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事件 平成 29年 (ワ) 31544号 特許権侵害差止等請求事件
5原告株式会社アタゴ
同訴訟代理人弁護士 長谷川純 井筒大介
同補佐人弁理士 伊藤正和 廣瀬文雄 10 被告アズワン株式会社
同訴訟代理人弁護士 阪口祐康 關健一
同補佐人弁理士 鈴木由充 新田研太 15 植田慎吾
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2019/08/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は,別紙被告製品目録記載の製品を輸入し,使用し,譲渡し,貸し渡し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
2 被告は,前項の製品を廃棄せよ。
20 3 被告は,69万8451円及びうち52万0914円に対する平成29年9月22日から,うち17万7537円に対する平成31年2月27日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用はこれを5分し,その3を原告の負担とし,その余を被告の25 負担とする。
6 この判決は,第1項及び第3項に限り,仮に執行することができる。
1事 実 及 び 理 由第1 請求1 主文第1項及び第2項と同旨2 被告は,原告に対し,627万2000円及びこれに対する平成29年9月25 2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言第2 事案の概要1 本件は,原告が,被告は別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」とい10 う。)を輸入,販売等することにより原告の有する特許権を侵害していると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告製品の輸入,使用,譲渡,貸渡し並びに譲渡及び貸渡しの申出の差止め並びに同条2項に基づく被告製品の廃棄を求めるとともに,民法709条及び特許法102条2項に基づく損害賠償金627万2000円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌15 日)である平成29年9月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定することができる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)20 (1) 当事者ア 原告は,度量衡器,計量器及び部品の製造並びに販売等を目的とする株式会社である。
イ 被告は,度量衡器,計量器の製造,販売及び輸出入等を目的とする株式会社である。
25 (2) 原告の特許権ア 原告は,以下の特許権(以下「本件特許権」といい,これに係る特許を「本2件特許」という。)を有している。(甲1,2。なお,以下,本件特許出願の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明及び図面を「本件明細書等」という。)発明の名称:屈折計5 登録番号:特許第4889772号出願日:平成21年9月18日(特願2003−322773の分割)原出願日:平成15年9月16日登録日:平成23年12月22日イ 本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである10 (以下,これに係る発明を「本件発明」という。なお,下線部分は,後記エ(エ)による補正部分である。ウの下線部分も同じ。)。
試料(S)との界面をなす境界面(18)を有するプリズム(16)と,前記プリズムの境界面(18)に光を入射させる光源(24)と,前記プリズム境界面で反射された光を検出する,複数の受光素子を有する15 光電センサ(28)と,前記光電センサ(28)の各受光素子の受光量から得られる光量分布曲線に基づいて,臨界角(φc)に対応する光電センサ上の位置である臨界角点(Pc)を算定し,臨界角点(Pc)に基づいて試料(S)の屈折率(n)を求める演算手段と,20 を備え,前記臨界角点(Pc)が,式(1)及び3式(2) Pc=Pc’+Cにより算定され,式(1)において,Xiは各受光素子の位置を表し,IiはXiにある受光素子における受光量(V)を表し,mは計算に用いる受光素子の数であり,5 式(2)において,Cは屈折率が既知である試料を用いた実験により予め決定された定数である,屈折計。
ウ 本件発明を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
A 試料(S)との界面をなす境界面(18)を有するプリズム(16)と,10 B 前記プリズムの境界面(18)に光を入射させる光源(24)と,C 前記プリズム境界面で反射された光を検出する,複数の受光素子を有する光電センサ(28)と,D 前記光電センサ(28)の各受光素子の受光量から得られる光量分布曲線に基づいて,臨界角(φc)に対応する光電センサ上の位置である15 臨界角点(Pc)を算定し,臨界角点(Pc)に基づいて試料(S)の屈折率(n)を求める演算手段と,を備え,E 前記臨界角点(Pc)が,式(1)20 及び式(2) Pc=Pc’+Cにより算定され,式(1)において,Xiは各受光素子の位置を表し,IiはXiにある受光素子における受光量(V)を表し,mは計算に用いる受光素子の4数であり,式(2)において,Cは屈折率が既知である試料を用いた実験により予め決定された定数である,F 屈折計。
5 エ 本件特許の出願経過は,以下のとおりである。
(ア) 原告は,平成15年9月16日,本件の原出願(特願2003−322773。以下「本件原出願」という。)をし,平成17年4月7日,公開特許公報(特開2005−91063。乙5。以下「乙5公報」という。)が公開された。なお,その特許請求の範囲の請求項の数は6で,請求項210 〜6は請求項1の従属項であり,請求項1の記載は,「試料(S)との界面をなすプリズム(16)の境界面(18)に光源(24)からの光を入射させ,前記プリズム境界面で反射された光を光電センサ(28)により検出し,前記光電センサの出力信号から前記試料の屈折率を測定する屈折計(10)であって,前記プリズム境界面と前記光電センサの間に配置さ15 れたフィルター手段(30)を有し,前記フィルター手段は,光源からの光の波長(L)を含む所定の波長域の光を選択的に投下させる波長フィルター(32,34)を含む屈折計。」というものであった。
(イ) 原告は,平成21年9月18日,本件の原出願(特願2003−322773。以下「本件原出願」という。)の出願当初の特許請求の範囲と同20 一の特許請求の範囲による分割出願(以下「本件出願」という。 を行い,)同年10月9日,特許請求の範囲の全文を,以下のとおり変更する補正(以下「本件補正1」という。)をするとともに,審査請求をした。(甲2,乙6)【請求項1】25 試料(S)との界面をなす境界面(18)を有するプリズム(16)と,前記プリズムの境界面(18)に光を入射させる光源(24)と,5前記プリズム境界面で反射された光を検出する,複数の受光素子を有する光電センサ(28)と,前記光電センサ(28)の各受光素子の受光量から得られる光量分布曲線に基づいて,臨界角(φc)に対応する光電センサ上の位置である臨界5 角点(Pc)を算定し,臨界角点(Pc)に基づいて試料(S)の屈折率(n)を求める演算手段と,を備え,前記臨界角点(Pc)が,式(1)10により算定され,式(1)において,Xiは各受光素子の位置を表し,IiはXiにある受光素子における受光量(V)を表し,mは計算に用いる受光素子の数である,屈折計。
15 【請求項2】前記臨界角点(Pc)が,式(2) Pc=Pc’+Cにより計算され,式(2)において,Cは屈折率が既知である試料を用いた実験により予20 め決定された定数である,請求項1に記載の屈折計。
(【請求項3】〜【請求項6】略)(ウ) 特許庁審査官は,平成23年9月13日,本件特許出願は,大要,以下の3つの理由により拒絶をすべきものであるが,請求項2に係る発明については現時点では拒絶の理由を発見しない旨の拒絶理由通知(以下「本件6拒絶理由通知」という。)をした。(乙7)a 理由1請求項1には,「臨界角点(Pc)が,式(1)により算定され」と記載されているが,式(1)の左辺には,「Pc’」と記載されており,5 式(1)は,「Pc」に関するものではない点で,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
b 理由2請求項1には,「臨界角点(Pc)が,式(1)により算定され」と記載されているが,発明の詳細な説明では,段落【0037】及び【010 038】の記載によれば,式(1)により算定されるものは,「重心位置Pc’」であって,「臨界角点(Pc)」ではないから,「臨界角点(Pc)が,式(1)により算定され」ることは,上記段落を含め,発明の詳細な説明中に,記載も示唆もされていない。よって,請求項1に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでなく,特許法36条615 項1号に規定する要件を満たしていない。
c 理由3請求項1には,「臨界角点(Pc)が,式(1)により算定され」と記載されているが,「臨界角点(Pc)が,式(1)により算定され」ることは,段落【0037】及び【0038】を含め,発明の詳細な説20 明中に,全く記載されていないから,この出願の発明の詳細な説明は,当業者が請求項1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない点で,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない。
(エ) 原告は,本件拒絶理由通知を受けて,請求項1を前記イの下線部分のと25 おり補正し(以下,この補正を「本件補正2」という。),特許査定を受けた。(甲1)7(3) 被告の行為と被告製品の構成等ア 被告は,業として,被告製品を韓国の製造業者から輸入し,日本国内において販売している。
イ 被告製品は,別紙被告製品説明書に記載のとおりのものであって(乙1,5 9),少なくとも次の構成を有する。
a 試料との界面をなす境界面を有するプリズムがある。
b プリズムの境界面に光を入射させるLED光源がある。
c プリズム境界面で反射された光を検出する光電センサがある。当該光電センサは複数の受光素子を有している。
10 d 試料の屈折率を求める演算手段を備えている。試料の屈折率は臨界角点Pc(臨界角に対応する光電センサ上の位置)に基づいて算定されている。臨界角点Pcは,光電センサの受光素子の受光量から得られる光量分布曲線に基づいて算定されている。
f 屈折計である。
15 ウ 被告製品の構成a〜d及びfは,本件発明の構成要件A〜D及びFを充足する。
(4) 先行文献の存在本件原出願の出願日である平成15年9月16日より前に,以下の文献が存在した。
20 ア 発明の名称を「屈折率測定方法及びその装置」とする公開特許公報(特開平6−294737,平成6年10月21日公開。乙2。以下「乙2公報」といい,同文献に記載された発明を「乙2発明」という。)イ 発明の名称を「光学測定装置」とする公開特許公報(特開2002−277207,平成14年9月25日公開。乙3。以下「乙3公報」といい,同25 文献に記載された発明を「乙3発明」という。)ウ 発明の名称を「光学的手段による薄膜測定方法及び装置並びに成膜装置」8とする公開特許公報(特開平11−162954,平成11年6月18日公開。乙4。以下「乙4公報」という。)エ 「ICUMSA 砂糖関連分析法」中の「規格・基準 SPS−3(2000)」(平成12年改訂。甲8(ただし,甲8自体は平成18年1月315 日発行)。以下「甲8文献」という。)3 争点(1) 被告製品が構成要件Eを充足するか(争点1)(2) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争点2)10 ア 乙2発明に基づく進歩性欠如(争点2−1)イ 特許法36条6項1号違反(以下「サポート要件違反」という。争点2−2)ウ 分割要件違反に伴う新規性欠如(争点2−3)(3) 原告の損害額(争点3)15 第3 争点に関する当事者の主張1 争点1(被告製品が構成要件Eを充足するか)(原告の主張)被告製品は,式(1)及び式(2)のいずれも充足するから,構成要件Eを充足する。
20 (1) 本件発明の意義本件発明は,全反射が起こる臨界角点の正確な検出が難しいことに鑑み,これを直接検出するという従来の屈折計の検出手法の代わりに,より正確な値を検出し得る光量分布曲線の一次微分曲線(一次差分曲線)の重心位置Pc’を算出し(式(1)),算出した位置に,屈折率が既知である資料を用いた実験25 により予め決定された定数Cを加算する(式(2))ことで,臨界角点(Pc)を算定することができることを見出したものであり(下図参照) これにより,,9臨界角点をより正確に求め,屈折率を精度良く測定することができるようにしたものである。
(2) 被告製品が式(1)を充足すること5 式(1)と被告製品の構成eの式(A)は,いずれも同一の解を算出するものであり,重心を求めるという点でその技術的意義を同じくするとともに,本件発明と完全に同等の作用効果を有するものである。
ア 式(1)の変形本件発明の式(1)は,以下のとおりである。
10(ア) 分母の変形式(1)の分母は,「Ii+1−Ii」に、1からmまでの数値を代入して、その和を求めよという意味を表しており,以下の計算と同じである。
15 =(I2−I1)+(I3−I2)+(I4−I3)+・・・+(Im−Im−1)+(Im+1−Im)この式では,I2からImまではプラスとマイナスのペアが1組ずつ登場するため互いに打ち消し合ってゼロになり,残るのは最初と最後の項の10みとなるから,上記計算の解は「Im+1−I1」 であり,式(1)の分母は,上記のように変形できる。
(イ) 分子の変形同様に,式(1)の分子は,以下の計算と同じである。
5=(I2−I1)X1+(I3−I2)X2+・・・+(Im+1−Im)Xm=(I2X1+I3X2+・・・+Im+1Xm)−(I1X1+I2X2+・・・+ImXm)この式は,以下のとおり変形できる。
10Xiは添え字iで指定される各受光素子の位置(アドレス)であり,iが1増えればXiも1増えるから, i=Xi+1−1が成り立ち,X この式は,以下のように変形することができる。
15 そして,I2(X2−1)+I3(X3−1)+・・・+Im+1(Xm+1−1)=(I2X2+I3X3・・・+Im+1Xm+1)−(I2+I3+・・・+Im+1)が成立するから,上記式は,以下のように変形することができる。
20ここで,上記式の左右両端のΣの差は,(I2X2+I3X3+・・・+Im+1Xm+1)−(I1X1+I2X2+・・・+ImXm)であるから,I112X2からImXmまではプラスとマイナスのペアが1組ずつ登場するため互いに打ち消し合ってゼロになり,残るのは最初と最後の項のみとなる。
=−I1X1+Im+1Xm+15 以上から,式(1)の分子は,以下のとおり変形することができる。
イ 被告製品に係る式(A)の変形式(A)(別紙被告製品説明書の記載参照)は,以下のとおりである。
{(Ic+n −Ic−n )×Xc+n }−(c+n)−1(Ii+1 −Ic−n )i=c−nZn = Ic+n −Ic−n10 (ア) 式(A)から式(1)’への変形式(A)において,「c+n」を「m」に,「c−n」を「1」にそれぞれ置換すると,以下の式(1)’となる。
(イ) 分子の変形15 式(1)’の分子の左側を展開すると,以下のとおりとなる。
Xmは,添え字mで指定される各受光素子の位置(アドレス)であり,mが1増えればXmも1増えるから,Xm=X1+m−1が成り立つので,上記式は,以下のように変形することができる。
12このうち,中央の式(I1(X1+m−1))を展開すると,以下のとおりとなる。
5 上記式のΣは(I2−I1)+(I3−I1)+・・・+(Im−I1)であり,(I2+I3+・・・+Im)−I1(m−1)であるから,上記式は以下のように変形することができる。
10 プラスとマイナスのI1(m−1)が登場するので整理すると,上記式は,以下のとおり変形することができる。
ウ 式(1)と式(1)’ないし式(A)の比較変形後の両式を並べると,以下のとおりとなる。
15 式(1) 式(1)’両式の違いは,式(1)の方が式(1)’よりもmが1つ多い(式(1)’20 の方が式(1)よりもmが1つ少ない)ことであるが,mは,計算に用いる受光素子の数であって,何個のデータを用いて計算をするかということであるから,任意の自然数を採り得る。すなわち, (1) の式 ’ 「m−1」 「m」をに置き換え,あるいは式(1)の「m」を「m−1」に置き換えても差し支13えがないから,両式は,全く同一の計算式であるということができる。
そして,式(1)’は,式(A)における「c+n」を「m」に,「c−n」を「1」にそれぞれ置換したものであるから,式(1)と式(A)も,全く同一の計算式である。
5 エ 式(1)と式(A)の技術的意義が同一であること(ア) 式(1)が重心を求めていることn個の部分の重心の位置は以下の式で求められる。
これを,Σを用いて表すと次のとおりとなる。
10式(1)は,以下のとおりであるから,上記の式と対比すれば,これが重心を求めていることが明らかである。
そして,式(1)が求めているのは,本件明細書等の段落【0037】15 に記載されているとおり,光電センサの各受光素子の受光量から得られる光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心である。
光量分布曲線は,光電センサの各受光素子の受光量から得られるが(構成要件D),これは,横軸にXi(受光素子の位置),縦軸にIi(受光量)をとって,二次平面上に表される曲線である。式(1)の「Ii+1−Ii」20 とは,i番目の位置に対応する受光量とi+1番目の位置に対応する受光14量との差分であるから,式(1)で求めているのは光量分布曲線の一次差分曲線の重心であり,これを視覚的に表現すると下図のようになる。
波のように表された下側の曲線が光量分布曲線であり,上側に小さく表5 されている曲線がその一次差分曲線である。
(イ) 式(A)も重心を求めていること式(A)は,前記ウのとおり, (1) と同一の計算式であり, (A)式 ’ 式の右辺の「c+n」 「m」 「c−n」 「1」を に, を に置き換えれば式(1)’の右辺と同一になるから,式(A)も式(1)’と同様に,光量分布曲線10 の一次差分曲線の重心を求める計算式である。このことは,乙1の2の「1−3.測定モード(臨界角点計算)」と題するページ(6頁)に,式(A)の説明として,「各セル値の差と面積計算」と記載されていること,同頁に記載されたこの点に係る参考資料「Note_Photos/20171023_040818.jpg」には,光量分布曲線が描かれて,16番目の受光素子の位置から20番目15 の受光素子の位置に各対応する受光量につき,それぞれの差分を求めていることからも読み取ることができる。
オ 被告の主張について(ア) 被告は,被告製品が本件発明より複雑な計算手段によってPcを算出していると主張するが,かかる手段によりいかなる点で優れた効果が得られ20 るのかについて何の説明もないから,「より複雑な計算手段」には技術的15意義がないものと理解せざるを得ない。
(イ) 被告製品に仮に式(B)が存在するとしても,本件発明に別の手法を付け加えたものであり,被告製品の認定において考慮すべき必要性を欠く付加的構成にすぎない。また,試行を繰り返し行って平均値を算出する手法5 は一般的なものであり,かかる手法を採用することで,被告製品に何らかの技術的意義が付加されるものではない。被告が式(B)の技術的意義を明らかにしない以上,式(B)には技術的意義がないものと理解せざるを得ない。
(3) 被告製品が式(2)を充足すること10 式(2)は,以下のとおりである。
Pc=Pc’+Cア 定数Cの意義現実に光量の測定を行った場合,様々なノイズの影響により光量分布曲線も理想的なものとはならず,どの位置が臨界角点(Pc)であるのか判然と15 しない曲線が検出されるため,これを直接検出するのは極めて困難である。
原告は,試行錯誤の末,安定的に算出できるのは重心位置(Pc’)であることを見出したので,これを算出した上で定数Cを加えることで臨界角点(Pc)を得るという発想に至った。屈折率が既知の試料(例えば水)の臨界角点(Pc)は,理論式から求めることができるため,これを測定して得20 られた重心位置(Pc’)との差分を定数Cとして装置に記憶させることにより,重心位置(Pc’)と臨界角点(Pc)との差を埋めることが可能となる。
定数Cは,製造される個々の屈折計ごとの個体差に由来する測定結果の誤差を解消する意義を有するが,単なる計測機器の使用に伴う較正ではなく,25 式(1)を用いた場合に,臨界角点(Pc)をより正確に求め,屈折率を精度よく測定するために不可欠な数値としての意義を有しており,理論上の臨16界角点(Pc)と光量分布曲線の一次微分曲線(一次差分曲線)の重心位置(Pc’)との差を埋める数値である。すなわち,定数Cは,理論上の臨界角点と測定上の臨界角点という同じ測定目標についての誤差を補正する数値ではなく,理論上の臨界角点と光量分布曲線の一次微分曲線(一次差分曲5 線)の重心位置という概念的に区別し得る測定対象についての差を埋める数値である。
イ 被告製品が式(2)を用いていること(ア) 被告製品の社内調整モード(テストモード)のプログラムの流れを示すと,@水を測定し,Bary T20(アドレス値)を算出する,ACPUがE210 ROM(メモリ)に信号を送り,@の値を電気的に書き込む(プログラム上,「CAL OffSet」と表記される),B試料を測定して得られたBary T20から,AのCAL OffSet値(定数C’ を差し引くというものである) (甲7)。
被告製品は,アドレス値をBrix値(水溶液中のショ糖の含有量を示す数値)に換算した上で屈折率を算出するプログラムを採っているところ15 (甲7),Brix値は水であれば0%となるから,水に対するBrix表示値が0となるような調整値(定数C’)を設定している。すなわち,水(Brix値0%)を計測した場合にBrix表示値が「0」となるような原点位置(零点)を採用することになる。そのため,CAL OffSet値(甲7・10頁では18.54758)は,「水の理論アドレス値(水の臨界20 角点)」(同18.50000)と,「水の臨界角点と重心位置の各アドレス値の差分」(同0.04758)の合計値を採ることになる。そして,Brix値と屈折率とは一義的な関係にあるから(甲8),水に対するBrix表示値が0となるような調整値(定数C’)によって調整されたアドレス値(Xc=Xc’+C’)は,「臨界角に対応する光電センサ上の25 位置である臨界角点」であるといえる。
また,定数C’は,水を試験的に測定することにより決定されているた17め,「屈折率が既知である試料を用いた実験により予め決定された定数」に当たる。
(イ) 被告製品は,(ア)を実現するため,以下の式を用いている(以下,この式を「式(C)」という。)。
5 ΔPc=PCT20−PC0ΔPc, CT20, C0はいずれもアドレス値であるが, CT20は式P P P (A)及び式(B)を用いて算出された20℃環境下における試料の測定値(重心位置)であり, C0は,P 20℃環境下における純水の測定値(重心位置)であって,前記CAL OffSet値(甲7・10頁では18.54758)がこ10 れに当たるから,ΔPcは,PC0を原点としたときの試料の臨界光が入射する光電センサ上の位置(アドレス値),すなわち「臨界角に対応する光電センサ上の位置である臨界角点」に当たる。
甲7号証によれば,被告製品における水の理論アドレス値(水の臨界角点)は,水基準位置書き込み前の初期値「18.50000」であるとこ15 ろ,水基準位置書き込み後の値(重心位置)であるPC0が「18.54758」を示したということは,当該糖度計が,その差分である「0.04758」だけ設計値よりずれていたことを意味するから,PC0(より正確には,「水の臨界角点と重心位置の各アドレス値の差分」(同0.04758))は,「屈折率が既知である試料を用いた実験により予め決定され20 た定数」に当たる。
被告製品において,式(C)の計算を行う理由は,被告製品ではアドレス値をBrix値に換算した上で屈折率を算出するプログラムを採っているところ,純水のBrix値は0%であるため,純水に対するBrix表示値が0となるように調整を加える必要があるからであり,そのために25 は,試料の測定アドレス値であるPCT20から,純水の測定アドレス値であるPC0を差し引けばよく,被告製品において式(C)の計算を行うことは,18アドレス値(x軸)とBrix値(y軸)とを関係づける直線がx軸をよぎる点(アドレス値(純水の臨界角点))を基準(原点位置)として,元のアドレス値(x軸上の値)を読み替える工程であり,かかる調整を加えることによって,個体差に由来する測定結果の誤差が修正され,正しい値5 が表示されるようになる。これを図示すれば,以下のとおりとなる。
上図の上側のメモリは,光量分布曲線におけるアドレス値を表しており,この目盛りでは,CCDの端が基準点(零点)である。他方,下側の目盛りはBrixとの線形相関線におけるアドレス値を表しており, C0が基P10 準点(零点)である。PC0を基準点とするのは,PC0のBrix値が0%となるようにするためである。ΔPが指し示している位置は, CT20が指Pし示している位置と全く同じ位置,すなわち臨界角点である。この目盛りの読み替えは,正に較正であって,このことは,被告が式(C)を計算することを「ゼロ調整」(Zero Calculation)と呼んでいること,乙1の215 の「1−4.測定モード(Brixと屈折率計算)」と題するページ(7頁)に記載の参考資料「Note_Photos/20171023_040551.jpg」(乙9) 「較に正」を意味する「Calibration」との記載があることからも明らかである。
ウ 式(C)が式(2)を充足すること本件発明は,式(1)を用いて試料の重心位置を求め,当該重心位置に,20 式(2)を用いて臨界角点を求めている。
一方,被告製品も, (A)式 を用いて算出された試料の重心位置に, (C)式を用いて臨界角点を求めているのであり, C0は定数Cに対応する数値であP19る。被告製品では,水(Brix値0%)を計測した場合にBrix表示値が「0」となるような原点位置(零点)を採用しているため,差分そのものではなく,水の理論アドレス値(水の臨界角点)をも加えたPC0(CAL OffSet値)を差し引くことで,原点位置(零点)が合うことになるが,この方法で5 も差分を調整することで臨界角点を求めていることに変わりはない。
したがって,式(C)は,式(2)を充足する。
エ 被告の主張について(ア) 被告は,式(C)が糖度計算を行うために用いる式であり,臨界角点の算出とは無関係な式と解するようであるが,被告製品における臨界角点の10 算出は,式(A)及び式(B)を用いた計算工程だけでは重心位置しか算出されないために完結せず,式(C)を用いて初めて臨界角点が算出される。
(イ) 被告は,ΔPcと臨界角点はフェーズの異なる概念であると主張するが,被告製品は,式(C)を用いて純水のBrix表示値が0%になるように15 調整すること,すなわち,PC0を基準点とする目盛りの読み直しをすることで,個々の装置が正しい値を示すように調整しているのであるから,ΔPcの示す位置は,「臨界角に対応する光電センサ上の位置」である臨界角点にほかならない。
(被告の主張)20 式(1)と式(A)は異なる式であり,その技術的意義も異なる上,被告製品は式(2)を用いていないので,被告製品は,構成要件Eを充足しない。
(1) 被告製品の臨界角点の算定方法被告製品は,@Zn値の算出,APk値の算出,BPc(臨界角点)の算出,C糖度の算出(温度補正,ΔPcの算出,Brix値の演算)という方法を採25 用している。
ア 被告製品の構成20被告製品の臨界角点の算出に係る構成を,構成要件Eに従った形式で表すと,以下の構成eのとおりとなる。
構成e 下記式(A)により13のZn(nは1〜13の変数)を計算する第1工程と,{(Ic+n −Ic−n )×Xc+n }−(c+n)−1(Ii+1 −Ic−n )i=c−n5 Zn = (A)Ic+n −Ic−n前記Z1〜Z13から下記式(B)によりPk(kは1〜5の変数)を計算する第2工程とを有し,13 (Zn +(Zn ?Xc ))n=1Pk = (B)13上記第1工程と第2工程とを繰り返し行いP1〜P5の数値を計10 算し,当該P1〜P5の平均値を算出して,臨界角点Pcを算出する。
イ Zn値の算出被告製品は,まず,式(A)を用いてZnを計算するが,このZnは,受光素子のアドレスを変化させながら計算される計算値であり,nを1〜13に変化させながら13通りの計算をしている。Xcは光量分布曲線の傾きが最15 大となる受光素子の位置(アドレス),Icは当該Xcのアドレス位置における受光素子の受光量,nは変数である。
ウ Pk値の算出Z1〜Z13を算出した後,次の式(B)に基づいて,Pk値を算出する。
13 (Zn +(Zn ?Xc ))n=1Pk = (B)1320 ここで,kは試行数であり,被告製品においては1〜5の数値をとるので,P1〜P5の値が算出される。
式(B)は,Znを単純平均するものでなく,ZnにZnとXc(光量分布曲線の傾きが最大となる受光素子の位置)との差を加算した上で,その平均を21算出している(下図参照)。
エ Pc(臨界角点)の算出P1〜P5の平均値を算出してPcを算出する。
5 オ 糖度の算出(ア) 温度補正臨界角点Pcの値は温度によって変化するが,Pc値と当該値測定時の温度から,20℃の環境下にある場合に臨界角点PCT20を演算できる。被告製品においても,臨界角点Pcから臨界角点PCT20を演算して算出す10 る。
(イ) ΔPcの算出(ゼロ調整)被告製品では,基準点として,あらかじめ測定した20℃の環境下における純水の臨界角点PC0を用いて,以下の式(2)より,PCT20と基準点との変位を計算する。
15 ΔPc=PCT20−PC0(ウ) Brix値の演算ΔPcとBrix値とは線形の相関性を有しており,被告製品においては,同相関性に関するデータが記憶されていることから,これを参酌し,ΔPc値から当該試料のBrix値を算出する。そして,当該Brix値20 が較正された上で表示される。
(2) 式(1)について22式(1)と式(A)は,形式的に異なるのみならず,式(1)と式(A)及び式(B)とでは技術的意義も異なっている。
ア 式(1)と式(A)が形式的に異なる式であること式(1)は,以下のとおりである。
5一方,式(A)は,以下のとおりである。
{(Ic+n −Ic−n )×Xc+n }−(c+n)−1(Ii+1 −Ic−n )i=c−nZn = (A)Ic+n −Ic−n原告は,本件特許権を取得するに当たり,自ら請求項を設定し,式(1)にてその技術的範囲を確定したものであるが,式(1)と式(A)を対比す10 れば明らかなとおり,両者は形式的に異なっているから,被告製品は,構成要件Eの文言を充足しない。
式(1)を変形した式が全て本件発明の技術的範囲に含まれるとすると,本件発明の技術的範囲が無限に拡張し妥当でない。
イ 式(1)と式(A)及び式(B)の技術的意義が異なること15 (ア) 本件発明は,重心位置を算出するための式(1)を用いて臨界角点を求め,これに式(2)を適用して較正を行っている。式(1)は,あらかじめ定められた所定数mの範囲で重心位置Pc’を算出するが,飽くまでも所定のmにおいてPc’を1度算出しているにすぎず,これに定数Cを加えて(式(2))臨界角点を算定している。
20 これに対し,被告製品におけるZnは,繰り返し算出される複数の計算上の数値であり,繰り返し計算されるZnの計算上の数値の一つから,直ちに重心位置に相当するPc’値を算出していない。また,式(B)は,式(A)により算出されたZnにZnとXc(光量分布曲線の傾きが最大とな23る受光素子の位置)との差を加算した上で,その平均を算出するものであり,この点でも,式(1)とは異なる。
被告製品は,式(A)によりZ1〜Z13を算出し,さらに,式(B)によりPkを5回算出し,P1〜P5の平均値として臨界角点Pcを算出し,5 重心位置とは異なる位置を臨界角点としているのであって,式(1)により重心位置Pc’を算出し,そこに定数Cを加えて臨界角点Pcを算出するものではない。被告製品においては,上記のような計算を繰り返すことで,ノイズを可及的に排除し,より正確な臨界角点を算出しているものである。
10 このように,本件発明と被告製品の技術的意義はそれぞれ異なるから,式(A)と式(1)を,数学的変形等により同一式に変形し得るとしても,被告製品は,本件発明の構成要件Eを充足しない。
(イ) 原告は, (B)式 が単なる付加的構成にすぎないと主張するが, (B)式は,Znの平均値を算出する式ではなく,P1〜P5の平均値として算出さ15 れる臨界角点PcもZnの平均値ではないから,同式は単なる付加的構成ではない。
式(B)は,複数の試行とデータ解析に基づき,経験的に算出された式である。被告製品の開発者は,糖度計の設計において,まず,式(A)により算出されるZnに基づいて臨界角点を算出したところ,Brix値と20 Znとをプロットした際に線形性に問題があるため,誤差が多く発生することが判明した。そこで,Znの値をそのまま用いるのではなく,これを補完する数値及びこれを導く数式を検討し,計算誤差の修正,改善するべく,試行を繰り返し,種々の修正式での数値解析を行い,データ分析を行う中で,式(B)を用いてZnからPkを算出し,この数値に基づき臨界角25 点を算出した方が,誤差が小さくなることを見出したものである。
被告製品と構造が同一で品番のみが異なる製品(商品名「SCM−102400」)を使用して検証した結果が図1であるが,Z n(青線)のデータは, kP (赤線)のデータと比較して線形性に乏しく,Brix値との関係で非線形的な要素が多く混入していることが確認できる。すなわち,Z nからBrix値を算出すると誤差が大きいのに対し,P kにおいては,B5 rix値との関係でより線形性が維持され,誤差が小さくなっていることが分かる。
このように,Znから臨界角点を算出するのに比べ,データ解析を経て作出した式(B)から得られるPkによる方が,誤差が小さくなり,臨界角10 点を,より正確に算出することが可能となるのである。
(3) 式(2)についてア 式(2)の意義本件明細書の段落【0038】や原告の主張に鑑みると,本件発明におけるPc’は,特定の装置において測定により得られた測定値ベースの臨界角15 点(複数のデータの加重平均等から特定したもの)であり,定数Cは,当該装置毎の個体差を較正する値であり,Pcは,定数Cにより測定値ベースの25Pc’を較正した当該装置における設計上の臨界角点の値である。
イ 被告製品が式(2)により臨界角点Pcを算出するものではないこと(ア) 仮に,Znを算出するための式(A)が本件発明の式(1)と同等であり, nがPc’Z と同意義であるとしても,被告製品においては,臨界角点5 Pcを計算するに際し,定数Cのような特定の値を加えて個々の装置毎の個体差を補正しておらず,式(B)によりP1〜P5を計算した上で,その平均値を計算して臨界角点Pcを算出するのであるから,被告製品は,構成要件Eを充足しない。
(イ) 被告製品におけるP CT20 は,測定された試料の臨界角点Pcから210 0℃の環境下の値を演算した数値であり,原告主張のBary T20に相当する。
また,PC0は,20℃環境下における純水の臨界角点であって,ΔPcを算出するに際してP C T 2 0 から差し引く数値であって,原告主張のCALOffSet値に相当する。
しかし,本件発明における式(2)の定数Cは,個々の装置の個体差を15 補正するための数値であり,測定上の臨界角点と,個々の装置の設計上の臨界角点との差であるのに対し,被告製品におけるPC0は,ΔPcを算出するための基準数値にすぎず,測定した資料のΔPcから当該試料のBrix値を計算している。
このように,PC0は,個々の装置の設計上の臨界角点の較正を行うため20 の数値ではなく,試料のBrix値を計算するための値となるΔPcを算出するための基準数値にすぎないから,本件発明の定数Cに対応する概念ではなく,ΔPcも,20℃環境下における試料の臨界角点と純水の臨界角点との差であるから,本件発明の式(2)のPc(試料の設計上の臨界角点)に対応する概念ではない。
25 2 争点2−1(乙2発明に基づく進歩性欠如)について(被告の主張)26本件発明は,当業者が乙2発明に乙3発明及び周知技術を適用することにより容易に想到することができたものであるから,進歩性を有しない。
(1) 乙2発明の内容乙2文献の明細書の発明の詳細な説明の段落【0006】〜【0009】,5 【0017】〜【0022】の記載によれば,乙2発明の内容は,以下のとおりと認められる。
a 試料7との界面をなす境界面6を有する直角プリズム1と,b 直角プリズム1の境界面6に光を入射させる光源2と,c プリズム境界面6で反射された光を検出する,複数の受光素子を有する10 CCDラインセンサ15と,d CCDラインセンサ15の各受光素子の受光量から得られる光量分布曲線に基づいて,臨界角(φc)に対応するCCDラインセンサ15上の位置である臨界点Pcを算定し,臨界点Pcに基づいて試料7の屈折率を求める演算手段4と,を備える,15 f 屈折率測定装置。
(2) 本件発明と乙2発明の一致点本件発明と乙2発明は,本件発明の構成要件A〜D及びFにおいて一致する。
(3) 本件発明と乙2発明の相違点本件発明は,臨界角点が式(1)及び式(2)により算定されるのに対し,20 乙2発明では,臨界角点を算定するために式(1)及び式(2)を用いていない点で相違する。
(4) 容易想到性式(1)により重心位置Pc’を算出することは,乙3発明として開示されており,これを乙2発明に組み合わせることは容易であるし,式(2)により25 較正を行うことは,本件特許出願時における周知技術にすぎないものである。
ア 本件発明の式(1)について27(ア) 本件発明の式(1)が臨界角点を直接検出する式であること臨界角法を用いた屈折計では,臨界角に相当する明暗の境界の位置を読み取ることによって屈折率を求める。
5 本件発明においても,乙3発明と同様,臨界角点(Pc)は,光電センサ上の明暗の境界位置(エッジ位置)を意味するところ,本件発明では,明暗の境界位置を検出するために,光量分布曲線の一次微分曲線の重心位置を用いており,その位置Pc’を算出する式(1)は,光量分布曲線の明暗の境界位置,すなわち臨界角点を直接検出するための式にほかならな10 い。
本件発明におけるPc’は,特定の装置において測定により得られた測定ベースの臨界角点であり,較正を行うための式(2)において,定数Cにより,設計上の臨界角点Pcが算出される。仮に,屈折率が既知である試料を用いた実験により定数C=0と決定された場合,式(1)によって15 算出される重心位置Pc’がそのまま臨界角点Pcとなることに鑑みても,28重心位置Pc’は,測定値ベースの臨界角点であるから,式(1)は,臨界角点Pcを直接検出するための式であるといえる。
Pc’が臨界角点であることは,前記前提事実(2)エ記載の原告の出願経過からも明らかである。すなわち,原告は,本件補正1に対する本件拒5 絶理由通知を受けて,請求項1に請求項2の限定を加える本件補正2を行ったが,原告が実際に「式(1)は臨界角点を直接検出する式ではない」と認識しているのであれば,記載不備を指摘されることが明白な本件補正1をすることはあり得ない。
(イ) 乙2発明と乙3発明の組合せにより式(1)を容易に想到し得ること10 乙2発明は,正確に臨界点(Pc)を検出できるようにすることを目的とする発明であり(段落【0009】,【図1】),臨界角,すなわち光量分布曲線のエッジ位置を正確に検出することを課題とするものである(段落【0005】)。前記のとおり,臨界角法を用いた屈折計では,臨界角に相当する明暗の境界の位置を読み取ることによって屈折を求めるため,15 臨界角点を検出することは,プリズム境界面で反射された光(反射光)の光電センサにおける明暗の境界(エッジ位置)を検出することと同義である。
一方,乙3文献の段落【0001】,【0002】,【0008】〜【0014】,【0018】,【0019】,【0024】〜【0033】,20 【0043】,【0044】,【0052】〜【0058】,【図8】,【図9】)からすれば,乙3発明の内容は,以下のとおりと認められる。
「測定対象物に光を照射し,その透過光又は反射光の光量分布を測定する光学測定装置において,光量分布曲線の一次微分曲線(微分波形)の重心位置を詳細エッジ位置(正確なエッジ位置)として求めるため,次の式25 (A)を用いる発明。
29」このように,乙3発明は,「測定対象物に光を照射し,その透過光又は反射光の光量分布を測定する光学測定装置」に関する発明であるから,測定対象物のエッジ位置,すなわち測定対象物によって生じる光の明暗の境5 界を正確に検出することを課題としている。
そうすると,乙2発明と乙3発明は,技術分野が関連しており,光量分布曲線の臨界角点,すなわちエッジ位置(明暗の境界)を正確に検出するという共通の課題を有する。
したがって,乙2発明において,臨界角点(Pc)を算出するために,10 光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心位置を得るべく,乙3発明を組み合わせる動機付けがあり,乙2発明に,乙3発明の上記式(A)(本件発明の式(1)に相当する。)を組み合わせて臨界角点を算出することは,当業者にとって容易である。
イ 本件発明の式(2)について15 (ア) 本件発明は,式(2)に示されるように,式(1)により算出した重心位置Pc’に定数Cを加算したものを臨界角点(Pc)とするものであって,定数Cは,較正用の調整値である。
本件明細書において式(2)に関する記載があるのは, 【0038】段落のみで,当業者は,同記載から,式(2)が較正のための式であることは20 理解できるが,それ以外の意義を有することは全く読み取ることができない。また,原告は,本訴提起前から,式(2)が単なる較正のための式であると繰り返し主張してきたのであるから,式(2)がそれ以外の技術的意義を有するとは考えられない。
(イ) 乙4公報には,薄膜の成膜中に光学的手段により,その薄膜の屈折率等25 を求めるために,実際の成膜時の測定を行うに先立ち,校正用データの測30定を行うことや,校正用データを取得するための校正用試料として実際に成膜を行う基盤と実質的に同じ条件の基板上に予め薄膜を形成したものが用いられることが記載されているが(段落【0047】 【0050】 ,〜 )この「校正用データ」は本件発明の「定数C」に,「校正用試料」は本件5 発明の「屈折率が既知の試料」にそれぞれ対応する。
また,甲8文献にも,「屈折計の校正」について,「いくつかの屈折計メーカーでは校正用として,既知の屈折率の小さなガラス板,又はガラスプリズムを用意している。屈折計のプリズム上に,α-bromonaphthalene液をごく少量たらして薄い層にし,その上に校正用ガラスプリズムを載せる。
10 その校正用プリズムの屈折率に相当する読み値が得られるように計器の目盛を調整する。」旨(2頁24行目〜27行目)や,校正用プリズムの代わりにショ糖液を校正目的で使用すること(3頁6行目〜8行目),また,このような校正が本件発明の屈折計であるAbbe型屈折計にも当てはまること(3頁21行目〜23行目)が記載されている。
15 このように,計測機器の使用に際し,較正を行うことは,本件発明の出願当時,計測機器の分野における周知の技術であった。
(ウ) 本件発明と乙2発明との相違点(式(2)の有無)は,周知技術の付加,転用にすぎないところ,当業者が乙2発明に上記周知技術を適用して本件発明に想到することは容易であるし,乙2発明に上記周知技術を適用する20 ことを阻害するような要因もない。
ウ 原告の主張について(ア) 原告は,本件発明を実現するためには,式(1)と式(2)の両方が不可欠であると主張する。
しかし,本件明細書中,式(2)に関する記載があるのは段落【00325 8】のみであって,式(1)と式(2)の両方が不可欠であることについての開示も示唆もない。
31また,原告が本件補正1を行った際,式(2)は,その請求項1に含まれておらず,別途請求項2に記載されていたことは,原告が式(2)を本件発明の実現に不可欠ではないと認識していたことを示している。
このように,式(2)は,単なる較正のための式であって,式(1)に5 特化して適用されるべきものではなく,臨界角点を検出するための他の数式にも適用可能な式である。また,式(2)の定数Cと式(1)の各変数との間に,何ら特別な関連性は存しない。
したがって,式(1)と式(2)は一体的に理解すべき数式ではなく,原告の上記主張は失当である。
10 (イ) 原告は,乙3発明は臨界(角)点の測定と全く関係がなく,また,乙2発明と乙3発明の技術分野は異なるなどと主張する。
しかし,乙3公報の【発明の属する技術分野】には,「本発明は,測定対象物に光を照射し,その透過光または反射光の光量分布を測定する光学測定装置に関する。」と明記されており(段落【0001】),乙3発明15 は,測定対象物からの反射光の光量分布を測定する技術に関するものでもある。そして,乙2発明において検出される臨界(角)点も,反射光の明暗の境界である。
したがって,乙2発明と乙3発明とは,測定対象物に光を照射し,その反射光の光量分布を測定する点でも,光量分布曲線の明暗の境界を検出す20 る点でも,技術分野の関連性を有する。
(ウ) 原告は,乙2発明と乙3発明の組合せに阻害要因があると主張する。
しかし,臨界(角)点を検出することと反射光の明暗の境界を検出することとは同義であるから,乙2発明は,反射光の明暗の境界の検出を指向するものであるということができる。そして,乙3発明は,測定対象物か25 らの透過光又は反射光の明暗の境界を検出するものである。
したがって,乙2発明に乙3発明を適用して,プリズムからの反射光の32明暗の境界,すなわち臨界(角)点を検出するために,光量分布曲線の一次微分曲線の重心位置を用いることを阻害する要因は存しない。
(エ) 原告は,乙2発明と乙3発明を組み合わせた発明に更に式(2)を適用する動機付けを欠くと主張する。
5 しかし,較正することは技術常識であるため,一般に,較正そのものに特徴を有する発明でない限り,特許明細書等において,較正につき,わざわざ言及されることはない。そして,乙3発明は,そのような発明でないため,式(2)のような定数Cを加算することが全く想定されていないのではなく,技術常識であるがゆえに較正に言及されていないにすぎない。
10 したがって,当業者が,乙2発明と乙3発明を組み合わせた発明に更に式(2)を適用することに,何ら困難性はない。
(原告の主張)本件発明は,本件特許出願当時の当業者が乙2発明に乙3発明及び周知技術を適用することにより容易に想到することができたものではないから,進歩性を有15 する。
(1) 本件発明の技術的意義本件発明は,前記1(原告の主張)(1)記載のとおり,臨界角点を直接検出するという従来の屈折計の検出手法の代わりに,より正確な値を検出し得る光量分布曲線の一次微分曲線(一次差分曲線)の重心位置Pc’を算出し (1) ,(式 )20 算出した位置に,屈折率が既知である資料を用いた実験により予め決定された定数Cを加算する(式(2))ことで,臨界角点(Pc)を算定することができることを見出したものであり,これにより,臨界角点をより正確に求め,屈折率を精度良く測定することができるようにしたものであるから,本件発明の技術的意義は,構成要件Eにある。
25 (2) 乙2発明の内容について本件発明と乙2発明を正確に対比するためには,乙2発明においても本件発33明の技術的特徴である構成要件Eに対応する構成e’を認定することが当然に必要となるが,その内容は以下のとおりである。
e’臨界点Pcを,光検出装置により検出された光量分布曲線をこの光量分布曲線に対応する理論光量分布曲線で補間して検出する,5 (3) 本件発明と乙2発明の相違点本件発明と乙2発明の相違点は「本件発明では,その構成要件Eにおいて,臨界角点(Pc)が,式(1)及び式(2)により算定されるのに対し,乙2発明では,臨界点Pcを,光検出装置により検出された光量分布曲線をこの光量分布曲線に対応する理論光量分布曲線で補間して検出する点」と認定される10 べきである。
(4) 相違点が容易に想到し得ないことについて被告は,相違点について,式(1)と式(2)とを分けて判断しているが,前記(1)記載の本件発明の技術的意義のとおり,本件発明には式(1) (2)と式の両方が不可欠であるから,両式を分離して別々に進歩性の判断をすることは15 許されない。
ア 式(1)に関する相違点について(ア) 乙2発明と乙3発明とは技術分野及び課題が異なる。
乙3発明は,下図のとおり,受光量分布のうち概略エッジ位置を含む所定範囲の演算により詳細エッジ位置を算出する測定対象物のエッジ位置20 の検出方法であり,本件発明や乙2発明のような光量分布曲線の臨界(角)点Pcを検出するものではない。乙3発明は,臨界(角)点Pcを正確に検出することを課題にしているわけではなく,投光器10から物体(丸棒)510に向けて光を発射することにより物体の端部位置(エッジ位置)を測定するものであって,その課題は,臨界(角)点の測定とは全く関係が25 なく,乙2発明と乙3発明とでは,課題が全く異なる。
34また,本件発明及び乙2発明と乙3発明とは,光量分布曲線の特定の位置を検出する点では類似するが,その検出する位置は,前2者が臨界(角)点であるのに対し,後者は物体(丸棒)の影の位置であって異なるから,5 両者は技術分野も異なっている。
したがって,乙2発明と乙3発明との間には,技術分野の関連性及び課題の共通性は存在しない。
(イ) 乙2発明と乙3発明の技術思想は相容れず,組合せの阻害要因がある。
乙2発明は,臨界点Pcを,光検出装置により検出された光量分布曲線10 をこの光量分布曲線に対応する理論光量分布曲線で補間して検出することで,臨界点Pcを正確に検出するという課題を解決したものであって,従来の技術思想と同様に,全反射が起こる臨界点Pcを光量分布曲線から直接検出することを指向するものであるから,受光部20の前に置かれた物体の位置(エッジ位置)を検出するために光量分布曲線の一次微分曲線15 (あるいは一次差分曲線)の重心位置を用いる乙3発明とは相容れない技術思想に基づくものである。
したがって,乙2発明を乙3発明に適用しようとする動機付けは存在せ35ず,かえって,乙2発明の技術思想に照らすと,乙3発明を適用することについて阻害要因がある。
(ウ) 仮に,乙2発明と乙3発明を組み合わせても本件発明には到達しない。
仮に乙2発明に,本件発明の式(1)に相当する乙3発明の式(A)を5 組み合わせることができたとしても,式(2)により定数Cを加算する技術思想なしには,臨界点Pcをより正確に求めることはできない。
イ 式(2)に関する相違点について本件発明を実現するためには,式(1)と式(2)の両方が不可欠であるから,式(2)は,単なる計測機器の使用に伴う較正ではなく,式(1)を10 用いた場合に,臨界角点(Pc)をより正確に求め,屈折率を精度良く測定するために不可欠な計算式である。
したがって,式(1)と式(2)により臨界角点(Pc)を算定することは,乙2発明と周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものではない。
15 また,乙3発明は,光量分布曲線の一次微分曲線(微分波形)の重心位置によりエッジ位置を検出することで完結しており,本件発明の式(2)のような定数Cを加算することは全く想定していないから,乙3発明を組み合わせた乙2発明に,更に本件発明の式(2)のような定数Cを加算するという動機付けは存在しない。
20 したがって,式(1)と式(2)により臨界角点(Pc)を算定することは,乙2発明と,乙3発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に想到することができたものではない。
3 争点2−2(サポート要件違反)について(被告の主張)25 本件特許の請求項1には,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段である「フィルター手段」に関する点が反映されてお36らず,本件発明は,発明の詳細な説明に記載したものではないから,特許法36条6項1号に規定するサポート要件を満たしていない。
(1) 本件発明は,外光の影響で戸外では屈折率を正確に測定することができないという問題点に鑑み,外光の影響を低減し,戸外においても精度良く屈折率を5 測定することができる屈折計を提供することを課題とするところ(段落【0004】,【0006】),この課題は,「前記プリズム境界面と前記光電センサの間に配置されたフィルター手段を有し,前記フィルター手段は,光源からの光の波長を含む所定の波長域の光を選択的に透過させる波長フィルターを含む」という構成要件によって解決するものとされている(段落【0007】10 〜【0012】,【0020】〜【0027】,【0032】,【図2】)。
(2) しかし,本件特許の請求項1には,上記構成要件は含まれておらず,フィルター手段に関する記載が全く存在しないから,発明の課題を解決するための手段が反映されていない。
本件発明は,代わりに構成要件D及びEが存在するが,光量分布曲線が外光15 を多く含む場合,式(1)に規定する重心位置Pc’が大きく変動し,正しい屈折率が求められないことが,段落【0039】に記載されている。
このように,本件発明は,飽くまでも外光が存在する環境下での測定を前提として,「外光の影響を低減し,戸外においても精度良く屈折率を測定すること」を課題としているのであって,本件明細書の全体を考慮しても,原告主張20 の課題を把握することはできない。
したがって,課題を解決する手段が反映されていないため,本件発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えており,サポート要件に違反する。
(原告の主張)本件発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲内のものであって,特許法3625 条6項1号に規定する要件を満たしている。
すなわち,本件明細書の段落【0035】〜【0041】,【0052】及び37【0053】の記載によれば,本件明細書の発明の詳細には,発明の課題として,外光の影響を低減し,戸外においても精度良く屈折率を測定することができる屈折計を提供することのみならず,安定した重心位置Pc’を得ることが可能となり,臨界角点Pcをより正確に求めることができ,屈折率を精度良く測定するこ5 とができることも記載されているということができる。
また,発明の効果についても,@外光の影響を低減し,高精度に屈折率を測定することができることのみならず,A製造が容易であること,B製造コストが安いこと,C測定が簡単かつ能率的に行えることといった効果も本件明細書等の発明の詳細には記載されている。
10 そして,臨界角点Pcをより正確に求めるという課題は,本件発明の構成要件Eにより解決されているから,本件発明は,発明の詳細な説明に記載した範囲内のものであって,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしている。
4 争点2−3(分割要件違反に基づく新規性欠如)について(被告の主張)15 本件出願は,適法な分割出願ではなく,本件分割出願の出願日は本件原出願の出願日に遡及しないから,本件発明は,平成17年4月7日に公開された乙5公報に記載された発明と同一であり,新規性を欠く。
(1) 乙5公報に記載されている本件原出願の出願当初の明細書及び図面(以下「本件原出願当初明細書等」という。)には,「前記プリズム境界面と前記光20 電センサの間に配置されたフィルター手段を有し,前記フィルター手段は,光源からの光の波長を含む所定の波長域の光を選択的に透過させる波長フィルターを含む」という構成要件を欠く本件発明については全く記載されていないし,フィルター手段30を備えていない屈折計の開示もない。
すなわち,上記構成要件を備えていない本件発明は,本件原出願当初明細書25 等に記載されておらず,その記載から自明でもないから,本件出願は,特許法44条1項の「二以上の発明を包含する特許出願」から分割した「新たな出願」38に該当しない不適法なものである。
(2) そうすると,本件出願の出願日は,本件原出願の出願日である平成15年9月16日まで遡及せず,現実の出願日である平成21年9月18日となる。
したがって,本件発明は,平成17年4月7日に公開された乙5公報に記載5 された発明と同一であり,新規性を欠く。
(原告の主張)本件出願は適法なものであり,その出願日は本件原出願の出願日である平成15年9月16日となるから,本件発明は,新規性を欠くものではない。
すなわち, 本件原出願当初明細書等の段落【0033】〜【0040】,【010 051】〜【0055】の記載は,本件明細書等の段落【0035】〜【0041】,【0052】及び【0053】の記載と同内容である。それゆえ,前記3(原告の主張)と同様の理由により,本件発明は,本件原出願当初明細書等に記載した範囲内のものであるから,本件出願は,特許法44条1項の「二以上の発明を包含する特許出願」から分割した「新たな出願」に該当する適法なものであ15 る。
したがって,本件出願の出願日は上記のとおり遡及するから,本件発明は,新規性を有する。
5 争点3(原告の損害額)について(原告の主張)20 (1) 被告は,遅くとも平成28年7月から被告製品を販売しているが,被告製品の平均販売価格は1個当たり1万7800円で,利益率は30%を下らず,これまでの販売数量は,800個を下らない。
したがって,特許法102条2項に基づく原告の損害額は,427万2000円(=1万7800円×30%×800個)と推定される。
25 被告は寄与率を考慮すべきと主張するが,本件においては,本件発明が被告製品の一部にのみ用いられている場合ではないから,寄与率を考慮する余地は39ない。
なお,被告主張の販売総数,製造原価額及び配送費については,積極的に争わない。
(2) 被告の侵害行為と相当因果関係のある弁護士・弁理士費用としては,2005 万円が相当である。
(被告の主張)否認し,争う。
(1) 被告は,平成28年9月9日から平成30年2月9日まで被告製品を販売したが,同期間中の販売総数は合計137個であり,その売上総額は,204万10 4164円である(乙10)。被告製品1個当たりの製造原価は1万0249円であるから,これを控除すると,64万0054円(=204万4164円−1万0249円/個×137個)となるが,被告製品のユーザへの配送につき,2件のみ配送費合計1600円が生じているから,これを更に控除すると63万8454円(64万0054円−1600円)となる。
15 (2) 糖度計において計測精度が向上することには一定の意義があるにしても,それは糖度計内部での計算処理上の問題であって,需要者が特にその計算方法や精度の向上を具体的に認識して製品を購入するものでもなく,被告製品の販売ウェブサイトにおいても,「外光の影響を低減し,戸外において精度良く屈折率を測定する」効果を宣伝広告しているわけではない。原告は,本件発明の効20 果として,「臨界角点(Pc)を精度良く得られる」から,高い測定精度を達成できると主張するが,被告製品の測定精度(Brix±0.2%)は,被告製品よりも安価な糖度計でも達成されるものであるから,被告製品が本件発明の効果を顕著に示しているということもできない。
こうした事情を考慮すれば,本件発明の寄与率は,多く見ても30%にとど25 まるから,原告の損害額は19万1536円(=63万8454円×30%)を超えるものではない。
40第4 当裁判所の判断1 本件発明の意義(1) 特許請求の範囲の記載本件特許の特許請求の範囲における請求項の数は5であり,本件発明に係る5 請求項1の内容は前記前提事実(2)イのとおりであるが,請求項2〜5は,いずれも請求項1の従属項であり,例えば請求項2の内容は,「前記プリズム境界面と前記光電センサの間に配置されたフィルター手段(30)を更に備える,請求項1に記載の屈折計。」というものであって,いずれも本件発明に係る構成に,プリズム境界面と光電センサの間に配置されたフィルター手段に係る構10 成を付加したものである。(甲2)(2) 本件明細書等の記載本件明細書等の発明の詳細な説明や本件図面には次の記載がある。(甲2)ア 技術分野「この発明は,溶液中の糖度や濃度の測定に用いられる屈折計に関するも15 のである。」(段落【0001】)イ 背景技術「液中の糖度や濃度の測定に用いられる屈折計として,プリズムと試料との境界面に光を照射し,境界面で反射した光を光電センサにより検出し,光電センサの出力信号より試料の屈折率(糖度,濃度)を測定する屈折計が知20 られている。」(段落【0002】)「屈折計の測定原理は,プリズムと試料との境界面において全反射が起こる臨界角が試料の屈折率に依存することに由来する。従って,このような屈折計は,前記境界面における反射光のみが光電センサに入射することを前提とする。」(段落【0003】)25 「しかし,屈折計を使用する場所は室内とは限らない。例えば,果物や野菜の搾汁や自動車用の不凍液を試料とする場合,戸外で測定を行う方が便利41なことがある。この場合,時間的,空間的に変動する外光が,試料側からプリズムを透過し,内部光源からの反射光と共に光電センサに受光される。このため,戸外では屈折率を正確に測定することができないという問題があった。」(段落【0004】)5 ウ 発明が解決しようとする課題「本願発明の目的は,上記の問題点を解決するため,外光の影響を低減し,戸外においても精度良く屈折率を測定することができる屈折計を提供することである。」(段落【0006】)エ 課題を解決するための手段10 「この発明の屈折計は,試料との界面をなすプリズムの境界面に光源からの光を入射させ,前記プリズム境界面で反射された光を光電センサにより検出し,前記光電センサの出力信号から前記試料の屈折率を測定する屈折計であって,前記プリズム境界面と前記光電センサの間に配置されたフィルター手段を有し,前記フィルター手段は,光源からの光の波長を含む所定の波長15 域の光を選択的に透過させる波長フィルターを含む。 (段落」 【0007】)「前記波長フィルターは,光源からの光の波長より所定波長だけ長い波長から光電センサの検出波長の最大値までの波長域の光を選択的に遮断する第1のフィルターと,光源からの光の波長より所定波長だけ短い波長から光電センサの検出波20 長の最小値までの波長域の光を選択的に遮断する第2のフィルターと,を含んでもよい。」(段落【0008】)「前記フィルター手段は,直線偏光を選択的に通過させる偏光フィルターをさらに含むことが好ましい。」(段落【0009】)「前記フィルター手段は,前記波長フィルター及び前記偏光フィルターを25 層状に張り合わせることにより一体的に形成され得る。」(段落【0010】)「前記フィルター手段は,第1の面において前記プリズムに接着され,第422の面において前記光電センサに接着され得る。」(段落【0011】)「前記フィルター手段は,減光フィルターを含んでもよい。」(段落【0012】)オ 発明の効果5 「したがって,本願発明によれば,外光の影響を低減し,戸外においても精度良く屈折率を測定することが可能な屈折計を提供することができる。」(段落【0013】)カ 発明を実施するための形態「光電センサ28の各受光素子から受光量に応じた電気信号が出力され,10 この出力が演算手段(図示せず)に入力され,光量分布曲線が得られる。この演算手段では,この光量分布曲線に基づいて臨界角φc(n)に対応する臨界角点Pcが算定され,試料Sの屈折率nが求められる。より詳細には,以下の方法で臨界角点Pcが計算される。」(段落【0035】)「まず,臨界角点(臨界角に相当する光電センサ上の位置)Pcの算定に15 用いる光量分布曲線の範囲を決定する。この範囲は,光量分布曲線の微分値が最大となる位置(アドレス)の前後における所定数(例えば,30個)のデータに対応するアドレス範囲とする。或いは,屈折計10の屈折率の測定範囲が非常に限られている場合には,その屈折率の範囲に応じて予め決められた範囲としてもよい。」(段落【0036】)20 「次に,この範囲内におけるm個のデータを用いて,【数1】により,重心位置Pc’を算定する。式(1)において,Xiは各受光素子の位置(アドレス)を表し,IiはXiにおける受光量(V)を表す。式143から理解されるように,重心位置Pc’ 光量分布曲線の一次微分曲線は, (或いは一次差分曲線)の重心位置である。」(段落【0037】)「最後に,この重心位置Pc’に定数Cを加算し,臨界角点Pc(=Pc’+C)とする。定数Cは,屈折率が既知である試料を用いた実験により予め5 決定された値である。」(段落【0038】)「光量分布曲線が外光を多く含む場合,外光の時間的・空間的な変化に伴って,光量分布曲線及び一次微分曲線の透過領域側の形状が変化する。従って,重心位置Pc’が真の臨界角点に対して測定ごとに大きく変動し,正しい屈折率が求められない。」(段落【0039】)10 「一方,光量分布曲線が外光を含まない場合には,安定した重心位置Pc’を得ることが可能となる。」(段落【0040】)「従って,本願発明による屈折計の一実施形態によれば,前述の方法によって臨界角点Pcをより正確に求めることができ,屈折率を精度良く測定することができる。」(段落【0041】)15 「前記屈折計は,以下の効果を奏する。」(段落【0052】)「(1)戸外などの明るい場所においても,外光の影響を低減し,高精度に屈折率を測定することができる。
(2)製造が容易である。
(3)製造コストが安い。
20 (4)測定が簡単かつ能率的に行える。」(段落【0053】)(3) 本件発明の内容以上によると,本件発明は,@プリズムと試料との境界面に光を照射し,境界面で反射した光を光電センサにより検出し,光電センサの出力信号より試料の屈折率(糖度,濃度)を測定する屈折計に関するものであり,A臨界角点P25 cを式(1)及び式(2)により算出すること,すなわち,式(1)により光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心位置Pc’を求め,44これに屈折率が既知である試料を用いた実験により予め決定された値である定数Cを加算して臨界角点Pcを算出することにより,B臨界角点Pcをより正確に求めることができ,屈折率を精度良く測定することを可能にする発明であると認められる。
5 2 争点1(被告製品が構成要件Eを充足するか)について当裁判所は,被告製品が構成要件Eを充足すると判断するが,その理由は,以下のとおりである。
(1) 式(1)及び式(2)の技術的意義について本件特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,(@)式(1)及び式(2)10 は,それに基づき試料(S)の屈折率(n)を求めるための臨界角点(Pc)を算定するための式であり,両式を共に用いることにより臨界角点(Pc)が算出されること,(A)式(1)の分子は,1からmまでの受光素子につき,当該受光素子とその1つ隣の受光素子の受光量の差(Ii+1−Ii)に当該受光素子の位置(Xi)を乗じたものを加算したものであり,分母は,1からmまでの15 受光素子につき,当該受光素子とその1つ隣の受光素子の受光量の差を加算したものであること,(B)式(2)におけるCは屈折率が既知である試料を用いた実験により予め決定された定数であることが認められる。
そして,本件明細書等の記載を参酌するに,その段落【0037】〜【0041】によれば,(C)式(1)は,光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一20 次差分曲線)の重心位置Pc’を求める式であること,(D)光量分布曲線が外光を含まない場合には,式(1)により重心位置Pc’を安定的に算出し得ること,(E)式(2)によって,式(1)で求められた重心位置Pc’に定数Cを加算することで,臨界角点Pcを,より正確に求めることができるという技術的意義を有するものであることが認められる。
25 (2) 被告製品についてア 式(A)について45別紙被告製品説明書の記載によれば,被告製品は,受光素子によって受光量を計測し(S3),受光量を平均補正した(S4)後に,外部光の影響を除去する(S5)などの処理を経て光量分布曲線を確定してから,その傾きが最大となる受光素子(Xc)を特定した上で,下記の式(A)によりZnを5 演算する。ここで,Iiは,i番目の受光素子のS5による補正後の受光量であり,Icは,光量分布曲線の傾きが最大となる受光素子(Xc)の受光量であり,nは1〜13である。
{(Ic+n −Ic−n )×Xc+n }−(c+n)−1(Ii+1 −Ic−n )i=c−nZn = (A)Ic+n −Ic−n例えば,n=1とすると,式(A)は以下のようになる。
{(Ic+1 −Ic−1 )×Xc+1 }−(c+1)−1(Ii+1 −Ic−1 )i=c−110 Z1 = Ic+1 −Ic−1この分子の左側の式{(Ic+1 − Ic−1 ) × Xc+1 }は,光量分布曲線の傾きが最大となる受光素子Xcの1つ前と1つ後の受光素子の受光量の差にXcの1つ後の受光素子のアドレス値を乗じたものである。分子の右側の式(c+1)−1(Ii+1 − Ic−1 )は,i=c−1 (Ic−1+1−Ic−1) (Ic−1+1+1−Ic−1) (I+ =15 c−Ic−1) (Ic+1−Ic−1)と変形でき,Xcの受光量IcとXcの1つ前+の受光素子の受光量Ic−1との差と, cの1つ後の受光素子の受光量Ic+1XとXcの1つ前の受光素子の受光量Ic−1との差を合計したものである。また,この分母の式は,Xcの1つ後の受光素子の受光量Ic+1とXcの1つ前の受光素子の受光量Ic−1との差である。
20 また,n=2とすると,式(A)は以下のようになる。
{(Ic+2 −Ic−2 )×Xc+2 }−(c+2)−1(Ii+1 −Ic−2 )i=c−2Z2 = Ic+2 −Ic−2この分子の左側の式{(Ic+2 − Ic−2 ) × Xc+2 }は,光量分布曲線の傾きが最大となる受光素子Xcの2つ前と2つ後の受光素子の受光量の差にXcの2つ後46の受光素子のアドレス値を乗じたものである。分子の右側の式(c+2)−1(Ii+1 − Ic−2 )は,i=c−2 (Ic−2+1−Ic−2) (Ic−2+1+1−Ic−2) (I+ +c−2+1+1+1 −Ic−2)=(Ic−1−Ic−2)+(Ic−Ic−2)+(Ic+1−Ic−2 )と変形でき,Xcの1つ前の受光素子の受光量Ic−1とXcの2つ前の5 受光素子の受光量Ic−2との差と,Xcの受光量IcとXcの2つ前の受光素子の受光量Ic−2との差と,Xcの1つ後の受光素子の受光量Ic+1とXcの2つ前の受光素子の受光量Ic−2との差を合計したものである。また,この分母の式は,Xcの2つ後の受光素子の受光量Ic+2とXcの2つ前の受光素子の受光量Ic−2との差である。
10 そして,被告製品の動作フローについての説明書である乙1の1の「1−3.測定モード(臨界角点計算)」(6枚目)には,式(A)に関し,「各セル値の差と面積計算」と記載され,同部分に関する参考資料(乙9)中の「Note_Photos/20171023_040818.jpg」には,n=2の場合の式(A)の意味を示唆する図等が記載されている。すなわち,そこには,?{( ? ? − ?0 ) × ? ? } − ?=0( ??+1 − ?0 )15 Bp =? ? − ?0との数式が記載されているが,これは, (A)式 のIをYに,c+nをnに,c−nを0にそれぞれ置き換えたものにほぼ等しく,異なるのは,そのように置き換えると分子の右側の式が ?−1 ?=0 となるところが ? ?=0となっている点のみである。そして,受光素子のアドレスを横軸に,受光量20 を縦軸にとった光量分布曲線において,傾きが最大となる受光素子(アドレス18)の2つ後の受光素子(アドレス20)と2つ前の受光素子(アドレス16)の受光量の差433(=1586−1153)にアドレス20を乗じる(分子の左側の式{(Ic+2 − Ic−2 ) × Xc+2 }の計算をする)と8660(=433×20)となることや,これが上記受光量の差(433)を縦軸に,ア25 ドレス値(20)を横軸にとった長方形の面積に当たることを示す図が記載47されているほか,分子の意味(分子左側の式の値から同右側の式の値を控除する意味) 上記長方形の面積から,が, @アドレス17の受光量(1257)とアドレス16の受光量(1153)の差(104)を縦軸に,そのアドレスの差1(=17−16)を横軸に取った長方形の面積,Aアドレス18の5 受光量(1373)とアドレス16の受光量(1153)の差(220)を縦軸に,アドレス18とアドレス17の差1(=18−17)を横軸に取った長方形の面積,Bアドレス19の受光量(1489)とアドレス16の受光量(1153)の差(556)を縦軸に,アドレス19とアドレス18の差1(=19−18)を横軸に取った長方形の面積,Cアドレス20の受光10 量(1586)とアドレス16の受光量(1153)の差(433)を縦軸に,アドレス20とアドレス19の差1(=20−19)を横軸に取った長方形の面積を控除したものであることを示唆する図等が記載されている(なお,式(A)では,分子の右側の式に関する上記の差異により,@〜Bの長方形の面積のみを控除することになる。)。また,上記控除後の面積を,縦15 軸の値(アドレス20とアドレス16の受光量の差である433)で除しているのであるから,これは,上記控除後の面積の重心位置(横軸であるアドレス値)を求めているものと考えられる。
さらに,式(A)において,c+nをmに,c−nを1にそれぞれ置き換えると,以下のとおり,式(1)’と等しくなる。
{(Im −I1 )×Xm }−(m−1)(Ii+1 −I1 )i=120Im −I1一方,式(1)は以下のとおりである。
そして,式(1)と式(1)’は,それぞれ次のとおり変形することがで48きる。
式(1) 式(1)’5両式の違いは,式(1)の方が式(1)’よりもmが1つ多いことであるが,mは,計算に用いる受光素子の数であるから,任意の自然数を設定することができる。それゆえ,式(1)’の「m−1」を「m」に置き換え得るものであるから,両式は,実質的に同一の計算式であるといえる。
10 そして,式(1)’は,式(A)における「c+n」を「m」に,「c−n」を「1」にそれぞれ置換したものであるから,式(1)と式(A)も,実質的に同一の計算式であるということができる。
そうすると,式(A)は,式(1)と同様に,光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心位置を求める式であると認められる。
15 したがって,式(A)は,式(1)を充足する。
イ 式(B)について式(B)は,以下のとおりである。
13 (Zn +(Zn ?Xc ))n=1Pk = (B)13式(B)は,式(A)により算出されたZnにZnとXc(光量分布曲線の20 傾きが最大となる受光素子の位置)との差を加算した上で,その平均を算出するものであり,kの数値は試行回数を意味するところ,被告は,被告製品においては,このような試行を5回繰り返し,その平均値から臨界角点Pcを算出していることに加え,ZnにZnとXc(光量分布曲線の傾きが最大となる受光素子の位置)との差を加算しているので,被告製品は構成要件Eを25 充足しないと主張する。
49しかし,前記判示のとおり,式(A)は,式(1)と同様に,光量分布曲線の一次微分曲線の重心位置を求める式であると認められるところ, (B)式において,試行を繰り返し行って平均値を算出することについては,構成要件充足性に影響を及ぼすものではない。
5 また,式(B)の分子の(Zn+(Zn−Xc))につきみるに,証拠(乙13)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品と同一構造の同等品を用いて純水に砂糖を溶かし,約20℃に温度調整したものの被告による計測結果は,以下の表及び図1のとおりである。
(1) (2) (3) (4) (5)Average(n=1-13)Brix(%)Xc Zn Zn-Xc Pk0.00 18 17.146 -0.854 16.29110.01 30 28.897 -1.103 27.79420.07 43 41.848 -1.152 40.69630.06 57 56.092 -0.908 55.18440.09 74 72.935 -1.065 71.87050.06 93 92.084 -0.916 91.16850上記グラフにおけるZn(青線)とPk(赤線)の線形性にほぼ差異はない上,ZnとXcの差(Zn−Xc)のZnの値に対する比率((Zn−Xc)/Zn)は,Brix値が0%のとき約4.98%,10%のとき約3.82%,5 20%のとき約2.75%,30%のとき約1.62%,40%のとき約1.46%,50%のとき約0.99%であって,ZnとXcの値の差は全体的にかなり小さく, n≒Xcと評価しるものであって,Z そうすると, (B)式 は,重心であるZnの平均値を出しているにすぎないというべきである。
また,式(B)の分子の式(Zn+(Zn−Xc))については,@Xc値>10 Zn値の場合,AXc値=Zn値の場合,BZn値>Xc値の場合があり得るが,Aの場合にはPkの値は重心位置と一致する上,上記計測結果のような@の場合又はBの場合に,式(B)により算出されるPkの値(被告の主張によれば臨界角点)が理論上の臨界角点により近似することの合理的な説明はなされておらず,そのことを示す的確な証拠もない。そうすると,式(B)が臨51界角点を求めるものとしての技術的意義を有すると認めることはできず,むしろ,前記のとおり,ZnとXcの値の差は全体的にかなり小さく,Zn≒Xc と評価し得るものであることを踏まえると,式(B)は重心であるZnの平均値を出しているものというべきであり,さらに,被告製品において式(B)5 に基づき複数の試行を行っていることも,同製品が構成要件Eを充足するとの結論を左右しない。
ウ 式(C)について本件発明における式(2)は,「Pc=Pc’+C」というものであるところ,本件明細書等の段落【0035】〜【0038】,段落【0040】,10 【0041】によれば,定数Cは,重心位置Pc’に加算して臨界角点Pc(=Pc’+C)を求めるための定数であり,屈折率が既知である試料を用いた実験により予め決定された値であると認められる。そして,本件発明は,このように式(1)と式(2)を組み合わせることにより,臨界角点を直接求めるよりも,同点をより正確に求めることができるとの効果を奏するもの15 であると認められる。
他方,被告製品の用いている式(C)は,「ΔPc=PCT20−PC0」というものであるところ,被告製品説明書,証拠(甲7,8,乙1,9)及び弁論の全趣旨によれば,PCT20は,式(A)により得られたZn値を式(B)により調整したPk値(前記判示のとおり,重心であるZnの平均値)を,220 0℃の環境下での値に換算した値であるから,この値は,上記手順により調整された光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心位置のアドレス値(甲7 10頁における・ 「ゼロセット後 10%測定」 「Bary欄のT20」の値(30.146))であり,PC0は,20℃の環境下で濃度0%の水を用いて計測した重心位置のアドレス値(同頁における「水基準書き込み25 後 水」欄の「CAL OffSet」の値(18.54758))であること,また,水の屈折率は既知であるところ,被告製品の理論上の臨界角点のアドレス値52は18.50000であることが認められる。
そして,甲7によれば,被告製品は,@上記PCT20の値(上記「Bary T20」の値)を入力し,A「Bary T20」の値から「CAL OffSet」(水書き込みアドレス値)を差し引いた値を計算する,B上記Aの値をBrix値に換算し,5 「Saccharin T20」(Brix値)を算出する,Cゼロセットオフセット値を読み込む,D「Saccharin T20」(Brix値)から「ゼロセットオフ値」を差し引き,その結果を「Brix Value」(Brix値)として算出する, 「BrixEValue」(Brix値)を「Final Rfact」(屈折率)に換算するという順序でプログラムが実行されているものと認められる。
10 上記のプログラム実行過程のうちAの計算式は,試料の重心位置のアドレス値である「Bary T20」(PCT20)の値から水の重心位置のアドレス値である「CAL OffSet」(PC0)の値を差し引くものであり,試料の重心位置のアドレス値の原点を水の重心位置のアドレス値に改めるとの意味を有するものであるところ,このPC0値(18.54758)は理論値(水の理論上の15 臨界角点のアドレス値である18.50000)との差(0.04758)を含む値であるということができる。そうすると,上記Aの計算式は,試料の重心位置のアドレス値から水の重心位置のアドレス値を直接差し引くものであるが,実質的には,PCT20及びPC0の双方から水の臨界角点の理論値(18.50000)を控除していったん同理論値を原点とする試料の重20 心位置と水の重心位置の各アドレス値を算出し,さらに前者から上記差の値(0.04758)を調整しているに等しく,試料の重心位置のアドレス値に,屈折率が既知である水を用いた実験により予め決定された定数(−0.04758)を加算する計算をしているのと同義であるということができる。
したがって,式(C)は,式(2)を充足する。
25 (3) 被告の主張についてア 被告は,式(1)と式(A)が形式的に異なっているから,被告製品は構53成要件Eを文言充足しないと主張する。
しかし,式(1)は,光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心位置Pc’を求めるものであって,式(A)と技術的思想を同じくするものであり,かつ,式(A)は式(1)に変形し得るものであって,5 当業者であれば,式(A)と式(1)が実質的に同一の式であると認識し得るというべきである。
そうすると,式(1)の技術的範囲は式(A)を包含するものと認めるのが相当である。
イ 被告は,被告製品におけるZnは13回算出され,更にPkを5回算出して10 臨界角点Pcを算出しているのに対し,本件発明は,重心位置Pc’を1回算出し,これに定数Cを加えてPcを算出しているのであるから,技術的思想が異なると主張する。
しかし,Znが重心位置を求める式であると認められるのは前記のとおりであり,これを13回にわたり求めて,平均値を算出するといった手法は当15 業者が容易に採用し得る技術常識に属するものと解される。また,前記のとおり,式(B)が臨界角点を求めるものとしての技術的意義を有すると認めることはできず,むしろ,重心であるZnの平均値を出しているものというべきであることは前記判示のとおりであるから,本件発明と被告製品の技術的思想が異なるということもできないというべきである。
20 ウ 被告は, C0はΔPcを算出するための基準数値にすぎないから定数CにP対応する概念ではなく,ΔPcも本件発明の式(2)のPcに対応する概念ではなく,フェーズが異なるなどと主張する。
しかし,ΔPcを算出する式(PCT20−PC0)が有する意義は前記のとおりであって,被告製品においても試料の重心位置につき差分を調整すること25 で臨界角点を求めている点で本件発明と変わりがないから, (C) (2)式 が式と実質的に異なるということはできない。
54エ 被告は,本件発明における式(2)に関し,Pc’は特定の装置における測定値ベースの臨界角点であり,定数Cは当該装置毎の個体差を較正する値にすぎないなどと主張する。
しかし,前記のとおり,式(1)により得られるPc’は光量分布曲線の5 一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心位置であるから,臨界角点とは異なるものであって,本件発明がこれに定数Cを加えることで臨界角点を求めるものであることは,前記判示のとおりである。
(4) 以上のとおり,被告製品は構成要件Eを充足し,また,被告製品が構成要件A〜D及びFを充足することは前記前提事実(3)ウのとおりであるから,被告10 製品は,本件発明の技術的範囲に属する。
3 争点2−1(乙2発明に基づく進歩性欠如)について(1) 乙2発明の内容ア 乙2公報は,発明の名称を「屈折率測定方法及びその装置」とする公開特許公報であり,その特許請求の範囲並びに明細書の発明の詳細な説明及び図15 面には,以下の記載がある。(乙2)(ア) 特許請求の範囲「全反射法による屈折率測定方法において,試料境界面(6)からの反射光を受光する光検出装置(3)により検出された光量分布曲線(8a)をこの光量分布曲線(8a)に対応する理論光量分布曲線(8b)で補間して臨界点(Pc)20 を検出することを特徴とする屈折率測定方法。」(請求項1)(イ) 発明が解決しようとする課題「上記CCDラインセンサ115を用いた光検出装置105では,測定精度はCCDラインセンサ115を構成する受光素子の配置密度すなわちCCDラインセンサ115の分解能に依存する。すなわち,図6に示す25 ように例え理想的な受光曲線が得られたとしても,CCDラインセンサ115の受光素子が臨界点の位置にあるとは限らない。従って,臨界点とし55ては臨界点に最も近い素子P1,P2の中のいずれかの位置(アドレス)を取らざるを得ないので,精度が悪くなることは必然であ5 る。」(段落【0006】)「更に,上記のように面積のある光源を用いると,レンズ位置を調整しても全領域に渡ってピントが合うことはない。したがっ10 て,図7の光量分布曲線8aに示すように,実際には臨界点Pcの近傍での光検出装置105の出力変化が鈍くなり,正確に臨界点Pcを求められなくな15 る。」(段落【0007】)「本発明は,上記の事情を鑑みてなされたものであり,簡単に,かつ,安価に,広範な測定範囲にわたって正確に臨界点を検出できるようにした屈折率測定方法及びその装置を提供することを目的とする。」(段落【0009】)20 (ウ) 実施例56「図2は本発明の方法の概念図を示すものであり,図3は上記方法を実施する装置を示すものである。」(段落【0015 6】,判決注:明白な誤記を修正した。)「図3の構成図に示すように,本発明の一実施例に係る屈折率測定装置は,直角プリズム1,10 光源2,CCDラインセンサ15を備えた光検出装置3,演算手段4及び出力手段としてのCRT5を備え,光源2から上記プリズム1の一辺の面6に向かって光線を15 入射させ,該面6とこの面6に接する試料7との境界面,すなわち,面6からの反射光を光検出装置3に受光させ,光電変換して演算手段4に入力し,記憶手段9に光量20 分布曲線8aのCCDラインセンサ15の各素子に対応する位置(アドレス)の光量が記憶される。」(段落【0017】)「上記構成において,CCDラインセンサ15の長手方向中央位置がレンズ16の光軸位置に,かつ上記CCDラインセンサ15とレンズ16の光軸が直角である場合であって,かつ,試料7を空気とした場合を想定す25 ると,図2に破線で示すようにCCDラインセンサ15上の中心位置で最も受光強度が大きく(光の入射角度がCCDラインセンサに対して直角),57CCDラインセンサ15の両端部に向う程受光強度が小さい(光の入射角度がCCDラインセンサ15の両端程直角より小さくなる),いわゆるシェーデングを持った曲線8cとなる。また,CCDラインセンサ15を構成する各素子には感度のばら付きがある。従って,境界面に試料を載せた5 としても,上記一点鎖線で示すような光量分布曲線8dとなり,このままの状態では正確な臨界点Pcを得ることができない。そこで,光検出装置3より得られた信号に対して補正をかけることが必要になる。 (段落」 【0018】)「すなわち,演算手段4の正規化演算手段41では上記曲線8cの受光10 量を分母とし,実際の受光光量(曲線8d)を分子として割り算を行うと,正規化された光量分布線8aを得ることができる。 (段落」 【0019】)「上記のようにして得られた光量分布曲線8aは,図2に示すように理論曲線8bと臨界点Pc付近を除いてよく一致する。そこで,記憶手段9には予め理論曲線8bを収納しておき,演算手段4の補間演算手段43で15 上記光量分布曲線8aの両端部(理論曲線8bと一致する部分)と理論曲線8bとが一致するように演算(両曲線8a,8bの差が最小になるように両曲線を重ねあわせる)する。臨界点Pc付近ではこの方法でも両曲線8a,8bは一致しないが,この部分は上記したようにCCDラインセンサ15の分解能の影響と,収差の影響が光量分布曲線8aの側に現れてい20 るとみなすことができるので,理論曲線8bの値を採用する。これによって,光量分布曲線8aが理論光量分布曲線8bによって補間され,理論光量分布曲線8bの臨界点Pcを読み取ることができる。」(段落【0020】)「以上のように構成及び操作するようにすると,CCDラインセンサ125 5の分解能にかかわらず,臨界点Pcを精度よく求めることができ,また光量分布曲線8aの臨界点Pc付近の鈍りが多少大きくても正確な臨界58点Pcを求めることができる。」(段落【0021】)イ 乙2発明の内容前記アによれば,乙2発明の内容は,次のとおりと認めることができる。
a 試料7との界面をなす境界面6を有するプリズム1と,5 b 直角プリズム1の境界面に光を入射させる光源2と,c プリズム境界面6で反射された光を検出する,複数の受光素子を有するCCDラインセンサ15と,d CCDラインセンサ15の各受光素子の受光量から得られる光量分布曲線に基づいて,臨界角(φc)に対応するCCDライセンサ15上10 の位置である臨界点Pcを算定し,臨界点Pcに基づいて試料7の屈折率を求める演算手段4と,を備え,e’臨界点Pcを,光検出装置により検出された光量分布曲線をこの光量分布曲線に対応する理論光量分布曲線で補間して検出する,f 屈折率測定装置。
15 (2) 本件発明と乙2発明の対比ア 対比乙2発明の試料7,境界面6,直角プリズム1,光源2,CCDラインセンサ15,臨界点Pc,演算手段4及び屈折率測定装置は,それぞれ本件発明の試料(S),境界面(18),プリズム(16),光源(24),光電20 センサ(28),臨界角点(Pc),演算手段及び屈折計に相当する。
そうすると,本件発明と乙2発明の一致点と相違点は,それぞれ以下のイ及びウのとおりとなる。
イ 一致点試料との界面をなす境界面を有するプリズムと,前記プリズムの境界面に25 光を入射させる光源と,前記プリズム境界面で反射された光を検出する,複数の受光素子を有する光電センサと,前記光電センサの各受光素子の受光量59から得られる光量分布曲線に基づいて,臨界角(φc)に対応する光電センサ上の位置である臨界角点(Pc)を算定し,臨界角点(Pc)に基づいて試料の屈折率を求める演算手段と,を備える屈折計である点(構成要件A〜D,F)5 ウ 相違点(以下「本件相違点」という。)本件発明は,臨界角点(Pc)を式(1)及び式(2)により算定するのに対し,乙2発明は,臨界角点(Pc)を,光検出装置により検出された光量分布曲線をこの光量分布曲線に対応する理論光量分布曲線で補間して検出する点10 (3) 本件相違点の想到容易性について被告は,乙2発明と被告主張の乙3発明は技術分野が関連し,光量分布曲線の臨界角点,すなわちエッジ位置(明暗の境界)を正確に検出するという共通の課題を有するから,乙2発明に被告主張の乙3発明を組み合わせて式(1)に想到するのは当業者にとって容易であると主張する。
15 ア そこで検討するに,乙2発明は前記のとおり,光電センサの各受光素子の受光量から得られる光量分布曲線に基づいて,臨界角に対応する光電センサ上の位置を算定し,これに基づき試料の屈折率を求める屈折計に関する発明であり,「正確に臨界点を検出できるように」(乙2公報の段落【0009】)する点で本件発明と目的を共通にするものである。
20 しかし,乙2発明は,「試料境界面(6)からの反射光を受光する光検出装置(3)により検出された光量分布曲線(8a)をこの光量分布曲線(8a)に対応する理論光量分布曲線(8b)で補間」(乙2公報の特許請求の範囲請求項1)することにより,臨界角点を直接的に求めようとするものであり,乙2公報の明細書等には,臨界角点を求めるために光量分布曲線の一次微分曲線(ある25 いは一次差分曲線)の重心位置を利用することについての記載も示唆もなく,これが技術常識であると認めるに足りる証拠はない。
60他方,乙3発明は,物体に光源からの光を照射し,その透過光又は反射光の光量分布を測定することにより,物体の寸法,物体間の間隔,物体の位置,物体の形状等を測定する光学測定装置に関する発明であり(乙3公報の特許請求の範囲請求項1,段落【0001】,【0002】),受光量分布RD5 (光量分布曲線)の最大レベルと最小レベルとの間にしきい値THを設定し,RDとTHとの交点を概略エッジ位置として求めた上で,当該概略エッジ位置を含む所定範囲内の重心位置を詳細エッジ位置として算出するものであると認められる(同公報の段落【0058】〜【0060】,【0066】,【図10】)。
10 このように,乙3発明は,物体の位置,形状等を測定するための光学測定装置に関する発明であり,重心位置を算出することは記載されているものの,その目的は対象測定物のエッジ位置を正確に算出することにあり,臨界角点の検出に光量分布曲線の一次微分曲線の重心位置を利用しようとするものではないから,乙2発明とはその課題や技術分野を異にするというべきであ15 る。
以上のとおり,乙2発明は,直接的に臨界角点を求めることを課題とするものであり,臨界角点以外の他の位置を求めた上で正しい値に調整することは示唆されていない上,乙3発明は,乙2発明とは異なる装置に関する発明であり,臨界角点の検出に光量分布曲線の一次微分曲線の重心位置を利用す20 ることは全く示唆されていないことに照らすと,乙2発明に乙3公報の記載内容を組み合わせる動機付けを欠くというべきである。
イ また,乙2公報及び乙3公報には,臨界角点を求めるために重心位置を求めた上で,定数Cを加算するという式(2)についての開示又は示唆も存在しない。
25 この点,被告は,式(2)は較正のための式にすぎず,計測機器の使用に際して較正を行うことは,本件発明の出願当時,計測機器の分野における周61知の技術であったと主張する。
しかし,本件発明は,式(1)により光量分布曲線の一次微分曲線の重心位置Pc’を求めた上で,式(2)により式(1)で求められた重心位置Pc’に定数Cを加算することで,臨界角点Pcをより正確に求めることがで5 きるという技術的意義を有するものであることは前記判示のとおりであり,式(2)が単に較正のための式にすぎないとの被告の主張は採用し得ず,重心位置に定数Cを加算することで臨界角点をより正確に求めることができることが本件特許出願当時の技術常識であったと認めるに足りる証拠もない。
10 そうすると,乙2公報及び乙3公報には式(2)についての開示又は示唆も存在しない以上,乙2発明に乙3発明を組み合わせたとしても,本件相違点に係る構成には至らないというべきである。
ウ したがって,当業者が乙2発明,乙3発明等に基づき,本件相違点に係る構成を容易に想到し得たということはできず,本件発明が進歩性を欠如して15 いるとの被告の主張は理由がない。
4 争点2−2(サポート要件違反)について(1) 被告は,本件特許の特許請求の範囲の記載が,サポート要件に違反すると主張するところ,同要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細20 な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである(知的財産高裁平成17年11月11日判決・判例タイムズ1192号164頁参25 照)。
そこで検討するに,本件特許請求の範囲の請求項1の記載は前記前提事実62(2)イのとおりであるところ,本件明細書等の発明の詳細な説明には,従来技術として,プリズムと試料との境界面に光を照射し,境界面で反射した光を光電センサにより検出し,光電センサの出力信号により試料の屈折率を測定する屈折計が知られており,その測定原理は,プリズムと試料との境界面において5 全反射が起こる臨界角が試料の屈折率に依存することに由来すること(段落【0002】,【0003】),実施例として,@試料Sとの界面をなすプリズム境界面18を有するプリズム16(段落【0015】,【0032】),Aプリズム境界面へ光を入射させる光源24(段落【0017】 0018】 ,,【 )Bプリズム境界面で反射された光を検出する複数の受光素子を有する光電セ10 ンサ28(段落【0016】,【0019】),C光電センサ28の各受光素子から出力される受光量に応じた電気信号から得られる光量分布曲線に基づいて,臨界角φc(n)に対応する臨界角点Pcを算定し,試料Sの屈折率nを求める演算手段とを備え(段落【0035】),D臨界角点Pcは,まず,光量分布曲線の微分値が最大となる位置(アドレス)の前後における所定数の15 データに対応するアドレス範囲として光量分布曲線の範囲を決定し,この範囲内におけるm個のデータを用いて,式(1)により,光量分布曲線の一次微分曲線(あるいは一次差分曲線)の重心位置Pc’を算定するが,ここでXiは各受光素子の位置(アドレス)を表し,IiはXiにおける受光量(V)を表しており,最後に,重心位置Pc’に,屈折率が既知である試料を用いた実験20 により予め決定された値である定数Cを加算する計算(Pc=Pc’+C)を行い臨界角点Pcを求める屈折計(段落【0035】〜【0038】)が記載されているほか,かかる実施例によれば,安定した重心位置Pc’を得ることが可能となって,臨界角点Pcをより正確に求めることができ,屈折率を精度良く測定することができること(段落【0039】〜【0041】)が記載さ25 れている。
これによれば,本件発明に係る請求項1の技術的事項は全て本件明細書等の63発明の詳細な説明に記載されているものと認められる。
(2) これに対し,被告は,本件発明の目的は,外光の影響を低減し,戸外においても精度良く屈折率を測定することができる屈折計を提供することであり,これをフィルター手段により解決するものとされているのに,本件発明には当該5 課題を解決する手段が反映されていないことを理由として,本件特許はサポート要件に違反すると主張する。
この点について,確かに,被告の指摘するとおり,本件明細書等の段落【0006】等には,外光の影響を低減し,戸外においても精度良く屈折率を測定することができる屈折計を提供することが発明の目的である旨の記載がある10 が,他方で,同明細書等の段落【0053】には,製造の容易性,製造コストの低廉化,測定の簡単かつ能率的な実施などの効果も記載されていることに照らすと,本件発明の目的は,外光の影響を低減し,戸外においても精度良く屈折率を測定することに限定されるものではなく,従来の技術より精度良く屈折率を測定することができる構成を備えた屈折計を提供することを含むと理解15 することが相当である。上記のとおり,本件発明は,重心位置Pc’に,屈折率が既知である試料を用いた実験により予め決定された値である定数Cを加算するという計算式を用いることにより,臨界角点Pcをより正確に求め,屈折率を精度良く測定することを可能にするものであり,本件発明に係る構成(特に構成要件E)を備えることにより,屈折率を精度良く測定するという課20 題を解決し得るものというべきである。
したがって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから,本件発明に係る特許発明の記載がサポート要件に違反するものとは認められない。
25 5 争点2−3(分割要件違反に伴う新規性欠如)について被告は,本件原出願当初明細書等には,「前記プリズム境界面と前記光電セン64サの間に配置されたフィルター手段を有し,前記フィルター手段は,光源からの光の波長を含む所定の波長域の光を選択的に透過させる波長フィルターを含む」という構成要件を欠く本件発明についての記載がなく,フィルター手段30を備えていない屈折計の開示もないから,本件出願は,特許法44条1項の「二以上5 の発明を包含する特許出願」から分割した「新たな出願」に該当しない不適法なものであると主張する。
しかしながら,証拠(乙5)によれば,本件原出願当初明細書等は,本件明細書等とほぼ同内容のものであって,わずかに段落の分け方や記載位置に違いがあるにすぎず,本件原出願当初明細書等においても,前記4(1)記載の本件明細書10 における発明の詳細な説明の記載事項と同内容が記載されていることが認められるから(本件原出願当初明細書の発明の詳細な説明の段落【0002】,【0003】,【0013】〜【0017】,【0030】,【0033】〜【0040】),本件原出願当初明細書には本件発明が記載されていたと認められる。
被告は,フィルター手段30を備えていない屈折計が開示されていないと主張15 するが,上記のとおり,本件原出願当初明細書等に本件発明の各構成要件が記載されている以上,分割要件違反があるとは認めることはできない。
6 争点3(原告の損害額)について(1) 特許法102条2項に基づく損害額についてア 被告は,@平成28年9月9日から平成30年2月9日までの間に被告製20 品を137個販売し,Aその売上総額は204万4164円であり,B被告製品1個当たりの製造原価は1万0249円であるが,C特許法102条2項所定の被告の利益額を算出するに当たっては,Bに加えて配送費合計1600円を控除すべきと主張するところ,@,B及びCについては,当事者間に争いがなく,証拠(乙10〜12)によれば,Aの事実を認めることがで25 きる。
そうすると,原告の損害額は,特許法102条2項に基づき,63万846551円(=204万4164円−(137個×1万0249円+1600円))と推定される。被告がこれを超える利益を得たことを認めるに足りる証拠はない。
イ 被告は,寄与率を考慮すべきと主張する。しかし,本件発明は,屈折率を5 測定するための臨界角点の算定という,屈折計の本質的ないし根幹的技術に関するものであって,その可分的な一部に関するものではないから,本件で寄与率を考慮すべきとは認められない。被告主張の諸事情は,この結論を左右しない。
(2) 弁護士・弁理士費用について10 本件事案の難易,請求額及び認容額等の諸般の事情を考慮すると,被告の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金として6万円を認めるのが相当である。
(3) 遅延損害金について原告は,平成29年9月15日に本訴を提起した際,平成28年7月から提15 訴日までの損害賠償金及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求していたところ,証拠(乙10)によれば,@平成28年9月9日から平成29年9月15日までの売上個数は102個,売上総額は150万7112円,運送費は800円であり,A平成29年9月16日から平成30年2月9日までの売上個数は35個,売上総額は53万70520 2円,運送費は800円と認められるから,@の期間の被告の利益額(原告の損害額)は,46万0914円(=150万7112円−(102個×1万0249円+800円)),Aの期間のそれは,17万7537円(=53万7052円―(35個×1万0249円+800円))となる。
したがって,遅延損害金の起算日は,@については訴状送達の日の翌日であ25 る平成29年9月22日,Aについては第2回口頭弁論期日である平成31年2月27日とするのが相当である。なお,弁護士・弁理士費用相当損害金につ66いては,当初から請求していたことにも照らし,@と同様とする。
7 まとめ以上のとおり,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属するから,特許法100条 1 項に基づき被告製品の輸入,使用,譲渡,貸渡し及び譲渡等の申出の差止5 めを求め,同条2項に基づき被告製品の廃棄を求める原告の請求は理由がある。
また,原告の民法709条及び特許法102条2項に基づく損害賠償請求は,69万8451円及びうち52万0914円に対する不法行為の後の日であり訴状送達の日の翌日である平成29年9月22日から,うち17万7537円に対する不法行為の後の日である平成31年2月27日から各支払済みまで民法10 所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが,その余は理由がない。
よって,原告の請求を上記の限度で認容し,その余は棄却することとして,主文のとおり判決する。
15 東京地方裁判所民事第40部裁判長裁判官20 佐 藤 達 文裁判官25 三 井 大 有67裁判官? 野 俊 太 郎68別紙被告製品目録「コンパクト糖度計」5 型番:ASRE1000品番:3−6449−0169別紙被告製品説明書1 全体のフローについて5 被告製品(コンパクト糖度計 商品名「ASRE1000」)によって試料の糖度を計測する全体的なフローを次頁の図1に示す。
試料がプリズム上の界面に滴下され,計測開始の操作が行われると,S1〜S12の処理が実行される。
1015202570【図1】71S1およびS2は,変数kを設定する処理である。
kは,後述するように,臨界角点Pcを算出する前工程で算出するPkを特定するためのループ変数である。測定開始直後では,S1およびS2を経て,k=1に設定される。後述するように,S2〜S8は5回繰り返され,繰り返される毎にkは5 1増加する。
続いて,S3において,受光素子によって受光量を計測する。受光素子は128個設けられており,LED光源がONの状態における受光量と,LED光源がOFFの状態における受光量とを,非常に短時間で計測する。
さらに,S4において,各受光素子の受光量を平均補正する。具体的には,ある10 受光素子の受光量を,当該受光素子とこれに隣接する4つの受光素子の受光量の平均に補正する。
例えば,i番目の受光素子の補正前の受光量をIi_aとし,補正後の受光量をI_bとすると,iIi_b=(Ii−2_a+Ii−1_a+Ii_a+Ii+1_a+Ii+2_a)/515 となる。
この演算を,LED光源ON時の受光量およびLED光源OFF時の受光量のそれぞれについて行う。また,同様の演算を,受光素子アレイの両端各2個の受光素子(すなわち1,2,127および128番目の受光素子)を除く全ての受光素子について行う。以下の説明では,S5において補正されたIi_bをIiとする。
20 その後,S5において,外光の影響を除去する処理を行う。この処理では,各受光素子において,LED光源ON時の受光量からLED光源OFF時の受光量を差し引く。
続いて,S6において,各受光素子の誤差を補正する。これにより,光量分布曲線が確定する。
25 続いて,S7において,光量分布曲線の傾きが最大となる受光素子を特定する。
722 Pkの演算続いて,S8において,Pkを演算する。
例えば,初めてS8を行う場合はk=1であるため, 1を演算することとなる。
PS8の詳細なフローを下記の図2に示す。S8は,S81〜S85を有する。
5【図2】S81およびS82は,変数nを設定する処理である。nは,後述する値Z nを10 特定するためのループ変数であり,S81およびS82を初めて行う場合,n=1に設定される。後述するように,S82〜S83は13回繰り返され,繰り返される毎にnは1増加する。
73続いて,S83において,Znを演算する。Znは以下の式(A)によって求められる。
{(Ic+n −Ic−n )×Xc+n }−(c+n)−1(Ii+1 −Ic−n )i=c−nZn = (A)Ic+n −Ic−n5Xcは,光量分布曲線の傾きが最大となる受光素子の位置であり,S7において特定されたものである。Icは,光量分布曲線の傾きが最大となる受光素子の受光量である。式(A)の右辺において,「c+n」→「m」,「c−n」→「1」のように置き換えると,以下の式(1)’の右辺となる。
10初めてS83を行う場合はn=1であるため,I c−1〜Ic+1の3つの受光素子について式(A)を演算し,Z1を求める。
続いて,S84において,変数nが12以下であるか否かを判断する。nが1215 以下である場合,S82に戻り,nを1増加してS83を再度行う。この場合n=2であるため,Ic−2〜Ic+2の5つの受光素子について,式(A)を演算し,Z2を求める。このようにして,S82〜S83が計13回繰り返されてZ1〜Z13が求められ,S85に移行する。
20 S85では,Z1〜Z13からPkを演算する。Pkは以下の式(B)によって求められる。
13 (Zn +(Zn ?Xc ))n=1Pk = (B)1374例えばS8を初めて行う場合はk=1であるため,P1が求められる。
以上のS81〜S85が行われると,S8が終了する。
5 3 臨界角点Pcの演算再び,図1のフローを参照する。S8においてPkが算出されると,S9では,変数kが4以下であるか否かを判断する。kが4以下である場合はS2に戻り,kを1増加してS3〜S8を再度行う。これにより,k=5になるまでS2〜S8が5回繰り返され,P1〜P5が得られる。
10 その後,S10において,P1〜P5の平均を臨界角点Pcとして算出する。
4 糖度の演算続いてS11において,臨界角点Pcから糖度を演算し,S12において,糖度をディスプレイに表示する。
15 S11の詳細なフローを次頁の図3に示す。S11は,S111〜S114を有する。
75【図3】S111では,臨界角点Pcに対し温度補正を行う(Temp Compensation)。具体5 的には,20℃の環境下であるとした場合の臨界角点PCT20を,計測時の屈折計の温度から演算する。なお,図3では省略しているが,Air Cal Scan Dataを用いて受光素子のレベル調整も行う。
S11 2で は, 補正された 臨界角点 P C T 2 0 に対しゼロ 調整を行う ( Zero10 Calculation) 具体的には,。 あらかじめ20℃の環境下で濃度0%の水を用いて臨界角点Pc0を計測しておき,PCT20とPC0との差ΔPcを求める。
S113では,ΔPcからBrix値を演算する(Data Linearity Calculation)。
ΔPcとBrix値との相関関係はほぼ線形であり,この相関関係を示すデータは15 メモリに記憶されている。このデータを参照することにより,ΔPcからBrix76値を求めることができる。
S114では,Brix値の校正を行う。S113において得られたBrix値は濃度による誤差があるため,標準資料を用いてBrix値を校正し,校正された5 Brix値が糖度として表示される。
なお,S114における校正対象はBrix値であるため,S114は臨界角点を校正する工程ではない。また,通常モードでは屈折率は算出されないが,テストモードでは,Brix値から屈折率を算出することもできる。
以上1077
事実及び理由
全容
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