関連審決 | 無効2018-800040 |
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事件 |
平成
31年
(行ケ)
10053号
審決取消請求事件
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原告 株式会社フィートジャパン 訴訟代理人弁護士 小林幸夫 弓削田博 木村剛大 神田秀斗 平田慎二 訴訟代理人弁理士 伊藤温 金木章郎 被告 株式会社アーツブレインズ 訴訟代理人弁護士 高橋順一 兼松由理子 向宣明 高石直樹 坂田了祐 訴訟代理人弁理士 林直生樹 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2019/12/19 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 1事 実 及 び 理 由第1 請求特許庁が無効2018−800040号事件について平成31年3月12日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要1 前提事実(1) Aは,平成13年5月29日,発明の名称を「二重瞼形成用テープまたは糸及びその製造方法」とする発明について,特許出願(特願2001−160951号,優先日平成12年10月3日(以下「本件優先日」という。),優先権主張国日本。以下「本件出願」という。)をし,平成14年2月8日,特許権の設定登録(特許第3277180号。請求項の数11。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。)を受けた(甲41,44)。 その後,被告は,Aから本件特許権を譲り受け,平成29年1月11日を受付日とする本件特許権の移転登録を受けた(甲41)。 (2)ア 被告と原告,株式会社センティリオン(以下「センティリオン」という。)及びBは,平成29年8月21日,同日付け和解契約書(以下「本件契約書」という。甲17(審判乙3))をもって,和解契約(以下「本件和解契約」という。)を締結した。 本件和解契約の1条ないし4条,6条及び9条は,次のとおりである。 なお,「甲」は被告,「乙1」は原告,「乙2」はセンティリオン,「乙3」はB,「乙会社ら」は原告及びセンティリオン,「乙ら」は,原告,センティリオン及びBの略称である。 「1 乙らは,甲に対し,甲の有する特許第3277180号に係る特許権(以下「本件特許権」という。)が有効に成立していることを認める。 22 乙らは,自ら又は第三者を通じて,無効審判の請求又はその他の方法により本件特許権の効力を争ってはならない。ただし,甲が特許侵害を理由として乙らに対し訴訟提起した場合に,当該訴訟における抗弁として本件特許権の無効を主張することはこの限りではない。 3 乙らは,乙3が代表取締役を務める乙会社らが下記のJANコードで特定される商品(以下「本件商品」という。)について,別紙(略)の通り販売したことを認め,平成29年8月31日までに販売を中止するものとする。 記「ディファイbPウルトラファイバー」シリーズ(クリア60本入り 4573125480102)(ヌーディ60本入り 4573125480119)「FD(マイクロ)ブリッジファイバー」シリーズ(クリア1.4mm 100本入り 4573125480010)(クリア1.6mm 100本入り 4573125480027)(クリア1.8mm 100本入り 4573125480034)(ヌーディ1,4mm 100本入り 4573125480058)「リュクススーパーファイバー」シリーズ(クリア1.4mm 100本入り 4589585580016)(クリア1.6mm 100本入り 4589585580023)(クリア1.8mm 100本入り 4589585580030)4 平成29年9月1日以降,乙ら又は乙らが支配もしくは役職員を務める会社(以下「乙関係会社」という。)並びに乙会社ら及び乙関係会社の役職員(以下,乙関係会社とあわせて「乙関係者」と総称する。)は,本件商品若しくは特許第3277180号の権利範囲に属する二重瞼形成用テープ又は本件特許権の侵害品の製造,譲渡,輸出,3輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出を自ら行わず,または第三者をしてこれを行わせないものとし,乙らは,乙関係者がかかる義務を遵守することを保証する。 6 乙らは,甲及び乙ら間の本件商品にかかる紛争解決のための和解金として,甲に対し,連帯して,第3項の乙らによる本件商品の販売による利益額に相当する4500万円の支払義務を負うことを認め,平成29年9月5日を第1回支払日とし,平成33年5月5日を第45回(最終)支払日として,翌月以降毎月5日限り,100万円を,別途甲の指定する口座に振り込む方法で甲に支払う。(以下略)9 甲及び乙らは,本契約書に定めるほか,本件商品に関し,相互に何らの債権債務がないことを確認する。」イ 被告は,平成30年2月13日,原告が遅くとも平成28年6月28日から製造販売する商品名「ストロングファイバー シングルワイドU」及び「ストロングファイバー ダブルツイストU」の二重瞼形成用テープが本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)の技術的範囲に属する旨主張して,原告に対し,上記製品の製造,譲渡等の差止め等及び損害賠償を求める訴訟(東京地方裁判所平成30年(ワ)第4329号損害賠償等請求事件。以下「関連訴訟」という。甲12)を提起した。 (3) 原告は,平成30年4月18日,本件特許の特許請求の範囲の請求項1,2,4及び5に係る発明についての特許を無効とすることを求める特許無効審判(以下「本件特許無効審判」という場合がある。)を請求した(甲31)。 特許庁は,上記請求を無効2018−800040号事件として審理を行い,平成31年3月12日,「本件審判の請求を却下する。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月22日,原告に4送達された。 (4) 原告は,平成31年4月15日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 2 特許請求の範囲の記載本件特許の特許請求の範囲の請求項1,2,4及び5の記載は,以下のとおりである(以下,請求項2,4及び5に係る発明についても,本件発明1と同様に,請求項の番号に応じて,本件発明2などという。甲44)。 【請求項1】延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成した,ことを特徴とする二重瞼形成用テープ。 【請求項2】上記粘着剤は上記テープ状部材の両面または片面に塗着されている,ことを特徴とする請求項1に記載の二重瞼形成用テープ。 【請求項4】上記テープ状部材の両面または片面に引張りによって破断する破断部を有する剥離シートを貼付した,ことを特徴とする請求項1または2に記載の二重瞼形成用テープ。 【請求項5】上記破断部は,上記シートの長手方向略中央に設けられた切欠溝によって形成されている,ことを特徴とする請求項4に記載の二重瞼形成用テープ。 3 本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。 その要旨は,@原告と被告との間では,本件特許について訴訟関係(関連訴訟)にあるといえるが,本件審決時前において,本件和解契約2条本文の規定により,原告は,本件和解契約締結時である平成29年8月21日以降,本件特許について特許無効審判を請求しない旨の合意が成立している,Aそ5うすると,原告は,本件審決の時点において,特許無効審判の請求により,本件特許権の効力を争う地位を有しないから,特許法123条2項に規定する「利害関係人」であるとはいえない,Bしたがって,本件特許無効審判の請求は,同項の規定に違反する不適法なものであって,その補正ができないものであるから,無効理由について判断するまでもなく,同法135条の規定により,却下すべきであるというものである。 第3 当事者の主張1 取消事由1(請求人適格の判断の誤り)(1) 原告の主張本件審決は,@本件和解契約書2条本文及び同条ただし書の記載からすると,原告と被告は,本件特許の有効性に疑義がある場合,特許無効審判等により本件特許権の効力を争うのではなく,例外的に特許侵害訴訟において無効の抗弁でのみ本件特許権の効力を争うという紛争解決方法が明示的に定められているといえるところ,同条ただし書の例外は,本件和解契約締結後の将来の紛争に備えて,限定的ではあるものの,原告が本件特許権の効力を争う余地を定めた条項と解されること,A同条本文は,ただし書の例外に対する原則として,原告が「過去製品」(3条に列挙された「本件商品」)のみならず「過去製品」とは別の製品を対象とする将来の紛争においても,本件特許権の効力を特許無効審判等によっては,争わないことを定めていると解するのが合理的であること,B本件和解契約書1条によると,原告は,対象を「過去製品」に限定せずに,本件特許が有効に成立していることを認めており,本件特許権の効力について対象を限定せずに原告と被告との間で争いがないことが確認されたといえるところ,1条に続く2条の不争条項の趣旨は,この確認に対する当事者の合理的期待を担保することにあること,C本件和解契約書4条には,原告は,「過去製品」のみならず,「特許第3277180号の権利範囲に属する二重瞼形成用テープ又は本件特許権」の侵害6行為をしない旨が規定されているから,本件和解契約が「過去製品」に関する特許権侵害の紛争を解決するのみならず,本件特許権が及ぶ製品(「過去製品」とは別の製品)全てについて特許権侵害の紛争を予防することを目的とするものであることを合理的に推認できること,D本件和解契約の締結経緯及び本件和解契約の各条項を総合すると,2条の不争条項を置くことにより,原告は,「過去製品」のみならず,「過去製品」とは別の製品についても,特許無効審判等によっては,将来にわたって本件特許権の効力を争う地位を有しないものと解される旨判断したが,本件審決の判断は,以下のとおり誤りである。 ア 本件和解契約2条の不争条項の効力の及ぶ範囲についての判断の誤り(ア) 本件和解契約1条について原告は,平成28年11月28日,被告から,原告による過去製品の販売行為が本件特許権の侵害に当たるので,その販売行為の中止を求める旨の通告(甲29の1)を受けた後,被告と継続的に訴訟外で和解交渉を続けた。 原告は,その交渉過程で,被告から1条を入れることの要請を受け,本件特許の有効性に間題があると考えていたが,紛争の早期解決を優先し,これに応じることとし,平成29年8月21日,被告との間で,本件和解契約を締結した。 このような本件和解契約の締結経緯に照らすと,本件和解契約1条は,原告が本件特許の有効性に問題がないと考えていたことを示すものとはいえない。 (イ) 本件和解契約3条及び4条について原告は,本件和解契約3条に関する交渉において,被告に対し,過去製品からJANコードだけを変えただけの製品については,4条により販売等の行為が禁止されるが,原告が別の製品について同じシリーズの7商品名を使用すること自体は禁止されない行為である旨を提案したところ,被告は原告の提案を受け入れ,原告と被告との間で,同じシリーズの商品名を使用した,過去製品(3条記載のJANコードで特定される「本件商品」)と構成が異なる製品については,販売等が禁止される対象とはならないことが確認された。 また,原告は,本件和解契約4条に関する交渉において,本件特許権の効力が本来及ばない範囲の製品について販売等が禁止されることを懸念し,被告に対し,販売等が禁止される対象について「これに類する樹脂を伸ばして使用する瞼用商品」との文言を「特許第3277180号の権利範囲に属する二重瞼形成用テープ」との文言に変更する旨の提案(甲29の11)をしたのに対し,被告は,上記文言を「これに酷似する樹脂を伸ばして使用する瞼用商品(製品の説明書に記載された用途や使用方法に関わらず,樹脂テープを延伸させて使用する瞼用製品であって,その樹脂テープが,上瞼に適用可能な長さまで延伸させたときに一定の弾性的収縮性を有しており,その結果,本件特許発明と同様の作用機序により二重瞼を形成することができるものも含む。)」との文言に変更する旨の対案の提案(甲29の12)をした。これを受けた原告は,「本来の特許権の効力を超えて禁止することになり応じられません。 紛争の蒸し返し…や,貴社に生じうる類似製品に対する特許権侵害の調査の労については,特許権者が自らの権利を確保するための行為であり,権利の性質上甘受しなければならないものと考えます」とコメントを付記し,「特許第3277180号の権利範囲に属する二重瞼形成用テープ」との文言に戻したところ(甲38),被告は,これを受け入れた。 したがって,過去製品と同一の構成ではなく,本件特許(特許第3277180号)の権利範囲に属しない類似製品については,本件和解契約における販売等の禁止対象から除外されている。 8(ウ) 本件和解契約書2条の効力が及ぶ範囲について前記(ア)及び(イ)の本件和解契約の締結経緯及び各条項に照らすと,本件和解契約2条は,本件和解契約締結後の「将来の紛争」に備えて,本件特許権の効力を特許無効審判等によっては争わないことを定めた不争条項であるが,ここで想定されている「将来の紛争」とは,3条記載のJANコードで特定される「本件商品」(過去製品)及び過去製品と同一の構成の製品に係る紛争に限られているというべきであるから,被告が過去製品とは別の構成を有する製品に対して本件特許権を行使する場合には,2条によって,原告が本件特許権の効力を特許無効審判等によって争うことが禁止されるものではない。 そして,関連訴訟において,被告が請求の対象としている製品(以下「本件製品」という。)は,過去製品と同一の構成ではなく,本件特許の権利範囲に属しない類似製品にすぎないから,本件和解契約2条の不争条項の効力は,被告が原告に対し本件製品に対して本件特許権を行使することに対抗して,原告が本件特許無効審判を請求する場合に及ばないと解するのが当事者の合理的意思に合致する。 したがって,本件和解契約2条により,原告は「過去製品」のみならず,「過去製品」とは別の製品についても特許無効審判等によっては,将来にわたって本件特許権の効力を争う地位を有しないとした本件審決の判断は誤りである。 イ 本件和解契約2条の不争条項の有効性の判断の誤り本件審決は,本件和解契約は,特許権者たる被告が原告に対し,本件特許権の利用を許諾する旨を内容とするものではないから,ライセンス契約であるとはいえず,適用される対象がライセンス契約であることを前提とする「公正取引委員会作成の「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成19年9月28日公表,平成28年1月21日改正。以下「独9占禁止法上の指針」という。甲14)は,本件和解契約に直に妥当するとはいえないこと,被告は,本件特許権をその範囲で行使できるにすぎず,原告が販売するあらゆる種類の二重瞼形成用テープに対して本件特許権を行使できるわけではないし,一方で,原告は,特許侵害訴訟における抗弁として本件特許の無効を主張することができるから,本件特許に無効理由があるにもかかわらず本件特許に係る技術を利用できないという状態に陥るとは必ずしもいえないこと,不争条項に拘束されるのは,あくまでも当該条項を含む契約を締結した当事者に限定され,それ以外の「利害関係人」は,特許無効審判を請求することができるから,公益性が失われるとまではいえないことからすると,本件和解契約2条の不争条項は,独占禁止法及び特許法に鑑みて公序良俗に反し無効であるとまではいえない旨判断したが,本件審決の判断は,以下のとおり誤りである。 (ア) 本件和解契約6条は,原告が被告に対し和解金として4500万円を支払う旨を規定しているところ,この和解金は,特許法102条2項の損害額に相当するものであって,被告が原告に対して原告の過去の販売行為について本件特許権を行使しないことの対価として支払われるものであるから,本件和解契約は,実質的には,原告の過去の販売行為に関する特許権実施許諾契約(ライセンス契約)であるといえる。 したがって,ライセンサーがライセンシーに対して,ライセンス技術に係る権利の有効性について争わない義務を課す行為は,無効にされるべき権利が存続し,当該権利に係る技術の利用が制限されることから,公正競争阻害性を有するものとして不公正な取引方法に該当する場合もある(一般指定第12項)旨の独占禁止法上の指針(第4の4の「(7)不争義務」)は,本件和解契約にも妥当する。 (イ) 仮に原告が被告から新たな製品に対して本件特許権を行使されたにもかかわらず,本件和解契約2条の不争条項の存在により,原告が特許10無効審判等を請求することができないとした場合,原告は,同条ただし書により特許侵害訴訟における抗弁として本件特許の無効を主張することができるとしても,被告が原告に対して特許侵害訴訟を提起するまでは本件特許の有効性を争うことができないため,本件特許に無効理由があるにもかかわらず,一度コストをかけて製品を販売した後,被告の訴訟提起という原告にとって如何ともし難い被告の行為を待つことになり,かかる事実状態は,原告の経済活動を不当に制限するものであり,その結果,本来無効となるべき本件特許により二重瞼形成用テープに係る市場における公正な競争が阻害され,まさに独占禁止法上違法な状態が発生することとなるから,かかる事態は,特許法の制度趣旨からしても許容されるべきものではない。 また,原告以外の利害関係人が本件特許について特許無効審判を請求することができるとしても,そのような利害関係人が常に特許無効審判を請求するとは限らないし,原告と同じ無効理由を主張するとも限らないから,本来特許を受けられない技術が特許として存続し続けるおそれがあることに変わりなく,公益性が失われる。 (ウ) さらに,実施許諾契約に不争条項が存在する場合であっても,特許の無効理由の存在が明らかな場合には,当該特許を維持しつつ技術の利用を促進する必要もないため,不争条項は無効と解すべきである。 しかるところ,本件出願は,国内優先権の主張を伴う出願であるところ,本件発明1,2,4及び5の要旨となる技術的事項は,当該優先権の主張の基礎とされた先の出願(特願2000−303797号。出願日平成12年10月3日)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,これらを併せて「優先権基礎出願明細書」という。甲1)に記載された技術的事項の範囲を超えるものであるから,優先権主張の効果(平成14年法律第24号による改正前の特許法41条2項)は認められず,11特許法29条の適用については,本件出願の現実の出願日を基準として判断すべきである。 すなわち,本件出願の願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。甲44)の【0019】及び【0025】記載の実施例は,本件発明1,2,4及び5の「延伸可能でその延伸後にも弾性的な伸縮性を有する合成樹脂により形成した細いテープ状部材に,粘着剤を塗着することにより構成した二重瞼形成用テープ」という構成を備えるものであり,本件発明1,2,4及び5の要旨となる技術的事項のすべてを満足するものであるから,本件発明1,2,4及び5の実施例に相当するものである。 他方で,本件明細書の【0019】及び【0025】記載の実施例は,優先権基礎出願明細書に明記されていなかった発明であることに加え,上記【0025】記載の実施例は,把持部や離型紙を設けなくてもテープ状部材21の粘着剤が指や他の物品に付着するということがなく,二重瞼形成用テープ20を使用するときには該二重瞼形成用テープ20を左右両側に引っ張るだけでテープ状部材21が延びた状態で露出することにより使いやすくなるという効果を奏するというものであり,優先権基礎出願明細書の図1記載の実施例に係る二重瞼形成用テープの奏する効果とは異なる効果を奏するものである。 したがって,本件発明1,2,4及び5の要旨となる技術的事項が,優先権基礎出願明細書に記載された技術的事項の範囲を超えることになることは明らかであるから,その超えた部分については優先権主張の効果は認められない。 そして,被告が本件出願前の平成13年3月に販売を開始した二重瞼形成用テープ「メザイク」(以下「被告製品」という。)は,本件発明1,2,4及び5の実施品であり,その構造及び性質が一見して明らか12であるから,本件発明1,2,4及び5は,本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明(特許法29条1項2号)に該当し,新規性欠如の無効理由がある。 したがって,本件発明1,2,4及び5に係る本件特許に無効理由があることが明らかであるから,本件和解契約2条の不争条項は無効である。 (エ) 以上によれば,仮に本件和解契約2条の不争条項が,原告の本件特許無効審判の請求を制限するものであるとするならば,@本来無効となるべき特許により二重瞼形成用テープに係る市場における公正な競争が阻害され,A本来特許を受けられない技術が特許として存続し続け,公益性が失われ,B新規性欠如の本件特許の無効理由の存在が明らかであり,本件特許を維持しつつ技術の利用を促進する必要もないから,上記不争条項は,公序良俗に反し,無効である。 これと異なる本件審決の判断は誤りである。 ウ 小括以上によれば,本件和解契約2条の不争条項により本件特許無効審判の請求が制限されることはないから,原告は,本件特許無効審判の請求人適格を有する。 したがって,これと異なる本件審決の判断は誤りであるから,本件審決は取り消されるべきである。 (2) 被告の主張ア 本件和解契約2条の不争条項の効力が及ぶ範囲の判断の誤りの主張に対し(ア) 本件和解契約2条の文言によれば,同条ただし書の場合についてのみ,例外的に,原告が抗弁として本件特許権の無効を主張することを許容していることが明らかである。この例外の場面についても,被告が本13件商品とは別の構成の製品について本件特許権を行使することに対抗して,原告が特許無効審判を請求する場合には及ばないなどと解し得るような文言はない。 また,本件和解契約1条では,原告は,何らの限定なく本件特許が有効に成立していることを認めている上,4条でも,原告は本件特許権の権利範囲に属する二重瞼形成用テープ又は本件特許権の侵害品の製造等をしない旨が規定されていることに照らしても,本件和解契約においては,文言や条項が相互に矛盾するなどの事情も全くない。 そして,本件和解契約においては,いかなる場合に本件特許の無効審判請求等をすることができるのかは,当事者双方にとって極めて重要な事項であるからこそ,代理人弁護士同士が,文言について交渉し,修正した上で,最終的なものとして本件和解契約2条の不争条項の文言で合意している。 したがって,本件和解契約2条の不争条項の効力が,被告が本件商品とは別の構成の製品について本件特許権を行使することに対抗して,原告が特許無効審判を請求する場合には及ばないなどと解釈することはできない。 (イ) この点に関し原告は,本件和解契約1条,3条及び4条に関する交渉経緯に照らすと,本件和解契約2条の不争条項は,原告が本件商品とは別の構成を有する製品に対して本件特許権を行使する場合に特許無効審判を請求する場合には効力が及ばない旨主張する。 しかしながら,原告が主張する本件和解契約1条に関する原告の主観面の事情は本件和解契約の記載内容から合理的に推認できるものではない。また,本件和解契約3条及び4条は,2条の不争条項とは,その趣旨及び目的が異なっており,3条及び4条の対象が本件商品や本件特許権の侵害品に限られるからといって,2条の不争条項は,被告が本件商14品とは別の構成の製品について本件特許権を行使することに対抗して,原告が特許無効審判を請求する場合には及ばないなどと解する文言上の根拠がないのみならず,そのように解する合理性も全くない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (ウ) 以上によれば,本件和解契約2条の不争条項の効力は,被告が本件商品とは別の構成の製品について本件特許権を行使することに対抗して,原告が特許無効審判を請求する場合にも及ぶというべきであるから,原告は,「過去製品」のみならず,「過去製品」とは別の製品についても,特許無効審判等によっては,将来にわたって本件特許権の効力を争う地位を有しないものと解されるとした本件審決の判断に誤りはない。 イ 本件和解契約2条の不争条項の有効性の判断の誤りの主張に対し(ア) 本件和解契約において,原告が被告に対して支払うことに合意した和解金は,原告による本件商品の製造・販売等による本件特許権の侵害行為に対する損害の填補としての性質のみを有する損害賠償金であって,原告が上記和解金を支払ったからといって,本件和解契約が実質的に実施許諾契約になるものといえない。このことは,本件和解契約においては,将来にわたって被告が原告に対して本件特許権の実施を許諾する旨の条項も存在していないこと,4条で,将来にわたって,本件特許権の権利範囲に属する二重瞼形成用テープの製造や譲渡等を禁じていることからも明らかである。 したがって,本件和解契約は実質的には特許権実施許諾契約(ライセンス契約)であるから,独占禁止法上の指針は本件和解契約にも妥当するとの原告の主張は,その前提を欠くものであって,失当である。 (イ) 本件和解契約2条の不争条項によって,原告以外の者の特許無効審判請求が制限されるわけではなく,原告についても,本件特許権を侵害しない二重瞼形成用テープの製造や販売等が何らの影響を受けるもので15はないから,二重瞼形成用テープの市場における公正な競争秩序に悪影響を及ぼすおそれや違法性が著しく大きくなるといった事態はおよそ生じ得ない。 また,実施許諾契約の不争条項については,実施権者以外に利害関係を有する者が存在し得ないわけではなく,実施権者等が特許無効審判を請求することが阻止されても,当該権利が誰からも攻撃を受けなくなることにはならないから,不争条項が直ちに公衆の利益を損なうとはいえないし,不争条項によって,実施契約等の締結が円滑に行われ,権利の利用が促進されるという効果がもたらされることから,不争条項の有効性は,一般的に肯定されており,不争条項の存在によって公益性が失われることにはならない。 したがって,本件和解契約2条の不争条項によって,独占禁止法上違法な状態が発生し,かかる事態は,特許法の制度趣旨から許容されるべきではないとの原告の主張は理由がない。 (ウ) 原告は,本件特許無効審判の審判手続において,本件発明1,2,4及び5に係る本件特許に新規性欠如の無効理由があることを理由に不争条項が無効である旨の主張をしておらず,本件審決もこの点について何らの審理及び判断をしていないから,原告が本件訴訟において上記主張をすることは許されない(最高裁判所昭和42年(行ツ)28号同51年3月10日大法廷判決民集30巻2号79頁参照)。 また,原告は,関連訴訟において,無効の抗弁として,上記新規性欠如を無効理由とする無効の抗弁を主張したが,関連訴訟の受訴裁判所は,関連訴訟の対象製品が本件発明1の技術的範囲に属するとの心証を開示し,侵害論の審理を終えており,このことは,本件特許に一見して明らかな無効理由が存在しないことを示すものである。 さらに,本件発明1,2,4及び5は,優先権基礎出願明細書に記載16された発明であって,優先権主張の効果が及ぶから,本件発明1,2,4及び5に係る本件特許には上記新規性欠如の無効理由は存在しない。 (エ) 前記(ア)ないし(ウ)によれば,本件和解契約2条の不争条項は公序良俗に反し,無効であるとの原告の主張は,理由がない。 ウ 小括以上によれば,原告は,本件和解契約2条の不争条項により,特許無効審判の請求により本件特許権の効力を争う地位を有しないから,本件特許無効審判の請求人適格を有しないとした本件審決の判断に誤りはない。 したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(手続違背)(1) 原告の主張ア 特許無効審判は,口頭審理によるのが原則であり,合理的な理由がある場合に限って書面審理によることができるものであり(特許法145条1項),口頭審理から書面審理への職権による移行は,手続保障の観点から,無制限に認められるものではなく,口頭審理の原則の趣旨を没却するような書面審理への移行は,審決の手続的違法をもたらすというべきである。 そして,前記1(1)のとおり,特許の無効理由の存在が明らかな場合には,特許を維持しつつ技術の利用を促進する必要もないため,不争条項は無効とされ,請求人適格は否定されないから,不争条項の有効性について争いがある特許無効審判においては,通常どおり口頭審理によって無効理由を明らかにするのが適当である。 イ 原告は,審判請求書で本件特許の具体的な無効理由を主張し,本件和解契約2条の不争条項が制限され,又は無効であることを審判事件弁駁書で主張していたにもかかわらず,審判体は,職権で,本件特許無効審判の審理を口頭審理から書面審理に変更し,しかも,双方当事者の代理人に対して書面審理の通知を行わずに,原告に被告の審判事件答弁書(2)を送付す17るとともに審理を終結し,本件審決をした。 このように本件特許無効審判の審判手続は,原告の反論の機会を奪い,無効理由の審理を行わなかった点において著しく公正を欠くものであり,また,不適法として審決をもって特許無効審判請求を却下する場合,被請求人に答弁書提出の機会を与えているときには,当事者双方及び参加人に書面審理の通知をしなければならないと定める審判便覧(甲37)にも違反するものであるから,審判体に合理的な裁量があることを考慮してもなお,その裁量を逸脱した手続上の瑕疵がある。 そして,前記1(1)のとおり,本件発明1,2,4及び5は,本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明であり,新規性を欠くことは明らかであるから,本件特許無効審判の審判手続における手続上の瑕疵は,本件審決の結論に影響を及ぼす誤りであるといえる。 (2) 被告の主張ア 本件特許無効審判の審理においては,一度も口頭審理は開かれていないし,本件特許の無効理由の有無に関する実体審理は行われておらず,書面審理によって,審判要件である請求人適格の点についての審理のみが実施されて,特許法135条の規定により,本件審判を却下する旨の本件審決に至ったものであるから,口頭審理から書面審理に変更したことを前提に,書面審理の通知の有無を問題にする原告の主張は,失当である。 また,原告が本件特許無効審判の請求人適格を欠くとの不備については補正することができないのであるから,口頭審理を行っても,無用な時間・手間を要するだけであって,口頭審理を実施しなければならないような必要性や合理性は一切ない。 したがって,口頭審理をすることなく,書面審理によって,本件特許無効審判の請求を却下した本件審決をしたことが,審判長の合理的な裁量を逸脱したものであるといえないことは明らかである。 18イ 以上によれば,書面審理によって,本件特許無効審判の請求を却下した本件審決に結論に影響を及ぼす手続上の瑕疵は存在しないから,原告主張の取消事由2は理由がない。 第4 当裁判所の判断1 取消事由 1(請求人適格の判断の誤り)について(1) 認定事実前記第2の1の前提事実と証拠(甲13,17,29の1ないし12,38,41)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。 ア(ア) 原告は,化粧品の企画・販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。 (イ) 被告は,化粧品の研究開発,製造,輸出及び販売等を目的とする株式会社である。Aは,平成18年8月当時から平成28年11月30日までの間,被告の代表取締役の地位にあった者である。 イ(ア) A及び被告の代理人弁護士は,平成28年11月28日付けの内容証明郵便(甲29の1)で,原告,センティリオン及び両社の代表取締役のBに対し,原告が発売元である「ディファイbPウルトラファイバー」シリーズ及び「FD(マイクロ)ブリッジファイバー」シリーズ,センティリオンが発売元である「リュクススーパーファイバー」シリーズの販売は,Aの有する本件特許権及び被告の有する本件特許権の専用実施権の侵害に当たるとして,上記各商品の販売の中止等を求める旨の通告をした。 その後,被告は,Aから,本件特許権を譲り受け,平成29年1月11日を受付日とする本件特許権の移転登録を受けた。 (イ) 原告,センティリオン及びBの代理人弁護士は,平成29年2月10日付けの内容証明郵便(甲29の2)で,A及び被告の代理人弁護士に対し,「ディファイbPウルトラファイバー」シリーズ,「FD(マ19イクロ)ブリッジファイバー」シリーズ及び「リュクススーパーファイバー」シリーズについて,同年8月末に向けて段階的に販売数量を減らし,同月末ころをもって販売を完全に取り止める計画を立てているので,このような段階的な販売停止,金銭的解決以外の解決方法を検討する余地があるかどうかの回答を求める旨の連絡をした。 被告の代理人弁護士は,平成29年2月23日付けの内容証明郵便(甲29の3)で,原告,センティリオン及びBの代理人弁護士に対し,同月10日付け内容証明郵便による段階的な販売停止の提案には承服できないなどと通告をした。 原告,センティリオン及びBの代理人弁護士は,同年3月16日付けの内容証明郵便(甲29の4)で,被告の代理人弁護士に対し,上記各商品の販売開始時期,販売数量,納品価格,製品原価を開示するとともに,代償金を支払うので,同年8月末ころまで上記各商品の販売の継続を認めてほしい旨の回答をした。 被告の代理人弁護士は,同年3月22日付けの内容証明郵便(甲29の5)で,原告,センティリオン及びBの代理人弁護士に対し,上記各商品の製造販売等の即時停止を求めているので,仮に代償金が支払われるとしても同年8月までの販売の継続を容認する考えは全くない旨を述べるともに,上記各商品が本件特許を侵害することの自認,本件特許を侵害したことについての謝罪,可及的すみやかに上記各商品の製造販売を停止する旨の確約,今後,本件特許を侵害する商品を製造販売しないことの確約について対応する用意があるかどうかの回答を求める旨の通告をした。 原告,センティリオン及びBの代理人弁護士は,同年3月30日付けの内容証明郵便(甲29の6)で,代償金の支払による訴訟外での解決については,その内容により応じる準備がある旨を回答するとともに,20同年6月末までの販売継続を検討してほしい旨の連絡をした。 被告の代理人弁護士は,同年4月28日付けの内容証明郵便(甲29の7)で,原告,センティリオン及びBの代理人弁護士に対し,本件特許の有効性について今後異議を唱えないことの確約,遅くとも同年6月末までに上記各商品の製造及び販売を中止することの確約,上記各商品又はこれに類する樹脂を伸ばして使用する瞼用商品を今後一切製造販売等しないことの確約,和解金として,販売中止までに得られる上記各商品の販売による利益額相当額の支払を骨子とする和解契約の締結に応じる意向があるのであれば,訴訟外で和解する用意はある旨の通告をした。 原告,センティリオン及びBの代理人弁護士は,同年5月10日付けの内容証明郵便(甲29の8)で,被告の代理人弁護士に対し,上記通告記載の条件を概ね受け入れて和解契約を締結する意向を有している旨の連絡をした。 ウ(ア) 被告の代理人弁護士は,平成29年5月15日,原告,センティリオン及びBの代理人弁護士に対し,要旨下記の内容の和解契約書案(甲29の10)をファクシミリで送信した。 同和解契約書案中,「甲」は被告,「乙1」は原告,「乙2」はセンティリオン,「乙3」はB,「乙会社ら」は原告及びセンティリオン,「乙ら」は原告,センティリオン及びBの略称である。 記「1 乙らは,甲に対し,甲の有する特許第3277180号に係る特許権(以下「本件特許権」という。)が有効に成立していることを認める。 2 乙らは,自ら又は第三者を通じて,無効審判の請求又はその他の方法により本件特許権の効力を争ってはならない。 3 乙らは,乙3が代表取締役を務める乙会社らが下記の商品(以21下「本件商品」という。)を別紙(略)のとおり販売したことを認め,平成29年●月●日までに本件商品の販売を中止するものとする。 「ディファイbPウルトラファイバー」シリーズ「FD(マイクロ)ブリッジファイバー」シリーズ「リュクススーパーファイバー」シリーズ4 平成29年●月●日以降,乙ら又は乙らが支配もしくは役職員を務める会社(以下「乙関係会社」という。)並びに乙会社ら及び乙関係会社の役職員(以下,乙関係会社とあわせて「乙関係者」と総称する。)は,本件商品又はこれに類する樹脂を伸ばして使用する瞼用商品の製造,譲渡,輸出,輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出を自ら行わず,または第三者をしてこれを行わせないものとし,乙らは,乙関係者がかかる義務を遵守することを保証する。 (略)6 乙らは,甲及び乙ら間の本件商品にかかる紛争解決のための和解金として,甲に対し,連帯して,第3項の乙らによる本件商品の販売による利益額に相当する●円の支払義務を負うことを認め,これを本契約書締結日から●日以内に別途甲の指定する口座に振り込む方法で甲に支払う。振込手数料は乙らの負担とする。 (略)9 甲及び乙らは,本契約書に定めるほか,本件商品に関し,相互に何らの債権債務がないことを確認する。 (略)」(イ) 原告,センティリオン及びBの代理人弁護士は,平成29年5月31日,被告の代理人弁護士に対し,次の内容の修正を含む和解契約書案の修正案(甲29の11)を送付した。 a 2条の「無効審判の請求又はその他の方法により」を「無効審判の22請求又は訴訟提起により」と修正「(コメント)今後,当方より積極的に本件特許権の有効性を争うつもりはありませんが,原案どおりですと,応訴する場合も排除されてしまうため,変更しました。」b 3条の本件商品をJANコードで特定し,販売中止時期を平成29年6月30日とする修正c 4条の「本件商品又はこれに類する樹脂を伸ばして使用する瞼用商品」を「本件商品又は特許第3277180号の権利範囲に属する二重瞼形成用テープ」と修正「(コメント)原案ですと,本来特許権の効力の及ばない範囲の製品についても製造等が禁止されることになりますので,表現を変更することを希望します。」d 6条の「和解金」を「3000万円」とし,毎月100万円ずつ30回の分割払とする修正(ウ) 被告の代理人弁護士は,平成29年6月13日,原告,センティリオン及びBの代理人弁護士に対し,次の内容の修正を含む和解契約書案の再修正案(甲29の12)を提案した。 a 2条の原告案の「訴訟提起により」を削除し,新たにただし書を加え,「2 乙らは,自ら又は第三者を通じて,無効審判の請求又はその他の方法により本件特許権の効力を争ってはならない。ただし,乙らが一切本契約書に違反していないにもかかわらず,甲が特許侵害を理由として乙らに対し訴訟提起した場合は,当該訴訟における抗弁として本件特許権の無効を主張することはこの限りではない。【貴社らのご趣旨は理解致しましたので,修正致しました。】」と修正b 3条の「本件商品」をより特定する趣旨で「3 乙らは,乙3が代表取締役を務める乙会社らが下記の商品(以下「本件商品」とい23う。)を別紙(略)のとおり販売したことを認め,平成29年6月30日までに本件商品の販売を中止するものとする。なお,括弧内末尾の13桁の数字は,本契約書締結日時点のJANコードを参考までに付したものである。【貴社ら案によれば,本件商品について,JANコードだけを変えることで「本件商品」ではないことになってしまい,当方としては受け容れることができませんので,修正致しました。】」と修正c 4条を「4 平成29年7月1日以降,乙ら又は乙らが支配もしくは役職員を務める会社(以下「乙関係会社」という。)並びに乙会社ら及び乙関係会社の役職員(以下,乙関係会社とあわせて「乙関係者」と総称する。)は,本件商品若しくはこれに類する樹脂を伸ばして使用する瞼用商品(製品の説明書に記載された用途や使用方法に関わらず,樹脂テープを延伸させて使用する瞼用製品であって,その樹脂テープが,上瞼に適用可能な長さまで延伸させたときに一定の弾性的収縮性を有しており,その結果,本件特許発明と同様の作用機序により二重瞼を形成することができるものも含む。)又は本件特許権の侵害品【当方としては,本和解契約の締結により,同種の紛争が蒸し返されることを未然に防止したいと考えており,本件特許を侵害している可能性が少しでも疑われる商品のお取り扱いは今後お控えいただきたいと思っております。ご検討をお願いします。】の製造,譲渡,輸出,輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出を自ら行わず,または第三者をしてこれを行わせないものとし,乙らは,乙関係者がかかる義務を遵守することを保証する。」と修正(エ) その後,原告,センティリオン及びBの代理人弁護士と被告の代理人弁護士との間で,以下の要旨の修正協議(甲38)をした。 a 2条について24原告らは,2条ただし書に関し,「乙らが一切本契約書に違反していないにもかかわらず,」の削除を希望し,「なお,乙らが訴訟当事者でない訴訟において,本件特許権に関する情報を求められたときに,乙らがこれに対応することは,本件特許権の効力を争うことにはあたらないものとする」との文言の追加を求めた。 これに対し,被告は,禁止される行為と禁止されない行為は,「乙らは,自ら又は第三者を通じて,無効審判の請求又はその他の方法により本件特許権の効力を争ってはならない」に該当するかどうかにより判断されるべきであるとして,上記なお書の追加を拒否した。 b 3条について原告らは,8月31日までの販売分についてはJANコードで特定されるもの,9月1日以降の将来分については4条で禁止されるもの,というように時点で分けられると考えるので,JANコードだけを変えることで本件商品ではないことになるとの被告の懸念は,4条で捕捉可能と考えられる,被告提案による「…シリーズ」で禁止の範囲が及ぶことになると,商品名を使用すること自体に禁止効が及ぶことになり,応諾しかねるとして,「乙らは,乙3が代表取締役を務める乙会社らが下記のJANコードで特定される商品(以下「本件商品」という。)について,別紙(略)のとおり販売したことを認め,平成29年8月31日までに販売を中止するものとする。(略)」との対案を提案し,被告は,この対案を了承した。 c 4条について原告らは,被告案によると,本件特許権の効力の及ばない範囲の製品についても製造等が禁止されることになるので,表現を変更することを希望し,被告は,2条のなお書きの削除及び当方作成の文案について了承いただけるのであれば,原告らの提案を了承する旨回答した。 25これを受けて原告らは,「前回のコメントと同様で,本来の特許権の効力を超えて禁止することになり応じられません。紛争の蒸し返し(なお,当方としては1条に記載しているとおり,和解が成立することを条件に特許第3277180号の効力を認めますので,当方から効力を争って蒸し返す状況は生じません。)や,貴社に生じうる類似製品に対する特許権侵害の調査の労については,特許権者が自らの権利を確保するための行為であり,権利の性質上甘受しなければならないものと考えます(…)」と回答した。 d 6条について原告らは,本件商品の終売時期を8月末と延期することや担保提供が行えない代償として,支払総額を4500万円に増額することを提案した。 (オ) 被告と原告,センティリオン及びBは,平成29年8月21日,本件契約書(甲17)をもって,次のとおりの本件和解契約を締結した。 「1 乙らは,甲に対し,甲の有する特許第3277180号に係る特許権(以下「本件特許権」という。)が有効に成立していることを認める。 2 乙らは,自ら又は第三者を通じて,無効審判の請求又はその他の方法により本件特許権の効力を争ってはならない。ただし,甲が特許侵害を理由として乙らに対し訴訟提起した場合に,当該訴訟における抗弁として本件特許権の無効を主張することはこの限りではない。 3 乙らは,乙3が代表取締役を務める乙会社らが下記のJANコードで特定される商品(以下「本件商品」という。)について,別紙(略)の通り販売したことを認め,平成29年8月31日までに26販売を中止するものとする。 記「ディファイbPウルトラファイバー」シリーズ(クリア60本入り 4573125480102)(ヌーディ60本入り 4573125480119)「FD(マイクロ)ブリッジファイバー」シリーズ(クリア1.4mm 100本入り 4573125480010)(クリア1.6mm 100本入り 4573125480027)(クリア1.8mm 100本入り 4573125480034)(ヌーディ1,4mm 100本入り 4573125480058)「リュクススーパーファイバー」シリーズ(クリア1.4mm 100本入り 4589585580016)(クリア1.6mm 100本入り 4589585580023)(クリア1.8mm 100本入り 4589585580030)4 平成29年9月1日以降,乙ら又は乙らが支配もしくは役職員を務める会社(以下「乙関係会社」という。)並びに乙会社ら及び乙関係会社の役職員(以下,乙関係会社とあわせて「乙関係者」と総称する。)は,本件商品若しくは特許第3277180号の権利範囲に属する二重瞼形成用テープ又は本件特許権の侵害品の製造,譲渡,輸出,輸入又は譲渡若しくは貸渡しの申出を自ら行わず,または第三者をしてこれを行わせないものとし,乙らは,乙関係者がかかる義務を遵守することを保証する。 5 平成29年9月1日の時点で,乙らが出荷前の本件商品の在庫品及び仕掛品を保有していた場合,同日より14日以内に,乙らは,乙らの費用負担でこれらを廃棄するとともに産業廃棄物処理業者による廃27棄証明書を甲に提出するものとする。 6 乙らは,甲及び乙ら間の本件商品にかかる紛争解決のための和解金として,甲に対し,連帯して,第3項の乙らによる本件商品の販売による利益額に相当する4500万円の支払義務を負うことを認め,平成29年9月5日を第1回支払日とし,平成33年5月5日を第45回(最終)支払日として,翌月以降毎月5日限り,100万円を,別途甲の指定する口座に振り込む方法で甲に支払う。(以下略)(「7」は略)8 甲及び乙らは本契約の内容及び本契約締結に至る経緯について,甲が公表する予定の下記の事実を除き,相互に守秘義務を負い,第三者への開示には事前の相手方の書面による同意(ただし甲による開示の場合には乙3の同意のみで足り,また,乙らが本契約に違反した場合,甲の本条に基づく義務は自動的に解除される)を必要とするものとする。 記和解についてのお知らせ当社(株式会社アーツブレインズ)は,「ディファイbPウルトラファイバー」シリーズ(発売元 株式会社フィートジャパン(住所省略)),「FD(マイクロ)ブリッジファイバー」シリーズ(発売元株式会社フィートジャパン(同前))及び「リュクススーパーファイバー」シリーズ(発売元 株式会社センティリオン(住所省略))が当社の有する特許第3277180号を侵害していることを疑い,同社ら及び両社代表取締役のB氏に対し,特許侵害行為の中止等を求めて通告したところ,当事者間の協議の結果,平成29年9月1日付で株式会社フィートジャパン及び株式会社センティリオンが上記製品の販売を中止する形で和解が成立しましたのでお知らせいたします。 28今後も当社といたしましては,当社の知的財産権その他の権利を侵害する行為については厳正な措置を講ずる所存です。 株式会社アーツブレインズ9 甲及び乙らは,本契約書に定めるほか,本件商品に関し,相互に何らの債権債務がないことを確認する。 10 本契約書に定めのない事項及び本契約書の解釈について,将来において疑義が生じた場合には,甲及び乙らは,互いに誠意をもって協議し,解決を図るものとする。」エ(ア) 被告は,平成30年2月13日,原告が遅くとも平成28年6月28日から製造販売する商品名「ストロングファイバー シングルワイドU」及び「ストロングファイバー ダブルツイストU」の二重瞼形成用テープが本件発明1の技術的範囲に属する旨主張して,原告に対し,上記製品の製造,譲渡等の差止等及び損害賠償を求める関連訴訟を提起した。 その後,被告は,同年6月8日,関連訴訟において,原告が製造販売する商品名「ディファイウルトラファイバーU」及び「FDブリッジファイバーU」の二重瞼形成用テープが本件発明1の技術的範囲に属する旨主張して,上記製品の生産,譲渡等の差止請求及び損害賠償請求を追加する旨の訴えの追加的変更の申立て(甲13)をした。 他方,原告は,関連訴訟において,本件発明1に係る本件特許が新規性欠如により無効である旨の無効の抗弁を提出した(甲30の1,2)。 (イ) 原告は,平成30年4月18日,本件発明1,2,4及び5に係る本件特許を無効とすることを求める本件特許無効審判を請求した。 特許庁は,上記請求について,平成31年3月12日,本件特許無効審判請求を却下する旨の本件審決をした。 29原告は,同年4月15日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 (2) 本件和解契約2条の不争条項の効力が及ぶ範囲の判断の誤りについてア 本件和解契約2条は,「乙らは,自ら又は第三者を通じて,無効審判の請求又はその他の方法により本件特許権の効力を争ってはならない。ただし,甲が特許侵害を理由として乙らに対し訴訟提起した場合に,当該訴訟における抗弁として本件特許権の無効を主張することはこの限りではない。」と規定する。 しかるところ,2条の上記文言によれば,同条は,「乙ら」(原告,センティリオン及びB)は,「甲」(被告)に対し,被告が原告らに対し提起した本件特許権侵害を理由とする訴訟において本件特許の無効の抗弁を主張する場合(同条ただし書の場合)を除き,特許無効審判請求により本件特許権の効力(有効性)を争ってはならない旨の不争義務を負うことを定めた条項であって,原告が本件特許に対し特許無効審判を請求することは,およそ許されないことを定めた趣旨の条項であることを自然に理解できる。 そして,前記(1)認定の本件和解契約の交渉経緯によれば,本件和解契約2条の文案については,被告の代理人弁護士と原告,センティリオン及びBの代理人弁護士が,それぞれが修正案を提案するなどして十分な協議を重ね,最終的な合意に至ったものであり,このような交渉経緯に照らしても,同条は,その文言どおり,原告が本件特許に対し特許無効審判を請求することは,およそ許されないことを定めた趣旨の条項と解するのが妥当である。 そうすると,原告による本件特許無効審判の請求は,本件和解契約2条の不争条項に反するというべきである。 したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。 30イ これに対し原告は,@本件和解契約1条,3条及び4条に関する交渉経緯等の本件和解契約の締結経緯及び各条項に照らすと,本件和解契約2条は,本件和解契約締結後の「将来の紛争」に備えて,本件特許権の効力を特許無効審判等によっては争わないことを定めた不争条項であるが,ここで想定されている「将来の紛争」とは,3条記載のJANコードで特定される「本件商品」(過去製品)及び過去製品と同一の構成の製品に係る紛争に限られているというべきであるから,被告が過去製品とは別の構成を有する製品に対して本件特許権を行使する場合には,2条により,原告が特許無効審判等によって本件特許権の効力を争うことが禁止されるものではない,A原告は,被告が過去製品と同一の構成ではない,本件特許の権利範囲に属しない類似製品に対して本件特許権を行使する関連訴訟を提起したため,これに対抗して本件特許無効審判を請求するものであるから,本件特許無効審判の請求については本件和解契約2条の効力は及ばない旨主張する。 しかしながら,本件和解契約2条には,被告が3条に規定する「本件商品」(原告主張の「過去製品」)とは別の構成を有する製品に対して本件特許権を行使する場合には,原告が特許無効審判請求によって本件特許権の効力を争うことが許される旨を定めた文言は存在せず,1条,3条及び4条のいずれにおいても,原告の主張に沿う文言は存在しない。 また,前記(1)認定の本件和解契約の交渉経緯に照らしても,被告と原告,センティリオン及びBとの間において原告の主張する上記場合には2条の効力が及ばないことを確認したり,合意したことをうかがわせる事実は認められない。 かえって,前記アで説示したように,本件和解契約2条の文言及び本件和解契約の交渉経緯によれば,2条は,被告が原告らに対し提起した本件特許権侵害を理由とする訴訟において本件特許の無効の抗弁を主張するこ31と(同条ただし書の場合)は許されるが,原告が本件特許に対し特許無効審判を請求することは,およそ許されないことを定めた趣旨の条項であると解するのが自然な解釈である。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (3) 本件和解契約2条の不争条項の有効性の判断の誤りについて原告は,@本件和解契約6条の和解金は,特許法102条2項の損害額に相当するものであって,被告が原告に対して原告の過去の販売行為について本件特許権を行使しないことの対価として支払われるものであるから,本件和解契約は,実質的には,原告の過去の販売行為に関する特許権実施許諾契約(ライセンス契約)であることを前提とした上で,独占禁止法上の指針(第4の4の「(7) 不争義務」)は本件和解契約にも妥当するものであり,本件和解契約2条の不争条項の存在により,原告が特許無効審判等を請求することができないとした場合,原告は,同条ただし書により特許侵害訴訟における抗弁として本件特許の無効を主張することができるとしても,被告が原告に対して特許侵害訴訟を提起するまでは本件特許の有効性を争うことができないため,本件特許に無効理由があるにもかかわらず,一度コストをかけて製品を販売した後,被告の訴訟提起という原告にとって如何ともし難い被告の行為を待つことになり,かかる事実状態は,原告の経済活動を不当に制限するものであり,その結果,本来無効となるべき本件特許により二重瞼形成用テープに係る市場における公正な競争が阻害され,まさに独占禁止法上違法な状態が発生することとなるから,かかる事態は,特許法の制度趣旨からしても許容されるべきものではない,Aまた,原告以外の利害関係人が本件特許について特許無効審判を請求することができるとしても,そのような利害関係人が常に特許無効審判を請求するとは限らないし,原告と同じ無効理由を主張するとも限らないから,本来特許を受けられない技術が特許として存続し続けるおそれがあることに変わりなく,公益性が失われる,32Bさらに,実施許諾契約に不争条項が存在する場合であっても,特許の無効理由の存在が明らかな場合には,当該特許を維持しつつ技術の利用を促進する必要もないため,不争条項は無効と解すべきであるが,本件発明1,2,4及び5は,本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明(特許法29条1項2号)に該当し,新規性欠如の無効理由があることは明らかであり,本件特許を維持しつつ技術の利用を促進する必要もないなどとして,仮に本件和解契約2条の不争条項が,原告の本件特許件無効審判の請求を制限するものであるとするならば,本件和解契約2条の不争条項は,公序良俗に反し,無効である旨主張する。 しかしながら,上記@の点については,本件和解契約3条は,原告,センティリオン及びBが本件商品の販売を平成29年8月31日限りで中止する旨を,4条は,同年9月1日以降,原告,センティリオン及びBが「本件商品若しくは特許第3277180号の権利範囲に属する二重瞼形成用テープ又は本件特許権の侵害品」の製造,譲渡等をしない旨を,6条は,原告,センティリオン及びBが,被告に対し,連帯して本件商品の販売による利益額に相当する4500万円の和解金を支払う旨を,8条は,「和解についてのお知らせ」として,被告が本件特許を侵害していることを疑い,特許侵害行為の中止等を求めて通告し,当事者間の協議の結果,原告及びセンティリオンが上記製品の販売を中止する形で和解が成立したこと,被告の知的財産権その他の権利を侵害する行為については厳正な措置を講ずる所存であることを公表することを除き,本件和解契約の内容及び本件和解契約締結に至る経緯について相互に守秘義務を負う旨を定めたものであることに鑑みると,6条の和解金は,原告らによる本件特許権の過去の侵害行為に対する被告の損害を填補する損害賠償金であって,被告が原告に対し本件特許権の実施を許諾することの対価としての性質を有するものでないことは明らかであるから,本件和解契約が実質的に原告の過去の販売行為に関する特許権実施許諾契33約(ライセンス契約)の性質を有するものと認めることはできない。 そうすると,本件和解契約2条の不争条項により,二重瞼形成用テープに係る市場における公正な競争が阻害され,独占禁止法上違法な状態が発生する旨の上記@の点は,その前提を欠くものである。 次に,上記Aの点については,本件和解契約2条の不争条項によって原告以外の者が本件特許について特許無効審判の請求をすることが制限されるわけではなく,また,私権である特許権について当事者間で不争義務を負う旨の合意をすることによって直ちに公益性が失われるということはできない。 さらに,上記Bの点については,上記のとおり,本件和解契約が実質的に原告の過去の販売行為に関する特許権実施許諾契約(ライセンス契約)の性質を有するものと認めることはできないから,その前提を欠くものであり,また,本件和解契約2条ただし書は,被告が原告に対し本件特許権侵害を理由とする特許権侵害訴訟を提起した場合には,原告が無効の抗弁を主張して本件特許の有効性を争うことが許容されていること(現に関連訴訟において原告は無効の抗弁を主張して争っている。)に照らすと,同条の不争条項によって,原告が本件特許無効審判の請求を制限されることが不当であるとはいえない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (4) 小括以上によれば,原告が本件特許無効を請求することは,原告と被告間の本件和解契約2条の不争条項により許されないから,原告は,本件特許の特許無効審判を請求することができる「利害関係人」(特許法123条2項)に当たるものと認めることはできない。 したがって,原告の本件特許無効審判の請求は,不適法であって,補正をすることができないものと認められるから,同法135条により,却下されるべきものである。 34これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(手続違背)について(1) 原告は,本件特許無効審判の審判請求書で本件特許の具体的な無効理由を主張し,本件和解契約2条の不争条項が制限され,又は無効であることを審判事件弁駁書で主張していたにもかかわらず,審判体は,職権で,本件特許無効審判の審理を口頭審理から書面審理に変更し,しかも,双方当事者の代理人に対して書面審理の通知を行わずに,原告に被告の審判事件答弁書(2)を送付するとともに審理を終結し,本件審決をしたものであり,本件特許無効審判の審判手続は,原告の反論の機会を奪い,無効理由の審理を行わなかった点において著しく公正を欠くものであり,また,不適法として審決をもって審判請求を却下する場合,被請求人に答弁書提出の機会を与えているときには,当事者双方及び参加人に書面審理の通知をしなければならないと定める審判便覧(甲37)にも違反するものであるから,口頭審理の原則(特許法145条1項)の趣旨を没却するような書面審理への移行に当たるものであり,審判体に合理的な裁量があることを考慮してもなお,その裁量を逸脱した手続上の瑕疵があること,本件発明1,2,4及び5は,本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明であり,新規性を欠くことは明らかであり,本件和解契約2条の不争条項は無効にされるべきことからすると,本件特許無効審判の審判手続における手続上の瑕疵は,本件審決の結論に影響を及ぼす誤りである旨主張するので,以下において判断する。 ア 前記1(3)で説示したとおり,本件和解契約は,本件和解契約が実質的に原告の過去の販売行為に関する特許権実施許諾契約(ライセンス契約)の性質を有するものといえないから,本件発明1,2,4及び5の無効理由の有無の判断をしなければ,本件和解契約2条の不争条項の有効性を決することができない旨の原告の主張は,その前提を欠くものである。 イ(ア) 前記1(1)の認定事実と証拠(甲1ないし8,31ないし36)に35よれば,本件審決に至る審理経過として,以下の事実が認められる。 a 原告は,平成30年4月18日,本件発明1,2,4及び5に係る本件特許を無効とすることを求める本件特許無効審判を請求した。 本件特許無効審判に係る同日付け審判請求書(甲31)には,本件発明1,2,4及び5の無効理由として,@被告製品に係る公然実施発明に基づく新規性の欠如(特許法29条1項2号,123条1項2号),A登録実用新案第3050392号公報(甲5),実願平5−12228号(実開平6−61225号)のCD−ROM(甲6),「カワイイ! 11月号」(第5巻第13号通巻61号,株式会社主婦の友社,平成12年10月2日,126頁)(甲7)又は米国特許第3645835号明細書(甲8)を主引用例とする進歩性欠如(同法29条2項,123条1項2号)の記載がある。 b 被告は,原告と被告との間では,原告が本件特許権が有効に成立していることを認めていることを前提として,原告が「自ら又は第三者を通じて,無効審判の請求又はその他の方法により本件特許権の効力を争ってはならない」ことなどを内容とする本件和解契約が成立しているから,原告は,本件特許無効審判の請求につき利害関係を有さず,請求人適格を欠くから,本件特許無効審判の請求は却下されるべきである旨を記載した平成30年7月12日付け審判事件答弁書(甲32)を提出した。 これに対して原告は,本件和解契約の対象製品とは別の製品について,原告と被告間で関連訴訟が係属しており,本件和解契約の不争条項の効力は,被告が関連訴訟に対して本件特許無効審判を請求する場合には及ばない,本件和解契約の不争条項が,本件特許無効審判を制限するものであるとすれば,独占禁止法や特許法に鑑み,公序良俗に反し,無効であるから,原告は,本件和解契約の不争条項によって,36本件特許無効審判は制限されず,請求人適格を有する旨を記載した同年8月22日付け審判事件弁駁書(甲33)を提出した。一方,原告は,審判事件弁駁書において,本件特許の無効原因が明らかな場合は,本件和解契約の不争条項は無効である旨の主張はしなかった。 その後,被告は,審判事件弁駁書に対する反論を記載した平成30年10月19日付け審判事件答弁書(2)(甲34)を提出した。 c 特許庁(審判体)は,平成31年2月22日,原告に対し,審判事件答弁書(2)副本を送付するとともに,審理終結通知(甲36)をした後,平成31年3月12日,原告は,本件和解契約2条の不争条項により特許法123条2項所定の「利害関係人」であるとはいえないから,本件特許無効審判の請求は,同項の規定に違反する不適法なものであって,その補正ができないものであるとして(同法135条),本件特許無効審判の請求を却下する旨の本件審決をした。 (イ) 特許法145条1項は,「特許無効審判及び延長登録無効審判は,口頭審理による。ただし,審判長は,当事者若しくは参加人の申立てにより又は職権で,書面審理によるものとすることができる。」と規定する。 同項は書面審理によるものとすることができる場合の要件を特に定めていないことに照らすと,書面審理によるか否かは,審判長の合理的な裁量に委ねられていると解するのが相当である。 しかるところ,前記(ア)の認定事実によれば,本件特許無効審判の審判手続においては,口頭審理が開かれることなく,書面審理により,本件審決がされたものであるが,審判体は,被告が審判事件答弁書において本件和解契約の不争条項を根拠に原告が本件特許無効審判の請求につき利害関係を有さず,請求人適格を欠くため,本件特許無効審判の請求は却下されるべきである旨を主張したのに対し,原告が審判事件弁駁書37において本件和解契約の不争条項の効力の及ぶ範囲及びその有効性について反論し,請求人適格を有する旨を主張したことを踏まえて,審理を終結し,本件審決をしたことが認められるから,口頭審理を経ることなく,書面審理によって本件審決をしたことが,原告の反論の機会を奪い,著しく公正を欠くものということはできない。 したがって,審判体が,口頭審理を経ることなく,書面審理によって本件審決をしたことは,審判長の合理的な裁量を逸脱したものと認めることはできない。 次に,本件特許無効審判の審判手続においては,審判体から,当事者に対する書面審理の通知が行われていないところ,特許庁審判部作成の審判便覧の32章1節の「無効審判事件における書面審理通知」(甲37)には,特許法135条により不適法として審決をもって審判請求を却下する場合には,「被請求人に答弁書提出の機会を与えているときには , 当 事 者双 方 及 び参 加 人 に 書面 審 理 の通 知 を し なけ れ ば ならない。」(4.(2))と定められていることに照らすと,審判体が書面審理の通知をしなかったことは,上記審判便覧の定めに合致しない取扱いであるものと認められる。もっとも,書面審理の通知は法令上の根拠に基づくものではなく,上記審判便覧の定めに反したからといって直ちに違法であるとまで認めることはできないし,また,実質的にみても,本件においては,原告の反論の機会を奪う事態に至ったという事情も認められない。 (2) 以上によれば,本件特許無効審判の審判手続における手続上の瑕疵により,本件審決には,審決の結論に影響を及ぼす誤りがあるとの原告の主張は理由がない。 したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。 3 結論38以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。 したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官 大 鷹 一 郎裁判官 古 河 謙 一裁判官 岡 山 忠 広39 |
事実及び理由 | |
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全容
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