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関連審決 無効2018-800009
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事件 平成 31年 (行ケ) 10023号 審決取消請求事件

原告アルインコ株式会社
同訴訟代理人弁理士 中野収二
被告 ジー・オー・ピー株式会社
同訴訟代理人弁護士 小林幸夫 弓削田博 河部康弘 神田秀斗
同訴訟代理人弁理士 南林薫 栗川典幸 國分孝悦
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/10/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2018-800009号事件について平成31年1月22日にした審決を取り消す。
事案の概要
本件は,発明の名称を「脚立式作業台」とする発明に係る特許権(特許第6254847号。以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」という。)の特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,本件特許の訂正後の請求項1及び2に係る発明の進歩性である。
1 審判手続の概要 被告は,名称を「脚立式作業台」とする本件特許(特許第6254847号)の特許権者である(甲2)。
本件特許は,平成24年10月16日に出願された実用新案登録第3180629号に基づいて平成26年1月8日に出願されたものであり,平成29年12月8日に設定登録された(甲1,2)。
原告は,平成30年1月30日,本件特許の請求項1及び2に係る発明(以下,それぞれ,「本件特許発明1」「本件特許発明2」といい,併せて「本件特許発明」 ,という。)について無効審判(以下「本件審判」という。)請求をし,特許庁は,同請求を無効2018-800009号事件として審理した。
被告は,同年4月20日付け訂正請求により,同訂正請求書に添付した訂正明細書(以下,訂正明細書及び図面を「本件訂正明細書」という。)及び特許請求の範囲のとおり訂正することを請求した(以下,訂正後の本件特許発明1を「本件訂正発明1」,本件特許発明2を「本件訂正発明2」といい,併せて「本件訂正発明」という。。特許庁は,平成31年1月22日, ) 「特許第6254847号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下, 「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月31日に原告に送達された。
2 本件訂正発明1及び2の特許請求の範囲【請求項1】[A]上側が回動部を介して回動自在に軸着され,下側に向かって外側に傾斜し, それぞれ一対の支柱が梯子状に形成され,作業者の昇降側となる第1主脚および作業者の昇降側としない第2主脚と, [B]前記第1主脚および前記第2主脚の間に亘って配置される作業床用天板と, [C]前記作業床用天板の上方に形成される作業空間のうち前記第1主脚側のみを開放した状態で,前記作業床用天板の上方に配置される略コ字状の枠部材と, [D]前記作業空間のうち前記第1主脚側に位置して,前記作業空間を前記枠部材と共に包囲し,作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる一対のバーと,を備え, [D1]前記第1主脚側から見たときに一方の支柱側を右とし,他方の支柱側を左とすると, 前記一対のバーは, それぞれ略左右対称に軸着部を介して回動可能であって, 前記第1主脚側において互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され,前記作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置される第1の状態と, 前記軸着部を介して回動して開くことで,前記互いの先端部が離れるように且つ前記隙間が広がるように開かれ,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,作業者が前記第1主脚と前記作業空間との間を移動可能な第2の状態と,に変形可能であり,かつ, [D2]前記一対のバーは, 前記軸着部に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能であって,前記第1の状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可能であることを [E]特徴とする脚立式作業台。
【請求項2】 [F]前記一対のバーは,前記作業床用天板から550mm〜900mmの高さに位置することを特徴とする請求項1に記載の脚立式作業台。
3 本件審判で主張された無効理由 (1) 無効理由1 本件特許発明は,甲3(米国特許第7104361号明細書)に記載された発明(以下,「甲3発明」という。)及び周知技術(甲5〜8)に基づいて,本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により,特許を受けることができないものである。
(2) 無効理由2 本件特許発明は,甲3発明及び甲4(米国特許第5080192号明細書)に記載された発明(以下,「甲4発明」という。)並びに周知技術(甲5〜8)に基づいて,本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により,特許を受けることができないものである。
(3) 甲5〜8は,次のとおりである。
甲5 特開2005-290763号公報 甲6 特開2006-152593号公報 甲7 特許第4170580号公報 甲8 特開2006-342555号公報 4 本件審決の理由の要旨 (1) 無効理由1について ア 本件訂正発明1と甲3発明との一致点及び相違点<一致点>「上側が回動部を介して回動自在に軸着され,下側に向かって外側に傾斜し,それぞれ一対の支柱が梯子状に形成され,作業者の昇降側となる第1主脚および作業者の昇降側としない第2主脚と, 前記第1主脚および前記第2主脚の間に亘って配置される作業床用天板と, 前記作業床用天板の上方に形成される作業空間のうち前記第1主脚側のみを開放した状態で,前記作業床用天板の上方に配置される略コ字状の枠部材と, 前記作業空間のうち前記第1主脚側に位置して,前記作業空間を前記枠部材と共に包囲する一対の部材と,を備え, 前記第1主脚側から見たときに一方の支柱側を右とし,他方の支柱側を左とすると, 前記一対の部材が, 前記第1主脚側において互いの先端部が対向してその一部が略直列に位置するように支持され,前記作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置される第1の状態と, 回動して開くことで,前記互いの先端部が離れるように開かれ,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,空間が存在する第2の状態と,に変形可能である,脚立式作業台。」<相違点1> 作業空間のうち第1主脚側に位置して,作業空間を枠部材と共に包囲する一対の部材について, 本件訂正発明1では,「一対のバー」であって,「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる」ものであり,「それぞれ略左右対称に軸着部を介して回動可能であって」,「前記第1主脚側において互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され,前記作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置される第1の状態」と,「前記軸着部を介して回動して開くことで,前記互いの先端部が離れるように且つ前記隙間が広がるように開かれ,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列 に位置して,作業者が前記第1主脚と前記作業空間との間を移動可能な第2の状態」と,に変形可能であり,「前記軸着部に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能であって,前記第1の状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可能」であるのに対して, 甲3発明では,「登上セクション11のスタイルの上端に枢着されており,直角部材105,106をリアレールの上に折畳ませた状態から,スタイル端部のブラケットによって拘束されるまで回転させられるアーム108と,該アーム108を中心に略左右対称に回動可能な前方バー107」を有する「直角部材105,106」であって,「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる」ものであるとの特定がなされておらず,「プラットフォームに登ることができる,リアレールの上に折畳ませた状態A」と,「その状態Aから回転させて,前記アーム108がスタイル端部のブラケットによって拘束された位置において,各前方バー107が,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,空間が存在する状態B」と,「その状態Bから各前方バー107を平面上に沿ってさらに回転させて,登上セクション11側において,前方バー107を互いに向かい合うまで回転すると共に,前方バー107の内部におけるスピゴット109の相互作用により直列状態となるように拘束されるまでスピゴット109を挿入して,係合させることで,直列状態にラッチ止めされた前方バー107,107が,プラットフォーム50の端部の上方位置に配置される状態C」と,に変形可能であり,「状態Cから状態Bに変形するときには,直角部材105,106の各前方バー107を,互いの先端部が離れるように開く」点。
イ 相違点1についての判断 (ア) 本件訂正発明1は,従来の可搬式作業台が,作業者が天板の突出方向 と反対側で作業を行う場合には,天板の端を目視で確認しながら作業を行わなければならず,作業の効率が低下してしまうという問題や,天板の突出方向の反対側にも同様の手摺を取り付けたとしても,作業者が可搬式作業台を昇降する際に手摺を乗り越えたり,手摺をくぐったりしなければならないことから,天板と主脚との間の移動を自由に行うことができず,かえって作業の効率が低下してしまう問題を解決し,作業空間を包囲することにより作業の効率化を図ると共に,天板と主脚との間の移動を容易に行うことができる脚立式作業台を提供することを目的とし(本件訂正明細書の【0005】【0006】【0007】, , , ) 上記問題を解決するために,作業床用天板の上方に形成される作業空間を,作業床用天板の上方に配置される略コ字状の枠部材と共に包囲する「一対のバー」について, 「前記作業空間のうち前記第1主脚側に位置して」, 「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させ」るものとし, 「それぞれ略左右対称に軸着部を介して回動可能であって」, 「前記第1主脚側において互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され,前記作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置される第1の状態」と, 「前記軸着部を介して回動して開くことで,前記互いの先端部が離れるように且つ前記隙間が広がるように開かれ,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,作業者が前記第1主脚と前記作業空間との間を移動可能な第2の状態と,に変形可能であ」るものとし, 「前記軸着部に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能であって,前記第1の状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可能」なものとすることにより, 「作業の効率化を図ると共に,天板と主脚との間の移動を容易に行うことができる」という作用効果を奏するものである(本件訂正明細書の【0009】。
) (イ) これに対して,甲3発明は,容易に運搬できない嵩張った構造プラッ トフォームラダーにおいて,容易に運搬できるようにすること,さらには,閉じた状態のラダーの全長が長くならないようにすることを課題とし,このような課題を解決するために,「プラットフォーム50に形成される作業するための空間のうち,登上セクション11側に設けられ,前記作業をするための空間を前記枠と共に包囲する,フロントレールが分割された直角部材105,106」を備え, 「直角部材105,106は,登上セクション11のスタイルの上端に枢着されており,直角部材105,106をリアレールの上に折畳ませた状態から,スタイル端部のブラケットによって拘束されるまで回転させられるアーム108と,該アーム108を中心に略左右対称に回動可能な前方バー107を有するもの」という構成を採用し,当該構成によって,直角部材105,106を「リアレールの上に折畳ませた状態A」とすることができるものである。そして,甲3には,本件訂正発明1の相違点1に係る構成,すなわち, 「前記一対のバーは,それぞれ略左右対称に軸着部を介して回動可能であって」「前記一対のバーは,前記軸着部に配置されるそれぞれ一つ ,の軸支ピンのみを中心に回動可能であって,前記第1の状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可能であること」という構成は何ら記載も示唆もない。また,甲3発明の「アーム108」と「前方バー107」を有する「直角部材105,106」について, 「前方バー107」のみとすることや,アーム108をスタイル端部に固定して折畳ませた状態Aとならないようにして本件訂正発明1のようにする動機付けはなく,また,アーム108を中心に回動可能な前方バー107を隙間を介して略直列に位置するように軸着部で支持する構成とする動機付けもない。
したがって,回動すべき部材を軸着するために軸支ピンを使用することが周知技術(甲5〜8)であるとしても,当該周知技術を甲3発明に適用して,相違点1に係る本件訂正発明1の構成に至ることはできない。
(ウ) ところで,本件訂正発明1の「一対のバー」と甲3発明の「前方バー107」は,「前記第1主脚側において互いの先端部」が「対向して」「略直列に位 置するように」 「支持され,前記作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置される第1の状態」と,「回動して開くことで,前記互いの先端部が離れるように」「開かれ,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して」 「空間が存在する第2の状態」とに,変形可能であることから,両者が対応関係にあるともいえなくもない。
しかし,本件訂正発明1の「一対のバー」は,第1状態において「隙間を介して」「略直列に位置するように」 「軸着部によって支持」されているのに対して,甲3発明の各「前方バー107」は,前方バー107の内部におけるスピゴット109の相互作用により直列状態となるように拘束されるまでスピゴット109を挿入し,係合させることで,直列状態にラッチ止めされる点で異なる。すなわち,作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置される第1の状態における,一対の部材を略直列に位置するように支持する構造として,本件訂正発明1では, 「前記第1主脚側において互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持」される構成を有しているのに対して,甲3発明では,そのような構成を有していない点で相違している。
そして,甲3における記載をみても,上記相違点に係る,「一対のバー」は,「隙間を介して」「略直列に位置するように」「軸着部によって支持される」構成とする動機付けはない。また,周知技術として示された甲5〜8のいずれにも,前記構成についての記載も示唆もされていないのであるから,仮に,甲3発明に上記周知技術(甲5〜8)を適用したとしても,本件訂正発明1に至ることはできない。
ウ 本件訂正発明2について 本件訂正発明2は,本件訂正発明1の構成をすべて含み,さらに発明特定事項を限定するものであるから,上記ア,イと同様の理由により,甲3発明及び周知技術(甲5〜8)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,特許法29条2項に該当しない。
(2) 甲3発明を主引用例とする無効理由2について ア 本件訂正発明1について (ア) 本件訂正発明1と甲3発明との一致点及び相違点は,前記(1)アのとおりである。
(イ) 甲3発明の「一対の直角部材105,106」の「前方バー107」及び甲4発明の「ゲート42,44」は,共に,それぞれ略左右対称に回動可能であって,互いの先端部が対向して略直列に位置するように支持される状態と,作業者が作業空間へ移動可能な状態と,に変形可能な部材である点で共通する。
しかし,甲3発明の「一対の直角部材105,106」は,プラットフォーム50に登った作業者の安全性を確保するためのレールの一部となるものであるのに対して,甲4発明の「ゲート42,44」は,ラダーが不正に使用されないようにアクセスをブロックするためのものであって,両者は目的が相違する。
したがって,甲3発明の「一対の直角部材105,106」の構成に代えて,甲4発明の「ゲート42,44」の構成を適用する動機付けはない。
仮に,甲3発明に甲4発明を組み合わせる動機付けがあるとしても,甲4発明の「ゲート42,44」は, 「はしご部材にアクセスする側のステップ30より手前に位置する」ものであり, 「作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置」されるものではなく,また「作業者が接触することで」 「作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる」ものでもないことから,甲3発明に甲4発明を適用しても,本件訂正発明1に至ることはできない。
また,周知技術として示された甲5〜8のいずれにも,上記相違点に係る, 「一対のバー」については, 「隙間を介して」 「略直列に位置するように」 「軸着部によって支持される」構成が記載も示唆もされていないのであるから,甲3発明に上記周知技術を適用したとしても,本件訂正発明1に至ることはできない。
以上のとおりであるから,本件訂正発明1は,甲3発明及び甲4発明並びに周知技術(甲5〜甲8)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,特許法29条2項に該当しない。
イ 本件訂正発明2について 本件訂正発明2は,本件訂正発明1の構成をすべて含み,さらに発明特定事項を限定するものであるから,上記アと同様の理由により,甲3発明及び甲4発明並びに周知技術(甲5〜8)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではなく,特許法29条2項に該当しない。
原告主張の審決取消事由
1 本件訂正発明1の進歩性の判断の誤り 本件審決は,本件訂正発明1と甲3発明の相違点の認定を誤った結果,本件訂正発明1の進歩性の判断を誤った違法がある。
(1) 本件訂正発明1の技術的範囲 ア 本件訂正発明1の技術的構成[C]〜[D2]は,下記の技術的事項を要件としているが,それ以外の技術的事項は要件としていない。
(ア) 技術的構成[C]は,略コ字状の枠部材が「作業床用天板の上方に形成される作業空間のうち前記第1主脚側のみを開放した状態で,前記作業床用天板の上方に配置される」ことである。
(イ) 技術的構成[D][D1][D2]は,一対のバーが, @ 前記作業空間のうち前記第1主脚側に位置して,前記作業空間を前記枠部材と共に包囲し,作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させること, A 略左右対称に軸着部を介して回動可能であること, B 第1の状態(前記第1主脚側において互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され,前記作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置される)と,第2の状態(前記軸着部を介して回動して開くことで,前記互いの先端部が離れるように且つ前記隙間が広がるように開かれ,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,作業者が前記第1主脚と前記作業空間との間を移動可能)とに変形可能であること, C 前記軸着部に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能であって,前記第1の状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可能であることである。
イ 本件訂正明細書に示された脚立式作業台の一対のバーは,コ字状の枠部材よりも下方位置に設けられており,第1主脚の支柱から前方に突出するブラケット41の先端部に設けた軸着部42に軸着されている(別紙【図A-1】参照。以下,別紙の図は,単に【図A-1】などという。。ブラケット41が前方に突出し )ている理由は,一対のバーが第1の状態とされたとき「作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置される」ようにするためであると解される。
ところで,本件訂正明細書の【0036】は「・・・また,本実施形態では,閉塞部材40は枠部材30よりも下側に配置されている場合について説明したが,この場合に限られず,枠部材30と同じまたは略同じ高さに配置されていてもよい。」と説明している。したがって,この場合,一対のバー(閉塞部材)は, 【図B】のように真上に移動され,コ字状の枠部材と同じ高さに配置されることになる。
しかし,この場合,本件訂正明細書に示されたブラケット41を使用しても,一対のバーを「作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置される」ように軸着することはできない。そこで,コ字状の枠部材と同じ高さに配置された一対のバーは,【図B】のように,該枠部材の側枠部から前方に延設されたアーム部の先端部に設けられた軸着部に軸着されることになる。なお,アーム部は,コ字状の枠部材の一部を構成しており,この枠部材の全体と一対のバーにより作業空間が包囲される。
このような【図B】の構成は,上述した技術的構成[C]〜[D2]の全ての要件を充足し,本件訂正発明1に含まれていることになる。
ウ さらに,上記技術的構成[C]〜[D2]は,一対のバーがどのような形状のものであるかを要件としていない。
したがって,一対のバーは, 【図C】のように「折曲部」を形成し,この折曲部を軸着部に軸着したものでも,上記技術的構成[C]〜[D2]の全ての要件を充足 し,本件訂正発明1に含まれていることになる。
エ ところで, 【図B】や【図C】のコ字状の枠部材は,側枠部から前方に延設したアーム部を含む全体により構成され,アーム部に設けた軸着部にバーを軸着している点において,本件訂正明細書に記載された枠部材とは相違しているが,作業空間のうち第1主脚側のみを開放した状態で天板の上方に配置され(技術的構成[C], ) 一対のバーと共に作業空間を包囲する(技術的構成[D] ものであるから, )本件訂正発明1の「略コ字状の枠部材」に該当している。
そして,本件訂正発明1は,略コ字状の枠部材について,側枠部が屈折不可能なものであるとか,折畳み不可能なものであるとかの限定を有していないから,側枠部を長手方向の中途部で分割したり,屈折可能としたりする構成が付加されることについて,禁止又は除外排斥していない。
そうすると, 【図D-1】 【図D-2】 及び のように,側枠部とアーム部を分割し,アーム部を一対のバーと共に反転させることにより折畳み可能としたものであっても,依然として,本件訂正発明1の「略コ字状の枠部材」であることにほかならない。
【図D-1】及び【図D-2】の構成は,略コ字状の枠部材の構成について折畳み可能としたものであっても,一対のバーの構成は, 「前記軸着部に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能であって,前記第1の状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可能」とされているものであるから,本件訂正発明1に含まれている。
オ 本件訂正発明1は,軸着部における一対のバーの回動方向,すなわち,軸支ピンが縦軸と横軸の何れであるのかについて,特定又は限定しておらず,その両方を含んでいる。
そこで, 【図E】のように,略コ字状の枠部材の側枠部から延設したアーム部の先端部に対して,縦軸ピンを有する軸着部を介して,一対のバーを縦軸廻りに回動自在に軸着した構成とする場合でも,上述した要件を充足することができるため,本 件訂正発明1に含まれている。
なお,この場合,一対のバーは,本件訂正明細書の横軸ピンから成る軸着部に設けられている底部42cのようなストッパーを必要としないことになる。
(2) 本件訂正発明1と甲3発明の相違点の認定の誤り ア(ア) 本件審決は,甲3発明について, 「『登上セクション11のスタイルの上端に枢着されており,直角部材105,106をリアレールの上に折畳ませた状態から,スタイル端部のブラケットによって拘束されるまで回転させられるアーム108と,該アーム108を中心に略左右対称に回動可能な前方バー107』を有する『直角部材105,106』」と認定(認定@)し,本件訂正発明1が「一対のバー」であるのに対して,甲3発明は「直角部材105,106」であるから相違すると認定している。
しかし,甲3の図10a及び図10bの実施例は,折畳み不能に形成された「略コ字状の枠部材」と,その枠部材の左右側枠部の延長された両端部の間を開閉する「クロスメンバ82」を示しており,クロスメンバ82は一本の部材から成る点において本件訂正発明1の「一対のバー」と相違するが, 「作業空間を枠部材と共に包囲する」という点においては本件訂正発明1の「バー」に相当する。これに対し,甲3の図11及び図12の各実施例は,図10における略コ字状の枠部材の左右側枠部を長手方向の途中で折畳み可能とするように分割したものであるが,作業空間を包囲するという観点においては,スタイル11,12の上に固定される側枠部と,この側枠部から前方に伸びるアーム部が直線方向で連設された状態で,全体として図10の略コ字状の枠部材と同形状,同寸法の「略コ字状の枠部材」を構成する。
甲3発明の技術的意義を正しく理解するのであれば,甲3発明の「アーム108」は,略コ字状の枠部材を構成する側枠部の一部分(図10の略コ字状の枠部材の左右側枠材の前方部分に相当)であり, 「前方カバー107」は,包囲された作業空間の出入り口を開閉するためのバー(図10のクロスメンバ82に相当)であることは明らかである。
そうすると,本件訂正発明1の「一対のバー」と対比すべき甲3発明の部材は,略コ字状の枠部材(アーム108を含むコ字状のフレーム)と共に作業空間を包囲する「前方バー107」である。甲3発明と本件訂正発明1を対比させると,甲3発明のアーム108は,本件訂正明細書に記載された実施形態の「ブラケット41」に相当している。
以上によると,認定@に係る本件審決の相違点の認定は誤りである。
本件訂正発明1に包含される【図D-1】【図D-2】の具体例と対比すると, ,甲3発明のアーム108は, 【図D-1】【図D-2】におけるコ字状の枠部材の一 ,部を構成する「アーム部」に相当していることが明らかである。
(イ) 被告は,甲3発明の「アーム108」が本件訂正明細書の「ブラケット41」に相当するものではないと主張する。
しかし,本件訂正発明1の技術的構成[A]〜[E]において, 「固定ブラケット41」は何ら特定されていないのであるから,甲3発明の「アーム108」が「固定ブラケット41」に相当するかどうかは本質的な問題ではない。
本件審決は, 「甲3発明の『アーム108』と『前方バー107』を有する『直角部材105,106』について, 『前方バー107』のみとすることや,アーム108をスタイル端部に固定して折畳ませた状態Aとならないようにして本件訂正発明1のようにする動機付けはなく」と認定しており,これを反対解釈すれば,アーム108をスタイル端部に固定して折り畳ませた状態Aとならないようにすると,本件訂正発明1に到達すると述べているに等しいところ,本件訂正発明1は, 「固定ブラケット41」を構成要件としていないのであるから,アーム108が折畳み自在であるか折畳み不能であるかは,本件訂正発明1との相違点ではない。
甲3発明は,甲3の図10に示された略コ字状の枠部材における左右側枠部が1本の長いレールとされているためかさばるので,その一部を「アーム108」として折り畳み自在とした発明である。したがって,本件訂正発明1のようにかさばるかどうかを問題にしないのであれば,折畳み構造を有しない図10のように戻せば よいだけである。
(ウ) 以上のとおり,甲3発明の「直角部材105,106」の全体を本件訂正発明1の「一対のバー」と対比する本件審決の相違点の認定は誤りである。
イ(ア) 本件審決は,本件訂正発明1の一対のバーが「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる」ものであるのに対し,甲3発明にはこの点が特定されていないと認定し(認定A),この点が相違すると認定する。
しかし,本件審決が<相違点1>であるとした本件訂正発明1の「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる」の点は,本件審決が<一致点>であるとした「作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置される第1の状態」と実質的には同じことである。また,甲3発明が高所作業用のプラットフォームラダーに関して,作業の安全のためのアッパーレールを提供するものであり,回転自在に軸着された前方バー107,107は,閉じた状態でプラットフォーム(作業用天板)の昇降側の端部の上方位置に配置されるのであるから,作業者が昇降側の端部付近に近づくと,身体が接触することは自明のことであり,接触すれば「作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識」させられることは当然のことである。
したがって,認定Aに係る本件審決の相違点の認定は誤りである。
(イ) 仮に,認定Aに係る本件審決の相違点の認定に誤りはないとしても,甲3発明のような物理的転落防止を意図した金属製の安全障壁においても,ユーザの五感のうちの触感が正常であれば,安全障壁に体重がかけられる前に,体が接触したことを感知させることは可能であるから,少なくとも,上記の相違点は,本件訂正発明1の進歩性に何ら寄与するような技術的構成ではない。
ウ 本件審決は,甲3発明の「直角部材105,106」について, 「プラットフォームに登ることができる,リアレールの上に折畳ませた状態A」(認定B),「その状態Aから回転させて,前記アーム108がスタイル端部のブラケットによ って拘束された位置において,各前方バー107が,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,空間が存在する状態B」 (認定C)を認定し,これらが本件訂正発明1と相違すると認定している。
しかし,本件訂正発明1は,技術的構成[D2]において「前記一対のバーは,前記軸着部に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能であって,前記第1の状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可能である」と記載し,軸着部に軸着された一対のバーが第1の状態と第2の状態の間で移動(開閉)することに関して,それぞれ軸着部における1本の軸支ピンを回動軸として1軸の廻りに回動されることを規定しており,複数軸の廻りに回動させることを禁止しているが,一対のバーを開閉するための回動に関する構成とは関係のないものについて,コ字状の枠部材を回動させることまで禁止しているものではない。
このため,本件訂正発明1は, 【図D-1】及び【図D-2】のように構成したものであっても,その技術的範囲に含まれているのであり,不使用時の作業台をコンパクトに折畳み可能とするために,略コ字状の枠部材を分割して回動可能に枢着することは,本件訂正発明1に対する付加的な構成であり,本件訂正発明1との対比において相違点とされるものではない。
そして,甲3発明のプラットフォームラダーが高所作業のために使用されるときには,一対の前方バー107,107は,略コ字状の枠部材を完成させたアーム108に対して,軸着部を介して,一つの回動軸だけを中心にして回動され,図12eに示されるような閉塞状態(第1の状態)の位置と,図12cに示されるような開放状態(第2の状態)の位置との間を平面上に沿ってのみ移動することは,明らかである。
したがって,認定B及びCに係る本件審決の相違点の認定は誤りである。
なお,本件訂正発明1においても,作業台が折畳まれた不使用時において,略コ字状の枠部材30は枠部材ブラケット31を介して折畳まれており(本件訂正明細 書の【0028】,作業台を開いて使用するときに,作業者が折畳まれている略コ )字状の枠部材30を回動させ,先端30aを外側に位置させる準備作業が必要とされている(本件訂正明細書の【0029】)のであるから,甲3発明が「状態A」から「状態B」とするための作業を必要としているとしても,作業性の点について,本件訂正発明1と甲3発明の間に優劣があるものではない。
エ(ア) 本件審決は,甲3発明が「その状態Bから各前方バー107を平面上に沿ってさらに回転させて,登上セクション11側において,前方バー107を互いに向かい合うまで回転するとともに,前方バー107の内部におけるスピゴット109の相互作用により直列状態となるように拘束されるまでスピゴット109を挿入して,係合させることで,直列状態にラッチ止めされた前方バー107,107が,プラットフォーム50の端部の上方位置に配置される状態Cに変形可能である」と認定し(認定D),これが本件訂正発明1との相違点であると認定している。
しかし,本件訂正発明1は,第1の状態(一対のバーが直列に位置する状態)と,第2の状態(一対のバーが並列に位置する状態)とのうち,何れが作業台の不使用時又は使用時であるのかは技術的構成[A]〜[E]には全く特定されていない。
このため,本件訂正発明1は,一対のバーの第1の状態と第2の状態に関して,作業台の使用を開始するときに第1の状態(閉塞状態)とされており,作業者が天板に搭乗するときに第2の状態(開放状態)とするようなものに限られておらず,甲3発明のようにその順序を反対としたものまで含んでいる。したがって,認定Dに係る本件審決の相違点の認定は誤りである。
(イ) また,本件審決の認定Dは,甲3発明が「状態B」から「状態C」に前方バーを回動する際に,「前方バー107の内部におけるスピゴット109の相互作用により直列状態となるように拘束されるまでスピゴット109を挿入して,係合させることで,直列状態にラッチ止め」することが,本件訂正発明1との相違点であると認定している。
本件審決の上記認定は,本件訂正発明1の一対のバーが第1の状態において「互 いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され」ているのに対して,甲3発明の一対のバーは,ラッチ止めされるため隙間を有しないから相違する(以下, 「認定D―1」という。,本件訂正発明1が「軸着 )部によって支持され」ているのに対して,甲3発明は,ラッチ止めによって支持されているから相違する(以下,「認定D―2」という。)との意味であると推察される。
しかし,認定D―1に関して,そもそも,左右対称に軸着部を介して回動可能とされた一対のバーを略直列に位置させるためには,その位置で互いの先端部に隙間がなければならないことは, 【図F-1】及び【図F-2】に示すように自明のことであり,技術常識である。一対のバーを直列に位置させるためには,左右の軸着部の回動中心が直列方向の線上で左右対称に配置されるので, 【図F-1】のように隙間があれば回動可能であるが,【図F-2】のように隙間がないと回動不能となる。
したがって,甲3発明においても,左右対称に配置されたアーム108の軸線の廻りに回動する前方バー107,107は,図12cに示される並列位置と,図12eに示される直列位置との間で回動自在とされている以上,直列に位置させられたときに,互いの先端部に隙間があることは,自明のことである。
また,本件訂正発明1においては,ロック部50により一対のバーの先端部の間の隙間は埋められている。
さらに,甲3発明はスピゴットを挿入係合する構成を示しているが,スピゴットは差込みを差込み口に差し込むことによって連結する技術であり,甲3発明の場合,一方の前方のバーの先端に付設された棒状の部材が他方の前方バーの先端に形成された溝に差し込まれるようにした構成が図示されていると理解される。しかし,本件訂正明細書に記載されたロック部材50が一対のバーの隙間をなくすものではないとの被告の主張によれば,甲3発明においても,スピゴットが差し込まれた状態で,一対の前方のバーはそれ自体の先端同士が接触しておらず,隙間を介して対向してくることは自明である。
したがって,認定D-1に係る本件審決の相違点の認定は誤りである。
(ウ) 本件審決の認定D―2に関して,本件訂正明細書に記載された実施形態の場合は,軸支ピンが横軸を構成し,一対のバーが上下方向に回動するものであるから,本件訂正発明1の軸着部が一対のバーが略直列に位置するように支持し,その位置(姿勢)が保たれた状態を保持することまで要件としているとすると,一対のバーを直列位置で姿勢保持する手段がなければ,バーが自重により下向きに回動して垂れ下がるおそれがある。そのため,本件審決は,本件訂正発明1では,一対のバーを直列位置で姿勢保持するための手段が軸着部に設けられていると誤解したものであると思われる。
しかし,本件訂正発明1の軸着部は,一対のバーを「略直列に位置するように支持」する,すなわち,位置することができるように支持するものであり,それ以上に,その位置(姿勢)が保たれた状態を保持することまで要件としているものではない。また,本件訂正発明1は,軸支ピンが縦軸とされる構成(【図E】)を包含しており,その場合, 「底部42」や「ロック部材50」のようなバーの姿勢を保持する手段は必要でない。さらに,バーの姿勢を保持するための手段は,本件訂正明細書に記載された実施形態の場合は,ロック部材50が使用され,甲3発明の場合は,スピゴット109が使用されていることからすると,本件審決が考えるように軸着部に設けなければならないものではない。
これらによると,甲3発明のスピゴットによるラッチ止めは,本件訂正発明1に対して付加された構成であり,これが相違点であるとした本件審決の相違点の認定には誤りがある。
オ 本件審決は,甲3発明について,状態Cから状態Bに変形するときには, 「直角部材105,106の各前方バー107を,互いの先端部が離れるように開く」と認定し(認定E),これが本件訂正発明1との相違点であると認定している。
しかし,甲3発明は,前方バーが状態C(前方バーが直列に位置する状態)から状態B(前方バーが並列に位置する状態)に移動する場合もあれば,反対に状態B から状態Cに移動する場合もある。甲3発明は,状態Cから状態Bに変形させるときには,アーム108の軸心廻りに回動する前方バー107,107が互いの先端部を離れるように開くのであるから,直列に位置していたときの隙間が広がり,状態Bにされたときには,図12cに示されるように,一対の前方バー107,107が左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置し,コ字状の枠部材の出入口(アーム108,108の間)を開放して作業者の出入りを可能とするものである。
本件訂正発明1における「前記軸着部を介して回動して開くことで,前記互いの先端部が離れるように且つ前記隙間が広がるように開かれ,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,作業者が前記第1主脚と前記作業空間との間を移動可能な第2の状態」 甲3発明も全く同様であり, は, そこに相違点はない。
したがって,認定Eに係る本件審決の相違点の認定は誤りである。
カ 本件訂正発明1と甲3発明の相違点 本件訂正発明1と甲3発明を正しく理解した上で対比すると,本件訂正発明1と甲3発明の相違点は,本件訂正発明1が技術的構成[D2]において「前記一対のバーは,前記軸着部に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能」とするのに対して,甲3発明においては,アーム108の軸線となる1軸の廻りに回動可能とされた前方バーの軸着部に「軸支ピン」が設けられているかどうか不明であるという点だけである(以下,「相違点@」という。。
) (3) 本件訂正発明1の進歩性判断の誤り ア 相違点@に進歩性が認められないこと 甲3発明は, 「アーム108を中心に回転可能な前方バー107」について,前方バー107を上向きとした状態を甲3の図12cに示し,横向きとした状態を図12eに示し,その中間の状態を図12dに示している。
そこで,その拡大図を【図G】として転載すると, 【図H】で示すように,アーム108が固定されたままで,その回動中心軸の廻りに前方バー107が回動してい ることがわかる。これを当業者が観察すると, 【図I】のように,アーム108と前方バー107の折曲部との間に挿通された軸支ピンにより軸着部が構成されているであろうと容易に想像することができ,周知の軸支ピンを想起させられる。
すなわち,作業台の技術分野において,バーを構成する部材を回動自在に軸着するために軸支ピンを使用することは,甲5〜8,11及び12に例示されるように極めて周知のことである。特に,甲5及び7は,梯子状の主脚から作業床用天板の上に移動した作業者が高所作業を行う際,作業空間の出入口を閉塞することにより安全を確保するためのバーについて,作業者の移動を容易とするため(本件訂正発明1と全く同様に作業者が乗り越えたり,くぐったりしなくてもよくするため) 開 ,閉方向に回動可能とする手段として,軸支ピンが使用されているのである。
したがって,甲3発明におけるアーム108と,その回動中心軸の廻りに回動する前方バー107の連結部(軸着部)について,当業者がその内部構造を具体的に実現する場合,周知の軸支ピンを適用することについて,動機付けが生じないはずはなく,むしろ,軸支ピンを使用しない選択をとる方が異例であるというべきである。
そうすると,本件訂正発明1は,甲3発明に基づいて,その前方バー107の回動自在とされた軸着部に関して,単に,周知の軸支ピンを適用するだけで,当業者が容易に想到し得たものであることが明らかであるから,進歩性を欠如している。
イ その他の相違点にも進歩性が認められないこと 本件審決は,「本件訂正発明1では,『前記第1主脚側において互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持』される構成を有しているのに対し,甲3発明では,そのような構成を有していない点で相違している。」と相違点(以下,「相違点A」という。ただし,原告において相違点を認めるものではない。)を誤って認めている。
しかし,本件訂正発明1の「略直列に位置するように前記軸着部によって支持され」の構成に関して,軸着部により,一対のバーを略直列に位置することができる ように支持するだけでなく,仮に,その位置(姿勢)が保たれた状態を保持するものであると限定的に解釈する場合であっても,作業者が高所作業を行う作業台において,一対のバーは,作業空間の出入口を閉塞して安全を確保するためのものである以上,閉塞された位置で姿勢を保持されることは,当然のことであるが,その保持手段を特に「軸着部」に設けることについても,本件特許出願前に周知のことである。また,高所作業用の作業台における作業空間の出入口を開閉することにより,作業者の安全確保と,作業者の移動を容易としたバーについて,軸支ピンを使用した軸着部により,バーを閉塞位置に回動させるだけでなく,その位置(姿勢)に保持する保持手段を設けることも,甲5〜8に例示された周知の技術である。
そうすると,本件訂正発明1は,甲3発明に基づいて,その前方バー107の回動自在とされた軸着部に関して,周知の軸支ピンを適用するとともに,バーを閉塞位置に保持するための周知技術を適用するだけで,当業者が容易に想到し得たものであることは明らかであり,相違点Aについても進歩性を欠如している。
2 本件訂正発明2の進歩性の判断の誤り 本件審決は,本件訂正発明2及び甲3発明の認定を誤り,そのため相違点の認定及び本件訂正発明2の進歩性の判断を誤った違法がある。
(1) 本件訂正発明2と甲3発明の相違点の認定の誤り 本件訂正発明2は, 「前記一対のバーは,前記作業床用天板から550mm〜900mmの高さに位置することを特徴とする請求項1に記載の脚立式作業台。」である。
この点について,甲3発明は, 「上方の安全レール20がラダー10の頂部に配置され,平均的身長のユーザのために,アッパーレール20は,ユーザがプラットフォーム50に起立したときのヒップの高さにあり,つまり,プラットフォームの上方約900mmである。」と説明し,さらに,「アッパーレールは,プラットフォームに起立するユーザのための安全障壁を構成し,プラットフォームの約900mm上に配置されている・・・」と説明している。そして,上記の前方バー107は, アッパーレール20の枠組みを構成し,アッパーレール20と同じ高さ位置に設けられている。
そうすると,本件訂正発明2は,甲3発明に対して,本件訂正発明1に関する相違点以外の相違点を有していない。
(2) 本件訂正発明2の進歩性判断の誤り 前記のとおり,本件訂正発明1は,甲3発明及び周知技術に対して,進歩性を欠如している。そして,本件訂正発明2の技術的構成[F]は,甲3発明と何ら相違していない。したがって,本件訂正発明2は進歩性を欠如している。
被告の主張
1 本件訂正発明1の進歩性の判断について (1) 認定@に係る相違点の認定について ア 本件審決は,「甲3発明の『直角部材105,106』が,『プラットフォーム50に形成される作業するための空間のうち,登上セクション11側に設けられ,前記作業をするための空間を前記枠と共に包囲』することと,本件訂正発明1の『一対のバー』が, 『前記作業空間のうち前記第1主脚側に位置して,前記作業空間を前記枠部材と共に包囲』することとは,一対の部材が,前記作業空間のうち前記第1主脚側に位置して,前記作業空間を前記枠部材と共に包囲する点で共通する。 として, 」 作業空間を枠とともに包囲するかという機能面から実質的に判断している。
このような機能面で甲3発明を見ると, 「前方バー107」だけでは作業空間を枠と共に包囲できず,あくまで「アーム108」と一体となった「直角部材105,106」が作業空間を枠部材と共に包囲しているから,作業空間を枠と共に包囲する機能を有する本件訂正発明の「一対のバー」と対比されるべきは,同一の機能を有する「直角部材105,106」である。
したがって,直角部材105,106の一部である「前方バー107」と本件訂正発明の「一対のバー」とを対比することは許されない。
イ 原告は,本件訂正発明1の「固定ブラケット41」について,あえて「固定」の文字を削除した上で,甲3発明の「アーム108」と対比しているが,本件訂正発明1のブラケットは「固定ブラケット41」であり,その名のとおり固定され,純粋に「一対のバー」を支えるものとなっている。他方,甲3発明の「アーム108」は,回転自在の構造であり,そのほとんどの部分が基本的に作業空間を枠と共に包囲する機能を有しているから,本件訂正発明1の「固定ブラケット41」に相当しないことは明らかである。
本件訂正発明1の「固定ブラケット41」に対応するのは,甲3発明のうち以下の参考図1のうちの黄色い部分にすぎず,甲3の「アーム108」全体を本件訂正発明1の「固定ブラケット41」に対応させることは, 「アーム108」の機能面から許されない。
参考図1(甲3発明 Fig12e) 枠部材に相当 固定ブラケットに相当スタイル13 スタイル14 直角部材105 直角部材106 (2) 認定Aに係る相違点について ア 甲3発明は,そもそも「作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識」させることを目的とした発明ではない。甲3発明の課題は,あくまで「容易に運搬可能であること」である。
このような課題を解決するために,甲3発明は, 「直角部材105,106」を格納可能な構造として採用しており,これ以上に, 「アーム108」や「前方バー10 7」をして, 「作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識」させる機能を有していることの開示も示唆もない。
そのため,本件審決は,甲3発明と本件訂正発明との相違点において,『作業者 「が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる』ものであるとの特定がなされておらず」と認定しているのであり,この認定は正当である。
イ 本件訂正発明1の「一対のバー」は,あくまで作業者が端部付近で作業をしていることを認識し,作業者自身が危険に気付いて転落を防止しようとするものであるが,甲3発明は,作業者自身が危険に気付いて転落を防止するという発想ではなく,作業者の体重がかかっても支えられるような壁を作るという発想であり,甲3発明の「直角部材105,106」は物理的な転落防止を意図している。本件審決が「『作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる』ものであるとの特定がなされておらず」としていることは妥当である。
(3) 認定B及びCに係る相違点について 本件訂正発明1には, 「作業台を使用しない不使用時,例えば,折畳んで運搬したり,保管したりするときや,使用に先立ち,作業台を地面に接地して準備するときに,軸着部とは別の個所で,一対のバー以外の部材を回動可能とする構成を付加すること」は一切記載されていない。そして,一切記載されていない構成が本件訂正発明1に記載されている(相違点がない)か否かについての立証責任は,特許権が無効であると主張する原告側にある。
一切記載されていない以上, 「何ら禁止又は除外排斥していない」のは当然であって,一切記載されていない構成が存在すると認定するか否かは,立証責任の問題に帰着する。
(4) 認定Dに係る相違点について ア 本件審決は,本件訂正発明1は,第1の状態,すなわち「一対のバー」 が対向して略直列に位置する際には, 「軸着部により支持」されることによって,第1の状態が達成されるのに対し,甲3発明は, 「前方バー107」を,その内部にある「スピゴット109」により直列状態にラッチ止めすることによって状態Cを達成しているため,直列状態の達成手段において明確な差があると判断しており,この認定は妥当である。
イ 原告は,本件審決の認定Dを認定D-1及びD-2と分けた上で,認定D-1について,甲3発明において,ロック部材50により一対のバーの先端部の間の隙間は埋められているから,相違点はないと主張する。
しかし,本件訂正発明1の「ロック部材50」は, 「一対のバー」により形成された隙間を「跨いで」バー同士をロックするのみであって, 「一対のバー」の先端部にある隙間自体をなくすものではない。本件訂正発明1では「第1の状態」として,「第1主脚側において互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持される」状態と説明されているから,一対のバーが略直列状態にある第1の状態(かつ「ロック部材50」によってロックされた状態)であっても,隙間自体が存在することは明らかである。
ウ また,原告は,認定D-2について,本件訂正発明1の軸着部は,一対のバーを「略直列に位置するように支持」ものであり,それ以上に,その位置(姿勢)が保たれた状態を保持することまで要件としているものではないと主張する。
しかし,本件訂正発明1において, 「軸着部によって支持され」と明記されている以上,第1の状態(一対のバーが略直列の状態)を維持・保持するための手段は「軸着部42」であり,他方,甲3発明において状態C(「前方バー107,107」が直列の状態)を維持するための手段はラッチ止めであり,両者は明確に相違する。
(5) 認定Eに係る相違点について 本件審決は,甲3発明の「状態Cから状態Bに変形するときには,直角部材105,106の各前方バー107を,互いの先端部が離れるように開く」点と,本件訂正発明1の「前記軸着部に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動 可能であって,前記第1の状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可能」である点が異なるとしている。そして,軸支ピンの有無については,そもそも原告も相違点として認めており,この点を相違点として認定することに何ら問題はない。また,バーが開閉する際に,それが平面上に沿ってのみ移動可能か否か(バーの移動経路)についても,甲3発明における前方バーの移動方法については,何ら特定がなされていないのであるから,相違点として認定することに何ら問題はない。
2 本件訂正発明1の進歩性の判断について (1) 本件訂正発明1と甲3発明との間には,本件審決が認定した種々の相違点が存在する。
原告は,軸支ピンの有無(相違点@)及び本件訂正発明1が「第1主脚側において互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように軸着部によって支持」される構成の有無(相違点A)のみをとらえて進歩性の有無を論じているが,失当である。
(2) 原告は,相違点@について,甲3発明におけるアーム108と,その回動中心軸の廻りに回動する前方バー107の連結部(軸着部)について,当業者がその内部構造を具体的に実現する場合,周知の軸支ピンを適用することについて,動機付けが生じないはずはなく,むしろ,軸支ピンを使用しない選択をとる方が異例であるというべきであると主張する。
ア 連結部(軸着部)について,当業者がその内部構造を具体的に実現する方法としては,次に示す第1の内部構造例,第2の内部構造例などが存在する。
<第1の内部構造例> アーム108 球状部 球状部前方バー107 前方バー107 アーム108 第1の内部構造例は,アーム108の先端に球状部を有し,前方バー107の根元が球状部を包み込むように嵌め合わせた構造である。
<第2の内部構造例> アーム108 フランジ部 フランジ部 前方バー107 アーム108 前方バー107 第2の内部構造例は,アーム108の先端にフランジ部を有し,前方バー107の根元がフランジ部を包み込むように嵌め合わせた構造である。
以上の第1の内部構造(球状部)又は第2の内部構造(フランジ部)によっても,甲3発明において,前方バー107とアーム108とを連結し,かつ前方バー107が回転する方法を実現することが可能であり,このような構造自体は当業者であ れば容易に想到するものである。
したがって,軸支ピンを用いる方法は一つの方法にすぎず,仮に甲3発明において軸支ピンを用いてもよいとはいえても,軸支ピンを用いたはずであるというレベルの示唆(動機付け)が存在するとはいえない。
イ 軸支ピンが周知であることの根拠として原告が提出した甲5〜8の技術は,全て被告の発明に関するものである。したがって,この証拠のみをもって当業者一般に周知であったと認定することはできない。
また,甲5〜8に開示されているピンは,回動する部材の軸方向に対して横切る方向(直交する方向)に配置されるピンである。
すなわち,以下の参考図2に示すように,例えば甲5の図3では,回動する部材である手摺部材6の軸方向がA1であり,固定ピン12は軸方向A1を横切るように配置されている。
参考図2(甲第5号証 図3) 固定ピン12 手摺部材6 13 13 軸方向A1 13 一方,甲3発明では,以下の参考図3に示すように,回動する部材である前方バー107の軸方向はA2である。この前方バー107に対して,甲5に示す固定ピン12と同様に軸方向A2に対して横切る方向(直交する方向)に軸支ピンを配置したとしても,前方バー107は甲3発明の図12のような状態Bと状態Cとに変形する動きを実現することができない。また,甲6〜8に記載のピンを採用した場合でも同様である。
このように,甲5〜8に開示されたピンを甲3発明に適用しても,甲3発明の図12に開示された動きを実現することができず,甲5〜8に開示されたピンを甲3発明に適用することはできない。
参考図3 アーム108 軸支ピン前方バー107 軸方向A2 13 ウ 本件訂正発明1は, 「第1の状態」ではバーの荷重を軸着部で支持することができるため,細軸状の軸支ピンを採用することができる。一方,甲3発明において前方バー107とアーム108との間に軸支ピンを仮に採用した場合,甲3発明には前方バー107の荷重を支持する部材がないことから,前方バー107の荷重は全て軸支ピンで支持しなければならない。さらには,甲3発明において記載された「ユーザの体重によりかけられるような垂直下向きの荷重に耐えることができる」ように構成する点も考慮すると,甲3発明では細軸状の軸支ピンを採用するとは考えられず,軸支ピンではなく強度を考慮して,上記した第1の内部構造例又は第2の内部構造例を採用すると考えられる。
(3) 原告の主張する相違点Aについて,甲3発明には前方バー107を含む直角部材105,106を,平面上に沿ってのみ移動可能とすることについて,何ら記載も示唆もない。むしろ,折畳み構造をその課題とする甲3発明においては,直角部材105,106の移動経路についても柔軟な構造とすることが要請され,その移動経路を「固定」するかのような構成を採用することは,阻害要因となると いうべきである。
当裁判所の判断
1 本件訂正発明の要旨について (1) 本件訂正発明の特許請求の範囲は,前記第2,2のとおりであるほか,本件訂正明細書(甲2,9)には,次の記載がある。
【技術分野】【0001】 本発明は,脚立式作業台に関するものである。例えば,建築工事現場,建築物の天井や壁面などの内外装作業,電気配線作業などの高所作業に用いられて好適である。
【背景技術】【0002】 従来から高所作業には脚立が用いられている。脚立は,複数の踏桟を適宜間隔で取り付けた梯子状の一対の主脚の上端を回動自在に軸着し,軸着部である最上段の部分に天板が設けられている。脚立は,軸着部を回動することで一対の主脚を扁平に折り畳めるように構成されている。
【0003】 また,特許文献1には,上部が回動自在に軸着され,下方に向かって外側に傾斜する一対の梯子状の主脚間に天板を架設した可搬式作業台が開示されている。この可搬式作業台では,作業者の安全を確保するために,天板の上方に天板の突出方向と同じ方向に突出する手摺が取り付けられている。
【発明が解決しようとする課題】【0005】 しかしながら,特許文献1に開示された可搬式作業台は,天板の突出方向と同じ方向に突出する手摺が取り付けられているが,その反対側には手摺が取り付けられていない。したがって,作業者が天板の突出方向と反対側で作業を行う場合には, 天板の端を目視で確認しながら作業を行わなければならず,作業の効率が低下してしまうという問題がある。
【0006】 一方,天板の突出方向の反対側にも同様の手摺を取り付けることで,作業者は天板の端を確認することなく作業をすることができ,作業の効率化を図ることができる。しかしながら,この場合には,作業者が可搬式作業台を昇降する際に手摺を乗り越えたり,手摺をくぐったりしなければならない。すなわち,天板と主脚との間の移動を自由に行うことができず,かえって作業の効率が低下してしまう。
【0007】 本発明は,上述したような問題点に鑑みてなされたものであり,作業空間を包囲することにより作業の効率化を図ると共に,天板と主脚との間の移動を容易に行うことができる脚立式作業台を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】【0008】 本発明の脚立式作業台は,上側が回動部を介して回動自在に軸着され,下側に向かって外側に傾斜し,それぞれ一対の支柱が梯子状に形成され,作業者の昇降側となる第1主脚および作業者の昇降側としない第2主脚と,前記第1主脚および前記第2主脚の間に亘って配置される作業床用天板と,前記作業床用天板の上方に形成される作業空間のうち前記第1主脚側のみを開放した状態で,前記作業床用天板の上方に配置される略コ字状の枠部材と,前記作業空間のうち前記第1主脚側に位置して,前記作業空間を前記枠部材と共に包囲し,作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる一対のバーと,を備え,前記第1主脚側から見たときに一方の支柱側を右とし,他方の支柱側を左とすると,前記一対のバーは,それぞれ略左右対称に軸着部を介して回動可能であって,前記第1主脚側において互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され,前記作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置 される第1の状態と,前記軸着部を介して回動して開くことで,前記互いの先端部が離れるように且つ前記隙間が広がるように開かれ,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,作業者が前記第1主脚と前記作業空間との間を移動可能な第2の状態と,に変形可能であり,かつ,前記一対のバーは,前記軸着部に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能であって,前記第1の状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可能であることを特徴とする。
【発明の効果】【0009】 本発明の脚立式作業台によれば,作業空間を包囲することにより作業の効率化を図ると共に,天板と主脚との間の移動を容易に行うことができる。
【発明を実施するための形態】・・・【0012】 脚立式作業台1は,一対の主脚10と,作業床用天板20と,枠部材30と,閉塞部材40と,を備えている。
一対の主脚10は,上側が回動部11を介して回動自在に軸着され,下側に向かって外側に傾斜する,いわゆる脚立として機能する。本実施形態の一対の主脚10は,長尺な第1主脚10aと短尺な第2主脚10bとにより構成されている。
第1主脚10aおよび第2主脚10bは,それぞれ例えばアルミニウム合金製であって,断面略コ字状に形成されている一対の支柱12の間に踏桟13を適宜間隔で取り付けることで,梯子状に形成されている。脚立式作業台1では作業者が第1の主脚10a側から昇降するために,第1主脚10aは第2主脚10bよりも踏桟13の間隔が狭く,踏桟13の数も多く有している(図1〜図4を参照)。第1主脚10aおよび第2主脚10bは,第1主脚10aの上端よりも下側と第2主脚10bの上端とが回動部11を介して回転自在に軸着されている。したがって,第1主 脚10aは回動部11よりも上方に延出している。脚立式作業台1を使用しないときには,回動部11を中心に第1主脚10aおよび第2主脚10bが平行になるように折り畳まれる(図5を参照)。
【0014】 枠部材30は,例えばアルミニウム合金製であって,上側から見ると略コ字状に形成されている。枠部材30は,作業床用天板20の上側であって,更に回動部11よりも上側に配置されている。具体的に,枠部材30は,作業床用天板20から550mm〜900mmの高さH1に配置されている(図2を参照)。この高さは,一般的に作業者の膝上から腰ぐらいまでの高さである。
枠部材30は,作業空間Sのうち第1主脚10a側のみ開放し,第2主脚10b側,右側面側および左側面側を包囲する。
ここで,枠部材30は,両端部がそれぞれ第1主脚10aの支柱12の上端それぞれに枠部材ブラケット31を介して取り付けられている。枠部材30は,幅(両端部間の距離)が第1主脚10aの支柱12間の距離とほぼ同一であり(図2および図4を参照),先端30aが作業床用天板20の他端20bと同じ位置になるように設定されている(図3を参照)。また,枠部材30は,先端30aに向かって例えば約7度程度上向きになるように傾斜している。脚立式作業台1を使用しないときには,枠部材30を枠部材ブラケット31を介して回動させて第1主脚10aと略平行になるように,枠部材30の先端30aを下側に折り畳むことができる(図5を参照) 枠部材ブラケット31は, 。 枠部材30を上向きになるように傾斜した状態と,第1主脚10aと略平行になるように折り畳んだ状態とで選択的に保持することができる。
【0015】 閉塞部材40は,例えば樹脂製であって,断面略矩形の筒状に形成されている。
閉塞部材40は,作業床用天板20の上側,更に回動部11よりも上側に配置されている。また,閉塞部材40は,枠部材30よりも下側,すなわち第1主脚10aの上端よりも下側に配置されている。具体的に,閉塞部材40は,作業床用天板20から550mm〜900mmの高さH2に位置している(図2を参照) この高さ 。
は,一般的に作業者の膝上から腰ぐらいまでの高さである。なお,第1主脚10a は下側に向かって外側(前側)に傾斜しているので,閉塞部材40を第1主脚10aの上端よりも下側に配置することで,閉塞部材40で作業空間Sを包囲したときの作業空間Sを広く確保することができる。
閉塞部材40は,枠部材30と共に作業空間Sを包囲する。具体的には,閉塞部材40は,作業空間Sのうち第1主脚10a側を閉塞することで作業空間Sを包囲する。閉塞部材40は,開閉可能であって,開閉することで作業空間Sの一部(第1主脚10a側)を開放または閉塞する。
【0017】 本実施形態の閉塞部材40は,第1閉塞部材40aと第2閉塞部材40bとを有している。第1閉塞部材40aおよび第2閉塞部材40bは,第1主脚10aの支柱12のそれぞれに固定ブラケット41を介して取り付けられている。固定ブラケット41は,例えば金属製であって,ネジによって支柱12の側面に結合される。
固定ブラケット41は,支柱12から前側に向かって突出し,より具体的には支柱12の長手方向に対して直交する方向に突出している。ここで,固定ブラケット41を突出させる長さLoは,第1主脚10aと第2主脚10bとを折り畳んだ場合において図5に示す第1主脚10aと第2主脚10bとを合わせた厚みT1から第1主脚10aの厚みT2を減算した厚みT3よりも短い長さであることが好ましい。
固定ブラケット41の突出させる長さLoを厚みT3よりも短くすることで,複数の脚立式作業台1を平積みするときに,固定ブラケット41同士の干渉を防止することができる。
【0018】 図6および図7に示すように,各固定ブラケット41の先端部には,第1閉塞部材40a,第2閉塞部材40bを回動自在に軸着する軸着部42が形成されている。
ここでは,第1閉塞部材40a側の軸着部42について説明するが,第2閉塞部材40b側の軸着部42も同様の構成である。
軸着部42は,前側軸支部42a,後側軸支部42b,底部42cおよび側壁部 42dから構成されている。前側軸支部42aおよび後側軸支部42bの間には,軸支ピン43が挿通され,第1閉塞部材40aを回動可能に軸支する。底部42cおよび側壁部42dは,第1閉塞部材40aを軸支ピン43を中心とした起立と倒伏との間の回動を許容する。底部42cは,第1閉塞部材40aを閉じて倒伏させたときに第1閉塞部材40aと当接することで,第1閉塞部材40aを閉じた状態に保持する。一方,側壁部42dは,第1閉塞部材40bを開いて起立させたときに第1閉塞部材40aと当接することで第1閉塞部材40aを開いた状態に保持する。また,第2閉塞部材40bも第1閉塞部材40aと同様であり,ここでは,その説明を省略する。
【0019】 このように構成される閉塞部材40において,図6に示すように,第1閉塞部材40aおよび第2閉塞部材40bを開く方向に回動させ,起立させることで,作業空間Sの第1主脚10a側を開放させることができる。一方,図7に示すように,第1閉塞部材40aおよび第2閉塞部材40bを閉じる方向に回動させ,倒伏させることで,作業空間Sの第1主脚10a側を閉塞させることができる。
【0020】 また,本実施形態の脚立式作業台1では,倒伏させた第1閉塞部材40aおよび 第2閉塞部材40bの間に亘って架け渡すことで,作業空間Sの第1主脚10a側を閉塞した状態を保持するロック部50を備えている。ここで,ロック部50について図6〜図9を参照して説明する。図8(a)はロック部50により閉塞部材40をロックする前の状態を後側から見た図であり, (b) 図8 はその断面図である。
【0021】 ロック部50は,第1閉塞部材40aおよび第2閉塞部材40bの長手方向に沿って摺動自在に設けられ,操作部材51と,摺動部材52とを有している。ロック部50は,第1閉塞部材40aおよび第2閉塞部材40bをロックする前には第1閉塞部材40aに位置し,ロックした後には第1閉塞部材40aおよび第2閉塞部材40bの間に架け渡された状態に位置する。
【0028】 次に,作業者が,脚立式作業台1が折り畳まれた状態から閉塞部材40により作業空間Sの一部を閉塞するまでの一連の操作について説明する。まず,図5に示すように,脚立式作業台1が折り畳まれた状態では,第1主脚10aと第2主脚10 bとが平行になるように折り畳まれている。また,作業床用天板20は第1主脚10aに沿って折り畳まれている。また,枠部材30は,枠部材ブラケット31を介して折り畳まれている。また,第1閉塞部材40aおよび第2閉塞部材40bは,固定ブラケット41を介して起立させた状態になっている。
【0029】 まず,作業者は第1主脚10aと第2主脚10bとを回動部11を介して下側に向かって外側に傾斜するように開いた状態にする。このとき,作業床用天板20は,ステイ21によって第1主脚10aと第2主脚10bとの間に亘って配置される。
次に,作業者は第1主脚10a側から第1主脚10aの踏桟13を利用して昇る。
作業者は踏桟13上に立った状態で,折り畳まれている枠部材30を回動させて,枠部材30の先端30aを外側に位置させる。この操作によって,作業床用天板20の上方に形成される作業空間Sのうち,第2主脚10b側,右側面側および左側面側が包囲される。
【0030】 次に,作業者は作業空間Sのうち開放された一部,すなわち第1主脚10a側を通って作業床用天板20上に昇る。次に,作業者は起立した第1閉塞部材40aおよび起立した第2閉塞部材40bを閉じる方向に回動させ,倒伏させることで,作業空間Sの第1主脚10a側を閉塞させる。このとき,作業者は起立した第1閉塞部材40aおよび起立した第2閉塞部材40bを回動させるだけの操作でよいため,しゃがみ込んだりする必要がなく,操作性を向上させることができる。このように第1閉塞部材40aおよび第2閉塞部材40bを倒伏させることで,作業空間Sの第1主脚10a側を閉塞することができる。したがって,作業空間Sの周囲は,枠部材30および第1閉塞部材40aおよび第2閉塞部材40bによって包囲される。
【0031】 次に,作業者はロック部50の操作部材51を第2閉塞部材40b側に摺動させることで,摺動部材52も連動して第2閉塞部材40bに向かって摺動させる。こ の操作によって,操作部材51が,第1閉塞部材40aと第2閉塞部材40bとの中間で,第1閉塞部材40aの周囲および第2閉塞部材40bの周囲に亘って架け渡された状態になる。また,摺動部材52も同様に,第1閉塞部材40aと第2閉塞部材40bとの中間で,第1閉塞部材40a内および第2閉塞部材40b内に亘って架け渡された状態になり,作業空間Sの第1主脚10a側を閉塞した状態が保持される。なお,作業者は,上述した操作と逆の操作を行うことで,脚立式作業台1を折り畳むことができる。
【0032】 上述したような操作により作業空間の一部が閉塞され,作業空間Sの周囲を包囲することができる。したがって,作業者が作業空間Sで作業をしている場合に,体の一部が枠部材30,第1閉塞部材40aまたは第2閉塞部材40bに接触することで,作業床用天板20の端部近辺で作業をしていることを認識することができる。
このように作業者が作業床用天板20の端を認識することができることにより安全に作業を行うことができると共に,作業床用天板20の端を確認する必要がなく作業の効率化を図ることができる。
【0033】 本実施形態によれば,閉塞部材40を開閉することにより,作業空間Sの一部が開放または閉塞することができる。作業空間Sの一部が閉塞した場合には作業者は安全に作業を行うことができ,作業空間Sの一部を開放した場合には作業者は作業床用天板20と第1主脚10aとの間の移動を自由に行うことができる。
また,閉塞部材40は,作業床用天板20から550mm〜900mmの高さに位置しているので,作業者の膝から腰までの一部が閉塞部材40に接触する。仮に,膝よりも下側が接触すると足元の動きが奪われてしまい,腰よりも上側が接触すると作業が困難になってしまう。上述したような高さにすることで作業の効率化を図ることができる。
【0036】 以上,本発明を種々の実施形態と共に説明したが,本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく,本発明の範囲内で変更等が可能である。
実施形態では,枠部材30が先端30aに向かって例えば約7度程度上向きになるように傾斜している場合について説明したが,この場合に限られず,水平または略水平に配置されていてもよい。
また,本実施形態では,閉塞部材40は枠部材30よりも下側に配置されている場合について説明したが,この場合に限られず,枠部材30と同じまたは略同じ高さに配置されていてもよい。
・・・ (2) 以上によると,本件訂正発明1は,建築工事現場,建築物の天井や壁面などの内外装作業,電気配線作業などの高所作業に用いる脚立式作業台について 【0 (001】,従来の可搬式作業台が,@作業者が天板の突出方向と反対側で作業を行 )う場合には,天板の端を目視で確認しながら作業を行わなければならず,作業の効率が低下してしまうという問題や,A天板の突出方向の反対側にも同様の手摺を取り付けたとしても,作業者が可搬式作業台を昇降する際に手摺を乗り越えたり,手摺をくぐったりしなければならないことから,天板と主脚との間の移動を自由に行うことができず,かえって作業の効率が低下してしまう問題があったことから,これらの問題を解決し,作業空間を包囲することにより作業の効率化を図るとともに,天板と主脚との間の移動を容易に行うことができる脚立式作業台を提供することを目的とするものである(【0005】〜【0007】。本件訂正発明1は特許請求の )範囲請求項1の構成をとることにより, 「作業の効率化を図ると共に,天板と主脚との間の移動を容易に行うことができる」という作用効果を奏するものである(本件訂正明細書【0009】)ことが認められる。
(3)ア 原告は,本件訂正明細書は,一対のバー(閉塞部材)を【図B】のようにコ字状の枠部材と同じ高さに配置することを除外しておらず,そうすると,一対のバーは,アーム部の先端部に設けられた軸着部に軸着されること,この一対のバ ーは, 【図C】のように折曲部を形成し,この折曲部を軸着部に装着させても,本件訂正発明1に含まれること,さらに,本件訂正明細書は, 【図D-1】及び【図D-2】のように,側枠部とアーム部を分割し,アーム部を一対のバーと共に反転させることにより折畳み可能とすることも含んでいると主張する。
本件特許の請求項1の記載によると,原告が主張する【図B】【図C】並びに【図 ,D-1】及び【図D-2】のようなものも,本件訂正発明1の要旨に含まれると解され,本件訂正明細書の記載に照らしても,これらが本件訂正発明1の要旨の範囲外であるというべき事情は認められない。かえって,本件訂正明細書の【0036】には, 「・・・本発明を種々の実施形態と共に説明したが,本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく,本発明の範囲内で変更等が可能である。
・・・本実施形態では,閉塞部材40は枠部材30よりも下側に配置されている場合について説明したが,この場合に限られず,枠部材30と同じまたは略同じ高さに配置されていてもよい。」と記載されている。
イ なお,原告は, 【図E】のように,略コ字状の枠部材の側枠部から延設したアーム部の先端部に対して,縦軸ピンを有する軸着部を介して,一対のバーを縦軸廻りに回動自在に軸着した構成とする場合も,本件訂正発明1に含まれていると主張する。
しかし, 【図B】【図C】並びに【図D-1】及び【図D-2】では,軸着部によ ,る支持がなければ,重力の影響でバーが軸着部を中心に回動してしまい,互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置させることができないのとは異なり,図 【E】では,軸着部により支持しなくとも一対のバーを略コ字状の枠部材の上に設置するだけで軸着部を回動しないものであるから,「互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され」ているとはいえない。
また,本件訂正明細書の【0036】には, 「・・・本発明を種々の実施形態と共に説明したが,本発明はこれらの実施形態にのみ限定されるものではなく,本発明の範囲内で変更等が可能である。
・・・本実施形態では,閉塞部材40は枠部材30よ りも下側に配置されている場合について説明したが,この場合に限られず,枠部材30と同じまたは略同じ高さに配置されていてもよい。」と記載されているものの,閉塞部材40(一対のバー)が枠部材の上に設置することの記載はない。そうすると,原告が主張する【図E】のようなものが,本件訂正発明1の要旨に含まれていると解することはできない。
この点について,原告は,本件訂正明細書の【0018】には,第1の状態において,底部42cは,第1閉塞部材40aを閉じた状態に「保持」すると記載されており,第2の状態において,側壁部40dは,第1閉塞部材40aを開いた状態に「保持」すると記載されているから,第1の状態において閉塞部材40(一対のバー)を略直列の位置に維持していることは技術的構成[D1]の「支持」に含まれないと主張するが,技術的構成[D1]は, 「互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され,」というものであるから,本件訂正発明1において軸着部が一対のバーを略直列の位置に維持していることは明らかであり,本件訂正明細書の【0018】に「保持」という語が用いられていることは,この判断を左右するものではない。
ウ 以上から,本件訂正発明1の要旨には,原告が主張する上記の【図B】,【図C】並びに【図D-1】及び【図D-2】が含まれているものとして,以下,判断する。
2 本件訂正発明1の進歩性について (1) 甲3発明について ア 甲3には次の記載があることが認められる。
(ア) 発明の分野 本発明はラダー,特にプラットフォームラダーに関する。
(イ) 発明の背景 世界的統計は,ラダー,特に高所の物体にアクセスするための簡単で経済的な手段を提供する自立式のラダーが危険であることを明らかに示している。
ラダー使用における固有の危険性により,多くの国がこのような機器の安全性を改善する法律を制定している。
プラットフォームラダーは,ラダーの頂部の下に位置する起立用プラットフォームを設けており,ユーザがプラットフォームに立ち,両手を使用して作業を完了することができる。手すりと安全レールの導入により高いレベルの安全性を提供する洗練された多数のプラットフォームラダーが存在するが,容易に運搬できない嵩張った構造になる傾向がある。業者は,容易に運搬できるプラットフォームラダーを必要とする。
本発明をもたらしたのは,この種のラダーの安全面である。
(ウ) 発明の要約 ・・・・・・ ラダーは,好ましくは輸送のために折畳み可能であり,フレームセクションが互いに載せられる。好ましくは,折畳まれた形態において,プラットフォームとアッパー安全レールは,ラダーセクションにより形成される平面内で折畳まれる。・ ・ ・・・ (エ) 図面の簡単な説明 以下,本発明の実施の形態を図面に基づき例示として説明する。
・・・ 図10a及び図10bは,それぞれ,展開された作動位置と,折畳み位置のラダーの頂部の斜視図であり, 図11a,11b,11c及び11dは,ラダーの一部を形成する折畳み可能なレールを示しており, 図12a,12b,12c,12d及び12eは,ラダーに使用する折畳み可能なレールの別の形式を示している。
(オ) 好ましい実施形態の説明・・・・ プラットフォームラダー10の実際の実施形態を添付図面の図5ないし12に図 示している。ラダー10は,2つの細長いラダーセクション11,12を備え,各セクションは,間隔をあけた横桟15により接合された一対の平行なスタイル13,14を備えている。ラダーセクション11,12は,ラダー頂部のアッパーレール20を介して枢着され,Aフレーム構造を形成する。ラダーセクション11,12の枢結は,ラダー10が図5に示す折畳み形態を呈した状態から,図6に示す起立状態を呈するように拡開可能とする。図7は,レールセクション11,12が折畳み位置から起立位置へ漸進的に移動する様子を示している。
・・・ 図6に示すように,前方のラダーセクション11は,登上セクションを構成し,アルミニウム製の矩形プレートの形式とされた3個の間隔をあけた横桟30,31,32を有する。起立位置において,プラットフォーム50は,そうでなければ第4の横桟とされたものに代えて,ラダーセクション11,12を横切って延びる。上方の安全レール20がラダー10の頂部に配置され,平均的身長のユーザのために,アッパーレール20は,ユーザがプラットフォーム50に起立したときのヒップの高さにあり,つまり,プラットフォームの上方約900mmである。
プラットフォーム50は,ラダーセクション11,12を横切って延びるようにされ,詳細を図8に示しており,矩形アルミニウムのフレームワーク51を構成し,起立面52の下に位置する一連の平行な補強ビーム55により補強された穴明きの起立プラットフォーム52を定めている。プラットフォームの一端は,図9に示すように,プラットフォームの端部のU形溝58,59にリベット止めされたU形ブラケットの配置により,登上セクション11に固着され,該セクションのスタイル13,14を横切って延びる筒状の横桟60を包み込んでいる。これにより,プラットフォーム50は,横桟60の部分で登上セクション11に対して旋回することができる。プラットフォームの反対側の端部には,プラットフォーム10の端部にリベット止めされた一対のフック部材61,62が設けられ,ラダー10の後部セクション12の筒状横桟65に位置するアーチ形の切欠き63,64を形成する。
セクション11,12の横桟60,65の上に位置するプラットフォームを図9に示している。
・・・ 上述のように,4点リンケージの部材3(図1)は,本質的にラダー10のアッパーレール20を含んでおり,このアッパーレール20の3つの実施態様を図10ないし12を参照して以下に述べる。3つの実施態様の全てにおいて,3つのスクエアに区成されたアルミニウムチューブ部材が昇降側と後側のセクション11,12のスタイルの端部に搭載されたフランジの間に固着されている。クロスメンバ80が後部セクション12のスタイルを横切って取り付けられ,そこから工具トレイ90を吊持することができる。図10a及び10bに示す実施形態において,レール20の第4側ないしクロスメンバ82は,前記部材にヒンジ連結されて,反対側にラッチ止めされ,アクセスを提供するために開くことができる。矩形レール20の全体は,昇降セクション11の端部に枢支されている。ラダーのジオメトリは,閉じたラダー10の外側縁部により形成される輪郭の内部で,延長形式のアッパーレール20とクロスメンバ82の折畳みを可能にする。しかしながら,閉じた状態のラダーの正面セクション11の上端を越えて突出し,全長が長くなる。図10bを参照。この構成は,ユーザがプラットフォーム領域にアクセスするためには,ラダーを開き,登り上がり,クロスメンバ82を解放することを必要とする。
図11及び12の実施形態において,4辺レールを完成させるためには,前方のセクション100は,ユーザの身体の周りを通過して,再度組み立てられるように,分割できるものでなければならない。この機能は,フレーム部材の頂部の枢支部又はその近くで分割することを含み,フレーム部材の枢支部又はその近くでラダーの他側に再度ラッチ止めされるソリッドな「U」セクションを有するような多様な方法で達成することができる。図11の例は,前方セクション11の一方のスタイルの頂部に枢支された直角部材101と,他方のスタイルの頂部に枢支された第2部材102から成る前方セクションを示している。適切なラッチ装置が部材101及 び102のロックとロック解除を可能にする。部材101は,2つの直交軸と2つの回転自由度を有するジョイントを使用して,これらの部材をヒンジ結合させる。
この機能を作動させるには,ユーザは,後方に向いてプラットフォームの上に立ち,部材(101)及び(102)のラッチを解除する。片方の手にラッチ解除した部材101を,他方の手に部材102を保持しながら,スタイル部材11の端部のフランジにより定められた回転の限界まで両部材を回動する(図11c) 部材1 。
01は,作業領域の正面にあるので,ユーザを完全に包囲する部材102に再びラッチ止めすることができる。前記の構成と同様に,この機構並びにクロスメンバ80に取付けられた一体のツールトレイ90は,フレーム部材11,12の外縁の輪郭内で折畳まれ,ラダーの閉じたときの長さを大きく伸ばすことはない。この設計により使用が迅速容易となるが,部材101の端部のラッチヒンジ部材102が露出したコーナを残し,目の高さでハザードをもたらすことができる。図11d参照。
図12の実施形態において,フロントレールは,2つの直角部材105,106に分割されている。各部材は,アーム108を中心に回転可能な前方バー107を有しており,該アームは前方セクションのスタイルの上端に枢着されている。
図12は,ユーザがラダーを開き,前方セクション11を登り,後方セクションに向いてプラットフォーム50の上に立ったときからの機構の動作を示している。
ユーザは,バー107(図12a)を持ち上げ,それらを整列位置に保持するラッチを解放する。これらをアーム108の周りに回転させることにより,前方端部の接続が断たれる。次いで,アーム108は,ユーザの身体の周りを自由に通り抜け,スタイル端部のブラケットによって拘束されるまで回転させられる。次いで,前方バー107は,互いに向かい合うように回転すると共に,バー107の内部におけるスピゴット109の相互作用により直列状態となるように拘束されるまでスピゴット109を再び挿入することにより,再び係合させることができる。バー107の間における連結は,直列状態にラッチ止めされるので,部材が不慮に分離することは不可能である。スピゴット109がバー107のチューブ開口端に挿入される と,これらの部材を直立垂直方向にのみ移動可能とするが(図12eの折畳み時),水平面から下降しないように作用する。この構成により,接続された部材は,ユーザの体重によりかけられるような垂直下向き荷重に耐えることができる。スピゴット109に一体化された穴は,部材のチューブ内部のピンと嵌合し,2つが水平に整列されている間,スピゴットが引き抜かれることを防止する。
図7は,ラダーを開く動作中の中間段階におけるラダーを示している。これを達成するために,ユーザは,右手を前方セクションの右側スタイルに当て,前方セクションに向けて立つ。左手から(はしごに向けて)プラットフォーム部材50の頂部に圧力をかけ,前方セクション11をユーザに向けて引き寄せると,ラダー10は図7のように完全に開き,前方脚部が地面に降ろされる。後側の脚部は,この動きの間,地面と接触したままである。リアレールの上にフロントレールを折畳ませることにより,ユーザは,前方の登りセクションからプラットフォーム領域にスムースに登ることができる。次いで,ユーザは,図12に示すように4辺の全てにレール保護を設けたレールを組立てることができる。
【図1】 【図5】 【図6】【図7】 【図8】 【図9】【図10a】 【図10b】 【図11a〜d】 【図12a〜e】 イ 甲3に開示された事項について 上記アによると,甲3には,次の甲3発明が記載されていると認められる。
「輸送のために折畳み可能であり,プラットフォーム50とアッパーレール20がラダーセクションにより形成される平面内で折畳まれるプラットフォームラダーであって, ラダー頂部のアッパーレール20を介して枢着され,Aフレーム構造を形成し, 間隔をあけた横桟15により接合された一対の平行なスタイル13,14を備えた,登上セクション11及び後部セクション12と, 登上セクション11と後部セクション12とを横切って延びるようにされた,ユ ーザが立って作業をするためのプラットフォーム50と, プラットフォーム50の上方において,登上セクション11と後部セクション12の同じ側にあるスタイルの上端部同士の間においてそれぞれ設けられた二つのレールと,後部セクション12の左右のスタイルの上端部の間に設けられ,工具トレイ90を吊持したリアレールとによって形成される,略コ字状となる枠と, プラットフォーム50に形成される作業するための空間のうち,登上セクション11側に設けられ,前記作業をするための空間を前記枠と共に包囲する,フロントレールが分割された直角部材105,106と,を備え, 直角部材105,106は,登上セクション11のスタイルの上端に枢着されており,直角部材105,106をリアレールの上に折畳ませた状態から,スタイル端部のブラケットによって拘束されるまで回転させられるアーム108と,該アーム108を中心に略左右対称に回動可能な前方バー107を有するものであって, 前記登上セクション11側から見たときに一方のスタイル13側を左とし,他方のスタイル14側を右とすると, 直角部材105,106は, プラットフォームに登ることができる,リアレールの上に折畳ませた状態Aと, その状態Aから回転させて,前記アーム108がスタイル端部のブラケットによって拘束された位置において,各前方バー107が,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,空間が存在する状態Bと, その状態Bから各前方バー107を平面上に沿ってさらに回転させて,登上セクション11側において,前方バー107を互いに向かい合うまで回転するとともに,前方バー107の内部におけるスピゴット109の相互作用により直列状態となるように拘束されるまでスピゴット109を挿入して,係合させることで,直列状態にラッチ止めされた前方バー107,107が,プラットフォーム50の端部の上方位置に配置される状態Cと,に変形可能であり,状態Cから状態Bに変形するときには,各前方バー107を,互いの先端部が離れるように開く, プラットフォームラダー。」 (2) 本件訂正発明1と甲3発明の相違点の認定について ア 原告は,認定@に係る相違点に関して,甲3発明の「アーム108」は略コ字状の枠部材を構成する側枠部の一部分(甲3の図10における略コ字状の枠部材の左右側枠部の前方部分に相当)であり, 「前方バー107」は包囲された作業空間の出入口を開閉するためのバー(甲3の図10におけるクロスメンバ82に相当)に相当するから,本件訂正発明1の「一対のバー」と対比すべき甲3発明の部材は,略コ字状の枠部材(アーム108を含むコ字状のフレーム)と共に作業空間を包囲する「前方バー107」であり, 「直角部材105,106」の全体を本件訂正発明1の「一対のバー」と対比する本件審決の認定は誤りである旨主張する。
本件訂正発明1の「一対のバー」は, 「作業床用天板の上方に形成される作業空間のうち第1主脚側のみを開放した状態で,前記作業床用天板の上方に配置される略コ字状の枠部材」技術的構成 ( [C]と )「共に前記作業空間を包囲」技術的構成 ( [D])するものである。
甲3発明においては「プラットフォーム50の上方において,登上セクション11と後部セクション12の同じ側にあるスタイルの上端部同士の間においてそれぞれ設けられた二つのレールと,後部セクション12の左右のスタイルの上端部の間に設けられ,工具トレイ90を吊持したリアレールとによって形成される,略コ字状となる枠」と共に「プラットフォーム50に形成される作業するための空間」を包囲するのは,「登上セクション11側に設けられ」「フロントレールが分割された直角部材105,106」であるということができるから,本件訂正発明1の「一対のバー」と対比すべきは「直角部材105,106」であるとした本件審決の認定は必ずしも誤りではない。
しかし,前記のとおり,本件訂正発明1の要旨には, 【図D-1】 【図D-2】 及びのようなものも含まれるところ,このような態様においては,折畳み構造の前後を通じてコ字状の枠部材ということができるから,これと甲3発明とを対比した場合, 甲3発明において,前方バー107のみが「一対のバー」であり,アーム108はコ字状の枠の一部であると解することもでき,その意味で,原告の上記主張は理由があるといえる。
なお,原告は,甲3発明の「アーム108」は,本件訂正明細書に記載の「ブラケット41」に相当すると主張するが,本件訂正明細書に記載された「ブラケット41」は「固定ブラケット」であるから, 「登上セクション11のスタイルの上端に枢着されており,直角部材105,106をリアレールの上に折り畳ませた状態から,スタイル端部のブラケットによって拘束されるまで回転」させられる回転自在の「アーム108」が,本件訂正明細書に記載の「ブラケット41」に相当すると認めることはできない。
以上から,認定@に係る本件審決の相違点の認定が誤りとはいえないものの,本件訂正発明1の「一対のバー」に対応するのが,甲3発明の「前方バー107,107」であるとの原告の主張にも理由があるので,これを前提に,以下,判断する。
イ 原告は,認定Aに係る相違点に関し,本件訂正発明1の「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる」という点は,本件審決が<一致点>であるとした「作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置される第1の状態」と実質的には同じことであると主張する。
しかし,本件審決が認定した上記<一致点>は,本件訂正発明1においては,一対のバーが,第1主脚側において互いの先端部が対向してその一部が略直列に位置するよう支持され,作業用天板の昇降側の端部の上方に配置されているという状態を示すにすぎず,「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる」ことまでを含むものではないから,原告の上記主張を採用することはできない。
また,原告は,甲3発明においても,作業者が昇降側の端部付近に近づくと,プラットフォーム(作業用天板)の昇降側の端部の上方位置に配置された閉じた状態の前方バー107,107に作業者の身体が接触することは自明であり,接触すれ ば作業用天板の端部で作業をしていることを認識すると主張する。
しかし,甲3発明は,ラダーの頂部の下に位置する起立用プラットフォームで作業する作業者のために手すりと安全レールの導入により高いレベルの安全性を提供するとともに,容易に運搬できることを目的としたものであって,前方バー107が「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる」ものであるかどうかについては記載されていないから,この点が本件特許発明1と甲3発明の相違点でないとはいえない。
以上から,認定Aに係る本件審決の相違点の認定が誤りであるとの原告の主張は採用することができない。
ウ 原告は,認定B及びCに係る相違点について, 【図D-1】及び【図D-2】のように,略コ字状の枠部材を分割して回動可能に枢着することは本件訂正発明1に含まれており,甲3発明の「直角部材105,106」について, 「プラットフォームに登ることができる,リアレールの上に折畳ませた状態A」 (認定B)「そ ,の状態Aから回転させて,前記アーム108がスタイル端部のブラケットによって拘束された位置において,各前方バー107が,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,空間が存在する状態B」 (認定C)は,本件訂正発明1との相違点ではない旨主張する。
前記のとおり, 【図D-1】及び【図D-2】のように構成したものも本件訂正発明1の要旨に含まれていると認められるから,甲3発明が「リアレールの上に折畳ませた状態A」に変形可能であるからといって相違点となるものではなく,甲3発明の「前方バー107」を本件訂正発明1の「一対のバー」と対比させるのであるから,甲3発明が「アーム108」の存在を前提としているからといって相違点となるものではない。
そうすると,認定B及びCにおいて, 「状態A」や「アーム108」を前提としない構成は, 「各前方バー107が,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,空間が存在する状態B」に変形可能というものであるところ,当該構 成は,本件訂正発明1の「一対のバー」が「左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,作業者が前記第1主脚と前記作業空間との間を移動可能な第2の状態と,に変形可能」(技術的構成[D1])に相当するから,原告の主張のとおり,認定B及びCに係る構成は,本件訂正発明1と甲3発明の相違点とは認められない。
以上から,認定B及びCに係る本件審決の相違点の認定が誤りであるとの原告の主張は理由がある。
エ 原告は,認定Dに係る相違点について,本件訂正発明1は,一対のバーの第1の状態と第2の状態に関して,作業台の使用を開始するときに第1の状態(閉塞状態)とされており,作業者が天板に搭乗するときに第2の状態(開放状態)とするようなものに限られていないから,甲3発明が「状態B」 (前方バーが並列に位置する状態)から「状態C」 (前方バーが直列に位置する状態)に変形させる順序が本件訂正発明1との相違点であると認定するのは誤りである旨主張する。
本件訂正発明1は,第1の状態(閉塞状態)と第2の状態(開放状態)との変形順序について特定しておらず,原告の主張するように,本件訂正発明1が,作業台の使用を開始するときを第1の状態とし,作業者が天板に搭乗するときを第2の状態とするようなものに限られているとは解されないから,変形させる順序を理由に相違点とすることはできず,その限りでは,原告の主張には理由がある。
他方,原告は,本件審決の認定Dは,本件訂正発明1の「一対のバー」が第1の状態(状態C)において「互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され」るのに対して,甲3発明の「前方バー107」は,ラッチ止めされるため「隙間」を有しない点(認定D―1),及び,本件訂正発明1の「一対のバー」が「軸着部」によって支持されるのに対して,甲3発明の「前方バー107」は, 「ラッチ止め」によって支持される点(認定D―2)に分けることができるが,これらはいずれも相違点とはならない旨主張する。
まず,認定D-1について検討すると,本件訂正発明1は,構成[D1]の記載 どおり,互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置する」 「 もの,すなわち,「隙間」を有すると認められ,甲3発明の「前方バー107」の間が「スピゴット109」で埋められ, 「前方バー107」の間に「隙間」を有しないものとは相違するといえる。
原告は,甲3発明においてもスピゴットが差し込まれた状態で一対の前方バーはそれ自体の先端同士は接触しておらず,隙間を介して対抗していると主張するが,証拠(甲10)によると,スピゴットとは,差し込み,差し込み口と同義であり,ソケット管のソケットに差し込んで連結するためのものを意味することが認められる。そうすると,スピゴットが差し込まれた状態では,一対の前方バーの先端同士が連結されたと認められるから,一対のバーは隙間を介して対抗していると認めることはできない。また,本件訂正明細書には,ロック部50を備えていることが記載されている(【0020】【0021】 , )が,ロック部を備えていても,一対のバーの先端部に「隙間」があることには変わりがない。
次に,認定D-2について検討すると,本件訂正発明1は,第1の状態(状態C)において, 「一対のバー」が「前記軸着部によって支持され」るものであり,甲3発明の「各前方バー107」がその間において「スピゴット109」の相互作用により拘束されていることとは相違する。原告は,本件訂正発明1は, 【図E】のように一対のバーを縦軸周りに軸支した構成も含んでおり,この場合には,一対のバーは直列の第1の状態で停止状態を維持できると主張するが, 【図E】が本件訂正発明1の要旨に含まれないことは前記のとおりである。
以上によると,認定D-1,認定D-2に係る本件審決の相違点の認定が誤りであるとの原告の主張は採用することができない。
オ 原告は,認定Eに係る相違点について,本件訂正発明1における「前記軸着部を介して回動して開くことで,前記互いの先端部が離れるように且つ前記隙間が広がるように開かれ,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,作業者が前記第1主脚と前記作業空間との間を移動可能な第2の状態」は, 甲3発明も同様であり,そこに相違点はない旨主張する。
甲3発明は,前方バーが,状態Cから状態Bに移動する場合には,互いの先端部が離れるように開き隙間が広がるから,甲3発明の「前方バー107」を本件訂正発明1の「一対のバー」と対比させる場合,この点に本件訂正発明1との相違点があるということはできず,上記の原告の主張は理由がある。
カ なお,甲3発明の「前方バー107」は,アーム108に対して回動可能であるが,それが「前記軸着部に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能」かどうかは,甲3からは全く明らかでなく,この点は相違点となるべきものである。
キ 以上のア〜カの認定,判断を考慮すると,本件訂正発明1と甲3発明との一致点,相違点は,以下のようになる。
<一致点>「上側が回動部を介して回動自在に軸着され,下側に向かって外側に傾斜し,それぞれ一対の支柱が梯子状に形成され,作業者の昇降側となる第1主脚および作業者の昇降側としない第2主脚と, 前記第1主脚および前記第2主脚の間に亘って配置される作業床用天板と, 前記作業床用天板の上方に形成される作業空間のうち前記第1主脚側のみを開放した状態で,前記作業床用天板の上方に配置される略コ字状の枠部材と, 前記作業空間のうち前記第1主脚側に位置して,前記作業空間を前記枠部材と共に包囲する一対のバーと,を備え, 前記第1主脚側から見たときに一方の支柱側を右とし,他方の支柱側を左とすると, 前記一対のバーが, 前記第1主脚側において互いの先端部が対向してその一部が略直列に位置するように支持され,前記作業床用天板の昇降側の端部の上方位置に配置される第1の状態と, それぞれ略左右対称に軸着部を介して回動して開くことで,前記互いの先端部が離れるように開かれ,左右方向から見て互いに重なり合うように略並列に位置して,空間が存在する第2の状態と,に変形可能である 脚立式作業台。」<相違点1> 作業空間のうち第1主脚側に位置して,作業空間を枠部材と共に包囲する一対のバーについて, 本件訂正発明1では,「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる」ものであり(技術的構成[D], ) 第1の状態において「互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され,(技術的構成[D1] 」 )「前記軸着部に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能であって,第1の状態になる位置と,第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可能である」(技術的構成[D2])のに対して, 甲3発明では,「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる」ものであるとの特定がされておらず(技術的構成[D’) ], 第1の状態において,「前方バー107の内部におけるスピゴット109の相互作用により直列状態となるように拘束されるまでスピゴット109を挿入して,係合させることで,直列状態にラッチ止めされ」(技術的構成[D1’) ],「前記軸着部に配置されるそれぞれ一つの軸着ピンのみを中心に回動可能であって,前記第1の状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可能」(技術的構成[D2’)であるか明らかでない点 ] (3) 上記の相違点の認定に基づいて本件訂正発明1の進歩性について判断す ると,以下のとおりである。
ア 無効理由1について 本件訂正発明1は,前記1(2)のとおり,@作業者が天板の突出方向と反対側で作業を行う場合には,天板の端を目視で確認しながら作業を行わなければならず,作業の効率が低下してしまうという問題やA天板の突出方向の反対側にも同様の手摺を取り付けたとしても,作業者が可搬式作業台を昇降する際に手摺を乗り越えたり,手摺をくぐったりしなければならないことから,天板と主脚との間の移動を自由に行うことができず,かえって作業の効率が低下してしまう問題を解決し,作業空間を包囲することにより作業の効率化を図るとともに,天板と主脚との間の移動を容易に行うことができる脚立式作業台を提供することを目的とするものであって,特許請求の範囲請求項1の構成をとることによって, 「作業の効率化を図ると共に,天板と主脚との間の移動を容易に行うことができる」という作用効果を奏するものである。本件訂正発明1の相違点1に係る構成も,上記のような課題を解決し,作用効果を奏させるための構成であるということができる。
これに対して,甲3発明は,容易に運搬できないかさばった構造のプラットフォームラダーにおいて,高い安全性を損なわないようにしつつ,容易に運搬できるようにすることを課題として,その解決のために,前記(1)イのような構成をとったものである。
そして,本件訂正発明1の相違点1に係る構成である,一対の前方バーについて,「作業者が接触することで前記作業床用天板の端部付近で作業をしていることを認識させる」ものであること,第1の状態において, 「互いの先端部が隙間を介して対向して略直列に位置するように前記軸着部によって支持され」ること, 「前記軸着部に配置されるそれぞれ一つの軸支ピンのみを中心に回動可能であって,前記第1の状態となる位置と,前記第2の状態となる位置との間を平面上に沿ってのみ移動可能」であることについては,甲3には,それらの構成を示唆する記載はなく,甲3発明の上記技術的意義に照らしても,それらの構成が想起されるということはでき ない。また,原告が周知技術と主張する甲5〜8,11及び12を併せて考慮しても,甲5〜8,11及び12には,周知技術としては,作業台の「軸支ピンを中心に回動可能な手すり部材」が開示されているにすぎず,当業者が甲3発明及び周知技術に基づいて本件訂正発明1を容易に発明することができたとは認められない。
イ 無効理由2について (ア) 甲4には,以下の記載があると認められる。
a 1頁目右欄要約 ラダーへのアクセスをブロックするゲート部材を有するラダーを開示している。
ゲート部材は,好ましくは,ラダーの不正使用に対する警告を含んでいる。ラダーは,倉庫等の環境内での使用のため,輸送可能となるように車輪の上に搭載することができる。これらの環境は,顧客の使用にさらされるので,警告により,顧客によるラダーの不正使用を防止することができる。
b 2欄4行〜19行 本発明のラダー20は,図1に開示されており,側部辺22及び24を有する。
垂直方向に延びる側部フレーム26及び28がそれぞれ側部辺22及び24と結合されている。ステップ30,32及び34が側部辺22及び24の間に延設されている。ラダー20は,普通は脚部36に支持されている。車輪38は,地面から車輪の半径よりも大きいが車輪の直径よりも小さい垂直距離に取付けられている。このようにして,ラダー20は,脚部36から外れて車輪38の上に旋回され,新しい場所に移動することができる。そこで,脚部36の上に置き直される。車輪38は,好ましくは,車輪マウント40に搭載されている。ブロック部材ないしゲート42は,フレーム26から内向きに延び,反対側のゲート44は,フレーム28から内向きに延びている。好ましくは,ロッド46が各フレーム26及び28の一対のクランプ48及び50により受取られ,ゲート42及び44を搭載する。
c 2欄20行〜32行 最も好ましくは,ゲート42及び44は,ラダー20の横向き方向に概ね平行し て延びる図示の状態に向けてスプリング付勢されている。ゲート42及び44の両者は,ステップ30,32及び34へのアクセスを可能とするため,スプリング付勢に抗して,図示位置の内外両方向に枢動させることができる。その後,スプリング付勢は,ゲート42及び44を図示の位置に戻す。最も好ましくは,ゲート42及び44は,図示しないストップ部材を有しており,45度の範囲を超えて枢動することが防止されている。スプリング付勢及びストップ部材の詳細は,本発明の一部を形成するものではなく,従来技術の作業者のスキルの範囲内における従来構成である。
d 2欄33行〜38行 更に,ロッド46は,クランプ48及び50の中で縦方向に調節し,ゲート42及び44の縦方向の高さを調節することができる。ゲートは,大部分の大人の一般人の腰の高さにほぼ等しい垂直位置にあることが好ましい。この高さは,ラダー20の全高と無関係であることが好ましい。
[図1] (イ) 甲4に開示されている事項について 上記(ア)によると,甲4には,次の甲4発明が開示されていると認められる。
「ラダーへのアクセスをブロックするゲート部材を有するラダーにおいて, 側部辺22及び24の各々に略平行に設けられた傾斜状の支柱にステップ30,32を有して梯子状に形成され,作業者の昇降側となるはしご部材と, 前記はしご部材の上端に配置されるステップ34と, 側部辺22及び24と,側部辺22及び24を互いに連結する部材とを有し,上記ステップ34の上方を包囲するコ字状の枠部材と, 前記はしご部材にアクセスする側のステップ30より手前に位置する,ラダーへのアクセスをブロックする一対のゲート42及び44と,を備え, 前記はしご部材にアクセスする側から見たときに,側部辺22に連なる一方のフレーム26側を右とし,側部辺24に連なる他方のフレーム28側を左とすると, 前記ゲート42及び44は, 各フレーム26及び28の一対のクランプ48及び50により受取られるロッド46に搭載されており,それぞれ略左右対称に,各ロッド46をクランプ48及び50を介して枢動させることができるものであって, 互いの先端部が隙間を介して対向して,ラダー20の横向き方向に概ね平行して延びる状態に向けてスプリング付勢されている状態と, クランプ48及び50を介して枢動させて開くことで,互いの先端部が離れるように且つ隙間が広がるように開かれ,ステップ30,32及び34へのアクセスを可能とする状態と,に変形可能であり,かつ, 前記ゲート42及び44は, ゲート42及び44が,各クランプ48及び50で形成される1つの枢軸のみを中心に回動可能であって,ラダー20の横向き方向に概ね平行して延びる状態に向けてスプリング付勢されている状態と,ステップ30,32及び34へのアクセスを可能とする状態との間を平面上に沿ってのみ移動可能であるラダー。」 (ウ) 甲3発明の「前方バー107」及び甲4発明の「ゲート42,44」は,共に,それぞれ略左右対称に回動可能であって,互いの先端部が対向して略直列に位置するように支持される状態と,作業者が作業空間へ移動可能な状態と,に変形可能な部材である点で共通する。
しかし,甲3発明の「前方バー107」は,プラットフォーム50に登った作業者の安全性を確保するためのレールの一部となるものであるのに対して,甲4発明の「ゲート42,44」は,ラダーが不正に使用されないようにアクセスをブロックするためのものであるから,甲3発明の「前方バー107」の構成に代えて,甲4発明の「ゲート42,44」の構成を適用する動機付けはない。そして,甲3発明と甲4発明に原告が周知技術と主張する甲5〜8,11及び12を併せて考慮しても,当業者が甲3発明と甲4発明に基づいて本件訂正発明1を容易に発明することができたとは認められない。
(4) したがって,本件審決の本件訂正発明1についての無効理由1の判断及び無効理由2の甲3発明を主引用例とする判断は,結論において誤りがないから,本件訂正発明1についての原告の請求は理由がない。
3 本件訂正発明2について 本件訂正発明2は,本件訂正発明1の構成をすべて含み,さらに発明特定事項を限定するものである。そうすると,上記2と同様の理由により,本件審決の本件訂正発明2についての無効理由1の判断と無効理由2のうち甲3発明を主引用例とする判断は,結論において誤りがないことになるから,本件訂正発明2についての原告の請求には理由がない。
4 結論 以上によると,原告の請求には理由がない。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 森義之
裁判官 眞鍋美穂子
裁判官 佐野信