製造方法の検討などを行いながら,高品質なものを同じ品質で効率的,安定的に生産するための技術向上の研究」や,「生産性を上げる仕組みを考える」ことを約した。前者は「製造技術」であり,後者は「生産技術」であるところ,「製造」と「生産」の関係と同じように, 「製造技術」 「生産技術」 は の一部に含まれることになる。
「製造は生産に含まれる」ので,特許発明の「実施」に該当する。また,本件業務委託契約では,中国の会社は,本件の遂行に必要な一切の費用を負担するとしており,ケアシェルの製造技術を強く欲していることが分かる。これらに照らすと,本件業務委託契約における製造技術指導は,実施行為である「生産」に類するというべきである。
そして,共有特許権の実施につき,控訴人は許諾しておらず,被控訴人会社は,控訴人の許諾によらない実施に類する製造技術指導の本件業務委託契約の締結を認識していたから,被控訴人会社は,控訴人の共有特許権侵害不法行為による損害賠償又は不当利得の返還として,本件業務委託契約の対価である1500万円の2分の1に当たる750万円を支払う義務がある。
(3) 当審における被控訴人らの主張 ア 被控訴人会社が被告製品を製造したと認められるか(争点2)について (ア)a 被控訴人らが被告製品を共同して製造しているとの控訴人の当審 18 での主張は時機に後れた攻撃防御方法であり,却下されるべきである。また,自らの主張を翻し,被控訴人らの訴訟追行を妨げ,ひいては訴訟を長期化させるような控訴人の態度は,被控訴人らの信頼を著しく害するものであるから,禁反言の法理(民法1条2項,民訴法2条)に反し,許されない。さらに,控訴人は,当審において,被控訴人Yが被告製品を製造していることが共有特許権侵害であると主張しているが,この主張も,時機に後れた攻撃防御方法として却下されるべきである。
b 控訴人は,原審において,被控訴人Yが被告製品の製造主体であると主張していたのであるから,被告製品の製造主体が被控訴人Y個人であることについては,控訴人の自白が成立しており,その自白に錯誤は認められない。
(イ) 以下のとおり,被告製品の製造は,被控訴人Yが「自己の名義及び計算」で行っており,製造主体は被控訴人Yのみであり,被控訴人らの共同製造ではない。
a 被控訴人会社が被告製品の原料仕入れ業務を行っているという点について 被控訴人Yは,同人とは別人格である被控訴人会社から被告製品の製造に用いるカキ殻粉末を購入しており,被告製品製造時には,カキ殻粉末は,被控訴人Yの所有物となっている。被控訴人Yがカキ殻粉末を被控訴人会社から仕入れたことの一事をもって,控訴人の主張するように「被控訴会社が原材料を用意した」という評価となることはあり得ず,原料を用意した被控訴人会社が共同製造者となるという主張には,根拠はない。
また,被控訴人Yは,カキ殻粉末を被控訴人会社から購入する場合と公社から購入する場合を比較した結果,個人事業主としての経済的な合理性に基づき,公社から直接購入するよりも被控訴人会社から購入した方がよいという判断をした。
仮に,公社から仕入れた被控訴人会社の行為について着目するのであれば,それは被控訴人Y個人が自ら被告製品を製造するために経済的合理性に基づき,一人会社である「会社」をいわば手足として利用して原材料を仕入れたと解するべきである。
19 このように,被控訴人Yが主体的にカキ殻粉末を用意して被告製品を製造していたことは明らかであり,控訴人の主張は誤りである。
控訴人は,甲39にある「しおさい」が製造用のみを指していると主張するが,被控訴人会社にとって「しおさい」は販売用のみしかなく,販売先が農業者であるか被控訴人Yであるかの差しかなく,ここに記載の「しおさい」は,被控訴人Yに販売する物と農業者に販売する物の両方が含まれている。被控訴人会社には製造用の「しおさい」は一切存在しておらず,控訴人の主張は全くの誤りである。
b 被控訴人らが共同して作業しているという点について @ 控訴人は,機械類が被控訴人らの共有であると主張するが,造粒機以外の機械類については,「ボンベ」を除いて所有権はAである。ボンベ(甲28の2)は,名古屋酸素株式会社が所有するものであり,被控訴人Yが同社と契約してボンベに入った炭酸ガスを仕入れているものである。そして,ミキサー,選別機,炭酸ガスを被告製品に注入する際に用いるポリ製タンク,フォークリフトは,貸主のAから被控訴人Yが無償で借りている。被控訴人Yが被告製品の製造を担うことは,解散会社が有していたケアシェルを製造するための造粒機に加え,水酸化マグネシウムやカキ殻粉末という原材料を一括して被控訴人Yが購入していることからも明らかである。
仮に,機械類の借主が被控訴人らの両名であったとしても,被控訴人Yは借主として機械類を使用することができるのであるから,それを被控訴人Yが被告製品の製造に用いることに何の障害もないのであって,被控訴人会社が共同製造者であることの根拠にはならない。
また,被控訴人が,乾燥工程の一部を2階で行っていたと仮定したとしても,それがいかなる理由で被控訴人会社が共同製造したことになるのか全く不明であるし,被控訴人Yが個人事業として被告製品を製造するようになって以降は2階で乾燥作業を行うことは一切ない。
A 控訴人は,写真(甲130の1,2)に基づき,男性従業員が商品 20 の梱包作業をしている旨主張するが,これらの写真が,なぜ,被控訴人会社の従業員が被告製品を製造していることの証拠になるのか根拠が示されていない。
仮に,男性が梱包作業を行っていたとしても,被控訴人Yも直接消費者に被告製品を販売することがあるため,男性の梱包作業が個人事業ではなく被控訴人会社の業務であると断じることはできない。また,仮に,被控訴人会社の従業員以外の者が被控訴人会社の業務の一部を行っていたとしても,それがどうして被控訴人会社の従業員が被控訴人Yの個人事業の被告製品の製造業務を行っていた根拠となるのか不明である。
控訴人は,被控訴人会社の従業員の給料賃金やその作業内容について述べるが,被控訴人会社の従業員が実際に手を動かして被告製品の製造を行っていることの根拠は示されていない。また,3名が同時に出勤しなければ被告製品を製造できないという控訴人の主張は,事実に反するものであり,被控訴人会社の従業員が作業しなければ被告製品を出荷することができないことの根拠は示されていない。
被控訴人会社の従業員には手空きが発生する旨の主張については,仮に,手空きが発生したとしてもそれが被告製品の製造を行ったことにはならない。また,それを措くとしても,被控訴人会社の現在の業務について何も知らない控訴人の根拠のない決めつけである。被控訴人会社は,被告製品の販売を行っているが,それに関する業務は箱詰め作業のみではない。受注管理や経理の業務があり,付随して同時に販売するネットの製造もしている。被告製品を作って箱詰めさえすれば他に業務がないなどという主張は,被控訴人会社の業務内容に照らしても失当というほかない。さらに,被控訴人会社は,被告製品の販売以外にも,カキ殻肥料である「しおさい」の販売も行っており,売上げは「しおさい」の方が多いくらいである。
B 控訴人は,限られたスペース内で,被控訴人会社と被控訴人Yとが作業を厳密に区分けするのは経験則に反する旨主張する。そもそも,その「経験則」がどの業界におけるいかなる経験則であるか不明であるが,それを措くとしても,被控訴人会社の従業員に対しては,被告製品の製造にかかわらないようにさせ,被控訴 21 人会社の役員たる被控訴人Yは,被告製品の製造方法を従業員に指導していない。被控訴人会社の従業員が被告製品の製造に関与しないという意味での区分けは何ら困難なことではなく,不自然でも不合理でもない。
c 本件基本契約書が不自然であるという点について 本件基本契約書が被控訴人Yと被控訴人会社との間の取引となっていることは,当初より被控訴人会社の認識としても被控訴人Yの単独製造であったこと及び当該製造が被控訴人Y個人の名義及び計算で行われていることを端的に示しているのであり,被控訴人会社が共同製造者でないことを基礎付けるものである。
控訴人は,被控訴人Yは,被告製品全量を被控訴人会社へ販売することとなっている等と主張するが,本件基本契約書の記載内容を見ても,被控訴人Yが製造した被告製品の「全量」を被控訴人会社に販売する等という,いわゆる独占販売に関する取決めは一切されておらず,前提を欠く主張である。
d 被控訴人Yが単独で被告製品を製造していることが不自然であるとする点について 控訴人は,被控訴人会社が解散会社の事業を引き継げばよいと主張するが,解散会社の事業を引き継いだのは被控訴人Yであり,これを被控訴人会社が引き継いだという前提自体が何の根拠もない思い込みにすぎない。
被控訴人Y個人が製造している理由は,被控訴人Yが製造装置を有していること(乙5),被控訴人Yは,共有特許権の権利者であるため,仮に被告製品が共有特許発明実施品であったとしても被控訴人Yには実施権原があることなどが挙げられる。
被控訴人Yは被控訴人会社及び個人事業の経営判断として被告製品の製造販売は原則として個人事業で行い,法人から購入することを希望する顧客に対しては被控訴人会社が販売することを決定しているのであるから,その経営判断に基づく決定を実現するために区分けして作業を行うのはむしろ当然であり,本件基本契約書や会計書類等の書類とも整合的である。
22 e 以上によると,被控訴人会社が共同製造者であるとの控訴人の主張には理由がない。
イ 被告製品の製造販売について甲4特許権に対する間接侵害が成立するか(争点3)について (ア) 控訴人は,審査基準や特許庁からの回答に基づき,物の発明として表現された請求項の内容は,方法の発明としても表現することができると主張する。
しかし,審査基準は出願された特許の審査の際に,出願された発明が特許要件を具備するか否かの審査の基準である。そして,審査基準の第V部第U章第4節は「新規性進歩性」の審査基準であり,新規性,進歩性を判断するに際しては,「単なるカテゴリー上の差異」の発明については同一とみるのが当然である。他方,特許発明の解釈においては,特許権の効力範囲を画することになるため,権利の公示の観点からも明確でなければならず,物の発明方法の発明とは判然と区別する必要がある。
したがって,審査基準が特許要件の具備が問題となる特許発明の無効の判断の基準になることはあっても,特許発明の効力の解釈には適用も類推もされない。
また,控訴人の問合せに対する特許庁の回答も,カテゴリー上の差異を同一とみる場合については「先行技術にあたる公開公報の請求項に・・・」と記載されており,特許要件を判断する際の先行文献に記載された発明の認定について述べるものであることは明白であるし,同回答には「発明の属するカテゴリーによって,特許権の及ぶ範囲は異なります」と明確に記載されているから,特許庁においても特許された発明の解釈についてはカテゴリーによって効力が異なると明言しているといえる。
(イ) 控訴人は,甲4特許発明物の発明であるとしても,被告製品が甲4特許発明間接侵害していると主張する。
当審における控訴人の上記主張は時機に後れた攻撃防御方法であるから,却下されるべきであるし,被控訴人らの訴訟追行を妨げ,ひいては訴訟を長期化させるものであるから,被控訴人らの信頼を著しく害するものであり,禁反言の法理(民法1条2項,民訴法2条)に反し,許されない。
23 また,控訴人が特許法101条のいずれの号の間接侵害を主張するのか不明であるが,いずれにしても,被告製品がどのような意味において「透析機洗浄排水の中和処理用マグネシウム系緩速溶解剤」の生産に用いる物に該当するのかについても,「のみ」ないし「課題の解決に不可欠」についても何ら主張しておらず,甲4特許発明物の発明とした場合の間接侵害の主張は,主張自体失当である。
(ウ) 甲4特許に係る発明は,いわゆるプロダクトバイプロセスクレームによって特定されているところ,明確性要件(特許法36条6項2号)を具備しておらず,また,新規性,進歩性(同法29条1項,2項)も欠くため無効であり,権利行使をすることは許されない(同法104条の3第1項)。
共有特許権についての通常実施権の許諾等を理由とする不法行為による損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否(争点5)について 本件業務委託契約4条1項には,中国の会社がケアシェルを製造,販売できるのは「日本国以外」であることが明記されている上,同条2項には違約金が定められている。また,8条1項では,中国の会社は,共有特許権が存続する間はケアシェルを日本で製造,販売,日本へ輸出しないことが誓約されている。これらによると,中国の会社が日本でケアシェルを製造することはもとより,日本へ輸出することも禁止されていることは明らかである。
控訴人は,本件業務委託契約書4条1項ただし書及び8条1項ただし書によると,被控訴人会社が中国の会社に文書による要請を行い,中国の会社がこれを承諾すれば損害が生じる余地があると主張するが,現実に被控訴人会社は中国の会社に対して文書による要請は一切していない。控訴人は,本件業務委託契約書4条1項ただし書及び8条1項ただし書の存在により,控訴人に損害を加える余地があると主張し,実損が生じていない段階で被控訴人らに対して給付請求を行っているが,このような将来給付の請求は「あらかじめその請求をする必要のある場合に限り」(民訴法135条)行うことができるものとされている。本件では,本件業務委託契約書においては違約金の定めまで設けて中国の会社の日本でのケアシェルの製造やケアシェル 24 の輸出を禁止していること,被控訴人が中国の会社に対して一度もケアシェルの製造,輸出を要請したことがないこと,またそのような予定もないこと等からして, 「あらかじめ」将来給付の請求をする必要があるとはいえない。
なお,控訴人は,本件業務委託契約が主としてケアシェルの製造技術のためにされた契約であるとの前提で議論を展開しているが,本件業務委託契約において主に行われていた被控訴人会社の業務は「カキ殻焼成粉砕処理施設建設と稼働のアドバイス,カキ殻肥料販売アドバイス」であり,実際に被控訴人会社が中国の会社に対して技術供与をして指導していたのは,カキ殻の処理方法であり,これによって製造された物は,畑等に粉末のまま撒いて主に土壌改良剤として用いられている。中国国内においては,ケアシェルに加工されて養殖魚介類への栄養補給体として用いられることはほとんどない。
共有特許権者のうちの一部の者が単独で実施許諾をしたとしても,そのこと自体が他の共有特許権者の特許権の侵害となることはない。
エ 民法190条による返還請求の可否(争点6)について 控訴人は,本件業務委託契約に基づいて被控訴人会社が行った技術指導が特許法にいう「生産」に該当する旨主張するが,控訴人の見解は,特許権の効力を画する「実施」の概念を徒に不明瞭にするものであって,特許法の趣旨にも明確に反するものであり,失当である。
また,技術指導は,中国で行われているところ,これに我が国の特許権の効力が及ぶことはないのであるから,主張自体が失当である。
さらに,行為に伴って得られる「物」が存在しない場合に,いかにして物の発明に係る特許権侵害を判断するのかについて全く不明である上,控訴人は被控訴人会社の技術指導行為について共有特許発明との分説対比すら行っていない。
なお,控訴人は,原審が1500万円の送金についての判断をしていないことが判断の遺脱である旨主張するが,原審は,中国の会社との関係で被控訴人らの行為が特許権の侵害にならない旨を判示しているのであるから,原審の判断に遺脱はない。
25 オ 控訴人のその他の主張について 控訴人のその他の主張も,いずれも何ら理由のないものであり,失当である。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも棄却すべきものと判断する。その理由は,次のとおり原判決を補正し,当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の第4の1〜5に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 原判決の補正 (1) 原判決20頁20行目から21行目までを,次のとおり改める。
「争点2(被控訴人会社が被告製品を製造したと認められるか)について (1) 事案に鑑み,争点2から判断する。」 (2) 原判決22頁15行目の「25年」を,「平成25年」に改める。
(3) 原判決25頁25行目,27頁18行目及び同頁25行目の「取引基本契約」を,いずれも,「本件基本契約」に改める。
(4) 原判決25頁26行目の「2名の者」を,「2名の男性」に改める。
(5) 原判決26頁15行目,同頁23行目,27頁25行目及び28頁5行目の「Y供述」を,いずれも,「Y本人」に改める。
(6) 原判決27頁10行目の「甲52の記載は」から14行目末尾までを,次のとおり改める。
「甲52の「H28.10.1〜H29.3.31」との記載は,「H28.4.1〜H29.3.31」の誤記と認められ(乙23。なお,仮に,甲52の上記部分に誤記がないとすれば,甲52には,平成28年4月1日から同年9月30日までの家賃の支払が記載されていないことになるが,このような解釈は,甲51の記載との連続性からすると不自然なことになるし,乙19の元帳の記載を踏まえると,甲52の記載が誤記であるとの乙23の陳述書の記載は信用できる。),控訴人の上記主張を認めることはできない。」 (7) 原判決28頁5行目の「「しおさい」」の次に,「やネット」を加え,同 26 行目「(」の次に,「甲34,35,39,52,54,65,67,72,」を加える。
(8) 原判決28頁16行目の「また,」から18行目末尾までを削る。
(9) 原判決28頁19行目の「(4) まとめ」の次に,改行して次の記載を加える。
「 上記のとおり,被告製品を製造していたのは,被控訴人Yのみであると認められ,被控訴人会社が被告製品を製造していたとは認められない。」 (10) 原判決29頁7行目から8行目までを,「争点3(被告製品の製造販売について甲4特許権に対する間接侵害が成立するか)」に改める。
(11) 原判決30頁17行目,20行目及び22行目並びに31頁2行目の「原告主張の本件技術」を,いずれも「本件技術」に改める。
3 当審における当事者の主張に対する判断 (1) 被控訴人会社が被告製品を製造したと認められるか(争点2)について ア 控訴人は,被告製品は被控訴人らが共同して製造していると主張する。
しかし,被告製品は被控訴人Yのみが製造していると認められ,被控訴人会社が製造しているとは認められないことは,補正して引用した原判決「事実及び理由」の第4の1に記載のとおりである。
イ(ア) これに対し,控訴人は,被控訴人会社の在庫に被告製品の原料である「しおさい」があることを指摘する。
a 証拠(甲39)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人会社の平成28年4月1日〜平成29年3月31日の会計書類の棚卸資産(商品又は製品,半製品,仕掛品,原材料,貯蔵品)の内訳書には,商品として, 「ケアシェル」 「しおさい」 , ,「ネット」,「ダンボール大」及び「ダンボール小」が記載されていることが認められるが,被控訴人会社の平成27年4月1日〜平成28年3月31日の損益計算書(甲34)には「肥料売上高」,「肥料仕入高」の記載があり,同年4月1日〜平成29年3月31日の法人事業概況説明書(甲54)には,被控訴人会社の売上(収入) 27 金額に,「ケアシェル売上高」のほか「肥料売上高」の記載もあるのであるから,被控訴人会社は,被告製品だけでなく,肥料としての「しおさい」も販売していると認められる。
そうすると,上記会計書類の棚卸資産(商品又は製品,半製品,仕掛品,原材料,貯蔵品)の内訳書の記載だけでは,「しおさい」が,被控訴人会社が被告製品を製造するための原料であると認めることはできない。
また,控訴人は,被控訴人会社の作業場の写真(甲88,甲136の1・2)にも被告製品の製造用の「しおさい」が写っていると主張するが,控訴人が指摘する写真からは,これが被控訴人会社の「しおさい」であるのか否か,また,仮に,被控訴人会社の「しおさい」であるとしても,被控訴人会社が被告製品を製造するための原料であるかは明らかではない。
したがって,被控訴人会社の在庫に「しおさい」があることは,被控訴人会社が被告製品を製造していることを裏付けるものとはならない。
b 控訴人は,原料調達や仕入れは製造行為に必須かつ他に替えられないものであるところ,被控訴人会社が被告製品の原料調達を行っていることから,被控訴人Yと共同製造しているといえる旨主張する。
しかし,控訴人の主張によると,原料を販売する者は,全て,当該製品の共同製造者となることになるのであって,採り得ない主張である。このことは,被控訴人会社が被控訴人Yの一人会社であり,被控訴人Yが被控訴人会社の代表取締役であるとしても,左右されない。
(イ) 控訴人は,被控訴人会社に在庫がないことを指摘するが,被控訴人会社が顧客の注文を受けた際に,直ちに,被控訴人Yに被告製品を発注すれば足りることであるから,控訴人の指摘することは,被控訴人らが被告製品を共同製造していたことの根拠にはならない。
(ウ) 控訴人は,製造工場となっている建物の賃料を被控訴人らが5万円ずつ負担していると主張するが,被控訴人Yの個人事業と被控訴人会社の事業が,両者 28 が共同で賃借している同じ建物内においてされているからといって,被控訴人らが被告製品を共同製造していたことの根拠には直ちにならない。また,建物内にある被告製品を製造するための機械類のうち,造粒機は,被控訴人Yが解散会社から譲り受けたものであり(原判決「事実及び理由」の第4の1(3)イ(イ)),ボンベは名古屋酸素株式会社が所有するものであり(甲28の2,甲29,弁論の全趣旨) ミキサー, ,選別機,ポリタンク及びフォークリフトは,Aが被控訴人Yに貸与したものである(乙26) これらを被控訴人らが共同して使用していることを認めるに足りる証拠 。
はない。さらに,控訴人が,被控訴人会社が借りている建物の2階部分で被告製品の乾燥がされている根拠として主張する写真(甲135の1・2)のうち,甲135の1は,屋外で撮影されたものと認められ(乙27),甲135の2には,被告製品を乾燥させるところが写っているとは認められないから,いずれも,控訴人の上記主張を認める根拠となるものではない。
(エ)a 控訴人は,被控訴人Yの従業員が商品の梱包をしていると主張する。
証拠(甲130の1・2,甲138の1・2)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人会社のフェイスブックの記事に,被控訴人会社が「ケアシェル」を発送したことが記載されており,段ボールのそばに男性がいることは認められるが,これらの証拠によっても,被控訴人Yの男性従業員が被告製品の梱包をしていると認めることはできず,その旨を述べる陳述書(甲138の3)の記載を採用することはできない。
b また,控訴人は,被告製品の製造の1日の作業工程は3人で稼働して初めて可能であるとして,被控訴人Yの男性従業員のみでは被告製品の製造は行えず,被控訴人会社の女性従業員が被告製品の製造に従事していると主張する。
しかし,控訴人が指摘する証拠(甲127〜129)をもっても,被告製品製造の1日の作業工程に3人を要し,被控訴人Yと被控訴人Yの男性従業員のみでは被告製品を製造することができないとは認められない。
控訴人は,被控訴人会社の3名の女性従業員は箱詰め作業だけであると手空き時間が多く生じるとも主張するが,証拠(甲34,35,39,53,54,65,6 29 9,72,74)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人会社は,被告製品のほか,ネットや「しおさい」の販売を行っていることが認められるから,被控訴人会社の従業員に手空き時間が多く生じるとも認められない。
したがって,被控訴人会社の従業員が被告製品の製造に従事していると認めることはできない。
c 控訴人は,建物内において被控訴人会社と被控訴人Yが厳格に区分けして,互いの職務内容にかかわらないようにしているのは経験則に反し,不自然,不合理である旨の主張をするが,被控訴人会社と被控訴人Yに属する従業員が,職場において,それぞれ業務を分担して従事することは,不自然,不合理ではないから,控訴人の主張を採用することはできない。
d 控訴人は,被控訴人会社と被控訴人Yの経理帳簿には,それぞれ,仕入れとそれと対になる記載があるから,被控訴人会社の従業員が単独で双方の記帳を行うのが自然であると主張するが,帳簿上に上記のような記載があるからといって,それを同一人が記載する理由はないから,控訴人の主張を採用することはできない。
e 控訴人は,被控訴人Yの青色申告書に記載された電話番号が被控訴人会社のものであると主張するが,このことが,被控訴人会社が被告製品の製造に関与していることを裏付けるものであると認めることはできない。
また,控訴人は,本件基本契約書によると,被控訴人Yが被告製品の全量を被控訴人会社に卸すこととされているところ,上記青色申告書には,これと矛盾する記載があると主張するが,本件基本契約書(乙6)には,被控訴人Yが被控訴人会社に同契約及び各個別契約書に定められた条件に従って被告製品その他被控訴人Yが製造又は販売する商品を継続的に売り渡すことを約し,被控訴人会社がこれを買い受けること(2条),本契約に基づく個別契約は,被控訴人会社の注文に対し,被控訴人Yがこれを承諾することにより売買契約が成立するものとし,数量,価格,受渡方法等の具体的な内容は個別契約に従う(3条)などとされているにすぎず,本件基本契約 30 が被控訴人Yが製造した被告製品の全量を被控訴人会社に販売することを約したものであるとは認められないから,控訴人の主張は,その前提を欠くものであり,採用することはできない。
(オ) 控訴人は,本件基本契約書の記載内容に関し,平成27年10月2日及び同月8日の請求書(甲63,64)によると,被控訴人Yが被告製品を第三者に販売したことになっているが,このようなことはあり得ないと主張する。
しかし,前記(エ)のとおり,被控訴人Yは被控訴人会社との間で被告製品を全量販売することを約していないから,控訴人の主張は,その前提を欠くものであり,採用することはできない。
(カ) 控訴人は,被控訴人Yの行為が,個人としてのものであるのか,被控訴人会社の代表取締役としてのものであるのか判然としないと主張するが,原判決「事実及び理由」の第4の1に記載のとおり,被告製品の製造は被控訴人Yのみによってされているのであって,判然としないということはない。
また,控訴人は,被控訴人会社が解散会社の業務を引き継げばよいのであり,被控訴人らの取引において,被控訴人会社に著しい差損が生じているため,被控訴人会社は被控訴人Yに原料を販売し,被控訴人Yから被告製品を購入する必要はないと主張する。
しかし,被控訴人会社が解散会社の事業を引き継げばよいと解すべき根拠はない。
被控訴人会社は被控訴人Yの一人会社であり,被控訴人会社にどの程度利益を得させ,被控訴人Yが個人としてどの程度の利益を得るかということは,被控訴人Yによる経営判断に関するものであり,被控訴人会社が被控訴人Yとの取引において差損を生じているとしても,それが直ちに不合理とはいい難い。したがって,控訴人の上記主張を採用することはできない。
(キ) なお,被控訴人会社の会社案内(甲140)には,被控訴人会社があさり等の養殖用栄養剤を製造・販売する会社と記載されていることが認められるが,この会社案内はBaseconnect株式会社が作成したものであることが認め 31 られるから,この会社案内を根拠に,被控訴人会社が被告製品の製造を行っていると認めることもできない。
(ク) その他,控訴人が主張するところによっても,被控訴人らが被告製品を共同して製造していたと認めることはできない。
ウ なお,被控訴人らは,被控訴人らが被告製品を共同して製造しているとの主張や被控訴人Yが侵害者であるとの主張が時機に後れた攻撃防御方法であるとか禁反言の法理に反すると主張するが,控訴人のこれらの主張は訴訟の完結を遅延するものではないから,これらを時機に後れた攻撃防御方法として却下することはできないし,禁反言の法理に反するということもない。
また,被控訴人らは,被控訴人Yが被告製品を製造していることについて自白が成立していると主張する。しかし,控訴人が,被控訴人Yのみが被告製品を製造していることを自認したとは認められないから,控訴人が,被告会社が被告製品を製造したと主張することが,自白の拘束力によって許されないということはできない。
(2) 被告製品の製造販売について甲4特許権に対する間接侵害が成立するか(争点3)について ア 控訴人は,甲4特許発明方法の発明であると主張するが,甲4特許発明方法の発明とは認められず,したがって,特許法101条5号間接侵害が成立すると認められないことは,補正して引用した原判決「事実及び理由」の第4の2に記載のとおりである。
イ これに対し,控訴人は,審査基準の第V部第U章第4節や特許庁からの回答について主張するが,これらは,物の発明として特許された発明について方法の発明として侵害か否かを判断することを認めるものではなく,控訴人の主張の根拠となるとはいえないものである。また,控訴人のその余の主張も,いずれも前記アの判断を左右するものではない。
ウ 控訴人は,甲4特許発明物の発明であるとしても,被告製品の製造販売は,甲4特許権の間接侵害に当たると主張する。
32 しかし,控訴人の主張によっても,被告製品について特許法101条1号〜3号のいずれに当たると主張するかが明らかではなく,また,上記各号に当たる事実があるとも認められないから,控訴人の主張を採用することはできない。
なお,被控訴人らは,控訴人の上記主張が時機に後れた攻撃防御方法であるとか禁反言の法理に反すると主張するが,控訴人の主張は,訴訟の完結を遅延させるものではないから,これを時機に後れた攻撃防御方法として却下することはできないし,禁反言の法理に反するということもできない。
(3) 被告製品の製造販売について特許権侵害が成立しない場合の不法行為による損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否(争点4)について 控訴人は,仮に,被告製品の製造販売について特許権侵害が成立しないとしても,被告製品には本件技術が用いられていることから,不法行為又は不当利得が成立すると主張する。
しかし,控訴人の主張する本件技術について,法律上の保護に値する利益が侵害されたと認められないことは,補正して引用した原判決「事実及び理由」の第4の3に記載のとおりである。
控訴人は,本件技術の対象は,「透析機洗浄排水」,「アサリ」にとどまらない,本件技術は,控訴人と被控訴人Yの間だけで知られてきた,被控訴人Yは,本件技術を用いた被告製品を製造販売しているなどと主張するが,これらの主張によっても,控訴人が本件技術について何らかの法律上保護された利益を有し,それが侵害されたと認めることはできない。
また,控訴人は,被告製品を製造することは甲4特許権を侵害すると主張するが,被告製品の製造販売について甲4特許権の間接侵害が成立すると認められないことは,前記(2)のとおりであり,直接侵害が成立するというべき事実も認められない。
以上によると,被控訴人会社の行為について,控訴人に対する不当利得返還義務や不法行為による損害賠償義務が生じると認めることはできない。
(4) 共有特許権についての通常実施権の許諾等を理由とする不法行為による 33 損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否(争点5)について ア 共有特許権について通常実施権の許諾等を理由とする不法行為による損害賠償請求及び不当利得返還請求が認められないことは,原判決「事実及び理由」の第4の4に記載のとおりである。
イ 控訴人は,本件業務委託契約書4条1項ただし書及び8条1項ただし書によると,被控訴人会社が要請すれば,中国の会社はケアシェルを被控訴人会社に販売し,日本に輸出できることになるから,特許の実施の許諾契約が成立することなり,控訴人に損害を与えることになると主張する。
しかし,本件において,被控訴人会社が上記の要請をして,中国の会社がケアシェルを被控訴人会社に販売し,日本に輸出しているとは認められないから,共有特許権の実施の許諾契約が成立し,控訴人に損害が生じたと認めることはできない。
ウ なお,被控訴人らは,上記請求は将来請求であると主張するが,上記請求は将来請求であるとは解されない。
(5) 民法190条による返還請求の可否(争点6)について 控訴人は,本件業務委託契約に基づいて中国の会社から被控訴人会社に送金された1500万円は,同契約に基づく技術指導行為の対価であるから,その2分の1に当たる750万円について,控訴人は被控訴人会社に対し,民法190条に基づいて支払を求めることができると主張する。
しかし,本件業務委託契約は,共有特許の日本での実施を許諾するものではない(原判決「事実及び理由」の第4の4)から,同契約に基づく技術指導行為は,共有特許権の実施に関する行為ということはできず,共有特許権の侵害に該当するものではない。そして,他に,控訴人が被控訴人会社に対して上記750万円の支払を求めることができる根拠はないから,控訴人の民法190条に基づく請求には理由がない。
(6) 本件業務委託契約に基づく技術指導行為を理由とする不法行為の損害賠償請求及び不当利得返還請求の可否(争点7)について 34 控訴人は,被控訴人会社は,本件業務委託契約に基づいて中国の会社に製造技術や生産技術の指導をすることを約しているが,この技術指導は,実施行為である「生産」に類する行為であり,共有特許発明の「実施」に該当すると主張する。
しかし,前記(5)のとおり,本件業務委託契約に基づく技術指導行為が共有特許権の侵害に該当するということはできないから,被控訴人会社の本件業務委託契約に基づく技術指導行為を理由とする不法行為による損害賠償請求及び不当利得返還請求は理由がない。
(7) 被控訴人Yの会社法429条1項に基づく責任の有無(争点8)について これまで判示したところによると,控訴人が主張する被控訴人会社の不法行為による損害賠償義務や不当利得返還義務は認められないから,被控訴人Yに会社法429条1項に基づく責任は認められない。
4 まとめ 以上によると,控訴人の被控訴人らに対する請求にはいずれも理由がないことになる。
5 控訴人の文書提出命令の申立てについて 控訴人は,平成27年10月1日から平成31年1月4日までの間の被控訴人会社が公社から「しおさい」を購入していることを表した注文書,納品書及び販売台帳の写しについて,公社に対し,文書提出命令の申立てをしている(当庁令和元年(ウ)第10156号文書提出命令申立事件)。
しかし,被控訴人会社が公社から「しおさい」を購入していることは被控訴人らが認めているから,上記文書提出命令は必要性がない。したがって,この申立てを却下する。
結論
以上の次第で,本件控訴に理由はなく,控訴人が当審において追加した請求にも理由がないから,本件控訴を棄却し,当審における追加請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
35
裁判長裁判官 森義之
裁判官 眞鍋美穂子
裁判官 佐野信