関連審決 |
不服2018-174 不服2018-1746 |
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事件 |
平成
31年
(行ケ)
10012号
審決取消請求事件
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原告住友建機株式会社 訴訟代理人弁理士 伊東忠重 同 山口昭則 同 新川圭二 同 大貫進介 同 礒部公志 同 川村雅弘 同 横山淳一 同 伊東忠彦 被告特許庁長官 指定代理人須永聡 同 森次顕 同 樋口宗彦 同 秋田将行 同 豊田純一 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2019/09/18 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2018-1746号事件について平成30年12月19日 にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等 ? 原告は,平成25年9月26日,発明の名称を「ショベル,及びショベル 用管理装置」とする発明について特許出願(特願2013-199265号。 請求項の数10。以下「本願」という。甲6)をした。 原告は,本願について平成29年3月24日付けの拒絶理由通知(甲8) を受けたため,同年5月25日付けで,特許請求の範囲及び本願の願書に添 付した明細書(以下,図面を含めて「本願明細書」という。)について手続 補正(甲5。以下「本件補正」という。)をしたが,同年10月27日付け で拒絶査定(甲10)を受けた。 ? 原告は,平成30年2月7日,拒絶査定不服審判(不服2018-174 6号事件)を請求した(甲11)。 その後,特許庁は,同年12月19日,「本件審判の請求は,成り立たな い。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,平成31 年1月8日,原告に送達された。 ? 原告は,平成31年2月6日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起 した。 2 特許請求の範囲の記載 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである(以 下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。甲5)。 【請求項1】 運転者が操作して作業を行うショベルであって, 下部走行体と, 2 前記下部走行体に搭載された上部旋回体と, 前記上部旋回体に配置された内燃機関と, 前記内燃機関の動力により作動油を吐出する油圧ポンプと, 前記油圧ポンプが吐出する作動油により運転者のレバー操作に応じて駆動 する油圧アクチュエータと, 前記上部旋回体に備えられたキャビンと, 動作に関連する物理量を検出するセンサと, 前記キャビン内に設置され,規定動作の指示を運転者に対して表示する表示 部と, 運転者のレバー操作に応じた前記油圧アクチュエータによる前記規定動作 の実行中における前記センサからの検出値を前記規定動作と対応付けて記憶 する記憶部と, 前記規定動作と対応付けられた前記センサからの検出値を管理装置へ送信 する送信部と,を備えることを特徴とする, ショベル。 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。 その要旨は,本願発明は,本願前に頒布された刊行物である甲1(特開平 10-171523号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発 明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許 を受けることができないというものである。 (2) 本件審決が認定した甲1に記載された発明(以下「引用発明」という。 , ) 本願発明と引用発明の一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア 引用発明 「クローラを備えた下部走行体51と, 下部走行体51に旋回可能に設けられた上部旋回体52と, 3 上部旋回体52に配置されたエンジンと, 前記エンジンの動力により作動油を吐出する油圧ポンプと, 前記油圧ポンプが吐出する作動油によりオペレータのレバー操作に応じ て駆動する油圧アクチュエータと, 上部旋回体52に配置された運転室52aと 前記油圧ポンプの吐出圧,前記エンジンの回転数,前記油圧ポンプの傾 転角等を検出する各種センサと, を備える, オペレータにより操作が行われる作業機械である油圧ショベル50で あって, 保守を行うための所要の態様の操作である「ブーム上げ単独操作」,「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」,「走行の単独操作」等の操作指示をオペレータに対し表示する操作指示表示部320と,CPU311を有する機械側制御部31と,通信コントローラ36とを有し,運転室52aに設けられる機械側保守装置30を備え, CPU311を有する機械側制御部31は, 操作指示された前記所要の態様の操作に対応する操作内容指示コード,及び,その操作指示をみてオペレータが行う前記所要の態様の操作により所要のセンサからサンプリングされた前記油圧ポンプの吐出圧,前記エンジンの回転数,前記油圧ポンプの傾転角等のデータを記憶し, 記憶した前記操作内容指示コード,各センサのデータから,シリアル番号(データ群の番号)D1と,操作内容コードD2と,各センサのデータD4とが対応づけられたデータ群を作成し通信コントローラ36へ出力して,管理部側制御部21へ送信するものである,油圧ショベル50。」イ 本願発明と引用発明の一致点及び相違点 4 (一致点) 「運転者が操作して作業を行うショベルであって, 下部走行体と, 前記下部走行体に搭載された上部旋回体と, 前記上部旋回体に配置された内燃機関と, 前記内燃機関の動力により作動油を吐出する油圧ポンプと, 前記油圧ポンプが吐出する作動油により運転者のレバー操作に応じて駆 動する油圧アクチュエータと, 前記上部旋回体に備えられたキャビンと, 動作に関連する物理量を検出するセンサと, 前記キャビン内に設置され,規定動作の指示を運転者に対して表示する表 示部と, 運転者の操作に応じた前記油圧アクチュエータによる前記規定動作の実 行中における前記センサからの検出値を前記規定動作と対応付けて記憶す る記憶部と, 前記規定動作と対応付けられた前記センサからの検出値を管理装置へ送 信する送信部と,を備えることを特徴とする, ショベル。」 (相違点1) 油圧アクチュエータによる規定動作の実行について,本願発明では「運転 者のレバー操作に応じた」実行と特定されているのに対し,引用発明ではそ のような特定がされていない点。 |
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当事者の主張
1 取消事由(甲1を主引用例とする本願発明の進歩性の判断の誤り)について ? 原告の主張 ア 引用発明の認定の誤り 5 本件審決は,引用発明が,「オペレータのレバー操作に応じて駆動する油圧アクチュエータ」を備える旨認定した。 しかしながら,本件審決が上記認定の根拠とする甲1の記載(【0001】〜【0003】,図15)は,いずれも従来技術を記載した箇所であり,そこに示されているのは,作業機械の保守管理を行う際に,操作レバーを操作して作業機械を作動させることのみである。 一方,甲1の【発明の実施の形態】には,操作レバーを用いて油圧ショベルを操作することの記載はなく,その示唆もされていない。ショベルの制御方法に関しては,運転コントローラ40が,油圧ショベルのスイッチの状態に基づき,水平掘削制御等の自動運転を行うことのみが開示されており(【0012】),かかる技術は本願出願前から公知であった(甲12,13)。 甲1は,操作レバーにより作業機械を操作することによって生じる,保守員の作業現場出向が無駄になり保守効率が著しく低下する 【0004】 ( )等の問題に鑑み,自動運転を行う作業機械を提示しており 【0005】 ( ,【0006】),自動運転を前提とするものである。そして,甲1は,上記従来技術による課題を解決し,確実に所要の態様の運転操作を行わせることを目的とするものであるところ(【0007】),オペレータの操作レバーによる運転よりも,運転コントローラ40による自動運転の方が,確実に所要の態様の運転操作を行えることは明らかである。加えて,甲1の【従来の技術】には,作業機械の保守管理は高度に専門的な知識を要するため,作業機械メーカー側の保守員が作業現場に出向いて,作業機械を操作レバーにより操作させていた旨が記載されており(【0002】),オペレータによる保守管理目的の操作レバーの操作が,従来から回避されてきたことが示唆されている。 なお,甲1には,自動運転の問題点についての記載もあるが(【000 6 6】),この問題は,保守員が作業機械を所要の態様で遠隔自動運転し, その運転の結果得られた各種センサのデータを受信し,そのデータに基づ いて作業機械の診断を行う場合(【0005】)に生じるものであって, ショベルを操作するオペレータのスイッチ操作により自動運転される場 合に生じるものではない。 以上によれば,甲1の記載に接した当業者であれば,ショベルの保守管 理時の操作方法として,運転コントローラ40による自動運転を行うもの と解するのが自然である。 そして,甲1には,オペレータによる操作指示として,操作内容スイッ チの押下が例示されており(【0026】,【0031】,【0032】), 同スイッチの押下は,管理部側制御部21からのコマンドに応じて,オペ レータにより行われる操作であることから,同スイッチ,又は,前記【0 012】のスイッチ等の何らかのスイッチの押下により,運転コントロー ラ40による自動運転が開始されるものと解するのが自然である。 したがって,本件審決が,これらの記述を無視して,レバー操作による 油圧アクチュエータの駆動のみを引用発明として認定したことは,誤りで ある。 イ 相違点の看過 本件審決は,「キャビン内に設置され,規定動作の指示を運転者に対し て表示する表示部」を備える点で,本願発明と引用発明は一致する旨認定 した。 しかしながら,本願発明の解決しようとする課題が,「所定の動作条件 について,オペレータに具体的な操作の指示を与えたとしても,ショベル は多数の駆動部を備えているため,個人のスキル等によるバラツキが生じ やすく,その結果,各種センサの検出値にバラツキが生じる場合がある」 (【0007】)ことである点を勘案すれば,本願発明の「規定動作の指 7 示」とは,本願明細書の図5,6,8,9に例示されるような,「それを 見ながらオペレータがレバー操作を行っても個人のスキル等によるバラツ キが抑制されるよう配慮した具体的かつ一義的な操作指示」を意味するも のと解される。 これに対し,引用発明の「「ブーム上げ単独操作」,「ブーム上げと上 部旋回体の旋回との複合操作」,「走行の単独操作」等の操作指示」は, 文字表示による単純な動作形態の名称を表示するだけの操作指示である から,上記「規定動作の指示」とは異なるものである。 したがって,本願発明と引用発明とは,本願発明が「キャビン内に設置 され,規定動作の指示を運転者に対して表示する表示部」を備えるのに対 し,引用発明はこれを備えない点においても相違する。 本件審決は,かかる相違点を看過した誤りがある。 ウ 相違点1の容易想到性の判断の誤り 本件審決は,引用発明において,オペレータが操作指示を見て行う保守 のための所要の態様の操作(「ブーム上げ単独操作」,「ブーム上げと上 部旋回体の旋回との複合操作」,「走行の単独操作」等)も,通常時の操 作であるレバー操作によって行うものとし,相違点1に係る本願発明の構 成とすることは,当業者が容易に想到し得ることである旨判断した。 しかしながら,かかる判断は,操作レバーが,引用発明に係るショベル の唯一の操作手段であると認定した上でされたものであるところ,同認定 が誤りであることは,前記アのとおりである。 そして,前記アのとおり,甲1には,オペレータによる保守管理目的の 操作レバーの操作が,従来から回避されてきたことが示唆されていること からすると,引用発明において,保守のための所要の態様の操作を,オペ レータ自らがレバー操作により行う構成とすることについての動機付け はなく,むしろ阻害要因がある。 8 したがって,本件審決における相違点の容易想到性の判断には,誤りが ある。 エ 小括 以上によれば,本願発明は,当業者が甲1に基づいて容易に発明をする ことができたものであるといえないから,これと異なる本件審決の判断に は,誤りがある。 ? 被告の主張 ア 引用発明の認定の誤りの主張に対し (ア) 甲1の【0003】及び図15には,従来技術として,操作レバー の操作に応じて油圧シリンダが作動することが記載されており,本件出 願当時,油圧ショベルにおいて,オペレータのレバー操作で油圧アクチ ュエータを駆動すること(乙1,2)は,技術常識であった。 したがって,本件審決が,引用発明は,「オペレータのレバー操作に 応じで駆動する油圧アクチュエータ」を備える旨認定したことに,誤り はない。 (イ) 原告は,甲1は自動運転を前提とするものであって,甲1の記載に 接した当業者であれば,ショベルの保守管理時の操作方法として,オペ レータによる操作内容スイッチの押下,又は,【0012】のスイッチ 等の何らかのスイッチの押下により,運転コントローラ40による自動 運転を行うものと解するのが自然である旨主張する。 しかしながら,甲1の【0003】及び図15には,従来技術として, 操作レバーの操作に応じて油圧シリンダが作動することが記載されてお り,【0006】及び【0007】には,【発明が解決しようとする課 題】として,自動運転が「完全に安全であるとはいえない」と記載され ている。加えて,【0035】には,【発明の実施の形態】として,「作 業機械の操作はオペレータにより行われるので,自動運転におけるよう 9 な危険を生じることはない。」と記載されていることからすると,甲1 に記載された発明では,確実に所要の態様の運転操作をさせるために, 自動運転を行うのではなく,保守員が作業機械のオペレータに依頼して, 作業機械を所要の態様で運転させていることが明らかである。 また,「オペレータは…操作内容スイッチ群33のうち対応する操作 内容スイッチ33bを押した後,油圧ショベルを操作してブーム上げと 上部旋回体の旋回との複合操作を行う。」(【0026】),「オペレ ータは…対応する操作内容スイッチ33bを押し,その後油圧ショベル の「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」を行う。」(【00 31】)との記載によれば,「操作内容スイッチ」を押した後で,別に オペレータによって,油圧ショベルの操作が行われていることも,明ら かである。 イ 相違点の看過の主張に対し 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「規定動作」及び「規定 動作の指示」の内容,「表示部」の種別,指示の「表示」の形態について, 別段の特定事項はない。 また,本願明細書の記載から,本願発明の「規定動作」とは,「アタッ チメントを閉じた状態で旋回する(旋回操作)」,「アームを閉じた状態 で,ブームをストロークエンドまで上げる(ブーム上げ操作)」,「フル レバーでのアーム閉じ」(規定動作1),「アームを閉じた状態でのフル レバーでのバケット閉じ」(規定動作2)及び「旋回動作」(規定動作3) なる,一の動作又は複数の動作により例示されるものであり 【0059】 , ( ) 本願発明の「規定動作の指示」とは,上記「規定動作」を操作者に「指示」 することで例示されるもの(【0060】)といえる。 そして,本件補正後の特許請求の範囲における請求項3の「規定動作の 指示は,前記表示部にショベルの外形の画像と併せて表示される」との記 10 載,本願明細書の「画像表示装置40の画像表示部41に「姿勢を点線の 位置に併せてください」という指示が表示されている。併せて,側面視に おけるショベルの外形の画像が表示され」との記載(【0062】),「図 9を参照するに,画像表示装置40の画像表示部41に「旋回停止の指示 がでるまで旋回を続けて下さい」という指示が表示されている。」との記 載(【0074】)によれば,本願発明の「規定動作の指示」とは,「姿 勢を点線の位置に併せてください」などの文字による指示を意味するもの であって,図5,6,8及び9に対応する例示における「画像の表示」と は,「規定動作の指示」と「併せて」表示されるものとして,文字からな る「規定動作の指示」なる用語とは区別して用いられているといえる。 以上によれば,「ショベルの外形の画像」の表示は,本願発明の「規定 動作の指示」に該当せず,本願発明の「規定動作の指示」を,「それを見 ながらオペレータがレバー操作を行っても個人のスキル等によるバラツ キが抑制されるよう配慮した具体的かつ一義的な操作指示」のみを意味す ると限定的に解することはできない。 したがって,本件審決が,本願発明と引用発明とは,「キャビン内に設 置され,規定動作の指示を運転者に対して表示する表示部」を備える点で 一致すると認定した点に誤りはなく,本件審決に相違点の看過はない。 ウ 相違点1の容易想到性の判断の誤りの主張に対し 甲1には,保守管理時に,オペレータが規定動作の指示に従ってショベ ルを運転する際の操作対象について明示した記載はない。 しかしながら,甲1全体をみても,油圧アクチュエータの具体的な操作 具として記載されているのは,操作レバー(【0003】,図15)のみ であるし,オペレータが操作指示を見て行う所要の態様の操作の操作時に, 通常時の操作であるレバー操作以外の態様で操作を行うとの記載はない。 加えて,前記アのとおり,油圧ショベルにおいて,オペレータのレバー操 11 作で油圧アクチュエータを駆動することは,技術常識である。 以上の点を踏まえれば,甲1に触れた当業者が,【発明の実施の形態】 において,オペレータが操作指示を見て行う操作の操作手段として,通常 時に用いるために備えられた操作手段である操作レバーを用いることを 想起することは,容易になし得ることである。 したがって,本件審決における相違点1の容易想到性の判断に誤りはな い。 エ 小括 以上によれば,本願発明は当業者が引用発明に基づいて容易に発明をす ることができたものであるとした本件審決の判断に誤りはないから,原告 主張の取消事由は理由がない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由(甲1を主引用例とする本願発明の進歩性の判断の誤り)について ? 本願明細書の記載事項等について ア 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の2のとお りである。 本願明細書(甲5〜7)の発明の詳細な説明には,次のような記載があ る(下記記載中に引用する「図1ないし3,5,6,8及び9」について は別紙1を参照)。 (ア) 【技術分野】 【0001】 本発明は,ショベルの状態判断(故障や不調の有無,故障や不調の部 位特定,故障や不調の原因特定等)を行う技術に関する。 【背景技術】 【0002】 従来,ショベル等,建設機械の故障に関する情報信号を該建設機械で 12 生成し,該建設機械と相互に通信可能な管理装置に上記故障に関する情 報信号を送信し,管理装置が故障箇所等の特定を行う技術が知られてい る(例えば,特許文献1)。 (イ) 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 ところで,故障箇所の特定を含めショベルの状態判断を行う場合,上 記情報信号に含まれる,ショベルの各種センサの検出値(油圧ポンプの 圧力,操作によるパイロット圧,油圧アクチュエータの負荷圧等)の分 析に基づいて行われる場合が多い。 【0005】 しかしながら,管理装置側で上記各種センサの検出値の分析を行おう としても,どのような動作条件で検出された値なのかが不明な場合があ る。そのため,動作条件の特定を含めて,分析に多くの時間を要するこ とになり,故障や不調の原因特定に時間が掛かる等,実効的なショベル の状態判断を行うことができない場合がある。 【0006】 また,所定の動作条件における各種センサの検出値とされているデー タであっても,実際に所定の動作条件で取得されたデータであるか否か については,信頼性が低い場合もある。また,複数のセンサの検出値が 同時に管理装置に送信されるため,各々の検出値がどのような動作条件 で取得されたものかを判断しにくい場合がある。そのため,分析に多く の時間を要することになり,同様に,実効的なショベルの状態判断を行 うことができない場合がある。 【0007】 特に,ショベルは,ブームや旋回等の多数の駆動部を備えているため, 周囲に配置されている機器と接触させないように,オペレータの操作に 13 よるデータ収集が望ましい。しかしながら,所定の動作条件について, オペレータに具体的な操作の指示を与えたとしても,ショベルは多数の 駆動部を備えているため,個人のスキル等によるバラツキが生じやすく, その結果,各種センサの検出値にバラツキが生じる場合がある。そのた め,実効的なショベルの状態判断を行うことができない場合がある。 【0008】 そこで,上記課題に鑑み,管理装置側での各種センサからの検出値に 基づく分析を効率的に行うことができ,該分析に基づいて実効的な状態 判断を行うことが可能なショベル等を提供することを目的とする。 (ウ) 【課題を解決するための手段】 【0009】 上記目的を達成するため,一実施形態において,本ショベルは, 運転者が操作して作業を行うショベルであって, 下部走行体と, 前記下部走行体に搭載された上部旋回体と, 前記上部旋回体に配置された内燃機関と, 前記内燃機関の動力により作動油を吐出する油圧ポンプと, 前記油圧ポンプが吐出する作動油により運転者のレバー操作に応じて 駆動する油圧アクチュエータと, 前記上部旋回体に備えられたキャビンと, 動作に関連する物理量を検出するセンサと, 前記キャビン内に設置され,規定動作の指示を運転者に対して表示す る表示部と, 運転者のレバー操作に応じた前記油圧アクチュエータによる前記規定 動作の実行中における前記センサからの検出値を前記規定動作と対応付 けて記憶する記憶部と, 14 前記規定動作と対応付けられた前記センサからの検出値を管理装置へ 送信する送信部と,を備えることを特徴とする。 (エ) 【発明の効果】 【0011】 本実施の形態によれば,管理装置側での各種センサからの検出値に基 づく分析を効率的に行うことができ,該分析に基づいて実効的な状態判 断を行うことが可能なショベル等を提供することができる。 (オ) 【発明を実施するための形態】 【0013】 以下,図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。 【0014】 図1は,本実施形態に係るショベルの側面図である。 【0015】 ショベルの下部走行体1には,旋回機構2を介して上部旋回体3が搭 載されている。上部旋回体3には,ブーム4が取り付けられている。ま た,ブーム4の先端にはアーム5が取り付けられ,アーム5の先端には バケット6が取り付けられている。ブーム4,アーム5,及びバケット 6は,ブームシリンダ7,アームシリンダ8,及びバケットシリンダ9 によりそれぞれ油圧駆動される。上部旋回体3にはキャビン10が設け られ,且つ内燃機関であるエンジン等の動力源が搭載される。キャビン 10には運転席が設けられており,運転者は運転席に着座しながらショ ベルを操作する。 【0016】 以上のような構成のショベルにおいて,運転者によるショベルの運転 を補助するために画像表示装置を運転席の近傍に配置する。運転者は画 像表示装置の入力部を利用して情報や指令をショベルのコントローラに 15入力できる。また,ショベルの運転状況や制御情報を画像表示装置の画像表示部に表示させることで,運転者に情報を提供できる。 【0017】 図2は,画像表示装置40が設けられたキャビン10の内部を示す概略図である。 【0018】 画像表示装置40は,画像表示部41及び入力部42を含む。また,画像表示装置40は,運転席60が設けられたキャビン10のコンソール10aに固定される。なお,画像表示部41は,例えば,LCDタッチパネル等のように,操作部としての機能を有してよい。 【0020】 図3は,本実施形態に係るショベルの構成を示すブロック図である。 【0021】 ショベルの駆動系は,主に,エンジン11,メインポンプ14,パイロットポンプ15,コントロールバルブ17,操作装置26,コントローラ30,エンジン制御装置(ECU)74,エンジン回転数調整ダイヤル75等を含む。 【0025】 操作装置26は,操作者が油圧アクチュエータの操作のために用いる装置であり,パイロットライン25を介して,パイロットポンプ15から供給された作動油を油圧アクチュエータのそれぞれに対応する流量制御弁のパイロットポートに供給する。なお,パイロットポートのそれぞれに供給される作動油の圧力は,油圧アクチュエータのそれぞれに対応するレバー又はペダル26A〜26Cの操作方向及び操作量に応じた圧力とされる。 【0042】 16 また,本実施形態に係るショベルは,管理装置90と通信ネットワーク93を介して相互に通信可能とされている。 【0043】 管理装置90は,例えば,ショベルのメーカーやサービスセンタに設置されたコンピュータ等であり,専門スタッフ(設計者等)がショベルの状況を遠隔にいながら把握することができる。本実施形態では,コントローラ30がショベルに含まれるセンサ等からの検出値のデータを一時記憶部30a等に蓄積し,管理装置90に送信することができる。なお,コントローラ30は,無線通信機能を有し,通信ネットワーク93を介して,管理装置90と通信することが可能とされてよい。上記専門スタッフは,ショベルから管理装置90に送信され,管理装置90の受信部90aにより受信されたセンサ等からの検出値のデータを分析し,ショベルの状態を判断する。例えば,専門スタッフは,故障や不調の有無を診断し,故障や不調がある場合には,故障や不調の部位,故障や不調の原因を特定する等を行ってよい。これにより,前もって,ショベルの修理に必要な部品等を持参することができ,メンテナンスや修理に費やす時間を短縮することができる。 【0055】 ここで,ショベルから送信されたセンサ等の検出値を管理装置90側で分析する場合に,どのような動作条件で検出された値なのかが不明の場合がある。また,所定の動作条件での検出値として送信されたデータであっても,実際に所定の動作条件において取得されたデータか否かについての信頼性が低い場合もある。さらに,所定の動作条件における検出値であっても,操作者のスキル等による個人差があり,同じ動作条件のデータであってもバラツキが生じてしまう場合がある。そのため,分析に多くの時間を要したり,実効的な分析結果が得られなかったりし, 17結果として,専門スタッフが現場に出向いて,再度データを計測する等の無駄を生じる場合がある。 【0056】 そこで,本実施形態では,管理装置90に送信するためのデータを取得する際に,ショベルの操作者に規定動作の指示を行い,指示通りに規定動作を行ってもらうことで,規定動作におけるセンサ等の検出値の取得を可能とするとよい。また,規定動作におけるセンサ等の検出値は,規定動作と対応付けて,管理装置90に送信されるようにするとよい。 【0057】 以下,一例を用いて,管理装置90側での分析に用いるデータを本実施形態におけるショベルにて取得するフローについて説明をする。 【0058】 図4は,管理装置90での分析に用いるデータを取得するフローチャートの一例を示す図である。本例では,ショベルの動作の不調を訴える操作者がサービスマンに連絡をし,サービスマンが現場に出向いて,管理装置90側でショベルの状態判断をしてもらうためのデータを取得する状況を前提とする。…【0059】 まず,ステップS101にて,操作者は,画像表示装置40にて規定動作の選択を行う。該規定動作は,故障部位,不調部位等に応じて,複数の動作が予めコントローラ30のROM等に記憶されている。また,該規定動作は,一の操作に係わる動作であってもよいし,複数の操作に係わる動作(複合動作)であってもよい。本例において,規定動作は,一の操作に係わる動作として規定されている。例えば,「アタッチメントを閉じた状態で旋回する(旋回操作)」,「アームを閉じた状態で,ブームをストロークエンドまで上げる(ブーム上げ操作)」等である。 18このように,一の操作で行うことが可能な動作を規定動作として設定することにより,該規定動作における検出値の管理装置90側での分析が容易になり,原因の特定等を効率的に行うことができる。…ショベルの状態等に応じて,複数の規定動作が選択されてよく,本例では,規定動作1として「フルレバーでのアーム閉じ」,規定動作2として「アームを閉じた状態でのフルレバーでのバケット閉じ」 規定動作3として , 「旋回動作」が選択されているものとする。 【0060】 次に,ステップS102にて,コントローラ30は,画像表示装置40に選択された規定動作の指示を表示させる。そして,ステップS103にて,操作者は,画像表示装置40に表示された上記指示に従い,規定動作を実行する。…【0061】 ここで,図5,6は,ステップS102において画像表示装置40に表示される上記規定動作1についての指示を示す図である。図5は,規定動作1を実行する際の初期位置にブーム4,アーム5,バケット6を合わせるための誘導指示を示す図である。図6は,規定動作1を実行する指示を示す図である。 【0062】 図5を参照するに,画像表示装置40の画像表示部41に「姿勢を点線の位置に併せてください」という指示が表示されている。併せて,側面視におけるショベルの外形の画像が表示され,現在のショベルの姿勢(現在姿勢)が実線で,規定動作1の初期位置におけるショベルの姿勢(初期姿勢)が点線で,それぞれ表されている。操作者は,現在のショベルの姿勢と規定動作1の初期位置とを比較しながら,規定動作1の初期位置に合わせるように操作装置26を操作する。このとき,コントロ 19ーラ30は,ブーム角度センサS2,アーム角度センサS3,バケット角度センサS4から送信される検出値に基づいて,ショベルの現在の姿勢を算出し,画像として表示させる。現在のショベルの姿勢(実線)と規定動作1の初期位置(点線)とが略合ったら,コントローラ30からの指令により図6の画面に移行する。 【0063】 図6を参照するに,画像表示装置40の画像表示部41に「フルレバーで一気にアームを閉じて下さい」という指示が表示されている。併せて,側面視におけるショベルの外形の画像が表示され, (初期位置) 現在のショベルの姿勢(現在姿勢)が実線で,規定動作1の実行後のショベルの目標姿勢が点線で,それぞれ表されている。操作者は,指示に従い,操作装置26の操作を行い,規定動作1を実行する。…【0064】 ステップS104では,ステップS103における規定動作(規定動作1)の実行に併せて,規定動作の実行中におけるセンサ等の検出値を一時記憶部30aに記憶する。…【0065】 規定動作の実行が終了すると,ステップS105にて,コントローラ30は,規定動作が指示通り行われたか否かを判定する,即ち,図6に示した規定動作1が指示通り行われたか否かを判定する。規定動作が指示通り行われたか否かは,傾斜センサS1,ブーム角度センサS2,アーム角度センサS3,バケット角度センサS4等,ステップS104にて一時記憶部30aに記憶されたセンサからの検出値のデータに基づいて,判定される。…【0066】 ステップS105にて,規定動作が指示通りに行われなかったと判定 20された場合,ステップS106に進む。ステップS106では,再度,規定動作(規定動作1)を行うよう画像表示装置40に表示し,前回表示された規定動作(規定動作1)の指示を画像表示装置40に表示する。 そして,再度,前回と同じ規定動作についてステップS103からS105を繰り返す。…【0067】 ステップS105にて,規定動作(規定動作1)が指示通りに行われたと判定された場合,ステップS107に進む。ステップS107では,規定動作の内容と規定動作(規定動作1)の実行中におけるセンサ等の検出値との対応付けを行い,コントローラ30内の送信情報記憶部30bに記憶する。…【0068】 次に,ステップS108にて,他の規定動作が選択されているか否かが判定される。…【0069】 ここで,図8は,ステップS102において画像表示装置40に表示される規定動作2を実行する指示を示す図である。…【0070】 図8を参照するに,画像表示装置40の画像表示部41に「フルレバーで一気にバケットを閉じて下さい」という指示が表示されている。併せて,側面視におけるショベルの外形の画像が表示され,現在(初期位置)のショベルの姿勢(現在姿勢)が実線で,規定動作2の実行後のショベルの目標姿勢が点線で,それぞれ表されている。操作者は,指示に従い,操作装置26の操作を行い,規定動作2を実行する。 【0071】 規定動作1の場合と同様,ステップS104にて,ステップS103 21における規定動作(規定動作2)の実行に併せて,規定動作の実行中におけるセンサ等の検出値を一時記憶部30aに記憶する。また,規定動作(規定動作2)の実行が終了すると,ステップS105にて,コントローラ30は,規定動作が指示通り行われたか否かを判定する。また,規定動作(規定動作2)が指示通りに行われたと判定された場合,ステップS107にて,規定動作の内容と規定動作(規定動作2)の実行中におけるセンサ等の検出値との対応付けを行い,コントローラ30内の送信情報記憶部30bに記憶する。…【0072】 ステップS108にて,他の規定動作が選択されているか否かが判定され,本例では,規定動作3が併せて選択されているため,再度ステップS102に戻り,規定動作3について,ステップS102〜S107を繰り返す。 【0073】 ここで,図9は,ステップS102において画像表示装置40に表示される規定動作3を実行する指示を示す図である。…【0074】 図9を参照するに,画像表示装置40の画像表示部41に「旋回停止の指示がでるまで旋回を続けて下さい」という指示が表示されている。 併せて,平面視におけるショベルの外形の画像と旋回方向が表されている。操作者は,指示に従い,操作装置26の操作を行い,規定動作3を実行する。 【0075】 規定動作1,2の場合と同様,ステップS104にて,ステップS103における規定動作(規定動作3)の実行に併せて,規定動作の実行中におけるセンサ等の検出値を一時記憶部30aに記憶する。また,規 22定動作(規定動作3)の実行が終了すると,ステップS105にて,コントローラ30は,規定動作が指示通り行われたか否かを判定する。また,規定動作(規定動作3)が指示通りに行われたと判定された場合,ステップS107にて,規定動作の内容と規定動作(規定動作3)の実行中におけるセンサ等の検出値との対応付けを行い,コントローラ30内の送信情報記憶部30bに記憶する。…【0076】 ステップS108にて,他の規定動作が選択されているか否かが判定され,規定動作1〜3以外には選択されていないため,ステップS109に進む。 【0077】 ステップS109にて,コントローラ30は,画像表示装置40に測定は完了し,測定データを送信する旨の表示を行い,規定動作の内容とセンサ等の検出値との対応付けが行われた送信情報記憶部30b内のデータを管理装置90に送信する。…【0081】 このようにして,管理装置90に送信されたデータは,各規定動作(規定動作1〜3)と対応付けが行われている。これにより,管理装置90側の専門スタッフ(設計者等)は,どのような動作条件で実行されたデータなのかという分析の前提の把握が容易となり,ショベルの状態判断のための分析の時間を短縮し,効率的に分析を行うことができる。また,動作条件が明確なデータに基づく分析であるため,該分析に基づいて実効的なショベルの状態判断(故障や不調の有無,故障や不調の程度,故障や不調の部位特定,故障や不調の要因特定等)を行うことができる。 …【0085】 23 また,規定動作の指示は,画像表示装置40の画像表示部41にショ ベルの外形の画像と併せて表示される。これにより,操作者は視覚的に ショベルの姿勢を把握することが可能となり,操作者のスキルとは関係 なく,規定動作を行うことができる。 【0086】 以上,本発明を実施するための形態について詳述したが,本発明はか かる特定の実施形態に限定されるものではなく,特許請求の範囲に記載 された本発明の要旨の範囲内において,種々の変形 変更が可能である。 ・イ 前記アの記載事項によれば,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願 発明に関し,次のような開示があることが認められる。 (ア) 従来,ショベル等,建設機械の故障に関する情報信号を該建設機械 で生成し,該建設機械と相互に通信可能な管理装置に上記故障に関する 情報信号を送信して,管理装置が故障箇所等の特定を行う技術が知られ ており,故障箇所の特定を含むショベルの状態判断を行う場合には,上 記情報信号に含まれる,ショベルの各種センサの検出値の分析に基づい て行われることが多い(【0002】,【0004】)。 しかし,管理装置側で上記各種センサの検出値の分析を行おうとして も,どのような動作条件で検出された値なのかが不明な場合,実際に所 定の動作条件で取得されたデータであるか否かの信頼性が低い場合,同 時に管理装置に送信された複数のセンサの検出値がそれぞれどのような 動作条件で取得されたものかを判断しにくい場合等があるため,分析に 多くの時間を要し,故障や不調の原因特定に時間が掛かる等,実効的な ショベルの状態判断を行えないことがある 【0005】 ( , 【0006】 。 ) また,所定の動作条件について,オペレータに具体的な操作の指示を 与えても,個人のスキル等によるバラツキが生じやすい結果,各種セン サの検出値にバラツキが生じ,実効的なショベルの状態判断を行えない 24 という課題があった(【0007】)。 (イ) 本願発明は,管理装置側での各種センサからの検出値に基づく分析 を効率的に行うことができ,該分析に基づいて実効的な状態判断を行う ことが可能なショベル等を提供することを目的とするものであり(【0 008】),前記課題を解決するための手段として,本願発明の構成を 採用した(【0009】)。 この構成により,本願発明では,管理装置側の専門スタッフにおいて, どのような動作条件で実行されたデータであるかという,分析の前提の 把握が容易となり,ショベルの状態判断のための分析の時間を短縮し, 効率的な分析を行うことができ,また,動作条件が明確なデータに基づ く分析であるため,ショベルの状態判断を実効的に行えるという効果を 奏する(【0011】,【0081】)。 ? 引用例の記載事項について ア 引用例(甲1)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する「図 1ないし5及び13ないし15」については別紙2を参照)。 【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,油圧ショベル,クレーン,ブルドー ザ等の作業機械に対して所要の保守を行うための作業機械の保守システ ムに関する。 【0002】 【従来の技術】一般に,作業機械は過酷な状態で使用することが多く,機 械各部の損耗が激しい。このため,これら作業機械に対しては適切な保守 管理が要望される。この保守管理には高度に専門的な知識を要するので, 作業機械メーカー側が保守管理を行うのが通常である。従来の保守管理は, 保守員が保守対象の作業機械の作業現場に出向し,当該作業機械を作動さ せ,その作業機械の所要個所に備えられた各種センサで得られるデータを 25コントローラおよびデータ書込装置を介してICカードに記録し,このように記録された各種データを解析装置により解析して作業機械の異常又はその兆候を検出することにより行われていた。上記各種センサの設置例を図15に示す。 【0003】 図15は作業機械の油圧回路の一部の回路図である。この図で,1はエンジン,1aはエンジン1のガバナレバー,2は油圧ポンプ,2aは油圧ポンプ1のおしのけ容積可変機構,3はパイロットポンプ,4は油圧シリンダ,5は油圧ポンプ2と油圧シリンダ4との間に介在する流量制御弁,6は流量制御弁5を操作するパイロット弁,6aはパイロット弁6の操作レバー,7は作動油タンクである。オペレータが操作レバー6aをいずれかの方向に操作することにより,当該操作方向に応じて流量制御弁5が変位し,油圧ポンプ2の圧油が油圧シリンダ4へ供給されてこれを駆動し,これにより作業部が駆動されて所要の作業が行われる。図中,8,9は操作レバー6aの操作方向を検出する圧力スイッチ,10はガバナレバー1aの変位量を検出する角度センサ,11はエンジン1の回転数を検出する回転数センサ,13は油圧ポンプ1の吐出圧を検出する圧力センサ,14は作動油タンク7の温度を検出する温度センサである。なお,図示されていないが,上記作業部の駆動量(角度)を検出するセンサ等が備えられている。 【0004】 ところで,作業機械の作業現場は,作業の都合上又は作業計画の変更等により絶えず移動していることが多く,保守員が保守を行なうため,顧客等から得た情報により,保守対象となっている作業機械の作業現場に出向いても,そこには当該作業機械が存在しないという事態がしばしば生じ,この場合,保守員の作業現場出向が無駄になり保守効率が著しく低下する。 26又,作業現場が鉱山や採石場等比較的遠隔地にある場合には,その作業現場へ保守員が出向くだけでも長時間を要し,同様に,作業効率は著しく悪くなる。 【0005】 このような事情に対処するため,例えば特開平7-166582号公報には,保守員が常駐する管理部と作業機械との間で無線通信ができるようにし,保守員が作業機械のオペレータに依頼して作業機械を所要の態様で運転させ,又は保守員が作業機械を所要の態様で遠隔自動運転し,その運転の結果得られた各種センサのデータを受信し,この受信されたデータに基づいて作業機械の診断を行う手段が提示されている。 【0006】【発明が解決しようとする課題】しかし,作業現場は騒音が激しくかつ電波状況も悪い場合が通常であり,保守員がオペレータに所要の態様の運転を依頼しても確実にこれを伝えることが困難な場合が多く,又,作業機械の自動運転は,事故が生じないように予め何らかの手段を講じなければならず手間と時間を要し,そのような手段を講じてもまだ完全に安全であるとはいえないという問題がある。 【0007】 本発明の目的は,上記従来技術における課題を解決し,確実に所要の態様の運転操作を行わせることができ,ひいては,確実に所要のデータを得ることができる作業機械の保守システムを提供することにある。 【0008】【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため,請求項1の発明は,作業機械に,この作業機械を構成する各部の状態のデータを採取するデータ採取手段と,このデータ採取手段で採取したデータを格納する作業機械側データ記憶手段と,外部とのデータの授受を行う作業機械側送受 27信手段とを備えるとともに,前記作業機械の保守を行う管理部に,外部とのデータの授受を行う管理部側送受信手段と,前記作業機械側送受信手段および前記管理部側送受信手段を介して入力されたデータを格納する管理部側データ記憶手段とを備えた作業機械の保守システムにおいて,前記管理部に,前記作業機械の各種操作の内容を指示する操作内容指示手段を設け,かつ,前記作業機械に,前記管理部側送受信手段および前記作業機械側送受信手段を介して受信された前記操作内容指示手段の指示内容を表示する作業機械側操作内容表示手段を設けたことを特徴とする。 【0009】 又,請求項2の発明は,請求項1記載の作業機械の保守システムにおいて,前記作業機械に,当該作業機械の操作内容を送信する操作内容報知手段を設け,かつ,前記管理部に,前記作業機械側送受信手段および前記管理部側送受信手段を介して入力された前記操作内容報知手段で報知された操作内容を表示する管理部側操作内容表示手段を設けたことを特徴とする。 【0010】【発明の実施の形態】 以下,本発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。図1は本発明の実施の形態に係る作業機械の保守システムのブロック図である。この図で,20は管理部に設置され又は保守員が携行する管理部側保守装置を示し,管理部側制御部21,操作スイッチ群22(後述),操作終了ランプ群23(後述),表示部24,通信コントローラ25,およびそのアンテナ25aを備えている。管理部側制御部21は,中央処理ユニット(CPU)211,CPU211の処理手順を格納するリードオンリメモリ(ROM)212,演算制御等の結果を格納するランダムアクセスメモリ(RAM)213,作業機械から送信されたデータを格納するデータ記憶部214, 28操作内容指示コード記憶部215(後述),コマンドデータ記憶部216(後述),ランプ番号記憶部217(後述),および入出力インタフェース218で構成されている。 【0011】 30は作業機械に備えられる機械側保守装置を示し,機械側制御部31,操作指示ランプ群32(後述),操作内容スイッチ群33(後述),操作終了スイッチ34(後述),データ確定スイッチ35(後述),通信コントローラ36,およびそのアンテナ36aを備えている。機械側制御部31は,中央処理ユニット(CPU)311,CPU311の処理手順を格納するリードオンリメモリ(ROM)312,演算制御等の結果を格納するランダムアクセスメモリ(RAM)313,クロック314,ランプ番号記憶部315(後述),データ格納アドレス記憶部316,操作内容指示コード記憶部317(後述),および入出力インタフェース318で構成されている。 【0012】 なお,40は作業機械の各種の制御を行うための運転コントローラであり,マイクロコンピュータで構成されている。この運転コントローラ40は,作業機械に備えられている各種センサの検出値や各種スイッチの状態を取り込んで記憶部の所定のアドレスに格納し,上記検出値やスイッチの状態に基づいて作業機械の所要の制御,例えば油圧ショベルの水平掘削制御等を行う。 【0013】 図2は作業機械である油圧ショベルの側面図である。この図で,50は油圧ショベル,51はクローラを備えた下部走行体,52は下部走行体51に旋回可能に設けられた上部旋回体,52aは上部旋回体52に配置された運転室,53はブーム,54はアーム,55はバケットである。図示 29されていないが,ブーム53,アーム54,バケット55の回転中心には角度センサが取り付けられており,それら角度センサの検出値もブーム角,アーム角,バケット角として運転コントローラ40の記憶部の所定のアドレスに格納される。30は図1に示す機械側保守装置であり,運転室52aに設けられている。36aは図1に示すアンテナである。 【0014】 図3は図1に示す管理部側保守装置の操作スイッチ群および操作終了ランプ群を示す斜視図である。この図で,22は図1に示す操作スイッチ群であり,操作スイッチ22a,22b,22cより成る。23は図1に示す操作終了ランプ群であり,操作終了ランプ23a,23b,23cより成る。例えば,操作スイッチ22a,22b,22cは,それぞれ,油圧ショベルの「ブーム上げ単独操作」,「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」,「走行の単独操作」を指示する場合に用いられ,操作終了ランプ23a,23b,23cは,それぞれ各操作スイッチ22a,22b,22cに対応して配置され,油圧ショベルで「ブーム上げ単独操作」,「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」,「走行の単独操作」が行われたことの表示に用いられる。…又,各操作スイッチおよび各操作終了ランプの両方又は一方に対して操作内容が表示されているが,それらの表示の図示も省略されている。 【0016】 図4は機械側保守装置の操作指示ランプ群,操作内容スイッチ群,操作終了スイッチ,およびデータ確定スイッチの斜視図である。この図で,32は図1に示す操作指示ランプ群であり,操作指示ランプ32a,32b,32cより成る。33は図1に示す操作内容スイッチ群であり,操作内容スイッチ33a,33b,33cより成る。図3の例に合わせると,操作指示ランプ32a,32b,32cは,それぞれ,油圧ショベルの「ブー 30ム上げ単独操作」,「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」,「走行の単独操作」の指示を表示する場合に用いられ,操作内容スイッチ33a,33b,33cは,それぞれ各操作指示ランプ32a,32b,32cに対応して配置され,油圧ショベルで「ブーム上げ単独操作」,「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」,「走行の単独操作」を行ったことを知らせる場合に用いられる。…又,各操作指示ランプおよび各操作内容スイッチの両方又は一方に対して操作内容が表示されているが,それらの表示の図示も省略されている。…【0018】 図5は機械側保守装置の操作内容スイッチ群,操作終了スイッチ,およびデータ確定スイッチの斜視図である。この図で,図4に示す部分と同一又は等価な部分には同一符号を付して説明を省略する。この図の例では,操作指示ランプ群32に代えて操作指示表示部320が設けられる。管理部側から指示された操作指示の内容は操作指示表示部320に文字等により表示される。なお,この場合,操作内容スイッチ群33の各操作内容スイッチに対してはそれぞれ図示しない操作内容が付されることになる。 【0024】 次に,本実施の形態の動作を図10に示す管理部側制御部の動作を説明するフローチャート,図11に示す機械側制御部の動作を説明するフローチャート,図12,図13に示すデータの構成図,および図14に示す表示画面を示す図を参照しながら説明する。 【0025】 保守員は,保守対象となる作業機械のオペレータ(携帯電話を持っている)に対して保守作業を開始する旨連絡した後,必要とする作業機械の運転内容,例えば油圧ショベルの「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」を操作スイッチ群22の操作スイッチ22bを押すことにより選択 31する(以下,当該複合操作を例示して説明する)。管理部側制御部21のCPU211は操作スイッチ群22の操作スイッチが操作されたか否かを判断し(図10に示す手順S10 ),操作された場合には,操作内容指示コード記憶部215から操作された操作スイッチ22bに対応する操作内容指示コードを取り出し(手順S11 ),この操作内容指示コードに基づいてコマンドデータ記憶部216からセンサデータ要求番号を取り出し(手順S12 ),コマンドを合成する(手順S 13 )。…このように構成されたコマンドは,入出力インタフェース218を介して通信コントローラ25へ出力され(手順S14 ),アンテナ25aから保守対象の油圧ショベルの機械側保守装置30へ送信される。そして,当該油圧ショベルからの所要のデータ送信を待つ(手順S15 )。 【0026】 一方,油圧ショベルの機械側保守装置30は,上記コマンドを受信すると,後述する図11のフローチャートに示す動作により,当該受信に応じて「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」を示す操作指示ランプ32bを発光させ又は当該複合操作を操作指示表示部320に表示し,オペレータはこれを確認し,操作内容スイッチ群33のうち対応する操作内容スイッチ33bを押した後,油圧ショベルを操作してブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作を行う。この複合操作により所要のセンサ又はスイッチからのデータがサンプリングされて順次運転コントローラ40の記憶部の所定のアドレスに格納される。機械側制御部31は後述する図11のフローチャートに示す動作により所要のデータを採取し,これを順次管理部側制御部21へ送信する。 【0027】 このようにして機械側制御部31から管理部側制御部21へ送信されるデータ群が図13に示されている。このデータ群は,シリアル番号(送信 32順に付されたデータ群の番号)D1 ,操作内容コード(この場合上記複合操作を表す「02」)D2 ,操作終了フラグ(操作終了時「1」)D3 ,各センサやスイッチのデータD4 ,時刻のデータ(データT)D5 ,およびデータ群終了フラグ(EOD)D6 で構成されている。以下の例では,上記データ群の送信はシリアル番号毎に実行されるが,必ずしもシリアル番号毎に送信する必要はなく,1つの操作内容に対するデータをまとめて送信することもできる。このように,データをまとめて送信する場合には,図4,5に示すデータ確定スイッチ35が用いられ,これが押されることによりデータの送信が開始される。なお,図14では,他の操作(操作内容コード「03」)におけるデータ群も示されている。 【0029】 手順S20 で全データの送信が終了したと判断されると,CPU211は送信された操作内容コードに基づいてランプ番号記憶部217から対応するランプ番号を取り出して,図3に示す該当する操作終了ランプ(この場合操作終了ランプ23b)を発光させる(手順S21 )。なお,この処理は,最初のデータ群が送信された時点で実行してもよい。保守員は,発光した操作終了ランプをみて,作業機械側で自己が指示した操作が行われたか否かを確認することができ,もし,異なる操作が行われている場合には,図3に示す操作スイッチを操作して再度操作内容を機械側に指示する。CPU211は手順S21 で操作終了ランプを発光させた後,表示部24に送信されたデータを出力して表示させる(手順S 22 )。なお,この表示は,保守員の指示を待って行ってもよいし,又,1つのデータ群の受信毎に行ってもよい。図14に表示の一例が示されている。図中,240は表示部24の表示画面を示す。最初に油圧ショベルの操作内容「ブーム上げ,旋回」が示され,その下に,左から順に,送信された「シリアル番号」,「操作開始,終了状態」,「ポンプ吐出圧」データ,「エンジン回転数」デー 33タ,「圧力スイッチ」の状態,…………,「ポンプ傾転角」データが表示されている。このようにして1つの操作に対するデータの収集が終了し,他の操作が必要な場合には再度上記の処理を繰り返す。 【0030】 次に,機械側制御部31の動作を図11に示すフローチャートにより説明する。油圧ショベルのオペレータは,保守員から保守作業を開始する旨の連絡を受けると機械側制御部31の作動をスタートさせる。…【0031】 次いで,CPU311は管理部側制御部21からのコマンドの受信を待ち(手順S31 ),受信されるとコマンド中から操作内容指示コード(この場合「02」)を抽出し(手順S32 ),これに基づいてランプ番号記憶部315から対応する操作指示ランプ番号を取り出し(手順S33 ),図4に示す対応する操作指示ランプ32bを発光させ,又は図5に示す操作指示表示部320に操作内容を表示する(手順S34 )。オペレータは操作指示ランプ32bの点灯をみて,図4に示す対応する操作内容スイッチ33bを押し,その後油圧ショベルの「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合操作」を行う。 【0032】 一方,CPU311はオペレータによる操作内容スイッチのONを待ち(手順S35 ),操作内容スイッチがONされるとその番号に基づいて操作内容指示コード記憶部317から当該番号に対応する操作内容指示コード(この場合「02」)を取り出してこれを記憶した後,データ格納アドレス記憶部316から,送信されたコマンドの1番目のセンサ又はスイッチの番号に対する運転コントローラ40のデータ記憶部のアドレスを読み出し(手順S36 ),当該アドレスに格納されているデータを取り出して一旦記憶し(手順S37 ),コマンドにおける次のデータが終了フラグ「E 34OD」であるか否かを判断し(手順S38 ),終了フラグでない場合は番号iに「1」を加えて(手順S39 )処理を手順S36 に戻し,次のセンサ又はスイッチのデータを採取する。 【0033】 手順S38 の処理でコマンドにおける終了フラグを確認すると,CPU311は,現在の番号n(シリアル番号),さきに記憶している操作内容指示コード(「02」),操作終了フラグ(後述する),上記の処理で抽出した各データ,その時点におけるクロック314による時刻データ,およびこれらデータの最後に付した終了フラグにより図14に示すデータ群を作成し(手順S40 ) このデータ群を通信コントローラ36へ出力し , (手順S41 ),管理部側制御部21へ送信する。…【0035】 このように,本実施の形態では,管理側の保守員が操作スイッチにより機械側のオペレータに操作指示ランプで操作の内容を指示し,かつ,オペレータは操作内容スイッチにより管理側の操作終了ランプに操作内容を知らせるようにしたので,オペレータは保守員の指示と異なる操作を行うことはなく,仮に,異なる操作をしても保守員がこれを知ることができ,保守員は保守用の正確なデータを得ることができる。又,作業機械の操作はオペレータにより行われるので,自動運転におけるような危険を生じることはない。さらに,時刻データを用いることにより保守診断をより一層精密に行うことができる。 【0037】【発明の効果】以上述べたように,本発明では,管理部に,作業機械の各種操作の内容を指示する操作内容指示手段を設け,かつ,作業機械に,管理部側の操作内容指示手段の指示内容を表示する作業機械側表示部を設けたので,作業機械のオペレータは保守員の指示と異なる操作を行うこと 35 はなく,保守員は保守用の正確なデータを得ることができる。又,作業機 械の操作はオペレータにより行われるので,自動運転におけるような危険 を生じることはない。 【0038】さらに,作業機械に,上記作業機械側表示部の他に操作内容 報知手段を設け,かつ,管理部に,上記操作内容指示手段の他に上記操作 内容報知手段で報知された操作内容を表示する管理部側表示部を設ける ことにより,上記効果に加えて,仮に,オペレータが異なる操作をしても 保守員がこれを知ることができ,より一層正確な保守用データを得ること ができる。 イ 前記アの記載事項によれば,甲1には,次のような開示があることが認 められる。 (ア) 油圧ショベル,クレーン,ブルドーザ等の作業機械の保守管理には 高度に専門的な知識を要するため,作業機械メーカー側が保守管理を行 うのが通常であり,その方法として,保守員が常駐する管理部と作業機 械との間で無線通信ができるようにし,保守員が作業機械のオペレータ に依頼して作業機械を所要の態様で運転させ,又は保守員が作業機械を 所要の態様で遠隔自動運転し,その運転の結果得られた各種センサのデ ータを受信し,この受信されたデータに基づいて作業機械の診断を行う 手段が提示されている(【0001】,【0002】,【0005】)。 しかし,保守員がオペレータに所要の態様の運転を依頼しても,確実 にこれを伝えることが困難な場合が多く,又,作業機械の自動運転は, 事故が生じないように予め何らかの手段を講じなければならず手間と時 間を要し,そのような手段を講じてもまだ完全に安全ではないという課 題があった(【0006】)。 (イ) 引用発明は,確実に所要の態様の運転操作を行わせ,確実に所要の データを得ることができる作業機械の保守システムを提供することを目 36 的とするものであり(【0007】),前記課題を解決するための手段 として,作業機械の保守を行う管理部に作業機械の各種操作の内容を指 示する操作内容指示手段を設けるとともに,作業機械にその指示内容を 表示する作業機械側操作内容表示手段を設け(【0008】),さらに, 操作内容報知手段を作業機械に設けるとともに,報知された操作内容を 表示する管理部側表示部を管理部に設ける構成(【0009】)を採用 した。 この構成により,作業機械のオペレータは保守員の指示と異なる操作 を行うことはなく,保守員は保守用の正確なデータを得ることができ, また,作業機械の操作はオペレータにより行われるので,自動運転にお けるような危険を生じることはなく,さらに,仮にオペレータが異なる 操作をしても保守員がこれを知ることができ,正確な保守用データを得 ることができるという効果を奏する(【0037】,【0038】)。 ? 引用発明の認定について ア 前記?アのとおり,甲1には,「本発明」の実施の形態に係る作業機械 である油圧ショベル50は,クローラを備えた下部走行体51,下部走行 体51に旋回可能に設けられた上部旋回体52,上部旋回体52に配置さ れた運転室52a,運転室52aに設けられる機械側保守装置30等を備 えること(【0013】,図2)の記載がある。 そして,油圧ショベルが,エンジン,エンジンの動力により作動油を吐 出する油圧ポンプ,及び,油圧ポンプが吐出する作動油によりオペレータ のレバー操作に応じて駆動する油圧アクチュエータを備えることは,甲1 に従来技術として記載されているほか(【0003】,図15),本件出 願前に頒布された複数の刊行物にも記載されていることから(乙1(【0 025】,【0027】,図1),乙2(【0007】,図1),甲12 (2頁19行〜3頁18行,第5図),甲13(【0002】,【000 37 3】,図4,5)),本件出願当時,当業者にとって技術常識であったも のと認められる。また,かかる構成において,エンジンが油圧ショベルの 上部旋回体に配置されることは,自明である。 そうすると,当業者であれば,甲1の記載から,甲1の油圧ショベル50 が,上部旋回体52に配置されたエンジンと,エンジンの動力により作動 油を吐出する油圧ポンプと,油圧ポンプが吐出する作動油によりオペレー タのレバー操作に応じて駆動する油圧アクチュエータとを備えるものであ ると理解することができる。 したがって,本件審決が,引用発明について,「オペレータのレバー操 作に応じて駆動する油圧アクチュエータ」を備える旨認定したことに,誤 りはない。 イ これに対し,原告は,@甲1は,操作レバーにより作業機械を操作する ことによって生じる,保守員の作業現場出向が無駄になり保守効率が著し く低下する等の問題に鑑み,自動運転を行う作業機械を提示しており,自 動運転を前提とするものであるし,また,作業機械の保守管理は高度に専 門的な知識を要することから,オペレータによる保守管理目的の操作レバ ーの操作が従来から回避されてきたことを示唆している,A甲1の記載に 接した当業者であれば,ショベルの保守管理時の操作方法として,オペレ ータによる操作内容スイッチの押下(【0026】,【0031】,【0 032】),又は,【0012】のスイッチ等の何らかのスイッチの押下 により,運転コントローラ40による自動運転を行うものと解するのが自 然である旨主張する。 そこで検討するに,まず,上記@の点については,前記?イのとおり, 甲1には,i)従来の技術では,保守員がオペレータに所要の態様の運転を 依頼しても,確実にこれを伝えることが困難な場合が多く,また,作業機 械の自動運転は,事故が生じないように予め何らかの手段を講じなければ 38ならず手間と時間を要し,そのような手段を講じてもまだ完全に安全ではないなどの課題があったこと,ii)「本発明」は,作業機械の保守を行う管理部に作業機械の各種操作の内容を指示する手段を設けるとともに,作業機械にその指示内容を表示する手段を設け,さらに,操作内容報知手段を作業機械に設けるとともに,報知された操作内容の表示部を管理部に設ける構成を採用することにより,上記課題を解決するものであること,iii)これにより,オペレータに所要の態様の操作を確実に行わせ,保守員は正確な保守用のデータを得ることができるとともに,オペレータが作業機械の操作を行うために,自動運転におけるような危険を生じることがないという効果を奏する旨の記載がある。 以上の記載に照らすと,甲1に記載された発明は,自動運転を前提とするものではなく,オペレータが作業機械を操作する構成のものであり,かかる操作が保守員の指示に従って正確に行われるようにするために,上記構成を採用したものであると認められる。 なお,原告は,甲1に問題点が記載された「自動運転」(【0006】)とは,保守員による「遠隔自動運転」(【0005】)を意味するものであり,オペレータのスイッチ操作により自動運転がされる場合には,上記問題は生じない旨主張する。しかしながら,【0006】で指摘されている上記の問題(課題)は,「遠隔自動運転」についてのみ生じるものではなく,オペレータのスイッチ操作による自動運転でも起こり得るものであると考えられるため,同主張は失当である。 次に,上記Aの点についてみると,甲1には,保守を行うための所要の態様の操作である,「ブーム上げと上部旋回体の複合操作」は,操作指示表示部320の表示により同操作の指示を確認したオペレータが,これに対応する「操作内容スイッチ33bを押した後,油圧ショベルを操作して」行うことが記載されている(【0026】)。 39 そして,操作内容スイッチ33bは,上記複合操作を行ったことを管理 部側に知らせる場合に用いられるものであるから(【0016】),上記 複合操作は,オペレータが操作内容スイッチ33bを押すことで,自動運 転により行われるのではなく,スイッチ33bの押下後に,オペレータが 「油圧ショベルを操作して」行うものであると認められる。 また,【0012】には,運転コントローラ40が各種センサの検出値 や各種スイッチの状態に基づいて油圧ショベルの水平掘削等の「制御」を 行うことの記載があるが,「制御」の契機となる,作業機械のセンサの検 出値やスイッチの状態は,オペレータが操作レバーを操作することでも変 わり得るものであるから(【0003】),【0012】の記載は,油圧 ショベル50の「操作」が,オペレータのスイッチ操作による自動運転で 行われることを示唆するものとはいえない。 そして,甲1の全体をみても,油圧ショベル50の操作がオペレータの スイッチ操作による自動運転で行われることを示唆する記載はない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 ? 相違点の看過の有無について ア 本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,@本願発明の 「規定動作の指示」は,「運転者が操作して作業を行うショベル」の「下 部走行体に搭載された上部旋回体」「に備えられたキャビン」「に設置さ れ」た「表示部」に「表示」される「運転者に対」する「指示」であるこ と,A「運転者」のレバー操作に応じた「前記油圧アクチュエータによる 前記規定動作の実行中における」,「動作に関連する物理量を検出する」 「前記センサからの検出値」が,「前記規定動作と対応付けて」「記憶部」 に記憶され,この「検出値」が「送信部」から「管理装置へ送信」される ことを理解できる。 一方,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「規定動作」の内 40 容及び「指示」の表示方法につき,定義はされておらず,これを原告主張 のように限定して解すべき根拠となる記載はない。 イ 次に,本願明細書の発明の詳細な説明には,「本発明」の実施形態とし て,キャビン10内に設置された画像表示装置40に,「姿勢を点線の位 置に併せてください」 「フルレバーで一気にアームを閉じてください」 , , 「フルレバーで一気にバケットを閉じて下さい」という指示とともに,現 在の姿勢と規定動作の実行後の目標姿勢とをそれぞれ実線と点線とで表 した,側面視におけるショベルの外形の画像を表示し,又は,「旋回停止 の指示がでるまで旋回を続けて下さい」という指示とともに,平面視にお けるショベルの外形の画像と旋回方向を表示することが記載されている (【0062】,【0063】,【0070】,【0074】,図5,6, 8,9)。 他方で,本願明細書の「以上,本発明を実施するための形態について詳 述したが,本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく,特 許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において,種々の変形・ 変更が可能である。」(【0086】)との記載に照らすと,本願明細書 には,「本発明の要旨の範囲内」であれば,「本発明」の実施形態が上記 実施形態に限定されるものではないことの開示がある。 しかるところ,本願明細書には,本願発明の「規定動作」の内容及び「指 示」の表示方法を定義した記載はなく,これらを特定の内容や方法に限定 する記載もない。 また,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載から理解できる「規 定動作の指示」等の内容(前記ア),本願明細書の発明の詳細な説明に記 載された本願発明の効果等(前記?イ(イ))を総合すると,本願発明は, 運転者に対して規定動作の指示を表示し,運転者のレバー操作に応じた油 圧アクチュエータによる規定動作の実行中における,センサからの検出値 41 を,規定動作に対応付けて記憶部に記憶し,送信部から管理装置へ送信す ることによって,管理装置側の専門スタッフにおいて,どのような動作条 件で実行されたデータであるかを容易に把握し,ショベルの状態判断を実 効的に行えるようにすることに,技術的意義があるものと認められる。 そして,本願発明の上記技術的意義に照らすと,「規定動作の指示」を, 原告が主張するように,本願明細書の図5,6,8,9に例示されるよう な,「それを見ながらオペレータがレバー操作を行っても個人のスキル等 によるバラツキが抑制されるよう配慮した具体的かつ一義的な操作指示」 に限定する必然性は見いだし難い。 ウ 以上の本願発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載及び本願明細書の 記載に鑑みると,本願発明の「規定動作の指示」とは,ショベルの上部旋 回体に備えられたキャビンに設置された表示部に表示されるものであり, 運転者に対し,油圧アクチュエータによる規定の動作を実行するよう指示 するものであれば足り,原告が主張するような操作指示に限定されるもの ではないと解すべきである。 そうすると,引用発明における「保守を行うための所要の態様の操作で ある「ブーム上げ単独操作」,「ブーム上げと上部旋回体の旋回との複合 操作」,「走行の単独操作」等の操作指示」は,油圧ショベル50の上部 旋回体52に配置された運転室52aに備えられた操作指示表示部32 0に表示されるものであり,オペレータに対し,油圧アクチュエータによ る規定の動作の実行を指示するものであるから,本願発明の「規定動作の 指示」に相当するものといえる。 したがって,本件審決が,本願発明と引用発明とは,「キャビン内に設 置され,規定動作の指示を運転者に対して表示する表示部」を備える点で 一致すると認定した点に誤りはなく,本件審決に相違点の看過はない。 ? 相違点の容易想到性の判断について 42ア 前記?のとおり,甲1の「本発明」の実施の形態には,保守管理時に, オペレータが,操作指示に従って油圧ショベルを操作し,保守を行うため の所用の態様の操作を実行することが記載されている。 一方,甲1には,操作指示に従ってオペレータが油圧ショベルを操作す る際の操作方法について,明示した記載はない。 しかしながら,前記?アのとおり,引用発明は,「オペレータのレバー 操作に応じて駆動する油圧アクチュエータ」を備えるものであること,甲 1には,オペレータが操作指示を見て行う所要の態様の操作の操作時に, 通常時の操作であるレバー操作以外の態様で操作を行うとの記載はない ことに照らすと,甲1に接した当業者は,オペレータが操作指示を見て行 う操作の操作手段として,通常時に用いるために備えられた操作手段であ る操作レバーを用いることを,容易に想到することができたものと認めら れる。 したがって,本件審決における相違点1の容易想到性の判断に誤りはな い。 イ これに対し原告は,甲1には,オペレータによる保守管理目的の操作レ バーの操作が,従来から回避されてきたことが示唆されていることからす ると,引用発明において,オペレータが操作指示を見て行う保守のための 所要の態様の操作を,レバー操作により行わせることについての動機付け はなく,むしろ阻害要因がある旨主張する。 しかしながら,原告の上記主張は,甲1が,操作レバーにより作業機械 を操作することによって生じる問題に鑑み,自動運転を行う作業機械を提 示するものであって,自動運転を前提とするものであることや,甲1には, 操作内容スイッチ,又は,【0012】のスイッチ等の何らかのスイッチ の押下により,運転コントローラ40による自動運転が開始される旨が記 載されていることなどを前提とするものであるところ,かかる主張を採用 43 できないことについては,前記?イのとおりである。 したがって,原告の上記主張は,前提を欠くものであって,採用するこ とはできない。 ? 小括 以上によれば,本願発明は,当業者が引用発明に基づき容易に発明をする ことができたものと認められるから,本件審決の判断に誤りはなく,原告主 張の取消事由は理由がない。 2 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がないから,本件審決にこれを取 り消すべき違法は認められない。 したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 鶴岡稔彦 |
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裁判官 | 上田卓哉 |
裁判官 | 山門優 |