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関連審決 無効2000-35338
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  技術常識 /  遡及 /  優先権 /  分割出願 /  実質的に同一 /  抵触 /  容易に想到(容易想到性) /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  訂正明細書 /  取消判決 /  判決の拘束力 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 416号 審決取消請求事件
原告 株式会社奥田製作所
訴訟代理人弁理士 渡邊隆文
同 喜多秀樹
同 坂本 寛
被告 株式会社システックキョーワ
訴訟代理人弁理士 高田修治
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/04/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2000-35338号事件について平成15年8月5日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「ウィング付き収納ボックスとこれに用いるオートロック装置及びデッドボルト」とする特許第3041307号発明(平成8年10月24日に出願〔優先権主張日同年2月22日〕された特願平8-282654号の特許出願〔以下「本件原出願」という。〕の一部を平成11年11月15日に新たに特許出願〔以下「本件出願」という。〕,平成12年3月3日設定登録,以下,この特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成12年6月23日,本件特許を無効にすることについて審判の請求をし,無効2000-35338号事件として特許庁に係属したところ,原告は,同年10月2日付け訂正請求書により,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載等を訂正する旨の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)をした。
特許庁は,上記事件について審理した上,平成14年2月1日に「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「前審決」という。)をした。
その後,当庁平成14年(行ケ)第118号審決取消請求事件(以下「前訴」という。)の判決(平成15年5月8日判決言渡し,以下「前判決」という。)により前審決が取り消され,同判決が確定したので,特許庁は,上記審判請求につき更に審理した上,平成15年8月5日,「訂正を認める。特許第3041307号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月18日,原告に送達された。
2 願書に添付した明細書(本件訂正請求に係るもの。以下「訂正明細書」という。)の特許請求の範囲記載の発明の要旨 【請求項1】ボックス本体(3)内に取り付けられる地震時オートロック機能を有するロック装置本体(1)と,前記ボックス本体(3)の前面開口部(4)に枢着されたウイング(5)の内面(5A)に取り付けられるブラケット(40)と,前記ロック装置本体(1)に上下方向に沿って出退自在に挿通されかつ前記ブラケット(40)に引っ掛かって前記ウイング(5)の開放を阻止する突出端部を有するデッドボルト(16)と,を備えたウイング付き収納ボックスのオートロック装置において,前記デッドボルト(16)の突出端部に,前記ウイング(5)の開放方向に向けて突出している前記ブラケット(40)の掛止部(43A)に対する引っ掛かりを確実にするための窪み部(76)が設けられていることを特徴とするウイング付き収納ボックスのオートロック装置。
【請求項2】ボックス本体(3)と,この本体(3)の前面開口部(4)に枢着されたウイング(5)と,前記ボックス本体(3)内に取り付けられた地震時オートロック機能を有するロック装置本体(1)と,前記ウイング(5)の内面(5A)に取り付けられたブラケット(40)と,前記ロック装置本体(1)に上下方向に沿って出退自在に挿通されかつ前記ブラケット(40)に引っ掛かって前記ウイング(5)の開放を阻止する突出端部を有するデッドボルト(16)と,を備えたウイング付き収納ボックスにおいて,前記デッドボルト(16)の突出端部に,前記ウイング(5)の開放方向に向けて突出している前記ブラケット(40)の掛止部(43A)に対する引っ掛かりを確実にするための窪み部(76)が設けられていることを特徴とするウイング付き収納ボックス。
【請求項3】ボックス本体(3)内のロック装置本体(1)に上下方向に沿って出退自在に挿通されており,かつ,ウイング(5)の内面(5A)に設けたブラケット(40)に引っ掛かって前記ウイング(5)の開放を阻止する突出端部を有するウイング付き収納ボックスのオートロック装置に使用するデッドボルトにおいて,前記突出端部に,前記ウイング(5)の開放方向に向けて突出している前記ブラケット(40)の掛止部(43A)に対する引っ掛かりを確実にするための窪み部(76)が設けられていることを特徴とするウイング付き収納ボックスのオートロック装置に使用するデッドボルト。
(以下,【請求項1】〜【請求項3】記載の発明を「本件発明1」〜「本件発明3」という。) 3 本件審決の理由 本件審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本件発明1〜3は,特開平7-305551号公報(審判甲7・本訴甲4,以下「引用例3」という。)及び米国特許第5121950号明細書(審判甲5・本訴甲9,以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下,それぞれ「引用例3発明」,「引用例1発明」という。)ないしは当業者の技術常識に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号に該当し,無効にすべきものであるとした。
原告主張の本件審決取消事由
本件審決は,本件発明1と引用例3発明との相違点2の判断において,組合せを阻害する要因についての判断を遺脱した結果,その容易想到性の判断を誤り(取消事由1),同様の理由により,本件発明2,3の容易想到性の判断も誤った(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1の相違点2についての容易想到性の判断の誤り) (1) 組合せを阻害する要因 ア 本件審決は,本件発明1と引用例3発明との相違点2として認定した,「本件発明1は,デッドボルトの突出端部に,前記ウイングの開放方向に向けて突出している前記ブラケットの掛止部に対する引っ掛かりを確実にするための窪み部が設けられているのに対し,引用例3発明のデッドボルトやブラケットにはそのような窪み部や掛止部が設けられていない点」(審決謄本8頁本件発明1について(1)対比の[相違点2]の項)について,「引用例3発明において,副次的なロック機構を設けるとすれば,係合する二つの平面上の部材に凸部と凹部を設けること,すなわち,係着金具7の上端部に凸部を設け,その凸部に対する引っ掛かりを確実にするための凹部を,爪部9aの溝部のうち,係着金具7の上端部に対向する面に設け,これにより,上記相違点2に係る構成のように副次的なロック機構を構成することは,当業者にとっては,技術常識に属する事柄として容易に想到し得る事項である」(同11頁第3段落)と判断したが,誤りである。
イ 発明の進歩性を判断する場合に留意すべき重要なポイントの一つとして,本件発明と直接対比される主引用例に対して他の引用例を適用することについて,その適用を阻害する要因ないしそれらの組合せを阻害する要因があるか否かという検討事項がある。本件審決の上記判断が示すように,「副次的なロック機構」を引用例3発明に適用して,係着金具7と爪部材9の互いの対向面にそのような凸部70と凹部90を形成すると,両部材7,9がいったん係合した場合に二度と取り外すことができなくなり,扉2の開閉とともに爪部材9と係着部材7との係脱が繰り返される「キャッチ装置」として機能しなくなるので,そのような適用は上記阻害要因に該当すると解するのが相当である。したがって,本件審決における相違点2の判断において,「副次的なロック機構」を引用例3発明に適用することについて,明らかに組合せを阻害する要因が存在するにもかかわらず,その阻害要因の判断を遺脱して相違点2に係る容易想到性を肯定したものであるから,本件審決の進歩性の判断は明らかに誤りである。
(2) 審決取消判決の拘束力について 被告は,本件審決は前判決の拘束力に従ってされたものであるから,その認定判断の違法を争うことは許されないと主張する。しかしながら,最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁(以下「平成4年最判」という。)が「取消判決の拘束力は判決主文の結論が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に対しても及ぶ」とした趣旨は,発明の進歩性が争点となっている事案の場合においては,取消判決の拘束力を同一引用例に関する失権効(遮断効)として認めたのではなく,取消判決のいわば判断効として認めたものと解すべきであり,同一引用例に基づくものであっても,取消判決で具体的に判断されていない事項に関しては,再度の審判手続やその審決取消訴訟において審理判断することは許容されるものと解するのが相当である。迅速な事件解決の要請が制度的に適切に機能するためには,取消判決の拘束力の範囲は,前訴での当事者の主張立証が尽くされて審理を遂げた事項か否かを中心として,その外延を見極める作業でなければならず,取消判決が発明の進歩性の有無を左右する非常に重要な争点に関して明らかに見逃した部分がある場合には,当該見逃した部分については,取消判決の消極的な認識に属し,拘束力が及ばないと解するのが相当である。なぜならば,そのように発明の進歩性の判断において取消判決が明らかに見逃した重要な争点についてまで,取消判決の拘束力の名の下で後続の審判又は裁判において争えなくなるように審理を遮断してしまうのでは,迅速な事件解決の要請の前提となるところの取消判決の公正さが,当事者が十分に納得できる程度にまで適切に確保されているとはいえず,事実審理を保障して審理の公正を図る実体的真実主義の要請にもとる結果となるからである。
主引用例に他の引用例を適用することについて,組合せを阻害する要因があるか否かの検討は,発明の進歩性の有無を左右する極めて重要な事項であるが,本件においては,上記のとおり,前判決は,相違点2の判断において,「副次的なロック機構」を引用例3発明に適用することにつき,組合せを阻害する要因の有無について何ら言及しておらず,これを看過しており,このことは,前判決が,専ら,扉のロックをより確実にするという本件発明1〜3の課題ないし目的のみの観点から,主たるロック機構に加えて副次的なロック機構を追加することが当業者にとって容易に想到し得ることであると結論付けていることからも明らかである。したがって,組合せを阻害する要因の有無は,前判決が明らかに認定判断を見逃した部分であるから,前判決の拘束力が及ばない範囲というべきである。
2 取消事由2(本件発明2,3の容易想到性の判断の誤り) 本件審決は,本件発明2及び本件発明3においても,「上記相違点1,2についての判断は,本件発明1の相違点1,2についての判断と同じである」(審決謄本12頁本件発明2,3について各(2)判断の項)との理由により容易想到性を肯定したが,上記のとおり,本件発明1の相違点2についての容易想到性の判断が誤りであるから,本件発明2,3の容易想到性の判断も誤りである。
被告の反論
本件審決の判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(本件発明1の相違点2についての容易想到性の判断の誤り)について 審判官は,審決の取消判決が確定したときは,特許法181条2項の規定に従い,当該審判事件について更に審理を行い,審決をすることになるが,再度の審理・審決には,行政事件訴訟法33条1項の規定により,上記取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,平成4年最判の判示するとおり,取消判決の判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。
本件審決は,このような取消判決の拘束力に従ってされたものであるから,その認定判断の違法を争うことが許されないことは明らかである。
発明の進歩性の判断手順において,当業者が容易に想到し得るか否かの判断は,組合せを阻害する要因の有無と一体として判断されるものであり,この点について,前判決が,当業者の技術常識を前提として,本件発明1は引用例3発明及び引用例1発明から容易に想到し得ると判断していることは明らかである。
2 取消事由2(本件発明2,3の容易想到性の判断の誤り)について 本件審決の本件発明1の相違点2についての容易想到性の判断に誤りがないことは上記のとおりであるから,その誤りを前提とする原告の取消事由2の主張も理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1の相違点2についての容易想到性の判断の誤り)について (1) 甲1,2によれば,前審決及び前判決の認定判断は,以下のとおりであることが認められる。
ア 前審決(甲1)は,本件訂正請求に係る訂正を認めた上,請求人(注,被告)の主張する無効理由,すなわち,本件特許は,@本件発明1〜3の「デッドボルト」は,本件原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,この明細書及び図面を併せて「原出願当初明細書」という。)に記載されていないから,その分割出願に係る本件出願の出願日は遡及しないところ,本件出願前に頒布された刊行物である特開平9-287338号公報記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法123条1項2号の規定により無効とされるべきである,A本件発明1〜3は,「デッドボルトを付勢する弾性部材」と「デッドボルトを保持する保持部材」を必須の構成要件とするものであるところ,これらの構成が何ら規定されておらず,明細書の記載が不備であり,特許法36条4項又は6項に規定する要件を満たしていないから,同法123条1項4号により無効とされるべきである,B本件発明1〜3は,引用例1(甲9),特開平3-13680号公報記載の発明(以下「引用例2発明」という。)及び引用例3発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,同法123条1項2号の規定により無効とされるべきである,C本件発明1〜3は,本件出願の日前の出願であって本件出願後に公開された特願平7-222831号(特開平9-67969号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,この明細書及び図面を併せて「先願明細書」という。)記載の発明と同一であって,特許法29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから,同法123条1項2号の規定により無効とされるべきであるとの主張に対し,@分割出願に係る本件出願は,特許法44条1項の規定に適合するものであり,A本件発明1〜3は,特許法36条4項及び6項に違反するものということはできず,B本件発明1〜3は,引用例1発明及び引用例3発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものということはできず,C本件発明1〜3は,先願明細書記載の発明と相違し,実質的に同一のものということもできないから,請求人の主張及び証拠方法によっては本件特許を無効とすることはできないとして,審判請求を不成立とした。
イ これに対し,前判決(甲2)は,前審決は,上記アBの無効理由(本件発明1〜3の引用例1発明及び引用例3発明に基づく容易想到性)に関し,本件発明1〜3と引用例3発明との各相違点についての判断を誤ったものであり,違法として取り消されるべきであるとの前訴原告(本訴被告)の主張について,@「本件発明1の構成(C)(注,本件発明1の構成要件の『前記ロック装置本体(1)に上下方向に沿って出退自在に挿通されかつ前記ブラケット(40)に引っ掛かって前記ウイング(5)の開放を阻止する突出端部を有するデッドボルト(16)と,を備えたウイング付き収納ボックスのオートロック装置において,』の部分)は,『前記ロック装置本体(1)に上下方向に沿って出退自在に挿通されかつ前記ブラケット(40)に引っ掛かって前記ウィング(5)の開放を阻止する突出端部を有するデッドボルト(16)と,を備えたウィング付き収納ボックスのオートロック装置において,』というものである。本件発明1において,デッドボルトが上下方向に沿って出退自在となっているのは,ブラケットに引っ掛かるようにし,ウィング(5)の開放を阻止するためである。そして,本件発明1の構成(C)は,上記のとおり,デッドボルト(16)が『上下方向に沿って出退自在に挿通され』かつ『前記ブラケット(40)に引っ掛かって前記ウィング(5)の開放を阻止する』と規定されているものであるから,上下方向に直線的な往復運動をするものに限定されているわけではないというべきである。すなわち,本件発明1の構成(C)では,上下方向に沿って往復運動し,ブラケット(40)に引っ掛かるものであれば,上下方向に直線的な往復運動をするものでなくともよいというべきである。引用例3発明は,本体12内に,爪部材9が傾動自在に設けられ,軸11を中心として,一定の中心角の範囲内で円弧運動を行い,爪部材の先端部が係着金具7の掛止部に係合し,扉2の開放を阻止するものである(甲第3号証〔注,引用例3〈本訴甲4〉〕)。引用例3発明の爪部材は,係着金具7の掛止部に係合するように,往復運動し,扉の開放を阻止するとの構成及び機能において,本件発明1のデッドボルトと差異はない。また,引用例3発明の爪部材9も,軸11を中心として,一定の中心角の範囲内で円弧運動を行うものであるけれども,係着金具7の掛止部の近辺においてこれをみれば,上下方向に沿って往復運動し,係着金具7に引っ掛かるものであるから,『上下方向に沿って出退自在に挿通され』るものとみることも可能なものである。したがって,引用例3発明の爪部材9は,本件発明1の『上下方向に沿って出退自在に挿通され』る『デッドボルト』に相当するもの,あるいは,少なくとも,これと実質的に同一のものであるということができる。被告(注,本訴原告)は,引用例3発明の爪部材9の先端部は軸11を回転中心とした円運動を行うことになるので,当該先端部が上下方向に沿って移動し続けることはあり得ず,上下方向に対して必ず傾いた方向から係着部材7の上縁に向かって係脱することになる,と主張する。しかし,本件発明1の構成(C)は,上記のとおり,『上下方向に沿って出退自在に挿通され』ることを規定しているものの,上下方向に沿って直線的に移動し続けることまでを要求するものではないというべきであるから,上下方向に対してやや傾いた方向から挿通されるものも,本件発明1の構成(C)にいう『上下方向に沿って出退自在に挿通され』るものとなり得るというべきである。被告の上記主張は採用することができない」(12頁下から第2段落〜13頁第2段落),A「本件発明1は,ブラケットとデッドボルトからなる地震時のオートロック装置において,ブラケットに掛止部を設け,デッドボルトに窪み部を設ける,との副次的なロック機構により,『ブラケットの掛止部がデッドボルトの窪み部に入り込んで同ボルトに掛止されるので,デッドボルトがウイングの開放方向に若干転倒してもブラケットの掛止部を確実に捕まえることができる。』(甲第2号証〔注,訂正明細書〈本訴甲8-2〉〕【0007】)ものであり,これにより,『デッドボルトによる地震時のロックを確実にすることを目的とする。』(同【0005】)ものである(同【0044】【発明の効果】にも同旨の記載がある。)。原告(注,本訴被告)は,ロック機構においてロックを確実にするために凹部と凸部による係合手段を用いることは,自明のことであるから,引用例3発明の扉のロック機構において,扉のロックを確実にするために,デッドボルトに窪み部を設け,ブラケットに掛止部を設け,これを係合させることは,当業者にとって技術常識であったというべきである,と主張する。引用例3発明は,地震発生時における扉等のロックを確実に行えるようにすることを目的とする発明である。引用例1発明は,火災発生時における扉のロック機構に関するものではあるものの,扉のロックを確実にするために,ロックボルト34による主たるロック機構と,ロックボルトに設けられた溝38が扉の堅枠12aに係合することによる副次的なロック機構とを開示するものである(甲第20号証〔注,引用例1〔本訴甲9〕〕訳文2頁第2段落,FIG.4,FIG.5参照)。この引用例1発明が開示するところのもの,及び,引用例3発明は,地震発生時における扉等のロックを確実に行えるようにすることを目的とする発明であるから,大きな地震にも耐え得るように,扉等のロックをより確実にすることは,この技術分野における当然の課題というべきであることからすれば,引用例3発明において,地震発生時に,扉のロックをより確実に行うようにするために,主たるロック機構に加え,副次的なロック機構を追加することは,当業者にとって容易に想到し得ることというべきである。そして,引用例3発明において,副次的なロック機構を設けるとすれば,係合する二つの平面上の部材に凸部と凹部を設けること,すなわち,係着金具7の上端部に凸部を設け,その凸部に対する引っ掛かりを確実にするための凹部を,爪部9aの溝部のうち,係着金具7の上端部に対向する面に設け,これにより副次的なロック機構を構成することは,当業者にとっては,技術常識に属する事柄として容易に想到し得る事項であるというべきである。このことは,例えば,特開平1-101919号公報(甲第14号証〔注,本訴甲10〕)の第7図に示されている,平板状の棚板11の上面に設けられた突条部(係合部11a)と棚板受け12の係合溝(被係合部12a),あるいは,同公報第1図ないし第5図に示されている,平板状の棚板の凹状の被係合部2aに係合する凸状の係合片3bなどからも明らかである。・・・審決(注,前審決)は,『本件発明1は前記相違点にかかる構成を採用したことにより,「以上説明したように,本発明によれば,デッドボルトがウイングの開放方向に若干転倒してもブラケットの掛止部を確実に捕まえることができるので,デッドボルトによる地震時のロックを確実にすることができる。」(段落【0044】)との作用効果を奏するもので,かかる作用効果は引用例1発明乃至引用例3発明から当業者が予測できるものではない。』(審決書〔注,甲1〕18頁29行〜34行)と判断し,被告も同趣旨の主張をしている。本件発明1において,ブラケットに掛止部(43A)を設け,デッドボルトに窪み部(76)を設けることにより,ウィングの開放阻止がより確実になるとの上記効果を奏することは,明らかである。しかし,その効果は,副次的なロック機構を設けるとの構成から生ずることが自明であるものにすぎない。したがって,本件発明1の,ブラケット(40)がウィング(5)の開放方向に突出している掛止部(43A)を備えているとの構成,及び,デッドボルト(16)の窪み部(76)との構成が,引用例3発明,及び,引用例1発明ないしは当業者の技術常識に基づいて,当業者が容易に想到し得るものであることは前示のとおりである以上,審決の上記判断及び被告の同趣旨の主張はこれを採用することができない」(14頁下から第2段落〜17頁第1段落),B「本件発明2と引用例3発明との上記相違点(注,本件発明2の構成(C)の「デッドボルト(16)の突出端部に,前記ウイング(5)の開放方向に向けて突出している前記ブラケット(40)の掛止部(43A)に対する引っ掛かりを確実にするための窪み部(76)が設けられている」と引用例3発明との相違点)については,上記(1)(注,上記Aを含む説示)で述べたのと同様に,引用例1発明ないしは当業者の技術常識から,容易に想到し得る事項であるというべきである」(18頁第1段落),C「審決(注,前審決)は,本来,本件発明3のデッドボルト(16)の窪み部(76)を引用例3発明との相違点として認定し,これについて判断をすべきであったこと,及び,これについても,本件発明3のデッドボルト(16)に,ブラケット(40)の掛止部(43A)に引っ掛かる窪み部(76)を設けることが,引用例1発明ないしは当業者の技術常識からみて,容易に想到し得るものであることは,上記説示のとおりである」(19頁第2段落)とした上,前審決の本件発明1〜3と引用例3発明との各相違点についての判断はいずれも誤りであり,これらの判断の誤りが前審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるとして,前審決を取り消した。
(2) 前判決に基づき,本件審決は,本件発明1と引用例3発明との相違点1として認定した,「本件発明1のデッドボルトが,ロック装置本体に上下方向に沿って出退自在に挿通されているのに対し,引用例3発明のデッドボルトはロック装置内に傾動自在に設けられた爪部材である点」(審決謄本8頁本件発明1について(1)対比の[相違点1]の項)について,前判決の上記(1)のイ@の説示を引用した上,「当審は,裁判所(注,前判決)の上記判示事項に拘束されることから,引用例3発明の爪部材9は,本件発明1の『上下方向に沿って出退自在に挿通され』る『デッドボルト』に相当するもの,あるいは,少なくとも,これと実質的に同一のものであるということができ,上記相違点1に係る構成は,実質的な差異ではない」(同9頁下から第2段落)と判断し,また,相違点2として認定した,「本件発明1は,デッドボルトの突出端部に,前記ウイングの開放方向に向けて突出している前記ブラケットの掛止部に対する引っ掛かりを確実にするための窪み部が設けられているのに対し,引用例3発明のデッドボルトやブラケットにはそのような窪み部や掛止部が設けられていない点」(同8頁本件発明1について(1)対比の[相違点2]の項)について,前判決の上記(1)のイAの説示を引用した上,「当審においても,引用例3発明において,副次的なロック機構を設けるとすれば,係合する二つの平面上の部材に凸部と凹部を設けること,すなわち,係着金具7の上端部に凸部を設け,その凸部に対する引っ掛かりを確実にするための凹部を,爪部9aの溝部のうち,係着金具7の上端部に対向する面に設け,これにより,上記相違点2に係る構成のように副次的なロック機構を構成することは,当業者にとっては,技術常識に属する事柄として容易に想到し得る事項である」(同11頁第3段落)と判断した。
(3) 原告は,本件審決の上記相違点2についての判断は,「副次的なロック機構」を引用例3発明に適用することについて,明らかに組合せを阻害する要因が存在するにもかかわらず,その阻害要因の判断を遺脱して相違点2に係る容易想到性を肯定したものであるから誤りであると主張し,これに対し,被告は,本件審決は,取消判決の拘束力に従ってされたものであるから,その認定判断の違法を争うことは許されず,また,発明の進歩性の判断手順において,当業者が容易に想到し得るか否かの判断は,組合せを阻害する要因の有無と一体として判断されるものであり,この点について,前判決が,当業者の技術常識を前提として,本件発明1は引用例3発明及び引用例1発明から容易に想到し得ると判断していることは明らかであると主張する。
ところで,審決取消訴訟の判決が,審決を取り消した後,再度の審判手続において,特許庁が当該取消訴訟の拘束力に従って,その点につき当該取消判決と同様の判断をし,それに基づいて再度の審決をした場合においては,その再度の審決に対する再度の審決取消訴訟において,上記拘束力に従った再度の審決の判断が誤りであると主張立証することは,許されないものと解すべきである。すなわち,審決取消訴訟において審決取消しの判決が確定したときは,審判官は,特許法181条2項の規定に従い,当該審判事件について更に審理を行い,審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審理ないし審決には,同法33条1項の規定により,同取消判決の拘束力が及ぶ。そして,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたるものであるから,審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されない。したがって,再度の審判手続において,審判官は,当事者が取消判決の拘束力の及ぶ判決理由中の認定判断につきこれを誤りであるとして従前と同様の主張を繰り返すこと,あるいは同主張を裏付けるための新たな立証をすることを許すべきでなく,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることができないのは当然である。このように,再度の審決取消訴訟においては,審判官が当該取消判決のよって来る理由を含めて拘束力を受けるものである以上,その拘束力に従ってされた再度の審決に対し関係当事者がこれを違法として非難することは,確定した取消判決の判断自体を違法として非難することにほかならず,再度の審決の違法(取消)事由たり得ないから,再度の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りであるとして,これを違法とすることが許されないことは明らかである(以上につき,平成4年最判参照)。
本件において,原告主張に係る「副次的なロック機構」は,上記相違点2に係る「デッドボルトの突出端部に,前記ウイングの開放方向に向けて突出している前記ブラケットの掛止部に対する引っ掛かりを確実にするための窪み部が設けられている」との構成をいうものであるところ,相違点2に係る構成を引用例3発明に適用することについての組合せを阻害する要因の有無は,相違点2に係る容易想到性を判断する一つの要素にすぎず,前判決は,上記(1)のイAのとおり,「引用例3発明において,地震発生時に,扉のロックをより確実に行うようにするために,主たるロック機構に加え,副次的なロック機構を追加することは,当業者にとって容易に想到し得ることというべきである。そして,引用例3発明において,副次的なロック機構を設けるとすれば,係合する二つの平面上の部材に凸部と凹部を設けること,すなわち,係着金具7の上端部に凸部を設け,その凸部に対する引っ掛かりを確実にするための凹部を,爪部9aの溝部のうち,係着金具7の上端部に対向する面に設け,これにより副次的なロック機構を構成することは,当業者にとっては,技術常識に属する事柄として容易に想到し得る事項であるというべきである。・・・したがって,本件発明1の,ブラケット(40)がウィング(5)の開放方向に突出している掛止部(43A)を備えているとの構成,及び,デッドボルト(16)の窪み部(76)との構成が,引用例3発明,及び,引用例1発明ないしは当業者の技術常識に基づいて,当業者が容易に想到し得るものであることは前示のとおりである」として,引用例3発明に相違点2に係る構成を適用することは容易であると判断したものであるから,原告主張の組合せを阻害する要因の有無の検討は,上記判断に含まれること,及び上記容易想到性の判断が,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断に相当し,拘束力の及ぶ範囲内の事項であることが明らかである。前判決には,組合せを阻害する要因について明示の説示はないが,前訴において,前訴原告(本訴被告)の,引用例3発明の扉のロック機構において,扉のロックを確実にするために,デッドボルトに窪み部を設け,ブラケットに掛止部を設け,これを係合させることは,当業者にとって技術常識であったとの主張に対し,前訴被告(本訴原告)は組合せを阻害する要因があるとの主張をしていなかったことから,その点に関する明示の説示をしなかったにとどまるものと理解されるのであって,その説示がないからといって,阻害要因の判断を遺脱したものということはできない。
そして,本件審決の上記相違点2についての判断は,上記のとおりの前判決の拘束力に従ったものであることが明らかであり,本件審決の認定判断中,前判決の拘束力の及ぶ部分,すなわち,引用例3発明に相違点2に係る構成を適用することは容易であるとの部分は,再度の審決取消訴訟である本件訴訟において,これを違法とすることはできず,原告が,本件審決のその判断が誤りであることを主張することは許されないものといわざるを得ない。原告は,組合せを阻害する要因は,前判決が明らかに認定判断を見逃した部分であるから,前判決の拘束力が及ばない範囲というべきであると主張するが,前判決が阻害要因の判断を遺脱したものといえないことは上記のとおりであり,その認定判断を見逃したものということはできない。そうすると,本件訴訟において原告が取消事由1として主張するところは,前判決の拘束力に従った本件審決の上記認定判断が誤りであると主張することに帰着するものであり,前判決の拘束力が及ぶ事項につき,再度の審決取消訴訟においてこれを蒸し返すものにほかならず,そもそも本件審決の取消事由とはなり得ないものであるから,それ自体失当というべきである。
(4) なお,付言すると,原告主張の組合せを阻害する要因,すなわち,本件審決の判断が示すように,「副次的なロック機構」を引用例3発明に適用して,係着金具7と爪部材9の互いの対向面にそのような凸部70と凹部90を形成すると,両部材7,9がいったん係合した場合に二度と取り外すことができなくなり,扉2の開閉とともに爪部材9と係着部材7との係脱が繰り返される「キャッチ装置」として機能しなくなるとの点は,本件発明1のデッドボルトが若干転倒してもブラケットの掛止部を確実に捕まえることができる程度の凸部及び凹部を,引用例3発明の係着金具及び爪部に設けたとしても,地震時でなければ爪部は回動可能なのであるから,扉を手前に引っ張って開放状態にすることが不可能になるものとは認められず,「副次的なロック機構」を引用例3発明に適用することを阻害する要因があるということはできない。したがって,前判決の拘束力の点をひとまずおき,原告主張の組合せを阻害する要因の有無について検討したとしても,結局,原告の取消事由1の主張は理由がないことが明らかである。
2 取消事由2(本件発明2,3の容易想到性の判断の誤り)について 本件審決の本件発明1の相違点2についての容易想到性の判断に誤りがないことは上記のとおりであるから,その誤りを前提とする原告の取消事由2の主張も理由がない。
3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 岡本岳
裁判官 早田尚貴