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関連審決 無効2018-800006
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事件 平成 31年 (行ケ) 10060号 審決取消請求事件

原告日本生化学株式会社
同訴訟代理人弁護士 田治之佳 佐藤史肇 濱富十郎 島田義史 上原恭典 入江徹 加藤智之
同訴訟代理人弁理士 木下茂 澤田優子 久米川正光
被告株式会社長寿乃里
被告株式会社イング
被告両名訴訟代理人弁護士 渡邊敏 山上祥吾 浜田建介
同訴訟代理人弁理士 松尾憲一郎 市川泰央
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2020/01/14
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2018-800006号事件について平成31年4月2日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 被告らは,平成19年1月31日,発明の名称を「スクラブ石けんの製造方法」とする発明について特許出願をし,平成22年3月12日,設定の登録を受けた(特許第4473278号。甲33。請求項の数2。以下「本件特許」という。。
) (2) 原告は,平成30年1月26日,本件特許に対する特許無効審判を請求し,無効2018-800006号事件として係属した。
(3) 特許庁は,平成31年4月2日, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月11日,原告に送達された。
(4) 原告は,平成31年4月24日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2の記載は,以下のとおりである(甲33)。以下,各請求項に係る発明を「本件発明1」などといい,また,その明細書(甲33)を,図面を含めて「本件明細書」という。
【請求項1】微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンを,界面活 性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成するスクラブ石けんの製造方法
【請求項2】前記アルカリ溶液には,前記シラスバルーンの重量に対して1/9〜1/11重量部のグリセリンを添加することを特徴とする請求項1に記載のスクラブ石けんの製造方法
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本件発明1は,@特許法36条6項1号に規定する要件に適合するから,サポート要件に違反しない,A同条4項1号に規定する要件に適合するから,実施可能要件に違反しない,B下記アの引用例1に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものではない,C下記イの引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものではない,などというものである。
ア 引用例1:居福朋大ほか著「シラスマイクロバルーンを含有する洗顔料に関する基礎的製造技術」と題する文献(甲1。平成17年) イ 引用例2:特開平10-182264号公報(甲2) ? 本件審決が認定した引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。, )本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 引用発明1 ガラス質であるシラスを発泡させた,微細中空球のシラスマイクロバルーンを含有させた,半固形洗顔石けんについて,脂肪酸,アルカリ水溶液,添加物として界面活性剤,シラスマイクロバルーンを用いて該半固形洗顔石けんを製造する方法。
イ 一致点 「微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーン,界面活性剤,アルカリ溶液,脂肪酸を用いるスクラブ石けんの製造方法。」である点。
ウ 相違点 (相違点1-1)本件発明1は,シラスバルーンの中空内部にも石けんが形成されるのに対し,引用発明1の半固形洗顔石けんでは,シラスマイクロバルーンの内部に石けんが形成されているかどうか不明な点。
(相違点1-2)石けんの形成について,本件発明1では,「シラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成する」ものであって, 「シラスバルーン」が浸漬される対象が「界面活性剤を含有するアルカリ溶液」と特定され,しかも,該浸漬と, 「アルカリ溶液に脂肪酸を添加すること」の順序が規定されているのに対し,引用発明1の「半固形洗顔石けん」は,どのように形成されるのかは不明な点。
(3) 本件審決が認定した引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。, )本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 引用発明2 セラミック造粒体を界面活性剤,例えばセッケン,アルカリ液の液体中に浸漬し,その内部の球状空間に前記液体を内蔵したセラミック造粒体の製造方法
イ 一致点 「微粒火山灰を原料とした中空状のシラスバルーンにおいて,前記シラスバルーンの中空内部に石けんを収容したスクラブ石けんの製造方法。」である点。
ウ 相違点(相違点2-1)中空状のシラスバルーンについて,本件発明1は, 「膨化処理を施した」ものであるのに対し,引用発明2の「セラミック造粒体」は, 「膨化処理を施した」ものかどうかは不明な点。
(相違点2-2)石けんの形成について,本件発明1では,「シラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透さ せ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成する」ものであって, 「シラスバルーン」が浸漬される対象が「界面活性剤を含有するアルカリ溶液」と特定され,しかも,該浸漬と, 「アルカリ溶液に脂肪酸を添加すること」との順序が規定されているのに対し,引用発明2の「セッケン」は,どのように形成されるのかは不明な点。
4 取消事由 (1) サポート要件の判断の誤り(取消事由1) (2) 実施可能要件の判断の誤り(取消事由2) (3) 引用発明1に基づく進歩性判断の誤り(取消事由3) (4) 引用発明2に基づく進歩性判断の誤り(取消事由4)
当事者の主張
1 取消事由1(サポート要件の判断の誤り)について〔原告の主張〕 本件明細書【0008】【0009】の記載によれば,本件発明の課題は,火山灰 ,は,比較的鋭利な形状であり,洗浄時の泡立ちが悪い場合,皮膚表面を細かく傷つけてしまうおそれがあるため,高い洗浄効果を有しながらも,泡持ちが良く,しかも,皮膚に対して刺激が少ない固形状又は半固形状のスクラブ石けんの製造方法及びスクラブ石けんを提供するとされており,本件発明の課題の一つは, 「皮膚表面を傷つけない」ことである。
ガラス球であるシラスバルーンは,破壊されると鋭利なガラス片となり,破壊されたシラスバルーンを含む石けんを使用した場合皮膚表面を傷つけることから,本件発明が解決する課題(皮膚表面を傷つけない)を解決するためには,石けん中に破壊されたシラスバルーンを含まないことが必要となる。シラスバルーンの平均粒径が大きくなるにつれて,シラスバルーンは破壊されやすくなる性質を備えるから,少なくとも,シラスバルーンが破壊されない程度にまでその平均粒径を特定しなけ れば,皮膚表面を傷つけないとの課題を解決することはできない。
そして,本件明細書には,膨化処理を施した中空状のシラスバルーンは,その平均粒径が5〜20μm程度と定義され(【0019】【0024】,これを超えて拡 , )張ないし一般化されたシラスバルーンまでは対象とされていない。平均粒径20μm以下のシラス微粒中空ガラスがせん断力に対して強いとの技術常識(甲6)に照らしても,平均粒径が特定されたシラスバルーンとして定義されるべきである。
ところが,本件発明1は, その平均粒径について拡張ないし一般化したシラスバルーンを対象としているのであるから,サポート要件違反である。
〔被告らの主張〕 本件明細書には,膨化処理は,平均粒径を5〜20μm程度の中空の微小ガラス球状に成形する処理としているが,同時に「公知の方法を用いることができる。」との記載がある(【0019】。すなわち,平均粒径を5〜20μm程度の中空の微小 )ガラス球状にすることは例示であり,中空の微小ガラスであれば,公知の方法で処理した20μm以上のものも含まれる。
引用例2には,セラミック原料粉末としては,粒径数μm〜数100μmのものが好ましいが,高温で焼結されるものであればよく,その一例として, 「シラス」がある旨の記載がある(【0028】。粒径数μm〜数100μmのシラスを発泡処理 )すれば,平均粒径は該数値より上昇することは自明であるから,引用例2には, 「5〜20μm程度」を超えるシラスバルーンが記載されており,甲13,乙4,乙5の各文献においても, 「5〜20μm程度」を超えるシラスバルーンが記載されているから,本件発明1では,かかる公知の方法を用いることができる。
よって,原告の主張は理由がない。
2 取消事由2(実施可能要件の判断の誤り)について〔原告の主張〕 本件明細書には,いかなる観察方法によって中空状のシラスバルーンの中空内部に石けんが形成されているか否かを観察できるのかについて,何ら示されていない から,本件発明1を実施することはできない。
よって,本件発明1は,実施可能要件に適合しないものである。
〔被告らの主張〕 本件明細書の【0013】【0030】〜【0033】【0036】〜【003 , ,8】【0041】【0063】【0082】【0083】には,本件発明1の製造方 , , , ,法により,シラスバルーンの内部にペースト状の石けんを含有していることが記載されているから,本件発明1が実施可能要件に適合していることは明らかである。
3 取消事由3(引用発明1に基づく進歩性判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 相違点1-2の認定の誤り 本件審決の認定した本件発明1と引用発明1の相違点1-2は誤りであり,正しくは,引用発明1の「半固形洗顔石けん」はシラスバルーン,界面活性剤,アルカリ溶液,脂肪酸により製造されるものの,シラスバルーン,界面活性剤,アルカリ溶液,脂肪酸の添加の順番が明記されていない点において,本件発明1と相違すると認定されるべきである。
(2) 容易想到性の判断の誤り ア 相違点1-2について アルカリ物質に界面活性剤を混在させ,さらに脂肪酸を添加して石けんを製造する方法は,甲3に開示された公知技術である。また,アルカリ水溶液に脂肪酸を添加して石けんを製造すること,石けんの製造において界面活性剤を配合すること,アルカリ物質(溶液)と界面活性剤(溶液)を混在させ,脂肪酸を添加して石けんを製造すること,アルカリ物質(溶液)と界面活性剤(溶液)を混在させることは,いずれも,周知技術(甲3〜5)である。
加えて,引用例1には,シラスマイクロバルーンを含有する半固形洗顔石けんの製造に関し, 「界面活性剤の添加,シラスマイクロバルーンの混合量や添加方法により,石けんの仕上げや使用感に差が生じる」旨の記載があり,シラスバルーンを含 有する石けんを製造するにあたって,シラスバルーンの性質を踏まえてその添加方法を検討することの示唆があるところ,シラスバルーンの性質等に係る技術常識(甲7,9,11)に照らすなら,アルカリ溶液と脂肪酸が液体状態から固形,半固形状(ペースト状)に変化する鹸化反応(化学反応)が生じる過程において,石けんの仕上げや使用感を確認するために,シラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に添加して,その均一混合を試みることや,その添加時期を,脂肪酸の添加の前後で変えて試みることは,当業者であれば,当然に行うことである。
以上によれば,相違点1-2は,引用発明1と甲3記載事項又は周知技術(甲3〜5)を単に組み合わせたにすぎない。そして,技術分野の関連性,課題の共通性,作用・機能の共通性,引用発明の内容中の示唆などの動機となるべき事由が存在することから,この組合せは,当業者において容易に想到し得るものである。
イ 相違点1-1について 引用例2には,(多孔質の)セラミック造粒体を界面活性剤,アルカリ液の液体 「中に浸漬し,その内部の球状空間に前記液体を内蔵したセラミック造粒体」が示され,その内部の空間を液体で満たすために,内部に空間を有する物体を液体中に浸漬させることも示されている。
そうすると,石けんの製造方法において周知の「界面活性剤を含有するアルカリ溶液」に中空状のシラスバルーンを浸漬した場合,その内部が界面活性剤を含有するアルカリ溶液で満たされることも当業者において容易に想到するものであり,また,その後脂肪酸が添加され,その内部に脂肪酸が侵入することにより,その内部に石けんが形成されることも,公知あるいは周知の石けんの製造方法からして,当業者において容易に想到するものである。
したがって,相違点1-1は,引用発明1に引用例2の記載事項と,甲3の記載事項又は周知技術(甲3〜5)を単に組み合わせたにすぎず,この組合せは,技術分野の関連性,課題の共通性,作用・機能の共通性,引用発明の内容中の示唆などの動機となるべき事由が存在することから,当業者において容易に想到し得るものであ る。
〔被告らの主張〕 (1) 相違点1-2の認定の誤りについて 本件審決は,引用発明1の「脂肪酸」「アルカリ水溶液」「界面活性剤」及び「シ , ,ラスマイクロバルーン」の各々は,本件発明1の「脂肪酸」「アルカリ溶液」「界面 , ,活性剤」及び「シラスバルーン」の各々に相当し,両者は「脂肪酸,アルカリ溶液,界面活性剤,シラスバルーンを用いる」という点において共通するが,本件発明1では, 「シラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成する」ものであって, 「シラスバルーン」が浸漬される対象が「界面活性剤を含有するアルカリ溶液」と特定され,しかも,該浸漬と, 「アルカリ溶液に脂肪酸を添加すること」の順序が規定されているのに対し,引用発明1の「半固形洗顔石けん」の前述した「脂肪酸」「アルカリ水溶液」「界面活性剤」及び「シラスマ , ,イクロバルーン」については,どのように石けんを形成するのか一切記載が無いから不明であると認定しているのであって,その認定に誤りはない。
(2) 容易想到性の判断の誤りについて ア 相違点1-2について 甲3〜5には,いずれも, 「アルカリ物質(溶液)と界面活性剤(溶液)を混在させ,脂肪酸を添加して石けんを製造すること」及び「アルカリ物質(溶液)と界面活性剤(溶液)を混在させること」の記載はなく,界面活性剤の具体的な役割については,一切記載がないのであるから,引用発明1に,甲3〜5の記載事項を組み合わせても,「シラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に添加すること」が容易に想到できないことは明らかである。
よって,相違点1-2は,当業者が容易に想到できたものではない。
イ 相違点1-1について 引用発明2では,造粒体の内部の球状空間に液体を内蔵しているが,この「液体」とは,内部の球状空間に充填された液体を指している上,複数の液体を内蔵することは想定しておらず,「界面活性剤を含有するアルカリ液」は,「液体」に該当しない。
また,前記のとおり,甲3〜5には, 「アルカリ物質(溶液)と界面活性剤(溶液)を混在させ,脂肪酸を添加して石けんを製造すること」及び「アルカリ物質(溶液)と界面活性剤(溶液)を混在させること」の記載はなく,これらの事項は周知技術とはいえないから,当業者は,中空状のシラスバルーンに「界面活性剤を含有するアルカリ液」を浸漬することを想到しない。
よって,相違点1-1は,当業者が容易に想到できたものではない。
4 取消事由4(引用発明2に基づく進歩性判断の誤り)について〔原告の主張〕 ア 本件審決は,引用発明2について,造粒体の内部の球状空間に導入されたアルカリ液はpH調整剤であり,そのアルカリ液に脂肪酸を添加しても石けんを形成できるとはいえないと認定しているが,球状空間に導入されたアルカリ液はpH調整剤ではない。
イ 引用例2には,(多孔質の)セラミック造粒体を界面活性剤,アルカリ液の 「液体中に浸漬し,その内部の球状空間に前記液体を内蔵したセラミック造粒体」が示され,その内部の空間を液体で満たすために,内部に空間を有する物体を液体中に浸漬させること(請求項23, 【0023】【0024】【0029】 ,また, , , ) 「特に,造粒体の殻が多孔質壁で構成された造粒体は,内部の球状空間と外部との間を気体,液体が徐々に流通するため,内部に充填された気体,液体が徐々に外部へ放出されるため,種々の有用な用途に適用できる」こと(【0053】)の記載がある。
したがって,引用発明2は,本件発明1と作用・機能を共通する上,その効果を示唆するものである。
また,前記のとおり,アルカリ物質に界面活性剤を混在させ,さらに脂肪酸を添 加して石けんを製造する方法は,甲3に開示された公知技術であり,アルカリ水溶液に脂肪酸を添加して石けんを製造すること,石けんの製造において界面活性剤を配合すること,アルカリ物質(溶液)と界面活性剤(溶液)を混在させ,脂肪酸を添加して石けんを製造すること,アルカリ物質(溶液)と界面活性剤(溶液)を混在させることは,いずれも,周知技術(甲3〜5)である。
したがって,引用発明2に,甲3記載事項又は周知技術(甲3〜5)を組み合わせるなら,中空状のシラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬し,その内部の空間が界面活性剤を含有するアルカリ溶液で満たされ,その後,脂肪酸を添加することにより,その内部に石けんが形成されるようにし,相違点2-2の構成を想到することは,容易である。
そして,シラスバルーンが膨化処理されていることは周知である(甲12〜14)から,相違点2-1の構成を想到することも容易である。
以上のとおり,相違点2-2の構成は,引用発明2に甲3記載事項又は周知技術(甲3〜5)を,相違点2-1の構成は,引用発明2に周知技術(甲12〜14)を組み合わせたにすぎず,これらの組合せは,技術分野の関連性,課題の共通性,作用・機能の共通性,引用発明の内容中の示唆などの動機となるべき事由が存在することから,当業者において容易に想到し得るものである。
〔被告らの主張〕 引用例2には,セラミック造粒体がセラミックの球状殻の内部に球状空間を有し,その球状空間内に界面活性剤(例えばセッケン)やアルカリ液等の液体を収容することや,液体中に浸漬することによって,内部の球状空間に液体が内蔵されること(請求項23, 【0024】)や,球状空間に液体を導入する方法として,真空チャンバー内に造粒体を入れ,内部の球状空間を真空とした後,その造粒体の周囲を液体で包囲し,常温に戻すこと(【0029】)が記載されているが,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬した場合についての記載や示唆はない。
引用例2では,アルカリ液と界面活性剤とが選択され,両者が含有される造粒体 が製造されるわけではなく,これにさらに脂肪酸を加える工程についての記載や示唆もない。
そして,前記のとおり,甲3〜5には, 「アルカリ物質(溶液)と界面活性剤(溶液)を混在させ,脂肪酸を添加して石けんを製造すること」「アルカリ物質(溶液) ,と界面活性剤(溶液)を混在させること」という点については一切開示がないから,仮に引用発明2に甲3〜5の記載事項を適用しても本件発明1を想到することはできない。
当裁判所の判断
1 本件発明について ? 本件明細書の記載 本件各発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある。
ア 背景技術【0003】固形状や半固形状の石けんは,保形成が高く,液状の石けんに比して内容物の沈殿が生じないことから,水に不要な粒子を混入し,いわゆるスクラブ石けんとして多く利用されている。
【0004】スクラブ石けんは,混入した粒子が,皮膚表面の皮脂や毛穴にたまった汚れをかき取るため,より高い洗浄効果を有するものである。
【0006】中でも,火山灰を用いたスクラブ石けんは,火山灰が降灰する地方の特産品として注目を浴びており,また,洗浄効果の高さから,その有用性が認識されつつある…。
イ 発明が解決しようとする課題【0007】しかしながら,上記従来の火山灰を混入したスクラブ石けんでは,その洗浄性の高さから,皮脂や汚れを素早く皮膚から掻き取って,泡中に溶解することとなるため,起泡性が減衰しやすく,洗浄の際に泡持ちが悪いという問題があった。
【0008】また,火山灰は顕微鏡などで観察すると,比較的鋭利な形状であるため,洗浄時の泡立ちが悪い場合,皮膚表面を細かく傷つけてしまうおそれがあった。
【0009】本発明は,斯かる事情に鑑みてなされたものであって,高い洗浄効果を有しながらも,泡持ちが良く,しかも,皮膚に対して刺激が少ない固形状または半固形状のスクラブ石けんの製造方法及びスクラブ石けんを提供する。
ウ 課題を解決するための手段 【0010】上記課題を解決するために,本発明に係るスクラブ石けんの製造方法では,微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成することとした。
エ 発明の効果 【0013】請求項1に記載のスクラブ石けんの製造方法では,微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成することとしたため,微粒火山灰の中空内部に内包された石けんを形成することができ,火山灰を含有しながらも,皮膚に対して刺激が少なく,しかも,徐放性を有し,高い洗浄効果を備えながらも,良好な泡持ちを有するスクラブ石けんを製造することができる。
オ 発明を実施するための最良の形態【0016】本発明は,膨化処理を施して中空の微小ガラス球状の微粒火山灰(以下,シラスバルーンともいう)を含有する固形状または半固形状(ペースト状)のスクラブ石けんであって,前記微粒火山灰の中空内部に内包された固形状または半固形状の石けんを備えることを特徴とするスクラブ石けんを提供するものである。
【0019】膨化処理は,火山灰を加熱や冷却,加圧や減圧を適宜行いながら,平均粒径を5〜20μm程度の中空の微小ガラス球状に成形する処理のことをいい,公知の方法を用いることができる。
【0024】なお,このようにして得られたシラスバルーンは,平均粒径10〜15μm,固め見かけ密度0.25〜0.30g/cm3 程度の,融着物や未発泡物の発生が極めて少ない微粒中空ガラス球状体となっている。
【0029】すなわち,微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンをアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成する。
【0032】この方法によれば,アルカリ火山灰溶液を調製した際に,シラスバルーン表面のクラック(割れ目)や孔からアルカリ溶液が内部に浸入し,シラスバルーン内部はアルカリ溶液で満たされることとなる。
【0033】この際,アルカリ溶液には,界面活性剤を添加しているため,アルカリ溶液の表面張力が弱められて,シラスバルーン表面の微細なクラックからシラスバルーンの内部へ,アルカリ溶液を容易に浸入させることができる。
【0037】次いで,アルカリ火山灰溶液に加温溶融した脂肪酸を添加すると,脂肪酸もまた徐々に表面のクラックを介してシラスバルーン内に浸透することとなる。
【0038】したがって,シラスバルーンの内外では,アルカリ溶液と脂肪酸との両者が混在することとなり,鹸化反応を行うことにより,シラスバルーン外部に基材石けんを形成すると同時に,シラスバルーン内部には内包石けんを形成することができる。
【0039】なお,通常石けんを製造する場合には,脂肪酸(又は油脂)の溶液に,アルカリ溶液を徐々に添加するのが一般的であるが,シラスバルーン内に内包石けんを形成する場合には,不適であると言える。
【0040】例えば仮に,脂肪酸溶液とシラスバルーンとを混合し,次いで,アルカリ溶液を添加した場合,シラスバルーンの内部にある脂肪酸溶液と,シラスバルーン内に浸入してきたアルカリ溶液とが,シラスバルーンの表面で石けんを形成してしまい,アルカリ溶液の更なる浸入を妨げるため,シラスバルーン中心部の脂肪酸溶液が未反応となりやすく,内包石けんが形成されにくいため好ましくない。
【0041】一方,本願発明の如く,アルカリ溶液とシラスバルーンとを混合してアルカリ火山灰溶液を調製し,次いで,脂肪酸溶液を徐々に添加した場合は,シラスバルーンの表面で石けんを形成しても,反応当初は高濃度のアルカリ溶液が脂肪酸溶液に比して多量にあるため,速やかに石けん分子が分散することとなり,シラスバルーン内部に脂肪酸溶液が入るのを妨げることがない。
【0042】したがって,シラスバルーンの中心部に至るまで,アルカリ溶液と脂肪酸溶液とを反応させることができるため,シラスバルーン内部に十分な量の内包石けんを形成することができる。
【0043】また,固形状または半固形状の基材石けんに,シラスバルーンを混入させただけでは,単にシラスバルーンの表面に基材石けんが付着するのみであり,粘度の高い基材石けんがシラスバルーンの中空内部に入って内包石けんとなることはない。
【0051】まず,加温可能で内部を減圧可能に形成した調合タンク等に,図1に示すA-1の原料を溶解するアルカリ溶液調製工程を行う(ステップS1)。
【0052】このアルカリ溶液調製工程では,27.3重量部の水に,5.55重量部の水酸化カリウムを徐々に添加して,水酸化カリウムを十分溶解し,アルカリ水溶液を調製する。
【0053】この際,水に水酸化カリウムを添加することで,アルカリ溶液の温度が上昇するが,できるだけ室温に近い温度,例えば15〜35℃程度に液温を保つのが望ましい。
【0054】次に,ステップS1で調製した室温のアルカリ溶液に,図1に示す A-2の原料を溶解して界面活性剤添加工程を行う(ステップS2)。
【0055】界面活性剤添加工程では,3重量部のグリセリン,5重量部の保湿剤,3重量部の増泡剤,3重量部の界面活性剤をそれぞれアルカリ溶液中に添加して均一になるまで撹拌を行う。なお,ここで添加するグリセリンは,次工程で添加するシラスバルーンの分散剤として機能するものである。
【0056】この界面活性剤添加工程においても,できるだけ室温に近い温度,例えば15〜35℃程度に液温を保つのが望ましい。
【0057】次に,界面活性剤添加工程において調製した,界面活性剤を含有するアルカリ溶液中に,図1に示すA-3の原料を添加するシラスバルーン添加工程を行う(ステップS3)。
【0058】 シラスバルーン添加工程では,22.74重量部のシラスバルーン,4重量部の白色顔料,0.01重量部の糖類を,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に添加する。
【0059】このシラスバルーン添加工程において添加するシラスバルーンは,前述した如く,予め膨化処理を施して微細な中空球状に成形した火山灰(シラス)である。
【0060】なお,このシラスバルーン添加工程で添加するシラスバルーンや,白色顔料は,非常に微細な粉体であるため,調合タンク内で撹拌する際に粉塵として宙に舞いやすい。
【0061】そこで,調合タンク内で撹拌を行うためには,まず,プラネタリーミキサー等で液中及び液面を穏やかに撹拌(例えば,20〜40rpm 程度) 次いで, し,ディスパー等により,強力な渦流を発生させて液中に巻き込むように撹拌混合(例えば,800〜1200rpm 程度)を行って浸透工程を実施する(ステップS4)。
【0062】浸透工程において,このような撹拌をおこなうことで,シラスバルーンや白色顔料が粉塵として宙に舞うことを防止することができる。
【0063】また,界面活性剤を含有するアルカリ溶液にシラスバルーンを添加 した当初の時点で,できるだけ空気を抱き込ませずに撹拌を行うことができるため,シラスバルーンの中空内部まで,効率よく界面活性剤を含有するアルカリ溶液を浸透させることができる。
【0064】仮に,界面活性剤を含有するアルカリ溶液にシラスバルーンを添加した当初より,強力な撹拌を行うと,シラスバルーンは空気を抱き込んで溶液中に懸濁されることとなるため,シラスバルーンの中空内部に効率よく溶液を浸透させることが困難となる。
【0065】併せて,撹拌時には,80℃に達するまで徐々に液温を昇温する。この昇温は,電気ヒータ等によるものでも良く,また,蒸気によって加熱するようにしても良い。
【0066】次に,浸透工程で調製した,界面活性剤を含有するアルカリ溶液とシラスバルーンとの混合液(アルカリ火山灰溶液)に,図1に示すB-1(脂肪酸)を添加する脂肪酸添加工程を行う(ステップS5)。
【0069】脂肪酸は,炭素数がC12〜C18で直鎖状の飽和または不飽和脂肪酸を好適に用いることができ,1種または複数の種類の脂肪酸を混合して用いるようにしても良い。
【0070】すなわち,脂肪酸の組成は,所望する石けんの性状に併せて適宜決定することができる。
【0071】また,本実施形態で用いる脂肪酸(または脂肪酸塩)は,固体であるため,脂肪酸をアルカリ火山灰溶液に添加する際には,70〜90℃に加熱溶融してから添加する。
【0072】次に,アルカリ火山灰溶液と,脂肪酸との混合液で石けんを形成する石けん調製工程を行う(ステップS6)。
【0073】この石けん調製工程では,アルカリ火山灰溶液に脂肪酸を混合した直後より,調合タンク内の減圧を行い,混合液中に含まれる空気を脱気(脱泡)しながら撹拌混合する。
【0074】また,石けん調製工程では,温度を75〜85℃に保ちながら20分間撹拌を行う。
【0075】混合液の温度が75℃を下回ると,流動性が低下して混合液が硬くなり,撹拌効率が落ちるため好ましくない。
【0076】また,混合液の温度が85℃を上回ると,混合液が変色しやすく,いわゆる石けん焼けを起こす原因となり,製品の見た目の仕上がりが劣化するため好ましくない。
【0077】混合液の温度を75〜85℃,より好ましくは77〜83℃とすることにより,均一で滑らかであり,しかも,白色の際だったスクラブ石けんとすることができる。
【0082】上述してきたように,このようにして得られたスクラブ石けんには,シラスバルーンの内部にもペースト状の石けんを含有している。
【0083】したがって,このスクラブ石けんは,火山灰を含有しながらも,皮膚に対して刺激が少なく,しかも,徐放性を有し,高い洗浄効果を備えながらも,良好な泡持ちを有するスクラブ石けんとすることができる。
? 以上によれば,本件発明の特徴は,以下のとおりである。
固形状や半固形状の石けんは,保形成が高く,液状の石けんに比して内容物の沈殿が生じないことから,水に不溶な粒子を混入し,いわゆるスクラブ石けんとして多く利用されている。中でも,火山灰を用いたスクラブ石けんは,火山灰が降灰する地方の特産品として注目を浴びており,また,洗浄効果の高さから,その有用性が認識されつつある。【0003】【0004】【0006】 ( , , ) しかしながら,上記従来の火山灰を混入したスクラブ石けんでは,その洗浄性の高さから,皮脂や汚れを素早く皮膚から掻き取って,泡中に溶解することとなるため,起泡性が減衰しやすく,洗浄の際に泡持ちが悪いという問題があった。また,火山灰は顕微鏡などで観察すると,比較的鋭利な形状であるため,洗浄時の泡立ちが悪い場合,皮膚表面を細かく傷つけてしまうおそれがあった。 【0007】【00 ( , 08】) 本件発明は,かかる事情に鑑みてなされたものであって,高い洗浄効果を有しながらも,泡持ちが良く,しかも,皮膚に対して刺激が少ない固形状又は半固形状のスクラブ石けんの製造方法及びスクラブ石けんを提供するものであり,本件発明に係るスクラブ石けんの製造方法では,微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成することとされる。【0009】【0010】 ( , ) この方法によれば,シラスバルーン表面のクラック(割れ目)や孔からアルカリ溶液が内部に浸入し,シラスバルーン内部はアルカリ溶液で満たされることとなるところ,アルカリ溶液には,界面活性剤を添加しているため,アルカリ溶液の表面張力が弱められて,シラスバルーン表面の微細なクラックからシラスバルーンの内部へ,アルカリ溶液を容易に浸入させることができる。次いで,アルカリ火山灰溶液に加温溶融した脂肪酸を添加すると,脂肪酸もまた徐々に表面のクラックを介してシラスバルーン内に浸透し,シラスバルーンの内外で,アルカリ溶液と脂肪酸との両者が混在することとなり,鹸化反応を行うことにより,シラスバルーン外部に基材石けんを形成すると同時に,シラスバルーン内部に内包石けんを形成することができる。【0032】【0033】【0037】【0038】 ( , , , ) その結果,微粒火山灰の中空内部に内包された石けんを形成することができ,火山灰を含有しながらも,皮膚に対して刺激が少なく,しかも,徐放性を有し,高い洗浄効果を備えながらも,良好な泡持ちを有するスクラブ石けんを製造することができる。【0013】【0082】【0083】 ( , , ) 2 取消事由1(サポート要件の判断の誤り)について (1) 特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明 が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) 本件発明1の課題とその解決手段について 前記1(1)のとおり,本件明細書の「発明が解決しようとする課題」には,従来の火山灰を混入したスクラブ石けんでは,その洗浄性の高さから,皮脂や汚れを素早く皮膚から掻き取って,泡中に溶解することとなるため,起泡性が減衰しやすく,洗浄の際に泡持ちが悪いという問題があり,また,火山灰は顕微鏡などで観察すると,比較的鋭利な形状であるため,洗浄時の泡立ちが悪い場合,皮膚表面を細かく傷つけてしまうおそれがあり(【0007】【0008】,高い洗浄効果を有しなが , )らも,泡持ちが良く,しかも,皮膚に対して刺激が少ない固形状又は半固形状のスクラブ石けんを製造することを課題とするものである(【0009】)との記載がある。
そして, 「課題を解決するための手段」には,本件発明1は,当該課題の解決のために,微粒火山灰に膨化処理を施した球状体である中空状のシラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成するものであること(【0010】【0016】【0029】 , , )の記載がある。
さらに,「発明の効果」には,かかる製造方法により,火山灰を含有しながらも,皮膚に対して刺激が少なく,しかも,徐放性を有し,高い洗浄効果を備えながらも,良好な泡持ちを有するスクラブ石けんとすることができる(【0013】)ことの記載がある。
以上によれば,当業者は,本件発明1の課題は,高い洗浄効果を有しながらも,泡持ちが良く,しかも,皮膚に対して刺激が少ない固形状又は半固形状のスクラブ石 けんを製造することであり,その解決手段として,微粒火山灰に膨化処理を施した球状体である中空状のシラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成するとの製造方法が採用され,その結果,火山灰を含有しながらも,皮膚に対して刺激が少なく,しかも,徐放性を有し,高い洗浄効果を備えながらも,良好な泡持ちを有するスクラブ石けんとすることができることを認識することができるというべきである。
よって,本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載され,その記載から,本件発明1の課題を解決することができると認識できる範囲内のものであるから,サポート要件に適合する。
(3) 原告の主張について ア 原告は,皮膚表面を傷つけないとの本件発明1の課題を解決するためには,シラスバルーンが破壊されない程度にまでその平均粒径を特定する必要があるにもかかわらず,本件発明1は, その平均粒径について拡張ないし一般化したシラスバルーンを対象としており,サポート要件に適合しない旨主張する。
しかし,本件明細書には,シラスバルーンの平均粒径に関し, 「膨化処理は,火山灰を加熱や冷却,加圧や減圧を適宜行いながら,平均粒径を5〜20μm程度の中空の微小ガラス球状に成形する処理のことをいい」【0019】, ( )「このようにして得られたシラスバルーンは,平均粒径10〜15μm,固め見かけ密度0.25〜0.30g/cm3 程度の,融着物や未発泡物の発生が極めて少ない微粒中空ガラス球状体となっている」【0024】 ( )との記載があるが,かかる平均粒径の数値に何らかの技術的意義があることの記載はなく, これを超えるシラスバルーンが破壊されやすいと解すべき根拠となる記載はない。
イ 原告は,20μm以下のシラスバルーンがせん断力に強いとの技術常識に照らしても,平均粒径が特定されたシラスバルーンとして定義されるべきであると主 張する。
しかし,原告が技術常識の根拠として挙げる「工業材料」と題する文献(平成9年7月1日発行。甲6)には, 「表1 シラスバルーンの物性」「平均粒径(μm)3 ,0〜300」「シラスバルーンの弱点はせん断力に対して弱いことである。樹脂や ,セメントと混合されるときに壊れやすい。最も微粒の製品の平均粒径は,約30μmであるが,これをさらに微細化することができれば,強度も上がり,特殊塗料や特殊接着剤,さらには洗剤や化粧品など付加価値の高い新用途が開ける。ここでは,主に最近開発されている20μm以下のシラス微粒中空ガラスについて紹介する。」との記載があるものの,新たなシラスバルーンとして,平均粒径20μm以下に微細化されたシラスバルーンが開発されたことを開示するにとどまり,シラスバルーンの粒径が通常20μm以下であることや,20μm以下のシラスバルーンがせん断力に強く,破壊されにくいことを開示しているとはいえない。したがって,甲6を根拠に20μm以下のシラスバルーンがせん断力に強いことが技術常識であるとは認められず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
ウ 以上によれば,本件明細書には,本件発明1のシラスバルーンが平均粒径20μm以下であると解すべき根拠となる記載があるとはいえず,本件発明1に係る特許請求の範囲が,平均粒径について,発明の詳細な説明に開示された内容から拡張ないし一般化したものであるとはいえないから,原告の主張は採用できない。
(4) 小括 よって,原告主張の取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(実施可能要件の判断の誤り)について (1) 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する。
(2) 本件明細書の発明の詳細な説明の記載事項 ア 本件明細書によれば,本件発明1に係るスクラブ石けんの製造方法について,次の事項が記載されていることが認められる。
微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンをアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成するものであり(【0029】,アルカリ溶液には,界面活 )性剤を添加しているため,アルカリ溶液の表面張力が弱められて,シラスバルーン表面の微細なクラックからシラスバルーンの内部へ,アルカリ溶液を容易に浸入させることができ,シラスバルーン内部はアルカリ溶液で満たされることとなる(【0032】【0033】。
, ) 通常石けんを製造する場合には,脂肪酸(又は油脂)の溶液に,アルカリ溶液を徐々に添加するのが一般的であるが,脂肪酸溶液とシラスバルーンとを混合し,次いで,アルカリ溶液を添加した場合,シラスバルーンの内部にある脂肪酸溶液と,シラスバルーン内に浸入してきたアルカリ溶液とが,シラスバルーンの表面で石けんを形成してしまい,アルカリ溶液の更なる浸入を妨げるため,シラスバルーン中心部の脂肪酸溶液が未反応となりやすく,内包石けんが形成されにくいため,好ましくない(【0039】【0040】。また,固形状又は半固形状の基材石けんに, , )シラスバルーンを混入させただけでは,単にシラスバルーンの表面に基材石けんが付着するのみであり,粘度の高い基材石けんがシラスバルーンの中空内部に入って内包石けんとなることはない(【0043】。これに対し,アルカリ溶液とシラスバ )ルーンとを混合してアルカリ火山灰溶液を調製し,次いで,アルカリ火山灰溶液に加温溶融した脂肪酸を添加すると,脂肪酸もまた徐々に表面のクラックを介してシラスバルーン内に浸透することとなり(【0037】,シラスバルーンの表面で石け )んを形成しても,反応当初は高濃度のアルカリ溶液が脂肪酸溶液に比して多量にあるため,速やかに石けん分子が分散することとなり,シラスバルーン内部に脂肪酸溶液が入るのを妨げることがなく,シラスバルーン内部に十分な量の内包石けんを 形成することができる(【0041】【0042】。
, ) 具体的な工程は,次のとおりである。すなわち,加温可能で内部を減圧可能に形成した調合タンク等で,アルカリ溶液調製工程を行い,27.3重量部の水に,5.55重量部の水酸化カリウムを徐々に添加して,水酸化カリウムを十分溶解し,アルカリ水溶液をできるだけ室温に近い温度で調製し(【0051】〜【0053】, )界面活性剤添加工程で,3重量部のグリセリン,5重量部の保湿剤,3重量部の増泡剤,3重量部の界面活性剤をそれぞれアルカリ溶液中に添加して均一になるまで,できるだけ室温に近い温度撹拌を行う(【0054】〜【0056】。シラスバルー )ン添加工程では,22.74重量部の予め膨化処理を施して微細な中空球状に成形した火山灰(シラス),4重量部の白色顔料,0.01重量部の糖類を,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に添加し,この際,まず,プラネタリーミキサー等で液中及び液面を穏やかに撹拌し,次いで,ディスパー等により,強力な渦流を発生させて液中に巻き込むように撹拌混合を行ってシラスバルーンや白色顔料が粉塵として宙に舞うことを防止するとともに,当初の時点で空気を抱き込ませずに撹拌を行うことで,シラスバルーンの中空内部まで,効率よく界面活性剤を含有するアルカリ溶液を浸透させ,撹拌時には,80℃に達するまで徐々に液温を昇温する 【0057】 (〜【0065】。次に,浸透工程で調製した,界面活性剤を含有するアルカリ溶液と )シラスバルーンとの混合液(アルカリ火山灰溶液)に,図1に示すB-1(脂肪酸)を添加する脂肪酸添加工程では,炭素数がC12〜C18で直鎖状の飽和又は不飽和脂肪酸を好適に用い,脂肪酸の組成は,所望する石けんの性状に併せて適宜決定することができ,本実施形態で用いる脂肪酸(又は脂肪酸塩)は,固体であるため,70〜90℃に加熱溶融してから添加する 【0066】 0069】 【0071】。
( , 【 〜 )石けん調製工程では,アルカリ火山灰溶液に脂肪酸を混合した直後より,調合タンク内の減圧を行い,混合液中に含まれる空気を脱気(脱泡)しながら,20分間撹拌混合し,混合液の温度を75〜85℃,より好ましくは77〜83℃とすることにより,均一で滑らかであり,しかも,白色の際だったスクラブ石けんとすることが できる(【0072】〜【0077】。
) このようにして得られたスクラブ石けんは,シラスバルーンの内部にもペースト状の石けんを含有している(【0082】。
) イ 以上によれば,本件明細書には,微粒火山灰に膨化処理を施した中空状のシラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加することにより,前記シラスバルーンの外部において石けんを形成するとともに,中空内部にも石けんを形成するスクラブ石けんを製造する方法について,その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていると認められる。
(3) 原告の主張について 原告は,中空状のシラスバルーンの中空内部に石けんが内包(形成)されているか否かを如何なる方法により観察(分析)できるのか,本件発明にかかる明細書には何ら示されていないことから,本件明細書の記載は実施可能要件に適合しない旨を主張する。
しかし,本件明細書の記載から,シラスバルーンの中空内部に石けんが形成されることが十分に理解できることは,前記(2)のとおりであり,分析方法についての説明がないことをもって実施可能要件に適合しないとはいえないから,原告の主張は採用できない。
(4) 小括 以上によれば,取消事由2は,理由がない。
4 取消事由3(引用発明1に基づく進歩性判断の誤り)について ? 引用例1の記載事項 ア 引用例1には,以下の記載がある。
(ア) 序論 シラスは鹿児島県に広く形成される火山灰体積物で,主に二酸化ケイ素や酸化アルミなどを含有し,その有効な活用法が期待されている。中でも,ガラス質である シラスを発砲させたシラスマイクロバルーンと呼ばれる微細中空球は高性能材料として,近年,研究が多くなされている。今回シラスマイクロバルーンが球形であること,またシラスが油分に対して強い吸着力を持つことに着目し,半固形洗顔石けんに含有させ,そのスクラブ的機能や洗浄力の向上が与えられることや,その基礎的な原料や製造技術の確立を目的とし,さらに付加価値を与えることを目指す。
(イ) 実験 基本的な洗顔石けんは,C8〜C18程度のある割合に混合している飽和・不飽和脂肪酸とアルカリのけん化により作られる。本実験ではシラスマイクロバルーンの混合し易い軟石けんのカリウム石けんの調整について検討した。石けんのけん化の反応速度に影響を及ぼす攪拌状態,反応温度,添加アルカリ水溶液濃度の影響を検討した。更に脂肪酸組成,界面活性剤の添加により石けんの仕上がりや使用感を検討した。更にシラスマイクロバルーンの混合量や添加方法を検討した。
(ウ) 結果と考察 各条件によるけん化度を測定し,もっとも効率の良い温度と攪拌条件を検討した。
けん化効率に及ぼす脂肪酸組成による影響は少ないが,添加アルカリ水溶液濃度により大きな変化が現れた。シラスマイクロバルーンを添加することにより,空気の混入が起こり操作中に泡が生じ,仕上がり状態や使用感に差がでた。
イ 上記アによれば,引用例1には,本件審決の認定した引用発明1(前記第2の3(2)ア)が記載されていることが認められ,この点については当事者間に争いはない。
(2) 対比 ア 本件審決の認定した,本件発明1と引用発明1の一致点及び相違点1-1(前記第2の3(2)イ,ウ)について,当事者間に争いはない。
イ 相違点1-2の認定について 引用例1には,シラスマイクロバルーンを混合した半固形洗顔石けんに関し,前記(1)ア(イ)のとおり記載されているのみであり,どのようにして半固形洗顔石けん が形成されるのかは記載されていない。
この点,原告は,シラスバルーン,界面活性剤,アルカリ溶液,脂肪酸の添加の順序が明記されていない点において,本件発明1と相違すると認定されるべきであると主張する。しかし,引用例1には,シラスバルーン,界面活性剤,アルカリ溶液,脂肪酸の添加の順序が明記されていないのみならず,これらからどのように石けんを形成するのかについて,一切記載がないというべきであり,本件審決の相違点1-2の認定に誤りはないから,原告の主張は採用できない。
(3) 相違点1-2の容易想到性判断について ア 各文献の記載事項 (ア) 甲3(特開平4-264200号公報) 甲3には,以下の記載がある。
【請求項1】アルカリ物質に脂肪酸を添加して石けんを生成せしめる工程と,生成した石けんを造粒する工程とを同時または連続して行うことを特徴とする高密度粒状石けんの製造方法
【請求項2】アルカリ物質に各種の添加剤を混在させる請求項1記載の高密度粒状石けんの製造方法
【0008】本発明において用いる脂肪酸としては,アルキル基またはアルケニル基の炭素数が7〜21程度のものを使用し,アルカリ物質としては例えば水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,トリエタノールアミン,モルホリン,アルカリの炭酸塩,ケイ酸塩,リン酸塩等が挙げられる。
【0009】また各種の添加剤としては,石けん以外の界面活性剤,硫酸ナトリウム,アルミノケイ酸塩,EDTA,CMC,ポリエチレングリコール,着色剤,蛍光増白剤,PC,PB,酵素,香料,水等が挙げられる。
【0010】本発明においては,まず造粒機の中に所定の配合割合のアルカリ物質と各種の添加剤を入れ,1〜2分混合する。つぎに攪拌を継続しながら40〜80℃に加温した脂肪酸を噴霧しながら添加し,中和により石けんを生成させながら 造粒を完了させる。また別の容器で石けんを生成させ,この石けんを連続して造粒する方法でも差し支えない。
(イ) 甲4(特開2005-307058号公報) 甲4には,以下の記載がある。
【0012】本発明者らは,機械練りにおける透明性の不足が,脂肪酸石鹸の製造工程,すなわち中和あるいはケン化工程にあるのではないかと考えた。
【0013】すなわち,従来の石鹸の製造方法は,脂肪酸及び油脂の一方あるいは両方をあらかじめ加温融解しておき,ここにアルカリ性物質を添加して,中和あるいはケン化するものであるが,反応生成物である脂肪酸塩の融点が原料である脂肪酸や油脂よりも10-50℃上昇するため,反応生成物が固化する現象が発生する。
【0014】この現象が発生すると,生成物が遮蔽壁となり,脂肪酸あるいは油脂とアルカリ性物質の接触が不十分となり,十分な攪拌がともなったとしても不均一反応になっているものと考えられる。
その結果,最終製品のPHを9-10のアルカリ性に制御したとしても,未中和の脂肪酸や油脂が過剰な部分と,アルカリ性物質が過剰な部分とが偏在し,不透明の原因になっているものと考えられる。
【0015】本発明はこのような考えを前提とし,発想の逆転によってなされたもので,従来とはまったく逆に,アルカリ性物質を溶解しておいた溶液の中に脂肪酸および油脂の一方あるいは両方を添加して中和あるいはケン化を行うことにより,不均一な部分がなくなり,本目的が達成できることを見出し,本発明を完成した。
(ウ) 甲5(特開2002-226359号公報) 甲5には,以下の記載がある。
【0012】本発明の脂肪酸石鹸系洗顔クリームには,本発明を損なわない範囲で通常使用される成分,例えば,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,ポリエチレングリコール,1,3-ブチレングリコール,エリスリトール等の多価 アルコール類,グルコース,シュークロース,マルトース等の糖類,ソルビトール,マルチトール等の糖アルコール類,アシルグリシン塩,アルキルリン酸塩,アシルタウリン塩,アルキル硫酸塩等のアニオン界面活性剤,カルボベタイン,アミドベタイン等の両性界面活性剤,アルキルグルコシド,脂肪酸アルカノールアミド,ポリグリセリン脂肪酸エステル等のノニオン界面活性剤,その他スクワラン,ホホバ油,オリーブ油,モノステアリン酸グリセリン等のエモリエント成分,ヒドロキシエチルセルロース,メチルセルロース等の水溶性高分子類,ジステアリン酸エチレングリコール等のパール化剤,抗炎症効果,細胞賦活効果や美白効果のある薬剤,色素,香料,防腐剤,殺菌剤,キレート剤,酸化防止剤等を適宜配合することができる。
【0013】本発明の脂肪酸石鹸系洗顔クリームは,常法に従って製造することができ,例えば,脂肪酸をアルカリ剤で鹸化して製造する場合は,アルカリ剤,水,多価アルコール等を加熱し溶解した水相に,加熱し溶解した脂肪酸等を添加し,中和することにより得ることができる。また,脂肪酸石鹸チップを用いる場合は,脂肪酸石鹸チップ,脂肪酸,多価アルコール,水等を加熱し溶解することにより得ることができる。
(エ) 甲7(特開平9-227200号公報)には, 「シラスバルーン…等の無機質中空フィラー…はアルカリ処理することによって外殻部表面が溶出して親水性が増加し,また該外殻部が部分的に崩壊して内部空間が外部に通ずるようになり,更に球形が変形して異形になる。このようなアルカリ処理された無機質中空フィラーはスラリー中において内部空間に水が侵入して見掛けの比重が増加し,スラリー中で浮上分離しにくくなり均一に分散するようになる。」との記載(【0006】)が,甲9(「香粧品科学」と題する文献)には, 「界面活性剤は粉体の表面に吸着し,その表面の性質を著しく変え分散性を向上させる。 との記載 」 (282頁9〜10行)が,甲11(特開2001-213992号公報)には, 「複合化物から多孔質無機粒子を溶解除去するには…アルカリ性溶液…を用いる。例えば,複合化物が…シラスバ ルーン…の場合は…アルカリ性溶液に複合化物を浸けるだけでよい。 との記載 【0 」 (014】)がある。
(オ) 上記(ア)によれば,甲3には,造粒機の中に所定の配合割合のアルカリ物質と各種の添加剤を入れ,次に,脂肪酸を噴霧しながら添加し,中和により石けんを生成させながら造粒を完了させる工程(以下「甲3技術」という。)が開示されていることが認められる。
また,上記(ア)ないし(ウ)によれば,アルカリ溶液に脂肪酸を添加して石けんを形成する工程は,周知であったものと認められる(以下「本件周知技術」という。 。
) イ 容易想到性の判断 甲3には,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に脂肪酸を添加することの記載はないから,引用発明1に,甲3技術を適用しても,シラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加する工程(相違点1-2)を想到することはできない。
また,引用発明1に,本件周知技術を適用しても,シラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加する工程(相違点1-2)を想到することはできない。
そして,引用例1の「基本的な洗顔石けんは,C8〜C18程度のある割合に混合している飽和・不飽和脂肪酸とアルカリのけん化により作られる。本実験ではシラスマイクロバルーンの混合し易い軟石けんのカリウム石けんの調整について検討した。」との記載(前記4(1)ア(イ))によれば,引用発明1は,軟石けんのカリウム石けんを調製した上で,これにシラスマイクロバルーンを混合し,スクラブ石けんを製造するものであるから,シラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させた上で,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加する工程を採用するべき理由はない。したがって,甲7,9,11に記載された,シラスバルーンがアルカリに溶けやすいとの性質や,界面活性剤の性質(前記ア(エ))を考慮したとしても,引用発明1に甲3技術又は本件周知技術を 適用するに当たって,シラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に添加することや,その添加時期を脂肪酸の添加の前後で適宜変更することができたとはいえない。
よって,引用発明1に,甲3技術又は本件周知技術を適用して,相違点1-2に係る構成を容易に想到できたものではない。
(4) 小括 以上によれば,相違点1-2は当業者が容易に想到できたものではないから,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1は,引用発明1から容易に発明をすることができたものではない。
よって,取消事由3は,理由がない。
5 取消事由4(引用発明2に基づく進歩性判断の誤り)について ? 引用例2の記載事項 ア 引用例2には,以下の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲 【請求項7】粉末集合体のセラミックの球状殻の内部に球状空間を有し,かつその球状空間内に〔A〕液体, 〔B〕ガス体及び〔C〕高温で液体又は気体となる固体からなる群から選ばれたものが充填されてなることを特徴とするセラミック造粒体。
【請求項8】セラミックの球状殻が,焼結されたセラミックであることを特徴とする請求項6又は7に記載のセラミック造粒体。
【請求項10】球状のセラミック造粒体の殻が多孔質のものであることを特徴とする請求項6ないし9のいずれかに記載のセラミック造粒体。
【請求項13】セラミック原料又はセラミックが,粘土,粘土鉱物,…シラス,…から選ばれた1種以上のものであることを特徴とする請求項6ないし12のいずれかに記載のセラミック造粒体。
【請求項15】セラミック造粒体が, 〔1〕触媒担体, 〔2〕セメントモルタル用又はコンクリート用混和材料,〔3〕軽量骨材,〔4〕肥料を含有してなる肥料,〔5〕 土壌改良剤を含有してなる土壌改良材料,〔6〕発光物質を含有してなる発光材料,〔7〕燐光発生物質を含有してなる燐光発生材料, 〔8〕pH調整物質を含有してなるpH調整材料,…〔18〕界面活性剤を含有してなる界面活性剤含有製品,…からなる群から選ばれたいずれかのものであることを特徴とする請求項6ないし14のいずれかに記載のセラミック造粒体。
【請求項23】請求項1ないし19のいずれかに記載の造粒体を液体中に浸漬し,内部の球状空間に液体を内蔵してなることを特徴とする造粒体。
【請求項25】粉末体が,〔1〕医薬,〔2〕肥料,〔3〕食品,〔4〕セメント,〔5〕飼料, 〔6〕色材, 〔7〕農薬, 〔8〕化粧料, 〔9〕酵素含有物, 〔10〕界面活性剤,…からなる群から選ばれたいずれかのものであることを特徴とする請求項1ないし24のいずれかに記載の造粒体。
(イ) 発明の属する技術分野 【0001】本発明は新規な造粒体に関し,特に球状の殻の内部に球状空間(中空部)を有してなる造粒体に関する。より好ましくは本発明は新規なセラミック造粒体に関し,特に球状の殻の内部に球状空間を有してなるセラミック造粒体に関する。
(ウ) 従来の技術及び発明が解決しようとする課題 【0002】従来造粒体は,医薬工業分野,肥料工業分野,食品工業分野,飼料工業分野,農業分野,触媒工業分野,色材工業分野,窯業分野,セラミック工業分野,粉末冶金工業分野,洗剤工業分野,化粧品工業分野,プラスチック工業分野,バイオ工業分野等において広く使用されつつある。そして,それら造粒体は,転動造粒法,圧縮型造粒法,撹拌型造粒法,押出し造粒法,破砕型造粒法,流動層型造粒法,溶融造粒法,噴霧乾燥造粒法,液相造粒法,真空凍結造粒法,液中造粒法等によって製造される。しかしながら,それら造粒法によっては,中空の造粒体を得ることは容易でなく,わずかに噴霧乾燥造粒法等により中空のものが得られている。特に内部に球状空間を有する造粒体,特にはセラミック造粒体の提供は困難であった。
【0024】界面活性剤としては,陰イオン界面活性剤,陽イオン界面活性剤,非イオン界面活性剤,両性界面活性剤などが挙げられる。陰イオン界面活性剤としては,例えば,セッケン,ロート油,硫酸エステル塩,アルキルベンゼンスルホン酸塩,α-オレフィンスルホン酸塩,N-アシルアミノ酸塩,Z-スルホコハク酸ジアルキル塩,N-(Z-スルホ)エチル-N-メチルアルカンアミド塩などが挙げられる。…界面活性剤は,洗浄剤,湿潤剤,浸透剤,分散剤,凝集剤,乳化剤,乳化破壊剤,可溶化剤,起泡剤,消泡剤,平滑剤,減摩剤,柔軟剤,帯電防止剤,撥水剤,殺菌剤,防錆剤などに用いられていることから,造粒体も同様な用途が期待できる。
【0028】本発明では好ましくはセラミック造粒体が得られる。セラミック原料粉末としては,粒径数μm〜数100μmのものが好ましい。セラミック原料粉末としては,高温で焼結されるものであればよく,例えば粘土,粘土鉱物,…シラス,…等があり,通常1000〜2000℃で焼結されるものである。
【0029】…焼結は,焼結適温であることが好ましく,それにより粒子同志が点接触で接合されるため,焼結された球状のセラミック殻は多孔質,すなわち連通細孔の多孔質殻壁となり,その球状の多孔質殻壁を介して内部の球状空間と外部との間に気体,液体の流通が実現される。この流通性は,通常連通性細孔を通して徐々に流通されるため種々の機能効果を発揮させるものであり,種々の用途製品の提供を可能とする。例えば,内部の球状空間に充填された気体,例えば殺菌性ガスの塩素,反応性ガス等が徐々に流通・流出する。また,内部の球状空間に充填された液体,例えば香料,アルカリ液,酸液等のpH調整剤,殺菌剤液,金属塩溶液,有機溶剤等が,徐々に流通・流出する。…なお,内部の球状空間に液体,気体等を導入する方法としては,例えば真空チャンバー内に本発明の造粒体を入れ,内部の球状空間を真空とした後,その造粒体の周囲を液体又は気体で包囲し,常圧に戻すことで容易に実施することができる。… 【0041】本発明の上記各セラミック造粒体は,以下のようにして製造できる。
(1)吸水膨潤した高吸水性ポリマーの球状粒子をセラミック原料粉末体に接触さ せて,同吸水膨潤した高吸水性ポリマーの球状粒子の全表面にセラミック原料粉末層を形成させた後,それを乾燥させ,その後焼成して球状のセラミック殻の内部に球状空間を有してなるセラミック造粒体を得ることを特徴とするセラミック造粒体の製造方法。…(4)乾燥又は焼成方法が,高周波誘電発熱式加熱装置内で誘電加熱することによるものであることを特徴とする前記(1)項ないし(3)項のいずれかに記載のセラミック造粒体の製造方法
(5)前記(1)項ないし(4)項のいずれかに記載の方法により得られたセラミック造粒体を液体中に浸漬し,セラミック造粒体の殻に液体を含浸させることを特徴とするセラミック造粒体の製造方法。… (エ) 発明の効果 【0053】本発明の粉末集合体よりなる球状殻の内部に球状空間を有してなる新規な造粒体は,優れた医薬工業製品,肥料製品,食品製品,飼料製品,農業製品,触媒製品,窯業製品,セラミック製品,粉末冶金製品,洗剤製品,プラスチック製品,バイオ工業製品等として,例えば触媒,軽量材料,防音材料,マイクロカプセル,軽量骨材等として使用できる。特には本発明の球状殻の内部に球状空間を有してなる新規なセラミック造粒体は,優れた触媒製品,窯業製品,セラミック製品,バイオ工業製品等として使用できる。特に,造粒体の殻が多孔質壁で構成された造粒体は,内部の球状空間と外部との間を気体,液体が徐々に流通するため,内部に充填された気体,液体が徐々に外部へ放出されるため,種々の有用な用途に適用できる。
イ 以上によれば,引用例2には,本件審決の認定した引用発明2(前記第2の3(3)ア)が記載されていることが認められる。
原告は,本件審決が引用発明2について,造粒体の内部の球状空間に導入されたアルカリ液はpH調整剤であり,そのアルカリ液に脂肪酸を添加しても石けんを形成できるとはいえないと認定したことが誤りである旨主張するが,本件審決の認定した引用発明2には,アルカリ液がpH調整剤であるとの特定はないから,原告の主張は理由がない。
(2) 対比 本件発明1と引用発明2との一致点,相違点は,本件審決の認定したとおりであると認められ(前記第2の3(3)イ, , ウ) この点については当事者間に争いがない。
(3) 容易想到性の判断 引用発明2は,シラスを原料とする粉末を焼結して形成された球状で多孔質のセラミック造粒体を,真空チャンバー内に入れ,内部の球状空間を真空とした後,その造粒体の周囲を液体又は気体で包囲し,常圧に戻すことで,内部の球状空間内に石けん等の液体を収容するものであるが,引用例2には,セラミック造粒体の中空内部において石けんを形成させることについての記載はない。
したがって,引用発明2に,石けんの製造方法に関する甲3技術や本件周知技術を適用する動機付けはない。
また,甲3には,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に脂肪酸を添加することの記載はないから,仮に引用発明2に甲3技術を適用しても,シラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加する工程を想到することはできない。
仮に引用発明2に,本件周知技術を組み合わせたとしても,シラスバルーンを,界面活性剤を含有するアルカリ溶液に浸漬して,中空内部にアルカリ溶液を浸透させ,その後,アルカリ溶液に脂肪酸を添加する工程により石けんを形成することを想到することはできない。
そうすると,引用発明2に,甲3技術又は本件周知技術を適用しても,相違点2-2に係る構成を容易に想到できたものではないというべきである。
(4) 小括 以上によれば,相違点2-2は当業者が容易に想到できたものではないから,その余の点について判断するまでもなく,本件発明1は,引用発明2から容易に発明をすることができたものではない。
よって,取消事由4は,理由がない。
6 結論 以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 小林康彦
裁判官 関根澄子
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