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事件 平成 30年 (ネ) 10043号 特許権侵害差止等請求控訴事件
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2019/10/03
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 当審において控訴人らが追加した請求をいずれも棄却する。
3 控訴費用は控訴人らの負担とする。
4 この判決に対する上告のための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,別紙「被控訴人製品目録」記載の製品を製造し,使用し,譲渡し,輸出し,譲渡の申出をしてはならない。
3 被控訴人は,別紙「被控訴人製品目録」記載の製品を廃棄せよ。
4 被控訴人は,別紙「被控訴人原薬目録」記載の原薬を輸出してはならない(控訴人らが当審において追加した請求)。
事案の概要
1 本件は,発明の名称を「第IX因子/第IXa因子の抗体および抗体誘導体」とする特許第4313531号の本件特許権を共有する控訴人らが,原判決別紙「被告製品目録」記載の製品(以下,「被告製品」という。)は,本件各発明の技術的範 1 囲に属すると主張して,被控訴人に対し,特許法100条1項に基づき,被告製品の製造,使用,譲渡,輸出及び譲渡の申出(以下,これらを併せて「製造等」という。)の差止めを求めるとともに,同条2項に基づき,被告製品の廃棄を求めた事案である。
原判決が,被告製品は本件特許権の範囲に属しないとして,控訴人らの請求をいずれも棄却したため,控訴人らが控訴した。
なお,控訴人らは,当審において,被告製品を別紙「被控訴人製品目録」記載の製品名により特定し,被控訴人に対し,別紙「被控訴人原薬目録」記載の原薬の輸出の差止めを求める請求を追加した(控訴人らが本件特許権の侵害品であると主張する被控訴人に係る製品を,別紙「被控訴人製品目録」記載の製品〔以下, 「被控訴人製品」という。 と特定したことから, 〕 原判決中の「被告製品」 「被控訴人製品」 をと読み替える〔ただし,原判決別紙「被告製品目録」「被告製品説明書」及び「被 ,告製品のアミノ酸配列」の表題については読替えを行わない。。また, 〕 「因子」は,「F」を用いて表すことがあるため,例えば, 「第IX因子」を「FIX」などと記載することがある。。
) 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実) 原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の「2 前提事実」記載のとおりであるから,これを引用する。
3 争点及びこれに関する当事者の主張 次のとおり,原判決を補正し,当審における当事者の主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の「3 争点」及び「第3 争点に関する当事者の主張」に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決の補正 ア 原判決5頁1行目〜2行目を,次のとおり改める。
「(2) 被控訴人による被控訴人製品の製造等が,本件特許権を侵害しているか(争 2 点2)」 イ 原判決9頁17行目〜10頁14行目を次のとおり改める。
「2 争点2(被控訴人による被控訴人製品の製造等が,本件特許権を侵害しているか)について 【控訴人らの主張】 (1) 日本における製造,譲渡,譲渡の申出及び使用について 被控訴人は,平成30年3月23日に,日本向け被控訴人製品に関し,製造販売承認を取得し,卸業者の協力を得て,同製品の流通管理を行い,同年5月22日には,同製品の販売を開始している。したがって,被控訴人は,日本向け被控訴人製品を日本において製造及び譲渡している。
また,被控訴人は,自社のウェブサイトにおいて,日本向け被控訴人製品が発売されたことを発表し,同製品を大々的に宣伝し,適正使用ガイドを公表することや医師向けに同製品に関する協力依頼資料を配布することやメディア説明会を行うこと等を通じて,同製品の販売促進や普及のための活動を行っており,日本向け被控訴人製品の譲渡の申出を行っている。
さらに,被控訴人は,日本向け被控訴人製品に関し,日本国内で臨床試験を行っており,日本向け被控訴人製品を日本国内で使用している。
(2) 米国向け被控訴人製品の製造及び輸出について ア 米国向け被控訴人製品は,Aにある中外製薬工業株式会社(ChugaiPharma Manufacturing Co., Ltd.。以下,「中外製薬工業」という。)の施設で原薬( drug substance ) が 製 造 さ れ , B に あ る 同 社 の 施 設 で 最 終 調 製 品 ( finalformulated product)が製造されている。中外製薬工業は,被控訴人(中外製薬株式会社)とは別の法人格を有する会社であるが,被控訴人のA工場等で医薬品等の製造を行っていた一部門が平成18年5月に分社化され,被控訴人から委託を受けて医薬品の製造を行うこととなったものであり,被控訴人が100%出資する完全子会社である。中外製薬工業の行為は,被控訴人の完全な指揮監督及び意思決定に 3 基づいて行われるため,被控訴人の一事業部門が行うものと同視できる。したがって,米国向け被控訴人製品が中外製薬工業で製造されているとしても,被控訴人が同製品を製造していることに変わりはない。
以上によると,被控訴人は,現在,米国向け被控訴人製品を日本国内で製造している。
イ 米国向け被控訴人製品の原薬及び最終調製品は日本国内で被控訴人により製造された後,スイスに輸出されて被控訴人と同じロシュグループに属するエフ・ホフマン・ラ・ロシュ・リミテッドによりラベル付け及び包装が行われ,その後,米国に輸出される。また,被控訴人の製品は,全て,被控訴人により海外のエフ・ホフマン・ラ・ロシュ・リミテッドや中外ファーマ・ユー・エス・エー・インコーポレーテッド等に向けて輸出されている。
以上によると,被控訴人は,現在,米国向け被控訴人製品を日本から輸出している。
(3) 欧州向け被控訴人製品の製造及び輸出について 中外製薬工業は,欧州向け被控訴人製品の生物活性物質(biological activesubstance)を製造しており,その所在地としてAが記載されているから,前記(2)と同様に,被控訴人は,欧州向け被控訴人製品を製造している。
また,被控訴人は,現在,欧州向け被控訴人製品を日本国内で製造し,エフ・ホフマン・ラ・ロシュ・リミテッド等に輸出している。
以上によると,被控訴人は,欧州向け被控訴人製品を日本において製造し,欧州に輸出している。
(4) 原薬の輸出について 被控訴人は,被控訴人製品の原薬である別紙「被控訴人原薬目録」記載の原薬を輸出している。
【被控訴人の主張】 (1) 被控訴人製品は,販売名に「ヘムライブラ」又は「Hemlibra」を 4 含む製品として特定されているが,臨床試験では,治験薬が使用されており,この治験薬は,薬事当局の製造販売承認の下で販売されているわけではないため,臨床試験では,被控訴人製品は使用されていない。
(2) 被控訴人製品の製造は,被控訴人とは別法人の中外製薬工業によって行われているため,被控訴人は製造していない。
(3) 被控訴人は,原薬及び最終調製品の輸出は行っているものの,米国の薬事承認の下で使用される被控訴人製品を,米国に向けて輸出しているわけではない。
また,被控訴人は,欧州医薬品庁の薬事承認の下で使用される被控訴人製品について,当該地域に向けて輸出していない。」 (2) 当審における控訴人らの主張 ア 本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体について 原判決は,本件各発明の技術的範囲に含まれるのは, 「第IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」であり,バイスペシフィック抗体は,モノスペシフィック抗体の活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体の一態様であるとした。
この原判決の判断枠組みにおいては,バイスペシフィック抗体が本件各発明の技術的範囲に含まれるためには,バイスペシフィック抗体に改変される前のFIX又はFIXaに対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体。以下, 「モノスペシフィック抗FIX(a)抗体」という。なお,FIX及びその活性型であるFIXaを総称して「FIX(a)」と記載することがある。)の時点で「凝血促進活性を増大させる」必要がある。したがって,バイスペシフィック抗体である被控訴人製品の属否は,被控訴人製品の改変元となるモノスペシフィック抗FIX(a)抗体の活性によって決せられることになる。
イ 「凝血促進活性を増大させる」について (ア) 原判決によると,被控訴人製品の属否は,被控訴人製品の改変元とな 5 る抗FIX(a)モノスペシフィック抗体の色素形成アッセイキットにより測定されたネガティブコントロールとの比が2程度を超えるか否かにより判断されるというのであるから, 「凝血促進活性を実質的に増大させる」というには,色素形成アッセイキットにより測定されたネガティブコントロールとの比が2程度を超えることを意味することになる。控訴人らは,原判決の認定とは異なりネガティブコントロールの比は1以上であればよいと主張するものであるが,ネガティブコントロールの比が3を超えることを意味するとの被控訴人の主張は失当である。
(イ) 被控訴人は,@被控訴人製品がモノスペシフィック抗FIX(a)抗体を得てからそれを「改変」するというステップを経ていないことや,A酵素と基質の両方に結合し,酵素の活性を高めるという非対称型バイスペシフィック抗体である被控訴人製品がハイブリドーマ法で得られたモノスペシフィック抗体では到底実現できないレベルの高い活性を示すことを理由に,非対称型バイスペシフィック抗体は,本件各発明の技術的範囲に含まれないから被控訴人製品は本件各発明の技術的範囲に属しないと主張する。
しかし,上記@について,本件各発明は,物の発明であって物を生産する方法の発明ではないから,製造方法を問わず,同一の構成,特性の物である限り,クレームに含まれる。属否を判断する上で特定の生産工程を経ているか否かは問題にならない。
また,上記Aについて,被控訴人製品がどれだけ高い活性を有しているか否かは,属否判断とは関係がない。非常に高い活性(例えば,臨床的に使用可能なレベルの活性)を実現する抗体や抗体誘導体であっても,FIXの凝血促進活性を実質的に増大させるモノスペシフィック抗FIX(a)抗体を改変した抗体誘導体であれば本件各発明の技術的範囲に属する。
ウ 凝血促進活性の測定方法について (ア) 酵素基質反応とは,酵素と基質とが可逆な反応で酵素基質複合体を形成し,続いて生成物が産生され,元の酵素が分離する一連の反応のことである。
6 酵素の本質は,基質が生成物へと変換される化学反応の反応速度を増大させることにあるから,酵素の活性は,基質が生成物へと変換される化学反応の速度をどの程度増大させるかによって評価される。
この酵素基質反応は,酵素と基質とが反応し,酵素基質複合体が形成される第一段階,複合体の生成速度と解離速度とが釣り合った第二段階及び更に反応が進んで基質濃度が減少した第三段階に分けられ,第一段階である複合体形成段階は非常に速く,第二段階では,生成物は時間とともに直線的に増加し,第三段階では,複合体の濃度も減って反応速度は減少する。上記の酵素基質反応の経時変化を産生量を縦軸に,時間を横軸に取ってグラフに表すと,複合体形成段階(第一段階)は非常に速いので,グラフでは表現されず,第二段階の直線部分から表現されるのが通常である。そのため,この第二段階の直線部分を反応初期とみなすことができる。そして,反応が進んで基質濃度が減少等すると,グラフは次第に横ばいになり,プラトー(水平状態)に達する。
他方,反応時間が長引くと,基質濃度が減少し,複合体の濃度も減少するので,反応速度は低下する。また,酵素基質反応における酵素が高分子タンパク質である場合,酵素は反応時間の経過とともに変性しやすくなり,失活も生じる。
以上によると,反応時間が長引くと,酵素の本来の反応速度を適切に評価できなくなってしまうので,酵素の反応速度はその最大値を発揮する時点(反応初期の直線部分)で測定する必要があることになる。
7 本件各発明の抗FIX(a)抗体は,FVIIIa補因子活性又はFIXa活性化活性を有するので(本件明細書の段落【0011】, ) 本件各発明の抗体の活性は,FIXaの反応速度(FXaの生成速度)をどれだけ増大させたかによって決せられ,FIXaの反応速度(FXaの生成速度)が最大値になる部分(直線部分の傾き)で測定する必要がある。本件明細書も,FIXaの反応速度(FXaの生成速度)によって抗体の活性を評価することを前提としている(本件明細書の【図面の簡単な説明】の【図7A】及び【図7B】。
) (イ)a 本件明細書の実施例では,色素形成アッセイを行うに当たり,本件明細書の段落【0047】に記載されている市販の色素形成アッセイキットである「COATEST VIII:C/4」(以下「コアテスト」という。)の仕様書に記載されているサブサンプリング法(FXaを生成させる第1ステップと,生成したF]aが発色性合成基質を切断することにより発色させる第2ステップを分離して実施する方法)ではなく,コンティニュアス法(第1ステップ及び第2ステップからなる一連の反応を1ステップで行う方法)と呼ばれる方法を使用しており,被験抗体,FIXa,FX,リン脂質,カルシウムイオン,発色性合成基質等の反応に必要な試薬を一度に全て投入し,継続的に吸光度を測定している。
本件各発明である抗FIX(a)抗体は,ハイブリドーマ上清に含まれる不特定多数の抗体サンプルの中からスクリーニングによって凝血促進活性を増大させる活性を有する抗FIX(a)抗体として初めて得られたものであるので,ハイブリドーマ上清に含まれる各種抗FIX(a)抗体がどの程度の活性をどのように生じさせるかが全く予想できなかった。そのため,継続的に発色を観察しながら有意な活性を有する抗体をスクリーニングする必要があり,前記コアテストを用い,ただし測定方法はコンティニュアス法に改変して継続的にアッセイを行った。
また,インキュベーション開始後,発色を示すまでの時間や発色反応を示す反応曲線の立ち上がりなどは抗体によって異なり,多様であるので,発色反応を観察するインキュベーション時間も,発色反応の経過を観察しながら適宜決定する必要が 8 あった。本件明細書には,12時間のインキュベーションを行った実施例2(段落【0047】や, ) 6時間のインキュベーションを行った実施例4(段落【0062】)や実施例5(段落【0066】, ) 2時間のインキュベーションを行った実施例9(段落【0080】, ) 1時間のインキュベーションを行った実施例11(図18〜22)や実施例15(図25)や実施例16(図27)や実施例17(図31)や実施例18(図36)があるように,本件明細書に記載されたインキュベーション時間は,実施例によって大きく異なっており,1時間〜12時間と多様である。
さらに,本件各発明では,マウスをFIXaで免疫して得られた抗FIX(a)抗体を産生する多数のハイブリドーマ上清からFIXaの酵素活性(凝血促進活性)を有意に増大させる上清を効率的にスクリーニングする必要がある。コンティニュアス法は,最初に必要な試薬を一度に投入してしまえば,後は継続的に吸光度を測定して,その中で発色した上清を選択すれば足りるため,多数のハイブリドーマ上清の中から効率的に活性を示す上清を選択するハイスループットスクリーニング(本件明細書の段落【0047】)を行うのに適していたのに対し,サブサンプリング法では,FXaを産生させる第1ステップを停止させ,その一部を別の容器に移し,発色性合成基質を加えて吸光度を測定する第2ステップを別途行う必要があるので,コンティニュアス法に比べ,スクリーニングの効率性・操作性・迅速性の点で劣る。このため,本件明細書の実施例では,色素形成アッセイの方法としてコンティニュアス法を用い,ただ,アッセイの目的や抗体濃度,吸光度のグラフの経時変化といった要素を考慮して,抗体の活性を適切に測れるようインキュベーション時間を柔軟に設定したものである。
このように,本件明細書の段落【0013】の2時間というインキュベーション時間は一例にすぎず,また,コンティニュアス法を用いた場合の設定時間である。
b もっとも,本件明細書では,色素形成アッセイの方法につき特段限定していないから(本件明細書の段落【0037】,サブサンプリング法を用いて )抗体の活性を測定することも許容している。
9 しかし,サブサンプリング法は,特定のサンプルを短時間反応させて活性の有無及び程度を確認するアッセイであり,酵素反応を二つのステップに分けて行わせるので,それぞれのインキュベーションでは1段階の酵素反応しか生じない。コンティニュアス法とサブサンプリング法とでは,アッセイの目的や測定原理,反応の数及び内容,測定方法,反応の経過が異なる。
したがって,当業者は,本件明細書の段落【0013】の「2時間のインキュベーション後」という記載を見たとしても,サブサンプリング法を測定方法とする場合には,コンティニュアス法のインキュベーション時間をそのまま適用しようとは考えず,コンティニュアス法のインキュベーション時間とは別に,サブサンプリング法の第1ステップのインキュベーション時間を決定する。
そして,サブサンプリング法を採用している市販のキットであるコアテスト(甲213)や「TECHNOCHROM FVIII:C」 (甲208,以下「テクノクロム」という。)は,酵素基質反応の反応速度が最大値を示す時点である5分にインキュベーション時間を設定しており,その旨を仕様書に明確に記載している。また,5分のインキュベーションという仕様書の記載は,活性を正確に測定するためバリデーションされた条件でもある。
実験結果(甲211)によると,コアテストを用いてサブサンプリング法で色素形成アッセイを行った場合のFXa活性の経時変化を表した図は,次のとおりであり,インキュベーション時間が5分を超えるとFXa活性の上昇が緩やかになることが分かる。
10 また,インキュベーション時間を2時間とした場合と5分とした場合の比較実験の結果(甲224,甲224の2,以下,「甲224実験」という。)によると,第1ステップのインキュベーション時間20分の時点で,既に反応速度が初速度から乖離しており,2時間に至ると被験抗体に基づく反応が進行していないことが分かるから,テクノクロムには,2時間のインキュベーションに耐えられる量の基質は含まれていない。また,甲224の2の図6を見ると,被験抗体はインキュベーション時間が長くなるにつれ,反応速度が顕著に低下しているのに対し,ネガティブコントロールは反応速度が低下していない。この実験結果は,被験抗体の活性により顕著に増加したはずのF]aが失活していることを示している。さらに,一定の温度,pHの下でインキュベーションを長時間続けると,酵素が変性するなどして失活し得ることは,本件における色素形成アッセイに限らず当業者の技術常識である(甲201の86頁,甲204の308頁)。
したがって,サブサンプリング法の第1ステップのインキュベーション時間は,技術常識に基づき,酵素活性測定の大原則に裏付けられた市販のキットの仕様書の記載に基づき,5分と設定される。
c なお,甲224実験に用いられた分光光度計は,小数点第3位まで正確に測定できるため,本件明細書の段落【0014】の式に代入する吸光度を正 11 確にとらえることが可能であり,測定により誤差が生じる余地はわずかであるから,誤差に敏感となる必要はない。また,仮に,吸光度の増加が極めて小さく,分光光度計で測定不能な場合でも,当業者はインキュベーション時間を延長するのではなく,抗体濃度を増やすことで対応するのが技術常識である。
エ 被控訴人製品の改変元となるモノスペシフィック抗FIX(a)抗体について (ア) QhomoとMonoBMは,いずれも被控訴人製品の改変元であるモノスペシフィック抗FIX(a)抗体に該当すること a Qhomoは,被控訴人製品のアミノ酸リストに基づき被控訴人がHEK細胞を用いて発現,精製したモノスペシフィック抗体であるが,原判決は,QhomoとMonoBMが同一であるとは認められないとして,控訴人らの実験結果(甲114)を排斥した。
しかし,MonoBMも,Qhomoと同様に,被控訴人製品の抗FIX(a)腕の抗原結合部位のアミノ酸配列に対応する遺伝子をHEK細胞に導入して産生した抗体であり(甲163全訳の9頁,甲164全訳の8頁。なお,「MonoBM」という呼称は甲114中で用いられたものであり,甲163及び164中では「Monospecific anti-FIX(a) antibody」と表記されている。,いずれも被控訴人 )製品の完成後に,その抗FIX(a)腕のアミノ酸配列から再現された,被控訴人製品の抗FIX(a)腕の抗原結合部位と同一のアミノ酸配列を有するモノスペシフィック抗体である。そして,アミノ酸配列が同一の抗体であれば,分子シャペロンの働きによって,高次構造(アミノ酸配列により定まるタンパク質の立体構造)も同一となるため,抗原結合部位の高次構造も同一となる(甲226の1,甲228の1) 抗原結合部位の構造によって, 。 結合対象である抗原に対する結合特異性及び結合親和性が決まるから(甲226の1・16),抗原との結合によって発揮される抗体の機能又は活性も同等となる。
したがって,MonoBMも被控訴人製品に至ることのできる抗体であるといえ 12 る。
b 原判決は,甲162の「・・・タンパク質によっては再び効率よくおりたたまれないものもある。 という記載を引用して, 」 アミノ酸配列が同一であっても,高次構造が同一であるとは限らないとして,MonoBMとQhomoの同一性を否定した。
しかし,甲162の上記記載は,たんぱく質の高次構造を人工的・実験的に解いてから巻き戻す(再折りたたみ実験を行う)際に生じるエラーのことを述べている。
本件のように,細胞によって一からタンパク質(抗体)を発現される場合には,細胞に備わる分子シャペロンの働きによって,誤った高次構造を取らないように制御されており,そのことは,甲162にも記載されている。
したがって,本件のように細胞によって一からタンパク質(抗体)を発現される場合には,アミノ酸配列が同一であれば,高次構造まで同一であることは明らかであり,原判決の上記判断には誤りがある。
c 仮に,MonoBMとQhomoが同一であると認めることができないという意味が,両者が構造上の細部まで完全に同一であるとはいえないという意味であれば,それは否定できない。しかし,このような考え方を採る場合,QhomoのFIX結合部位を取り出して被控訴人製品のFX結合部位と組み合わせて作製したバイスペシフィック抗体は,被控訴人製品とはアミノ酸配列が同一でありつつも,構造上の細部まで完全に同一ではないことになるから,Qhomoも被控訴人製品の属否の判断から排除することを意味することになる。このような考え方は採り得ない。
d このように,MonoBMは,Qhomoと同等の抗体であり,いずれも被控訴人製品の改変元となるモノスペシフィック抗FIX(a)抗体に該当するものであるから,Qhomoの実験結果もMonoBMを用いた控訴人らの実験結果も等しく被控訴人製品の属否の判断に用いることができる。これを否定した原判決の認定は誤っている。
13 (イ) また,改変元抗体は,被控訴人製品の属否を判断するための道具概念であり,被控訴人製品の抗FIX(a)腕の活性を正しく反映するものであればよい。そして,抗原結合部位のアミノ酸配列が同じであれば,抗原との結合によって発揮される活性は同等となる。そうすると,抗原結合部位のアミノ酸配列が被控訴人製品の抗FIX(a)腕と同じモノスペシフィック抗FIX(a)抗体であれば,被控訴人製品の抗FIX(a)腕と同等の活性を生じさせるといえるから,改変元抗体は,一つの抗体(Qhomo)に限定されるわけではなく,複数のバリエーションが存在する。そうすると,前記(ア)のMonoBM(HEK,野生型)だけでなく,Qhomoシミラー(HEK,人工改変型)(H鎖及び L 鎖のアミノ酸配列が,被控訴人製品の抗FIXa側のH鎖及び L 鎖のアミノ酸配列からなり,Fc領域を含む定常領域に至るまでQhomoとアミノ酸配列を完全に同一とし,産生細胞も同一とした抗体),CHO細胞で作製されたMonoBM(CHO,野生型)(被控訴人製品の抗FIXa腕の抗原結合部位のアミノ酸配列に,Fc領域として野生型のIgGのアミノ酸配列を組み合わせ,CHO細胞に導入して産生した抗体)やQhomoシミラー(CHO,人工改変型) (そのH鎖及び L 鎖のアミノ酸配列が被控訴人製品の抗FIXa側のH鎖及び L 鎖のアミノ酸配列からなり,CHO細胞に導入して産生した抗体)も改変元抗体に当たる。
被控訴人は,これらの改変元抗体の部分変性などの品質が十分に確認されていないなどと主張するが,控訴人らは,これらの改変元抗体の製造プロセス,精製プロセス(MabSelect SuReカラムを用いたProteinAクロマトグラフィーやサイズ排除クロマトグラフィー(SEC),サイズ排除高速液体クロマ )トグラフィー(SEC-HPLC)やドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)などの純度検証工程に関する資料を全て開示し,精製の際に生じ得る抗体のフラグメント,凝集物,ミスフォールディング及び構造変化がないことなどを示しているし,これらの抗体が,通常行う製造工程及びハンドリングの下に作製されており,回収及び精製工程に問題がないことは技術専 14 門家も保証している(甲228の1)。被控訴人の上記の主張は,可能性の問題を指摘しているにすぎず,指摘に係る事情が抗体の活性の有無や属否判断にどう影響するかを何も明らかにしていない。
オ Qhomoやその他の改変元抗体はFIXの凝血促進活性を実質的に増大させること (ア) Qhomoについての乙38の実験が適切でないこと a 乙38の実験(以下「乙38実験」という。)では,テクノクロムを用いた色素形成アッセイにおいて,酵素基質反応を停止させるまでのインキュベーション時間を2時間に設定しているが,テクノクロムの仕様書(甲208)は,サブサンプリング法により5分間インキュベーションした後,吸光度の増加を測定する手順となっている。また,抗体の活性が低い場合には,サンプルの希釈率を低くする,すなわちサンプル濃度を上げる(抗体濃度を増やす)ことにより当該キットを用いて活性を測定することが想定されており(甲227の1) 仕様書に記載され ,たインキュベーション時間(5分)を2時間に延長することが予定されているわけではない。インキュベーション時間を2時間に延長すると,キットに含まれている基質F]が不足してF]aの生成速度が低下するため,抗体の活性を適切に測定することはできないし,キットが保証する精度も得られない。被控訴人も,試験報告書(乙36)の実験ではインキュベーション時間を2分間に限定しており,被控訴人製品の物質特許である特許第5246905号(甲209)でも,酵素反応時間は6分間とされているから,被控訴人も,2時間という長時間のインキュベーションを行うことは適切でなく,数分という短時間で第2ステップに移行することが適切であり,テクノクロムの仕様書に記載された5分とすべきことは十分に理解しているといえる。
しかし,乙38実験では,第1ステップのインキュベーション時間が2時間と長すぎるため,インキュベーションの途中で,基質の消費に伴い,反応速度は最大反応速度よりも低下し,第1ステップのインキュベーション時間の間,FIXaが 15 失活してしまい,その結果,FXaの生成速度も低下する。さらに,生成物であるFXaも,長時間のインキュベーションを行うと,自己消化を起こし,血液凝固性やアミド活性を持たないFXaγに変換してしまったと考えられる。これらにより,第1ステップ終了時点でのFXa 産生量はQhomoの本来の活性を反映したFXa 産生量より少なくなっている。第1ステップ終了時点のFXa産出量が本来の産出量よりも少なくなった結果,第2ステップで測定されるQhomoの吸光度も,Qhomoの本来の活性を反映した吸光度より低くなっており,Qhomoが本来もたらす産生量よりも少ない量しか反映できていない。
b 本件明細書では,継続的にF]aを定量して,FXaの生成速度の変化を観察し,抗体の活性を適切に評価することが必要とされている。しかし,被控訴人は,乙38実験で,2時間のインキュベーションを終えた時点でのみFXa産生量を測定し,2時間に至るまでのFXa 産生量の経時変化は測定していない。
そのため,インキュベーションの途中でFIXaの反応速度が低下したか否かの検証ができておらず,抗体の活性を適切な時点で評価したか否かの検証ができない。
したがって,乙38実験の結果は,本件明細書に照らしても信用できない。
(イ) 5分のインキュベーション後の吸光度による実験結果 a 控訴人らは,MonoBM(HEK,野生型),Qhomoシミラー(HEK,人工改変型),MonoBM(CHO,野生型),Qhomoシミラー(CHO,人工改変型)について,それぞれサブサンプリング法に基づき,第1ステップのインキュベーション時間を5分及び2時間に設定して色素形成アッセイを行い,活性を測定した(甲224,230,250)。
b 上記aの各実験結果によると,サブサンプリング法の第1ステップのインキュベーション時間を2時間に設定し,抗体サンプル濃度を100μg/ml にした時のQhomoシミラーの値は1.41(発色時間2分の値)となり,また,インキュベーション時間2時間かつトリスバッファという,乙38実験と同1条件下でのQhomoシミラーの値は,1.59となり,いずれも乙38実験のQ 16 homoの値である1.48と近似する値となった。そのため,これらの実験は乙38実験の結果が再現されていることを示している。
また,インキュベーション時間を5分に設定したときの値と2時間に設定したときの値を比較すると,5分のインキュベーション下の測定結果の方が2時間のインキュベーション下の測定結果より高くなっている。このことは,2時間のインキュベーションの間にFXaの生成速度が低下し,抗体の本来の活性が測定できないから2時間のインキュベーション時間は適切ではないことを裏付けている。
そして,4種類の改変元抗体のいずれもが,インキュベーション時間5分の条件下では,抗体サンプル濃度を100μg/ml にした場合,ネガティブコントロールとの比が2程度を超え,抗体サンプル濃度を200μg/ml や300μg/ml にした場合には3を優に超える値となっており,被控訴人製品のFIX(a)腕が実質的に凝血促進活性を増大させることが基礎づけられている。
c 被控訴人は,控訴人らが行った実験結果において,5分のインキュベーション時間の色素形成アッセイでは,MonoBMの活性がBM(控訴人らが産出した被控訴人製品と同じアミノ酸配列を有するバイスペシフィック抗体)の活性と同等か又はそれよりも高い場合があることが,5分のインキュベーションで抗体の活性を適切に評価できないことを示していると主張している。
しかし,乙38実験や控訴人らの実験(甲224,230,250)に用いたテクノクロムに含まれているのは,ヒトFIXaとウシFXであり,BMはウシF]とは結合(反応)しない(甲163)。したがって,テクノクロムの条件下では,BMの抗FX腕が反応せず,MonoBMの活性がBMと同等又はそれ以上になることは十分に考えられる(甲224)。
また,被控訴人は甲224実験のうちインキュベーション時間が5分のデータのみを指摘しているが,インキュベーション時間が2時間でもMonoBMの比の値がBMを上回っているものも複数見られる(甲224の2の全訳の38頁の RB1,RB2・RBT1,RB3,RB4)。したがって,MonoBMがBMの活性と同等か又はそれ 17 よりも高い場合があることをもって,5分のインキュベーションで抗体の活性を適切に評価できないとはいえない。
(ウ) 被控訴人製品の改変元となるモノスペシフィック抗FIX(a)抗体が凝血促進活性を増大させるという帰結が被控訴人の製品そのものを用いた実験結果とも整合すること 控訴人らが行った,被控訴人製品そのものを用いたBiacore実験によって,被控訴人製品はウシFXに結合しないことが確認された(甲231)。また,被控訴人製品がウシFXと結合(反応)しないことは,被控訴人の論文(甲165)の329頁にも記載されており,被控訴人自らが認めている。
乙38実験や甲224実験の色素形成アッセイで用いられているテクノクロムはヒトFIXaとウシFXを用いており(乙39),被控訴人製品は,ヒトFIXaとしか結合しないから,テクノクロムの条件下では,被控訴人製品による凝血促進活性は,被控訴人製品の抗FIX(a)腕のみの寄与によってもたらされることになる(甲225)。
なお,被控訴人らの試験報告書(乙147)では,ウシFXを使用したとの端的な記載はないから,この実験結果をもとに,被控訴人製品がウシF]と結合するとはいえない。
したがって,テクノクロムの条件下で被控訴人製品の抗FIX(a)腕は実質的に凝血促進活性を増大させる。
(エ) 被控訴人製品の改変元となるモノスペシフィック抗FIX(a)抗体が凝血促進活性を増大させるという帰結が第三者の実験結果とも整合すること バイオベラティブ社の実験データ(甲214)では,色素形成アッセイにおいて,被控訴人製品(Emi-bsim)の抗FIX(a)腕から再現されたモノスペシフィック抗FIX(a)抗体(Emi-bsimのFIXホモダイマー)がFVIIIと同等以上の強力な活性を有することが示されているから,被控訴人製品の抗FIX(a)腕から再現されたモノスペシフィック抗FIX(a)抗体は凝血促進 18 活性を実質的に増大させる。同社の発表の要旨(甲219)においても, 「Emi-bsimはいずれの2価ホモダイマーも複数のアッセイにおいて顕著な活性を示した」とされており,被控訴人製品の抗FIX(a)腕のホモダイマーが顕著な活性を示したと評価されている。
(3) 当審における被控訴人の主張 ア 本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体について (ア) 被控訴人製品は,1分子中にFIX(a)腕とFX腕という2種類のアームを有することによって,酵素(FIXa)と基質(FX)との両方に結合し,酵素の活性を飛躍的に高め,モノスペシフィック抗FIX(a)抗体では実現できない高いレベルのFVIII補因子活性を実現する非対称型バイスペシフィック抗体であり,酵素と基質との空間的な配向を好適な状況に制御し,それにより,酵素の活性部位と基質とを正確に接触し易くすることを目的として開発されたものである。
非対称型バイスペシフィック抗体の著しく高い活性は,一つの分子が2種類のアームを有するというバイスペシフィック抗体に固有の機序によって初めて実現する。
このことは,@乙38実験の色素形成アッセイにおいて,抗FIX(a)腕のみを有する抗体は全く活性を示していないこと,A抗FIX(a)腕のモノスペシフィック抗体と抗FX腕のモノスペシフィック抗体の混合物を添加しても,FXaの生成は観測できない(乙122の Figure S7)こと,B酵素速度論解析(乙36)において,被控訴人製品(抗FIX(a)腕及び抗FX腕を有する。)は,Qhomo(抗FIX(a)腕のみを有する。)と比較して,FIXaによる酵素反応においてkcat,Km 及び「kcat/Km」の飛躍的な向上をもたらしたこと,C控訴人らが本件明細書に記載の方法でモノスペシフィック抗体を調製し,その酵素速度論解析を行った結果(乙6)と対比すると,被控訴人製品添加時の「Kcat/Km」は,乙6のモノスペシフィック抗体添加時の約1000倍にも達すること,D控訴人らのBMとMonoBMの酵素速度論解析でも,乙36と同様の傾向が表れていること(甲11 19 4)から明らかである。非対称型バイスペシフィック抗体は,本件明細書においてハイブリドーマ法で得られたモノスペシフィック抗体とは活性及び機序の点で大きく異なっており,本件各発明の課題解決手段とは異なる手段によって凝血促進活性を増大させる効果がもたらされていることになる。したがって,非対称型バイスペシフィック抗体は,当業者が本件明細書の記載に基づいて実施し得たものではない。
また,FIX(a)と結合するバイスペシフィック抗体(すなわち,FIX(a)腕を有するバイスペシフィック抗体)において,他方のアームの抗原の候補は,多数存在するが,本件明細書では,他方のアームの抗原は特定されていない。仮に,他方のアームの抗原をFXに特定したとしても,モノスペシフィックの抗FIX(a)抗体のFVIII補因子活性は,当該モノスペシフィック抗体由来の抗FIX(a)腕を有するバイスペシフィック抗体の当該活性との相関に乏しい上に,抗FX腕それ自体は,FIX(a)と直接に相互作用しないから,抗FX腕についてFVIII補因子活性のためのスクリーニングを行うことはできない。FVIII補因子活性は,抗FX腕によって影響を受けるため,抗FIX(a)腕及び抗FX腕の何れの組合せが, (たとえそのような組合せがあるとしても)非対称型バイスペシフィック抗体のFVIII補因子活性を発現するのか,予測することは困難である(乙55,75)。
したがって,被控訴人製品は,本件各発明の技術的範囲に属しない。
(イ) バイオベラティブ社の実験(甲214)において,実験に用いられた二つの抗体BS-0271125(バイオベラティブ社の開発した抗体)及びEmi-bsimのいずれについても,FVIIIと比較した活性は,評価手法ごとに大きく変動し,また,トロンビン生成アッセイ(TGA)の中ですら,TGAの各種のパラメータ間で実験結果が一貫していなかった。そのため,甲214では, 「活性を適切に予測できる関連アッセイを明らかにするための追加研究が必要である。」とされている。
このように,甲214によると,現在の当業者であっても,非対称型バイスペシ 20 フィック抗体の評価手段を確立することは容易ではなく,更なる研究が必要とされていることになるが,評価手段なしでは,非対称型バイスペシフィック抗体が「凝血促進活性を増大させる」か否かは判断できない。現時点においてすら,非対称型バイスペシフィック抗体の適切な評価手法が確立できていないにもかかわらず,本件明細書には,非対称型バイスペシフィック抗体について何ら具体的な記載がなく,評価手段も全く記載されていない。このことは,本件明細書において,非対称型バイスペシフィック抗体は全く想定されていなかったことを示している。
(ウ) このように,非対称型バイスペシフィック抗体の技術思想は,本件明細書には開示されていないから,非対称型バイスペシフィック抗体である被控訴人製品は,本件各発明の技術的範囲に属さない。
(エ) 原判決は,本件各発明の技術的範囲に属するといえるためには,「第IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」 (モノスペシフィック抗FIX(a)抗体)であることが必要であり,バイスペシフィック抗体は「抗体誘導体の一態様としてこれに含まれ得ると解すべきである。」と判断したが,これが,モノスペシフィック抗FIX(a)抗体を得て,次いで,当該抗体を「改変」してバイスペシフィック抗体を得るという研究開発の道筋を述べているとすると,被控訴人製品の抗FIX(a)腕は,上記プロセスによって得られたものでなく,人為的な独自の改変によって得られたものであるから,被控訴人製品は,本件各発明の技術的範囲に属さないことになる。
原判決の上記判断が,バイスペシフィック抗体が実際に得られた経路ではなく,バイスペシフィック抗体のうちモノスペシフィック抗FIX(a)抗体に還元できる構造(すなわち,仮想的な出発点)について述べているのであれば,原判決の「第IX因子又は第IXa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)」とは,抗FIX抗体由来の構造をもつモノスペシフィック抗体となる。
21 イ 「凝血促進活性を増大させる」の意味について (ア) 本件明細書において,「凝血促進活性を増大させる」は,明確に定義されていない。「第VIII因子活性を決定するために使用される全ての方法が使用され得る」(段落【0037】)との記載が示すとおり,測定方法も判断基準も特定されていない。そのため,特許請求の範囲の記載は,明確性要件に適合しない。
(イ) 控訴人らは,本件明細書の段落【0013】 【0014】 及び により,120分(2時間)のインキュベーション後のFXaの生成総量を測定し,バックグラウンド(ネガティブコントロール)との比が3を上回る必要があることを,自らの責任と判断により決定し,第三者に公示した。クレームでの発明の特定は,特許権者自らの責任及び判断によるものであり,科学的に最も適した手段ではなくても,測定にとって簡便な手段が用いられることもある。本件明細書の段落【0013】及び【0014】はその例である。
したがって, 「凝血促進活性を増大させる」とは,色素形成アッセイを評価手法として使用する場合には,本件明細書の段落【0013】及び【0014】に明記されているように,サブサンプリング法によって2時間のインキュベーション後のFXaの生成総量を測定し,ネガティブコントロールとの比が3を超えることを意味するというべきである。本件明細書の発明の詳細な説明及び図を参照しても,インキュベーション時間を5分間とする根拠は見いだせない。
5分のインキュベーション時間の色素形成アッセイでは,MonoBMの活性がBMの活性と同等か又はそれよりも高い場合があることを示す甲224実験の結果は,5分のインキュベーション時間では抗体の活性を適切に評価できないことを示している。
これに対し,控訴人らは,実験結果(甲211)に基づき,テクノクロムには2時間のインキュベーションに耐えられる量の基質は含まれていないと主張する。
しかし,FXaはFXが活性化された態様であるから,仮に,基質(FX)が不足しているのであれば,いずれのFVIII濃度においても,F]aの生成総量は, 22 同じ値(すべてのFXがF]aに変換された飽和値)に収束し,FVIII濃度の違いは,飽和値に到達するのに要する時間に反映されるはずである。しかし,上記の実験(甲211)で観測された事象は,これとは異なるから,各FVIII濃度において,5分経過以降にF]aの生成総量の増加が緩やかになる理由は,基質の不足ではない。上記の実験(甲211)では,生成したFXaの総量は,FVIII濃度に依存して増大しているため,5分経過以降にF]aの生成総量の増加が緩やかになる可能性として,FVIIIaの失活が挙げられる。また,控訴人らが控訴理由書で引用する甲224実験では,実際には,20分以降も吸光度は継続して上昇している。
したがって,テクノクロムの基質が減少するとの控訴人らの主張は失当である。
また,控訴人らは,本件各発明の抗体の活性を適切に評価するためには,FIXaの反応速度(FXaの生成速度)が最大値になる部分(直線部分の傾き)で測定する必要があると主張するが,この主張は,本件明細書において, 「凝血促進活性を増大させる」ことは反応速度ではなく2時間のインキュベーション後のFXaの生成総量によって定義したことに反しており,失当であるし,科学的な観点からも,酵素間の比較において,反応速度の最大値」 「 が最も適切な指標であるとはいえない。
さらに,控訴人らは,サブサンプリング法の場合には,種々のインキュベーション時間においてそれまで生成したFXaを定量すべきであると主張する。しかし,サブサンプリング法では,所定のインキュベーション時間の経過後,反応を停止させるが,反応が一旦停止すると,再開させることはできないから,種々のインキュベーション時間での実験を行うためには,インキュベーション時間の数に応じた実験を繰り返さなければならないことになる。控訴人らの上記主張が許容されるとすると,第三者は,明細書に従って自らの製品の調査を行っても,不意打ちを受けることになる。この観点からも,控訴人らの主張は許されるものではない。
(ウ) 控訴人らが本件明細書において2時間のインキュベーション時間を採用したのは次の理由によると考えられる。
23 a 市販の色素形成アッセイキットは,サブサンプリング法により,一定時間(例えば,5分)内に生成したF]aの総量を測定する。サブサンプリング法は,(i)反応速度が遅い場合,生成物の増加が緩やかであるため,短い間隔で生成物の増加を測定しても,その増加分が小さく,誤差が大きいことから,反応終了後の生成物の総量を測定する方が正確であるという点,(ii)測定条件が明確であり,試験が簡素であるため,第三者の製品を検証する特許権者の負担も,特許発明を検証する第三者の負担も小さくなるという点で,コンティニュアス法と比較して,利点がある。コンティニュアス法は現在のコアテストのキットでは実現できないし,しかも,コンティニュアス法では,サブサンプリング法とは異なり,一定の温度で反応を進行させつつ吸光度を常時モニタリングする必要がある。
b 上記aの市販キットは,元来,血漿のFVIII活性を評価するために使用される。この市販キットを本件明細書に記載されたモノスペシフィック抗体が「凝血促進活性を増大させる」か否かの評価に転用するに当たっては,(i)本件明細書に記載されたモノスペシフィック抗体は,FVIII活性が著しく低く,生成するFXa の総量が非常に少ないために,適切な測定が難しいこと(測定対象の違い) (ii)市販キットの通常の使用態様であるサブサンプリング法は, , 発色における吸光度の値の測定そのものが目的であるが,本件明細書では,被験物質の吸光度のネガティブコントロールとの比が評価指標であるところ,ネガティブコントロールでの吸光度が小さい(すなわち,第1段階でのインキュベーション時間が不十分であるためにF]aの生成量が小さい)場合には,本件明細書の段落【0014】の式において,比の分母が小さく,比が分母の誤差に敏感になってしまうため,FVIIIの測定のための条件を転用すると,比に大きな誤差が生じやすいことから,ネガティブコントロールの吸光度も増加し,ネガティブコントロールとの比において,誤差は低減できる2時間のインキュベーション時間を採用すべきであること(評価指標の違い)があった。
控訴人らは,このような(i)測定対象の違い及び(ii)評価指標の違いを考慮して, 24 本件明細書においてインキュベーション時間を2時間に設定したと解される。
ウ 各種実験結果から被控訴人製品が本件各発明の範囲に属さないといえること (ア) 控訴人らが主張する「改変元抗体」と被控訴人製品は同一でなく, 「凝血促進活性を増大させる」との評価に用いることはできないこと a 控訴人らの主張する「改変元抗体」のうち,MonoBMは,シグナルペプチド切断後の成熟アミノ酸配列の点ですら,被控訴人製品のうちFIX(a)と結合する側の半分とは異なる。そのため,MonoBMの半分を用いても,被控訴人製品には到達し得ない。
したがって,MonoBMは, 「凝血促進活性を増大させる」の評価の対象とはなり得ない。
b タンパク質は,N末端に残基数約15-30個の延長ペプチド(シグナルペプチド又はシグナル配列)を有する前駆体として合成される。シグナルペプチドは,抗体の分泌及び輸送に必要であるが,最終的にはN末端から除去され,それによって目的とする成熟タンパク質(例えば,抗体)が得られる(乙124)。
シグナルペプチドの配列によっては,シグナルペプチドが目的とする位置でN末端から切断されないことがあり,その場合,抗体のN末端の配列は,本来の配列から伸長又は短縮され,目的のものとは異なる。この違いが,抗原結合活性や物性に影響を及ぼすことがある(例として,乙125,126)。また,抗体を取得するためには,当該抗体の発現及び精製が不可欠であるが,同一のアミノ酸配列で構成された抗体であっても,精製方法によっては,凝集物の生成及び構造変化が促進されることがある。
このように,抗体の性質にはアミノ酸配列以外の要素も寄与するのであり,控訴人らが主張する「改変元抗体」が抗原結合部位のアミノ酸配列の点で被控訴人製品と一致するとしても,「改変元抗体」と被控訴人製品は同一ではない。
c 控訴人らの各種実験において,色素形成アッセイの結果は,血液凝 25 固法及び酵素速度論解析の結果(甲114)と乖離しており,色素形成アッセイに限ってMonoBMの活性が高く評価されている(この傾向は,甲214のFIXホモダイマーでも同様である。。しかも,色素形成アッセイの中でも,実験ごとの )変動も大きい。これら控訴人らの実験結果は,MonoBMにおける構造変化によって非特異結合が誘引された可能性を示唆している。
また,控訴人らは,実験結果によると,抗体が十分に精製されていることを示すと主張するが,甲234の3の図1及び甲235の2の図3ではピークは非対称であり,これを更に高分解能で分析すると,別のピークが現れる可能性があるため,十分な純度が確保されているとはいえない。さらに,SEC-HPLCではシグナルペプチドの切断時のずれによる数個のアミノ酸の違いは検出できないし,抗体の構造変化も十分に検出できない。また,SDS-PAGEによっても,シグナルペプチドの切断時のずれによる数個のアミノ酸の違いや疎水性残基の露出などの構造変化も検出できないし,実験結果においては,エクストラバンドが現れており,複数のフラグメントが生じたことを示している(甲232の1の図2)。したがって,控訴人らが主張する改変元抗体に関して十分な精製が行われたとはいえず,部分変性などについて品質が十分確保されているとはいえない。
(イ) 控訴人らの主張する「改変元抗体」が凝血促進活性を増大させていないこと a 控訴人らの主張する「改変元抗体」のうち,Qhomoシミラーのみが,目的とする成熟アミノ酸配列の点で(ただし,シグナルペプチドの切断位置や発現後の修飾及び変性などの要因により,実際に発現したQhomoシミラーは,被控訴人製品のうちFIX(a)と結合する側の半分とは異なる可能性がある。, )被控訴人製品に対応するモノスペシフィック抗体に該当し得る。しかし,Qhomoシミラーを用いた控訴人らの色素形成アッセイの実験結果(甲230の Figure 3及び Table 5;120分のインキュベーション時間)は,乙38実験の結果と概ね一致したが,産生細胞がHEK及びCHOである二つのQhomoシミラーの何れ 26 においても,ネガティブコントロールとの比の値は,2以下であり,控訴人らが追加した実験(甲250)を考慮に入れても,Qhomoシミラーについて行われた五つの実験のうち四つについてネガティブコントロールとの比(発色時間は2分)の値は,乙38実験のQhomoと同様2以下である。したがって,Qhomoシミラーを用いた控訴人らの色素アッセイの実験結果は,原判決の解釈に基づいたとしても,本件各発明の技術的範囲には含まれないことになる。
b MonoBMを含め「改変元抗体」に関し控訴人らの行った全ての実験についてみても,大半の実験(17/19)において,ネガティブコントロールとの比の値は3以下であり,過半数の実験(12/19)において,ネガティブコントロールとの比の値は2以下であった。したがって,控訴人らの主張する「改変元抗体」によっても,被控訴人製品は,本件各発明の技術的範囲に属さない。
(ウ) Qhomoについての乙38実験が適切でありQhomoがモノスペシフィック抗FIX(a)抗体であるとはいえないこと a 乙38実験では,本件明細書の段落【0013】に沿って,色素形成アッセイが行われた。その結果によると,FXaの生成量は,被控訴人製品の濃度に依存し,しかも,FVIIIでの測定では,被控訴人製品での実験を大幅に上回る量のFXaが生成した。これによると,被控訴人製品の実験において,未反応の基質(FX)が多量に残存しており,基質の量は十分であったといえるから,乙38実験では,適切な条件で実験が行われたといえる。
したがって,乙38実験の結果は信用できるのであり,Qhomoはモノスペシフィック抗FIX(a)抗体には含まれない。
b 甲224実験には,乙38実験と同じ2時間のインキュベーション及びトリスバッファの条件での試験結果が含まれている。BMは被控訴人製品とは異なり,MonoBMは,比較抗体(Qhomo)とは異なる。二つの抗体が同一のアミノ酸配列を有していたとしても,当該抗体は互いに異なる。もっとも,乙38実験に沿った条件(2時間のインキュベーション条件及びトリスバッファ)では, 27 MonoBMは,凝血促進活性を増大させないが,BMのネガティブコントロールとの比の値は,MonoBMの値を上回っており,甲224実験の結果は,乙38実験の結果と類似している。
したがって,甲224実験の結果は,乙38実験の信頼性を担保している。
エ その他の実験結果について (ア) 控訴人らは,Biacoreを用いて,控訴人らが入手したとする被控訴人製品とウシFXとの相互作用について実験を行い(甲231) 被控訴人製品 ,はウシFXと結合しないと主張する。
しかし,被控訴人製品とウシFXとの結合がBiacoreの検出限界以下であったとしても,両者の間の相互作用が否定されるわけではなく,相互作用がBiacoreで検出できないにすぎない。相互作用が弱く微量の三量体のみが生じる場合でも,被控訴人製品は,FVIII補因子活性を示し,F]aの生成に寄与する。
(イ) バイオベラティブ社の実験(甲214)について a 仮に,バイオベラティブ社が甲214によって学会発表を行っていたとしても,その内容は,論文投稿前の暫定的なものである。また,バイオベラティブ社は,非対称型バイスペシフィック抗体の分野における被控訴人らの競合会社であり,中立な第三者ではない。
b 甲214の研究対象は,FIX(a)及びFXに結合する非対称型バイスペシフィック抗体であるBS-0271125と,Emi-bsimである。
Emi-bsimは, 「エミシズブのバイオシミラー」と説明されているが,構造及び性質に関し,具体的な説明はなく,被控訴人製品と同一とはいえない。
これらの抗体について,従前よりFVIIIの評価で使用されている色素形成アッセイ,APTT及びトロンビン生成アッセイ(TGA)が行われたが,甲214の色素形成アッセイの詳細な条件は,明らかではないから,甲214の色素形成アッセイの結果は,乙38実験の結果と直接に比較できるものではない。
しかも,甲214の結果は,被控訴人製品の「バイオシミラー」とされるEmi 28 -bsimの活性は,FVIIIを上回り,FIXホモダイマーの活性は,Emi-bsimを更に上回るというのであり,被控訴人の実験結果及び控訴人らの実験結果と正反対である。
甲214の各種の評価結果が互いに整合していないことも考慮すると,甲214の色素形成アッセイの結果は,信用性に欠けるといえる。
当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人らの請求は,当審において追加した請求を含め,いずれも理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。
2 本件各発明の意義について (1) 本件明細書の記載 本件明細書の発明の詳細な説明には,おおむね以下のとおりの記載がある(甲4。
図面については,原判決別紙特許公報を参照。。
) ア 本件各発明の属する技術分野【0001】 本発明は,第IX因子/第IXa因子-抗体および抗体誘導体に関する。
イ 従来技術【0003】 活性化された第IX因子(FIXa)および活性化された第VIII因子(FVIIIa)の複合体による第X因子の活性化は,凝固における重要な工程である。
この複合体の成分の非存在またはその機能の妨害は,血友病と呼ばれる血液凝固障害に関連する・・・。血友病Aは,第VIII因子活性の(機能的)欠如を示すが,血友病Bは,第IX因子活性の欠如によって特徴付けられる。現在は,血友病Aの処置は,第VIII因子濃縮物の投与による補充療法を介してもたらされる。しかし,約20〜30%の血友病Aの患者は,第VIII因子インヒビター(すなわち,第VIII因子に対する抗体)を発生させ,それによって投与された第VIII因子調製物の効果が阻害される。第VIII因子を抑制する患者の処置は,非常に困 29 難かつ危険性を含み,そして従来はこれらの患者を処置するために限定された数の処置しか存在しなかった。
ウ 本件各発明が解決しようとする課題【0004】 低いFVIIIインヒビターレベルを有する患者の場合において,高用量の第VIII因子をこのような患者に投与して,従って第VIII因子に対する抗体を中和することは,高価であるが可能である。次いで,インヒビター抗体を中和するために必要な量を超える量の第VIII因子は,うっ血作用を有する。多くの場合において,脱感作がもたらされ得,次いでその上に,標準的な第VIII因子処置を再び適用し得る。しかし,大量の第VIII因子を必要とするこのような高用量第VIII因子処置は多大な時間を必要とし,そして重篤なアナフィラキシーの副反応を伴い得る。・・・【0005】 さらなる高コストの方法は,免疫グロブリン(プロテインA,プロテインG)または固定化された第VIII因子に結合するレクチン上の,特別な体の免疫吸着(extra corporeal immunoadsorption)を介して第VIII因子インヒビターを除去する工程を包含する。この処置の間,患者はアフェレーシス器械に連結されなければならないので,この処置はまた,患者への大きな負担となる。この方法においてはまた,急性の出血を処置することはできない。
エ 本件各発明の目的【0010】 (発明の要旨) 血友病患者の処置において生じ得る可能な危険性および副作用の観点から,FVIIIを抑制する患者の有効な処置を可能にする治療の必要性が存在する。そのため,第VIII因子を抑制する患者についての特定の利点を有する,血液凝固障害の処置のための調製物を提供することが本発明の目的である。
30 オ 課題解決手段【0007】 血液凝固の脈管内系において,最後の段階は第X因子の活性化である。この反応は,第VIIIa因子の第IXa因子への結合,ならびに第IXa因子,第VIIIa因子,第X因子およびリン脂質からなる「テナーゼ(tenase)」複合体の形成によって刺激される。FVIIIaの結合なしでは,FIXaは酵素活性を示さないか,またはFXと比較してほんのわずかの酵素活性しか示さない。
【0011】 本発明に従って,この目的は,第VIIIa因子補因子活性または第IXa因子活性化活性を有し,そして第IXa因子の凝血促進活性における増加を導く,第IX因子/第IXa因子に対する抗体または抗体誘導体の使用を通して達成される。
驚いたことに,本発明の第IX因子/第IXa因子-活性化抗体または抗体誘導体の作用は,インヒビター(例えば,第VIII因子/第VIIIa因子に対するインヒビター)の存在によっては反対方向に影響されないが,代わりに,この場合は第IXa因子の凝血促進活性がまた増加される。
カ 本件各発明の効果【0012】 本発明のさらなる利点は,本発明に従う調製物の投与が,FVIIIを抑制する患者の場合でさえも,第VIII因子または第VIIIa因子の非存在においてでも迅速な血液凝固を可能とすることである。驚いたことに,これらの因子はまた,第VIIIa因子の存在下においても有効である。
キ 抗体又は抗体誘導体の産生方法【0030】 (産生の方法) 本発明の抗体は,先行技術から公知の方法によって調製され得る(例えば,慣例的なハイブリドーマ技術によってかまたはファージディスプレイ遺伝子ライブラリ 31 ー,免疫グロブリン鎖混合の方法もしくはヒト化技術によって)・・・。本発明の抗体および抗体誘導体の産生は,例えば,慣例的なハイブリドーマ技術によって行なわれる・・・。本発明に従って,ヒトおよび非ヒト種(例えば,ウシ,ブタ,サル,ニワトリおよびげっ歯類(マウス,ラット))はまた,ハイブリドーマ技術のために使用され得る。通常,免疫競合Balb/cマウスまたはFIX欠損マウスは,使用され得る・・・。免疫化は,例えば,第IX因子,第IXaα因子または完全に活性化された第IXaβ因子,またはそのフラグメントで影響され得る。
【0032】 あるいは,本発明の抗体および抗体誘導体はまた,組換え産生方法によって産生され得る。そうする際,本発明に従う抗体のDNA配列は,公知の技術によって決定され得,そして,抗体DNA全体またはその一部は,適切な系で発現され得る。
ファージディスプレイ,合成および天然ライブラリー,公知の発現系における抗体タンパク質の発現,またはトランスジェニック動物における発現を含むような組換え産生方法は,使用され得る・・・。
【0036】 抗体誘導体はまた,先行技術から公知の方法の手段によって調製され得る・ ・。
・ ク 凝血促進活性の評価方法【0013】 従って,本発明に従う抗体および抗体誘導体は,FVIII補因子様の活性を有し,これは,2時間のインキュベーション後のFVIIIアッセイ(例えば,COATEST(登録商標)アッセイまたはイムノクロム(Immunochrom)試験)において,少なくとも3のバックグラウンド(基本的ノイズ)対測定値の比を示す。この比の計算は,例えば,2時間のインキュベーションの後に,以下のスキームに従って達成され得る:【0014】 32 【数1】【0037】 本発明の抗体および抗体誘導体の精製はまた,先行技術で記載された方法によって行なわれ得る(例えば,硫酸アンモニウム沈殿,アフィニティー精製(プロテインGセファロース) イオン交換クロマトグラフィー, , またはゲルクロマトグラフィーによって) 本発明の抗体および抗体誘導体が, 。 第IX因子/第IXa因子に結合し,第IXa因子の凝血促進性活性を増加するかまたは第VIII因子様活性を有することを示すための試験方法として,以下の方法は使用され得る:一工程凝血試験(MikaelassonおよびOswaldson,Scand.J.Haematol.,Suppl.,33,79-86頁,1984)または色素形成試験(COATEST VIII:C(登録商標) (Chromogenix)またはImmunochrom(IMMUNO)など)。原則的には,第VIII因子活性を決定するために使用される全ての方法が使用され得る。測定のコントロールブランク値として,例えば,非特定的マウスIgG抗体が使用され得る。
ケ 抗体又は抗体誘導体【0018】 抗体は,免疫グロブリン分子の合成(または,それぞれ,その免疫原)を誘発する抗原にのみ結合する,あるいはその抗原に大変類似する抗原(または免疫原)にのみ結合する,特異的なアミノ酸配列を有する免疫グロブリン分子である。各免疫グロブリン分子は,2つの型のポリペプチド鎖からなる。各分子は,大きな,同一の重鎖(H鎖),および2つの軽い,同一でもある鎖(L鎖)からなる。ポリペプチドは,ジスルフィド架橋および非共有結合によって結合する。インビボでは,重鎖および軽鎖は,異なるリボソーム上で形成され,細胞内で組み立てられ,そしてイ 33 ンタクトな免疫グロブリンとして分泌される・・・。
【0019】 本発明の抗体,および抗体誘導物,ならびにこれらから誘導された有機化合物は,ヒトおよび動物のモノクローナル抗体またはそれらのフラグメント,一本鎖抗体およびそれらのフラグメントならびにミニ抗体,二重特異的(bispecific)抗体,二重抗体(diabody),三重抗体(triabody),またはそれらのダイマー,オリゴマーもしくはマルチマー(multimer)を含む。本発明に従う抗体から誘導されたペプチドミメティックス(peptidomimetics)またはペプチド(例えば,これらは,1つまたはいくつかのCDR領域,好ましくはCDR3領域を含む)もまた含まれる。
【0021】 用語第IX/IXa因子活性化抗体および抗体誘導物はまた,宿主細胞内における,変更された,免疫グロブリンコード領域の発現によって産生されるタンパク質(例えば,合成抗体,キメラ抗体またはヒト化抗体のような「技術的改変抗体」,またはそれらの混合物,あるいは例えば,Fv,Fab,Fab’またはF(ab)’2 などの定常領域を部分的もしくは完全に欠損する抗体フラグメントを含み得る。
これらの技術的改変抗体において,例えば,軽鎖および/または重鎖の一部分またはいくらかの部分は,置換され得る。このような分子は,例えば,ヒト化重鎖および未改変軽鎖(またはキメラ軽鎖)からなる抗体を含み得,逆も同様である。用語Fv,Fc,Fd,Fab,Fab’またはF(ab)’2は,先行技術(Harlow E.およびLane D.,「抗体,実験室マニュアル(Antibodies,A Laboratory Manual) , 」 Cold Spring Harbor Laboratory,1988)に記載されるように用いられる。
【0024】 本発明に従うヒト化抗体は,好ましくは,ヒト抗体の構造,またはそのフラグメントの構造を有し,そして治療的適用(例えば,患者(好ましくは,第VIII因 34 子を抑制する患者)における凝固障害の処置)のために必要な特徴の組み合わせを含む。
【0026】 二重特異性抗体は,1つの単一分子内に2つの異なった結合特異性を有する,高分子のヘテロ二機能性架橋である。この群には,例えば,二重特異性(bs)IgG,bs IgM-IgA,bs IgA-二量体,bs(Fab’)2,bs(scFv)2,ダイアボディー(diabodies),およびbs bis FabFcが属する・・・。
実施例 (ア) 実施例1 段落【0043】〜【0046】には,おおむね,マウスを第IX因子又は第IXa因子のいずれかで免疫化し,第IX因子又は第IXa因子に対する抗体を分泌するハイブリドーマ細胞を産生した旨の実施例が記載されている。
(イ) 実施例2【0047】 (実施例2:抗FIX/FIXa抗体分泌ハイブリドーマ細胞の上清におけるFVIII様活性のためのアッセイ) ハイブリドーマ細胞によって分泌される抗FIXa抗体のFVIII様活性をアッセイするために,市販されている試験キットコアテスト(登録商標)(Chromogenix)を使用した。アッセイは,以下の改変を使用して基本的に製造業者によって記載されるように行なった: 高い処理能力のスクリーニングを可能にするために,アッセイをマイクロタイタープレート型式に小規模化した。簡潔には,ハイブリドーマ上清の25μlのアリコートを,マイクロタイタープレート(Costar,#3598)ウェルに移し,そして,37℃に温めた。色素形成基質(S-2222),合成トロンビンインヒビター(I-2581),因子(F)IXaおよびFXを滅菌水中で再構築し,そ 35 して,FIXa/FXを,製造業者のプロトコルに従って,リン脂質で混合した。
反応液当り,50μlのリン脂質/FIXa/FX溶液を25μlの塩化カルシウム(25mM)および50μlの基質/インヒビター反応混液と組み合わせた。反応を開始するために,125μlのプレミックスをマイクロタイタープレート中のハイブリドーマ上清に添加し,そして,37℃でインキュベートした。サンプルの405nmおよび490nmの吸光度を,Labsystems iEMS Reader MFTMマイクロタイタープレートリーダーで,試薬ブランクに対して(MLW,ハイブリドーマ上清の代わりの細胞培養培地)種々の時間(30分〜12時間)測定した。サンプルのFVIII様活性を,GENESISTMソフトウェアを用いて,希釈したFVIII参照規準(IMMUNO AG#5T4AR00)の吸光度に対してサンプルの吸光度を比較することによって計算した。
ハイブリドーマ細胞培養物上清におけるFVIII様活性のスクリーニングの結果を図1に示す。融合実験#193,#195および#196由来の選択される前のクローン(上記を参照のこと)を記載されるように,色素形成FVIIIアッセイで調査した。クローン193/M1,193/N1および193/P1は,マスタークローン193/C0由来のサブクローンであった(以下を参照のこと)。マスタークローン195/10は融合実験#195に由来し,そして,クローン196/A0,196/B0および196/C0は,融合実験#196由来であった。
代表的なスクリーニング実験において,単一の融合実験由来の約1000クローン(96ウェル中) FVIII様活性についてスクリーニング前と同じであった。
は,続いて,選択されたクローンを大規模に増殖し(3〜5mlの上清),そして,色素形成アッセイで再分析した。陰性コントロールとして,細胞培養培地をそれぞれのプレート(MLW)上でアッセイした。
(ウ) 実施例3 段落【0056】〜【0061】には,おおむね,実施例2で得られた第VIII因子様活性を有する抗体を含むハイブリドーマ上清について,ELISAによっ 36 て第IX因子又は第IXa因子に対する活性を確認した旨の実施例が記載されている。
(エ) 実施例4【0062】 (実施例4:色素形成FVIIIアッセイにおいてFVIII様活性を示す抗FIX/FIXa抗体) いくつかの抗FIX/FIXa抗体産生ハイブリドーマクローンを,4回までサブクローニングし,そして得られるモノクローナルハイブリドーマ細胞株を使用して,モノクローナル抗体含有上清を産生した。これらの上清由来のIgGアイソタイプ抗体を,アフィニティーカラムで精製し,そしてTBSに対して透析した(上記を参照のこと)。IgM抗体を,精製していない上清画分として使用した。以下の実験を,以下の2セットの代表的な抗体を使用して行った:193/AD3および198/AC1/1(IgGアイソタイプ,抗体198/AC1/1は,親198/AC1ハイブリドーマクローンからの調製物であり,すなわち,198/AC1細胞を含む(凍結した)ウイルスが,培養され,そして抗体が産生される。次いで,この上清を,これらの実験のために使用する)ならびに196/AF2および196/AF1(IgMアイソタイプ)(図6Aおよび図6B)。簡単に言えば,モノクローナル抗体を含むサンプル(精製されていないハイブリドーマ上清,または示される場合には,特定の量のFIX特異的抗体)の25μl のアリコートを,マイクロタイタープレートウェルに移し,そして37℃に昇温させた。色素形成基質(S-2222),合成トロンビンインヒビター(I-2581),第IXa因子(FIXa)およびFXを,滅菌水中で再形成し,そしてFIXa/FXを,供給者のプロトコルに従って,リン脂質と混合した。1反応あたり,50μl のリン脂質/FIXa/FX溶液を,25μl のCaCl2(25mM)および50μl の基質/インヒビターカクテルと混合した。反応を開始させるために,125μl のプレミックス(premix)を,マイクロタイタープレート中のモノクローナル抗体溶液に 37 添加し,そして37℃でインキュベートした。405nmおよび490nmにおける,サンプルの吸光度を,種々の時点において(5分〜6時間),試薬ブランク(ハイブリドーマ上清の代わりに細胞培養培地)に対して,Labsystems iEMS Reader MFTMマイクロタイタープレートリーダーによって,GENESISTMソフトウェアを使用して,読み取った。
(オ) 実施例5【0065】 (実施例5:抗FIX/FIXa-抗体により示されるFVIII様活性は,第Xa因子を産生し,そしてリン脂質,FIXa/FXおよびCa2+に依存性である。) 第VIII因子活性は,通常,色素形成アッセイおよび/またはAPTTに基づく凝固アッセイを用いて,決定される。両方の型のアッセイは,FVIIIa/FIXaにより媒介される第Xa因子産生に依存する。色素形成FVIIIアッセイの場合には,産生される第Xa因子は,引き続いて色素形成基質と反応し,これは,分光学的に(例えば,ELISAリーダーにおいて)モニタリングされ得る。APTTに基づく凝集アッセイにおいては,遊離の第Xa因子が,リン脂質表面におけるFVaと組み合わさって,いわゆるプロトロンビナーゼ複合体となり,そしてプロトロンビンをトロンビンへと活性化させる。トロンビンは,次に,フィブリン産生を生じ,そして最終的に,凝固の形成を生じる。これら2つのアッセイ系の中心は,FVIIIa/FIXa複合体による第Xa因子の産生である。
【0066】 抗FIX/FIXa-抗体により示されるFVIII様活性が実際に第Xa因子を産生することを実証するために,以下の実験を実施した。精製されていないハイブリドーマ上清196/AF2(IgMアイソタイプ)のいくつかの25μl のアリコートを,マイクロタイタープレートウェルに移し,そして37℃まで昇温させた。ポジティブコントロールとして,16mUのRecombinate TM を,ハイブリドーマ培地(196 HM 007/99)中に希釈し,そしてハイブリド 38 ーマ上清と全く同じ様式で処理した。ネガティブコントロールとして,純ハイブリドーマ培地を使用した。色素形成基質(S-2222)合成トロンビンインヒビター(I-2581)第IXa因子およびFXを,滅菌水中で再形成し,そしてFIXa/FXを,供給者のプロトコルに従って,リン脂質と混合した。Pefabloc Xa(登録商標)(第Xa因子特異的プロテイナーゼインヒビター)(Pentapharm,LTD)を,水で再形成して,最終濃度を1mM/l とした。1反応あたり50μl のリン脂質/FIXa/FX溶液を,25μl のCaCl(25mM) 2および50μl の基質/トロンビンインヒビターカクテルと混合した。反応を開始させるために,125μl のプレミックスを,マイクロタイタープレート中のサンプルに添加し,そして37℃でインキュベートした。示される場合には,35μMのPefabloc Xa(登録商標)を添加した。405nmおよび490nmにおける吸光度を,種々の時点において(5分ごと〜6時間ごと) 試薬ブランク , (細胞培養培地)に対して,Labsystems iEMS Reader MFTM マイクロタイタープレートリーダーによって,GENESIS TM ソフトウェアを使用して,読み取った。
【0067】 色素形成基質S-2222の容易に測定可能な切断により判断する場合の,IgM抗FIX/FIXa抗体196/AF2により示されるFVIII様活性による,第Xa因子の産生における第IXa因子刺激の結果(「16mU FVIII」と「196/AF2」とを比較のこと)を,図7Aに示す。第Xa因子活性は,FXa特異的インヒビター「Pefabloc Xa(登録商標)」により効果的にブロックされ(「196/AF2」と「196/AF2 35μM PefablocXa(登録商標)」とを比較のこと),このことは,実際にFXaが産生されたことを示す。
【0068】 同じ実験を,クローン198/AM1の精製したIgG調製物を使用して,実施 39 した(図7B)。精製されたIgGをTBSで希釈し,最終濃度を0,4mg/mlおよび25μl(すなわち,合計10μg)とし,マイクロタイタープレートウェルに移し,そして37℃に昇温させた。ポジティブコントロールとして,6mUの血漿由来FVIIIを使用した。10μgの非特異的マウスIgG(Sigma,I-5381)は,ネガティブコントロールとして作用した。このアッセイを,上記のように実施した。
【0069】 さらなる実験は,容易に測定可能な色素形成基質S-2222の切断により判断する場合に,IgG抗FIX/FIXa抗体198/AM1により示されるFVIII様活性による第IXa因子の刺激が,第Xa因子を産生することを示す(図7B) 再度, 。 第VIII因子および抗体198/AM1は,FXaを産生し,これは,FXa特異的インヒビター「Pefabloc Xa(登録商標)」によって効果的にブロックされる。ネガティブコントロールとして,非特異的マウスIgG(Sigma,I5381)をアッセイした。
(カ) 実施例6【0073】 (実施例6:特定の抗FIX/FIXa抗体は,FIXaの存在下において凝血原である) 正常なホメオーシスの間,FIXはまず,組織因子(TF)/第VIIa因子経路によってか,または後に活性化第XI因子(FIXa)によってかのいずれかで活性化となる。その活性化後,FIXaは,活性化FVIIIとの膜結合複合体において,血小板表面上で会合する。第IXa因子は単独では,FXに対する酵素活性をほとんどまたは全く有さないが,FVIIIaの存在下では,高度に活性となる。特定の抗FIX/FIXa抗体が,FVIII様活性を有し,従って,FVIIIを欠損したヒト血漿における凝血原であることを実証するために,以下の実験を行った。異なる量の抗体193/AD3またはマウスIgG(コントロールとし 40 て)を,標準的なaPTTに基づく一段階凝固アッセイにおいて使用した。簡潔には,100μlの抗体含有サンプルを,100μlのFVIII欠損血漿(DP)および100μlのDAPTTIN(活性化されたトロンボプラスチンの時間を決定するためのPTT試薬;IMMUNO AG)試薬と共に,KC10A凝固分析装置においてインキュベートした。示された場合では,総量50ngの活性化FIXを,反応混合物中に含ませた。4分間のインキュベーション後に,100μlのCaCl2(25mM)を添加することによって,反応を開始した。この結果を,表1および図9に示す。
【0074】【表1】表1:50ngの活性化FIX(0.01UFIX)の存在下で,種々の量の凝血原(193/AD3)およびコントロール抗体(マウスIgG)を使用するAPTTに基づく凝固アッセイにおけるFVIII欠損血漿の凝固時間。反応および活性化FIXにおける抗体のモル比は,10:1である。抗体と総FIX(FIXおよびFIXa,ヒトFVIII欠損血漿が1U(5μg)のFIXを含むと仮定)との間のモル比は,6:1(反応における9μgの抗体)と1:6(反応における0. 41 23μgの抗体)との間で変動する。凝固時間の最適な短縮化に際して,抗体と総FIXとの間のモル比は,1:1である。FIXaの添加を伴わない凝固時間は,120秒間の範囲である。
(キ) 実施例7【0076】 (実施例7:抗FIX/FIXa抗体は,FVIIIインヒビターおよびFIXaの存在下において凝血原である) 標準的なFVIII置換療法の重篤な合併症が,FVIIIに対する同種抗体の発達であり,これは,FVIIIの中和へと導き,そして患者の血液が凝固しないという状態に導く。
【0077】 特定の抗FIXa抗体が,FVIIIインヒビターの存在下においてさえ,FVIII様活性を有するということを実証するために,以下の実験を行った。異なる量の抗体193/AD3またはコントロールとしてのマウスIgGを,標準的なAPTTに基づく一段階凝固アッセイにおいて使用した。簡潔には,100μl の抗体サンプルを,100μl のFVIII欠損血漿(図10A)またはFVIIIインヒビター血漿(インヒビター効力400BU/ml)(図10B)のいずれか,および100μl のDAPTTIN試薬と共に,KC10A凝固分析装置においてインキュベートした。さらに,総量50ngの活性化FIXaを,反応混合物に含ませた。4分間のインキュベーション後に,100μl のCaCl2(25mM)を添加することによって,反応を開始した。等価な条件を確実にするために,FVIII欠損血漿およびFVIIIインヒビター血漿を使用する実験を,並置して実施した。この結果を,図10Aおよび10Bに示す。実施例6において既に示したように,FVIIIインヒビターの存在下で抗体193/AD3を補充したサンプルには,明らかな凝固時間の用量依存的減少が存在する。
(ク) 実施例8 42 【0078】 (実施例8:抗FIX/FIXa抗体は,欠損性FVIIIおよびFIXaの存在下において凝血原である) 特定の抗FIXa抗体が,欠損性FVIIIの存在下においてFVIII様活性を有することを実証するために,以下の実験を実施し得る。漸増量の抗体193/AD3,またはコントロールとしてのマウスIgGを,標準的なaPTTに基づく一段階凝固アッセイにおいて使用する。この凝固アッセイでは,欠損性FVIII(DF8)の存在に起因して非常に低い凝固活性を有する血友病Aの患者の血漿を,使用する。簡潔には,100μl の抗体サンプルを,100μl のDF8血漿またはFVIII欠損性血漿のいずれか,および100μl のDAPTTIN試薬と共に,KC10A凝固分析装置においてインキュベートする。さらに,総量50ngの活性化FIXaを,反応混合物に含ませた。短期間のインキュベーション後に,100μl のCaCl2(25mM)を添加することによって,反応を開始した。等価な条件を確実にするために,FVIII欠損血漿およびDF8血漿を使用する実験を,並置して実施する。
(ケ) 実施例9【0079】 (実施例9:FIXaの存在下において凝血原活性を有する抗FIX/FIXa抗体は,ヒトFIXaとウシFIXaとの間を識別する) 198回目の融合実験から選択されたFIX/FIXa特異的モノクローナル抗体を,個々のハイブリドーマ上清から精製し,そして実施例3に記載のように定量した。これらの抗体を,改変された一段階凝固アッセイ(実施例6に記載のような)において分析した。そしていくつかが,凝血原活性を示した。
【0080】 これらの抗体調製物の色素形成活性を,以下のFXa生成動力学的アッセイにおいて測定した:10μgのモノクローナル抗体(25μl 中)を,マイクロタイタ 43 ープレートウェルに移し,そして37℃まで加温した。色素形成基質(S-2222) 合成トロンビンインヒビター , (I-2581) 第IXa因子, , およびFXを,滅菌水中で再構築し,そしてFIXa/FX(両方ともウシ)を,供給業者のプロトコールに従って,リン脂質と混合した。反応につき,50μl のリン脂質/FIXa/FX溶液を,25μl のCaCl2(25mM)および50μl の基質/インヒビター反応混液と組み合わせた。反応を開始するために,125μl のプレミックスを,マイクロタイタープレート中におけるモノクローナル抗体溶液に添加し,そして37℃でインキュベートした。サンプルの405nmおよび490nmでの吸光度を,GENESISTM ソフトウェアを使用するLabsystems iEMS Reader MFTM マイクロタイタープレートリーダーにおいて,試薬ブランク(モノクローナル抗体の代わりに,25ml TBS)に対して種々の時点(5分間〜2時間)で読み取った。並行して,反応あたり50ngのヒトFIXaを添加したことを除いて,同じ反応を実施した。凝血原活性を示したこれらの抗体は,ウシFIXの場合では色素形成活性を有さなかったが,ヒトFIXaが存在した場合では,高い活性を示した。
【0081】 図11は,50ngのヒトFIXaβの添加あり(+)および添加なし(-)でモノクローナル抗体198/A1,198/B1,および198/AP1によって示されたFVIII様活性の時間経過を示す。非特異的ポリクローナルマウスIgGを,コントロールとして使用した。198/A1および198/B1は,凝血原活性を示す(実施例6における198/AD3と類似)が,198/AP1は示さない。抗体198/BB1は,同じ活性パターンを有した(データは示さず)。
(コ) 実施例10【0083】 (実施例10:抗FIX/FIXa抗体から誘導された抗体誘導体の構造および凝血原活性;ハイブリドーマ細胞株193/AD3,193/K2,198/A1 44 および198/B1(クローンAB2)からの抗体可変ドメインのサブクローニング)・・・【0084】 結果として生じたベクターをpDAP2-193/AD3scFv,pDAP2-198/AlscFv,pDAP2-198/AB2scFv(抗体198/B1由来)およびpDAP2-193/K2scFvと命名した。これらは,モノクローナル抗体193/AD3,198/A1,198/AB2(抗体198/B1由来)および193/K2のVH遺伝子およびVL遺伝子をコードする。・・・ (サ) 実施例11【0089】 (実施例11:抗FIX/FIXa抗体のCDR3領域由来のペプチドの凝血原活性)・・・【0094】 このような研究の原理を,抗体198/A1および198B/1のCDR3H領域由来の一連のペプチドによって例示する。それぞれ,元のペプチドA1(表2を参照のこと)は,抗体198/A1のCDR3H領域に由来し,そしてペプチドB1は,抗体198B/1のCDR3H領域由来に由来する(実施例10,図16および17を参照のこと)・・・ 。
【0097】 これらのペプチドのFVIII様(FIXa活性化)活性を分析するために,市販の FVIIIアッセイに基づくアッセイ系を開発した(実施例2および4を参照のこと)。この基本的原理は,FIXaが,補因子なしで,その天然の基質FXに対する非常に限定された活性を有することである。FIXa活性化活性を有する基質(すなわち,FVIIIまたはFVIII様活性を示す基質)の存在下でのみ,FIXa/アクチベーター複合体を介するFXの切断によってモニターする。この改正した色素形成アッセイの原理を,2つの代表的なペプチドA1/3およびA1/ 45 5(表2)について記載する。簡単に言うと,ペプチドストック溶液(イミダゾール緩衝液(IZ)(50mM イミダゾール,100mM NaCl,pH7.2)中)の25μlのアリコートを,マイクロタイ タープレートウェルに移し,そして37℃に温めた。供給者のプロトコルに従って,色素 形成性のFXa基質(S-2222),合成トロンビンインヒビター(I-2581),ウシFIXaおよびウシFXを,滅菌水中で再構成し,そしてFIXa/FXを,リン脂質と混合した。これらのペプチドは,ウシFIXaとは反応しないので, (Testキット中のウシFXとの混合物として生じる)2.9nM(多くの場合では,2.3nM)のヒトFIXa(ERL)を添加した(実施例11,図19を参照のこと)。反応あたり,50μlのこのリン脂質/FIXa/FX溶液を,25μlのCaCl2(25mM)および50μlの基質/インヒビター混液と合わせた。反応を開始するために,この125μlのプレミックスを,マイクロタイタープレート中のペプチド溶液に添加し,37℃で インキュベートした。サンプルの405nmおよび490nmの吸光度を,GENESISTMソフトウェアを使用するLabsystems iMES Reader MFTMマイクロタイタープレートリーダーにおいて,試薬ブランクに対して種々の時点で(5分〜2時間)で読み取った。この実験の結果を,実施例11,図18に示す。ペプチドA1/3は,2.9nMのヒトFIXaの存在下で容易に測定可能なFXa生成を誘導したが,そのスクランブルバージョンA1/5は,不活性であった。さらに,酸性ペプチドA1/2およびそのスクランブルバージョンA1/4およびA1/3-scr3は,匹敵する条件下で試験した場合に,有意な色素形成活性を付与しなかった(データは示さず)。このペプチドA1/3様の親抗体198/A1が,ウシFIXaおよびFXと反応しないことを証明するために,図19に示す実験を行った。ペプチドA1/3を,2.3nMのヒトFIXa(hFIXa)と共に(A1/3(24μM),+hFIXa),または伴わずに(A1/3(24μM),w/o hFIXa),上記のようにインキュベートした。コントロール実験において,本発明者らは,反応混合液に,2.3nMのh 46 FIXaを補充したそのままの希釈緩衝液(IZ)を添加した。図19に示されるように,反応は,ヒトFIXaの存在下でのみ生じる。
【0105】 図20は,ペプチドA1/3-Rdの変化されない色素形成活性を実証する。12μMの最終濃度のペプチドまたは緩衝液コントロール(IZ)を,2.3nMのヒトFIXa(+)の存在下でインキュベートした。ペプチドA1/3およびA1/3-Rdの色素形成活性は,実質的に変化されないことが示され,そしてこの色素形成アッセイにおいてほぼ同一の結果を生じた。A1/3のスクランブルバージョン,A1/5および緩衝液は,有意なFXa生成を生じなかった。
(シ) 実施例12【0123】 (実施例12:FVIIIインヒビター-血漿における抗FIX/FIXa抗体のCDR3領域から得られるペプチド誘導体の凝血促進活性) FVIIIインヒビター血漿におけるペプチドA1/3の凝血促進活性についてアッセイするために,以下の実験を実行した。・・・ (ス) 実施例13【0125】 (実施例13:196/C4 IgMのIgG1への変換) いくつかのIgM抗体は高FVIII様活性を色素形成アッセイにおいて示すので,このようなIgM抗体をIgG抗体に(Fab,F(ab)2,scFvなどのような抗体誘導体もまた産生され得るが)変換させようと試みた。・・・ (セ) 実施例14【0130】 (実施例14:抗FIXa抗体によるFIXaアミド分解活性の活性化:)・・・FIXa基質の特異的切断を,ELISAリーダーにおいて405nmでモニターした。抗FIX抗体の存在は,FIXaのアミド分解活性を少なくとも2倍 47 増大した。図24は,抗体198/B1(図24A)および抗体198/AF1(図24B)の存在下でのFIXaのアミド分解活性の増加を示す。・・・ (ソ) 実施例15【0131】 (実施例15:抗FIX/FIXa-抗体由来のFabフラグメントによって示されるFVIII様活性) 抗FIX/FIXa抗体のFabフラグメントを,標準的プロトコルに従って調製し,そして精製した。・・・ (タ) 実施例16【0133】 (実施例16:抗FIX/FIXa抗体のおよびE.coliアルカリホスファターゼのscFvフラグメント間の融合タンパク質によって示されるFVIII様活性) 抗体198/B1(サブクローンAB2)の単鎖Fvフラグメント(実施例10を参照のこと)を,pDAP2ベクター系を用いてE.coliアルカリホスファターゼのN末端に融合した・・・ (チ) 実施例17【0134】 (実施例17:二価のミニ抗体によって示されるFVIII様活性) 二価のミニ抗体を得るために,抗体198/B1(サブクローンAB2)のscFvフラグメントを,pZip1ベクター系を用いて両親媒性らせん構造に融合した・・・ (ツ) 実施例18【0139】 (実施例18:抗FIXa/FIX抗体scFvフラグメントによって示されるFVIII様活性) 48 抗体198/B1(サブクローンAB2)の単鎖Fvフラグメントならびに抗体#8860のscFvフラグメントを,pMycHis6ベクター系を用いて発現させた。・・・ (2) 本件各発明の意義 以上の本件明細書の発明の詳細な説明の記載によると,本件各発明の意義は,以下のとおりのものと認められる。
すなわち,従来の血友病Aの患者の処置は,欠如又は不足したFVIIIの不足を補うためにFVIII濃縮物の投与による補充療法であった(段落【0003】。
)しかし,補充療法には,FVIIIインヒビターを生じさせる患者に対する処置が非常に困難かつ危険性を含んでおり(段落【0003】,そのような患者に対する )処置としては,高用量のFVIIIを投与するなどのいくつかの治療方法が存在するが,高価である(段落【0004】【0005】,多大な時間を必要とする(段 , )落【0004】,重篤な副反応を伴い得る(段落【0004】,患者への負担が大 ) )きい(段落【0005】)等の問題点があった。本件各発明の目的は,FVIIIを抑制する患者についての特定の利点を有する,血液凝固障害の処置のための調製物を提供することであり(段落【0010】,これを,FIX又はFIXaに結合し )てFIXaの凝血促進活性を増大させる抗体又は抗体誘導体によって達成するというものである(段落【0011】。
) そして,抗体又は抗体誘導体は,具体的には,FIX又はFIXaに対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)を作製し(実施例1〜3),これを色素形成アッセイ等の方法で凝血促進活性の程度を評価し(実施例4〜9,14),そのモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)から様々な抗体誘導体(例えば,CDR3領域由来ペプチド及びその誘導体〔実施例11,12〕,キメラ抗体〔実施例13〕,Fabフラグメント〔実施例15〕,単鎖抗体〔scFv。実施例10,16,18〕,ミニ抗体〔実施例17〕)を作製するものである。
3 被控訴人製品の構成等について 49 (1) 被控訴人製品の構成 被控訴人製品は,原判決別紙「被告製品説明書」及び「被告製品のアミノ酸配列」記載のアミノ酸配列を有する非対称型バイスペシフィック抗体であり,抗体の中でもIgGに分類される。被控訴人製品は,二つの抗原結合部位を有し,その一方がFIXaを認識し,他方がFXを認識するものである(甲23,乙28,38,弁論の全趣旨)。
(2) 被控訴人製品の効果等 被控訴人製品の開発過程において作製されたバイスペシフィック抗体のうち,最もFVIII補因子活性が高かった抗体は,XB12/SB04であるが,このFVIII補因子活性は,抗FIXaのモノスペシフィック抗体とは乏しい相関しか有しておらず,バイスペシフィック抗体のFVIII補因子活性は,抗FIXa抗体由来の構造だけでなく,抗FX抗体由来の構造にも影響を受けることが明らかになっている(乙55,75)。
そして,被控訴人製品は,FIXaとFXの双方に結合し,FIXaとFXとの空間的な配向を好適な状況に制御し,酵素の活性部位と基質とを正確に接触しやすくすることで,FVIII補因子活性を代替するという機序により,凝血促進活性を増大させるものである(甲165,乙33,75,121)。その増大の程度は,本件明細書の実施例と同様の手法で作製された抗体(198A1,198B3,224F3)と比較して,優れた効果をもたらしている(乙6,36によると,約1000倍の効果とされている。。
) 4 争点1(被控訴人製品は本件各発明の技術的範囲に属するか)について (1)ア 本件特許請求の範囲の請求項1(本件発明1に係る特許請求の範囲)の記載は,「第IX因子または第IXa因子に対する抗体または抗体誘導体であって,凝血促進活性を増大させる,抗体または抗体誘導体(ただし,抗体クローンAHIX-5041:Haematologic Technologies社製,抗体クローンHIX-1:SIGMA-ALDRICH社製,抗体クローンESN-2: 50 American Diagnostica社製,および抗体クローンESN-3:American Diagnostica社製,ならびにそれらの抗体誘導体を除く)」であり,請求項4(本件発明4に係る特許請求の範囲)は請求項1を引用 。
している。ここで, 「凝血促進活性を増大させる」との記載の意義については,本件明細書においてこれを定義した記載はない上,「血液凝固障害の処置のための調製物を提供する」(段落【0010】)という本件各発明の目的そのものであり,かつ,本件各発明における抗体又は抗体誘導体の機能又は作用を表現しているのみであって,本件各発明の目的又は効果を達成するために必要な具体的構成を明らかにしているものではない。
特許権に基づく独占権は,新規で進歩性のある特許発明を公衆に対して開示することの代償として与えられるものであるから,このように特許請求の範囲の記載が機能的,抽象的な表現にとどまっている場合に,当該機能や作用効果を果たし得る構成全てを,その技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までを特許発明技術的範囲に含めて特許権に基づく独占権を与えることになりかねないが,そのような解釈は,発明の開示の代償として独占権を付与したという特許制度の趣旨に反することになり許されないというべきである。
したがって,特許請求の範囲が上記のように抽象的,機能的な表現で記載されている場合においては,その記載のみによって発明の技術的範囲を明らかにすることはできず,上記記載に加えて明細書及び図面の記載を参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきである。もっとも,このことは,特許発明技術的範囲を具体的な実施例に限定するものではなく,明細書及び図面の記載から当業者が理解することができ,実施することができるのであれば,同構成はその技術的範囲に含まれるものと解すべきである。
イ そこで,本件明細書において開示された具体的構成に示されている技術 51 思想について検討する。
(ア) ある抗体が,FIX又はFIXaに結合し,FIXaの凝血促進活性を増加するか又はFVIII様活性を有することを示すための試験方法としては,凝血試験や色素形成試験等があり,これらによって評価が可能である(段落【0013】【0014】【0037】【0065】。そして,FIXaに対する抗体を , , , )スクリーニングし,色素形成アッセイによってFVIII様活性を有するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)が複数作製されており(実施例4,9),その中でFVIIIインヒビターを有する血漿の凝血をもたらす抗体(193/AD3)も確認されている(実施例7)。したがって,当業者は,FIXaに対する抗体をスクリーニングすることにより,過度の試行錯誤を要することなく,一定の割合で凝血促進活性を増大させるモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)を作製できたと認められる。
また,凝血促進活性を増大させるモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)からの誘導体も複数作製されているから(例えば,CDR3領域由来ペプチド及びその誘導体〔実施例11,12〕,キメラ抗体〔実施例13〕,Fabフラグメント〔実施例15〕,単鎖抗体〔scFv。実施例10,16,18〕,ミニ抗体〔実施例17〕,当業者は,凝血促進活性を増大させるモノクローナル抗体(モノスペシ )フィック抗体)からの誘導体も作製できたと認められる。
(イ) バイスペシフィック抗体については,本件明細書において,実施例として作製された例は記載されておらず,FIX又はFIXaに結合するアーム以外のアームが結合する対象の抗原がいかなるものかも開示されていない。
しかし,バイスペシフィック抗体は,抗体誘導体の一態様として明記されている(段落【0019】及び【0026】。そして,バイスペシフィック抗体ではない )ものの,凝血促進活性を増大させるモノスペシフィック抗体からの誘導体も複数作製されている(実施例10〜13,15〜18)。
また,FIX又はFIXaに対するバイスペシフィック抗体の作製法は,本件出 52 願日当時に複数知られており,その中でも,クワドローマ技術は簡便な方法であり,本件出願日当時の当業者にとって,合理的な時間及び努力の範囲内でバイスペシフィック抗体を作製できる手法であったのであり,また,バイスペシフィック抗体を産生するクワドローマを融合し及び選択する種々の方法及びプロトコルは,1999年において,利用可能であり,良好に確立され,二重特異性のIgG分子を作製するのに幅広く用いられていた(本件明細書の段落【0026】,甲97,100〜104,甲140の1)のであるから,当業者は,本件出願日の技術常識から,FIX又はFIXaに対するバイスペシフィック抗体を作製可能であったと認められる。
さらに,前記3(2)のとおり,バイスペシフィック抗体のFVIII補因子活性と抗FIXのモノスペシフィック抗体とは乏しい相関関係しかなく,バイスペシフィック抗体のFVIII補因子活性は,抗FIX抗体由来の構造だけなく,抗FX抗体由来の構造にも影響を受けるのであるが,バイスペシフィック抗体においては,FIX又はFIXaに対する結合部位は1価になるものの,1価でも凝血促進活性を増大させる効果があり(本件明細書実施例10〜12,15,16,18),バイスペシフィック抗体の二つの抗原間で立体干渉が生じない限り,モノスペシフィック抗体の活性は維持される(甲140の1) FIX又はFIXa以外の結合部位が 。
FXである場合を想定すると,本件出願日当時,FIXaとFXaの構造が明らかとなっており,FIXaとFXaの立体構造からすると,当業者は,FIXaとFXに結合するバイスペシフィック抗体(被控訴人が主張する非対称型バイスペシフィック抗体)で,FIXa結合部位の活性に対する干渉は起こりにくいと予測できる(甲140の1)。
したがって,当業者は,バイスペシフィック抗体(被控訴人が主張する非対称型バイスペシフィック抗体)が,モノスペシフィック抗体が有する凝血促進活性を増大させる作用を維持できると予測できたと認められる。そうすると,バイスペシフィック抗体(被控訴人が主張する非対称型バイスペシフィック抗体)についても, 53 モノスペシフィック抗体の活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体の一態様として「抗体誘導体」に含まれると解される。
(ウ) 以上によると,本件各発明の技術的範囲に含まれるというためには,「第IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」であることが必要であるものの,バイスペシフィック抗体(被控訴人が主張する非対称型バイスペシフィック抗体)は「抗体誘導体」の一態様としてこれに含まれ得ると解すべきである。
もっとも,FIX又はFIXaに対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)がFIXaの凝血促進活性を実質的に増大させるものでない場合には,別異に解すべきである。すなわち,本件各発明の技術的範囲に属するというためには,「第IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」であることが必要であると解されるところ,これには,FIXaの凝血促進活性を実質的に増大させるものではないFIX又はFIXaに対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)は含まれないし,このようなモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)から誘導される抗体誘導体(バイスペシフィック抗体もこれに含まれる。 も含まれないというべきである。
)このような抗体誘導体(バイスペシフィック抗体)は,たとえ,それ自体がFIXaの凝血促進活性を増大させる効果を有するものであったとしても,本件各発明の課題解決手段とは異なる手段によって凝血促進活性を増大させる効果がもたらされているのであって,本件明細書の記載に基づいて当業者が理解し,実施できるものとはいえないというべきである。
(エ) 被控訴人は,@非対称型バイスペシフィック抗体の著しく高い活性は,一つの分子が2種類のアームを有するというバイスペシフィック抗体に固有の機序によって初めて実現されたもので,非対称型バイスペシフィック抗体は,本件 54 明細書においてハイブリドーマ方法によって得られたモノスペシフィック抗体とは活性及び機序の点で大きく異なっており,本件各発明の課題解決手段とは異なる手段によって凝血促進活性を増大させる効果がもたされていることになる,AFVIII補因子活性は,抗FX腕によって影響を受けるため,抗FIX(a)腕及び抗FX腕の何れの組合せが非対称型バイスペシフィック抗体のFVIII補因子活性を発現するのか,予測することが困難である,B現時点においてすら,非対称型バイスペシフィック抗体の適切な評価手法が確立できていないことなどからすると,本件明細書は,非対称型バイスペシフィック抗体を想定していなかったといえると主張する。
しかし,バイスペシフィック抗体(被控訴人が主張する非対称型バイスペシフィック抗体)が抗体誘導体の一態様として「抗体誘導体」に含まれ得ることは,既に判示したとおりであって,このことは,被控訴人が主張する非対称型バイスペシフィック抗体の凝血促進活性を増大させる効果が大きいことや,抗FIX(a)腕と抗FX腕の何れの組合せが効果があるかを予測することが困難であることや現時点において,非対称型バイスペシフィック抗体の適切な評価方法が確立していないことによって左右されるものではない。
(オ) 本件明細書においては,凝血促進活性を図る方法について,2時間のインキュベーション後のFVIIIアッセイ(例えば,COATEST(登録商標)アッセイまたはイムノクロム(Immunochrom)試験)において少なくとも3のバックグラウンドの対測定値の比を示すとされている(段落【0013】, 【0014】。なお, 「バックグラウンドの対測定値の比」は, 「ネガティブコントロールとの比」と同義である。)が,色素形成アッセイ以外にも凝固アッセイなどFVIII活性を決定するために使用される全ての方法が使用でき(段落【0037】【0 ,065】,同じ色素形成アッセイであってもインキュベーション時間が2時間では )ない例も記載されている(実施例2,4,5,実施例11・図18〜22,実施例15〜18)。
55 このように,本件明細書に記載された凝血促進活性の評価方法は,複数存在しており,一般に,評価方法が異なればその基準が同一であるとは限らないとはいえるものの,本件明細書では,段落【0013】及び【0014】に前記2(1)クのとおり記載され,色素形成アッセイにおけるネガティブコントロールとの比が,1.7程度(例えば,段落【0081】 ・図11において,198/AP1はネガティブコントロールとの比が1.7程度であるが,凝血促進活性を示さないとされている。
段落【0067】 ・図7A(196/AF2 35μM Pefabloc Xa〔登録商標〕,段落【0068】 ) ・図7B(198/AM1 35μM Pefabloc Xa〔登録商標〕)も同様。)や2程度(段落【0105】 ・図20において,A1/5はネガティブコントロールとの比が2程度であるが,有意な凝血促進活性はないと評価されている。)の場合においては,「凝血促進活性を増大させる」とは評価されていない。
本件明細書のこれらの記載に加え,前記アのような本件各発明の請求項の記載を考慮すると,当業者は,本件各発明の範囲に含まれる抗体又はその誘導体は,複数の評価方法のうち,色素形成アッセイ(FVIIIアッセイ)を実施した場合には,少なくとも3のバックグラウンドの対測定値の比(ネガティブコントロールとの比)を示すものが本件各発明の抗体及び抗体誘導体であると理解すると認められるから,「凝血促進活性を増大させる」とは,色素形成アッセイを実施した場合には,ネガティブコントロールとの比が3を超えることを意味すると認めるのが相当である。
これに対し,控訴人らは, 「凝血促進活性を増大させる」について,当業者は,ネガティブコントロールとの比が1を超えるものであるか否かで判断する旨主張し,本件明細書の段落【0013】の記載は, 「最終的に生成された物の評価をする際に何らかの値を決めておく必要があるので,とりあえず3としたという程度の意味である」 (甲131の3頁)「任意に設定された仮の基準であり,すべての候補物質に ,適応すべき必須の条件ではない」 (甲132の3頁), 「ノイズや測定誤差の大きさに関する記載がない以上,統計学的議論から根拠をもった基準として3を導くことは 56 できない」甲136の1頁) ( などの意見書を提出するが,これらの意見書によると,本件各発明の技術的範囲が当業者にとって明らかでないことになるから,これらの意見書の意見や控訴人らの主張を採用することはできないことは,既に判示したとおりである。
(2) 上記(1)のとおり, 「凝血促進活性を実質的に増大させる」とは,色素形成アッセイを実施した場合のネガティブコントロールとの比が3を超えることを意味するが,色素形成アッセイの測定方法について,控訴人らは,本件明細書の記載及び技術常識によると,コンティニュアス法によるアッセイを行うのであればインキュベーション時間を2時間とし,サブサンプリング法によるアッセイを行うのであれば第1ステップのインキュベーション時間を5分とし,長時間のインキュベーション時間をとるのであれば,酵素の最大反応速度をみるために,継続的に測定すべきである旨主張する。
ア コンティニュアス法及びサブサンプリング法について 証拠(甲210,甲229の1)及び弁論の全趣旨によると,サブサンプリング法とは,FXaを生成させる第1ステップと,生成したFXaを定量する第2ステップを分離して実施する色素形成アッセイの方法であり,第1のステップではFXaを生成させるのに必要な試薬と被験抗体を混合させ,一定時間インキュベーションさせてFXaを生成し,第1ステップで生成されたFXaの反応をみるために,第2ステップに移行する前にFXaの生成を止め,第2ステップで,上記混合物に発色性合成基質を添付することで,第1ステップで生成されたFXaが発色性合成基質を切断し,発色する様子を測定するという標準的な FVIIIアッセイで用いられている方法であること,コンティニュアス法とは,第1ステップ(FXa生成反応)及び第2ステップ(FXaによる発色反応)からなる一連の反応を1ステップで行う方法であり,被験抗体,FTXa,FX,リン脂質,カルシウムイオン,発色性合成基質等の一連の反応に必要な試薬を全て最初から投入し,第1ステップであるFXa生成反応と,第2ステップである生成したFXaによる発色反応とを 57 同時に進行させて,吸光度を経時的に測定することにより,FXa生成量の推移を継続的に観察するものであることが認められる。
イ 証拠(甲208,211,213,乙39)及び弁論の全趣旨によると,本件明細書の段落【0013】に記載されているCOATEST(登録商標)やイムノクロムは,サブサンプリング法の色素アッセイキットであり,コアテストの仕様書や,イムノクロムの後継品であるテクノクロムの仕様書にはインキュベーション時間は5分間とされていることが認められるが,本件明細書の段落【0013】においては,インキュベーション時間は2時間とされているから,本件明細書の段落【0013】においては,サブサンプリング法を用いつつも,インキュベーション時間を2時間として色素形成アッセイを実施したところ,少なくとも3のバックグラウンドの比を示すものが本件各発明である旨記載されていることになる。
この点について,控訴人らは,インキュベーション時間を2時間とすると,インキュベーションの途中で,基質の消費に伴い,反応速度は最大反応よりも低下し,第1ステップのインキュベーション時間の間,FIXaが失活してしまい,その結果,FXaの生成速度も低下し,さらに,生成物であるFXaも自己消化を起こし,血液凝血性やアミド活性を持たないFXaγに変換してしまうので,FXaの産出量は本来の産出量より少なくなっていて,適切でなく,インキュベーション時間は仕様書のとおり5分が適切であると主張する。
しかし,本件明細書には,上記のとおり,インキュベーション時間を2時間としたものしか記載されていないのであって,本件明細書においては,インキュベーション時間を仕様書の記載に反してあえて2時間とし,そのときのFXaの産出量をもって,3のネガティブコントロールとの比を評価するときの産出量としているのであるから,当業者は,3のネガティブコントロールとの比を評価するに当たり,インキュベーション時間が5分の場合を想定することはできないというべきである。
なお,本件明細書において,インキュベーション時間を2時間とした理由については,本件明細書に記載はなく,本件の証拠によるも必ずしも明らかでないが,そ 58 のことは上記判断を左右するものではない。
そうすると,当業者は,本件各発明の「凝血促進活性を増大させる」というためには,インキュベーション時間を2時間とする測定を要すると理解すると解される。
ウ 以上によると,本件各発明の技術的範囲に含まれるというためには, 「第IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」であり,インキュベーション時間を2時間とする色素形成アッセイにおけるネガティブコントロールとの比が3を超えるものを意味すると認めるのが相当である。
(3) 被控訴人製品の本件各発明の属否について ア 証拠(甲164,224,甲224の2,甲230,甲232の1,甲234の1〜3,甲235の1・2,甲250,乙38)及び弁論の全趣旨によると,@控訴人らは,?テクノクロム(ヒトFIXaとウシFXを含む。)にヒトFXを添加して,MonoBMの経時的な吸光度変化を120分間のインキュベーションの後のサブサンプリング法により測定した実験(2017年6月2日実施,甲164),?テクノクロムを用いて,MonoBMについて,5分間及び120分間の各インキュベーション時間で,サブサンプリング法によりFVIII活性を測定した実験(2016年12月2日〜2018年6月7日に実施,甲224及び甲224の2,甲224実験) ?テクノクロムを用いて, , MonoBM,MonoBM(CHO),Qhomoシミラー及びQhomoシミラー(CHO)について,それぞれ5分間及び120分間の各インキュベーション時間でサブサンプリング法によりFVIII活性を測定した実験(1回目は2018年10月22日〜同月23日に実施,2回目は同年11月6日に実施,甲230及び250)をそれぞれ実施したこと,A被控訴人は,テクノクロムを用いて,Qhomoについて,2時間のインキュベーション時間でサブサンプリング法によりFVIII活性を測定した実験を行ったこと(乙38実験),BMonoBMは,被控訴人製品の抗FIXa腕のアミノ 59 酸配列に基づき,HEK細胞を用いて産出した抗FIXaのモノスペシフィック抗体(Fc領域は野生型IgG4を含む。,MonoBM(CHO)は,被控訴人製 )品の抗FIXa腕のアミノ酸配列に基づき,CHO細胞を用いて産出した抗FIXaのモノスペシフィック抗体(Fc領域は野生型IgG4を含む。, )Qhomoは,被控訴人製品のアミノ酸配列に基づき,抗FIXa側H鎖及びL鎖を使用し,HEK細胞を用いて産出したモノスペシフィック抗体,Qhomoシミラーは,被控訴人製品の抗FIXa腕のアミノ酸配列に基づき,HEK細胞を用いて産出した抗FIXaのモノスペシフィック抗体(Fc領域はEmicizumabの抗FIXa側H鎖の元配列を有している。,Qhomoシミラー(CHO)は,被控訴人製品 )の抗FIXa腕のアミノ酸配列に基づき,CHO細胞を用いて産出した抗FIXaのモノスペシフィック抗体(Fc領域はEmicizumabの抗FIXa側H鎖の元配列を有している。 であること, ) C上記@,Aの実験結果は次のとおり(なお,インキュベーション時間120分の実験結果については,発色時間2分の値を記載しているが,インキュベーション時間5分の実験結果については,原則どおり発色時間1分の値を記載している。)であることが認められる。
60 各抗体の抗体サンプル濃度を100μg/ml にした時の実験結果 61 100μg/ml,200μg/ml,300μg/ml の各抗体サンプル 濃度における実験結果 イ 証拠(甲113,甲232の1,甲234の1)及び弁論の全趣旨によると,@MonoBMとQhomoは,Fc領域のアミノ配列の一部には違いがあるものの,抗FIX(a)腕の可変領域のアミノ酸配列に同一性があったこと,AMonoBM(CHO)とQhomoの抗FIX(a)腕にもアミノ酸配列に上記@と同様の同一性があったこと,BQhomoと,Qhomoシミラー及びQhomoシミラー(CHO)は,アミノ酸配列が全て同一であったことが認められる。
そして,前記アの各実験結果のうち,インキュベーション時間を5分間とするものは,本件各発明の技術的範囲に含まれる抗体又は抗体誘導体の凝血促進活性を評価する場合の測定方法に合致しないため,インキュベーション時間を2時間とする実験結果のみが考慮の対象となるところ,Qhomo,Qhomoシミラー及びQ 62 homoシミラー(CHO)のネガティブコントロールとの比の値は,おおむね3以下であり,最も高くても3.05である。これに対し,MonoBM及びMonoBM(CHO)の値は4を超えるものがあるなど大きく異なっている。このことに,証拠(乙79,80,乙120の1,乙125〜132)及び弁論の全趣旨によると,シグナルペプチドの配列によっては,シグナルペプチドが目的とする位置でN末端から切断されず,抗体のN末端の配列は,本来の配列から伸長又は短縮され,目的のものとは異なり,抗原結合活性や物性に影響を及ぼすことがあること,また,同一のアミノ酸配列で構成された抗体であっても,精製方法によっては,凝集物の生成及び構造変化が促進されることがあるとされており,一般に,バイオ医薬品においては,バイオ医薬品の複雑な分子構造と特有な製造プロセスのため,バイオシミラー(バイオ後続品。既に認可された先発バイオ医薬品と,直接あるいは一対一比較により品質特性,有効性,安全性の観点から類似性を示すことにより先発品と類似した製品)と先発医薬品との同一性を担保することが困難とされていることが認められることも併せて考慮すると,一部に値が3を上回っているものがあるとしても,多くの場合において,値が3を下回っている前記実験結果に基づき,被控訴人製品が本件各発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。
ウ(ア) 控訴人らは,被控訴人が行った乙36の実験において,Qhomoは,ブランクと比較して,Km(ミカエリス・メンテン定数)が低値,kcat(酵素反応速度定数)が高値,kcat/Km(酵素反応効率)が高値,すなわち,基質(FX)に対する親和性が高く,生成速度が速く,酵素反応効率が高いことが示されていることから,Qhomoは,FIXa(酵素)の凝血促進活性を増大させるものであると主張する。
乙36は,被控訴人製品及びQhomo等について,FIXaによるFX活性化反応における酵素反応速度論解析を行った実験結果であるが,本件明細書には, 「凝血促進活性を増大させる」と評価するための指標として,酵素反応速度論的解析は挙げられていない上,凝血促進活性の増大と酵素反応速度論解析との関係は記載も 63 示唆もされていないから,これらの値をもって,本件各発明にいう「凝血促進活性を増大させる」と直ちに評価することはできない。しかも,基質に対する親和性,生成速度,酵素反応効率がどの程度向上すれば, 「凝血促進活性を増大させる」と評価できるのかについての技術常識は何ら示されていない。むしろ,乙36の実験では,Qhomo存在下での酵素反応効率は,FVIIIaの数値の0.0044%にすぎないのであるから,同実験結果をもって,Qhomoが「凝血促進活性を増大させる」抗体であると認めることはできず,被控訴人製品が本件各発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。
(イ) 甲114は,控訴人らが作製した,Qhomoと同一のアミノ酸配列を有する抗FIX(a)モノスペシフィック抗体(MonoBM)を使用し,ミカエリス・メンデン式による酵素基質反応のパラメーター(カイネティックパラメーター)を算出し,また,APTTの測定を行い,凝血促進活性の増大の程度を測定した実験結果であるところ,控訴人らは,この実験結果に基づき,Qhomoが凝血促進活性を増大させる旨を主張する。
しかし,甲114の実験は,乙36の実験と同様に本件明細書に記載された「凝血促進活性を増大させる」と評価するための指標とは異なる指標によっているものであって,この実験結果から直ちに被控訴人製品について,本件各発明にいう「凝血促進活性を増大させる」と評価することはできず,被控訴人製品が本件各発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。
(ウ) 控訴人らは,ヒトFIXaとウシFXを用いているテクノクロムの条件下では,ウシFXに結合しない被控訴人製品による凝血促進活性は,被控訴人製品の抗FIX(a)腕のみの寄与によってもたらされることになるから,乙38実験や甲224実験の結果からすると,被控訴人製品の抗FIX(a)腕が実質的に凝血促進活性を増大させていることは明らかであると主張する。
しかし,前記3並びに証拠(乙121,142,147)及び弁論の全趣旨によると,被控訴人製品は,FIXaを認識する抗原結合部位と,FXを認識する抗原 64 結合部位を有し,FIXa及びFXを同時に結合して三量体を形成し,この三量体がFVIIIaに代替して血液凝固作用を活性化させるものであることが認められる。
また,乙38実験の結果は,被控訴人が作製した左右のアームがいずれも被控訴人製品のFIX(a)に結合するアームで構成されたモノスペシフィック抗体(Qhomo),上記アームのみで構成されたone-arm抗体(Qone-arm)及び被控訴人製品について,血液凝固FVIII活性測定用の色素形成アッセイキット(テクノクロム)を用いて,サブサンプリング法により,インキュベーション時間を120分として凝血促進活性の増大の程度を評価したものであり,その結果,ネガティブコントロールとの比は,Qhomoが1.36〜1.48,Qone-armが1.01〜1.02,被控訴人製品が3.44〜4.63であったことが認められる。
この実験結果によると,被控訴人製品の凝血促進活性はモノスペシフィック抗体であるQhomoや,one-arm抗体であるQone-armよりも高いのであるから,乙38実験において,被控訴人製品の抗FX腕の寄与が全くなかったものであるとは認められない。
なお,控訴人らは,乙38実験が,サブサンプリング法に用いられるテクノクロムを用いながらインキュベーション時間を2時間とし,インキュベーションを終えた時間でのみFXa産出量を測定しているため,抗体の活性を適切な時点で評価しているとはいえず,本件明細書の記載に照らし,乙38実験の測定結果は信用できないと主張するが,乙38実験は,本件明細書の実験条件(前記(2))に近似させた条件下で行っているのであるから,控訴人らの主張は採用できない。また,甲224実験においても,テクノクロムを用いて,インキュベーション時間を120分として,サブサンプリング法によりFVIII活性を測定した結果によると,被控訴人製品のネガティブコントロールとの比は,モノスペシフィック抗体(MonoBM)のネガティブコントロールとの比よりも高く,乙38実験の結果と同様の効果 65 が得られており,上記乙38実験の結果が正しいことを裏付けている。
したがって,控訴人らが提出する証拠(甲163,165,225,231,293,294)を考慮しても,控訴人らの主張を採用することはできず,被控訴人製品が本件各発明の技術的範囲に属すると認めることはできない。
(エ) 控訴人らは,バイオベラティブ社の実験結果(甲214)について主張する。
証拠(甲214,219)及び弁論の全趣旨によると,バイオベラティブ社は,自社が独自に開発した抗FIX(a)抗Xバイスペシフィック抗体(BS-27125)と被控訴人製品のバイオシミラー(Emi-bsim)及びそのFIXホモダイマーをそれぞれ,色素形成アッセイ及び凝固アッセイなど複数のFVIII様活性を測定する手法で測定したとして,その結果を発表したことが認められるが,上記実験結果は,具体的な実験条件も,具体的な活性の数値も明らかでないから,被控訴人製品が,本件各発明の技術的範囲に含まれることを示すものであるとはいえない。
(オ) 控訴人らは,被控訴人が発表した被控訴人製品についての論文(甲110,112)によると,被控訴人自身,被控訴人製品がFIXaの凝血促進活性を増大させる作用を有していることを自認している旨主張する。
しかし,上記の各論文が被控訴人製品におけるFIXaの凝血促進活性について触れているとしても,そのことから直ちに,被控訴人製品が本件各発明の技術的範囲に属することが認められるものではない。
エ 以上によると,被控訴人製品は, 「第IXa因子の凝血促進活性を実質的に増大させる第IX因子又は第IXa因子に対するモノクローナル抗体(モノスペシフィック抗体)又はその活性を維持しつつ当該抗体を改変した抗体誘導体」に該当するとは認められない。
結論
前記第3によると,控訴人らの請求は,その余の点を判断するまでもなく,理由 66 がないことになる。
よって,本件控訴を棄却するとともに,控訴人らが当審において追加した請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
追加
67 (別紙)当事者目録控訴人バクスアルタインコーポレーテッド控訴人バクスアルタゲーエムベーハー上記両名訴訟代理人弁護士阿部隆徳木下倫子風間智裕落合馨加納正裕上記両名補佐人弁理士壽勇松井仁志被控訴人中外製薬株式会社同訴訟代理人弁護士牧野利秋飯村敏明末吉剛同訴訟代理人弁理士寺地拓己同補佐人弁理士一宮維幸68 (別紙)被控訴人製品目録1日本における販売名:(1)ヘムライブラ?皮下注30mg(2)ヘムライブラ?皮下注60mg(3)ヘムライブラ?皮下注90mg(4)ヘムライブラ?皮下注105mg(5)ヘムライブラ?皮下注150mg2米国における販売名:(1)HEMLIBRA?injection,30mg/mL(2)HEMLIBRA?injection,60mg/0.4mL(3)HEMLIBRA?injection,105mg/0.7mL(4)HEMLIBRA?injection,150mg/mL3欧州における販売名(1)HEMLIBRA30mg/mLsolutionforinjection(2)HEMLIBRA150mg/mLsolutionforinjection69 (別紙)被控訴人原薬目録一般名和名:エミシズマブ(遺伝子組換え)(洋名:Emicizumab(GeneticalRecombination)70
裁判長裁判官 森義之
裁判官 眞鍋美穂子
裁判官 佐野信
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