関連審決 | 異議2017-701223 |
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事件 |
令和
1年
(行ケ)
10095号
特許取消決定取消請求事件
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原告 ワッカーケミー アクチエンゲ ゼルシャフト 同訴訟代理人弁護士 宮嶋学 高田泰彦 柏延之 砂山麗 同訴訟代理人弁理士 永井浩之 中村行孝 小島一真 金澤佑太 被告 特許庁長官 同 指定代理人宮澤尚之 豊永茂弘 後藤政博 河本充雄 小出浩子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2020/03/12 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 -1-2 訴訟費用は,原告の負担とする。 3 原告に対し,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が異議2017-701223号事件について平成31年2月21日にした決定のうち,特許第6154074号の請求項1ないし4,8,11に係る部分を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,平成26年8月7日,発明の名称を「多結晶質シリコン断片及び多結晶質シリコンロッドの粉砕方法」とする発明について特許出願をし(優先権主張:2013年8月21日,ドイツ),平成29年6月9日,特許権の設定登録(特許第6154074号。請求項数11。以下,この特許を「本件特許」という。甲1)を受けた。 (2) 本件特許について,平成29年12月22日,Aから特許異議の申立て(異議2017-701223号)がされた(甲3)。 原告は,平成30年5月21日付け訂正請求書(甲6)により,特許請求の範囲について訂正請求をし,同年9月27日付け手続補正書(甲2)により同訂正請求書の手続補正をした(以下「本件訂正」という。。 ) (3) 特許庁は,平成31年2月21日,本件訂正を認めた上,「特許第6154074号の請求項1〜4,8,11に係る特許を取り消す。特許第6154074号の請求項5〜7,9,10に係る特許に対する特許異議の申立てを却下する。」との決定(以下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同年3月1日,原告に送達された。なお,附加期間として90日が定められた。 (4) 原告は,令和元年6月27日,本件決定の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載 本件決定が対象とした本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜4,8,11の記載は,以下のとおりである(甲1,2)。以下,各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい,これらを併せて「本件発明」という。また,その明細書を,図面を含めて,「本件明細書」という(甲1)。 【請求項1】炭化タングステンを含んでなる表面を有する少なくとも二個の粉砕工具により,多結晶質シリコンロッドをチャンクに粉砕する方法であって,前記少なくとも二個の粉砕工具が,前記工具表面の炭化タングステン含有量が95重量%以下であり,かつ炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径が1.3μm以上である第1の粉砕工具と,前記工具表面の炭化タングステン含有量が80重量%以上であり,かつ前記炭化タングステン粒子の前記メジアン粒径が0.5μm以下である第2の粉砕工具とを含んでなり,前記方法が少なくとも2つの粉砕工程を含んでなり,前記少なくとも2つの粉砕工程が,前記第1の粉砕工具による粉砕工程と,前記第2の粉砕工具による粉砕工程とを含んでなる,方法。 【請求項2】前記第2の粉砕工具の炭化タングステン粒子の前記メジアン粒径が0.2μm以下である,請求項1に記載の方法。 【請求項3】前記第1の粉砕工具が,手動式ハンマー,ハンマーミル又は機械式衝撃工具である,請求項1に記載の方法。 【請求項4】前記第2の粉砕工具が,ジョークラッシャ,ロールクラッシャ又はボールミルである,請求項1に記載の方法。 【請求項8】前記第1の粉砕工具の炭化タングステン含有量が90重量%未満であり,かつ前記第2の粉砕工具の炭化タングステン含有量が90重量%超である,請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。 【請求項11】 前記少なくとも2つの粉砕工程間に,800℃超の温度における前記チャンクの熱処理に続いて,より低温の媒体中での急冷を行う,請求項1〜4及び8のいずれか一項に記載の方法。 3 本件決定の理由の要旨 本件決定の理由は,別紙決定書(写し)記載のとおりである。要するに,本件発明1及びこれを引用する本件発明2ないし4,8及び11は,特許法36条6項1号に規定する要件(サポート要件)及び同項2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていない,というものである。 4 取消事由 (1) 明確性要件に係る判断の誤り(取消事由1) (2) サポート要件に係る判断の誤り(取消事由2) |
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当事者の主張
1 取消事由1(明確性要件に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件明細書には,炭化タングステン粒子の代表径の定義ないし測定方法の明示的な記載はないが,技術常識(甲19〜22)を踏まえれば,沈降法によって測定されるストークス径と理解するほかない。よって,本件発明における炭化タングステン粒子のメジアン粒径における粒径の定義は,沈降法により測定されるストークス径ということで,一義的に明確である。 本件発明における「炭化タングステン粒子のメジアン粒径」が明確である以上,どのような方法により本件発明の「炭化タングステン粒子のメジアン粒径」を特定するかは侵害立証の問題であって,明確性要件の問題ではない。 (2) ストークス径は,ストークスの式により明確に定義される(甲22)から,本件明細書に接した当業者であれば,本件発明は,ストークス径を基にした質量分布におけるメジアン径が「1.3μm以上」ないし「0.5μm以下」である炭化タングステン粒子が,それぞれ工具表面に存在する粉砕工具を規定していると容易に理解できる。 (3) 焼結によって炭化タングステン粒子の粒径が変化するか否か,変化するとしてどの程度変化するかは,焼結条件との兼ね合いで理論的にも実験的にも予測可能であり,その変化分を加味した上で炭化タングステン粒子の粒径を調整し,その材料として用い,必要に応じて焼結条件を調整すればよく,また,焼結の前後それぞれの炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認することで,ストークス径の粒度分布の変化を予測することも可能である。また,本件発明におけるメジアン粒径は, 「1.3μm以上」ないし「0.5μm以下」という広い範囲を規定するものであるから,焼結の有無はそれらの数値範囲の充足性にほとんど影響を及ぼさないと考えられる。よって,工具表面に存在する炭化タングステン粒子の粒子径を直接測定するまでもなく,本件発明の規定する,第1の粉砕工具において炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径を1.3μm以上とし,更には第2の粉砕工具において炭化タングステン粒子の前記メジアン粒径を0.5μm以下とすることは当然に可能である。 (4) 焼結後の炭化タングステン粒子の粒子径を直接測定する必要があるとしても,バインダー樹脂を溶かすなどして炭化タングステン粒子を取り出し,沈降法で測定することは可能である。本件発明において主に想定されているバインダーは,コバルト結合剤であるところ,コバルトの融点は1495℃であるから,焼結の工程で焼失することはない上,炭化タングステンの融点は2870℃とコバルトのそれよりも遥かに高いのであるから,バインダーであるコバルトを溶かすなどして除去し,炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定することは可能である。 (5) 以上によれば,本件発明に明確性要件違反はない。 〔被告の主張〕 沈降法は,液相中の粒子の個々の大きさに応じた沈降速度から粒径を求める方法であって,個々の粒子がそれぞれ分離して沈降可能な粒子群を測定対象とする方法である(甲19,22)。一方,本件発明における「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」は,粉砕工具の工具表面に存在する炭化タングステン粒子の粒径であるところ,粉砕工具の工具表面に存在する炭化タングステン粒子は,焼結されて一体となって粉砕工具を構成しており,分離可能なものでないから,個々の粒子がそれぞれ分離して沈降可能な粒子群を測定対象とする沈降法では測定できない。 したがって,本件発明における「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,沈降法によって測定されるストークス径であると理解することはできないから,本件発明の粉砕工具の工具表面に存在する炭化タングステン粒子に係る粒子径(代表径)の定義ないしその測定方法は明らかではない。 粉砕工具の工具表面に存在する炭化タングステン粒子に係る粒子径(代表径)の定義ないしその測定方法が明らかでない以上,どのような測定方法により「炭化タングステン粒子のメジアン粒径」を特定するかは,明確性要件の問題であるというべきである。 2 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 本件発明は, 「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」と特定されていること及び本件明細書【0026】の記載によれば,本件明細書に記載された炭化タングステン含有量の粒子径ないし粒子群の分布は,質量を基準としたものと理解するのが合理的である。 それ故, 【0061】〜【0066】に記載された「粗い粒子(2.5〜6.0μm)」や「超微粒子(0.2〜0.5μm)」などについても, 「質量により秤量した」ものと解釈し,炭化タングステン粒子の質量に基づく粒径分布範囲を表していると理解すべきであり,これらの記載は,本件発明の実施例として,サポートとなり得るものである。 「粗い粒子(2.5〜6.0μm)」や「超微粒子(0.2〜0.5μm)」という程度であれば,厳密な測定を行うまでもなく,工具表面に結合させる前の段階の粒径や焼結条件との相関により十分に特定可能であり,工具表面に存在しているから知り得ないということにはならない。また,粒子径が2.5〜6.0μmの粒子であれば,どのような分布基準を採用しても,その粒子は2.5〜6.0μmの間にしか分布せず,メジアン径もその間の値にしかならないのであるから,「粗い粒子(2.5〜6.0μm)」等の記載について,分布基準が何であるかを問題にする実益もない。 以上によれば,本件発明にサポート要件違反はない。 〔被告の主張〕 「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」は,粉砕工具の工具表面に存在する炭化タングステン粒子の粒径であるところ,原告の主張は,実施例の「粗い粒子(2.5〜6.0μm)」等の記載が,炭化タングステン粒子の質量に基づく粒径分布範囲を表すとの説明にとどまり,粉砕工具の工具表面に存在する炭化タングステン粒子の粒径又は粒径分布であることは何ら説明されていない。実施例の「粗い粒子(2.5〜6.0μm)」等が,粉砕工具の工具表面に存在する炭化タングステン粒子の質量に基づく粒径分布範囲を示していると認識できない以上,実施例の多結晶シリコンロッドをチャンクに粉砕する方法は,本件発明の実施例であると認識することができない。 |
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当裁判所の判断
1 本件発明について (1) 本件明細書の記載 本件発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。 ア 技術分野 【0001】本発明は,多結晶質シリコンチャンク及び多結晶質シリコンロッドの粉砕方法を提供する。 イ 背景技術 【0012】先行技術は,ポリシリコンを粉砕するための幾つかの方法及び装置を開示している。 【0015】しかし,米国特許第7270706B2号は,ロールの周囲に間隔を置いて配置された歯を有する有孔ロール,ロールが回転し得るように取り付けられたシャフト,内側にロールが取り付けられているキャビティを限定する表面を有するハウジング,ハウジングの上部にある入口,ハウジングの底部にある出口,ハウジングの内側にある,ロールに対向するプレートを開示しているが,その際,ロール,歯,プレート,及びキャビティを限定するハウジング表面が,多結晶質シリコンの汚染を最少に抑える構築材料で被覆されている。材料は,好ましくはカーバイド,サーメット,セラミック及びそれらの組合せからなる群から選択される。炭化タングステン,コバルト結合剤を含む炭化タングステン,ニッケル結合剤を含む炭化タングステン,炭化チタン,Cr3C2,ニッケル-クロム合金結合剤を含むCr3C2,炭化タンタル,炭化ニオブ,窒化ケイ素,マトリックス,例えばFe,Ni,Al,Ti,又はMg,中の炭化ケイ素,窒化アルミニウム,炭化タンタル,炭化ニオブ,コバルト及びチタンカーボナイトライドを含む炭化チタン,ニッケル,ニッケル-コバルト合金,鉄,及びそれらの組合せが特に好ましい。 【0016】米国特許出願公開第20030159647A1号は,コバルトマトリックス中に炭化タングステンを含み(88%WC及び12%CO),WCコアの粒子径が0.6μmである,ジョークラッシャによるポリシリコンの粉砕を開示している。 【0017】米国特許第7950600B2号は,シャフトと共に回転するロールを含んでなるロールクラッシャであって,ロールが,鋼製のキャリヤーロール及び多くの硬質金属部分を含んでなり,硬質金属部分が,炭化タングステンを配合したコバルトマトリックスからなり,硬質金属部分が,キャリヤーロール上に,丁度合うように,取り外しできるように固定されているロールクラッシャを開示している。硬質金属部分は,80重量%を超える,より好ましくは90重量%を超える,特に好ましくは91.5重量%を超える,コバルトマトリックス中に配合された炭化タングステンからなる。 【0018】米国特許第7549600B2号は,半導体又はソーラー用途向けに好適なシリコン断片から,半導体又はソーラー用途向けに好適な微小シリコン断片を製造するための,複数の破砕工具を含んでなり,破砕工具が,硬質の,耐摩耗性材料製の表面を有するクラッシャを記載しているが,クラッシャが,1.5〜3の粉砕比を有し,破砕工具が,硬質金属,好ましくはコバルトマトリックス中の炭化タングステンの表面を有し,より好ましくは炭化タングステンの比率が80重量%を超える。 【0021】基本的に,例えばW含有量をより高くすることにより,又はそれらのWC粒子径を低下させることにより,耐摩耗性が高くなることは,先行技術及び一般的な推定,及び専門家の知識である。先行技術では,粒子径を約0.6μmから出発して,W含有量が80%から>90%に向かう傾向があることが,例えば米国特許出願公開第20030159647A1号及び米国特許第7950600B2号に記載されている。 【0022】しかし,より硬い工具は,より脆くなることが分かっており,破壊された工具材料により,製品の好ましくない汚染が追加される危険性がある。 【0023】 この問題により,本発明の目的が生じたのである。 ウ 発明を実施するための形態 【0026】本発明は,炭化タングステンを含んでなる表面を有する少なくとも一個の粉砕工具により,多結晶質シリコンロッドをチャンクに粉砕する方法であって,工具表面の炭化タングステン含有量が95%以下であり,炭化タングステン粒子のメジアン粒径-質量により秤量-が0.8μm以上であるか,又は工具表面の炭化タングステン含有量が80%以上であり,炭化タングステン粒子のメジアン粒径が0.5μm以下である,方法に関する。 【0027】工具表面の材料における100%に対する残りは,好ましくはコバルト結合剤であり,これは,2%まで,好ましくは1%未満の他の金属も含む。 【0028】追加の炭化物は,好ましくは1%未満の程度に存在し,その中のCr3C2及びVCは<0.4%である。 【0029】焼結の結果は,炭素の添加によっても影響を受ける。バランスの取れた炭素レベルが,硬質金属の最適特性を達成するのに重要であることがさらに分かっている。これに関して,例えば7〜14μTm ∧3/kg,又は75〜110%の範囲内でよい磁気飽和により,推定することができる。WCに基づく炭素含有量は,約6%であり,幾分より高い傾向がある。 【0030】 多結晶質シリコンロッドの粉砕には,手動式ハンマー,ハンマーミル及び機械式衝撃工具が好適であり,その場合,粒径が0.8μm以上である粗粒を使用するのが好ましい。 【0031】 ジョー及びロールクラッシャ及びボールミルの使用も同様に考えられ,その場合,0.5μm以下のより細かい粒子を使用するのが好ましい。 【0032】より細かい粒子は,好ましくは0.2μm以下の粒径を有することと組合せて,炭化タングステン含有量が80%を超え,好ましくは90%を超え,より好ましくは95%を超える。 【0033】より粗い粒子は,好ましくは1.3μm以上の粒径を有すると共に,炭化タングステン含有量が95%未満,好ましくは90%未満,より好ましくは65〜80%である。 【0034】好ましくは,本方法は,少なくとも2粉砕工程を含んでなり,最終粉砕工程が,先行する粉砕工程の一つで使用した粉砕工具よりも,高い炭化タングステン含有量,又は低い炭化タングステン粒子の粒径を有する粉砕工具で粉砕工程を行う。 【0035】好ましくは,本方法は,少なくとも2粉砕工程,即ち炭化タングステン粒子の粒径が0.8μm以上,好ましくは1.3μm以上である粉砕工具による少なくとも一つの粉砕工程,又は炭化タングステン粒子の粒径が0.5μm以下,好ましくは0.2μm以下である粉砕工具による少なくとも一つの粉砕工程を含んでなる。 【0049】 驚くべきことに,炭化タングステン含有量,又は硬度,は,粉砕工具のWC粒子の粒径よりも,摩耗に対する影響がはるかに小さく,このことは今日まで考慮されていない。同じ硬度に対して,より小さな粒径及び小さな炭化タングステン含有量を有する工具は,より大きな粒径及びより高いWC含有量を有する工具よりも,摩耗がはるかに低い。 【0050】ポリシリコン上へのタングステン汚染が,幾つかの粉砕工程を前提として,主として最後の粉砕工程によって決定されることも驚くべきことである。 【0051】これによって,幾つかの粉砕工程を含んでなる製法では,最初の粉砕工程,例えば最初の破壊で,耐摩耗性は少ないが,強靭な,硬質金属工具を使用することができる。これは有利なことである。対照的に,最後の粉砕工程では,特に好適なWC型を有する,即ち比較的細かいWC粒径及び/又は比較的高い炭化タングステン含有量を有する工具を確実に使用すべきである。 エ 実施例 【0060】チャンクに粉砕することにより,下記のサイズ区分に分けられるチャンクサイズ(CS)が得られ,そのそれぞれが,シリコンチャンク表面上の2点間の最長距離(=最大長さ)として定義される。 チャンクサイズ0[mm] 1〜5 チャンクサイズ1[mm] 4〜15 チャンクサイズ2[mm] 10〜40 チャンクサイズ3[mm] 20〜60 チャンクサイズ4[mm] 45〜120 チャンクサイズ5[mm] 90〜200 チャンクサイズ6[mm] 130〜400 【0061】例1 多結晶質シリコンロッドの,手動式ハンマー(Coマトリックス中のWC)による手動式破壊 a. (先行技術)88%WC,12%Co及び細かい粒子(0.5〜0.8μm),即ち小さな目に見えるWC破片,即ち高汚染 b.88%WC,12%Co及び粗い粒子(2.5〜6.0μm),即ち小さな目に見えるWC破片無し,即ち低汚染 c.80%WC,20%Co及び細かい粒子(0.5〜0.8μm),即ち小さな目に見えるWC破片無し 【0062】例2 最初の破壊を例1bに準じ,さらなる破壊をロールクラッシャで標的とするサイズCS4に,成分画分の試料片の表面汚染区分及び分析を,先行技術DIN 51086-2により,ICPMS(ICP=誘導結合プラズマ)で,硬度数をビッカースにより,試験力10kpで。 a. (先行技術) 硬度HV10 1650:90%WC+10%Co,非常に細かい粒子(0.5μm〜0.8μm),CS1タングステン2000pptw b.硬度HV10 1630:94%WC+6%Co,細かい粒子(0.8μm〜1.3μm),CS1タングステン4000pptw c.硬度HV10 1590:85%WC+15%Co,超微粒子(0.2〜0.5μm),CS1タングステン1000pptw 【0063】例3 最初の手動式破壊を例1bに準じ,次いでさらなる破壊を標的とするサイズCS2に大型ジョークラッシャ(88%WC&12%Co及び非常に細かい粒子(0.5μm〜0.8μm) で, ) 次いで二つの粉砕工程を小型のジョークラッシャ(88%WC&12%Co非常に細かい粒子(0.5μm〜0.8μm))で,及び最後の破壊工程 a.ジョークラッシャで(88%WC&12%Co非常に細かい粒子(0.5μm〜0.8μm),CS2タングステン500pptw(先行技術),又は b.ジョークラッシャで(93.5%WC&6.5%Co超微粒子(0.2μm〜0.5μm),CS2タングステン200pptw(a.及びb.は,ほぼ同じ粉砕比で) 【0064】例4 例3bと同様であるが,第二の破壊工程の後に,800°/1hの予備熱処理及び続いて水中20℃で急冷及び真空乾燥。 結果は,CS2タングステン50pptw 【0065】例5 ポリ-Siロッドを,調整された様式で,幾つかの破壊工程及び様々なWCタイプでCS2に,比較群の最終生成物がそれぞれ,約500pptmのほぼ同じW汚染を有するが,各群が生成物の粒径で異なるように,破壊する。続いて,材料を,CZ法により,単結晶に引き上げ,無転位長さを測定した。 【0066】 平均無転位長さを,可能な円筒形結晶ロッド長さ(出発時の重量マイナスコーン及び残基メルト損失から計算した)及び幾つかの結晶の実際長さの比から求める。 a. (先行技術)最初の手動式破壊(88%WC/12%Co/非常に細かい粒子0.5〜0.8μm)でCS4に,続いてジョークラッシャによる二つの破壊工程(88%WC/12%Co/粒子0.5〜0.8μm)でCS2に: 無転位長さ 〜70% b.最初の手動式破壊(88%WC/12%Co/粗い粒子2.5〜6.0μm)でCS4に,続いてジョークラッシャによる三つの破壊工程(88%WC/12%Co/粗い粒子2.5〜6.0μm)でCS2に: 無転位長さ 〜95% c.最初の手動式破壊(88%WC/12%Co/超微小粒子0.2〜0.5μm)でCS4に,ジョークラッシャによる一つの破壊工程(88%WC/12%Co/超微小粒子0.2〜0.5μm)でCS2に: 無転位長さ 〜93% (2) 前記(1)によれば,本件発明の概要は,以下のとおりである。 従来,多結晶質シリコンロッドを粉砕する粉砕工具の素材として,コバルト結合剤を含む炭化タングステン(コバルトマトリックス中に炭化タングステンを含むもの)が知られており,タングステン含有量をより高くすること,又は炭化タングステン粒子径を低下させることにより,耐摩耗性が高くなることが知られていたが,硬い工具は,脆くなることが分かっており,この場合,破壊された工具材料により,製品の好ましくない汚染が追加される危険性があった。本件発明は,この問題を解決することを目的とする。【0001】【0012】【0015】〜【0018】 ( , , ,【0021】〜【0023】) 本件発明は,炭化タングステンを含んでなる表面を有する少なくとも一個の粉砕工具により,多結晶質シリコンロッドをチャンクに粉砕する方法であって,工具表面の炭化タングステン含有量が95%以下であり,工具表面の材料における100%に対する残りは,好ましくはコバルト結合剤であり,これは,2%まで,好ましくは1%未満の他の金属も含む。好ましくは1%未満の程度に追加の炭化物が存在し,焼結の結果は,炭素の添加によっても影響を受ける。【0026】〜【002 (9】) 好ましくは,少なくとも2粉砕工程を含み,炭化タングステン粒子の粒径が0.8μm以上,好ましくは1.3μm以上の粒径である粉砕工具による少なくとも1つの粉砕工程,又は,炭化タングステン粒子の粒径が0.5μm以下,好ましくは0.2μm以下である粉砕工具による粉砕工程を含んでなる。【0030】〜【00 (35】) 炭化タングステン粒子の粒径の摩耗に対する影響は,炭化タングステン含有量,又は硬度の摩耗に対する影響よりもはるかに大きい。また,幾つかの粉砕工程を行うにあたり,ポリシリコン上へのタングステン汚染は主として最後の粉砕工程によって決定されるので,幾つかの粉砕工程を含む製法では,最初の粉砕工程で,耐摩耗性は少ないが,強靭な,硬質金属工具を使用し,最後の粉砕工程では,比較的細かい炭化タングステン粒径及び/又は比較的高い炭化タングステン含有量を有する工具を使用する。【0049】〜【0051】 ( ) 多結晶質シリコンロッドに対して,手動式ハンマー(Coマトリックス中のWC(88%WC,12%Co,及び粗い粒子(2.5〜6.0μm))による手動式破壊後,さらにロールクラッシャ(硬度HV10 1590:85%WC+15%Co,超微粒子(0.2〜0.5μm)で破壊を行なったところ,タングステン汚染は1000pptwであった(例2c)( 。【0061】〜【0063】) また,多結晶質シリコンロッドに対して,手動式ハンマー(Coマトリックス中のWC(88%WC,12%Co,及び粗い粒子(2.5〜6.0μm))による手動式破壊後,大型ジョークラッシャ(88%WC&12%Co及び非常に細かい粒子(0.5μm〜0.8μm))で,次いで二つの粉砕工程を小型のジョークラッシャ(88%WC&12%Co非常に細かい粒子(0.5μm〜0.8μm))で,及び最後の破壊工程をジョークラッシャで(93.5%WC&6.5%Co超微粒子(0.2μm〜0.5μm)で破壊を行ったところ,タングステン汚染は200pptwであった(例3b)( 。【0061】〜【0063】) さらに,第二の破壊工程の後に,800℃1時間の予備熱処理と続く水中20℃で急冷及び真空乾燥を行ったところ,タングステン汚染は50pptwであった(例4)( 。【0064】) 2 取消事由1(明確性要件に係る判断の誤り)について ? 明確性要件の判断基準 特許法36条6項2号は,特許請求の範囲の記載に関し,特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。同号がこのように規定した趣旨は,仮に,特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には,特許が付与された発明の技術的範囲が不明確となり,第三者の利益が不当に害されることがあり得るので,そのような不都合な結果を防止することにある。そして,特許を受けようとする発明が明確であるか否かは,特許請求の範囲の記載だけではなく,願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者の出願当時における技術常識を基礎として,特許請求の範囲の記載が,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 (2) 本件発明の明確性について ア 特許請求の範囲の記載及び技術常識 請求項1には, 「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」との記載があるところ,請求項1の記載自体から,この炭化タングステン粒子は, 「少なくとも二個の粉砕工具」の「工具表面」に「含有」されるものであることを理解することができ,また,上記炭化タングステン粒子は,第1の粉砕工具の表面には95重量%以下含有され,その粒径が1.3μm以上であること,第2の粉砕工具の表面には80重量%以上含有され,その粒径が0.5μm以下であること,粒径はメジアン粒径であること,炭化タングステン粒子のメジアン粒径が1.3μm以上あるいは0.5μm以下であることは,炭化タングステン粒子を「質量により秤量」して測定するものであることが理解できる。 しかしながら,請求項1の記載からは,粉砕工具の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義が明らかであるとはいえない。 また,本件特許の出願当時において,炭化タングステンを含んでなる表面を有する粉砕工具の工具表面に含有される炭化タングステン粒子につき,質量により秤量したメジアン粒径を得ることができたとする当業者の技術常識を認めるに足りる証拠はない。 イ 本件明細書の記載 本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」「粉砕工具」の「工具表面」のタングステン含有量が95%以下であり,工具表面の材料における100%に対する残りは,好ましくはコバルト結合剤であり,好ましくは1%未満の程度に追加の炭化物が存在する(【0026】〜【0028】,焼結の結果は,炭 )素の添加によっても影響を受ける(【0029】)との記載があり, 「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」 「粉砕工具」の「工具表面」の炭化タングステン粒子が,コバルトである結合剤と焼結により一体化していることが開示されている。そして,本件明細書には,コバルト結合剤と焼結により一体化した「粉砕工具」の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径について,定義や測定方法の記載はない。 ウ 以上によれば,本件明細書の記載を考慮し,出願当時の技術常識を基礎としても,本件発明の「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」 「粉砕工具」 「工 の具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子の「質量により秤量」したメジアン粒径の意義を理解することはできず,本件発明の技術的範囲は不明確といわざるを得ないから,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性要件を充足しないというべきである。 (3) 原告の主張について ア 原告は, 「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の定義は,沈降法により測定されるストークス径について,質量を基準に粒子径を表した質量分布におけるメジアン粒径ということで,一義的に明確であり,ストークス径はストークスの式により明確に定義されるものである旨主張する。 そこで検討するに,甲18(神保元二ら編「微粒子ハンドブック」初版第1刷,1991年9月1日)には,ストークス径は,最も広く用いられる代表径であり,静止流体中を重力で落下する粒子の沈降速度v1と同じ沈降速度をもち,また同じ密度をもつ球形粒子の直径であり,流体中で運動する粒子の諸現象を考える場合に有用な代表径であることの記載があり,本件出願当時,粒子の大きさを測定する方法として,ストークス径を得る沈降法があることは,周知であったことが認められる。 また,ウェブページ「粒度分布測定の基礎知識」(甲19)には, 「主な粒度分布測定原理」の表の「遠心沈降法」の欄に, 「測定粒子径の定義」を「ストークス径」「基 ,本粒度分布」を「重量基準」との記載があり, 「遠心沈降法 液相中の粒子群の沈降状態を吸光度などから計測して,球と仮定して導かれたストークスの式などと照合し,有効径(ストークス径)を求める。」との記載がある。ウェブページ「粒径分布測定[重力/遠心沈降式](甲22)には,[測定原理/測定法]微粒子を水または 」 「不溶溶媒中に懸濁させ,重力場にそのまま静置するか遠心場に粒子懸濁液を置くと,大きな粒子ほど速い速度で沈降していきます。その様子を粒子懸濁液に照射したレーザー光の透過光強度によって検出します。粒子サイズは重力沈降の場合,次のStokesの式から得られます。」との記載があり,とのストークスの式が記載されている。これらによれば,沈降法は,重量(質量)基準に基づく粒度分布が得られるものであること,液相中の粒子の沈降速度から粒径を求めるものであり,分離して沈降可能な粒子を測定対象としていることが認められる。 しかし,前記(2)イのとおり,本件明細書には,「炭化タングステンを含んでなる表面を有する」 「粉砕工具」の「工具表面」の炭化タングステン粒子が,コバルトである結合剤と焼結により一体化していることが開示されている一方,炭化タングステン粒子が工具表面から分離可能であることの記載や示唆はない。また,ストークスの式によりストークス径を算出するためには,ストークスの式に沈降距離h,沈降時間t等のパラメータを代入することが必要であるところ,本件明細書を見ても,ストークスの式のパラメータの値としてどのような値を採用するかについての記載はない。 そうすると,粒子の大きさを測定する方法としてストークス径を得る沈降法があることが周知であり,沈降法により重量(質量)基準に基づく粒度分布が得られるとしても,「粉砕工具」の「工具表面」に「含有」される炭化タングステン粒子が,コバルトである結合剤と焼結により一体化している以上,沈降法により炭化タングステン粒子のストークス径を測定することは不可能であるから,本件発明の「炭化タングステン粒子の質量により秤量されたメジアン粒径」が,沈降法に基づいて得られるストークス径のメジアン粒径であると解することはできない。 イ 原告は,焼結によって炭化タングステン粒子の粒径が変化するか否か,変化するとしてどの程度変化するかは,焼結条件との兼ね合いで理論的にも実験的にも十分に予測が可能であり,その変化分を加味した上で炭化タングステン粒子の粒径を調整し,必要に応じて焼結条件を調整すればよく,また,焼結の前後それぞれの炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認することで,ストークス径の粒度分布の変化を予測することは可能であるから,工具表面に存在する炭化タングステン粒子自体を測定するまでもない,また,本件発明におけるメジアン粒径は, 「1.3μm以上」ないし「0.5μm以下」という広い範囲を規定するものであるから,焼結の有無はそれらの数値範囲の充足性にほとんど影響を及ぼさないと考えられる旨主張する。 しかし,本件明細書には,焼結条件との兼ね合いで焼結による粒径の変化を予測して炭化タングステン粒子の粒径を調整することや,焼結の前後それぞれの炭化タングステン粒子の粒径を画像で確認し,その変化の有無や程度を確認してストークス径の粒度分布の変化を予測することの記載や示唆はないから,本件発明の「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,かかる予測や調整等を行うことを前提として沈降法により測定されるストークス径のメジアン粒径であるとは解されない。また,本件発明におけるメジアン粒径が,広い範囲を規定するものであるとしても,焼結の有無が数値範囲の充足性に影響を及ぼさないと解すべき根拠はないから,上記の判断を左右するものではない。 ウ 原告は,焼結後の炭化タングステン粒子の粒子径を直接測定する必要があるとしても,コバルトの融点は1495℃,炭化タングステンの融点は2870℃であるから,バインダーであるコバルトを溶かすなどして除去し,炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定することは可能である旨主張する。 しかし,本件明細書には,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定することについては,記載も示唆もないから,本件発明の「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」が,コバルトを除去して取り出した炭化タングステン粒子を沈降法により測定したストークス径であるメジアン粒径であるとは解されない。 仮に,上記測定方法により炭化タングステン粒子を取り出して沈降法で測定することができたとしても,一体化したコバルトマトリックスと炭化タングステン粒子とを加熱し,バインダーであるコバルトを除去し,炭化タングステン粒子を取り出すという過程において,炭化タングステン粒子の密度や形状が一切変化しないという根拠はないから,そのように取り出して測定した炭化タングステン粒子のストークス径が,そのまま,コバルトマトリックスと一体化した工具表面の炭化タングステン粒子のストークス径であるということもできない。 エ 以上によれば,原告の主張は,いずれも採用できない。 (4) 小括 よって,本件発明の「炭化タングステン粒子の質量により秤量したメジアン粒径」の意味するところは明確とはいえず,請求項1の記載は,第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるというべきであり,これを引用する請求項2〜4,8,11も,いずれも,不明確であるというべきである。したがって,取消事由1は理由がない。 3 結論 以上によれば,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 高部眞規子 |
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裁判官 | 小林康彦 |
裁判官 | 関根澄子 |