• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2017-800015
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙2PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙3PDFを見る pdf
事件 平成 30年 (行ケ) 10165号 審決取消請求事件

原告ニプロ株式会社
訴訟代理人弁理士 三嶋眞弘 堤之達也 飛彈図茂子 木ノ村尚也
被告 国立大学法人千葉大学
被告 扶桑薬品工業株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士 森本純 中紀人 橋本芳則 安井祐一郎 加藤卓 小野隆大 藤田雄功 芳賀彩
被告ら訴訟代理人弁理士 後藤幸久 1片岡泰明 羽明由木
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/02/19
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2017−800015号事件について平成30年10月12日にした審決のうち,特許第5636075号の請求項3ないし5,8ないし10及び12ないし14に係る部分を取り消す。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 被告らは,平成20年10月6日(優先日平成19年10月5日(以下「本 件優先日」という。),優先権主張国日本)を国際出願日とする特許出願(特 願2009-536137号。以下「本件原出願」という。)の一部を分割 して,平成25年7月24日,発明の名称を「安定な炭酸水素イオン含有薬 液」とする発明について新たな特許出願(特願2013-153420号。
以下「本件出願」という。甲38)をし,平成26年10月24日,特許権 の設定登録(特許第5636075号。請求項の数14。以下,この特許を 「本件特許」という。甲11,34)を受けた。
? 原告は,平成29年1月30日,本件特許について特許無効審判の請求(無 効2017-800015号事件)をした(甲12)。
被告らは,平成30年3月9日付けの審決の予告(甲29)を受けたため, 同年5月18日付けで,請求項1ないし5を一群の請求項として,請求項1 及び2を削除し,請求項3ないし5を訂正し,請求項6ないし10を一群の 請求項として,請求項6及び7を削除し,請求項8ないし10を訂正し,請 2 求項11ないし14を一群の請求項として,請求項11を削除し,請求項1 2ないし14を訂正し,更には,請求項3ないし5,請求項8ないし10, 請求項12ないし14については,それぞれの訂正が認められる場合には, 一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位として訂正することを求める旨 の訂正請求(以下「本件訂正」という。甲31)をした。
その後,特許庁は,平成30年10月12日,本件訂正を認めた上で,「本 件特許の請求項1,2,6,7,11に係る発明についての審判請求を却下 する。本件特許の請求項3ないし5,8ないし10,12ないし14に係る 発明についての審判請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」とい う。)をし,その謄本は,同月23日,原告に送達された。
? 原告は,平成30年11月20日,本件審決のうち,本件特許の請求項3 ないし5,8ないし10,12ないし14に係る部分の取消しを求める本件 訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 ? 設定登録時(本件訂正前) 本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1ないし14の記載は, 次のとおりである(甲11)。
【請求項1】 炭酸水素イオン,カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する 血液浄化用薬液にオルトリン酸イオンを0.31mg/dL(無機リン濃度 換算)以上となるように配合したことを特徴とする,当該薬液の調製後少な くとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成を実質的に抑制する方 法。
【請求項2】 オルトリン酸イオン濃度が2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算) である,請求項1に記載の方法。
3 【請求項3】 当該薬液が下記A液とB液を合して調製される,請求項1または2に記載の方法: A液:ナトリウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含有する溶液; B液:カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよび水を含有する溶液; ただし,A液とB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し,A液とB液の少なくとも一方がオルトリン酸イオンを含有する。
【請求項4】 A液とB液のいずれもが酢酸イオンを含有しない,請求項3に記載の方法。
【請求項5】 pH7.5以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される,請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】 炭酸水素イオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよびオルトリン酸イオンを配合する工程を含む,血液浄化用薬液を製造する方法であって, オルトリン酸イオン濃度が0.31mg/dL(無機リン濃度換算)以上であり,そして当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される方法。
【請求項7】 オルトリン酸イオン濃度が2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算)である,請求項6に記載の方法。
【請求項8】 配合工程が下記A液とB液を合する工程である,請求項6または7に記載の方法: A液:ナトリウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含有する溶液; B液:カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよび水を含有する溶液; 4 ただし,A液とB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し, A液とB液の少なくとも一方がオルトリン酸イオンを含有する。
【請求項9】 A液とB液のいずれもが酢酸イオンを含有しない,請求項8に記載の方法。
【請求項10】 pH7.5以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される,請 求項6〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】 下記A液とB液を合して調製される血液浄化用薬液であって,調製後の薬 液におけるオルトリン酸イオンの濃度が0.31mg/dL(無機リン濃度 換算)以上であり,そして当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって不 溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される薬液: A液:ナトリウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含有する溶液; B液:カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよび水を含有する溶液; ただし,A液とB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し, A液およびB液の少なくとも一方がオルトリン酸イオンを含有する。
【請求項12】 オルトリン酸イオン濃度が2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算) である,請求項11記載の薬液。
【請求項13】 A液とB液のいずれもが酢酸イオンを含有しない,請求項11または12 に記載の薬液。
【請求項14】 pH7.5以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される,請 求項11〜13のいずれかに記載の薬液。
? 本件訂正後 5 本件訂正後の特許請求の範囲の請求項3ないし5,8ないし10及び12ないし14の記載は,次のとおりである(以下,請求項の番号に応じて,請求項3に係る発明を「本件訂正発明3」などといい,本件訂正発明3ないし5,8ないし10及び12ないし14を総称して「本件訂正発明」という。
下線部は本件訂正に係る訂正箇所である。甲31)。
【請求項3】 炭酸水素イオン,カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する血液浄化用薬液にオルトリン酸イオンを2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算),ナトリウムイオンを132〜143mEq/L,カリウムイオンを3.5〜5.0mEq/L,カルシウムイオンを2.5mEq/L,マグネシウムイオンを1.0mEq/L,炭酸水素イオンを35.0mEq/L以下となるように配合したことを特徴とする,当該薬液の調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成を実質的に抑制する方法であって, 当該薬液が下記A液とB液を合して調製される,方法: A液:ナトリウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含有する溶液; B液:カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよび水を含有する溶液; ただし,A液とB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し,A液とB液の少なくとも一方がオルトリン酸イオンを含有する。
【請求項4】 炭酸水素イオン,カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する血液浄化用薬液にオルトリン酸イオンを2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算),ナトリウムイオンを132〜143mEq/L,カリウムイオンを3.5〜5.0mEq/L,カルシウムイオンを2.5mEq/L,マグネシウムイオンを1.0mEq/L,炭酸水素イオンを32.0mEq/Lとなるように配合したことを特徴とする,当該薬液の調製後少なくとも 6 27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成を実質的に抑制する方法であって, 当該薬液が下記A液とB液を合して調製され: A液:ナトリウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含有する溶液; B液:カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよび水を含有する溶液; ただし,A液とB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し,A液とB液の少なくとも一方がオルトリン酸イオンを含有し,A液とB液のいずれもが酢酸イオンを含有しない,方法。
【請求項5】 炭酸水素イオン,カルシウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する血液浄化用薬液にオルトリン酸イオンを2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算),ナトリウムイオンを132〜143mEq/L,カリウムイオンを3.5〜5.0mEq/L,カルシウムイオンを2.5mEq/L,マグネシウムイオンを1.0mEq/L,炭酸水素イオンを32.0mEq/Lとなるように配合したことを特徴とする,当該薬液の調製後少なくとも27時間にわたってpH7.5以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成を実質的に抑制する方法であって, 当該薬液が下記A液とB液を合して調製され: A液:ナトリウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含有する溶液; B液:カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよび水を含有する溶液; ただし,A液とB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し,A液とB液の少なくとも一方がオルトリン酸イオンを含有する,方法。
【請求項8】 炭酸水素イオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよびオルトリン酸イオンを配合する工程を含む,血液浄化用薬液を製造する方法であって,オルトリン酸イオン濃度が2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算) 7 であり,ナトリウムイオン濃度が132〜143mEq/Lであり,カリウムイオン濃度が3.5〜5.0mEq/Lであり,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり,マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり,炭酸水素イオン濃度が35.0mEq/L以下であり,そして当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され, 配合工程が下記A液とB液を合する工程である,方法: A液:ナトリウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含有する溶液; B液:カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよび水を含有する溶液; ただし,A液とB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し,A液とB液の少なくとも一方がオルトリン酸イオンを含有する。
【請求項9】 炭酸水素イオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよびオルトリン酸イオンを配合する工程を含む,血液浄化用薬液を製造する方法であって, オルトリン酸イオン濃度が2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算)であり,ナトリウムイオン濃度が132〜143mEq/Lであり,カリウムイオン濃度が3.5〜5.0mEq/Lであり,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり,マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり,炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/Lであり,そして当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され, 配合工程が下記A液とB液を合する工程であり: A液:ナトリウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含有する溶液; B液:カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよび水を含有する溶液; ただし,A液とB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し,A液とB液の少なくとも一方がオルトリン酸イオンを含有し,A液とB液の 8 いずれもが酢酸イオンを含有しない,方法。
【請求項10】 炭酸水素イオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよびオルトリン酸イオンを配合する工程を含む,血液浄化用薬液を製造する方法であって, オルトリン酸イオン濃度が2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算)であり,ナトリウムイオン濃度が132〜143mEq/Lであり,カリウムイオン濃度が3.5〜5.0mEq/Lであり,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり,マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり,炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/Lであり,そして当該薬液調製後少なくとも27時間にわたってpH7.5以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され, 配合工程が下記A液とB液を合する工程であり: A液:ナトリウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含有する溶液; B液:カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよび水を含有する溶液; ただし,A液とB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し,A液とB液の少なくとも一方がオルトリン酸イオンを含有する,方法。
【請求項12】 下記A液とB液を合して調製される血液浄化用薬液であって,調製後の薬液におけるオルトリン酸イオン濃度が2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算)であり,ナトリウムイオン濃度が132〜143mEq/Lであり,カリウムイオン濃度が3.5〜5.0mEq/Lであり,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり,マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり,炭酸水素イオン濃度が35.0mEq/L以下であり,そして当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され: A液:ナトリウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含有する溶液; 9 B液:カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよび水を含有する溶液; ただし,A液とB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し,A液およびB液の少なくとも一方がオルトリン酸イオンを含有する,薬液。
【請求項13】 下記A液とB液を合して調製される血液浄化用薬液であって,調製後の薬液におけるオルトリン酸イオン濃度が2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算)であり,ナトリウムイオン濃度が132〜143mEq/Lであり,カリウムイオン濃度が3.5〜5.0mEq/Lであり,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり,マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり,炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/Lであり,そして当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され: A液:ナトリウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含有する溶液; B液:カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよび水を含有する溶液; ただし,A液とB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し,A液およびB液の少なくとも一方がオルトリン酸イオンを含有し, A液とB液のいずれもが酢酸イオンを含有しない,薬液。
【請求項14】 下記A液とB液を合して調製される血液浄化用薬液であって,調製後の薬液におけるオルトリン酸イオン濃度が2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算)であり,ナトリウムイオン濃度が132〜143mEq/Lであり,カリウムイオン濃度が3.5〜5.0mEq/Lであり,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり,マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり,炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/Lであり,そして当該薬液調製後少なくとも27時間にわたってpH7.5以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され: 10 A液:ナトリウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含有する溶液; B液:カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよび水を含有する溶液; ただし,A液とB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し, A液およびB液の少なくとも一方がオルトリン酸イオンを含有する,薬液。
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。
その要旨は,@請求項1,2,6,7及び11を削除し,請求項3ないし 5,請求項6ないし10,請求項8ないし10について,一群の請求項の他 の請求項とは別の訂正単位として訂正することを求める本件訂正を認める, A平成29年10月20日付けの無効理由通知で通知した職権無効理由1 (明確性要件違反),職権無効理由2(実施可能要件違反)及び職権無効理 由3(サポート要件違反),請求人(原告)の主張する請求人無効理由1(実 施可能要件違反及びサポート要件違反),請求人無効理由2(本件優先日前 に頒布された刊行物である甲2(国際公開第2004/108059号公報) を主引用例とする新規性及び進歩性の欠如),請求人無効理由3-1(本件 優先日前に頒布された刊行物である甲3(国際公開第2006/04140 9号公報)を主引用例(実施例2の記載に基づくもの)とする新規性及び進 歩性の欠如)及び請求人無効理由3-2(甲3を主引用例(実施例4の記載 に基づくもの)とする新規性及び進歩性の欠如)は,いずれも理由がない, B本件訂正により,請求項1,2,6,7及び11は削除されたので,これ らの請求項に係る特許無効審判請求は,不適法であり,その補正をすること ができないから,却下するというものである。
(2) 「請求人無効理由3-2」に関し,本件審決が甲3の「実施例4」の記載 に基づいて認定した甲3に記載された発明(以下,このうち,即時使用溶液 の発明を「引用発明2-2-1’」と,即時使用溶液の調製方法の発明を「引 用発明2-2-2’という。, 」 )本件審決が認定した本件訂正発明3ないし5, 11 8ないし10と引用発明2-2-2’の一致点及び相違点並びに本件訂正発明12ないし14と引用発明2-2-1’の一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明2-2-1’ (ア) 「以下の表9に従って調製された,第一単一溶液と第二単一溶液と の体積比20:1で混合して使用される対の単一溶液。
表9 第一単一溶液 第二単一溶液 混合した (塩基性部分) (酸性部分) 即時使用溶液 (mM) (mM) (mM) Na+ 1) 147.3 140.0 Ca2+ 25.0 1.25 Mg2+ 12.0 0.6 K+ 4.21 4.0 Cl- 2) 114.3 74.0 115.9 HCO3- 34.74 4) 30.0 乳酸塩 0 HPO42- 3) 1.26 1.20 グルコース 100.0 5.00 HCl 72.0 pH 7.7-8.2 1.3-1.6 7.0-7.6 1)ナトリウムは,NaCl,NaHCO3,およびNa2HPO4とし て添加する。
2)塩化物は,NaCl,KCl,CaCl2,MgCl2,およびHC lとして添加する。
12 3)リン酸塩は,Na2HPO4として添加するが,2つの単一溶液を混 合した後は,主としてHPO42-として存在する。しかし,H2PO4 - およびPO33-も,これらのイオンの間の平衡により存在する。各々 のイオンの濃度はpHに依存する。
4)一部の重炭酸塩は,混合の間にCO 2に変換されるが故に溶液から 出ていくので,重炭酸塩の量は過剰投与される。」の発明 (イ) 引用発明2-2-1’における第一単一溶液および第二単一溶液を2 0:1の体積比で混合した即時使用溶液中の各イオンの濃度(mM)を 「Eq/L」又は「mg/dL」の単位に換算すると,次のとおりであ る。
「オルトリン酸イオン濃度 3.72mg/dL (=1.20(オルトリン酸イオンのモル濃度)×30.97(Pの モル質量)/10dL)」 「ナトリウムイオン濃度 140.0mEq/L (=140.0(Na1+のモル濃度)×1(Na1+の原子価)」 「カリウムイオン濃度 4.0mEq/L (=4.0(Ka1+のモル濃度)×1(Ka1+の原子価)」 「カルシウムイオン濃度 2.50mEq/L (=1.25(Ca??のモル濃度)×2(Ca??の原子価)」 「マグネシウムイオン濃度 1.2mEq/L (=0.6(Mg??のモル濃度)×2(Mg??の原子価)」 「炭酸水素イオン濃度 30.0mEq/L (=30.0(HCO??のモル濃度)×1(HCO??の原子価)」イ 引用発明2-2-2’ (ア) 「以下の表9に従った,第一単一溶液と第二単一溶液との体積比2 0:1で混合して使用される,対の単一溶液の調製方法。
13 表9 第一単一溶液 第二単一溶液 混合した (塩基性部分) (酸性部分) 即時使用溶液 (mM) (mM) (mM)Na+ 1) 147.3 140.0Ca2+ 25.0 1.25Mg2+ 12.0 0.6K+ 4.21 4.0Cl- 2) 114.3 74.0 115.9HCO3- 34.74 4) 30.0乳酸塩 0HPO42- 3) 1.26 1.20グルコース 100.0 5.00HCl 72.0pH 7.7-8.2 1.3-1.6 7.0-7.6 1)ナトリウムは,NaCl,NaHCO3,およびNa2HPO4とし て添加する。
2)塩化物は,NaCl,KCl,CaCl2,MgCl2,およびHC lとして添加する。
3)リン酸塩は,Na2HPO4として添加するが,2つの単一溶液を混 合した後は,主としてHPO42-として存在する。しかし,H2PO4 - およびPO33-も,これらのイオンの間の平衡により存在する。各々 のイオンの濃度はpHに依存する。
4)一部の重炭酸塩は,混合の間にCO 2に変換されるが故に溶液から 出ていくので,重炭酸塩の量は過剰投与される。」の発明 14 (イ) 引用発明2-2-2’における第一単一溶液および第二単一溶液を2 0:1の体積比で混合した即時使用溶液中の各イオンの濃度(mM)を 「Eq/L」又は「mg/dL」の単位に換算すると,前記ア(イ)のと おりである。
ウ 本件訂正発明3と引用発明2-2-2’の一致点及び相違点 (ア) 一致点 (一致点(甲3-2-1)) オルトリン酸イオン濃度の点。
(一致点(甲3-2-2)) ナトリウムイオン濃度の点。
(一致点(甲3-2-3)) カリウムイオン濃度の点。
(一致点(甲3-2-4)) カルシウムイオン濃度の点。
(一致点(甲3-2-5)) 炭酸水素イオン濃度の点。
(イ) 相違点 (相違点(甲3-1-a’’)) 本件訂正発明3では「当該薬液の調製後少なくとも27時間にわたっ て不溶性微粒子や沈澱の形成を実質的に抑制する」ことが発明特定事項 とされているのに対し,引用発明2-2-2’ではそれに対応する発明特 定事項がない点。
(相違点(甲3-1-b’’)) 本件訂正発明3は「血液浄化用薬液」に関する発明であるのに対し, 引用発明2-2-2’は「対の単一溶液」,又は,それら第一単一溶液及 び第二単一溶液を体積比20:1で「混合した即時使用溶液」に関する 15 発明である点。
(相違点(甲3-1-c’’)) 本件訂正発明3ではA液およびB液のいずれも水を含有するものであ ることが発明特定事項とされているのに対し,引用発明2-2-2’では それに対応する発明特定事項がない点。
(相違点(甲3-1-d’’)) 本件訂正発明3において調製される「血液浄化用薬液」のマグネシウ ムイオン濃度は1.0mEq/Lであるのに対し,引用発明2-2-2’ における「混合した即時使用溶液」のマグネシウムイオン濃度は1.2 mEq/Lと算出される点。
エ 本件訂正発明4と引用発明2-2-2’の一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点(甲3-2-1)ないし(甲3-2-4))に加え,以下の点で 一致する。
(一致点(甲3-2-6)) 酢酸イオンを含有しない点。
(イ) 相違点 相違点(甲3-1-a’’)ないし(甲3-1-d’’)に加え,以下の点 で相違する。
(相違点(甲3-1-e’’)) 本件訂正発明4において調製される「血液浄化用薬液」の炭酸水素イ オン濃度は32.0mEq/Lであるのに対し,引用発明2-2-2’ における「混合した即時使用溶液」の炭酸水素イオン濃度は30.0m Eq/Lと算出される点。
オ 本件訂正発明5と引用発明2-2-2’の一致点及び相違点 (ア) 一致点 16 一致点(甲3-2-1)ないし(甲3-2-4)と同じ。
(イ) 相違点 相違点(甲3-1-b’’)ないし(甲3-1-e’’)に加え,以下の点 で相違する。
(相違点(甲3-1-a’’’)) 本件訂正発明5では「当該薬液の調製後少なくとも27時間にわたっ てpH7.5以上でも不溶性微粒子や沈澱の形成を実質的に抑制する」 ことが発明特定事項とされているのに対し,引用発明2-2-2’ではそ れに対応する発明特定事項がない点。
カ 本件訂正発明8と引用発明2-2-2’の一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点(甲3-2-1)ないし(甲3-2-5)と同じ。
(イ) 相違点 (相違点(甲3-2-a’’)) 本件訂正発明8では「当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって 不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制され」ることが発明特定事項 とされているのに対し,引用発明2-2-2’ではそれに対応する発明特 定事項がない点。
(相違点(甲3-2-b’’)) 本件訂正発明8は「血液浄化用薬液」に関する発明であるのに対し, 引用発明2-2-2’は「対の単一溶液」,又は,それら第一単一溶液及 び第二単一溶液を体積比20:1で「混合した即時使用溶液」に関する 発明である点。
(相違点(甲3-2-c’’)) 本件訂正発明8ではA液およびB液のいずれも水を含有するものであ ることが発明特定事項とされているのに対し,引用発明2-2-2’では 17 それに対応する発明特定事項がない点。
(相違点(甲3-2-d’’)) 本件訂正発明8において製造される「血液浄化用薬液」のマグネシウ ムイオン濃度は1.0mEq/Lであるのに対し,引用発明2-2-2’ における「混合した即時使用溶液」のマグネシウムイオン濃度は1.2 mEq/Lと算出される点。
キ 本件訂正発明9と引用発明2-2-2’の一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点(甲3-2-1)ないし(甲3-2-4)(甲3-2-6)と , 同じ。
(イ) 相違点 相違点(甲3-2-a’’)ないし(甲3-2-d’’)に加え,以下の点 で相違する。
(相違点(甲3-2-e’’)) 本件訂正発明9において製造される「血液浄化用薬液」の炭酸水素イ オン濃度は32.0mEq/Lであるのに対し,引用発明2-2-2’ における「混合した即時使用溶液」の炭酸水素イオン濃度は30.0m Eq/Lと算出される点。
ク 本件訂正発明10と引用発明2-2-2’の一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点(甲3-2-1)ないし(甲3-2-4)と同じ。
(イ) 相違点 相違点(甲3-2-b’’)ないし(甲3-2-e’’)に加え,以下の点 で相違する。
(相違点(甲3-2-a’’’)) 本件訂正発明10では「当該薬液調製後少なくとも27時間にわたっ 18 てpH7.5以上でも不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制され」 ることが発明特定事項とされているのに対し,引用発明2-2-2’では それに対応する発明特定事項がない点。
ケ 本件訂正発明12と引用発明2-2-1’の一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点(甲3-2-1)ないし(甲3-2-5)と同じ。
(イ) 相違点 (相違点(甲3-3-a’’)) 本件訂正発明12では「当該薬液調製後少なくとも27時間にわたっ て不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制され」ることが発明特定事 項とされているのに対し,引用発明2-2-1’ではそれに対応する発明 特定事項がない点。
(相違点(甲3-3-b’’)) 本件訂正発明12は「血液浄化用薬液」の発明であるのに対し,引用 発明2-2-1’は「対の単一溶液」,又は,それら第一単一溶液及び第 二単一溶液を体積比20:1で「混合した即時使用溶液」の発明である 点。
(相違点(甲3-3-c’’)) 本件訂正発明12ではA液およびB液のいずれも水を含有するもので あることが発明特定事項とされているのに対し,引用発明2-2-1’ ではそれに対応する発明特定事項がない点。
(相違点(甲3-3-d’’)) 本件訂正発明12の「血液浄化用薬液」のマグネシウムイオン濃度は 1.0mEq/Lであるのに対し,引用発明2-2-1’における「混合 した即時使用溶液」のマグネシウムイオン濃度は1.2mEq/Lと算 出される点。
19 コ 本件訂正発明13と引用発明2-2-1’の一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点(甲3-2-1)ないし(甲3-2-4)(甲3-2-6)と , 同じ。
(イ) 相違点 相違点(甲3-3-a’’)ないし(甲3-3-d’’)に加え,以下の点 で相違する。
(相違点(甲3-3-e’’)) 本件訂正発明13の「血液浄化用薬液」の炭酸水素イオン濃度は32. 0mEq/Lであるのに対し,引用発明2-2-1’における「混合した 即時使用溶液」の炭酸水素イオン濃度は30.0mEq/Lと算出され る点。
サ 本件訂正発明14と引用発明2-2-1’の一致点及び相違点 (ア) 一致点 一致点(甲3-2-1)ないし(甲3-2-4)と同じ。
(イ) 相違点 相違点(甲3-3-b’’)ないし(甲3-3-e’’)に加え,以下の点 で相違する。
(相違点(甲3-3-a’’’)) 本件訂正発明14では「当該薬液調製後少なくとも27時間にわたっ てpH7.5以上でも不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制され」 ることが発明特定事項とされているのに対し,引用発明2-2-1’では それに対応する発明特定事項がない点。
(3) 「請求人無効理由3-1」に関し,本件審決が甲3の「実施例2」の記載 に基づいて認定した甲3に記載された発明(以下,このうち,即時使用溶液 の発明を「引用発明2-1-1’」と,即時使用溶液の調製方法の発明を「引 20 用発明2-1-2’という。, 」 )本件審決が認定した本件訂正発明3ないし5,8ないし10と引用発明2-1-2’の相違点及び本件訂正発明12ないし14と引用発明2-1-1’の相違点は,以下のとおりである。
ア 引用発明2-1-1’ (ア) 「以下の表7に従った対の単一溶液を調製し,第一単一溶液と第二 単一溶液との体積関係1:20で混合した後,1.3mMまたは2.6 mMのNaH2PO4を添加し,pHを6.8,7.0,7.2,7.4, 7.6,7.8,8.0または8.2に調整した即時使用溶液。
表7 第一単一溶液 第二単一溶液 混合した (塩基性部分) (酸性部分) 即時使用溶液 (mM) (mM) (mM) Na+ 1461.0 70.5 143.6 Cl- - 113.6* 108.0 Ca2+ - 1.8 1.7 Mg2+ - 0.5 0.5 HCO3- 139.0 - 6.9 CO32- 661.0 - 33.0 *塩化物イオンはNaCl,CaCl2,MgCl2およびHClとして 添加した。」の発明 (イ) 引用発明2-1-1’における第一単一溶液と第二単一溶液を混合 した後,1.3mMのNaH2PO4を添加した混合液中の各イオンの濃 度(mM)を「Eq/L」又は「mg/dL」の単位に換算すると,次 のとおりである。
「オルトリン酸イオン濃度 4.03mg/dL (=1.3(オルトリン酸イオンのモル濃度×30.97(Pのモル 21 質量)/10dL)」 「ナトリウムイオン濃度 143.6mEq/L (=143.6(Na1+のモル濃度)×1(Na1+の原子価)」 「カルシウムイオン濃度 3.4mEq/L (=1.7(Ca??のモル濃度)×2(Ca??の原子価)」 「マグネシウムイオン濃度 1.0mEq/L (=0.5(Mg??のモル濃度)×2(Mg??の原子価)」 「炭酸水素イオン濃度 6.9mEq/L (=6.9(HCO??のモル濃度)×1(HCO??の原子価)」イ 引用発明2-1-2’ (ア) 「以下の表7に従った対の単一溶液を調製し,第一単一溶液と第二 単一溶液との体積関係1:20で混合した後,1.3mMまたは2.6 mMのNaH2PO4を添加し,pHを6.8,7.0,7.2,7.4, 7.6,7.8,8.0または8.2に調整する,即時使用溶液の調製 方法。
表7 第一単一溶液 第二単一溶液 混合した (塩基性部分) (酸性部分) 即時使用溶液 (mM) (mM) (mM) Na+ 1461.0 70.5 143.6 Cl- - 113.6* 108.0 Ca2+ - 1.8 1.7 Mg2+ - 0.5 0.5 HCO3- 139.0 - 6.9 CO32- 661.0 - 33.0 *塩化物イオンはNaCl,CaCl2,MgCl2およびHClとして 22 添加した。」の発明 (イ) 引用発明2-1-2’における第一単一溶液と第二単一溶液を混合 した後,1.3mMのNaH2PO4を添加した混合液中の各イオンの濃 度(mM)を「Eq/L」又は「mg/dL」の単位に換算すると,前 記ア(イ)のとおりである。
ウ 本件訂正発明3ないし5,8ないし10と引用発明2-1-2’の相違 点 (ア) 本件訂正発明3と引用発明2-1-2’の相違点 相違点(甲3-1-A’)ないし(甲3-1-C’)(甲3-1-1’) , , (甲3-1-2’)(本件審決の128頁) (イ) 本件訂正発明4と引用発明2-1-2’の相違点 相違点(甲3-1-A’)ないし(甲3-1-C’)(甲3-1-1’) , ないし(甲3-1-3’)(本件審決の130頁〜131頁) (ウ) 本件訂正発明5と引用発明2-1-2’の相違点 相違点(甲3-1-A’ ’)(甲3-1-B’)(甲3-1-C’)(甲3 , , , -1-1’)ないし(甲3-1-3’)(本件審決の133頁) (エ) 本件訂正発明8と引用発明2-1-2’の相違点 相違点(甲3-2-A’)ないし(甲3-2-C’)(甲3-2-1’) , , (甲3-2-2’) (本件審決の135頁〜136頁) (オ) 本件訂正発明9と引用発明2-1-2’の相違点 相違点(甲3-2-A’)ないし(甲3-2-C’)(甲3-2-1’) , ないし(甲3-2-3’) (本件審決の138頁) (カ) 本件訂正発明10と引用発明2-1-2’の相違点 相違点(甲3-2-A’ ’)(甲3-2-B’)(甲3-2-C’)(甲3 , , , -2-1’)ないし(甲3-2-3’) (本件審決の141頁)エ 本件訂正発明12ないし14と引用発明2-1-1’の相違点 23 (ア) 本件訂正発明12と引用発明2-1-1’の相違点 相違点(甲3-2-A’)ないし(甲3-2-C’)(甲3-2-1’) , , (甲3-2-2’)(本件審決の143頁〜144頁) (イ) 本件訂正発明13と引用発明2-1-1’の相違点 相違点(甲3-2-A’)ないし(甲3-2-C’)(甲3-2-1’) , ないし(甲3-2-3’)(本件審決の146頁) (ウ) 本件訂正発明14と引用発明2-1-1’の相違点 相違点(甲3-2-A’ ’)(甲3-2-B’)(甲3-2-C’)(甲3 , , , -2-1’)ないし(甲3-2-3’)(本件審決の148頁〜149頁)
当事者の主張
1 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について (1) 原告の主張 本件審決は,本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本 件明細書」という。)の発明の詳細な説明の【0010】,【0024】, 【0075】及び表7の記載から,請求項3及び8に係る訂正事項3及び8 (以下「訂正事項A」という。)は,本件出願の願書に添付した明細書,特 許請求の範囲又は図面(以下,これらを併せて「本件明細書等」という場合 がある。)に記載した事項の範囲内においてする訂正であって,新たな技術 的事項を導入するものではないから,特許法134条の2第9項で準用する 同法126条5項の要件に適合し,また,請求項4,5,9,10,12な いし14に係る訂正事項4,5,9,10,12ないし14(以下,訂正事 項4,5,9,10に係る訂正を「訂正事項B」,訂正事項12に係る訂正 を「訂正事項C」,訂正事項13及び14に係る訂正を「訂正事項D」とい う。)についても同様である旨判断した。
しかしながら,本件明細書の【0010】は,市販されている透析液・補 充液に関する記載,【0024】は,本件訂正発明に係るリン酸イオンとカ 24 リウムイオンがとり得る濃度範囲を示した記載にすぎない。また,【007 5】及び表7の記載は,「実施例1の混合液」及び「実施例2の混合液」の それぞれについて,「ナトリウムイオン(Na+),カリウムイオン(K+), カルシウムイオン(Ca2+) マグネシウムイオン , (Mg2+) 塩素イオン , (C l-),炭酸水素イオン(HCO3-),および無機リン(P)の各濃度」が一 体となって開示されたものであり,そのうちの一つでも濃度が変動すれば, 沈殿形成が抑制されるかどうかは改めて確認しなければ分からない。
そうすると,これらの記載に依拠して訂正事項Aのイオン濃度とすること は,新たな技術的事項を導入するものであり,新規事項の追加に当たるとい うべきである。
したがって,訂正事項Aに係る本件訂正は,同法126条5項の要件に適 合しないから,本件審決の上記判断は誤りである。訂正事項BないしDに係 る本件審決の判断も,これと同様に誤りである。
(2) 被告らの主張 本件明細書において,溶液の成分及び混合後長時間が経過してpHが上昇 しても,不溶性炭酸塩の生成を抑制することができる血液浄化用薬液が開示 されている上,本件訂正は,各成分の濃度の数値あるいは数値範囲を限定す るものであるから,訂正事項AないしDは,本件明細書等のすべての記載を 総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事 項を導入するものではない。
したがって,本件審決における訂正要件の判断に誤りはないから,原告主 張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2-1-1(甲3を主引用例(実施例4に基づくもの)とする本件 訂正発明12の進歩性の判断の誤り)(請求人無効理由3-2関係)について ? 原告の主張 ア 相違点の容易想到性の判断の誤り 25 (ア) 相違点(甲3-3-a”)について 本件審決は,甲3には「医療溶液」が「薬液の調製後少なくとも27 時間にわたって不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制される」こと を求められるものであることを示す記載はなく,引用発明2-2-1’ を「薬液の調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈澱の 形成を実質的に抑制される」ものとする必要性を見出すことはできない から,当業者は,引用発明2-2-1’において,「薬液の調製後少なく とも27時間にわたって不溶性微粒子や沈澱の形成を実質的に抑制」さ れる物(相違点(甲3-3-a”)に係る本件訂正発明12の構成)と することを容易に想到し得たとはいえない旨判断した。
しかしながら,甲3の「医療溶液」では,「沈殿形成しない」という 性質が重要であり,実施例2及び3において,混合後の医療溶液の安定 性(混合後24時間後の安定性)が,pHやリン酸塩濃度の観点から詳 細に検討されており,しかも,かかる安定性試験は,混合液を調製後ビ ンに移してそのまま経過を観察するという,いわゆる「開放系」の試験 で実施されたものであるから,苛酷な条件下の安定性試験であるといえ る。甲3の記載に接した当業者は,引用発明2-2-1’も,リン酸塩の 濃度やpHの値が実施例2及び3で示された数値範囲に入ることから, 「開放系」においてでさえ,混合後少なくとも24時間にわたり不溶性 微粒子の形成の観点から安定であると理解するものといえる。
また,甲3の医療溶液は,既に「24時間」にわたって,開放系で安 定という基準を満たしており,「24時間」を「27時間」としても大 差はないから,「27時間」後であっても安定である蓋然性が高いとい える。
さらに,原告が,本件明細書の実施例2記載のA液とB液の混合液及 び引用発明2-2-1’記載の混合液の各検体について,本件明細書記 26 載の「安定性試験」の方法に従って,保存期間27時間までの粒子数(個 /mL)及びpHを測定した試験結果(甲5)によれば,いずれの検体 も,10μm以上の粒子の個数が,保存開始時に平均2個/mL,保存 期間27時間後に平均1個/mLであり,この間に10μm以上の粒子 の増加は認められず,25μm以上の粒子は,全く観察されなかったも のである。
以上によれば,引用発明2-2-1’は,「混合後少なくとも27時間 にわたって不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制される」ものとい えるから,相違点(甲3-3-a”)は,実質的な相違点ではない。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
(イ) 相違点(甲3-3-b”)について 本件審決は,@甲3には,甲3にいう「医療溶液」が「血液透析,血 液透析濾過,血液濾過,および腹膜透析用の透析液,腎疾患集中治療室 内での透析用の溶液,通常は緩衝物質を含む置換液または輸液,ならび に栄養目的のための溶液」を意味することが意図されている旨の記載が あるものの,引用発明2-2-1’が上記記載に列挙された溶液のうち 「血液浄化用薬液」に関する発明であることを示す記載ではない,A引 用発明2-2-1’における「混合した即時使用溶液」が,カリウムイオ ンやリン酸イオンを高い濃度で含むものであるために,腎機能が低下し た慢性腎不全患者への間欠的治療に用いるには不適切なものであるとし ても,そのことが,引用発明2-2-1’における「混合した即時使用溶 液」が,上記記載に列挙された溶液のうち「血液浄化用薬液」に適した ものであることの根拠となるとは認められず,また,各甲号証の記載を 検討しても,引用発明2-2-1’における「混合した即時使用溶液」が 「血液浄化用薬液」に適したものであるといえる根拠を見出すことはで きないから,引用発明2-2-1’における「混合した即時使用溶液」を 27 「血液浄化用薬液」とすること(相違点(甲3-3-b”)に係る本件 訂正発明12の構成)は,当業者が容易に想到し得たことではない旨判 断した。
しかしながら,引用発明2-2-1’は,高い濃度のカリウムイオン及 びリン酸イオンを含むものであるから,腎機能が低下した慢性腎不全患 者への間欠的治療のためのものでないことは明らかであり,その組成か ら,「腎疾患集中治療室内での透析用の溶液」すなわち,急性腎不全に 対し緊急に実施される血液浄化に使用される透析液,すなわち,「急性 血液浄化用の透析用の溶液」であることが理解できる。
また,「血液浄化」とは「透析」や「濾過」といった操作によって 血液を浄化することであるから, 「血液浄化用薬液」とは,甲3に「医 療溶液」として列挙された「血液透析,血液透析濾過,血液濾過,お よび腹膜透析用の透析液,腎疾患集中治療室内での透析用の溶液,通 常は緩衝物質を含む置換液または輸液,ならびに栄養目的のための溶 液」のうち,「栄養目的のための溶液」を除き,その余のすべての溶 液をすべて含む広範な概念であり,引用発明2-2-1’の医療溶液 は,「血液浄化用薬液」に該当する。
したがって,相違点(甲3-3-b”)は,実質的な相違点ではない から,本件審決の上記判断は誤りである。
(ウ) 相違点(甲3-3-d”)について 本件審決は,@甲3には,「医療溶液」がマグネシウムイオン濃度を 低くすることが求められるものであることを示す記載はなく,引用発明 2-2-1’における「混合した即時使用溶液」のマグネシウムイオン濃 度をより低下させる必要性を見出すことはできない,A甲3記載の実施 例2及び3における粒子の形成を最小限に保つためのpH範囲又はリン 酸塩濃度を見出すための安定性試験の成分配合量と引用発明2-2- 28 1’に係る実施例4における成分配合量と比較すると,すべてのイオンの配合量が変化しており,甲3の記載から,引用発明2-2-1’におけるマグネシウムイオン濃度を変化させるためには,マグネシウムイオン濃度のみを変化させても「医療溶液」とはなり得ず,同時に他のイオン濃度も変化させて,すべてのイオン濃度の好ましい範囲を探索・決定する必要があることが読み取れるから,引用発明2-2-1’における「混合した即時使用溶液」に対してマグネシウムイオン濃度を変化させることには,阻害要因があるといえるから,引用発明2-2-1’における「混合した即時使用溶液」におけるマグネシウムイオン濃度を1.0mEq/Lとすること(相違点(甲3-3-d”)に係る本件訂正発明12の構成)は,当業者が容易に想到し得たことではない旨判断した。
しかしながら,Mg2+濃度については,通常の透析液・補充液における変動範囲が「1.0〜1.5mEq/L」であるところ(甲7),本件訂正発明12のMg2+濃度「1.0mEq/L」と引用発明2-2-1’ のMg2+濃度「1.2mEq/L」はいずれも,この変動範囲内に収まるものであり,しかも,本件訂正発明12の「1.0mEq/L」は通常の透析液・補充液における変動範囲の下限値である。
そして,Mg2+は沈澱形成に深くかかわるイオン種であるから,不溶性微粒子や沈澱の形成を実質的に抑制しようとする場合,その濃度をできるだけ低くすれば有利であることは自明である。
もとより,本件訂正発明12と引用発明2-2-1’は,所定の6種のイオン濃度のうち,Mg2+の濃度しか相違せず,しかも,その相違の程度が通常の透析液 補充液における変動範囲内に収まるものであるから, ・引用発明2-2-1’のMg2+の濃度を通常の透析液・補充液における変動範囲の下限値の「1.0mEq/L」とすることは,当業者が適宜なし得る設計事項であり,格別の相違を要するものではない。
29 したがって,相違点(甲3-3-d”)は,実質的な相違点ではない から,本件審決の上記判断は誤りである。
(エ) 小括 以上のとおり,相違点(甲3-3-a”),(甲3-3-b”)及び (甲3-3-d”)は,本件訂正発明12と引用発明2-2-1’の実 質的な相違点ではない。
(オ) 被告らの主張について a 引用発明2-2-1’の引用発明としての適格性に関する主張につ いて @ 被告らは,引用発明2-2-1’について,甲3実施例4表9の 記載によれば,「第一単一溶液」と「第二単一溶液」をその体積比 20:1で混合しても,「混合した即時使用溶液」の濃度と若干の ずれが確認されることを根拠に,引用発明2-2-1’は発明とし て実施することができないから,引用発明としての適格性を欠く旨 主張する。
しかしながら,甲3実施例4表9では,混合した即時使用溶液の 組成・濃度が明記されているのであるから,その濃度を「混合した 即時使用溶液の組成・濃度」として捉えるのが自然な理解である。
そして,第一単一溶液および第二単一溶液の濃度の記載が混合した 即時使用溶液の濃度の記載と多少整合しないからといって,そのこ とをもって,被告らが指摘するような支障,つまり,発明として実 施することができないといったことは考えられない。
A 被告らは,甲3の実施例4は,現在形を用いた文章で記載されて いるから,紙上で作文した実施例(米国特許審査便覧(乙1))に すぎず,本件審決が甲3の実施例4に基づいて認定した引用発明2 -2-1’は,引用発明としての適格性を欠く旨主張する。
30 しかしながら,甲3の実施例4では,まず,「表9〜11に従っ て,以下の対の単一溶液を調製した。」と記載されているから,実 施例4は,全体として「過去形」で記載されているものである。
また,甲3には,実施例4の表9の医療溶液(引用発明2)につ いて,直接の実験結果は示されていないものの,当業者は,甲3の 記載全体から,混合液を調製後少なくとも24時間にわたり安定な 医療溶液であると認識するものであるから,引用発明としての適格 性を備えるものである。
したがって,被告らの上記主張は理由がない。
b 相違点(甲3-3-d”)の認定の誤りの主張に対し 被告らは,本件訂正発明12の混合液の各成分濃度は,各成分の濃 度の組合せを一つのまとまりのある構成として,引用発明2-2-1’ と対比すべきである旨主張する。
しかしながら,マグネシウムイオン濃度の違いのみを取り出そうと, あるいは,6種の濃度の組合せをひとまとまりとして捉えようとも, 結局マグネシウムイオンの濃度においてのみしか相違しないのである から,いずれによっても当該構成が容易想到であるとの結論に影響を 与えることはない。
イ 本件訂正発明12の効果に関する判断の誤り 本件審決は,本件訂正発明12は,「薬液調製後少なくとも27時間に わたって不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制され」るという,甲3 の記載からは予想し得ない効果を奏する旨判断した。
しかしながら,本件明細書の記載を参酌しても,本件訂正発明12が「薬 液調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈澱の形成が実質 的に抑制され」るという効果を奏するものかどうか確認することができな い。
31 また,引用発明2-2-1’において,「混合後少なくとも27時間に わたって不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制される」ものといえる ことは,前記ア(ア)のとおりであるから,本件訂正発明12の効果は,引 用発明2-2-1’の効果とせいぜい同等の効果のものでしかない。
したがって,本件審決の上記判断は誤りである。
ウ 小括 以上によれば,本件訂正発明12は,甲3記載の引用発明2-2-1’ に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,こ れと異なる本件審決の判断は誤りである。
? 被告らの主張 ア 相違点の容易想到性の判断の誤りの主張に対し (ア) 引用発明2-2-1’が引用発明としての適格性を欠くこと a 引用発明2-2-1’は,第一単一溶液及び第二単一溶液の成分及 び濃度が特定され,かつ,その体積比が20:1の医療溶液であり, これらを混合した即時使用溶液の成分及び濃度が特定された発明であ る。
しかしながら,第一単一溶液と第二単一溶液とを体積比20:1で 混合した場合の各イオンの濃度の値は,ナトリウムイオンが140. 3mM,カルシウムイオンが1.19mM,塩素イオンが115.8 mM,炭酸水素イオンが33.1mM,グルコースが4.76mMで あり,引用発明2-2-1’で定められた濃度(ナトリウムイオンが 140.0mM,カルシウムイオンが1.25mM,塩素イオンが1 15.9mM,炭酸水素イオンが30.0mM,グルコースが5.0 0mM)と異なるのであるから,引用発明2-2-1’は,発明とし て実施することができないものである。
したがって,引用発明2-2-1’は,そもそも引用発明として適 32 格性を欠くものである。
b 引用発明2-2-1’は,甲3の実施例4記載の組成表(表9)に よって特定される発明であるところ,同実施例は,現在形を用いた文 章で記述されており,米国特許審査便覧608.01(P1)(乙1) に照らすと,紙上で作文した実施例であり,単なる仮想実施例にすぎ ない。また,甲3記載の図面1Aないし1Cは,実施例2の試験結果 にすぎず,甲3には,実施例4の効果が全く示されていない。
このように引用発明2-2-1’は,単なる仮想実施例として記載 された発明にすぎず,発明の効果も示されていないから,甲3の記載 から具体的な技術的思想を抽出することができず,そもそも,引用発 明としての適格性を欠くものである。
(イ) 相違点(甲3-3-a”)について 相違点(甲3-3-a” に係る本件訂正発明12の発明特定事項 ) 「当 該薬液調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈澱の形成 が実質的に抑制され」 「混合後長時間が経過してpHが上昇しても, は, 不溶性微粒子や沈澱の生成を抑制することができる血液浄化用薬液」で あることを明確にしたものである(本件明細書の【0055】,【00 86】)。
これに対し,引用発明2-2-1’は,「粒子の形成を抑制するため には,混合された即時使用溶液のpHを制御する必要がある」との前提 の下で,「所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制 される,混合時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」にすぎな い。このように,引用発明2-2-1’では,24時間を超える長時間 の経過によるpHの上昇は,全く想定されていない。
また,粒子の形成が24時間抑制されれば,pHの上昇にかかわらず, 少なくとも27時間にわたって,不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制され 33 るとする技術常識はない。
したがって,相違点(甲3-3-a”)は,本件訂正発明12と引用 発明2-2-1’の実質的な相違点である。そして,引用発明2-2- 1’には,同発明から,混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不 溶性微粒子や沈澱の生成を抑制することができる血液浄化用薬液を想到 する基礎がないから,相違点(甲3-3-a”)に係る本件訂正発明1 2の構成は,引用発明2-2-1’に基づいて容易に想到し得たもので はない。これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(ウ) 相違点(甲3-3-b”)について 引用発明2-2-1’は,単なる「医療溶液」にすぎず,これを「血 液浄化用薬液」として使用することができると解すべき技術常識は存在 しない。
また,引用発明2-2-1’は,広く医療溶液について,リン酸塩の 濃度に応じて,混合時の最適なpHの範囲を特定しようとする発明であ り,リン酸塩の濃度も,実施例ごとに様々に設定しているだけである。
したがって,相違点(甲3-3-b”)は,本件訂正発明12と引用 発明2-2-1’との実質的相違点である。そして,甲3に「医療溶液」 として記載された引用発明2-2-1’(実施例4の表9)を「血液浄 化用薬液」とすることは,当業者が容易に想到し得たことではない。こ れと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
(エ) 相違点(甲3-3-d”)について a 本件審決における相違点(甲3-3-d”)の認定は,混合後の薬 液のイオン濃度に係る相違点について,マグネシウムイオンの相違の みを取り出している点で相当ではなく,これを前提とする原告の主張 も失当である。
すなわち,不溶性微粒子の形成を抑制する溶液を実現するためには, 34 リン酸塩の濃度のみならず,溶液に含まれる他の成分及び各イオン濃 度の組合せが調整される必要があるから,これらの組合せが1個の不 可分のまとまりのある技術事項となる。そして,本件訂正発明12は, 配合及び混合液の各成分の濃度が所定の組合せであることによって, 混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性炭酸塩の生成を抑 制することができる用時混合型急性血液浄化用薬液を実現したもので あるから,混合液の各成分の濃度は,成分ごとに区々別々に対比する のではなく,各成分(オルトリン酸イオン,ナトリウムイオン,カリ ウムイオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン及び炭酸水素イ オン)の濃度の組合せを一つの単位として認定して,対比するのが相 当である。
そうすると,相違点(甲3-3-d”)は,「本件訂正発明12の 血液浄化用薬液は,オルトリン酸イオン濃度が2.3〜4.5mg/ dL(無機リン濃度換算),ナトリウムイオン濃度が132〜143 mEq/L,カリウムイオン濃度が3.5〜5.0mEq/L,カル シウムイオン濃度が2.5mEq/L,マグネシウムイオン濃度が1. 0mEq/L,炭酸水素イオン濃度が35.0mEq/L以下である のに対し,引用発明2-2-1’の医療溶液は,オルトリン酸イオン 濃度が3.7mg/dL(無機リン濃度換算),ナトリウムイオン濃 度が140.0mEq/L,カリウムイオン濃度が4.0mEq/L, カルシウムイオン濃度が2.5mEq/L,マグネシウムイオン濃度 が1.2mEq/L,炭酸水素イオン濃度が30.0mEq/である 点」と認定するのが相当である(以下,この相違点を「相違点(甲3 -3-d”@)という。)。
b 本件訂正発明12は,混合液の配合及び各成分の濃度を特定するこ とにより,「長時間かけて大量の薬液を使用する血液浄化用薬液とな 35 り,血液・体液を浄化して生体の恒常性を保ち病態を改善することができる上,血清カリウムイオン値の低下や低リン血症を防止することができ,かつ,長時間使用するなかでpHが上昇しても不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制することができる」とした点に技術的意義がある。
これに対し,引用発明2-2-1’は,「粒子の形成を抑制するためには,混合された即時使用溶液のpHを制御する必要がある」との前提の下で,「所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制される,混合時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」である。
このように,引用発明2-2-1’と本件訂正発明12とは,技術的意義を全く異にする発明であるから,各成分の濃度の相違は,設計事項となるものではなく,また,引用発明2-2-1’に基づき,その各成分の濃度を変更して本件訂正発明12に到達しようとする動機付けは,そもそも観念できない。
また,引用発明2-2-1’は,低リン血症を防止するとともに粒子の形成を抑制する旨の課題に対し,所定の配合及び各成分の濃度を定めるとともに,「溶液混合時のpHの範囲を定めることにより」,既に上記課題を解決しているものであるから,引用発明2-2-1’に接した当業者が,上記課題を解決するために,引用発明2-2-1’の各成分の濃度を本件訂正発明12の各成分の濃度に変更する動機付けもない。
さらに,医療溶液については,当然,pHや浸透圧等を適正な値に設定しなければならず,そのため,一つの種類のイオン濃度を変更すれば,それに伴い,他のイオン濃度も変更しなければならなくなるのが通常であるから,一部のイオン濃度を変更するのであれば,各成分のイオン濃度全体を検討しなければならない。しかるところ,引用発 36 明2-2-1’では,同発明の課題を解決するために,既に,pHや浸透圧等をも考慮して,成分及び濃度が決定されているのであるから,わざわざ,その成分及び各イオン濃度の全体を検討して,これを変更する動機付けなどない。
以上によれば,引用発明2-2-1’に接した当業者は,引用発明2-2-1’において,相違点(甲3-3-d”)又は相違点(甲3-3-d”@)に係る本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到し得たものではない。
c これに対し原告は,本件訂正発明12と引用発明2-2-1’は,所 定の6種のイオンの濃度のうち,Mg2+の濃度しか相違せず,しかも, その相違の程度が通常の透析液・補充液における変動範囲内に収まる ものであるから,引用発明2-2-1’のMg2+の濃度を通常の透析 液・補充液における変動範囲の下限値の「1.0mEq/L」とする ことは,当業者が適宜なし得る設計事項であり,格別の創意を要する ものではない旨主張する。
しかしながら,一定の濃度の範囲内で各成分の濃度を適宜に変動することができるのは,あくまで,「一般の透析液・補充液」限りのものであって,これは,リン酸塩を含む溶液に妥当するものではない。
その上,化学の分野では,各成分の濃度の差異によって,予期しない効果を奏する可能性があり,リン酸塩を含む溶液の場合には,その他の電解質の組成・濃度の影響を受けるため,その他のイオン濃度を自由に変動することができないというのが技術常識であること,引用発明2-2-1’と本件訂正発明1とは,技術的意義を全く異にする発明であることに照らすと,引用発明2-2-1’のMg2+ の濃度を「1.0mEq/L」とすることは,当業者が適宜なし得る設計事項であるとはいえないから,原告の上記主張は失当である。
37 イ 本件訂正発明12の効果に関する判断の誤りの主張に対し (ア) 本件訂正発明12は,血清カリウムイオン値の低下や低リン血症を 防止するとともに,「単に,不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制すること ができた」というものではなく,「混合後長時間が経過してpHが上昇 しても,不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することができる用時混合型 急性血液浄化用薬液」を実現した発明である。
これに対し,引用発明2-2-1’は,「粒子の形成を抑制するために は,混合された即時使用溶液のpHを制御する必要がある」との前提の 下で,「粒子形成に影響が生ずるようなpHの上昇が想定されない環境 下において,所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑 制される,混合時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」にすぎ ない。
また,用時混合型急性血液浄化用薬液の技術分野では,本件優先日当 時,所定の配合により,混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不 溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することができる旨の技術常識はなかっ た。
以上によれば,本件明細書の【0086】に係る「混合後長時間が経 過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することが できる」という本件訂正発明12の効果は,引用発明2-2-1’に比し て,質的に差のある当業者が予測できない顕著な効果である。
(イ) 本件訂正発明12が当業者が予測できない顕著な効果を奏すること は,被告らが,本件明細書記載の実施例2の検体と甲3記載の実施例4 (表9)の検体について行った不溶性微粒子の形成の対比試験の結果(甲 20の参考資料3)によっても基礎付けられる。
すなわち,両検体のpHは,混合後,同様の上昇推移を経て,54時 間経過後に約8.7まで上昇したところ,@本明細書記載の実施例2の 38 検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過時に8個,54時 間経過時に12個形成されるにとどまり,25μmの微粒子が,混合後 54時間経過時でも1個形成されるにとどまったのに対し,A甲3の実 施例4(表9)の検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過 時に17個,54時間経過時に78個も形成され,25μmの微粒子が, 混合後54時間経過時には5個も形成されていた。
したがって,「混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微 粒子や沈殿の生成が抑制することができる」という本件訂正発明12の 効果は,甲3の記載から予測できない格別の効果であるのみならず,引 用発明2-2-1’の配合や各成分の濃度では実現することができない, 当業者の予測を超えた顕著な効果である。
(ウ) したがって,本件訂正発明12は,甲3の記載からは予想し得ない 効果を奏するものであるとした本件審決の判断に誤りはない。
ウ 小括 以上によれば,本件訂正発明12は,引用発明2-2-1’に基づいて, 当業者が容易に発明をすることができたものではないから,これと同旨の 本件審決の判断に誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由2-1-1は理由がない。
3 取消事由2-1-2(甲3を主引用例(実施例4の記載に基づくもの)とす る本件訂正発明13及び14の進歩性の判断の誤り)(請求人無効理由3-2 関係)について (1) 原告の主張 ア 本件訂正発明13の進歩性の判断の誤り (ア) 相違点の容易想到性の判断の誤り a 相違点(甲3-3-a”),(甲3-3-b”)及び(甲3-3- d”)について 39 前記2(1)ア記載のとおりである。
b 相違点(甲3-3-e”)について 本件審決は,甲3の記載から,引用発明2-2-1’における「混合 した即時使用溶液」の炭酸水素イオン濃度として算出される30.0 mEq/Lは,本件訂正発明13における「血液浄化用薬液」の炭酸 水素イオン濃度32.0mEq/Lと実質的に相違しないものとすべ き根拠を見出すことはできず,実質的に相違しないとすることが技術 常識であるといえる根拠を見出すこともできないから,相違点(甲3 -3-e’’)は実質的な相違点である旨判断した。
しかしながら,HCO3-濃度については,通常の透析液・補充液に おける変動範囲が「25.0〜35.0mEq/L」であるところ(甲 7),本件訂正発明13のHCO3-濃度「32.0mEq/L」と引 用発明2-2-1’のHCO3-濃度「30.0mEq/L」はいずれ も,この変動範囲内に収まるものであるから,相違点(甲3-3-e’) ’ は実質的な相違点ではない。
また,相違点(甲3-3-d’’)及び(甲3-3-e’’)を一 体と捉えてみても,本件訂正発明13と引用発明2-2-1’は,所定 の6種のイオンの濃度のうち,Mg2+及びHCO3-の濃度しか相違し ないものであり,しかも,その相違の程度が通常の透析液・補充液に おける変動範囲内に収まるものであるから,引用発明2-2-1’にお いて,Mg2+の濃度を通常の透析液・補充液における変動範囲の下限 値の「1.0mEq/L」とすることと同様に,HCO3-の濃度を通 常の透析液・補充液における変動範囲の「32.0mEq/L」とす ることは,当業者が適宜なし得る設計事項である。また,HCO3-は 本件訂正発明13の方が若干高くその点だけみればより沈澱形成し易 いといえるが,逆にMg2+は引用発明2-2-1’の方が若干高くそ 40 の点だけみればより沈澱形成し易いといえるから,結局のところ,沈 澱形成の観点から,両者はほとんど差異がないものと見受けられる。
したがって,相違点(甲3-3-e’’)は,実質的な相違点では ないから,本件審決の上記判断は誤りである。
(イ) 小括 以上のとおり,相違点(甲3-3-a”),(甲3-3-b”),(甲 3-3-d”)及び(甲3-3-e”)は実質的な相違点ではなく,本 件訂正発明13は,甲3記載の引用発明2-2-1’に基づいて,当業 者が容易に発明をすることができたものであるから,これと異なる本件 審決の判断は誤りである。
イ 本件訂正発明14の進歩性の判断の誤り (ア) 相違点の容易想到性の判断の誤り a 相違点(甲3-3-a’’’)について 相違点(甲3-3-a’’’)に係る本件訂正発明14の構成は,相違 点(甲3-3-a”)にさらに「pH7.5以上でも」とのpHの要 件を付加したものである。
引用発明2-2-1’は,pHが「7.0-7.6」であり,「p H7.5以上」の範囲に含まれること,相違点(甲3-3-a”)は 前記2(1)ア(ア)のとおり実質的な相違点とはいえないことからすると, 相違点(甲3-3-a’’’)も実質的な相違点ではない。
b 相違点(甲3-3-b”),(甲3-3-d”)及び(甲3-3- e”)について 前記2(1)ア(イ),(ウ)及び前記ア(ア)b記載のとおりである。
(イ) 小括 以上のとおり,相違点(甲3-3-a’’’),(甲3-3-b”),(甲 3-3-d”)及び(甲3-3-e”)は実質的な相違点ではなく,本 41 件訂正発明14は,甲3記載の引用発明2-2-1’に基づいて,当業 者が容易に発明をすることができたものであるから,これと異なる本件 審決の判断は誤りである。
(2) 被告らの主張 ア 本件訂正発明13の進歩性の判断の誤りの主張に対し (ア) 相違点の容易想到性の判断の誤りの主張に対し 相違点(甲3-3-a”),(3-3-b”)及び(3-3-d”) についての被告らの主張は,前記2(2)ア記載のとおりである。
また,前記2(2)ア(エ)a記載のとおり,混合液の各成分の濃度は,成 分ごとに区々別々に対比するのではなく,まとまりのある構成(各成分 の濃度の組合せ)を一つの単位として対比するのが相当である。
そうすると,相違点(甲3-3-d”)及び(甲3-3-e”)は, 「本件訂正発明13の血液浄化用薬液は,オルトリン酸イオン濃度が2. 3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算),ナトリウムイオン濃度が 132〜143mEq/L,カリウムイオン濃度が3.5〜5.0mE q/L,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/L,マグネシウムイオ ン濃度が1.0mEq/L,炭酸水素イオン濃度が32.0mEq/L であるのに対し,引用発明2-2-1’の医療溶液は,オルトリン酸イ オン濃度が3.7mg/dL(無機リン濃度換算),ナトリウムイオン 濃度が140.0mEq/L,カリウムイオン濃度が4.0mEq/L, カルシウムイオン濃度が2.5mEq/L,マグネシウムイオン濃度が 1.2mEq/L,炭酸水素イオン濃度が30.0mEq/である点」 と認定するのが相当である(以下,この相違点を「相違点(甲3-3- d”A)という。)。
そして,相違点(甲3-3-d”A )に係る本件訂正発明13の構成 を容易に想到することができないことは,前記2(2)ア(エ)b記載と同旨 42 である。
(イ) 小括 以上のとおり,相違点(甲3-3-a”),(甲3-3-b”)及び (甲3-3-d”A)((甲3-3-d”)及び(甲3-3-e”)) に係る本件訂正発明13の構成は当業者が容易に想到し得たものではな く,また,本件訂正発明13は,甲3の記載からは予想し得ない顕著な 効果を奏するものであるから(前記2(2)イ参照) 本件訂正発明13は, , 引用発明2-2-1’に基づいて,当業者が容易に発明をすることがで きたものではない。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
イ 本件訂正発明14の進歩性の判断の誤りの主張に対し (ア) 相違点の容易想到性の判断の誤りの主張に対し a 相違点(甲3-3-a’’’)について 相違点(甲3-3-a’’’)は,本件特許発明13と引用発明2-2 -1’との相違点(甲3-3-a”)に加え,さらに,「pH7.5以 上でも」の限定を加えたものであり,これは,「混合後長時間が経過 してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制することが できる」構成であることを,「pH7.5以上でも」と具体的に特定 したものである。
前記2(2)ア(イ)で述べたのと同様の理由により,引用発明2-2- 1’において,相違点(甲3-3-a’’’)に係る本件訂正発明14の 構成とする動機付けは認められない。
b 相違点(甲3-3-b”),(甲3-3-d”)及び(甲3-3- e”)について 前記ア(ア)記載のとおりである。
(イ) 小括 43 以上のとおり,相違点(甲3-3-a’’’),(甲3-3-b”)及び (甲3-3-d”A)(本件審決認定の(甲3-3-d”)及び(甲3 -3-e”))に係る本件訂正発明14の構成は当業者が容易に想到し 得たものではなく,また,本件訂正発明14は,甲3の記載からは予想 し得ない顕著な効果を奏するものであるから(前記2(2)イ参照),本件 訂正発明14は,引用発明2-2-1’に基づいて,当業者が容易に発 明をすることができたものではない。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。
4 取消事由2-1-3(甲3を主引用例(実施例4の記載に基づくもの)とす る本件訂正発明3ないし5,8ないし10の進歩性の判断の誤り)(請求人無 効理由3-2関係)について (1) 原告の主張 ア 本件訂正発明3ないし5について 本件訂正発明3と本件訂正発明12,本件訂正発明4と本件訂正発明1 3,本件訂正発明5と本件訂正発明14は,それぞれ溶液の組成及び混合 後の溶液のイオン濃度が同一であり,本件訂正発明12ないし14が物の 発明であるのに対し,本件訂正発明3ないし5はこれを方法の発明として 規定したものである。
そして,本件訂正発明3と引用発明2-2-2’の相違点(甲3-1- a’’)ないし(甲3-1-d’’)は,本件訂正発明12に係る相違点(甲3 -3-a”)ないし(甲3-3-d”)に,本件訂正発明4と引用発明2 -2-2’の相違点(甲3-1-a’’)ないし(甲3-1-e’’)は,本件 訂正発明13に係る相違点(甲3-3-a”)ないし(甲3-3-e”) に,本件訂正発明5と引用発明2-2-2’の相違点(甲3-1-a’’’), (甲3-1-b”)ないし(甲3-1-e”)は,本件訂正発明14に係 る(甲3-3-a’’’),(甲3-3-b”)ないし(甲3-3-e”)に 44 それぞれ対応する。
したがって,本件訂正発明3ないし5は,前記2(1)及び3(1)と同様の理 由により,甲3記載の引用発明2-2-2’に基づいて,当業者が容易に 発明をすることができたものであるから,これと異なる本件審決の判断は 誤りである。
イ 本件訂正発明8ないし10について 本件訂正発明8と本件訂正発明12,本件訂正発明9と本件訂正発明1 3,本件訂正発明10と本件訂正発明14は,それぞれ溶液の組成及び混 合後の溶液のイオン濃度が同一であり,本件訂正発明12ないし14が物 の発明であるのに対し,本件訂正発明8ないし10は,これを方法の発明 として規定したものである。
そして,本件訂正発明8と引用発明2-2-2’の相違点(甲3-2- a’’)ないし(甲3-2-d’’)は,本件訂正発明12に係る相違点(甲3 -3-a”)ないし(甲3-3-d”)に,本件訂正発明9と引用発明2 -2-2’の相違点(甲3-2-a’’)ないし(甲3-2-e’’)は,本件 訂正発明13に係る相違点(甲3-3-a”)ないし(甲3-3-e”) に,本件訂正発明10と引用発明2-2-2’の相違点(甲3-2-a’’’), (甲3-2-b”)ないし(甲3-2-e”)は,本件訂正発明14に係 る(甲3-3-a’’’),(甲3-3-b”)ないし(甲3-3-e”)に それぞれ対応する。
したがって,本件訂正発明8ないし10は,前記2(1)及び3(1)と同様の 理由により,甲3記載の引用発明2-2-2’に基づいて,当業者が容易 に発明をすることができたものであるから,これと異なる本件審決の判断 は誤りである。
(2) 被告らの主張 前記2(2)及び3(2)と同様の理由により,本件訂正発明3ないし5,8ない 45 し10は,甲3記載の引用発明2-2-2’に基づいて,当業者が容易に発 明をすることができたものであるとは認められない。
したがって,本件審決における本件訂正発明3ないし5,8ないし10の 進歩性の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2-1-3は理由がな い。
5 取消事由2-2-1(甲3の主引用例(実施例2の記載に基づくもの)とす る本件訂正発明12の進歩性の判断の誤り)(請求人無効理由3-1関係) (1) 原告の主張 ア 本件訂正発明12と引用発明2-1-1’の相違点 本件訂正発明12と引用発明2-1-1’の相違点は,次のとおりであ る。
なお,相違点(甲3-3-A’)及び(甲3-3-B’)は,本件審決 の相違点(甲3-2-A’)及び(甲3-2-B’)と実質的に同じであ る。
(相違点(甲3-3-A’)) 本件訂正発明12では「当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって 不溶性微粒子や沈澱の形成が実質的に抑制され」ることが発明特定事項と されているのに対し,引用発明2-1-1’では当該発明特定事項の記載 はない点(但し,引用発明2-1-1’では第一単一溶液と第二単一溶液 を体積比1:20で混合し,pHを7.2に調整した即時使用溶液が,そ の後24時間,粒子の形成を抑制したことが記載されている(甲3の図1 C)。)。
(相違点(甲3-3-B’)) 本件訂正発明12は「血液浄化用薬液」の発明であるのに対し,引用発 明2-1-1’は「対の単一溶液」,または,第一単一溶液および第二単 一溶液を体積比20:1で「混合した即時使用溶液」の発明である点。
46 (相違点(甲3-3-D)) 本件訂正発明12の「血液浄化用薬液」の構成するイオン種及びその濃 度が,オルトリン酸イオン濃度が2.3〜4.5mg/dL,ナトリウム イオン濃度が132〜143mEq/L,カリウムイオン濃度が3.5〜 5.0mEq/L,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/L,マグネシ ウムイオン濃度が1.0mEq/L,炭酸水素イオン濃度が35.0mE q/L以下であるのに対し,引用発明2-1-1’の即時使用溶液では, オルトリン酸イオン濃度が4.03mg/dL,ナトリウムイオン濃度が 143.6mEq/L,カリウムイオンは処方に含まれず,カルシウムイ オン濃度が3.4mEq/L,マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/ L,炭酸水素イオン濃度が39.9mEq/Lである点。
(相違点(甲3-3-E)) 本件訂正発明12では,混合前のA液とB液について「A液とB液の少 なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し,A液およびB液の少なく とも一方がオルトリン酸イオンを含有する」との発明特定事項があるのに 対し,引用発明2-1-1’では,混合前の第一単一溶液と第二単一溶液 についての発明特定事項の記載がない点(但し,オルトリン酸イオンは, 第一単一溶液と第二単一溶液を混合した後,4.03mg/dLの濃度で 添加されている。)。
イ 相違点の容易想到性の判断の誤り (ア) 相違点(甲3-3-A’)について 引用発明2-1―1’(混合時のpHが7,2)では,混合後24時 間後も10μmの粒子が10個/mLであって,ヨーロッパ薬局方での 基準である25個/mLを大きく下回ることが確認されている。
また,甲3の実施例2では,引用発明2-1―1’(混合時のpH7. 2)以外にも,同じ組成で混合時のpHのみが「7.6」と相違する即 47 時使用溶液も調製され,これについても混合後24時間までの安定性が 確認されているが,この場合の粒子の個数も16個であって,ヨーロッ パ薬局方での基準である25個/mLを大きく下回ることが確認されて いる。
これらの即時使用溶液は,時間の経過とともに炭酸ガスが抜けてpH が上昇し,pHが上昇すればより沈澱形成しやすくなる。そして,混合 時のpHが7.6の即時使用溶液でさえ24時間安定であるのであるか ら,混合時のpHが7.2にすぎない引用発明2-1―1’の即時使用 溶液であれば,当業者は,混合後24時間経過後も,3時間程度は十分 安定であろうと推測するはずである。
したがって,相違点(甲3-3-A’)に係る本件訂正発明12の構 成(「当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈 澱の形成が実質的に抑制され」ること)は,実質的な相違点ではない。
(イ) 相違点(甲3-3-B’)について 甲3の実施例2の「粒子の形成を最小限に保つために即時使用溶液の 最適pH範囲を見出すことを目指して,」との記載は,甲3の医療溶液 の最適pHを見出すことを目指すものと解すべきである。
また,甲3の実施例2の即時使用溶液は,その組成から「栄養目的の ための溶液」とは認められないから,「透析」ないし「濾過」といった 血液浄化のために使用される医療溶液であると解するほかなく,「血液 浄化用薬液」である。
したがって,相違点(甲3-3-B’)に係る本件訂正発明12の構 成(「血液浄化用薬液」の構成)は,実質的な相違点ではない。
(ウ) 相違点(甲3-3-D)について 相違点(甲3-3-D)は,本件審決がそれぞれ独立の相違点として 認定した相違点(甲3-2-C’),(甲3-2-1’),(甲3-2 48 -2’)を,炭酸水素イオン濃度の相違も含めて,すべて一体のものと して捉えたものである。
リン酸イオン,炭酸水素イオン,カルシウムイオン及びマグネシウム イオンの4種の混合液における濃度について,引用発明2-1-1’と 本件訂正発明12とを比較すると,リン酸イオン濃度とマグネシウムイ オン濃度に相違はないこと,カルシウムイオンは,引用発明2-1-1’ で「3.4mEq/L」であるのに対し,本件訂正発明12では「2. 5mEq/L」と大幅に低いこと,炭酸水素イオンは,引用発明2-1 -1’では「39.9mEq/L」であるのに対し,本件訂正発明12 では「35.0mEq/L以下」と低いことが確認できる。
もとより,これら4種のイオン濃度は,高ければより沈澱形成しやす いのであるから,混合後24時間にわたり安定な薬液である引用発明2 -1-1’に接した当業者において,その沈澱形成に係るカルシウムイ オン濃度と炭酸水素イオン濃度をより下げたものとして,本件訂正発明 12の構成とすることは,格別の創意を要しないことである。
したがって,相違点(甲3-3-D)に係る本件訂正発明12の構成 (「血液浄化用薬液」の構成するイオン種及びその濃度)は,実質的な 相違点ではない。
(エ) 相違点(甲3-3-E)について 相違点(甲3-3-E)は,実質的な相違点ではない。
ウ 本件訂正発明12の効果に関する判断の誤り 前記2(1)イのとおりである。
エ 小括 以上によれば,本件訂正発明12は,甲3記載の引用発明2-1-1’ に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,こ れと異なる本件審決の判断は誤りである。
49 (2) 被告らの主張 ア 相違点の認定について 前記2(2)ア(エ)a記載のとおり,混合時の各成分の濃度は,成分ごとに 区々別々に対比するのではなく,各成分の濃度の組合せを一つの単位とし て,対比するのが相当である。
そうすると,相違点(甲3-2-C’),(甲3-2-1’)及び(甲 3-2-2’)は,次のとおり認定すべきである。
(相違点(甲3-3-C’@)) 本件訂正発明12の血液浄化用薬液は,混合後,オルトリン酸イオン濃 度が2.3〜4.5mEg/dL(無機リン濃度換算),ナトリウムイオ ン濃度が132〜143mEq/L,カリウムイオン濃度が3.5〜5. 0mEq/L,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/L,マグネシウム イオン濃度が1.0mEq/L,炭酸水素イオン濃度が35.0mEq/ L以下であるのに対し,引用発明2-1-1’の即時使用溶液は,溶液を 混合した後,NaH2PO4を添加し,オルトリン酸イオン,ナトリウムイ オン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン及び炭酸水素イオンが含有 されていて,カリウムイオンを含有しておらず,かつ,含有している各イ オン濃度が不明である点。
イ 相違点の容易想到性の判断の誤りの主張に対し (ア) 相違点(甲3-3-A’)及び(甲3-3-B’)について 前記2(2)ア(イ)及び(ウ)記載のとおりである。
(イ) 相違点(甲3-3-C’@)について リン酸塩を含む医療溶液において,不溶性微粒子の形成/形成の抑制 について,溶液の組成・濃度が影響を受けることは,甲3においても明 確に示されている。しかも,不溶性微粒子の形成を抑制するための作用 機序は明らかとなっていない。
50 したがって,当業者が,引用発明2-1-1’に対し,カリウムイオ ンを含有させた上,各イオン濃度を適宜に定めて,本件訂正発明12の 相違点(甲3-3-C’@)の構成に至ることは困難である。このこと は,仮に,引用発明2-1-1’の各イオン濃度について,オルトリン 酸イオン濃度が4.0mg/dL(無機リン濃度換算),ナトリウムイ オン濃度が143.6mEq/L,カルシウムイオン濃度が3.4mE q/L,マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/L,炭酸水素イオン 濃度が39.9mEq/Lであると認められたとしても,同様に妥当す るところである。
また,前記2(2)ア(エ)bのとおり,引用発明2-1-1’と本件訂正 発明12とは技術的意義を全く異にする発明であるから,各成分の濃度 の相違は,設計事項となるようなものではなく,また,引用発明2-1 -1’に基づき,その各成分の濃度を変更して,技術的意義を全く異に する本件訂正発明12に到達しようとする動機付けは,観念できない。
ウ 本件訂正発明12の効果に関する判断の誤りの主張に対し 前記2(2)イのとおりである。
エ 小括 以上によれば,本件訂正発明12は,引用発明2-1-1’に基づいて, 当業者が容易に発明をすることができたものではないから,これと同旨の 本件審決の判断に誤りはない。
6 取消事由2-2-2(甲3を主引用例(実施例2の記載に基づくもの)とす る本件訂正発明13及び14の進歩性の判断の誤り(請求人無効理由3-1関 係) (1) 原告の主張 ア 本件訂正発明13の進歩性の判断の誤り 本件訂正発明13は,本件訂正発明12を,@調製後の薬液における炭 51 酸水素イオン濃度が「32.0mEq/L」である点,AA液とB液のい ずれもが酢酸イオンを含有しない点の2点でさらに限定した血液浄化用薬 液の発明である。
上記@を加味しても,前記5(1)イ(ウ)記載のとおり,相違点(甲3-3 -D)に係る本件訂正発明13の構成は容易に想到することができる。ま た,引用発明2-1-1’は第一単一溶液と第二単一溶液のいずれもが酢 酸イオンを含有しないから,Aは新たな相違点となり得ない。
したがって,本件訂正発明13は,甲3記載の引用発明2-1-1’に 基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,これ と異なる本件審決の判断は誤りである。
イ 本件訂正発明14の進歩性の判断の誤り 本件訂正発明14は,本件訂正発明12を,@調製後の薬液における炭 酸水素イオン濃度が「32.0mEq/L」である点,A当該薬液調製後 不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制されるのが「少なくとも27時 間にわたってpH7.5以上でも」と,pHの要件もさらに課された点の 2点でさらに限定した血液浄化用薬液の発明である。
上記@を加味しても,前記5(1)イ(ウ)記載のとおり,相違点(甲3-3 -D)に係る本件訂正発明14の構成は容易に想到することができる。ま た,上記Aの点については,前記5(1)イ(ア)のとおり,当業者は,引用発 明2-1-1’の即時使用溶液は,pHが7.5以上になっても,十分に 安定な薬液であることを理解する。
したがって,本件訂正発明14は,甲3記載の引用発明2-1-1’に 基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,これ と異なる本件審決の判断は誤りである。
(2) 被告らの主張 ア 本件訂正発明13の進歩性の判断の誤りの主張に対し 52 (ア) 相違点の認定について 前記2(2)ア(エ)a記載のとおり,混合時の各成分の濃度は,成分ごと に区々別々に対比するのではなく,各成分の濃度の組合せを一つの単位 として,対比するのが相当である。
そうすると,相違点(甲3-2-C’),(甲3-2-1’),(甲 3-2-2’)及び(甲3-2-3’)は,次のとおり認定すべきであ る。
(相違点(甲3-3-C’A)) 本件訂正発明13の血液浄化用薬液は,混合後,オルトリン酸イオン 濃度が2.3〜4.5mEg/dL(無機リン濃度換算),ナトリウム イオン濃度が132〜143mEq/L,カリウムイオン濃度が3.5 〜5.0mEq/L,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/L,マグ ネシウムイオン濃度が1.0mEq/L,炭酸水素イオン濃度が32. 0mEq/L以下であるのに対し,引用発明2-1-1’の即時使用溶 液は,溶液を混合した後,NaH2PO4を添加し,オルトリン酸イオン, ナトリウムイオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン及び炭酸水 素イオンが含有されていて,カリウムイオンを含有しておらず,かつ, 含有している各イオン濃度が不明である点。
(イ) 相違点の容易想到性の判断の誤りの主張に対し 前記5(2)イ(ア)及び(イ)記載のとおりである。
イ 本件訂正発明14の進歩性の判断の誤りの主張に対し (ア) 相違点の認定について 前記2(2)ア(エ)a記載のとおり,混合時の各成分の濃度は,成分ごと に区々別々に対比するのではなく,各成分の濃度の組合せを一つの単位 として,対比するのが相当である。
そうすると,相違点(甲3-2-C’),(甲3-2-1’),(甲 53 3-2-2’)及び(甲3-2-3’)は,次のとおり認定すべきであ る。
(相違点(甲3-3-C’B)) 本件訂正発明14の血液浄化用薬液は,混合後,オルトリン酸イオン 濃度が2.3〜4.5mEg/dL(無機リン濃度換算),ナトリウム イオン濃度が132〜143mEq/L,カリウムイオン濃度が3.5 〜5.0mEq/L,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/L,マグ ネシウムイオン濃度が1.0mEq/L,炭酸水素イオン濃度が32. 0mEq/L以下であるのに対し,引用発明2-1-1’の即時使用溶 液は,溶液を混合した後,NaH2PO4を添加し,オルトリン酸イオン, ナトリウムイオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン及び炭酸水 素イオンが含有されていて,カリウムイオンを含有しておらず,かつ, 含有している各イオン濃度が不明である点。
(イ) 相違点の容易想到性の判断の誤りの主張に対し 前記5(2)イ(ア)及び(イ)記載のとおりである。
7 取消事由2-2-3(甲3を主引用例(実施例2の記載に基づくもの)とす る3ないし5,8ないし10の進歩性の判断の誤り(請求人無効理由3-1関 係) (1) 原告の主張 本件訂正発明3と本件訂正発明12,本件訂正発明4と本件訂正発明13, 本件訂正発明5と本件訂正発明14,本件訂正発明8と本件訂正発明12, 本件訂正発明9と本件訂正発明13,本件訂正発明10と本件訂正発明14 は,それぞれ溶液の組成及び混合後の溶液のイオン濃度が同一であり,本件 訂正発明12ないし14が物の発明であるのに対し,本件訂正発明3ないし 5,8ないし10は,これを方法の発明として規定したものである。
したがって,本件訂正発明3ないし5,8ないし10は,前記5(1)及び6 54 (1)と同様の理由により,甲3記載の引用発明2-1-2’に基づいて,当業 者が容易に発明をすることができたものであるから,これと異なる本件審決 の判断は誤りである。
(2) 被告らの主張 前記5(2)及び6(2)と同様の理由により,本件訂正発明3ないし5,8ない し10は,甲3記載の引用発明2-1-2’に基づいて,当業者が容易に発 明をすることができたものであるとは認められない。
したがって,本件審決における本件訂正発明3ないし5,8ないし10の 進歩性の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由2-2-3は理由がな い。
8 取消事由3(本件訂正発明3ないし5,8ないし10及び12ないし14の 明確性要件,実施可能要件及びサポート要件の判断の誤り) (職権無効理由1な いし3関係)について (1) 原告の主張 ア 明確性要件の判断の誤り(職権無効理由1) 本件審決は,@当業者は,本件明細書の【0088】記載の「リン酸イ オンを濃度4mg/dLで含有する薬液」が【0081】〜【0087】 に記載された薬液とリン酸イオン以外のイオン組成が同じであり,008 【 8】には, 「ナトリウムイオン濃度が138.0mEq/Lであり,カリウ ムイオン濃度が4.0mEq/Lであり,無機リン濃度が4.0mg/d Lであり,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり,マグネシウ ムイオン濃度が1.0mEq/Lであり,炭酸水素イオン濃度が32.0 mEq/L」である薬液の記載があると理解すること,A当業者は,上記 【0088】記載の薬液は, 「当該薬液の調製後少なくとも27時間にわた って不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制」され又は「当該薬液の調 製後少なくとも27時間にわたってpH7.5以上でも不溶性微粒子や沈 55 殿の形成を実質的に抑制」されるとの本件訂正発明3ないし5,8ないし10及び12ないし14の発明特定事項(発明特定事項(イ-1)ないし(イ-6) を満たすものであると理解すること, ) B本件訂正発明3ないし5,8ないし10及び12ないし14に規定するオルトリン酸イオン濃度,ナトリウムイオン濃度,カリウムイオン濃度,カルシウムイオン濃度,マグネシウムイオン濃度,炭酸水素イオン濃度は,上記【0088】記載の薬液を包含する十分狭い範囲内に定められている上,血液浄化用薬液においては浸透圧,pH等を一定に保つ必要のあることが技術常識であることを考慮すると,薬液における不溶性の微粒子や沈殿の形成に影響を及ぼすことが想定される塩素イオン等,他のイオンの濃度も自ずと一定の狭い範囲内のものとなり,その狭い範囲内で発明特定事項(イ-1)ないし(イ-6)を満たすものは自ずと定まるから,本件訂正発明3ないし5,8ないし10及び12ないし14は,明確性要件に適合する旨判断した。
しかしながら,本件明細書の【0088】記載の「リン酸イオンを濃度4mg/dLで含有する薬液」が【0081】ないし【0087】に記載された薬液とリン酸イオン以外のイオン組成が同じであるとすれば,00 【88】記載の「別途,リン酸イオンを含有しない薬液と,リン酸イオンを濃度4mg/dLで含有する薬液との対比試験を行った」にいう「リン酸イオンを含有しない薬液」は, 【0082】記載の「リン酸イオン濃度が0mEq/Lの試験液」と同じはずであるから,当該薬液とリン酸イオン以外のイオン組成が同じ組成である旨を言及すればよいはずであるにもかかわらず,わざわざ【0088】で「別途,リン酸イオンを含有しない薬液」と表現していることに照らすと, 【0088】記載の「リン酸イオンを濃度4mg/dLで含有する薬液」が, 【0081】ないし【0087】に記載された薬液とリン酸イオン以外のイオン組成が同様のものであるとは考えられない。
56 また,本件訂正発明3ないし5,8ないし10及び12ないし14にお いて,ナトリウムイオン,塩素イオン等の他のイオンの濃度も,決して自 ずと決まるものではなく,不明のままである。
したがって,本件審決の上記判断は,その前提において誤りがある。
実施可能要件の判断の誤り(職権無効理由2) 本件審決は,前記アの@ないしBを考慮すると,薬液における不溶性の 微粒子や沈殿の形成に影響を及ぼすことが想定される塩素イオン等,他の イオンの濃度も自ずと一定の狭い範囲内のものとなり,その狭い範囲内で 発明特定事項(イ-1)ないし(イ-6)を満たすものは自ずと定まるか ら,当業者は,本件訂正発明3ないし5,8ないし10を使用することが でき,本件訂正発明12ないし14を生産及び使用することができるとし て,本件明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件訂正発明3ないし5, 8ないし10及び12ないし14を実施することができる程度に明確かつ 十分に記載されたものであり,本件訂正発明3ないし5,8ないし10及 び12ないし14は,実施可能要件に適合する旨判断した。
しかしながら,本件審決の上記判断は,前記アと同様の理由により,誤 りである。
ウ サポート要件の判断の誤り(職権無効理由3) 本件審決は,前記アの@ないしBを考慮すると,薬液における不溶性の 微粒子や沈殿の形成に影響を及ぼすことが想定される塩素イオン等,他の イオンの濃度も自ずと一定の狭い範囲内のものとなり,その狭い範囲内で 発明特定事項(イ-1)ないし(イ-6)を満たすものは自ずと定まるか ら,本件訂正発明3ないし5,8ないし10及び12ないし14は,当業 者が発明の詳細な説明の記載及び技術常識から,その課題を解決できると 認識できるものであり,サポート要件に適合する旨判断した。
しかしながら,本件審決の上記判断は,前記アと同様の理由により,誤 57 りである。
? 被告らの主張 ア 本件明細書の【0081】ないし【0087】と【0088】は,いず れも安定性試験について記載したものであるが, 【0081】ないし【00 87】には,冒頭の「<安定性試験> 急性血液浄化用剤の開放系におけ るpH及び性状(色調及び澄明性)をリン酸水素二ナトリウムの濃度を変 化させて測定した」との記載に続いて,リン酸イオンを0.31〜2mg /dL含む薬液を使用した試験の結果,27時間にわたって沈殿が形成さ れなかったことの記載がある。これらの段落では,同試験に使用した薬液 の配合及び各成分の配合量等が具体的に記載されている。
そして,これに続く【0088】では,冒頭に「なお,別途,」との記載 がされていて,リン酸イオン以外の配合については特別な記載がなく,リ ン酸イオンを4mg/dL含む薬液において7日間にわたって不溶性微粒 子の増加が実質的に認められなかったことが記載されている。
また,明細書の発明の詳細な説明において,実際に行った試験の前提条 件を何ら示さないまま試験結果のみを記載するようなことは通常考えられ ない。
以上を踏まえると, 【0088】に記載された「リン酸イオンを濃度4m g/dLで含有する薬液」は, 【0081】ないし【0087】に記載され た薬液と,リン酸イオン以外のイオン組成が同様のものであると解するの が明細書の記載の客観的かつ合理的な解釈である。
イ 本件審決は,不溶性微粒子を形成するプラスイオンであるカルシウムイ オン濃度及びマグネシウムイオン濃度が特定の数値に定められている上, 血液浄化用薬液においては浸透圧,pH等を一定に保つ必要のあることが 技術常識であることを考慮すると,その他のイオンの濃度は自ずと一定の 狭い範囲のものとなり,その狭い範囲内で発明特定事項イ-1ないしイ- 58 6を満たすものは自ずと定まる旨判断したものであり,かかる判断は相当 である。
ウ 以上によれば,本件訂正発明3ないし5,8ないし10及び12ないし 14は,明確性要件に適合するとした本件審決の判断に誤りはない。
同様に,本件訂正発明3ないし5,8ないし10及び12ないし14は, 実施可能要件及びサポート要件に適合するとした本件審決の判断にも誤り はない。
したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
9 取消事由4(本件訂正発明3ないし5,8ないし10及び12ないし14の 実施可能要件及びサポート要件の判断の誤り) (請求人無効理由1関係)につい て ? 原告の主張 本件審決は,請求人(原告)主張の本件訂正発明3ないし5,8ないし1 0及び12ないし14の実施可能要件違反及びサポート要件違反の無効理由 1は,職権無効理由2及び3に実質的に包含されているから,職権無効理由 2及び3について示した判断と同様の理由により,理由がない旨判断した。
しかしながら,前記8(1)イ及びウで述べたとおり,本件審決における職権 無効理由2及び3の判断は誤りであるから,本件審決の上記判断は誤りであ る。
? 被告らの主張 前記8(2)アないしウで述べたの同様の理由により,本件訂正発明3ないし 5,8ないし10及び12ないし14は実施可能要件及びサポート要件に適 合するとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由4は理 由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(訂正要件の判断の誤り)について 59 (1) 本件明細書の記載事項等について ア 本件訂正発明3ないし5,8ないし10及び12ないし14の特許請求 の範囲(請求項3ないし5,8ないし10及び12ないし14)の記載は, 前記第2の2?のとおりである。
本件明細書(甲11)の「発明の詳細な説明」には,次のような記載が ある(下記記載中に引用する「図1」及び「表1ないし7」については別 紙1を参照)。
(ア) 【技術分野】 【0001】 本発明は,安定な炭酸水素イオン含有薬液,特にリン酸イオンの存在 により安定性を向上させた炭酸水素塩含有透析用薬液に関する。また, 本発明は,当該薬液からなる急性血液浄化用薬液,特に用時混合型急性 血液浄化用透析液および補充液に関する。なおまた,本発明は,混合後 も長時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制される,低カリウム 血症および低リン血症を生じない用時混合型の急性血液浄化用透析液お よび補充液に関する。
【背景技術】 【0002】 急性心不全,急性腎不全,急性肝不全,術後肝不全,敗血症,熱傷, 中毒,劇症肝炎,急性膵炎などにより体内に急激に毒物や病因物質が蓄 積すると,体液の恒常性が著しく損なわれる。このような急性疾患ある いは慢性疾患の急性憎悪に対しては,緊急に血液・体液を浄化して生体 の恒常性を保ち,病態を改善することが求められるため,急性血液浄化 療法が試みられる。
【0003】 急性血液浄化療法は,主に救命救急・集中治療領域において経験的に 60 発展してきた血液浄化法であり,透析,濾過,吸着または分離により血液から不要あるいは有毒な物質を除去する療法である(非特許文献1)。
【0004】 急性血液浄化療法の具体的な治療法としては,持続的血液透析(CHD),持続的血液濾過(CHF),持続的血液透析濾過(CHDF),血液透析(HD),血液吸着(HA),血漿吸着(PA),血漿交換(PE),白血球除去療法(LC)などの血液体外循環による血液浄化法が挙げられる。近年は適用の拡大や病態解明の進展などにより,CHDFやPEが主流となっている(非特許文献2)。
【0005】 急性血液浄化療法では拡散や限外濾過,精密濾過,吸着の原理を利用して有害物質を除去することから,大量の透析液や補充液を使用する。
【0006】 急性血液浄化療法に使用する透析液・補充液の必要条件は, (1)不要物質や余剰物質を低下させることが可能なこと, (2)必要物質や不足物質が補充できること, (3)有害な物質が含まれていないか,問題とならないほど低濃度であること, (4)生体内にある必要な物質を正常値下限濃度より低下させないこと, (5)生体内に取り込まれて代謝される物質は,代謝系に負荷とならない量であること, (6)浸透圧が血液に近い値であること, (7)安定していて,取扱いが簡便であることなどが挙げられる。慢性腎不全の治療用として市販されている人工腎臓用透析液(キンダリー(登録商標)液:扶桑薬品工業)や濾過型人工腎臓用補液(サブラッド(登録商標)-B,サブラッド(登録商標)-BS:扶桑薬品工業)は,これらの条件を満たし,かつ入手が容易であることから,急性血液浄化療法時の透析液・補充液にも用いられている。
【0007】 61 これらの透析液・補充液の多くは,炭酸水素ナトリウムが配合されている。従って,時間の経過と共に補充液中のカルシウムイオンおよびマグネシウムイオンと炭酸水素イオンが反応し,不溶性の炭酸塩の微粒子や沈殿が生じる。そこで,カルシウムイオン(Ca??)およびマグネシウムイオン(Mg??)を含む溶液(本明細書において「B液」と呼ぶ)と炭酸水素イオン(HCO??)を含む溶液(本明細書において「A液」と呼ぶ)とが別々に収納された,用時混合型の製剤として供給されている(…)。
【0010】 市販されている透析液・補充液の成分組成の一例は,ナトリウムイオン(Na?):132〜143mEq/L,カリウムイオン(K?):2.0〜2.5mEq/L,カルシウムイオン(Ca??) :2.5〜3.5mEq/L,マグネシウムイオン(Mg??):1.0〜1.5mEq/L,塩素イオン(Cl?):104〜114.5mEq/L,炭酸水素イオン(HCO??):0〜35.0mEq/L,酢酸イオン(CH?COO?):3.5〜40mEq/L,ブドウ糖:0〜200mg/dLを含むものである。
【0011】 例えば,上記のサブラッド(登録商標)-BSは,隔壁を介して連結する上下二室を有する複室容器にB液とA液が収容されており, (上 B液室)は1010mL中に 塩化ナトリウム(NaCl) 7.88g 塩化カルシウム(CaCl?・2H?O) 519.8mg 塩化マグネシウム(MgCl?・6H?O)205.4mg 酢酸ナトリウム(CH?COONa) 82.8mg ブドウ糖(C?H??O?) 2.02g および 62 氷酢酸(CH?COOH) 360.0mg を含み(pH:3.8〜3.9,浸透圧比:0.9〜1.0),そしてA 液(下室)は1010mL中に 塩化ナトリウム(NaCl) 4.460g 塩化カリウム(KCl) 0.30g および 炭酸水素ナトリウム(NaHCO?) 5.940g を含んでいる(pH:7.9〜8.5,浸透圧比:0.9〜1.0)。
【0012】 使用前に上下室間の隔壁を開通してA液とB液を混合し,下室側から 投与する。このような複室容器を使用するのは,同時に配合すると変質 が予想される薬剤,すなわちカルシウムイオンやマグネシウムイオンと 炭酸水素イオンを個別に収納するためである。
(イ) 【発明が解決しようとする課題】 【0014】 しかしながら,これらの透析液・補充液は,慢性腎不全患者を対象と した電解質濃度で調整されており,急性血液浄化が必要とされる患者に 適合させた処方ではないため,急性血液浄化療法においては不具合が生 じる場合があった。
【0015】 例えば,市販の透析液・補充液のカリウムイオン濃度は,高カリウム 血症の是正のため,2.0〜2.5mEq/Lと低く設定されており, 透析前血清カリウムイオン値が4.0mEq/L未満のような急性血液 浄化症例の場合では,カリウムの除去にアシドーシスの改善が加わるた め,急速な血清カリウムイオン値の低下をきたし,不整脈誘発やジギタ リス中毒の危険性がある。
【0016】 63 また,市販の透析液・補充液は,慢性腎不全患者向けに処方されていることから,高リン血症を改善するために,リン成分を全く含まない。
そのため,透析前血清無機リン値が3.0mg/dL(無機リン酸濃度換算)以下を呈するような急性血液浄化症例では,低リン血症となり免疫能の低下や重篤な場合には意識消失に至る危険性があった。
【0017】 このため,市販の透析液・補充液を用いた急性血液浄化療法では,低カリウム血症や低リン血症を防ぐために,血液回路からカリウムイオンやリン酸イオンを補給して電解質組成を補正しなければならないという問題点があった。
【0018】 また,透析液のアルカリ化剤(血液緩衝剤)は古くは酢酸塩が使用されていた。酢酸は透析膜から血中に移行し,炭酸水素イオンに代謝されるが,ダイアライザーの大面積,高性能化により,生体の処理能力を超える量の酢酸が負荷されるようになり,血圧低下,気分不快,頭痛,嘔気などの酢酸不耐症状が発生するようになった(Earnest DLet al. :Trans. Am. Soc. Artif. Intern. Organs 14:434-437, 1968)。現在はアルカリ化剤として酢酸塩に代わって炭酸水素塩が用いられるようになったが,pHの安定化のためになお少量の酢酸が含有されている。従って,酢酸不耐症状を避けるために,酢酸塩を全く含有しない透析液・補充液が求められていた。
【0019】 これらの課題は,従来の透析液 補充液のカリウムイオン濃度を高め, ・リン酸イオンを配合し,また,酢酸イオンを生成する化合物を使用しないことによって解決できるのではないかと考えられるが,透析液・補充 64 液は,生体の生理状態に微妙かつ重大な影響を及ぼす可能性のあるものであるから,そのような変更により直ちに所期の効果が得られるか否か定かではない。しかも,よく知られているように,リン酸イオンは炭酸水素イオンと同様,カルシウムイオンやマグネシウムイオンと反応してリン酸塩の不溶性沈殿を形成するものであるから,透析液・補充液中にリン酸イオンを含有させた場合,安定な薬液が得られるとは考え難い。
【0020】 さらに前述のように,炭酸水素ナトリウムを含有する薬液では,炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンとを長時間にわたって安定に共存させることが困難である。このため,炭酸水素イオンを含む薬液と,カルシウムイオンやマグネシウムイオンを含む薬液を別々に分けて調製し,患者に投与する直前に両薬液を混合する作業を行っている。しかしながら,混合後においても時間の経過とともに溶液中の炭酸水素イオンが炭酸ガスとなって放出されるため,pHが上昇し,7.5を越えたあたりから不溶性の微粒子や結晶が生成するようになる。とりわけ,急性血液浄化療法では,炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンとを長時間共存させて血液浄化を行うため,炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムのような不溶性微粒子や沈澱の発生が大きな問題となる。
【0021】 最近,炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンとを共存させた一剤型薬液に関する発明が開示されている(特許第3003504号)。これは,クエン酸および/またはクエン酸イオンを“pH調整剤”として使用することでpHを7.0〜7.8に調整し,不溶性微粒子の発生を防止し,かつ安定な電解質輸液を提供するというものである。
65 【0022】 このように,クエン酸は輸液製剤のpH調整剤として使用されている が,特に注意すべきことは,クエン酸による副作用(クエン酸中毒,ク エン酸のキレート作用によるカルシウムイオン濃度の低下など)が発生 しないように,かつpH調整作用のみを発揮するように使用されなけれ ばならないことである。クエン酸中毒の症状としては,血圧低下,心機 能抑制,心電図異常などが見られ,これらはクエン酸による血液中のカ ルシウムイオン濃度の低下が原因であることが報告されている(検査と 技術,第19巻,第2号,1991)。特に,血管内に直接投与される輸 液製剤にあっては,投与量が1〜2Lを超える場合も珍しくなく,また, 急性血液浄化療法においては数十Lの液置換を伴うこともあることから, 使用量が多くなるにつれて体内にクエン酸が多量に投与されることにな り,それによってクエン酸中毒の発生やクエン酸のキレート作用による 血液中カルシウムイオン濃度の低下などを起こす可能性があり,安全性 に問題がある。
(ウ) 【課題を解決するための手段】 【0023】 本発明者らは,上記の課題を解決すべく種々研究を重ねた結果,カリ ウムイオンとリン酸イオンをそれぞれ一定範囲の濃度に保持することに より,低カリウム血症や低リン血症の発症を防ぐことができる安定性の 良好な急性血液浄化用薬液を提供できることを見出した。また,当該薬 液において,酢酸イオンを生成するような酢酸化合物を使用しないこと により,酢酸不耐症状を生じない,安定性の良好な急性血液浄化用薬液 を提供できることを見出した。当該薬液中には,カルシウムイオンやマ グネシウムイオンが存在するにも拘わらず,リン酸イオンを含有させて も不溶性のリン酸塩を生じない。また,リン酸イオンの存在により,炭 66 酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシウムイオンが共存し,pHが7.5を超えるような長時間後であっても,不溶性炭酸塩の生成が抑制される。これらの効果は,全く予想しなかった効果である。本発明は,これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0024】 従って,本発明は,炭酸水素イオンとカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンが共存する薬液に対してリン酸イオンを含有させたことを特徴とする,長時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制された安定な薬液を提供する。
本発明はまた,従来の透析液・補充液と比較して,カリウムイオン濃度が高く,リン酸イオンを含有することを特徴とする,長時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制された安定な急性血液浄化用薬液を提供する。
上記急性血液浄化用薬液中のカリウムイオン濃度は3.5〜5.0mEq/Lに保持され,無機リン濃度は2.3〜4.5mg/dLの範囲に保持されることが好ましい。カリウムイオン濃度を上記の範囲に保持するのは,低カリウム血症の発症を防ぐためである。無機リン濃度を上記の範囲に保持するのは,低リン血症の発症を防ぐと同時に,薬液の安定性を維持するためである。少なくとも上記の範囲では,無機リン濃度が高いほど,長時間にわたって薬液の安定性が維持される傾向が認められる。また,当該薬液において,酢酸イオンを含有しないものとすることが酢酸不耐症の防止のために好ましい。
【0025】 本発明の薬液には,炭酸水素イオンとカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンが必須成分として含まれるから,リン酸イオンが存在していても,なおその間の反応で不溶性の微粒子や沈澱が形成され 67 る可能性を残している。従って,好ましくは炭酸水素イオンを含む水溶 液とカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンを含む水溶液 を別々に収容し,用時,両者を合して混合液とすることが好ましい。通 常は,複室容器の下室に収容されるA液中に炭酸水素イオンを含有させ, 上室に収容されるB液中にカルシウムイオンおよび/またはマグネシウ ムイオンを含有させる。カリウムイオンとリン酸イオンは,両者同時に または別々に,A液とB液のいずれかまたは両方に含有させることがで きる。
(エ) 【発明の効果】 【0026】 本発明により得られる急性血液浄化用透析液・補充液は,低カリウム 血症や低リン血症を生じることがなく,従って急性血液浄化療法施行中 に電解質を補正する必要がない。また,酢酸イオンを含有しない場合, 酢酸不耐症症例においても安全に使用することができる。さらに本発明 により得られる用時混合型の炭酸水素イオン配合薬液は,混合後も炭酸 カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムのような不溶性微粒子や沈 澱の生成が長時間にわたって抑制されるので,長時間の血液浄化を伴う 急性血液浄化療法に好適に用いられる。
(オ) 【発明を実施するための形態】 【0029】 本発明の一つの実施態様において,B液中にリン成分,好ましくはリ ン酸イオンまたはリン酸塩が含まれていることを特徴とする用時混合型 薬液,特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。
好ましい実施態様において,少なくともナトリウムイオン,炭酸水素イ オンおよび水を含むA液と,少なくともナトリウムイオン,塩素イオン, リン酸イオンおよび水を含むB液からなる用時混合型薬液,特に用時混 68 合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。
【0035】 他の実施態様において,上記の薬液のいずれかであって,A液およびB液の混合液のカリウムイオン濃度が3.5〜5.0mEq/Lの範囲内である用時混合型薬液,特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。
【0036】 他の実施態様において,上記の薬液のいずれかであって,A液およびB液の混合液の無機リン濃度が2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算)の範囲内である用時混合型薬液,特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。
【0039】 本発明の好ましい実施態様において,A液およびB液の混合液が急性血液浄化療法の透析液および/補充液として哺乳動物(ヒトを含む)に投与された場合,急性血液浄化療法開始から24時間の間にわたって,該哺乳動物の血漿中カリウムイオン濃度が正常範囲内であり,かつ,血漿中無機リン(iP)濃度の増減が急性血液浄化療法開始時と比べて有意に変動しない,用時混合型薬液,特に用時混合型急性血液浄化用透析液または補充液が提供される。
【0046】 本発明の用時混合型薬液を収容する容器は,2つ以上の薬液収容室を有する。例えば,本発明の用時混合型薬液を収容する容器は,上室(B室)と下室(A室:投与側)の間が連通可能な隔壁で隔てられている容器である。上室は,投与の際に上側に配置される薬液収容室であり,例えば図1における3’である。連通可能な隔壁の形態は特に制限はなく,例えば易剥離性を有するような弱溶着によりシール形成された隔壁,ク 69 リップ等で挟むことにより形成された隔壁,破断等により開通可能とな るような連通部材を備えた隔壁などが挙げられる。これらのうち,特に 易剥離的に熱溶着された隔壁部(弱シール部)でシール分画された容器 が簡便性の点で好適に用いられる。易剥離性の熱溶着された隔壁部を備 える容器は,一方の薬液収納室を外部から押圧することによりシール部 が剥離し,薬液が無菌的に混合される。
(カ) 【0057】 本明細書で言う「不溶性微粒子や沈澱の生成が長時間にわたって抑制 される」とは,投与対象に適用すべき最終薬液の調製後,たとえば上記 A液とB液の混合後,少なくとも27時間にわたり不溶性微粒子や沈澱 の生成が抑制されること,またはpHが7.5以上になっても不溶性微 粒子や沈澱の生成が抑制されることを意味する。
【0058】 本明細書において使用される「用時混合型薬液」なる用語は,A液お よびB液からなり,A液およびB液を混合した後に使用される薬液を意 味する。
【0059】 「急性血液浄化用薬液」なる用語は,急性血液浄化療法において使用 される透析液または補充液を意味する。急性血液浄化療法は,当分野に おいて通常使用される意義と同一である。なお,「補充液」は「補液」, 「置換液」と呼ばれることもある。
また, 「用時混合型急性血液浄化用薬液」なる用語は,用時混合型薬液 のうち,急性血液浄化療法において使用される透析液または補充液を意 味する。
【0060】 本明細書において使用される「A液」なる用語は,少なくともナトリ 70 ウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含む薬液を意味する。好ましくは,A液は,ナトリウムイオン,カリウムイオン,塩素イオン,炭酸水素イオンおよび水を含む。
【0061】 「B液」なる用語は,少なくともカルシウムイオンおよび/またはマグネシウムイオンならびに水を含む薬液を意味する。好ましくは,B液は,ナトリウムイオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン,塩素イオン,ブドウ糖および水を含む。…【0062】 上記したように,本発明の薬液は,カリウムイオンとリン酸イオンを含むことを特徴としているが,カリウム源としては,水溶液中でカリウムイオンを与える化合物,たとえば塩化カリウムのような無機カリウム塩,乳酸カリウム,グルコン酸カリウムのような有機酸カリウム塩などから選択して使用することができる。また,リン源としては,水溶液中でリン酸イオンを与える化合物,たとえばリン酸,リン酸ナトリウム,リン酸二水素ナトリウム,リン酸水素二ナトリウムなどから選択して使用することができる。カリウム源とリン源を兼ねるカリウムイオンとリン酸イオンを含む化合物,例えばリン酸カリウム,リン酸二水素カリウム,リン酸水素二カリウムなどの使用も考慮されてよい。
【0063】 本発明薬液中のカリウムイオン濃度は,通常,3.5〜5.0mEq/Lであり,好ましくは3.5〜4.5mEq/Lである。また,無機リン濃度は,通常,2.3〜4.5mg/dL,好ましくは2.5〜4.0mg/dL(特に3.0mg/dL以上) (無機リン濃度換算)である。
本発明は,上記したように,通常,A液とB液の二液に分けて調製されるが,カリウムイオンもリン酸イオンも両液を合したとき,混合液中で 71 上記の濃度となるように適宜調整すればよい。
(キ) 【実施例】 【0065】 <急性膵炎モデル動物の作製> 雄性ビーグル犬(体重10kg前後,日本農産)21頭を扶桑薬品工 業株式会社内の大動物施設の飼育室(温度23±5℃,湿度50±20% RH,換気15〜20回/hr,照明12時間(7:00〜19:00)) においてステンレス飼育ケージに1頭ずつ収容して飼育した。飼料は固 形飼料(CREA Dog Diet CD-5M(商標),日本クレア) を使用し,約300g/日を摂取させた。飲料水は上水道水を使用し, 飼育期間中自由に飲水させた。
【0066】 イソフルラン吸入麻酔下でビーグル犬を背位に固定し,腹部を切開し, 総胆管を露出させ,クレンメで閉塞した。十二指腸を切開し,小十二指 腸乳頭よりポリエチレン製チューブ(PE50,ベクトン・ディッキン ソン)を副膵管に挿入し,逆行性に3%タウロコール酸ナトリウム生理 食塩液溶液を1.0mL/kg/5minで注入し,急性膵炎を惹起し た。
【0067】 モデル作製術中および術後には適切な輸液を適切量投与した。
【0068】 術後,感染防止のためにベンジルペニシリンカリウム注射液(50万 単位/動物)を1日1回2日間,筋肉内投与することにより急性膵炎モ デル動物を作製した。
(ク) 【0069】 実施例1 72 (i)上室液(B液)の調製・充填・密封 下記の表1に記載の成分分量を量り,日局注射用水にブドウ糖,塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化マグネシウム,塩化カルシウム,リン酸二水素ナトリウムを順次加えて溶解し,粗濾過し,濾液に注射用水を加えて定量とした。得られた液を1000mL/1000mLの無色プラスチック製ダブルバッグの上室に精密フィルターで無菌濾過後充填し,充填口をシール溶着により密封した。本明細書において,表1の処方にて作製された薬液を「実施例1の上室液(B液)」と称する。
【0070】 (ii)下室液(A液)の調製・充填・密封 下記の表2に記載の成分分量を量り,日局注射用水に塩化ナトリウム,塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを順次加えて溶解した後,粗濾過し,濾液に注射用水を加えて定量とした。得られたA液を,(i)において上室液が充填され,そして密封された1000mL/1000mLの無色プラスチック製ダブルバッグの下室に精密フィルターで無菌濾過後充填し,ポート部にゴム栓体を挿入後,閉塞により密封し,ゴム栓体ヘッド部にオーバーシールを溶着した。本明細書において,表2の処方にて作製された薬液を「実施例1の下室液(A液)」と称する。
【0071】 実施例2 (i)上室液(B液)の調製・充填・密封 下記の表3に記載の成分分量を量り,日局注射用水にブドウ糖,塩化ナトリウム,塩化マグネシウムおよび塩化カルシウムを順次加えて溶解し,塩酸を添加した後,粗濾過し,濾液に注射用水を加えて定量とした。
得られた液を1000mL/1000mLの無色プラスチック製ダブルバッグの上室に精密フィルターで無菌濾過後充填し,充填口をシール溶 73 着により密封した。本明細書において,表3の処方にて作製された薬液を「実施例2の上室液(B液)」と称する。
【0072】 (ii)下室液(A液)の調製・充填・密封 下記の表4に記載の成分分量を量り,日局注射用水に塩化ナトリウム,塩化カリウム,リン酸水素二ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムを順次加えて溶解した後,粗濾過し,濾液に注射用水を加えて定量とした。
得られたA液を,(i)において上室液が充填され,そして密封された1000mL/1000mLの無色プラスチック製ダブルバッグの下室に精密フィルターで無菌濾過後充填し,ポート部にゴム栓体を挿入後,閉塞により密封し,ゴム栓体ヘッド部にオーバーシールを溶着した。本明細書において,表4の処方にて作製された薬液を「実施例2の下室液(A液)」と称する。
【0073】 比較例 (i)上室液(B液)の調製・充填・密封 下記の表5に記載の成分分量を量り,日局注射用水に塩化カルシウム,塩化マグネシウム,酢酸ナトリウム,ブドウ糖および氷酢酸を順次加えて溶解し,粗濾過後,濾液に注射用水を適量加えて,全量を1010mLとした。得られた液を1010mL/1010mLの無色プラスチック製ダブルバッグの上室に精密フィルターで無菌濾過後充填し,充填口をシール溶着により密封した。本明細書において,表5の処方にて作製された薬液を「比較例の上室液(B液)」と称する。…【0074】 (ii)下室液(A液)の調製・充填・密封 下記の表6に記載の成分分量を量り,日局注射用水に塩化ナトリウム, 74 塩化カリウムおよび炭酸水素ナトリウムを順次加えて溶解した後,粗濾 過し,濾液に注射用水を加えて定量とした。得られたA液を,(i)におい て上室液が充填され,そして密封された1010mL/1010mLの 無色プラスチック製ダブルバッグの下室に精密フィルターで無菌濾過後 充填し,ポート部にゴム栓体を挿入後,閉塞により密封し,ゴム栓体ヘ ッド部にオーバーシールを溶着した。本明細書において,表6の処方に て作製された薬液を「比較例の下室液(A液)」と称する。…(ケ) 【0075】 <定性試験> 「実施例1の上室液(B液)」と「実施例1の下室液(A液)」の混合 調整液(本明細書において「実施例1の混合液」と呼ぶ。, )「実施例2の 上室液(B液)」と「実施例2の下室液(A液)」の混合調整液(本明細 書において「実施例2の混合液」と呼ぶ。,および「比較例の上室液(B ) 液)」と「比較例の下室液(A液)」の混合調整液(本明細書において「比 較例の混合液」と呼ぶ。)の糖・電解質濃度(理論値)を表7に示す。
【0076】 (方法1) ビーグル犬急性膵炎モデル(3頭)を膵炎惹起2日後に動物の体重を 測定し,その後,イソフルランによる吸入麻酔を行った。右大腿動脈に 血圧トランスジューサに接続したカニューレを,直腸に直腸温プローブ を挿入し,各々血圧および体温をモニターした。心電図の測定は第 II 誘 導で行った。左大腿動脈から右大腿静脈に採血用ポートをつけた動静脈 シャント(中央部で取り外し可能)を作製した。血液凝固防止のため適 正量のヘパリンナトリウム注射液(ヘパリン)を動静脈シャントの採血 部より投与し,その後血液回路内に持続注入した。ヘパリン投与5分後 75 にブラッドアクセスと血液回路(JCH-26S,ウベ循研)およびダイアライザー(APS-08MD,旭化成メディカル)とを接続した。
【0077】(方法2) 方法1に続いて,血液流量20mL/min,透析液(実施例1の混合液)流量1200mL/hr,補充液(実施例1の混合液)流量300mL/hr,濾液(実施例1の混合液)流量1500mL/hr,除水量ゼロの条件でCHDFを24時間行った。CHDF開始の0,3,6,9,12,15,18,21および24時間後に,採血用ポートからヘパリン加血液1.5mLを採取した(脱血側静脈血)。採取したヘパリン加血液につき,各種機器分析を行った。
【0078】 また,透析液および補充液を「比較例の混合液」に換えて,同様にCHDFを施行し,各種機器分析を行った。
【0079】 検査項目:pH,PCO?(mmHg),PO?(mmHg),HCO??(mmol/L),tCO?(mmol/L),sO?(%),BE(mmol/L),Hct(%) ,Hb(g/dL),Na?(mEq/L),K?(mEq/L),Cl?(mEq/L),Ca??(mEq/L),Mg??(mEq/L) Lac , (mEq/L) Ca , (mg/dL) Mg , (mg/dL) ,iP(mg/dL),GPT(U/L),LDH(U/L),AMY(U/L),BUN(mg/dL),ALB(g/dL),GLU(mg/dL)。
結果を表8に示す。値は,ビーグル犬3頭の平均値を表している。
【0080】(結果) CHDF開始後のカリウム濃度の低下は,実施例1の混合液の方が比 76 較例よりも緩やかであり,低カリウム血症を生じにくいことが示唆され た。
また,CHDF開始後の無機リン(iP)濃度の低下も同様に実施例 1の混合液の方が比較例よりも緩やかであり,低リン血症を生じにくい ことが示唆された。
その他の測定値は両者間で差はなかった。
以上のことから,本発明の急性血液浄化用補充液は低カリウム血症や 低リン血症の発生を良好に抑制できることが示唆された。
(コ) 【0081】 <安定性試験> 急性血液浄化用剤の開放系におけるpH 及び性状(色調及び澄明性) をリン酸水素二ナトリウムの濃度を変化させて測定した。
【0082】 (1.試験検体) 1-1.塩化ナトリウム77.0625g,塩化カリウム2.9804 g,塩化カルシウム・2水和物3.6827g,塩化マグネシウム・6 水和物2.0315g,ブドウ糖20.0015g及び1mol/L塩 酸2mLを取り,水を加えて2Lとする。(5倍濃度B原液) 1-2.塩化ナトリウム43.8236g,塩化カリウム2.9797 g及び炭酸水素ナトリウム53.7711gを取り,水を加えて2Lと した。(5倍濃度A原液) 1-3.リン酸水素二ナトリウム・12水和物3.5804gを取り, 水を加えて100mLとした。(リン酸水素二ナトリウム溶液) 1-4.リン酸水素二ナトリウム・12水和物0.1153gを取り, 5倍濃度A原液100mL及び水を加えて500mLとし,炭酸ガスを バブリングしてpHを約7.5にした(A液-1)。5倍濃度B原液10 77 0mL及び水を加えて500mLとした(B液-1) A液-1及びB液 。
-1各500mLを静かに混合した(P 1mg/dL)炭酸ガスをバブリングして混合後のpHを約7.25にした。
1-5.リン酸水素二ナトリウム・12水和物0.2312gを取り,5倍濃度A原液100mL及び水を加えて500mLとし,炭酸ガスをバブリングしてpHを約7.5にした(A液-2)。5倍濃度B原液100mL及び水を加えて500mLとした(B液-2) A液-1及びB液 。
-1各500mLを静かに混合した(P 1mg/dL) 炭酸ガスをバ 。
ブリングして混合後のpHを約7.25にした。
1-6.リン酸水素二ナトリウム液0,1,2.5,5mLを取り,5倍濃度A原液100mL及び水を加えて500mLとし,炭酸ガスをバブリングしてpHを約7.5にした(A液-2〜5)。5倍濃度B原液100mL及び水を加えて500mLとしたものを4個用意した(B液-2) A液-2及びB液-2各500mLを静かに混合した 。 (P 1mg/dL)炭酸ガスをバブリングして混合後のpHを約7.25にした。
A液-3〜5も同様に試験液を調製した。
(リン酸イオン0, 1, 0. 0.25,0.5mEq/L)【0083】(2.試験実施日) 2007年7月9日〜12日(リン酸イオン1mg/dL,2mg/dL) 2007年7月9日〜13日(リン酸イオン 0,0.1,0.25,0.5mEq/L)【0084】(3.試験方法)3-1.それぞれの試験検体を1Lプラスチック製ボトルに静かに注ぎ, 78 回転子(9mm)で緩やかに攪拌した。
3-2.pH及び性状(澄明性)を測定した。
【0087】 (5. 考察) 上記表9および表10の結果から,薬液にリン酸イオンを含有させる ことにより,沈澱の生成が顕著に抑制され,0.1mEq/L(0.3 1mg/dL)の低濃度であっても,ある程度の沈澱生成の抑制が認め られることが理解できる。
【0088】 なお,別途,リン酸イオンを含有しない薬液と,リン酸イオンを濃度 4mg/dLで含有する薬液との対比実験を行ったところ,7日間でp Hが7.23〜7.29から7.89〜7.94までほぼ直線的に上昇 し,その間にリン酸イオン不含有薬液では不溶性微粒子の粒径も数も顕 著に増加したが,リン酸イオン含有薬液ではpHの上昇にもかかわらず, 不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった。
(サ) 【産業上の利用可能性】 【0089】 本発明により,リン酸イオンを配合した炭酸水素ナトリウムを含有す る用時混合型の薬液が提供される。また,本発明により,急性血液浄化 用透析液および補充液,特に低カリウム血症および低リン血症を生じな い急性血液浄化用透析液および補充液が提供される。さらにまた,本発 明により,混合後長時間にわたり,不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制さ れる用時混合型の急性血液浄化用透析液および補充液が提供される。
イ 前記アの記載事項によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件 訂正発明12に関し,次のような開示があることが認められる。
(ア) 急性疾患あるいは慢性疾患の急性憎悪に対して,緊急に血液・体液 79 を浄化して生体の恒常性を保ち,病態を改善するため,透析,濾過,吸 着又は分離により血液から不要あるいは有毒な物質を除去する急性血液 浄化療法においては,大量の透析液や補充液を使用するが,従来の市販 の透析液・補充液は,高カリウム血症の是正のためにカリウムイオン濃 度を低く設定し,高リン血症を改善するためにリン成分を全く含まない など,慢性腎不全患者を対象とした電解質濃度で調整され,急性血液浄 化が必要とされる患者に適合させた処方ではないため,急性血液浄化療 法においては,低カリウム血症や低リン血症などの不具合が生じる場合 があった 【0002】 ( , 【0003】, 【0005】, 【0014】ないし【0 017】。
) また,透析液のアルカリ化剤(血液緩衝剤)として,現在は,酢酸塩 に代わって炭酸水素塩が用いられるようになったが, 透析液には,pH の安定化のために少量の酢酸が含有されており,酢酸不耐症状を避ける ために,酢酸塩を全く含有しない透析液・補充液が求められていた(【0 016】。
) さらに,急性血液浄化療法では,炭酸水素イオンとカルシウムイオン やマグネシウムイオンとを長時間共存させて血液浄化を行うため,炭酸 カルシウムや炭酸マグネシウムのような不溶性微粒子や沈澱の発生が大 きな問題であった(【0020】。
)(イ) 「本発明者ら」は,カリウムイオンとリン酸イオンをそれぞれ一定 範囲の濃度に保持することにより,低カリウム血症や低リン血症の発症 を防ぐことができる安定性の良好な急性血液浄化用薬液を提供できるこ とを見出し,また,当該薬液において,酢酸イオンを生成するような酢 酸化合物を使用しないことにより,酢酸不耐症状を生じない,安定性の 良好な急性血液浄化用薬液を提供できることを見出し,さらには,当該 薬液中には,カルシウムイオンやマグネシウムイオンが存在するにも拘 80 わらず,リン酸イオンを含有させても不溶性のリン酸塩を生ぜず,リン 酸イオンの存在により,炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグネシ ウムイオンが共存し,pHが7.5を超えるような長時間後であっても, 不溶性炭酸塩の生成が抑制されることを見出し,これらの知見に基づい て,「本発明」を完成した(【0023】。
) 「本発明」は,従来の透析液・補充液と比較して,カリウムイオン濃 度が高く,リン酸イオンを含有することを特徴とし,リン酸イオン,炭 酸水素イオン,カルシウムイオン及び/又はマグネシウムイオンを含有 し,酢酸イオンを含有せず,カリウムイオンとリン酸イオンをそれぞれ 一定範囲の濃度に保持し,炭酸水素イオンを含む水溶液とカルシウムイ オン及び/又はマグネシウムイオンを含む水溶液を別々に収容し,用時, 両者を合して混合液とする構成を採用した(【0024】【0025】。
, ) 「本発明」により得られる用時混合型急性血液浄化用薬液は,低カリ ウム血症や低リン血症を生じることがなく,酢酸不耐症症例においても 安全に使用することができ,さらに,混合後も炭酸カルシウム及び/又 は炭酸マグネシウムのような不溶性微粒子や沈澱の生成が長時間にわた って抑制されるという効果を奏するため,長時間の血液浄化を伴う急性 血液浄化療法に好適に用いられる(【0026】。
)? 訂正の適否について 原告は,訂正事項AないしDに係る本件訂正は,新規事項の追加に当たり, 特許法134条の2第9項において準用する同法126条5項の要件に適合 しない旨主張するので,以下において判断する。
ア 訂正事項Aについて 本件訂正の訂正事項Aは,本件訂正前の請求項3に記載された「薬液の 調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成を実質的 に抑制する方法」 (請求項3に引用する請求項1)又は本件訂正前の請求項 81 8に記載された「血液浄化用薬液を製造する方法」 (請求項8に引用する請求項6)のA液とB液を合して調製される薬液において, 「オルトリン酸イオン濃度が0.31mg/dL(無機リン濃度換算)以上または2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算)」とされており,他のイオン濃度について特定されていないものを,「オルトリン酸イオン濃度が2.3〜4.5mg/dL(無機リン濃度換算)であり,ナトリウムイオン濃度が132〜143mEq/Lであり,カリウムイオン濃度が3.5〜5.0mEq/Lであり,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり,マグネシウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり,炭酸水素イオン濃度が35.0mEq/L以下であり」と訂正するものである。
そして,本件訂正前の特許請求の範囲(請求項3及び8)の記載(前記第2の2?)と本件訂正後の特許請求の範囲(請求項3及び8)の記載(前記第2の2(2))を対比すると,本件訂正の前後で,A液とB液の組成(「ナトリウムイオン,炭酸水素イオンおよび水を含むA液と,カルシウムイオン,マグネシウムイオンおよび水を含むB液を含み,そしてA液およびB液の少なくとも一方がさらにカリウムイオンを含有し,A液およびB液の少なくとも一方がオルトリン酸イオンを含有すること)及び「血液浄化用薬液の調整後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成を実質的に抑制する方法。(請求項3)又は「血液浄化用薬液を製造する方 」法」 (請求項8)である点において変更はなく,訂正事項Aにより,A液とB液を合した混合液のイオン濃度について,一定の数値範囲を定めていたオルトリン酸イオンについて,当該数値範囲の中の特定の数値に限定し,イオン濃度が限定されていなかったナトリウムイオン,カリウムイオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン,炭酸水素イオンについて,特定の数値に限定するものであるから,訂正事項Aは,本件訂正前の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてしたものである。
82 また,本件訂正後の特許請求の範囲(請求項3及び8)の記載は,本件 出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(甲38) の特許請求の範囲の請求項3(同請求項において引用する請求項1又は2), 請求項8(同請求項において引用する請求項5ないし7), 【0010】, 【0 024】【0075】及び【0088】に記載された事項の範囲内のもの , である。
そうすると,訂正事項Aは,本件明細書等のすべての記載を総合するこ とにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入 するものとはいえないから,本件明細書等に記載した事項の範囲内におい てしたものと認められる。
イ 訂正事項BないしDについて 訂正事項Bは,本件訂正前の請求項4,5,9及び10を, 「炭酸水素イ オン濃度が32.0mEq/Lであり」と訂正するほかは,訂正事項Aと 同様に訂正するもの,訂正事項Cは,本件訂正前の請求項12に記載され た「血液浄化用薬液」 (請求項12において引用する請求項11)のA液と B液を合して調製される薬液において,オルトリン酸イオン以外の他のイ オン濃度について特定されていないものを,ナトリウムイオン濃度が13 「 2〜143mEq/Lであり,カリウムイオン濃度が3.5〜5.0mE q/Lであり,カルシウムイオン濃度が2.5mEq/Lであり,マグネ シウムイオン濃度が1.0mEq/Lであり,炭酸水素イオン濃度が35. 0mEq/L以下であり」と訂正するもの,訂正事項Dは,本件訂正前の 請求項13及び14を, 「オルトリン酸イオン濃度が2.3〜4.5mg/ dL(無機リン濃度換算)であり,炭酸水素イオン濃度が32.0mEq /Lであり」と訂正するほかは,訂正事項Cと同様に訂正するものである。
そして,前記アと同様の理由により,訂正事項BないしDは,本件明細 書のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係にお 83 いて,新たな技術的事項を導入するものとはいえないから,本件明細書等 に記載した事項の範囲内においてしたものと認められる。
ウ 小括 以上によれば,訂正事項AないしDに係る本件訂正は,本件明細書等に 記載した事項の範囲内においてしたものと認められるから,特許法134 条の2第9項において準用する同法126条5項に規定する訂正要件に適 合するから,原告の前記主張は理由がない。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはないから,原告主張 の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2-1-1(甲3を主引用例(実施例4に基づくもの)とする本件 訂正発明12の進歩性の判断の誤り)(請求人無効理由3-2関係)について (1) 甲3の記載事項について ア 甲3には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「図1Aない し3C」及び「表1ないし9及び12」については別紙2を参照)。
(ア) 「技術分野 本発明は,医療溶液,溶液の製造方法,使用方法に関する。特に,本 発明は透析用の医療溶液に関する。(1頁4行〜6行,訳文1頁) 」 (イ) 「発明の背景 透析は,腎機能が損なわれている患者に対して適応される治療法であ る。血液からの老廃物の除去は,外液への移行または外液による血漿液 の置換によって実施される。様々な透析技術を,付随する透析液と共に 識別することができ,これらは患者のタイプに応じて使用される。長期 的な腎不全に罹患している患者の場合,使用される透析技術は,通常週 に数回(2〜3回),数時間(3〜5時間)の間欠的治療である。…」 (1 頁9行〜22行,訳文1頁) 「急性腎不全に罹患している患者の場合,適応となる治療法は,数週 84 間を通しての持続的治療である持続的腎機能代替療法(CRRT)である。これには,血液透析以外の技術,具体的には,血液濾過が用いられる。血液濾過の場合,老廃物が,高度な透過性を有する膜を介して濾過によって,血液から除去される。この方法では,老廃物はより多量に取り除かれ,また(より)大きな分子も除去される。加えて,血液濾過の場合は,1時間に1〜5リットルにわたり得る,かなりの量の液体が,血流から取り除かれる。このことは,血液濾過の場合,血液透析とは対照的に,置換液を大量に患者に返還しなければならないことを要求する。
場合によっては,透析と濾過の組み合わせを使用することができる。これは,血液濾過透析と呼ばれる。血液濾過透析の具体的なタイプとしては,持続的静静脈血液濾過透析があり,CVVHDFと略記される。
定期的な週3回の血液透析治療を受けている患者では,特定の条件下,低リン血症が起こり得る。また,CRRTを受けている患者では,より高い頻度で,低リン血症が起こり得る。前者は,主として,リン酸塩結合剤の過剰摂取や,非経口栄養法におけるリン酸塩の不十分な投与や,透析によるリンの持続的な除去に起因するものである。後者は,主として,当初から正常な腎機能を有するが故に血清リンレベルが正常な患者から,リンを効率的に除去してしまう結果である。(1頁23行〜2頁 」8行,訳文1頁) 「低リン血症は,主に経口および静脈内経路によって,例えばリンに富む食品の摂取によって,経口リン製剤によってまたはリン酸ナトリウム(もしくはカリウム)塩の静脈内投与によって予防され,治療される。
しかし,全体的なリン欠乏の厳密な程度を測定することは不可能であり,患者に投与すべきリンの正確な量を決定することは難しいので,経口および静脈内経路によるリンの投与は極めて慎重に実施しなければならない。多すぎるリンが投与された場合は高リン血症を発症することがあ 85 り,患者に対して深刻な影響を及ぼす,例えば低カルシウム血症,転移性石灰化および低血圧をもたらすことがあり,また投与されるリンが少なすぎる場合は低リン血症が矯正されない。(2頁9行〜19行,訳文 」1頁〜2頁)「カルシウムイオンとリン酸塩の両方を含む溶液は,完全非経口栄養法(TPN)のための溶液において使用される。TPN溶液はマルチコンパートメントバッグに充填され,1番目の区画には脂質,2番目の区画にはアミノ酸とリン酸塩およびカルシウムを除く電解質の大部分,そして3番目の区画にはカルシウムとグルコースが含まれる。本発明による医療溶液と比較した主たる相違は,最終的な即時使用溶液のpHが本発明で示される溶液よりもはるかに低いことである。TPN溶液は通常5.2〜6のpHを有する。
米国特許第6,743,191号には,置換輸液が開示されており,該輸液は,中でも特に,0.2〜1.0mM,好ましくは0.5〜0.9mMのリン酸二水素イオンおよび1.6〜2.6mM,好ましくは1.9〜2.4mMのカルシウムイオンを含んでなるものである。ここに開示された置換輸液は,当業者の専門知識の範囲内で,各塩を所望の濃度が達成されるように水に溶解することによって,簡便に調製することができる。調製の間は,無菌環境を維持することが望ましい。(2頁20 」行〜34行,訳文2頁)「医療溶液にリンを導入する場合の問題は,沈殿する様々なリン酸カルシウムの形成であり,このような沈殿の危険性は,該液剤が終末加熱滅菌に供される場合には,さらに増大する。リン酸カルシウムの溶解度は,カルシウムおよびリン酸塩の濃度にそれぞれ依存し,さらには他の電解質の存在,温度およびpHにも依存する。TPN溶液におけるように,pHが約5.2〜6である場合には沈殿の危険性はないが,約7〜 86 7.6の生理的pHに等しいpH値を有する生理溶液では,沈殿の危険 性が高くなる。したがって,滅菌および保存の間におけるpHだけを制 御すればよいのではなく,混合された即時使用溶液のpHも制御する必 要がある。また,これらの液剤の多くは,2年に渡る長期保存の間安定 でなければならないという問題もある。 3頁1行〜11行, 」 ( 訳文2頁)(ウ) 「発明の概要 本発明の目的の1つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存および使 用の間に渡り良好な安定性を保証する医療溶液を提供することである。
本発明は医療溶液に関する。本発明によれば,該即時使用溶液は,1. 0〜2.8mMの濃度のリン酸塩を含んでなるものであり,滅菌されか つ6.5〜7.6のpHを有するものである。(3頁26行〜31行, 」 訳文3頁) 「本発明の1つの実施形態では,前記医療溶液は,その即時使用溶液 の状態で,1.2〜2.6mMの濃度のリン酸塩を含み,6.5〜7. 6のpHを有する。
別の実施形態では,前記医療溶液は,その即時使用溶液の状態で,約 2.8mMまでの濃度のリン酸塩を含み,6.5〜7.4のpHを有す る。
別の実施形態では,前記医療溶液は,その即時使用溶液の状態で,約 1.3mMまでの濃度のリン酸塩を含み,6.5〜7.6のpHを有す る。(3頁32行〜4頁3行,訳文3頁) 」 「さらなる実施形態では,医療溶液は,使用前には少なくとも2つの 単一溶液に分けられており,第一単一溶液は,酢酸塩,乳酸塩,クエン 酸塩,ピルビン酸塩,炭酸塩および重炭酸塩を含む群から選択される少 なくとも1つの緩衝剤を含んでなるものであり,第二単一溶液は酸を含 んでなるものであって,前記第一および第二単一溶液は,終末滅菌後使 87 用する際に混合されて,即時使用溶液を形成し,該即時使用溶液は6. 5〜7.6のpHを有する。(4頁4行〜10行,訳文3頁) 」 「さらなる実施形態では,前記即時使用溶液は1以上の電解質をさら に含んでなるものであり,前記1以上の電解質は,ナトリウム,カルシ ウム,カリウム,マグネシウムおよび/または塩化物のイオンの1以上 を含む。前記1以上の電解質は,即時使用溶液に混合される前は,前記 第二単一溶液中に配合される。1つの実施形態では,ナトリウムイオン および/または塩化物イオンは,即時使用溶液に混合される前は,第一 単一溶液および第二単一溶液の両方に配合される。(4頁25行〜31 」 行,訳文3頁〜4頁)(エ) 「定義 「医療溶液」という用語は,血液透析,血液透析濾過,血液濾過およ び腹膜透析用の透析液,腎疾患集中治療室内での透析用の溶液,通常は 緩衝物質を含む置換液または輸液,ならびに栄養目的のための溶液を意 味することが意図されている。
「単一溶液」という用語は,使用の直前まで他の溶液から分離して保 持される1つの溶液を意味することが意図されている。
「重炭酸塩および炭酸塩」という用語は,アルカリ重炭酸塩およびア ルカリ炭酸塩,特に重炭酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを意味する ことが意図されている。
「即時使用溶液」という用語は,必要とされる異なる単一溶液を含み, 即時使用できる溶液を意味することが意図されている。(5頁16行〜 」 26行,訳文4頁)(オ) 「図面の簡単な説明 図1A〜Cは,最終的な即時使用溶液におけるpH値と,混合により 1.3mMリン酸塩を含む溶液としてから24時間後までに生成された 88 粒子の量との関係を示すグラフである。(6頁5行〜7行,訳文5頁) 」 「図2A〜Cは,最終的な即時使用溶液におけるpH値と2.6mMリ ン酸塩を含む溶液用に混合してから24時間後に生成された粒子の量と の関係を示すグラフである。」(6頁8行〜10行,訳文5頁) 「図3A〜Cは,リン酸塩濃度と7.6のpHを有する溶液用に混合 してから24時間後に生成された粒子の量との関係を示すグラフであ る。」(6頁11行〜13行,訳文5頁)(カ) 「発明の詳細な説明 本発明の発明者らは,特定の環境,濃度,pH範囲およびパッケージングにおいて,滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出し,これが本発明の基礎を構成する。
最も有利な環境,濃度,pH範囲およびパッケージングを探索するより重要な事柄の1つは,生産,保存および即時使用溶液の調製の間の粒子の形成である。粒子の量は,粒子の大きさならびに粒子の量の両方に関して特定の範囲内にとどまらねばならない。これはヨーロッパ薬局方の中で規定されており,10μmの大きさの粒子については,限界は25計数/mlである。粒子の形成を最小限に保つことは非常に重要であり,さもなければ免疫系の引き金が引かれ,炎症カスケードの開始を導き得る。粒子の存在に関するさらなる問題は,透析治療の間に使用されるフィルターを目詰まりさせる危険性である。
粒子形成の問題を生じさせる主要な成分は,炭酸塩および/またはリ ン酸塩のいずれかと組み合わせたカルシウムイオンである。
問題を解決するためにまず最初に考えられるのは,言うまでもなく生 産および保存の間カルシウムイオンを炭酸塩およびリン酸塩から切り離 して保持することであるが,即時使用溶液を調製するときにまだ問題が 残り,固体の炭酸カルシウムおよびリン酸カルシウムが混合の間にまだ 89 形成され得る。
発明者は,即時使用溶液中約2.8mMまでのリン酸塩濃度により,即時使用溶液中のpH値が最大でも7.4,好ましくは最大でも7.2に保持される場合は,形成される粒子の量が許容される限界内であることを見出した。
リン酸塩濃度が即時使用溶液中約1.3mMまでである場合は,即時使用溶液のpH値が最大でも7.6,好ましくは最大でも7.4に保持されれば,許容される量の粒子が形成される。 6頁16行〜7頁5行, 」 (訳文5頁)「本発明の1つの実施形態では,医療溶液は,使用前には少なくとも2つの単一溶液,第一単一溶液と第二単一溶液に分けられており,前記第一および第二単一溶液は,終末滅菌後および使用の直前に,混合されて6.5〜7.6のpHを有する最終的な溶液を形成する。(7頁10 」行〜13行,訳文6頁)「本発明の別の実施形態では,前記第一単一溶液は,第一単一溶液中の二酸化炭素,CO?の分圧が大気の二酸化炭素,CO?の分圧と同じ桁数となる割合で重炭酸塩および炭酸塩を含む。重炭酸塩および炭酸塩は,好ましくは重炭酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムとして混合され,1つの実施形態では,前記第一単一溶液は10.1〜10.5の範囲内,好ましくは10.3のpHを有する。」 (7頁17行〜23行,訳文6頁)「この実施形態における前記第一および第二単一溶液を混合して即時使用溶液にした後,前記即時使用溶液は7.0〜7.6の範囲内のpHを有する。さらに,前記即時使用溶液は,好ましくは,少なくとも25mM,好ましくは少なくとも30mM,および最大でも45mM,好ましくは最大でも40mMの重炭酸塩濃度を有する。」 (7頁30行〜34行,訳文6頁) 90 (キ) 「1つの実施形態では,前記即時使用溶液は,1以上の電解質をさ らに含んでなるものである。該電解質は,ナトリウム,カルシウム,カ リウム,マグネシウムおよび/または塩化物のイオンの1またはそれ以 上である。それぞれのコンパートメント中への電解質の配合は,その電 解質が該単一溶液中に存在する他の物質との間で示すそれぞれの挙動, すなわち,1またはそれ以上の電解質と特定の単一溶液中に存在する他 の物質との間に何らかの反応が起こり得るかどうか,に依存する。通常, 該電解質は,前記第二単一溶液中に含まれる。例えば,第一単一溶液が 重炭酸塩と炭酸塩との組合せを含む場合や,重炭酸塩および/またはリ ン酸塩のみを含む場合には,カルシウムイオンおよびマグネシウムイオ ンは,該第一単一溶液を除くその他のいずれの単一溶液にも,好適に入 れることができる。この理由は,カルシウムおよびマグネシウムと,重 炭酸塩/炭酸塩や重炭酸塩および/またはリン酸塩とを一緒にすると, 炭酸カルシウム,炭酸マグネシウム,リン酸カルシウムおよびリン酸マ グネシウムの沈殿を引き起こし得るからである。しかし,カルシウムイ オンおよびマグネシウムイオンは,特定のpH範囲等の如き一定の条件 下では,重炭酸塩と共に保持し得るものであり,このことは,参照によ り本明細書に組み込まれる欧州特許第EP0437274号に開示され ている。さらに,カルシウムおよびマグネシウムは,一定の条件下では, リン酸塩とも一緒に保持することができ,これについても上記を参照さ れたい。
他方,ナトリウムイオンおよび/または塩化物イオンは,通常は,第 一単一溶液および第二単一溶液の両方に配合される。」 (8頁6行〜25 行,訳文6頁〜7頁) 「本発明による医療溶液は,良好な安定性および良好な生体適合性を 保証するという利点を有する。(9頁6行〜7行,訳文7頁) 」 91 (ク) 「実施例 本発明による溶液の種々の例を以下に示す。
実施例1 下記の単一溶液の対を以下の表1〜5に従って調製した。第一単一溶 液と第二単一溶液との体積関係は1:20である。… 溶液を121℃のオートクレーブで40分間滅菌した。滅菌後,各々の対の第一溶液と第二溶液を混合し,それぞれ2,5および10μmの大きさの粒子の量を測定した。結果を以下の表6に提示する。… 粒子の計数は,HIAC 9703型Liquid Particl e Counting System(シリーズ番号F08504)を ソフトウェアバージョンPharm,Spec.1,4と共に用いて実 施した。
上記表6の結果から明らかなように,本発明の即時使用溶液について の結果は,ヨーロッパ薬局方において与えられている限界よりも十分に 下である。(9頁17行〜11頁16行,訳文7頁〜10頁) 」 「実施例2 粒子の形成を最小限に保つために即時使用溶液の最適pH範囲を見出 すことを目指して,表7に従った以下の対の単一溶液を調製し,混合し た。第一単一溶液と第二単一溶液との体積関係は1:20である。… 混合した溶液を2つの部分に分け,一方の部分には1,3mM NaH?PO?を添加し,他方の部分には2,6mM NaH?PO?を添加した。2つの異なる溶液を50mlガラスビンにプールし,2つの異なる濃度のNaH?PO?を含む各群のビンにおいてpHを6.8,7.0,7.2,7.4,7.6,7.8,8.0および8.2に調整した。24時間後に粒子の量を測定した。
付属の図面1A〜1Cにおいて,1.3mMリン酸塩を含む溶液に関 92 するこの測定からの結果を示す。付属の図面2A〜2Bでは,2.6mMリン酸塩を含む溶液に関するこの測定からの結果を示す。
図面から明らかなように,1.3mMのリン酸塩濃度を有する即時使用溶液のpHは,7.6またはそれより下,好ましくは7.4またはそれより下であるべきである。2.6mMのリン酸塩濃度を有する即時使用溶液では,pHは,7.4またはそれより下,好ましくは7.2またはそれより下であるべきである。粒子形成は,通常は最初に非常に小さなサイズで認められ,その後凝集してより大きな粒子を形成する。選択された7.4および7.6のpH上限はそれぞれ,絶対値ではなく粒子プロフィールの変化に基づく。測定したすべての粒子サイズを評価に含め,より大きな粒子の形成に先立つ小さな粒子にいくぶん重点を置いた。(12頁2行〜27行,訳文10頁〜11頁) 」 「実施例3 粒子の形成を最小限に保つために即時使用溶液のリン酸塩濃度の最適上限を見出すことを目指して,表8に従った以下の対の単一溶液を調製した。第一単一溶液と第二単一溶液との体積関係は1:20であった。
… 第一と第二の単一溶液を混合し,5つの異なる部分に分けて,リン酸塩を以下の濃度:2.6,2.8,3.0,3.5および4.0で添加した。pHを7.6に調整し,混合の0時間後および24時間後に粒子の量を測定した。
結果を図3A〜Cに示しており,図面から,溶液が2.8mM以下のリン酸濃度および7.6のpHで24時間安定であると結論づけることができた。
したがって,最終的な即時使用溶液中1.0〜2.8のリン酸塩濃度および6.5〜7.6のpHを有することにより,滅菌で安定なリン酸 93 塩含有医療溶液を提供することができた。(13頁2行〜19行,訳文 」 11頁) 「実施例4 表9〜11に従って,以下の対の単一溶液を調製した。これらは,本 発明の種々の実施形態を構成するものである。これら溶液対における, 第一単一溶液と第二単一溶液との体積比は,20:1である。したがっ て,今回,第二単一溶液の体積は小さく,第一単一溶液の体積はより大 きい。(13頁22行〜26行,訳文12頁) 」 「実施例5 表12に従って,以下の対の単一溶液を調製した。これは,本発明 の1つの実施形態を構成する。この対における第一単一溶液と第二単一 溶液との体積比は,1:20である。(17頁3行〜6行,訳文14頁) 」 (ケ) 「本明細書で述べる現在好ましい実施形態への様々な変更および修 正は当業者に明らかであることが理解されるべきである。そのような変 更および修正は,本発明の精神および範囲から逸脱することなくおよび その付随する利点を減じることなく実施することができる。それゆえ, そのような変更および修正は付属の特許請求の範囲に含まれることが意 図されている。(17頁16行〜21行,訳文15頁) 」イ 前記アの記載事項によれば,甲3には,以下の開示があるものと認めら れる。
(ア) 急性腎不全に罹患している患者に適応となる治療法は,数週間を通 しての持続的腎機能代替療法(CRRT)であり,血液濾過が用いられ るが,かなりの量の液体を血流から取り除き,置換液を大量に患者に返 還しなければならず,血清リンレベルが正常な患者からリンを効率的に 除去してしまう結果,定期的な週3回の血液透析治療を受けている患者 よりも高い頻度で,低リン血症が起こり得る(前記ア(イ))。
94 低リン血症は,主に経口及び静脈内経路によるリンの投与によって予 防,治療されるが,全体的なリン欠乏の厳密な程度を測定することは不 可能であり,患者に投与すべきリンの正確な量を決定することは難しい ため,経口及び静脈内経路によるリンの投与は極めて慎重に実施しなけ ればならないが,一方で,医療溶液にリンを導入する場合,沈殿する様々 なリン酸カルシウムの形成の問題があり,リン酸カルシウムの溶解度は, カルシウム及びリン酸塩の濃度にそれぞれ依存し,さらには他の電解質 の存在,温度及びpHにも依存し,生理的pHに等しいpH値を有する 生理溶液では,リン酸カルシウムの沈殿の危険性が高くなるという問題 があり,また,これらの液剤の多くは,2年に渡る長期保存の間安定で なければならないという問題もある(前記ア(イ))。
(イ) 「本発明」の目的の1つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及 び使用の間に渡り良好な安定性を保証する「医療溶液」 (血液透析,血液 透析濾過,血液濾過及び腹膜透析用の透析液,腎疾患集中治療室内での 透析用の溶液,通常は緩衝物質を含む置換液又は輸液,並びに栄養目的 のための溶液)を提供することである(前記ア(ウ),(エ))。
「本発明」の発明者らは,特定の環境,濃度,pH範囲及びパッケー ジングにおいて,滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を提供できること を見出した(前記ア(カ))。粒子形成の問題を生じさせる主要な成分は, 炭酸塩及び/又はリン酸塩のいずれかと組み合わせたカルシウムイオン であるが,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンは,特定のpH範 囲等の如き一定の条件下では,重炭酸塩と共に保持し得るものであり, さらに,一定の条件下では,リン酸塩とも一緒に保持することができる (前記ア(カ))。
そして, 「本発明」は,上記課題を解決するため, 「即時使用溶液」 (必 要とされる異なる「単一溶液」 (使用の直前まで他の溶液から分離して保 95 持される1つの溶液)を含み,即時使用できる溶液)が,1.0〜2. 8mMの濃度(無機リン濃度に換算すると「3.1〜8.7mg/dL」) のリン酸塩を含み,滅菌され,かつ6.5〜7.6のpHを有するとい う構成を採用した(前記ア(ウ),(エ))。
上記構成により, 「本発明」は,良好な安定性及び良好な生体適合性を 保証するという効果を奏する(前記ア(キ))。
(ウ) ナトリウムイオン,塩素イオン,カルシウムイオン,マグネシウム イオン,炭酸水素イオン及び炭酸イオンを含む「本発明」の実施例2の 即時使用溶液において,混合した溶液を2つの部分に分け,一方の部分 には1,3mM NaH?PO?を添加し,他方の部分には2,6mM N aH?PO?を添加し,pHを6.8,7.0,7.2,7.4,7.6, 7.8,8.0及び8.2に調整して,24時間後に粒子の量を測定し た結果,1.3mMのリン酸塩濃度を有する即時使用溶液のpHは,7. 6又はそれより下,好ましくは7.4又はそれより下であるべきであり, 2.6mMのリン酸塩濃度を有する即時使用溶液では,pHは,7.4 又はそれより下,好ましくは7.2又はそれより下であるべきであると 結論づけられた(前記ア(ク))。
また,ナトリウムイオン,塩素イオン,カルシウムイオン,マグネシ ウムイオン,炭酸水素イオン及び炭酸イオンを含む「本発明」の実施例 3の即時使用溶液を,5つの異なる部分に分け,リン酸塩を2.6mM, 2.8mM,3.0mM,3.5mM及び4.0mMで添加し,pHを 7.6に調整して,混合の0時間後及び24時間後に粒子の量を測定し た結果,溶液が2.8mM以下のリン酸濃度及び7.6のpHで24時 間安定であった(前記ア(ク))。
(エ) 「本発明」の実施例4(表9)は,ナトリウムイオン,塩素イオン, 炭酸水素イオン,カリウムイオン及びリン酸イオンを含む第一単一溶液 96 と,カルシウムイオン,マグネシウムイオン,塩素イオン,グルコース (ブドウ糖)を含む第二単一溶液からなり,第一単一溶液及び第二単一 溶液のいずれもが酢酸イオンを含有せず,第一単一溶液と第二単一溶液 を混合した即時使用溶液において, 「K?」 (カリウムイオン濃度) 「4. が 0mM」 (4.0mEq/L)「HPO???」 , (リン酸イオン濃度)が「1. 20mM」(無機リン濃度3.72mg/dL)「Ca??」 , (カルシウム イオン濃度)が「1.25mM」(2.50mEq/L)「Mg??」 , (マ グネシウムイオン濃度)が「0.6mM」 (1.2mEq/L)「HCO , ??」(炭酸水素イオン濃度)が「30.0mM」(30.0mEq/L) である用時混合型の医療溶液である(前記ア(ク))。
ウ 前記ア及びイの記載事項を総合すれば,甲3には,実施例4に基づいて 特定される引用発明2-2-1’が記載されていることが認められる。
エ(ア) この点に関し,被告らは,引用発明2-2-1’の第一単一溶液と 第二単一溶液とを体積比20:1で混合した場合の各イオンの濃度の値 は,ナトリウムイオンが140.3mM,カルシウムイオンが1.19 mM,塩素イオンが115.8mM,炭酸水素イオンが33.1mM, グルコースが4.76mMであり,引用発明2-2-1’で定められた 濃度(ナトリウムイオンが140.0mM,カルシウムイオンが1.2 5mM,塩素イオンが115.9mM,炭酸水素イオンが30.0mM, グルコースが5.00mM)と異なるのであるから,引用発明2-2- 1’ 発明として実施することができないものであり, は, かかる発明は, そもそも引用発明として適格性を欠くものである旨主張する。
しかしながら,甲3の実施例4の表9では,混合した即時使用溶液の 組成・濃度が明記されているのであるから,その濃度を「混合した即時 使用溶液の組成・濃度」として捉えるのが自然な理解である。そして, 第一単一溶液および第二単一溶液の濃度の記載が混合した即時使用溶 97 液の濃度の記載と多少整合しないからといって,そのことをもって,発 明として実施することができず,引用発明として適格性を欠くというこ とはできない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
(イ) また,被告らは,甲3の実施例4は,現在形を用いた文章で記述さ れていることからすると,単なる仮想実施例として記載された発明にす ぎず(米国特許審査便覧608.01(P1)),発明の効果も示され ていないから,甲3の記載から具体的な技術的思想を抽出することがで きず,引用発明2-2-1’は,引用発明としての適格性を欠く旨主張 する。
しかしながら,甲3には,実施例4について,冒頭に「表9〜11に 従って,以下の対の単一溶液を調製した。」との記載があることに照ら すと,実施例4が,全体として「現在形」で記載されているものとは認 められない。
また,甲3の記載から,実施例4の医療溶液は,具体的な組成が特定 された用時混合型の医療溶液であることを理解することができるから, 引用発明2-2-1’は,甲3の記載から,抽出し得る具体的な技術的 思想であると認められる。もっとも,甲3には,実施例4の医療溶液に 関し,混合液を調製後も一定時間にわたり安定な医療溶液であることを 確認した実験結果の記載はないが,このことは,引用発明2-2-1’ が甲3の記載から抽出し得る具体的な技術的思想であるとの上記認定 を左右するものではない。
したがって,被告らの上記主張も採用することができない。
? 本件優先日当時の技術常識及び周知技術について ア 甲7の開示事項について 甲7(「急性血液浄化法徹底ガイド 新装版」2007年(平成19年) 98 8月17日発行)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「表1」については別紙3を参照)。
(ア) 「透析液の組成は,患者の病態に応じて調整されるのが理想であり, 市販製剤の組成での治療に適さない患者も少なくありません。特に導入 期や急性血液浄化では,患者の病態に合わせたきめ細かな透析液の処方 を要することが多く,透析液や補充液の組成と使用上の注意を理解して おくことは,極めて重要です。(36頁上段左欄1行〜右欄4行) 」(イ) 「血液-透析液間の物質移動は,拡散現象(diffusion) を原理としているため,透析液と血液の濃度差が大きい物質ほど移動速 度(除去速度)は速くなります。体内分布スペースが広く,またより積 極的に除去すべき物質は,その濃度差を大きくするために透析液中に含 まないのが原則ですが,極めて狭い範囲で血中濃度を維持することが要 求される電解質は,透析液の成分として一定の濃度が設定されています。
表1に,現在市販されている主な透析液の組成を示します。(36頁下 」 段左欄1行〜11行)(ウ) 「1.ナトリウム(Na) …現在では,血清Na値の正常値に相当する140〜143mEq/ Lの正Na透析液が主流となっています。(36頁下段左欄12行,右 」 欄1行〜3行)(エ) 「2.カリウム(K) 7mEq/Lを超える高K血症は緊急的な処置を要する重篤な病態で あり,血液透析が最も安全かつ迅速な治療法といえます。…市販透析液 のK濃度は2.0〜2.5mEq/Lとして血清K値との差を維持しな がら,Kの過剰除去を防いでいます。(36頁下段右欄4行〜14行) 」(オ) 「3.カルシウム(Ca) …現在は2.5〜3.0mEq/Lの透析液が多く使用されています。」 99 (36頁下段右欄20行,37頁左欄3行〜右欄1行) (カ) 「4.マグネシウム(Mg) …市販透析液のMg濃度は1.0〜1.5mEq/Lの設定となって います。(38頁上段左欄2行,5行〜6行) 」 (キ) 「6.アルカリ化剤」 …代謝性アシドーシスの状態にある腎不全患者では,蓄積したH?を緩 衝するバッファーとしてHCO??を補充する必要があります。このため NaHCO?をアルカリ化剤とした重炭酸透析液が広く用いられていま す。現在市販されている透析液HCO??濃度は30mEq/L前後に設 定され,拡散により透析液から血中へHCO??が補給されます。(38 」 頁上段右欄5行〜13行) (ク) 「血液濾過(透析)用の補充液は細胞外液に類似した組成を有し, 透析液とほぼ同じ組成,濃度といえます。現在市販されている補充液を 表1に示します。(40頁上段左欄1行〜4行) 」 (ケ) 表1には,市販の透析液及び補充液の組成として,例えば, 「AK- ソリタFL」 味の素) カルシウムイオン濃度が ( は, 「2.5mEq/L」, マグネシウムイオン濃度が「1.0mEq/L」,炭酸水素イオン濃度が 「27.5mEq/L」であることが,「リンパック(ニプロ)」は,カ ルシウムイオン濃度が「2.5mEq/L」,マグネシウムイオン濃度が 「1.0mEq/L」,炭酸水素イオン濃度が「28.0mEq/L」で あることが,「サブラッドB(扶桑薬品工業)」は,カルシウムイオン濃 度が「3.5mEq/L」,マグネシウムイオン濃度が「1.0mEq/ L」,炭酸水素イオン濃度が「35.0mEq/L」であることが示され ている。
イ 透析液及び補充液の組成に係る技術常識又は周知技術 前記アの記載事項を総合すれば,本件優先日当時,@市販されている透 100 析液及び補充液は, 「急性血液浄化」のための血液濾過(透析)用に使用さ れ得ること,A市販されている透析液及び補充液の組成は,ナトリウムイ オン,カリウムイオン,カルシウムイオン,マグネシウムイオン,炭酸水 素イオンを含むものであり,これらの電解質は,極めて狭い範囲で血中濃 度を維持することが求められるため,一定の濃度が設定されていること, B市販されている透析液及び補充液において,ナトリウムイオン濃度を「1 40〜143mEq/L」,カルシウムイオン濃度を「2.5〜3.5mE q/L」,マグネシウムイオン濃度を「1.0〜1.5mEq/L」,炭酸 水素イオン濃度を「30mEq/L」前後の範囲の中で調整することは, 技術常識又は周知であったものと認められる。
? 相違点の容易想到性について ア 相違点(甲3-3-b”)について (ア) 甲3には,引用発明2-2-1’ (実施例4記載の用時混合型の医療 溶液)が「血液浄化用薬液」であることを明示した記載はない。
一方で,甲3には,前記(1)イ(イ)認定のとおり, 「本発明」の目的の1 つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り良好な安 定性を保証する「医療溶液」 (血液透析,血液透析濾過,血液濾過及び腹 膜透析用の透析液,腎疾患集中治療室内での透析用の溶液,通常は緩衝 物質を含む置換液又は輸液,並びに栄養目的のための溶液)を提供する ことにあることの開示がある。この「医療溶液」中の「腎疾患集中治療 室内での透析用の溶液」とは,救急・集中治療領域において,急性腎不 全の患者に対して行う持続的な血液浄化のための透析用の溶液を含むこ とは自明である。
また,甲3には,前記?イ(ア)及び(イ)認定のとおり,@急性腎不全に 罹患している患者に適応となる治療法は,数週間を通しての持続的腎機 能代替療法(CRRT)であり,血液濾過が用いられるが,血清リンレ 101 ベルが正常な患者からリンを効率的に除去してしまう結果,定期的な週3回の血液透析治療を受けている患者よりも高い頻度で,低リン血症が起こり得るものであること,A低リン血症は,リンの投与によって予防,治療されるが,医療溶液にリンを導入する場合,沈殿する様々なリン酸カルシウムの形成の問題があり,生理的pHに等しいpH値を有する生理溶液では,リン酸カルシウムの沈殿の危険性が高くなるという問題があること,B「本発明」の発明者らは,特定のpH範囲等の如き一定の条件下では,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンを重炭酸塩及びリン酸塩重炭酸塩と共に保持し得ることができ,滅菌の安定なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したことの開示があることからすると, 「本発明」の実施例である引用発明2-2-1’ 「医療溶液」 の は,急性腎不全に罹患している患者に適応し得るものと理解できる。
以上の点に照らすと,甲3に接した当業者においては,甲3記載の実施例4(引用発明2-2-1’)において,当該「医療溶液」を「血液浄化用薬液」にすることを試みる動機付けがあるものと認められる。
したがって,当業者は,引用発明2-2-1’において,相違点(甲3-3-b” に係る本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到す )ることができたものと認められる。
これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(イ) これに対し被告らは,引用発明2-2-1’は,単なる「医療溶液」 にすぎず,これを「血液浄化用薬液」として使用することができると解 すべき技術常識は存在しないことなどからすると,甲3に「医療溶液」 として記載された引用発明2-2-1’を「血液浄化用薬液」とするこ とは,当業者が容易に想到し得たことではない旨主張する。
しかしながら,前記(ア)のとおり,甲3の記載事項に照らすと,当業 者は,引用発明2-2-1’において,相違点(甲3-3-b’’)に係る 102 本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到することができたもの と認められるから,被告らの上記主張は採用することができない。
イ 相違点(甲3-3-d”)について (ア) 引用発明2-2-1’ (実施例4記載の用時混合型の医療溶液)にお ける第一単一溶液と第二単一溶液を混合した即時使用溶液の各成分の イオン濃度は, 「K?」 (カリウムイオン濃度)が「4.0mM」 (4.0 mEq/L)「HPO???」 , (リン酸イオン濃度)が「1.20mM」 (無 機リン濃度3.72mg/dL)「Ca??」 , (カルシウムイオン濃度) が「1.25mM」 (2.50mEq/L)「Mg??」 , (マグネシウムイ オン濃度)が「0.6mM」 (1.2mEq/L)「HCO??」 , (炭酸水 素イオン濃度)が「30.0mM」(30.0mEq/L)である。
一方,前記?イ(イ)の認定事実によれば,甲3には,@「本発明」の 目的の1つは,滅菌されかつ沈殿物を含まず,保存及び使用の間に渡り 良好な安定性を保証する「医療溶液」を提供することにあること, 「本 A 発明」の発明者らは,カルシウムイオン及びマグネシウムイオンは,特 定のpH範囲等の如き一定の条件下では,重炭酸塩と共に保持し得るも のであり,一定の条件下では,リン酸塩とも一緒に保持することができ, 特定の環境,濃度,pH範囲及びパッケージングにおいて,滅菌の安定 なリン酸塩含有医療溶液を提供できることを見出したこと, 「本発明」 B は,上記課題を解決するため, 「即時使用溶液」が,1.0〜2.8mM の濃度(無機リン濃度に換算すると「3.1〜8.7mg/dL」)のリ ン酸塩を含み,滅菌され,かつ6.5〜7.6のpHを有するという構 成を採用したことの開示があることが認められる。
加えて,甲3には,C「本明細書で述べる現在好ましい実施形態への 様々な変更および修正は当業者に明らかであることが理解されるべきで ある。そのような変更および修正は,本発明の精神および範囲から逸脱 103 することなくおよびその付随する利点を減じることなく実施することが できる。(前記(1)ア(ケ))との記載があることに照らすと,甲3に接し 」 た当業者は,引用発明2-2-1’における上記即時使用溶液の各成分 のイオン濃度を最適なものに変更し得るものと理解するものといえる。
しかるところ,前記(2)イ認定のとおり,本件優先日当時,「急性血液 浄化」のための血液濾過(透析)用に使用され得る,市販されている透 析液及び補充液において,カルシウムイオン濃度を「2.5〜3.5m Eq/L」,マグネシウムイオン濃度を「1.0〜1.5mEq/L」, 炭酸水素イオン濃度を「30mEq/L」前後の範囲の中で調整するこ とは,技術常識又は周知であったものである。
そして,上記技術常識又は周知技術を踏まえると,引用発明2-2- 1’における上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度(「1.2mE q/L」を市販されている透析液及び補充液の数値範囲の中で調整する ) ことは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。
そうすると,甲3に接した当業者は,引用発明2-2-1’における 上記即時使用溶液のマグネシウムイオン濃度を市販されている透析液及 び補充液の上記数値範囲内の「1.0mEq/L」 (相違点(甲3-3- d” に係る本件訂正発明12の構成) ) にすることを容易に想到すること ができたものと認められる。
したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(イ) これに対し被告らは,@不溶性微粒子の形成を抑制する溶液を実現 するためには,リン酸塩の濃度のみならず,溶液に含まれる他の成分及 び各イオン濃度の組合せが調整される必要があるから,これらの組合せ が1個の不可分のまとまりのある技術事項となるところ,本件訂正発明 12は,配合及び混合液の各成分の濃度が所定の組合せであることによ って,混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性炭酸塩の生成 104 を抑制することができる用時混合型急性血液浄化用薬液を実現したものであるから,混合液の各成分の濃度は,成分ごとに区々別々に対比するのではなく,各成分の濃度の組合せを一つの単位として認定して,引用発明2-2-1’と対比するのが相当である,A引用発明2-2-1’は,「所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制される,混合時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」であり,本件訂正発明12とは,技術的意義を異にする発明であるから,各成分の濃度の相違は,設計事項となるものではなく,また,引用発明2-2-1’に基づき,その各成分の濃度を変更して本件訂正発明12に到達しようとする動機付けは,そもそも観念できない,B引用発明2-2-1’は,低リン血症を防止するとともに粒子の形成を抑制する旨の課題に対し,所定の配合及び各成分の濃度を定めるとともに,「溶液混合時のpHの範囲を定めることにより」既に上記課題を解決しているものであるから,引用発明2-2-1’に接した当業者が,上記課題を解決するために引用発明2-2-1’の各成分の濃度を変更する動機付けもない,C一定の濃度の範囲内で各成分の濃度を適宜に変動することができるのは,あくまで,「一般の透析液・補充液」限りのものであって,これは,リン酸塩を含む溶液に妥当するものではないなどとして,当業者は,引用発明2-2-1’において,相違点(甲3-3-d”)に係る本件訂正発明12の構成(マグネシウムイオン濃度を「1.0mEq/L」)とすることを容易に想到し得たものではない旨主張する。
しかしながら,前記(ア)のとおり,甲3に接した当業者においては,甲3記載の実施例4(引用発明2-2-1’)において,マグネシウムイオン濃度を市販されている透析液及び補充液の数値範囲の中で調整することは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。
そうすると,当業者は,引用発明2において,相違点(甲3-3-d”) 105 に係る本件訂正発明12の構成とすることを容易に想到することができ たものと認められる。このことは,混合液の各成分の濃度の組合せをひ とまとまりの相違点と認定した場合であっても同様である。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
ウ 相違点(甲3-3-a”)について (ア) 本件訂正発明12の特許請求の範囲(請求項12)の記載中には, 本件訂正発明12の「当該薬液調製後少なくとも27時間にわたって不 溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」との構成の意義を規定し た記載はない。
次に,本件明細書(甲11)には, 「時間の経過と共に補充液中のカル シウムイオンおよびマグネシウムイオンと炭酸水素イオンが反応し,不 溶性の炭酸塩の微粒子や沈殿が生じる」こと(【0007】, )「当該薬液 中には,カルシウムイオンやマグネシウムイオンが存在するにも拘わら ず,リン酸イオンを含有させても不溶性のリン酸塩を生じない。また, リン酸イオンの存在により,炭酸水素イオンとカルシウムイオンやマグ ネシウムイオンが共存し,pHが7.5を超えるような長時間後であっ ても,不溶性炭酸塩の生成が抑制される」こと(【0023】, )「不溶性 微粒子や沈澱の生成が長時間にわたって抑制される」とは,投与対象に 適用すべき最終薬液の調製後,たとえば上記A液とB液の混合後,少な くとも27時間にわたり不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されること, またはpHが7.5以上になっても不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制さ れること」を意味すること(【0057】)の記載がある。
また,本件明細書には,本件訂正発明12に規定するオルトリン酸の 濃度の範囲内である「リン酸イオン濃度が4.0mg/dL」の薬液と 「リン酸イオンを含有しない薬液」との対比実験を行ったところ, 「7日 間でpHが7.23〜7.29から7.89〜7.94までほぼ直線的 106 に上昇し,その間にリン酸イオン不含有薬液では不溶性微粒子の粒径も 数も顕著に増加したが,リン酸イオン含有薬液ではpHの上昇にもかか わらず,不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった。 ( 」 【008 8】)との記載があり,この記載は,本件訂正発明12に規定するオルト リン酸の濃度の範囲内である「リン酸イオン濃度が4.0mg/dL」 の薬液では, 「7日間」にわたって「リン酸イオン含有薬液ではpHの上 昇にもかかわらず,不溶性微粒子の増加は実質的に認められなかった」 ことを示すものである。もっとも,本件明細書には,本件訂正発明12 の「用時混合型血液浄化用薬液」が「27時間」にわたって不溶性微粒 子や沈殿の形成が実質的に抑制されたことを明示した記載はない。
以上の本件訂正発明12の特許請求の範囲(請求項12)の記載及び 本件明細書の記載を総合すると,本件訂正発明12の「そして当該薬液 調製後少なくとも27時間にわたって不溶性微粒子や沈殿の形成が実質 的に抑制され」との構成は,本件訂正発明12のA液及びB液の成分組 成及びそれらのイオン濃度を請求項12に記載されたものに特定するこ とによって実現されるものと理解できる。
(イ) そして,前記ア及びイのとおり,甲3に接した当業者は,引用発明 2-2-1’において, 「血液浄化用薬液」として使用すること(相違点 (甲3-3-b” に係る本件訂正発明12の構成) ) 及びマグネシウムイ オン濃度を本件訂正発明12の濃度とすること(相違点(甲3-3-d”) に係る本件訂正発明12の構成)を容易に想到することができたもので ある。
加えて,引用発明2-2-1’のカリウムイオン濃度と本件訂正発明 12のカリウムイオン濃度は「4.0mM」(4.0mEq/L),引用 発明2-2-1’の炭酸水素イオン濃度と本件訂正発明12の炭酸水素 イオン濃度は「30.0mEq/L」であって,いずれも一致する。
107 以上によれば,本件訂正発明12の「少なくとも27時間にわたって 不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制される」という構成は,引用 発明2-2-1’において,相違点(甲3-3-b”)及び(甲3-3- d” に係る本件訂正発明12の構成とした場合に, ) 自ずと備えるものと 認められる。
したがって,引用発明2-2-1’において,相違点(甲3-3-a”) に係る本件訂正発明12の構成とすることは,当業者が容易に想到する ことができたものと認められる。
したがって,これと異なる本件審決の判断は,誤りである。
(ウ) これに対し被告らは,引用発明2-2-1’は,「所定のリン酸塩 の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制される,混合時の即時使用 溶液のpHの範囲を特定した発明」にすぎず,24時間を超える長時間 の経過によるpHの上昇は,全く想定されていないこと,粒子の形成が 24時間抑制されれば,pHの上昇にかかわらず,少なくとも27時間 にわたって,不溶性微粒子や沈澱の生成が抑制されるとする技術常識は ないことからすると,引用発明2-2-1’には,同発明から,混合後 長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈澱の生成を抑制 することができる血液浄化用薬液を想到する基礎がないから,相違点(甲 3-3-a”)に係る本件訂正発明12の構成は,引用発明2-2-1’ に基づいて容易に想到し得たものではない旨主張する。
しかしながら,前記(ア)及び(イ)で説示したとおり,引用発明2-2- 1’において,相違点(甲3-3-a”)に係る本件訂正発明12の構成 とすることは容易に想到することができたものと認められるから,被告 らの上記主張は採用することができない。
? 本件訂正発明12の顕著な効果について 被告らは,@本件訂正発明12は, 「混合後長時間が経過してpHが上昇し 108 ても,不溶性微粒子や沈殿の生成が抑制することができる用時混合型急性血液浄化用薬液」を実現した発明であるのに対し,引用発明2-2-1’は,「所定のリン酸塩の濃度に対し,粒子の形成が24時間内抑制される,混合時の即時使用溶液のpHの範囲を特定した発明」にすぎず,また,用時混合型急性血液浄化用薬液の技術分野では,本件優先日当時,所定の配合により,混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑制することができる旨の技術常識はなかったことからすると,本件明細書の【0088】に係る「混合後長時間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑制することができる」という本件訂正発明12の効果は,引用発明2-2-1’に比して,質的に差のある当業者が予測できない格別の効果である,A被告らが,本件明細書記載の実施例2の検体と甲3記載の実施例4(表9)の検体について行った不溶性微粒子の形成の対比試験の結果(甲20の参考資料3)によると,両検体のpHは,混合後,同様の上昇推移を経て,54時間経過後に約8.7まで上昇したところ,本件明細書記載の実施例2の検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過時に8個,54時間経過時に12個形成されるにとどまり,25μmの微粒子が,混合後54時間経過時でも1個形成されるにとどまったのに対し,甲3の実施例4(表9)の検体では,10μmの微粒子が,混合後27時間経過時に17個,54時間経過時に78個も形成され,25μmの微粒子が,混合後54時間経過時には5個も形成されていたことからすると,混合後長時 「間が経過してpHが上昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑制することができる」という本件訂正発明12の効果は,甲3の記載から予測できない格別の効果であるのみならず,引用発明2-2-1’の配合や各成分の濃度では実現することができない,当業者の予測を超えた顕著な効果である旨主張する。
そこで検討するに,被告らが主張する「混合後長時間が経過してpHが上 109 昇しても,不溶性微粒子や沈殿の生成を抑制することができる」という本件 訂正発明12の効果は,当該薬液調整後少なくとも27時間にわたってpH 「 7.5以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」ること(【0 057】に相当する効果であるものと認められる。
) 一方で,本件明細書には, 本件訂正発明12の成分組成及びイオン濃度を有する用時混合型急性血液浄 化用薬液において, 「混合後27時間経過時」及び「54時間経過時」のpH の推移,微粒子の形成状況について明示した記載はないから,上記対比試験 の結果(甲20の参考資料3)に基づく効果は,本件明細書に記載された本 件訂正発明12の効果であるとは認められない。
そして,上記「当該薬液調整後少なくとも27時間にわたってpH7.5 以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」るという効果は, 前記(3)ウで説示したところと同様に,引用発明2-2-1’において,相違 点(甲3-3-b”)及び(甲3-3-d”)に係る構成とした場合に,自ず と備えるものと認められるから,当業者の予測を超えた顕著な効果であると いうことはできない。
したがって,被告らの上記主張は採用することができない。
? 小括 以上によれば,本件訂正発明12は,甲3記載の引用発明2-2-1’に 基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから, これと異なる本件審決の判断は誤りである。
したがって,原告主張の取消事由2-1-1は理由がある。
3 取消事由2-1-2(甲3を主引用例(実施例4の記載に基づくもの)とす る本件訂正発明13及び14の進歩性の判断の誤り)(請求人無効理由3-2 関係)について (1) 本件訂正発明13について ア 相違点(甲3-3-a”, )(甲3-3-b”)及び(甲3-3-d”)の容 110 易想到性について 本件審決における相違点(甲3-3-a”, )(甲3-3-b”)及び(甲 3-3-d”)の容易想到性の判断に誤りがあることは,前記2(3)アない しウで説示したとおりである。
イ 相違点(甲3-3-e”)の容易想到性について (ア) 引用発明2-2-1’ (実施例4記載の用時混合型の医療溶液)にお ける第一単一溶液と第二単一溶液を混合した即時使用溶液の各成分のイ オン濃度は,「K?」(カリウムイオン濃度)が「4.0mM」(4.0m Eq/L)「HPO???」 , (リン酸イオン濃度)が「1.20mM」 (無機 リン濃度3.72mg/dL) Ca??」カルシウムイオン濃度)「1. 「 , ( が 25mM」 (2.50mEq/L)「Mg??」 , (マグネシウムイオン濃度) が「0.6mM」(1.2mEq/L)「HCO??」 , (炭酸水素イオン濃 度)が「30.0mM」(30.0mEq/L)である。
そして,前記2(3)イ(ア)記載のとおり,甲3に接した当業者は,引用 発明2-2-1’ (実施例4記載の用時混合型の医療溶液)における上記 即時使用溶液の各成分のイオン濃度を最適なものに変更し得るものと理 解するものといえる。
しかるところ,前記2(2)イ認定のとおり,本件優先日当時,「急性血 液浄化」のための血液濾過(透析)用に使用され得る,市販されている 透析液及び補充液において,カルシウムイオン濃度を「2.5〜3.5 mEq/L」 マグネシウムイオン濃度を , 「1.0〜1.5mEq/L」, 炭酸水素イオン濃度を「30mEq/L」前後の範囲の中で調整するこ とは,技術常識又は周知であったものである。
そして,上記技術常識又は周知技術を踏まえると,引用発明2-2- 1’における上記即時使用溶液の炭酸水素イオン濃度(「30.0mEq /L」を市販されている透析液及び補充液の数値範囲の中で調整するこ ) 111 とは,当業者が適宜選択し得る設計事項であるものと認められる。
そうすると,甲3に接した当業者は,引用発明2-2-1’における 上記即時使用溶液の炭酸水素イオン濃度を市販されている透析液及び補 充液の上記数値範囲内の「32.0mEq/L」 (相違点(甲3-3-e”) に係る本件訂正発明12の構成)にすることを容易に想到することがで きたものと認められる。
これに反する被告らの主張は,前記2(3)イ(イ)のとおり,採用するこ とができない。
(イ) 以上によれば,本件審決における相違点(甲3-3-e”)の容易想 到性の判断に誤りがある。
ウ 本件訂正発明13の顕著な効果について 前記2(4)で説示したところと同様の理由により,本件訂正発明13に当 業者の予測を超えた顕著な効果がある旨の被告らの主張は採用すること ができない。
エ まとめ 以上によれば,本件訂正発明13は,甲3記載の引用発明2-2-1’ に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められるか ら,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(2) 本件訂正発明14について ア 相違点(甲3-3-b”, )(甲3-3-d”)及び(甲3-3-e”)の容 易想到性について 本件審決における相違点(甲3-3-b”, )(甲3-3-d”)及び(甲 3-3-e”)の容易想到性の判断に誤りがあることは,前記2(3)ア及び イ並びに前記(1)イで説示したとおりである。
イ 相違点(甲3-3-a’’’)の容易想到性について (ア) 相違点(甲3-3-a’’’)に係る本件訂正発明14の構成は,相違点 112 (甲3-3-a”)に「pH7.5以上でも」の要件を付加し, 「当該薬 液調製後少なくとも27時間にわたってpH7.5以上でも不溶性微粒 子や沈澱の形成が実質的に抑制され」るとの発明特定事項としたもので ある。
しかるところ,前記2(3)ウ(ア)及び(4)で説示したところと同様の理由 により,本件訂正発明14の特許請求の範囲(請求項14)の記載及び 本件明細書の記載を総合すると,本件訂正発明14の「当該薬液調製後 少なくとも27時間にわたってpH7.5以上でも不溶性微粒子や沈殿 の形成が実質的に抑制され」との構成は,本件訂正発明14のA液及び B液の成分組成及びそれらのイオン濃度を請求項14に記載されたも のに特定することによって実現されるものと理解できる。
そして,前記アのとおり,甲3に接した当業者は,引用発明2-2- 1’において, 「血液浄化用薬液」として使用すること(相違点(甲3- 3-b”)マグネシウムイオン濃度を本件訂正発明14の濃度とするこ ), と(相違点(甲3-3-d”)及び炭酸水素イオン濃度を本件訂正発明1 4の濃度とすること(相違点(甲3-3-e”)に係る本件訂正発明14 の構成)を容易に想到することができたものである。
以上によれば,相違点(甲3-3-a’’’)に係る本件訂正発明14の 構成は,引用発明2-2-1’において,相違点(甲3-3-b”, )(甲 3-3-d”)及び(甲3-3-e”)に係る本件訂正発明14の構成と した場合に,自ずと備えるものと認められる。
したがって,引用発明2-2-1’において,相違点(甲3-3-a’’’) に係る本件訂正発明14の構成とすることは,当業者が容易に想到する ことができたものと認められる。
これに反する被告らの主張は採用することができない。
(イ) 以上によれば,本件審決における相違点(甲3-3-a’’’)の容易想 113 到性の判断に誤りがある。
ウ 本件訂正発明14の顕著な効果について 被告らが主張する本件訂正発明14に係る当業者の予測を超えた顕著 な効果は,前記2(4)で説示したとおり,「当該薬液調整後少なくとも27 時間にわたってpH7.5以上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に 抑制され」ること(【0057】)に相当する効果であるものと認められ る。また,上記効果は,相違点(甲3-3-a’’’)に係る本件訂正発明1 4の構成(「当該薬液調製後少なくとも27時間にわたってpH7.5以 上でも不溶性微粒子や沈殿の形成が実質的に抑制され」との構成)と実質 的に同一であるものと認められる。
そして,前記イのとおり,引用発明2-2-1’において,相違点(甲 3-3-a’’’)に係る本件訂正発明14の構成とすることは,当業者が容 易に想到することができたものと認められるから,本件訂正発明14に当 業者の予測を超えた顕著な効果がある旨の被告らの主張は採用すること ができない。
エ まとめ 以上によれば,本件訂正発明14は,甲3記載の引用発明2-2-1’ に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものと認められるか ら,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(3) 小括 以上によれば,原告主張の取消事由2-1-2は理由がある。
4 取消事由2-1-3(甲3を主引用例(実施例4の記載に基づくもの)とす る本件訂正発明3ないし5,8ないし10の進歩性の判断の誤り)(請求人無 効理由3-2関係)について 本件訂正発明3と本件訂正発明12,本件訂正発明4と本件訂正発明13, 本件訂正発明5と本件訂正発明14は,それぞれ溶液の組成及び混合後の溶液 114 のイオン濃度が同一であって,本件訂正発明12ないし14が物の発明である のに対し,本件訂正発明3ないし5は,これを方法の発明として規定したもの である。また,本件訂正発明8と本件訂正発明12,本件訂正発明9と本件訂 正発明13,本件訂正発明10と本件訂正発明14は,それぞれ溶液の組成及 び混合後の溶液のイオン濃度が同一であって,本件訂正発明12ないし14が 物の発明であるのに対し,本件訂正発明8ないし10は,これを血液浄化用薬 液を製造する方法の発明として規定したものである。
そうすると,本件訂正発明3ないし5,8ないし10は,前記2及び3で説 示したところと同様の理由により,甲3記載の引用発明2-2-2’に基づい て,当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,これと異 なる本件審決の判断は誤りである。
以上によれば,原告主張の取消事由2-1-3は理由がある。
5 結論 以上によれば,原告主張の取消事由2-1-1ないし2-1-3は理由があ るから,その余の取消事由について判断するまでもなく,本件審決は取り消さ れるべきである。
よって,主文のとおり判決する。
追加
115 裁判官岡山忠広116 (別紙1)【図1】【表1】【表2】117 【表3】【表4】【表5】118 【表6】【表7】119 (別紙2)図1A図1B図1C120 図2A図2B図2C121 図3A図3B図3C122 表1(溶液1)第一単一溶液(塩基性部分)第二単一溶液(酸性部分)(mM)(mM)Na+1461.070.5Cl--113.6*Ca2+-1.8Mg2+-0.5HCO3-139.0-CO32-661.0-H2PO4---*塩化物イオンはNaCl,CaCl2,MgCl2およびHClとして添加した。
表2(溶液2)第一単一溶液(塩基性部分)第二単一溶液(酸性部分)(mM)(mM)Na+1487.070.5Cl--113.6*Ca2+-1.8Mg2+-0.5HCO3-139.0-CO32-661.0-H2PO4-26-*塩化物イオンはNaCl,CaCl2,MgCl2およびHClとして添加した。
123 表3(溶液3)第一単一溶液(塩基性部分)第二単一溶液(酸性部分)(mM)(mM)Na+1513.070.5Cl--113.6*Ca2+-1.8Mg2+-0.5HCO3-139.0-CO32-661.0-H2PO4-52-*塩化物イオンはNaCl,CaCl2,MgCl2およびHClとして添加した。
表4(溶液4)第一単一溶液(塩基性部分)第二単一溶液(酸性部分)(mM)(mM)Na+1461.071.8Cl--113.6*Ca2+-1.8Mg2+-0.5HCO3-139.0-CO32-661.0-H2PO4--1.3*塩化物イオンはNaCl,CaCl2,MgCl2およびHClとして添加した。
124 表5(溶液5)第一単一溶液(塩基性部分)第二単一溶液(酸性部分)(mM)(mM)Na+1461.073.1Cl--113.6*Ca2+-1.8Mg2+-0.5HCO3-139.0-CO32-661.0-H2PO4--2.6*塩化物イオンはNaCl,CaCl2,MgCl2およびHClとして添加した。
表6混合した即時使用溶液(mM)粒子数/mlNa+Cl-Ca2+Mg2+HCO3-CO32-H2PO4-2μm5μm10μm溶液1143.6108.01.70.56.933.0-1405913溶液2144.8108.01.70.56.933.01.375305溶液3146.2108.01.70.56.933.02.675295溶液4144.8108.01.70.56.933.01.21948416溶液5146.2108.01.70.56.933.02.51997211125 表7第一単一溶液第二単一溶液混合した(塩基性部分)(酸性部分)即時使用溶液(mM)(mM)(mM)Na+1461.070.5143.6Cl--113.6*108.0Ca2+-1.81.7Mg2+-0.50.5HCO3-139.0-6.9CO32-661.0-33.0*塩化物イオンはNaCl,CaCl2,MgCl2およびHClとして添加した。
表8第一単一溶液第二単一溶液混合した(塩基性部分)(酸性部分)即時使用溶液(mM)(mM)(mM)Na+1461.070.5143.6Cl--113.6*108.0Ca2+-1.81.7Mg2+-0.50.5HCO3-139.0-6.9CO32-661.0-33.0*塩化物イオンはNaCl,CaCl2,MgCl2およびHClとして添加した。
126 表9第一単一溶液第二単一溶液混合した(塩基性部分)(酸性部分)即時使用溶液(mM)(mM)(mM)Na+1)147.3140.0Ca2+25.01.25Mg2+12.00.6K+4.214.0Cl-2)114.374.0115.9HCO3-34.744)30.0乳酸塩0HPO42-3)1.261.20グルコース100.05.00HCl72.0pH7.7-8.21.3-1.67.0-7.61)ナトリウムは,NaCl,NaHCO3,およびNa2HPO4として添加する。
2)塩化物は,NaCl,KCl,CaCl2,MgCl2,およびHClとして添加する。
3)リン酸塩は,Na2HPO4として添加するが,2つの単一溶液を混合した後は,主としてHPO42-として存在する。しかし,H2PO4-およびPO33-も,これらのイオンの間の平衡により存在する。各々のイオンの濃度はpHに依存する。
4)一部の重炭酸塩は,混合の間にCO2に変換されるが故に溶液から出ていくので,重炭酸塩の量は過剰投与される。
127 表12第一単一溶液第二単一溶液混合した(塩基性部分)(酸性部分)即時使用溶液(mM)(mM)(mM)Na+1)125681,25140Ca2+1,321,25Mg2+0,630,6K+4,214Cl-2)121114,9HCO3-1326,6CO32-53826,9HPO42-3)241,2グルコース5,265,00(0,9g/l)HCl31,6pH10,31,57,251)ナトリウムは、NaCl、NaHCO3、Na2CO3、およびNa2HPO4として添加する。
2)塩化物は、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2、およびHClとして添加する。
3)リン酸塩は、Na2HPO4として添加するが、2つの単一溶液を混合した後は、主としてHPO42-として存在する。しかし、H2PO4-およびPO33-も、これらのイオンの間の平衡により存在する。各々のイオンの濃度はpHに依存する。
128 (別紙3)129
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 古河謙一
  • この表をプリントする