関連審決 | 無効2018-800054 |
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事件 |
令和
1年
(行ケ)
10083号
審決取消請求事件
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原告ネオケミア株式会社 同訴訟代理人弁護士 高橋淳 被告 株式会社メディオン・リサー チ・ラボラトリーズ 同訴訟代理人弁護士 山田威一郎 松本響子 柴田和彦 同訴訟代理人弁理士 田中順也 水谷馨也 迫田恭子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2020/02/18 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は,原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2018-800054号事件について令和元年5月7日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 被告は,平成10年10月5日,発明の名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする発明について特許出願をし(特願2000-520135。優先権主張:平成9年11月7日,日本),平成24年1月27日,設定の登録を受けた(特許第4912492号。甲84。請求項の数7。以下「本件特許」という。。 ) (2) 原告は,平成30年5月7日,これに対する無効審判を請求し,無効2018-800054号事件として係属した。 (3) 特許庁は,令和元年5月7日, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月17日,原告に送達された。 (4) 原告は,令和元年6月6日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし7の記載は,以下のとおりである(甲84)。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。。以下,各請求 )項に係る発明を「本件発明1」などという。 【請求項1】医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって,/1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;/2)酸及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,炭酸塩を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;又は/3)炭酸塩と酸を含有する複合顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ;/からなり,/含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,/含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。 【請求項2】得られる二酸化炭素含有粘性組成物が,二酸化炭素を5〜90容量%含有するものである,請求項1に記載のキット。 【請求項3】含水粘性組成物が,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させた後にメスシリンダーに入れたときの容量を100としたとき,2時間後において50以上の容量を保持できるものである,請求項1又は2に記載のキット。 【請求項4】含水粘性組成物がアルギン酸ナトリウムを2重量%以上含むものである,請求項1〜3のいずれかに記載のキット。 【請求項5】含有粘性組成物が水を87重量%以上含むものである,請求項1〜4のいずれかに記載のキット。 【請求項6】請求項1〜5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む医薬組成物。 【請求項7】請求項1〜5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む化粧料。 3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本件発明1ないし7は,下記引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて容易に発明することができたものであるとはいえない,などというものである。 引用例1:特開昭60-215606号公報(甲1) (2) 本件審決が認定した引用発明,本件発明1と引用発明との一致点及び相違点1は,次のとおりである。 ア 引用発明 平均分子量40万のポリビニルアルコール16部,平均分子量5万のポリビニルアルコール4部,1,3-ブチレングリコール8部,エタノール6部,カルボキシメチルセルロースナトリウム3部,亜鉛華4部,炭酸水素ナトリウム5部,香料0.3部,色素を微量及び水53.7部から製造したA剤と,/平均分子量40万のポリビニルアルコール16部,平均分子量5万のポリビニルアルコール5部,1,3-ブチレングリコール8部,エタノール5部,コラーゲン2部,酸化チタン2部,酒石酸5部,香料0.3部,色素を微量及び水56.8部から製造したB剤の組み合わせからなるパック剤であって,/使用時にA剤2重量部とB剤3重量部を混合することで,pHが6.2となるとともに,発生する炭酸ガスによる血行促進作用により,皮膚の血流を良くし皮膚にしっとり感を与えるパック剤 イ 一致点 医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって,/炭酸塩を含有する含水粘性組成物と,酸を含む剤の組み合わせからなり,/含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,/含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット ウ 相違点1 炭酸塩及び酸をそれぞれ含む組成物の構成について,本件発明1では,炭酸塩がアルギン酸ナトリウムとともに含水粘性組成物に含有され,酸が「顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤」に含有されるのに対し,引用発明では,炭酸塩がポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースナトリウムとともに含水粘性組成物に含有され,酸が含水粘性組成物に含有される点 4 取消事由 本件発明1の進歩性判断の誤り |
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取消事由に関する当事者の主張
〔原告の主張〕 1 アルギン酸ナトリウムに置換する動機付けについて アルギン酸ナトリウムは,安全な増粘剤として周知であった。難溶性のアルギン酸ナトリウムを水の存在下で増粘剤として利用する場合には,アルギン酸ナトリウム水溶液を利用することが慣用されており,化粧品の構成要素として用いる場合には,中性又は弱アルカリ性とすることが慣用されていた。 また,気泡状の二酸化炭素を効率的に発生・保持するとの本件発明1の課題は,化粧品に詳しい研究者と医薬品に詳しい研究者のチームである当業者にとって周知の課題であったところ,アルギン酸ナトリウムが起泡剤としても利用することができるものであり,発生した気泡状の二酸化炭素を閉じ込める効果を有することも周知であり,粘性を高めることにより気泡の安定性が増すこと,界面活性剤が気泡の発生・保持に効果的に作用することも技術常識であったから,引用発明にアルギン酸ナトリウムを適用する動機付けがある。 さらに,アルギン酸ナトリウムを含む水溶液が皮膜を形成することは明らかであり,皮膜の膜厚がアルギン酸ナトリウムの濃度で調整できることから,アルギン酸ナトリウムが皮膜形成の主体であって,引用発明の増粘剤をアルギン酸ナトリウムに置換しても,皮膜形成作用を維持することはできるから,引用発明におけるポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースナトリウムをアルギン酸ナトリウムに置き換えることは,可能である。 2 酸を「顆粒(細粒,粉末)剤」に含ませる点について 経皮吸収を目的とする化粧品について,反応速度の調整が必要であり,徐放化技術が必要であることも周知である。そして,二酸化炭素を適切に発生させるための徐放化技術として,炭酸塩と酸を一つの固形物に含有させることは慣用技術であった。どのような剤型を選択するかは,化粧品についての一般的な課題であり,美容目的の化粧品については,当該化粧品の効能や作用機序等が異なっていても同一の剤型のものが存在していたのであるから,剤型の選択の局面においては,技術分野を狭く解することは誤りである。 引用発明に接した当業者は,2剤がともに液状(粘性組成物を含む)であることから,酸と炭酸塩が直ちに反応し,短時間で炭酸ガスの発生が終了し,持続性に欠けるという課題を認識し,炭酸ガスの発生速度を遅くするために,一つの剤を粉末等の固形物とする動機付けがある。 化粧料における剤型は,簡便さ,扱いやすさに加え,手間をかけることにより得られる満足感等にも影響するものであり,各消費者の必要や好みに応じて選択されるものである上,この選択は本件発明の作用効果に影響しないものであるから,A剤を含水粘性組成物とし,B剤を粉末等の固形物とする公知の剤型を選択することは設計事項である。 3 以上によれば,当業者であれば,水の存在下において増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを選択することは容易であり,それに伴い,慣用技術を適宜組み合わせる等して,その剤型として,アルギン酸ナトリウム水溶液と炭酸塩と酸を一つの固形物に含有させるという選択をすることは容易であるから,相違点1に係る構成は,当業者が容易に想到できたものである。 〔被告の主張〕 1 アルギン酸ナトリウムへの置換について (1) ポリビニルアルコール又はカルボキシメチルセルロースナトリウムを増粘剤として配合している引用発明において,気泡状の二酸化炭素の保留性(持続性)を高めることが課題であるとはいえず,引用例1には,そのような課題の存在を示唆する記載は存在しない。 ポリビニルアルコール又はカルボキシメチルセルロースナトリウムを増粘剤としている引用発明は,使用時に皮膚上で皮膜を形成して作用するパック剤の発明であるところ,皮膜形成作用を有するパック剤においては,気泡状の二酸化炭素の保留性(持続性)を高めることに,そもそもどれだけの技術的な意義があるかは不明であり,引用発明に接した当業者が,気泡状の二酸化炭素の保留性(持続性)を高めるとの課題を認識するとは考えにくい。 (2) 引用発明は,使用時に皮膚上で皮膜を形成して作用するパック剤の発明であり,引用発明の増粘剤であるポリビニルアルコール又はカルボキシメチルセルロースナトリウムをアルギン酸ナトリウムに置換してしまうと,かかる皮膜形成作用を維持できなくなると考えられ,引用発明の本来の効果を奏しなくなる。したがって,仮に,原告が主張するように,アルギン酸ナトリウムが起泡剤としても利用でき,発生した気泡状の二酸化炭素を閉じ込める効果を有しており,界面活性剤としての効果も有するとしても,当業者がかかる置換を行う動機付けがあるとはいえない。 2 酸を「顆粒(細粒,粉末)剤」に含ませる点について 化粧品の剤型は,その効能や使用目的によってまちまちであり,化粧品ごとに個別に検討されるべきものであるから,単に慣用技術であるという抽象的な理由のみに基づき,分野の違う技術を引用発明に適用できるものではない。 引用発明は,使用時に皮膚上で皮膜を形成して作用するパック剤であって,引用例1には,短時間で優れた血行促進作用を示すものであるとの記載もあることからすれば,引用例1に接した当業者が, 「酸と炭酸塩が直ちに反応し,短時間で炭酸ガスの発生が終了し,持続性に欠けるという課題」を認識するとはいえず,引用発明のパック剤において使用時の二酸化炭素の発生を遅延させ,持続性を持たせることを動機付けられるとはいえない。 引用発明では,炭酸塩がポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースナトリウムとともに含水粘性組成物に含有され,酸が含水粘性組成物に含有されているが,酸を含む含水粘性組成物を固形剤に変更することは,技術の具体的適用に伴い当然考慮せざるを得ない事項といえるものではない。また,本件発明1の2剤の構成は,使用時に両者の均一な混合が容易に実現でき,二酸化炭素を十分且つ均一に発生させることができるという技術的意義を有する構成であるところ,かかる技術的意義のある構成への置換を「設計事項」ということはできない。 3 以上によれば,相違点1に係る構成は容易に想到できたものとはいえない。 |
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当裁判所の判断
1 本件各発明について (1) 本件明細書の記載 本件各発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。 ア 技術分野【0001】本発明は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎,貨幣状湿疹,乾皮症,脂漏性湿疹,蕁麻疹,痒疹,主婦湿疹,尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹,創傷,熱傷,き裂,びらん,凍瘡などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴うかゆみ;褥創,創傷,熱湯,口角炎,口内炎,皮膚潰瘍,き裂,びらん,凍瘡,壊疽などの皮膚粘膜損傷;移植皮膚片,皮弁などの生着不全;歯肉炎,歯槽膿漏,義歯性潰瘍,黒色化歯肉,口内炎などの歯科疾患;閉塞性血栓血管炎,閉塞性動脈硬化症,糖尿病性末梢循環障害,下肢静脈瘤などの末梢循環障害に基づく皮膚潰瘍や冷感,しびれ感;慢性関節リウマチ,頸肩腕症候群,筋肉痛,関節痛,腰痛症などの筋骨格系疾患;神経痛,多発性神経炎,スモン病などの神経系疾患;乾癬,鶏眼,たこ,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹などの角化異常症;尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,化膿性湿疹などの化膿性皮膚疾患;排便反射の減衰または喪失に基づく便秘;除毛後の再発毛抑制(むだ毛処理) ;そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題などを副作用をほとんどともなわずに治療あるいは改善でき,また所望する部位に使用すれば,その部位を痩せさせられる二酸化炭素含有粘性組成物に関する。 イ 背景技術 【0002】痒みの治療に対して,局所療法として外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤などが一般に使用される。これらは痒みが発生したときに使用され,一時的にある程度痒みを抑える。湿疹に伴う痒みに対しては外用の非ステロイド抗炎症剤やステロイド剤の使用が一般的であり,これらは炎症を抑えることにより痒みの発生を防ごうとするものである。 【0003】しかしながら,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤はアトピー性皮膚炎,水虫や虫さされの痒みにはほとんど効果がない。外用の非ステロイド抗炎症剤やステロイド剤は,痒みに対する効果は弱く,即効性もない。また,ステロイド剤は副作用が強いため,使用が容易でない。 ウ 発明が解決しようとする課題【0004】本発明は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎,貨幣状湿疹,乾皮症,脂漏性湿疹,蕁麻疹,痒疹,主婦湿疹,尋常性ざ瘡,膿痂疹,毛包炎,癰,せつ,蜂窩織炎,膿皮症,乾癬,魚鱗癬,掌蹠角化症,苔癬,粃糠疹,創傷,熱傷,き裂,びらん,凍瘡などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴う痒みに有効な製剤とそれを用いる治療及び予防方法を提供することにある。 【0005】また本発明は,褥創,創傷,熱傷,口角炎,口内炎,皮膚潰瘍,き裂,びらん,凍瘡,壊疽などの皮膚粘膜損傷;…そばかす,肌荒れ,肌のくすみ,肌の張りや肌の艶の衰え,髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満に有効な製剤とそれを用いる予防及び治療方法を提供することを目的とする。 エ 課題を解決するための手段 【0006】本発明者らは鋭意研究を行った結果,二酸化炭素含有粘性組成物が,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤,非ステロイド抗炎症剤,ステロイド剤などが無効な痒みにも有効であることを発見し,更に該組成物が抗炎症作用や創傷治癒促進作用,美肌作用,部分肥満解消作用,経皮吸収促進作用なども有することを発見して本発明を完成した。 【0007】即ち,本発明は,下記の項1〜30に関する。 項1. 増粘剤の1種または2種以上を含む含水粘性組成物に気泡状の二酸化炭素を含有してなる二酸化炭素含有粘性組成物であって,増粘剤がアラビアゴム,…アルギン酸ナトリウム,…からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする二酸化炭素含有粘性組成物。…項7. 二酸化炭素が酸と炭酸塩の反応により得られることを特徴とする,項1乃至6のいずれかに記載の二酸化炭素含有粘性組成物。…項9. 項1〜8のいずれかに記載の二酸化炭素含有粘性組成物を有効成分とする医薬組成物。…項26. 項1〜8のいずれかに記載の二酸化炭素含有粘性組成物を含む化粧料。 … 【0017】本発明でいう「含水粘性組成物」とは,水に溶解した,又は水で膨潤させた増粘剤の1種又は2種以上を含む組成物である。該組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用した場合,二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡を保持できる。該組成物は,二酸化炭素を気泡状で保持するためのものであれば特に限定されず,通常の医薬品,化粧品,食品等で使用される増粘剤を制限なく使用でき,剤形としてもジェル,クリーム,ペースト,ムースなど皮膚粘膜や損傷組織,毛髪などに一般的に適用される剤形が利用できる。 【0018】本発明には,例えば以下のキットが含まれる。 1)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸とのキット;2)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩とのキット;3)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット;4)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット;5)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有含水粘性組成物のキット;6)炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物のキット;… 【0020】増粘剤としては,例えば天然高分子,半合成高分子,合成高分子,無機物などがあげられ,これらの1種又は2種以上が用いられる。 【0021】天然高分子としては,例えば植物系高分子,微生物系高分子,蛋白系高分子があげられる。 【0022】半合成高分子としては,例えばセルロース系高分子,澱粉系高分子,アルギン酸系高分子,その他の多糖類系高分子があげられる。 【0025】本発明の増粘剤に用いる天然高分子の中の蛋白系高分子としてはアルブミン,カゼイン,コラーゲン,ゼラチン,フィブロインなどがあげられる。 【0026】本発明の増粘剤に用いる半合成高分子の中のセルロース系高分子としてはエチルセルロース,カルボキシメチルセルロース及びその塩類,カルボキシメチルエチルセルロース及びその塩類,…などがあげられる。 【0028】本発明の増粘剤に用いる半合成高分子の中のアルギン酸系高分子としてはアルギン酸ナトリウム,アルギン酸プロピレングリコールエステルなどがあげられる。 【0029】本発明の増粘剤に用いる半合成高分子の中のその他の多糖類系高分子としてはコンドロイチン硫酸ナトリウム,ヒアルロン酸ナトリウムなどがあげられる。 本発明の増粘剤に用いる合成高分子としては,カルボキシビニルポリマー,ポリアクリル酸ナトリウム,ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート,ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,…などがあげられる。 オ 発明を実施するための形態【0064】実施例1〜84 炭酸塩含有含水粘性組成物と酸との組み合わせよりなる二酸化炭素含有粘性組成物を表1〜表7に示す。 【0065】〔製造方法〕 増粘剤と精製水,炭酸塩を表1〜表7のように組み合わせ,炭酸塩含有含水粘性組成物をあらかじめ調製する。酸は,固形の場合はそのまま,又は粉砕して,又は適当な溶媒に溶解又は分散させて,液体の場合はそのまま,又は適当な溶媒で希釈して用いる。炭酸塩含有含水粘性組成物と酸を混合し,二酸化炭素含有粘性組成物を得る。… 【0066】〔二酸化炭素含有粘性組成物の評価〕 <発泡性> 炭酸塩含有含水粘性組成物50gと酸1gを直径5cm,高さ10cmのカップに入れ,その体積を測定する。これを10秒間に20回攪拌混合し二酸化炭素含有粘性組成物を得る。攪拌混合1分後の該組成物の体積を測定し,攪拌混合前の体積からの増加率をパーセントで求め,評価基準1に従い発泡性を評価する。 <評価基準1>増加率 発泡性70%以上 +++50%〜70% ++30%〜50% +30%以下 0 体積の測定は,各々の測定時点での二酸化炭素含有粘性組成物の高さをカップに記し,該組成物を除去した後でそれらの高さまで水を入れ,それらの水の体積をメスシリンダーで測定する。 <気泡の持続性> 炭酸塩含有含水粘性組成物50gと酸1gを直径5cm,高さ10cmのカップに入れ,10秒間に20回攪拌混合し二酸化炭素含有粘性組成物を得る。攪拌混合1分後の該組成物の体積を測定し,その2時間後の体積を測定して体積の減少率をパーセントで求め,評価基準2に従い,気泡の持続性を評価する。 <評価基準2>減少率 気泡の持続性20%以下 +++20%〜40% ++40%〜60% +60%以上 0 体積の測定は,各々の測定時点での二酸化炭素含有粘性組成物の高さをカップに記し,該組成物を除去した後でそれらの高さまで水を入れ,それらの水の体積をメスシリンダーで測定する。 (2) 前記(1)によれば,本件発明の特徴は,次のとおりである。 本件発明は,皮膚粘膜疾患又は皮膚粘膜障害に伴うかゆみ,皮膚や毛髪等の美容上の問題等を,副作用をほとんど伴わずに治療又は改善でき,また所望する部位に使用すれば,その部位を痩せさせられる二酸化炭素含有粘性組成物に関する。【0 (001】) かゆみの治療に対して,局所療法として外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤などが一般に使用され,これらはかゆみが発生したときに使用され,一時的にある程度かゆみを抑える。湿疹に伴うかゆみに対しては外用の非ステロイド抗炎症剤やステロイド剤の使用が一般的であり,これらは炎症を抑えることによりかゆみの発生を防ごうとするものである。しかし,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤はアトピー性皮膚炎,水虫や虫さされのかゆみにはほとんど効果がなく,外用の非ステロイド抗炎症剤やステロイド剤は,かゆみに対する効果は弱く,即効性もない。 また,ステロイド剤は副作用が強いため,使用が容易でない。【0002】【000 ( ,3】) 本件発明は,水虫,虫さされ,アトピー性皮膚炎等の皮膚粘膜疾患又は皮膚粘膜障害に伴うかゆみ,褥瘡,創傷等の皮膚粘膜損傷,皮膚や毛髪等の美容上の問題及び部分肥満に有効な製剤とそれを用いる予防及び治療方法を提供することを目的とする。【0004】【0005】 ( , ) 本件発明の発明者らは,二酸化炭素含有粘性組成物が,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤,非ステロイド抗炎症剤,ステロイド剤などが無効なかゆみにも有効であることを発見し,更に該組成物が抗炎症作用や創傷治癒促進作用,美肌作用,部分肥満解消作用,経皮吸収促進作用なども有することを発見して本件発明を完成した。本件発明は,増粘剤の1種又は2種以上を含む含水粘性組成物に気泡状の二酸化炭素を含有してなる二酸化炭素含有粘性組成物であって,増粘剤がアルギン酸ナトリウムであることを特徴とする二酸化炭素含有粘性組成物で,二酸化炭素が酸と炭酸塩の反応により得られることを特徴とする医薬組成物又は化粧料であり,以下のキットが含まれる。 炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット; 酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット; 炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物のキット(【0006】【0007】【0018】 , , ) 2 取消事由1(本件発明1の進歩性判断の誤り)について (1) 引用発明について ア 引用例1には,以下の記載がある(下記記載中に引用する第1表は,別紙引用例図表目録参照。。 ) (ア) 特許請求の範囲 1.炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を含有することを特徴とするパツク剤。 2.炭酸ガス発生物質が炭酸塩と酸である特許請求の範囲第1項記載のパツク剤。 3.炭酸ガスの存在する雰囲気がpH4〜7である特許請求の範囲第1項又は第2項記載のパツク剤。 (イ) 1頁左欄下から3行〜右欄末行 本発明はパツク剤に関し,更に詳細には,炭酸ガスによる血行促進作用によつて皮膚をしつとりさせることができるパツク剤に関する。 パツク剤は,通常ポリビニルアルコール,カルボキシメチルセルロース,各種天然ガム質等の水性粘稠液を主剤とし,これに種々の添加成分を配合したもので,その造膜過程において皮膚に刺激を与えて血行を促進すると共に,皮膚表面の汚れを吸着して清浄する皮膚化粧料の一つである。 パツク剤には,一般に添加成分の一つとして,血行促進作用を有する合成又は天然エキス等が配合されるが,これらは少量の配合では効果が不充分であり,また多量の配合では血行は促進されるが,その反面適用部位に不快な刺激感を与えると共に,連続使用すると皮膚炎を惹起するなどの欠点があり,その改善が所望されていた。 (ウ) 2頁左上欄1行〜13行 そこで,本発明者は,このような欠点がなく,血行をよく促進するパツク剤を提供すべく鋭意研究を行つた結果,炭酸ガスを皮膚に直接作用させると皮膚の血流がよくなり,皮膚にしつとり感を与えることを見出し,本発明を完成した。 すなわち,本発明は,炭酸ガス又は炭酸ガス発生物質を含有するパツク剤を提供するものである。 本発明のパツク剤は,次に示すように,従来のパツク剤と併用することもできるし,また単なる炭酸ガスパツク剤として使用することもできる。 (エ) 2頁左上欄14行〜左下欄8行 本発明のパツク剤は次のような形態とすることができる。 @ 従来公知のパツク剤を耐圧容器に入れ,これに高圧炭酸ガス,あるいは炭酸塩と酸,もしくはドライアイス等の炭酸ガス発生源を加えて密閉する。 本パツク剤は使用時内容物を吐出させて被パツク部位に塗布する。 A 炭酸塩と酸を実質的に水の存在しない状態で,一つの不織布,布,紙等の担体に担持させる。更にこの担体に公知のパツク剤成分を一緒に担持させておいてもよい。 本パツク剤は,使用時被パツク部位に付着させ,この上に蒸しタオルを重ねるとか,水を添加するとかの方法によつてパツク剤に水を供給して,当該炭酸塩と酸とを反応させて炭酸ガスを発生させる。 B 炭酸塩と酸をそれぞれ異なる2つの上記担体に担持させる。この担体には,Aと同様に公知のパツク剤成分を担持させることも,また水分を保持させることもできる。 本パツク剤は,使用時被パツク部位に重ねて付着させ,必要な場合(パツク剤が水を含まない場合)には,Aと同様に水を供給して炭酸ガスを発生させる。 (オ) 2頁右下欄3〜12行 本発明で使用される炭酸塩としては,例えば,炭酸水素ナトリウム,炭酸ナトリウム,セスキ炭酸ナトリウム,炭酸水素カリウム,炭酸カリウム,セスキ炭酸カリウム,炭酸水素アンモニウム塩,炭酸アンモニウム塩,セスキ炭酸アンモニウム塩等が挙げられ,これらは単独または2種以上を組み合わせて使用できる。 また,酸としては,有機酸及び無機酸の何れも使用できるが,水溶性で固体のものが好ましい。 (カ) 3頁左下欄5〜11行 本発明のパツク剤には上記必須成分のほかに,通常のパツク剤に使用される油性基剤,エモリエント剤,保湿剤,皮膜剤,ゲル化剤,増粘剤,アルコールおよび精製水,さらに必要に応じて界面活性剤,血行促進剤,消炎剤,ビタミン類,殺菌剤などの薬効剤,防腐剤,香料,色素などを適宜配合することができる。 (キ) 3頁左下欄最下行〜右下欄4行 叙上の如く,本発明のパツク剤は,短時間ですぐれた血行促進作用を示し,また適用部位に不快な刺激感を与えず,肌にしつとり感を与え,連続使用しても皮膚炎をおこす心配がないというすぐれた性質を示す。 (ク) 3頁右下欄6行〜4頁左上欄9行 実施例1 製造例1〜4で得た本発明のパツク剤,従来法で得たパツク剤〔(P)及び(Q)〕について,血流量,NMF値及びしつとり感を測定した。 パツク剤(P) 平均分子量40万のポリビニルアルコール15部,平均分子量10万のポリビニルアルコール6部,ポリエチレングリコール(平均分子量300)2部,1,3-ブチレングリコール6部,エタノール5部,酸化チタン3部,香料0.2部,ホウ砂0.1部,色素を微量,および水63.8部から常法により製造した。 パツク剤(Q) 平均分子量40万のポリビニルアルコール16部,平均分子量5万のポリビニルアルコール5部,1,3-ブチレングリコール8部,エタノール5部,コラーゲン2部,酸化チタン2部,香料0.2部,色素を微量,および水61.8部から常法により製造した。 (ケ) 4頁右上欄下から4行〜5頁右下欄4行 製造例4 平均分子量40万のポリビニルアルコール16部,平均分子量5万のポリビニルアルコール4部,1,3-ブチレングリコール8部,エタノール6部,カルボキシメチルセルロースナトリウム3部,亜鉛華4部,炭酸水素ナトリウム5部,香料0.3部,色素を微量および水53.7部から,常法により製造したものをA剤とした。 平均分子量40万のポリビニルアルコール16部,平均分子量5万のポリビニルアルコール5部,1,3-ブチレングリコール8部,エタノール5部,コラーゲン2部,酸化チタン2部,酒石酸5部,香料0.3部,色素を微量および水56.8部から常法により製造して得たものをB剤とした。使用時,A剤2重量部とB剤3重量部を混合する。使用時のpHは6.2。 〔測定方法〕 (1) 血流量 レザードツプラー血流計を用いて測定した。ヒト(24才,女性)の左腕内側に血流計のプローブを装着し,平常時の血流を測定した後,プローブの周囲に多量のパツク剤を塗布し,血流の変化を観察した。 (2) 皮膚水分量(NMF値) 電気伝導度が水分量に比例する原理を用いたソフイーナメーターによつて測定できるNMF値を角質水分量とした。 実験条件:被検者:女性(21〜24歳,両腕内側,n=4) 室温:25℃ 湿度:72〜76% 実験方法:入室10分後に両腕を石鹸で洗浄し,タオルでふきとり,15分間放置後,平常値を測定し一定面積(5×5cm)を両腕内側に左右対称に設定し,従来のパツク剤とCO2含有パツク剤を各0.8gとつて均一に塗布する。 乾燥後(約30〜40分後)皮膜となつたパツク剤を剥離した直後から,ソフイーナメーターによつてNMF値を3分おきに30分後まで測定する。 ソフイーナメーターによるNMF値はプルーブのあて方によつて誤差が生じやすいので,5回測定し,その平均値とした。 (3) しつとり感 石鹸で洗顔後,パツク剤を顔面に塗布し,乾燥後(約30〜40分)パツク剤を剥離し,その30分後のしつとり感を評価した。評価は,非常にしつとりする(3点),しつとりする(2点),ややしつとりする(1点),しつとりしない(0点)とし,健康な女性4人によつて評価した。 〔結果〕 その結果は第1表のとおりである。 (1) 血流量は,塗布前を1とした相対値で示した。 (2) NMF値は塗布30分後の値を塗布前を1とした相対値で示した。 (3) しつとり感はn=4の平均値を示した。 第1表から明らかなように,発明品は従来品に比較し,血流量,NMF値及びしつとり感の何れにおいても顕著に優れている。 イ 上記アによれば,引用例1には,本件審決が認定したとおりの引用発明(前記第2の3(2)ア)が記載されているものと認められる。 また,本件発明1と引用発明との一致点及び相違点1は,本件審決が認定したとおり(前記第2の3(2)イ,ウ)であると認められる。 (2) 相違点1の容易想到性判断の誤り ア アルギン酸ナトリウムに置換する動機付けについて 本件発明1は,医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物に関するものであり,引用発明は,水性粘稠液を主剤とし,その造膜過程において皮膚に刺激を与えて血行を促進すると共に,皮膚表面の汚れを吸着して清浄する皮膚化粧料であるパック剤に関するものであるから,両者は,技術分野において共通する。 しかし,引用例1には,前記(1)ア(イ)のとおり, 「パツク剤は,通常ポリビニルアルコール,カルボキシメチルセルロース,各種天然ガム質等の水性粘稠液を主剤とし,これに種々の添加成分を配合したもので,その造膜過程において皮膚に刺激を与えて血行を促進すると共に,皮膚表面の汚れを吸着して清浄する皮膚化粧料の一つである。」との記載があり,前記(1)ア(ケ)のとおり,A剤(平均分子量40万のポリビニルアルコール16部,平均分子量5万のポリビニルアルコール4部,1,3-ブチレングリコール8部,エタノール6部,カルボキシメチルセルロースナトリウム3部,亜鉛華4部,炭酸水素ナトリウム5部,香料0.3部,色素を微量および水53.7部から,常法により製造したもの)及びB剤(平均分子量40万のポリビニルアルコール16部,平均分子量5万のポリビニルアルコール5部,1,3-ブチレングリコール8部,エタノール5部,コラーゲン2部,酸化チタン2部,酒石酸5部,香料0.3部,色素を微量および水56.8部から常法により製造して得たもの)を混合して得られたパック剤(製造例4)を腕の内側に塗布し,乾燥させると皮膚上に皮膜が形成されることが記載されている。かかる記載によれば,ポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースナトリウムは,パック剤の主剤である造膜性の粘稠液を形成するための成分であり,皮膜形成に寄与するものである。 これに対し,アルギン酸ナトリウムは,粘性水性組成物を形成する増粘剤として周知であるとしても,皮膜形成能を有する増粘剤として周知であったことを認めるに足りる証拠はない。 また,引用例1には,パック剤に適宜配合することができる成分の例として,油性基剤,エモリエント剤,保湿剤,皮膜剤,ゲル化剤,増粘剤,アルコール及び精製水,界面活性剤,血行促進剤,消炎剤,ビタミン類,殺菌剤などの薬効剤,防腐剤,香料,色素が挙げられているが(前記(1)ア(カ)),アルギン酸ナトリウムを用いることは何ら記載されていない。 以上によれば,粘稠液が造膜性のものであることを前提とする引用発明において,ポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースナトリウムをアルギン酸ナトリウムに置き換えることを当業者が容易に想到し得たとはいえない。 イ 酸を「顆粒(細粒,粉末)剤」に含ませる点について 引用発明は,その造膜過程において皮膚に刺激を与えて血行を促進すると共に,皮膚表面の汚れを吸着して清浄するパック剤であって,短時間で優れた血行促進作用を示すものであるから(前記(1)ア(キ)),使用時の二酸化炭素の発生を遅延させ,持続性を持たせることの動機付けがあるとはいえない。そうすると,引用例1に接した当業者は,二酸化炭素を適切に発生させるための徐放化技術として,炭酸塩と酸を1つの固形物に含有させることを想到することもできないというべきである。 ウ 小括 よって,相違点1は,当業者が容易に想到できたものではない。 (3) 原告の主張について ア アルギン酸ナトリウムに置換する動機付けについて (ア) 原告は,気泡状の二酸化炭素を効率的に発生・保持するとの本件発明1の課題は,周知の課題であったところ,アルギン酸ナトリウムが起泡剤としても利用することができるもので,発生した気泡状の二酸化炭素を閉じ込める効果を有することは周知であり,粘性を高めることにより気泡の安定性が増すこと,界面活性剤が気泡の発生・保持に効果的に作用することも技術常識であったから,増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを選択することは容易である旨主張する。 しかし,気泡状の二酸化炭素の持続性が周知の課題であることの根拠として原告が挙げる文献のうち,特開平9-206001(甲5)には,「このゲル状食品は,製造時に,膠質水溶液と炭酸ガスとを混合した後に加熱する。この加熱によって炭酸ガスは激しく発泡すると同時に膠質水溶液から逃散してしまう」【0002】, ( )「その目的とするところは,発泡成分の発泡によって生成した気泡が,ゼリー中に多数内包され,しかもこの気泡中の炭酸ガスが長時間保持され,喫食時に口中で強い発泡感が感じられる発泡性ゼリーを,家庭で簡単に手作りできる発泡性ゼリー用粉末およびこれを用いた発泡性ゼリーの製法を提供するにある」【0004】 ( )との記載があるものの,同文献に記載されているのは,ゲル状食品であって,引用発明のパック剤とは異なる技術分野に関するものである。 また,特開昭63-310807号公報(甲18)は,炭酸ガスのガス保留性について,特開平3-161415号公報(甲63)は,炭酸ガスを高濃度で長時間保持することについて,特開昭63-280799号公報(甲64)及び特開昭62-294604号公報(甲65)は,炭酸ガスの発生による発泡の持続性について,特開昭61-43102号公報(甲66)は,化粧料の炭酸ガスの滞留時間について,特開昭61-43101号公報(甲67)及び特開昭61-40205号公報(甲68)は,炭酸ガスが化粧料に溶けて配合されていることについて,それぞれ記載したものであるが,これらの文献のいずれにも,気泡状の二酸化炭素を保持することが周知の課題であると読み取れる記載はない。 したがって,本件優先日当時において,パック剤の技術分野において気泡状の二酸化炭素を保持するとの本件発明1の課題が周知であったとは認められず,引用発明の増粘剤としてアルギン酸ナトリウムを適用する動機付けがあるとはいえないから,原告の主張は採用できない。 (イ) 原告は,アルギン酸ナトリウムを含む水溶液が皮膜を形成するから,引用発明の増粘剤をアルギン酸ナトリウムに置換しても,皮膜形成作用を維持することはでき,引用発明におけるポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースナトリウムをアルギン酸ナトリウムに置き換えることは可能である旨主張する。 特開平9-278926号公報(甲86)には, アルギン酸を含む水溶液は,皮膜を形成すること(【0011】【0015】,被コーティング物に塗布される皮膜 , )は,アルギン酸の濃度で調整できること(【0016】)が, 「機能性包装資材の開発技術の形成 -機能性段ボール箱の開発-」と題する文献(1995年。甲87)には,アルギン酸ナトリウム(G-I)と天然多糖類プルラン(PI-20)を(1:1)で混合した5wt%溶液を,秤量220g/m2の段ボールライナー表面に塗工し,5wt%塩化カルシウム水溶液を噴霧し凝固させ,フィルムを形成させたことが, 「機能性包装資材の開発技術の形成 -機能性無機粉体の開発-」と題する文献(1995年。甲88)には,アルギン酸ナトリウムとプルランを混合してフィルムを形成した場合,両者の混合比を変化させると酸素透過量と炭酸ガス透過量が変化することが,それぞれ記載されていることが認められる。 しかし,これらの文献に開示されているのは,内容物を保護する目的で使用される包装材料としてのフィルムやコーティング被膜をアルギン酸ナトリウムによって形成することであるところ,引用発明のパック剤の膜は,その造膜過程において皮膚に刺激を与えて血行を促進すると共に,皮膚表面の汚れを吸着して清浄するものであって,造膜後には皮膚から剥がして除去されるものであって,その適用対象や,使用目的・作用効果が異なる。 したがって,甲86〜88を考慮しても,引用発明におけるポリビニルアルコール及びカルボキシメチルセルロースナトリウムをアルギン酸ナトリウムに置き換え可能であるということはできず,原告の主張は採用できない。 イ 酸を「顆粒(細粒,粉末)剤」に含ませる点について 原告は,二酸化炭素を適切に発生させるための徐放化技術として,炭酸塩と酸を一つの固形物に含有させることは慣用技術であるところ,どのような剤型を選択するかは,化粧品についての一般的な課題であり,美容目的の化粧品については,当該化粧品の効能や作用機序等が異なっていても同一の剤型のものが存在していたのであるから,剤型の選択の局面においては,技術分野を狭く解することは誤りであり,慣用技術を適用できる旨主張する。 特開平6-179614号公報(甲6)には,アルギン酸水溶性塩類を含有するゲル状パーツからなる第一剤と,前記アルギン酸水溶性塩類と反応しうる二価以上の金属塩類および前記反応の遅延剤を含有する粉末パーツからなる第二剤との二剤からなることを特徴とする,剥がすタイプのパック剤が,化粧品製造製品届書(香椎化学工業株式会社,平成13年1月11日。甲7)に係る化粧品製造品目追加許可書(厚生大臣,平成3年11月12日。甲8)には,2剤を使用前に混合して肌に塗布し,膜が乾燥したら剥がすパック剤が,特開平7-53324号公報(甲9)には,美白や保湿を目的として,粉末あるいは顆粒状の組成物を,使用する直前に化粧水や乳液に分散せしめ,皮膚に塗布する用時混合タイプのものが, 「化粧品成分ガイド」第5版(フレグランスジャーナル社,2009年2月25日。甲10)には,化粧品の剤形タイプとして,溶液タイプ,ジェルタイプ,乳化タイプ,固体タイプ,液体タイプ,ペーストタイプ,皮膜タイプ,エアゾールタイプがあることが,それぞれ記載されていることが認められる。 しかしながら,甲6ないし8に記載されているのは,剥がすタイプのパック剤,甲9に記載されているのは,化粧水や乳液など肌に塗布する化粧品であり,甲10には,剤型タイプの分類が記載されているにすぎず,これらの文献のいずれも,炭酸ガスを発生させ,発生する炭酸ガスによる血行促進作用により,皮膚の血流を良くし皮膚にしっとり感を与えるパック剤に関するものではないから,これらによって,引用発明の技術分野において炭酸塩と酸を一つの固形物に含有させることが慣用技術であったとは認められない。そして,化粧品の剤型は,その効能や使用目的に応じて個別に検討されるものであることは当然であり,分野の異なる技術を引用発明に適用できるとはいえないから,原告の主張は採用できない。 (4) 小括 よって,相違点1に係る構成は容易に想到できたものではないから,取消事由は理由がない。 3 本件発明2ないし7の進歩性判断の誤りについて 原告は,本件発明2ないし7の進歩性判断について何らの主張立証をしない。そして,本件発明2ないし7は,いずれも本件発明1の発明特定事項を直接又は間接に引用するものであるところ,相違点1が容易に想到できるものではないことは,上記2のとおりである。 よって,本件発明2ないし7についても,同様に,容易に想到できたものではない。 4 結論 以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 高部眞規子 |
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裁判官 | 小林康彦 |
裁判官 | 関根澄子 |