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事件 |
平成
31年
(行ケ)
10027号
審決取消請求事件
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原告 ファミリーイナダ株式会 社 同訴訟代理人弁護士 三山峻司 矢倉雄太 塩田陽一朗 同訴訟代理人弁理士 北村修一郎 森俊也 本田恵 被告株式会社フジ医療器 同訴訟代理人弁護士 辻本希世士 辻本良知 松田さとみ 重冨貴光 古庄俊哉 石津真二 手代木啓 富田詩織 杉野文香 同訴訟代理人弁理士 丸山英之 1主文 1 特許庁が無効2018−800007号事件について平成31 年1月29日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要(後掲証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実) 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 被告は,名称を「椅子式マッサージ機」とする発明に係る特許権(特許第 5162718号。平成24年7月23日出願(以下「本件出願日」という。 ,) 平成24年12月21日設定登録。請求項の数2。以下,同特許権に係る特 許を「本件特許」という。)の特許権者である。本件特許に係る出願は,特 願2006−220454号(平成18年8月11日出願。以下「本件遡及 出願日」という。)の分割出願である特願2011−185543号(平成 23年8月29日出願。以下「原出願」という。)について,更に分割出願 されたものであり,平成24年7月23日付けで特許請求の範囲及び明細書 について手続補正がされた(以下「本件補正」という。)。(甲7,8,1 6,17) (2) 原告は,平成30年1月29日に特許庁に無効審判請求をし,特許庁は上 記請求を無効2018−800007号事件として審理した。 (3) 特許庁は,平成31年1月29日,無効審判請求は成り立たない旨の審決 (以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年2月7日,原告に送達さ れた。 (4) 原告は,平成31年3月6日,審決の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載 2(1) 本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおり構成要件に分説すること ができる。以下,各請求項に記載の発明を「本件発明1」などといい,本件 発明1,2を「本件発明」と総称し,各構成要件を「構成要件A」などとい う。 本件特許の明細書を,図面を含めて「本件明細書」といい,本件特許の願 書に最初に添付した特許請求の範囲,明細書及び図面(甲7)を「本件当初 明細書等」という。また,本件明細書の図面の一部は,別紙本件明細書図面 目録記載のとおりである。 【請求項1】 A 座部と前記座部の後側でリクライニング可能に連結された背凭れ部を有 する椅子本体と,前記背凭れ部の左右の側壁部と,該椅子本体の両側部に 設けた肘掛部と,を有する椅子式マッサージ機において, B 前記左右の側壁部は,前記座部に着座した施療者の肩または上腕側方と なる位置に配設しており, 前記左右の側壁部の内側面には夫々左右方向に重合した膨縮袋を備えて, これら重合した膨縮袋の基端部を前記側壁部に取り付けるように構成して おり, C 前記肘掛部は,施療者の前腕部を載置しうるための底面部,及び外側立 上り壁により形成され, 前腕部の長手方向において前記外側立上り壁に複数個配設された膨縮袋 で前記底面部に載置した施療者の前腕部にマッサージを施すための前腕部 施療機構を備えており, D 前記肘掛部の後部と前記背凭れ部の側部とを連結する連結部と,前記肘 掛部の下部に設けられ,前記背凭れ部のリクライニング動作の際に前記連 結部を介して前記肘掛部全体を前記座部に対して回動させる回動部とを設 け, 3E 前記肘掛部全体が,前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して,リ クライニングする方向に傾くように構成されて, F 前記背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半身における 着座姿勢を保ちながら,肩または上腕から前腕に亘って側壁部及び外側立 上り壁側から空圧施療を行う事を特徴とする椅子式マッサージ機。 【請求項2】 G 前記肘掛部が前記背凭れ部の側部付近まで延設されており,かつ前記外 側立上り壁が施療者の前腕部から肘部に位置するように構成されている事 を特徴とする請求項1記載の椅子式マッサージ機。 (2) 本件補正(甲7,8,17) ア 特許請求の範囲 特許請求の範囲が次のとおりであるのを,上記(1)のとおり(ただし,分 説のための符号A〜Gは含まない。)補正する。 「【請求項1】 座部及び背凭れ部を有する椅子本体と,該椅子本体の両側部に肘掛 部を有する椅子式マッサージ機において,前記肘掛部には,該肘掛部 の内側後方から施療者の前腕部を挿入するための前腕挿入開口部を開 設すると共に,該前腕挿入開口部から延設して肘掛部の内部に施療者 の前腕部を挿入保持し得る空洞部を設けており,且つ,該空洞部の内 部壁面各所に施療者の前腕部にマッサージを施し得る前腕部施療機構 を設けた事を特徴とする椅子式マッサージ機。 【請求項2】 前記空洞部の底面部は,施療者の前腕部を載置し得る載置面とする 事ができる底面部に形成してある事を特徴とする請求項1記載の椅子 式マッサージ機。 【請求項3】 4前記肘掛部の上面部には,前記空洞部を隔てて施療者の前腕部を載 置し得る載置面が形成されている事を特徴とする請求項1又は請求項 2記載の椅子式マッサージ機。 【請求項4】 前記肘掛部は,椅子本体に対して前後方向に移動可能に設けられて おり,前記背凭れ部のリクライニング角度に応じた所定の移動量を保 持しながら該背凭れ部のリクライニング動作に連動して前記肘掛部が 椅子本体に対して前後方向に移動するようにした事を特徴とする請求 項1記載の椅子式マッサージ機。 【請求項5】 前記空洞部の先端部には,前腕部施療機構の動作を停止するための 安全停止スイッチを備えていることを特徴とする請求項1又は請求項 2記載の椅子式マッサージ機。」 イ 明細書 明細書の段落【0010】について, 「【0010】 すなわち,本発明の椅子式マッサージ機は,座部及び背 凭れ部を有する椅子本体と,該椅子本体の両側部に肘掛部を有する椅子式 マッサージ機において,前記肘掛部には,該肘掛部の内側後方から施療者 の前腕部を挿入するための前腕挿入開口部を開設すると共に,該前腕挿入 開口部から延設して肘掛部の内部に施療者の前腕部を挿入保持し得る空洞 部を設けており,且つ,該空洞部の内部壁面各所に施療者の前腕部にマッ サージを施し得る前腕部施療機構を設けた構成ものである。 とあるのを, 」 「【0010】 すなわち,本発明の椅子式マッサージ機は,座部と前記 座部の後側でリクライニング可能に連結された背凭れ部を有する椅子本体 と,前記背凭れ部の左右の側壁部と,該椅子本体の両側部に設けた肘掛部 と,を有する椅子式マッサージ機において,前記左右の側壁部は,前記座 5部に着座した施療者の肩または上腕側方となる位置に配設しており,前記 左右の側壁部の内側面には夫々左右方向に重合した膨縮袋を備えて,これ ら重合した膨縮袋の基端部を前記側壁部に取り付けるように構成しており, 前記肘掛部は,施療者の前腕部を載置しうるための底面部,及び外側立上 り壁により形成され,前腕部の長手方向において前記外側立上り壁に複数 個配設された膨縮袋で前記底面部に載置した施療者の前腕部にマッサージ を施すための前腕部施療機構を備えており,前記肘掛部の後部と前記背凭 れ部の側部とを連結する連結部と,前記肘掛部の下部に設けられ,前記背 凭れ部のリクライニング動作の際に前記連結部を介して前記肘掛部全体を 前記座部に対して回動させる回動部とを設け,前記肘掛部全体が,前記背 凭れ部のリクライニング動作に連動して,リクライニングする方向に傾く ように構成されて,前記背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者 の上半身における着座姿勢を保ちながら,肩または上腕から前腕に亘って 側壁部及び外側立上り壁側から空圧施療を行う構成ものである。 また,本発明の椅子式マッサージ機は,前記肘掛部が前記背凭れ部の側 部付近まで延設されており,かつ前記外側立上り壁が施療者の前腕部から 肘部に位置するように構成する。」と補正する。 3 審決の理由の要旨 (1) 原告は,本件発明について,@本件補正についての補正要件違反(無効理 由1),A実施可能要件違反(無効理由2),Bサポート要件違反(無効理 由3),C明確性要件違反(無効理由4),D本件補正が,原出願の願書に 最初に添付した特許請求の範囲,明細書及び図面(以下「原出願当初明細書 等」という。)に記載された事項の範囲内のものでないから不適法な分割出 願であることを前提とする,本件出願日前に刊行された下記甲6(以下,下 記文献については,その番号に応じ,「甲6文献」などという。)に記載の 発明に基づく進歩性欠如(無効理由5),E甲1文献に記載の発明(以下「甲 61発明」という。)と甲2〜5文献に記載の発明に基づく進歩性欠如(無効 理由6)を主張した。 審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,要するに,@本 件発明は本件当初明細書等に記載した事項の範囲内でした補正であり補正要 件に適合する,A本件発明は実施可能要件に適合する,B本件発明は発明の 詳細な説明に記載された発明でありサポート要件に適合する,C本件発明の 「背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半身における着座姿 勢を保ちながら」との記載は明確である,D本件出願は適法な分割出願であ り,甲6文献は本件遡及出願日より後に公開された文献であるから,本件発 明につき甲6文献記載の発明に基づき進歩性を欠如するとはいえない,E本 件発明と甲1発明との下記(2)イの相違点3に係る構成について容易に想到し 得たとはいえないから,進歩性を欠如するとはいえないというものである。 甲1:特開2003−310683号公報 甲2:特開2005−192603号公報 甲3:特開平10−179675号公報 甲4:特開2005−177279号公報 甲5:特開2005−28045号公報 甲6:特開2011−235180号公報(平成23年11月24日公開) (2) 審決が認定した甲1発明及び本件発明1との一致点及び相違点は次のとお りである。 ア 甲1発明 「座部17と,該座部17に対して傾倒することが可能な背凭れ部18とを 備える椅子型のマッサージ機22において, 前記背凭れ部18の傾倒方向と略同一の方向へ移動することが可能であ り,被施療者の前腕を保持する保持部24と, 前記保持部24に設けられ,被施療者の前腕を施療する施療部とを備え, 7前記施療部は,膨張・収縮することが可能な空気袋26b・26cを有 し, 前記保持部24は,前記背凭れ部18の傾倒に応じて移動することが可 能な構成としてあり, 前記保持部24と前記背凭れ部18とを連結する連結部材27を更に備 え, 前記連結部材27の一端は,保持部24の後端部分に接続され,他端は, 背凭れ部18のカバー部18aの外面であって,被施療者の肩に相当する 箇所に取り付けられており, 前記保持部24は,被施療者の前腕を覆うことが可能な形状として断面 視において略C字状の半円筒形状をなしており, 前記座部17の両側部に,肘掛け部23が夫々設けられ,この肘掛け部 23は,その上面を被施療者の腕置きとして利用することが可能となって おり,また,肘掛け部23の下部には,該肘掛け部23の長手方向へ沿っ て,ガイドレール25が設けられており, 前記保持部24は,前記ガイドレール25に沿って移動することが可能 であるように,前記ガイドレール25に係合されており, 前記背凭れ部18は前方に延設された部分を有し,この部分の内側には, クッション部18dが設けられ,前記クッション部18dは,被施療者が 着座したときに,被施療者の上腕部及び肩の側部を覆うような位置に設け られ,前記クッション部18dには,複数の空気袋が設けられ, 前記背凭れ部18が傾倒した場合に,保持部24を傾倒前の姿勢を概ね 保ったまま移動させることが可能となり,傾倒後の被施療者の姿勢を自然 なものとすることができ,施療部によって傾倒前の部位と殆ど同一の部位 を施療する,椅子型のマッサージ機22。」 イ 本件発明1と甲1発明の対比 8本件発明1と甲1発明は以下の[一致点]で一致し,[相違点1]〜[相 違点4]について相違する。 [一致点] 座部と前記座部の後側でリクライニング可能に連結された背凭れ部を 有する椅子本体と,前記背凭れ部の左右の側壁部と,該椅子本体の両側 部に設けた肘掛部と,を有する椅子式マッサージ機において, 前記左右の側壁部は,前記座部に着座した施療者の肩または上腕側方 となる位置に配設しており, 前記左右の側壁部の内側面には夫々複数の膨縮袋を備えるように構成 しており, 前記肘掛部は,施療者の前腕部を載置しうるための底面部,及び外側 立上り壁により形成され, 前記外側立上り壁に複数個配設された膨縮袋で前記底面部に載置した 施療者の前腕部にマッサージを施すための前腕部施療機構を備えており, 前記肘掛部の一部分と前記背凭れ部の側部とを連結する連結部を設け, 前記背凭れ部のリクライニング動作の際に前記連結部を介して前記肘掛 部の少なくとも一部分を前記座部に対して移動させる移動部とを設け, 前記肘掛部の少なくとも一部分が,前記背凭れ部のリクライニング動 作に連動して,リクライニングする方向に移動するように構成されて, 前記背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の肩または上腕 から前腕に亘って側壁部及び外側立上り壁側から空圧施療を行う事を特 徴とする椅子式マッサージ機。 [相違点1] 左右の側壁部の内側面に備える複数の膨縮袋に関し,本件発明1では, 「左右方向に重合した膨縮袋を備えて,これら重合した膨縮袋の基端部 を前記側壁部に取り付ける」のに対し,甲1発明では,膨出袋が重合さ 9れているのか否か,重合されているとすればその重合方向はどのような 方向か,また,膨出袋のどの部分が側壁部に取り付けられているのかに ついて,いずれも不明な点。 [相違点2] 前腕部施療機構の膨出袋に関し,本件発明1では,膨出袋が,「前腕 部の長手方向において前記外側立上り壁に複数個配設された膨出袋」で あるのに対し,甲1発明では,どのような方向で複数配設された膨出袋 であるのか不明な点。 [相違点3] 本件発明1では,「肘掛部の後部と前記背凭れ部の側部とを連結する 連結部と,前記肘掛部の下部に設けられ,前記背凭れ部のリクライニン グ動作の際に前記連結部を介して前記肘掛部全体を前記座部に対して回 動させる回動部とを設け,前記肘掛部全体が,前記背凭れ部のリクライ ニング動作に連動して,リクライニングする方向に傾くように構成され て」いるのに対し, 甲1発明では, i)連結部が肘掛部の後部ではなく,肘掛部の一部分である保持部に設 けられている, ii)背凭れ部のリクライニング動作の際に連結部を介して移動させるの は「肘掛部全体」ではなく,肘掛部の一部分である保持部であり,また, その移動も「回動」ではなく,そのため,「肘掛部の下部に設けられ」 た「回動部」も設けられていない, iii)背凭れ部のリクライニング動作に連動して移動するのは,「肘掛部 全体」ではなく,肘掛部の一部分である保持部であり,また,その移動 も,保持部の姿勢を概ね保ったままの移動である,点。 [相違点4] 10 本件発明1では,「背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者 の上半身における着座姿勢を保ちながら,肩または上腕から前腕に亘っ て側壁部及び外側立上り壁側から空圧施療を行う」のに対し,甲1発明 では,背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の肩または上腕 から前腕に亘って側壁部及び外側立上り壁側から空圧施療を行うものの, その施療が,「施療者の上半身における着座姿勢を保ちながら」行われ る施療か否か不明な点。 4 取消事由 取消事由1:補正要件についての判断の誤り(構成要件D)(無効理由1) 取消事由2:補正要件についての判断の誤り(構成要件F)(無効理由1) 取消事由3:実施可能要件についての判断の誤り(無効理由2) 取消事由4:サポート要件についての判断の誤り(無効理由3) 取消事由5:明確性要件についての判断の誤り(無効理由4) 取消事由6:進歩性欠如に関する判断の誤り@(無効理由5) 取消事由7:進歩性欠如に関する判断の誤りA(無効理由6) 第3 原告主張の取消事由 1 取消事由1(補正要件についての判断の誤り(構成要件D))について (1) 構成要件Dに係る本件補正について ア 本件補正後の構成要件Dでは「前記肘掛部の後部と前記背凭れ部の側部 とを連結する連結部」と特定されている。この構成要件Dにおける「連結 部142a」は,「連結部142aを中心に「肘掛部14a」と「背凭れ 部12a」が相対回動可能な関係で連結されている」(段落【0054】, 【0055】及び図4を含めた本件当初明細書等の記載を総合考慮するこ とにより導かれる技術的事項)のみならず,「連結部がリンクを構成する 長尺のものであり,一端が肘掛部14aの後部と連結され,他端が背凭れ 部12aの側部と連結されている構成」(新たな技術的事項)も含むもの 11 になっている。 イ 一端が肘掛部14aの後部と連結され,他端が背凭れ部12aの側部と 連結されている連結部がリンクである構成(肘掛部と背凭れ部の間に中間 部材のある構成,黄色で囲んで示す部分)について,背凭れ部と肘掛部と がリンクを構成する長尺状の連結部を備えた構造の模式図を示すと別紙原 告主張図面目録の図@及び図A(以下,同目録記載の図面については単に 「原告図@」,「原告図A」などということがある。)のような構成とな る。 背凭れ部と肘掛部の回動が可能で,連結部をリンクで構成して背凭れ部 と肘掛部とを相対移動させる場合には,「4連リンク機構」となり,[1] 肘掛部と背凭れ部との連結関係,[2]肘掛部と座部との連結関係,[3] 背凭れ部と座部との連結関係で動く機構が必要である。 (2) 明細書の記載 明細書には,上記(1)の4連リンク機構は一切開示されていない。 また,仮に,4連リンク機構が補正前の明細書に開示されているに等しい としても,後記2のとおり,この構成においては,背凭れ部のリクライニン グによって,背凭れ部の側部のリンク連結点に対してリンクが回動すること により,肘掛部の後部が背凭れ部に対して位置ずれを生ずることになり,構 成要件F(「背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半身にお ける着座姿勢を保ちながら」)との有機的な関連が損なわれてしまう。 (3) 構成要件Dに係る本件補正について,新規事項の追加の有無についての審 決の判断には誤りがあり,この誤りは審決の結論に影響するものであるから, 審決は取り消されるべきである。 2 取消事由2(補正要件についての判断の誤り(構成要件F))について (1) 構成要件Fについて ア 構成要件Fの「背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半 12 身における着座姿勢を保ちながら」に関し,明細書の段落【0054】【0 , 055】及び【図4】の記載から,肘掛部14aの下部に設けられた円形 の回動部141aの中心は,肘掛部14aを前後方向に回動させるための 回動軸心の位置を示しているとしか見て取れず,背凭れ部12aのリクラ イニング動作の具体的な技術的機構については何ら記載されていない。 イ 背凭れ部12aのリクライニング動作の具体的な技術的構成の開示がな いので,背凭れ部12aのリクライニング動作は,甲4文献や甲5文献に 示された従来技術のような,椅子式マッサージ機に位置決めされた特定の 軸心(以下「回動軸心X」という。)周りの回動であると理解される。そ して,椅子式マッサージ機に位置決めされた特定の回動軸心X周りの回動 であるとすると,本件発明1においても回動軸心Xは回動部141aとは 異なる点であることを前提としていると解さざるを得ない。すなわち,回 動軸心Xを回動部141aと一致させると,背凭れ部12aと肘掛部14 aが同じ軸心周りに回動するため,背凭れ部12aと肘掛部14aの相対 移動はできず一体的にしか動かないので,構成要件Dの「前記肘掛部の後 部と前記背凭れ部の側部とを連結する連結部と,前記肘掛部の下部に設け られ,前記背凭れ部のリクライニング動作の際に前記連結部を介して前記 肘掛部全体を前記座部に対して回動させる回動部とを設け」の「連結部」 の意義が無くなり,また,「肘掛部14aの後部で回動可能に前記背凭れ 部12aの側部と連結する連結部142aを設けて構成している。」との 記載(段落【0055】)にも反する結果となるからである。 ウ そして,肘掛部と背凭れ部とを構成要件D(前記肘掛部の後部と前記背 凭れ部の側部とを連結する連結部と,前記肘掛部の下部に設けられ,前記 背凭れ部のリクライニング動作の際に前記連結部を介して前記肘掛部全体 を前記座部に対して回動させる回動部とを設け)のように動作させて,そ の動きを特定するためには,[1]肘掛部と背凭れ部との連結関係,[2] 13 肘掛部と座部との連結関係,[3]背凭れ部と座部との連結関係の3つの 連結関係が必要である。しかし,本件当初明細書等には,次のとおり, [1] 〜[3]について構成要件Dのように動作し得る機構の開示がない。 (ア) 肘掛部と背凭れ部との連結関係([1])について 明細書の「肘掛部14aの後部で回動可能に前記背凭れ部12aの側 部と連結する連結部142aを設けて構成」との記載(段落【0055】) と【図4】とから,当業者は,肘掛部と背凭れ部との連結関係([1]) を具体的構造として一義的に認識する。【図4】には,肘掛部14aの 後部が背凭れ部12aの側部と,連結部142aの中心で連結され,肘 掛部14aと背凭れ部12aとが相対回転可能に連結される連結関係の 構造が明確に示されている。 (イ) 肘掛部と座部との連結関係([2])について 構成要件Dは,「回動部」が「前記肘掛部の下部に設けられ」ている こと,そして「回動部」が「前記背凭れ部のリクライニング動作の際に 前記連結部を介して前記肘掛部全体を前記座部に対して回動させる」こ とを特定している。 「回動」とは,正逆両方向に動く円運動であり,明細書の「前記肘掛 部14aの下部に前後方向に回動するための回動部141aを設ける」 との記載(段落【0055】)と【図4】との記載に基づいて解釈して も構成要件D中の「回動」とは,回動部141aの中心を回動軸心とす る円運動である。 (ウ) 背凭れ部と座部との連結関係([3])について 本件当初明細書等には「背凭れ部が座部に対してリクライニングする 具体的機構」は具体的に開示されていない。上記イのとおり,背凭れ部 12aのリクライニング動作は,椅子式マッサージ機に位置決めされた 特定の回動軸心X周りの回動であると考えることが通常であり自然であ 14 る。 しかし,本件当初明細書等にはそのような記載はない。上記[1]と [2]の連結関係を前提とし,背凭れ部12aのリクライニング動作が, 椅子式マッサージ機に位置決めされた特定の回動軸心X周りの回動であ るとすれば,背凭れ部12aの回動,肘掛部14aの回動が不可能とな り,動く構造としては理解できなくなる。 エ 審決は,「本件当初明細書等には,肘掛部14aと背凭れ部12aとの 連結関係について,その詳細な構造が明示されているわけではない」とし ているが,誤りである。上記ウ(ア)のとおり,本件当初明細書等の段落【0 054】,【0055】及び【図4】からは,肘掛部14aの後部が,背 凭れ部12aの側部と,連結部142aの中心で,肘掛部14aと背凭れ 部12aとが相対回転可能に連結される連結関係の構造が明確に示されて いる。それにもかかわらず,本件補正により,本件当初明細書等の記載の 表現を変えて「前記肘掛部の後部と前記背凭れ部の側部とを連結する連結 部」との事項を構成要件Dに追加したために,「前記肘掛部の後部と前記 背凭れ部の側部とを連結する連結部」の技術的範囲に,新たな技術的事項 である,「連結部がリンクを構成する長尺のものであり,一端が肘掛部1 4aの後部と連結され,他端が背凭れ部12aの側部と連結されている構 成」の態様のものも含む結果となったものである。 審決は,「本件補正後の「連結部」の連結態様として,請求人のいう「連 結部142aを中心に「肘掛部14a」と「背凭れ部12a」が相対回動 可能な関係で連結されている」こと以外の態様が含まれていたとしても」 とする。原告の主張する「連結部がリンクを構成する長尺のものであり, 一端が肘掛部14aの後部と連結され,他端が背凭れ部12aの側部と連 結されている構成」(新たな技術的事項)において,肘掛部と背凭れ部と の連結関係により,構成要件Fの「前記背凭れ部のリクライニング角度に 15 関わらず施療者の上半身における着座姿勢を保ちながら」を充足されたか 否かを全く見落として判断している。 したがって,審決には上記の新規事項が含まれるのに補正要件を満たす と誤って判断をした違法があるから取り消されるべきである。 (2) 構成要件D及びEの補正と構成要件Fの補正との相互の関係について ア 連結部にリンクが含まれる場合の構成要件Fとの関係 (ア) 審決の判断によれば,本件補正後の連結部の連結態様として,「連結 部がリンクを構成する長尺のものであり,一端が肘掛部14aの後部と 連結され,他端が背凭れ部12aの側部と連結されている構成」が本件 発明の技術的範囲に含まれ得ることとなる。 (イ) 4連リンク機構のリクライニング時における背凭れ部,肘掛部の挙動 a 「連結部がリンクを構成する長尺のものであり,一端が肘掛部14 aの後部と連結され,他端が背凭れ部12aの側部と連結されている 構成」という本件明細書に開示されていない「4連リンク機構」 [1] の 肘掛部と背凭れ部との連結関係,[2]肘掛部と座部との連結関係, [3]背凭れ部と座部との連結関係では,背凭れ部のリクライニング によって,背凭れ部の側部のリンク連結点に対してリンクが回動する ことにより,肘掛部の後部が背凭れ部に対して位置ずれを生ずること になる。 b 背凭れ部と肘掛部とがリンクを構成する長尺状の連結部を備えた具 体的な構造は原告図D及び原告図Eのとおりである。 (a) 原告図D,Eの(a)は,「椅子式マッサージ機」における,背 凭れ部のリクライニングの前後を側面視により表す模式図である。 原告図D,Eにおいて,青色の線(実線と破線とを含む。以下同様。) は「肘掛部(肘掛部全体)」を表し,赤色の線は「背凭れ部」を表 し,背凭れ部の中ほどと肘掛部とを繋ぐ黒色の線は「連結部」を表 16 している。肘掛部の下方端部は「回動部」であり,背凭れ部の下方 端部は背凭れ部がリクライニングする時の回動軸心(以下,「回動 軸心」という。)である。回動部と回動軸心とは椅子式マッサージ 機に固定されている。便宜的に,回動部と回動軸心とを結ぶ辺を「固 定辺」と称する。肘掛部の水平な部分は施療者の手や前腕を載置す る「手掛け部」を表している。 原告図D,Eに示す「連結部」は,長尺状のリンク(肘掛部と背 凭れ部の間に中間部材のある構成,既述図の黄色で囲んで示す部分) であり,本件特許の【図4】に示すような肘掛部と背凭れ部とを相 対回動可能に直接接続(所謂,ピン連結による接続)する連結部1 42aのような構成ではなく,肘掛部と背凭れ部とが離間した状態 で,肘掛部と背凭れ部のそれぞれを「連結部」に対して相対回動可 能になるように接続している。原告図D,Eにおいて,実線で表さ れているのが,背凭れ部が起立状態にあるリクライニング前の状態, 破線で表されているのが,背凭れ部が傾倒状態にあるリクライニン グ後の状態である。 原告図D,Eとも,背凭れ部のリクライニング角度Aは35度で, 肘掛部の回動角度Bは,原告図Dは30度,図Eは13度である。 つまり,背凭れ部が35度リクライニングすることにより,原告図 Dの構成においては肘掛部(手掛け部)は背凭れ部に対して5度(= 35度−30度)下方に回動する一方,図Eの構成においては,肘 掛部(手掛け部)は背凭れ部に対して22度(=35度−13度) 下方に回動する。つまり,原告図Dは,図Eと比較して,背凭れ部 をリクライニングしても肘掛部との間のなす角度の変化量が小さい ので,背凭れ部のリクライニングに対して肘掛部全体が図Eの構成 より背凭れ部に対して連動して回動していると言える。回動部と回 17 動軸心が椅子式マッサージ機に固定されていることから,その間に ある固定辺は背凭れ部のリクライニングの前後で位置が変わること はない。また,リクライニングにより「肘掛部全体」が回動するこ とから,肘掛部を構成する二辺のなす角θも変化していない。 (b) 原告図Dの(b)と図Eの(b)は,(a)で実線で表された肘 掛部の手掛け部,連結部,背凭れ部と,破線で表された肘掛部の手 掛け部,連結部,背凭れ部とを,背凭れ部が一致するように重ねた ものである。 原告図Dにおいては,背凭れ部が35度リクライニングすること により,背凭れ部に対する肘掛部の手掛け部の傾きは,水平状態か ら5度下方に回動するだけであるが,手掛け部(肘掛部)の位置は 背凭れ部から離れて,背凭れ部に対して前方且つ下方に大きく移動 しており,前後方向及び上下方向に大きく変化している。また,図 Eにおいては,背凭れ部が35度リクライニングすることにより, 背凭れ部に対する肘掛部の手掛け部の傾きは,水平状態から22度 下方に回動し,さらに,手掛け部の位置(肘掛部の後部)も背凭れ 部から離れて大きく,背凭れ部に対して前方且つ下方に移動してお り,回動角度,前後方向及び上下方向とも大きく変化している。 c このように,「連結部」を長尺で構成した場合には,リクライニン グ前後で.肘掛部の後部が背凭れ部に対して,高さ方向に位置がずれ たり,近接離隔方向に位置ずれが生じたりすることが明らかである。 肘掛部の後部が背凭れ部に対して高さ方向,近接離隔方向に位置ず れが生じる場合,背凭れ部に対する肩の位置はリクライニング前後で 変化せず,肩から延びる上腕はその長さが決まっている以上,肘掛部 の後部に載置される肘の位置は肘掛部の前後方向及び上下方向で位置 ずれすることになる。その結果,肘から先の前腕と手の位置も同様に 18 位置ずれすることになる。 イ 審決の構成要件Fと構成要件Dとの相互関係における矛盾 審決は,構成要件Fに係る補正について,「本件当初明細書等には,「施 療者の上半身における着座姿勢を保ちながら」との直接的な記載こそない ものの,背凭れ部のリクライニング角度に関わらず,施療者の上半身にお いて,胴体,頭部,上腕,前腕等の各部の相対的な位置関係が概ね保たれ る事項が実質的に記載されているものと理解できるのであるから…」と判 断する。また,審決は,動き得る構造として開示されていない【図4】に 依拠して,背凭れ部12aの側部と,連結部142aの中心で,肘掛部1 4aと背凭れ部12aとが相対回転可能に連結される連結関係の構造を前 提にして,「本件当初明細書等には,リクライニングの前後において,肘 掛部が椅子本体に対して前後方向に移動するので,前腕部施療機構におけ る前腕部の位置が変わらない事項が記載されているところ,この「前腕部 の位置が変わらない」とは,より正確には,胴体に対して上腕ないし肘の 位置が変わらない結果,前腕部施療機構における前腕部の位置も変わらな い,ということを意味することは,人体の構造からみて明らかである。」 と判断する。 しかし,この部分の判断は,構成要件Dに係る補正について,「仮に, 本件補正後の「連結部」の連結態様として,請求人のいう「連結部142 aを中心に「肘掛部14a」と「背凭れ部12a」が相対回動可能な関係 で連結されている」こと以外の態様が含まれていたとしても,「前記肘掛 部の後部と前記背凭れ部の側部とを連結する連結部」を追加する補正が, 本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事 項との関係において,新たな技術的事項を導入するものとはいえない。」 という判断と明らかに矛盾する。 (3) 審決は本件発明の理解を誤り,事実の認定を誤ったものであって,この誤 19 りは審決の結論に影響するものであるから,審決は取り消されるべきである。 3 取消事由3(実施可能要件についての判断の誤り)について (1) 本件明細書の記載について 前記1及び2のとおり,本件明細書には,[1]肘掛部と背凭れ部との連 結関係,[2]肘掛部と座部との連結関係,[3]背凭れ部と座部との連結 関係の3つの連結関係により動く構造が一切明らかにされておらず,動き得 る構造がただの一つも実施例として開示されていない。そのために,肘掛部 が背凭れ部のリクライニングに連動して,どのように動くのかの技術的な構 成が全く特定されておらず不明であるから,実施可能要件に適合しない。 (2) 審決の判断について 審決の判断は次のとおり誤りである。 ア 審決は,具体性の無い「適宜の回動手段」,「適宜の連結手段」という 「適宜の」手段で当業者にとって本件発明1の実施が可能であると判断し たが,何ら具体性の無い「適宜の」手段では,前記1及び2(原告の主張) のとおり,構成要件Fの「前記背凭れ部のリクライニング角度に関わらず 施療者の上半身における着座姿勢を保ちながら」が担保されない構成の場 合も技術的範囲に含まれる結果になる。「適宜の」手段を当業者が補わな ければならないのでは,すべての記載を総合しても意味不明であるため, 実施可能要件についても具備しているとは言えない。 イ 審決は,前記1及び2のとおり,肘掛部と背凭れ部がリンクで連結され ている「連結部」を有する態様も本件特許に含まれても良い構成であると 判断しているから,このような構成を前提として,構成要件D及びEとに 基づき,構成要件Fの「前記背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施 療者の上半身における着座姿勢を保」たれるとの構成要件とを,一体の構 成の中で,相互の関係が技術的に矛盾なく理解できなければならないが, これらの関係を含めた本件発明1の技術的意味が全く明確ではない。審決 20 は,「連結部」にリンクを含むことを明確にせず,本件明細書等の開示に 基づいて,当業者が原出願時点の技術常識に基づいて認識・理解し得ると するだけで,具体的に動き得る本件発明1の構造を何一つ開示しないまま 実施可能と認定判断している。 ウ 審決は,本件明細書に開示された構造では,「背凭れ部12aの回動, 肘掛部14aの回動が不可能」であると認定しているが,本件明細書には, 具体的な,[1]肘掛部と背凭れ部との連結関係,[2]肘掛部と座部と の連結関係,[3]背凭れ部と座部との連結関係の相互の関係により,肘 掛部が背凭れ部のリクライニングに連動して動き得る構造を示していない。 エ 審決は,補正要件適合性の判断においては,背凭れ部に対する肘掛部の 前後移動や,背凭れ部のリクライニングに伴う肘掛部の傾倒について【図 4】に頼った判断をしているが,【図4】は一見して「背凭れ部12aの 回動,肘掛部14aの回動が不可能」であるとの審決の判断と整合しない。 (3) 被告の主張する具体的構成について ア 構成要件Dは,「前記肘掛部の下部に設けられ」た「回動部」が「前記 背凭れ部のリクライニング動作の際に前記連結部を介して前記肘掛部全体 を前記座部に対して回動させる」ことを特定する。 そして,「回動」は,正逆両方向の円運動であり,本件明細書の「前記 肘掛部14aの下部に前後方向に回動するための回動部141aを設ける と共に,肘掛部14aの後部で回動可能に前記背凭れ部12aの側部と連 結する連結部142aを設けて構成している。」との記載(段落【005 5】)及び【図4】に基づいて解釈しても,構成要件Dにおける「回動」 は,回動軸心を中心とした円運動であると解される。 そして,構成要件Dの「回動部」は肘掛部全体を「座部に対して回動さ せる」ものであるから,座部を基準に回動部の位置が決まり,その回動部 を中心として肘掛部全体が円運動することを特定している。 21 イ 被告の主張する別紙被告主張図面目録の具体的構成(以下,同目録記載 の図面については「【被告参考図@−1】」などという。)は,(@)円柱 状部材は座部の特定の位置にある回動中心を軸心とした円運動を行い,(A) 肘掛部全体は円柱状部材の長手方向に沿って,円柱状部材に対する直線運 動を行うもので,これにより,座部に対して肘掛部全体は,座部にある回 動中心の軸心に対する円運動と円柱状部材に対する直線運動とを合成した 複合的な運動を行う。 そして,被告が,「肘掛部全体が円柱状部材から上記空洞部に沿って遠 ざかるように移動している。」と述べているように,肘掛部全体に対して 相対移動可能な円柱状部材という別の部材に回動部を設けている。 このような構成は,構成要件Dにおける「回動」には当て嵌まらず,「前 記肘掛部全体を前記座部に対して回動させる回動部」とは言えない。 したがって,被告の示す【被告参考図@−1】〜【被告参考図B】の構 造は,本件発明1の椅子式マッサージ機とは言えない。 ウ 被告の主張する構成は,肘掛部14aに「空洞部」を設けると共に,肘 掛部14aとは別体で,「空洞部」に嵌入することにより肘掛部14aと 相対変位可能な「円柱状部材」を回動部141aから延びるように設けて, 「連結部142a」と「回動部141a」との距離が変更可能な構造とし たものであり,出願当時の当業者には想定できない特異な要素を付加して いる。このような構成は,本件明細書の記載に接した当業者が本件特許の 出願当時の技術水準を背景として認識 理解し得るとは到底いえ言えない。 ・ 被告の主張する構成は,椅子式マッサージ機における肘掛部の可動構造と して特異な構造であるだけでなく,マッサージ機構を備えない「背凭れ部 がリクライニング可能な椅子」における肘掛部の可動構造としても特異な 構造である。被告が主張する構成は,特許出願すれば出願前の公知技術と して本件特許の公開公報の存在を前提にしても,進歩性が認められるレベ 22 ルの発明である。 (4) 実施可能要件の適合性についての審決の判断には誤りがあり,この誤りは 審決の結論に影響するものであるから,審決は取り消されるべきである。 4 取消事由4(サポート要件についての判断の誤り)について (1) 構成要件Fの「前記背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上 半身における着座姿勢を保ちながら,・・・空圧施療を行う」は,本件発明 1の課題をそのまま構成として特許請求の範囲に追加したものである。 「連結部」が本件明細書の段落【0055】記載の「肘掛部14aの後部 で回動可能に背凭れ部12aの側部と連結する連結部142aを設けて構成」 されていると考えれば,背凭れ部12aの側部の「連結部142a」に対応 する位置は,リクライニング動作において,「回動部141a」を軸心とす る円弧軌跡上を移動しなければならない。しかし,背凭れ部12aのリクラ イニング機構の具体的構成は本件明細書に記載されていない。 本件明細書の【図4】でも,背凭れ部の回動角度約35度に対して肘掛部 の回動角度約15度と,回動角度に倍以上の差があり,椅子式マッサージ機 1aのリクライニング動作において,肘掛部14aが背凭れ部12aに固定 されていて相対移動せず完全に一体として動くことは前提にしていない発明 と当業者は考える。「連結部142a」により「背凭れ部12a」と「肘掛 部14a」の相対回転を許容しているが,当該相対回転を実現するための背 凭れ部12aのリクライニング機構が記載されていない。 背凭れ部12aのリクライニング機構が不明であるので,構成要件Dと構 成要件Eを備えればそのまま「背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施 療者の上半身における着座姿勢を保」たれるという因果関係も当業者に理解 し得ない。 つまり,本件発明1の課題でもある構成要件Fの「前記背凭れ部のリクラ イニング角度に関わらず施療者の上半身における着座姿勢を保ちながら, ・・・ 23 空圧施療を行う」を解決するための手段が本件明細書に記載されておらず, 本件発明1は,本件明細書等の記載に基づき当業者が課題を解決できると認 識できる発明ではない。 審決は,[1]肘掛部と背凭れ部との連結関係,[2]肘掛部と座部との 連結関係,[3]背凭れ部と座部との連結関係により,肘掛部が背凭れ部の リクライニングに連動して動く動き方(動作)が特定されるにも関わらず, 構成要件Eに係る「肘掛部全体が,前記背凭れ部のリクライニング動作に連 動して,リクライニングする方向に傾く」機構が,本件明細書に記載されて いるか否かについて,「[2]肘掛部と座部との連結関係」だけを切り出す ことにより,発明の詳細な説明及び図面に全体として動き得る構造は一つも 開示されていないにもかかわらず,「[2]肘掛部と座部との連結関係」の 部分だけは記載されているという理由で,肘掛部を背凭れ部のリクライニン グに連動させる全体としての機構を考慮することなくサポート要件の具備を 判断しており,誤りである。 審決は,本件発明がサポート要件を備えることの具体的な理由として,構 成要件D,Eを備えれば構成要件Fも満たされる具体的構造を示しておらず, 「「適宜の回動手段」,「適宜の連結手段」を,既知の機械的手段から選択」 すれば,なぜ,構成要件Fの「前記背凭れ部のリクライニング角度に関わら ず施療者の上半身における着座姿勢が保たれる」ことになるのかが全く明ら かではない。 (2) サポート要件の適合性についての審決の判断には誤りがあり,この誤りは 審決の結論に影響するものであるから,審決は取り消されるべきである。 5 取消事由5(明確性要件についての判断の誤り)について (1) 実施可能要件の判断に基づいた不明確性 審決は,実施可能要件については,「適宜の回動手段」,「適宜の連結手 段」を既知の機械的手段から選択することで本件発明1が実現できると判断 24 しているが,本件発明1の実施に際して,具体的な構造を一つも示すことな く既知の機械的手段から「適宜の回動手段」,「適宜の連結手段」を選択す ればよいというのでは,本件明細書の記載及び図面を考慮し,また,当業者 の出願当時における技術的常識を基礎にしたとしても,特許請求の範囲の記 載は不明確である。 (2) 甲4文献及び甲5文献記載の発明の認定に基づいた不明確性 審決は,甲4文献及び甲5文献に記載された発明における肘掛けの移動を 単なる「前後移動」と認定しており,本件発明1の肘掛部の「回動」とは異 なると判断している。 しかし,審決の判断からは,両発明における肘掛けの「前後移動」と,本 件発明1の肘掛部の「回動」との機構の違いが理解できない。このように機 構の違いがそもそも認識できないのであるから,どのような「適宜の回動手 段」 「適宜の連結手段」 , を選択すればよいのか当業者には到底認識できず, 本件発明1が明確であるとはいえない。 甲4文献に記載された発明の構造は,審決が認定する単なる「前後移動」 というよりは,肘掛け部4を背もたれ2に対してより連動して大きく回動す ることを意図した構造であり,本件発明1の「回動」に類似する構造である。 また,甲5文献に記載された発明の背もたれ部3のリクライニング動作の際 に肘掛け部7の後端部が前端部に対して下がっていくように傾倒する構成も 同様である。このように,甲4文献及び甲5文献のいずれにも,単なる「前 後移動」ではなく本件発明1と同様の回動の構成が開示されており,当業者 が技術常識に基づいて,審決が認定する「前後移動」と「回動」との違いを 認識できない。単なる「前後移動」と「回動」との違いを認識できないので あるから,審決が言う「適宜の回動手段」,「適宜の連結手段」がどのよう なものであるのかを予測することはできず,本件明細書に接した当業者が, 「適宜の回動手段」,「適宜の連結手段」で補わなければならない本件発明 25 1の技術的範囲を予測することができるとは言えない。 このように,本件発明1の特許請求の範囲の記載は,第三者に不測の不利 益を及ぼすほどに不明確である。 (3) 明確性要件の適合性についての審決の判断には誤りがあり,この誤りは審 決の結論に影響するものであるから,審決は取り消されるべきである。 6 取消事由6(進歩性欠如に関する判断の誤り@)について (1) 本件補正は,本件当初明細書等に記載された事項の範囲内の補正ではない ことは,取消事由1及び2のとおりであり,本件補正が適法であることを前 提に本件補正により追加された構成要件D、Fに係る事項が原出願当初明細 書等に記載された事項の範囲内のものであることも明らかであるとした審決 の判断は誤りである。 (2) 審決には,無効理由5に係る進歩性欠如についての判断に誤りがあり,こ の誤りは審決の結論に影響するものであるから,取り消されるべきである。 7 取消事由7(進歩性欠如に関する判断の誤りA)について (1) 相違点3の容易想到性について ア 機構学の基本書(甲31,32)にも載っているように,リンクの形状, 待遇の形状を変えることは設計的事項である。 甲31の図3.18(a),(d)にはリンク機構の例が示されている。 図3.18(a),(d)において,リンク@が背凭れ部に対応し,リン クAが連結部に対応する。 甲3文献に記載の発明(以下「甲3発明」という。)の肘受け部材23 は,(d)のすべり子(sliding block)に相当する。一方, 本件発明1の肘掛部全体は,(a)のリンクBを肘掛部全体という構造と したものに相当する。参考までに,(d)のすべり子を全周に拡大した図 3.18(c)も示す。 26 図3.18(甲31) 甲32においては,図6.9にリンク機構の例が示されている。図6. 9(a),(b)において,リンクA(節A)が背凭れ部に対応し,リン クBが連結部に対応する。 甲3発明の肘受け部材23は,(b)のスライダCに相当する。一方, 本件発明1の肘掛部全体は,(a)のてこCを肘掛部全体という構造とし たものに相当する。 27 図6.9(甲32) さらに,甲3文献の図1に開示された甲3発明から本件発明1への単な る設計変更について説明する。 (甲3の【図1】) 甲3文献の図1における,肘受け部材23が半円形状の肘掛け部2に沿 28 って前後方向に摺動する構成を模式的に表すと図Hのとおりとなる。この 構成において,前記機構学の基本書にも載っている回動させる設計的事項 を適用すると,図Iのとおりとなる。このように図Hの構成に機構学上の 設計的事項を適用すると,まさに本件発明1における,肘掛部14aの下 方に備える回動軸心である回動部141a周りに肘掛部全体を回動する構 成を模式的に表したものとなる。 イ 以上のとおり肘掛部全体を座部に対して回動させるように変更すること は,機構学上の単なる設計的事項に過ぎず,当業者が甲1発明に甲3発明 を適用することにより,本件発明1を容易に想到することができる。 (2) 審決には,無効理由6に係る進歩性欠如についての判断に誤りがあり,こ の誤りは審決の結論に影響するものであるから,取り消されるべきである。 第4 被告の反論 1 取消事由1(補正要件についての判断の誤り(構成要件D))について 本件当初明細書等の段落【0055】及び【図4】に本件補正後の構成要件 Dに関する説明がされていたことは明らかであるから,審決の認定判断は正当 である。 原告が自ら設定する仮定の構成(連結部がリンクを構成する長尺のものであ り,一端が肘掛部の後部と連結され,他端が背凭れ部の側部と連結されている構 成)は,原告独自の仮定であるため内容が判然としないし,原告が仮定の構成に 関連して主張を展開する4連リンク機構との整合性や関連性も不明である。補 正要件違反(新規事項の追加)の検討においては,当初明細書等の記載を総合す ることにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入す るか否かが問われるのであり,特許権侵害の属否を検討するかのように個々の具 体的な構成が特許請求の範囲に含まれるか否かを検討する必要はない。原告は (本件補正後の構成要件Dでは) 「構成要件Fとの有機的な関連が損なわれてし まう。 等と主張しており, 」 本件補正後の構成要件Dが本件当初明細書等の範囲 29 に含まれるのか否かの論述になっていない。したがって,かかる意味において も,原告の主張は失当である。 2 取消事由2(補正要件についての判断の誤り(構成要件F))について 新規事項の追加が許されるか否かは,当初明細書等の記載を総合することに より導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するか否か で判断されるところ,本件補正後の構成要件Fは,本件当初明細書等の【00 18】,【0054】,【0055】及び【図4】等の記載を総合することに より導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するもので はないから,審決の認定判断は正当である。 原告は,原告独自の図や「3つの連結関係」等を用いつつ主張するものの, その主張の内容が判然としないばかりか,そもそも,本件補正後の構成要件F が本件当初明細書等との関係において新たな技術的事項を導入するものである か否かについての論述となっていない。 3 取消事由3(実施可能要件についての判断の誤り)について (1) 実施可能要件に適合すること 原告は,本件明細書の【図4】の内容につき,「一見して「背凭れ部12 aの回動,肘掛部14aの回動が不可能」」であると主張しているものと思 われるが,審決も指摘しているとおり,【図4】は,背凭れ部が座部に対し て回動し,背凭れ部に連結された肘掛部が回動するという事項(段落【00 54】,【0055】)を概略的に図示したものであり,そのための「適宜 の回動手段」「適宜の連結手段」については当業者が過度の試行錯誤なく適 宜に行い得る程度のことでもあることから,そのための具体的構造までは特 に示していない。つまり,【図4】においては,当業者において過度の試行 錯誤なく適宜に行い得る「適宜の回動手段」「適宜の連結手段」を用いるこ とが想定されており,それにより本件明細書の段落【0018】,【005 4】,【0055】等に記載された事項が可能となることは明らかであるか 30 ら,原告による「一見して『背凭れ部12aの回動,肘掛部14aの回動が 不可能』」である旨の主張は失当である。 また,原告は,上記のように,「「適宜の回動手段」,「適宜の連結手段」 を,既知の機械的手段から選択する具体的な内容も示されず,そのために, 構成要件D,構成要件Eと構成要件Fとの因果関係も明確にされずに,・・・ 結論だけを示す審決は理由不備の違法な審決であり取り消されるべきである。」 とも主張するが,審決が理由中において,当業者において過度の試行錯誤な く適宜に行い得る「適宜の回動手段」「適宜の連結手段」の具体例を示す必 要性は認められないから,かかる意味においても原告の主張は失当である。 上記のように,背凭れ部がリクライニングする機構等の具体的な設計につ いては,本件明細書の各記載に接した当業者が本件特許の出願当時の技術水 準を背景として認識して理解し得る事項であり,審決の認定判断するとおり 当業者において過度の試行錯誤なく適宜に行い得る程度の既知の機械的手段 にすぎない。このような既知の手段についてまで特許出願にあたり具体的に 記載や例示しなければならないとすれば,特許出願人に過度の負担を強いる ことになってしまう。 (2) 具体的構成の例 【被告参考図@−1】及び【被告参考図@−2】は,座部,背凭れ部,側 壁部及び肘掛部を有する椅子式マッサージ機の概略図(リクライニング前) である。 このような椅子式マッサージ機の背凭れ部がリクライニングする過程につ き順を追って図示したものが【被告参考図A】及び【被告参考図B】であ る。 【被告参考図A】から【被告参考図B】にかけて椅子式マッサージ機の背 凭れ部がリクライニングして後方に倒れていく様子が示されている。そし て,その背凭れ部のリクライニング動作に連動して肘掛部全体がリクライニ 31 ングする方向に傾く様子も示されている。 【被告参考図@−1】及び【被告参考図@−2】においては,肘掛部の下 部に設けられた回動部から延びる円柱状部材が肘掛部内に存在する空洞部の 奥まで達している。これに対して,【被告参考図A】から【被告参考図B】 にかけては,背凭れ部のリクライニング動作に連動して肘掛部全体がリクラ イニングする方向に傾くに従って,肘掛部全体が円柱状部材から上記空洞部 に沿って遠ざかるように移動している。 このようにして肘掛部全体が回動することにより,背凭れ部のリクライニ ング角度にかかわらず,施療者の上半身における胴体,頭部,上腕,前腕等 の各部の相対的な位置関係が概ね保たれることになり,着座した施療者の肩 または上腕から前腕がすべて無理な姿勢とならずに施療位置から外れないこ とになる。 もっとも,背凭れ部がリクライニングする機構等の具体的な設計について は,本件明細書の各記載に接した当業者が,本件明細書の各記載を前提に本 件特許の出願当時の技術水準を背景として普通に認識・理解し得るものであ り,必ずしも上記のような機構に限定されるものではない。 4 取消事由4(サポート要件についての判断の誤り)について 上記3において述べたとおり,本件明細書の【図4】は,背凭れ部に連結さ れた肘掛部が背凭れ部のリクライニング動作に連動して回動するという事項(段 落【0018】,【0054】,【0055】)を概略的に図示したものであ り,そのための「適宜の回動手段」「適宜の連結手段」については当業者が過 度の試行錯誤なく適宜に行い得る程度のことであるから,そのための具体的構 造までは特に示されていない。そして,前記のように,当業者において過度の 試行錯誤なく適宜に行い得る程度の既知の機械的手段についてまで明細書にお いて具体的に特定する必要はない。 また,そのような機構を採用すると,背凭れ部のリクライニング角度に関わ 32 らず,施療者の上半身における胴体,頭部,上腕,前腕等の各部の相対的な位 置関係が概ね保たれることも,当業者であれば当然に認識できることであり, これらのことにつき,審決は理由を示しつつ明確かつ具体的に判断を示してい る。 したがって,原告の主張は失当である。 5 取消事由5(明確性要件についての判断の誤り)について 背凭れ部がリクライニングする機構等の具体的な設計については,本件明細 書の各記載に接した当業者が本件特許の出願当時の技術水準を背景として当然 に認識し,理解し得る事項であり,審決も認定判断するとおり当業者において 過度の試行錯誤なく適宜に行い得る程度の既知の機械的手段にすぎない。この ような過度の試行錯誤なく適宜に行い得る程度の既知の手段については,明細 書において具体的に特定するまでもなく当業者にとって明確であり,かかる事 項についてまで特許出願にあたり具体的に記載や例示しなければならないとす れば,特許出願人に過度の負担を強いることになってしまう。 原告の主張は,当業者において過度の試行錯誤なく適宜に行い得る程度の既 知の技術手段も具体的に記載しなければ,すべて明確性要件違反として無効に すべきというものであり,余りにも不合理かつ失当なものである。 さらに,原告は,甲4文献及び甲5文献に関する審決の認定判断を用いつつ, 審決の明確性要件に関する認定判断を批判するが,その論旨は判然とせず,明 確性要件に関する審決の認定判断に対する取消事由との関連性等は認められな い。いずれにしても,構成要件D〜Fの因果関係が明確であり,構成要件Fの 技術的意義も明確であることは前記のとおりであるから,審決の認定判断は正 当である。 6 取消事由6(進歩性欠如に関する判断の誤り@)について 原告の主張する本件特許の補正要件違反(新規事項の追加)に関する主張が 失当であることは前記のとおりであるから,不適法な分割出願であることを前 33 提とする進歩性欠如の主張が失当であることも明らかである 7 取消事由7(進歩性欠如に関する判断の誤りA)について 原告が指摘する各図面等(甲31,32)に示されている部材等と本件発明 及び甲3発明の各構成との対応関係に関する説明は,本件発明を無効とするた めの後付け的かつ独善的なものであって不合理である。 また,そもそも,本件発明は,椅子式マッサージ機において,肘掛部の後部 と背凭れ部の側部とを連結する連結部,及び,肘掛部の下部に肘掛部全体を回 動させるための回動部という各部材を設けることにより,背凭れ部がリクライ ニングしても,肘掛部全体が背凭れ部のリクライニング動作に連動して傾くよ うに構成され,背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半身にお ける着座姿勢を保ちながら空圧施療を行い得るようにする技術であるところ, 原告が指摘する書籍(甲31,32)の内容と本件発明の上記技術内容との関 連性は認められず,仮に,原告が指摘する書籍(甲31,32)の内容によっ たとしても,相違点3に係る具体的な構成(連結部を肘掛部の後部に設け,肘 掛部の下部に回動部を設け,背凭れ部のリクライニング動作に連動して肘掛部 全体が移動して施療者の上半身における着座姿勢が保たれるようにする構成) がリクライニングする椅子式マッサージ機における単なる設計的事項と認定さ れるものとはなり得ない。 原告は,相違点3につき,「当業者が甲1発明に甲3発明を適用することに より,本件発明1を容易に想到することができる。」と主張するが,甲3発明 には,審決も認定するとおり,相違点3に係る構成が開示されたものが認めら れないことから,原告の主張は明らかに失当である。 第5 当裁判所の判断 1 本件発明について (1) 特許請求の範囲の記載 本件補正前の特許請求の範囲の記載は上記第2の2(2)ア,本件補正後の特 34 許請求の範囲の記載は上記第2の2(1)に記載のとおりである。 (2) 本件明細書の記載 本件明細書には以下の記載がある(甲17)。なお,本件明細書中,補正 がされた部分は【0010】のみであり,補正前の記載は,前記第2の2(2) イのとおりである(甲7,8)。 ア 技術分野 【0001】 本発明は,肘掛部に施療者の前腕部をマッサージする前腕 部施療機構を備えた椅子式マッサージ機に関するものである。 イ 背景技術 【0002】 従来の,座部と背凭れ部,そして該座部の左右両側に肘掛 部を設けた椅子式マッサージ機において,肘掛部の上部に前腕部施療機 構を備えて,着座した施療者の腕部をマッサージする形態のものは既に 存在し,市場では商品化されている。 【0003】 例えば,図19に示すような,前腕部施療機構を備えた椅 子式マッサージ機が開示されている。すなわち,手揉機能付施療機1と して,肘幅方向両側に各々立上り壁211・211を設けた肘掛部21 を椅子本体2の両側に設けており,その肘掛部21の各立上り壁211・ 211間に人体手部を各々嵌脱自在で該人体手部に膨縮施療を付与し得 るよう,圧縮空気給排気手段を配設して成り,施療者が着座状態で人体 手部を両肘掛部21・21上面部に安定的に保持させて,人体手部及び 腕部を効率良く空圧施療する事ができるよう構成したものである。尚, 肘掛部21の前側上面部は,立上り壁211が形成されておらず,平坦 になっている。 【0004】 さらに,前述したような左右一対の立上り壁を左右の肘掛 部の長さ方向全域に夫々設けた形態のものを図20に示す。すなわち, 35 凹部の内壁に,人体の肢体を挿入するための空間を設けるように空気袋 を夫々取着して施療部を形成し,空気袋に空気を給排気して空気袋を膨 張及び収縮させる給排気装置を連通して設けてなるエアーマッサージ機 3を,椅子20の肘掛けの上部全域に設けた構成である。 ウ 発明が解決しようとする課題 【0006】 ところで,従来の図20に示すような,肘掛部の長さ方向 全域に前腕部施療機構として左右一対の立上り壁を設けた椅子式マッサ ージ機は,手部及び前腕部の広範を同時にマッサージする事ができて便 利であるが,施療者の肘関節付近にまで該各立上り壁が形成されている ため,図18に示すように,上腕部内側の肘関節付近を施療者側である 内側立上り壁623が圧迫して,施療者に不快感を与えたり,また,前 腕部施療機構における腕部の載脱行為を妨げたりするなどの欠点があっ た。特に,施療者の身長が低くて小柄である程,内側立上り壁623に よる圧迫が大きくなると考えられる。 【0007】 また,着座した施療者が立ち上がる際,或いは着座する際 において,通常は肘掛部の前端部を手で掴んで体重を掛けるのであるが, 図20に示す形態の椅子式マッサージ機は,肘掛部の前端部にまで左右 の立上り壁が形成されているため,肘掛部の前端部の上面部が開口され た形態となり,そのような部分に体重を掛ける事は困難であった。 【0008】 一方で,左右一対の立上り壁を設けた椅子式マッサージ機 において,図19に示すような肘掛部の前側上面部に該立上り壁が形成 されず,平坦になった部分を有する構成のものに関しては,該平坦にな った部分を手掛け部として体重を掛ける事ができるのであるが,左右一 対の立上り壁間に形成される凹部の底面部と,該手掛け部の平坦になっ た部分とが同じ高さの同面であるため,手掛け部を掴んで立ち上がろう とする際,前述した図18に示すのと同様,内側立上り壁623によっ 36 て上腕部内側の肘関節付近が圧迫を受け,その付近と共に前腕部の内側 が摺擦されながら,凹部から腕部が離脱する事になり,この場合も施療 者に対して不快感を与えるものとなると考えられ,解決すべく問題とな っていた。 【0009】 そこで,本発明は,上記問題点を解消する為に成されたも のであり,施療者の腕部に対し,前腕部施療機構の立上り壁が不必要に 圧迫して不快感をもたらす要因を解消し,前腕部施療機構における腕部 の載脱をスムーズに行うよう構成すると共に,前腕部施療機構を有して いても施療者が起立及び着座を快適に行う事ができるよう構成した椅子 式マッサージ機を提供する事を目的とするものである。 エ 課題を解決するための手段 【0010】 すなわち,本発明の椅子式マッサージ機は, 座部と前記 座部の後側でリクライニング可能に連結された背凭れ部を有する椅子本 体と,前記背凭れ部の左右の側壁部と,該椅子本体の両側部に設けた肘 掛部と,を有する椅子式マッサージ機において,前記左右の側壁部は, 前記座部に着座した施療者の肩または上腕側方となる位置に配設してお り,前記左右の側壁部の内側面には夫々左右方向に重合した膨縮袋を備 えて,これら重合した膨縮袋の基端部を前記側壁部に取り付けるように 構成しており,前記肘掛部は,施療者の前腕部を載置しうるための底面 部,及び外側立上り壁により形成され,前腕部の長手方向において前記 外側立上り壁に複数個配設された膨縮袋で前記底面部に載置した施療者 の前腕部にマッサージを施すための前腕部施療機構を備えており,前記 肘掛部の後部と前記背凭れ部の側部とを連結する連結部と,前記肘掛部 の下部に設けられ,前記背凭れ部のリクライニング動作の際に前記連結 部を介して前記肘掛部全体を前記座部に対して回動させる回動部とを設 け,前記肘掛部全体が,前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して, 37 リクライニングする方向に傾くように構成されて,前記背凭れ部のリク ライニング角度に関わらず施療者の上半身における着座姿勢を保ちなが ら,肩または上腕から前腕に亘って側壁部及び外側立上り壁側から空圧 施療を行う構成ものである。 また,本発明の椅子式マッサージ機は,前記肘掛部が前記背凭れ部の 側部付近まで延設されており,かつ前記外側立上り壁が施療者の前腕部 から肘部に位置するように構成する。 【0013】 また,本発明の椅子式マッサージ機は,前記肘掛部を,椅 子本体に対して前後方向に移動可能に設けられており,前記背凭れ部の リクライニング角度に応じた所定の移動量を保持しながら前記背凭れ部 のリクライニング動作に連動して前記肘掛部が椅子本体に対して前後方 向に移動するように構成している。 オ 発明の効果 【0015】 よって,本発明の椅子式マッサージ機は,肘掛部に,肘掛 部の内側後方から施療者の前腕部を挿入するための前腕挿入開口部を有 しており,該前腕挿入開口部から延設して肘掛部の内部に施療者の前腕 部を挿入保持するための空洞部を設け,該空洞部の内部壁面各所に施療 者の前腕部にマッサージを施すための前腕部施療機構を設けた構成のも のであるため,前腕部に対する不必要な圧迫や摺擦をもたらす要因がな くなる。よって,前腕部施療機構におけるスムーズな前腕部の載脱が可 能となり,施療者が起立及び着座を快適に行う事ができる。 【0018】 また,前記肘掛部は,椅子本体に対して前後方向に移動可 能に設けられており,前記背凭れ部のリクライニング角度に応じた所定 の移動量を保持しながら前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して 前記肘掛部が椅子本体に対して前後方向に移動するように構成する事に より,背凭れ部のリクライニング角度に関係なく,肘掛部に設けた前記 38 前腕部施療機構における前腕部の位置が可及的に変わらないようにする 事ができ,安定した前腕部に対するマッサージを行う事ができる。 カ 発明を実施するための形態 【0021】 以下に,本発明の椅子式マッサージ機を,図面に示す一実 施形態に基づきこれを詳細に説明する。図1は本発明の椅子式マッサー ジ機の一実施形態を示す斜視図であり,図2は本発明の椅子式マッサー ジ機の一実施形態を示す使用時の斜視図であり,図3及び図4は本発明 の椅子式マッサージ機の一実施形態を示す使用時の右側面図であり,図 5は本発明の椅子式マッサージ機における背凭れ部の一実施形態を示す 横断面説明図であり,図6は本発明の椅子式マッサージ機における肘掛 部の一実施形態を示す使用時の平面説明図であり,図7乃至図12は本 発明の椅子式マッサージ機における肘掛部の一実施形態を示す縦断面説 明図であり,図13乃至図16は本発明の椅子式マッサージ機における 肘掛部の一実施形態を示す斜視説明図であり,図17は,本発明の椅子 式マッサージ機の一実施形態を示す使用時の部分正面説明図であり,図 18乃至図20は従来技術を示す参考図である。 【0022】 すなわち,本発明の椅子式マッサージ機は,図1乃至図3 の実施形態で示したように,施療者の臀部または大腿部が当接する座部 11a,及び施療者の背部が当接する背凭れ部12aを有する椅子本体 10aと,該椅子本体10aの両側部に肘掛部14aを有する椅子式マ ッサージ機1aであり,前記背凭れ部12aは,座部11aの後側にリ クライニング可能に連結されると共に,座部11aの前側に上下方向へ 揺動可能に連結した足載せ部13aを設け,また,背凭れ部12aの左 右両側に前方に向かって突出した側壁部2aを夫々配設している。 【0023】 図1に示すように,前記背凭れ部12aには,その中央部 に左右一対の施療子31aを備えた昇降自在の施療子機構3aを設けて 39 いる。該施療子機構3aは,背凭れ部12aの内部左右に設けた左右一 対のガイドレール32aに沿って背凭れ部12aの上端から下端にかけ て昇降するようにしている。 【0024】 前記施療子機構3aは,モータ等を駆動源として前記左右 一対の施療子31aを作動させる機械式のマッサージ機構であり,前記 背凭れ部12aに凭れた施療者の首部,背部,腰部,臀部等の背面全域 を,たたき,揉み,ローリング,振動,指圧などの多様な形態で施療す るようにしたものである。 【0025】 また,前記椅子式マッサージ機1aの各所定の位置には, 空気の給排気により膨縮を繰り返す事が可能な膨縮袋4aを夫々埋設し ている。該膨縮袋4aは,エアーコンプレッサー及び各膨縮袋4aに空 気を分配するための分配器等からなる空気給排装置42aによる給排気 により膨縮動作を行うようにしており,該空気給排装置42aは前記座 部11aの下部空間に配備している。 【0054】 また,図4に示すように,前記肘掛部14aは,椅子本体 10aに対して前後方向に移動可能に設けられており,前記背凭れ部1 2aのリクライニング角度に応じた所定の移動量を保持しながら前記背 凭れ部12aのリクライニング動作に連動して前記肘掛部14aが椅子 本体10aに対して前後方向に移動するようにしている。 【0055】 すなわち,前記肘掛部14aの下部に前後方向に回動する ための回動部141aを設けると共に,肘掛部14aの後部で回動可能 に前記背凭れ部12aの側部と連結する連結部142aを設けて構成し ている。 【0056】 または,図示しないが,前記回動部141aの代わりに, ガイドレールなどを採用した水平スライド機構を設けて,前記肘掛部1 4a全体が前記背凭れ部12aのリクライニング動作と連動して,水平 40 にスライド移動するようにしてもよい。 (3) 本件発明の特徴 上記(2)によれば,本件発明は,概要次のとおりのものであると認められる。 ア 本件発明は,肘掛部に施療者の前腕部をマッサージする前腕部施療機構 を備えた椅子式マッサージ機に関するものである(【0001】)。 イ 本件発明は,施療者の腕部に対し,前腕部施療機構の立上り壁が不必要 に圧迫して不快感をもたらす要因を解消し,前腕部施療機構における腕部 の載脱をスムーズに行うよう構成すると共に,前腕部施療機構を有してい ても施療者が起立及び着座を快適に行う事ができるよう構成した椅子式マ ッサージ機を提供する事を目的とするものである(【0009】)。 ウ 本件発明は,上記イの目的のため,特許請求の範囲に記載の構成を採用 した(【0010】)。 エ 本件発明の椅子式マッサージ機は,肘掛部に,肘掛部の内側後方から施 療者の前腕部を挿入するための前腕挿入開口部を有しており,前腕挿入開 口部から延設して肘掛部の内部に施療者の前腕部を挿入保持するための空 洞部を設け,空洞部の内部壁面各所に施療者の前腕部にマッサージを施す ための前腕部施療機構を設けた構成のものであるため,前腕部に対する不 必要な圧迫や摺擦をもたらす要因がなくなる。よって,前腕部施療機構に おけるスムーズな前腕部の載脱が可能となり,施療者が起立及び着座を快 適に行う事ができる。また,肘掛部は,椅子本体に対して前後方向に移動 可能に設けられており,背凭れ部のリクライニング角度に応じた所定の移 動量を保持しながら背凭れ部のリクライニング動作に連動して肘掛部が椅 子本体に対して前後方向に移動するように構成する事により,背凭れ部の リクライニング角度に関係なく,肘掛部に設けた前腕部施療機構における 前腕部の位置が可及的に変わらないようにする事ができ,安定した前腕部 に対するマッサージを行う事ができる(【0015】,【0018】)。 41 2 取消事由3(実施可能要件についての判断の誤り)について 事案に鑑み,取消事由3について判断する。 (1) 実施可能要件について 特許法36条4項1号は,発明の詳細な説明の記載は,その発明の属する 技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程 度に明確かつ十分に記載したものでなければならないことを規定するもので あり,同号の要件を充足するためには,明細書の発明の詳細な説明に,当業 者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて, 過度の試行錯誤を要することなく,その発明を実施することができる程度に 発明の構成等の記載があることを要する。 (2) 本件明細書の記載 ア 本件明細書には,@本件発明のマッサージ機は,施療者の臀部または大 腿部が当接する座部11a,及び施療者の背部が当接する背凭れ部12a を有する椅子本体10aと,該椅子本体10aの両側部に肘掛部14aを 有する椅子式マッサージ機1aであり,前記背凭れ部12aは,座部11 aの後側にリクライニング可能に連結されていること(段落【0022】 ,) A肘掛部14aは,椅子本体10aに対して前後方向に移動可能に設けら れ,背凭れ部12aのリクライニング角度に応じた所定の移動量を保持し ながら背凭れ部12aのリクライニング動作に連動して前記肘掛部14a が椅子本体10aに対して前後方向に移動するようにされていること(段 落【0054】),B肘掛部14aの下部に前後方向に回動するための回 動部141aを設けること(段落【0055】),C肘掛部14aの後部 で回動可能に背凭れ部12aの側部と連結する連結部142aを設けるこ と(段落【0055】)が記載されている。 また,【図4】は,背凭れ部12aが座部に対してリクライニングする と,背凭れ部12aに連結された肘掛部14aが前後方向に回動すること 42 を概略的に図示している(段落【0054】,【0055】)。 イ 上記アによれば,本件明細書には,[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側 部とを, 「肘掛部全体が,前記背凭れ部のリクライニング動作に連動して, リクライニングする方向に傾くように」(構成要件E)連結する連結手段 については連結部142aによる回動関係が,[2]肘掛部全体を座部に 対して回動させる回動手段については回動部141aによる回動関係が開 示されているが,[3]背凭れ部をリクライニングするように座部に対し 連結する連結手段の具体的な構成は記載されていない。また,本件明細書 には,「背凭れ部のリクライニング角度に関わらず施療者の上半身におけ る着座姿勢を保」つように(構成要件F),[1]肘掛部の後部と背凭れ 部の側部とを,「肘掛部全体が,前記背凭れ部のリクライニング動作に連 動して,リクライニングする方向に傾くように」連結する連結手段(構成 要件D,E),[2]背凭れ部のリクライニング動作の際に上記の連結手 段を介して肘掛部全体を座部に対して回動させる回動手段(構成要件D) 及び[3]背凭れ部をリクライニングするように座部に対し連結する連結 手段(構成要件D)の具体的な組み合わせの記載はない。 ウ 審決は,本件明細書の【図4】は,背凭れ部が座部に対して回動し,背 凭れ部に連結された肘掛部が回動するという事項(段落【0054】,【0 055】 を概略的に図示したものであり, ) そのための「適宜の回動手段」 「適宜の連結手段」については当業者が過度の試行錯誤なく適宜に行い得 る程度のことであると認定する。 しかし,上記イのとおり,本件においては,構成要件D〜Fを充足する ような,[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部を連結する連結手段,[2] 肘掛部全体を座部に対して回動させる回動手段及び[3]背凭れ部を座部 に対し連結する連結手段の具体的な組み合わせが問題になっており,した がって,これらの各手段は何の制約もなく部材を連結又は回動させれば足 43 りるのではなく,それぞれの手段が協調して構成要件D〜Fに示された機 能を実現する必要がある。そうすると,このような機能を実現するための 手段の選択には,技術的創意が必要であり,単に適宜の手段を選択すれば 足りるというわけにはいかないのであるから,明細書の記載が実施可能要 件を満たしているといえるためには,必要な機能を実現するための具体的 構成を示すか,少なくとも当業者が技術常識に基づき具体的構成に至るこ とができるような示唆を与える必要があると解されるところ,本件明細書 には,このような具体的構成の記載も示唆もない。 エ 被告は,本件明細書の記載から当業者が実施し得る本件発明1の具体的 な構成として,別紙被告主張図面目録記載のとおり動作するマッサージ機 の具体的構成(以下「被告主張構成」という。)を主張する。 被告主張構成は,[1]肘掛部の後部と背凭れ部の側部とを本件明細書 の【図4】同様の回動手段により連結し,[2]肘掛部の下部の椅子本体 に設けられた回動部から延びる円柱状部材が肘掛部内に存在する空洞部に 挿入され,[3]座部の後端に軸心を設けて背凭れ部を回動させる回動手 段を設けた構成であり,リクライニング前は,肘掛部の下部に設けられた 回動部から延びる円柱状部材が肘掛部内に存在する空洞部の奥まで達して おり(【被告参考図@−2】),これをリクライニングすると,背凭れ部 のリクライニング動作に連動して肘掛部全体がリクライニングする方向に 傾くに従って,肘掛部全体が円柱状部材から上記空洞部に沿って遠ざかる ように移動する(【被告参考図A】から【被告参考図B】)というもので ある。 しかし,本件明細書には被告主張構成の記載や示唆はないから,被告主 張構成が直ちに実施可能要件適合性を裏付けるものではない上に,当業者 が,上記ア及びイのとおりの本件明細書の記載及び出願当時の技術常識に 基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,被告主張構成を採用し得た 44 というべき技術常識ないし周知技術に関する的確な証拠もない。 オ 以上によれば,本件明細書には,当業者が,明細書の発明の詳細な説明 の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要すること なく,本件発明1を実施することができる程度に発明の構成等の記載があ るということはできず,この点は,本件発明1を引用する本件発明2につ いても同様である。 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,その発明の属す る技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができ る程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。 (3) 以上のとおりであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可 能要件に適合するものとはいえず,審決の判断には誤りがあるところ,その 誤りは審決の結論に影響を及ぼすものであるから,取消事由3は理由がある。 3 結論 以上のとおり,取消事由3は理由があるから,その余の取消事由を考慮する までもなく,審決にはその結論に影響を及ぼす違法がある。 よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 鶴岡稔彦 45 裁判官 山門優 裁判官 高橋彩 46 別紙 本件明細書図面目録 【図1】 【図2】 47 【図3】 【図4】 【図5】 48 【図19】 【図20】 49 別紙 原告主張図面目録 背凭れ部 連結部 背凭れ部 部部連結部 肘掛部 肘掛部 回動部 回動部 回動軸心 固定辺 回動軸心 固定辺 原告図@ 原告図A 手掛け部 連結部 背凭れ部 部 35度 A−B=5度 肘掛部 回動部 30度 固定辺 回動軸心 (a) (b) 原告図D 50 背凭れ部 手掛け部 連結部 部 35度 A−B=22度 肘掛部 13度 回動部 回動軸心 固定辺 (a) (b) 原告図E 肘受け部材23 図H 51 肘掛部14a 回動部141a 図I 52 別紙 被告主張図面目録 【被告参考図@−1】 【被告参考図@−2】 【被告参考図A】 53 【被告参考図B】 54 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2019/12/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
事実及び理由 | |
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全容
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