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追加

関連審決 不服2017-14219
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事件 平成 30年 (行ケ) 10149号 審決取消請求事件

原告 テネコ・インコーポレイテッド (審決上の表示 フェデラル−モーグル・リミテッド・ラ イアビリティ・カンパニー)
同訴訟代理人弁理士 深見久郎 木原美武 佐々木眞人
被告 特許庁長官
同 指定代理人水野治彦 鈴木充 関口哲生 半田正人渋谷善弘
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/11/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
3 原告に対し,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2017-14219号事件について平成30年6月11日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? フェデラル-モーグル コーポレイション(平成29年3月24日に「フェデラル-モーグル・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー」に名称変更し,平成30年10月1日付けで原告と合併した。以下,合併の前後を通じて「原告」という。)は,平成25年2月8日,発明の名称を「冷却空洞が改善されたピストン」とする特許出願をした(特願2014-556707号。甲3。請求項数6。優先権主張:平成24年2月10日,アメリカ合衆国)。原告は,平成29年1月27日付けで拒絶理由通知(甲4。以下「本件拒絶理由通知」といい,その通知書を「本件拒絶理由通知書」という。)を受けたので,同年4月21日付け手続補正書により特許請求の範囲を補正した(甲6。以下「4月21日付け補正」という。請求項数5。。
) 原告は,平成29年5月25日付けで拒絶査定(甲7。以下「本件拒絶査定」といい,その拒絶査定書を「本件拒絶査定書」という。 を受けたので, ) 同年9月26日,これに対する不服の審判を請求するとともに(甲8),同日付けで手続補正書を提出した(甲9。以下「本件補正」という。請求項数5。。
) (2) 特許庁は,これを不服2017-14219号事件として審理し,平成30年6月11日,本件補正を却下した上, 「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月26日,原告に送達された。なお,出訴期間として,90日が附加された。
(3) 原告は,平成30年10月23日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2 特許請求の範囲の記載 (1) 本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前(4月21日付け補正による補正後)の特許請求の範囲のうち,本件審決が判断の対象とした請求項1の記載は,以下のとおりである。以下,この発明を「本願発明」といい,また,その明細書(甲3)を,図面を含めて「本願明細書」という。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。。
) 【請求項1】内燃機関のためのピストンであって,/筒状の外面を有する本体を備え,前記外面内に延在する環状の最上リング溝と下方リング溝とを有し,トップランドが前記最上リング溝から上部燃焼面へ延在し,前記本体は,ピンボア軸に沿って互いに並んだピンボアを有する一対のピンボスを有し,ピストンはさらに,/前記最上リング溝内に配置される第1のピストンリングと,/前記下方リング溝内に配置される第2のピストンリングとを備え,/前記本体は,環状の封止冷却空洞を有し,そこに冷却媒体が配置され,前記封止冷却空洞は,前記第1のピストンリングと第2のピストンリングとの間に径方向に並んで構成され,前記封止冷却空洞は,最上面と最下面とを有し,前記最上面は,前記最上リング溝と実質的に径方向に並び,前記最下面は,前記下方リング溝の下方を延在する,ピストン。
(2) 本件補正による補正後の特許請求の範囲 本件補正による補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(補正箇所に下線を付した。。以下,この発明を「本件補正発明」という。
) 【請求項1】 内燃機関のためのピストンであって,/筒状の外面を有する本体を備え,前記外面内に延在する環状の最上リング溝と下方リング溝とを有し,トップランドが前記最上リング溝から上部燃焼面へ延在し,前記本体は,ピンボア軸に沿って互いに並んだピンボアを有する一対のピンボスを有し,ピストンはさらに,/前記最上リング溝内に配置される第1のピストンリングと,/前記下方リング溝内に配置される第2のピストンリングと,/上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ燃焼ボウルとを備え,/前記本体は,環状の封止冷却空洞を有し,そこに冷却媒体が配置され,前記封止冷却空洞は,前記第1のピストンリングと第2のピストンリング との間に径方向に並んで構成され,前記封止冷却空洞は前記燃焼ボウルと前記封止冷却空洞の間にピストン本体の材料の薄い領域を形成するよう構成され,前記封止冷却空洞は,最上面と最下面とを有し,前記最上面は,前記最上リング溝と実質的に径方向に並び,前記最下面は,前記下方リング溝の下方を延在する,ピストン。
3 本件審決の理由の要旨 ? 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,@本件補正発明は,下記アの甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)及び下記イの甲2に記載された技術事項(以下「甲2技術」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により補正を却下すべきものである,また,A本願発明は,本件補正発明と同様に,同法29条2項の規定により,特許を受けることができないものである,というものである。
ア 特開平4-265451号公報(甲1。以下「甲1文献」という。) イ 実願昭57-177789号(実開昭59-81758号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(甲2。以下「甲2文献」という。) ? 本件審決が認定した甲1発明,本件補正発明と甲1発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 甲1発明 二サイクルエンジンのピストン1であって,/筒状の上部外周2を有するピストン本体を備え,前記上部外周2内に延在する環状の頂面7に近い側のリング溝と頂面7に遠い側のリング溝とを有し,トップランドが前記頂面7に近い側のリング溝から頂面7へ延在し,前記本体は,ピンボア軸に沿って互いに並んだピンボアを有する一対のピンボスを有し,ピストンはさらに,/前記頂面7に近い側のリング溝 内に配置されるピストンリングと,/前記頂面7に遠い側のリング溝内に配置されるピストンリングと,/を備え,/前記本体は,栓6で塞ぐ空洞部3を有し,そこにナトリウムが注入され,前記栓6で塞ぐ空洞部3は,前記頂面7に近い側のリング溝内に配置されるピストンリングと頂面7に遠い側のリング溝内に配置されるピストンリングと径方向に並んで構成され,前記栓6で塞ぐ空洞部3は,最上面と最下面とを有する,二サイクルエンジンのピストン1。
イ 本件補正発明と甲1発明との一致点 内燃機関のためのピストンであって,/筒状の外面を有する本体を備え,前記外面内に延在する環状の最上リング溝と下方リング溝とを有し,トップランドが前記最上リング溝から上部燃焼面へ延在し,前記本体は,ピンボア軸に沿って互いに並んだピンボアを有する一対のピンボスを有し,ピストンはさらに,/前記最上リング溝内に配置される第1のピストンリングと,/前記下方リング溝内に配置される第2のピストンリングと,/を備え,/前記本体は,封止冷却空洞を有し,そこに冷却媒体が配置され,前記封止冷却空洞は,前記第1のピストンリングと第2のピストンリングと径方向に並んで構成され,前記封止冷却空洞は,最上面と最下面とを有する,ピストン。
ウ 本件補正発明と甲1発明との相違点(相違点1) 本件補正発明は,「上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ燃焼ボウル」を備え, 「封止冷却空洞は前記燃焼ボウルと前記封止冷却空洞の間にピストン本体の材料の薄い領域を形成するよう構成され」るのに対し,甲1発明は,かかる構成を備えていない点。
(相違点2)「封止冷却空洞」に関し,本件補正発明は, 「環状の」封止冷却空洞であるのに対し,甲1発明は,環状であるか否かが不明である点。
(相違点3) 「封止冷却空洞」に関し,本件補正発明は,第1のピストンリングと第二のピストンリングと「の間」に構成され, 「最上面は,前記最上リング溝と実質的に径方向に並び,前記最下面は,前記下方リング溝の下方を延在する」のに対し,甲1発明は,かかる構成を備えるかが不明である点。
(3) 本件審決が認定した甲2技術は,次のとおりである。
内燃機関のためのピストン1であって,/ピストン頭部を備え,/上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ部分を備え,/前記ピストン頭部は,空洞7を有し,そこに良伝導性金属Mが封入され,前記空洞7は前記凹んだ部分と前記空洞7の間が薄いよう構成されるピストン1。
4 取消事由 (1) 手続違背(取消事由1) (2) 甲1発明に基づく進歩性判断の誤り(取消事由2)
当事者の主張
1 取消事由1(手続違背)について〔原告の主張〕 (1) 審査経過 ア 本件拒絶理由通知書では,特開昭52-092034号公報(甲12。以下「甲12文献」という。)を引用文献1,本件審決の引用した甲1文献を引用文献2として,本願発明の新規性欠如及び進歩性欠如が指摘された。
しかし,本件拒絶理由通知書では,新規性欠如について,甲12文献については,当該文献に記載された発明について具体的な記述がなされているが,甲1文献については,当該文献に記載された発明についての具体的な記述はなく,進歩性欠如についても,実質的な拒絶理由の説明は全くされていない。したがって,本件拒絶理由通知書には,甲1文献を主引用例とした場合の本願発明との相違点や,その容易想到性の判断は記載されていなかった。
イ 本件拒絶査定書では,本願発明は,甲12文献と甲1文献に基づく進歩性欠 如を理由として,拒絶査定がされた。
本件拒絶査定書の記載からは,甲12文献と甲1文献のいずれを主引用例とし,いずれを副引用例としたかは明確ではないが,甲12文献を主引用例,甲1文献を副引用例として,進歩性欠如の拒絶理由が維持されたとみるのが自然である。したがって,本件拒絶査定書にも,甲1文献を主引用例とした場合の本願発明との相違点や,その容易想到性の判断は記載されていなかった。
ウ 平成29年12月19日付けの前置報告書(甲10。以下「本件前置報告書」という。)では,新たに特開2007-270813号公報(甲15。以下「甲15文献」という。)を主引用例とし,甲1文献を周知例として引用した上で,拒絶理由を維持した。したがって,本件前置報告書にも,甲1文献を主引用例とした場合の本願発明との相違点や,その容易想到性の判断は記載されていなかった。
原告は,これまでに通知されていなかった甲15文献を主引用例として拒絶理由が維持されたことから,平成30年3月27日に上申書(甲11)を提出して,拒絶理由通知を発するべきであること,原告がさらなる補正を行うことも視野に入れていることを上申したが,同年6月11日に本件審決が行われた。
(2) 上記(1)の審査経過によれば,本件審決における主引用例が,拒絶査定における主引用例とは異なるのみならず,副引用例も異なっている上,甲2文献は,本件審決以前に原告に対し全く通知されていない。また,甲1発明と本件補正発明との一致点・相違点や,相違点についての判断は,本件拒絶理由通知書,本件拒絶査定書,本件前置報告書のいずれにも全く記載されていない。したがって,本件審決における,主引用例に記載の発明,同発明と本件補正発明との一致点・相違点の認定,相違点に関する判断は,本件審決以前に,原告に対し全く通知されなかったこととなるから,手続は違法である。
〔被告の主張〕 (1) 審査手続について ア 本件拒絶理由通知書の[理由1]では,引用文献2である甲1文献は,引用文 献1である甲12文献と同様の記載がされているとし,本願の請求項1及び4ないし6に係る発明は甲12文献,甲1文献に記載された発明との間に差異はないと判断しているのであるから,甲12文献に記載された発明と甲1文献に記載された発明とを組み合わせて差異がないと判断しているとは解し得ない。したがって,引用文献1である甲12文献及び引用文献2である甲1文献は,いずれも主引用例であることが理解できる。
次に,本件拒絶理由通知書の[理由2]は, [理由1]を参照しており,甲12文献及び甲1文献をそれぞれ主引用例として請求項1及び4ないし6に係る発明について特許法29条2項を適用することが通知されていることと理解することが自然である。
したがって,本件拒絶理由通知書には,甲12文献を主引用例とした特許法29条1項3号及び同条2項の適用と,甲1文献を主引用例とした特許法29条1項3号及び同条2項の適用が通知されていると解することが自然である。
イ 本件拒絶査定書は,その記載から,拒絶査定が,甲12文献を主引用例とした特許法29条2項の適用,及び甲1文献を主引用例とした同条項の適用を通知したものであると理解することができるところ,この内容は,甲1文献を主引用例として同条1項3号[理由1]及び同条2項[理由2]の適用を通知した本件拒絶理由通知書の拒絶の理由と符合する。
さらに,本件拒絶査定書には,甲1文献は主引用例でないと解されるような記載はない。本件拒絶理由通知書と本件拒絶査定書にそれぞれ提示された引用文献は,全く同じであるから,甲1文献が主引用例ではないと解すべき理由もない。
ウ 原告は,本件拒絶理由通知書及び本件拒絶査定書において,拒絶の理由として,甲1文献を主引用例とした特許法29条2項の適用について理解し,拒絶の理由を解消する手続補正を行ったものであるから,審査段階における被告の手続に何ら違法はない。
(2) 拒絶査定不服審判請求後の手続について ア 本件補正は,平成29年9月26日付けの審判請求書の提出と同時に行われたものであるところ,審査段階で引用されなかった証拠により特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するとした場合に,拒絶の理由を審判請求人に通知し,意見や補正をする機会を与えなければならない旨の規定は,特許法にはない。そして,同法159条2項により読み替えて準用する同法50条ただし書において,同法159条1項により読み替えて準用する同法53条1項により審判請求時の補正を却下する決定をするときは拒絶理由通知を要しない旨定められている。したがって,本件拒絶理由通知書及び本件拒絶査定書において主引用例として示された甲1文献,及び,本件補正により追加された技術事項に対応する甲2文献を用い,本件審決において本件補正を却下し,審判段階で新たに拒絶の理由を通知せず,意見や補正をする機会を与えなかったことが,特許法上違法であるとはいえない。
本件審決において主引用例とされた甲1文献は,上述のとおり,本件拒絶理由通知書及び本件拒絶査定書で,主引用例として開示された引用文献2であり,審判請求後,本件審決において初めて原告に示されたものではなく,原告は,甲1文献に基づく拒絶の理由を解消する機会があり,当該機会を利用して甲1文献に基づく拒絶の理由を解消するために本件補正を行ったのであるから,本件審決時までに,原告の防御の機会が実質的に保障されていたといえる。
また,本件補正により特許請求の範囲の請求項1に追加された「上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ燃焼ボウル」に係る事項,及び「封止冷却空洞は前記燃焼ボウルと前記封止冷却空洞の間にピストン本体の材料の薄い領域を形成されるように構成され」に係る事項は,従来から知られた周知技術でもあり,当業者であれば当然知り得た構造にすぎず,当業者が予測し得る範囲を超える作用効果は把握できない。そうすると,本件補正により請求項1に追加された上記事項は,原告が主張するような「本件補正発明の核心的要素」であるとはいえない。
したがって,本件補正を却下した本件審決に手続上の違法はない。
イ 本件前置報告書は,特許法162条の規定による審査において,同法164条1項の規定により特許すべき旨の査定をする場合を除き,同法164条3項の規定に基づき,審査官が前置審査の結果を特許庁長官に報告する書面であり,審判合議体が前置報告書を採用するか否かは審判合議体の裁量による。本件において審判合議体は,本件前置報告書に示された内容を採用しなかったのであるから,本件前置報告書に示された内容が,本件審決に影響を及ぼすものではない。
そして,本件前置報告書に対して上申された内容も審決に影響を及ぼすものではなく,上申書には,更なる補正についての具体的な補正案も記載されていなかったのであるから,本件審判の審理において,上申書に記載された内容が採用される余地はなく,拒絶査定不服審判請求後の手続において,原告の上申を採用しなかったことに違法はない。
2 取消事由2(甲1発明に基づく進歩性判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 甲1発明の認定の誤り ア 甲1文献には, 「ピストンリング」「リング溝」との記載はなく, , 「ピストンリング」は記載されていない。甲1文献の図面においては,ピストン1の外周面に2つの凹部が描かれてはいるが,明細書にその凹部に関する説明は全くない。特許出願に係る図面は,技術的思想である発明の理解を容易とするため明細書記載の技術的事項を理解するための補助手段として使用されるものであり,図面のみから,明細書に記載がなくかつ図面上にも明確な記載のない事項について技術的な意味を持つものとして読み取ることは原則としてできないところ,甲1文献に記載の発明の課題,解決手段,及び作用効果から見ても, 「ピストンリング」の存在が想定されていると認めることはできないから, 「リング溝内に配置されるピストンリングを備えるピストン」が甲1文献に記載されているとする本件審決の認定は誤りである。
イ また,甲1文献では,空洞部3は,ピストン1の上部外周2の内側に設けられるか,この上部外周に加えて頂面7の内側にかけて設けられるのであり,空洞部 3とピストンリングとの位置関係は記載されていない。図3において,空洞部3が頂面7に向かって延びているように描かれているが,これはあくまで「ピストン1の上部外周に加えて頂面7の内側にかけて空洞部3を設ける。 という技術事項が記 」載されているだけであり,空洞部3とピストンリングとの具体的な位置関係に関する技術事項を読み取ることは許されない。
したがって,甲1文献には, 「空洞部3が,頂面7に近い側のリング溝内に配置されるピストンリングと頂面7に遠い側のリング溝内に配置されるピストンリングと径方向に並んで構成される」という技術事項が記載されているとはいえず,本件審決による甲1発明の認定は,この点においても誤りである。
(2) 甲2技術の認定の誤り 甲2文献に記載の考案は,ピストン頭部内に中空部を形成して該中空部内に良伝熱性金属を封入し,金属の熱対流によってピストン頂面の熱をピストンピンやピストンスカート部へ流動して低下させるというものである。甲2文献には,ピストン1の頭部の円周方向や半径方向に空洞を形成するという技術事項は記載されているが, 「凹んだ部分」については全く説明されておらず,空洞と「凹んだ部分」との関係についても全く記載されていない。図3には,ピストン1の頭部に「凹んだ部分」らしきものが描かれてはいるが,この「凹んだ部分」について明細書において全く言及されておらず,甲2文献において, 「凹んだ部分」に関連した技術事項が想定されていたとは到底考えられない。
一般に,実用新案登録出願の願書に添付される図面は,明細書を補完し,実用新案登録を受けようとする考案に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図にとどまるものであって,当該部分の寸法や角度,曲率などがこれによって特定されるものではないから,図3のみに依拠して, 「凹んだ部分」及びその周囲に位置するピストン1の厚み等の寸法は特定されるものではない。したがって,甲2文献から,「凹んだ部分と空洞7の間が薄い」という技術事項を読み取り, 「前記空洞7は前記凹んだ部分と前記空洞7の間が薄いように構成される」という技術事項が記載され ていると解釈することはできないから,本件審決の甲2技術の認定も誤りである。
(3) 一致点・相違点の認定の誤り 甲1文献には, 「ピストンリング」についての記載はなく, 「リング溝」に関する説明もないので,本件審決が, 「前記最上リング溝内に配置される第1のピストンリングと,前記下方リング溝内に配置される第2のピストンリングと,」という構成を,本件補正発明と甲1発明との一致点として認定したことは誤りである。
また,甲1文献に「ピストンリング」が記載されていない以上, 「前記封止冷却空洞は,前記第1のピストンリングと第2のピストンリングと径方向に並んで構成され,」という構成を,本件補正発明と甲1発明との一致点として認定したことも誤りである。
そうすると,本件審決は,相違点であるこれらの事項を看過しているから,相違点の認定も誤っている。
(4) 相違点についての判断の誤り ア 相違点1についての判断の誤り (ア) 甲2文献には, 「前記凹んだ部分と前記空洞7の間が薄いように構成される」という事項は開示されていないから,本件審決が,甲2文献の「前記凹んだ部分と前記空洞7の間が薄いように構成される」が,本件補正発明の「前記燃焼ボウルと前記封止冷却空洞の間にピストン本体の材料の薄い領域を形成するように構成される」に相当すると判断したことは誤りである。
(イ) 甲1発明の二サイクルエンジンのピストンでは,燃焼圧力に耐えるようにするためにピストンの頂面付近の肉厚を厚くする必要があるところ,この二サイクルエンジンのピストンの頂面に,甲2技術を適用して凹んだ燃焼ボウルを設けると,耐圧が低下することとなって燃焼圧力に耐えられなくなり,二サイクルエンジンのピストンとしての基本的な特性が得られなくなる。したがって,このような変形を行うことはできず,甲1発明に甲2技術を適用することには阻害要因がある。
イ 相違点3についての判断の誤り 甲1発明では,空洞部3は,ピストンの少なくとも上部外周の内側に設けられるものであり,ピストンの頂面が受けた熱を下部のスカート方向に拡散し,頂面の過熱を防止して適正温度に保つものであればよく, 「リング溝」との関係で設けられているものではない。また,甲1文献には, 「リング溝」に関する説明が全くなされていないばかりでなく,空洞部3の最上面や最下面に関する説明も一切なく,甲1文献から, 「空洞部3の最上面は,頂面7に近い側の溝と実質的に径方向で並び,最下面は頂面7に遠い側の溝の下方を延在している」という技術事項を読み取ることはできない。したがって,本件審決の相違点3についての判断は,甲1文献に記載の事項についての誤った認定に基づいてされたものであり,誤りである。
〔被告の主張〕 (1) 甲1発明の認定の誤りについて 甲1文献には, 「ピストンリング」及び「リング溝」との用語は明記されていないが,図面には,ピストン1の上部外周2に2つの凹部が描かれている。そして,ピストンには通常リング溝が設けられ,リング溝にはピストンリングが配置されることは技術常識である。また,甲1文献【0003】【0004】の記載は,甲1発 ,明のピストン1は, 「ピストンリング」及び「リング溝」を備えていることを示唆するものといえる。
したがって,当業者であれば,甲1文献に接した際に,その図面に描かれた2つの凹部が「リング溝」であること,及び「リング溝」に「ピストンリング」が配置されていることが理解できるから,ピストン1がリング溝を有し,リング溝内に配置されるピストンリングを備えるとした本件審決の甲1発明の認定に誤りはない。
甲1文献の図1ないし図4には,2つの凹部及び空洞部3が図示されており,図1及び図2には,空洞部3は2つの凹部を有するピストン1の上部外周2の内側に,径方向に凹部と並んで設けられていることが図示されている。そして,2つの凹部が「リング溝」であること, 「リング溝」に「ピストンリング」が配置されることが当業者であれば理解できることは,上述したとおりであるから, 「空洞部3は,前記 頂面7に近い側のリング溝内に配置されるピストンリングと頂面に遠い側のリング溝内に配置されるピストンリングと径方向に並んで構成され」とした本件審決の甲1発明の認定に誤りはない。
(2) 甲2技術の認定の誤りについて本件補正により特許請求の範囲の請求項1に追加された事項は, 「上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ燃焼ボウルと」を備えること及び「前記封止冷却空洞は前記燃焼ボウルと前記封止冷却空洞の間にはピストン本体の材料の薄い領域を形成するよう構成され」ることである。
本願明細書には, 「燃焼ボウル42に起因して,ピストン本体の材料の比較的薄い領域が燃焼ボウル42と冷却空洞28と下クラウン面18との間に形成される。」(【0010】)との記載があり,燃焼ボウルと封止冷却空洞との間に「ピストン本体の材料の薄い領域を形成する」とは,「凹んだ燃焼ボウル」を備えることにより,「前記燃焼ボウルと前記封止冷却空洞との間に領域を形成する」と理解される。
一方,甲2文献の第3図のピストン1の頭部に「凹んだ部分」が描かれており,「凹んだ部分」に起因して,ピストン1の頭部の「凹んだ部分」と空洞7との間に領域が形成されるところ,この領域が, 「前記凹んだ部分と前記空洞7の間が薄いように構成される」領域であるといえる。
したがって,本件審決による甲2技術の認定に誤りはない。
(3) 一致点・相違点の認定の誤りについて原告は,甲1発明の認定に誤りがあることを前提として,本件補正発明と甲1発明との一致点及び相違点の認定に誤りがある旨主張する。しかし,上記(1)のとおり,本件審決の甲1発明の認定に誤りはないから,一致点 相違点の認定の誤りもない。
・(4) 相違点の判断の誤りについてア 相違点1について甲1文献の【0002】の記載は,頂面Bが燃焼圧力に耐え,また,熱容量を大きくするための手段としてピストンAの頂面B付近の肉厚を厚くすることを述べたに すぎない。そして,二サイクルエンジンを含むエンジンにおいて,燃料と吸気の混合を最適化するために燃焼室が必要であることや,燃焼室の形式の一つとしてピストン頂面に凹部を設け,これを燃焼室とすることは技術常識であり,二サイクルエンジンのピストン頂面に燃焼室(燃焼ボウル)を設けることは周知技術であるから,燃料と空気の混合を最適化するためにピストン頂面に必要な形状,大きさの燃焼室(本件補正発明の燃焼ボウル)を設けることは,エンジンの形式,構造等を踏まえて行われるものである。そして,ピストン頂面の厚さを設定することと,ピストン頂面に燃焼室を設けることとは,エンジンの構造,仕様及び求められる性能を踏まえてそれぞれ適宜設定されることであり,二サイクルエンジンを含むエンジンにおいて,ピストン頂面の厚さを厚くすることと,ピストン頂面に燃焼室を設けることとは両方同時に実施が可能であり相反するものではないから,一方の実施を他方が阻害することは到底考えられない。
さらに,ピストンに冷却空洞を設けると共にその頂面に燃焼室を設けることは周知技術であり,当業者が通常採用し得る構造であるから,甲1発明に対しピストン頂面に燃焼室を設けることは当業者であれば当然想起し得ることである。
したがって,甲1発明に甲2技術を適用することに阻害要因はない。そして,甲1発明に甲2技術を適用し,相違点1にかかる本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことであるとした本件審決の判断に誤りはない。
イ 相違点3について甲1文献の【0003】【0004】の記載に鑑みれば,甲1発明には,ピストン ,1のピストンリング及びリング溝を備えた上部外周2の冷却も示唆されていると普通に理解できる。
また,甲1文献の図1及び図2には,ピストン1の上部外周に2つの凹部を有していることが記載され,空洞部3がピストン1の上部外周2の2つの凹部と径方向に並んでいることが看て取れる。したがって, 「空洞部3の最上面は,頂面7に近い側の凹部と実質的に径方向に並び,最下面は頂面7に遠い側の溝の下方を延在して いる」ことは,図1及び図2から自然に看て取れる事項にすぎない。
以上によれば,甲1文献の図1及び図2には, 「空洞部3の最上面は,頂面7に近い側の溝と実質的に径方向で並び,最下面は頂面7に遠い側の溝の下方を延在している」ことが示されている。
そして,ピストンに設けた冷却空洞により,リング溝を冷却することは,技術常識であるから,甲1文献の図1及び図2から看取される事項及び技術常識を踏まえれば,甲1発明の空洞部3は,リング溝である2つの凹部を冷却する機能も備えることは自然に予測できることである。
よって,甲1発明及び甲1文献の図1及び図2から看て取れる事項に基づき,相違点3にかかる本件補正発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得たことであるとした本件審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 本件補正発明について (1) 本願明細書には,本件補正発明について,以下の記載がある(下記記載中に引用する図面は,別紙本願明細書図面目録参照)。
ア 技術分野【0001】発明の背景/1.技術分野/本発明は,概して内燃機関に関し,より特定的には内燃機関のためのピストンに関する。
イ 背景技術 【0002】2.関連技術/エンジン製造者は,燃費の改善,燃料燃焼の改善,オイル消費量の削減,車両内で熱を継続使用するための排気の高温化,シリンダボア内の圧縮負荷の上昇,軽量化およびエンジンの小型化を含むがこれらに限定されないエンジン効率および性能を改善すべきとの要求の高まりに直面している。したがって,エンジンの燃焼室内で温度および圧縮負荷を上昇させることが望ましい。しかしながら,燃焼室内で温度および圧縮負荷を上昇させることにより,ピストンに対する摩耗および物理的負荷が大きくなり,これにより,その潜在的な耐用年数が 短くなってしまう。特に懸念される分野として,上部燃焼面領域およびピストンのピストンリング領域内での過度な発熱およびそれに付随する摩耗が挙げられる。
ウ 課題を解決するための手段 【0003】本発明に従って構成されたピストンは,本開示を読み,添付の図面を参照すると当業者に明らかになるように,現代の高性能エンジンにおいて生じる過度の熱に良好に耐えることができる。
【0004】発明の概要/内燃機関のためのピストンが提供される。ピストンは,筒状の外面を有する本体を含み,外面内に延在する環状の最上リング溝と下方リング溝とを有する。トップランドは,最上リング溝から上部燃焼面へ延在する。本体は,ピンボア軸に沿って互いに並んだピンボアを有する一対のピンボスを有する。
第1のピストンリングが最上リング溝内に配置され,第2のピストンリングが下方リング溝内に配置される。本体は,環状の封止冷却空洞を有し,そこに冷却媒体が収容される。封止冷却空洞は,第1のピストンリングと第2のピストンリングとの間に実質的に径方向に並んで構成される。このようなことから,封止冷却チャンバは,そこに収容される冷却媒体による上部燃焼面およびリングベルト領域に対する冷却効果を最適化するように構成される。このため,ピストンの耐用年数を改善することができる。
エ 発明を実施するための形態 【0007】現在好ましい実施形態の詳細な説明/図面をより詳細に参照すると,図1および図2は,たとえば,コンパクトで高性能な現代の車両エンジンなどの内燃機関のシリンダボアにおいて往復運動させる,本発明の現在好ましい一局面に従って構成されたピストン10の断面図を示す。ピストン10は本体12を有する。
この本体12は,単一の一体型の鋳込材料などでできたものであるかまたは鍛造材料もしくはビレット材料から形成されているが,これは一例であって,これに限定されるものではない。この本体12は,中心の長手方向軸13に沿って延在し,この中心の長手方向軸13に沿って,ピストン10がシリンダボアにおいて往復運動 する。本体12は上部燃焼壁14を有する。この上部燃焼壁14は,その一方側に,シリンダボア内で燃焼ガスに直接晒されるように構成された上部燃焼面16と,その反対側に,上部燃焼面16の一部の軸方向下方に位置する下クラウン面18とを有する。ピストン本体12はまた,概して筒状の外壁20を含む。この筒状の外壁20は,上部燃焼面16から,この上部燃焼面16に直接隣接するリングベルト領域22上にわたって垂下する筒状の外面21を有する。リングベルト領域22は,最上リング溝23と,最下リング溝24として示される下方リング溝とを含む。リング溝23,24の各々は,それぞれ第1および第2のピストンリング26,27を受けるように構成される。さらに,ピストン本体12は,内部に冷却媒体30を配置および収容する閉じられた冷却空洞28を有するよう形成される。冷却空洞28は,径方向内側に構成され,リングベルト領域22と実質的に径方向に並んでいる。冷却空洞28は,本発明に従って構成され,上部燃焼面16およびリングベルト領域22からシリンダーライナーおよびエンジンブロックへの熱の伝達を改善する。このため,上部燃焼壁14およびリングベルト領域22で生じる熱は,最終的にシリンダーライナーおよびエンジンブロックへ伝達され,これによって,ピストン10の動作温度の低下が促され,ピストン10の耐用年数が改善される。
【0008】冷却媒体30は,もっぱら,ピストン10の動作温度では液体となる金属冷却材として提供することができる。所望される伝熱係数を考慮に入れて如何なる好適な軽量金属材料が用いられてもよい。さらに,冷却媒体30は,銅またはアルミニウムなどの粉末金属と混ぜ合わされた液体金属として提供することができる。特に冷却媒体30の熱伝達特性を高めることが望ましい場合,金属粉末を添加することができる。さらには,典型的には工業用途で熱交換のために用いられるような熱伝達液を用いることができる。
【0009】図2に最もよく示されるように,ピストン本体12は一対のピンボス32を有する。これら一対のピンボス32は下クラウン面18から垂下して,横方向に間隔を空けて配置されたピンボア34を形成する。これらピンボア34は, 中心の長手方向軸13に概ね交差するよう延在するピンボア軸36に沿って同軸に並んでいる。これらピンボス32は,横方向に間隔を空けて配置されたスカート部分38に接合される。これらスカート部分38は,互いから直径方向に間隔を空けてピンボア軸36の両側に配置されており,シリンダボア内でピストン10が往復運動する際にこのピストン10をその所望の向きで維持し易くするために当該シリンダボア内で摺動運動させるための輪郭を有する凸状外面40を有する。
【0010】上部燃焼面16は,凹んだ燃焼ボウル42を有するものとして示される。この燃焼ボウル42は,上昇した中心頂部45まわりを延在する最下環状谷部43へ上部燃焼面16の平坦な最上部分から垂下し,シリンダボア内に所望のガス流をもたらす。少なくとも一部が燃焼ボウル42に起因して,ピストン本体の材料の比較的薄い領域が燃焼ボウル42と冷却空洞28と下クラウン面18との間に形成される。
【0014】冷却空洞28は,リング溝23,24の間に延在し,これによってリングベルト領域22の全体ならびに燃焼ボウル42の谷部領域43および上部燃焼面16の最上平坦領域の冷却が容易となる。特に,冷却空洞28は,最上頂部または面52へ向けて上方に延在するとともに,最下谷部または面54へ向けて下方に延在する。最上面52は,最上リング溝23の平坦最下面55と径方向に並んで示され,最下面54は,下方リング溝24の最上平坦面56と径方向に並んで示される。
【0015】図3は,現在好ましい本発明の一局面に従って構成されたピストン110の断面図を示し,上記と同様の特徴を識別するために,100を加えた上記と同じ参照符号が使用される。ピストン110は,上述のように,本体112と,上部燃焼面116を有する上部燃焼壁114と,下クラウン面118とを有する。ピストン本体112はまた,リングベルト領域122にわたって上部燃焼面116から垂下する,筒状の外面121を有する概して筒状の外壁120を含む。リングベルト領域122は,最上リング溝123と,最下リング溝124として示される下 方リング溝とを含む。リング溝123,124の各々は,それぞれ第1および第2のピストンリング126,127を受けるように構成される。さらに,ピストン本体12は,閉じられた冷却空洞128を有し,冷却媒体130が冷却空洞128内に配置および収容される。冷却空洞128は,径方向内側へ向けて,リングベルト領域122と実質的に径方向に並んで構成される。
【0016】最上リング溝123は,上記のように構成されるが,最下リング溝123は,軸方向を上方に移動し,ほぼ第2のピストンリング127の厚さである厚さを有するピストン本体材料の比較的薄い環状フランジ60が,リング溝123,124の間に形成される。これにより,リングベルト領域122は,リングベルト領域22と比較して減少した軸方向の長さを有する。
【0017】さらにピストン10とは対照的に,燃焼ボウル142は,完全に凹状の面を有し,このため中心頂部を有さない。さらにまた,冷却空洞128は,第1の実施形態と同様に,最上頂部または面152に向けて上方に延在し,最下面154に向けて下方に延在する。最上面152は,最上リング溝123の平坦な最下面155と径方向に並んで示される。しかしながら,第1の実施形態とは対照的に,最下面154は,下方リング溝124の最下平坦面62の下方を延在するように示される。このため,冷却空洞128は,最下リング溝124の軸方向の全幅にわたって延在する。
(2) 上記(1)によれば,本件補正発明の特徴は,以下のとおりである。
ア 技術分野 本件補正発明は,概して内燃機関に関し,より特定的には内燃機関のためのピストンに関する。【0001】 ( ) イ 関連技術(発明が解決しようとする課題) エンジン製造者は,燃費の改善,燃料燃焼の改善,オイル消費量の削減,車両内で熱を継続使用するための排気の高温化,シリンダボア内の圧縮負荷の上昇,軽量化及びエンジンの小型化を含むがこれらに限定されないエンジン効率及び性能を改善 すべきとの要求の高まりに直面している。したがって,エンジンの燃焼室内で温度及び圧縮負荷を上昇させることが望ましい。しかしながら,燃焼室内で温度及び圧縮負荷を上昇させることにより,ピストンに対する摩耗及び物理的負荷が大きくなり,これにより,その潜在的な耐用年数が短くなってしまう。特に懸念される分野として,上部燃焼面領域及びピストンのピストンリング領域内での過度な発熱及びそれに付随する摩耗が挙げられる。
本件補正発明及び本願発明に従って構成されたピストンは,本開示を読み,添付の図面を参照すると当業者に明らかになるように,現代の高性能エンジンにおいて生じる過度の熱に良好に耐えることができる。【0002】【0003】 ( , ) ウ 発明の概要(課題を解決するための手段) 内燃機関のためのピストンが提供される。ピストンは,筒状の外面を有する本体を含み,外面内に延在する環状の最上リング溝と下方リング溝とを有する。トップランドは,最上リング溝から上部燃焼面へ延在する。本体は,ピンボア軸に沿って互いに並んだピンボアを有する一対のピンボスを有する。第1のピストンリングが最上リング溝内に配置され,第2のピストンリングが下方リング溝内に配置される。
本体は,環状の封止冷却空洞を有し,そこに冷却媒体が収容される。封止冷却空洞は,第1のピストンリングと第2のピストンリングとの間に実質的に径方向に並んで構成される。このようなことから,封止冷却チャンバは,そこに収容される冷却媒体による上部燃焼面及びリングベルト領域に対する冷却効果を最適化するように構成される。このため,ピストンの耐用年数を改善することができる。
(【0004】) エ 現在好ましい実施形態の詳細な説明(発明を実施するための形態) 図3は,現在好ましい本件補正発明及び本願発明の一局面に従って構成されたピストン110の断面図を示す。ピストン110は,本体112と,上部燃焼面116を有する上部燃焼壁114と,下クラウン面118とを有する。ピストン本体112は,リングベルト領域122にわたって上部燃焼面116から垂下する,筒状の外面121を有する概して筒状の外壁120を含む。リングベルト領域122は, 最上リング溝123と,最下リング溝124として示される下方リング溝とを含む。
リング溝123,124の各々は,それぞれ第1及び第2のピストンリング126,127を受けるように構成される。さらに,ピストン本体12は,閉じられた冷却空洞128を有し,冷却媒体130が冷却空洞128内に配置及び収容される。冷却空洞128は,径方向内側へ向けて,リングベルト領域122と実質的に径方向に並んで構成される。
最上リング溝123は,上記のように構成されるが,最下リング溝124は,軸方向を上方に移動し,ほぼ第2のピストンリング127の厚さである厚さを有するピストン本体材料の比較的薄い環状フランジ60が,リング溝123,124の間に形成される。これにより,リングベルト領域122は,リングベルト領域22と比較して減少した軸方向の長さを有する。
ピストン10とは対照的に,燃焼ボウル142は,完全に凹状の面を有し,このため中心頂部を有さない。冷却空洞128は,第1の実施形態と同様に,最上頂部または面152に向けて上方に延在し,最下面154に向けて下方に延在する。最上面152は,最上リング溝123の平坦な最下面155と径方向に並んで示される。しかしながら,第1の実施形態とは対照的に,最下面154は,下方リング溝124の最下平坦面62の下方を延在するように示される。このため,冷却空洞128は,最下リング溝124の軸方向の全幅にわたって延在する。【0015】〜【0 (017】) 2 取消事由1(手続違背)について (1) 手続の経緯 ア 本件拒絶理由通知及び本件拒絶査定 (ア) 原告は,平成29年1月27日付け本件拒絶理由通知書(甲4)により,拒絶理由通知を受けた。
本件拒絶理由通知書には,次の記載がある。
「[理由1]について 請求項 1,4-6 引用文献 1,2 備考 引用文献1には,外面内に延在する環状の最上リング溝と下方リング溝とを有し,トップランドが最上リング溝から上部燃焼面へ延在し,本体は,ピンボア軸に沿って互いに並んだピンボアを有する一対のピンボスを有し,ピストンはさらに,最上リング溝内に配置される第1のピストンリングと,下方リング溝内に配置される第2のピストンリングとを備え,本体は,環状の封止冷却空洞(6)を有し,そこに冷却媒体が配置され,封止冷却空洞は,第1のピストンリングと第2のピストンリングとの間に径方向に並んで構成される,ピストンが記載されている。更に,引用文献1には,封止冷却空洞は,最上面と最下面とを有し,最上面は,最上リング溝と実質的に径方向に並び,最下面は,下方リング溝と実質的に径方向に並ぶこと,封止冷却空洞は,最上面と最下面とを有し,最上面は,最上リング溝と実質的に径方向に並び,最下面は,下方リング溝の下方を延在すること,下方リング溝は,最下リング溝であることも記載されている(第1図)。
引用文献2にも同様の記載がされている(図3)。
してみれば,本願の請求項1,4-6に係る発明と引用文献1,2に記載された発明との間に差異はない。」 「[理由2]について 請求項 1,4-6 引用文献 1,2 備考 本願の請求項1,4-6に係る発明は,引用文献1,2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである([理由1]参照) 」 。
「<引用文献等一覧> 1.特開昭52-092034号公報(判決注:甲12) 2.特開平4-265451号公報(判決注:甲1)」 (イ) 原告は,平成29年4月21日付け手続補正書(甲6)により特許請求の範囲を補正するとともに(4月21日付け補正),同日付け意見書(甲5。以下「本件意見書」という。)を提出した。
本件意見書には,次の記載がある。
「(3)特許法第29条に基づく拒絶理由について 審査官殿は,本願の補正前の請求項1に記載された発明は引用文献1および2に記載された発明と同一であると指摘されています。…引用文献2に記載された発明は,空洞部3を有するものの,その範囲は「ピストンの上部外周部及び上部外周から頂面の内,少なくとも上部外周部の内側」と規定されているのみで,これ以上に,空洞部の範囲を具体的に特定する構成は開示されていません。
補正後の本願発明は,冷却空洞の範囲について,その上端を最上リング溝と径方向に並ぶ位置,その下端を,下方リング溝からさらに下方に延在してもよい(補正後の請求項1)と規定したものであり,これにより,最上リング溝と下方リング溝の間の領域と規定されるリングベルト領域22の全体ならびに燃焼ボウル42の谷部領域および上部縁正面16の最上平坦領域の冷却を促進します(明細書段落[0014])。かかる本願発明の冷却空洞は,引用文献1の冷却空洞(6)とは,ピストンの天井に達する位置にまでは至らず,最上リング溝と径方向に並ぶ位置までに限定される点で異なります。また,空洞部の具体的な存在範囲が特定されていない引用文献2に開示された空洞部3とも異なるものです。
このように,補正後の本願発明のような,リング溝を用いてリングベルト領域を規定し,当該領域をもとに,ピストンの冷却を促進する好適な範囲が規定された冷却空洞は,引用文献1にも2にも開示されておりません。したがいまして,補正後の請求項1およびその従属請求項に係る本願発明は,引用文献に記載の発明に対して新規性および進歩性を有するものと思料致します。
…以上説明致しましたように,補正後の本願発明は拒絶理由をすべて解消したも のと思料致しますので,今一度ご審査の上,何卒特許をすべき旨の査定を賜りますよう,お願い申し上げます。」 (ウ) 原告は,平成29年5月25日付け本件拒絶査定書(甲7)により拒絶査定を受けた。
本件拒絶査定書には,次の記載がある。
「この出願については,平成29年1月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって,拒絶をすべきものです。」 「理由2(特許法第29条第2項)について 請求項 1 引用文献 1,2 …しかしながら,ピストン上面が過熱されやすく,冷却すべきことは,引用文献2の段落[0004]等に記載されているよう周知の課題であるし,引用文献2には,図1等にピストン上面のリング溝付近のみに冷却空洞を設けることが記載されている。よって,ピストン頂面が過熱され易いという課題を基に,冷却空洞の位置を設定することは当業者であれば容易になし得ることである。
したがって,本願の請求項1に係る発明は,引用文献1,2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。」 イ 本件審判について (ア) 原告は,平成29年9月26日付けで,審判請求書(甲8)を提出するとともに,手続補正書(甲9)を提出し,特許請求の範囲の請求項1を補正した(本件補正)。
上記審判請求書には,次の記載がある。
「【拒絶査定の要点】 原査定の拒絶理由は,本願の請求項1〜5に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
その理由は,要するに,本願発明は,引用文献に記載された発明から当業者が容 易に発明をすることができた,というものである。… (3)引用発明の説明 引用文献1には,機会穿孔6を有するエンジン用ピストンが開示されているが,その最上部分に特段の特徴はない。
引用文献2には,空洞部2を有する二サイクルエンジンのピストンが開示されているが,その最上部分に特段の特徴はない。… (4)本願発明と引用発明との対比 補正後の請求項1に係る本願発明は,燃焼面の最上部分から垂下する「燃焼ボウル」を備える。引用文献1〜4の発明は,その最上部分に特段の特徴がなく,この燃焼ボウルに相当する構成は開示されていないため,引用文献をいかに組み合わせても,補正後の請求項1に係る発明に想到することは不可能である。
補正後の本願発明において,燃焼ボウルと封止冷却空洞との間に,ピストン本体の材料の薄い領域を形成するのは,本願発明がリングベルト領域のみならず,上部燃焼面を冷却することも意図しており(明細書段落[0004],[0014]),その効果を得る目的である。かかる構成および技術思想もいずれの引用文献にも開示されておらず,引用文献1〜4から補正後の請求項1に記載された発明に想到するのは不可能である。
【むすび】 したがって,本願発明は引用文献1ないし4に記載された発明から,当業者が容易に発明をすることができたものではない。…」 (イ) 本件審判合議体は,平成30年6月11日,本件補正は特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲減縮を目的としたものに該当するとした上で,独立特許要件について検討した。その際には,甲1発明を引用発明1として,前記のとおりの相違点1ないし3を指摘した上,相違点1については,甲1発明に加えて甲2文献の記載事項を甲2技術として引用して容易に想到することができると判断し,その余の相違点については,甲1発明のみに基づいて容易に想到することができる と判断して,本件補正を却下するとともに,実質的に同様の理由により,本願発明についても容易に想到することができると判断した。
(2) 検討 ア 以上によれば,本件拒絶理由通知書,本件拒絶査定書のいずれにおいても,甲12文献と甲1文献が, 「引用文献 1,2」と並列して記載され,甲1文献は「引用文献2」とされている上,進歩性に関し,甲1発明の認定や本願発明との一致点,相違点についての記載もないから,一見すると甲1文献が副引用例ではないかとの誤解を招き得る記載といえなくもない。
しかし,上記認定によれば,本件拒絶理由通知書は,理由1では,甲12文献については具体的な記載内容を摘示し,甲1文献(引用文献2)については「引用文献2にも同様の記載がされている(図3)」と摘示して,甲1文献には甲12文献と同様の技術事項が記載されていることを前提に,本願発明は,甲12文献及び甲1文献にそれぞれ記載された発明と同一の発明であるから,新規性を欠くと判断し,理由2では,( 「[理由1]参照)」として,本願発明は,甲12文献及び甲1文献にそれ 。
ぞれに記載された発明から,新規性欠如と同様の理由により進歩性を欠くと判断して,新規性欠如及び進歩性欠如の拒絶理由を通知したものと理解することができる。
また,本件拒絶査定書では,結論として,本件拒絶理由通知書記載の理由2によって拒絶すべきものであることが記載され,理由2において,甲12文献及び甲1文献双方を引用し,甲1文献の具体的な記載内容を摘示した上で,本願発明は,甲12文献及び甲1文献のそれぞれに記載された発明から進歩性を欠くと判断しており,甲12文献及び甲1文献に記載された発明に基づく進歩性欠如を理由に拒絶査定をしたものと理解することができる。
以上によれば,本件拒絶理由通知及び本件拒絶査定においては,甲12文献を主引用例とする進歩性欠如のほか,甲1文献を主引用例とする進歩性欠如を根拠に,拒絶理由が通知され,かかる拒絶理由が解消されていないとして,拒絶査定がされたものといえる。
加えて,前記のとおり,原告は,本件拒絶理由通知に対する本件意見書において,4月21日付け補正後の本願発明が,甲12文献の記載事項のみならず,甲1文献の記載事項との対比において「空洞部の具体的な存在範囲が特定されていない引用文献2に開示された空洞部3とも異なる」旨を主張した上で,4月21日付け補正後の本願発明のような,リング溝を用いてリングベルト領域を規定し,当該領域をもとに,ピストンの冷却を促進する好適な範囲が規定された冷却空洞は,甲12文献にも甲1文献にも開示されておらず,甲12文献及び甲1文献記載の発明に対して新規性及び進歩性を有する旨の意見を述べている。また,原告は,審判請求書においても,甲12文献の記載事項のみならず,甲1文献の記載事項を摘示した上で,いずれの引用発明からも当業者が本願発明を容易に発明することができたものではない旨記載している。これらによれば,原告も,甲12文献及び甲1文献のそれぞれが,進歩性欠如の主引用例となり得ることを前提とした対応をしているものと理解できる。
そうすると,本件拒絶理由通知及び本件拒絶査定の手続においては,記載の仕方が適切とはいえないものの,甲1文献を主引用例とする進歩性欠如の拒絶理由が通知されていたものというべきである。
イ 本件審決では,甲1文献を主引用例として,本件補正発明の独立特許要件を判断しているところ,同文献は,前記アのとおり,本件拒絶理由通知,本件拒絶査定のいずれにおいても主引用例とされていたものと評価することができる。そして,本件補正前の本願発明との相違点である相違点2,3については,本件補正発明と実質的に同様の理由,すなわち,甲1発明から容易に想到できると判断されている。
相違点1については,新たに甲2文献も引用されているが,相違点1は本件補正により付加した事項であるから,この点について新たな副引用例を追加し,拒絶理由を通知することなく補正却下の決定を行ったことに違法はない(特許法50条ただし書)。
ウ なお,本件前置報告書は,その内容が本件審決に用いられていないから,本 件前置報告書において新たな主引用例として甲15文献を引用したことをもって,本件審決に影響を及ぼす違法があったとはいえない。
(3) 小括 以上によれば,本件手続が違法であるとまではいえず,取消事由1は,理由がない。
3 取消事由2(甲1発明に基づく進歩性判断の誤り)について (1) 甲1発明について ア 甲1文献には,おおむね,以下の記載がある(下記記載中に引用する図面は,別紙甲1図面目録参照)。
(ア) 特許請求の範囲 【請求項1】ピストンの上部外周部及び上部外周から頂面の内,少なくとも上部外周部の内側に空胴部を設け,該空胴部に空胴部の容積の略半分にナトリウムを封入するようにしたことを特徴とする二サイクルエンジンのピストン。
(イ) 産業上の利用分野 【0001】この発明は,熱の拡散を向上できるようにした二サイクルエンジンのピストンに関する。
(ウ) 従来の技術 【0002】二サイクルエンジンのピストンは,図4に示すように,ピストンAの頂面B付近の肉厚を厚くして,頂面Bが受ける燃焼圧力に耐えるようにすると共に熱容量を大きくしている。又,四サイクルエンジン用のピストンでは,頂面の内側に空胴を設けて,潤滑オイルを入れるようにして,潤滑オイルで冷却を促進するようにしたものがある。… 【0003】二サイクルエンジンのピストンは,シリンダー内に吸入される燃料によって冷却されていて,冷却に限界がある。このため,冷却不足が起きて,ピストン外周の摺動面にスカフィングが発生したりリングスティックが発生するなどの不都合がある。又,ピストンの頂面付近の肉厚を厚くすると,ピストン重量が増し,ピ ストンの往復運動のときの慣性が大きくなる不具合がある。
【0004】かかる点に鑑み,この発明は,ピストンの頂面付近が受ける熱を下側のスカート方向に拡散させて冷却性を向上し,ピストン重量も軽くできる二サイクルエンジンのピストンを得ることを目的とする。
(エ) 課題を解決するための手段 【0005】上記目的を達成するために,この発明の二サイクルエンジンのピストンは,ピストンの上部外周部及び上部外周から頂面の内,少なくとも上部外周部の内側に空胴部を設け,該空胴部に空胴部の容積の略半分にナトリウムを封入するようにしたことにある。
(オ) 作用 【0006】空胴部に封入したナトリウムは,93℃の融点であるので,ピストンの頂面が燃焼ガスの熱を受けて温度上昇すると,ナトリウムが液化する。そして,空胴内で液化したナトリウムが攪拌されて,頂面が受けた熱を下部のスカート方向に拡散し,頂面の過熱を防止して適性温度に保つことができる。こうしてピストン自体の熱的アンバランスを解消できる。
(カ) 実施例 【0007】以下,本発明の実施例を図1乃至図3によって説明する。図1及び図2は,本発明の一実施例を示すものである。二サイクルエンジンのピストン1の上部外周2の内側に,空胴部3を設ける。そして,空胴部3に空胴部3の容積の略半分の量のナトリウム4を注入する。ナトリウム4は空胴部3の一端に設けた注入口5から注入して,栓6で塞いで封入する。
【0008】図3は本発明の他の実施例を示すものである。この場合は,二サイクルエンジンのピストン1の上部外周に加えて頂面7の内側にかけて空胴部3を設ける。そして,同様に,空胴部3内に空胴部3の容積の略半分の量のナトリウム4を注入して,栓6で塞いで封入する。
【0009】空胴部3内に封入したナトリウム4は,93℃の低い融点で,ピス トン1の頂面7が受ける燃焼ガスの熱で液化する。そして,空胴部3内をナトリウム4が攪拌され,頂面7が受ける熱を下部のスカート方向に拡散して,頂面7の温度を低下すると共に,ピストン1自体の熱的アンバランスを解消できる。
(キ) 発明の効果 【0010】以上説明したように,この発明は上述のように構成したので,ピストンの上部に設けた空胴部内に封入したナトリウムが,ピストンの温度上昇で液化し,ピストン自体の熱的アンバランスを防ぎ,頂面の温度を下げることができる。
そして,ピストンの燃料による冷却の負担を軽くすることができ,同じピストン重量では熱容量を大きくできて,ピストンを軽量化できる。これらによって,ピストンのスカフィングなどのトラブルを防止することができて,耐久性が向上する。
イ 甲1発明の認定 (ア) 前記アの記載によれば,甲1文献には,二サイクルエンジンのピストン1の上部外周2の内側に空胴部3を設け,注入口5から空胴部3にナトリウムを注入して栓6で塞ぐことが開示されている。
また,甲1文献の図1ないし3によれば,ピストン1の上部外周2には,頂面側に近い側と遠い側の2つの凹部が設けられていること,空洞部3は,2つの凹部と上部外周2に向かう方向,すなわち径方向に並んでおり,ピストン1の上部外周2の内部に設けられた空洞部3の下部には一対の孔を有する部位があることが認められる。
正面視(図1)と側面視(図2)を合わせると,ピストン1の上部外周2の部位が,2つの凹部の位置関係を含めて同形状であるから,ピストンの上部外周は,その周方向に対称となる形状となっているものと認められ,2つの凹部は,頂面側に近い側と遠い側の2本の環状の溝であると認められる。また,一対の部位がそれぞれ有する孔は同軸にあるところ,一般にエンジンのピストン本体の下部にはピンボア部に沿って互いに並んだピンボアを有する一対のピンボスを備えていることは技術常識であること(争いがない。)を踏まえれば,一対の部位を有する孔は,ピンボ ア軸に沿って互いに並んだピンボアを有する一対のピンボスと理解することができる。そして,図1及び図2によれば,空洞部3は最上面と最下面を有し,ピストン1の上部外周2の内部の左右に設けられているところ,正面視(図1)では,注入口5及び栓6はなく,側面視(図2)では,注入口5及び栓6は左方の空洞部3にのみ設けられていることから,空洞部は円周方向に連続した環状のものであると理解できる。また,図1では,空洞部の下方に孔(ピンボア)が貫通しているため,空洞部の最下面は孔(ピンボア)の上方近傍に位置するのに対し,図2では,空洞部が孔(ピンボア)と干渉していないため,空洞部が下方のスカート部まで延在していると理解することができ,空洞部3の最下面が,頂面側から遠い溝よりも下方に延在していることが理解できる。
(イ) もっとも,甲1文献には,「ピストンリング」及び「リング溝」との用語は使用されておらず,上記溝がリング溝であることや,空洞部3とピストンリングとの位置関係について明示されているとはいえない。
しかし,一般に,ピストンの上部外周に設けられたリング溝にピストンリングが配置されることは技術常識であって(争いがない。,甲1文献のピストン1の上部 )外周2に設けられた頂面側に近い側と遠い側の2本の環状の溝がリング溝以外に用いられると解すべき事情もない。そして,甲1文献には, 「リングスティックが発生するなどの不都合がある。( 」【0003】, )「かかる点に鑑み,この発明は,ピストンの頂面付近が受ける熱を下側のスカート方向に拡散させて冷却性を向上し,ピストン重量も軽くできる二サイクルエンジンのピストンを得ることを目的とする。 【0 」 (004】)との記載があるところ, 「リングスティック」は,ピストンリングとそれを挿入するリング溝との間に生じる現象であるから,甲1文献においては,ピストン1が,「ピストンリング」及び「リング溝」を備えていることが前提となっている。
したがって,甲1文献に接した当業者は,上記技術常識を踏まえるなら,甲1発明のピストンの上部に設けられた,頂面側に近い側と遠い側の2本の環状の溝が「リング溝」であることや,この「リング溝」に「ピストンリング」が配置されることを 理解することができる。また,上記によれば,空洞部3は,ピストンリングが嵌装される2つのリング溝に径方向に並んで配置されていることも容易に理解することができる。
よって,甲1文献には,上記事項が記載されているに等しいというべきである。
(ウ) 以上によれば,甲1文献には,実質的に,本件審決が認定したとおりの甲1発明(前記第2の3(2)ア)が記載されていることが認められる。
ウ 本件補正発明と甲1発明との一致点及び相違点の認定について (ア) 本件補正発明と甲1発明との間には,本件審決が認定したとおりの一致点及び相違点があること(前記第2の3(2)イ,ウ)が認められる。
(イ) 原告は,甲1文献には,「前記頂面7に近い側のリング溝内に配置されるピストンリングと前記頂面7に遠い側のリング溝内に配置されるピストンリング」,「空洞部3は,前記頂面7に近い側のリング溝内に配置されるピストンリングと頂面7に遠い側のリング溝内に配置されるピストンリングと径方向に並んで構成され」との構成が記載されていないから,本件審決が,これらを一致点として認定したことは誤りである旨主張する。
しかし,前記技術常識を踏まえれば,甲1文献には「前記頂面7に近い側のリング溝内に配置されるピストンリング」と「前記頂面7に遠い側のリング溝内に配置されるピストンリング」との構成及び空洞部3が「ピストンリングと径方向に並んで構成され」るとの構成が記載されているに等しいことは,前記イのとおりである。
なお,上記の点が相違点であるとしても,前記技術常識に照らせば,いずれも容易に想到することができるというべきである。
(2) 相違点1の判断について ア 甲2技術について (ア) 甲2文献には,「内燃機関用ピストン」に関し,以下の事項が記載されている(下記記載中に引用する第3図は,別紙甲2図面目録参照)。
本考案は内燃機関用ピストン,特に運転中のピストン温度の過昇を抑制するよう に構成されたピストンに関する。(1頁9〜11行) 本考案は上記の如き強制冷却方式を採ることなくピストン自体に優れた伝熱部位を内蔵せしめるのみの簡易な構成をもつピストンを提供することを目的とする。
即ち本考案の要旨は,/ピストン頭部内に該頭部を囲い中空部を形成し,該中空部内に良伝熱性金属を封入したことを特徴とし,該金属の熱対流によつてピストン頂面の熱を,ピストンピン,ピストンスカート部へ流動して低下させることにある。
(明細書3頁1〜10行) 第3図に示す本考案によるピストンの第1実施例において,ピストン1はその頭部内に,該頭部の円周方向および半径方向に空洞内に金属ナトリウム或は水銀のような良伝熱性金属Mが封入されている。(明細書4頁1〜5行) 4.図面の簡単な説明/第1図および第2図はそれぞれ従来のオイルジエツト式ピストン冷却方法の概要図,第3図および第4図は本考案による冷却型ピストンの第1および第2実施例を示す。/1…ピストン 2…シリンダブロツク/3…連接棒 4…オイルジエツト部/5…油通路 6…ジエツトノズル/7,8,9…空洞9…伝熱金属 (明細書5頁5〜13行) (イ) 上記のとおり,甲2文献には,内燃機関のためのピストンであって,ピストン頭部内に該頭部を囲い中空部を形成し,該中空部内に良伝熱性金属を封入する構成とし,該金属の熱対流によってピストン頂面の熱を,ピストンピン,ピストンスカート部へ流動して低下させることが記載されている。また,第3図から,ピストン頭部の「上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ部分を備え」ており,ピストン頭部の空洞内に良伝熱性金属Mが封入されていることが看て取れる。
もっとも,甲2文献には, 「前記凹んだ部分と前記空洞7の間が薄いように構成される」という事項の明示的な記載はない。
しかしながら,本願明細書によれば,本件補正発明は,燃焼室内で温度及び圧縮負荷を上昇させることにより,ピストンに対する摩耗及び物理的負荷が大きくなり,その潜在的な耐用年数が短くなってしまうとの課題を解決するため,第1のピスト ンリングと第2のピストンリングとの間に実質的に径方向に並んで構成される環状の封止冷却空洞を設けて冷却媒体を収容し,上部燃焼面及びリングベルト領域に対する冷却効果を最適化するものであり(【0002】【0003】【0004】【0 , , ,014】,リングベルト領域のみならず上部燃焼面を冷却することを意図するもの )と認められる。そして,本願明細書には, 「燃焼ボウル42に起因して,ピストン本体の材料の比較的薄い領域が燃焼ボウル42と冷却空洞28と下クラウン面18との間に形成される。( 」【0010】)との記載があるところ,当業者であれば,燃焼ボウルを設けて頂部と封止冷却空洞を近接して設置し,これに起因して,燃焼ボウルと封止冷却空洞との間の領域を薄く形成することにより,上部燃焼面の熱を熱伝導によって冷却媒体に逃がしやすくしていることを技術常識として理解することができるから,本件補正発明の「ピストン本体の材料の薄い領域を形成する」とは,上部燃焼面の冷却性を向上させるために,凹んだ燃焼ボウルを備えることに起因して,燃焼ボウルと封止冷却空洞との間に,ピストン本体の材料の薄い領域を形成することであると理解される。
そうすると,ピストン頭部の「上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ部分を備え」ている甲2技術では, 「凹んだ部分」に起因して,ピストン1の頭部の「凹んだ部分」と空洞7との間に領域が形成されるところ,甲2技術がピストン頂面の熱をピストン下方へ流動して低下させるものであること及び上記技術常識を踏まえるなら,かかる領域は薄く形成されるものであることが明らかであるから, 「前記凹んだ部分と前記空洞7の間が薄いよう構成される」ことが,実質的に記載されているといえる。
以上によれば,甲2文献には,実質的に,本件審決が認定したとおりの甲2技術(前記第2の3(3))が記載されていることが認められる。
イ 相違点1の容易想到性について (ア) 甲1発明は,凹んだ燃焼室を有さない二サイクルエンジンについてのものであり,甲1文献には,従来技術では,ピストン頂面が受ける燃焼圧力に耐えるよう にするため,ピストン頂面付近の肉厚を厚くしていたが(【0002】,図4),冷却不足が起きて,ピストン外周の摺動面にスカフィングが発生したりリングスティックが発生するなどの不具合があり,また,ピストン重量が増し,往復運動のときの慣性が大きくなる不具合があったことから(【0003】,空洞部を設けることによ )り,頂面付近の熱をスカート方向に拡散して,ピストンの冷却性を向上し,軽量化を図るものである(【0004】)との記載がある。
一方,甲2技術は,内燃機関のためのピストン頂面の熱をピストンスカート部へ流動して低下させるものであるから,技術分野,解決すべき課題及び作用が共通するといえ,甲1発明に甲2技術を適用する動機付けはあるというべきである。
(イ) 原告は,二サイクルエンジンにおいて,ピストンの頂面付近の肉厚を厚くしている甲1発明に,甲2技術を適用してピストン頂部に凹部を設けることには,阻害要因があると主張する。
しかしながら,実願昭60-64283号(実開昭61-181845号)のマイクロフィルム(乙7)の第1図には,ピストンクラウン1に凹んだ燃焼室1aを設けた構成が,特開平2-157461号公報(乙8)の第1図には,ピストンクラウン12の上面側に凹んだ燃焼室aを設けた構成が,それぞれ開示されており,二サイクルエンジンにおいても,ピストン頂面に凹んだ形状の燃焼室を設けることは周知であったと認められる。そして,甲1発明は,二サイクルエンジンにおいて,従来技術のピストンの有する課題を解決するため,空洞部を設けることによって,熱を下方に拡散するものであるところ,かかる課題を解決するために,周知技術である凹んだ形状の燃焼室の構成を採用することが妨げられる理由があることはうかがわれず,ピストン頂面付近の肉厚を厚くすることが必須の構成とはいえないから,甲2技術を適用することに阻害要因はない。
(ウ) そして,甲1発明に甲2技術を適用すれば,ピストン頭部の「上部燃焼面の平坦な最上部分から垂下する凹んだ部分」が設けられ,この「凹んだ部分」を設けることに起因して,ピストン1の頭部の「凹んだ部分」と空洞部との間にピストン本 体の材料の薄い領域が形成されることになるから,相違点1に係る構成は,容易に想到することができる。
よって,相違点1は,当業者が甲1発明及び甲2技術から容易に想到することができたものである。
(3) 相違点3の判断について 前記(1)イのとおり,甲1文献には,空洞部3が2本のリング溝に径方向に並んで配置されることが実質的に開示されており,また,空洞部3の最下面は,下方リング溝よりも下方に延在していることが記載されている。
そして,甲1文献には,ピストンの冷却不足により,ピストン外周の摺動面にスカフィングが発生したり,リングスティックが発生するなどの不都合を解決することを課題とし,ピストン頂面付近が受ける熱を,下方のスカート方向に拡散させて冷却性を向上するとの記載がある(【0003】【0004】。また,ピストンリン , )グがピストンの熱をシリンダに伝える役割を担うことは, 「自動車整備工学<エンジン編>」と題する文献(乙4。昭和54年6月30日発行)に, 「コンプレッション・リングはシリンダとピストン間で高温,高圧ガスの機密を保持して…,ピストン・ヘッドから伝わる熱を冷却水に逃がしながら」 (53頁)との記載があることからも,技術常識であったと認められる。
そうすると,甲1発明において,上記技術常識も勘案して,ピストンの頂面付近が受ける熱を,リング溝近傍からピストンリングの伝熱によってシリンダに逃がすことに加えて,封止冷却空間にも逃がし,また,下方のスカート方向に効果的に拡散させるため,2本のリング溝に径方向に並んで配置される封止冷却空間を,その最上面を上方リング溝と実質的に径方向に並ぶようにして,リング溝全体の上下幅をカバーするように上方リング溝と下方リング溝の間に構成し,さらに,その最下面を下方リング溝の下方を延在するように構成することは,当業者であれば容易に想到することができたというべきである。
よって,相違点3は,甲1発明から当業者が容易に想到することができたもので ある。
(4) 小括 相違点2が容易に想到することができるものであることは争いがないから,以上によれば,本件補正発明は,甲1発明及び甲2技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,進歩性を欠くというべきである。
よって,本件補正は,特許法17条の2第6項で準用する同法126条7項の規定に違反するものであって,同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものである。
また,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに相違点1に係る事項を付加したものである本件補正発明が,甲1発明及び甲2技術により当業者が容易に発明をすることができたものである以上,本願発明も,同様に,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。
以上によれば,取消事由2は,理由がない。
4 結論 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 高部眞規子
裁判官 小林康彦
裁判官 関根澄子
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