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関連審決 無効2017-800070
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事件 平成 30年 (行ケ) 10175号 審決取消請求事件

原告 シー・アール・バード・イン コーポレーテッド
同訴訟代理人弁護士 飯島歩 藤田知美 町野静 松下外 村上友紀 溝上武尊 真鍋玲子
同訴訟代理人弁理士 横井知理 川上桂子 大塚千秋前田幸嗣 吉田昌司
被告 ビー・ブラウンエースクラッ プ株式会社
被告 ビー・ブラウンメディカル
被告ら訴訟代理人弁護士 重冨貴光 黒田佑輝 富田詩織
同訴訟代理人弁理士 村瀬裕昭 河崎大輔
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/12/04
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
3 原告に対し,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2017-800070号事件について平成30年8月8日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,平成24年7月12日,発明の名称を「アクセスポートおよびその識別方法」とする発明について特許出願(平成18年3月6日を国際出願日,平成17年3月4日を優先権主張日とする特願2007-558331号の分割出願。)をし,平成28年10月7日,設定の登録を受けた(特許第6018822号。甲1。請求項の数6。以下「本件特許」という。。
)(2) 被告らは,平成29年5月22日,これに対する無効審判を請求し,無効2017-800070号事件として係属した。
(3) 特許庁は,平成30年8月8日,「特許第6018822号の請求項1〜6に係る発明についての特許を無効とする。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月16日,原告に送達された。
(4) 原告は,平成30年12月12日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし6の記載は,以下のとおりである(甲1)。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。。以下,各請求項 )に係る発明を「本件発明1」などという。
【請求項1】コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられる,患者への皮下アクセスを提供するための自動注入可能なアクセスポートであって,/隔膜を保持するよう構成される本体と,/皮下埋め込み後,前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構築される,前記アクセスポートの少なくとも1つの,前記自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の,識別可能な特徴とを具え,/前記自動注入可能なアクセスポートは,機械的補助によって注入され,かつ加圧されることができ,/前記隔膜は,前記本体内に画定された空洞内に,前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜である自動注入可能なアクセスポート。
【請求項2】前記本体は,ハウジングを備え,/前記ハウジングは,吐出ポートと当該ハウジングに固定可能なキャップとを有し,/前記キャップは,前記本体内で前記隔膜を保持する,請求項1に記載の自動注入可能なアクセスポート。
【請求項3】前記ハウジングは,少なくとも1つの容器を画定する,ハウジングのベースを備える,請求項2に記載の自動注入可能なアクセスポート。
【請求項4】前記本体は,前記隔膜と共に空洞を画定するハウジングを具え,/前記空洞は,吐出ステムの内腔と流体連通している,請求項1に記載の自動注入可能なアクセスポート。
【請求項5】前記吐出ステムは,カテーテルと連結するように構成された,請求項4に記載の自動注入可能なアクセスポート。
【請求項6】前記本体は,縫合開口を具える,請求項1に記載の自動注入可能なアクセスポート。
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本件発明1は,特許法36条6項1号に規定する要件に適合せず,サポート要件に違反する,A本件発明1ないし6は,下記アの引用例1及び下記イの引用例2に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものである,というものである。
ア 引用例1:武内周平ほか「中心静脈リサーバーからの自動注入器を用いた造影CTにおける耐圧試験」と題する論文(IVR INTERVENTIONAL RADIOLOGY,Vol.20,No.1,p27-30。平成17年1月1日発行。甲9。) イ 引用例2: 「P-Uセルサイトポート」の添付文書の第1版〜第6版(東レ株式会社,東レ・メディカル株式会社。2002年7月1日〜2005年7月1日作成。甲10。) (2) 本件審決は,引用例1に記載された発明,本件発明1との一致点及び相違点を,次のとおり認定した。
ア 引用例1に記載された発明 造影CTに用いられる,患者への皮下アクセスを提供するための,自動注入器によって造影剤を注入されることができるアクセスポートであって,/隔膜を保持するよう構成される本体を具え,/前記アクセスポートは,製品スペックに示される最大注入圧力以上の加圧をしないように使用され,/隔膜は,本体内に画定された空洞内に,前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜であるアクセスポート(以下「甲9発明」という。。
) イ 一致点 コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられる,患者への皮下アクセスを提供 するためのアクセスポートであって,/隔膜を保持するよう構成される本体を具え,/前記アクセスポートは,機械的補助によって注入され,かつ加圧されることができ,/前記隔膜は,前記本体内に画定された空洞内に,前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜であるアクセスポート。
ウ 相違点 (相違点1)本件発明1は,皮下埋め込み後,前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構築される,前記アクセスポートの少なくとも1つの,前記自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の,識別可能な特徴とを具えるのに対し,甲9発明にはそのような特徴が具えられているか不明な点。
(3) 本件審決が認定した本件発明2と甲9発明との相違点は,相違点1のほか,次のとおりである。
(相違点2)本件発明2の本体は,ハウジングを備え,前記ハウジングは,吐出ポートと当該ハウジングに固定可能なキャップとを有し,前記キャップは,前記本体内で前記隔膜を保持するのに対し,甲9発明はそのようなものか不明な点。
(4) 本件審決が認定した本件発明3と甲9発明との相違点は,相違点1,2のほか,次のとおりである。
(相違点3)本件発明3のハウジングは,少なくとも1つの容器を画定する,ハウジングのベースを備えるのに対し,甲9発明はそのようなものか不明な点。
(5) 本件審決が認定した本件発明4と甲9発明との相違点は,相違点1のほか,次のとおりである。
(相違点4)本件発明4の本体は,前記隔膜と共に空洞を画定するハウジングを具え,前記空洞は,吐出ステムの内腔と流体連通しているのに対し,甲9発明はそのようなものか不明な点。
(6) 本件審決が認定した本件発明5と甲9発明との相違点は,相違点1,4のほか,次のとおりである。
(相違点5)本件発明5の吐出ステムは,カテーテルと連結するように構成されているのに対し,甲9発明はそのようなものか不明な点。
(7) 本件審決が認定した本件発明6と甲9発明との相違点は,相違点1のほか,次のとおりである。
(相違点6)本件発明6の本体は,縫合開口を具えるのに対し,甲9発明はそのようなものか不明な点。
4 取消事由 (1) サポート要件についての判断の誤り(取消事由1) (2) 本件発明1の進歩性判断の誤り(取消事由2) (3) 本件発明2ないし6の進歩性判断の誤り(取消事由3)
当事者の主張
1 取消事由1(サポート要件についての判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,実施品の使用に際し,自動注入の可否の識別のための特徴を知覚した医師等が,添付文書に触れることなく,その特徴から,当該特徴を有するアクセスポートが自動注入可能であることを識別できるか否かという規範に沿ってサポート要件の充足を判断し,結論としてこれを否定した。しかし,サポート要件の適合性判断に際しては,特許請求の範囲の記載によって特定された物の構造又は特性が課題解決を可能にするものであることを,発明の詳細な説明から認識できるかが問題とされるべきであるから,本件審決は,サポート要件適合性の判断基準を誤っている。
また,本件審決は,実施品の使用者である医師又は他の医療関係者を当業者と認定した。しかし,物の発明における当業者は,その物の属する技術分野の研究開発や生産に従事する者として通常の知識を有する者と解するべきであって,実施品の単なる使用者はこれに該当しないから,本件審決は,当業者の認定も誤っている。
(2) 本件発明1が解決しようとする課題は,コンピュータ断層撮影走査プロセス に用いられる,自動注入可能なアクセスポートが皮下に埋め込まれた後に,当該アクセスポートが自動注入可能なアクセスポートであることを,X線を介して識別可能とすることである(【0008】【0011】【0013】【0015】。この課 , , , )題を認識した当業者であれば,触診によって知覚できる「自動注入可能なアクセスポートを自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がある識別可能な特徴」についての記載(【0020】〜【0043】)や,本件発明の「アクセスポートの特徴」が触診以外の方法,特にX線を用いて観察可能であることについての記載(【0046】)を合わせて読むことにより, 「自動注入可能なアクセスポートを自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の,識別可能な特徴」の具体的な構成を読み取ることができ,当該課題を解決できることを認識することができる。
よって,発明の詳細な説明に基づき,当業者において,特許請求の範囲に記載された発明によって課題を解決できることを認識することができるから,サポート要件を満たすものである。
〔被告らの主張〕 本件発明1がサポート要件を欠く最大の理由は,特許請求の範囲に記載された発明の中心をなす, 「識別可能な特徴」と「自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報」をどのように「相関」させるか,という問題について,明細書には一切記載がなく,技術常識によっても当業者が課題を解決できるとは認識できないという点にある。
本件発明1の課題の一つは, 「一度アクセスポートが皮下に埋め込まれると型式等の識別が難しかったところ,機械的補助によって注入され,かつ加圧されることができ,コンピュータ断層撮影走査プロセスにおいて,自動注入器システムを使用して静脈ラインに造影剤を注入するために使用することができる,自動注入可能なアクセスポートについて,自動注入可能なアクセスポートと相関関係を有し,皮下埋め込み後に知覚できる識別可能な特徴を具えることにより,皮下埋め込み後に自動 注入可能であることを識別できるアクセスポートを提供すること」である。
しかしながら,発明の詳細な説明の全体を通じて, 「X線で可視の,識別可能な特徴」と「自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報」をどのように「相関」させるかという点については,一切の説明が存在しない。本件明細書には, 「相関関係を有することができる」「相 ,関関係を達成することができる」との記載がある(【0015】)のみで,当該相関関係をどのように達成するかという課題解決原理としての技術的手段については記載も示唆もない。アクセスポートが「X線によって可視の,識別可能な特徴」を具えたところで,当該特徴が,当該アクセスポートが自動注入可能なアクセスポートであるか否かを区別可能な情報との関係において,どのような相関を有するものとされているのかについて,全く理解できないから,サポート要件を欠いている。
2 取消事由2(本件発明1の進歩性判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 甲9発明の認定の誤り ア 引用例1には,TORAY製のP-UCELSITE PORT(以下「東レポート」という。)が「自動注入器による機械的補助によってヨード濃度300mgI/ml のイオパミドールを,最大加圧15kg/cm2 を限度として,1.5ml/sec,3.0ml/sec,5.0ml/sec の各注入速度で注入する実験のいずれにおいても破損が認められなかった」ことは開示されているものの,特定の条件下での実験結果にすぎず,臨床に完全に適応できるかは留保が付されており,機械的補助によって注入され,加圧されることができるという一般的特性を有することも,そのような特性を実現するための構造も開示していないから,甲9発明は,引用例1に記載された発明ではない。また,東レポートの構造が技術常識であったともいえないから,引用例1に記載されているに等しい事項ともいえない。
したがって,甲9発明は,引用例1に記載された発明とはいえない。
イ 引用例1に記載されているのは実験結果であり,造影CTに用いられる,静 脈確保の目的で患者に留置される自動注入器によって造影剤イオパミドールを注入されることができる東レポートが記載されているとはいえない。
また,仮に引用例2に基づいて東レポートの構造を認定することが可能であるとしても,かかる記載は引用例1の記載内容ではない。
本件審決は,引用例1と引用例2の双方を引用文献とし,両者に記載された発明を組み合わせることによって,甲9発明という単一の主引用発明を認定しているが,そのような認定手法が許されるならば,新規性進歩性の区別が失われることになって,妥当ではない。
以上によれば,引用例1から甲9発明を認定することはできない。
ウ 引用例1に記載された発明を正しく認定すると,次のとおりである。
「造影CTに用いられる,患者への皮下アクセスを提供するためのアクセスポートであって,/自動注入器による機械的補助によってヨード濃度300r I/ml のイオパミドールを,最大加圧15s/p2を限度として,1.5ml/sec,3.0ml/sec,5.0ml/sec の各注入速度で注入する実験のいずれにおいても破損が認められなかった/東レ製『P-UCELSITE PORT』」 。(以下「甲9’発明」という。) (2) 相違点の認定の誤り 本件発明1を甲9’発明と対比すると,一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 一致点 コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられる,患者への皮下アクセスを提供するための自動注入可能なアクセスポートであって,自動注入可能なアクセスポート。
イ 相違点 本件発明1と甲9’発明とは,本件審決の認定した本件発明1と甲9発明との相違点1のほか,次の点において相違する。
(相違点A)本件発明1は, 「隔膜を保持するよう構成される本体」との構成を備 えているのに対し,甲9’発明はかかる構成を有しているか不明な点。
(相違点B)本件発明1は, 「前記自動注入可能なアクセスポートは,機械的補助によって注入され,かつ加圧されることができ」との構成を備えているのに対し,甲9’発明はかかる構成を有しているか不明な点。
(相違点C)本件発明1は,「前記隔膜は,前記本体内に画定された空洞内に,前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜である」との構成を備えているのに対し,甲9’発明はかかる構成を有しているか不明な点。
(3) 容易想到性判断の誤り ア 当業者が,甲9’発明に引用例2の記載事項を組み合わせることができ,相違点A及びCを容易に想到することができることは,特に争わない。
イ 相違点Bについて 引用例1は,特定の条件下での実験結果を紹介したものであって,アクセスポートが,一般的に「機械的補助によって注入され,かつ加圧されることができ」るとの特性を有することも,そのような特性を実現するための構造も開示していない。
また,引用例2及び本件審決が周知例とした甲11文献,甲12文献のいずれにも,この点に関する開示はない。
よって,当業者が甲9’発明から相違点Bに係る構成を容易に想到できたとは認められない。
ウ 相違点1について (ア) 本件審決は,甲11文献,甲12文献に基づき,人体に埋め込まれて使用される医療機器において,装置の型番を表す,X線で可視な特徴を,当該装置に備えることは周知技術(周知技術A)であると認定する。
しかし,甲11文献,甲12文献に記載されたわずか2件の発明を根拠に,人体に埋め込まれて使用される医療機器一般について,X線で可視な特徴を備えることが周知技術と認定することはできず,本件審決の認定した周知技術Aを甲9発明と組み合わせることはできない。
また,乙1〜3,甲14の各文献の記載を考慮したとしても,これらに開示されているのはいずれも心臓用の医療機器や人工乳房等,アクセスポートとは目的が異なる器具であるから,アクセスポートを含む皮膚埋込型の医療機器全般における周知技術を認定することはできない。
(イ) 本件審決は,医師等が,X線で知覚した型番から該当するアクセスポートを特定し,その添付文書を参照し,そこに記載された使用条件に基づき,医師等が自動注入可能なアクセスポートであるか否かを判断した結果として,自動入力可能かどうかの区別ができるから,甲9発明の「装置の型番を表す,X線で可視な特徴」が,本件発明1の「前記自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の,識別可能な特徴」に該当すると認定した。
しかし,本件明細書には,「アクセスポートの少なくとも1つの識別可能な特徴」は,「製造業者の型式またはデザイン」を典型例としつつ,「さらに」「ポートの型 ,式,カテーテルの型式,製造年月日,材料ロット,部品番号,などのようなに関心のあるいずれかの情報と相関関係を有することができる」のであり,これらに加えて,「識別可能な特徴は,自動注射可能である前記アクセスポートと相関関係を有することができる」と記載されており(【0015】,単なる「ポートの型式」との相関 )関係と, 「自動注射可能である前記アクセスポート」といった具体的な仕様にかかる事項との相関関係とが差別化されて記載されている。したがって, 「相関」は,添付文書に記載された情報に基づいて, 「識別可能な特徴」に, 「自動注入可能」であることを示すものとしての意味が直接的に付与されていることが必要であり,医師等が添付文書などに基づいて,その「識別可能な特徴」の意味を理解できることを要するというべきである。
そうすると,単に「ポートの型式」が示されているだけでは,それ自体には「自動注入可能」かどうかの直接的な意味付けはなく, 「自動注射可能である前記アクセスポートと相関関係」があるとはいえないから, 「前記自動注入可能なアクセスポート の,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の,識別可能な特徴」に該当するとはいえない。
よって,仮に甲9発明又は甲9’発明に本件審決の認定した周知技術Aを組み合わせることができるとしても, 「自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関があり」との構成を想到することはできないから,これを容易に想到できるとした本件審決には誤りがある。
〔被告らの主張〕 (1) 甲9発明の認定の誤りについて 進歩性判断においては,主引用発明が一つであることは求められているが,主引用発明が一つの文献のみに開示されていることは求められていない。
引用例1には,自動注入器を用いて,東レポートを用いて造影剤を注入する際の耐圧を測定した試験が行なわれたことが開示されている。そして,引用例1の公刊当時,東レポートは市販されており,当業者は容易に入手可能であった。
他方で,引用例2は,当該東レポートに関する添付文書である。添付文書は,本件特許の優先日当時の旧薬事法(現医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律)63条の2に基づき,医療用具(平成18年薬事法改正以降は医療機器)に添付することが義務付けられている文書であり,製品の構成や使用方法等を医師に伝達する役割を有している。したがって,引用例2も,東レポートに添付されて公表・流通していた。
引用例2は,引用例1に記載された東レポートの添付文書であるから,引用例1に記載された東レポートという発明の構成の内容を理解するために,引用例2を参照することは許容される。引用例1,引用例2は,同一の製品(東レポート)に関する2つの文献であり,1つの主引用発明を認定するものであって, 「独立した2つの主引用発明」を認定するものではない。
本件審決は,引用例1と引用例2の関係を正しく理解した上で,単一の主引用発明を認定したのであるから,その認定に誤りはない。
(2) 相違点の認定の誤り ア 相違点A及びCについて 引用例1には,相違点A及びCに相当する構成が記載されている。すなわち,引用例1の, 「今回の実験回路では,従来から報告されてきたような,ポートに針を穿刺しその中枢側の圧測定,または計算的にシリンジ注入の圧を求めた耐圧試験ではなく,日常診療の場での簡便なモニタリングとして,インジェクターの圧モニタを用いた。」との記載によれば,それまでの実験は「ポートに針を穿刺しその中枢側の圧測定」をしたものとされていることから,ポートには,針を穿刺する部分(すなわち,隔壁)を保持する本体が存在することは自明であり,相違点Aは開示されている。
また, 「今回の実験では,システム全体の注入圧から,ヒューバー針20Gと延長チューブのみ接続し注入した際の圧力を引き算することで,ポート内とカテーテルにかかる圧を計算上求めた。」との記載によれば,「ポート内」の圧力が計算されていることから,針が穿刺する隔膜と本体の間に空洞が存在することが開示されている。そして, 「さらに,穿刺針の太さ,カテーテルの長さを変化させて同様に注入圧を測定した。」との記載によれば,穿刺針の太さを変化させて同様に注入圧を測定しているから,当該隔膜が,針を繰り返し挿入するための隔膜であることも開示されており,相違点Cも開示されている。
したがって,相違点A及びCは,引用例1に開示されているから,相違点ではない。
イ 相違点Bについて 引用例1は,東レポートとカテーテルを組み合わせたシステムに対して,自動注入器を用いて造影剤を注入したところ,システムに破損が見られなかったことを報告する文献であるから,その実験結果自体,東レポートが「機械的補助によって注入され,かつ加圧されることができ」るものであることを示している。
引用例1は, アクセスポート又はカテーテル単独では自動注入可能な耐圧性能を 有している製品を対象として,アクセスポートとカテーテルを接続したシステムを構成した場合に,システム全体として耐圧性能を有しているかを検証した論文である。そして,引用例1の実験では,使用した造影剤が想定している注入圧よりも高い圧力という厳しい条件でシステム全体の耐圧性能を実験したところ,特にシステムに破損が認められなかったとの結果が得られており,システム全体として耐圧性能がある以上,アクセスポート単独で添付文書の記載通り耐圧性能が確保されていることが裏付けられている。
よって,引用例1には, 「造影CTに用いられる,静脈確保の目的で患者に留置される自動注入器によって造影剤イオパミドールを注入することができるTORAY製のP-UCELSITE PORT」が記載されており,相違点Bに相当する構成を開示している。
また,引用例2には, 「耐圧 MPa(psi)」として, 「2.10(300)」との数値が記載されているから,当業者は,東レポートの耐圧が300psiであることを認識することができるところ,引用例1の表 1 には,自動注入可能であるアクセスポートとして開示されている他社のアクセスポートの耐圧が,約20から40psiであることが記載されており,これらを組み合わせると,甲9発明の東レポートが自動注入可能な耐圧を有することを認識することができる。引用例1と引用例2からは 1 個の甲9発明が認定できるから,甲9発明は,相違点Bに相当する構成を備えている。
(3) 容易想到性判断の誤り ア 相違点Bについて 仮に,引用例1からは甲9’発明のみが認定され,かつ,引用例1には相違点Bに相当する構成は開示されていないとしても,甲9’発明に引用例2の記載事項を組み合せることは容易であるから,相違点Bは,当業者が容易に想到できるものである。
イ 相違点1について (ア) 甲11文献,甲12文献に加えて,乙1ないし3,甲14の各文献の記載事項に基づくなら,本件特許の優先日当時, 「人体に埋め込まれて使用される医療機器において,装置の型番を表す,X線で可視な特徴を,当該装置に備えること」が周知技術であったことは明らかであるから,本件審決が周知技術Aを認定したことに誤りはない。
一般に,周知技術を採用することは,当業者であれば必要に応じて適宜なし得るものであるから,甲9発明に,周知技術Aを適用することは単なる設計上の事項にすぎず,当業者であれば容易に想到し得たものである。そして,周知技術Aは,埋込み型医療機器の技術分野において数多くの実際の製品で用いられており,これを甲9発明の東レポートに組み合わせることに阻害要因はない。
以上によれば,甲9発明に周知技術Aを適用することを認めた本件審決の認定は正当である。
(イ) 原告は,本件発明1の「相関」とは,添付文書に記載された情報に基づいて,「識別可能な特徴」に, 「自動注入可能」であることを示すものとしての意味が直接的に付与されていることが必要であり,医師等は添付文書などに基づいて,その「識別可能な特徴」の意味を理解できることを要するから,仮に甲9発明又は甲9’発明に周知技術Aを組み合わせたとしても, 「自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関があり」との構成を想到することはできない旨主張する。
しかし,本件明細書【0015】は,本件発明が開示するアクセスポートが有する「識別可能な特徴」に言及し,特徴と相関する情報を並列的に列挙した上で,識別可能な特徴から相関を介して情報に到達する旨を説明するものであり, 「自動注射可能である前記アクセスポート」だけを切り離して独立の意義を持たせているものではないから,原告の主張は,その前提において誤りである上,原告の出願経過における主張とも矛盾する。
「識別可能な特徴」 は, 「ポートの型式」等を含み,また, 「識別可能な特徴」は, 「区別可能な情報」と直接又は間接に「相関」していれば足りるから,原告の主張は理由がない。
3 取消事由3(本件発明2ないし6の進歩性判断の誤り)について〔原告の主張〕 本件発明2ないし6は,本件発明1の全ての発明特定事項を含むものであるから,本件発明1が進歩性を有する以上,本件発明2ないし6も進歩性を有する。
〔被告らの主張〕 本件発明1が進歩性を有するものではない以上,本件発明2ないし6も進歩性を有するものではない。
当裁判所の判断
1 本件各発明について (1) 本件明細書の記載 本件各発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある(下記記載中に引用する図1A,1Bは,別紙本件明細書図面目録参照。。
) ア 背景技術【0003】アクセスポートは,外科手術を利用することなく,身体の遠隔領域に物質を繰り返し送出するための便利な方法を提供する。ポートは,身体内に(すなわち,皮下に)全体として埋め込まれることができ,薬剤,点滴製剤,血液製剤または他の流体の輸液を可能にすることができる。加えて,前記ポートは,血液採取のために用いられることもまたできる。
【0004】典型的なポートは,典型的に,ハウジングアセンブリ,隔膜および吐出口を含む。前記ハウジングアセンブリおよび隔膜は,この隔膜を通じてアクセス可能である容器を画定する。前記ハウジングの吐出口は,静脈(血管)にアクセスするカテーテルと連通させることができる。このようにして,前記カテーテルは,前記ポートから身体の遠隔位置,例えば上大静脈まで流体を送出するために使用する ことができる。
【0005】通常の実施では,ポートは身体内に埋め込まれ,カテーテルは,流体が送出されることが望まれる遠隔領域まで経路が定められる。前記流体を送出するために,介護人は,患者の皮膚の触診によって,前記ポートの隔膜の位置を確認する。ポートアクセスは,前記ポートの隔膜を通じて,前記容器内に,針,典型的には,ノンコアリング針を皮下に挿入する針によって達成される。薬物または他の有益な物質のような流体は,その後,前記容器内にボーラス注入法または連続輸液によって投与されることができる。このようにして,前記流体は,前記容器を通じてカテーテル内に流れることができ,最終的には,前記流体が望まれる部位へ流れることができる。
イ 発明が解決しようとする課題【0007】一般に,異なる製造業者または型式の従来のアクセスポートは,典型的に,互いに対して区別することができない実質的に同様の外形を示すことができる。従って,一度アクセスポートが埋め込まれると,前記アクセスポートの型式,様式またはデザインを見つけ出すのが難しくなるかもしれない。特に,前記埋め込まれたアクセスポートの識別が,別の方法で見つけ出すのが難しい場合には,そのような不確実性は,他の理由の中で,少なくとも交換タイミングの目的にとって好ましくないかもしれない。
【0008】このようにして,前記アクセスポートの皮下埋め込み後に検知され,または,他の方法で見つけ出すことができる少なくとも1つの識別可能な特徴を設けたアクセスポートを提供することは有利であるだろう。
ウ 課題を解決するための手段 【0009】本開示によって想定される一の態様は,患者への皮下アクセスを提供するためのアクセスポートに関するものである。本発明の一の態様による自動注入可能なアクセスポートは,コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられ,隔膜を保持するよう構成される本体と,皮下埋め込み後,前記自動注入可能なアクセス ポートをX線を介して識別するように構築される,前記アクセスポートの少なくとも1つの,前記自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の,識別可能な特徴とを具え,前記自動注入可能なアクセスポートは,機械的補助によって注入され,かつ加圧されることができ,前記隔膜は,前記本体内に画定された空洞内に,前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜である。
【0011】本開示のさらなる態様は,患者への皮下アクセスを提供するためのアクセスポートに関するものである。特に,そのようなアクセスポートは,隔膜を保持するよう構成される本体を具えることができ,前記隔膜は,本体内に画定された空洞内に,前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜である。さらに,前記アクセスポートは,皮下埋め込み後,自動注入可能なように前記アクセスポートを識別するように構築された少なくとも1つの特徴を具えることができる。
エ 発明を実施するための形態 【0013】本開示は,概して,皮下アクセスに関するものであり,より具体的には,皮下アクセスに関連する方法および装置に関するものである。一般に,本開示は,皮下埋め込み用アクセスポートに関するものである。一の実施形態では,アクセスポートは,医師または他の医療関係者が,患者の身体の内部に対して長期にわたる皮下アクセスを得ることを可能にすることができる。皮下アクセスアクセスポートを使用することは,患者の肌や外部環境からの, (患者の身体の内部へ拡がる)流体接続を抑制することによって,感染の機会を減少させることができる。前記アクセス装置は,肌に刺すための針を必要とすることなく,患者の内部へのアクセスを可能にする。さらに,カテーテルやバルブのような内部構成部品は,外科的処置なしで交換することができる。本開示の種々の特徴または態様は,限定されることなく,患者への皮下アクセス用のそのようなあらゆるポートに適用することができる。前記アクセスポートは, (例えば,針を含む注射器を介して)手で注入されることができ,または,機械的補助(例えば,いわゆる自動注入可能ポート)によって注 入され,かつ加圧されることができる。
【0014】自動注入可能ポートは,他のプロセスの中でも,例えば,コンピュータ断層撮影(「CT」)走査プロセスにおいて使用することができる。より具体的には,いわゆる「自動注入器」システムは,末梢的に挿入された静脈(IV)ラインに造影剤を注入するために使用することができる。… 【0015】より具体的には,本開示は,前記アクセスポートを識別するための,少なくとも1つの知覚可能または識別可能な特徴を有するアクセスポートに関するものであり,識別可能な特徴は,前記アクセスポートが患者の中に埋め込まれた後に知覚可能である。例えば,本開示によって想定されるアクセスポートの少なくとも1つ,またはことによると複数の識別可能な特徴は,前記アクセスポートに関連する情報(,例えば製造業者の型式またはデザイン)と相関関係を有することができる。このように,特定型式のアクセスポートからの識別可能な特徴は,異なる型式またはデザインの,別のアクセスポートの他の識別可能な特徴の,すべてではないにしても大部分に関して唯一のものである。もちろん,本開示によって想定されるアクセスポートの少なくとも1つの識別可能な特徴は,さらに,ポートの型式,カテーテルの型式,製造年月日,材料ロット,部品番号,などのようなに関心のあるいずれかの情報と相関関係を有することができる。1つの実施例では,アクセスポートの少なくとも1つの識別可能な特徴は,自動注射可能である前記アクセスポートと相関関係を有することができる。この方法では,アクセスポートの少なくとも1つの識別可能な特徴が,ひとたび観察され,または別の方法で決定されると,アクセスポートのそのような少なくとも1つの特徴の相関関係を達成することができ,そして,前記アクセスポートに関連する情報を得ることができる。
【0016】一実施形態では,少なくとも1つの特徴は,触診(,すなわち触ることによって診察すること)によって,他の物理的相互作用を経由して,または,目視観察によって知覚することができる。したがって,関係者は,前記アクセスポートの少なくとも1つの識別する特性を知覚するため,肌を通して,前記アクセスポー トに触れるか,または感じることができる。別の実施形態では,少なくとも1つの識別可能な特徴は,X線または超音波の画像化を通じて知覚することができる。さらなる実施形態では,少なくとも1つの識別可能な特徴は,磁気エネルギー,光エネルギーまたは電波エネルギーを通じて,前記アクセスポートとの相互作用または通信を知覚することができる。
【0017】ここで,少なくとも1つの特徴が,触診,他の物理的相互作用,または,目視観察によって知覚できる前記実施形態を考えると,本開示によって想定されるアクセスポートのトポグラフィまたは外面特徴は,知覚のために形成されることができる。例えば,図1Aおよび図1Bに言及すると,本開示によって想定される典型的なアクセスポートが示されている。図1Aおよび図1Bは,それぞれ,患者の身体への,皮下アクセス,または別の方法で体内アクセスを可能にするためのアクセスポート10の,斜視図および概略側面断面図を示す。アクセスポート10は,1個のキャップ14と1個のベース16によって画定されたハウジングまたは本体20を含む。キャップ14およびベース16は,技術的に知られているように,その間で隔膜18を保持するために構成することができる。図1Aに示すように,キャップ14およびベース16は,噛み合いライン(mating line)15に沿って,互いに噛み合い係合することができる。キャップ14およびベース16は,ねじのような機械的締結具または他の締結装置によって互いに固定または取り付けても,互いに接着固定してもよく,あるいは,技術的に知られているように互いに固着してもよい。さらに,キャップ14,ベース16および隔膜18は,集合して,吐出ステム31の内腔29と流体連通している空洞36を画定することができる。
【0018】患者7内の皮下に空洞36を配置するために,図1Bに示すように,前記本体20を前記患者7内に埋め込むことができる。また,縫合開口66(図1A)は,必要に応じて,患者7内に前記アクセスポート10を固着するために用いられることができる。前記本体20が患者7内に埋め込まれた後,前記隔膜18の上面は,患者7の皮膚6の表面と実質的に同一平面であることができ,また,患者 の皮膚の外側から前記空洞36内に経皮通路を作り出すために,繰り返して孔をあけることができる。前記吐出ステム31は,前記空洞36から,前記吐出ステム31を通り,また,患者7の体内に,流体連通通路を作り出すことができる。カテーテルは,前記空洞36との流体連通のための,また,前記空洞36からの流体を,空洞36から所望の離れた位置であってかつ患者7内に移送するための吐出ステム31に連結することができる。
【0020】本開示によると,アクセスポート10は,少なくとも1つの識別可能な特徴を示す本体20を具えることができる。より詳細には,図1Aに示すように,本体20が,部分的な略ピラミッド状の形状(すなわち,別名,切頭体として知られる,共通の頂点へ向かって延びる多角形の各サイドに対する表面を有する多角形のベース部)を示すことができる。一般に,アクセスポート10の本体20は,基準面11に位置決めされる略四辺形形状の下側ベースと,基準面9に位置決めされる略四辺形形状の上側ベースとの間で延在する,部分的なピラミッド状の形状を示すことができる。明確さのため,基準面9および基準面11は,図2〜図21には示さないであろう。しかしながら,ここで用いられるように,図2〜図21に関する基準面9または基準面11への言及は,図1Aおよび図1Bに示されるように,基準面9および基準面11に類似する対応基準面のことを指すであろう。
【0021】図1Aに示されるように,アクセスポート10の外面は,複数の丸角部(radiuses)32によって互いに接続される,実質上平面的な4つの側面50によって,実質的に画定される。加えて,アクセスポート10の上側外形部61は,面取り部46Aおよび46Bと結合している上面60によって画定され,かつ,隔膜18の上面によってさらに画定される。さらに説明すると,上側外形部61の外周は,4つのサイド領域54によって形成され,かつ,これらサイド領域54に隣接する4つの丸くしたコーナー領域30を有する,略四辺形の外面として描写することができる。そのような形態は,触診によって知覚されることができる少なくとも1つの特徴を有するアクセスポートを提供することができる。
【0046】本開示によって想定されるアクセスポートの少なくとも1つの特徴が,視覚的にまたは触診によって観察することができず,むしろ,それ以外の方法で観察することが可能であることもまた本開示に含まれる。たとえば,本開示は,アクセスポートの少なくとも1つの特徴が,X線または超音波のような撮像技術との相互作用を通じて観察されることが可能であることは,本開示に含まれる。たとえば,一実施形態において,金属的な特徴(例えば,プレートまたは他の金属形状)は,本開示によって想定されるアクセスポートによって含まれることができる。理解できるように,そのような金属的な特徴は,X線感光フィルムを,前記アクセスポートを通過するX線エネルギーに曝すと同時に,X線エネルギーへの前記アクセスポートの露出によって生じるX線で示されることができる。さらに,本開示は,アクセスポートの金属的な特徴のサイズ,形状,またはサイズと形状の両方が,アクセスポートの識別を向上させるために構成されることを含める。例えば,金属的な特徴が金属プレートを有すると仮定すると,サイズ,形状,またはこれらの両方がアクセスポートの識別のため選択的に調整される。… (2) 前記(1)によれば,本件発明の特徴は,次のとおりである。
従来のアクセスポートは,異なる製造業者又は型式であっても,互いに区別することができない実質的に同様の外形を有することがあり,一度アクセスポートが埋め込まれると,アクセスポートの型式,様式又はデザインを見つけ出すのが難しくなり,交換タイミング等の目的にとって好ましくないという問題があったことから,皮下埋め込み後に検知される,少なくとも1つの識別可能な特徴を設けたアクセスポートを提供することは有利であった。【0007】【0008】 ( , ) そこで,本件発明は,@コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられ,隔膜を保持するよう構成される本体と,A皮下埋め込み後,自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構築される,アクセスポートの少なくとも1つの,自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の,識別可能な特徴とを備え,B機械 的補助によって注入され,かつ加圧されることができ,C隔膜は,本体内に画定された空洞内に,前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜である,自動注入可能なアクセスポートを提供するものである。【0009】 ( ) 2 取消事由1(サポート要件についての判断の誤り)について (1) 特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2) 発明の詳細な説明に記載された発明であること 前記1(1)によれば,本件明細書には,「課題を解決するための手段」として,「本発明の一の態様による自動注入可能なアクセスポートは,コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられ,隔膜を保持するよう構成される本体と,皮下埋め込み後,前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構築される,前記アクセスポートの少なくとも1つの,前記自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の,識別可能な特徴とを具え,前記自動注入可能なアクセスポートは,機械的補助によって注入され,かつ加圧されることができ,前記隔膜は,前記本体内に画定された空洞内に,前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜である。」(【0009】)との記載があることに加え,アクセスポートは,機械的補助(自動注入可能ポート)によって注入され,かつ加圧されることができること 【0013】, ( )自動注入可能ポートは,コンピュータ断層撮影(「CT」)走査プロセスにおいて使用することができること(【0014】,典型的なアクセスポート10は,キャップ )14とベース16の間で隔膜18を保持するために構成することができ,これらが集合して,本体20に吐出ステム31の内腔29と流体連通している空洞36を画 定することができること(【0017】【0018】 , ,図1A,図1B),識別可能な特徴は,アクセスポートが患者の中に埋め込まれた後に知覚可能であり,自動注射可能であるアクセスポートと相関関係を有することができること(【0015】,識 )別可能な特徴は,金属プレートのサイズや形状等,X線の画像化を通じて知覚することができるものでもよいこと(【0016】【0046】 , )が記載されている。
これらの記載によれば,特許請求の範囲請求項1に記載された本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるといえる。
(3) 当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであること 前記1(1)のとおり,本件明細書の「発明が解決しようとする課題」には,従来のアクセスポートは,異なる製造業者または型式であっても,互いに区別することができない実質的に同様の外形を有することがあり,一度アクセスポートが埋め込まれると,アクセスポートの型式,様式またはデザインを見つけ出すのが難しくなり,交換タイミング等の目的にとって好ましくないという問題があり(【0007】,皮 )下埋め込み後に検知される,少なくとも1つの識別可能な特徴を設けたアクセスポートを提供することは有利であること(【0008】)の記載がある。
また, 「課題を解決するための手段」には,アクセスポートは, (例えば,針を含む注射器を介して)手で注入されることができ,または,機械的補助(例えば,いわゆる自動注入可能ポート)によって注入され,かつ加圧されることができること(【0013】【0014】,アクセスポートの識別可能な特徴は,アクセスポートに関 , )連する情報(例えば製造業者の型式またはデザイン)と相関関係を有することができ,自動注射可能であるアクセスポートと相関関係を有することができること(【0015】)の記載がある。
以上の記載によれば,本件発明1の課題は,自動注入可能なアクセスポートを埋め込んだ後に,そのアクセスポートが自動注入可能なアクセスポートであるのかを識別可能とすることであると認められ,その課題の解決手段として, 「皮下埋め込み後,前記自動注入可能なアクセスポートをX線を介して識別するように構築される, 前記アクセスポートの少なくとも1つの,前記自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の,識別可能な特徴」を備えるようにしたものであることが認められる。
そして,本件明細書には, 「識別可能な特徴」に関し,触診又は目視観察によって知覚することができるもののほか,プレート又は他の金属形状の金属的な特徴のようにX線の画像化を通じて知覚できるものでもよく,その金属的特徴は,X線感光フィルムを,アクセスポートを通過するX線エネルギーに曝すと同時に,X線エネルギーへのアクセスポートの露出によって生じるX線で示されること 【0016】 ( ,【0046】,識別可能な特徴が,ひとたび観察され,または別の方法で決定され )ると,アクセスポートのそのような少なくとも1つの特徴の相関関係を達成することができ,アクセスポートに関連する情報を得ることができること(【0015】)の記載がある。
これらの記載に接した当業者は,本件発明1の「識別可能な特徴」を採用したアクセスポートは,X線に曝すことで「識別可能な特徴」が知覚でき,これにより「自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報」との相関関係を達成し, 「自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報」を得ることができ,その結果,皮下埋め込み後に自動注入可能と識別できるものであることを認識することができるというべきである。
よって,特許請求の範囲請求項1に記載された本件発明1は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載により,当業者が本件発明1の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
(4) 被告らの主張について 被告らは,本件明細書には, 「X線で可視の,識別可能な特徴」と「自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報」をどのように「相関」させるかという点について記載も示唆もないから,本件発明1はサポート要件を欠いていると主張する。
しかし,本件明細書には, 「識別可能な特徴は,前記アクセスポートに関連する情報…と相関関係を有することができる」ものであり, 「アクセスポートからの識別可能な特徴は,異なる型式またはデザインの,別のアクセスポートの他の識別可能な特徴の,すべてではないにしても大部分に関して唯一のものである」【0015】 ( )との記載があり,触診によって知覚される識別可能な特徴の例として,本体を部分的な略ピラミッド状の形状とすること 【0020】 ( , 【0021】 図1A, , 図1B),X線の画像化を通じて知覚することができる識別可能な特徴の例として,アクセスポートの金属的な特徴のサイズ,形状,又はサイズと形状の両方が,アクセスポートの識別のため選択的に調整されること(【0046】)が記載されている。
これらの記載によれば, 「識別可能な特徴」を,当該アクセスポートに固有の形状やサイズにすることによりアクセスポートを特定可能にし,もって, 「アクセスポートに関連する情報…と相関関係を有することができる」ようにすることが開示されている。そして,本件発明1の「自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報」は, 「アクセスポートに関連する情報」であるから,上記記載は, 「自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報」と「X線で可視の,識別可能な特徴」との「相関」の具体的態様の1つとして理解することができるというべきである。
よって,被告らの主張を採用することはできない。
(5) 小括 以上によれば,本件発明1にサポート要件違反はなく,原告主張の取消事由1は理由がある。
もっとも,サポート要件の適合性判断に誤りがあっても,本件審決の判断した他の無効理由に理由があれば本件審決の結論に影響を及ぼすとはいえないから,以下,その余の取消事由について,さらに検討を加える。
3 取消事由2(本件発明1の進歩性判断の誤り)について (1) 引用例1に記載された発明 ア 引用例1には,以下の記載がある(下記文中の表1及び表2については別紙引用例1図表目録参照)。
(ア) 目的(27頁左下欄1行〜右下欄3行) 在宅での抗癌剤療法・中心静脈栄養目的に,埋没型中心静脈カテーテル法(CVリザーバー)が広く普及している。静脈確保の目的で留置されることもあり,これらの症例では造影CTに際し,CVリザーバーからの造影剤注入を行わざるを得ない場合も経験される。
しかし,ポート単独やカテーテル単独の耐圧能は,各社の添付文書に記載されているものの,カテーテルとポートを一体としたシステムとしての評価はほとんど検討されていない。そこで,今回われわれは,鎖骨下静脈に留置されたCVリザーバーが,造影剤投与経路として破損を来さず使用可能か,耐圧能に関しての検討を行ったので報告する。
(イ) 方法(27頁右下欄4行〜28頁左上欄9行) 使用器材は,自動注入器(オートエンハンス A-50;根本杏林堂),エクステンションチューブ(インジェクター用エクステンションチューブ LX1 100cm ;TOP) 注射針 , (コアレスニードル側管なし20G・22G;ニプロ)であった。また,実験に使用したポート,カテーテルを Table1(判決注:表1)に示す。
実験系としては,生理的食塩水を満たした容器に,長さ20cm のカテーテル先端を浸し(Fig.1) その状態で自動注入器を用いてヨード濃度300mgI/ml のイオパミ ,ドール(イオパミロン300シリンジ;日本シェーリング)を,実際の造影と同じ条件(1.5ml/sec,3.0ml/sec,5.0ml/sec)で注入した。
それぞれの注入速度での注入圧は,自動注入器の圧モニタ上で圧が一定になったところで測定し,3回の計測の平均値を用いた。観察項目としては,カテーテル破損・ポート破損・カテーテル逸脱とした。
さらに,穿刺針の太さ,カテーテルの長さを変化させて同様に注入圧を測定した。
圧リミットは,通常イオパミロンシリンジ添付文書推奨の実測注入圧10kg/cm2 以下に設定してあるが,今回の実験では15kg/cm2 以下に設定した。
(ウ) 結果(28頁左欄10行〜右欄末行) 各注入速度と注入圧,システムの状況を Table2(判決注:表2)に示す。
1. 注入速度1.5ml/sec 22Gのヒューバー針およびエクステンションチューブを用いた場合,注入圧は6.3±1.83kg/cm2 (平均6.3kg/cm2) 20Gのヒューバー針を用いた場合, ,注入圧は4.7±1.45(平均4.7kg/cm2)であった。いずれもシステムの破損は認められなかった。
2.注入速度3.0ml/sec 22Gのヒューバー針およびエクステンションチューブを用いた場合,注入圧は13.3±1.09(平均13.3kg/cm2),20Gのヒューバー針を用いた場合,注入圧は10.6±4.13(平均10.6kg/cm2)であった。いずれもシステムの破損は認められなかった。
アークポート,クリニーリザーバーシステムでは,注入圧リミット15kg/cm2 で圧力制限がかかった。システムの破損は認めなかった。
3.注入速度5.0ml/sec 今回用いた8種類の組み合わせのいずれにおいても注入圧リミット15kg/cm2 で圧力制限がかかったが,システムの破損は認められなかった。
(エ) 考察 a CVリザーバーの普及に伴い,末梢静脈確保が困難な症例にも適応が拡大されるようになってきた。しかし,このような症例で造影CTを行う場合には,留置反対側末梢静脈を確保して行ってきた経緯がある。CVリザーバーからの投与ができれば,患者QOL向上に寄与すると考えられるが,システム破損を来すおそれがぬぐい去れず,使用してこなかったのが現状であろう。
ポート単独やカテーテル単独の耐圧能は,各社の添付文書に記載されているが, CVリザーバーシステムとしての評価は,ポートとカテーテルのマッチングも含めて,いまだ確立されていない。そこで今回,鎖骨下静脈に留置されたCVリザーバーが,造影剤投与経路としてシステムの破損を起こすことなく使用可能かどうか,複数の造影条件で注入実測圧を測定するとともに,システム破損の可能性についても評価を行った。(以上,29頁左欄13行〜27行) b 今回の実験回路では,…日常診療の場での簡便なモニタリングとしてインジェクターの圧モニタを用いた。また,静脈系を想定した場合,…カテーテル先端を開放系のまま生理食塩水内に浸すことで生理的状態に近くなると考えた。
John らは,カテーテル接合部にかかる注入時の圧力は,カテーテルを接続した場合の注入圧と,接続しなかった場合の引き算により求めることができると述べている。そこで今回の実験では,システム全体の注入圧から,ヒューバー針20Gと延長チューブのみ接続し注入した際の圧力を引き算することで,ポート内とカテーテルにかかる圧を計算上求めた。ヒューバー針20Gと延長チューブのみ接続し1.5ml/sec で注入した場合,3.3kg/cm2 という結果を得たことから,ヒューバー針より末梢では1.5〜2.3kg/cm2 の圧がかかっている計算となるが,この値は,ポートメーカー各社の添付文書に記載されている耐圧性能20〜42.7psi(1.4〜3kg/cm2)以下の値であった。
今回の検討からは,実際の注入に際して,ヨード濃度300mgI/ml のイオパミドール(イオパミロン300シリンジ;日本シェーリング)を用いた場合,CVリザーバーから,ヒューバー針20G側管なしを用い3.0ml/sec で注入可能であると考えられた。ヒューバー針22Gも使用可能ではあるが,システム全体の注入圧が上昇するため安全に注入できる速度としては1.5ml/sec 程度が適切であると考えられた。(以上,29頁左欄35行〜右欄28行) c 今回の実験回路では,完全な生理的な条件とは異なり,かつポートも劣化の全くない状態での評価であった。したがって,臨床例に完全に適応できる結果かどうかは,今後の症例の積み重ねが必要であるが,CVリザーバーからの造影の一つ の目安として,注入量1.5ml/sec 程度であればシステムの破損を来すことなく安全に行え,20Gを用いることで3.0ml/sec で注入することも可能であると考えられた。(以上,29頁右欄下から2行〜30頁左欄6行) (オ) まとめ(30頁左欄7行〜15行) 鎖骨下静脈に留置されたCVリザーバーが,造影剤投与経路として破損を来さず使用可能か,耐圧能に関しての検討を行った。21G穿刺針を用いた場合には注入量1.5ml/sec,20G穿刺針を用いると3.0ml/sec の注入程度であれば,CVリザーバーからの造影はシステムの破損を来すことなく安全に行えるものと考えられた。今後はカテーテルとポートのマッチングを含め,耐圧能の評価,耐久性の各社での評価が望まれる。
イ 以上によれば,引用例1には,次の事項が開示されている。
在宅での抗癌剤療法・中心静脈栄養目的にCVリザーバーが広く普及している。
静脈確保の目的で留置されることもあり,これらの症例では造影CTに際し,CVリザーバーからの造影剤注入を行わざるを得ない場合も経験される。しかし,ポート単独やカテーテル単独の耐圧能は,各社の添付文書に記載されているが,CVリザーバーシステムとしての評価は,ポートとカテーテルのマッチングも含めていまだ確立されていない。そこで,鎖骨下静脈に留置されたCVリザーバーが,造影剤投与経路としてシステムの破損を起こすことなく使用可能かどうか,複数の造影条件で注入実測圧を測定するとともに,システム破損の可能性についても評価を行った(前記ア(ア),(エ)a)。
使用機材としては,自動注入器(オートエンハンス A-50;根本杏林堂),エクステンションチューブ(インジェクター用エクステンションチューブ LX1 100cm ;TOP),注射針(コアレスニードル側管なし20G・22G;ニプロ)を用い,使用したポート及びカテーテルは「TORAY」製の「P-UCELSITE PORT(P-U)」を含む8種類である(前記ア(イ)及び表1)。
静脈系を想定した場合,カテーテル先端を開放系のまま生理食塩水内に浸すこと で生理的状態に近くなると考え,実験系としては,生理的食塩水を満たした容器に,長さ20cm のカテーテル先端を浸し,その状態で自動注入器を用いてヨード濃度300mgI/ml のイオパミドールを,実際の造影と同じ条件(1.5ml/sec,3.0ml/sec,5.0ml/sec)で注入した(前記ア(イ),(エ)b)。
実験の結果,東レポートを含む8種類のポート及びカテーテルの組み合わせ全てについてシステムの破損はみられず,注入速度1.5ml/sec でヒューバー針20Gを用いた場合にポート内及びカテーテルにかかる圧力を計算したところ,ポートメーカー各社の添付文書に記載されている耐圧性能以下の値であった。臨床例に完全に適応できる結果かどうかは,今後の症例の積み重ねが必要であるが,CVリザーバーからの造影の一つの目安として,注入量1.5ml/sec 程度であればシステムの破損を来すことなく安全に行えると考えられる(前記ア(ウ),(エ)b, (オ), c, 表2)。
ウ 以上の記載によれば,東レポートは,@静脈確保の目的で患者に留置されるCVリザーバー(アクセスポート)であり,A静脈系を想定した生理食塩水内へカテーテル先端を浸し,自動注入器を用いて実際の造影と同じ条件で造影剤(イオパミドール)を注入したところ,システムの破損は見られず,B注入量1.5ml/sec 程度であれば,造影CTの造影剤投与経路として使用され得るものであることが理解できる。
そうすると,引用例1には「造影CTに用いられる,患者への皮下アクセスを提供するためのアクセスポートであり,自動注入器による機械的補助によって造影剤を注入され,かつ加圧されることが可能な東レポート 」 (以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
エ 当事者の主張について (ア) 被告らの主張について 被告らは,引用例1に記載された東レポートという発明の構成の内容を理解するために,東レポートの添付文書である引用例2を参照することは許容され,本件審決が引用例1と引用例2の2つから甲9発明を認定したことに,誤りはないと主張 する。
しかし, 「刊行物に記載された発明」 (特許法29条1項3号)の認定に当たり,特定の刊行物の記載事項とこれとは別個独立の刊行物の記載事項を組み合わせて認定することは,新規性の判断に進歩性の判断を持ち込むことに等しく,新規性進歩性とを分けて判断する構造を採用している特許法の趣旨に反し,原則として許されないというべきである。
よって,東レポートを用いた耐圧性能に関する実験結果を記載した論文である引用例1と,これと作成者も作成年月日も異なる,東レポートの仕様や使用条件を記載した添付文書である引用例2の記載から,甲9発明を認定することはできない。
そして,引用例1には,東レポートの具体的な構成についての記載はなく,東レポートの具体的な構成が本件出願の優先日時点において技術常識であったとまでは認められないから,甲9発明が,引用例1に実質的に開示されているということもできない。
よって,被告らの上記主張は採用できない。
(イ) 原告の主張について 原告は,引用例1に開示されているのは,特定の条件下での実験結果にすぎず,臨床に完全に適応できるかは留保が付されているから, 「自動注入器による機械的補助によって造影剤を注入し,かつ加圧されることが可能」であるとの構成は開示されていない旨主張する。
しかし,引用例1には,東レポートが「自動注入器による機械的補助によってヨード濃度300mgI/ml のイオパミドールを,最大加圧15kg/cm2 を限度として,1.5ml/sec,3.0ml/sec,5.0ml/sec の各注入速度で注入する実験のいずれにおいても破損が認められなかった」ことが開示されている以上,東レポートが, 「自動注入器による機械的補助によって造影剤を注入し,かつ加圧されることが可能」であることは明らかである。引用例1の「臨床例に完全に適応できる結果かどうかは,今後の症例の積み重ねが必要である」との記載は,東レポートとカテーテルとを組 み合わせたシステムを造影剤の投入経路として臨床に完全に適用するためには症例の積み重ねが必要であることを指摘するものであって,東レポート自体が自動注入器によって造影剤を注入可能であること自体を否定するものではないというべきである。
よって,原告の上記主張は,採用できない。
オ 以上のとおり,本件審決の甲9発明の認定は誤りである。進んで,正しく認定した引用発明に基づいて,本件発明1が容易に想到できるか否かについて判断する。
(2) 本件発明1と引用発明との一致点及び相違点 本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 一致点 コンピュータ断層撮影走査プロセスに用いられる,患者への皮下アクセスを提供するためのアクセスポートであって,自動注入器による機械的補助によって注入され,かつ加圧されることが可能なアクセスポート。
イ 相違点 (ア) 本件発明1と甲9発明との相違点1に同じ。
(イ) 本件発明1は,隔膜を保持するよう構成される本体を具え,前記隔膜は,前記本体内に画定された空洞内に,前記隔膜を通じて針を繰り返し挿入するための隔膜であるのに対し,引用発明は,そのような構成を有しているか不明な点(相違点X)。
(3) 相違点Xの容易想到性 ア 引用例2の記載事項 引用例2の「2002年7月1日作成(新様式第1版)」には,以下の記載がある(「2002年8月1日改訂(第2版), 」「2003年3月1日改訂(第3版), 」「2004年2月1日改訂(第4版), 」「2004年6月23日改訂(第5版)」及び「2005年7月1日改訂(第6版)」にも同様の内容が記載されている。。
) (ア) 1頁上欄 医療用具承認番号20900BZZ00772000号 器具器械 74 医薬品注入器 植込み型医薬品注入器 P-U セルサイトポート(単品タイプ) (イ) 1頁左欄【警告】本品は,アンスロン?P-Uカテーテル専用に設計されています。アンスロン?P-Uカテーテルと接続して下さい。これら以外に接続する場合,ポートとカテーテルが確実に接続されなくなり,カテーテルが外れる等の不具合が生じる場合が有ります。
【禁忌・禁止】 下記の禁忌・禁止事項を遵守すること。
1)再使用禁止。
2)後述する最大注入圧力以上の加圧はしないこと。… 【併用禁忌】 ポート穿刺にあたっては,ノンコアリングニードル以外は,使用しないこと。ノンコアリングニードル以外の穿刺針を使用すると,セブタムの耐久性を著しく低下させる恐れがある。
(ウ) 1頁右欄 ■製品スペック 1)ポート (別紙引用例2図表目録の表) 2)ノンコアリングニードル 22G×30o(ストレート) 【性能,使用目的,効能又は効果】 本品は,皮下埋込型カテーテルアクセスシステムとして,体内に設置され,経皮的に血管内に薬液を投与することを目的とする。
(エ) 2頁左欄 ■ポートの埋込 D22Gのノンコアリングニードルと注射筒を用いて生理食塩液を注入し,カテーテル閉塞,液漏れ等のないことを確認します。必要に応じて,カテーテル先端の位置を確認します。
(別紙引用例2図表目録の図) (オ) 3頁左欄 【製造業者の名称及び住所等】 ‘TORAY’ 【製造元】 東レ株式会社 イ 上記アのとおり,引用例2には,東レポートが本体と,本体の空洞内に針を繰り返し挿入するための隔膜とを備えることが記載されている。
そして,引用例1に記載された東レポートに,東レポートの添付文書である引用例2の記載事項を組み合わせる動機付けがあり,相違点Xの構成は容易に想到できることは,原告も争っていない。
よって,相違点Xは,引用発明に引用例2の記載事項を組み合わせることにより,容易に想到できるものである。
(4) 相違点1の容易想到性 ア 各文献の記載事項 本件出願の優先日当時の各文献には,次の記載がある(下記記載中の甲11図10,甲12図2-1,2-3,2-4は別紙周知例図面目録のとおり。 。
) (ア) 米国特許第5851221号明細書(甲11)には,@予め形成されたヘッダモジュール12を機密封止筐体14に取り付けて製造される埋め込み型の医療機器において,ヘッダモジュール12のハウジング20がX線不透過性のIDプレート60を備えること(第8欄23行〜34行,図10) A埋め込み型医療機器には, ,埋め込み可能な薬剤供給装置,IPG(心臓ペースメーカ,ペースメーカ‐心臓除 細動器,神経,筋肉及び神経刺激器,心筋刺激器など),埋め込み型心臓信号モニタ及びレコーダなどが含まれること(第6欄39行〜54行)が開示されている。
(イ) IsoMedの説明書(甲12)は,肝動脈の注入治療のための臨床のレファレンスガイドであり ,@IsoMed注入システムは,IsoMed定量ポンプと,メドトロニック血管カテーテルを含み,化学療法用薬剤の肝動脈注入に使用する場合,まずカテーテルをポンプに接続し,ポンプは腹部の皮下腔に配置し,カテーテルは腹壁内にくぐらせその端部は胃十二指腸動脈等に配置すること(2-2頁1行〜8行,図2-1),AIsoMed定量ポンプは,化学療法薬剤またはヘパリン化液剤を貯蔵するリザーバーと,セルフシーリング隔膜を有し,リフィル針によりリザーバーにアクセス可能なセンターリザーバフィルポートとを備えること(2-3頁14行〜18行,2-4頁1行〜6行,図2-3),BIsoMed定量ポンプはさらに,X線識別タグ等を備え,X線識別タグは,メドトロニック識別子,ポンプの型番,リザーバーの体積及び流量を記録していること(2-4頁10行〜14行,図2-4)が開示されている。
(ウ) Robert M. Steiner ほか「心臓ペースメーカの放射線学(The radiology of cardiac pacemakers)」と題する論文(RadioGraphics,Vol.6,No.3,p373-399。乙1)には,ジェネレーターのX線画像は,ペースメーカの製造業者,タイプ及び作用機序を識別するために有用であるが,何十もの製造業者が何百ものモデルを製造しており,流通している全てのペースメーカに精通している医師はいないため,製造業者から通常提供される,X線画像上の外観やX線不透過性コードを示す参照チャートが利用可能であることが開示されている(379頁)。
(エ) Sergio L. Pinski ほか「植込み型除細動器:非電気生理学者への影響(Implantable Cardioverter-Defibrillators: Implications for the Nonelectrophysiologist)」と題する論文(Annals of Internal Medicine Vol.122, No.10,p770-777。乙2)には,全ての製造業者の植込み型除細動器は,X線不透過性の識別子を有するので,緊急時にはX線を透過させることによりデバイスの識別が可能になることが 開示されている(771頁左欄14行〜26行)。
(オ) John L. Atlee ほか「心調律管理装置(第2部) (Cardiac Rhythm Management Devices (Part II) Perioperative Management)」と題する論文(Anesthesiology, Vol.95,No.6,p1492-1506。乙3)には,既存のほとんどのペースメーカ及びICD には,これらのデバイスが埋め込まれている領域の胸部X線写真をみれば,デバイスの製造業者及びモデルが識別できる固有のX線不透過性コード(X線又はX線画像上の署名)が刻印されていることが開示されている(1502頁左欄11行〜右欄15行)。
(カ) 米国特許第4863470号明細書(甲14)には,@乳房用,ペニス,膀胱,失禁用装置等のインプラントは,体内への埋め込み前及び後の両方において容易に識別可能であると好都合であること(第1欄14行〜35行),A皮下移植用のインプラントについて,X線不透過性の識別マーカーを囲むX線透過部を含むようにすることで,識別マーカーは埋め込み前において視認可能であるとともに,埋め込み後はX線撮影によって判読可能であること(第1欄49行〜57行),B識別マーカーは,インプラントのサイズのほか,製造業者,製造年,種類等を示すことができること(第2欄30行〜46行)が開示されている。
周知技術の認定 (ア) 上記アの記載事項によれば,本件優先日当時,心臓用の医療装置(甲11,乙1〜3),皮下埋込型の薬液注入装置(甲12),人工乳房(甲14)等の,人体に埋め込まれて使用される医療機器において,人体に埋め込まれた後に当該装置を特定する情報を含むX線不透過性の識別子,すなわち,X線で可視の識別可能な特徴を備えることは,既に臨床レベルで採用された,周知の技術であったと認められる。
(イ) 原告の主張について 原告は,甲11,甲12の各文献に記載されたわずか2件の発明を根拠に,人体に埋め込まれて使用される医療機器一般について,X線で可視な特徴を備えることが周知技術と認定することはできず,また,乙1〜3,甲14の各文献の記載を考 慮したとしても,これらに開示されているのは,人体に埋め込まれて使用される心臓用医療機器であるから,アクセスポートを含む皮膚埋込型の医療機器全般における周知技術を認定することはできないと主張する。
しかし,装置の型番を示すX線で可視な特徴を備えることは,心臓用医療機器のみならず,人工乳房,肝動脈に抗がん剤を投入するポンプなど,人体に埋め込まれて使用される多様な医療装置において行われていたことは,上記アのとおりである。
そして,甲12には,化学療法用薬剤の肝動脈注入ポンプを腹部の皮下腔に配置し,体外から薬剤を注入することが記載されていること,甲11には,X線で可視な特徴としてX線不透過性のIDプレート60を備える医療機器の例として,心臓ペースメーカ,植込み型除細動器などのほかに薬剤供給装置が挙げられており,薬剤供給の用途が示唆されていることに照らすなら,装置の型番を示すX線で可視な特徴を備えることは,アクセスポートを含む皮膚埋込型の医療機器においても,周知技術であったと認められ,原告の上記主張は採用できない。
容易想到性の判断 (ア) 引用発明は,造影CTにおいて,造影剤を注入するために用いられる皮下埋込型のアクセスポートであって,人体に埋め込まれて使用される医療機器の分野における上記イの周知技術同一の技術分野に属している。また,引用発明に上記周知技術を適用することについて,阻害要因があることは認められない。そうすると,引用発明に上記周知技術を適用し,人体に埋め込まれた後に当該装置を特定する情報を含む,X線で可視の識別可能な特徴を備えるようにすることは,当業者が適宜なし得ることであるというべきである。
そして,引用発明である「自動注入可能なアクセスポート」を特定する情報は,自動注入可能なアクセスポートを自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報である。そうすると,引用発明を特定する情報を含む,X線で可視の識別可能な特徴によって,上記「情報」を識別することができるから,上記識別可能な特徴は, 「前記アクセスポートの少なくとも一つの,前記自動注入可能なアクセ スポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報」と「相関」があるということができる。
よって,引用発明に上記周知技術を適用し,相違点1に係る構成とすることは,当業者が適宜なし得ることである。
(イ) 原告の主張について 原告は,本件発明の「相関」は,添付文書に記載された情報に基づいて, 「識別可能な特徴」に, 「自動注入可能」であることを示すものとしての意味が直接的に付与されていることが必要であり,医師等が添付文書などに基づいて,その「識別可能な特徴」の意味を理解できることを要し,単に「ポートの型式」が示されているだけでは,それ自体に「自動注入可能」かどうかの直接的な意味付けはない以上, 「自動注射可能である前記アクセスポートと相関関係」があるとはいえないから, 「前記自動注入可能なアクセスポートの,自動注入可能に定格されていないアクセスポートと区別可能な情報と相関がありX線で可視の,識別可能な特徴」に該当するとはいえない旨主張する。
しかし,本件発明1の特許請求の範囲には, 「相関」の具体的態様について限定はない上,本件明細書にも, 「相関」について,添付文書に記載された情報に基づいて,「識別可能な特徴」に, 「自動注入可能」であることを示すものとしての意味が直接的に付与されていることが必要であり,医師等が添付文書などに基づいて,その「識別可能な特徴」の意味を理解できることを要することの記載や示唆はない。
そして,本件明細書の「識別可能な特徴が,ひとたび観察され,または別の方法で決定されると,アクセスポートのそのような少なくとも1つの特徴の相関関係を達成することができ,そして,前記アクセスポートに関連する情報を得ることができる」【0015】 ( )との記載によれば, 「識別可能な特徴」と「アクセスポートに関連する情報」との「相関」が達成されると, 「識別可能な特徴」から「アクセスポートに関連する情報を得ることができる」ようになって,そのアクセスポートを特定できるようになることを理解することができるところ,その具体的態様については, 当業者が適宜設定できるものと解される。
よって,原告の上記主張は採用できない。
(5) 小括 以上によれば,本件発明1は,引用発明に,引用例2の記載事項及び周知技術を適用することによって,容易に発明をすることができたものであるから,取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(本件発明2ないし6の進歩性判断の誤り)について 本件発明2ないし6は,いずれも本件発明1の発明特定事項を直接又は間接に引用するものであるところ,相違点1が容易に想到できることは,上記3のとおりである。そして,原告は,相違点2ないし6が容易に想到できたものでないことについて,主張・立証しない。
よって,本件発明2ないし6についても進歩性は認められないから,取消事由3は理由がない。
5 結論 以上によれば,本件審決は結論において相当であり,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 小林康彦
裁判官 関根澄子
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