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事件 特許料納付書却下処分取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2019/12/12
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
令和元年12月12日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成31年(行ウ)第157号 特許料納付書却下処分取消請求事件(第1事件)

平成31年(行ウ)第158号 特許料納付書却下処分取消請求事件(第2事件)

5 平成31年(行ウ)第159号 特許料納付書却下処分取消請求事件(第3事件)

口頭弁論終結日 令和元年10月16日



判 決



10 原 告 山 崎 産 業 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 平 尾 正 樹

同 補 佐 人 弁 理 士 佐 藤 辰 彦



被 告 国

15 処 分 行 政 庁 特 許 庁 長 官

同 指 定 代 理 人 土 屋 大 気

吉 田 直 人

近 野 智 香 子

木 原 理 沙

20 尾 ア 友 美



主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

25 事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判

1
1 請求の趣旨

(1) 第1事件

特許第4763758号の特許権に係る第4年分から第5年分までの特許料納付

書について,特許庁長官がした平成28年12月27日付け手続却下処分を取り消

5 す。

(2) 第2事件

特許第4889443号の特許権に係る第4年分から第5年分までの特許料納付

書について,特許庁長官がした平成28年12月27日付け手続却下処分を取り消

す。

10 (3) 第3事件

特許第4942437号の特許権に係る第4年分から第5年分までの特許料納付

書について,特許庁長官がした平成28年12月27日付け手続却下処分を取り消

す。

2 請求の趣旨に対する答弁

15 (1) 本案前の答弁

本件各訴えを却下する。

(2) 本案の答弁

主文同旨

第2 事案の概要

20 1 事案の要旨

本件は,保有していた特許4763758号の特許権(以下「本件特許権1」と

いう。,特許第4889443号の特許権(以下「本件特許権2」という。
) )及び特

許第4942437号の特許権(以下「本件特許権3」といい,本件特許権1及び

本件特許権2と併せて「本件各特許権」という。)の各第4年分の特許料について特

25 許法112条1項により追納できる期間を徒過し,同法112条の2による特許権

の回復を求めて,特許庁長官に対し,同条1項に基づいて本件各特許権の第4年分

2
及び第5年分の特許料及び割増特許料を納付する旨の各納付書(以下「本件各納付

書」という。)を提出したものの,特許庁長官により本件各納付書に係る手続をそれ

ぞれ却下する処分(以下「本件各処分」という。)を受けた原告が,本件各処分は,

同条第1項所定の「正当な理由」の解釈適用を誤ってされた違法なものであるとし

5 て,被告に対し,本件各処分の取消しを求める事案である。

被告は,本案前の主張として,本件各処分を取り消しても本件各特許権が存続し

た状態で回復する可能性はなく,原告は回復すべき法律上の利益を有しないため,

本件各処分の取消しを求める訴えはいずれも訴訟要件(訴えの利益)を欠く不適法

なものであると主張して,訴えの却下を求めるほか,本件各処分の違法性を争って

10 いる。

2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は後掲の証拠(以下,書証番号は特

記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 原告は,(省略)に本店を有する清掃機器等のメーカーである。

(2) 本件各特許権

15 原告は,以下の本件各特許権について,それぞれ第1年分から第3年分までの各

特許料を納付し,特許権の設定登録を受けた。

ア 本件特許権1(甲A1)

特許番号 第4763758号

発明の名称 ループパイル保持体

20 出願日 平成20年7月8日

登録日 平成23年6月17日

イ 本件特許権2(甲B1)

特許番号 第4889443号

発明の名称 高吸水高乾燥性払拭具

25 出願日 平成18年10月25日

登録日 平成23年12月22日

3
ウ 本件特許権3(甲C1)

特許番号 第4942437号

発明の名称 高吸水高乾燥性パイルマット

出願日 平成18年9月20日

5 登録日 平成24年3月9日

(3) 第4年分の追納期間の経過による本件各特許権の消滅

本件各特許権の第4年分の特許料につき,特許料の納付期限である特許法108

条2項本文の期間(以下「納付期間」という。)及び同法112条1項の規定により

特許料追納することができる期間(以下「追納期間」という。)は,以下のとおり

10 であったところ,本件各特許権について,原告は,それぞれの納付期間中に第4年

分の各特許料の納付をせず,それぞれの追納期間中に第4年分の各特許料及び同条

2項の各割増特許料(以下,特許料と同項の割増特許料を併せて「特許料等」とい

うことがある。)の納付をしなかった。

これにより,本件各特許権は,同条4項の規定に基づいて,次の各納付期間の経

15 過の時にさかのぼって消滅したものとみなされた。

ア 本件特許権1

納付期間 平成26年6月17日まで

追納期間 平成26年12月17日まで

イ 本件特許権2

20 納付期間 平成26年12月22日まで

追納期間 平成27年6月22日まで

ウ 本件特許権3

納付期間 平成27年3月9日まで

追納期間 平成27年9月9日まで

25 (4) 本件各納付書の提出等

原告は,平成27年12月9日,特許庁長官に対し,特許法112条の2による

4
特許権の回復を求めて,同条1項の規定により本件各特許権の第4年分及び第5年

分の各特許料等を納付する旨の本件各納付書を提出し,同月11日付けで追納期間

内に納付できなかったことについて正当な理由がある旨を主張する回復理由書を提

出した(甲A2,乙1〜3)。

5 (5) 本件各処分

ア 特許庁長官は,特許法18条の2第2項により,平成28年7月26日付け

(同年8月2日発送)の却下理由通知書によって,原告に対し,本件各納付書によ

る納付のうち,本件各特許権の第4年分の各特許料等に係る部分については,いず

れも,追納期間内に特許料等を納付することができなかったことについて同法11

10 2条の2第1項正当な理由があるとはいえないから,追納の要件を充たしておら

ず,本件各特許権の第5年分の各特許料等に係る部分については,第4年分の各特

許料等の追納が認められないことに伴って本件各特許権は消滅しているから第5年

分の特許料の納付は認められないとして,本件各納付書に係る手続を却下すべきで

あるとする理由を通知した(甲A3,甲B2,甲C2)。

15 イ 原告は,特許庁長官に対し,平成28年9月23日付けで弁明書を提出した

が,特許庁長官は,同年12月27日付け(平成29年1月10日発送)で,上記

アの却下理由に基づいて,特許法18条の2第1項の規定により本件各納付書に係

る手続をそれぞれ却下する本件各処分をした(甲A4,5,甲B3,甲C3)。

(6) 審査請求

20 原告は,平成29年4月7日,本件各処分の取消しを求めて審査請求を行ったが,

特許庁長官は平成30年10月5日付けでこれを棄却する旨の裁決をした(甲A6,

11,甲B4,6,甲C4,6)。

(7) 本件訴えの提起

原告は,平成31年4月3日,本件各処分の取消しを求める訴え(第1事件ない

25 し第3事件)を提起した(当裁判所に顕著な事実)。

3 争点

5
(1) 本件各処分の取消しを求める訴えの利益の有無(争点1)

(2) 本件各特許権の第4年分の追納期間の徒過に特許法112条の2第1項所定

の「正当な理由」が認められるか(争点2)

4 争点に対する当事者の主張

5 (1) 争点1(本件各処分の取消しを求める訴えの利益の有無)について

【原告の主張】

原告には,本件各処分が取り消されることによって,次のとおり回復すべき利益

があるので,本件各処分の取消しを求める訴えはいずれも訴えの利益がある。

ア 本件各特許権の回復可能性があること

10 原告は,本件各特許権の第6年分以降の特許料等につき,現時点までに,納付期

限が到来しているもの(本件特許権1については第9年分まで,本件特許権2及び

本件特許権3については第8年分まで)については,いずれも納付手続を行ってい

る。

これらの納付手続については,いずれも却下の処分又は却下理由通知がされてい

15 るが,本件各処分が取り消されれば,取消判決の拘束力によっていずれも却下処分

ないし却下理由通知を取り消して受理されるべきものである。これらの納付手続の

中には,追納期間の経過後のものや,特許法112条の2第1項の回復期間の経過

後のものが含まれるが,これらの期間を経過したのは,特許庁長官が本件各処分を

し,後年分の特許料を受理しないという意思を明確にしたためであるから,いずれ

20 についても上記取消判決の拘束力が及ぶと解すべきである。

したがって,本件各処分が取り消されれば,本件各特許権は存続した状態で回復

するから,原告は本件各処分の取り消しを求める利益がある。

イ 本件各特許権が回復しなくても本件各処分を取り消す利益があること

本件各処分が取り消されることによって,本件各特許権は,特許権が消滅すると

25 みなされた第4年分の納付期間の経過時から,少なくとも第6年分の納付期間の末

日までの2年間は存在したことになる。原告は,この2年間の本件各特許権の行使

6
に関し,第三者の実施に対して損害賠償を請求することができるほか,原告が第三

者から取得したライセンス料が不当利得になることや原告が付した特許表示が虚偽

表示になることを回避し得るといった利益がある。そして,原告は,オカ株式会社

の製品「ポコモコ」が本件特許権1の侵害に当たると判断しており,ワコー株式会

5 社との間で本件特許権2の,内野株式会社との間で本件特許権3の,それぞれ通常

実施権の許諾契約を結んでいる。

また,回復した特許権の権利の制限を定める特許法112条の3の規定によって

も,第4年分の追納期間中の第三者の行為に対する権利行使は制限されない。

したがって仮に本件各特許権自体の回復ができないとしても,原告には本件各処

10 分の取消しを求める利益がある。

【被告の主張】

本件各処分を取り消しても,本件各特許権が存続した状態で回復することはなく,

原告は回復すべき法律上の利益を有しないため,本件各処分の取消しを求める訴え

は,いずれも訴えの利益がない。

15 ア 本件各特許権の回復可能性があることについて

(ア) 本件各特許権が存続した状態で回復されるためには,本件各処分の取消を求

めている間に到来する後年分(各第6年分以降)の特許料について,各納付期間又

は各追納期間内に納付手続がされる必要があり,後年分の納付手続が追納期間まで

にされていない場合には,本件各処分を取り消しても,本件各特許権が存続した状

20 態で回復される余地はない。

(イ) 本件特許権1及び本件特許権2の第7年分の各特許料等並びに本件特許権3

の第6年分の特許料等は,それぞれの追納期間の末日までに納付手続がされず,そ

の後に納付書が提出されている。

したがって,本件各処分を取り消しても,本件各特許権が存続した状態で回復さ

25 れる余地はないから,原告において本件各処分を取り消す訴えの利益はない。

イ 本件各特許権が回復しなくても本件各処分を取り消す利益があることについ

7


特許料追納期間の経過により消滅したものとみなされた特許権が特許法112

条の2第2項の規定により遡及的に回復した場合でも,特許法112条の3の規定

により回復した特許権の効力は制限されるから,本件各処分が取り消されても,原

5 告が主張する2年間分の権利行使は制限される。

原告は,権利行使の抽象的な可能性を主張するにとどまるから,本件各特許権自

体が回復できない場合に,原告において本件各処分を取り消す訴えの利益が具体的

に存在するとはいえない。

(2) 争点2(本件各特許権の第4年分の追納期間の徒過に特許法112条の2

10 1項所定の「正当な理由」が認められるか)について

【原告の主張】

ア 本件各納付書の提出までの事実経過の概要

(ア) 原告は,平成20年6月頃までに,同年7月からA特許事務所(以下「本件

特許事務所」という。)に委任していた特許料の支払等の特許権の管理を株式会社デ

15 ンネマイヤー・ジャパン(以下「デンネマイヤー」という。)に移管することを決定

した。移管の手続は,原告が,同年6月頃,本件特許事務所に依頼し,デンネマイ

ヤー指定の書式に移管の対象となる特許権及び意匠権を記入してもらい,原告がそ

れを確認してデンネマイヤーに送る方法で実施した。

移管に当たっての原告の担当者は,原告の特許管理室長であるB(以下「B」と

20 いう。)であった。

(イ) 平成20年7月の時点で,本件特許事務所との契約を解除してデンネマイヤ

ーへの移管が完了したのは移管時点で成立していた特許権及び意匠権の管理につい

てだけであった。また,共有に係る特許権については,デンネマイヤーから管理で

きないと言われたので,従来どおり本件特許事務所において管理をしてもらうこと

25 とし,本件特許事務所が管理を継続した。

原告は,その後,移管によるメリットが当初の見込みほどには得られないことが

8
判明したため,上記(ア)の移管後に成立した特許権及び意匠権(以下「移管後成立権

利」という。)の管理についてのデンネマイヤーへの移管指示を見合わせることとし

て,その後は1件も同社に対して移管をしなかった。

(ウ) Bは,移管後成立権利についてはデンネマイヤーに移管しておらず,従前ど

5 おり,本件特許事務所が管理すると認識していた。

Bは,上記(ア)の移管の後,本件特許事務所から,移管後成立権利についての年金

管理を本件特許事務所で継続すべきか否かの問い合わせがあった際,迷っていたた

めに「少し待って下さい」と言って明確な返答をしなかった。Bは,本件特許事務

所に対して明確に解除の意思表示をしていないことなどから,移管手続をとってい

10 ない移管後成立権利の管理は,本件特許事務所によってされているものと考えてい

た。

(エ) ところが,本件特許事務所では,自らが特許等の申請手続に関与した移管後

成立権利に関して,登録時の3年分の登録料を納付した後はデンネマイヤーに管理

が移管されると認識していた。

15 そして,移管後成立権利に関して,原告に対して,特許査定通知,第1年分から

第3年分までの特許料納付完了通知,特許証送付通知等をしたが,第4年分以降の

年金期限到来前にその納付をしない旨の注意喚起をせず,原告に管理終了の通知を

しないまま管理を終了した。

(オ) 原告は,平成27年10月12日,特許検索ソフト「CSKウェブ」で原告

20 の特許権を検索して権利が消滅している判定が表示されたこと,その他の特許権や

意匠権を同ソフト及び特許情報プラットフォームで確認して,移管後成立権利に係

特許料や意匠料の支払がなされておらず,本件各特許権を含め移管後成立権利が

全て消滅していることを知るに至った。

したがって,平成27年10月12日が特許法施行規則69条の2第1項の「正

25 当な理由がなくなった日」に当たり,原告は,速やかに本件特許事務所に連絡して

事実関係の確認を行って,同日から2か月以内に本件各納付書及び回復理由書を提

9
出した。

正当な理由の有無

(ア) 「正当な理由」の意義

特許法112条の2追納の要件は,特許法条約(以下「PLT」という。)に適

5 合するように,特許法の平成23年改正によって緩和されたものである。

上記改正後の要件である「正当な理由」とは,PLT12条にいう「状況により

必要とされる相当な注意」よりも権利者に有利な要件(PLT2条(1))として解釈

されるべきであり,そうでないとしても「状況により必要とされる相当な注意」を

指すものとして解釈されるべきである。

10 (イ) 本件における「正当な理由」の有無

a 原告は,資本金約5億8000万円,従業員約400名,年間売上高約15

0億円の中小企業であるが,特許管理室を設置し,知的財産権の管理について,こ

の規模の企業相応の体制を備え,相応の注意を払ってきた。

原告の担当者であったBも,外部委託先を変更するという初めての経験に際して

15 ミスが発生しないような手順をとる等の注意義務を尽くしたが,その中で,特許料

納付の遅延が発生したのは,以下のとおり,デンネマイヤーの営業本位の対応や,

本件特許事務所と原告との間で連絡,確認の不備が生じたことが原因である。

b デンネマイヤーは,知的財産の期限管理の専門家であるのに,移管のデメリ

ットについては全く説明せず,また,移管の際に管理の空白が生じる危険について

20 一切説明しなかった。この点の注意喚起が適切になされていれば,Bはその危険を

認識することができたから,特許料納付の遅延が生じることはなかった。

また,デンネマイヤーへの移管作業をした本件特許事務所は,移管作業に含まれ

ていなかった移管後成立権利については管理を継続すべきであり,少なくとも原告

に管理終了の確認をすべきであった。特に,移管後成立権利に関する管理継続の問

25 い合わせに対して原告が「少し待って下さい」と言って明確な返答をしなかったと

いった経緯があったのであるから,専門家としては,原告に対して,移管後成立権

10
利について管理を終了する旨の注意喚起をすべきであった。

c 以上の経過からすれば,原告及びその担当者のBは,上記(ア)の「状況により

必要とされる相当な注意」を払っていたものであり,その上で,上記bの事情によ

って発生した遅滞は偶発的な誤りというべきであるから,本件各特許権の第4年分

5 の追納期間の徒過には,特許法112条の2第1項の「正当な理由」が認められる。

【被告の主張】

ア 本件各納付書の提出までの事実経過の概要について

事実経過に関する原告の主張についてはいずれも不知。

正当な理由の有無について

10 (ア) 「正当な理由」の意義について

特許法112条の2第1項の「正当な理由」は,PLT12条の「相当な注意」

の基準を採用して制定されたものであり,正当な理由があるときとは,特段の事情

がない限り,特許権者(代理人を含む。)として,相当な注意を尽くしていたにもか

かわらず,客観的にみて追納期間内に特許料等を納付することができなかったとき

15 をいうと解するのが相当である。

(イ) 本件における「正当な理由」の有無について

原告の主張によると,本件において,原告の特許管理室長であったBは,移管後

成立権利の今後の管理について尋ねられた際にも曖昧な返答をしただけで済ませ,

その後,本件特許事務所に対して,本件各特許権の管理に関する明確な意思を表示

20 することもなかった。

原告は特許権者として,自らの判断に基づき第三者に委任して特許料を納付する

こととした以上,少なくとも,その委任関係の継続の有無を明確にすべきであった

のにそれを怠ったものであるから,上記(ア)に照らし,特許権者として,期間徒過を

回避するために必要な注意を払っていたとは到底いえず,相当な注意を尽くしてい

25 たにもかかわらず,客観的にみて,本件各特許権の追納期間内に特許料等を納付す

ることができなかったとはいえない。

11
第3 当裁判所の判断

1 争点1(本件各処分の取消しを求める訴えの利益の有無)について

本件各処分に至る事実経過は,第2の2のとおりであり,本件各特許権は,それ

ぞれの第4年分の特許料等が追納期間内に納付されなかったことにより,特許法1

5 12条4項の規定に基づいて,第4年分の各納付期間の経過の時にさかのぼって消

滅したものとみなされているが,その後,原告により,特許法112条の2による

特許権の回復を求めて,第4年分及び第5年分の特許料等についての本件各納付書

が提出されており,本件各処分において却下の理由とされた第4年分の特許料等の

追納に係る「正当な理由」の有無のほかに,本件各納付書による納付手続の要件に

10 欠けるところがあったとはうかがわれない。

そうすると,本件各特許権は,第4年分及び第5年分の特許料等の納付手続が適

法であるとして本件各処分が取り消される場合には,特許法112条の2第2項

規定により,それぞれ第4年分の各納付期間の経過時にさかのぼって回復され,そ

こから,少なくとも,第6年分の特許料の納付期間が経過するまでは存続していた

15 ものとみなされる。そして,このような同項の規定による特許権の回復は,本件各

特許権の第6年分以降の特許料等の納付手続の帰すうや現時点において本件各特許

権が存続した状態で回復されるかにかかわらず生ずると解すべきである。

また,このように回復された期間中の本件各特許権に基づく権利行使については,

特許法112条の3により,第4年分の各追納期間経過後,特許権の回復の登録ま

20 での期間については制限を受けるが,第4年分の各納付期間の経過後から各追納

間の経過までの期間については制限を受けないものと解される。

以上のとおり,特許権が回復された期間中の権利行使について特許法112条

3による制限を受けない期間が存在すること,その他,原告による当該期間中の権

利行使の可能性がないことをうかがわせる事情が認められないことからすれば,本

25 件各特許権の第6年分以降の特許料等の納付手続の帰すうにかかわらず,本件各処

分の取消しの訴えの利益を認めることができるというべきである。

12
2 争点2(本件各特許権の第4年分の追納期間の徒過に特許法112条の2

1項所定の「正当な理由」が認められるか)について

(1) 特許法112条の2第1項所定の「正当な理由」の意義

特許法112条の2第1項は,追納期間経過後に特許料等を追納することができ

5 る場合の要件として,特許権の管理は特許権者の自己責任の下で行われるべきもの

であること,失効した特許権の回復を無制限に認めると第三者に過大な監視負担を

かけることなどを踏まえて,所定の期間内に特許料等を納付することができなかっ

たことについての「正当な理由」があることを規定する。

上記の要件は,平成23年法律第63号により,国際調和の観点から,より柔軟

10 な救済を図るため,手続期間を徒過した場合の救済を認める要件として,PLTに

おいて認められている「Due Care(相当な注意を払っていたこと)」の概念

を採用して,追納期間徒過後に特許料等を追納することができる場合について,原

特許権者の「責めに帰することができない理由」があることを定めていた従前の規

定を改正して設けられたものであると解される。

15 これらを踏まえると,特許法112条の2第1項にいう「正当な理由」があると

きとは,原特許権者(代理人を含む。以下同じ。)として相当な注意を尽くしていた

にもかかわらず,客観的にみて追納期間内に特許料等を納付することができなかっ

たときをいうと解するのが相当である。

(2) 「正当な理由」の有無について

20 ア 原告は,納付期限の徒過に至る事実経過の概要として,前記第2の4(2)【原

告の主張】アのとおりであると主張しているところ,これによれば,本件各特許権

の第4年分の特許料の納付の遅れが生じた直接の原因は,原告において,平成20

年7月頃に特許料の支払の管理の大部分を本件特許事務所からデンネマイヤーに移

管したことを契機として,本件各特許権を含め,移管後成立権利についての第4年

25 分以降の特許料の管理について,原告は本件特許事務所が管理すると考え,本件特

許事務所はデンネマイヤーが管理すると考えるという認識のそごが生じ,これらの

13
特許料の支払が,原告からも本件特許事務所からもなされない状態が長期間継続し

たことによるものであったといえる。

そして,この認識のそごに関し,原告の担当者であったBは,本件各特許権を含

めた移管後成立権利の取扱いについて,デンネマイヤーに移管すべきか,本件特許

5 事務所において管理を継続すべきかについて判断に迷い,平成20年7月頃にデン

ネマイヤーへの当初の移管の手続が終了した後に,本件特許事務所から,この点に

ついての確認を受けた際にも「少し待って下さい」と言って明確な返答をせず,そ

の後も,移管の当否の判断がつかない状態が続いたため,平成27年10月頃に移

管後成立権利が消滅しているのを発見するまで,移管後成立権利の管理について本

10 件特許事務所との間で具体的な連絡をすることはなかった旨を述べているものであ

るから(甲A18),事実経過について原告の主張するとおりであったとしても,原

告において,本件各特許権の特許料の支払に関し,原特許権者として相当な注意を

尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて追納期間内に特許料等を納付すること

ができなかったときに当たるということはできない。

15 イ この点について,原告は,デンネマイヤーへの移管後の原告と本件特許事務

所との間のやりとりからすれば,移管後成立権利について,原告への連絡なく管理

を終了させたことについては,本件特許事務所に帰責性があった旨主張する。

しかしながら,上記のとおり,本件特許事務所からの移管後成立権利の取扱いに

ついての問合せに対して,Bが「少し待って下さい」と述べていたことを前提にす

20 れば,原告からの連絡がない状況で,当然に本件特許事務所が移管後成立権利の管

理を行うべきであったとはいえない。

また,本件特許事務所は,平成20年7月以降もデンネマイヤーに移管されなか

った,原告と他の特許権者とが共有する特許権については,特許料の支払の都度,

原告への通知を続けていたことが認められる(甲A17)が,他方で,本件各特許

25 権を含めた移管後成立権利については,登録時に納付されるべき第1年分から第3

年分の特許料の支払についての連絡がされた(甲A19の2の1〜19の2の3)

14
後は特許料の支払に関する連絡がされていたとは認められないから,原告において,

本件特許事務所から原告への連絡がないにもかかわらず,本件特許事務所により,

相当数に上る移管後成立権利の第4年分以降の特許料の納付が継続されていたと長

期間誤信したことに相当な理由があったともいえない。

5 したがって,原告の主張する本件特許事務所の帰責性は,上記アの結論を覆すに

足りるものではない。

ウ その他,原告は,移管の際に管理の空白が生じる危険についてデンネマイヤ

ーがBに十分注意喚起をしなかったとも主張するが,B自身が,移管に当たって,

手続上のミスによって,デンネマイヤーに移管していない特許が本件特許事務所で

10 管理を解除されて特許が危険な状態に置かれることを危惧し,そのような状況が生

じないように慎重に移管の手続を進めた旨を供述していることからすれば(甲A1

8)
,原告の上記主張は前提を欠き,上記アの結論を左右するものとはいえない。

エ 以上によれば,本件各特許権について,追納期間内に第4年分の特許料等を

納付することができなかったことについて,特許法112条の2第1項の「正当な

15 理由」があったとは認められず,その他,この点を認めるに足りる証拠はない。

3 結論

よって,原告の請求は,いずれも理由がないから棄却することとして,主文のと

おり判決する。

東京地方裁判所民事第29部

20




裁判長裁判官



山 田 真 紀

25




15
裁判官



矢 野 紀 夫

5




裁判官



西 山 芳 樹




16

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