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関連審決 無効2015-800166
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成30行ケ10115 審決取消請求事件 判例 特許
平成30行ケ10116 審決取消請求事件 判例 特許
平成30ネ10043 特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
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事件 平成 31年 (行ケ) 10006号 審決取消請求事件
平成 31年 (行ケ) 10058号 審決取消請求事件
第1事件原告杏林製薬株式会社
同訴訟代理人弁護士 高崎仁 村島大介
同訴訟代理人弁理士 内山務 内田俊生 第2事件原告 メルク・シャープ・アンド・ ドーム・コーポレーション
同訴訟代理人弁護士 窪田英一郎 乾裕介 今井優仁 中岡起代子 本阿弥友子 鈴木佑一郎 堀内一成 第1・第2事件被告 東興薬品工業株式会社 1
同訴訟代理人弁護士 高山和也
同訴訟代理人弁理士 田村恭生 田村啓 坂田啓司
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/12/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 第2事件原告に対し,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2015-800166号事件について平成30年12月5日 にした審決を取り消す。
事案の概要(後掲証拠及び弁論の全趣旨から認められる事実)
1 特許庁における手続の経緯等 (1) 第2事件原告は,名称を「気道流路および肺疾患の処置のためのモメタゾ ンフロエートの使用」とする発明に係る特許権(特許第3480736号。
平成7年1月26日出願。優先日平成6年1月27日(以下「本件優先日」 という。),優先権主張国米国。平成15年10月10日設定登録。請求項 の数3。以下,同特許権に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者で ある(甲A44)。
(2) 被告は,平成27年8月24日に特許庁に無効審判請求をし,特許庁は上 記請求を無効2015-800166号事件として審理した。第1事件原告 は,特許法148条3項に基づき同審判に参加した。
(3) 第2事件原告は,平成30年7月23日,特許請求の範囲について訂正請 2 求をした(以下「本件訂正」という。)。
(4) 特許庁は,平成30年12月5日,「特許第3480736号の特許請求 の範囲を平成30年7月23日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の 範囲のとおり,訂正後の請求項2〜3について訂正することを認める。特許 第3480736号の請求項1〜3に係る発明についての特許を無効とする。」 との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月20日,原告ら に送達された。なお,第2事件原告については,出訴期間として90日が附 加された。
(5) 第1事件原告は平成31年1月18日,第2事件原告は平成31年4月1 8日,審決の取消しを求めてそれぞれ第1事件及び第2事件の訴訟を提起し た。
2 特許請求の範囲の記載 本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。以下,各請求項 に記載の発明を,請求項の番号に従って「本件発明1」などといい,本件発明 1〜3を「本件発明」と総称する。本件特許の明細書を,図面を含めて「本件 明細書」という。また,本件明細書の図面は,別紙本件明細書図表目録記載の とおりである。
【請求項1】 モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤であって, 1日1回鼻腔内に投与される,アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎 の治療のための薬剤。
【請求項2】 前記1日1回の投与量が100〜200マイクログラムであり, 未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パー セント未満である,請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】 前記薬剤が,季節性アレルギー性鼻炎を処置するためのもので あり,前記1日1回の投与量が200マイクログラムである,請求項1また は2に記載の薬剤。
3 3 審決の理由の要旨 (1) 被告(請求人)は,本件発明について,@下記の甲1(以下「甲1文献」 という。)に記載の発明(以下「甲1発明」という。),甲2(以下「甲2 文献」という。)及び技術常識に基づく進歩性欠如(無効理由1),A実施 可能要件違反(無効理由2)を主張した。
審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであり,要するに,本件 発明の構成は,甲1発明に甲2文献及び技術常識を組み合わせることにより 容易に想到することができ,本件発明の効果も当業者が容易に予測し得たも のであるから,本件発明は進歩性を欠如するというものである。
甲1:特表平5-506667号公報 甲2:Wang C-J.他,Journal of Pharmaceutical & Biomedical Analysis, 10巻7号,1992年,473〜479頁 (2) 審決が認定した甲1発明及び本件発明との一致点及び相違点は次のとおり である。
ア 甲1発明 「炎症状態を治療するための,フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔 投与用水性懸濁液。」 イ 本件発明1と甲1発明の対比 本件発明1と甲1発明は以下の[一致点]で一致し,[相違点1],[相 違点2]について相違する。
[一致点] モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤であって,鼻腔内に 投与される,炎症状態の治療のための薬剤。
[相違点1] 薬剤の用法・用量につき,本件発明1では「1日1回」と特定されてい るのに対し,甲1発明では特定されていない点。
4 [相違点2] 治療の対象である炎症状態につき,本件発明1では「アレルギー性また は季節性アレルギー性鼻炎」と特定されているのに対し,甲1発明では特 定されていない点。
ウ 本件発明2と甲1発明の対比 本件発明2と甲1発明は,上記[一致点]で一致し,[相違点1],[相 違点2]に加え,[相違点3-1],[相違点3-2]において相違する。
[相違点3-1] 本件発明2では「前記1日1回の投与量が100〜200マイクログラ ムである」とされるのに対し,甲1発明ではその特定がない点。
[相違点3-2] 本件発明2では「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイ ラビリティが約1パーセント未満である」とされるのに対し,甲1発明では その特定がない点。
エ 本件発明3と甲1発明の対比 本件発明2と甲1発明は,上記[一致点]で一致し,[相違点1],[相 違点2],[相違点3-1],[相違点3-2]に加え,[相違点4-1], [相違点4-2]において相違する。
[相違点4-1] 本件発明3では「前記薬剤が,季節性アレルギー性鼻炎を処置するための ものである」とされるのに対し,甲1発明では 「炎症状態を治療するための」 とされる点。
[相違点4-2] 本件発明3では 「前記1日1回の投与量が200マイクログラムである」 とされるのに対し,甲1発明ではその特定がない点。
(3) 審決が認定した本件発明の効果は次のとおりである。
5 ア アレルギー性鼻炎に対して,1日1回のモメタゾンフロエートの鼻腔内投 与で,プラセボとの対比において,治療効果がある (以下「効果@」という。。
) イ 経口溶液と比して,経口懸濁液及び鼻腔スプレー懸濁液の方が,モメタゾ ンフロエートの全身的な吸収が低く,モメタゾンフロエート自体が血漿中で 定量限界以下しか存在しないという効果がある(以下「効果A」という。 。
) ウ プラセボとの対比において,HPA機能抑制に起因する全身性副作用がな い(以下「効果B」という。)。
4 取消事由 (1) 第1事件原告主張の取消事由 取消事由1-1:相違点1の容易想到性の判断の誤り 取消事由1-2:効果の顕著性に関する判断の誤り (2) 第2事件原告主張の取消事由 取消事由2-1:本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定の誤り 取消事由2-2:相違点1の容易想到性の判断の誤り 取消事由2-3:相違点2の容易想到性の判断の誤り 取消事由2-4:相違点3-1及び3-2の容易想到性の判断の誤り 取消事由2-5:相違点4-1及び4-2の容易想到性の判断の誤り 取消事由2-6:効果の顕著性に関する判断の誤り
原告ら主張の取消事由
1 取消事由1-1(相違点1の容易想到性の判断の誤り)について (1) 審決は,相違点1の構成について当業者が容易に想到し得たと判断したが 誤りである。
(2) 1日1回という投与頻度について ア ステロイド点鼻薬の作用・効果の持続性と投与頻度 点鼻薬の有効成分の多くが早期に嚥下または口腔から排出されるから, ステロイド点鼻薬の作用・効能に持続的な性質がなければ,患者は何回も薬 6 剤を投与しなければならない。また,本件優先日当時も現在も2日に1回の投与頻度とするステロイド点鼻薬は存在しておらず,1日1回投与はステロイド点鼻薬について採用され得る最も投与頻度の低い用法であった。
イ モメタゾンフロエートについての作用・効果の持続性と用量 (ア) 本件優先日当時,モメタゾンフロエートを経鼻投与した場合の作用・ 効能の持続性については全く明らかでなかった。
(イ) 当業者は,本件優先日当時,モメタゾンフロエートの持続性の程度に ついては,ステロイドの作用持続時間を示すものとして知られていた生 物学的半減期から推測するはずである。すなわち,本件優先日当時のア レルギーとステロイド剤に関する基本的文献において,各ステロイドの作 用持続期間は,各ステロイドの生物学的半減期に基づいて評価されてい る(甲A61・896頁の表)。ここにいう生物学的半減期は,HPA 機能抑制作用が投与時点から半減する時間のことを意味し(甲51・表 5),このような生物学的半減期と血中半減期には一定の相関関係があ るから(同表),モメタゾンフロエートの生物学的半減期は血中半減期 から推定することができる。
甲2文献によれば,モメタゾンフロエートの血中半減期は1時間程度 と理解される。そうすると,甲51・表5に照らし,モメタゾンフロエー トの生物学的半減期は,血中半減期が90分のヒドロコルチゾンの生物学 的半減期8〜12時間よりも短時間になると推定され,作用持続時間に ついても同様に推定される。
したがって,モメタゾンフロエートの作用持続時間は半日以下程度と 理解されるから,その用法を設定するのであれば,最低でも1日2〜4 回程度となるはずである。
(ウ) 本件優先日当時,ステロイドについて構造と物性との間に一定の相関 があること(構造活性相関)が知られていたものの,構造活性相関によ 7 りモメタゾンフロエートの有する高い作用・効能の持続性を知ることは できなかった。また,本件優先日当時,1日1回投与と1日2回投与との 薬効が同等であることが知られていたブデソニド及びトリアムシノロン アセトニドはアセタール構造を有していたが,モメタゾンフロエートは これを有しないから,当業者が,1日1回投与を選択することはない。
ウ 以上によれば,他のステロイドにつき投与頻度が1日1回とされている としても,それを根拠に,単なる「患者の好みやコンプライアンスの観点か ら」「1日1回」という投与頻度を当業者が選択することはないから,審 決の判断には誤りがある。
(3) 甲A6〜8のステロイドについて ア 審決は,相違点1について容易想到であると判断するにあたり4種類のス テロイドを挙げているが,このうち,1日1回投与と1日2回投与との比較 がされているのは,ブデソニド(甲A6),フルチカゾンプロピオネート(甲 A7)及びトリアムシノロンアセトニド(甲A8)である。
(ア) ブデソニドとトリアムシノロンアセトニドは,化学構造やバイオアベ イラビリティがモメタゾンフロエートと全く異なり,その投与頻度を参考 にすることはできない。
(イ) また,本件優先日当時,ブデソニドとトリアムシノロンアセトニドに ついて,皮膚に塗布した場合に副作用が生じることが報告されていた(甲 57の1,ブデソニドについて甲A3のTable8)。このように副 作用の点からもモメタゾンフロエートの物性は大きく異なっており,ブデ ソニドとトリアムシノロンアセトニドの投与頻度が参考にすることはで きない。
(ウ) フルチカゾンプロピオネートについては,構造がモメタゾンフロエー トと全く異なっており,モメタゾンフロエートがフルチカゾンプロピオ ネートと同等の持続的な作用・効能を奏すると当業者が予測する根拠は 8 ない。なお,審決は,フルチカゾンプロピオネートについて,1日1回投 与と1日2回投与とで治療効果に差がないという前提に立っているが,本 件優先日前の1992年,1日2回投与が1回投与に比して有意に優れて いたことが確認されている(甲A64。なお,甲A42の3の実際の製 剤における用法も同様。)。
イ 以上のとおり,他のステロイドの投与頻度を根拠に甲1発明について1 日1回投与とする理由はなく,審決の論理には誤りがある。
(4) 審決は,相違点1の容易想到性の判断を誤り,この誤りは,審決の結論に 影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。
2 取消事由1-2(効果の顕著性に関する判断の誤り)について (1) 審決は,本件発明の効果@,Bは,甲1発明の効果,甲2文献の記載から読 み取れる効果,及び,甲A6〜8の記載から当業者が予測し得たものである, 効果Aは甲1発明との関係においては有利な効果となり得ないなどと判断し たが誤りである。
(2) 本件発明の効果 ア 本件明細書には,@モメタゾンフロエートの水性懸濁液の好ましい用量 を投与する場合,単回投与または分割投与のどちらでも選択可能であること, Aわずか1日1回の外鼻孔への服用でも,アレルギー性鼻炎(季節性アレル ギー性鼻炎を含む。)を処置するのに安全かつ効果的であることが新たに 見出されたことが記載されている(本件明細書(第10欄12〜27行) 。
) 本件明細書には1日1回投与と1日2回投与(一日量の2回分割投与)を 比較した実験結果は記載されていないが,本件発明を実施した医薬品に関す る審査報告書に,1日1回投与と1日2回投与を比較した結果,効果が同等 であったことが記載されている(甲49・30頁)。
そして,1日1回投与はステロイド点鼻薬について採用され得る最も投 与頻度の低い用法であるから,本件発明の「1日1回」という技術事項は, 9 モメタゾンフロエートの水性懸濁液がステロイド点鼻薬として本件優先日当時に望み得る最も高いレベルの作用・効能の持続性を有していることを示している。本件優先日後の知見であるが,現在では,モメタゾンフロエートの分子構造に鼻の粘膜部分のタンパク質と結合しやすい構造部分(以下「フロエート部分」という。)があり,これにより薬理効果を長時間発揮することが分かっている(甲A59・1292,1295頁)が,本件優先日当時はモメタゾンフロエートが上記の特徴的な性質を有することは全く知られていなかった。モメタゾンフロエートの水性懸濁液が持続的な作用・効能を奏することは本件優先日当時の文献からは知ることのできない事柄である。本件発明は,公知の成分であるモメタゾンフロエートの水性懸濁液の有する未知の性質(鼻に局部投与した場合の抗アレルギー効果の高い持続性)に着目した用法・用量を特徴とする発明(用途発明)であり,進歩性のある発明である。
イ また,本件優先日当時,モメタゾンフロエートの鼻腔内投与水性懸濁液の バイオアベイラビリティは公知でなく,その他のステロイドのバイオアベイ ラビリティも,40%を超えるものばかりであった (甲A59 1296頁) ・ 。
したがって,当業者であれば,モメタゾンフロエートを経鼻投与した場合の バイオアベイラビリティについても,既知のステロイドの場合と同程度の4 0%以上と推測する。審決は,ブデソニド(バイオアベイラビリティ:1 02%)やトリアムシノロンアセトニド (バイオアベイラビリティ 45%) : がモメタゾンフロエートの「類薬」としているから,これによれば,モメ タゾンフロエートもこれらと同程度のバイオアベイラビリティと推測する ことになる。ところが,モメタゾンフロエートの水性懸濁液が鼻腔に投与 された場合のバイオアベイラビリティは,0.16%未満であり(モメタゾ ンフロエートの水性懸濁液が鼻腔に投与された場合の全身性吸収は8%で あり,かつ,全身性吸収されたものの98%以上が肝臓で代謝される(本件 10 明細書・表2,第5欄38〜40行)),顕著に低い。なお,モメタゾン フロエートでは,鼻腔スプレー懸濁液における平均血漿中濃度は経口水性懸 濁液の濃度を下回り,この性質も,本件発明の顕著な効果をさらに裏付けて いる。
(3) 審決の効果の認定及び評価について ア 審決は,上記(2)のとおり,本件発明が1日1回投与の場合と1日2回投 与の場合で効能に有意な差が無く,ステロイド点鼻薬として優先日当時に 望み得る,最も高いレベルの作用・効能の持続的効果を奏すること,審決が 「類薬」とする他のステロイドと比較して本件発明のバイオアベイラビリ ティが顕著に低いことを看過しており,審決の効果の認定には誤りがある。
また,非常に低いバイオアベイラビリティでありながら,本件発明が上記効 果を奏することは,本件優先日当時驚くべきことであり,それ自体,本件発明 の顕著な効果である。審決は本件発明の効果の存在を看過したことにより, 当該効果の評価も遺漏しており,誤りがある。
イ 審決は,甲1発明はモメタゾンフロエートの鼻腔投与用懸濁液であるか ら,効果A(経口溶液と比して,経口懸濁液及び鼻腔スプレー懸濁液の方が, モメタゾンフロエートの全身的な吸収が低く,モメタゾンフロエート自体が 血漿中で定量限界以下しか存在しないという効果)は本件発明の有利な効 果の存在の根拠とならないと判断する。審決の判断によれば,公知物があ る効果を客観的に奏するのであれば,優先日当時に当該効果の存在が当業者 に知られていなくても,発明の効果の顕著性は,上記効果と比較して判断す ることになる。
しかし,用途発明は,既知の物質について新規な用途を発見したことを特 徴とする発明であり,当該新規な用途を基礎づける物性は(発見されていな いだけで)公知物自体にすでに客観的に備わっている。したがって,公知物 に当該物性が備わっていることを理由に用途発明に顕著な効果を認定しな 11 いとすると,公知物に当該物性を発見したことを根拠とする用途発明につい ては,およそ顕著な効果を根拠とする進歩性(特許法29条2項)はあり得 ないことになる。したがって,少なくとも用途発明の効果の顕著性は,優先 日当時の技術理解に基づき,公知物が奏すると当業者が予想する効果との比 較で判断されるべきである。
審決は,優先日に公知となっていない効果との比較で顕著性を評価する もので,後知恵である。
(4) 審決は,効果の顕著性に関する判断を誤り,この誤りは,審決の結論に影 響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。
3 取消事由2-1(本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定の誤り) について (1) 審決は,本件発明1と甲1発明の相違点について[相違点1]及び[相違 点2]を認定したが,誤りである。
(2) 甲1発明について ア 医薬発明における審査基準「2.2.2 新規性の判断の手法」「(2) 引用発明の認定」には,「刊行物等に何ら裏付けされることなく医薬用途が 単に列挙されている場合は,当業者がその化合物等を医薬用途に使用できる ことが明らかであるように当該刊行物等に記載されているとは認められな い。したがって,当該刊行物等に医薬発明が記載されているとすることはで きない。」と記載されている(甲A68)。
イ 臨床上経鼻投与の方法が用いられたことのないコルチコステロイドの場 合には,その治療効果は薬理試験を行わなければ予測できない。
(ア) すなわち,コルチコステロイドを皮膚に塗布する場合,皮膚の角層は 強固なバリアーであるため,薬物の吸収は非常に遅く,皮膚から吸収され た薬物の血中濃度はほとんど測定できないほど低い。皮膚から吸収され た(わずかな)薬物は,直接体内循環に移行するため,肝臓での初回通過 12 効果(吸収された薬が最初に肝臓を通過し,代謝されること)を受けず, 投与部位での代謝も非常に少ない(甲A34・328頁〜330頁。な お,甲A34は,本件優先日以降に刊行されたものであるが,皮膚と鼻腔 の組織等についての基本的な事項を述べたものであり,その記載内容は, 本件優先日当時の当業者の認識と変わらない。)。
(イ) これに対し,コルチコステロイドを鼻腔に投与する場合,鼻の粘膜下 は薬物透過性が高い結果,鼻腔に投与されたコルチコステロイドは速く血 管に吸収され,比較的短時間しか鼻の組織に滞留せず,吸収された薬物の 血中濃度が高ければ全身性副作用を引き起こすおそれがある。鼻粘膜で 吸収された薬物は直接体内循環に移行するため,皮膚への塗布と同様,肝 臓での初回通過効果を受けない(甲A34・326頁)が,鼻腔内投与 された薬剤の一部は飲み込まれてしまうため,副作用を考慮するにあたっ ては,食道を通過する薬剤の吸収や代謝も考慮する必要がある。鼻から飲 み込まれた薬剤は,全身循環される前に肝臓に送られ,肝臓で代謝(初回 通過効果)を受ける(甲A34・292〜296頁,甲A59)。また, 本件優先日当時,経口投与の場合には初回通過効果を受けるのに対し,鼻 腔投与の場合には当該効果を受けることがなく,鼻粘膜は薬物透過に対す るバリアー能が低いため,経口投与よりも鼻腔投与の方がバイオアベイラ ビリティが高くなることも知られていた(甲A60)。このように,鼻 腔投与された薬物の副作用を検討するにあたっては,鼻粘膜で吸収された 薬物と飲み込まれた薬物の両方による薬物の血中濃度や,その薬物に対す る初回通過効果の影響を知る必要がある。
(ウ) 本件優先日当時,米国においては19種類ものコルチコステロイドを 含む皮膚疾患用抗炎症剤が承認されていたが,点鼻薬としても承認されて いたものはわずか2種類のみであった。また,甲A3には,酢酸ジフロラ ゾン,ジフルプレドナート,ジプロピオン酸デキサメタゾン,ブデソニドが 13 皮膚の炎症に作用を有することが記載されているが,このうち,点鼻剤と して承認されたのは,ブデソニド(ただし本件優先日後)のみで,他の薬 剤についてアレルギー性鼻炎に効果的であるとの文献も示されていない。
さらに,本件優先日当時,チプレダンは皮膚では有効性を示したが,気道 では効果がないことが知られていた(本件明細書2頁第3欄29〜34 行)ほか,局所性ベタメタゾン及びデキサメタゾンは,当初皮膚で,後に 経鼻投与でも有効性を示したが許容しがたい副作用が生じ,研究が中止さ れた。シクレゾニド,ブチキソコートプロピオネート,クロプレドール,デ フラザコートは喘息の治療に有効であるとされたが,いずれも鼻炎の治療 用には開発されていなかった。かかる事実からも,皮膚の抗炎症効果から 鼻炎の治療効果は予測し得ないことがいえるし,また,喘息の治療に有効 であっても鼻炎の治療に有効であるとは限らないともいえる。
(エ) このように,ある薬剤が皮膚に局所適用した場合に安全かつ有効であ ったとしても,鼻腔スプレーで投与した場合の動態を知ることはできず, その安全性や有効性を推定することもできないし,より強い副作用が生 じる可能性もある。
ウ 本件優先日当時,軟膏,クリーム及びローションの剤形のフランカルボン 酸モメタゾンが湿疹,皮膚炎等の局所適用ステロイドであったことが知られ ていたのみであり,上記イによれば,モメタゾンフロエートの水性懸濁液 の効果や,アレルギー性鼻炎の治療のために鼻腔投与した場合の安全性や有 効性を推定することはできなかった。
エ 甲1文献は,新規化合物であるフランカルボン酸モメタゾン(モメタゾ ンフロエート)一水和物に関する発明(甲1発明)の公表特許公報であり, 懸濁液の形態で長期間保存される間に結晶が成長しにくい,新規化合物であ るフランカルボン酸モメタゾン一水和物を報告するものである。そして, 甲1文献に「フランカルボン酸モメタゾンは,炎症状態の処置に有用であ 14 ることが知られている」との記載があり,また,発明の名称として「医薬 組成物」との文言が記載されているものの,モメタゾンフロエート一水和 物の鼻腔投与用水性懸濁液について「炎症状態」の処置に対する有用性の 程度や副作用の有無について何ら記載がないし,モメタゾンフロエートの 薬理効果も,モメタゾンフロエートの水性懸濁液をアレルギー性又は季節性 アレルギー性鼻炎のために投与した場合の薬理試験方法や薬理試験結果に ついても開示もない。このように,甲1文献には,炎症状態に有効という記 載しかなく,何ら裏付けがなく用途が記載されているにすぎないため,「治 療のための薬剤」が開示されているといえないことは明らかである。
オ 被告は,甲A10の,局所での抗炎症性ステロイドの分野では,皮膚疾患 の処置で実証された結果を有するコルチコステロイドは,喘息及び鼻炎の処 置にも効果的である旨の記載から,皮膚疾患の処置で抗炎症作用を有する ことが知られていたモメタゾンフロエートについて,アレルギー性鼻炎に対 する炎症効果を有することが理解できると主張する。しかし,このような 技術常識はなく,本件優先日当時の当業者の認識とも異なる。
すなわち,上記事項がよく知られていたことやその後の基礎として受け 入れられたことを示す証拠は甲A10以外に示されておらず,1つの文献に のみ記載された事実が技術常識であるとはいえないことは明らかである。
また,被告の指摘する乙8の,「ステロイドはその活性の発見当初から 喘息患者に全身的に用いられてきたが・・・皮膚に対する非常に強力な抗 炎症剤が発見されたことから,これらの化合物が肺の気道に対しても局所的 に同等に有効ではないかという期待が持ち上がった。 Beclomethasone dipropionate(24)が吸入できるエアゾールの形で用いられ大多数の患 者の喘息発作の抑制に非常に有効であることが示された。・・・Becotide という商品名(Allen & Hanburys)でこの製品は特に目立った成功を収め, 後に鼻腔内スプレーとして花粉症や同類の鼻アレルギーの治療にまでその 15 用途が拡大した。」との記載は,「肺の気道」についてのもので,鼻炎の 処置には言及しておらず,「Beclomethasone dipropionate」が喘息に効果 的であり,その後,鼻アレルギーの治療に拡大したことを述べるだけである から,「皮膚疾患の処置で実証された結果を有するコルチコステロイドは, 鼻炎の処置にも効果的であると考えられていた」ことは何ら述べられてい ない。
皮膚と鼻腔に投与される薬剤の治療効果や安全性が同じであるとの知見 はなく,このような知見は,皮膚と鼻腔投与の薬物動態の違いを無視するも のであり,本件優先日当時の技術常識であるとはいえない。
(3) 本件発明1と甲1発明の相違点の認定の誤り 以上によれば,本件発明1と甲1発明の相違点は,次のとおりである。
[相違点1’] 本件発明1は,モメタゾンフロエートの水性懸濁液の用法を 「1日1回」 に特定しているのに対し,甲1発明は特定していないこと [相違点2’] 本件発明1は, 「アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療の ための薬剤」であるのに対し,甲1発明は,「炎症状態の処置に有効であ る」とするにすぎないこと (4) 審決は,誤った相違点を前提として,当該相違点に係る構成を容易に想到 し得たと判断したものであり,上記相違点の認定の誤りは,審決の結論に影 響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。
4 取消事由2-2(相違点1の容易想到性の判断の誤り)について (1) 審決は,相違点1の構成について当業者が容易に想到し得たと判断したが 誤りである。
(2) 甲1文献には甲A4〜8記載のアレルギー性鼻炎の治療薬の用法用量を検 討する動機付けはないこと 16 ア 前記3(3)のとおり,甲1文献には,フランカルボン酸モメタゾン一水和 物の水性懸濁液を「アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療の ための薬剤」として使用することについての記載はない。したがって,甲 1文献において,アレルギー性鼻炎の治療のためにその用法・用量を定め ようとする動機付けはなく,抗炎症活性という共通点のみから,甲A4〜8 記載のアレルギー性鼻炎の治療薬の用法 用量を参照する動機付けはない。
・ イ 審決は,モメタゾンフロエートの水性懸濁液がアレルギー性鼻炎の薬剤と して使用されることを甲1文献に読み込んだ上で,組み合わせの容易想到性 を判断したものといえる。甲1文献にはアレルギー性鼻炎についての記載 はないから,甲1文献に甲2文献を組み合わせた仮想的な公知例に基づき, 甲A4〜8の用法・用量を組み合わせるものであり,いわゆる容易の容易 に基づき進歩性を否定するものである。
(3) 甲A4〜8について ア 審決は,甲A4〜8に接した当業者は,1日1回の用法が最も好ましいこ とを理解し,甲1発明に1日1回の用法を採用することは容易であると判断 した。
しかし,1日1回が患者の好みやコンプライアンスの観点から最も望まし いことが知られていたとしてもそれは理想であって,実際に対象となる有効 成分の薬剤が1日1回で所望の持続的な効果を有し,安全性を有することが 大前提である。
イ 甲A4,5については,ジプロピオン酸ベクロメタゾンを1日4回投与す ることを記載するものの,1日1回の用法についての記載はないから,相違 点1とは関係がない。
ウ 甲A6〜8には,アレルギー性鼻炎に対して,ブデソニド,フルチカゾンプ ロピオネート及びトリアムシノロンアセトニドを1日1回鼻腔に投与する ことが記載されている。
17 (ア) 審決は,モメタゾンフロエートは局所抗炎症活性を有するコルチコス テロイドであり,上記3種のコルチコステロイドはモメタゾンフロエート の「類薬」であるとして,甲1発明にこれらの類薬の用法・用量を採用す る動機付けがあった認定したが誤りである。
すなわち,薬の投与量や投与回数は,その薬の対象疾患の治療効果の程 度と安全性に密接に関連するものであり,モメタゾンフロエートのよう な,臨床上,経鼻投与の方法が用いられたことのないコルチコステロイド の場合,独自の安全性評価が必要となる。前記3(2)イのとおり,ある特 定のコルチコステロイドのアレルギー性鼻炎に対する治療効果から,別の コルチコステロイドの治療効果を予測することはできないから,アレル ギー性鼻炎に対するある特定のコルチコステロイドの用法が 「1日1回」 であることをもって,別の種類のコルチコステロイドの用法も 「1日1回」 で足りるということはできない。
したがって,局所抗炎症活性を有するコルチコステロイドであるとい う一事をもって「類薬」と判断することも,これに基づいて動機付けを肯 定することも,あまりに単純化しすぎた考え方に基づくものであり,誤り である。
(イ) 本件優先日当時,ステロイドの構造と物性の間には一定の相関がある ことが知られており(構造活性相関),ステロイドの構造に結合する修飾 基をどのように工夫すれば所望の作用・効果を得ることができるかとい う研究も行われていた(甲A61,62)。
モメタゾンフロエートの構造は上記3種のコルチコステロイドの構造 と大きく異なっているから,化学構造式の点からも,これらのコルチコ ステロイドの用法・用量を採用する動機付けはなかったといえる。
(ウ) 本件発明の課題は,鼻腔に投与した際の血流への全身性吸収を実質的 に最小限としたうえ,低い全身性バイオアベイラビリティ及び低い全身性 18 副作用を有しながらも,アレルギー性鼻炎等を効果的に処置する薬剤を提 供することである。これに対し,甲A6〜8には,アレルギー性鼻炎に対 して,ブデソニド,フルチカゾンプロピオネート及びトリアムシノロンア セトニドを1日1回鼻腔に投与した際に,症状がどの程度改善されたかの 記載しかなく,これらを投与した際の血流への全身性吸収の程度,全身性 バイオアベイラビリティの値及び関連する副作用については述べられて いない。したがって,低い全身性バイオアベイラビリティで,血流への全 身性吸収及びこれに関連する副作用が実質的に存在することのない薬剤 の提供を試みた場合に,全身性バイオアベイラビリティ等についての記載 のない甲A6〜8に基づいて,当業者が,これらの用法・用量を適用する 動機付けはない。
なお,本件優先日当時,ブデソニドについては,全身性バイオアベイラビ リティが102%であることが知られており(甲A63),かかる文献に 接した当業者であれば,本件発明の課題のもと,ブデソニドの用法を参照 することにはむしろ阻害要因があったといえる。
(エ) 本件優先日当時,鼻腔内吸入するアレルギー性鼻炎の治療薬として承 認されていたコルチコステロイドでは,「1日1回」よりむしろ,「1日 2回」,「1日3回」等の用法も一般的に用いられていた。
したがって,当業者は,コルチコステロイドであるからといって当然に 「1日1回」で効果を有するとは考えず,むしろ,1日1回で効果を有す るかどうかについては懐疑的であったといえる。
(オ) フルチカゾンプロピオネート(甲A7)のみが現在日本で実際に販売 されているが,フルチカゾンプロピオネートについては,本件優先日前の 1992年に用法・用量の確認のために57施設の耳鼻咽喉科で大規模 な臨床試験が実施され,1日2回の投与が1回投与に比して有意に優れて いたことが確認された報告書が作成され(甲A64),フルチカゾンプ 19 ロピオネートを有効成分として含むフルナーゼは1日2回の用法が推奨 されている(甲A42の3)。これによれば,甲A7文献の記載に接し た当業者であったとしても,フルチカゾンプロピオネートの1日1回の用 法・用量の効果について懐疑的であったといえる。
(カ) 以上のとおり,甲1発明に,甲A6〜8に記載の「1日1回」の投与 方法を組み合わせる動機付けはないから,相違点1に係る構成について, 容易に想到し得たとはいえない。
(4) 審決は,相違点1の容易想到性の判断を誤り,この誤りは,審決の結論に 影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。
5 取消事由2-3(相違点2の容易想到性の判断の誤り)について (1) 審決は,甲2文献に,モメタゾンフロエートが喘息およびアレルギー性鼻 炎の鼻腔内吸入による治療のための有望な新薬候補であったことが示されて いるから,甲2文献に接した当業者は,甲1発明において, アレルギー性鼻炎 「 または季節性アレルギー性鼻炎」を選択することは容易に想到し得たと判断 したが,誤りである。
(2) 相違点2の容易想到性について ア 甲2文献の記載 (ア) 甲2文献は,モメタゾンフロエートの血漿濃度を測定するために新し く開発された高感度測定法に関する報告であり,モメタゾンフロエート が「喘息及びアレルギー性鼻炎の経口及び鼻腔内吸入による治療のため の有望な新薬候補である」旨の記載があるのみで,モメタゾンフロエー トが有望な新薬候補であることを裏付ける実験結果も参考文献も示され ておらず,かえって,モメタゾンフロエートの「代謝,薬物動態及び毒物 動態は評価されてこなかった」との記載(473頁左欄11〜17行) がある。
(イ) 甲2文献の「モメタゾンフロエート(SCH32088)は,局所性 20 抗炎症活性を有する一方,視床下部-下垂体-副腎(HPA)機能の抑制 する可能性は最小限しか示さない,合成コルチコステロイドである。」と の記載(473頁左欄3〜8行)が想定しているのは,モメタゾンフロエ ートを皮膚に局所適用した場合である(甲2文献が引用する甲A69及 び甲A70)。前記3(2)イのとおり,皮膚に局所適用した場合の全身性 作用の程度から鼻腔吸入した場合の全身性作用の程度を推定することは できないので,上記記載に基づいて鼻腔内に投与したモメタゾンフロエー トがHPA軸機能を抑制するかについて予測することはできない。皮膚 に関する上記記載から,甲2文献にアレルギー性鼻炎の「薬剤」が開示 されているとすることはできない。
(ウ) 一般的に「新薬候補」は医薬品の原料となる可能性のある化合物を意 味するが,「薬剤」は客観的な実験を通して医薬品としての安全性及び有 効性が確認された化合物を意味する。甲2文献の開示する,「鼻腔内吸入 によるアレルギー性鼻炎の治療のための有望な新薬候補としてのモメタ ゾンフロエート」は,本件発明にかかる「アレルギー性または季節性アレ ルギー性鼻炎の治療のための薬剤」とは異なる。
(エ) 以上によれば,甲2文献には,「薬剤」の治療の対象として「アレル ギー性または季節性アレルギー性鼻炎」が記載されているということは できない。
イ 甲1文献の課題は,懸濁液の形態で長期間保存される間に結晶が成長し にくいフランカルボン酸モメタゾン一水和物を得ることであり,甲2文献の 課題はモメタゾンフロエートの血漿濃度を測定する方法を得ることである。
このように,甲1文献と甲2文献では課題が異なっている。また,両文献 には,本件発明のアレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療に有 効であり,かつ,鼻腔内投与によって投与されたときに,全身性バイオアベイ ラビリティが低く,全身性の副作用の発症が抑制された薬剤を提供するとい 21 う課題のみならず,そもそも「薬剤を提供する」という課題すらない。
審決は甲1発明において甲2文献を組み合わせる動機付けについて何ら 述べておらず,甲1発明に甲2文献を組み合わせることができるとする審 決の判断は誤りである。
(3) 審決は,相違点2の容易想到性の判断を誤り,この誤りは,審決の結論に 影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。
6 取消事由2-4(相違点3-1及び3-2の容易想到性の判断の誤り)につ いて (1) 審決は,相違点3-1及び3-2に係る構成について容易に想到し得ると 判断したが,誤りである。
(2) 相違点3-1について 前記4(3)のとおり,モメタゾンフロエートについて,異なる他のコルチコ ステロイドの用量を参照する動機付けはない。また,これらの用量をアレル ギー性鼻炎について開示のない甲1発明に組み合わせる動機付けはない。
なお,本件明細書には, 1日に400マイクログラムを超えると,処置にお 「 ける改善は見出されない」ことが記載されているが,モメタゾンフロエートの 投与量がどの程度であれば,1日1回で効果を有し,安全性を有するものかは, 薬理試験を行わなければ予測できない。相違点3-1にかかる,1日1回の 100〜200マイクログラムのモメタゾンフロエートが効果的であること は,甲1文献,甲2文献,甲A3〜10から予測することができず,相違点3 -1にかかる構成は容易に想到し得るものではない。
(3) 相違点3-2について 審決は, 未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティ 「 が約1パーセント未満である」ことは,「前記1日1回の投与量が100〜2 00マイクログラムである」ことに伴って当然達成される効果であることか ら,相違点3-2は相違点3-1と実質的に異なるものではないと判断した。
22 しかし,甲1文献,甲2文献,甲A3〜10に,「未変化のモメタゾンフロ エートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」こと は開示も示唆もない。「前記1日1回の投与量が100〜200マイクログ ラムである」ことを採用した場合に,「未変化のモメタゾンフロエートの絶対 的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」効果を得られると は予測できず,当然達成される効果であることは予測できない。
甲1文献には,アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎の治療に有効 であり,かつ,鼻腔内投与によって投与されたときに,全身性バイオアベイラビ リティが低く,全身性の副作用の発症が抑制された薬剤を見出すという本件発 明2の課題がなく,甲2文献,甲A3〜10にも,「全身的な血流中への吸収 が実質的に存在しない」ことを課題とするものはない。したがって,甲1発明 に甲2文献,甲A3〜10を組み合わせても,相違点3-2にかかる構成を容 易に想到することはできない。
(4) 審決は,相違点3-1及び3-2の容易想到性の判断を誤り,この誤りは, 審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。
7 取消事由2-5(相違点4-1及び4-2の容易想到性の判断の誤り)につ いて (1) 審決は,相違点4-1及び4-2に係る構成について容易に想到し得ると 判断したが,誤りである。
(2) 相違点4-1について 上記6(3)のとおり,甲1文献にも甲2文献にも「アレルギー性または季 節性アレルギー性鼻炎の治療のための薬剤」の開示はなく,甲1文献と甲2 文献の課題には共通性がなく,これらを組み合わせる動機付けはない。した がって,甲1発明に甲2文献を組合せることにより相違点4-1が容易に想 到し得たとする審決の判断は誤りである。
(3) 相違点4-2について 23 前記4(3)のとおり,モメタゾンフロエートについて,他のコルチコステロ イドの用量を参照する動機付けはなく,審決が挙げる他のコルチコステロイド の用量をアレルギー性鼻炎について開示のない甲1発明に組み合わせる動機 付けはない。
本件明細書においては,第16欄3行の「A.臨床的評価」において,20 0マイクログラムのモメタゾンフロエートの臨床的効力および薬物代謝/臨 床薬理学的研究により,アレルギー性鼻炎に対して,1日1回のモメタゾンフ ロエートの鼻腔内投与で効果的に処置でき,未変化のモメタゾンフロエートの 絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満となり,モメタゾンフロ エートの血流中への全身的な吸収が実質的に存在せず,所望しない全身性副 作用を防げるという効果を確認している。このような効果を有することは,試 験なくしては予測することができない。
1日1回の200マイクログラムのモメタゾンフロエートが効果的である ことは,甲1文献,甲2文献,甲A3〜10から予測することができず,相違 点4-2にかかる構成は容易に想到し得るものではない。
(4) 審決は,相違点4-1及び4-2の容易想到性の判断を誤り,この誤りは, 審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。
8 取消事由2-6(効果の顕著性に関する判断の誤り)について (1) 審決は,本件発明の効果@,Bは,甲1発明の効果,甲2文献の記載から読 み取れる効果,及び,甲A6〜8の記載から当業者が予測し得たものである, 効果Aは甲1発明との関係においては有利な効果となり得ないなどと判断し たが,誤りである。
(2) 本件発明の効果 ア 本件発明の課題は,アレルギー性鼻炎の治療に優れた抗炎症効果を有しな がら全身性副作用の少ない治療方法の開発というより広い課題として把握 されなければならず(本件明細書の第3欄50行〜第4欄2行,同30〜3 24 7行,第5欄30〜34行),本件発明の効果は,次のとおりである。
(ア) アレルギー性鼻炎に対して,1日1回のモメタゾンフロエートの投与 で効果的に処置できること (イ) モメタゾンフロエートのバイオアベイラビリティが1%未満であり, 血流中への全身的な吸収が実質的に存在せず,所望しない全身性副作用 を防げることイ アレルギー性鼻炎に対して,1日1回のモメタゾンフロエートの投与で効 果的に処置できることという効果(上記ア(ア))について 本件発明のアレルギー性鼻炎に対する優れた治療効果は,本件明細書に記 載された201名の季節性アレルギー性鼻炎の患者を対象にした臨床研究 (第14欄49行〜第17欄39行)に記載されている。本件発明にかか るモメタゾンフロエートを有効成分とするナゾネックス?は日本においては 2008年に発売が開始されたが(甲A18),それまで,1日2回の投与 とされていた鼻噴霧用ステロイド薬とは異なり,1日1回で効果が十分持続 する鼻噴霧用ステロイド薬として画期的なものであった(甲A16)。
そして,上記の画期的効果は,モメタゾンフロエートのフロエート構造 が薬理効果を長期間発揮する物性をモメタゾンフロエートにもたらすこと によるものであるところ,本件優先日当時,上記の物性等は明らかになっ ていなかったから,当業者がこの画期的効果を予測することは不可能であ った。
ウ モメタゾンフロエートのバイオアベイラビリティが1%未満であり,血 流中への全身的な吸収が実質的に存在せず,所望しない全身性副作用を防 げるという効果(上記ア(イ))について (ア) 本件発明は,@血漿中コルチゾル濃度の測定(本件明細書第13欄下 から2行〜第14欄9行),Aトリチウム標識モメタゾンフロエートを投 与することによる全薬物についての全身性吸収率の測定(第18欄11 25 行〜第26欄最終行,表2,19欄35〜40行),B高速液体クロマト グラフィーを用いた代謝物分析(肝臓における一次代謝の割合)(第5 欄34〜46行,第18欄11〜26行)という3つの実験から,上記の 効果が得られたことを確認している。
すなわち,上記@の結果は,全身性副作用である副腎抑制がないこと を示している。また,上記A及びBの結果は,モメタゾンフロエートの 水性懸濁液が鼻腔に投与された場合の全身性バイオアベイラビリティが 1%未満であること(Aにおけるモメタゾンフロエートの水性懸濁液吸 収率8%(代謝物含む)×Bにおける初回通過効果を回避する割合2%) を示している。このように,本件発明は,全身性吸収が低く抑制されると 同時に,わずかに吸収されたモメタゾンフロエートの大部分は代謝される ことにより,血流に到達する親薬物は実質的に存在しないこととなり, モ 「 メタゾンフロエートの血流中への全身的な吸収は実質的に存在せず,所望 しない全身性副作用を防げる」という顕著な効果を有する。
(イ) このような効果は,次のとおり,本件優先日当時予測できるものでは なかった。
a モメタゾンフロエートの代謝,薬物動態及び毒物動態は解明されてお らず(甲2文献),これらのデータなしに,鼻腔吸入した場合の全身効 果の程度を知ることはできなかった。本件優先日当時,モメタゾンフロ エートが少なくとも複数の推定代謝物を有し,その代謝物の多くがコル チコイドレセプターと強い結合親和性を有していたことが報告されて おり(甲A26・概要・141頁右欄13行〜142頁2行),鼻腔投 与された場合の薬物動態は複雑なものとなると考えられていたから, なおのことである。
b 甲1文献や甲2文献にはモメタゾンフロエートの水性懸濁液を鼻腔 投与した際の全身バイオアベイラビリティについての記載がないから, 26 このような効果を予測し得ない。さらに,本件優先日後の文献によれば, モメタゾンフロエートのバイオアベイラビリティが甲A6〜8のブデ ソニド,トリアムシノロンアセトニド及びフルチカゾンプロピオネート のバイオアベイラビリティと比較して格段に優れており,このことか らは,前者の優位性が予測し得なかったものであることが理解できる (甲A59の図5)。本件優先日後に,日本において鼻噴霧用ステロ イド薬として使用されている主な医薬品のうち,バイオアベイラビリテ ィが明らかとなっているものは,フルナーゼ(1994年9月2日に日 本で販売開始)で1パーセント未満(甲A19・17頁),アラミスト (2009年6月19日に日本で販売開始)で平均0.5パーセント (甲A20・25頁),本件発明にかかるモメタゾンフロエートを有 効成分とするナゾネックス (2008年9月16日に日本で販売開始) で0.2パーセント未満である(甲A18・1頁)。現在日本におい て小児アレルギー性鼻炎に使用されている鼻噴霧用ステロイド薬のう ち,フルナーゼは4歳以下(甲19・32頁)について安全性が確立し ていないのに対し,ナゾネックスは3歳未満の幼児において安全性が 確立していない(甲A18・39頁)とされ,ナゾネックスの方がよ り年齢の低い小児に安全性のある医薬品となっている(甲A17・6 86頁)。
c 本件優先日当時,経口投与の場合には初回通過効果を受けるのに対し, 鼻腔投与の場合には当該効果を受けることがなく,薬物透過に対するバ リアー能が鼻粘膜は低いため,鼻腔投与の方が経口投与よりもバイオア ベイラビリティが高くなるとの技術常識があった(甲A60)から, 甲2文献のモメタゾンフロエート溶液を経口投与した場合の血漿濃度 から水性懸濁液を鼻腔投与した場合のバイオアベイラビリティを予測 することはできないことはより一層明らかである。
27 d 最終的にどの程度の薬物が吸収されるのかは,薬物が最終的に排出さ れるまでの経過を見なければわからないし,投与後24時間の間の血漿 中コルチゾル濃度をみなければHPA機能が抑制されているかどうか はわからないから,甲2文献に示された血漿中の最大濃度(Cmaxや Tmax)からHPA機能抑制の程度を予測することはできない。甲2文 献の「モメタゾンフロエート(SCH32088)は,局所的抗炎症活 性を有する一方,視床下部―下垂体―副腎(HPA)機能を抑制する潜 在能力は最小限にしか示さない,合成のコルチコステロイドである。」 (第473頁左欄3〜8行)との記載は,モメタゾンフロエートを皮 膚に塗布する場合であって,鼻腔吸入した場合のものではないところ, 前記3(2)イのとおり,皮膚に対する副作用から鼻腔投与の場合の副作 用を予測することはできない。
e モメタゾンフロエートがアレルギー性鼻炎を効果的に処置しつつ,所 望しない全身性副作用を抑制することができたのは,少なくとも一部は フロエート部分が有する機能であるが,これは本件優先日当時,知られ ておらず,予測することはできなかった。
(ウ) 甲1文献及び甲2文献からモメタゾンフロエートがアレルギー性鼻炎 に対して何らかの効果があると予測し得たとしても,その程度について は不明であるし,他のコルチコステロイドが1日1回で効果を有するこ と及びその治療効果の程度から,本件発明の,「1日1回のモメタゾン フロエートの水性懸濁液の投与でアレルギー性鼻炎を効果的に処置でき る」という格別顕著な効果を有することは予測し得ない。
(3) 審決の判断について ア 効果@について (ア) 前記3(2)イのとおり,皮膚局所適用について有効性が確認されてい ても鼻腔吸入に有効であると限らないから,本件優先日当時,当業者が, 28 甲2文献の「モメタゾンフロエートがアレルギー性鼻炎に対して有望な 新薬候補」との記載に接しても,モメタゾンフロエートがアレルギー性鼻 炎に治療効果を有することを予想することはない。また,甲2文献からは, モメタゾンフロエートがアレルギー性鼻炎に治療効果を有することは読 み取れない。
(イ) 武蔵野大学薬学部のA教授の意見書(甲A38の1・12頁)によれ ば,当業者が甲2文献に接した場合にモメタゾンフロエート溶液の1日 1回の投与では有効な治療効果を得ることができるとは予測できない。
また,甲A6〜8におけるモメタゾンフロエートとは異なるコルチコステ ロイドの用法が「1日1回」であることの記載があったとしても,モメ タゾンフロエートについて1日1回の用法でアレルギー性鼻炎を効果的 に処置できることは予測し得ない。
(ウ) 上記(2)イのとおり,フロエート部分の性質による効果も予測するこ とはできなかった。
(エ) よって,効果@について,甲1文献,甲2文献,甲A6〜9の記載から 当業者が予測し得ると判断した本件審決が誤りであることは明らかであ る。
イ 効果Bについて (ア) 甲1文献,甲2文献,甲A6〜8のいずれにも,モメタゾンフロエート の水性懸濁液を鼻腔投与した際に,HPA抑制機能に起因する全身性副作 用がないことの記載はない。
(イ) 本件発明では,血漿中コルチゾル濃度の測定を行うことにより,モメタ ゾンフロエートの水性懸濁液を鼻腔投与した際,HPA抑制機能に起因す る全身性副作用がないという効果を確かめているのであり,上記(2)ウに よれば,効果Bについて,当業者が予測し得ると判断した審決が誤りであ ることは明らかである。
29 ウ 効果Aについて (ア) 審決は,効果Aは甲1発明との関係では有利な効果の存在の根拠とな り得ないと判断したが,これは,モメタゾンフロエートの水性懸濁液が 開示されてさえいれば,本件優先日当時にその効果が知られていなくても, 有利な効果としては参酌されないと判断したものといえる。
しかし,このような判断は,審査基準及び過去の裁判例に反する。特許 発明の効果の顕著性は,優先日当時の技術的理解に基づき,公知物が奏す ると当業者が予想する効果との比較で判断されるべきであり,審決のよう に,本件優先日当時に公知となっていない効果を比較するのは後知恵であ り,許されない。
(イ) 審決は,「経口溶液と比して,経口懸濁液及び鼻腔スプレー懸濁液の 方が,モメタゾンフロエートの全身的な吸収が低く,モメタゾンフロエー ト自体が血漿中で定量限界以下しか存在しないこと」という効果Aを認 定したが,本件発明の効果は上記(2)アのとおりであり,誤りである。
(4) 審決は,効果の顕著性に関する判断を誤り,この誤りは,審決の結論に影 響を及ぼすものであるから,審決は取り消されるべきである。
被告の反論
1 取消事由1-1(相違点1の容易想到性の判断の誤り)について (1) 相違点1について容易想到性を肯定した審決の判断に誤りはない。
(2) 第1事件原告の主張について ア モメタゾンフロエートの化学構造を理由に相違点1の容易想到性を否定 する第1事件原告の主張は,化学構造の相違により「1日1回」の用法を 採用することが不可能ないし困難であるという技術常識が存在するわけで はないから,失当である。第1事件原告は,モメタゾンフロエートの局所 適用に際してモメタゾンフロエートの血中半減期に基づいて投与回数を定 めると主張するが,血中半減期は,血中での薬物濃度であり,局所におけ 30 る作用に関する指標とはなり得ない。第1事件原告は,皮膚に塗布した場合 のブデソニドとトリアムシノロンアセトニドの副作用や,特にブデソニドに ついては皮膚萎縮作用が知られていたのであるから,モメタゾンフロエート の投与頻度を検討する際に,ブデソニドやトリアムシノロンアセトニドの投 与頻度を参考にすることはないなどと主張する。しかし,皮膚での副作用(皮 膚萎縮作用)が大きいブデソニドであっても1日1回投与が可能であった ことに鑑みれば,むしろ,既に1日1回投与が可能であることが判明してい たブデソニドと抗炎症作用が同程度でありながら皮膚での皮膚萎縮作用は 小さいモメタゾンフロエートを含有する鼻腔内投与剤についても「1日1 回」投与を試みることが動機付けられる。
イ 審決は,フルチカゾンプロピオネート等の類薬(甲A4〜8)から理解さ れる事項「患者の好みやコンプライアンスの観点から,アレルギー性鼻炎に 対するコルチコステロイドの鼻腔内投与頻度は,1日1〜4回のうち1日1 回が最も好ましい」に照らして,当業者は,甲1発明において,「1日1回」 (相違点1)とすることを容易に想到し得たと判断したものであり,相当 である。
2 取消事由1-2(効果の顕著性に関する判断の誤り)について (1) 効果の顕著性に関する審決の判断に誤りはない。
(2) 第1事件原告の主張について ア 第1事件原告が主張する,「1日1回投与した場合と1日2回投与した 場合とを比較した結果,効能に有意な差が無いこと」は本件明細書に記載さ れたものではなく,当業者が本件明細書から読み取ることができるものでな い。仮に,第1事件原告が指摘する甲49のデータがそのような効果を裏付 けているとしても,本件発明の進歩性を検討するにあたって斟酌されるべき ものではない。
イ 甲1発明はモメタゾンフロエートの鼻腔内投与水性懸濁液であるから,第 31 1事件原告が主張するブデソニドの鼻腔内投与と対比した効果は,引用発明 同士を組み合わせた場合に予想される効果と対比した効果ではないから, 本件発明の有利な効果を認定する根拠となり得るものではない。また,第 1事件原告の主張するモメタゾンフロエートの分子構造の未知の特性は, 本件明細書に記載されたものでも,当業者が本件明細書の記載に技術常識を 当てはめても読み取ることもできないものであり,本件発明の進歩性を検討 するにあたって斟酌されるべきものではない。さらに,鼻腔スプレー懸濁 液と経口水性懸濁液における平均血漿中濃度の違いについても,甲1発明 はモメタゾンフロエートの鼻腔内投与水性懸濁液であるから,経口投与懸濁 液と対比した効果は,本件発明の有利な効果の存在の根拠となり得るもので はない。
3 取消事由2-1(本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定の誤り) について (1) 審決の,本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定に誤りはない。
(2) 第2事件原告の主張について @甲1文献に「フランカルボン酸モメタゾンは,炎症状態の処置に有用であ ることが知られている。」(1頁右下欄8〜9行)と記載されていること,A モメタゾンフロエートが抗炎症作用を有し(乙1),モメタゾンフロエートを 含有する薬剤が皮膚での抗炎症状態の処置に有用であることも周知技術であ ったこと(甲A3,12),Bコルチコステロイドは,細胞レベルで炎症反応 を抑制するため,局所でも抗炎症作用を有することが技術常識であったこと (乙 8・149頁下から10行〜150頁15行,乙9・244頁3行〜245頁 10行,246頁6〜16行),C皮膚(局所)で抗炎症作用を有するコルチ コステロイドは,気道及び鼻腔(局所)でも同様に抗炎症作用を有すると見込 まれていたこと(乙8・156頁1〜11行),D皮膚疾患の処置で実証さ れた結果を有するコルチコステロイドは,喘息及び鼻炎の処置にも効果的であ 32 ると考えられていたこと(甲A10)といった技術常識などをふまえて,甲1 文献の記載「フランカルボン酸モメタゾン一水和物,その製造法および医薬組 成物」(発明の名称)及び「フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投 与用水性懸濁液」(3頁左下欄8行〜右下欄9行)をみれば,甲1文献には, 鼻腔での炎症状態(即ち鼻炎)を処置するためのモメタゾンフロエートの水 性懸濁液を含有する「薬剤」が記載されているといえることは明らかである。
また,水性懸濁液とする剤型について,皮膚の炎症状態の処置で実証され た結果を有するコルチコステロイドは,喘息及び鼻炎の処置にも効果的である と考えられていたのであるから(甲A10),皮膚の炎症状態の処置で極めて 強い局所抗炎症作用を有する一方で,全身性副作用が弱いことが実証されたモ メタゾンフロエートについて,甲1文献の「特に興味深いことは,フランカル ボン酸モメタゾン一水和物の水性懸濁液組成物を,例えば鼻から投与すること である。」との記載や,「フランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用 水性懸濁液を製造した。」との記載及び上記技術常識を踏まえると,甲1文献 には,モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する「薬剤」が記載されてい ることが明らかである。
4 取消事由2-2(相違点1の容易想到性の判断の誤り)について (1) 相違点1について容易想到性を肯定した審決の判断に誤りはない。
(2) 第2事件原告の主張について ア 本件特許の優先日当時に周知である用法(1日1回〜数回)のうち,当業 者は患者の好みやコンプライアンスの観点から1日1回が好ましいと理解 するのであるから(甲A6〜8),甲1文献においてアレルギー性鼻炎の治 療薬の用法用量を検討することはあり得ないとする第2事件原告の主張に 理由はなく,当業者が相違点1の構成に容易に想到し得たとした本件審決に 誤りはない。
イ 審決は,甲1文献にモメタゾンフロエートが局所抗炎症活性を有するコ 33 ルチコステロイドであることが開示されているとしたうえで,審決が認定す るベクロメタゾンジプロピオネート,ブデソニド,フルチカゾンプロピオネ ート,トリアムシノロンアセトニドといった「アレルギー性鼻炎に対して用 いられる局所抗炎症活性を有するコルチコステロイド局所抗炎症剤」 「コ と ルチコステロイド局所抗炎症剤であるモメタゾンフロエート」が類薬であ るとしているのであって,容易の容易に基づく進歩性の否定などはしていな い。
ウ 第2事件原告の主張する,「アレルギー性鼻炎に対するある特定のコル チコステロイドの用法が「1日1回」であることをもって,別の種類のコル チコステロイドの用法も「1日1回」で足りる,ということはできない」と いうことは,「動機付け(患者の好みやコンプライアンスの観点から1日 1回が好ましい)」との関係で,いわゆる阻害要因となり得るか否かという 観点から検討されるものであるところ,第2事件原告の主張は一般的な理由 に過ぎず,当業者が,本件審決が認定した動機付けのもと,1日1回の構成を 採用することがあり得ないとする事情にはなり得ない。
エ 第2事件原告は,構造活性相関を理由に,ブデソニド等のコルチコステロ イドの用法・用量をモメタゾンフロエートに採用する動機付けはなかった などと主張するが,化合物の構造と物性の関係は新薬の開発などにおいて 一定の意味があるものではあるが,それは,あくまでも一定以上の薬効の有 無を調査することを主目的とするものであって,用法 用量を検討する場合 ・ に用いるような概念ではない。用法・用量を検討する段階では,すでに当該 物質が一定以上の薬効を有することが前提とされていることから,構造活性 相関を参照することはない。
オ 審決は,甲1発明に甲A6〜8記載の各発明を組み合わせて相違点1を容 易に想到し得たとするものではないから,これを前提とする第2事件原告の 主張に理由はない。
34 5 取消事由2-3(相違点2の容易想到性の判断の誤り)について (1) 相違点2について容易想到性を肯定した審決の判断に誤りはない。
(2) 第2事件原告の主張について ア 刊行物等に薬理試験方法や薬理試験結果が開示されていない場合であっ ても,当業者がその化合物等を医薬用途に使用できることが明らかなように 記載されている場合は,当該刊行物等に医薬発明が開示されているといえる。
甲2文献には,「モメタゾンフロエート(SCH32088)は,局所性抗 炎症活性を有する」こと,及び「視床下部-下垂体-副腎(HPA)機能の 抑制する可能性は最小限しか示さない」こと,及び「SCH32088は 有望な生物学的及び薬理学的活性をこれまで示してきた」ことが記載され, 前記3(2)を踏まえれば,甲2文献の「SCH32088は,端息及びアレル ギー性鼻炎の経口吸入及び鼻腔内吸入による治療のための有望な新薬候補 である。」(473頁左欄8〜17行)との記載から,甲2文献は,モメタ ゾンフロエートを,アレルギー性鼻炎を処置する医薬用途に使用できること が明らかなように記載しているといえる。
イ 甲1文献には,鼻腔での炎症状態を処置するための,モメタゾンフロエー ト水性懸濁液が開示され,甲2文献には,鼻腔での炎症状態であるアレルギ ー性鼻炎を処置するための,モメタゾンフロエートが記載され,いずれもモ メタゾンフロエートを鼻腔での炎症状態を処置することを課題とする点に おいて共通している。両文献は課題に共通性があるから,甲1発明に甲2 文献を組み合わせ相違点2を容易に想到し得たとした本件審決の判断に誤 りはない。本件優先日当時,鼻アレルギーに対して局所投与される副腎皮質 ホルモン/コルチコステロイドの一般的な剤型は「懸濁液」であったから (乙6),甲2文献の記載及び技術常識を踏まえれば,甲2文献には,アレル ギー性鼻炎を処置する医薬用途に使用できることが明らかなモメタゾンフ ロエート懸濁液が記載されていると言え,両文献は,モメタゾンフロエート 35 懸濁液を鼻腔での炎症状態を処置することを課題とする点で共通するとも いえる。
6 取消事由2-4(相違点3-1及び3-2の容易想到性の判断の誤り)につ いて (1) 相違点3-1及び3-2について容易想到性を肯定した審決の判断に誤り はない。
(2) 第2事件原告の主張について ア 審決でも指摘しているとおり,甲1発明の薬剤を実際に治療に使用するに あたって,適切な用法・用量を定めることは必要不可欠であり,モメタゾン フロエートを含有する鼻腔内投与剤の用法・用量について公知のものがな い場合に,公知の類薬の用法・用量を検討することは,当業者が当然に行う ことである。そして,炎症状態を処置するために鼻腔に投与される局所抗炎 症性コルチコステロイドの適応症としては,アレルギー性鼻炎が最も一般的 であったのであるから,アレルギー性鼻炎を処置するための鼻腔投与用の他 のコルチコステロイド(甲A6〜8)の用量を参照することは当業者の通 常の創作能力の範囲の行為に過ぎない。
また,甲1発明の薬剤を実際に治療に使用するにあたって,所望の効果を 有し,安全性が確保されるかどうか薬理試験を行うことは当然のことであり, 当業者が,その確認のための動機付けを有することは,明らかである。薬理 試験を行わなければ結果が予測できないことは,当業者が,薬理試験を行っ て,所望の効果を有し,安全性を確保できるかを確認することが妨げられる 事情となるものではない。
イ 絶対的バイオアベイラビリティは,静脈注射時を基準として,血管内投与 以外の投与経路(例えば鼻腔内投与)により得られる血漿中濃度曲線下面 積を,静脈注射時と比較した割合であり(乙2・1520頁),投与した薬 物の量や濃度に依存しない。「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バ 36 イオアベイラビリティが約1パーセント未満である」(相違点3-2)は, 「モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有する薬剤」を「鼻腔内に投与 すること」に特定している本件発明1において,すでに奏されていた作用で あるから,本件発明1の従属形式請求項に係る本件発明2においても当然 に達成される事項である。
したがって,本件発明1に相違点3-1を組み込んだ発明と,相違点3- 2をさらに組み込んだ発明とが実質的に相違するものではないから,相違点 3-2は,相違点3-1と実質的に異なる新たな相違点ではない。
7 取消事由2-5(相違点4-1及び4-2の容易想到性の判断の誤り)につ いて (1) 相違点4-1及び4-2について容易想到性を肯定した審決の判断に誤り はない。
(2) 第2事件原告の主張について 第2事件原告の主張については,前記4,6に述べたことが妥当する。
8 取消事由2-6(効果の顕著性に関する判断の誤り)について (1) 効果の顕著性に関する審決の判断に誤りはない。
(2) 第2事件原告の主張について ア 効果@について (ア) 薬剤は,一般に,動物実験等の手続を経て有効性や安全性を確認したう えで,ヒトに適用することが通常である。そして,モメタゾンフロエート は,動物実験での薬物動態等の確認により,他のコルチコステロイドの血 漿中濃度の検出には特に問題はなかった通常の測定法では,検出限界以下 となるため,血漿中のモメタゾンフロエート濃度は測定できず,その親薬 物濃度はpg ml-1オーダーであると予想されていたところ,実際に, そのことがヒトで確認され(甲2文献),全身循環血中に留まるモメタゾ ンフロエートの量は高くなく,しかも比較的短時間で消失することが理解 37 される状況にあった。さらに,皮膚での薬物動態,有効性・安全性(甲A 3での動物実験及び平成5年の薬物承認)も確認され,且つ,皮膚の炎症 状態の処置で実証された結果を有するコルチコステロイドは,喘息及び鼻 炎の処置にも効果的であるとの技術常識(甲A10)が存在した状況を 踏まえて,甲2文献に,モメタゾンフロエートがアレルギー性鼻炎の経口 吸入及び鼻腔内吸入による治療のための有望な新薬候補であることが記 載されている。
これらの状況で示される技術水準及び甲2文献の記載から「モメタゾ ンフロエートは,喘息及びアレルギー性鼻炎の経口吸入及び鼻腔内吸入に よって,十分な治療効果を有するだけでなく,副作用についても実用化で きる程度の小さいものであること,HPA機能を抑制するおそれが十分 小さく,HPA抑制に起因する全身性副作用のおそれもまた少ないという 効果」を読み取ることができる。
(イ) 本件明細書には,効果@について,単にプラセボとの対比しか記載され ていない。甲1発明は,モメタゾンフロエートの水性懸濁液の鼻腔内投与 が,炎症に対して有効であることが記載され,治療効果を有するといえる ものである。そして,本件優先日当時,コルチコステロイドの1日1回の レジメンと1日2回のレジメンとが同等の効能を有することも周知だっ たのであるから(甲A6〜8),効果@が,甲1発明の効果及び当該分野 の技術水準(甲A6〜8)から顕著なものとまで理解することはできな い。
(ウ) 本件明細書には,フロエート部分に基づくモメタゾンフロエート自体 に局所抗炎症効果が長時間持続するという特性についても,その特性に 基づく作用・効能についても記載はないから,フロエート部分に基づく モメタゾンフロエート自体の特性に基づく作用・効能は本件発明の進歩 性を検討するにあたって斟酌されるべきものではない。また,この点を措 38 くとしても,本件発明は,粘膜付着性基剤を用いた点鼻薬を排斥していな いところ,本件優先日当時,ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)な どの粘膜付着性機能材/懸濁剤の添加によって,鼻腔内粘膜による繊毛運 動によるその場からの排出作用に抵抗し,その局所での抗炎症作用を持続 させるという製剤上の工夫が行われていたのであるから(乙6),当業者 は,フロエート部分に基づくモメタゾンフロエート自体の特性の有無にか かわらず,適宜このような技術を用いて必要な特性を得ればよいのであっ て,第2事件原告主張のフロエート部分に基づくモメタゾンフロエート自 体の特性は,なんら本件発明全体の進歩性を裏付けるものとはいえない。
イ 効果Bについて (ア) 難溶性コルチコステロイドを溶液としたものは,鼻粘膜からの吸収が 速やかで全身循環血中に入りやすく(甲A38の1),副腎ホルモン作用 により全身性副作用に関する課題が周知であったのに対して,アレルギー 性鼻炎(花粉症)の治療の分野において全身への影響を防ぐために難溶 性コルチコステロイドを懸濁液とすることも周知技術であったのである から(乙6),難溶性コルチコステロイド溶液の鼻腔内投与に比べて,難 溶性コルチコステロイド懸濁液の鼻腔内投与の方が,全身吸収の程度が小 さいことは予測できたことである。
また,副腎ホルモン作用によってHPA機能が抑制されることは周知で あったのであるから,全身吸収の程度が小さいと予測される難溶性コルチ コステロイド懸濁液の鼻腔内投与について,難溶性コルチコステロイド溶 液の鼻腔内投与よりもHPA機能抑制の程度も小さくなることも予測で きたことである。
(イ) 審決は,血漿中の最大濃度のみに基づいて,効果Bが予測し得たとした ものではなく,医薬分野において薬剤の有効性や安全性を調べる手続きが 相当程度進んでいた甲2文献当時の技術水準を踏まえ,さらに皮膚での薬 39 物動態,有効性・安全性が確認されていることを前提として,効果Bが予 測できたものとしたものである。
(ウ) 甲2文献全体の文脈を考慮すれば,HPA機能を抑制する潜在能力は 最小限にしか示さないとする甲2文献の記載は,皮膚への局所投与に限ら ず,鼻腔内投与を含む他の投与方法であっても,HPA機能を抑制するお それが十分小さく,HPA抑制に起因する全身性副作用のおそれもまた少 ないことを示すものと理解できる。
(エ) 審決は,本件明細書には血漿中コルチコステロイドプロファイルへの 影響について,プラセボとの対比しか記載されていないのに対して,甲2 文献には,甲A6〜9の記載を参照するまでもなく,モメタゾンフロエー トがHPA抑制に起因する全身性副作用のおそれが小さいことが記載さ れていることを踏まえて,本件発明の効果Bが,甲1発明の効果及び甲2 発明の効果から予期し得ない顕著なものとまでは理解できないことを理 由として,効果Bは,当業者が予測し得たものであるとしたものである。
ウ 効果Aについて (ア) 本件の無効理由1において,引用発明はモメタゾンフロエートの鼻腔 投与用懸濁液であり,進歩性を検討する上で参照される効果は,引用発明 (モメタゾンフロエートの鼻腔投与用懸濁液)と比較した有利な効果で ある必要があるとの審決の判断は,第2事件原告が指摘する審査基準に沿 うものである。
(イ) 「絶対的バイオアベイラビリティが1%未満であるモメタゾンフロエ ート」は,HPA機能の抑制を引き起こす可能性のある全身循環血中に入 るモメタゾンフロエートに関係するものである。そして,絶対的バイオア ベイラビリティが1%未満であるモメタゾンフロエートによって生じる 「HPA機能抑制に起因する全身性副作用がない」については,すでに, 効果Bとして審決において認定・判断されている。すなわち,「絶対的 40 バイオアベイラビリティが1%未満である」との点は,効果Bにおける 「HPA機能抑制」を引き起こす作用機序を示すものであり,効果Bは当 業者が,甲1発明の効果等により予測し得たものであるから,「絶対的バ イオアベイラビリティが1%未満である」との点は,審決においてすで に判断されている。
(ウ) 第2事件原告は,本件優先日当時に,経口投与と鼻腔投与とを比較した 場合のバイオアベイラビリティに関する技術事項(甲A60)に鑑みて, 甲2文献のモメタゾンフロエート溶液を経口投与した例から,モメタゾン フロエートの水性懸濁液を鼻腔投与した場合のバイオアベイラビリティ は予期し得ないと主張するが,引用発明である甲1発明もモメタゾンフ ロエートの鼻腔投与用懸濁液を内容とするものであるから,本件発明と引 用発明の効果の違いを判断するのに当たって,経口投与の場合との比較 をするのは無意味であり,効果Aが,本件発明の有利な効果の存在の根拠 となり得るものではないことに変わりがない。
(エ) 甲A60から,本件優先日当時,経口投与の場合には初回通過効果を 受けるのに対し,鼻腔投与の場合には当該効果を受けることがなく,経口 投与よりも鼻腔投与の方が,バイオアベイラビリティが高くなるとの技術 常識が存在したなどとはいえない。
(オ) 第2事件原告が指摘する甲A59は本件優先日後の文献であるから, 本件発明の進歩性を検討するうえで,参酌されるべきものではないことは 明らかである。
当裁判所の判断
事案に鑑み,下記2以降において,取消事由2-1,取消事由2-3,取消 事由1-2及び2-2,取消事由2-4,取消事由2-5,取消事由1-2及 び2-6の順に判断する。
1 本件発明について 41 (1) 特許請求の範囲の記載 本件発明の特許請求の範囲の記載は上記第2の2に記載のとおりである。
(2) 本件明細書の記載 本件明細書には以下の記載がある(甲A44)。
ア 発明の序論 「本発明は,モメタゾンフロエートの血流への全身性吸収およびそのような 全身性吸収に関連する副作用が実質的に存在することなく,上下気道流路 および肺のコルチコステロイド応答性疾患(例えば,喘息またはアレルギ ー性鼻炎)を1日1回の服用で処置する薬剤を調製するためのモメタゾン フロエートの使用に関する。」(1欄13行〜2欄3行) 「モメタゾンフロエートは,局所的な皮膚への使用に対して認可されたコル チコステロイドであり,コルチコステロイド応答性皮膚病の炎症性および /またはそう痒の発現を処置する。・・・特定のコルチコステロイド(例 えば,ジプロピオン酸ベクロメタゾン)は,鼻炎および気管支喘息のよう な気道流路および肺の疾患を処置するために市販されている。しかし,こ れらの技術は,局所的抗炎症活性を有する全てのコルチコステロイドが必 ずしも鼻炎および/または喘息を処置することにおいて活性ではないこと を教示している。さらに,局所的に活性なコルチコステロイドが,気管支 喘息の処置時に活性を示し得るとしても,このようなステロイドの長期間 の使用は,重篤な全身性の副作用(視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸 抑制を含む)の発症があるため,制限されている。・・・吸入によって投 与される局所的に活性なステロイド・・・は,・・・大部分を,患者は飲 み込んでしまう。特定のコルチコステロイドは,容易に生物学的に利用可 能なので,服用量のうち飲み込んだ部分は,胃腸管を通って全身性循環に 達し得,そして所望しない全身性副作用を引き起こし得る。喘息を処置す ることに対して現在認可されているいくつかのコルチコステロイドは,吸 42 収用量のうちの10%を超える(ブテソニド)またはちょうど20%(トリアムシノロンアセトニドおよびフルニソリド)の,経口摂取後の全身性バイオアベイラビリティを有する。従って,容易に生物学的に利用され得ない局所的に活性なステロイドは,より系統的に生物学的に利用可能である他の局所的に活性なコルチコステロイドよりも治療上の利点を提供し,そしてその局所的に活性なステロイドは,経口嚥下(例えば,溶液,錠剤またはカプセル)によって経口投与される任意のコルチコステロイドよりも優れている。」(2欄4行〜3欄26行)「従って,・・・治療上有効であって,かつ,鼻腔内投与・・・によって投与されたときに,低いバイオアベイラビリティと低い全身性副作用とを示すコルチコステロイドを見出すことが望まれている。」(3欄44〜48行)イ 発明の要旨「本発明は,アレルギー性鼻炎に対して効果的に1日1回の服用で鼻腔内を 処置するための薬剤を調製するためのモメタゾンフロエート水性懸濁液の 使用を提供する。ここで,このモメタゾンフロエートの血流中への全身的 な吸収は,実質的に存在しない。」(3欄50行〜4欄4行)ウ 本発明の詳細な説明および好適な実施態様「コルチコステロイドは喘息のような気道流路疾患の処置に効果的であった が,このようなコルチコステロイドでの処置は,コルチコトロピン(ACTH) 産生を低下させることにより視床下部-下垂体-副腎皮質(「HPA」)軸機 能の抑制のような全身性の副作用をしばしば引き起こし得るが,これは次 に副腎によるコルチゾル分泌の低下に至る。本発明者らは,驚くべきこと に,モメタゾンフロエートが,上下気道流路および肺の表面で作用するこ とにより,実質的に最小の全身効果を有す一方で,喘息およびアレルギー 性鼻炎のような気道流路疾患の処置に優れた抗炎症効果を示すことを発見 43 した。鼻腔内または経口吸入により投与されるモメタゾンフロエートの全 身効果の実質的な最小限化は,モメタゾンフロエートの血漿中放射能の高 速液体クロマトグラフィー(HPLC)による代謝産物のプロファイルに よって,肝臓におけるその実質的に完全な(>98%)一次代謝,および コルチゾル分泌レベルにおける最小の低下により測定した。
モメタゾンフロエートが経口的に(すなわち,経口懸濁液として飲み込 まれる)または経口吸入もしくは鼻腔吸入により投与される場合,モメタ ゾンフロエートの全身的な血流中への吸収は実質的に存在しない,すなわ ち,胃腸管から血流へ到達する親薬物は本質的に存在しない(実質的に1% 未満のモメタゾンフロエート)。経口または鼻腔吸入投与後,血流中に認 められるいずれのモメタゾンフロエートも,既に肺および/または気道流 路組織を通過している。それゆえ,「無駄な」薬物・・・はない。従って, モメタゾンフロエートは,喘息およびアレルギー性鼻炎のような気道流路 および肺の疾患を処置するため理想的なである〔原文のまま〕。・・・本 発明に従って,喘息およびアレルギー性鼻炎を患う患者へ投与されたモメ タゾンフロエートにより示される優れた安全性プロファイルに加えて,モ メタゾンフロエートはまた,喘息およびアレルギー性鼻炎処置に,優れた 安全性プロファイルが示唆するよりも予想以上に高いレベルの効力を示す。」 (5欄23行〜6欄19行)「モメタゾンフロエートは・・・水性懸濁液の形態で,・・・投与され得る。
本発明の水性懸濁液組成物は,モメタゾンフロエートまたはモメタゾンフ ロエート一水和物(好ましくはモメタゾンフロエート一水和物)を水およ び他の薬学的に受容可能な賦形剤と混合することにより調製され得る。国 際出願番号PCT/US91/06249,特にモメタゾンフロエート一 水和物およびそれを含有する水性懸濁液の調製に関する実施例1〜5を参 照のこと。本発明の水性懸濁液,懸濁液1gあたり約0.01〜10.0 44 mg・・・のモメタゾンフロエート一水和物を含有する。・・・ 喘息またはアレルギー性または非アレルギー性鼻炎を処置するための上気道流路または下気道流路のアレルギー性,非アレルギー性および/または炎症性疾患の処置のために,水性懸濁液または乾燥粉末として投与され得る,実質的に非系統的な生物学的に利用可能なモメタゾンフロエートの量は,単回または分割用量において,約10〜5000マイクログラム 「m (cg」)/日,10〜4000mcg/日,10〜2000mcg/日,25〜1000mcg/日,25〜400mcg/日,25〜200mcg/日,25〜100mcg/日,または25〜50mcg/日の範囲である。アレルギー性および非アレルギー性鼻炎を処置する場合,モメタゾンフロエートの水性懸濁液は・・・鼻腔内投与し得る。・・・効力は,一般的に,鼻腔の症状・・・の減少によって二重盲検の様式で評価される。・・・」(8欄26行〜9欄37行)エ 効力の評価「モメタゾンフロエート(モメタゾンフロエート一水和物の水性懸濁液の形 態で鼻腔内投与される)を,季節性アレルギー性鼻炎の患者を処置するの に使用した。・・・無作抽出〔原文のまま〕,第三者盲検,プラセボコン トロールを用いる,上昇単回用量の安全性および耐性研究において,水性 鼻腔スプレー懸濁液処方物を8名の健康な男性ボランティアに投与した。
投薬を午後11時に行い,そして以後24時間の間,血漿中コルチゾル濃 度を測定した。プラセボと比較して,1000mcg,2000mcg, および4000mcg用量におけるモメタゾンフロエートは,血漿中コル チゾルプロファイル曲線下の24時間領域(AUC 0-24)に有意な 影響を与えなかった。追跡多用量研究において,48名の正常な男性ボラ ンティアを,・・・パラレルグループ研究に登録した。それぞれの4つの グループの12名のボランティアは,28日間以下の処置の1つを受けた: 45 A)モメタゾンフロエート一水和物の水性鼻腔内スプレー懸濁液処方物, 400mcg/日;B)モメタゾンフロエート一水和物の水性鼻腔内スプ レー懸濁液処方物,1600mcg/日;C)鼻腔内へのプラセボ;D) 経口用プレドニソン,10mg/日。すべての処置を毎朝1回の投与とし て行った。・・・プラセボと比較して,2つの用量のモメタゾンフロエー ト水性鼻腔スプレー処方物は,いずれもコルチゾル分泌における何らの変 化とも関連しなかった。さらに,鼻腔スプレー処方物として200mcg の3H-モメタゾンフロエートを用いる単回用量の吸収,排泄および代謝研 究を6名の正常な男性ボランティアで行った。全身的な吸収(尿排泄に基 づく) 3H-モメタゾンフロエートの静脈内投与された用量と比較した場 を 合,8%であった。血漿中放射能のレベルが定量限界より低かったため, 代謝物プロファイリングによって親薬物の血漿中濃度を決定できなかった。
これらのデータは,モメタゾンフロエートの実質的に1%未満のバイオア ベイラビリティに一致する。本明細書中下記の表1および表2を参照のこ と。
用量変化の,安全性および効力研究において,モメタゾンフロエート水性鼻腔スプレー処方物を,50mcg/日,100mcg/日,200mcg/日,800mcg/日の用量で,またはプラセボを,季節性アレルギー性鼻炎の480名の患者へ4週間投与した。・・・統計的分析の結果は,すべての用量のモメタゾンフロエートはプラセボと比較して効果的であることを示した。これらの結果は,季節性アレルギー性鼻炎の患者への鼻腔スプレーとしてのモメタゾンフロエートの水性懸濁液の投与は有効であり,全身的な副作用の能力をほとんど有さず良好に耐性であることを示し,そしてこれらの結果は,モメタゾンフロエートの低い経口バイオアベイラビリティと一致する。」(13欄43行〜14欄48行)「「アレルギー性鼻炎または季節性アレルギー性鼻炎の処置における作用の 46 迅速な開始」は,中程度の開始でモメタゾンフロエート鼻腔スプレーで処置したアレルギー性鼻炎の患者は,プラセボ鼻腔スプレーで処置したアレルギー性鼻炎患者の72時間と比較して,総鼻腔症状スコアが約3日(35.9時間)でベースラインから中度のあるいは完全寛解へ臨床的かつ統計的に有意に減少することを意味する。これらの結果は,無作為抽出,二重盲検,多施設の,プラセボコントロールを用いる,パラレルグループ試験において得られ,モメタゾンフロエート鼻腔スプレーの投与の開始と,季節性アレルギー性鼻炎の症状がある患者の総鼻腔症状スコアにより測定される臨床的効力の開始との間の期間を特徴付けた。研究は14日間継続した。201名の患者からのデータを分析に使用した。・・・臨床的評価・・・各患者に,モメタゾンフロエートの水性懸濁液またはプラセボのいずれかを含む計量鼻腔ポンプスプレーボトルを与え・・・患者に薬物(モメタゾンフロエート50mcg/スプレー)またはプラセボをそれぞれの外鼻孔へ1日1回2スプレーずつ,毎朝送達するように通知した。・・・結果 主要な効力の結果は,モメタゾンフロエート鼻腔スプレーグループおよびプラセボグループについての寛解の開始時間・・・の生存分析・・・に基づく。・・・ 201名の患者からのデータを生存分析に用いた。モメタゾンフロエート鼻腔スプレーグループには101名の患者,およびプラセボグループには100名の患者がいた。・・・ 生存分析の結果は,プラセボグループの72時間に比較して,モメタゾンフロエート鼻腔スプレーグループは35.9時間の寛解の中央の開始時間を有したことを示唆した・・・。2つのグループの生存分布のプロットから,プラセボグループにおいて増加する期間を伴う・・・やや寛解また 47 は寛解せずと報告した割合は,モメタゾンフロエート鼻腔スプレーグルー プと比較してより高かったことが認められた。対数-ランク(log-r ank)を使用すると,データは,2つの処置グループの間の統計上の有 意な差異を示した(p値<0.001)。
朝および夜の平均した日記データの分析は,モメタゾンフロエート鼻腔 スプレーグループについてのベースラインからの鼻腔症状の総スコアの減 少(15日間の平均について)は,プラセボグループでの減少よりも統計 上有意に高いことを示した。」(14欄49行〜17欄39行)オ 薬物代謝/臨床的薬理学的研究「 各グループに6名の正常な男性ボランティアを有する6つのグループに, トリチウム標識モメタゾンフロエート(「3H-MF」)を・・・投与する ことによって薬物代謝および臨床的薬理学的研究を実施した。血液および 尿サンプルを,全薬物(代謝物を含む)の測定のために回収した。・・・ これらの研究の目的は,溶液としておよび一水和物の水性懸濁液として経 口嚥下による投与後,標準計量用量吸入器(MDI)および間欠装置を含 有する計量用量吸入器(Gentlehaler)からの懸濁液として経 口吸入による投与後,鼻腔スプレーユニットからのモメタゾンフロエート 一水和物の懸濁液として鼻腔吸入による投与後,および溶液として静脈内 注入による投与後の・・・3H-MF・・・の吸収,代謝,および排泄を測 定することであった。・・・ 研究デザイン 6つの処置グループのそれぞれにおける6名のボランティアは,表1に 列挙される以下の3H-MF投与形態の1つを服用する。
血漿,尿,・・・および糞便のサンプルを回収し,そして放射能含量に ついてアッセイした。血漿中放射能についての定量限界値(LOQ)は, LOQが0.025ng eq/mlであった鼻腔スプレー処置を除いて, 48 0.103〜0.138ng eq/ml.の範囲であった。選択された血漿, および糞便サンプルを, 尿, 代謝物プロファイルを対象に分析した。
結果・・・薬物動態学-総放射能の平均血漿中濃度(n=6)を,まとめて図1に示し,そして総血漿中放射能に由来する平均薬物動態学パラメータ(n=6)は,表2に示される。
血漿中放射能を有する種々処方後の図1および/または尿の排泄データに説明され,そして表2に示される血漿中放射能と静脈内への処置後の血 3漿中放射能との比較は, H-MFを溶液として経口投与した場合に,薬物由来の放射能が完全に吸収されることを示した。対照的に,経口の懸濁液として,または鼻腔スプレーの懸濁液としての3H-MF投与後の薬物由来放射能の全身的な吸収は,用量の約8%であった。・・・ 放射能は,用量形態および投与の経路に関わりなく,糞便中に優先的に排泄される。尿中の放射能の排泄はそれぞれ,静脈および経口溶液処方物について約25%であり,・・・そして鼻腔スプレーおよび経口懸濁処方物の両方について2%以下であった。従ってこれらのデータは,溶液処方物として経口投与された場合,薬物が良好に吸収されるが,懸濁処方物として経口または鼻腔内に投与後は,僅かしか吸収されないことを示す。
選択された血漿,尿,および糞便抽出物を,代謝産物プロファイルを決定するための放射線フローモニタリングを伴う・・・HPLC・・・により分析した。これらの分析の結果は,経口用溶液の投与後,血漿中放射能のほとんどは,・・・代謝産物と関連していることを示した。3時間の血漿中放射能の約1.5%は,広範な初回通過代謝,および肝臓による迅速な不活性化を示す親薬物に関連していた。対照的に,静脈内投与後,3時間の血漿中放射能の約39%は,親薬物に関連していた。・・・一般に,鼻腔および経口経路による懸濁液投与後の放射能の血漿中濃度は,低過ぎ 49 て代謝産物の性質付けは成し得なかった。・・・これらの薬物代謝/臨床薬学的研究の結果は以下のことを示す: 31. H-MFを溶液として男性ボランティアに経口投与した場合,薬物由来の放射能は,完全に吸収された。しかし,未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティは,広範な初回通過代謝のため極めて低い(約1%未満)。・・・ 33. H-MFの鼻腔スプレーおよび経口懸濁処方物の投与後,薬物由来の放射能の吸収は約8%であった。
4.未変化のモメタゾンフロエートの血漿中濃度は,・・・鼻腔スプレーユニットからモメタゾンフロエート一水和物の水性懸濁液の鼻腔吸入,またはこの一水和物の水性懸濁液の経口嚥下による投与後には,決定され得なかった。何故なら,総放射能の血漿中濃度が代謝産物の性質付けには低すぎたためであった。
5.モメタゾンフロエートは,全ての経路の投与後,広範に代謝された。
表2に示されるように,3H-MF由来の放射能は,全身的な吸収が,経口嚥下懸濁液または鼻腔内吸入懸濁液から(8%)よりも,経口嚥下溶液から(約100%)の方が高かったことを示唆する。モメタゾンフロエートは,静脈注入による薬物の投与,または溶液投与形態としての経口投与の後,・・・血漿中に検出可能であったが,経口または鼻腔懸濁液の投与後には,検出され得なかった。同様に,溶液処方物で投与した後の尿への放射能の排泄は,鼻腔スプレーまたは経口懸濁液で投与した後(2%)よりも大きかった(25%)。尿および糞便中の総回収率または放射能は,それぞれ87%および75%であり,放射能のほとんどは,糞便中に排泄されていた。静脈内投与後,排泄された総放射能は78%であり,24%が尿中に排泄されており,そして54%が糞便中に排泄されていた。 (1 」8欄12行〜26欄31行) 50 (3) 本件発明の概要 ア 従来,鼻炎および気管支喘息のような気道流路および肺の疾患を処置す るためコルチコステロイドが市販されているが,局所的抗炎症活性を有す る全てのコルチコステロイドが,鼻炎および/または喘息を処置すること において活性ではないとされ,これらの疾患に活性を示し得るコルチコス テロイドでも,重篤な全身性の副作用(視床下部-下垂体-副腎(HPA) 軸抑制を含む)の発症があるため長期間の使用は制限されていた。
イ 本件発明は,上記の技術課題に対して,アレルギー性鼻炎の処置に有効 であるとともに,鼻腔内投与によって投与されたときに,低いバイオアベ イラビリティと低い全身性副作用を示すコルチコステロイドを含有する薬 剤を提供することを目的とするものであり,コルチコステロイドとして, モメタゾンフロエートを用い,1日1回投与の水性懸濁液を含有する薬剤 としたことに技術的特徴を有するものである。
2 取消事由2-1(本件発明1と甲1発明の一致点及び相違点の認定の誤り) について (1) 甲1文献の記載 甲1文献には,@発明の名称として,「フランカルボン酸モメタゾン一水 和物,その製造法および医薬組成物」との記載(1頁),A「フランカルボ ン酸モメタゾンは,炎症状態の処置に有用であることが知られている。」と の記載(1頁右下欄8〜9行),B「特に興味深いことは,フランカルボン 酸モメタゾン一水和物の水性懸濁液組成物を,例えば鼻から投与することで ある。本発明の水性懸濁液は,1gの懸濁液中に0.1から10.0mgの フランカルボン酸モメタゾン一水和物を含みうる。」との記載(3頁左上欄 21〜23行)がある。
また,C「実施例3」として,モメタゾンフロエート,懸濁剤であり粘稠 性を与えるアビセルRC591(微晶質性セルロースとカルボキシメチルセ 51 ルロースナトリウムの混合物),グリセリン等を成分とするフランカルボン 酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液の記載(3頁左下欄8行〜右 下欄9行)がある。
(2) 本件優先日当時の技術常識 ア モメタゾンフロエートについて (ア) 本件優先日前の技術常識を示す甲A3(基礎と臨床,27巻9号,1 993年,3575〜3591頁),甲A12(基礎と臨床,24巻4 号,1990年,1985〜2002頁),甲A39(フルメタ軟膏, フルメタクリーム,フルメタローションの添付文書,2015年11月) によると,モメタゾンフロエートは,主作用として,極めて強い局所抗 炎症作用を示す一方,副作用(全身作用,皮膚萎縮)は弱く,主作用と 副作用の乖離(主作用の相対力価を副作用の相対力価で除した治療係数) は試験されたステロイド治療薬の中でも大きかったことが理解できる。
(イ) 本件優先日当時,モメタゾンフロエートは,軟膏,クリーム,ローシ ョンの形態で,通常1日1〜数回,適量を患部の皮膚に塗布するという 用法で用いられ(甲A39),モメタゾンフロエートクリーム0.1% は,ステロイドの副作用による影響が懸念される小児(甲A24,乙8) であっても,1日1回投与で皮膚疾患に安全かつ迅速な治療効果があっ た(甲A70)ことが知られていた。
イ 局所活性ステロイドの鼻炎への適用について (ア) 本件優先日前に頒布された乙7(新バイオサイエンスシリーズ 花粉 症の科学-話題のアレルギー病を探る-120〜127頁,136〜1 39頁,1994年,株式会社科学同人)及び乙8(メディシナルケミ ストリー-創薬のための有機化学-,144〜163頁,平成4年,株 式会社廣川書店)によると,局所活性ステロイド製剤は,局所作用と全 身作用を分離した製剤が望ましく,炎症組織に局所的にステロイドを使 52 用してホルモンの全身的な濃度を低く抑える必要があることから,皮膚 が最もたやすい標的であることが知られていた。
また,@本件優先日前に頒布された甲A10(Respiratory Medicine, 84巻(Supplement A),19〜23頁,1990年)には,局所活性 ステロイドに関し, 皮膚疾患の処置で証明済みの値を有する化合物は, 「 喘息及び鼻炎の処置にも効果的である」との記載が,A乙1 (IMMUNOPHARMACOLOGY AND IMMUNOTOXICOLOGY 13(3),1991年,2 51〜261頁)には,「極めて低濃度のモメタゾンフロエートによる 炎症誘発性メディエータの産生の阻害は,このステロイドが様々な疾患 に非常に有効であろうことを示唆している。 , 」 「強力なステロイドは, それらが皮膚疾患の治療に有用であるのと同じくらい,肺疾患の治療に 有用であろう。」との記載が,B乙8には,「ステロイドはその活性の 発見当初から喘息患者に全身的に用いられてきたが,その使用には前述 のような副作用のため限界があった。皮膚に対する非常に強力な抗炎症 剤が発見されたことから,これらの化合物が肺の気道に対しても局所的 に同等に有効ではないかという期待が持ち上がった。・・・Becotideという 商標名(・・・)で,この製品は特に目立った成功を収め,後に鼻腔内スプ レーとして花粉症や同類の鼻アレルギーの治療にまでその用途が拡大し た。」との記載がある。
そして,鼻を含めた気道粘膜のアレルギー性疾患にステロイド局所療 法を用いることも当業者に良く知られた事項であった(乙7,8)。
米国,イギリス及び日本では,合計21種類の皮膚疾患用抗炎剤のコ ルチコステロイドのうち合計5種類が点鼻薬としても承認されていた (弁 論の全趣旨)。
(イ) 以上を総合すれば,本件優先日当時,皮膚疾患の処置で証明済みの値 を有する局所活性ステロイドについては,鼻炎を含む気道疾患の処置に 53 も効果的であることが知られていたということができる。
ウ 鼻腔内投与における懸濁液の剤型について 本件優先日当時,鼻を含めた気道粘膜の疾患にステロイド局所療法を用 いる際に,懸濁液とし,ヒドロキシプロピルセルロースなどで粘稠性を与 えて流出を防ぎ,ステロイドが必要とする有効濃度で長時間にわたって徐々 に鼻の粘膜にしみこむようにするなど,局所投与で全身への影響を防ぎつ つ長時間にわたり気道粘膜にステロイドを送達するための製剤上の工夫が 図られていた(甲48,乙6)。
他方,ステロイド治療薬を水性懸濁液の形態としたことにより,軟膏, クリーム及びローションの剤形で奏していた薬理効果が喪失する事象が生 じるとされていたことなどは,証拠上,うかがわれない。
(3) 甲1発明,甲1発明と本件発明1との一致点及び相違点 ア 上記(2)のとおりのモメタゾンフロエート,局所活性ステロイドの鼻炎へ の適用及び鼻腔内投与における懸濁液の剤型についての本件優先日当時の 技術常識を踏まえれば,上記(1)の甲1文献の記載に接した当業者は,前記 第2の3(2)アのとおりの甲1発明(「炎症状態を治療するための,フラン カルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液。」)が記載され ていることを認識するということができる。
イ これによれば,甲1発明と本件発明1の一致点及び相違点は,前記第2 の3(2)イのとおりであると認められる。
(4) 第2事件原告の主張について ア 第2事件原告は,「皮膚疾患の処置で実証された結果を有するコルチコ ステロイドは,喘息及び鼻炎の処置にも効果的である」ことが記載されてい るのは甲A10のみであり,乙8は鼻炎の処置には言及していないから, 上記(2)イ(イ)の「皮膚疾患の処置で証明済みの値を有する局所活性ステロ イドについては,鼻炎を含む気道疾患の処置にも効果的である」との技術 54 常識は存在しないと主張する。
しかし,上記(2)イ(ア)記載の各文献の記載を総合すれば,本件優先日当 時,当業者において,「皮膚疾患の処置で証明済みの値を有する局所活性 ステロイドについては,鼻炎を含む気道疾患の処置にも効果的である」こ とが知られていたというべきである。
イ 第2事件原告は,ある薬剤が皮膚に局所適用した場合に安全かつ有効で あったとしても,鼻腔スプレーで投与した場合の動態を知ることはできず, その安全性や有効性を推定することができないところ,甲1文献には,フ ランカルボン酸モメタゾン一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液についての薬 理実験等の記載がないから,甲1文献に「薬剤」の開示はないと主張する。
しかし,当業者がその化合物等を医薬用途に使用できることが明らかで あるように当該刊行物等に記載されているといえるために,必ずしも薬理 実験等の結果の記載が必須であるとはいえない。上記(2)の技術常識を踏ま えれば,甲1文献には医薬用途に使用できることが明らかにされていると いうべきであり,甲1文献に接した当業者は,その記載から,モメタゾン フロエート一水和物を含む鼻腔投与用水性懸濁液について,炎症状態を治 療するための薬剤であると認識するというべきである。
(5) 以上のとおり,審決における甲1発明の認定,甲1発明と本件発明1の一 致点の認定並びに[相違点1]及び[相違点2]の認定に誤りはないから, 第2事件原告の主張する取消事由2-1は理由がない。
3 取消事由2-3(相違点2の容易想到性の判断の誤り)について (1) 甲2文献の記載(翻訳については,弁論の全趣旨) 甲2文献には,@「ヒト血漿中のモメタゾンフロエート(SCH3208 8)の直接定量のための競合的エンザイムイムノアッセイ」 473頁表題) ( , A「モメタゾンフロエート(SCH32088)は,局所的抗炎症活性を有 しその一方で視床下部-下垂体-副腎(HPA)機能を抑制する潜在能力は 55 最小限にしか示さない,合成のコルチコステロイドである。」(473頁左 欄3〜8行)〔判決注:なお,この記載部分は,参考文献として甲A69及 び70を引用する。〕,B「SCH32088は,喘息及びアレルギー性鼻 炎の経口吸入及び鼻腔内吸入による治療のための有望な新薬候補である。S CH32088は有望な生物学的及び薬理学的活性をこれまで示してきたが, 当該薬物の非常な低投与量療法によって必要とされる,十分に高感受性で且 つ再現性のある分析方法がないために,その代謝,薬物動態学及び毒物動態 学は評価されてこなかった。 (473頁左欄8〜17行) 」 との記載がある。
(2) 相違点2の容易想到性について ア 甲1発明は,炎症状態を治療するための,モメタゾンフロエート一水和 物の鼻腔投与用水性懸濁液であるところ,甲2文献には,上記(1)のとおり, モメタゾンフロエートがアレルギー性鼻炎の鼻腔内吸入による治療のため の有望な新薬候補であることが記載され,治療の対象としてアレルギー性 鼻炎の記載があるといえる。
イ そして,甲1文献と甲2文献には,いずれも局所活性ステロイドである モメタゾンフロエートを鼻腔内に投与することが記載されていると認めら れるところ,鼻の炎症には, 急性鼻炎・慢性鼻炎等のほかアレルギー性鼻 炎や季節性アレルギー性鼻炎が含まれる(弁論の全趣旨)ことをも考慮す れば,甲1発明の治療の対象である「炎症状態」を,「アレルギー性また は季節性アレルギー性鼻炎」とすることは,当業者が容易に想到し得たも のといえる。
ウ したがって,甲1発明において,相違点2(治療の対象である炎症状態 につき,本件発明1では「アレルギー性または季節性アレルギー性鼻炎」 と特定されているのに対し,甲1発明では特定されていない点。)に係る 構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たといえる。
(3) 第2事件原告の主張について 56 第2事件原告は,@甲2文献には「新薬候補」と記載されているに過ぎず, アレルギー性鼻炎の薬剤が記載されているとはいえないこと,A甲1文献と 甲2文献は課題が異なり,これらを組み合わせる動機付けがないことを主張 する。
しかし,上記2(2)記載のとおりの,本件優先日当時のモメタゾンフロエー トについての技術常識及び局所活性ステロイドの鼻炎への適用についての技 術常識に照らせば,当業者は,甲2文献の「アレルギー性鼻炎または季節性 アレルギー性鼻炎」の「新薬候補」との記載は,皮膚疾患の臨床試験結果に 基づき「アレルギー性鼻炎または季節性アレルギー性鼻炎」を治療効果の期 待できる対象として記載したもの理解するというべきである。そして,甲1 発明と甲2文献の記載を組み合わせる動機付けがあることについては,上記 (2)イに説示したとおりである。
(4) 以上のとおり,審決における相違点2の容易想到性の判断に誤りはなく, 第2事件原告の主張する取消事由2-3は理由がない。
4 取消事由1-1及び2-2(相違点1の容易想到性の判断の誤り)について (1) 相違点1の容易想到性について ア 本件優先日当時,モメタゾンフロエートを含有する鼻腔内投与剤の用法・ 用量について公知のものはないところ,モメタゾンフロエート一水和物の 鼻腔投与用水性懸濁液を用いて炎症状態を治療する場合に,その薬理効果 や副作用等を考慮し,他の局所活性ステロイドの鼻腔内投与における投与 回数及び投与量を参考にして,モメタゾンフロエートにとって最適な投与 回数及び投与量を設定することは,製薬分野の当業者にとって通常のこと であったということができる。
イ 本件優先日当時,モメタゾンフロエートが極めて強い局所抗炎症作用を 示す一方,副作用が弱いステロイドであることが知られ,また,モメタゾ ンフロエートについて,クリーム等の形態で,通常1日1〜数回,適量を 57 皮膚に塗布するという用法や,小児であっても1日1回の投与で安全かつ 迅速な治療効果を与えたこと(前記2(2)ア(ア)(イ))が知られていた。また, 本件優先日当時,鼻腔内投与によりステロイド局所療法を用いる際に,懸 濁液とし,粘稠性を与えて,ステロイドが必要とする有効濃度で長時間に わたって徐々に鼻の粘膜にしみこむようにするなど,局所投与で全身への 影響を防ぎつつ長時間にわたり気道粘膜にステロイドを送達するための製 剤上の工夫が図られることも周知であった(前記2(2)ウ)。
ウ また,次の点からすれば,本件優先日当時,鼻腔内投与される局所活性 ステロイド薬には,1日1〜4回の用法が存在し,患者の好みやコンプラ イアンスの観点から,1日1回の投与が利点を有することは周知であった。
(ア) 本件優先日当時,鼻腔内に投与される局所活性ステロイド薬とその用 法として,@ベクロメタゾン(1日4回。甲A4,5),Aブデソニド (1日1回又は2回。甲A6),Bフルチカゾンプロピオネート(1日 1回又は2回。甲A7),Cトリアムシノロンアセトニド(1日1回。
甲A8),Dプロピオン酸ベクロメタゾン(1日2回又は4回。甲A7 5),Eフルニソリド(1日2回。甲A75)などが知られていた。
(イ) また,甲A75(乙6)(耳鼻咽喉科薬物療法,平成2年,金原出版 株式会社,1991年)の表U-12「副腎皮質ホルモン剤の局所使用 適応症および一回量」には,「局所使用の1回量」,「鼻腔内注入」欄 に一律の記載として「1日1〜3回」と記載され,また,鼻腔の炎症状 態として,アレルギー性鼻炎(花粉症),血管運動神経性鼻炎及び進行性 壊疽性鼻炎が列挙されている。
(ウ) さらに,1日1回の鼻腔内投与が,患者の好みやコンプライアンスの 観点から,1日2回に勝る利点を提供するとされている(甲A6)。
エ 以上によれば,甲1発明の,「炎症状態を治療するための,モメタゾン フロエート一水和物の鼻腔投与用水性懸濁液」について,モメタゾンフロ 58 エートの薬理効果や副作用等を考慮して,鼻腔内に投与される局所活性ス テロイド薬の用法として最適とされていた,1日1回投与の用法を選択す ることは,当業者が容易に想到し得たものといえる。
オ したがって,甲1発明において,相違点1(薬剤の用法・用量につき, 本件発明1では「1日1回」と特定されているのに対し,甲1発明では特 定されていない点。)に係る構成を採用することは,当業者が容易に想到 し得たといえる。
(2) 原告らの主張について ア 第1事件原告の主張について 第1事件原告は,本件優先日当時の当業者は,モメタゾンフロエートの 血中半減期からその用法について1日2〜4回程度とするはずであり, 「患 者の好みやコンプライアンスの観点から」「1日1回」の構成を採用する ことはないと主張する。
しかし,上記(1)ウの各文献において,鼻腔内に投与される局所活性ステ ロイド薬の1日当たりの投与回数が,化学構造,血中半減期,生物学的半 減期に基づいて設定されたことをうかがわせる記載はないし,甲2文献に は経口投与された溶液の血中濃度の記載しかなく,これと鼻腔内投与され た水性懸濁液の血中半減期の関係は不明であるから,本件優先日当時の当 業者は,甲1発明について1日2〜4回程度の用法とするということはで きない。
また,第1事件原告は,甲A6〜8のステロイドは,モメタゾンフロエ ートと構造やバイオアベイラビリティが異なることなどから,その投与頻 度を参照することはできないと主張する。
しかし,甲1発明の用法を設定するに際し,技術常識に基づき,1日1 回の構成とすることが容易であるのは上記(1)イのとおりであり,本件優先 日当時,「1日1回」の用法を採用することについて,個々のステロイド 59 の構造やバイオアベイラビリティが問題となることをうかがわせる資料は ない。
イ 第2事件原告の主張について 第2事件原告は,甲1発明に甲A4〜8のアレルギー性鼻炎の治療薬の 用法・用量を組み合わせることは,甲1発明に甲2文献の「アレルギー性 鼻炎」の構成を組み合わせた仮想の公知例に,甲A4〜8文献を組み合わ せる,いわゆる容易の容易に基づくものであると主張する。
しかし,甲1発明の用法を設定するに際し,モメタゾンフロエートの薬 理効果や副作用に加えて鼻腔内投与に関する技術常識に基づき,1日1回 の構成とすることが容易であるのは上記(1)イのとおりであり,この判断は, 甲1発明に「アレルギー性鼻炎」を組み合わせた上で他のコルチコステロ イドの1日1回の投与方法を組み合わせたものではないから,これを前提 とする第2事件原告の主張は採用できない。
また,第2事件原告は,甲1発明に甲A6〜8に記載の「1日1回」の 投与方法を組み合わせる動機付けはなく,このうちのブデソニドについて は,バイオアベイラビリティの観点から阻害要因があったことを主張する。
しかし,技術常識を用いて「1日1回」の用法を採用することについて, 個々のステロイドの構造やバイオアベイラビリティが問題となることをう かがわせる資料がないのは,上記ア説示のとおりである。
(3) 以上のとおり,審決における相違点1の容易想到性の判断に誤りはないか ら,原告らの主張する取消事由1-1及び2-2は理由がない。
5 取消事由2-4(相違点3-1及び3-2の容易想到性の判断の誤り)につ いて (1) 相違点3-1及び3-2の容易想到性について ア 相違点3-1について (ア) 上記4(1)アのとおり,モメタゾンフロエートの薬理効果や副作用等 60 を考慮し,他の局所活性ステロイドの鼻腔内投与における投与量を参考 にして,モメタゾンフロエートにとって最適な投与量を設定することは 製薬分野の当業者にとって通常のことである。
(イ) 本件優先日当時,鼻腔内に投与される局所活性ステロイドとして,ベ クロメタゾン(400μg/日)(甲A4),ブデソニド(400μg /日)(甲A6),フルチカゾンプロピオネート(200μg/日)(甲 A7),トリアムシノロンアセトニド(220μg/日又は440μg /日)(甲A8),プロピオン酸ベクロメタゾン(400μg/日)(甲 A75),フルニソリド(200μg/日)(甲A75)などが知られ ていた。
(ウ) そして,本件優先日当時,モメタゾンフロエートは極めて強い局所抗 炎症作用を示す一方,副作用は弱く,主作用と副作用の乖離が大きい局 所活性ステロイドであることが技術常識として知られていたから(前記 2(2)ア),上記(イ)の鼻腔内に投与される他の局所活性ステロイドにつ いて200〜440μg/日といったオーダーの用量が用いられている といった情報を参考にしつつ,モメタゾンフロエートの1日当たりの用 量としてそれより低い100〜200マイクログラムを選択することは, 当業者が容易に想到し得たものといえる。
(エ) したがって,甲1発明において,相違点3-1(本件発明2では「前 記1日1回の投与量が100〜200マイクログラムである」とされる のに対し,甲1発明ではその特定がない点。)に係る構成を採用すること は,当業者が容易に想到し得たものといえる。
イ 相違点3-2について (ア) 絶対的バイオアベイラビリティとは,血管内投与以外の投与経路(例 えば鼻腔内投与)で得られる血漿中濃度曲線下面積と,静脈注射時の血 漿中濃度曲線下面積とを比較することにより得られる割合(乙2)である 61 から,投与した薬物の量や濃度には依存しないものといえる。そうする と,「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオアベイラビリティ が約1パーセント未満」は,モメタゾンフロエートの水性懸濁液を含有 する薬剤を鼻腔内に投与した場合に現れる客観的な性質であって,甲1 発明が備えた構成でもあると推認でき,これを否定する証拠もない。
(イ) したがって,相違点3-2は,実質的な相違点であるとはいえない。
(2) 第2事件原告の主張について 第2事件原告は,モメタゾンフロエートの用量の設定に際し,他のコルチ コステロイドの用量を参照する動機付けはなく,また,1日1回の100〜 200マイクログラムのモメタゾンフロエート投与が効果的であることは甲 1文献及び甲2文献,甲A3〜10から予測することはできないことを主張 する。しかし,当業者が甲1発明の用量を設定するに際し,モメタゾンフロ エートの薬理効果や副作用を含む技術常識に基づき,相違点3-1に係る構 成とすることが容易であるのは上記(1)アのとおりである。
さらに,第2事件原告は,いずれの文献にも「未変化のモメタゾンフロエ ートの絶対的バイオアベイラビリティが約1パーセント未満である」ことの 示唆はないから,「投与量が100〜200マイクログラムである」という 構成を採用した場合に,「未変化のモメタゾンフロエートの絶対的バイオア ベイラビリティが約1パーセント未満である」ことは当業者に予測できない と主張するが,この点に関する判断は上記(1)イに説示したとおりである。
(3) 以上のとおり,審決における相違点3-1及び3-2の容易想到性の判断 に誤りはないから,第2事件原告の主張する取消事由2-4は理由がない。
6 取消事由2-5(相違点4-1及び4-2の容易想到性の判断の誤り)につ いて (1) 相違点4-1及び4-2の容易想到性について ア 相違点4-1について 62 相違点4-1(本件発明3では「前記薬剤が,季節性アレルギー性鼻炎 を処置するためのものである」とされるのに対し,甲1発明では「炎症状 態を治療するための」とされる点。)については,前記3において,相違 点2について述べたことが妥当し,甲1発明の「炎症状態」について,「季 節性アレルギー性鼻炎」の構成とすることは,当業者が容易に想到し得た ものである。
イ 相違点4-2について 相違点4-2(本件発明3では「前記1日1回の投与量が200マイク ログラムである」とされるのに対し,甲1発明ではその特定がない点。) については,上記5(1)アにおいて相違点3-1について述べたことが妥当 し,甲1発明において,「1日1回の投与量が200マイクログラムであ る」という構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである。
(2) 第2事件原告の主張について 第2事件原告は,@甲1文献と甲2文献の課題には共通性がなく,これら を組み合わせる動機付けがないから,相違点4-1に係る構成は容易に想到 できたものではないこと,Aモメタゾンフロエートの用量を定めるについて, 他のコルチコステロイドの用量を参照する動機付けはなく,1日1回の20 0マイクログラムのモメタゾンフロエート投与が効果的であることも,甲1 文献及び甲2文献,甲A3〜10から予測することができないから相違点4 -2に係る構成は容易に想到できたものではないことを主張するが,この点 については,前記3(3)及び5(1)に説示したところが妥当する。
(3) 以上のとおり,審決における相違点4-1及び4-2の容易想到性の判断 に誤りはないから,第2事件原告の主張する取消事由2-5は理由がない。
7 取消事由1-2及び2-6(効果の顕著性に関する判断の誤り)について (1) 本件発明の効果 ア 前記1(2)のとおりの本件明細書の記載によれば,本件発明の効果として, 63 アレルギー性鼻炎に対して,1日1回の鼻腔内投与で,プラセボとの対比に おいて治療効果があり,かつ,モメタゾンフロエートのバイオアベイラビ リティが約1%未満であり,血流中への全身的な吸収が実質的に存在せず, 全身性副作用が存在しないことという効果が認められる。
イ これに対し,審決は,前記第2の3(3)のとおりの効果@〜効果Bを認定 する。
しかし,本件明細書の「治療上有効であって,かつ,鼻腔内投与・・・ によって投与されたときに,低いバイオアベイラビリティと低い全身性副 作用とを示すコルチコステロイドを見出すことが望まれている。」(3欄 44〜48行)との記載及び「本発明は,アレルギー性鼻炎に対して効果 的に1日1回の服用で鼻腔内を処置するための薬剤を調製するためのモメ タゾンフロエート水性懸濁液の使用を提供する。ここで,このモメタゾン フロエートの血流中への全身的な吸収は,実質的に存在しない。」との記 載(3欄50行〜4欄4行)に照らせば,本件明細書における,経口溶液 や経口懸濁液に関する数値やそれに対する比較は,本件発明の構成が備え る効果として記載されているものとは認められない。したがって,効果A のように経口溶液及び経口懸濁液との比較を効果として認定すべきものと はいえない。
(2) 効果が予測できない顕著なものであるかについて ア 甲1文献には,炎症状態を治療するための,モメタゾンフロエート一水 和物を含む鼻腔投与用水性懸濁液が記載されている。また,甲2文献(前 記3(1))には,@モメタゾンフロエートが,皮膚に対して局所的抗炎症活 性を有することを前提に,アレルギー性鼻炎の鼻腔内吸入の治療効果が見 込まれ,鼻腔内吸入の方法を用いアレルギー性鼻炎に用いること,Aモメ タゾンフロエートが局所的抗炎症活性を有しその一方で視床下部-下垂体 -副腎(HPA)機能を抑制する潜在能力は最小限にしか示さない合成の 64 コルチコステロイドであることが記載されている。
本件優先日当時,@モメタゾンフロエートは,極めて強い局所抗炎症作 用を示す一方,副作用(全身作用,皮膚萎縮)は弱く,主作用と副作用の 乖離が大きい薬剤であること(前記2(2)ア) Aモメタゾンフロエートは, , 皮膚疾患について1日1回の投与で小児でも安全かつ迅速な治療効果があ ること(同),B皮膚疾患の処置で証明済みの値を有する局所活性ステロ イドについては,鼻炎を含む気道疾患の処置にも効果的であること(同イ) が,技術常識として当業者に理解されていた。
また,本件優先日当時,鼻を含めた気道粘膜のアレルギー性疾患にステ ロイド局所療法を用いる際に,全身への影響を防ぐために懸濁液とし,粘 稠性を与えるなどの気道粘膜に長時間にわたりステロイドを送達するため の製剤上の工夫が図られていたことが知られ(前記2(2)ウ),甲1文献に も,このような工夫をした水性懸濁液が開示されていた(実施例3)。
以上によれば,本件優先日当時の当業者は,技術常識並びに甲1文献及 び甲2文献の上記記載により,副作用が低いモメタゾンフロエートの鼻腔 投与用水性懸濁液につき,皮膚への局所投与と鼻腔への局所投与により薬 物動態等の相違があるとしても,1日1回の鼻腔内投与でアレルギー性鼻 炎に治療効果を有し,全身への吸収が低く,バイオアベイラビリティが優 れていることも,予測できた範囲のものと認められる。
イ 以上によれば,本件優先日当時の当業者は,本件発明の構成について, 「アレルギー性鼻炎に対して,1日1回の鼻腔内投与で,プラセボとの対比 において治療効果があり,かつ,モメタゾンフロエートのバイオアベイラ ビリティが低く,血流中への全身的な吸収が実質的に存在せず,全身性副 作用が存在しない」という効果について,予測することができたというべ きである。そして,「バイオアベイラビリティが約1%未満である」との 数値についても,その程度が,本件優先日当時の技術常識に基づき予測で 65 きた範囲を超える顕著なものであることを認めるに足りる的確な証拠はな い。
(3) 原告らの主張について ア 第1事件原告の主張について (ア) 第1事件原告は,本件発明が1日1回投与と1日2回投与とで効能に 有意な差がなく,ステロイド点鼻薬として本件優先日当時に望み得る,最 も高いレベルの作用・効能の持続的効果を奏すること,また,非常に低 いバイオアベイラビリティでありながら,本件発明が上記効果を奏するこ とは,本件優先日当時驚くべきことであり,それ自体,本件発明の顕著な効 果であると主張する。
しかし,第1事件原告が「1日1回投与と1日2回投与とで効能に有 意な差がないこと」の根拠として指摘する本件明細書の「(3)吸入のため の水性懸濁液については,単回投与又は分割投与において好ましい用量 は・・・の範囲であ」るとの記載(第10欄12〜14行)は,アレル ギー性鼻炎の治療のための水性懸濁液の鼻腔内投与ではなく,「気道お よび肺実質のアレルギー性および/または炎症性疾患,特に喘息,慢性閉 塞性肺疾患,肺および下気道流路の肉芽腫性疾患,肺の非悪性増殖性疾患 (例えば,特発性肺線維症,過敏性肺炎および気管支肺形成不全)のよう な疾患の処置のため」に「吸入」する場合についての記載であり,本件 発明の構成について1日1回投与と1日2回投与の効果の異同について 記載したものとは読み取れない。また,そもそも本件発明の構成によれ ば,1日1回の投与によって有効な治療効果をあげられることが予測し 得たことは上記(2)で認定したとおりなのであるから,それ以上に,1日 1回の投与と1日2回の投与の効果を比較することに意味があるとは考 えられず,これを予測し得ない効果の根拠とすることはできない。
第1事件原告の主張するその余の効果については,結局は,アレルギ 66 ー性鼻炎に対して,1日1回の鼻腔内投与で,プラセボとの対比において 治療効果があり,かつ,モメタゾンフロエートの血流中への全身的な吸 収が実質的に存在せず,全身性副作用が存在しないことをいうに過ぎず, この効果に関する判断は,上記(1),(2)に説示したとおりである。
なお,第1事件原告は,本件発明は,後に判明したモメタゾンフロエ ートの構造(フロエート部分)についての未知の性質に着目した発明で あり進歩性があるとも主張するが,本件明細書にこの点に係る記載はな く,また,本件発明の構成について,上記(1)アの効果は当業者が予測で きた範囲を超える顕著なものといえないことは上記(2)説示のとおりであ るから,フロエート部分の性質が後に判明したことは,本件発明の進歩 性の判断に影響するものではない。
(イ) また,第1事件原告は,審決の効果Aの認定を前提として,経口溶液 との比較した全身的な吸収の低さが予測し得ないものであることについ て言及するが,本件発明の効果の認定において,経口溶液との比較を考 慮すべきでないことは,上記(1)イに説示したとおりである。
イ 第2事件原告の主張について (ア) 第2事件原告は,@皮膚局所適用について有効性が確認されていても, 必ずしも,鼻腔吸入についての有効性があるとは限らないこと,A本件 優先日当時,モメタゾンフロエートの代謝,薬物動態及び毒物動態は解明 されていなかったこと,Bモメタゾンフロエートの水性懸濁液を鼻腔内 投与した際のバイオアベイラビリティは不明であったこと,C鼻腔内投 与の方が経口投与よりもバイオアベイラビリティが高くなるのが技術常 識であったこと,D鼻腔吸入の場合の全身性副作用の程度は不明であっ たことなどを主張する。しかし,甲1文献及び甲2文献の記載並びに技 術常識に照らし,上記(1)アの効果は当業者が予測できた範囲を超える顕 著なものであるといえないのは,上記(2)に説示したとおりである。
67 さらに,第2事件原告は,本件優先日後の知見によれば,本件優先日 後の製剤において,本件発明にかかる薬剤は他の薬剤より低い年齢の小 児に対して安全性が確立していること,フロエート部分が有する優れた 特性があることが明らかになったことを指摘するが,これらはいずれも 本件優先日以降に判明したことで,本件明細書にはその記載もなく,本 件発明の効果を認定するに際して考慮することはできない。
(イ) 第2事件原告は,甲1文献及び甲2文献からモメタゾンフロエートが アレルギー性鼻炎に対して何らかの効果があると予測し得たとしても, その程度については不明であるし,他のコルチコステロイドが1日1回 で効果を有すること及びその治療効果の程度から,本件発明の,「1日 1回のモメタゾンフロエートの水性懸濁液の投与でアレルギー性鼻炎を 効果的に処置できる」という格別顕著な効果を有することは予測し得な いと主張する。
しかし,本件発明の構成とした場合に,「1日1回のモメタゾンフロ エートの水性懸濁液の投与でアレルギー性鼻炎を効果的に処置できる」 という効果を有することを予測できたといえるのは,上記(2)のとおりで ある。
(4) 以上のとおり,審決における効果の認定には誤りがあるが,効果の顕著性 に関する判断に誤りはないから,原告らの主張する取消事由1-2及び2- 6は理由がない。
8 まとめ 以上のとおりであるから,原告らの主張する取消事由はいずれも理由がなく, 原告らの請求は棄却すべきであるから,主文のとおり判決する。
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