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関連審決 無効2003-35013
関連ワード アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  慣用技術 /  同一の発明 /  技術常識 /  実質的に同一 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  訂正明細書 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 436号 審決取消請求事件
原告 ミサワホーム株式会社
同訴訟代理人弁理士 土井 清暢
被告 住友林業株式会社
同訴訟代理人弁理士 羽鳥 修
同 岩池 満
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/04/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2003-35013号事件について平成15年8月25日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯(甲1,2,弁論の全趣旨) (1) 原告は,発明の名称を「蔵型収納付き建物」とする特許第2549242号(平成5年5月19日出願。平成8年8月8日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2) 被告は,平成15年1月20日,特許庁に対し,本件特許を無効とすることを求めて審判の請求をし,同請求は無効2003-35013号事件として特許庁に係属した。原告は,同年4月4日,上記事件において本件特許に係る明細書について訂正請求をした。
(3) 特許庁は,上記事件について審理を遂げ,平成15年8月25日,原告の上記訂正請求を認容した(以下,この訂正請求に係る訂正を「本件訂正」という。)上,「特許第2549242号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年9月4日に原告に送達された。
2 本件訂正後の本件特許に係る発明の要旨は,本件訂正後の明細書(以下「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲に記載された,次のとおりのものである(甲2。以下,請求項1ないし3に係る発明をそれぞれ「本件発明1」ないし「本件発明3」という。)。
【請求項1】階数が3階の建物であって,2階を物品の保管,貯蔵のための蔵型収納階とし,該蔵型収納階の天井高さを1.2メートル以上,2.0メートル以下にし,該蔵型収納階を区画して蔵型収納室を設け,該蔵型収納階に至る階段を設け,該階段の踊り場に面して前記蔵型収納室の出入り口を設けたことを特徴とする蔵型収納付き建物。
【請求項2】前記蔵型収納室の主要構造部は防火構造であることを特徴とする 請求項1記載の蔵型収納付き建物。
【請求項3】前記蔵型収納室は防湿構造であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載の蔵型収納付き建物。
3 本件審決の理由の要旨は,次のとおりである(甲1)。
(1) 本件発明1について ア 本件発明1と実願昭63-157505号(実開平2-77242号)のマイクロフィルム(甲3。以下「刊行物1」という。)に記載の発明(以下「引用発明」という。)とを対比すると,両者は,中間層を区画して蔵型収納室を設け,中間層に至る階段を設け,該階段の踊り場に面して前記蔵型収納室の出入り口を設けた蔵型収納付き建物の点で一致し,下記(ア),(イ)の点で相違している。 (ア) 本件発明1は,階数が3階の建物であって,中間層が2階であるのに 対し,引用発明では,中間層が1〜2階の中間と記載されている点(以下「相違点(1)」という。)。 (イ) 蔵型収納階の天井高さを,本件発明1では,1.2メートル以上,2.0メートル以下にしたのに対し,引用発明では,頭のぶつからない程度にした点(以下「相違点(2)」という。)。 イ 相違点(1)について検討する。 「建築大辞典第2版<普及版>」(株式会社彰国社発行 p.232。
乙1)によると,「階」とは「(1)床によって区切られる内部空間の層。(2)建築物の層を数えるのにいう。」と定義されており,また,「床」とは,「空間を水平方向に仕切る建物の部位で,人間や物がその上に乗ったり置かれたりする。」(「建築大辞典<縮刷版>」株式会社彰国社 昭和59年2月10日発行 p.1556。乙2),「天井・壁とともに建物内部空間を構成する普通水平な底。」(「建築用語辞典」株式会社技報堂 昭和48年6月25日発行 p.1039。乙3)と定義されている。そして,当業者の技術常識からみても,引用発明の「多目的スペースを組み込んだ住宅」は,階数が3階の建物であって,多目的スペースを組み込んだ1〜2階の中間である中間層は2階であるということもできる。となると,相違点(1)は,表現が異なるだけで,実質的には相違していないことになる。
ウ 次に,相違点(2)について検討する。 天井高さとして,1.2メートル以上,2.0メートル以下という数字は通常居室の天井高さより低いといえるが,引用発明でも,頭のぶつからない程度にしており,どの程度の天井高さにするかは,設計的事項にすぎない。 (2) 本件発明2について 本件発明2は,本件発明1を引用し,さらに,「前記蔵型収納室の主要構造部は防火構造である」と限定しているが,上記(1)の本件発明1についての検討事項に加えて,蔵型収納室の主要構造部を防火構造とすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得る設計的事項にすぎない。 (3) 本件発明3について 本件発明3は,本件発明1,2のいずれかを引用し,さらに,「前記蔵型収納室は防湿構造である」と限定しているが,上記(1)の本件発明1についての検討事項及び上記(2)の本件発明2についての検討事項に加えて,蔵型収納室を防湿構造とすることは,当業者が必要に応じて適宜なし得る設計的事項にすぎない。 (4) したがって,本件発明1ないし3は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
当事者の主張
(原告の主張する本件審決の取消事由) 本件審決は,本件発明1と引用発明との一致点,相違点の認定を誤り,その結果,本件発明1の進歩性に関する判断を誤り(取消事由1),また,本件発明2,3の進歩性に関する判断を誤った(取消事由2)ものであり,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(本件発明1と引用発明との一致点,相違点認定の誤りと本件発明1の進歩性に関する判断誤り) (1) 本件発明1と引用発明との一致点,相違点認定の誤り ア 本件審決は,引用発明の「多目的スペースを組み込んだ1〜2階の中間」と,本件発明1の「蔵型収納階とした2階」とは,「中間層」で共通するから,両者は,「中間層を区画して蔵型収納室を設け,中間層に至る階段を設け,該階段の踊り場に面して前記蔵型収納室の出入り口を設けた蔵型収納付き建物」の点で一致すると認定したが,次のとおり,この認定は誤りである。
(ア) 本件発明1における「蔵型収納階」は,3階の建物の「2階」を構成するものである。1階及び3階は通常の階であって,居室を設けることを前提としている。そして,本件発明1の「蔵型収納階」は,居室を前提とした1階の上に設けられ,居室とはなり得ないものであって,その高さについては,「意味のある数値(1.2〜2.0m)」により明確に限定されている。すなわち,本件発明1は,居室を設けるベき1階と,収納階専用で,居室を設けることができない2階と,さらに,居室を設けるべき3階とを有する3階建ての建物であり,「蔵型収納階」が,「収納室専用」の「2階」であることを特徴とするものである。
これに対して,刊行物1記載の「多目的スペース」は,通常の2階建ての建物における1階の上部空間に設けられるものであって,1階の構造は,例えば,南側に居室1を有するとともに,その北側には台所,ユーティリティ2,3等を有し,その上方に多目的スペース4を設けたものとされており,台所等と多目的スペース4との合計高さは,南側の居室1の高さと同一であり,通常一般の2階建て建物の1階の高さと変るものでないことは明らかである。刊行物1記載の建物が,通常一般の木造住宅と異なる特別な建物であるとの記載は,刊行物1には,全く見当らない。
刊行物1記載の「多目的スペース」は,「2階」と呼べるものでないから,一般的な2階建ての建物の1階を一部上下に分割して,上方に「多目的スペース」を設けると,下方部分である台所等が通常の居室として利用できないものとなる。
(イ) 上記のとおり,本件発明1における「2階」は,文言どおり1階と3階の間に存在する階であって,確かに「中間層」といえるが,刊行物1記載のものは,2階の床より下の1階の上部空間の一部を区切った「1階空間の一部」であって,「2階」ではないから,「中間層」ということはできないものである。
(ウ) したがって,本件発明1の「蔵型収納階とした2階」と,引用発明の「多目的スペースを組み込んだ1〜2階の中間」とは,「中間層」で共通するとはいえず,本件審決の一致点の認定は誤りである。
イ また,本件発明1と引用発明とは,「中間層」において共通するとはいえないから,相違点(1)(本件発明1は,階数が3階の建物であって,中間層が2階であるのに対し,引用発明では,中間層が1〜2階の中間と記載されている点)を両者の相違点とした認定も誤りであり,また,両者が「中間層」において共通しない以上,「中間層を区画して蔵型収納室を設け」る点で共通するともいえないから,相違点(2)(蔵型収納階の天井高さを,本件発明1では,1.2メートル以上,2.0メートル以下にしたのに対し,引用発明では,頭のぶつからない程度にした点)を両者の相違点とした認定も誤りである。
ウ 本件発明1と引用発明との相違点は,正しくは,本件発明1における「蔵型収納階」は,「階数が3階の建物の2階」であるのに対し,引用発明における「多目的スペース」は,「2階の建物の1階の上部」に設けた点,及び,本件発明1における「蔵型収納階」(引用発明における「多目的スペース」とは異なるものである。)の天井高さは,1.2メートル以上,2.0メートル以下にしているのに対し,引用発明における「多目的スペース」の天井高さは,頭のぶつからない程度にしている点であると認定すべきものである。
(2) 本件発明1の進歩性に関する判断誤り ア 本件審決は,相違点(1)について,表現が異なるだけで,実質的には相違していないことになる旨認定判断したが,そもそも,刊行物1の「多目的スペース」は,「中間層」といえないものであり,上記認定判断は前提において誤りである。
イ(ア) 本件発明1における「蔵型収納階」は「階数が3階の建物の2階」で あるのに対し,引用発明における「多目的スペース」は,「2階の建物の1階の上部」に設けたものであり,両者が,形式的にも実質的にも相違することは上述したとおりである。
すなわち,本件発明1は,通常の意味で,階数が3階であること,その2階を蔵型収納階としたこと,その2階は天井高さが1.2〜2.0メートルであることを必須の構成とするものである。本件発明1においては,一般的な3階建(一般的には各階が同一高さであって階の高さが異なる建物はまれであり,その各階は大方居室又は居室となり得る室が設けられている)と同一視されることがないように,2階の天井高さを1.2〜2.0メートルと限定したものである。
これに対して,刊行物1には,「4は1〜2階の中間に位置する多目的スペース」(8頁7,8行),「住宅の1階部分を立体的に括用する」(11頁8行)と記載されており,さらに,図面の記載をも参照すると,「中間の多目的スペース」が,例えば3階の建物の「2階」に該当しないことは明らかである。刊行物1記載のものは,1階の上部空間に収納室を特設したにすぎないものである。この様なものは中2階と呼ぶことがあるものの,中2階は,例えばスキップフロアー住宅等で周知のものであって,本件発明1のごとき3階建住宅における「2階」とは全く異なるものである。
(イ) 被告は,刊行物1の「多目的スペース」と,本件発明1の「蔵型収納階」とは区別ができない旨主張するが,上述のとおり,両者は,明確に区別されるものである。居住室である1階に設けた「多目的スペース」と,居住室である1階と3階の間に,収納室として専用に設けた「蔵型収納階」が,同一構造のものということはできない。
(ウ) 本件審決は,乙1ないし3の文献に示された定義により,刊行物1の「多目的スペース」が「2階」といえる旨説示する。しかし,この定義が,種々のケースに対して常にあてはまるわけではない。
例えば,上記文献に示された,「階は床によって区切られる層」であり,「床は空間を仕切る部位で物を置かれたりする」ものであるとの定義に従えば,「押入れの中段」,「天袋」,「屋根裏収納」等はすべてこの定義に合致し,「階」であることになるが,これは,当業者の常識に反し,当業者は,これらを「階」であるとは言わない。
本件審決は,一部のケースにおいて妥当するものでしかない用語の定義を,すべてのケースに敷衍して都合良く解釈し,相違点(1)は,実質的には相違していないことになるとの矛盾した結論に至ったものである。
(エ) したがって,引用発明における「多目的スペース」は,本件発明1に おける「2階」とは相違しており,同一のものではない。本件審決の「多目的スペースを組み込んだ1〜2階の中間である中間層は2階であるということもできる。」との認定判断は誤っている。
ウ 上述したとおり,本件発明1における「2階」と,引用発明における「多目的スペース」とは,実質的に相違するものであるから,本件発明1は引用発明とは実質的に同一ではない。そうすると,本件発明1の進歩性を否定するについては,本件発明1と引用発明との相違点につき,引用発明以外の引用文献を示すか,上記相違点が,周知慣用技術であること又は設計事項であることを示す必要がある。しかるに,本件審決は,引用発明のみに基づいて,本件発明1が特許法29条2項の規定に該当すると判断したものであり,この判断は誤りである。
2 取消事由2(本件発明2,3の進歩性に関する判断誤り) 本件発明2,3は,いずれも本件発明1を引用するものであるから,本件発明1の進歩性に関する本件審決の判断に誤りがある以上,本件発明2,3の進歩性に関する本件審決の判断に誤りがあることは明らかである。
(被告の反論) 本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(本件発明1と引用発明との一致点,相違点認定の誤りと本件発明1の進歩性に関する判断誤り)について (1) 本件発明1と引用発明との一致点,相違点の認定について 原告は,本件発明1において,「2階」とは,文言どおり1階と3階の間に存在する階であって,確かに「中間層」といえるが,刊行物1のものは,2階の床より下の1階の上部空間の一部を区切った「1階空間の一部」であり,「2階」ではないから,「中間層」といえない旨主張する。
しかし,例えば,刊行物1の第1図〜第3図には,多目的スペース4の下方部分に台所2等が設けられ,多目的スペース4の上方部分に書斎19及び寝室20が設けられた住宅が記載されている。また,同第7図〜第8図には,多目的スペース4の下方部分に和室21等が設けられ,多目的スペース4の上方部分に書斎19及び寝室20が設けられた住宅が記載されている。そうすると,引用発明において,多目的スペースの上方及び下方には,居室等が設けられているから,「多目的スペース」は,「中間層」であるといえる。
したがって,本件審決の一致点の認定,相違点の認定に誤りはない。
(2) 本件発明1の進歩性に関する判断について ア 原告は,本件発明1における「蔵型収納階」と引用発明における「多目的スペース」とは,形式的にも実質的にも相違するものであり,引用発明における「多目的スペース」は,本件発明1における「2階」とは相違しており,同一のものではないから,本件審決の「多目的スペースを組み込んだ1〜2階の中間である中間層は2階であるということもできる。」との認定判断は誤っている旨を主張する。
しかし,本件発明1における「2階(=蔵型収納階)」が「中間層」であるなら,引用発明における,上方及び下方に居室等が設けられた「多目的スペース」も「中間層」といえるから,「2階」と同一のものである。
イ 原告は,本件審決が,「階」及び「床」についての一般的定義から,引用発明の「多目的スペース」が「2階」といえるものであると説示したことに対し,「押入れの中段」,「天袋」,「屋根裏収納」等は,上記「階」,「床」の定義に合致するが,「階」とは言わないことを例として挙げて,本件審決は用語の定義を都合良く解釈し,相違点(1)は,実質的には相違していないことになるとの矛盾した結論に至っている旨主張する。
しかし,「押入れの中段」等が「階」に該当しないことはいうまでもないことである。本件審決においては,引用発明における「多目的スペース」が,本件発明1における「2階」に該当するとしたものであり,その認定判断は正当である。
ウ 原告は,本件発明1は引用発明と実質的に同一の発明ではないから,本件発明1の進歩性を否定するについては,本件発明1と引用発明との相違点につき,刊行物1以外の引用文献を示すか,上記相違点が,周知慣用技術であるか又は設計事項であることを示す必要があるにもかかわらず,本件審決は,かかる理由を示さずに本件発明1が特許法29条2項の規定に該当すると判断したものであり,誤りである旨主張する。
しかし,本件審決は,本件発明1の蔵型収納階を有する建物が刊行物1に記載されており,また,蔵型収納階の天井高さを特定範囲にすることが設計的事項にすぎないとし,本件発明1に進歩性がないことを正しく判断している。
エ 原告の上記各主張はいずれも理由がなく,本件発明1の進歩性に関する本件審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(本件発明2,3の進歩性に関する判断誤り)について 原告は,本件発明2,3は,いずれも本件発明1を引用するものであるところ,本件発明1の進歩性に関する本件審決の判断には誤りがあるから,本件発明2,3の進歩性に関する本件審決の判断にも誤りがある旨主張する。
しかし,本件発明1の進歩性に関する本件審決の判断に誤りがないことは前述のとおりであり,本件発明2,3が特許法29条2項に該当するものであるとした本件審決の判断にも誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(本件発明1と引用発明との一致点,相違点認定の誤りと本件発明1の進歩性に関する判断誤り)について (1) 本件発明1と引用発明との一致点,相違点の認定について 原告は,本件発明1において,「2階」とは,文言どおり1階と3階の間に存在する階であって,確かに「中間層」といえるが,引用発明の「多目的スペース」は,2階の床より下の1階の上部空間の一部を区切ったもので,「1階空間の一部」であって,「2階」ではないから,「中間層」といえず,したがって,引用発明の「多目的スペースを組み込んだ1〜2階の中間」と,本件発明1の「蔵型収納階とした2階」とは,「中間層」で共通するとはいえず,本件審決の一致点の認定,相違点の認定はいずれも誤りである旨主張する。
ア そこで,検討すると,刊行物1には,次のとおり記載されている。
(ア) 「水回り関係諸室を北側にまとめて,それらの天井を低めに抑えることにより,上部に生れた余裕の高さ(北)と南面居室を高い天井にするために上積みされた高さ(南)とを組合せることにより,1〜2階の北側中間部に,頭のぶつからない程度のスペースが生れる。それは,上下階の中間に位置し,どの階からも近く(階段の踊り場を利用して),物の出し入れも比較的容易で,通風,採光も可能な乾燥した収納スペースとなる。」(6頁5〜15行) (イ) 「上記の中間スペースの造り方として,@現場造作型の他に,A既製床版懸垂型,Bユニット嵌込み据置型等の3通りの方式が考えられる。第1方式は第4図を参照して,現場で造作し,構造と一体化したもの1A。第2方式は第5図を参照して,2階床梁に懸垂方式で既製(工場等)の床パネルや床版等1B1を固定したもの1B。第3方式は第6図を参照して,収納床又はボックス形式のもの,ユニット化された設備1C1等を嵌込む方式で据置固定したもの1C。」(10頁2〜14行) (ウ) 第7図,第8図には,和室21の上方に,多目的スペース4を設けることが記載されている。
イ 上記ア認定の刊行物1の記載からすると,多目的スペース(収納スペース)は,1階北側水回り関係諸室あるいは和室21の天井を低めに抑えることにより上部に生まれた余裕の高さと,1階南面居室を高い天井にするために上積みされた高さとを組み合わせることにより,1〜2階の北側中間部に生まれるスペースであること,また,その多目的スペース(収納スペース)は,建物の構造の一部をなしていることが認められる(前記刊行物1記載の第1方式参照)。
そうすると,刊行物1において,建物の北側についてみれば,天井を低く抑えた水回り関係諸室等と,床が,1階の水回り関係諸室等の上方に位置し,天井が,上積みした天井高さを有する南側の1階の天井と同じレベルにある多目的スペース(収納スペース)と,多目的スペース(収納スペース)の上方に位置する2階とが,上下方向に並んで設けられていることは明らかであり,1階水回り関係諸室等,多目的スペース(収納スペース)及び2階が,上下方向に並んだ構造は,3層の建物構造であるといえる。また,刊行物1において,多目的スペース(収納スペース)は,1階北側水回り関係諸室等の天井を低めに抑えることにより上部に生まれた余裕の高さと,1階南面居室を高い天井にするために上積みされた高さとを組み合わせることにより,1〜2階の北側中間部に生まれるスペースであるから,単に,2階の床より下の1階の上部空間の一部を区切ったものであるということはできない。
そうであれば,引用発明の「多目的スペース」は,3層の建物構造にあって,1階と2階との中間に形成される中間層ということができるから,本件審決が,引用発明における「多目的スペースを組み込んだ1〜2階の中間」は,「中間層」であると認定したことに誤りはない。
ウ そして,本件発明1において,「2階」が,1階と3階の間に存在する階であり,「中間層」といえることは,技術常識に照らして明らかである(原告もこの点を自認している。)から,本件発明1の「蔵型収納階とした2階」と引用発明の「多目的スペースを組み込んだ1〜2階の中間」とは,いずれも,「中間層」であるといえる。
したがって,本件審決の本件発明1と引用発明との一致点の認定に誤りはなく,また,同一致点の認定を基に,相違点(1)(本件発明1は,階数が3階の建物であって,中間層が2階であるのに対し,引用発明では,中間層が1〜2階の中間と記載されている点),相違点(2)(蔵型収納階の天井高さを,本件発明1では,1.2メートル以上,2.0メートル以下にしたのに対し,引用発明では,頭のぶつからない程度にした点)において両者が相違するとした認定にも誤りがあるということはできない。
(2) 本件発明1の進歩性に関する判断について 原告は,本件発明1における「蔵型収納階」は,「階数が3階の建物の2階」であるのに対し,引用発明における「多目的スペース」は,「2階の建物の1階の上部」に設けたもので,「2階」とは相違するものであるから,両者は,「中間層」で共通するとはいえず,形式的にも,実質的にも相違するとし,本件審決が,相違点(1)について,表現が異なるだけで,実質的には相違していないことになると認定判断したのは誤りである旨主張する。
ア 引用発明における「多目的スペース」が,「2階の建物の1階の上部」ではなく,「1階と2階の中間層」であることは,前記(1)に説示したとおりである。そこで,この「1階と2階の中間層」である「多目的スペース」が,実質的に「2階」といえるかどうか(したがって,「多目的スペースを組み込んだ住宅」は,実質的に,階数が3階の建物といえるかどうか)について,さらに進んで検討する。
イ 本件発明1における「2階」については,本件訂正後の請求項1に,「2階を物品の保管,貯蔵のための蔵型収納階とし,該蔵型収納階の天井高さを1.2メートル以上,2.0メートル以下にし,該蔵型収納階を区画して蔵型収納室を設け,該蔵型収納階に至る階段を設け,該階段の踊り場に面して前記蔵型収納室の出入り口を設けた」と規定されているほか,本件訂正明細書には,次のように記載されている(甲1,2,弁論の全趣旨)。
(ア) 「そこで,本発明は建物の上下階間の天井フトコロに着目し,その天井フトコロに相当する空間を積極的に利用し,効率的に家具等を収納することができる大きな収納空間を備えた建物を提供することを目的とする。」(段落【0005】) (イ) 「またこの蔵型収納付き建物において,蔵型収納階の天井高さを1.2メートル以上,2.0メートル以下にしたので,該蔵型収納階の天井高は,大人が屈んで作業できる高さ以上の高さ,大人が背伸びして物に手が届く高さ以下の高さとなり,よって,2階部分の蔵型収納階が従来の1階の天井フトコロに相当する空間となり,この空間を大きな収納空間とすることができる。また収納空間を必要としない部分は非常に高い天井高を確保することができ,部屋の用途によって多様な居住性が演出できる。」(段落【0009】) (ウ) 「このようにこの実施例に係る蔵型収納付き建物1では1階の天井フトコロに相当する2階の空間を有効に利用して蔵型収納階3が設けられており,1フロアーの広いスペースで効率的に物品を収納することができる収納空間を設けることができるようになっている。」(段落【0015】) (エ) 「上記実施例では前記蔵型収納階3全体で1つの蔵型収納室30を構 成していたが,前記蔵型収納階を2以上の蔵型収納室に区画して構成してもよい。また前記蔵型収納階3全体を蔵型収納室にする必要はなく,前記蔵型収納階3の一部を吹抜けとして構成すれば非常に高い天井高を確保することができ,部屋の用途によって多様な居住性が演出できる。」(段落【0029】) ウ 上記認定の本件訂正明細書の記載によれば,本件発明1において,「2階」すなわち「蔵型収納階」は,@「従来の1階の天井フトコロに相当する空間」であり,A蔵型収納室を有し(なお,本件訂正明細書には,「蔵型」についての定義は見当たらず,収納室を「蔵型」と呼称したにすぎないと認められる。),B「天井高さが,1.2メートル以上,2.0メートル以下であって,大人が屈んで作業できる高さ以上の高さ,大人が背伸びして物に手が届く高さ以下の高さ」としたものであり,C一部を「吹抜け」として構成し得る(1階の一部を「2階」の存在しない,「吹抜け」とすることができる。)ものであり,また,D階段の踊り場に面して,蔵型収納室の出入り口が設けられているものであること,を構造的特徴としているものと認められる。
エ これに対して,刊行物1(甲3)によれば,引用発明は,本件審決の認定するとおり,「1〜2階の中間に頭のぶつからない程度の天井高の多目的スペースを組み込み,多目的スペースに至る階段を設け,階段の踊り場に面して出入り口を設けた多目的スペースを組み込んだ住宅」というものであり,さらに,前記(1)イに認定したとおり,多目的スペースは,1階の上積みされた天井部分に設けられて,収納スペースとなるものであり,また,多目的スペースは,建物の1階の北側に設けられ,南側(南面居室)には設けられないことが認められる。
上記認定によれば,引用発明の「多目的スペース」は,@1階の天井高さを上積みした1〜2階の中間部分を利用するものであり,A「収納スペース」であり,B「頭のぶつからない程度」の天井高さを有しており,C1階の南側(南面居室)は,吹抜け構造を呈しており,D階段の踊り場に出入り口が設けられていること,を構造的特徴としているものと認められる。
オ そこで,引用発明の「多目的スペース」の構造的特徴と,本件発明1の「2階」の構造的特徴とを対比してみると,@「多目的スペース」は,建物の上下階間の天井フトコロを利用したものである点で,「蔵型収納階とした2階」と軌を一にしたものであり,A「多目的スペース」は,「収納スペース」である点で,「蔵型収納室である2階」と機能を同じくするものであり,Bまた,「多目的スペース」における「頭のぶつからない程度」とは,一般の大人の身長からすると,「2階」における「天井高さが,1.2メートル以上,2.0メートル以下であって,大人が屈んで作業できる高さ以上の高さ,大人が背伸びして物に手が届く高さ以下の高さ」とは,高さの数値が一部重複しており,C「多目的スペース」が設けられない南側(南面居室)は,吹抜け構造を呈していることから,本件発明1において,「蔵型収納室である2階」の一部を「吹抜け」と構成した場合と,吹抜け構造という点で同一構造を有しており,D「多目的スペース」には,階段の踊り場に出入り口が設けられていて,「2階」とは,アクセス手段を同じくしているから,引用発明の「多目的スペース」は,天井高さの数値範囲において「2階」とは重複しない部分があるものの,本件発明1の「2階」が有する個々の構造的特徴をすべて有し,両者はその構造的特徴をほぼ同じくするものであるということができる。
そして,前記(1)イに認定したとおり,引用発明の「多目的スペースを組み込んだ住宅」は,3層といえる構造を有しているのであるから,その「1階と2階との中間」の「多目的スペース」は,1層を1階とする見方をとれば,3階建ての2階ということのできるものである。
カ 原告は,刊行物1には,建物が,通常一般の木造住宅と異なることについて何ら記載されておらず,本件特許に係る願書に添付の図面【図8】に示された高さ寸法からすると,本件発明1の3階建ての建物において,2階上部までの高さ寸法は1階高さ2.4m,2階床厚0.2m,2階高さ1.2〜2.0mの合計約3.8〜4.6mとなり,1階に蔵型収納室を設ける場合の1階の高さ寸法(建築基準法による居室の最低天井高さ2.1m,蔵型収納室の高さ寸法1.4mの合計約3.5m)とは異なるものであり,したがって,本件発明1の建物と,刊行物1記載の建物とは全く異なるものというべきである旨主張する。しかしながら,前記(1)ア,イに認定したとおり,刊行物1においては,1階北側水回り関係諸室の天井を低めに抑え,また,1階南面居室を高い天井にするために上積みされた高さとすることが記載され,通常一般の木造住宅とは異なり,収納スペース(多目的スペース)を設けるための特別の工夫がなされていることは明らかであるし,また,本件訂正明細書の特許請求の範囲には,1階の高さ寸法が規定されているわけでもなく,1階に蔵型収納室を設けるという前提自体も,引用発明に基づくものとはいえず,何ら根拠のないものであるから,原告の主張は採用できない。
原告は,本件審決が,「階」は,「(1)床によって区切られる内部空間の層。(2)建築物の層を数えるのにいう。」と定義されており,また,「床」は,「空間を水平方向に仕切る建物の部位で,人間や物がその上に乗ったり置かれたりする。」,「天井・壁とともに建物内部空間を構成する普通水平な底。」と定義されていることから,引用発明における「多目的スペースを組み込んだ1〜2階の中間である中間層」は「2階であるということもできる」と判断したことについて,上記定義からでは,「押入れの中段」,「天袋」,「屋根裏収納」も,「階」といえることになり,当業者の常識に反するから,上記定義に基づいて,引用発明の「多目的スペース」を「2階」と判断することはできないとも主張する。
しかしながら,引用発明の「多目的スペース」は,「押入れの中段」等とは異なる構造のものであることは明らかであるから,「押入れの中段」が,上記「階」の定義に入らないからといって,上記の「多目的スペース」が,「階」でないということはできない。
キ 以上検討したところによれば,相違点(1)に関し,表現が異なるだけで,実質的には相違していないことになるとした本件審決の認定判断に誤りがあるということはできない。
なお,原告は,本件発明1と引用発明とは同一の発明ではないにもかかわらず,本件審決が,両者の相違点について他の公知文献を示さず,また,周知技術であるか又は設計事項であることを示すことなく,引用発明のみから本件発明1の容易想到性を認定したのは誤りである旨主張する。しかしながら,本件審決は,相違点(1)に関して実質的に相違するものではないとした(この判断が相当であることは既に説示したとおりである。)上,相違点(2)については,設計事項であると判断しているのであり,この点の判断に誤りはない。原告のこの点の主張は,既に説示したところと異なる見解に立つものであって,採用できない。
したがって,原告主張の取消事由1には理由がない。
2 取消事由2(本件発明2,3の進歩性に関する判断誤り)について (1) 原告は,本件発明2,3は,いずれも本件発明1を引用するものであるところ,本件発明1の進歩性に関する本件審決の判断には誤りがあるから,本件発明2,3の進歩性に関する本件審決の判断にも誤りがある旨主張する。
しかし,本件発明1の進歩性に関する本件審決の判断に誤りがないことは前記1に説示したとおりであるから,原告の上記主張はその前提を欠き理由がないというべきである。
なお,本件発明2,3は本件発明1を引用し,これをさらに限定するものであるところ,それらの限定事項が,いずれも設計事項であって,当業者において容易に想到できるものであることは,本件審決の判断するとおりである。
(2) したがって,原告主張の取消事由2には理由がない。
3 以上の次第で,原告が取消事由として主張するところはいずれも理由がなく,本件審決に他にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青蜉]
裁判官 沖中康人