関連審決 | 不服2018-3578 |
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事件 |
令和
1年
(行ケ)
10072号
審決取消請求事件
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原告 株式会社3starpro ject 同訴訟代理人弁理士 保立浩一 被告 特許庁長官 同 指定代理人相崎裕恒 佐藤聡史 田内幸治 梶尾誠哉 小出浩子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2020/03/17 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 特許庁が不服2018−3578号事件について平成31年4月8日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文第1項と同旨 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,平成29年4月13日,発明の名称を「ホストクラブ来店勧誘方法及びホストクラブ来店勧誘装置」とする発明について特許出願をしたが(特願2017-79818。請求項数8。甲1) 同年12月6日付けで拒絶査定を受けた , (甲8)。 (2) 原告は,平成30年3月12日,これに対する不服の審判を請求するとともに(甲9),同日付け手続補正書により,特許請求の範囲を補正し(請求項数4。甲10。以下「本件補正」という。,特許庁は,これを不服2018-3578号事件 )として審理した。 (3) 特許庁は,平成31年4月8日,本件補正を却下の上, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月23日,原告に送達された。 (4) 原告は,令和元年5月22日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件補正後の請求項1の記載は,以下のとおりである。以下,本件補正後の請求項1に係る発明を「本件補正発明」といい,その明細書を,図面を含めて, 「本件明細書」という(甲1,10)。なお,文中の下線は補正箇所を, 「/」は,原文の改行箇所を,それぞれ示す(以下同じ。。 ) 【請求項1】ホストクラブへの来店を勧誘させる方法であって,/潜在顧客に対してホストクラブ来店勧誘キットを提供するステップを含んでおり,/ホストクラブ来店勧誘キットは,スマートフォンを装着することにより仮想現実動画ファイルを再生して仮想現実動画を視聴し得る紙製の仮想現実ゴーグルと,ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーへのアクセス情報を表示したアクセス情報表示部とを備えており,/ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーにはホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムが実装されており,ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーの記憶部にはホストクラブを仮想体験させるホストクラブ仮想現実動画ファイルが記憶されており,/ホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムは,ホストクラブ仮想現実動画ファイルをスマートフォンに送って視聴させるプログラムであり,/前記アクセス情報は,スマートフォンからの操作によりホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムを実行可能にする情報であり,/前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーの記憶部には,潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイルが記憶されており,/前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーは,異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタンが設けれられた一つのウェブページを提供するものであり,各コマンドボタンは各ホストクラブ仮想現実動画ファイルに対応しており,選択されたコマンドボタンに対応するホストクラブ仮想現実動画ファイルをメンタルケアとしてスマートフォンに送って再生させることを特徴とするホストクラブ来店勧誘方法。 (2) 本件補正前の本件特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。 【請求項1】ホストクラブへの来店を勧誘させる方法であって,/潜在顧客に対してホストクラブ来店勧誘キットを提供するステップを含んでおり,/ホストクラブ来店勧誘キットは,スマートフォンを装着することにより仮想現実動画ファイルを再生して仮想現実動画を視聴し得る紙製の仮想現実ゴーグルと,ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーへのアクセス情報を表示したアクセス情報表示部とを備えており,/ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーにはホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムが実装されており,ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーの記憶部にはホストクラブを仮想体験させるホストクラブ仮想現実動画ファイルが記憶されており,/ホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムは,ホストクラブ仮想現実動画ファイルをスマートフォンに送って視聴させるプログラムであり,/前記アクセス情報は,スマートフォンからの操作によりホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムを実行可能にする情報であり,/前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーの記憶部には,潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイルが記憶されており,/前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーは,潜在顧客の心理状態に応じて選択されるコマンドボタンを含むウェブページを提供するものであり,選択されたコマンドボタンに対応するホストクラブ仮想現実動画ファイルをメンタルケアとしてスマートフォンに送って再生させることを特徴とするホストクラブ来店勧誘方法。 3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本件補正発明は,下記引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明することができたものであって,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである,A本件補正前の請求項1に係る発明についても,本件補正発明と同様に,同法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである,というものである。 引用例1:「月刊e・コロンブス」第41巻50頁(平成27年1月29日発行)に掲載された平成26年12月19日付け日本経済新聞記事(甲3) ? 本件審決が認定した引用発明,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア 引用発明 広告代理店による販促支援に係る,テーマパークの事前体験などが想定された,サービスなどの疑似体験による販促の方法であって,/ハコスコによって開発されたゴーグル型の格安VR装置とスマホを使って,実際に出向かないと分からない感覚を時や場所を選ばず疑似体験できるものであり,/ゴーグル型の格安VR装置である,雑誌の付録にしたり,企業の販促イベントで配布したりされる,手軽に組み立てられる段ボール製の装置の前面に,無料の専用アプリが取り込まれたスマホを差し込めばVR映像を見ることができ,サーバから送られてくる様々な商品・サービスのVRを楽しめ,装置を着けた頭の動きに連動してVR映像も人の視覚のように変わっていくものである,/方法。 イ 一致点及び相違点(一致点) 所定の場所に出向かなければ体験できないサービスを顧客となり得る者である潜在顧客がその場所に出向くことなく仮想体験できるようにする販売促進活動の方法であって,/顧客となり得る者である潜在顧客に販売促進のための配布物を提供するステップを含んでおり,/当該配布物は,スマートフォンを装着することにより仮想体験サービス提供サーバーに記憶された仮想現実動画ファイルを当該仮想体験サービス提供サーバーが再生することによって仮想現実動画を視聴し得るようにする,紙製の仮想現実ゴーグルを備えており,/当該仮想体験サービス提供サーバーにはスマートフォンからの操作により実行可能とされて仮想現実動画ファイルをスマートフォンに送って視聴させるプログラムである仮想体験サービス提供プログラムが実装されており,当該サーバーの記憶部には仮想現実動画ファイルが記憶されている,/方法。 (相違点1) 本件補正発明は, 「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」の方法であるのに対し,引用発明は,テーマパークの事前体験などが想定されたものであって,所定の場所に出向かなければ体験できないサービスが「ホストクラブ」でなく,また,事前体験が「来店」の「勧誘」のためのものであると明示されていない点。 (相違点2) サービスを仮想体験する潜在顧客が視聴するコンテンツである仮想現実動画について,/本件補正発明は, 「ホストクラブ」の仮想体験のための仮想現実動画であって, 「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の仮想現実動画であるのに対し,/引用発明では,テーマパークの事前体験などが想定されたものであって「ホストクラブ」の仮想体験のためのものでなく,また, 「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の仮想現実動画でない点。 (相違点3) サービスを仮想体験する潜在顧客に仮想現実動画の視聴を可能とすべく提供される紙製の仮想現実ゴーグルを備えた配布物について,/本件補正発明では, 「ホストクラブ来店勧誘キット」,つまり, 「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」のためのものであり,また,仮想現実動画ファイルをスマートフォンに送って視聴させるプログラムである仮想体験サービス提供プログラムが実装された仮想体験サービス提供サーバーへの「アクセス情報」であって「スマートフォンからの操作により」この仮想体験サービス提供プログラムを「実行可能にする」ものを「表示」した「アクセス情報表示部」を備えた「キット」であるのに対し,/引用発明では,テーマパークの事前体験などが想定されたものであって「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」のためのものでなく,また, 「仮想体験サービス提供プログラム」が実装された動画提供サーバーへの「アクセス情報」であって「スマートフォンからの操作により」この仮想体験サービス提供プログラムを「実行可能にする」ものを「表示」した「アクセス情報表示部」を備えた「キット」であると明示されていない点。 (相違点4) 仮想体験サービス提供プログラムが実装された仮想体験サービス提供サーバーについて,/本件補正発明では, 「ホストクラブ仮想体験サービス提供プログラム」が実装された「ホストクラブ仮想体験提供サーバー」,つまり, 「ホストクラブ」の仮想体験のためのものであって, 「異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタンが設けれられた一つのウェブページを提供するものであり,各コマンドボタンは各ホストクラブ仮想現実動画ファイルに対応しており,選択されたコマンドボタンに対応するホストクラブ仮想現実動画ファイルをメンタルケアとしてスマートフォンに送って再生させる」ものであるのに対し,/引用発明では,テーマパークの事前体験などが想定されたものであって「ホストクラブ」の仮想体験のためのものでなく, 「異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタンが設けれられた一つのウェブページを提供するものであり,各コマンドボタンは各ホストクラブ仮想現実動画ファイルに対応しており,選択されたコマンドボタンに対応するホストクラブ仮想現実動画ファイルをメンタルケアとしてスマートフォンに送って再生させる」ものでない点。 (3) 本件訴訟において,本件補正発明と引用発明との相違点が以下のとおりであることについて,当事者間に争いがない。 (相違点1’) 本件補正発明は,所定の場所に出向かなければ体験できないサービスが「ホストクラブ」で,また,事前体験が「来店」の「勧誘」のためであるのに対し,引用発明は,所定の場所に出向かなければ体験できないサービスが「ホストクラブ」ではなく,また,事前体験が「来店」の「勧誘」のためであることが明示されていない点。 (相違点2’) 本件補正発明は,仮想現実動画ファイルが, 「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」であるのに対し,引用発明は,かかる構成を備えていない点。 (相違点3’) 本件補正発明は,紙製の仮想現実ゴーグルを備えた配布物が, 「動画提供サーバーへの「アクセス情報」であって「スマートフォンからの操作により」この仮想体験サービス提供プログラムを「実行可能にする」ものを「表示」した「アクセス情報表示部」を備えた「キット」であるのに対し,引用発明は,かかる構成を有することが明示されていない点。 (相違点4’) 本件補正発明は,仮想体験サービス提供サーバーが,「異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタンが設けられた一つのウェブページを提供するものであり,各コマンドボタンは各ホストクラブ仮想現実動画ファイルに対応しており,選択されたコマンドボタンに対応するホストクラブ仮想現実動画ファイルをメンタルケアとしてスマートフォンに送って再生させる」ものであるのに対し,引用発明は,かかる構成を備えていない点。 4 取消事由 本件補正発明の引用例1に基づく進歩性判断の誤り |
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取消事由についての当事者の主張
〔原告の主張〕 1 相違点1’の容易想到性判断の誤り 引用発明は,広告代理店(博報堂)による販促支援に係るもので,大手広告代理店が大資本の顧客企業を相手に販売支援をする場合の手法の例であり,かかる大手広告代理店がホストクラブのような風俗業界のビジネスについて販促支援を行うことは想定しにくいから,風俗業界での販売支援とは無縁の話であると考えるのが自然である。 したがって,引用発明を「ホストクラブ」の「来店」の「勧誘」に適用することを容易に想到することはできない。 2 相違点2’及び4’の容易想到性判断の誤り 引用例1には,ホストクラブへの来店の勧誘として,仮想現実動画により「メンタルケアを行う」ことや, 「潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ことは記載されていない。 したがって,引用発明をホストクラブのビジネスに適用し,ホストクラブの仮想体験サービスを販促支援として行ったとしても,その内容は, 「メンタルケアを行う」ものとして仮想現実動画を提供することや, 「潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ものとすることにはならない。そして,かかる事項は,当業者が適宜決定できることとはいえない。 また,広告代理店と広告主であるホストクラブの経営主体との間で,ホストクラブへの来店の勧誘となる内容として,仮想現実動画の提供という手段を採用することを取り決めたとしても,取決めのもとでなされる販売促進活動が周知技術を踏まえたものにならざるを得ないとはいえないし,仮想現実動画を「メンタルケアを行う」ものとして提供することや, 「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ものとすることが,かかる取決めによって決まるとはいえない。 以上によれば,引用発明及び周知技術(甲4,5)に基づき, 「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」との構成(相違点2’)や, 「潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタン」との構成(相違点4’)を容易に発明することはできない。 3 小括 以上によれば,本件補正発明は,引用発明から容易に想到できたものではない。 〔被告の主張〕 1 相違点1’の容易想到性判断の誤り 商品開発力に優れた大手の企業の商品を中小の企業が参考とすることや,広告代理店がクライアントに提供する商品には販売促進活動にかかる提案が含まれることは一般的な事柄であることから,博報堂のような大手広告代理店が大資本の顧客企業を相手に行っている販売促進活動の手法を,中小の広告代理店が自社のクライアントに対して提案する販売促進活動の手法の参考とすることは,行われており,風俗業界をクライアントとする広告代理店が存在することは明らかである。 本願出願当時,ホストクラブ等の店舗への来店を促進するマーケティングにおいて,ソーシャルメディアの活用が行われていた。また,VR動画ファイルは,個人でも容易に作成することができ,ソーシャルメディアにVR動画ファイルを投稿し,店のホームページやブログに,当該VR動画ファイルへのリンクを貼ることも,可能であった。 そうすると,引用例1に接した中小の広告代理店などの当業者が,引用発明の販売促進活動の手法を,本願出願当時の技術水準を踏まえて,風俗業界のようなマイナーで特殊な業界での販売促進活動に用いることは容易になし得ることである。 そして,引用発明が適用されるサービスが,引用例1に示された具体例に限定されるものではなく,利用者視点の映像が撮像できる限りにおいて,引用発明が適用可能なサービスを任意に選択できることは当業者にとって明らかである。 2 相違点2’及び4’の容易想到性判断の誤り 本件補正発明における「潜在顧客の心理状態」は,あくまで潜在顧客においてホストクラブのサービスによるメンタルケアを求めようとする心理状態であり, 「潜在顧客の心理状態に応じて選択され(る)」というのも,仮想体験されるホストクラブのサービスの選択にあたって,これらの個別のサービスが提供するメンタルケア的な側面を捉えた選択が行われることを示している。 「メンタルケア」の文言は広範かつ抽象的な文言であり,およそ体験型のサービスは,メンタルケア的な側面を有する。そして,潜在顧客の来場を勧誘したいサービスの提供者が,当該サービスにおいて体験できる内容を疑似体験できる複数の仮想現実動画ファイルをサーバーに記憶させておき,潜在顧客が疑似体験したいサービスを自由に選択できるように,当該サービスのメンタルケア的な側面をVR動画のタイトル等として表記した複数のボタン(VR動画ファイルへのリンク)を設けることは,当業者が適宜なし得る事項にすぎない。 引用発明におけるサービスの販促活動の内容は,これを支援する側である広告代理店と支援を受ける側であるサービスの提供者との間の取決めに即したものとならざるを得ず, 「仮想現実動画」を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」となる内容として「心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ものとすることは,引用発明の販促活動を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」とすることに伴って生ずることである。また,コマンドボタンに動画の内容を表記することは周知技術であるところ,そのような動画の内容としてサービスの「メンタルケア的な側面」を捉えた表示を行うことも,周知技術の採用にあたって,広告代理店とサービスの提供者との間の取決めに即して,適宜決定すべきことである。 3 小括 以上によれば,引用発明に周知技術を組み合わせて本件補正発明を容易に想到し得たとする本件審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 本件補正発明について (1) 本件明細書の記載 本件補正発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2(1)のとおりであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある(下記記載中に引用する図1〜3は,別紙本件明細書図面目録参照。。 ) ア 技術分野 【0001】この出願の発明は,ホストクラブの売り上げ増加に貢献する技術に関するものであり,特にホストクラブへの来店を促進する来店勧誘の技術に関するものである。 イ 背景技術 【0002】ホストクラブは,女性をターゲットにした有店舗接客型の風俗営業として広く知られている。このような有店舗型の風俗営業も,他の業種と同様,新規の顧客を多くしていくことが売り上げ増加ためには重要である。 ウ 発明が解決しようとする課題【0004】しかしながら,この種の娯楽に縁のない者にとっては,興味はあっても初めて入店するには勇気がいる面もある。とりわけホストクラブの場合,女性がターゲットであるため,この傾向が強い。店舗の中がどのようになっていて,どのようなサービスが提供され,またどの程度の費用がかかるのか不明なため,興味はあっても来店に二の足を踏むケースが多い。 本願の発明は,このようなホストクラブビジネス特有の課題を解決するために為されたものであり,ホストクラブへの新規の顧客の来店を効果的に促進することができる技術を提供することを解決課題としている。 エ 課題を解決するための手段【0005】上記課題を解決するため,本願の請求項1記載の発明は,ホストクラブへの来店を勧誘させる方法であって,/潜在顧客に対してホストクラブ来店勧誘キットを提供するステップを含んでおり,/ホストクラブ来店勧誘キットは,スマートフォンを装着することにより仮想現実動画ファイルを再生して仮想現実動画を視聴し得る紙製の仮想現実ゴーグルと,ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーへのアクセス情報を表示したアクセス情報表示部とを備えており,/ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーにはホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムが実装されており,ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーの記憶部にはホストクラブを仮想体験させるホストクラブ仮想現実動画ファイルが記憶されており,/ホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムは,ホストクラブ仮想現実動画ファイルをスマートフォンに送って視聴させるプログラムであり,/前記アクセス情報は,スマートフォンからの操作によりホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムを実行可能にする情報であり,/前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーの記憶部には,潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイルが記憶されており,/前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーは,異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタンが設けられた一つのウェブページを提供するものであり,各コマンドボタンは各ホストクラブ仮想現実動画ファイルに対応しており,選択されたコマンドボタンに対応するホストクラブ仮想現実動画ファイルをメンタルケアとしてスマートフォンに送って再生させるという構成を有する。 また,上記課題を解決するため,請求項2記載の発明は,前記請求項1の構成において,前記アクセス情報は,前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーのURLであるか,前記ホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムの実行コードを含む二次元コードであるか,又は前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーにアクセスさせるキーワードであり,/前記アクセス情報表示部は,前記仮想現実ゴーグルに印刷されたものであるという構成を有する。 また,上記課題を解決するため,請求項3記載の発明は,ホストクラブへの来店を勧誘させる装置であって,/ホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムが実装されたホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーと,/ホストクラブを仮想体験させるホストクラブ仮想現実動画ファイルが記憶された記憶部と,/潜在顧客に対して提供されたホストクラブ来店勧誘キットとを備えており,/ホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムは,ホストクラブ仮想現実動画ファイルをスマートフォンに送って視聴させるプログラムであり,/ホストクラブ来店勧誘キットは,スマートフォンを装着することにより仮想現実動画ファイルを再生して仮想現実動画を視聴し得る紙製の仮想現実ゴーグルと,ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーへのアクセス情報を表示したアクセス情報表示部とを備えており,/前記アクセス情報は,スマートフォンからの操作によりホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムを実行可能にする情報であり,/前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーの記憶部には,潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイルが記憶されており,/前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーは,異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタンが設けられた一つのウェブページを提供するものであり,各コマンドボタンは各ホストクラブ仮想現実動画ファイルに対応しており,選択されたコマンドボタンに対応するホストクラブ仮想現実動画ファイルをメンタルケアとしてスマートフォンに送って再生させるものであるという構成を有する。 また,上記課題を解決するため,請求項4記載の発明は,前記請求項3の構成において,前記アクセス情報は,前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーのURLであるか,前記ホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムの実行コードを含む二次元コードであるか,又は前記ホストクラブ仮想体験サービス提供サーバーにアクセスさせるキーワードであり,/前記アクセス情報表示部は,前記仮想現実ゴーグルに印刷されたものであるという構成を有する。 オ 発明の効果【0006】 以下に説明する通り,本願の各請求項の発明によれば,ホストクラブ仮想現実動画の視聴という形でホストクラブの仮想体験がされるので,ホストクラブに行ったことのない者でもホストクラブがどのような場所・雰囲気でどのようなサービスが提供されるのかが理解できる。このため,実際にホストクラブに行くことの敷居が低くなり,ホストクラブにとっては新規の顧客増による売り上げアップが期待できる。 また,潜在顧客の心理状態に応じて異なるホストクラブ仮想現実動画ファイルが再生されるので,その時々の状況に応じて最適なホストクラブ仮想体験がされる。 このため,来店の増加による売り上げアップがより期待できるものとなる。 カ 発明を実施するための形態 【0008】まず,実施形態のホストクラブ来店勧誘キットの発明の実施形態について説明する。 図1は,実施形態に係るホストクラブ来店勧誘キットの斜視概略図である。実施形態のホストクラブ来店勧誘キット(以下,勧誘キットと略称する。)は,ホストクラブへの来店を勧誘させるために潜在顧客に無料で提供されるものであり,一種の販促ツール(ノベルティ)である。この勧誘キットは,仮想現実ゴーグル1と,アクセス情報表示部2とを備えている。 【0009】仮想現実ゴーグル(以下,VRゴーグルと略称する。)1は,簡易型VRゴーグルと称されているもので,スマートフォンを装着することにより仮想現実映像を視聴し得るグーグルである。この実施形態では,潜在顧客に無償提供されることを考慮し,紙製のVRゴーグル1が使用されている。例えば,株式会社ハコスコ製のものを使用することができる。 【0011】このようなアクセス情報表示部2によってアクセスされる提供サーバーについて,図2を使用して説明する。図2は,実施形態のホストクラブ来店勧誘方法及び実施形態のホストクラブ来店勧誘装置の概略図である。したがって,以下の説明は,実施形態のホストクラブ来店勧誘方法及び実施形態のホストクラブ来店勧誘装置の説明でもある。 図2に示すように,実施形態のホストクラブ来店勧誘装置は,ホストクラブ仮想体験サービス提供プログラム31が実装された提供サーバー3と,記憶部4と,勧誘キット10とによって構成されている。 【0014】図3に示すように,トップページには,このサイトがホストクラブ来店体験サービスを提供するサイトである旨や,体験サービスがVR(仮想現実)によって提供される旨を説明したテキストが含まれている。 そして,トップページは,VRアプリダウンロードと表記されたボタン(アプリDLボタン)51が設けられている。このアプリDLボタン51は,VR視聴用のアプリ(以下,VRアプリという。)をダウンロードさせるためのボタンである。VR動画の視聴には,専用のVRアプリが必要になっており,アプリDLボタン51はそのためのコマンドボタンである。 【0015】図2に示すように,提供サーバー3の記憶部4には,ホストクラブ仮想現実動画ファイル(以下,VR動画ファイルという。)61が記憶されている。 VR動画ファイル61は,VRアプリによってスマートフォン9上で再生された際,VRゴーグル1を介して視認されることで仮想現実動画が視認されるファイルである。予め撮影された動画がVRアプリの仕様に合わせて編集され,VR動画ファイル61が作成される。作成されたVR動画ファイル61は,提供サーバー3に予めアップロードされる。映像を撮影してこのようなVR動画ファイルを作成するサービスを提供する業者も何社か存在しており,適宜選定して依頼することができる。 【0017】図3(1)に示すように,トップページには,アプリDLボタン51に加え, 「VR動画を視る」と表記されたボタン52が設けられている。このボタン52がタップされると,図3(2)に示す画面となり,この画面に視聴開始ボタン53が設けられている。視聴開始ボタン53は,提供サーバー3上のVR動画ファイル61を指定した状態でVRアプリをスマートフォン9上で起動させるコマンドボタンである。この実施形態では,提供サーバー3の記憶部4には複数の異なるVR動画ファイル61が記憶されており,これに対応して複数の視聴開始ボタン53が設けられている。 【0018】この実施形態では,ユーザー(潜在顧客)は,自分の今の心理状態に応じて任意のホストクラブ仮想体験を行えるようになっている。図3(2)に示すページには,自分の今の心理状態に応じて任意の視聴開始ボタン53をタップして欲しい旨の説明(不図示)が表示されるようになっている。 上記説明から解るように,この実施形態では,スマートフォン9上のVRアプリからの要求に応じてVR動画ファイル61を当該スマートフォン9に送信するウェブサーバープログラムがホストクラブ仮想体験サービス提供プログラムに相当している。 【0019】次に,このようなホストクラブ来店勧誘装置の動作を説明する。以下の説明は,ホストクラブ来店勧誘方法の説明でもある。 まず,クラブ事業者は,専門の業者に依頼する等して,自己の店舗における接客映像を撮影する。この際,カメラマンは,来店した顧客の視点で撮影がされるよう,顧客として振る舞いながら撮影を行う。そして,映像を編集してVR画像ファイルを作成し,提供サーバー3の記憶部4に記憶する。この際,ユーザーの心理状態に応じて適宜の異なるシチュエーションの映像を複数撮影し,各々VR画像ファイルを作成する。例えば,落ち込んでいるので何人かのホストとともに陽気に盛り上がりたい気分の場合のシチュエーションの映像,一人のホストとじっくり話をしたい気分の場合のシチュエーションの映像,ホストと恋人のように話をしたい場合のシチュエーションの映像といった具合である。尚,ここでのシチュエーションとは,ホストクラブに入店してホストから接客のサービスを受け,店を出るまでの状況の意味である。 【0020】一方,クラブ事業者は,レンタルサーバー業者と契約する等して勧誘サイトを構築しておく。提供サーバー3には,勧誘サイトのトップページを含む各ページが実装される。そして,記憶部4には,上記のように作成された各VR動画ファイル61がアップロードされる。 また,クラブ事業者は,VRゴーグル1のメーカーに特注のVRゴーグル1の製作を依頼する。メーカーは,通常の紙製のVRゴーグル1を製作する際,予め印刷を施した紙資材でVRゴーグル1を製作し,図1に示す勧誘キット10とする。 【0021】クラブ事業者は,潜在顧客に対して勧誘キット10を無償で贈呈し,来店を勧誘する。例えば,来店した顧客に対して勧誘キット10を贈呈し,友人に渡して仮想体験を誘うよう要請する。勧誘キット10を渡されたその友人は,VRゴーグル1に印刷されているQRコードをスマートフォン9で読み取って勧誘サイトにアクセスし,トップページを表示する。そして,必要に応じてVRアプリをダウンロードした上で,いずれかの視聴開始ボタン53をタップし,そのスマートフォン9をVRゴーグル1にセットする。そして,VRゴーグル1を顔に装着して覗き込むことで,VR動画を視聴する。これにより,ホストクラブの仮想体験がVR動画の視聴という形で行われる。尚,音声については,スマートフォンのスピーカーからそのまま聴取される場合もあるし,別途イヤホンを使用して聴取される場合もある。また,図1に示すVRゴーグル1は,折り畳まれた状態で提供される場合がある。この場合,簡単な組み立て作業でVRグーグル1を使用可能な状態とすることができるが,組み立ての仕方を説明したチラシが勧誘キットに含まれていたり,又は組み立ての仕方がVRゴーグル1に印刷されていたりする場合もある。 【0022】実施形態の勧誘キット10,勧誘方法及び勧誘装置によれば,VR動画の視聴という形でホストクラブの仮想体験がされるので,ホストクラブに行ったことのない者でもホストクラブがどのような場所・雰囲気でどのようなサービスが提供されるのかが理解できる。このため,実際にホストクラブに行くことの敷居が低くなり,ホストクラブにとっては新規の顧客増による売り上げアップが期待できる。 また,潜在顧客の心理状態に応じて異なるホストクラブ仮想現実動画ファイルが再生されるので,その時々の状況に応じて最適なホストクラブ仮想体験がされる。 このため,来店の増加による売り上げアップがより期待できるものとなる。 【0024】ホストクラブというと,一般に,アルコールを主とする飲料を男性ホストが女性に提供する接客業というイメージがあるが,その一方,ホストとの会話により顧客をリラックスさせたり,ストレスを解消させたり,癒したりする側面もある。即ち,ホストクラブ事業者によってはメンタルケア事業的なアプローチでホストクラブを運営しているケースもある。上述した実施形態についても,このようなメンタルケア事業的なアプローチをサポートするものとして捉えることができる。即ち,メンタルケア的な側面があるという「安心感」を潜在顧客に与えることで,より来店を勧誘させることもできる。 また,実施形態の勧誘キットや実施形態の方法,装置は,最終的には潜在顧客を実際の店舗に来店させることが目的であるが,実際に来店をさせなくてもビジネスとして成立し得るようにするビジネスモデルもあり得る。即ち,最初の1回又は数回のVR動画ファイル61の視聴は無料であるが,それ以降の視聴は有料として提供する場合もあり得る。 【0027】また,視聴開始ボタン53は,ユーザーが自分の心理状態に応じて任意のものを選択するとして説明したが,仮想体験の回数に応じて選択されるものであっても良い。例えば,別の例として,ユーザーの心理状態に応じて選択される視聴開始ボタン53のグループが設けられ,一つのグループにおいて視聴回数に応じて違った視聴開始ボタン53が選択されるものとする。この場合,一つの視聴開始ボタン53は,VR動画ファイル61に一対一で対応しているから,視聴回数に応じて異なるVR動画を視聴することになる。 (2) 前記(1)によれば,本件補正発明の概要は,以下のとおりである。 ホストクラブにおいて,売上げ増加を図るには,新規の顧客を増やすための来店勧誘が重要であるところ,風俗営業のような娯楽に縁のない者にとっては,興味はあっても初めて入店するには勇気がいる面もあり,店舗の中がどのようになっていて,どのようなサービスが提供され,またどの程度の費用がかかるのか不明なため,興味はあっても来店に二の足を踏むケースが多い。本件補正発明は,このようなホストクラブビジネス特有の課題を解決するため,ホストクラブへの新規の顧客の来店を効果的に促進することができる技術を提供することを解決課題としている。 (【0001】【0002】【0004】 , , ) 本件補正発明によれば,ホストクラブ仮想現実動画の視聴という形でホストクラブの仮想体験がされるので,ホストクラブに行ったことのない者でもホストクラブがどのような場所・雰囲気でどのようなサービスが提供されるのかが理解でき,実際にホストクラブに行くことの敷居が低くなり,ホストクラブにとっては新規の顧客増による売上げアップが期待できる。【0006】【0022】 ( , ) また,潜在顧客の心理状態に応じて異なるホストクラブ仮想現実動画ファイルが再生されるので,その時々の状況に応じて最適なホストクラブ仮想体験がされ,来店の増加による売上げアップがより期待できるものとなる。【0006】【002 ( ,2】) 2 取消事由(本件補正発明の引用例1に基づく進歩性判断の誤り)について (1) 引用発明について ア 引用例1には,次の記載がある。 「1000円ゴーグル装置で 博報堂が販促支援 スマホを活用」 「ゲームや映画などに使われる「仮想現実(VR)」が商品選びの新たな手段になりそうだ。博報堂は月内にもゴーグル型の格安VR装置とスマートフォン(スマホ)を使った販促支援を始める。車の運転席からの視野やマンションの室内の雰囲気など,実際に出向かないと分からない感覚を時や場所を選ばず疑似体験できる。」 「VR(バーチャルリアリティーの略)は3次元のコンピューターグラフィックスや実写の合成映像などを使い,見ている人にあたかも実体験しているかのように感じさせる技術。 博報堂が使うのは,手軽に組み立てられる段ボール製の装置。ベンチャー企業のハコスコ(東京・渋谷)が開発した。装置を雑誌の付録にしたり,企業の販促イベントで配布したりする。 消費者が手持ちのスマホに無料の専用アプリ(応用ソフト)を取り込んで,装置の前面に差し込めばVR映像を見ることができる。送られてくる様々な商品・サービスのVRを楽しめる。装置を着けた頭の動きに連動し,VR映像も人の視覚のように変わっていく。 新サービスには自動車メーカーや流通企業から引き合いが来ているという。博報堂は自動車の新商品体験,マンションの内覧,テーマパークの事前体験などを想定する。車の内装のオプション装備を付け替えた様子なども疑似体験できる。同社は「カタログでは感じ取れない部分を消費者に伝えられる」としている。 食品や雑貨をインターネットの通信販売で購入するのとは異なり,車や住宅選びでは休日に販売店や展示場に足を運ぶことが多い。VRを活用すれば「平日の夜に自宅で」など自分の都合に合わせて商品を研究できる。 スマホの活用や本体の大幅な簡素化で装置のコストは1千円程度。米フェイスブックが今年買収した米オキュラスVRが開発したVR用の本格装置は最低4万〜5万円程度する。このため販促に使う場合は,イベント会場や店頭に数台設置し,来場者は行列して代わるがわる装置を体験するしかなかった。 博報堂はVR用アプリの企画・開発,配信,イベント企画までを一括受託する。凸版印刷も同様の販促システムの事業化を検討している。印刷会社の強みを生かし,紙製のVR装置に様々な企業オリジナルの模様やキャラクターを印刷し,広告効果を高める。 VRを販促に使う動きは広がっている。三菱自動車はオキュラスの装置を使い,10月に多目的スポーツ車(SUV)の運転席で「星空を見ながらのドライブ」を疑似体験できるデモを実施。明治もカップアイスのキャンペーンに活用した。広告大手の博報堂が乗り出すことで,消費者にVRが身近になりそうだ。(日本経済14・12・19)」 「その場に居るかのような体験ができる(水族館の映像)(囲い内の説明) 」 イ 引用発明の認定 以上によれば,引用例1には,本件審決が認定したとおりの引用発明(前記第2の3(2)ア)が記載されていることが認められる。 ウ 本件補正発明と引用発明との対比 本件補正発明と引用発明との相違点が,前記第2の3(3)のとおりであることは,当事者間に争いがない。 (2) 相違点1’について ア 引用発明は, 「広告代理店による販促支援に係る,テーマパークの事前体験などが想定された,サービスなどの疑似体験による販促の方法」であるところ,引用例1には, 「実際に出向かないと分からない感覚を時や場所を選ばず疑似体験できる」との記載があり,具体例として, 「自動車の新商品体験,マンションの内覧,テーマパークの事前体験など」, 「その場に居るかのような体験ができる(水族館の映像) , 」「三菱自動車は…多目的スポーツ車(SUV)の運転席で「星空を見ながらのドライブ」を疑似体験するデモを実施。, 」「明治もカップアイスのキャンペーンに活用した。」等の記載がある。 したがって,引用発明は,VR映像によるサービスの疑似体験により,実際に当該体験をしてみたいと思わせて,来園,来場につなげるものを広く含むものであると解され,「来店」の「勧誘」も含まれることは自明である。 また,引用例1には,サービスの内容として,自動車の新商品体験,マンションの内覧,テーマパークの事前体験,水族館,星空を見ながらのドライブ,カップアイスなどが挙げられていることに照らすなら,引用発明の販売促進の対象には限定はなく,VR映像による疑似体験をできるものであれば,何でもよいと解され,特定の業種を除外する旨の記載や示唆はないから,「ホストクラブ」も含まれる。 よって,引用発明における販売促進の対象を「ホストクラブ」のサービスとし,「来店」の「勧誘」に用いることは,当業者が容易に想到し得た事項である。 イ 原告の主張について 原告は,博報堂のような大手広告代理店がホストクラブのような風俗業界のビジネスについて販促支援することは想定しにくく,引用発明をホストクラブの来店勧誘に適用することを容易に想到することはできない旨主張する。 しかし,引用例1には,販売促進の対象から,特定の業種を除外する旨の記載や示唆はないことは,前記アのとおりである。 また,引用例1の「三菱自動車は…多目的スポーツ車(SUV)の運転席で「星空を見ながらのドライブ」を疑似体験するデモを実施。, 」「明治もカップアイスのキャンペーンに活用した。」等の記載は,引用発明が,広告代理店が広告主企業から受託して行う販売促進だけではなく,商品やサービスを提供する者が自ら販売促進を行う場合にも活用できることを示唆するものである。 したがって,引用発明を,大手広告代理店が行わない業種の販促支援に適用することは,当業者が容易に想到し得た事項といえ,原告の主張は採用できない。 (3) 相違点2’及び4’について ア 「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の意義 本件補正発明の「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の意義は,請求項の記載自体から一義的に明らかとはいえないので,本件明細書の記載を参酌する必要がある。 本件補正発明は,「ホストクラブ来店勧誘方法」であるところ,本件明細書には,「VR動画の視聴という形でホストクラブの仮想体験がされるので,ホストクラブに行ったことがない者でもホストクラブがどのような場所・雰囲気でどのようなサービスが提供されるのかが理解でき」「このため,実際にホストクラブに行くこと ,の敷居が低くなり,ホストクラブにとっては新規の顧客増による売り上げアップが期待できる」ほか, 「潜在顧客の心理状態に応じて異なるホストクラブ仮想現実動画ファイルが再生される」ことから, 「その時々の状況に応じて最適なホストクラブ仮想体験がされ」「このため,来店の増加による売り上げアップがより期待できる」 ,(【0022】)との記載がある。 これらの記載によれば,本件補正発明は,ホストクラブ仮想現実動画により,ホストクラブに行ったことがない者でも,ホストクラブの場所・雰囲気や,どのようなサービスが提供されるのかを理解することができ,ホストクラブに行くことの敷居が低くなることから,顧客増による売上げ増につながるほか,潜在顧客の心理状態に応じて異なるホストクラブ仮想現実動画ファイルを再生することにより,その時々の状況に応じて最適なホストクラブ仮想体験を可能とすることによって,顧客増による売上げ増につながることを作用効果とするものである。 そして,本件明細書の「まず,クラブ事業者は,専門の業者に依頼する等して,自己の店舗における接客映像を撮影する。この際,カメラマンは,来店した顧客の視点で撮影がされるよう,顧客として振る舞いながら撮影を行う。そして,映像を編集してVR画像ファイルを作成し,提供サーバー3の記憶部4に記憶する。この際,ユーザーの心理状態に応じて適宜の異なるシチュエーションの映像を複数撮影し,各々VR画像ファイルを作成する。例えば,落ち込んでいるので何人かのホストとともに陽気に盛り上がりたい気分の場合のシチュエーションの映像,一人のホストとじっくり話をしたい気分の場合のシチュエーションの映像,ホストと恋人のように話をしたい場合のシチュエーションの映像といった具合である。尚,ここでのシチュエーションとは,ホストクラブに入店してホストから接客のサービスを受け,店を出るまでの状況の意味である。( 」【0019】, ) 「ホストクラブというと,一般に,アルコールを主とする飲料を男性ホストが女性に提供する接客業というイメージがあるが,その一方,ホストとの会話により顧客をリラックスさせたり,ストレスを解消させたり,癒したりする側面もある。即ち,ホストクラブ事業者によってはメンタルケア事業的なアプローチでホストクラブを運営しているケースもある。 上述した実施形態についても,このようなメンタルケア事業的なアプローチをサポートするものとして捉えることができる。即ち,メンタルケア的な側面があるという「安心感」を潜在顧客に与えることで,より来店を勧誘させることもできる。 【0 」 (024】)との記載によれば, 「潜在顧客の心理状態」とは, 「落ち込んでいるので何人かのホストとともに陽気に盛り上がりたい気分」「一人のホストとじっくり話を ,したい気分」「ホストと恋人のように話をしたい場合」というような,潜在顧客が ,ホストクラブに行く動機付けとなる「心理状態」を意味し,「メンタルケア」とは,「ホストとの会話により顧客をリラックスさせたり,ストレスを解消させたり,癒したりする」ことを意味するものと解される。 以上によれば,本件補正発明の「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」との記載は, 「潜在顧客」がホストクラブに行く動機付けとなる「心理状態」にそれぞれ対応した「ホストとの会話により顧客をリラックスさせたり」,「ストレスを解消させたり」「癒したりする」などの異なる「メンタルケア」を行う ,べく, 「ホストクラブに入店してホストから接客のサービスを受け,店を出るまでの状況」をそれぞれ撮影した「複数の異なる仮想現実動画」のファイルであることを意味するものと理解される。 イ 相違点2’の容易想到性について 引用発明の販売促進の対象を「ホストクラブ」のサービスとし,ホストクラブへの「来店」の「勧誘」の目的で使用した場合, 「仮想現実動画」は,潜在顧客を対象とした,ホストクラブで提供するサービスを疑似体験する動画となり得ると解される。 しかしながら,引用例1には, 「仮想現実動画」について, 「メンタルケア」を行うものとすることや, 「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」仮想現実動画ファイルとすることについて,記載も示唆もない。 また,かかる事項が周知であったと認めるに足りる証拠もない。 そうすると,引用発明に基づき,相違点2’に係る「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到し得たとはいえない。 よって,相違点2’に係る本件補正発明の構成は,当業者が容易に想到し得たものではない。 ウ 相違点4’の容易想到性について 前記イのとおり,相違点2’に係る「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない以上,「異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタン」を「各ホストクラブ仮想現実動画ファイル」に「対応」させることを,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 よって,相違点4’に係る本件補正発明の構成は,当業者が容易に想到し得たものではない。 エ 被告の主張について 被告は,@引用発明におけるサービスの販促活動の内容は,広告代理店と広告主であるサービス提供者との間の取決めに即したものとならざるを得ず, 「仮想現実動画」を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」となる内容として「心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う」ものとすることは,引用発明の販促活動を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」とすることに伴って生ずることにすぎず,また,Aコマンドボタンに動画の内容を表記することは周知技術であるところ,かかる動画の内容としてサービスの「メンタルケア的な側面」を捉えた表示を行うことも,周知技術の採用に当たって,広告代理店とサービスの提供者との間の取決めに即して,適宜決定すべきことである旨主張する。 しかし,引用例1には,テーマパークへの来場を勧誘したいサービスの提供者が,テーマパークの魅力を潜在顧客に伝える目的で,来場すると体験できるアトラクションを疑似体験するための仮想現実動画を提供することの記載はあるものの,その際に,当該サービスのメンタルケア的な側面に応じた複数の異なる仮想現実動画をサーバーに記憶させておき,潜在顧客が疑似体験したいサービスを自由に選択できるようにすることや,当該サービスのメンタルケア的な側面を仮想現実動画のタイトル等として表記した複数のボタンを設けることの記載はなく,かかる示唆もない。 そして,引用発明を「ホストクラブ」への「来店」の「勧誘」に適用した場合に,販促支援の内容は,販促支援をする広告代理店とこれを受ける広告主との間の取決めに即したものとなるとしても,「仮想現実動画」を,「心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なる」ものにすることが必然とはいえない。 また,コマンドボタンに動画の内容を表記することが周知技術であるとしても,取決めの下でなされる販促活動がかかる周知技術を踏まえたものになることが,必然とはいえない上,仮にかかる周知技術を適用したとしても,前記ウのとおり, 「潜在顧客の心理状態に応じて選択され潜在顧客の心理状態に応じて異なるメンタルケアを行う複数の異なるホストクラブ仮想現実動画ファイル」の構成を当業者が容易に想到することができたとはいえない以上, 「異なる心理状態の表記が各々されているとともに潜在顧客の心理状態に応じて選択される複数のコマンドボタン」を「各ホストクラブ仮想現実動画ファイル」に「対応」させるとの構成を,当業者が容易に想到することができたとはいえない。 被告の主張は,進歩性に関する主張としては,採用できない。 (4) 小括 よって,本件補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではないから,本件補正を却下した本件審決の判断には誤りがあり,原告主張の取消事由は理由がある。 3 結論 以上のとおり,本件審決は取り消されるべきものであるから,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 高部眞規子 |
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裁判官 | 小林康彦 |
裁判官 | 関根澄子 |